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タブンネ虐待スレ
152
:
名無しさん
:2013/09/10(火) 20:41:31 ID:AC0wMGC.0
タブンネさん本スレの方に複数の職人さんが文章を投下しているようです
気が向きましたらそちらの方ものぞいてみてください
153
:
衝動
:2013/09/12(木) 01:02:02 ID:LQ3MVnoU0
正直に申し上げましょう。これが私のもう一つの、決して人には言えぬ邪な楽しみなのです。
もちろん初めてではありません。この子タブンネは3匹目の餌食でした。
1ヶ月ばかり前になりますが、私はその日も公園のベンチに座って子供達を眺めていました。
すると
「ミッミッ♪」
声のする方には、子タブンネを抱いた母親らしきタブンネの姿がありました。
その母親タブンネは、公園に小学生が数人いるのを見ると、草むらの中に子タブンネをそっと置きました。
「ミィ♪」「チィチィ♪」
おとなしく待っててねとでも言い聞かせたのか、子タブンネと何かしらの会話をすると、
母親タブンネは小学生達の方へトコトコ歩いていきました。
「あ、タブンネだ!」「かわいいー!」「おやつあげるね!」
「ミッミッ♪」
小学生に取り囲まれた母親タブンネは、笑顔で尻尾を振って可愛らしく踊り始めました。
きっとこうすることでおやつや木の実をもらえることを知っていたのでしょう。
いたずらな子供もいますから、念のため子タブンネは隠しておいたというところでしょうか。
その時の私は、その一連の光景を微笑ましく眺めていたのです。
「チィ、チィチィー!」
草むらに残された子タブンネが何やら鳴いています。
いつまでここにいればいいの、お母さん早く帰ってきてとでも呼びかけているのでしょう。
その愛らしい姿に私は思わず歩み寄り、草むらにしゃがみ込んで子タブンネの頭を撫でてあげました。
「チィ?」
人間の姿に驚いたようではありますが、逃げもせずおとなしくされるがままになっています。
その時でした。私の心の中に、ふとこんな声が聞こえてきたのです。
『もし首を絞めたら、この子は一体どんな表情をするのだろう?』
今までの私にとっては全く考えも及ばぬことでした。
ですが、あの時の私はその突如沸きあがった衝動に取りつかれ、止まらなくなってしまっていたのです。
154
:
衝動
:2013/09/12(木) 01:04:02 ID:LQ3MVnoU0
私は子タブンネの首を絞めました。
「キュウウ!!」
ああ、その苦しむ表情の何と可愛らしいこと。もっと見たい、もっとその表情を私に見せて……
夢中になって絞め続け、気がつくと子タブンネは死んでいたのです。
途端に私は急激に熱が冷めたかのように我に返りました。何と恐ろしいことをしてしまったのでしょう。
慌てて周りを見回しましたが、幸い誰もこちらの様子には気づいていないようです。
子タブンネの死体をハンドバッグにしまうと、私はできるだけ平静を装ってその場を立ち去りました。
まだ踊っている親タブンネと、それを取り囲む小学生達を避けるように、家に帰りました。
帰ってはみたものの、私は途方に暮れました。
ハンドバッグから取り出した子タブンネからは体温が失われつつあり、もう生き返る訳がありません。
この期に及んでは証拠隠滅するしかないと決めた私は、新聞紙でそれこそ十重二十重にくるみ、
その上からさらにゴミ袋で何重にも包んで、台所の隅に置きました。
明日はゴミの日ですから、さりげなく捨てれば発覚することはないでしょう。
翌日、私は恐る恐るいつもの公園に行ってみました。
周りの親子の視線が気になりましたが、誰も私を奇異な目で見たりはしませんでした。
誰にも昨日の凶行は見られなかったのだと、私が一息ついた時でした。
「ミィ……!ミィ……!」
ピンクの毛皮はボサボサで、足元がふらつきながら、何かを探しているらしいタブンネの姿が目に入りました。
瞳からはとめどなく涙が流れ、鳴き声を上げすぎたのか、声がかすれています。
きっと私が命を奪った子タブンネの母親タブンネに違いありません。
おそらく、昨日から丸一日我が子を捜し続けていたのでしょう。
「ミィミィ……ミィ……ミ…………」
そしてよろめいたかと思うと、ばったりとタブンネは倒れてしまいました。
突然姿を消した子供を捜して、飲まず食わず不眠不休で走り回っていたのでしょう。
倒れたタブンネの周りには人垣ができ、やがてポケモンセンターの救急車がやってきて運び去りました。
その一部始終を遠目で眺めつつ、私は自分の両手を見つめました。
あの幼くいたいけな子タブンネを絞め殺した手ごたえが、まだ残っています。
ですが、私の心の奥から再び声が聞こえてきたのです。
「あの感触をもう一度味わいたい」、と。
(つづく)
155
:
名無しさん
:2013/09/12(木) 01:06:56 ID:LQ3MVnoU0
>>151
ありがとうございます。この話はもう少し続きます。
タブンネさん本スレは、字数制限と連投制限がある関係で
長編投稿にはあまり向いていないように思われますので
長編はこちら、短編はあちらと使い分けてゆこうかと思います。
156
:
名無しさん
:2013/09/12(木) 03:50:03 ID:O/CBaMzU0
わが子を探すママンネの姿には悲壮感を感じると同時に、ゾクゾクくるものがありますね
丁寧な文章でとても読みやすいです
たしかに本スレは制限が厳しいですよね
途中で規制がかかってストップしてしまい、苦労した覚えがあります
157
:
衝動
:2013/09/22(日) 23:02:57 ID:B1EdA6T60
2、3日の間、私は悩みました。内なる衝動とは別に、理性が問いかけてきます。
「私はタブンネだけでは飽き足らず、人間の子供まで手にかけるようになってしまうのではないか?
命を奪わずにはいられない獣になってしまったのではないか?」
しかしそれは杞憂でした。
それ以降公園に出かけて、人様の子供を見ても殺害衝動はまるで起きませんでした。
誰も見ていない公園の片隅で、母親とはぐれた子供が泣いていたのを見つけた時も、
首を絞めようなどという気持ちは欠片も起こらず、一緒に親を探してあげたくらいです。
なぜタブンネに対した時だけ、あのような残酷な心持ちになるのかはわかりません。
私のような者の眠っていた嗜虐心を呼び覚ます何かをタブンネが持っているから、としか言い様がないのです。
そしてそれは、間もなく証明されることになりました。
1週間ほど経ったある日、私は公園で新たなタブンネの親子を見かけました。
母親タブンネは、まだ生まれて間もないと思われる赤ちゃんを抱いており、その横に兄か姉らしき子タブンネがいます。
「ミッミッ!」「チィ!チィチィ!」
ですが、すやすやと眠る赤ちゃんを他所に母親タブンネと子タブンネは何やら言い争っている様子です。
「チィー!チィチィー!」
子タブンネはまるで人間の子供のように、地面に転がって駄々をこね始めました。実に可愛らしい姿です。
「ミッ!!」
母親タブンネは、もう知りませんとでも言う感じで、子タブンネを置いて歩き去ろうとしていました。
何となくその親子の会話の内容が私にはわかりました。子タブンネはすねているのです。
赤ちゃんが生まれて、母親がそちらにかかりっきりになり、自分が構ってもらえなくなったように思え、
癇癪を起こしたのでしょう。母親は母親で、育児の苦労をわかろうとしない上の子に機嫌を損ねたのです。
人間でもよくある光景、微笑ましい親子の姿でした。
しかしその時、私の心に囁く声がありました。『千載一遇のチャンスだ』と。
私はもうためらいませんでした。2〜30メートル先を歩いている母親タブンネが振り向く前に、
子タブンネに素早く歩み寄って口を塞ぎ、そのまま連れ去ったのです。
158
:
衝動
:2013/09/22(日) 23:04:07 ID:B1EdA6T60
「ンッ、ンン…!」
恐怖で目を見開いた子タブンネを抱いたまま、私は母親タブンネに見つからないよう木の陰に隠れました。
そして子タブンネの体を地面に置くと、声を出せないよう左手で口を塞ぎながら、右手で首を絞めたのです。
「ンンン〜!………ンムゥ〜!!……」
子タブンネが小さな手足をバタつかせる感触に私は酔いました。健気で無力な抵抗の感触に。
やはりタブンネを相手にした時のみ、私の嗜虐心は顔を出すようです。
「ンッ!………ク……」
口を塞がれたまま首を絞められたのではひとたまりもなく、子タブンネが絶命するにはさほど時間はかかりませんでした。
息絶えたことを確認し、前回と同じく、人に見られないよう子タブンネの死体を、私は持ち帰ろうとしました。
ですが、はたと思いついたのです。先程の母親タブンネは赤ちゃんを抱いていました。
もし、この子タブンネがこのまま姿を消してしまったら、先日の母親タブンネのように捜し回るのではないでしょうか。
そして同じように不眠不休飲まず食わずで倒れてしまったとしたら、罪もない赤ちゃんも死んでしまうでしょう。
だったら、あえて発見させてその死を認識させるのが、せめてもの情けではないかと私は思ったのです。
一方的に命を奪っておきながら、情けどころか身勝手極まりない、悪魔のひらめきとも言える発想でしたが、
その時の私はむしろ、うきうきするものを感じていたのです。
「ミーッ!ミィィ!?」
母親タブンネの声が聞こえてきました。子タブンネがついてこない事に気づき、引き返してきたに違いありません。
私は草むらから手頃な大きさの石を拾い、公園の遊歩道の端の方にそれを置き、子タブンネの頭を石に乗せました。
転んで頭を打って、死んだように見えるでしょう。私は木の陰に姿を隠して、様子を伺う事にしました。
「ミィー!ミィー……ミッ!?」
やがて、子タブンネを捜しにきた母親タブンネがそれを見つけました。慌てて駆け寄っていきます。
「ミィ……ミィ……?」
話しかけても反応がないと知り、赤ちゃんを地べたに置くと、恐る恐る触覚を子タブンネに当てました。
何も聞こえるはずはありません。
159
:
衝動
:2013/09/22(日) 23:05:49 ID:B1EdA6T60
「ミ……ミィィィィィィィィィィィィィ!!」
母親タブンネは、子タブンネの亡骸を抱き締めて号泣し始めました。
お互い機嫌が悪かったからといって、ほんのわずか目を離したばかりに子供が頭を打って死んでしまった。
こんな事になるなら、もう少し我慢してこの子を甘えさせてあげればよかった……
取り返しのつかぬ事をした後悔の念に、母親タブンネは打ちひしがれている事でしょう。
そして自責の想いに打ちひしがれながら、生きていくしかないのです。
その悲痛な泣き声を聞きながら、私はゾクゾクするものを感じていました。
人為的に作り出された悲劇によって、母親タブンネが嘆き悲しむ姿を眺める事は、えも言われぬ快感だったのです。
その姿を見て、「気の毒」とか「可哀想」ではなく、「美しく可愛らしい」と感じたのです。
そう感じさせたのはやはりこれもまた、タブンネが持つ不思議な魔力のようなものなのでしょう。
そして母親タブンネは、片手に赤ちゃん、もう片手に子タブンネの亡骸を抱いてふらつくように去っていきました。
それからしばらくは、公園に行ってもタブンネと出会う事もなく、静かな日々が続きました。
あの感触が忘れられないという気持ちは抱えてはいましたが、かと言ってわざわざタブンネの森まで
獲物を求めて狩りに行くほど、私は血に餓えていたわけではありません。
あくまで、親とはぐれたりした子タブンネが目の前に現れた時だけ、それが「神の啓示」であると考えて、
手にかけてきたのです。まあ、「神の啓示」と言うより「悪魔の囁き」なのでしょうが……
そして今日、三度目の「神の啓示」があったというわけです。
私はベンチに横たわる子タブンネの死体を眺めながら、この後どうするべきかと思案を巡らせていました。
悪戯を計画する子供のように、頬に笑みを浮かべながら。
(つづく)
160
:
名無しさん
:2013/09/22(日) 23:09:45 ID:B1EdA6T60
投稿間隔が開いてしまい、申し訳ありません。
次回で完結させる予定ですので、もうしばらくお付き合い下さい。
161
:
名無しさん
:2013/09/23(月) 11:23:27 ID:ZdTj6.L.0
毎回楽しく読ませていただいてます
わが子を想い、嘆く母タブンネの描写は秀逸です
完結編楽しみにしてます
162
:
衝動
:2013/10/07(月) 00:18:35 ID:DemPLmgM0
まず私は、子タブンネの首の周辺のふわふわの毛を整え、絞められた跡を隠しました。
少なくともタブンネの目では、死因が絞殺とはすぐにはわからないでしょう。
前回は頭を打って事故死したように見せかけたわけですが……
そこでひらめいたのです。死につながる何の形跡もなく、ただ死体が転がっていたらどうなるでしょう。
一目見たくらいでは死因はわからないでしょうから、果たして自然死と思うでしょうか?
それとも何者かによって命を奪われたと気づくでしょうか?
その困惑する様も楽しめるのではないかと考えたら、私はわくわくしてきたのです。
私は子タブンネの死体を近くの草むらの中に置きました。草むらから尻尾がはみ出て、すぐ見つかるような形にします。
時間は12時半近くになっており、もう公園には母子連れの姿はなくなりましたから、
第三者に見つかって騒ぎ立てられることもないでしょう。
私は元のベンチに座り、何事もなかったかのように、再び本を読み始めました。
「ミィー!!ミィー!!」
15分ほど経った頃、鳴き声と共に1匹のタブンネが姿を現わしました。
何かを探すような表情と声からして、子タブンネの母親タブンネに違いありません。
「ミィー!……ミッ♪」
草むらから顔を覗かせている子タブンネの尻尾に気づいたらしく、安堵したような表情で駆け寄ります。
ですが、当然のことながら子タブンネはぴくりとも動きません。
「ミッミッ♪ミッミッ♪」
『こんなところで寝ていたら風邪を引くわよ』とでも言いたげに、母親タブンネは子タブンネを揺り起こそうとしました。
ところが、その顔が見る見るうちに蒼白になっていきます。異変に気づいたのでしょう。
「ミッ♪……ミッミッ……」
母親タブンネは少し強く子タブンネを揺さぶりました。青ざめた顔がひきつります。
「ミミッ!!」
慌てて抱き起こして、触覚を胸に当てています。心臓の音はもちろん聞こえるはずはありません。
「ミィ……ミィミィ………ミィィッ!!」
私にはタブンネの言葉はわかりませんが、母親タブンネが何を言っているかはわかるような気がします。
『ねえ……ふざけてるんでしょ?……寝たふりしてるだけなんでしょ?……目を開けてよ、お願い!!』
しかし、子タブンネの目が開くことは二度とありません。その魂はとっくに肉体から飛び去ってしまったのですから。
163
:
衝動
:2013/10/07(月) 00:21:14 ID:DemPLmgM0
「ミッ……ミッ…………ミェェェェェェン!!」
受け入れ難い事実に打ちひしがれ、母親タブンネは声を張り上げて泣き叫び出しました。
それを見ながら、私は筆舌に尽くせぬ満足感を感じていたのです。
何と悲痛で、何と美しい光景なのでしょう。
しばらく泣き続けた後、まだしゃくり上げながら、母親タブンネは辺りを見回しました。
子供を死に至らせた犯人、または原因を見つけたいと思ったのでしょう。
しかし昼下がりの公園には人影はありません。タブンネを襲うようなポケモンの姿もありません。
その母親タブンネと、私の視線が合いました。
母親タブンネは子タブンネの亡骸を抱きかかえ、私の方によろよろと近付いてきました。
「ミッ!……ミィィ……ミィミィ……!」
何ごとかを私に訴えかけています。少なくとも私を疑っている表情ではないようです。
きっと『この子に何があったか見ていませんか、誰か近付きませんでしたか』とでも尋ねているのでしょう。
ですが、その意図はわかったとしても、私が正直に答えるわけはありません。
先程も申し上げた通り、実際のところポケモンの言葉は通じないのですから、
ポケモンに話しかけられた普通の人間の対応で私は答えます。ごく自然に困った表情を作りながら。
「ごめんなさいねえ、私、ポケモンの言葉はわからないの。その子がどうかしたのかしら?」
傍目から見れば眠っているだけのようにも見える子タブンネの死体に目をやりつつ、私は答えました。
果たしてその答えは母親タブンネに通用するでしょうか?
