[
板情報
|
R18ランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
魔女と弟子
1
:
名無しさん
:2013/06/06(木) 05:55:29
「この辺りのはずなんだけど…」
森の中を歩いていた青年がそう呟く。
年の頃なら15、6。眼鏡をかけているが至って普通の青年だ。
彼は、街で森に住み、時々薬を売りに来ると言う魔女の噂を聞き訪れようとしていたのだった。
「あ、あれかな?」
そこには一軒の丸太でできた小屋があった。
近づいて扉を開ける青年。
「すみませーん、誰か居ますか?」
「…おや、見ない顔だね。何か用かな?」
「えっと、魔女さんが居るって聞いたんですが…貴女が?」
「いかにも、私が魔女だよ。」
「そうなんですか…」
そういうと青年はその魔女を見つめる。
見た目には青年より少し上の10代後半から20代前半だろうか。
銀色の髪が美しい。
彼女もまた眼鏡をしており、その奥にはつり上がった凛々しい目がある。
見とれていた青年に、
「どうしたんだい?私の顔に何かついてるかな?」
と魔女が語りかけてきた。
「あ、えと、意外と若そうだなって…」
「ははは、そうなのかい?でも、こうみえても300年は生きてるかな?」
「そ、そんなに…?やっぱり噂は本当だったんだ…」
青年はそう呟く。
不老の魔女がいる。そんな噂を聞き、青年はここまできたのだった。
「で、話しは元に戻すけれど…私に何か用かな?」
「あ、はい!弟子にして、その不老の術を教えて欲しいんです!」
青年はそう言うと頭を下げた。
「弟子…ねぇ。取らない主義なんだけど…まぁ、暇だし話し相手も欲しいからね。…良いよ。ただし、条件がある。」
「条件?」
「君の精気を、時々頂きたいんだ。私は森から精気を得て不老の術を使っているのだが、やはり人間の精気は少し格が違うからね。」
「は、はぁ…別に構わないですが…具体的にはどのように?」
「それはおいおい、ね。…さて、じゃあこれから宜しくね、えっと…」
「あ、アクセルです。宜しくお願いします!
「アクセルくん、ね。私はソーニャ。好きに呼ぶといいよ。」
「はい、じゃあ…師匠!」
「師匠…ねぇ。まぁ、いっか。」
こうして、二人の生活が始まった。
始まってしばらくは、アクセルは精神を鍛える名目で雑用を命じられていた。
そんな生活が数日続いた後。
「師匠!今日の雑用はなんですか?」
「うん、今日は雑用はいいよ。今日は精気を頂くことにする。寝室に来てもらえるかな?」
そういうとソーニャは寝室に向かっていった。
それについていくアクセル。
「で、これはどういう事ですか…?」
そういうアクセルは下着姿になっていた。
もちろんソーニャも下着姿だ。
「うん?精気を頂くんだよ。精気は生殖器から頂くのが一番効率がよくてね。…それとも、私じゃやはり厳しいかな…」
「そ、そんなことはないですが…えと、避妊は?」
「それは構わないさ。私の魔法でそう簡単には妊娠しないようになっているからね…まぁ、よほど魔力の強い赤ちゃんなら無効化して孕むかも知れないけれど。」
「は、はぁ…分かりました、じゃあ師匠…」
「今だけはソーニャと言いなさい、アクセル」
「…ソーニャ、抱きますよ?」
「優しく、してね?」
ソーニャの返事を聞くと、アクセルはソーニャをベッドに横たわらせた。
68
:
名無しさん
:2014/08/14(木) 00:44:02 ID:???
「父親は町で診療したり、母親と薬を調合したりして医者としての業務を全うしてたよ。まぁ200年くらい前に亡くなったけどね」
「え?200年くらい前って…ソーニャが300年くらい生きてて…」
アクセルは数字が飲み込めず計算しだした。
「父親も魔力があったと言っただろう?それで母親は不老の魔法だけ教えたんだ。おそらく150年年くらいは生きていたんじゃないかな?」
「なるほど!」
ようやく納得できたようだ。
「だけど父親は『不老』という現象に違和感を覚えたのだろう。そのうち魔法を使うのをやめて普通の人間として朽ちることを選んだんだ。そこはやはり医者だね」
69
:
名無しさん
:2014/08/14(木) 00:55:35 ID:???
「ふぅん…やっぱり、人の理から外れるのは大変なんですね…」
「ああ。アクセル、君がどうするかは自由だ。まだ君には未来があるからな。
私は…ずっと、そばにいて欲しいがな…」
「ソーニャ…」
アクセルが優しく抱き締めキスしようとする。
コンコン
それを遮ったのはノックの音だった。
「誰でしょう、こんなときに…」
ぶつくさ言いつつアクセルはドアを開ける。
「やっほー!ソーニャ、遊びに来たよん」
「え、あの、貴女、誰…?」
ソーニャと同じ銀色の髪と金色の瞳の女性が現れた。
「か、母さん!?」
「え、あの、ソーニャのお母さん!?」
二人は驚いた顔をする。
70
:
名無しさん
:2014/08/15(金) 05:54:06 ID:???
「なんだい、100年ぶりに会うのに」
あまりの驚きっぷりにため息をついた。
「手紙のひとつでも寄越してくれればよかったじゃない。こっちだって準備というものが…」
「あら〜、そんなに気を使うこと無いって!」
二人が並んで言い合いを始めた。
母親のターニャの方が少し年上に見えるが、親子というよりは姉妹のようだ。
こうしてみるとよく似ていると感じた。
するとターニャがアクセルに目をやった。
「ところで子の坊やはどなた?」
「あっ…アクセルと申します!……あの…そのぉ…」
アクセルは先程の話で怖じ気づいてしまい、自分の口から「弟子」だとは言えなかった。
「私の弟子で夫になる人だっ」
ソーニャが口を挟む。
(オット!?夫っていってくれたぁ!?)
アクセルの顔がパァァァッと明るくなった。
しかしターニャの眉間にはシワが寄る。
「弟子ぃ〜?夫?」
ターニャが探るように睨み付けてきた。
人間嫌いは伊達ではないようだ。
「こんなただの人間の坊やが??ふんっ、?一体何ができるっていうの?」
「アクセルの事は悪くいうな!これでもっ………うぅ゙っぷ」
ソーニャは興奮しすぎたのか吐き気に襲われトイレに走っていった。
「ソーニャ…!」
アクセルも後を追う。
「うえ゙っげぇ……はぁっ……うっく…ゔぇ゙っ………けほっ」
アクセルは駆け寄って背中をさすった。
71
:
名無しさん
:2014/08/15(金) 06:16:34 ID:???
「なんだソーニャ、どこか悪いのかい?」
ターニャも様子を見に来た。
ソーニャはふるふると首を振る。
「ちがう…これは…ぅえ゙っ…うぅっ……」
込み上げてくるものに激しく咽く。
説明したいが話すことがままならない。
「あんた…この坊やが夫だとか言ってたけどまさか…」
(うぅっ!もう俺が言うしかない!)
ターニャの方から切り出してきたため、アクセルは意を決して告白した。
「師匠の…ソーニャさんのお腹には僕の子供がいます!!」
72
:
名無しさん
:2014/08/15(金) 06:31:38 ID:???
