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俺「ストライクウィッチーズと洒落込もうか」
1
:
名無しさん
:2013/04/07(日) 02:07:57 ID:qhlpEsaY
ストパンの世界に俺を入れてイチャイチャしようずwwwwwwwwww っていうスレ
∧
/ |
〃 .|
.// | ___ _,. イ
/ | / _ __ / /
( |. /; ; ; ; ; ; ; ;.;.;>、/ / /
ヽ.! /; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ; < ̄ ̄
/ V; ; ; ; ; i; ; ; ; ;.;.丶; ; ; ;ヽ
.///; ; ;./; ;/|; ; ; ; ; ;.;.;l; ; ; ; ;.i
|/; ;./ ; ;/; ;/ .l .ト、; ; ; ;.;ト; ; ; ;.;\ _,
ノ ; ; |; ;ノイ/⌒l | | ; ;7⌒| ; ; ! ̄
/!|; ;A ; ; l∧|⌒リ ! ; ;/ ノヘ!. ; ;l
|.!/{ ト、 ト弋シア ノ/弋シア; ;ノ
|.!; ;ヾ; ;\ ,.,.,. ,.,., !イヽ
l; ; ;.| ; ; ト、 rt.、_’ ノ ノ ; ;}
/; ;l ヽ、; ;\>` ー´.ィ /イ /
./; ;/; ; ; ;>ーヽー穴t;. | '´
/; ;/ ; ;/ヽ、 \ /《ム,\⌒≧
/イ; ;/ミ>/!L_>< {ミh,,入_}
//⌒ヽ< ノノ マミhV フト、
./ l \ >= _`マ》Y<>、
/ヘ∧ \V/ / > ⌒\ ヽ
ノ .人 Yヽ / ,)、 /
妄想を垂れ流すのもよし、初SSに挑戦してみるのもよし
そこのお前も書いてみないか?
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避難所 ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14336/
まとめWiki運営スレッド5
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雑談スレ オ67ミン C
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/14336/1361541718/
前スレ
俺「ストライクウィッチーズ、ブレイクナウ」
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/14336/1352033747/
286
:
衝撃波 智子√第10話
:2013/11/03(日) 06:21:31 ID:db.pfs5g0
デスクの上に広がる書類を前にラルはマグカップに残る珈琲を飲み干し、腕を組む。
象嵌された一対の青い瞳に浮かぶのは珍しく困惑の光。
彼女の目の前にある書類。それは数日ほど前、隣国スオムスのカウハバ基地から送られてきたものだ。
そこには502との相互連携を深めるために507から一人の航空歩兵をペテルブルグに出向させるといった文章が書き記されている。
それだけなら何の問題は無いのだが彼女の瞳に困惑の光を生み落としたのは送られてくる航空歩兵の存在にあった。
カウハバから送られてくる航空歩兵。名は穴拭智子。
扶桑海の巴御前と称され、扶桑陸軍が誇る屈指のエースが一人。
既にあがりを迎えてはいるものの歴戦の戦士の来訪は502の士気への良い刺激になるだろう。
しかし……
ロスマン「……隊長?」
ラル「穴拭中尉の経歴に扶桑皇国陸軍飛行第一戦隊とある」
書類の一箇所を、その細い指の先端で軽く突く。
扶桑陸軍飛行第一戦隊といえば当事の扶桑陸軍の精鋭が集っていた部隊だ。
そのなかでも“扶桑海の電光”と称された加東圭子とは直接顔を会わせ、彼女の取材を受けたこともあった。
ロスマン「その部隊って…………!!」
ラル「あいつが……俺の奴がかつて所属していた部隊だ」
287
:
衝撃波 智子√第10話
:2013/11/03(日) 06:22:07 ID:db.pfs5g0
ラルの放った一言にロスマンの小柄な体躯が硬直した。彼女もまた俺の経歴が記載された書類に目を通した一人である。
彼が公式記録で戦死者として処理されていることは他ならぬ彼自身の口から聞かされたことだ。
しかし戦死者の烙印を押された彼が今もこうして生きていることを。戦闘脚を装着して空を舞っていることをかつての仲間らは知っているのだろうか。
胸裏に生じた疑問を抑え切れぬままロスマンは口を開く。
ロスマン「俺さんは第一戦隊の方々に何か連絡は」
ラル「取っていない。あいつは自分の生存を誰にも告げていない」
自身を育てた、たった一人の身内にも。
大切な家族と断じたかつての戦友たちにすら。俺は己が生きている事実を今も伏せたままでいる。
ロスマン「では穴拭中尉にとって彼は」
ラル「死人、だろうな」
同じ部隊に所属していたということは彼が撃墜された瞬間を目の当たりにしていた可能性が高い。
或いは彼が撃墜される切欠となった僚機こそが穴拭智子その人なのかもしれない。
無論どちらもラルの推測でしかない。
確かなのは穴拭智子という女にとって俺という男は今日まで死人であり、その認識があと数時間後には崩れ去るということだ。
死んだと思い込んでいた男の生存を知ったとき彼女はどんな態度を見せるのか。精神的なショックを受けなければ良いのだが。
288
:
衝撃波 智子√第10話
:2013/11/03(日) 06:22:42 ID:db.pfs5g0
ラル「俺はいまどこにいる?」
ロスマン「今なら滑走路の清掃に向かっているかと」
ラル「そう、か……」
ロスマン「穴拭中尉のこと伝えておきましょうか?」
問いかけに黙り込む。
かつての仲間がペテルブルグにやってくる。そう伝えようとラルは何度も声をかけようとした。
しかし、もしも伝えていたら彼はどうしていただろうか。
大切な家族にすら自身の生存を伝えなかった男だ。
彼女の来訪を告げれば、此処へ来る前に姿を消すことも考えられなくは無い。
広範囲と高威力を兼ね揃えた固有魔法を有する彼が出て行けば502の戦力は大幅に低下してしまう。
そうなれば間違いなく今後の反抗作戦に支障が出る。
ラル「(……本当に、それだけなのか?)」
戦力の低下。本当に自分はそれだけを危惧しているのだろうか。
