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俺の妻の出産日(リレー小説)
1
:
名無しさん
:2023/05/12(金) 11:43:28
「今年も紅葉綺麗ね。お腹のややこにも見したげたいなぁ」
と、ゆったりとしたマタニティニットワンピで身を包んだ紗菜は人差し指を指す。
彼女が指差した先を見ると、遠くの山が燃えているかのように赤く染まっていた。
季節はもうすっかり秋に変わっていて、日差しは暖かいが、風が吹くと少し冷たい。
昨日で臨月に入った紗菜は、今日も夫である俺と二人でゆったりと街を歩いていた。
肌寒くなってきた気候に合わせて、ストールを肩にかけて歩く彼女はとても可愛い。
「あっ」
ふと、何かを感じたのか目を細めてお腹をさすり、紗菜の口から小さく声が零れた。
俺はそれがどういう意味なのかすぐに理解し、隣に並んで彼女と歩調を合わせる。
そんな俺の考えは当たってたらしく、紗菜は嬉しそうにはにかんで微笑んでくれた。
彼女のお腹は足元が見えないほどに大きくせり出しており、出産が近い事が分かる。
その華奢ながら丸みを帯びた体つきは、どこか神秘的な雰囲気さえ漂わせていた。
「ややこってすごいんやねぇ……こないに小さいのに、こないに強う動くもん」
まるでなだめるように何度も繰り返してお腹を撫でながら、紗菜はしみじみと言う。
どうやら今回の胎動は割と激しいらしく、彼女は眉をハの字に困らせ瞳を潤ませた。
その困り顔も実に愛らしいと思ったが、俺はそれを口に出さすにただ紗菜を眺める。
しばらくして彼女はほっと胸を撫で下ろすように一息をつき、お腹から手を離した。
やんちゃ姫がやっと大人しくなったのか、と冗談交じりに紗菜に聞いてみたら――。
「うーん……なんかね、急に静かになったみたい。なんでやろうな?」
今一度お腹をさすってちょっぴり返事を渋った紗菜は、小首を傾げて答えてくれた。
なにそれ、と軽い気持ちで笑い返して、俺は彼女をエスコートして再び歩きだす。
この時の俺、否、もうすぐ出産の時を迎える紗菜でさえ気付くことすらもなかった。
不思議なこともあるもんだなと軽んじた今の胎動こそ、陣痛の前触れだったことを。
つづく
リレーしてくれる人のための登場人物設定
紗菜
26歳の初産婦。一人称"うち"の京都弁。
"童顔で体も小柄なため、中学生に見える"
※これだけはぶれて欲しくないので特記。
胎児の状態などの設定はリレーしてくれる方に任せる、でも死産は勘弁して欲しい。
俺
この小説の一人称視点の語り手。
俺の心境や考え事を混ぜて、地の文で紗菜の出産を描写する...のがこの小説の旨です。
そのため、出来れば"俺のセリフ"は「」を使わずに地の文で語って欲しい。
では、リレーよろしくお願いします。
2
:
名無しさん
:2023/05/14(日) 03:14:44
「あぅっ……」
気持ち良い秋日和を満喫し、両手に買い物を袋をぶら下げて自宅に戻ったごろ。
玄関にある靴履き用椅子に腰を下ろして、紗菜は再度、小さなうめき声を上げた。
俺たちの娘がまた胎内で暴れだしたようで、唇をへの字にして彼女はお腹をさする。
その姿があまりに切なげなものだから、俺は荷物を置いて彼女の傍にしゃがんだ。
ママをいじめるな、と父親らしく紗菜のお腹の中にいるやんちゃ姫を叱ったら――。
「あれっ……痛うのうなった……みたい?」
あんなにお腹が硬く張っていたのに、嘘のように彼女の腹痛がケロっと治まった。
ついでに胎動も紗菜が気にならない程度になったようで、俺の叱りが効いたようだ。
正直効くわけがないと思っていたが……俺たちの娘はお利口さんなだけかもしれない。
なんだか妙に感心してしまった俺は、思わず娘に対して手を合わせて拝んでいた。
すると紗菜はクスッと吹き出し、屈託のない笑顔を浮かべて俺を見上げてくれる。
「やぁねぇ、パパったら。もう、うちらのややこが神様や仏様に見えるの?」
