したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

SSスレ

1管理人★:2011/10/10(月) 20:17:31
SSの投稿に使用ください。
ルールは棚に準じます。
開始と終了の明記、
先頭には、シリーズ名とカプ名を、必ず明記してください。
SSの感想は「チラ裏スレ」にお願いします。

2二人の扉 1/8:2011/10/18(火) 01:22:36
役人愚痴。蟻終了後。ちょいエロありです。
なんだかんだでくっついちゃうあまり起伏のない話。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「あの、白取さん。今いいですか?」
昼食を取ろうと白取が歩いていると、多口から電話が入った。
「いいよ。何、どしたの愚っ痴ー」
白取が歩みを止めぬまま答えると、多口はやや改まった口調で切り出した。
「時計、ありがとうございました。ずっと大切にします」
「わざわざそんなことで電話してきたの?相変わらず律儀だねぇ」
白取のそんな憎まれ口に多口は少し笑った。
「ほんとは、直接会ってお礼しなきゃいけないんですけど」
「じゃあ会えばいいじゃない。会おうよ」
「え、でも白取さん忙しいんじゃないですか」
電話の向こうで目を丸くする多口の表情を思い浮かべながら、白取は少し気取った声を出す。
「僕を誰だと思ってるわけ?愚っ痴ー。時間なんて作るもんでしょ」
「それ、は、そうですけど…」
あからさまに多口の声が戸惑っている。
「じゃ、今日終わったら迎えにいくから。ひとつよろしく」
ちょっと、そんな急に!という多口の抗議を無視して電話を切ると、
心なしか弾んだ足取りで白取はそのまま歩いていった。

「あら、どうなさったんですか、多口先生?」
電話を終えた途端がっくりうなだれた多口にコーヒーを出しながら、富士原がおっとりと尋ねた。
「白取さんです。時計のお礼を言っただけなのに、今日会う羽目になりました」
まあ、と富士原は多口に笑いかける。
「相変わらずマイペースな人ですねえ」
「人のことなんか考える気もないんでしょうね」
「でもいい機会じゃありませんか。ずっとお礼言わなくちゃって気になさってたでしょう?」
「ええ、まあ……」
困り顔でコーヒーをすする多口に富士原は意味ありげに微笑んだ。
「白取さんには優しくして差し上げてくださいね。
先生にメロメロなんですから。冷たくしたら泣いてしまいますよ」
多口は盛大にコーヒーを吹き出し、しばらくむせて咳き込み続けた。

3二人の扉 2/8:2011/10/18(火) 01:24:22
仕事終わりに白取に電話をすると、もう駐車場で待っていると言われ、
多口は急ぎ足で向かった。
車にもたれかかり、ズボンのポケットに手を突っ込んだ白取の姿は、
男の多口でも憧れるくらいにさまになっている。
(口さえ利かなきゃほんとにカッコいいんだけどな)
そんなことを思った瞬間、多口に気付いた白取が軽く手をあげた。
「遅いよ愚っ痴ー。ずいぶん待ったよ?」
自分から会おうと言い出しといてこの言いぐさ。
多口は呆れてものも言えず、白取に促されるまま車に乗り込む。
「あの、帰りに病院に寄って下さいね」
「なんで」
まっすぐ前を見て運転しながらぶっきらぼうに白取が尋ねた。
「自転車取りに行かないと明日仕事に行けません」
「そーんなこと気にしてんの?明日は僕が送るから心配いらないって」
「……!朝まで一緒にいるんですか!」
すっとんきょうな声をあげる愚痴に目をくれながら白取はニヤッと笑った。
「当然じゃない。なに、一緒にちょっとご飯食べてバイバイする気だったの?」
「普通そうでしょう!」
白取は気色ばむ多口を意に介さずハンドルを切る。
「残念でした。僕は普通になんか興味ないんだよね」
「ちょっとは普通になろうと思ってください!」
「まあまあ。こんな風に事件と関係なく愚っ痴ーと会うなんて滅多にないんだから」
多口の話を聞く気がない白取に、結局多口は諦めてため息をつくしかなかった。

殺風景で生活感ゼロの高級マンションの一室に多口はいた。
あれからいつ手配したのか、多口が一生に数回くらいしか行かないであろう高い店に連れていかれ、
極上の料理とワインを味わった。運転する白取は一切飲まず、
ほろ酔いの多口を伴い自宅に帰るなり、冷蔵庫を漁りだした。

4二人の扉 3/8:2011/10/18(火) 01:26:03
「どう、愚っ痴ーも飲む?」
缶ビール片手にやって来た白取に尋ねられ、多口はゆるく首を振った。
今、ちょうどよい酔い心地なのだ。
白取は多口が座るソファの隣に座って、無造作にビールをあおりはじめる。
「あ、すみません。言うの忘れてました。
時計ありがとうございます。ほんとに嬉しいです」
目元を薄く染めて、多口は笑みを浮かべながら礼を述べた。
「ま、適当に大事にしてくれればいいよ」
素っ気ない口調で照れをごまかしたことに多口は気づかなかった。
少しふわふわした気持ちで多口は部屋を見回す。
「白取さんちに来るのはじめてですけど、随分シンプルな部屋ですね」
「たまに寝に帰るだけだからねー。物を増やしようがない」
「寂しくないですか」
「どうだろうね。これが僕の日常だし。そんなこと言うなら愚っ痴ーんちに呼んでよ。
おじいちゃんの顔も見たいし」
「お断りします」
ピシャッと返され、白取は口を尖らせる。
「じゃあ愚っ痴ーがここに住みなよ。毎日楽しいよー。僕が」
「なんでそうなるんですか。お見合いして結婚するとかあるでしょう」
「あー、そっか。なるほどねー」
コトリ、白取はとローテーブルに缶を置く。
「それじゃ、しちゃおっかなあ、お見合い」
「え……」
ショックを受けたような多口の表情に白取は少し意地の悪い顔をした。
「なにその顔。愚っ痴ーが言ったんだよ、見合いしろって、今さっき」
「………」
「こう見えても僕には結構な数の見合い話が来るんだよ。
その中で一番優しくて綺麗なお嫁さんでももらおっかなあ。
あ、結婚式のとき、スピーチ頼むね。こう、僕のかっこよさが伝わるいい感じのやつやってよ」
「………」
どこか不安そうな多口に気づかぬふりで白取は続けた。
「そうだなあ、新居には真っ先に愚っ痴ーを呼んであげるよ。
奥さんに愚っ痴ーの好物いっぱい作ってもらうから、楽しみにしてて」
「本気なんですか」
多口は心細そうにポツンとこぼした。
「本気本気。そうだ、愚っ痴ーが結婚したら夫婦で来なよ。
家族ぐるみでさ、なんかいいじゃない」

5二人の扉 4/8:2011/10/18(火) 01:27:27
急にしおれてうなだれる多口を見ずに、白取は長い脚を組んで口を開いた。
「愚っ痴ー。今のちょっとずるいんじゃない」
「えっ」
弾かれたように白取を見る多口に白取は目を流す。
「だってそうじゃない。望んだ結論を僕に言わせたくてそうやって拗ねて。
僕にお見合いしてほしいの、ほしくないの?
愚っ痴ーの美点はシンプルなところにあると思うんだけどなあ」
誘導されている、と多口は思った。白取こそ望んだ答えを僕に言わせようとしている。
だが。ここでもし多口が白取に結婚相手を探せと言えば、彼は本当にそうするだろう。
結婚式場でスピーチをする多口と、それを笑顔で見つめる白取夫妻。
休日はたまに白取宅に呼ばれ、冗談を言い合いながら彼の妻に手料理を振る舞われる。
いずれは子供も生まれ、目を細めながら子供自慢を聞かされ……。
そうやって二人の関係は変質していき、付かず離れずの友人になっていくのだ。
「そんなのいやです」
思わずこぼれた言葉に多口は口を塞ぐ。
「何が?」
白取は次を促す。だがさっきの言葉は咄嗟に出たもので、多口に続ける勇気はなかった。
「教えてよ」
白取は一歩も引かない表情で待つ。
多口は胸の中で暴れる感情に、泣きそうになってしまう。
一番言いたくない言葉を言いたくてたまらず、心が乱れて熱を孕んでいく。
ふいに、多口は白取に抱き寄せられた。
白取に鼓動を聞かれそうで身じろぎをするが白取はびくともしない。
頬に、暖かいものが触れた。多口はビクッとしたあとにそれが唇だと気づく。
「愚っ痴ー。ずっと僕のそばにいてよ。愚っ痴ーしかいらないんだよ僕は」
多口が顔をあげると、白取と視線がぶつかった。
真剣で切実で、痛々しさすら覚える必死なまなざしに、多口は胸をつかれた。
いつものように「からかわないでください!」と突き放そうかと思った。
しかしそれはできなかった。白取は本気だ。滅多に見せない胸のうちを、
リスクを承知で打ち明けているのだ。
受け入れるにしろ断るにしろ、こちらも真剣に応じなければ。
多口は白取を見つめ返しながら、ぎこちなく微笑んだ。
「白取さん。僕でよければ」
すると途端に白取の表情がいつものシニカルなそれに変わった。
「愚っ痴ー話聞いてた?僕は愚っ痴ーだけしかいらないって言ったんだよ?」

6二人の扉 5/8:2011/10/18(火) 01:28:48
「ん、ん……」
キスの最中に鼻から声が漏れるのが恥ずかしくてたまらない。
もちろん多口にだってキスの経験くらいはある。
だが、こんな風に長く濃厚なものは初めてだった。
何度も角度を変え、白取の舌が多口の口内で遊ぶ。
舌の裏、頬の内側、歯の裏を舐めては舌を絡めてくる。多口は翻弄されつつ付いていくのに必死だった。
アルコールのせいもあってか体温が上がって体の皮膚が痺れたようになり、
切ないくらいに胸がドキドキした。
ふいに、白取がつけているトワレの香りに心が奪われる。
自分がつけてもけして似合わないであろう男性的な香り。
そうか。病院にくるときは配慮してつけてなかったんだ……。
そういう、白取のわかりにくい気遣いに気づく瞬間が多口は好きだった。
やっと唇が離れ、多口は唇を濡れ光らせながら息をついた。
白取はそのままゆっくりと多口をソファに倒し、
たくしあげたシャツの裾から手を滑り込ませた。
「あっ、だめです」
多口は白取の手を押さえ、毅然と言い放った。
(さすがに性急だったか……)
今日のところはこれでも上出来だと白取が体を起こそうとすると
「あの、するなら、ソファじゃなくてちゃんとベッドで……」
伏し目がちに小声で多口がそう告げた。
白取は驚きに目を丸くする。
「愚っ痴ーって結構大胆なんだねー」
「ここまで来たら覚悟してます。いやなら、キスだってしません」
腹を据えた時の多口の強さはよく知っているが、まさかここでも発揮されるとは。
白取は完敗だと心の中で両手を挙げた。

大きなベッドの上で、まるで仔犬が啼くかのような声を漏らし、多口が身を震わせる。
さすがにいきなりは無理だろうと、白取が多口の奥を指で馴らしているのだが、
やはりそれだけでも違和感は尋常ではないらしく、
眉をしかめたり、遠い目をして苦鳴にも似た喘ぎをこぼしていた。
小柄だが女性的な要素の薄い風貌なのに、その姿はぞくぞくするほど扇情的だった。
その一方で白取は、いたいけな相手に無体を働いているような罪悪感も覚えた。

7二人の扉 6/8:2011/10/18(火) 01:30:26
「あっ、あ、ん……」
白取は少しでも多口の辛さを和らげようと、意外に滑らかな肌をあいた手で優しく撫でた。
指先が乳首を掠めると、ひときわ高い声をあげて体を跳ねさせた。
「……愚っ痴ー。もうやめよっか?」
白取は指を抜いて尋ねた。これ以上のことに耐えられるようには見えなかったからだ。
多口は首を横に振る。
「最後までしてください……」
息を弾ませながら白取を見つめ返してきた。
「だって愚っ痴ー」
「今やめちゃったら、白取さんきついでしょ?」
確かに白取の体はもう引き返せないところまで来ている。
「それに……」
恥ずかしそうに視線をそらしながら多口が囁くような声で続けた。
「僕も…白取さんとしたいんです、今」
「愚っ痴ー。知らないよそんなこと言って」
理性が弾き飛ばされた白取は、一度息をつくと多口に覆い被さっていった。

さっきまでとはまるで違う激しい突き上げに、多口は首を左右に激しく振った。
「あっ、痛っい、白取さんっ、やだ……っ!」
心では受け入れているのに、口から出るのは反射的な拒絶の言葉だった。
白取のそれが自分の体をたち割ってかき混ぜる感覚は、想像を絶するものだった。
「愚っ痴ー、が、あんなこと言うから」
白取は汗をポタポタこぼしながら、多口の中を犯していく。
今まで経験したことのない内部の熱さときつさにぞくぞくしながら、
多口の額、頬、耳、首筋と唇で触れ、ある箇所でふと動きを止めた。
多口の肩と胸の間にある、小さな一生傷。
自分の短慮でひどい怪我を負ったのに、足を踏まれた程度の感覚で白取を許した傷に、
白取は恭しく唇をつけた。思えば、白取が苦しいときほど、多口は強く優しく自分を赦してくれた。
決して甘やかしはしないが、存分に甘えさせてくれる多口がいとおしくてたまらない。
「好きだよ、愚っ痴ー」
耳元でそう告げると、多口もうわ言のように答えた。
「僕もです……白取さん……好き……」
こんな状況で告白しあうなんて僕達らしいなと苦笑しつつ、白取は萎えた多口のそれに手をかけた。
「んんーっ!」
多口は首をのけぞらせて悲鳴に近い声をあげた。
突き上げるリズムで強くしごかれ、多口のものがみるみる育っていく。
苦痛と快感と白取への想いが胸に満ち、
訳がわからなくなった多口はとうとう、涙をポロポロこぼし始めた。

8二人の扉 7/8:2011/10/18(火) 01:31:48
「あ、もう、ダメです……っ」
ずっと啼き続けていた多口がふいに切羽つまった声を発し、身をくねらせ始めた。
限界が近いことを知った白取は呼吸を奪うように激しくキスをする。
「んうっ、う……」
酸欠でくらくらしながら、多口は唇をもぎ離し、全身で白取にしがみついた。
そして体を小刻みに痙攣させ、うめきながら達した。
同時に無意識に体内で白取を思い切り締め付ける。
「………っ、くっ!」
白取も引きずられるように放ち、多口の上に倒れ込んだ。

はぁはぁと二人の荒い息遣いが室内に満ち、ゆっくりと熱が引いていく。
多口はまだぼんやりとした表情で白取を呼び、白取が顔を向けると多口の方から小さくキスをした。
白取は照れた笑みを浮かべ、シャワー浴びよっかと少し疲れた口調で誘った。

ベッドで向かい合って横たわりながら、白取は多口のまだ濡れている癖っ毛を指先で弄んだ。
白取の部屋着はことごとく丈が長く、多口は結局下着だけを借りた。
「愚っ痴ーさ。いつかここで暮らさない?」
「……それは、当分無理そうです」
多口はふわふわした口調で答えると、小さくあくびをした。
「でも、時々呼んでください」
どこか弛緩した様子で、多口は白取に身を寄せてくる。
白取は長い腕で多口の肩に上掛けをかけてやりながら多口の顔を覗いた。
多口とて三十代の男性でおまけに医者だ。知識もあるしそれなりに経験もあるだろう。
だがなぜか、普段の多口には性的なものが見えなかった。
キスに興奮し、大きく脚を開いて男性を受け入れ、艶っぽく啼きながら達するなどということは、
彼には起こりえないのではないかとさえ白取は思っていた。
だからこそ多口の痴態や嬌声が感動的にすら思えるのだった。
「来たかったら毎日来たっていいんだよ?」
上機嫌で白取が答えると、眠そうな顔で多口はクスクス笑った。
「じゃあちょくちょくお邪魔します。あ、でもするのは月イチくらいにしてくださいね」
じゃないと疲れちゃって……と言いたいことだけ言うと、多口はすうっと眠りに落ちていった。
「えっ、いくらなんでも月イチは……」
白取の嘆息は彼の恋人には届きそうもない。

9二人の扉 8/8:2011/10/18(火) 01:33:06
「愚っ痴ー、起きて。遅刻するよー」
体をゆすられ、多口の意識がフワッと浮上する。
ここはどこだろうと一瞬考え、昨夜のことが一気に甦る。
ワインで気が大きくなって、いつもより素直に白取に接し、そして……
「わあああっ!」
軽くパニックを起こした多口はガバッと跳ね起きた。
「おおびっくりした。なに、どしたの急に」
と言ったあと、多口を見て急にぷっと吹き出した。
「何がおかしいんですか!」
起き抜けに笑われる筋合いはないと多口が憤慨しても白取は気にも留めない。
「だって、その頭。アーティチョークみたいなんだもん」
そう言われて頭に手をやると、多口の手にもひどい寝癖になっているとわかった。
「乾かさないで寝たからだ……!」
多口はベッドから飛び降りるとバタバタと浴室に駆け込んでいく。
「急がないと間に合わないよー」
いつも通りにスーツを着込んだ白取は腕組みして彼を待つ。
日常の中で誰かを待つなどという言葉は彼の辞書にはなかった。
ついてこれる者だけがついてくればいい。あとは知ったこっちゃないとさえ思っていた。
だが、今は彼を待つのが楽しくて仕方ない。
お人好しで世話好きで意外に気が強くて、
無類の優しさと厳しさと度量を持つ、ちっちゃい医者の彼のことを。
「ドライヤー!ドライヤーどこですか!」
泣きそうな顔で飛び込んでくる彼に、
僕達には優雅な朝なんて来ないのかもな、と白取は素直な笑みを浮かべた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

この二人はラブラブだけどあんまり色気のない感じでいてほしい。
愚痴は出勤後富士原さんにからかわれるに違いない。

10<削除>:<削除>
<削除>

11<削除>:<削除>
<削除>

12<削除>:<削除>
<削除>

13<削除>:<削除>
<削除>

14名無しさん:2011/10/22(土) 20:57:56
やべっ!すみません伏せ忘れた!
管理人さん消してください 涙

15管理人★:2011/10/22(土) 23:00:04
>>14
いったん消します。再投稿お待ちしてますね。

16名無しさん:2011/10/22(土) 23:28:39
>>15
お手数おかけしました。焦ってしまったorz
ちょっと半年ROMってます

17<削除>:<削除>
<削除>

18<削除>:<削除>
<削除>

19<削除>:<削除>
<削除>

20名無しさん:2011/10/30(日) 15:59:03
はあっ!しまった伏せ字忘れがありました!!
申し訳ございません、管理人様!上の3レス削除して下さい!!