胸中に生じる言い知れぬ不安。ラルは以前にも同じ感覚が胸裏を満たした記憶を思い出す。
それは彼がブリタニアへと向かう前のこと。あのときも、胸の内を薄ら寒いものが渦巻いていたのを思い出す。
何故こんなにも彼が離れることを不安に思うのだろうか。
自身の胸の裡に満ちる不可思議な感情に対する答えを見出せず、ラルは無言で首を横に振った。
289
:
衝撃波 智子√第10話
:2013/11/03(日) 06:23:18 ID:db.pfs5g0
前触れも無く鼻の先端が痺れる感覚に思わず右手を伸ばす。
まるで何か柔らかいものに。
例えば唇のようなものを軽く当てられたようなむず痒さに俺は伸ばした右手の指先で鼻頭を軽くこする。
そんな俺の姿を真横から見つめるニパが箒を動かす手を止めた。
ニパ「どうしたんだ?」
俺「……何だか急に鼻の先端がむず痒くなった。何だろ」
ニパ「乾燥しているからとか、かな?」
箒の柄を胸元に寄せ、小さく首を傾げる彼女の姿に愛くるしさを覚えつつ俺は痒みが納まった鼻先から指を離した。
今度買出しに出る時は肌に塗るクリームを買う必要があるな。
そう胸裏でぼやく俺に、
ニパ「それで話しの続きなんだけどさ」
ニパが再び箒を握る手を動かす。
箒を握る手と腕の動きに合わせて微かに揺れたわむ彼女の豊かな連山から俺は目を逸らして秋の空を仰ぎ見た。
ラルから清掃員という隠れ蓑の役割を与えられてからどれだけの月日が経過しただろうか。
今日も今日とて灰色の制服を纏い、箒と塵取り片手に滑走路の掃除に出向いた彼を迎えたのが同じように箒を手にしたニパであった。
その彼女の口からカウハバ基地から補充要員がここペテルブルグ基地にやってくるという話を聞かされたのが僅か数分前のことだ。
290
:
衝撃波 智子√第10話
:2013/11/03(日) 06:23:52 ID:db.pfs5g0
俺「カウハバ基地からの補充要員の話だったな」
ニパ「うん。第507統合戦闘航空団から航空歩兵が一人こっちに来るみたいなんだ」
俺「カウハバとここは近いから人も送りやすいんだろう。それで誰が来るんだ?」
問いかけに対しニパは首を振るだけだった。
ニパ「実は私もまだ知らないんだ。隊長とロスマン曹長が話しているのを偶然耳にしただけだから」
「綺麗な娘、可愛い娘が来てくれると嬉しいな」
俺「よぉ伯爵。またエディータから逃げてきたか?」
突如として背後から会話に入り込んできた声の主に振り向く。
そこにはもうじきここへやって来るであろう件の航空歩兵に想いを馳せ、嬉しそうに頬を緩ませるクルピンスキーの姿があった。
しかしその嬉しげな表情も俺からの一言により一瞬で掻き消えることとなる。
291
:
衝撃波 智子√第10話
:2013/11/03(日) 06:24:36 ID:db.pfs5g0
クルピンスキー「僕を見かけたら何かやらかしたって思うのはやめて欲しいね」
俺「じゃあ何で後ろからエディータが走ってきてるんだ?」
不機嫌そうに頬を膨らませる長身の少女の後ろを肩越しに眺め、指差しながら一言。
クルピンスキー「嘘ッ!?」
やや意地の悪い笑みを浮かべながら放たれた俺の言葉に慌てて背後へと振り向く。
そこには顔を紅く染めて得物である指示棒の先端を片方の手の平にぴしぴしと叩きつける小柄な女性の姿が、
いなかった。
冷えた風に冷やされた滑走路の上にあるのは隣接した森林から運ばれてきた落ち葉だけ。
その落ち葉もまたすぐに風に飛ばされ視界から外れていく。
クルピンスキー「いないじゃないか!」
俺「はっはっは。すまんすまん」
クルピンスキー「まったく、女を騙すなんて酷い男だなぁ。ニパ君、こういう男とは付き合っちゃ駄目だからね?」
顔をしかめ。俺から守ろうとニパを抱き寄せるプンスキー伯爵。
単に自分を出しに使ってニパの柔らかな肢体を堪能したいだけなのだろうが、ここではあえて言及するのはやめておこう。
毎度彼女の悪癖に注意をしていては気が保たない。それにいくらクルピンスキーとて越えてはならない一線くらいは弁えているだろう。多分。
292
:
衝撃波 智子√第10話
:2013/11/03(日) 06:25:18 ID:db.pfs5g0
俺「なによ? 麿のどこが悪い男だというの?」
ニパ「まろ?」
クルピンスキー「何だい? その聞き慣れない言葉は」
俺「その昔、扶桑のやんごとなき方々が使っていた一人称さ。可愛い女の子の写真を沢山箱に詰めて送ると喜ぶよ」
クルピンスキー「カールスラント空軍にも自分のことをわらわと呼ぶ航空歩兵がいるけどね。ただ俺がそれを使うと違和感しかないよ」
彼女にしては珍しく、そして恐ろしく真面目な口調と表情を伴った言葉に肩をすくめた。
どうやら「俺、麿化計画」は早くも頓挫してしまったようだ。
やや気落ちしている最中、伯爵が口にした航空歩兵に俺はある少女の存在を思い出す。
彼女が所属する基地で過ごしたのは何年前だったか。
当時の自分は薔薇十字から与えられた最奥術式を習得し、それを基に自分の魔技を編み出している最中だった。
寝る間も惜しんで修練を重ね、ようやく魔技の基礎段階である“顕現”に到達できたのは彼女――ハインリーケに別れを告げる数日前の出来事だ。
たしか最後にこんなやり取りをしていたはず。
293
:
衝撃波 智子√第10話
:2013/11/03(日) 06:25:48 ID:db.pfs5g0
―――数年前、某前線基地にて
俺『姫様! 姫様ァ!!』
ハインリーケ『何じゃ騒々しい』
俺『一大事でございます!』
ハインリーケ『一体何事じゃ。申してみよ』
俺『今日を持ってこの基地から出て行くことになった。世話になったな』
ハインリーケ『ふむ……それは寂しくなるのぉ――って、はぁ!?』
俺『そんなわけで行くから! じゃ!!』
ハインリーケ『ちょっ! 待て! わらわはそんな話聞いておらんぞ!!』
俺『わーいわーい。新天地、新天地。わーいわーい』
ハインリーケ『こらぁ! 待たぬか! 俺! おれぇぇぇぇぇ!!!』
―――
思い返せば滑走路で待機している輸送機に向かって走り始めたときに彼女が何かを叫んでいたような気がする。
しかし今となっては確認のしようが無い。彼女が今どこで何をしているのかも分からないし、彼女もまた自分がこうしてペテルブルグ基地にいることも知らない。
もしも再び顔を合わせてしまったとき話を聞かずに飛び出したことへの怒りをぶつけられそうだが、心の広い彼女のことだ。
きっと笑って水に流してくれるに違いない。彼女に世話になった分、少しでも多くのネウロイと不穏分子を始末しよう。
