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投下用SS一時置き場4th

50エンドロールは流れない -自由軍、我等の胸にはミアキスを-:2014/10/01(水) 21:53:24 ID:CSHND38c0
思わず、呆気にとられる。理解出来なかった。
「何故だ」
私は震える口で問う。目の前の男は、仲間を喪って苦しくないのだと言う。
正気ではない、と思った。



「――――――あいつらは、ここに居るからだ」



ペイルティの海に浮かぶ流氷の様に厚い胸板を、心の臓がある位置を、紅蓮の拳がどんと強く叩く。
痺れる様な何かが私の中を走り抜ける。思わず、息を飲んだ。飲まざるを得なかった。
クレスでさえ言わない様な暑苦しい漫画の主人公の様な台詞を、何故こうも容易く、三十路過ぎのこの男は言えて。
―――――――――そして何故、こうも誰かの魂を、熱く揺さぶる事が出来るのだろう。

「簡単なアレだろ?」

フォッグはにかりと笑う。私に返す言葉など、あるはずがなかった。

「それからよ」
フォッグは何も言わない私を前に、言葉を続ける。
「俺様の事を不死身だとかなんだとか言うアレがたまにいるが、ありゃあ違ェ」

フォッグは断言した。私は動揺を押さえ込み、彼の話に黙って耳を傾ける事にする。

「俺様は生き残ったぶん、アレしてった奴等のアレをよ……魂みてェなアレを、受け取ってるつもりだ。
 だから何だ。その、アレよ。人よりアレが図太いし、ちょっとだけ頑丈なんだ。そんだけよ」

成程、とどうにか回転させた頭で思う。その理論なら不屈の精神も肉体もまだ少しは納得いく。
要するに彼は―――究極の偽薬効果人間なのだ。
それが元来から持つ異常な体力と合わさり、極限且つ無尽蔵のエネルギーを生み出している。
誰かが自分に命と力をくれている。だから倒れる筈がない。だから誰でも倒せる。だから、何も怖くない。



嗚呼、それはなんて羨ましくて―――――――――――――――――――――どこまで、狂っているんだろう。



私はそう思った。思ってしまった。そう。フォッグは疾うに正気を通り越してしまっていた。
あまりに現実離れした思考に、無尽蔵の体力に、卓越した精神力。
私は恐怖の念すら抱いた。背筋が凍るくらいの狂気の沙汰へ、彼は片足を突っ込んでしまっている事を、今初めて気付いてしまったのだ。
あんまり浮世離れしているものだから憧れてしまうが、それは手放しで喜べるものではなかった。

ある意味で彼は――――――“この島で最も現実を見ていない”からだ。

……でも。
そう、でも、だからこそ彼はシルエシカの首領たり得たのだろう。
そんな漢でなければ、皆を導き世界を統一する為に、王をぶっ潰すなど有り得ない。
何かを喪っても、犠牲を厭わず憎しみすら持たず前を向き、ただひたすら目標の為に進み続ける事など出来ない。
そう、彼からは一切の憎しみや負の感情が見えないのだ。およそ人間が持つ闇を持っていないのだ。
妹を奪われたチェスターや、故郷を失ったクレス、親を亡くしたすず、そして友を奪われたアーチェの様な、黒い感情が無かった。
それをどうして、常軌を逸していないのだと言えようか。
私は生唾を飲み込んだ。

... .........
英傑は、狂人と紙一重なのだ。


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