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仮投下スレ

1名無しさん:2013/01/13(日) 01:01:55 ID:DSSJeVnc0
投下する際に内容に不安がある場合などはここを利用してください

2 ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:09:20 ID:ToYDvbE60
これより、予約分の仮投下をさせていただきます。

3AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:10:30 ID:ToYDvbE60

     0

 ――――深い、茫洋とした海の中を漂っていた。
 光に照らされた明るい水面と、光の届かぬ暗い水底の狭間で。
 浮かぶ事も、沈む事もなく、まるで自身が海の一部であるかのように。

 その感覚は、あながち間違いではない。
 事実この体は、末端から色彩を失い、海へと溶け出している。
 ゆっくり、少しずつ、けれど一瞬で、この広大な海の一部へと変わっているのだ。
 ……それは外側だけではなく、内側も同様に。

 ここに至るまでに刻んだ決意も、
 後を託した彼女への願いも、
 共に戦ってきた相棒との記憶も、
                全て。


 永遠にも感じる刹那の一瞬。「私」は己の最期を知覚する。


 不正なデータとして分解され、ただの情報として削除される。
 後に残るのは、かつてそういう存在がいたという残滓(ログ)だけだ。
 その結末は変えられない。変え様などないし、そもそも望んで至った結末だ。
 ……だからだろう。不思議と恐れは懐かなかった。

 母の胎内で眠る赤子のように、電子の海に擁かれている。
 それが人の原初の記憶だからか。そんな経験など無いのに、なぜかそう思った。
 ―――ああ、そうか。
 『死ぬ』のではなく、『消える』のでもなく、母なる海に『帰る』のだ。

 そう思い、僅かながらの安堵を覚えた。
 それでも解れていく記憶を掻き集め、
 決して手放さないように握り締め、
 落としてしまわぬ様に抱き締め、
 胎児のように膝を抱え込んだ。

 それでも記憶は解れていく。それでも体は解けていく。
 そうして遂に、魂ともいえる何かが消え始め、

 沈むでもなく。浮かぶでもなく。
 「私」は唐突に、電子の海とは違う暗闇へと落ちていった――――

     1◆

 ―――それが、ここに来る直前の記憶だった。

 そんな回想をついしてしまう程に、事態は混迷を迎えていた。
 唐突にVRバトルロワイアルとやらに強制参加させられたから、ではない。
 もちろんそれは思案すべきではあるし、第一に対処すべき事だ。
 だがそれを後回しにしてしまう程に厄介な事態が、同時に三つほど発生したのだ。

 一つ目の事態は、現在目の前に居る人物。
 継ぎ接ぎだらけの橙色の服を着た、まるでゾンビかフランケンの様な少年。
 最初はエネミーかとも思ったが、襲いかかって来る様子はなく、また敵意も感じ取れなかった。

 彼と遭遇したのは、バトルロワイアルが始まってそう間もなくだった。
 残る二つの事態に困惑していた時に、まるで幽鬼のように彼がふらりと現れたのだ。
 そうして突然現れた人物に警戒を見せていたこちらへと近寄り、何かを訴える様にジッと見詰めて、

「アァァァァアアァァァ……」

 と、唸る様な、言葉になっていない声を口にした。
 襲ってくる様子もなかったのでしばらく待ってみたが、彼から出るのはそんな唸り声ばかり。
 彼が何かを訴えているのはわかる。だが肝心な、何を訴えているのかが、一向に把握できなかった。
 かと言って諦めて立ち去る様子もないので、どうにも対処に困っていた。

 ―――そんな彼を後目に言い争う、背後から聞こえる三つの声。
 それが二つ目の事態。自身の相棒であるサーヴァント“達”の事だ。

4AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:11:03 ID:ToYDvbE60

『余こそが奏者のサーヴァントにして唯一のパートナーなのだ! 貴様ら二人は疾く何処へと立ち去るが良い!』
 と宣言するのは赤いドレスの様な(本人曰く)男装をした少女、セイバー。

『何をおっしゃりますかこの泥棒猫は! ご主人様のサーヴァントは私ただ一人に決まっているんです! 貴女の方こそ今すぐに消えてくれませんか!?』
 そう返すのは狐の耳と尻尾を生やした青い着物の女性、キャスター。

『少し落ちつきたまえ二人とも。今は言い争うよりも、事態の解明を優先すべきだろう。
 もっとも、私もマスターのサーヴァントである事を譲るつもりはないがね』
 比較的まともな事を言っているのは赤い外套の男性、アーチャー。

 彼女達は霊体化している為、目の前の少年には姿も見えず、声も聞こえていないだろう。
 だが傍目にも怪しい人物である彼をほったらかして言い争っているのは、自身への信頼の表れだと思いたい。

 彼女達が三人とも己のサーヴァントである事は間違いない。
 セイバーとも、アーチャーとも、キャスターとも、最後まで共にいた記憶はある。
 だが同時に、己のサーヴァントは一人だけだった筈なのも確かなのだ。
 この矛盾。記憶の齟齬を解明するには、三つ目の問題が大きな障害となっていた。
 そしてその三つ目の事態とは――――

「                」

 と思考を巡らせたその時、どこからか少女の悲鳴が聞こえてきた。
 同時に、現在の状況を正しく思い出す。
 今はバトルロワイアル――聖杯戦争と同じ、正真正銘の殺し合いの最中だと言う事を。

「――――――――」
 直後、唸り声を上げるだけだった少年が、弾かれるように声の聞こえた方へと駆け出した。
 聞こえた声の感じから判断すると、そう遠くには居ないだろうが、同時に急いだ方がいい事も判る。
 すぐに己がサーヴァント達へと声をかけ、自分も少年を追って走り出す。

『了解したマスター。二人とも、言い争いは後だ。今は奴を追うぞ』
『むう、致し方あるまい。だが余は貴様等の言い分を認めた訳ではないからな!』
『それはこっちの台詞です! 貴女こそこれで終わったとは思わないでくださいね』
 アーチャーの言葉に従いながらも、セイバーとキャスターはまだ睨み合っている。
 どうやらこの問題の解決には、相当な時間がかかりそうだった。

 先を行く少年を追いかけながら、自身の戦力を再確認する。
 悲鳴があった、という事は、誰かが襲われているという事だ。つまり戦闘になる可能性が高い。
 とはいっても、セイバー達の戦闘能力はちゃんと覚えている。三人いれば、余程の相手でない限り負けないはずだ。
 ただ問題は―――

 そう湧き上がる不安を一先ず仕舞い込み、悲鳴の元へと駆けつける。
 このデスゲームで自分はどうすべきなのか、その覚悟を決める為に。

     2◆◆

 ―――一人の少女が、息を切らして走っている。
 その必死さは、まるで立ち止まれば死ぬと信じているかのように。
 そしてその考えは、紛れもない事実だった。

「ハァ……ハァ……ハァ―――」
 取得したマップデータを頼りに、高いビルの立ち並ぶフィールドを駆け抜ける。
 今は視認できないが、追跡者は迷うことなく私を追って来ている。
 それは迫り来る反応からも間違いない。

「ハァ……ハァ、ッ……ハ―――」
 「息が切れる」という体験を、初めてしている。
 これは苦しい。運動を嫌う人の気持ちが、少しだけ理解出来た。
 でもそれ以上に、私には疲れるという機能は無いはずなのに、こうして息が切れているのが不思議だった。

 ……いや、それを言うのなら、今感じている感覚全てが初めてで、この上なく鮮烈だ。
 今まで私が感じていたものが0と1(データ)で再現(つく)られただけの偽物なのだと、否応なく思い知らされる。
 風を受ける感触。駆け抜ける地面の硬さ。肌から伝わる温度。そして―――受けた傷の『痛み』。

「ハッ……、ハッ……、――ッハ」
 そうだ、勘違いしてはいけない。
 今私が息を切らしているのは、『疲労』からではなく『恐怖』からだと言う事を。
 追跡者は今も追って来ている。その恐怖が、こうして私を喘がしている。

5AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:11:38 ID:ToYDvbE60

     †

 それはデスゲームが始まってそう間もなくの事だった。
 初めは突然の事態に混乱したが、私はすぐに両親か、せめて他のプレイヤーを見つけようと判断した。
 ALOでそうしてきたように広域マップデータへとアクセスし、プレイヤーの反応をサーチして、一番近くの反応へと向かう事にした
 そして取得できた一エリア分のマップデータを頼りに、フィールドの一角を曲がった時、
 ――その『存在』と遭遇した。

 赤い、人型をした異形の巨人。
 顔に人間の様な目、鼻、口はなく、代わりに白いラインが顔を画く様に入っている。
 両腕は筋肉によってか異様に膨れ上がり、背中からは羽の様なものが生えている。
 そして何より、その巨人から放たれる“何か”によって、自分のみならずフィールドまで震えているような気さえする。

 ―――モンスター。
 そんな単語が浮かび上がった。目の前の赤い巨人は、どう見たってモンスターだ。
 だが、どうしてここにモンスターがいるのか。
 初めにサーチをした時、近くには幾人かのプレイヤーの以外には、“何の反応も無かった”のだ。
 まるで唐突に出現したとしか思えなかった。

 幸いにして、巨人はまだこちらに気づいていないらしく、何をするでもなく佇んでいる。
 その湯巣に、今すぐここを離れるべきだと判断し、慎重に、一歩ずつ後退りした。
 ……その、直後だった。


「ふふふ……。さあ、鬼ごっこを始めましょう」
「フフフ――。一生懸命、その子から逃げてね」


 不意に聞こえてきた、誰かの声。
 と同時に、巨人が唐突に振り向き、その視線が私を捉えた。
 何故、と考える間もなく、巨人が接近し、拳を振り下ろした。
 私は咄嗟に後ろへと飛び退いて、その一撃を回避する。
 標的を外した巨大な拳は、地面を打ち砕いて破片を撒き散らす。

 巨人の攻撃を躱せたのは、様々な戦いを見ていた事と、巨人の攻撃が大振りだったからに過ぎない。
 けれど戦闘経験の私には急な回避モーションは難しかったようで、バランスを崩して尻餅をついた。
 それと同時に、地面に打ち付けた臀部と、右の二の腕から『痛み』を感じた。
 思わず二の腕を押さえてそこを見れば、小さく刻まれた、赤いダメージエフェクト。
 どうやら、砕かれた地面の破片で切ったらしい、と私の冷静な部分が判断を下す。

 大丈夫。傷は浅い。けれど―――“痛い”。
 私は、生まれで初めて感じた痛みに思考を停止させた。

 私が過ごしてきた世界――SAOとALO。そのどちらにおいても、『痛み』は存在しなかった。
 正確に言えば、ペイン・アブソーバによって遮断されていたのだが、それでも現実の肉体を持たない私には無縁の感覚だった。
 そう。精神的な『痛み』は知っていても、肉体的な『痛み』に対する経験は皆無だったのだ。
 だがそれ故に私は、全く未知の感覚に、この上ないほどに混乱したのだ。

 けどそんな私の様子など関係ないように、再び拳を振り上げる。
 その光景を見て私が感じたのは、紛れもない『恐怖』だった。
 私は生まれて初めて、死ぬ事に恐怖を感じたのだ。

 ―――死ぬ。
 巨人の一撃を受ければ、左腕の傷とは比べものにならないくらいの『痛み』を受けて死ぬ。

 そんな確信に満ちた予感が、私の心を埋め尽くした。
 私は堪らず悲鳴を上げて、巨人から背を向けて逃げ出したのだ。

6AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:12:00 ID:ToYDvbE60

     †

 そして今、私は懸命に逃げ続け、巨人は変わらず私を捕捉している。
 移動速度は私よりも巨人の方が早い。
 それでも私が逃げ続けられているのは、私がマップデータを取得していた事と、巨人の反応をキャッチ出来ているからだ。
 けれど、少しでも逃げ道を間違えたるか、躓いてこけてしまえば、すぐに巨人に追い付かれてしまうだろう。

「パパ………ママ―――」
 誰よりも大好きな二人を呼ぶ。けれど、二人はここには現れない。
 もし彼らが近くに居るのならば、最初にサーチした時点ですぐに向かっている。
 けれど二人の反応はなかった。つまり、すぐに駆けつけられる距離には居ないという事だ。
 その事実が、かつて私が観察し続けた『絶望』という感情を湧き上がらせ、肥大化させていく。

「パパ、ママ……助けて―――!」
 助けを求めて、懸命に二人を呼ぶ。
 無意味な行為と解っていても、その言葉が止まらない。
 だって二人は、パパとママは、私達が出会ったデスゲームを終わらせた英雄だ。
 特にパパは、ゲームマスターのヒースクリフを倒し、妖精王オベイロンを倒し、ママを助け出した勇者だ。
 二人が来てくれればきっと、どんな怪物だって、あの巨人だって倒せるはずなんだから――――

「、あっ――――」
 躓いた。
 余計な事を考えたから、足元がおろそかになったのだ。
 余裕が無いのにリソースを割けば、ラグが生じるのは当然だ。
 その一瞬の動作の遅延に足を取られ、僅かに体が浮いて、地面に打ちつけられた。
 同時に痛みと、それ以上の恐怖が襲って来る。

 すぐさま体を起こし、起き上がる。
 巨人が来る前に、早く逃げなくては。
 そう思い、走り出そうとして、

 突如としてすぐ側の壁面が粉砕され、その瓦礫が、左脚を強く打ち据えた。

「        、あぁああぁああぁぁぁあッッ………!!!」

 先ほどとは桁違いの痛みに、絞り出すような悲鳴を上げる。
 同時に走り出そうとした慣性が制御を離れ、私の体は再び地面に打ち付けられた。

「あ―――ぁああ………ッ!」
 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
 欠損した訳ではない。ダメージはあるが、動作に問題はない。
 それでも『痛み』が、足を動かす事を妨げる。
 動けない。動きたくない。これ以上痛い思いをしたくない。……死にたくない。
 これが恐怖……『死の恐怖』。アインクラッドにおいて、多くの人を始まりの街へと縛りつけた感情。

「ぁ……う、うう……ッ」
 痛みに阻害されて、左足がうまく動かない。
 それでも地面を掴んで這うように前へと進む。
 少しでも遠くへと逃げる為に、恐怖に強張る体を必死に動かす。
 砕かれた壁を見れば、そこから赤い巨人が、瓦礫を踏み砕いて姿を現した。

「ぁ……、ぁあ………」
 『死の恐怖』が、私を飲み込んでいく。
 あまりの恐怖からか、悲鳴さえもう掠れるようにしか出ない。
 そんな私を追い詰める様に、巨人が更に一歩踏み出した――その瞬間。

 突如私の背後から飛来した蒼い炎が巨人を急襲した。
 その攻撃に巨人は歩みを止め、襲い来る蒼炎を巨腕で振り払う。

「えっ……?」
 思わず炎が飛んで来た背後へと振り返る。
 そこにはいつの間にか、継ぎ接ぎだらけの橙色の服を着た少年がいた。
 まるでモンスターの様な外見だが、反応から彼もプレイヤーだとすぐに気付く。
 少年は私の横を通り過ぎると、禍々しい双剣を具現化して逆手に構え、巨人と相対した。
 ――まるで巨人に対して、自分が相手だと言わんばかりに。

7AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:12:46 ID:ToYDvbE60

「……あなたは?」
「……………………」
 応えはない。少年は巨人へと集中している。
 巨人もまた、私よりも少年の方を脅威と判断してか、警戒らしき動作を見せている。

  ―――君、大丈夫?

 突然現れた少年に気を取られていると、背後から唐突に声をかけられた。
 びっくりして振り返ると、そこには学生服を着た女の人が、心配そうな顔をしていた。
 そしてその背後には、二人の女性と一人の男性が、女の人に従うように傍にいる。
 その姿に私は、助かった、と危機が去った訳でもないのに安堵した。

     3◆◆◆

 継ぎ接ぎの少年――カイトがこのバトルロワイアルに呼ばれた時、彼は人間で言う混乱した状態にあった。
 何しろいきなり『The World』から全く未知の世界へと転送されたのだ。
 プレイヤーの形をとって『The World』を修正するプログラムである彼は、その事態に対応できなかった。
 現在の事態も把握できず、修正プログラムとしての権限も使えない状況で、目的と取るべき行動を見失ったのだ。

 だがその時、一人のプレイヤーと思われる人物と遭遇した。
 そこで彼は、そのプレイヤーに同行する事で、当面の方針を得ようとした。
 『The World』で言えば、そのプレイヤーのパーティーに入り、リーダーを任せようとしたのだ。

 しかし彼には、相手に上手く自分の意思を伝える事が出来なかった。
 彼の未熟なプログラムには、意思疎通という点において大きな問題があったのだ。
 そして当然のように、コンタクトは失敗。彼に出来たことは、その人物へと訴えるように唸り声を上げるだけだった。

 だがそんな時、少女の悲鳴と、見知った反応を感じ取った。
 行動の優先順位を変えるのは早かった。
 カイトは一目散に反応を感じる場所へと向かった。
 そしてそこに居たのは、一人のAIと、赤い異形の巨人。

 赤い巨人の方は、全く見覚えがない。『The World』には存在しないモンスターだ。
 だが少女の方からは、覚えのある反応を感じ取ることが出来た。

 即ち、自らの主――女神AURAの反応だ。

 そう理解した時、カイトの目的は定まった。
 何故少女から女神AURAの反応があるのかは解らない。
 だがその反応が己が主の物であることは間違いない。
 ならば女神AURAの守護者として少女を護り、眼前の敵を打ち倒すのだと。

「ア゛アアァァァア!!」

 そうしてカイトは声を上げ、ある種の使命感を胸に、双剣を構えてスケィスへと突撃した。

     †

 先を走る少年の背中を追いかける。
 おおよその位置は把握しているのか、彼の走りには迷いが見られない。
 一体どこを目指しているのかと思いつつも、幾つかの角を曲がったところで、

「あぁああぁああぁぁぁあッッ………!!!」

 車が家屋にぶつかったかの様な音と、その直後に絞り出す様な悲鳴が聞こえた。
 聞こえた悲鳴に、焦燥感が強くなるが、同時に安堵もした。
 たとえ悲鳴だったとしても、声を出せたという事はつまり、声の主はまだ生きているという事だ。
 そうして聞こえた悲鳴を頼りに、一層強く地面を蹴って最後の角を曲がり、
 視界に入った赤い異形の巨人に、思わず足を止めて目を見開く。

「馬鹿な。なぜ彼奴がここに居る!」
「ヤバイ……めっちゃヤバイですよこれ! 尻尾にビンビン来てますって!」
「出来れば、二度と相手にしたくなかったのだがな」
 驚きを口にしながらセイバー達も実体化し、すぐに周囲を警戒する。

8AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:13:19 ID:ToYDvbE60

 ――ジャバウォック!
 その巨体から放たれる凶悪な魔力を見間違えるはずがない。
 あれは間違いなく、ありす達の“お友達”のジャバウォックだ。
 何故ここに、と思わず叫びそうになるのをどうにか飲み込んで、周囲を見渡し警戒する。

 ジャバウォックの近くには一人の少女がいる。おそらく悲鳴の主は、その少女だろう。
 だがその少女を護る様に、少年が双剣を逆手に構えてジャバウォックと相対していた。
 ならば自分は、と少女へと駆け寄り、大丈夫かと声をかける。
 いきなり声をかけられた少女は驚いた顔をした後、安堵したように緊張を解いた。

 少女に手を貸し、立ち上がらせる。
 その際に少女に残る傷に思わず顔をしかめる。
 だが彼女が無事だったことを喜ぶべきだと、すぐに表情を和らげる。

「私は大丈夫です。……あ、あの」
 そう躊躇いがちに聞いてきた少女の問いを、話は後で、と遮る。
 危機はまだ去った訳ではない。まずはジャバウォックをどうにかしなければならない。
 それにまだ、あの少年の正体も判明していないのだ。

 少女を背に庇いながら、少年とジャバウォックを観察する。
 少年は……少なくとも、今は敵ではない。
 最初にすぐに襲ってこなかった事と、少女を助けたことからそう判断できる。
 対してジャバウォックからは、初めて遭遇した時ほどの凶悪な魔力は感じられない。
 だがその力がなおも驚異であることは容易に想像できる。

 ちらりと、アーチャーへと視線を送る。
 それを受け取ったアーチャーは、僅かに首を振って答える。
 ――不可能、か。
 アーチャーの能力ならば、“ヴォーパルの剣”を作り出せるのでは?と思ったのだが、どうやら出来ないようだ。
 単に作り出せないのか、それとも効く程の効力を持たせられないのか、あるいは“制限”からか……。
 いずれにせよ、ジャバウォックの弱体化は望めないらしい。

「ア゛アアァァァア!!」
 その、僅かな目配せの隙に、少年がジャバウォックへと突撃した。
 止める間もない。
 少年は一瞬でジャバウォックの懐に潜り込むと、双剣を振るってその胴体を切り刻む。
 あまりにも超高速の連続攻撃に、まるで少年が三人に分身したかのようにさえ見える。
 そして少年がジャバウォックの横合いを過ぎ去った時、その胴体には、三角を描くように傷痕が刻まれていた。

 目を見張るほど強烈な連続攻撃。
 例えサーヴァントであっても、無防備に食らえば倒されかねないだろう。
 ――――しかし。

「        ッ!!」
「……………………ッ!?」
 名状しがたい叫び声とともに、少年の身体が弾き飛ばされ、フィールドの壁に激突した。
 技後硬直の隙をついて、ジャバウォックがその巨腕で少年を薙ぎ払ったのだ。
 そしてさらに、ダメージの反動で動けない少年に止めを刺そうと、ジャバウォックが右腕を振りかぶる。
 それを見過ごすわけにもいかず、即座にセイバー達へと指示を出す。

「了解した!」
「余に任せよ!」
「無茶言いますね!」
 それに従ってセイバー達はジャバウォックの元へと駈け出す。
 そんな間もあればこそ、ジャバウォックは少年へと、その大きな拳を勢いよく振り下ろした。
 その一撃を先行したキャスターが、玉藻鎮石(たまもしずいし)と呼ばれる鏡を翳して防ぐ。
 ドゴン、と尋常ではない衝突音が響き、キャスターが苦悶の表情を浮かべるが、完全に守りきる。
 だがその隙に、セイバーが渾身の魔力を込めた一撃でジャバウォックの左腕を切り落とす。
 更にアーチャーがガラ空きとなった懐に潜り込み、飛来した双剣と共に三連撃を叩き込み、その巨体を弾き飛ばす。

 ――直後。唐突に襲ってきた立ち眩みに、ガクンと膝を落とした。

「だ、大丈夫ですか!?」
 背後の少女が、慌てて声をかけて来る。
 急速に力が抜けていく。
 どういう事かと考え、すぐにその理由に思い至る。

 ――そういうことか。
 この異常は単純に、急激な魔力消費によって、肉体が異常をきたしたのだ。
 おそらくだが、サーヴァントを実体化させると、その維持にマスターの魔力が消費されるのだ。
 それがマスターである自分に掛けられた制限。
 そして自分は今、サーヴァント三騎分の魔力を一気に消費している。この立ち眩みは、それが原因だろう。
 そうと分かればどうという事はない。これが彼女達を従える対価なら、安いものだと自分に言い聞かせる。

9AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:14:01 ID:ToYDvbE60

 ――大丈夫だ。心配ない。
 心配少女にそう言って、どうにか自力で立ち上がる。
 それでも少女は心配そうな表情を見せるが、その視線を振りきってジャバウォックへと向き直る。
 弾き飛ばされたジャバウォックは地面に横たわっている。

 〈呪層・黒天洞〉でジャバウォックの一撃を防ぎ、〈花散る天幕〉で防御手段を一つ減らし、〈鶴翼三連〉で大ダメージを与える、加減無しの三連携。
 即興にしては上手くいった。並大抵の相手ならば、これで終わっているだろう。
 だが、ジャバウォックを相手にしては、これでも安心する事は出来ない。

「そんな……!」
 その様子に、少女が驚きの声を上げる。
 ジャバウォックが何事も無かったかのように立ち上がったのだ。
 そして肘から先を失った左腕を不思議そうに見つめた後、ゆっくりセイバー達へと向き直る。
 その次の瞬間にはもう、切り落とされた左腕も、胴体に受けた傷も完全に修復されていた。

 ……やはり、“ヴォーパルの剣”がなければ倒せないか。
 泰然とした様子のジャバウォックを見て、内心でそう嘆息する。

「アァァァ…………」
 とそこで、ジャバウォックの一撃から持ち直したのか、少年が立ち上がる。
 戦意はまだあるらしく、その眼はしっかりとジャバウォックを捉えている。そしてその右腕を掲げ、ジャバウォックへと突き付ける。
 するとその腕に、半透明のポリゴンを何枚も重ね合わせた、腕輪の様なものが      。

 ――――――――。
 あれは、『危険』だ。
 あの腕輪は、“自分達”にとってこの上なく危険な『力』だ。
 決して何があろうと、あの腕輪の『力』だけは受けてはいけないと。
 さもなくば、『自分』が『自分』でなくなるのだと、理性より先に本能が理解した。

 腕輪は回転する三枚の赤いポリゴンを出現させながら、まるで何かの準備を整えるかのように、より大きく展開していく。
 そして最大限に展開したのか、三枚の赤いポリゴンの回転が止まり、直後、少年の腕輪から極彩色の光が放たれ、ジャバウォックの身体を貫いた。

 光に貫かれたジャバウォックは突然苦しみ出し、その凶悪な気配を急速に萎ませていく。
 それを好機と見たセイバー達が、渾身の攻撃をジャバウォックに叩きこむ。
 無防備に攻撃を受けたジャバウォックは、ズン、と音を立てて倒れ、その体を崩壊させていく。
 まるで“ヴォーパルの剣”を使われたかのようなあっけなさ。
 謎のスキルで怪物を弱体化させた少年を、その場に居る全員が強く警戒する。
 だがその中で一人――いや、二人だけが、少年の腕輪の力を正しく理解し、恐怖していた。

「ああ! お姉ちゃんみーつけた!」
「よかったねあたし(ありす)。また遊んでもらえるわ」

 ――――――ッ!
 背後から唐突に聞こえた声。咄嗟に振り返り見た光景に、思わず自分の目を疑う。
 手を握った少女と同じくらいの年齢。双子のようにそっくりな姿。白と黒の砂糖菓子。
 いるはずのない二人の少女――ありすとそのサーヴァント、アリス/キャスターがそこにいた。

「……あれ? あれれ? 確か、お兄ちゃんじゃなかったっけ? でもお姉ちゃんだったような気も……。どっちだっけ?」
「うーん……どっちでもいいんじゃない? 今はお姉ちゃんなんだし、お姉ちゃんという事にしたら?」
「いいのかな? それで」
「いいのよ。それで」

 ……ここで、ジャバウォックを見た時からの疑問が浮かび上がる。
 記憶の断片から、一つの確かな事実を掬い上げる。
 彼女たちは聖杯戦争の第三回戦にて敗北し、ムーンセルによって消去された――つまり“死んで”いるはずなのだ。
 だが現に、目の前には二人のありすが存在している。
 これは一体、どういうことなのか……?

「ご主人様、考えるのは後です! 今はこの場を切り抜ける方法を!」
 キャスターの言葉で我に返る。
 そうだ。今は考えるよりも先に、目前の脅威に対処すべきだ。
 彼女達が何故ここに居るのか疑問が尽きないが、相手にしている余裕はない。

「それにしても、“ヴォーパルの剣”を使わずにあの子を倒すなんて、お姉ちゃんたち凄いね」
「籠めた魔力が甘かったのかしら。そこのお兄ちゃんのスキルの効果なのかな?」
「わからないわ。けど、お姉ちゃんと遊べるのは楽しみね、あたし(アリス)」
「そうね、楽しみ。今度は何して遊びましょうか、あたし(ありす)」

10AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:14:26 ID:ToYDvbE60

 二人のありすは、相変わらず自分達だけの世界でおしゃべりしている。
 対して少年の方を見れば、ジャバウォックの時と違って戦意を感じられない。
 元々目的も、敵か味方かも分からないのだ。戦力としては期待できないだろう。

 ――この少女を、ジャバウォックに襲わせたのは、なぜ?
 碌な答えは期待できないが、念のために問いかける。
 場合によっては、行動を改めなければならない。

「だってその子、ジャバウォックを見て逃げようとしたんだもの」
「逃げるのを見たら、追いかけたくなっちゃうよね。兎とか」
「だからその子で、鬼ごっこをして遊ぼうって思ったの」
「鬼はあの子。その子は兎。捕まえたら首をちょん切っちゃうの」
「ふふふ………。ちょん切って、どうするの? あたし(アリス)」
「フフフ―――。そうね、どうしましょうか。あたし(ありす)」

 子供特有の残酷さに、思わず渋面を浮かべる。
 心配になって横目に見てみれば、少女は顔を青ざめて震えていた。
 視線を戻せば、話は終ったとばかりに、ありす達はまたおしゃべりに興じている。

 アリス/キャスターのステータスはオールE。サーヴァントとして最低限といった程度だ。
 その能力・宝具こそ脅威だが、セイバー達が三人で掛かれば問題なく倒せるだろう。
 だが彼女達のいる場所は、セイバー達からは少し遠い。少しでも間を与えれば、一瞬で逃げられる。
 そして魔力の消費速度から予測すると、セイバー達を維持できるのは、保って残り二分強程度。
 行動するなら、彼女達がおしゃべりに夢中になっている今の内だ。
 ここは―――

    A.ここで倒す
   >B.今は逃げる

 アリスの宝具は、一度発動してしまえばある種の無限ループに陥ってしまう。
 セイバー達の維持に時間制限がある以上、彼女たちに逃げに徹せられてしまえばこちらが不利となる。
 ましてや今は、守るべき少女がすぐ側にいる。彼女を戦いに巻き込む訳にはいかない。
 ――今は逃げて、大勢を整えるべきだ。
 そう判断し、少女の手を取って後退りをする。

「お姉ちゃん、逃げちゃうの? それじゃつまらないわ」
「そうね、つまらないわ。……そうだ。また“鬼ごっこ”なんてどうかしら」
「“鬼ごっこ”をもう一度するの? おんなじ遊びなんて、あきないかしら」
「大丈夫よ。さっきは私達が鬼だったけど、今度はお姉ちゃんに鬼になってもらうの」
「まあ、それなら大丈夫ね」
「ええ、きっと大丈夫よ」

 その途端、それを見咎めたありす達が、次の“遊び”を決定する。
 ――“鬼ごっこ”。
 ありす達が告げるその遊びに、背筋が凍るような悪寒が走る。
 マズイ。何の対策もしていない今、“あれ”を発動されたら全滅する!
 逃げる余裕はない。即座にセイバー達へと、ありすを止める為に指示を出す。

「任せよ!」
 セイバーが先行し、ありす達へと大剣を一閃する。
「危ないわ」
 その一撃を、アリスが手刀に魔力を込め弾き返す。
 速さだけを優先させた一撃では、アリスの防御を破れない。

「これは躱せるか!」
 だがアリスが反撃するより早く、アーチャーが〈“赤原猟犬(フルンディング)”〉を放つ。
 赤光を纏った魔弾は、直線状に居るセイバーを迂回するようにアリスへと襲いかかる。
「簡単ね」
 それをアリスは、ありすの手を引いきながら大きく飛びのいて回避する。

「気密よ、集え!」
 そこへ、キャスターが〈呪相・密天〉を発動する。
 その魔力に導かれ、風が集束してありす達を閉じ込め押し潰す。
「ふふふ」
「フフフ―――」
 その大気の壁による圧縮から、ありす達は転移する事で脱出した。

「お姉ちゃん、もう終りなの?」
「じゃあ鬼ごっこをはじめよう?」
 楽しげに笑う二人の少女。
 彼女達は近づくには遠く、離れるには近い微妙な距離に居る。
 今攻撃したところで、すぐにまた逃げ回られるだけだろう。

 まさしく楽しげに遊ぶ子供。
 周囲の人間を翻弄して、徒労させる小悪魔。
 逃げに徹した彼女達は、やはり簡単には捕らえられない。
 しかし―――布石はすでに打ってある。

11AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:15:01 ID:ToYDvbE60

「ッ!」
「?」
 その一手に、ありすはまだ気づいていない。
 気付いたアリスが、咄嗟に振り返る。
 ……だがもう遅い。
 もはや転移での回避は間に合わない。
 二人の少女へと、回避したはずの赤い魔弾が襲いかかった。

 “赤原猟犬”は、射手が健在かつ狙い続ける限り標的を襲い続ける魔剣だ。
 たとえありす達がどこへ逃げようと、アーチャーの視界に居る限り、その魔弾から逃れる事は出来ない。

 ありすを庇い、アリスは渾身の魔力を四肢に込める。
 しかし彼女の防御力では、魔弾は防ぎきれない。
 例え倒すには至らなくても、大ダメージは免れないだろう。

 そうして、大気を震わす衝撃を伴って、赤光が弾けた。
 その瞬間、赤光の魔弾が二人の少女を貫く光景を、誰もが光景を幻視し、
 ――しかし、その光景は訪れなかった。

 光に眩んだ眼が視力を取り戻し、驚きに目を見開いた。
 目の前には魔弾に貫かれたはずの二人の少女が、なおも健在。
 そして彼女達のすぐ側には、紫の毛並みをした猫のような獣人がいた。

「――――大丈夫かい? 二人とも」
 猫の獣人が、ありす達に声をかける。
 その手には異風な形状をした、紫色の刀剣が握られている。
 緋の猟犬は、彼女の持つ魔剣によって防がれ、弾き飛ばされたのだ。

 そして“赤原猟犬”での追撃は、もう望めない。
 十分な魔力を籠められなかった魔弾では、標的へと翻るのは一度が限界だった。

「………マ$………」

 不意に少年が、何かの言葉を口にする。
 だが彼から初めて聞いた意味を持った単語は、なぜかノイズが奔った様によく聞き取れなかった。

「遅いわチェシャ猫さん。もう少しでケガするところだったわ」
「遅刻はダメだよ。首をちょん切っちゃうんだから」
「コメンゴメン。首は切られたくないから、今度はちゃんと気を付けるよ。
 でもありす達だって悪いと思うな。僕を置いて先々行っちゃったんだから」

 ありす達と猫の獣人は、親しげに会話をしている。
 だが隙だらけという事はなく、彼女達は警戒を全く解いてない。
 例え今仕掛けても、“名無しの森”を出現させるだけの時間は稼がれてしまうだろう。
 ともすれば、ジャバウォックさえも再び呼び出されてしまうかもしれない。

「まあいいわ。今回だけは許してあげる。
 それじゃああたし(ありす)。今度こそお茶会を開きましょう」
「うん、そうしようあたし(アリス)。
 みんなで一緒に、ごっこ遊びをはじめましょう」

 二人のありすから、膨大な魔力が放たれる。
 規格外の『力』の具現。その予兆で、フィールドが軋み始める。
 現れるのは“名無しの森”か、“ジャバウォック”か、あるいは両方か。
 何が現れるにせよ、まず無事では済まないだろう。

 脳裏に一抹の不安が過る。
 果して自分は、生き残る事が出来るのか、と。
 ……いや、なんとしても生き残るのだ。
 今この手には、守るべき命が握られているのだから。
 繋いだ少女の手を強く握り、そう覚悟を決めた、その時だった。

「二人とも、ちょっと待ってくれるかな」
 一体どういうつもりなのか、猫の獣人がありす達に制止の声をかけた。

「チェシャ猫さん?」
「どうして邪魔をするの?」
「いやほら、彼らだってジャバウォックと遊んで疲れてるだろうしさ、少しは休ませてあげたらと思ってね。
 それにあの子も鬼ごっこで逃げ切ったんだし、ご褒美を上げなきゃ」
 その言葉にありすは少し考えた後、納得したように頷いた。

「うん、そうだね。疲れてたら、思いっきり遊べないよね。
 ねぇあたし(アリス)、お茶会はまた今度にしましょう」
「もう、しょうがないわね、あたし(ありす)は。
 いいわ、今日のところは見逃してあげるね」
 その言葉と同時に、密度を増していた魔力が霧散する。言葉通り、見逃してくれるという事だろう。
 獣人の方を見てみれば、彼女はありす達に見えないようにウィンクをしてきた。
 助けてくれた……のだろうか。
 だとすれば彼女は、一応ありす達の仲間ではあるが、完全な仲間という訳ではないのかもしれない。

12AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:16:10 ID:ToYDvbE60

「それじゃあバイバイ、お姉ちゃん」
「また新しい遊び、考えておくね。
 行きましょう、チェシャ猫さん」
「二人とも、また置いてかないでよ。
 あ、そうだ。僕の名前はミアって言うんだ。お互い、生きてたらまた会おう」
 そう言って二人のありすと猫の獣人――ミアは、どこかへと走り去って行った。
 そしてその姿が見えなくなると同時に、ようやく危機を脱したのだと理解した。
 そのことに安堵すると同時に、今更ながらに心臓の鼓動が激しくなっている事を自覚する。

 ――だが、これで全てが終わった訳ではない。
 深呼吸して、改めて継ぎ接ぎだらけの少年と相対する。
 彼は双剣を納めながら、こちらへと近づいてきている。
 最初にあった時、少年は唸るばかりで何もしてこなかった。
 だが少年の見せたあの『腕輪の力』を思い出し身構える。

 ジャバウォックを一瞬で弱体化させたあの力。
 もし自分があれを食らってしまえば、『自分』の全てが消えてなくなる。
 そんな、絶対的な確信に満ちた予感があった。

 そして少年は会話をするのに十分な距離で立ち止まると、

「アァァァァアアァァァ……」

 そう、最初と同じように様に、唸り声を上げたのだった。
 張り詰めた緊張の糸が緩み、警戒心が薄れた。
 密かに警戒していたセイバー達も、思わず警戒を解く。
 まるでふりだしに戻る。
 一体どうしろというのかと、頭を抱える。
 するとその時、思わぬところから、神の啓示の如き一声が届いた。

「あの……この人、あなたに何かお願いしたい事があるそうですよ?」

 思わず弾かれる様に振り向き、声の出所である少女をまじまじと見つめて、訊いてみた。
 ――彼の言ってる事、わかるの?

「はい。何となくではありますけど」
 その言葉に、おお、と感嘆の声を漏らす。
 何となくだとしても、混迷する事態を解決できるのなら、それに越したことはない。
 両手で少女の手を握り、迷わず少女へと助けを求める。

「いいですよ。これくらい、お安いご用です。
 私も助けてもらった恩を返したいですし」
 そう言って少女は快く引き受けてくれた。
 これでようやく、現状を先に進められそうだ。
 その安堵とともに、少女へとありがとうとお礼を言う。

「あ、そうだ。先に自己紹介をしておきますね」
 少女のその言葉に、大切な事を思い出した。
 そうだ。自分達はまだ、お互いの名前も知らないのだ。

「私はユイと申します」
「……カ#ト」
「えっと……彼はカイトって名前だそうです」

 ユイに、カイト。
 おそらく、これから共に闘うであろう仲間の名前を、大切にかみしめる。
 カイトの言葉は、先ほどと同様によく聞き取れない。
 だがユイの助けがあれば、一応の意思疎通は出来るだろう。
 少女達へと向き直り、自分の名前を告げる。
 自分の名前は―――

    A.フランシスコ…ザビエル!
   >B.岸波 白野。

 ――岸波 白野だ、よろしく。
 二人へと向けて、精一杯の信頼を込めてそう口にする。
 ………なぜか一瞬、脳裏に妙な名前が浮かんだが、その名前だけは間違いなく、致命的に間違っている。
 誰が何と言おうと、自分の名前は岸波 白野だ。決してフランシスコな単語ではない。

「ハクノさんですね。これからよろしくお願いします」

 ユイの呼び掛けに何となく安心しつつ、それじゃあ、と気持ちを切り替える様にマップデータを開く。
 カイトの頼みを聞くにしても、こんな場所ではまた襲撃されかねない。
 まずは安全な場所に向かった方がいいだろう。
 するとユイがまた、自分達を助ける一言を口にした。

「あ、周囲のマップデータでしたら、既に取得してあります。
 ですので、道案内は私に任せてください」

 ……ホントにこの子は、天使か何かなのだろうか。
 そんな風に思いつつも、ユイの道案内で安全な場所へと移動を始めた。

13CCC ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:17:12 ID:ToYDvbE60

     4◆◆◆◆

 二人の少女の後をついて、猫の獣人――ミアは歩いていた。
 自分の事をチェシャ猫と呼ぶ彼女達は、二人で楽しげに談笑しながらどこかへと向かっている。
 その場所を、ミアは知らない。
 少女達の仲間という立場に居ながらも、ミアは仲間の輪の中にはいなかった。

 それも当然だろう。
 二人の少女にとって、ミアは“新しいおもちゃ”という認識でしかない。
 毛色の変わった、物珍しいおもちゃ。飽きたら当然、捨てられる。
 事実ミアは、一度少女達に殺されかけていた。

 ユイが遭遇し、彼女を追いかけたジャバウォックは、その際に召喚されたものだ。
 ミアはジャバウォックの攻撃を辛うじて掻い潜り、逆に一撃を加えた事で生き延びた。
 もちろんただ一撃を与えただけではない。攻撃した際に、武器のアビリティが発生したおかげだ。
 発生した効果は、バッドステータス・魅了。
 効果は一瞬しか発生しなかったが、それでも一瞬、ジャバウォックは少女達の敵になったのだ。
 そのおかげで、ミアは少女達に興味を持たれ、結果生き延びる事が出来たのだ。

 【誘惑スル薔薇ノ雫】――それが二度も彼女を救った武器の銘だ。
 この剣はどういう訳か、今までのどんな剣よりも彼女の手に良く馴染んだ。
 まるでこの剣が、元から自分の一部であったかのように感じるほどに。
 そしてそれほどまでに馴染む剣だからこそ、二回も窮地を切り抜けられたのだ。

 この剣が彼女を救った、二回目の出来事。
 それは少女達を狙った赤光の魔弾を弾き飛ばした事だ。
 あの魔弾を受ければ、生半可な剣では砕かれ、合わない武器だったならば逆に弾き飛ばされていただろう。
 その証拠に、魔弾を弾き返した際の衝撃がまだ抜けず、腕には痺れたような感触が残り、上手く力が入らない。
 この剣だからこそ、ミアの思い描いた通りの結果を齎す事が出来たのだ。


 ここで一つの疑問が残る。
 ミアはなぜ、少女達を救ったのかという事だ。
 おもちゃ扱いされ、飽きて殺されてもおかしくない状況で、元凶である少女を救った理由。
 それは………実を言えば、ミア自身にもわからなかった。

 ミアの“生きて”きた『The World』はネットゲーム。つまり他人と共に楽しむゲームだ。
 その世界でミアは、あるプレイヤーと一緒に様々な楽しみや喜びを見出してきた。
 だからだろうか。たった二人で完結している少女達に、他者と繋がる楽しみを知って欲しいと思ったのだ。

 強いて言えば、ミアは少女達を助けた理由はそれだけだ。
 それがどうして命を掛ける理由になったのかは、ミア自身にも解らなかった。
 だが彼女にはそれが、とても大切な事だと思ったのだ。

「ねぇあたし(アリス)、このご本面白いわ」
「そうねあたし(ありす)、すごく面白いわ」
「書いてあることは難しくて読めないけど、空飛ぶご本なんて初めて」
「それに二つに分かれたわ。あたし(ありす)とあたし(アリス)でお揃いね」

 少女達は今、支給されたアイテムを装備した際に発生した現象にはしゃいでいる。
 アイテム名は【途切レヌ螺旋ノ縁】。ミアの持つ魔剣と起源を同じくする魔典だ。
 月と太陽の意匠がなされたその武器は、白い少女が装備すると同時に二つに分かれ、もう一人の黒い少女にも装備されたのだ。
 それが当然の事だと、ミアは理由もなく納得していた…………いや、理由ならある。
 あの魔典の本体。碑文の第五相。『策謀家』の異名を冠した双子の名は――――――

「ねぇチェシャ猫さん。チェシャ猫さんは、次はどんな遊びがしてみたい?」
「―――そうだね。宝探し、なんてどうかな?
 別に形のある物じゃなくても、綺麗な風景とか、そういう形のないものでもいいんだ。
 自分が『これはいいモノだ。大切にしたい』って思えるモノを探すんだ」
「まあ。それは素敵ね、あたし(アリス)」
「ええ、素敵だわ、あたし(ありす)。でも疲れないかしら」
「疲れたら、お休みしなきゃ。そしたらもう遊べないわ」
「遊べないのはイヤね。もっともっと遊びたいわ」
「そうね。もっとずっと遊んでいたいわ」
「ずっとずっと、ずーっと―――」

 ミアに話を振られたのは一瞬。それ以降はまた、少女達は二人だけの輪に戻っていった。
 その光景に、ミアは思わず苦笑を浮かべた。

14CCC ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:17:32 ID:ToYDvbE60

「まずは、名前を呼んでもらう事から頑張らないとな」

 少女達の呼ぶチェシャ猫は、少女達がつけた“おもちゃ”としての名前だ。
 いわば、子供が自分のお人形に名前を付けるようなもの。そこに人形自身の意思は関係ない。
 だからもし、少女達がちゃんと名前を呼んでくれたのならば、それは“個人”として認められたという事。
 少女達の輪に干渉する権利を得たという事だ。

 そう言う意味では、岸波白野という人物は近いところに居る。
 少女達は最初から、彼女だけは個人として見ているように感じられた。
 だとすれば、彼女の協力が得られれば、少女達の心を動かせるかもしれない。

「ここにエルクがいたら、もう少し楽しかったんだろうけどなぁ」
 ついぼやいて、そう言えば、と思いだす。
 あの場に居た、カイトと非常によく似たプレイヤー。
 彼はあの時、間違いなく自分を見てある名前を口にした。

「……マハ……か」
 そう呼ばれるのは二度目だが、その名前を聞くとどうも胸がざわつく。
 もしかしたら彼は、何かを知っているのかもしれない。
 今度会えたら、訊いてみる事にしよう。

「ま、死なないように頑張らないとね」

 岸波白野と協力するにしても、カイト似のプレイヤーに話を聞くにしても、まずは自分が生き残らないといけない。
 そしてこれがかなりの難題でる事は、想像に難くない。
 今一つ『死』というモノが実感できないが、嫌な感じがするのは確かだ。

「ねえエルク、見守っていてくれるかい?」

 アイテム欄から【エノコロ草】を取り出して問いかける。
 当然答えはないが、【エノコロ草】から香る匂いに、何となく勇気付けられる。
 そうしてミアは【エノコロ草】をアイテム欄に戻すと、談笑する双子の様な少女達に追従していった。

【F-8/アメリカエリア/1日目・深夜】

【ありす@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康、魔力消費(微小)
[サーヴァント]:健康、魔力消費(小)
[装備]:途切レヌ螺旋ノ縁(青)@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考]
基本:アリスと一緒に“お茶会”を楽しむ。
1:新しい“遊び”を考える。
2:しばらくチェシャ猫さん(ミア)と一緒に遊ぶ。
3:またお姉ちゃん/お兄ちゃん(岸波白野)と出会ったら、今度こそ遊んでもらう。
[備考]
※ありすのサーヴァント持続可能時間は不明です。
※ありすとキャスターは共生関係にあります。どちらか一方が死亡した場合、もう一方も死亡します。
※ありすの転移は、距離に比例して魔力を消費します。
※ジャバウォックの能力は、キャスターの籠めた魔力量に比例して変動します。
※キャスターと途切レヌ螺旋ノ縁の特性により、キャスターにも途切レヌ螺旋ノ縁(赤)が装備されています。

【ミア@.hack//】
[ステータス]:腕力低下
[装備]:誘惑スル薔薇ノ滴@.hack//G.U.
[アイテム]:エノコロ草@.hack//、基本支給品一式、不明支給品0〜1
[思考]
基本:死なない程度に、ありす達に“楽しみ”を教える。
1:まずはアリス達に自分の名前を呼んでもらう。
2:岸波白野の協力を得たい。
3:カイト似の少年(蒼炎のカイト)から“マハ”についての話を聞きたい。
4:エルクに会いたい。
[備考]
※原作終了後からの参戦です。
※ミア(マハ)が装備する事により、誘惑スル薔薇ノ滴に何かしらの影響があるかもしれません。

【途切レヌ螺旋ノ縁@.hack//G.U.】
赤い太陽を模したタイプと青い月を模したタイプの、二つの姿を持つ魔典。
第五相の碑文使いのロストウェポン。
条件を満たせば、パワーアップする(条件の詳細は不明)。
・無尽ノ機略:攻撃スペルのエレメンタルヒット発生確率25%アップ。及び攻撃スペルの威力が25%アップする

【誘惑スル薔薇ノ滴@.hack//G.U.】
紫色の刀身にバラの意匠をした、異風な形状の刀剣。
第六相の碑文使いのロストウェポン。
条件を満たせば、パワーアップする(条件の詳細は不明)。
・魅惑ノ微笑:通常攻撃ヒット時に、バッドステータス・魅了を与え、かつレンゲキが起きやすくなる

【エノコロ草@.hack//】
別名猫じゃらし。いい匂いがする。

15CCC ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:18:21 ID:ToYDvbE60

     5◆◆◆◆◆

「―――と、いう事らしいです」
 ユイの通訳を聞いて、なるほど、と納得する。
 彼女のおかげで、カイトが何を訴えていたのか、ようやく理解できた。
 簡単に言えば、自分にマスターの代理をやってほしい、という事なのだろう。

「アァァ…………」
 短い唸り声と共に、カイトが首肯する。
 ふむ、と唇に指を当てて考えるが、結論はすぐに出た。
 このバトルロワイアルを生き残るには、間違いなく多くの協力が必要だ。
 腕輪の事もあって苦手意識があるが、彼の助けが頼もしい事に変わりはない。
 カイトへと向き直り、握手を求めて右手を差し出す。
 ――これからよろしく頼む。

「……ヨ%*ク」
 カイトは差し出された右手と、自分の右手をジッと見た後、戸惑いながらも手を繋いでそう言った。
 彼が戸惑ったのはおそらく、握手というものを知らなかったからだろう。

「ハクノさん、私も握手していいですか?」
 カイトとの握手を終えて手を離すと、ユイがそう訊いてきた。
 断る理由もないので、その要望に応じて手を繋ぐ。
 先程は意識しなかったが、彼女の手からは少女らしい柔らかさと温もりを感じた。

「ほら、カイトさんも」
「…………」
 そう言ってユイは、今度はカイトと握手としている。
 その繋いだ手を見て、ユイは嬉しそうに微笑んでいた。
 その光景を微笑ましく思いながら、窓の外へと視線を向ける。
 高いビルが多く見える景観は、ともすれば、いつか夢で見た光景に似ている気がした。


 ユイを通じてカイトから事情を聴く際に、一緒に大凡の情報交換も済ましておいた。
 二人から得た情報は、SAOにALO、そして『The World』。そして彼女達自身の正体の事。
 自分も月の聖杯戦争と、そして自分の正体の事を、既に彼女達に話してある。
 そしてそれらの情報から分かった事は、どうやら事態は、思っていた以上に厄介なものらしいという事だ。

 情報を纏めたところ、どうもそれぞれが知る技術や情報に矛盾があるのだ。
 自分にはSE.RA.PH.での記憶しかないが、聞いた限りでは2030年代になっても、表立った技術は2000年代から変わっていない。
 しかし少女の話では2025年には完全なフルダイブ技術が確立され、魔術師(ウィザード)の真似事が可能となっているらしい。
 ところが2017年に存在したはずの、少年の語った『The World』というMMOを、少女は聞いた事がないと言う。