294
:
衝撃波 智子√第10話
:2013/11/03(日) 06:26:27 ID:db.pfs5g0
ニパ「そ、それで! 話に戻るけど!!」
プンスキー伯爵の抱擁を振りほどきながらニパ。
クルピンスキー「噂の航空歩兵のことだね。そのことなら小耳に挟んだよ」
俺「ほぉ?」
クルピンスキー「何でも既に上がりを迎えているらしいよ」
ニパ「え……」
俺「…………それは、戦力になるのか?」
そう呟く俺の言葉も尤もだった。
上がりを迎えたウィッチは魔力障壁を展開する力を失う。なかには飛ぶための魔法力すら喪失する場合もある。
彼のように衝撃波を強引に障壁の形状へと変化させて代用する例外もいる。
しかし固有魔法すら持たぬウィッチは成人を迎えれば障壁展開能力はおろか飛行する力すら失うことが大半だ。
上がりを迎え、障壁を展開する力を失っているであろう航空歩兵が一体何の目的でここペテルブルグを訪れるのだろうか。
クルピンスキー「補充要員っていうけど実際は502の視察だと思う。こっちの戦況を把握して戦略を練るんじゃないかな?」
そんな俺の疑問を見透かしたかのようにクルピンスキーが口を開いた。
要は502の戦況を直接把握することで自分たち507がどう動くべきかを見極め、互いの戦略的連携を深めるつもりなのだろう。
295
:
衝撃波 智子√第10話
:2013/11/03(日) 06:27:02 ID:db.pfs5g0
俺「そうなると直接前線に出ることはないってことか」
ニパ「じゃあ今までと変わらないのか……」
戦力の増強を期待していたのか肩を落とすニパを尻目に俺は手を顎下に添える。
スオムスから派遣される“上がり”を迎えた航空歩兵。そのスオムスといえば自身の妹分の智子が派遣された北欧諸国の一つである。
もし彼女が無事に生きているのならば今頃は上がりを迎えているはず。あるいは派遣されてくる件の航空歩兵こそが……
俺「いや、まさかな……」
首を振って俺は思考を打ち切った。
仮に智子が他の航空歩兵と同じように上がりを迎えているのならば扶桑に帰国しているはず。
魔力障壁を展開する力を失った状態のまま欧州戦線に留まったところで一体何ができよう。
きっと故郷に戻って自由に暮らしているに違いない。見目麗しい彼女のことだ。案外好いた男を見つけ幸せな家庭でも築いているのではないか。
自身が愛した妹が障壁を失ったまま今も戦場に出ていることを認めたくなかった俺がそう結論付けていると不意に彼の耳朶をクルピンスキーの弾んだ声音が掠めた。
296
:
衝撃波 智子√第10話
:2013/11/03(日) 06:27:45 ID:db.pfs5g0
クルピンスキー「おっと! 噂をすれば」
ニパ「もう来たんだ……」
二人の声に顔を上げ、視線を巡らせると滑走路に向かって少しずつ高度を下げてくる点のような物体が視界に入った。
おそらくは例の航空歩兵を乗せてスオムスから出発した輸送機だろう。
俺「それじゃ邪魔にならないよう退散しますかね」
帽子のつばを摘むなり深く被る俺。
ニパ「私も別の所に向かうよ」
箒を片手に基地の中庭を目指して歩き始めるニパ。
クルピンスキー「それなら僕はここで噂の航空歩兵を歓迎するとしよう」
二人が別の方向に向かって歩くなかクルピンスキーは両の手を大きく横に広げた。全ては可憐な航空歩兵をこの手で抱きしめるために。
たおやかな繊手を握るために。
相変わらず自身の軸を固持し続ける戦友の後姿に振り向き、俺は素直に感嘆するのだった。
297
:
衝撃波 智子√第10話
:2013/11/03(日) 06:28:30 ID:db.pfs5g0
ペテルブルグ基地の滑走路に降りた智子を待ち受けていたのはクルピンスキーと名乗るウィッチだった。
長身に優雅さを漂わせる振る舞いから彼女が噂に聞くプンスキー伯爵であると智子は一目見て察した。
そして、どことなく彼女の全身から自身の後輩と似たような気配も感じ取った。
妖艶な流し目を何度か注いでくる彼女に案内され、智子はいまペテルブルグ基地の司令室にて部屋の主と執務用デスクを挟む形で対面している。
ラル「よく来てくれた穴拭中尉。ようこそ、ペテルブルグへ。歓迎しよう」
統合戦闘航空団の司令を務めるだけあり明るい声色のなかに威厳が含んだ声音が司令室に木霊する。
彼女こそがグンドュラ・ラル。
人類第三位の撃墜数を誇り、欧州戦線随一の激戦区を担当する第502統合戦闘航空団の司令を務める女傑である。
智子「カウハバ基地から参りました穴拭智子中尉です」
ラル「噂は聞いているよ。扶桑海の巴御前殿」
智子「もう昔の話です」
――扶桑海の巴御前。
随分と久しぶりにそのような呼び名で呼ばれた気がする。
ラル「なに階級は気にせず自由に話してくれて構わん。気を遣わず何か気がついたことがあれば遠慮なく言って欲しい」
それが我々502と君たち507の相互連携をより深めていくはずだと続けるラルの言葉に智子は肩の力を落とした。
向こうがそう言ってくる以上、気を遣う方が失礼といえよう。
298
:
衝撃波 智子√第10話
:2013/11/03(日) 06:29:29 ID:db.pfs5g0
智子「気遣い感謝するわ。それなら早速聞きたいことがあるのだけど」
ラル「我々が抱えている補充要員のことかな?」
自分がどういった質問をぶつけてくるのか、あらかじめ予想していたのだろう。
象嵌された青い瞳を瞼で隠すラルの表情が僅かに翳りを見せた。
智子「えぇ。事前に受け取った資料には肝心の補充要員の情報が記載されていなかったわ」
カウハバ基地を発つ際、ハッキネンから事前に手渡された書類の束を足元に置いておいたバッグから取り出し掲げて見せる。
それは502の部隊員の戦績や経歴といった情報が簡単にまとめられていたものだ。
しかしそのなかに502に属している補充要員の情報が記載されたものは含まれていない。
それはつまりカウハバ基地司令のハッキネンでさえ502が抱える補充要員の詳細を把握していなかったということ。
ラル「追加の補充戦力は非公式なんだ」
智子「非公式?」
ラル「ある人が独自に抱えている戦力といった方が正しいな」
智子「……私兵、ということかしら。それで、そのある人って?」
ラル「ガランド少将だ」
299
:
衝撃波 智子√第10話
:2013/11/03(日) 06:30:04 ID:db.pfs5g0
意外な人物の名前が飛び出したことに智子は目を丸くした。
アドルフィーネ・ガランドといえばカールスラント空軍のウィッチ隊総監ではないか。
