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明日の種

1ちんぱる(ドラマ『家族ゲーム』今夜最終回!夜10時!):2013/06/19(水) 20:36:40
ある事故が原因で車いす生活を余儀なくされた青年の話です。
ヒロインとして板野友美を登場させます。

去年の24時間テレビのドラマに影響されて作った話ですので、少し話が似ていると思いますが
何とかオリジナリティを出したいと思います!

2ちんぱる(ドラマ『家族ゲーム』今夜最終回!夜10時!):2013/06/19(水) 20:39:36

こんな世界無くなっちまえばいい。

「はい、はい、あ、ちょっと待ってください」
明日のバイトの面接のメモをとるためペンを探すけど見当たらない。俺は電話の向こうの相手に聞こえないように舌打ちをし、仕方なく頭に直接覚えることにした。

「はい、明日の10時から、はい、分かりました。はい、失礼します」
10時な、10時、忘れないようにしないと。

その晩、俺は久しぶりにあったダチと飲んでいた。
「やっぱり清原だろ」
「お前、ずっと言ってるよな」と清原について熱弁する俺を笑うダチ。コイツの事を信用したことなんて一度も無い。

飲んだ後、フラフラになりながら帰り道を歩いていると、厄介なヤツらに出くわした。
最近近所にたむろしているチンピラ共だ。明らかに俺より年下のヤツらにカツアゲされかけている。
一応、高校の頃はケンカが強かった方だったから、すぐにボッコボコにしてやった。

「あ〜あ、つまんねえ。さっさとこんな世界、終わっちまえよ。」何度そう思ったことだろう。
無駄な時間だけがドンドン過ぎてゆく、俺にとって生きる事とは苦行だった。
あの日までは…。

3ちんぱる(ドラマ『家族ゲーム』今夜最終回!夜10時!):2013/06/19(水) 20:42:50

「侑斗、おじさんにあいさつしたの?」と家に帰った途端、母親が声をかけてきた。
和室のちゃぶ台を挟んで見覚えのある男の人がいるけど、誰だか分からない。
「ども」
「ちょっと挨拶ぐらい、きちんとしなさい!」
「ああ、いいんですよ。久しぶりだね、侑斗くん」
「じゃあ、失礼します」
結局誰か思い出せなかったけど、その人と一緒にいるのが何となく嫌だった。

翌日。
面接のため、早めに起きてスーツに着替える。
いくらバイトの面接とはいえ、正装するのはマナーだと昔、誰かに言われた。

俺は今まで、普通に生きてきた。
昨日のチンピラみたいにグレることも無くあんまり目立たないように、地味に生きてきた。
そんな俺は当然、いじめのターゲットになった。
意外と負けず嫌いな一面があった俺は、ボクシングジムに1ヵ月間通い、いじめっ子たちを一発KOするまで強くなった。
でもそれ以来、ジムにも行ってない。
俺にとって、ボクシングジムに通う事はいじめっ子共を倒すためでも無く、ただのヒマつぶしだったのだろう。

9時24分。
朝飯を買おうとコンビニに向かうと、昨日のチンピラが出てきやがった。
どうやら昨日の一件が相当頭にキテいるらしい。
後ろには本物のヤクザっぽい人もいる。

ったく、それはナシだって…。
俺がとった行動は間違っていないと思いたい。ヤクザの姿を確認した瞬間、俺は全力ダッシュで逃げた。
「待て!ゴラァ!」と朝っぱらから大声でどなりながら俺を追ってくる。
アイツらに捕まったら俺は確実に終わりだ。なんとか逃げ切らないと…。

しかし、その思いはあっけなく断ち切られた。
目の前には一台のトラックがこっちに向かってくる。
生まれて初めて味わう激痛が、体中を走った。

ああ、俺死ぬんだ…。

4ちんぱる(吉本荒野よ、永遠に…):2013/06/19(水) 23:26:35

目を覚ますと、白い天井が見えた。傍らには母親がいる。
「侑斗?起きた?」
「あれ…、俺、何で…?」
「トラックに轢かれたのよ。すぐに救急車を呼んでくれた人がいたから、一命を取りとめたらしいけど」
「そっか…」と起き上がろうとするけど、起き上がれない。
「あれ?」
何度も何度もトライするものの、ようやく上半身が起き上がるぐらいだ。
「侑斗、今はまだ安静にしてなきゃダメよ」とせっかく起き上がった体を、再びベッドの上に横たわらせた。