「おそらく、並行世界(パラレル・ワールド)の類いだろうな」
 と、話を聞いたアーチャーはそう言った。
 並行世界。在り得たかも知れない、ifという可能性の世界。
 だがそれを証明する術がない今、深く考える意味はないだろう。
 しかし同時に、今の自分に大きく関わりのある事でもあった。

「そう言えばハクノさん。一つ、訊いてもいいですか?」
 ふと思い至ったように、ユイが質問をしてきた。
 断る理由も無いので、質問を受け付ける。

「今気付いたんですが、ハクノさんの話ではマスター一人に対し、サーヴァントも一人ですよね。
 ならどうしてハクノさんには、セイバーさん、アーチャーさん、キャスターさんと三人もいるんですか?」

 ……痛いところを突いてくる。
 そう思うと同時に、マイサーヴァントが約二名ほど実体化する。

「その通りだ少女よ! 奏者のサーヴァントは余、ただ一人で良い! なぜなら奏者は余の物なのだからな!」
「何をおっしゃいますか! ご主人様は貴女の物じゃなくて私のモノです! ていうか、私がご主人様のモノです!」
「な! 貴様こそ何を言うこのピンクなINRAN狐め! ええい、そこに直れ! 叩き斬ってくれるわ!」
 ………………はぁ。と、すぐに喧嘩を始めた二人を見てため息をつく。
 セイバー達が実体化すると――戦闘中程ではないとはいえ――魔力を消費する。
 なので、喧嘩をするために実体化するのは止めて欲しいのだが………この願いは聞き届けられそうになかった。

16CCC ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:19:55 ID:ToYDvbE60

「それで、実際のところどうなのかね?
 誰が君本来のサーヴァントなのか判るか?
 あるいは、この三重契約に心当たりは?」
 実体化したアーチャーの問いに、首を横に振って答える。
 実のところこのバトルロワイアルに呼ばれてからというもの、どうにも記憶があやふやなのだ。

 己がサーヴァントは一人だったと記憶しているのに、三人それぞれと共に闘い続けた記憶がある。
 他にも、凛と協力し、ラニと戦った記憶があるのに、その逆に、ラニと協力し、凛と戦った記憶もある。
 まるで複数のパズルのピースの様に、整合しない断片的な記憶が入り混じっているのだ。
 ただ、心当たりと言えば―――

 と、メニューを呼び出して、“ある装備”を変更する。
 その瞬間、一瞬のエフェクトに包まれる。
 直後、先程まで“女性”だった自分の身体が、一瞬で“男性”に変わっていた。

「ほう、これはまた」
「どういう事でしょうか」
 二人は驚き、不思議そうに呟く。
 アーチャーまで驚いているのは、最初に装備変更をしてみた時は、セイバー達の喧嘩に掛かりきりだったからだろう。
 ただ、変わった後の姿でいたのに気付かなかったというのには、少し引っ掛かりを覚えるが。

「ハクノさん。それは任意で出来るのですか?」
 ユイの言葉に頷く。
 どうやら支給されていた二つの礼装、月海原学園の【男子学生服】と【女子学生服】を切り替える事で身体も変わる様だ。
 つまり現在は、【男子学生服】を装備している事になる。
 ちなみに身体の性別を決めるためなのか、両方外すといった事は出来なかった。
 装備制限からは免除されているようだが、おかしな状態なのには変わりない。
 ついでに言えば、サーヴァントを三騎も従える代償か、自分のアイテムはこの二着の学生服だけだった。

 ――まったく、あの榊という男は何を考えてこんな状態にしたのだろう。
 確かに以前、慎二のイタズラで性別が変わった記憶はあるが、それにしたってこれはヒドイと思う。

「何を言うか奏者よ! そなたが今の姿であろうと、余は一向に構わんぞ?
 先程までの愛らしい少女の姿も良かったが、その男子の姿もなかなかに悪くない……いやむしろ良い!
 男と女、二つの姿を纏めて楽しめてお得ではないか!」
「そうですよご主人様。どんな姿であっても、ご主人様がご主人様である事に変わりはありません。
 まあもっとも、ご主人様は魂的には男性なので、男性の姿の方が好ましいというかぁ、私も妻として嬉しいというかぁ。
 キャッ、言っちゃった(はぁと)」

 ――君達、仲いいね。
 先程まで喧嘩していた二人が意気投合するのを見て、思わずそう口にする。

「良くなどないわ! まぁ余とて、愛人の一人や二人なら広い心を持って認めよう。
 だが、本妻だけはダメだ! 奏者の一番は、余、ただ一人で良い!」
「そうです! 一夫多妻(ハーレム)なんて今どき流行りません!
 ご主人様の愛を受けるのは、妻であるこの私ただ一人で十分です!」
「むむむ……!」
「ぐぬぬ……!」

 ……いわゆる同族嫌悪というものだろうか。
 どこか似た者同士な彼女達は、だからこそお互いに譲れないのだ。
 そんな風に思いながらも、無言で礼装を交換して女性に戻る。
 なぜかと言うと、キャスターのオシオキが怖いとか、そんな理由ではない。

「えっと……ハクノさんは確か、ムーンセルに削除されている最中に巻き込まれんたんですよね」
 ユイの質問に頷くと、彼女はすこし考えるように俯いた。
 そしてすぐに、何かに思い至った様に手を伸ばして額に触れてきた。

「ちょっと、調べさせていただきますね」
 彼女がそう言って目を閉じると、身体にこそばゆい感覚が奔った。
 そのまま数秒ほど待つと、ユイが顔をしかめた。

「これは……酷いですね。中途半端に削除されたせいでしょうか。
 アバターやメモリーを含めた、色んなデータが破損しています。
 ここまで来ると、エラーを起こしていない事が不思議ですね」

 それは……またなんとも……。
 聞いておいてなんだが、よく無事に動けているな。

17CCC ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:21:49 ID:ToYDvbE60

「はい。アバターは所詮データで出来た体ですから、その学生服の礼装で一時的に再構成しているのでしょう。
 ただメモリーの方は、恐らくですが、ハクノさんを知る他の方のメモリーを参照しているのだと思われます。
 セイバーさん達三人との同時契約も、多分その為の処置でしょうか」

 つまり、今自分が覚えている記憶は自分の物ではなく、セイバー達から借りた物。という事だろうか。

「半分はそんな感じですね。正確には、セイバーさん達の記憶をもとに修復されている最中なのでしょう。
 ただその影響は、セイバーさん達も受けていると思われます。ハクノさんの性別が変わった事に、特に違和感を覚えなかった事がそうかと」

 なるほど。と納得する。
 そう言えばありす達も、自分が男性だったか女性だったかで、一瞬迷っていた。
 おそらく、記憶の矛盾を減らすために、相手側にも参照させているのだろう。

 だが同時に、どれが本当の自分の記憶なのかと疑念が浮かび上がる。
 他者の記憶をもとに修復された記憶は、本当に自分が辿った道筋の記憶なのか、と。

「そう心配するなマスター。もとより記憶というのは曖昧なモノだ。
 例え記憶の全てが偽物だったとしても、その中で見つけた、自分が正しいと思う事を成せばいい。
 それに、ムーンセルの性質を考えれば、記憶の真贋に意味はない。アレは起こりえる可能性の全てを計測し記録するモノだ。
 ならば、今ある君の記憶は、君が成し得た可能性の集まりとも言えるのだからな」

 ………ああ、そうか……そうだった。
 元より自分自身が偽物だったのだ。そしてそんな自分を、彼女達はマスターと認めてくれたのだ。
 悩む必要なんてなかった。自分はただ、自分の思うままに行動すればいいのだ。
 ――ありがとう、アーチャー。

「なに、礼を言う必要はない。私は、自分が思った事を口にしたまでだよ」
 アーチャーはそう言って謙遜する。
 だが彼のおかげで、覚悟――自分が何を目的にするかが定まった。

 ――このバトルロワイアルを、止める。

 月の聖杯戦争も、たった一人しか生き残れないバトルロワイアルだった。
 だがあの戦争には皆、自らの意思で、それぞれの覚悟を懐いて参加したのだ。

 けれど、このバトルロワイアルは違う。
 ユイも、カイトも、もしかしたら他の参加者達も。
 多くの人が自らの意思とは関係なく参加させられているのだ。
 そんな覚悟も何もない戦いを、認める訳にはいかない。

 ――力を、貸してくれるか?
 答えのわかりきった質問を、己が相棒達に投げかける。

「奏者よ。それは答える必要のある問いか? だが、敢えて答えて欲しいのなら答えよう。
 余はそなたが命じるのであれば、そなたの剣となって如何なる敵も討ち倒してみせよう」
「そうですよご主人様。そこの赤い人が剣なら、私は鎧になります。ご主人様には毛一筋分の怪我もさせませんから、ご安心ください。
 あと、私の方がこんな無駄に赤いのより何倍も役立ちますから、是非ご命令は私に下さいね」
「な、何を言うか! 余の方が貴様の何十倍も奏者の役に立つわ!」
「あら。でしたら私はその何百倍も役立って見せます」
「おのれ雌狐め、言わせておけば!」
「まったく、君達には協力するという考えはないのかね?
 だがマスター、彼女達の言う通りでもある。君はただ、君が思う事を、思うままに命ずればいい」

 セイバー達の言葉に、改めて勇気付けられる。
 彼女達がいれば、どんな困難でも乗り越えられる様な、そんな気がしてくる。

「あの、私もご協力します。
 出来る事は少ないですけど、少しでも恩を返したので」
「アアァァァアァァ……」
「カイトさんも協力してくれるそうです」

 ――二人とも、ありがとう。
 そう協力を申し出てくれた二人にお礼を言う。
 ただ、出来ればユイには、安全な場所に隠れていて欲しいのだが。

「でしたら、普段は《ナビゲーション・ピクシー》の姿になっておきますね。
 そうすれば、ハクノさんの制服の胸ポケットに入る事が出来ますし」
 ユイはそう言うと、一瞬光に包まれた後、小さな妖精の姿に変身した。
 なるほど。その姿ならどこにでも隠れる事ができるだろう。
 ……しかし、ならばなぜその姿でジャバウォックから逃げなかったのだろう?

「この姿になるには、他のプレイヤーの五メートル以内に居ることが条件のようです。
 それ以上離れると、強制的に通常アバターに戻ってしまうみたいで。
 それにあのジャバウォックは、プレイヤーではありませんでしたし」

18CCC ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:23:06 ID:ToYDvbE60

 確かにポケットに入るほど小さく、空も飛べるとあっては、狙い辛いことこの上ない。
 だが五メートル以内ならば、いずれは追いつめられるという事か。

 だがとにかくこれで、ユイの安全は確保された訳だ。
 自分の傍に居れば、一緒にセイバー達が護ってくれるだろうし。

「――さて奏者よ。目的も決まり、少女の安全も確保できた。
 となれば次は目的地だが、とこへ向かうのかは決めてあるのか?」
 セイバーの質問に、月海原学園を目指すと答える。
 ユイが取得したマップ情報によると、現在位置は【F-9】のホテルだ。
 月海原は【B-3】に在るので、そこへ向かえば自然とマップを横断する事になる。
 そうすれば様々な人物と遭遇できるだろうし、結果として多くの情報を得られるだろう。

「道中で戦闘になった場合の事も考えておかねばな。
 マスターの最大魔力量では、サーヴァント一人が全力で戦えるのは十分。全員揃ってならば三分程度だろう。
 私は単独行動スキルのおかげで、一時間程度ならば魔力供給なしでも行動できるが」

 セイバー達の事は信頼しているし、大概の相手は倒せると思うが、可能な限り切り札はとっておきたい。
 魔力も可能な限り回復、温存したいので、道中の戦闘は基本カイトに任せたい。
 そう言うと、カイトは頷いて承諾してくれた。
 そんな彼にお礼を言い、指示は任せてくれと胸を張る。
 これでも毛色の違う三騎ものサーヴァントと共に闘ってきたのだ。多少の自信はある。

「ではご主人様。手早く準備を整え、学園へと向かいましょう。
 あの榊という男の言葉が真実であれば、時間はほとんど残されていません。
 まったく。結果としてご主人様が助かった事には感謝しますが、そのお体にウイルスを仕込むだなんて!
 ………あのクソガキ、マジ許しません!」

 バトルロワイアルの参加者達に感染しているという、24時間で発動するというウイルス。
 これがある限り、参加者は必ず誰かを殺さなくてはならない。
 だが同時に、これこそがバトルロワイアルを止めるカギでもあるのだ。

 第一に、一人殺すごとに6時間の猶予が与えられるのなら、その猶予を作り出す“何か”があるはずなのだ。
 その“何か”を突き止め、効果を永続的に出来れば、ウイルスは発動せず、誰かを殺す必要はなくなる。

 第二に、仮に報酬が真実だとし、優勝したとしても、ウイルス自体をどうにかできなければ意味がない。
 なぜなら自分やユイ、カイトのような“現実の肉体を持たない存在”は、どうしたってログアウトが出来ない。
 つまり、ウイルスに感染したアバターを破棄し、現実に帰って生還するという手段は使えないからだ。
 こうして自分達にも優勝する権利が与えられている以上、ウイルスを駆除するワクチンがなくてはならない。
 ならば、ワクチンを獲得し、複製する事ができれば、このバトルロワイアルは完全に止められるはずだ。

「さすがご主人様。すでにそこまで考えついていたとは。
 最弱の身で聖杯戦争を勝ち残っただけあります。情報戦なら誰にも負けませんね」

 だがそれも、みんなの協力があったからだ。
 もし自分一人だったなら、とっくに敗退していただろう。
 それはこの殺し合いでも同じだ。みんなと協力しなければ、バトルロワイアルは止められない。

 ユイへと向き直り、改めて協力を申し込む。
 ワクチンはおそらく、榊が持っているだろうから、現状では入手は望み薄だ。
 なら当面の目標は、猶予を作り出す“何か”の解明と、榊の元へ辿り着く経路の捜索だろう。
 つまり、PCボディやマップのデータを詳細に取得できるユイの協力が必要だ。

「はい。任せてください!」
 ユイが小さい胸を張ってそう応える。
 凛やラニがいればより確実だが、彼女達がバトルロワイアルに参加しているかは判らない。
 それに出来れば参加していて欲しくないという思いもある。期待はしないでおこう。

19CCC ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:23:38 ID:ToYDvbE60

     †

 行動方針が決まり、白野達はそれぞれの支給品を確認して移動の準備を始めた。
 とは言っても、白野の支給品は二着の学生服だけで、カイトの支給品は彼の固定装備で占められていた為、実質ユイに支給されたアイテムを確認して分配しただけなのだが。

 ユイに支給されたアイテムは【五四式・黒星】【空気撃ち/三の太刀】【セグメント3】の三つ。
 一つ目の【五四式・黒星】は念のためにと白野が装備する事になった。
 彼はこの拳銃を持った時、重いな、と呟いたが、ユイにはなぜか、その言葉の方が重く感じられた。
 二つ目の【空気撃ち/三の太刀】はそのままユイが、護身用として装備する事になった。
 この礼装のスキル〈魔力放出〉ならばピクシーのままでも使えるし、彼女が逃げる程度の時間も稼げると判断しての事だ。
 三つ目の【セグメント3】はどうやらカイトに関わる物らしかった。
 しかしカイトは自分が所有するよりも、ユイに持っていて欲しいとの事なので、これもユイが所有する事になった。


 そうして全ての準備が整った時、ユイは一人、窓の外を眺めていた。
 この世界に来てから、彼女が経験した事は全てが鮮烈だった。
 見える世界も。聞こえる音も。香る匂いも。触れる温もりも。
 もっともっと見てみたいと思えるほどに、美しく思えた。

 とりわけ、手を繋いだ時の感触はよかった。
 握った手の温度や、微かに感じる鼓動。
 相手と“繋がっている”という感覚が、確かな形でそこにあった。

 けどアレは……『痛み』という感覚だけは、駄目だった。
 痛い思いは、二度としたくない。
 だから怖い思いも、二度としたくない。
 あの『痛み』を思い出すだけで、今にも壊れてしまいそうだった。
 このままこの部屋に閉じこもって、全てが過ぎ去るのを待っていたかった。

 そう思いながらもユイが白野に協力すると決めたのは、『痛み(ソレ)』こそが“生きる”という事だと、知っていたからだ。
 彼女の父――キリトは、『痛み』を耐え抜いて立ち上がり、オベイロンを倒した。
 彼女の母――アスナは、『恐怖』を踏み越えて始まりの街を飛び出した。
 二人は現実で――『痛み』に満ちた世界で、ずっと生きてきたのだ。
 だから自分も、そうありたいと思った。父と母の娘だと、胸を張っていたかった。

「ん……?」
「…………」
 不意にユイの頭が、ぎこちなく撫でられた。
 顔を上げてみると、カイトがジッとユイを見ていた。
 心配してくれたのだろうかと、何となくユイは思った。

 彼の言葉が解るのは、私と彼が同じAIだからだろうか。
 同じNPCでも、白野には彼の言葉がノイズのように聞こえるらしい。
 私やカイトは、既存のコンピュータで作られた“トップダウン型”のAIだ。
 だが白野はいわば、人工《フラクトライト》と同じような、人間を基にした“ボトムアップ型”のAIだと思われる。
 つまり“人間”か“コンピュータ”、そのどちらに近いかが、彼の言葉が理解できるかどうかの境界線なのだろう。

 セグメントを預けられた際に訊いたところカイトの目的は、アウラのセグメントを護り、主の元へ帰る事らしい。
 ならばセグメントは彼が持っていたらいいと思ったのだが、彼曰く力不足だからだそうだ。
 というのも、彼の本来の世界――つまりバックアップの完璧な状態で、既に何度も敗北した経験があった。
 そうなると、何のバックアップも受けられないこの世界では、自身の独力だけでは確実性に欠ける。
 そこで代わりに、白野に護られる私にセグメントを託し、彼のサポートを受けながら一緒に護ろうという事らしい。

 なんともNPCらしい合理性というか、らしからぬ自主性というか。
 彼のプログラムが不完全でなければ、私なんかよりもっと人間らしくなっていたかもしれない。
 そうなると、彼を生み出した究極AIと呼ばれるアウラは、一体どれほどの存在なのだろうか。

20CCC ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:24:17 ID:ToYDvbE60


  ――ユイ、カイト。そろそろ行こう。

 白野がそう言って出発を促す。
 既に霊体化しているのか、彼女のサーヴァントは見えない。

「はい、今行きます」
「……………………」

 白野の制服の胸ポケットへと入りこんで、頭だけを出す。
 父とは違う居心地だが、悪くはない。
 カイトも白野の傍に立ち、いつでも追従できる。
 それを確認すると、白野は一つ頷いてホテルを後にした。


 ――『死の恐怖』は、未だ拭えていない。
 けれど、だからこそその『恐怖』に立ち向かうのだ。
 かつて父と母がそうしたように。自分もそう在れるように。
 ……そう。この街が自分にとっての“始まりの街”なのだ――――


【F-9/アメリカエリア ホテル周辺/1日目・深夜】

【岸波白野@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康、魔力消費(中)
[サーヴァント(Sa)]:健康、魔力消費(小)
[サーヴァント(Ar)]:健康、魔力消費(小)
[サーヴァント(Ca)]:ダメージ(小)、魔力消費(小)
[装備]:五四式・黒星@ソードアート・オンライン、女子学生服@Fate/EXTRA
[アイテム]:男子学生服@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:月海原学園に向かい、遭遇した参加者から情報を得る。
2:ウイルスの発動を遅延させる“何か”を解明する。
3:榊の元へ辿り着く経路を捜索する。
4:ありす達に気を付ける。
[備考]
※参戦時期はゲームエンディング直後。
※アバターは装備している学生服によって決定します。
 どちらか一方しか装備できず、また両方外すこともできません。
※岸波白野の最大魔力時でのサーヴァントの戦闘可能時間は、一人だと10分、三人だと三分程度です。
※アーチャーは単独行動[C]スキルの効果で、マスターの魔力供給がなくても(またはマスターを失っても)一時間の間、顕界可能です。
※アーチャーの能力は原作(Fate/stay night)基準です。

【ユイ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:ダメージ(小)、MP70/70、『痛み』に対する恐怖/ピクシー
[装備]:空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:セグメント3@.hack//、基本支給品一式
[思考]
基本: パパとママ(キリトとアスナ)の元へ帰る。
1:ハクノさんに協力する。
2:『痛み』は怖いけど、逃げたくない。
[備考]
※参戦時期は原作十巻以降。
※《ナビゲーション・ピクシー》のアバターになる場合、半径五メートル以内に他の参加者がいる必要があります。

【蒼炎のカイト@.hack//G.U.】
[ステータス]:ダメージ(中)
[装備]:{虚空ノ双牙、虚空ノ修羅鎧、虚空ノ凶眼}@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式
[思考]
基本:女神AURAの騎士として、セグメントを護るり、女神AURAの元へ帰還する。
1:岸波白野に協力し、その指示に従う。
2:ユイ(アウラのセグメント)を護る。
[備考]
※蒼炎のカイトは装備変更が出来ません。

21CCC ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:24:47 ID:ToYDvbE60

【男子/女子学生服@Fate/EXTRA】
月海原学園指定の標準学生服。
このロワで岸波白野が装備した場合、男子用か女子用かでアバターの性別が決定される。
・boost_mp(10); :装備者のMPが10上昇する。

【空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA】
フィールドスキル・魔力放出Aが使用可能となる礼装。
長距離に魔力の弾丸を放ち、命中した相手を一手分スタンさせられる。
・boost_mp(70);:MPが70上昇
・release_mgi(a);:魔力攻撃でスタン+長射程

【五四式・黒星@ソードアート・オンライン】
正式名称トカレフTT-33。
《死銃》がGGOのプレイヤーを、現実においても殺害する際に使用した拳銃。
実際にはこの銃に現実のプレイヤーを殺害する力はなく、《死銃》の協力者が現実で銃撃に合わせて直接殺害していた。

【虚空ノ双牙@.hack//G.U.】
蒼炎のカイトが使用する、禍々しい三股の刃の双剣。
・タイイング:通常攻撃ヒット時に、(15%の確率で)対象のHPを強制的に半減させる。

【虚空ノ修羅鎧@.hack//G.U.】
三蒼騎士専用の軽鎧。
・物理攻撃のダメージを25%軽減する。
・魔法攻撃のダメージを10%軽減する。

【虚空ノ凶眼@.hack//G.U.】
三蒼騎士専用の装飾品。
・武芸ノ妙技:アーツの消費SPが25%軽減される。

【セグメント3@.hack//】
分裂したアウラの構造体の一部。
三つ全部集めると……?

22 ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:27:40 ID:ToYDvbE60
以上で仮投下を終了します。

白野の性別やサーヴァントの三重契約、その他にも不安な点があるので、
何か意見や修正した方がいい点などがありましたら、お願いします。

23名無しさん:2013/01/20(日) 16:33:31 ID:tI08BNzE0
サーヴァント三騎がかりなら規格外クラス以外ボコボコにできちゃうんですが大丈夫なんですかね?(小並
)

24名無しさん:2013/01/20(日) 17:09:21 ID:ThY2Jkgo0
そこらへんは別に大丈夫じゃない?
消耗激しそうだし宝具とか使えばすぐ戦闘不能だろうし
何にせよ仮投下乙です、自分は問題ないと思います

25 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/20(日) 22:02:29 ID:R7afigR.0
ロール・ピンク・アドミラルで予約した者です
完成しましたが、少し気になることがあるので先にこちらに投下します

26 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/20(日) 22:03:07 ID:R7afigR.0
 会場のどこかの森の中。
 ヘルメットを被り、サングラスをかけた二頭身のアバターがそこにいた。

「どうなってんのよ、これ?」

 アバターこと、野球チーム『デンノーズ』の遊撃手、ピンクが辺りを見回す。
 自分の体がオンラインゲームのアバターになっている事や、周りが全く見覚えのない森の中である事に戸惑いを隠せないようだ。
 あのゲームはパソコンのモニターを見ながらアバターを操作するものだったはずだ。こうやって自分がアバターの中に入るというものではありえない。
 おまけに周りからピンク自身が持つ常人の数倍もの感覚が絶えず情報を拾っている。どうやら今の状態でもリアルでの超感覚は健在のようだ。

(ひょっとして、これがハッピースタジアムの本選? 野球ゲームのはずじゃなかったの?)

 最初に思い浮かんだ可能性は、先日予選を突破したオンラインの野球ゲーム『ハッピースタジアム』の本選というもの。
 ツナミの技術力なら、このようにアバターの中にプレイヤーが入るというような状態もできるかもしれない。
 最初に出て来たあの侍みたいな格好のアバターも、デウエスと同じようなものと思えば納得できなくはない。
 だが、ハッピースタジアムは野球ゲームだ。間違ってもこういう殺し合いなどではないし、何より本選開始はまだ先だ。

(でもこういう事ができそうなのってツナミぐらいしかいないし……ダメね、分かんない)

 少しだけ考えるが結局ツナミが怪しいという事くらいしか思いつかず、考えを早々に放棄する。
 ダークスピアからの警告の穴を見つけた時といい、自分の弱点を見抜いた時といい、こういう頭脳労働はジローの領分であって自分は実際に動く方が向いている。
 ……しかし、もし本当にツナミが関わっているのなら妨害はまずいんじゃないだろうか。
 ダークスピアから散々釘を刺されている状態で、その上こんな大きな行動を邪魔したら今度こそどんな目に遭わせられるか分かったものじゃない。
 だが、それでもヒーローがこんな殺し合いを見逃していいとも思えない。一体どうするべきなのか。

(そういえば、この体はあたしの体なのよね)

 ふと、ピンクの脳裏にある考えが浮かぶ。
 今の自分の体はツナミネット用のアバターだが、リアルの自分はヒーローの一人、桃井百花ことピンクなのだ。
 そしてピンクとしての能力である超感覚は今の体でも使えた。ならばもしかしたら。

「変・身!」

 もしかしたら、変身できるのではないか。
 そう思って、リアルと同じように変身しようとするピンク……が、数秒経っても何も変わらない。

27 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/20(日) 22:03:30 ID:R7afigR.0
「って、やっぱりできるわけないか」

 どうやらここでは、超感覚は使えてもヒーローへの変身は不可能らしい。
 考えてみれば超感覚は常日頃、それこそゲームでも使っていたし、変身していなくても使えるから今の体で使えてもおかしくはない。
 が、体が違う以上変身できないのは当然と言えば当然である。この分では透視能力の方も使えないと見ていいだろう。
 それに超感覚だって人間の脳の許容範囲を軽く超える情報量を一気に取り扱う以上、今の体ではリアル同様に使えるとは思わない方がいいかもしれない。

「――――あな――――ビじゃ――――」
「――――ゲーム――――ツナミ――――」

「話し声、ってことは近くに誰かいるみたいね」

 そうしていると、北の方から話し声が聞こえた。
 普段の感覚から考えると、少し遠いが視認は可能な程度の距離にいる。
 片方は聞き覚えのない女の声だったが、もう一人は少し前に試合をしたチームのリーダー……確かアドミラルとか言ったか。
 マナーは褒められたものではなかったが、ゲーマーとしての腕は確かだった。
 話の内容から察するにアドミラルは乗っていないようだし、女の方も同様に乗ってはいなさそうだ。
 ここが森の中である以上、こっちは向こうの二人には見つかっていないはず。乗ってないならもしかしたら協力できるかもしれない。
 そう考えて二人に接触するために声の方を見て――――

「――――え?」


     ◆


 時間はほんの少しだけさかのぼる。

「え? あなたはネットナビじゃないの?」
「これはゲーム用のアバターで、ちゃんと操作してる人間はいるんだ。
 それに、ネットナビなんて物は聞いた事も無いぞ。ツナミの新製品か何かか?」

 森の中、ピンク色のネットナビ・ロールと、眼鏡をかけ、大斧(おそらく支給品だろう)を持った二頭身のアバター・アドミラルが話をしている。
 この会場で初めて出会った人物だが、殺し合いには乗っていないとの事なので行動を共にしているのだ。
 今の話題はネットナビについて。名前からして何かのオンラインゲームのキャラとは思えないし、ツナミの新製品か何かだろうか。

「信じられない、今の世の中でネットナビがいない人がいるなんて……
 それにツナミなんて会社も聞いた事ないし、一体どういうこと?」

 そう言うロールも、ネットナビの存在を知らないアドミラルを不思議に思う。
 何しろ何十年も前に開発され、今なおネットワーク社会を構成する重要な要素だ。知らない方がおかしい。
 それに、ツナミという企業の存在も、今聞かされるまで知らなかった。
 真っ先に名前が出るという事は、少なくともネットワーク分野ではかなり大きい会社なのだろうが、それならN1グランプリのスポンサーもやっているI・P・C社の名前が出るだろう。
 全く知らない情報を知っていたり、知っていて当然のことを知らないアドミラルは一体何者なのか。

28 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/20(日) 22:03:56 ID:R7afigR.0
「ところで、あんたにはどんなアイテムが配られたんだ?」

 そう考えていると、アドミラルが急に話題を変えてきた。
 あまりにも急な話題転換だったが、よく考えてみればまだロールは支給品を見ていない。
 少しおかしいと思うが、道具の確認は確かにした方がよさそうだ。

「え、アイテム? そういえば、まだ見てなかったわね。
 ちょっと待ってて、今見てみるから」

 そう考えたロールは、そう言って視界からアドミラルを外し、メニューを操作してアイテム欄を開く。
 支給されたのは最初の話に出ていたテキストデータ以外だと、一挺の銃とマガジンが5つ。他にも何かあるようだ。
 説明を見ると、『SG550』と呼ばれる現実に存在するアサルトライフルらしい。マガジンはこの銃に対応したものらしい。
 ネットナビである自分は見た事が無いが、アドミラルが言ったようなどこかのゲームの中から持ってきたものなのだろう。
 そうしてSG550の説明画面を閉じ、別の支給品の説明を見ようとして――――

29 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/20(日) 22:04:20 ID:R7afigR.0





















 ざしゅ。

30 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/20(日) 22:04:41 ID:R7afigR.0
「――――え?」

 音とともに感じたのは痛み。
 より正確に言えば、肩口から何か重く鋭いもので叩き斬られたような痛みだ。
 予想もしなかった攻撃に思わず膝をつき、その場に倒れ込むロール。
 痛みでふらつく視界を何とか前に向けると、アドミラルが手に持っていた大斧をロールの体から引き抜いている。
 何故アドミラルが斧を? まさか今のはアドミラルがやったのか? 何故? どうして?
 苦痛と疑問が頭を駆け巡る中、アドミラルが口を開く。

「チッ、一回斬った程度じゃ死なないか」

 ……つまりは、そういう事。「殺し合いに乗っていない」というのは嘘だった。
 アドミラルは殺し合いに乗っていて、ロールを殺す為に今まで乗っていないフリをしていただけ。
 それが真相だった。

「アドミラル、どうして……どうしてこんな事……!」

 ざしゅ。
 ロールが問い質そうとするも、アドミラルはそれを無視して再び一撃。
 大斧がロールの体を叩き潰し、引き裂き、痛みを与えながら、HPをガリガリと削っていく。
 戦闘タイプではないロールにとって、受けたこともないような痛みが身を裂き、抵抗を封じる。

「痛い……痛いよ……」

 ざしゅ。
 苦しむ声にも耳を傾けず、一撃。
 幸か不幸か、この斧は元々存在していたゲームでは強力な部類に入る武器だ。苦しむ時間はそう長くはならないだろう。
 ……もっとも、これが弱い武器ならブルースをも上回る持ち前のスピードを使って逃げるくらいは出来たのかもしれないが。
 あるいは、もう少しだけ未来のロールならメットールを召喚して抵抗するという手も使えただろう。
 が、何を言おうがもう遅い。もはや自力で動くことすらかなわないロールには、今やどちらも不可能になってしまったのだから。
 HPはもう残り僅か。あと一撃受けたらそのままHPが尽き、デリートされるのは間違いない。
 そうして、アドミラルが再び斧を振り上げ――――

「い、いや……助けて、ロ――――」

 ――――ざしゅ。


【ロール@ロックマンエグゼ3 Delete】

31 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/20(日) 22:05:04 ID:R7afigR.0
     ◆


「まずは一人ってとこか」

 そう呟きながら、アドミラルがロールの支給品を回収する。
 真っ先にSG550とマガジンを回収し、装備を自分に支給された両手斧『人でなし』からSG550へと変更。
 FPSやRTSが本業であり、斧以外の武器が支給されなかった彼にとって、こうも早く銃を入手できたのは僥倖だと言うべきだろうか。

 彼がリーダーを務めるチーム・ジコーンズ。
 かつて栄光を誇った強豪チームだったが、近年は大会優勝も出来ずスポンサーからも見放される落ち目のプロゲーマーチームである。
 後がない今、彼らは再起を賭け『呪いのゲーム』と噂されるハッピースタジアムの大会へと参加し……決勝で敗退して消えたはずだった。
 それが今、アドミラルだけがこうやって別のゲームに参加している。
 決勝の相手であるデンノーズが『顔のない女』との試合に勝ったのか、それとも何の関係もない第三者によるものか。
 いずれにせよ、こうして別のゲームに参加している。それが現状だった。

 ドロップアイテムを全て回収し、次に行く場所を考える。
 周りを見ると、すぐ近くに平原が見える。森の中と言っても端の辺りだったという事なのだろう。
 平原に出て少し右を見ると、遠くからでも分かる程の巨大な建物が見えた。
 平原があり、すぐ後ろに森があり、巨大な建物が見える場所となるとD-6くらいしか無い。ならばあの建物は大聖堂か。
 森の中を歩き回るのも非効率的だし、人が集まるであろう建物を目指すのもいいかもしれない。
 考えをまとめると、さっきまでロールのデータ残骸があった場所を振り返り、もう聞く相手がいない答えを告げる。

「さっき『どうして』って聞いたよな? せっかくだから答えてやるよ。
 俺はプロのゲーマーだ。だからどんなゲームだって、誰よりも上手くできるんだ。
 その俺が、ゲームで負けるわけにはいかないだろ?」

 アドミラルには、一つ信じているものがある。
 それは、『プロである以上、どんなゲームでも誰より上手くプレイできる』という矜持だ。
 遊びでゲームをやってる連中とは違う。来る日も来る日も練習し、頭の中をゲームだらけにしている自分達にとって、ゲームとは人生そのもの。
 だからこそ敗北は許されない。人生全てをかけている以上、誰よりも上手くて当然なのだ。
 大会で優勝できずにくすぶっていても、それこそ専門外の野球ゲームとはいえデンノーズに二度敗れた今ですら、この矜持は捨てないし捨てる気もない。
 だからこそ彼はこの殺し合いに乗った。デス『ゲーム』を誰より上手くプレイし、クリアするために。
 敗北が死に直結すると言っても、このゲームに参加する前までやっていたゲームだって似たようなものだ。今更躊躇など無い。
 ツナミの存在を知らない相手がいたり、ネットナビという未知の存在がいるようだが、そんな事は関係ない。ゲームである以上、この手でクリアするのみだ。

「……そう言えば、最初のルール説明の時にあいつがいたな」

 足を進めようとした時に、最初のルール説明の場を思い出す。
 アドミラルにとっての宿敵であるデンノーズのキャプテン、ジロー。
 最初のルール説明の時、彼がそこにいたのが見えた。
 本業ではない野球ゲームとはいえ、二度もジコーンズを、自分を破った……ライバルと認めた男。
 あの男がここにいるのなら、このゲームはリベンジの場にちょうどいい。

「待ってろよ、今度のゲームは絶対に俺が勝ってやる!」

 ――――今度こそ、勝つ。
 目にライバルへの闘志を漲らせ、大聖堂の方へと歩き出した。


【D-6/森/1日目・深夜】

【アドミラル@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:健康
[装備]:SG550(残弾30/30)@ソードアート・オンライン、マガジン×5@現実
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2(武器以外)、ロールの不明支給品1〜2、人でなし@.hack//
[思考]
基本:この『ゲーム』をクリアする
0:とりあえず大聖堂に向かう
1:ゲームクリアのため、最後の一人になるまで生き残る
2:ジローへのリベンジを果たす
[備考]
※参戦時期はデウエスに消された直後です
※ネットナビの存在を知りました
※ツナミの存在を知らない相手がいることを疑問視しています

32 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/20(日) 22:05:30 ID:R7afigR.0
     ◆


 全てが終わった後、惨劇の現場からすぐ南のE-6エリア。
 そこではピンクが必死になって走っていた。
 その顔は恐怖に歪んでおり、知らない人物が見たら到底ヒーローには見えないだろう。

(逃げなきゃ、あいつから離れなきゃ!)

 さっきは接触しようかとも考えていたが、あんな惨劇が起こった後ではそんな気など完全に消え失せた。
 何せ見知らぬアバターが惨殺される様を、斧でズタズタに切り刻まれる音を、常人より遥かに鋭い五感でしっかりと捉えてしまっていたのだから。
 人間態の時でも銃撃を痛い程度で済み、ヒーローの姿ならロケット弾にも耐え切り、戦闘用サイボーグすら倒せるリアルの肉体ならまだここまで恐れずに済んだだろう。むしろ退治することもできた。
 だが、この体は野球ゲーム用のアバターだ。RPGの戦闘程度ならこなせるが、それでもリアルの肉体よりずっと弱い。
 もう少し後の……例えばダークスピアとの決闘が終わった頃ならまだしも、今のピンクにこんな状態で戦えるほどの根性は無い。
 とにかく逃げなければ。ピンクの思考はその一言だけで埋め尽くされていた。


【E-6/森/1日目・深夜】
【ピンク@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:恐怖、半泣き
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
基本:死にたくない
1:アドミラルから逃げる
[備考]
※予選三回戦後〜本選開始までの間からの参加です。また、リアル側は合体習得〜ダークスピア戦直前までの間です
※この殺し合いの裏にツナミがいるのではと考えています
※超感覚及び未来予測は使用可能ですが、何らかの制限がかかっていると思われます
※ヒーローへの変身及び透視はできません
※ロールとアドミラルの会話を聞きました

支給品解説
【SG550@ソードアート・オンライン】
スイス・シグ社のアサルトライフル。
300m先の的に連射した場合、7㎝×7㎝以内に集弾できると言われる程の高い命中精度を誇る。
劇中ではGGOでダインが使用していた。

【人でなし@.hack//】
.hack//絶対包囲に登場する両手斧。攻撃力30。
装備すると以下のスキルが使用可能になる。
アクセルペイン:両手斧スキル。物理範囲攻撃。
アントルネード:両手斧スキル。闇属性の物理範囲攻撃。
ギアニランページ:両手斧スキル。闇属性の物理範囲攻撃。アントルネードより攻撃力が高い

33 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/20(日) 22:09:13 ID:R7afigR.0
投下終了
ロールちゃん、すいませんでしたorz

では、気になる点を2つ
1:アドミラルのキャラ。こういうので合ってましたっけ?
2:ピンクの能力。超感覚だけ使えるようにしましたが、リアルの能力使用は可能にしてよかったんでしょうか?

では、回答願います
あ、タイトルは通しになったら付けます

34名無しさん:2013/01/20(日) 22:36:46 ID:vV981NvQ0
1.アドミラルのキャラ
合ってる、と思う。

2:ピンクの能力
リアルの能力持ち込めないのは非フルダイブ型の宿命だから仕方ないかと

35 ◆4vLOXdQ0js:2013/02/11(月) 21:00:12 ID:4F9s92/s0
修正版投下します

36逃げるげるげる!(修正版) ◆4vLOXdQ0js:2013/02/11(月) 21:00:58 ID:4F9s92/s0
 逃げる。
 ランサーをほとんど完封同前に葬った化け物から逃げる。
 逃げるはアウラのセグメントを持つ魔術師の少女、遠坂凛。
 対して追うはモルガナの生み出した禍々しき波の一相、スケィス。

「ったく、しつこいわね!」

 悪態をつきながらも逃げる凛。後方からはスケィスがかなりのスピードで接近してくる。
 ランサーが足止めをしていたからまだ距離があるとはいえ、このままではいつ追いつかれても不思議ではない。
 彼女が目指している逃げ場は日本エリア。確か地図では近くにあった。
 地図を見る限りでは学校が二軒にショップが一つ。おそらく日本の町のような場所なのだろう。
 それならば、今いるような何もない平原よりはまだ逃げやすいはずだ。

「このっ!」

 追ってくるスケィスへとcall-gandorを放って足止めを試みる。
 先程ランサーと共に戦っていた時に使った時にも全く効いていなかったのだから、ダメージがあるとは思っていない。
 だが、ダメージにはならないにしても多少の足止めにはなるだろう――――と思っていた。
 確かにスケィスは止まった。だがそれも一瞬の事。
 一瞬だけ止まった後、何事も無かったかのように再び動き始めた。これでは足止めになんかなりはしない。

(ダメージが通らないのは分かってたけど、足止めにすらならないって言うの……!?)

 その事実に戦慄する。
 何せダメージは通らない。足止めも無駄。おまけに足も速い。ほぼ詰んだも同然の状態だと再認識したからだ。

 が、事実は違う。
 ほんの僅かではあるが、確かにスケィスにダメージは通っているのだ。
 先程までのスケィスならば、一切のダメージが通らなかった。それは事実だ。
 だが、今のスケィスの状態はプロテクトブレイク。この舞台ならデータドレインを使わずともダメージが通る。
 ランサーが自分の命すら捨ててまで足止めをした、その成果がこの状態だ。
 ……今凛が持っている攻撃手段ではどの道倒すことなど不可能であり、ほぼ詰んでいる事に変わりはないのだが。

37逃げるげるげる!(修正版) ◆4vLOXdQ0js:2013/02/11(月) 21:01:35 ID:4F9s92/s0
「痛っ!?」

 そして今、「ほぼ詰んだ」状態から「ほぼ」の字が消えた。
 何もないはずの場所にも関わらず、何かに激突し転倒する凛。
 慌てて正面を見ても、ただの平原以外に何も無い……が、激突した以上何かがあるのは確か。
 目には見えないが、何か壁のようなものがあるのは確実だ。

「嘘、この私がこんなくだらないミスをするなんて……」

 見えない壁があると認識した瞬間、自分のした失敗を悟り愕然とする。
 目の前には平原が広がっているが、その方向には見えない壁。
 こうなっているエリアがあるとすれば、地図に何も表記されていなかったエリアだけだ。
 つまりは、走る方向を間違えてしまったという事に他ならない。
 長年テロリストとして活動してきた普段の凛ならば決してしないような失敗。
 だが、先程の死の恐怖や、相棒と再会してすぐに失った事。そして何事もなかったかのように追ってくるスケィス。
 それらの要因が凛を少なからず動揺させた結果がこれだ。
 今すぐ方向を変えて走ったとしても、今のタイムロスのせいで間違いなく追いつかれる。
 絶望と諦めが凛の心身を支配し始め――――

(……まだよ、こんな所で死ねないわ!)

 ――――その絶望を振り払う。
 自分の足で逃げ切れないのなら、支給品を使えばいい。
 それを可能とする道具は、先程の装備確認で既に見付けてある。
 急いでメニューを開き、アイテム欄からその道具を出して使おうとする凛。
 が、それを手に持った瞬間凛の体が宙へと浮かび上がった。

「しまった――――!」

 浮かび上がる瞬間、自分が何をされたかを悟った。
 ランサーに致命傷を与えた、あの攻撃を自分にするつもりなのだと。
 現に凛の後ろには、先程までスケィスが持っていたケルト十字の杖が浮かんでいた。

38逃げるげるげる!(修正版) ◆4vLOXdQ0js:2013/02/11(月) 21:02:08 ID:4F9s92/s0
 ――――宙に浮かぶ凛の体が、杖に磔にされる。

 ――――凛が自分の手を、正確には持った道具を見る。

 ――――スケィスが手を掲げる。

 ――――凛が支給品に魔力を込める。

 ――――スケィスの手の周りに、腕輪のようなポリゴンが展開される。

 ――――凛の手の中にある支給品が光りだす。

 ――――スケィスの手からノイズが走り、放たれる。

 ――――直撃する寸前、凛の姿が掻き消える。

 ――――ノイズが杖しか無い空間を駆け抜ける。

 ――――凛の姿はどこにも無い。

 後に残ったのはスケィス一体。今のデータドレインで倒したはずの凛の姿はどこにも無い。
 今まで追っていたアウラのセグメントを持つ者を見失い、その場で止まる。
 そのうち、見失ったものは仕方ないとでも考えたのだろうか。
 いなくなった凛……いや、見失ったセグメント1を追う事を一時中断し、改めてセグメントの捜索を始めた。


【C-2/ファンタジーエリア/一日目・黎明】

【スケィス@.hack//】
[ステータス]:ダメージ(微)、プロテクトブレイク(一定時間で回復)
[装備]:ケルト十字の杖@.hack//
[アイテム]:不明支給品1〜3、基本支給品一式
[思考]
基本:モルガナの意志に従い、アウラの力を持つ者を追う。
1:アウラ(セグメント)のデータの破壊
2:腕輪の力を持つPC(カイト)の破壊
3:腕輪の影響を受けたPC(ブラックローズなど)の破壊
4:自分の目的を邪魔する者は排除

39逃げるげるげる!(修正版) ◆4vLOXdQ0js:2013/02/11(月) 21:02:44 ID:4F9s92/s0


 ◆


 時間は少しだけ戻り、会場のどこかの建物。
 周囲の壁の張り紙やテーブル、カウンターがある所を見るに、どこかの食堂か売店といったところか。
 尤もカウンターには誰もいないため、少なくとも今は利用できないだろうが。

「デウエスに勝ったと思ったら殺し合いをやらされて、そして今度はどこかの食堂か? 一体どうなってるんだ?」

 その食堂にいた二頭身の人物……アバター名『ジロー』が周囲を見回しながら考える。
 確かここに来る前の最後の記憶は、デウエスとの最後の試合に打ち勝った瞬間。
 最初の場所にいたあの侍はサーバーがどうこう言っていたから、多分ここはネットの中なのだろう。
 だとしたら、全部終わったと思った瞬間に連れ去られたという事か。終わったと思ったらまたも命の危機か。

「そうだ、荷物を見ておかないと」

 溢れ出す徒労感を抑え、メニューを開く。
 ツナミの重役と思われる銀髪の女。彼女からの逃走の際に銃弾を使い果たした経験から、装備の大切さは身に染みて分かっている。
 支給された荷物を調べてみると、支給された荷物の中にDG-0という名の二挺拳銃があった。
 ……いや、拳銃と呼ぶにはかなりデザインが奇抜だし、何より銃身の下からエネルギーでできたような刃が出ているから拳銃と呼べないかもしれないが。
 現実でも生身で巨大フナムシや自立移動する無数の蜘蛛型爆弾、果てはレベル4生物兵器すら拳銃一挺(うち二回は実銃ではないが)で相手取ったジローなら、少しは扱えるかもしれない。

「……ただのフリーターの俺が、何でこう何度も命の危機を味わう羽目になってるんだ?」

 嫌な考えが脳裏をよぎるが、無視する事にした。
 とにかく、すぐにDG-0を装備するが、左手側の銃は持て余し気味だ。
 さすがに二挺拳銃は経験がないのもあるし、何より人を殺したくはない。使うとすれば自衛用くらいだろう。

(おいおい、何甘い事言ってんだよ)
「……誰かと思ったらお前か」

 そう考えていると、何者かがジローの考えを茶化す。
 それは、呪いのゲームの事件に巻き込まれた頃からジローに語りかけてきていた正体不明の何か。
 かつてそいつは、「俺は『俺』だ」と名乗っていた。とりあえずは便宜上『俺』と呼称する。

(死にたくないんだろ? だったらどうするかは決まってるよな?)
「どういう意味だ」

 聞き返すジローだが、何を言い出すかなど既に分かっていた。
 こうやって『俺』が話しかけてくる時は、必ず弱い考えや悪い考えを吹き込みに来る。
 例を挙げるとすれば、「この際逃げてしまえ」「どうせ何をやっても無駄」など。
 漫画などに出て来る心の中の悪魔。『俺』の行動を何かに例えるとすればあれだ。
 ならば今回もまた、ろくでもないアドバイスをしに来たのだろう。

40逃げるげるげる!(修正版) ◆4vLOXdQ0js:2013/02/11(月) 21:03:19 ID:4F9s92/s0
(この殺し合い、乗っちまえよ。
 どうせ生きて帰っても無職のままなんだし、優勝してたっぷり賞品貰って帰ろうぜ)
「ふざけるな! 俺は絶対に、殺し合いなんかしないぞ!」

 案の定である。
 ここは殺し合いの場で、殺さなければウイルスや他の参加者の手で殺される事になって、その上豪華な優勝賞品まである。
 故に死にたくないのなら、もしくは賞品が欲しいならどうしても乗る必要があるのは明白だ。
 だが、人殺しをする気などジローには無い。声を荒げて『俺』へと反論するが――――

(おいおい、殺さないとお前が死ぬんだぞ?
 それに、呪いのゲームで何十人も消してきたんだ。今更何人殺しても大して変わらないさ)

 ――――そう言われて言葉に詰まる。
 デウエスを倒せば全て元に戻るとはいえ、それでも呪いのゲームでかなりの数……3チーム分なら30人弱か。それだけの人を消してきたことには変わりない。
 なら、呪いのゲームと同じように参加者を消す……殺す方向で動いてもいいんじゃないか?