彼女の私兵、それはつまり懐刀と称しても何ら差し支えは無いだろう。
そのような人物が何故ここペテルブルグ基地に派遣されたのか。
いや、欧州随一の激戦区を担当する攻勢部隊が第502統合戦闘航空団だ。今後の反攻戦を少しでも有利に進めるために遣したのだろう。
あのガランド少将が認めた航空歩兵とは一体どんな人間なのか。
ラル「聞きたいことはまだあるだろうが、細かい話はまた今度するとしよう。今は用意した部屋に荷物を置いて身体を休めてくれ。時間はたくさんあるのだからな」
智子の疑問を遮るかのようにラルは笑みを浮かべた。
見ていて安心できる柔らかな笑みだ。幾多の困難もその笑みで周囲の人間の精神を安心させることで士気を保ち乗り越えてきたのだろう。
けれども智子には何故か彼女の微笑が、何かを隠すために繕われたものにしか見えなかった。
おそらくはその補充戦力が深く関わっているのだろう。今ここで問いただすことは出来るが彼女の言うとおり時間はまだ残っている。
今はまだ急ぐ必要は無いと判断した智子は素直にラルの提案を受け入れることにした。
ラル「さて、どうしたものか……」
一礼した智子が司令室を去り、一人残されたラルは背もたれに背を預けて天井を仰ぎ見る。
使い慣れた革張りの椅子が立てる微かに軋む音だけが静まり返った司令室のなかを木霊する。
その日の椅子は何故だかいつもより硬く感じ、大して休むことができなかった。
300
:
衝撃波 智子√第10話
:2013/11/03(日) 06:30:38 ID:db.pfs5g0
カウハバ基地から持ち出してきたバッグを肩にかけ智子は自身に割り当てられた部屋へと歩を進める。
初めは基地職員の案内に従っていたのだが急に仕事が入ったらしく、502のウィッチたちの部屋がある階に続く階段を上り始めたときに何処かへと去ってしまった。
要塞を改修しただけあって複雑に入り組んだ造りとなっているが既に目的地の目の前まで近づいていたこともあり智子は大して気に留めなかった。
肩にかけたバッグをかけなおし智子は階段を上る。そうして目的の階へと足を踏み入れ自分の部屋がある方向へと歩き始めた矢先のことだ。
智子「きゃっ!」
「おっと!」
曲がり角に差しかかった瞬間、軽い衝撃が智子の身体を襲った。突然の事態に足元が乱れ、全身のバランスが崩れる。
衝突した反動で彼女の身体は体勢を整える暇すらないまま後ろへと引っ張られていく。
そしてそのまま硬い床の上へと背中を打ちつける寸前、なだらかな背に手を回され抱き止められた。
301
:
衝撃波 智子√第10話
:2013/11/03(日) 06:31:18 ID:db.pfs5g0
「すみません。大丈夫ですか?」
智子「いえ、私の方こそ……――っ!?」
自身の背中に回された手の感触に智子は僅かの間瞼を閉じた。
硬くて、温かくて、触れているだけで自分に安らぎを与えてくれる手の平。
遠い昔、今は亡き彼に背中をさすってもらった記憶を反射的に呼び起こすなか智子は自分を抱きとめてくれた男へと顔を上げた瞬間、息を呑んだ。
灰色の制服を身にまとう長身の男性。智子の身体を強張らせたのは彼の風貌にあった。
302
:
衝撃波 智子√第10話
:2013/11/03(日) 06:31:55 ID:db.pfs5g0
智子「う、そ……」
帽子のつばから覗かせる黒い髪と黒い瞳の容貌。それは驚くほどに彼と瓜二つの外見だった。
もしも彼が生きていればきっとこの男のような姿に成長しているに違いない。
そう智子に確信させるほどに目の前の男は彼女が心の底から恋し、愛した彼に似ていた。
もちろん彼であるはずが、俺であるはずがない。
たとえ遺体が発見されていなくとも全身を銃弾で穿たれ、上空から海面へと落下したのだ。生きているはずがない。
しかし遺体が見つかっていないからこそ智子は胸裏の片隅で微かに彼の生存を信じていた。
それがどれだけありえない妄想なのかは智子とて自覚していた。
けれども、たとえ葬儀が行われようと。たとえ墓石が用意されようと。
自身が恋慕の念を抱いた男が想いを告げるよりも先に逝った事実を智子は簡単に受け入れることができなかった。
その頑なな想いはいま衝動へと姿を変えて、彼女の唇を開いていく。
理性は必死に静止の叫び声を上げている。彼は俺じゃない、妙な真似は起こすなと。
それでも胸の裡の片隅に残る、彼がまだ生きているという望みがいまの智子を突き動かしていた。
智子「お、れ……? おれ、なの……? あなたなの……?」
303
:
衝撃波 智子√第10話
:2013/11/03(日) 06:32:31 ID:db.pfs5g0
自分とぶつかり後ろへと倒れる女性を抱きとめた俺は目を見開いた。
帽子のつばでよく前が見えていなかったが、この女性よく見れば扶桑皇国陸軍の軍服を身に纏っているではないか。
それだけではない。
その優美な黒の長髪も。雪のように白い肌も。黒真珠のような双眸も。大和撫子という言葉を体現するかのような美貌も。
どれも間違いなく見覚えがある。忘れるはずがない。自身の妹の顔を見間違えるはずが無い。
俺「おまえ……智子、か!?」
304
:
名無しさん
:2013/11/03(日) 06:33:59 ID:db.pfs5g0
以上で投下は終了となります
読んでくださった方、ありがとうございました
305
:
名無しさん
:2013/11/03(日) 13:23:32 ID:WEz.t7yQ0
おつー
306
:
名無しさん
:2013/11/03(日) 17:10:06 ID:JlWp45sk0
おっつおつ
307
:
名無しさん
:2013/11/06(水) 14:42:38 ID:g4.OYvOU0
この妹がなぁ……
308
:
名無しさん
:2013/11/14(木) 23:33:41 ID:P6PwrKNA0
俺「おっ、戸棚開いてんじゃん」
ジョゼ「俺、さん? こんな夜中に何をしているんですか?」
俺「ん? そういうジョゼこそ。こんな夜更けに台所に忍び込んでくるなんて」
ジョゼ「わ、私は……その」
俺「…………夜食でも食べに来たのか?」
ジョゼ「はう!? ど、どうして分かるんですか?」
俺「同類の匂いは良く分かるのさ。かく言う俺も小腹が空いてな」
ジョゼ「そうだったんですか……」
俺「お腹空いてると寝ようと思っても寝れないよな」
ジョゼ「は、はい。だから、何か軽いものでも良いからお腹に入れようと思って」
俺「それなら今から軽食作るんだけど良かったら一緒に食べないか」
309
:
名無しさん
:2013/11/14(木) 23:34:16 ID:P6PwrKNA0
ジョゼ「それは構わないんですけど何を作るんですか?」
俺「今日はハニートーストを作ろうと思う」
ジョゼ「ハニートーストですか!?」
俺「はっはっは。食いついてきたな。やっぱり女の子は甘いものが好きなんだな」
ジョゼ「はっ……こほん。お願いします」
俺「それじゃ早速作り始めるぞ。今回は八枚切りを使う」
ジョゼ「どうして八枚切りなんですか?」
俺「寝る前に軽くお腹のなかに入れるんなら分厚いのよりも薄いほうが良いだろう。それに軽食なら尚更薄い方が食べやすいじゃないか」
ジョゼ「たしかに……この時間帯であんまり大きいのは」
俺「勿論好みも人それぞれだから自分が食べやすいものを使うのが一番だな」
「それじゃまずは食パンを二枚取り出して、トースターに入れて焼く」
ジョゼ「焼き加減はどうするんですか?」
俺「トーストはカリカリっとした方が好きなんだよ……。中途半端に火が通っているのは好きじゃないんだよ……」
310
:
名無しさん
:2013/11/14(木) 23:35:34 ID:P6PwrKNA0
ジョゼ「その気持ちは分かります」
俺「これも自分好みで良いんだよ。食べたいものを食べたいように食べるのが一番なんだよ……」
ジョゼ「結構大雑把なんですね」
俺「所詮は夜食ですから。ちなみに今使っているオーブントースターは一度ダイヤルを5の所に回した後少し戻すやり方がトーストを作るのに適しているんだ」
ジョゼ「あまり参考になりませんね」
俺「……なんだか少しずつ言葉に冷たさが混じっているんだけど」
ジョゼ「ご、ごめんなさい。お腹が空いて……つい」 トースター<チーン
俺「焼けた焼けた。ジョゼ、冷蔵庫からバターを取り出してくれ」
ジョゼ「マーガリンじゃなくて良いんですか?」
俺「少し位なら使ってもばれないさ」
ジョゼ「そ、そうですよね。バター……えへへ」
俺「焼きあがった食パンにバターを塗ってくぞー」 ヌリヌリ
311
:
名無しさん
:2013/11/14(木) 23:36:13 ID:P6PwrKNA0
ジョゼ「トーストの熱であっという間にバターが溶けていって……この香りがまた」
俺「あぁ〜たまらねぇぜ」
ジョゼ「俺さん! 蜂蜜! 早く蜂蜜をください!!」
俺「はっはっは。落ち着きたまえよ。ほら、ちゃんとここにあるから」
ジョゼ「ほっ。今度は大丈夫みたいですね」
俺「あぁ……今度は大丈夫だな。まさか」
ジョゼ「まさか」
「「蜂蜜が固まるとは思わなかった(思いませんでした)」」
ジョゼ「あんなこともあるんですね……」
俺「あぁ。思えば蜂蜜ってあまり使わないよな」
ジョゼ「ヨーグルトに入れたりホットケーキにかけたりはしますけど。そう頻繁に使いませんよね」
312
:
名無しさん
:2013/11/14(木) 23:36:43 ID:P6PwrKNA0
俺「前にホットケーキにかけようと思って蜂蜜が固まっていた時のジョゼの表情は今でも覚えているよ」
ジョゼ「だ、だって! せっかく焼きあがったのに肝心の蜂蜜があんなことになっていたなんて……思いもしなくて」
俺「やはり100円ショップの蜂蜜は早く使ったほうが良いということがこれで分かったな」
ジョゼ「はい……」
俺「それじゃ蜂蜜を塗るぞー」
ジョゼ「おー」
俺「……今日のジョゼはやけにノリがいいね。夜中だから?」
313
:
名無しさん
:2013/11/14(木) 23:37:29 ID:P6PwrKNA0
ジョゼ「た、たぶん?」
「あれ? 俺さんは真ん中に垂らすだけですか」
俺「初めはバターが染み込んだ部分を楽しみたいんだよ。あの少しの塩気が好きなんだ」
ジョゼ「それなら……私も」 ハチミツタラー
俺「よっし!」
ジョゼ「それでは!」
「「いただきまーす!!」」
ジョゼ「はむっ……俺さんの気持ちが良く分かりました。確かに溶けたバターが染み込んでいて美味しいですっ。八枚切りをカリカリまで焼いたおかげでサクサクしています!」
俺「八枚切りは薄いし、その分中のもっちり感も六枚切りとかと比べて控えめだけどこうして夜食として食べる分には丁度良いんだな」
ジョゼ「はむっ……はむっ」
俺「うおォん」
314
:
名無しさん
:2013/11/14(木) 23:39:35 ID:P6PwrKNA0
ジョゼ「それでは……いよいよ蜂蜜の部分を」
「ん〜!! 蜂蜜とバターの風味が良い具合に絡み合っていますね!!」
俺「今日のジョゼはやけに興奮しているね。夜中だから?」
ジョゼ「は、すみません。つい……」
俺「気に入ってもらえた様で嬉しいよ。はい、牛乳」
ジョゼ「ありがとうございます。んっ……んくっ……ぷはぁ」
俺「あぁ……食べた食べた」
ジョゼ「何だかいけないことしているみたいです」
俺「この背徳感もまた夜食の醍醐味だな」
ジョゼ「ふふっ。本当にその通りですね。それでは」
「「ごちそうさまでした!!」」
315
:
名無しさん
:2013/11/14(木) 23:40:23 ID:P6PwrKNA0
俺「ちゃんとお皿は洗っておこう」 ザー
ジョゼ「証拠隠滅、ですね」 カチャカチャ
俺「その通り」 ジャブジャブ……キュッキュッ
ジョゼ「お皿!」
俺「良し! 蜂蜜と牛乳!」
ジョゼ「元通りです!」
俺「なんだ完璧じゃないか」
ジョゼ「では」
「「おやすみなさい」」
おしまい
俺「おっと! 歯を磨くのを忘れちゃ駄目だぞ」
ジョゼ「虫歯になったら怖いですしね」
316
:
名無しさん
:2013/11/14(木) 23:41:30 ID:P6PwrKNA0
投下終了お腹が空いた
317
:
名無しさん
:2013/11/15(金) 00:28:55 ID:xOpX8aMM0
乙
ジョゼちゃんの辞書にはダイエットって言葉は無いんだろうなー
上がり迎えるまでは
327
:
名無しさん
:2013/12/02(月) 20:41:21 ID:Tnkr.Aw20
21時に投下します。
駄文ですがよろしくお願いします。
328
:
名無しさん
:2013/12/02(月) 21:01:55 ID:Tnkr.Aw20
「連合軍の一部がまたウィッチの代わりのなにか作っているみたいですね」
「また?ハッ、懲りてねぇな……。
マロニーのときにどうなるかぐらいわかっただろうが」
「アレはマロニー大将の独断だったらしいけど。
でも本当に懲りて無いよ。なにせウォーロックの時の技術の改良版らしいし」
「ってことはあれか、また501が尻拭いでもするの?