タブンネは人間の心臓の音で感情を読み取るとか。私の嘘は見破られるかもしれません。
そう考えると、少し胸が高鳴ってきたようです。ああいけない、これではばれてしまうかも……
「ミィ……」
しかし母親タブンネはがっくりとうなだれました。騙し通せたようです。
普通の時ならいざしらず、気が動転している今は、まともに私の心を読み取れなかったのでしょう。
目の前の人間の老女に言葉が通じなかったと思って、それ以上は疑念すら抱かなかったようです。
「ミッ…」
母親タブンネは私に背を向け、夢遊病者のような足取りで歩き去ってゆきます。
私はうっすらと額に浮かんだ冷や汗をハンカチで拭いながら、その後ろ姿を見送りました。
さすがに今日はちょっと冒険が過ぎたようです。
でもおかげで、悲しみに暮れる母親タブンネの泣き顔を、間近で堪能する事ができました。
気がつけば時計はもうすぐ1時になろうとしていました。
私の本来の目的である子供達を眺めようにも、お昼寝の時間になってしまいましたから、
当分は母親達ともども公園に出てくることはないでしょう。
私も家に戻り、昼食にしようと腰を上げかけた時でした。
車の急ブレーキの音と、ドンという何かが激しくぶつかる衝撃音が聞こえてきたのです。
164
:
衝動
:2013/10/07(月) 00:23:17 ID:DemPLmgM0
音は公園の外の道路から聞こえてきたようです。私はそちらへと小走りで急ぎました。
「もしや……」
その予感は的中しました。
駆けつけた私が目にしたものは、停車している大型トラックと、その10メートルほど先に
血だるまで倒れているタブンネの姿でした。先程の母親タブンネに違いありません。
そのさらに3メートルほど先には、投げ出された子タブンネが転がっていました。
これも母親同様に血まみれになっており、もはや本当の死因などわからないでしょう。
「俺が悪いんじゃねえよ!あのタブンネがふらふら出てきやがったんだ!」
集まってくる野次馬に弁解でもするかのごとく、青ざめたトラックの運転手が叫んでいます。
私は母親タブンネに近寄ってみました。既に息絶えているようです。おそらく即死だったでしょう。
我が子を失い茫然自失状態でトラックに気づかなかったのか、
それとも悲嘆のあまり自ら死を選んだのか……
私はしゃがみ込んで、その死に顔を覗き込んでみました。
まだ涙が溢れる青い瞳は、虚ろに見開かれていました。死の瞬間、この目には何が映っていたのでしょうか。
その哀れな姿に、私は言い知れぬ満ち足りた気持ちを感じたのです。
そして母親タブンネにそっと囁きかけました。
「よかったわね、これで天国で再会できるわね。幸せに暮らしなさいな」
子供を亡くして失意の内に生きるよりは、むしろこうなった方が幸せではありませんか……
次第に人だかりも多くなり、パトカーもやってきたようです。私は静かにその場を去りました。
あれ以来、公園でタブンネの姿は見かけていません。
いつも通り、私は指定席のベンチに腰掛けて、無邪気な子供達の姿を目を細めて眺めています。
ですが心の奥底では、新たな可愛らしい獲物が姿を現わすのを心待ちにし続けているのです………
(完)
165
:
名無しさん
:2013/10/07(月) 00:25:23 ID:DemPLmgM0
前回からまただいぶ間隔が開いてしまって申し訳ありません。
これにて完結です。拙作を読んでいただいた方には感謝致します。
166
:
名無しさん
:2013/10/07(月) 00:56:14 ID:vu7epDIs0
>>165
お疲れ様です。
苦しむタブンネの王道を貫きつつも主人公の少し歪んだ感覚が面白かったです。読んでて凄くニヤニヤしますw
wikiにも更新いたしました。区切りがおかしいなどの違和感があればまたお伝えください。
167
:
863-864
:2013/10/07(月) 21:23:04 ID:ydekKklE0
>>165
毎回楽しく読ませていただきました
かわいらしい子タブンネと親タブンネの子を思う気持ち、そして、主人公のゆがんだ感情
それぞれが上手く描写されることで、それぞれをさらに引き立たせるいい作品でした
別作品を書かれることがあれば、また期待しています
本当にお疲れ様です
168
:
名無しさん
:2013/10/07(月) 23:26:49 ID:AFchwwl60
>>165
乙です!
主人公の女性に非常に共感でき、作品に引き込まれました!
169
:
<タマゴ割りゲーム>
:2013/10/14(月) 00:37:44 ID:EGfaJqks0
ここはとある食肉加工場。
主な働き手としてタブンネを採用している工場だ。
賃金を与える必要がなく、人件費がかからない。
働けなくなったタブンネはそのまま肉にできるという2つの点が主な理由だ。
1日の仕事が終えたタブンネたちは、みな死んだような目をしている。
1日に18時間の労働。娯楽などなく、寝床と工場を往復するだけの生活。
そのうえ、仲間であるタブンネを食肉へと処理するのだから当然だろう。
もしかしたら、その中には自分の親兄弟や、親友が含まれているかもしれないのだから。
この劣悪な環境に対し、反抗心を持つタブンネも少なくはない。
かつてはタブンネによるストライキが何度も行われていたという。
そして、工場側はタブンネたちの反抗心を折るために、定期的にイベントを開催することにした。
そのイベントとは――
「ただいまより、<タマゴ割りゲーム>を開始します!」
今は使われていない工場に9組のタブンネ夫婦が集められた。
タブンネたちの耳には穴があけられ、『1番』から『9番』の番号が書かれたタグがつけられている。
どのタブンネの表情も、これから処刑台に送られるかのように沈んでいる。
泣き声も上げずに、どのタブンネも一様にうつむいている。
当然だろう。
18時間の労働を終えて疲労しているうえに、これから行われることを考えれば。
170
:
<タマゴ割りゲーム>
:2013/10/14(月) 00:39:11 ID:EGfaJqks0
「おやぁ〜? あまり盛り上がってませんねぇ?
仕方がないので、みなさんのテンションが上がるようにしてあげましょうか」
工場内の前方にあるステージに並べられた9つのタマゴ。
このタマゴには『1』から『9』の番号がマジックで書かれている。
集められたタブンネたちのタマゴだ。
近くにいた作業着の男がステージに上がり、手に持った金づちでタマゴをコンコンと叩き始める。
「「ミィィィィィ!?」」
タブンネたちが驚き、抗議の声を上げる。
自分たちの大切なタマゴが割られようとしているのだ。
きつい労働と劣悪な環境に耐えながら育んできた、大切な夫婦の絆の証。
それだけは何としても守らなくてはならない。
「はい! みなさん、テンションが上がって来たようですね。
あまりにもテンションが低かったらどうなるかわかりましたか〜?
それでは、もう1度。ただいまより、タマゴ割りゲームを開始します!」
「「ミィッ! ミィッ! ミィッ! ミィッ!」」
タブンネたちが無理やり歓声をあげる。
手に逆らうとどうなるかは、これまでの経験でわかっているのだ。
やがて、作業着姿のスタッフに促されて、『1番』のタグをつけたタブンネ夫婦がステージに上がる。
そして、タブンネ夫婦の前に、てっぺんに穴の開いた四角い箱が出される。
171
:
<タマゴ割りゲーム>
:2013/10/16(水) 19:06:13 ID:3dQlc6960
「さあ、それでは早速ですが、くじを引いてもらいましょうか」
この四角い箱には『1』から『9』までも数字が書いてある紙と、『あたり』と書いてある紙の
合計10枚が入っている。
タブンネたちはそれを引いていく。要はくじ引きだ。
ただし、当然のことながら、これが普通のくじ引きであるはずがない。
そして、タブンネが引いたくじの番号は『7』と書いてある。
『1番』のタブンネ夫婦に、『7』と書かれたタマゴが手渡される。
「おーっと、これはラッキーセブン! 幸先のいいスタートですよ〜。
……さて、それじゃあ早いとこタマゴを割っちゃってください」
タマゴを見つめて、何かをためらうようにしていたタマゴを見つめる『1番』のタブンネ夫婦。
しかし、目をギュッと閉じると、タマゴを床に思いっきり叩きつける。
グシャリ
『7』と書かれたタマゴが鈍い音を立てて床に激突すると、中から半透明の液体がどろりと流れ出す。
「ミィヤァァァァァァァァ!」
悲鳴を上げているのは『7番』のタブンネ夫婦だ。
ここまで大切に育ててきたタマゴが、一瞬でダメになってしまったのだ。
タブンネの愛らしさなど全くない、鬼のような形相で『1番』のタブンネ夫婦をにらみつけている。
172
:
<タマゴ割りゲーム>
:2013/10/16(水) 19:07:10 ID:3dQlc6960
続けて『2番』のタブンネ夫婦が引いたのは『4』の数字。
しかし、『2番』のタブンネ夫婦は嫌がってタマゴを割ろうとしない。
タブンネは本来、心優しいポケモンだ。
自分たちのではないといえ、同じタブンネのタマゴを割ることなどやりたくはないのだ。
しかし、このゲームでそれは許されない。逆らった以上は……
「あーっと、ここで時間切れ! ルール違反! ルール違反だぁー!
スタッフのみなさーん、『2』のタマゴを割っちゃってくださーい」
『2番』のタブンネの目の前に、『2』と書かれたタマゴが叩きつけられる。
自分たちのタマゴが目の前で砕け散る光景にショックを受け、『2番』のタブンネ夫婦が失神する。
これが<タマゴ割りゲーム>。
くじを引いたタブンネが、くじに書かれた番号のタマゴを割る。
タマゴを割らなかった場合は、自分たちのタマゴが割られてしまう。
ゲームを終了させる方法は3つ。
1つ目が、すべてのタブンネがくじを引き終わること。
2つ目が、箱の中に入っている『あたり』を引くこと。
そして、もう1つの方法が――
173
:
<タマゴ割りゲーム>
:2013/10/16(水) 19:07:47 ID:3dQlc6960
「おやおやぁ? ……これはラッキーチャンス到来!
全員が助かる、スペシャルチャンスがやって来たぁぁぁ!」
くじを引いたのは『3番』のタブンネ。くじの番号は『3』。
これがゲームを終了させる3つ目の方法。自分のタマゴを自分で割ることだ。
それが達成された時点でゲームは終了し、タブンネたちは解放され、タマゴも返してもらえる。
しかも今回はかなり早い段階でそのチャンスがやって来た。
すでに『2』と『7』のタマゴが割れたとはいえ、ほとんどのタマゴが残っているのだ。
タブンネたちの期待のこもった視線がステージ上の『3番』のタブンネ夫婦に向けられる。
しかし『3番』のタブンネ夫婦は首を振る。こんなことできない、と。
一瞬、工場内の空気が固まる。
そして間をおいて、タブンネたちの怒りに満ちた声が『3番』の夫婦に浴びせられる。
みんなが助かるチャンスを捨てる気かと『3番』の夫婦を責め立てる。
すぐに『3』のタマゴがスタッフによって床に叩きつけられる。
完全に生気を失った表情でステージを降りてくる『3番』夫婦をタブンネたちが罵倒する。
ただ1組、『4番』のタブンネ夫婦を除いては。
「それじゃあ、『4番』のタブンネちゃんはステージに上がってください」
ステージに上がった『4番』のタブンネ夫婦は堂々とステージに立っている。
それもそのはず、『4』のくじは『2番』のタブンネ夫婦がすでに引いてしまっているのだから。
これから先、自分たちのタマゴがくじで出てくる可能性はない。
あとはくじで出た番号のタマゴを割れば、自分たちとタマゴの安全が約束されるのだ。
箱の中に手を入れてくじを引く。書かれている番号は『2』。
「……ミィ?」
タマゴを割ろうとした『4番』のタブンネ夫婦だが、『2』のタマゴはすでに割れている。
174
:
<タマゴ割りゲーム>
:2013/10/19(土) 00:44:23 ID:ULuBVYqQ0
「うわー、珍しいパターンが来ちゃったな。まあ、これもルールだからね。
かわいそうだけど『4番』のタブンネちゃんごめんね?
