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Happiness

1パル:2014/04/29(火) 04:44:43
例年よりも早い雪が降っている。島崎遥香は恋人である塚本健太の到着を待っていた。
遥香の背後には大きなクリスマスツリーがある。装飾を施している途中のツリーに、遥香はクリスマスが近いことを改めて感じた。
空から降ってくる雪は水分を多く含んでいるようで、地面に落ちると積もることなく溶けていった。
そんな天気にも関わらず、遥香のいる場所は人が多かった。恋人同士が互いの肩を寄せ合い歩いているのを見て、遥香は溜め息をついた。
健太の到着が遅くなるかもしれないと覚悟しておきながら、いざ遅刻されるとげんなりとした気持ちになってしまう。せっかくの記念日だというのに。
そうこうしていると、ようやく健太がやって来た。
 
「ゴメン! 遅れた」
 
「遅いよ、もう」
 
「もしかしたら遅れるかもって事前に言ったじゃんよ。そしたら『それでもいいよ。私は待ってるから』って言ってくれたじゃんかよ」
 
「それはそうだけど、本当に遅れて来るとは思わなかったの」

口をついて出る言葉は、遥香が自分の感情に素直な証拠だった。例年よりも早い雪が降り、寒さで彼女の機嫌が悪くなってしまっていたのだ。
そんなことに慣れている健太は、すぐにもう一度謝った。ここで変に意地を張ってしまうと厄介なことになると分かっていた。

「だからゴメン。本当に申し訳なかった。な、お腹空いたろ? 早く飯食いに行こうぜ」

遥香の扱い方を知っている健太は話題を即座に変え、食事に行くよう促した。空腹の時ほど遥香の機嫌が悪いのだ。それがおさまれば機嫌が直る。

「もう、またそうやってはぐらかすんだから」

そんな悪態をついておきながらも、遥香は健太の手を握り歩き出した。彼女とて二十四歳。今日がどれほど自分たちにとって大事な日か、分からないほど子供ではなかった。

2パル:2014/04/29(火) 04:46:14
歩くこと数分、予約していたレストランに到着した。健太はウェイターに自分の名前を告げると、個室に通された。
白いテーブクロスが敷かれたテーブルには、小さなロウソクがポツンと立てられている。ウェイターは持っていたライターで点火すると、室内に柔らかな影を作った。ギリギリまで絞られた照明はこのためだったのかと、健太は感嘆した。
コース料理を頼んでいたため、先に飲み物だけをウェイトレスは尋ねた。健太はメニューを見ながらひとしきり考え「これで」と頼んだ。それは赤ワインであった。

「ワインの銘柄なんて分からないくせに」

ウェイトレスが去ると、遥香は悪戯っ子のような笑顔を向けて来た。こうして見ると、改めて彼女は猫顔なのだと健太は実感する。

「なんとなくだよ。雰囲気的にマッチしてたろ?」

普段は発泡酒ばかり飲んでいる健太にとってワインは守備範囲から外れていた。だがこういった場なのだからと無理をしたのだ。

「どうだか。ねえ、それよりも今日が何の日か覚えているよね?」

「当たり前だろ。でなきゃデートしないよ。今日はなんて言ったって俺たちが付き合って二周年なんだからな」

健太は勝ち誇ったかのように言うと、ウェイトレスが赤ワインを運んできた。ワイングラスに注がれる赤い液体を二人は黙って見つめた。

「じゃあ、俺たちの二周年に、乾杯」

「乾杯」

ワイングラスの縁と縁を重ねると小気味のいい音がした。健太はテレビで見た通り、ワインの香りを嗅ぎ、口に含み、舌で転がし、嚥下した。

「結構なお手前で」

「味なんて分かってないでしょ」

「バレた?」

舌をペロッと出す健太。遥香はしょうがないといった様子で笑った。

「分かるわよ。普段は発泡酒ばっかり飲んでるくせに」

「最近の発泡酒をバカにしちゃいかんよ。値段はリーズナブルでありながら、味はビールとさして変わらないんだからな」

健太の楽しみは仕事から帰って来てからの発泡酒を飲むことであった。

3パル:2014/04/29(火) 04:47:18
出版社で働く健太と歯科医院の受付で働く遥香が出会ったのは二年前のことだ。合コンで二人は知り合った。互いの第一印象は悪くなかったが、遥香が人見知りで、合コンにさして興味がなさそうだったのが、健太にとって物足りなさを感じた。
だが遥香の容姿は他の女性陣に比べ、優れていた。これは一緒に参加した男性陣も満場一致であった。人見知りで、人の話にさほど興味を示さなかった遥香の周囲は誰も座っていなかった。
 