「あんた、避妊魔法は?」
ターニャがソーニャに訊ねる。
「いつの間にか解除されてた…気付いたら、妊娠してた。」
「全く…私の時と同じパターンじゃないかい…血は争えないねぇ」
ターニャがブツブツつぶやく。
「え…?母さんの時と同じ?」
「ああ。あのときも未熟者だと思ってたやつに妊娠させられたからね…全く、懐かしいねぇ」
ターニャの顔に笑顔が浮かぶ。
「アクセルと言ったね。あんた、凄い能力を持ってる。なんだったら私も魔法を教えよう。」
ターニャがそう、提案してきた。
73
:
六道
:2014/10/04(土) 00:22:53 HOST:ubr01-c40-229.spacelan.ne.jp
「ターニャさん、師匠の師匠なんですよね?そんな人に魔法を教われるなんて光栄です!」
アクセルが嬉しそうに話す。
「決まりだね。明日から早速しごいていくから覚悟するんだね。」
ニヤリと笑うターニャ。
「はい!」
笑顔で答えるアクセル
だが、不機嫌そうにしている人が一人。
ソーニャだった。
74
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 04:08:44 ID:???
ターニャを二人で外まで見送った。
「それじゃ、また明日来るからね〜」
そう言い残してターニャは振り返った。
すると足元から光の渦がターニャを包みすぅっと消えていった。
「消えた…!!」
アクセルが目をパチパチさせながら言った。
「テレポート…移動魔法だよ。これ見よがしに使って…」
ソーニャは嫌味を交えてアクセルに教える。
「そうなんですね!ソーニャが使ってる所は見たことないですよね」
「私だってあのくらい出来る!体が鈍るから移動魔法に頼りたくないだけ!」
ソーニャは声を荒げる。
どうやら少し怒らせてしまったようだ。
「え…あ、ごめんなさい。怒らせるつもりは…」
アクセルはしゅんとしながら謝った。
「別に怒ってないっ。私は疲れたから部屋で休む。アクセルは鍛練にいきなさいっ」
それだけ言うと、ソーニャもわざわざ移動魔法を使い部屋へ消えていった。
アクセルは呆気にとられながらも雑用に向かった。
「頼りたくないって言いってたけど……見せてくれたのかな…?」
部屋に戻ったソーニャは、大きなため息をつきベッドに突っ伏した。
「はぁー…出来ると言った手前だから使ったけど…今の私には結構堪えるな…」
移動魔法はそれなりに魔力を必要とする。
高位の魔女であるソーニャだが、つわりで弱っている体には少々キツかったようだ。
75
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 04:38:38 ID:???
その日の夜、いつものように夕食の時間を迎えた。
アクセルは昼間に見た移動魔法について尋ねた。
「ソーニャはなぜ移動魔法を使わないのですか?使えば町まであっという間なのに」
ソーニャは少しムスッとしながら答える。
「言っただろう、体が鈍るからだと。町なら歩いたって30分程度だ。いい運動になるだろう」
思いのほか健康思考に驚いた。
「まぁ私は歩くのは嫌いじゃないしな。荷物が多い時以外はなるべく使わないよ」
「なるほどー!ソーニャのお母さんは僕に教えてくれるかな♪」
ソーニャの眉がピクッと動いた。
「ふんっ教えてもらえばいいじゃないか!ただ甘く見るなよ!」
ソーニャは更に不機嫌になり、ダイニングから出ていってしまった。
「あちゃ…お母さんの話しはしない方がよかったかな…それとも魔法のことを簡単に言わない方が…」
恐らくどちらも当てはまる模様でソーニャの逆鱗に触れたらしい。
アクセルはテーブルを片付け、一応ソーニャの様子を見に行った。
すでにベッドに入って眠ってしまったようだ。
(明日ちゃんと謝ろう)
アクセルはそう心に決め、自分も床についた。
76
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 04:58:14 ID:???
翌朝、朝食を用意してソーニャのもとへ向かった。
部屋をノックし、ソーニャに声をかける。
「おはようソーニャ。入りますよ」
そっと部屋に入るとベッドにソーニャの姿はなかった。
「けほっけほっ…ゔっ………」
洗面所の方から咳き込む声が聞こえてきた。
「やっぱり…!」
アクセルが小走りで洗面所に行くとソーニャが嘔吐していた。
朝はどうしても具合が悪いらしい。
そっと背中をさすった。
「はぁっ…アクセル……うっ……」
ソーニャの顔色は優れない。
ようやく吐き気が治まり口をゆすぐ。
「大丈夫ですか…?スープを用意してあるんですけど食べられますか?」
「ああ。頂くよ」
アクセルは少しほっとした。
ダイニングに向かいテーブルにつく。
アクセルはアニスに作ってもらった栄養ドリンクも用意した。
「これは本当に助かるよ」
ソーニャはそう言いながらまずドリンクを飲む。
眉間にシワがよりながらも飲み干した。
「あの〜…昨日はごめんなさい」
アクセルは昨晩のことを謝った。
77
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 05:10:27 ID:???
アクセルはソーニャの顔色を伺う。
「ああ、いいんだ。私も何だかイライラしてた」
ソーニャはまだ若干不機嫌のようだ。
アクセルはこれ以上触れないでおこうと思った。
朝食を済ませると……
コンコン…
見計らったかのように玄関のドアをノックする音がした。
「はーい」
アクセルが出迎える。
「あら、おはよう。人間の坊や」
ターニャが現れた。
アクセルは一瞬怯んだ。
「あっおはようございます!……えっと…お義母さん…?」
何と呼ぼうか模索し、お義母さんと呼んでは見たが、ターニャの眉間にシワがよる。
78
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 05:46:07 ID:???
「気安くお義母さんだなんて呼ぶんじゃないよ!ソーニャが師匠なら私のことは大師匠と呼びなさい!」
「すっスミマセン大師匠!」
いきなり説教をされてしまった。
「人間の坊や」と呼ばれている辺り、まだ認めてはもらえていないようだ。
「アクセルー?お客さん?」
奥からソーニャが出てきた。
ターニャがニヤニヤしながら
「お客さんだよー」
と茶化すように言った。
ターニャだとわかるとソーニャの顔が少しひきつる。
「あぁ母さん。本当に来たんだ」
不機嫌そうに言った。
「当たり前だよ!ビシビシやってやるからねぇ!」
ターニャが嬉しそうに言う。
「あの…大師匠。よかったらまず、お茶でも一杯いかがですか……?」
アクセルはオドオドしながらもターニャに尋ねる 。
「何いってるんだい!そんなのは後!早速いくよ」
「はっはい!わかりましたっ」
アクセルはさっと支度をして、バタバタと玄関に向かう。
「ソーニャ、僕頑張ってきます!」
見送りに来たソーニャに声をかける。
「ふん、好きにすれば?」
相変わらず機嫌が悪い。
「じゃあ行こうか坊や」
「はいっ!」
二人は森の奥へ歩いていった。
ソーニャはそれを部屋の窓から眺めていた。
(師匠は私なのに……っ)
沸々と嫉妬の然が湧いてくる。
今の体では当分アクセルに魔法を教えることは出来ない。
それが更にソーニャを苛立たせた。
そんな事を考えていると胃がムカムカしてきた。
「うぷっ…また…」
ソーニャは近くの台所に走った。
吐き気が込み上げ腹を擦る。
「うぐっ…お゙えぇぇっ…はぁ…はぁ……げぇぇ…」
つわりが収まる気配が全くなかった。
79
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 06:40:10 ID:???
そのころターニャとアクセルは、魔法の練習に使う広い場所へとやってきた。
「人間の坊や、あんたソーニャから何の魔法を教わったんだい?」
ターニャが尋ねた。
「えっと…衝撃波と結界を張る魔法です。衝撃波はまだ完璧に教えてもらってはいません…」
「たったそれだけかい!?」
ターニャは驚いた。
「はい…あの…僕に魔力をコントロールする力がなくて、とりあえず結界を張る魔法だけ先に教えてもらって……そうこうしているうちに赤ちゃんができて…」
ビクビクしながら事の経緯を説明した。
「まぁ、無駄に力をもった未熟者ほど恐ろしいモノはないからねぇ…結界だけっていうのも無理もないか。」
ターニャはため息をついた。
80
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 06:53:26 ID:???