スタッフさーん、『4』のタマゴやっちゃってー」
床に叩きつけられる『4』のタマゴ。
『4番』のタブンネ夫婦は「ミィッ!?」と困惑している。
安全であったはずの自分たちのタマゴが割られてしまった。
しかし、これもルールの内だ。
くじの番号のタマゴを割らなければ自分たちのタマゴが割られてしまう。
たとえ、事前にその番号のタマゴが割れていようとも、だ。
呆然とした様子の『4番』夫婦。
そんな彼らをスタッフが引きずりおろし、ゲームが再開される。
<タマゴ割りゲーム>の真の狙い。
それは、タブンネたちの結束を破壊することにある。
タマゴを割られたタブンネは、タマゴを割ったタブンネを恨む。
タマゴが割れてしまったタブンネは、タマゴが無事だったタブンネに嫉妬心を持つ。
そして、今回の『3番』のタブンネ夫婦のように、全員が助かるチャンスをのがしたタブンネは、
参加したタブンネ全体から、憎しみの感情を向けられる。
こうすることで、反抗心を持ったタブンネがいても、全体がまとまることができずに、
大きな脅威になることはない。
反抗されたところで、タブンネ数匹ならどうとでもできるのだ。
175
:
<タマゴ割りゲーム>
:2013/10/19(土) 00:44:53 ID:ULuBVYqQ0
「はい、終了で〜す。明日……いや、今日も朝早いんだから、みんな早く休んでね〜」
今夜もたくさんのタマゴが犠牲になった。地獄のイベントはようやく終わりを告げる。
しかし、タブンネたちにとっての地獄はまだ終わらない。
ゲーム開始から終了まで3時間近くが経過している。
労働時間と合わせれば、24時間のうち、すでに21時間が経ってしまっているのだ。
眠る時間など、ほとんど残されていない。
タブンネたちは肉体的にも精神的にも疲労した状態で仕事をしなくてはならない。
それこそ、反抗する気力さえも起こらない状態で。
(おしまい)
176
:
名無しさん
:2013/10/19(土) 08:25:41 ID:Y0aELHOo0
乙でした
「カ○ジ」ばりに参加者同士の不信を煽り立てるやり口が素晴らしい
心身ともにボロボロになるタブンネ夫婦たちを想像するとニヤニヤしますw
177
:
冬を迎えて春が来て(その1)
:2013/10/20(日) 18:34:30 ID:qWamC2i.0
リビングから見えるオボン畑には、雪がちらちら舞い始めている。
少し肌寒かった秋が終わって冬になると、冷え込みがいっきに激しくなった。
ストーブを焚いている室内との温度差に、窓がうっすらと白く染まる。
「ポチエナ、餌だぞ」
ポケモンフードを皿に盛って、ストーブの前で転がっているポチエナに餌を持っていく。
普段なら尻尾を振って、ちょこんとお座りをして待っているのだが、今日は様子が違う。
しきりにガラス戸の外を気にしながら、ときおり俺の方に視線を向けてくる。
どうしたのだろうと思い、厚手のカーテンをめくって外の様子を確認する。
うっすらとした暗闇の中に、何本ものオボンの木がぼんやりと見える。
毎年たくさんの実をつけてくれる、わが家自慢のオボン畑だ。
そんなオボンの木の根元で、何かが動いているのがわかった。
おそらく、近くの森に住むタブンネだろう。
わが家のオボンの実を狙って、人がいなくなる時間に出てきたのだろう。
俺は思わずほほえんでしまう。
今年の冬は寒くなると聞いていたので、そうなる前にほとんどの実を収穫しておいた。
オボンの実を狙ってやってきたタブンネは完全に無駄足というわけだ。
俺はハンガーにかけてあったコートを着ると、ポチエナとともに畑に向かう。
オボンがなくて唖然とするタブンネの顔を拝んでみたくなったからだ。
178
:
冬を迎えて春が来て(その2)
:2013/10/20(日) 18:35:11 ID:qWamC2i.0
近づいていくとタブンネの姿がはっきりと確認できるようになった。
おそらく、つがいのタブンネだろう。2匹のタブンネが体をぴったりと寄せあっている。
「そんなとこで何やってんだ?」
俺の声にタブンネたちがビクリと飛び上がる。
この距離に接近されるまで、俺がいることに気付いていなかったらしい。
オボンの実がなかったことがそんなにショックだったのだろうか。
おそるおそるといった様子で2匹のタブンネが振り向く。
頬がこけて目の下に隈をつくり、鼻水を垂らすその顔にはあわれみを感じてしまう。
本来ならピンク色の毛は茶色く汚れており、全体的に毛づやも悪い。
まともに餌をとれていないのだろう。脂肪が薄くなった体を寒さに震わせている。
そして、2匹の体の間では、離乳も済んでいないであろう小さな子タブンネが抱かれている。
あまりにも悲壮感ただよう姿に言葉を失ってしまった。
食べ物がなくて困惑するタブンネの姿を笑いにきたつもりだったのだが。
このタブンネたちは秋の間に十分な蓄えができなかったのだろう。
寒くなってからでは餌を探すどころか、外を出歩くのも一苦労だ。
必死の思いでたどり着いた畑には、自分たちが食べられそうなものが何もない。
こんな雰囲気を漂わせるのも当然だろう。
179
:
冬を迎えて春が来て(その3)
:2013/10/20(日) 18:36:41 ID:qWamC2i.0
2匹に抱かれた子タブンネは、動くどころか鳴き声一つ上げることもしない。
胸がわずかに上下しているから生きてはいるのだろうが、この寒さではもたないだろう。
つがいであるタブンネ2匹の目からは光が失われている。
餌はなく、子タブンネは限界で、そのうえ人間に見つかってしまった。
すべてをあきらめた表情で、何も言わずに立ち尽くしている。
おもしろいという言葉が頭に浮かぶ。
これまで見てきたタブンネたちはこんな反応を見せなかった。
命乞いをするもの。逃げようとするもの。威嚇してくるもの。
だが、諦めて何もしないというのは初めて見る反応だ。
近くのオボンの木から実を選び、1つちぎる。
あまりにも小さくて収穫できなかった実を、タブンネたちの鼻先に突き付ける。
タブンネたちが顔を上げて、小さなオボンの実を見つめる。
「この実を食べたいか?」
俺が問いかけると、タブンネたちの瞳にわずかに光が戻る。いい反応だ。
ニヤリと笑って言葉を続ける。
「それなら、俺の仕事を手伝え。ついでに、ポチエナの遊び相手になってくれ。
そしたら毎日でもオボンの実を食べさせてやるぞ」
タブンネたちが俺の顔を見て、俺の足元でピシッとすわっているポチエナを見る。
やがて、涙を流しながら「ミィミィ」鳴きながら、俺の足にしがみついてくる。
ありがとう、とでも言っているのだろう。
180
:
冬を迎えて春が来て(その4)
:2013/10/20(日) 18:37:30 ID:qWamC2i.0
「よし、ついてこい」
俺の後をタブンネたちがついてくる。
さっきの暗い表情から一転して、今ではニコニコと笑顔だ。
これからよろしくとでも言うようにポチエナに話しかけている。
その様子を見ながら、俺はほくそ笑む。
見てみたくなったのだ。こいつらがどういう顔をするのかを。
すべてをあきらめた時に差し出された希望、そしてそれが裏切られた時の絶望。
そのときにどんなリアクションを見せてくれるのか。今から楽しみだ。
・
・
・
181
:
名無しさん
:2013/10/20(日) 18:40:16 ID:qWamC2i.0
現在本スレが荒れ模様でSSを投下できる空気ではないので、こちらに転載して続きを投下することにしました
以降はこちらのほうに投下していこうと思います
182
:
名無しさん
:2013/10/21(月) 22:22:56 ID:gMdZJo.I0
>>181
乙です、ここなら邪魔が入りませんからね
気長に楽しみに待ってます
183
:
冬を迎えて春が来て(その5)
:2013/10/22(火) 01:09:48 ID:25JzzP8I0
「チチィッ! チヤッ! チヒィィィ!」
甲高いタブンネの鳴き声が響く。
鳴き声の主はポチエナと遊んでいる……いや、ポチエナに遊ばれている子タブンネだ。
跳び付いてくるポチエナから必死に逃げ回るその姿は、かわいくはあるが少し滑稽でもある。
ポチエナは本気で襲い掛かっているわけでもないのに。
子タブンネの様子を心配そうにタブンネ夫婦が見つめている。
ポチエナがじゃれているだけだとわかってはいるのだろうが、子どものことが気になるのだろう。
「おい、作業するのが止まってるぞ」
俺がそう声をかけると、あわてて作業を再開する。
ここは収穫したオボンの実を保管している倉庫だ。
それなりの広さがあるため、ポチエナと子タブンネが多少暴れたところで、仕事に影響はない。
俺たちがやっているのは、オボンの実を出荷するための梱包作業だ。
重さや量を均等にし、実がつぶれないようにケースに小分けして箱に詰める。
ばらつきが出ないように調整しなくてはならないので、地味ながら、それなりに堪える作業だ。
オボンを詰めたいくつかの箱をタブンネたちが持ってくる。
俺はそれを見て顔をしかめる。一目見ただけでわかるほど量にばらつきがあったからだ。
「箱によって量がちがう。やり直せ」
そう言ってタブンネたちに突き返すと、渋々といった感じで作業を再開する。
納得いかない、といった表情だ。
184
:
冬を迎えて春が来て(その6)
:2013/10/22(火) 01:12:57 ID:25JzzP8I0
「不満なら出ていっていいんだぞ」
俺の言葉に、タブンネたちは悔しそうな顔で「ミィィ……」と首を振る。
季節は真冬。
例年に比べて寒さの厳しい森の中には、タブンネたちが食べるような餌は何もあるまい。
だからこそ、危険を冒してまで俺の畑にやって来たのだ。
最低限の食事と寝床。それが確保されているここから出ていくなど、とてもできはしない。
しばらく作業を続けていると、父タブンネの後ろにポチエナがいるのが見えた。
尻尾を振って、タブンネに向かって「クゥン」と鳴いている。
子タブンネはどうしたのかと見てみると、倉庫の隅でくたっと倒れている。
最近になって歩けるようになった子タブンネにポチエナの相手はきつかったのだろう。
手足を投げ出して床に寝そべっている姿は、つきたての餅のようで思わずクスリとしてしまう。
子タブンネがあんな状態なもので、ポチエナとしては遊び相手がいなくて退屈なのだろう。
遊び相手に選ばれたのが、俺じゃなくてタブンネなのは少し悔しい。
しかし、当の父タブンネはポチエナのことを無視してオボンの実を詰める作業を続けている。
仕事熱心なのは悪いことではないのだが、ポチエナのことを無視するのはいただけない。
ポチエナの遊び相手をするのも、お前たちを飼ってやる条件なんだぞ。
185
:
冬を迎えて春が来て(その7)
:2013/10/22(火) 01:13:54 ID:25JzzP8I0
「おい、ポチエナが遊びたがってるだろ。無視するんじゃない」
俺がそう声をかけると、父タブンネは作業の手を止め、ポチエナとともに倉庫の隅に移動する。
木の実の近くで遊ばれたら、木の実を潰してしまうかもしれないからな。
このことは後でほめてるとしよう。
ポチエナが跳び付いてくるのを父タブンネが受け止める。
その顔には、焦りや恐怖といった感情が浮かんでいる。
まだ小さいとはいえ、ポチエナは肉食のポケモンだ。
爪や牙はしっかりと生えているし、野生におけるタブンネは被捕食者のポジションだ。
じゃれつかれているだけとはいえ、タブンネの本能が肉食ポケモンに反応しているのだろう。
もう1匹、母タブンネの方に目を向けると、いつのまにか作業を放り出していた。
子タブンネを抱き上げて、体をなめて毛づくろいをしてやっている。
俺は作業の手を止めて、母タブンネのもとに行き、無防備な頭を思いっきりはたく。
「ミッ!?」と声を上げた母タブンネの耳をつかんで、無理やりこちらを向かせる。
母タブンネは驚いた拍子に手を離してしまい、床に落下した子タブンネが「チィィ…」とうめく。
「勝手にサボってんじゃないぞ。役に立たないならお前だけ追い出してもいいんだからな」
その言葉に母タブンネはがっくりとうなだれる。
この寒さの中放り出されたら、夜を明かす前に凍り付いて死んでしまうだろう。
なにより、子タブンネの離乳は完全には終わっていない。
母親である自分がいなくなったら、子タブンネが死んでしまう。
不安そうに子タブンネを見ながら、母タブンネは作業をするために戻っていった。
186
:
◆EpF9hMHfes
:2013/10/22(火) 01:20:42 ID:25JzzP8I0
無線LANを使っている影響か、なぜかIDが変わってしまいます
偽物が現れるとも思いませんが、念のためにトリップをつけておきます
現在、途中まで書き進めているのですが、それなりの分量になりそうで数日では終わりそうにありません
ですので、SSを投稿したいという方がいましたら、気にせずに投稿してください
187
:
冬を迎えて春が来て(その8)
◆EpF9hMHfes
:2013/10/22(火) 21:39:02 ID:MsjqgbFo0
さて、母親に放り出されてしまった子タブンネではあるが、ヨロヨロと起き上がってきた。
体をなめられたことによる刺激か、落下の衝撃かはわからないが、とりあえず動けるようにはなったらしい。
ポチエナの方を見ると、実に楽しそうに遊んでいる。
父タブンネの大きなお腹に乗っかり、あむあむと首の周りを何度も噛んでいる。
何度も振り落とされているのだが、そのたびに果敢に飛び乗っていく。
かなりエキサイトしているらしく、その様子に父タブンネは涙目になっている。
もちろん、これは父タブンネが手加減しているからこその現状だ。
肉食であるポチエナといえど、本気になった大人のタブンネにとっては敵ではない。
それでも今の状態になっているのは、初めてポチエナと遊ばせたときのことが原因だ。
子どもであるポチエナに手加減をしなかったせいで、ポチエナがケガをしてしまった。
その時に、制裁として一晩中、外に宙づりにしておいたのが効いているのだ。
父タブンネとポチエナを引き離す。
父タブンネは「ミフッ、ミフッ」と息を吐きながら俺の方に笑顔を向けてくる。
ポチエナから助けてもらったとでも思っているのだろうか。そんなわけないだろ。
「いつまで遊んでんだ。さっさと作業に戻れ」
そう言って頭を引っぱたくと、のそのそと作業に戻っていく。
188
:
冬を迎えて春が来て(その9)
◆EpF9hMHfes
:2013/10/22(火) 21:40:07 ID:MsjqgbFo0
ポチエナは「キュゥン」と悲しそうに俺を見上げている。
遊び相手をとられてしまったと思ってるのだろう。かわいいやつめ。
ポチエナの顔を一瞬だけ見てから別の場所に視線を移すと、それにつられてポチエナの視線も動く。
視線の先にあるものを見ると、尻尾をパタパタと振りながら駆けだしていく。
俺が視線を向けた先には子タブンネがいたからだ。
体力が回復したのか、ぺたんと座り込んで自分で毛づくろいをしている。
ポチエナにとっては、大人のタブンネよりも、体の小さな子タブンネの方が遊び相手にして楽しいのだろう。
子タブンネの小さな背中にポチエナが跳びかかり、「チィッ!」という声を合図に遊びが再開する。
一方、ポチエナから解放された父タブンネはというと、まだ作業を再開していなかった。
それどころか、作業をする場所にまだ戻っておらず、のろのろと歩いている。
「たらたら歩くな。ちょっとだけでもサボろうとか考えてんじゃない」
父タブンネの尻を蹴っ飛ばすと、「ミキャァッ!」と叫びながら、床の上をゴロゴロと転がる。
そして、近くに積んであった箱の山に激突する。
ガヂャーン!と音を立てて、オボンの実が入った箱の山が崩れる。
箱の中に入っていたオボンの実が散らばり、一部の実は父タブンネの体や箱によってつぶれてしまっている。
何日も続けている作業があっという間にダメになってしまった。
「何やってんだ、この馬鹿!」
床に転がったままの父タブンネの腹に蹴りを入れる。
「ケハッ!」と息を吐き出す顔を踏みつけて床に押しつけると「ビウゥ……」という情けない声が漏れる。
189
:
冬を迎えて春が来て(その10)
◆EpF9hMHfes
:2013/10/26(土) 01:15:56 ID:1nFyVw2A0
大きな音と俺の剣幕に驚いたのか、ポチエナと子タブンネは遊ぶのをやめてこっちを見ている。
作業を続けていた母タブンネは何が起こったのかを理解したのだろう。
その顔からは血の気が引き、うつむいて涙を流しながらガタガタと震えている。
今回やらかしたことは今までとは比較にならないほど大きなことだ。
追い出されるか、最悪殺されるとでも考えているのだろう。
「……お前はそのまま作業を続けてろ。できることなら崩れた箱を整理して、木の実を詰め直してくれ」
俺の指示を受けると、母タブンネは安堵の表情を浮かべる。
ホゥと息を吐くと、崩れた箱のもとに行き、無事そうな木の実を箱に詰め直していく。
制裁を回避できたことによって気分が高揚しているのか、テンポよくテキパキと作業を進めていく。
まあ、今回の大失態を冒したのはあくまで父タブンネだ。母タブンネには何の罪もない。
制裁を加えるなら、父タブンネの方だけだ。
「よし、そのまま続けてくれ。ひと段落したら休憩してもいい。ただし、勝手に木の実を食うなよ」
俺の言葉を聞いて、母タブンネは「ミッ!」と歯切れのいい返事を返してくる。
まあ、今回ばかりは多少サボっていても多めに見よう。
俺はコートを着ると、父タブンネの首に縄をつけ、そのまま引きずって倉庫を出る。
190
:
冬を迎えて春が来て(その11)
◆EpF9hMHfes
:2013/10/26(土) 01:16:45 ID:1nFyVw2A0
倉庫の戸を開けると、顔に細かい雪が飛び込んでくる。
風に舞った雪が道路や地面に積もり、景色を真っ白に染め上げている。
分厚い雲が空を覆っているせいで陽の光が差し込まず、昼なのにどこか暗く感じてしまう。
北から吹いてくる風のせいで、気温以上に寒く感じてしまう。
コートを着ている俺はいいが、栄養不足により体の脂肪が減っている父タブンネには非常にきついだろう。
積もった雪の中、父タブンネを引きずりながら目的の場所に向かう。
倉庫から10mほど離れたところに目的地である洗い場に到着した。
後ろを見てみれば、雪の上に父タブンネを引きずった跡がはっきりと残っている。
気温が低い中、雪の上を直接引きずられた父タブンネの歯がガチガチと音を立てている。
ギュッと体を丸めているのは、体温を逃がすまいとする本能的なものだろう。
俺はその場にしゃがみ込み、父タブンネの触覚をつかむ。寒さのせいか、いつもよりかたい気がする。
「まずは、オボンの汁で汚れた体をきれいにしないといけないな」
カランをひねって水を出すと、父タブンネが何度も首を横に振る。
触覚を通して、俺の考えていることが伝わったのだろう。
恐怖に顔をゆがめ、青い瞳からは涙がこぼれ、その涙は顔を流れるうちに凍っていく。
「きれいにしないと、汚れが気になって仕事ができないだろう?」
冷水を流す蛇口の下に父タブンネを蹴り込む。
「ビヒャァアァアァァァァッ!!」
さっきまでほとんど動かなかった父タブンネが、悲鳴を上げながらのたうちまわる。
191
:
冬を迎えて春が来て(その12)
◆EpF9hMHfes
:2013/10/29(火) 20:27:58 ID:jCQvTH6o0
近くに置いてあるデッキブラシで父タブンネの体を磨いていく。
……とはいっても、父タブンネが動くのでうまく洗うことができない。
水の冷たさに父タブンネが抵抗しているが、汚れが落ちるまでやめるわけにはいかない。
大人しくしてくれれば、すぐにでも解放してやるのだが。
しばらく続けていると、父タブンネは動かなくなった。
大人しくなったので、ようやく落ち着いて体を磨くことができる。
デッキブラシでガシガシと磨くたびに、父タブンネの口から「ヒウッ…」という声が漏れる。
やがて、その声も聞こえなくなる頃、父タブンネの体から汚れを落とすことができた。
完全にきれいになったとは言い難いが、まあいいだろう。
ぴくりとも動かない父タブンネの首についた縄を持って、倉庫まで父タブンネを引きずって戻った。
俺が倉庫に戻ってくると、倉庫の中はそれなりに片付いていた。
ぐしゃぐしゃに潰れたオボンは倉庫の隅に寄せられていたし、崩れていた箱はしっかりと積まれている。
中を確認すると、ほとんど同じ大きさのオボンがきれいに入っていた。
「全部お前がやったのか?」
母タブンネにそう尋ねると、胸を張り「ミフー」と自慢げな様子だ。
ふむ。この母タブンネは、タブンネにしてはなかなかできるやつなのか?
