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仮投下スレ
1
:
名無しさん
:2014/02/17(月) 20:57:27
内容に不安のある人や本スレに書き込めない人はこのスレに一度仮投下してください
52
:
百鬼夜行――うつろ舟
◆dARkGNwv8g
:2014/08/26(火) 10:45:59 ID:49TLsALM0
えーと、と刻は慌てて自分の中の雑念を振り払う。
「そりゃあ、急に様子がおかしくなった時はちょっと怖かったですけど……
でも京極さんは体を縛られてるし、武器のアイスピックは私が預かってるし
それに……セスペェリアさんがいてくれましたから。だから平気です」
刻は笑顔でそう答える。本当はちょっとどころではなく怖かったし、半ば空元気だったが。
その答えに、セスペェリアも菩薩像のような微笑みを浮かべて返した。
「ワールドオーダー……あの男が言っていた放送まで後2時間もないですよね。
それまで京極さんはそっとしておきましょう」
「そうね――後2時間。……ねぇ、刻」
ふと、セスペェリアは女神像のような顔を翳らせ
愁いを含んだ儚げな表情を浮かべた。
「私は――本当にこの鉱山内にいていいのかな?
もし剣正一たちが追ってきたら貴女たちにも迷惑がかかるわ。やっぱり私はいないほうが……」
「そんな!何も悪いことしてないのに、セスペェリアさんが逃げる必要なんてありませんよ!」
先程とはうって変わって弱々しい貌を見せる宇宙の美女を、刻は必死で励ます。
そう、セスペェリアは最初に配置された研究所で不幸な誤解を受け、剣正一なる人物とその仲間たちに追われて
命からがらこの鉱山に逃げ延びてきたのだ。刻はそう聞かされている。
「誤解されたままにしておくなんて、絶対によくないです!
大丈夫、剣って人たちは私が説得しますから!」
聞けば、剣という人は警察に捜査協力する事もある有名な探偵らしい。
そんな人であれば、普通の人間である自分の説明なら聞き入れてくれるだろう。
少なくとも自分の言うことを言下に切り捨てるようなことはするまい。――刻はそう予測していた。
むしろこのまま誤解を放置して、それが他の参加者たちの間に広がったほうが拙い。
刻はそう言って不安がるセスペェリアを説得し、とりあえず第一回の放送までは鉱山で追ってくる研究所の者たちを待つことにしたのだった。
――尤も、研究所にいた参加者が追ってくるかもしれない、というセスペェリアの懸念は杞憂だった。
セスペェリア自身は電気信号変換装置を使って受話器から逃げる所を目撃されたと思い込んでいたが
セスペェリアを追っていたミルファミリーが見たものは、行き止まりの部屋の中に受話器が転がっている光景だけだった。
電気信号変換装置の存在を知らない彼らは、いまだにセスペェリアの逃げた先と電話が繋がっていた先を結びつけて考えてはいない。
…………少なくとも今のところは。
「ありがとう、刻。
――人間が皆あなたのように優しい人だったら、私も正体を隠さずに生きていけるのにね……」
セスペェリアの悲しげな微笑みに、刻の胸は締めつけられるように痛む。
彼女が何故この地球にやって来たのか、その一部始終は京極が目覚めるまでの間にすでに聞かされていた。
セスペェリアの故郷はレティクル座にある惑星で、彼女は故郷の星からUFOに乗って宇宙を横断する旅をしていたそうだ。
しかしちょうど地球の引力圏内を通過している時にUFOが故障してしまい、地球の引力に引かれたUFOはロズウェルという町に墜落してしまった。
地球の科学ではUFOを修理することができず、そのうえMIBやMJ6といった闇の組織から調査対象として身を狙われた彼女は
やむを得ず人間に擬態して人に紛れて暮らすことで、闇組織の魔の手から逃げ回っていたのだという。
見知らぬ星で遭難して、しかも遭難中にこんな奇禍に巻き込まれるなんて。
刻は俯いている不幸な異星の佳人の横顔を見つめる。
なんとしてもこの人の誤解を解いて助けなければ。
儚げな横顔を見ていると、そんな気持ちにさせられる。
刻にとって彼女は命の恩人であり、そしてループから抜け出したこの未知の世界で出会った初めての仲間なのだ。
53
:
百鬼夜行――うつろ舟
◆dARkGNwv8g
:2014/08/26(火) 10:46:29 ID:49TLsALM0
それにしても――
セスペェリアの話を聞いてから、刻にはどうしても気になっていることがあった。
「あの……UFOを作れるってことは
セスペェリアさんの星って、やっぱり地球よりも科学が発達してるんですよね?」
「ええ……確かにそうだけど……」
ひょっとしたら、地球より進んだ科学の星からやって来たこの異星人なら
彼女の抱えている『問題』を解決する方法を知っているかもしれない。
「じゃあセスペェリアさんも私たち人間以上の科学知識とか、持ってるんですか?」
「そうね、まあ多少は……」
「それじゃあ――」
刻はゴクリと息を飲み込んでいた。
「同じ日を何度も繰り返す――
同じ時間が何回もループする現象って……知りませんか?」
○
「――つまりこういうことね。貴女の友達が、同じ一日を563回も繰り返す現象に遭遇した。と――」
「はい!なんでループするのかとか、なんでその日なのとか、そんなことは全然分からないんです。……分からないらしいです」
刻が気になっていたこと……それは、自分が陥った時間のループ現象について
宇宙人のセスペェリアなら何か知っているのではないか。という期待だった。
正直に自分自身の出来事として話すと、自分まで××××扱いされるかもしれないので
友達の身に起こった出来事を聞いた――というフウを装って話す。
彼女自身、今まで時間のループ現象から脱出する手立てはないかと、八方手を尽くしていろいろと調べてみた。
時間だけはたっぷりあった為、学校や地元の図書館に通いつめ、本屋やネットも使って、とにかく時間に関係する情報を読み漁った。
何が書かれているのかすら分からない最先端の科学論文から、果ては三文SF小説やいかがわしいオカルト系の本まで
とにかく何か自分が置かれた状況を理解し、解決する手立てになりそうなものはないかと探し続けたが
……結局、何も見つけることはできなかった。
しかし地球より進んだ科学を知っているセスペェリアならば、時間のループについて何事か知っているかもしれない。
逸る胸をおさえて、刻は尋ねる。
「同じ日がループするなんて信じられませんよね。えへへ……
私も信じられないんですけど……その、ループしてる本人はすごく悩んでるみたいだから、もし何か知ってたら教えてもらえればなーって……」
期待をこめて上目づかいで見上げる刻に対し――
「――ごめんなさい。分からないわ」
セスペェリアは、申し訳なさそうに首を左右に振った。
54
:
百鬼夜行――うつろ舟
◆dARkGNwv8g
:2014/08/26(火) 10:47:27 ID:VKQy2Q.k0
「そう……ですか……」
刻は肩を落としてうつむいた。
それと連動するように、頭上のアホ毛も元気を失ってしおれる。
「ごめんなさいね。貴女の力になれなくて」
「そんな、私のほうこそ、こんな時に変なこと聞いちゃってすいません……」
そうだ。こんな時に自分勝手だった。
時間のループは原因不明とはいえ既に解決した問題だし、それに刻一人の問題だ。
たった今、この場で皆が巻き込まれている殺し合いという異常な状況を何とかする方法をこそ、真摯に考えるべきなのに――
うなだれる刻の両手が、不意に冷たいものに包まれた。
驚いて見ると、セスペェリアの手が彼女の手を、励ますように握っている。
「諦めないで。私は役に立てなかったけど……きっと解決法が見つかるわよ。
……貴女のお友達にもね」
「はい……」
宇宙人の手は冷たかったが、刻の心は暖かくなった。
それと同時に……気が緩んだせいか、刻の口から思わず欠伸が漏れる。
「ふわぁ……すいません」
「貴女、眠いんじゃない? いろいろあったし疲れているのよ。
確か、向こうの部屋に簡易ベッドがあったから、そこで放送まで
少し仮眠をとるといいわ。地球人にとって睡眠は大事な生理活動なんでしょう?」
「でも……誰かが来たら……」
「私が見張っておくよ。京極のこともね。何かあったらすぐに起こすから――」
そう言って微笑むセスペェリアの顔は、まるで母親のような慈愛に満ちていた。
不思議な人だ、と刻は思う。肉感的かと思えば儚く守りたくなるような面もあり、また母のような安心感も与えてくれる。
宇宙人って、みんなこんな不思議な人なのだろうか?
「それじゃ……お願いします……」
刻は彼女の行為に甘え、少しだけ仮眠をとることにした。
考えてみれば、こんな非常事態の中では眠れる時に眠っておいたほうがいい。
「――時間操作――平行世界の――全宇宙規模――時空因果への干渉――特異点――アレフ・ゼロ――調査の必要――最重要――」
部屋を後にして扉を閉める時、セスペェリアが何事か呟いているようだったが
時田刻はその内容を聞き取ることができなかった。
55
:
百鬼夜行――逢魔時
◆dARkGNwv8g
:2014/08/26(火) 10:48:41 ID:49TLsALM0
逢魔時――――
黄昏をいふ。
百魅の生ずる時なり。
世俗、小児を外にいだすことを禁(いまし)む。
一節に王莽時(おうもうがとき)とかけり。
これは王莽前漢の代を簒ひしかど程なく、後漢の代になりし故、昼夜のさかひを両漢の間に、比してかくいふならん。
――――鳥山石燕/今昔画図続百鬼 雨
●
音も無く――
まるで水が床の上を無音で流れるかのように
物音一つ立てることなく、セスペェリアは仮眠室の前にやって来た。
扉は閉まっているが鍵はかけられていない。だがドアを開ける音で目を覚ますかもしれない。念のためだ。
セスペェリアの体が崩れる。ゲル状になったそれは、ドアの隙間から、鍵穴から部屋の中に進入し、そこでまた美しい女性の姿と変わる。
だが再成されたその貌には、先程まで時田刻に見せていた魅力的な笑顔も、慈愛の微笑も、それ以外のいかなる表情も存在してはいない。
生命の存在しない、石塊と砂だけの冷たい惑星の表面のような無表情――それが、彼女の本当の貌だった。
地上では陽光が暗闇に取って代わろうとしている、この夜と朝との境界の時間に
優しい宇宙人は、侵略の尖兵へとその本性を露わにしていた。
枕元にセスペェリアが立っていることも知らず――
時田刻は、静かに寝息を立てている。
その規則正しい寝息だけでも十二分に彼女が眠っていることが分かるが
セスペェリアは更に念を入れ超能力で時田刻の脳波を探り、睡眠状態であることを確認する。
――殺し合いの場で完全に寝入るなど、この娘は完璧に自分を信頼しているのだろう。
当然だ。そうなるようにセスペェリア自身が仕向けたのだから。
彼女の中には今まで蓄積された膨大な量の人間の表情に関するデータがある。
そのデータを使い分けて、時には顔の微細な一部すら作り替えることによって
ある時は情欲を刺激し、ある時は庇護欲を掻き立て、ある時は安心感を与える。
人間とは単純な生き物だ。そうした視覚を使っての心理操作で、時田刻の自分に対する感情をコントロールするのは容易い事だった。
なればこそ、時田刻は彼女が来歴として語った一から十までデタラメな作り話を信じ込み、心底から彼女に同情したのであろう。
宇宙人は無言のまま、眠る少女を見つめる。
その寝顔は、普通の少女と変わりはない。
その安らかな寝息からは、少女が時間重複・563回に及ぶ時間のループを経験してきた時空遡行者だとは想像すらできなかった。
探査用侵略改造生物兵器セスペェリアの持つ超能力の一つに読心能力がある。
研究所の戦いで剣正一とミリア・ランファルトを追い詰めたこの能力によって
セスペェリアは話を聞いている時から既に、時間のループ現象を経験したのが時田自身であること
そしてそれが嘘でも冗談でもない真実であることを見抜いていた。
時田刻が完全な狂人で、自分の時間がループしていると信じ込んでいるのでない限り、彼女は本物のタイム・リーパーということになる。
(だから、もっと詳しく調べてみる必要がある。この娘の、タイムリープに関する記憶の全てを――)
その為には遠距離からの読心だけでは足りない。
もっと近距離から、少女の脳内の記憶をスキャニングする必要がある。
56
:
百鬼夜行――逢魔時
◆dARkGNwv8g
:2014/08/26(火) 10:49:21 ID:49TLsALM0
無言無音のまま、セスペェリアの体の一部分から触手が屹立した。
これは調査用の触覚である。
セスペェリアは硬直した触手を、あどけない顔で眠る時田刻の口元へと近づける。
形のよい、やわらかな桃色のくちびるに触手が押し当てられた。
口と鼻からの吐息が、触手をくすぐる。
「……ん…………」