「それに僕、ソーニャ……師匠の弟子になってまだ一年も経っていません…鍛練と勉強の日々です」
アクセルの言葉にターニャは更に目を見開いた。
「とんだ未熟者だねぇ!!」
アクセルはその言葉にまたしても怯み、変な汗が出てきた。
゙未熟者が嫌い"というターニャの性格を強烈に覚えていたからだ。
ターニャはさっきよりも大きなため息をついた。
「素質があるだけまだマシだけどねぇ…まぁいい。私は移動魔法を叩き込もうと思ったまでだから」
以外な言葉が返ってきた。
「えっ!?大師匠…移動魔法って…あの…」
81
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 07:36:39 ID:???
昨日ターニャとソーニャが目の前で見せてくれた…あの魔法?
アクセルは頭の中で回想した。
「昨日、私が帰るときに使ったあれだよ」
「あれって…あれを教えてもらえるんですか!?」
願ったり叶ったりだ。
昨晩何となく口にしてソーニャの機嫌を損ねてしまったが…
「多少なりともソーニャから聞いてるんだろう?」
「はい。師匠はあまり頼りたくないから普段は使わないと言ってましたけど…」
「いまだに…昔っから変わらないねぇあの子は」
何か思うところがあるようだった。
「ソーニャは使いたがらないだろうけど、いざとなったら必要になるからね」
「いざ…ですか?」
アクセルが疑問を投げかけた。
「あんた、ソーニャが産気付いたときどうする?」
「えっ!?えっと…アニスさ…お医者さんを呼びにいきます!」
そう言えば…今までその時のことなんて考えたこともなかった。
「まぁそうだろうね。だけどあんた達は町から離れた所に住んでる。あんたが走ったとしても、医者が走れるとは限らない。産気付いた妊婦を歩かせるのも困難だ。」
「それって…」
アクセルの目が輝いた。
「あんたが移動魔法を使えればソーニャを町医者まで運ぶなり、医者を家までつれてくることができる。坊や、あんたの力が必要なのさ」
「……はいっ!!」
アクセルは力一杯返事をした。俄然やる気が漲ってきた。
82
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 07:48:45 ID:???
「わかったかい?ただ移動魔法はかなりの魔力を消費するんだ。自分一人ならまだしも、複数人同時には結構大変だよ。生半可な修行じゃ発動させられないだろうね。そのつもりでやるんだよ」
ソーニャが師の顔になった時と同じような目をした。
その表情にアクセルは一瞬言葉を飲み込んだ。
「……やります!」
力強く返事をした。
その返事にターニャはふっと顔を綻ばせた。
「よし。じゃあ始めるよ」
「…はい!」
83
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 08:04:47 ID:???
アクセルはソーニャに教わったドーム型の結界を張った。
「まずは体力作りから始めようか」
ターニャから以外な言葉が発せられた。
「えっ、体力…?じゃあ結界の意味は?」
「これも必要なものだよ。この結界の中を全力で走ってもらう」
「えええ??」
アクセルは頭の中が???になりながらも結界の円をなぞるように走り始めた。
(この空間をぐるぐる回ってたら目まで回りそう…)
「もっと早く!!」
「はいっスミマセンっ」
ターニャが檄をとばす。
アクセルはスピードをあげた。
少し走り続けると不思議な感覚に見舞われた。
「あれ…僕、まっすぐ走ってる…!!」
さっきまでぐるぐると走っていたはずなのに…
その答えは簡単だった。
ターニャが結界内に空間を曲げる魔法をかけていた。
それでアクセルはまっすぐ走っていると錯覚させられていたのだ。
(これなら…!)
アクセルはまた少しスピードをあげ、軽快に走った。
84
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 08:32:13 ID:???
一時間ほど走ったところでアクセルの息も上がっていた。
「もういいよ!」
「はいぃ〜〜…」
アクセルはその場にヘタリこんだ。
汗だくになり肩で息をしている。
ぜぇ…ぜぇ…はぁ〜〜…
次第に結界も消えていった。
「今日はここまでにしよう。坊やもう歩くのがやっとだろ」
「は……はぃ…」
やっとの事で返事をした。
「一休みしたら帰ろうか」
アクセルは頷くと念のため持ってきたタオルで汗をふき、水筒の水を一気に飲んだ。
「あら、準備だけはいいんだねぇ」
ターニャは不適な笑みを浮かべる。
アクセルは苦笑いした。
帰る途中でターニャはアクセルに一言付け加えた。
「さっき言ったこと、ソーニャには言うんじゃないよ。」
「え?何でですか?」
アクセルは不思議に思った。
「何て言うか…母親っぽいこと言ったけど、私は母親って感じじゃないだろ(笑)私の性に合わないんだよね」
「そ…そうでしょうか?」
(ソーニャと同じでツンデレなんだな…)
アクセルは苦笑いしつつ了承した。
そのころソーニャは、苛立ちと吐き気でソファに伏していた。
「はぁ…気持ち悪い…」
アニスにもらったハーブティーでどうにか押さえていた。
ガチャ…
「ただいま〜…」
「…!」
フラフラとアクセルが帰ってきた。
続いてターニャも玄関に入る。
85
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 08:53:19 ID:???
「おかえり…」
重い体を起こして二人を出迎えた。
「疲れましたぁ…」
アクセルはソーニャに訴えるように言った。
「まぁよくやったよ。じゃ、私はこれで〜」
「母さん帰るの?」
ターニャが出ていこうとするとアクセルが引き留めた。
「あ、大師匠!お茶を…」
「要らないよ〜。若夫婦のお邪魔になるから(笑)じゃあまた明日」
ヒラヒラと手を振り、光の渦と共に消えていった。
(充分邪魔だけどね…!)
ソーニャは心の中で毒づいた。
「はぁ…帰ってしまわれた。ソーニャ、お昼にしましょうか。何か食べられそうですか?」
アクセルはソーニャには尋ねるが、ソーニャはキッとアクセルを見つめた。
アクセルはキョトンとする。
「その前に風呂に入って汗を流してこいっ」
依然として不機嫌そうにソーニャが言う。
「あ、ごめんなさいっ行ってきます!」
アクセルは慌てて風呂に向かった。
86
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 09:25:38 ID:???
アクセルが風呂から出ると二人で昼食をとった。
「アクセル。母さんの修行も大変だっただろうけど、私の鍛練も疎かにしないように」
ソーニャは苛立ってるせいかキツめに言った。
「わかってますよ〜。大丈夫!じゃあ僕、鍛練してきます!」
アクセルは雑用に向かった。
(何があったんだろう…)
ソーニャはずっとモヤモヤと考えていた。
それが苛立ちに変わり多大なるストレスとなっていた。
気を紛わせるためにも部屋に戻り本を読んだ。
そうこうしているうちにあっという間に日が暮れ、アクセルが夕食の時間だと呼びに来た。
コンコンっ
「ソーニャ!夕食の用意ができましたよー!」
「ああ、ありがとう。今行く」
ソーニャが席に座り、いつものスープを口にする。
味は変わらないのに何故かあまり進まなかった。
それをよそに、今日たくさん走ってきたアクセルは食が進んだ。
「ねぇアクセル。母さんとどんな修行してきたの?」
突然ソーニャが尋ねてきた。
アクセルのフォークが止まる。
「えぇ〜っと…(口止めされてるし、余計なことは…)まずは体力作りが必要だって言われて…ずっと走ってました!」
「……それだけ?」
ソーニャは怪訝そうに見つめた。
「はい。それで一時間ほど走りました…」
「ふぅん…それは大変だったね」
ツンケンしながらソーニャは言った。
それ以上追求はしなかった。
(確かに嘘はついてないな。しかし何か隠してる。)
ソーニャにはお見通しだった。
87
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 09:58:49 ID:???