とはいっても「タブンネにしては」であって自分でやってればもっと早く片付けられるのだが。
192
:
冬を迎えて春が来て(その13)
◆EpF9hMHfes
:2013/10/29(火) 20:28:35 ID:jCQvTH6o0
「ミィィィィィィ!?」
突如、母タブンネの叫び声が倉庫の中に響き渡る。
俺が引きずってきた父タブンネの様子にようやく気付いたようだ。
トタトタと俺のもとに走って来て、足元に転がっている父タブンネの体に触れ、
「ミヒャッ!?」
すぐに手を離してしまった。
毛づやが悪くボサボサしていたピンク色の体毛は、体にカッチリと張り付き、
涙や鼻水によって凍ってしまった顔は、歪んだままの状態で固まっている。
身動き一つしないその姿から、完全に凍り付いてしまっていることがわかる。
完全にふさがってしまった鼻に空気は通らず、口でかろうじて呼吸をしている状態だ。
「ミィッ! ミィッ!」
母タブンネは床に膝をつくと、両手を地面につけてペコペコと何度も頭を下げる。
俺が教えた土下座だ。父タブンネを助けてくれと必死に懇願しているのだ。
しゃがみ込んで母タブンネの顔を覗き込むと、その顔にはいくつもの感情が浮かんでいる。
父タブンネを助けてほしいという切実さ。
父タブンネを氷漬けにした俺に対する憎悪。
そんな俺に対して頭を下げることしかできない屈辱。
母タブンネの心の中はマイナスの感情に彩られていることだろう。
193
:
冬を迎えて春が来て(その14)
◆EpF9hMHfes
:2013/10/29(火) 21:08:57 ID:3KDOwWDQ0
「わかった。助けてやるよ」
そう言って立ち上がると、倉庫の奥へとと向かう。
母タブンネは不安そうな顔で、俺と、俺に引きずられている父タブンネについてくる
倉庫の奥には、古い小型の冷蔵庫を置いている。このタブンネたち用に木の実を保存しているのだ。
冷蔵庫を開けて、中からマトマの実を取り出す。
今年の夏に収穫したもので中に入れっぱなしにしていたものだから、すっかり色が変わっている。
色も感触も変わり果ててしまっているが、そこに含まれる発熱効果は失われていない。
以前、父タブンネを外に吊るした時に確認したのだから間違いない。
凍り付いてほとんど動かない父タブンネの口を無理やりこじ開けて、中にマトマの実を無理やり押し込む。
最初の内は何の反応も示さなかったが、数十秒ほどすると「ブフォッ!?」という音とともに父タブンネが息を吹き返す。
口の中に広がるマトマの辛みと、腐った木の実の持つ風味に「ミギギギ……」と言いながら苦しんでいる。
しばらく待っていると、ある程度落ち着いてきたのか、四つん這いになってゼェゼェと荒い息を吐いている。
ときおり「ミエッ、ウエッ」となる父タブンネの背中を、母タブンネが心配そうにさすっている。
「おい」
俺の声に2匹がこっちに顔を向ける。俺の声から不穏な何かを感じ取ったのだろう。
不安そうに俺のことを見てくる2匹を見ながら、床を指さす。
「これをどうするつもりだ、お前たちは?」
俺の指さした床には、父タブンネが吹き出したマトマの食べかすが散乱している。
さらに、父タブンネが悶えたせいで、倉庫の床にべったりとこびりついてしまっている。
194
:
冬を迎えて春が来て(その15)
◆EpF9hMHfes
:2013/10/29(火) 21:48:50 ID:pbHmHW..0
父タブンネの首についていた縄を再びつかみ、父タブンネを引っ張る。
マトマで低体温状態を脱したとはいえ、体力が回復するわけではない。「ミィ!?」と声を上げて父タブンネが転倒する。
「体が汚れてしまったからな。もう一度、きれいにしてやるよ」
父タブンネを引きずっていく俺の足に母タブンネがしがみつく。
あんなことはもうやめてとでも言ってるのだろう。
頑張っている母タブンネのいうことを聞いてやりたい気持ちはある。
だが、父タブンネはまともに仕事をしていない。
それに、このタブンネたちに仕事を手伝ってもらっているが、はっきりいって効率的ではない。
数が増えた分、1日にできる仕事量も増えたのだが、失敗も多く、そのリカバリーで時間を取られてしまう。
こいつらがどんなリアクションを取るかも大体わかってきた。
正直言って、タブンネたちのことはどうでもよくなってきてるんだよな。
母タブンネに雑巾を渡して掃除するように言って、父タブンネを洗うために引きずっていく。
倉庫の端っこでは、ポチエナが子タブンネで遊んでいるが、子タブンネがぐったりとしているので退屈そうだ。
このままではポチエナが面白くないだろう。
倉庫の隅に寄せられたオボンの実。父タブンネがダメにしてしまったオボンの実だ。
ぐしゃぐしゃに潰れてしまったうえに、隅にたまっていた砂埃をかぶってしまっている。
195
:
◆EpF9hMHfes
:2013/10/29(火) 22:03:40 ID:MZI883Q20
本スレ見たらボロカスに言われててワロタ
どうにか今週中に終わらせる予定です
終わるといいな
196
:
冬を迎えて春が来て(その16)
◆EpF9hMHfes
:2013/10/29(火) 22:48:35 ID:La3umM2A0
「ポチエナ、待てだ」
ポチエナは子タブンネにじゃれるのを止めると、ちょこんと座って俺のことを見上げてくる。いい子だ。
ポチエナの頭をなでてほめてやり、潰れたオボンの山から適当に実を1つ取る。
皮が破れ、果汁と埃でどろどろになっているそれを、子タブンネの口に入れる。
オボンの味が口の中に広がったのだろう。子タブンネがオボンの実を咀嚼し始める。
ときおり聞こえてくるジャリジャリという音は砂埃を噛む音だろう。
離乳が済んでないとはいえ、オボンの実というのはタブンネにとってはごちそうだ。
のどを詰まらせて「ケフケフ」とせき込みながらも一心不乱にオボンを食べていく。
やがて、口の中に入っていたオボンをすべて食べ終わったのだろう。
フラフラと立ち上がると、ありがとうとでも言うように、弱々しい笑顔を俺に向けてくる。
「ポチエナ、いいぞ」
俺の言葉を着たポチエナは、バッと駆けだして子タブンネに襲い掛かる。
笑顔だった子タブンネの顔が一瞬で恐怖に引きつる。
遊び相手が元気になったことで喜ぶポチエナと、悲鳴を上げて転がる子タブンネ。
俺の持つ縄の先では、父タブンネが涙を流しながら「ミィミィ」と泣いている。
子どもの心配をしている場合じゃないぞ。
雪風の中、父タブンネを引きずりながら俺は思う。
もう飽きたな、と。
・
・
・
197
:
名無しさん
:2013/10/29(火) 23:48:57 ID:EYWArKXc0
>>195
乙です、言いたい奴には言わせておけばいいんですよw
焦らずじっくり仕上げてください
198
:
名無しさん
:2013/10/31(木) 07:54:49 ID:Fn2I6fb.O
果たしてタブンネ一家は無事にこの冬を越せるのか…
期待が高まる展開ですな
作者さん頑張って下さい
199
:
冬を迎えて春が来て(その17)
◆EpF9hMHfes
:2013/11/01(金) 19:56:58 ID:l0vB6M6Y0
空も景色も、何もかもが白に染められていた冬が終わった。
冷たかった空気は消え、眠気を誘うぽかぽかとした暖かさが春になったことを実感させる。
青い空には雲が浮かぶ。ぽわっとした白い雲はタブンネの尻尾のようだ。
あくまで普通のタブンネなら、の話だが。
俺の目の前では3匹のタブンネが深々と頭を下げている。
冬を迎えた時からわが家で飼い始めたタブンネたちだ。
3匹とも毛づやが悪く、毛が抜けてしまった尻尾はとてもみすぼらしい。
タブンネを知らない人が見たら、子どもが散々に遊んだぬいぐるみのように見えることだろう。
このタブンネ家族が俺に頭を下げている理由は簡単だ。
もともと住んでいた森に帰りたいのだ。
春になって暖かくなったことで、野生の世界でも生きていけるようになったから。
そして、俺のもとでの地獄のような生活から早く解放されたいから。
おそらくは後者の比重が大きいだろうが。
冬の間、タブンネたちには心休まる暇がほとんどなかったはずだ。
慣れない仕事を朝から手伝わされ、何か失敗をすれば罰を受ける。
時間があればポチエナの遊び相手にされ、ポチエナが飽きるまで休憩することもできない。
罰として食事を抜かれることもあれば、余った木の実をゴミ処理のように食べさせられる。
悪夢でも見たのか、夜中に飛び起きることもあったようだ。
休めないことで、肉体的・精神的に疲弊し、顔からは生気が失われている。
姿勢はうつむきがちになり、笑顔を見せることはなくなってしまった。
家族で過ごす時も、1か所に集まるだけで何もせず、ぼーっとしているだけだった。
もはや生きていることに何の楽しみも見出せなくなっていたのだろう。
それでも、野生の本能なのか、暖かくなってくると次第に活力を取り戻し始めた。
そして、家族全員で土下座をしてまで、解放してくれとお願いするまでになった。
200
:
冬を迎えて春が来て(その18)
◆EpF9hMHfes
:2013/11/01(金) 19:58:03 ID:l0vB6M6Y0
「わかった、森に帰してやるよ」
俺の言葉を聞いて、タブンネたちが顔を上げる。
あっさり聞き入れてもらえるとは思っていなかったのだろう。その顔には、戸惑いと驚きが半分ずつ含まれている。
俺としてもこいつらを飼うのには飽きていたところだ。最後に希望を与えてやるのもいいだろう。
せめて、楽しませてくれよ。
まだ困惑している様子のタブンネたちを外に出す。
外に出たことで解放される実感がわいてきたのか、3匹の顔にかすかな笑顔が浮かぶ。
久しぶりに見せる笑顔。自分たちの明るい未来に期待している顔だ。
やがて、自分たちが暮らしていた森に向かって、ぽてぽてと歩き始める。
「グラエナ、やれ」
母タブンネの無防備な背中にグラエナが襲い掛かる。
完全に無警戒だったのだろう。母タブンネが「ミミッ!?」と声を上げて地面に倒れる。
倒れた母タブンネの喉にグラエナが噛みつくと、母タブンネの顔が苦痛と恐怖に染まる。
しばらくは抵抗を続けていた母タブンネだが、やがて体から力が抜け、完全に動かなくなった。
母タブンネを仕留めたグラエナが、父タブンネに襲い掛かる。
何が起こったかわからないという顔をしていた父タブンネだが、グラエナが自分に向かってきたと理解すると、
その表情が恐怖で一気に凍り付く。
喉をグラエナに噛まれ、気道を圧迫されて窒息していく父タブンネが俺を見る。
苦痛に満ちた顔には「どうして?」という疑問が浮かんでいる。
201
:
冬を迎えて春が来て(その19)
◆EpF9hMHfes
:2013/11/01(金) 19:59:24 ID:l0vB6M6Y0
父タブンネの疑問に答えてやる。
「お前たちさ、木の実を盗むために俺の畑に来てただろ。泥棒には罰を与えないといけないからな」
その言葉で父タブンネは思い出したのだろう。その顔に絶望の色が浮かぶ。
木の実を取りに来なければ。この人間についていかなければ。
後悔の念が父タブンネの中を占めているだろう。だがもう遅い。
父タブンネの目から光が消えて、体から力が抜ける。
グラエナは父タブンネの体を離すと、次はお前だと言わんばかりに子タブンネをにらみつける。
ポチエナはもともと木の実を守る番犬用に飼いはじめたポケモンだ。
冬の間に成長し、タブンネという練習相手で経験を積んでグラエナに進化したのだ。
そして、本物でたっぷりと練習を積んだ以上、タブンネを仕留めそこなうということはありえない。
そのグラエナににらまれて、子タブンネは完全に竦んでしまっている。
「うちに残るっていうんなら、木の実を盗もうとしたことは見逃してやってもいいぞ。
まあ、それでも野生に戻りたいっていうなら俺は止めないけど……どうする?」
あのときの子タブンネはまだ離乳も済んでいなかったし、木の実を盗むつもりなど全くなかっただろう。
ただ、この状況ではそこまで頭は回るまい。
地獄の日々から解放されると思った瞬間、目の前で両親が死に、その上で2択を突き付けられた。
俺のもとで今まで通りの暮らしを続けるか、グラエナにやられるかという究極の2択を。
202
:
冬を迎えて春が来て(その20)
◆EpF9hMHfes
:2013/11/01(金) 20:00:13 ID:l0vB6M6Y0
子タブンネは「ミィ……」と一声鳴くと、俺のズボンのすそを持つ。
今までの通りの暮らしを受け入れることを選んだのだ。
さきほど見せた笑顔が嘘のように、その顔からは表情が失われている。
「じゃあ行こうか」
歩き出した俺にグラエナと子タブンネがついてくる。
タブンネたちが俺に飼われることになった、あのときを再現するかのような光景。
あのときと違うのは、ポチエナがグラエナになったこと、子タブンネはたった1匹だけになったこと。
そして、子タブンネの心の中には何の希望もないということ。
苦痛と絶望しかないということがわかっていながら、それを受け入れた子タブンネの気持ちはいかなものか。
おそらく子タブンネは長くはもつまい。
どれだけ生きても希望などないとわかっているから。
絶望を分かち合うことのできる両親もすでにいないのだから。
(おしまい)
203
:
◆EpF9hMHfes
:2013/11/01(金) 20:04:31 ID:l0vB6M6Y0
以上でおしまいです
ずいぶん長々と、最後の方はぶん投げになってしまいました
やっぱり長編を書くのは難しいです
204
:
名無しさん
:2013/11/01(金) 21:54:54 ID:6AJAwYKE0
>>203
乙です、大作お疲れ様でした
>絶望を分かち合うことのできる両親もすでにいないのだから
このフレーズいいですねえw やはりタブンネには絶望がよく似合います
205
:
名無しさん
:2014/01/20(月) 22:18:53 ID:Lg0Q0ooM0
誰もいないな
206
:
6番道路に暮らすタブンネ(その1)
◆f70oZErA2w
:2014/01/28(火) 22:58:46 ID:oNwsRJx60
そのタブンネは、いつもお腹を空かせていました。
ごはんを探すために、1日かけて草むらの中を歩き回るだけの毎日を送っています。
食べ物はほとんどなく、わずかに咲いている花から蜜を吸って、空腹をまぎらわせています。
ある日、いつものようにごはんを探していたタブンネは、あるものを見つけました。
それは、うすい緑色の木の実をたくさんつけた大きな木でした。
タブンネは大喜びしました。これからは毎日、木の実を食べることができそうです。
タブンネはさっそく、根元に落ちていた木の実を拾います。
片手で持てるくらいの小さな木の実ですが、今のタブンネにとってはこの上ないごちそうです。
両手で持った小さな実に、笑顔を浮かべたタブンネが思いっきりかじりつきます。
「ウムゥ……ムッ、ムムム………………ミィ?」