大失態でした orz

21管理人★:2011/10/30(日) 18:44:49
削除しました。再投稿お待ちしています。

22無題1/3:2011/10/30(日) 18:51:21
再投稿してみます。管理人様ありがとうございました

兎→北。ヤマもオチも意味もエロもない薄暗いネタ

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・)ジサクジエンガ オオクリシマース!



尊敬。信頼。絶対。俺が北耶麻さんに抱いていたのは、そんな言葉だ。

どう取り繕っても、正当防衛にはなり得ない発砲数。激情のままに俺が射殺した犯人の死の真相は、だが北耶麻さんによって闇に葬り去られた。
一体どんなカラクリなのかと不安に思っていた俺の、官舎の部屋に北耶麻さんが来たのは、半月後だった。
手土産のワインは俺には渋くて、けど俺は縋るように立て続けにあおる。どうなっているんですか、どうなるんですか。そう聞けたのは、酔いが回ったと言い訳ができるくらい、顔が赤くなってからだった。

一番悔やんでいるのは、お前だろう宇佐三。

北耶麻さんはそう呟いて、値段の割に不味いなこのワイン、と苦笑した。

そして、そう思っていても同じ場面になったらまた繰り返すんだろう、お前は。

その言葉に、俺は全身を硬直させた。見透かされている。そう気付いて、怖くなった。
俯いたまま言い訳を捜す俺に、北耶麻さんは「何か口直しがないのか」と言いながら冷蔵庫を開け、缶ビールしかないそこから二本、取り出して一本を俺に差し出す。

俺も、うんざりしているんだよ。

プルトップを開ける音に紛れて、北耶麻さんがため息をついた。
俺と倍近く歳が離れた北耶麻さんは、純然たるキャリアとしての経歴を重ねている人は、なのに俺と同じだと零した。
警冊中枢に属しているのに、後悔と惑いと法の不全と、役人としての立場、警冊官としての理想、人としての未熟さを歎いた。
俺は茫然とし、慌てて否定する。北耶麻さんは立派な人で、上に立つに相応しい度量があって、眼前のことや青い正義感に振り回されて自制できない俺とは違う。そう繰り返しても、首を振られる。

俺は、お前の倍以上警冊に居る。だからお前より沢山の矛盾や闇や泥沼も見てきた。

缶を傾けた北耶麻さんは、空になったそれを握り凹ませると、俺の目を正面から見て。

二人で、立ち向かってみないか。

酔いに潤んだ目のまま誘われて、俺はその意味を考えるより先に頷いた。

23<削除>:<削除>
<削除>

24<削除>:<削除>
<削除>

25無題2/3:2011/10/30(日) 18:57:54



元はその筋の人間が持っていた物件で、リフォーム費用やあれこれが原因で塩漬になってたという「その地下室」は、俺たちの企みには持って来いの造りだった。
完全防音、セキュリティ、隠密性。世間から隔離された空間が都内の普通の、ありふれた郊外の幹線道路沿いにあるというおかしさに、秘密基地ですねと俺が笑えば。

巣の間違いだろう。

そう言って、北耶麻さんは毒のある笑いを返した。



移送された警察病院にまで顔を出す、それなりに忙しい筈の田□先生に乞われ、ぽつぽつと俺は過去を語る。
北耶麻さんと組んで具体的に何をしたかまでは伏せて、それでもこの数年間のことを、順番もバラバラに。思い出せたことから、なんでもない些細なやり取りから。
「……僕はもっと早く、北耶麻さんともお話しをしてみたかったです」
何も変わらなかったかもしれませんが、それでも。
俺に撃たれたのに、誰よりもそれが事故だったと主張し、起訴まで取り下げたお人よしの田□先生に、俺は苦笑した。この人に俺たちの闇が何処まで理解できるのか。光の中だけを進む彼には、不可能だろう。
「お二人の決断を覆す力は、僕にはなかったでしょうけど……結果を変えられたかどうかも、分かりませんけど」
甘い、甘すぎる。
俺は笑う。この見当違いな善人の外れた気配りに、北耶麻さんの分まで、笑う。
「でも僕は、愚痴は聞けますから」
そして微笑み返されて、俺は笑いを凍り付かせた。

もし、なんて話は無意味だ。
例えそうだとしても、俺は同じことを繰り返す。北耶麻さんだって、同じやり方を選ぶ。
俺たちが決めたのは、渋くて不味い道と冷たい巣だ。

26無題3/3:2011/10/30(日) 18:59:55
なのに。
「僕は、忘れません。北耶麻さんのことも、宇佐三さんのことも」
赦すとは言わない、正しいとも認めない、ただ静かにそこにある田□先生の甘さに、俺は鼻の奥が痛くなる。やっと気付けた、あのワインの底に確かにあった薫り。ずっと俺自身にも見えなかった感情。

潤んで歪んだ田□先生に、あの日の酔った北耶麻さんの幻が重なる。
嗚咽を漏らしながら、俺は間に合わなかった恋に、独り打ちのめされていた。



□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・)イジョウ、ジサクジエンデシタ!



すんませんROMに戻ります

27名無しさん:2011/10/30(日) 19:02:31
管理人様、重ね重ね申し訳ございません
コピペミスと重複投稿分の23‐24を消していただけませんでしょうか…本当にごめんなさい

28<削除>:<削除>
<削除>

29<削除>:<削除>
<削除>

30<削除>:<削除>
<削除>

31<削除>:<削除>
<削除>

32<削除>:<削除>
<削除>

33<削除>:<削除>
<削除>

34<削除>:<削除>
<削除>

35管理人★:2011/10/31(月) 19:22:22
>>34
申し訳ありませんが、伏字忘れで削除は基本的に行わない方針になっております。
(ローカルルールご参照下さい)
掲示板初期のため、対応しておりますが、何度も続いておりますので、
十分確認してからの投稿をお願い致します。

36管理人★:2011/10/31(月) 19:31:06
SS投稿は歓迎しておりますので、
これからも投稿お待ちしております。

37再投稿しらしま1/4:2011/11/06(日) 20:29:37
それほどラブな話ではありません
ふたりの性格には独自の見解が込められていますので、
人の良いふたりを望まれる方は不快に感じられる可能性があります

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

−−−−−−−−−
A│センターに戻ると、ガラス越しに臼鳥の姿が見えた。
第2MЯI室コントロールデスクの椅子に浅く腰掛け、長い足を横柄に組んでいる。
予測して居ない所でリズムを狂わされると途端に不安定になる自分を感じながら
島シ聿は軽い苛立ちと共にわざと音を立てて部屋に入った。

臼鳥は入室者になど構わず手にした書類を読んでいる。
なんと声をかけて良いのか判らなく、島シ聿は距離を取ったまま臼鳥の跳ねた襟足に視線を落とした。
「何か?」
「んー?」
振り向きもしない臼鳥に焦れて、すぐに言い直す。
「何か、事件ですか?」
「ああ。別にそう言う訳じゃないよ」
背を向けたまま手を広げると臼鳥はそう返した。
指先に挟んだ紙がひらひらと揺れる。
何気なくそれを目で追った島シ聿は自分が息を詰めていたことに気づき
細く吐き出したあと観念して机に歩み寄った。

「コッチに用があってね。ついでにグッ于ーの顔見に来たんだけど、なんか東京に行ってるみたいでさ」
臼鳥は手にしたプリントを滑らせるように机に戻す。
そう言えば島シ聿も、昼に田□とすれ違ったとき、そんな話を聞いた気がする。
僕に報せず東京入りするなんて生意気だよね、などと続けながら、臼鳥は椅子をくるりと回して島シ聿に向き直った。

38しらしま2/4:2011/11/06(日) 20:30:34
振り向いた臼鳥に島シ聿の足が止まる。
久しぶりに見た臼鳥は、相変わらず不遜な男だった。
それらは全て自分が優位に立つために、人にストレスを与える事を目的としていた。
長い手足を効果的に組み、他人に自分がどう映るかを計算しているかのような振る舞いに
島シ聿のような人間はいつも圧倒されてしまう。
果たして本人がその効果を狙っているかは不明だったが、腹が立つ程絵になっている、と苦々しく思った。

普段は見下ろされる立場なので下から見据えられることに落ち着かず、島シ聿はすぐに視線を外す。
「どう?最近?」
気にするそぶりも無く臼鳥はその横顔に問いかけた。

どう、もなにもあれから4ヶ月しか経っていない。
鳴り物入りで導入した最新鋭のMЯI機とスイス帰りの研究医。
馴染む間も無く準備不足の舞台に投げ込まれるや、施設導入の喧噪に対応せざるをえなかった。
もうこの時点で聞いていた話とはかけ離れている。
不毛な討議を繰り返し、触れられたくも無い過去をほじくられたと思えば、その後、陰謀の一端を図らずも
担わされ殺人事件の容疑をかけられた。
警察によるいわれのない乱暴を受けたあと何とか釈放に至るが、次はようやく和解を果たした父親を殺されて
再び絶望の淵に突き落とされることとなる。
忙殺され落ち着いて考える暇もなかったが、正直、帰って来て良い事など無かった。

島シ聿は手にしていた書類を机の上に投げると臼鳥から目を逸らしたまま返事を返す。
「毎日毎日、それなりに忙しいですよ」
「不況だから、ですかね」
「ふ、う〜ん」
島シ聿が放った書類の束をつまみ上げると、臼鳥は歌うように言った。そんな彼を盗み見ながら島シ聿は思う。
臼鳥との関係も、向こうに居た時の方が良好だった。
日本の医療と将来に対する思いを熱く情熱的に語られ、性嗜好を見抜かれた後はついでのように手も出されて
簡単に落ちてしまった。
蓋を開ければ行き当たりばったりの現場と、高説を語っていた臼鳥の私怨による動因。
そして田□の存在。
ひどい男だ。

39しらしま3/4:2011/11/06(日) 20:31:28
臼鳥は手にとったそれを2,3めくった後、再び机にはじき返す。書類に挟まれたクリップが机の上のモニターに当たり
小さな音を立てた。
それが思慮に沈む島シ聿を現実に引き戻し、思わず顔を向けると、こちらを向いていた臼鳥と視線が絡む。
臼鳥は島シ聿に見せつけるように口端を歪めて見せ、それから肘掛けに手をつくとゆっくりと腰を上げた。

たちあがった臼鳥に怯えるよう島シ聿は小さく肩を揺らし、それに気をよくした彼が大きく足を踏み出した。
島シ聿は思わず後ろに下がる。
「…島シ聿先生、ちょっと顔色悪いんじゃない」
「別に」
そう吐き捨てるように言いはしたが、動揺を隠すため早口で続ける。
「臼鳥さん、あんた」
「もう用は済んだんでしょう」
臼鳥がもう一歩足を進めると、島シ聿は一歩後退する。
「うん。──あぁやっぱり少し顔色悪いよ」
「体調管理はしっかりして貰わないと」
「それは」
みなまで言わせずに臼鳥は言葉をかぶせた。
「ここの未来は島シ聿先生に掛かってるんだからさ…」
心にもない事を、島シ聿は毒づいてもそれを今、口に出す勇気はない。ゆっくりと近づいてくる臼鳥から逃げるように
後ずさるが、やがてサンダルのかかとが何かにぶつかった。
その後すぐに肩が壁に触れる。もう下がるスペースはない。
臼鳥は追いつめた島シ聿を囲うよう壁へ片肘をつき、間近に見下ろした。
射抜くような臼鳥の視線に目を逸らすことが出来ない。
顎を摘まれて上を向かされたあと、物欲しそうに小さく開いた唇が、降りてきた臼鳥のそれで塞がれた。

40しらしま4/4:2011/11/06(日) 20:32:46
舌が歯列を大きく割ると、上あごに沿って深く差し込まれる。
口内を擽られる刺激に身体が震えて島シ聿は臼鳥の腕に縋った。シャツを強く掴み、膝が笑うのを必死でこらえる。
いったん奥まで入ったそれは、ゆっくりと頬をなぞり、島シ聿の舌を避けるように口の中を辿った。
じれた島シ聿が舌をのばすと、臼鳥は逃げるように少し離れる様子を見せたが
すぐに唇を深く重ね、島シ聿の舌を強く吸った。
「ん、うっ…」
不意を突かれた島シ聿から声が漏れる。
顔を横に傾けると臼鳥は唇をより押し付けて舌を絡み取った。無精髭が肌を擦り、感度を煽る。
島シ聿が待ち兼ねたように舌を絡ませるとせわしく位置を入れ替えて唇を交わしあった。
顎に溢れた唾液が伝い、彼を追って差し入れた舌を甘噛みされれば身体の中心を刺激が貫いて、島シ聿は思わず男に身体を押し付けた。

しかし臼鳥は、唐突に両肩を引きはがすと島シ聿を壁にはりつける。
島シ聿は水中から引き上げられたように正気が戻り、臼鳥を呆然と見上げる自分を自覚した。
掴む手を慌てて払いのけ、背を向けて袖口で濡れた顎をぬぐう。興奮と羞恥で頬が燃えるように熱い。

「島シ聿先生、相変わらずチョッロいなぁ」
そう言う臼鳥に怒りがこみ上げ眩暈がしてくる。
「…あんたこそ何のマネなんだよ」
「俺のことはもう…見限ったんじゃないのか」
語尾は口の中でくぐもってしまった。
「なんのこと〜?」
他人事のように臼鳥はうそぶき、すぐに切りかえす。
「ねぇ、食事行かない」
「まだやる事がある」
壁を向いたまま島シ聿は即答した。臼鳥はその臼衣の背をしばらく見ていたが、手をポケットに仕舞うと
首をすくめ、大げさに息をついた。
「そっ」
「じゃっ、僕はかーえろっと」
椅子の背にかけた上着を取ると肩に引っかけて、島シ聿の背に向かった。
「またね、島シ聿先生」
返事がないことを気にもせず臼鳥はすぐに部屋を後にする。
途端に部屋の空気の温度が下がったようで、汗ばんだ身体が冷えていくのを感じた。
島シ聿は我が身を抱くように片手を上げる。
まだ、惚れていた。
−−−−−−−−−

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

41初投稿:2011/11/10(木) 19:15:50
ハロウィンネタが未だにたぎってしまい、時期過ぎてるのにも関わらず、投下させて下さい。

愚痴総受けギャグというか、たらしてます、苦手CPある方注意してスルーしてください。
m(._.)m

42いんちょぐち 1/7:2011/11/10(木) 20:03:19
「どうしてこんな事に…。」
月明かりの中、僕は携帯を握りしめ呆然としていた。

トリックオアトリート!

事の発端は富士原さんとのチョットした賭けに負け、ホウキと魔女の衣装を渡された所から始まった。
「先ずは印丁の所へ、必ず1番に来たと話して下さいね…」

小2病棟だけ顔を出す予定だったのに、富士原さんに念を推され、印丁室をノックした。
「おぉっ、多グチ君?!似合うねー 僕のチョイスは正しかったな〜」
「えっ?」
「いえいえ ま、入って」
部屋に通されると直ぐにお茶とお菓子が出される
「すみません、こんな格好で」
「いやいや、いつも事件絡みですからね、むしろ大歓迎ですよ」
向かいに腰掛けた印丁が続ける
「A愛センターの事では面倒をかけてしまってますからね、」「
「そんな事…」
「しかも、もとはと言えば僕がウチの多グチ君を紹介したはずが、いつの間にかウチの愚ッ痴ーとか言い出すし、いくら後輩と言えどもだねー!」
「印丁先生!」
口調を荒げ始めた印丁を遮り慌てて富士原さんに言われてた事を言う
「そうなの!?僕の所に1番に!やっぱりそうなんだねw」
何とか機嫌がなおった所で、急いて印丁室を後にする。

43いかぐち 2/7:2011/11/10(木) 21:04:41
印丁室を出た所で、おそらく印丁に用があるんだろう、伊軽我さんと鉢合わせた。

「何ですか… ソレは、」
「ハロウィンなんで、 トリックオアトリート!…って ははっ」
冷めた目で見下ろす伊軽我さんに苦笑いしながらホウキを振って答える
「なるほど…で、イタズラの種類は」
「は?」
「場合によっては刑事罰の対象に」
「なりませんよ!」
「首締めたり」
「しません!!」
伊軽我さんはグイッと顔を近づけて言った
「では、正当なイタズラと言う事ですか」
「何ですか正当って」
伊軽我さんはさらに顔を寄せてくる
「見て
聞いて
触って!
舐めて!
噛む!!!!」

ええっ!?噛む?嗅ぐじゃなくて?! それアウトでしょう
「分からないなら、今、実践をー」
「結構ですっ!失礼しますっ!!」
ニヤリと笑った顔にからかわれてる事に気付き足早に歩き出すが直ぐに呼び止められる。

「?」
「また…そのうち特別週素外来に伺っても?」
「まさか、また事件でも?」
「いや、最近長く付き合ってた彼女と別れたのに、何故か皆忘れてるみたいでね…。」
「!…あっ!!」
忘れてた! そう言えばこの間フられてたんだっけ、あのキャラのせいか つい忘れてしまいがちだけど。

「待ってます」
自然と笑みがこぼれた
顔には出さないだけで、きっといろいろ辛いんだ
「僕には愚痴を聞くぐらいしか出来ないけど、いつでもお待ちしてますから」
僕はそう言うと今度こそ、その場を離れた。



颯爽と去っていく魔女の姿を目を細めて見ていた伊軽我はニヤリと笑い、呟いた

「なるほど、 いつでも…ねぇ…」

44はせぐち 3/7:2011/11/10(木) 22:09:43
小2病棟で盛り上がり、喉が乾いた僕は水を飲みに救命の医局に行く。
忙しい所だけに、誰もいないと思ってたが、そこにはマスク姿で点滴中の羽瀬河先生がいた。

「羽瀬河先生?!何ですかその姿は?!」
「そこは、先生に言われたくないなぁ〜」
「調子悪いんですか?」
「ん〜…なんか、もらっちゃって…。」
「もらった…?」
「調べたら、陽性だったから…」
「妖精?!もらったんですかぁ?!」
「さすがの早見先生も帰れって …
って、えっ! 先生なんでそんなキラキラしてんの?!」
「先生の家、行きたいデス!」
「はい?お、俺の家??いきなりなぜ? あっ、 先生!あんまり近づくと、ダメですって!」
「駄目ですかっっ?」
「い、いや、ほっ、ほら、俺の家散らかってるし、あのっ」
「そうですよね、急になんて迷惑ですよね」
「迷惑なんて…。 多グチ先生!良かったら今度体調良い時にでも!」
「本当ですかっ、約束ですよ」
「先生って、以外に積極的なんですね」
「だって生で見たいじゃないですか、海の妖精の食事w」
「へっ?!」
「楽しみにしてますね」

多グチの去った医局で、羽瀬河は
海の妖精… クリオネってどうやって入手すればいいんだ…。
そう思いながらソファに倒れた

この後、羽瀬河の様子を見に来た砂糖先生は更に具合の悪化した、羽瀬河を見つける事になる…
「おい!?しっかりしろ!
顔色悪いを通り越して 土気色になってるぞ?!
え?何?…

何だ!?バッカルコーンて?!」

45名無しさん:2011/11/10(木) 22:18:05
ここでも支援って要るの?