「隣、いいかな?」

「どうぞ、ご自由に」

ぶっきらぼうな態度に健太は苦笑いを浮かべながら隣に座った。彼女の横顔は、猫のようだと健太は思ったが、口には出さなかった。
隣に座ったはいいが、会話の糸口が見つけられない。健太はビールを飲みながら思案していた。周囲を見渡せば、誰もがみな笑顔であった。健太は焦りを覚える。
そんな健太のことなど尻目に、遥香は黙々と料理を食べ続けていた。合コンなのによく食べる女だと健太は見ていて思った。そして同時に興味も持った。

「なに?」

「いや、よく食べるなあって」

「お腹空いてたから」

「そうなんだ。じゃあ俺も食べようかな」

遥香のことを見過ぎてしまったのか、彼女は怒ったかのように尋ねてきた。健太が答えると遥香は箸を手渡してきてくれた。

「サンキュ。どれが美味しかった?」

「これだけど、私が食べるから食べないで」

真顔で答えた遥香に、思わず健太はお腹を抱えて笑った。その様子に周囲の目が集まる。注目を受けた遥香は眉間に皺を寄せながら健太を睨んだ。

4パル:2014/04/29(火) 04:48:25
初対面の女性に睨まれ、さすがの健太もまずいと思ったのか、すぐに表情を戻した。それと共に周囲の視線も二人から離れた。そしてすぐに談笑が始まる。健太は頭をかきながら箸を手に取り身近にあった唐揚げに手を伸ばす。ハルカも表情をほどき、再び料理に口を付けた。
 
「俺、塚本健太。君は?」
 
「島崎遥香」
 
「歳は?」
 
「二十二」
 
「仕事は?」
 
「歯医者の受付」
 
一問一答。健太の質問に遥香は一言で答え、彼女から質問を返すことはなかった。ますます健太の興味がそそられる。健太にとって彼女のような女性は初めてであった。まるで希少な動物を見つけたかのように、健太は遥香に惹かれていく。
一方の遥香はそんな健太を疎ましく思いながらも、悪い気はしなかった。これまで自分の興味を持ってくれる人は何人かいた。だがそれが長続きをしてくれる人はいなかった。たいてい一言二言交わすと、そのまま立ち去ってしまうのが常であった。会話を広げられない彼女に悪気はない。ただどう言えばいいのか分からないのだ。
 
「二十二か。若いな。俺なんてもう二十五だよ。四捨五入すれば三十。オッサンだよな」
 
勝手に何を言っているのだろうか。遥香はペラペラと喋る健太を見てそう感じた。初対面の人間に物怖じしないのはすごいことだが、それは相手の反応あってのものだろう。これではただの独り言を言っている痛い奴だ。遥香はわずかに座る位置を健太から遠ざけた。
 
「そういえば、歯医者の受付ってことは平日休みとか?」
 
「そう」
 
健太は思い出したかのように遥香の休みを尋ねてきた。独り言のようなことを言っていたかと思えば、不意に来る質問。遥香の吐き捨てるように答えた。
 
「俺も出版社で働いてるから平日休みなんだ。平日が休みって言うと、みんな友達と予定が合わなくないか? って訊いてくるよね。確かにそうなんだけど、でも平日だから店とか空いてていいんだけどな」
 
