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仮投下・修正用スレ
100
:
◆LuuKRM2PEg
:2012/02/08(水) 22:50:25 ID:WBd8TEIY
最後の部分と状態票です
ライドベンダーの座席に腰掛ける月影ノブヒコは、思案に耽っていた。
彼はウヴァを従えた理由はただ一つ、真木清人を打ち破る上で障害となる者達を始末させるため。いくら邪魔者を始末すると言っても、能力を制限されているこの状況で無駄に戦っても自滅するだけ。
認めるのは癪だが、徒党を組まれてはその可能性も考えられる。だからウヴァの力をある程度取り戻させた上で従わせた。
それにウヴァはサタンサーベルの刃を耐えるほどの肉体を持つので、ここでわざわざ切り捨てるより邪魔者と潰し合わせた方がずっと有益かもしれない。もしも奴が他の参加者と徒党を組んで反旗を翻すなら、引導を渡すだけ。
一応、バッタのコアメダルを一つだけ確保したので裏切る可能性は低いかもしれないが。
(なるほど……ここに私達全員の情報が書かれているのか)
そしてノブヒコの手には今、真木清人からグリード全員に渡されたという紙束が握られている。ウヴァの持っていたそれに書かれているのは、ノブヒコを含めた参加者全員に関するデータとスタート地点。
加えて大ショッカーの知らない仮面ライダー達や、セイバーやラウラとシャルロットに関する情報まで存在している。
仮面ライダーW、仮面ライダーアクセル、仮面ライダーエターナル、仮面ライダーオーズ、仮面ライダーバース、NEVER、ドーパント、ガイアメモリ、エンジェロイド、サーヴァント、宝具、IS、魔法少女、ソウルジェム、魔人、ヒーロー……ノブヒコにとって未知の単語が数え切れないほど書かれていた。
(不意打ちを仕掛けた鎧武者の正体はノブナガだったとは……やってくれるな、あの男)
無論、膨大なデータの中には交戦した加頭順やノブナガについても記されている。それによるとノブナガの正体は真木の技術によって復活した戦国武将、織田信長のホムンクルスかつグリードの紛い物らしい。
その身体の維持にはセルメダルが必要で、核となっているコアメダルを奪うと消耗が早まるようだ。それなら勝手に消耗するのを待てばいいし、再び戦うことがあるなら借りを返せばいい。
NEVERである順もそうだが、死ぬのが時間の問題となる奴をあいてにした所で時間の無駄でしかなかった。
(アポロガイストのスタート地点はGー5か……まずいな、奴と同じエリアに仮面ライダーと魔法少女とやらがいる)
元は『Xライダーの世界』に存在する悪の組織GOD機関の怪人であり、大ショッカー大幹部の一人であるアポロガイスト。奴はいま、ここより少し離れた風都という街にいるようだった。
徒歩で向かうなら時間が必要だろうが、真木達が生み出したであろうこのマシンさえあれば向かうのに時間はそこまで必要ない。その気になれば数分で辿り着くことも、可能かもしれなかった。
しかしそれよりも一つの懸念がある。あのエリアには仮面ライダーエターナルの大道克己と魔法少女の美樹さやかの二人がいるのだ。アポロガイストの戦力ならば簡単には負けないだろうが、問題がある。
克己とさやかはそれぞれNEVERと魔法少女という、死人の肉体を持つ存在だった。Xライダーとの戦いで敗れたアポロガイストは再生手術を施した際、パーフェクターで人間の生命エネルギーを吸わなければ生きていけなくなる。
だが、この二人はゾンビに等しい連中だから生命エネルギーなんてあるとは思えない。アポロガイストの性格上、奴らに戦いを仕掛けるだろうが相性が非常に悪かった。
もしも長期戦になるような事になれば、アポロガイストが非常に不利になる。それで奴が負けてしまっては、大ショッカーにとって大きく痛手となるに違いない。
こんな下らない殺し合いで奴を失うのは何としてでも避けるべきだが、最悪の想定をしても仕方がない。
(まあいい……不安など抱いたところで何も成せない。さて、何処に向かうべきか……)
そう思いながらノブヒコはパーソナルデータをデイバッグに収める。その奥には、ウヴァより奪い取ったある宝具が眠っていた。
それは第四次聖杯戦争でアーチャーのクラスで召喚されたサーヴァント、英雄王ギルガメッシュの保持していた王の財宝に眠っていた宝具。エルキドゥの真名を持つ天の鎖が、創世王の手に渡っていた。
「行くぞ、ついてこい」
「あ、ああ……」
ノブヒコはもう一台のライドベンダーを発見したウヴァに移動を促す。情けない返事に苛立ちを感じるも、気にしたところで仕方がない。
ライドベンダーのハンドルを握り締め、勢いよく回すとエンジンが轟音を鳴らして疾走を開始した。その後をついていくように、ウヴァが乗るライドベンダーも走り出す。
全ては偉大なる大ショッカーのため。あらゆる世界を手中に収めようという欲望がある限り、月影ノブヒコは止まることがなかった。
101
:
◆LuuKRM2PEg
:2012/02/08(水) 22:53:18 ID:WBd8TEIY
【一日目-午後】
【F-3/道路】
【月影ノブヒコ@仮面ライダーディケイド】
【所属】緑
【状態】ダメージ(小)、ライドベンダーに乗車中
【首輪】105枚:0枚
【コア】ショッカー、バッタ×1
【装備】サタンサーベル@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品×2、参加者全員のパーソナルデータ、ライドベンダー@仮面ライダーOOO、天の鎖@Fate/zero、ゴルフクラブ@仮面ライダーOOO、ノブヒコのランダム支給品0〜1、ウヴァのランダム支給品0〜1(確認済み)
【思考・状況】
基本:真木清人や、大ショッカーに刃向う者を抹殺する。
0. 何処に向かわせるか……?
1.大ショッカーに従う者を探す。従わない場合は殺す。
2.仮面ライダーは殺す。利用できそうなら利用する。
3.ユートピア・ドーパントと、鎧武者怪人を警戒するが深追いはしない。
4. ウヴァが反抗したり醜態を晒すよう事をするなら、容赦しない。
【備考】
※ショッカーのコアメダルではショッカーグリードは復活しません。
※ショッカーメダルでコンボを成立させると、変身解除後ショッカーメダルは消滅します。
※参加者全員のパーソナルデータを見ました。
※シャドーキックやシャドーセイバーといったオリジナルのシャドームーンが使用していた技が使用出来ます。
【ウヴァ@仮面ライダーOOO】
【所属】緑・リーダー
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、ライドベンダーに乗車中、ノブヒコへの恐怖と彼がいることによる充実
【首輪】75枚:0枚(増幅中)
【コア】クワガタ×1、カマキリ×2、バッタ×1
【装備】なし
【道具】ライドベンダー@仮面ライダーOOO
【思考・状況】
基本:緑陣営の勝利。そのために言いなりになる兵力の調達。
1.今はノブヒコに従って、移動する。
2.もっと多くの兵力を集める。
【備考】
※参戦時期は本編終盤です。
※ウヴァが真木に口利きできるかは不明です。
※ウヴァの言う解決策が一体なんなのかは後続の書き手さんにお任せします。
※ノブヒコと行動を共にしたことで当初の欲望である戦力増強に成功したので、セルメダルが増幅しています。
※現状ではノブヒコについて行く予定です。
以上です。
修正点などがありましたら、お手数ですが指摘をお願いします。
102
:
仮投下
◆o3VwW7hmYU
:2012/02/09(木) 18:20:50 ID:13d1vybI
仮投下します
矛盾点など有りましたらご指摘ください
103
:
仮投下
◆o3VwW7hmYU
:2012/02/09(木) 18:21:54 ID:13d1vybI
『トライアルメモリ』――そのメモリに宿っている力は、『挑戦の記憶』。
トライアルメモリを使いこなせるようになった時、家族の仇――井坂深紅郎を倒すことが出来る。
そう決意して、特訓に挑戦していたその時のことだ。
バイクに跨っていた筈の照井竜の身体は、いつの間にかこの殺し合いの会場まで運ばれていた。
「一体どうなっている……」
周囲の人間ように、大袈裟に騒ぐことはなく。照井竜は、まずは冷静に場の状況を把握することに勤めようとした。
……だが、現実はそう甘くは無く。
この場で再び見知った人物に再会出来たことに喜び、大きな声を挙げていた少女が、目の前で死んだ。
人が死ぬという重々しい事実を侮辱するかのような、まるでその少女の死をからかうような「ぽんっ」という音と共に。
少女が、死んだ。人間が、死んだ。仮面ライダーは何もすることもなく、只々その死を見ていることしか出来なかった。
少女の近くにいた青年が少女の名を何度も呼ぶ。もちろん、返事など一切返ってこない。
これが死だ。今死んだ彼女は、二度とこの世には返ってこない。あの青年は、一生あの主催者を恨み、憎むことになるのだろう。己の無力さを、後悔することになるのだろう。
目の前で少女を失ったあの白衣の青年の気持ちは、照井には痛いほど理解出来た。
何故なら、照井も過去に目の前で大切な者を殺されているのだから。あの白衣の青年も、照井竜も、同じなのだ。
仮面ライダーアクセルも、最初はただの復讐鬼だった。左翔太郎やフィリップ……数多くの仲間と出会っていく中で、照井竜は『仮面ライダー』として成長していくことが出来た。
それでも、だが、本質は変わらない。復讐鬼だという本質は、あの時の恨みは、憎しみは。一生消えることが無いだろう
「……ッ!」
照井は、自分の身体が熱くなっていくのが理解出来た。
それは『怒り』という感情の顕れ。
その怒りの矛先は、先程まで元気で居た少女を一瞬で殺した男と――――その殺人現場を呆然と見ていることしか出来なかった自分自身へだ。
家族の仇を取るために手に入れた、仮面ライダーの力。
風都の街を守るために使っていた、仮面ライダーの力。
この力があれば、ドーパントと戦うことが出来る。家族の仇を取ることが出来る。
しかし、またしても照井竜は『運命』に抗うことが出来なかった。
先程の殺人は、自分の家族が殺された時とまるで同じ状況だ。自分で何かをすることもなく、ただ目の前に無残に命が散らされただけ。
だから、二度目の敗北。運命は照井竜という男を、どこまでも苦しめていく。
そんな照井の精神を更に追い詰めるかのような、三度目の敗北。
箒と呼ばれていた、正義感が強い少女の死。
あまりにも現実離れした現実が、照井竜の心を追い詰めていく。
過去の出来事が照井竜の精神を蝕んでいく。
怒りと憎しみが大きく膨れ上がり、照井竜という男を支配していく。
ワイルドタイガーの堂々たる宣言は、最早、今の照井竜の耳には届いてなどいなかった。
ここにいるのは、仮面ライダーなどではなく、ただの『復讐鬼』なのだから。
照井竜は、あの眼鏡の男に対してメモリブレイクしようとなど考えていない。
復讐鬼は、只々己の欲望を満たすためだけに殺害という名の復讐を与えるのみ。逮捕やメモリブレイクなど、最早あの男には生温い
怒りと憎しみが頂点に達した時、照井竜の意識は闇へと沈み――――
104
:
仮投下
◆o3VwW7hmYU
:2012/02/09(木) 18:23:33 ID:13d1vybI
OOO OOO OOO OOO
「……で。……ですか?」
声が聞こえる。
独特で少々怪しげな声色だったが、自分を心配しているようだ。
「おや……。やっと目が冷めたようですね」
照井竜の瞳には、黒と金の混じった、少々独特な髪の色をした長身の男が映っていた。
青色の背広をキッチリと行儀良く着こなし、背筋をしっかりと伸ばして敬語を話すその姿は、殺し合いという行為にはあまりにも不似合いなモノだ。
普通の一般人がみたら『好青年』という良い印象を与えるような律儀な格好。それが、魔人、脳噛ネウロの人間としての姿だった。
……だが、それは『一般人』に限ってのことだ。
仮面ライダーとして、警察官として今まで様々な人間と接してきた照井竜は、この男の瞳が異常なまでに人間離れした濁りを持っていることに気付いていた。
「お前……何者だ?」
「脳噛ネウロ……女子高生探偵、桂木弥子のしがない助手です」
「見たところ俺とは陣営が違うようだが、どうして俺を襲わなかった」
「その答えは簡単です。何故なら、僕がこの殺し合いに乗っていない限り、こちらから無差別的に誰かを襲う必要が無いからです」
照井の疑問に、ネウロは軽いフットワークで対応する。
その瞳の濁りからわかるように、この魔人が内心何を考えているのかは、そう簡単に察することが出来ない。
だからこそ、余計に照井竜を疑わせてしまっているのだろう。こればかりは魔人でもどうしようもない。
尤も、自分が殺し合いに乗っていないというのは本当のことなのだが。
このままでは仕方無いと考えたネウロは、一つの提案を口にする。
「……ただ立っているだけでも仕方無いですね。情報交換でもしませんか?
状況が状況です、ある程度の情報交換はしておいたほうがいいと思うのですが」
「ああ。確かに、ある程度の情報は知っておきたいところだ」
「それは助かります。では、僕が知っている限りのことを貴方に教えましょう」
照井が提案を呑むと、ネウロは自然な笑顔を人為的に作り、饒舌な口調で現在知っているだけの情報を照井へと伝え始めた。
その中には『首輪を構成している材料』という極上の情報まであったが、それについては半信半疑だ。
それはネウロの只ならぬ瞳の濁りと、初対面だということ、そして材料を調べた方法を教えてもらっていないということが起因する。
前者2つだけならまだ多少は信憑性があるが、どのような方法で調べたかもわからない情報を信じるというのには、やはり無理がある。
実はこの魔人……脳噛ネウロは照井竜が気絶している間にその材料を調べていたのだが、それを照井本人が知ることはない。
そして、この腹黒魔人はあろうことか照井の支給品までもを確認してしまっている。
それはエイの紋章が中心に刻印されているケースと、新型の携帯電話のようなものに、少々珍しい大剣。そして、何故か戦闘には全く役に立たなさそうな、花柄の派手なパンツ。
今まで何度も運命に屈してきた照井竜に支給されたモノは、とある世界で運命に抗い続け、そして最後には運命を自らの手で変えることに成功した男が使用していたモノだったのだ。
105
:
仮投下
◆o3VwW7hmYU
:2012/02/09(木) 18:25:05 ID:13d1vybI
「それで、今後の行動はどうしますか?僕は殺し合い否定派同士、共に行動するのが一番だと思うのですが」
「生身の人間を一人にするわけにもいかない。……ついてこい」
ネウロの問に、照井竜は即答する。
いくら怪しかろうと、所詮は生身の人間だ。それを一人放って置くほど、照井竜は腐っていない。
それに、復讐鬼へと成り下がったとはいえ、警察官としての……仮面ライダーとしての魂はまだ完全に消え去ったわけではない。それが、一般市民を一人だけ殺し合いの場に放置するという行為を許さなかったのだ。
実際は脳噛ネウロは魔人であり、生身の人間とは程遠い、それこそ仮面ライダーやドーパントとすら互角以上に戦えそうな程の力を有しているが、今の照井はそれを知らない。
尤も、先程も説明したように脳噛ネウロは人間を殺す気など無く、ただ単純に、面倒事を避けるためだけに猫を被っているだけなのだが。
このようなやり取りで、『謎』を食する、突然変異によって生まれた魔人と家族の仇を取り、運命という名の鎖を振り切ろうとする男のコンビが誕生した。
探偵、左翔太郎と警察、照井竜。
探偵、脳噛ネウロと警察、笹塚衛士。
互いに、元居た世界で探偵・警察と手を組んでいた者達が出会ったのは偶然なのか、それとも必然なのか。
こうして、照井竜の運命は再び動き始める。
果たしてこの殺し合いで運命を振り切ることが出来るのか、またしても運命という決められた必然の前に無様に平伏せてしまうのか――――
その結末は、魔人である脳噛ネウロにすらわからない。
照井がとある危険な人物の標的を3つも所持しているということも、今のネウロと照井には知る術がなかった。
【一日目-日中】
【C-5/平地】
【脳噛ネウロ@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄
【状態】健康
【首輪】95枚:0枚
【装備】泥の指輪(イビルディバーシー)
【道具】基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らないが、襲ってきた相手には死なない程度に制裁する。
1.とりあえず弥子と合流する。
2.今はなるべく情報を集めたい。
3.欲望によって人間は進化する。この男(照井)の進化が楽しみだ
【備考】
※断面への投擲(イビルジャベリン)により首輪の材料を知りました
【照井竜@仮面ライダーW】
【所属】白
【状態】自身への強い怒り、強い復讐心
【首輪】100枚:0枚
【装備】アクセルドライバー&アクセルメモリ@仮面ライダーW@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、エンジンブレード&エンジンメモリ@仮面ライダーW、ディケイド用ケータッチ@仮面ライダーディケイド、ライアのカードデッキ@仮面ライダーディケイド、火野映司のパンツ@仮面ライダーOOO
【思考・状況】
基本:殺し合いには極力乗らない。
1.罪のない少女を殺した主催者側(真木、ウヴァ、メズール)の人間と家族の仇である井坂深紅郎を見つけ出し、必ずこの手で殺す
2.井坂を倒すためにも、トライアルメモリを再び手に入れ、使いこなせるように特訓したい
3.ネウロへの疑心
【備考】
※第36話「Rの彼方に/全てを振り切れ」途中からの参戦です
※ネウロから首輪の材料を聞きました
※トライアルメモリの力はまだ使いこなせていません
※支給品はネウロが確認したのみで、照井自身はまだ未確認です
106
:
仮投下
◆o3VwW7hmYU
:2012/02/09(木) 18:27:54 ID:13d1vybI
以上で仮投下終了です
断面への投擲(イビルジャベリン)など、今回は不安要素が多いのでおかしければご指摘よろしくお願いします
107
:
◆o3VwW7hmYU
:2012/02/10(金) 00:51:40 ID:cmTn2h1w
すいません、やはり色々とおかしいので破棄します。失礼致しました
108
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/02/16(木) 23:21:49 ID:FZeEdQT6
それでは、「INVISIBLE」のメモリに関する部分の修正案を投下します。
----
「INVISIBLE」――それが龍之介に支給されたガイアメモリだった。
使用者を透明人間にする力を持つこのメモリは、かつて深紅郎が収集し損ね、破壊された筈のメモリだ。
どういう手段かは分からないが、真木清人は失われたガイアメモリを作り出すことが出来るらしい。
加えてガイアメモリの状態も、最後に診た時と同じ状態ようだ。
……目の前には丁度良い被検体がいる。
彼を生贄にガイアメモリを完成させれば、かつて得られなかった力を得る事が出来るかもしれない。
龍之介がメモリを完成させ得る程の適合者かはこの場では解らないが、もし違っても殺せばメモリは排出されるし、メダルも補給できる。
ならば試して損はないだろう。
そこまで考え、深紅郎は龍之介を取りこむことを決めた。
後は彼を良い様に懐柔するだけだ。
----
そうやってガイアメモリの力を喜ぶ龍之介を見て、深紅郎もまた満足げに頷く。
今度こそ失敗する訳にはいかない。
前回の様に使用者に任せるのではなく、自らの手の届くところで管理する必要があるだろう。
龍之介はまだ気付いていないが、「INVISIBLE」のメモリは体外に排出される事はない。
仮に龍之介が過剰適合者ならば、彼は自身の生命力を糧としてガイアメモリを成長させるだろう。
その果てにあるのは、ガイアメモリの力による死だ。
―――そして龍之介は、井坂の望んだとおりの過剰適合者だった。
ガイアメモリは使用者の性格や技能がメモリの性質・モチーフに近いほど適応しやすい性質を持つ。
「INVISIBLE」のメモリが内包する地球の記憶は“不可視”。
つまりは“見えない事”だ。
対して龍之介は行き当たりばったりの快楽殺人者でありながら、天性の証拠隠滅と捜査撹乱を行うことができた。
時として行なった殺人そのものが世間には認知されていないケースすらある。
つまりは“見つからない事”に長けているのだ。
“見えない事”と“見つからない事”。
この二つの類似点が、龍之介に文字通り過剰な適合率を持たせたのだ。
それが彼に死を齎すモノでありながら――――
深紅郎は先ほどの説明において一切の嘘は言っていない。
----
以上の二か所を修正します。
何か意見や、他に修正するべき点などがありましたらお願いします。
109
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/02/17(金) 09:43:04 ID:RrXaXXgA
修正乙です
これなら問題ないと思います。
110
:
◆jUeIaTa9XQ
:2012/02/27(月) 22:12:19 ID:GwuxY2ak
SSは完成しましたが内容に自信がないので、ここに仮投下します。
111
:
◆jUeIaTa9XQ
:2012/02/27(月) 22:12:53 ID:GwuxY2ak
「フィリップ。空を飛ぶ人間って言えば、お前は何が思い浮かぶ?」
「僕達が今まで戦ってきたドーパントに飛行能力を持つ奴がいた。バードにナスカ、タブーとかね。
それ以外で言うなら……箒と言う子が使っていたあの戦闘服かな」
階下へと向かう階段を駆けながら、翔太郎とフィリップは問答する。
その話題は翔太郎が述べた通り、中学校の屋上にいた二人がつい数分前に目撃した「空を飛ぶ人間」である。
「そうなるだろうな。でも、俺達が見た奴をその括りの中に入れていいかって言えば……」
「確定はできない、だね」
手摺りから身を乗り出し、一気に次の階段へと移る。
「空を飛ぶ人間」は二人から決して近いとは言えない場所を通過していったため、その姿を正確に把握した訳ではない。だが、幾つかの特徴は確認できた。
あの人間の背中には翼が生えていた。その点を除けば、人間そのままの姿だった。全身を異形へと変えたドーパントとは明らかに異なる。形容するならば、まさに天使。翔太郎にとってもフィリップにとっても全く未知の存在であった。
「まさか神話の世界にでも迷い込んじまった、なんて訳ねえよな?」
「今はそんなロマンに溢れた状況ではないだろう?」
「……悪い。とにかく、解らないことが多すぎる。まずはあいつの正体を掴むとするか」
突然放り込まれた殺し合いという環境については不明な点が多すぎる。セルメダルやコアメダルといった謎のアイテム。人間の姿を維持したまま発揮される未知の力。そして一切の情報取得を遮断された真木清人という男。
これらのどこから手をつけるべきか決めかねていた翔太郎とフィリップは、当面の目標として突然現れた天使らしき人間の追跡を決めた。この空間内に溢れる謎の解明を手近な所から行い、同時に移動しながら頼もしい仲間である照井竜の捜索も行おうと考えたため。
教師のいない廊下を走り抜け、二人は玄関から屋外に出た。
「飛んで行ったのはあっちの方向だったよな。それじゃ、ライドベンダーってのを探して……」
「翔太郎。その必要はなさそうだ」
「ああ? バイクに乗ってった方がいいだろ」
「僕の支給品が青のメダル一枚だけなんて妙な話だと思っていたんだ。だが、どうやらああいう理由だったらしい」
そう言って、フィリップは校門の方を指差した。
◆
マスクの頭部に触れていた指が隙間に食い込んだ。そのまま指を動かすことで、マスクに生じた罅の大きさを感じ取る。メカマン斉藤の折り紙つきの強度を誇るパワードスーツにこんなダメージを負わせたのだから、赤毛の少女のパワーには溜息が出る。
周囲に目を向けると、あの少女の放った光弾によって倒壊した建物が目に映る。書店も雑貨店も玩具店も、今では只の瓦礫の山だ。先程まで乗っていたライドベンダーも車体を貫かれ、使い物にならない鉄屑と化していた。二度目の溜息が出る。
「何者だよ、あの女の子は……」
目の前から飛び去ってしまった翼付きの少女を思い起こし、虎徹の口から苛立ちの含まれた呟きが零れた。
腕力もスピードも桁外れで、翼から放たれる光弾の威力もかなりのものだった。どのようなNEXT能力なのか解らないが、敵に回せばジェイク・マルチネスに並ぶ厄介な相手だろう。
112
:
◆jUeIaTa9XQ
:2012/02/27(月) 22:13:56 ID:GwuxY2ak
「……本当に乗っちまうのかよ」
”マスターに言われたから。”そんな理由で攻撃を仕掛けてきたあの少女は、悲しそうに涙を流していた。その顔を見れば、少女も本心では人殺しを嫌悪していることが虎徹にも理解できた。
虎徹の怒りの矛先は、まず名も知らぬ「マスター」へと向けられる。そいつが何を考えて人の命を奪おうとしているのか虎鉄には知る由もないが、慕ってくれる少女さえも利用して誰かを傷つけようとする事実を許すわけにはいかない。
ヒーローとして、誰かが傷つく前に悪と戦わねばと気が逸る。「マスター」を倒さねば。必要ならば、あの少女も同様だ。
燃える使命感を胸に、虎徹は少女の逃げた方へと足を踏み出した。新しいバイクを見つけるか、それが無理なら追跡のためにNEXT能力を発動する必要もあるかもしれない。
そんな時、虎徹の耳に激しく空気を震わす音が届き、発信源に目を向ける。
「な、あれは……」
虎徹の両目が見開かれる。
視線の先にいたのは、バイクに乗った二人の人間だった。勿論それだけなら何も変な話ではない。
虎徹が驚いたのは、二人の乗っているバイクがサイドカー付きであったこと。ハットを被った男が乗る赤と白のボディのバイクと、カジュアルな服装の少年が乗る緑と白のボディのサイドカーがあまりに見慣れたものであったからだった。
「俺とバニーのバイクじゃねえか……!」
嘆息の声を漏らす虎徹の前で、二人組はバイクを停車させる。いきなり仕掛けてこないところを見ると、どうやら敵意は無いらしい。
ハットの男が颯爽とバイクから降り、こちらに歩み寄ってどこか気取ったように右手を差し出し、気障な台詞を繰り出した。
「まさかこんなに早くあんたにお目にかかれるとはな。会えて光栄だぜ、ワイルドタイガー……って、いきなりボロボロかよ!?」
「悪かったな……」
残念ながら、不貞腐れた返事を返すしかない。
◆
バイクに体を寄せる翔太郎とフィリップと、その場に立つ虎徹の三人が向かい合っていた。
真木への反抗心を確認し合った後、三人は情報交換を始めていた。友好的な人物及び危険人物、互いの戦闘手段に関する簡単な解説など話は広がり、現在までに遭遇した参加者の話題に移る。
「……つまり、僕達が見た空を飛ぶ人間は恐らく君を襲った少女と同一人物で、彼女は殺し合いに乗っているということだね? ワイルドタイガー」
「ああ。おまけにかなり強くてな、俺が抵抗しなかったからとは言え、見ての通りかなりダメージを負わされたぜ」
「抵抗しなかった? そんなヤバい相手なら戦えばよかったじゃねえか」
「……泣いてたんだよ、あの子」
自然と声のトーンが落ち、マスクから覗かせる表情も険しくなった。そのまま、虎徹は少女について語り始める。
彼女は「マスター」の命令で殺し合いに乗り、虎徹の説得を振り切って逃走し、今もまた何処かで誰かに刃を向けているのかもしれない。
「もしあの子がまだ誰かを襲うなら、俺が絶対に止める。全力でな」
「確かに、その必要がありそうだね」
真剣さを感じさせる虎鉄の宣言に、フィリップも同調する。活躍の舞台こそ異なれどもヒーローとしての志が同じだからこそ、こうして意識を共有できるのだろう。
フィリップに続いて翔太郎もまた、そうだな、と肯定を示す。けれど、その表情はどこか腑に落ちないようなものだった。他の二人が怪訝に思っていると、翔太郎は一つの質問を口にした。
113
:
◆jUeIaTa9XQ
:2012/02/27(月) 22:14:34 ID:GwuxY2ak
「ワイルドタイガー。女の子は『命令だから仕方ない』と答えた、って話だったよな」
「ああ。すごく悲しそうにな」
「……ちょっと聞いてみたいんだが……あんたは説得したって言ったけど、どうやった?」
「は? そりゃあ、俺は殺し合いに乗ってないって言って、それから嫌な命令なら聞くことないって言って」
虎鉄は指を折りながら次々と言葉を挙げていき、
『最後に一つだけ答えろ!お前はそいつが言った通りに人を殺す気か?だったら俺はお前を許さねぇ!お前もマスターって奴もだ!!』
そんな台詞と共に指の最後の一本を折り、虎徹は解説を終えた。
「こんな感じのこと言ったんだけど、女の子は聞いてくれなかったんだよ。急にどうしたんだ?」
しばらく間を置いて、そうか、と小さく呟き、翔太郎はハットを前に深く傾けた。
その表情を、虎徹から見ることが出来ない。
フィリップはというと、どことなく気まずい表情を浮かべながら翔太郎を見つめていた。
「……俺、なんか変なこと言ったか?」
「いや、ちょっと気になってな。
……なあタイガー。俺もあんたの言ってることは尤もだと思うぜ。マスターって奴は酷い奴だってのも、そいつの言うことを聞いて女の子が人を殺したら許せねえってのも。本当はどうしたいのか、ちゃんと自分で決めさせるってのも大事なことだろうな」
そこで一旦言葉が区切られ、でもさ、と続く。右手の人差し指が少し前に突き出された。
「背負った荷物が重過ぎて悲鳴を上げてる女の子に自分一人だけの力で解決しろってのも、酷な話じゃないか?
マスターって奴と、たぶんその子の友達との間で迷って、葛藤して、泣きたくなって。
それなのにあんたにまで『敵対するなら許さない』ってキツく言われたら、その子は余計に苦しくなったかもなって感じてさ」
フィリップの顔が俯き、虎徹の顔が強張るのが目の端に映った。それに気付いた翔太郎だが、最後に一つだけ付け足した。
俺は君の敵になるかもしれないって意思を示すだけで終わらないで、こう言ってやっても良かったんじゃないか?
もしマスターの言うことを聞くのが嫌なら、俺が君の力になってやる、ってさ。
誰かが一緒に背負ってくれるってわかれば、その子も安心出来たんじゃないかって思うんだ。
翔太郎の言葉が終わり、短い沈黙が訪れる。翔太郎とフィリップは無言の状態である一方で、固まった虎徹の表情はまさに絶句の状態であった。
やがて、虎鉄の口から出た深い溜息が沈黙を破った。
「ワイルドタイガー、だが」
「いや、いい。翔太郎、俺はお前の言うことも尤もだと思うぜ」
フィリップのフォロー目的らしき言葉を片手で制し、虎徹は翔太郎への返答をする。
そして、また沈黙が始まった。
失敗続きだな、俺は。虎徹の口からぽつりと出た自虐的な呟きを除けば、誰も喋らなかった。
114
:
◆jUeIaTa9XQ
:2012/02/27(月) 22:15:26 ID:GwuxY2ak
短くない時間を経て、何も言わぬまま虎徹がフィリップの前を横切りどこかへと歩いていこうとする。
「ワイルドタイガー、何処へ行くんだ?」
「あの子を探して、今度はちゃんと説得しに行くんだよ。何かしでかすといけないからな」
じゃあな、という簡単な別れの挨拶を残して虎徹は二人の前から去ろうとした。彼の言葉はほんの少し暗く、足取りはほんの少し重くなっている。そんな風に感じられた。
「タイガー! もう一個だけ言わせて貰ってもいいか?」
だが、翔太郎に呼びかけられて足を止める。虎鉄が振り向いた先で、翔太郎とフィリップが真摯な眼差しを向けていた。
「……俺は、真木って奴にまゆりって子が殺されてからここに来るまで、結局何も出来ちゃいなかった。やったことといえば、真木への怒りを心の中で燃やすくらいだな」
「僕も似たようなものだったよ。殺し合いが始まってから仲間との合流のためにどうするべきか、それを考えるので精一杯だった」
数時間前の出来事を語る二人の顔は、悔しげに歪んでいた。突然かつ凄まじく異常な事態なのだから、冷静かつ完璧な対応をしろという方が酷な話だろう。
恐らく頭ではわかっているのだろうが、やはり状況に翻弄され、言われるがままになっていたという事実が二人に圧し掛かっていることは、虎徹にも理解できた。
「そんな時だったよ。あんたが堂々と宣戦布告したのは。あれには驚いたぜ……皆がダンマリしてる中で、あんたは行動に移ったんだからな」
「言葉だけでもあの状況で反抗するのは危険ですらあるのに、君は恐れずに立ち向かったんだ。あの行いを、僕は賞賛したい」
虎徹からすれば思いもよらない話だった。
二人の少女を救えなかったのは自分も同じであり、宣戦布告は真木へのせめてもの抵抗でしかなかったのだが、目の前の二人は褒めてくれたのだから。
「あんたの姿は、俺達と同じように真木を倒そうって思ってる人や、たぶん死ぬのが怖くて震えている人にとっての希望になった。俺はそう信じてるぜ。
……勝手な言い草だろうが、もし俺の言ったことで凹んでるんだとしても、あんまり引き摺らないでくれ。心配しなくても、あんたが立派な男だってことは俺達が保障するからよ」
翔太郎とフィリップから笑顔が向けられる。
励ますようなその笑顔は、見ていて心地よいものだった。
「……ありがとよ。なんか気分が軽くなった気がするぜ」
釣られるように、虎鉄の顔も自然と微笑んでいた。胸の中を覆っていた暗雲が少しずつ晴れていく、そんな錯覚さえ覚えていた。
だから、出来る限り強く明るい声で礼を述べた。
「そうだ。ワイルドタイガー、僕達もそっちに行くべきか?」
サイドカーに乗り込もうとしながら、フィリップが尋ねてきた。少女を追って同行するべきなのかということらしい。
彼らが側にいたらきっと頼もしいだろうと考えるが、虎徹は首を横に振った。
「色んな場所にヒーローがいる方が、救われる人は多くなるだろ? だから、お前達は俺とは別の方に行ってくれ。バイクは急いで見つけるから気にすんな」
一度の戦いで複数のヒーローが戦えば、確かに勝率は上がるだろう。しかしこの広い空間には、誰が何処にいるのか見当もつかない。だから今の内は一箇所に固まるより散らばった方がいいと考えた。正義の手は広く遠くまで届かせたい。
「それに、あの子の問題は出来れば俺が何とかしたいんだ。ちゃんとケジメつけないとな」
遂行できなかったヒーローの務めを今度こそ果たしたい。失敗を学んだ今なら、きっと上手くできるはず。だからあの二人をいちいち尻拭いに付き合わせるよりも、彼らなりの立派な働きに期待したいと思ったのだ。
そんな考えを理解してくれたのか、二人が虎鉄を追うことはしなかった。
起動させたバイクを駆って別方向へと進もうとして、最後にもう一度虎徹の方を見た。
「じゃあな、ワイルドタイガー。あんたの活躍を期待してるぜ!」
「空を飛ぶ少女のことは君に任せたよ!」
嬉しくなるようなエールを手向けに、ダブルチェイサーは走り去っていった。
115
:
◆jUeIaTa9XQ
:2012/02/27(月) 22:16:58 ID:GwuxY2ak
◆
「翔太郎」
「何だ?」
「どうしてワイルドタイガーにあんな質問をしたんだい? 顔も知らない少女について何か気にかかることでもあったのか?」
長い距離を走り虎鉄の姿がいよいよ見えなくなった頃、ダブルチェイサーを運転する翔太郎にフィリップは問いを投げかけた。
虎徹が行った説得に関する質問を指すのだとすぐに察しがついたようだ。
「……あの話を聞いて、似てるって思ったんだよ。タイガーの言う女の子が、風都の人達にな」
そう語る翔太郎の顔はどこか切なげで、どこか心苦しい声色であった。
「俺は街を泣かせる奴らを絶対に許せない。だからドーパントには容赦なく戦ってきた。お前と一緒にな。
けどよ、ガイアメモリに手を出した人達だって、全員が最初から悪い奴だったってわけじゃないだろ?ガイアメモリなんかと出会わなければもっと真っ当な、明るい道を歩めた人達だっていた筈なんだ」
彼の語るように、今まで二人は数多くのガイアメモリ犯罪者と戦ってきた。しかし犯罪者だって最初から根っからの悪人だったわけではないのだろう。
風都に似合う素敵なハットを翔太郎に残し、風も吹かない牢の中で償いの日々を送る津村真理奈。自らの過ちに気付き、正しさを知る翔太郎達に街の未来を託すと共に命尽きた園咲霧彦。もしもガイアメモリなど与えられなければ罪を犯すことなく生きられたかもしれない街の数多の住人達。
彼らの辿った末路が脳裏を過ぎった。
「ガイアメモリを使って罪を犯した人は、確かに加害者だ。でも、ふざけた私欲を抱いた連中に心の弱さを付け込まれて、街を泣かせる道具にされてしまった人達もまた、ガイアメモリの被害者だったんじゃないか?
そんな人達を『お前は罪を犯すから俺の敵だ』なんて言って倒すしか道がないって、哀しいだろ。……って、今まで倒すしかなかった俺が言うのも変な話だけどな」
ドーパントとの戦いは単純な勧善懲悪ではない。敵として現れるのは愛する街を汚す怪人でありながら、同時に愛する街で生きてきた人間でもあるのだから。
ゆえに断罪者となることに喜びだけは抱けない。成程、街のヒーローも楽ではないと、相棒の言葉で再認識する。
「それで、君はあんな事を聞いたわけか。被害者から加害者に堕ちようとしている少女を、もしかしたら止められる方法があるんじゃないかって」
「まあ、気が付いたら何故か俺の方がタイガーに教えることになってたけどな」
ここまで聞いて、フィリップの口から笑みが零れた。
「可笑しいか?」
「いや、相変わらず君らしいなってまた思ってね」
「ハーフボイルドだ、ってか?」
翔太郎の目指す流儀からすれば悪口になる筈の評価を自身に下しながら、しかし翔太郎の顔にはさほど不満などないように見えた。
正義感であると共にお人好しな性格が翔太郎の魅力だと常々思う。
そこでもう一つ質問をぶつけてみる。
「そう思うなら、タイガーではなく僕達が少女を追っても良かったんじゃないのか? ワイルドタイガーを一人で行かせたことで、結局僕達は空を飛ぶ人間の正体を掴めなかった」
ワイルドタイガーの望みを叶えたことで、翔太郎とフィリップの当初の目的は叶わなくなった。彼と情報交換をしたのだから振り出しに戻ったとまでは言わないが、ゴールから遠ざかったとは言える。
その点を指摘されても、翔太郎は迷うことなく答えを示す。
「いいんだよ。タイガーがケジメをつけるって望んでるのに邪魔したくはないからな。空を飛ぶ女の子の件はタイガーとまた会った時に残しておいて、俺達は俺達の仕事をしようぜ。
それに、お前だって俺と一緒にこうしてるだろ。お前もタイガーの意志を尊重したいって思ったんだろ?」
翔太郎にそう言われ、フィリップは何も言わずに前に向き直る。
そういえば、照井竜がトライアルメモリを片手に井坂との決戦に臨んだ時も今と似たようなことを語っていた。
自分の意志でゴールへ進む者には余計な干渉をせずに優しく見守り、その者がゴールに辿り着けると信じてやれる。そんな寛容さが感じられた。
実の所、翔太郎がどう返してくるかなど大体察しはついていた。それでも、フィリップは聞いてみたくなったのだ。
116
:
◆jUeIaTa9XQ
:2012/02/27(月) 22:20:19 ID:GwuxY2ak
相棒が望んで選んだ道は自分もまた望んだ道だ。ならば相棒と一緒に祈ろう。
願わくば、ワイルドタイガーの努力が実を結び、少女が敵になってしまわない――どす黒い野望に燃えた宿敵達、ミュージアムの面々や井坂深紅郎や大道克己のようにならないように。
そしてワイルドタイガーに言われた通り、自分達は自分達の仕事をしよう。
「翔太郎、もし安全な場所、たとえば何かの施設を見つけたら一度停まってくれないか?ワイルドタイガーから興味深い情報を貰ったからね、それを含めて“地球の本棚”で調べてみたいことがあるんだ」
「おう。頼りにしてるぜ、天才さん」
知識に富んだ頭脳と、優しさと正義を秘めた心と、二人分の絆の力を武器に。
【1日目−午後】
【C−3 路上】
【左翔太郎@仮面ライダーW】
【所属】黄
【状態】健康、ダブルチェイサーを運転中
【首輪】100枚:0枚
【コア】なし
【装備】ダブルドライバー+ジョーカーメモリ・メタルメモリ・トリガーメモリ@仮面ライダーW、ダブルチェイサー@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品一式、不明支給品1〜3
【思考・状況】
基本:「仮面ライダー」として誰かのために戦う。
1:照井と合流する。
【備考】
※劇場版「AtoZ/運命のガイアメモリ」終了後からの参戦です。
※「TIGER&BUNNY」の参加者に関する情報を得ました。
【フィリップ@仮面ライダーW】
【所属】緑
【状態】健康、ダブルチェイサー(サイドカー部分)に同乗中
【首輪】95枚:0枚
【コア】ウナギ:1
【装備】サイクロンメモリ・ヒートメモリ・ルナメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。この事件の首謀者を捕まえる。
1:照井竜と合流する。
2:安全な場所でもう一度“地球の本棚”を使いたい。
【備考】
※劇場版「AtoZ/運命のガイアメモリ」終了後からの参戦です。
※“地球の本棚”には制限が掛かっており、殺し合いの崩壊に関わる情報は発見できません。
※「TIGER&BUNNY」の参加者に関する情報を得ました。
117
:
◆jUeIaTa9XQ
:2012/02/27(月) 22:21:26 ID:GwuxY2ak
◆
幸いにも、新しいライドベンダーはすぐに見つかった。
それに跨って全身で風を切る虎鉄の頭の中にあるのは、これまでの何とも情けない自分の姿だった。
「まーた年下に説教されるなんてな……まあ、仕方ない話か」
翔太郎に指摘された通り、あの少女には辛く当たってしまったと思う。苦しいのが一目瞭然だったのだから、もう少し歩み寄る態度でも良かったかもしれない。
今となっては自戒が出来ると共に、どうしてこうなったのかの理由についても何となく見当がつく。
一つ思い浮かべるのは、殺し合いにおいて虎鉄が初めて会った人間のこと。いや、この表現は正確ではない。初めて見た人間の亡骸のこと、と言うべきか。
(悪い……もっと早く着いてたら、君を死なせずに済んだのにな)
この空間に飛ばされてから数十分後、辿り着いたのはC−1エリアに設けられた病院だった。初期配置から近くにあり、また目立つ施設だから誰か来るだろうと考えての判断だった。
奇妙なほどに静まり返った病院内部を探し回り、ドアが開け放たれた一室を見つけ、中に入った時に目に映ったのは、
部屋中に盛大に血液を飛び散らせ、肉も骨もぐちゃぐちゃに砕かれ、もはやヒトの形を成していないヒトの死体。一目でわかるほどに、仕掛人の残虐な性質が存分に発揮された現場であった。
それを見た瞬間に虎鉄は膝から床に崩れ落ち、何とも間抜けな声が漏れ、残酷な事実に気付かされた。
一人の人間が誰かの悪意の犠牲になった事実。何も行動らしい行動をしない間に、真木清人に突きつけた「誰も死なせない、誰にも殺させない」の宣言があまりにあっさりと崩れてしまった現実に。
虎鉄は震える声で亡骸に向けて謝罪した。救ってやれなかった自分の弱さを、心の奥底から。そして結局誰も見つけられないままに外に出て、既に発見したライトベンダーで病院を後にした。罪悪感と、顔も知らぬ犯人への怒りを胸に。
(本当に俺は弱いもんだな。情けねえぜ)
原因はもう一つあったと思う。突然始まったNEXT能力の減退だ。
能力を発動する毎に持続時間が減っていき、その度にいつか能力を失いヒーローとして戦えなくなる自分の姿が想像できた。
そのためにこれから先も悪と戦える頼もしいヒーロー達に平和を託し、ヒーローから只の父親に戻って愛娘の楓の側にいようと決めたのが少し前の話だ。
そんな時になって、真木清人は殺し合いに自分を呼び出し、目の前で罪も無き少女たちの命を奪った。その様を見て、虎鉄の正義が再び燻るのがわかった。
わざわざスーツを着せて呼び出したのなら、お望み通りヒーローとして戦ってやる。消えゆく前の最後の炎を燃やし、この殺し合いの打破をワイルドタイガー最後の大仕事として達成しようという決意が虎鉄の中に生まれていたのだ。
しかし、非情にも死が目の前に突きつけられ、胸中に無力感が生じた。おそらくこの時に、自分でも強く意識しない内にNEXT能力を失うことへの覚悟が薄れ、焦りが再び生じたのだろう。
こうして思い返すと、精神的に追い詰められていたのは虎徹も同じだったのだ。
真木の目論見通りに殺人ゲームは着々と進行しているのに、自分はそれを止められない惨めな弱者でしかない。そんな現実に対する怒りや悲しみが焦りを帯びて、それをあの少女に厳しくぶつけてしまった。
引き返す決心の出来ない彼女の態度に業を煮やし、殺人者を倒さねばと急いで成果を求め、憤怒が情けを押しのけた結果があのザマだ。
大人気ない、の自己評価を下すのが適当だろう。女の子に優しくしてやらなかったと聞けば、楓だって酷く怒るに違いない。
(ありがとな、二人で一人のヒーローさんよ)
空回りの行いを続けようとする自分に気付かせてくれた二人に、心中でもう一度感謝を示した。
二人の乗っていたダブルチェイサーは自分と相棒が愛用するバイクであったのだが、その事を告げずに貸したままにした。今はまだ「二人で一人のヒーロー」である彼らの戦力を削ぎたくなかったからだ。
ダブルチェイサーを返してもらうのは、相棒のバニーと合流し、彼らに負けないほどに立派なヒーローとなった後にしよう。
「そのためにも、今度こそ俺も頑張らないとな」
涙を流すあの少女のためにも、こんな自分を応援してくれた若い二人組のためにも。家で父の帰りを心待ちにしている娘のためにも、そして今も何処かで救いを求める人々のためにも、今はまだヒーローとして戦いたい。
少女がまだ罪を犯していないことを祈りながら、もう一度彼女と向き合う時のことを考える。
そうだ、あの台詞を口に出して自らを鼓舞してみよう。最高にカッコいいヒーローの象徴たる、あの決め台詞を。
118
:
◆jUeIaTa9XQ
:2012/02/27(月) 22:22:28 ID:GwuxY2ak
「さあ――ワイルドに吠えるぜ!」
【1日目−午後】
【D−3 路上】
【鏑木・T・虎徹@TIGER&BUNNY】
【所属】黄
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、ライドベンダーを運転中
【首輪】80枚:0枚
【コア】なし
【装備】ワイルドタイガー専用ヒーロースーツ(胸部陥没、頭部亀裂、各部破損)、ライドベンダー@仮面ライダーOOO
【道具】不明支給品1〜3
【思考・状況】
基本:真木清人とその仲間を捕まえ、このゲームを終わらせる。
1.少女(イカロス)を捕まえて答えを聞きだす。殺し合いに乗るなら容赦しないが、迷っているなら手を差し伸べる。
2.他のヒーローを探す。
3.ジェイクとマスター?を警戒する。
【備考】
※本編第17話終了後から参戦です。
※NEXT能力の減退が始まっています。具体的な能力持続時間は後の書き手さんにお任せします。
※「仮面ライダーW」の参加者に関する情報を得ました。
119
:
◆jUeIaTa9XQ
:2012/02/27(月) 22:23:40 ID:GwuxY2ak
以上で仮投下を終了します。
キャラクターの性格の描写が間違ってないか、話の流れが不自然でないかというのが主に不安を感じている点です。
もしよければご意見お願いします。
それ以外でも気になった点があったらご指摘お願いします。
120
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/02/28(火) 11:32:35 ID:f9XqAlmc
話の流れは特におかしくは感じず、特にワイルドタイガーの描写は非常に素晴らしいと思います
おじさんの初登場話までの時間の空白も、今まで気になっていたところなのでそこの補完もよかったです
とても楽しんで読めました! 投下乙です!
121
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/02/28(火) 22:30:46 ID:VyxGKbVw
仮投下乙です。
個人的に矛盾点はないと思います、感想は本投下の後で。
122
:
◆jUeIaTa9XQ
:2012/02/28(火) 22:33:25 ID:HDumdbNI
ご意見ありがとうございました。
それでは、このまま本投下をさせていただきます。
123
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/03/04(日) 14:56:02 ID:bes3K1ak
今回投下した【№039】で大きなミスがありましたので修正したものを投下します。
あと、暁美ほむらと岡部倫太郎のやり取りを、少し加筆させていただきますので、確認をお願いします。
まずスレ748の中ほどを。
----
そんなほむら達を前に、大樹は一瞬何が起こったのか理解できなかった。
クロスアタックを使用しほむら達を仕留めたかと思えば、いつの間にか眼前にグレネード弾が迫っていた。
驚きながらも回避して爆発をやり過ごせば、ブランウィングに吹き飛ばされた筈のほむら達がいつの間にか遠くに移動していたのだから、それも当然と言えるだろう。
「今のは……クロックアップか……?」
----
次にスレ752の最後を。
----
「………それで? ダイバージェンスメーターを譲ってくれるのかしら?」
「ふむ。まあ今の俺には不要なものだ。貴様にくれてやろう。
ただし! その代わり、貴様は今、この瞬間から我がラボメンの一員となるのだ!!」
明らかな苛立ちを籠めてそう訊けば、倫太郎はそう言って交換条件を出してきた。
ラボメンというのは良くわからないが、部活の様なものだろうと判断して了承する。
「………まあ、それくらいなら構わないわ」
「よろしい。ではそのダイバージェンスメーターはお前の物だ。ラボメン№009、コマンダーほむらよ!」
すると倫太郎はそう言って、ようやくダイバージェンスメーターを譲ってくれた。
メーターを“盾”の中へしまい、感情を落ちつかせるために、深呼吸と共に溜息を吐き出す。
正直なところ、これ以上茶化されるようだったら彼を放り出そうかとすら考えたほどだった。
----
以上で、修正項の投下を終了します。
またその他細かい修正に関しては、ウィキ収録時に修正させていただきます。
なお、【ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/14759/1320413366/759】で指摘された“支給品一覧表”に関しては、
グリード達に支給された“詳細資料”と同じ、バトルロワイアルだからこそ出せる支給品という事で、一先ずこのままにさせていただきます。
“支給品一覧表”や加筆・修正項に関して、何か意見がある場合は返信をお願いします。
124
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/03/05(月) 13:24:33 ID:5UyzJDSo
加筆乙です、個人的には特に問題はないと思います。
それにしても、変なあだ名を付けられただけじゃなくてラボメンの一員にされたとは……w
羨ましいような、悲しいようなw
125
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/03/10(土) 12:35:50 ID:JIqj2L96
今回投下された◆l.qOMFdGV.氏の作品に合わせ、ウィキ内の【№039】における“セシリアに最も近いスタート地点のキャラ”に関係した部分を修正しました。
その事の確認と、何か意見がある場合は返信をお願いします。
126
:
◆l.qOMFdGV.
:2012/03/10(土) 23:20:38 ID:XxNgRmuE
「誰がために黒兎は戦う」について修正させていただきたい部分ができました
案を投下させていただきますので、ご意見をいただきたいと思います
修正内容は「具体的な距離の長さの変更」と「一部の状態表の変更」です
修正後の当該部分のみ投下いたします
127
:
◆l.qOMFdGV.
:2012/03/10(土) 23:25:29 ID:XxNgRmuE
●◆●
透き通るような銀髪、子供のような矮躯。眼帯に隠された左目は伺えこそしないが、どのような色を浮かべているかは容易に想像できる。もう片方の赤い右目、強く虚空を睨みつけるその眼を見れば、彼女の想いは理解できるからだ。
「馬鹿な奴だ」
腕を組み、そんなことを言いたい訳ではないのに、そんな言葉しか出てこない自分に歯噛みする。ラウラが嫁と呼ぶ男の心中を察してだけではない。これは確かに、ラウラ自身の感情であった。
「仇は討つぞ。箒」
決意を口にして、その形を新たにする。
仲間は、友達は、これ以上傷つけさせない。
まるで嫁のように甘いことを言うな、と場違いな苦笑が彼女の口の端に浮かんだ。ドイツからIS学園へ来た当初ならあり得ない考えだろう、軍人として部下に対する考えではなく、親愛をもって感じる友への想い……。こんな風に思えるようにしてくれたのは、嫁とあの騒がしくも愛おしい仲間たちだ。
「いや……箒も嫁も、仇討ちなんて望まんな」
彼らのことを想うと、胸が熱い何かで満たされる。しかし奪われた穴は、決して埋めることができない。
これ以上の欠員は認められない、とラウラは呟いた。部下と違って――無論部下らも掛け替えのない存在ではあるが――、ラウラと対等な彼らは何より大切な存在なのだから。
険しい表情を崩さぬまま虚空を眺めるラウラ。だが、その瞳はただ抜けるような青空を反射している訳ではない。彼女の“視界”に写るのは現在地よりはるか五キロ先、D-2に鎮座する大桜の根元で起きている騒乱だ。
真木のいうところの制限のためか性能が著しく落ちているハイパーセンサーでは、越界の瞳と併せて運用したところでたかだか前方五キロすら見通せない惨状である。ではなぜラウラがその騒乱を見ることができているのかといえば、これもまた真木の差し金、「支給品」とやらの力だった。
魔界の凝視虫(イビルフライデー)というらしいそれは、実におぞましい外見をしていた。眼球に虫を彷彿とさせる手足を生やさせ、不快な音を立てながら動き回るそれ。小瓶の中に緑色の粘液と共に詰め込まれていたそれは、持ち主――この定義は瓶を持つ者だ――の指示した現場まで飛んでいき、そこで己が身体を成す瞳に映す映像を持ち主の視界にそのまま映し出す力をもつと言う。
瓶に巻きつけられた説明書を一通り読み、ラウラはものは試しと虫の一匹にその射程限界である「地図ひとマス分の距離」まで飛ぶように指示を下した。そして見つけたのが、大桜の根元で戦う三つの人影だった、という訳だ。
嫁を連れて見に来れば、さぞ雅な光景が楽しめるだろう――そんな感慨を抱かせる大桜はしかし、もはや「花見」などという平穏からかけ離れた彼岸に居た。その根元で暴れる「異常」が、大桜を殺そうとしている。
――ラウラはそこで起こった殆どを眺めていた。
見れば見るほどぼやけていく謎の黒い甲冑。
さながらISを発動する際のように光を発しながら纏う服を変えた変身する少女。
甲冑が吼え、少女もまた応ずるように不敵に笑う。
これもまたISの武装のように虚空から取り出す槍を振るい、鎧が持つ竿竹と何合も撃ち合う少女。
決めの大技を打ち破られた彼女が陥る劣勢、そして現れる、二人の助っ人。さらに加速する激戦――。
「……近いな。おい、離れろ……おい、あっ」
ラウラに眼球が破裂する怪我の経験はなかったが、それはおそらくこういうものなのだろう。視界いっぱいに広がった瓦礫が魔界の凝視虫――つまりラウラ自身の眼球を押しつぶす瞬間は、なんら影響を受けていないはずの瞳を庇いたくなるほど不快な経験だった。
「くそ、一匹減ってしまった」
魔界の凝視虫の数は少なくはないが当然ながら有限だ。有用さを実感した今となってはたった一つの消費がとてつもなく惜しまれる。
だがそのことは捨て置こう、もはやその程度の些事に構うより、もっと重要な事項がある。
凝視虫が見た限り、あの戦場にラウラの尋ね人はいない。だがあの明らかな危険人物である黒い甲冑、その驚異的な戦闘能力は充分に警戒に値する。あれの観察と情報収集は、現時点において仲間を探すことよりも重要度が上だ。
仲間のためにもアレは「遭遇した場合、出来るならば確実に排除せねばならない敵」としなければならない。もう一度送りだそうと瓶に指をつっこみ、ぎょろりと凝視虫の視線が彼女の指に注目したことに不快感を覚えた、その瞬間だった。
ISのハイパーセンサーは制限によってか、思うようにその感知できる範囲を広げられない。だがラウラがいる屋上に近ければ、それは充分に機能する。
即座に瓶の蓋を閉めデイバッグに放り込む。同時にハイパーセンサーに全神経を集中させて、その“音”を聞いた。
誰かが階段を登ってくる。その足音だ。
128
:
◆l.qOMFdGV.
:2012/03/10(土) 23:26:54 ID:XxNgRmuE
【ラウラ・ボーデヴィッヒ@インフィニット・ストラトス】
【所属】緑
【状態】精神的疲労(小)
【首輪】90枚:0枚
【装備】《シュヴァルツェア・レーゲン》 @インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、魔界の凝視虫(イビルフライデー)@魔人探偵脳噛ネウロ、ランダム支給品0〜2(確認済)
【思考・状況】
基本:仲間と共に帰還する、そのために陣営優勝の手助け
1:ウヴァに協力する。
2:この怪人は信じられるのだろうか?
3:これも嫁と仲間のため、だから仕方ない……
4:あの黒い甲冑は、出来るならば撃破したい。
129
:
◆l.qOMFdGV.
:2012/03/10(土) 23:30:29 ID:XxNgRmuE
以上で投下終了です
他にもちょいちょいつじつま合わせに変えた部分もあります
以前はひとマスを一キロと考えていましたがさすがに短すぎるかなと思い修正を提案させていただきました
もうひとつ、魔界777ツ能力を支給品扱いとしていいかどうかについてご意見をお聞かせ願えればと思います
この修正案が通るようでしたらwikiを更新させていただきますのでよろしくお願いいたします
130
:
◆l.qOMFdGV.
:2012/03/11(日) 00:48:00 ID:6F3Nm1CM
>>125
お疲れ様です
鈴音のスタート地点は明記はしてませんでしたがE-5のつもりでした
E-4になされたのは何か意図があってのことでしょうか?
131
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/03/11(日) 11:34:34 ID:da9SAx8I
>>130
すいません、単純に読み落としてました。
それと伊達明とバーナビー・ブルックスJr.の前回の地点、【芦河ショウイチ家】と【鴻上ファウンデーションビル】を直線で結ぶと大半が【E-4】だったので。
再修正しておきます。
132
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/03/11(日) 12:26:33 ID:XU5mP0b.
修正乙です。
特に問題ないと思います。
133
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/03/11(日) 16:19:20 ID:naPIC3/o
修正乙です!
これなら一つの世界あたりの広さが大体十キロになって、シュテルンビルトなんかが丸ごと入ってるのにも納得出来ますね。
イビルフライデーに関しても概ね問題はないと思いますが、備考欄とかでいいので「監視出来る範囲は○エリア以内とする」とかの制限は付けておいた方がいいかも、とは思いました。
134
:
◆MiRaiTlHUI
:2012/03/12(月) 14:08:57 ID:.Ocnipuw
前回私が投下した「Uの目指す場所/ボーダー・オブ・ライフ」についてなのですが、
投下後に色々と考えてみたところ、やはり捨て鉢状態になっているさやかがあの思考に至るのは少々不自然かと思いました。
収録時に納得のいくように加筆修正をしようと考えたのですが、あの状況から変更するとなると、会話など殆どが根本から変わってしまいます。
そこで提案なのですが、その前話、拙作「Eの暗号/だから足掻き続けてるんだよ」におけるさやかの状態表の参戦時期を変更し、
それに伴って話の筋は変えない程度に本編描写を修正しようと考えているのですが、やはり拙いでしょうか……?
「Uの目指す場所」におけるさやかの思考自体が、参戦時期を少し変えればそれだけで済む内容だと思いますので、
まださやかの登場話を自分しか書いておらず、誰もリレーしていないなら、変更するなら今のうちかと思いました。
もし許して頂けるなら、出来るだけ早く前話「Eの暗号」における修正箇所をこちらのスレに投下した上で修正しようと思います。
135
:
◆LuuKRM2PEg
:2012/03/12(月) 15:35:29 ID:gbl3dq.g
自分は『Eの暗号/だから足掻き続けてるんだよ』の修正をしても大丈夫だと思います。
他の書き手氏がリレーをするか、さやかの参戦時期が他の作品に影響を与えてからだと問題かもしれませんが、今回は自己リレーの上にまだ他の作品に影響を与えてないので。
136
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/03/13(火) 16:08:33 ID:BvBEgiZc
自分も問題ないと思います
他の方にリレーされていないうちに修正できるのであればそうした方がいいかと
137
:
◆MiRaiTlHUI
:2012/03/14(水) 11:40:29 ID:HV.s.2WE
返答ありがとうございます。
それでは、ほぼ全編書き直しになりますが「Eの暗号」の修正分が出来上がりましたので、こちらに投下させていただきます。
138
:
Eの暗号/だから足掻き続けてるんだよ(修正版)
◆MiRaiTlHUI
:2012/03/14(水) 11:43:27 ID:HV.s.2WE
街を吹き抜けて行く風をその身で感じながら、美樹さやかはこの短期間の間に自身の身に連続して降りかかった“非現実”についてを思考していた。
考えを纏めると、つい先程まで自分は、自宅でキュゥべえから魔法少女――とは名ばかりのゾンビ――についての真実を聞かされていた筈だが、ほんの瞬きのうちに、あの薄気味の悪い半球状の建物の中に“飛ばされて”いて、吐き気を催すような所業を見せ付けられたかと思えば、今度はこの見知らぬ街の中に一人ぽつんと立たされていた。
見た事もない巨大な風車の塔を中心部に添えた、街のあちこちに小さな風車が設置された街だった。
当然、そんな街を知る筈もないさやかは、街全体に対して、魔女の結界の中に引きずり込まれた時にも近い違和感を覚えていた。
異常の現実を思い返してみるが、これら異常事態の全てがここ一時間の間に起こった出来事なのだから、全てを理解しろと言われたところで無理に決まっている。
どうせ考えたところで分かりはしないのだから、さやかはもう、それ以上考えるのをやめた。
というよりも、今はその非現実性についてなどを考えている場合ではない。
そんなとりとめのない考察で幾ら考えを逸らそうとしても、今のさやかの頭の中を埋め尽くすのは、目の前で無残にも殺された、さやかとそう歳も変わらぬ二人の少女達の事ばかりであるのは、誤魔化しようのない現実であった。
一人目に死んだ少女は、きっと自分が何故殺されたかも理解していなかっただろう。それを客観的に見て、下手人たる真木清人に説明をされたさやかだって未だに何が起こったのかなど理解出来ないのだから、本人はもっと理解出来ないに決まっている。
その時点でさやかの中の素朴な正義感は、今自身に降りかかっている問題など忘れさせる程に苛烈な義憤を燃やしていたというのに、その怒りすら冷めやらぬうちに殺されたのは二人目の少女。
きっとあの時のさやかと同じように、目の前で繰り広げられた度し難い悪行に義憤を燃やした彼女は、自分の身を危険に晒す事すらも厭わずに、誰も動けなかったあの状況で誰よりも早く奮起し、そして――殺されたのだ。
「――あいつ、許せない……っ!」
さやかの叫びには、声は小さくとも、抑え切れぬ正義の怒りが込められていた。
元より人に仇成す魔女を許すつもりもなかったが、ごく衝動的に、無差別に人を殺す魔女とは違って、奴は――真木清人――は、同じ人間でありながら、自分の意思で以て罪のない少女を殺し、あまつさえ何も間違っていない筈の少女まで立て続けに殺したのだ。
二人目に立ち上がった機械の装甲を身に付けたあの少女は、絶対に間違ってはいなかったと断言出来る。目の前で行われた殺しに、人として当然の怒りを抱いて、人として当然の行動に出たあの少女を、さやかは立派だったとすら思う。
自分がゾンビに成り果てたのだという事実は、今だ素直に受け入れる事の出来るものではないのだが、それでも、人の身でありながら危険を顧みず正義に立ち上がり散ったあの少女を見て、これ以上黙って見ている事など出来はしない。
さやかは断じてこんな殺し合いに乗るつもりはないし、こんな殺し合いに――真木の口車に――乗った奴も許すつもりはない。自分の為に他者の命を奪うものがいるなら、そんな奴はこの正義の剣で叩き斬ってやる。
それがさやかの往くべき正義の道。魔女に立ち向かい散ったマミと、真木に殺されたあの少女の意志を継ぎ、自分が今度こそ、正義の魔法少女として悪を討ち取ってみせる。
その為ならば、この身はどうなろうが構いはしない。キュゥべえ曰く、この身体は痛覚すら消す事が出来るらしいのだから、魔法少女の力を持った自分が恐れるものなど何もない。
先程まで戸惑っていたさやかにここまで苛烈な怒りを抱かせ、正義の決意を固めさせる程に、さやかは熱しやすい性格をしているのであった。
自己犠牲を前提として、揺るがぬ正義の使者として戦ってゆこうと決意をした、丁度その時だった。
さやかの耳にすうっと溶け込むように入って来たのは、そう遠からぬ何処かから聴こえる静かなハーモニカの音色。
それは決して下手ではない、ハーモニカの扱い方を熟知した者だけが奏でる事が出来るのであろう、美しい音色だった。
139
:
Eの暗号/だから足掻き続けてるんだよ(修正版)
◆MiRaiTlHUI
:2012/03/14(水) 11:43:58 ID:HV.s.2WE
「こんな場所で演奏……? なんで……」
だが、それは理解出来ない事だとばかりにさやかは独りごちる。
ハーモニカの音色が聴こえると言う事はすなわち、誰かが演奏をしているという事だ。
こんな殺し合いの場で人を引き寄せる演奏をするなど、正直言って、異常だ。自分のような正義の魔法少女が駆け付けてくれるならまだいいが、殺し合いに乗った悪を引き付ける可能性だってあるのだ。
もっとも、演奏者自体が殺し合いに乗り、誰かを誘い込む為に演奏をしている、という可能性もあったが。
それらの可能性を考えたさやかは、いや、こうして考えている事自体が時間の無駄かと判断し、それ以上難しい事を考える事もなく、アスファルトを蹴り駆け出した。
演奏者が殺し合いに乗って居ないなら、かつてマミがしてくれたように、自分が保護をする。もしも殺し合いに乗って居るなら、正義の魔法少女として、そいつを叩き斬る。
保身という選択肢を捨てた時点で、さやかには最早恐れるものなどありはしなかった。
◆
それから五分と経たぬ内に、さやかは演奏者を発見した。
巨大な風車の塔の麓の広場にあるベンチに腰掛けて、目を開ける事すらせずにハーモニカを演奏する男は、さやかの接近に気付くと、すっとハーモニカを口から離し、演奏を止めた。
歳の頃は三十代くらいであろうか。実際にはもっと歳を取っているのかも知れないが、その端正な顔立ちと、随分と若若しく見える茶髪、そして現役のアスリートにも負けぬ程の体格の良さが、男に老いを感じさせはしなかった。
こいつは果たして、一体どういった意図があってあの演奏をしていたのか、ただでさえ気が立っていたさやかは、移動中に変身し具現化した一本の剣を構えたまま、警戒心も露わに問う。
「あんた、こんなとこで演奏して、状況分かってんの?」
男は胸元のはだけた黒いレザージャケットの内ポケットへとハーモニカをしまい込みながら、何処か嘲笑にも似た笑みと共に答えた。
「分かってるぜ、殺し合えってんだろ?」
「なら、なんで」
「理由は分からんが、この曲を聴くと俺は妙に落ち着くんでね」
男は自嘲気味に笑うと、目を細めてさやかを眇める。
「何だお前、生きてる癖に死人みたいな面しやがって」
「……大きなお世話よ」
事実、さやかは死人だ。
コンプレックスを見透かされたような気がして、さやかは苛立ちにぎり、と奥歯を噛んだ。
男に対する不快感をこれ以上隠そうともせずに、さやかは剣を構えたまま次の問いを投げる。
140
:
Eの暗号/だから足掻き続けてるんだよ(修正版)
◆MiRaiTlHUI
:2012/03/14(水) 11:44:43 ID:HV.s.2WE
「で、あんたは殺し合いには乗ってるの?」
「ハッ、乗ってるって言ったらどうするつもりだ?」
「誰かが犠牲になる前に、ここであんたを倒す」
「笑わせんなよ、お前じゃ無理だ」
さやかの表情を見た男は、まるでおかしなものでも見たように、せせら笑った。
自分の決意を、正義を笑われた事に対しての憤りは当然感じているが、それ以上にさやかが感じたのは、こいつは殺し合いに乗っている、という確信。
こいつの傲岸不遜なこの態度には、他者と協力しようなどという色が微塵も見えはしない。
ただでさえ気が立っていたさやかは、それ以上考える事もやめて、白のマントを翻し、一足跳びに男へと急迫した。
魔法少女としての加速力を活かした、尋常ならざる速度での突きだ。相手が常人であるなら、この一撃で心臓を穿てばそれで終わりだ。
悪に対する情けなど掛けてやる必要もないとばかりにさやかは剣を突き出すが、しかし男もまた尋常ならざる反射神経で以て、僅かに身を逸らす事でさやかの突きを回避した。
確実にこの一撃で仕留める事が出来ると踏んでいたさやかは、一瞬何が起こったのかも理解出来ず、身体を逸らした男の真横を通過してゆくが――さやかがその場を通り過ぎるその一瞬よりも早く、男は剣を構え前傾姿勢となったさやかの脇腹に、強烈なアッパーを叩き込んだ。
ほんの一撃で、魔女による攻撃にも等しい程の衝撃を受けたさやかの身体は、まるで自分が一般的な人間の体重を持っている事すらも忘れてしまう程に易々と吹っ飛ばされた。
完全に油断し切っていたさやかは、どさりと地に落ちると同時に、軽く血を吐いた。
「が、はぁ……ッ」
「ほう、中々にタフだな? 手加減はしたが、意識は飛ぶ程度の威力はあった筈だが」
男はやや驚いた様子で、さやかに叩き込んだ己が拳を眇める。
さやかは、治癒能力を秘めた魔法少女だ。元より耐久力には他の誰よりも自信がある。かつて全治三カ月級の怪我を負わされた時だって、その場で立ち上がる程の回復力を見せたさやかにとって、その場で意識を刈り取る程度の拳一撃が、後に尾を引く苦痛になる訳もなかった。
今はもう、一瞬前の痛みなど嘘のように立ち上がったさやかは、今度こそ油断なく剣を構え直す。
魔法少女とは、その気になれば痛覚さえも遮断できるゾンビだ。それをする事に抵抗はあるものの、生身の一撃であれ程の威力を持った男と戦うためには、痛覚のシャットダウンもやむを得ない事かと覚悟する。
今度は、先程よりもより速く、鋭く跳んだ。回避する隙すら与えてやるものかと、魔力の全てを脚力の強化に回して、そして今度こそ反応させるまでもなく、瞬きのうちに男の懐に飛び込んださやかは、手にした剣で男の左胸を穿った。
ずぶり、と。人を突き刺す感覚が、肉を内臓を裂き命を奪う感覚が、さやかの腕を伝って、脳まで伝播してゆく。
間違いはない。今自分は、人を殺したのだ。男の背から突き出た、赤く濡れた剣を見遣り、さやかは人生で初となる殺人による罪悪感と同時に、悪に勝利したのだという達成感を覚えた。
この剣を引き抜けば、男の身はそのまま崩れ去るのだと想像するさやかの耳朶を打ったのはしかし、殺した筈の男の笑い声だった。
「ハッハッハ……ハアッハハハハハハハハハッ! オイオイ、この程度で俺がどうにかなるとでも思ってるのかァ!?」
「なっ……!? なん、で……死んで、ない……!?」
「当然だ、俺は死人だからなぁ?」
「――!?」
141
:
Eの暗号/だから足掻き続けてるんだよ(修正版)
◆MiRaiTlHUI
:2012/03/14(水) 11:45:27 ID:HV.s.2WE
男の言葉に驚愕し、思わず見上げたさやかの顔を、今度は強烈な左からのフックが打ち抜いた。
骨が砕けはしないものの、あまりにも苛烈なその威力に、吹っ飛ばされたさやかは、視界の全てがブレる感覚を覚えながら、二度目の攻撃に対してはさやかも痛みを感じては居ない。
宙を舞いながらも体勢を立て直したさやかは、男と距離を取る形で、すたっと着地する。
再び剣を生成して構えれば、男はおりしも胸に突き刺さった剣の柄を掴み、引き抜いている最中だった。
心臓を貫いているのだから、そんな事が出来る訳がないのだが、それでも男は苦痛に呻きながら、ずぶずぶと剣を引き抜いて行く。やがて刃が完全に男の身体から抜けると同時、傷口から大量の鮮血が吹き出すのかと思いきや、男の胸元にはもう傷など残ってはいなかった。
からん、と音を立てて剣を投げ捨てると、男はジャケットをはだけさせ、無傷の胸元を見せ付ける。まるで最初から傷など負っていなかったようなその胸部に、さやかは自分が幻でも見ていたのかと狼狽する。
そんなさやかを嘲笑う様に、男は無防備に両腕を広げ、嘯いた。
「ハハッ、もっとやってみるか? いいぜ、来いよ?」
分かり易い挑発だと思いながらも、それに乗る以外の選択肢はなかった。
一撃で無理なら、死ぬまで攻撃を続けてやればいいのだ。単純極まりないが、今はそれしか無いのだと戦術を切り替え、さやかは再び跳び、一瞬ののち、男の身体を正面から袈裟がけに斬り付けた。
刃は男の屈強な筋肉を確かに斬り裂いて、男は鮮血を撒き散らすが、それでも構わずにさやかは連続で剣を振るう。何度も、何度も、遮二無二斬り付ける。
もう男のジャケットはズタズタに引き裂かれ、身体の表面は血で真っ赤に染まっていた。
だけれども、それでも男は倒れなかった。常人ならば確実に死んでいる筈の攻撃を連続で受けて、それでも男はさやかを嘲笑っていた。
やがて、幾度目かの刃による強襲を、男は素手で掴み取る。刃を直接掴んでいるのだから、当然男の手には刃が食い込んで、とめどなく血を溢れさせるが、男はそんなダメージも意に介さない。
男はさやかから剣を奪い取ると、それを遥か後方へ投げ捨て、武器を失ったさやかの鳩尾に、下方向からアッパーを捻じ込まれる。常識を遥かに越えたその威力に、身体が跳ね上がるのを感じるが、落下を始めた次の瞬間には、さやかの背を男のエルボーが打ち据えていた。
下手をすれば生身で魔女とも戦えるのではないかとすら思わせるその威力に、さやかの身体は男の足元にどさりと落ちた。
が、それでもさやかは痛みを感じてはいない。本当にキュゥべえの言う通り、その気になれば痛みなど消せるのだと認識しながら、さやかは三度剣を具現化させ、立ち上がり様に男の腹部目掛けて突き出すが、今度は命中すらしなかった。
最初の攻撃の時と同じで、僅かに身を傾けるだけで、さやかの刃は何もない場所を通過してゆく。
男は剣を握るさやかの腕を手刀で叩いた。
痛みは感じないまでも、その衝撃は剣を取り落とすには十分。再び剣を落とし得物を失ったさやかに、男は脚払いを仕掛ける。
その場でバランスを崩し倒れ込んださやかの喉元に、男が拾い上げたさやか自身の刃が突き付けられる。
最早“詰み”だった。
「まさかここまでタフな人間が居るとは思わなかったぜ。だが、これで終わりだ」
男はそう言って不敵に笑う。
どうせその程度で死なない事はもう分かっているのだ、やりたいならやればいいとばかりに男を睨み据え、そしてさやかもまた嘯いた。
「やってみなさいよ。死人の私を殺せるものならね」
そう言われるや否や、男の表情が変わった。
まるで先程のさやかと同じように、男もまた驚愕した様子で、さやかを眇める
お互いの視線が数秒程交差して、それから男は、握り締めた刃を投げ捨てた。
「……お断りだ。そんな目で戦ってる奴に、殺す価値はない」
142
:
Eの暗号/だから足掻き続けてるんだよ(修正版)
◆MiRaiTlHUI
:2012/03/14(水) 11:45:57 ID:HV.s.2WE
それだけで、一気に緊張の糸が解れた気がした。
戦闘に関してはまるで素人同然のさやかでも分かる程に、男から向けられた敵意や殺意は、消えてなくなっていた。
さやかを俯瞰し眇められた男の目は、先程までのそれとは何かが違う。
まるで一気に熱が冷めたような、何処か空虚を感じさせる瞳だった。
「あんた――」
本当に殺し合いに乗っているのか、そう問おうとした、その時。
派手な銃声が響いて、さながら巨大な火炎弾のようにも見える銃弾が、男の身体を吹っ飛ばした。
さやかの攻撃とは比べ物にならない程の威力を持つのであろう一撃を受けて、男の身体簡単に吹っ飛び、遥か後方に聳えるビルの壁に激突し、そのまま重力に引かれて落下し、そのまま動かなくなった。
殺し合いに乗った第三者による襲撃だ。それも、敵は不意打ちなどという、最も下衆な手段を取る揺るぎない悪だ。さやかは男がその場に取り落とした剣を再び拾い上げ、銃撃を行った相手を探す。
が、下手人はさやかに探し出されるまでもなく、自ら倒れた男に歩み寄っていた。
左手に太陽の形を模した巨大な盾を、右手に巨大なマグナム銃を構えた、白いマントに赤い仮面の怪人だ。
「ふん、貴様のような小娘は後回しだ。先にこの男の命の炎を頂こう」
怪人は仮面に装着された銀のパーツを取り外すと、それを男に向けて翳す。
何が起こるのかと身構えるが、しかしさやかの予想に反して、それによって何かが起こる事はなかった。
やがて痺れを切らした怪人は、銀のパーツを自分の仮面に戻すと、つまらなさそうに呟く。
「今の一撃で死んでしまったか……他愛も無い。死人からは命の炎も奪えないのだ」
「あんた、何なのよ……こいつに何しようとしたのよ!?」
「ふん、何も知らぬ小娘が粋がりおって……いいだろう、無知な貴様に教えてやる。
私は数々の世界の秘密結社が大結集した偉大なる大組織、大ショッカーが大幹部・アポロガイスト!