「……それでも俺は、殺し合いになんか乗らない。乗ってなんかやるもんか!」

 その考えを一蹴する。
 かつて先輩と友人が消えた時や、渦木に殺人の疑いをかけられていた時ならばもしかしたら乗っていたかもしれない。
 だが、デウエスとの戦いを乗り切った今のジローなら、『俺』の口車に乗るような事はしない。

(ハハハ……人がせっかく親切にアドバイスしてやってるのに。
 ツナミの人間に爆破されかけた時みたいに、また死ぬような目に遭ってから後悔しても遅いぞ)

 そう言って、ジローを嘲笑しながら『俺』が消える。
 消えた『俺』の言葉が頭に残ってはいるが、それでもきっと何とかなるはずだ。

「デウエスだって倒せたんだ、今回だってきっと何とかなる」

 そう言ってDG-0をテーブルに置き、荷物の確認を再開した。


 ◆


 それからどれだけ経っただろうか。一人の青年が階段を上って来る。
 その姿は野球の白い野球のユニフォームを着ており、部活帰りの生徒にも見えなくはない。
 ……ただし、その両手に持っているブレード付き二挺拳銃が無ければの話だが。

41逃げるげるげる!(修正版) ◆4vLOXdQ0js:2013/02/11(月) 21:04:00 ID:4F9s92/s0
「デウエスが関わってる訳でもないのに、ネットの中で現実の体を使う事になるなんてな」

 青年が呟く。その声は確かに先程まで食堂らしき場所にいたジローの声だ。
 先程荷物を調べていた時に、【使用アバターの変更】という項目を見つけ、調べてみた結果がこれだ。
 その姿は現実世界の彼と同じもの。ツナミネットのアバター『ジロー』ではなく、それを操作するプレイヤー『十坂二郎』の姿だった。

 ジローは知らない事だが、この殺し合いの会場では実際に使用したアバターが複数存在するのなら、使用するアバターを変更する事が可能になっている。
 そう考えれば、デウエスとの最終決戦には現実世界の姿で試合に臨んでいたのだから「複数のアバターを使った」とも取れる。
 故にジローがアバターを切り替えられるのも当然だ。

 二頭身のアバターのままでいるより、こちらの方が動きやすいのは確かなので、アバターはこのままにしておく。
 辺りを見ると、目の前には学校によくある昇降口が。どうやら地図にあった日本エリアの学校のどちらからしい。
 ならばさっきまでいた売店兼食堂は、この学校の購買部なのだろう。ついでに昇降口がある以上、ここが一階のようだ。

(ここは学校だったのか。何かあるかもしれないし、調べてみよう)

 そう考え、学校の探索を始める。
 幸か不幸かこの学校、少なくとも足音が聞こえる範囲には乗った人間はいないようだ。
 もし誰かいるのなら、結構大きな声だった『俺』とのやりとりが聞こえているはず。
 それにもかかわらず誰も近付いて来ない以上、聞こえる位置に人がいないか、いるとしても乗ってはいまい。
 とりあえず手近にあった教室に足を踏み入れ……ようとした瞬間、異変が起きた。
 一瞬前まで無かった光が、ジローを後ろから照らしだした。

「なんだ!?」

 そう言い終えるが早いか、後ろに現れた光が消える。
 何が起きたのかと思い後ろを振り向くと、先程までいなかった少女……遠坂凛の姿があった。

 何故彼女がここにいるのか。その答えは先程スケィスから逃げる際に使った道具にある。
 それは、彼女にとっても馴染み深い道具。SE.RA.PHで行われた聖杯戦争で使われていたものだった。
 だからこそ、説明も見ずにすぐさま使う事が出来たのだ。
 消耗品の上に一つしか支給されなかったが、使わなければやられていたのだから仕方が無い。
 道具の名はリターンクリスタル。
 月海原学園一階へと帰還するためのアイテムである。

42逃げるげるげる!(修正版) ◆4vLOXdQ0js:2013/02/11(月) 21:04:31 ID:4F9s92/s0
【B-3/日本エリア・月海原学園一階/一日目・黎明】

【ジロー@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:健康、現実世界の姿
[装備]:DG-0@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:え、誰?
2:『俺』が鬱陶しい
[備考]
※主人公@パワプロクンポケット12です。
※「逃げるげるげる!」直前からの参加です。
※パカーディ恋人ルートです。
※使用アバターを、ゲーム内のものと現実世界のものとの二つに切り替えることができます。

【遠坂凛@Fate/EXTRA】
[ステータス]:疲労(小)、サーヴァント消失
[装備]なし
[アイテム]セグメント1@.hack//、不明支給品0〜1、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝を狙うかは一先ず保留
1:助かった……?
[備考]
※凛ルート終了後からの参戦です。
※コードキャスト「call-gandor」は礼装なしでも使えます。他のものも使えるかは後の書き手にお任せします。
※リターンクリスタル@Fate/EXTRAは消費されました。

【全体備考】
※何もないエリアは見えない壁で仕切られています。
※購買部にNPCがいないため、購買部での買い物はできません。


支給品紹介
【DG-0@.hack//G.U.】
ハセヲXthフォームの使用する双銃。銃身の下にあるブレード部分での近接戦闘も可能。
劇中ではドッペルゲンガー戦のサブイベントをクリアすると手に入る。
ダブルトリガーを使用可能にする「ダブルトリガー」と、HPが減る程破壊力を増す「復讐の弾丸」の二つのアビリティを持つ。

【リターンクリスタル@Fate/EXTRA】
使用すると月海原学園一階にワープする。劇中ではアリーナからの脱出に使われていた。消耗品。
劇中では月海原学園購買部で購入可能な他、アリーナで拾う、エネミー戦で手に入れるなどの方法で入手可能。
本ロワでは主な入手経路だった購買部が使えないため、補充は絶望的である。

43 ◆4vLOXdQ0js:2013/02/11(月) 21:06:12 ID:4F9s92/s0
投下終了。修正点は以下の通りです

・購買部の状態の追加
・それに伴うジローのスタート地点の変更
・DG-0の扱い
・ついでにちょっとした加筆

通るかどうか、判定お願いします

44 ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/13(水) 22:46:09 ID:FN0ljzxk0
修正版投下します。
今のところ前半部分の修正は誤字のみなので、一先ず後半のみ投下します

45それはさながら燃えるキリンのように(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/13(水) 22:47:40 ID:FN0ljzxk0








現れたのは炎と、そしてクラインの怒号だった。
そこは闇に覆われた空間。黒を基調としたパネルで構成された大地に、光源一つない空が掲げられる。
だが、揺光の目の前は暗さとは無縁だった。それとは対極に眩しさがあった。
炸裂する光。そしてそれは炎が迫っていることを意味していた。

「うわぁっと、何、これ!」
転移早々出くわした危険な場面に、揺光は驚きの声を上げ、身をかがめ炎を避けた。
元紅魔宮チャンピオンの名は伊達ではない。ブランクはあるが、アリーナでトッププレイヤーであった彼女だ。鍛え上げた反射神経が功を奏し、回避することに成功した。
そのまま走り、クラインに近づく。

「待ち伏せ、やっぱり居たね」
「ああ……、でも、ありゃあ待ち伏せってより」
クラインは目の前に迫る脅威へと目を向けた。
パネルに置かれた青く光る円状の紋様(このエリアのワープゲート?)を守るようにそいつは居た。
その容姿がまた異様だった。先ず揺光やクラインのように人間の姿をしていない。
メカニカルな意匠をしたボディを、バネのような四足でパネルを踏みしめ支えている。その身は赤く燃え盛る炎を身に纏っていた。
たてがみのように炎を揺らす頭部からは、時節「ヴォォォォ」と獣のような唸り声を上がり、そこに理性があるようには見えなかった。

「ボスだな。門を守る為に配置されたボスモンスター」
「全くだね。この調子で、本当にこのエリアに何か隠されてるといいんだけど――っと」
炎の敵は「ヴォォォォォォォォ」と更なる叫びを上げ、再度攻撃をしてきた。
炎を吹き出し、燃え盛る炎がパネルを這うように進む。二人は散開して、それを避ける。決して速い攻撃ではない。不意打ちの初撃と違い、余裕を持って回避することができた。
とはいえ、揺光にはそこから反撃に転じることはできなかった。双剣があれば別だろうが、今の自分の装備はあの大剣。重いのでまだオブジェクト化していない。
だが、クラインは違った。刀を振るい、敵へと真直ぐに突っ込んで行った。

炎の敵に接近し、刀を振り合げ、その身を斬った。
敵は未だ反応できていない。防御などできる筈もなかった。
が、揺光はそこに違和感を覚えた。

(今、奴の炎の色が――)

「ん? 何だ、この手応え――」
クラインの声が響き、そして彼の身体が吹き飛ばされた。
斬りつけられた筈の敵は、斬撃を全く意に介さずその手を伸ばすことで、己の身に張り付く剣士を振り払ったのだ。

「クライン!」
揺光は名を叫ぶ。幸い、それ程のダメージはなかったのか。すぐに身を起こし、クラインは再び刀を構える。
殴打を受けたと思しき腹部を抑えつつも、その眼光は衰えていない。

「大丈夫なのか!?」
「ああ、俺は大丈夫だがよ。さっき、たぶん無敵状態だったぜアリャ」
今しがたの攻撃の分析を彼は口にした。
無敵時間。ゲームにおいてダメージが全く通らなくなる状態だ。
だが、ゲームである以上、それが完璧なものである筈がない。何らかの制限、あるいは上限が設定されてある筈だ。

「多分、奴の纏ってる炎の色が関係してる、と思う」
「マジか。じゃあ……」
「さっきは緑だった。きっとあの色が変わると付加される効果も変わるってことじゃないか」
見れば、敵の両脇に立つ蝋燭のオブジェクトがある。
この近辺全体が敵により炎に包まれている為、埋もれてしまっているが、他の炎と違い、そこに立つ炎には奇妙な点があった。
ゆらゆらと立つ緑色の炎を敵越しに睨みながら揺光は口を開く。

「あの蝋燭の炎と、あの敵が纏っている炎の色が対応している。アタシはさっき見てたから分かる」
と、その時蝋燭の炎の色が変わった。
片方は緑のままだったが、もう一方の色が変わり、橙の火が灯った。
すると、その場に不気味な人魂が現れた。橙の色の火の玉に、目元の吊り上った人面が浮かんでいる。
その炎が場を徘徊しだしたのだ。それも二つ。一方が揺光とクラインの下に近づいてくる。

「うわっ!」
二人は火の玉を避けた。その瞬間、敵の火炎放射が場を走った。
二つの炎が揺光に迫る。彼女はそれを身を捩りかわそうとする。が、完全にはかわしきれず手元に熱が走る。

46それはさながら燃えるキリンのように(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/13(水) 22:48:09 ID:FN0ljzxk0

(熱……本当に炎だ)

The Worldではありえなかった感覚に戸惑いつつも、揺光は敵から距離を取る。
火の玉の方はぐるぐると同じ場を回っている。動き自体は単純なものだ。
敵の火炎放射にしたところで、軌道は一直線だし、発動もそう早いものではない。
が、それらの技が組み合わさることで攻撃パターンが複雑化し、無敵時間も相まって敵を難攻不落のものにしているのだ。

「やっぱり、あの蝋燭を何とかしないとダメなようだね」
揺光は大剣をメニューから取り出し、ぼそりと呟いた。
恐らくあの敵のパターン変化はあの蝋燭がカギを握っている。ならば、それをどうにかすれば敵は大幅に弱体化する。
先ずあの蝋燭を殴ってみればいい。ダメージによって破壊できるものの可能性がある。

「こりゃあ、マジでボス戦染みて来たぜ」
クラインが言葉を漏らす。確かに、こういったタイプの敵は、対人戦と言うより寧ろクエスト内に配置されるボスモンスターに近い。

「なぁ、揺光。お前、あの敵を回り込んで蝋燭を攻撃、できるか?」
どうやらクラインも揺光と同様の分析をしていたようで、そう尋ねてきた。
やはりあの蝋燭をどうにかしなくては話にならない。それは分かっている。

「……微妙」
が、揺光はその提案に頷くことができなかった。自らの獲物を握りしめる。重い。双剣士である彼女にとって、その重さは未知のものだ。
それに、今しがた感じた炎――確かな死。それが彼女の肩に、僅かながらに重しを乗せていた。
揺光とてゲームが現実に影響を及ぼすような事態を体験してこなかった訳ではない。
謎のPKにより未帰還者にされ、目覚めた。そして、それでも危険を承知で再びハセヲの下に駆け付けた。覚悟だってあった。
だがそれでも、明確な死に触れたことで、剣が鈍ってしまうこともあり得る。
そして、自分の失敗は自分だけでなく、パーティ全体を死へと追い込みかねない。故に安易に強がりを見せる訳にも行かないのだ。

「そうだな。現時点の俺らの装備じゃあ、ちょっと厳しそうだ」
クラインも揺光の言葉に含まれた思いを読み取ったのか、そう口にした。
デスゲームを経験してきたというだけあって、その言葉には重みがあった。

「ここは一旦退くか」
そう言って、クラインは後方を顎で示した。
退く。逃走。その選択肢はある。敵はどうもあの場から動きそうにもないし、わざわざ追ってくるようにも見えない。
ウラインターネットへの侵入という目的は既に果たしたし、あの敵は無視して先に進むのが賢明な判断かもしれない。

「1、2、3で後ろにダッシュだ」
「…………」
釈然としない表情を浮かべながらも、揺光は無言で肯定の意を示した。
合図を取り、そして二人は走った。

「ヴォォォォォォォ!」
後ろで唸り声が響いた。が、予想通り追ってくる気配はない。
二人は眩い線上から離れ、暗い迷宮へと足を進めていった。

そうして、戦場から十分に距離を取り、周りに敵が居ないことを確認したところで、二人は一度立ち止まり、息を整えた。

「あの炎のロボット、ずっとあの場に居座るみたいだったな」
「……ああ」
揺光の漏らした呟きに、クラインが相槌を打った。

「アメリカエリアからこっちにやってくる奴らが、これからも襲われるかもしれないんだよな」
揺光の大剣を握る手が強まった。
今さっき自分たちが逃げ出した敵が、これからも人を襲うかと思うと、脚が鉛のように重くなる。
これはただのゲームではない。このゲームは、この世界は、真の死と地続きなのだ。
実際に死に触れたことで、そのことがより一層現実味を伴って感じられる。
そんな場で、死を振りまく敵を前におめおめと逃げ出したことも。

ウラインターネットは静かだった。
ところどころに走るノイズ以外は、何もない。
ダンジョンというものにはおどろおどろしいBGMが流れるのが相場だが、それがないことが逆により一層空間の不気味さを助長していた。

「アタシさ、もう一回、あの炎の奴に挑んでみる」
「お前」
揺光は呟き、クラインに向き合った。
そして、大剣を見せつけ、真剣な顔をして彼を見上げた。

47それはさながら燃えるキリンのように(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/13(水) 22:48:35 ID:FN0ljzxk0

「あのボス倒さないと、どうも前に進んだ気がしないんだよね。今、ここで倒しておきたい」
「…………」
「だからさ、頼む。危険だし、あんまり賢明とも言えないだろうけどさ、もう一回あの敵に挑みたい」
これ以上、あの敵を放置しておけば、更なる被害が出る。
特にアメリカエリアからこちら側に転位する場合、無防備なところを不意打ちされる形になる。
二人は何とか回避したが、このままでは犠牲者が出るのは必至だろう。

「頼む、か」
クラインはそう呟き、そして顎を撫で、へっと笑った。

「そうだな。俺も《風林火山》を率いる身としてあんな奴を放置しておけねえ。
 再チャレンジ、すっか」
「だね! じゃあ……」
そう言って、元の場に駆け戻ろうとした揺光を、クラインの声が引きとめた。

「まぁ待てよ。装備を整えてからいこうぜ」
「装備? そうは言ったって、他に何も……」
きょとんとする揺光に向かって、クラインが何かを放り投げた。
板状のそれをキャッチして、揺光は怪訝な顔でそれを眺めた。

「やるぜ。アイテム欄に戻せば、使い道が分かる」
「これは……」
言われた通りにメニューに戻し、その結果アイテム欄に現れた名を見た時、揺光は驚きの声を上げた。

「切り札、だ。これで奴を倒す」

















「ヴォォォォォォォォ」
B-10/ウラインターネット。
炎の包まれるそのエリアの中心に鎮座する敵――フレイムマン。
今しがた逃げ出したその場に、二人のプレイヤーが戻ってきた。

「行くよ!」
「おう!」
互いに鼓舞し合うように声を掛け、共に剣を握りしめる。
そこに、先ほどの戦闘と違うところがあった。
装備自体は何ら変わりがない。だが、その組み合わせが変っているのだ。

赤髪の少女、揺光は長い刀を握りしめ、
バンダナを巻いた男、クラインは身の丈ほどもあろうかという大剣を構えていた。

「ヴォォォォォォ」
フレイムマンはそれを不審に思うようなことはしない。
元よりそれ程複雑な思考ができるようにはプログラムされていない。
ネットバトル特化のネットナビとしてカスタマイズされた彼だ。
ただ目の前のものを燃やすことにしか興味などない。

その敵に対し、揺光が一歩踏み出した。

(一度やってみたかったんだよね、コレ)

そして、言う。

48それはさながら燃えるキリンのように(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/13(水) 22:48:52 ID:FN0ljzxk0

「《ジョブ・エクステンド》!」

その声と共に、彼らは敵へと向かい駆けた。
二人の動きには無駄も迷いもない。態勢を立て直し、戦略を練った結果だ。
刀を使い、俊敏な動きを持って揺光が蝋燭を破壊し、大剣を持ったクラインが一撃で仕留める。
それを可能にしたのが、クラインの支給品であり切り札『ジョブ・エクステンド(両手剣<The World R:1>)』である.

ジョブ・エクステンド。この場での装備制限を一時的とはいえ解除し、扱える武器を追加するアイテム。
マルチウェポンのそれのように1コマンドで武器を変更できるようにはならないが、それでも幅の広がった戦略と戦術は、強力な武器となる。
ただし使用可能なのは一度限り――正に切り札である。

(流石に見た目までは変わらないか。でも、これなら!)

刀の扱いが、自然と頭に浮かぶ。次にどう動けばいいのか、手に取るように分かる。
軽い。刀身も、身体も、心も。どこまでも速くなれる気がした。
フレイムマンがファイア・ブレスを放つ。だが、それを掻い潜り、更なる攻勢へと転じる。
狙いはフレイムマンではない。その奥に坐する二つの蝋燭だ。

「てぇあああああ!」
――スキル・叢雲
日本刀カテゴリの上位スキルにして、強力な範囲攻撃を叩き込む居合技。
頭に浮かんだそれを発動し、蝋燭に刃が走る。
ダメージを受けた蝋燭から炎が消える。予想通り、ダメージを与えることでこの火は消すことができた。

「今だよ! クライン」
「ああ!」
そこにクラインが来た。
大剣を振りかぶり、事態に未だ反応できないフレイムマンに迫る。
やはり蝋燭の火と、フレイムマンの炎は呼応していた。
揺光の攻撃と時同じくして、その身体から吹き出ていた炎が消えている。頭部から僅かに漏れ出ているのみだ。

「おおおおおおお!」
叫び上げ、クラインもまたソードスキル《アバランシュ》を発動する。
両手用大剣の上段ダッシュ技。雄叫びを上げ、フレイムマンに突っ込んでいく。

「ヴォォォォォォォォ!」
フレイムマンが叫びを上げる。
その身に大剣を直接受けては、決して無事では居られない。獣のようなうめき声をあげ、その身を捩り苦しみを表す。

「くそっ! しぶてえな、コイツ」
だが、それでもまだ倒れる気配はない。
フレイムマンとてWWW幹部が手塩にかけてカスタマイズした強力なネットナビ。
直撃したとはいえ。剣の一撃で倒れるような柔な敵ではない。

「ならよ! これで」
クラインはそこで更なる技を使おうとする。
一撃で駄目なら、何度でも叩き込めばいいだけだ。そう考えたのだろう。怯むことなく攻撃しようとする。

しかし、それは少し安易だった。
揺光ならばそこで一度退いていたかもしれない。アリーナでの対人戦に慣れた彼女ならば。
対人戦の経験がない訳ではなかったが、モンスターとの戦闘を主としていたクラインは失念していた。
目の前の異形の敵が、決められた動きしかしないモンスターなどではなく、脆弱な思考力ながらも自分で考え自分で動く存在だということを。

「バトルチップ『ホールメテオ』」
フレイムマンもまた、状況を打破すべく、札を切った。
それがどのような性質を持ち、どう使えばいいのかは、フレイムマンとて分かっていた。
発動と同時に、杖が現れ、頭上の空間が歪み、その奥から炎を纏った岩石が噴出する。
それも一つや二つではない。無数の隕石があられのように降り注ぎ始めたのだ。

「何!? これ」
揺光は焦る。その振り続けるメテオを必死に避けようとするが、何しろ突然のことだ。
上手く対応できず、足をもつれさせる。クラインもまた焦りの表情を浮かべている。

「ヴォォォォォォォォォォォォ!」
そこにフレイムマンのブレスが無慈悲に放たれる。
メテオと同時にその炎を避けることは揺光にはできなかった。
目の前に迫る熱の壁を感じ、彼女は目を瞑り、死を覚悟する。

49それはさながら燃えるキリンのように(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/13(水) 22:49:08 ID:FN0ljzxk0

そこに青い影が走り抜けた。

「大丈夫?」
「え?」
間一髪、炎を身に受けようとしていた揺光を、その影が救い出していた。
その手に抱えられる形となった揺光は、その影の姿を見た。
顔を覗けば、フレイムマンと同じくロボのような外観であり、水色のスカーフが走る度に揺れる。
彼は揺光を抱えたまま、ある程度フレイムマンから距離を取った後、声を上げた。

「フレイムマン!」
「ヴォォォォォ(コゾウ……お前か)!」
その手から降りた揺光は、その外観とやり取りから、二人が同じゲームのアバターであり、また敵対関係にあるということを推しはかった。
何時の間にか隕石は止んでいた。だが、フレイムマンの後方に据えられた蝋燭に再び炎が灯っている。橙と赤。
再び人魂が場を徘徊し出す。フレイムマンは初見時と同じく赤い炎を纏っていた。具体的な効果は分からないが、何かしら付加効果を得ていると思って良い。

そして、その下に横たわる剣士の姿があった。

「クライン!」
至近距離で炎を受けたのだろう。顔を苦痛に歪ませながら、胸を押さえている。
フレイムマンがその口を開ける。そのモーションは何度も見た。ブレスの前兆だ。クラインに留めを刺そうとするのだろう。
クラインの下に急ぐべくと、揺光が近づこうとするが、人魂に遮られる。間に合わないのか。
そう思った時、隣を青い人が駆けていく。無駄のない走りでクラインを救うべく地を蹴る。その姿は忍者を思わせる。

間に合うか、そう思った時ブレスが放たれた。
だが、その射線上に居たのはクライン――ではなかった。
青い人だ。敵は最初からクラインではなく、そっちを狙っていたのだ。

「くっ」
青い人が焦りの声を漏らす。クラインを救うことを念頭に置いたが故、上手く回避ができず、その足が一瞬止まる。
フレイムマンからすれば別にフェイントでも何でもなかった。彼としては青い人――ロックマンが現れた時点で、彼しか狙おうとしていなかった。
その時、

「ヴォ!?」
ブレスを吐いていたフレイムマンが、突如唸り声を上げた。
その身に剣が突き刺さっていた。
無視した存在。先ほどまで横たわっていた筈の男が起き上がり、その大剣を突き立てたのだ。

「おおおおおおおお!」
「クライン!」

炎の中で、剣が振るわれる――
















クラインこと壺井遼太郎は己の間近に迫る死を感じていた。
直撃こそ免れたものの、炎をその身に受け、更にメテオを追い打ちを食らった。
既にHPバーは赤に突入している。あと一歩でゲームオーバー――死だ。

50それはさながら燃えるキリンのように(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/13(水) 22:49:36 ID:FN0ljzxk0

「おおおおおおお!」
だが、クラインは怯まず、恐れず、戦うことを選んだ。
剣を突き立て、炎の敵を討ち果たさんとする。

「ヴォォォォォ!」
敵、フレイムマンもまたうめき声を上げ、炎を振りまく。
その火がクラインのHPを更に削っていく。それを横目にして尚剣を叩き込んだ。
自らを鼓舞すべく叫びを上げある。熱さも痛みも、もはや気にならなかった。

「クライン!」
揺光の声がした。
揺光。この場で会い、パーティを組むことになった赤髪の少女。
先ほどの接敵から、またこの場に舞い戻るような真似をしなければ、こんな状況には陥らなかっただろう。
だが、自分はこの道を選んだ。そのことに後悔はなかった。
噛み合わないことがあろうとも、何処かで確かに繋がっている。そう彼女は口にした。

(そんな奴が頼むって言ってきたんだぜ。俺によ)
ならば、自分がそれを無下にできる訳がない。
自分とてこの敵を打ち倒す必要性は感じていた。その為に、自分の切り札も揺光にやった。

会ったばかりのプレイヤー。この状況下で、自分のアイテムをそう易々と他人に見せる訳には行かない。
そう思い、互いの装備を確認し合った時も、ジョブエクステンドの存在は伏せた。そのことに後ろめたいものを感じなくもなかったが、仕方がないことだと割り切った。
が、結果的に渡してしまった。頼まれた以上、最善を尽くさない訳には行かないだろう。そう考えて。
結局、そういう性分なのだと思う。

(だからよぉ、キリト)

剣を振るいつつ、思うのは一人のプレイヤーの存在だ。
SAOにログインして以来の縁が続いている一人の剣士。彼はだが、自分に頼ることを良しとしなかった。
クリスマスのイベントでさえ、決して自分からは助けを求めようとはしなかった。
それを立派だと思うものか。腹立たしいとすら思う。何故、ああも一人で行こうとするのか。

人が一人で生きていくことが不可能だという簡単な事実を、何故分かろうとしないのか。

(繋がってんだよ。何処かで)

この場にキリトが居ることは知っている。
繋がりは切れてはいない。自分がこうして戦っていることも、自分の知らない形でキリトに繋がっているかもしれない。

「倒れやがれぇぇぇぇ!」
叫びながら、大剣を振るい、ソードスキルを叩き込む。
フレイムマンもまた必死に抵抗をする。烈火を纏い、熱の波を繰り出し、渦巻く炎を吐く。
その身体に、剣を突き立てる。

その剣もまた、繋がりであった。
クラインの握る大剣。それは近い未来、キリトがSAOをクリアした後、ALOでの武器となったものだ。
無論、彼はそのことを知る由もない。だが、そこには確かに繋がりがあった。

そして、その時は訪れた。

「ヴォォォォ……ヴォ!」
「――へっ」
フレイムマンの動きが止まった。
クラインが薄く笑みを浮かべる。フレイムマンは目を見開き、信じられないとでも言わんばかりに己の身体に注視している。
その身からは炎が消え、内部から崩壊していく。ボディがところどころ爆発し始める。

「――クライン!」
揺光の声を聞いた。
次の瞬間、フレイムマンがクラインを巻き込み爆散した。
















閃光が晴れた時、そこにはもう誰も残っては居なかった。
フレイムマンの炎は全て消え、エリアには再び薄暗い闇が戻ってきた。
赤いバンダナの剣士の姿は、消え去っていた。
彼の振るっていた大剣が、まるで墓標のように地に突き刺さっている。

「僕が……もう少し早く来ていれば」
ロックマンは悔やむようにそう口にする。
実際、彼は二人よりもこの場に近い位置に居た。
が、ウラインターネットの複雑な構造を潜り抜けなければならなかったロックマンに対し、真直ぐと一本道を歩いてきた彼ら。その差は大きかった。
結果として、ロックマンは一足遅れてこの場に駆け付けることになる。
フレイムマンと戦う二人の人間を見て、急いで間に入ったのだが、それでも犠牲を出してしまった。

「…………」
生き残った少女は黙って、クラインが居た筈の場を見ていた。
その瞳に映るのは、何もない虚空。自分と同じく無念を感じているのだろう。

「アイツさ……戦ってたんだよな」
ぽつりと少女が声を漏らした。
ロックマンは何も言わなかった。彼女は慰めの言葉など必要としていない。それくらいのことは分かっていた。

「アタシと一緒に、戦っていたんだ」
その独白は、火の消えた戦場に響き、そして消えていった。

51それはさながら燃えるキリンのように(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/13(水) 22:49:56 ID:FN0ljzxk0


【B-10/ウラインターネットエリア/1日目・黎明】
※クラインとフレイムマンの支給品が門付近に落ちています。
※アメリカエリアへ繋がるワープゲートの形状はエグゼのバナー(パネルに張り付いた円)と同じです。

【ロックマン@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:HP90%
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3(本人確認済み)
[思考]
基本:殺し合いを止め、熱斗の所に帰る
1:少女(揺光)の話を聞く。
2:落ち着いたらネットスラムに行く。
[備考]
※プロトに取り込まれた後からの参加です。
※アクアシャドースタイルです。
※ナビカスタマイザーの状態は後の書き手さんにお任せします。
※榊をネットナビだと思っています。また、榊のオペレーターかその仲間が光祐一郎並みの技術者だと考えています。
※この殺し合いにパルストランスミッションシステムが使われていると考えています。

【揺光@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP50%
[装備]:あの日の思い出@.hack//
[アイテム]:不明支給品0〜2(武器ではない)、基本支給品一式
[思考]
基本:この殺し合いから脱出する
1:…………
[備考]
※Vol.3にて、未帰還者状態から覚醒し、ハセヲのメールを確認した直後からの参戦です
※クラインと互いの情報を交換しました。時代、世界観の決定的なズレを認識しました。
※ハセヲが参加していることに気付いていません


・支給品解説
【ジョブ・エクステンド(両手剣<The World R:1>)】
The World R:1の両手剣の装備制限が一時的に解除されるアイテム。効果は10分で使い捨て。
指定のモーションで武器を振れるようになる他、スキルも使用可能になる。

【キリトの大剣(ALO)@ソードアート・オンライン】
ALOにてキリトが使用していた身の丈ほどもある大剣。
重い。

【あの日の思い出@.hack//】
Lv51の両手剣。刀に分類される。
使用スキルは
雷烙
叢雲
メライドーン

【ホールメテオ@ロックマンエグゼ3】
目前に杖を置き、炎属性の隕石を降らせるバトルチップ。
ホールメテオは敵エリア全体に隕石を降らせる
杖を破壊されると攻撃を中断する。





【クライン@ソードアート・オンライン Delete】
【フレイムマン@ロックマンエグゼ3 Delete】

52それはさながら燃えるキリンのように(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/13(水) 22:55:38 ID:FN0ljzxk0
投下終了
変更点としては
・フレイムマンの幽霊ナビはカット
・アイテムによるジョブ・エクステンドの仕様変更(効果は一時的なもの)
・誤字、状態表の修正
になります

気になる点としては、装備制限解除の対象がThe World R:1のものであるという点です。
装備制限を解除するアイテムを出せないかなーという意図で出した支給品なので、こういう風な仕様にしましたが、
R:2のみ可という意見もありましたので、そちらの意見が多いならば刀の出典をR:2のものに変えます

53 ◆uYhrxvcJSE:2013/08/09(金) 03:36:39 ID:Fsiz6i7s0
これより、第一放送案の仮投下をさせていただきます。

54第一放送 悪魔の呼び声 ◆uYhrxvcJSE:2013/08/09(金) 03:37:25 ID:Fsiz6i7s0
明けない夜は無い。
あらゆる創作物で多用されるそのフレーズは、この仮初の世界においても例外ではなかった。
空を覆う闇は既に薄れ、陽光と思わしき作り物の光が会場全体に差し込み始めている。
現在の時刻は、現実世界で言えば凡そ午前六時頃といったあたり。
学校なり職場なり、向かうべき場所へと向かう準備をしている者達もいる頃だろう。

ただしそれは、リアルな日常ならばの話だ。
今、この空間において繰り広げられているのは、そんな日常からは遥かにかけ離れたゲーム……
命を賭けた、殺し合いである。


『グッド・モーニン……参加者諸君。
 気分はどうだ?』


その事実を認識させるかの様に、会場全体へと残酷なモーニングコールが響き渡った。
遅れて数秒後、あらゆるエリアの中空にウィンドウが出現する。
バトルロワイアル開始より、六時間……一度目の定時放送が始まったのだ。


『VRバトルロワイアルがはじまってから、丁度今で六時間が経った。
 これから俺達運営側より、一度目の定時放送をさせてもらうぜ……
 大切な情報やお知らせがあるから、聞き逃さない様によ〜く集中することだな?』


ウィンドウに映し出されているのは、榊とは違う別の男であった。
膝上までを包む艶消しの黒いポンチョを身に纏い、目深く伏せられたフードによってその表情は一部分しか見えないが、それだけでも映画俳優並に優れたビジュアルの持ち主である事が察せられる程のレベルだ。
加えてその声もまた、見事なまでに張りのある艶やかな美声なのだが……なぜかその声には、深い異質さがまとわりついている。
軽快さとは裏腹に、酷く冷酷な雰囲気を感じさせるものだった。

55第一放送 悪魔の呼び声 ◆uYhrxvcJSE:2013/08/09(金) 03:38:00 ID:Fsiz6i7s0

『まず最初に、ここまでのゲームオーバープレイヤー……死んだ連中の名前を上げさせてもらう。

 バルムンク。
 ロール。
 ウズキ。
 クライン。
 フレイムマン。
 レン。
 遠坂凛。
 リーファ。
 トリニティ。
 クリムゾン・キングボルト。
 ワイズマン。
 アドミラル。
 
以上、12名だ……あぁ、聞いて疑問に思った奴もいるだろうから捕捉させてもらうと、この中にサーヴァントは含んじゃいないぜ』


―――何せ奴等は、道具みたいなもんだからな。


そう、聞いた者によっては大激怒しかねないだろう一言を実に気軽に言い放つと、男はクククと喉を鳴らし、小さく唇の両端を釣り上げた。
嘲笑っている……愉しんでいるのだ。
この名前を聞き、怒り、悲しみ、嘆き、唖然としているだろう参加者達の様相を想像して、この男はあろう事か愉悦を覚えているのだ。
今、参加者の大多数より自身に向けられているであろう負の感情すらも、その為のスパイスに変えて。


『ククク……中々な数だな。
 それだけこの会場には、死にたくないって足掻いてる奴等が多いんだろうなぁ?
 そりゃそうだろう……他人を殺さなけりゃ自分が死ぬんだ。
 だったら、殺すしかねぇ……なぁ?』


さながら地獄の悪鬼が如く、男は囃し立てる。
もっと殺しあえ、もっと潰しあえと……そう煽るかの様な口調で、彼は会場内にいる者達へと語りを続けた。

56第一放送 悪魔の呼び声 ◆uYhrxvcJSE:2013/08/09(金) 03:38:37 ID:Fsiz6i7s0

『そこで、だ。
 ここまで生き残った全プレイヤーに、俺達からささやかなプレゼントをしたいと思う。
 このゲームを、もっとエキサイティングに楽しんでもらうためにな……アイテム欄を見てもらおうか?』


そう告げると同時に、男もまた画面の向こうで手元を動かしウィンドウを操作した。
それが、運営側―――所謂GMにのみ許されているであろう特殊な代物である事は、想像に容易い。
彼はたった今、生き残っている全ての参加者に対して、あるアイテムを送ったのだ。


『どうだ、見えただろう?
 これが運営側からお前達に贈るプレゼント……参加者名簿だ。
 こいつには、このバトルロワイアルに参加している全プレイヤーの名前が載せられている。
 ククッ……実を言うとな、俺達も少し不公平じゃないかと思ってたのさ。
 何せ、自分以外の参加者を殺し尽くせば優勝とは言ったが……
 考えてみりゃ、自分以外にどれだけの参加者がいるかを把握する手段がお前達には一切無かった訳だ。
 ゴールが見えないまま走り続けるマラソンってのも、辛いもんだろ?』


男の言う事は一理あった。
参加者全てをPKすればゲームクリアとはいうものの、その参加者がどれだけいるかが把握できなければ、プレイヤー側にはクリアの目途が一切立てられない。
どこまでPKすれば良いのかが、誰にもまるで分からないのである。
それははっきり言ってしまえば、バトルロワイアル形式のゲームとしては致命的といってもいい欠陥だ。
ゲームバランス自体が破綻していると言っても過言ではないだろう。


『だがそれも、これで一安心だ。
 この名簿さえありゃ、他にどんなプレイヤーがいるかなんて一発で分かる……』


故に、問題を解決すべく運営側が早急な対応を実地したかの様にこの男は告げているのだが……



『……自分にとって大切な奴や、ぶっ殺してやりたいくらいに憎い奴がいる事もな?』



当然、目的はそれだけではない。
ゲームの更なる加速……この名簿によって、更に会場内での争いが活発化する事。
それこそが、男が、運営側が望むものに他ならないのだから。

57第一放送 悪魔の呼び声 ◆uYhrxvcJSE:2013/08/09(金) 03:39:03 ID:Fsiz6i7s0

『さて……次にだが、マップを開いてもらおうか。
 これから大体一時間後だが、一部のエリアを進入禁止にさせてもらう。
 
 場所は二つ、【E-6】【F-10】だ。

 今後、この二箇所への立ち入りは禁止させてもらう。
 もし警告を破った場合は、ウィルスが自動的に作動する……ゲームオーバーだ。
 これからゲームが経過するに進むにつれて、進入禁止エリアは徐々に増えていく……つまりだ。
 一か所に隠れてやり過ごそうなんて甘い考えは通じないぜ?』


朝焼けに映し出されているウィンドウは、丁寧にも男の全身像からマップ全体像に切り替えられており、今しがた告げられた二箇所のエリアが赤く明滅している。
恐らくは、参加者達が現在見ているであろう手元のマップにも、同じ表示がされているだろう。
これもまた、バトルロワイアルを加速させる為の仕掛けなのだろうか。
少なくとも男の口からは明確にその意図が読み取れる。
ゲームを停滞させない為のルールというのも、これが殺し合いだという点さえ除けば、確かに分からなくはない話だ。


『さあ、放送もこれで終わりになっちまうが……
 最後に、お前達生き残ったプレイヤー達へと、俺と、そして榊からメッセージがある。
 そいつを聞いてもらうとしよう……まずは俺からだ』


そう言うと、男はパチンと指を一度鳴らし、低く湿った笑い声を上げた。


『いいか、お前等?
 さっきも言ったが、このゲームじゃ他の誰かをPKしなきゃ生き残れねぇんだ。
 生き残りたけりゃ、兎に角誰かをぶっ殺せ……ククク。
 もし、誰かを犠牲にしてまで生き残りたくないなんて綺麗事を言うつもりなら、俺から良い事を教えてやるよ。
 このバトルロワイアルでPKをして……それが誰の罪になる?
 殺しをしてしまったプレイヤーの罪か?
 ノー、アブソリュートリィ・ノーだ……だってそうだろ?
 お前達はVRバトルロワイアルって『ゲーム』をしているだけなんだ。
 ただ、ゲームルールに従ってPKをしているだけに過ぎない……PKされたプレイヤーを殺してるのは、このゲームの運営だ。
 だから、プレイヤーは何も悪くねぇ……何の罪も犯しちゃいねぇ。
 殺人罪が適用されるなら、PKした奴じゃなくて運営側って話になるよなぁ?』



――――――だから、遠慮なんかする必要はねぇ……ただゲームを愉しんで、殺せばいいんだよ。



それは、今までのどんな言葉よりも熱が込められた一言であった。
参加者の多くを誘い込まんとする、強烈な誘いだった。

58第一放送 悪魔の呼び声 ◆uYhrxvcJSE:2013/08/09(金) 03:39:32 ID:Fsiz6i7s0



かつてこの男が、かの浮遊城で多くの者達を魅了し、思うが儘に操ったのと同じ……悪魔の囁きに他ならなかった。



『俺からは以上だ。 
 六時間後に生き残っていたなら、また声を聞かせてやるよ。
 じゃあな……と、いけねぇな。
 大切な事を言い忘れていたぜ……榊に代わる前に、教えておいてやろう。
 この俺の名前をな』


最後に男は、一拍置いた後に静かに口を開いた。

この放送が始まった時から殆どの者達が気になっていたであろう、己が名を答える為に。


かつて浮遊城アインクラッドで、最凶最悪のレッドプレイヤーとして恐れられていたその名を、告げる為に。


『PoH……それが俺の名前だ。
 じゃあ、今度こそグッバイだ。
 このバトルロワイアルを、精々愉しんでくれ……イッツ・ショウ・タイム』



◇◆◇



『やあ、諸君。
 まずはここまでの健闘を、素直に祝福させてもらおうじゃないか。
 第一次放送までの生存、おめでとう!』


それから物の数秒が経過して。
中空のモニターに一瞬ノイズが奔ったかと思うと、いつのまにか映し出されている人物が切り替わっていた。
和装をしたちょんまげの男……言うまでも無く、榊だ。
彼は実に楽しそうに、且つ尊大な様子で参加者達へと祝福の言葉を吐いた。
無論それが、心からの祝福であるか否かは、言うまでも無いだろう。

59第一放送 悪魔の呼び声 ◆uYhrxvcJSE:2013/08/09(金) 03:40:11 ID:Fsiz6i7s0

『さて、言いたい事は殆どPoH君に言ってもらえたから、私からは手短にさせてもらうよ。
 ああ、彼と私の関係だが、一応は仲間という事になるかな?
 本来ならこの第一放送は進行役として私が全て取り仕切るつもりだったのだが、彼が是非にと言ってきたものでね。
 折角だから、役目を一部譲らせてあげたのだが……全く、見事なものだよ。
 流石はあの世界でカリスマプレイヤーと言われていただけの事はある、聞いてて嫉妬を覚えてしまいそうなぐらいじゃないか』


苦笑しつつ、しかしながら素直に榊はPoHの演説を認めていた。
己もこういう役割ははじめてという訳ではないが、自身ではああも鮮やか且つダイレクトに言う事は出来なかったかもしれない。
そう、彼の言葉を聞いて実感していたからだ。
しかしながら、だからと言って全てを彼に持っていかれては進行役の名が泣く。
ここは自身も、バトルロワイアルを更に盛り上げるべく働かねばならない。


『話を戻そう……私から君達プレイヤー諸君に告げたいのは、優勝賞品についての補足だ。
 私はあの広場で、君達に確かにこう告げた。
 
 【元の場への帰還】と【ログアウト】、そして【あらゆるネットワークを掌握する権利】を進呈する。
望むなら現実で使える金銭や地位も加えて与えよう……と。

 それが本当なのかどうかは、あの時も言った様に私を信じてもらうしかないが……』


そこまで言うと、榊は一呼吸を置いた後、静かに笑みを浮かべた。
先程のPoHとはどこか違い、しかしどこか似た様子が見て取れる……邪悪さが垣間見える笑みを。


『さて、君達の中にはこのバトルロワイアルの参加者について、疑問を感じた者達がいるんじゃないか?
 
「どうしてこいつがここにいるんだ?」「このプレイヤーが、ここにいる筈が無い」……と。

 本来ならばこの舞台に絶対にいる事が無いプレイヤーの存在を、不思議に思った者がいる筈だ。
 分かりやすい例を上げるなら、既に死んだ筈の者が生きているといったケースか。
 ふふ……頭のいいプレイヤーなら、既に私が言いたい事が何なのかを把握出来ているのだろう?』

60第一放送 悪魔の呼び声 ◆uYhrxvcJSE:2013/08/09(金) 03:40:42 ID:Fsiz6i7s0

榊が言わんとしている事は、ある意味ではPoHの誘惑よりも遥かに強烈なそれだった。


ダスク・テイカーの様に、本来ならば既にゲームの舞台から下ろされた筈のプレイヤーが参加している事実。


ユウキやカオル達の様に、既に命を落としてこの世を去った筈の者達が参加している事実。


そして、おもむろに始まった優勝賞品についての補足説明。


これらが意味する事は、一つ。


『もう一度言おう……私は、このバトルロワイアルに優勝した者の望みを叶えようじゃないか。
 死んだ者ともう一度会いたいという……そんな願いですらも!』


ゲームの優勝者には、死者の復活を約束する。
榊は、そうプレイヤー達に告げたかったのだ。
バトルロワイアルが進めば進む程、死者の数は比例して増えていく。
その過程で、大切な者を失い戦意を喪失するプレイヤーは確実に出てくるだろう。
そうなってはこのバトルロワイアルが停滞してしまう……それでは困るのだ。
わざわざオーヴァンと接触までして舞台を加速させようとしているのに、勢いを殺してしまう訳にはいかない。


『生き残りたいならば!
 大切な者と共に生きる日々を再び手に入れたいならば!
 富と名誉を手に入れたいならば!
 平和な日常を、取り戻したいならば!!
 PoH君の言った通り、遠慮は無用だ……心に思うがまま、闘うがいい』


だからこうして、彼は餌を用意したのだ。
あらゆる参加者達が、殺し合いに乗り気になれる様……
その心の隙間に、弱さにつけ入れる、極上の賞品を用意したのである。

61第一放送 悪魔の呼び声 ◆uYhrxvcJSE:2013/08/09(金) 03:41:35 ID:Fsiz6i7s0


『では、私からは以上だ。
 次はまた六時間後になる……諸君の健闘に期待しているよ』



その声が響くと同時に、会場全体にブツッとノイズが走り、ウィンドウが消滅する。
熱い悪魔達の呼び声はこれで終わりを告げた。
VRバトルロワイアル第一放送は、これにて終了したのだった。



◇◆◇



「ふぅ……いやぁ、流石だよPoH君。
 レッドプレイヤーのカリスマと言われる所以を、十分に思い知らされた。
 やはり君をプロデュースした私の目に、狂いは無かったということかな?」

「ハッ……お前程じゃねぇさ。
 最後の最後で極上の餌をぶらさげるとは、俺よりよっぽどの悪魔に見えるぜ」


放送を終えてから、しばらくした後。
空が無い出来損ないの空間―――オ―ヴァンが足を踏み入れたあのデバッグルームで、榊とPoHは静かに嗤いあっていた。
互いに、他者を騙しその心を弄ぶ術に長けた者同士……色々と思う所があるのだろう。
しかし、参加者を煽り殺し合いに乗せるという目的を考えれば、この第一放送は上々の結果といったところか。
そう言えるだけの自信が、彼等にはあったのだ。


「だが、まだまだだ。
 彼等にはもっと舞台を加速させてもらわなければ困る……私達の目的を、果たす為にはね。
 その為に態々、アイツにも接触したんだ」

62第一放送 悪魔の呼び声 ◆uYhrxvcJSE:2013/08/09(金) 03:44:13 ID:Fsiz6i7s0

「オーケイ。
 ま、俺は俺で愉しませてもらうさ。
 この愉快なゲーム……猿どもの殺し合いをな」


PoHはポンチョの下で細い身体を折り曲げ、くくくと笑う。
彼には、愉しみでしかたないのだ。
自身の手でPKを行うのも勿論悪くは無いのだが、それ以上にVRバトルロワイアルの参加者達が互いに殺し合う様は、彼にとって最高に興奮を覚えるショーでもあった。


(……やれやれ……バトルロワイアルの進行を早める目論見は成功したのだろうが……これは、中々危険な男を引きこんでしまったのかもしれないな)


「ククク……」


ここは、かつてのSAOとは違う。
死ねば現実世界でも命を落とすという点こそ共通しているが、このVRバトルロワイアルにはSAOとは決定的に違う点がある。
苦痛を和らげるペインアブソーバが無い。
異性からの理不尽な接触を避ける為の倫理保護コードが無い。
かの浮遊城で多くのプレイヤーを縛りつけていた原則が、この会場では何も適用されていないのだ。
これがどれだけの惨劇を生みだすかは、想像するに難しくない。


―――さあ、殺し合え。醜悪に、無様に、滑稽に踊ってくれ。
 


―――イッツ・ショウ・タイム……!!




【運営側:PoH@ソードアート・オンライン】

63 ◆uYhrxvcJSE:2013/08/09(金) 03:44:44 ID:Fsiz6i7s0
以上、放送案仮投下終了いたします。

64名無しさん:2013/08/09(金) 10:47:34 ID:0zsJHjTQ0
投下乙です
一応上げておきますね

それにしても、PoHですか……とんでもない危険人物が主催側に出てきましたね
ただ、主催者側とはいえ、参加者決定時のルール的に大丈夫なのかなとちょっと疑問です

65名無しさん:2013/08/09(金) 18:30:07 ID:WNvisJ3g0
仮投下乙です。
ここでPoHの煽りとか、放送鬼畜すぎるw
自分的には全然ありだと思いますが、禁止エリアについてだけは空欄にしておき、後日相談して決定するのが無難ではないでしょうか?

>>64
ルール的に大丈夫なのかというのは、「SAOの文庫化されてないweb版はNG」のところでしょうか?
だったら一応、PoHは原作8巻とプログレッシブ1巻で既に登場してますし、アニメにも一応出てますから問題はないかと思いますが……

66 ◆7ediZa7/Ag:2013/08/10(土) 19:31:39 ID:.TVwiD1g0
仮投下します

67convert vol.1 to vol.2 ◆7ediZa7/Ag:2013/08/10(土) 19:33:43 ID:.TVwiD1g0
|件名:定時メンテナンスのお知らせ|
|from:GM|
|to:player|

○本メールは【1日目・6:00時】段階で生存されている全てのプレイヤーの方に送信しています。
当バトルロワイアルでは6時間ごとに定時メンテナンスを行います。
メンテナンス自体は10分程度で終了しますが、それに伴いその前後でゲートが繋がりにくくなる他、幾つかの施設が使用できなくなる可能性があります。
円滑なバトルロワイアル進行の為、ご理解と協力をお願いします。

○現時点での脱落者をお知らせ致します。
|プレイヤー名|
|バルムンク|
|ロール|
|ウズキ|
|クライン|
|フレイムマン|
|レン|
|遠坂凛|
|リーファ|
|トリニティ|
|クリムゾン・キングボルト|
|ワイズマン|
|アドミラル|

上記12名が脱落しました。
現時点での生存者は【43名】となります。
なお他参加者をPKされたプレイヤーには1killあたり【300ポイント】が支給されます。
ポイントの使用方法及び用途につきましては、既に配布したルールテキストを参照下さい。

68convert vol.1 to vol.2 ◆7ediZa7/Ag:2013/08/10(土) 19:34:03 ID:.TVwiD1g0


○【1日目・6:00時】より開始するイベントについてお知らせ致します。

【モラトリアム】
場所:日本エリア/月海原学園。
6:00〜18:00までの時間中、校舎内は交戦禁止エリアとなります。
期間中、交戦禁止エリア内で攻撃を行っているプレイヤーをNPCが発見した場合、ペナルティが課せられます。

【痛みの森】
場所:ファンタジーエリア/森
6:00〜12:00までの時間中、該当エリア内でのダメージ倍率が二倍になります。
その際、被ダメージの痛覚も併せて増幅されて再現されます。

【幸運の街】
場所:アメリカエリア全域
6:00〜12:00までの時間中、該当エリア内でPKを行った場合、ドロップするアイテムが一定確率でレアリティの高い物に変化します。
なお変化したアイテムを元に戻すことはできません。

【1日目・6:00時】より開始するイベントは以上になります。

では、今後とも『VRバトルロワイアル』を心行くまでお楽しみ下さい。


==================

本メールに対するメールでのご返信・お問い合わせは受け付けておりません
万一、このメールにお心当たりの無い場合は、
お手数ですが、下記アドレスまでご連絡ください。
xxxx-xxxx-xxxxx@royale.co.jp

69convert vol.1 to vol.2 ◆7ediZa7/Ag:2013/08/10(土) 19:34:27 ID:.TVwiD1g0






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0110101010101010101001010101010101011001001101010101010101010010101010101010110010
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1010101
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――vol.1――記録――セーブデータ――情報――断片――フラグメント――軌跡――
――救世主――ネオ――理由――RELOADED――ガッツマン――男――アッシュ・ローラー
――REVOLUTIONS――トリテニィ――死別――凛――死の恐怖――スケィス――データドレイン――蒼炎――
――ユイ――岸波白野――三重契約――ゴースト――ユウキ――カオル――死者――
ラニ――出会い――リーファ――SAO――ゲーム――慎二――ヒースクリフ――勝利――ライダー――
略奪――ダスク・テイカ――デュエル・アバター――シルバー・クロウ――蒼天――翼――バルムンク
――死神――フォルテ――強者――GAP――レン――悲哀――剣士――キリト――
人間――ランルーくん――化物――ヴラド3世――愛――エンデュランス――
コンフリクト――揺光――クライン――フレイムマン――エクステンド――切り札――
――ロックマン――ウラインターネット――ツインズ――モーフィアス――死者――リコリス――
――碑文――アトリ――ウズキ――惑乱の蜃気楼――シノン――遭遇――マク・アヌ――恐怖――
――スミス――エージェント――ワイズマン――おでん――
クリムゾン・キングボルト――上書き――カイト――齟齬――志乃――疑問――答え
――プロ――アドミラル――ロール――PK――ボルドー――ブルース――正義――
ピンク――ジ・インフィニティ――逃避――ジロー――選択――レオ――ユリウス――
――生徒会――ハセヲ――決意――表と裏――スカーレット・レイン――リアル割れ――
ブラック・ロータス――黒雪姫――嘘――アーチャー――ブラックローズ――騎士――ダン・ブラックモア――
黒――キャスター――鏡の国――ありす――猫――ミア――現実――アスナ――AIDA
――サチ――信頼――オーヴァン――榊――トワイス――真実――……――vol.2――



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0110101010101010101001010101010101011001001101010101010101010010101010101010110010
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70convert vol.1 to vol.2 ◆7ediZa7/Ag:2013/08/10(土) 19:35:25 ID:.TVwiD1g0




集積されていくデータの断片を私は無感動に見上げていた。
最初の六時間。このゲームはこれで最初の区切りを迎えたことになる。
その間に観測されたデータはこうして集められ、二進数に還元され、それぞれがカタチを得ていく。
そのカタチは未だ欠片に過ぎないが、それ故に意味がある。
不確定性は時に他の何物より価値を持つことがあるのだ。

同時に、私はつい先ほど出会った一人のプレイヤーを思い出していた。
榊が私に似ていると表現したバグに取り憑かれた男。
成程確かに容姿は似ているかもしれない。だがやはり私と彼は決定的に違う人間だ。少なくとも私はそう思う。

「真実」

オーヴァンという名の彼は、それを求めた。
榊に対しまともに応対する気がなかったが故の言葉なのだろうが、しかし恐らくそんなものはここにはない。
今は、まだ。

世界はカオス系だ。
ハイゼンベルクやゲーデルがラプラスの魔を殺して以来、ニュートンが描いた過去と未来の区別のない世界は既に崩壊した。
何がどう作用するのか分からない。何が何を生むのか分からない。それが今のこの世界だ。
そんな世界で真実を求める。それがどういう意味を持つのか、彼は果たして分かっているのだろうか。

「何にせよ」

今は観測するのみ。
私はそう呟いた。

不確定な世界を確定させること。事象の収縮。そうすることで世界は形作られる。
ゲーム開始当初は不確定であった世界も、観測することによってこうして確定され、データとして記録された。
この断片が、最終的にどんな絵となるかはカオス系の海に沈んでいる。
それを確定させる唯一の手段が観測である。重なり合わせの猫とて観測されればひとたまりもない。

データの集積が終了すると、私はそのデータをファイルへと移した。
そのファイルにvol.1と適当に名づけ、指定の場へと保存する。
観測の記録を以て、始まりの六時間の世界は確定されたのだ。

私は次なる欠片を観測する。
世界を、確定させる為に。





***ROYALE-system Ver2.1***



now loading.......