確か迎撃任務についてたと思ったけど」
「トラヤヌス失敗の原因か。
あの硬さを始末するのは結構骨が折れるよね」
「皇帝陛下でも呼べば?」
「呼んで気軽に来るような人じゃないでしょ。
頼まれてくれるのはせいぜい大将くらいかな?」
「俺がわざわざ抹消した記録の再現をすると思うか?
そうやら俺の能力の理論についてじっくり講義を受けたいらしいな?」
「冗談です。隠し事を蒸し返されるのは、自分がされてもいやだし」
335
:
327
:2013/12/02(月) 21:07:32 ID:Tnkr.Aw20
名前入れ忘れました。328も327の者です。というか反応早ぇー…
「おい。いい加減本題に移るべきだろうが」
「そですね。さーせん。
じゃあ本題どーぞ」
「……まぁいいか。単刀直入に言おう。
サーズの発生が懸念されている」
「……ぇ、え?
嘘だよね?」
「まさか…と思いたいところだけど、確かにここ最近のネウロイの動きは……おかしいだろうな」
「サーズが発生したなら出し惜しみなど論外。陛下を呼ぶことも考慮に入れなければならない。
もしも残存ネウロイ、最悪、セカンと接触したら、我々も裏方ではいられなくなる」
「ならどうする。セカンを巣ごと駆逐するか?
正直、それをしたって大規模の戦闘を行うんだ。俺達の存在は公表されるぞ」
「そうだ。
連合軍にとって、ネウロイのコアを利用した兵器の実験には、セカンの巣は絶好の獲物だ。
そのなかで俺達が動けば、能無し共も黙ってはいないだろう。
こちらとしても本意ではない。あの時は例外だっただけだ」
339
:
327
:2013/12/02(月) 21:09:53 ID:Tnkr.Aw20
「そうは言ったところで、どうするんだ。
サーズが現れるまで作戦練ってるしかないぞ」
「俺達は、な。
今回、『任期満了。転属求ム』との連絡を受けた」
「……『任期満了』?いやな予感しかしないんだが」
「おいおいおいおい。どちらにしたって表舞台に出ることになるぞ」
「いや、今回は都合がいい。
今回打診してきたのは、リベリオンの『ヴァンパイア』だ」
「ハッハー!!
やっぱり出たか!我が国が誇る魔女喰らい!」
「あー……あいつかー……」
「彼なら、連合軍の目論見が失敗したときも対応でき、こちらがサーズの巣に人員を割いても、セカンとの接触を防ぐ防衛線になりえる。
活動そのものも、ストライクウィッチーズの活躍に隠れることもできる」
「まぁ、それはそうですね。
配属したいなら別にいいんじゃないですか?」
341
:
327
:2013/12/02(月) 21:11:01 ID:Tnkr.Aw20
「いちいち全員の意見なんて聞かなくていいんだよ。
ストライクウィッチーズに『ヴァンパイア』の派遣がイヤな人挙手ー。
はい全員ですねわかります。彼の能力はとてもうらやまけしからんですねー。彼自身にはつらいでしょうけど」
「全員手を挙げていない上に、話がずれているではないか。
ストライクウィッチーズに『ヴァンパイア』の派遣に異論のあるものは述べろ。
―――いないな。では、『ヴァンパイア』を配属させることとする。
我々は、それぞれ引き続き各所防衛をしながら、サーズ殲滅のため、万全の体制を整えておくこと。
それと、鋼の。陛下に協力要請だけでいいから伝えてもらいたい」
「……なぜ俺なんですか?」
「感だ。できるか?」
「……わかりました。最善は尽くしてみます」
「感謝する。
各隊の決定は、各員に通達を送って検討する。いいな?
それでは諸君」
「我らがヴァンパイアと」
「人類の希望、誇り高き伝説の魔女たち、ストライクウィッチーズに」
「月と牙のご加護を」
343
:
327
:2013/12/02(月) 21:11:35 ID:Tnkr.Aw20
本日、眩いほどの晴れ。
わずかに開かれた窓から、カーテンを揺らして運ばれてきた木漏れ日の香りが心地良かったのは、つい数秒前の出来事。
『連合軍総司令部より通達。
アドリア海を北上する新型ネウロイを迎撃、撃滅する任に就く
第501統合戦闘航空団ストライクウィッチーズに新たにウィッチを派遣する。
リベリオン合衆国特殊戦闘航空軍特別戦闘飛行群第2飛行隊
俺 中佐
上記のウィッチを派遣する。
引き続き、新型ネウロイを撃滅せよ。
配属についての詳細は、後日改めて通達する。
なお、派遣するにあたり、該当ウィッチの情報公開を許可する。
特殊戦闘統合軍特別戦闘機関 認』
345
:
327
:2013/12/02(月) 21:12:14 ID:Tnkr.Aw20
山積みとなった書類を手際よく片付けていき、その書類を手に取ったとき見えた未だ艶のある執務机本来の色に、ようやく一息入れることができると心の中で小さく溜息をついたミーナだが、その内容をどうしても信じることができずに3回もの見直しをした。
突然ウィッチが派遣されてくることや、自身と同じ階級であることにではない。
ミーナ「…嘘、でも、え?