46名無しさん:2011/11/10(木) 22:21:04
わからぬ…
よもや書きながら投稿しているわけではあるまいな?

47名無しさん:2011/11/10(木) 22:28:53
>>46
しかしこのペースを見るとなあ……

48はやぐち 4/7:2011/11/10(木) 23:07:01
「早く入ってこい!!!」
一瞬魔がさして部屋の前まで、来たけど、流石に怒られると思い、そっと帰ろうとした時、中から早見先生の怒鳴り声が…。

「し、失礼します…」
おそるおそる中に入るとイスに座った早見先生の後ろ姿が見える
「早見先…」
「菓子だろ、差し入れがそこにあるから、適当に持って行け!」
振り向きもせず、 早見先生が応える。 それじゃハロウィンイベントにならないよ、
「分かっちゃいました?」
後ろ姿の先生が手にしたペンで防犯カメラの映像を指す
あぁ〜 なるほど。

これ以上はいられない、おじゃましました〜 と、クルリと向きを変えると、急に先生が立ち上がり電話を取る
「?」
「受けろ!」
!! キターーーッッ!!
部屋を出る先生の為に慌てて道をゆずる
颯爽と歩いて行こうとした先生がふと、僕の横で止まった、と思ったら、おもむろに咥えていたチュッパを僕の口に!!
「!!!?なにふるんれすか!?」
プリン味だ!
「なんだ、いらんのか」
僕の反応が心外と言わんばかりに今度は僕からチュッパを抜き取り、口に戻す
わぁーーっっっ!!

「先生!」
ドアを開けた先生を思わず呼び止めた
「良くないですよ、早見先生」
「何だ、俺に意見しようってか」
「そうです」
先生の顔を見てきっぱり言う
「こんな所を他の人が見たら、」ここは先生の為にはっきり言ってあげないと!
「こういう所を他の人が見たら、
先生のまわりはゴーストだらけになってしまいます!」


一瞬先生の目が大きく見開き
「お前…面白い奴だな〜」
ニッと笑いながら頭をくしゃりとなで、去っていった。

49ぐちたま かな? 5/7:2011/11/10(木) 23:58:00
ゴメンなさい、携帯投稿です
_| ̄|○明日にでも、まとめて見ていただきたいm(._.)m



小2病棟からやや疲れた様子の警支丁のシンボルマスコットであるオレンジ色の着ぐるみが出て来た
「卵村さん!」
「あぁ、多グチ先生!」
仮想仲間に会えた嬉しさで、お互い笑顔になる
「もしかしてボランティアに!?」
「えぇ、でも、元々署内でやってたんですけどね、
部下達があまりに大人げなくはしゃぐから こっちに逃げて来ましたw
少しでも警察のイメージ回復になれば良いし」

はしゃぐって… でもそんな事言ってもこの服でココに来るのだってそれなりに恥ずかしかっただろうに…
ホントいい人だな、卵村さん

「卵村さん、少しお茶しませんか?」
「えっ?」
「お菓子じゃないけど、甘いモノとかどうですか?ご馳走します」
「いいですね、でも、ワリカンにしましょう」
「そんな、せっかく来てもらってるのに」
「いえ、僕は正義の警察官ですからw」


職員食堂に行くと、僕と僕の向かいに座ったピーPO君は、同じタイミングで有名な和風スイーツの名前を口にして笑い合った

「おいしいですよね、」
「えぇでも、なんか最近、部下達がやたら食べるの嫌がるんですよねー」
「そうなんですか?」
「僕は好きなんですよね、
しらたま」
「僕も好きです、しらたま」
「本当ですか、やっぱり刑事の立場で、しらたまなんて言っちゃいけないのかなって、最近思ってて…。」
「そんなの… 関係ないじゃないですか!!
食べればイイじゃないですか!
大声でしらたまって言えばイイじゃないですかっ!
僕……付き合いますからっ!!」
「多グチ先生…」
「すみません、チョット興奮しちゃって」
「いえ、ありがとうございます、
そうですよね、しらたま、アリですよね」
「はい、アリです!」

「ナシですっ!!」
野太い声に振り返るとそこには卵村さんの部下と思われる怪しい衣装の人達
「おまえらッ」
「こんな所にいたんですか、卵村さん!帰りますよ」
「いや、でも、しらたまがっ」
「食べちゃダメですって!!」

ズルズルピーPO君を引っ張って行くのは、ドラキュラ、フランケン、狼男…
あっ、怪○君のキャストなんだ、思った所にしらたまが運ばれてきた。

50 すがぐち 6/7:2011/11/11(金) 00:27:02
1人で食べる気になれず、持って来てしまった、
何となく、一緒に食べてくれそうなのって、ここかなと…。

ノックをすると少しして巣我先生が顔を出した。

「食べてくれなきゃ、イタズラするぞッ!」
「えーーッ!?いきなり、そんな、何おぉぉっつ!?」
「先生、驚き過ぎですって、でも嬉しいです、先生だけですよ、まともに反応してくれたのって
…一緒に白玉食べません?」
「あぁ、白玉ね、…別にそこに反応したワケじゃ」
「え、何です?」
「いえ、どうぞ、お茶いれますね、」




…って言って部屋の中に入って行った所までは、近くにいたNSがチェックできたんですけどねぇー
その後、密室で何をしてるか、食べたか食べられたかまでは 分かりかねます…って言ったら、何故か臼酉さん、帰っちゃったんですよね〜

週素外来に戻った僕を迎えてくれたのは、香ばしい珈琲の香りと、恐ろしいNSネットワーク元締めの言葉だった。

51 しらぐち 7/7:2011/11/11(金) 01:13:12
そんな、僕の行動をそこまで把握できるなら、臼酉さんが来た事ぐらいすぐ伝えられるハズなのに…。
「多グチ先生、謝ったほうがよろしいんじゃ、」
「え、僕が悪いんですかぁ」
「いいえぇ〜、でも、随分と怒ってらしたから…」

話があれば、また戻って来るかと思ったけど、結局帰る時まで、臼酉さんは顔をださず、僕は散々迷ったのち、電話する事にした。

………出ない。
とりあえず、家に帰ってメールしようと半ばホッとして、切ろうとすると、相手が出る気配が。
「 ……… 」
「も、もしもし、臼酉さん?」
「 …… 」
「あ、あの 今日は来ていただいたのに…なんか、えっと…」
「君にはがっかりだよ」

やっぱり怒ってる〜
「今日は 何か話でも」
「君は伊軽我にはいつでも話聴くなんて言っちゃって、僕には事件じゃないなら、顔出すなって事?
それはチョットあんまりじゃない?」
「いや、そんな事はっ!」
目撃情報全部話したのかっ?冨士原さんっっ!
「いるんだよねぇ〜 少し偉くなると急に態度が変わる人って」
「そんなんじゃないですよ!」
「ちょっとは悪いと思ってる?」
「もちろんですっ!」
「分かった、今までの 長ーーい付き合いもあるからね、今回は愚っ痴ーの謝罪を受け入れる事にして、家で待ってるから」
「ありがとうございますっ…って家ぇ?!」
「当たり前でしょー ハロウィンはまだ終わってないよー」
「いや、僕もう着替えちゃったんで」
「それは心配ないよー、服は用意してるから」
「服ぅー?」
「手土産とか気ぃきかせなくてイイから、早くね、愚っ痴ー」
「ちょ、ちょっと、臼酉さん?」
切れた…。

何でこんな事に…。

呆然として空を仰ぐ 月がカボチャのような、オレンジ色だ。
夜はまだ終わらない

トリックオアトリート!!


。・°°・(>_<)・°°・。


色々すみませんでした
PC修理に出してきます
_| ̄|○

52惚れた弱味 1/5:2011/11/12(土) 02:33:27
役人愚痴+助手。「二人の扉」からちょっとあと。
こんな日常送ってほしいなあな願望話。エロないです。
あと、外来にドアがあったかなかったかは記憶曖昧です。申し訳ない。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

紙袋を携えた菅が、何となく嬉しそうな顔で搭乗医大の廊下を歩いている。
美味しいと評判のたい焼きをやっと手に入れることができたのだ。
目指すは特/別/愁/訴/外/来。そこの主がたい焼き好きだと言っていたので、
いつか差し入れしようと思っていたのだ。
誰のことも軽蔑せず、暖かい心配りを忘れない誠実な多口を菅は慕っていた。
それは尊敬すべき先輩というよりも、近所の優しいお姉さんに向けるような、
どこか気恥ずかしい、恋ではないが純粋な好意であった。
入り組んだ場所にある彼の城にたどり着いたとき、中から人の話し声が聞こえてくることに気づいた。
立ち聞きしようと思ったわけではないが、菅は中を窺おうと耳をドアにつけた。
『ちょっと、白取さんっ、ここは職場ですよ!』
『なーに言ってんの愚っ痴ー。今誰もいないじゃない』
『それに、昨夜あんなにしたのに』
『えー、キスは別腹っていうじゃない』
『い、い、ま、せ、ん!』
(……キス!?)
菅は思わずドアから耳を離した。会話の内容、それにキスという単語。
(あの二人ってやっぱり……)
けして聡いとは言えない菅だったが、多口と白取の間には独特の気安さがあることはわかっていた。
最初は多口が白取を嫌っているのかと思っていたが、
怒っていても少しも不快そうではない多口に、あれ、ひょっとして…と思うこともしばしばだった。
しかし、こうして不意打ちのように直接聞いてしまうと、
見てはならないものを見たような気がして菅は動揺した。
『もう、愚っ痴ーはケチだなあ』
『ケチとかそういう問題じゃありません!けじめの問題です!』
『じゃあ明日3倍キスするけどいい?』
『じゃあってなんですか。それに3倍の根拠が………』
ふいに口論がやみ沈黙が訪れ、自分の鼓動がやけにうるさく聞こえた。

53惚れた弱味 2/5:2011/11/12(土) 02:34:43
菅はショックを受けつつ、その生々しい沈黙に縫い止められたように動けなくなった。
数秒か、十数秒か。
『信じられない!あなたには理性というものがないんですか!』
静寂を破る多口の怒声に菅はビクッとした。それにかぶせて怒んないでよと白取のヘラヘラした声がする。
『そこで頭を冷やしててください!僕はちょっと出掛けてきます!』
多口の声がどんどん近づいてくる。まずい。早く逃げないと。
菅は頭ではそう思うのになぜか体が全く動かない。どうしよう。どうしよう。
「……あ」
「……あ」
鼻先でドアが開き、上気した多口がポカンとした顔になった。
「あの……」
多口は非常に気まずそうな表情で目をそらした。
なにか言わなければ。うまい言葉が咄嗟に思い付かない菅の口から出たのは、
「たい焼き…買ってきたんですけど……」

多口がお茶を淹れている間、菅は白取と並んでテーブルについていた。
様子を伺うようにちらりと見ると、白取は平然と腕組みして多口のいる方を見ていた。
(ついさっき、この人と多口先生とが……)
二人がキスをしているところを想像してしまい、菅はますます気まずい気持ちになった。
「菅くんさあ……」
視線は動かさないまま、白取がふいに口を開いた。
「は、はい」
「立ち聞きなんて趣味悪いよ?」
「……すみません」
「ま、君なら別にいいけどねー」
白取はさして気にも留めていない様子でボソッと言うとそれきり黙ってしまった。
菅は発言の意味を尋ねたかったが、もともと親しくない上、
白取には妙な威圧感があり、気安く口を利くことができない。
(白取さんにはっきり言える多口先生ってすごいんだなあ)
菅が変な感心をしていると、お盆を持った多口が現れた。
白取はやおら立ち上がると片手で受け取り、無造作に湯飲みをテーブルに置いた。

54惚れた弱味 3/5:2011/11/12(土) 02:35:57
「あ、おいしい」
たい焼きをかじって多口が嬉しげに笑った。
もう、いつもの穏やかでどこか少年ぽいおもむきを取り戻している。
「お、ほんとだ。どこで買ったの?」
白取もばくりとかぶり付き、ちょっと驚いた顔になった。
(二人で食べたかったんだけどな…)
あてが外れて落胆しつつ、菅は香りのいい茶をすすった。

「今日は、なんかすみませんでした」
法医学教室まで送ってもらう道すがら、菅は力なく多口に謝った。
「ううん。謝るのはこっちだよ。せっかくたい焼き6つも買ってきてくれたのに、
白取さんが3つも食べちゃって……」
菅はすまなさそうな多口を盗み見るように見遣る。
年下の自分が言うのもなんだが、純情そうなこの診療内科医が
白取と二人きりだとどんなことを話して、どんな風に触れあって抱き合うのだろう……。
そんなことを考えると身の内にカッと熱が走り、菅は小さく首を振った。
「……?どうかした?」
菅が我に帰ると、多口の黒い瞳が自分を見上げていた。
「いえ。あの……、多口先生は、白取さんが好きなんですか?」
(……俺のバカ!)
よりによって何でこんなことを言ったんだろう。菅は自分で自分を叱りつけた。
「へっ?」
案の定、多口は呆気に取られた顔をしたが、すぐのちに穏やかな表情になった。
「んー……腹がたつこともいっぱいあるけどね。でも、あの人といると
なぜかよそ行きの顔をしないですむんだ。
白取さんにとっての僕もそうであればいいなあとは思ってる」
「え?」
「途方もない目標のために、毎日戦ってる人だから。
それにあの性格でしょ?いつも構えた感情で人に接してるからね。
だから、僕といるときはなるべく自然体でいてくれたらなあって。
うまくできてるかどうかわからないけど」
はにかんだ表情で打ち明ける多口の姿が、菅には眩しかった。
「大丈夫です。僕なんかが言うのも変ですけど、
多口先生といる白取さんは、いつも安心しているように見えます」
力強く言いきる菅に、多口は照れくさそうに、そうかなあと言った。

55惚れた弱味 4/5:2011/11/12(土) 02:37:16
多口が戻ると、白取は脚を組んで誰かと電話で話していた。
「僕がいなきゃ回らないって、おたくらどれだけ仕事できないのよ。
結果だけ伝えようとか思わないわけー?」
(また偉そうに……)
多口はため息をついて、コーヒーメーカーの前に立った。
「愚っ痴ーお帰りー」
もう終わったのか、白取ののんびりした声が背中から聞こえてきた。
「こんなとこで油売ってていいんですか?」
コーヒーを出した多口に白取はシニカルに笑ってみせた。
「いいのいいの。大物は最後の美味しいとこだけ持ってくのが役目なんだから」
そう言うと大きな手でカップをとった。

しばらくのち、多口は時計を見てすまなさそうに切り出した。
「あの、僕、もうじき午後の診察なんです。だからそこにいられると……」
「ん?ああ、ほんとだ」
白取も時計を見て、ふむとうなずいた。
「じゃあそろそろおいとましなきゃね〜」
白取はコーヒーを半分残して立ち上がる。
その半分だけのコーヒーが目にはいったとき、ふいに多口は強い寂しさを感じた。
「あの、白取さん。今日も家に行っていいですか?」
多口のもごもごした口調に、白取は面白がるような表情を浮かべた。
「あっれー、月イチ切符は昨日使っちゃったけどー?」
「たっ、ただ行くだけですよ!」
「ほんとにー?お誘いしてます感丸出しだったよ。
ま、愚っ痴ーのお誘いとあらば、断るわけないけどね」
「〜〜〜〜〜もう、早く仕事に行ってください!」
多口が背中をぐいぐい押して追い出しにかかる。
白取は押されながらもニヤニヤ笑いを止めずにいた。
「今日は3倍頑張っちゃおうかなあ」
「だから、3倍ってなんなんですか!」
「何って、仕事に決まってるじゃない。愚っ痴ー何だと思ったの?」
多口が羞恥と怒りでみるみる顔を赤くする。
白取は大笑いすると、多口の頭をポンポン叩いて去っていった。

56惚れた弱味 5/5:2011/11/12(土) 02:38:21
休憩から戻った富士原と午後の準備をしていると、多口のポケットで電話が鳴った。
「白取さんだ……」
忘れ物かなと出ると、開口一番
『ハンバーグと唐揚げ』
と言われ、多口は面食らった。
「どうしたんですか急に」
『だから、今日うち来るんでしょ?作ってよ、ハンバーグと唐揚げ』
「メールにしようと思わないんですか」
多口が呆れると、めんどくさいじゃんと一蹴された。
「そんなにお肉ばかり食べちゃ毒ですよ。たまには白身のお魚とお豆腐と野菜を蒸したのとか……」
『そんなの食べたってエネルギーにならないよ。
ハンバーグと唐揚げね。僕の口に合う、おいしいの作ってよ』
「……わかりました」
多口が折れると、白取はよっしと歓声をあげて電話を切った。
「食生活の改善が当面の課題のようですね」
白取の声が聞こえていたらしく、富士原が準備を進めつつにこやかに言う。
「何かいい知恵ありませんか」
多口がぼやくと、富士原は穏やかに、しかしちょっといたずらっぽく笑った。
「もういいっていうくらい、お肉尽くしで攻めてみたらいかがです?」
「むしろ大喜びで食べちゃいそうですけど」
そうかもしれませんねえと富士原は呑気に笑った。

このあと、多口は白取宅でやけくそのように大量のハンバーグと唐揚げを作り、
しかしそれをきれいに平らげられ驚愕することになる。
洗い物の最中白取にちょっかいを出されて怒ったり、
白取の書棚に並ぶ書物の背表紙に目を白黒させたり、
野性動物のドキュメンタリーDVDを二人で見たりして、
結局来月の分を前倒しで行なってしまう。
行為中に、やっぱり月イチなんてやだと口走ってしまい、
白取を大いに喜ばせるのだが、それはまた別のお話。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

