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投下用SS一時置き場4th

115エンドロールは流れない -希望が災厄になる瞬間-8:2016/09/26(月) 03:47:26 ID:L07qfzMo0

雪を、砂を蹴る音は、その悲鳴に掻き消されていた。

気配を完全に断ち、距離を詰め、そして一気に加速し跳躍したシンク。
狙うは勿論スタン=エルロン。明らかに規格外の化物を圧倒し、
挙句アトワイトを奪われた時点で、最早脅威を通り越して
人の形をした兵器と化したと言っても過言では無かった。
この位置ならば確実に殺れる―――その読みは決して間違いでは無かった。
たった1つの誤算―――スタンがデクスフィギュアから剥ぎ取ったのは
エクスフィア。装着者――寄生者とでも言うべきか、その力を限界以上に
引き上げる無機生命体鉱物。勿論スタンは既にそれを装着しており、
本来ならばもう1つ装着しても変化は無い筈だった。そう、筈だったのだ。

――新たな対象を見つけ、その左の掌に即座に根を張るエクスフィア。

<英雄崩れ>として、新たにこの世界に降り立ったが故か、
守る為に過去を斬り捨てたが故か、或いは道化師の気まぐれ故か――。

――その左腕に熱く、そして激しく脈打つ巨大な力。
気を抜けば爆発し、その腕を喰らい尽くしかねない程に――。

「獅子―――」

首筋を狙った致命的な一撃を寸での所で回避し、
はち切れんばかりに膨れ上がった闘気をシンク目掛けて解き放つ――。

「―――戦吼ッ!!!」

全てを喰らい、暴れ狂う凶獅子の如き巨大な闘気が
シンクのガラ空きになった胴体を直撃し、そして恐ろしい速度で
瓦礫を撒き上げ、砕きながら彼方へと吹き飛ばした―――。







(ここ、は……俺…は、一体如何なったんだ…?確か……?)

意識を取り戻したデクスは、おぼろげな意識の中で記憶を辿ろうとした。
館でリヒターと大男と戦ってからの記憶が曖昧なのである。確か想像を絶する激痛の中で、
要の紋を捨て去り、その場から逃げて、その先で何かと戦って、それから―――。

「やあ、俺はスタン=エルロン。気分はどうだい?」

記憶が現在に辿りつくか否かの所で、一聞だけなら相手を気遣うような、
だが実際は死神からの死刑宣告のような明るい声がデクスの聴覚に届いた。
背筋を冷たい物が走り、デクスは咄嗟に逃げ出そうとした。

「まさかあんな化物の正体がお前だったとはなー…さすがに吃驚したぞ」

何やらもがき出した男をのんびり眺めながら、スタンは続ける。
勿論吃驚した等と言っておきながら、そんな素振りなど全く見せない。

「さて…これからお前を殺す訳だけど、その前に聞きたい事があるんだ」

さらに激しくもがくデクスだが、当然ながら逃げられない。
逃げようにも逃げる為の足が2本共無いのだ。
そして両手を使おうにも此方も肘から先が無い。

「以前会った時、お前誰かを探していたよな?確か…ワンダーランド…じゃ無かったな。ええと…」

尤も、仮に五体満足であったとしても、デクスフィギュアだった時に
デクスは既に致命傷を負っていた。それが解除された今、最早デクスに未来は無かった。
それでもデクスは僅かに残された命を絞り出すかのように身体を捩らせ、何とか逃れようとする。

「ジョニーでもデップでも無いし、ハートの女王でも無いし…えっと……あ、そうそう。アリスだ」

捨て去った過去の遺物の中に紛れた名前を、
試験問題に悩む学生のような表情で探していたスタンは、
漸く思い出してポンと手を叩くと、醜くもがくデクスの頭を
ガシッと掴んで静かに問い質した。

「お前、アリスって奴の何処ら辺を愛してる?」


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