俺の行動がそんなにおかしかったのか、ツボに入った彼女はお腹を抱えて笑う。
彼女につられて俺もつい頬が緩み、俺たちは玄関で気が済むまで笑い合った。
3
:
名無しさん
:2023/05/14(日) 17:43:44
「おはようさん。もうすぐ朝ご飯出来ますえ」
紅葉を見に行った翌日。目覚めて歯磨きを済ませてキッチンに向かうと、紗菜は丁度コンロに向かって朝ご飯を作っている様子だった。
小柄な体格だからか、なんだか微笑ましい雰囲気が感じ取れる。
…けれども、いつもと違う感じがする。しきりとお腹を気にする仕草をして、顔が険しいような…
「出来ましたえ。簡単に作ったさかいにかんにんな」
そう言って出されたのは白ご飯に目玉焼きとベーコン、パックの納豆に豆腐とわかめの味噌汁。
これが朝ご飯、と言ったテンプレのようなメニュー。不調そうだけど頑張って作ってくれたんだろうなと嬉しくなる。
だけど…やっぱり、さっきの表情とか仕草が気になる。
「なんやけったいな顔しよるね?どないしたん」
怪訝そうにこちらを見つめる紗菜に、俺はさっき苦しそうにしていたけど、体調すぐれないのか?…という風に訊ねた。
「んー…そうやね…なんか、ずーっと張ってる感じ?が続いとるんよ。違和感がある、みたいな感じやね」
紗菜がそう言ってお腹を撫で続けるのを見ながら、俺は陣痛が始まってないか、と紗菜に訊ねる。
「パパさんはせっかちやなぁ。まだ定期的には痛みみたいなの来とらんし、そんな今すぐに生まれへんよ」
紗菜がそう言うなら大丈夫なのかな…でも、会社に年休とか申請した方が…そう色々考える俺の考えを読んだかのように、紗菜は口を開く。
「産まれそうになったら連絡するさかい、とりあえず会社行ったほうがええんやないかな」
そう紗菜に言われた俺は、朝ご飯を食べた後、後ろ髪を引かれながらも会社に行く準備を進めた。
会社について仕事を始めてからも、紗菜の様子が気になっていた俺は、今進みそうな案件の整理をしながら時折出産が始まった時の流れを思い返していた。
紗菜は自宅出産を基本で望んでいたから、先ずは助産院への電話。それから、万一難産になったときの為に連携してるかかりつけ病院への連絡…で良かったはず。
キーンコーン…カーンコーン……
色々と思考を巡らせ作業を進めているうちに12時の合図が鳴る。
他の人は休憩に入ったけれども、俺はそのままパソコン前に待機していた。
じっとスマホを見ていると…家から着信が来た。
すぐに着信を取りもしもしと話す。
「あぁ、パパさん。休憩中やと思うんやけど、かんにんな」
普段と変わらない声色…でも、何かが違う。そう思った俺は続きを聞く。
「あんなぁ、うちのややこなんやけど…誰かさんに似て、せっかちかも分からんね」
そうのらりくらりとした雰囲気で話す紗菜。俺は黙ったまま紗菜のを聞くことに注力する。
「あんなぁ……ぅぅ……、出来るだけ今日の仕事終わりまでは連絡すんの我慢しようと思ったんやけど……ぁぁっ…陣痛、始まったかも、しれへん…」
苦しそうに、不安そうに、助けを呼ぶように。紗菜は幾度か小さく唸り声を上げながら、俺にそう伝えた。
わかった、すぐ行く。それだけ伝えて俺は通話を切る。
近くにいた上長に、午後の半休と数日の年休を取ること、近く動くかもしれない案件に関しての資料を共有のフォルダに入れた事を伝える。
以前からコミュニケーションを取り事情を知っている上長は『わかった、あとは任せろ』と話し親指を上げる。
何度か上長に頭を下げた後、助産院とかかりつけの病院への電話を済ませ、俺は焦る気持ちを抑えながら帰路に着いた。
4
:
名無しさん
:2023/05/15(月) 02:00:19
『――ただいま、人身事故により、列車が一時停止しております。点検の為、しばらくお待ち下さい』
止まった電車の中に、車内アナウンスが流れる。
最悪だ。
亡くなったやつには悪いが、何でよりによって今日だよ......