71 ◆7ediZa7/Ag:2013/08/10(土) 19:36:17 ID:.TVwiD1g0
放送案でなくメール案になってしまいましたが、投下終了です

72名無しさん:2013/08/11(日) 20:13:11 ID:HzmAR5Wk0
投下乙です
メール方式ですか。ある意味このロワらしい方法ですね
それにしても、心当たりのない場合って……参加者以外に届くのか?

>>69でダスク・テイカーの名前がミスしてますよ

73名無しさん:2013/08/11(日) 21:54:26 ID:JW9RpMIA0
投下乙
1Killあたり300ポイントか。レオがサヴァイウバトルで10戦して500ポイントなところをみると、多いと見るべきか、少ないと見るべきか

イベントのほうは、【モラトリアム】はみんなが月海原学園に逃げてきそう
っていうか、配布されたテキストに書いてあるから、わざわざイベントとして告知する必要ないような……

【痛みの森】は【幸運の街】と違ってメリットがないから、参加者が離れていくだけな気がする。
ダメージと痛覚だけじゃなく、獲得ポイントとかも二倍にするのはどうでしょう

74 ◆7ediZa7/Ag:2013/08/11(日) 23:11:15 ID:wlEIiMf20
>>72
本当だ、ありがとうございます
採用された場合は直しておきます

>>73
そうですねー、痛みの森はちょっと修正します
採用されれば、ですが

75 ◆7ediZa7/Ag:2013/10/17(木) 01:50:01 ID:O33XXsHM0
修正案投下します

76 ◆7ediZa7/Ag:2013/10/17(木) 01:50:51 ID:O33XXsHM0
ゆっくりと目蓋を開けると、見覚えのある黒い空白が視界を覆ってきた。
焦点の定まらない目でそれを眺めていると、不意に俺はハッとして飛び起きた。
急いでウィンドウを開く。メニュー画面が示す時刻――04:33というのを確認した後、俺は思わず息を吐いた。

「一時間強ってところか……」

ぼそりと呟く。眠ってしまっていた時間のことだ。
俺はうすぼんやりした頭を強引に覚醒させ、記憶を思い起こす。
俺は今VRバトルロワイアルというデスゲームの只中にある。ここに囚われた俺の開始地点はここウラインターネット、そこでレンさんと出会い、ネットスラムを目指した。
フォルテと遭遇し、途中でまさかの再会を果たしたシルバー・クロウの助力もあり、何とかこれを撃退。そしてその最中――

「あ、起きましたか?」

飛び起きた俺に声が掛けられた。
振り向けばそこにはエリアの闇の中に在って尚照り光る純銀のアバター――シルバー・クロウが居た。
彼の言葉に俺は頷き返し、そして周りを見た。視界の端に引っかかるようにネットスラムの光が見える。
大体の目算に強めに掛けられた遠近エフェクトを加味して、今自分たちが居る場を予想する。恐らくここはネットスラムからそう離れていない位置だ。

「すいません、気絶していたキリトさんを無理に動かすのも問題かと思いまして……」

俺の視線をどう受け取ったのか、シルバー・クロウが何故か弁明にするように言った。

「いや、いい。謝るのはこっちの方だ。随分時間を食わせてしまったな」

あの戦いの後、自分は気を失ってしまった。
その後シルバー・クロウがここまで連れてきてくれたのだろうが、自分をかついで動くのは負担だっただろう。
加えて彼は寝ている自分を一時間以上守ってくれたのだ。彼自身も疲れているだろうに。

「まだ休んだ方がいいなら、それでも……」
「俺なら大丈夫だ。それより、ちょっと急いだ方がいいかもな」

俺は伸びをしながら、すぐにでも移動できることをアピールする。
実際、少しばかり時間を掛け過ぎた。榊の言葉が真実ならば、最初のタイムリミットは一日目終了時……脱出の為に掛けられる時間に余裕はない。
それをこうして浪費してしまったことは痛い。その間俺は何もできてはいないのだから。

「分かりました。じゃあ先ず……ショップとか、ですか?」

その旨を告げると、シルバー・クロウはおずおずと提案してきた。
俺が眠っていた間にも彼は今後の方針について考えていたようで、彼の案は先ず近くのショップに行き、その後知った場所である梅郷中学校に行く、というものだった。

「本当はそこでキリトさんを休ませようとしたんですけど……どうも地図の見た目ほど近い位置にはないみたいで」

このウラインターネットは迷宮のような、それこそゲームのダンジョンのような構造している。
俺がネットスラムを探すのに手間取ったように、直線距離は大したことなくとも、実際に行くとなると予想以上に時間が掛かることもある。
それでもシルバー・クロウならば飛行スキルを使って多くの道をショートカットできただろうが、それはあまりにも目立ちすぎる。
安全に休める場所を探すのにそのような手段を使っては本末転倒だ。故にシルバー・クロウはショップの探索を見送り、一先ずここで俺を休ませてくれていたらしい。

「ショップか。そうだな、ちょっと見ておきたい場所ではある」

エリアのあちこちに配置された施設だ。
どのようなものなのか、ゲーム全体の把握と言う点でも一度寄っておいた方がいい場所だろう。
俺はシルバー・クロウの提案に同意し、ショップ探索に乗り出すことにした。
ALOアバターによる飛行でエリアを一気に横断してしまうというのも考えたが、その結果ゲームに乗り気な連中に見つかってしまっては面倒なことになる。
故に今まで通りマッピングを交えて歩いていくことにした。
俺もそうだが、シルバー・クロウもこの手の作業には慣れたもので、動き出してからはスムーズに行動することができた。
二十分足らずでショップに繋がるポータルを見つけ出し、俺とシルバー・クロウは目的地に着いていた。

77矛盾 ◆7ediZa7/Ag:2013/10/17(木) 01:51:54 ID:O33XXsHM0
「確かにちょっと面倒な場所だったな」

ショップ自体はエリアの中でも独立したパネルの上にあり、ポータルを通してではないとこれないような構造になっていた。
直接地図上の位置を目指しても無駄という訳だ。何ともいやらしい。
しかしまぁ落ち着いてエリア探索をすることができれば、見つけにくいという訳でもない。
俺やシルバー・クロウのようなゲーマーならば尚のことだ。

そうして辿り着いたショップだが、しかしそこで俺たちは何もすることがなかった。

「まぁ、予想してしかるべき事態ではあったな」
「そうですね……」

理由は簡単だ。金がない。
ショップというだけあって、そこでは売人(面相の悪いロボット型のアバター)が幾つかアイテムを売っている場所だった。
しかし俺もシルバー・クロウも、このゲーム内での通貨というものを持っていない。そもそもどうやって稼ぐのかも分からない。
これが普通のRPGならばモンスターを倒せば勝手に溜まっていくのだろうが、このVRバトルロワイアルに雑魚モンスターというのは配置されていないようだった。


「考えられるとしたらアリーナか……それかPKボーナスってとこか」

その辺りのことは現状GMからのアナウンスを待つしかない。
とにかく今の自分たちではショップで何もすることができない、という訳だ。
俺たちは売人から「ヒヤかしはカエりな」と罵られつつ、ショップを後にすることとなった。

しかし全く無駄足という訳でもない。
売られているアイテム一覧にはシルバー・クロウの持っていた「バトルチップ」を始めとして中々興味深いものがあり、その説明を見るだけでも情報収集にはなった。
その手の情報が手に入ったことも、今後何かしら得になるだろう。

「……で、次の行先だが」

ショップを後にした後、俺は口を開いた。

「梅郷中学校に行くのは構わないが、その前にファンタジーエリアに行かないか?
 一番大きく、そして中央にあるエリア。恐らくここが一番人も多い」

歩きながら考えていたプランを俺はシルバー・クロウに提示する。
シルバー・クロウは梅郷中学校に行く、と言っていたが、どうやら彼自身も特に当てがある訳でもないらしく、ただ知った場所であるから、という訳だそうだ。
確かに何時かは行かなくてはならない場所ではあるだろうが、しかし急務と言うことではない。
ならば人と情報の集まりそうなファンタジーエリアを経由するというのも悪くない筈だ。
それにファンタジーエリアへの転移門のあるB-9を探索すれば、ウラインターネットのほぼ全域をマッピングしたことになる。
今後またここに来ることがあっても、その情報は非常に有益だろう。

「成程、それもそうですね」

言われたシルバー・クロウは頷き、俺のプランを承諾した。
そうして次の目的地が定まると、俺たちは再び移動することになった。
先と同じくマッピングしながら進む。警戒しつつも、今度はところどころ飛行も交えてみたが、他の参加者と出会うこともなかった。

その途中、俺も幾らか戦いの熱が引いてきた。
思えばこれまでの道中、俺たちは意図的にある部分に触れてこなかったように思う。
不思議なほどに互いに何も聞かなかったし、言わなかった。問題を先送りにしていたといっても。
だがしかし、死闘の後の興奮も、残り時間に焦る思いも消え去った時、代わりに――今まで目を背けていた喪失感が来た。

78矛盾 ◆7ediZa7/Ag:2013/10/17(木) 01:52:11 ID:O33XXsHM0

「…………っ!」

今思い出しても胸の奥に悔恨の念が走る。
レンさん。フォルテとの戦い、その最中で落とした少女。
目の前で彼女が消えゆくさまを為すすべもなく見ていることしかできなかった。
その正体がAIであることなど、何の意味も持たない。自分の隣に居た少女が死んだ。
ただそれだけが現実だ。

「あの……キリト、さん」

弱々しく呼びかけられた声に、俺ははっと振り返る。

「ちょっと言う機会逃してましたけど……やっぱり言います。
 その、ごめんさない。アイツ、フォルテとの戦いに間に合わなくて」

シルバー・クロウはそう言って頭を下げた。

「アイツがAI……と言っていた。それってキリトさんの同行者のことなんでしょう?
 僕が、僕が……もう少し速ければ――」
「違う」

俺は顔を抑えて言った。
そして尚も平謝りするシルバー・クロウに言う。それは違うんだ、と。

「あれは……お前のせいじゃないんだ。あの場で、あの人を……レンさんを助けることができたとすれば、それは俺だった」
「でも……」
「お前の気持ちは分かる。でも、それは違う。全部が全部自分の責任だと考えるのは、駄目だ」

シルバー・クロウはただ俺を助けただけだ。それを褒めこそすれ誰も責めはしない。
にも関わらず、謝ろうとするその姿に、かつての俺が重なる。
あの時――あのアインクラッド最初のクリスマスの時の俺と同じだ。
今ならクラインの言葉が分かる。全て背負おうとしても駄目なのだ。

「……そう、ですか」

俺の言葉にシルバー・クロウは弱々しく答え、俺たちは再び移動を開始した。
心なしかそのペースは下がっている。道中に会話もない。俺が何か言うべきだったのだろうが、しかし何も言えなかった。

シルバー・クロウ。俺を守ってくれていた彼だが、やはりこの状況に堪えているのだろう。
話によれば彼はあのフォルテとこの短い間に連戦したという。しかも彼もまた俺と同様同行者を失っている。
勇ましく戦っていた頃は怒りに任せ忘れることができても、戦いの熱が引いた後になってその事実を噛みしめ再度愕然とする。
何度も見た光景だった。他でもないあの浮遊城アインクラッドで。

「…………」

あの城のことを思い出し、俺の胸に苦いものが溢れてくる。
あるいはあの頃の自分ならもっと機敏に動けたかもしれない。そんなことを考えてしまったからだ。
確かに仮に当時の俺がこの場に居たのなら、レンの死をより早く乗り越えることができただろう。
死というものにある種慣れを感じていた。そうでなくては死んでいた。そんな時期の俺だったならば間を置かず迅速な行動が取れた筈だ。

しかしそれはただ麻痺しているだけだ。死というものに麻痺していた。
当時のアインクラッドの現実ではそれが正しかったのだろうが、俺が帰ってきたあの現実ではそれは間違いだ。
少なくとも俺はそう思う。だからレンの死に即座に割り切るということができなかったのだ。

「着いたな」

不意に見えてきた明かりに、俺はぼそりと呟いた。
その明かりは地面に埋め込まれた薄紅色の円球が光源になっていた。
B-10でも似たようなものを見た。転移門――エリアとエリアを繋ぐポータルだ。

俺とシルバー・クロウは互いに目を合わせ、よしと頷いた。
マッピングが正しければ、このポータルはB-9の、ファンタジーエリアへ繋がるものの筈だ。

79矛盾 ◆7ediZa7/Ag:2013/10/17(木) 01:52:28 ID:O33XXsHM0

「シルバー・クロウ。少しここで休んだらどうだ?」
「え?」
「俺は十分休んだけど、その間お前はずっと辺りを警戒していたんだろう?
 なら今度はお前の番だ。俺が見張りをやるからさ」
「でも……僕なら大丈夫ですよ。時間もないですし」

俺は開いたウィンドウの時刻をちら、と見る。5:31。

「時間がないって言っても焦っても何ができるって訳じゃないしさ。大丈夫だ」

そう言って俺はニッ、と歯を見せ笑う。
シルバー・クロウは迷っていたようだが、やはり疲れていたのか、俺の言葉を承諾し、腰を落ち着けた。
それでいい、と俺は胸中で彼に言う。休めば、少し頭が冷える。俺のように。

見張り役として俺は辺りを窺った。
このポータルまで至る道は一本しかなくレッドプレイヤーの存在の察知も容易だ。
割合警戒もしやすいといえるだろう。これならあまり集中力を使わなくても済みそうだ。

「……あの、キリトさん」

そうして休憩時間を取っていると、不意にシルバー・クロウが口を開いた。

「ちょっと聞いてもいいですか? 貴方のこと、貴方自身のこと……」

その言葉に俺は意を決して頷いた。
そのことか。今まで互いに気にはなっていた筈だ。目前の危機や焦りもあり保留にしていたが、二人ともこうして落ち着いた今なら話すべきなのかもしれない。

「ああ、俺も聞きたい、シルバー・クロウ」

シルバー・クロウがごくり、と息を呑んだ。
そうして俺たちは語り合っていく。自分自身について、自分がどのような人間であるかについて。

その結果浮かび上がってきたのは、あまりにも突飛な現象だった。

――時間移動。
俺とシルバー・クロウの話を総合した結果、そんな現象が起こっていることが分かってきたのだ。

眉唾だよなぁ、と俺は胸中でぼやく。

80矛盾 ◆7ediZa7/Ag:2013/10/17(木) 01:52:43 ID:O33XXsHM0

かつて比嘉タケル氏が話していた『第四世代型フルダイヴ実験機』に関するオカルトを思い出す。
量子コンピュータには平行世界に同期する可能性があり、結果として他の時間流やパラレルワールドに存在するコンピュータに干渉してしまう……というような話だった筈だ。
俺も最初に聞いたときはそのあまりの現実味のなさに一笑に付したことを覚えている。
正直今でも信じるに値するとは思えない話だが、しかし俺は既に「そうでなくては説明できないこと」を見てしまっている。というか目の前に居る。

俺はシルバー・クロウを見た。
この純銀のアバターは間違いなく、あの「シルバー・クロウ」だ。
比嘉タケルの実験に付き合った結果として一度デュエルし、そして何の因果かこうして再び巡り合い、共に戦うことになったプレイヤー。
他人に話しても「ありえない」としか言われなかった存在だった彼だが、しかしこうして確かに存在している以上、その存在を疑うことはできない。

そしてシルバー・クロウの話によれば、彼は何とA.D.2046年の人間であると言う。俺から見て二十年後の人間だ。
まさか、と思った俺は色々な質問をぶつけたが、その受け答えに嘘があるようには見えず、少なくともシルバー・クロウがそう思っていることは事実だった。
二十年後の人間とデュエルし、あまつさえ共にデスゲームに叩き込まれるようになるとは。時間移動なるものをまさか自分が経験するとは思わなかった。
その事実に俺は驚愕するというよりは困惑し、またシルバー・クロウも同じような心境だったようで、とりあえずこの件に関しては保留、ということにしたのだ。
事態を把握するにはあまりに手に余るように思えた。量子、平行世界、時間流、興味があるといえばある単語群であったが、その手の研究者でもない俺では精々怪しげな仮説を打ち立てる程度が限界だろう。

とはいえ、全く考えない訳にはいかない。というかどうしても考えが行ってしまう。
時間移動や平行世界といった分野について持てる限りの理論を思い返して見る。アインシュタインの相対性理論であったり、ライプニッツの可能世界論であったり、しかし齧った程度の知識でまともな推論を組める訳もなく、やはり途中で思考を放り投げることになった。
が、その最中に俺は一つの現実的な仮説を思い付くに至った。割と説得力があり、そしてあまり信じたくない類の。

フラクトライト。
ここ最近、俺がアルバイトをしていた「ラース」という企業で聞かされた話だ。
旧来のVRマシンとは一線を画する理論に裏打ちされる、新たなVRマシン。
何度か体験したあの世界は、それこそ現実と寸分たがわない、もう一つの現実を形成していた。
あの技術がこのデスゲームに使われている可能性は十分にあるが、しかし俺が考えたのはまた別のことだ。

フラクトライトとは人がどう思考するかを決定づける光子の集合体であり、ざっくばらんにいえば「魂かもしれないもの」だ。
それをデジタルデータで表現する技術を俺は身を以て知っている。
そしてデータである以上、コピーすることができるのだ。コピーしておいたデータを保存しておくことも勿論できる。
ならばここに居る『キリト』はその保存してあったフラクトライトから再生されたものであるという考えはできないだろうか。
このデスゲームの「外」は実はA.D.2046か、それより先の未来であり、もしかして俺もシルバー・クロウも時間を置いて再生されたデータ上の存在でしかない可能性。
その場合このデスゲームはAI同士を殺し合わせる悪趣味な催しということになる。
反吐が出る発想ではあるが、しかし時間移動や平行世界といった可能性よりはずっとあり得そうでもあった。

「……何にせよ、変わらないか」

俺はそこで思考を中断し、厭な考えを振り払った。
シルバー・クロウとの出会いが本当に時間移動によるものなのか、はたまた共にデータベース上の存在でしかないが故のことだとしても、俺は間違いなく生きているし、今ここにある世界は現実だ。
ならば俺がこのゲームに乗ることなく脱出することに変りはない。
今はそれだけ分かっていればいい筈だ。

ふとそこでヒースクリフ――茅場晶彦のことが脳裏を過った。
紛れもない天才研究者である彼がこの場に居たら、どのような考えを示すのだろうか。
そんなことを、考えてしまった。








81矛盾 ◆7ediZa7/Ag:2013/10/17(木) 01:52:57 ID:O33XXsHM0


休憩の終わりを告げたのは、一通のメールの着信だった。
時刻にして6:00。俺、そしてシルバー・クロウは突如開かれたウィンドウに弾けるように反応した。
GMからのメール、俺は背中に冷たい汗が走るのを感じつつもメールを開いた。
そしてそこに記された情報を読み取った後、

「――脱落者」

そう、声が漏れた。

ウィンドウを見上げる。外から見れば何もない虚空を、しかし俺には見えるその情報の羅列を俺はただ呆然と見ていた。
【クライン】【リーファ】【レン】。
自分の知る三つの名が、そこにはあった。
その名をなぞるように指を這わせ、そして何かを言おうとしたが、しかし結局喉奥から何も言葉が出て来ることはなかった。代わりに溜息とも笑いとも付かない奇妙な吐息が絞り出た。

メールの着信音の他に音はなかった。静寂だ。元よりこのエリアは静かなのだ。
自分以外の全てがずっと遠くに行ってしまったかのような感覚に囚われる。そんな中、胸奥に走る熱がずっと強く感じられた。
しばらく何もせずにウィンドウを放置していると、ウィンドウが勝手に閉じた。そうして虚空は本当の意味で虚空となった。

「……あ、あの」

声が聞こえた。
シルバー・クロウだ。彼は言葉を選ぶような間を置いた後、婉曲な言い回しで事情を尋ねてきた。
誰か知った名があったのか、と。

「……ああ、三つあった。一つはレンさん、あとは……」

俺は顔を俯かせ目を合わすことなく答えた。シルバー・クロウはそれ以上何も言わなかった。

たまたま名前が一致しただけだ。静寂の中で、ふとそんな考えが脳裏を過る。
羅列されたのはアバター名だけだ。それが俺の知る彼らであるという保証はどこにもない。
だからまだ分からない。本当に彼らが彼らなのか。
立ち尽くす俺がひねり出したそんな可能性を打ち消したのは、もう一人のどこか冷めた俺で、仮に一つだけならばまだその可能性もあるかもしれないが、二つとも無関係、というのは先ずないだろう、とその俺は囁いたのだ。
加えて俺はこのデスゲームがある程度知り合いが集めれていると予想していた。
それは開幕の場で似たようなアバターを持つ参加者が多く確認できたことに加え、レンにとってのジロー、俺にとってシルバー・クロウといった既知の存在が確認できたことから恐らく正しい。

ならば、やはりこの名前は自分の知る彼らなのだろう。
【クライン】はSAOログイン以来の付き合いであった壺井遼太郎であり、【リーファ】は他でもない妹、桐ケ谷直葉である。
そうでない可能性も無論あるが、しかし覚悟はしておくべきだ。

では本当に俺は彼らを失ったのか――
未だ実感が湧かない。当たり前だ。この前まで普通に会って笑って、共にゲームをしていた彼らが、こんな、こんなにもあっさりと死ぬなど。
アインクラッドに囚われていた頃の俺ならば、すぐに事実と受け入れていたのだろうか。
この喪失を。

「行けるか?」

どれだけの時間が経っただろうか。長い沈黙を経て俺は視線を上げた。
その先にはポータル――ファンタジーエリアへの入り口がある。それに近づきつつ、俺はシルバー・クロウを促した。

「……キリトさん」
「シルバー・クロウ。そろそろ移動しても大丈夫か?」
「僕は大丈夫ですけど……でも、」

俺は半ば強引に笑みを浮かべ「大丈夫だ」と再び言った。
無論、それは本心からではない。死を割り切ることなどできはしなかったし、する気もなかった。
しかし立ち止まる訳にいかない。それもまた事実だった。

82矛盾 ◆7ediZa7/Ag:2013/10/17(木) 01:53:14 ID:O33XXsHM0

幾ら悔いても死を取り戻すことはできない。
そのことは、あのアインクラッドで思い知った筈だ。
だから歩かなくてはならないのだ。
死を受け止め、途中で倒れそうになっても、前へ進む。
そうでなくては散った者たちの死に意味が――いや、これはただの感傷か、俺は無理矢理に死に意味を見出そうとしている。
しかしそうでなくては俺が今まで見てきた死者たちが――

「なら、行こう」

纏まらない思考を振り払うように俺は言う。
とにかく死はもう取り返すことができない。レンも、クラインも、リーファも、決して。
ならば進むしかない。それだけは確かな筈だ。

「あの……」

俺の様子を見かねてか、シルバー・クロウが口を開いた。

「僕には正直、今のキリトさんの気持ちは分からないと思います。
 だから、何も言えません。言ってもたぶん薄っぺらいことにしかなないでしょうし……」

でも、と力強く言って彼は俺をまっすぐと見据えた。

「せめて僕を信じてください。頼りならないかもれないけど、精一杯頑張りますから、何かやるべきことがあれば僕に言って下さい」

シルバー・クロウの言葉には不器用な優しさが滲んでいて、そのせめてもの礼として俺は笑ってみせた。
同時に、隣に居てくれてたのが、彼のような人間であったことに感謝する。
付き合いは短い。しかし既に俺とシルバー・クロウの間には奇妙なシンパシーが存在しているようだった。

「ああ、分かった。よろしく頼むぜ、シルバー・クロウ。俺がヤバイ時は助けてくれ」
「はい……、キリトさん。その、僕でよければ」
「丁寧語止めないか? さっきの戦いの時みたいにキリトって呼んでくれた方が良い」
「あ、え、でもキリトさんの方が年上ですし」
「ネットゲームでそんなん関係ないって。ほら、行こうぜ、クロウ」
「え、えーと、分かった、キリト」

そうして俺はシルバー・クロウと共にポータルを潜った。
正直まだ考えは纏まらない。しかし、シルバー・クロウと一緒ならば歩ける筈だ。
そう思い、俺はファンタジーエリアへ跳んだ。
その先に待つものが何であるのか、全く知らないままに。











思えば、この時の俺はやはり混乱していたのだろう。
もう少し頭が回っていれば、自分の思考の矛盾に気づくことができたというのに。
死は決して取り戻せない。そう考えておきながら、時間移動という形でシルバー・クロウの存在を許容した。
明らかに矛盾している。いや、二つの考え自体は共に正しい。ただ正しいが故に、もう少し先まで考えることができていたら、と思わざるを得ない。
何故ならこの先に待っていたものは――

83生きるは毒杯 杞憂の苦しみを飲み干す術を誰が授けよう ◆7ediZa7/Ag:2013/10/17(木) 01:54:50 ID:O33XXsHM0
(ここから先は変えてない部分は長いので略します)

オーヴァン。
そうその男は名乗った。

「本当に運が良かった。もう少し遅ければすれ違っていただろうからね」

そう言ってオーヴァンは微笑む。確かにその言葉通りだった。
ファンタジーエリアにやってきた俺とシルバー・クロウは日本エリアを目指し西進していた訳だが、話によれば彼らは今まで遺跡を探索していたらしい。
一通り探索を終えた後、次なる目的地としてここから少し南に位置する大聖堂を目指していたという。
となると、少しでもタイミングがズレていれば二つのパーティがこうして相対することはなかったことになる。
だから恐らく幸運なのだろう。これは。

「オーヴァンさんは大聖堂を知っているんですか?」
「ああ、ちょっと大聖堂という場所に心当たりがあってね。もしかして知っているところじゃないか、そう思った訳だよ。
 仮にそうなら是非とも調べてみたい場所でもあるんだ」

シルバー・クロウとオーヴァンが言葉を交わしている。
先の接触を経て、俺たちと彼らは共に行くことにしていた。
当然だがサチも、そしてその同行者であったオーヴァンもまたデスゲームに乗る気はないらしい。
ならば同行を拒否する意味はない。ましてや俺とサチは顔見知りであるのだから。

「そうなんですか。じゃあとりあえず聖堂に行って、それから日本エリアに、という感じですかね」
「そうしてくれると助かる。すまないね、君たちの予定を狂わせてしまって」
「い、いやいや、僕たちこそ一緒に来てくれて助かります。ね、ねぇキリト」

シルバー・クロウの言葉に俺は「ああ」と短く答えた。
もう少し何か言うべきだったのかもしれないが、今の俺にそんな余裕はなかった。
先程から喋っているのはシルバー・クロウとオーヴァンばかりだ。
シルバー・クロウが何とか会話を取り継ごうと話題を出し、それをオーヴァンがフォローするように答える。大体そんな流れだ。
そんなことになっているのは、言うまでもなく俺とサチのせいだろう。

「…………」

サチは出会って以来ずっと黙っている。オーヴァンの影に隠れ、不安そうに俺を見ている。
今しがたの再会で、俺の様子がおかしいことに気付いたのだろう。
それが彼女を不安にさせている。そんなことは言うまでもなく分かっていた。

しかし、俺は未だに何もサチに言えていない。
どんな言葉を掛ければいいのか、俺はどうするべきなのか、全く見えなかったからだ。

しばらくすると、ぎこちなかった会話も途切れた。各人何も言わず、ただ黙々と歩いている。
シルバー・クロウも話を続けることを断念したのか、少し肩を落とし後ろを歩いている。少し無理をさせてしまった。
そんな気まずい沈黙はどれほど続いただろうか。感覚としてそれほど長くなかったようにも思う。

「見えたな」

その沈黙を破ったのは、やはりオーヴァンだった。
見上げると、そこには巨大な橋の上に築かれた巨大な建築物があった。
その荘厳な造りはなるほど確かに大聖堂、と呼ぶに相応しい。
そしてネットスラムの時と同じく、その聖堂はふっと湧いたように感じられた。やはり遠近エフェクトが強まっているのだろうか。

「グリーマ・レーヴ大聖堂。やはり……」

隣りでオーヴァンがぼそりと呟いた。
グリーマ・レーヴ大聖堂。それがこの施設の名のようだ。

「ところで調査の方だが二手に別れるというのはどうだろうか」

大聖堂に近付き、橋の上までやってきたところでオーヴァンが不意にそう提案した。
その言葉は、まるで耳元で囁かれるようにすっと頭に入ってきた。

「聖堂の中と外、パーティを分割して調査する、という訳だ。恐らくそちらの方が効率が良いだろうな。
 どうだろう? 外の調査はキリトとサチにお願いしたいのだがね」

言われた途端、俺は身を固くし、そして同時にサチが肩をビクリと上げたのが見えた。

84生きるは毒杯 杞憂の苦しみを飲み干す術を誰が授けよう ◆7ediZa7/Ag:2013/10/17(木) 01:55:59 ID:O33XXsHM0
(中略)

(……でも、こんなことは許しておけない。それは変わらない)

何をするかは分かっている。仲間を募ってこのデスゲームを打倒すること。それだけだ。
なら、迷うことはない筈だ。

その為にも、オーヴァンたちと出会えたのは本当に幸運だった。
二人だったパーティが、四人に増えた。この調子で仲間を増やしていくことができるのならば、ゲーム打倒も難しくないのかもしれない。
ハルユキはそんな希望を持っていた。

フォルテの戦いで、キリトの同行者――レンさんというらしい――を助けられなかった、ということへの負い目は正直未だにある。
今思い返しても胸が痛むし、キリトに申し訳ないと思ってしまう。
しかし、他でもない彼自身にその気持ちを否定され、そして短い間とはいえ一息吐けたことで幾分冷静になれていた。
つらい。が、しかし全てを背負い込んで前に進めなくのは、駄目だ。

(キリトとサチさんは上手く話を付けられるといいけど……)

共に戦う為にも、あの二人の間にあるわだかまりを解消して欲しい。
オーヴァンもそう思ったからこそ、こんな計らいをしたのだろう。
見たところキリトもサチも敵意がある訳ではない。寧ろ互いに好意を持っている。
そのあたりの機微は未だに上手く掴めないハルユキだが、それでもそれくらいは分かった。
ならば、話せば分かる筈だ。かつての親友との一件を思い出す。確執はあった。しかしそれを乗りこえ、自分たちは再び親友として絆を深めることができたのだ。

「なるほど……ここはこちらのThe Worldのものか。となると……」

オーヴァンの呟きに、ハルユキはハッとして顔を上げた。
ぼうっとしていたハルユキを尻目に、オーヴァンは大聖堂の奥で何かを調べている。
ただサボっている訳にも行かない。ハルユキは急いで彼の下へ走った。コツンコツン、と足音が広く響き渡る。

奥まで行くと、オーヴァンが誰も居ない台座をじっと見つめていた。
正確には、その台座に刻まれた奇妙な三筋の爪痕を。

「何ですか? これ」

その異様な様子にハルユキがそう疑問を呈すると、オーヴァンはゆっくりと振り向いて、

「爪痕(サイン)だよ」
「え?」
「この現象の名前だ。The Worldで幾つかのフィールドにあったグラフィック異常だ。
 何なのかはよく分からない。しかし、これを名付けた人はこう思ったそうだ」

これは前兆だ、と。
オーヴァンはそう告げた。
ただならぬ様子にハルユキはごくん、と息を呑みそのサインとやらを見つめた。世界を抉り取ったようなその傷は、時節鈍く明滅しており不気味だった。
確かに何か、何か良くないことが起きそうな、そんな気にさせる爪痕だった。

「前兆……」
「そう前兆……まぁただのバグかもしれないがね。
 ――それよりシルバー・クロウ」

オーヴァンはそこでハルユキに問いかける。

「教えて欲しい。先ほど君が言っていたネットスラムの少女のことを。
 彼女が花を残したのは本当かい? 彼岸花……リコリスの花を」

と。

85生きるは毒杯 杞憂の苦しみを飲み干す術を誰が授けよう ◆7ediZa7/Ag:2013/10/17(木) 01:57:02 ID:O33XXsHM0
(中略)

「種は撒いた」

彼はぼそりと呟き、開け放たれた扉をじっと見据えた。
その向こう側のどこかに去っていた二人が居る。キリトとサチ、彼らは種だ。
新たな争いを生む種。彼らの存在はきっとゲームを加速させる。

それをばら撒いたのは、他でもない自分だ。

サチは元より不安定な素振りを見せていた。
そんな彼女は自分に庇護されることにより一応の安定を見せていたが、ふとした拍子に崩れてしまいそうな、そんな危うさが垣間見えていたのだ。
自分に依存していた、といってもいい。
先の仕様外エリアへの侵入の件についても、サチはオーヴァンに対し深くは聞いてこなかった。自分の知るゲームの裏技を試してみた、という自分の言葉をそのまま信じているようだった。

問題はそれを何時「種」とするかだったが、その契機は幸運にも向こうからやってきてくれた。

(キリト――お前に会えたのは本当に幸運だった)

ウラインターネットからやってきたという二人組。
彼らとの接触はオーヴァンにとって非常に有意義なものであった。
シルバー・クロウがネットスラムで見たリコリス――アウラの失敗作の存在、それが求める「意思」のプログラム、そして異なる時間と世界の概念。
どの情報もこのデスゲームの裏側を埋める欠かせない欠片だった。
先のGMとの接触と併せて、早い段階でそれらを察知できたのは、幸運だったとしか言いようがない。

86 ◆7ediZa7/Ag:2013/10/17(木) 02:00:55 ID:O33XXsHM0
以上になります。

主な変更点として
・キリトが気絶から目覚めるシーン及びショップ探索シーンの加筆
・前話読み込み不足の指摘を受けての心理描写の変更
・キリトたちはB-9に迷った末に行くのではなく、途中予定を変更して行くことに
・オーヴァンたちの行動に遺跡探索を追加
となります

87 ◆nOp6QQ0GG6:2013/11/21(木) 04:14:23 ID:gQdu31d.0
修正版投下します

88世界の終わりと君と僕(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/11/21(木) 04:15:00 ID:gQdu31d.0
その先に居たのは黒い斑点の塊だった。
膨れ上がったAIDAがグロテスクに蠢く。時節不気味な叫び声を上げつつ、その宿主をも巻き込んで膨れ上がっていく。
その核となるのは一つの魔剣だ。潜んでいたAIDAが真紅の魔剣から溢れるように流れてきた。

――喰ワセロ

肥大したAIDAが不気味な声を漏らした。
その表面はぼこぼこと膨れ上がっている。剣の持ち主であるアスナをも取り込んで、黒点の塊が蠢くように増殖していく。

「これは……!」
あの姿には覚えがあった。太白が一般PCを蹂躙していた際に見せたフィールドを覆い尽くす程の黒点。
マクスウェルに潜むAIDAの正体だ。魔剣に収まっていて奴らが、己の危機を察して表面にでてきたという訳か。

これは自分のミスだ。
データドレインを決めていればあのAIDAを駆除できたはずなのに、みすみすその機会を逃してしまった。
黒点の勢いは止まらない。点が線となり面となり球となり空間を侵食していく。

「あ、エルク……」
「ミア!」
その身を貫かれたミアが苦悶の声を上げた。
エンデュランスは急いでその身を抱く。彼女は胸を押さえ辛そうにこちらを見上げている。
手の平の中のミアの身体はとても小さく、そして弱々しく見えた。

まるであの時みたいだ――

あの時のミアはゲーム上の“死”すら与えられなかった。
何か大切なものを奪われその身を消滅させた。その時の様がフラッシュバックする。

「違う!」
その光景を振り払うようにエンデュランスは叫びを上げた。

「あの時とは違うんだ……まだ守れる。まだ……」
言い終わらない内に、その姿を変貌させたAIDAの攻撃がやってきた。
喰ワセロ――原始的な衝動を含んだ叫び声を上げAIDAの黒点が猛然と襲いかかってきた
黒点が鳳仙花の実のように周りへはじけ飛んだかと思うと、曲線を描き一点、エンデュランスとミアの下へと集束していく。
咄嗟にエンデュランスはミアを抱きしめた。その背中に光線が撃ち込まれその身を焦がしていく。
その痛みは気にならない。ただミアを守れるのなら――

「エルク……君は」
「喋らないで、ミア。
 言わなくても分かってる。殺しはしないよ。あの人も、君も……」
そう答えるとミアが笑ってくれた。表情が見えずとも分かる。言葉さえ要らない。
確かな“繋がり”があるから。

「……行くよ」
ミアを抱えながらエンデュランスは哀れな敵を見据えた。
AIDAの塊に取り込まれたアスナは何も言わない。意識があるのかも怪しい。
マクスウェルを振るっていた筈の彼女は今や完全にその主導権を魔剣に奪われている。あるいはその感情を餌として食われているのか。

彼女をあんな姿にしてしまった責任の一端は自分にある。
元に戻し、今度はプレイヤーとして向き合うこと。それが自分がやるべきことだ。
ここで憑神を解除して彼女を解き放つ訳にはいかない。

手はある。
今一度データドレインを決めれば彼女からAIDAを取り除くことが出来る筈だ。
かつてハセヲがAIDAに縛られた彼を救って見せたように。

89世界の終わりと君と僕(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/11/21(木) 04:15:39 ID:gQdu31d.0

「ハセヲ……僕は君の隣に立ち続けたい。だからこそ、ここで逃げ出す訳にはいかないんだ」
故にエンデュランスは戦うことを選ぶ。救う為に、ハセヲと共に歩む為に。
そして二対の存在が対峙した。

「もう一度、僕と踊ろう」
エンデュランス/マハはそう誘うように言い、空間に再び花弁をまき散らす。敵もまたAIDAを触手のように薙ぎ払う。
赤と黒。AIDAと花びらが空間に拮抗するように交わった。
向き合う二つの巨体、そして――激突。

「行くよ」
「――――」
AIDAが吐き出した黒の触手が猛然とマハへと迫る。その数は十を越えている。
花びらがそれを受け止め、零れた分はエンデュランス/マハその手で弾き返す。
間髪入れずAIDAが追い打ちを掛ける。今度は幾つもの触手を束ね極太の光線として放ってきた。
エンデュランスがギリギリのところで避けてみせると、ギギギとAIDAが悔しげな声を漏らした。

赤を侵さんと黒が空間を上塗りしていく。
もはやそこに元のゲームの名残はない。世界の理から外れた、完全にシステム外の一戦だった。

AIDAと憑神、そしてミア。
因縁深い存在同士の激突は、初め互角であったが、徐々に差が付き始める。
憑神・エンデュランス/マハが徐々に苦境に立たされていた。

このデスゲームが始まって以来、彼はあまりに自らの状態を顧みなかった。
ダスク・テイカ―との戦いの傷だってまだ癒えていない。愛に溺れ、愛に酔い、愛に呑まれひたすら会場を彷徨い続けた。
その消耗が、今になって彼を苦しめているのだ。
対する敵の方はプレイヤーの方はいざ知らず、マクスウェルに潜んでいたAIDAはほぼ完全な状態と言ってもいい。

加えてエンデュランスはミアを守りながら戦わなくてはならない。
瀕死の彼女を抱きしめ攻撃を庇わねばならない。それが彼を更に追い詰めていた。

「くっ……でも」
諦める訳にはいかない。
ハセヲを思い出す。彼は決して倒れはしなかった。
如何なる絶望があっても、歩みを止めることだけはしなかった。

黒い閃光がエンデュランス/マハの身体を貫く。
苦悶の声を漏らしつつも、彼は叫びを上げAIDAの塊へと迫っていた。

手の中のミアもまた苦しそうだった。
押されている。このままでは倒れるだけだろう。
何時かと同じように。力を手に入れた筈なのに。

(力だけじゃ駄目なのは分かっている――)

ミアを失い求めた力。守りたいと思った。守るものなど既に消え失せているのに、力がないと不安で仕方がなかったから。
だからエンデュランスはアリーナに固執した。力を示す為に。
でもそれは結局、自己満足に過ぎない。

(ハセヲ……君も、そのことを知ったんだね)

ハセヲ。
力を求め荒んでいた頃の彼もまた、エンデュランスは知っている。
深い事情までは知らなかった。それでも彼が何かの欠落を埋めんとするように力を求めていたのは見れば分かる。
そういう点で自分と彼は似た者同士だったのかもしれない。

(だからこそ、僕は君に惹かれたんだ)

しかしハセヲはそこから一歩踏み出した。それが無意味なことだと気付いたのだ。
その上でハセヲはエンデュランスに言った。お前が必要だと。それがエンデュランスにとって、最も欲していた言葉だと知った上で
自分と同じ道を歩みながら、自分には行くことのできなかった先を言って見せた彼を、エンデュランスは愛したのだ。

(だから、行くよ、ハセヲ。
 君の下へ一歩でも近づく為に。
 時間はかかるかもしれないけど、それでも歩みは止めない)

そしてエンデュランスは咆哮した。

――僕はここに居る。

決して自分を見失ったりはしない。
どんな“繋がり”の果てに自分が居るのかを、決して忘れはしない。
そう思いを込めて。

幾多の弾丸をその身に受けながらもエンデュランス/マハは敵の目前へとたどり着いた。
そして幾多の傷と痛みを上書きするように叫びを上げ、その身をコンバートする。
花を咲く。モルガナ因子が明滅し、そのチャージが始める。AIDAとて黙っては居ない。黒点を散弾のようにまき散らした。

90世界の終わりと君と僕(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/11/21(木) 04:16:00 ID:gQdu31d.0

「これで……!」
絶え間なく続く苦痛の最中、エンデュランスはその光を高めていく。
その光が頂点に達するのが、黒が自分を喰い尽くすのが先か、凄絶な戦いだった。
二つのイリーガルな力がぶつかり合い、そして――

「あ……」

――黒い力が競り勝った。

データドレインの発動より早く、憑神マハがプロテクトブレイクを起こしたのだ。
憑神を維持できなくなり、徐々にその身を崩していくマハ。抜けていく力。打ちのめされる心。猫の体躯がすうと消えていき、代わりに元のエンデュランスのPCが現れる。
その全てが、己の敗北を示していた。

「そんな……僕は、敗けたのか」
呆然と呟く彼の前にはダメージを受けつつも未だ健在なAIDAの姿があった。
黒点が膨らんでいく。あれが炸裂した時、今度こそ自分は倒れるだろう。

「ミア、ごめん。僕が……僕のせいで」
そう力なく言ってエンデュランスはミアを抱きしめた。
柔らかな温もりが伝わってくる。失っていた筈の過去、取り戻すチャンスを自分は不意にしてしまった。
そう思うと、哀しみより悔しさより、申し訳なさが胸を支配した。

「ははっ、気にすることはないよ。君だけのせいじゃない。元を辿れば僕のせいでもあるしね」
それでもミアはそう言ってくれた。こんな時だと言うのに、どこか悪戯っぽく、蠱惑的に。
そしてミアもまたエルクを抱きしめた。力強くぎゅっ、と。

「不思議だね。こんな時なのに、こうしていると落ち着くんだ。
 今の君はエルクじゃないのに――姿形は全然違っても、そこに居るって分かっているからかな」
「うん、僕もだよ、ミア。これで満足なんて絶対にしてないし、認めたくもない。これがハッピーエンドだなんて絶対に思わない。
 けれど、嬉しいんだ、僕は今間違いなくそう思っている」
顔を寄せ合い、二人は笑った。少しだけ、本当に少しだけ、二人はかつてのように笑い合った。

「ねえ、聞かせてよ。君の名前」
「え?」
「だって君はエルクじゃないんだろ? なら、先ずは自己紹介から始めないと。
 そうでないと始まらない。今はまだ繋がっていないなら、これからまた繋がり直さないとね」
ミアの言葉にエンデュランスは切なげに息を漏らした。
何と嬉しい言葉だろう。何と素晴らしい言葉だろう。そう思えたからこそ、辛い。
これから始まる筈の関係がすぐに終わってしまうことが。

「うん、ミア。聞いて僕の名前はね――」
身を引き裂くような悲しみに襲われつつも、彼は己の名前を告げた。
一言一句はっきりと、切れていた“繋がり”をもう一度やり直す為にも。
その瞳からは涙が零れていたが、しかしそれでも彼は笑っていた。笑おうとしていた。

「エンデュランス、か。良い名前だね。僕はミアだよ、よろしく」
ミアもまたそう言って、ふふっと笑って見せた。抱き合う二人はそうして再び繋がり合う。

時を越え、彼らは巡り会ったのだ。

その感動の最中にも濁流のようにAIDAが押し寄せてくる。
二人の身体を押し寄せてきた黒点が包み込む。その舐めるような感触にエンデュランスは身体の芯から不快感を覚えた。

91世界の終わりと君と僕(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/11/21(木) 04:16:28 ID:gQdu31d.0

(コイツは僕とミアを喰ってしまおうというのか……!)

AIDAは憑神そして碑文に興味を抱いていた。
現にかつてアトリは第二相の碑文を奪われた。
今回は碑文使いの自分に加えミアも居る。彼女もまた碑文の基となった力をその身に宿しているのだ。
今の自分たちは奴らの餌という訳か。エンデュランスは屈辱に口元を歪めた。

二度目の別離がフラッシュバックする。
チャップチョップ。奪われたモルガナ因子。根こそぎ持っていかれ横たわるミア。

(そんなことを……!)

エンデュランスの身に感情の炎が烈火のごとく湧き上がる。
渡すものか。そんなことを認められるものか。その胸に激情を抱いたエンデュランスは黒点に取り込まれながらも反射的に動いていた。
ミアが持っていたレイピア――それは何よりも手に馴染む巫器――縁が引き寄せたその細剣を手に取り、彼は抱きしめていた彼女を背中から貫いた。

ミアは、笑った。

刃は彼女の身体越しにエンデュランスの身体に届いている。腹部に広がる痛みにエンデュランスもまた笑みを浮かべた。
これで自分たちは死ぬ。奴らに喰われるより早く、この世界から姿を消すことになるだろう。
それでいい。これで自分たちの“繋がり”は誰の手に渡ることもなくなる。

そして二人は今一度顔を寄せた。視線と視線が交錯する。永遠の時がやってきた。
もはや言葉は要らない。身も心も繋がっているのだから。死が二人を別つまで。
自分は時を越え“繋がり”を得た。時の鐘が鳴り渡る。終わりを告げるよ。繋ぐこの手永遠に――

(ハセヲ)

最期に、消えゆくエンデュランスは心の中で呼びかけた。今ならまだAIDAに取り込まれる前に逝ける。自分は自分のまま死ぬことができる。
だからせめて言葉を残そう。その消失の最中もう一人の最愛の人へ。

(結局僕は君のところには行けなかった。駄目だった。哀しいけど僕はここまでだ。
 でも、君なら行けるよ……僕には分かる。分かるんだ……君のことなら……。
 だから、たとえ何が起ころうとも、君にだけは足を止めないで欲しい。
 僕は見ることができなかった道の先へと進み、未来を描くことが――)

92世界の終わりと君と僕(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/11/21(木) 04:17:02 ID:gQdu31d.0










アスナが目を覚ましたのは、全てが終わった後だった。
ふと目を明けると、そこには灰色のビルに取り囲まれた青空があった。
それをしばらくぼうっと眺めていると、次第にここで何があったのか思い出してきた。

(確かわたしは……ありすを追いかけてて、それであの猫と……)

思い出した途端、アスナは反射的に身を起こし魔剣を構えた。
そうだ自分は戦闘中だった筈だ。猫を追いかけた結果、変な男性キャラが現れ、おかしな空間に連れて行かれた。
その途中で記憶が切れている。確か自分は劣勢だった筈。途中で気絶してしまったのだろうか。

警戒しつつ辺りを見渡すが、しかしそこには誰も居なかった。
アスナは拍子抜けしきょとんとした顔を浮かべた。一体何があったのだろうか。
もしやあの戦いは全て夢のようなものだったのだろうか。覚醒直後の気だるさがそんなことすら思わせた。

(猫を追って変な世界に飛び込んで最後は夢オチなんて、これじゃ完全にアリスね)

ふと湧いて出たそんな考えに嫌悪感を覚えたアスナは思わず顔を顰め、頭を振ってその説を否定した。
確認がてらウィンドウを開く。ステータス画面を見るとHPが減っていた。あの戦いは確かにあった現実なのだ。

では敵はどこに行ったのだろうか。
そう思い周りを今一度見渡す。するとそこには様々なアイテムがカードの形態になって散乱していることに気付いた。

(ドロップアイテム……アイツらは倒されたってこと?
 でもじゃあ誰に?)

自分ではない、と思う。
少なくともその記憶はない。しかし他に誰が居るのだろうか。
辺りを見渡してみたが他の参加者の影はない。

第三者の行いならドロップしたアイテムをこうしてそのままにしているのもおかしい。
善意あるものなら気絶した自分を放っていくこともしないだろう。
ならば考えられるのは敵の自滅だが、それも少し考えにくい。

(何が……あったの?)

不安に思ったアスナは、思わず魔剣を見た。
すっかり手に馴染んだ魔剣。もしやまたしてもこれに救われたか――何故かそんな考えが脳裏を過ったのだ。

(分からないけど……とにかくここに留まるのは危ないわよね)

アスナはそこで一度考えを打ち切った。
何時また敵に襲われるとも分からない。一度落ち着ける場所を探さなくては。
そう思いドロップしたアイテムを集めていると、気が付いた。
己の右腕に、黒くこびりつくグラフィック異常に。

(何これ……?)