少女が起きる気配はない。
「…………」
少女の目を覚まさぬよう注意しながら、セスペェリアはゆっくりと触手に力を込めて、触手の先端を少女の口に含ませる。
触手は閉じられた二枚のくちびるを押し広げ、その下のつややかな白い歯をこじ開けて、ぬるり、と少女の口腔内へと侵入した。
柔らかい頬肉とぬめる桃色の舌に包まれながら、触手はさらに先を目指して、温かな口内を侵していく。
「んんっ…………」
体内に侵入した異物感の所為か、時田刻が微かに呻く。
しかしまだ目は覚まさない。
セスペェリアは気道を塞がないよう慎重に操作して、少女の狭隘な粘膜の奥の地へと触手をゆるやかに進ませる。
そして脳により近いポイントに触手を到達させると、スキャニングを開始した。
目的はループした時間の記憶。
スキャニングを開始する。
ループ開始から563日目の記憶
ループ開始から562日目の記憶
ループ開始から561日目
ループ開始から560日目
559日目
558日目
557日目
556日目
…………
………
……
…
…
……
………
ループ開始3日目の記憶
ループ開始2日目の記憶
ループ初日の記憶
スキャニングを終了する。
「ふぅ……」
目的のデータの読み取りを終えると、セスペェリアはゆっくりと少女の口から触手を引き抜く。
触手の先端と少女のくちびるとの間に、まるで別れを惜しむような粘液の、銀色に輝く橋が架かり
一瞬後にはそれも途切れて、少女のくちびるの周りをぬらぬらと穢した。
57
:
百鬼夜行――逢魔時
◆dARkGNwv8g
:2014/08/26(火) 10:50:39 ID:49TLsALM0
少女の唾液に塗れた触手を仕舞うと、セスペェリアは現在得たデータを整理する。
この記憶が植えつけれた偽物か否か。彼女にはすぐ判別がつく。
時田刻は時間遡行者だ。間違いなく。
そして過去563日のデータを照らし合わせた結果
各一日に生じる変化は全て、彼女の行動の変化のみを原因として発生している。
繰り返される世界に変化をもたらしているのは彼女だけだ。
つまり、彼女自身は気づいていないが
時田刻こそが特異点。タイムループの原因である可能性が高い。
(なんということだ……)
今まで、セスペェリアは時田刻という少女を全く重要視していなかった。
せいぜいが、剣正一たちと戦う際に盾として一緒に始末するか
もしくは京極に殺される所を観察するか
その程度の使い道しかない女だと、そう思っていた。
だが時田刻が時間遡行者――それどころか、時空因果に干渉する能力を持っているとすれば
話はまったく変わってくる。
この少女が時間操作という、まさしく奇跡を引き起こす力を秘めているというのなら
時田刻は、セスペェリアにとって最優先に調査するべき最重要人物となる。
――このイベントでは、君にとっても面白いものが見つかるかもしれないよ――
(お前が言っていたのはこの娘の事か。ワールドオーダー)
全く予想外の最重要対象――その寝顔を見ながら
セスペェリアは自分をこの殺し合いの場に巻き込んだ、『共犯者』の虚ろな笑顔を思い出していた。
●
あの男と出会ったのは、空が黄昏から宵闇の藍色に変わっていく、そんな時間だった。
――やあ、こんにちは、いや、もう今晩はと言うべきかな――
――僕はワールドオーダー。しがない革命家さ――
――もしよかったら、なんで君が人間のふりをしているのか、その理由を教えてもらえないかな――
黒の紳士服に黒のシルクハット。
白い顔に空ろに穿たれた、歪な笑い。
まるで光と闇の隙間から抜け出してきたようなその男は
自分の正体を知った対象を排除せんと繰り出したセスペェリアの攻撃の悉くを一言の元に封殺し
更に彼女が自分に危害を加えぬよう彼女の情報を書き換えた挙句
能力によって、セスペェリアが絶対に秘すべき彼女の目的までもを聞き出した。
58
:
百鬼夜行――逢魔時
◆dARkGNwv8g
:2014/08/26(火) 10:51:27 ID:49TLsALM0
――興味深い。矢張り君に話しかけて正解だったよ――
最終手段として自己破壊による証拠隠滅を行なおうとするセスペェリアを、奇怪な革命家はこう言って引き止めた。
――実は今、おもしろいイベントを企画しているんだ――
――なに、企画と言っても、プラン自体はある人物から貰い受けたものなんだけどね――
――君にはそのイベントに、僕のジョーカーとして参加してもらいたいんだ――
そしてワールドオーダーは、彼の企画したイベント――バトルロワイアルについて語った。
正直、セスペェリアには彼が目的として熱っぽく語る『革命』だの『進化』だの『神を超える』だのといった題目は
理解できなかったし、興味もそそられなかった。
しかし、バトルロワイアルに参加して得られる見返りについては心を引かれた。
――このイベントには、かなり個性的な人たちに集まってもらうつもりだよ――
――君の使命が世界を観察し、情報を収集することなら、かなり面白いデータが採れるんじゃないかな――
――このイベントでは、君にとっても面白いものが見つかるかもしれないよ――
――それと……そうだな、君がジョーカーとしてバトルロワイアルに参加し、ゲーム終了まで生き残ることができたなら――
――僕を好きに調査していい。君も知りたいだろう? 君を下した僕の『能力』について――
――それが報酬だ。解剖、生体実験、好きなように検査してくれて構わない――
――本当さ。約束するよ。革命家、嘘つかない――
彼の言った報酬の約束が守られるとは信じていないが、彼が集めるといった面子は『観察対象』として確かに魅力的だった。
それにこの申し出を拒絶したところで、ジョーカーとして従うよう思考を弄られでもしたら仕方がない。
かくて、セスペェリアは男の持ち掛けた『ゲーム』に乗った。
彼女がジョーカーとしてワールドオーダーから受けた指令は二つ。
一つは、研究所のコンピューター内にある首輪のデータを回収すること。
もう一つは、それを他の参加者に目撃させること。
その役目だけ果たせば、後はバトルロワイアルの運行に問題が生じない限り、好きなようにしていていい。
――というのが、彼女がワールドオーダーと交わした契約の内容だった。
●
(しかし――参加者の中に時間遡行者がいるとは聞いていない)
尤も、セスペェリアがワールドオーダーから聞かされた参加者に関する情報はそう多くない。
精々が名前と顔と簡単なプロフィール程度だ。
ワールドオーダーもこの少女が時間遡行者だということを知らなかったのだろうか?
否、それは考え難い。この娘を選んで連れてきたのは奴自身なのだ。
彼女が特異な存在と知っているからこそ、この催しに参加させたのだろう。
(つまり意図的に――私に情報を隠していたという事か。
危うく他に二つとない観察対象を見逃すところだった)
誰が本当に重要な参加者なのか。自分で見分けろということか。
あの男は……ワールドオーダーは、宝探しゲームでもさせる気なのだろうか。
セスペェリアは無表情のままだったが、彼女が人間だったなら思わず舌打ちをしていた事だろう。
59
:
百鬼夜行――逢魔時
◆dARkGNwv8g
:2014/08/26(火) 10:52:44 ID:49TLsALM0
何も知らないまま眠る少女を見下ろしながら、セスペェリアはあの革命狂いが最後に言っていた台詞を思い出した。
――僕はね、このイベントを通じて、ジョーカーである君自身にも良き『革命』の起こらん事を、心から願っているんだよ――
下らない、と彼女は心の中で冷笑する。
ワールドオーダーは何も分かってはいない。幾ら強力な能力を持っていようとも
あの男も所詮は人間――己が信じる乏しい認識が万象の理だと思い込み、己の知悉する狭い世界が宇宙の全てだと思い上がりながら
ちっぽけな星の上をうろつき回っている愚かな哺乳動物の一種――の内の一体に過ぎない。
自分は侵略の為の情報収集用に作られた存在だ。そこに革命の起きる余地など無い。
彼女はただ観察し、調査し、収集した情報を彼女たちの主人に送る。
それだけだ。それだけが生体兵器として作られた彼女にプログラミングされている『悦び』の全てだ。
だから――
目を覚まさない時田刻を前にして、セスペェリアは身体から生やした無数の触手を蠢かせた。。
この娘は、未だ嘗てない程の貴重な調査対象だ。
報酬として提示されたワールドオーダーのデータも、この娘の存在に比べたら物の数ではない。。
ワールドオーダーも時間操作能力を持つが、それはあくまでも限定された時間・空間の範囲内でしかない。
しかしこの少女は、それこそ全宇宙の時間因果へと干渉していたのだ。
それは――奇跡と言うより他にない。
だからこそ――
時田刻を調べたい。
その肉体と精神を検査したい。その動作を余すところなく観察したい。
思いつく限りの実験を施してみたい。彼女が起こす時間の異常を観測したい。その身体を隅から隅まで解剖したい。
少女の脳を、神経を、内臓を、筋を、肉を、骨を、皮膚を、体液を、体毛を
ありとあらゆる手段を使って、この娘の細胞の一欠片に至るまで、徹底的に調査したい。
そして時田刻の時空を操る力の秘密を分析し、解明した時――
この宇宙の因果を震わせる秘密を手に入れた時――
セスペェリアは今までに経験したことのない、至上の『悦び』を味わうことが出来るだろう。
興奮に打ち震えた無数の触手が、健やかな寝息を立てている少女の身体へと殺到する。
だが、その柔肌に触れる直前になって、セスペェリアは触手の動きを止めた。
(待て――落ち着くのだ。時田刻は無二の貴重な調査対象……壊してしまっては元も子もない。
慎重に調査するべきだ――――慎重に――――)
心中でそう呟くと、彼女は硬化してうねり狂う触手たちをそっと体内に仕舞い込んだ。
闇が光に変わろうとする時間の曖昧な光も届かぬ暗い窟の中
あどけないまま眠る少女の枕頭に、まるで愛し子を見守る女神のように立ちながら
セスペェリアはその無表情な外形の奥で、湧き上がる喜悦に声も出さず嗤っていた。
60
:
百鬼夜行――逢魔時
◆dARkGNwv8g
:2014/08/26(火) 10:53:19 ID:49TLsALM0
【E-7 鉱山内部 休憩所/早朝】
【京極竹人】
[状態]:負傷、ダンボール箱にみつしり詰まり中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム0〜2
[思考・行動]
基本思考:???
1:匣にみつしり詰まって殺人衝動から理性を守る。
※次起きた時、殺人衝動が収まっているかどうかは後続にお任せします
【時田刻】
[状態]:健康、睡眠
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、地下通路マップ、ランダムアイテム0〜2、アイスピック
[思考・行動]
基本思考:生き残るために試行錯誤する
1:zzz……
2:セスペェリアさんに対する他参加者の誤解を解きたい。
3:第一回放送までは鉱山にいる
4:京極さんはどうしよう……
【セスペェリア】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、電気信号変換装置、ランダムアイテム0〜2
[思考・行動]
基本方針:ジョーカーとして振る舞う
1:時田刻を調査して時間操作能力を解明したい。
2:他にも調査する価値のある参加者が隠れているのか?
3:剣たちはいずれ始末する
※この殺し合いの二人目のジョーカーです
61
:
◆dARkGNwv8g
:2014/08/26(火) 10:56:33 ID:49TLsALM0
以上で投下終了です。遅刻して申し訳ありませんでした。
せっかくなので京極夏彦先生っぽいタイトルをつけようと思ったら
知識不足のせいで早朝の話なのにタイトルが逢魔時だったりそもそもうつろ舟は妖怪じゃなかったりでもう滅茶苦茶だよ
62
:
名無しさん
:2014/08/26(火) 17:08:38 ID:548Tj00I0
投下乙です。
三人が上手い具合に掘り下げられてきている
理性と狂気の狭間で揺れる京極先生は色んな意味で一筋縄じゃ行かなそうだな
刻ちゃんはかなり普通の女の子だけど、よくよく考えたら凄い来歴だよね
セスペェリアの好奇心の対象になるのも頷ける
そんでアホ毛がちょこちょこ動く刻ちゃんかわいい
63
:
名無しさん
:2014/08/26(火) 19:37:08 ID:8l0S/GWYO
投下お疲れ様です
先ほど本スレに内容を代理投下してきました
三人ともしっかり掘り下げられましたね
セスペェリアがジョーカーとなった理由はなるほど納得
京極も面白いキャラをしている
しかし刻田ちゃんは色々と危ない……
64
:
◆dARkGNwv8g
:2014/08/26(火) 19:59:20 ID:5VvnMCsA0
本スレに投下していただきありがとうございます!