「ちょっと、やめろよ…。あっ!」
「な、なに?」
「しまった!バイトの面接!」
しかし隣の母親は、悲しそうな顔をして俯いてしまった。ちょうどそのとき、医者が病室に入ってきた。
「あ、先生…」と母親は立ち上がった。

「武井優斗くん、気分はどうかな?」
「どうって…、別に何とも…。ってか、ちょっと大袈裟じゃないですか?
 ケンカでやられて倒れてた位で病室行きなんて、初めて聞きましたよ」
自分なりの小粋なジョークのつもりだった。
だが周りの大人たちは笑うどころか、全員が深刻な顔をしていた。

「優斗くん、落ち着いて聞いてほしい。君の下半身は、もう動かないんだ」
言ってる意味が分からない。
俺の?足が動かない?
何言ってるんだ、現にこうやって…。

「動かねえ…」
足をあげようしたが、動く気配は全くと言っていいほど無かった。

「トラックと衝突した際に、脊髄を損傷しているんだ。だから、下半身と左腕の感覚がないはずだ」
淡々と説明を続ける医師。俺は戸惑いを隠しきれなかった。
「治るんだよな?」とドラマでよく聞く言葉を、実際に言うとは思いもしなかった。
医者は少し考え込み、隣にいた看護師に何かを伝え椅子に座った。

「さっきも説明したように、君は脊髄を損傷してしまっている。一度壊れた脊髄はもう…元には戻らない」
正直すぎんだろ…この医者。
名札には“矢野隆明”と書かれてある。

「意味分かんねえ…」と小さくつぶやくと、さっき出て行ったはずの看護師が車イスを押して戻ってきた。
「何だよ、コレ」
車イスだ。どっからどう見ても、車イスだ。だけどそれを分かっていて俺は聞いた。

「これからは、コレと共に生活してもらう」
「ふざけんなよ、リハビリとかしたら治るんじゃねえのかよ!」
「優斗君、認めたくないのも分かる。だけど、これが現実なんだ。現実から逃げてちゃ何も始まらない」

母さんや医者たちが部屋から出て行った後も、俺は目の前に置かれているものとにらめっこを続けていた。

5ちんぱる(吉本荒野よ、永遠に…):2013/06/20(木) 19:49:17

翌日、俺は看護師からの頼みを、頑なに断っていた。

「嫌だ、ぜってえ乗んねえ」
「優斗君、そんなこと言っても仕方ないのよ。これに乗らないと、リハビリも出来ないのよ」
50代後半だろうか。明らかにベテランオーラが尋常じゃない。

「どうせリハビリしても、治んないんですよね?だったらするだけムダでしょ」
「そんな事無いわ、リハビリすることで…」と説得を続けようとするベテランさんの話を、誰かが遮った。

「いいんじゃないですか?本人がやりたくないって言ってるんですから」
「友美ちゃん!」
病室の入り口には、ちょっと今どきのギャルっぽい女性が立っていた。
まさかこんなチャラチャラしたのが看護師?

「せっかくお見舞いに来てあげたのに、こんなに性格がひん曲がってるとは」
「あ?誰だよ、お前?」
「一応、君より年上なんだけど」
「は?」と状況が飲み込めない俺。ようやくベテランさんが口を開いた。

「彼女は板野友美ちゃん、病院専属の介護士をやってもらってるの。
倒れていたあなたを病院に連絡したのも、彼女なのよ」
まさか命の恩人がこんなヤツとは…。

「弥生さん、さっさと行きましょう」
「そんなこと言っちゃダメよ、さあ侑斗君」
「嫌だ、絶対乗らねえ!」
頑なに断り続けていた俺を見て、あいつが一言。

「プッ、だっさ…」
その瞬間、プツンと何かが切れる音がした…気がした。

6ちんぱる(吉本荒野よ、永遠に…):2013/06/20(木) 23:39:11
今のところ、どうでしょう?
まだ感動できる場面では無いですよね(笑)

今後をお楽しみに

7ステージ:2013/06/20(木) 23:41:26
面白いですよ

続き待ってます

8ちんぱる(明日、福岡にてAKBの新曲PV撮影!):2013/06/21(金) 19:36:38
>ステージさん
ありがとうございます!