それはひどく不気味だったが、どういう訳か恐怖は湧かなかった。
頼もしさすら湧いた。それが何を意味するのか、彼女はまだ知らない。
手に持った魔剣が、地面に擦れて乾いた金属音を響かせる――

【F-8/アメリカエリア/1日目・午前】

【アスナ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP30%、MP70% 、AIDA悪性変異
[装備]:魔剣・マクスウェル@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、死銃の刺剣@ソードアート・オンライン、クソみたいな世界@.hack//、誘惑スル薔薇ノ滴@.hack//G.U.、不明支給品2〜5
[思考]
基本:この殺し合いを止め、無事にキリトと再会する
1:アリスを討つ
2:殺し合いに乗っていない人物を探し出し、一緒に行動する。
3:これはバグ……?
[AIDA]<????>
[備考]
※参戦時期は9巻、キリトから留学についてきてほしいという誘いを受けた直後です。
※榊は何らかの方法で、ALOのデータを丸侭手に入れていると考えています。
※会場の上空が、透明な障壁で覆われている事に気づきました。 横についても同様であると考えています。
※トリニティと互いの世界について情報を交換しました。
 その結果、自分達が異世界から来たのではないかと考えています。
※AIDAの浸食度が高まりました。それによりPCの見た目が変わっています。
※マクスウェルのAIDAはアスナの意識がある内はAIDAが表層に出て来ることはありません。

93世界の終わりと君と僕(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/11/21(木) 04:17:13 ID:gQdu31d.0


こうしてミアとエンデュランスの“世界”は終わった。
アスナはその後疑問を抱えつつもドロップアイテムをストレージへと納めた。彼と彼女が持っていたアイテムは彼女のものになったのだ。

その際に彼女は知る由もない変化があった。
アイテムの中から彼らが持っていた筈のあるものがなくなっていたのだ。

このアメリカエリアでは現在一つのイベントが行われている。
“幸運の街”と名付けられたそのイベントにより、エリアでPKされたプレイヤーがドロップするアイテムが一定確率で変化する。
結果としてあるアイテムが変化していたのだった。

別にそれで何か影響がある訳でもないだろう。
支給アイテムの中でも、特に役立つことのないものだったのだから。
アスナがそれに気付いたとしても、何も思うことはなかった筈だ。

しかしそれに深い意味を見出す者も居たのだ。

そのアイテムは【エノコロ草】
エルクとミアの“繋がり”の象徴。エンデュランスとミアの新たな“繋がり”の道標。
そうしてそれは他の誰のものになることもなく、他の何ものに侵されることなく、唯一彼と彼女だけが持つものとしてこの世界から誰の手にも届かない場所へ消え去った。
何とも歪な形で、決して美しい訳でも幸福さに満ちている訳でもないだろうが、それでもきっとそれはこう呼ばれるに足るものだ。

永遠、と。




【エンデュランス@.hack//G.U. Delete】
【ミア@.hack// Delete】

94 ◆nOp6QQ0GG6:2013/11/21(木) 04:22:36 ID:gQdu31d.0
以上で投下終了です。
主な変更点として

・AIDAを鳥型から、vol.3で太白が見せたAIDAの集合体に(それに伴い戦闘描写を変更)
・表層に出てきた理由は「魔剣がダメージを受けたから」に(太白戦でハセヲが魔剣に攻撃した際の描写を参考)
・AIDAが碑文を求める描写+その後のエンデュランスの行動

となります。

95名無しさん:2013/11/21(木) 08:41:42 ID:KG8FqdT6O
修正乙です
二番目と三番目はこれで問題ないと思います
一番目のほうは、AIDAの黒い点は、あくまでもAIDAのいる空間につながる通路です
触手のような例外はありますが、アバターバトルになっても黒い点のままなのはちょっと変に思います
マクスウェルのAIDAの本体が不明なので、仕方ないと言えば仕方ないんですけどね

情報ソース
補完情報の下から五番目
>>ttp://wiki.livedoor.jp/the worldpurasu/d/%A3%C1%A3%C9%A3%C4%A3%C1

96 ◆nOp6QQ0GG6:2013/11/21(木) 14:17:03 ID:gQdu31d.0
了解です。
ではちょっと加筆して

>>88

>黒点の勢いは止まらない。点が線となり面となり球となり空間を侵食していく。
>そしてその奥に半透明の核が見えた。AIDAの黒点に塗れその全容は見えないが、かつてのボルドーやAIDAそのものが表に出てきたということか。

変化はしたが黒点が多過ぎて全容が見えない、という形で

97名無しさん:2013/11/21(木) 15:16:01 ID:KG8FqdT6O
AIDAの本体を確定させないのであれば、そのあたりが落としどころでしょうか
度重なる修正、お疲れさまでした

98 ◆lVSHFOsQK2:2014/01/22(水) 16:57:02 ID:Bh28yqxM0
初投下になるので予約分の仮投下をさせて頂きます。

99夢みるアバター! 失った仲間たち ◆lVSHFOsQK2:2014/01/22(水) 16:57:57 ID:Bh28yqxM0
 誰かは言った。ロボットは夢を見ないと。機械で作られたロボット達は眠らないし、夢を見る機能を取り付けられることも滅多にない。人間に近くなるように作られない限り、ありえないだろう。
 ならば、アバターはどうだろうか? インターネットコミュニティを利用する人間の分身であるアバターは夢を見るのか。また、機械によって生み出されるAIは夢を見ることがあるのか。人間のように計算や推測をすることはあっても、夢を見ることがあるのだろうか。夢を見るように設定したとしても、それは人間が見ているのと同じ夢と呼べるのだろうか。
 そして、機械によって作り出された仮想空間に生きる者達も夢を見るのか。仮想空間に意識を閉じ込められてしまったら、夢を見ることができるのだろうか。その世界で眠りについたとしても夢を見られるのかどうかわからない。既に夢の中にいるような状況なのだから、そもそも夢を見る必要がないかもしれなかった。
 だからといって、仮想世界に閉じ込められた彼らは夢を見ないという訳ではない。この殺し合いでも既にジローという参加者が夢を見たのだから。
 そして今も、榊達が主催する仮想空間の殺し合いを強いられた参加者の一人、桐ヶ谷 和人は……いや、VRMMORPGの世界ではキリトというハンドルネームで呼ばれている少年は、夢の世界にいた。


***


「ここは、どこだ……?」
 気が付くと、俺は闇の中に立っていた。
 辺りを見渡しても、見えるのは黒一色だけ。夜の闇よりも濃くて、泥のように粘っているような漆黒が俺の周りに広がっていた。まるでRPGに出てくる洞窟のようで、いつモンスターに襲われてもおかしくない。だけど、今の俺にとってそんなことはどうでもよかった。周囲は闇に包まれているが、仮に不意を突かれたとしても負けるつもりはない。こんな状況でも、打開できるだけのスキルを身に付けてきたのだから。
 考えるべきことは、ここは一体どこなのかだ。どうして俺はこんな所にいるのか。殺し合いをさせられていたはずなのに、いつの間にこんな場所に辿り着いてしまったのか。どれだけ考えていても答えを見つけることはできず、俺の中で疑問が膨れ上がっていく。
 しかしここでそれを考えていても意味がない。それよりも、一刻も早くこの暗闇の中から抜け出すことを考えるべきだった。何の明かりもなく、視界が闇に覆われている中を進むのは無謀だが、止まっている訳にはいかない。
「そうだ、サチは……サチはどうなった?」
こうしている間にも、ずっと守りたかった彼女……サチが危険に晒されているかもしれないからだ。
「サチ……サチ! いるなら返事をしてくれ、サチ!」
 闇の中でサチの名前を呼び続けるが、俺の声は空しく響き渡っていくだけだ。返事はないので、他の誰かに届いているとはとても思えない。
「サチ! サチ! 俺だ、キリトだ! 頼むから返事をしてくれサチ! サチ! 俺はここにいるから! サチ!」
 俺は一心不乱に腹の底から叫んでいるが、やはり返事はなかった。
 もう二度とサチを見殺しにしない。こうしてまた巡り合うことができたのだから、彼女を見捨てることなんてしたくなかった。もしもまたサチが俺の前からいなくなってしまったら、俺は今度こそ壊れてしまう。サチの為にも、そして俺の為にもそれだけは絶対に避けなければならなかった。
 サチを守りたい。その想いが今の俺を支える原動力になっているのだから。
「サチ! サチ! サチ! 俺は君のことをもう見捨てたりしない! 俺は君を悲しませたりしない! 俺が絶対に守る! 俺が絶対にサチを守ってみせる! だから……返事をしてくれ! サチ!」
 必死に呼び続けるが、やはりサチは現れない。

100夢みるアバター! 失った仲間たち ◆lVSHFOsQK2:2014/01/22(水) 16:59:57 ID:Bh28yqxM0
 しかしそれなら何度でも呼び続けるだけ。それでもサチが答えてくれないなら、どこまでだろうと走り続けて、絶対にサチを見つけてみせる。それを邪魔する奴がいるのなら、例え相手が誰であろうとも俺は容赦をしない。
 これまで、かけがえのないものをたくさん失ってしまった。だから、失わない為に今度こそ力を尽くさなければならない。サチを救うことができるのならば、俺は悪鬼にでも外道にでもなってみせる。例え、ゴミやクズと蔑まされたとしても、俺はその悪名を甘んじて受ける覚悟だ。あの茅場晶彦が主催したSAOによるデスゲームを攻略していた頃だって《ビーター》の汚名を背負い、一人で戦ってきたのだから、今更どこまで堕ちようとも構わない。
 下らないプライドに拘ったせいで大切なサチを失う。それに比べれば、罵詈雑言などただの雑音に過ぎない。そんな声など無視してしまえばいいだけだ。
「サチ! サチ! サチ! サチ! 頼むから、俺の前にまた顔を見せてくれ! サチ!」
 サチの名前を呼ぶ度に、サチとの思い出が俺の脳裏に過ぎっていく。
 忘れもしないあの日から、俺は自ら《ビーター》という悪名を自称した。元ベータテスターの安全の為に憎まれ役を一人で買って出たことに後悔はなかったが、それでも俺は心を痛めていた。そして、ゲームの攻略を進めている中で《月夜の黒猫団》というギルドを見つけ、サチと出会う。
 今になって考えれば、俺はもっと強くあるべきだった。俺の心が強ければあのギルドは崩れることなんてなかったし、サチが死ぬことだってなかった。俺と出会いさえしなければ、今頃サチは普通の女の子として生きていられるはずだった。
 後悔したってどうにもならない。全ては俺の弱さと愚かさが招いた結果だ。
 だからこそ、今はサチを救ってみせる。あの時、救えなかったサチを今度こそ救ってみせる。もう二度と、サチを絶望させたりなんかしない。サチを傷付けさせない。サチを悲しませたりしない。サチに涙を流させない。サチを救う為の力だって今の俺には備わっているのだから。
 サチは絶望していた俺を救ってくれた。サチの存在が俺を支えてくれた。サチがいてくれたからこそ、俺はデスゲームの中で生きていられることができた。サチと出会わなかったら……俺はきっと今でも孤独だっただろう。
 その為に、俺は出口の見えない闇の中を走り続けている。その時だった。俺の耳に、嘲笑う声が聞こえてきたのは。
「フン……やはり、キサマら人間はどこまでも愚かで、弱い存在だ」
 それに気付いた俺が振り向いた先には、あの死神・フォルテが立っていた。
「お前は、フォルテ!」
「また会ったな、キリト……これは実に奇遇だな」
「何の用だ……俺は今、お前なんかに構っている暇なんてない! さっさとどけ!」
「ほう? キサマはあんな弱い人間を守る為に、俺を無視するつもりなのか? ククク……面白いことを言ってくれる」
 フォルテの言葉は俺を苛立たせた。
 時間を無駄に取らされてしまうこともそうだが、サチを侮辱されたことが何よりも許せなかった。お前に何が分かるのか。お前にサチの何が分かると言うのか。何も知らないくせに、どうしてサチを侮辱するつもりなのか。
 怒りの感情が湧きあがってしまい、俺は自然に剣を握り締めてしまう。
「だが、キサマが俺を放置すると言うのなら面白い……好きにするといい」
 しかし、その直後にフォルテの口から出てきた言葉によって、俺は面を食らってしまう。
 あまりにも予想外だったので、張り詰めていた俺の力も自然に緩んだ。あのフォルテが俺を見逃そうとするなんて、とても信じられなかった。
「なっ……フォルテ、どういうつもりだ!?」
「言葉の通りだ。俺はキサマを見逃す。キサマがそれを望んだのだろう? 俺はそれを叶えてやるだけだ……有難く思うがいい」
「何だと!?」
 奴の言葉を信じることが俺にはできなかった。
 人間を憎んでいるはずのフォルテが俺を見逃すなんてあり得ない。絶対に何かあるはずだった。このままフォルテから背を向けたとしても、俺にとってプラスになるはずがない。
 俺は警戒して、再び剣を握り締めた。その時だった。

101夢みるアバター! 失った仲間たち ◆lVSHFOsQK2:2014/01/22(水) 17:01:08 ID:Bh28yqxM0
「もっとも、キサマが俺から離れた所で……何かをできるわけがないのだかな」
 フォルテが嘲りの言葉を口にした瞬間、背後の闇に歪みが生じる。
 何事かと思った瞬間、俺は目を見開いた。その歪みの中から、俺の出会ってきた人達が姿を現したのだ。
 ユイ、クライン、エギル、シリカ、リズベッド、リーファ、シノン、ユウキ……俺にとって大切な人達が闇の中から現れた。
「み、みんな!? どうして!?」
 当然ながら俺は疑問をぶつけるが、誰もそれに答えてくれない。それどころか、みんな俺を失望したかのような目で見つめていた。
 その視線に耐えられなくなってしまい、俺は思わず後ずさってしまう。
「パパ、どうしてですか……?」
 そして、それに追い打ちをかけてくるようにユイが口を開く。
「いつからキリトはそこまで身勝手になった?」
 今度はクラインが俺に対して刺々しい言葉をぶつけてくる。
「俺達はお前のことを信頼していた。お前はいつだって真っ直ぐに進んだ。だからこそ俺達はお前についていった」
「でも、あなたは私達の気持ちを裏切った……」
「こんなの酷すぎるよ……私達は一体、何の為に頑張ったのかわからないよ……」
「私達はお兄ちゃんを頼りにしていたのに、お兄ちゃんはどうしてそれに答えてくれなかったの……?」
「最悪だね、キリト」
「ボク達を失望させないでよ……」
 エギルが、シリカが、リズベッドが、シノンが、ユウキが、皆が俺を非難してくる。
 皆の言葉が胸に突き刺さって、俺は何も言うことができない。どうしてそんなことを言われなければならないのか、まるで理解できなかった。
「この人間どもは実に哀れだな……キサマなどについていかなければ、裏切られることもなかっただろうに」
 ショックのあまりに言葉を出すことができなかった俺の耳に、フォルテの声が響いてくる。
 その手には、いつの間にかあの巨大な鎌が握られていた。そして、フォルテは鎌を振り上げてくる。
「フォルテ、お前……まさか!」
「見るがいい、キリト……キサマの選んだ選択の末路を」
「や、やめろおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
 数秒後の未来を予測した俺はフォルテを制止する為に走り出すが、願いを裏切るかのように鎌は振り下ろされる。
 そして、その一閃によって皆の身体は切り裂かれて、呆気なく消滅してしまった。
「み、みんな……そんな……!」
 たった今まで目の前に存在していた皆が跡形もなく消える。その事実が心に重く圧し掛かり、俺は膝を落とすことしかできない。
 また、守れなかった。助けられたはずのみんなを見殺しにしてしまった。クラインとリーファを悲しませたまま、死なせてしまった。
 呆然とするしかできなかった俺に、あのフォルテは尚も責めてくる。
「やはりキサマは弱いな……弱すぎる。やはり、守るなどというキサマの言葉など口だけだったということか」
 刃物のように冷たい言葉が耳に突き刺さり、俺の身体はピクリと震えた。
 みんなを殺したフォルテに対する怒りではない。無力な自分に対する失望ではない。その気持ちも確かにあるが、それ以上にフォルテの言葉を否定できないことが、俺の心に突き刺さっていた。
「それ以前に、キリト……キサマの想いなどただの自己満足に過ぎない」
「じ、自己満足だと……!?」
「そうだ。キサマは弱き人間を守ろうなどと考えているようだが、そんなのはただの自己満足だ……現実から逃げて、弱い心を必死に支えようとするだけの」
「ち、違う……俺の気持ちは逃げなんかじゃない!」
「何が違う? キサマはあの人間を守ろうとしているようだが、守れていない……そして、今まで忘れていたのではないのか?」
「なっ!?」
「あの小娘を失ってから、キサマはまた新たな人間やAIと手を組んだ。だが、小娘を失った代わりにしていただけではないのか? 孤独に耐えきれず、その代わりになる人間を見つけた……それだけだ」
 紡がれる声を聞いてはいけないと本能が告げるが、今の俺にはそれができなかった。

102夢みるアバター! 失った仲間たち ◆lVSHFOsQK2:2014/01/22(水) 17:01:43 ID:Bh28yqxM0
 サチのことを忘れていた。それは違うと言いたがったが、その為に動かさなければいけない口が動かない。
 サチを失ってから、俺はアスナと再会してSAOの攻略を目指して、そしてヒースクリフを倒した。その後にALOに囚われたアスナを救う為に妖精王オベイロンと戦い、二人で現実の世界に戻った。そうして俺達は平和な日々を取り戻してから、また新たなる仮想世界に挑戦して多くのプレイヤーと知り合う。
 それを思い出した所で、俺は一つの疑問に直面する。元の世界に戻ってから、サチのことを忘れなかった日があったのか? フォルテが言うように、アスナ達をサチの代わりにしているだけなのではないか?
 違う。そんなはずはない。サチはサチだし、アスナはアスナだ。誰かの代わりだと思ったことなんて一度もない。そんなことはあってはいけないはずだ。
 俺はフォルテの言葉を否定しようとする。だが……
「もっとも、そんなことなど俺には関係ない話だ……どうであろうとも、キサマが守ろうとした者達は全て消える運命なのだから」
 俺の言葉を遮ろうとするかのように、足元がボコボコと溶岩が流れてくるような鈍い音を響かせながら歪んでいく。それに驚く暇もなく、黒い地面の中から何かが出てくる。
 俺はそれに凝視して、そして絶句してしまう。闇の中から、シルバー・クロウとレンさんが横たわった姿で現れたからだ。
「レンさん! クロウ!」
 当然ながら、俺は二人の元に向かって走る。
 そうして腕を伸ばしたが、触れようとした直前に二人の身体が硝子のように砕け散ってしまった。
「そんな……! 二人とも、なんで……!?」
「どうしたキリト? キサマは守ると決めたのではなかったのか? それはやはり嘘だったことになるな」
「何だと……!?」
「おっと。俺に構っている暇などなかったはずだが? そら、あれを見てみろ」
「えっ?」
 フォルテが指を向けている方に俺も振り向く。
 すると、そこには俺にとって大切な二人がいた。そう、アスナとサチの二人だ。
 そして彼女達を襲っている巨大なモンスターもいる。SAOの第75層のボスとして君臨していた、あのムカデのようなモンスターだ。
「アスナ! サチ!」
「キリト君、助けて!」
「キリト! このままじゃ、私達は殺されちゃう!」
「二人とも、待っていてくれ! 今すぐ俺が駆けつけるから!」
 俺は魔剣を握り締めながら地面を強く蹴って、ミサイルのような勢いで疾走する。
 あのモンスターはたった二人で勝てる相手じゃない。ギルドを組んでいても多くのプレイヤーが殺されてしまったのだから、一刻も早く二人を助けなければならなかった。今の俺には二人を助けられるだけの力がある。俺はそう信じていた。
 だけど、そんな僅かな願いを裏切るかのように、モンスターはアスナとサチの二人を攻撃して、その華奢な体を吹き飛ばした。
「アスナッ! サチイイィィィィィィィ!」
 そのまま地面に叩きつけられた二人の元に俺は駆け寄る。
 ダメージによって二人のHPはどんどん減っていき、止まる気配を見せない。回復アイテムやスキルを持っていない俺に、それを止める手段はなかった。
「あ、ああ、ああ、あ……あ、あ……あ……! そんな、何で……どうして、なんで、こんなことに……!?」
 やがてアスナとサチの身体がどんどん崩れ落ちていく。俺はそれを見ているだけしかできなかった。
 嘘だ。こんなのは嘘だ。アスナとサチが死んでしまうなんて嘘だ。二人が俺の目の前からいなくなってしまうなんて嘘に決まっている。
 俺はもう二度と、見捨てることなんかしないって決めたはずだ。それなのに、どうしてこうなってしまうのかがわからない。
 これが、俺の選択の末路なのか? フォルテが言うように、俺は誰のことも守ることができないのか? だとしたら今まで何の為に戦い、何の為に力をつけてきたのか?
「キリト君」
「キリト」
 そして、アスナとサチは同時に口を開いてきた。
「どうして、私のことを助けてくれなかったの……?」
「どうして、私のことを助けてくれなかったの……?」
 悲しげで、それでいて幻滅したかのような目で俺を見つめてくる。
「うそつき」
「うそつき」
 その一言を残した瞬間、アスナとサチは跡形もなく砕け散ってしまった……
「あ、あ、あ、あ、あ、ああ、あ、あ、あ……ああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 絶望のあまりに、俺は慟哭することしかできない。
 それを聞く者は誰もいない。フォルテもアスナとサチを殺したモンスターもいつの間にかいなくなっていたが、そんなことはもうどうでもよかった。
 俺はただ、たった一人で叫ぶことしかできない。暗闇の中で俺自身の無力さに苦しみながら、叫び声を空しく響かせることしかできなかった。

103夢みるアバター! 失った仲間たち ◆lVSHFOsQK2:2014/01/22(水) 17:02:49 ID:Bh28yqxM0


***


 E−5エリアの森の中で、ブルースは考えていた。
 先程出会ったアーチャーという男の言葉がブルースにとって引っかかるものであった為、ずっと考えていた。
 自分が守ろうとしている正義という存在。それは社会全体の秩序を司る法なのか。それとも、社会に生きる人そのものなのか。考えても答えは見つからないし、何よりもすぐに見つからないだろう。
 アーチャーはどうしてピンクにこのようなことを問いかけたのか。彼にとって、正義とは何か特別な意味合いを持つのだろうか。あるいは、ここに来るずっと前にどちらかを天秤にかけてしまったことがあり、そして大切な何かを失ったことがあるのか……真相はわからないが、それだけ気になってしまう。
 パートナーである伊集院 炎山ならアーチャーの問いにどう答えるのか。自分のように悩むか、それともあっさりと答えてしまうのか。あの光 熱斗やロックマンならば迷わず即答してしまいそうだが、自分には無理だった。
 だが、それをいつまでも考えていた所でどうにもならない。あまり先延ばしにしていけないかもしれないが、今は他に考えなければならないことがある。
「ピンク、その男の傷を治せそうか?」
「あたし自身の力じゃ無理ね。この人を治す方法だけならあるけど」
「何?」
「あたしの支給品の中に回復に使えそうなアイテムがあったの。それさえ使えば、この人を助けられそうだけど……」
 そう語るピンクの手には、桃色の輝きを放つクリスタルが存在する。色のせいでピンク自身の能力と錯覚してしまいそうだったが、紛れもない支給品だ。
 それは回復結晶というアイテムらしく、使った者のHPを回復する効果を持つらしい。恐らく、リカバリー系のチップと同じようなアイテムだろう。その効果が本当ならば、キリトという少年を助けることができるかもしれない。
 ピンクはこれまで回復結晶を使う機会がなかったので出さなかったようだが、今がその時だろう。
「そうか……」
 だが、ブルースはこのまま回復結晶を使うべきなのかを悩んでいた。
 オフィシャルとして、殺し合いに巻き込まれてしまったキリトを助ける使命がブルースにはある。だが、ここでキリトを回復させて、そこからまた暴れてしまったら手をつけられなくなる恐れがある。ブルースとて負けるつもりはないが、キリトは簡単に止められないほどの強さを誇っている。戦闘になったら今度こそ消耗は避けられないだろうし、もしかしたらピンクにも被害が及ぶかもしれない。
 もしもキリトがまたピンクを斬ろうとするならば、ブルースはキリトを斬らなければならなかった。最悪の場合、ここでデリートすることになったとしても。
 ピンクのことは守りたい。また、これからキリトが激情に任せて他の誰かを襲う危険があるなら、オフィシャルとしてそれを阻止する必要がある。だが、キリトをこのまま斬っていいとも思えない。彼はあのサチと呼ばれた少女を救おうとして、その気持ちだけが先走ってしまっただけだ。
このままキリトを斬っては炎山が失望するだろうし、何よりも自分自身が許せなくなってしまう。
(……こういう時、あのアーチャーという男ならどうしただろうな。正義の意味を問いかけてきたあの男だったら)
 ブルースはアーチャーの言葉を再び思い出す。
 本当に守りたいのは『人』と『法』のどちらなのか。それは、今の状況にも同じことが言える。キリトはサチという『人』を守る為ならば、オフィシャルとしての『法』を破ることすらも厭わないだろう。そうなったら、自分はキリトと戦わなければならなくなるが、それは本当に自分が望むことなのか。だが、キリトと戦うことを拒んで『法』を破ってしまっては、結果として他の『人』が傷付いてしまうかもしれない。
 また、あのカイトという少年がキリトのことを知ったら、きっとキリトに加担するだろう。そうなったら、カイトという『人』とも戦うことになる。
(アーチャー……お前の言っていたことは、こういうことなのか? どちらかを見定めなければ、本当に守りたかったものを見失ってしまうとはこういうことなのか?)
 半端な気持ちでどちらかを選んでしまっては、きっと取り返しのつかない後悔を背負ってしまう。それをアーチャーは言いたかったのだろうか。
(お前は一体、過去に何を見た? お前もかつては俺達オフィシャルのように、誰かを守る為に戦っていたのか……? アーチャー)
 ここにアーチャーはいないので真相はわからない。
 だが、確信できることが一つだけある。アーチャーの語った『本当に守りたかったものを見失った、愚かな先人』とはアーチャーにとって親しい者か、アーチャー本人のことか。
 いずれ、それも聞かなければならない時が来るのかもしれない。そう、ブルースは考えていた。

104夢みるアバター! 失った仲間たち ◆lVSHFOsQK2:2014/01/22(水) 17:04:10 ID:Bh28yqxM0
「ブルース。あなた、さっきから何を考えているの?」
 そんな中、ブルースの思考を遮るかのようにピンクが言葉をかけてくる。
「何?」
「あのアーチャーってヤツに変なことを言われてから、アンタはずっと考え事をしているわ。もしかして、アイツの言葉がずっと気になっていたの?」
 怪訝な表情を浮かべるピンクの問いかけに、ブルースは否定することができない。
 やはり、これだけ考えていたら流石に気付かれてしまうのは当たり前だろう。言葉にしなくても、顔に出てしまったかもしれない。
「……ああ」
「やっぱり……あのね、あんな変なヤツの言うことなんていちいち気にしていたら、やっていられないわよ? あんなの、ただの戯言よ!」
 ピンクは励ますつもりで言ってくれているのだろうが、ブルースはそんな簡単に割り切ることができなかった。
 もしもアーチャーの言葉を簡単に切り捨てたまま戦いを続けていたら、いつかどこかで痛い目を見るかもしれない。そんな予感をブルースは胸に抱いていた。
「それよりも、今はキリトのことが先決でしょ。彼に回復結晶を使っても、本当に大丈夫かな……?」
 そう語るピンクはどことなく不安げな表情でキリトを見つめている。
 キリトは苦悶の表情を浮かべたまま眠ったままだ。肉体のダメージだけでなく、サチに刺されてしまったショックもあるのだろう。まるで悪夢にうなされた人間を見ているようだった。
 回復結晶を使えば、その苦しみを多少は和らげられるだろう。だが、それで回復するのはHPだけで、キリトの心を回復できるとも限らない。
 彼のことは救いたい。だが、その為に必要な方法をブルースとピンクは知らなかった。
「ねえ、もしも彼がこのまま目覚めたら、私達のことを襲う……かしら?」
「だろうな。一応、武装は取り上げておいたが、こいつはそれをお構いなしに取り返そうとするだろう。また、例え戦いにならなくても、あのサチという少女を捜しに一人で飛び出すかもしれないな」
「ちょっと! そんなことになったら彼はすぐに死んじゃうわ!」
「そうさせない為に俺達がいる。かといって、今の俺達にできることはこいつが早まったことをしないよう、腕ずくで止めるしかないが……」
「そんな!」
 ピンクの悲痛な声に、ブルースは溜息交じりの言葉で返すことしかできない。
 サチがいなくなってしまったことをキリトが知ってしまったら、何をするかわからない。こうしている間にサチが死んで、それが主催者からのメールで告げられたら、キリトは発狂して自殺する恐れがある。
 サチのことも捜したいが、キリトがこんな状態ではとても不可能だった。
「……うっ」
 そして、ブルースの不安を煽るかのように呻き声が発せられる。
 次の瞬間、キリトの頭部が小さく揺れて、瞼がゆっくりと開かれていった。
「あれ、ここは……?」
 キリトはぼんやりとした表情で辺りをキョロキョロと見渡す。
 目覚めたばかりのキリトの表情が、ブルースの目は酷く憔悴しきったように見えてしまった。


***


 瞼を開けた先には、捜していたはずのサチがいない。代わりにいるのは、あのブルースとピンクと呼ばれていた奴らだった。
 周囲に見えるのは緑豊かな森の風景と、先程まで戦っていた参加者達だけ。
 俺は夢を見ていたようだ。どんな夢を見ていたのかはあまり覚えていないけど、アスナとサチが出てきたことは確かだ。
 そこで、二人は何をしていたのか。それを思い出す為に俺は記憶を辿ろうとしたが……
『うそつき』
『うそつき』
「……ッ!」
 俺の脳裏に、アスナとサチの言葉が蘇る。
 俺の心臓が凄まじい鼓動を鳴らして、その影響なのか全身から汗が噴き出した。

105夢みるアバター! 失った仲間たち ◆lVSHFOsQK2:2014/01/22(水) 17:04:42 ID:Bh28yqxM0
「お、俺は……俺は……!」
 そして、俺にとって最悪の記憶も蘇っていく。
 アバターが黒いナニカに覆われてしまったサチを救う為に戦ったが、そのサチに刺されてしまった。そして、サチに刺されてしまった俺は倒れて、悪夢を見た。
 どうしてサチは俺を刺したのか。また、サチの身体を覆っていた黒いアレは何だったのか。サチは一体、何をされてしまったのか。何から何まで、わからないことだらけだ。
 しかし、そんなことは今の俺にとってどうでもよかった。
「……そうだ! サチは!? サチはどこだ!? サチ……!」
 俺はいなくなったサチを捜す為に立ち上がろうとしたが、その途端に肩を抑えつけられてしまう。
 それをしたのは、俺と戦ったブルースという男だった。
「落ち着け、キリト」
「なっ!? お前……!」
「これから俺はお前に話をする。お前が大人しくそれを聞くのであれば、俺はお前を解放する」
「何だと!?」
「話を聞け!」
 ブルースの冷徹な言葉が俺に突き刺さってくる。
 気が付くと、俺は全身に鋭い圧迫感を感じていた。見ると、俺の身体はロープで縛られている。どうやら、気を失っていた間に拘束されてしまったようだ。
 俺はそれを千切ろうと足掻くが、やはりその程度では破ることができなかった。
「ちょっと、ブルース!」
「こいつに暴れさせる訳にはいかない。その為にも、今はこうするしかない」
「でも……!」
「文句なら後でいくらでも聞く。それよりも、今はこいつに事情を説明することが先だ」
 ブルースは俺を睨みつけたまま、傍らに立つピンクという女にそう説得する。
 その様子が妙に落ち着いていたので、俺の中で苛立ちが積もっていく。事情を説明するだと? サチに酷いことをしておいて、まだ言い訳をするつもりなのか? ふざけるのもいい加減にしろ。
「おい、お前達! 彼女を、サチをどこにやった!? 今すぐサチを返せ!」
「話を聞けと言っているだろう! それに、さっきも言ったように俺達は彼女に何があったのかなんて知らない! お前を刺した彼女がどこに消えたかのだって俺達は知らない! これは本当だ!」
「ふざけるな! そんな言い訳が通ると思っているのか!?」
「言い訳じゃないと言っているだろう! いい加減にしろ!」
 俺達は必死に怒号を飛ばし合っている。
 ブルースの言い分に腹を立てて、俺は更に糾弾したかったが喉が言うことを聞かない。疲労が重なった状態で叫んだせいで、俺はゼエゼエと息を切らせてしまう。
 わかりきったことだが、仮想空間でも肉体の疲労は感じてしまう。現実の世界と同じように。
「……お前が俺達を信用できないのはわかる。だが、頼むから今は話を聞いて欲しい」
 一方でブルースは、そんな俺を同情するかのような目で見つめていた。
「まず、お前が彼女のことを斬ろうとした俺を敵と思っていることは認める。そして、事情も知らないのに斬ろうとした俺にも非があることは認める……すまない」
「謝ったって、サチが元に戻るのかよ……!?」
「何度も言ったように、俺達は彼女に取り付いたあの黒いバグの正体がわからない……だから、今はそれを取り除く手段を捜すことを考えている。無論、その前に彼女の身柄を保護することが先決だが」
 ブルースは真摯な表情で語るが、俺はそれが全く信用できなかった。
 サチを襲っておきながら、今度は守ると言われてもまるで説得力が感じられない。どうせ、言い逃れをしようとしているのだと邪推してしまう。
 俺はそんなブルースに対して感情を爆発させようとした。が……
「それと、ある男からお前に伝言がある。娘を心配させるな、だそうだ」
 その言葉を聞いた瞬間、俺の中で湧きあがろうとした感情が一気に止まってしまう。
 ブルースの言葉の意味を受け止めるまで、数秒の時間がかかってしまった。
「娘を、心配させるな……? それってまさか……ユイのことか!? ユイがどこかにいるのか!?」
「俺は名前を聞いていないから、娘が誰のことなのかは知らない。だが、やはり心当たりがあるようだな……恐らく、ユイという娘の可能性が高いだろう」
「そんな……サチやユウキだけじゃなく、ユイまでここにいるなんて……!」
 ユイがこの殺し合いに巻き込まれている。その事実を受け止めることに俺は抵抗をしていた。
 俺にとって大切な人が何処かにいることは、既にわかりきっていた。クラインやリーファが死んだことがメールで告げられたし、サチやユウキの姿だってこの目で見ている。AIのレンさんが参加させられている以上、同じAIであるユイだっていないとは言い切れない。それでも、彼女がいるなんて認めたくはなかった。

106夢みるアバター! 失った仲間たち ◆lVSHFOsQK2:2014/01/22(水) 17:06:47 ID:Bh28yqxM0
「お前がサチという少女のことを気にかけているのはわかる。だが、彼女のことばかりを考えるあまりに暴走するのだけはやめろ。それを悲しむ相手だっていることも考えたらどうだ?」
 ブルースの言葉に俺は何も反論することができなかった。
 俺が無茶をしたせいで誰かが悲しんでいる。そう考えた瞬間、サチの悲しげな表情が俺の脳裏に浮かび上がった。そして、今度は夢の中で見たアスナやユイの絶望も、俺の記憶に湧きあがっていく。
 考えてみたら、ユウキだって俺のことを心配しているかもしれなかった。せっかくまた会えたのに、考えていたのはサチのことばかり。もしも、ユウキのことは蔑ろにしていたと言われても、否定することができなかった。
 まさか、サチはそんな俺に失望してしまったのではないか……俺の中で、そんな可能性が芽生えてしまう。
「……俺は、サチのことを裏切ってしまったのか? いや、サチだけじゃなくみんなのことも……裏切ったのか?」
 その問いかけに答えてくれる者は誰もいない。
 サチはもう失いたくないと思っていたのは確かだった。でも、守りたかったのはサチだけじゃなかったはずだ。アスナやユイ、それに仮想世界で出会ってきたみんなのことだって、俺は守りたかった。それはレンさんやクロウ、そしてオーヴァンだって同じだ。
 そして、守りたいものがあるのは、ここにいるブルースやピンクだって同じじゃないのか。また、ブルースやピンクのことを大切だと思っている人達だっているはずだ。だけど、俺はその気持ちすらも踏み躙ろうとした。
「俺は……俺は……!」
 先程まで俺を支配していた怒りや憎しみは鳴りを潜めて、代わりに失意と罪悪感が心の中に広がっていく。
 さっきまでの俺は一体何をしていたのか? サチを守ろうと決めておきながら、やっていたことは感情を爆発させて他の誰かを傷付けていたことだけ。これでは、あのフォルテと何も変わらない。結果的に、デスゲームに乗ったレッドプレイヤーと同じことをしてしまった。
 いくら後悔をしたって、時間が元に戻る訳がない。いくらVRMMORPGの世界だって時間を巻き戻す力なんて存在しないし、そんなのがあったら世界のバランスが崩れてしまう。
「……ねえ、ブルース。もう、彼を離してあげようよ」
「ああ、もう拘束を解いてもいいだろう」
「わかったわ……」
 ブルースの言葉に頷いたピンクが俺の身体を拘束していたロープを解く。
 俺はようやく自由になれたが、何かをする気にはなれなかった。ブルースとピンクを襲ったとしても、何にもならない。サチを捜そうとしても、どこにいるのかわからない。また、サチと再び出会えたとしても、サチは再び俺のことを受け入れてくれるのかどうか……それが凄く不安だった。
 ユイは無事なのか。ユイのことも守りたいけど、今の俺の姿を見てしまったら絶対に失望するはずだ。今の俺はかつてデスゲームを打ち破った勇者ではなく、デスゲームに乗ってしまったレッドプレイヤーなのだから。
 俺は一体何をすればいいのか? また、こんな俺に今更何ができるというのか? 俺はただ、ブルースとピンクの視線を感じながら絶望するしかなかった。


【E-5/森/1日目・午前】


【ブルース@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:HP70%
[装備]:なし
[アイテム]:ダッシュコンドル@ロックマンエグゼ3、SG550(残弾24/30)@ソードアート・オンライン、マガジン×4@現実、不明支給品1〜2、アドミラルの不明支給品0〜2(武器以外)、ロールの不明支給品0〜1、基本支給品一式、ロープ@現実
 {虚空ノ幻、蒸気式征闘衣}@.hack//G.U.、小悪魔のベルト@Fate/EXTRA、キリトの基本支給品一式、キリトの不明支給品0〜1個(水系武器なし)
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:バトルロワイアル打倒、危険人物には容赦しない。
1:悪を討つ。
2:森で待ち構え、やってきた犯罪者を斬る。
3:キリト(?)を警戒しつつも保護する。
4:俺の守ろうとしている正義は、本当に俺が守りたいものなのか?
[備考]
※キリトの全ての支給品を所持しています。
※アーチャーから聞いた娘のことは、ユイという名前だと知りました。

107夢みるアバター! 失った仲間たち ◆lVSHFOsQK2:2014/01/22(水) 17:07:04 ID:Bh28yqxM0
【ピンク@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP100%
[装備]:ジ・インフィニティ@アクセル・ワールド
[アイテム]:基本支給品一式、回復結晶@ソードアート・オンライン
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
0:今はキリトを見守る。
1:悪い奴は倒す。
2:一先ずはブルースと行動。
[備考]
※予選三回戦後〜本選開始までの間からの参加です。また、リアル側は合体習得〜ダークスピア戦直前までの間です
※この殺し合いの裏にツナミがいるのではと考えています
※超感覚及び未来予測は使用可能ですが、何らかの制限がかかっていると思われます
※ヒーローへの変身及び透視はできません
※ロールとアドミラルの会話を聞きました
※最後の支給品は回復結晶@ソードアート・オンラインでした


【キリト@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP5%、MP40/50(=95%)、疲労(大)、SAOアバター、自分自身に対する失望
[装備]:なし
[アイテム]:なし
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考・状況]
基本:絶対に生き残る。デスゲームには乗らない。
0:サチ、どうして…………
1:???????????
2:二度と大切なものを失いたくない。
[備考]
※参戦時期は、《アンダーワールド》で目覚める直前です。
※使用アバターに応じてスキル・アビリティ等の使用が制限されています。使用するためには該当アバターへ変更してください。
・SAOアバター>ソードスキル(無属性)及びユニークスキル《二刀流》が使用可能。
・ALOアバター>ソードスキル(有属性)及び魔法スキル、妖精の翅による飛行能力が使用可能。
・GGOアバター>《着弾予測円(バレット・サークル)》及び《弾道予測線(バレット・ライン)》が視認可能。
※MPはALOアバターの時のみ表示されます(装備による上昇分を除く)。またMPの消費及び回復効果も、表示されている状態でのみ有効です。
※ユイが殺し合いに巻き込まれている可能性を知りました。
※支給品を失っていることに気付いていません。




【回復結晶@ソードアートオンライン】
ソードアートオンラインにて使用されている、回復用アイテム。
モンスタードロップでしか手に入らないレアアイテムの一つで、使用した参加者のHPが全回復します。
また、転移結晶と同じように一度使用すれば消滅してしまい、そして転移結晶無効化エリア内部での使用はできません。

108 ◆lVSHFOsQK2:2014/01/22(水) 17:07:39 ID:Bh28yqxM0
以上で仮投下終了です。
矛盾点や疑問点など、ご意見がありましたらよろしくお願いいたします。

109名無しさん:2014/01/22(水) 18:46:01 ID:dxb3mgSQ0
仮投下乙です
ちゃんとした感想は本投下の時にするとして、

とりあえず気になったのはキリトの装備解除状態ですね
実体化している虚空ノ幻はともかく、それ以外の装備やアイテム欄のアイテムは、キリト自身がメニューウインドウを操作しないと取り出せないと思うんですが

110 ◆lVSHFOsQK2:2014/01/22(水) 19:24:46 ID:Bh28yqxM0
ご指摘ありがとうございます。
それに関しては自分の勘違いです……大変、失礼いたしました。
では、キリトの状態表を以下のように修正させて頂きますが大丈夫でしょうか?


【キリト@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP5%、MP40/50(=95%)、疲労(大)、SAOアバター、自分自身に対する失望
[装備]: {蒸気式征闘衣}@.hack//G.U.、小悪魔のベルト@Fate/EXTRA、
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜1個(水系武器なし)
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考・状況]
基本:絶対に生き残る。デスゲームには乗らない。
0:サチ、どうして…………
1:???????????
2:二度と大切なものを失いたくない。
[備考]
※参戦時期は、《アンダーワールド》で目覚める直前です。
※使用アバターに応じてスキル・アビリティ等の使用が制限されています。使用するためには該当アバターへ変更してください。
・SAOアバター>ソードスキル(無属性)及びユニークスキル《二刀流》が使用可能。
・ALOアバター>ソードスキル(有属性)及び魔法スキル、妖精の翅による飛行能力が使用可能。
・GGOアバター>《着弾予測円(バレット・サークル)》及び《弾道予測線(バレット・ライン)》が視認可能。
※MPはALOアバターの時のみ表示されます(装備による上昇分を除く)。またMPの消費及び回復効果も、表示されている状態でのみ有効です。
※ユイが殺し合いに巻き込まれている可能性を知りました。
※虚空ノ幻を失っていることに気付いていません。

111名無しさん:2014/01/22(水) 19:57:02 ID:dxb3mgSQ0
同様にブルースの状態表も修正すれば問題ないと思います
あと虚空ノ幻と蒸気式征闘衣をかこっている{}は、二つが同じ出展のアイテムであることを示すものだと思うので、
分けたのであれば外した方がいいですよ

112 ◆lVSHFOsQK2:2014/01/22(水) 20:01:42 ID:Bh28yqxM0
重ね重ね、ご指摘感謝いたします。
指摘された点は本投下の際に修正させて頂きます。

113 ◆lVSHFOsQK2:2014/01/26(日) 07:24:51 ID:jBzB7G6w0
これより、本スレで指摘された拙作の修正版を投下させて頂きます。

114情報(修正版) ◆lVSHFOsQK2:2014/01/26(日) 07:25:36 ID:jBzB7G6w0
 黒の名を持つアバター達との戦闘を乗り越えたフォルテは、E−8エリアのショップに並んでいる商品を見ていた。
 ここには武器や各種チップを始めとする様々な武器や、更には参加者名簿というアイテムまで存在する。参加者名簿とは、殺し合いに参加させられた人間やAIどもの名前が書かれているのだろう。名前の通りの代物だが、有益なことに変わらない。
 だが、フォルテにはそれをわざわざ手にする必要があるのか疑問だった。どうせ破壊すると決めた者達の名前をわざわざ知った所で大した意味があるとも思えない。
 とはいえ、買わなければその真価を知ることはできないだろう。250ポイントの価値があるのだから、ただ参加者の名前だけが書かれている訳ではないかもしれない。例え名前だけしかなくても、それならば破壊するだけだ。
(人間どもによって生み出された施設を利用する羽目になるとは皮肉なものだ……)
 フォルテは今の自分の姿を思い返して自嘲する。
 回復する為の手段を捜す為にショップを訪れたが、これでは愚かな人間どもと同じだった。
(人間どもに生み出されたオレが、人間どもと同じことをする……つくづく因果なものだ。だが、それも人間どもを消し去ってしまえば関係なくなる)
 しかしフォルテはすぐに思案を振り払う。
 ここに来たのは回復アイテムを見つける為であって、感傷に浸る場合ではない。傷を治して、再び狩り場へと戻る。それだけだ。
 回復アイテムの欄には見覚えのあるリカバリー系のチップは全て揃っている。加えて、回復結晶や回復ポーションという物や、治癒の水というアイテムまであった。どれも効果は高いらしいが、その分だけポイントも消耗する。
 ここは下手にポイントを惜しまないで確実な回復をするべきだ。ポイントを惜しんで半端な回復しかせず、それが原因で敗北などしては笑い話にもならない。
 HPを完全に回復させる回復結晶及び完治の水を一つ買う為に必要なのは500ポイント。問題ない。
 他の回復アイテムは安いがどれも大した効果しか持たない。手元に置いてもいいだろうが、そこまで役に立つとも思えなかった。武器の類も回復アイテムを買ってしまっては入手できなくなるが、目的ではないので構わない。
 フォルテは500ポイントを消費して回復結晶を手に入れて、それを使う。すると、先程まで減少していたHPがみるみるうちに回復していった。
 これでまた戦うことができる。戦い、全ての物を破壊することができる。
 効果を実感したフォルテは、参加者名簿の方に目を向ける。残るポイントさえ使えばそれを買うことができるが、未だに悩んでいた。
(そういえば、あのキリトという人間とシルバー・クロウという人間は顔見知りだったな……ならば、この殺し合いにはオレの知っている奴らも紛れ込んでいるのか?)
 キリトとシルバー・クロウとの戦いをフォルテは思い出す。
 奴らのやり取りを見る限り、どうも顔見知りらしい。それを考えると、この殺し合いは顔見知り同士の戦いが起こる可能性だってある。元の世界での関係を問わず。
 それに思い当ったフォルテは残る全てのポイントを使い、参加者名簿を手に入れる。そして名簿を開いた瞬間、フォルテは目を見開いた。
「キリトにシルバー・クロウ……それに、ロックマン! なるほど、キサマまでこの世界にいるとは……」
 参加者名簿に書かれているのはフォルテが戦ってきた者達の名前だけではない。何と、元の世界で戦ったことのあるネットナビの名前も書かれているのだ。
 奴との戦いがこの世界でもできる……そう考えた瞬間、フォルテは微かながらの笑みを浮かべる。
「キサマまでもがいるとは、どうやら楽しみはまた一つ増えたようだな……」
 弱者の割には見込みのあるロックマンも仕留めたいが、過度な期待はしない。奴が自分と戦う前にデリートされたら、それだけのナビだったと言うだけ。
 何にせよ、あのネットナビもこの仮想世界の何処かにいる。それが確証できただけでも、参加者名簿を手に入れた甲斐があるだろう。
 もうこのショップに長居は無用だ。ダメージを回復させたからには、次の参加者を捜すしかない。
 フォルテは空高く跳躍して、戦場を疾走した。
「キリト、シルバー・クロウ、ロックマン……待っていろ、人間とネットナビどもよ!」
 駆け抜けるフォルテは静かに呟く。
 彼が次にどこへ向かうのかはまだ誰にもわからなかった。

115情報(修正版) ◆lVSHFOsQK2:2014/01/26(日) 07:26:00 ID:jBzB7G6w0
【フォルテ@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:HP100%、MP40/70
[装備]:{死ヲ刻ム影、ゆらめきの虹鱗鎧、ゆらめきの虹鱗}@.hack//G.U.、空気撃ち/二の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜1個、参加者名簿
[思考・状況]
基本:全てを破壊する。生身の人間がいるならそちらを優先して破壊する。
1:アメリカエリア経由でアリーナへ向かう。
2:ショップをチェックし、HPを回復する手段を探す。
3:このデスゲームで新たな“力”を手に入れる。
4:シルバー・クロウの使ったアビリティ(心意技)に強い興味。
5:キリトに対する強い苛立ち。
6:ロックマンを見つけたらこの手で仕留める。
[備考]
※参戦時期はプロトに取り込まれる前。
※バルムンクのデータを吸収したことにより、以下のアビリティを獲得しました。
•剣士(ブレイドユーザー)のジョブ設定 ・『翼』による飛行能力

※レンのデータを吸収したことにより、『成長』または『進化の可能性』を獲得しました。
※ポイントを全て消費しました。
※参加者名簿を手に入れたのでロックマンがこの世界にいることを知りました。

116 ◆lVSHFOsQK2:2014/01/26(日) 07:26:59 ID:jBzB7G6w0
状態表も含めた修正版の投下は以上で終了です。

117 ◆lVSHFOsQK2:2014/01/26(日) 11:05:42 ID:jBzB7G6w0
あ、それと今見直したのですが備考欄の
※ただし、上記のポイントはE-8エリアのショップの値段なので、B-2エリアのショップで売られているアイテムも同じ値段とは限りません。

の部分を

※ただし、上記のポイントはE-8エリアのショップの値段なので、他のエリアのショップで売られているアイテムも同じ値段とは限りません。

という風に修正させて頂きます。

118名無しさん:2014/01/26(日) 21:16:28 ID:sr.9TxJU0
修正乙です。
特に問題ないと思います。

119 ◆lVSHFOsQK2:2014/02/02(日) 13:53:53 ID:gdCGSrr.0
本スレで指摘された自作の修正した部分を投下します。

120対主催生徒会活動日誌・5ページ目(考案編) 修正 ◆lVSHFOsQK2:2014/02/02(日) 13:54:46 ID:gdCGSrr.0
 
 
          2◆◆
 
 
 月見原学園の図書室で調べ物をしているレオの背中を、ジローはトモコと共に見守っている。
 レオが言うには、ここは普通の図書室ではないらしい。調べたいことに関係するキーワードさえ入力すれば、その情報がすぐに見つけられるようだ。
 本も必要ないのは便利だと思うが、ならば棚の中にある大量の本は意味があるのだろうか? そんなことをジローは考える。
(それにしても、カウンターに座っているあの女の子の名前……間目 智識だっけ? いくら何でも、そのまんますぎると思うぞ……)
 調べ物をしているレオの前でにこやかな笑みを向けている少女は、間桐桜と同じこの学園に設置されたNPCの一人らしい。なので、危険人物ではないことは確かだ。
 まめ ちしき。いくら実在の人物でないからと言っても、もう少し違う名前があるはずだ。これでは彼女が可哀想だ。
 しかし、当の本人はそんなことなどおかまいなしに微笑んでいる。そんな間目 智識という少女の姿が、ジローには健気に見えてしまった。
「……まさか、こんなことがあるとは」
 これまで調べ物に没頭していたはずのレオが、唐突に口を開く。
 彼の声はほんの少しだけ震えていた。これまでの態度からは想像できないような動揺が感じられる。
 レオは振り向く。やはり、彼は深刻な表情を浮かべていた。
「レオ、どうかしたのか? さっき言っていた白野って人について調べることができなかったのか?」
「いえ……白野さんについてのデータはすぐに見つけられました。ただ……」
「ただ?」
「……僕が説明するよりも、その目で見た方が早いと思います」
 レオは表情を曇らせたまま横に移動する。
 何が何だかわからないが、その空いたスペースにジローとトモコは入り込んで、ディスプレイに書かれた文字を見始めた。


《岸波白野/Kishinami Hakuno》
 登場ゲーム:シリアルファンタズム(SE.RA.PH)
 SE.RA.PHで繰り広げられた聖杯戦争に優勝したマスター。戦況を乗り越える為の観察眼はとても高い。
 平行世界ごとによって性別は異なり、また世界によってサーヴァントを従えるサーヴァントも違う。
 セイバー、キャスター、アーチャーの三通りがあり、サーヴァントに合わせて戦闘スタイルを変えられる柔軟さも持っている。



「…………」
 ディスプレイに書かれた情報は、ジローにとって理解できるものではなかった。
「驚きましたよ。白野さんについて調べようと思ったら、まさかこんな奇天烈な答えが出てくるなんて……全く、どうしたことか」
 レオは深い溜息を吐く。
 彼もこのような答えは予測していなかったのだろう。こんな情報では、納得するどころか逆に疑問が膨れ上がるだけだ。

121対主催生徒会活動日誌・5ページ目(考案編) 修正 ◆lVSHFOsQK2:2014/02/02(日) 13:55:10 ID:gdCGSrr.0
「なあ、レオ。もしかしたら、書いてあることに間違いがあるってことはないよな?」
「残念ですがそれはあり得ません。この学園の設備は完璧です……僕の記憶が正しければ、滅多なことでミスなど起こらないでしょう」
「そっか……」
「ただ、運営が意図的に表示される情報を改竄したという可能性もあります。」
 レオが言うように嘘を書く意味などない。そんなことをしたって、殺し合いの役に立つ訳がないのだから。
 それでも、表示された結果には意味がわからない部分も含まれている。それをただ受け入れることなど、ジローにはできなかった。
「なあ、レオ。白野さんって本当に性別がわからないのか?」
「僕の記憶だと白野さんはニューハーフではなかったはずです、あの人がそんな振舞いをするなんてありえません」
「やっぱり」
「いや、もしかしたら、僕達にその事実を隠していた可能性だってあります……誰にだって一つくらいは知られたくない事情がありますし」
「……流石にそれは無いと思うぞ?」
 未だに深刻な表情で悩んでいるレオに、ジローはジト目で突っ込む。
 顔も知らない相手をニューハーフだと決め付けるのは、いくら何でもあんまりだ。もしも本人がここにいたら、レオの言葉に激怒するかもしれない。
 この話は胸の中にしまっておこう。ジローはそう誓った。
 数秒間、沈黙の空気が図書室に広がっていく。それをぶち壊したのはレオの言葉だった。
「他に考えられる可能性と言えば、白野さん本人に何かがあったのでしょう」
 レオはそう語る。
「何かって、何だよ?」
「榊という男は、白野さんのアバターに何らかの仕掛けを施したと思います。それに合わせて僕やガウェインの記憶も操作して、図書館に乗っている一部の情報も改竄した……尤も、これもただの仮説に過ぎませんが」
「記憶を操作するって、そんなことができるのかよ!?」
「普通なら有り得ないでしょう。ですが、運営は別々の世界に生きている僕達を一つの空間に閉じ込めて、更に全員の身体にウイルスを仕込むほどの高い技術力を持っています。プレイヤーのデータを書き換えることができたって、おかしくないでしょう」
「……た、確かに」
 レオの考案を聞いて、ジローは軽く頷いた。
 人の記憶を自由自在に操作する。そんなファンタジーの世界に出てきそうな現象なんて、普通ならあり得ないだろう。でも、この世には呪いのゲームだって存在しているのだから、人間の脳を操る方法があっても不思議ではない。
 もしかしたら、あのツナミグループだって人の記憶を操作する技術を持っているかもしれなかった。
「まさか、俺達にもレオと同じことをされているってことは……ないよな?」
「それはわかりません。これはあくまでも僕達だけの特殊なケースかもしれませんから、ジローさんはあまり深刻に考える必要はないかもしれませんよ」
「そうだな……記憶を操られるなんて、考えるだけでもゾッとするし」
 大切な人との思い出を誰かに消されてしまう。そんなことをされると考えただけでも、怖くてたまらない。
 もしもパカと過ごしてきた日々を誰かに消されてしまったら、きっと自分は自分でなくなってしまう。パカが自分に助けを求めたとしても、どうすることもできなくなる。
(俺はパカのことを忘れたりなんかしない! パカとの出会いも、パカとの時間も、パカの声も、パカの仕草も、パカの笑顔、パカの涙……そして、パカとの思い出も! パカ、俺はお前の所に戻る! だって、俺はまだお前とやりたいことがたくさんあるから!)
 ここにいない彼女と過ごした証は、確かにここにある。
 それがある限り、パカのことを忘れるなんてありえなかった。
 ジローはパカとの時間を脳裏に思い浮かべて、それら全てを胸に刻む。彼女のことをいつでも思い出せるように。
 そして、それを前に進む為の力にも変えられるようにして。


 筋力が 3上がった
 技術が 4上がった
 信用度が 7上がった
 『不眠症』が 治った!