こ、これってまさか……」
ようやく振り絞った自分の声で現実を認識し、勢いよく立ち上がり、扉へと駆け出す。
―――その際、脛を机に強打し、想定外のダメージに半泣きになりながら誰にも知られることなく数秒ほど悶絶したどことなく萌える司令は、手に持った書類の感触を思い出して執務室を飛び出した。
349
:
327
:2013/12/02(月) 21:13:59 ID:Tnkr.Aw20
前から思ってた。とりあえずバルクホルンとペリーヌを出してやってくれ。
ミ「美緒!トゥルーデ!
ちょうどいいところにいたわ」
すっかり飛行技術に鈍りの見える三人の訓練を終えた二人が溜息をつきながら廊下を歩いていると、探す手間が省けたと言わんばかりにミーナが息を切らせて走ってきた。
美緒「どうしたミーナ。急ぎか?」
バルクホルン「緊急だから走ってきたんでしょう少佐……。
だが、ミーナが基地内でここまであわてるのも珍しいな。
……まさか、ネウロイか!?」
慌てて走ってきたミーナを見た美緒の、どこか抜けたようなコメントにやや呆れた声色で答えたバルクホルン。
だが、隊の司令塔であるミーナの様子から敵襲なのかと感じた瞬間に、その表情は一人の軍人のものとなる。
ミ「い、いいえ。勘違いさせてごめんなさいトゥルーデ、そうじゃないの。
ただ……これを見て欲しいのよ」
長い石造りの廊下を走っている際に強く握りしめていたせいか、一部がほんの少しだけしわになってしまった書類を渡すと、それを美緒が受け取り二人で覗き込む。
記されたものをたどって、視線が上から下へ。
二人して眉をひそめて、1度目より時間をかけて、もう1度上に戻り、下へ。
どこか居心地悪げに眉を寄せるミーナの目の前で、バルクホルンが美緒から書類をもぎ取るように奪い取ると、食い入るように見つめた。
353
:
327
:2013/12/02(月) 21:15:37 ID:Tnkr.Aw20
バ「リ、リベリオンの、と、特殊戦闘統合軍特別戦闘機関!?」
美「トクトク機関か……都市伝説の幽霊機関が実在したとはな……」
ミ「ただの出鱈目と疑いたいところだけど……」
困ったような悩んでいるようなミーナの声に、先ほどとは違って美緒が書類を覗き込む形で、書類の下部へと視線を向ける。
美「―――この署名か」
美緒が溜息とともに声を漏らす。
書類の下部には間違いなく、ブリタニア首相チャーチルのほか、計四名の大将の名、果てには、ロマーニャの第一公女の名までが記されている。
美「しかしリベリオンの第2飛行隊か。
扶桑の第2飛行隊は確か―――」
ミ「美緒!」
バ「少佐!」
美「……っとすまない」
二人に、静まり返った廊下に響き渡るような声で遮られ、美緒が思い出したかのように口を止めた。
美「そういえば国のトクトク機関の特徴は口外厳禁だったな。
何せ一種の伝説のようなものだからな、すっかり忘れていた。はっはっはっはっは!」
悪びれる様子もなくあっけらかんと笑う美緒に二人で溜息をつきながら、しかし溜息をついたところで悩み事は尽きず。
358
:
327
:2013/12/02(月) 21:17:37 ID:Tnkr.Aw20
今度はミーナも覗き込むように、再び書類に目を落とした。
バ「しかしどうするか……。
俺中佐と書かれていても、何の情報もわからないぞ」
ミ「そうね……あの機関である以上、男性なのは間違いないと思うのだけれど。
それ以外がまったく分からないわね」
美「聞けばいいじゃないか」
さも当然のような美緒の言葉に、頭上に疑問符を浮かべながら美緒へと視線を向ける二人。
美「そこに書いてあるじゃないか。
『該当ウィッチの情報公開を許可する』と。
リベリオン出身ならここにもいるだろう?」
ミ「シャーリーさんね。
確かに何も知らないよりかはマシになりそうだけれど……」
美「なに、いつまでも分からないことで時間を費やすよりも、まずは行動あるのみだ。
早速シャーリーに聞きに行ってみようじゃないか」
359
:
327
:2013/12/02(月) 21:17:55 ID:31iS2.GM0
名前入れ忘れました。328も327の者です。というか反応早ぇー…
「おい。いい加減本題に移るべきだろうが」
「そですね。さーせん。
じゃあ本題どーぞ」
「……まぁいいか。単刀直入に言おう。
サーズの発生が懸念されている」
「……ぇ、え?
嘘だよね?」
「まさか…と思いたいところだけど、確かにここ最近のネウロイの動きは……おかしいだろうな」
「サーズが発生したなら出し惜しみなど論外。陛下を呼ぶことも考慮に入れなければならない。
もしも残存ネウロイ、最悪、セカンと接触したら、我々も裏方ではいられなくなる」
「ならどうする。セカンを巣ごと駆逐するか?
正直、それをしたって大規模の戦闘を行うんだ。俺達の存在は公表されるぞ」
「そうだ。
連合軍にとって、ネウロイのコアを利用した兵器の実験には、セカンの巣は絶好の獲物だ。
そのなかで俺達が動けば、能無し共も黙ってはいないだろう。
こちらとしても本意ではない。あの時は例外だっただけだ」
362
:
327
:2013/12/02(月) 21:19:43 ID:Tnkr.Aw20
シャーリー「SP機関!?