たい焼きは役人3、愚痴2、助手1の割合でした。
助手くん色々災難。

57神様の舌打ち1/7:2011/11/14(月) 03:46:00
役人愚痴 蟻開始少し前ぐらい。
ほのぼのです。

ーーーーーーーーーーーー

西側の窓から麗らかな春の陽気が差し込む。
部屋の中いっぱいに光の花が幾つも幾つも咲いたような気がして、ふと、多口康平はペンを動かしていた手を止めた。
何気なく周囲を見やるが、そこにあるのはいつもと何ら変わることのない特別宗祖外来の風景。
カフェテリアにあるようなテーブルセットを中心にして、部屋のあちこちには可愛らしいサボテンが飾られている。
金魚が踊る水槽から聞こえる水の音は、人の心に安らぎと落ち着きをもたらす。
およそ大学病院の診察室の一つとは思えない、心安い空間。
見慣れたはずの光景が、この時の多口の目には、なぜだかやけに幻想的に映った。
その理由が、窓から差し込む柔らかな光のせいであることはすぐに分かった。

「…………」

しばらくの間、ぼんやりと光ある空間を眺めていた多口が、不意に椅子から立ち上がった。
そして、ふらりとした足取りでその窓の方へ向かう。
まるで、見えない力によって引き寄せられているかのように。
それは言葉では上手く表現できない、奇妙な幸福感を伴っているようだった。
ーー光に酔う……果たして、そんなことがあるのだろうか?
ふわふわとした意識の中で問い掛ける。
答は求めていなかった。
魂や肉体が光の中に融けてゆくような心地良さを、どこか冷静に捉えているもう一人の自分がいるのだと、多口は何となくそう思った。

「…………」

あの薄いガラスを一枚隔てた向こうにあるのは、見慣れた病院の風景なのだろうか。
否、素晴らしい幸福に満ち溢れた理想郷があるのではないだろうか。
……そんな幻想的とも言える思いに駆られるようにして、多口はそっと右手を伸ばした。
光ある方へ。

58神様の舌打ち2/7:2011/11/14(月) 03:49:25
その刹那、痛いぐらいに強い力が彼の左腕を掴む。
「おい」と、ややドスの利いた低い声に鼓膜を揺さぶられるのと同時に、多口の体はその声の方へ力ずくで引き寄せられた。

「おい、愚ッ痴ー」

すっかり耳に馴染んでしまった声……珍しく、やや焦りの色を帯びたようなそれを受けて、多口の意識は幻想から現実へ引き戻される。
やがて合わさった焦点の先に映った人物を認めると、彼に向かって多口は静かに微笑んだ。

「あれ、白酉さん。どうしたんですか?」
「どうしたんですか? じゃないでしょー、愚ッ痴ー。ちょっと酷いんじゃないの?僕の呼び掛けを無視して窓の向こうを見続けるなんてさ。四、五回は呼んだんだよ。四、五回だよ。一、二回じゃないんだよ」
「すみません、ちょっとぼうっとしてしまってて……」
「あのねえ、いくら暇だからって訪問者の声が聞こえなくなるぐらいボーっととしてちゃ駄目でしょうが」
「酷いなあ。これでも、ついさっきまで患者さんの対応をしてたんですよ」
「じゃあ、僕の呼び掛けに気付かなかったのは何でなの?」
「それは……すみません。ぼうっとしてました」

二〇センチメートル以上もの身長差を物語るように白酉の顔を見上げながら、多口はやけに素直に頭を下げた。
少し気恥ずかしそうに微笑むその様は、未だにどこかフワフワとしているようで、穏やかでありながら何とも言えない不安を感じさせた。
窓から差し込む光を全身に浴びている為か、多口の体の半分ほどがその光の中に溶けているように見受けられるのだ。
そんな中でうっすらと微笑む彼の姿は、より一層現実感に欠けていた。

59神様の舌打ち3/7:2011/11/14(月) 03:54:45

「……白酉さん?」

難しい顔をして不意に押し黙ってしまった長身の男を、多口が下の方から伺い見た。
一体どうしたのか?と怪訝な顔で黒目がちな目を少しばかり見開く。
見慣れたはずのその顔が、すぐ目の前にあるはずの存在がなぜだかやけに希薄に見えて、白酉は多口の左腕を掴んでいた手に更なる力を込めた。

「ちょっと……痛いですよ、白酉さん。手、離して下さい」
「どうしよっかなー」
「白酉さん!」
「これ」
「え?」

困り顔の多口の目の前に、不意に上品な白地の箱が突き出された。
手のひらより一回りほど大きいぐらいの箱には、可愛らしい花柄模様とどこかの店名らしきアルファベットが記されている。

「せっかく通りすがりに良い感じのケーキ屋を見つけたがら、愚ッ痴ーと一緒に食べようかなーって思ってたんだけど、どうしよっかなー」

キョトンとして見上げる多口に向かって、白酉はわざとらしく嫌味っぽく言った。
否、嫌味っぽくと言うよりは、子供が拗ねて口を尖らせているような言いぐさだった。
それを受けると、途端に多口は嬉しそうに顔を綻ばせた。

「ええー?そんなケチなこと言わないで、一緒に食べましょうよ」
「でもねー、愚ッ痴ーってば僕の声に気付かなかったしなー」
「それについては謝りますってば。ね、もう良いじゃないですか」
「良くないねぇ、これでも僕、君がどうかしちゃったんじゃないか、て一瞬不安になったんだから」
「えっ、もしかして心配してくれたんですか?」

「ん?ま、まあ一瞬だけね。僕にとっては一応それなりに使える助手だからね。何かあったらちょっと困るって言うか、その……」

今度は白酉が気恥ずかしそうに視線を泳がせながら、つらつらと言葉を重ねる。

60神様の舌打ち4/7:2011/11/14(月) 03:58:53

今度は白酉が気恥ずかしそうに視線を泳がせながら、つらつらと言葉を重ねる。
言葉を重ねながらも尻すぼみになりゆく白酉の声に被さるようにして、多口の澄んだ声が真っ直ぐに下ろされた。

「すみませんでした。でも、ありがとうございます。白酉さん」
「え?何が」
「心配してくれたことが。申し訳ない反面、ちょっと嬉しくて……」


そう言って改めて白酉に向かって微笑んで見せた多口には、先ほどまでの奇妙な希薄さは感じられなかった。
窓から差し込む光を背にしていても、彼の体がその中に溶けているような錯覚は受けなかった。
それを認めて、白酉は小さく息をつくと同時に、ずっと掴んでいた多口の左腕をようやく解放した。

「まあ良いか、今回は。この中にあるチーズケーキによく合う美味しいコーヒーを淹れてくれたら、許してあげるよ」

空になった右手でポリポリと頭を掻きながら、白酉は込み上げる笑みを噛み殺した。
彼なりの照れ隠しを充分に理解して、多口はもう一度にっこりと笑い、頷いた。

「わかりました。今日は特別に美味しいコーヒーを作りますね」
「ちょっとやそっとの美味しさじゃあ、僕は納得しないからね」
「うーん、頑張ります」

すっかりいつもの調子を取り戻した白酉に苦笑しつつ、多口はコーヒーを淹れる準備に取り掛かった。

61神様の舌打ち5/7:2011/11/14(月) 04:02:10
カチャカチャとカップがぶつかり合う音や、コポコポと沸騰する音、
それに伴って漂ってくる香ばしいコーヒーの匂い……
それらをゆったりと楽しみながら、白酉はふと西側の窓を見た。
白酉がこの部屋を訪れた時、多口が見入っていた窓を。
自分に背を向けたまま呼び掛けにも応えなかった彼の後ろ姿は、今にも光の中に溶けて消えてしまいそうだった。
今にして思えば、実に陳腐で馬鹿馬鹿しい錯覚である。
しかし、事態に直面したその時は本当に不安感を抱いたのだ。
思いも寄らず強い力で多口の腕を掴み引っ張ってしまうほどに。
あの時、多口は一体何を見ていたのだろうか。
もし、彼の腕を掴まなかったら……

「……ねえ、愚ッ痴ー」

コーヒーを用意している最中の多口に向かって、白酉が窓に目を向けたまま声だけをかける。

「何ですか、白酉さん」
「さっきさぁ、窓の向こうの何を見てたの?」
「何ってものではないんですけど……」
「ん?何か気になるものとかが見えてたんじゃないの?」
「ええ。特定の何かというわけではないんです」
「じゃあ何?」
「光ですよ」
「光?」
「ええ。昼下がりの日差しが眩しくて、
何というか見慣れたはずの光景がすごく幻想的に見えたんですよ。
まるで、この世のものじゃないみたいに」
「ふーん。それで僕の声も聞こえなかったんだ」
「だから、それは気付かなくてすみませんでしたってば」
「………」

背中越しに聞こえる多口の声から、彼が困り顔で苦笑しているのが分かる。
だが白酉は、この時ばかり軽口で応じようとはしなかった。

62神様の舌打ち6/7:2011/11/14(月) 04:05:48

「ねえ、愚ッ痴ー」

不意に一段ほど低い声で、白酉が多口に呼び掛けた。
改まった様子の白酉に、多口の手が一旦止まる。


「何ですか、白酉さん」

職業柄、相手の心の機微に聡い多口は、白酉の様子の変化に合わせるように、声を落ち着いた色に変える。
そういったことが自然にできてしまうところに、多口康平という人間の誠実な人となりが滲み出るのだ。
神とやらが、もしも居るのなら、彼のような人をこそ傍に置くことを望むだろう。
しかしーー

「苦しいことも悲しいことも無い、ついでに僕もいない天国みたいな世界と、苦しいことも悲しいこともいっぱいあって、もちろん僕もいる現実の世界と、どっちが良い?」

白酉は唐突にしておかしな質問を投げかけた。
相手の顔も見ずに問い掛けるその様は、真剣なのか冗談なのか意図が掴めない。普通の人間なら。
だが多口は、小さな息を一つだけつくと、満面の笑みで答えた。

「そんなの、決まってるじゃないですか」
「……だよねぇ」

迷いのない多口の答えを受けて、白酉はようやく心にこびり付いていた険を完全に払拭した。
そうして立ち上がり、西側の窓の前に歩み寄る。
少しばかりの陰りを帯びつつも、まだまだ充分な目映さを誇る光……その大元たる太陽に向かってニヤリとほくそ笑むと、白酉は口の端を吊り上げたままそっとブラインドを下ろした。
そうして何事も無かったかのような顔で振り返ると、美味しそうなコーヒーを用意した多口が木漏れ日のような笑みを湛えて白酉を待っていた。

「何やってるんですか、白酉さん」
「お邪魔虫の排除、かな」
「何ですか、それ」
「気にしなくて良いよ。もう終わったから」

涼しい顔で笑い、白酉は多口の待つテーブルへ向かった。

63神様の舌打ち7/7:2011/11/14(月) 04:10:52
「神様の舌打ち」以上で終わりです。

すみません、適当に7分割ぐらいを見込んでいたのですが、
終わってみれば、6分割で事足りました。
更に追加の注意点をば。
3/7の最後の文と4/7の頭の文が被っているので、
皆様の脳内で、どちらかを削ってやって下さい。
重ね重ね申し訳ありません。

64惚れた弱み 1/4:2011/12/04(日) 17:33:53
本編はSPと紅将軍の間くらい、後日談は蟻亜土ねの時計プレゼント直後だと思って読んでください。
「ぼくのかんがえたしらぐちのなれそめ」話なので注意してください。

-------------------

春は仕事が忙しい。希望に溢れた出会いの季節は、現代人にはそれは時として重荷となって圧し掛かる。
暇な時期と比べると、患者の数は3倍近くなる。
毎日毎日受付時間いっぱいまで診察をして、受付時間終了後は大量のカルテ整理に追われた。
大変だけれど、僕はこの時期が好きだった。

今日もいつものように、カルテ整理に追われていると、後ろで富士原さんの驚きを含んだ声がした。

「あらぁ、珍しい」

誰か来訪者が来たようだ。誰だろう。おかしいな、受付時間はもう終了したはずだけど。
はてなマークをうかべながら後ろをちらりと振り返ると、そこにいたのは確かに珍しい人物だった。

「よっ、愚っ痴ー久しぶりぃ〜」

その顔を見た瞬間、反射的に顔を背けてしまった。同時に、失敗した、とも思った。
それをごまかすように僕はまたカルテ整理に戻った。

「何なの?挨拶もなし?感じ悪いね〜愚っ痴ーの癖に」
彼は、つかつかとこっちに近づいてきて、仕事机を覗き込むように嫌味を吐いた。

「すいません白取さん、僕今少し手を離せないんです」
「うわ〜なっまいきぃ〜」
頭を軽く小突かれる。

「白取さん、コーヒーいかがですか〜」
給湯室のほうから藤原さんの声がした。
「あ、いただきま〜す。すいませんねぇ、富士原さん」
「田愚痴先生はいかがですか〜」
「僕はもうちょっとやりたいので」
「はぁ〜い」

それから富士原さんが彼の青のグラデーションのマグカップを運んできながら、こう言った。

「で、今日はどうなさったんですか?」
「ちょっと院長に確認して頂きたい書面がありましてね。ついでにここにも寄りました」
「あらぁ、そうだったんですか。また何か事件かと思いましたわ」
「そんな僕がトラブルメーカーみたいに」
「でも白取さんって、何もなく田愚痴先生のところいらっしゃらないから」

走らせていたペンが一瞬止まる。
白取さんの曖昧な笑い声がした。表情はわからない。

「・・・じゃあ、そろそろ19時ですし、私は上がらせていただきましょうかね」

富士原さんが発した言葉に、僕らはほとんど同時に「えっ」と声を上げた。

「では田愚痴先生、また明日。白取さん、ごゆっくり」
含みを持たせた言い方で、ニヤリと口元を緩ませながら藤原さんは風のように去っていった。

僕の走らせるペンの音だけが、部屋に響くようになる。
白取さんの、おそらく言いたいであろうことはもう、わかっている。
この前最後に会った時、僕は白取さんに告白されたのだった。

65惚れた弱み 2/4:2011/12/04(日) 17:34:46
「愚っ痴ー」

ビクッとして、後ろを振り返る。

「それ、いつ終わる」
「あ、えっと・・・あと、30分くらいです」
「わかった。待ってるから」
白取さんは僕の方には目を向けずに、置いてある新聞に目を落としながら言った。

「明日の仕事はいいんですか?」
「うん、それより大事なことだから」

僕の心臓がドクンと疼いた。

・・・・・・・・

『愚っ痴ー、』

その日、白取さんは明らかに纏っている空気が違った。
僕だって恋愛絡みの相談は、何度も何度も受けてきた。
そういう人間から匂い立つ「熱」のようなものが、
白取さんの僕を見つめる目に滲みだしてきていることに薄々勘付いていた。

なぜ、何で、僕なんだ。白取さんみたいな人なら、どんな女の人でも落とすことが出来るだろうに。
魅力ある人だ。怖かった。何で僕なんだ――

日に日に白取さんの目に宿る「熱」は、僕を覆い尽くしてしまいそうなほど強く強く、輝きを増していった。
僕は恐ろしくて、身震いがしそうになるのを堪えて、努めて普段どおりに振る舞った。
白取さんの相変わらずの冗談にも応酬したりして、何事もないように、その視線に気付かないふりをした。
一度の偶然が命取りになる。僕はその機会をかわすことだけに精一杯尽力した。
けれど、かわせばかわしたぶんだけ、彼の「熱」は益々激しいものになって、僕のほうに今にも降り掛かりそうだった。

それが、あの日だったんだ。
白取さんのマグカップを片付けようと手を伸ばしたら、ふいに手を重ねられた。背中が、ゾクッと泡立つ感覚がした。
白取さんの手の体温が、体の自由を奪った。硬直する僕の手に触れながら、白鳥さんは、言った。

『好きなんだ、君のことが』

彼特有の、逃げ場を許さない鋭い眼差しが、僕を一心に捉えていた。
僕はもう、今まで避け続けていたツケが一挙に回ってきたことに混乱して、気付いたらその場を飛び出してしまっていた。
起こった出来事に対処出来ず、1時間くらい病院内を所在なくうろうろした。
しかし、いい加減夜も深くなってきていたので、仕方なく、恐々としながら戻ると、白取さんの姿はもうそこには無かった。

・・・・・

それから、1ヶ月以上、白取さんは姿を現さなかったのだ。

白取さんは、最初は厄介な人だと思った。だけど一緒にいると何故だか楽しかったし、自分も成長できた。
この関係を、壊したくないのに。ずっとずっと、良い関係でいられるはずだったのに。だけどもう、ダメなんだ。ダメになる。
ああ、後少しで仕事が終わってしまう。僕は、腹をくくる気持ちで、机にペンを置いた。
今度はもう、逃げられない。

「・・・あの、」
「ん?終わった?」
「・・・はい」

白取さんは神妙な面持ちで顔を上げ、僕を見据えた。
僕はあの日の白取さんの体温を思い出して、体がカッと硬直していくのがわかった。

逃げたい。逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい。
思わず俯いてしまった僕を見て、白取さんは自嘲気味に少し笑った。

「そんなに怯えないでよ」
白取さんは、諦めたような顔でそう言った。

「この前のことだけど」

来た。
心臓の高鳴りで、どうにかなってしまいそうだった。

「愚っ痴ーが忘れたいんなら、忘れてもいいよ」

白取さんは、読んでいた新聞を、丁寧に畳んだ。

「じゃあ、それだけだから」

呆気にとられる僕を残して、白取さんは静かに部屋を出ていった。

一人残された部屋で、僕はまたしても混乱の渦中にいた。
忘れたいんなら、忘れてもいいよ?
仕事よりも大事なことって、たったそれだけのことを言うために、ここへ来たというのだろうか。

混乱が少し柔らいだ後、今度は何だか悲しいような惨めなような、複雑な気持ちが僕を襲った。


それから、白取さんはまた姿を見せなくなった。

66惚れた弱み 3/4:2011/12/04(日) 17:38:02
季節はもう初夏になり始めていた。仕事も少しばかり落ち着いて、僕は相変わらずの毎日を送っていた。
白取さんはあれ以来、一度も姿も見せなければ、何かしらのコンタクトも寄こしてこなかった。
ときどき、あのことが夢だったかのような気さえしてくる。
安堵する気持ちとは対照的に、何でこんなことになっちゃったんだろうなぁ、という気持ちもあった。
しかし、そんなことを考えてもまたあの複雑な気持ちが襲ってくるだけなので、なるべく考えないようにしていた。

小雨のぱらつく、薄暗い午後だった。
「田愚痴先生、すみませんけどこれ、院長のところまで持っていっていただけます?」
と言って、富士原さんに白封筒を手渡された。

「あ、わかりました」
僕は二つ返事で応諾して、院長室に足を早めた。

院長室に到着し、いざノックしようとしたその時、勝手にドアががちゃりと開き、見慣れたシルエットが眼前に現れた。

「「あっ」」

白取さんだ!