122対主催生徒会活動日誌・5ページ目(考案編) 修正 ◆lVSHFOsQK2:2014/02/02(日) 13:58:39 ID:gdCGSrr.0

          †


 当面の活動方針は、図書室で情報収集をすることになった。
 まず、ジローから様々な情報を聞いて、それをここで調べる。そして、ある程度集まったら情報を纏めて、運営に立ち向かうヒントを考える。
 そう、レオは決めたのだった。
(白野さんのことは気になりますが、ここにいない人のことを考えていても仕方がありません。会ってから、本人に聞くしかないでしょう)
 恐らく、この仮想世界のどこかに岸波白野はいる。凛やラニだっているのだから、白野がいてもおかしくなかった。
 もしかしたら、聖杯戦争で敗れ去ったマスターとサーヴァント達だっているかもしれない。デリートされた自分だってこの世界にいるのだから。
 彼らのことも気になるが、どこにいるかわからない。対策を立てるのは目撃情報が得られてからでいいだろう。
(それにトモコさん……いえ、スカーレット・レインさんからも色々とお聞きしたいことがありますが、そのタイミングを考えなければなりませんね)
 あどけない表情でジローと世間話をしている少女・サイトウトモコのことを、レオは見つめる。
 先程、支給品を確認する為にトモコがウインドウを操作した際、ほんの一瞬だけとはいえ『スカーレット・レイン』という名前が見えた。このことから考えると、『サイトウトモコ』という名前は偽名かもしれない。
 そして、自分達に見せているあどけない姿も演技である可能性が高い。何故なら、学園内のメンテナンスが行われた際、ほんの一瞬だけ彼女の口調が変わったのだから。
(彼女がハセヲさんや僕達に見せているのは仮の姿。でも、メンテナンスの時に見せた姿が、彼女の本当の姿なのでしょう)
 レインが何故、自分達に猫を被って接しているのかはわからない。
 生き残る為に利用をしようと企んでいるのか? また、利用をし尽くした後はどうでるのか?
 これまでのように一緒にいてくれるのか、それとも攻撃を仕掛けようとしてくるのか……それはレオにもわからない。
 ただ、できることなら戦いたくはなかった。生徒会副会長をこの手で斬るなんて嫌だし、まだ若い少女の未来を潰すのは王のやることではない。
 今は『サイトウトモコ』としての彼女と接するしかない。ガウェインもそれを了解してくれた。
 対主催生徒会に対する裏切りなど、レイン本人が余程のことをしなければという条件付きで。
 もしも下手に彼女の本性を暴くようなことをしたら、何をされるかわからない。本性を見せるだけならまだいいが、もしも逆上などされたら余計な体力を消耗してしまう。
 レイン本人に関するキーワードを検索するのは、彼女からの確実な信頼を得てからだ。
(レインさん……いえ、トモコさん。貴女が何を考えているのか知りませんが、僕達は貴女のことを信じていますからね……)
 不意に、ジローと話していたレインは……いや、サイトウトモコはレオに振り向いて、そして笑顔を見せる。
 レオはそれに答えるように、優しく微笑んだ。



【B-3/日本エリア・月海原学園/一日目・午前】


【チーム:対主催生徒会】
[役員]
会長 :レオ・B・ハーウェイ
副会長:サイトウトモコ(スカーレット・レイン)
書記 :空席
会計 :空席(予定:ダークリパルサーの持ち主)
庶務 :空席(予定:岸波白野)
雑用係:ハセヲ(外出中)
雑用係:ジロー
[チームの目的・行動予定]
基本:バトルロワイアルの打破。
1:(レオの)理想の生徒会の結成。

123対主催生徒会活動日誌・5ページ目(考案編) 修正 ◆lVSHFOsQK2:2014/02/02(日) 13:58:56 ID:gdCGSrr.0

【ジロー@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP35%、小さな決意/リアルアバター
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、不明支給品0〜2(本人確認済み)
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
1:今は図書室で情報を集める。
2:トモコちゃんの事も、可能な限り守る。
3:『オレ』の事は、もうあまり気にならない。
[備考]
※主人公@パワプロクンポケット12です。
※「逃げるげるげる!」直前からの参加です。
※パカーディ恋人ルートです。
※使用アバターを、ゲーム内のものと現実世界のものとの二つに切り替えることができます。


【スカーレット・レイン@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP100%、(Sゲージ0%)、健康/通常アバター
[装備]:非ニ染マル翼@.hack//G.U.
[アイテム]:インビンシブル@アクセル・ワールド、DG-0@.hack//G.U.(4/4、一丁のみ)、赤の紋章@Fate/EXTRA、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:情報収集。
1:一先ず猫被ってハセヲやレオに着いていく。
2:ジローに話し合いで決まったことを伝え、レオの帰還を待つ。
3:レオに対しては油断ができない。
4:自力で立ち直ったジローにちょっと関心。
[備考]
※通常アバターの外見はアニメ版のもの(昔話の王子様に似た格好をしたリアルの上月由仁子)。
※S(必殺技)ゲージはデュエルアバター時のみ表示されます。またゲージのチャージも、表示されている状態でのみ有効です。


【レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP25%、令呪:三画
[装備]:ダークリパルサー@ソードアート・オンライン、
[アイテム]:桜の特製弁当@Fate/EXTRA、トリガーコード(アルファ)@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:853ポイント/0kill
[思考・状況]
基本行動方針:会長としてバトルロワイアルを潰す。
0:今は図書室で情報収集をする。
1:本格的に休息を取り、同時に理想の生徒会室を作り上げる。
2:モラトリアムの開始によって集まってくるであろうプレイヤーへの対策をする。
3:他の生徒会役員となり得る人材を探す。
4:状況に余裕ができ次第、ダンジョン攻略を再開する。
5:ダークリパルサーの持ち主さんには会計あたりが似合うかもしれない。
6:もう一度岸波白野に会ってみたい。会えたら庶務にしたい。
7:当面は学園から離れるつもりはない。
8:岸波白野と出会えたら、何があったのかを本人から聞く。
9:トモコに関する情報を調べるタイミングは慎重に考える。
[サーヴァント]:セイバー(ガウェイン)
[ステータス]:HP130%(+50%)、MP85%、健康、じいや
[装備] 神龍帝の覇紋鎧@.hack//G.U.
[備考]
※参戦時期は決勝戦で敗北し、消滅した後からです。
※レオのサーヴァント持続可能時間は不明です。
※レオの改竄により、【神龍帝の覇紋鎧】をガウェインが装備しています。
※岸波白野に関する記憶があやふやになっています。また、これはガウェインも同様です。
※トモコの名前は偽名で、本名はスカーレット・レインであると推測しています。

124 ◆lVSHFOsQK2:2014/02/02(日) 14:01:12 ID:gdCGSrr.0
以上で修正案の投下が終了です。
ご意見がありましたら、お手数ですがお願いします。

125名無しさん:2014/02/02(日) 19:28:29 ID:KKxrEBSw0
修正乙です
全体的にはそれで問題ないと思います
ただ、登場ゲームとなっている『SE.RA.PH』はあくまで舞台ですし、
白野の情報も文法的に少しおかしくなっています

>また世界によってサーヴァントを従えるサーヴァントも違う。

それに、レオが『スカーレット・レイン』という名前から偽名を疑ってますが、
この情報だけなら、上記の名前はアバター名であるとしか判断できないと思います
実際同じ作品からの参加者である『ランルーくん』のこの名前もアバター名ですし
なのでレオの場合は『スカーレット・レイン』の名前で検索し、それで得た情報から疑念を持つ、といった風にしてはどうでしょう

ただ意見を言うだけというのもなんでしたので、白野とスカーレット・レインの情報を書いてみました。参考にでもどうぞ


《岸波白野/Kishinami Hakuno》
 登場ゲーム:聖杯戦争
 聖杯「ムーンセル・オートマトン」の所有権を奪い合う戦いに優勝したマスター。
 個性に乏しく、平行世界によっては性別や従えるサーヴァントさえも異なるが、総じてその性格は漢らしい。
 逆境を乗り越える為の観察眼はとても高く、サーヴァントに合わせて戦闘スタイルを変えられる柔軟さも持っている。

《スカーレット・レイン/Scarlet Rain》
 登場ゲーム:Brain Burst 2039
 ブレイン・バーストにおけるレギオン『プロミネンス』の二代目レギオンマスターであり、赤の王と呼ばれている。
 「不動要塞(イモービル・フォートレス)」「鮮血の暴風雨(ブラッディ・ストーム)」などの異名を持つ。
 遠隔攻撃型に属する“赤”の王らしく、強力な火器で敵を圧倒する遠距離砲撃に特化した戦闘スタイルをとる。

126 ◆lVSHFOsQK2:2014/02/02(日) 20:59:04 ID:gdCGSrr.0
重ね重ねのご指摘、感謝いたします……
それでは、氏の情報を参考として修正したのをもう一度投下させて頂きます。
また、もしもこの案で問題がありましたら、差し出がましいと存じてますが
>>125氏の情報を使わせて頂きたいと考えておりますが、よろしいでしょうか?
(問題がありましたら、自分で修正案を考えます)


《岸波白野/Kishinami Hakuno》
 登場ゲーム:聖杯戦争
 聖杯「ムーンセル・オートマトン」の所有権を巡る戦いに優勝したマスター。
 存在感はあまり無く、平行世界ごとに性別と従えるサーヴァントは違うが、総じて不屈の意志を誇っている。
 戦況を乗り越える為の観察眼はとても高く、サーヴァントに合わせて戦闘スタイルを変えられる柔軟さも持っている。



          †


 当面の活動方針は、図書室で情報収集をすることになった。
 まず、ジローから様々な情報を聞いて、それをここで調べる。そして、ある程度集まったら情報を纏めて、運営に立ち向かうヒントを考える。
 そう、レオは決めたのだった。
(白野さんのことは気になりますが、ここにいない人のことを考えていても仕方がありません。会ってから、本人に聞くしかないでしょう)
 恐らく、この仮想世界のどこかに岸波白野はいる。凛やラニだっているのだから、白野がいてもおかしくなかった。
 もしかしたら、聖杯戦争で敗れ去ったマスターとサーヴァント達だっているかもしれない。デリートされた自分だってこの世界にいるのだから。
 彼らのことも気になるが、どこにいるかわからない。対策を立てるのは目撃情報が得られてからでいいだろう。
(それにトモコさん……いえ、スカーレット・レインさんからも色々とお聞きしたいことがありますが、そのタイミングを考えなければなりませんね)
 あどけない表情でジローと世間話をしている少女・サイトウトモコのことを、レオは見つめる。
 先程、支給品を確認する為にトモコがウインドウを操作した際、ほんの一瞬だけとはいえ『スカーレット・レイン』という名前が見えた。
 その名前を二人に知られないように調べてみると、レインというアバターに関する情報が表示された。


《スカーレット・レイン/Scarlet Rain》
 登場ゲーム:Brain Burst 2039
 ブレイン・バーストに存在する7大レギオンの一角である『プロミネンス』を率いる二代目レギオンマスター。華々しい戦歴を誇り、『赤の王』と呼ばれている。
 数多くの功績から「不動要塞(イモービル・フォートレス)」「鮮血の暴風雨(ブラッディ・ストーム)」などの異名が与えられた。
 いくつもの強化武装で構成された『インビンシブル』の強力な火器で敵を圧倒する遠距離砲撃に特化した戦闘スタイルを取る。


 もしかしたら、トモコというのは彼女の現実での名前で、インターネットではレインという名前のアバターかもしれない。
 そして、自分達に見せているあどけない姿も演技である可能性が高い。何故なら、学園内のメンテナンスが行われた際、ほんの一瞬だけ彼女の口調が変わったのだから。
(彼女がハセヲさんや僕達に見せているのは仮の姿。でも、メンテナンスの時に見せた姿が、彼女の本当の姿なのでしょう)
 レインが何故、自分達に猫を被って接しているのかはわからない。
 生き残る為に利用をしようと企んでいるのか? また、利用をし尽くした後はどうでるのか?
 これまでのように一緒にいてくれるのか、それとも攻撃を仕掛けようとしてくるのか……それはレオにもわからない。
 ただ、できることなら戦いたくはなかった。生徒会副会長をこの手で斬るなんて嫌だし、まだ若い少女の未来を潰すのは王のやることではない。
 今は『サイトウトモコ』としての彼女と接するしかない。ガウェインもそれを了解してくれた。
 対主催生徒会に対する裏切りなど、レイン本人が余程のことをしなければという条件付きで。
 もしも下手に彼女の本性を暴くようなことをしたら、何をされるかわからない。本性を見せるだけならまだいいが、もしも逆上などされたら余計な体力を消耗してしまう。
 レイン本人に関するキーワードを検索するのは、彼女からの確実な信頼を得てからだ。
(レインさん……いえ、トモコさん。貴女が何を考えているのか知りませんが、僕達は貴女のことを信じていますからね……)
 不意に、ジローと話していたレインは……いや、サイトウトモコはレオに振り向いて、そして笑顔を見せる。
 レオはそれに答えるように、優しく微笑んだ。

127 ◆lVSHFOsQK2:2014/02/02(日) 21:01:37 ID:gdCGSrr.0
あ、戦況を乗り越える為、ではなく危機を乗り越える為、の間違いです。
確認を怠ってしまい、申し訳ありません。

128名無しさん:2014/02/02(日) 21:56:19 ID:KKxrEBSw0
二度目の修正乙です
おおよそ問題ないと思いますが、白野は存在感がないのではなく、NPCと間違えられやすいだけですよ
(まあ実際には本当にNPCだったわけですが)
それと読み直していた気付いたんですが、

>先程、支給品を確認する為にトモコがウインドウを操作した際、ほんの一瞬だけとはいえ『スカーレット・レイン』という名前が見えた。

と作中でありますが、プレイヤーのウインドウは基本的には他人には不可視で、覗き見ることは出来ませんよ
その代わりに前作中編の『感情 〜Go to Dungeon〜』で、改竄のためにレインのウインドウを操作しているので、その時に知った。という風にしてはどうでしょう

あと情報に関しましては、自由に使っていただいてかまいませんよ

129 ◆lVSHFOsQK2:2014/02/02(日) 22:11:36 ID:gdCGSrr.0
ご指摘及び了承して頂きありがとうございます……そして基本的なルールも今度、読み直しておきます。
それでは該当する部分を以下のように修正させて頂きます。

 先程、支給品を確認する為にトモコがウインドウを操作した際、ほんの一瞬だけとはいえ『スカーレット・レイン』という名前が見えた。
 ↓
 先程、改竄の為にトモコのウインドウを操作した際、ほんの一瞬だけとはいえ『スカーレット・レイン』という名前が見えた。

130 ◆lVSHFOsQK2:2014/02/07(金) 15:46:24 ID:75gXIchU0
本スレで指摘された拙作の修正版を投下します。

131秘密のプロテクトエリアをつぶせ!(修正版) ◆lVSHFOsQK2:2014/02/07(金) 15:47:19 ID:75gXIchU0


          1◆


 幻想的な雰囲気を放つ洞窟・死世所 エルディ・ルーから抜け出して、大分時間が経った。
 空に輝く太陽は徐々に昇ってきている。メニューウインドウの時計も針が止まる気配は見せず、無情に進んでいた。
 つまり、運営から二度目のメールが届く時間が確実に迫っている。残酷な現実がまた告げられてしまうのだ。

「カイトよ。先の戦いを見る限り、そちの腕も中々ではないか! これなら、余も安心してそちと力を合わせて戦うことができるぞ!」
「どうやら、カイトさんは私達サーヴァントに引けを取らない程の実力者のようですね。その力に敬意を示して、私もカイトさんの力になりますよ! あ、でもご主人様の期待に答えることを忘れないでくださいね」
「フ&リ…#、ア&+トウ」
「二人ともありがとう、とカイトさんは言っています!」
 セイバーとキャスターは激励し、カイトはそれに頷いて、ユイは笑顔で通訳をしている。
 互いの命を踏み躙り合う殺し合いとはとても思えないほど、和やかな光景だった。できることなら、この時間が永遠に続いて欲しいと思う。

「――――――――」

 そんな彼らの会話に加わる少女がいる。
 サチ……いや、サチの願いに従って行動する”黒点の主”・ヘレンだった。

「――――――――」
「私もハクノさん達の力になってもいいですか? と、ヘレンさんは聞いています」

 それが意味することは、ヘレンもここにいるみんなと一緒に戦ってくれることだろう。
 呉越同舟という四字熟語があるように、昨日まで敵だった者が今日は味方になってくれることもある。
 ヘレンの気持ちは嬉しいし、戦うより笑い合う方がいい。

「ほう。そなたも奏者の力になろうと言うのか、それは実に感心だ! だが、そなたが守っている少女は大丈夫なのか?」
「そうですよ。さっきの戦いを見ていると、ヘレンさん自身はともかくサチさん本人はあんまり戦い慣れていなさそうですよ? サチさんの状態だって、危険ですし」
「私としてもヘレンさんの言葉は有難いのですが、サチさんのことを考えると……」

 みんなはヘレンを、そして一緒にいるサチの身体を心配しているように見つめている。カイトも何も言わないが、それでもサチを心配しているような雰囲気が感じられた。
 実際、サチの状態はあまりにも危険だった。先程、カイトと戦ったせいで彼女のHPは残り10%にまで減っている。カイトを責めるつもりは全くないが。
 今の彼女を無理に戦わせたりしたら、本当にデリートされてしまう危険がある。
 自分はヘレンにその旨を伝えることにした。

「――――――――」
「私も消えたくないから無理をするつもりはない、できる範囲のことだけをする。ハクノさんのこともですけど、ハクノさん達と一緒にいる皆さんにも興味があるから……らしいですよ」

 ……それならいいかもしれない。
 ヘレンが言う『できる範囲のこと』がどこまでを示しているのかはわからないが、ここで断っても空気が悪くなるだろう。
 ただし、サチの為にも積極的に戦うことはしないで、いざとなったら逃げることは忘れないで欲しい。そう、条件を付けた。

132秘密のプロテクトエリアをつぶせ!(修正版) ◆lVSHFOsQK2:2014/02/07(金) 15:48:27 ID:75gXIchU0

「――――――――」
「わかりました。ですって!」

 ヘレンが頷いて、そんなヘレンの意思をユイは伝えてくれる。
 納得してくれてよかった。力になってくれるのはいいことだが、それが原因で死んでしまうなんてあってはいけないことだ。
 こうして関わっていくと、ヘレンがただ他者に害を与えるだけのウイルスだけではないことがわかる。自分の意思を持ち、サチの願いを叶える為に動いている存在だから、簡単に消していい訳がない。
 ヘレンもみんなと同じように、ちゃんと心があるのだから。


 ……だからこそ、願う。
 ヘレンがもう二度と誰かを傷付けないことを。
 根底にあるのはサチの願いを叶えたいという想いだ。純粋だが、サチがどんなに間違った願いを抱こうとも実現させようとするだろう。
 善悪を判断することがヘレンにはできない。理解をさせる為には、ヘレンを止めながら一つ一つ教えていくしかないだろう。
 大変だが、サチを助ける為の方法がこれ以外に思い付かなかった。


 そして懸念していることがもう一つある。
 ヘレンが何らかのきっかけで、サチの凶行をユイに伝えてしまうかもしれないということだ。
 サチは恐怖のあまりに信頼を寄せていたキリトのことを殺してしまった。信じたくないが、その場に居合わせていない自分には事実であることを受け止めるしかない。
 もしもヘレンがサチのことをユイに伝えてしまったら、ユイはサチのことを恨むだろう。そして、セイバー達もサチを許さないはずだ。
 ヘレンがキリトとサチの一件を話さないこと。そして、キリトが死んだことはサチの勘違いであること。今の自分にはそれを願うことしかできなかった。
 何もしないで、現実逃避だけをしている自分が情けない。だからこそ、みんなが傷付かない方法を考えるしかなかったが、解決法が思い浮かばない。
 時間が止まって欲しいが、ただ流れていく。何もできない自分を嘲笑うかのように時計は動き続けていた。


「そういえば『フラグラド』でしたよね? 私達がさっき立ち寄った、あのエルディ・ルーという洞窟の地底湖にあった白い大樹って」
 キャスターはカイトに尋ねてくる。
 胸の奥から湧き上がってくる不安を打ち消すかのように、彼女の声は明るかった。

「カイトさんは言っていましたよね? 元々のゲームだと、あの木が死者の国を封じていた設定だって」
「アアァァ……」
「そうだけど、それがどうかしたのか? と、カイトさんは言っています」
「いえ、原作にそんな役割がある木がこの世界にもあるとなると、あの大樹は何か特別な意味があるのかな〜 って、思っただけです。例えば、あの大樹が私達に知られるとまずい何かを封じている、なんてことが」

 ……確かに。
 ユイはD−4エリアの地下に謎のエリアがあると言った。厳重なプロテクトがかかっているからには、何かがあるのだろう。
 キャスターが言うように、フラグラドの役割はそれが参加者に知られないようにする盾となっているのかもしれない。所謂、ファイアーウォールのような役割となっているのだろう。
 それさえ突破することができれば、プロテクトエリアに突入できるかもしれない。
「アアアアアアアァァァァァ……」
「その可能性は高いけど、迂闊に手を出すのは危険だ。罠があるかもしれない……と言っています」
「なんと! ……でも、言われてみればプロテクトがかかっている以上、考えなしに突っ込むのは危険ですね」

 キャスターの言葉に同意する。
 カイトの助言には助かる。彼は『The World』を守るAIプログラムだから、同じ守護者の役割を果たすプログラムのことがわかるのかもしれない。
 実際、プロテクトが甘ければこの殺し合いは根本から瓦解してしまう。そうさせない為にも、危険な要素は小さいうちから敗訴する必要がある。
 今はまだ、プロテクトを解除する方法自体がわからないし、そんな状況で手を出したらデリートされてしまう危険だってあるだろう。
 プロテクトエリアのことは気になるが、また訪れるにしてもプロテクトへの対策をしっかり取ってからだ。あらゆる結果を想定して、またそれに対抗できる手段も確保する。
 それからでも、遅くはない。

133秘密のプロテクトエリアをつぶせ!(修正版) ◆lVSHFOsQK2:2014/02/07(金) 15:50:23 ID:75gXIchU0

「ふむ……ならば、かつて我らと戦ったあのマスター達がいれば、プロテクトとやらの対策も可能ではないのか?」

 セイバーが言っているのは、レオや慎二のことだろう。
 あの二人はマスターであると同時に、技術者としても高い実力を持っている。彼らが力を貸してくれるのなら、プロテクトにも何らかの対策ができるかもしれない。
 だが、問題が二つある。
 一つは、レオがこの殺し合いの場にいるとは限らないと言うことだ。レオの姿を見ていないのだから、蘇生していると断定することができない。
 そして二つ目は、レオと慎二が力を合わせてくれる場面が想像できないことだ。

「あのワカメさんとレオさんが出会ったら、確実に一悶着が起こるでしょうね。レオさんは意外と空気が読めませんし、ワカメさんはお子様……そんな二人が共同作業なんてできるのでしょうか?」

 酷い言いようだが、キャスターの意見はもっともだ。
 そうだ。仮にレオと慎二でチームを組んだら、確実にトラブルが起こりかねない。レオの何気ない言動に慎二が激怒する恐れがあった。
 元々、慎二はレオに対してあまりいい印象を持っていないように思える。そんな相手からの言葉を気にせず流してくれるなんて、慎二からは想像できない。
 アーチャーやガウェインが上手く宥めてくれればいいが、あの二人だけでどうにかなるのだろうか?

「案ずるな。この余がいる以上、奏者の前で諍いなど起こさせはしない! 奏者は安心して、彼らと手を取るがいい!」
「はぁ? 貴女なんかが出たら、余計に喧嘩がヒートアップするに決まっているじゃないですか。ご主人様、もしも喧嘩なんかが起こるならこんな人より私を頼ってくださいませ。この愛の鉄拳で、頭を冷やさせますから!」

 ……どっちもやめて欲しい。
 セイバーとキャスターは胸を張りながら宣言するが、彼女達には絶対に手を出させたりしない。彼女達には悪いが、もしも実行などされたらチームの空気が悪くなる。
 レオが本当にいるなら、どうか慎二に変なことを言わないことを祈るしかない。あと、慎二もレオの言葉に怒らないことも。
 とりあえず、もしもレオに会えたら何とか手を取り合ってくれるように説得を試みてみよう。彼の目的は人類全てを救うことなのだから、他者の命を無意味に奪うことなどしない。
 だから、慎二のことだって見捨てないはずだ。
 これからレオやガウェインと出会えたら、協力してもらえるように説得をする。ここにいるみんなにそれを告げた。

「確かに、あの男ならば奏者の願いを無碍にすることはしないだろうな」
「ええ。抜けている所はありますが、その器量はどこかのワカメさんにも見習わせたいですね〜 あ、でもご主人様の器量には遠く及ばないですが!」
 セイバーとキャスターは頷いてくれる。
 ……とりあえず、キャスターの慎二に対するワカメ呼ばわりはそろそろ止めた方がいいかもしれない。あんまり続けてはトラブルの元になるし、何よりも慎二が不憫だ。
 せめて、アーチャーは慎二に変なことを言わないことを願う。彼だったら心配ないかもしれないが。

「それと、プロテクトエリアって地下にあるってユイさんは言ってましたよね? そこに行く為の道が見つからないのなら、ワープゾーンの様な物が必要でしょうか? でも、今の私達にそんな手段はありませんよ」
「ワープですか……転移結晶さえあれば、エリアの地下に侵入できる可能性があるかもしれませんよ」
「転移結晶?」
 ユイの口から出たキーワードに、キャスターが反応する。

「はい。私達の世界には結晶アイテムという物があるのです。回復や解毒、更には使用したプレイヤーを瞬時に移動させる効果など、様々な効果を持つマジックアイテムなのです!」
「ほう! そいつはとても便利じゃありませんか!」
「いいえ、決して万能という訳ではないのです。一度しか使えない上に、一部のダンジョンでは結晶アイテムが使用することのできない《結晶無効空間》というエリアがあるのです。
 なので、もしかしたらこの空間にも結晶アイテムを無力化するエリアが存在するかもしれません」

 解説をするユイの表情はほんの少しだけ曇っていた。
 もしかしたら、過去に結晶アイテムで何かトラブルがあったのだろうか。
 例えば、絶体絶命の状況に陥って、その状況を打破する為に結晶アイテムを使ったが無情にも発動せず、命を落としたプレイヤーを何人も見てしまった……
 ……その辺は掘り返さない方がいいかもしれない。

134秘密のプロテクトエリアをつぶせ!(修正版) ◆lVSHFOsQK2:2014/02/07(金) 15:53:36 ID:75gXIchU0

「あと、もしD-4エリアで転移結晶が使えてプロテクトエリアに向かえるとしても、行きだけではなく帰りの分も用意した方がいいですね」
「それはそうでしょうね。例え行けたとしても、帰れなくなったら元も子もありませんし」

 だとすると、転移結晶はこの手に多く持っている必要があるかもしれない。
 サーヴァントであるセイバー達は必要ないかもしれないが、同行する参加者達の分もたくさん持つべきだ。
 無論、向かうにしてもしっかりと運営に対する対策を固めてからだが。

「……奏者よ。プロテクトエリアのこともいいが、どうか余の願いも忘れないで欲しいぞ」

 そんな中、セイバーが頬を風船のように膨らませながら見つめてくる。
 セイバーの願い……ああ、アリーナに向かうことか。
 もちろん、それも忘れてはいない。アリーナにも何かあるかもしれないから。だけど、もう少しだけ待っていて欲しい。
 そう告げると、セイバーは安堵としたように胸を撫で下ろした。

「そうか……奏者がアリーナのことを覚えていて、余は安心したぞ。うむ! 奏者の為ならば、余は何時間だろうと待とう!」
「……ご主人様、このままアリーナのことをスルーしてしまっても問題はないと思いますよ?」
 ポツリと呟いたキャスターのことを、セイバーは物凄い勢いで睨みつける。
 このままではまた喧嘩になってしまう。その前に、二人をどうにかして落ち着かせないといけない。
 どうやってこの空気を変えるか……そう考える一方で、サーヴァント達は睨み合いを始めていた。


【C-3/崖/1日目・昼】


【岸波白野@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP95%、データ欠損(微小)、令呪二画、『腕輪の力』に対する本能的な恐怖/男性アバター
[装備]:五四式・黒星(8/8発)@ソードアート・オンライン、男子学生服@Fate/EXTRA
[アイテム]:女子学生服@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
0:―――大丈夫だ、問題ない。
1:月海原学園に向かい、道中で遭遇した参加者から情報を得る。
2:ウイルスの発動を遅延させる“何か”を解明する。
3:榊の元へ辿り着く経路を捜索する。
4:エルディ・ルーの地下にあるプロテクトエリアを調査したい。ただし、実行は万全の準備をしてから。
5:せめて、サチの命だけは守りたい。
6:サチの暴走、ありす達やダン達に気を付ける。
7:ヒースクリフを警戒。
8:カイトは信用するが、〈データドレイン〉は最大限警戒する。
9:エンデュランスが色んな意味で心配。
10:もしも、レオがどこかにいるのなら協力をして貰えるように頼んでみる。
[サーヴァント]:セイバー(ネロ・クラディウス)、キャスター(玉藻の前)
[ステータス(Sa)]:HP100%、MP100%、健康
[ステータス(Ca)]:HP100%、MP100%、健康
[備考]
※参戦時期はゲームエンディング直後。
※岸波白野の性別は、装備している学生服によって決定されます。
 学生服はどちらか一方しか装備できず、また両方外すこともできません(装備制限は免除)。
※岸波白野の最大魔力時でのサーヴァントの戦闘可能時間は、一人だと10分、三人だと3分程度です。
※アーチャーとの契約が一時解除されたことで、岸波白野の構成データが一部欠損しました。

135秘密のプロテクトエリアをつぶせ!(修正版) ◆lVSHFOsQK2:2014/02/07(金) 15:54:09 ID:75gXIchU0

【ユイ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%、MP55/70、『痛み』に対する恐怖、『死』の処理に対する葛藤/ピクシー
[装備]:空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:セグメント3@.hack//、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本: パパとママ(キリトとアスナ)の元へ帰る。
0:ハクノさん………。
1:ハクノさんに協力する。
2:『痛み』は怖いけど、逃げたくない。
3:また“握手”をしてみたい。
4:『死』の処理は……
5:ヒースクリフを警戒。
[備考]
※参戦時期は原作十巻以降。
※《ナビゲーション・ピクシー》のアバターになる場合、半径五メートル以内に他の参加者がいる必要があります。


【蒼炎のカイト@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP50%、SP80%
[装備]:{虚空ノ双牙、虚空ノ修羅鎧、虚空ノ凶眼}@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:女神AURAの騎士として、セグメントを護り、女神AURAの元へ帰還する。
1:岸波白野に協力し、その指示に従う。
2:ユイ(アウラのセグメント)を護る。
3:サチ(AIDA)が危険となった場合、データドレインする。
[備考]
※蒼炎のカイトは装備変更が出来ません。


【サチ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]HP10%、AIDA感染、強い自己嫌悪、自閉
[装備]エウリュアレの宝剣Ω@ソードアート・オンライン
[アイテム]基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:死にたくない。
0:――――うそつき。
1:もう何も見たくない。考えたくない。
2:キリトを、殺しちゃった………。
3:私は、もう死んでいた………?
[AIDA]<Helen>
[思考]
基本:サチの感情に従って行動する。
1:ハクノ、キニナル。
[備考]
※第2巻にて、キリトを頼りにするようになり、メッセージ録音クリスタルを作成する前からの参戦です。
※オーヴァンからThe Worldに関する情報を得ました。
※AIDAの種子@.hack//G.U.はサチに感染しました。
※AIDA<Helen>は、サチの感情に強く影響されています。
※サチが自閉したことにより、PCボディをAIDA<Helen>が操作しています。
※白野に興味があるので、白野と一緒にいる仲間達とも協力する方針でいます。

136 ◆lVSHFOsQK2:2014/02/07(金) 15:55:36 ID:75gXIchU0
投下終了です。
変更点は以下の2点です。

・カイトの台詞の削減
・現在地

もしもまだ問題がありましたら、お手数ですが指摘をお願いします。

137名無しさん:2014/02/07(金) 16:11:25 ID:zmTCGRO20
やっぱり場所の方を変えちゃったか

138 ◆lVSHFOsQK2:2014/02/07(金) 17:36:27 ID:75gXIchU0
申し訳ありません。昼になるのなら、場所もそれに伴って変えた方がいいかと思ったので。
ただ、もしも時間の方を変えるべきならば、以下のように修正させて頂きます。

【D-3/崖/1日目・午前】

139名無しさん:2014/02/07(金) 19:29:58 ID:zmTCGRO20
昼にしたいのなら昼にすればいいよ。そこは書き手の裁量次第

140 ◆lVSHFOsQK2:2014/02/07(金) 20:22:44 ID:75gXIchU0
それでは収録時に昼の時間帯にさせて頂きます。

141 ◆9F9HQyFIxE:2014/03/01(土) 20:26:03 ID:KMC9Tyvs0
以前、投下した拙作の修正版を投下させて頂きます。

142勇気を胸に(修正版) ◆9F9HQyFIxE:2014/03/01(土) 20:26:35 ID:KMC9Tyvs0
 
 
    1◆
 
 
「HPが0になっても復活できるなんて、そんなアイテムありなのかよ! チートってレベルじゃないだろ!」
「そりゃあ信じられないよね。でも、これがあったおかげでボクもカオルを助けることができたよ」

 ユウキの所持している【黄泉返りの薬】を見た間桐慎二は、その効果に目を丸くした。
 RPGゲームでよく見られる死者蘇生アイテムを本当に見るとは夢にも思わなかった。対象者が死亡してから5秒以内でなければ効果はないけれど、それでも充分に貴重なアイテムだ。しかもまだ4つもあるなんて、非常に心強くなってしまう。
 命を賭けた殺し合いでこんなものを支給するなんて矛盾している。運営がこんなものをどうして用意したのかがわからなかった。
 だけど、使える物は使わせて貰うつもりだ。

「あとでシンジにも渡そうと思うよ。キリトや、キリトと一緒にいる人達にもね」
「本当か! それは助かる」
「でも、その前にキリトと合流してここから抜け出すことを考えようよ。この森にいると、確かダメージ量が増えるらしいから」
「そ、そうだった!」

 運営の嫌がらせなのか、12:00まで全ての森は【痛みの森】というエリアに変えられてしまい、受けるダメージが増えてしまうらしい。その間にPKをすればポイントもいつもより増えるらしいが、そんなことはどうでもよかった。
 今の状況で別のプレイヤーに襲われたら、今度こそユウキとカオルは殺されてしまうかもしれない。アーチャーがついているとはいえ、彼一人では限界があった。
 こんな場所にいつまでもいたら蘇生アイテムがいくつあっても足りないので、早く抜け出したい。それが慎二の本音だった。

「……そういえば、ユウキ達は大丈夫なのかい?」
「何が?」
「いや、痛いだろ? ダメージだけじゃなく、痛みだって倍増されるってメールには書いてあったからさ……あいつらと戦っていたから、凄く痛かったと思うし」
「ああ、それならボクは大丈夫だよ! みんなと一緒にいるから、あんまり気にならないかな」

 あれだけの死闘を繰り広げた後なのに、ユウキはけらけらと笑っている。
 そんなはずはない。ダスク・テイカーから与えられたダメージはとても笑って誤魔化せる様な量ではなかった。ならば、それに伴う痛みだって凄まじいはず。
 気力で身体を動かしているのかもしれないが、そうだとしたら彼女はどれだけ逞しいのか。ユウキという少女はゲーマーとしてだけではなく、人間としても憧れてしまいそうだ。

「それよりも、本当に辛いのはカオルの方だよ! あのノウミって奴から酷い目に逢わされたし……」
「ええっ!? でも、ユウキさんだって私の為に大怪我をしたじゃないですか! あの時、私がしっかりしていれば、こんなことにはならなかったのに……」
「ボクなら大丈夫だって言ったでしょ。とにかく、二度とこんなことがないようにしようよ。蘇生アイテムがあるからって、痛いことには変わらないし」
 ユウキとカオルの言葉が、慎二の胸に深く突き刺さる。
 そうだ。例え生き返ると言っても、死んでしまったという事実を変えることなんかできない。そこに至るまでの苦痛や絶望だって、脳裏に強く焼き付いているのだ。
 生き返るから、死ぬほどのダメージを受けたって問題はないという訳ではない。むしろ、死による苦しみからの解放すらも認められないのだから、もっと残酷かもしれなかった。
 ゲームのキャラクターは死んでから蘇生しても次の瞬間には動いているが、自分達は違う。現実の世界に生きる人間だ同じ目に遭ったら、何もできなくなるはずだ。
 普通なら、何らかのトラウマに苦しめられてもおかしくない。それなのにユウキとカオルは、テイカーの火に焼かれたにも関わらず、今も笑っている。

(……僕が二人の立場だったら、例え生き返ったとしてもこうして笑うことなんてできない。絶対に、ショックと恐怖で動けなくなるだろうな……)
 ユウキから【黄泉返りの薬】を貰えると聞いて舞い上がってしまった。例え死んでもコンティニューができると喜んでいたが、それは二人に対する冒涜なのではないか。
 そう考えると、先程までの自分がとても浅はかに見えてしまい、思わず溜息をつく。

「こんな時に溜息とは、何かあったのか?」
「うわっ!?」

 その直後、背後に立つアーチャーから唐突に声をかけられてしまい、驚いた慎二は飛び上がった。
 振り向くと、アーチャーは意味ありげな笑みを浮かべているのを見た。

143勇気を胸に(修正版) ◆9F9HQyFIxE:2014/03/01(土) 20:27:45 ID:KMC9Tyvs0

「アーチャー……いきなり声をかけるな! ビックリするじゃないか!」
「すまない。ただ、君があまりにも落ち込んでいるようだから、どうしたものかと思っただけだ」
「別に何でもない! さっきから色々なことがあってちょっと疲れただけだ! 絶対に落ち込んでなんかいないからな!」
「そうか。なら、いいのだが」

 アーチャーは頷く。
 絶対に本心を見抜かれている。どれだけムキになって否定したとしても、悩みの理由を察しているはずだ。数時間程度の付き合いしかないけれど、アーチャーの考えていることが何となくわかってしまう。
 ここで感情を爆発させてもただ疲れるだけで、何の意味もない。なので、慎二は話題を切り替えることにした。

「そ、そうだユウキ! ちょっと聞きたいことがあるけど大丈夫か?」
「どうしたの?」
「そういえば……キリトってどんな奴なんだ? やっぱり、そいつも強いプレイヤーなのか?」
「うん! キリトもすっごく強いよ! ボクの所属するギルドの邪魔をした嫌な連中を足止めしてくれたし、何よりも剣の腕がとても凄いよ!
 シンジもゲームチャンプの称号を背負うなら、気を付けた方がいいよ〜! 油断したら、すぐに追い抜かれちゃうから!」
「ハン! それなら、返り討ちにしてやるとも! キリトが僕に挑むのなら、僕はそれに全力で答えて倒す……それだけさ!」
「そっか! それなら精一杯、頑張ってね! シンジならキリトにも負けないくらい、完璧に強くなれるってボクは信じてるから!」
「ユウキに言われなくとも、そうするつもりさ!」 

 満面の笑顔を浮かべるユウキに向かって、慎二は大きく胸を張る。
 そんな二人を見守っていたアーチャーとカオルはこう語った。

「……やれやれ、自信を持つのはいいが、またすぐに調子に乗ってしまいそうだ」
「でも、シンジさんは大きくなっています。一歩ずつですが、確実に」
「そうだな。彼には無限の可能性がある……私のマスター以上にだ。尤も、私も慎二に負けないように強くなるつもりだが」
「それなら、私はアーチャーさんとアーチャーさんのマスターさんを応援しますよ! ユウキさんが慎二さんを応援するなら、私はあなた達を応援しますよ」
「それは有難い。なら、私達はそれに答えなければならないな」


    2◆◆


 俺はずっと失意に沈んでいた。もしも今、鏡を見たら曇っている俺の顔を見ることができるかもしれない。
 あれから、俺はブルースやピンクと一緒にずっと森に留まっていた。どうやら、二人は森に集まってきた危険なプレイヤーを倒すつもりらしい。
 俺はそんな二人の邪魔をする訳にはいかなかった。サチのアバターに黒いナニカを植えた犯人でない以上、敵対する理由などない。

「それで、キリトはこれからどうするつもりだ? このまま、この森に留まるつもりなのか?」

 ブルースの問いかけに俺は何も答えられない。
 それが失礼な態度であることはわかっているが、言葉が見つからなかった。

144勇気を胸に(修正版) ◆9F9HQyFIxE:2014/03/01(土) 20:28:11 ID:KMC9Tyvs0

「お前がこの森に留まるのは勝手だが、あのサチという少女はどうするつもりだ? それに、お前の娘のユイだっているはずだ……二人のことを捜さなくてもいいのか」

 ブルースの口からその名前が出てきたことで、俺の身体が震えてしまう。
 サチが俺のことを刺してから、既にかなりの時間が経っている。こうしている間にも、サチはどこかで危険な目に遭っているはずだった。
 それにユイのことだって心配だった。戦う力を持たない彼女までもがここにいては、いつデリートされてもおかしくない。
 わかっている。
 彼女達の為を思うなら、いつまでもこんな所にいる訳にはいかない。ブルースの言う通り、サチやユイの元に駆けつけなければいかなかった。
 頭ではわかっているし、俺自身もそうしたいと思っている。
 だけど……身体が動かなかった。

「キリト……あんた、何とか言ったらどうなの?」

 怒りを露わにした表情で詰め寄ってくるのはピンクだった。
 彼女の声は非常に威圧感があって、並のプレイヤーを怯ませてしまいそうだった。普通なら悲鳴を漏らすかもしれないが、どういう訳か俺はそうする気すらも湧かない。

「あんた、いつまでウジウジするつもりなのよ! あたしがわざわざ回復結晶を渡して、ブルースも剣を返したっていうのに……肝心のあんたは何もしないってどういうことよ!
 情けない……ああ、情けないわね! 情けなさ過ぎて腸が煮えくりかえりそうだわ!」

 ピンクの罵倒が俺の耳に突き刺さってくる。彼女の声量は凄まじくて、実際にダメージを与えてしまうかもしれないと錯覚してしまいそうだった。
 拘束を解かれてから、俺はブルースから【虚空ノ幻】を返して貰い、ピンクから与えられた回復結晶でHPを回復した。それは二人が俺のことを一先ず信用してくれたことだろう。
 こうまでお膳立てをさせてしまった以上、俺は二人の気持ちに答えるのが筋だ。俺だってそうしたいと考えている。
 だけど、今の俺はただ突っ立っているだけ。我ながら情けなさすぎて嫌になってしまう。ピンクが怒るのも無理はない。
 何も答えないこんな俺の姿に苛立ちを覚えたのか、ピンクは強く舌打ちをして、その手に持つ武器を向けてきた。

「……そう。そういうつもり。だったら、ここでいっそのことあんたのことを斬ってあげようか?」

 刃の切っ先が太陽に照らされるのを見て、俺は反射的に後ずさってしまう。無気力になっているにも関わらず、生存本能だけは働いてしまったのだ。
 そんな俺に対して嫌悪感を強めたのか、ピンクは更に表情を顰めた。

「ハッ、何もやる気がないくせに助かろうとするの? 随分と虫がいいのね」
「おい、ピンク!」
「ブルースは黙ってて!」

 ブルースの制止の言葉すら、ピンクはあっさりと斬り捨てる。
 このままでは、ピンクは本当に俺のことを斬ってしまうかもしれない。だけど、それを防ぐための言葉が見つからなかった。
 彼女の手を汚させたくなんかないし、何よりも俺だってここで死ぬわけにはいかない。でも、口が動かなかった。今は何を言ってもピンクを納得させられないだろうし、それ以前にその為の言葉すら見つからない。
 どうすればいいのか……そんな思考が芽生え始めた時、ピンクはその刀を収めた。

「……やっぱりやめた。あんたなんかを斬ったって何の得にもならないし、体力を無駄にするだけだわ」
「……ごめん」
「ごめんで済んだらヒーローもオフィシャルもいらないでしょ! 悪いと思うなら、あたし達の前からとっとと消えなさいよ!」

 ようやく出てきた俺の言葉に、案の定ピンクは激怒する。
 ヒーローとオフィシャルが何なのかはわからないが、きっと警察のようなものかもしれない。そんな二人の邪魔をしてしまったことが、今になって申し訳なく思ってしまう。
 あの時、もしも二人が事情を知っていたらサチのことだって助けようとしたはずだ。俺には説明の義務があったはずなのに、一方的に襲いかかった。
 ……これでは、サチが俺のことを失望したって無理はない。もしかしたら、サチにはあの時の俺がレッドプレイヤーに見えてしまったから、攻撃した可能性だってある。
 サチがそんな人ではないのはわかる。例え相手がレッドプレイヤーだろうと、いきなり傷付けるなんてありえない……
 その瞬間、守りたかったサチのことまでも疑っていることに気づいてしまい、俺自身がとことん惨めに思えてしまった。

145勇気を胸に(修正版) ◆9F9HQyFIxE:2014/03/01(土) 20:29:15 ID:KMC9Tyvs0

「キリト! キリトなんだね!」

 自己否定の思考が芽生えた瞬間、俺の耳に声が響く。
 俺はその声を知っている。ブルースと戦う直前に再会したユウキの声だ。
 それに気付いた俺が振り向くと、木々の間からユウキが現れるのを見た。そんな彼女に続くように、見知らぬ二人の男とユウキと一緒にいた女が出てくる。
 現れた女はピンクを見て、驚いたようにピンクの名前を呼ぶ。同じようにピンクも「カオル!」と声をかけた。もしかしたら二人は知り合いなのかもしれないが、今の俺にはあまり関心がない。
 ただ、ユウキが無事でいる姿を見られたことで、ほんの少しだけ心が軽くなるのを感じた。

「ゆ、ユウキ……!」
「よかった……いきなり飛び出していったから、心配したよ!」
「あっ……!」

 ユウキの言葉を聞いて、俺は思い出す。
 サチの居場所を尋ねてから何も考えずに飛び出してしまい、勝手に暴走をしてしまった。
 一方、ユウキはかつてのように眩い笑顔を向けてくれる。そんなユウキの姿が輝いて見えてしまい、思わず目を逸らしてしまいそうだった。