9ちんぱる(明日、福岡にてAKBの新曲PV撮影!):2013/06/21(金) 20:44:01

棒につかまり、何とか立とうとしている俺の姿は傍から見たらなんとも滑稽だろう。
「ホラ、よそ見していると危ないよ」と板野だか、北野だか知らねえが、何でよりにも寄ってこんなヤツにサポートされなきゃなんねえんだ…。
と、心の中で何度もボヤいていると、突然足元の力が一気に抜け、俺の体は倒れそうになった。
だけどそれを俺よりも一回り小さい体の持ち主が何とか支えた。
「ほらぁ、だから言ったじゃない!よそ見していないで集中集中!」
「分かってるよ!」となんでか知らないけど意地になる俺。なんでこんなヤツに…。

「はい、おつかれさま」とリハビリ終わりの俺のもとにあいつがやってきた。
手元には缶コーヒーが握り締められている、しかも俺の好きなエスプレッソだ。
「ありがとう」
「ふぅ、まずは第一歩だね」
「あ、ああ…」
「ふらついた時、何考えてたの?」
「イヤ、何にも考えてねえよ…」
「えぇ〜、教えてよぉ〜」
なんだコイツ…。馴れ馴れし過ぎんだよ…。
正直、俺はこういう奴は苦手だ。もっとこう大人しくて…。

「あ、侑斗」
気付けば俺の母親が来ていた。
武井春子、56歳。いつまでも息子のスネをかじっている最低な親だ。

「なんだぁ、リハビリしてたのね」
「何の用だよ」
「着替え、病室に置いといたから」
「あっ、そう」
「あら?こちらは?」と板野の事を尋ねてきた。
俺が答えなくても、コイツから勝手にベラベラ喋るだろう。

しかしその期待は儚く砕け散ることとなる。
なんとしばらくの間、誰も口を開かなかったのだ。
「あ、あのう…」と母さんが板野の顔を覗き込むけど、なぜか彼女は目を伏せる。
「板野友美さん、この病院の専属の介護士をやってんだって」と俺が説明するまで、かなり気まずい空気が流れていた。

「あと俺の事を病院に連絡してくれたのも、彼女」
「そう、息子がお世話になりました」
「い、いえ…」
「じゃあお母さん、パートだから行くね」
「え?」
「近所のスーパーでね働くことになったの、じゃあまたね」と俺の着替えとその他の雑貨を置いて、母さんはその場を後にした。
あの人もあの人なりに、変わってんのかな…?

「今の、お母さん?」ようやくコイツが口を開いた。
「おう、ってかお前、反応ぐらいしてやれよ」
「だ、だって…」となぜかモジモジしだす。

「何やってんだ?」
「笑わないでよ?」
「何を?」
「あ、あたし、人見知りなんだよね…」
その瞬間、俺の腹筋は崩壊した。

10ちんぱる:2013/06/23(日) 19:17:42

「ちょっ、笑わないでって言ったじゃん!」
「だって!だって、お前が、人見知り?アッハハハハ!」
「もう!知らない!一人で帰ってね!」と板野はドンドン俺の元から離れて行った。

おいおいどうすんだよ、体のほとんどが動かねえ人間に対してする事じゃねえだろ…。
すると、板野が慌てた様子で戻ってきた。
「ごめん!そういや一人じゃ帰れないんだっけ…」
「お前なぁ」
「ホントゴメン!もう普通に話してたら、優斗が車イスだってこと忘れてた…」
なにを言ってるんだコイツは?本当にこんなヤツが介護士なんて勤まんのかよ。
と、気付いたらコイツの事を気にしている俺だった。