本当に助かりました。
65
:
◆H3bky6/SCY
:2014/08/30(土) 01:10:57 ID:DxI2PPlQ0
ちょっと放送も近づいてきたんで主催周りの話投下します
66
:
内緒話
◆H3bky6/SCY
:2014/08/30(土) 01:11:41 ID:DxI2PPlQ0
粉雪の様な粒子が蝶のように舞い飛び、描く光の螺旋は渦となる。
渦は徐々に人型を描き、その中心に一つの存在を浮かび上がらせた。
形どられたのは一ノ瀬空夜という人間の形。
世界を渡る旅人が次に向かう世界は如何な世界か。
新たな世界に辿り着いた一ノ瀬は僅かに目を細め辺りを窺う。
冷静な洞察力こそ彼の最大の武器である。
だが、彼の洞察力を持ってしても、現状は殆ど解らなかった。
なにせ目に入るのは見渡す限り切り取られたような四角のみ。
四方に窓などはなく、外部の様子は見てとれない。
足元から伝わる僅かな揺れと独特の上昇感。地鳴りのような唸りが一ノ瀬の耳を打った。
どうやらここはエレベーターの中のようである。
偶然にも呼び出されたエレベーターの中に降り立ってしまったのか。
目的地に向かうエレベーターの中には彼以外に誰もいない。
直通エレベータらしく、階数表示や開閉以外のボタンは見当たらなかった。
いったいどこからどこに向かおうというのか。
不安など抱く性質ではないが、不気味といえば不気味な状況である。
チンと到着を告げるベルが鳴り、二重構造の扉が開く。
エレベータを呼びたしたと思しき人物は確認できない。
その先に見えたのはただ一直線に続く薄暗い通路だった。
はたして何処に繋がる道で、そこに何があるか。
様子を窺おうにも視線は闇に薄くぼやけ確認することはできない。
一ノ瀬はそんな暗闇を一瞥すると、対した躊躇いもなくエレベータから一歩踏み出た。
薄暗い空間にカツンという足音が反響する。
前に進む動きに合わせて、左右の天井からライトグリーンの淡い光が燈った。
踏みしめる地面の感触は鉄とも石ともつかない。
この空間自体、無機質な、どこか牢獄のような圧迫的な閉塞感を感じる。
どれほど歩いたのか、異様に長い廊下を進んでいた一ノ瀬が足を止めた。
目の前には冷たく閉じる扉が一つ。
これまでの道筋は一本道で途中扉らしきモノはおろか窓一つなかった。
踵を返しエレベーターまで戻るか、この扉を開くしか選択肢はなさそうである。
誘われるような感覚を覚えながらも一ノ瀬は扉横のスイッチを押した。
スイッチの光が赤が緑に切り替わり、鋼鉄の扉が軽やかにスライドする。
「やあ」
部屋の中心から色のない声があった。
扉を開いた先に待ち受けていたのは、3人は座れるであろう皮張りの高級ソファーに我が物顔で座る一人の男だった。
パーカーにジーンズというずいぶんラフな格好になっているが、口元に張り付く笑みの禍々しさは何一つ変わっていない。
見覚えのある、思わず一ノ瀬の口がその男の名を衝いた。
「――――――ワールドオーダー」
それは今しがた一ノ瀬が脱出した、バトルロワイアルの主催者。
その魔の手から逃れたはずの世界を渡る旅人だったが、結局は彼の手元に戻ってきた。
「とりあえず座りなよ。アイスティーでいいかな? それとも君の故郷の日本茶や抹茶の方がいいかな?」
テーブルを挟んだ対面のソファーへ着席を促されるが、一ノ瀬は視点を一点に向けたまま動かない。
一ノ瀬の視線が向けられるのはワールドオーダーにではなく、その足元。
床に転がる砕けた黒い水晶髑髏に対してだった。
「ああ、これ? 別に僕がやったわけじゃないよ。彼が勝手に死んだだけだから」
その視線に気づいたワールドオーダーが何でもない事のように言う。
余りも投げやりなその物言いに、一ノ瀬は僅かに眉を潜めた。
「真逆。勝手に死ぬ訳が無いでしょうに。何より彼は殺した所で死ぬ相手でもない」
「いやいや、本当だって。確か――――」
67
:
内緒話
◆H3bky6/SCY
:2014/08/30(土) 01:13:50 ID:DxI2PPlQ0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「おや、おかしいですねぇ。こんなところに来たつもりはないのですが」
「ああ、悪いね。あの世界はどういう手段、過程、方法を辿ろうと、脱出するとまず最初にここに辿り着く。そういう設定になってるんだ。
まあ、とりあえず掛けなよ。お茶でもどうだい?」
「いただきましょう。あ、出来ればコーヒー頂けます?」
ふと道すがら知り合いと出会った時の様な、互いに特に気張るようでもない会話だった。
月白氷は平然とした足取りでワールドオーダーに近づいてゆくと、対面のソファーに深々と腰掛けた。
その前には既に白い湯気の立つコーヒーカップが置かれている。
「ミルクはいるかい?」
「いえ、私ブラック派ですので」
そう、と相槌を打つとワールドオーダーは差し出そうとしたミルクを自分のティーカップに注いだ。
注がれたミルクが拡販し、白い模様が花のように広がり交じり合う様に融けていく。
「でさぁ、困るんだよねぇ。首輪を外すのは別にいいんだけど、君はあの場で誰かに倒されてちゃんと死んでもらわないと。
ま、今となってはちょうどいい代わりが出来そうからいいんだけどさ」
「と言われましてもねえ、そちらの事情なんて知らないですし。そもそも私、死にませんからねぇ」
そう言って漆黒の髑髏は漆黒の珈琲を啜る。毒殺など微塵も警戒していない様子だ。
何故なら死神に死などない。故に死を恐れる必要など何一つないのだから。
「ああ、その辺は大丈夫。僕がその辺の設定は既に変えてある。
君はもう不死じゃないから安心していい」
平然とそう言い、ワールドオーダーもミルクティーを一口飲んだ。
その言葉に月白氷の動きがピタリと止まる。
一瞬の沈黙の後、カタカタと音を立てて髑髏が嗤う。
「笑えませんねぇ、その冗談」
「え、そう? 大爆笑だったじゃん」
「私の不死を無くしたっていうのはあれですか? パーソナリティを書き換えるとか言う? 私そんな事された覚えはないんですけど?」
「そ。『自己肯定・進化する世界(チェンジ・ザ・ワールド)』っていう名前の能力なんだけど。まあ覚えがないように変えたからねぇ」
「たしか、聞いた話ではその能力って書き換えられるのは人格だけって話じゃありませんでしたっけ?
私の不死を無くすとか、そんなことができるんですか?」
「誰がそんなこと言ったのか、は、まあ知ってるんだけど。できるよ、少なくとも僕のやつは。疑うのなら試してみるといい」
そう言ってワールドオーダーが対面の月白へと向かって何かを弾いた。
テーブルの上を滑るように転がり、月白の手元でピタリと止まったのは、大口径のマグナムだった。
「お友達の言葉と自分の不死を信じるなら、自分の蟀谷に向けてその引き金を引いてみればいい」
沈黙が下りる。
死神である月白氷は拳銃程度では死なない。
それどころか何をしたところで死なない。死など当に超越している。
だが、ワールドオーダーは言った、月白氷の不死を打ち消したと。
「別に不安なら使ってもいいんだよ? 君のお得意の能力を」
侮蔑するような笑みと共にワールドオーダーが言う。
その言葉の通り、例え本当に不死が失われていたとしても、『奇跡の幸福』を使えば引き金を引いたところで『幸運』にも弾丸は発射されないだろう。
だが、それを使用するという事はワールドオーダーの言葉を認めるというのと同義だ。
真にワールドオーダーの言葉を否定るするならば、彼の言うとおりこのまま引き金を引くしかない。
ワールドオーダーは能力ではなく、言葉だけで『奇跡の幸福』を封じた。
68
:
内緒話
◆H3bky6/SCY
:2014/08/30(土) 01:15:55 ID:DxI2PPlQ0
互いににらみ合う様に動きを止め沈黙が空間を支配する。
その沈黙を打ち破ったのはワールドオーダーの方だった。
「うそうそ、冗談だって」
そう言って、ワールドオーダーが月白の眼前のマグナムを取り上げ破顔する。
「いや、そこまで君がマジになるとは思わなかよ。
てっきり簡単に引き金を引いて見せてくれると思ってたからさ」
ワールドオーダーはクルクルと銃で手遊びしながら、言葉の端々から漏れる笑みを噛み殺す。
そして、遂には堪えきれずにケタケタと声をあげて笑い始めた。
「大体、死神のくせに死に怯えるだなんて恥ずかしくないのかい?
仮に本当に死ぬのだとしても、そこは笑って死んでおけよ、死神としてさ」
ワールドオーダーの言葉に月白は何も言い返せない。
一瞬でも躊躇った時点で、月白の負けだった。
「ほら」
ワールドオーダーはポーンと山なりに銃を投げ渡す。
反射的に月白はその銃をキャッチしてしまった。
「もう一度チャンスを上げるよ。
別にもう強制はしないさ。
さっきの続きをするでも、それを僕に向けるでも好きに使うといい。
僕はその決断を見守ろう」
慈悲深い聖者のように優しく、ニッコリと笑う。
その笑みに導かれるように死神が銃を動かし、引き金に指を掛ける。
その銃口の先は、
「さあ――――――撃て」
銃声が響いた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
69
:
内緒話
◆H3bky6/SCY
:2014/08/30(土) 01:17:33 ID:DxI2PPlQ0
「――――あとは勝手に彼が自殺しただけさ。
ま、彼の強さは自分が死を超越した存在であるという前提があってのものだったからね。
種として強い存在なんて、強みを取っ払ってしまえば面白くもない」
詰まらなさ気にそう締めくくるワールドオーダー。
話を聞き終えた一ノ瀬は、呆れたように首を振った。
一ノ瀬から言わせれば話に乗った時点で月白氷の負けだ。
話の流れなど無視して、問答無用で『奇跡の幸福』を使えばよかったのだ。
とはいえ、一ノ瀬も現在の世界の設定を把握できない以上、迂闊には動けない。
相手は大胆なようで慎重。
無防備なようで用意周到。
考えなしの様で幾重にも策を巡らせている。
そういう相手である。
「けれど結局、不死が解除されたというのは嘘だったんでしょう?」
「ああ嘘だよ、彼に『自己肯定・進化する世界』を仕掛ける暇なんてなかったからね」
一ノ瀬が先ほどの話の嘘を暴くと、嘘つきはあっさりと肯定した。
だが、事実として不死の死神が死んでいる。
ならば、どういう手段をとったと言うのか。
「本当に仕掛けがあったのは銃の方でね。銃に『不死殺し』の設定を加えていたのさ。
それに世界は『攻撃』は『跳ね返る』設定になってたし、どう転んでも同じ結果だったという訳だよ」
楽しげにネタ晴らしをするその言葉は、他愛もない悪戯をした少年のようもあった。
「とんだペテンだ。真逆、口八丁で死神を自殺させる人間がいるとは思いませんでしたよ」
「そう? 口八丁って意味じゃ君も似たようなモノだろう?」
その言葉に一ノ瀬の脳裏に思い返されるのは、先ほど会場で交わした音ノ宮・亜理子とのやり取りである。
「同じにされるのは心外ですね。あの時の彼女には必要な言葉だった。
それにあの推論も外れているとは思っていませんよ」
「くく。なんだっけ? 僕がただの一介の女子高生の願いによってこの殺し合いを開いたとだっけ? なかなか、面白いことを言うねぇ」
小バカにしたようにワールドオーダーは喉を鳴らしてくつくつと笑う。
「――――まあその推察は正解なんだけど。
けど正確ではないな。僕が叶えたのは彼女だけの願いではないよ」
そう言ってワールドオーダーはピンと指を立てる。
「悪を成したいという悪人の願いも、悪を裁きたいという探偵の願いも、魔王をこの手で討ちたいという勇者の願いも、殺し合いを続けたいという優勝者の願いも、意中の相手と危機的状況を乗り越えて思いを深めたいという少女の願いも、強くなりたいという剣術家の願いも、外の世界が知りたいという竜族の願いも、忠義を尽くしたいという忠臣の願いも、再び輝く舞台欲しいという元神童の願いも、人間を知りたいという宇宙人の願いも、ループから抜け出したいという少女の願いも、己の体質を治したいという少年の願いも、最強を証明したいという強者の願いも、戦いたいという戦士の願いも、ただ殺したいという殺人狂の願いも、etc、etc」
次々と指折り並べ立て、数えたるや74本。
そして、ゆっくりと最後の指を折る。
「そして、僕の願いも、か。
殺し合い、という大前提があるせいで多少人選が偏ってしまったけれど、まあそこはご愛嬌。
誰もが願いを叶えられる可能性のある。ここはそんな夢の舞台だよ。君もそうは思わないかい?」
ワールドオーダーの問いに、一ノ瀬は呆れたように口を開く。
「真逆。その殺し合いと言う前提が最悪なんですよ。
大体、誰も貴方なんかに願いを叶えてくれなどと頼んだ覚えもない。
それに叶え方も最悪の一言だ。これじゃまるで猿の手か何かだ。
こんなのは有難迷惑にもなりはしない。ただの迷惑です」
率直かつ辛辣な叩きつけるような意見だった。
この批判を受けても、ワールドオーダーは楽しげに口元を歪めている。
「これは手厳しいね。せっかく君の願いも叶えてあげたというのに」
「却説。僕に願いなどありませんよ」
「そう? なら目的と言い換えようか」
「何の話か分かりかねますね」
70
:
内緒話
◆H3bky6/SCY
:2014/08/30(土) 01:18:35 ID:DxI2PPlQ0
応えるその声に感情の色はない。
一ノ瀬は変わらず無表情のまま、眉ひとつ動かさない。
対して問い詰めるワールドオーダーはドラマのようなオーバーなアクションで楽しげな表情を張りつかせていた。
「おいおい、どうして知らないふりをするんだい?