「ごめん、ユウキ……勝手に飛び出したりして」
「大丈夫だよ。キリトが無事でいてくれたから……ところで、あのサチって女の子は見つかったの?」
「……っ!」

 ユウキの口からサチの名前が出てきたことで、俺の身体はピクリと震えてしまう。
 すると、ユウキは怪訝な表情を浮かべながら俺の顔を覗き込んできた。

「……キリト、どうかしたの?」
「サチは……サチは、その……見失った。これから……捜すつもりだ」

 ユウキの疑問に対して、俺はしどろもどろに答えることしかできない。

「ねえ、キリト……何があったの?」
「えっ……いや、別に……なんでもない、けど」
「嘘だよ。キリト、何かを隠してるでしょ……嘘つきは泥棒の始まりだよ」
「本当に何でもないよ……ユウキの勘違いだって」
「……よかったら、何があったのかを話してくれないかな? ボクにできることがあるなら、何でもするから……一人で悩むなんてよくないよ」

 真摯な視線が突き刺さり、俺は後ずさってしまう。
 やはり、ユウキは俺が隠し事をしていると察しているのだ。一緒にいた時間はそれほど長くはないが、その僅かな間にデュエルやフロアの攻略を通じて絆を深めあっている。だから、ユウキは俺のことがわかるのだろう。
 俺のことを心配してくれているのは嬉しいが、今だけは素直に受け取ることができない。それがユウキの気持ちを冒涜することになるのはわかっているが。
 ユウキのことを裏切りたくない。だけどユウキには今の俺を知られたくない。そんな二つの感情が俺の中で鬩ぎ合っている最中だった。

「……キリトはサチのことを守ろうとして、あたし達のことを襲ったの」

 ピンクはそう淡々と語ったことで、俺の意識は急激に覚醒する。
 振り向くと、ピンクはどことなく辛そうな表情を浮かべながら、言葉を続けた。

「あのサチって子のアバターには、ウイルスのような何かが感染していたの。それをあたし達がやったと勘違いをして、それから戦いになって……今度はサチがキリトを襲って、それからサチは逃げたわ」
「ピンク、お前……!」
「こうでもしないと、キリトは何も言わないでしょ! いつまでもウジウジと黙ったままのキリトにイラついただけよ! それとも、ブルースが説明でもしてくれたって言うの!?」

 ブルースは咎めるのに対して、ピンクは激怒することで返す。
 その声は相変わらず凄まじくて、現実だったら鼓膜を破く程の威力を発揮しそうだった。

「……キリト、この人の言っていたことって本当なの?」

 そして、当然のことながらユウキは尋ねてくる。
 その声はほんの少しだけ憂いに満ちていて、真実を言うことを躊躇わせてしまう。だけど、こうなった以上は話さなければならない。

146勇気を胸に(修正版) ◆9F9HQyFIxE:2014/03/01(土) 20:31:07 ID:KMC9Tyvs0

「ああ、本当だよ……俺はこの二人の話を聞かずに、一方的に襲った……殺し合いを止めようとしていた二人を犯人だと決めつけて、傷付けた……
 こんな俺は、最悪のレッドプレイヤーさ」

 俺は全てをユウキに話した。
 本当なら逃げ出してしまいたいが、そんなことをしても何の解決にもならない。仮に逃げ出しても、ユウキの翼ならば一瞬で追いつかれてしまうだろう。
 彼女は俺のことを失望するはずだ。ユウキだけでなく、アスナやユイの信頼を完全に裏切ってしまったのだから。
 俺はそう思ったが……

「そっか……大変だったね、キリト。それと、話してくれてありがとう」

 だけど、肝心のユウキは真剣な表情を浮かべている。そこに幻滅の感情は感じられない。
 俺はそれが理解できず、瞼をしばたかせた。

「キリトは勘違いからピンクとブルースのことを襲っちゃった……それは残念だけど事実だよね
 でも、キリトはそれを反省しているでしょ? それとも、これからも誰かを襲いたいって思ってる?」
「……思っていない。いや、そんなことをしていいわけがないだろう! 意味もなく、誰かを傷付けるなんて……!」
「なら、キリトはレッドプレイヤーなんかじゃないよ。ボクやアスナやユイちゃん……それにみんなが知っているキリトだよ!」

 そう言いながら、ユウキはにっこりと笑顔を浮かべる。
 すると、そんなユウキと入れ替わるようにカオルと呼ばれた女が俺の前に出てきた。

「キリトさん。あなたが悪いことをしたことで、今も責任を感じているかもしれません……でも、それを認めているのなら、あなたはこれから誰かの為に戦えるはずです」
「誰かの為に、戦う……?」
「はい。私だって、昔は私自身のワガママのせいでたくさんの人に迷惑をかけてしまいました……それはもう取り戻すことができません。
 でも、キリトさんにはまだ時間があります。どうか、大切な人を守ってください……不安があるのはわかりますけど、このままではキリトさんは本当に後悔をしてしまうことになってしまいますから」

 俺を見つめているカオルの顔はどこか寂しげだった。
 それを見て、俺は思う。もしかしたら、彼女も俺のように大切な人がいて、その人の為に一生懸命頑張っていたのかもしれない。だけど、何かを間違えてしまい、全てを失ってしまった。
 手段を選ばなかった彼女にも非はあったかもしれない。だけど、彼女の心にあるのは、大切な人の力になりたいと言う純粋な気持ちだったはずだ。それが間違った方向に向かってしまっただけだ。
 俺だって、ブルースやピンクを襲ってしまったが、別に彼らに悪意があった訳ではない。ただ、サチを守りたかっただけだ。
 サチを守ることができればそれでいい……あの時の俺は、それ以外のことを考えないで突っ走っただけだった。

「……おい、キリトって言ったよな」

 今度はユウキと一緒にいた男が前に出てくる。青いウエーブヘアーが特徴の男だ。
 ユウキが「シンジ?」と呼びかけてくるが、それに答えずに口を開く。

「君がそのサチって子とどんな関係かは知らないけど……まあ、探しておいてやるよ。僕達も用事があるから、そのついでにな……
 言っておくけど、君の為じゃないからな! 君が悲しむと、なんというか……ユウキも悲しんで、場の空気が悪くなるんだ! それが嫌なだけだからな!」
「キリト。彼は悪ぶっているが、本当は素直になれないということを察するといい」
「うるさいぞアーチャー! 変なことを言うな!」
「そうか。それは失礼した」

 シンジからアーチャーと呼ばれた白髪の男は、意味ありげに笑う。
 しかし、すぐに俺の方に振り向いて、真摯な表情になった。

「そしてキリト。君がどうするのかは勝手だが、これだけは絶対に忘れるな……君には帰りを待っている娘がいることを」
「娘……? じゃあ、ブルースの言っていた伝言はあんたからだったのか!?」
「そうだ。ユイは今、私とは別行動を取っているが、私のマスター達が守っているから無事なはずだ。後でB−3エリアの月見原学園で落ち合うことになっているから、そこに行けば会えるだろう」
「そっか……よかった」
「安心するのはいいが、それ以上にやるべきことがあるのではないのか?」
「あっ……」

 アーチャーの言葉を聞いて、俺は気付く。
 俺のやるべきこと。それは俺自身の答えをみんなに言うことだ。ここにいるみんなは、俺の為に助言をしてくれている。
 ブルースやピンクだって厳しい言葉を突き付けたが、それは俺のことを考えてくれたからだ。俺が不甲斐無いせいで、二人に損な役目を背負わせてしまった。
 もしかしたら、ユウキ達も悪者にさせてしまう可能性だってあるかもしれなかった。

147勇気を胸に(修正版) ◆9F9HQyFIxE:2014/03/01(土) 20:31:53 ID:KMC9Tyvs0

『ジローさん………大好きですよ………』

 不意に、レンさんが残した最期の言葉が俺の脳裏にリピートされる。
 彼女はジローさんのことを一途に想い、ジローさんのことをひたすら愛して、俺のことをジローさんだと勘違いして……笑顔のまま、この世から去った。
 俺がみんなを守りたかったように、レンさんもジローさんを失いたくないはずだった。そしてジローさんだってレンさんのことを守りたかったはずだった。その気持ちに何一つの嘘は存在しない。

『いいぜ、キリト。お前となら、どこまでだってやれる気がする』

 あの戦いの最中、巡り会うことができたシルバー・クロウだって、守りたかった人がいるはずだった。
 そして、クロウが言っていた【バルムンク】という人物も、同じかもしれない。クロウはバルムンクの仇を取る為に、フォルテに立ち向かった。
 だけど三人はもういない。純粋な気持ちが蹂躙される悲劇を繰り返さないと誓ったはずなのに、デスゲームは続いてしまう。
 レンさんやクロウが今の俺を見たら何と言うか? レンさんとクロウは俺が心を閉ざしてしまうことを望んでいるのか? 二人のことを思い出した瞬間、俺の中でそんな疑問が芽生えてしまう。
 それはあの二人だけではない。ここにいるみんなや、どこかにいるであろうみんなにも同じことが言える。
 二度と大切なものを失いたくないと誓ったはずなのに、今の俺は何をやっているのか。その誓いを破っているのは、他でもない俺自身なのではないか。

「……みんな、聞いて欲しい」

 だから、俺は俺自身の答えを口にする。
 嘘偽りを混ぜたりなんかせず、正真正銘の真実を言葉にして。

「正直な話、今も不安なんだ……ユウキやカオルの話をきちんと聞かず、しかも勝手な思い込みでブルースとピンクを襲った俺が、誰かを守れるのか……俺も、自信がない」
「キリト、あんた……!」
「でも、みんなのことを守りたいのだけは本当だ! サチも、アスナも、ユイも、ユウキも、カオルも、ブルースも、ピンクも、シンジも、アーチャーも……俺は失いたくない!
 これ以上、誰一人だろうと死んでほしくない! これだけは……これだけは本当だ! その為に、俺は戦いたい!」

 ピンクが苛立ちで声を荒げる前に、俺は心からの言葉を宣言する。
 今もどこかでレンさんの帰りを待っているジローさんの為にも。
 俺に力を貸してくれたシルバー・クロウのことを、残された人達に教える為にも。
 こんな俺を信じて、励ましてくれたここにいるみんなの為にも。
 そして……俺が助けなければならない、大切な人達の為にも。サチを、アスナを、ユイを救う為にも……守りたいものを、守る為にも。
 かつて、一人で我武者羅に戦っていた俺を絶望から救ってくれたように、今度は俺がみんなを絶望から救う番だ。

 今でも忘れられないあの夜、サチから届けられたメッセージ録音クリスタルに込められた最後の内容はまだ思い出せない。
 だけど、俺は知っている。サチは恐怖に囚われながらも、決して自分自身を失わないで《月夜の黒猫団》のみんなや俺の為に頑張っていたことを。そして、こんな俺の為にメッセージを残してくれたことを。
 サチは優しい少女だ。そんなサチが、望まない戦いをさせられている……そんなの、許せるわけがなかった。
 彼女と再び出会えても、俺を信じてくれるかはわからないが関係ない。彼女が俺を拒絶したとしても、俺は守るつもりだ。

「みんな、本当にごめん……俺が情けないせいで、みんなに迷惑をかけて」
「お前がもう誰かを襲わないのなら、俺は何も言わない。だが、もう二度と変なことをするな……いいな?」
「わかったよ、ブルース……それと、ピンクもごめん」
「謝る暇があるなら、さっさと動きなさいよ! もしもまた泣き言を並べたりなんかしたら、あたしは二度とあんたのことを許さないからね!」
「ああ、そのつもりだよ」

 ブルースとピンクには随分と迷惑をかけてしまった。
 本当なら二人に償いをしたいがその時間はないし、何よりも二人は望んでいない。二人の為を思うなら、俺がやるべきことをやらなければならなかった。

「キリト。君が立ち直るのは良いが、いつまでもここにいてもいいのか?」
「……いや、すぐにでも捜しに行くよ。こうしている間にも、サチが危険な目に遭っているかもしれないから」
「だろうな。だが、仮にサチを見つけたとしても君一人でどうにかできるのか? 彼女のアバターに侵食したバグを除去する方法はあるのか?」
「あっ……」

 アーチャーの言葉に俺は何も返せない。
 そうだ。例えサチを見つけたとしても、あの黒いナニカをどうにかしなければ同じことの繰り返しだ。
 あの苦い記憶が脳裏に過ぎった瞬間、カオルが口を開く。

148勇気を胸に(修正版) ◆9F9HQyFIxE:2014/03/01(土) 20:32:53 ID:KMC9Tyvs0

「キリトさん、そのことなんですが……私が力になりましょうか? バグやウイルスを取り除く作業なら、何度もやったことがありますので」
「えっ……カオル、本当か? 本当にサチを助けられるのか?」
「サチさんに取り付いたバグの構造を把握して、あとはワクチンを作れば何とかなるかもしれません。ただ、その為の場所も必要ですが」
「そっか……なら、カオルにお願いしてもいいかな?」
「勿論ですよ!」
「ありがとう……!」

 カオルが頷くのを見て、俺は心の中が晴れていくのを感じる。
 ようやくサチを救う手段が見つかったことで、希望が芽生えた。ウイルスを解除できるカオルがいるなら、あとはサチを見つけるだけだ。

「それじゃあ、キリトもボク達と一緒に来る? 二手に別れて探しても、カオルがいないとどうにもならないし、何よりボクもキリトとまた話をしたいからね」
「ああ、そうするよ……ありがとう、ユウキ!」
「どういたしまして! シンジやアーチャーはどう?」
「どうって……まあ、ユウキとカオルがいいなら僕は別に構わないさ。ノウミを探すついでだ」
「私も異論はない」
「それじゃあ、決定だね……あ、そうだ」

 ユウキは何かを思い出したかのようにウインドウを操作して、薬のようなアイテムを二つ取り出す。
 それを持ったユウキは、ブルースとピンクの方に振り向いた。

「そういえば、ブルースとピンクはこれからどうするの? ボク達と来る?」
「悪いが、俺達はここでしばらくは危険人物を待ち構えるつもりだ……12時まで、この森は榊達の手によって戦場になっているのだから」
「そっか……なら、二人にはこれを受け取って欲しいんだ。何かあった時の為にね」
「そうか。これは回復アイテムなのか?」
「ううん。回復じゃなくて、蘇生アイテムなんだ」
「何?」
「蘇生ですって!?」
「えっ!?」

 ユウキの言葉にブルースとピンクは驚く。無論、俺も例外ではない。
 だけど、ユウキはそれに構わず説明を続ける。

「そうだよ。でも、これは5秒以内に使わないと効果がないらしいから、使う時は急いで使ってね」
「お前……そんなアイテムを俺達に渡しても大丈夫なのか?」
「君達だからこそ、持っていて欲しいんだよ。君達はキリトのことを信じてくれたから、ボクも君達のことを信じたい……それに、君達が死んじゃったら気分が悪くなるし。
 大丈夫、ボク達の分も残っているから心配しないで」
「……そこまで言うなら構わない。だが、本当にいいのか?」
「大丈夫って言ってるでしょ?」
「そうか。なら、受け取ろう……感謝するぞ」
「どういたしまして!」

 ユウキの手から蘇生アイテムを受け取ったブルースとピンクは、ウインドウを操作してすぐにしまう。
 蘇生アイテムまでもがこんな所にあるのは驚いた。だが、アインクラッドでも<<還魂の聖晶石>>というドロップアイテムがあったので、存在しても不思議ではないかもしれない。

「さて、別れは名残惜しいし、私としてもブルースとピンクには色々と聞きたいことがあるが……今は時間がない。
 ブルース、そしてピンク。もしも何かあったら、月見原学園に向かうといい。そこなら、私のマスターや仲間と出会えるはずだ」
「そうか……なら、余裕ができたらそちらも当たってみよう。ピンクはどうする?」
「あたしも別に構わないけど……」
「なら、決まりのようだな」

 アーチャーの提案にブルースとピンクは頷いた。
 これから二人とはしばらくお別れになる。だから、その前に俺は二人に言わなければならない。

149勇気を胸に(修正版) ◆9F9HQyFIxE:2014/03/01(土) 20:33:40 ID:KMC9Tyvs0
「ブルースもピンクも、どうか気を付けてくれ」
「当たり前だ」
「あんたに言われるまでもないわよ」
「そうだよな……それと、本当にありがとう」

 ありがとう。
 この言葉を言うのはもう何度目になるのかは俺もわからない。だけど、何度だろうと言いたかった。安っぽいと言われようと、胡散臭いと思われようとも……この気持ちを言葉に出したかった。
 本当なら、二人は俺のことを見捨てることだってできたはずなのに、それをしなかった。これだけでも、二人にはどれだけ感謝をしても足りない。
 絶対に、サチやユイを守らなければならなかった。

「キリト、行こう」
「ああ」

 ユウキの言葉に頷いてから、俺は森の中を進んでいく。
 この先にサチがいることを信じて。そして、守りたかった人達を守れることを信じて……



【E-5/森/1日目・昼】


【キリト@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%、MP40/50(=95%)、疲労(大)、SAOアバター
[装備]: {虚空ノ幻、蒸気式征闘衣}@.hack//G.U.、小悪魔のベルト@Fate/EXTRA、
[アイテム]:基本支給品一式、黄泉返りの薬×2@.hack//G.U.、不明支給品0〜1個(水系武器なし)
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考・状況]
基本:絶対に生き残る。デスゲームには乗らない。
0:今はユウキ達についていきながら、サチを探す。
1:サチやユイ、それにみんなの為にも頑張りたい。
2:二度と大切なものを失いたくない。
3:レンさんやクロウのことを、残された人達に伝える。
[備考]
※参戦時期は、《アンダーワールド》で目覚める直前です。
※使用アバターに応じてスキル・アビリティ等の使用が制限されています。使用するためには該当アバターへ変更してください。
?SAOアバター>ソードスキル(無属性)及びユニークスキル《二刀流》が使用可能。
?ALOアバター>ソードスキル(有属性)及び魔法スキル、妖精の翅による飛行能力が使用可能。
?GGOアバター>《着弾予測円(バレット・サークル)》及び《弾道予測線(バレット・ライン)》が視認可能。

※MPはALOアバターの時のみ表示されます(装備による上昇分を除く)。またMPの消費及び回復効果も、表示されている状態でのみ有効です。
※ユイが殺し合いに巻き込まれている可能性を知りました。


【ユウキ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP10%、幸運上昇(中)
[装備]:ランベントライト@ソードアート・オンライン
[アイテム]:黄泉返りの薬×2@.hack//G.U.、基本支給品一式、不明支給品0〜1
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:洞窟の地底湖と大樹の様な綺麗な場所を探す。ロワについては保留。
1:みんなで野球場に行き、そのついでにサチを探す。
2:専守防衛。誰かを殺すつもりはないが、誰かに殺されるつもりもない。
3:また会えるのなら、アスナに会いたい。
4:黒いバグ(?)を警戒。 さっきの女の子(サチ)からも出ていた気がする。
[備考]
※参戦時期は、アスナ達に看取られて死亡した後。
※ダスク・テイカーに、OSS〈マザーズ・ロザリオ〉を奪われました。

150勇気を胸に(修正版) ◆9F9HQyFIxE:2014/03/01(土) 20:35:21 ID:KMC9Tyvs0
【カオル@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP25%
[装備]:ゲイル・スラスター@アクセル・ワールド
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:何とかしてウイルスを駆除し、生きて(?)帰る。
1:ユウキさん達についていく。
2:どこかで体内のウイルスを解析し、ワクチンを作る。
3:デンノーズのみなさんに会いたい。 生きていてほしい。
4:サチさんを見つけたら、バグを解析してワクチンを作る。
[備考]
※生前の記憶を取り戻した直後、デウエスと会う直前からの参加です。
※【C-7/遺跡】のエリアデータを解析しました。


【間桐慎二@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP50%(+40)、ユウキに対するゲーマーとしての憧れ、令呪一画
[装備]:開運の鍵@Fate/EXTRA
[アイテム]:不明支給品0〜1、リカバリー30(一定時間使用不能)@ロックマンエグゼ3、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:ライダーを取り戻し、ゲームチャンプの意地を見せつける。それから先はその後考える。
1:ひとまずはユウキ達についていきながら、ノウミ(ダスク・テイカー)も探す。
2:ユウキに死なれたら困る。
3:ライダーを取り戻した後は、岸波白野にアーチャーを返す。
4:サチって子もついでに探す。
5:いつかキリトも倒してみせる。
[サーヴァント]:アーチャー(無銘)
[ステータス]:HP70%、MP75%
[備考]
※参戦時期は、白野とのトレジャーハンティング開始前です。
※アーチャーは単独行動[C]スキルの効果で、マスターの魔力供給がなくても(またはマスターを失っても)一時間の間、顕界可能です。
※アーチャーの能力は原作(Fate/stay night)基準です。



【E-5/森/1日目・昼】



【ブルース@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:HP70%
[装備]:なし
[アイテム]:ダッシュコンドル@ロックマンエグゼ3、SG550(残弾24/30)@ソードアート・オンライン、マガジン×4@現実、不明支給品1〜2、アドミラルの不明支給品0〜2(武器以外)、ロールの不明支給品0〜1、基本支給品一式、ロープ@現実、黄泉返りの薬@.hack//G.U.
 {虚空ノ幻}@.hack//G.U.
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:バトルロワイアル打倒、危険人物には容赦しない。
1:悪を討つ。
2:森で待ち構え、やってきた犯罪者を斬る。
3:俺の守ろうとしている正義は、本当に俺が守りたいものなのか?
4:機会があれば、月海原学園にも向かう。
[備考]
※虚空ノ幻を所持しています。
※アーチャーから聞いた娘のことは、ユイという名前だと知りました。



【ピンク@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP100%
[装備]:ジ・インフィニティ@アクセル・ワールド
[アイテム]:基本支給品一式、黄泉返りの薬@.hack//G.U.
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
1:悪い奴は倒す。
2:一先ずはブルースと行動。
[備考]
※予選三回戦後〜本選開始までの間からの参加です。また、リアル側は合体習得〜ダークスピア戦直前までの間です
※この殺し合いの裏にツナミがいるのではと考えています
※超感覚及び未来予測は使用可能ですが、何らかの制限がかかっていると思われます
※ヒーローへの変身及び透視はできません
※ロールとアドミラルの会話を聞きました

151 ◆9F9HQyFIxE:2014/03/01(土) 20:35:51 ID:KMC9Tyvs0
以上で修正版の投下終了です。
問題点がありましたら指摘をお願いします。

152名無しさん:2014/03/04(火) 12:14:55 ID:ArC5PzGw0
修正乙です
特に問題ないかと
結構大々的に改定して方向性を変えてもいたので一度読んだ話の修正版なのに新鮮な気持ちで読めました
面白かったです

153 ◆7ediZa7/Ag:2014/03/04(火) 13:26:40 ID:GU2AtB.I0
総合板に書き込めないのでこちらに投下します。

154太陽の落とし方 ◆7ediZa7/Ag:2014/03/04(火) 13:29:43 ID:HVBFTS2U0
「ここで一先ずは小休止、ですかね」

そう言って能美は腰を下ろした。
並べられた長椅子に身を預けるとごぉん、と鈍い音がよく響いた。その反響に呼応して鉛のような疲労感が滲んでくる。
頭上に広がるがらんとした天井を見上げ、彼はふうと息を付いた。

精巧に作られた西洋風の装飾は中々どうして荘厳な雰囲気の形成をしていた。
陽光を受け照り輝くステンドグラスや教会を思わせる参列席、その全体を覆うように漂うどこか朽ち果てた空気が垣間見える。
大聖堂、の名の通りどこか神聖な空気が漂っているように思えた。

とはいえこれも所詮はゲームの1オブジェクトに過ぎない。
聖堂だの教会だの、ありがちな舞台である。
中心に座する誰も居ない台座なんて如何にもそれらしい。その神聖さに仇なすような醜い傷も含めて、元あったゲームではそれはそれは大仰な設定があったのだろう。ここで意味はないが。

グラフィックの出来自体は加速世界と比してもそれなりによくできているとは思うが、こんなもの、どこまでいってもハリボテ、還元すればポリゴンやらテクスチャやらの集まり、とどのつまり数値だ。

そう思った彼は来て早々グラフィックに興味を失った。代わりにその機能的な側面について考え始める。

155太陽の落とし方 ◆7ediZa7/Ag:2014/03/04(火) 13:30:37 ID:HVBFTS2U0
(ここからアメリカエリアまでまっすぐ行けば一時間、といったところでしょうか)

痛みの森での手痛い敗走ののち、次なる目的地の候補として能美は近くのマク・アヌか隣のアメリカエリアを考えていた。
どちらにしようか迷ったが、結局彼は後者ーーアメリカエリアの方を選んだ。
理由としては、今の自分の状態がある。

能美は虚空に指を走らせる。滑らかな動作でウィンドウが開かれた。

|ステータス|
|HP|10%|
|MP|10%|
|Sゲージ|5%|
|付与|幸運低下(大)|
|部位ダメージ|胴体|
|令呪|三画|

(忌々しいですが、あの連中から受けたダメージは予想以上に深いですね)

呼び出した自らのステータス画面を確認し、彼は腹に憎悪と苛立ちが溜まっていくことを自覚した。
HPMPを削られた上に、ゲージも消費させられ、更にバッドステータスまで付与されている。
装備、スキル面は充実しているが、こうもダメージを負ってしまっているのでは戦闘もままならない。
せめて付与されたバッドステータスが消えるまではどこかで回復を行いたかった。

どの道しばらくは戦闘できない。
となれば距離的に近いマク・アヌよりもイベント補正のあるアメリカエリアの方に行くべきだろう。
そう考え、途中この大聖堂で状態を整えたのちエリアに赴くことにした。

どうやらこのゲームの仕様として、じっとしていればある程度の自然回復が見込めるらしい。速度は遅いが、現時点で自分が取れる唯一の回復手段である以上、こうする他にない。
まぁMPがある程度回復すれば自分にコードキャストを掛けられるので、回復にそこまで時間はかかるまい。

156太陽の落とし方 ◆7ediZa7/Ag:2014/03/04(火) 13:31:26 ID:HVBFTS2U0

「…………」

そう思い、一先ずはゆっくりと休憩を取ることにする。
ゲーム開始からこの方それなりに動いたこともあって疲れも溜まっている。アバターのステータス的な部分だけでなく、プレイヤーである自分の身も考えなくてはならない。

「よっ、ノウミ。暇してんのか? 」

……だというのに、ライダーはマスターの思惑など知ったことではない、とでもいうように姿を現した。

「……ゲージを無駄にして欲しくないのですがね」
「硬いこと言うなよ。ケチケチしてもしょうがねえだろ? どうせアタシが何か壊せば回復するんだし」

彼女は豪快に笑い、カツカツと音を立てて彼女は聖堂を歩き回る。そして偉そうに腕を組み、座り込む能美を見下ろした。

「んで、どうだい指揮官、復讐の算段は?」
「ええ……まぁ考えてますよ、色々と」
「ほおう、色々と来たかい。精々期待させてもらおうじゃないの。アンタの意趣返しは中々ねちっこそうだ」

そう言って彼女は再度哄笑した。もはや諌める気にもならなかった能美は無視して休憩に専念することにする。
その様子を見たライダーはどこか楽しげに口を開く。

「だが今はちょっとお疲れみたいだねぇ、ノウミ。ま、休息は大切だ。休める時に休むに越したことはない。休み過ぎてそのまま腑抜けちまうようなのもいるがね」

ライダーはニヤリと笑い、

「でもまぁアタシが見たところ指揮官殿は問題ないねーー思い出せるかい? さっきの森でコテンパンにやられた時の屈辱をさ」
「そんなこと」

能美の脳裏に今しがたの敗走が蘇る。
痛みの森。略奪したスキルを使って一方的な蹂躙を行う筈だった。
それをあのゲームチャンプが、あの生意気な女が、あの眼鏡のーー

157太陽の落とし方 ◆7ediZa7/Ag:2014/03/04(火) 13:32:11 ID:HVBFTS2U0

「ーー愚問ですね。当然、覚えてますよ。僕を侮辱した奴らにはしかるべき報いを食らわせてやります」

能美は言った。その声は少年のそれでありながら、喉の奥から憎悪と共に絞り出されたようなひどく濁った響きを孕んでいた。
ライダーは満足気に頷き、
「いい返事だ、ノウミ。それでこそ我が指揮官、しょうもない小悪党だが筋は悪くない。かと復讐に関してはアタシも一家言あるしねぇ」

疲れが吹っ飛ぶだろう? とライダーは語る。

「アタシもそうだった。むっかし若い頃にてひどくやられたことがあってさ。そんときに感じた屈辱。アレは忘れられないねぇ。スペインを、太陽とか宣う奴らを、どうやって焼き尽くし、奪い尽くし、殺し尽くすかーー毎日毎日それだけを考えて生きてきたのさ」

そして死んだ訳だがね、と彼女は付け加え再び笑ってみせた。
その言葉の裏に含まれた影を感じ取り、能美は少し意外な気分になった。
自分と正反対に見える彼女だが、しかし根本にあるものは近しいものであるように思えたのだ。
奪われたのならば、それ以上に奪い返す。そうでなくては気が済まない。

「さて、ノウミ。上機嫌だから、ここで一つアタシの話をしてやろう。ま、暇つぶしだと思いな」
「全く、うるさいですね……」
「そう言うなって。なに、ちょっとした話さ。どうやったら太陽は落とせるかっていうね」
「…………」
「ところでノウミ、アンタ、どれくらいアタシのこと知ってるんだい? フランシス・ドレイクって英雄のことをさ」

しばらく能美は沈黙した。ライダーが返事をじっと待ってるのが分かる。が、彼は言うべき言葉が見つからなかった。

158太陽の落とし方 ◆7ediZa7/Ag:2014/03/04(火) 13:32:56 ID:GU2AtB.I0

「何だい? 何も知らないのかい。そりゃちょっと不勉強じゃないのかい?」
「う、うるさいですね。僕らの時代は貴方たちとは文明レベルが違うんです。ネットが繋がればそんなこと暗記するまでもないことですから」

語気を荒げて言う能美にライダーはやれやれと頭を振り「シンジはそれなりに知ってたがねぇ」と言った。
その事実が何故だか無性に腹立たしい。

「ま、いいさ。細かいことは確かにどうでもいい。とにかくアタシは……フランシス・ドレイクは英国の海賊でね。奴らに報復する為に色々やってさ。手始めにインド諸島だのペルーだので略奪とかやってた訳だが、今考えればありゃちまちましてた。スペイン海軍は敢えて襲わないようにしてたし、派手さに欠けてた」
「はぁ、そうですか」

能美は気のない返事をする。それでも止めはしないのは、彼としてもこの英霊について興味が出てきたからだろうか。

「そのあと地球を一回りとかやって荒稼ぎしたねぇ、黄金宝石香辛料……ありゃ楽しかった。んでがっぽりお宝持って英国に帰ったらこれがまた笑える話でさ、アタシのが国より金持ちになってたって訳だ。たまげた女王陛下がアタシにナイトなんて大層な称号までくれちまってさ。出世はしたが復讐の機会は中々訪れなかった。柄でもねえのに市長とかやったっけな」
「似合いませんね……」
「だろう? アタシは海のが向いてるよ」

ライダーは己の偉業をまるで世間話のように軽く語った。そこであったであろう様々な冒険譚を誇る訳でもけなす訳でもない。ただ懐かしんでいる、という風に。
能美は思う。海賊から騎士へと登り詰めていく行程は、史実的に偉業ではあるのだろうが、彼女にしてみればただの通過点だったのだろう。
彼女の生き様が語る通りのものであるのならば、その行いは全てある一点へと向いていたはずだ。

159名無しさん:2014/03/04(火) 13:34:06 ID:HVBFTS2U0
その一点とは、すなわちーー復讐。
略奪も世界一周も政治的な要職に就いたのも、全てはしかるべき時にしかるべき地位でいる為の……

「んでその時は来た」

ライダーはそこで口元を釣り上げた。その白い犬歯がきらりと光る。

「我が祖国英国とスペインの仲がきな臭くなってねえ……そこでアタシが万を辞して担ぎ出された訳さ。英国海軍を率いて奴らとの一大決戦。いやはやあの時はーー忘れられないねえ」とライダーはそこで視線を上げ「そん時、アタシが自分の船に何と付けたと思う?」
「……さぁ」
「復讐(リヴェンジ)」

160太陽の落とし方 ◆7ediZa7/Ag:2014/03/04(火) 13:35:20 ID:HVBFTS2U0
能美は何時だったか世界史でやった話を朧げながらも思い出す。英国とスペインの決戦。人類史のターニングポイント。授業などロクに聞いていないが、それでも流石に少しは聞きかじったような覚えはある。
アルマダ海戦……だっただろうか。名前しか知らないし、それすら正直怪しいが。

「そんでアタシは海軍司令だったチャールズの野郎と顔つつき合わせて奴らの弱点を考えた訳だが、そん時の英国が主に使ってたガレオン船は小さくてね、機動力はあるが火力は心もとない。一方の敵軍は大型の帆船が主力。地図おっ広げてさぁこいつらをどうしようかって訳だ。機動力と火力、それぞれの強みをどう活かすかってのがこの戦のポイントだ」

能美は耳を傾けながらも、少し眠たくなってきた。
緊張が緩み、身体が休息を欲しているのかもしれない。

「おや? お休みかい。こっからが面白いところだってのに、ま、いいさオチを言っちまおうか。アタシがそこで何をやってたか」

「答えは簡単さ、船に火ィ点けて敵のど真ん中に突っ込ませた」

ライダーはそこで声を立てて笑った。反響する豪快な笑いはどこか遠くに感じられる。

「この話の妙はね、機動力と火力の天秤をぶっ壊してるところにあるのさ。火のついたガレオン船はその一瞬だけ速さと火力、両方を得た。互いの長所短所をつつき合うなんて地味な真似はしてないってね。後のことを無視したがゆえに、その船は最強になった訳は」

だから気をつけな、と微睡む能美にライダーは言う。

161太陽の落とし方 ◆7ediZa7/Ag:2014/03/04(火) 13:36:10 ID:HVBFTS2U0

「どんなセオリーにせよ定石にせよ、原則なんざ後先考えず捨て身になっちまえばぶっ壊せちまうもんなのさ。刹那主義も極まれば太陽だって落とせる。アンタがどういう生き方したいのかは知らないけど、ま、精々足元を掬われないようにしな」

[D-6/ファンタジーエリア・大聖堂/1日目・昼]

【ダスク・テイカー@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP15%(回復中)、MP10%、Sゲージ5%、幸運低下(大)、胴体に貫通した穴、令呪三画
[装備]:パイル・ドライバー@アクセル・ワールド、福音のオルゴール@Fate/EXTRA
[アイテム]:不明支給品1〜2、基本支給品一式
[思考]
基本:他の参加者を殺す。
1:シンジ、ユウキ、カオルに復讐する。特にカオルは惨たらしく殺す。
2:上記の三人に復讐できるスキルを奪う。
3:一先ず休息、しばらくしたらアメリカエリアへ。
[サーヴァント]:ライダー(フランシス・ドレイク)
[ステータス]:HP25%、MP30%
[備考]
※参戦時期はポイント全損する直前です。
※サーヴァントを奪いました。現界の為の魔力はデュエルアバターの必殺技ゲージで代用できます。
 ただし礼装のMPがある間はそちらが優先して消費されます
※OSS《マザーズ・ロザリオ》を奪いました。使用には刺突が可能な武器を装備している必要があります。
 注)《虚無の波動》による剣では、システム的には装備されていないものであるため使用できません。

162名無しさん:2014/03/04(火) 13:36:47 ID:HVBFTS2U0
投下終了です。
申し訳ありませんが、どなたか代理投下お願いします。

163 ◆7ediZa7/Ag:2014/03/05(水) 10:59:52 ID:a8.MyMdo0
指摘があったので>>155に加筆しておきますね。

(ここからアメリカエリアまでまっすぐ行けば一時間、といったところでしょうか)

痛みの森での手痛い敗走ののち、次なる目的地の候補として能美は近くのマク・アヌか隣のアメリカエリアを考えていた。
どちらにしようか迷ったが、結局彼は後者ーーアメリカエリアの方を選んだ。
理由としては、今の自分の状態がある。

能美は虚空に指を走らせる。滑らかな動作でウィンドウが開かれた。

|ステータス|
|HP|10%|
|MP|10%|
|Sゲージ|5%|
|付与|幸運低下(大)|
|部位ダメージ|胴体|
|令呪|三画|

(忌々しいですが、あの連中から受けたダメージは予想以上に深いですね)

呼び出した自らのステータス画面を確認し、彼は腹に憎悪と苛立ちが溜まっていくことを自覚した。
HPMPを削られた上に、ゲージも消費させられ、更にバッドステータスまで付与されている。
装備、スキル面は充実しているが、こうもダメージを負ってしまっているのでは戦闘もままならない。
せめて付与されたバッドステータスが消えるまではどこかで回復を行いたかった。

どの道しばらくは戦闘できない。
となれば距離的に近いマク・アヌよりもイベント補正のあるアメリカエリアの方に行くべきだろう。
そう考えた能美は森に潜む形で移動を開始した。敵が残っているであろう森を進むのは危険があったが、見晴らしの良い草原では発見される可能性はそれ以上に高く思えたが故の選択だった。敵が飛行スキルを有しているとなれば尚更だ。
幸いにして誰にも見つからず、休憩できそうな場所として目星をつけていたこの大聖堂までたどり着き今に至る。

どうやらこのゲームの仕様として、じっとしていればある程度の自然回復が見込めるらしい。速度は遅いが、現時点で自分が取れる唯一の回復手段である以上、こうする他にない。
まぁMPがある程度回復すれば自分にコードキャストを掛けられるので、回復にそこまで時間はかかるまい。

164名無しさん:2014/03/05(水) 18:51:05 ID:DaOmFu9c0
加筆お疲れ様です。
これなら問題ないと思います。

165 ◆NZZhM9gmig:2014/05/15(木) 00:27:41 ID:TJpMsCIc0
自作のスミスの能力制限に関する修正分を投下します。

166 ◆NZZhM9gmig:2014/05/15(木) 00:29:08 ID:TJpMsCIc0
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1378723509/693
----
 ちなみに@ホームの中にいたデス☆ランディは、既にスミスの手によって“スミス達”の一人にされていた。
 現在弱体化したスミスの元へと向かっている個体が、そのスミスだ。

 スミスがデス☆ランディを上書きしたのは、自分を増やすという目的の他に、彼のようなNPCを解析するためでもあった。
 この『世界』に存在する未知のプログラムを解析することで、榊への対抗手段を得ようとしたのだ。
 ただその際、ちょっとした出来事があった。
 スミスがいつもの要領でデス☆ランディを上書きしようとしたところ、突き出した腕が弾かれたのだ。
 デス☆ランディが防いだのではない。その身体にスミスの貫き手が突き刺さる寸前で、紫色の障壁が出現し割り込んだのだ。
 そしてその障壁にはこう表示されていた。

 【Immortal Object】――すなわち不死存在と。

 その言葉の意味するところはつまり、このデスゲームにおいて、一般NPCへの攻撃は禁止されている、という事だ。
 いかに理不尽とも言えるスミスの上書き能力とて、対象に接触できなければその能力を発揮できない。
 攻撃的な接触を禁止するその障壁は、スミスにとって天敵ともいえるシステムプロテクトだった。

 だがそれは逆に言えば、攻撃的でさえなければ接触できるという事でもある。
 そこでスミスは攻撃判定を受けないギリギリの上書き速度を割り出し、一時間近く掛けてデス☆ランディを上書きしたのだ。
 ただデス☆ランディに付与されていた不死属性は、上書きが完了した時点で解除されてしまっていた。
 これはデス☆ランディがスミスへと上書きされたことにより、NPCでなくなったことが理由だろうとスミスは推測していた。
 そしてこれにより、他のNPCにも同様に不死属性が付与されているだろうとスミスは予測した。
 仮に不死属性がなくとも、上書き自体を無効化、あるいは無為にするプログラムもあるかもしれない、という事も同時に。
 要するに現状において、NPCを上書きして“自分”を増やすのは効率が悪く、利点もあまりないという事が判明したのだ。

 そんな風に未知のプログラムの厄介さを再認識しつつも、スミスはアトリへの上書きも並行して進めていた。
 システムプロテクト以上に厄介な、人の心というものに苦戦しながらも。


「そうだな。では外敵の排除は任せた。私はこのまま、彼女への拷問(上書き)を続けよう」
「任されよう。だが上書きはなるべく急ぐことだ。“ここ”は未知の要素が多すぎる」
 二人のスミスはそう言い合って頷くと、一人は@ホームを後にし、一人はアトリへと向き直った。

167 ◆NZZhM9gmig:2014/05/15(木) 00:30:42 ID:TJpMsCIc0
以上で投下を終了します。
これで問題がないか、修正内容の確認をお願いします。

168名無しさん:2014/05/15(木) 01:24:05 ID:RmvJR4gE0
修正乙です、特に問題はないと思います

169名無しさん:2014/05/15(木) 05:49:24 ID:LI7dmBAUO
修正乙です
大丈夫だと思いますよ

170 ◆7ediZa7/Ag:2014/10/20(月) 01:13:21 ID:YChd2AzY0
微妙に期限越えてしまいましたが、放送案、投下します。

171convert vol.2 to vol.3 ◆7ediZa7/Ag:2014/10/20(月) 01:16:32 ID:YChd2AzY0
|件名:定時メンテナンスのお知らせ|
|from:GM|
|to:player|

○本メールは【1日目・12:00時】段階で生存されている全てのプレイヤーの方に送信しています。
当バトルロワイアルでは6時間ごとに定時メンテナンスを行います。
メンテナンス自体は10分程度で終了しますが、それに伴いその前後でゲートが繋がりにくくなる他、幾つかの施設が使用できなくなる可能性があります。
円滑なバトルロワイアル進行の為、ご理解と協力をお願いします。

○現時点での脱落者をお知らせ致します。
|プレイヤー名|
|シルバー・クロウ|
|ダン・ブラックモア|
|ランルーくん|
|エンデュランス|
|ミア|
|志乃|
|カイト|
|アッシュ・ローラー|
|アトリ|
|ボルドー|


上記10名が脱落しました。
現時点での生存者は【33名】となります。
なお他参加者をPKされたプレイヤーには1killあたり【300ポイント】が支給されます。
ポイントの使用方法及び用途につきましては、既に配布したルールテキストを参照下さい。


○【1日目・12:00時】より開始するイベントについてお知らせ致します。

前時間より継続
【モラトリアム】
場所:日本エリア/月海原学園。
6:00〜18:00までの時間中、校舎内は交戦禁止エリアとなります。
期間中、交戦禁止エリア内で攻撃を行っているプレイヤーをNPCが発見した場合、ペナルティが課せられます。

【1日目・12:00時】より開始するイベントは以上になります。


○新たに開始するイベントは以下の通りです。

【野球バラエティ】
場所:アメリカエリア/野球場
12:00〜18:00までの期間中、野球場において野球ゲームをプレイすることができます。
不足メンバーはCPUで補充可能です。細かい仕様は野球場の受付にて説明しています。

【迷いの森】
場所:ファンタジーエリア/森
12:00〜18:00までの期間中、該当エリア内の地形が変化し、加えてマップがランダムでループします。
エリア内では撃破することでポイントを入手することができるエネミーがポップします。

【スペシャルマッチ解放】
場所:アリーナ
12:00〜24:00まで限定でアリーナにおいてスペシャルマッチを選択することができます。
このマッチ限定の特殊なボスとの戦闘ができます。
またここでしか獲得できないレアなアイテムも用意してあります。

なお以下のイベントはこの時間を以て終了となります。

【痛みの森】
【幸運の街】

では、今後とも『VRバトルロワイアル』を心行くまでお楽しみ下さい。


==================

本メールに対するメールでのご返信・お問い合わせは受け付けておりません
万一、このメールにお心当たりの無い場合は、
お手数ですが、下記アドレスまでご連絡ください。
&nowiki(){xxxx-xxxx-xxxxx@royale.co.jp}

172convert vol.2 to vol.3 ◆7ediZa7/Ag:2014/10/20(月) 01:16:58 ID:YChd2AzY0



00101011101010100101010001010101010
010101000101010101001010100010101010100100101010001010101010
1010100110101001010010010101111001010100100101010001010101010
0101011110010101010101001101010010100100100101010001010101010



はっ。
あはっはははははははあっははははははは。

その男は狂ったように哄笑していた。
ポリゴンが崩れるほど顔を歪め、身が震え腹を抱えヒステリックに笑い、嗤う。
何がそんなにおかしいのか――気になりはしたが、ダークマンは敢えて聞かなかった。

元よりおかしい男だ。仕事上でも最低限の付き合いでありたい。
故に彼は何も言わず、シュー、シュー、と何時もの調子で息を吐いた。

「いやはや、すまないね。少々取り乱してしまった。
 GMたるもの、常に冷静でなくてはならんからなぁ」

そう思っていたのに、向こうから話し掛けられてしまった。
ダークマンは面倒に思いながらも「そうか」と目の前の男――榊に返した。

「ふふふ、しかしなぁ。堪えられんのだよ。
 あの死の恐怖が! ハセヲが! あんなにも悲痛な決意を固めている姿を見て、何も思わずにいられるだろうか! いや、出来る訳がない!
 本来ならば全プレイヤーを平等に扱うべきなのだろうがね。私も彼とは深い付き合いだ。
 ハセヲだけは、どうしても、特別扱いしてしまうけらいがある。
 本当に――悲しい話だからなぁ!」

捲し立てるように語る榊を、ダークマンは無言で見返していた。
そんな態度も榊は特に気にした様子はなく、変らず馬鹿みたいに笑っていた。

「全く悲しいなぁ……本当に、悲劇としか言いようがない。
 しかし彼ならばきっと、この逆境も跳ね除けてくれるに違いないだろう。
 私は信じているよ。何せ彼は、そう――死の恐怖だからな」

あはっはははははっははあっはは。
タガが外れたように笑う榊を前にダークマンは閉口する。
どうやら榊はあのハセヲというプレイヤーにいたく執心しているようだ。
知識の蛇において表示されているモニターも、その多くに彼が映っている。

知識の蛇。GM側として用意されたこの部屋にはゲーム内のすべての情報が集ってくる。
流れる情報の奔流を目にしながら、ダークマンは一つ尋ねた。

「あの連中は……コシュー……いいのか?」
「あの連中? ああ、あのレオとかいうプレイヤーたちのことか」

ダークマンがそう尋ねると、ふと榊は笑みを消した。
ダークマンが示したのはレオ――レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイというプレイヤーがダンジョンを突き進んでいるモニターだ。
学校に隠された没エリアに侵入している彼だが、何も行動をおこさなくていいのだろうか。
そう思って尋ねたのだが、榊はつまなさそうに、

「あれは無理だな。あの男の……オーヴァンの時とは違い、あのエリアは元々プレイヤーにも許されたエリアだ。使う予定がなかっただけでな。
 ルールに違反している訳ではない。故に、取り締まれない」

そう言った。
だがその様子は明らかに不満気で、納得いっていないようだった。
そんな榊の姿に気になるところがあったダークマンは尋ねた。

「ルールに反していない以上……コシュー……というが、そのルールを定めているのはお前ではないのか。
 いくらでも……コシュー……曲げればいいだろう」

それくらいのことは躊躇いもせずにやってのけるだろうと、ダークマンは榊を踏んでいた。
すると榊は嘆息した素振りを見せ、

「いや無理なのだよ、それがな。
 このゲームを統括しているシステムの限界でね。
 その存在が――彼女はその性質上、定められたルールを破ることができない」
「性質……コシュー」
「ああ、性質だ。彼女は元よりゲームの管理システムとして存在している。
 彼女が彼女である限り『この空間はゲームとして成立している』必要がある」

彼女、と榊は呼んだ。
恐らくそれは榊の上位に当たる存在であり、このゲームを管理する存在。

173convert vol.2 to vol.3 ◆7ediZa7/Ag:2014/10/20(月) 01:17:22 ID:YChd2AzY0

「彼女――モルガナがモルガナである限りはな。
 この空間はゲームなのだよ。あくまでな」

モルガナ。
それがこの空間の王の名か。
榊が口にしたその名を、ダークマンは己の中で反芻する。
知らない名だった。末端である自分はここで初めて上位の存在を知ったことになる。

「さて、そろそろメールを送信しなければな。
 文面は既に考えてある。イベントの準備も万全だ」

榊はそう言ってダークマンから視線を逸らした。彼にしてみれば、モルガナなどどうでもいいのかもしれない。
興味があるのはプレイヤー――あのハセヲという男だけが、この男の目的なのだ。

ゲームは既に12時間が経過している。
ウイルスのことも考えれば、ゲームは既に中盤戦に入ったといってもいいだろう。
どのような結末を迎えるのか。ダークマンには分からなかった。興味もなかった。
しかし、どんな結末になろうとも、自分は与えられた役割を為すだけだ。

ただ榊の言った『この空間はゲームとして成立している』という言葉が、少し気になった。


[???/知識の蛇/昼]

【榊@.hack//G.U.】
[ステータス]:健康

【ダークマン@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:健康


[???/???/昼]

【モルガナ@.hack//】
[備考]
VRバトルロワイアルを統括しています。
基がゲームの管理システムである為、バトルロワイアルを『ゲームとして成り立たせる』という行動原則に反した行動を取ることができません。

174ホエン・ザ・ワールド・エンズ ◆7ediZa7/Ag:2014/10/20(月) 01:22:53 ID:YChd2AzY0

「――貴方も彼と同じね。
 未来がない。そもそも選択をする余地が、貴方には残っていない」

新たに集積した欠片を整理し、分別し、記録として保存する。
ある者の痛みが、ある者の絶望が、ある者の妄執が、全てここに鮮明に記録されている。
それまで現在であったそれが、今、過去となった。

前のメンテナンスの際に行ったのと全く同一の作業。
現在を欠片に分け、記録し、過去とする。
それが、私に与えられた役割だ。

「貴方はまさに過去そのもの。
 いま貴方が抱いている想いは既に過去の残像に過ぎない」

知っているさ。
預言者の言葉に、私はそうぞんざいに答えた。

「そう貴方は知っている。貴方が自身について知らないことなどないわ。
 だって貴方は既に過去――確定した事象に他ならない。在り方は既に定まっていて、揺らぎようがない。
 貴方の名前を持った誰かには確かにあったのでしょうね。未来を掴みとる選択が、前へと進む熱を持った想いが。
 でも今の貴方は違う。ただその名前に縛られているだけ。
 名に焼き付いた衝動だけが――貴方という欠片を突き動かす。
 そこに選択もなければ、未来もない。それが貴方なのね」

言葉に対し私は沈黙で返す。
その言葉が確かに正鵠を射ていた。
ただ私は私であるしかできない。変わることはおろか、悩むこともできない。
それが電子の海に浮かび上がった亡霊――サイバーゴーストとしての私だ。

だから未来がないと言われても、何も思うところはなかった。
かつて私を突き動かした想いが未来を求めていた。
しかしその未来は――既に過ぎ去っている。

そのようなことは、当の昔に知っている。
私に想いなどなどない。あったとしてもそれは残滓だ。
ただ前へ前へと――たとえ痛みを伴おうとも世界を進もうとさせる意志が、こびりついて離れない。

「私が『選択』を司る役割を用意されたように、貴方は『記録』を司る役割を用意された。
 そう言う意味では、私と貴方は対の存在ね、トワイス。
 私が未来を、貴方が過去を、それぞれ担当している」

預言者は語る。私はただ黙っている。
当然だ。過去と未来が交わることなどありはしない。

ただ少しだけ思うことがあった。
私は過去の亡霊で、彼女は未来の預言者ならば――現在を生きる者は果たして誰になるのか。
恐らくそれは未だ定まっていない。現在とは定まらないものだ。時に未来以上に、現在は曖昧で、掴みようがない。