ああ、こうなると分かればタクシーを使えば良かった。
電車止まってからスマホで何度も紗菜にメッセージを送ってみたが、
スマホをつけたまま手元に置いていないのか、全部既読スルーされている。
紗菜が今一人で戦っているんだ、俺は一刻も早く帰らないといけないんだよ......
予想外の立ち往生をくらった俺は、いつになくイライラしていた。
5
:
名無しさん
:2023/05/16(火) 00:22:12
自宅の最寄り駅に着いたのは、結局45分遅れでだった。
タクシーで帰るか、走って帰るか…迷った俺は走る事を選択した。
タクシーで帰っても、渋滞に巻き込まれる可能性があるならルートをある程度選択出来るはず、と考えたからだ。
必死に走り、時計を見ると…会社を出て、1時間15分くらい。
不安にさせてないか、と考えながらも汗を拭い呼吸を整えて自宅のドアを開けた。
「パパさん、遅かったどすなぁ。せっかちやったりのんびり屋さんやったり、ようわからへんお方や」
帰ってきて最初に目に入ったのは、シートのようなものを敷かれた上でバランスボールに寄りかかるような体勢で膝立ちや正座のような姿勢をし、助産師さんに腰や背中を撫でられつつ、テレビのバラエティ番組を眺めていた紗菜だった。
すまん、遅れたというと、紗菜は苦笑いをしながら答える。
「別に気にしとらんよ。まだ、陣痛強なってへんさかい、ややこがすぐには生まれへんはずやさけ」
いつもの、飄々とした紗菜。少しだけ安心する…が、紗菜が少しずつ顔を歪め始める。
「痛ったぁ…まだまだ、ややこ、生まれるのは先のはずやのに…だんだん辛なってきたわ…」
普段はあまり見ることがない弱気な紗菜を見て、俺は近付き背中と腰を撫で始める。
「あぁ…なんか、パパさんの手、安心できますえ…」
俺が背中や腰を撫で始めたのを見て、助産師さんは「少しずつ出産に向けた準備していきますね」と伝え一旦俺たちから離れた。
苦しそうにしている紗菜の背中を、俺は何度となく撫で始めていた。
6
:
名無しさん
:2023/05/17(水) 02:53:03
あれから30分後。日が沈むの早くなって、深まる秋を実感させる夕刻――。
「うっ……んんっ……」
いよいよ陣痛も本格的になってきたのか、紗菜が痛がる頻度が目に見えて増えてきている。
腹痛で辛い彼女に代わって俺はすかさず時計をチェックし、間隔はおよそ12分だと紗菜に教えた。
「慌てんといて……大丈夫やから……」
自分に言い聞かせるというのもあるのだろうか、うわ言のようにお腹に向かって何かを語っている紗菜。
彼女の呼吸が荒く、額からは大量の脂汗が流れており、出産への恐怖心もあるのかもしれない。
必死に耐えているようだが、紗菜は弱音を吐くどころか、俺に向かってはんなりと笑っていた。
俺は、しがみついてきてくれる彼女の手......僅かに震えているその手を握り返す。
そして、俺はお前の側にずっといる、絶対に離れない――と、紗菜の目を見て力強く言い切った。
そしたら、俺の励ましの言葉は紗菜にだけでなく彼女のお腹にいる俺たちの娘にも届いたようで、
今回の陣痛が引いた後すぐに、服の上からでもわかるくらいに紗菜のお腹の中で娘は動いてくれた。
7
:
名無しさん
:2023/05/17(水) 18:00:38
俺の妻~の6を投稿した者です。
一行目"あれから30分"と書いてましたが、計算に合わないことに気づきました。