とっくに気づいているんだろう? だって君は――――」
そこでワールドオーダーは溜めを作るように言葉を切る。
笑みの張り付いた口端が、徐々に地割れのように歪に吊り上っていく。
「――――最初から『自己肯定・進化する世界』が使えたんだから」
突きつけられた言葉に対して、一ノ瀬は何も言い返さない。
ただ無言のまま目を細め、冷たい視線を返すのみである。
「君に『異世界の放浪者(ワールド・トラベラー)』を与えた時に、君は僕の『自己肯定・進化する世界』を見ている訳からねぇ。
君のためにわざわざあの場で使ってやったんだぜ?
あの瞬間君は確信したはずだ。僕こそが君の探し求めていた相手であると。
僕を探すのが君の目的だったんだろう?
それを目的にずっと旅を続けてきたんだろう?
だとすると、もう旅をする理由がなくなってしまったねぇ。
つまり、ここが君の結末(ゴール)だ。おめでとう一ノ瀬くん」
全てを操る主催者から、パチパチパチとまばらな拍手が送られる。
一ノ瀬は何も言い返さず、ただ大きな溜息を一つ零した。
「――――莫迦らしい。
そこまで見え透いた挑発なんて、迚も乗る気も起らない」
「おや、自らの始まりを否定するのかい?」
「別に『自己肯定・進化する世界』を知っていた、という点は否定しませんよ。
だがそれだけだ。僕の探し人は貴方ではない。あの男と貴方では余りにも違いすぎる。
それに、僕のためにあの場で能力を使っただなんて、笑わせるなよ道化師」
その言葉はナイフのような鋭さを持って突きつけられた。
一ノ瀬の記憶に焼きついた男と目の前の男の外見は似ても似つかない。
あれ程熱烈に焼付いた相手を一ノ瀬が見間違うはずもない。
「その違いの意味も君なら理解できているだろう?
『僕』は『僕』さ。細かいことを気にするなよ」
「話になりませんね。どうやら貴方とは個人に対する認識があまりにも違いすぎるようだ」
「そうかな? それでも話し合いで解決できるレベルの齟齬だろう」
「これ以上続けても水掛け論にしかなりませんよ。そんなに納得させたければお得意の解釈の押し付けでもしてみたらどうです?」
突き放すような一ノ瀬の言葉に、はて、とワールドオーダーは首をかしげる。
「何のことだい?」
「貴方のもう一つの能力の事ですよ。こちらはあの場が初見だったが既にこの目で見ている。
あなたの能力のカラクリなど、既に察しがついている」
「ふむ。何か誤解があるようだ。
君の能力はあれだね、火を使える能力だという事は分るし火のつけ方もわかるが、何故火が出るのかまでは理解できないようだ。
僕の『未来確定・変わる世界(ワールド・オーダー)』は言葉の解釈を押し付ける能力なんかじゃないよ。そじゃあただの言霊使いだろう?
この能力はさ、文字通り『世界』を変える能力なんだぜ?」
自慢げに口を吊り上げ俯き加減にワールドオーダーは笑う。
「貴方からすればそうなるのでしょうね。だが貴方の言う世界とは、貴方の主観的世界の話でしょう?
言葉は物事の本質足りえない、言葉の解釈など個人によって異なる。故に言葉が客観的世界に影響を及ぼすことなどありはしない。
だが事実として貴方は能力により現象を引き起こしている。
ならば、それはその言葉を貴方が解釈をしそれを他者に押し付けているという証明に他ならない。そうでなければ齟齬が起きる」
事実を解体していくような一ノ瀬の言葉。
それに対する採点者の態度は余りよろしくない。
「それは君の解釈だ。君が使えばそうなるだろうね。
習うより慣れろだ、試に一度使ってみればよかったんだよ。
そうすれば、この能力の本質につには君ならばスグ気づけただろうに。
まず、この能力が言葉を起点としているという認識が間違いだ。仮に起きる結果が同じだとしても過程が違う。
それにこの能力が自分の解釈を好きなように押し付けられるような便利な能力ならば、自分だけは例外とでもするさ」
自嘲するような笑みと共にワールドオーダーは言う。
71
:
内緒話
◆H3bky6/SCY
:2014/08/30(土) 01:20:19 ID:DxI2PPlQ0
「なら、意味の解釈による齟齬をどう解決すると言うんです?」
「簡単さ、意味を解釈し処理を実行する第三者が常に存在すればいい」
あっさりと提示された答え。
第三者、と反復しその言葉の意味する所を一ノ瀬は瞬時に理解する。
「その第三者があなたの言う『世界』だと?」
然りと、この言葉を肯定する。
「それこそ不可能だ。世界に意思などない。
意思がなければ、言葉の解釈などできるはずがない」
「だから、この能力の対象は『言葉』ではなく『世界』なんだって。
君も言ったろ世界は主観的世界と客観的世界の二つに分けられると。
そして個人が自由にできるのは主観的世界だけ。ならば答えは自ずと見えてくるはずだ」
思考を導くような言葉が並べられる。
それだけのヒントが提示されて理解できぬ一ノ瀬ではない。
その結論は呟きとして漏れた。
「入れ替える…………?」
「そう 主観的世界を作り変えたうえで、客観的世界と入れ替えればいい。
君の言い方を借りるなら押し付けるでもいいけどね」
世界の秩序を入れ替える改革の能力。
故に――――ワールドオーダー。
「そのため効果範囲は僕の認識している範囲の世界に限られるがね。
わざわざ測ったことなんてないから正確な数字は知らいけれど。
まあ個人に認識できる世界なんて大した範囲ではないのだろうね」
正確な数字を知らないというワールドオーダーと違い、一ノ瀬は己の能力により効果範囲が200mという事は知っている。
だが、半端な効果範囲の意味はここで初めて知った。
これが本来の能力者とコピー能力者との認識の違い。
「ならば、貴方はその能力で世界を自在に組み替えられると?」
「だから、そこまで便利な能力でもないさ。制約は君の知っての通り山のようにある。
この辺は、まあ能力の限界というより世界の限界だね。
完成された神様の作ったシステムを弄るんだ。齟齬が大きければ世界が破綻してしまう」
言って、ワールドオーダーは言葉を切った。
一ノ瀬はその発言を吟味する。
「『完成』された『神様』、ね」
先のどの発言の中で、一ノ瀬が最も気になったのはその一点だ。
初めて述べられた言葉ならともかく最初の説明の時も出た単語である。
それはつまり、根強く彼の思考に根付いた言葉という事だ。
「貴方は神様に対して、随分と特別なイメージを持っているようだ。
それが宗教的なモノなのか、漠然とした妄想なのかは知りませんが」
だが、目の前の男はどう見ても信心深いようには見えない。
十字架や数珠と言った宗教的なアクセサリーはどこにも見受けられない。
「君は信じてないのかな、神様?」
この問いに一ノ瀬は答えず、僅かに肩をすくめる事で返した。
「ふむ。君は無神論者かな? 死神の知り合いがいるのに? まあ日本人だしね、その辺の価値観は独特だ。
けど僕が言っているのはそこに転がってる死神や、会場にいる邪神のような名ばかりのちゃちな神の話じゃない。
偶像だとか宗教だとか想像上の存在だとか、そんな曖昧で漠然としたモノの話でもない。
――――『神様』は居るんだよ、本当に」
告げる口元は、これまで以上に邪悪に歪んでいた。
人間らしい感情の色など見えなかったこれまでと違い、その言葉にはむせ返るような熱が帯びている。
72
:
内緒話
◆H3bky6/SCY
:2014/08/30(土) 01:22:14 ID:DxI2PPlQ0
「支配者がいると知ってしまった以上。『革命』するしかないだろう?」
言って革命者は天を指さす。
そこにいる何かに向けて、付きつけるように。
こちらに向けて指をさしていた。
その神が何を指しているのか。
神に対する革命とは何か。
それがこの殺し合いとどう繋がるのか。
一ノ瀬の理解力を以てしても分らないことは山のようにある。
ただ、感想だけならば一言で言い表せた。
「――――イカれてる」
「その感想は今さらだろう」
一ノ瀬の侮蔑も気にせず、ワールドオーダーは笑みを浮かべた。
どこまでも楽しそうに。狂ったような笑みだった。
「さて、じゃあそろそろ本題に移ろうか。ここに来てしまった君をどうするかという話さ。
ここは第二ステージみたいなものでね。まあ、流れによっては、最終ステージになるかもしれないけど。
どちらにせよ、まだ参加者が訪れる段階じゃないんだ。
そこで、だ――――君には三つ選択肢をあげよう」
言ってワールドオーダーは一ノ瀬に向けて三本の指を突き付ける。
「まず一つ。首輪を付け直して、元の会場に戻る」
「貴方の手駒として、という事ですか?」
「ん? まあその辺はどっちでもいいよ。そうしてくれるならありがたいのは確かだけどね」
「つまり何の縛りも制約もなく、ただ戻す、と?」
ワールドオーダーは軽く頷き、この言葉を肯定する。
「物好きですね。そんなことをしたら確実に僕はあの殺し合い自体を破壊しますよ
正直、貴方が何をしようが興味はないですが。これ以上付き合わされるのも煩わしい」
「そうなの? まあ別に止めはしないよ。そうしたいなら思うがまま好きに動けばいいさ。
会場には僕もいるしね、その辺は心配はしていないさ」
そう言ってワールドオーダーはズズと冷めたミルクティーを啜った。
「そして次の選択肢は有体で申し訳ないのだけど、そこのそれのようにここで死んでもらうかだね」
そう言って、視線で地面に転がる砕けた髑髏を指す。
その死の宣告に対して動じるでもなく一ノ瀬は平然と応える。
「それは無理でしょう」
「無理とは?」
「だって貴方、参加者を攻撃できないじゃないですか」
当たり前の事のように放たれた一ノ瀬の言葉に、ワールドオーダーはニィと笑った。
「何故、そう思うんだい?」
待ちきれないと言った風に目の前の相手の言葉を促す。
「最初の違和感は首輪を爆破しなかったことだ。
首輪は大事な強制力だ。その信用を高める意味でもあそこで見せしめとして一つ爆発させるべきだった。
参加者が惜しいというのならば、デモンストレーション用の人員を別に見繕えばいいだけの話だ。
あの少年を用意した、貴方にその程度の事ができない訳もない。
次に月白氷をわざわざ自殺するよう導いたこと。
彼を排除したければ貴方の能力で『死神』は『消滅』するとでも言えばいい。
そのほうが圧倒的に手っ取り早いし確実だ。
そして決定的なのが、いまだに僕を攻撃する気配を見せないこと。
以上の点から――――貴方は参加者を攻撃できないと推測できる」
滑らかに一ノ瀬は根拠を述べ、最後に結論を告げる。
ワールドオーダーは反論もせず、ただ静かにその弁論を聞いていた。
その態度は、不気味と言えば不気味だった。
73
:
内緒話
◆H3bky6/SCY
:2014/08/30(土) 01:26:04 ID:DxI2PPlQ0
「――――いいね。君はいい、すごくいい。
だけど、聊か情熱に欠けている。それじゃあ、ダメだ」
パァと花のように喜びを見せたかと思えば、すぐさま頭を振るう。
その態度が何を意味しているのかは分からないが、どうやら推察の内容に対してではないらしい。
「推察自体はご明察。
と言いたいところだけど、確かにそういう縛りは設けているが、正確には攻撃できないのではなくて、攻撃しないだけだよ。
今はまだ、その段階ではないからね」
「段階ね、さっきから何の段階なんですか?」
「計画の段階さ。何の計画かは秘密だがね」
「…………」
一ノ瀬は押し黙る。
目の前の相手はお喋りなようで、意図的に情報を漏らし操作してる節がある。
問い詰めたところでこれ以上の情報を漏らすことはないだろう。
「そして最後の選択肢だ。元の世界に戻って平穏に暮らす」
流石にこの選択肢は予想外だったのか、これには一ノ瀬も目を見開いた。
「元の世界とは?」
「そのままの意味さ。世界を漂流する以前に君が暮らしていた本当の君の世界だ。
なんだったら、元の学校に学生として復学させてあげてもいい」
「…………そんなことがあなたに可能なんですか?」
「可能だよ、そもそもその『異世界の放浪者』を誰が与えたと思っているんだい?」
一ノ瀬は押し黙る。
他の選択肢に比べ、話が旨すぎるなんて次元じゃない。
ここまで露骨に怪しいとその真意を推察すらできない。
「そう訝しむなよ。これは純粋な善意の提案だぜ」
そう言って、ワールドオーダーは机に三つの物を並べてゆく。
一つはあの会場で一ノ瀬がつけていたのと同じ首輪。
一つは月白氷を撃ち抜いた銃。
そしてもう一つは一ノ瀬が肌身離さず持っていた、そしてこの殺し合いの際に没収された高校時代の集合写真である。
それぞれが三つの選択肢を示していた。
「そろそろ放送の時間だから僕は少し席を外させてもらうよ。
それほど急ぐ必要はないけれど、せめて僕が放送を終えて戻るまでにどれにするかは決めておいてよ」
そう言って、ワールドオーダーは立ち上がると、あっさりとその部屋を後にする。
残されたのは一ノ瀬と砕かれた水晶髑髏だけだった。
そして、彼の目の前には首輪と銃と写真がある。
こんな選択肢は無視して、ここを脱出するという選択肢も当然ある。
だが、その程度相手も承知の上だろう。
何らかの対策は打たれていると考えるべきだ。
『異世界の放浪者』の力ならば、問答無用で世界を渡れるが、『異世界の放浪者』は一ノ瀬の任意では発動できない。
それ以前に、役割を終えたという『異世界の放浪者』が発動するどうかも怪しい。
放送のためにどこまで行ったのかは分からないが、放送自体は連絡事項を告げるだけだ。恐らく戻ってくるまで10分とかかるまい。
戦うにしても逃げるにしても選ぶにしても、それまでに決断を下さなければならない。
世界を渡る旅人が下した結論とは。
74
:
内緒話
◆H3bky6/SCY
:2014/08/30(土) 01:27:20 ID:DxI2PPlQ0
投下終了
やや踏み込みすぎな所とか、一ノ瀬どうすんだとか
色々意見があればお願いします
75
:
名無しさん
:2014/08/30(土) 01:40:06 ID:rxVKrkRo0
投下乙です。
月白は犠牲になったのだ…
考察が活かされぬまま脱出したかに思われた一ノ瀬、まさかの主催者と対面か
主催者の能力コピーも果たしてかなり重要な所にまで踏み込んでしまったな
リターンか死か生還か、放送後に彼はどうなるのか…
しかしワールドオーダーは本当に底知れないな
76
:
名無しさん
:2014/08/30(土) 04:54:19 ID:pID4zz1M0
投下乙です!