死んでしまったこの男の代わりに、貴様の命の炎を頂いてやるのだ!」
アポロガイストと名乗ったそいつは、大きく両腕を広げ、そう言った。
数々の世界だの秘密結社だの悪の組織だの、子供向けの特撮番組かよと胸中でツッコミを入れながら、ついでに短い台詞の中に「大」という単語が入り過ぎじゃないかというツッコミも忘れる事無く、それでもさやかは油断なく剣を構える。
アポロガイストは今、自らを「悪」だと言った。
問答無用で男を銃撃した事も考えるなら、こいつは間違いなく、さやかの狩りの対象になるのだろう。
最早これ以上考える事は何もないとばかりに、さやかは刃を構え、今まであの男にそうしてきたように、銃弾の如き速度で地を蹴り飛び出した。
143
:
Eの暗号/だから足掻き続けてるんだよ(修正版)
◆MiRaiTlHUI
:2012/03/14(水) 11:46:34 ID:HV.s.2WE
――キィン、と。甲高い金属音が響く。
さやかの攻撃を阻んだのは、敵の持つ巨大な盾だ。先程の男と戦った時もそうだが、基本的に攻撃を防がれる、回避されるという経験を持たない――理性を持たない魔女は基本的に攻撃を受け、それでも尋常ならざる耐久力で戦い続けるからだ――さやかは、即座に次の攻撃に繋げる事も出来ず、一瞬無防備を晒す。
否、知能の低い魔女が相手ならば、仮に防がれたとしても、さやかが次の攻撃に繋げるには十分だったのだろうが、相手は自分で考え戦う事の出来る悪の怪人だ。魔女との戦いしか知らぬさやかにとって、それらは未知の相手だった。
さやかの動きが止まった一瞬にも満たぬこの隙に、アポロガイストは自らの剣を引き抜き振り下ろすが、わざわざ回避をしてやるつもりも防御をしてやるつもりもない。既にさやかは、痛みを感じぬ無敵の身体を得ているのだ。
アポロガイストのサーベルは何者にも阻まれることなくさやかの肩口から食い込んで、そのまま脇腹まで一気に振り抜かれる。さやかの肉が、内臓が裂けて、傷口からは派手に鮮血が飛び出るが、そんな程度でさやかの勢いは止まらない。
「はあああああああああああああああッ!!!」
「何っ……!?」
次の瞬間には持ち前の治癒能力で既に回復していたさやかが振り抜いた刃の一撃が、アポロガイストの仮面を横薙ぎに叩き付けた。
驚愕したのだろう、頭を揺らされたアポロガイストは一瞬動きを止め、そこに更なる追撃を仕掛ける。今度こそ、心臓を穿てばそれで終わりだ。
が、二撃目以降が通る事はなく。さやかは怒涛の勢いで連続攻撃を仕掛けるが、その殆どがアポロガイストの盾と剣によって阻まれ、いなされる。
アポロガイストにとっては、さやかの攻撃など問題ではないのだ。
問題があるとすれば、それは、
「くっ……一体どういう事なのだ! 何故私の攻撃が効かん!?」
自分の攻撃がまるで通用していない、という事に関してだ。
流石に悪の組織の大幹部を名乗るだけの事はあって、実力では圧倒的にアポロガイストが上だ。きっと正攻法ではどんなに頑張ったところでさやかに勝ち目はないのだろう。
それでも勝利を狙うならば、自分の“不死性”を活かすしかない。
アポロガイストはさやかの攻撃を防ぐ一方で、幾度かさやかの身へとその刃を突き立てるが、さやかの血が舞い散ったかと思った次の瞬間には傷口は治っているのだから、相手にとってはキリがない。
「ゾンビのあたしに、そんな攻撃効くもんかよ!」
語調を荒げて、さやかは自棄気味にそう叫んだ。
その言葉を聞いたアポロガイストは、相手がゾンビであるという事実と、猛然たるさやかの勢いに辟易したのか、さやかの攻撃を盾で防ぐと同時、地を蹴り遥か後方へと跳びのいた
やにわに再び仮面の中心の銀色を外し、それをさやかへと向けるが――しかし、何も起こりはしない。
「貴様、本当にゾンビなのか!? 死人からは生命エネルギーも吸えん!」
「ああそう、それは残念でしたね!」
それ以上の言葉はないとばかりに、さやかは跳ぶ。
幾らゾンビだと罵られようとも、さやかはまだ、人として戦おうとしている。
人としての義憤を抱いて、人として正義を為そうとしているのだから、今この瞬間だけは、自分の方が平気で命を奪えるあの怪人よりもよっぽど人間なのだと錯覚出来る。
身体がどれだけ変質しようとも、心だけでも人であるうちに許し難い悪を打ち倒すのだと、さやかは加速する。
そんなさやかの身体を穿ったのは、アポロガイストが放った銃弾だ。次々と弾丸は放たれて、胸部が、脇腹が、肩口が、さやかの身体のあちこちに穴が空けられ、そこから鮮血が飛び散るが、そんな事を構うさやかでもない。
腹部のソウルジェムに当たりそうな弾丸だけ剣で弾けば、自分は無敵だ。
身体に開けられた風穴はすぐさま塞がり、瞬く間にさやかはアポロガイストへと肉薄するが、悪の大幹部はそれでも怯むことはなかった。
144
:
Eの暗号/だから足掻き続けてるんだよ(修正版)
◆MiRaiTlHUI
:2012/03/14(水) 11:47:17 ID:HV.s.2WE
「ええいおのれぇ、小娘如きが舐めおって! 例え私の攻撃が効かぬとて、貴様のような素人一人敵ではないわ!」
素人、というのは、さやかの実力をアポロガイストなりに判断しての言葉だろう。
事実さやかはつい最近まで普通の中学生だったのだ。持久戦に持ち込めば勝てる見込みもあるだろうが、単純な実力で考えるなら、悲しくなる程にアポロガイストの方が優位だ。
それでも唯一さやかが勝る点を挙げるなら、剣と魔法を駆使したトリッキーな戦い方と、猪突猛進を体現するそのスピードくらいだろうか。
二人の間で激しい剣戟の応酬が繰り広げられるが、さやかの攻撃は一向に通りはしない。
一方で、アポロガイストの攻撃も命中はするが、さやかに致命傷を与える事はなかった。
疲弊し切ったアポロガイストが、その守りを崩すまで半永久的に続くかに思われた戦いに終止符を打ったのは、さやかにとっては予想だにしない一言だった。
「……貴様、腹部の宝石への攻撃だけは全て防いでいるな?」
冷やかに告げられたアポロガイストの声。
それは、まさしく正解だった。そもそも、さやかの身体は既に死人同然であっても、魂まで死んではいない。魔法少女の魂を固体化したソウルジェムが砕かれれば、魔法少女も死ぬのだ。
持久戦に持ち込めば勝てる筈が、勝機を掴む前に攻略法を見出されてしまっては意味がない。自分の浅はかさに思わず黙り込んでしまうさやかを見て、アポロガイストはさやかの腹部のソウルジェム目掛けて剣を突き出して来る。
必死に剣で防御し一撃目は何とか防げたが、それも二撃三撃と続けば話は別だ。仮にも大幹部の称号を持つアポロガイストに、ここ数日で戦い始めた少女の技が通用する訳がなく、防戦一方となったさやかは、徐々にアポロガイストに押されて行った。
やがてアポロガイストの剣は、防御にしか振るわれないさやかの剣を弾き飛ばし、
「これで終わりなのだ!」
アポロガイストの刃が、さやかのソウルジェム目掛けて真っ直ぐに突き出される。
マズイ、とは思うが、今から剣を生成したのでは確実に間に合いはしない。さやかには何が出来る訳でもなく、ただアポロガイストの一撃が自分の腹部へ吸い込まれてゆくのを、まるでスロー映像でも見ているような気分で眺めているしか出来なかった。
嗚呼、自分はここで死んでしまうのか、と、さやかは無意識下で思う。悪を打ち倒す為に立ち上がった筈が、結局何も成し遂げずに死んでしまっては、マミやあの機械の鎧を身に纏った少女に申し訳が立たない。
親友であるまどかや仁美の事、それから、大好きな恭介の事……本当なら、まだ思い残した事は沢山ある筈だ。彼女らみんなを守り抜いて戦う為に立ち上がった魔法少女が、こんなところで死んでたまるものか。
(そうだ、私はまだ、こんな所で――!)
繰り返すが、自分はまだ何もしてはいない。であるならば、こんなところで終わる訳にも行かない。自分が自分である限り、永遠に悪と戦い続ける宿命を負った自分が、こんなところで終わる訳には行かない――!
例え策はなくとも、最後の瞬間まで抗ってやろうと、さやかは右手に再び剣を生成しようとするが――そんなさやかとアポロガイストの視界を埋め尽くしたのは、蒼い輝きだった。
――ETERNAL!!――
鳴り響いたのは、永遠を意味する電子音。
目も眩むような蒼の輝きを撒き散らしながら、さやかの頭上を飛び越えたそいつは、アポロガイストの剣を蹴り飛ばし、思わぬ不意打ちにがら空きになったアポロガイストの胸部に、鋭い右ストレートを叩き込んだ。
アポロガイストをふっ飛ばし、さやかを庇うような姿勢で佇むその男は、先程アポロガイストに殺された筈のあの男だった。
「あんた……! もう死んだ筈じゃっ!?」
「無茶言うなよ。死人の俺がこれ以上死ねるか」
そう嘯いて、男がさやかをちらと一瞥し不敵に笑うと同時、男の身体は大気中からかき集められた白い粒子によって覆い尽くされてゆき、その表情もまた、白い仮面によって覆い尽くされた。
“変身”に伴う稲妻にも似た輝きが収まった時には、純白の身体を蒼い炎が彩って、背から飛び出した漆黒のマントが、さやかの眼前でばさばさとはためく。
最後に「∞」の形をした黄色の複眼が煌めいて、男は完全に人の身体ではなくなった。
145
:
Eの暗号/だから足掻き続けてるんだよ(修正版)
◆MiRaiTlHUI
:2012/03/14(水) 11:47:49 ID:HV.s.2WE
「助けて欲しいってお前の気持ち、最初から感じてたぜ」
「はぁ!? 誰が……っ!?」
まるで訳がわからなかったさやかは、慌てて反論しようとするが、そんな言葉すらも、マントを翻しすっと腕を上げる白兜の挙動によって制される。
今は戦闘中だ、それどころではないとでも言うのだろう。不承不承といった様子ではあるものの、さやかもこの場は大人しく黙った。
アポロガイストは、さやかの眼前に立つ白兜を見るや、気色ばんだ様子で叫ぶ。
「貴様っ……! 仮面ライダーだったのかっ!!」
「仮面ライダー? ハッ、そんな名前は知らないなぁ?
俺の名は大道克己……死体兵士NEVERにして、ガイアメモリの戦士――」
引き抜いたコンバットナイフ――エターナルの固有武装、エターナルエッジ――を、ひゅんひゅんと音を立てて回転させ構えながら、
「エターナルだ!」
漆黒のマントを翻し、エターナルと、そいつは名乗った。
ガイアメモリの戦士エターナル。それが、克己が変身した姿の名前だった。
◆
自分の真上で緩やかに回転を続ける巨大な風車――風都タワーを見上げ、エターナルはこの街に吹く風を身体で感じていた。
この故郷に帰って来たのは、一体いつ以来だろうか。もう随分と懐かしい街に思わぬ形で帰って来た事になるのだろうが、悲しい事に大道克己には既に、過去の懐かしい記憶などは一切残っては居なかった。
が、それでもここが自分の故郷の風都なのであろうという事は、この特徴的過ぎるタワーを見上げればすぐに分かる。
美樹さやかを背にし、風都を吹きぬけてゆく風に漆黒のマントをたなびかせながら、正面で肩を怒らせるアポロガイストにナイフを突き付け、嘯いた。
「ここ風都は俺の故郷だ。お前みたいな悪党に、俺の故郷を汚されたくはないんでね」
エターナルの声色には、自嘲と思しき笑いが含まれていた。
そもそも、街の事など一切覚えていないエターナルがこんな言葉を口にするなど、一体どんな冗談だと自分でもおかしくは思う。
が、それでも。この街の風の素晴らしさは、この街を吹きぬけて行く風の心地よさは、ここへ来てから存分に味わった。覚えてはいないが、やはり良い街だったのだろうと思う。
こんなに良い風が吹く街を、かような下衆に汚されたくないと思うのは、当然の事だった。
「……あんた、一体何のつもり? 殺し合いに乗ってたんじゃないの?」
さやかからすれば、克己は突然鞍替えを行った訳のわからない男、といった所なのか。
そもそも何の話し合いも無しにいきなり襲いかかって来たさやかにそんな事を言われても、とは思うが、これ以上誤解が続くのも面倒だと判断したエターナルは、やれやれとばかりに呆れ笑いを漏らしながら言った。
「誰がいつ、殺し合いに乗ったなんて言った?」
「だって、あんたあの時……っ!」
「ハッ、ならあの時の質問に今答えてやる。俺はこんな下らん殺し合いに乗る気はねえよ。
ただ気に入らないんでね、殺し合いを強要する奴も、黙って従う奴も」
その言葉は、事実だった。
真木清人は、何の罪もない人間を閉じ込め殺し合いの道具にしようとしたDr.プロスペクトと何も変わりはしない。そんな奴を克己は許せないし、力を持っていながら、ただ黙って命令に従うしかしない奴らの事も、克己は許せなかった。
傭兵として、既に数えきれない程の命を奪って来た克己ではあるが、それでも奴らのような外道に墜ちる気はない。
人間には、誰かの自由を奪う権利などなければ、無限の可能性に満ちた誰かの明日を奪う権利だって、ありはしないのだ。克己を奮い立たせた要因は、“明日を生きる筈だった”二人の少女の死だった。
思い返し、滾る激情を隠しもせずに、エターナルは言う。
146
:
Eの暗号/だから足掻き続けてるんだよ(修正版)
◆MiRaiTlHUI
:2012/03/14(水) 11:48:19 ID:HV.s.2WE
「NEVERになると、過去の記憶や人間らしい感情が少しずつ抜け落ちて行くらしい。所詮、死人だからな。
この故郷の事も、もう全く覚えちゃいない。ただ、この風都タワーが目印になっただけだ」
「そんな……」
エターナルの言葉に絶句したのは、背後に佇むさやかだった。
人の記憶や、温かい感情が抜け落ちて行くというのがどれ程辛い事か、それは誰にも分からないのだろうし、事実として克己自身もろくに覚えてはいないのだが、それでも、本当に大切なものはまだ消えてはいない。
克己はこれまで傭兵として数々の命を奪って来たが、そのどれもが紛争を引き起こす戦争屋や、平穏を脅かすテロリストの命ばかりだ。法的に見ればそれも十分犯罪たり得るのだろうが、それでも克己は悪人以外を殺したことはなかった。
それは、克己の中に、まだ人の心が残っているからだ。例え身体は不死のゾンビになろうとも、心だけは人間であろうと足掻き続けているからだ。
そして、何もかも忘れて尚、克己の心の中に響き続けるあの優しいメロディーが残っている限り、克己は自分が例え死人であろうとも、化け物ではなく、人間だと確信が持てた。少なくとも、このメロディーが壊れてしまう時までは、ずっと――。
そんな想いがあるからこそ、克己は、エターナルは声を大にして叫ぶ。
「過去が消えて行くなら、俺はせめて明日が欲しい。だから足掻き続けてるんだよ……!
……なぁ? 死人の俺ですら懸命に明日を求めてるってのに、今生きてる奴らの明日が奪われるってのは、一体どういう訳なんだ!?」
克己の中では未だ過去の話では済ませられぬ、二人の少女の死。
何の罪も無いのに、平凡に生きていける筈であったのであろう未来を摘まれ、無残に殺された二人の少女の死。
彼女らの死は、死人でありながらも人の心を持ち続ける克己の胸に、しっかりと刻みつけられた。
真木清人に従い、誰かの明日を不条理に奪おうとする奴がいるなら、そんな奴はこの手で叩き潰し、そして全ての参加者を解放するその時まで。他の記憶も何もかも失ったとしても、彼女らの犠牲だけは絶対に忘れてはならないのだと克己は強く決意し、そして立ち上がった。
元々克己は心優しい少年だったと周囲は言うが、ともすればそれは、克己が元々持っていた素朴な正義感なのかもしれない。
「あんた、克己とか言ったっけ。さっきのは私が悪かった。謝るわ。
あたしの名前は美樹さやか。色々聞きたい事もあるけど、今はあいつを倒すのが先ね」
エターナルの言葉に、敵ではないと判断したのだろう、さやかはそう言って剣を構え直し、エターナルの横に並び立った。
母である大道美樹――コードネーム、マリア・S・クランベリー――の名前と同じ名字を持つ死人少女に、克己は並々ならぬ興味を抱きながら答える。
「いいぜ、さやか。俺もお前には聞きたい事があるんでなぁ」
心地の良い風都の風は、白と蒼という共通の色を持ち、死人でありながらも心だけは人であり続けようとする二人に味方するかのように緩く吹きぬけて、二人のマントを靡かせる。
魔法少女とNEVER、美樹さやかと大道克己。似て非なる二人による共同戦線が、ここに敷かれたのであった。
147
:
Eの暗号/だから足掻き続けてるんだよ(修正版)
◆MiRaiTlHUI
:2012/03/14(水) 11:48:49 ID:HV.s.2WE
【一日目-日中】
【G-5/風都 風都タワーの麓】
【大道克己@仮面ライダーW】
【所属】無
【状態】健康、エターナルに変身中
【首輪】80枚:0枚
【装備】ロストドライバー+T2エターナルメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、ランダム支給品1〜3
【思考・状況】
基本:主催を打倒し、出来る限り多くの参加者を解放する。
1.まずは目の前の敵(アポロガイスト)を倒す。
2.美樹さやかから詳しい話を聞きたい。
3.美樹さやかは放っておけない。
【備考】
※参戦時期はRETURNS中、ユートピアドーパント撃破直後です。
※エターナルメモリの能力などは既に知っていますがT2の事は知りません。
※回復には酵素の代わりにメダルを消費します。
※仮面ライダーという名を現状では知りません。
※ハーモニカは没収漏れです。
【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】青
【状態】健康、魔法少女に変身中
【首輪】80枚:0枚
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品、ランダム支給品1〜3
【思考・状況】
基本:正義の魔法少女として悪を倒す。
1.まずは目の前の敵(アポロガイスト)を倒す。
2.大道克己から死人についての詳しい話を聞きたい。
3.勝つ為なら自分の身体はどうなっても構わない。
【備考】
※参戦時期はキュゥべえから魔法少女のからくりを聞いた直後です。
※ソウルジェムの濁りについては後続の書き手さんにお任せします。
※回復にはメダルを消費します。
【アポロガイスト@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】健康、アポロガイストに変身中
【首輪】90枚:0枚
【装備】アポロショット、ガイストカッター、アポロフルーレ
【道具】基本支給品、ランダム支給品1〜3
【思考・状況】
基本:参加者の命の炎を吸いながら生き残る。
1.目の前の二人とは相性が悪い。どうするか……?
2.まさかこの殺し合いは、ゾンビだらけなのか……!?
【備考】
※参戦時期は少なくともスーパーアポロガイストになるよりも前です。
※アポロガイストの各武装は変身すれば現れます。
148
:
Eの暗号/だから足掻き続けてるんだよ(修正版)
◆MiRaiTlHUI
:2012/03/14(水) 11:51:51 ID:HV.s.2WE
これにて投下終了です。
内容はほぼ変わっていないのですが、一部の描写を変更するにあたって、
そこだけ文章に差が出るのもあれなので思い切って全文纏めてリライトしました。
ぱっと見凄く変わっているように見えるかもしれませんが、実際あまり変わってません。
149
:
◆LuuKRM2PEg
:2012/06/07(木) 22:55:07 ID:x7RuJw9.
えっと、以前自分が投下した「創世王、シャドームーン」で天の鎖をウヴァの支給品として出したのですが
今更になって読み直すと、ウヴァが戦いの最中で天の鎖を使わないのはちょっとおかしいかな? と感じるようになりました。
そこで拙作の「創世王、シャドームーン」で天の鎖の支給を無しにしようと思ったのですが、拙いでしょうか?
天の鎖についての説明やウヴァの支給品欄をWikiに収録して頂いたのに、今更こんな事を言うのは自分勝手とは存じております。
ただもしも修正を許して頂けるのなら、ページの修正も自分で行おうと考えています。
これはただの我が儘でしょうが、どうか皆様からのご意見をお願いします。
150
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/06/08(金) 19:27:53 ID:/W.Q9jLU
大丈夫だと思います。
151
:
◆LuuKRM2PEg
:2012/06/10(日) 05:02:59 ID:IJcZiSgQ
ご意見、ありがとうございます。
それでは、該当するページの修正をさせていただきます。
152
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:32:24 ID:MetolHdY
これより、予約分の仮投下を行います。
153
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:34:03 ID:MetolHdY
――――それは、午後も半ばを過ぎ、夕方になろうかというときの出来事だった。
その出来事の中で、俺達が出来た事はあまりにも少なかった。
そしてそれが、俺たちの戦いの本当の始まりだった。
○ ○ ○
「それじゃあ一先ず情報を整理しようと思う」
そう言って衛宮切嗣は、思考を切り替える様にアストレアと向き合った。
そこは空美中学校、新大陸発見部の部室だ。
食事も済み、支給品の確認も終えた彼らは、これからの行動を選択するに当たりその指針を決めようというのだ。
「まずこの殺し合いの場となった会場についてだ。
会場は円盤状になっていて、直径はおよそ40キロメートル、厚みは200メートルほどだろう。
加えて理屈は不明だが、空に浮いていると思われる。これにより会場外への脱出はより困難なものとなっている。
なお、地表及び海上は雲海に覆われていて確認できない。
当然何かしらの妨害もあるだろうから、飛行手段を用いたとしても不用意な脱出は危険だろう」
切嗣の説明は簡単なものではあるが、それでもアストレアには難しかった。
だが切嗣は構わずに続ける。
なぜならこれは切嗣が最初に言った通り、アストレアへの説明ではなく情報の整理。
切嗣は敢えて口に出す事で、頭の中を纏めているのだ。
「次に、会場内の市街そのものについてだ。
地図に書かれた街は一見、複数の街を切り取ったような構造をしているが、これはおそらく複製だ。
その根拠は会場内の冬木市にある。
本来、冬木市は海を北に位置するとして、未遠川を挟んで西に衛宮邸、東に言峰教会がある。
だが地図を見る限り、会場内の冬木市に未遠川はなく、衛宮邸と言峰教会の配置も逆だ。
アストレア自身もこの空美町に違和感を覚えている様だし、おそらく間違いないだろう」
その説明にアストレアも頷く。
基本的に空を飛んで移動していたアストレアは空美町の地理には疎い。
だがそれでも、慣れ親しんだ場所というのはあるのだ。
ここが本当に彼女の知る空美町であるのなら、違和感など覚えるはずがない。
しかし彼女がこの街を眺めて感じたのは妙な“ズレ”であり、ここは“違う”という確信だけだった。
ならば切嗣の言う通り、この街は精巧な複製でしかないのだろう。
「最期に、僕等に掛けられた制限についてだ。
制限に関しての最たるものは、首輪だろう。
ランプによりその人物の所属陣営を識別する機能。
一定の条件下で爆発し、ルールに反した者の命を奪う機能。
参加者達の能力を制限し、使用するためのメダルを格納する機能。
更には禁止エリアや放送の事から、参加者の居場所や生死を知らせる機能もあると思われる」
他に気付いた細かい機能を言えば、死者のランプは点灯していない。
これはすなわち、死者は無所属にすら所属していないという事なのだろう。
死者の首輪の爆薬がまだ機能しているかは判らない。
確認するなら解体するのが手っ取り早いだろうが、確かめるには機材も情報も不十分なので、今のところは保留する。
「真木清人に反抗するには、首輪の解除が前提条件だ。
ヤツは首輪によって参加者達の命を握っている。これが解除できなければ、殺し合いを止める事など不可能だろう。
それに仮に止めたとしても、真木清人本人やそのバックにいる組織を壊滅しなくては、同じことの繰り返しになるのは予測できる。
その組織や技術を推測するためにも、アストレアの様な“異世界の参加者”との接触は必要だろう」
上手くすれば、その人物とも協力関係を得られるかもしれない。
敵の戦力が予測できない以上、味方の戦力は多いに越した事はない。
そして出来れば、ワイルドタイガーの様な人物の協力を得られる事が望ましい。
「それらを踏まえた上で、僕らが次に目指す場所はここだ」
「そこ? 地図には何も載ってないけど」
地図を取り出して指し示された場所に、アストレアは当惑する。
なぜなら切嗣が地図で指し示した場所は、エリア【D-1】の森だったからだ。
そこには森を表す緑色があるだけで、建物は表記されていない。
だが切嗣は、それを肯定したうえで続けた。
154
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:34:47 ID:MetolHdY
「この中学校の屋上からスコープで周囲を見渡した時に、気になるモノを見つけたんだ」
「気になるモノ?」
「そこでアストレアに聞くけど、君の知る空美町に『城』はあるかい?」
「お城? 私は見た事がないけど……」
「そうか。ならやはり………」
そう言って切嗣は、考え込む様に俯く。
彼にとって見覚えのある、空美町にないはずの『城』。
もしその『城』が想像通りのものであれば、きっと真木清人の居場所の手掛かりになるだろう。
「詳しい事は現地で説明する。今はまず、その場所に向かおう」
「わかったわ」
そう考えた地図をしまい、デイバックを背負って立ち上がる。
その際に切嗣は、左手のモノとは別の、右手に元々宿っていた令呪を見る。
その画数は二画。先ほどよりも一画減っていた。
中学校の確認が終わった際に、切嗣は令呪を以てセイバーの召喚を命じていた。
バーサーカーという懸念はあったが、いざという時は令呪で縛ればいいと、戦力の補充を優先したのだ。
それにより令呪は消費され、しかしセイバーは召喚されなかった。
その命令がセイバーの仲間も一緒にという多少無茶な物だったからか、それとも制限からか。
魔力の奔流も起きなかった事から、切嗣は後者だろうと予測していた。
「それじゃあ行こう」
「うん」
もう用は済んだと、切嗣と一緒に部室を後にする。
その際に少し振り返って部室を眺める。
大丈夫。きっとまた、みんなと会えるはず。
そう信じながら、アストレアは先を行く切嗣を追い掛けた。
○ ○ ○
ワイルドタイガーと別れてから少しして、翔太郎とフィリップは【D-1】にある病院へと到着した。
傾き始めた太陽に照らされた病院は、まだ昼間だというのにどこか不気味な影を落としている。
元より人が多く死ぬ場所。こんな殺し合いの場だからか、その負の部分が際立って見えたのだろう。
「お、人がいたのか」
「どうやらそのようだね」
微かな不安を覚えつつも正面玄関からロビーへと入ると、二人はソファーに座りこんだ一組の男女を見つけた。
彼らも翔太郎達に気がついたのだろう。男性の方が、顔を上げて翔太郎達の方を向く。だが女性の方は俯いたまま、何の反応も返さなかった。
それが少し気になったが、翔太郎はまず青年の方に声を掛ける事にした。
「俺は左翔太郎。こっちは相棒のフィリップ。二人で探偵をやっている」
「小野寺ユウスケです。あの人は織斑千冬さん。IS学園という所で教師をやっているそうです」
そう自己紹介をしながら、ユウスケは千冬の様子を見る。
目覚めてから病院を探索したユウスケは、すぐに千冬を見つける事が出来た。
だがその時から彼女は、今のように覇気を感じさせない有様だった。
彼女にいったい何があったのか。
すぐにでも病院を調べたかったのだが、失意の底にある千冬を放っておく事も出来なかった。
故にユウスケは、一先ず病院のロビーで、千冬が落ち着くのを待っていたのだ。
翔太郎達が現れたのは、そんな時だった。
「それじゃあユウスケ。何があったか教えてくれるか?」
「そう……ですね。わかりました、俺の知っている限りを話します」
翔太郎の質問に応じ、ユウスケは彼らと出会うまでの事を口にする。
と言っても、短期間で二度も気絶していた彼が知っている事は少ない。
それに思い返してみれば、ウェザーの乱入で千冬さんの事情も聞けていない。
だからユウスケは、その数少ない知っている事を、できる限り正確に話した。
155
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:35:41 ID:MetolHdY
「――――なるほどな。大体の事情は理解した。フィリップ」
「そうだね、翔太郎。君達を襲ったのは、井坂深紅郎で間違いないだろう」
ユウスケから話を聞いた翔太郎たちは、確信を持ってそう断言した。
それを聞いたユウスケは、彼らの自信に疑問を返す。
「井坂深紅郎?」
「ああ。ガイアメモリの力に魅せられた、凶悪な連続殺人犯だ」
「だが奴は照井竜によって倒され、メモリを過剰使用した反動で死んだはず。
君の話からして本物なのは間違いが、それなら一体どうやって………」
真木清人には死者さえも蘇らせる力があるのか。それとも何か別の方法を使ったのか。
圧倒的に情報が足りない現状では、答えの断片さえ掴めない。
やはり、一度地球の本棚で検索する必要があるだろう。
そうやって一人考え込むフィリップに、翔太郎は構うことなく声をかける。
「今はそんなのどうだっていいだろ。井坂のヤロウが地獄から蘇ったっていうんなら、もう一度地獄に叩き落してやるだけだ」
「確かにそうだけど……今の僕たちにはファングもエクストリームもない。
どうやってウェザーの力に対抗するつもりだい、翔太郎?」
「うっ。そ、それはだな―――」
そうやって言い合う二人を横目に、ユウスケは再度千冬の様子を見た。
千冬は変わらず、暗く俯いている。先程の話を聞いていたのかさえ怪しい。
それは、ウェザーへと一人果敢に挑みかかった彼女の後ろ姿からは想像も出来ない有様だ。
いったい何があったら、これ程までに彼女を打ちのめせるのか。
俺はまた、笑顔を守る事が出来なかったのか。そんな自責の念にかられる。
その思いは千冬に重ねていた面影も加わって、ユウスケに一層重く圧し掛かる。
そんなユウスケに、翔太郎が唐突に謝罪の声を掛けてきた。
「すまねぇ。俺達がもっと早く駆けつけていれば、協力する事だってできたかも知れなかったのに」
「そんな! 翔太郎さんが気にする必要はありませんよ!
俺がもっとしっかりしていれば、もう少しなんとかなったかもしれないんですから」
「いや、井坂の持つウェザーはそんなに甘くねえ。
あんたがクウガだってのは聞いたが、多分今の俺達だけじゃ勝てねぇ」
翔太郎は井坂深紅郎との戦いを思い返しながらそう言った。
ウェザー・ドーパントの天候を操る能力は強大だ。
もしダブルだけでウェザーを倒すのであれば、エクストリームへの強化変身は必須だろう。
ユウスケが変身するというクウガが、どれ程の力を持っているかは判らないが、彼がウェザーを撃退できたのは奇跡みたいなものだろう。
「翔太郎の言う通りだよ、小野寺ユウスケ。
完璧な人間などいない。君は出来なかったことを悔やむより、あの井坂深紅郎を単身で撃退できた事を誇るべきだ」
「……はい、ありがとうございます。翔太郎さん、フィリップさん」
「気にする事ねぇよ。仮面ライダーは助け合い、だろ?」
以前会った別の仮面ライダーのセリフを借りてそう告げる。
彼が今どうしているかは判らないが、もしこの殺し合いに呼ばれているなら、きっと協力出来るだろう。
「仮面ライダー? 翔太郎さん達も仮面ライダー何ですか?」
「おう。俺たちは二人で一人の仮面ライダー、Wだ」
「君は確か、クウガ、だったね」
「はい」
「ふむ、仮面ライダークウガ。どこかで聞いたような………」
フィリップの方はクウガという名前に聞き覚えがあったのか、少し考え込む。
だが今は先にするべき事があるため、湧き上がる疑問を頭の隅に置く。
「まあそれは後で纏めて検索するとして、先に病院の方を調べよう」
「だな。このままジッとしててもしゃーねぇし」
「あの、俺もついて行きます!」
そう言って唐突に頭を下げたユウスケに、二人は思わず目を合わせた。
「俺、千冬さんに何があったのかを確かめたいんです。
だから、お願いします!」
「だそうだよ、翔太郎」
「しゃぁねえ。俺が彼女を見とくから、二人で言って来い」
「! ありがとうございます!」
「それじゃあ僕と彼で中を調べてくるから、その間彼女を任せたよ」
「千冬さんを頼みます」
「おう、任せとけ」
胸を張る翔太郎に礼を言って、ユウスケはフィリップと共に病院の奥へと向かう。
それを見送った翔太郎は、今尚俯いたままの千冬へと向き直る。
「それじゃあ俺は、こっちを何とかしてみるか」
依頼人から事情を訊くのが翔太郎。集めたキーワードから推理するのがフィリップの役割だ。
今の彼女から事情を訊くのは骨が折れそうだが、やれるだけやってみよう。
そう思い、翔太郎は千冬の対面へと座り込んだ。
156
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:37:47 ID:MetolHdY
○ ○ ○
目的地であるエリア【D-1】に位置する森の最奥。
バーサーカーの運転するライドベンダーから降りた切嗣は、目の前の森に隠すように建てられた城を見上げる。
空美中学校の屋上より見えたその城は、やはり彼の予想通りの物だった。
「やっぱり、アインツベルン城か」
それは、会場が地図の通りに区切られているのであれば、冬木市になければならないはずの城だ。
だが実際には冬木ではなく、空美町の森に建てられている。
確かに地図を見る限り、切り取られた冬木市に森はないが、それならばそもそも建てなければいいだけの筈。
真木清人がそうしなかった理由は判らない。
それはまるで、作ったのはいいが置き場所がなく、とりあえず別の場所に置いた。といったような適当さだった。
「今からこの城を調べる。何か気付いた事があったら、遠慮なく言ってほしい」
そう言って切嗣は城の門を開け放ち、城の中へと入っていく。
アストレアは切嗣の言葉に頷き、彼に続いて城の中へと入っていった。
見覚えのある扉を開き、見覚えのある部屋をくまなく調べ、見覚えのない景色を窓から眺める。
部屋の間取りも、家具も、何もかも見知ったものであるのに、一度外を見れば全く見知らぬ景色が広がる。
そのあまりの違和感に、切嗣はこの殺し合いのために用意された街の異常さを、改めて認識した。
空に浮かぶ円盤の街。不自然に区切られた街と街の境界。精巧に模造された建物の数々。
一体どれほどの技術があれば、ここまでのモノを作れるというのだろうか。
だがこれほどの技術があるのならば、態々街を切り取とった風を装うよりは、実際の街を切り取った方がよっぽど簡単だろう。
――――それともあるいは、こんな形ででしか再現出来なかった理由があるのか。
いずれにせよ、一つ分かった事がある。
即ち、真木清人は、この会場のどこにもいない、という事だ。
もう少し正確に言うと、参加者達が用意に近付ける場所にはだが。
ここまでの物を作れるのなら、参加者の寄り付けない場所を作りそこに隠れる。それだけで安全だからだ。
切嗣がそう結論すると同時に、アストレアが戻ってきた。
「切嗣、何か見つかった?」
「いや、何も見つからなかったよ。それこそ、“何も”ね。
判ったのは、複製されたのは形だけって事のみだ」
「形だけ?」
「ああ。本来この城にあるはずの魔術的な護りが、何一つとしてないんだ」
この城の主であったアイリスフィールがいればもっと何か解ったかもしれないが、彼女は既に死んでいる。
サーヴァントやマスター達の様に何らかの手段で蘇生されている可能性もあるが、名簿に載っていない以上可能性は低いだろう。
そこでふと、切嗣はある事を思い出した。
“そう言えば、あの人影はいったい”
真木清人の説明の時に見た、アイリの様な人影。
あの暗さと状況で確認は出来なかったが、確かに白系統の長い髪の女性がいた。
この会場に送り込まれた当初は見間違いだろうと思い直したが、サーヴァントたちの事を考えれば無視は出来ない。
“いずれにせよ、確認する必要はあるだろうな”
見間違いであればそれでいいが、アイリ本人だった場合は名簿に載っていない人物がいる事になる。
参加者達の混乱を招くためか、それとも別の理由からか判断は出来ないが、頭の隅に置いておく事にする。
157
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:38:36 ID:MetolHdY
「それじゃあ次は、冬木市に向かおうと思う。何か意見は?」
「私にはないよ。ここでジッとしていても智樹達にいつ会えるかわかんないし、それに切嗣に協力するって決めたから」
「そうか、ありがとう」
アストレアに礼を言い、窓から外を眺める。
この殺し合いの舞台で、既にどれだけの人が死んだのだろう。
それが殺し合いに乗った人物ばかりであればいい。だがこういう場で真っ先に死ぬのは、力のない女子供だ。
ただの一般人にはサーヴァントに対抗することなど出来ない。
それにバーサーカーと戦っていた少年も野放しになっている。
一刻も早く“仲間”を集め、力ない人々を保護する必要があるあろう
「まったく、正義の味方も楽じゃないな」
苦笑と共に自嘲を籠めて呟く。
間桐雁夜を死なせ、今もこうして力の無さを嘆くしかない自分が情けない。
これならばまだ魔術師殺しとして活躍していた時の方が気は楽だった。
そんな風に、早くも自分が背負うと決めたモノの重さに挫けそうになる。
「切嗣、何か言った?」
「いや、何でもないよ」
アストレアの声に、落ち込んだ気持ちが起き上がる。
大丈夫だ。まだ耐えられる。弱音を吐くには、まだまだ早すぎる。
聖杯戦争の終わりに味わった絶望に比べれば、こんなモノは苦痛にもならない。
それに、子供の様に明るいアストレアが一緒なら、きっと挫けずに戦えるだろう。
切嗣そう思いながら、アストレア達を連れてアインツベルン城を後にした。
――――だが、話はそこで終わらなかった。
冬木市へ向かおうと、切嗣がライドベンダーへと近づいた、その時だった。
「切嗣……なの?」
酷く懐かしい、そして愛おしい声が聞こえた。
それを幻聴ではないかと、思わず己れの耳を疑う。
ゆっくりと、確かめる様に、そして怯える様に振り返る。
「…………アイリ」
「よかった。やっぱり切嗣だったのね!」
そしてそこには、記憶にあるままの、アイリスフィールの姿があった。
幻覚でも、幻聴でもない。確かな命を持って、生きていた。
「っ――――――」
言葉が出なかった。
何を言うべきかも、どうするべきかも定まらない。
ただ、内心を混沌とした感情が、渦巻くばかりだった。
そんな切嗣に、アイリスフィールは自らの不安を口にする。
「ねぇ、切嗣。あの子は、誰? それに、バーサーカーまで、どうやって」
言われて彼女達を見れば、アストレアはアイリスフィールを警戒し、バーサーカーは臨戦態勢をとっていた。
これはまずい、とすぐにアストレアにアイリスフィールを紹介する。
「アストレア、そう警戒しなくていい。彼女はアイリスフィールと言って、僕の妻だ」
「つま? ………って妻!? 切嗣結婚してたの!?」
アストレアは驚きの声を上げて、アイリスフィールをまじまじと見る。
その様子から、どうやら警戒は解いてくれたらしい。
次にアイリスフィールにアストレアを紹介する。
「ああ、彼女はアストレア。ここで出会った、僕の協力者だ。
バーサーカーの方は運良く彼のマスターと遭遇してね。どうにか令呪を得る事が出来たんだ。
攻撃をしようとしなければ問題はないし、一応警戒もしている」
「そうなの? よかった」
アイリスフィールはそう言って胸を撫で下ろした。
どうやら、彼女も安心してくれたらしい。
そうして彼女が落ち付いた事を確認してから、事務的に事情を聞いた。
それによると、彼女は見滝原中学校から病院を経由して、偶然ここを見つけたらしい。
「なるほどね。ならアイリ、その道中で誰かに会ったり、何かを見つけなかったかい?」
「ええ、病院でラウラって子に会ったわ。彼女によると、織斑一夏って人が火野映司に殺されたらしいの。
その子はグリードに復讐するんだって言って、すぐにどこかに行っちゃったけど」
「……そうか。ありがとう、アイリ。参考になったよ」
やはり、既に他にも死人が出ていた。
その事に、外見は冷静に努めながら、内心で強く歯噛みした。
また助けられなかった。また手遅れだった。そう悔しく思いながら。
158
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:39:25 ID:MetolHdY
「それじゃぁアイリ、僕は協力者を探しながら冬木市に向かおうと思っているけど、君はどうする?」
「もちろん協力するわ。ただ……」
「ただ?」
切嗣は言い淀んだアイリスフィールに聞き返す。
彼女の眼は、なぜかバーサーカーに向けられていた。
バーサーカーも同様に、アイリスフィールへと不気味な視線を向けている。
「ただ、やっぱり二組に分かれた方が、効率が良いと思うの。
だからバーサーカーの令呪を、一画でいいから譲ってくれないかしら」
「バーサーカーの令呪を? どうしてだい?」
二組の方が効率が良いというのは解る。
サーヴァントを制するのに、令呪が必要なのも解る。
切嗣とアイリスフィール、アストレアとバーサーカーという組み合わせよりマシなのは自明の理だ。
だが何故わざわざバーサーカーなのか。ただ二組に分かれるのなら、アストレアでもいい筈だ。
「だって、私はアストレアさんの事をよく知らないから、とっさの協力は難しいわ。
それにサーヴァントであるバーサーカーなら、セイバーの時の様にサポートも出来るでしょう?」
「なるほどね、それなら納得だ。わかった。君にバーサーカーを任せよう」
「ありがとう、切嗣! わかってくれて良かったわ!」
「けどその前に、一つ訊きたい事がある」
「え? 訊きたい事って?」
アイリスフィールは、切嗣の言葉に不思議そうに首を傾げる。
彼女から視線を巡らせれば、混乱から持ち直したアストレアは様子を見ている。
バーサーカーは先程から変わらず、アイリスフィールに不気味な視線を向け続けている。
それらを見て切嗣は、
「ああ――――君は一体、誰なんだい?」
自らの愛する妻へと、コンテンダーの銃口を向けてそう訊いた。
○ ○ ○
「フィリップさんと翔太郎さんは、お互いに信頼し合っているんですね」
フィリップと共に病院を調べていたユウスケは、なんとはなしに彼に声を掛けていた。
彼等の様子を見て思う所があったのだ。
「まあね。僕と翔太郎は出会ってからずっと一緒だったから、その分お互いをよく知っているのさ。
君にはいないのかい? そういう、お互いを支え合えるような相棒は」
「そう……ですね。俺は信頼し合えてる、つもりだったんですけど………」
「門矢士か」
「………………」
ユウスケの話から聞いた、彼の仲間だったはずの人物。
彼が殺し合いに乗った理由は解らない。
その不可解さが、彼の事を仲間だと思っていたユウスケに影を落としているのだ。
「俺、士の事、なんにも解ってなかったんです。
士と一緒に旅をして、色んな人と出会って、一緒に笑いあって。
それで、それだけで勝手に仲間だと思い込んで、一方的に信頼してたんです」
士が俺の事をどう思ってるか、なんて考えもしないで。
自分が信頼しているから、相手も信頼してくれていると勝手に決め付けて。
少し話しただけでわかった。
翔太郎さんとフィリップさんは、本当にお互いを信頼しているのだと。
きっと彼等は、お互いが何をしたいか、何をしようとしているかを、言葉にするまでもなく理解出来るのだ。
―――一人だけわかっていたつもりになって、結局なにもわかっていなかった俺と違って。
「いつも士に助けられてばっかりで、俺はあいつに、何の手助けも出来てなかったくせに……!」
一体それでどうして、仲間だと、信頼できる相手だと思えるのか。
勝手について行って、勝手に頼って、勝手に信頼して。
結局のところ、俺と士は、本当の仲間じゃなかったのだ。
門矢士の事を考える時、小野寺ユウスケはそんな後悔に苛まれる。
仮面ライダーとして戦う覚悟を決めても、迷いが消えてなくなった訳ではないのだ。
だからその言葉は、彼の心に、強く響いた。
159
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:40:00 ID:MetolHdY
「ならば今度は、君が彼を助ければいい」
「え?」
ユウスケは思わず足を止めて、フィリップへと振り返る。
同様に足を止めたフィリップは、真っ直ぐにユウスケを見据え、そして言った。
「さっきも言っただろ。完璧な人間などいない、と。
これは僕たちの恩師が残した言葉だ」
鳴海壮吉。
言ってしまえば、彼こそが仮面ライダーWの始まりだ。
彼がいなければ翔太郎とフィリップが出会う事はなく、Wは誕生しなかった。
そして彼の言葉がなければWは今頃、仮面ライダーではなく、ただの戦闘兵器となっていただろう。
「僕と翔太郎だって、何も最初からお互いを信頼していた訳じゃない。
何度もケンカをしたし、今でも意見が分かれる事はある。時にはWに変身出来なくなった事さえあった。
それでも僕達が“二人で一人”でいられたのは、相棒を信じているからじゃない。信じようとしてきたからだ」
「信じようとする……」
「そうだ。何も考えずにただ信じるだけなら、それは依存と同じだ。
けど相手が何をしようとも、その上で信じ続けられるのなら、それが本当の信じるという事だと僕は思う」
それは、士の行動を信じられず悩み続けていたユウスケにとって、天啓にも等しい言葉だった。
フィリップの言葉には、相棒との絆で成り立つWとして戦い続けてきた故の重みがある。
その絆の経験こそが、今のユウスケに足りない物だったのだ。
「僕は門矢士を知らない。彼が殺し合いに乗ったのも、間違いではないだろう。
けど、君の知っている門矢士は、訳もなく殺し合いに乗る様な人間なのかい?」
考えるまでもなく、首を横に振って否定する。
確かに士は、時には何を考えているか分からない様な行動をした事もある。
けど結果的には、それらは全て、誰かを助ける為の行動になっていた。
だからこそ、ユウスケは士を信頼したのだ。
「なら、何か理由があるはずだ。門矢士が殺し合いに乗らなければならない理由が。
だったら君は、その理由から彼を助ければいい」
「俺が、士を助ける」
「お互いを信じて、そして助け合う。それが仲間というものだろ?」
「――――はいっ!」
決断にはまだ遠い。だが迷いは晴れた。
あとは、士を助ける為にはどうすればいいかを探すだけだ。
だからたとえ、士と再び出会ったとしても、もう答えを先送りにするだけで終わる事はないだろう。
「フィリップさん、ありがとうございます!」
「気にする必要はない。翔太郎も言っていただろう? ライダーは助け合いだって。
それに僕が何かを言わなくたって、君はきっとその事に気付いただろうしね」
「そんなこと―――」
「君が僕達についてくると言った時、君の目には強い意志があった。
なら、その意志を最後まで貫き通せば、きっと答えは見つかった筈だ。僕はその手助けを下にすぎない」
フィリップはそう言って、ユウスケから視線を外して歩きだした。
それは、もうこれ以上言う意味はない、という事だろう。
「さぁ、もう行こう。翔太郎を待たせてる」
「……はい。わかりました」
まだ言い足りない事はある。だが翔太郎を、ひいては千冬をロビーで待たせたままなのは心配だった。
だからユウスケは言葉を飲み込んで、先を行くフィリップの後に続いた。
――――そうして彼等は、“ソレ”を見つけてしまったのだった。
廊下に並ぶ閉ざされた病室の中、不自然に開かれた一室。
その中に残された、凄惨という言葉では足らない惨劇の跡を。
「――――――――」
言葉が出なかった。
一体何をどうすればこんな事が出来るのか、皆目見当もつかなかった。
一面に撒き散らされた赤は、おそらく血液。
所々に散らばっている塊は、肉や骨だろう。
それはもはや、死体と呼ぶ事すら憚れるほど、人の形をしていなかった。
「これは…………」
そしてフィリップも同様に言葉をなくしていた。
だがそれはユウスケの様な理由ではない。
フィリップは犯人の殺害方法に驚愕していた。
160
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:42:00 ID:MetolHdY
扉は開いていた。窓は割れている。室内は一面飛び散った血で汚れている。
このキーワードから判る殺害方法は、犯人は窓から侵入し、一瞬で被害者を殺害し、悠々と扉から出ていったという事だ。
なぜなら部屋は汚れてはいるが、争った形跡はなく、また扉から侵入したのであれば、わざわざ窓を割る必要がないからだ。
問題は、被害者の殺され方だ。
油断した所を、あるいは抵抗する間もなく、一瞬で殺されたのはわかる。
だがその場合、急所を突いて殺すのが普通だろう。
しかしこの被害者の場合は、無茶苦茶に引き裂かれて死んでいる。
つまり犯人は、自分が殺した死体を解体し撒き散らす異常者か、人外の力で内側から派手に撒き散らした怪物かのどちらかだ。
そしてわざわざ窓を割って飛び込んできた事を考えて、後者の方だろう。
「最悪……だね」
フィリップは、現状考えられる最悪の状況に、思わずそう呟いていた。
おそらく、織斑千冬はコレを見てしまったのだ。
同時に彼女があそこまで塞ぎ込んでいた理由も推測できてしまった。
だとすれば、次に彼女が執る可能性のある行動は、――――
「む―――!?」
そこまでフィリップが考えた時、唐突に彼の腰に赤い機械のベルトが出現した。
ダブルドライバーと呼ばれるそれは、彼らが仮面ライダーWに変身する際に用いる物だ。
それは翔太郎がオリジナル装着することで、フィリップにもコピーが出現する仕組みなのだ。
そしてそれが出現したという事は、翔太郎がドライバーを装着したと言う事に他ならない。
「翔太郎、どうしたんだ!」
「フィリップさん? いきなりどうしたんですか?」
ダブルドラーバーは装着時、ドライバーを通じて相手と会話が出来る。
それを知らないユウスケは、フィリップのいきなり上げた声に驚き声を掛ける。
だがフィリップそれを無視して翔太郎へと声を掛ける。
事態は急を要するだろう。いちいち教えている余裕はない。
『フィリップ! 今すぐに変身だ!』
「だから一体何があった! 誰に襲われてるんだ!?」
『……千冬さんだ。千冬さんに、襲われてる』
「織斑千冬に!? くそ、考えられる中で最悪のパターンだ。
なら翔太郎、彼女が行動を起こしたきっかけは分かるかい?」
『わからねぇ。どうにか事情を聴こうとしてたら、いきなり剣を抜いて切りかかられた。
しかもやたら早くて、避けるので精いっぱいで取り押さえる余裕がねぇ』
翔太郎の声は、緊張に張りつめている。
ドーパントと渡り合える力を持つ千冬を相手にして、素手で彼女を取り押さえることなどできない。
たとえ過剰防衛になりそうであっても、こちらもドーパントと渡り合える力が必要だ。
おそらく翔太郎は今、千冬と睨み合った状態になっており、その隙にドライバーを装着したのだろう。
「……迷っている余裕はなさそうだね、翔太郎」
《――CYCLONE――》
『すまねぇ、フィリップ』
《――JOKER――》
サイクロンメモリを取り出し、ガイアウィスパーを響かせる。
同時にドライバーを通じて、ジョーカーメモリのガイアウィスパーも聞こえた。
「フィリップさん! 一体どうしたんですか!? 千冬さんに何があったんですか!?」
「すまないが、説明している余裕はない。僕の体を頼んだよ、小野寺ユウスケ」
「ちょっと、それどういう意味ですか!?」
ダブルに変身する時、フィリップの体は無防備になる。
故に変身している間の事をユウスケに頼み、サイクロンメモリをドライバーへ差し込む。
ユウスケは理解できずに戸惑っているが、すぐに事態を察してくれるだろう。
「「変身!」」
《――CYCLONE/JOKER――》
ガイアウィスパーと共にフィリップの意識が転送され、同時に翔太郎の体を中心に風が巻き起こる。
渦巻く風が止んだ時、そこには右半身を緑に、左半身を黒に染めた翔太郎の姿があった。
161
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:42:46 ID:MetolHdY
「ッ――――――!」
切り変わった視界の向こうでは、変身した翔太郎を警戒して千冬が距離をとっていた。
彼の言う通り、千冬が剣を取って襲ってきた、という事だろう。
そしてその理由も、全てをではないが予想出来ている。
「翔太郎。先に病院で見たモノと、そこから推測した事を伝えておく」
「何があったんだ?」
「人が……死んでいた」
「なっ!」
翔太郎が息を飲む。
当然だろう。仮面ライダーである彼からすれば、それは看過できない事だからだ。
だが、話はここで終りではない。
「その事と彼女の様子から推測するに」
フィリップは言い難そうに、しかしはっきりと告げた。
殺された人物が一体誰が該当するのか。
その、絶望的な答えを。
「殺されていたのはおそらく――――織斑一夏だ」
現場に残されていた衣服は、引き千切られて入るが、男物と判別できた。
そして名簿には、織斑千冬と同じ苗字で、男性のものと思われる名前が一つだけあった。
殺された人物が彼女の知り合いと仮定した場合、それらから推測できる人物は即ち「織斑一夏」一人だ。
織斑千冬と織斑一夏の関係性は解らないが、その可能性は高いだろう。
「織斑? ってことはまさか………っ、ちくしょう! そういうことかよッ!!」
その理由に思い至った翔太郎が、悔しさのあまりに声を張り上げる。
そう。織斑一夏が彼女にとって大切な人物であり、その彼が殺されたとなれば、織斑千冬の執り得る行動は限られてくる。
一つは僕達の様に、亡くしてしまった人物に誇れる在り方を貫き通す道。
もう一つは、かつての照井竜の様に、亡くした人物の敵討ちを望んで復讐鬼となる道。
織斑千冬が選んだのは、おそらく後者。
断定はまだできないが、こうして剣を向けられている以上、否定はできない。
そしてそれを肯定するように、千冬は鈍い光を放つ剣を正眼に構える。
無言で剣を構える彼女の目には、明確な殺意が宿っていた。
「翔太郎、来るよ―――!」
相手が来ないのなら自分から、という事だろう。
千冬は一息で距離を詰め、その手の剣で斬りかかってくる。
Wはそれを咄嗟に避け、追い縋る千冬から距離を取る。
「行くよ、翔太郎」
「ああ……力ずくでも千冬さんを止めるぞ!」
そう言って仮面ライダーWは、剣を構え迫る千冬へと相対した。
修羅の道を歩もうとする女性を、その悲しみから助けるために。
「――――――――」
対する千冬は臆することなくWへと迫り、再びその剣を振るう。
―――無表情に。ただ殺意だけを、その瞳に宿して。
○ ○ ○
「もう一度だけ聞く。お前は一体何者だ」
切嗣はアイリスフィールにそう詰問する。
愛する妻に銃口を向けるその視線に、揺らぎは全く見られなかった。
そんな、切嗣の明らかに敵と見做した行動に、アイリスフィールは戸惑う事しか出来ない。
「な、何を言ってるの切嗣? 私のことがわからないの?」
「そうだよ切嗣! さっき自分で奥さんだって言ってたじゃんか!」
「ああ。少なくとも、外見上はね」
突然の展開に、アストレアは思わずアイリスフィールを擁護する。だがそれを、切嗣は一言で切って捨てる。
その冷徹さに、アストレアはおろか切嗣の事を知っている筈のアイリスフィールまでもが絶句した。
それを待って、切嗣はアイリスフィールに銃口を向けた理由を口にした。
162
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:43:19 ID:MetolHdY
「一つ目。お前は二組に分かれることを提案した時、バーサーカーの令呪が欲しいと言った」
「だってそれは……!」
「ああ、確かに会って間もないアストレアが信用できないというのはわかる。
けどお前は、真っ先にバーサーカーを指名した。それこそ、初めからそうするつもりだったかのように」
そして彼女は、アストレアの事を知ろうともしなかった。
その指摘に、目の前のアイリスフィールは驚いたように目を見開いた。
それは本当に、隠し事が見抜かれた時の彼女の反応そのままだった。
けれど切嗣の知っているアイリスフィールであれば、アストレアに挨拶すらしないのはおかしかった。
「二つ目。お前が現れてからずっと、バーサーカーがお前に反応している。
バーサーカーには、害意を持たない人間には攻撃しないよう命令してあってね。
そのバーサーカーが反応するという事は、お前は何かしらの害意を持っているという事になる」
「あっ―――!」
「ッ――――!」
アストレアがそれを思い出し、声を上げる。
対するアイリスフィールは、一瞬悔しげに顔を歪ませる。
その表情を、僕は知らないし、記憶にある彼女からは想像も出来ない。
だがそれを一瞬で消して、アイリスフィールは覚えている通りの仕草で言葉を紡いだ。
「けど、相手はあのバーサーカーよ? 警戒するなって言う方が無理よ」
「そこで三つ目だ。確かにお前の姿形、見た限りの仕草や癖も、記憶にある彼女そのままだ」
「ならどうしてっ」
「だがお前は、あまりにもそのままに過ぎた。まるで、懐かしい映画を見ている様な気分だったよ」
人間の記憶とは、年月の流れに風化し、美化されるものだ。
切嗣がアイリスフィールを失ってから五年。それほどの時間で、記憶にある彼女が変化しない方がおかしい。
だが目の前にいるアイリスフィールは、何もかもが覚えているままだった。
そしてそれこそが切嗣が、彼女に疑念を懐いた最大の理由だった。
「さぁ、教えてもらおうか、お前の正体を。―――バーサーカー」
切嗣の指示に従い、バーサーカーは“倉”から一振りの大剣を取り出す。
その行動に一切の淀みはなく、令呪による抑制を受けていない事は明らかだ。
命令を撤回していない以上、害意を持たない人間には攻撃できないはずなのに、だ。
「お願い切嗣! バーサーカーを止めて!
私は本物のアイリスフィールよ!? 私を信じて!」
それを見たアイリスフィールは、自らの窮地に命乞いをする。
だが、それこそが致命的な齟齬だ。
アイリスフィールは、切嗣の理想の為に命を捨てる覚悟を持っていた。
仮に切嗣の様に死後から呼ばれてもそれは変わらないだろうし、聖杯の“内側”での記憶を持っているのなら、切嗣へ抱く感情は憎悪の筈だ。
そのどちらも懐いていない彼女は、少なくとも切嗣と共に在った“アイリスフィール”ではない。
それに何より――――
「信じているさ。お前ではなく、僕と共に生きたアイリをね」
バーサーカーがアイリスフィールへと一息で距離を詰め、大剣を勢いよく振り下ろす。
大剣を打ちつけられた地面は粉塵を巻き上げ、一瞬二人の姿を隠した。
その直後、粉塵から空へと飛び出す赤い影があった。
「……まさか、こんなにもあっさりと見破られるなんて思わなかったなぁ。
思った以上に厄介だね、衛宮切嗣」
極彩色の片翼を広げる赤い人影は、物理法則を無視して空中に停滞している。
だが魔術師の観点から見れば異常なそれも、アストレアやISと言った前例を見た後では驚くに値しない。
故に切嗣の関心は別の所に寄せられ、即座に赤い影の正体を看破した。
「そうか……お前がグリードか」
「あたり。僕の名前はアンク。よろしくね」
そう言って赤い影――アンクは、子供の様な仕草で挨拶をした。
しかし、あいにく切嗣にはアンクとよろしくするつもりはなく、むしろこれを好機とみてバーサーカーに指示を出す。
163
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:44:04 ID:MetolHdY
「悪いが、お前と慣れ合うつもりはない。今ここで始末させてもらう。バーサーカー!」
「■■■■■■――ッ!!」
指示を受けたバーサーカーは、空を飛ぶアンクに対抗するために白式を展開し、一気に飛翔する。
そしてそのままの勢いでアンクへと迫り、展開した雪片弐型を薙ぎ払う。
「ぅおっと! 危ないなぁ。僕はまだ倒されるつもりはないんだ。だから、さっさと逃げさせてもらうね」
攻撃は予測していたが、アストレアではなくバーサーカーからの攻撃だった事に驚きながらも、アンクは更に高く跳び上がって撤退する。
だが切嗣にアンクを見逃すつもりなど、微塵もなかった。
「させるか! 追え、バーサーカー! アストレアも頼んだ! 僕もすぐに追い駆ける!」
「りょーかい!」
切嗣の指示を受け、アストレアはすぐにアンクとバーサーカーを追って飛び出す。
それを確認するより早く、切嗣もライドベンダーに飛び乗り、アクセルを全開にする。
もしアンクが他の参加者と接触し、バーサーカーを危険人物だと言ってしまえば、それを否定する要素はない。
その人物がバーサーカーに攻撃を加えてしまえば、危険人物という認識は決定的になってしまう。
それをさせないためにアストレアも向かわせたが、万が一という事もある。
反射神経を限界まで酷使して木々を回避し、ほんの数分で森を抜ける。
一応雁夜の支給品から得た切り札があるとはいえ、何事もないに越した事はないのだ。
「頼むから、問題を起こしてくれるなよ……!」
そう口にしながら、空を飛ぶ三つの影を追う。
森を抜けるまでの僅かな間に、もう大分離されている。
彼女達に追いつくのは、どうやら事が終わってからになりそうだ。
164
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:44:49 ID:MetolHdY
○ ○ ○
その日々は、今でも鮮明に思い出すことが出来る。
ずっと、二人で生きてきた。
一夏と共に両親に捨てられてから、ずっと一人で守ってきた。
捨てられたときに誓ったのだ。一夏のことは、自分の力のみで守って見せると。
それは、とても辛く、苦しい日々だった。
子供だけで生き抜けるほど、世間は優しくなんかない。
挫けそうに、諦めそうになったことなど、数え切れない。
けれど、一夏の存在を支えに、耐えて耐えて生き抜いてきた。
だからそれは、とても幸せな日々だった。
そうして年を経て一夏も成長し、当たり前に生活する分には庇護する必要はなくなっていた。
そのころからIS関連の仕事が多くなり、家に帰れることは少なくなっていった。
それでも一夏の待つ家に帰り、穏やかにすごした時間は、何よりの至福だった。
一夏がIS学園に通うようになり、私的な時間がより短くなっても、傍にいられることは嬉しかった。
だから一刻も早く、一夏と合流したかった。一目でも無事な姿を見て、安心したかった。
そしてその願いは半分だけ叶い、残り半分は、最悪の形で叶わぬものとなった。
―――その部屋は、一面が鮮烈な“赤”に彩られていた。
大分時間が経っていたのか、その赤色はすでに酸化し黒ずんでいる。
だがそれがまた鮮烈な赤色に、毒々しさを加えていた。
そこには人間など居なかった。死体すら存在しない。
あるのはただの残骸だけだ。滅茶苦茶に引き裂かれ捨てられた人形の綿の様な、ただの肉片だけがそこにあった。
――――せめて。
殺人者がもう少し執拗であればよかったのに。
赤に彩られた男物のISの制服を見て、放心しながらもそう思ってしまった。
それさえなければ、ただ犯人の異常さに眉を顰めるだけですんだかもしれないのに。
判別できる程度に無事だった制服は、“残骸”の元となっていた人物が誰であるかを容赦なく突き付けてきた。
“ソレ”は織斑千冬にとって掛け替えのないモノであり、たった一人の家族である、『織斑一夏』であると。
ラウラは言った。火野映司という男が、一夏を殺したのだと。
彼女は全てのグリードを倒すと、その為なら悪魔になっても構わないと、そう言って立ち去った。
それを止めることが、千冬には出来なかった。
一夏の無残な死を目の当たりにした千冬の精神は、それほどまでに磨り減っていたし、
なにより、ラウラの抱いた憎しみを、ラウラ以上に理解できてしまったからだ。
そうしてふらつくように、その部屋を後にした。
そこにいる意味はなかったし、小野寺ユウスケのことも心配だった。
だがそれ以上に、その部屋から、一夏の死という現実から逃げだしたかった。
後はもう、駆け寄ってきたユウスケに支えられてロビーへと戻り、そこに現れた二人の青年の話を聞き流していた。
別に何も聞いていなかったわけではない。ただ応える気力がなかっただけの事だ。
だがその話の中で、一つだけ気になる言葉があった。
それを何も考えぬままに反芻し、理解し、検討していた。
そしてその答えを認識すると同時に、考えるよりも早く行動していたらしい。
気が付けば私は、自分へと気遣うように話しかけていた青年へと剣を振り抜いていた。
青年は辛うじてその一撃を躱していたが、私は構わず邪魔なデイバックを投げ捨て、剣を構え直している。
何故そんな事をするのかと思ったが、すぐにその理由に思い至った。
“――――私はグリード達を倒す! その為なら……悪魔になっても構わないッ!”