13時に退社したと想定、電車が止まって45分足止められ、帰宅したのは14時頃でしょう。
そこから30分で夕刻はおかしいです。
よって、最初の一行、すなわち時間経過は
"あれから三時間後"と修正します。
迷惑かけてすみませんでした。
8
:
名無しさん
:2023/05/18(木) 20:37:55
「よぉやっと…陣痛おさまってきたわ…」
日が沈んで少し経った頃、紗菜はそう口にした。
どうやら陣痛の波が収まる周期に入ったらしい。
違和感が残るのか苦しげにお腹を撫でる紗菜に、俺は腰を撫でていた手を離してストロー付きのドリンクを近づけた。
「あぁ、生き返るわぁ……おおきに」
右手でお腹を撫で、左手で少し腰を気にする紗菜は、手を使わずにストローを含んでゴクゴクと水分補給をした。
汗だくの体に水分が染みていくのが心地いいらしい。
蒸しタオルでその身体を拭いつつ、俺は他に何か出来ないかと頭を巡らせる。
そう言えば、と思い出した俺は産婆さんにしばらく変わって欲しいことと紗菜にしばらく離れることを告げその場を離れた。
…見つけた。
5分ほど探したか…或いは、10分20分探したか。集中していた俺はわからない。
手の中には、安産御守と書かれた御守り。
地元の神社で、伝承では天から遣わされたヤンチャで小柄な女神が地元の男神に一目惚れをし、産みの苦しみを幾度となく体験しながらも沢山の子宝に恵まれた…らしい。
戦国武将の妻が子宝祈願に訪れ世継ぎを産んだという言い伝えもあって、子宝祈願と安産祈願としては有名な神社。
紗菜と女神を少しだけ重ねたこともあり、紅葉を見るついでに紗菜と相談してお詣りに行き、御守りを買ったことを思い出して探し初め、ようやく見つけたのだった。
逸る気持ちを抑えながら俺は紗菜のもとへもどる。
「パパさん、…ゔ
9
:
名無しさん
:2023/05/18(木) 20:49:58
途中で文章が途切れたので、途中から再投稿です
「パパさん、うぅぅっ……休憩にしては、えらい早い、お帰りどすなぁ」
普段から京都弁を話すにしては自分の気持ちを素直に話す紗菜。
それが嫌味に聞こえるよう話すと言うことは相当機嫌が悪い。…長年付き合っている俺だから分かるサインだ。
出産で不安になる中探すのに時間をかけすぎたかと苦笑いをして俺は背中を撫で始める。
そして合間を見つけ、紗菜の手の中に御守りを入れた。
「あっ、これあそこの御守り…これ、探しとったん?」
御守りに気づいた紗菜はしばらく御守りを眺めていた。
「ほんなら、しゃあないなぁ。パパさん、しばらくもっとき。もう少ししたら、力借りるかもしれんし」
いきむときに御守りを心の拠り所にするのかもしれない。
そう考え俺は頷き、紗菜のサポートを再開した。
10
:
名無しさん
:2023/05/19(金) 01:59:07
お守りが早速その効果を発揮したのか、それとも元々出産の流れとはこんなものなのか、
あれからの紗菜の痛がり方は、明らかに変わってしまった。
俺が勝手に思い込んでいる出産のイメージとは違う。
悲鳴を上げることなく彼女はうーんうーんと唸って歯を食いしばって耐えていた。
そして陣痛が来で紗菜がお腹をさする度に、彼女のお腹は中から蹴られて一瞬変形する。
俺たちの娘も、お腹から出ようと頑張っているのだ。
一体紗菜はどれだけ痛いのだろうか、男である俺は全然想像できない。
俺ができることは、彼女を励ますことだけだった。
しばらくして、紗菜の子宮口の開き具合を診た産婆さんは一度いきんでみて良いと頷いてくれる。