タブンネは不思議そうな顔で、両手で持った木の実を見つめています。
木の実の表面にはうっすらとした傷があるだけで、木の実はきれいな形のままです。
そう。この木の実はとてもかたくて、タブンネの力ではかじることができなかったのです。
タブンネはすっかり困ってしまいました。
ちゃんとしたごはんを毎日食べることができると思ったのに。
目の前のごちそうを食べられない。その状況に、タブンネはがっくりと肩を落とします。
落ち込んでいるタブンネでしたが、あることを思いつきました。
近くの草むらを歩き回って、しきりに何かを探しています。
やがて、タブンネは大きな石を見つけると、それを持って木の実のところに向かいました。
ひとかかえもある大きな石を、タブンネはヨイショヨイショと運んでいきます。
この石を使って、かたい木の実を割ろうと考えたのです。
そして、フラフラと重たい石を持ち上げて、思いっきり木の実に向かって石を落とします。
「ミッキャア!?」
木の実に落としたはずの大きな石は、タブンネの足の上にも落ちてしまいました。
足がつぶれてしまった痛みに、タブンネは悲鳴を上げながら地面をゴロゴロと転がります。
しばらくの間、足を押さえたタブンネは、のたうちながら痛みに耐えています。
207
:
6番道路に暮らすタブンネ(その2)
◆f70oZErA2w
:2014/01/28(火) 23:00:43 ID:oNwsRJx60
やがて、それなりに痛みが引いてくると、おそるおそる自分の足を見てみました。
つま先がつぶれてしまい、クリーム色だった足先は、血によって真っ赤に染まっています。
予想外の光景に、タブンネの口からは「ヒィッ……!?」という鳴き声がもれます。
タブンネはグスグスと涙を流します。
足が痛いこともそうですが、つま先がつぶれている光景がすごくショックだったのです。
体を小刻みに震わせながら、タブンネはひたすら涙を流し続けます。
そのとき、タブンネはあることを思い出しました。あの木の実はどうなったのだろう。
痛む足を引きずりながら、さっきの木の実のところに向かいます。
自分の足をつぶした大きな石。その近くに転がっている木の実を見てみると、
「ミィィ♪」
木の実はきれいに割れていました。
とてもかたい皮は2つに分かれ、中からは果肉が姿を見せています。
足の痛みも忘れ、タブンネの顔には笑顔の花が咲いています。
タブンネは割れた木から果肉を取り出すと、口の中に入れてモグモグとその味をかみしめます。
「ムッ♪ ムッ♪ …………ムグッ!? ガガッ! ウエエエエエエエエエエッ!」
タブンネは目を大きく見開くと、あわてて木の実を吐き出します。
口を大きく開けて手を入れると、口の中に残っている木の実を必死にかき出します。
口の中から木の実をすべて出し終えても、タブンネは「ウエッ、ウエッ」と舌を出して悶絶しています。
タブンネが食べたもの。
それは、カロス地方では6番道路にしかできない『バンジの実』というものです。
この『バンジの実』はとてもかたい皮を持ち、その味はかなり苦いのです。
オボンの実やオレンの実を好むタブンネにとって、その味は受け入れられません。
タブンネはヨロヨロと立ち上がると、バンジの木から離れて巣へと向かいます。
その背中はがっくりとうなだれており、ひどく落胆していることがわかります。
せっかく見つけた木の実は、ごちそうどころか、食べることすらできそうになかったのです。
その上、足までつぶれてしまったのですから、落ち込むのも無理はないでしょう。
208
:
6番道路に暮らすタブンネ(その3)
◆f70oZErA2w
:2014/01/28(火) 23:04:46 ID:oNwsRJx60
タブンネは草むらの中にある自分の巣に戻ると、横になり体を丸めます。
クゥクゥと鳴るお腹を両手で押さえて目を閉じ、空腹に耐えながら夜を明かすのです。
これはタブンネにとっていつものこと。
1週間、水しか飲めないこともよくあることなのです。
翌朝、タブンネはいつもより早く目を覚ましました。
自分の足を見てみると、つぶれていたはずの足はいつもの形を取り戻しています。
高い再生能力をもつタブンネならば、とくに珍しい光景ではありません。
タブンネは巣から出てくると、その場で何歩か動いてみます。
足の調子はいつも通り。これなら、今日も1日中ごはんを探すことができそうです。
タブンネは「ミッ!」と気合を入れると、近くの草むらに入っていきました。
今日こそは、何か食べられるものをみつけるために。
おなかいっぱい食べられる日を夢見ながら、6番道路のタブンネは今日も歩きまわっているのです。
……たぶんね。
(おしまい)
209
:
名無しさん
:2014/01/28(火) 23:34:56 ID:Wc6wnCVI0
>>206-208
こちら側への久々の投下乙です
過激な暴力や虐殺ではなく、こういう小さな不幸に遭うってのもいいものですね
210
:
名無しさん
:2014/01/29(水) 00:04:00 ID:/UFu9R8M0
乙でした
厳しい自然界で一生懸命生きているタブンネを見ているとタブンネ狩りで理由なき暴力を振るいたくなりますね
シリーズ化に期待
211
:
名無しさん
:2014/01/29(水) 00:04:38 ID:/UFu9R8M0
乙でした
厳しい自然界で一生懸命生きているタブンネを見ているとタブンネ狩りで理由なき暴力を振るいたくなりますね
シリーズ化に期待
212
:
名無しさん
:2014/01/29(水) 00:05:49 ID:/UFu9R8M0
連投失礼しました…
213
:
6番道路の木の実畑(その1)
◆f70oZErA2w
:2014/02/02(日) 19:33:06 ID:oBrlejaE0
そのタブンネは、いつもお腹を空かせていました。
1日かけて食べ物を探し、空腹に耐えながら夜を過ごす。
そんな毎日を送っています。
ある日のことです。
タブンネはいつもより少し遠くまで、ごはんを探しに来ていました。
あてもなく歩いているうちに、タブンネはあるものを発見しました。
タブンネの視界には、たくさんの木が並んでいる光景がうつっていました。
しかも、1つ1つの木には、たくさんの木の実がなっていたのです。
タブンネの顔が、だんだんと喜びに満ちた笑顔へと変わっていきます。
「ミィ……♪」
たくさんの木になった、たくさんの木の実。
今日こそはお腹いっぱい、ごはんを食べることができそうです。
喜びの鳴き声を上げながら、タブンネは木の実の方へと駆け出します。
と、そのときです。
「こらぁっ!」
突然、タブンネに向かって浴びせられる大きな声。
タブンネは「ミィィッ!?」と驚きの声を上げて立ち止まります。
おそるおそるといった様子で、大きな声の方にタブンネは顔を向けます。
そこには1人の人間と、1匹のポケモンが立っていました。
人間は腕組みをして立っており、タブンネのことをにらみつけています。
人間の後ろでは、タブンネより二回り以上大きなポケモンがタブンネの方を見ています。
タブンネは知る由もありませんが、ここは7番道路にある木の実畑。
人間たちが、自分やポケモンのために大切に木の実を育てる場所なのです。
ごはんを食べたいだけのタブンネも、人間にとっては木の実を狙う虫ポケモンと何も変わりません。
こわい顔でにらまれて、タブンネはくるりと振り向いて、来た道を戻ります。
どんなに無理をしたところで、木の実を手に入れることはできそうにないからです。
何度も木の実の方を振り返りながら、タブンネは6番道路にある自分の巣に戻っていきました。
214
:
6番道路の木の実畑(その2)
◆f70oZErA2w
:2014/02/02(日) 19:34:06 ID:oBrlejaE0
それから毎日、タブンネは木の実畑に通いました。
今日こそは。今日こそは。
たくさんの木に、たくさんの木の実。
あの魅力的な光景は、タブンネがあきらめることを許さなかったのです。
何度も怒鳴られ、何度もにらまれ、ときには痛い思いもしました。
それでもあきらめることなく、毎日毎日、木の実畑に向かいました。
そして、そんなタブンネに神様が少しだけ味方をしてくれるときがきました。
「ミィ……?」
いつものように追い払われて帰る途中、タブンネはあるものを見つけました。
それは、畑の隅の方に捨てられていた小さな木の実でした。
木になっている実よりは小さく、水分を失ってしなびてしまっています。
それでも、それはタブンネが欲しかった木の実なのです。
タブンネはその実を拾うと、ポテポテと巣のある6番道路に走っていきます。
嬉しくてたまらないといった様子が、タブンネの笑顔からわかります。
ようやく手に入れることのできた木の実。今日はおいしいごはんを食べられそうです。
しかし、タブンネは6番道路に戻ってくると、木の実を土の中に埋め始めました。
やがて、木の実を埋め終えると、タブンネは近くの草むらに姿を消してしまいました。
しばらくして戻ってきたタブンネ。
何かを口に入れているのか、口をぎゅっと閉じています。
さっき木の実を埋めたところに行くと、タブンネは口から何かを吐き出しました。
タブンネが吐き出したもの。それは近くの池の水です。
タブンネの吐き出した水によって、木の実の埋まった土が濃い色に変わります。
タブンネはそれを見て満足そうな笑みを浮かべると、また草むらの中に姿を消していきました。
実は、このタブンネは木の実を育てようとしているのです。
毎日、木の実畑に通ううちに、タブンネは人間が木の実を育てていることに気が付きました。
そして思ったのです。
自分で育てれば、好きなだけ木の実を食べることができると。
215
:
6番道路の木の実畑(その3)
◆f70oZErA2w
:2014/02/02(日) 19:35:32 ID:oBrlejaE0
タブンネの暮らしは変わりました。
1日中ごはんを探し続ける毎日から、木の実を育てる毎日へと。
池から水を持ってきて土を濡らし、草が生えてきていればそれを抜く。
虫ポケモンが来ていれば、大きな声で追い払う。
人間がやっていたことを真似しながら、タブンネは何とか木の実を育てようとしました。
それは今まで以上につらい毎日でした。
食べ物を探す時間が少なくなったので、今まで以上にお腹がすきました。
池と木の実の間を何回も行ったり来たりするので、今まで以上に疲れました。
ときには虫ポケモンと戦わなくてはいけなかったので、今まで以上にケガをしました。
それでも、タブンネの気持ちはすごく充実していました。
がんばれば木の実をたくさん食べられるのだから。
ごはんを探すだけのつらい生活を送る必要がなくなるのだから。
そんなタブンネのがんばりは、しっかりと形になりました。
小さいながらも木は育ち、枝を広げ、青々とした葉を茂らせ、そしてついに花が咲きました。
木の高さはタブンネとほとんど変わらないくらいの小さな木。
それでも、それはタブンネが毎日がんばることで手に入れた、小さな成果です。
花が咲いた翌日、タブンネは気がつきました。
花が咲いていたところには、かすかに色づいた木の実がなっていることに。
タブンネの努力が文字通り、実を結んだ瞬間です。
それを見て、タブンネはワクワクしながら巣に戻ります。
木の実はすでにうっすらと色がついていました。
あれなら、明日には木の実を食べることができそうだからです。
翌日、タブンネは目を覚ますと、ウキウキしながら木の実のもとに向かいます。
今日までがんばって育てた木の実。それを食べる瞬間はすぐそこです。
「ミミィ♪ …………ミィ? ミッ!? ミィィッ!?」
その瞬間はすぐそこのはずでした。
しかし、タブンネが木の実のところに到着したとき。
食べられるはずの木の実は、1つ残らずなくなっていたのです。
216
:
6番道路の木の実畑(その4)
◆f70oZErA2w
:2014/02/02(日) 19:36:38 ID:oBrlejaE0
タブンネはあわてました。
今日にも食べられると思っていた木の実がなくなっているのだから当然です。
木の周りや、近くの草むらに木の実が落ちていないか、必死に探します。
しかし、どれだけ探しても木の実は見つかりませんでした。
タブンネはがっくりと落ち込みましたが、すぐに気持ちを切り替えます。
色づき始めた木の実はまだ残っていますし、木がダメになったというわけでもありません。
明日になれば、今度こそは木の実を食べることができるはずです。
タブンネはいつものように木の世話をすることにしました。
そして次の日。
タブンネは昨日よりも早く目を覚ましました。
今日こそは木の実を食べられると思うと、あまり眠れなかったのです。
軽い足取りで、ウキウキしながら木の実のもとに向かうタブンネ。
しかし、木の実はすぐそこだというところでタブンネの足が止まります。
木がある方から、何かの音が聞こえるのです。
タブンネは草むらに隠れたまま、そっと木の様子を確認します。
「こんなとこにオボンの実があるとはだれも思わないだろうね。ついてるなぁ」
なんと、タブンネが大事に育てた木の実を人間がとっているのです。
タブンネは草むらから飛び出そうとしますが、すぐに動きを止めます。
前にタブンネを追い払った人間は強そうなポケモンを連れていました。
目の前で木の実をとる人間も、強いポケモンを連れているかもしれないと思うと、動くことができません。
結局、おいしそうに色づいた木の実を人間がとるのを、タブンネは見ていることしかできませんでした。
さて、この人間はタブンネにいじわるをしているわけではありません。
タブンネが木の実を育てているなんて、ふつうは考えられないことでしょう。
ほかのトレーナーと同じように、自然になっている木の実をとっているだけなのです。
タブンネはひどくショックを受けました。
自分ががんばって育てた木の実が、自分以外の誰かに持って行かれていたのですから。
悔しそうにうつむいて、プルプルと震えています。
217
:
6番道路の木の実畑(その5)
◆f70oZErA2w
:2014/02/02(日) 19:38:11 ID:oBrlejaE0
それでもタブンネはへこたれません。
次の瞬間には「ミィッ!」と顔を上げると、池まで水を取りに行きます。
今日がダメでも、明日なら大丈夫かもしれないのですから。
つらい生活には慣れています。今までずっとそうだったのですから。
食べ物を探すだけの毎日に比べれば、木の実を育てている今の暮らしはとっても幸せなのです。
たとえ、自分の育てた木の実を自分で食べることができないとしても。
6番道路に暮らすタブンネは、今日もがんばって木の実を育てます。
毎日毎日、木の実の世話を続ければ、いつかはおなかいっぱいに木の実を食べられる日がくることでしょう。
…………たぶんね。
(おしまい)
218
:
名無しさん
:2014/02/03(月) 22:13:05 ID:b.WnZDk60
乙です!