……ああ、ならばいい。そうしよう。
それしか他に方法がないと言うのなら、それを成そう。
そんな諦念にも似た決断をし、再び青年へと足を踏み出した。
すぐにでも青年をこの手にかけ、その命を奪い取ろう。
そして他の者も同様に、誰も彼も殺し尽くそう。
そう、心にもないことを決意して。
165
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:45:23 ID:MetolHdY
―――そうして今私は、緑と黒の二色をした仮面ライダーとやらへと剣を振るっている。
感情を凍らせ、心を押し殺し、表情を無にして、
胸を穿つ、理由の分かりきった躊躇いも振りはらって、剣を振るう。
――――――だって誓ったのだ。
何に代えても守ると。
だから、
「ハァ――ッ!」
「グ、このッ………!」
千冬はWへと、必殺の意志を籠めて剣を振るう。
Wはその一撃を防いで反撃するが、あっさりと躱され、逆に反撃を受ける。
―――弱い。
千冬はWをそう評価する。
ウェザーと比べると、硬度、速度、威力、そのどれもが低い。
そしてそれ以上に、戦闘技術の錬度が低すぎる。
一般人にはそれでも脅威ではあるが、千冬にとっては恐れるに値しない。
もちろん相手が本気を出せていない、というのもあるだろう。
だがそれを言うのならば、千冬とて武器が不慣れな西洋剣だ。全力を出せている訳ではない。
条件で言うならば五分か、若干千冬が有利といったところだろう。
故に千冬は、ユウスケが駆けつける前に決着を付けようと、一気に攻勢へと移る。
「うお――! とっ! グッ……!」
千冬から繰り出される高速の三連撃。
一撃目は飛び退いて、二撃目は半身になって回避し、三撃目は腕を交差して受ける。
本当に女性、いや、人間かを疑うその一撃の威力に数歩後退り、迫る追撃を大きく飛び退いて躱す。
「ってぇ〜……!」
千冬の斬撃を受けた腕を振って痛みを誤魔化す。
一撃を受けた腕には切り傷が残り、僅かに白煙を上げている。
やはりWに変身したのは正解だ。もし生身の肉体だったなら、守った腕ごと体を両断されていただろう。
彼女であれば、生身のままエンジンブレードを使いこなすことも可能かもしれない。
だがそれほどの実力こそが、Wに変身する翔太郎とフィリップを攻めあぐねさせていた。
剣道三倍段、という言葉がある。
これは武器を持たぬ者より、持つ者の方が有利である、という例えだ。
その理由はおもに二つ。
一つは間合い。ナイフの様な小振りな物を除けば、戦いは基本的にリーチのある方が強いとされる。故にこそ刀剣は廃れ、銃火器が発展したのだ。
もう一つは殺傷性。これは単純に、怪我の危険がある素の拳よりは、何かしらの道具を用いた方がより躊躇わずに力を籠められる、というだけの事だ。
その点で言えば、今回は一つ目の事例に該当する。
Wが千冬を攻撃、あるいは拘束するには、まず彼女の振るう剣をなんとかする必要があるのだ。
だが素手でどうにか出来るほど千冬の攻撃は甘くなく、ウェザーのように体で受け止められるほど、Wの体表硬度は高くない。
それにそもそもとして――――
「厄介だね。彼女を相手に手加減は出来ない。けど、」
「本気で攻撃しちまったら、最悪大怪我をさせちまう」
千冬がウェザーに対抗できたのは、彼女の戦闘技術もそうだが、他にも二つ理由がある。
一に、ウェザーは能力主体のドーパントであり、持ち主の趣向もあって接近戦はあまり得意ではないという事。
二に、井坂深紅郎にとって千冬達との戦いは、あくまでも制限を確かめる為の実験だった、という事。
この二点に、千冬の超人的な剣技が合わさって初めて、人間の身でウェザーに対抗し得たのだ。
しかし、いかに超人的な剣技を持とうと、千冬はあくまでもただの人間でしかない。
人間を越える力を持つWの一撃をまともに受ければ、彼女は大怪我を免れないだろう。
Wの目的は千冬の凶行を止める事であり、もし全力を出して大怪我をさせてしまえば本末転倒だ。
あるいは千冬であれば対処できるかもしれないが、その“もしも”を考えれば迂闊な攻撃は出来ない。
そんな厄介の一言に尽きる状況に、翔太郎は彼女がドーパントであれば、メモリブレイク狙いで遠慮なく戦えたのにとさえ思った。
166
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:45:55 ID:MetolHdY
「しゃーねぇ。フィリップ、まずは剣を何とかするぞ」
《――TRIGGER――》
ドライバーからジョーカーメモリを取り外し、トリガーメモリと換装する。
《――CYCLONE/TRIGGER――》
それと同時に、Wの黒い左半身が青色へと変化する。
トリガーは遠距離攻撃を可能とするメモリであり、剣しか武器を持たない千冬に対し有利となる。
ただしその威力をあまり加減出来ず千冬には危険だが、そこはWの腕次第だろう。
「――――」
Wの左半身の色が変わった事に、千冬は僅かに目を見開くが、瑣末なことと切り捨てる。
「翔太郎、くれぐれも彼女に直撃させない様にね」
「わかってるって。おっし、行くぜ!」
対するWはトリガーマグナムを取り出し、千冬の足元へと疾風を伴なう光弾を連射する。
直撃させるのは危険なため、足場を崩して動きを止め、その隙に剣を撃ち落とそうという作戦だ。
――だがその目論見は、容易く破られることとなった。
「――――――」
千冬はWが狙いを定めるよりも早く動き出し、連続で放たれた光弾を回避する。
更に続いて放たれる光弾も、Wの狙いを予測した上で素早く立ち回り、その狙いを外す。
いかに高速の弾丸であろうと、その斜線が真っ直ぐである以上、狙いが逸れれば中ることはまずない。
そしてそれは、刀剣一本で数多のISを打ち破ってきた千冬にとって、そう難しいことではなかった。
千冬はトリガーマグナムから放たれる光弾の特性を把握し、紙一重で回避しながら徐々にWへと接近していく。
「くそ、速ぇ……!」
「駄目だ翔太郎! 完全にこちらの狙いを見切られている!
ルナ……いや、メタルに変えるんだ!」
相棒のその言葉に従い、翔太郎は即座にメタルメモリを取り出す。
フィリップがここでトリガーマグナムに誘導性を持たせるルナではなく、格闘系のメタルを選んだのは、千冬の速度を懸念しての事だった。
そしてその懸念通り、千冬は変身の為に銃撃の止んだ一瞬の隙に、一気にWへと接近し剣を振り抜いていた。
《――CYCLONE/METAL――》
「ヅ……! 危ねぇ……!」
間一髪で変身の間にあったWは、金属のような銀色に変化した左腕で千冬の一撃を受け止める。
そのままメタルシャフトを取り出し、千冬へと薙ぎ払う。
千冬はそれを飛び退いて躱し、続いて放たれた突きを剣で受け流して、返す一撃でWの左脚を切り払う。
「うお――っと……!」
だがWはバランスを崩しただけで、そのまま前転して距離を取った。
その様子を見て千冬は僅かに目を細める。
硬度が上がっている。先程の様な傷跡も残らない。
いかに速度を優先したとはいえ、想定よりもダメージが低すぎる。
「今度はこっちの番だぜ!」
そう言ってWはメタルシャフトを振り回して攻撃してくる。
千冬はそれを剣で捌きながら、改めてWの状態を見る。
左半身が銀色に変わり、武器を出現させただけではない。
剣から伝わる衝撃で威力が、先程の一撃で硬度が上昇したのが分かる。
だが代わりに、立ち回りの速度が低下している。
―――なるほど。METAL――金属か。
そう千冬は納得し、同時にWの戦闘技術が低い理由も理解した。
おそらくWは複数の形態に変化し、その度に攻撃手段が変化するのだ。
常に相手の弱点となる形態に変身し、故に一つの形態に対する錬度が低くなっている。
複数の武装を以って戦う場合における、当然ともいえる欠点だろう。
故に千冬もまた、Wに対応した戦法をとる。
千冬の武器は剣一つ。またトリガーに変身されては対処が面倒だ。
ならばより素早い連続攻撃で、そもそも変身させなければ良いだけの事。
167
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:46:36 ID:MetolHdY
「シッ――――!!」
そう結論し、疾風怒濤と剣を振るう。
Wはメタルシャフトを盾にその連撃を防ぐが、速度を優先した千冬の攻めに、徐々に防御が遅れていく。
そしてついには、徐々に体の方に攻撃が当たり始めた。
一撃の威力は低いためダメージは少ない。だが決して無いわけではない。
このままではいずれ隙ができ、強烈な一撃を受けてしまうだろう。
Wがこの攻撃に対処するには、速度を上げるか、そもそも千冬を近づけさせない必要がある。
だがWが形態を変化させるには、どうしてもメモリの換装が必要となる。
そしてそれをさせないための、高速の連続攻撃なのだ。
『翔太郎、このままでは……!』
「わかってるって! なんとかする――さ!!」
メタルシャフトを一際強く薙ぎ払う。
胴は当たった時に危険なため、狙ったのは足だ。
「――――――」
だが千冬はその足払いを軽く跳躍して回避し、着地と同時に剣を振り抜く。
狙いはガラ空きの左脇腹。Wには薙ぎ払ったメタルシャフトを戻す余裕はない。
故にWはその一撃を防ぐ事も出来ず、そして躱す間もなくその一撃を受けた。
「グッ……、の―――!」
――――否、受け止めた。
「ッ――――!」
激痛を耐え抜くと同時に跳ね上がるWの左腕。
千冬は即座にその狙いを看破し、次撃への選択を捨てて後方へと飛び退く。
それによって間一髪、千冬の剣を捕らえ損ねたWの左腕は空を切った。
だが左腕はそのままメタルシャフトを掴み、勢い良く跳ね上げられる。
「ヅッ――――!!」
それを咄嗟に剣で防ぐが、その威力に剣が手から離れ、高く打ち上げられた。
千冬は即座に後退し、辛うじて追撃を躱す。
「おっしゃあ――ッ!」
「翔太郎、今だ――!」
《――LUNA/METAL――》
そうして開いた距離をWは詰めず、今度は右半身を金色に変化させる。
そしてメタルシャフトの先端を鞭のように撓らせ、千冬へと向けて薙ぎ払う。
ルナの効果を得たメタルシャフトであれば、千冬を傷つける事なく拘束出来るからだ。
「捕まえた―――あれ?」
しかしその一撃は、Wの狙い通りに千冬を捕える事は出来なかった。
千冬は這い蹲る様に地面に伏せることでメタルシャフトの一撃を躱し、更にはWへと向けて疾走する。
そして思わず咄嗟に防御姿勢をとったWへと飛びかかり、足場として強く踏み抜き更に高く跳躍する。
「なにぃ―――!!」
「僕たちを踏み台に……!!」
そして未だ空に打ち上げられていた剣をその手に掴み、落下の勢いさえも利用してWへと渾身の一撃を叩き込んだ。
「グァ―――ッ!!」
「クッ! 不味い……!」
踏み台にされた事で体勢を崩していたWは、千冬のその一撃を防ぐ事が出来なかった。
そのまま崩れ落ちる様に地面を転がり、どうにか千冬との距離を取ろうとする。
だが千冬がこの絶好の機を逃すはずがなく、今のWに千冬から逃げきるだけのスピードはなかった。
―――故に千冬の攻撃が行われなかったのは、第三者からの妨害しか有り得なかった。
「――――やめて下さい、千冬さんッ………!!」
その声に、千冬は思わず、今にも振り下ろそうとした剣を押し止めた。
見れば、病院の入り口に、フィリップを背負ったユウスケが立っていた。
「ッッ………………!!」
一気に湧き出た心の呵責に更なる躊躇いが生まれ、それを振り切って剣を振り上げる。
168
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:47:19 ID:MetolHdY
「■■■■■■■■―――ッ!!」
―――その隙を狙ったかのように、叫び声と共に飛来するものがあった。
それは彼女達のすぐ近くへと墜落し、粉塵を巻き上げる。
「チィ――――!」
「い、いきなりなんだ!?」
千冬は襲来したものを警戒して後退し、Wも両方に対処できるように距離をとる。
飛来したものは土煙に紛れてよく見えない。だが先程の叫び声と、辛うじて見える影から人型だとは判る。
故にその正体を確かめようと、土煙が晴れるのを待って人影を視認した時、千冬は二度目となる思考停止を味わうこととなった。
「コイツ……いきなり何なんだ!?」
「少なくとも、味方って訳ではなさそうだね」
翔太郎とフィリップは、結果として千冬から自分達を救った人物を見て警戒心を懐く。
その人物は全身に漆黒の鎧を纏い、更にその上から、最初に殺された少女と同じような機動兵器を装備している。
だが判るのはそこまでで、それ以上はどんなに目を凝らしても詳細を判別できない。
いや。目を凝らせば凝らす程に、鎧の輪郭は曖昧になっていく。
ただ兜のスリットから覗く赤い眼光だけが、明確な戦意と狂気を表していた。
「、………………っ」
小さく喉を鳴らして唾を飲み込む。
いかなる意図によるものか。黒い騎士は纏っていた起動兵器を解除した。
だがそれ以降何の行動も示さず、まるで獲物を窺うかのようにジッとしている。
あれほど派手な登場をしたのであれば、何かしらの目的がある筈なのに、だ。
こちらが動くのを待っているのか。それとも別の理由があるのか。
その目的が分からない以上、迂闊に動く事は出来なかった。
そんな重苦しい緊張感の中、ただ一人だけ、言葉を発した人物がいた。
「………なぜ、貴様が乗っている…………」
千冬が顔を俯けたまま、そう言った。
その声には、さながら地獄からの怨嗟の様な響きが伴っていた。
「それは一夏の……私の弟の物だ……!」
その色が如何に黒く変色しようと、
その形が如何に禍々しく変容しようと、
自分がその機体を見間違えるはずがない。
黒い騎士が乗るISは、紛れもなく――――
「なぜ貴様が白式に乗っているんだと訊いているんだ……ッ!!」
―――織斑千冬の弟、織斑一夏の専用機『白式』だ。
千冬は剣を握り締め、力の限りに叫ぶ。
それは、先程まで一言も喋らなかった彼女の声とは思えないほどの激情だった。
だが黒い騎士は答えず、不気味に沈黙を保ったままだ。
その態度に、ついに千冬の感情が爆発し、怒りのままに黒い騎士へと剣を振り上げた。
「答えろォォォオオオ――――ッッッ!!!!」
「■■■■■■■■■■■■――――ッッ!!!」
それに呼応するように、不気味な沈黙を保っていた黒い騎士も咆を張り上げる。
そしてその咆哮が、新たなる戦いの狼煙となった。
○ ○ ○
アンク――正しくはもう一人のアンクが切嗣達に気付いたのは、本当にただの偶然だった。
織斑千冬に揺さぶりを掛けた後、病院から南下していたアンクは、不意に聞こえたエンジン音を辿ることで切嗣達を見つけたのだ。
その時アンクが思ったのは、衛宮切嗣の殺害とバーサーカーの引き込みだった。
衛宮切嗣は徹底した暗殺者であり、情報を与えれば与えるだけ弱点を晒してしまう事になる。
加えてエンジェロイドとバーサーカーを従えている今、ともすれば切嗣の独壇場になりかねない。
故に切嗣が何かしらの情報を得る前に、なるべく早期に殺しておくにこした事はない。
更に赤陣営であるバーサーカーを制御化に置けば、己自身の戦力も盤石となると考えたのだ。
169
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:49:44 ID:MetolHdY
そこでアンクはダミーメモリの能力を使って彼等の記憶を探り、アイリスフィールに“偽装”した。
彼がわざわざ参加者に居ないアイリスフィールに“偽装”したのは、最も厄介な衛宮切嗣を欺くためだった。
最初はイカロスの時と同様に桜井智樹へと“偽装”するか、あるいは人間態で接触しようかと考えた。
だが前者ではアストレアが命令に従う可能性は低く、後者ではもし正体がばれれば、以降暗躍する際に動き辛くなってしまう。
そして切嗣には、ドクター真木の説明会の際にアイリスフィールに似た人影を見た記憶があった。
外見的特徴からおそらくラウラ・ボーデヴィッヒの事だろうが、切嗣にそれを確かめる術はない。
更に言えば、切嗣は自らの妻であるアイリスフィールに対してのみ、他の人間に比べると格段に対応が甘くなるからだ。
後は正体を気付かれる前に、衛宮切嗣から令呪を奪えばよかった。
令呪を一画でも手に入れれば、後はダミーの能力の応用でどうとでも制御できる。
ならばバーサーカーにアストレアの相手をさせ、その間に自分は切嗣を始末すればいい。
切嗣は能力的にも暗殺者向きであり、真っ向勝負でグリードに勝てる要素は少ないからだ。
故に自身がボロを出さない限り、この作戦には何の問題もない――――はずだった。
……アンクに誤算があったとすれば、それはバーサーカーの性質と衛宮切嗣の思考パターンを甘く見ていた事だろう。
例え令呪で縛られていようと、バーサーカーは今尚戦いを求めている。
いかに狂化されていようと、サーヴァントとしての本能がその機を逃す事はしない。
その本能が、アンクの内に秘められた、切嗣への“害意”を嗅ぎ取っていたのだ。
そして衛宮切嗣は、目的の為ならば心を切り離して行動する事が出来てしまう。
たとえどれだけ似ていようと、僅かでも疑念を抱けば、それを徹底的に暴こうとする事が出来る。
その結果本物だったとしても、アイリスフィールがより多くを殺す事になるのであれば、彼はそれを阻止するために自ら手を下しただろう。
……第4次聖杯戦争を、そうやって終結させたように。
―――それに何より、彼は信じていたのだ。
自分の知っているアイリスフィールであれば、そのような事をする筈がないと。
それこそが衛宮切嗣が、約束した理想を遂げる為に必要なものとして胸の内に秘めた、“仲間への信頼”だった。
そうして今、アンクはバーサーカーの追撃から全霊を持って逃げていた。
それがアンクのもう一つの誤算。バーサーカーが所有する「白式」の存在だった。
怪盗Xに持ち去られたはずのISをバーサーカーが持っていることは、完全に想定外だった。
奥の手もあるため、アストレア一人ならどうにでも撒けたし、場合によっては殺す事も出来ただろう。
だが二人掛かりとなると、今のアンクには逃げ惑う事しか出来なかった。
だがアンクとて何も考えずに逃げたわけではない。
白式もアストレアも、どちらも高速特化型。ただ逃げるだけではすぐに追いつかれる。
そこでアンクが選んだ逃亡先は、先程まで彼がいた、参加者がいる事が確定している病院だった。
彼女達をバーサーカーに嗾ければ、少なくとも追手はアストレアだけになるだろうと判断したのだ。
そうしてバーサーカーの攻撃を凌ぎ、時には炎弾で牽制しながら病院に辿り着いた、その時だった。
目的地に辿り着いたことで、僅かにでも気が緩んだせいだろう。
「■■■■■■■■―――ッ!!」
「しまっ、ッア゛――――ッッ!」
その緩みを突いて、バーサーカーは一瞬でアンクの背後に回り、強烈な一撃を叩き込んだ。
アンクは咄嗟に両腕で防御したが、バーサーカー相手にそんな守りはないも同然だ。
あっさりと胴体まで切り裂かれ、高空から大地へと叩き落とされた。
その激痛とダメージに、アンクは一瞬気を失ってしまう。
そうして一瞬の気絶から目を覚ました時、アンクは自身の幸運に感謝した。
バーサーカーを除き、その場所に居たのは織斑千冬と小野寺ユウスケ、そして仮面ライダーWだった。
そして都合がいい事に、織斑千冬はバーサーカーへと激情を露わにしている。
弟の専用機を怪しい黒騎士が使っていれば、それも当然と言えるだろう。
170
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:50:19 ID:MetolHdY
このまま千冬がバーサーカーに攻撃すれば、バーサーカーは反撃を行い千冬は殺されるだろう。
そうすれば、小野寺ユウスケ――つまりは仮面ライダークウガも、仮面ライダーWも、バーサーカーを危険人物とみなし、戦いを始めるだろう。
そして彼等はアンクに気付いておらず、ならばその隙に、こっそりと逃げればいいだけだった。
「答えろォォォオオオ――――ッッッ!!!!」
「■■■■■■■■■■■■――――ッッ!!!」
そうして織斑千冬は、アンクの思惑通りにバーサーカーへと剣を振り上げた。
撒いた種が芽吹かないのは残念だが、命には代えられない。
彼女にはせいぜい、仮面ライダーを始末するための引き金を引いてもらおう。
そう思いながら戦いが始まるのを待って息を潜めていたのだが、そう都合良くは行かないらしい。
「スト―――ップ………!!」
遅れてやってきたアストレアが、今にも千冬に斬りかかろうとしていたバーサーカーを勢い良く弾き飛ばしたからだ。
それにより再び戦いは停滞し、今度はアストレアが注目される番となった。
だがアストレアはその視線を気にも留めず、というか気付きもせずにバーサーカーへと抗議する。
「何やってんのよ! あんたの相手はあっちの赤いのでしょうが! 関係ない人を攻撃しようとしてんじゃないわよ!」
それにより、ついにはアンクの存在が見つかることとなった。
ことごとく外れる思惑にアンクは不機嫌になるが、見つかったのなら堂々と逃げればいいと思い直す。
幸いにして場は混乱している。いきなりの行動には対応しきれないと考えたからだ。
だがアンクよりも早く行動する存在があった。
「■■■■■■■■■■――――ッ!!」
バーサーカーが、戦いを邪魔された怒りから一際強く叫び声を上げる。
破壊を求める彼にとって、戦いを妨害される事は屈辱以外の何ものでもない。
しかもアストレアに邪魔されたのはこれで二度目となるため、その怒りも一入だった。
だがいかに激しく弾き飛ばされようと、バーサーカーにアストレアを攻撃する事は出来ない。
なぜならアストレアはバーサーカーを無理矢理に止めただけであり、害意など微塵も持っていなかったからである。
故にバーサーカーは、アストレアを無視して再び千冬へと襲い掛かる。
対する千冬もまた、バーサーカーへの激情を再燃させ一歩を踏み出す。
その二人を止める影が、今度は二つ。
「少しは人の言う事を聞きなさいよ、このバカァッ!
えっと……そこの二色の人、あの赤いグリードをお願い!」
バーサーカーに相対したのは当然アストレア。
彼女は再びバーサーカーを弾き飛ばし、後退させて追い返す。
そして自分と同様に動いた人物へとアンクを任せ、バーサーカーを追って加速する。
「いや、いきなりお願いって言われても、こっちだって大変なんだよ!
って言うか千冬さん! あんたもいい加減、少しは落ち付けって!」
「そこを、どけぇ――ッ!!」
「だぁもう、こっちも聞く耳ねぇし!」
対して千冬と相対したのも、やはりW。
翔太郎は翼の生えた少女の考えなしなお願いに当惑しつつも、一先ず千冬を抑えにかかる。
千冬はそんなWと鍔迫り合いながらも、バーサーカーへと追い縋ろうとする。
「翔太郎、グリードが!」
「わかってる! けど千冬さんをこのままほっとく事だって出来ねえだろ!」
その間に逃げ出そうとするアンクを見咎めて、フィリップは翔太郎に声を掛ける。
だがアンクを追いかけるという事は、逆に千冬を自由にしてしまう事になる。
今の千冬は文字通り何をするか判らない状態だ。一人にしておく事は出来ない。
そう思い悩むWに、唯一自由だった人物が声を掛けた。
「翔太郎さん、フィリップさん、行って下さい! 千冬さんは俺が何とかします!」
「けどユウスケ! お前もうメダルが――!」
「俺なら大丈夫です! 信じて下さい!」
「ユウスケ、おまえ………」
そう言って懇願するユウスケに、翔太郎は彼の覚悟を感じた。
故に翔太郎は、千冬を弾き飛ばして距離を取ると、青のままアンクへと身体を向けた。
それはつまり、千冬をユウスケに任せたという事の意志表明に他ならない。
171
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:50:55 ID:MetolHdY
「……わかった。千冬さんはお前に任せたぜ、ユウスケ」
「いいのかい、翔太郎?」
「ああ。ユウスケなら、千冬さんを止められるさ」
「……! ありがとうございます!」
感謝を述べるユウスケの声を背に、Wはアンクの元へと駆け出す。
それを好機と千冬はバーサーカーへと駆け出すが、今度はユウスケが彼女に立ち塞がる。
その様子を見届ける事なく、それほども間もなくWはアンクと相対した。
「と言う訳で、あんたの相手は俺達だ。
どうもあんたはグリードらしいし、やましい事がないんなら大人しくしていてもらおうか」
翼の生えた少女と黒い騎士は、相手を弾き飛ばすだけの奇妙な攻防を繰り広げている。
あの少女の様子からして、おそらく最初はこのグリードだけが標的だったのだろう。
その理由までは分からないが、千冬を助けた事から、彼女は少なくとも悪人ではないと思う。
それが翔太郎が、正体のわからぬ少女のお願いを聞いた理由だった。
「それはイヤだな。僕はすぐに逃げさせてもらうよ」
そしてアンクも、当然やましい事はあるので大人しくするつもりはなかった。
バーサーカーから受けたダメージは大きいが、W程度相手に負けるつもりはない。
むしろ彼等を倒す事によって、失ったセルメダルを回収しようと考えた。
「そんじゃ、力尽くでも大人しくしてもらおうか」
「出来ると思っているの? 君たちが僕に勝つことが。
それと、彼に彼女を止める事が」
「ああ、もちろん思ってるぜ。あいつなら出来るってな」
「へぇ。それじゃあ、やって見せてよ!」
アンクはそう言うと、Wへと炎弾を放つ。
それをWはメタルシャフトで打ち払い、メモリを換装する。
《――LUNA/TRIGGER――》
相手は黒い騎士と一緒に空から落ちてきた。そこから飛行能力も有すると推測できる。
加えて言えば、相手は殺し合いを仕組んだグリードだ。千冬の時の様な加減は必要ない。
ならば遠距離攻撃が可能で、誘導性もあるルナトリガーがこの場での最適なメモリだろう。
「行くぜ、フィリップ」
「ああ、翔太郎」
Wは相棒と声を掛け合い、トリガーマグナムを構えてアンクへと立ち向かう。
千冬の事はユウスケに任せた。
彼ならば千冬を止める事が出来る筈だ。
ならば今は、自分達に出来る事をやるだけだ。
○ ○ ○
そうして小野寺ユウスケと織斑千冬は相対した。
ユウスケはただ真っ直ぐ千冬を見詰め、千冬は威嚇するようにユウスケを睨みつけている。
「………そこを退け、小野寺」
「退きません」
感情を押し殺した千冬の警告を、ユウスケは頭を振って拒絶する。
千冬が先程までとは違い、幾許か冷静に見える理由はユウスケには分からない。
だがこれが唯一の、千冬を止められる機会である事だけは理解出来た。
「もう止めて下さい、千冬さん。こんな事をしたって、何の意味もありません」
「意味ならある。私が優勝すれば、私の望みが叶うかもしれない、という意味がな」
「千冬さんの……望み?」
それは一体何なのか。
殺し合いを否定していた彼女が、一転して殺し合いに乗る様な望みが、いつ生まれたというのか。
思い返すのは、目を覚ましてから見た、あの千冬さんの無気力さ。
そして病院の一室で発見した、あまりにも無惨な死体とも呼べない死体。
それらから思い至るのは、「復讐」という二文字だ。
……だがそれならば、ユウスケ達を敵に回してまで殺し合いに乗る必要性はない。
その時まで復讐の刃を隠せばいいのだから、彼女が優勝を目指す理由には繋がらない。
172
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:51:32 ID:MetolHdY
「分からないか? 小野寺」
「っ………………」
「ならばヒントだ。井坂深紅郎の話を覚えているな」
「井坂深紅郎って………まさか!」
千冬は出来の悪い生徒を見る様にユウスケを見詰め、その名前を告げた。
それを聞いたユウスケは、翔太郎達から聞いた話を思い返し、そしてその答えに思い至った。
井坂深紅郎は、ユウスケ達がこの殺し合いに呼ばれてから最初に戦った人物だ。
そして同時に、この殺し合いに呼ばれる前に照井竜によって倒され、死んだはずの人間でもある。
「そうだ。私は優勝という戦果を以って真木清人と接触し、一夏の蘇生を望む」
「死者の蘇生だなんて、そんな事………。
それに、たとえ優勝したとしても、アイツが千冬さんの願いを叶えるとは思えません!」
「そうだな。だが、可能性はゼロではあるまい。そしてゼロでないなら、試す価値はある」
「それは………!」
死者の蘇生。
それは大切な人を失った人ならば、誰もが一度は望む願いだ。
ユウスケとてその例に漏れず、八代藍が死んだ時は望まずにはいられなかった。
しかし、その人として当たり前の願いは、現実の冷たさに容易く打ち砕かれるものだ。
そうして時の流れと共に、多くの人は諦めその死を受け入れていく。
だが織斑千冬は、その願いを叶えようとしているのだ。
有り得ないかもしれない、僅かな可能性に縋って。
その手を多くの血で汚す事になろうとも。
「けどそんな事、一夏さんが望むと思ってるんですか!?」
「間違いなく望まんだろうな。あれはそういうヤツだ」
「なら、どうして!」
その人が望まないと解っているのに、そんな事をしようとするのか。
その人が悲しむと解っていて、その手を汚そうとするのか。
「私が……そう望んだからだ。
喜ばれなくてもいい。恨まれてもいい。
一夏が生き返るのなら私は、悪魔になろうとも構わない!」
それが、織斑千冬の懐いた悲痛な決意だった。
大切な人を失う悲しみを知っているからこそ、ユウスケにはその決意を止める事が出来なかった。
千冬を止めるには、彼女自身が願いを諦めるか、力尽くで倒すしかないと、どうしようもない程に理解してしまった。
「戦え、小野寺!
私を止めたいのなら、誰かを死なせたくないのなら、変身して戦え!」
「千冬……さん」
千冬は西洋剣の切っ先をユウスケへと突き付ける。
その確かな殺意を受け、しかしユウスケは動かなかった。
それを見て千冬はある事を思い出し、ユウスケにある物を投げ渡す。
「そう言えば、貴様はメダルが尽きていたな。ならばこれを使え」
「これは、コアメダル……」
千冬から投げ渡された物。それは、クワガタを模した、緑のコアメダルだった。
「どうして……」
「貴様には井坂との戦いで助けて貰った恩があるからな。
そのメダルがあれば、貴様も変身出来るだろう。それで対等だ」
確かにセルメダルの代用となるコアメダルを使えば、ユウスケはクウガへと変身出来る。
そして変身さえしてしまえば、ただの人間である千冬を倒す事は、そう難しい事ではない。
だが仮面ライダーの力をただの人間である千冬がまともに受ければ、最悪の場合、千冬は死ぬ。
かと言って傷つけないようにすればWの二の舞となり、代用分を超えた瞬間に千冬に殺されるだろう。
つまりクウガに変身するという事は、織斑千冬を殺すという事に他ならないのだ。
173
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:52:07 ID:MetolHdY
「さぁ、変身しろ小野寺。
お前が誰かを守るというのなら、私は倒すべき悪だ。戦う義務がある。
それを躊躇っているようでは、この先で門矢士と相対したとしても、また一方的に弄られるだけだ」
「ッ――――――!」
そう。これは初めての事ではない。
門矢士の事も、忘れてはならないのだ。
士は今もどこかで戦っているのだろう。仮面ライダーを倒すために。
それは、ユウスケが士との戦いを躊躇った結果だ。
ユウスケが躊躇ったせいで、誰かが笑顔を失っているかもしれないのだ。
その過ちを繰り返したくないのであれば、千冬はここで倒さなければならない、敵だ。
「変身しろ、小野寺ユウスケ。
お前が本当に、誰かを守りたいと願うなら」
「俺は…………」
千冬の言う通りだ。
今彼女を倒さなければ、彼女はその願いの為に多くの人を殺すだろう。
それは見過ごせる事ではないし、彼女の為にだってならない。
ならばここで千冬を倒す事こそが、彼女を救うという事なのではないか?
そしてそれが、仮面ライダーとして成すべき事じゃないのか?
だとしたら、俺は――――
「さぁ―――変身して戦え! 仮面ライダークウガ!!」
「俺は――――ッ!」
一際強く、千冬が叫んだ。
彼女は己が命の取捨選択を、ユウスケに迫っている。
その声を前にして、ユウスケは歯を食い縛り、コアメダルを強く握り締め、
――――拒絶するように、遠くへと投げ捨てた。
「な――――」
ユウスケのその行動に、千冬は目を見開く。
彼の行動が、千冬には理解できなかった。
「……どういうつもりだ、小野寺」
「俺は……戦わない」
「なに?」
「俺は絶対に、千冬さんとは戦いません!」
その言葉に、今度は耳を疑った。
変身しなければ死ぬと解っていながら、それでも拒絶した彼の行動が、千冬には信じられなかった。
そんな千冬に対し、ユウスケは己の決意を叫んだ。
「この力は……仮面ライダークウガは、誰かの笑顔を守るためにあるんです!
決して、ただ力で敵を倒すためなんかじゃない!」
「――――――」
「千冬さん、本当にそれでいいんですか?
それで千冬さんも、一夏さんも、笑顔になる事が出来るんですか!?
俺は、なれません。ここで千冬さんを倒しても、笑顔になんてなれません」
それが、小野寺ユウスケの決意だった。
ただ倒すだけなら、ただ殺すだけなら、仮面ライダーでなくたって出来る。
けどこの力は、誰かを助ける為の、皆の笑顔を守る為の力なのだ。
「だから何を言われたって、絶対に戦いません」
ユウスケは、真っ直ぐに千冬を見つめてそう告げる。
決して変身しないと。決して、千冬とは戦わないと。
「―――怨むぞ、小野寺。
お前は私に、お前を殺せと言うのだな」
そして千冬は、小さくそう呟いた。
直後。千冬は一足で踏み込み、ユウスケへと剣を振り上げる。
その絶対的な死を前にしてユウスケは、それを受け入れる様に目を閉じた。
「姐さんを、信じてますから」
そう、確かな信頼を口にして――――
174
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:52:45 ID:MetolHdY
○ ○ ○
―――それから数分前。
バーサーカーを相手にして、アストレアは当然の様に苦戦していた。
「このッ! いい加減にしろー!」
千冬へと向けて突進するバーサーカーを捕え、反対方向へと投げ返す。
バーサーカーは即座に転進して突撃するが、それを盾で受け止め遮る。
「■■■■■■――――ッ!」
だが、その程度ではバーサーカーは止まらない。
バーサーカーは僅かに後退すると、アストレアを突き飛ばすように再び加速する。
その行動をバーサーカーの胴体を抱えて押し留めるが、力負けして徐々に押し返されてしまう。
かといって“これ以上”を行えば、その瞬間にバーサーカーはアストレアへと剣を向けるだろう。
そしてそうなれば、どちらかが倒れるまで戦うしかなくなってしまう。
それはアストレアでもわかる、避けるべき事態だ。
「ぐっ、ぬぅ……!」
「■■■■■■――――ッ!」
……初めの内は良かった。ただ感情のままに突き飛ばせば良かったからだ。
それは意図せずして害意を持たずに攻撃する結果となり、バーサーカーを空へと追いやる事が出来た。
アストレアの単純さは、その時は利点となって働いていた。
だが考える時間が出来てしまうと、その利点は欠点となってしまう。
この一撃は攻撃ではないのか? この行動は大丈夫なのか? と、思巡する余裕が出来てしまうからだ。
突発的な感情による行動ならともかく、意図した攻撃に害意を持たせない事は、その道のプロでも困難を極める行為だ。
ましてや咄嗟の意識の切り替えなど、自他共に認めるバカであるアストレアには望むべくもない。
対するバーサーカーの執った行動は、至極単純だった。
バーサーカーが標的にした千冬は、バーサーカーへと激しい敵意を抱いている。
そこでバーサーカーは、千冬一人に戦意を集中し、その他の一切を完全に意識の外に追いやった。
つまり “バーサーカーに害意を持つ千冬へと攻撃する”ために行動することで、令呪の呪縛を誤魔化したのだ。
彼が“倉”にある武具による掃射を行わないのは、千冬の近くにいる人物も一緒に“攻撃”してしまう事になるからだ。
その結果二人の攻防は、バーサーカーが千冬へと突撃し、アストレアがそれを押し留める形になっていた。
この戦いの決着は、アストレアが根負けしバーサーカーを取り逃がすが、千冬が戦意を失うかの二つしかない。
それ以外の決着があるとすれば、それはバーサーカーの現在のマスター、衛宮切嗣による制止だけだろう。
“お願い切嗣……早く来て―――!”
故にアストレアは、切嗣の到着を待ち望んだ。
切嗣さえ間に会えば、バーサーカーをどうにかできると信じて。
―――しかしその想いは、無情にも届く事はなかった。
「ッ―――あ、く! ……ッ、しまった!」
攻撃せずに抑え込まなければならないという精神的な疲労からか。
あるいは歴戦の騎士であるバーサーカーが、無意識で行った体捌きによるものか。
いずれにせよ、ほんの一瞬、アストレアはバランスを崩し、足を滑らしてしまった。
そしてそれだけで、バーサーカーには十分すぎる隙だった。
バーサーカーはアストレアを突き飛ばして疾走する。
その先では、千冬がユウスケへと迫り、剣を振り上げている。
アストレアも即座に体勢を立て直して追い縋るが、僅かに間に合わない。
「ダメェ――――――ッッ!!!!」
そのあまりにも遠い距離を前に、アストレアはただ、叫ぶ事しか出来なかった。
175
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:53:23 ID:MetolHdY
――――その光景を、彼らもまた同様に目撃していた。
「翔太郎!」
「わかってるって!」
アンクとの戦いの最中、偶然捕らえた状況にフィリップが声を上げる。
翔太郎もすぐに理解してアンクとの戦いを中断し、トリガーマグナムを別方向へと向ける。
その銃口の先には、アストレアを抜き去り、千冬へと迫るバーサーカーの姿がある。
千冬には今、彼女を止める為に、ユウスケが一対一で向き合っている。
そこに余計な邪魔を入れる訳にはいかないのだ。
だが。
「面白くなりそうなんだから、邪魔しないでよ」
それを、アンクが炎弾を放つことで妨害する。
その結果、Wは引き金を引く間もなく、炎弾に弾き飛ばされる。
「グァッ! テメェ―――ッ!」
その事に翔太郎が怒りの声を上げるが、今はそれよりもと体を起こす。
だが、顔を上げ視界に捉えたモノは、ユウスケに向けて千冬が剣を振り上げる光景だった。
「そんな……まさか!」
フィリップがその結果に言葉を失う。
「はは! そのまさかだよ!」
アンクがその結末に嘲笑を上げる
千冬が剣を振り下ろし、ユウスケを殺すまでは一瞬。
バーサーカーが“倉”から剣を取り出し、千冬を殺すまでは一秒。
千冬がユウスケを殺害し、直後に千冬も殺される。
それがこの光景から予測できる、絶望的な結末だった。
「ユウスケェ――――ッ!!」
そのもはや不可避となった未来を前に、翔太郎はただ、叫ぶ事しか出来なかった。
176
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:54:37 ID:MetolHdY
○ ○ ○
「姐さんを、信じてますから」
その言葉を最後に、小野寺ユウスケは静かに目を閉じた。
目の前で、織斑千冬が凶刃を振り上げていたにも拘らず。
それは決して、自分は殺されないと確信していた訳でも、諦めて死を受け入れた訳でもない。
ただ、信じたのだ。
根拠もなにもなく、想いのままに。
今にも自分を殺そうとする、織斑千冬を信じた。
“相手が何をしようとも、その上で信じ続けられるのなら――――”
ユウスケがそうする事が出来たのは、フィリップのその言葉があったからだ。
ただ信じるのではなく、信じようとする。その決意を知ったからこそ、千冬を信じる事が出来た。
そうして――――
いつまでも訪れぬ死に、ゆっくりと瞼を開ける。
ユウスケに死を齎すはずの凶刃は、彼の身体を切り裂く寸前で止まっている。
それは、彼が剣を防いだ訳でも、誰かからの妨害があった訳でもない。
ただ千冬の意志によってのみ、押し止められていた。
「………………千冬さん」
少し躊躇い、彼女の名を呼び掛けた。
応えはない。千冬は、剣を押し止めたままの状態で俯いている。
その胸中に、いかなる感情を懐いているかなど、ユウスケには知る由もない。
だからユウスケは、千冬の言葉をただ待った。
そうして、彼には永遠の様にも感じられた、実際には十秒にも満たない時間を経た時、
「………一夏は――弟は私にとって、掛け替えのない、ただ一人の家族だった」
そう、震える声で口にした。
その日々は、今でも鮮明に思い出すことが出来る。
幼い頃、一夏と共に両親に捨てられた。
その時に誓った。一夏のことは、自分の力のみで守って見せると。
その想いだけを胸に、ずっと二人で生きてきた。ずっと、一人で守ってきた。
けれど、子供だけで生き抜けるほど、世間は優しくなんかない。
守ってくれる親のいない生活は、ただ生きていく事さえ辛く、苦しかった。
それでも、立った一人の家族を守るために、必死に生き抜いてきた。
何度挫けそうに、諦めそうになっても、その度に立ち上がった。
私にとって一夏は、それほどに大切な存在だった。
だから一夏がISについて知る事を、徹底的に禁じた。
私とISの開発者である篠ノ之束は、小学校以来の旧友だ。
ISの技術を欲しがる連中が彼の存在を知ったら、間違いなく利用されるだろう。
その可能性を少しでも減らすために、そもそもISに近付けない事にしたのだ。
だが、それでも甘い考えだったらしい。
第二回モンド・グロッソの開催中、一夏が誘拐された。
それを知った私は、迷うことなく大会を投げ出して一夏を助け出した。
その代価は、情報を提供したドイツ軍に、一年間教官として着任する事だった。
一夏のいない日々は寂しかったが、鍛えがいのある部下と、一夏との思い出を糧にすごして来れた。
着任期間が過ぎた後も、一夏の待つ家にはあまり帰らなかった。
心のどこかに、守れなかったという、後ろめたさがあったのだろう。
それでも家に帰り、一夏と共にいた穏やかな時間は、何よりの至福だった。
そうしてどのような思惑があったのか。
そもそも誰かの思惑自体があったのか。
とにかく、一夏がIS学園に通う事となった。
それも、よりにもよって世界で唯一の男のIS操縦者として。
177
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:55:29 ID:MetolHdY
その事に最初は苦々しい思いをしたが、すぐに思い直した。
IS学園には、いかなる国家や組織であろうと、学園の関係者に対して一切の干渉が許されないという国際規約がある。
この学園に在籍している限りは、私の教師としての権限が許される限り、直接守る事が出来るからだ。
それにその範囲を超えたとしても、いざという時は全てを振り切って守るつもりでもいた。
だから教師として許される範囲で、一夏を鍛え、助言を与えてきた。
代わりに私的な時間は短くなったが、傍にいられることは嬉しかった。
だからそれは、とても幸せな日々だった。
だから一刻も早く、一夏と合流したかった。
一目でもいいから無事な姿を見て、安心したかった。
全てが元通りとまではいかなくても、あの日常に帰りたかった。
それなのに――――
「私は一夏を守ると誓った。
例え何が相手でも、この身を盾にしてでも、守り切って見せると。
その為なら、悪魔になっても構わなかった。一夏に嫌われても、それでも良かった」
千冬が、ゆっくりと顔を上げる。
その表情は、今にも溢れそうな涙を堪え、歪んでいた。
その姿には、ユウスケが見た凛とした覇気はなく、まるで独り泣き崩れる少女のようだった。
「けれど、お前は一夏に似ていた。一夏の様に、誰かを守るために、勝てぬと解っている相手に立ち向かっていった」
千冬が殺し合いに乗り、剣を執ったのは、全て一夏が理由だった。
だからこそ、少しでも一夏の面影を重ねていたユウスケを、千冬は無視する事が出来なかった。
彼女自身もそうなる事は予測できていた。
だからこそ感情を凍らせ、言葉を封じ、誰かを殺す事によって覚悟を決めようとした。
それが崩されたのは、黒い騎士が現れたからだった。
弟の愛機が見知らぬ他人に扱われるのを見て、頭に血が上らないはずがなかった。
それでもうダメだった。
必死に凍らせた感情が溶けたまま、弟の面影を残すユウスケと相対する事になった。
千冬がユウスケとの会話に応じたのはそのためだ。
もし感情を凍らしたまま相対していれば、千冬は即座に逃げ出して、他の誰かを殺すことで覚悟を決めただろう。
「お前になら、良かった。お前になら殺されてもいいと、そう思った。
それなのにお前は、戦うことを拒絶した………ッ」
それが、千冬がユウスケにコアメダルを渡した理由。
せめて対等であればと、ユウスケを一方的に殺すことを嫌ったのだ。
対等でさえあれば、あるいは戦いを理由にユウスケを殺せたかもしれなかった。
けれどそうはならなかった。
ユウスケは戦いを拒絶し、千冬は無抵抗な彼を殺さなければならなかった。
そしてそれを成す事が、千冬には出来なかった。
「私に一夏(お前)を、殺せるはずがないだろう――――ッッ!!!!」
千冬は剣を取り落とし、両膝を突いて力無く崩れ落ちた。
彼女の手が血に汚れる事はなく、誰かが死ぬ事もなく、ただ傷跡だけを残して。
織斑千冬の懐いた、たった一人の家族を蘇らせるという願いが、当たり前の様に潰えただけだった。
――――それがこの、戦いにすらならなかった戦いの結末だった。
千冬は涙を零さず、声も漏らさずに泣き崩れている。
そんな彼女に掛ける言葉を、ユウスケは見つけられなかった。
「――――――――」
同じように、大切な人を亡くしたからこそ解る。
今の彼女に対して安易な慰めをしても、より傷つける結果にしかならない。
ましてや「気持ちはわかる」などとは、決して口にしてはならない言葉だ。
それでも、放っておくことは出来なかった。
彼女が悲しむ姿を、見ていたくはなかった。
勝手な願望だとわかっていても、彼女に笑って欲しかった。
「千冬さん………俺は――――」
だから必死に探しだして、ようやく紡いだ言葉は、
178
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:55:59 ID:MetolHdY
「あ〜あ。つまんない」
くだらない三文劇を見た感想の様な言葉に遮られた。
思わず声の聞こえた方へと振り返れば、そこには赤いグリードの姿があった。
○ ○ ○
それは、避け得ぬはずの結末を前に、叫び声を上げるしかなかった、直後のことだった。
「ッ――――!」
千冬の剣が止まると同時に、令呪の呪縛によって強制的にバーサーカーの動きも止まった。
それを見たアストレアは全速力でバーサーカーへと体当たりし、二人から引き離して押さえ込む。
令呪で縛られていたバーサーカーにそれに対抗する術はなく、あっけなく地面へと突っ伏すこととなった。
「良かった……!」
「おっしゃあ! 心配したぜユウスケ!」
Wもその一連の出来事に、喝采の声を上げる。
さすがにあの瞬間はダメだったのかと諦めも過ぎった。
しかし千冬の剣が押し止められたのを見て、やはりユウスケに任せて良かったと思った。
これで全てが解決したわけではないが、それでも喜ばずに入られなかった。
だがその結末に、不服を漏らすものが一人だけいた。
「あ〜あ。つまんない」
その声に振り返れば、先程までWと戦っていたアンクが、子供のように地面を蹴っていた。
彼は期待ハズレとでも言いたげな様子で、その言葉通りにつまらなそうにしている。
「おい。そりゃどういう意味だ」
「どうって、そのままの意味だけど?
せっかく先回りをしてセルメダルを使ってまで嗾けたのに、結局誰も殺せずに終わるんだもん」
「先回りして、嗾ける……?」
それは一体どういう意味なのか、という疑問が、思わず口を衝いて出る。
その様子にアンクは、いたずらが成功した子供のように笑った。
アンクはそのまま一本のガイアメモリを取り出した。
「わからない? いいよ、教えてあげる」
《――DUMMY――》
そのガイアウィスパーと共に、アンクの体が一瞬ドーパントになり、すぐに別の人物へと成り代わる。
その幼さを残す身体、腰まで届く銀髪、左眼を隠す眼帯は、紛れもなくラウラ・ボーデヴィッヒの物だった。
その姿を見て、千冬は驚愕に目を見開いた。
「ボーデ……ヴィッヒ? ――まさか!」
「ええ、その通りです教官。病院にいたのは私です。
ですが、あなたには失望しましたよ。バーサーカーを相手にしたのであればまだしも、無抵抗の人間一人殺せないとは。
これではアルファーに期待するしかありませんね」
「アルファーって……あんた、イカロス先輩に何をしたんですか!?」
「何をなどと、決まっているじゃないか、アストレア」
「ッッ――――――! お前……!」
アンクがラウラ・ボーデヴィッヒから、今度は桜井智樹へと姿を変えながらそう告げる。
その言葉に、アストレアはバーサーカーを抑えるのも忘れて激昂し立ち上がった。
だか少しでも情報を得るために、フィリップがアストレアを遮って疑問を投げかける。
179
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:56:30 ID:MetolHdY
「二つほど質問がある。
一つ目は、君たちは何故こんな殺し合いを始めた? 真木清人は何を企んでいる?」
「さぁね。僕たちはただ、協力して欲しいって言われただけだからね。ドクターが何を考えているかなんて知らないよ」
「そうか。では二つ目だ。
君は何故わざわざダミーの事を僕たちにを教えたんだ? 隠しておいた方が間違いなく有利だというのに」
「ああ、それはね、この状況じゃあ君たちに出し惜しみして逃げ切ることは難しいし、何より」
アンクはそこで言葉を切ると、アストレアと千冬を見下すように眺める。
そう。今この状況において、アンクは絶対の窮地にいる。
ほぼ無傷のエンジェロイドに仮面ライダー。場合によってはバーサーカーも敵となる。
単純な戦闘能力では、アンクには覆し得ない戦力差だ。出し惜しみをする余裕などあるはずがない。
アイリスフィールに“偽装”してのバーサーカーの引き入れの失敗。
そしてラウラに“偽装”しての千冬の復讐鬼化も失敗。
この上出し惜しみする余裕もないとなれば、
「つまらないじゃないか。それくらいのドッキリがないと」
せめてこれくらいの喜劇がないと割に合わない。
そう、本物の桜井智樹には有り得ない、歪んだ笑い顔を浮かべてそう言った。
実際その思惑通りに、千冬は悲しみに沈んでいたはずの感情を混乱させ、アストレアは怒りを露にしている。
この状況が終われば、千冬はともかく、アストレアはイカロスを捜し求めるだろう。
そしてアストレアとイカロスが遭遇した時、仲間同士で殺しあうことになるのだ。
アンクがダミーによる“偽装”を明かしたのは、そういう思惑もあってのことだった。
問題は、この絶体絶命の状況をどう乗り切るかだ。
たとえ思惑通りに進行しても、自分が倒されてしまっては意味がないのだから。
故にアンクは、もう一つの思惑も同時に進行させていた。
そしてその思惑通りに、事は進み始めていた。
「ふざけるなこのやろ――――ッッ!!」
「■■■■■■■■――――ッ!」
怒りを抑えきれなくなり、アストレアがアンクへと飛び上がる。
それに呼応するようにバーサーカーも方向を上げ、挟み討つようにアンクへと襲い掛かる。
「その人は、お前なんかがマネしていい人じゃない……!」
アンクが“偽装”した桜井智樹の浮かべた笑い顔。
それはアストレアにとって、思い出を踏み躙られたに等しかった。
ましてや相手は、その顔でイカロスまで利用したのだ。許せるはずもない。
「その人の顔で……その人の声で喋るな……!
お前なんか、真っ二つにしてやる!!」
全速力で飛翔し、ほとんど一瞬でアンクへと迫る。
桜井智樹に“偽装”したアンクに、振り上げたクリュサオルを防ぐ力はない。
仮にこの一撃を避けたとしても、すぐにバーサーカーの追撃が入る。
「お前なんか――――ッッ!!」
極光の剣が振り下ろされる。
まともに受ければ、一撃で死に至りかねない一撃。
だというのに、アンクは笑い顔を崩さず、再びガイアメモリを取り出し、
《――ZONE――》
「へ? ――――アウッ!?」
次の瞬間には、アストレアの眼前からアンクは消え、代わりにバーサーカーが一瞬で接近していた。
全速力を出していたアストレアには、何をどうすることも出来ずに、バーサーカーと激突することとなった。
その直後、今度はどこからか現れた鎖によって、バーサーカー諸共に拘束された。
「いったい、なにがおきたの……?」
何が起こったのか、まったく理解できなかった。
しかも鎖に拘束され、動くことも出来ない。
せめて消えたアンクだけでも探そうと、唯一自由な首を巡らせる。
するとそこには、ピラミッドのような形状から、赤いグリードへと戻ったアンクの姿があった。
180
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:57:04 ID:MetolHdY
「ふう、上手くいった。君がバカで助かったよ」
そう言ってアンクは、自らの策の成功を喜んだ。
その手には、Wの持つものと同じ形をしたガイアメモリ、『T2ゾーン』が握られていた。
それを見たフィリップは、驚きに声を上げる。
「まさか、ガイアメモリを二本持っていたなんて! それもT2を……!」
「だれも一本しか持ってないなんて言ってないでしょ?」
まずダミーで桜井智樹に“偽装”し、アストレアを挑発する。
次に挑発に乗って突っ込んできたアストレアを、ゾーンによる転移でバーサーカーのところへ跳ばす。
最後に、神をも拘束する対神宝具“天の鎖”によって、アストレアとバーサーカーを纏めて封じる。
それがアンクの考えた策であり、ダミーの存在を明かした、もう一つの理由だった。
彼が最初にバーサーカーから逃げていた時に“天の鎖”を使わなかったのは、制限からか、一度に拘束できる人数は基本的に一人だけだからだ。
あの状況下では、バーサーカーを拘束したところで、すぐにアストレアに開放されるだけだった。
しかし、ある一定の条件化でならば、二人以上拘束できるのだ。すなわち、複数の対象が密着している状態だ。
つまりは、拘束対象と定めた一人に巻き込む形でのみ、複数人数を拘束できるのだ。
「これで戦えるのは、もう君たちだけだね」
「ッ――――――!」
最大戦力の二人が戦闘不能となった今、まともに戦えるのはWだけとなった。
千冬は戦意を喪失し、ユウスケはセルメダルの残量がない。
そしてアンクにとって、Wは敵にはなりえなかった。
その理由が、これだ。
《――DUMMY――》
ダミーのガイアウィスパーと共に、アンクの姿が変わる。
現れたのは、黒いレザージャケットに、青いメッシュの入った髪の青年。
かつて風都に絶望を齎した悪魔。生ける死者の傭兵。
「大道……克己ッ!」
「マジかよ……ッ!」
彼らはダミーの能力を知るが故に、アンクの狙いを理解したのだ。
青年はそれを嘲笑うかのように右手に握られたガイアメモリを、腰のロストドライバーへと挿入する。
「変身」
《――ETERNAL――》
そうして表れる、白い装甲に黒いマントを纏った、悪の仮面ライダーエターナル。
その姿を見た二人は、己が敗北を予感する。
しかし、だからと言って諦める訳にはいかない。
「まずい! 翔太郎!」
「わかってるって!」
Wはエターナルが動くよりも早く、トリガーマグナムの引き金を引く。
だが妨害のために放った光弾はエターナルローブによって防がれ、エターナルへと届くことはなかった。
アンクは見せ付けるようにメモリをエターナルエッジへと挿入し、
「さぁ、地獄を楽しみな」
《――ETERNAL・MAXIMUM DRIVE――》
発動されるエターナルのマキシマムドライブ。
エターナルのマキシマムドライブには、T2以前のガイアメモリを停止させる力がある。
そして今のWに、その力に抗う術はなかった。
「がぁッ――――!」
「ぐぅッ…………!」
Wの持つガイアメモリがその機能を失い、強制的に変身が解除される。
それにより翔太郎は地面に倒れ、フィリップの意識は彼の肉体に送還される。
「くそぉ……!」
「このままでは……!」
181
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:57:45 ID:MetolHdY
アストレアとバーサーカーは拘束され、身動きが取れない。
千冬は戦意を喪失し、ユウスケにはセルメダルが残っていない。
Wが戦えなくなった今、アンクと戦えるものは誰もいなくなってしまった。
その絶望的な状況を前に、翔太郎とフィリップが悔しさのあまりに声を上げる。
ただの人間に、真正面から仮面ライダーに勝つことはほとんど不可能だ。
ましてや相手がエターナルともなれば、凌ぐことさえ難しい。
「これで終わりだ。
お前たちには、俺が勝ち残るための糧になってもらう」
そう言ってエターナルへと変身したアンクは、翔太郎たちの下へと近づく。
先程とは一転して、今度は翔太郎たちが絶体絶命となる。
それでも諦めまいと、翔太郎は立ち上がろうとする。
だがそれよりも早く、エターナルと相対する人影があった。
「……どういうつもりだ?」
「お前……!」
エターナルは思わず歩みを止め、目の前の青年を睨む。
そこには小野寺ユウスケが、その背にいる者全てを守るように立ちはだかっていた。
○ ○ ○
バーサーカーと一纏めに拘束されたアストレアは、鎖を引き千切ろうと力を籠める。
だが全身に絡む鎖はビクともせず、彼女の息を切らすだけに終わった。
「か……硬い………」
“天の鎖”は、本来神を律する為のものだ。その真価は、神性をもつ存在を拘束した時にこそ発揮される。
だがそうでない場合、“天の鎖”はただの頑丈な鎖となる。しかし、それでも宝具であることに変わりはない。
天の鎖はその真価を発揮せずとも、アストレアを拘束する分には十分な強度を有していたのだ。
あるいはバーサーカーならば引きちぎる事が出来たかもしれない。だがそこでバーサーカーに掛けられた令呪が枷となっていた。
バーサーカーが鎖を引きちぎろうとすれば、どうしてもアストレアへの拘束が強くなる。
それが“害意のない者への攻撃”と判断され、バーサーカーは動くことが出来ずにいたのだ。
結果、彼女たちは今なお拘束されたまま、何も出来ないまま事の成り行きを見守る事しかできなかった。
ユウスケがその覚悟を決めたのは、そんな彼女たちを見たからでもあった。
戦える者のいない状況。決して勝てないだろう強敵。――――守りたいと願う人。
投げ捨てたコアメダルを探そうにも、Wが敗れた今、探している余裕はない。
そんな状況を前にして、ユウスケは迷うことなく立ち上がった。
それが、彼の仮面ライダーとしての覚悟だったからだ。
「小野寺……?」
そんなユウスケに、千冬が声をかける。
今の千冬は、懐いた願いが破れたことと、彼女の教え子に扮したアンクによって完全に戦意を失っている。
彼女の助けがあれば心強いが、それは望めないだろう。
それに何より、彼女を危険に晒したくなかった。
そうしてユウスケは一人、エターナルへと立ち塞がった。
そのあまりに無謀な行動に、アンクは思わず眉を顰め、翔太郎とフィリップが声を荒げる。
「それは何の冗談だ? 小野寺ユウスケ」
「無茶は止めるんだ! 生身で勝てる相手じゃない!」
「コイツは俺とフィリップでなんとかするから、お前は千冬さんを連れて逃げろ!」
二人の制止の声に、ユウスケは思わず笑った。
しかし、変身出来ないのは彼らとて同じはずだ。彼らにだって勝てる道理はない。
それなのに、自分達が何とかすると言っているのだから、矛盾している。
けどそれなら、自分が囮になってもいい筈だ。
「逃げません。翔太郎さん達こそ逃げてください」
「馬鹿言うな! そんな事できる訳ねぇだろ!」
「俺もですよ。翔太郎さん達を放って逃げることなんて出来ません」
「な――――!」
182
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:58:17 ID:MetolHdY
翔太郎が言葉を途切れさせると同時に、より前へと歩いてエターナルと相対する。
変身出来ない今、自身に勝機が無い事は当然彼も理解している。
それでも立ち向かうのは、守りたい人がいるからだ。
だからユウスケは、一切の躊躇いを見せずにエターナルと挑んだ。
「お前は……ここで倒す」
「出来ると思っているのか? 変身出来ないお前に」
「出来るかどうかじゃない。やらなくちゃいけないんだ!」
ユウスケは叫ぶと同時に勢い良く踏み出し、エターナルへと生身の拳を振り被る。
対するエターナルは、当然の様に拳を受け止め、ユウスケに膝を打ち込む。
「グフッ………、っく―――おッ!」
腹部に受けた一撃にあっさりと蹴り飛ばされ、強い吐き気を覚えながらも立ち上がる。
それを見たエターナルは、ユウスケの覚悟を悟って軽く鼻を鳴らす。
「どうやら、本気らしいな。だったら遊んでやるよ」
「ッア――――!」
一息に迫ってきたエターナルへと、ユウスケは苦し紛れのカウンターを繰り出す。
そんな一撃がエターナルに通用するはずもなく、反撃の拳は容易く掻い潜られ、その胸部にショルダータックルを受けた。
「、ァ…………ッ」
その衝撃に、一瞬呼吸が止まった。
そのまま再び弾き飛ばされ、地面に落ちた衝撃で息を吹き返す。
咳き込みながらも、呼吸を整えて立ち上がる。
「ハア――――!」
「そら。もう一度だ!」
エターナルへと再び拳を振り抜くが、あっさりと受け流され転ばされる。
即座に立ち上がり蹴りを入れるが、受け止められ、そのまま脚を掴まれ投げ飛ばされる。
地面に打ち付けられる痛みを噛み殺し、繰り返し立ち上がってエターナルへと殴りかかる。
「オオ………ッ!」
「無駄だ! その程度じゃ、暇つぶしにも――ッ!?」
「俺を忘れるなっつうの!」
ユウスケの一撃に対応しようとしたエターナルを、翔太郎が横合いから蹴り飛ばす。
大したダメージにはならないが、それでもエターナルはバランスを崩す。
そこを咄嗟のコンビネーションで、二人で合わせて蹴り飛ばす。
「翔太郎さん!」
「ったく、お前も意外に頑固だな。しゃーねぇから、二人で時間を稼ぐぞ。
フィリップはあいつらを頼む!」
「わかった。けど翔太郎も油断しないようにね。相手はあのエターナルだ」
「油断する余裕なんてねぇっての」
翔太郎の指示を受け、フィリップはアストレア達の所へと走る。
二人でエターナルを押し止めている間に、彼女達を解放するつもりなのだ。
たとえWに変身できずとも、アストレア達さえ開放できれば勝機はあるはずだ。
だが、エターナルに“偽装”するアンクは、慌てることなくユウスケたちと向き合った。
「無駄なことを。今のお前たちでは決して俺には勝てない。永遠にな」
「そんなこと、やってみなくちゃわかんねぇだろ! 行くぞユウスケ!」
「はい!」
アストレアとバーサーカーの相手となれば、エターナルとて苦戦は必至だろう。
だというのにアンクは余裕を崩さない。その自信は、一体どこから来るのか。
だが他に勝機はないと、翔太郎とユウスケはエターナルへと挑んでいった。
そうして――――
翔太郎とユウスケは、数分と持たずに地面に倒れ付していた。
彼らがいまだに生きている理由は、エターナルが相手を弄るように戦ったからだ。
そんな“無駄”な事をするのは、やはり本物の大道克己とは違うからだろう。
それでも生じる力の差を前に、翔太郎は悔しげ聞こえを漏らす。
「くそぉ……! フィリップ、まだかなのか………!」
「このままでは翔太郎たちが……!」
「こんの、解けろぉ……ッ!」
「ははは! 無駄な足掻きはよせ。“天の鎖”による拘束は、ただの人間に解けるようなものじゃない」
183
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:58:50 ID:MetolHdY
どうにか拘束を破ろうと足掻くフィリップたちを、アンクは嘲笑する。
その言葉の通り、アストレアたちを拘束する鎖は、フィリップがどれだけ引っ張ろうともビクともしない。
まるで鎖そのものが意思を持って彼女たちを拘束しているかのように。
それがアンクの自信の理由。拘束は決して解けないという確信だった。
「終わりだ。最初に言ったとおり、お前たちは俺の糧となるんだ」
アンクの“偽装”するエターナルが、死刑宣告を告げる。
それに抗う力が、翔太郎たちにはすでになかった。
だが。
「ユウスケ……」
「諦めの悪いやつだ。そんなにも早く死にたいのか?」
小野寺ユウスケが、再びエターナルの前に立ち塞がる。
彼の体はまだ、ウェザーから受けたダメージは癒えていない。
いかにエターナルが遊んでいたとはいえ、蓄積されたダメージは翔太郎以上だろう。
だというのに、満身創痍のその身体の、一体どこから立ち上がる力が湧き出てくるのか。
「もう逃げろ小野寺! 今のお前に敵う相手ではない!」
その様子を見かねた千冬が、ついに制止の声を叫ぶ。
彼女はユウスケが倒される姿を、見たくなどなかった。
だがユウスケは頭を振ってそれを拒否した。
「逃げません。千冬さんや翔太郎さん達を置いて逃げるなんて、出来ません」
「どうして……」
「千冬さんは、立ち向かったじゃないですか。
俺がウェザーにやられた時、勝てないことは解り切っていたのに」
一歩、エターナルへと踏み出す。
あの時に見た光景を、今度は自分自身で再現するように。
「だから俺、あの時に立ち上がれたんです。
あの時の千冬さんの背中を見たから、ウェザーに立ち向かえたんです」
もし彼女が立ち向かわなかったら、今頃俺はウェザーに殺されていただろう。
そうならず、ウェザーを撃退することが出来たのは、全て千冬のお陰だった。
「俺が一夏さんに似ているとしたら、きっとそのせいですよ。
一夏さんはずっと、そんな千冬さんの背中を見て育ったんです。
だから千冬さんの背中を見て立ち上がった俺が、一夏さんに似たのは当然です」
千冬の弟だという一夏のことを、ユウスケはまったく知らない。
それでも、イメージすることは出来る。彼が何を見て育ち、どんな思いを懐いて生きてきたかを想像できる。
けれど。
「けど俺は、決して一夏さんにはなれません。
千冬さんが姐さんに、八代警視になれないように」
「ッ………………!」
言って、エターナルへと挑みかかる。
振りかぶった拳は当然のように避わされ、お返しとばかりに殴り飛ばされる。
とっさに腕で受けたところで、防ぎきれるような一撃ではない。
「ッ……、それでも、千冬さんのお陰なんです!