「ならさぞかし疲れただろう。今日は早く休むといいよ」
「うーん、じゃあお言葉に甘えさせてもらいます!ソーニャと一緒に寝てもいいですか?」
アクセルは期待を込めていた。
しかし…
「私は少し調べたいことがあるから、自分の部屋で寝なさい」
「えぇ〜…わかりました」
しょんぼりと肩を落とした。
「じゃあ私は風呂に入ってから部屋に行くね。残ったものは明日食べるから保存しておいてほしい」
そう言うと席を立ち、風呂へと向かった。
仕方がないのでアクセルは自分の分を間食すると
、テーブルを片付け始めた。
ソーニャの皿をよく見るとあまり減っていなかった。
パンはまったく手をつけていない。
「ソーニャ、どうしたんだろう…今日は体調が優れなかったのかな…」
気づけなかった自分が悔しかった。
一方ソーニャは脱衣所の洗面大で、鏡を見ながらモヤモヤと考えていた。
アクセルがターニャの修行を受けるのも気に入らない。
隠し事をしていたのも気に入らない。
ソーニャは苛立っていた。
ストレスが只でさえ酷いつわりを悪化させていたのだ。
苛立ちと共に吐き気が込み上げみぞおちを押さえる。
「うぅっ…だめ…うっげぇぇぇっ……げほっげほっ」
耐えきれずそのまま洗面所で嘔吐してしまった。
「はぁ…はぁ…苦しい…」
調べものどころではない。
軽くシャワーを済ませ、ソーニャも早く寝ることにした。
88
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 10:38:47 ID:???
翌朝もソーニャは食欲がなく、少しのスープと栄養ドリンク、そして水ばかり飲んでいた。
アクセルは不安になった。
少しずつ食べられるものも増えてきたと言うのに、妊娠がわかった時より酷くなっている…
「大丈夫だよ。つわりは振り返すこともあるそうだから。一時的なものだよ…」
ソーニャは気丈に振る舞うも顔は血の気がなく青白い。
「…本当に?」
「ああ、それにもうそろそろアニスが検診に来てくれる頃だから。その時に相談してみよう」
「そうですね。ソーニャはなるべく休んでてください…」
コンコンっ
ターニャが迎えに来た。
「はーい!今いきますよー!」
アクセルが返事をする。
ソーニャをベッドに寝かせ、手をぎゅっと握る。
「それじゃ、いってきます」
「ああ」
衰弱しているソーニャを残して出掛けるのは非常に後ろめたかった。
その分早く移動魔法を身につけて、そうすればいつでも町医者に連れていける…
そんな思いでターニャの元へ走った。
89
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 10:57:22 ID:???
広場へ行く道中、ソーニャのつわりの事をターニャに相談した。
「そんなに酷いのかい?」
「はい…最近は少しずつ良くなってきてたんですけど、ここへ来てまた…」
まさかこの修行が原因だとは露にも思っていない。
ターニャは自分の時を振り返った。
「うーん、私がソーニャを身籠ったときは旦那が医者だったから…何から何まで見てもらってたけど…」
(そうだ。ソーニャのお父さんは医者だって言ってたな…)
「ソーニャはお友だちの町医者の方が往診に来てくれてます。そろそろ定期検診に来てくれる頃だって言ってました。ただ…」
「ただ?」
「僕が移動魔法を身に付けられれば、こういった時にいつでも医者に連れていけるんですよね…」
アクセルがうつむき加減で呟いた。
「そう思うんなら真面目に修行することだよ」
ターニャは的確なアドバイスと共にアクセルの背中を叩いた。
「…そうですよね!がんばります!」
90
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 11:20:20 ID:???
広場につくとアクセルは結界を張った。
「やることは昨日と同じ。だけど今日はイメージトレーニングも取り入れてみよう」
「イメージトレーニング…ですか?」
ターニャは続けて説明する。
「移動魔法はそれほど遠くへはいけない。行けるのは自分の記憶にある゙行ったことのある場所”だけなんだ」
「そうなんですね!」
アクセルは驚いた。
「走りながら行ったことのある場所をイメージするんだ。まるで足を踏み出した瞬間にたどり着いたように。まずは自分の家がわかりやすいかな」
「やってみます!」
アクセルは昨日と同じように走り出した。
ターニャがその間に空間を歪める魔法をかけた。 スピードが乗ってくるとイメージを始めた。
ソーニャと暮らすあの家を…
するとターニャが叫んだ。
「早く!もっと早く走れるはずだよ!」
「はいぃっ!」
アクセルはもう少しスピードを上げた。
そして必死にイメージする。
91
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 17:23:01 ID:???
(足を踏み出した瞬間…たどり着いたように…)
必死にイメージをするアクセル。
イメージを何回かしたときだった。
「う、うわっ!?」
身体が無理矢理引っ張られる感覚をアクセルは感じた。
それと同時にアクセルの姿が消えた。
結界もそれに応じて消えている。
「へぇ…たった2日でマスターしちゃったよ、アクセル。普通なら後1週間はかかるのにねぇ。
流石はわが娘の見込んだ旦那様、かねぇ♪」
そう呟くとターニャもアクセルを追って移動魔法を使っていた。
92
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 17:28:19 ID:???
「あれ…ここは…ソーニャのいえ?」
アクセルは家の前で呟く。
「やった!移動魔法が成功したんだ!ソーニャに話さないと!」
アクセルは勢いよくドアを開ける。
「ただいま、ソーニャ!」
その瞬間、彼は見てしまった。
洗面台で嘔吐する、ソーニャの姿を。
93
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 18:36:59 ID:???
「げほっ…はぁ、はぁ…うっえ゙ぇ…」
「ソーニャ…!」
アクセルは駆け寄って背中をさする。
ターニャも離れた場所から心配そうに見ていた。
水を流し口をゆすぐとようやく
「おかえりアクセル」
と言葉が出た。
「あんたまだつわりが続いてるのかい?」
ターニャが不思議そうに聞いた。
「うんまぁ…生まれるまで続くかもとは言われてるし、病気じゃないから心配しなくていいよ」
ソーニャはふぅとため息をつきながら言った。
「そうかい?ならいいけど…じゃあ私は帰るよ。坊や、今回はうまくいったけど、甘く見るんじゃないよ。明日は直接広場に来な〜」
そう言うとすぅっと消えていった。
「なんのこと?」
ソーニャが探るように見つめる。
「えっ!あのぉ〜…」
たじろぐアクセルにソーニャの目付きがキツくなった。
(移動魔法のことは言っても大丈夫かな…)
「実は移動魔法を教えてもらってたんです…。それが今日うまくいって…」
アクセルは余計なことを言わないよう説明した。
「そうか。それはよかったな。だけど母さんも言ってたけど甘く見るなよ」
ソーニャまでもが念を押す。
そう言うとフラフラと部屋に戻っていった。
(うーん、調子に乗るなってことかなぁ…)
「あ、鍛練もしないと!」
アクセルは沸々と考えながら雑用に向かった。
94
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 19:02:03 ID:???