僕が混乱して固まっていると、白取さんは眉一つ動かさずこう言った。

「あの〜田愚痴先生、邪魔なんですけどね」
「・・え!?あ、すいません・・・」
「じゃあ院長、またよろしくお願いしま〜す」

僕を半ば押し出す形でドアを閉め、白取さんはその場を去ろうとした。

「ちょっと待ってください」

不思議なことに、ほとんど無意識に僕はこの言葉を発していた。
足がすくみそうになるのを堪えながら、僕は白取さんのほうへ近づいていった。

「この前の、こと、ですけど」
声が震えている。
白取さんは黙ったまま、あの日と同じ目つきで僕を見ていた。

「どういうつもりですか」
「どういうつもりって?」

「・・・・・。」
うまく言葉が出てこなくて、沈黙してしまう。

「僕が愚っ痴ーのこと好きって言ったこと?」
それを見透かしたように、白取さんが言った。

「何で・・、そんなこと、何で言うんですか?」
「何でって・・・」
「白取さんなら、もっと他に、いろいろ似合う人がいるでしょう?何で僕なんですか?
僕はずっと、・・・今までの関係でよかったんです。それがよかったんですよ。
からかってるんでしょ?いつもみたいに、僕を。そうだって言ってください、」
今度は逆に、自分でも何を言っているかよくわからないまま、ぺらぺらと言葉が出てくる。

「・・・だからさぁ、言ったでしょこの間。愚っ痴ーが忘れたいんなら忘れてもいいって」
白取さんは心底面倒そうに言った。

67惚れた弱み 4/4:2011/12/04(日) 17:41:25
「愚っ痴ーは今までどおりがいいって思ってるみたいだけど、僕はそれはもう無理だから」
「ど・・どうしてですか?」

「・・・・・。あのさぁ、僕だって人間なんだけど」
「・・・?」
「だぁから、好きになった人に触りたいとかキスしたいとか、当たり前に考えるっつってんの」

僕は、みるみるうちに顔が熱くなるのがわかった。
「そ・・そんなの、おかしいですよ・・・」
「別におかしくないよ。僕だって今までどおりの関係でいることも考えたよ。
愚っ痴ーがそうしたがってるのもわかってた。愚っ痴ーはわかりやすいから。
けどね、あの日がもう、限界だったの。理性じゃどうにもならない瞬間っていうのがあるんだよ。
これから先、愚っ痴ーに大切な人が出来たとして、僕はもうその近くにいて、祝福してやれる自信がない」
白取さんは淡々と台詞を吐いた。

「だからあの日、好きだって言ったんだ」
「・・・・・。」
「けど愚っ痴ーは逃げたよね」
心がざわざわと騒ぎ出す。

「自分のものに出来ないなら、離れたほうがマシだと思った。この前はそれを伝えに来たんだ」

僕はずっと下を向いていた。

「わかった?」
「・・・わかりませんよ・・・」
「ったく・・・」
白取さんは、呆れたように大きなため息を一つついた。

「僕は白取さんともう会わないなんて、そんなの嫌です」

白取さんは目を丸くして僕を見た。
「でも、ああ言った以上、僕何するかわかんないよ。それでもいいわけ」

「・・・・・・それでもいいです」
白取さんはさらに驚いた顔をした。

「白取さんともう会えなくなるほうが嫌です」

今度は、白取さんのほうが言葉を失ったようだった。
長い沈黙が廊下に流れる。

「・・・愚っ痴ーって、つくづく勝手だよね」
「それは白取さんもでしょう」
「ははっ」
白取さんの笑顔を、久しぶりに見たような気がした。

「ああ言ったからには、覚悟しといてよね、愚っ痴ー」
「えっ」
「じゃあ、またね」

そういって、白取さんは去っていった。

封筒を院長に渡した後、外来に戻ると、富士原さんがそわそわした顔で出迎えてくれた。
これは一杯喰わされたな、と思った。

携帯を見ると、メールが入っていた。
白取さんからだった。

『今夜行くから、待ってるように』

僕は、こっちのほうがずっといい、と思った。


終しまい
・・・・・

後日談


RRRRRRRRR...

「あ、白取さん?時計ありがとうございました」
「・・・ああ」

「・・・・・・・・・。」
「何なの?」
「いや、ちょっと思い出しちゃって。白取さんに告白された時のこと」
「はぁ?」
「あの時、白取さんも怖かったんだなぁっと思って」
「はぁああ??」
「僕も怖かったですけど」
「・・・まぁ、愚っ痴ーが僕のこと大好きなのはもうわかってたけどね。
愚っ痴ーってそういう小賢しいっていうか、カマトトぶるところあるから。あと一押しするために、わざと距離置いたの」
「よく言いますよ」
「でも言うとおりだったでしょ」
「はいはい」
「はは」
「・・・気をつけてくださいね」
「・・・うん。じゃあ、また」
「はい、また」

End
-------------------
以上です!おそまつさまでした。

68名無しさん:2011/12/04(日) 20:15:40
すみません、↑の小説を書いたものですが、以前の方とタイトル被ってますね。ほぼ無自覚でした・・・
作者さまはじめ、不快に思われた方にお詫び申し上げます。

今度からはちゃんと確認して投稿するように致します。大変失礼しました!

69ただ好きなだけ 1/7:2012/01/08(日) 00:14:23
役人愚痴。「惚れた弱味」の続き。ぬるめのエロあります。
>>64さん気になさらないで下さいね)

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「それにしてもビックリしました」
白取がさっきまで二人で見ていた野性動物のドキュメンタリーDVDを片付けてソファに座ると、
隣の多口がしみじみ呟いた。
「この地球上で毎日、動物達は命のやり取りをしているんだよね。
人間はそういう暮らしを避けたくて文明を発展させたんだろうけど、
こんなドキュメンタリーをわざわざ見てしまうってことは、
どこまでいっても人間は動物でしかないってことなのかもしれないね」
白取が真面目に語ると、それにかぶせるように多口が口を開いた。
「まさかハンバーグも唐揚げもきれいに食べちゃうなんて」
「えっ、そこなの!?」
白取が呆れた顔をすると、多口が興奮ぎみに食い下がってきた。
「だって、ハンバーグは7個も作ったし、唐揚げだって山盛り揚げたんですよ?
残ったら、明日お弁当にさせてもらおうかなって思ってたのに、
白取さん一気に食べちゃったから、ほんとにビックリして…」
「そんなこと言われてもねー。美味しかったんだからしょうがないじゃない」
臆面もなく白取にそう言われ、多口は照れ隠しになぜかムッとした顔をした。
「……お水飲んできます」
そう言って立ち上がった多口の腕を白取はつかんで引っ張った。
「わっ、ちょっと!」
急に腕を引かれ、バランスを崩した多口は、白取の膝の上に横座りする格好になった。
「恥ずかしいからって逃げることないじゃない」
「別に恥ずかしくなんかないです!」
白取はニヤニヤ笑いながら、間近にある多口の目を見つめた。
「せっかくの2連泊なんだからさ、もうちょっとこう、恋人らしい語らいでもしようよ」
「恋人らしい……?」
多口は白取の目を見下ろしながら考えた。
いつも自然にポンポンと言葉の応酬を繰り広げてはいるが、
いざ恋人らしい会話と考えるとうまく回路が働かない。

70ただ好きなだけ 2/7:2012/01/08(日) 00:15:55
「僕のかっこよさについて存分に誉めるとかさ、
僕がどれだけ優秀かを語り合うとか……」
多口を見上げながらふざける白取に、多口はふいに「あ」といった。
「どしたの」
「いえ……あの、なんかちょっと新鮮だなって」
「何が?」
「だって、僕が白取さんを見下ろすなんて、まずないじゃないですか。
だからこの視点って新鮮だなあって」
多口の言葉に、白取は何でもないように「そう?」と答えた。
「昨日の今ごろだって、愚っ痴ー僕を見下ろしてたじゃない」
白取はよく見せる、ちょっと意地の悪い笑顔を浮かべた。
「え?」
「ベッドの上でさ、僕にまたがってすっごいいい顔してたじゃない。もう忘れたの?」
からかうようにそう言われ、多口は昨夜のことを一瞬で思い出した。
とたん、みるみる顔が紅潮し、口をパクパクさせた。
「あっ、あれは、行き掛かり上ああいう体勢になっただけでっ」
白取はクスクス笑うと、どっちでもいいよと言い、多口の後頭部に手を添えた。
そっと引き寄せ、唇を重ねる。多口も目を閉じて応えた。
「今度は怒んないんだね」
「それは……今はプライベートじゃないですか」
至近距離にいるせいか、二人ともつい囁き声になる。
多口はふいに、自分に触れる白取の手がいやに熱いことに気づいた。
「白取さん、ひょっとして今ドキドキしてませんか?」
「そりゃあしてるよ、僕だって男だしね。愚っ痴ーこそどうなの」
ちょっとぶっきらぼうな白取の声に多口は微笑んだ。
「もちろん……僕もです」
多口の答えを聞き、白取は満足そうな笑顔になった。
「……どう?来月の分も今日しちゃう?」
いつもの口調にかすかに熱を潜ませ、白取が誘う。
すると急に、多口は目を泳がせ始めた。
そもそも、肌を合わせるのは月に一回だと一方的に決めたのは多口である。
白取はそれをちゃんと守り、普段は多口を誘うことはなかった。
もちろん冗談めかして誘うことはあっても、
キス以上のことはしてこなかったのだ。

71ただ好きなだけ 3/7:2012/01/08(日) 00:17:24
罪悪感がなかったわけではない。多口とて男である。
そばにいながらおあずけを食らわせる残酷さも理解していた。
だから、職場での一件については、白取にストレスを与えてしまっているのだなと彼なりに反省していた。
だが、肉体への負担も大きかったし、あまりに強い快感に我を忘れることが恥ずかしかった。
そんな自分勝手な理由で白取の接触を避けておきながら、
自分がしたいからといって反故にするのはいくらなんでも……と躊躇してしまう。
「今さらしたいなんて言えないなあ…ってとこ?」
ハッとして多口が白取に視線を向けると、白取はシニカルに笑いながらも、
その瞳に強い欲望を宿していた。
「愚っ痴ーがしたくないんなら僕はやめるけど。
したいんだったらしようよ。パートナーとセックスしたいって思うことは、
別に恥ずかしいことじゃないしね」
そう言いながら、白取は多口の頬や首筋に軽いキスを繰り返す。
「……っ、ん……」
こらえていても小さく声が漏れてしまう。
「どうする愚っ痴ー。僕はしたくてたまんないんだよね」
率直に誘ってくる白取の低い声に多口はぞくりとした。
唇が触れるたびに少しずつ多口の体に灯が点っていき、追い詰められていく。
とうとう多口はこらえきれず、白取の無精髭の頬に口づけ、そのまま耳元まで唇を滑らせた。
「あの、してください……。したい、です」

昨夜の痕が生々しく残る多口の体の至るところに、白取はキスをする。
「あっ、あ、んっ……」
そのたびごとに反射的にもらす声はすでに色づいていた。
白取とこうして触れあうのはこれで三度めだが、
多口の体はすでにそれを待ちかねていた。
多口は最初、白取は自分勝手なセックスをするだろうと考えていた。
したいようにし、させたいようにさせるのだろうなと何となく思っていた。
しかし、白取は優しかった。多口を常に気遣い歩調を合わせるように抱いた。
少し焦らされたり激しくされることもあったが、多口が本当に嫌がることはしなかった。

72ただ好きなだけ 4/7:2012/01/08(日) 00:18:52
「あ、あの、白取さん……」
息を乱しながら、多口は白取に呼びかける。
「ん?どしたの愚っ痴ー」
白取が視線をあげると、目元を薄赤く染めた多口と目があった。
「あの、今日は、僕にやらせてくれませんか」
「えっ、愚っ痴ー僕を抱きたいの?大胆だねえ」
「ちっ、違いますっ!」
言い返しながらゆっくり身を起こそうとする。
「初めてのときも昨日も、白取さん、すごくよくしてくれたから。
お返しってわけでもないんですけど、
やっぱりこういうのって一方的なのはよくないんじゃないかなって」
「……ほんっとに律儀だねえ愚っ痴ーは」
白取は感心とも呆れともつかない調子でため息をついた。
「別に愚っ痴ーは気にしなくていいのに。僕がしたいからそうしてるだけなんだし。
僕は充〜分気持ちいいんだけど」
それは事実だった。相手の様子を見ながら抱くのはまどろっこしくて本来嫌いなほうだが、
相手が多口となると話は別だった。不慣れな多口が愛撫の一つ一つに反応し、
徐々に羞恥を脱ぎ捨てて快楽に溶けていくのは見ていて飽きないし、
柄にもなく大切に触れたいと思っている相手だからこそ、
一歩一歩進むようなセックスでも白取は存分に愉しんでいたのだった。
「でも……」
多口はあきらかに納得いかない顔をしていた。
彼は柔軟で相手に合わせる天才だが、その一方でなかなか頑固な一面もあった。
白取は小さくため息をつくと、多口と体を入れ替え、ベッドに仰向けになった。
「わかった。愚っ痴ーの好きなようにしてみて」
白取がそう告げると、多口は緊張した顔つきで、おっかなびっくり覆い被さってきた。
「それじゃ、失礼します……」
真面目くさった挨拶のあと、多口は白取にキスをした。

首筋や鎖骨、胸板やみぞおちに多口の唇が触れ、時々舌先で舐めてくる。
白取はその姿に目をやりながら、多口の腕や背を撫でていた。
巧いか下手かで言えば、あきらかに下手である。
稚拙でぎこちない愛撫は、生理的には何の快感ももたらさなかった。
だが、性に疎い多口が自分に欲望を募らせ、熱心に口づけるさまは白取を刺激してやまず、
多口が時折漏らす鼻にかかった吐息には、白取自身もちょっとどうかと思うくらい強く煽られた。
「ん……」
多口は白取の臍の脇にキスをし、じりじり体を下げていく。
そして小さく、あ、と言うと動きを止めた。

73ただ好きなだけ 5/7:2012/01/08(日) 00:20:17
多口の視線は一点で止まっている。
すっかり形を変えている白取のそれに、わずかな躊躇のあと、そろりと手を伸ばした。
「いいよ愚っ痴ー」
遮るように言いながら白取はゆっくり身を起こした。
「白取さん……」
「さすがに抵抗あるでしょ。今日はこれで充分だから」
「…すみません」
「謝んなくてもいいよ。ちゃんと気持ちよかったしね」
白取は揃えた指の背で多口の頬を撫でた。
(……僕らしくないなあ)
多口といると、滅多に使わない回路がフル稼働する。
それが楽しくて仕方ないのだから、相当このちっちゃい医者に参っているんだろうなと自分で呆れた。
「ほんとですか?」
不安そうな多口に、白取は自分の下腹部を指さした。
「だからこうなっちゃってるんじゃない」
はあ……と気の抜けた返事をする多口を白取は抱き寄せた。
わずかに顔を近づけると、多口は吸い寄せられるように白取の口にキスをする。
おずおずと侵入してくる舌を、白取は挨拶するように迎え入れて絡めた。

「あっ、あ、うっ、ん……」
白取の膝の上で、多口は背を反らせて啼いていた。
白取が背中を撫で上げると、眉根を寄せて切なげな声をあげながら白取を中で締め付けた。
体の底がびっちり詰め込まれる感覚と、切っ先がある箇所を掠めた時に走る快感に、
多口は泣き出してしまいそうな気持ちになった。
「あ、いい、気持ちい、です……っ」
喘ぎ混じりに口走る多口に、白取は笑みを浮かべた。
「そう……?どんな風に?」
指先で多口の乳首をいじめてやると、体をくねらせて小さく悲鳴をあげた。
「わか、ん、なっい……!」
思考がまとまらないのかそれだけをやっと答え、
多口はすっかり勃ちあがって蜜をこぼすそれを白取の引き締まった腹に擦り付け始めた。
卑猥に腰をくねらせる姿に、白取は急に高まりを覚えて慌てた。
気をそらそうと多口を抱き寄せその耳たぶを小さく噛むと、んう……と鼻にかかった声で呻く。

74ただ好きなだけ 6/7:2012/01/08(日) 00:21:43
「どうしよっか、愚っ痴ー」
耳に口をつけたまま白取がそう囁くと、多口は荒い息で何が?と尋ねた。
「今日しちゃったから、2ヶ月はできないよね」
少し意地悪くボソボソと言うと、多口は潤んだ眼差しを白取に向けた。
「2ヶ月我慢できそう?」
「え……?」
言葉の意味がまだ理解できないらしく、多口は上気した顔で白取の目を見ていた。
「だから、2ヶ月しなくても大丈夫って聞いてんの」
そう言うと多口の細い腰を男性的な大きい手で掴み、ゆっくり回しながら突き上げてみた。
「ああっ、それ、やですっ、やだっ……」
途端に喘ぎをこぼし、たまりかねて多口は白取にしがみついた。
そうしながら自分でも快感を拾い集めるように腰をうねらせ、いっそう激しく腹に性器をすり付けてくる。
「うわ、愚っ痴ーやらしー」
多口は白取のからかいに貪欲な自分の体を恥ずかしく思った。
しかしそれがなぜかゾクゾクするほど気持ちよく、歯止めが利かなくなっていく。
「あ……、やだ、そんなのやだ……」
多口はうわ言を思わせる口調でまるでねだるように言い募った。
「月、イチなんて、いや、いやです……」
もう自分でも何を言っているのかわからず、ただ白取にすがり付いてしまう。
それを聞いた白取は実に嬉しそうに笑った。
「もっとしたいんだ?」
だめ押しのように聞かれて多口は首を激しく上下に振った。
「僕も、同感」
そう言うとためらうことなく多口のそれに手をかけ、解放を促すように扱いた。
「あぁっ、だ、め、もう……っ、あああっ」
多口は惜しみない嬌声をあげ、何度も白取を締め付けた。
のけぞったかと思うと顔を伏せ、ただひたすら快感を追い求めていく。
白取はこんなに淫らで可愛い多口を、このさき一生誰にも見せたくないと思った。
「愚っ痴ー、いいよ、出して」
その言葉がきっかけになったわけでもないだろうが、多口の声が切羽詰まったものに変わっていく。
しばらく激しく喘いでいたが、急に白取の肩に顔を埋めると全身を強ばらせ小刻みに痙攣させた。
白取の腹や胸に生ぬるいものが断続的に飛び散る。
「っ、……くっ」
白取も少し遅れて達し、多口の中に放った。