千冬さんのお陰で、姐さんとの約束を思い出せたんです……!」
それでも立ち上がる。立ち上がって、勝てない敵へと立ち向かう。
だって、約束があったから。貫くと誓った、決意があったから。
「それに俺、クウガだから。だから、戦います」
だから、何度打ちのめされても立ち上がる。
生きている限り、意地でも相手に食らい付く。
守るべき人がいる限り、諦めるわけにはいかない。
その胸にあるのは、怒り。
人の心を利用し、踏みにじる外道に対する激情。
そして強く懐いた、誓い。
今は亡き人と交わし、守り抜くと誓った約束。
その手に握るのは、意志。
みんなの笑顔のために掲げた、誰かを守る拳。
「こんな奴らの為に、これ以上誰かの涙は見たくない! みんなに笑顔でいて欲しいんです!」
いつの間に見つけ出したのか、ユウスケの手には、彼が投げ捨てたコアメダルが握られていた。
それは偶然か、あるいは必然か。いずれにせよ、ユウスケは今、戦う力を手に入れた。
それに呼応するように、ユウスケの腹部に、赤い光を宿すアークルが現れる。
「だから見てて下さい! 俺の……変身!!」
そうしてユウスケは、炎の如き赤に包まれ、仮面ライダークウガへと変身した。
184
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 17:59:48 ID:MetolHdY
「いち……か?」
その背中に千冬は、自身の弟の姿を幻視した。
「ウオォリャア……ッ!」
クウガが拳を振り上げ、エターナルへと打ち抜く。
エターナルはその拳を受け流し、胴体を殴り飛ばす。
その一撃に弾き飛ばされるが、すぐに立ち上がって拳を構える。
変身前と比べ、ダメージは格段に少ない。
加えてコアメダルを使用した瞬間から、鞘による治癒も行われている。
……戦える。勝てるかまではわからないが、エターナルと戦うことが出来る。
「ふん。遊びは終わりだ!」
エターナルが始めてエターナルエッジを構える。それは即ち、彼の本気の表れに他ならない。
アンクは感じ取ったのだ。ユウスケが変身した瞬間から、戦いの流れが変わり始めていることに。
故に、少しでも早く、仮面ライダークウガを倒す必要があると判断したのだ。
「オリャアッ!」
クウガが飛び上がり、その拳を打ち下ろす。
エターナルはその一撃を半身になって避け、出来た隙にエターナルエッジを薙ぎ払う。
「フン……!」
そこから追撃に、払った勢いを利用して回し蹴りを叩き込む。
クウガは防ぐことも出来ずに、一期は強く蹴り飛ばされる。
「ガァ……ッ、くお……ッ!」
それでも立ち上がる。
多少のダメージは、聖剣の鞘の力ですぐに回復していく。
その分メダル――その代用分を消費して変身時間が減るのは困るが、それでも簡単に死ぬことはない。
「小野寺、お前……」
すぐ近くで、千冬さんの声が聞こえた。
どうやら彼女の傍に蹴り飛ばされたらしい。
なら丁度いいと、あの時言い損ねた言葉を口にした。
「千冬さん……俺にも、大事な人がいました。
俺はその人に褒めて貰いたくて、笑顔になって欲しくてクウガになりました。
その人が言ってくれたんです。笑顔のために戦えば、俺はもっと強くなれるって」
その言葉が、立ち上がる力をくれる。
その約束が、立ち向かう勇気をくれる。
その願いが、俺をもっと強くしてくれる。
「だから笑ってください、千冬さん。
俺に、千冬さんの笑顔を見せてください。
それまでは俺が、千冬さんを守って見せます……!」
地面に取り落とされたままの剣を取る。
エターナルの攻撃は強烈だ。このままではすぐに代用分がなくなってしまう。
ならば必要なのは鎧。あらゆる攻撃を寄せ付けぬ鉄壁の守り。
故に。
「―――超変身!」
アダマムの光が、赤から紫へと変わる。
それに伴いクウガの赤い身体が、銀色をした鋼の鎧を纏う。
更にその手に握った剣が、金の装飾に紫の刃を持つ大剣へと変形する。
クウガの持つ四つの形態の一つ、タイタンフォーム。
守りを主体としたこの形態は、俊敏性の代わりに高い防御力を誇る。
この形態であれば、エターナルの攻撃にも耐えることが出来るだろう。
「ハッ、それで何が変わる!」
一歩ずつ着実に近づいてくるクウガに、エターナルが飛び上がって拳を振り下ろす。
その一撃を敢えて防がず、受け止める。が、その威力に数歩分後ずさる。
しかし狙い通り殴り飛ばされる事はなく、ダメージも減少している。
大地を踏み締め、再度一歩、前へと踏み込む。
185
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 18:00:34 ID:MetolHdY
「チィッ―――!」
「ヅ………ッ!」
今度はエターナルエッジで切り払われる。
その斬撃は流石に防ぎきれず、鋼の鎧に切り傷が残る。
だが、クウガの装甲は肉体の延長。鞘の力によって、即座に修復される。
タイタンソードを両手に構え、更に一歩近づく。
「これならどうだ!」
エターナルエッジによる、捻じ切る様な突きが放たれる。
流石にそれを受ける訳にはいかず、タイタンソードで受け止める。
だがそこで終わらず、相手の一撃を受け流し、捌いてバランスを崩させる。
そしてようやく出来た隙へと、タイタンソードを薙ぎ払う。
「ハア――――ッ!」
「グオ………ッ!?」
一撃。エターナルへと、ようやく一撃を返す。
この機を逃す訳にはいかないと、一息に踏み込み、タイタンソードを振り抜く。
だがエターナルはその一撃をエターナルローブで捌き、追撃の一閃をエターナルエッジで受け止め、鍔迫り合う。
ここでタイタンフォームの弱点が露呈する。
俊敏さに劣るタイタンフォームでは、エターナルの速度に追いつけない。
一度でも距離を取られれば、この機は二度と訪れないだろう。
つまり、鍔迫り合いが解けた瞬間に一撃を叩き込まなければ、敗北が確定するのだ。
「オオオオオオ―――ッ!」
「グ、ヌウウウ………ッ!」
僅かでも攻めの利を得ようと、迫り合う腕に力を籠める。
単純な腕力ならば、クウガ・タイタンフォームとエターナルの腕力は互角だ。
ならば勝敗を決めるのは、意志の強さに他ならない。
そして今のユウスケの意志の強さに、戯れに戦っていたアンクが及ぶべくもなく。
「オオォオリャアァ――――ッッ!!」
「づおっ………ッ!?」
クウガはエターナルを押し切り、力尽くでその体勢を突き崩す。
その絶対の隙に、渾身の力を籠めてタイタンソードを薙ぎ払う。しかし――――
「なめる、なあ――――ッ!!」
エターナルは崩れた体制のまま、無理矢理に体を回転させる。
それにより舞い上がったエターナルローブがタイタンソードに絡みつき、強制的に剣筋をズラす。
そうやって一撃を凌いだエターナルは、そのまま回転に勢いを乗せ、クウガに空跳び回し蹴りを叩き込む。
その衝撃に、溜まらずクウガはたたらを踏んで後ずさる。
「グッ……! しまった……!」
不完全な体勢で放たれたその一撃に、大した威力は乗っていない。
だが、それによってエターナルとの距離が開いてしまった。
速度のない今のクウガに、エターナルに追い縋る事は出来ない。
鍔迫り合いの勝敗を分けたのは、力ではなく技。
アンクが“偽装”した大道克己の戦闘技術によって、辛くも勝利を勝ち取ったのだ。
――――だがそれは、この戦いの勝利を意味するものでは、決してない。
「ベルトを狙え! 小野寺ユウスケ!」
その声が響いたのは、クウガが追い縋ろうと駆け出し、それをさせまいとエターナルが後退しようとした、まさにその時だった。
ユウスケはその誰のものかも判らぬ指示に即座に従い、タイタンソードを腰溜めに構えて突進する。
《――SKULL・MAXIMUM DRIVE――》
それに合わせる様に響くガイアウィスパー。
直後に放たれた光弾はエターナルを正確に打ち抜き、その行動を阻害する。
その最後の好機を確かに捉え、タイタンソードの切っ先がエターナルのロストドライバーへと突き刺さる。
「グアァ………ッ!!」
その一撃でエターナルは弾き飛ばされ、地面を転げまわる。
同時にドライバーを破壊されたエターナルの変身も、強制的に解除される。
そして生身となったアンクが、大道克己の“偽装”を解きながら立ち上がろうとするが。
186
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 18:01:10 ID:MetolHdY
「動くな。そこまでだグリード」
「ッ…………!」
その背中に、銃口が突き付けられる。
いつの間にそこにいたのか、アンクには全く気付く事が出来なかった。
アンクの背後には、仮面ライダースカルがスカルマグナムを構えて佇んでいた。
その姿を見た翔太郎とフィリップは、思わず目を見開く。
スカルは彼等にとって、強い因縁のある仮面ライダーだからだ。
「スカル!? まさか、鳴海壮吉!?」
「いや、おやっさんじゃねぇ。あのスカルはソフト帽をしてねぇ」
「確かに。では一体誰が……」
アンクにマグナムを突き付けるスカルには、鳴海壮吉のトレードマークであるソフト帽がなかった。
では誰かという疑問が浮かび上がるが、その答えはすぐに与えられた。
「その声、切嗣でしょ!? 来るの遅いよ!」
「コメンゴメン、アストレア。ちょっと到着が遅れてね」
スカルの正体を察したアストレアの声に、スカルは頭部のみを変身解除して正体を明かす。
そして彼女の予測通り、その正体は衛宮切嗣だった。
拘束されたまま怒るアストレアに、切嗣は恐縮したように謝る。
その間もアンクに突き付けたスカルマグナムの銃口は、微塵も揺らいでいない。
「それに、正面切っての戦いは僕の流儀じゃなくてね。
だから遅れた分、必勝の機を狙わせてもらったよ」
切嗣が到着したのは、アンクがエターナルへと変身した、まさにその瞬間だった。
彼等の窮地を見てとった切嗣は、エターナルの能力を把握するために隠れ潜んだのだ。
そこにはエターナルが彼等を弄る様から、すぐに殺される事はないだろうと判断したのもある。
そしてこの上ない絶好のタイミングでアンク強襲し、その背中に銃口を突き付ける事に成功したのだ。
「さぁ、知っている事を全部吐いてもらおうか。さもなくば」
お前を殺すと、言外に告げる。
切嗣のその言葉に、一切の嘘はない。
彼はアンクが少しでも躊躇えば、その引き金を引くだろう。
だが、全てを吐いた所で、切嗣は引き金を引くだろうことも、アンクは予想していた。
故に――――
「殺されるのは嫌だね」
「く………ッ!」
アンクの背中から、前触れもなく極彩色の翼が現れる。
その翼は背後にいた切嗣へと強襲し、一瞬の隙を作りだす。
《――ZONE――》
その隙にゾーン・ドーパントへと変身し、その能力で自身を限界まで転移させて離脱する。
あるいは、切嗣がもう少し早く到着していれば、ゾーンの“転移”も含めた対処が出来ただろう。
だがアンクがゾーンメモリを持つことを知らなかった切嗣は、アンクを見失い逃してしまった。
代わりにアストレア達の元へと向き直れば、彼女達は“天の鎖”の拘束から脱していた。
おそらく、所有者がいなくなったことで力を失い、ただの鎖と同じになったのだろう。
つまり、この戦いは決着のつかないままに終わったのだ。
「………逃したか」
アンクを完全に見失った事を理解した切嗣は、そう呟いてスカルへの変身を解除する。
そうして今度は、ユウスケ達の方へと向き直った。
上手く、彼らの協力を得られる事を願いながら。
187
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 18:01:51 ID:MetolHdY
○ ○ ○
そうしてアンクは、切嗣達から完全に逃げ果せた。
彼は切嗣達に捕捉されていない事確認すると、変身を解除して人間態へと戻る。
実を言えば、アンクにはまだ戦う術は残っていた。
ダミーの能力は、その能力さえ使いこなせば、最強と言ってもいいメモリだ。
今回で言えば、切嗣には英雄王ギルガメッシュ。アストレアには空の女王イカロスという、桁違いの戦力を誇る人物の記憶がある。
それを再現してしまえば、切嗣達に勝ち目はない。
アンクがそれをしなかった理由は二つ。
一つは制限。メダル消費の制限は、ダミーで“偽装”した人物の能力にも適用される。
つまりダミーを使って戦う場合、本人と比べると一段階余計にメダルを消費する事になるのだ。
しかし、それはアンクにとって――いや、グリードにとっては問題にはなり辛い。
なぜならばグリードには、他の参加者にはない有利があるのだ。
それは即ち、彼等の肉体を構成するセルメダルと、五枚のコアメダル。合わせて七百枚相当のメダルだ。
もしグリードがその身を顧みずに戦えば、メダルや装備の充実していない今、参加者達が苦戦を強いられるのは間違いないだろう。
そしてもう一つの理由が、アンクが飽きたからだった。
アンクの思惑通り順調に進んでいた狂宴も、ユウスケの活躍で狂いだし、切嗣の乱入でケチがついた。
最強ともいえるダミーの能力にも、当然限界はある。
一つ目は、エターナルのマキシマムなど、完全に再現できない能力があることだ。
もしエターナルのマキシマムを完全再現すれば、ダミーメモリもその機能を失ってしまうからだ。
二つ目は、ダミーの能力の範囲は、あくまでも個人に限られることだ。
たとえサーヴァントのマスターに“偽装”しても、サーヴァントとの繋がりまでは再現できない。
故にアンクは、バーサーカーの令呪を欲したのだ。
そして三つ目は、ダミーの“偽装”によって発生した能力は、“偽装”が解けると同時に効力を失うことだ。
つまりあの時に戦おうとすれば、クウガとスカルに加え、Wまで相手にすることになってしまうのだ。
そして彼には、三人もの仮面ライダーを相手にする気などさらさらなかった。
悪行による愉悦の味を覚えた彼は、圧倒的暴力で蹂躙するなどという“つまらない事”は避けたかったのだ。
そうして今、アンクは次なる目的地へと足を進めていた。
その目的地とは、彼が“偽装”した桜井智樹の命令により、他の参加者を蹂躙しているはずのイカロスだ。
今回の戦いでアンクが消費したセルメダルは、実はダメージ分を除けば二十枚に満たない。
コアを一枚使用した事と、細かく変身を切り替えることで、シグマ算で増える消費量を抑えたのだ。
だがそれでも消費したことには変わらず、それを補充する目的があった。
そしてその手段は、イカロスの襲撃で弱っているはずの参加者たちを強襲することだ。
弱っていれば保有数こそ少ないだろうが、不意を突ければ少ない労力でメダルを得られるだろう。
それに上手くすれば、イカロスを探し出したアストレアとの、道化芝居も見られるかもしれない。
それを思うと、意識せずとも口の端が釣り上がってくる。
注意すべきはせいぜい二つ。
一つは暗躍を続けるためにも、正体をなるべくバラさないこと。
もう一つは、“欠けたボク”を見逃さないようにすることだ。
それらにさえ気をつければ、きっともっと楽しめるだろう。
「ああ、楽しみだなぁ………」
“欠けたボク”に会えるまでに、いったいどれだけの楽しみが待っているんだろう。
そんな子供のような高揚感を覚えながら、もう一人のアンクは偽りの街角を進んでいった。
188
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 18:02:27 ID:MetolHdY
【一日目-午後】
【D-2/商店街】
【アンク(ロスト)@仮面ライダーOOO】
【所属】赤・リーダー
【状態】ダメージ(中)、悪行に対する愉悦への目覚め(?)
【首輪】65枚(増加中):0枚
【コア】タカ:1、クジャク:2、コンドル:1/コンドル:1(一定時間使用不能
【装備】なし
【道具】基本支給品一式、ダミーメモリ@仮面ライダーW、T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1〜3(確認済み)
【思考・状況】
基本:赤陣営の勝利。“欠けたボク”を取り戻す。
0.次はどんな楽しみが待っているんだろう。
1.イカロスを追いかけ、一先ずメダルを回復させる。
2.その後“欠けたボク”に会いに行く。……どこに行ったのかな?
3.暗躍を続けるために、正体をバラさないよう気をつける。
4.“欠けたボク”と一つになりたい。
5.赤陣営が有利になるような展開に運んでいくのも忘れない。
6.イカロスの活躍に期待。
【備考】
※アンク吸収直前からの参戦。
※ダミーの“偽装”による再現には、限界があります。
※ガイアメモリを複数使用しました。どのような後遺症があるかは、後の書き手にお任せします。
【T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW】
イカロスに支給。
『地帯』の記憶を内包したT2ガイアメモリで、使用者をT2ゾーン・ドーパントへと変身させる。
空中を浮遊するピラミッド型のUFOのような姿をしており、任意の対象物を自由に他の場所へ転送する能力を持つ。
エターナルによるマキシマムドライブの発動時は、26個全てのT2ガイアメモリを集結させるが、このロワでは不明。
○ ○ ○
「――――検索を始めよう。
キーワードは『NEXT』、『エンジェロイド』、『IS』、そして『別の世界』だ。
“地球の本棚”にアクセスしたフィリップは、三つのキーワードから単語を検索する。
白い世界に存在した本棚はいずこかへと消え去り、幾つかの本が宙に残る。
残った本の内一冊を手に取り、その検索結果に首を傾げる。
「『第二魔法』……けど鍵が掛けられていて読めない。一体どういう意味だろう?
他には『DECADE』か。翔太郎、どういう意味か解るかい?」
「『DECADE』は仮面ライダーディケイドだな。確か、様々な世界を旅していたんだろ?」
「はい。けど俺達が旅をした世界には、必ずその世界の仮面ライダーがいました」
「でも私は仮面ライダーなんて、テレビの中でしか聞いた事ないよ? それに、『だいにまほう』ってなに?」
フィリップの検索結果に、四人が首を傾げる。
やはりキーワードが絞り切れていないのか、調べたい事の確信には届かない。
だが一人だけ、そのきっかけを知る物がいた。
「『第二魔法』――“僕の世界”に現存する、五つの魔法の内の一つだな」
「知っているのかい?」
「ああ。詳細は流石に知らないが、“並行世界の運営”とも呼ばれる、いわば“ifの世界(パラレルワールド)”を行き来するための魔法らしい」
「つまり僕たちは、仮面ライダーのいる世界だけではなく、様々な世界から寄せ集められたという訳か」
「そうだね。けど、それだけでは説明がつかない事もある。おそらくはあと一つ、『時間旅行』も関係している筈だ」
切嗣が思い返すのは、間桐雁夜やサーヴァントたちの事だ。
彼等は第四次聖杯戦争が終結した時点で、既に消滅している筈だ。
だがしかし、この殺し合いには三騎ものサーヴァントが呼び出されている。
雁夜の事も考えれば、彼等をただ再召喚した、という訳ではないだろう。
「だとしたら今は、他の参加者から情報を集めるべきかな?」
「それが妥当だろうね。ましてや僕たちはまだ、グリードや真木清人に関する情報を何も得ていない」
どれだけ参加者に関する情報を得ても、この殺し合いを打破できる情報がなければ意味がない。
そう告げる切嗣にフィリップも同意し、“地球の本棚”へのアクセスを終了する。
メダルも有限だ。次に検索をするとしたら、奴等に関する情報を得た時だろう。
189
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 18:03:12 ID:MetolHdY
「それにしても、“地球の本棚”か。魔術師(僕ら)で言う、“根源の渦”の様なものか?」
「“根源の渦”? それは一体何だい?」
「有り体に言えば、“真理”“究極の知識”のことだ。君の場合は、アカシックレコードと言った方が近いだろうね」
「確かによく似ている。もっとも、今の“地球の本棚”は制限が掛っていて、“究極の知識”とは呼べないけど」
「その事についてなんだが、制限が掛っているのは“地球の本棚”ではなく、おそらく君の方だと僕は思う。
そっちの方が、明らかに“細工”しやすいだろうからね」
「なるほど、確かにそのとおりだ。
だとすれば、僕に掛けられた制限を解除すれば」
「ああ。この首輪の解除方法も解るはずだ」
どうにかしてフィリップの制限を解除すれば、事は一気に進むだろう。
あとはどこから、あるいはどうやって制限を掛けているかを調べればいい。
そうやって切嗣とフィリップは、限られた情報から考察を広げる。
「おいユウスケ。あいつらが何言ってるか解るか?」
「いえ、全く解りません」
「『でぃけいど』ってなに? 食べもの?」
そんな二人を見て、翔太郎達は頭に疑問符を浮かべていた。
彼らが切嗣達の会話を真に理解する時は、きっと来ない。
情報交換も終わり、切嗣達はそれぞれの目的地へと向かう準備を進めていた。
その最中に切嗣は、翔太郎とユウスケに最後の確認をする。
「とても助かるけど、本当にいいのかい? 僕がこれを持っていって」
「ああ。フィリップがいる俺よりも、あんたが使った方が役に立つだろ。
俺にはこのメモリと、おやっさんの帽子だけで十分だ」
切嗣はスカルメモリとロストドライバー、“全て遠き理想郷(アヴァロン)”の三つを手にしていた。
対して翔太郎の手には、T2ジョーカーメモリと白いソフト帽がある。
T2ジョーカーメモリは、大桜の所でアストレアが拾った支給品の一つだ。
そしてスカルメモリとロストドライバー、そしてソフト帽は、間桐雁夜の支給品に三つセットで入っていた物だ。
Wのドライバーと類似していた事から、彼等と関連がある物なのだろうと開示したのだが、翔太郎はT2ジョーカーとソフト帽だけを受け取ったのだ。
「そうか、ありがとう。この礼は必ずするよ」
「気にすんなって。使いもしないのに受け取って、そのせいであんたを死なせちまったら、おやっさんに合わせる顔がねぇからな」
「そうですよ。それに俺も、アダマムのおかげで傷の治りは早いですし」
「つーわけだ。まあその宝具に関しては、ちょっと惜しい気もするけどよ。
なにせあれ程やられた傷が、もう完治してんだもんな」
「持ち主を不老不死にする、かのアーサー王の聖剣の鞘だからね。
その能力を完全には引き出せなくても、回復力は折り紙付きさ」
戦いが終わった後からずっと、翔太郎はアヴァロンによって傷を癒していた。
しかもコアメダルを用いて使用したため、彼のセルメダルは消費されていない。
なぜわざわざコアを使ったかと言えば、再使用までにかかる時間を測るためだ。
コアがどの程度の時間で回復するかを知っておく事は、能力が制限されている今の状況では重要な事だ。
「それじゃあ僕は、バーサーカーを連れて冬木市に向かう。
アストレアの事は頼んだよ」
「ああ、任せとけって。絶対にイカロスって子も止めてみせる」
既に話し合いをして、切嗣は冬木市に。翔太郎達はアストレアと共にイカロスを追う事が決まっていた。
翔太郎達が発見し、ワイルドタイガーを襲った女の子がイカロスである事は解っている。
そして彼女が、桜井智樹に成り済ましたアンクの命令で動いている事も。
切嗣としてはアストレアという戦力がいなくなるのは痛かった
だがイカロスの戦闘能力を聞いた限り、対抗出来るのはアストレアか、ISを使ったバーサーカーぐらいだろう。
そして白式は、織斑千冬の強い要望により彼女に返却している。
190
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 18:03:57 ID:MetolHdY
「けど、ユウスケ。本当に置いて行っていいのかい?」
「はい。俺はここで、千冬さんが立ち直るのを待ちます」
千冬はあれから、織斑一夏の亡き骸を埋葬した後、その場所でずっと佇んでいる。
今彼女が何を思ってそうしているかは、想像に難くない。
故に、彼女自身の力で立ち直るしか、彼女を救う方法はないのだ。
織斑一夏を殺した人物は、おそらくアンクの告げた「火野映司」ではないだろう。
飛び散った血液の乾き具合から、彼が殺されたのは殺し合いが始まってすぐだ。
それから今までの時間、アンクが病院でじっとしている理由はまずないからだ。
それに何より、切嗣達はそれ以降の時間に、白式を操縦する「織斑一夏」に遭遇している。
つまりは、その織斑一夏の偽物こそが、本物の織斑一夏を殺した人物だと予測できるのだ。
「そうか――わかった。なら動く時は、翔太郎達の所へ向かってくれ」
「わかりました。必ず向かいます」
「ああ、待ってるぜ。アストレア、そろそろ行くぞ」
「あ、すぐ行くから待ってて」
翔太郎はアストレアへと声を掛け、フィリップの待つダブルチェイサーの元へと向かって行った。
それを聞いたアストレアは、すぐに立ち上がって返事をする。
切嗣達が話し合っている時、アストレアはある物を見つけていた。
それは千冬が翔太郎に斬りかかった際に、投げ捨てたデイバックから零れ落ちた地の意志だった。
説明書もなく、あったとしても読めないアストレアはそれを自分のデイバックに放り込んで、翔太郎達のもとへと向かった。
「ごめんね、切嗣。私、協力するって言ったのに」
「気にしなくていいさ。イカロスを助ける方が大事だからね」
「ありがとう。それじゃあ切嗣、気を付けてね」
「アストレアも。必ず、また会おう。
何かあったら、衛宮邸に向かってくれ」
そう言って切嗣は、バーサーカーの運転するライドベンダーに乗り込み、走り去って行った。
その姿を見届けるアストレアに、フィリップが声を掛ける。
「さぁ、僕達も行こう。
イカロスを止めるなら、早い内に合流した方が良い」
「………うん」
その声に促され、アストレアもダブルチェイサーのサイドカーに乗り込む。
ちなみにフィリップは、翔太郎と二人乗りの形で乗り込んでいる。
「また会おう、小野寺ユウスケ」
「はい、必ず」
ダブルチェイサーが、切嗣達とは別方向に発進する。
その姿を見届けて、ユウスケは千冬の元へと歩いて行った。
191
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 18:04:32 ID:MetolHdY
【一日目-午後(もうすぐ夕方)】
【C-2/エリア北西】
【衛宮切嗣@Fate/Zero】
【所属】青
【状態】健康、ライドベンダー(バーサーカーの背後)に同乗中
【首輪】100枚:0枚
【装備】スカルメモリ+ロストドライバー@仮面ライダーW、アヴァロン@Fate/zero、軍用警棒@現実、スタンガン@現実
【道具】基本支給品(弁当なし)、{トンプソンセンター・コンテンダー+起源弾×12、天の鎖、スコープセット}@Fate/Zero、首輪(間桐雁夜)、ランダム支給品1〜4(切嗣+雁夜:切嗣の方には武器系はない)
【思考・状況】
基本:士郎が誓ってくれた約束に答えるため、今度こそ本当に正義の味方として人々を助ける。
1.偽物の冬木市に向かい調査する。
2.1と併行して“仲間”となる人物を探す。
3.何かあったら、衛宮邸に情報を残す。
4.無意味に戦うつもりはないが、危険人物は容赦しない。
5.バーサーカーの動向に気をつける。いざという時は、令呪を使う事も辞さない。
6.『ワイルドタイガー』のような、真木に反抗しようとしている者達の力となる。
7.謎の少年(織斑一夏に変身中のX)、雨生龍之介とキャスター、グリード達を警戒する。
8.セイバーと出会ったら……?
9.間桐雁夜への約束で、この殺し合いが終わったら桜ちゃんを助けにいく。
【備考】
※本編死亡後からの参戦です。
※『この世全ての悪』の影響による呪いは完治しており、聖杯戦争当時に纏っていた格好をしています。
※バーサーカー用の令呪:残り二画
※セイバー用の令呪:残り二画
※セイバー用の令呪で以下の命令を下しましたが、発動しませんでした。これがどのように影響するかは、後の書き手にお任せします。
・仲間を連れての、衛宮切嗣の下への召喚。
※この殺し合いに聖堂教会やシナプスが関わっており、その技術が使用させている可能性を考えました。
【バーサーカー@Fate/zero】
【所属】赤
【状態】健康、狂化、ライドベンダーを運転中
【首輪】80枚:0枚
【装備】王の財宝@Fate/zero
【道具】アロンダイト@Fate/zero(封印中)
【思考・状況】
基本:▅▆▆▆▅▆▇▇▇▂▅▅▆▇▇▅▆▆▅!!
2.令呪により、一応マスター(衛宮切嗣)に従う。
3.二度も戦いを邪魔されたことによる、アストレアへの怒り。
【備考】
※参加者を無差別的に襲撃します。
但し、セイバーを発見すると攻撃対象をセイバーに切り替えます。
※令呪による呪縛を受けました。下記は、その内容です。
・害意を持たぬ者への一切の攻撃を禁止する。
※ヴィマーナ(王の財宝)が大破しました。
【C-1/病院】
【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】健康
【首輪】0枚:0枚
【コア】クワガタ:1(一定時間使用不能)
【装備】シックスの剣@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】なし
【思考・状況】
基本:みんなの笑顔を守るために、真木を倒す。
1.千冬さんが立ち直るのを待つ。
2.仮面ライダークウガとして戦う。
3.井坂深紅觔、士、グリード、織斑一夏の偽物を警戒。
4.士とは戦いたくない。
5.千冬さんは、どこか姐さんと似ている……?
【備考】
※九つの世界を巡った後からの参戦です。
※ライジングフォームに覚醒しました。変身可能時間は約30秒です。
しかし、ユウスケは覚醒した事に気が付いていません。
【織斑千冬@インフィニット・ストラトス】
【所属】赤
【状態】精神疲労(大)、疲労(大)、深い悲しみ
【首輪】120枚:0枚
【装備】白式@インフィニット・ストラトス
【道具】なし
【思考・状況】
基本:……少なくとも、殺し合いには、もう乗れない。
0.――――――――。
1.私は……一夏………。
2.生徒と合流する。
3.一夏の……偽物?
4.井坂深紅觔、士、グリード、織斑一夏の偽物を警戒。
5.地の石をどうするべきか。
6.小野寺は一夏に似ている。
【備考】
※参戦時期不明
※白式のISスーツは、千冬には合っていません。
※小野寺ユウスケに、織斑一夏の面影を重ねています。
192
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 18:05:16 ID:MetolHdY
―――優しい、けれどどこか物悲しいメロディが聞こえる。
「翔太郎。僕は、真木清人を許せない」
俺に支給されていたそのオルゴールを聴きながら、フィリップはそう言った。
フィリップにとって、家族というものは強い意味を持つ。
だが織斑千冬の家族は、この殺し合いに呼ばれた事で無惨にも殺されてしまった。
それがフィリップには許せない事なのだろう。
俺達の戦いは、まだ始まったばかりだ。
きっと苦しい戦いになるだろう。俺達が生き残れるかも判らない。
だからと言って諦める事だけは、絶対にない。
なぜなら俺達は、二人で一人の仮面ライダーWだからだ――――
【C-2 商店街前】
【左翔太郎@仮面ライダーW】
【所属】黄
【状態】健康、ダブルチェイサーを運転中
【首輪】70枚:0枚
【コア】ウナギ:1(一定時間使用不能)
【装備】ダブルドライバー+ジョーカーメモリ・メタルメモリ・トリガーメモリ@仮面ライダーW、ダブルチェイサー@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品一式、T2ジョーカーメモリ@仮面ライダーW、鳴海壮吉のソフト帽@仮面ライダーW、不明支給品×1
【思考・状況】
基本:「仮面ライダー」として誰かのために戦う。
1.アストレアと共に、イカロスを止めに行く。
2.照井と合流する。
3.何かあったら、衛宮邸に向かう。
【備考】
※劇場版「AtoZ/運命のガイアメモリ」終了後からの参戦です。
※仮面ライダーW(基本形態)への変身時は、左翔太郎のメダルが消費されます。
【フィリップ@仮面ライダーW】
【所属】緑
【状態】健康、ダブルチェイサー(翔太郎の背後)に同乗中
【首輪】90枚:0枚
【装備】サイクロンメモリ・ヒートメモリ・ルナメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。この事件の首謀者を捕まえる。
1.アストレアと共に、イカロスを止めに行く。
2.照井と合流する。
3.何かあったら、衛宮邸に向かう。
4.地球の本棚に関する制限の解除方法を探す。
【備考】
※劇場版「AtoZ/運命のガイアメモリ」終了後からの参戦です。
※“地球の本棚”には制限が掛かっており、殺し合いの崩壊に関わる情報は発見できません。
【アストレア@そらのおとしもの】
【所属】緑
【状態】健康、ダブルチェイサー(サイドカー)に同乗中
【首輪】140枚:0枚数
【装備】超振動光子剣クリュサオル@そらのおとしもの、イージス・エル@そらのおとしもの
【道具】基本支給品×4(その中から弁当二つなし)、不明支給品0〜2、ラウズカード(♠ A〜K、ジョーカー)、大量の缶詰@現実、地の石@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:自分で決めた事をする。
1.イカロス先輩を止める。
2.知り合いと合流(桜井智樹優先)。
3.何かあったら、衛宮邸に向かう。
4.謎の少年(織斑一夏に変身中のX)を警戒する。
5.また何か拾ったけど、これなんだろう……?
6.切嗣にシナプスのことをきちんと話した方がいいかな?
【備考】
※参加時期は48話終了後です。
※大量の缶詰@現実は県立空美中学校 調理室から調達しました。
193
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 18:05:50 ID:MetolHdY
【全体の備考】
※【D-1】の森の最奥にアインツベルン城が発見されました。
※死者の首輪は、所属を示すランプが点灯していません(無所属にすら所属していない)。
※衛宮切嗣、アストレア、左翔太郎、フィリップ、ユウスケが情報を交換しました。下記は特記事項です。
・「Fata/Zero」「そらのおとしもの」「仮面ライダーディケイド」「仮面ライダーW」「TIGER&BUNNY」の参加者に関する情報を交換しました。
・アストレアからはシナプスに直接関わる情報は交換されていません。
・“地球の本棚”に関する制限は、フィリップの側に掛けられていると考えています。
・真木清人は『平行世界』『時間旅行』に関する技術を持っていると推測しています。
【スカルメモリ@仮面ライダーW】
間桐雁夜に、ロストドライバー、鳴海壮吉の帽子とセットで支給。
「骸骨」の記憶を内包したガイアメモリで、ロストドライバーを用いることで仮面ライダースカルに変身出来る。
セットの白いソフト帽は鳴海壮吉の愛用で、彼がスカルに変身した際も被っていた。
【T2ジョーカーメモリ@仮面ライダーW】
剣崎一真に支給。
「切り札」の記憶を内包したT2ガイアメモリで、ロストドライバーを用いることで仮面ライダージョーカーに変身出来る。
【マリアのオルゴール@仮面ライダーW】
左翔太郎に支給。
大道克己が母の大道 マリアへと送ったオルゴール。
【天の鎖@Fate/zero】
イカロスに支給。
英雄王ギルガメッシュが、乖離剣エアと同等か、それ以上に信頼する宝具。
神を律する対神宝具で、相手の神性が高い程効果を発揮する。
制限からか、拘束人数は基本的に一人だが、対象に巻き込む形でならば複数人拘束出来る。
194
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/13(水) 18:07:23 ID:MetolHdY
以上で、仮投下を終了します。
心配な点は、首輪の考察と、アインツベルン城に関してです。
他にも何か意見や、修正すべき点などがございましたらお願いします。
195
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/06/14(木) 06:10:45 ID:7k3iPqZA
首輪やアインツベルン城に関しては大丈夫だと思います。
あとは疑問点を幾つか。
・天の鎖は神性のない相手に使う場合はちょっと協力な鎖程度にしか思っていないのですが、神性皆無で馬鹿力持ちのアストレアが鎖を引きちぎれないのは不自然かなという印象を抱きました。
・フィリップの検索機能は、他の世界の事柄に関しても有効なのでしょうか?フィリップが検索するのは地球の記憶でしかないので、その世界の地球にない知識まで検索出来るのはどうなのかなと。
・翔太郎はパラレルワールドなどではなく、歴とした正史でディケイドと共闘した経験があるにも関わらず、ディケイドの事を知らない前提で話が進んでいる点については修正した方がいいかなと思います。
・これは些細な疑問ですが、T2メモリを相性の悪い持ち主が所持すれば暴走するという設定はアンクには効かないのでしょうか。ゾーンを使うなら使うで、こじ付けでもいいのでメモリとの何らかの結びつきが欲しかったかなと思いますが、それに関してはそこまで強くは言いません。
私が気になった点は以上です。
196
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/06/14(木) 19:24:29 ID:XZn3r9s.
細かいが上の疑問点はもっともかな
それ以外はいいと思うよ
197
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/14(木) 23:48:56 ID:tgERZYDY
>>195
了解しました。
指摘された箇所の修正が完了次第、該当部分を仮投下スレに再度投下させていただきます。
198
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/06/15(金) 01:25:12 ID:2ZG6RUdM
細かいかもしれませんが、時間帯は夕方でもいいのでは?
199
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/06/15(金) 01:55:43 ID:mczFtQmA
すみません、あともう一つだけ。
ユウスケのキャラに関してなのですが、明らかに同年代か年下の翔太郎やフィリップにまで敬語というのは少し違和感かも、と思いました。
200
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/16(土) 17:46:18 ID:oSWGqCiY
それでは修正項を投下します。
----天の鎖に関して
>>180
つまりは、拘束対象と定めた一人に巻き込む形でのみ、複数人数を拘束できるのだ。
「こんな鎖なんて―――!」
しかし“天の鎖”は本来神を律する為のものだ。その真価は、神性をもつ存在を拘束した時にこそ発揮される。
だがそうでない場合、“天の鎖”はただの頑丈な鎖でしかない。
故にアストレアは鎖を引きちぎろうと力を籠めるが、
「それに、拘束が一つだけとも言ってない」
《――SPIDER――》
アンクが取り出した支給品が、ワイヤーを放ちアストレアを更に拘束する。
支給品の名はスパイダーショック。Wが用いる、ギジメモリを使ったメモリガジェットだ。
そのドーパントさえも拘束するワイヤーは、“天の鎖”と相まってアストレアの動きを完全に封じた。
「これで戦えるのは、もう君たちだけだね」
----
>>181
○ ○ ○
バーサーカーと一纏めに拘束されたアストレアは、拘束を引き千切ろうと力を籠める。
だが鎖とワイヤーによる二重の拘束は、さすがのアストレアでも破れず、彼女の息を切らすだけに終わった。
「ほ……解けない………」
あるいはバーサーカーならば引きちぎる事が出来たかもしれない。だがそこでバーサーカーに掛けられた令呪が枷となっていた。
----
>>182-183
「くそぉ……! フィリップ、まだかなのか………!」
「このままでは翔太郎たちが……!」
「こんの、解けろぉ……ッ!」
スパイダーショックは巧みに逃げ、フィリップの手から逃れて捕まえられず、下手をすれば彼の方が捕まりそうになる。
かといってアストレアがどれだけ力を入れようとも、二重の拘束はビクともしない。
それがアンクの自信の理由。拘束は決して解けないという確信だった。
「ははは! 無駄な足掻きはよせ。最初に言った通り、お前たちは俺の糧となるんだ」
そんな彼等を嘲笑しながら、アンクの“偽装”するエターナルが死刑宣告を告げる。
それに抗う力が、翔太郎たちにはすでになかった。
----
----アンク(ロスト)のT2メモリ使用に関して
>>187
○ ○ ○
そうしてアンクは、切嗣達から完全に逃げ果せた。
彼は切嗣達に捕捉されていない事確認すると、変身を解除して人間態へと戻る。
「はは。なんだ、怖がる必要はなかったね」
アンクはそう口にしながら、手元のT2ゾーンを見る。
T2ガイアメモリは、使用者との適合率が低い場合、暴走する可能性がある。
その事がアンクに、追いつめられるその瞬間までT2ゾーンの使用を躊躇わせていた。
しかし空という空域を支配する鳥のグリードであるアンクは、少なくとも暴走しない程度には相性が良かったのだ。
「それにしても、あとちょっとだったのになぁ」
どうにも上手くいかない思惑に、アンクはつい愚痴を零す。
実を言えば、アンクにはまだ戦う術は残っていた。
----
201
:
◆ZZpT6sPS6s
:2012/06/16(土) 17:46:53 ID:oSWGqCiY
----ディケイドの認知に関して
>>159
その絆の経験こそが、今のユウスケに足りない物だったのだ。
「僕は君ほどには門矢士を知らない。彼が殺し合いに乗ったのも、間違いではないだろう。
けど、君の知っている門矢士は、訳もなく殺し合いに乗る様な人間なのかい?」
考えるまでもなく、首を横に振って否定する。
----+フィリップの検索に関して
>>188
○ ○ ○
「――――検索を始めよう。
キーワードは『NEXT』、『エンジェロイド』、『IS』、『聖杯戦争』の四つだ。
“地球の本棚”にアクセスしたフィリップは、幾つかのキーワードから単語を検索する。
白い世界に存在した本棚はいずこかへと消え去り、幾つかの本が宙に残る。
残った本の内一冊を手に取り、その検索結果に首を傾げる。
「『DECADE』……これはそのまま、仮面ライダーディケイドの事だね。
他には『Another World』――異世界か。翔太郎、どういう意味か解るかい?」
「確か、ディケイドは様々な世界を旅していたんだろ? その事じゃないのか?」
「たぶん。だけど俺達が旅をした世界には、必ずその世界の仮面ライダーがいたんだ」
「でも私は仮面ライダーなんて、テレビの中でしか聞いた事ないよ? それに、『でぃけいど』ってなに?」
フィリップの検索結果に、他の三人も首を傾げる。
やはりキーワードが絞り切れていないのか、調べたい事の確信には届かない。
しかも肝心の検索した事に関する本が、一冊もないのだ。
だが一人だけ、そのきっかけを知る物がいた。
「異世界……まさか、『第二魔法』が関わっているのか?」
「『第二魔法』? 何か知っているのかい?」
「ああ。詳細は知らないが、“僕の世界”には『並行世界の運営』と呼ばれる、いわば“ifの世界(パラレルワールド)”を行き来することが可能な魔法があるんだ」
「“ifの世界”……なるほど。つまり僕たちは、仮面ライダーのいる世界だけではなく、様々な世界から寄せ集められたという訳か。
検索したキーワードに関する本がなかったのも、“僕の世界”の地球にはない情報だからか」
「その可能性が高いだろうね。
けど、それだけでは説明がつかない事もある。おそらくはあと一つ、『時間旅行』も関係している筈だ」
----
以上で修正項の投下を終了します。
ユウスケのセリフに関しては、本投下時に纏めて修正させていただきます。
202
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/06/16(土) 18:42:09 ID:gZfHhrjQ
修正お疲れ様でした。
これならば問題はないと思います。
203
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/06/16(土) 20:00:30 ID:4fCQoTZw
お疲れ様です
問題ないと思います
本スレ投下は書き手さん自身がやるよね?
204
:
◆MiRaiTlHUI
:2012/06/26(火) 23:46:12 ID:/dIo7txc
本スレで指摘して頂いた点の修正投を投下いたします。
205
:
◆MiRaiTlHUI
:2012/06/26(火) 23:47:22 ID:/dIo7txc
まずは本スレ
>>13
の差し替えです。
「彼女らを襲ったのは貴様か」
「まあ、そうなるのかな」
そう答えた途端、少女が発する敵意がごうと膨れ上がった。
義憤の炎に燃えるその双眸で真っ直ぐに睨み付けられれば、まるで此方が度し難い程に悪辣な殺人鬼であるかのように錯覚してしまう。もっとも、それもあながち間違いではないのだが。
知られたからにはここで少女を逃がすのも惜しい。一応怪物強盗らしく口封じはしておくべきかと、そう判断したXはキャレコの銃口を少女へと向け、その引鉄を引いた。
フルオートで発射される銃弾の嵐が少女に殺到するが――少女は尋常ならざる反応速度で虎のバイクを吠えさせると、放たれた弾丸の全てを跳ね上がったバイクの車体で受け止めて見せた。
少女が自らの意思でバイクを操ったのか、バイクが自らの意思で弾丸を塞いだのかは定かではないが、何にせよそれが敵に回せば厄介極まりない武装である事だけはXにも理解出来たが、そんな事はもうどうでもいい。奴はもうバイクから離れ、次の攻撃に移っているのだと、そう警戒した方が合理的だ。
元々残弾の少なかったキャレコの弾が切れるまでに掛かる時間はほんの一瞬。その一瞬を凌ぎ切り、着地した虎のバイクの座席の上には案の定、少女の姿はなかった。同時に、上空から殺気を感じたXは即座にアゾット剣を抜いて上空からの奇襲に身構える。
「ハァアァアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
刹那、青いドレスと銀の甲冑に身を包んだ少女が、頭上からX目掛けて急降下し“見えない剣”を振り下ろした。その剣が巻き起こす僅かな風圧を感じ取ったXは、かろうじてアゾット剣を上段に構えその一撃を受ける事に成功する。
甲高い金属音が鳴って、両者の獲物が激突する。そして、その瞬間にXは悟ってしまった。この貧弱な武器では、少女の不可視の剣を受け止めて耐え切る事は出来ないと。その小柄の体躯の一体何処にそんな力があるのか、恐らくはこの怪物強盗にも匹敵する程の怪力で以て、奴は剣を振り落としたのだ。
(――チッ!)
心中で舌打ちしたXは、アゾット剣に少女の体重が乗せられる前に、自ら一歩身を退いて、少女の刃をアゾット剣の刃に滑らせて受け流した。互いの刃が触れた瞬間から、この受け流しに至るまでに掛かった時間はほんの一秒にも満たない。Xの超常的なセンスがあって初めて成し得た柔の技だった。
ともあれ、これで少女の太刀筋は、Xに匹敵する程に重く鋭い事が知れた。おまけに攻撃の軌道が見えないとあらば、何処で力に押し切られ敗北するか分かったものではない。敵について何の情報も持たない今、こいつと戦うのが危険だと言う事はこの一瞬の相克でXにも理解出来た。
間髪入れずに追撃の横一閃を振るう少女。今はまず、回避に専念するべきだ。Xは後方へと大きく跳び上がるって、少女の攻撃から逃れ、目を凝らしてその間合いを計ろうとするが、やはりその剣は完全なる不可視。
肉眼ではそのリーチすらも計らせてはくれず、二度目の踏み込みで以て振るわれた不可視の刃は、一瞬回避の遅れたXのマントと上着を裂いて、その切先はXの胸部の筋肉をも薄く裂いた。不幸中の幸いか、この程度の傷ならばすぐに回復出来るだろうが、やはり危ない綱渡りは避けたい。
距離を取って着地したXは、血の滲んだ胸部を軽く抑えながら、しかし不敵な笑みを崩す事なく言った。
「へえ、アンタも面白い戦い方するじゃん。ここはやっぱり面白い奴ばっかりだね」
「……私に挑む気があるなら、下らない減らず口ではなく、剣を執って戦ったらどうだ」
「うーん、先に仕掛けておいて悪いんだけど、今回はここまでにしておこうかな。流石にまだ準備が足りなかったみたいだし!」
「……ッ、逃げるつもりか、外道ッ!」
怒気を孕んだ少女の叫びを無視して、Xはその超人的な脚力で以て健康ランドの屋根目掛けて飛び上がった。最後にちらと見下ろせば、青いドレスの少女はその両手で見えない剣の柄を握ったまま、義憤に満ちた鋭い眼光でXを睨み据えていた。彼女が随分と真っ直ぐな性格をした人間だという事は何となくXにも理解出来たが、しかし、なればこそそんな奴に眼を付けられては少々厄介だ。
あの尋常ならざる速度で走る虎のバイクが相手では確実に逃げ果せるだけの自信もない。今は追い付かれる前に、とっとと逃げてしまった方がいいだろう。
健康ランドの屋根を足がかりに、更なる加速力を持って跳んだXは、それこそ通常のバイク程度にならば遅れを取らぬ程の速度で以て前方に見える緑生い茂る山の方角へと飛び込んで行くのだった。
206
:
◆MiRaiTlHUI
:2012/06/27(水) 00:20:55 ID:ho2Ax0TQ
次に、本スレ
>>17
の差し替えです。
◆
「ここまで戻って来ちゃったか」
斬り倒されて炎上する大桜だったものを眺めながら、Xはその場に腰を降ろした。
先程の金髪の少女を相手にするには流石に分が悪いと一目散に逃げ出して来た訳だが、怪物強盗たるもの負けっ放しというのも気に食わない。それに、この怪物強盗と同等かそれ以上の力で以て剣を振るう少女の中身が気にならない訳がない。
彼女と相克するに相応しい武装と戦術さえあれば、あの矮躯をズタズタに引き裂いて、その細胞までじっくり観察してやろうと思うのだが、生憎な事にXのデイバッグの中に彼女の剣と互角に戦えるだけの刃渡りの剣はない。
重火器で攻撃しようにも、恐らくあの少女ならば見えない剣で全弾防ぎ切ってみせるだろう。奴を観察する為には、奴の望み通り、正面からぶつかって力で押し切る必要がある。あの少女との苛烈な剣戟にも耐え得る剣が欲しいところである。
さて、どうしたものかと考えを巡らすXは、倒れた大桜の影に輝く金色の何かに気付いた。
「何だ?」
何かと目を凝らすが、金色の物体が何であるのかは判然としない。倒れた木の幹と枝が邪魔をして、それが何であるかを覆い隠しているのだ。今Xがここに座りこまなければ、このまま誰にも気付かれる事なく永遠にそこで眠っていたであろう金色の何かを回収するべく、Xは巨木の幹を蹴り飛ばした。
大の大人が数人がかりでようやく動かせる程の質量を持った大桜の幹は、ほんの高校生程度の華奢な身体しか持たない男の蹴り一つで容易く転がって行った。怪物強盗を名乗るだけの事はあって、その怪力には誰にも負けないという自負がXにはあった。
転がった桜の木の下敷きになっていたのは、Xがこれまで見た事もないような豪奢な金に彩られた、一振りの大剣であった。まるで神秘的な何かに魅入られるように、Xはそれを手にとって持ち上げる。重量もそこそこ、出来も決して悪くない。
一応は怪盗を名乗っているXは、物の真贋を見極める眼力にも長けている。一つの武器としてのこの大剣は、Xがこれまでに手にしたどんな武器よりも値打ちのある代物だろうとXは当たりをつけた。
よく見れば、桜の幹があった場所の地面を薄く抉るように、この剣が抉った傷痕が残されている。状況を見るに、ここで繰り広げられた大規模な戦いの余波で、既に装着者を失ったこの剣が桜の木の下に滑り込んでしまったのか。はたまた、最期の力を出し尽くしてここで戦い散った男が、その最期の瞬間までこの剣を握って戦っていたのか。
幾つかの状況を推理して見るが、しかしそんな事はどうでもいい事だとすぐに悟って、それ以上の思考をやめる。
「それにしても凄い剣だなあ、一体どんな奴がこれを造って、どんな奴がこれを使ってたんだろう」
が、興味が尽きる事はない。剣を見れば見る程に、その剣に込められた謎が気になって来る。
その大剣の真の名は重醒剣キングラウザーと云う。かつてとある世界の最強の仮面ライダーたるブレイドが十三体もの不死生物と同時過剰融合によって精製し、そして幾百もの悪鬼を斬り伏せた一騎当千の大剣である。
207
:
◆MiRaiTlHUI
:2012/06/27(水) 00:21:46 ID:ho2Ax0TQ
本来ならばブレイドの消滅により、この剣もとうに消え去っていてもおかしくはないのだが――それでもこの剣は今もこうして存在している。それは、ブレイドの装着者だった男の“誰かを守りたい”という強い想いが具現化した姿だろうか。
当然ながらXは知らぬ事だが、かつて、ブレイドがこの大剣を手に百鬼夜行の敵の群れに飛び込んで行った時にも、今の状況と似た様な事があった。一度の変身で敵を倒し切る事が出来ずブレイドの鎧を解除した後も、この剣だけはまるで持ち主の意思が消えるまではこの世界に在り続けるとでも言わんばかりに、この世に現界し続けていたのだ。
この剣は、志半ばで散った彼が、いつか必ず正義の心を持った誰かがこの殺し合いを打破し、そして全ての世界を救ってくれると信じて遺した最後の切り札なのだろうか。本当のところは誰にもわからないが、それでも剣はここにこうして存在している。
その事実が大剣の謎をより難解にする。これにはあのネウロも黙ってはいられないのではないかとさえ思う。
「でも、こんな凄い剣を使いこなせる奴でもあの黒騎士には勝てなかったんだよな」
思い返すのは、少し前にここで戦ったあの黒い甲冑の狂人だ。
Xが来た時には既に大桜はこの有様だったのだから、恐らくこの剣の持ち主を屠ったのもあの黒騎士なのだろう。もう少し早く此処に到着していれば、Xもこの剣の持ち主の顔を一目拝めたのに――若干の悔しさを覚える。
気になる獲物は一人先に死なれてしまったが、それでもやはりこの場所には只者ではない参加者が集められている。どいつもこいつも、バラして中身を見てみたいと思える相手ばかりだ。或いはこの殺し合いでなら、今度こそ本当に自分のルーツを見出せるかもしれない。
更なる期待に胸高鳴らせながら、Xは重醒剣片手に次の参加者が居る方角へと歩き出した。
「……そういや、そろそろこの姿も見られ過ぎて来たよな」
ぽつりと、まるでどうでもよい事のように、Xは一言呟いた。
208
:
◆MiRaiTlHUI
:2012/06/27(水) 00:25:22 ID:ho2Ax0TQ
以上です。
アゾット剣に関しては、ご指摘通りに「受け止める」から「受け流す」へ変更。
キングラウザーの方は、野暮ったいかなと思って省略していた説明の描写を追加しました。
また、セイバー達の状態表の日時が日中のままになっていましたので、こちらは後日収録分の方で修正しておこうと思います。
209
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/06/27(水) 00:44:15 ID:2KFp61Fs
修正乙です
アゾット剣に関してはそれで問題ないとおもいます
キングラウザーの方は、変身が解けても残ったという話数を教えていただければ、問題ないかと
あと本スレでも言われていた、切嗣達が回収できたのでは? という質問に関しても、
アストレアに助けられてから雁夜を殺すまでに間があるので、その間にXが回収していたとする手もありますよ
最後に、セイバー達の時間表記に関しては、Oの決意でも翔太郎達とアンク(ロスト)で似たようなズレがあったので、わざとでは?
210
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/06/27(水) 00:51:10 ID:QrE.XqU.
>>209
多分最終話のダークローチ戦
211
:
◆MiRaiTlHUI
:2012/06/27(水) 01:16:03 ID:ho2Ax0TQ
仰る通りキングラウザーの回は最終話になります。
ローチ戦で剣崎の変身解除後に橘さんが生身のままキングラウザー拾い上げて使ってます。
Xに関してはもうこの展開で話を書いているので、これで問題がないなら通しにしたいところです。
時間表記はわざとではなくミスです。
X側と同時進行のつもりで書いているので午後になります。
212
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/06/27(水) 14:06:34 ID:H5f9UUmA
本編で描写があるのなら問題ないのでは?
回収漏れについても下敷きになってて単に気付かなかっただけ、で説明は通りますし
213
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/06/27(水) 20:17:21 ID:o1M5Fd4k
修正点についてはこれで問題ないかと思います。
時間表記に関しては、「Oの決意」が表記を間違えているという可能性もあるのではないのでしょうか?
214
:
◆MiRaiTlHUI
:2012/06/28(木) 10:49:58 ID:X19AHz6k
確認してみた所、橘さんがキングラウザーを使用するシーンは厳密には剣崎の変身解除後ではありませんでした。
それらしい事を言って惑わせてしまって申し訳ありません。
前例がないならないで別のパターンを考えねばなりませんので、また後日別案を投下したいと思います。
明日には投下出来ると思いますので、あと少しだけ待って頂けると助かります。
215
:
◆MiRaiTlHUI
:2012/06/30(土) 00:50:02 ID:64/TTa1g
最期のXの描写の変更部分を投下します。
----------------------------------------------
「それにしても凄い剣だなあ、一体どんな奴がこれを造って、どんな奴がこれを使ってたんだろう」
が、興味が尽きる事はない。剣を見れば見る程に、その剣に込められた謎が気になって来る。
Xは知らぬ事だが、その大剣の真の名は重醒剣キングラウザーと云う。かつてとある世界において最強と謳われた仮面ライダーたるブレイドが、十三体もの不死生物との同時過剰融合によって精製し、そして幾百もの悪鬼を斬り伏せた一騎当千の大剣である。
だが、それが此処に存在するのはおかしい。そもそもブレイドによって精製された剣は、ブレイドの消滅に伴って消え去っているべきなのだ。それなのに、キングラウザーはこうしてこの世に形を留めている。
それは、ブレイドの装着者だった男の“誰かを守りたい”という強い想いが具現化した姿だろうか。決して果てる事のない彼の正義の魂が、この殺し合いを打ち破るために、全ての世界を救うために、最期の力で遺してくれた“切り札”なのだろうか。
それとも、本来なら有り得る筈のなかった「過剰融合中のベルトの破壊」という結果が引き起こした予期せぬエラーか、はたまた真木清人による何らかの細工の結果か。
存在する筈のないブレイド剣がこうして残されている理由の本当のところは誰にも分からない。
しかし、それでも彼の大剣はこうしてここに存在している。その事実がキングラウザーの存在をより難解にし、その神秘性を裏打ちしてXの感性を刺激する。これにはあのネウロも黙ってはいられないのではないかとさえ思ってしまう程だった。
「でも、こんな凄い剣を使いこなせる奴でもあの黒騎士には勝てなかったんだよな」
思い返すのは、少し前にここで戦ったあの黒い甲冑の狂人だ。
Xが来た時には既に大桜はこの有様だったのだから、恐らくこの剣の持ち主を屠ったのもあの黒騎士なのだろう。もう少し早く此処に到着していれば、Xもこの剣の持ち主の顔を一目拝めたのに――若干の悔しさを覚える。
気になる獲物は一人先に死なれてしまったが、それでもやはりこの場所には只者ではない参加者が集められている。どいつもこいつも、バラして中身を見てみたいと思える相手ばかりだ。或いはこの殺し合いでなら、今度こそ本当に自分のルーツを見出せるかもしれない。
更なる期待に胸高鳴らせながら、Xは重醒剣片手に次の参加者が居る方角へと歩き出した。
216
:
◆MiRaiTlHUI
:2012/06/30(土) 00:54:52 ID:64/TTa1g
見ての通り「前例があった」という描写を削って細かく変更しています。
何故残ってるのか本当のところは謎のまま、というのは変わらないのですが、
代わりに幾つかの“それらしい”可能性の描写を追加するという感じで修正しました。
これで大丈夫かどうか確認よろしくお願いいたします。
217
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/06/30(土) 11:12:32 ID:EKF.nmQU
修正乙です。
個人的には問題ないと思います。
218
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/06/30(土) 19:29:03 ID:2IH9QQ.Q
修正乙です。
これで多分大丈夫だと思います
気になった点は、ラウズカードを単体、あるいはポーカー役以外のコンボでの使用が可能なのかと、
使用できた場合のAP関連(チャージ方法や、最大値など)ですね
219
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/07/03(火) 17:24:20 ID:fh/ZLKtU
カードの使用については、実際にカードを入手した際に
話を手掛ける書き手の描写次第でもいいかと
なので、自分もこれで通しで良いと思います
220
:
◆3.CJH6sX8g
:2012/07/20(金) 20:41:14 ID:S6Fnt2Ao
ご指摘頂いたロッソ・ファンタズマについての修正点を投下します。
・修正前
“ロッソ・ファンタズマ――!”
思い出したくもないダサい技名を思わず心中で叫んでしまった事を悔いる。
それはかつて巴マミとの修行の末に編み出した杏子の幻影魔法だった。
・修正後
“ロッソ・ファンタズマ――!”
思い出したくもないダサい技名を思わず心中で叫んでしまった事を悔いる。
それはかつて巴マミとの修行の末に編み出し、自分自身で封印してしまった幻影魔法。
しかし、剣崎の勇姿を胸に刻みつけ、魔法少女になったばかりの頃の願いを思い出した杏子に、最早そんな封印は必要ない。
221
:
◆3.CJH6sX8g
:2012/07/20(金) 20:46:36 ID:S6Fnt2Ao
さやかや剣崎の影響で初期の志を思い出しているという前提は以前の話から語られているので、
「正義の魔法少女」からの方針変更と同時に封印していた技を自ら解き放ったという形に描写を追加しました。
他に問題点がありましたらご教示下さいませ。
222
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/07/21(土) 02:15:10 ID:Ew1C9xu6
無意識に封印してるんだから、自分の意志で簡単に使えるようになるのはどうかと思う
行動方針を変えた程度で克服できるようなトラウマなら、そもそもトラウマとは言えないだろうし、
きっかけになったさやかを助けれたのでも、剣崎の意志を継ぐと決意したわけでもないんだから、トラウマ克服とはいかないと思う
223
:
◆3.CJH6sX8g
:2012/07/21(土) 03:50:30 ID:lXdDouP.
二度に渡るご指摘有難うございます。
では仰る通り、剣崎の意思を継ぐことを決意するという描写を追加し、これからさやかを救って見せると決意した上でトラウマ克服とまでは行かずとも、それを受け入れて戦って行く形に覚悟を決めさせようと思います。
以上の修正で問題点はクリアされるかと思いますが、それでよろしいでしょうか?
224
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/07/21(土) 10:40:53 ID:Ew1C9xu6
剣崎の意志を継ぐことを決意した理由がしっかりしていれば、まあ問題ないかな?
簡単なのは、そもそもロッソファンタズマを使わせないことだけど
225
:
◆3.CJH6sX8g
:2012/07/22(日) 17:58:10 ID:H8qBADyo
・修正前
アンクと共に剣崎一真に救われたあの時から、杏子はずっと考えていた。
剣崎の勇姿はかつての自分そのもので、そしてさやかが目指す姿でもある。
それすなわち、どんな時でも愛と勇気が最後に勝つと信じて戦う正義の味方の姿。
さやかと関わって、剣崎の最期を見て、杏子は最初に懐いた決意を思い出していた。
「――ったく、らしくねーよなぁ。今更いい子ちゃんぶるなんてさ」
孤高を貫き、目的の為ならば誰であろうと蹴落としてきた自分が今や正義の味方気取り。
都合が良すぎるとは自分でも思う。自分が見殺しにしてきた一般人はもう帰って来ないのだから。
だが、もう迷いはない。
剣崎が命を賭して伝えてくれた想いが、杏子を強く突き動かす。
だから負ける気はしない。何としても生き抜いて、そしてもう一度さやかと会うのだ。
そして、今度こそさやかに伝えたい事が――
「おっと、考え事はここまでか」
・修正後
アンクと共に剣崎一真に救われたあの時から、杏子はずっと考えていた。
剣崎の勇姿はかつての自分そのもので、そしてさやかが目指す姿でもある。
それすなわち、どんな時でも愛と勇気が最後に勝つと信じて戦う正義の味方の姿。
さやかと関わって、剣崎の最期を見て、杏子は最初に懐いた決意を思い出していた。
「――ったく、らしくねーよなぁ。今更いい子ちゃんぶるなんてさ」
孤高を貫き、目的の為ならば誰であろうと蹴落としてきた自分が今や正義の味方気取り。
都合が良すぎるとは自分でも思う。自分が見殺しにしてきた人々はもう帰って来ないのに。
だが、暫しの休憩を経て、頭の中の整理を終えた杏子にはもう迷いはなかった。
この休憩の間、杏子がやけに落ち着いていたのは、自分の過去を振り返っていたからだ。
今の杏子ならば、もっと素直に戦える気がする。
最初の志を思い出した今なら、マミと共に戦っていたあの頃のように――
剣崎が命を賭して伝えてくれた想いが、杏子を強く突き動かす。
もう一度、最初の願いを胸に懐き、正義の為に戦おう。
そして、今度は自分がさやかを救ってみせる。
今もまだ迷い続けているのだろうさやかを、今度は自分が――
「おっと、考え事はここまでか」
以上の通りに修正致します。
色々と考えましたが、以前の話で既に剣崎の魂は受け継がれたと描写されており、
自分が改めて事こまかに説明する必要もないかという結論に至ったのでこのようになりました。
なので、自分としましてはロッソファンタズマを使用"出来る"理由はこれで十分かと考えます。
皆様のご意見もお聞かせ願えますでしょうか。
226
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/07/22(日) 19:09:17 ID:lHrpWjY2
修正乙です。
自分はこれで問題ないと思います。
227
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/07/22(日) 23:11:02 ID:W8T8CFrg
修正乙です。
自分もこれで問題ないと思います。
これ以上の説明は蛇足でしょうしね。
228
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/07/28(土) 19:15:09 ID:Gd/P0yds
議論スレが使用中なのでこちらで。
先日投下された◆LuuKRM2PEg氏のSS「戦いと思いと紫の暴走」について少し気になった点がありました。
作中で士がファイヤーエンブレムとルナティックを仮面ライダーだと誤解した上で敵対していますが、
伝聞ではなく自分の目で二人の姿を見た後でも仮面ライダーだと誤解し続けるのに違和感がありました。
原作中で仮面ライダーか怪人かの区別を問題なく行い、またシンケンジャーを仮面ライダーとは別物だと一目で理解できた士が
この場において仮面ライダーの認識を間違えて、その誤解の根拠も特に述べられてないのはどうなのかなと。
また、同じく仮面ライダーの概念を把握している映司の方は「アクセル=ライダー」「タイバニ勢≠ライダー」と判別できただけに尚更不自然です。
おそらく士は(危険人物のルナティックはわからないとしても)対主催かつライダーでないネイサンまで積極的に倒そうという考えには至らないのでは。
以上の点について、ご意見もしくは修正をお願いできないでしょうか。
229
:
◆LuuKRM2PEg
:2012/07/29(日) 09:41:57 ID:gqJuv8CM
ご指摘ありがとうございます。
それでは、該当パートにおける士の台詞修正及び心理描写の追加をさせて頂きます。
230
:
◆LuuKRM2PEg
:2012/07/31(火) 16:28:56 ID:jCiLOSsw
これより「戦いと思いと紫の暴走」で修正した部分の投下を開始します。
まず
「君は、一体……?」
「お前達は一人残らず、この俺が潰す」
の部分を
「君は、一体……?」
「そのベルト……仮面ライダーオーズとやらはお前か」
「えっ? どうして、オーズを知ってるの……?」
「やはりそうか。なら、話は早い」
のように修正させていただきます。
231
:
◆LuuKRM2PEg
:2012/07/31(火) 16:31:06 ID:jCiLOSsw
そして、プトティラが登場してからのシーンの修正版です。
○○○
「何だ……!?」
クウガの世界で出会ってから共に旅をしてきた仲間、小野寺ユウスケとよく似た甘さが感じられる仮面ライダーオーズから発せられた叫び声は、大気どころか辺りの木々を震撼させるほどに凄まじかった。
それは当然、仮面ライダーディケイドに変身した門矢士の耳に響き、本能的に危機を察して仮面ライダーアクセルから少しだけ離れて振り向く。すると、その鎧はフォームチェンジをしたかのように大きく形状を変えていた。
黒い装甲は紫と白に変色し、仮面も白亜紀の時代に生息したプテラノドンを髣髴とさせる形となり、両肩からはトリケラトプスが持つような角が伸びて、最後にティラノザウルスのとよく似た長い尻尾が生える。
姿を変えたオーズは暴君と呼ぶに相応しい雰囲気を放ち続けながら、その背中から巨大な双翼を生やしていった。仮面の下から発せられる咆哮は留まることを知らず、全身から極寒の風を噴出させる。
すると、オーズが立つ地面が瞬く間に凍り付いていくのを、ディケイドは見た。そして、只ならぬ雰囲気を前にファイヤーエンブレムは後退する一方で、あのルナティックという奴がボウガンをオーズに向けて、燃え盛る矢を放つ。
冷たくなる風を切り裂きながら突き進むが、オーズはその手に構える斧を振るって弾いた。続くように矢は何発も発射されたが、オーズは咆哮と共にそれを砕き続ける。
木端微塵となったエネルギーは破片となって散らばるが破壊力は未だに健在で、凍てついた地面を容赦なく吹き飛ばす。粉塵が大きく広がって視野を埋め尽くすが、その直後に大気が破裂するような轟音が響いて、一瞬で煙を払った。
その中心部にいたオーズは背中の羽を大きく羽ばたかせながら膝を落とし、そのままロケットのような勢いで跳躍。ルナティックは狼狽したような声を出しながらボウガンの引き金を引こうとするが、その一瞬で既にオーズは目前にまで到達して、巨体を大きく回転させて恐竜のような尾でルナティックを大きく吹き飛ばした。
薄気味悪い仮面の下から痛々しい悲鳴が漏れるが、すぐにコンクリートが砕かれた激突音で掻き消される。一方的な破壊を行うオーズの姿は、あのスカイライダーを撃破した自分自身の姿と酷似していた。
五秒にも満たなかった蹂躙に呆気を取られていたが、次の瞬間にはオーズが空の上から振り向きながら急降下するのを見て、ディケイドは我に返ってライドブッカ―をガンモードに切り替えて弾丸を放つ。しかしルナティックの時と同じようにオーズの持つ斧によって簡単に弾かれてしまい、そのまま胸部のディバインマッスルを横一文字に切り裂かれた。
その力は先程までなっていた上下三色のフォームを圧倒的に上回っている。そこまで長く剣を交わっていないが、それでもこのフォームは全てのスペックが急激に上昇していると一瞬で察した。
斬撃の暴風雨によってアーマーに次々と傷が生じるが、黙っている訳にもいかないので少しだけ背後に飛びながらライドブッカ―をソードモードに戻し、剣先で斧を受け止める。
そこから押し返そうとしたが、やはりオーズの腕力は凄まじすぎて少しでも油断すれば逆に押しつぶされてもおかしくなかった。
「グウウウウゥゥゥゥゥ……!」
「お前、まさか……!?」
「ヴヴヴヴヴヴァアアアアァァァァァァッ!」
232
:
◆LuuKRM2PEg
:2012/07/31(火) 16:32:18 ID:jCiLOSsw
一切の理性が感じられない叫び声と共に、オーズはその強靭な足で下腹部を蹴り付けてきたので、衝撃によってディケイドは強制的に息を吐き出しながら後ずさってしまい、そこからまた一閃される。
鎧から火花が迸って、中にいる士にもダメージを与えるがそれだけで屈するようなことなどせず、痛みを堪えてライドブッカーを振るった。しかしセルメダルが零れ落ちたせいで思ったより力が出ず、手応えが感じられない。ライダーカードを使って立ち向かおうとしても、その間に攻撃を受ける恐れの方が高かった。
繰り広げられる剣戟によってけたたましい金属音が響き渡る中、それを打ち消すかのように炎の燃え盛る音が背後から聞こえてきたので、ディケイドは反射的に横へ跳ぶ。すると、彼が立っていた位置を通り過ぎるかのように炎が突き進んで、オーズに着弾した。
『ELECTRIC』
激突の衝撃で紫の仮面から呻き声が漏れて、オーズが微かに後退した直後に電気を意味する電子音声が鳴り響く。その音程はディケイドやオーズの変身アイテムとは違う、アクセルが持つUSBメモリから発せられるそれに近かった。
振り向こうとしたがその暇もなく、ディケイドの横から勢いよく飛び出したアクセルがその手に持つ剣を振るい、オーズの装甲を斜めに切り裂く。するといつの間にか剣に纏われていた電撃が、音を鳴らしながらオーズの全身に流れていった。
炎と雷の連続攻撃によってオーズの首輪からセルメダルが次々と零れ落ち、アクセルとファイヤーエンブレムの首輪に飛び込んでいく。だが、オーズ自体はすぐに体勢を立て直したので、大したダメージにはなってないように見えた。
「ねえちょっと、アンタ確か仮面ライダーディケイドって言ったわよね!」
そんな中、あのファイヤーエンブレムがディケイドの前に出てくる。
このオカマやあのルナティックとやらは見たところ、仮面ライダーではない存在のようだった。恐らく、あの侍戦隊シンケンジャーのようなライダーがいない世界を守る戦士かもしれない。
無論、邪魔をするならば破壊するつもりだが。
「何だ?」
「アンタには色々と言いたいことがあるけど、ここは一時休戦してあの子を止めることを最優先にしましょう! 今のあの子、どう見たって普通じゃないわ!」
「何を言っている、俺は……」
「ここで力を合わせなきゃ、アタシ達みんな一緒に殺されるだけでしょう! それがわからないの!?」
ディケイドの言葉を遮ったファイアーエンブレムの叫びは焦燥感で満ちていた。
確かに今のオーズは先程とは桁違いの強さを誇っている上に、こちらのセルメダルも大幅に減っている。認めるのは癪だが、ライダーカードを駆使して戦ったって簡単に破壊できる相手ではない。
仮に倒せたとしてもセルメダルを大きく消耗するのは避けられないから、戦いを乗り越えるのは困難となるだろう。
「だいたいわかった……確かに、あのオーズは俺一人で相手をするには骨が折れる」
「わかればいいのよ」
「だが忘れるな、俺は最後にオーズを破壊する……それとライダーでないとはいえ、邪魔をするならお前も容赦しない」
「アタシがそれを許すと思うの?」
「さあな」
ファイヤーエンブレムの言葉を適当に流したディケイドは、ライドブッカーを構えなおしながらオーズの方に振り向く。そちらでは相変わらずオーズが猛獣のような叫び声と共に斧を無茶苦茶に振るっているが、アクセルがその剣で防ぎ続けていた。
剣戟が数秒ほど続いた後、互いに背後へ飛んで距離を取る。そのタイミングを見計らって、ディケイドはアクセルの横に立った。
「そういうことだ……仮面ライダーアクセル、今だけは力を貸してやる」
「ディケイド、言ったはずだ……俺は仮面ライダーではないと」
「お前がライダーだろうとなかろうと、俺の邪魔をするなら容赦しない。いずれ破壊するだけだ」
「悪いが俺はこんな所で死ぬ気はない。だが、その前に……」
「ああ、まずはあいつだな」
仮面ライダーであることを否定するアクセルの姿が、全ての仮面ライダーを破壊する自分自身と少しだけ被って見えたものの、気のせいだとディケイドは思考を振り払う。
この殺し合いを乗り越える過程で、会場に集められた仮面ライダー達を破壊するつもりだったが、何の因果かこうしてまた力を合わせて戦うことになった。しかも、同じ仮面ライダーを倒すために。
(いや、俺はこいつらを利用しているに過ぎない……邪魔な仮面ライダーオーズを破壊するためにも。それだけだ)
世界の破壊者は自身にそう言い聞かせた頃、暴君となった仮面ライダーオーズは大きく叫んだことによって、周囲は一気に凍て付いた。
233
:
◆LuuKRM2PEg
:2012/07/31(火) 16:33:20 ID:jCiLOSsw
【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【所属】無
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、仮面ライダーディケイドに変身中
【首輪】90枚:0枚
【コア】シャチ
【装備】ディケイドライバー&カード一式@仮面ライダーディケイド、
【道具】ユウスケのデイパック(基本支給品一式、ランダム支給品0〜2)、基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
(これら全て確認済み)
【思考・状況】
基本:「世界の破壊者」としての使命を全うする。
1:仮面ライダーアクセルとファイヤーエンブレムを利用して、仮面ライダーオーズを破壊する。
2:「仮面ライダー」と殺し合いに乗った者を探して破壊する。
3:邪魔するのなら誰であろうが容赦しない。仲間が相手でも躊躇わない。
4:セルメダルが欲しい。
5:最終的にはこの殺し合いそのものを破壊する。
6:ルナティックやファイヤーエンブレムは自分の邪魔をするつもりなら、ライダーでなくとも破壊する。
【備考】
※MOVIE大戦2010途中(スーパー1&カブト撃破後)からの参戦です。
※ディケイド変身時の姿は激情態です。
※所持しているカードはクウガ〜キバまでの世界で手に入れたカード、 ディケイド関連のカードだけです。
※アクセルを仮面ライダーだと思っています。
※ファイヤーエンブレムとルナティックは仮面ライダーではない、シンケンジャーのようなライダーのいない世界を守る戦士と思っています。
以上です。
もしもご意見がありましたら、お手数ですが指摘をお願いします。
234
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/07/31(火) 20:49:27 ID:mvmCJ4vU
修正乙です。
これで問題点はクリアされたと思います。
235
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/08/01(水) 11:17:01 ID:M2A0B/O.