アクセルは移動魔法を成功させ気分が高揚していた。
だからその時は気づかなかった。
移動魔法の魔力の負荷を。
薪割りをしようと斧を持とうとするが、鉛のように重く持ち上げるのも困難だ。
「あれ?いつもの斧のはず…」
あれほど軽々使っていたはずなのに。
アクセルはふっとターニャの言葉を思い出した。
゙移動魔法はかなりの魔力を消費する”
その途端に高揚したきぶんがぶっ飛び、っと疲れが押し寄せてきた。
体まで重く感じ、現実を目の当たりにした。
「甘く見るなってこのこと…?」
アクセルは薪割りを諦め他の雑用をこなすことにした。
しかし体が重い。
成功したと言ってもアクセルには魔力をうまくコントロールするには至っておらず、通常より多くの力を消費していた。
「こりゃ体力作りが重要なのがわかったよ…」
雑用をこなす前に一休み…と思い、ソファに座り込む。
少しのつもりがそのまま居眠りをしてしまった。
「……アクセル」
自分を呼ぶ声と、肩を叩かれる感覚で気がついた。
「ん…ソーニャ…あぁっ!!」
アクセルはガバッと体を起こした。
どのくらい時間がたったのだろう。
外はもう夕暮れ空だ。
「ごめんなさいソーニャ!ついウトウトしちゃって…僕、今日何もできてません…」
アクセルはオロオロしながら謝る。
ソーニャはニヤニヤしながらアクセルを見つめた。
「別に怒ってないよ。解っただろう?甘く見るなって」
まるでこうなることを見越したかのようだった。
非常に疲れることを知っていて、わざと夕方まで 起こさなかったのだ。
95
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 19:31:27 ID:???
ソーニャの優しさ?にアクセルは顔がほころぶ。 昼寝のお陰で疲れも和らいでいた。
「すぐに夕食の支度をしますね!」
「あぁ、お願いね。少しでいいから」
まだ体調が優れないようだ。
パタパタと準備に取りかかった。
夕食が出来上がり、二人で席についた。
ソーニャはいつものスープを飲もうとするが、あまり口に運びたくない。
アクセルに余計な心配をかけまいと、少しずつ飲んでいったが…
「うっ…」
「ソーニャ?どうしたんですか?」
半分ほど飲んだところで具合が悪くなってきた。 俯き加減になりながら腹をさする。
「ごめん。美味しいんだけど体の調子が……うぷっ…」
口に手を当て洗面所へ駆け出した。
アクセルも後を追い肩を支える。
「うっく……おぇ゙っ…けほっけほっ…お゙ぇぇ…」
ソーニャは以前にも増して苦しそうに嘔吐した。
アクセルは背中を擦りながら言う。
「ソーニャ、無理しないで…辛かったら遠慮なくのこしていいから」
「はぁ、はぁ……うん。ごめんね…」
唯一飲めていたスープでさえ受け付けなくなっていた。
ソーニャをベッドに連れていく。
栄養ドリンクだけもと、ドリンクを飲んで横になった。
(アニスさん早く来ないかな…)
自分の力を思い知った今、アニスが来るのを待ちわびるしかなかった。
96
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 19:56:20 ID:???
翌日もターニャの指示のもと同じ練習をする。
「坊や、昨日あの後どうだった?」
ターニャもまるで見越したかのように聞いてきた。
「はい大師匠、ものすごく疲れて眠り込んでしまうほどでした。甘く見るなってあのことでしょうか…?」
ターニャは鼻で笑って答える。
「ああ。解っただろう?かなりの魔力を必要とするって。あんたは凄まじい魔力を持ってるかも知れないが、ちゃんと制御しないと無駄に魔力を消費してしまうんだ。それにあんたはただの人間なんだからね」
魔女の血筋は生まれながらに魔力をコントロールする力が備わっている。
しかし普通の人間にはそれがない。
「そうすると、コントロールするにはどうしたらいいんですか?」
「集中力さ。とにかく集中力を高めること」
「なるほど…」
わかったような、わからないような…
「それと、体力作りのために今日からは沢山走ってもらうからね。じゃあ始めるよ!」
「は、はぃ〜…」
アクセルは再び結界の中を走りだし、ターニャの檄で徐々にスピードをあげる。
一時間ほど走ったところでイメージを取り入れるよう指示が出る。
(昨日やったみたいに……と)
アクセルはまた家をイメージした…。
しかしどうだろう。
昨日はあっという間だったのに、30分ほど走っても全く発動しない。
アクセルの息も上がり、走るのはもはや限界だった…。
97
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 20:37:47 ID:???
「そこまでにしよう!」
ターニャのかけ声にアクセルは足を止める。
汗が滴り肩で息をする。
「はぁっ…はっ…はぁ…ぜぇ………何でぇ?昨日はできたのに…」
「甘く見るなって言っただろう?」
ターニャが言う。
「最初から上手くいくもんか。2日目で出来たのは確かにすごいけど、移動魔法は空間の歪みに同調して移動するんだ。こればっかりは訓練が必要なんだよ。」
「そ…そうだったんですかぁ…」
アクセルはヘタリこんだ。
「私達だってそれなりに訓練したくらいだからね。あんたは幸い魔力が強いから、歪みと同調しやすいはずだ。繰り返しやれば短期間でできるはずだ」
アクセルは誉められた気がして活力がわいてきた。
「はい!がんばります!」
ソーニャのためにも…
それから連日、同じ修行を行いし、上手くいかなったり、上手くいっても中途半端だったり…
そのうち段々とコツのようなものを掴んでいった。
走る時間も伸ばし体力作りにも努めた。
ただ日に日にソーニャのつわりは悪化していった…。
ある晩強い吐き気で目が覚める。
もはや体を起こすも精一杯なほど弱っていた。
ベッドの脇に備えている
膿盆に嘔吐する。
「ぅぐっ……うぇ゙っ…うぇ゙ぇぇ…うっぷ…」
ほとんど食事をとれないでいるのに、胃が戻すことをやめない。
この日は一緒に寝ていたアクセルも起きて心配そうに背中を撫でる。
「はぁ…はぁ…ごめん起こしちゃって」
「ソーニャ…本当につわりがぶり返してるだけですか?何か悪い病気なんじゃ…」
アクセルの不安は募るばかり。
お腹の赤ちゃんも気が気ではなく、少し膨らんだソーニャのお腹に手を添える 。
「大丈夫っ。この子は凄い子供だ。きっと心配要らない…」
ソーニャは膿盆を片付けてベッドに戻る。
98
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 21:15:30 ID:???
ターニャの修行をはじめてから7日目。
走り込みながらのイメージトレーニングを行っていると…ある場所を通ったときに周囲とは違う波を感じた。
再びそこを通ったときに意識を集中させた。
すると…
またあの引っ張られるような感覚……!
アクセルの体が光に包まれ、その瞬間家の前にたどり着く。
再び移動魔法に成功した。
「やったぁ!成功だ!」
アクセルが喜んでいるとターニャがすぅっと現れた。
「やったねぇ!見てたよ。空間の歪みの位置を感じることができたね。上出来だ」
この上ない言葉だ。
「ありがとうございます!大師匠!」
アクセルは力一杯お礼をする。
「いいんだよ。まぁ今日はせっかく家の前に来たし、これで終わりにしよう。私も用があるから。明日からもう少し強めにやるかね〜」
ターニャは颯爽と消えていった。
(ソーニャに報告しよう!それで少し元気になってくれたらいいな〜)
軽い足取りで玄関を開ける。
しかし気分の高揚は長くは続かなかった。
「ただいまぁ!」
返事がない。
奥から物音が聞こえる。
「……げぇぇぇっ…」
またもやと思い洗面所に走った。
そこには激しく嘔吐するソーニャの姿があった。
「げぇほっ…うっぐ…げぇぇぇっ…」
いつもと様子が違う。
アクセルが背中をさすろうと駆け寄る。
「ソーニャ!大丈夫ですか?………!!!」
アクセルは目を疑った。
洗面台が黒ずんだ血に染まっていのだ。
ソーニャは吐くものも無くなり、それでも止まらない吐き気で血を吐いていた。
「ぅげぇぇぇっ…ごほっごほっ…はぁ…アクセル…」
真っ青な顔で目には涙が滲んでいる。
「ソーニャ!!!これは!!!どうして……!!」
あまりのことにパニックに陥るアクセル。
99
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 21:49:57 ID:???