それを受けて、俺と紗菜は息を整えて、次に陣痛が来るのを待っていた。
11
:
名無しさん
:2023/05/22(月) 01:11:47
「うぅぅぅ…っん!ふぅぅぅ、っん…」
いきんでもいいと言われてから、すぐ。陣痛に合わせて紗菜は幾度かいきむ。
だが、破水もせず、出産が進んでいるとは思えない。
「あかんえ、これ。まだ生まれる気しぃひん。長丁場になりそうやさかい、体力セーブしいひんと」
破水がまだしてない…はずの紗菜はそう呟くと再び陣痛の波に翻弄されながら苦しげな呼吸を繰り返す。
いきみたい時にいきんでいいから、と俺が伝えると、幾度が首を立てに振った。
それからどれくらい経っただろうか。
苦しげな呼吸を繰り返しながらも時折いきむ紗菜だが、一向に出産が進まない。
停滞している…のだろうか。何か出来ることは…
そう考えていると、産婆さんから体勢を変えていきんでみたら、と提案された。
紗菜は立ち上がり、俺の首に両腕を回しながら、腰をぐるぐる、ゆらゆらとゆらめかせ始めた。
「あっ、きおった…うぁぁぁあぁっ」
陣痛の波に合わせ、俺を支えにするように、腰を少しずつ下ろしながら長くいきむ紗菜。
そして、ようやく…その時が来た。
「ぅうぅぅぅ、ぁあぁぁっ…!ひ、ぐぅぅぅっ」
2回目のいきみか、或いは3回目。
ブルーシートと吸水シートの上に、パシャっ…と紗菜の股から落ちる水。
破水した、と俺が思うと同時に紗菜の苦しげな声がさらに強くなる。
「うぅぅ…ぁぁ…よぅ、やく…ややこに、会えるんやね。頑張らない、と…」
疲労感が増えてきたのか、弱々しい声の紗菜。
だが、どこか嬉しそうでもある。
そして、紗菜はいきみの衝動に身を任せていた。
12
:
名無しさん
:2023/05/22(月) 07:32:56
「はっ、はっあ、っう、ぁっ、んうぅぅうっ!」
産婆のアドバイス通りに小刻みに息を吐きながら、子宮が収縮するのに合わせて紗菜は腰を沈ませる。
俺の首に回している両腕から、彼女は今どれだけ力んでいるのか痛いほどに伝わってくる。
「あぁ、ぁ、ああっあぁ!!」
今まで一度も聞いたことのない紗菜の声と共に、あんなに膨らんでいた彼女のお腹は僅かにしぼんだ気がした。
これは、俺たちの赤ちゃんが紗菜の中で出口に向かって動いていたことに違いない。
少なくとも、紗菜の腰に回して彼女を支えている俺の腕が、そう感じていた。
聞いたところで今の紗菜はきっと答える余裕が無いけど、俗に言う『赤ちゃんが降りてくる』って誇張表現ではなく本当にそんな感じなんだろうな、と俺は思った。
13
:
名無しさん
:2023/05/25(木) 00:24:25
俺に出来ることなら、なんでもやりたい。紗菜が苦しんでいるのに、何も出来ない自分が悔しい…
そう紗菜に語りかけると、いきみを一旦止め、呼吸を整えて紗菜は口を開く。
「ほんなら…ややこの頭出てきたら、取り上げてくれへんかな。パパさんと一緒にややこを迎えたげたいん、よぉぉぉ…っ」
最後の方にいきみの衝動がピークになったのか、最後の方は唸るような声で話していた。
正直出産の知識は有るが、産婆の役割をしたことがない俺は少し迷った。
だけど、産婆さんから『全力でサポートしてあげるから、産婦さんの気持ちに答えてあげなよ』というアドバイスと、紗菜からのたっての希望という2点から、俺は産婆さんの役をひきうけた。
じゃあ、一旦首に回す手を離していきむの?