75ただ好きなだけ 7/7:2012/01/08(日) 00:23:23
多口はぐったり白取に体を預け、肩に顔を伏せたまま荒い呼吸を繰り返していた。
白取はゆっくりと多口の後頭部を撫でている。
「お疲れさん、愚っ痴ー」
色気に欠けるそんな呼び掛けに、多口はやっとの思いで顔をあげた。
「お疲れ様です…」
律儀にそう返事をすると、またくたりと顔を伏せてしまった。
「あのさ愚っ痴ー、そろそろ抜いてくれない?入ったまんまだともう一回しちゃいそうなんだけど」
白取がそう言うと、多口はえっ、と小さく叫びすぐさま腰をあげた。
「そんなに嫌なのー?」
白取がわざと不服そうにしてみせると、多口はキッと白取を見返した。
「嫌に決まってるじゃないですか。明日仕事にならなくなります」
それはもう、いつもの白取にだけ勝ち気な多口であった。
(さっきまでとろけるような顔してたくせに)
白取は少々不満に思ったが、補ってあまりあるほどに満たされていたのでなにも言わなかった。

「白取さん」
ベッドの中で向かい合い、多口は目を閉じている白取に呼び掛けた。
「んー?」
白取は目を開けずに返事をする。
「僕っていやらしいんでしょうか」
唐突な問いかけに白取はゆっくり目を開いた。
「なんで」
「白取さんといると、その……したくなってしまうし、してるときはどうにかなりそうなくらい気持ちよくって……」
多口の言葉に白取は喉の奥で笑った。
この愛すべき正直者は、セックスにまで正直なのだなと感心する。
「愚っ痴ーが好きなのはセックスじゃないよ。僕のことが好きなの」
「え?」
「そんな当たり前のことに気付かなかった?」
多口は上下する白取の高い喉仏に目をあてていた。
「……気づきませんでした」
なんだ、そういうことか。他人の心を見ることには長けているのに、
自分の心にはなかなか気づけないものなんだなあと今更ながら実感した。
大雑把に見えて核心をつく白取の言葉に多口は心底安心した。
安心したら急に疲れが押し寄せ、多口は小さくあくびをした。
安らいだ気持ちで目を閉じ、わずかに白取に身を寄せる。
呼吸が寝息に変わるのを見計らい、白取はそっとスタンドの灯りを消した。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

色気少な目を目指したのですが役人が変態ぽくなってしまった…。
愚痴は覚悟さえすれば、好きな人とのえちには実はすごく素直に取り組みそうな気がします。

76春はもう目の前 1/5:2012/03/08(木) 23:56:26
役人愚痴。「ただ好きなだけ」の続きです。
エロなしキスあり。ただいちゃついてます。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

ドタッ。
寝静まった白取宅の寝室に落下音が鈍く響いた。ややあって、うう…と小さな呻き声。
多口は自分に何が起きたのか一瞬理解できず、その場で瞬きを繰り返した。
視界に入るのはなぜか床のカーペット。
そこでようやく、自分がベッドから転げ落ちたのだと悟った。
(うわあ、恥ずかしいなあ……)
多口は慌てて起き上がろうとしたが、何かに気付いたように静止した。
(白取さん……)
眠りが浅く、気配に敏感な白取のことだ。きっと多口が落ちたことで目を覚ましたに違いない。
あの意地悪な笑顔でさんざんからかわれるかと思うと、朝までここにいようかとさえ思った。

多口はなるべく静かにゆっくりと身を起こし、そっとベッドを窺った。
多口の目に飛び込んできたのは、ニヤアッと笑った白取……ではなかった。
「え」
思わず声が出てしまい、多口は自分で自分の口を押さえた。
白取は、眠っていた。アイマスクをせず、リラックスした寝顔で深い呼吸をしている。
(……寝てる!)
多口がふと目をやると、白取は先程まで多口がいた場所を、ゆっくりまさぐっていた。
それはまるで、多口を探しているような仕草だった。
シーツの上を長い腕が探るように動き、白取の眉間にごく微かな皺が寄る。
多口はホッとすると同時に、自分を探す白取のことを愛おしく思った。
(ちょっと……かわいく見えるかも)
多口は起こさないようにそっと白取の腕をつかみ、その下に体を潜り込ませた。
さすがに起きるような気がしたが、その時はトイレだとでも言っておけばいい。
ところが白取は目を覚まさない。多口の体温に安心したのか、探る動きを止めて表情を和らげた。
多口は間近で白取の寝顔を見つめた。四六時中神経を張りつめ、頭脳をフル回転させている白取。
周りは敵だと言ってのけ、憎まれても意に介さず、
目標の実現のために譲るところなく生きている男。
だがそれは私欲のためではなく、誰かの利益のために誰かが踏みにじられる現実を変えたい一心なのだ。
ひねくれ者で激しく勇敢で、孤独で優しい白取のそばにいると、多口は初恋のように胸がどきどきする。

77春はもう目の前 2/5:2012/03/08(木) 23:57:49
もちろん、そんな気持ちを打ち明けてしまえばどんなからかいが待ってるかわからないので、
多口は絶対に伝えるつもりはなかった。
「せめて僕といるときだけは、ラクにしてくださいね。
ちょっとなら、わがままも聞きますから」
小さな小さな声でそう言うと、白取の頬にそっとキスをして多口は眠りについた。

翌朝。眠い目をこすりながら多口は少し早起きをし、朝食の準備にとりかかる。
本当は炊きたてご飯と味噌汁のよさを味わってもらいたいのだが、
白取宅には炊飯器がないため断念した。
ひき肉たっぷりのオムレツと、ハム多めのハムサラダを作っていると、白取が起きてきた。
「おはよう愚っ痴ー。何、朝ごはん作ってんの?」
「おはようございます。朝はちゃんと食べないと体に毒ですから」
白取は椅子に座ると新聞を読み始めた。その様子はどこか機嫌がよさそうである。
「白取さん、なんだか上機嫌ですね」
「うん、まあねー」
新聞から顔をあげずに答える声も心なしか弾んでいた。
白取が楽しそうだと多口も嬉しい。二日連続の情事に肉体的には疲労していたが、
コーヒーを淹れるのもはかどるような思いがした。

多口のサラダボウルからハムをすべて奪われ野菜を押し付けられるなどで小競り合いはあったものの、
二人は和やかに朝食を摂った。白取の食べっぷりは四十代とは思えぬ豪快さで、
多口はいつか野菜中心の和食も食べてもらわねばと決意を新たにした。

「今日の仕事はどんな感じ?」
慣れた手つきでネクタイを絞めながら白取が問う。
「今日は午後からなんで、一旦家に帰ります」
多口も支度を整えながら答えた。
当然祖父達には連絡してあるが、プライベートで2日帰らないのはさすがに気が咎める。
「ふうん、そっか。おじいちゃん達によろしく言っといて」
ベストを身に付けジャケットを着込む。仕立てのよい高級なスーツを一分の隙もなく、
しかし実に自然に着こなす白取に、多口はいつも惚れ惚れする。
おそらく彼にとってスーツは自身のステータスを誇示するものではなく、
あくまで上質な戦闘服であるという以外の意味などないのだろう。

78春はもう目の前 3/5:2012/03/08(木) 23:59:01
節の高い長い指を操り淀みなく腕時計を身に付けると、白取は多口に向き直った。
「さ、愚っ痴ー」
白取が自信に満ちた様子で腕を広げて言い放つ。
「……?何ですか?」
多口がキョトンとすると、白取ががっかりした様子で、もう!と不満を漏らす。
「僕がこうしたら一つしかないでしょ。行ってきます&行ってらっしゃいのキスに決まってるじゃない!」
「キ、キス!?」
多口が面食らっても気にも留めず、また白取は腕を広げて多口を促した。
「ほーら、早く」
「そんなことできるわけないでしょう!」
多口が顔を赤くして拒否すると、白取はニヤニヤし始めた。
「あっれー、ちょっとならわがままも聞いてくれるんじゃなかったの?」
「…………!」
白取の言葉に多口の目がゆっくり見開かれていく。
「……起きてたんですか?」
白取はさあねーととぼけているが、今にも口笛でも吹き出しそうな楽しげな顔をしている。
(朝から機嫌がよかったのはそのせいだったんだ)
自分に有利な情報は絶対聞き漏らさない白取の抜け目なさに、多口は今更ながら舌を巻いた。
「何してんの。もし僕が遅刻したら正直に言っちゃうけどいいの?」
「何をですか?」
「愚っ痴ーのキス待ちで遅くなっちゃいましたーって、みーんなに聞こえるように言っちゃうよ僕は」
「な……!」
なんて下らない脅しなんだと呆れたが、しかしこのままでもらちがあかない。
多口は心を決めて白取に近づいた。白取はそれを迎える。
多口の両腕がそっと白取の首に回され、背伸びがちになりながら白取を引き寄せた。
唇を固く閉じたまま、目をつむって白取の唇に軽く触れ、離れる。
すると白取の手が多口の後頭部をおさえ、お返しとばかりに
多口のそれよりはるかに手慣れた、しかし触れるだけのキスをしてきた。
心のうちを聞かれていたことやら、朝の光の中でキスをすることやらで
多口は恥ずかしくて暴れだしたいくらいだったが、
その一方で胸が痛くなるくらいにときめいて、本当に幸せだなと感じる。
しかしこれは、たとえ独り言であっても口に出す気はなかった。

79春はもう目の前 4/5:2012/03/09(金) 00:00:38
(それにしても、白取さんはいつから起きてたんだろう)
キスのあと、多口はぼんやり考える。もしベッドからの落下に気づいていたら、
絶対にその事を持ち出すだろう。白取はからかえる材料を見逃す男ではない。
(……じゃあ、ベッドで僕を探してたのは、芝居じゃなかったってことかな)
気恥ずかしい思いでつらつらと考えていると、白取がふいに多口を呼んだ。
「愚っ痴ー、ちょっと手ぇ出して」
「……またメモにしないでくださいよ」
「するわけないじゃん。ほら早く」
白取は笑いながら多口を急かした。多口がおずおずと手を出すと、
ポトリと何かを落とした。多口はそれをじっと見る。
「……鍵、ですか?」
「そ。この部屋の鍵」
「何でですか?僕がこれ持ってっちゃったら白取さん家に入れませんよ?」
「あのさあ愚っ痴ー。世の中には合鍵ってもんがあるのを知らないの?」
心底呆れた白取に多口が目を見開く。
「合鍵、合鍵って……!」
うろたえる多口に、白取は何でもないように続ける。
「今のままだと愚っ痴ーは僕より早いか同時に出なきゃいけないでしょ?
それに先に来て待つこともできないし。だから持っててそれ。
そしたら愚っ痴ーのタイミングで出入りできるじゃない」
「い、いや、そんな簡単に渡すものじゃないですよ!」
多口は慌てて返そうとするが白取は取り合わずに玄関に向かう。
「邪魔にはなんないでしょ。ただし、絶対なくさないでよ」
「だっ、ダメですよっ」
大慌てで返そうとし続ける多口を後目に
白取は磨きあげられた靴をさくさくと履き、無造作にドアを開けた。
「いやあ、これから楽しみだねえ。
『愚っ痴ー僕んちですき焼きの準備しといて』って言っておけば、
帰る頃にはすき焼きが僕を待ってるんだから」
「僕は家政婦じゃないですよ!それにそこまで暇人じゃありません!」
ギャンギャン怒りながらも多口は白取に続いて部屋を出る。
「じゃあ、通い妻ってとこ?」
白取はからから笑って、怒りに震える多口の肩を抱いた。
「いい加減諦めなよ愚っ痴ー。僕のパートナーになるっていうのはこういうことなんだから」

80春はもう目の前 5/5:2012/03/09(金) 00:01:55
(……何を言ってもムダだ)
多口は肩を抱かれたまま深いため息をついた。
確かに白取の言う通りなのだ。愛してしまったのだから仕方ない。
一生そばにいるのはこの人だと決めているのは事実なのだから。

「愚っ痴ー」
別れ際、白取が真面目な口調で切り出した。多口は視線で言葉を待つ。
「今はいいけど、この先ずっとこんな状態っていうのも、
あんまりよくないんじゃないかと思うんだよね」
遠くを見ながら話す白取の話が見えず、多口は不安げに首をかしげた。
「ねえ愚っ痴ー」
多口に視線を向けて、常になく優しく名を呼ぶ。
白取の真摯なまなざしを多口はまっすぐに受け止めた。
「何ですか?」
白取を信じきっている曇りのない瞳に、
ああ、やっぱりこの目が好きだと白取はしみじみと思った。
「いつか、必ずけじめをつけるよ。おじいちゃんに殴られる覚悟もしてるから」
多口は一瞬だけぽかんとした顔になり、直後に今まで見たことのない笑みを浮かべた。
それは身のうちに沸き上がる幸せが花となって咲き誇るような、
柔らかく魅力的で、どこか艶を感じさせる微笑みだった。
「……僕も一緒に殴られますよ」
明るく、しかし芯の強いその口ぶりに白取は言葉をなくす。
「あ、でもおじいちゃん、意外に強いですよ」
少年のようにいたずらっぽく続ける多口に白取もつられて笑う。
「承知の上だよ」
「だから来るべき日に備えて、しっかり魚とお野菜も食べて、丈夫な体を作ってくださいね」
多口の言葉に、白取はとたんに口を尖らせる。
「何でこのタイミングでそんな可愛いげのないこと言うかなあ。
だからこそお肉なんじゃない。愚っ痴ーこそ肉料理のレパートリー増やしといてよ」
「はいはい」
「……ちゃんと聞いてないでしょ」
「聞いてますよ」
ふふ、と弾むように笑って、それじゃ、とさりげなく多口は去っていった。
その背を追って抱きしめたいと白取が焦がれるように思っていることなど知らぬげに。
誰かとともに幸せを築いていこうと再び思えるようにしてくれた、小さくて大きなその背を、
白取は誰にも悟られないようにいとおしみながら見つめていた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

普段はプンスカしたり呆れたりする愚痴が、
役人の真剣な言葉は誰より誠実に受け止めるところが好きです。
そして愚痴のでっかさを見せつけられるたび口ごもる役人も好きです。

81くらいところでまちあわせ・1:2012/06/13(水) 18:25:34
兎+島。ちょっと白口。卜゙ラマ後のif

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・)ジサクジエンガ オオクリシマース!



全てを話し、傷が癒えた兎見を待っていたのは想定外の処分だった。自死幇助の件は情状酌量の余地もある、として執行猶予となり、過去の自白は全てが「無かったこと」にされたのだ――証拠不十分、検証不能を繰り返された上、兎見本人が有り得ないと思う精神分析診断書まで乗せられて。
どれだけ己の有罪性を訴えても聞き入れられないという現実を兎見が受け入れたのは、警冊庁から放り出されたからだった。
受け入れるしか、なかったからだった。

これからどうすれば、と呆然としていた兎見に先ず道を示唆したのは、斑九鳥だった。
警冊OBの多い調査警備会社への紹介や官舎からアパートへの引越手続き、保護司との面談打ち合わせに加え、田□の愁訴外来へも通えと言われ、兎見は唖然とする。
貴方は親ですか、と失調した声で問うた兎見に、斑九鳥は苦笑した。だったら保護司は不要になったかもな、と呟かれ、兎見は自然に頭を下げる。
護られている。そう感じた兎見は、田□との再会で同じことを思った。

二人は、兎見を無罪とは言わなかった。期間中に将来を考えろ、と斑九鳥は告げ、貴方にしか出来ない償い方を探しましょう、と田□は語る。
慣れない現場で働きつつ、兎見は考え続けた。
好意と善意で包まれた現状が、暖かすぎて息苦しくなる、と酷いことを感じるようになるまで、そう時間は掛からなかった。



「……何故いる」
見えない刺を含みまくった嶋津の声に、兎見は会釈を返した。強制捜査で来たことのあるマンションと東条医大病院の、ほぼ中間地点。日が落ちた真冬の公園に、兎見以外の人影はない。
「ご無沙汰しています」
「一生ご無沙汰でいい、お前なんか」
白い息を吐きながらのやり取りに、兎見はほっとした。
保護司への定期報告以外で、自分の罪と位置を忘れそうになる恵まれすぎた環境。そんな自分に冷水をぶっかけ、目を覚まさせてくれるようだ、と兎見は思った。
「お元気そうで、なによりです」
「それ以前になんでここにいるんだ。まさかオレのストーカーにでもなるつもりか」
「いいえ。保護観察中に警察沙汰は。斑九鳥さんに申し訳が立ちません」
「……冗談だ」
「そうですか」
「……」
直立不動で対峙していた二人だったが、折れたのは嶋津だった。
「寒空の下で立ち話も馬鹿だ。何処か入るか」

82くらいところでまちあわせ・2:2012/06/13(水) 18:27:38

何故オレの前に顔を出した、との嶋津の質問に、兎見は目を伏せた。
終夜営業の喫茶店に向かう途中、自分の前を行く嶋津の後ろ姿すら直視できず、足を止める。
「おい」
気付き、振り返った嶋津の膝から下を視界に入れて、兎見は口ごもった。
「……上手く、言えないのですが」
コートのポケットの中で、兎見は拳を握る。明文化できない感情を言葉にしていく難しさは、田□の外来で経験していた。しかも今は、ゆっくりでいいと微笑む小さな先生相手ではなく。
「いいからとっとと言え」
警察嫌いの、偏屈な画像マニアだ。
「驚くと思いますが」
「暗がりからいきなりお前が出て来た時に、十分驚いたわ」
「そうですか。では」
がりがりと癖のある長めの髪を掻く嶋津に、兎見は目線を上げながら告白した。
「優しくされたくなくて、誰かに罵られたくて貴方に会いに来ました」

がしゃん、と歩道脇の工事区間看板にぶつかり、書類鞄を落としながらひっくり返った嶋津に、兎見は慌てて駆け寄り、手を伸ばす。
締め上げたいつかの夏の日とは違い、助け起こそうとして。
「……なっ、おまっ、え」
「大丈夫ですか」
「お前の頭が大丈夫かっ!!」
「はい」
「はい、じゃねえ!」
いきなり性癖暴露すんなオレはSじゃねえ、と喚く嶋津に、兎見は首を捻る。
「お前がドMなら白取さんのトコ行け! その頭のネジの外れ具合から今までのあれこれから田□先生のことも含めて、ご希望通りお前をボロ雑巾にしてくれること請け合いだからな!!」
「嫌です」
「はあっ!?」
「白取さんの前に顔を出したら、恐らく口より先に田□先生の件で殴り掛かられます。そうなったらこちらも反射的に手が出ますから、通報沙汰になってしまいます」
「……まあな、田□先生本人が気にしてなくてもなあ……お前、本気で行くなよ」
尻を払いながら自力で立ち上がった嶋津に、ならばと兎見は拾った鞄を手渡した。
「行きません。リーチの差とあの気迫だと、こちらも手加減できませんから」
「……なあ、オレはお前に何処まで本気で返せばいいんだ?」
力無く肩を落としため息をつく嶋津に、兎見は首を傾げた。