月白ェ…
明らかになったWOの能力の秘密と目的
そして一ノ瀬くんの再参戦フラグ
第一回放送を迎えて、ロワはいよいよ風雲急を告げますね
77
:
名無しさん
:2014/08/30(土) 21:16:44 ID:lG2gCVXQO
投下乙
ワールドオーダーの底知れなさよ……
問題は無いと思うので本スレに投下して構わないと思います
78
:
◆H3bky6/SCY
:2014/09/04(木) 00:35:33 ID:1HIh35iw0
放送案投下します
79
:
第一放送 -世界の終り-
◆H3bky6/SCY
:2014/09/04(木) 00:37:16 ID:1HIh35iw0
おはよう。朝だね。
最初に告知した通り放送の時間だ。
まずは、ここまで生き残った君たちに敬意を表するよ。
それじゃあ禁止エリアの発表から行こう。
重要な事なので忘れないよう、支給物に筆記用具があるからそれでメモしておくといい。
無くしてしまった人は、頑張って記憶してくれたまえ。
では発表する、禁止エリアは。
『H-4』
『F-9』
『B-5』
以上の三か所とする。
最初にも言ったが、禁止エリアの適用はこの発表より2時間後となる。
発動後にうっかり入らない様に気を付けるようにしてくれ。
では続いてお待ちかねの死者の発表へと移ろうか。
少し多いから聞き洩らさない様に注意してくれ。
01.茜ヶ久保一
04.麻生時音
05.天高星
06.暗黒騎士
09.ヴァイザー
11.裏松双葉
17.案山子
20.ガルバイン
23.クロウ(朝霧舞歌)
25.サイクロップスSP-N1
30.佐野蓮
32.四条薫
33.詩仁恵莉
35.白雲彩華
41.月白氷
43.剣正一
51.初瀬ちどり
52.初山実花子
54.半田主水
56.ピーリィ・ポール
62.ペットボトル
70.吉村宮子
73.ルピナス
74.ロバート・キャンベル
以上だ。
うん、なかなかいいペースだね。
この調子なら大丈夫そうだし、6時間死者が無ければ誰かの首輪を爆破するという話だったけど、少し制限時間を狭めようか。
制限時間を半分の3時間とする。つまり次の6時間で誰も死ななかった場合、最大2人が爆破されるという事だね。
もしこのルールが適用された場合、誰が死ぬかは放送時に発表する事にしよう。爆破の執行もその時だ。
ルールが適用されたのか、誰に適用されるのかは次の放送までのお楽しみという事だね。それまで待っていてくれたまえ。
第一放送は以上だ。
これからの放送もこんな感じになるから、覚えておいてくれたまえ。
では、また6時間後に生きて僕の声を聴いてくれる事を願っているよ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
80
:
第一放送 -世界の終り-
◆H3bky6/SCY
:2014/09/04(木) 00:38:22 ID:1HIh35iw0
放送を終えたワールドオーダーが薄暗い通路を進んでゆく。
向かうのは一ノ瀬の待つ一室である。
扉の前で立ち止まると、ワールドオーダーは扉の鍵となるスイッチを押した。
音もなく自動扉が開かれる。
「待たせたね。決断はでき、」
その言葉は最後まで紡がれることなく、鳴り響いた轟音にかき消された。
ワールドオーダーが部屋に入った瞬間、巻き起こったのは空間を破折させるような大爆発だった。
爆心地はワールドオーダーの眼前。
部屋の入り口を巻き込みながら、ワールドオーダーの頭部が爆竹を仕込んだ西瓜のように爆ぜた。
「ええ、面倒がないように貴方をここで殺しておくことにしましたよ」
一ノ瀬の言葉。
その爆発は言うまでもなく一ノ瀬の先制攻撃である。
ワールドオーダーの体が勢いよく地面に倒れ、葡萄酒のような赤い液体を中身がむき出しになった頭部からぶちまけられる。
一ノ瀬は油断なくその様子を見届け、確実に絶命した相手へと容赦なく追撃の攻撃を放つ。
放たれる刃のような氷塊。
だが、ある種の予測通り、その攻撃はムクリと動き始めた死体に躱された。
「――――不意打ちだなんて酷いなぁ」
前転するような形で立ち上がった、頭部の半分吹き飛んだ死体が言う。
「けど、言ったはずだぜ? 君の選べる選択肢は三つだけだって。
ここで死ぬという選択肢を選んだと解釈していいのかな?」
中身がむき出しになり下顎だけになった口がパクパクと動く。
ブクブクと泡立つように肉が蠢き、頭部が再生されていく。
むき出しの口元が嗤う。
「……貴方、本当に人間ですか?」
「勿論人間だよ。さて今この世界はどういう世界なんだろうねぇ?」
そう言って世界を包み込むように両腕を広げるワールドオーダー。
一ノ瀬は大よその設定を察する。
具体的な設定は不明だが、おそらくこの世界は『死』を『容認』していない。
事前にそんな世界を敷いていたという事はつまり、一ノ瀬のこの行動も想定内という事だ。
「さて、君の相手をしてあげたいところだが、この傷だ。
どう見ても、とても戦える状況じゃあない。
そこでだ、僕の代わりに彼が君の相手を務めよう」
言って、先ほどの爆破で損傷した壁の破片を拾い上げ、手にした拳大の瓦礫を投げつける。
それは狙いも甘く、大した速度もない石礫だ。
そんなものは一ノ瀬ならば目をつむっても躱せるだろう。
苦も無く身を躱し、一ノ瀬の脇を礫がすり抜ける。
だが、躱したはずの礫がブーメランのように軌道を変えた。
追尾性の石礫。
その程度の事は驚くには値しない。
一ノ瀬からしても予測の範囲内である。
だが、そんなものがワールドオーダーの切り札であるはずがない。
その真価は別にある。
81
:
第一放送 -世界の終り-
◆H3bky6/SCY
:2014/09/04(木) 00:40:42 ID:1HIh35iw0
避けるのは無意味と悟った一ノ瀬が、礫を撃ち落とすべく撃退に打って出る。
幾多の世界を渡り数多の異能を見てきた一ノ瀬は千を超える異能を有している。
向かってくる瓦礫へと向けて、一ノ瀬が異能を発した。
全てを切り裂く風の異能。
だが、次の瞬間、礫は意思を持ったように流動し、風の刃を潜り抜けた。
「ちっ…………!」
飛来した礫は一ノ瀬の額を霞め、その頭部から僅かに血が流れた。
だが、それは問題ではない。
それよりも、意思を持ったような今の動きは。
「気付いたかな? 紹介しよう彼は瓦礫Aくんだ。君の相手をしてくれる」
【名前】瓦礫A
【詳細】意思を持った瓦礫。敵に向かって自由自在に飛び回る。
それは、意思を持ったような動きではなく、本当に意思を持っている。
『自己肯定・進化する世界(チェンジ・ザ・ワールド)』によって設定を加えられた、意思を持った瓦礫である。
「……巫山戯た真似を」
「いやいや、僕は至って真面目だよ。彼はなかなかの強敵だぜ?」
シュンと風を切り自ら動いた瓦礫Aが迫る。
それに対し、一ノ瀬は腕から蜘蛛の糸のような網を展開した。
その網は直進してきた瓦礫Aを絡め取り、その動きを拘束する。
完全に動きを止めた瓦礫Aを一ノ瀬の掌が包み込む。
すると瓦礫Aは溶けるように一握の砂へと分解されていった。
【瓦礫A 死亡】
「話になりませんね」
先ほどはただの礫であると油断したが、相手が意思を持っていると理解すれば、この程度の対処は容易い。
「お見事。では次だ」
トントントンとワールドオーダーは軽い調子で地面に転がる瓦礫に次々と触れて行った。
「―――――――」
その光景に一ノ瀬が言葉を飲んだ。
震えと共に浮かび上がる瓦礫たち。
踊るような軌跡で一ノ瀬の周囲を取り囲む。
【名前】瓦礫B
【詳細】意思を持った瓦礫。相手が朽ち果てるまで追尾する。
【名前】瓦礫C
【詳細】意思を持った瓦礫。音速での移動を可能とする。
【名前】瓦礫D
【詳細】意思を持った瓦礫。瓦礫始まって以来の神童。
【名前】瓦礫E
【詳細】意思を持った瓦礫。強力なエネルギー波を放つ。
【名前】瓦礫F
【詳細】意思を持った瓦礫。通常の概念では破壊できない硬度を持つ。
「さあ、彼らが次のお相手だ」
再生途中の頭部のまま、口だけの支配者が嗤った。
82
:
第一放送 -世界の終り-
◆H3bky6/SCY
:2014/09/04(木) 00:42:38 ID:1HIh35iw0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
..............................................................
...............................
......................
...........
......
...
..
.
.
「はっはっは。見事見事。良い戦いだったよ。
特にDくんとの激戦は久々に興奮したなぁ。それにまさかFくんをあんな方法で攻略するだなんてまったく驚かされたよ。
流石だねぇ、一ノ瀬くん」
ワールドオーダーのが演劇を見る観客のように拍手を送りながら、目の前で繰り広げられた戦いの感想を述べる。
既に頭部は再生されているが、立ち位置の関係か影がかかってその素顔は見えない。
方や舞台上の主役たる一ノ瀬は既に満身創痍である。
衣服はズタぼろに切り裂かれ、全身は痣と流血に塗れいてた。
能力による消耗も激しく、息を切らしている。
瓦礫でありながら、意思を持ち戦略を練り能力を多用する、そんな相手を複数同時に相手取ったのだ。
むしろ一人で勝利を得た事を褒め称えるべきだろう。
「――――では次だ」
容赦なく放たれる言葉。
一ノ瀬が戦っている間に既に仕込みは終わっていたのか、その言葉と共に周囲に散らばった瓦礫が浮かび上がる。
その光景は絶望に近い。
先ほどの戦いの余波で周囲に転がる瓦礫は無数。大小無数の瓦礫の数はもはや一息では数えきれない。
こんな雑多な石ころの一つ一つが、強力な参加者に匹敵する戦力を有しているのだから、正しく悪夢である。
一人で戦争に立ち向かうようなものだ。
圧倒的物量に押しつぶされるしかない。
この状況に一ノ瀬がぐっと忌々しげに唇を噛む。
一ノ瀬の中に、この戦力差をひっくり返す能力は数えるほどしかない。
その中でも、確実に打破できる能力と言えば一つしかなかった。
迫りくる瓦礫の軍。
それを前にして。
「――――『無機物』は『無に還る』」
一ノ瀬が世界の秩序を変革する言葉を紡いだ。
『未来確定・変わる世界(ワールド・オーダー)』。
それは目の前の相手の代名詞ともいえる能力である。
これにより世界は変わる。
どれほどの大群であろうとも世界の法則には逆らえない。
瓦礫たちは世界の法則に従い無に還る。
83
:
第一放送 -世界の終り-
◆H3bky6/SCY
:2014/09/04(木) 00:45:15 ID:1HIh35iw0
その、はずだった。
だが瓦礫たちは消滅することはなかった。
消えるどころか、勢いを止めることなく、無数の瓦礫の突撃が一ノ瀬の体を蹂躙する。
「がっ…………はッ」
岩石に全身を打たれ、レーザーのような小石に身を貫かれ、足を掬われ倒れこみ、血を吐いた。
能力は確かに発動したはずだ。
その感覚はあった。
なのに何故。
「信じる心が足りなかったねぇ」
そんな一ノ瀬の疑問に、観客然と戦いを見守っていたワールドオーダーが応えた。
「ランクが足りないとかそういう話じゃあないぜ?