俺が発したその問いに紗菜はブンブンと首を横に振る。
頭が出るまではこの体勢でいたいの…と聞くと首を勢いよく縦に振る。
この体勢が1番いきむ力が発揮されるから続けたい…ということのようだ。
そして紗菜は、再び必死にいきみ始めた。
14
:
名無しさん
:2023/05/25(木) 11:12:07
しかし、ここまで初産らしくないほどに順調に進んだ紗菜の出産は、ここに来て急にボトルネックに陥った。
産婆によると、赤ちゃんが引っかかって出れないというわけではないそうだ。
俺の予想に過ぎないが、紗菜が小柄すぎたため赤ちゃんが通り辛くなっているだけかもしれない。
本当はどうなっているのかを知っているのはたぶん、産道を通っている赤ちゃんと、その赤ちゃんを産んでいる紗菜の二人だけだろう。
陣痛の合間を縫って俺の予想を紗菜に話したら、痛みが引いていきむのを止めた度に赤ちゃんもまた少し引っ込んでしまうような感じがする、と彼女が言った。
そんなことはありえないしおそらくこれは紗菜がそう感じただけだ、と俺の理性は彼女の証言を否定しようとするが......
もしかして赤ちゃんは紗菜のお腹の中から離れることが怖くて抵抗しているのではと、まるで虫の知らせみたいな感じが俺の頭をよぎる。
となると、父親として俺がやれることは一つしかない。
俺は、今朝見た時より体感一回りくらい小さくなった紗菜のお腹を、両手でがっしりとつかまる。
そして、生まれることに躊躇しているかもしれない俺たちの赤ちゃんに気合を入れた。
何があってもパパはあなたを守る、だから安心してママから生まれてきてくれ、と。
15
:
名無しさん
:2023/05/28(日) 23:56:14
俺の語りかけに答えたのか、或いはちょうど出産が進むタイミングだったのか、はたまたお腹の中で臍の緒が絡んでた…みたいなトラブルが解消されたのか。
お腹の中の赤ちゃんが少しずつ降りてきている…ように見える。
それに合わせて、紗菜の余裕も無くなって来ていた。
「なんでっ、やや子生まれてきて、くれへんのっ…!!」
俺の首に回していた片腕を離し、八つ当たりするようやな俺の肩を殴る。
焦るな、頑張れ…と痛む肩を気にもせず、俺は紗菜の頭を撫でる。
「もういややぁ!うち、もう…」
なかなか生まれない赤ちゃんに痺れを切らしたのか、紗菜が泣きそうな声で弱音を吐く。
そんな中、産婆さんが『ちょっと、手を離して股の辺りを触ってみて』と提案してきた。
「あ、これ…赤ちゃんの、頭」
割れ目に指を入れてすぐ、紗菜はそう嬉しそうに声を上げた。
それは、もうすぐ赤ちゃんに会えることの喜びか、それとも出産の終わりが少しだけ見え始めた事による喜びか。
「もうちょっとで会えるさかい、きばっていこうか」
そう紗菜が呟くとすぐに、紗菜はいきみを再開したのだった。
16
:
名無しさん
:2023/05/29(月) 12:20:36
「うんっんんっぁあぁ!!」
文字通りに紗菜は全身全霊を込めたのだろう、今までで一番、力強く掴まれた気がする。
彼女の気合いに影響され、俺もつい一緒にいきんでしまった。
ぬぶぶっと妙に生々しい鈍い音がして、紗菜の股からはおびただしい量の羊水が吐き出される。
それと一緒に、もう頭が通れたおかげなのか俺たちの赤ちゃんが一気に彼女から滑り出した。
生まれた!と頭が反応するよりも先に、俺は両手を受け皿にして赤ちゃんの全身を受け止めた。
生まれたてでほやほやの赤ちゃんは、温くて、ヌメヌメで、へその緒が太くて......意外と重かった。
これが、ついさっきまで、紗菜のお腹の中にいて――
そして、まるでこの場にいる三人の大人の注意を全てカッさらおうとするかのように。
未だへその緒で紗菜と繋がっている俺たちの赤ちゃんは、思ったよりも大きな声で泣き出した。
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