最近こういったほのぼの作品はあまり見られないのですがたまにはいいですねえ
タブンネの健気な努力は…永遠に報われないほうが美味しいですねw
219
:
はじめての節分
◆f70oZErA2w
:2014/02/05(水) 17:27:00 ID:36YAA9tA0
「ただいまー」
「ミッミィ♪」
帰宅した僕を、笑顔のタブンネが出迎えてくれた。
タブンネの頭をひとなでしてから、自分の部屋に行って、背広から部屋着に着替える。
リビングに行くと、タブンネが不思議そうな顔で、スーパーのビニール袋をのぞき込んでいた。
「それが何か気になるかい?」
「ミィ、ミッミッ」
タブンネはコクコクとうなずく。
そうだろう。普段ならみることのないものが入っているのだから。
ビニール袋の中からそれを取り出して、タブンネの目の前に出す。
「じゃじゃーん! なんだかわかる?」
「ミィ? ミィィ……?」
タブンネは首をかしげる。
目の前のものが何なのか、どうやらわからないみたいだ。
まあ、ポケモンのタブンネが人間の文化を知っているはずがないから当然だけど。
僕がタブンネの前に出したもの。それは袋に入った大豆と、紙でできた鬼のお面。
今年の夏にわが家にやって来たタブンネにとっては、初めてむかえる節分の日だ。
自分の頭に鬼のお面をつけて、タブンネには大豆の入った袋を持たせる。
「ほら、タブンネ。その豆を僕に向かって『おにはーそとー』って投げるんだよ。」
「ミッ!? ミィッ! ミィッ!」
そんなことできないと言わんばかりにタブンネはブンブンと激しく首を振る。
飼い主に向かって物を投げるなんてできないということかな。
でも、きょうはそういう日なんだから、僕としてはタブンネにやらせてあげたいんだけど。
「そういうお祭りなんだよ。タブンネがやってくれると僕はうれしいんだけどなぁ」
「ミィ……ミミッ! ミィミッ!」
タブンネは袋に手を入れて豆を取り出すと、下手投げで豆を投げ始めた。
しかし、上手く投げられないのか、豆は真上にちょこっと跳ぶばかりで、僕の方には全然飛んでこない。
タブンネは『投げつける』をおぼえないポケモンだから、これはしかたないことだろう。
220
:
はじめての節分(その2)
◆f70oZErA2w
:2014/02/05(水) 17:28:13 ID:36YAA9tA0
ちなみにタブンネは豆を放り投げて続けている。
小さな手で2、3個ずつ豆を取り出し、時には落ちている豆を拾い上げて投げる。
よっぽど楽しいのか、ニコニコと笑顔になって、飛び跳ねながら豆を投げている。
「タブンネ、そろそろ交代しようか」
「ミフー、ミフー……ミィッ♪」
タブンネの頭に鬼のお面をつけてあげ、豆の入った袋をタブンネからもらう。
しかしまあ、息切れするほど豆を投げ続けるとは……。そうとう楽しかったんだろうなぁ。
豆、ほとんどなくなってるし。
「じゃあいくよー。おにはーそとーっ!」
「ミッキャ!? ミッヒィ!? ミィヤァァァァァァッ!」
タブンネに向かって豆を投げつけると、タブンネがあわてた様子で逃げ回る。
短い手で頭をかかえて、せまいリビングの中をポテポテと走り回る。
そのうちに、鬼のお面がずれて、タブンネの顔全体をすっぽりと覆う。あれじゃあ前が見えな……
「タブンネ、あぶない!」
「ミブッ!?」
・
・
・
・
「ほら、もう血は止まったよ」
「ミィィ〜……」
新しいティッシュでタブンネの鼻を何度か拭いて、血が止まっていることを確認する。
タブンネはすっかり落ち込んでしまっており、グスグスと涙を流している。
これは元気づけてあげないといけないよね。
「タブンネ、豆を食べよっか」
「……ミィィ? ミィ♪」
しょんぼりしていたタブンネの顔がすぐに笑顔になる。うまくいったみたいだ。
さっきまで落ち込んでいたタブンネは、どれにしようかなと床に落ちている豆を選び始める。
節分では自分の歳と同じ数の豆を食べるのだ。タブンネは確か……
221
:
はじめての節分(その3)
◆f70oZErA2w
:2014/02/05(水) 17:29:30 ID:36YAA9tA0
「あっ! タブンネ、やっぱ食べちゃダメ!」
「ミィッ!?」
口を開けて、今まさに豆を食べようとしていたタブンネの手をたたいて、豆を落とさせる。
僕の突然の行動に、タブンネは目を白黒させ「なんで!?」という顔で僕を見る。
腰を下ろし、タブンネの頭を優しくなでながら説明する。
「タブンネはまだ1歳になってないだろう? だから今年はおあずけ」
「ミィィ……」
よくわからないがダメなものはダメ。そう理解したタブンネががっくりと肩を落とす。
花のような笑顔から一転、さっきまでの落ち込みっぷり以上の落胆の色を見せている。
でも大丈夫。そんなタブンネの笑顔を取り戻すためのものが、まだ残っている。
「タブンネ、こっちなら食べていいよ。幸せになれる食べ物だよ」
「ミィ? ……ミッ!? ミミィ♪」
タブンネの顔が一瞬で笑顔に変わる。
僕が取り出したものは、豆やお面といっしょにスーパーで買ってきた恵方巻きだ。
タブンネでも食べられるように、ちゃんと小さいサイズのものを選んできた。
恵方巻きをタブンネに持たせて、食べる時のきまりを教える。
食べている間はしゃべらないこと。口から離さないようにして食べること。
それを聞いてタブンネはうなずくと、恵方巻きを両手で持って口に運ぶ。
恵方巻きがタブンネの口にゆっくりと飲み込まれて……いかない。
タブンネは何とか食べようとしているのだが、どうにも上手く食べられないようだ。
さっきの豆まきといい、タブンネは特性『ぶきよう』なのかもしれない。
まったく減らない恵方巻きに、今にも泣きそうな顔で挑み続けるタブンネ。
このまま食べれなかったらさすがにかわいそうだよなぁ。
よし、手伝ってあげよう。
「タブンネ、がんばって。ほら」
「ムッグ!? ンンン!? ゲホォッ!?」
222
:
はじめての節分(その4)
◆f70oZErA2w
:2014/02/05(水) 17:30:06 ID:36YAA9tA0
恵方巻きを押して、タブンネが食べるのを手伝ってあげる。
すると、口の中に急激に押し込まれたことで、むせたタブンネが恵方巻きを吹き出してしまった。
涙を流しながらゲホゲホとむせるタブンネを落ち着かせるように、小さな背中を何度もさする。
「幸せ……吐き出しちゃったね」
「ミック……ミック……ミェェェェェン」
それまでも涙を流していたタブンネだったが、僕の言葉がショックだったのか、本格的に泣き出してしまった。
タブンネを傷つけるつもりはなかったんだけどな。でも大丈夫。
スーパーの袋から自分用に買っていたもう1本の恵方巻きを取り出す。
タブンネの幸せは僕の幸せ。つまり、僕が幸せなら、それはタブンネも幸せってことだ。
しかし、恵方巻きって意外と小さいんだな……って、あれ?
「恵方巻き『ミニサイズ』……」
買ってきた恵方巻きは2本。
僕用に普通サイズを、タブンネ用にミニサイズを。
つまり、さっきタブンネがうまく食べられなかったのは……
「タブンネ」
「ミィ?」
「来年は豆も恵方巻きも、ちゃんと食べられるからね」
「ミィッ♪」
(おしまい)
223
:
◆f70oZErA2w
:2014/02/05(水) 17:35:14 ID:36YAA9tA0
今更感がありますが、節分ネタです
ほのぼのしているだけのSSになってしまったorz
ほのぼの系ばっかりというのもあれですし、そろそろ過激なのも書いてみようと思います
224
:
名無しさん
:2014/02/05(水) 23:06:05 ID:.1FmFqWs0
>>223
乙です。ほのぼの系もOKですよ。
私ならフライパンで炒った豆をぶつけたり、
特大サイズの恵方巻きを突っ込んで窒息させそうですがw
過激なのもお待ちしています。
225
:
タブンネと戦争・プロローグ
◆f70oZErA2w
:2014/02/11(火) 00:00:37 ID:gVHJp.Co0
<プロローグ>
これは、イッシュの歴史の闇に葬られたお話。
戦時中のイッシュに生きた、とあるタブンネのお話。
街のあちこちから炎が上がり、森の木々が音を立てて激しく燃える。
燃え上がる炎により赤く、立ち上る煙によって黒く染まった空。
禍々しい色の大空を、何十羽ものバルジーナが獲物を探して飛んでいる。
彼らが狙うのは体力が落ちていたり、傷ついていたりする弱ったポケモンだ。
そのときである。バルジーナの群れが降下し始め、平原のある1点に集まり始めた。
平原にできた黒い塊のその中心。戦場には似つかわしくない鮮やかなピンク。イッシュ全土に暮らすタブンネだ。
森の木が燃えたことで木の実が取れず、森の中の池には仲間のタブンネの死骸が浮かび、水を飲むこともできない。
飢えと乾きに苦しみ、弱ったタブンネが狙われるのは必然であったと言えよう。
「ミィィ……ミヤァァ……」
弱り切ったタブンネに、抵抗する力は残されていない。
わずかに残った肉を、皮を、目を、内臓を。そして、血の1滴でさえもバルジーナたちは飲み込んでいく。
自分という存在が確実に削られていく。そんな極限の苦痛を受けながら、タブンネは静かに絶命した。
新たな獲物を探すのか、それとも巣に戻るのか、食事を終えたバルジーナたちが次々と飛び去っていく。
残されたのは割れた骨と、ピンクの体毛に白い尻尾。食べられるところなど残っていない、タブンネの骸だけ。
いや――
少し離れた、わずかに残された草の茂み。
その中では1匹のタブンネが恐怖に震えていた。
バルジーナたちに見つかる寸前に茂みの中に隠れ、そのまま茂みの中で息を潜めていたのだ。
仲間であるタブンネが食べられていく音をずっと聞かされながら。
仲間であるタブンネが、自分に向かって助けを求める声をずっと聞き続けながら。
タブンネは茂みの中からそっと空を見上げる。
かつて見た青空はそこになく、何かが崩れるような音が遠くから響くだけ。
タブンネは想う。
明るかった空の輝きを。仲間とともに過ごした平穏な日々を。
(<通じない言葉>につづく)
226
:
◆f70oZErA2w
:2014/02/11(火) 00:11:18 ID:Et0LOvPw0
今回は長いSSになりそうです
<通じない言葉> <拷問による尋問> <解剖実験>の三部構成を予定しています
早ければ今週中には投下できると思いますので、ゆっくりお待ちください
227
:
名無しさん
:2014/02/12(水) 22:29:05 ID:WQG9yB/.0
>>226
乙です。サブタイトル見ただけでゾクゾクしますねw
焦らずにじっくりどうぞ。
228
:
タブンネと戦争・通じない言葉
◆f70oZErA2w
:2014/02/13(木) 20:24:15 ID:74hOe6wE0
<通じない言葉>
何もない平原をタブンネは歩く。
すっかり荒れ果ててしまった平原をタブンネは歩く。
何かをするでもなく、何か目的があるわけでもなく、ぼんやりとタブンネは歩く。
タブンネの頭の中では、仲間のタブンネの最期の声が何度も繰り返されている。
助けて。まだ死にたくない。
仲間の言葉は呪いのように、タブンネの頭の中で何度も繰り返されていく。
だからタブンネは気付けなかった。
遠くから聞こえていたはずの、人間の話し声に。
声の主が自分のすぐそばまでやって来ていることに。
『おい。お前はなんだ? そこで何をしている?』
声をかけられ、タブンネはビクリと身をすくませる。
突然声をかけられたことにも驚いたし、いつのまにか人間に接近されていたことにも驚いた。
タブンネは声をかけてきた人間をまじまじと見る。
見慣れない姿。イッシュの人間とはどこか異なる雰囲気の男。何を言っているのか理解できない言葉。
状況がまったくわからず、タブンネは困惑した様子で立ちつくす。
『おい? このへんでイッシュのやつらを見なかったか? 何か知らないか?』
何のリアクションも起こさないタブンネに対して、その男は再び言葉をかける。
しかし、タブンネには男が何を言っているか理解できない。
イッシュに生きるタブンネには、イッシュの言葉しか理解できない。
タブンネはどうしていいかわからずに、ただ「ミィ……」と小さく鳴くことしかできなかった。
『me……? お前、自分がそうだって言ってるのか? つまり、そういうことか?』
男の言葉はタブンネにはわからない。それでもタブンネは笑顔を浮かべる。
タブンネというポケモンに特有の、親愛を表現するやわらかい笑顔。
あなたのことはわからない。だけど、せっかく出会ったのだから仲良くしましょう、と。
229
:
タブンネと戦争・通じない言葉
◆f70oZErA2w
:2014/02/13(木) 20:25:15 ID:74hOe6wE0
男は何かを納得したようにうなずく。
タブンネの笑顔を、質問に対する肯定と受け取ったようだ。
次の瞬間、軍靴の硬い靴先が、無防備に立つタブンネの腹にめり込んだ。
「ミ……!? ガハッ……!? ミィィッ……!?」
親愛の情を向けた相手から振るわれた暴力。
突然の衝撃は体の奥深くまで広がっていき、タブンネの内臓が収縮する。
「ア゛!? エ゛エッ!? エッ! エエッ!」
内臓全体が裏返るような感覚。
タブンネの胃が痙攣し、中身をすべて外に送り出そうとする。
しかし、数日間、何も食べていない胃はからっぽで、タブンネは空えずきを繰り返すだけだ。
地面を這って逃げようとするタブンネに、男はさらに暴力をふるう。
タブンネにはわからない言葉でタブンネを罵りながら、何度も蹴り上げ、何度も踏みつける。
容赦なく襲い掛かる暴力の嵐を、タブンネは体を丸めて必死に耐える。
そして、それは始まったときと同じように、唐突に終わりを迎えた。
『何を騒いでるんだ? イッシュのやつらに見つかっちまうぞ』
タブンネに暴行を加える男と異なる、別の男の声。
やはり、その言葉の意味はわからない。だが、タブンネにとっては苦痛から解放してくれる救いの声。
『いや、こいつにイッシュ軍を知ってるかって聞いたら「me」って答えたもんだからよ……』
『……は?』
2人のやり取りをタブンネはうつろな顔で眺める。
やがて、あとから来た男がタブンネのところに来ると、タブンネのことをまじまじと見つめてくる。
これで解放される。そう思ったタブンネは笑顔を浮かべ、弱々しく「ミィ」と鳴く。
それを見て、あとから来た男は『ククク』と笑い始めた。
230
:
タブンネと戦争・通じない言葉
◆f70oZErA2w
:2014/02/13(木) 20:26:08 ID:74hOe6wE0
『あれだろ。こいつ、鳴き声が「ミィ」なんじゃないか?』
『え?』
『『…………』』
『『…………ハッハッハ』』
『『アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!』』
顔を見合わせたかと思うと、突然笑い出す男たち。
わけがわからないながらも、楽しそうな様子にタブンネの気持ちも少しばかり晴れやかなものになる。
『この糞野郎が。無駄な時間使わせやがって』
笑顔から表情を一変させた男が、倒れているタブンネの触覚を乱暴につかむ。
敏感な触覚をつかまれたタブンネの顔が苦痛にゆがみ、触覚を通して男たちの感情が流れ込む。
憤怒。敵意。興味。嘲弄。悪意。
それらの感情をタブンネはよく知っている。
まだ戦争が始まる前、森で暮らしていた時に幾度となく向けられた感情。
「ミィィィィィィ――――ッ!!」
獲物として狩られ続けた苦痛と恐怖の日々がよみがえり、タブンネの口から悲鳴が上がる。
『うるせーんだよ、カス!』
タブンネの悲鳴を遮るように、男たちがタブンネの顔を踏みつける。
顔面を地面に押し付けられ、タブンネの口が渇いた土を噛む。
『なあ、これどうする?』
『あん? そうだなぁ……』
必死にもがき、タブンネは何とかしてこの場から逃げようと試みる。
しかし、男たちはタブンネを踏む足にさらに体重をかけていき、タブンネが逃げることを許さない。
徐々に増えていく圧力に、タブンネの頭蓋がミシミシと軋みをあげる。
231
:
タブンネと戦争・通じない言葉
◆f70oZErA2w
:2014/02/13(木) 20:27:00 ID:74hOe6wE0
早く逃げないと。早く逃げないと。
どんどん強くなっていく痛みを無視し、タブンネは必死に地面を掻く。
だって早く逃げないと――
『とりあえずぶっ壊れるまで遊んでやろうか』
『いいなそれ』
狩られ続けたあの日々が優しく思えるほどの地獄がこの先に待っているのだから。
・
・
・
・
「ミィ……?」
最初、タブンネは自分がどこにいるのかわからなかった。
固い地面の上でうつぶせの状態で踏まれていたはずだが、今の自分は何かやわらかいものの上で仰向けになっている。
夢でも見ていたのかと思ったが、全身に走るひどい痛みがそうでないことを教えてくる。
音から周りの状況を判断しようと、目を閉じて、耳に全神経を集中させる。
「しかし、面倒なことになったなぁ」
人の話し声。しかも、それはタブンネにわかるイッシュの言葉。
どうやら、自分はイッシュの人に助けてもらったらしい。
地獄から解放された事実に、タブンネは安堵の息を吐いて笑顔を浮かべる。
しかし、次の瞬間、タブンネの笑顔は一瞬で凍りつくことになる。
「あのタブンネが敵に情報を流してたらしいな」
「ああ。それでこのあと尋問だってさ。軍の伝統にのっとった、とびっきりヤバいやつ」
タブンネの体が震えだす。
自分はこれから、敵に情報を流したスパイとして尋問されるのだ。
逃げようと体を起こそうとしたタブンネだが、激しい痛みのせいで思うように体をうごかせない。いや、ちがう。
タブンネは気付いた。自分の体が革のベルトで台にしっかりと縛り付けられていることに。
「ミッ、ミィィ……!?」
自分を逃がす気などないことに気付いたタブンネの口から悲鳴のような鳴き声がもれる。
その鳴き声で、タブンネが目を覚ましたことに気付いた人間たちの会話が止まる。
「あ、起きたみたいだな。上官のところに連れて行かないと」
「そうだな。……そんな顔すんなよ。ちゃんと本当のことを話せば大丈夫だって。」
無事に済むとは思えないけど。
ニヤニヤと笑いながらそうつぶやくと、2人は台を押して、タブンネをどこかへと運んで行く。
言葉が通じるということは決してよいことばかりとは限らない。
言葉が通じるからこそ、伝わってしまう悪意というものは確実に存在する。
タブンネの瞳からは次々と涙があふれだす。
これから先、自分の身に待ち受けている未来と、そこから予測できる恐怖に体を震わせながら。
(<拷問による尋問>に続く)
232
:
名無しさん
:2014/02/15(土) 01:34:58 ID:qqOrnGrM0
乙です。理不尽な暴力と虐待に晒される姿が似合うタブンネには
戦場とはもってこいの舞台ですね、面白いです。続きが楽しみです。
233
:
タブンネと戦争・拷問による尋問
◆f70oZErA2w
:2014/02/15(土) 05:37:38 ID:d5IrdlhI0
<拷問による尋問>
「もう1度だけ言おう。我々は君のポケモンとしての権利を尊重するつもりでいる」
椅子に座っている男が声を発する。
とても暗い部屋だ。小窓の1つもく、天井に吊るされた電球が照らすだけの暗い部屋。
電球に照らされた男の顔がやわらかい微笑みのかたちをつくる。
「さあ、なんの情報を流したのか正直に言うんだ。そうすれば、すぐにでも君を野生に返してあげよう」
軽く握り合わせた両手をテーブルの上に置き、テーブルの反対側にいる相手に優しく語りかける。
テーブルの反対側。そこにいるのは椅子に座っている――いや、座らされているタブンネだ。
手は後ろに回した状態で固定され、体を動かせないように、椅子の背もたれにロープで縛りつけられている。
最初はしびれていた足も、長時間の拘束によりすっかり感覚がなくなっている。
「ミッ……ミィィ……」
かろうじて動かせる顔を対面の男に向けて、必死に訴える。
自分は何もしていない。あそこにいたのは偶然で、敵の兵たちには暴行を受けていただけなのだと。
それは些かの誇張もない正当な主張。しかし――
バァン!