一種の伝説か何かかと思ってたけど。
そっかー。ここにくるってことは実在するってことなんだな」
機械油の独特の臭いが漂う格納庫で、ユニットをいじっていたシャーリーを見つけて書類を渡して事情を説明すると、やはり同じような反応が返ってくる。
ミ「ええ……それで、配属が決定されてしまっている以上、やはり少しでも情報が欲しいのだけど……」
シ「うーん……といっても、アタシもそこまで知っているわけじゃなぁ……」
首にかかったタオルで汗を拭きながら、困ったように小さく笑いながら視線をそらすシャーリーだが、美緒の「構わん」の一言でようやく話し始める。
シ「―――リベリオンの第2トクトク機関は、通称・吸血鬼(ヴァンパイア)だよ。
確か、中距離から白兵戦までの戦闘スタイルだったかなぁ……」
バ「白兵戦?ネウロイ相手にか?」
シ「少佐の刀と同じようなものだよ。
あっちの場合は殴りかかるようなものらしいけどさ」
美「ほぅ……なかなか度胸がある奴と見えるな」
ミ(『変わり者』の間違い、じゃないかしら……)
バ(『変わり者』の間違いじゃ……ハッ……そういえば私も……)
シ(『変わり者』の間違い、だと思うけどなぁ……)
3人とも途中までまったく同じことを考え、1人銃器を鈍器代わりに殴りかかったことを思い出す。
365
:
327
:2013/12/02(月) 21:20:24 ID:Tnkr.Aw20
シ「あとは、別のウィッチと組んでいる……とか」
バ「別のウィッチと?SP機関が?」
バルクホルンが信じられないように声を上げる。
幽霊機関とも言われる存在すら怪しかったトクトク機関が、通常のウィッチと行動を共にするとは思えなかった。
シ「固有魔法が集団向けだとか…そんなことを聞いたことがあるなぁ。
たぶん、リベリオンで他のウィッチと組んでいたのはこのヴァンパイアくらい……だと思う」
「他の国は分からないけどさ」と付け加えたシャーリーに、他の三人も考え込む。が、まったく思い当たりはしなかった。
そもそも、自分の国であろうと、噂話以上にこの機関の情報を調べたりしない。
美「しかし、よくこんな空想のような部隊を知っているな」
バルクホルン、ミーナも少しだけ思っていたことを美緒が何気なく呟くと、シャーリーが「その言葉を待ってました!」とばかりに表情を輝かせた。
シ「それはそうさ!
第2の伝説といえば、なんて言ったってそのスピード!」
その一言に、三者とも納得のいった風に頷いた。
367
:
327
:2013/12/02(月) 21:21:01 ID:dXSckpdY0
バ「リ、リベリオンの、と、特殊戦闘統合軍特別戦闘機関!?」
美「トクトク機関か……都市伝説の幽霊機関が実在したとはな……」
ミ「ただの出鱈目と疑いたいところだけど……」
困ったような悩んでいるようなミーナの声に、先ほどとは違って美緒が書類を覗き込む形で、書類の下部へと視線を向ける。
美「―――この署名か」
美緒が溜息とともに声を漏らす。
書類の下部には間違いなく、ブリタニア首相チャーチルのほか、計四名の大将の名、果てには、ロマーニャの第一公女の名までが記されている。
美「しかしリベリオンの第2飛行隊か。
扶桑の第2飛行隊は確か―――」
ミ「美緒!」
バ「少佐!」
美「……っとすまない」
二人に、静まり返った廊下に響き渡るような声で遮られ、美緒が思い出したかのように口を止めた。
美「そういえば国のトクトク機関の特徴は口外厳禁だったな。
何せ一種の伝説のようなものだからな、すっかり忘れていた。はっはっはっはっは!」
悪びれる様子もなくあっけらかんと笑う美緒に二人で溜息をつきながら、しかし溜息をついたところで悩み事は尽きず。
369
:
327
:2013/12/02(月) 21:21:39 ID:Tnkr.Aw20
扶桑のトクトク機関も、カールスラントのトクトク機関も、リベリオンのトクトク機関も、国の名前が違うだけで、実際は一つの機関だ。
国によって所属しているウィッチは違うものの、いくつか共通しているものの中で最も分かりやすいのが『各隊の特徴』である。
例えば、第2トクトク機関であれば、シャーリーの言ったとおり『速さ』に特徴があることが共通しており、たとえどの国であろうとも、第2であれば『速いウィッチ』もしくは『瞬間的速度を出すウィッチ』であるのは確実といえる。
曰く、光速で動くとか。曰く、早すぎて分裂するとか。
―――ただ、それも全て『噂話』の域を出ず、存在すら怪しい機関のことなど覚えている方が稀である。
シ「少佐の言うとおり、空想のような部隊であることは分かっていたんだけどさ。
やっぱり気になったから調べたことがあるんだ。まさか今になってその人物がここに来るとは思ってなかったなぁ」
と、そこまで言ったところで、シャーリーの表情が一変して翳りが指す。
その表情の変化をいち早く察したミーナが首をかしげた。
ミ「……どうしたのシャーリーさん」
シ「あ、いや……さっきまでのは結構信頼できる情報っていうか、割と簡単に分かることなんだ。
ただ、ここからはちょっと信憑性はあまりないっていうかさ。本当に噂みたいなものなんだけど……」
言いよどむシャーリーに三人とも黙って先を促した。
372
:
327
:2013/12/02(月) 21:22:40 ID:Tnkr.Aw20
シ「その俺中佐なんだけどさ……一部だと女誑しとか魔女喰いとか言われてるんだ。
だから、なんていうかさ……」
気まずそうに頬をかいて視線を逸らし、それ以降言葉を発することのないシャーリー。
人のいない格納庫が無音に包まれる。。
外から流れてきた風が全員の肌を撫ぜていくが、この空気ごと換気するには弱く、余計に格納庫が静まり返る様に錯覚する。
ただでさえ得体の知れない機関からの増員だというのに、ウィッチにとって悪影響としか思えない通り名がつけられた人物。
噂とは言えど、不信感が募る。
375
:
327
:2013/12/02(月) 21:23:28 ID:Tnkr.Aw20
なんともいえない空気が漂ってしまった格納庫の沈黙を、最初に破ったのは美緒だった。
美「―――所詮噂は噂。しかし、火の無い所に煙は立たぬとも言う。
……一応、警戒はしておくべき……だろうな」
瞑想しているかのように軽く閉じられていた瞳をゆっくりと開き、先ほどまでとは違い、覚悟を決めたとも感じられる雰囲気で言葉を発した。
ミ「そうね。
少なくとも、私たちにとっては初の男性ウィッチ。
みんなにも注意を促すべきかしらね」
美緒の口から発せられた流れに乗る様にミーナが口を開くと、バルクホルンが続く。
バ「万が一を考えて、実力行使も考えておこう」
ミ「実力行使といっても、貴女の場合は加減を考え―――」
ミーナが苦笑を浮かべながらバルクホルンへと視線を向けた、その時。
基地内に警報が鳴り響いた。
384
:
327
:2013/12/02(月) 21:28:50 ID:Tnkr.Aw20
とりあえず今日はこの辺で。
これ以上はキリのいいところが見当たらないので。
まだ俺が一言も出てませんが、次にすぐ出てきます。
ちなみにSP機関とトクトク機関は同一です。
扶桑ではトクトク機関で定着していて、ほかではSP機関で定着しているということで。
自分とコピペさん以外いたかどうか知りませんが、見てくださってありがとうございます。
とりあえず、今後はペリーヌとバルクホルンを是非。
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