もうひとつだけ指摘するなら、映司が変身する時はメダルを順に入れるのではなく、左右を先にいれてから最後に真ん中ですよ。
236
:
◆LuuKRM2PEg
:2012/08/01(水) 12:00:12 ID:z18mNc8Q
ご指摘ありがとうございます。
収録の際に、修正させていただきます。
237
:
◆qp1M9UH9gw
:2012/08/13(月) 20:27:05 ID:q/brJXS2
修正案の投下を開始します
238
:
◆qp1M9UH9gw
:2012/08/13(月) 20:30:51 ID:q/brJXS2
本スレの
>>154
を以下のものに変更します
――
『TIME』
その電子音と共に、グレイブがその場から消失する。
そしてその直後、「ドシュリ」という鈍い音がアストレアの腹部から聞こえた。
見ると、一本の光り輝く刃が、彼女を貫いているではないか。
彼女の真後ろには、ついさっきまで向こう側にいた筈の仮面ライダーの姿があった。
「………………ぇ?」
数刻ほど遅れて、アストレアの口元から、呆けた声と共に鮮血が漏れ出した。
その瞬間、彼女は刺されたという事実すら理解できなかっただろう。
グレイブが剣を引き抜くと、そこから赤い液体が滝のように湧き出てくる。
致命傷を受けたアストレアの身体は、糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちた。
肉体を貫いた刃が何を意味するのかも解らぬまま、彼女はその場に倒れ伏したのだ。
ダブルは一刻ほど、呆然としたまま目の前の惨状を見つめていた。
しかし数秒もすれば全てを理解し、やがて怒りがふつふつと沸き起こってくる。
そしてそれが最大に達した時、ダブルの――翔太郎とフィリップの感情が爆発した。
「てめええええええええええええッ!!」
怒りに任せて、グレイブに向けて拳を叩きこもうとする。
しかし、彼は冷静にグレイブラウザーからカードを2枚抜き取り、それらをスキャンする。
『EVOLUTION』
『MACH』
高速移動が可能になったグレイブは、すぐさまダブルの攻撃をかわし、そして後ろに回りこんで斬撃を加える。
くぐもった声と共に、ダブルは仰け反った。
直前に『ABSORB』のカードを使用し、AP――ラウズカードのコストを回復することにより、
グレイブは何の心配もいらずに別のラウズカードを使用できるのだ。
『高速移動……!?翔太郎、ここはサイクロンジョーカーだ!』
「ああ、分かっ――」
「させないよ」
『TIME』
またしてもグレイブが消失したかと思えば、突如目の前に現れてダブルにまた一撃を与える。
その衝撃によって、翔太郎は使用しようとしていたジョーカーのガイアメモリを落としてしまう。
すぐに取りに行こうと手を伸ばすが、それよりも先にグレイブの足がメモリを踏み砕いた。
「なっ……テメェ……!」
「絶体絶命だね、仮面ライダー……フフッ」
まるでこの状況を楽しむかのように、グレイブが嗤った。
239
:
◆qp1M9UH9gw
:2012/08/13(月) 20:34:02 ID:q/brJXS2
>>156
を以下のものに変更します
――――
【8】
奪い取ったアストレアのデイパックに入っていたラウズカード。
どういう経緯で彼女に渡ったかは知る由もないが、とにかくこれはアンクにとっては僥倖だった。
これとイカロスに支給されていたグレイブバックルを組み合わせれば、間違いなく奴らに勝てる。
事実、ラウズカードを手にしたグレイブの強さは、ダブルを軽く凌駕していた。
ダブルのあらゆる攻撃は失敗に終わり、しかしグレイブの攻撃は回避できない。
これは、グレイブがラウズカードを所持している――つまり、時間停止を始めとする様々な技を使えるのが大きいだろう。
グレイブ自身にもかなりダメージと疲労が蓄積されているものの、
ラウズカードが齎した恩恵は、それらの要素を差し引いてもダブルを圧倒できる程に大きかった。
グレイブにとっては、目の前のライダーがいかなる戦法を取ろうが関係ない。
交戦の合間にラウズカードを使用し、攻撃を回避してしまえばいいだけだ。
そして、攻撃によってできた隙を利用して、こちらは確実にダメージを与えていく。
こんな単純な動作だけで、ダブルは窮地へと追いやられていたのだ。
『――翔太郎!今のままじゃ奴には勝てない!一度体制を立て直すべきだ!』
ダブルが万全の状態ならば、結果は違っていたかもしれない。
未知の仮面ライダーを打ち倒し、アストレアの敵を討てた可能性もあっただろう。
しかし、満身創痍という言葉が相応しい今のダブルでは、それは叶わない。
「なっ――ふざけんじゃねえ!アストレアを見捨てろっていうのかよ!」
『あの傷を見ただろ翔太郎!彼女はもう助からない!』
急所を的確に貫いたグレイブの一撃を受けたアストレアは、恐らく命を落とすだろう。
この場に医療器具や、アヴァロンのような宝具があれば結果は違っただろうが、
そんなものが何処にもない以上、この残酷な結果を受け入れるしかない。
「畜生……ッ!」
目の前にいながら救えず、ただ命の灯火が消える様を黙って見ているしかない。
その事実は、翔太郎にとっては屈辱以外の何者でもなかった。
「切嗣の信頼を裏切れってのかよ……!」
『悔しいのは分かる。でも今は生き残るのを優先し――』
「何ブツブツ言ってるのさ」
突然真後ろから聞こえた声に気付いた頃には、もう遅かった。
ラウズカードの使用によって殺傷力の上昇したグレイブラウザーが、ダブルを切り裂く。
時間停止能力を手にしたというのは、つまり瞬間移動が可能になったのと同義。
相手に気付かれずに接近する事など、造作もない事であった。
直撃を受けてからようやく彼に気付いたダブルも攻勢に転じようとする。
しかし、これもまたグレイブの時間停止の前には無力。
それどころか、またしても背後からの攻撃を許してしまう。
「……そうだ、AP回復しなきゃ」
『FUSION』
『ABSORB』
『EVOLUTION』
ダブルに一撃を与えると、グレイブがすぐに三枚のカードをスキャンする。
これらを使用して手に入るAPの総数は、なんと「9000」。
グレイブの初期APである「5000」を遥かに上回る量のAPを手に入れられるのだ。
攻撃の合間を縫ってこれらを使ってAPを溜める事で、何枚カードを使用してもAP切れを起こす事はない。
その分メダル消費も相当激しくなっているが、
「ダブルを殺す」という目的しか眼中にない今のアンクには、そんなものは関係ない話であった。
APを回復させると、またダブルは時間停止を使用してダブルに接近する。
一瞬の隙も与えぬまま、彼は新たな発見の実験に取り掛かった。
『SLASH』『MACH』
二種類の電子音が流れた途端、以前よりも激しさを増した斬撃が襲い掛かった。
いや、「増した」なんて言葉で表現するには、その連撃はあまりに激しすぎる。
これは、グレイブが高速化とラウザーの強化を同時に行ったが故にできる芸当なのだ。
2種のラウズカードを使用したグレイブの攻撃は、ダブルの全身を容赦なく痛めつけた。
「凄い……カードを組み合わせるともっと強くなるんだ」
興味深そうにグレイブラウザーを見つめながら、グレイブが呟いた。
どうやら、使っている本人もあのカードを全て把握している訳ではないらしい。
僕達は実験体か、とフィリップが苦々しそうに言った。
240
:
◆qp1M9UH9gw
:2012/08/13(月) 20:40:23 ID:q/brJXS2
>>159
を以下のものに変更します
【10】
Xと遭遇した後にアンク達が発見したのは、三角形の物体。
見ている側まで不安になりそうな、瀕死の鳥のような飛び方をするそれは、
彼らには目も暮れずに――と言うよりも、気付いていなかったのだろう――何処かへと飛び去った。
何かあるのではないか、と考えたアンクが三角形の現れた方向に足を運んでみると、そこには二人の屍が斃れているではないか。
二人はこの死体が誰なのかを知っている――ついさっき遭遇したばかりの青年と少女だ。
少女の方は、心臓部に穴が開いており、そこからは一滴の血も流れてはいない。
青年の方にもまた、心臓部に空洞ができており、この者が既に死人である事を示していた。
辛そうに顔を伏せる弥子を尻目に、アンクは少女の亡骸の付近に落ちていた数枚のメダルを拾う。
それらどれもが、どういう訳か色彩を失っていたが、彫られていた鳥類のロゴを見て、確信する。
この四枚のメダルは、間違いなく自身が求めて止まないものだ、という事を。
唯一怪人の面影を残す右腕からメダルを取り込むと、己の中に欠けていたものが戻ってくる感覚があった。
――だが、まだ足りない。
「やはりアイツを取り込む必要があるか……」
まだこの地にいるであろう「もう一人の自分」を探して倒さない限り、完全態どころかグリードとしての姿にすらなれない。
あの忌々しい子供を一刻も早く探し出し、どちらが本物なのか白黒つけてやらなくては。
……尤も、これだけコアメダルを集めた以上、もう一人の自分と出会ってもそのまま吸収できてしまうだろうが。
ふと弥子に目を向けると、彼女は頭を垂れて項垂れている。
巻き込んでしまった二人に対する自責の念が、彼女を覆っていたのだ。
「……どうせ『私が呼んだから死んだ』って思い込んでるだろ」
そんな彼女に、アンクが声をかけた。
慰めるつもりはないが、妙な勘違いを引きずっていても困る。
「アホか、アイツらは自分の意思で命投げたんだぞ。お前が後悔する必要なんてない」
そう言いながら、アンクは青年の亡骸を一瞥する。
彼の腰にはやはりと言うべきか、ベルトが巻きついていた。
この仮面ライダーも剣崎と同様に、名前も知らぬ人間の為に命を落としたのである。
それが、アンクにはやはり理解し難かった。
どうして、そこまで容易く自分の命を天秤にかけれるのか。
自分が欲するものを投げ捨てようとする『仮面ライダー』には、嫌悪感しか浮かばなかった。
彼らの支給品は回収したが、ダブルドライバーだけは、どうにも回収する気になれない。
「……行くぞ。ここにはもう用はねえ」
そう言うと、アンクは弥子に背を向けて歩き始めた。
おぼつかない足取りで、弥子もそれに続いたのだった。
杏子の形見であるソウルジェムを、その手に握りしめて。
241
:
◆qp1M9UH9gw
:2012/08/13(月) 20:41:14 ID:q/brJXS2
以上で修正案の投下は終了です。
誤字などに関しては、wiki収録時に修正しておきます
242
:
◆qp1M9UH9gw
:2012/08/13(月) 20:43:34 ID:q/brJXS2
Xの状態表を修正し忘れてました
【X@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】緑
【状態】健康、疲労(中)、佐倉杏子の姿に変身中
【首輪】300枚:250枚
【コア】コンドル:1、タカ(感情L):1
【装備】佐倉杏子の衣服、重醒剣キングラウザー@仮面ライダーディケイド、ベレッタ(10/15)@まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式×5、“箱”の部品@魔人探偵脳噛ネウロ×28、アゾット剣@Fate/Zero、
キャレコ(10/50)@Fate/Zero、ライダーベルト@仮面ライダーディケイド、
ナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、ベレッタの予備マガジン(15/15)@まどか☆マギカ、
9mmパラベラム弾×100発/2箱(うち50発消費)、ランダム支給品2〜9(X+一夏+杏子+アンク(ロスト))(全て確認済み)
詳細名簿@オリジナル、ラウズカード(♠ A〜K、ジョーカー)、T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:自分の正体が知りたい。
1.ネウロの元へ向かう。
2.バーサーカーやセイバー、アストレア(全員名前は知らない)にとても興味がある。
3.ISとその製作者、及び魔法少女にちょっと興味。
4.阿万音鈴羽(苗字は知らない)にもちょっと興味はあるが優先順位は低め。
5.殺し合いそのものには興味は無い。
【備考】
※本編22話後より参加。
※能力の制限に気付きました。
※Xの変身は、ISの使用者識別機能をギリギリごまかせます。
※傷の回復にもセルメダルが消費されます。
※アンク(ロスト)の肉体を構成するメダルを吸収しました。
※ラウズカードの使用方法を知りません。
243
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/08/14(火) 14:29:10 ID:gu5stkRY
修正お疲れ様です。
指摘されていた箇所もしっかり描写されているので、これなら問題ないと思います。
244
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/08/14(火) 15:42:50 ID:cLeTi.DI
修正乙です。
私も挙げられていた展開上の問題点は解決したかと思います。
ただ、
>>239
の
>>APを回復させると、またダブルは時間停止を使用してダブルに接近する。
の一つ目のダブルはグレイブの誤字かなと思いますのでwiki収録時に修正お願いします。
245
:
◆qp1M9UH9gw
:2012/08/15(水) 13:11:40 ID:A8WdakMI
拙作を加筆、修正を加えた上でwikiに収録しました。
246
:
◆jUeIaTa9XQ
:2012/08/29(水) 19:03:45 ID:GcXihwpE
拙作で指摘された点の修正が終わったので投下します。
まず本スレ
>>269
の、萌郁が秋葉原の捜索を開始するパートを投下します。
----
◆
支給された地図を見た時から、ずっと気になっていた。
まるで一部分だけぽっかりと切り取られたような秋葉原の、その奇妙さが。
なぜか時計回りに90度回転させて配置させたようだが、それは実際のところ問題ではない。記憶の中の地図を回転させ直せばいい話だ。
問題は「切り取られた」秋葉原が駅の周辺のみで、その範囲に”それ”が含まれないことである。
秋葉原駅に到着した萌郁は、まずFBの指示の中から秋葉原探索を選ぶことにした。対象は、秋葉原で見つけたいものと聞かれて最初に思い浮かんだ”それ”。
地図を見る限り”それ”がある可能性は低いと理屈を唱えるが、もしも見つかったらきっとFBにとって有益になる物を与えるはずだと理想が捨てられない。
そして決めたのが、未だ不確定の可能性だからと”それ”の発見に賭けて歩き始めることだった。
「……やっぱり、無いのかな」
駅から北東に進み続け、しかし目当ての”それ”はやはり見つからない。十数分、本来ならとっくに到達できる時間をかけて急ぎ足で歩いたが、縮尺まで狂った秋葉原ではようやくD-8に入っただけだ。
だんだんと、黙々と歩く自分の姿が虚しくなってくる。FBに言われた通り引き際も肝心なのだろうか。そんな諦念が感じられ始めた頃には、瞳の色も沈んだものになっていく。
それでも進行を止めずに秋葉原の外縁付近、地図上のラジオ会館のほぼ真東まで至った。ああ失敗だったか、とついに溜息をつき、疲れた目で周囲の光景を眺める。
しかし、その両目はある一点に向けられた時に見開かれる。眼差しの先にあるのは一軒の茶色のレンガ壁のビルと、その一階に掲げられた「ブラウン管工房」の看板。
萌郁はすぐに駆け出していた。
真っ先に一階の商店が目に入る。この状況で商店が営業しているわけもなく、開け放たれた入り口の向こうはひたすら薄暗い空間であった。
筋肉質の男性店長も、店先で遊ぶ小学生くらいの女の子も、周りから「バイトのお姉ちゃん」とか「スズさん」と呼ばれる三つ編みの女性店員もいない。無人の店内には今時珍しいブラウン管テレビがいくつも陳列されているが、一つも電源は点いていない。
萌郁にとって大事なのはこちらではない。それ以上の興味を持つことはなく、商店から目を離してビルの端の階段へと足を踏み出し、二階へ駆け上がっていく。ドアを見つけたら一旦呼吸を整えて、そっと開けた。
その先にあるのは、家具や雑貨が並べられたごくありふれた部屋。人一人いない点を除けば生活感のある空間。しかし、今の萌郁にとっては唯一無二の場所。萌郁の探し求めた“それ”。
未来ガジェット研究所が、そこにあった。
「良かった」
本来なら賑やかなはずの室内には、今は誰もいない。それでも小さく頭を下げ、中に足を踏み入れる。
----
247
:
◆jUeIaTa9XQ
:2012/08/29(水) 19:06:55 ID:GcXihwpE
次に本スレ
>>273
の修正です。未来ガジェット研究所の位置変更に伴い、萌郁がカンドロイドを回収するシーンの時間と進行方向も修正したので投下します。
----
「本当に見つけてくるなんて」
どれほど広大かわからない会場全体の中で秋葉原周辺に限定して一人の少女を探すなど、最善とはいえども無茶だと思っていた。それにも関わらず、あっさりと少女は発見できた。
もしかしたらFBは少女の居場所に目星をつけた上で指令を送ったのだろうかと、またFBの手の内が気になり始める。すぐに、瑣末なことだと打ち消す。
タカカンドロイドにはそれぞれどの方面を探すか印をつけており、今戻ってきたカンドロイドの印は秋葉原駅の北側を表している。ならば、ラボから北または北西に向かえば目当ての少女を見つけられる可能性が高い。その少女がどこに向かうか不明だが、急げば合流が不可能な距離ではないはずだ。
時刻はすでに午後三時を過ぎている。早ければ夕方前、遅くとも定時放送の前には見つけたい。
「もう行こう」
----
最後に本スレ
>>276-277
の状態表の修正です。上から順にカザリ&大樹の現在位置、萌郁の現在位置、全体備考です。
----
【E-8/秋葉原】
----
【D-8/未来ガジェット研究所付近】
----
【全体備考】
※D-8 秋葉原エリア外縁付近には未来ガジェット研究所があります。
※未来ガジェット研究所内部にはタイムリープマシン@Steins;Gateが設置されています。
ただし、少なくともメール転送用の携帯電話の撤去が確認されています。
----
修正版の投下はこれで終わりです。問題点が無いか確認をお願いします。
248
:
◆jEBoYP/yOM
:2012/08/30(木) 08:39:26 ID:6zGtEITw
修正おつかれさまです。
自分は問題はないと思います。
249
:
◆jEBoYP/yOM
:2012/08/30(木) 08:51:10 ID:6zGtEITw
あ、すみません書きそびれました。
自分の方もこちらに合わせて描き直したいと思います。
250
:
◆jUeIaTa9XQ
:2012/08/30(木) 21:29:41 ID:oOBJOVx2
修正部分をwikiに収録しました。
251
:
◆QpsnHG41Mg
:2012/09/07(金) 02:30:52 ID:klHkyI3g
今回、一点不安な箇所があるので仮投下をさせて頂きます。
252
:
◆QpsnHG41Mg
:2012/09/07(金) 02:32:51 ID:klHkyI3g
ゲームの開始時点では高く昇ってた日も、今は随分と傾いていた。
もうすぐ太陽は完全に沈み、この殺し合いの会場にも夜がやってくる。
徐々に暗くなる空を見上げながら、井坂は静かに呟いた。
「いつの間にか随分と時間が経ってしまったようですねぇ……」
「まー仕方ないんじゃない、あの屋敷で結構な時間休憩したし」
「ふむ……ですが、おかげで体調は万全です。この力を試すのが今から楽しみですねぇ」
井坂はつい数時間前の憔悴など感じさせぬ足取りで、龍之介の一歩先を進みながら冷然と笑った。
“そう、体調は万全。これもDCSの効果あってのもの……”
ドーピングコンソメスープは、井坂の傷の回復をも早めてくれた。
ほんの二時間弱の休憩でほぼ万全まで体力を回復出来たのだから、流石である。
勿論、人の領分を越えつつある井坂の異常な食欲もその効果を手伝ったのだろうが。
今はそんなことよりも、一刻も早くこの新しいウェザーの力を確かめたい。
T2ガイアメモリとやらの力を、この身体で今すぐに実感してみたい。
そのための標的になってくれるなら誰でもいい。今はともかく実験台が欲しかった。
目指すアテなどはないが、会場の中心部へ向かえば誰かしらと出会えるだろう。
井坂はこの場所でも自分の目的のためだけに行動していた。
そんな井坂の足は、前方から現れた一人の男によって止められる。
井坂は、男に見覚えがあった。
赤いジャケットを身に纏い、やや片脚を引き摺りながらあるくその男を知っていた。
忘れようにも忘れられぬあのギラギラとした目付きに、井坂は何度も対峙してきたのだから。
「おお……! まさかこんなところで君に出会えるとは!」
我が意を得たり、といったところか。
待ち望んだ"都合のいい存在"の出現に、井坂の顔に歓喜の色が宿る。
男の顔は既に傷だらけだが、それでもその双眸は鋭く井坂を睨んでいた。
奴はきっとこの井坂深紅郎と出会うためだけに、傷付いてもなお歩き続けたのだろう。
飛んで火に入る夏の虫とはまさにこのこと。
喜びを禁じ得ぬ井坂は、龍之介を片手で制し言った。
「龍之介くん、すみませんが、あなたはしばらく下がっていて貰えますか?」
「えっ、どうしてさ?」
「彼は私に会う為だけにやってきたのです。ですから、彼の相手をするのもまた私の役目……
それに何より、私も新しいウェザーの実験をしたいのですよ。わかってくれますか、龍之介くん?」
物腰柔らかくそう言って、口元をべろりと舐める。
獲物を前にした肉食獣の舌舐めずりだ。
何となく状況を察した龍之介は、
「ふーん、わかったよ先生。ま、精々応援させて貰うとするよ」
そう言って近くのガードレールまで歩き、よっこらせと腰掛けた。
相手は最早まともな直立すらままならぬ手負いの若者一人。
よもや新たなウェザーの力を手にした井坂が負けるなどと欠片も思っていないのだろう。
その予測は正しい。万全な体調で挑む進化したウェザーが、あの男に負けることなど絶対に有り得ない。
くつくつと笑う井坂を目前に捉えた男は、持ち歩いていたデイバッグを投げ捨て叫んだ。
「見付けたぞッ、井坂深紅郎ぉぉーーーーーーーーーッ!!!」
激情を露わにして、懐からアクセルドライバーと一本のメモリを取り出した。
男は何のためらいもなくそれを腰に装着すると、勢いよくメモリをベルトに突き刺す。
分かってはいたが、奴は人の話など聞こうともしない男だ。もはや問答無用ということらしい。
野太いガイアウィスパーにエンジン音が続いて、男の姿は赤き仮面ライダーのそれへと変化した。
井坂もよく知るその男の名は、照井竜――またの名を、仮面ライダーアクセル。
父と母と妹を井坂の手によって惨殺された、正義感溢れる若き刑事。
では最後に残った照井竜も家族の元へ送ってやるとしよう。
井坂もまた、銀色のメモリを取り出した。
○○○
253
:
◆QpsnHG41Mg
:2012/09/07(金) 02:33:30 ID:klHkyI3g
時を遡ること三十分と少しばかり。
キャッスルドランにて、照井竜は二人の魔法少女から治癒魔法をかけられていた。
桃色の魔力光は鹿目まどか。黄色の魔力光は巴マミによるものだ。
照井ら三人が到着した時には、既に到着したまどかが火野映司の治癒を行っていた。
当然火野映司の治癒が優先されるべきなのだろうが、今こうして照井の治癒を優先して貰っているのは訳がある。
「すまないな、無理を行って俺の治療を優先させてしまって」
「時間がないなら、仕方ないです」
まどかが苦笑交じりにそう言ってくれた。
そう、照井竜には、あまり時間がないのだ。
一刻も早くブースターを会得しなければならない今、ここでゆっくりしている時間もない。
火野映司には申し訳ないが、照井は特訓の為にすぐにこのグループを離脱する。
最初はマミと智樹を守りながら特訓するつもりだったが、今は状況が違う。
あの激戦をも生き抜いた立派な戦力であるまどかと火野がここにはいるのだ。
火野の暴走は確かに心配だが、聞く所によると彼は元々心優しい青年だという。
ならば、二度目以降はオーズの力を使うことに関しても慎重になってくれるだろう。
“そうなれば、手負いの俺は足手纏いだからな”
照井は、このグループに自分の力はもう必要ないと感じていた。
足手纏いになるくらいなら、自分だけでも離脱して少しでも特訓をする。
その方が、お互いのためにもずっといい。
暫しの沈黙ののち、照井はすっくと立ち上がり言った。
「俺はもういい、あとはそこで寝ているオーズを癒してやってくれ」
そう言って、未だ気絶しているままの火野映司を見遣る。
無理を言って火野の回復を後回しにさせたのだ、少し悪いことをした気もする。
が、真人間の照井と比べれば、彼の傷の治りの方が幾分か早いようにも感じられる。
おそらく、オーズの力は彼自身をも人の領分を逸脱させつつあるのだろう。
この分ならば、日が沈むまで治癒魔法を施せばそれなりに回復すると思う。
立ち上がった照井を、巴マミは心配そうに見上げる。
「まだ無理よ、もう少しゆっくりしていきましょう?」
「いいや、ここまで回復すれば上等だ」
身体はそれ程苦痛を訴えているわけではない。
第一、ブースターは飛行戦闘用の形態だ。
多少脚を引き摺っていようが、構う事はない。
「俺のことはもういい、あとはお前たちで話し合ってくれ」
そう、自分の体調のことよりも、照井は彼らの蟠りの方が心配だった。
鹿目まどかは何も言及しないが、巴マミに何らかの蟠りを懐いているのは明らかで、
火野映司の方は暴走していたという話だが、それでも全員に詫びなければならない事がある。
この場の全員が今後も共に手を取り合っていくためには、話し合いの時間が必要だ。
けれども、照井にはもう、そんな時間さえも惜しい。
「なあ、もうちょっと寝といた方がいいんじゃねーの? 特訓なんか……」
「しないよりはマシだ。やる意味は必ずある」
そういって、桜井の言葉を一蹴する照井。
この世に意味がないことなんて存在しない。
どんなことでも、積み重ねれば必ず意味が出来る。
というよりも、出来なければ困るのだ。
“でなければ、俺はいつまで経っても奴に届かん……!”
照井の家族を皆殺しにした……憎き仇敵、井坂深紅郎に。
だから照井に、もうこれ以上ここで立ち止まっている心算はない。
絶対に井坂深紅郎をこの手で仕留めるためにも……
強い闘志を胸に、照井は最後にこの場の全員に視線を送った。
ここにいる全員はあの激戦を生き抜いた猛者ばかり。
まだ年若いが、彼女らならばきっと大丈夫だろう。
「色々と世話になった。俺はもう行く」
「ちょっと待って、照井さん」
いざキャッスルドランをあとにしようとした照井を呼び止めるマミ。
マミはもう照井を引き留めようとはしなかった。
代わりに、デイバッグから取り出した一本のガイアメモリを手渡してくる。
それは、照井もよくみなれた――加速の記憶を内包した「A」のガイアメモリ。
ただ一つ照井のものとの相違点を上げるとすれば、端子部が青いということか。
254
:
◆QpsnHG41Mg
:2012/09/07(金) 02:34:21 ID:klHkyI3g
「これは……?」
不可解な眼でそれを凝視する照井に、マミが説目する。
「私のデイバッグに支給されていたの。用途がわからないから放置していたんだけどね……
さっき照井さんのベルトを見た時、“これは貴方に渡さなくちゃいけないものだ!”って思って」
どうしてかは分からないが、不思議と渡さなければならないという義務感に見舞われたのだという。
ガイアメモリに添えられて渡されたメモ帳の説明を見るに、それはT2アクセルメモリというらしい。
正規の使用者以外が手にした場合は暴走するとも取れる説明書きだが、しかしこのメモリはマミに触られても暴走をしなかった。
そこに照井は疑問をいだく。
“どういうことだ……? まさか、メモリ自体が俺を選び、巴を誘導したとでもいうのか……?”
いや、考えた所でわかりはしない。
そんなことは考えるだけ時間の無駄だとかぶりを振る。
自分にとってプラスになるものなら、何だって受け取るだけだ。
「……難しい顔して、どうかしたかしら?」
「いや……何でもない、ありがたく受け取っておこう」
そう言って、照井はT2アクセルメモリをポケットにしまった。
「あの、照井さん。私からも渡したいものがあるんです」
マミに続いて、今度は鹿目まどかがデイバッグを担いで持ってくる。
元より二つ持っていたデイバッグのうちの片方には、大量のメダルが詰まっていた。
決して軽くはない筈のそれを、まどかは苦もなく照井に差し出して言う。
「照井さん、多分、さっきの戦いでかなりメダルを消耗しましたよね……?
ここに百枚メダルが入ってます……せめてこれくらいは持っていってください」
「待て! こんなに大量のメダルを受け取ったら、お前の分が……」
「私は大丈夫です……ガメルが砕かれた時に、沢山、補充したので」
まどかは何処か哀しげに、絞り出すようにそう言った。
照井も簡単にだが、話は聞いている。
まどかの為に戦い、まどかの為に散ったメダルの怪人がいたのだと。
これは彼の形見なのだろう。事情を察した照井は、それ以上何も訊こうとはしなかった。
差し出されたデイバッグを開くと、瞬時にそれらが照井の首輪に吸収されてゆく。
大幅に減らされていたメダルが回復していくのが実感としてわかった。
「感謝するぞ、二人とも。これで俺も憂いなく戦える」
「おい、ちょっと待てよ。俺からもアンタに渡すものがある」
そういって、渋々ながらもデイバッグを抱え歩いて来た桜井は、
「ホントは渡したくねーんだけど、俺だけ何もなしってワケにもいかねーし……」
デイバッグの中から数冊の雑誌を取り出し、
「だから……餞別だ、受け取れよ」
それを、照れ臭そうな笑顔と共に照井へと差し出した。
殆ど衣類を身につけていない女性が表紙に描かれたその本は……エロ本!
ガイアメモリ、セルメダルときて、最後に渡されたのが……エロ本!
予想の斜め上をいく餞別の品に、照井は言葉を失った。
「ホラ、とっとと受け取れよ、マミ達が怪しがってるだろ!」
上手い事二人の魔法少女に見えない角度で本を差し出して来る。
“これを……俺は……受け取る、のか……?”
ゴクリと固唾を呑む照井。
こんなものを貰って、今後役に立つ事があるのか……?
「お、俺は……ッ」
「いいから! 何も言わずに受け取れッ照井!!」
「俺のゴールは……こんなものではないッ!!」
気付けば照井は、自分でもワケのわからない言葉を口走っていた。
痛む脚を引き摺って、逃げるように走り出していた。
この選択は、きっと正しかったのだと思う。
○○○
255
:
◆QpsnHG41Mg
:2012/09/07(金) 02:35:25 ID:klHkyI3g
「行っちゃったわね」
マミの言葉に、まどかは静かに、粛然と頷いた。
堅苦しい。無意識でもどこか畏まってしまう自分の対応に気分が暗くなる。
思えば、照井が居た間はまどか自身も勤めてマミと話すまいとしていたように思う。
別にまどかが意図してマミを避けようとしているわけではない。
話したいことは沢山あるし、話さなければならないと思う。
しかし、そんな二人の間には、確かな壁がある。
マミは魔法少女の真実を知って、仲間の魔法少女を殺した。
まどかもまた、そんな彼女を止めるためとはいえ、マミを殺した。
きっとあの時のマミが相手なら、落ち着いて話をしようと思える余裕すらなかっただろう。
今のマミを見るに、あの時よりは随分と落ち着いている様子だから、話せないことはない筈だが。
何と言葉をかければいいのか、色々と考えた末に……
「あの、マミさん……話があるんです」
まどかの第一声は、案外と普通なものだった。
「あら、何かしら?」
「その……私がしちゃったこと、謝りたいなって」
「しちゃったこと?」
マミは、まるで何事もなかったかのように小首を傾げた。
忘れる訳がない。自分は、絶望したマミを説得するどころか、殺したのだ。
まどかは自分の罪を自覚している。だからこそ、とぼけられる方が却って堪えた。
「私が、マミさんのソウルジェムを撃ち抜いちゃったこと、です……」
「……えっ」
素っ頓狂な声をあげるマミ。
「えっ、ちょっと待って、ソウルジェムが撃ち抜かれると、私は死ぬわよ……?」
「だからっ! 私がマミさんを殺しちゃったことを謝りたくてっ……」
「えっ……えっ!? 私は生きてるけど……えっ!?」
「だ、だからホラっ、ここへ連れて来られる前の話です! マミさんが“みんな死ぬしかないじゃない!”って言って、杏子ちゃんのソウルジェムを撃ち抜いたから、だから、私っ……!」
「た、確かにあの時はそんな事も考えたかもしれないけど……って! それをどうして鹿目さんが知ってるの!? というか、私が佐倉さんのソウルジェムを撃ち抜いたって、何の話……!?」
「えっ……あれっ!?」
おかしい。話がかみ合わない。
かといって、マミが惚けている風にも見えない。
というよりも、彼女は嘘を吐くような人間ではないし、知らないというのなら本当に知らないのだろう。
だが、だとしたらどうして? 二人の認識には、それぞれ齟齬が生じている。
どういうワケか、ここに来る前のまどかの記憶とマミの記憶が食い違っている。
落ち着いて、一から状況を整理して話し合う事が必要かと再認識させられた。
その一方で智樹は、二人が話し込んでいてくれたおかげで照井にエロ本を渡そうとしていた事実を悟られることもなく、こっそりとデイバッグに隠すことに成功し、ホッと一息ついていたのだった。
○○○
256
:
◆QpsnHG41Mg
:2012/09/07(金) 02:37:32 ID:klHkyI3g
バイク形態へと変形したアクセルが、ウェザー目掛けて疾走する。
ウェザーが両の手から立て続けに放つ光線を回避しながらぐんぐんと突き進む。
後方の爆発を追い風に。一気にウェザーに迫ったアクセルは、前輪を大きく持ち上げウェザーに襲い掛かった。
ウィリー装甲による体当たり。高速で回転する車輪をウェザーに叩きつけようという寸法だ。
「……甘いですねぇ」
されど案の定、照井の思惑通りにはいかない。
高速回転する車輪はウェザーに片手で受け止められた。
しかし、そんな事で攻撃の手を緩めるアクセルではない。
ならばとばかりに後輪を一気に跳ね上げ、空中で人型の形態へと変型――
「――ウォォォォォオオオオオオオッ!!」
気合いの叫びを迸らせて、エンジンブレードを振りかざす。
ウェザーの脳天へとそれを振り落とせば、倒せないまでもダメージは与えられる筈だ。
そんな打算はしかし、ウェザーが巻き起こした突風によって阻まれる。
身体が煽られる。とんでもない風圧の風に身体を巻き上げられてゆく。
竜巻の中に巻き込まれたアクセルを次に襲ったのは、十重二十重と稲光を光らせる雷撃だった。
「う、ぉおおぉおおおおおおっ!?」
防御の姿勢すらろくに取れない竜巻の中で、全身が雷に打たれる。
竜巻と稲妻の洗礼のあとに待っていたのは、硬いアスファルトの地面への激突だった。
ディケイド戦でのダメージを引き摺ったまま、いきなりの大打撃。
全身に刺すような痺れを感じ、上手く立ち上がれない。
「クッ……!」
しかし、どれ程の痛みも家族が受けた苦痛に比べればマシだ。
父と、母と、妹は、これにも勝る痛みと苦痛の中で死んでいったのだ。
それを思い出した時、燃え上がる愛憎がアクセルに更なる力を与えてくれた。
「負けて、たまるかァッ! 奴がッ目の前に居るのにィッ!!」
アスファルトの地面に拳を叩き付け、その反動で起き上がるアクセル。
これは負けられない戦いなのだ。父と母と妹の仇が、目の前にいるのだ。
何としてもここで奴を討ち取らねば、死んでも死にきれん――!
死ぬなら、あの照井をこの手で殺した後だ!
「往生際が悪いですねぇ? もっとも、その方が私も楽しめますが。……そんなことよりも、竜巻と稲妻の性能は十分のようだ。むしろ、以前よりも幾分か調子がいい! 次は何の能力の実験に付き合ってくれますか、照井竜くん?」
「きさまぁ……ッ! 黙れッ、黙れぇーーーーーッ!!」
奴の言葉の一つ一つが照井の神経を逆なでする。
奴は今もまた、ウェザーの能力の実験台にするためだけに戦っている。
戦うつもりすらなく、ただ自分の独り遊びのためだけに、そこに立っているのだ。
誰でも良かった、そんなふざけた理由で殺された家族の最期がフラッシュバックして、照井の頭が怒りと憎しみで埋め尽くされてゆく。
もはや照井の頭の中には"復讐"の二文字しか存在しない。
ただ目の前の怪人をブチ殺してやりたい!
その一心で、アクセルは強化アダプターを取り出した。
――ACCEL――
――UPGRADE――
特訓が必要だと言うなら、ここで特訓も兼ねて奴を倒してやるまでだ。
奴が自分の能力の実験のため照井を利用するというなら、此方も逆に利用してやるまで。
井坂がまだ知らないアクセルの新たな姿で、今度こそ、因縁の戦いに幕を下ろしてやる――!
――BOOSTER――
高らかに響き渡るガイアウィスパー。
アクセルの赤い装甲を弾き飛ばし、新たに現れた黄色の装甲がその身を覆う。
その名はアクセルブースター――井坂深紅郎の知らない、アクセルの新たな姿。
強化変身を果たしたアクセルの姿をみて、しかしウェザーは慄くどころか、余計に上機嫌に笑った。
「おおおおっ、その強化アダプタは、私も噂に聞いた事があります!
よもやきみがそれを持っていようとは……是非、私の研究のためそのアダプタも頂戴したいッ!」
「ならば俺から……奪い取ってみろぉーーーーーーーーーーッ!!!」
裂帛の叫びと共に、全身のスラスターが火を噴いた。
ジェット噴射の轟音をうならせて、アクセルが空を舞う。
今のアクセルは、攻撃力と機動力が爆発的に上昇している。
奴に防御の隙を与えず一瞬で勝負を決めれば……
“勝てるハズだッ!”
それをこなすには些か訓練が足りない気もする。
けれども、戦場というのはいつだってそういうものだ。
訓練などなしで、戦わなければならない時だってある。
ならばやるしかない。ここであの男を討ち取るしかない。
257
:
◆QpsnHG41Mg
:2012/09/07(金) 02:38:10 ID:klHkyI3g
「行くぞォオオオオッ!!」
背面のスラスターが、ウェザー目掛けて一気にジェットを噴射した。
爆発的な加速力でもって、さながら獲物を見定めた猛禽類の如き勢いで加速。
この短距離をジェットの噴射で加速したのだ、そう簡単に見極められるわけがない。
案の定、ウェザーが何らかの行動を起こす前に、アクセルの刃がウェザーの胴を切り裂いた。
「先生!?」
静観を決め込んで居た井坂の連れの男が、慌てて叫ぶ。
アクセルは、その声さえも掻き消す勢いでジェットを噴射させ、再び空中へ舞い上がった。
手応えはあったが「倒した」と言える程の打撃を与えた感触はない。
所詮、攻撃の一手を奴に届かせただけに過ぎないのだ。
「これは少し驚きましたねぇ……"見"のつもりで甘んじて受けましたが……
いやはや、これは想像以上の素晴らしい加速力です。ますますアダプタが欲しくなりました!」
嬉々とした声でそう告げるウェザーに、照井は反吐が出るほどの嫌悪を懐く。
奴はまだこの状況を理解していないのだ。まだモルモットと遊んでいる気でいるのだ。
自分は絶対的な強者だから、敢えて攻撃を受けてやったのだと、そうのたまっているのだ。
「貴様ァ……いつまでもナメたことをォッ!!」
再びブースターによって爆発的な加速を生み出す。
今度はアクセルの周囲を巨大な雷雲が囲い、さっきと同じように稲妻を迸らせるが――
“アクセルブースターの加速は、ウェザードーパントの稲妻攻撃よりも、速いッ!”
迫り来る稲妻をひらりひらりと回避し、瞬く間にウェザーへと肉薄するアクセル。
“勝てるッ! この俺が、井坂深紅郎を追い詰めているッ!”
追い詰めているのは自分で、追い詰められているのが井坂深紅郎。
なんてことはない、ハンターと獲物の立場が入れ替わった、それだけのことだ。
もはや冷静な判断能力など望めようハズもない。
ゴリ押しでも何でもいい、照井の頭の中は、今ここで井坂を倒すことで一杯だった。
――ELECTRIC――
エンジンブレードから鳴り響くガイアウィスパー。
稲妻迸るエンジンブレードを振り上げて、もう一撃を叩き込んでやろうと肉薄。
ブレードの切先がウェザーの胴に触れる寸でのところで――切先は、ウェザーに掴まれた。
「なァァ――ッ!?」
「ふむ、どうやら私の反射速度も以前より鋭くなっているようですねぇ」
「きさま……っ!」
「残念ですが、進化したのはあなただけではないのですよ」
こいつは最初の一撃を受けて、二度目以降は稲妻をけしかけた。
まさかこいつは、全てアクセルの攻撃を見切る為に、観察する為に……?
いや、だから何だと言うのだ。奴の思惑などどうでもいい、何だっていい!
家族の仇である井坂深紅郎を前にして、照井の心が折れることなど絶対に有り得ないのだ!
「クソッ、クソォォオオオッ!! 貴様だけはゆるせん! この井坂深紅郎だけはッ!!」
もはやアクセルに退路はない。
このまま押し切るほかに道はないのだ。
乾坤一擲、背部のブースターの出力を全開にする。
「うおっ!?」
驚愕の声を上げたのは、ウェザーだ。
エレクトリックのエネルギーを纏ったエンジンブレードを、ブースターの爆発的な加速力で押し切ったのだ。
ゴリ押しもいいところだが、それで奴を倒せるのならば何だって構いはしない。
一瞬よろけたウェザーを置き去りにブースターの加速力で遥か後方へ飛んでゆく。
十分な加速を得られる距離まで離れたアクセルは、そのまま高速でUターン。
――ENGINE――
――MAXIMUM DRIVE――
「――ッ!!!」
それにはもはや掛け声すらも存在しない。
持てるチップの全てを賭けた、のるかそるかの大博打。
これで倒せなければ、その時は本当の本当に絶望のゴールへ一直線だろう。
眩い金の輝きを放つ刃を振りかぶったまま、アクセルとウェザーの影が交差する。
エンジンブレードは、ウェザーの身体に触れた途端に大出力のエネルギーを解き放った。
“……やったぞッ!”
アクセルの必殺技は、確かに決まった。
一瞬で飛び抜けたアクセルの後方で響く爆発音。
ウェザーから数十メートルも離れた場所まで滑空したところで、アクセルもまた力尽きる。
体力の消耗が激しいのだ。ブースターからの噴射が途切れ、アクセルの身体は地に堕ちた。
膝がアスファルトを叩く。エンジンブレードの切先が、アスファルトに減り込む。
そして振り返ったアクセルが見たのは……無傷で佇立するウェザーの姿だった。
258
:
◆QpsnHG41Mg
:2012/09/07(金) 02:40:07 ID:klHkyI3g
「何故、だ……ッ!?」
「中々に鋭い攻撃でしたが……言った筈ですよ、進化したのはあなただけではないと」
「手応えはあった……!」
「ええ、あなたの攻撃は確かに受けましたとも」
「ッ!?」
そこで、ウェザーの腰に装着されていたチェーン爆弾がなくなっている事に気付く。
奴は、これまた寸での所でアクセルの攻撃を見切り回避を成功させていたのだ。
エンジンブレードが切り裂いたのは、腰にぶら下げていたウェザーマインでしかなかったのだ。
奴が起こした爆発だと思っていたのは……ただの奴の携行爆弾でしかなかったのだ。
「ウ、ウォォオオオアアアアアアアアーーーーーーーーッッッ!!!」
結果を悟った途端、全身の力が抜け落ちた。
アクセルの仮面から漏れる、慟哭にも似た絶叫。
結局自分は、家族の仇を取ることが出来なかったのだ。
エンジンブレードを思い切りアスファルトに叩き付け、地面を砕く。
癇癪を起した子供と何も変わらない無意味な八つ当たりだった。
そんなアクセルの背後まで悠々と歩を進め、その襟首を掴んだウェザーは、片手でアクセルの身体を捻り上げる。
「う、ぐぅっ……離せェェッ!!」
「そうはいきません。私はもっとT2ウェザーの性能を見極めなければならない」
「T2、だと……ッ」
ウェザーも進化したとはどういうことだろうかと考えてはいたが。
今の一言で、照井の中でも合点がいった。この男は、T2メモリを使っているのだ。
T2ガイアメモリの性能は知らないが、ただT2になっただけでこれ程までに強化されるのなら――
此処へ来る前に巴マミから譲り受けたT2アクセルメモリを思い起こし、
「さて、次は冷気の性能でも確かめてみましょうか」
「!?」
しかし、時既に遅し。
刹那、アクセルの全身を凛冽な冷気が襲った。
まるで氷の中にでも閉じ込められているような気分だった。
冷気は瞬く間にアクセルから体温を奪い、十秒も待たずにアクセルの手足は動かなくなった。
「おやおや、少しやりすぎましたかねぇ? もう少し持ちこたえると思ったのですが」
体力の限界だ。
すぐにアクセルの装甲が消失して、ベルトからアクセルメモリが排出される。
アクセルメモリが所有者の体力低下を察知して、自動的に変身を解除したのだ。
掴んでいた襟首がなくなったことで照井の身体は地に落ちるが、しかし追撃の手は緩みはしない。
「う……ッ!?」
ウェザーが照井の腹を蹴飛ばしたのだ。
腹に伝わる鈍い痛みに、照井は無様にもゴロゴロと転がり煩悶する。
今の痛みは、ウェザーの蹴りによる痛みだけではない。
地面をのたうちながら腹を見れば――
「……あぁッ!?」
粉々に砕け散ったアクセルドライバーが、照井の腹に減り込んでいた。
まるで"交通事故で滅茶苦茶になったバイク"よろしく、見る影もなくなったソレに手を伸ばす。
メモリの挿入部は完全に潰され、バックル本体も、二度と使い物にならない程に砕かれていた。
「バカな……俺のアクセルドライバーが……っ」
「どの道そんなベルトを使っている限り私は倒せませんよ」
嘲笑混じりのウェザーの声に、照井はついに「仮面ライダー」の力に限界を感じた。
元より、奴を倒せるなら仮面ライダーでもそうでなくとも構わない、とは思っていたが。
どの道、仮面ライダーの力では奴には敵わなかった事が今、証明されてしまった。
「そんなことよりも、これが強化アダプタですか……実に興味深いですねぇ」
そう言って、ウェザーが手に取ったのはアダプタが接続されたままのアクセルメモリ。
さっきの強制排出の際に足元に落ちたそれを、ウェザーの大きな手でつまみあげる。
強化アダプタから容易くアクセルメモリを引き抜いたウェザーは、
「や、やめろ……」
それを軽く、握り締めてみせた。
「やめろぉぉおおおおおおおおッ!!!」
照井の絶叫も虚しく。
ウェザーの手から零れ落ちていく赤のメモリは、既に原形を留めてはいなかった。
外装は既に粉々。中身の基盤は奴の手の中で折られて割られ、ただの機械の残骸になった。
如何に地球の記憶を宿したガイアメモリといえども、壊れてしまえばただのガラクタ。
今まで共に戦って来た相棒の最期を目に焼き付けた照井は、痛む身体に鞭打って、怒りの絶叫と共にもう一度立ち上がった。
259
:
◆QpsnHG41Mg
:2012/09/07(金) 02:41:26 ID:klHkyI3g
「井坂ぁ……深紅郎ォォッ! きさまッ、貴様ァァーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
照井はまた、目の前であの男に奪われたのだ。
家族だけでなく、今度は照井に唯一残されていた戦う為の力すらも。
奴に敵うかどうかが問題なのではない。
もはや何の打算もなしに、ただ昏い感情に突き動かされるまま、照井は立ち上がった。
限界をとっくに超えた身体を突き動かすのは、憎悪と、愛憎と、憤怒と。
理性すらも消し飛びそうな怒りの爆発をこらえきれず、照井は走り出した。
そんな照井に、唯一応えてくれるものが存在した。
▲ここまでが前編
ここからが後編▼
キャッスルドラン内部の洋室は、厳かな空気にしんと静まり返っていた。
ついさっきまで、二人の魔法少女は火野映司に治癒魔法をかけていた。
今は火野映司の容態も安定してきたので、メダルの消費を考えて休んでいるが。
マミはその間にまどかと話し合った内容を頭の中で整理する。
にわかには信じ難い話だったが、しかしそれが事実なら、恐ろしいことだと思う。
もう一度情報を纏めるわよ、と前置きをしてから、マミは言葉を続けた。
「私が連れて来られたのは、美樹さんの魔女が倒された直後。
鹿目さんが連れて来られたタイミングは、それよりもずっと未来。
……それで、あなたの知る私は、佐倉さんを殺して、心中をしようとした……と」
「そういうことになりますね……」
「それが意味するところは、つまり」
「あの真木清人っていう男の人は、ほむらちゃんみたいな力を持ってる……」
まどかの言葉に、マミはゴクリと固唾を呑んで頷いた。
まどかの話が本当なら、二人はそれぞれ別の時間軸から連れて来られたことになるのだ。
だとすれば、暁美ほむらの時間操作能力と似てはいるが、それよりももっと悪質で、自由度の高いものだ。
最初はマミが好きそうなネタでからかっているのかとも思ったが、まどかがそんな子でないことは知っている。
何よりも、マミにとってはつい数時間前だが、あの時の精神状態ならば、心中という考えに思いいたってもおかしくはない。
……するとなると、
「真木清人は、神をも冒涜する十二番目の理論に手を出していることになる……!」
この場の大勢の命を握っている殺人鬼は、時間流にまで介入する術を持っているのだ。
だとすると、例えこの殺し合いを打破したとしても、真木にはどうとでも逃げる手段がある。
幾らでも、何パターンでも、やりようがある。
それは非常におそろしいことだ。
「これは……ちょっとマズいかもしれないわね。思っていたよりも敵は強大よ」
「敵……ってことは、やっぱりマミさんもこの殺し合いを止める為に……!?」
驚きつつも、ぱっと明るくなるまどかの声。
マミがまた味方になってくれるのが嬉しいのだろうか。
ならばやはり、頼れる先輩として自分がまどかを導く必要がある。
「当たり前じゃない、私達は仲間でしょう? また一緒に戦いましょう、鹿目さん」
「でもっ……! マミさんからしたら未来の話とはいえ、わたし……マミさんのこと、殺したのに……? そんな私と……」
「ううん、もういいの。そうするしかなかったんでしょう?」
鹿目まどかは誰よりも優しい女の子だ。
好き好んでマミの命を奪うことなどする訳がない。
それはむしろ、心中などという馬鹿な結末を選ぼうとした自分が叱咤されるべきことだ。
しかし、まどかがそんな事をする子でないということも分かっている。
ならば、やはり先輩の自分が率先して仲直りを申し出るべきだ。
「それに、原因は私なんだし、お相子よ。ね?
だから……これはお願いよ。これからもずっと、私と一緒に戦ってくれないかしら?」
「マミさん……っ、そんな、こちらこそ……!」
心から嬉しそうに、まどかは首肯した。
これで憂いの一つは消え去った。
もうマミとまどかの心が離れることはないだろう。
これからも、仲間としてずっと一緒に戦っていける。
一度は離れ離れになった二人は、熱い友情によって再び結ばれたのだから。
“私はもう一人じゃない”
その事実が、マミの心を満たしていた。
こんな殺し合いの場だからこそ、残りの魔法少女たちともきちんと話し合おう。
まどかとマミの二人にそれが出来たのだから、他のみんなとも分かり合えない訳がない。
美樹さやかがどのタイミングから連れて来られているのかはやや心配ではあるが……
そんなことを考えていたマミの肩を、智樹の手が叩いた。
260
:
◆QpsnHG41Mg
:2012/09/07(金) 02:42:20 ID:klHkyI3g
「おい、もうそっちの話は終わったか?」
「ええ、待たせて悪いわね、桜井くん。そっちの用事ももう終わった?」
「お、おう……まあな?」
少し罰が悪そうにデイバッグを後ろ手に隠す智樹。
マミ達は知らない事だが、智樹は二人が"難しい話"をしている間、ずっと一人でエロ本を読んでいたのだった。
全く無駄な時間の使い方と思われがち、それが智樹の活力になるのだから、一概に無駄とも言い切れないから恐ろしい。
「ってそんなことよりもだな! コイツが目を覚ましたぞ!」
「あっ……」
見れば、智樹の後ろに横たわっていた火野映司が上体を起こしていた。
所在なさげに目を伏せるその表情は沈鬱だが、傷の治りは悪くは無さそうだった。
治癒魔法の甲斐もあって、短期間で目を覚ましてくれたのだろう。
マミはホッと安堵し、そして次に、自分の気を引き締める。
彼の話は聞いている。本当は優しい青年なのだそうだが、話さなければならないことがある。
ここは先輩魔法少女として、まどかと火野映司の仲を取り持って、平和的な解決を望みたいところだが。
そう一人意気込むマミら三人に、火野映司はおそるおそるといった様子で自己紹介をした。
「えっと、助けてくれてありがとう。俺は火野映司……ここは?」
「ここはキャッスルドラン、あの会場の施設の一つよ」
マミの言葉に、映司は「そっか」と呟いた。
今のマミに、それ程の不安はない。
ついさっき、まどかとも分かり合えたばかりなのだ。
きっと火野さんともきちんと話し合えば分かり合えるハズだと、そう思う。
一度は絶望に打ち勝ったマミだからこそ、今はこの場の誰よりも前向きなのだった。
“うん、やっぱり私がしっかりしなくちゃね。頼れる先輩魔法少女として……!”
照井から託された"志筑仁美"さんのこともある。
彼女が帰って来た時に、自分が率先して安心させてあげよう。
その為にも、今はまずこの場の全員に安堵をもたらす必要がある。
誰にも悟られる事なく、マミは内心でひとりはりきるのであった。
【一日目-夕方】
【C-6 キャッスルドラン内部】
【火野映司@仮面ライダーOOO】
【所属】無
【状態】疲労(小)、ダメージ(中)
【首輪】150枚:0枚
【コア】タカ:1、トラ:1、バッタ:1、ゴリラ:1、プテラ:2、トリケラ:1、ティラノ:2
【装備】オーズドライバー@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:グリードを全て砕き、ゲームを破綻させる。
0.俺はまた暴走してたのか……。
1.この場のみんなと話をしなくちゃならない。
2.グリードは問答無用で倒し、メダルを砕くが、オーズとして使用する分のメダルは奪い取る。
3.もしもアンクが現れても、倒さなければならないが……
【備考】
※もしもアンクに出会った場合、問答無用で倒すだけの覚悟が出来ているかどうかは不明です。
※ヒーローの話をまだ詳しく聞いておらず、TIGER&BUNNYの世界が異世界だという事にも気付いていません。
※ガメルのコアメダルを砕いた事は後悔していませんが、まどかの心に傷を与えてしまった事に関しては罪悪感を抱いています。
※通常より紫のメダルが暴走しやすくなっています。
※暴走中の記憶は微かに残っています。
261
:
◆QpsnHG41Mg
:2012/09/07(金) 02:43:02 ID:klHkyI3g
【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】白・リーダー代行
【状態】哀しみ、決意
【首輪】180枚:30枚
【コア】サイ(感情)、ゴリラ:1、ゾウ:1
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、ファングメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式×2、詳細名簿@オリジナル、G4チップ@仮面ライダーディケイド、ランダム支給品×1、ワイルドタイガーのブロマイド@TIGER&BUNNY、マスク・ド・パンツのマスク@そらのおとしもの
【思考・状況】
基本:この手で誰かを守る為、魔法少女として戦う。
0.マミさんとはこれからもずっと仲間!
1.映司さんともちゃんと話がしたい。
2.ガメルのコアは、今は誰にも渡すつもりはない。
3.映司さんがいい人だという事は分かるけど……
4.ルナティックとディケイドの事は警戒しなければならない。
5.ほむらちゃんやさやかちゃんとも、もう一度会いたいな……
6.真木清人は時間の流れに介入できる……
【備考】
※参戦時期は第十話三週目で、ほむらに願いを託し、死亡した直後です。
※まどかの欲望は「誰かが悲しむのを見たくないから、みんなを守る事」です。
※火野映司(名前は知らない)が良い人であろう事は把握していますが、複雑な気持ちです。
※仮面ライダーの定義が曖昧な為、ルナティックの正式名称をとりあえず「仮面ライダールナティック(仮)」と認識しています。
※サイのコアメダルにはガメルの感情が内包されていますが、まどかは気付いていません。
※自分の欲望を自覚したことで、コアメダルとの同化が若干進行しました(グリード化はしていません)。
※メズールを見月そはらだと思っています。
※真木清人が時間の流れに介入できる事を知りました。
【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】黄
【状態】割と上機嫌、疲労(小)
【首輪】80枚(増加中):0枚
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品、ランダム支給品0〜1(確認済み)
【思考・状況】
基本:頼れる"先輩魔法少女"として極力多くの参加者を保護する。
0.私はひとりぼっちじゃなかったのね!
1.火野映司から話を聞いて、この場のみんなを纏める。
2.他の魔法少女とも共存し、今は主催を倒す為に戦う。
3.ディケイドを警戒する。
4.真木清人は神をも冒涜する十二番目の理論に手を出している……!
【備考】
※参戦時期は第十話三週目で、魔女化したさやかが爆殺されるのを見た直後です。
※真木清人が時間の流れに介入できることを知りました。
※ひとりぼっちじゃないことを実感した上、先輩っぽい行動も出来ているのでメダルが増加しています。
【桜井智樹@そらのおとしもの】
【所属】無(元・白陣営)
【状態】ダメージ(中)
【首輪】150枚:0枚
【装備】なし
【道具】大量のエロ本@そらのおとしもの、ランダム支給品0〜1
【思考・状況】
基本:殺し合いに乗らない。
1.これからどうすんの?
2.知り合いと合流したい。
3.二度と変身はしない。
4.いつかマミのおっぱいを揉んでみせる。絶対に。
5.残りのエロ本は後のお楽しみに取っておく。
【備考】
※エロ本は三分の一程読みましたが、まだ大量に残っています。
※二人に隠れてエロ本を読んでいたのでメダルが増加しました。
262
:
◆QpsnHG41Mg
:2012/09/07(金) 02:44:15 ID:klHkyI3g
○○○
「――何が、起こったのですか!?」
驚愕の声を漏らすのはウェザー。
状況は確実に井坂の優勢である筈だった。
ベルトもメモリも破壊した。身体もボロボロに傷め付けてやった。
照井竜がこれ以上この井坂深紅郎に牙をむくことなど、有り得る訳がない。
そう思っていたのに……ウェザーの手の中のアダプタが消失している。
どうして? アダプタは何処へ消えたのか。
いや、分かっている、消えたのではない。
消えたのではなく――
「――この強化アダプタは返して貰うぞ」
ウェザーの後方に佇む"アクセル"がそう言った。
薄暗い夕闇の中で、青いバイザーの奥に隠された円状の複眼が眩く輝く。
細部の形状の違いこそあれど、メタリックレッドの装甲を纏ったその姿は紛れもなく"アクセル"だ。
「何故、です……何故アクセルに!?」
「俺に質問をするな」
ベルトもメモリも失った照井竜が、一体どうして再びアクセルに変身出来る?
変身出来る訳がない。奴が再び仮面ライダーアクセルに変身することなど……
そこまで考えて、そこで井坂は気付いた。
“いや、待て! アレは違う! "仮面ライダーアクセル"ではないッ!”
井坂が意識を向けたのは、奴の腹部の装甲だ。
腹部にバイクのハンドルにも似た装甲を纏っているが、それはベルトではない。
アレはあくまでアクセルの身体の一部で出来た装甲だ。メモリも刺さってはいない。
仮面ライダーアクセルと酷似した外見をしているが、しかしよく見れば、全身がかつてとは違う。
その身体を覆う装甲は以前の機械的なものと比べれば、よりドーパント然とした生物的なフォルムをしている。
むしろ"照井竜は仮面ライダーである"という固定観念を捨て去ってみれば、奴のそれはまさしくドーパントの肉体といえるだろう。
「そうか……そういう事ですか! ようやくわかりましたよ!」
井坂が思い起こすのは、ほんの数秒前の出来事。
最後の悪あがきで立ち上がった照井竜の下に飛翔してきたのは、赤きガイアメモリ。
駆け出した照井の身体に吸い込まれるように、それは照井と一つになった。
そこから起こった全ては、ほんの一瞬だった。
照井の身体が赤い輝きを放ったかと思えば、奴はさながら炎の弾丸よろしくこのウェザーの懐に飛び込み、強化アダプタを奪還せしめたのだ。
つまり、奴は生温いドライバーで変身していた軟弱な"仮面ライダーアクセル"では既にない。
今の奴は、自立行動する次世代型のガイアメモリ"T2アクセル"と融合した戦士。
この"T2ウェザー"と同じ次世代型のドーパント……
言うなれば、T2アクセル・ドーパントといったところか――!
「なるほど……従来のアクセルは死に、T2アクセルドーパントとして復活したという訳ですか!」
「復活ではない……進化だッ! きさまへの怒りと憎しみが、俺をもう一度立ち上がらせたッ!」
そう言って、アクセルは元より携行していたエンジンブレードを振り上げる。
既に満身創痍だった筈の身体で、アクセルは再びこのウェザーに挑もうというのだ。
何度負かしても、どんなにいたぶっても、傷付ければ傷付く程に強くなるその心。
その不屈の闘志に、消える事のない桁違いの憎しみに、井坂は称賛さえ送りたくなった。
「素晴らしい、素晴らしいですよ! 照井竜くん! もっと私に、その可能性を魅せてくださいッ!!」
井坂深紅朗は今、確信を懐いたのだ。
あの男は、照井竜はガイアメモリを更なる次元へ進化させる可能性を秘めている!
あの男は、自分で言った通りにT2アクセルメモリを更なる高みへと進化させてくれる!
あの男は、この井坂深紅郎がいる限り、究極を目指し何処までも進化を続けてくれる!
“ああぁ……これだからガイアメモリの研究はやめられないんですよぉ!”
ウェザーの仮面の下で、ジュルリと舌をなめずる音が聞こえた気がした。
遊んでやろう。そしてじっくりとその進化の程を見極めてやろう。
嬉々として雷雲を呼ぶウェザーに対して、
「さあ思い切り……振り切るぜッ!!」
アクセルは脹脛に装着されていた車輪を地面に滑らせ滑走を開始。
ウェザーが放った雷撃を右へ左へと回避しながら、高速で走り来るアクセル。
なるほど確かに今までのアクセルよりも幾分か速度は上がっているのだろう。
が、この程度ならば先のブースターにも劣る。対処が出来ないワケはない。
263
:
◆QpsnHG41Mg
:2012/09/07(金) 02:45:03 ID:klHkyI3g
「では、次はこれはどうです?」
正面に広範囲に冷気の壁をつくり、そこから猛吹雪を放つ。
点の攻撃は回避出来ても、面の攻撃を回避する術など持ってはいまい。
無数の雪がその身体を凍て付かせんとアクセルに迫る。
だが――!
「そんなものでッ!!」
雪がアクセルに降り積もる前に、アクセルの身体が急激な赤熱化を開始した。
ほんの一瞬でその身体を灼熱の弾丸へと変えたアクセルは、降り掛かる吹雪の全てを溶かしてのける。
凄まじい蒸気を発生させながらウェザーに迫ったアクセルは、灼熱の炎をその身に纏ったまま、
――ENGINE――
――MAXIMUM DRIVE――
アクセルとエンジンメモリの相乗エネルギーを得たエンジンブレードを振り下ろした。
間合いも、気迫も、完璧だ。並のドーパントなら、確実にメモリブレイクは免れないだろう。
しかし、このT2ウェザーを操る井坂深紅郎を仕留めるには、まだ詰めが甘い。
これで勝てると一瞬でも思ったのであれば、甘過ぎる。
炎の刃が届くよりも先に、ウェザーが発生させたのは豪雨を孕んだ雨雲。
アクセル目掛けて一転集中とばかりに降り注ぐ雨は、その身の熱を大幅に奪った。
こちらの雨もかなりの勢いで蒸発せしめられたが、それでも効果の程は十分。
元より満身創痍のアクセルは、豪雨に打たれた事で僅かにその勢いを失った。
ウェザーほどになれば、回避するには十分過ぎるほどだった。
今回も最小限の動きで僅かに身体を右へずらし、アクセルの一撃を回避する――
「……えっ!?」
――つもりだった。
炎を纏ったアクセルの蹴りが、回避した右側から急迫したのだ。
突然の姿勢変更。振り下ろした剣はそのまま、脚部だけを回し込んで蹴りに来たのだ!
たまらず頓狂な声をあげるウェザー。一撃ならばともかく、二段構えの攻撃に回避の術はない。
強烈な横からのキックを脇腹に受けたウェザーは当然元居た場所まで蹴り戻され、
「トドメだぁーーーーーーーーーーーーッ!!!」
そこへ迫る炎と稲妻を纏ったアクセルの剣。
蹴りで受けたダメージと、エンジンブレードによるトドメの一撃。
まさしく必殺の技といえるそれが迫り来るのを、ウェザーはスロー映像でも見るかのように眺めていた。
人が交通事故に逢う瞬間などに体験するといわれる、アドレナリンによるスロー現象だ。
なるほど体内でアドレナリンが過剰分泌された時というのは、こういうふうになるのか、と。
井坂深紅朗は、ウェザードーパントの肉体を得た上で、その効果の程を実感していた。
アクセルの攻撃がスローモーションに……否、止まっているかのように見える。
そこで黙って見ているだけでないのが、井坂深紅郎という男の恐ろしいところだった。
回避の時間はないが、やられることもない。
奴はこのウェザーを相手によくやった。
その善戦、褒めてやってもいい。
だが……やはりまだ詰めが甘い。
「―――――――――――――ッ!!」
攻撃に転じる一瞬の隙。がら空きになっていたアクセルの胴に、特大のカマイタチをブチ込んだ。
気象を操れるウェザーには、アクセルと違い、幾つもの技のバリエーションがある。
例え何処まで肉薄されようとも、ウェザーが手札を全て切ることなど有り得ない。
「う、ぁ――ッ!?」
体勢を崩したアクセルの身体が大きく吹っ飛ぶ。
が、それでも。敵が繰り出した技も、意地の一撃。
流石に完全にカウンターを決める事は出来ず、アクセルの一撃もまたウェザーの肩をかすめた。
肩から叩き込まれた炎と稲妻のエネルギーに、ウェザーの身体が爆ぜて吹っ飛ぶ。
「グゥ……ッ!」
――しかし、予想の範囲内だ。
上手く風を操って、地面への激突は避ける。
ウェザーは、寸での所で身体を打ち付けることもなく着地した。
対するアクセルには、もはや受け身を取る余裕もなかったのだろう。
身体を派手にアスファルトに打ち付け、ガイアメモリを排出していた。
264
:
◆QpsnHG41Mg
:2012/09/07(金) 02:45:44 ID:klHkyI3g
「どうやら、私の勝ちのようですねぇ」
まだ戦闘行為の続行が可能であるウェザーを前にしての変身解除。
決着はついた。この勝負、勝利者は井坂深紅郎である。
“……まあ、よくやった方だと褒めてあげましょう”
アクセルの一撃を受け、痛む肩を抑えながら内心でごちる。
あの小僧、当初思っていたよりも随分とやるようになった。
手加減を抜きにした、この井坂深紅郎にほんの一撃でも与えたのだから。
奴は確かに滅多にお目にかかれない逸材であった。
「井坂ッ……深紅、郎ォォ……ッ!」
「……ほう! まだ立ち上がると言うのですか!」
全身に擦り傷と醜い痣を作りながら、それでも照井は立ち上がる。
いや、立ち上がろうとして、しかし力及ばず、その身体は地へとくずおれた。
当然だ。ただでさえ手負いの状態で幾度となくウェザーの攻撃を受けたのだから。
むしろ、それでもまだ立ち上がろうとするその根性はやはり称賛に値する。
が、勝負は勝負だ。この戦いに勝ったのは井坂だ。
貰うべきものは貰ってゆこう。
「それでは、君のメモリとアダプタを……」
後ろ手に手を組んだままゆっくりと照井の元まで足を進めるウェザー。
照井の手に握り締められたメモリとアダプタへと手を伸ばそうとしたところで、
“いや……待て、この小僧……”
その手は、ぴたりと止まった。
照井竜は、今も怒りと憎しみに燃える昏い瞳を此方に向けている。
どす黒い感情を真っ向からぶつけられて、そこで井坂の気は変わった。
伸ばしかけていた手をひっこめ、嘲笑混じりに照井の顔を俯瞰する。
「照井竜くん、君はやはり素晴らしい逸材だ。君にはまだ可能性があります。私への怒りと憎しみはきっと、そのT2アクセルメモリをもっと高次元のメモリへと進化させることでしょう」
「な……にィッ!?」
「君を殺すのはそれからです。アダプタもその時一緒に頂きましょう。それまでは竜くん、精々私を怨み、憎み、力を蓄えることです。君が次に私の目の前に現れてくれるその時まで、私もこの殺し合いを楽しんでいましょう」
そう言って、ウェザーの耳元からT2ウェザーメモリを排出する。
「それでは、その時が来るのを待っていますよ」
メモリをポケットにしまった井坂は、涼しげな表情で照井を一瞥すると、最後に会釈をして踵を返した。
どの道、アクセル風情がいくら進化したところで、同じく進化を続けるT2ウェザーを倒すのは不可能だろう。
事実、今回もブースターやT2と色々見せてくれたが、どれもウェザーには届いていないのだから。
ならば、そんな相手を今すぐに殺してやることもない。
精々怒りと憎しみの炎を燃やして、アクセルメモリを進化させるがいい。
ちょうどいい捕食の頃合いが来たら、その時は確実なトドメを刺してやろう。
“ふふ……楽しみにしていますよ。君のアクセルメモリが私のものになるその時を……!”