男が机をたたく。部屋全体が震えるかと思わせるほどの大きな音。
耳のいいタブンネにとって、その音はただ殴られるよりもつらいもの。目を閉じ、歯を食いしばる。
「さっきから言ってるだろう! 「ミィ」じゃわからん! 我々にもわかるように話せ!」
さきほどから何度も繰り返されるやり取り。
男は言っているのだ。鳴き声ではなく、人間の言葉を使って話せ、と。
もちろん、ただのポケモンであるタブンネにそんなことができるはずもない。
タブンネは涙を流しながら首を横に振る。
「ほう。首を横に振ったということは、教えるつもりはないってことか。なんとも見事な口の堅さだ。
スパイじゃなければ、看護兵として正規に使ってやってもいいぐらいだ」
タブンネはうつむく。
どうやったところで自分は解放されない。こうやって縛り付けられたまま生きていくしかないのだ。
タブンネは顔を上げると、部屋の中を見回して助けを求める。
234
:
タブンネと戦争・拷問による尋問
◆f70oZErA2w
:2014/02/15(土) 05:42:10 ID:d5IrdlhI0
部屋の中にいるのは男とタブンネだけではない。部屋の中には、男以外に数人の兵士がいる。
彼らは何かをするわけでもなく、ただじっと立ったまま、男とタブンネのやり取りを見つめている。
そして、その中の1人が前に出て発言する。
「あの……タブンネに尋問するということが無理な話なのではないでしょうか」
男はタブンネから、発言をした兵士のほうに目を向ける。
部屋の中が数瞬だけ沈黙し、男が口を開く。
「報告書は見たか? 戦場だというのに、このタブンネと敵の兵士が楽しそうに笑っていたらしいぞ。
タブンネが何か情報を流していたとしか考えられない。そうだろう?」
ちがう。
笑っていたのはあの男たちだけで、タブンネはひたすら叫び続けていただけだ。
まったく楽しくなんてなかったし、情報を流したりもしていない。
真実が正しく伝わっていないことにタブンネは悔し涙を流す。
そんなタブンネを無視して男は立ち上がると、前に出た兵士の肩にポンと手を置いて命令する。
「そうだな。どうも俺はタブンネの尋問には向かんようだ。お前が代わりに尋問しろ。
どんな方法を使ってもかまわん。1人でやってもダメなら、この部屋全員でやってもいいぞ。」
怪訝な顔をする兵士であったが、男の意図を察するとニタリと笑みを浮かべてうなずく。
兵士が部屋の中全体に呼びかけると、部屋にいた全員が集まりタブンネを囲む。
不穏な空気を感じたタブンネの表情が曇るのを確認すると、男は「殺さない程度にな」と言って部屋を出る。
男が扉を閉じる瞬間、兵士たちの怒鳴り声と、タブンネの「ギャァァァァァッ!」という叫びがかすかにもれたが、
完全に閉じた瞬間、不思議なことにその音はまったく聞こえなくなる。
「こんなことでもなきゃ、戦争なんぞやってられんよ」
男は晴れやかな顔で廊下を進む。
端から尋問する気などなかった。男がやったのはただのストレス解消だ。
戦争というものは想像以上にストレスがたまる。
だからこそ、何でもいいのでストレスを発散する方法を見つけなくてはならない。
今回、タブンネが何もしていないことなど理解している。
たまたま「タブンネと敵兵がいっしょにいて」「そこから笑い声が聞こえていた」という材料があったからこそ、
尋問する理由とするために事実を捻じ曲げて報告した。ただそれだけのことだ。
235
:
タブンネと戦争・拷問による尋問
◆f70oZErA2w
:2014/02/15(土) 05:44:54 ID:d5IrdlhI0
タブンネ狩りが当たり前に行われるイッシュにおいて、タブンネに暴力をふるうことに抵抗を持つ人は少ない。
あの防音性の高い部屋で行われている拷問、いや、尋問は相当に苛烈なものになっているだろう。
そんなことを考えながら男は廊下を進む。
尋問はまだ続いている。だから、部屋が使えないということを報告するために。
兵士たちのストレス解消を誰にも邪魔させないようにするために。
・
・
・
・
「ヒュー……ヒュー……」
人とポケモン。どちらが強いかと言われれば、誰もがポケモンだと答えるだろう。
ポケモンの力に人は及ばない。ポケモン相手に自分で直接戦わず、自分の持っているポケモンを戦わせる。
「ヒュー……ヒュー……」
だからこそ、人が直接ポケモンに攻撃を加えるとき、それは容赦のないものになることが多い。
そして、それは攻撃性が高いとは言えないタブンネ相手であっても例外ではない。
だがそれでも、この部屋でタブンネに対して行われた行為は、明らかに常軌を逸していた。
「ヒュー……ゴホッ、ゴホッ……ヒュー……ヒュー……」
木製のテーブルの上でうつぶせにされ、限界まで引っ張られた四肢を錆びた鉄釘が貫いている。
尻尾は引きちぎられ、背中には裂傷やみみず腫れが数えきれないほど大量に走る。
殴られ続けた顔面は目を開けられないほど腫れ上がり、舌にはいくつもの水ぶくれができている。
尋問という建前など完全に無視され、ただ一方的に暴力を振るわれたタブンネの姿。
男の言っていた「ポケモンとしての権利の尊重」など、そこにはひとかけらも存在していない。
「これ、そろそろ持ってっちゃっていいかな?」
白衣を着た老人が、部屋の中にいる兵士たちに尋ねる。
問いかけに対し、晴れ晴れとした笑顔を浮かべた兵士たちは「いいぜ」と言ってコクリとうなずく。
236
:
タブンネと戦争・拷問による尋問
◆f70oZErA2w
:2014/02/15(土) 05:47:14 ID:d5IrdlhI0
「じゃあ悪いけど、この台車に乗っけてもらえない? それ、けっこう重いからさ。
この歳になると、持ち上げるだけでもきついんだよ」
テーブルに固定されているタブンネの体を、兵士たちが力任せにテーブルから引きはがす。
鉄釘に貫かれていた四肢の一部が裂けていき、その激痛にタブンネが悲鳴を上げようとする。
しかし、その口からはかすれた叫び声が出るだけ。のどをつぶされて叫ぶことすらできないのだ。
「うるさいなぁ。……尻尾ってまだある?」
兵士の1人が部屋の隅に落ちていた尻尾を拾い、白衣の老人の方に持っていく。
老人は尻尾を受け取ると、必死に叫ぼうとしているタブンネの口の中にそれを突っ込む。
タブンネが静かになったことに満足そうにうなずくと、老人はタブンネを乗せた台車を押していく。
「さて、これの特性が『いやしのこころ』じゃないことを祈るばかりだ。
貴重な実験動物なんだから、簡単に死んでもらっちゃ困る。『さいせいりょく』だといいなぁ」
声を出すことすら封じられ、タブンネは台車の上で静かに涙を流す。
粗雑な扱いに加え、「これ」「それ」という言葉からはタブンネのことを物扱いしていることがわかる。
もはやポケモンとして扱ってもらうことすらできない。
そして「実験動物」という言葉。
これから何をされるかはわからない。
ただ――
自分が仲間たちとの平穏な暮らしを送ることなど二度とできない。
それだけは、はっきりとわかった。
(<解剖実験>に続く)
237
:
◆f70oZErA2w
:2014/02/15(土) 06:02:38 ID:d5IrdlhI0
よく考えたら肝心の拷問シーンが全然ないぞ
これじゃあタイトル詐欺ですね
それはさておき、次はやっと<解剖実験>になります
とりあえずタイトルから想像がつくようなことしかしない予定です
次はタイトル詐欺にならないようにがんばります
238
:
名無しさん
:2014/02/15(土) 18:23:42 ID:AS.r.KHY0
いやいや、直接描写がなくてもちゃんと表現できてますよ。
どんどん地獄へ転がり落ちてゆく様を堪能させていだだきます。
239
:
タブンネと戦争・解剖実験
◆f70oZErA2w
:2014/02/18(火) 20:12:35 ID:rUeopnGY0
<解剖実験>
とある基地の地下にある檻。その中でタブンネが眠っている。
その檻はとてもせまい。少なくとも、タブンネ1匹が足をのばすことさえもできない程度には。
「朝になったぞ。起きろ」
タブンネの入った檻の前に一人の人間が立ち、タブンネに起きるように命令を出す。
その声にタブンネは目を覚まし、暗い表情で「ハァ……」とため息を吐く。
目が覚めてしまった。今日も「あれ」をされるのだ。
目が覚めた早々に落ち込むタブンネだったが、タブンネの気分など人間にはどうでもいいことだ。
タブンネを無理やりに檻から引きずり出し、そのままの勢いでタブンネを床に転がす。
「ミッグゥ」
このとき、タブンネは受け身をとらない、いや、とることができない。
なぜなら、タブンネの体は眠っていた時の姿勢から動かないからだ。
身動きの取れない檻の中で長時間、同じ姿勢でいたために体の筋肉や関節が固まってしまっているのだ。
そんなタブンネの上に人間は乗ると、固まってしまった腕をつかむ。
これから何をされるのかをタブンネは知っている。毎朝、同じことをされているのだから当然だ。
これから訪れる痛みに耐えようと、タブンネは目を閉じて歯を食いしばる。
タブンネの腕をつかんでいる人間の手に力がこもる。
ミリリ……ミシッ、ミキキッ…………
固まっていたタブンネの腕が力任せに動かされていく。
体の真横で固まっていたはずの腕が、だんだんと垂直方向に持ち上がっていく。
そして、ポキッという軽い音と同時に、タブンネの腕が一気に動く。
「ギャァァァァァァァァァァァァァ!」
その瞬間、タブンネを襲ったのは激痛だった。
毎朝同じ経験をし、よく知っているはずなのに慣れることのない痛み。
痛みを紛らわせるために体を動かそうとするが、筋肉も関節も固まったままで、そんなことすらできない。
240
:
タブンネと戦争・解剖実験
◆f70oZErA2w
:2014/02/18(火) 20:14:10 ID:rUeopnGY0
そして、痛みはそれだけでは終わらない。
まだ片腕の一部が動くようになっただけ。動かせるようになる個所は、タブンネの体にいくつも残っている。
人間にほかの部分をつかまれ、タブンネの顔に絶望の色が浮かぶ。
ポキッ。ポキッ。と軽い音が鳴るたびに、タブンネの絶叫が響き続ける。
タブンネの体の固まりをとるのに約1時間。
その間ずっと、激痛にさらされ続けたタブンネが口を開けて荒い息を吐く。
そして、その空いた口に皮をむいたオボンの実が押し込まれる。
「ムッグ!? エッエッ! ミヤァァァ!」
朝食として与えられたオボンの実。
タブンネはそれを必死に吐き出す。絶対に食べるわけにはいかないからだ。
だって、食べてしまえば体力が回復してしまうから。
「ふざけんな。こうやって毎日オボンを食えるタブンネがどれだけいると思ってんだ」
タブンネの吐き出したオボンの実を拾うと、人間が再びタブンネの口にオボンの実を押し込む。
嫌がるタブンネを押さえつけ、その口を無理やり動かして、強引にオボンの実を咀嚼させる。
口の中で細かくなるオボンの実。本能を刺激するその味に、タブンネはオボンの実を飲み込む。飲み込んでしまう。
どれだけ心で拒絶しようとも、生物の持つ食欲が、体に拒絶させることを許さない。
タブンネは涙を流す。
食べてしまった。食べてしまった。
これで今日も死ねない。「あれ」を乗り切れるだけの体力がついてしまった。
抵抗する気力を失ったタブンネは台車にのせられ、地下のさらに奥深くに連れられていく。
今日もタブンネの「解剖実験」が始まる。
・
・
・
・
「さて、今日は新しい麻酔薬の効果を確かめることにしよう」
白衣の老人がその日の実験内容を告げると、周りにいる白衣を着た人間たちがうなずいて準備を始める。
素早い動きで機材や薬品を用意し、あっという間に実験の準備を済ませてしまう。
241
:
タブンネと戦争・解剖実験
◆f70oZErA2w
:2014/02/18(火) 20:16:53 ID:rUeopnGY0
そして、その機材の1つであるタブンネは、手術台の上で拘束されていた。
両手、両足、頭、果ては耳に至るまで、動くことのできないようにしっかりと固定されている。
「ミィ。ミィ。ミィ。ミィ」
涙を流しながらタブンネは助けてくださいと懇願する。
昨日は歯をすべて抜かれた。その前はお腹の中に熱湯を流しこまれた。その前は……。その前は……。
不幸なことに、このタブンネの特性は『さいせいりょく』だった。
どんな過激な実験であっても、ある程度まで治療されてしまえば翌朝には回復してしまう。
それなりに無理の効く実験動物として、タブンネは毎日この部屋で体をいじられている。
「今日は麻酔の実験だから、普段よりは痛くないはずですよ。……たぶんね」
白衣を着た人間の1人が優しく声をかけると、麻酔薬の入った注射器の針をタブンネの首に差す。
痛くない。そのたった一言に、タブンネの気持ちが軽くなり、安堵の息を吐く。
痛くないなら今日は楽な日かもしれない。言われてみれば、何となく体に力が入らない気がする。
やがて、麻酔が効いてきたのか、タブンネの表情がぼんやりとし始める。
それを見て、白衣の老人が周りの人間に指示を出す。
「それじゃ、いつもどおりに開腹から始めようか」
周りの人間が動きだし、タブンネの腹にメスの先を当てる。
スーッとメスが動き、タブンネの腹の薄皮を切り開く。その瞬間――
「ミィィィィ――――――――ッ!?」
自らの腹に走った鋭い痛みに、タブンネが悲鳴を上げる。
それはいつもの、いや、痛くないはずと油断していたために、いつも以上に強い痛み。
タブンネの悲鳴を聞いた人間たちの手の動きが止まる。