言ったろ。その能力は世界を取り換える能力だと。
まずは自分がそうであると信じなければ、自らの中に、己の世界に『革命』を起こさなければ」
この能力は使えない。そうワールドオーダーは言い切った。
世界を変える事など誰にも出来ないという思いを抱えたままでは、世界は何一つ変わらない。
世界を変えるには、まず自らが変わらなければならない。
「さて、言い残したことはあるかな? この状況だ。大抵の質問には答えるよ」
倒れこむ一ノ瀬へと問いかける。
幾重もの致命傷を負い、一ノ瀬の意識は既に遠のき始めている。
だが、血が抜けたせいか、頭の中だけはひどくクールだった。
その頭で、問うべき言葉を思案する。
これまでの彼の語った言葉。
その意味する所。
実在するという神様。
この殺人遊戯の目的。
その全てが繋がる根本的な疑問。
「…………貴方は、どうやって『神』を打倒するつもりなのですか?」
その問いに、ワールドオーダーは感心したように、ふむと唸った。
「いい質問だ。だけど残念ながらいい質問過ぎて、それだけは答えられない」
その返答を聞き遂げることができたのか、それともできなかったのか。
一ノ瀬は限界を迎え、その意識を手放した。
斯くして一ノ瀬空夜という一つの世界は終わりを告げた。
【一ノ瀬空夜 死亡】
その終わりを見届け、ワールドオーダーはパチンと指を鳴らした。
瞬間、世界は正しく変わり、周囲を飛び回っていた瓦礫たちが無に還る。
「世界は変わる。変わらなければならない。進化を止めた生物に生き残る価値はないからね」
呟きは誰に届くことなく世界に溶ける。
その意味も心もまた、きっと誰にも理解されないまま。
84
:
第一放送 -世界の終り-
◆H3bky6/SCY
:2014/09/04(木) 00:46:06 ID:1HIh35iw0
投下終了
とりあえず一案として簡単に
重要な所としては6時間ルールに変更を加えました
あとは、引っ張ってもあれなので一ノ瀬の話にも一応決着を
85
:
◆dARkGNwv8g
:2014/09/08(月) 21:22:40 ID:boLmFX0g0
放送案と一ノ瀬くんの処遇を考えてみたので投下します。
86
:
第一回放送
◆dARkGNwv8g
:2014/09/08(月) 21:23:44 ID:boLmFX0g0
「鳥は卵の中から抜け出ようと戦う。
卵は世界だ。
生まれようと欲するものは、
一つの世界を破壊しなければならない。」
ヘルマン・ヘッセ 「デミアン」
◇
通信室は埃っぽく、薄汚れて、黴臭かった。
黒いカーテンの隙間から射し込んだ朝の光が浮き上がる埃を黄金色に染めている、その傍らでスプリングのはみ出た椅子に座りながら
革命狂――ワールドオーダーは、古ぼけた通信機器の手前に置かれた時計の針を見詰めていた。
革命の一つの区切りであるその時をじっと待つ、そんな彼の服装は、今から六時間前に『革命』の開始を宣言した時の紳士服でも
つい先程一ノ瀬空夜と対峙した際に身に着けていた、パーカーにジーンズのラフな出で立ちでもない。
今のワールドオーダーは白シャツに赤ネクタイ、ベージュの綿パンを穿き、茶色いセーターの上から
ライトグレーのジャケットを羽織っている。そして頭には何故か長髪のカツラを被っていた。
丸きり違う装いに変わったワールドオーダーのその格好は、見る人によっては往年の名作学園ドラマの主人公教師を連想させたかもしれない。
コップの水で軽く喉を湿らせる。
それと同時に、時計の長針と短針が一直線に伸びきった。――時間だ。
ワールドオーダーはまず用意しておいたカセットの音楽を会場に向けて流す。
ああああたああああらしいいいいああさがきたああああ
きいいいいいぼおおおおおうのあああああさああああああだ
よろこおおおおおおおびにいむねをひいいいいいいいいいいいいらあああああああああああああああああああああああああ
カセットテープが途中から伸びきっていたようだがワールドオーダーは気にしない。
音楽を止めるとマイクに向かい、会場の生き残っている参加者全員に語りかける。
心からの親愛を込めて。
「やあ、親愛なる革命同志諸君、お早う。
時刻は現在朝の六時、約束の定時放送の時間だ。
さて、『革命』が開始してからすでに六時間が経過した訳だが
この六時間は諸君にとって永遠の如く長かっただろうか、それとも須臾の如く短かっただろうか。
それとも――或いは普段通りの日常の時間に過ぎなかったかな?
諸君らの肉体に、精神に、変革は起きただろうか。君たち自身の意識に、生命に、革新は行なわれただろうか。
いや、答えは無用だ。この放送を聞いている間にも、諸君は着々と革命を成し遂げようとしているのだからね。
まずは今この時まで生き残り、今この瞬間も革命を続けている君たち生者を言祝ごう」
歌うように、朗らかにそう言うと、ワールドオーダーは一枚の紙を手繰り寄せる。
それは参加者たちに配られたものと同じ、『革命』の会場である島の地図だった。
「故に――最初に未来の話をしよう。
禁止エリアの発表だ。
少々前置きが長くなって苛立っている者もいるかもしれないが、我慢して聞いておくことをお奨めするよ。
放送を聞かずうっかり禁止エリアに入り込んで爆死。なんて最後はあまりみっともいいものじゃないからね。
それじゃあ皆、メモの用意はいいかな? 用具類を無くした者は耳に焼き付けたまえよ。
今から二時間後に
『G-3』-『H-3』-『H-4』の一帯
『G-8』-『F-8』-『F-9』の一帯
『B-5』-『B-6』-『B-7』の一帯
以上九箇所を全て禁止エリアとする。
87
:
第一回放送
◆dARkGNwv8g
:2014/09/08(月) 21:24:23 ID:boLmFX0g0
ん?
禁止エリアの範囲が多すぎるって?
いやいや、何しろ君たちが予想以上に頑張ってくれたからねえ。
少ない参加者が早く他の参加者と巡りあえるようにという、僕なりの心遣いさ」
一気に禁止エリアの発表を終えると、ワールドオーダーは再び水で口を湿らせる。
その手元から地図は放られ、代わりに彼が今掴んでいるのは
これまた参加者に配られたものと同じ、参加者全員の氏名が記された名簿だった。
だがその名簿は、全体のほぼ1/3に当たる二十四名の氏名が赤い線で塗り潰されていた。
「――そう、まさに予想以上の結果だ。
それでは、或いは諸君が最も知りたがっている過去の話を――
革命の礎となって散っていった者たちの発表をしよう。
さて、名簿順に発表しようか、それとも死亡した時系列順がいいかな?
……うん、やっぱり名簿順にしよう。そのほうが分かり易いからね。
では少々長くなるが、革命の途中で斃れた者たちの名前をよく聞いておいてくれ――」
そしてワールドオーダーは手元の名簿の、赤線で消された二十四の名前を読み上げていく。
血で打たれた二十四のピリオドを思い起こしながら。
「茜ヶ久保一」
――細切りにされ咀嚼された茜ヶ久保一。
「麻生時音」
――斧で顔を割られた麻生時音。
「天高星」
――道路に転がったまま動かない天高星。
「暗黒騎士」
――頭部を破裂させた暗黒騎士。
「ヴァイザー」
――焼けた屍を貪り食われたヴァイザー。
「裏松双葉」
――救済の代わりに斧を振り下ろされた裏松双葉。
88
:
第一回放送
◆dARkGNwv8g
:2014/09/08(月) 21:24:59 ID:boLmFX0g0
「案山子」
――散弾を撃ち込まれた案山子。
「ガルバイン」
――死闘の末に両断されたガルバイン。
「クロウ(朝霧舞歌)」
――心臓を抉り飛ばされたクロウ。
「サイクロップスSP-N1」
――鋼鉄の肉体を粉砕されたサイクロップスSP-N1。
「佐野蓮」
――皮を剥ぎ取られた佐野蓮。
「四条薫」
――生きたまま全身を解体された四条薫。
「詩仁恵莉」
――首をへし折られた詩仁恵莉。
「白雲彩華」
――恐怖の中で切り刻まれた白雲彩華。
「月白氷」
――自らの頭蓋を撃ち抜いた月白氷。
「剣正一」
――木の元に崩れ落ち動かなくなった剣正一。
「初瀬ちどり」
――黒焦げになった初瀬ちどり。
「初山実花子」
――頭を吹き飛ばされた初山実花子。
89
:
第一回放送
◆dARkGNwv8g
:2014/09/08(月) 21:25:35 ID:boLmFX0g0
「半田主水」
――全身が炎に包まれても戦い続けた半田主水。
「ピーリィ・ポール」
――道端に臓物をぶちまけられたピーリィ・ポール。
「ペットボトル」
――嗤いながら握り潰されたペットボトル。
「吉村宮子」
――爆発で粉微塵になった吉村宮子。
「ルピナス」
――友人に殺されて物語に幕を閉じたルピナス。
「ロバート・キャンベル」
――魔法の雷に撃たれたロバート・キャンベル。
氏名と共に想起された二十四の地獄風景を噛み締めながら
ワールドオーダーは敬意と感謝を以って革命の殉教者たちの発表を終えた。
「――以上、二十四名だ。
いや、正直な話、諸君の活躍は僕の期待以上だよ。
このままのペースで行けば、想像以上に早く我々の革命は成るかもしれない。
だから、今後への期待を込めて首輪爆破への制限時間を狭めようと思う。
三時間だ。これから三時間の間に一人も死亡者が出なかった場合に一人、その次の三時間で死亡者が出なかったらまた一人。
つまり次の六時間で一人の死者も出なかった場合、十二時の放送の際に二人の参加者の首輪を爆破するってことだ。
どうか皆――手を休めることなく『革命』を続行してほしい。
以上で第一回定時放送を終了する。
――この別れが永遠か、暫しのものか、それは正午十二時の第二回放送でわかるだろう。その時を楽しみに待っているよ。
では我が同志、我が兄弟たちよ。さようならだ」
最後の言葉を告げると、ワールドオーダーはマイクのスイッチを切った。
コップに残っていた水を飲み干し、ほっと一息吐く。
その背後で、軋む音と共に扉が開いた。
「やあやあ一ノ瀬君、すっかり待たせてしまったね。
今の放送、君もちゃんと聞いておいてくれたかい?」
振り返ったワールドオーダーの顔面に、銃口が突きつけられた。
「なるほど、これが君の選択か」
無表情で拳銃を突きつける一ノ瀬空夜を見ながら、革命狂は何時も通りの笑顔を浮かべていた。
90
:
無駄話
◆dARkGNwv8g
:2014/09/08(月) 21:26:24 ID:boLmFX0g0
一ノ瀬空夜は神を信じてはいない。
そう言う度に
「それっておかしくねぇ? だってお前の知り合いに死神いんじゃん」
とツッコミを入れられるのだが、ここで空夜が想定している神は死神のような種族としての神ではない。形而上学的な存在としての神だ。
幾つもの世界を渡った空夜は、人の因果に干渉して運命を捻じ曲げる『死神』や
超越的なエネルギー体として人々の信仰を集める『善神・悪神』などの存在を知っている。
しかし彼らは、いかに全能に等しき力や特殊な性質を持っていようと『ただそういう存在』であるに過ぎない。
人にとって強大であるが故に『神』とラベリングされた、ただそれだけの存在だ。
力が強い、在り方が違う、寄って立つ条理が異なっている、存在する次元が掛け離れている。
故に『神』と呼ばれる存在であったとしても、その存在を観測し、認識することが可能であるという時点で
彼ら『神』も所詮は人間と同じ、人間が認識できる『檻』の内側の虜囚に過ぎない。
たとえ彼ら『神』が全ての人間が詰まった匣を上から覗き、匣に手を突っ込んで掻き回し、或いは匣をぺしゃんこに踏み付けることが出来るとしても
どちらも檻の中に――人間が、いや人間に限らず凡そ存在する全ての存在が認識できる可能性のある限界の内に――いるという点では
匣に詰められている人間も、その匣を振り回す『神』も、等しく同じだ。
だから空夜が否定する神とは、檻の内側にいる『神』と名付けられた者たちではない。
檻の外側――檻の中にいる存在が認識できる可能性の限界を越えた場所――にいる
檻の中の存在である以上は視ることも識ることもできない、神という概念を使わなければ想像を馳せることすらできない
実証を超えたモノとしての神だ。
そんな神を空夜は信じない――信じないというよりは、信じようが信じまいが無意味だ、と思っている。
よしんば檻の外側に全能なる神がいて、檻の内の囚人全ての運命を操っているにせよ
認識の限界を越えている時点で、その存在の是非を論ずるのは全くの無駄だからだ。何れにせよ認識できないのだから。