井坂深紅郎は静かに笑う。
インビジブルメモリに引き続いて、また新たな楽しみを見付けたのだから。
照井が派手にばら撒き続けたセルメダルを、まるで磁石が砂鉄を集めるかのように吸い寄せ回収しながら、井坂は泰然自若と龍之介の元へ戻っていった。
「ヒュゥゥ〜〜〜ッ! 楽勝だったね、先生!」
「ええ、当然です」
子供のようにはしゃぐ龍之介。
そんな彼を見て、井坂はふと思った。
“……照井竜といい、龍之介くんといい、やはり私は"竜"に縁があるのでしょうか?”
そんな取り留めもない事を考えながら、井坂と龍之介は引き続き会場の中心部へと向かってゆくのであった。
265
:
◆QpsnHG41Mg
:2012/09/07(金) 02:46:31 ID:klHkyI3g
【一日目-夕方】
【C-5 市街地】
【井坂深紅郎@仮面ライダーW】
【所属】無
【状態】ダメージ(小)、肩にエンジンブレードによる斬り傷
【首輪】40枚(増加中):0枚
【装備】T2ウェザーメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品(食料なし)、ドーピングコンソメスープの入った注射器(残り三本)&ドーピングコンソメスープのレシピ@魔人探偵脳噛ネウロ、大量の食料
【思考・状況】
基本:自分の進化のため自由に行動する。
0.照井竜の成長ぶりに期待大。
1.インビジブルメモリを完成させ取り込む為に龍之介は保護。
2.T2アクセルメモリを進化させ取り込む為に照井竜は泳がせる。
3.次こそは“進化”の権化であるカオスを喰らって見せる。
4.ドーピングコンソメスープとリュウガのカードデッキに興味。龍之介でその効果を実験する。
5.コアメダルや魔術といった、未知の力に興味。
6.この世界にある、人体を進化させる為の秘宝を全て知りたい。
【備考】
※詳しい参戦時期は、後の書き手さんに任せます。
※ウェザーメモリに掛けられた制限を大体把握しました。
※ウェザーメモリの残骸が体内に残留しています。
それによってどのような影響があるかは、後の書き手に任せます。
※ドーピングコンソメスープを摂取したことにより、筋肉モリモリになりました。
【雨生龍之介@Fate/zero】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【コア】コブラ
【装備】カードデッキ(リュウガ)@仮面ライダーディケイド、サバイバルナイフ@Fate/zero、インビジブルメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、ブラーンギー@仮面ライダーOOO、螺湮城教本@Fate/zero
【思考・状況】
基本:このCOOLな状況を楽しむ。
0.先生つえー! 最ッ高にCOOL!
1.しばらくはインビジブルメモリで遊ぶ。
2.井坂深紅郎と行動する。
3.早く「旦那」と合流したい。
4. 旦那に一体何があったんだろう。
【備考】
※インビジブルメモリのメダル消費は透明化中のみです。
※インビジブルメモリは体内でロックされています。死亡、または仮死状態にならない限り排出されません。
※雨竜龍之介はインビジブルメモリの過剰適合者です。そのためメモリが体内にある限り、生命力が大きく消費され続けます。
○○○
266
:
◆QpsnHG41Mg
:2012/09/07(金) 02:47:07 ID:klHkyI3g
ビルとビルの間を吹き抜ける冷たい風は、今の照井竜にはやや堪える。
照井は先の戦いで、奴の持てる炎熱系意外の全ての気象技の洗礼を受けた。
ディケイド戦で傷付いた身体にウェザーの攻撃の嵐は、正直キツい。
今にも意識を失ってしまいそうな中、それでも照井は絶叫する。
「クソッ! クソォォッ! 俺に奴は倒せないのかッ! 家族の仇は討てないのかッ!!」
探し求めた家族の仇を目の前にして、挑んだ結果はまたしても敗北……。
これが悔しくないわけがない。これ程の屈辱を受けたのは初めてだ。
怒りの炎がこの身を食い破るのではないか、そんな錯覚さえいだく程に、照井の中の炎は熱く、昏く燃え上がる。
「うわぁーーーーーっ!! あぁああああああああああああッ!!! クソッ! クソォッ! 畜生ォォッ!!」
慟哭にも似た嗚咽を漏らしながら、照井は何度も、何度も固いアスファルトを殴った。
殴った手から、真っ赤な血がどくどくと溢れ出るが、そんな痛みは気にならない。
絶叫する照井の双眸から、涙がとめどなく溢れるが、そんなことにも構わない。
ただ吐き出しようもない怒りを、どうにもならない地面にぶつけるしか今の照井には出来ないのだ。
アクセルメモリも、ドライバーをも破壊されて、ドーパントに魂を売って、それでも照井は奴に弄ばれたのだ。
本当に痛いのは身体ではない。何よりも痛いのは、ズタズタに引き裂かれた照井のプライドだ。
「二度と忘れんッ! この痛みと屈辱! 絶対にッ、絶対に忘れんぞ、井坂深紅郎ォォッ!!」
血と涙でぐしゃぐしゃに汚れた顔で、それでも瞳はさながら猛禽類の如き輝を放つ。
愛する家族の尊厳にかけて、あの井坂深紅郎だけは必ず殺す。
どんな困難に邪魔されようと、奴だけは絶対にこの手で殺す。
でなければ、もうどうにもおさまりがつくとは思えなかった。
“その為ならば、俺は仮面ライダーの名など捨てても構わんッ!”
もう後戻りする道はない。
仮面ライダーのベルトは破壊された。
仮面ライダーであろうとする心も打ち砕かれた。
今の照井は、ただ復讐の為だけに危うく燃える修羅、アクセルドーパント。
よもやドーパントに、仮面ライダーの正義だなどという綺麗事は説く者も居ないだろう。
あの井坂深紅郎の息の根をこの手で止める為に必要ならば、ドーパントとして何処までも進化してやる。
激しく、熱く、そして昏く哀しい決意を懐きながら、照井は意識を闇へと沈めていった。
【一日目-夕方】
【C-5 市街地】
【照井竜@仮面ライダーW】
【所属】無(元・白陣営)
【状態】激しい憎悪と憤怒、ダメージ(大)、疲労(大)
【首輪】45枚:0枚
【装備】{T2アクセルメモリ、エンジンブレード+エンジンメモリ、ガイアメモリ強化アダプター}@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、エクストリームメモリ@仮面ライダーW、ランダム支給品0〜1(確認済み)
【思考・状況】
基本:井坂深紅郎を探し出し、復讐する。
0.気絶中。
1.何があっても井坂深紅郎をこの手で必ず殺す。でなければおさまりがつかん。
2.井坂深紅郎の望み通り、T2アクセルを何処までも進化させてやる。
3.ウェザーを超える力を手に入れる。その為なら「仮面ライダー」の名を捨てても構わない。
4.他の参加者を探し、情報を集める。
5.Wの二人を見つけたらエクストリームメモリを渡す。
6.ディケイド……お前にとっての仮面ライダーとは、いったい―――
【備考】
※参戦時期は第28話開始後です。
※メズールの支給品は、グロック拳銃と水棲系コアメダル一枚だけだと思っています。
※鹿目まどかの願いを聞いた理由は、彼女を見て春子を思い出したからです。
※T2アクセルメモリは照井竜にとっての運命のガイアメモリです。副作用はありません。
267
:
◆QpsnHG41Mg
:2012/09/07(金) 02:51:55 ID:klHkyI3g
前編「さらばAライダー/愛よファラウェイ」
後編「さらばAライダー/灼熱の怒り」
以上で仮投下を終了します。
今回不安な点は、オリ怪人である「T2アクセルドーパント」についてです。
混乱を防ぐため、外見はほぼ「仮面ライダーアクセル」と酷似しているということにさせて頂きました。
戦闘シーンも、脹脛についた車輪など、ほぼ仮面ライダーアクセルのそれと同じつもりで書いています。
このまま通してもいいのか、問題があるのか、皆さまのご意見をお聞かせ願えますでしょうか。
268
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/09/07(金) 04:26:26 ID:tjWasZ1k
仮投下乙です!
感想は本投下まで控えるとして…
個人的には通しで問題ないかと思います
269
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/09/07(金) 18:16:00 ID:uFi/Br4Y
個人的にはこの話、とても楽しく拝見させていただきました。
ですがやはり氏も仰っている通り未知なるアクセルドーパントの存在は自分は認められません。
確かにこのロワでは以前にもディエンドのカメンライドタイガなど本編で見られなかった描写はありました。
ですが今回の分に関しては最早我々が想像できない度を超えたオリ要素の部分であるため、わたし個人としては通したくはありません。
まぁこれは書き手でもない一読み手の我儘ともとれるでしょうから、通しがいいという意見が多いなら私はそれで構いませんが。
……あとこれは内容とは直接関係ない話ですが、かぎかっこの前や後などにスペースを入れると全体的に作品が見やすくなると思いますよ。
270
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/09/07(金) 20:57:00 ID:NKauykls
通しで構わないかと思います。
オリ要素があるのは少しあれですが、もう少し説明を加えれば大丈夫だと思いますね。
271
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/09/07(金) 20:58:49 ID:OV99U./U
感想は本投下まで我慢することとして、まずは仮投下乙です!
私個人としては、アクセルドーパントは対応する仮面ライダーが存在する分ドーパント体の外見やその能力を想像し易いので、それ自体で言えばオリ要素でもさほど問題ないかと思います。
通しで構わない、というのがまず私の意見になります。
ただ、単に読み込みが足りていないだけかもしれませんが、照井がアクセルドーパントになる際の描写が若干不明瞭のため、ひょっとすると後々の展開を(余り良くない方に)強く限定する流れになっていないか、という点で意見させて頂きます。
というのも、仮に照井がアクセルドーパントに変身したのが照井の意志ではなく、メモリが勝手に変身させた場合、つまり「参加者にとっての運命のガイアメモリが、参加者の危機に反応して自動的に変身させる展開」とすると、それを通してしまうと既にT2ユニコーンメモリが適合者であるように描写されている美樹さやかが問題となってきます。
つまり、今後さやかがピンチに陥った際に、今回の展開を踏まえると、アクセルよりオリジナル要素の強いユニコーンドーパントが登場することを防げなくなってしまうのではないか、という点です。
本ロワにおけるユニコーン登場の可否はまだ断定できませんが、仮にオリ要素として認められない場合、T2ガイアメモリが適合者を求めて移動することは既に描写されているので、ユニコーン登場を防ごうとすると展開が著しく限られてしまう懸念があるわけです。
ただ、後の文を見て行くと、照井がドーパントになったことに動揺しておらず、「ドーパントに魂を売った」という表現があるため、この話でもメモリが勝手に、ではなく照井が己の意志で変身した、もしくは照井の強い意志に応じて変身した、という展開である可能性も十分に考えられる(実際、原作でも適合者はメモリが勝手に変身させることはなかった)わけですが、先に述べたような展開にも見えかねないと感じたためこのように意見させて貰いました。
どちらにしても、照井が変身したシーンについての描写をもう少し詳しくされた方が良いかな、と個人的には感じました。
長々と述べて来ましたが、的外れなことを言っていた場合はすいません。
272
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/09/07(金) 21:20:15 ID:mBY94B6k
乙 面白かったっす!
個人的には通しでいいと思いますが、さて……。
273
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/09/08(土) 00:03:03 ID:vSbV5AHA
面白かったです、仮投下乙です!
私もアクセルドーパントの扱いに関しては通しで問題ないかなと思います。
ただ、
>>271
は尤もな意見だと思いますので、その辺りの描写は追加した方がいいかなと。
274
:
◆QpsnHG41Mg
:2012/09/09(日) 00:21:18 ID:pczZtgQ.
この度は貴重なご意見を賜り、誠にありがとうございます。
いただきましたご意見を踏まえ、描写を以下の通りに修正致します。
まずは
>>259
における修正点。
・修正前
奴に敵うかどうかが問題なのではない。
もはや何の打算もなしに、ただ昏い感情に突き動かされるまま、照井は立ち上がった。
限界をとっくに超えた身体を突き動かすのは、憎悪と、愛憎と、憤怒と。
理性すらも消し飛びそうな怒りの爆発をこらえきれず、照井は走り出した。
そんな照井に、唯一応えてくれるものが存在した。
・修正後
奴に敵うかどうかが問題なのではない。
例え敵わなくとも、このまま黙って殺される事だけは我慢ならない。
憎悪と憤怒と、そして最後に残ったプライドが照井を立ち上がらせたのだ。
この行動、一見何の打算もないただの悪足掻きにも見えるが、しかしそうではない。
照井には直感があった。
何の根拠もないが、この怒りと絶望に応えてくれるものが居てくれる確信が。
もしも照井の想像通り、あの時"T2"が巴マミを誘導したのだとしたら――
アイツは必ず、この堪え難い憎しみに応えてくれるハズだ!
そして照井は見た。
さっき自分が投げ出したデイバッグから、矢のように飛び出た赤い影を。
照井の想像は正しかった。
まだ戦える、まだチャンスは残っている。
絶望の中で掴んだ希望に、照井はその手を伸ばし走り出した。
次に
>>262
における修正点を。
・修正前
井坂が思い起こすのは、ほんの数秒前の出来事。
最後の悪あがきで立ち上がった照井竜の下に飛翔してきたのは、赤きガイアメモリ。
駆け出した照井の身体に吸い込まれるように、それは照井と一つになった。
そこから起こった全ては、ほんの一瞬だった。
照井の身体が赤い輝きを放ったかと思えば、奴はさながら炎の弾丸よろしくこのウェザーの懐に飛び込み、強化アダプタを奪還せしめたのだ。
・修正後
井坂が思い起こすのは、ほんの数秒前の出来事。
最後の悪あがきで立ち上がった照井竜の下に飛翔してきたのは、赤きガイアメモリ。
それに目を奪われた一瞬の隙に、奴は自らそれを掴み取り、首筋へと叩き込んだ。
赤いガイアメモリは照井の身体に吸い込まれるように首筋へと入っていった。
そこから起こった全ては、ほんの一瞬だった。
ご指摘いただきました通り、照井が自らの意思で変身したという描写に変更いたしました。
これで
>>271
の問題点についてはクリア出来たかと思います。ご確認のほどよろしくお願いいたします。
275
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/09/09(日) 01:10:12 ID:M6lLhdhA
修正乙です。
自分はこれで通しても問題ないと思います。
276
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/09/09(日) 05:16:44 ID:6.BfwI..
これならいいと自分も思います
277
:
◆nXoFS1WMr6
:2012/09/23(日) 23:37:05 ID:ucxKjkDI
皆さん、どうも。
修正版が完成しましたのでこちらに投下します。
また、ホッパーをガタックに変更した以外に誤字や脱字を個人的に直したので一応そのパートも投下します。
まずは、二人が支給品を確認する場面まで戻ったところの修正版です。
◆
時間はさやかと克己がお互いの支給品を確認していた時にまで溯る。
「俺の支給品は今のジャケットで最後みたいだな、お前のとこにはほかに何か入ってたか?」
「うん、ちょっと待ってね……」
そうしてさやかはデイパックに手を突っ込みがさごそと手をかき回していたが、やがて目当ての物を探し当てたのか笑顔になりジャーン、と口に出しながら〝ソレ″を取り出した。
だがそれは外見で判断するならあまりにも地味な銀色のベルトだった。
「なんだそりゃ、腰に巻いてオシャレでもしろってか?」
「私もまだ説明書見てないからよくわかんないんだよねぇ、えっとどれどれー?」
そう言いながら再度デイパックに手を突っ込み今度はあっさりと恐らくは付属だったのであろう説明書を取り出す。
さて目を通そうとさやかが両手でそれを持った時、上からひょいと克己がそれを引っ手繰る。
「ちょっとあんた、人がなんかしようとしてる時に無言で物とるんじゃない!」
「フン、良かったなさやか。この説明書の厚さならただ腰に巻いてオシャレしてくださいなんてこと以外にも何か書いてあるかもしれないぜ?」
さやかの文句は軽く無視して克己はそんなことを言いながら説明書に目を通していく。
それを見ていたさやかも騒ぐことをやめて克己の言葉を待つ。
やがて詰まらなさそうに見ていた克己の目がいきなり驚愕に染まる。それを見たさやかも何かいいことが書いてあったのかと期待せざるを得ない。
「どうだった?使い道ありそう?」
先ほどとは打って変わって真剣な顔で説明書を読み進める克己はこれを読めと言いながらあるページを開きながらそれを手渡してくる。
そこには大きな文字で〝概要″と書かれており、恐らくはそのベルトについての説明が書かれていることは誰の目にも明らかだった。
「えーと、何々〜、このベルトは『カブトの世界』に存在する秘密組織ZECTが開発した『マスクドライダーシステム』の一種、仮面ライダーガタックに変身するのに必要なベルトです……?」
そこから先には変身後に出来るクロックアップシステムなる物の説明などが長々と書かれていたが、さやかには難しくてよくわからない。
マスクドライダーシステムとは何なのか、ZECTという組織は何が目的の物なのか、そもそも『カブトの世界』という括りには一体何の意味があるのだろうか。
自分の中に次々と湧き上がってくる疑問に悶々としながらさやかは頭を抱える。結局克己は何が大事だと思ってあんな真剣な顔をしていたのだろう。
頭を抱えるさやかにハァと克己がため息をつく。
「お前、本当にこれの何が重要なのか分からないのか?」
「う、うるっさいわねぇ。ちょっと黙ってなさいよ!」
少し強がってみたが、しかしさやかには何が大切な情報なのか把握できない。
それを見透かしているのか、克己は先ほどよりも強い溜息をついた。
「アポロガイストが俺の変身したエターナルを見たとき、何て言ったか思い出してみろ」
「え?うーんと確か……」
――「貴様っ……! 仮面ライダーだったのかっ!!」
それを思い出して、ハッとする。
あいつは確かに言った。仮面ライダーと。
ようやく勘付いたらしいさやかの様子を見て、克己はまたあのニヒルな笑いで話しだす。
「そういうことだ。エターナルが本当に仮面ライダーかどうかは俺には分からんが、そのベルトを使えば、その仮面ライダーとやらになれるらしい」
「ってことはつまり……!」
「あぁ、奴は仮面ライダーを恐れてるようにも見えた。てことは仮面ライダーになればアポロガイストにも匹敵する力を得れるかもしれないってことだ」
アポロガイストに匹敵する力。
それは確かにさやかが熱望するものの一つでもある。
ベルトへの関心が一気に引き上げられるのと同時に、さやかの中に新たな疑問が浮かぶ。
278
:
◆nXoFS1WMr6
:2012/09/23(日) 23:38:14 ID:ucxKjkDI
「あれ?でもこれどうやって変身するの?なんかを入れるっぽい場所はあるけど、特に他の物は入って無かったよ?」
「あぁ、それに関する事も書いてあった。そのベルトを使って変身するには対応するゼクターとやらが必要不可欠らしい」
ゼクター?とさやかがパクパクと口を動かすと、克己はニヤリと笑う。
「ゼクターとやらはそのベルトを持っている参加者を資格者かどうかを自分で認めて、そいつが資格者たる人物だと判断したら必要に応じて力を貸すらしい」
「それじゃもしかしたら変身できないってこともあるんじゃ……?」
「恐らくはユニコーンと一緒だ。お前のことを資格者だと見初めて、主催者がわざわざお前に渡したんだろ」
つくづく悪趣味だと思う。
個人にしか使えない道具を渡して、わざわざ対主催を掲げる者に力を与える主催者には虫唾が走る思いだが、しかしそれならばこの力を自分に渡したことを後悔させてやる。
そうしてさやかが再び主催者への怒りを再燃させていると、すくと克己が立ち上がり――。
「よし、俺がお前を鍛えてやる」
そう言って、特訓のコーチを申し出たのだった。
◆
数十分前のことをぼんやりと思い出しながら、さやかは銀のベルト――説明書によればライダーベルトというらしい――及びそれを使って変身できる仮面ライダーに関しての情報をある程度把握する。
中に書いてあったことは難しいこともあったが、これが悪を打ち砕く自分の力になるのだと思うと、多少の努力など苦でもなかった。
そうしてふと時計を見ると、ちょうど十分が経つ所だった。さやかは慌てて周りに置いてあったベルトやその説明書をデイパックに詰め込み、いつの間にか高く上がっている太陽に向かって歩き出した。
279
:
◆nXoFS1WMr6
:2012/09/23(日) 23:40:07 ID:ucxKjkDI
次は、誤字脱字の他に、杏子、ほむらのパートを追加したさやかのパートです。
◆
(マミさん……あなたは本当にあの巴マミさんなんですか?)
バイクによる風と揺れを感じながらさやかは物思いにふける。
それは自分がこの非日常に連れ込まれる原因になったとも言える憧れの先輩のことだった。
巴マミは理想の先輩だった。学生としても、魔法少女としても。
勉学は軒並み平均点以上を取り続けていたし、彼女の戦いは舞いでも踊っているようで、自分が命の危険に晒されていることすら忘れるほど華麗で優雅だった。
だからマミさんが魔女なんかにやられるわけない。そう何かテレビの中のヒーローでも見る感覚で、自分とまどかは彼女の負担を増やしているなどと思いもせずに彼女についていったのだ。
――それが結果的にグロテスクな彼女の死をトラウマとして植えつけられることになるとは、あの頃の自分は思わなかったのだから。
自分達が付いていかなければ、彼女は死ななかったのかもしれない。
彼女が死んでから、何度そんな意味のない考えを巡らせたのか分からない。
死んでしまった人は永遠に戻ってはこないのだ。ましてやマミさんは結界の中で死んでしまったから、死体も残っていないし、葬式も執り行われてはいない。
あまりにも大きすぎる自分達の責任は無くせるとは思わないが、しかしそれでも少なくとも彼女の守ろうとした街を魔女や使い魔から守るために、自分は魔法少女になったのだ。
だから彼女の死は自分にとって忘れられない物として今も胸にしまっている。例えどんな残酷な死に方でも、自分だけは彼女の最期を覚えていたいから。
――なのに彼女は、この場における参加者として、名を連ねている。
一体どういうことなのだろうか。
もしかしたらあの時マミさんは死んでいなかったのだろうか?
いや、これはない。ソウルジェムという本体ごと魔女に喰われ、あまつさえその後魔女が爆散したその中から生存することなど、百パーセントあり得ないからだ。
では、同姓同名の赤の他人か?
これも一瞬考えたが、ないだろう。自分やまどかを惑わせる材料にはなるかもしれないが、そうそう同姓同名の人間がいるとは思えない。
ではどういうことなのか。さやかが考えた仮説はこうだ。
――マミさんはあの場で死んでいて、主催者がそれを蘇らせたのではないか……?
これが一番ピンとくる。
もしくは死ぬ前から連れてきたというのもあるかもしれない。
どちらにせよ死者への冒涜だ。主催者に対するさやかの怒りは膨れ上がるばかりだが、しかしマミさんがいるのなら、これより心強い味方はいない。
彼女は間違いなく殺し合いを潰すほうに動くだろう。今の、魔法少女となった自分と彼女が力を合わせれば、きっとどんな困難でも越えて行ける。
だが同時に懸念もある。彼女はキュゥべえを家族同然に思っていた。そのキュゥべえが自分を騙していたと知った時どんな行動に出るかはさやかも予想できない。
(でも、マミさんはマミさんだ。頼りになるのは間違いない!)
憧れの先輩を今度こそ死なせはしない。共に戦って今度こそ一緒に元の世界で楽しく暮らす。
その決意を固めた時、さやかの中に二人の親友の姿が浮かぶ。
280
:
◆nXoFS1WMr6
:2012/09/23(日) 23:41:42 ID:ucxKjkDI
次は克己パート(ほぼ園咲を直しただけ)とガタックゼクター描写です。
◆
彼は風都タワーから一番近い建物が、園崎邸だと知っていた。だが彼には園咲邸に行きたくない理由があったのだ。
(園咲冴子……、お前は俺の敵だ。〝園咲″である以上俺はお前を潰す)
それは自身が昔NEVERの研究結果として財団Ⅹに材的支援を要求しに行った時のこと。
あの時に自身が戦った小道具、ガイアメモリ。それを提供していたスポンサーが園咲琉兵衛という男だったのだ。
自身はあれ以来、打倒ガイアメモリ、及び打倒園咲家を目標にやってきた。
そして、母マリア・S・クランベリーの情報によれば園咲冴子は園咲家の長女であるらしかった。
母の情報が間違っていた試しはないから、恐らく正確だろう。ならばそれを潰すいい機会だ。
だが今はまだ早い。奴らの家でもある園咲邸を潰すのは元の世界に戻ってからだ。
ここにあるレプリカを潰しても何の意味もない。それに園咲冴子がそこを目指すとしても、まだ今のさやかでは園咲の者と戦うのは早いだろう。
故に今は園咲冴子は後回しだ。だがいつかは宿敵の娘を倒すことを胸に誓いながら、彼は別のことを考える。
(さやか、お前は気付いてないかもしれんが、あの時のあの一撃の時、俺は本気だったんだぜ?)
あの時というのは、さやかの意外な一撃に自身がひるみ、その一瞬を逃がすことなく攻撃してきたあの時のことである。
あの瞬間、自身の胸に刺さっていた剣を引き抜き、あいつの一撃を受け止めるまで、自分は間違いなく本気で対応していた。
結果として攻撃は与えられなかったとはいえ、まさかさやかに本気を出させられるとは思ってはいなかった。
(さやか、お前はまだまだ伸びる。お前が本当の意味で一人で戦場に出られるその時を楽しみにしてるぞ)
そう心の中で克己はポツリと呟いた。
この先は安全地帯ではない。どんなことが起こっても不思議ではないのだ。
だが、今のさやかならきっと大丈夫だ。挫けることもあるかもしれないが、しかしきっとそれを乗り越えていくだろう。
溢れ出るさやかへの期待を抑えもせず、克己はこれすらどこかで見ているのであろう主催に向かって言った。
(見てろよ真木清人。誰かの明日を奪うような行為をしたことは絶対にゆるさねぇ。いつかお前の首を掻っ切ってやる!)
◆
そんな二人を空から見守る青いクワガタが一匹。
その名をガタックゼクター。
現在さやかが持っているライダーベルトに対応する自律行動型ユニットだ。
先のアポロガイスト戦の際にデイパックから抜け出し、それ以来さやかを上空から見守り続けている。
彼はさやかの頑張る姿に自分が元の世界で資格者に選んでいたアラタという男にも似た物を感じていた。
だがそれだけではまだガタックゼクターがさやかを認めたかどうかは誰にも分からない。
ただ彼はさやかの更なる活躍に期待して、ライドベンダーを追って飛び続けていた。
――希望を持った二人の男女と、資格者を求める一匹の虫。
――彼ら彼女らが向かう先に何が待っているのかは誰にもわからない。
――その先に待つのは、希望か、絶望か。
281
:
◆nXoFS1WMr6
:2012/09/23(日) 23:47:11 ID:ucxKjkDI
ごめんなさい、誤爆してしまいました。
>278と>279の間に没スレの4が入り、280のあとに没スレの5が入ります。
これで作品の問題は消化されたかと思いますが、まだ何かありましたらお願いします。
282
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/09/24(月) 11:47:26 ID:Hwc86Fvg
修正お疲れ様です。
これなら問題ないと思います。
それから、過去に他ロワで何があったかは知りませんが、ここでは一々途中経過の報告をする必要はありませんよ。
他の書き手さんも延長、破棄など最低限の報告のみを期限前に行っているという形ですし、無断での期限超過などに気を付けて、ルールに沿ってさえいるならそれで何も問題はありません。
氏の次回以降の予約も楽しみにしています。
283
:
◆nXoFS1WMr6
:2012/09/26(水) 16:27:41 ID:9w.gfWIY
ありがとうございます。
特に駄目な点などは見られなかったようなので嬉しいです。
あと、皆さんお気付きかとは思いますが、没スレの4が入るのは、>279と>280の間です。
ホント深夜に疲れを無視してパソコンするもんじゃないですね……。
まだなにかありましたらどうぞ、よろしくお願いします。
284
:
◆qp1M9UH9gw
:2012/09/29(土) 20:15:46 ID:1uVn2OXo
議論スレが使用中なのでこちらで。
◆MiRaiTlHUI氏の「醒めない夢」にてXにアゾット剣が支給されていたのですが、その時の状態表ではランダム支給品の数に変動がないので、修正をお願いしたいです。
285
:
◆MiRaiTlHUI
:2012/09/30(日) 06:05:10 ID:lAZ/PSco
>>284
了解です、拙作の状態表を修正しておきました。
話は変わるのですが、一昨日投下した「愛憎!!」についての報告です。
例によっていつも通り、細かい描写を見直して加筆と修正をしてからWikiに収録しようとしたところ、
カオス側の心理描写を見直していて、仁美と火野に触れないのは少しばかり不自然かなという結論に思い至りました。
そこを修正しようとしたところ、最後のカオスの描写のみごっそり変わってしまったので、ここで改めて修正稿を投下しようと思います。
286
:
◆MiRaiTlHUI
:2012/09/30(日) 06:07:47 ID:lAZ/PSco
以下、ラストのカオスの描写の差し替えになります。
//////////////////////////////////////////////////////
カオスが起こした土砂降りの雨が、燃え広がった炎を消火し切ったあとに残ったのは、惨憺たる破壊の傷痕だけだった。アスファルトはあちらこちらが砕けて土の地面を露出させ、砕かれたアスファルトの破片は竜巻に巻かれて周囲の建物の窓ガラスを片っ端から割った。
大災害に見舞われた直後の廃墟群よろしく荒れ果てたその景観を眺めながら、カオスは裸足のまま濡れた大地を歩く。
「どうしてわたしを独りにするの? せっかく愛してあげようと思ったのに……」
何処か寂しげな――本人はそれを如何なる感情だと認識しているのかは定かではないが――か弱い声がぽつりと紡がれ、何処までも広い寂寞の市街地の闇へと消えていく。
日が落ち始めた夕闇の市街地は、未だ幼い子供一人にとってはあまりに広すぎた。
「お姉ちゃん……」
もう一度彼女に会いたい。今のカオスは、迷子の子供も同然だった。
志筑仁美は、シナプスを出てからというもの、たった一人カオスに優しくしてくれた人物だ。彼女解いた時間は、今まで過ごしたどんな時間よりも胸が暖かくて、今感じているような「痛み」もなかった。
出来るなら、また彼女の柔らかな笑みを見たい。一緒に傍にいて、微笑んでいて欲しい。そう思うが、しかしそれが叶わぬ願いだということくらいは、如何に幼いカオスにだって理解出来る。
どうしてこんなことになったのか。お姉ちゃんの笑顔に連鎖して思い出してしまうのは、あの火野とかいうおじさんの下劣な笑顔だ。あいつが、あの火野が居たからお姉ちゃんは死んでしまったのだ。
それを改めて思い出した時、カオスの中で、火野の炎よりも熱く滾る炎が再燃した。
「そーだ……愛をあげなきゃ……火野のおじさんには、誰よりも目一杯……!」
湧き上がるこの感情が何なのかを、カオスは理解出来ない。
火野のおじさんがくれたのが愛だから、これも愛の一種なのだろうか。
難しいことはわからないが、兎にも角にも、カオスはあの男に愛をあげたくてたまらないのだ。お姉ちゃんが味わった苦しみよりも、何倍も惨たらしく、酸鼻極まりない形で極上の愛を与えた上で、最期にはこの翼で抉り殺し食べ尽くしてやりたい。
あの男に対し燃やす感情の炎に比べれば、さっき戦ったお兄ちゃんへの興味など小さなものだ。所詮、あの火災現場から少し歩いたところで“たまたま”見付けたから、衝動的に襲い掛かっただけの相手に過ぎないのだから。
だけれども、そんな“どうでもいい”相手にすらあれだけの力を発揮し、また大きく成長する事が出来た事を考えると……これがもしも火野が相手だったなら、きっともっと大きく、強くなれる気がする。
「わたし、やらなきゃ……!」
使命を見付けたカオスは、確固たる強い意志で呟いた。
この場の全員に愛をあげるという願望に変わりはないが、しかしそれは急ぐ必要もない。他の誰かに愛をあげて大きく成長したとして、それだけではどうにもやり残した事がある気がして、カオスの心にぽっかりと空いた空洞は埋められないのだ。
だから、今はまず、火野に愛をあげよう。
あの時“借りた”愛を、今度は何倍にも大きな利子付きで“返して”やろう。
こんなにも強い感情で何かを決意したのは、これが初めてだ。今最も優先するべきは、火野のおじさんだ。他のみんなに愛をあげるのは、火野のおじさんの後でいい。
仮に火野のおじさんに愛をあげるために、もっと強くなることが必要だと言うなら、“火野のおじさんのために”ほかの参加者を食べて、もっと大きくなろう。
それが復讐心という感情であることも知らず。カオスはただ前に進むため、裸足に食い込む小石や硝子片の痛みすらも忘れて、さながら幽鬼のように水浸しの市街地を彷徨うのだった。
287
:
◆MiRaiTlHUI
:2012/09/30(日) 06:08:28 ID:lAZ/PSco
【一日目-夕方】
【D-3/市街地】
【カオス@そらのおとしもの】
【所属】青
【状態】身体ダメージ(小)、精神ダメージ(大)、火野への憎しみ(極大)、成長中、服が殆ど焼けている(ほぼ全裸)
【首輪】230枚:90枚
【装備】なし
【道具】志筑仁美の首輪
【思考・状況】
基本:痛くして、殺して、食べるのが愛!
1.火野映司(葛西善二郎)に目一杯愛をあげる。
2.その後、ほかのみんなにも沢山愛をあげる。
3.おじさん(井坂)の「愛」は食べる事。
【備考】
※参加時期は45話後です。
※制限の影響で「Pandora」の機能が通常より若干落ちています。
※至郎田正影、左翔太郎、ウェザーメモリ、アストレアを吸収しました。
※ドーピングコンソメスープの影響で、身長が少しずつ伸びています。
今後どんなペースで成長していくかは、後続の書き手さんにお任せします。
※ほぼ全裸に近いですが胸部分と股部分は装甲で隠れているので見えません。
※憎しみという感情を理解していません。
288
:
◆MiRaiTlHUI
:2012/09/30(日) 06:11:55 ID:lAZ/PSco
以上の通りに修正した上でWikiの方には収録しています。
一度通したあとで描写だけでなく行動方針まで変えてしまうのもどうかと思ったのですが、
個人的には此方の方が前よりも納得出来るので、それに気付けた段階で早いうちに修正しておこうと思いました。
まだリレーされていないので問題はないと判断していますが、もしも何かありましたら指摘などよろしくお願いします。
289
:
◆QpsnHG41Mg
:2012/10/15(月) 22:29:07 ID:CIfac5D2
本スレにてご指摘頂きました点の修正版を投下致します。
修正点1
・修正前
奴が此方に害意を持てば、バーサーカーによる助力も受けられる。
「おっとォ、勘違いするなよ〜? 俺ァあんたらと争う気はねェんだわコレが!」
「害意なんざこれっぽっちも持ってねェんだからよぉ〜、いきなり襲い掛かって来られちゃ困るぜェ〜?」
「そう! コイツぁ交渉だ! ちょいとこの俺様と話をしようじゃねェか、なぁ旦那ァ?」
そう言って、バーナビーが少女の首をナイフの切先で突っつく。
少女の嗚咽が小さく漏れて、首筋に幾つもの小さな赤い点が穿たれる。
薄皮を傷付けられ、そこからじわりと滲む赤い血液。
あの程度では命に別条はないが、放っておくワケにはいかない。
「まずはその少女を離せ、でなければ此方にも考えがあるぞ」
・修正後
奴が少しでも害意を持てば、バーサーカーによる助力も受けられる。
「おっとォ、勘違いするなよ〜? 俺ァあんたらと争う気はねェんだわコレが!」
「害意なんざこれっぽっちも持ってねェんだからよぉ〜、いきなり襲い掛かって来られちゃ困るぜェ〜?」
「そう! コイツぁ交渉だ! ちょいとこの俺様と話をしようじゃねェか、なぁ旦那ァ?」
そう言って、バーナビーが少女の首をナイフの切先で突っつく。
少女の嗚咽が小さく漏れて、首筋に幾つもの小さな赤い点が穿たれる。
ちらとバーサーカーを見るが、バーサーカーは動かない。
あの少女への攻撃は、害意ではない。言いかえれば、害意ですらないということだ。
奴はまるで、これから食べるリンゴの皮をナイフで剥くのと同じ感覚で少女を傷付けているのだ。
モノに一々害意を持って行動するような人間がいるものか。バーサーカーが動かないのも無理はない。
心の底から人道を外れたクズの思考に腹が立つが、切嗣は怒りを堪えて平静を装う。
バーサーカーは諸刃の剣だ。害意を持ってしまっては、切嗣にも容赦なく襲い掛かってくる。
くれぐれもバーナビーに対して害意を懐かないように気を付けなければならない。
「まずはその少女を離せ、でなければ此方にも考えがあるぞ」
修正点2
・修正前
少女の左肩から鎖骨に掛けてを、奴のナイフが躊躇いもなく切り付けた。
悲鳴が響いて、切り裂かれた箇所の衣類が彼女の血で赤く染まってゆく。
左腕を支える肩の筋肉が切り裂かれたことで、少女の左腕がだらんと垂れた。
身体だけでなく、その脚までもがガクガクと震え、彼女の強い眼差しにも涙が滲み出す。
「なぁオイ、そろそろ理解してくんねェかなァ? 俺はコイツを殺して、そのままテメェらと殺し合ったっていいんだぜ?
まっ、相手がバーサーカーだろうが何だろうが、勝つのはこの俺様に決まってるけどなァ!」
・修正後
少女の左肩から鎖骨に掛けてを、奴のナイフが躊躇いもなく切り付けた。
悲鳴が響いて、切り裂かれた箇所の衣類が彼女の血で赤く染まってゆく。
左腕を支える肩の筋肉が切り裂かれたことで、少女の左腕がだらんと垂れた。
身体だけでなく、その脚までもがガクガクと震え、彼女の強い眼差しにも涙が滲み出す。
されどバーサーカーは動かない。いや、今この状況で動いて貰っても困るのだが。
奴が人を人と思わない本物の外道であったがゆえ、害意を懐かなかったことに皮肉にも安堵する切嗣。
「なぁオイ、そろそろ理解してくんねェかなァ? 俺はコイツを殺して、そのままテメェらと殺し合ったっていいんだぜ?
まっ、相手がバーサーカーだろうが何だろうが、勝つのはこの俺様に決まってるけどなァ!」
ハイ、以上です
もう説明は不要かなと思いますが、ジェイクは切嗣の思考を読めるので、最初に害意を持ってはいけないと知った時点であとは気を付けるだろうなと。
それでなくともジェイクは人を人とも思ってないので、人質という舞台装置でしかない助手に一々害意などという立派なものは懐いていないということにしました。
他にも何かあればよろしくお願いします!
290
:
◆LuuKRM2PEg
:2012/11/01(木) 18:54:39 ID:AJqXCLtk
本スレで指摘された部分の修正版です。
もしもまた何かご意見があれば、よろしくお願いします。
修正前
月影ノブヒコの遺体から月の石を奪ってから、加頭順は会場に配置されていたライドベンダーを動かしてずっと思案を巡らせていた。
アポロガイストというドーパントとはまた違う謎の怪人を泳がせておくことは、多少のリスクはあるがそこまで問題ではない。愛する園咲冴子の敵を排除すると言ってもユートピア・ドーパントの力だけでは流石に限界があるからだ。
そしてもう一つ、この会場ではメダルという戦いの鍵を握る物質がある。ルールによるとドーパントを始めとした力の発揮は制限されていて、発動にはメダルが必要らしい。「欲望」を満たす度に生まれるようだが、どれくらいの基準で生産されるのかがどうにもわからなかった。
そんな状況で無駄に能力を使っては敗北に繋がるだけ。故に、現状は利用できる手駒を見つけることが最優先だった。
無論、有益にならないような存在であれば即刻排除して全ての支給品とメダルを奪うだけだが。
冴子の無事を祈りながら、加頭は目前を真っ直ぐに見据える。
すると、見知らぬ一人の男が警視庁に向かっていくのが見えた。
(……行く当てはありません。なら、あの方に接触しましょうか)
加頭の方針はほんの一瞬で決まった。
修正後
月影ノブヒコの遺体から月の石を奪ってから、加頭順は会場に配置されていたライドベンダーを動かしてずっと思案を巡らせていた。
アポロガイストというドーパントとはまた違う謎の怪人を泳がせておくことは、多少のリスクはあるがそこまで問題ではない。愛する園咲冴子の敵を排除すると言ってもユートピア・ドーパントの力だけでは流石に限界があるからだ。
そしてもう一つ、この会場ではメダルという戦いの鍵を握る物質がある。ルールによるとドーパントを始めとした力の発揮は制限されていて、発動にはメダルが必要らしい。「欲望」を満たす度に生まれるようだが、どれくらいの基準で生産されるのかがどうにもわからなかった。
そんな状況で無駄に能力を使っては敗北に繋がるだけ。故に、現状は利用できる手駒を見つけることが最優先だった。
無論、有益にならないような存在であれば即刻排除して全ての支給品とメダルを奪うだけだが。
冴子の無事を祈りながら、加頭は目前を真っ直ぐに見据える。
同盟相手を探すとはいえ行く当てはない。風都に戻って冴子を待つのもいいかもしれないし、他の参加者を探す為に積極的に移動するもよし。
そんな考えの下、加頭はライドベンダーのハンドルを握って移動していると、少し前方に警視庁が見えた。
G−5エリアにまで着いてしまったということは、どうやらいつの間にか逆戻りをしてしまったらしい。そんな取りとめのないことを考えながらも、加頭は進む。
ここで嘆いたところでどうにもならないのだから、今は警視庁を見てみるのも悪くないかもしれなかった。
291
:
◆qp1M9UH9gw
:2012/11/02(金) 21:47:55 ID:DM3xcRDA
ミスがあったのでこちらで。
支給品紹介の欄でニューナンブM60の弾丸は20発と書きましたが、正しくは25発でした。
wiki収録時に修正しておきます。
292
:
◆z9JH9su20Q
:2012/11/02(金) 23:56:28 ID:9kBmcRqQ
予約分のSSが一旦書き上がりましたが、仮投下を通しておくべき内容だと判断したので、これより仮投下を行わさせて頂きます。
293
:
◆z9JH9su20Q
:2012/11/03(土) 00:01:29 ID:WXoQe7iU
「特に収穫はありませんでしたね」
部屋を出た足音と同時に廊下に響いたバーナビー・ブルックスJr.の、わざわざ口に出す必要などないはずの事務的な確認に、裏に隠された冷たい批難の気配を感じ取った伊達明はつっと頬に冷や汗を一筋垂らせた。
「いやいやバーナビー、ないわけじゃないって。何もなかったってことがわかったじゃん」
「いや、これだけ粘ってそれだけしか得るものがなかったってことを言っているんでしょ……」
そんな言い草に呆れたような感想を漏らした凰鈴音に、返す言葉を持てなかった伊達は力なく笑い返すしかなかった。
今この時、伊達にとっても古巣とも言うべきドクター真木の研究室の前で、バーナビーから冷たい視線を向けられている理由は恐らく二つ。
一つは伊達の提案で、この真木と関わる研究室を調べたが、何ら目ぼしい成果も得られなかったということ。それも日差しが朱色を孕むまでの時間を浪費しただけになった上、恐らくは伊達の態度にも問題があったのだろうと推察できる。
今更言うまでもないが、伊達は極めて大雑把な性格である。戦闘で命を預けるバースですら、マニュアルも見ず実戦で運用法を覚えて行くような男だ。そんな彼が自身と直接の関わりの浅い資料を仔細に覚えているかというと、当然非常に無理があった。二人が何か目星を付けた物を伊達に尋ねても、それが例えば元々この部屋にあった物なのか、何よりバトルロワイアル解決に関して意味のある物であるのかどうかを判別するのに一々時間が掛かったわけである。
一応、鈴音と約束した手前普段よりはずっと真面目に取り組んだ伊達であるが、二人がいつもの彼を知るわけもない以上、場合によっては不誠実な態度に見えた可能性すらあるだろう。
しかし、二人とも真面目過ぎる節があるからこそ、空振りに終わったとはいえ内容自体は至極真っ当な伊達の提案その物をそこまで詰る気はないのだろう。鈴音に比べて心なし、と済ますには余りにバーナビーの方がつんけんした態度であることから、もう一つの理由の方が大きいのだろうなと伊達は見当つけていた。
(……そんなに嫌だったのかなぁ、ウサギちゃん扱い)
建物の中で一旦腰を落ち着かせられるということで、三人はビルに入ってまず、最初にそれぞれの支給品を見せ合った――なお、ここでも伊達が説明を面倒臭がり、二人の年少者に多少なりとも苛立ちを覚えさせたことは蛇足かもしれない――際、バーナビーの支給品の中に可愛らしいウサミミカチューシャがあることに目敏く気づいた伊達は、場を解す意味合いを込めてバーナビーをバニーちゃん呼ばわり……したのだが。
『――やめてください!』
アンクをアンコと呼んだ時の反発とも全く違う、そんな強い拒絶の籠った声を荒げられ、目論んだそれと異なり、鈴音と二人揃って呆気に取られてしまう結果となってしまった。
バーナビーは無論、即謝罪してくれたわけだが……それからの彼の反応がやはり固く、冷たくなってしまったことは勘違いではないと、伊達も感じていた。
ちょっとからかっただけで、とは言わない。十人十色とはよく言ったもので、価値観というものは人それぞれだ。ずかずかと他人のパーソナリティーに踏み込めば、待っているのは必ずしも歓迎ばかりでないことは伊達も理解しているつもりだ。バーナビーにそんな反応をさせた事情を伊達は知らないが、彼が自身の全てを、出会って間もない他人に包み隠さず伝える義務などない以上、いくらしっくり来た渾名だなと思っていても、己の不躾さが悪かったと結論するしかなかった。
それでも本来なら、相違が問題であるのに一方的に自分ばかりが折れて変化するのも不公平であると考え、価値観が違おうとも焦らず時間を掛けて関係修繕を行えるのが大人という生き物だと伊達は思っているわけだが……残念ながら今は、そんなのんびりした付き合いをしている状況でもない。無用な不和を残さないように気を払って行かなければ、と考えているのだが。
(何が引っかかってんだろうねぇ……若者の考えがわからないって、俺も歳食っちゃったのかなぁ)
後藤ちゃん達と仲良くしたのはつい最近なのになー、などと。バーナビーの態度の原因に結局思い至れず、後頭部にある手術跡の近くを掻くしか今伊達にできることはなかった。
294
:
◆z9JH9su20Q
:2012/11/03(土) 00:02:38 ID:WXoQe7iU
「――これからどうします? ビルを出て、周辺の探索に切り換えますか?」
「……正直、メダルに余裕があったらあたしも、まずは皆を探して飛び回りたいんだけどね」
バーナビーの提案にそう鈴音が答えつつ、ちらりと伊達の方を伺った拍子に目が合ったのに互いに気づいた。だがやはりお互い何も口にせず、伊達は今は傍観に徹し、鈴音は顔の向きを直してバーナビーとの会話を再開する。
「でも実際は……自分のせいだけど、余裕はないわ。だったら当てもなく徒歩でぶらつくぐらいなら、まだ……あんた達と一緒に、真木のとこに行く手掛かりを探したい。その手掛かりにあたし達の中で一番近いのは、今一回空振ったとしても伊達さんなのに変わりはないでしょ。あたしはまだ、判断はこの人に任せるわ」
そんな返答にほんの少しだけ、バーナビーが眉間に皺を寄せたのを見ながらも。挽回の機会をくれた鈴音に内心感謝しながら、伊達は勢い良く頷いた。
「オーケイ! じゃあビルを出る前に、もう一箇所だけ覗いておきたいところがあるかな」
「……そうなると放送も近いですよ。大丈夫なんですか?」
「大丈夫! 今度はさっきほど時間掛からないし、掛けないから。これで何もなかったらこのビルのことも見限れるし、悪いけどもうちょっとだけ付き合ってくれよ、バニ……ッ」
軽い口調で告げていたためか。まるで後藤のことを呼ぶ時のように、思わず口走りそうになったその愛称を、咄嗟に口の中で閉じ込めたが。
バーナビーの顔つきがいよいよ険しくなり、その向こうで鈴音があーあとでも言いたげに額を押さえているのが、伊達にははっきりと見えていた。
「……じゃなくて、バーナビー」
「……はい」
にこやかに言い直した呼びかけに、やはり固い調子で青年は応えた。
それを見て、もう少し口の効き方に気をつけた方が良いな、と柄にもないことを伊達は思った。
○ ○ ○
伊達が次の探索地として選んだのは、この鴻上ファウンデーションビルの会長室だった。
鴻上光生というこの大企業の会長は、伊達が言うには相当の傑物であり、やり手であるそうだが……正直主催者である真木と直接関わった部屋で何の手掛かりも得られなかったのだから、こんなところで何か目ぼしい成果が得られるとバーナビーには思えなかった。
しかしそんな彼の判断に、仕方ないから付き合ってやるか、という空気を纏わせながらも。明らかに純粋な期待も含んでいる鈴音の態度に、ざらついた感情を抱く己を自覚し、バーナビーは微かに慄然とする。
バーナビーらヒーローが真木の非道を止められなかったばかりに、友人を喪い傷心した少女から多少なりとも険が失せ、そこに希望や笑顔などの本来あるべき物が戻りつつあるというのに。そんな喜ばしい事実に対し、明らかに『ズレた』感想を持つ自分に驚愕し、しかしその理由にまでは思い至れない。結局バーナビーは当惑を胸に秘めたまま、彼らの背に続くしかなかった。
そうして会長室の探索が始まったが、元上司でありその能力を高く評価している相手であるにも関わらず、意外と言うべきか何なのか、伊達は鴻上に敬愛の念などまるで抱いてはいないようだった。元のまんまだ、などと呟いた会長室で、先の研究室の時と変わらぬ乱雑さのまま、まるで空き巣を働くかのように見境なく掘り返し、私物を放り投げて行く。
先の再現でないのは、そこに鈴音やバーナビー自身が目にした何かを持って行き、一々作業を中断させ、そこで伊達の曖昧な記憶をはっきりさせるために時間を浪費することがない、ということだろう。単純に研究室よりも調べるべき物の量も少なく、先の反省からこの作業は伊達一人の方が良いと判断しての物だ。
その間周囲の様でも見張っておこうと、バーナビーと鈴音はガラス張りの窓へと向かい、街の様子を見下ろしていた。これでビルに向かって来る参加者が居れば、ある程度は認識することができるだろう。仮に鈴音のISや、参加者にはいないがスカイハイのような何らかの飛行能力を持つ敵からの襲撃まで想定しても、警戒が疎かになってしまっている伊達の身の安全までしっかりと確保することは、決して難しくないはずだ。
295
:
◆z9JH9su20Q
:2012/11/03(土) 00:04:18 ID:WXoQe7iU
俯瞰する会場の景色は、南の空から地上を照らしていた太陽が、西の果てへ徐々にその姿を隠すのに合わせて暗色の配分が多くなって来たこともあり、身体能力強化系のNEXTであるバーナビーでも識別できるのは精々円形に切り取られたこの街の端程度までだった。地図によると、一エリアの大きさが約五キロメートル四方であるらしく、広大なその全てを監視することは最も立地条件に適したこのビルでも極めて困難のようだ。
だが少なくとも、その目が届く範囲内で言えば、周辺には参加者やその痕跡などはまだ見受けられない。しかし時間が経つに伴い、他参加者との接触を求める者達が自然とこの中央に集まって来ると予想される以上、油断はできないとバーナビーは目を凝らし続ける。
「……ねえ」
そんな風に取り留めのない思考を走らせながら地上の様子を監視し続けるバーナビーに、同じく眼下の光景に変化を求め視線を下げたままの鈴音が、突然声を掛けて来た。
「あんた、どうしてそんなにピリピリしてるの?」
いきなりの直球だった。
思わず全身が強張ったバーナビーだったが、鈴音が視線を上げて来る前に硬直を脱し、自然な間のうちに当たり障りのない返答を用意する。
「……別に。状況が状況ですので、そう思われてしまったのかもしれませんね」
目を伏せながらも自信ありげな、いつものように余裕溢れる笑顔を作る。しかし内心では、こんな少女にも自らの妙な余裕のなさを見透かされているということに、少なからずバーナビーは動揺していた。
「それは……私もそうなんだけどさ。でも何か、あんたのは違わない?」
痛いところを衝かれ、返答に困窮した時――万が一にも少女相手に語気を荒げるような――普段なら決してあり得ないが、妙に感傷的な今のバーナビーでは絶対と言い切れない事態にまで発展する前に、絶妙なタイミングで伊達が素っ頓狂な声を発した。
「おっ、何だこれ」
その明らかに何かを見つけたという声に、弾かれたように二人は振り返った。「欲望」という文字の描かれた和額を剥がした伊達が、その裏に隠れていたと思しき黒い小型ケースを取り出し、開けようと格闘するのを見えた。それを受け鈴音と視線を交わした後、お先にどうぞ、とバーナビーは肩を竦めてみせた。軽い会釈と感謝の言葉の後に彼女は伊達の元へと駆け寄って行き、彼女が欠けた分も補わなければ、とバーナビーは監視を続行する。
「――コアメダル?」
「ああ。グリードの奴らを構成する元になっているもんで……えーっと……確か、首輪に入れるとセルメダル50枚分として使えるっていうあれだよ」
思わぬ拾い物をした、ということが伝わって来る話し声にバーナビーも改めて振り返り、伊達が頷くのを見て彼らのところへと歩み寄る。
「よーしちょうど三枚あることだし、仲良く三人で分けるとするか!」
「待ちなさいって。これ何か手紙付いているじゃない」
そういった鈴音が取り上げて見せたのは、随分と達筆な字で書かれた一通の封筒だった。
「『このメダルを見つけた者達へ』……って、思い切りなんかのメッセージじゃん。あんたよくこれ無視できるわね……」
「いやぁ、何かマニュアルとか手紙とか読むのって、面倒臭いじゃん……ってあれ、これ会長の字だ」
「――本当に?」
伊達の気づきに鈴音の表情に真剣味が増し、バーナビーもハッとして伊達に尋ねる。
「どういうことですか? まさか鴻上会長も、真木と同じ……」
「いや、それはないよ」
やや伸びた抑揚で、伊達が右掌を振って否定を表明する。
「ドクターは終わりとかに妙に拘ってるけど、会長の方は逆に、誕生って物に価値を見出しているんだよね。あの二人は似ているとこも結構あるんだけど、そういう根っこのとこが相容れてなくて、最後は決別しちまったからなぁ……」
どこか惜しむように、伊達は目を細めながら言う。
「あの会長は何か新しいものを生み出す欲望に執心してるから、何でもかんでも歓迎して時々碌でもねぇことを考えたりもするけどよ。だからその欲望の元を絶っちまうような、徒に人間の命を奪う真似はしない。それだけは断言できる」
そう強い口調で告げる伊達を見て、思わずバーナビーは言葉を漏らした。
「信頼……されているんですね」
「いんや、信頼はできないね。さっきも言ったけど、時たま碌でもねーことおっぱじめるからな、あのおっさん。ただ今回の件ではドクターと繋がってはねぇだろうなってだけだ」
「そう、ですか……」
結局伊達が鴻上光生のことを、どう思っているのかは掴み切れないが……仮に彼の言葉が正しいとすれば。その意味するところに気づいたバーナビーは、緊張を禁じ得ない心地でその鴻上光生からのメッセージへ視線を走らせる。
「いえ、でも。そうだとしてもこれは……!」
296
:
◆z9JH9su20Q
:2012/11/03(土) 00:05:17 ID:WXoQe7iU
「バトルロワイアルの外部からの……メッセージかもしれないってこと?」
確かにそういった物を求めてはいたが。
想定を遥かに超えた、ダイレクトに真木の計画の打破に迫れるかもしれない成果を手にした……かもしれないことに、鈴音とバーナビーは揃って息を呑んだ。
「――っと、じゃあまずはこれを読んでみるとしますか!」
そうまた乱暴に手紙を開くのを見て、大事なそれが破けてしまうのではないかと気が気でないバーナビーは手を伸ばしそうになる。
張りのある表情でメッセージと睨み合った伊達だったが、その目尻がだらしなく垂れ始めるのとほぼ時を同じくして、細い腕が彼の背を追い越して手紙を掴んだ。
「……あんた、こういうの読むの嫌なんでしょ。あたしが読んであげるから貸して」
「あれ、鈴ちゃん日本語読めるの?」
「そりゃああたし、日本の学校通っているのよ? それにその前にも何年も日本に居たし、楽勝よ楽勝」
「そっか、じゃあお願いするわ」
そこで生じた――おそらくはこれが一度目ではない違和感を見破ることができず、妙な引っ掛かりを覚えるバーナビーの前で、すぅくっと伊達がその長身を立たせた。
何をするのかと見守っていると、伊達は部屋の隅に備え付けられた室内灯の電源を押し、薄暗くなり始めていた部屋の中を白光に満ち溢れさせる。
「ちょ……何やってるの!」
周辺に対して、ここに誰かがいるという事実を喧伝してしまうような行為を咎め、立ち上がる鈴音に対し、伊達は良いからとしか返さない。
「これからも使う目を労わっとかなきゃ。暗い所で文字読んでたら目に悪いっしょ?」
「いや、それはそうかもしれないけどさ……そうじゃなくて! こんな真似したら目立つに決まってるでしょ?」
「ダイジョーブダイジョーブ。まだ外は夕焼けだろ? それならこのぐらいの灯りは部屋を明るくしてくれても、外じゃお天道さんにゃ勝てずに消えるって」
確かに伊達の言うことにも一理あるとは言える。鈴音は一度、まだ何か言おうとしたが、面倒だと思い直したのか口を噤み、改めて文面と向かい合った。
「えーっと……『このメダルを見つけた者達へ。過酷なバトルロワイアルの中、見事最初にここへ辿り着いたことを称賛しよう』……」
実際には、予想に反してまだ中央区は比較的安全だが……そんな下りから始まった鴻上からのメッセージは、ここで伝えられることは多くないという前置きから始まっていた。
「『まず、私が何者であるかを伝えよう。この鴻上ファウンデーションの会長であり、またこのバトルロワイアルを実行させるための力を、真木清人に貸し与えてしまった者だ』……って思い切り眼鏡と関わってるじゃないこいつ!」
「いやいや鈴ちゃん、そりゃちょっとは関わりもないとこんな手紙なんか残せないって! 与えたー、じゃなくて与えてしまったー、だから明らかに不本意みたいだし! 先を読めば多分すぐわかるから、ほら」
途端に頼りなくなった諸手を挙げた伊達の言葉に、軽い呆れと怒りを滲ませていた表情を真顔に戻しながら――いや、まだその残滓の浮かばせながらも、鈴音は音読を再開する。
297
:
◆z9JH9su20Q
:2012/11/03(土) 00:07:14 ID:WXoQe7iU
何でも、元々は鴻上が真木と共に『欲望』についての研究の一環として水面下で準備を進めていた計画が、いつの間にかこの狂気のゲームにすり替えられてしまっていたらしい。真木の持つ危険性を甘く見た結果、鴻上ファウンデーションはその設備や資金を、真木やその共謀者達にまんまと騙し取られた形となってしまったのだそうだ。
それに気づいた鴻上は、間もなく自らが彼らによって拘束、最悪の場合殺害されることを想定し、責任の一端を担う者としてせめてもの贖いのため、真木らが様々なところから掻き集めていた品々の中でも、鴻上から見て最重要と言える代物の一つをこうして奪取し、会場へと『持ち去られる』だろう、鴻上ファウンデーションビルの中に隠しておいたのだそうだ。会長室に隠しておいたのは、このビル内には別にこれまで鴻上が隠し部屋として使用していた場所があり、そちらに向くだろう彼らの目を僅かでも欺ける可能性に賭けたためだという。
真木の協力者達については、鴻上にもこの文を起こしている時点では全く把握し切れていないという。ただ、オーメダルという超常の代物を知る鴻上から見ても、途轍もない力を秘めている可能性が高いそうだ。
というのも。彼らから齎された、鴻上すら知らなかったこの新たなコアメダルの存在があったからこそ、鴻上も真木の計画に応じる気になったからだ。
「……『このコアメダルで生まれるコンボは、限界を越えた力をオーズに与えるはずだ。その上で、紫のメダルなどの暴走の影響を受けないこのメダルをオーズの手に渡すことができれば、バトルロワイアルを止める大きな一歩となるだろう。これを見つけられた君達なら必ずできると、私は期待しているよ』……って、死ぬかもしれないって思ってる割に、妙に態度デカいわねこいつ」
「そういう人だからね」
呆れたように半眼となった鈴音に、うんうんと伊達が頷く。
「……ああ、後は火野って人へのメッセージと、そうでない人に向けた伊達さんの言ったのと似た感じの、人の死や世界の終末は望まない、だから私に代わってドクターを止めてくれ、って話で、あたし達が探してるような情報はないみたいね」
そう文面から顔を上げた鈴音は、そのまま伊達に確認を行った。
「火野さんって確か、伊達さんの知人で……オーズっていう戦士なんだったよね」
「ああ、そうだな……」
彼にしては珍しく、何か思い詰めているような表情での頷きだった。
「どうしたんですか?」
「いや……何か妙なんだよね。火野の奴は紫のメダルをちゃんと扱えるようになったはずなのに、どうして今更、わざわざ暴走のことに触れたのかなって……」
一人考え込む様子の伊達を見ているところに、視線を感じてバーナビーは顔を上げる。鈴音が真剣な、しかし踏ん切りのつかないような表情で訴えかけて来ていることを悟り、バーナビーは改めて伊達に声を掛けた。
「伊達さん、僕も妙だと思ったことがあるんですが」
応じるように伊達がこちらを向いたのを見て、バーナビーは続ける。
「伊達さんが話してくれた真木の現状だと、鴻上会長の話と噛み合わないように思います」
真木が鴻上ファウンデーションから離反して、それなりの時間を経たと伊達は言ったが。それからも健在だったはずの鴻上の手紙では、まるで真木が未だ表向きは彼の部下であるかのように書かれていた。
同時にバーナビーは、伊達と二人だった頃に見つけた、類似した齟齬を思い出していた。
自分と伊達とで噛み合わない、季節への認識――火野という人物の状態を含め、鴻上の手紙と共通しているのは、記憶の――もっと言えば、時間軸への認識のズレであった。
「……あたしもそう思ったわ」
年上の男相手でも気後れしない彼女にしては珍しく、どこか躊躇いがちな様子で鈴音が口を開いた。
「だけどあたし、あんたが嘘吐いてるとも思えないの……だけど、それじゃこれってどういうことなんだろうって……わかんなくて……」
あの強がりの鈴音が見せた――微かとはいえ、恐怖を孕んだ表情に、場の空気が淀み、重さを増したように感じられた。
298
:
◆z9JH9su20Q
:2012/11/03(土) 00:08:26 ID:WXoQe7iU
「だって……おかしいじゃない。ISのことを知らないあんた達も。バーナビー達ヒーローのことを知らないあたしや伊達さんも。それに空だって……夏のはずなのに、もうこんなに暗いのよ……!?」
季節の差異は単純に、半球が伊達や鈴音の居た日本という国とは違うからかもしれないが……とは、バーナビーも思わなかった。
何故なら、この会場で見た、太陽の方角を覚えていたから。
そして伊達の言葉から、彼と鈴音の暮らしている日本という国が、北半球にあることを思い出したからだ。
――昼間の太陽は、南の空にあった。
日本で生きて来た二人が揃って認識していた季節は、しかし現実の空に裏切られていた。
先の手紙の内容に対する疑問と言い――鈴音の語った数々の違和感は、結託することでいよいよその不気味さを増していた。
それによって齎される感情に揺られてか、勝気な少女が、その華奢な体躯を微かながらも震わせていた。
「こんなの、絶対おかしい。あの眼鏡いったい何者なの? あたし達の敵は、箒を殺したあいつはっ! ……いったい、何なの……?」
出会ってから初めて聞く、掠れた声で。理解の及ばぬ何かに対する恐怖を、諦めることをやめてしまったせいで逃げ場をなくし、向き合ってしまったがために心を蝕まれた鈴音が吐露する。
だがそれは、バーナビーも同じ心情だった。ウロボロスも未だ全容の見えない恐るべき敵だったが、この殺し合いの主催者はさらにその上を行く。彼ら以前に、彼らによって命を握られた自分達が、これだけ友好的に交流し合っても、未だお互いの素性すらも正しく理解できていないのだから。
自分達は、どこから、何によって。何をされ、どこに連れて来られているのか。そんな単純な事実が、何かの情報を得るごとに、逆に遠退いて行く足音が聞こえて来るのだ。
単純な、死をチラつかされた恐怖心とはまた別――己の世界観を打ち砕いてしまうような、想像も及ばぬ者に対する畏怖を、ヒーローとして場数を踏んで来たバーナビーも感じているのだ。例えISという超兵器を手足のように操ることができようと。学び舎という、予定調和に満ちた一種の箱庭で生きて来た鈴音には、彼女自身の資質がどうであれ、この感情に立ち向かうための経験が絶対的に不足していた。
放置しても、迂闊に触れても……下手をすれば即座に崩れてしまいそうな少女に、バーナビーは掛ける言葉を見つけられずにいた。
「ドクターは……可哀想な、俺の元ルームメイトだよ」
重苦しい空気の中、ぽつりと漏らされたのは……鈴音に対する、伊達の答えだった。
「俺、こんな感じだけどあの人神経質でさ。結構向こうは迷惑してたみたいなんだよねぇ」
それはそうだろうな、と。場にそぐわぬ笑顔で語る伊達の真意が読めず、同じく余りに場違いな感想をバーナビーは抱いてしまった。
「凄い天才なのに、いっつも持ってる人形がないと人とまともに向き合うこともできないような、怖がりな人だったよ」
「そういう……!」
ことじゃない、と。続く言葉を発せない鈴音に、伊達は真摯な表情で、彼女の友の仇との思い出を語る。
「昔不幸なことがあったらしくて、何でもかんでも、終わらせちまうことに価値を見出しちゃって。その欲望のためにグリードなんかと手を組んだり……今じゃこんな、わけのわからないこともしているけど……」
それでも、と。伊達は言葉を継ぐ。
「元を辿れば、凄い所もなっさけねー所もいっぱいある、俺のルームメイト……ただの人間だったんだよ」
299
:
◆z9JH9su20Q
:2012/11/03(土) 00:09:44 ID:WXoQe7iU
伊達は言い聞かせるように、鈴音にそう語り掛ける。
「今のドクターが、俺達の手の届かないところに行っちまったってのはそうかもしれない。でも元は同じなんだったら、俺達がドクターのいるところに辿り着けない道理はないさ。だからそんなビビんなくて良いぜ鈴ちゃん。ドクターのことをぶん殴るんだろ?」
「だっ、誰がビビってるですってぇ……!?」
気持ちで負けてちゃ喧嘩にゃ勝てないぜ、と悪ガキのような笑みを浮かべた伊達に対し、鈴音はそう声を荒げる。
その様子を見たバーナビーは、彼女がもう虚勢を張れるほどに気力を取り戻しているということに、気付かぬ内に微かな感嘆を漏らしていた。
それでもまだどこか、先程の告白前に比べれば消沈した様子の鈴音に対し、伊達は朗らかに笑った。
「大丈夫だって。言ったろ……怖いなら、俺とバーナビーが一緒に戦ってやるって。それに鈴ちゃんには、他にも頼れる仲間がいるんだろ? グリードや協力者がいくら居たって、結局は独りぼっちなドクターになんか負けやしないって」
「仲間」という言葉を受け、鈴音はそれを小さく復唱した後、少しだけ俯いた。
敵討ちを誓った、亡くした友のこともあるのだろう。しかし彼女の、眩いばかりの青春の日々を共に生きる友人達は、まだ大勢いる。
彼ら彼女らがまだ共に居てくれるという、その事実だけでも鈴音はいくらか心救われたことだろう。そしてそんな彼らと生きる尊い日々を守るために、やはり彼女は立ち向かう必要があるのだ。主催者と言う強大な敵に。
一人ではきっと敵わない。だが傍らに誰かいてくれれば、と……そんな希望もまた、胸の内に灯っただろうということが、バーナビーにも見て取れた。
「そう、ね……ありがと」
そんな、伊達に礼を述べる鈴音を見た際に、自分の中に存在する感情が、本来あるべき一つだけではないということに気づき――またズレを認識したバーナビーは、それを必死に振り払った。
「……これからの、ことですが」
外から挿し込む日差しはいよいよ弱まり、空は赤から暗灰色に模様替えしていた。当然、そのような変化が生じて然るべきところにまで、時計の針は進んでいた。
「放送までそう時間がありません。外も暗くなってきましたし、ここで一旦放送を待って、改めて情報を整理してから出発する……ということでよろしいでしょうか?」
「おう、じゃあそうしよっか!」
「あたしもそれで良いわ」
頷く二人を見て、バーナビーはつい考えてしまう。
この中で、最も頼りになるのは情報アドバンテージを除いても、伊達明という男だろうことは明白だ。果たして彼の持つバースの力とやらがどれほどのものなのかは、未だ直視していないバーナビーは把握していない。仮にそれがNEXTやISと同等以上の戦力でも、伊達自身はバーナビーと違い、鈴音の奇襲を躱せなかった、ということを考えると不安は残るが……仮にそういった能力で劣っているとしても、そんなことが問題にならないぐらい、伊達という男は大きな存在だった。
どこまでも……どこまでも、本当によく似ている。彼に――ワイルドタイガーに。
きっと虎鉄が居ればこうしていたのだろうと、バーナビー自身にも思いつかないのに、伊達はそれを見せられればそうとしか思えないような行動を起こし続けた。その結果鈴音との関係も軟化し、彼女の心にも余裕を与え。また鴻上からの手紙とコアメダルの発見という、最初の空振りを帳消しにするような大成果を挙げ。論理ではなく己の心に――言い方を変えれば、欲望に従った結果、最も好ましい終わり方を得続けるその姿が。
バーナビーにつけた、その愛称まで――
(――何なんだ……っ!?)