「アクセル……う……」
ソーニャは絞り出すように名前を呼ぶと、力なく倒れ込んだ。
「ああぁあぁソーニャ!!どうしよう…!大師匠っ!!」
しかしターニャは先ほど帰ったばかりだ。
「あぁあ…ア…アニスさんのところに…!!!」
何を思ったのかソーニャの体を抱き起こし、アニスの診療所を念じた。
移動魔法を試みたが何も起こるはずがない。
ようやく自分一人に使えるようになった若輩者に、二人同時になんて到底無理であった。
「…うぅっ…くそぉぉ!!」
アクセルはソーニャを背負うとアニスの診療所へ走り出す。
人を背負って走るのはかなり時間を要するが、心不乱に走り続けた―――――
町にたどり着き、アニスの診療所をめがけた。
扉にば休診-3:00再開”という札が掲げられていた。
アクセルはなりふり構わずドンドンと扉を叩いた。
「スミマセン!アニスさん!」
すると直ぐに扉が開くが、現れたのは若い男性の医者だった。
「どうしました!?」
アクセルは一瞬キョトンとしたが、ソーニャの状況を説明した。
「あのっ…!!彼女が血を吐いて倒れて……!お腹に赤ちゃんが……!」
「吐血!?直ぐに診ましょう!!」
若い男性の医者もことの重大さをわかってくれた。
中へと案内される。
「先生!急患です!」
すると奥からアニスが現れた。
アニスはすでに8ヶ月に入りだいぶ大きなお腹をしていた。
「アクセル君!?ソーニャ!?どうしたの!?」
背中に背負われたソーニャを見て驚愕した。
アニスを見て安心したのか、アクセルはあわあわと言葉が出てこない。
すかさず若い医者が説明した。
「彼女が吐血をしたそうです。さらに妊婦だと…」
「吐血!?すぐ処置室に運んで!」
バタバタと処置が始まった。
100
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 22:14:57 ID:???
ソーニャを横向きに寝かせた。再び吐く可能性があり誤嚥を防ぐためだ。
アニスがソーニャの首に触れながら肩を叩く。
「ソーニャ!わかる!?」
すると…
「あぁ…アニス……」
「そうだよ…!」
どうやら意識はあるようだ。
アニスはすこしホッとした。
若い医者が準備を済ませると、アクセルを外の椅子に連れてきて
「貴方はこちらで待っていてください」
そう告げると再び中へ入っていった。
アクセルは座ることもできず呆然と立ち尽くしていた。
処置室の中では…
「ソーニャ、吐血したって聞いたけど、どう?まだ吐き気はある?」
「…すこし…」
するとアニスはソーニャの下着をはずし、背中を強めに擦った。
「…うっ…けほっ…」
本当に吐くものがないのか少し咽くだけだった。
その後、ソーニャの口内を洗浄した。
アニスの指示で若い医者はソーニャに点滴をする。
101
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 22:27:03 ID:???
少しずつソーニャの顔に血の気が戻ってきた。
「ソーニャ、喋れる?無理しなくていいけど…」
「あぁ、大丈夫…」
アニスが問診をする。
「ここ最近の体調を教えて?」
「…一週間ちょっと前からかな…またつわりが酷くなってきて…今まで食べられたものもダメになって…」
後ろで若い医者がメモを取る。
「ほとんど食べていないのに吐き気は強くて…。戻してばかりいたら今日血が…」
ソーニャは絞り出すように少しずつ説明した。
102
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 22:48:42 ID:???
「私が検診にいった後ねぇ…来週あたり検診の予定だったんだけど、こんなことになってるなんて…」
アニスは大体の診断をつけていたが、急激な悪化を不思議に思った。
「その間に変わったことは?」
更に尋ねる。
「……その後、私の母親が突然訪ねてきて…アクセルに修行を施してる…その度にイライラして吐いて…」
ソーニャは抑えていたものが外れたのか、涙をこぼしながら訴えた。
本当は自分が教えたいのに今の状態では無理で、それを自分の母親がやっている。
アクセルも何か隠し事をしてる。
悔しくて苛立って仕方がない事。
それが原因だと自分でも自覚をしている事も。
103
:
名無しさん
:2015/03/25(水) 23:23:59 ID:???
「なるほど…」
アニスは納得がいった。 ソーニャは支えが取れたのか次第に落ち着きを取り戻した。
アニスがメモを取っていた若い医者に質問をする。
「レビン君、どう診断する?」
若い医者がアニスのそばにやって来て、メモを自分の見解を説明した。
「えっと…ソーニャさんはストレスが原因の重症妊娠悪阻(おそ)だと思います。ししばらくの入院・安静が必要かと…」
アニスはうんうんと頷く。
アニスの弟子であることは察しがついた。
ソーニャもそれに耳を傾ける。
「そうだね。他には?」
「えっと…」
若い医者は言葉につまった。
「まだまだだねレビン君」
「う…スミマセン…」
レビンと名乗る医者は小さくしゅんとなった。
アニスがソーニャに若い医者がを紹介した。
「こちらはレビン。私の弟子で夫だ。見ての通りまだまだ若輩者だが…」
レビンはペコリとお辞儀をする。
真面目そうな好青年だ。
「レビンと申します。研修医をしています。スミマセン勉強不足で…」
ソーニャも自己紹介をした。
「私はソーニャです。こちらに薬を卸させてもらってる魔女です。あ、外にいるのが私の弟子で夫のアクセル」
研修医ということはアクセルよりも10歳くらい上なのかな…?
104
:
名無しさん
:2015/03/26(木) 01:35:19 ID:???
「とりあえず入院用のベッドの手配をするから、暫く私の部屋で寝るといい。
それから、アクセルにストレスの原因を話すことだね。
話し合うことでストレスを減らすことも出来るだろう。
レビン、彼女を背負って私の部屋に連れていってくれるか?」
「分かりました!」
アニスの言葉に、素直に応じるレビン。
ソーニャは、昔のアクセルの事を思い出して苦笑いをしていた。
レビンに背負われ、アニスの部屋に向かうソーニャ。
アクセルも付いていき、ソーニャの様子を見ていた。
アニスの部屋のベッドに横たえられ、レビンがアニスの元に戻る。
長い沈黙がソーニャとアクセルを包み込む。
沈黙を破ったのはソーニャの方からだった。
105
:
名無しさん
:2015/03/26(木) 04:53:09 ID:???
「ありがとうアクセル。お前が私を背負ってここまで連れてきてくれたんだろう?」
そういいながらアクセルの方を見ると…
「…!」
ソーニャは驚いた。
アクセルはポロポロと涙を流していた。
「ふっ…ふぇっ……ソーニャァ……死んじゃうかと思いましたぁ〜…」
「アクセル…」
安心して張りつめていた糸が切れたようだ。
「なっ…泣くな!私の弟子ともあろう男がっ」
「ずみません゙……うぅ〜」
ダメだこりゃ…
ソーニャはアクセルが泣き止むのを待った。
「ぐすぐす……」
しばらくするとようやくアクセルは落ち着きを取り戻した。
「心配かけて悪かった…。アニスから聞いたと思うけど、私は少しの間入院することになった」
「はい。聞きました…」
レビンがソーニャの世話をしている間に、アニスはソーニャの症状と入院が必要な旨を説明していた。
「つわりで血を吐くなんて思っても見なかった。ごめんねアクセル…」
いつものソーニャとは比べ物にならないくらい弱々しくなっている。
アクセルは首を振った。
「謝らないでください!僕だって…僕にも移動魔法が使えればもっと早くアニスさんに診てもらえて、こんなに苦しい思いをしなくてもよかったんです…」
「その事なんだけど……」
ソーニャが意を決して話始めた。
106
:
名無しさん
:2015/03/26(木) 06:43:26 ID:???