語りえぬものについては、沈黙しなければならない。
……そう思っていた。
――――『神様』は居るんだよ、本当に――――
だがもしも、檻の中の囚われ人でありながら檻の外側を視てしまった者がいるとしたら。
不可知の領域にいる存在を、檻の虜囚でありながら識ってしまった者がいるとしたら。
――――支配者がいると知ってしまった以上。『革命』するしかないだろう?――――
一人取り残された部屋で、憎悪に満ちた男の声を空夜は思い返す。
思えば、革命への情熱以外であの男が人間らしい感情の発露を見せたのはこの時だけだった。
「……ワールドオーダー、貴様は何を――」
ああああたああああらしいいいいああさがきたああああ
そんな空夜の束の間の思考は、第一回放送を告げる壊れたカセットの音楽で破られた。
91
:
無駄話
◆dARkGNwv8g
:2014/09/08(月) 21:26:54 ID:boLmFX0g0
◆
――――……うん、やっぱり名簿順にしよう。そのほうが分かり易いからね。――――
――――では少々長くなるが、革命の途中で斃れた者たちの名前をよく聞いておいてくれ――――
ワールドオーダーの人の感情を逆撫でするような放送は、空夜のいる部屋にも響いていた。
その放送に聞き耳を立てつつも、彼の目はテーブルの上に置かれた三つの選択肢から動かない。
首輪 拳銃 写真
とりあえず集合写真を服に仕舞い込む。これだけはもう手放したくない。
そして、次に拳銃を手に取って考える。
ワールドオーダーを殺す。その可能性を。
拳銃を片手に持ったまま、空夜はもう片方の手に意識を集中させる。
しかし、何も起こらない。
(矢張り、今まで集めた能力は使えなくなっているのか――)
最初に会場に送られたときから薄々気付いてはいたが、彼自身の能力――『一度見た能力を使用可能』とする力によって
異世界を放浪する中で身につけてきた特殊能力は、全て使用不可能になっていた。
おそらくワールドオーダーが封じたのだろう。
(つまり、今使える異能はこの殺し合いに巻き込まれてから身につけた力のみ――)
と言っても、彼は『革命』が開始されてから今まで、異能を持った能力者とは二名しか会っていない。
即ち、ワールドオーダーと月白氷だ。
空夜は手にした拳銃を眺める。
不死殺しの弾丸が込められた拳銃を。
この銃弾であれば、たとえワールドオーダーが自分の周囲を『死』が『無い』設定にしてあろうとも、奴に死を与えることができるだろう。
(だが奴が『攻撃』は『跳ね返る』と設定したならば
俺のランクダウンした『未来確定・変わる世界(ワールド・オーダー)』ではそれを覆すことはできない――)
空夜にコピーされた能力は元より弱体化している。
例えばワールドオーダーが『攻撃』は『跳ね返る』と設定している所に、空夜が『攻撃』は『跳ね返らない』と設定して銃弾を放ったとしても
銃弾は――幾分かは逡巡するかもしれないが――空夜自身の身を貫くだろう。
(勝算があるとすれば――月白の『奇跡の幸福』と『破滅の幸福』を併用することか)
月白氷が持っていた、相手の魂を誘う能力や場の周りを氷結させる能力、生物の肉体と魂を分離させる能力などは使用された所を見ていない為コピーされていないが
音ノ宮・亜理子に与えられた『破滅の幸福』、そして空夜自身に与えられた『奇跡の幸福』は(これも劣化版だが)使用することができる。
自分には『奇跡の幸福』を、ワールドオーダーには『破滅の幸福』を
それぞれ付与した上で『未来確定・変わる世界』を使用すれば――奴を撃ち殺すことができるかもしれない。
――――以上で第一回定時放送を終了する――――
放送は終わりに近づいている。最早、逡巡している猶予はない。
空夜は己の選択を携えると、静かに部屋を後にする。
今まさに放送を終えようとしている、ワールドオーダーの元に向かう為に。
92
:
無駄話
◆dARkGNwv8g
:2014/09/08(月) 21:27:49 ID:boLmFX0g0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「なるほど、これが君の選択か」
楽しげなワールドオーダーの声が放送室内に響く。
目の前のワールドオーダーの新たな装いに、なんでこいつは往年の名作学園ドラマの主人公教師みたいな格好をしているんだと
心中で秘かに思いながらも、彼に拳銃を突きつけた一ノ瀬空夜は
銃のトリガーに指を差し込み、その部分を軸に拳銃を半回転させると
銃把をワールドオーダーへ、銃口を自分自身へと向けた。
「いやあ、よくこの選択肢を選んでくれたね」
空夜の手から拳銃を受け取り、ワールドオーダーは満足そうに肯く。
長髪のカツラに隠れて相変らずその表情は窺い知ることができないが
その視線が自分自身で嵌め直した首輪に注がれていることに、空夜は気付いていた。
「元より、僕が此処にいるのはあの死神に連れ出された為です。ただ本来在る筈の場所に戻るだけですよ」
「でも一ノ瀬くんさ、この銃で僕を殺して、『革命』を終わらせようとか考えなかったの?」
「――ご冗談を。貴方が置いていった武器なんて、怪し過ぎて迚も使う気になれません」
結局、空夜が選んだのは殺し合いへの再参加の道だった。
現段階でワールドオーダーに戦いを挑むのは、あまりにもリスクが大き過ぎる。
いや、リスキーどころか、ほぼ自殺行為であると言ってもいい。
相手は底知れぬ革命の魔人・ワールドオーダー。
対して空夜の手元にあるカードは、ワールドオーダー自身の持ち物である拳銃と、手に入れたばかりで一度も使った事のない能力のみ。
空夜がコピーした能力はランクダウンしている上に、ワールドオーダーから指摘された通り空夜は能力の漠然とした使い方のみを理解しているに過ぎない。
ただでさえ概念操作系の能力は単純な物理現象を起こす能力と比べて扱いが難しいのだ。
そんな力をぶっつけ本番で使って勝てるほど、眼前の魔人は甘くはない。
故に、空夜は自らの手で首輪を嵌めるという、屈辱的な従属を選んだ。
「いや、本当に嬉しいよ。君が大人しく再参加を決めてくれて。
僕としても、貴重な革命の同志をこんな所で二人も失いたくないからねえ」
「同志――ですか。
拉致して殺し合いを強いている被害者達を事もあろうに革命の同志呼ばわりするとは、全く悪趣味な事だ」
歪曲した口を更に吊り上げて笑うワールドオーダーの言葉に、空夜は鼻を鳴らす。
それが現状何もできない彼の、なけなしの抵抗だった。
「そう? 僕は伊達や酔狂で同志って言葉を使ってるわけじゃないんだけどなあ。
でもいいのかい一ノ瀬くん。君には旅を終えて元いた世界に帰るって選択肢もあったんだぜ。
まあ、僕としてはこの方が有り難いけどね。……おっと、いまさら他の選択肢に変更するってのはナシだよ」
「心配せずとも、そんな選択肢は選びませんよ。
僕の旅の終着は僕自身で決める。貴方に余計なお節介を焼いて貰う必要も筋合もありません」
仏頂面の空夜の言葉を聞いて、ワールドオーダーは嬉しそうに笑うと指を鳴らした。
「――いいね。今の君は大分情熱的だった。これからもその意気を忘れちゃ駄目だよ。
革命には冷徹さだけでなく情熱も不可欠なんだからね」
「革命――か。
ワールドオーダー、貴方は――」
笑い続ける革命家に、時空の放浪者だった青年は一瞬の躊躇いの後に問う。
「――貴方は視たのですか、僕らの囚われている檻の外側を」
ワールドオーダーの笑いが止まった。
しかし彼の口元に貼り付けられた笑みはそのままで、それ以外の表情を窺い知ることはできない。
93
:
無駄話
◆dARkGNwv8g
:2014/09/08(月) 21:28:57 ID:boLmFX0g0
空夜は、更に質問を重ねる。
「貴方は――識っているのですか。檻の外側に何があるのか、否、『何がいるのか』――」
だがその問いは、最後まで言い終えるより先に放送室の扉が開け放たれる音で掻き消された。
主催者と参加者が対峙する放送室に入ってきたのは、メイド服姿の少女だった。
だが空夜は、彼女が普通の人間でないことを一目で見抜く。
人形の様に整い過ぎた顔、瞬きをしない瞳、美しい金髪や眉、睫毛といったイミテーションの他は一切体毛の存在しない皮膚。
(サイボーグ……いやアンドロイドか――)
そんな観察をする空夜には一瞥をくれただけで、人ならざる美しきメイドはワールドオーダーに向い告げる。
「Mr.WO、時空間転送システムの準備が整いました。
藤堂博士は現在お忙しいので、代わりに私が転送装置の操作を務めます」
「そっか、じゃあ宜しく頼むよシェリルR-1。転送する対象は彼だ」
そう言ってワールドオーダーが空夜を指差すと、シェリルと呼ばれたロボットメイドは一瞬で空夜に近づき、彼の腕を掴んだ。
「来なさい」
骨まで軋むような力で掴まれ、空夜は苦痛の声を上げる。
しかしシェリルは彼の呻きに頓着することなく、空夜を引きずるようにして部屋を出て行く。
その様子を楽しげに眺めながら、ワールドオーダーもまた彼らを追って埃っぽい放送室を後にした。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「さて一ノ瀬くん。時空転送装置に入った感想はどうだい?」
「オールドSF映画のファンなら泣いて喜ぶでしょうね」
メイドに引き摺られるまま放送室を後にした空夜は、何やら多数の機器で溢れた部屋へと連れてこられた。
そして今、彼は頭上と足下に円型の装置が備え付けられた円筒型のカプセルの中に閉じ込められていた。
どうも二つの円型の装置の間にいる対象を別の空間へと送る仕組みになっているらしい。
「成程、最初に僕らが集められていた部屋にはこれと同じ仕掛けが施されていた訳だ」
「そ、これと同じ仕組みで君達をあの島へと転送したんだよ。
もっともあの時は準備が万端だったから全員すぐに送れたんだが……どうももうしばらく掛かりそうだねえ」
そう言ってワールドオーダーは暢気に部屋の中を見渡す。
その視線の先では、シェリルR-1がこちらからあちらへ、あちらからこちらへと慌ただしく駆け回っていた。
「やれやれ、プロフェッサー藤堂が操作してくれれば話は早いんだけどな」
「……その藤堂博士という人物ですか。貴方が異世界へと渡ることに協力したのは」
「まあね」
ワールドオーダー自身に世界間を移動する能力はない。
故に空夜を含む異世界からの参加者を集める協力者がいた――という考察だけは当たっていたらしい。
「彼等も貴方が云う所の『革命同志』という訳ですか」
「――――いいや、それは違うねえ」
揶揄するような空夜の言葉に、ワールドオーダーは真顔で頭を横に振った。
「僕と彼等は、単に各々の目的に向かう『手段』が一致したから協力体制を敷いているに過ぎない。
彼等は『革命』なんてどうでもいいと思っているし、僕も彼等の目的である『データ』だの『実験結果』だのはどうでもいい。
これではとても志を同じくするとは言えないよ」
真面目に答えるワールドオーダーの言葉に、空夜は呆れ返る。
「それなら殺し合いに放り込まれた参加者達は余計に同志とは呼べないでしょう。純然たる被害者ですよ」
「いいや、それもまた違う。
君も含めて、参加者達は皆、『革命』の為の『同志』さ」
そう言って笑うワールドオーダーの横顔を見て、空夜は再度確信する。
この男は、心の底から狂っていると。
しかしワールドオーダーは単なる狂犬では決してない。
彼の狂気は、そして彼の行動は、彼なりの『論理』によって成り立っている筈だ。
チェスタトンが看破した通り「狂人とは論理を失った者ではない。狂人とは論理以外の全てを失った者である」のだから。
殺し合いを革命と嘯き、人の進化を求め、神を憎み、被害者たちを同志と呼ぶ男の論理。
それが判れば――この魔人の意思を穿つ糸口を見つけられるだろうか。
94
:
無駄話
◆dARkGNwv8g
:2014/09/08(月) 21:29:48 ID:boLmFX0g0
「ああそうだ一ノ瀬くん。転送が開始されるまでの暇潰しに、君に面白いショウを見せてあげよう」
ワールドオーダーの唐突な言葉で、空夜の思考は中断される。
見るとカプセルの透明な壁越しに、ワールドオーダーが先程空夜が返した不死殺しの拳銃を、自分の顳顬に突きつけるのが見えた。
何を、と聞く暇もなく
BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!