「あれ? 麻酔が効いてないのか?」
「新しく開発したやつだからな。そういうこともあるだろうさ」
「でもどうする? これじゃあ、予定していた実験ができないぞ」
242
:
タブンネと戦争・解剖実験
◆f70oZErA2w
:2014/02/18(火) 20:18:48 ID:rUeopnGY0
タブンネの声が聞こえていないかのように、目の前の状況について淡々と話す人間たち。
これまで何度も同じようなことがあった。タブンネが悲鳴を上げるなどいつものことで、すっかり慣れているのだ。
タブンネは必死にこの状況から逃げ出そうとあがく。自分を拘束しているベルトを引きちぎろうと全身に力をこめる。
しかし、タブンネの力では拘束を解くことなどできない。ガチャガチャと虚しい音を立てながら身もだえするだけだ。
「ちょっといいですか?」
声の主は、先ほどタブンネに「痛くないはず」と言った人間。
あの人間はさっき自分のことを気遣ってくれた。もしかしたら助けてもらえるかも。
一瞬だけ頭に浮かんだかすかな希望。しかし、タブンネはすぐにその希望をあきらめる。
身を以って知っているからだ。この場所に連れてこられた時点で、自分に救いの道など残されていないことを。
「麻酔薬のテストは今日のところはあきらめましょう。実際、上手くいかなかったわけですし。
かわりに、明日予定していた呼吸器官へのアプローチを行いたいんですが、どうでしょう?」
果たして、その言葉はタブンネの予想していた通りのものだった。
予定が上手くいかなかったから中止するのではなく、予定をずらして別のことを行う。
少々のことでは壊れない実験動物。そう思っているからこそ、タブンネに対して人間たちは手を抜かない。
「じゃあ、まずは邪魔な肋骨から取り除こうか。できるだけ素早く、丁寧にやろうね」
白衣の老人がそう言うと、人間たちはおのおの道具を手に取り、タブンネの肋骨をはずしにかかる。
ハンマー。ノミ。ノコギリ。ヤスリ。
普通なら、生き物に対してる使われることのない器具が、一切の慈悲なくタブンネの肋骨を壊していく。
胸骨をたたき割り、肋軟骨を削り、肋骨を折って砕く。
数人が1度に作業しているにもかかわらず、その動きはお互いの行動を邪魔することはない。
台本をなぞるように正確に。ひとつの芸術のように鮮やかに。彼らはタブンネの骨を素早く取り除いていく。
「オ゛ッ!? オ゛ッ!? オ゛オ゛オ゛ッ!? オ゛ッ、オ゛ッ!?」
文字通り骨の髄に響く痛みに、タブンネが声にならない叫びを上げる。
肋骨に衝撃が走るたびに、タブンネの体がビクビクと痙攣する。
白目を剥き、口から泡を吐きながら、タブンネの意識は徐々に遠ざかっていく。
243
:
タブンネと戦争・解剖実験
◆f70oZErA2w
:2014/02/18(火) 20:20:47 ID:rUeopnGY0
「もう少し丁寧にしようか。貴重な実験動物だ。取り扱いは大事だよ」
タブンネが失神しようとした寸前、老人の言葉で人間たちの動きが止まる。
そして、今までよりも丁寧にじっくりと、時間をかけてタブンネの骨を壊していく。
それはタブンネにとっては地獄以外の何物でもなかった。
強烈な痛みが一瞬で襲い掛かってくるわけではなく、分割された痛みが時間をかけて何度も襲ってくる。
そのせいで意識が飛んでくれない。
重く響く痛みが、タブンネの体に長く長く苦しみを与え続ける。
「ミカカカカカカカッカカカッカカカカカッカッカカカカカカカカカ…………」
絶え間ない痛みに、タブンネの口からも同じように絶え間ない声が上がり続ける。
やがて、タブンネの肋骨がすべて取り除かれた。
外の空気にさらされた内臓から白い湯気が上がる。
「さて、呼吸は肺で行われているわけだけど、激しい運動のあとだと呼吸が上手くいかずに息切れを起こしてしまう
これは戦場に置いては致命的だ。なんせ、息切れしてしまうとその分動きが鈍ってしまうわけだから。
だから、肺をなくしてしまえば、息切れすることない最強の兵士ができるかもしれない」
白衣の老人は淡々と自分の仮説を告げる。
あまりにも荒唐無稽な仮説。もちろん、老人自身も本気で考えているわけではない。
思いついたことを実行しているだけだ。
そして、非人道的なそれを人間の体で行うわけにはいかない。
人間の体とそれなりに近い構造を持ち、それなりの数が確保でき、それなりに攻撃性が低いポケモン。
そのうえ、『さいせいりょく』という特性を持つタブンネが実験動物として使われるのは必然だった。
老人の目の前でタブンネの体から肺が取り外される。
器官と気管支の向こう側で、小さな心臓がトクトクと脈を打っているのが見える。
肺を取り外され、呼吸のできなくなったタブンネの口が、酸素を求めてパクパクと動く。
「……!? ……!? ……!? ……!?」
必死に酸素を取り込もうとするタブンネだったが、その動きは徐々に弱くなっていく。
体中から力が抜けていき、充血し始めた瞳からは光が失われていく。
タブンネの体は急速に死に向かっていた。
244
:
タブンネと戦争・解剖実験
◆f70oZErA2w
:2014/02/18(火) 20:21:50 ID:rUeopnGY0
「このままじゃ死んじゃうね。心臓マッサージをしよう」
激しく脈を打っているタブンネの心臓を、老人が素手で力強く握る。
そして、それがタブンネに対する致命的な一撃となった。
普段は小刻みに血液を送り続ける心臓。
だが、老人が力強く握ったことで、普段送り出される何倍もの量の血液がタブンネの全身をかけめぐった。
血液の作る圧力に負けた微細な血管が次々とやぶれていく。
鼻の奥から、眼球の内部から、耳から、指先から。赤い血液が次々と吹き出していく。
さらに、本来なら血液の逆流を防止するためについている弁が破壊され、タブンネの全身を血液が逆流した。
頭の中、脳に張り巡らされている血管も破れて出血し、頭蓋でふさがれている脳が急激に圧迫される。
そして――
「ああ、死んじゃった。……もったいないことしたなぁ」
呼吸を封じられ、全身を血液が逆流し、脳に急激に圧力が加わる。
タブンネの体はそれに耐えることができなかった。
吹き出した血液によって全身を赤く染め、白目を剥いたタブンネはピクリとも動かない。
「まあいいか。そろそろ新しいタブンネが捕まってるころだろう」
老人は周りの人間にタブンネの死体を処理するように指示すると、そのまま部屋を出ていく。
ちょうど今頃、例の部屋で拷問されている新たな実験動物をゆずってもらうために。
タブンネの死体は台から降ろされ運ばれていく。
戦時下おいて、タブンネまるまる1匹分というのは貴重な栄養源になる。
戦闘を続けている兵士たちと、そのポケモンのための食糧になるのだ。
こうして、1匹のタブンネの生涯が幕を閉じた。
しかし、これは特別なことではない。多くのタブンネが同じように犠牲になってきたのだ。
今までも。そして、これからも――
<エピローグ>に続く
245
:
名無しさん
:2014/02/18(火) 23:03:19 ID:vkHiF3iA0
素晴らしすぎるwwwww
延々と与えられる苦痛に苦しむタブンネと
淡々と無慈悲な作業を行う人間のコントラストが絶妙です
エピローグが楽しみです!
246
:
タブンネと戦争・エピローグ
◆f70oZErA2w
:2014/02/21(金) 22:25:05 ID:2Mt/aj0k0
<エピローグ>
戦争が終わってから何十年も経った。
戦後、イッシュ地方の医療技術は大幅に進歩していた。
「タブンネ、今日までおつかれさま。はい、これ」
ある町のポケモンセンター。
スタッフから渡された花束をタブンネが笑顔で受け取る。
イッシュではおなじみのナースタブンネ。その引退式が行われているのだ。
タブンネがナースとして活動する期間はおよそ1年とかなり短い。
引退後は野生に戻ったり、ほかの施設で過ごしたりとタブンネによってさまざまな道をたどることになる。
「それじゃあ、そろそろ行こうか」
スーツを着た男性がタブンネを呼ぶ。
このタブンネは、ポケモンセンターを引退した後も、ほかの施設で働くことになったのだ。
タブンネはポケモンセンターのスタッフや訪れていたトレーナーに手を振ると、男性のあとについていく。
ポケモンセンターの外に出たタブンネは空を見上げる。
そこに広がっているのは透き通るような青い空。
それは、とあるタブンネが願ったような「明るい空の輝き」がそこにあった。
男性が用意していたワゴンの助手席にタブンネは乗せられる。
やがてワゴン車が発進し、タブンネは窓から身を乗り出して、ポケモンセンターの方へ手を振る。
ポケモンセンターは徐々に小さくなっていき、そのうち、完全に見えなくなってしまった。
「いいところだったんだね」
ポケモンセンターが見えなくなったころ、ワゴン車を運転する男性がタブンネに声をかける。
タブンネは「ミッミッ♪」と笑顔でうなずくと、窓の外を流れる景色を楽しそうに眺め始める。
これから行くところはどんなとこなのかな?
自分はいったいどんなお仕事をまかされるのかな?
ワゴン車に揺られながら、助手席のタブンネはそんなことを考える。
そんなタブンネの考えを読んだかのように、運転席の男性が口を開く。
247
:
タブンネと戦争・エピローグ
◆f70oZErA2w
:2014/02/21(金) 22:26:01 ID:2Mt/aj0k0
「医療技術はまだまだ発展途上だからねぇ。タブンネちゃんがお手伝いしてくれるのは助かるよ」
その言葉を聞いて、タブンネの中に嬉しい気持ちが広がる。
自分はまだ誰かの役に立つことができるんだ。
その気持ちはナースタブンネすべてが持つ、自分以外の誰かを思いやることができる気持ちだ。
嬉しそうに「ミッ♪ ミッ♪」と体を揺らしながら歌い始めるタブンネ。
その様子を見ながら、運転席の男性は微笑みを浮かべる。
人間に慣れたタブンネを騙すなんて簡単だ。
タブンネが「ミッ、ミッ」と話しかけ、男性が「へぇ」「そうなんだ」と適当に相槌を打って流す。
ポケモンセンターで働いていたタブンネは、タブンネの言葉が人間に通じないことはよくわかっている。
むしろ、相槌があるだけでも、自分の話を聞いてもらっていると思って満足してしまう。
だからタブンネは気付かない。気付けない。
男性の微笑みに悪意がふくまれていることに。
約1時間後、タブンネを乗せたワゴン車が目的の施設に到着する。
山を切り開いて作った施設。たまたま訪れる人がいないほど、山の奥に建てられた施設。
タブンネと男性はワゴン車から降りると、建物の入り口に向かって歩きはじめる。
新しいお仕事。それに対する期待に、タブンネの足取りはとても軽い。
男性が重たい扉を開け、タブンネの足がそこで止まる。
扉が開いた瞬間、建物の中からは、それまで聞こえていなかった音が聞こえてきたのだ。
ポケモンセンターで毎日のように聞いていた、怪我や病気をしたポケモンが苦しむ声。
しかも、その声は自分たち――そう、まるでタブンネたちが苦しんでいるかのような……。
「どうかしたのかな? 中には苦しんでいるポケモンたちがいるんだよ?」
248
:
タブンネと戦争・エピローグ
◆f70oZErA2w
:2014/02/21(金) 22:27:04 ID:2Mt/aj0k0
男性に声をかけられ、タブンネは表情を引き締める。
誰かの役に立つ。そのために自分はここにきたのだから。
「ミィッ!」
力強く鳴き声を上げると、タブンネは建物の奥へと歩きはじめる。
その背後で、重たい扉がゆっくりと閉まっていく。
ゴゥン。
扉が閉まった瞬間、中から聞こえていたうめき声はまったく外に聞こえなくなる。
そして、この扉を通ったタブンネが、施設の外に出てくることは二度とない。
・
・
・
・
なぜ、イッシュ地方の医療技術が戦後に大幅に発達したのだろうか。
なぜ、タブンネたちは1年だけしかポケモンセンターで働かないのだろうか。
そもそも、この施設でタブンネたちは何をさせられているのだろうか。
あらゆる疑問は歴史の闇の中に飲み込まれていき、それが表に出てくることなどない。
それはタブンネたちが抜け出すことのできない深淵。
イッシュの闇は深い。
<タブンネと戦争・了>
249
:
◆f70oZErA2w
:2014/02/21(金) 22:39:04 ID:2Mt/aj0k0
やっと終わった
最後の方はすっかりだれてしまってグダグダでした
そもそも、なぜこんな長編になってしまったのか
まあ、それでもどうにか完走させることができました
最後までお付き合いいただきありがとうございました
250
:
名無しさん
:2014/02/21(金) 23:12:24 ID:i9uxK7bI0
大作乙でした
戦争が終わってもタブンネは医療の発展のためと、タブ虐の玩具として
命を散らし続けるわけですねw
読み応えがありました、感謝です!
251
:
名無しさん
:2014/05/16(金) 11:34:37 ID:tjr180iw0
誰もいないだろうし、久しぶりついでにテスト
箱詰め子タブンネ
http://dl1.getuploader.com/g/537578da-c7ec-4c72-856d-3fb9b63022d0/kuso_buta_3131/7/kuso_buta_3131_7.jpg
passは虐待アイドル(コピペしてはりつけ)
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