ただの感慨のはずなのに。虎鉄のように素晴らしく、また頼れる人物が居る。彼の協力を得られれば、虎鉄の願いの実現も、きっと遠くはないだろうと――そう結論したいだけなのに。
どうして自分は、一々一々、伊達が何かを成す度に、それを喜ぶ心と同時に、強く否定したい気持ちに駆られているのか。どうして鈴音が彼に救われて、支えられ、立ち直って行く様を見るのが、彼女の信頼を伊達が勝ち得て行くことが、こんなにも受け入れ難いのか。
鈴音の言う通り、自分はいったい何をこんなにピリピリしているのか。
悩むバーナビーは、しかしそれ以上内面を深く解明することがどうしてもできなかった。むしろ無意識や深層心理とでも呼ぶべき、言語化できていない部分で既に把握しているからこそ、それを明確に意識することをバーナビーは避けているのかもしれなかった。
結局、答えは出て来ないのだから。葛藤を抱えたままバーナビーは同行者に倣い、目前に迫る放送を待つことにした。
300
:
◆z9JH9su20Q
:2012/11/03(土) 00:11:55 ID:WXoQe7iU
そして、そんなことはありえないとわかってはいながらも。
願わくは、一人の死者も出ていないことを――ただの倫理観に由る物だけでなく、真木に宣戦布告したワイルドタイガーの敗北を、晒されたくないがために。
ただ祈ることと……同時に、静かに覚悟を固めることしか、バーナビーにできることはなかった。
○ ○ ○
「……未来のコアメダルは、君が見つけましたか」
伊達明らが、鴻上会長からの贈り物を手にした頃。その事実を知る者が、彼らの他にも居た。
それは当然、多くの不自由を架された参加者ではなく――会場の全てを逐一把握できる立場にある者、すなわち主催者の地位に立つ男だった。
「グリードや火野くん達の誰が最初に辿り着くか、とも思っていましたが……やはり君も抜け目がありませんね。伊達くん」
だがそれも想定内、と。口には出さずとも、無感動な態度だけで腕に抱いた人形に表すかのように、感情なく真木清人は呟いた。
このバトルロワイアルを開催するために利用した、真木自身とは異なる時間軸――否、異なる世界線の鴻上光生が、このバトルロワイアルの真相を知った時、その収束を願い、自身の居城に密かに細工を残していたことは――悲しいかな、しかし真木達も知っていたのだ。
その上で、敢えて泳がせた。
何故か。それは未来のコアメダルが持つ能力は、鴻上に説明した限りではないからだ。
確かにあのコアメダルにより生み出されるコンボは、首輪によって促される暴走の危険もなく、オーズの限界を超越した能力を引き出す――それ単体では決定打とはならずとも、確かに殺し合いを破綻に傾ける一因足り得る要素になるだろう。
それでも真木が見逃したのは、それが必ずしも終末への障害になるとは限らないからだ。
オーズを始めとした反逆者による破綻という、醜い結末のためだけではなく――バトルロワイアルを美しく終わらせるためにも、未来のコアメダルの力は活用できるのだから。
すなわち、真木の求める終末のため、甲斐甲斐しく働いてくれている存在――グリード達への支援にもなり得るとして、真木は鴻上の手が会場に加わることを黙認したのだ。
……しかしコアメダルである以上、未来のコアメダルがグリードに取り込まれる、さらには殺し合いに乗った参加者に他のメダル同様に利用される可能性があることなど、鴻上なら当然思い至っただろう。
では、真木が彼に何を隠していたというのか。答えは簡単だ。
真木がそれらのメダルに、細工をしているという事実を隠匿したのだ。
細工したと言っても、オーズがそれを使う場合に支障が出るようにしたわけではない。というよりもそれは、未来で生み出されたそれに対し、技術的な問題でできなかった、というのが正しいか。手を加えた当時は、このように会場内にメッセージ付きで設置されるという事態を想定していなかったためという理由も、なきにしも非ずだが。
301
:
◆z9JH9su20Q
:2012/11/03(土) 00:13:27 ID:WXoQe7iU
細工をしたというのは、グリードがそれを取り込んだ場合の方だ。
グリードが他に九枚以上のコアメダルと融合している場合には、コンボではない同色の一枚だけでも。あるいはオーズ同様、コンボを成立させる三種のコアを同時に取り込めば。
オーズがそのコアで発現する、最強のコンボ形態――スーパータトバ同様の固有能力を、グリード達にも引き出すことができるようにしたのだ。
この団体戦という形式を取ったバトルロワイアルにおいて、勝敗条件に関わるグリードは最重要ファクターと言って差し支えない。それ故彼らには最終的には倒されて貰わねば困るが、同時に余りに呆気なく倒されてしまっても困る。グリードと言う人外すら軽々と凌駕する戦力を持った参加者もいる以上、強化余地という保険があっても良いことだろう。元よりグリードらについては、既に多少ながら公平性を欠いた要素を与えているのだから構いはしまい。
さて、肝心のコアメダルは、真木と同じ世界の出身者達、すなわちオーズやグリードにとって馴染み深い鴻上ファウンデーションビルに隠されている以上、彼らの内の誰かが手にする可能性が高い。後は本人達の選択や巡り合わせ次第だと思っていたが、実際にそれを発見したのはオーズでもグリードでもなく、しかしやはり真木と関わりの深い、伊達明とその同行者だったというわけだ。
彼らは殺し合いを打破せんと目論んでおり、あのメダルを最も良く活かすことができるオーズとのコネクションも存在する。結局は鴻上の思惑通りとなり、真木達は自分で己の首を絞める結果となってしまったのだろうか?
答えは――未だわからない、というのが正しいだろう。
メダルを落としてしまったからと言って……どこまで転がって行くのかは、その運動が終わりを迎えるまで、誰にもわかりはしないのだから。
何事もなくオーズの元に届くという確証は、未だどこにもないのだ。
「そういえば彼女も」
それを現在進行形で認識しながら、思い出したかのように真木は抑揚のない声で呟いた。
「あのコアメダルの力を。使えるかもしれませんね」
もっとも、そうなってはさすがにワンサイドゲームが過ぎるか……などと頭の中だけで呟きながら。
人形から目を逸らした真木は、鴻上ファウンデーションビルへ肉薄する――死(オワリ)を与える天使を示す光点を、じっと凝視していた。
○ ○ ○
夕闇が街を覆い、いよいよ天球の模様を夜空へ譲渡す準備に入った頃。
カオスは会場の中央を目指し、ふらふらと彷徨っていた。
そこを目指したのに、はっきりとした当てなどない。ただ何となく、仁美と共に歩いていた際に見えた大きな街の方が、皆がたくさん集まっていると思ったからだ。
もしも少し彼女達の進行ルートが逸れて、反対方向の空美町の街並みに気づいていれば、カオスはそちらの方へ吸い寄せられていたかもしれないが……実際の彼女は、他の参加者を、そして誰より火野のおじさんを求めて、中心街に辿り着こうとしていた。
「…………いない」
今また曲がり角を迎えた時、幾許か膨らんだ胸を弾ませながら足早にその向こうを覗き込んだが、結局そこには再会を熱望する男も、彼のための贄となるべき者達も、その影の一つも見当たらなかった。
意に沿わぬ結果に気落ちして、次の一歩を踏み出した時――じゃりっという音と共に肌を噛まれたような感覚が生じ、カオスは思わず眉を潜めた。
「っ――たぁい……」
先程からこれの繰り返しばかりで、彼女を突き動かし続けていた感情も、空回りの末に少しばかり萎んで来たのか。先程までは気にも留めなかった足裏の砂利が、酷く煩わしく思えて来た。
カオスはこれまでもずっと裸足で過ごして来たのだから、こんなありふれた、些細な感触を今更忌避するなど、本当はおかしなことなのだが――足の裏を刺激する、かつては心地良く感じたこともあったはずのそれを覚えることを、カオスは蛇蝎の如く嫌悪していた。
302
:
◆z9JH9su20Q
:2012/11/03(土) 00:14:27 ID:WXoQe7iU
爪先や踵から体温を奪われて行くという事実その物に、仁美が履かせてくれたあのぶかぶかな靴は――もう、この世のどこにもないのだと、突き付けられているようで。
「女の子がはだしで歩くなんて、いけないんだよね……おねぇちゃん」
微かに声を震わせながら、メダルが勿体ないと仕舞っていた翼を展開し、俯いたままでカオスはその両足を地から離す。
火野に与える“愛”のため、誰かにあげるために集めた物を、自分の、しかも然程火急なわけでもないことのために使うのは、なかなかの抵抗があったが……これも仁美の教えを遵守するための、今は亡き彼女に捧げる愛だと思えば、我慢することができた。
そう、耐えるしかないのだ。届くはずもないのに捧げるだのと、そんな欺瞞が必要なのだということに。その愛を届けるべき仁美は、もはやいないのだということに。カオスは今……独りぼっちなのだということに。
こうして彼女に教えて貰ったことを実践して、忘れずにいることしかできないのだ。
火野に焼かれていなくなってしまった仁美のように。彼女との想いでまでも忘却の炎に奪われてしまわぬよう、記憶の中にあるそれだけでも守り通すことしか……今のカオスが、仁美のためにできることはなかった。
(痛い……)
動力炉が、痛い。
あんなに知りたかった、愛を実感できているというのに……それが嫌になるほど、辛い。
一人は嫌だ。一人は寂しい。一人は心細い。
一人では――愛は、苦しいだけだ。
一人だけでは、愛の輪郭(カタチ)を見出せない。独りぼっちでは、それを確認することすらできはしない。ただただ仁美が、愛(あたたかさ)をくれた優しいおねぇちゃんがいなくなったという喪失感だけが、延々と大きくなり続けている。
折角見つけた愛が。確かにこの手に掴んだはずの愛が。どんなに必死になっても、それを見ているのが一人である限り、隙間から零れ落ちて行くのを止められない。
カオスには、それが耐えられなかった。
(だれか……だれか、だれかっ!)
メダル消費を抑えるため、そして闇に紛れる眼下の人影を見落とさないための最低限の加減しながらも、カオスは出会いを求め飛翔する速度を上げ続ける。
今はあの時“たまたま”見つけることができたおにいちゃんに、カオスは感謝していた。
彼と出会えたおかげで、ほんの一時だけでも孤独を和らげることができたのだから。
仁美から与えられ、井坂から学び、火野から教わったカオスの愛を、彼に実践することを通して確かめ感じることができていた間は、その余韻が冷めやらなかったうちは。素足の感触も、この胸の痛みも、無視することができていたのだから。
愛を見失わないためには、その温かさを得るためには、それをやり取りする他者が必要なのだと――この短い一人歩きの間に、カオスは文字通り痛感した。
だから誰かを見つけて、愛を与えなければ。そうして自分が仁美達から貰った愛の形を、確かめなければ。少しずつ、だが確実にメダル残量とともに小さくなって行くこの愛の炎を、また大きくしなければ。
きっとこの胸は、押し潰されてしまう――!
「…………あ」
303
:
◆z9JH9su20Q
:2012/11/03(土) 00:15:51 ID:WXoQe7iU
日が沈み、暗闇の中に潜みつつある街並みの中。たまたま視界を上げたカオスの目についたのは、一つの小さな、しかしそれ故に目立つ確かな輝きだった。
彼女が見つけたのは、寂寞とした無人の街にあって、闇が降りる中その存在を強調するかのように灯りを燈す大きなビルの一室だった。
発見にカオスが口から小さな声が漏らした後、その口端が、まるで三日月の戯画のように吊り上がる。
「……見つけた」
低速飛行のための、限定的な解放から――その能力を全開にするために、より大きく翼を拡げ、加速してビルに向かいながら、カオスはそう呟いた。
灯が点いているのなら、そこには当然――それを必要とする、誰かがいるはずだ。
カオスが熱望した、愛を交わすための誰かがいるはずなのだ。
それを見つけられただけで、自然と胸の痛みは引いていた。
ああ、これで確かめられる……仁美との触れ合いを通して理解した、温かくて痛い愛のカタチ。
あそこにいるのがもしも火野のおじさんだったら、それはとっても嬉しいな、とも思うが……そうではない、どうでもいい誰かでも、今は惜しみなく愛をあげようと思う。
痛くして、殺して、食べるのが愛なのだから……誰かを食べて糧にすれば、まるでセルメダルを奪って増やすように、愛は大きくなるのだから。
そうして沢山食べて、沢山大きくなって、沢山強くなって……それから火野のおじさんを目一杯、心の底から満足するまで愛してあげることを夢想すれば、それも悪くはなかった。
だから――
「――皆に、オワリ(愛)をあげるね」
その宣告と共に、生まれ持ち、さらには奪い、挙句進化し続けて来た、その華奢な体躯に秘めた力を解放しながら――目を一杯に見開いたエンジェロイドは、その愛らしい唇に一層歪んだ弧を描いていた。
○ ○ ○
――原初の神の名を冠した、終焉を運ぶ天使が微笑んだ、まさにその時。
会場の全域で、死者の名を告げるための最初の放送が、いよいよ開始されようとしていた――
304
:
◆z9JH9su20Q
:2012/11/03(土) 00:17:11 ID:WXoQe7iU
【一日目−夕方】
【E-5/鴻上ファウンデーションビル 会長室】
【伊達明@仮面ライダーOOO】
【所属】緑
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【コア】スーパータカ、スーパートラ、スーパーバッタ
【装備】バースドライバー(プロトタイプ)+バースバスター@仮面ライダーOOO、ミルク缶@仮面ライダーOOO、鴻上光生の手紙@オリジナル
【道具】基本支給品、ランダム支給品1〜2
【思考・状況】
基本:殺し合いを止めて、ドクターも止めてやる。
0:まずは放送を聞く。
1:バーナビー達次第だけど、できれば会長の頼みを聞いて、火野でも探しますか。
2:バーナビーと行動して、彼の戦う理由を見極める。
【備考】
※本編第46話終了後からの参戦です。
※TIGER&BUNNYの世界、インフィニット・ストラトスの世界からの参加者の情報を得ました。ただし別世界であるとは考えていません。
※ミルク缶の中身は不明です。
【バーナビー・ブルックスJr.@TIGER&BUNNY】
【所属】白
【状態】健康、伊達に対する複雑な感情
【首輪】100枚:0枚
【装備】バーナビー専用ヒーロースーツ@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品、篠ノ之束のウサミミカチューシャ@インフィニット・ストラトス、ランダム支給品0〜2(確認済み)
【思考・状況】
基本:虎徹さんのパートナーとして、殺し合いを止める。
0:放送を待って、今後の行動を決める。
1:伊達、鈴音と共に行動する。
2:伊達さんは、本当によく虎徹さんに似ている……。
【備考】
※本編最終話 ヒーロー引退後からの参戦です。
※仮面ライダーOOOの世界、インフィニット・ストラトスの世界からの参加者の情報を得ました。ただし別世界であるとは考えていません。
※時間軸のズレについて、その可能性を感じ取っています。
【凰鈴音@インフィニット・ストラトス】
【所属】緑
【状態】健康、
【首輪】50:0
【装備】IS学園制服、《甲龍》待機状態(ブレスレット)@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品一式、不明支給品1〜3
【思考・状況】
基本:真木清人をぶん殴ってやる。
1:伊達とバーナビーについていく。
2:男だけど、伊達はちょっとは信頼してやってもいいかもね。
3:一夏や仲間達に会いたい。みんなで一緒に、箒の分も生きたい。
【備考】
※銀の福音戦後からの参戦です。
※仮面ライダーOOOの世界、TIGER&BUNNYの世界からの参加者の情報を得ました。ただし別世界であるとは考えていません。
305
:
◆z9JH9su20Q
:2012/11/03(土) 00:19:05 ID:WXoQe7iU
【一日目-夕方(放送直前)】
【E-5/市街地】
【カオス@そらのおとしもの】
【所属】青
【状態】身体ダメージ(小)、精神ダメージ(大)、火野への憎しみ(極大)、成長中、服が殆ど焼けている(ほぼ全裸)、飛行中、攻撃体勢
【首輪】225枚:90枚
【装備】なし
【道具】志筑仁美の首輪
【思考・状況】
基本:痛くして、殺して、食べるのが愛!
0.今はあそこ(鴻上ファウンデーションビル)にいる誰かに愛をあげる。
1.火野映司(葛西善二郎)に目一杯愛をあげる。
2.その後、ほかのみんなにも沢山愛をあげる。
3.おじさん(井坂)の「愛」は食べる事。
4. 一人は辛いから、ビルに居る誰かを愛し終わったらすぐに他の人を探す。
【備考】
※参加時期は45話後です。
※制限の影響で「Pandora」の機能が通常より若干落ちています。
※至郎田正影、左翔太郎、ウェザーメモリ、アストレアを吸収しました。
※ドーピングコンソメスープの影響で、身長が少しずつ伸びています。
今後どんなペースで成長していくかは、後続の書き手さんにお任せします。
※ほぼ全裸に近いですが胸部分と股部分は装甲で隠れているので見えません。
※憎しみという感情を理解していません。
【篠ノ之束のウサミミカチューシャ@インフィニット・ストラトス】
バーナビー・ブルックスJr.に支給。名前の通りウサミミカチューシャ。
【スーパータカメダル@仮面ライダーオーズ】
【スーパートラメダル@仮面ライダーオーズ】
【スーパーバッタメダル@仮面ライダーオーズ】
三点とも鴻上ファウンデーションビル社長室に現地支給。
『仮面ライダー×仮面ライダー フォーゼ&オーズ MOVIE大戦MEGAMAX』で湊ミハルの手により齎された四十年後の未来で作られたコアメダルであり、従来のコアメダルを越える性能と安定性を持つ。またこの三枚を用いることで仮面ライダーオーズはスーパータトバコンボへと変身することができる。
さらに本ロワ内では、以下のいずれかもしくは両方の条件を満たした場合、オーズではなくグリードが取り込んでも、そのコンボが発揮するのに近い力を使用できるように主催者側によって調整されている。なお、あくまでグリード化を果たした者にのみ該当する。
①取り込んだのがグリードに対応する色のコアであり、なおかつ他に九枚以上(種類問わず)のコアメダルを吸収している場合。
②スーパータトバコンボを成立させる三枚のコアメダルを取り込んだ場合。
当然ながら、オーズやグリード以外の参加者にとっても、他のコアメダル同様に、セルメダル50枚分として使用することが可能である。ただし、元はグリード発生の余地のないコアメダルを開発する過程、もしくはその結果誕生したメダルであるため、参加者がこれらを取り込みグリード化できるのか、現時点では不明。
306
:
◆z9JH9su20Q
:2012/11/03(土) 00:22:03 ID:WXoQe7iU
以上で予約分の仮投下は終了となります。
バトルロワイアル外からのメッセージを登場させてしまったので、これは仮投下を通さないわけにはいかないなと判断した次第です。
他にも何か気になる点がございましたらご指摘の方よろしくお願い致します。
307
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/11/03(土) 01:15:18 ID:73Ljxv2U
仮投下乙です。
感想は本投下まで控えるとして、自分はこれなら通しで大丈夫かと思います。
スーパータトバ出すならこういう理由が一番自然でしょうし、それ程無理な展開でもないので。
308
:
◆z9JH9su20Q
:2012/11/03(土) 01:16:45 ID:WXoQe7iU
申し訳ありません。仮投下が必要だと判断したもう一つの理由を明記するのを忘れていました。
これも明白だとは思いますが、未来のコアメダルに原典では確認できない性質を主催者によって追加している点も審議対象だと考えているので、そこのところもご意見お願いします。
309
:
◆z9JH9su20Q
:2012/11/03(土) 01:17:58 ID:WXoQe7iU
被ってしまった……
>>307
ご意見ありがとうございます。助かります。
310
:
◆l.qOMFdGV.
:2012/11/03(土) 03:36:57 ID:CmYtXeNE
仮投下お疲れ様です
私も今回のまま通しで問題ないと思います
感想は本スレまでとっておきますね!
堕羽蟲のバラッドについてですが議論スレでの決定に基づきwikiを修正しましたのでこちらにも投下しておきます
修正部分はイカロスとニンフの備考、イカロスのメダル残量についてです
修正前
【イカロス@そらのおとしもの】
【所属】赤
【状態】健康、とてつもなく不安、とてつもなく冷静
【首輪】5枚:0枚
【コア】クジャク(使用済み)
【装備】なし
【道具】基本支給品×2
【思考・状況】
基本:本物のマスターに会う。
1.本物のマスターに会う。
2.嘘偽りのないマスターに会う。
3.共に日々を過ごしたマスターに会う。
4.鴻上ファウンデーションビルまで飛んで休むか、E-4の街中のどこかで休むか
【備考】
※22話終了後から参加。
※“鎖”は、イカロスから最大五メートルまでしか伸ばせません。
※“フェイリスから”、電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。
※「『自身の記憶と食い違うもの』は存在しない偽物であり敵」だと確信しています。
※「『自身の記憶にないもの』は敵」かどうかは決めあぐねています。
※最終兵器『APOLLON』は最高威力に非常に大幅な制限が課せられています。
※最終兵器『APOLLON』は100枚のセル消費で制限下での最高威力が出せます。
それ以上のセルを消費しようと威力は上昇しません。
『aegis』で地上を保護することなく最高出力でぶっぱなせば半径五キロ四方、約4マス分は焦土になります。
※爆心地を包み込んで地上を防御する場合、当然ながらメダル消費は『aegis』>『APOLLON』となります。
【ニンフ@そらのおとしもの】
【所属】青
【状態】身体ダメージ(極大)、全身に火傷や裂傷多数、羽はボロボロ、右腕喪失、強い混乱、深い絶望
【首輪】0枚:0枚
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
基本:知り合いと共にこのゲームから脱出する。
1.どうして……?
2.知り合いと合流(桜井智樹優先)
3.トモキの偽物(?)、裸の男(ジェイク)、カオスを警戒。
【備考】
※参加時期は31話終了直後です。
※広域レーダーなどは、首輪か会場によるジャミングで精度が大きく落ちています。
※“フェイリスから”、電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。
※イカロス、フェイリスの行方を把握していません。
※『APOLLON』のダメージによって放出したセルメダルはイカロスに吸収されておらずニンフの周りに散らばっています。
311
:
◆l.qOMFdGV.
:2012/11/03(土) 03:37:28 ID:CmYtXeNE
修正後
【イカロス@そらのおとしもの】
【所属】赤
【状態】健康、とてつもなく不安、とてつもなく冷静
【首輪】25枚:0枚
【コア】クジャク(使用済み)
【装備】なし
【道具】基本支給品×2
【思考・状況】
基本:本物のマスターに会う。
1.本物のマスターに会う。
2.嘘偽りのないマスターに会う。
3.共に日々を過ごしたマスターに会う。
4.鴻上ファウンデーションビルまで飛んで休むか、E-4の街中のどこかで休むか
【備考】
※22話終了後から参加。
※“鎖”は、イカロスから最大五メートルまでしか伸ばせません。
※“フェイリスから”、電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。
※このためイマジンおよび電王の能力について、ディケイドについてをほぼ丸っきり理解していません。
※「『自身の記憶と食い違うもの』は存在しない偽物であり敵」だと確信しています。
※「『自身の記憶にないもの』は敵」かどうかは決めあぐねています。
※最終兵器『APOLLON』は最高威力に非常に大幅な制限が課せられています。
※最終兵器『APOLLON』は100枚のセル消費で制限下での最高威力が出せます。
それ以上のセルを消費しようと威力は上昇しません。
『aegis』で地上を保護することなく最高出力でぶっぱなせば半径五キロ四方、約4マス分は焦土になります。
※消費メダルの量を調節することで威力・破壊範囲を調節できます。最低50枚から最高100枚の消費で『APOLLON』発動が可能です
【ニンフ@そらのおとしもの】
【所属】青
【状態】身体ダメージ(極大)、全身に火傷や裂傷多数、羽はボロボロ、右腕喪失、強い混乱、深い絶望
【首輪】0枚:0枚
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
基本:知り合いと共にこのゲームから脱出する。
1.どうして……?
2.知り合いと合流(桜井智樹優先)
3.トモキの偽物(?)、裸の男(ジェイク)、カオスを警戒。
【備考】
※参加時期は31話終了直後です。
※広域レーダーなどは、首輪か会場によるジャミングで精度が大きく落ちています。
※“フェイリスから”、電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。
※このためイマジンおよび電王の能力について、ディケイドについてをほぼ丸っきり理解していません。
※イカロス、フェイリスの行方を把握していません。
※『APOLLON』のダメージによって放出したセルメダルはイカロスに吸収されておらずニンフの周りに散らばっています。
以上になります
312
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/11/03(土) 08:55:54 ID:atnB0x0g
z9JH9su20Q氏仮投下乙です
気になったのはカオスの時間帯ですね
鴻上ファウンデーションビルにはイカロス達も空を飛んで向かってます
放送直前まで時間が経過したのなら、先にイカロス達の方を見つけると思うのですが
l.qOMFdGV.氏も修正乙です
次回からはもう少し早く修正してください
313
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/11/03(土) 11:21:16 ID:y2vPxVYU
z9JH9su20Q氏、仮投下乙です。
自分も気になった点と言えば、カオスの位置と場所ですね。
ただ自分の場合は、いくらエンジェロイドとはいえ数時間で数エリア離れた場所まで行けるかどうか。
個人的な感覚で申し訳ありませんが。
314
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/11/03(土) 12:51:58 ID:vc9pqYq.
仮投下乙です!
自分は全く問題はないと思います
まず、イカロスはまだ鴻上ファウンデーションビルに向かうと決定したわけではありませんし、仮に向かっていたとしても、一エリア四方が五キロもあるマップなのだから、必ずしも出会うとは限りません。
全く別の方向から鴻上ファウンデーションビルへ向かっていたカオスが、そもそも鴻上ファウンデーションビルに向かうかどうかも決定していないイカロスと出会わなかったからといってそれほど不自然ではないかと。
次にいくらエンジェロイドでも、という指摘に対してですが、数時間どころか一時間もあれば鴻上ファウンデーションビルには行けるかと思います。
以前にも加頭が短時間でとんでもなく離れた警察署まで一気に移動した前例がありますが、カオスの飛行速度はライドベンダーよりも遥かに上なのだから、途中から速度を上げ続けて飛んでいたという描写から考えても不自然ではないかと自分は思います。
315
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/11/03(土) 15:21:20 ID:cDouZD1s
>>314
イカロスは現在放送まで一時間半の状態で鴻上ファウンデーションビルかE-4のどこかで休むかの二択
セルメダルも修正で25枚になったし、一時間半も時間があれば放送までには鴻上ファウンデーションビルに到着可能かと
それに五キロ四方あるといても、視界を遮るもののない空を飛んでいるのだから十分目立つはず。カオスはエンジェロイドだから視力もいいだろうし
イカロスが地上に降りていれば見つからないかもしれないが、そうなると次の話で地上に降りる方向に話が固定されてしまう
その流れでないと話が破綻してしまうならともかく、そうでないなら展開が制限されるようなのは避けるべきかと
316
:
◆z9JH9su20Q
:2012/11/03(土) 20:10:38 ID:WXoQe7iU
皆様、ご意見ありがとうございます。
まずカオスが数時間で鴻上ファウンデーションビルへ〜というご指摘ですが、
>>314
さんがお答えしてくれたように、エンジェロイドの能力なら容易であると自分は考えています。
特に前話でアストレアを吸収し加速能力まで強化された状態ですので、ゆっくり飛んでいても私個人の感覚では一エリアと半分程度の移動なら不自然と言われるほどではないかと思います。
次に、カオスがイカロスと出会っていないのはおかしい、というご意見の方ですが……これはまず、私の描写不足だったかもしれませんね。
>>302
の方で「眼下の人影を見落とさないため」と描写したことで一応示したつもりだったのですが、カオスは下を向いて飛んでいるので、仮にイカロスが近くを飛行していても、カオス側が気づくことはないかと思います。
仮に同時刻にイカロスが付近の空を飛んでいたとしたら、イカロス側がカオスを発見する可能性はあるかもしれませんが、下を向いて、しかも参加者を探すために低空飛行しているカオスが、恐らく自分より高い高度にいるイカロスを見つけるのは変じゃないかなぁと。
また
>>315
さんが仰っている通り、イカロスは拙作でカオスが鴻上ファウンデーションビルを発見する約一時間半前の時点でそこに向かうかどうかを考えていますよね。
その間、バーナビー達は話し合いのため外を警戒していた者がいない時間帯があります。他にも単純に研究室から会長室へ移動している間にでもですが、イカロスがその隙にビル内に入って、会長室には近づかずに休憩している可能性も考えられますよね。
というより、イカロスの方がカオスよりずっと近くにいて、恐らくはカオスよりずっと早く鴻上ファウンデーションビルを目指して飛んでいる方が自然だと考えていたので、
私には同じ時間帯にイカロスが付近を飛んでいて、なおかつカオスが飛行中の彼女を発見するという展開は思いつけませんでした。
この調子で自分のやりたい展開を思いついたら、後はそのことしか考えずに書いてしまう危険性というものは、確かに以後気を付ける必要があるかもしれませんね。ご指摘ありがとうございます。
ただ、このご指摘も懸念されるほど展開を固定しない、というよりもむしろ、私としては納得できない内容ですので、書き手の裁量圏内であると判断してもよろしいでしょうか?
最後に、私が言えた義理ではないかもしれませんが
>>312
氏。私の見た限り、◆l.qOMFdGV.氏は修正したくとも、単純に議論に決着が着いたか判断できなかったためにそれができなかったのだと思います。
実際、議論スレ
>>178
でその議論について決着と他の書き手氏が意見されてからはすぐに修正版が投下されました。
議論が決着していないかもしれない中で、自分だけの考えで修正版を投下することができなかったというのは、その慎重さを褒められこそすれ、対応を詰られる道理はないと思います。
確かにやきもきさせられたのかもしれない、ということはわからなくもありませんが、これからは厳しい言葉を使う前にまず相手の事情も少しは考えてみてから発言して頂けると幸いです。
317
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/11/04(日) 00:17:17 ID:vMmUoOCo
というか、現在の最新話で既にイカロスの行動は確定しているのでもうこの件は解決でしょう。
仮投下から一日経過したけど他に何もないようだし、もうこのまま本投下で問題ないと思いますけどね。
318
:
◆z9JH9su20Q
:2012/11/04(日) 00:19:09 ID:u0jhlrVs
最新話の投下でイカロス絡みの問題が解決したと判断したので、本作を本スレに投下させて頂きます
319
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/11/10(土) 23:36:19 ID:tplCHPJA
修正待ち状態の◆SXmcM2fBg6氏の作品「【X】しょうたいふめい」で気付いた点を。
作品自体の話ではないのですが、SSタイトルがネウロのサブタイを意識したものであるなら
「X【しょうたいふめい】」という、【】を後に置く形が適当ではないかと思いました。修正版投下前のうちに意見しておきます。
320
:
◆SXmcM2fBg6
:2012/11/11(日) 17:01:31 ID:ggdF0jZU
指摘ありがとうございます。
ウィキ収録時に修正させていただきます。
321
:
◆SXmcM2fBg6
:2012/11/15(木) 15:54:14 ID:9erBSca.
それでは、X【しょうたいふめい】の修正版を投下させていただきます。
322
:
◆SXmcM2fBg6
:2012/11/15(木) 15:54:47 ID:9erBSca.
それは佐倉杏子に擬態したXが、詳細名簿に記された脳噛ネウロの開始位置へと向かっていた時のことだった。
唐突に割と近くにあった民家から、二つの人影が飛び出し、空を飛んでいったのだ。
Xはそれを一目見て、飛んで行った二人がアストレアと同じ存在であることに気付いた。
「あれは……あの時の彼女の仲間かな? どうしたんだろう。かなり慌ててたみたいだけど」
既に二つの人影は遠くへと飛び去り、Xの人間離れした視力でも視認できない。
飛んでいった方角はわかっているが、追いつくのはちょっと難しそうだ。
「ま、今はネウロのほうが大事だし、放っておこうかな。けど―――」
呟きながら向けた視線の先には、先程二人が飛び出した民家がある。
ネウロだって既に移動しているはずだ。開始位置に向かったからといってネウロに会えるとは限らない。
それに二人を追いかけるのは手間だが、彼女たちが居た民家を調べるだけならすぐに済むだろう。
そう考え、僅かに進行方向を変えて民家へと向かった。そして。
「―――なにか、あったのかな?」
壁に開いた大穴と、台風の直撃にでも遭ったかのような部屋の惨状に首を傾げる。
血痕が飛び散っているわけでもなく、戦闘があった形跡もない。
ならば彼女たちは、一体どうしてこの家を飛び出したのか。仲間割れでもしたのか?
――とそこまで考えて、すぐに考える必要がないことに思い至る。
Xの目的はあくまでも『自分の正体』を知ることであり、そのための重要な要素がネウロだ。
現状において他はすべてオマケに過ぎず、ネウロに関することに比べたら些細だ。
そう結論して民家を後にしようとした時、ふと家具とは違う、黄色い長物が目に入った。
「これは……槍? 彼女たちが落として行ったのかな?」
長さは一.五メートル程で、キングラウザーと同様、相当な業物だと推定できる。
これ程の名槍を放置して行ったということは、彼女たちは相当に慌てていたのだろう。
「まぁ何にしても、貰える物は貰っておくけどね」
彼女たちが戻ってきてもいいように置いておく理由はないし、武器はあるに越した事はない。
それに佐倉杏子の真似をするのであれば、槍は持っておいたほうが良いだろう。
槍がなくとも大体の模倣はできるが、やはりあったほうが再現率が違う。
「さて、早くネウロの開始位置に行こうか」
ブン、と槍を一振りして取り回しを確認し、デイバックに収める。
一先ず向かう場所は一番ネウロの開始位置に近い施設、【F-4】北部にある芦河ショウイチ家だ。
それを地図で確認して、Xは壁に開いた大穴から民家を後にした。
―――直後。前方――つまり南の方角で、ミサイルを数十発撃ち込んだかのような大爆発が起きた。
「……………………。
……うわぁ、何あれ。ミサイルでも支給されていたのかな?」
距離を目算した限り、あの爆発はおそらく公園付近で起きたと思われる。
公園から大体二.五キロはあるこの場所で視認できる威力の爆発など、早々お目にかかれない。
一体どんな手段であれほどの破壊を引き起こしたのか、非常に気になるところだ。
「……ああ、そういえば」
あの方角は、彼女たちが飛び去って行った方角だな、と。他人事のように思い出していた。
○ ○ ○
――――あれから、どれくらいの時間が経ったのか。
熱せられた焦土が冷め始め、辺りからは白い蒸気が昇り始めている。
辺り一面には何も残っていない。周囲にあった物は全て吹き飛ぶか融解し、黒く焼け焦げていた。
その燃え朽ちた大地の中心で、少女は今だに倒れたまま、陰り始めた空を見つめていた。
茜色に染まっていた空は暗さを増していき、もうじき日が暮れそうだった。
だがそんな空の変化に、少女は何の関心も浮かべなかった。……そんな余裕など、一欠けらも残っていなかった。
少女の体に傷のないところはなく、果ては右腕を失ってさえいた。可能であるならば、一刻も早い治療が必要な状況だ。
だというのに、少女はピクリとも動かず遠い空を眺めていた。
今少女の心に浮かんでいるのは、たった一つの疑問だけ。
“どうして……?”
それだけが、少女の内にある全てだった。
こうなる要素は、何もなかったはず。誰も何も、間違えてなかったはず。そのはずなのに、どうして? と。
323
:
◆SXmcM2fBg6
:2012/11/15(木) 15:55:18 ID:9erBSca.
『偽物』と彼女は言った。
それが正しいか間違いかは重要ではない。問題なのは、彼女がそう思ったということだけだ。
彼女は少女を『偽物』であると思い、拒絶した。目の前の少女ではなく、自身の思い出だけを信じた。
……そうして、少女が縋る様に伸ばした手は、無残にも撃ち砕かれた。
そのことが、全身の傷以上に少女から立ち上がる力を奪っていた。
“どうして……”
少女に疑問を齎した者は、すでに飛び去っている。
少女の疑問に答えられる者は、この場のどこにもいない。
“どうして……”
その疑問だけが、少女の心を埋め尽くしていく。
だから少女を動かしたのは、少女の疑問とは全く関係のない理由だった。
「おいアンタ、こんなところで何やってんだ?」
不意に投げかけられた声に、ニンフは反射的に跳ね起きて即座に距離をとる。
直後、全身に奔った激痛に堪らず両膝を突いた。
「あ、おい、大丈夫か?」
そう言って声をかけてきたのは、長い赤毛をポニーテールに纏めた中学生ぐらいの少女だった。
彼女は心配そうに声をかけてくるが、ニンフは思わず悪態をついてしまう。
「アンタはこれが、大丈夫に見えるの?」
「いや、全然」
「っ…………」
だが少女は気にした様子もなく、それどころかふざけた様に応えてきた。
その応答に思わず苛立ちを覚えたが、同時に周り見るだけの余裕も少しだけ出てきた。
その点だけは、一応お礼を言ってもいいかもしれない。
「システム確認……オールレッド。
システム損傷89%……
ステルスウィング半壊……
右腕部全壊、修復は困難……
自己修復プログラム……はどうにか無事か」
自身の状態を確認し、その酷さに溜息をつく。
はっきり言って、いつ動作不良を起こしても不思議ではない状態だ。
もっとも、アポロンの直撃を受けて機能しているほうが遥かに不思議なのだが。
「なぁ。さっきから何ぶつぶつ言ってるんだ?」
「……アンタには関係ない事よ。少し黙っててくれない」
言いながらも周囲に散らばっていたセルメダルを回収し、自己修復プログラムを起動させる。
……だが全く追いついていない。右腕はともかく、それ以外の修復が完了するまでだいぶ時間がかかりそうだった。
そのことに再び溜息をつきながらも周囲を見渡せば、辺り一面酷い惨状だった。
どこを見ても何も残っていない。この場で生きて動いている自分たちのほうが、むしろ場違いに感じるほどに。
だが、ニンフはこの光景に強い疑念を感じていた。「この程度で済むはずがない」と。
イカロスのアポロンは国一つを吹っ飛ばすような、文字通りの最終兵器だ。その破壊力はそう簡単に加減できるものではない。
イージスを使って封殺したのならともかく、そうでなければ、この会場自体が吹き飛んでいてもおかしくはないのだ。
だがこうして被害が出ている以上、イージスによる封殺は行われていないはずなのだ。
しかしそれでは、この周囲に広がる惨状と矛盾してしまう。
“アポロンの破壊力が制限されている? どうやって。
真木清人はそんなことを可能とする技術を持っているの?
それともまさか、シナプスそのものが真木清人に協力している?”
頭の中で考えられる可能性を列挙していくが、答えは出ない。
判断材料がない以上、考えても仕方がないと、首を振って思考を止める。
そして今は目の前のことに集中するべきだと、先ほどからこちらを注視している少女へと向き直った。
「で、アンタは何者?」
「あたしか? あたしは佐倉杏子だ。よろしくな」
「そう、キョーコね。私はニンフよ。
それで、キョーコは何のためにここに来たの?」
「いや、デッカイ爆発があったからさ、一体何があったのかなって気になって来てみたんだ。
そしたらこんなところでアンタが倒れてたんで、声をかけてみたってわけ」
「ふうん。なら、無駄足を踏ませたかしら。アンタが“どっち側”にしても、今の私に関わって得はないし」
324
:
◆SXmcM2fBg6
:2012/11/15(木) 15:56:14 ID:9erBSca.
ニンフはそう自棄気味に言い捨てる。
今の自分は右腕を失っているし、セルメダルも残り少ない。
杏子が殺し合いに乗っていないのなら、今の自分はお荷物にしかならない。
逆に乗っていたとしても、わざわざここまで殺しに来る価値はほとんどない。
もっとも、散らばっていたメダルを回収せずにわざわざ声をかけてきたことから、殺し合いに乗っている可能性は低いと思うが。
「いや、そうでもないよ」
「? キョーコ?」
「なんでもねぇよ」
杏子の呟きに違和感を覚え聞き返すが、杏子はそう言ってはぐらかした。
彼女の声色が一瞬変わった気がしたのだが、気のせいだったのだろうか。
「それよりさ、ここで一体何があったんだ?」
「そ、それは………」
その問いかけに、ニンフは思わず口ごもる。
杏子が現れたことで多少周囲を見る余裕ができたとはいえ、イカロスが何故攻撃してきたのか、という疑問はまだ解消されていない。
お互いの記憶の祖語から『偽物』と判断されたのはわかる。
だが、ただそれだけの理由で釈明の余地すらなく攻撃されたという事実が、ニンフの心を苛んでいた。
自分はそんなにも、信用できない存在だったのか。と。
“アルファー……どうして……”
どうして、ほんの少しでも信じてくれなかったのか。
ほんの少しでも言葉を交わせば、誤解は解けたかもしれなかったのに。
「まぁ言いたくないんなら、無理に言わなくてもいいからな」
「えっと、その……ごめんなさい」
「別に謝んなくていいよ。けどさ、アンタはこれからどうするんだ?」
「これから……か」
感情だけで言うのなら、今すぐ智樹に会いたい。けど彼がどこにいるのか全く判らない今、それはただの希望論だ。
イカロスを探してもう一度説得しようにも、今の彼女が話を聞いてくれるとも思えない。
なら自分にできることは、どこか安全な場所で体を修復することだけだ。
そしてそうと決まれば、なるべく早くここから離れた方がいいだろう。
アポロンによる大爆発で、この場所は人目を引いているだろう。
杏子のように誰かがやって来る可能性は高いし、その人物が危険人物である可能性だってある。
今の自分に戦闘行動を行えるほどの力はないし、ズタズタの翼では逃げることも覚束ない。
たまたま真っ先にやってきた杏子が、落ち着いて会話できるような人物だったから良かったものの、そうでなければ今頃どうなっていたことか。
“………あれ? ちょっと待って”
今の自分の思考に、何か重大な間違いを犯したかのような悪寒が走った。
その理由を探るために、改めて順序立てながら思考する。
自分は片腕を失った重症であり、誰かと戦える状態ではない。
現在この場所はアポロンによる大爆発で、危険人物がやってくる可能性がある。
最初に現れたのが冷静な対応のできる杏子でなければ、自分はすでに死んでいたかもしれない。
“………うそ。まさか――――!”
…………だが少し、彼女は冷静過ぎなのではないか?
自分は今片腕を失った状態なのだ。エンジェロイドであるからこそまだ平然としていられるが、ただの人間ならば命に関わっている。
そして自身がエンジェロイドであることを、杏子に教えた覚えはない。なのに彼女は自分を見つめているだけで、何の治療も施そうとしてこない。
――――まるでこちらの行動を観察しているかのように。
そうして、悪寒の正体に思い至る。
一般的な人間ならば、重傷を負った人物がいれば治療をしようとするか、少なくとも安静を勧めるはずだ。
対して杏子の今の行動は、ニンフが“人間でない”ことを知っていなければおかしいものである。ということに。
「…………ねぇ、キョーコ?」
その事実を確かめるように。否定するように。
ニンフは恐る恐る、背後にいる杏子へと振り返る。
「―――残念。気づかなければ、もう少し生きていられたのにね」
そうして見えた光景は、いつの間にか取り出した大剣を振り被りながら、歪な笑みを浮かべる少女の姿だった。
――――次の瞬間。
ニンフの視界は、一面の赤色に塗り潰された。
325
:
◆SXmcM2fBg6
:2012/11/15(木) 15:56:46 ID:9erBSca.
○ ○ ○
鏑木・T・虎徹は、己をヒーローであると自認している。
長年ヒーローとして戦ってきたし、ヒーローとしての誇りもある。
それだけに彼は多くの犯罪者を見てきた。だから多少なら犯罪者の心理の機微がわかる。
そんな彼でも、“彼女”はあまりにも異質で、あまりにも理解不能だった。
佐倉杏子が黄金の大剣を振り上げ、ニンフの視界が赤く塗り潰される。
完全な不意打ち。電子戦用であるニンフには、重症である体も相まって回避することはできない。
元々壊れかけだったこの体は、この一撃で以って完全に破壊されるのだと理解した。
事実、強い衝撃を感じた後、地面を転がり視界がぐるぐると回った。
「…………え?」
だというのに、いつまでたっても痛みはなく、終わりは来ない。
視界は既に赤く塗り潰されている。なのに意識の断絶は訪れない。
その理由は、視線を巡らせればすぐに判明した。
今にも壊れそうな鎧のような物を着た男が、庇うようにニンフを抱きしめ、その鎧を己の血で赤く染めていた。
それにより自身の視界を赤く染めたのは、自分のではなくその男の血なのだと理解した。
それと同時に男は立ち上がり、ジッと杏子の方を見つめる。
「アンタは……?」
その声に反応し、男はニンフをようやく離す。そして彼女の方に向き直ってサムズアップした。
「安心しろ。このワイルドタイガーが来たからには、もう大丈夫だ」
その名乗りでニンフはようやく、男が真木清人に無謀なケンカを売っていたヒーローだと思い出した。
それは、本当にギリギリのタイミングだった。
焦土となった公園にライドベンダーで乗り入り、そうしてすぐに見えた二つの人影。
こんなところで何しているのかと思い、近づいて声をかけようとした。その時だった。
一方の人影がデイバックから何かを取り出した。
取り出された何かは夕日を反射し、一際強く煌めく。その輝きで、取り出された物が凶器であると理解した。
虎撤はすぐにアクセルを全開にし、二つの人影へと加速した。
凶器を取り出した人影は、もう一方の人影が振り返るのに合わせて凶器を振り上げる。
そして振り返りきったところで、人影はもう一方の人影へと凶器を振り下ろした。
その瞬間虎撤は、全速力を出すライドベンダーを足場に、もう一方の人影へと抱きついて庇った。
「グッ、ツゥ………ッ!」
まず背中に奔る焼けるような痛みを、歯を食い縛って耐える。
次に腕の中の少女の温もりに、彼女が無事であるとわかって安堵する。
最後に拳銃程度なら弾き返す強度を持つ斎藤さん謹製ヒーロースーツが、こうも容易く切り裂かれたことに驚く。
そうして地面を転がってその場から離れ、すぐに立ち上がって腕の中の少女を殺そうとした人物の正体を確かめ、その姿にさらなる驚愕を味わう。
まだ中学生ぐらいの赤毛の髪をした少女だ。そんな子供が躊躇いなく人を殺そうとした事実に、怒りよりまず悲しみが先立った。
「アンタは……?」
「安心しろ。このワイルドタイガーが来たからには、もう大丈夫だ」
警戒を緩めずに赤毛の少女から視線を切り、腕に庇った少女を離しながらそう名乗る。
名乗りながら少女の姿を見て、思わず目を見開いた。
少女に羽が生えていたから、というのもあるだろう。だがそれ以上に、その傷だらけの体に目を奪われた。
片腕を失うという、普通なら今すぐに病院に行くべきな重傷。それでも少女は、痛みを訴えることなく虎撤を見上げている。
「くっ…………」
命だけは助けられた。だがこんな重傷を負う前に助けられないで、果たして間に合ったと言えるのか。
そんな自分に対する怒りを込めて、改めて赤毛の少女を睨みつける。
「おいテメェ。こんな小さい女の子にこんな大けがを負わせるたぁどういうつもりだ!
事と次第によっちゃあテメェみたいなガキでも容赦しねぇぞ!」
「おいおい心外だぜ。そいつの怪我はあたしがやったんじゃねぇよ」
「はぁ!? ふざけたこと言ってんじゃ――――」
「ほんとよ。これはキョーコがやったんじゃないわ」
「へ? マジ?」
重傷を負った少女自身からの否定に面を食らう。
ならば誰がやったのか。という疑問が残るが、それは一先ず後回しにする。
326
:
◆SXmcM2fBg6
:2012/11/15(木) 15:57:48 ID:9erBSca.
「け、けどテメェがこの子を殺そうとしてたことには変わりねぇ!
だから改めてもう一度聞くぞ! テメェ一体どういうつもりだ! テメェも殺し合いに乗ってんのか!?」
「どうも何も、あたしは別に殺し合いになんか興味はないよ」
「ふざけんなよ! じゃあなんでその子を殺そうとしてんだよ!」
「その答えは簡単。“そいつがあたしに警戒心を持っちまったから”。そんだけさ。
観察する側としては、檻もないのに警戒心を持たれるのは面倒なんだ。ちょっとしたことで逃げられるかもしれないし。
で、それなら手っ取り早く“中身”を見せてもらおうと思ってね」
「観察に……中身だァ? そりゃどういう意味だ」
その言葉に少女は僅かに悩んだ後、まぁ別にいいか、と呟いて虎撤へと向き直った。
……その顔の半分を、全く別の人物の物に変貌させて……変貌させ続けて。
「“俺”はね、自分の『正体』がわからないんだ。
自己観察をしようにも体の細胞が変異し続けていて、しばらくすれば全く別の物に替わってしまう。
だから“俺”は、自分の『正体』を他人に求めることにしたんだ。
まぁ簡単な比較検証だね。自分と他人の違うところを探そうって感じ。
で、なんでその子を殺そうとしたかっていうと、体の“中身”を見るには“開く”のが一番手っ取り早いだろ? まぁそういうこと」
少女の……いや、“少女のようなモノ”のその答えに、虎撤は言葉を失った。
じぶんの『正体』を知りたい。だから他人の“中身”を観察している。そう少女は言った。
つまり少女自身に殺意はなく、中身を見る過程で死んでいるだけだと言っているのだ。
………まるでカエルの解剖。少女にとって他人とは、その程度の意味しかないらしい。
「まぁ最近じゃ俺の『正体』は、人間以外の怪物なんじゃないかって考えてるんだ。
だから、そういう意味ではその子は実に興味深くて、観察し甲斐がありそうだけど」
「ッ………………!」
その言葉に虎撤は怒りに歯を食いしばる。
目の前の少女は人を人とも思っていない、真木清人と同じ正真正銘のゲス野郎だ。
ならば躊躇う必要はない。遠慮なくぶん殴ってふん縛ればいい!
「……ああ、認めてやるよ。確かにテメェはバケモンだ。
けどバケモンだって言うんなら……退治されても文句ねぇよなぁッ!」
一息に少女へと距離を詰め、力の限りに拳を振り抜く。
少女はその一撃をあっさりと躱し、距離を取って黄金の大剣を構える。
「いいぜ。出来るもんなら……だけどな!」
そうしていつの間にか元に戻った顔に、実に楽しそうな笑顔を張り付けそう言った。
虎撤は拳を構え、ふう、と一つ深呼吸をする。
ハンドレットパワーはまだ使えない? だからなんだ。
背中の傷が激しく痛む? それがどうした。
目前には人殺しをなんとも思わない犯罪者。背後には守るべき力なき少女。
躊躇う理由がどこにある。戦う理由はここにある。さあ―――
「―――ワイルドに吠えるぜッ!」
その決め台詞と共に、虎撤――ワイルドタイガーは“犯罪者”へと挑んでいった。
○ ○ ○
硬いスーツに覆われた拳を一回、二回、三回と振りまわす。
華奢な少女であれば悶絶では済まない程度に力を込めた一撃は、しかし。
「っだぁあッ! ぜんぜん当たんねぇ……ッ!」
佐倉杏子へと擬態した怪盗Xには掠りもせずに避けられていた。
「なんだ? その程度なのか? そんなんじゃあたしを倒すには程遠いぜ?」
「チィ……ッ、コンチクショウ……ッ!」
タイガーの左のストレート、と見せかけての右のハイキックを、Xはスウェーバックで容易く躱す。
そして逆に後ろ回し蹴りを、タイガーの頭へと叩き込む。
ハイキックを避けられたタイガーは回避も出来ずにあっさりと蹴り飛ばされ、地面を転がる。
「んだッ! なんつぅ力してんだよ! 見た目はガキだっつのに……!」
蹴られた衝撃に揺れる視界を、頭を振って戻し、拳を構えてXを睨みつける。
闘いが始まってからずっと、タイガーの攻撃は一撃もXに掠りすらしていなかった。
どれだけ素早く動いても、フェイントを織り交ぜても、直感に任せても、Xは全てを見てから回避しているのだ。
加えてXは、まだ一度もキングラウザーを使っていない。Xの攻撃は全て素手、それもカウンターで行われているのだ。
ずっとヒーローとして戦ってきたタイガーを越える反射神経。それを前に、能力の使えないタイガーは全くの無力だった。
327
:
◆SXmcM2fBg6
:2012/11/15(木) 15:58:29 ID:9erBSca.
「くそ……それに、こっちも少しヤベェ……」
イカロスの攻撃によってダメージのあった体に、先ほどニンフを庇ってできた傷が響いている。
端的に言ってしまえば、出血が止まらないのだ。
それも当然。ロクな手当もせずに動きまわれば、傷は塞がるどころか広がる一方だ。
「どうする……どうすればアイツをぶん殴れる……」
出血量こそまだ大したことはないが、それでもこのまま血を流し続けるのは非常にまずい。
だが攻撃が当たらなければ、どうすることもできない。
……一撃だ。一撃さえ全力でぶん殴れれば、それでどうにかなるはずだ。
ならば。
「どうにかするしか、ねぇよな……ッ!」
傍目には闇雲な突撃。事実、その通りの特攻を、タイガーは再び敢行する。
考えたところでいい案は思い浮かばない。ならば、今できることをやるしかないのだ。
「ウオリャアァ―――ッ!」
「……………………はぁ」
そんなタイガーの悪足掻きを、Xは早くも飽き始めていた。
あの異常な状況にあった場所で、敵の親玉である真木清人に啖呵を切ったタイガーだ。
何かしらの自信に足る力があるのではないかと考えていたのだが、タイガーは一向にそれを見せない。
使えないのか、使わないのか、初めから存在しないのか。そのどれかは知らないが、Xにとっては実に期待ハズレな展開だった。
「あのさぁ……さっきからバカみたいに突っ込んできてるけど、なんか意味あんのか、それ?」
「うっせェ! 意味なんか決まってんだろ! テメェをぶん殴るためだよ!」
「あっそ…………」
無駄に熱いタイガーのセリフを一言で流し、どうしようかと考える。
もう少し様子を見るか。それともさっさと“箱”にするか。
ちらりと横目でニンフを探せば、何を考えているのか今も逃げずにそこにいる。
なら、彼女が逃げたらタイガーを“箱”にしようと決定する。
「よそ見してんじゃねぇ!」
「おおっと」
タイガーのスライディングによる足払いを、咄嗟にジャンプして避ける。
さすがにヒーローを名乗るだけのことはある。ほんの僅かな隙も見逃さない。
もっとも、その隙を突けるかは別問題だけど。とそこまで思ったところで、
「そこだぁ!」
タイガーのスーツの左腕部の装甲が開き、スプレーガンのようなギミックが飛び出してきた。
スプレーガンはXが地面に着地するより速く稼働し、その銃口からワイヤーが射出される。
空中にいるXにそれを避ける方法はなく、ワイヤーはXの胴体に巻き付く。
「!」
タイガーは力の限りワイヤーを引っ張り、Xを目前へと引きずり出す。
そこへ渾身の力を込めた拳を、一切の加減無くXの胴体へと叩き込んだ。
Xは咄嗟に腕左腕でガードするが、そんな守りで止まるほどタイガーの拳は優しくない。
「これで、どうだァッ!」
「、ガッ…………ァッ!」
肉を打ち、骨を砕く嫌な感触がタイガーの拳に伝わる。
だがそれに動揺することなく、タイガーは最後まで拳を振り抜く。
手応えは十分。Xの左腕はもちろん、アバラまで砕いた会心の一撃だ。
Xはセルメダルを撒き散らしながら容易く吹っ飛び、焦げ付いた大地へと叩き付けられる。
少しやり過ぎたかと僅かに心配したが、躊躇していればこっちがやられていたのは間違いない。
とりあえず生きていれば良しとしようとタイガーは結論する。
だがその心配は、怪盗Xに対してはあまりにも無意味だった。
「さすがヒーロー。ホントに隙を逃さねぇな」
「ッ――――!」
地面に倒れ伏していたXは、感嘆の声と共にひょいっと立ち上がる。
間違いなくアバラまで砕けていた。たとえ痛みに強くても、すぐには立ち上がれないはずだった。
だがあっさりと立ち上がったXの異常さに、タイガーだけでなく背後で見ていたニンフも息をのむ。
「おいおい……そんなにあっさりと立ち上がるか、普通?」
「だからさっきも言っただろ? 『俺』は普通じゃないってさ」
折れ曲がっていたXの左腕が一瞬異様な動きを見せる。
そして次の瞬間にはもう、ちゃんとした左腕の形になっていた。
この分では、アバラの方も同様に治っているだろう。
「マジかよ……」
「姿を変える時の応用でね。多少の怪我なら簡単に直せるんだ」
Xのその言葉に、タイガーは戦慄と共に息を飲む。
命が心配になった一撃でもあっさりと治ったのだ。ならばXを止めるには、殺すしかないのではないか?
そんな不安が脳裏を過ったからだ。
そしてそれ以上に、“次はXの本気が来る”。そう確信したからだ。
328
:
◆SXmcM2fBg6
:2012/11/15(木) 15:59:08 ID:9erBSca.
「それじゃあ、ちょっと本気でいくぜ!」
その予想は正しく、Xは一瞬でタイガーの傍へと接近し、キングラウザーを振り抜く。
タイガーはそれを辛うじて避けるが、Xの攻撃はそれだけでは終わらない。
「ウオアッ! チョッ! コノッ! ダアッ!」
「そらそら、もっとうまく避けないと死んじまうぜ?」
タイガーは間断なく振われるキングラウザーを紙一重で避けていく。
既に一度斬られているから解るが、Xの持つキングラウザーの切れ味は折り紙つきだ。
銃弾さえも弾くヒーロースーツを容易く切り裂くのだから、受け止めるなどという選択肢は浮かぶわけがない。
攻撃を防げない以上、避けるしかない。だがそれでは反撃が出来ない。
反撃が出来ない以上、Xの攻撃は止まることなく、タイガーは徐々に追い詰められていく。
そして、
「ダッ!? ヤベッ……!」
不意に地面の窪みに足を取られ、尻餅を突く。
あまりにも致命的なミス。取り返しの付かない大失敗。
その絶対的な隙をXが見逃すはずもなく、
「アンタの“中身”、見せてもらうよ―――!」
振り上げられるキングラウザー。それを持つ右腕が膨張し、ヒトのカタチを見失う。
人間の理を超えた怪力で振るわれる大剣を、タイガーは防ぐ術を持っていない。
タイガーが避ける間もなく、Xはその人外の怪力を以って必殺の一撃を振り下ろし―――
「“超々超音波振動子(パラダイス=ソング)”――――ッッ!!!」
「――――――――!」
横合いから襲い来た音の衝撃波にあっけなく吹き飛ばされ、セルメダルを撒き散らした。
そしてグシャリ、とタイガーの一撃を受けた時よりも全身を砕かれながら、またも地面に打ち付けられる。
「ハッ。私のことを忘れてんじゃないわよ……」
ニンフが嘲笑するように呟く。
彼女がこれまで逃げなかったのは、この隙を待っていたからだった。
タイガーではXに勝てないことも、逃げたところですぐに追いつかれることも、ニンフは理解していた。
故にニンフは、生き延びるためにXを倒すという選択肢を選んだのだ。
「ははは、すごいなぁ。そんなこともできるんだ……」
だが、Xはなお健在。不気味に体を蠢かせ、砕けた骨を補修していく。
それを見たタイガーは、即座にXの取り落としたキングラウザーを回収し、ニンフの元へと駆け寄る。
「ったく……マジでキミ悪ィぜ」
「まさしく、化け物ね……」
二人は体の至る所を血で滲ませながら、再び立ち上がったXを見てそう感想を漏らす。
こちらは重傷二人。相手の生命力は測定不能。そんな状況でどうやって生き延びたものかと必死に考えを巡らせていると、
「うん。今回はもういいや」
Xはそう言って、二人にあっさりと背を向けた。
「そりゃどういう意味だ……」
「そのまんま。今回はこれ以上戦わないってこと」
「んだと―――ッ!」
「このまま遣り合ってもいいんだけど、残念ながら先約があるんだ。
だからこれ以上ダメージを蓄積させるのはあんまりね」
「テメェ! 待ちやがれッ………、ッ!」
Xは振り返ることなく、デイバックから一台のバイクを取り出した。
それを見たタイガーは咄嗟に止めようとするが、貧血にふら付き膝を突く。
その間にXはバイクのエンジンをかけ、アクセルを吹かす。
「それじゃあまたね。次に会ったときは、ちゃんと“中身”を見せてもらうから」
そうしてXはバイクを発進させ、どこかへと去って行った。
タイガーはXを逃したことに悔しそうな表情をするが、とりあえずの命の危機が去ったことを理解して、ニンフは一先ず安心した。
329
:
◆SXmcM2fBg6
:2012/11/15(木) 15:59:44 ID:9erBSca.
○ ○ ○
Xがバイクで走り去った後、ニンフと虎撤の二人は散らばっていたメダルを回収し、焦土となった公園を北上したところにある民家に移動していた。
二人はそこで、傷の手当てを行いつつ自己紹介と情報交換を行った。
そして。
「チクショウッ! なんでだよ……どうしてそうなっちまうんだよ……!」
あの少女の名前がイカロスであること。公園を焦土に変えたのが彼女であること。
その理由が、自らの記憶と食い違う『偽物(ニンフ)』を排除するためであることを知り、あまりの悔しさに声を荒げた。
人を傷つけるような命令を下したマスターが偽物であると、そう思ってくれたまでは良かった。
だがどうして、自分の記憶と食い違うもの全てを『偽物』と決めつけて、あまつさえ排除しようとなど思ったのか。
「それじゃあ結局、偽物のマスターの命令に従ってんのと同じじゃねぇかよ………」
あまりの無力感に、虎撤は歯を食い縛って項垂れる。
あの時、初めてイカロスと会ったときにきちんと話を聞いてやって、ちゃんと説得していればこんな事にはならなかったかもしれないのに。
そうすればニンフがこんな大怪我を負うことも、イカロスがあんな考えを持つこともなかったはずなのに。
そんな自責の念が、後から後から湧いてくる。
暁美ほむら達のこともそうだ。
誰かを殺すのを認めるつもりは絶対にない。これは絶対に譲れない彼の“正義”だ。
だが彼女と対立してしまった結果、彼女達は金髪の少女に支給品を奪われ、そして仲間らしき人物とともに逃げられた。
暁美ほむらにも、誰かを切り捨てる決断を下せるほどの、いわば“覚悟”のような物を持った理由があったはずなのだ。
そしてそんな悲壮な“覚悟”の理由が、他人が簡単に触れていいようなものではないと、どうしてすぐに思い至らなかったのか。
「チクショウ……!」
その答えは簡単だ。
鏑木虎徹が――ワイルドタイガーが、相手のことを考えずに己の“正義”を振りまわしたからだ。
名前も知らない少年の時も。イカロスの時も。暁美ほむらの時も。
そのどれもが“正義”を掲げて行動していながら、結局は誰も救えていない。
―――ヒーロー失格。
そんな言葉が、脳裏を過ぎる。それを否定することもできない。
なぜなら今のワイルドタイガーをヒーロー失格だと思っているのは、他ならぬ鏑木虎撤自身だからだ。
「俺は……俺は………ッ!」
強い自己嫌悪に、虎撤は歯を食いしばって項垂れることしかできない。
自分が“正義”を掲げて行動すれば、また誰かが悲しむ結果になるのではないか。
そんな考えが、虎撤から立ち上がる意思を奪っていたのだ。
「ああもう……うじうじうじうじ鬱陶しい!」
そんな虎撤に苛立ったニンフが声を荒げて立ち上がる。
「アンタがなに悩んでんのかはなんとなく予想付くけどね、だからって何もしなかったら結局は一緒でしょうが!」
「で、でもよ……」
「うるさい! だったら私はどうなのよ!
仲間だと思っていたアルファーにいきなり『偽物』呼ばわりされて攻撃されて、辛うじて生き残ったと思ったらあんな化け物みたいなヤツに襲われて!
それを助けてくれたのがアンタでしょうが!」
「―――――――――!」
ニンフの言葉に、虎撤は頬を叩かれた様に顔を上げる。
虎撤を睨むその表情には、怒りの感情が目に見えて浮かんでいた。
彼女は怒りの収まらぬ様子で虎撤へと捲し立て続ける。
「アンタはアンタの信念で私を助けようとしたんじゃないの!? それとも何? 私を助けたのは同情から?
ふざけないでよ! 同情なんかで助けに来られても迷惑だわ! それくらいだったら打算で助けてくれた方がまだましよ!
で、どうなのよ! アンタは何で私を助けたの!? 同情!? それとも打算!?」
「………んなもん決まってんだろ。俺が………ヒーローだからだ!」
虎撤はそう高らかに宣言して立ち上がる。
あれだけ重く感じた脚は、今すぐにも駈け出せそうなほど軽かった。
ああ、そうだった。一度や二度の失敗でへこたれるようじゃ、ヒーローなんかやっていけない。
その事を、ニンフのおかげで思い出すことができた。
330
:
◆SXmcM2fBg6
:2012/11/15(木) 16:00:22 ID:9erBSca.
「ありがとうな。励ましてくれてよ」
「うっさい! そんなんじゃないわよ!
アンタにまで落ち込まれたら、私がどうすればいいのかわかんないだけよ………」
感謝の言葉と共にニンフの頭を撫でるが、すぐに払い除けられる。
そのままニンフは、先ほどとは打って変わって意気消沈した様子で俯いた。
そうだ。まだイカロスとニンフの問題が解決したわけではない。
先ほどの激昂は、彼女の精一杯の空元気だったのだ。
「そんじゃあ気合も入れてもらったことだし、とっとと行くか」
「行くって、どこに?」
「シュテルンビルトだ。俺のスーツも大分壊れちまったからな。あそこになら予備があるはずだ」
沈んだ空気を吹き飛ばすように声を上げる。
ニンフに励ましてもらったのだから、今度は自分が励ます番だと気合を入れる。
イカロスの行き先はわからない。公園を焦土に変えたのは彼女なのだから近くにいるかもしれないが、会ったところでどう説得すればいいのかわからない。
だからまずは自分を万全の状態に整える。こんなボロボロのままでは後が持たないのはわかりきっているからだ。
「まあ、そういうことならわかったわ。だったら早く行きましょう。
放送が近いけど、運転中に始まったら私が聞いて纏めておくから」
「おう、任せた」
そう言って出て行ったニンフに続き、世話になった民家を後にする。
そしてライドベンダーに、ニンフを抱える様に二人乗りし、エンジンを掛ける。
なぜ抱え込む形なのかというと、片腕を失ったニンフでは虎撤にしっかりとしがみ付けないからだ。
そうしてライドベンダーを走らせながら、虎撤はある考えに思い至っていた。
バーナビーと牧瀬紅莉栖。そのどっちを信じるのかという問題。虎撤はこれに「どちらも信じる」という答えを出した。
その理由は、ニンフとの話し合いで出た『偽物』という言葉がきっかけだ。
そう。メッセージを残した牧瀬紅莉栖と、殺し合いに乗ったというバーナビー。そのどちらかが偽物であれば、なにも矛盾はない。
ヒーローにだって折り紙サイクロンのように他人に化ける能力を持つ奴がいるのだ。
ならばこの殺し合いにだって、似たような能力を持つ奴がいてもおかしくはないはずだ。
“そうだろ? バニー”
内心で己の信じる相棒へと声を掛け、ハンドルを一層強く握る。
たとえ何があっても、バーナビーを信じる。そう強く決意して。
一方のニンフも、夕闇の空を見上げながら物思いに耽っていた。
イカロスへと伸ばした右腕は、彼女に拒絶されて失われてしまった。
自己修復プログラムは最大限に働かせているが、当分は直りそうにない。
もう彼女と手を繋ぐことは出来ないのかと、そう思って、少しだけ悲しくなった。
“ねぇ、アルファー……。ここの空は……狭いわね………”
まるでシナプスのようだ、と。
触れそうなほどに近い空を見上げてそう思った。
331
:
◆SXmcM2fBg6
:2012/11/15(木) 16:01:13 ID:9erBSca.