「……?」
アクセルが顔をあげたる。
号泣して目が真っ赤に腫れている。
「私…本当はお前が母さんと魔法の修行に行くのが嫌だったんだ」
「…え…?」
ソーニャは続ける。
「私がお前に一からすべて教えてやりたかった。だけどこんな体調では無理だ…悔しくて…。更に代わりに教えてるのが母親だなんて。張り切って出かけるお前を見て、私は母さんに嫉妬してた」
「ソーニャ…」
まさかそんな風に思っていたなんて…
アクセルは全く気付いていなかった。
「それからお前、何か隠しているだろう?」
「…っ!えぇっと〜……」(バレてた!?)
アクセルは変な汗が出てきた。
「疚しいことでないのはわかる。だけど私の知らない何かを、母さんと共有してるって事がツラい…お前は私の弟子で、私の夫なのに…」
ソーニャは瞳に涙を浮かべながらツラかったことを話した。
「ソーニャ…気付いてあげられなくてごめんなさい…」
アクセルはターニャとの事を正直に話すことにした。
107
:
名無しさん
:2015/03/26(木) 07:46:22 ID:???
「あの…ソーニャのお母さんから僕が教わっているのは移動魔法だけなんです。大師匠もそれだけ教えるつもりだと」
「…それが…??」
ソーニャは首をかしげる。
「赤ちゃんが生まれそうになった時どうするか?と聞かれて僕はアニスさん、つまり医者を呼ぶと言いました。だけど僕たちは町から離れた場所にすんでいて、往復するには時間がかかる。ソーニャをここまで歩かせる事もできない。だから僕に移動魔法を習得させて、いざという時は僕が…僕の力が必要だって」
意外な話にソーニャの目が見開く。
ソーニャは体を起こし、アクセルの方を向いた。
「母さんが…そんな事を……」
アクセルは頷く。
ソーニャにじわじわと言い様のない感情が込み上げてくる…。
「大師匠はソーニャのために、僕に魔法を教えてくれています」
ようやく理解できた。
するとソーニャの瞳から涙が溢れる。
「母さん……!」
止まらない涙に顔を両手で覆う。
ターニャにつまらない嫉妬をしていたことがバカらしい。
そんな自分が恥ずかしい
。
色んな感情が押し寄せてくる。
しかし何よりも、ターニャの想いが嬉しかった…。
アクセルはそんなソーニャを抱きしめて言った。
「僕もソーニャと赤ちゃんのために、一日も早く魔法を使えるようになりたいです…」
ソーニャは何も言えずただ頷いた…
その時……
108
:
名無しさん
:2015/03/26(木) 11:17:22 ID:???
「やっぱりここにいたのかい?忘れ物をしたから戻ったら誰も居なかったからねぇ。
…っと、お邪魔だったみたいだね。ごめんよ」
ターニャがいきなり部屋に現れたのだ。
慌てて離れる二人。その顔は真っ赤だ。
「体調、そんなに悪いのかい?赤ちゃんの魔力が凄まじいのもあるけど、ストレスから来てるってのもアニスから聞いてるよ。
私に出来ることがあればなんでもするから、言ってね。」
ターニャの優しい言葉に再び涙するソーニャ。
「それで大師匠、話って…」
「そうそう、忘れてた。明日から他の物や人物を運ぶ練習をするよ、アクセル。
今日みたいな事があるといけないから、早めにマスターしないとね。それから、ソーニャ。」
「は、はい。」
「あんたは自分の身体の事だけ考えてしっかり身体を直すこと。
心配するな、私には旦那しかいないからな。浮気なんかしないさ」
「は、はい…」
見透かされたような気がして、真っ赤になるソーニャ。
「…そう言えば、ソーニャのお父さんって今なにをしているんです?300年も生きていたらもう…」
死んでるんじゃないか。そんな不安を持ちながら少し暗い顔になるアクセル。
「あっはは、その顔死んでるんじゃないかって考えてるね?大丈夫、死んじゃいないよ。
私が不老不死の術を教えたからね。」
「そ、そうなんですか…」
少しホッとするアクセル。
「まあ、不老不死の術に関してはソーニャが教えるだろうさ。赤ん坊が産まれてからね。
今はそれより、移動魔法の修行の事を考えな。」
「は、はい!」
「おー、いい返事だ。じゃあ、明日からはみっちりしごくから。
今日は二人きりで、ゆっくりするといい。」
そう言うとターニャは移動魔法で消えていた。
109
:
名無しさん
:2015/03/26(木) 13:30:32 ID:???
↑スミマセン。
>>68
にソーニャの父親は亡くなってるとありましたのでスルーしてください。
110
:
名無しさん
:2015/03/26(木) 13:32:04 ID:???
「んぅ………」
ソーニャが不穏な声を出し腹を抑えた。
「ソーニャ?また具合が…?」
ソーニャは首を振り、へそのあたりを撫でた。
顔をあげアクセルの目をまっすぐ見つめる。
「今…動いた…!」
「えぇぇーー!!本当!?」
コンコンッ
ドアをノックする音と共にアニスが声をかけてきた
「どうしたのー?大丈夫?」
アクセルの叫び声が外まで聞こえたのか、心配になってやって来たようだ。
111
:
名無しさん
:2015/03/26(木) 15:47:18 ID:???
「アニスさん!いま、ソーニャのお腹の赤ちゃんが動いたって!」
「へえ、そりゃあ良かった…あ、そうだ、ターニャさんから言付けだよ。」
「大師匠様から…?」
「ああ。『言うのを忘れた事があって戻ったら居なかったからこっちにきてみた。
どうやらソーニャが迷惑かけたみたいだね。
今日の事もあるから、明日からは物や人物を運ぶ練習をするよ』
…だってさ」
「分かりました!それで、大師匠は…」
「『今日は二人きりで休むといい、明日からはみっちりしごくからね』って帰ったよ。」
アニスの言葉に、ソーニャは
「ふふふ…母さんがみっちりしごくって言ったからにはかなりキツい練習をするだろうな…」
と苦笑いをしながらアクセルに話していた。
----------------------------------
>>108
をスルーして
>>108
の展開に近づけてみました。
不注意でソーニャの父親が死んだことを忘れてすみません。
112
:
名無しさん
:2015/03/27(金) 02:01:04 ID:???