「すごいね、お母さん、いっぱい持ってきてくれたんだ」
病室に戻ると紙袋いっぱいに詰め込まれた着替えと、自宅にあった漫画なりCDなり俺の私物すべてが入っていた。
「持って来すぎだろ、いくらなんでも」
「まあまあ、退屈しないようにと思って持ってきてくれたんだから」
さっきまで緊張して、口も交わせなかったヤツがよく言うよ。

「お腹すいたでしょ、パンかなんか買ってこよっか?」
「ああ、いいよ。それぐらい自分一人でいける」
「こういう時は、ちゃんと甘えた方がいいんだよ」と笑顔で俺の事を見てくる。
喋らなかったら結構可愛いんだけどな。

「じゃあ、悪い」
「何がいい?」
「つーか、何があんだよ?」
この病院にそんなパンとか売ってる所があったのも、初知りだ。
「あ、そっか。まだ知らないんだっけ」
「結局俺も、行かなきゃいけないだろ?」
コイツはやっぱり天然だ。


購買部に向かうと、結構人がいた。
「結構人がいるんだな」
「うん。だって、ここの購買部のお姉さんが人気者だからね」
「お姉さん?」
確かに客のほとんどが男性だ。

「は〜い、お待たせしました〜」
「優子ちゃん、いつもありがとね」
「いいえ、梶原さんも早く元気になってくださいね!」
「優子ちゃんにあったら、もう元気になっちゃったよ!」
「アハ、うれし〜!またね!」
なんだココ…、アイドルの握手会かよ…。

「あれ?友美ちゃん!」
「やっほ」
「久しぶりだね、あれ?その人は?」と俺の事を見てきた。
「あ、この人は武井優斗さん。こないだ病院に入院してきたばかりなの」
「ども…」
「はじめまして、大島優子です」と笑顔で自己紹介された。
確かに笑顔はものすごくかわいい、男どもが腑抜けになるのも分かる。

すると突然、俺の後頭部に痛みが走った。
「いった!」
「な〜に見とれてるのよ!」と板野がバシバシ俺の頭を叩いてくる。
「別に見とれてねえし!」
右腕しか動かない俺は、何とかコイツの攻撃を防ぐので必死だった。
「アハハハ、2人とも仲いいんだね」
「良くない!!」と声を揃えてしまった。

待て待て、これはあれか?マンガでよくありがちなパターンの奴か?
大島さんみたいなかわいい子ならまだしも、なんでコイツ…。

そのとき再び俺の後頭部を痛みが襲ってくる。
「だから見とれんな!」

11ちんぱる:2013/08/28(水) 21:49:16

翌日、俺は窓から見える景色を眺めていた。
一面に広がる青い空、病院の前を走る車の数々。
今日も何かに追われながら、せわしなく動く人々。
こないだまで、俺もそのうちの一人だった。
だけど、今は違う。
今の自分には、何も出来ないことを改めて思い知らされた。

そんなことを考えているときだった。
誰かが病室のドアをノックした。
といっても、すでにドアは開いてあるので
ノックの正体はすぐに分かった。

「こんにちは、今日はいい天気だね」

何の許可もなく、勝手に人の病室に入ってきたのは
会ったこともない男性だった。

「あの、誰ですか?」
「ああ、ゴメンゴメン。
 はじめまして、僕はこの病院でカウンセラーをしています、島崎といいます。よろしく」
そういって、彼は握手を求めてきた。
彼の手を握りながら、首から下げている名札に注目していた。

島崎和也、見たところ20代後半から30代の男性。
眼鏡をしているため、よく分からないが
一般的には、恰好良いと呼ばれる顔立ちをしている。
唯一動く右手で、彼の手を握ると違和感を感じた。

「冷たっ・・・」

彼の差し出された右手には、人の温かさというものがなかった。

「あ、ゴメンね。これ、義手なんだ」

彼は着ていた洋服の袖をまくった。
すると、それまで隠されていた現実が晒し出された。

「9年前に事故でね、腕を壊死させちゃって。
 切断せざるを得なかったから、右の腕の付け根から先を切ったんだ」

苦しんでいるのは、自分だけじゃない。
その時、ようやく気付いた気がした。


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