「言葉が足りねえんだよ、お前は」
こういうのは田□先生の仕事じゃないのか、と数回キレかけつつ、なんとか三杯目のブラック・コーヒーで兎見の意図を汲んだ嶋津は、苛立ちを込めて舌打ちをした。
「要は許されすぎて怖いんだろ」

83くらいところでまちあわせ・3:2012/06/13(水) 18:31:40
「許されてはいません。執行猶予は有罪ですから」
「そっちはな。他にもあるんだろ」
詳しくは知らんが、と零す嶋津に兎見は口を開きかけたが。
「――外で言うな」
掌を向けた嶋津に制されて言葉を飲み込み、思い出したように冷め切ったブレンドのカップに指を掛ける。
「まあオレも、もう恨みはないがやっぱり警冊は好きじゃないからな」
皆には言えないが、そう簡単に全部は許せないのが本音だ。小声で呟いた嶋津に、兎見は頷いた。
「いきなりで、申し訳ありません」
「いやまあ、明日は休みで予定もないし……お前、時間あるか?」
「はい」
「ならウチで話せ。知らなきゃ分からん」
兎見がカップを干すのを待たず、嶋津がレシートを摘んで席を立つ。払います、と財布を出そうとする兎見の手は、なら晩飯奢れ、と小さく笑った嶋津の表情に動きを止められた。



コンビニ弁当を肴に、ペットボトルの茶を傾けながらのおかしな会談は、嶋津に切り捨てられて強制終了になる。
「……で、お前は何処にいるんだ?」
「は?」
愁訴外来受診日よりも喋ったかもしれない、と喉を摩っていた兎見は、その問いに瞬きをした。
「お前が利用されて、疑問を持たずにそれに乗ってたのは分かった。で、お前自身の意志や判断は」
「俺の意志で、判断で行いました。だからこそ」
「思考停止じゃないって、本当にそう言えるのか? 悩んだり決めたりが出来なくて、駒になった方が楽だと思ったことはなかったのか?」
容赦ない嶋津の追及は、警冊病院で行われた精神科医の問診に内容が似ていた。
「……多少は、あったかもしれませんが、でも俺は、最終的には自分の」
「殺されていい人間なんて、いないんだよ。死ねばいい、と思われるヤツは幾らでもいるだろうけどな」
根本の否定に、僅かに憤慨を見せる兎見の言葉は、いつか聞いた田□の台詞をずっと厳しくした嶋津に遮られた。
「第一、お前らがやったのは、正義でもなんでもないだろ。死刑になるべき犯人だろうとなんだろうと、取っ捕まえて裁判受けさせて、被害者遺族たちに全部説明しなきゃ、知らせなきゃ……ダメだろ」
ああもう、ツッコミどころ満載じゃねえか。そう呟いた嶋津は、思い出したように顔を上げ、困惑する兎見を指差した。
「オレは、お前が分からん。だから罵り様もない」
「……そうですか」
「ちゃんと罵られたいなら、もっとガッチリ固めて来い」
「固めるって、なにを」
「罪以前に、お前個人を」

84くらいところでまちあわせ・4:2012/06/13(水) 18:36:28
元警冊官の癖にフワフワしてんじゃねえ、と口を尖らす嶋津に、そんな形容ははじめてだと兎見は目を円くした。



「……今晩は」
「ひとんちの玄関先で三角座りすんなって言ってんだろ」
「今日は足が疲れてるんです」
真冬の再会劇から数ヶ月。公園での待ち伏せは職務質問に会うから、と嶋津のマンションに不定期に現れる兎見は、いつの間にか食材が入ったスーパーの買物袋を携えるようになった。
湯沸かしポットと電子レンジと冷蔵庫で生きて行ける、と主張する嶋津を論破した兎見の、彼なりの「自己主張」で「自己判断」。そう気付いている嶋津は、兎見の勝手を制せない。
なにもない台所に鍋や調理器具が揃ったのは、比較的最近のことだ。
ええい欝陶しい、と合鍵を押し付けた嶋津と、少しだけ目を細めて受け取った兎見は、軽口を叩きながらドアを潜る。
「明日休みか」
「はい」
「なら呑むか」
田□との会話で探り当てていく、罪の意識との付き合い方。斑九鳥や保護司とのやり取りで気付く、自分の償い方と未来。
「はい」
それを伝えながら、大分固まってきていないか、貴方はいつ、俺を否定してくれるのかと嶋津に尋ねる時間。自分を突き放さて欲しい相手に依存していく自覚もないままに。
「ビールと酎ハイとワインがあったっけなあ。缶のやっすいやつ」
「……ワイン以外で」
兎見は、微かに笑う。



高くて渋いワインの味が、少しずつ遠くなっていった。



□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・)イジョウ、ジサクジエンデシタ!

85I miss you.1:2012/06/17(日) 12:43:49
北に行ってからの速(→←)長。スタートラインに立った二人

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・)ジサクジエンガ オオクリシマース!



「……っ」
通勤ではなく通院受診の為に、救急科とは別棟の血液内科に向かった速見は、待ち合いスペース端のソファに体を投げ出すようにして座り込んだ。
投薬と放射線治療、分析診断と勤務日程を定期的に繰り返すようになってから同時に出現し、もはや慣れてしまった倦怠感。経過は順調で、寛解に向かい処置全般が軽減していても尚――速見を完全には解放してくれない感覚。
ああ、かったるい。
初期のように思考が纏まらなくなることは流石になくなったが、と相変わらずの全身の重さに速見は溜め息をつく。健康体の有り難みをしみじみと噛み締め、だがどうにもならない副作用に苛立ちも覚える。
――こんな窶れっぷりや足掻きっぷり、あいつらには見せられねえな。
そう気取ってみたところで、昏倒して搬送され、拒絶反応でショック状態に陥った姿を見せてきた過去は消えないのだが。
「……あー」
苦笑し、目を閉じる。予約時間まで十五分、なにも考えずにいようと決めれば、速見は温い睡魔に纏わり付かれていった。



初対面の印象は、冷静そうなヤツ、だった。
あの眉や目の、切れ長の線からそう思ったが、それは半分当たって半分外れていた。
佐東ちゃんみたいに元科への諦めは見せないが、後から来た井泉みたいに究命への執着もない。ここは仮初めの居場所だと割り切りを見せて、その癖に専門外症状への知識欲は旺盛だった。
冷たそうに見えて、やたらと熱い性格だった。処置方針を巡り俺と議論を戦わせたことは、究命医連中の中で一番多い。
手技を見る限りでは神経質、かと思えば待機中やシフト上がりの際には度々、粗忽な面を見せてきた。
タフそうな割に睡眠不足に極端に弱くて、時々医局のソファでマネキンみたいにひっくり返っていた。その脱力っぷりに驚いて、脈拍や自発呼吸の有無を確認してしまったことも――そう言えば、あった。
基本的に、顰めっ面だった。俺に対峙する時は、よく眉間に皺が寄っていた。
佐東ちゃんや井泉、検修医やナ―ス連中たちと談笑している気配は、知ってる。カメラ越しなら、綻ぶ顔を見たこともある。
――勿体ねえ。
造りは悪くないんだ。性格だって、いい所はたくさんある。俺に反発していたのも理由があってのことだし、ある種それも手の内、で……ん?

86I miss you.2:2012/06/17(日) 12:48:09
なにかおかしくない、か?
なんだこれは?

なんであいつの顔が今こんなに浮かぶんだ?

ああ畜生、夢か。夢だな。夢ならちょっとくらい笑えよ長谷河。俺は知っているんだからな、お前が笑ったら、目が綺麗な弧を描くとか歯が見えるとか。
くそ、だるい。重い。面倒臭い。ちょっとくらい思いやれ。笑えよ。βブ□ッカーのことで泣きそうなくらい落ち込むな。お前は俺に噛み付いて皆のガス抜き役やってりゃいいんだ。だから泣きそうな顔するな。馬鹿野郎。あんな恰好でソファから雪崩てんじゃねえ。顔も真っ白で、あの時俺は慌てすぎてテーブルの脚で臑打ったんだぞ。馬鹿野郎。馬鹿野郎が、もう脳外には戻りません、なんて、俺の顔を見て言え。
ああくそっ、なんでお前の辛そうな顔しか知らないんだ俺は。こんな時に、せめてお前が笑ってりゃ、少しは楽に――。



「速見さん」
受付から名を呼ばれ、速見は目を開ける。寝ていたのか、と軽く頭を振り、重い体を引きずって診察室のドアをノックした。
寝ていたにしては、楽になれていない。妙に胸が詰まっている感覚があるが、狭心症や気胸や気管狭窄の症状とは違う、と速見は思った。
これは、なんなんだ。
覚えていないが、余程夢見が悪かったのか。思索が面倒臭くなってそう決めると、速見は首元に手を宛てる。




「――は、……」
吐息のような声を上げて振り返る長谷河が、いつものように即座に口を閉ざす。
その癖は、今や究命センターの全員が知っていた。処置後や待機中の、長谷河の集中が途切れた時。その背後に誰かが近付けば、必ず彼は声を上げて振り返る。

最初は、単に驚かれているのかと元検修医たちは思った。だがそれにしては険しい表情で、相手を確かめた途端に寂しい目になるのが不思議だった。
一番に気付いたのは、センター長の地位を条件付きで受けた佐東だった。曰く、井泉やナ―スたちがそうしてもああはならない。呼び掛けながら歩み寄っても、同じ。
長谷河より上背のある男が、彼が溜め息をつける隙がある瞬間に、無言で後ろに立った時だけ。
その条件が揃った時にだけ、長谷河は煩わしさと期待と安堵を湛えた目で振り返る。そして声を発しかけて、落胆する。
「速見先生がいなくなって、誰よりキツいのはあいつだろうな」

87I miss you.3:2012/06/17(日) 12:51:28

あんなに反発し合ってたのにですか、と元検修医が驚けば、ジェネラノレを伝説でしか知らない新しい検修医も首を傾げる。
東上医大を離れて一年以上経つからなあ、と佐東たちが二人の軋轢や確執をかい摘まんで説明すれば、その検修医は暫く考え込むと、なんだかんだで長谷河先生は速見先生を頼ってたんですね、と結論付けた。
それを言うなら究命全員そうだったな、と佐東が笑った。



本音を口にも顔にも出さない速見が、屈折した態度で無自覚に長谷河を気遣っていたこと。
羨望と矜持が入り混じっての反発の中、知らず護られていることに気付いていた長谷河が、ようやく寂しさを自覚したこと。
それは、本人たちより周囲が先に知る。

翌年、夏の終わりに再会した二人は、互いを見るなり挙動不審になった。
目線を合わせず、距離を置き、だが相手に気付かれないように見遣り、互いの呼び掛けに顕著に反応する。
以前とは違う緊張感を微笑ましく見守っていた究命センターの空気を破壊したのは、∧iセンターに顔を出した某公労省のお役人様だった。

「うわなに速見、今更両片思い?」



□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・)イジョウ、ジサクジエンデシタ!

88僕は満たされる 1/5:2012/07/30(月) 01:22:51
『春はもう目の前』からちょっとあとの二人。ていうかもう夏ですね。
役人癒されるの巻。後半めちゃぬるいエロ描写あります。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

(疲れた……)
白取は深いため息をつき、椅子の上でうなだれた。
会議に次ぐ会議、そしてイレギュラー的に入る監査。当然通常業務もあり、
阿呆で間抜けな部下を叱咤する日々に白取は疲弊しきっていた。
もちろん今が際立って忙しい訳ではないが、自己管理だけでは対処できない疲労が、
少しずつ自分の中に蓄積しているのをまざまざと感じる。
「トシかねえ……」
そう呟いてはみたものの、原因はそこにないことは十分承知していた。
仕事に忙殺され、ここしばらく小さな恋人に会えていないのだ。
電話やメールでのやり取りはそれなりに頻繁にしてはいたが、
直接会えないのはやはりじわじわ堪える。
彼の恋人は気を遣う性格で、合鍵を渡しているのに自主的に来ることはない。
今は夜遅く、周囲に人はいない。白取はデスクにベターっと体を倒し、
なかば無意識にスマートホンを操作した。
しばらくのコール音ののち、「はい」と彼の声がした。
「愚っ痴ー」
『……白取さん?』
「もう寝てた?」
『いえ。そろそろ寝ようかとは思ってましたけど』
「あのさ、今度の休みの日、うちでなんか作って」
疲れのあまり、日頃よりも言葉がぞんざいになる。
『……。何が食べたいですか?』
いつも唐突な白取に多口は遠慮なく怒るのだが、今日はなぜか柔和な口調で応じてきた。
「なんでもいい。愚っ痴ーが作ったご飯食べさせてよ」
それは本音だった。多口が作ったものならザウアークラウトだろうがふろふき大根だろうが、
今の自分なら口にすることができる。
そのくらい、白取は多口に飢えていたのだ。
『……わかりました。今週の土曜日、お昼に白取さん家に行きますね』
いつも細かく注文をつける白取の常にない発言に何かを察したらしく、
多口は詮索せずに了承した。その返事だけで白取は救われた気持ちになった。

89僕は満たされる 2/5:2012/07/30(月) 01:24:14
土曜日。白取は何がなんでも休む態勢でいたが、部下の仕上げた書類があまりに穴だらけだったため、
金曜から泊まり込みでやり直しをさせるはめになってしまった。
その時の白取はまさに火の玉のような鬼気迫るオーラを放ち、
件の部下以外誰も近づけない状況であったことに白取自身は気付かなかった。

どうにか片付け、多口に一報いれたあと夕方に帰宅すると、玄関にはやや小さめな男物の靴が揃えてある。
そして人の気配と温もり、鼻腔をくすぐる匂いが白取を出迎えた。
「ただいまー……」
「お帰りなさい」
空色のエプロンをつけたちっちゃい恋人が現れた途端、
白取は薄暗がりから暖かな日だまりに出たような心安らぐ感覚になにも言えなくなった。
これが自分が心の奥で下らないと軽視していた小市民的な幸せなのだろうか……。
いや違う。見下していた訳じゃない。自分だってかつて一度はこういう暮らしを夢見たはずだ。
手に入らないから否定して、あのブドウは酸っぱいのだと自分に言い聞かせていただけだ。
本当はとても甘くて芳醇な香りの果実だと知っている。
だが、知っているのと口にできるのとは全然違うのだ。
黙ったまま自分を見つめている白取に多口は怪訝そうな顔をした。
「白取さん?どうかしましたか?」
その声を聞いた瞬間、白取はその場に鞄を投げ出して多口に抱きついた。
「わ、ちょっと、どうしたんですか白取さん!」
慌てる多口を意に介さず、白取は何かを確かめるようにぎゅうっと抱き締めてくる。
多口はしばらく抵抗して身動ぎしていたが、白取がぼそりと
「一回だけ言わせて。疲れた……」
と呟いたのを聞くと、労るようにその腕を背に回した。
そして耳元で
「お風呂、勝手に沸かしちゃったんで、入ってきてください」
と囁きかけた。

90僕は満たされる 3/5:2012/07/30(月) 01:25:24
「これ、愚っ痴ーが作ったの?」
テーブルに並んだ料理を眺めながら白取が感嘆の声をあげると、
当たり前じゃないですかと素っ気ない返事が返ってきた。
ひと風呂浴びてさっぱりしたところへ料理のお出迎えである。
メインはビーフシチュー。ソースは少なめでキューブ状の牛肉がごろごろ入っている。
見ただけで柔らかく煮込まれているとわかるそれが、誘うように湯気をたてていた。
そして大きな皿に、黒っぽい揚げたハンバーグのような、大振りの肉団子のようなものが乗っている。
「何これ。コフタみたいだけど」
席につきながらそれをしげしげ眺める白取に目をやることもなく、
多口はせっせとサラダを混ぜていた。
「それは僕のオリジナルです。ひき肉に刻んだレバーを混ぜて、
玉ねぎとカレー粉とかスパイスを入れて揚げるんですよ。
妹たちに何とかレバーを食べてもらいたくて、
うちではずいぶん前から作ってるんです」
へえ〜等と言いながら白取が手を伸ばすと、多口にピシャリと叩かれてしまった。

(しっかし、この僕が手料理を求めて他人を家に呼ぶなんてねえ……)
白取はソファにゆったり腰かけて、ボンヤリとテレビを眺めていた。
(それにしても美味かったなあ)
好きなときに好きなものを食べるのも悪くないが、
何が出てくるかわからない家庭料理も実に魅力的で、だからこそ飽きないのだろう。
あんなに疲れきって擦りきれそうだった心が心地よく満たされている。
座ったままうーんとのびをすると、背後から控えめに
「お風呂いただきました」
と多口の声がした。白取は呆れたように笑って振り向いた。
「なにその他人行儀。いちいち断んなくてもいいよ」
多口は湯上がりの上気した顔で白取に近づいてくる。
「白取さん家のお風呂ってほんとに広くてすごいですよねー。
ついつい長湯しちゃいましたよ」
「そう?まあ僕はシャワーしか使わないからあんまり関係ないんだけどね」
「そんなんじゃ疲れが取れませんよ。あんなに広いのにもったいない」
驚く多口に白取はニヤニヤ笑うと立ち上がった。
「愚っ痴ーはちっちゃいから広く感じるんじゃない?お得だよねえ」
「………!」
その言葉に、多口は眉を吊り上げ肩を怒らせた。
もう寝ます!と宣言して寝室に去っていく。
「愚っ痴ーってば積極的〜」
白取はクスクス笑いながらテレビを消して、ゆっくりあとを追った。