「あっ!今僕が言ったこと、聞かなかったことにしてください!本当は口止めされていたんです!性に合わなからいって…」
アクセルは慌ててフォローした。
「あはは。わかった、聞かなかったことにするよ。母さんに知れたらアクセルはボッコボコにされちゃうかもしれないし(笑)」
「ひぇ〜〜〜……」
その言葉にさぁーっと血の気が引いて行く…
「絶対ですよ!!」
アクセルは更に必死になった。
コンコン…
「入ってもいいかな?」
アニスが再び声をかけてきた。
「ああ、もう大丈夫」
扉が開き、アニスとレビンが入ってきた。
「…見たところ解決したようだね」
アニスは二人の様子を察して特にそれ以上は言わなかった。
「ああ、お陰さまでね。ありがとうアニス」
ソーニャはお礼をいう。
「アニスさん、ソーニャを助けてくれてありがとうございました。あと後ろのお医者さんも」
「いやいや、私達は当然の事ををしたまでだ。ねぇレビン君」
アニスはレビンに目をやる。
レビンも頷く。
「申し遅れました。私はレビンと申します。まだ研修医ですが…お力になれてよかったです」
アクセルはハッとした。自分もまだ自己紹介をしていない。
「ごめんなさい!僕はアクセルです!」
「先ほどソーニャさんから伺いました。旦那さんで且つお弟子さんなんですってね。私と一緒ですね」
レビンはニッコリしながら言った。
「お互いまだまだひよっこな辺りもね(笑)」
「うぅ…………」
アニスが痛いところをつっついた。
二人とも事実だったのでなにも言い返せなかった…。
「あはは。たしかに(笑)」
それを見てソーニャも笑う。
「ソーニャ、胎動があったんだって?」
「ああ、ついさっき。元気でいてくれてよかったよ…」
ソーニャはお腹を撫でた。
「よかったね。そのうち頻繁に動くようになるから。こっちなんてもう暴れまくりでねぇ」
アニスはため息をつきながら話した。
「アニスさん、この前会った時ってそんなに大きかったですっけ?」
アクセルがアニスの大きなお腹を見て言った。
「この前はゆったりした服だったからそれほど大きくは見えなかったけど、実はもう8ヶ月なんだよ」
お腹をポンポンと軽く叩きながら言った。
そして終始穏やかな時間が過ぎていった。
113
:
名無しさん
:2015/03/27(金) 02:01:49 ID:???
午後の診療が始まるのでアクセルはとりあえず帰ることにした。
「ソーニャ、明日の修行が終わったらまた来ますね」
「わかった。ありがとう。家の事は頼んだよ」
レビンがアクセルを玄関まで見送る。
「レビンさん、ありがとうございました。今後もよろしくお願いします!」
アクセルがお辞儀をする。
「いいえ、私の方こそ。同じ立場の人間としても」
「怖い師匠を持ってってことですか?」
アクセルがコソっと聞いた。
「はい。そうです(笑)」
レビンもコソっと返す。
共感できた二人はお互い含み笑いをした。
仲間ができて嬉しかった。
「むふふっ。それじゃまた明日!」
アクセルは家路を目指した。
114
:
名無しさん
:2015/03/27(金) 02:02:39 ID:???
そのころソーニャとアクセルも互いの夫について語っていた。
「彼はとても良い医者になりそうだねアニス」
「そうだと良いんだけどねぇ、医者になってまだ一年の研修医だから全然何もできないよ」
クスクス笑いながらアニスは答える。
「相変わらず男には厳しいな。まぁ一年で何でもできたら教える者なんて必要ないだろう。真面目で優しくて、とても丁寧だ。医者に欠かせないモノを持ってる」
ソーニャはレビンの事をよく見ていた。
「流石。ソーニャの人を見る目はスゴいな。確かにそうなんだ。その辺は私も認めている。優しさならアクセル君だって負けてないと思うよ?それに一生懸命だ」
確かにそうだ。
アクセルは常に気遣ってくれている。
私のためとターニャの厳しい修行を文句も言わず頑張ってる。
「あんたを背負ってここまで走ってきてくれたんだ。良い子じゃないか。ただ私が出ていった時の顔が忘れられないけど」
ソーニャも意識が朦朧としながらも、一連の様子はアクセルの背中で感じていた。
さぞかし情けない顔をしていたんだろうな…
「ふふふ。どんな顔をしてた?」
「母親を見つけた迷子の子供って感じかな?気が抜けて今にも泣きそうで」
「あははっ。それは何とも情けない」
その時の表情を想像したら笑ってしまった。
「まぁそれだけ必死だったんだよ。あんたを助けたくて…」
二人は女同士ならではの会話を楽しんだ。
115
:
名無しさん
:2015/03/27(金) 10:48:33 ID:???
翌日。
朝早くに、ソーニャは目覚めた。
点滴のお陰か、ストレスを吐き出したお陰か、嘔吐感は少しおさまったようだ。
「おはようございます、ソーニャ。これ、スープと栄養ドリンクです。飲めますか…?」
「ああ、ありがとうアクセル。今日は大丈夫そうだ。」
「良かった…じゃあ、大師匠に魔法を教わりに行きますので…」
「うん、分かったよ。えっと、アクセル…」
「なんですか、ソーニャ?」
「行ってきますのキス、して?」
「え、えぇっ!?わ、分かりました…」
そう言うとアクセルは真っ赤になりながらキスをした。
そのまま移動魔法で消えてしまう。
「流石だな…筋がいい。もう一人の移動は使いこなしている。
あの分ならもう一、二週間すれば複数の移動も可能になるな…」
教えるのが母さんなのは少し残念だが、アクセルは私のために頑張ってくれている。
そんな事を考え、嬉しさを感じながら、
ソーニャはアクセルの作ったスープと栄養ドリンクをゆっくり飲んでいた。
ソーニャの家の近くの広場。
ターニャとアクセルが、結界を張り、修行を開始していた。
116
:
名無しさん
:2015/04/02(木) 07:26:04 HOST:nptty203.jp-t.ne.jp
ソーニャは入院、
>>113
に修行が終わったら来るとあるので、その流れを汲みたいと思います。
―――――――――
翌朝、ソーニャは朝早く目覚めた。
「うぅ………」
体を起こそうとするとやはり吐き気が込み上げる。
落ち着くまで横になっていることにした。
しばらくぼんやりしていると、ドアをノックする音がした。
コンコン…
「ソーニャ。入るよー」
小さく声がかかった。
扉が開き、アニスが覗きこんできた。
「おはようアニス」
「起きてたんだ!早いね。」
アニスに続いてレビンも入ってくる。
「おはようございます」
レビンも挨拶をする。
「あぁ、おはよう。レビン君」
「ソーニャ、気分はどう?」
アニスが訪ねた。
「大分いいみたい。けど起きようとすると吐き気が…。だからこのままでごめん」
「気にすることないよ。つわりの典型的な症状だから」
二人で話しているとレビンが機材や薬剤が乗った台車を持ってきた。
アニスが「万が一の時に」と、ベッドの脇に膿盆を置いてくれた。
「点滴を変えますね」
そういうとレビンが点滴のパックに針を差し替えた。
すかさずアニスの指導が入る。
「レビン君。この処置について説明して?」
「はいっ。この点滴はブドウ糖が主成分です。赤ちゃんに一番必要なのはブドウ糖で…ソーニャさんのようにつわりがひどくて食事をとれない場合、こうした点滴で補います」
アニスの顔色を伺いながら説明する。
「まぁまぁだね!」
「はっ…はい!」
レビンはほっとしたように作業に戻った。
117
:
名無しさん
:2015/04/02(木) 12:49:15 ID:???
「全く…私の顔色を見てホッとする程度ではまだ未熟だな。
アイツには私の子供を取り上げて貰いたいのに…」
アニスは苦笑いをしながらそう呟いていた。
「一生懸命なのは良いことじゃないか。お互いいい弟子を持ったな。」
ソーニャが笑みを浮かべながら答えている。
「違いない。…ところで、なにか口にするか?点滴もしているし、栄養的には問題はないが、いつまでも点滴に頼る訳にもいかない。
今からでも、少しでも食事になれた方が良いと思うが…」
アニスの言葉にソーニャは、
「じゃあ、クラッカーくらいなら食べれるかも…」
と答えた。
「よし、分かった。用意してくる。だが、無理はするなよ。
食べられないと思ったらそのままにしておくと良い。」
そう言ってアニスは部屋から出ていった。
残されたソーニャは再び横になる。
「今ごろアクセルは修行を頑張っているのだろうか…」
そう呟くと再び睡魔に襲われそのまま夢の世界に旅立っていた。
一方その頃、アクセルとターニャは-
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板