また始まった独り言のような健太の言葉に、遥香は溜め息を吐いた。が、悲しいかな健太にはその溜め息の理由が分からないようで、不思議そうな顔をしていた。

5:2014/05/04(日) 21:31:54
続き待ってます

6パル:2014/05/07(水) 03:38:06
その後も一方的に健太が喋り遥香はそれに辟易としながらも料理を食べ進めた。周囲はそんな二人のことを奇異な目で見ていたが、同時にお似合いだとも思った。
やがて幹事役の男がお開きだと告げた。周囲からは「えー」という声が上がる。
どうやら今夜の合コンはおおむね好評のようだ。
 
「もう終わりか」
 
「うん。そうみたい」
 
健太がそうポツリと呟くと、遥香は紙ナプキンで口元を拭いながら言った。もうお腹はいっぱいだ。
腹が満たされた遥香は女の幹事役に代金を支払うとさっさと店から出て行った。
 
「あれ、遥香ちゃんは?」
 
二次会の話で盛り上がる店内で健太は遥香の姿を探した。幹事に代金を支払っていたらいつの間にか見失っていた。
 
「遥香ならもう出て行ったわよ」
 
女の幹事役が言った。人数合わせで来た遥香が二次会に参加しないことはすでに周知している。
健太は二次会に行こうかと誘われたが、断り、すぐに遥香の後を追いかけた。背後から同席した男たちのはやし立てる声が上がる。それを無視して外へ出た。
左右を見渡し、健太は遥香らしき背中を見つけた。
帰宅する群れの中で遥香を見つけた健太は声を上げる。
 
「おーい」
 
声は遥香に届いていた。しかし彼女はそれが自分に向けられているものだとは知らず、足を止めることはない。
仕方がないので健太は走って彼女を追いかけた。
 
「おーい。おーいってば」
 
その声でようやく遥香は立ち止まった。怪訝そうな顔で振り返ると、背後に息を弾ませた健太の姿があった。
 
「ようやく止まってくれた」
 
何度か呼び止めていたが、一向に止まってくれなかった遥香がようやく止まってくれたことに健太は安堵する。
そんな健太のことを遥香は不思議そうな顔で見つめた。
 
「なに?」
 
「いや、もう帰っちゃうのかと思って」
 
「お腹がいっぱいになったから。一次会だけだって言ってあったし」
 
人数合わせで呼ばれていた遥香は、幹事役の女の再三のお願いに一次会までならと条件を出していた。それが済めば自分はお払い箱だと思っている。

7.m.m.m.m:2014/08/24(日) 12:29:23
キモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモ

8パル:2014/09/03(水) 18:52:37
自分がなぜ引き留められたのか分からない遥香はどうすればいいのか分からなかった。これまで何度か人数合わせの合コンに参加してきたが、健太のように追いかけてくる男は初めてであったからだ。
 
「せっかくだから二次会行こうぜ」
 
「やだ」
 
なんだ、そんなことか。
遥香は引き留められた理由が、自分を引き戻すためなのだと分かり即座に却下した。
 
「二次会って言ってもあいつ等とじゃない。俺と二人でどう?」
 
「あなたと二人で?」
 
予想外だった。遥香はてっきりさっきの連中と二次会に行くものだとばかり思っていたからだ。
 
「いいだろ? 行こうよ」
 
遥香は顔をしかめた。健太は悪い男のようには見えないが、それでも二人きりになったら分からない。
貞操の危機を覚える遥香は断ろうとした。
 
「やだ」
 
「なんで?」
 
「なんでって、初対面の人間と二人きりなんてなれるわけがないでしょ」
 
「いいじゃん、別に。それに一緒に飯を食った仲じゃないか」
 
引き下がらない健太に遥香は眉間に皺を寄せた。それを見た健太は猫が威嚇をしているようだと思った。
 
「好きで食べたわけじゃない。あたなが勝手に私の横に座ったんじゃないの」
 
「そうだっけ? まあいいじゃん、そんな細かいこと。甘いものは好き?」
 
「好きだけど」
 
「じゃあ食べに行こう」
 
「え、ちょっと」
 
手を握られ、無理やり引っ張られた。健太は強引な男かもしれない。
貞操の危機を覚える遥香は、何かあったらすぐに警察に通報しようと思った。

9:2014/09/14(日) 20:47:13
続き見たいです


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