91僕は満たされる 4/5:2012/07/30(月) 01:26:32
先程まで嵐が吹き荒れていた寝室は、今はそれが嘘だったかのように凪いでいる。
白取に腕枕をしてもらってゆったり落ち着く、濃密なこの時間が多口は好きだった。
「なんか今日の愚っ痴ー優しいよねえ。どうしたの?」
指先を多口の髪や頬に遊ばせながら白取がからかうように言った。
「そうですか?」
「いつもみたいに『野菜も食べてください!』って怒んないしさ、
おかわりもどんどん出してくれたじゃん。
お風呂まで沸かしてくれてたし、さっきだっていやがらなかったよね」
「そ、れは……」
恥ずかしそうに目を泳がせたあと、多口は向かい合って横たわる白取の首や肩を、
照れが残る手つきでそっと撫でた。
「白取さんが、ほんとに疲れてたから……。たまにしか会えないのに、
疲れてる白取さんに口うるさくしたくないじゃないですか」
多口の発言に、白取は少しだけ驚いた表情になった。
「それに、僕も会いたかったから、つい嬉しくなっちゃって…」
「嬉しいと世話焼いちゃうの?変わってるんだね愚っ痴ーは」
(ああ、どうして僕は憎まれ口しか叩けないんだ)
多口は白取相手だと容易くへそを曲げてしまうというのに。
しかし、多口は快い疲れを浮かべた表情で微笑んだ。
「そうですね。変わってるのかもしれません」
たったそれだけの言葉にも愛しさが募り、
自然な感情の発露として白取は多口の唇にキスをした。
「ん……」
するとお返しとばかりに多口からもキスをしかけてくる。
段々深く長くなる口付けの応酬を繰り返すうち、白取は体勢を変え、
明確な意思をもって多口の胸元や背や腰を愛撫しだした。
「えっ、あのっ、白取さん。ひょっとしてまたするんですか?」
すっかり目元を潤ませ、上気した顔に不安を浮かべる多口に笑ってみせた。
「するよー。だって二人とも明日お休みじゃない。一晩中でもしたいくらいだよ」
「そんなことしたら、明日お昼まで起きられませんよ。朝ごはん作れないですよ」
白取の手に時折反応しながら説得にかかる多口に白取はニッと笑った。
「全然オッケーなんだけど?何のためにたくさんおかわりしたと思ってんの」
「く、食いだめしてたんですか!信じられない!」
非難の声は、弱い首筋に吸い付かれて途端に甘くはね上がった。

92僕は満たされる 5/5:2012/07/30(月) 01:27:41
白取は急に上掛けを持ち上げて多口の下腹部を見た。
「もー、愚っ痴ーだってちゃんとその気じゃない」
白取がどんな意図でどこを見たのか瞬時に悟り、多口は顔が一気に熱くなった。
「ちょ、っと、何確認してるんですかっ」
多口は羞恥のあまり白取の腕をバシバシ叩いた。
「今さらでしょー愚っ痴ー。ついさっきぜーんぶ見ちゃってるんだからさあ」
「だからってわざわざ今見なくてもいいでしょう!」
「うるさいなあもう」
白取はそうぼやくと、やにわに多口の唇を塞いだ。
多口が実はキスが好きで弱いことを知っているのだ。
その証拠にふいに多口から力が抜け、白取はひっそりとほくそ笑んだ。
キスに弱い、首筋が弱い、目を見ながら抱くとより感じる、達するときに手を握ってあげると安心する……。
それらは全て白取が探り当て、多口に気づかせていったことだった。
多口は徐々に白取の背に手を回して求め始めた。
常々多口をからかってばかりいる白取だが、
多口がどれだけ乱れてもそれを本気で揶揄することはなかった。
だから多口は安心して白取に応え、要求してくる。
声の混じった吐息や赤く染まった頬、潤んだまなざしとゆるくうごめく肢体で白取を煽るのだ。
冗談ではなく、一晩中抱いていたくなる。そしてしたいことはするのが白取の身上である。
「明日は1日ずっと寝てていいよ愚っ痴ー」
「え……?」
「朝までするんで。ひとつよろしく」
「………!」
見る間に顔をひきつらせた多口が逃げを打とうとしたが、
そうはさせまいとする白取に阻まれ、やがて熱と快楽に溶かされていった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

翌日は愚っ痴ー寝込みそうですね。役人は甲斐甲斐しくお世話すればいいよ。

93light roast1/2:2013/05/26(日) 09:03:15
85-87の続き?
速→←長、白口



 凍城医大に戻った速見が不在時間の経過を最初に実感したのは、田□に関する変化に気付いた時だった。究明の仕事を外れ、日勤外来に戻った田□のことは、一年半前に泉美からメールで聞かされていたのだが。
「……は?」
「あ、速見先生。お疲れ様です」
 急患の死亡に落胆しつつ、遺族や警察への説明をと気持ちを建て直していた速見は、処置室から出た途端に目に入った小さな白い後ろ姿に驚いた。反射的に時刻を確かめれば午後九時。もう究明の担当を外れた田□が、ここにいる理由はない。
「あの、父は」
「午後八時五十六分、お亡くなりになられました。多臓器不全――」
 一瞬戸惑った速見だったが、従来通りのやり取りを遺族と交わしかけた。その途端。
「あの、それは、どういう」
「自然死ではなく事件性があるということですか」
「それを最初に調べるのは、俺の担当です」
「ご存知ないでしょうか、死亡時画像診断という」
「田□先生、第二MrIに患者さんのカルテ転送しまし――ああ、嶋津さん後は任せた」

94light roast2/2:2013/05/26(日) 09:06:22
 搬送要請をし、自殺他殺の確定を急ぐ警察と、悲嘆に暮れる遺族との間に立ちながら説明をする田□。少し遅れて姿を見せた、己の知らない白衣の男。医局から現れ、慣れた様子で彼らへの引き継ぎをする長谷河。癒着発覚前と同じだと思えた凍城医大の様変わりを、速見はその日まざまざと思い知らされた。

「……お前は田□先生を使い倒すつもりか」
 Åiセンターとの連係によって、究明の負担が軽減したことを目の当たりにした速見は、数日後偶然来院した白取を追い掛けた。億劫そうな担当医に代わり、長谷河と田□から交互に受けた説明で、結果論のみの書面以上の情報を得ていたからだ。
 新組織を否定するつもりはないが、どうにも人選に発起人の私利私欲が見え隠れしていることと。戻ってから初めて自分の目を見、田□の銃創顛末を怒り混じりに告げた長谷河に、複雑なものを覚えたからだった。要は複雑骨折した嫉妬由来だということを、残念ながら速見は自覚していないが。
「なんだよ、開口一番に。他に言うことあるんじゃないの『僕』に」
「いきなり訳の分からないこと言ったお前が言うか」
 真っ直ぐ前を見たまま返す白取は、歩みを緩めない。誰かさんのように並ぶつもりもない速見は、その後頭部を睨みながら追い続ける。
「一週間以上前のこと今蒸し返すとか、随分粘着質じゃない速見。図星指しただけじゃないなにがそんなに」
「図星じゃない」
「あれ、じゃあお前の片思い?」
「お前いい加減に」
「どうしたんですか」
 不意に聞こえてきた田□の声に、中年二人は全動作を停止させた。ぎぎぎ、と軋む音を伴うそっくりな様子で向き直られ、田□は目を見開く。
「やっぱりお二人とも、似てますねえ」
「「何処が!?」」
 そういうところが、とは言えない田□に、二人は次々に反論する。
「俺は白取みたいに公私混同しないし独占欲丸出しにしないしあんたに大怪我させるような抜けた真似はしない!!」
「僕は速見みたいなムッツリスケベじゃないしウジウジグダグダ片思いしないし可愛いものは可愛いって素直に認めるしツーカーで優秀な
人材を放置するような非合理性は持ち合わせていないしこうして結構凍城医大に顔を出す時間を捻出できる程度には優秀でマメだよ!!」
「……済みません、なにを怒られてるのか僕にはさっぱり分からないんですが」
「……なんでもない、田□先生は気にするな」
「って言うかさ、なにその紫陽花」
 と、白取が腕を組んだまま、ちらと田□の抱えたものを指す。そう言えば、と速見もそれを見直せば、何色かの濃淡で構成されたやや小振りな丸い花束がそこにはあった。

「外来の患者さんから、咲きすぎたからって頂いちゃったんです」
 ボリュームがあるから何本も活けられないみたいで、と院内あちこちを巡った話を聞きながら、白取がニヤつくのを速見は見逃さなかった。どうせちっちゃいのが普通よりちっちゃいけど他よりでっかい花を抱えてうろつくのが可愛いとか思ってやがるなこのムッツリスケベ。
「病棟や小児科は駄目でしたけど、ナースステーションならって引き取って貰えたんです。花粉も匂いもないんで。究明は無理でしょうか」
「……いや、一本なら」
 速見はそう言うと、淡いグラデーションのものを田□の腕の輪の中から引き抜いた。端がほんのりと紅い、薄紫から青へと変わるそれは、速見の目には一番綺麗に見えたのだ。

 愚知外来で、紫陽花を眺めながら蘊蓄を語る白取に田□がコーヒーを渡す頃。
 医局のソファで仮眠中の長谷河の耳の上に、紫陽花を挿しては茎を切断調整する速見を見て、佐東はどうすべきかと対応に迷う。
 先生が昔より楽しそうでなによりです、と花瓶を準備しかけた英師長は、少し考えてコーヒーメーカーの紙コップとホルダーケースで代用できるかとそれを仕舞った。

95無題1/4:2014/03/24(月) 08:40:01
搭乗医大に戻ってきた将軍の話


|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

 改装工事は、大学病院ではそう珍しいことではない。増築の末に廊下が複雑化することも、増えた部屋番号や棟数に、職員や患者が困惑するのも、よくあることだ。
「……にしても」
 御船事務長も思いきったなあ、と出勤してきた佐当は、本館屋上から伸びているクレーンを見上げながら、嘆息した。

 功労省との協同テスト事業としての英iセンターが軌道に乗り、初期投資に見合うだけの評判と正の知名度とそこそこの回収を得た頃。
 左遷と療養期間が終わる速見に帰還を打診した搭乗医大に返されたのは、お偉方にとっては想定外の言葉だった。
『俺が提出し続けてきたドクターヘリ導入案はどうなりましたか』

「……はぁ」
 その直後から、上層部も複数の定期会議も予算委員会も揉めに揉めた。揉め続けて何人か倒れた。将軍様の我が儘っぷりはまるで衰えず、言外に「ヘリが没なら戻らない」「全国各地津々浦々、天才救命医はいらんかねーと行商して回るぞ」と漂わせるそれは、殆ど脅迫の域に達しており。

96無題2/4:2014/03/24(月) 08:42:48
 通常業務にはなんら差し障りありません、と転送されてきた速見の電子カルテに長谷河が太鼓判を押すに当たって、上層部は血迷った。ドクターヘリ事業は功労省の管轄だ、と性急に「監督省庁からの却下」を求めようとした結果。
「どうも皆さん、攻勢労働省医療過誤死関連中立的第三者基幹設置推進準備室室長兼、櫻宮英iセンター運営管理担当室室長兼、仮名川県櫻宮市ドクターヘリ導入事業発足検討委員会準備係係長代行の白取圭輔でございまーす」
 歴代最長の肩書を携えたゴキブリ役人の飛来を運営会議真っ只中に招いてしまい、黒埼教授が卒倒する羽目になったのだ。

「……いよいよ今日、か」
 怒濤の一年間を思い起こしていた佐当は、無意識のうちに止めていた歩みを再開させる。屋上のヘリポートの完成は竣工のずれで予定よりかかったが、無線室や直行エレベーターは既にテストも終わっている。
 のんびりマイペースな田愚痴の突然の院外への異動が決まり、あちこちがその余波でざわついているが。
「うちはこれから、本番なんだよなあ……」

97無題3/4:2014/03/24(月) 08:44:43
 はあ、と肩を落とした巨体に、同様に出勤している職員の誰もが話しかけられない。仔細を知る者ほど「御愁傷様」とその後ろ姿に両手を合わせるだけだった。

 速見が救命救急医局に現れたのは、その日の午後二時だった。彼の左遷後に赴任した三名のうち羽間と鳥井、佐当と長谷河が新センター長着任を迎えたが。
「……旭北で熊と戦ってました?」
 三年前に比べ、二回りは体格の良くなった速見を凝視し、ポロリとそう呟いた長谷河は。
「羆に人類が勝てるか、せいぜいエゾシカだ」
 真顔で咥えたままの飴の棒を上下させた速見に否定され、そうですね、と頷く。
「……」
「……」
 意味不明なやり取りに目を丸くしている羽間と鳥井に、佐当は心の中で謝った。すまん、この二人は変なんだ。速見先生は単独でも変だし、普段はまともな長谷河も彼と絡むとおかしくなるんだ、と。
「そうだ、土産がある」
 三年ぶりの胃痛再発の気配に佐当が眉を寄せていると、速見がデスクに乗せていた紙袋からなにやらふたつ、取り出す。
「あいつがまだ出入りしてるんだろう、いざという時の武器も兼ねて」
 一個は愚痴外来に置けばいい、と速見が四人の前に並べて見せたのは、刀痕荒々しい羆の木彫りの置物だった。

98無題4/4:2014/03/24(月) 08:46:55

「……」
「……」
「……この重さと鮭の鋭角さ、結構致命傷になりそうですけど」
 ひょいと持ち上げて真顔で評した長谷河に、佐当は泣きたくなった。頼むからツッコミを思い出してくれ長谷河、出水と滝澤のスルースキルに慣れてお前までボケに回ってどうするんだ、と血を吐くように思いつつ、なんとか、なんとか震えながら言葉を綴る。
「……残念ながらここ三ヶ月白取さんは来てませんし先日付けで田愚痴先生は県西部の磯浜郡へ異動になって特別愁訴外来は閉鎖しました」

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジ サクジエンデシタ!

99独占欲:2017/03/23(木) 10:36:32
ぷちぷち
蟻の時計にやられたので

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「僕だって白取さんにかまっていられるほど暇じゃないんですよ、忙しいんです!これから学会だってありますし!」
 時間ぎりぎりまで読もうと広げたままだった資料をまとめて立ち上がろうとした多口に、入り口に斜に構えたいつものポーズで寄りかかっていた白取が近寄る。
 白取のそういった姿は、本人にそのつもりがあるのかないのか様になっている。うっかり見蕩とれてしまわないよう無視していた多口は、だから立ち上がったその背を白取が覆うように足を止めたことに驚く。
「白取さん!?」
 机に突くかと思われた伸ばされた手は、多口の手を包み込む。
「なっ何をしてるんですか!急いでるんですよ!」
 振り返らずに多口は怒鳴る。背後にはおそらく、皮肉な笑みではなく、怖いくらいに真実と向き合うあの表情がある。
 最近、白取の態度がおかしい。
 妙に距離が近いと思うと黙り込んだり、あまりからかってこなくなったかと思うと、以前は笑いながら皮肉を言っていたはずの顔をひきつらせて、白取らしくないことを、石でも噛んだかのように言いにくそうに言う。
「さみしいでしょ、愚ッ痴ー」
 なにが、と訊く前に、多口の手を包んでいる手が、撫でるように手首をさする。
「奮発した大ぁ事な時計ダメにしちゃってさぁー」
「だ、ダメにしたわけじゃ…!」
「そうだよねー、大事すぎてしまいこんでるだけだよねー」
「ぐっ…」
 言い返せなくなった多口の小柄な体を、笑いながら、モデルのように均整のとれた長身の白取がもう一方の手を回して抱き締める。
「ボクの、代わりにあげようか、愚ッ痴ーに」
身動きの取れなくなった多口の肩に顔を寄せた白取の潜めた声がくすぐったくて一瞬意味のわからなかった多口は、白取りが片手をあげて見せつけるようにしたいかにも高そうな腕時計にはっとなる。
「お下がりなんていりません!」
 緩んでいた腕を振り払って多口は鞄を引っ掴んで戸口へと駆け出す。
「駅まで送ってあげようか愚ッ痴ー?親切なボクの車でさー」
「タクシー呼んであります、結構です!」
 多口にしては珍しく勢いよくドアを閉めて出て行く。
「多口先生ったら」
 入れ替わりになったのだろう、看護士の富士原が目を丸くして呟きながら入ってくる。
「あら、白取さん、いらしてたんですか」
「そ、あ、コーヒーもらえる?
愚ッ痴ーにさー、日頃のお礼になにかプレゼントしよっかー?って言ったらさー、愚ッ痴ーってばさー、まぁた何か企んでるんですか、なんて言うんだよー?
ボクってそんなに信用ないのかねえ?」
 傷ついちゃう、と白取は芝居がかった大げさな仕草でテーブルにつくと、ベテラン看護士のコーヒーを待つのだった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

 後ろから抱き締めて手首さわさわしたかった。蜂から反芻してくる。

100ボクのメモ:2017/03/25(土) 11:12:51
プチプチ
螺鈿の白愚痴のやりとりから

 手を洗いながら多口は、自分の手のひらをこする。しつこくこすっているのに、なかなかボールペンで書き込まれた文字は、わずかに薄くしかならない。
「もう…っ、白取さんったら…!」
 ぼやいたところで、白取に振り回されるのはいつものことだし、これ以上こすっても石けんで手が荒れるだけだ、溜め息とともに諦めて、多口は蛇口を締めるが、ハンカチでついこすってしまう。
「あら、多口先生、白取さんがどうかなさったんですか」
 背後から聞こえた穏和な声に、思わずボヤく。
「ひどいんですよ、白取さんったら、電話の時、僕をメモ帳替わりにするんです。おかげでなかなか取れなくて」
「まあ、白取さんったら、ずいぶんと多口先生には気安いんですね」
「そんなんじゃないですよ、あの人、人のことなんだと思ってるんだろ」
 多口はまだ知らない。
 くすくす笑うこのおっとりしたベテラン看護士がこの後、白取が多口に独占欲から自分の名前を書きこんだ、という噂を流すことを。
 多口が再び白取にメモ帳替わりにされそうになって、まだ前のが消えてないんですよ!と叫んで拒否して、周囲が困惑して動きを止めることを。
 この時の多口は、まだ知らない。

101幸せな眠/りがお前の/瞼にキ/スをする:2017/03/31(金) 07:47:51
螺鈿の押し掛け同棲おいしすぎる
しらぐちかもしれない

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

 部屋には多口の放つ規則正しい寝息だけが響いていた。ベッドの傍らに立つ白取が額にかかるくせっ毛をつまんでみても、それは変わることがない。
 押しかけて同居してみて分かったのだが、多口は一度眠りについてしまうと、余程のことがないと目を覚まさない。
 職業柄か、救急車のサイレンには反応するが、消防車のサイレンはごく近場でもなければ、静かに寝息を立て続ける。白取が目を覚ましてしまうような軽微な地震などもっての他だ。
 それだけ日々疲れているのか、小柄な体を横向けてさらに小さくして、多口は眠り続けている。小柄なだけあって、寝息にかすかに揺れる頭も小さい。だからこそ日中、黒目がちの大きな目が、対照的に目立つのだろう、今は瞼の向こうに閉ざされている、白取の言葉に驚いてよく見開かれるあの大きな目が。
 いつの間にか白取の手は、その頬にのせて包み込んでいた。自分がしていることに驚いて、次の瞬間それは何事もなかったように眠り続けている多口への苛立ちに変わる。何をしたら目を覚まし、自分に気づくのだろうかと。
 夜更けにただひとり暗い部屋の中で、白取は取り残されたように、自分の気持ちに名前を付けることも出来ずに、そのまましばらく多口の寝顔を睨むように見つめていた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板