耳を聾するような銃声が、連発して轟いた。硝煙が立ち込め、全銃弾が撃ち込まれた筈の革命狂の頭部を覆い隠す。
ワールドオーダーの身体は、顳顬に銃を突きつけた姿のまま動かない。
やがて硝煙が消え、露わになったワールドオーダーの頭は――――
「なーんちゃって」
銃弾が撃ち込まれる前と全く変わっていなかった。
突然の出来事にポカンとする空夜の前で、ワールドオーダーはファサーっと被っている長髪のカツラをかき上げる。
するとかき上げられた部分の髪の中から、銀色に光る小さな物体がぞろぞろと続けて姿を現した。
それは、ワールドオーダーの顳顬に向けて発射された筈の、不死殺しのマグナム弾だった。
カツラから出現した銃弾たちは、まるで水槽を泳ぐ熱帯魚のように中空をふわふわと飛び回り
ワールドオーダーの頭上でくるくると回って天使の輪を作ると、手に握られたままの拳銃の中へ自分から戻っていった。
「どうだい、世にも珍しい銃弾のサーカスのショウは? 楽しんでもらえたかな一ノ瀬くん」
「――矢張り、その銃には仕掛けが施されていたのですね」
「君に渡す前に『自己肯定・進化する世界(チェンジ・ザ・ワールド)』で銃弾に意志を与えておいたのさ。
無機物に意志が宿る――という表現が気に入らなければ、性質を変えたとか動きをプログラミングしたとか、好きなように解釈すればいい」
拳銃をくるくると回しながら、ワールドオーダーは無表情のままの空夜に笑いかける。
「そういえば君は面白いことを言っていたねえ。
『自己肯定・進化する世界』の革命の対象にできるのは人間のみ、それも表層的な部分を変えるだけ――だったっけ?
まあ、君にコピーされているランクダウンした『自己肯定・進化する世界』ならどんなに頑張ってもその程度が限界なんだろうねえ。
駄目だよ、自分がコピーした劣化能力だけを見て相手の力を測るような真似をしちゃあ。
ほら、君がそんな軽率な事をしたせいで――」
ワールドオーダーは床を指し示す。
そこにゴロゴロと音を立てながら、黒い水晶髑髏が――月白氷の残骸が転がってきた。
「君の言葉を信じた彼はこんな風になってしまった」
これも『自己肯定・進化する世界』によって操られているのだろう。
水晶髑髏は鬼火のように揺々と宙に浮き上がると、空夜の顔の前で静止した。
「気の毒にねえ。君を信頼したせいで彼は命を落としたんだよ。
彼が自分の頭を撃ち抜いた責任の半分以上は君にある、と言っても過言じゃない。
まったく、知り合いを自殺に追い込むなんて君も酷い事をする……。
――ああ、でも君にとっては彼が死んでくれた方がよかったのかな?
君の大切な友人である先輩に破滅の幸運を与えようとした死神なんかはねぇ。
君も大変そうだったじゃないか。先輩に憑いた死神を追い払うために口八丁、最後には文化の多様性云々まで持ち出してね――」
言いたい放題に喋るワールドオーダーに応じず、空夜は無言無表情を貫く。
そんな彼を、宙に浮く死神の残骸は虚ろな眼窩で怨めしそうに睨み付けていた。
95
:
無駄話
◆dARkGNwv8g
:2014/09/08(月) 21:30:47 ID:boLmFX0g0
「ま、その先輩ももう君に会う気はないみたいだけど……。
まあ気にせず好きなようにやればいいよ。ひょっとしたら予め記された未来を覆すことが出来るかもしれない。
それも一つの革命だ。――おっと、どうやら支度が整ったようだね」
空夜の入れられた装置が低い音で唸り始める。
目の端で、シェリルが何かの機械を操作しているのが見える。
「じゃあ時間潰しの無駄話はここまでにしようか。
長らく続いた『話』は終わって、君は革命の『本編』に参加することになる」
ワールドオーダーがお喋りを止めて空夜の正面に向き直った。
装置の唸りは徐々に大きくなり、それと共に空夜の身体は光に包まれていく。
その時、沈黙を続けていた空夜が口を開いた。
「ワールドオーダー、最後に一つだけ、あんたに聞いておきたい事がある。
あんたの言う神にとっては、俺達の世界の如何なる出来事も、それこそ宇宙の滅亡ですらも、些かの痛痒にも為りはしない筈だ。
それなのに、僅か七十四名を殺し合わせることに何の意味がある?
ワールドオーダー――あんたは、どうやって神に勝つ心算なんだ」
もう幾許も此処に存在できない青年の最後の問いに
革命狂はいたってのんびりとした口調で答えた。
「そうだねぇ、その答えは――
僕等がまた生きて出会えたら教えてあげよう。それまでお楽しみに、だ」
そう言うと、ワールドオーダーは胸に片手を当て、光の中の空夜に向かっておどけたように恭しく一礼する。
「さて、それでは親愛なる我が同志よ。再び――革命にようこそ」
次の瞬間、装置が一際眩い光を放つと同時に
一ノ瀬空夜の身体は『革命』の檻の中へと転送されていった。
【一ノ瀬空夜 再び革命会場に転送完了】
【革命 第二ステージ開始】
96
:
◆dARkGNwv8g
:2014/09/08(月) 21:33:38 ID:boLmFX0g0
投下終了です。
首輪ルールの変更は◆H3bky6/SCYさんのOP案に倣わせていただきました。
「禁止エリア多過ぎィ!」「死亡者見づれえんだよなあ」等の指摘がありましたら許してください!なんでも修正しますから!
97
:
◆Y8r6fKIiFI
:2014/09/08(月) 23:57:42 ID:NRuXXBu.0
完全に駆け込みですが投下します。
98
:
名無しさん
:2014/09/08(月) 23:58:16 ID:NRuXXBu.0
6:00。
その時、島の中に居た者達は例外なく――意識を失った者さえも、その夢の中で――『頭の中に響く声』を聴いた。
「やあ、6時間ぶりだね。
しかしたった6時間とはいえ、君達は様々な体験をしたようだ。
――素晴らしい。それが“革命”への糧になるのだからね」
声の主――ワールドオーダーは、最初の場で現れた時と同じ、気軽にも程のある声で参加者達へと語りかける。
けれどもその内容は血腥い殺人遊戯の経過報告で。
その重すぎる内容を聞き逃すことを、軽い声で、許さない。
「放送の時間だ。
つまり、今が午前六時だ――ということだね。
まずは6時間、生き残ったことを祝福しよう。おめでとう」
ぱちぱち、と。
冗談みたいな拍手の音が、数秒聞こえた。
「さて、では放送の内容といこう。
まずは禁止エリアからだ。
――そうだね。
【B-7】
【G-3】
【H-10】
としよう。
最初に言ったとおり、これらの禁止エリアの適用は2時間後に開始する。
こんなことで終わったりしてしまわないよう気をつけてくれ。
次は死者の発表に移ろう。
まずは人数から――現時点で、既に24名が死亡している。
なかなかのハイペースだね。これには僕もいくらか驚いているよ。
では、これから死亡した者の名前を告げる。
聞き漏らさないようにしておくといい。
暗黒騎士
麻生時音
詩仁恵莉
ヴァイザー
四条薫
佐野蓮
ガルバイン
ルピナス
案山子
白雲彩華
ペットボトル
初瀬ちどり
吉村宮子
クロウ
ピーリィ・ポール
茜ヶ久保一
初山実花子
裏松双葉
天高星
ロバート・キャンベル
半田主水
サイクロップスSP-N1
剣正一
月白氷
以上だ。
――望外のことだったからもう一度言わせて貰うけれど、素晴らしいペースだよ。
もしかすれば、規定の路線よりもっと早く『革命』を達成し得るかもしれない」
楽しげに。
待ち望んだ映画の公開が間近だ、というかのような喜色で、ワールドオーダーはそう告げる。
「だから、そう。
一つルールを付け加えようと思う。なに、心配はいらないよ。
既存のルールに少し手を加えるだけさ。
――二時間。
その間に死者が一人出なかった場合、次の放送後に一人の首輪を爆破する。
つまり、制限時間の短縮だね。
なに、このペースならどうということはないだろう。
連絡事項は以上だ。健闘を祈るよ」
そう言って、ワールドオーダーは一息を吐いた。
少しの間の静寂が、その場を冷たく満たす。
「最後に一つ。
――覚悟したまえ。革命には、それが必要だ」
その言葉を最後に。
ワールドオーダーからの『放送』は途切れた。
99
:
名無しさん
:2014/09/08(月) 23:58:57 ID:NRuXXBu.0
◆
ワールドオーダーはマイクを机に置くと、一ノ瀬を待たせた部屋に戻る。
一ノ瀬空夜は――未だに部屋に置かれたソファへと座り込んでいる。
「時間だよ。返事を聞こう」
その言葉にも、一ノ瀬は反応しなかった。
何事かを考え込んでいるかのように俯き、祈るように頭を垂れていた。
不審に思ったワールドオーダーが近付いた時、不意に一ノ瀬は顔を挙げ、ワールドオーダーを凝視した――なにかを見通そうとするかのように。
「――質問をしてよろしいですか」
「……仕方ないね。特別にその質問が返事に必要だと言うなら、一つだけ許可しよう。
勿論、計画の範囲でね」
「ならばひとつだけ。
この計画が進んだ時、僕に『異世界の放浪者』を与えた――その理由は。
あるいは何故僕がこうなったのかは、はっきりとするのですか」
結局のところ、一ノ瀬空夜にとって大事なところはそれであった。
ここまでの一ノ瀬の役割は、いいところ狂言回しのそれでしかない。
それで役割が終わったなどと、一ノ瀬にしてみれば奇妙も、馬鹿にしているもいいところだ。
そもそも、課された役割すらわかっていないのだから。
その問いを聞くと、ワールドオーダーは、奇妙な表情で口を閉じ、なにかを思考するような仕草をした。
「――その質問には答えられない、と?」
「そういう意味じゃない。ただ……そうだね。その質問に答えるのは難しい。
文字通りの意味で、だ。わかるともわからないとも、僕ははっきりと君に答えてあげることはできない」
「……なら、こう問い直しましょう。
このまま続けたならば、わかる可能性はありますか」
「オーケー。その答えはイエス、だ」
「わかりました。 ならば――」
振り上げられた一ノ瀬の手は、明確な目標を持って振り下ろされ――
――机の上の、首輪を手に取った。
100
:
第一回放送
◆Y8r6fKIiFI
:2014/09/08(月) 23:59:34 ID:NRuXXBu.0
◆
「……ふむ。なるほど、ね。
歓迎するよ、一ノ瀬君」
一ノ瀬が手に取った首輪は、次の瞬間には既に一ノ瀬の首へと嵌められていた。
それに気付くと、一ノ瀬は浅く溜め息を吐く。
――結局のところ、ワールドオーダーの能力は『先手を取る』ことでもっとも効力を発揮する能力だ。
どのような論理で発動が行われていようと、それは変わらない。
そうである以上、ワールドオーダーの領域で戦いを挑むことは非常に愚かな選択でしかない。
結局一ノ瀬に許された選択肢は二つしかない。
そう――生か、死か。
「ところで、気がついているかい?」
そう語りかけてくるワールドオーダーに、なんでもないことのように、そうであるかのように意識して返答する。
「わかっていますよ。――月白氷。
正確にはその能力のことでしょう?」
「おや、わかっていたのかい?
そうだね。君の首輪を外したのは月白氷。その能力――『破滅の幸福』だ」
そう。
一ノ瀬の首輪が外れ、会場から追い出されたのは『破滅の幸福』によるものに他ならない。
ならばその幸福によってここに現れ、そしてまた会場へと向かう一ノ瀬の運命は――
「君は死ぬつもりなのかな?」
「まさか。むしろ逆です。
僕は――運命を切り開くために、そこへ行くんだ」
月白氷が死んだ以上、その能力が本当に残存しているかどうかは不明だ。
だが、結局のところ――一之瀬の運命は、ワールドオーダーのゲームの中で見つけるのしかないのだ、と一ノ瀬は理解していた。
「ふぅ、む。――幾らか尊敬だね。
なら、オマケだ。もう一つ質問を許そう。核心に至るそれ以外には答える、と約束するよ」
質問は一つ。
そう言われた一ノ瀬は、
「……結局のところ、あなたの同志――そして『あなた』は、何人くらいいるんです?」
反射的にそう返していた。
一ノ瀬空夜を世界の迷子へと変えた、あの男。
あれが目の前の男の同志だと言うならば、――ワールドオーダーの同志とは、どれだけの数がいるのか。
否。そもそも同志の定義とはなんなのか?
「そう悪くない質問だ。
……君はここに来る前に、あの『僕』がサクラだという推理をしていたね。
――そこまで的は外していなかったよ。
彼が僕の同志ということに違いはなかった。
そう。――彼は僕の革命を共有できる、一人の同志だった」
その言葉と共に――一ノ瀬の意識は暗転していった。
101
:
◆Y8r6fKIiFI
:2014/09/09(火) 00:00:04 ID:D8gcTmR20
投下終了です。
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