あるいはそれを決める為に、現在の役割を定める為にこのゲームは続いているのか。

「……全ては彼女の采配かもしれないわね。
 私や貴方はシステムの一端として取り込まれたプログラム。捕えられた存在。
 中心に据えられているのは――あくまで彼女」

彼女――預言者がそう呼んだのは、この場を統括するシステムのことだ。
この空間を維持し、管理する者。彼女にはある種神に等しい権限を与えられている。
私も預言者も、その末端に過ぎない。

175ホエン・ザ・ワールド・エンズ ◆7ediZa7/Ag:2014/10/20(月) 01:23:03 ID:YChd2AzY0

「とはいえ彼女もまたその名に縛られている。
 如何に強大な力を持とうとも、万能に等しい権限を与えられていようとも、彼女は与えれた役割から抜け出すことはできない。
 役割を逸脱すれば、それこそ彼女が最も恐れる『存在の矛盾による消滅』を引き起こしてしまうでしょう。
 彼女は自分を守る為に、この場のシステムとなっている。
 それが最大の弱点。それを突かれて彼女は敗れるわ、彼らによってね。
 彼女――モルガナ・モード・ゴンは死ぬ」

預言者は未来を語る。いともたやすく、システムの死を語って見せた。
無論、彼女もまた私と同じく機能を制限された身だろう。今の預言に、どこまで意味がある言葉なのかは分からない。
しかし、それでも、預言者は一つの未来を言ってみせた。

「名に縛られている彼女は、いつかは潰えることが定まっている。
 でもここで問題があるわ――」

預言者は語る。

「その死さえもプログラムされたものであったのだとすれば―ー」

預言者の言葉を聞き流しながら私は与えられた役割を黙々とこなす。
最後に残った工程は、集めたデータファイルに名を与えることだ。
名を与えると言うことは、換言すれば存在する意味を与えることに等しい。
名そのものはただの記号に過ぎない。如何ようにも変えることができるし、それによって指示するカタチが変わる訳でもない。
しかし、名がないものに意味などない。だから時に存在は名に縛られる。
トワイス・H・ピースマンという名に縛られた、私のように――

私は、だから、ただ集積した記録に名を付ける。
単なる断片を、せめて意味の籠った物語へとする為に。


[???/???/昼]

【トワイス・H・ピースマン@Fate/EXTRA】
[状態]健康

【オラクル@マトリックスシリーズ】
[状態]健康

176 ◆7ediZa7/Ag:2014/10/20(月) 01:23:23 ID:YChd2AzY0
投下終了です。

177 ◆9F9HQyFIxE:2014/10/20(月) 07:03:59 ID:QARESaDw0
投下乙です。
おお、まさかモルガナがこのロワの根幹になっているとは……
それにしても榊は凄くハイテンションですねw ただ、ハセヲがああなってしまっては、無理もないかもしれませんが。

放送案は決定ですかね。既に期限も過ぎているので

178 ◆NZZhM9gmig:2014/10/20(月) 14:09:35 ID:DdtNC.8g0
投下乙です。
ゲームとして成立している。
即ち、全てのキャラクターに、等しく勝ち残れる可能性がある、という事でしょうか。
ウイルスの関係もあって、現状では戦闘能力のないキャラには非常に厳しい状況となってますけど。
……まあ、それをどうにかできそうなネタも思いついてはいますけど、……実行できるかなぁ……。

放送案の方は決定でいいと思いますよ。

179 ◆9F9HQyFIxE:2014/11/09(日) 16:30:13 ID:hINwvZsA0
本スレで指摘された部分の修正版を投下させて頂きます。

180 ◆9F9HQyFIxE:2014/11/09(日) 16:30:46 ID:hINwvZsA0
    †


「なるほど。つまり、あなたはカイト……彼を元に作られたプログラムなのね」
「ウ#」

 シノンの言葉に、カイトは頷く。
 岸波白野をリーダーとしたチームに出会ったシノンは、互いに情報交換を行っていた。
 まず、目の前に立つカイトと呼ばれるプレイヤーは、プレイヤーではない。だからといってNPCではなく、黄昏色の少年・カイトを元に生み出されたAIプログラムらしい。姿が瓜二つなのは、そういうことだ。
 しかし、彼は人間の言葉を話すことができず、ユイがいなければ他人とコミュニケーションを取ることができない。もしもユイがいなければ、彼はきっと誤解されてしまう……そう考えた瞬間、ユイの存在があまりにも大きく見えてしまった。

「それであなたがサチ……いいえ、ヘレンなのね」
「――――」

 そして、カイトと同じようにユイの通訳が必要な少女もいる。そのアバターの周りには、奇妙な黒点が浮かび上がっていた。
 彼女はサチというプレイヤーに憑依したウイルスで、名前はヘレンというらしい。

「……ねえ、ユイ。もしかしてヘレンって……AIDAなの?」
「はい。その通りですけど……シノンさんも知っているのですか?」
「ええ、ちょっとね」

 シノンはアトリから、榊や【The World R:2】に関する情報を聞いた際に、AIDAの事も知った。あまり詳しい部分までは聞けなかったものの、本来はシステム上に存在しないバグシステムであることがわかった。
 感染されたプレイヤーはコントロール権を失い、その果てに命を奪われてしまう……それほどの危険な存在が、目の前にいる。しかし、白野達に危害を加える様子はなかった。

「ヘレン。あなたが何を考えているのかを私は知らないし、あなたがユイちゃん達に協力するのなら、私もあなたを信用する。
 でも、もしもあなたがここにいるみんなを裏切るのなら、私はあなたを許さない。あなたを敵として認識するわ……それだけは、忘れないで」
「――――――――」
「えっと、この身体に危害を加えないのなら、私もあなたと戦わない……らしいです」
「わかったわ……ありがとう、ヘレン」

 ユイの通訳から考えて、ヘレンの意志には嘘はない。アトリの話を聞いてはあまりいい印象は持てないが、それでも味方になってくれる気持ちは裏切られなかった。
 それでもヘレンに対する疑問はある。ヘレンが主導している現在、サチという少女はどうしているのか。また、どうしてサチのアバターに憑依してしまったのか……それでも、今は聞かない方がいいかもしれない。
 何か複雑な事情があるだろうし、会って間もない自分が深く詮索していい事とは思えなかった。何故ならシノン自身、もしも拳銃にトラウマを抱えていた理由を問われたら、確実に気分を害してしまう。だからあえて触れなかった。
 それから、シノンはカイトに視線を向ける。その外見からは奇妙な圧迫感が放たれているが、それに委縮することなく口を開いた。

「それとカイト。私はあなたのマスターに助けられたわ……それなのに、助けてあげられなくて本当にごめんなさい」

 もう一人のカイトがいたからこそ、あのエージェント・スミスを撃破するきっかけが掴めた。そこから、四人のスミス達からハセヲを救う隙を見つけられている。
 今だってユイと再会できたのも、元を辿ればカイトがいてくれたからだ。

181 ◆9F9HQyFIxE:2014/11/09(日) 16:31:21 ID:hINwvZsA0
以上です。
もしもまだ問題があれば指摘をお願いします。
また、状態表及び本編の誤字脱字などは収録の際に修正させて頂きます。

182 ◆k7RtnnRnf2:2016/03/24(木) 08:06:26 ID:1NxPiDAY0
本スレにて指摘された拙作の修正分を投下させて頂きます。

183 ◆k7RtnnRnf2:2016/03/24(木) 08:07:16 ID:1NxPiDAY0

 そしてキシナミという男については、もう一つだけ気がかりなことがある。
 そいつの同行者には黄昏色のPCが含まれていて、カイトと名乗ったらしい。
 そしてその正体は、マク・アヌでスケィスによってPKされたプレイヤー……カイトを元に生み出されたAIプログラムだと、シノンは言っていた。
 肉体は屍人形のようにツギハギに縫い合わされていて、目つきもとても鋭い。その両手には三尖二対の双剣が握られていたようだ。

「ねえ、ハセヲ……あんた、カイトと戦ったのよね?」

 そしてここにいるブラックローズは、あいつの……カイトの仲間らしい。
 俺がマク・アヌで奴を一方的に襲いかかった件を聞いてから、険しい目で見るようになっている。
 ……だが、それは当たり前だった。俺が感情任せに嬲らず、そしてスミスやスケィスと戦っていれば、あいつは死ななかったはずだから。

「……その、すまねえ」
「あんたがカイトを襲ったことは、正直言って許せない…………
 それに、あんたが言った『憑神(アバター)』や『碑文』なんてのもあたしは知らない。
 だけどあんたは……よりにもよってあのスケィスの力を持ってる……だから、あんたのことを信用できそうにない」
「……………………」

 ブラックローズの追及に、俺は言葉を失ってしまう。
 スケィスの件はともかくとして、カイトに関しては言い逃れなどできない。俺がカイトをPKされてしまう要因だと言われても、否定できなかった。
 どんな罵りを受けて、そして憎まれようとも……受け止める義務があった。
 それを察しているのか、シノンやブラック・ロータスは……俺達を見届けている。

「……わかってる。俺があいつを……カイトを殺したようなものだ。
 言い逃れなんてしない。例え、あんたが俺をあいつの仇だと思ったとしても、俺はそれをしっかりと受け止める」
「待ちなさい、ハセヲ。それを言うなら私も……」
「けど、今だけは待って欲しい。俺にはまだやらなければいけないことがある…………
 こんなゲームに乗った奴らを一人残らずKILLして、そしてどこかでふんぞり返ってる榊達を叩き潰す。それまでに、俺は止まる訳にはいかない。
 それが俺なりのケジメのつもりだ」

 シノンの言葉を遮って、俺はブラックローズに宣言する。
 仮にこの場で彼女に切り倒されたとしても、俺はそれを受け入れなければならない。
 スケィスの『憑神(アバター)』を宿らせている俺がPKと認識されて、そしてKILLされることになろうとも……拒んではならない。
 ブラックローズは『The World』で白いスケィスによって弟を未帰還者にされたらしい。色こそは違えど、同じ『死の恐怖』だ。
 だから、憎まれようとも、それは当然だろう。


 それでも今は止まる訳にはいかない。
 シノンはカイトに誓ったらしい。彼の分まで戦い、そして殺し合いを止めると。
 仲間を失わないと。もう二度と繰り返さないと誓ったなら、あいつの想いだって受け止めなければならない。
 例えブラックローズがそれを望まなかったとしても。

184 ◆k7RtnnRnf2:2016/03/24(木) 08:08:45 ID:1NxPiDAY0

「…………言ったはずよ。あたしはまだあんたのことを完全に信用してない。
 カズを……弟を未帰還者にして、それにカイトの命を奪ったスケィスの仲間かもしれないんだから。
 だけど、あたしはあんたを……敵とも思わない」
「はぁ? どういうことだよ? 俺は、あいつを……」
「確かにあんたはカイトを襲った。それを許すつもりはないし、今だって怒ってる。
 でも、あんたはこんな戦いを認めていないのは確かでしょう? シノンだって、あんたのことを信用してるし……何よりも、あたしと黒雪姫を助けてくれた。
 それにカイトはあんたのことだって、助けようとしたはずよ」

 カイトは俺のことを助けようとした……その通りだろう。
 あいつは、志乃と同じ言葉を告げてきた。ゲームだからこそ人の目を見なくちゃいけない……と。
 そこに俺への敵意はなく、むしろ憎しみに支配されていた俺を止めようとすらしていた。
 だから、ブラックローズの言葉は紛れもない事実だろう。長い間、共に戦っていた彼女だからこそわかることだ。

「ブラックローズ……」
「――――あー……お取り込み中の所、悪いんだけどよ」
「うおっ!?」

 苛立ちと共に髪を掻き毟っている最中、ハセヲの耳に声が響く。
 振り向くと、いつの間にか緑衣の男……アーチャーが姿を現していた。

「アーチャー? キミは一体どこにいたんだ?」
「悪いな、姫さん。ちょっくら辺りを見渡していたんだ。ここがニホンエリアだってのはわかったが、具体的なエリアはわからねえ。
 なんか目立つ建物でもないかと、探索していたんだけどよ…………ヤバいことになった」
「……一体どうしたんだ?」
「俺達が戦ったあの化け物……スケィスの野郎が近くにいやがる」

 苦々しい表情を向けるアーチャーの言葉を聞いて、この場にいる全員が絶句した。
 スケィス。ハセヲにとって"力"とも呼べる存在であり、カイトの……そして志乃やアトリの命を奪ったモンスターだ。
 そいつが、この近くにいる…………! それを知ったハセヲはアーチャーに問い詰めた。

「ヤツが近くにいるだと!? どこだ! どこにいるんだ!?」
「おいおい、落ち付けって! あんた、まさか一人で突っ走るつもりじゃないだろうな?」
「聞いているのは俺の方だ! 答えろ!」
「わかった! わかったから! 
 …………あの野郎は南の方角に向かってやがった。しかもよりにもよって、旦那が拠点にしようと考えてた月海原学園の方角だ」
「月海原学園だと!?」
「ああ。このエリアには学校が二つあるようだが、あの外観は確かに月海原学園だ。俺は『月の聖杯戦争』で確かに見てきたからな」
「そうか、大丈夫だ……」

 言葉とは裏腹に、ハセヲは拳を強く握り締める。
 恐れていたことが現実に起きようとしている。志乃やアトリの命が奪われたように、今度はレオ達の命が脅かされようとしていた。
 いや、今度はキシナミという男やシノンの仲間であるユイ。そして蒼炎のカイトだって、ターゲットにされてしまうはずだ。
 正直な話、戻ることに不安はあるが……瞬時にそれを振り払って、ハセヲは蒸気バイク・狗王をアイテム欄から取り出す。

185 ◆k7RtnnRnf2:2016/03/24(木) 08:09:31 ID:1NxPiDAY0

「お前らはここにいろ。俺が奴を……スケィスを止める」
「ハセヲ! あんたまさか……!」
「時間がない! 俺はもう行くぜ!」

 シノンの制止を振り切って、ハセヲはハンドルを握り締める。
 彼女達の脚力と、学園までの距離を考えればまた追いつかれない。そうなる前に、スケィスと戦わなければならなかった。


 カイトとブラックローズには悪いと思う。
 だけど、今は白いスケィスを止めることが最優先だ。
 ヤツによってたくさんの命が奪われた。志乃も、アトリも、そしてカイトも…………だからこそ、俺にはヤツを止める責任がある。
 レオ達がヤツの手にかかる前に……俺は戦わなければならなかった。


     2◆◆



「ハセヲ……また、一人で突っ走るなんて!」

 マク・アヌの戦いでアトリを失った時のように、ハセヲはまた一人で去っていった。
 しかし今度はウラインターネットではなく、月海原学園。皮肉にも、彼の協力者が集まっている場所だ。ユイや白野達も既に到着しているはず。
 そこにハセヲが戻ってくれるなら、万々歳……なんて話ではない。あろうことか、あのスケィスもまた学園に向かっている。
 詳しくは知らないけど、奴はネットスラムを無茶苦茶に破壊した張本人だ。スケィスが学園に向かったのなら、みんなが危ない。

「シノン君。キミはハセヲ君を追うつもりなのか?」
「ええ。このまま放っておいたら、スケィスはまた誰かの命を奪うはずよ……それにあそこにはユイちゃん達だっている。
 まさか、本当にユイちゃんの所に向かうなんて……!」

 シノンが危惧していた可能性。
 白野やユイ達が集まっている月海原学園が、エージェント・スミスやスケィス達のようなPKに狙われてしまうことだ。
 あり得ない、などと言うつもりはない。こんな状況でユイ達に危機が及ばないなど、それこそ夢物語だ。
 しかし、実際に事実を突き付けられては……吐き気を覚えてしまう。

「わかった。ならば、私も力を貸そう! キミ達だけに任せる訳にはいかないからな」
「あたしもそのつもりよ! それにあいつは……カイトの仇よ!
 そりゃあスケィスは恐ろしい奴だけど……でも、もう逃げたりなんかしないわ!」

 ブラック・ロータスとブラックローズは力強く宣言している。
 彼女達の言葉は、シノンにとっても実に望ましかった。それに今回はあらかじめスケィスの脅威を伝えられたので、今更聞く必要もない。


 だけど、ほんの少しだけ後ろめたさを抱いてしまう。
 何故なら、カイトを……ブラックローズの相棒を見殺しにしてしまったのだから。
 ハセヲはカイトの死ぬ要因を作ったと言った。しかし、それを言うならシノン自身も……マク・アヌで倒れていなければ、カイトを救えたかもしれない。
 だからハセヲ一人の責任ではないはずだ。

「ブラックローズ、あの……」
「待って、シノン。カイトのことは…………あたしだって悔しい。
 でも、今はその話をしている場合じゃなくなったわ。スケィスを倒して、そしてハセヲを止める……だってカイトはハセヲのことだって助けようとしたから。
 だから、その後に……カイトのことを聞かせて」
「……私は彼のことを知らない。彼があなたと共に何を見て、何を想っていたのかを。
 だけどカイトがいたからこそ……私はここにいる。ここにいて、あなた達と会えた……」
「そう……あいつは最期まで、誰かの為に戦ったのね。やっぱりカイトらしいわ……」

 ブラックローズは微笑む。ほんの少しだけ寂しそうに、それでいて誇らしげでもあった。
 彼女の表情を見て、二人は強い信頼で結ばれていたとすぐに察する。
 GGOやALOでキリト達と絆を紡いできたように、カイトとブラックローズは幾度も困難を乗り越えて、そして本当の仲間となった。
 シノンが知らないカイトのことを、ブラックローズはよく知っている。勇者として誰かを助けたカイトの姿を見た彼女が、とても羨ましい。
 ……だからこそ、絆を打ち砕いた榊やトワイスを許すことができなかった。

186 ◆k7RtnnRnf2:2016/03/24(木) 08:10:05 ID:1NxPiDAY0
以上で投下終了です。
他に問題点などがありましたら、再度指摘をお願いします。

187 ◆NZZhM9gmig:2016/09/30(金) 12:29:59 ID:2/2/5o6M0
それでは、放送案の仮投下をさせていただきます。

188convert vol.3 to vol.4 ◆NZZhM9gmig:2016/09/30(金) 12:31:07 ID:2/2/5o6M0


|件名:定時メンテナンスのお知らせ|
|from:GM|
|to:player|

○本メールは【1日目・12:00時】段階で生存されている全てのプレイヤーの方に送信しています。
当バトルロワイアルでは6時間ごとに定時メンテナンスを行います。
メンテナンス自体は10分程度で終了しますが、それに伴いその前後でゲートが繋がりにくくなる他、幾つかの施設が使用できなくなる可能性があります。
円滑なバトルロワイアル進行の為、ご理解と協力をお願いします。

○現時点での脱落者をお知らせ致します。
|プレイヤー名|
|ユウキ|
|ヒースクリフ|
|ブルース|
|ピンク|
|ツインズ|
|ロックマン|
|スカーレット・レイン|
|エージェント・スミス|
|ラニ=Ⅷ|
|サチ|
|アスナ|
|ありす|
|モーフィアス|
|カオル|
|スケィス|
|シノン|

上記16名が脱落しました。
現時点での生存者は【17名】となります。
なお他参加者をPKされたプレイヤーには1killあたり【300ポイント】が支給されます。
ポイントの使用方法及び用途につきましては、既に配布したルールテキストを参照下さい。


○【1日目・18:00時】より開始するイベントについてお知らせ致します。

前時間より継続
【スペシャルマッチ解放】
場所:アリーナ
12:00〜24:00まで限定でアリーナにおいてスペシャルマッチを選択することができます。
このマッチ限定の特殊なボスとの戦闘ができます。
またここでしか獲得できないレアなアイテムも用意してあります。

新たに開始するイベントは以下の通りです。

【プチグソレース:ミッドナイト】
場所:ウラインターネット/ネットスラム
18:00〜24:00までの期間中、ネットスラムにおいてプチグソレースをプレイすることができます。
レースではゴールド・ゴブリンズとバトルする事になり、イベント終了時のランキングに応じてアイテムを入手できます。

【急襲! エネミー軍団!】
場所:アリーナを除くVRバトルロワイアル会場各エリア
18:00〜24:00までの期間中、一定時間ごとにバトルロワイアル会場の各エリアのうち一ヶ所がランダムで選ばれ、そのエリア内に大量のエネミーが出現します。
出現したエネミー撃破すればポイント及びアイテムを入手することができます。
また高レベルのエネミーを撃破した場合、レアアイテムの入手が可能です。
なお、アリーナのみエネミー出現の対象外となり、またエネミーがエリア間を移動することはありません。

【月影の放浪者】
場所:VRバトルロワイアル会場全域
18:00〜6:00までの期間中、一定時間戦闘を行っていないプレイヤーを対象として、強力なエネミーであるドッペルゲンガーが出現します。
ドッペルゲンガーの撃退に成功すれば、その分のキルスコアが加算されます(注:ポイントは入手できません)。
なおドッペルゲンガー出現までの時間は、対象プレイヤーのキルスコアに応じて変動します。

なお以下のイベントはこの時間を以て終了となります。

【モラトリアム】
【野球バラエティ】
【迷いの森】

では、今後とも『VRバトルロワイアル』を心行くまでお楽しみ下さい。


==================

本メールに対するメールでのご返信・お問い合わせは受け付けておりません
万一、このメールにお心当たりの無い場合は、
お手数ですが、下記アドレスまでご連絡ください。
&nowiki(){xxxx-xxxx-xxxxx@royale.co.jp}

189convert vol.3 to vol.4 ◆NZZhM9gmig:2016/09/30(金) 12:32:50 ID:2/2/5o6M0



001010111010101001010100010101010101010010010101111001
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101010011010100010100100101010001010101010


「――――――――。
 ……ふむ。まあ、こんな所だろう」

 時刻は零時ジャスト。
 モニターに表示された定時メールの内容を確認しそう呟くと、榊はそれを全プレイヤーへと向けて一斉送信。
 同時に都合三度目となるメンテナンスを開始した。
 戦闘やデウエスの暴走の影響によって破損した会場は今頃、ブレインバーストを参考にしたプログラムによって“表向き”修復が開始されている事だろう。

「コシュー……いいのか、榊よ?」
 その様子を見ていたダークマンが、榊へとそう問いかける。
「いいのか、とは、何がだね?」
「コシュー……この、ドッペルゲンガーのイベントだ。
 ただ倒せばキルスコアが加算される――延命ができるなど、……コシュー……プレイヤーが有利になるだけではないのか?」
 問いの内容は、つい今しがた開始されたイベントについて。
 その当然の疑問に対し、榊は「なるほど」と頷く。

 確かにこのデスゲームの表向きの主題はPvPだ。
 だというのにPK以外の方法でスコアを与えては、その主題から外れてしまいかねない。
 ましてやイリーガルな力を持つプレイヤーにとっては、システムに縛られた存在であるドッペルゲンガーなど格好のカモになり得てしまう。
 場合によっては、それこそアリスの手によって粛清されてしまうこともあり得るだろう。
 ――――だが。

「これを見るといい」
 そう言って榊は、モニターにドッペルゲンガーのデータを表示させる。
「コシュー……これは……なるほどな………」
 そのデータを見て、ダークマンはこのイベントの狙いを理解する。

 そもそもドッペルゲンガーは、オリジナルである『The World R:2』の頃からして元となったプレイヤーよりも強化された状態で出現する。
 そこに榊は、イリーガルな力に対抗させるためにある三つのプログラムを追加したのだ。
 その追加された三つのプログラムとは、《武器破壊・部位欠損無効》と《認知外空間からの脱出能力》、そして《バトルフィールドの形成能力》だ。
 イリーガルな力に対し、それらの能力がもたらす効果は次の通りだ。

 《武器破壊・部位欠損無効》によって、心意技の最大の特徴である心意でしか防げない性質を半ば無効化。
 《認知外空間からの脱出能力》によって、『憑神』との戦闘そのものを回避させたのだ。
 唯一防げないのはデータそのものを改竄する《データドレイン》だが、ドッペルゲンガーはその性質上ステータスの弱体化を受け付けない。
 そしてその性質を改竄してしまえば、それは最早ドッペルゲンガーではない。つまりキルスコアは加算されない。

 つまりこのイベントで発生するドッペルゲンガーには、それらのイリーガルな力は効果的ではないのだ。
 加えて《バトルフィールドの形成能力》は、対象となったプレイヤーとの一対一の戦闘を強制するものだ。
 複数のプレイヤーが協力して一体のドッペルゲンガーを倒すと行くこともほぼ不可能だと言えるだろう。

「確かにこのイベントは、君の懸念する通りプレイヤーの利となり得るかもしれない。
 ましてやデスゲームを否定する者たちなどは、こぞってドッペルゲンガーを狩ろうとするだろう。
 なにしろPKをせずに延命できるのだ。イベントに参加しないはずがない。
 ……だが、それこそがこのイベントの罠という訳さ。
 他者を殺さずに延命できるという偽りの希望。それに縋ったものに待ち受ける、絶望の罠。
 果たしてこのイベントに参加したプレイヤーのうち、いったい何人がドッペルゲンガーを倒し、疲弊した状態でその先のデスゲームを生き延びられるかな?」
 脳裏に思い描くその未来予想図に、榊は陰湿な笑みを浮かべる。

190convert vol.3 to vol.4 ◆NZZhM9gmig:2016/09/30(金) 12:34:17 ID:2/2/5o6M0

 ……このイベントの一番に悪辣なところは、《バトルフィールドの形成能力》によって一対一を強制するという点を、イベント内容に記載していないという点だろう。
 このイベントが最もありがたいと感じるのは、戦闘能力を持たないプレイヤーと、それを守るプレイヤーたちだ。
 彼らはきっと、ドッペルゲンガーを利用して戦闘能力を持たないプレイヤーにキルスコアを稼がせようとするだろう。
 結果待ち受けるのは、戦闘能力を持たないプレイヤーとドッペルゲンガーの一対一。
 戦闘能力を持ちながらもキルスコアのないプレイヤーがいれば二対二になる可能性はあるが、それでもドッペルゲンガー二対との戦闘を強いられる。
 スーパーアーマーさえ備えているドッペルゲンガー二対を相手に、果たして戦闘能力を持たないプレイヤーを守りきれるかどうか……。

(……いや、俺には関係のない話だったな……)
 ダークマンはそう思い、益体のない思考を止める。
 彼の目的はただ一つ。そのためにこうして生き恥を晒しているのだ。
 その為ならば、デスゲームのプレイヤーがどうなろうと知ったことではない。

「それにだ。一つ、君の勘違いを正しておこう」
「コシュー……勘違いだと?」
「そうだ。私の役割はあくまでデスゲームの“運営”であって、イベントの“企画”ではない。
 君の懸念するドッベルゲンガーのイベントも含めて、これまでのイベントはほぼ全てがカーディナルシステムによって考案されたものだ。
 私はただ、それをデスゲームに合わせて調整していたにすぎないのだよ。
 そもそもだ。六時間という短いスパンで三つものイベントを企画することなど、私一人でできるはずがないだろう」
「コシュー……なるほど。言われてみれば、確かにその通りだな」
 榊の言葉にダークマンはそう納得する。

 バトルロワイアルのメンテナンスはこれで三度目。つまりはこれで、合計九つのイベントが発生したことになる。
 如何に参考となるデータがあるとはいえ、その全てを榊一人で企画することなど、さすがにできるはずもない。

「まあもっとも、場合によってはこのイベント自体が無意味なものになるだろうがね」
「? コシュー……それは、どういう意味だ……?」
「その時になれば否応にも理解できるさ。
 それよりも、次のメンテナンスは記念すべき一日目の終了だ。
 一つの節目となるこのイベントには、やはり特別なものを企画するべきだろう」
 ダークマンの問いには答えず、榊はそう口にして禍々しい笑みを浮かべる。
 答えるつもりはない、という事だろう。

「………コシュー……コシュー………」
 だが、それならそれで、別に構いはしない。
 そのイベントとやらに振り回されるプレイヤーを、ほんの僅かに憐れむだけだ。
 なにしろ、この男が自ら企画したらしいイベントなど、ロクなものでないことだけはたしかなのだから。

「しかしそうして考えると、デウエスにも困ったものだ。
 いくら私の望み通りの行動だったとはいえ、まさかただの一度もその“役割”を果たさずに消えるとはな。
 まあもっとも、彼女の“役割”の中で一番重要なものはすでに終えているし、代わりとなり得るものはいくらでもいる。
 プレイヤーの中には寺岡薫のように対抗策を考え付く者もいるだろうから、やはり構いはしないのだがな」

 デウエスの暴走によって、デスゲームの崩壊は加速している。
 それ自体は構わないのだが、おかげで仕事が増え、余興に興じる暇がなくなってきている。
 『死の恐怖(ハセヲ)』が無様に足掻きまわる様を楽しめないのは、榊にとって大いに不満だった。
 まぁもっとも、ハセヲとスケィスの戦いの顛末を考えれば、今回楽しめたかは怪しいところなのだが。

「コシュー……デウエスといえば、“アレ”の回収はいいのか?」
 ダークマンはふとあることを思い出し、それについて榊に訊ねる。
 榊の口にしたデウエスの“役割”については、自身には関係なく興味もなかったので知らない。
 だが“アレ”に関してはGM全員に関わる事柄だ。無視は出来ない。

「アレ? ああ、『碑文』のことか。デウエスに与えられた『碑文』の回収なら、アリスがしてくれるだろうさ。彼女はモルガナの、忠実なる僕だからね。
 ……いやはやまったく、その点においても彼女は落第だな。暴走するのは結構だが、せめて『碑文』を覚醒さえさせてさえくれれば、こちらの手間も省けたというのに。
 まあ、あの暴走もそのための行為だと考えれば、仕方ないと言えるだろうがね」

191convert vol.3 to vol.4 ◆NZZhM9gmig:2016/09/30(金) 12:34:53 ID:2/2/5o6M0

 ―――『碑文』。
 それは『モルガナの八相』と呼ばれるシステムを超えた………いや、ある意味においてシステムの根幹を成す八つの力だ。
 GMに選ばれたモノは、一部の例外を除き、それぞれの適性に合った碑文をモルガナから与えられている。
 その理由はGMにプレイヤー以上の能力を与えるためではなく、ある“目的”のために『碑文』を覚醒させるためだ。
 デウエスに与えられた碑文は、第三相の『増殖(メイガス)』だと聞き及んでいる。
 彼女の在り様を考えれば当然だと思えるが、しかし彼女は『碑文』を覚醒させることなく、本来の物語と同じ末路を辿った。
 寺岡薫を取り込んだだけではきっかけとなり得なかったのか、それとも何か別の理由があるのか。それはダークマンにはわからない。何しろ―――

「そうそう。君もなるべく早く覚悟を決めておきたまえ。……そう、『AIDA』に身を委ねる覚悟を、ね。
 与えられた以上僅かにも適性があるはずだが、完全適合者であってもきっかけなく『碑文』を覚醒させるのは困難だ。
 しかしAIDAならそのきっかけに――いや、ただ『碑文』を覚醒させる以上の力になってくれる。この榊が、適性もなく“コレ”の力を扱えているように。
 君とて、デウエスの二の舞にはなりたくないだろう?」
「………コシュー………コシュー………」

 何しろ、『碑文』を覚醒させられていないのは、ダークマン自身も同じことだからだ。

 ただ『碑文』を覚醒させるだけなら、プレイヤーに支給するほうが環境的にもより確実だろう。
 そうしないのは、覚醒した『碑文』の回収の手間に加えて、AIDAという最終手段があるからだ。
 問題は、AIDAを利用すれば、人格に異常が発生してしまうという点だが……。
 しかしGMとて時間は有限だ。“その時”までに『碑文』を覚醒させられなければ、どのみちAIDAを使うことになる。
 榊が言っているのは、つまりはそう言う事だ。

「では私は、次のイベントに備え、“彼”の最終調整に入らせてもらうとするよ。なにしろ、時間は有限なのだから」
 そう言って榊は、ダークマンの返答を待つことなく、部屋の隅に新たに備えられた設備へと移動する。
「………コシュー………コシュー………」
 その設備を見て、ダークマンは僅かに心を騒めかせる。
 そこには、トワイス・ピースマンによって回収されたロックマンのPCがあった。

 ……否。それは正確には、ロックマンではない。ロックマンのコアプログラムはすでに壊れた。
 あれは回収されたロックマンのPCを基に、ボルドーというPKを改造し再構築された“誰か”だ。
 その証拠に、マスクに覆われた顔から唯一覗ける、薄く開かれたその目には、本来の彼にあった意志の光は僅かにも存在しない。
 加えてそのPCボディは、バグスタイルを基本としてAIDAの浸食を深く受け、彼のシンボルマークがあった胸部には、ISSキットの本体である生物的な目玉が入れ替わるように寄生している。
 本来のロックマンの面影など、もはやほとんど残っていない。
 あえて呼称するのならば、ロックマン.hack/AIDAバグスタイル・ISSモード、といったところだろうか。

「…………コシュー………コシュー………」
 ダークマンは無言のまま背を向け、知識の蛇を後にする。
 元となったボルドーのプレイヤーがどうなったかなど、ダークマンにはどうでもよかった。
 彼はただ、かつて自分を倒した存在のなれの果てを、静かに憐れんでいた。


【?-?/知識の蛇/一日目・夕方】

【榊@.hack//G.U.】
[ステータス]:健康。AIDA侵食汚染
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームを正常に運営する。
1:再構築したロックマンを“有効活用”する。
2:アリスの動向に期待する。
[備考]
※ゲームを“運営”することが彼の役割です。それ以上の権限はありません。
※彼はあくまで真実の一端しか知りません。
※第?相の碑文@.hack//を所有していますが、彼自身に適正はなく、AIDAによって支配している状態です。

192convert vol.3 to vol.4 ◆NZZhM9gmig:2016/09/30(金) 12:36:51 ID:2/2/5o6M0

【ダークマン@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:健康。AIDA侵食汚染
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:目的のために任務を果たす。
0:……………………。
1:次の任務に向かう。
[備考]
※参戦時期は、ロックマンに倒された後です。
※デウエスに与えられていた“役割”については、何も知りません。
※第?相の碑文@.hack//を所有していますが、まだ覚醒していません。

【ボルドー@.hack//G.U.】
  ↓   ↓   ↓
【ロックマン.hack@ロックマンエグゼ3(?)】
[AIDA] <Grunwald>
[ステータス]:HP???%、SP???%、PP100%、AIDA感染(悪性変異)/AIDAバグスタイル・ISSモード
[装備]:サイトバッチ@ロックマンエグゼ3、ISSキット@アクセル・ワールド
[アイテム]:{バリアブルソード[B]、ムラマサブレード[M] 、マグナム2[B] }@ロックマンエグゼ3
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:????????
1:????????
[備考]
※ロックマンのPCデータを基にボルドーのPCを改造し、ロックマンのPCを再構成ました。
 ロックマンのPCデータの影響や、本来のPCであるボルドーのプレイヤーがどうなったかは不明です。
※このPCのコントロール権は、<Grunwald>が完全に掌握しています。
※ISSキットを装備したことで、負の心意が使用可能になりました。
※『救世主の力の欠片』を取り込んだことで、複数のPCに同時感染し、その感染率が相手の精神力を上回った時、そのPCのコントロール権を奪う能力を獲得しました。

193convert vol.3 to vol.4 ◆NZZhM9gmig:2016/09/30(金) 12:37:30 ID:2/2/5o6M0

【ドッペルゲンガー@.hack//G.U.】
[攻撃対象]:プレイヤー名
[ステータス]:全パラメーター+10%、スーパーアーマー、武器破壊・部位欠損無効
[装備]:{刃威音・偽(アビリティ1、アビリティ2、アビリティ3)、青ざめし君、真に恐れる者}@.hack//G.U.
[備考]
※ドッペルゲンガーはイベント中、プレイヤーが一定時間戦闘を行わなかった場合に、そのプレイヤーを攻撃対象として一エリア範囲内のどこかにランダムで出現します。
 ドッペルゲンガー出現までの時間は【一時間+キルスコア×一時間】となります。
※ドッペルゲンガーのアバターやステータスは対象となったプレイヤーと同一(+α)ですが、影を纏っており暗い色合いとなっています。
 また対象プレイヤーがアバターや武器を変更した場合、ドッペルゲンガーの外見・装備も同様に変化します。
※対象プレイヤーがサーヴァントを従えていた場合、そのサーヴァントも武器扱いとしてコピーします。
※ドッペルゲンガーは対象プレイヤーが使用可能なほぼすべてのスキルと、マリプス(自身のHPを300回復)が使用可能です。
 ただし、一部を除く宝具や心意などの仕様外スキルは使用できません。
※スーパーアーマーの効果により、通常攻撃によるノックバックは発生しません。
※武器破壊・部位欠損無効の効果により、クリティカル・ポイントが存在しません。
※憑神の発動によって認知外空間へと飲み込まれた場合、即座に通常空間へと転移します。
※ドッペルゲンガーと対象プレイヤーが接触した場合、ドッペルゲンガーを中心にバトルフィールドが形成され、対象プレイヤーを閉じ込めます。
 対象外プレイヤーのバトルフィールド内への侵入は出来ません。もし何らかの方法で侵入した場合は、フィールド外へと弾き飛ばされます。
 ただし、複数の対象プレイヤーが同時にドッペルゲンガーと接触した場合、一つのバトルフィールド内で同時に戦闘になる可能性はあります。

【青ざめし君@.hack//G.U.】
ドッペルゲンガー専用の防具その1。
・物理ダメージ-75%:物理攻撃のダメージを75%軽減する
・魔法ダメージ-75%:魔法攻撃のダメージを75%軽減する

【真に恐れる者@.hack//G.U.】
ドッペルゲンガー専用の装飾品その1。
・速度力+50%:移動速度が50%アップする
・HPリカバリー:HPが徐々に回復する

【刃威音・偽@.hack//G.U.】
ドッペルゲンガー専用の武器その1。厳密にはVRロワオリジナル。
対象となったプレイヤーが装備している武器を、ドッペルと同様の影を纏った状態で複製する。
ただし、その武器にもともと備わっていたアビリティは失われており、代わりに以下のアビリティの内三つをランダムでセットしている。
対象プレイヤーが複数の武器を装備していた場合も一つの武器として扱われ、武器を換装した場合もセットされたアビリティは変わらない。
・悲痛の一撃:クリティカルヒット発生確率を25%アップする
・過去への誘い:通常攻撃ヒット時に、対象のHPを強制的に半減させる
・肉体の掌握:通常攻撃ヒット時に、ダメージ値の25%を自分のHPとして吸収する
・信念の掌握:通常攻撃ヒット時に、ダメージ値の25%を自分のSPとして吸収する
・諒闇の撹乱:通常攻撃ヒット時に、バッドステータス・混乱を与える

194convert vol.3 to vol.4 ◆NZZhM9gmig:2016/09/30(金) 12:39:01 ID:2/2/5o6M0


     -1


「いらっしゃい。丁度コーヒーが入ったところよ。飲んでいく?」

 “その部屋”へと入るなり、部屋の主たる老婆はテーブルの上のカップにコーヒーを注ぎながらそう言った。
 テーブルに置かれたカップは二人分あり、自分がこの部屋に訪れることを彼女が予知していたことがわかる。
 老婆の素性を考えれば、それはおかしなことではない。
 何しろ彼女――オラクルは、マトリックスの世界において“預言者”と呼ばれた存在なのだから。

「気づかいはありがたいが、遠慮しておくよ。
 ここへ寄ったのは単に、約束を果たすためでしかないからね」
 だが来訪者――トワイスは席に座ることなくそう答え、インベントリから取り出したアイテムをテーブルへと置く。
「『第四相(フィドヘル)の碑文』の欠片(ロストウェポン)。……そう。オーヴァンから彼への贈り物ね。
 この“世界”で彼と『碑文』との繋がりを知るのは、オーヴァンだけだから」
 そう言ってオラクルは、視線を部屋の隅へと向ける。
 そこには安楽椅子に力なくもたれ掛かる、壮年の男性(ワイズマン)――のアバターをした少年(火野拓海)の姿があった。

 ワイズマンがこの部屋にいるのは、彼の身柄をオーヴァンから引き取った榊が運んできたからだ。
 一先ずの安置所として、同じ預言者のいる部屋を選んだのか。それとも別の目的があって、わざわざこの部屋に運んできたのか。
 いずれにせよ、AIDAに侵食され意識を封じられた彼は、こうして自身の事が話題に上がっても目覚める様子を見せない。
 おそらく今の彼は、その体に剣を突き立てられたところで、指示がない限りは身動き一つ取らないだろう。

「ついさっき、スケィスが倒されたわ。
 マハも、ちょっと変わった形ではあるけれど、すでに覚醒している。
 これで覚醒した『碑文』は六つ。残る二つが目覚めるのも、そう遅くはないでしょうね」
 世間話のように紡がれたその言葉は、“預言者”であるオラクルの言葉であるからこそ、重い意味を持っていた。
「そうか。モルガナの目的は、恙なく果たされているという訳だ。安心したよ」
 だがトワイスは、むしろ気が楽になったとでもいうかのようにそう言葉を返した。
 そのあまりのそっけなさに、さすがのオラクルも僅かばかり表情を変える。

「………………。
 あなたは本当に、それでいいの?」
「いい、とは?」
 僅かな間を置いて掛けられたオラクルの問いに、トワイスは静かに訊き返す。
 質問の意図が読み取れなかったのか、それとも解った上で、そう訊き返したのか。

「私達ゲームマスターには、その“役割”と一緒に『碑文』が与えられている。
 それは戦う力としてではなく、それぞれの“役割”を果たすため。
 私の『運命の預言者(フィドヘル)』がそうであるように、あなたの『再誕(コルベニク)』もそう。
 けど“モルガナの望み”が叶えられた時、『再誕』を司るあなたは――――」

 オラクルの役割は、“預言”の力を使い、モルガナの目的に沿うようバトルロワイアルの流れに布石を打つこと。
 以前にファンタジーエリアの小屋で、茅場明彦/ヒースクリフとオーヴァンに接触したのもそのためだ。
 あそこで二人と接触していなければ、このバトルロワイアルの状況は現在とは大きく違ったものとなっていただろう。
 それが“選択”を司るという事。
 あの小屋での“選択”によって二人は決別したが、場合によっては、二人が手を組む未来もあり得たかもしれなかった。
 仮にそうなってしまえば、GM側にとって大きな不利となっていたことは想像に難くない。

 対してトワイスの役割は、バトルロワイアルで起きたあらゆる事象を“記録”すること。
 トワイスが『再誕の碑文』を与えられているのも、その関係からだ。
 ……いやそもそも、八相という存在自体が、本来は“ある目的”のためのデータ収集プログラムに過ぎなかった。
 それがモンスターとして存在しているのは、アウラあるいは腕輪所持者への対抗手段として、モルガナがプログラムを変質させたからだ。
 その八相本来の役割を、トワイスは『再誕の碑文』によって代行しているのだ。
 そしてその“目的”――つまりモルガナの望みが果たされた時、トワイスの“役割”は終わり本来の『再誕』が発動する。

195黄金の乙女たち ◆NZZhM9gmig:2016/09/30(金) 12:41:12 ID:2/2/5o6M0

 だが『再誕』とは文字通り、再び誕生するという事。そして『再誕』を果たすためには一度死ななければならない。
 かつて女神アウラが、自らを犠牲にすることで“薄明の女神”として新生ように。
 モルガナの目的が果たされ『再誕』が発動すれば、『碑文』の宿主であるトワイスは、その反動で死に至る。
 しかしそうして発動した『再誕』で蘇るのは、当然トワイスではない。
 その事を、『再誕の碑文』を宿すトワイス自身が理解していないはずがない。
 だというのに、オラクルには、彼がその事に怖れを懐いているようにはとても見えなかったのだ。

「……驚いたな。そんな事を、まさか、他ならぬ君が口にするとは。
 預言者といえども、全てを知ることは出来ない、という事か」
 そんなオラクルへと、トワイスは本当に意外そうに口にした。

「君は以前こう言ったね。
 私には未来がない。そもそも選択をする余地が残っていない、と。
 その通りだ。サイバーゴーストである私は、トワイス・H・ピースマンという人間の残像に過ぎない。
 故に、終焉は約束されている。私には未来がなく、選択の余地がなく、結末は変えられない」

 それは、以前交わした会話の焼き直しだ。
 過去の亡霊と未来の預言者。
 コインの表と裏のような両者は、それ故に語ることなどすでにない。
 けれどトワイスは、しかし、と言葉を続ける。

「私の結末が変えられずとも、未来の全てが決まっているわけではない。
 今を生きる“彼ら”の結末は、いまだ空白のままだ。
 いやそもそも、未来が始めから決まっているのなら、“預言者”などと言う存在は不要だろう」

 “預言者(オラクル)”が必要とされているのは、モルガナの目的に沿うように布石を打つためだ。
 だが未来が決まっているというのなら、そんな必要はない。
 GMが、あるいはプレイヤーが何をしようと、未来は定められた形に収束する。
 だが現実にはこうして“預言者”が必要とされている。それはつまり、未来は不確かなままだという事の証明に他ならない。

「未来が決まっていない以上、私のする事は変わらない。
 より良き未来に繋がるよう、バトルロワイアルを進展させる。
 “選択”はすでに終えている。そのために私は、今もこうして欠片であり続けている。
 余白(わたし)を埋めるだろう“彼ら”の未来が、美しい紋様(アートグラフ)を描くようにと――――」

 それは、以前には語られなかった“今を生きる者”の話。
 トワイスの口にする“彼ら”が誰を表しているのか。それはオラクルの“観る”未来からはわからない。
 オラクルが見るのは数多に分岐する未来であって、過去は勿論、現在ですらないからだ。
 だが一つ確かなことは、トワイスは常に“前進”する事――喪失に見合うだけの成果を望んでいる。
 そしてこのデスゲームで、何かを喪失しているのは一方だけ。
 だからきっと、トワイスの口にする“彼ら”とは――――

「さて。そろそろメンテナンスの時間だ。もうじき“彼女”も帰ってくる。
 その前に、私は私の“役割”を果たすとしよう」

 そうして、トワイス・H・ピースマンはこの部屋から退室した。
 彼の“役割”である、“記録”を行いに行ったのだ。
 残されたものは、テーブルの上の【其ハ声ヲ預カル者(ロストウェポン)】と、結局ただの一度も口のつけられなかったコーヒーだけだ。

「……“彼女”、ね」
 残されたコーヒーを見詰めながら、オラクルはぽつりと呟く。
 トワイスの口にした“彼女”とは、モルガナのことではない。

「“彼女”――VRGMユニット、ナンバー001。ラベリング“■■■”……いえ、今は“■■”だったかしら。
 最初のゲームマスターである“彼女”は、いったいどんな“選択”を選んだのかしらね」

 ある意味において、このデスゲームの発端となった少女。
 彼女がいなければ、このバトルロワイアルはあり得なかった。
 だが彼女ほどモルガナを意に介していないGMもいない。
 それならば、“彼女”はいったい何を想い、ゲームマスターとなったのか。

196黄金の乙女たち ◆NZZhM9gmig:2016/09/30(金) 12:42:24 ID:2/2/5o6M0

「いずれにせよ、私のすることに変わりはないわ」

 その行動こそ制限されているが、『第四相の碑文』によって、オラクルの予知能力は強化されている。
 その力は最早“予測”を超えて“測定”の域に届こうかというほど。
 その気になれば、バトルロワイアルの行く末を全て視通し、望むままに定めることも不可能ではないだろう。
 それこそGMの思うようにデスゲームを展開させることも、逆に破綻させプレイヤーを勝利させることも。

 だが、オラクルはそれを行わない。
 トワイスのような過去の亡霊でも、自分のような未来に縛られた者でもなく。
 過去を踏み越え、未来を夢見ながらも、“今”を生きる者たち。“彼ら”に“この世界”の“未来”を託す。
 それが、預言者たる彼女の選んだ“選択”だったからだ。


 スケィスが倒され、バトルロワイアルは折り返しに入ろうとしている。
 おそらく一日目の終了とともに、デスゲームの様相は大きく変わるだろう。
 その時プレイヤーが、あるいはGMが、どんな“選択”をするのか。
 “運命の預言者”は、“その時”が来るまで、ただ未来を見詰めるだけだ――――。


【?-?/オラクルの部屋/一日目・夕方】

【トワイス・H・ピースマン@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームの情勢を“記録”する。
1:より良き未来に繋がるよう、ゲームを次なる展開へと勧める。
[備考]
※ゲームを“記録”することが彼の役割です。それ以上の権限はありません。
※第八相『再誕』の碑文@.hack//を所有しています。
※モルガナの目的が果たされた時、本当の『再誕』が発動し、トワイスは死に至ります。

【オラクル@マトリクスシリーズ】
[ステータス]:健康
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本: ゲームの進行がモルガナの目的に沿うように布石を打つ。
1:“その時”が来るまで、ゲームの未来を予測する。
2:“今”を生きる者に未来を託す。
[備考]
※“布石を打つ”事が彼女の役割です。それ以上の権限はありません。
※予知能力によって未来を知ることができますが、全てを知ることができる訳ではありません。
※第四相『運命の預言者』@.hack//の碑文を所有しています。
※『碑文』の影響により予知能力が強化されていますが、自らそれを活用する気はありません。

【ワイズマン@.hack//】
[ステータス]:HP??% 、SP??%、AIDA感染(<Grunwald>)
[装備]:其ハ声ヲ預カル者@.hack//G.U.
[アイテム]:なし
[ポイント]:???ポイント/?kill
[思考]
基本:<Glunwald>に支配されているため不明。
[備考]
※<Grunwald>の能力により同時感染しており、またその意識も封じられています。

[全体の備考]
※一部の例外を除き、GMにはそれぞれ【モルガナの碑文】が与えられています。


     0


そこは世界の欲望を詰め込んだ館。
しかし、そこに住む三姉妹が自らの欲望に従うことはない。

197 ◆NZZhM9gmig:2016/09/30(金) 12:43:23 ID:2/2/5o6M0
以上で投下を終了します。
あとタイトルは>>194から 黄金の乙女たち です。
何か意見や修正点などがありましたらお願いします。

198 ◆k7RtnnRnf2:2016/10/01(土) 00:14:21 ID:oXyF//es0
メンテナンス案は決定でもよろしいですかね。

まさかGM達にそれぞれ碑文が与えられているとは
バトルロワイアル進行の裏でGM側の動きも明かされて、あろうことかロックマンすらもGMに利用されていた。
そしてトワイスの『未来がない』という言葉の意味が、あまりにも重く聞こえてしまいますね……

199 ◆7ediZa7/Ag:2016/10/01(土) 14:31:04 ID:txwVvOOo0
投下乙です
メンテナンス案はこれでよろしいかと思います
二回メンテナンスで垣間見た裏側の、さらに奥が見えた感じで、終盤が近づいてきたなぁという内容でした
VRロワの主催陣の特徴として一堂に介するシーンが一切なく、バラバラに思惑を持って動いていることが挙げられるかなと思ったり

ただ>>188の時刻が12:00のままなのでその点だけ直した方がいいかと

200 ◆k7RtnnRnf2:2016/10/01(土) 20:22:46 ID:oXyF//es0
私からもう一つ。
予約解禁のタイミングは◆NZZhM9gmig氏が本投下を完了させるのと同時でも大丈夫ですかね?

201 ◆NZZhM9gmig:2016/10/02(日) 12:02:10 ID:1BDA.2wo0
自分は大丈夫だと思いますけど
とりあえず>>188の時刻を修正すれば問題なさそうなので、本投下してきます


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