【一日目-夕方】
【D-4/エリア北東】
【鏑木・T・虎徹@TIGER&BUNNY】
【所属】黄
【状態】ダメージ(中)、背中に切傷(応急処置済み)、精神疲労(中)、軽い自己嫌悪、NEXT能力使用不可(残り約30分)
【首輪】110枚:0枚
【装備】ワイルドタイガー専用ヒーロースーツ(頭部亀裂、胸部陥没、背部切断、各部破損)、重醒剣キングラウザー@仮面ライダーディケイド、不明支給品1〜3
【道具】基本支給品、タカカンドロイド@仮面ライダーOOO、フロッグポッド@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:真木清人とその仲間を捕まえ、このゲームを終わらせる。
1.シュテルンビルトに向かい、スーツを交換する。
2.イカロスを探し出して説得したいが………
3.他のヒーローを探す。
4.ジェイクとマスターの偽物と金髪の女(セシリア)と赤毛の少女(X)を警戒する。
5.バニーも牧瀬紅莉栖も信じる。フロッグポッドのメッセージはどっちかが偽物。
【備考】
※本編第17話終了後からの参戦です。
※NEXT能力の減退が始まっています。具体的な能力持続時間は後の書き手さんにお任せします。
※「仮面ライダーW」「そらのおとしもの」の参加者に関する情報を得ました。
※フロッグポットには、以下のメッセージが録音されています。
・『牧瀬紅莉栖です。聞いてください。
……バーナビー・ブルックスJr.は殺し合いに乗っています!今の彼はもうヒーローじゃない!』
【ニンフ@そらのおとしもの】
【所属】青
【状態】ダメージ(大:回復中)、全身に火傷や裂傷多数(全て応急処置済み)、右腕喪失、羽は半壊、絶望
【首輪】80枚(消費中):0枚
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
基本:知り合いと共にこのゲームから脱出する。
0.ここの空は、狭いわね……
1.タイガーと一緒にシュテルンビルトに向かう。
2.知り合いと合流(桜井智樹優先)。智樹に会いたい。
3.トモキの偽物(?)、カオス、裸の男(ジェイク)、佐倉杏子(X)を警戒。
4.アルファー…………
【備考】
※参加時期は31話終了直後です。
※広域レーダーなどは、首輪か会場によるジャミングで精度が大きく落ちています。
※“フェイリスから”、電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。
このためイマジンおよび電王の能力、ディケイドについてをほぼ理解していません。
○ ○ ○
「さて、ネウロはどっちにいるかな?」
またがったバイク――ブルースペイダーを停車して、Xは地図を見ながら呟いた。
東に行けば、ネウロのスタートポイント。西に行けば、魔界探偵事務所。
どっちにもネウロがいる可能性がある以上、すぐには決めかねる。
ただ、悩んでいても始まらないので、コアメダルを一枚取り出して、コイントスで決める。
そうして出た面は、赤い鷹の模様の表。それに納得し、決めていた方向へとブルースペイダーを向ける。
「それにしても、やっぱりあの剣を取られちゃったのは痛かったなぁ。
けどまぁ、ネウロと会う前に体力を無駄にしたくないしね。さっき手に入れた槍で我慢しよう」
キングラウザーを持って行かれたのは、正直に言って惜しい。
だがキングラウザーを取られた状態で戦っても、無駄に体力を消費するだけだろう。
それに彼等との戦いでついた傷は意外に深く、すぐには癒えそうにない。
なら、今はこのまま移動して、ネウロを探すほうが賢明だろう。
………そう結論して、アクセルを回そうとした時だった。
「ん? なんだろう、今の感じ……」
不意に左腕に、強い違和感を覚えた。
何事かと確認してみるが、どう見てもいつも通りの左腕だ。
また細胞の変異でも始まったのだろうか。そう思ってみるも、疑問は拭えない。
「………まぁ今はネウロのことを優先しよう」
考えても答えは出ないので、疑問は一先ず棚上げにしておく。
自分の体がおかしいのはいつものことだ。気にしたって始まらないだろう。
そう結論し、Xは再び歩き始めた。どんな宝よりも求める、己の正体を目指して。
332
:
◆SXmcM2fBg6
:2012/11/15(木) 16:01:53 ID:9erBSca.
………だがそれで、本当によかったのだろうか。
Xの首輪には、“もう一人のアンク”の意思を宿したコアメダルが格納されている。
そして首輪には、コアメダルとの融合を促す機能がある。
彼のオリジナルともいえる“欠けたアンク”は、右腕だけになっても復活するようなグリードだ。
そんな彼から分かたれた“もう一人のアンク”が、同じことを出来ないとどうして言えるだろう。
……答えは出ない。……確証はない。……保証もない。真実は、“その時”にならないと明かされない………。
欲望の雛鳥は静かに、目覚めの時をただ待ち続ける――――
【一日目-夕方】
【F-3/電王の世界・外縁】
【X@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】緑
【状態】ダメージ(中:回復中)、疲労(中)、佐倉杏子の姿に変身中
【首輪】210枚(消費中):250枚
【コア】タカ(感情L):1、コンドル:1
【装備】ゲイ・ボウ@Fate/zero、佐倉杏子の衣服、ベレッタ(10/15)@まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式×4、詳細名簿@オリジナル、{“箱”の部品×28、ナイフ}@魔人探偵脳噛ネウロ、{アゾット剣、キャレコ(0/50)}@Fate/Zero、9mmパラベラム弾×50発/1箱)、ベレッタの予備マガジン(15/15)@まどか☆マギカ、T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW、ライダーベルト@仮面ライダーディケイド、ランダム支給品2〜7(X+一夏+杏子:全て確認済み)
【思考・状況】
基本:自分の正体が知りたい。
1.ネウロの元へ向かう。
2.下記(思考3)レベルの参加者を殺すために、もっと強力な武器を探す。
3.バーサーカーやセイバー、エンジェロイド達(カオスを除く:ニンフ以外、全員名前は知らない)にとても興味がある。
4.ISとその製作者、及び魔法少女にちょっと興味。
5.阿万音鈴羽(苗字は知らない)にもちょっと興味はあるが優先順位は低め。
6.殺し合いそのものには興味は無い。
【備考】
※本編22話後より参加。
※能力の制限に気付きました。
※傷の回復にもセルメダルが消費されます。
※Xの変身は、ISの使用者識別機能をギリギリごまかせます。
※タカ(感情L)のコアメダルが、Xに何かしらの影響を与えている可能性があります。
【ブルースペイダー@仮面ライダーディケイド】
Xに支給。
仮面ライダーブレイド専用のライダーマシン。
前部にモビルラウザーというカードリーダーがあり、ラウズカードをラウズする事でカードの効果を発動させる事が可能。
333
:
◆SXmcM2fBg6
:2012/11/15(木) 16:02:39 ID:9erBSca.
以上で修正版の投下を終了します。
334
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/11/15(木) 16:30:19 ID:6hJrUfUA
投下乙です。
問題はないと思いますが、収録はするにしても投下したから24時間経過してからの方が望ましいと思います。
(もしかしたら、まだ何か指摘が来るかもしれないので)
335
:
◆MiRaiTlHUI
:2012/12/10(月) 00:25:57 ID:qX0HrqXw
予約分の仮投下を開始します。
336
:
◆MiRaiTlHUI
:2012/12/10(月) 00:28:45 ID:qX0HrqXw
篠ノ之箒が目を覚ました時、真っ先に視界に飛び込んで来たのは、見知らぬコンクリートの天井だった。
「……ッ!?」
ぼんやりなどしていられない。申し訳程度に身体に掛けられていた薄い掛け布団を剥ぎ取った箒は、がばっと身を起こして、ここは何処だと周囲を見渡す。
およそ人が住まう場所とも思えない、四方全面がコンクリートに囲まれた小さな一室だった。当然、見覚えのある部屋ではない。
あちこちに何に使うのかもよく分からない機械が設置されていて、ところどころには、壁から壁へと剥き出しになったパイプが繋がっている。そんな部屋の隅に、簡素な鉄パイプのベッドが置いてある。箒はそこに寝かされていた。
「何処だ、ここは……!? 私は何故……」
何故、こんなところにいるのか――というよりも、何故生きているのか、という疑問の方が強かった。
やや痛む頭を押さえて、己が記憶を辿る。篠ノ之箒は、あの広場で緑色の虫頭に戦いを挑み、そして首輪を爆破され死んだ筈だった。
そう。死んだ、はず……なのだ。
少なくとも箒の頭は、自分は死んだものであると記憶している。
その認識が、異常極まるバトルロワイアルに対しての義憤とか、真木清人とかいう許し難い悪鬼に対する激情とか、そういう人として当たり前の感情全てを後回しにさせる程に箒を狼狽させる。
「どういう……ことだ……!?」
自分が死んだ痛みの記憶は確かにある。間違いはないはずだ。
今の自分が身に纏う服装だって、着慣れたIS学園の制服でもなければ、就寝時に着用する寝巻でもない、IS装着中に身に纏うインナースーツだ。これを着ているということは、つまり意識を失う直前までISを装着していた、ということに他ならない。それはやはり、あの虫頭にISで挑んで、その直後殺されたから、ということではないのか。
だが、考えても考えても答えは出ない。自分は今生きている。それが全てだ。
「くっ……今はそんなことを考えても仕方がないか」
もうじっと考えるのは止めようと思った。
自分はやはりあの時死んだのではないか、もしかしたらもう死んで幽霊にでもなっているのではないか……そういうそんな有り得ない想像をして不安になったところで仕方がない。今はそういう不吉な考えは後にして、何らかの行動を起こすのが先決かと思われた。
まずは、仲間との連絡が取れないか模索する。
通信機の類は――当然ながら、部屋を見渡す限りでは見受けられない。あの虫頭に挑んだ時点では腕に装着されていた筈のIS「紅椿」も、今はもう何処にも見当たらない。力がない以上、強引に脱出するのは不可能だ。
一応、部屋に一つしかない扉のドアノブに手を掛けてみるも、予想通り、外側から鍵が掛けられているらしく、内側からは開けられなかった。が、扉には鉄格子つきの窓がついている。箒はそこから外の様子を窺うが――そこから見えるのは、いっそ冷たい印象すら抱く静謐に包まれたコンクリートの廊下だけだ。灯りも乏しく、薄暗い廊下の奥に何があるのかはここからでは判然としない。
(やはり……これは……)
短い探索ののちに、箒は――元より薄々感づいてはいたが――今の自分のおかれた状況が、所謂監禁状態であるのだと察した。
だが、それが分かったということは、精神的にも進展はあった。こうして監禁する必要があるということは、自分はまだ死んでいないということだ。何らかの利用価値があって、生かされているということだ。そしてそんなことをするのは、おそらくあの真木清人をおいて他には存在しない。
自分はまだ死んでいなかった、という喜びよりも、敵の手の内に落ちてしまったことへの憤りが箒の中で蟠る。それを吐き出す術を持たない箒は、鉄の扉を殴りつけて、意味もない八つ当たりをするしか出来なかった。
それから数十分も経過した頃、脱出する術もなくただベッドに座って時の経過を待っていた箒は、廊下の奥から聞こえる足音に、耳ざとく反応し動きを止めた。
乾いた革靴の音だ。それが、コツ、コツ、と冷たい空間に反響して、次第に聞こえる音が大きくなってくる。誰かが歩いている。それも、この部屋に接近している。
どうしようもない現状にただ義憤を募らせるだけしか出来ない自分にうんざりしていた箒だったが、ようやく事が進展する気配を見せたのだ、最早じっとしていられる訳がない。
餌に飛びつく肉食獣さながら飛び上がった箒は、扉の鉄格子に掴み掛かって、廊下を行く人影に怒号を飛ばした。
「――おい、そこのお前ッ! 止まれ、状況を説明しろッ!!」
337
:
◆MiRaiTlHUI
:2012/12/10(月) 00:29:20 ID:qX0HrqXw
箒の声に気付いた人影は一瞬動きを止めたが、すぐに箒の部屋の前まで歩を進めた。
薄暗い闇の中、人影はいっそ不気味な程に引き攣った満面の笑みを顔面に張り付けて、扉越しに軽く会釈をした。
悪意があるのかそうでないのかも判然としない笑みだけを浮かべた長身の男は、見た所アジア人――どころか、箒と同じ日本人らしい顔立ちをしている。しかしその服装は、何処かの国の軍人か高官かといった風情の制服だ。
何らかの組織の人間だろうか、そんな疑問を浮かべて一瞬言葉を詰まらせた箒に、男はその笑顔のまま声をかけた。
「お目覚めになられたようですね……申し訳ございません、このような質素な部屋で」
「そんなことはいい、私は状況を説明しろと言っているんだ!」
「あなたはこのバトルロワイアルの間、ここに監禁されることになっています。言わば、人質です」
機械のような笑顔のままで男はそう言うのだ。
箒の質問には確かに答えたことになるのだろうが、そんなことは言われるまでもなく大凡予想は出来ている。知りたいのは、何故箒がこんな場所で監禁されねばならないのか、一体何に対しての人質なのか、だ。
それについて問い質そうとした箒に、男は
「ああ、申し遅れました。私はエリア管理委員会次官、海東純一と申します」
と、自らの名前と身分を明かした。
そこで箒は気付いた。海東純一と名乗ったこの男、顔には満面の笑みを浮かべているが、その眼は何処までも冷たく、何処か底の知れない、深い闇を秘めている。この状況による警戒心が、余計に強く、箒にそういう印象を抱かせた。
そんな相手に、感情を剥き出しにして喰って掛かるのはあまり賢くはない。そう思った箒は、一旦深呼吸をして気を沈め、やや抑えた声で続けた。
「……いいだろう、それは分かった。次の質問をしたい……構わないか」
「ええ、私に答えられる範囲内でよろしければ、何でもお答えしましょう」
そう言って微笑みかける男が、その優しさが、箒には堪らなく不気味に感じられた。
何を知ったところで、箒にはどうにも出来ないから、とか。そういう余裕の表れだろうか。だとすればこの上なく屈辱的だが、しかしだからといって立ち止まる訳にもいかない。
箒は構わず質問をした。
「まず第一に……一応聞くが、私は誰に対しての人質になり得る?」
「篠ノ之束さんです。彼女ほどの技術力を持った人間は、あらゆる世界を探し回ってもそうはいません」
「……真木清人が、その技術力を味方に付けるために、か?」
海東は、満面の笑みのまま首肯した。
概ね予想通り、といったところか。奴らの目的はIS開発者の篠ノ之束らしい。
束に対して人質として機能するのは、彼女の身内である箒と、親友である千冬、そして弟の一夏の三人だけだ。それゆえ、元より箒をはじめとした三人は常に危険に晒されているようなものだ。だからこそ、外部からのあらゆる圧力の届かないIS学園に通っていたのだが――よもやIS学園在学中にこんな事態に巻き込まれるとは夢にも思っていなかった。
「……ならば、一夏は……織斑一夏と、織斑千冬は?」
「彼らはバトルロワイアルの正式な参加者です。篠ノ之束さんが協力を快諾してくだされば、一夏さんと千冬さんだけは特別に我々で保護しましょう、と提案したのですが……」
海東は笑顔のまま、さも困ったように口を濁した。
どうやら束は未だその要求を呑んでいないらしいが、成程確かに真木の考えは卑劣だが上手い。束は、妹である箒のことを溺愛しているし、千冬と一夏にもそれに準ずる愛情をもって接している。千冬と一夏をいつ死ぬかも分からない殺し合いに放り込んで、一刻も早く束を味方に付けようというのだろう。
「私を殺し合いの面子から外したのは……?」
「ドクター真木から篠ノ之束さんへの、せめてもの優しさです」
「人に殺し合いを強要する連中が優しさだと? 聞いて呆れる……ッ!」
「御尤もです」
笑顔でそう言う海東に、箒は挑発でもされているのかと思った。
が、今ここでキレることは無意味だ。鉄格子越しにその満面の笑みに木刀の一撃でも叩き込んでやりたい気持ちを抑えて、箒は考える。
おそらく、束の寵愛の最たる対象である箒まで殺してしまっては、もう永久に束に協力して貰える日が来ないのだと判断されたのだろう。だとしたら箒の命の安全だけは保障されたようなものだが、しかし一夏と千冬は未だに殺し合いの渦中にいることになる。
338
:
◆MiRaiTlHUI
:2012/12/10(月) 00:29:55 ID:qX0HrqXw
「ならば……私以外の二人は、その……今も無事なのか」
「それはお答えできません」
「ッ、何故だッ! 貴様に答えられることなら何でも答えるんじゃなかったのか!?」
「ええ。ですが……聞かない方がいいこともあるでしょう」
「……ッ」
その一言で、箒は察してしまった。
既に、一夏か千冬、もしくはその両方が、死亡している。
確たる証拠は何もないとはいえ、それを一瞬でも想像してしまった時、箒の脚から力が抜けた。鉄格子にしがみついたまま、力なく項垂れる。恐ろしほどの寒気が、ぞっと背筋を駆け抜けた。もうあの日々には帰れないのか、と思ってしまった。
「……大丈夫ですか、箒さん」
「……」
「安心してください、ドクターには何らかのお考えがあるようです。人質が全員死亡してしまっては意味がありませんから――篠ノ之束さんさえ協力してくださるのなら、彼らのみ蘇生でもするつもりなのではないしょうか」
「……ッ、それで! あの人が条件を呑むとでも思っているのか、貴様らは!?」
海東は、その笑顔を一ミリも動かさず、何の返答もしなかった。
奴らは篠ノ之束という人間を分かっていない。一度でも一夏か千冬が死んでしまったなら、例え蘇生をさせたとて、あの姉が真木らを許すとは思えない。それどころか、こうして今も条件を呑まない事を考えると、もう既に彼女は何か企んでいるのかもしれない。
常人が計り知れる人間ではないのだ、篠ノ之束という天才は。
どんな常識もあの人には通用しないし、妹である箒や、親友である千冬にすら、彼女の突飛な行動は予測し切れない。言うなれば猛獣だ。自由気まま、本能の赴くまま放埓に行動する、誰も予測の出来ない一匹狼だ。
そんな人間を手懐けようとすれば、必ず痛い目を見る。それを真木らはまるでわかっていない。
そのまま言葉を失ってしまった箒の耳に、今度は別の人物の足音が聞こえてきた。
ふいに顔を上げた箒は、鉄格子の奥の闇から姿を現した男に視線をやる。
小奇麗なスーツをぴしっと着こなし、白髪を丁寧に撫でつけた西洋風の老人だ。そこそこいい体格をしていて、額には大きな疣が目立っている。眼鏡の奥の青い瞳は海東純一以上に座っていて、やはり底が知れない。
男は包容力さえ感じさせる優しげな笑みを浮かべ、海東の肩を叩いた。
「少しお喋りが過ぎるんじゃないかね、純一くん?」
「申し訳ございません、マーベリックさん……ですが、どうせ私が話したところですぐに忘れてしまいます。これくらいなら構わないかと思って」
「ははは、彼女に対する、せめてもの慈悲という訳か。優しい男だな、きみは」
「恐縮です」
マーベリックと呼ばれた男の笑みに、海東は諂うように頭を下げた。
箒はマーベリックよりも、海東が口にした言葉の方が気になって、再び怒号を上げた。
「すぐに忘れてしまう、だと!? どういうことだ!? 何を言っている!?」
海東がマーベリックとアイコンタクトを交わして、一歩前へ踏み出る。マーベリックは小さく首肯して一歩下がった。
「最後に説明してあげましょう。あなたがウヴァさんとの戦闘ののち、首輪を爆破され死亡した、という記憶は全ての参加者が共有している記憶ですが……それは虚偽の記憶です。我々には、記憶の改竄が可能なのです」
「なっ……それなら、私はっ!?」
「この会話もすぐに忘れてしまうことでしょう」
絶句する。が、言葉を止めてしまうと、会話が終わったものと見なされる。
海東は「最後に」と言った。おそらく、この会話が終われば、この事実さえも嘘になって――それどころか、箒の中の真実が、何処まで嘘になってしまうかもわからない。
箒は我武者羅になって会話を繋いだ。
「だがッ! そんな能力があるなら、それを束姉さんに使えば……!」
「彼女の技術に関する記憶まで消してしまう訳にはいきませんので」
「だったらッ! だったら……ッ、私の前に殺されたあの少女は!?」
「椎名まゆりは正真正銘……ただの見せしめです」
「そんなっ――」
「もういいかね、これ以上知りたいこともないだろう?」
マーベリックの言葉に、箒はそれ以上の言葉を失った。
状況があまりにも急過ぎて、思考がついていけない。何も言えない箒とマーベリックに、海東は最後に会釈をすると、踵を返して何処かへと立ち去っていった。
待て、と呼び止めることも出来なかった。鉄格子に飛びついた瞬間、目に飛び込んで来た光が、箒の意識を奪ったのだ。
339
:
◆MiRaiTlHUI
:2012/12/10(月) 00:30:59 ID:qX0HrqXw
◆
海東純一が、篠ノ之箒が監禁されている部屋の前を通り掛かったのは、たまたまだった。
少しだけバトルロワイアルの会場に用があった純一は、誰もいないフィールドに行って、用を済ませて戻って来たところを箒に呼び止められたのだ。特に急ぐ用事もなかった純一は暇潰しといった感覚で箒に情報を教えてやったのだが、
(今頃はすべて忘れている頃だろうな……同情するよ)
純一は、およそ人の感情など感じられぬ凍り付いた表情で、さっき話した小娘を思い出す。
アルバート・マーベリックの能力とは、記憶の改竄である。
どんなに拙い情報を知られた相手であろうが、始末をする必要もなければ戦わずして洗脳し、自らの手の内に落とすことすら出来るその能力は、あまりにも恐ろしい。
純一は、そんな相手を表だって敵に回そうと考える程愚かではなかった。だから、フォーティーンに尽くしていた時と何ら変わらぬ態度で諂って、真木やマーベリックらに同調してみせているのだ。
それも全ては野望のため。あの真木清人を越えて、全ての世界を支配するという大きな目的のための韜晦なのだ。
(そのためにも、コイツは返して貰ったぞ。貴重な戦力だからな)
手の中にある金色のケルベロスが描かれたカードに視線を向ける。
ワイルドエース、ケルベロスアンデッドが封印されたラウズカードだ。
所詮人工物でしかないグレイブバックルは幾らでも複製が効くが、世界に一枚しか存在しないケルベロスのカードは失う訳にはいかない。
純一は、アンクロストと仮面ライダーダブルらが戦った場所に自ら出向き、誰も回収することなく放置されていたケルベロスのカードを回収して来たのだ。
とはいうものの、会場に居た時間は一分にも満たない。カオスが暴風雨を起こして大暴れしたあの場所では、すぐに他の参加者が駆け付けて来る可能性もあったから、要件だけを済ませた純一は他には目もくれずこの本拠地へと転移して来たのである。
それ故、純一の姿を見たものはいない。確実に、だ。
(もっとも、最早グレイブなどなくとも問題はないが……)
思いながら、ケルベロスのカードを、ポケットの中の十四枚のラウズカードの束に加える。
純一の制服の内ポケットには、純一の持つハートスートのラウズカードに対応する、赤いハートの宝石が刻まれたカードリーダーが眠っている。
それは、とある世界で「最強のライダーシステム」と謳われたもの。その名を、カリスラウザーと云う。
真木らによる支給品選定の段階で、海東自身がそれに目を付け、誰かに支給される前にこっそりとリストから抜いておいたのだ。
全参加者に配られる「九つの世界」に属するライダーシステムの総数は、ゲームにおける仮面ライダーのバランスも鑑みて、十が限界だと真木が言っていた。つまり、既に十個のライダーシステムが支給されている以上、最早誰もこのカリスラウザーには目を向けないということだ。
340
:
◆MiRaiTlHUI
:2012/12/10(月) 00:31:34 ID:qX0HrqXw
では、何故純一はカリスラウザーに目を付けたのか。
海東純一が目を付けたのは、「剣の世界」で四条ハジメが企んだ、“人間による最強のアンデッドへの進化”というデータだった。四条ハジメは既にディケイドによって破壊されているが、しかし彼が残したデータは純一にとっても素晴らしく魅力的だったのだ。
彼がカテゴリーエースの四枚と、四つのライダーシステムのデータを用いて精製したジョーカーのカードは、本来ならば驚異的なスペックを誇る怪人である筈だった。
だけれども、四条ハジメ如きでは融合係数的にもジョーカーの能力を引き出せず、あっけなくディケイドに破壊されてしまったという訳だ。
秘密裏に奴の研究を引き継いだ純一は、奴が精製した、四隅にカテゴリーエースの紋章が刻まれたジョーカーのカードと、ハートスートのラウズカード十三枚、そして自分のワイルドエース・ケルベロスのカードを使って、四条ハジメのジョーカーをも越える第二のジョーカーになるつもりだった。
そして、海東純一という人間自身、驚異的なレベルでジョーカーのカードと惹き合っているのだった。
それが一体何故なのか、純一自身にも分かりはしないが――こうもジョーカーと相性がいいとなれば、もしかすると、無数に存在する並行世界の何処かでは、自分がジョーカーになっていた世界があったのではないか、そんな妄想さえしてしまう程だった。
「……もうそろそろ放送か」
ややあって、ふいに立ち止まった純一は、腕時計を見遣って、ぽつりと呟いた。
この殺し合いには弟である海東大樹が参加させられている。真木らに対し、大樹の参戦など自分にとってはどうでもよいことであると言っておいたが――本音を言えば、純一は少しだけ大樹のことが気掛かりだった。
現時点での情報を純一は得ていない。果たして、大樹が生きているのか、死んでいるのかも知れないのだ。
次の放送で、もしも大樹の名が呼ばれることがあったら。
(……いや、よそう。そんなことを考えて何になるというんだ)
野望の前には、たとえ唯一の肉親だとはいえ、捨て石にする覚悟も辞さないと決めた筈だ。全てを支配する、という純一の最終目的のために、大樹の存在が邪魔になるというのであれば排除することも辞さないと決めた筈だ。
それがたとえたった一人の弟でも……と、考えたところで、純一は篠ノ之束のことを思い出した。
彼女にも、最早肉親は妹の箒しかいない筈だが、しかし彼女は何を考えているのか、未だにドクターの協力要請に返答をしずにいる。もしや、彼女にも何か、あの真木ですら考えも及ばないような考えがあるのではないか。
純一は、少しだけ束という人間のことが気になった。
◆
このバトルロワイアルの会場内で起こるあらゆる事象を観察する者がいた。
常に送られてくる情報を仔細に取り入れながらも、真木は傍らで尻尾を揺らめかす小動物――インキュベーターに話しかける……ように見せかけて、真木の左肩に座った物言わぬ人形に語りかける。
「純一くんが、何やら不穏な動きをしているようですね」
「うん、気付かれていないとでも思っているのかな。それとも、気付かれても構わないと考えているのか……どっちだろうね、清人?」
「どちらでも構いません。我々の目的の妨げになるなら、排除するまでです」
「でも、まだその段階じゃない。もう少し泳がせておいてもいいんじゃないかな」
インキュベーターは、純一の目的を探ろうというのだろう。
目的という程のものもないのであれば、それはそれで構わないし、仮に何かを企んでいるとしても、真木にも利用できる企みであるなら搾取すればいいだけだ。そのどちらでもなく、ただただ邪魔にしかならないようであれば、その時は排除してしまえばいい。そういう考えだ。
現時点で、真木は海東純一を微塵も恐れてはいない。あらゆる世界で得た力と盟友が味方してくれている真木を、海東純一如きがたった一人で覆せる訳がないのだ。
その気になれば、容易く排除出来る。だから泳がせる。それだけの話だ。
今は精々、あの男に監視用のインキュベーターを一つ付けておくくらいで十分だと思われた。
341
:
◆MiRaiTlHUI
:2012/12/10(月) 00:32:09 ID:qX0HrqXw
「ところで、もうすぐ放送の時間だよ、清人」
「……ええ、わかっていますよ。事は全て順調です」
「そうかい。だったら安心だ。
……それにしてもまさか、彼らがここまで順調に殺し合ってくれるなんてね」
「想定通りですよ。己のためなら他者を蹴落とすことなど厭わない……人の欲望とはかくも醜いものなのです」
嘆かわしい限りです、と付け加えて、真木はやれやれとばかりに嘆息する。
欲望塗れの人の世はこの上もなく醜悪だ。だから、こんな世界は終わらせてしまう必要がある。美しいものがまだ美しいと思えているうちに、何もかもを終わらせて、そしてこの世界を“完成”させる必要がある。真木は改めてそう思った。
それはインキュベーターの目的にも一致する。一つの世界の終末と同時に発生するエネルギーは、魔法少女一人二人の魔女化に際して発生するエネルギーの比ではない。それらを回収して、宇宙の熱的死を防ごうというのが、彼らインキュベーターの目的だ。
世界が終わったあとも宇宙は続いて行くというのは、真の終焉とは呼べないのでは、とも考えはしたが、それでも真木の計画では人類に観測出来る限りの世界は終焉を迎えることになる。あとに残るのは、完成した美しい世界を観測する宇宙、だけだ。
だから真木は、インキュベーターとも結託したのだった。
その計画の一環である、無数の世界を巻き込んだ催しは、既に開始してから六時間が経過しようとしている。
この六時間をただ観測だけに費やして来た真木らであるが、いよいよ次の仕事を果たすべき時がやってきた。
「……では、私は放送の準備がありますので」
定時放送である。
白い獣の形をした端末にそう告げおもむろに立ち上がった真木は、そのまま部屋を立ち去っていった。
【全体備考】
※主催側に【海東純一@仮面ライダーディケイド】が存在します。
※主催側に【アルバート・マーベリック@TIGER&BUNNY】が存在します。
※主催側に【篠ノ之箒@インフィニット・ストラトス】が監禁されています。
おそらく【篠ノ之束@インフィニット・ストラトス】も監禁されています。
※箒を含む全参加者が、「箒は首輪を爆破され死亡した」という虚偽の記憶を、マーベリックのNEXT能力によって植えつけられています。
※箒自身も現在マーベリックの能力によって再び意識を失っています。目覚めた時には何らかの記憶の改変がなされているはずです。
※海東純一はカリスラウザーとハートスートのラウズカード、ジョーカー(DCD版)のカード、ケルベロスのカードを所持しています。会場には既にケルベロスのカードは存在しません。
342
:
◆MiRaiTlHUI
:2012/12/10(月) 00:37:59 ID:qX0HrqXw
ここまでです。
全体備考に今回の要点は纏めていますが、だいたい全部不安なのでご意見頂けると嬉しいです。
不安な箇所にひとつ言い訳をするなら、ディケイドのライダーは参加者側に支給すればロワのバランスがライダーに偏り過ぎるから、という話なので、主催側にならば問題ないかと判断しています。
343
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/12/10(月) 00:48:59 ID:2H8v0qcg
仮投下乙です。
見せしめの片割れが実は生きていた、という件については、議論の的になるだろうなと思うものの理由もあるし私個人は大丈夫かなと思いました。
他の点は問題なく通しで良いと思います。感想は本投下まで取っておきますね。
344
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/12/10(月) 20:29:02 ID:Psxlr3WM
仮投下乙です。
自分も特に問題はないと思いますね。
感想は本投下の後で
345
:
欲望まみれの名無しさん
:2012/12/13(木) 16:09:31 ID:uop5DRZM
仮投下乙です
問題ないと思いますよ
346
:
◆MiRaiTlHUI
:2012/12/14(金) 23:50:51 ID:8UPQJorI
賛成のご意見ありがとうございます。
今回ばかりは流石に何らかの反対意見もあるかと思い長時間置いて待ってみましたが、
どうやら他に意見がないようなので問題無しと判断し、このまま本投下しようと思います。
347
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/03/10(日) 17:04:24 ID:fNmwVTV2
仮投下します。
348
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/03/10(日) 17:09:48 ID:fNmwVTV2
「月影め……早々にやられおったか」
放送で知った仲間の死に、ガイは憎々しげに一人ごちた。
あの世紀王が、まさか最初の六時間でやられるとは……
いや、ヤツが弱かっただなどとは思うまい。
この場には、それだけ強力な敵がいるということだ。
自分と同じ大幹部ですら容易くやられてしまう過酷な戦い。
そう思えば、より油断するワケにはいかなくなった。
「……この戦いを生き残るには…賢く戦わねばな」
勝利するため必要なのは如何に上手く戦うか、だと思う。
ここでは仲間を利用し、罠を駆使し、頭を使って戦うべきだ。
今までよりも気を引き締めてやらねばならない。
加頭のような悪を味方に引き入れるか。
同じ赤陣営の参加者を見付けて協力するか。
ともかく今は、仲間となれる参加者との合流が必須だ。
多少ダメージは残っているがが、これだけ休息したなら十分。
あとは誰かの生命の炎を吸収すれば体調も万全になろう。
ガイは次の出会いを求めて移動を開始する。
○○○
沈鬱な空気だった。
人のいない街を歩く二人の間に会話はない。
アンクは元々、喋る必要がないなら喋らない。ずっとそうだった。
弥子は、たったの六時間で大勢の人間が殺された事実に言葉をなくした。
こんなことで一々一喜一憂していては、身がもたないとアンクは思う。
見ず知らずの奴が何人死のうが、自分には関係ないではないか。
これだからこの手の御人好しは理解出来ない。面倒臭い。
かといって、いつまでもこのままでいられるのも鬱陶しい。
アンクは苛立ちながらも立ち止まり、弥子に振り返った。
「おい、いつまでシケた面してんだ? もう放送聴いてから三十分だぞ、いい加減切り替えろ!」
「……ごめん」
身の入らない謝罪だった。
アンクは思った。
このまま戦いになったら、真っ先に危険に晒されるのはコイツだ。
そしてコイツが危険に晒されたら、間接的にアンクまで危うくなりかねない。
「…仕方ないだろ、死んだモンはもう帰ってこねぇ……今は自分が生き残ることだけ考えろ」
「仕方ないって……そんな…」
「ほとんど俺達と会いもせずに殺されたんだ、仕方ない意外に言いようがないだろ」
「…………」
言葉を詰まらせる弥子。
言いたい事はあるのだろうが、言い返すこともできない。
どうしようもないし、どうしようもできなかった。
「だから今はこの先のことだけ考えろ、でないと身がもたねえぞ」
「……わかった」
やや釈然としない面持ちでああったが、弥子は小さくうなずいた。
それから小さく「ありがと、アンク」と言われて……
その不可解な礼に、アンクはまたしても舌打ちした。
オレはただ足手纏いになられちゃ鬱陶しいから言っただけだ。
礼を言われる筋合いなどないというのに……
「あれ、アンク?」
「あ?」
そこで思考中断。
何かに気付いた様子で声音を切り替えた弥子。
弥子は、アンクの顔を……その少し下をまじまじと見詰めていた。
視線の先にあるのは、アンクの首輪、だろうか。
「なんだ、オレの首輪がどうかしたか?」
「色、変わってる……?」
言われて、アンクはビルの窓ガラスに映り込んだ自分に目を向ける。
首輪のランプの色は赤だ。
発光色には何ら変わりはみられない。
ゲーム開始以来、アンクはずっと赤だった。
349
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/03/10(日) 17:12:47 ID:fNmwVTV2
「………ん?」
いや。よくみれば、ただの赤ではない。
ランプの赤を囲む枠が"金色"になっていた。
注意深く見ればわかる程度の違いだった。
さっきまで銀色だった枠が、金色に変わっているのだ。
それに対して、弥子の首輪の枠は"銀色"のままだった。
「……なるほどな」
アンクはその意味を察した。
あの"片割れ"が脱落したことは、放送を聴いたアンクは当然知っている。
だが、そうなれば赤陣営のリーダーはどうなる?
ルール上、赤のメダルの最多保持者がリーダーを引き継ぐのだ。
今の所持メダル数を考えるに、アンクがリーダーになるのは不自然ではない。
これは推測だが、リーダーの首輪のみランプの枠が金色になるのだろう。
意識してみなければ気付かない些細な違いだった。
「リーダーが誰か、判別出来なきゃ困るからなぁ」
「……どういうこと?」
首を傾げる弥子に、アンクはどういうワケか説明した。
あの片割れの首輪の枠など弥子が気にしているハズもない。
説明をきいた弥子は納得し、ぽむと手を叩いた。
「ってことは……確か白のリーダーも脱落したんだよね? だったら」
「そうだ。ガメルの後釜の参加者も、オレと同じになってるだろうな」
「……なるほど」
この発見は大きい。
リーダー変更はおそらく今後も発生するだろう。
その時、誰がリーダーをやっているのかが分かっていると話が早い。
そして、この事実に気付いているものもおそらくは少ない。
比較対象が極端に少ないのだ、気付くとしたら、白の新リーダーと一緒にいる奴くらいか。
情報アドバンテージという奴だ。
「ともあれ、今は俺がリーダーか……アイツがリーダーやるよりはやりやすいな」
あの忌々しい"片割れ"がリーダーをやっていた時よりはいくぶん動きやすい。
だが、そこでアンクはふいに疑問を持った。
“動きやすい? 一体、何が動きやすいってんだ?”
果たしてオレは、この殺し合いに乗っているのか?
映司と決着を付けること、あの片割れのメダルを取り返すこと……
それら両方を達成したあと、オレは一体どうするつもりだったんだ?
まだ何も考えていない。それについて考えることを、無意識にか避けていた。
“ちっ……! 何悩んでんだ、オレらしくもない!”
どうせ参加者の大半は知らないヤツらだ。
知らないヤツらブッ殺して、陣営優勝で帰れるならそれも悪くない。
悪くないどころか、分かり易いぶん、自分らしくて非常にいいと思う。
だが、それはあの気に食わない真木の言いなりになるということだ。
それは腹立たしい、許せないとも思う。
何より、ヤツの言いなりになって殺すというのは、気が乗らない。
また面倒なことで頭を悩まされる。
理不尽に苛立って、眉根を寄せる。
そんな時、アンクは前方から歩いて来る男の存在に気付いた。
弥子を背に隠すように身構え、やってくる男を見据える。
白いスーツを着た、紳士的ないでたちの中年男性だった。
「……赤陣営か。わたしと同じなのだ」
男はそう言って立ち止まった。
350
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/03/10(日) 17:20:40 ID:fNmwVTV2
それから三人は、近くのオフィスビルのロビーにて話し合いの場を設けた。
ガラスのテーブルを中心に、片側にアンクと弥子、反対側にガイという形だ。
互いの自己紹介を軽く済ませ、ガイは真っ先に思い浮かぶ疑問をぶつけた。
「貴様がグリードなる怪人で、赤陣営のリーダーであることは分かった」
「だが、その"リーダー"の貴様が、青陣営の小娘を連れていることには納得がいかん」
「取るに足らないその小娘を、貴様はこれからどうするつもりなのだ?」
「リーダーとして、貴様がこのゲームをどう考えているのかを聞かせてほしい」
それによって、ガイはアンクと共に戦うかどうかを見極める。
殺し合いに乗るつもりがあるなら、この小娘はどう見てもただの餌だ。
人を越えた怪人の力をもってすれば、こんな一般人など難なく殺せる筈だ。
ガイの問いに、アンクは面倒臭そうに答えた。
「少なくともゲームに負けるつもりはない」
「ほう、それはつまり、この"殺し合い"に乗ると?」
ガイの突き刺すような視線。
殺し合い、という言葉を強調して言う。
ちらと横目に桂木弥子を見れば、強張った面持ちで逡巡している様子だった。
アンクに殺し合いに乗って欲しくはない、というような顔にみえた。
「そうは言ってない。考えてもみろ、あの真木に黙って従うのも癪だろ」
「だが、リーダーとして赤陣営を救うには、他の陣営を皆殺しにするしかあるまい」
「あぁ、だから邪魔者は殺す。だがそうでないヤツはほっときゃいい」
「ほう」と一言、ガイは弥子を見ながら言った。
「では貴様は、この小娘は殺すに値しないと言うのだな?」
「コイツに敵意はないからな。何ならメズールを倒して赤に引きこみゃ赤の頭数も増える」
「ふむ……なるほど、一見合理的な判断なのだ」
だが……ガイは今、そういう参加者の命を欲している。
無防備な、容易く狩り取れる命を。自らの糧として吸収し、回復したい。
この小娘から、今すぐにでも命の炎を吸い尽くしてしまいたい。
ガイの思惑を何となく察したのか、アンクは冷然と言う。
「コイツには手を出すな、戦力を奪うなら殺し合いに乗った敵からにしろ」
「それだったらオレもお前に協力してやる、赤陣営を優勝させてやる」
「それが嫌だってんなら、お前は今ここで潰すッ」
猛禽類のように鋭い目がガイを見据える。
「どっちが得か、自分でよく考えろ」とアンク。
どうやらこの男、ガイが手負いであることまで見抜いている。
動きや息の仕方から、体調が万全でないことまで見抜いている。
その上での脅迫。そしてこの自信……
アンクとかいったこのグリード、決して弱くはないと見た。
“……確かに、強者から奪った生命力の方がより上質な糧となろう”
そこでガイは前向きに考える。
この男の戦力を味方として取り込むなら?
陣営リーダーのグリードに、無双龍を二頭も従えた大幹部。
おそろしいタッグだ。そうそう負けることもあるまい。
「どうする、アポロガイスト?」
ただ、弥子の生命力という名の目先の利益を見逃すだけだ。
たったそれだけで、大きな戦力を得られるのだ。
「……いいだろう、このアポロガイスト、貴様と共に戦おう」
「ただし、貴様がリーダーに相応しくないと判断した場合は……」
「貴様のメダルも、その桂木弥子の生命もわたしが頂くのだ」
「よもや文句などはあるまいな、"リーダー"?」
コイツがもしただの甘ちゃんだったなら、その時は交渉決裂。
赤のメダルは全てガイが奪いとり、陣営リーダーの座も奪い取る。
一緒に弥子の生命の炎も喰らい尽して、このアポロガイストの糧としてやろう。
その気になれば、アンク一人を撃破することくらいは出来る自信があった。
「…わかった、それでいい」
「アンク……!」
アンクの了承に、弥子が異議ありとばかりに立ち上がる。
「お前は黙ってろ、何もお前が損するワケでもねぇだろ」
「でも、この人は殺し合いに乗ってるんだよ!?」
「それが何だ! オレはこの陣営のリーダーなんだよ!」
怒鳴るアンク。
351
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/03/10(日) 17:21:18 ID:fNmwVTV2
「……オレが陣営を優勝させりゃ、赤はみんな助かる…何が不満だ?」
「そのために……赤以外のみんなを犠牲にしてもいいっていうの?」
「どっちにしろ邪魔者は殺さなきゃ生き残れねぇ、さっきまでと何が違うってんだ」
アンクの言葉に、弥子は言い返せなかった。
確かにこれまで、アンクは邪魔をする敵とは戦って来た。
敵までみんな助けてやるだなんて綺麗事を言ったことはなかった。
だが、それでも弥子はアンクのことを信じていた。
根は優しくていい奴なんだと、信じていたい。
弥子は決然と言った。
「……わかった。でも、罪のない人を殺すのだけは、絶対に許さないから」
「お前に許して欲しいワケじゃない……気に入らないなら勝手にどっかいっちまえ」
そういって、アンクは立ち上がり踵を返した。
それに追随するように、ガイも立ち上がりアンクのあとを追う。
事実として、赤陣営の危険人物二人が手を組んだことになる。
二人の背中を見詰め、弥子は自分の無力に唇をかんだ。
今の弥子には、あの二人の決断に口出しはできない。
アンクなりに上手く殺し合いに乗ったガイを抑え込んでくれたことは分かる。
協定を結んでいる限り、あの男も明確な敵以外を襲うことはないとも思う。
だが……弥子には、アンクが急に遠くへいってしまった気がしてならなかった。
リーダーという立場、それを活かして得た同じ陣営の仲間……
その事実が、弥子に居心地の悪い疎外感をもたらした。
今まさに立ち去ろうとしているアンクに、
「勝手にどっかいかないでよ……馬鹿」
と、小声で弥子。
弥子はそれでもついていくことにした。
アンクのことは放っておけないと思った。
ビルを出かけた二人のあとに続く弥子だった。
352
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/03/10(日) 17:21:58 ID:fNmwVTV2
【一日目 夜】
【D-4/市街地】
【アンク@仮面ライダーOOO】
【所属】赤・リーダー
【状態】健康、覚悟、仮面ライダーへの嫌悪感、自分のコアの確保及び強化による自信
【首輪】160枚:0枚
【コア】タカ(感情A)、タカ(十枚目)、クジャク×2、コンドル×2、カンガルー、カマキリ、ウナギ
【装備】シュラウドマグナム+ボムメモリ@仮面ライダーW
超振動光子剣クリュサオル@そらのおとしもの、イージス・エル@そらのおとしもの
【道具】基本支給品×5(その中からパン二つなし)、ケータッチ@仮面ライダーディケイド
大量の缶詰@現実、地の石@仮面ライダーディケイド、T2ジョーカーメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1〜2
【思考・状況】
基本:映司と決着を付ける。その後、赤陣営を優勝させる。
1.優勝はするつもりだが、殺し合いにはやや否定的。
2.もう一人のアンクのメダルを回収する。
3.すぐに命を投げ出す「仮面ライダー」が不愉快。
4.アポロガイストに勝手な真似はさせない。
【備考】
※カザリ消滅後〜映司との決闘からの参戦
※翔太郎とアストレアを殺害したのを映司と勘違いしています。
※コアメダルは全て取り込んでいます。
【桂木弥子@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】青
【状態】健康、精神的疲労(中)、深い悲しみ、自己嫌悪
【首輪】120枚:0枚
【装備】桂木弥子の携帯電話(あかねちゃん付き)@魔人探偵脳噛ネウロ、ソウルジェム(杏子)@魔法少女まどか☆マギカ、
【道具】基本支給品一式、魔界の瘴気の詰った瓶@魔人探偵脳噛ネウロ、衛宮切嗣の試薬@Fate/Zero、赤い箱(佐倉杏子)
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。
1.アンクとアポロガイストについていく。
2.美樹さやかに頼み込んで佐倉杏子を復活させる。
3.他にも杏子さんを助ける手段があるなら探す。
4.ネウロに会いたい。
【備考】
※第47話 神【かみ】終了直後からの参戦です。
【アポロガイスト@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤陣営
【状態】疲労(小)、ダメージ(中)
【首輪】70枚:0枚
【コア】パンダ
【装備】龍騎のカードデッキ(+リュウガのカード)@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、ランダム支給品0〜1
【思考・状況】
基本:参加者の命の炎を吸いながら生き残る。
1.アンクと共に邪魔者を始末し赤陣営を優勝させる。
2.が、もしもアンクが甘ちゃんなら始末し、陣営を奪う。
3.ディケイドはいずれ必ず、この手で倒してやるのだ。
4.真木のバックには大ショッカーがいるのではないか?
【備考】
※参戦時期は少なくともスーパーアポロガイストになるよりも前です。
※アポロガイストの各武装は変身すれば現れます。
※加頭から仮面ライダーWの世界の情報を得ました。
※この殺し合いには大ショッカーが関わっているのではと考えています。
※龍騎のデッキには、二重契約でリュウガのカードも一緒に入っています。
353
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/03/10(日) 17:25:09 ID:fNmwVTV2
仮投下終了です。
些細なことですが、リーダーの首輪のランプの枠が金色になるというのが不安です。
画像資料スレのMAPで、リーダーの枠が金色になってることから思い付きました。
354
:
◆z9JH9su20Q
:2013/03/10(日) 17:35:26 ID:tjef23/U
仮投下乙です。
自分は全く問題ないと思います。
感想は本投下まで取っておきますね。
355
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/03/10(日) 18:15:47 ID:fNmwVTV2
>>354
反応ありがとうございます。
今回はおそらくこれ以上の意見はこないだろうと判断しましたので、早速ですが本投下に移ろうと思います。
356
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/03/15(金) 01:58:29 ID:n9F6yIo6
本スレでご指摘いただいた点の修正版をこちらに投下します
357
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/03/15(金) 01:58:59 ID:n9F6yIo6
○○○
サイクロンドーパントとなったフィリップは、切嗣の身体を風で包んだ。
見当たる限りの傷口に風を吹き付け、血の流れを抑え込み止血する。
出来るだけ衝撃のないように切嗣の身体を浮遊させた。
それは、言わば、風のベッドといったところか。
「少し遠いが……病院まで戻るしかない」
脳内に刻んだマップを思い出し、フィリップは一人ごちる。
本来の目的地である衛宮邸とは真逆だが、目的である衛宮切嗣とは再会出来た。
では、何故フィリップがこんな場所で切嗣と出会ったのか。
フィリップは、衛宮邸を目指す道中、偶然教会の扉が開け放たれているのを見た。
何故ということもないが、それがフィリップには気になった。
フィリップは、一度気になったことは気が済むまで調べる性質だ。
果たして、軽く調べるだけのつもりで入った教会の中で出会ったのは、傷だらけの切嗣だった。
こうして今に至ったワケだが、今はともかく、出来る限り衝撃を与えずに彼を病院まで運ぶことが先決だ。
医療技術の心得はないが、そんなものは検索次第でどうとでも調べられる。
病院ならばあらゆる医療器具が揃っているし、ここよりはマシな筈だ。
バーサーカーはどうしたのかとか、この傷は誰にやられたのかとか。
そんな質問は切嗣の命を救ってからでも問題はない。
今はともかく、命を救うことが先決だ。
きっと、翔太郎ならそうする筈だ。
うずまく風の中心にふわりと浮かんだ切嗣を一瞥し、
「少しつらい旅になるかもしれないが……我慢して欲しい、衛宮切嗣」
フィリップは届いているのかどうかも定かではない言葉をかけた。
――だが、その前に。
一旦脚を止めたフィリップは、切嗣の腰からロストドライバーを取り外した。
切嗣に何があったのかは知れないが、これは今の切嗣が持っていても意味がない。
だったら、いざという時に備えてフィリップが持っていた方が合理的だ。
一緒に、スカルメモリもロングパーカーのポケットに入れておいた。
その行動に、翔太郎への思いが欠片もないとは言い切れない。
現実志向のフィリップだが、翔太郎の形見は自分で持っていたかった。
○○○
358
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/03/15(金) 01:59:42 ID:n9F6yIo6
以上です。
359
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/03/16(土) 01:16:13 ID:kUGbLYf.
すみません、やはり展開に問題があると感じたので大幅に修正します。
360
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/03/16(土) 01:18:07 ID:kUGbLYf.
セイバーと阿万音鈴羽を乗せたバイクが街を駆ける。
この先で何かが待っている。運転手のセイバーには、そんな確信があった。
バーサーカーの声が聞こえて来た次点で、鈴羽を降ろすという選択肢もあった。
だが、バーサーカーの声はセイバーに気付くことなく、次第に遠ざかっていった。
追い掛けるべきか逡巡したが、今はそれよりも冬木への到着を急ぐべきだと思った。
何故かはわからないが、そうしなければならないと強く思い込んでいた。
だから結局セイバーはバイクを停めることなく道を急いでいた。
――そんなセイバーの耳に入って来たのは、鐘の音だった。
それが放送の音だと気付くまでにそう時間はかからない。
これには流石にバイクを減速させるべきかと思ったが、どうやらその必要はないらしい。
どういう原理か、バイクの風切り音にも妨げられず、放送の音はセイバーの耳に届いていた。
果たして、呼ばれた名前の中に、セイバーが特別反応を示すような相手はいなかった。
一応、キャスターという名は気掛かりではあったが、ジル・ド・レェなら元より死人。
かつてこの手で倒した相手がもう一度死んだと言われても、心はどうとも動かなかった。
織斑一夏も死んだらしい。つまり、警戒するべき対象が減ったというだけのことだ。
それ以上の感動は何もない。
立ち入り禁止エリアも問題なく記憶した。
それはおりしも、いよいよ冬木に突入しようかという頃だった。
「……スズハ?」
ふと振り向くと、後ろに乗っていた鈴羽が涙を流していた。
どうして鈴羽が泣いているのか分からない程、セイバーは馬鹿ではない。
仲間か、友達か、肉親か。大切な誰かが殺され、その名を呼ばれたのだろう。
少し考える。ややあって、セイバーはバイクを路肩に停車させ、鈴羽に尋ねた。
「降りますか、スズハ?」
「え…」
「幸い、周囲には民家も多い。しばらく身を隠し、心を落ち着けるにはちょうどいいでしょう」
「……心配してくれてるんだ、セイバー」
鈴羽は片手で涙をぬぐい、不器用に微笑んでみせた。
その笑みに、セイバーは凛とした眼差しで答える。
「これくらいしかしてやれない私の不甲斐なさを呪います」
「ううん…いいんだ、ありがとう」
嗚咽を押し殺して、鈴羽は決然と言った。
「でも、私もこのまま一緒にいくよ。今は立ち止まれないから……つらくとも、戦わなきゃ」
「本当にいいのですか」
「うん、目的地に着くまでに、気持ちは切り替えるから……」
「わかりました」と、そう答えたセイバーは再びバイクを走らせる。
瞬く間に加速するバイク。風を裂く音が、鈴羽の慟哭を掻き消した。
今はどれだけ泣き叫ぼうが、セイバー以外にその声は聞こえない。
セイバーは何も言わず、目的地を目指しバイクを走らせた。
○○○
おだやかに、死が近付いて来る。
心臓の鼓動が、次第に弱まっていく。
四肢の感覚が痺れ、徐々になくなっていく。
脳も身体も、今やもう麻痺し切っていて、ろくな思考が働かない。
植物のように生かされた衛宮切嗣を、死神があっち側に連れて行こうとしていた。
壊れた蛇口からちょろちょろと伝い落ちる水のように。
虚ろに見開かれた両の瞳から、血の涙が零れ落ちる。
真っ赤な水溜りの真ん中に伏した切嗣は、眠るように瞼を閉じた。
全身の骨折は酸鼻の限りを尽くしたが、それよりも凄愴だったのは臓器の破壊だった。
折れた肋骨は内臓に痛ましく突き刺さり、それでなくとも蹴り潰された内臓すらあった。
全身の骨を元通りにしたところで、内臓が破壊されていては生き永らえることは不可能。
それ故、アヴァロンは骨よりも優先して五臓六腑の修復から先にはじめた。
その甲斐もあって、切嗣の内臓は徐々に回復していった。
もっとも、それでも「かろうじて生命維持が出来る」程度だが。
だが、そこまで回復が進んだ時点で、次の問題が立ちはだかった。
それが……全身に負った打撲と複雑骨折による出血だった。
体中から血を流し続けた切嗣は、最早思考することすらもままならない極度の貧血状態に陥っていた。
回復が間に合っていないのだった。
最早痛みすらも感じはしまい。痛みなどという概念はとうに通過した。
この先にあるのは、痛みなどではなく、ただの「死」それだけだ。
アヴァロンによる回復は、ただ切嗣に生き地獄の苦しみを味わわせただけだった。
切嗣の意識は次第に朦朧としていった。
意識が闇に落ちようとしたその時、切嗣は闖入者の脚音を聞いた。
361
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/03/16(土) 01:18:39 ID:kUGbLYf.
「衛宮切嗣ッ!」
その名を呼ぶのは、誰の声だったか。
少しだけ意識を覚醒させ、ぼんやりと薄眼を開ける。
そこにいるのは、緑のロングパーカーを着た黒髪の少年だった。
名は、たしか、フィリップといったか。死にかけの頭で、仲間の名前を思い出す。
「この傷は……いったい何があったんだ!? バーサーカーはどうしたんだッ!?」
少しのあいだに無残な姿に変わり果てた仲間の姿に、フィリップは戸惑いを禁じ得ない。
だが、今の切嗣にフィリップの問いに答えるだけの体力など残されていなかった。
いや、例え体力があろうと、顎の骨が砕けているので、会話は出来ない。
もう、どうすることも出来はしない。
切嗣は、返事の代わりに再び瞼を閉じた。
「衛宮切嗣ッ! 意識をしっかり持つんだ!」
もう一度、フィリップが声を荒げる。
その声すら、今の切嗣の耳には遠く聞こえていた。
意識を声に集中しようとすれば、激しい頭痛に見舞われる。
無理もない。切嗣の身体は、眠りにつきたがっているのだ。
弱り切った脳がこれ以上の覚醒を妨げているのだ。
ふいに、切嗣の身体がふわりと浮かんだ。
流れ出る血液の流れが止まった。
再び薄眼を開ける。
フィリップは、緑の怪人にその姿を変えていた。
○○○
サイクロンドーパントとなったフィリップは、切嗣の身体を風で包んだ。
見当たる限りの傷口に風を吹き付け、血の流れを抑え込み止血する。
出来るだけ衝撃のないように切嗣の身体を浮遊させた。
それは、言わば、風のベッドといったところか。
「少し遠いが……病院まで戻るしかない」
脳内に刻んだマップを思い出し、フィリップは一人ごちる。
本来の目的地である衛宮邸とは真逆だが、目的である衛宮切嗣とは再会出来た。
では、何故フィリップがこんな場所で切嗣と出会ったのか。
フィリップは、衛宮邸を目指す道中、偶然教会の扉が開け放たれているのを見た。
何故ということもないが、それがフィリップには気になった。
フィリップは、一度気になったことは気が済むまで調べる性質だ。
果たして、軽く調べるだけのつもりで入った教会の中で出会ったのは、傷だらけの切嗣だった。
こうして今に至ったワケだが、今はともかく、出来る限り衝撃を与えずに彼を病院まで運ぶことが先決だ。
医療技術の心得はないが、そんなものは検索次第でどうとでも調べられる。
病院ならばあらゆる医療器具が揃っているし、ここよりはマシな筈だ。
バーサーカーはどうしたのかとか、この傷は誰にやられたのかとか。
そんな質問は切嗣の命を救ってからでも問題はない。
今はともかく、命を救うことが先決だ。
きっと、翔太郎ならそうする筈だ。
うずまく風の中心にふわりと浮かんだ切嗣を一瞥し、
「少しつらい旅になるかもしれないが……我慢して欲しい、衛宮切嗣」
フィリップは届いているのかどうかも定かではない言葉をかけた。
――だが、その前に。
一旦脚を止めたフィリップは、切嗣の腰からロストドライバーを取り外した。
切嗣に何があったのかは知れないが、これは今の切嗣が持っていても意味がない。
だったら、いざという時に備えてフィリップが持っていた方が合理的だ。
一緒に、スカルメモリもロングパーカーのポケットに入れておいた。
その行動に、翔太郎への思いが欠片もないとは言い切れない。
現実志向のフィリップだが、翔太郎の形見は自分で持っていたかった。
○○○
362
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/03/16(土) 01:22:42 ID:kUGbLYf.
眼前で起こっていることが、セイバーには理解出来なかった。
うずまく風が、さながらトルネードのように吹き荒れている。
気圧の乱れからか、セイバーの耳を微かな痛みが刺す。
目的地としていた教会を目前にして、セイバーは見たのだ。
空を飛び、風を纏って推進する緑色の異形の姿を。
そして。
「……な…っ」
緑色の異形が引き連れていたソレの姿を、見てしまった。
それは。全身の骨が砕かれ、皮膚を突き破り、夥しい両の血を流し、
顔は顎を中心にひしゃげ、廃人のような虚ろな目から血の涙を流す――
あまりにも変わり果てた、衛宮切嗣のなれの果てだった。
「キリツグ……ッ」
さながら、この世の如何な処刑方よりも惨たらしい肉人形。
聖杯戦争を共に勝ち残るため契約を交わしたマスターの変わり果てた姿。
あの何処までも冷徹な衛宮切嗣の、あまりにも印象から掛け離れた姿。
それを怪人が、まるで玩具のように風に乗せて浮かべているのだ。
切嗣は確かに外道だ。
この場でも外道な策を執っているとするなら、捨て置けはしない。
だが、それでも、自分が切嗣と接触する前に殺されたのではたまらない。
吹き荒ぶ風に、切嗣の血が撒きこまれて飛散した。
真っ赤な血が、ひゅんとセイバーの頬をかすめたとき、
「貴様……ッ!」
セイバーは激情した。
最早これ以上の会話など必要はない。
漆黒のスーツをただちに銀の甲冑を纏ったドレスに変え、セイバーは跳ぶ。
風を纏わせた剣を携えて、防御すらもままならぬ緑の怪人を斬り伏せ地に叩き落とす。
「ぐあっ!?」
緑の怪人のメタリックな装甲を、セイバーの剣が裂いていた。
血の代わりに火花が吹き出て、それはすぐに風に紛れて掻き消える。
一瞬のうちに周囲に吹き荒れていた風のコントロールが乱れた。
宙に浮いていた切嗣の身体がどさりと落ちて、その口から血反吐が吐き出される。
風の止血が解除され、抑え込まれていた夥しい量の血液がぶわっと噴き出す。
夕闇の道路に、人間一人分の身体を構成する血液が一気に撒き散らされた。
それを横目でちらと見て、セイバーは緑の怪人に激しい剣のラッシュを浴びせる。
風王結界によって軌道の見えない剣は、そのほとんどが緑の怪人に直撃した。
「風が……!」
しかし、それも最初の数秒だけだった。
すぐにセイバーの攻撃を読んだ怪人は、風を巻き起こし、ぶつけて来た。
風はエクスカリバーを覆う風王結界を吹き飛ばし、その黄金の刀身を剥き出しにする。
どうやら相手もまた、セイバーと同じように風を操る術を心得ているらしい。
ならばとばかりに、セイバーは後方をちらりと見た。
バイクから降りた鈴羽と目が合う。
鈴羽の首肯を見て、セイバーは後顧の憂いを断ち切った。
切嗣のことは、鈴羽に任せよう。彼女ならばきっと悪くはしない。
もっとも、もうどう足掻いても切嗣の死が避けられないことはわかってたが。
だからこそ、セイバーは帰らぬ者を偲ぶ思いを怒りに変えて剣を振るうのだ。
「ハァァァアアアアーーーーーーーーッ!!」
飛び掛かり、思い切り振り降ろした剣怪人にぶつけ、一気呵成に押し出した。
セイバーの剣は、緑の怪人を百メートル程後方の教会にまで押し戻した。
その剣を振り抜いた時、怪人の身体は教会の壁に叩き付けられた。
どごん! 派手な破壊音が響いて、教会の壁に亀裂が走った。
○○○
363
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/03/16(土) 01:23:15 ID:kUGbLYf.
まただ。また、ぼくは襲われている。
理由もなく、理不尽に。あまりにも身勝手な攻撃に晒されている。
小柄な少女の殺意に満ちた視線を受けて、フィリップの風が乱れる。
どうして。どうしてこいつらは、理由もなく他者を襲い、他者の命を奪う。
あの黒騎士バーサーカーも、この青騎士も。
どいつも、こいつも……!
“こんな奴らに……ッ”
ふつふつと怒りが込み上げる。
フィリップがいったい、何をしたというのだ。
今だって、ただ衛宮切嗣を救おうとしていただけだ。
それなのに。それなのに――!
“だんだん、腹が立ってきたぞッ!!”
翔太郎を奪われた怒りが。
燻っていた行き場のない怒りが。
フィリップの中で、めらめらと熱を上げる。
そこにはやはり、二度も逃げてしまった自分への憤りもある。
相棒を失った悲しみが、少しの間を開けて、いよいよ怒りへと変わった。
“冗談じゃない……ぼくは…こんなヤツに殺されるワケにはいかないッ!”
目の前にいる襲撃者を、サイクロンドーパントが見据える。
乱れていた風が、フィリップの怒りに答えるように、徐々に落ち着いて行く。
驚くほどに冷静に。驚くほどに冷徹に。風がなりをひそめた。
「む?」
青い少女の警戒の音色。
当然ながら油断などはしてくれまい。
だが、構わない。油断を誘おうなどとは思っていない。
風はやがて、フィリップの怒りに応え、猛烈な突風となった。
地響きを響かせて、風がごうごうと吹き荒ぶ。
明らかな「怒り」の込められた、凄絶なる局地的災害。
青騎士は思わず両手の剣で頭を守り、立ち止まる。
そこ目掛けて、フィリップは風の刃を吹き付けた。
まだ間に合う筈だ。
早々にこいつを倒して、何としてでも切嗣を生かす。
そして、どうしてあの黒騎士を解放したか問いただす。
そのために、フィリップは戦いに挑んだ。
○○○
364
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/03/16(土) 01:23:48 ID:kUGbLYf.
セイバーの声が聞こえた。
あの聖杯戦争を共に戦った傀儡の声が。
切嗣は、どうして彼女がここにいるのかを何となく悟った。
おそらく彼女は、主である切嗣の召喚に応え馳せ参じてくれたのだろう。
だが……今の切嗣に、彼女と話せることがあるだろうか?
あの聖杯戦争を終えた切嗣が。
自らのしもべを冷徹に裏切ったも同然の切嗣が。
今のセイバーにかけられる言葉などあろうものか。
否、何もない。切嗣がセイバーに言ってやれる言葉など、何一つ。
何を言った所で、セイバーはきっと切嗣を理解しないだろう。
今ばかりは、顎の骨が砕けていることが幸いに思えた。
顎が砕けているのだから、何も話せない。何も話さずに済む。
セイバーが連れて来た少女が、切嗣を背負おうとして、やめた。
きっと彼女も、今の切嗣を動かすことの方がまずいと察したのだろう。
そうだ。切嗣はもう、どうなったって助かりようがない。
それなのに、アヴァロンは皮肉にも切嗣の回復を続ける。
やめろ。そんなメダルは、無駄遣いだ。
そんなことに使われるくらいなら――
最後に残ったメダルの全てを消費して、令呪による命令をした方がましだ。
どうせ終わりなら、この衛宮切嗣の使命の全てをセイバーに託して逝こう。
そう思った時だった。
切嗣の身体が、さっきまでよりも楽になっていった。
それでも地獄のような苦しみであることに変わりはない。
だが、残ったメダルの分量にしては、回復のペースが良すぎる。
それは、アヴァロンの本来の持ち主であるセイバーがすぐそばにいるからだった。
切嗣の心に、再び希望の光が射し込んだ。
「ェ……ダ…ゥ……を……」
砕けた顎で、セイバーの仲間の少女にメダルを請う。
アヴァロンの回復のペースが上がっている今なら。
十分なメダルさえ確保出来れば、まだ可能性はある。
切嗣のすがるような眼に、少女は怪訝そうに尋ねて来た。
「……メダル? メダルが欲しいの……?」
切嗣は、ほんの数ミリ程度しか動かない頭で首肯をする。
少女が首輪から一枚のコアを取り出し、切嗣の首輪に投入する。
メダルが確保された。
カツカツだったアヴァロンの回復量に余裕が出来る。
気付けば、切嗣に迫っていた死神は何処かへと立ち去っていた。
もっとも、致死量圏内からギリギリ脱しただけだが。
今少しでも衝撃を受ければ、切嗣はたちまち死に取りつかれるだろう。
アヴァロンによる回復とはいっても、人の身体というものは安くはない。
ほぼ死んでいる人間を再び生かすためには、膨大なメダルと時間が必要だ。
ゆえに切嗣は、今はただ安静にしておくことしか出来ない。
メダルと時間が確保されることを祈りながら――
切嗣は満身創痍の身体のまま、眠りについた。
○○○
365
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/03/16(土) 01:24:37 ID:kUGbLYf.
名も知らぬ男が、静かに眠った。
鈴羽は、彼が死んだのかと肝を冷やした。
だが、どうやらその心配はないらしい。
脈は弱々しくとも確かにある。
彼は、生きている。
「でも、このままじゃまずい」
それでも、早々に治療を施さねば死亡するレベルだろう。
だが、だからといって今の鈴羽に施せることはない。
今はせいぜい、彼に衝撃を与えないように見守ることくらいしか出来はしない。
鈴羽はもうこれ以上、自分の前で誰にも死んで欲しくはなかった。
そはらを喪った哀しみ。父の死を避けられなかった無力。
それらが、鈴羽のその決意をより強くしていた。
こんな殺し合いは、一刻も早く潰さねばならない。
あんな……命を奪う奴らに、これ以上好きにさせてはならない。
戦場へ向かったセイバーを見る。
緑の怪人が作りだした竜巻の中で、二人は戦っているようだった。
だが、今の鈴羽にはただ、衛宮切嗣を見守ることしか出来なかった。
【一日目-夜】
【B-4 言峰教会付近】
【セイバー@Fate/zero】
【所属】無所属
【状態】疲労(小)、激しい怒り
【首輪】70枚:0枚
【コア】ライオン×1、タコ×1
【装備】約束された勝利の剣@Fate/zero
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:殺し合いの打破し、騎士として力無き者を保護する。
1.目の前の怪人を成敗し、切嗣を保護する。
2.その過程で悪人と出会えば斬り伏せ、味方と出会えば保護する。
3.衛宮切嗣、バーサーカー、ラウラ、緑色の怪人(サイクロンドーパント)を警戒。
4.ラウラと再び戦う事があれば、全力で相手をする。
【備考】
※ACT12以降からの参加です。
※切嗣の令呪による命令が果たされました。
366
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/03/16(土) 01:25:12 ID:kUGbLYf.
【阿万音鈴羽@Steins;Gate】
【所属】緑
【状態】健康、深い哀しみ、決意
【首輪】195枚:0枚
【コア】サイ
【装備】タウルスPT24/7M(15/15)@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式、大量のナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、9mmパラベラム弾×400発/8箱、中鉢論文@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:真木清人を倒して殺し合いを破綻させる。みんなで脱出する。
0.父さん……。
1.セイバーの手助けをしたい。
2.知り合いと合流(岡部倫太郎優先)。
3.桜井智樹、イカロス、ニンフと合流したい。見月そはらの最期を彼らに伝える。
4.セイバーを警戒。敵対して欲しくない。
5.サーヴァントおよび衛宮切嗣に注意する。
6.余裕があれば使い慣れた自分の自転車も回収しておきたいが……
【備考】
※ラボメンに見送られ過去に跳んだ直後からの参加です。
【フィリップ@仮面ライダーW】
【所属】緑
【状態】疲労(大)、ダメージ(中)、精神疲労(極大)、深い怒り
【首輪】15枚:0枚
【装備】{ダブルドライバー、サイクロンメモリ、ヒートメモリ、ルナメモリ、トリガーメモリ、メタルメモリ}@仮面ライダーW、
{ロストドライバー、T2サイクロンメモリ、スカルメモリ}@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、マリアのオルゴール@仮面ライダーW、スパイダーショック@仮面ライダーW、トンプソンセンター・コンテンダー+起源弾×12@Fate/Zero
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。
0.理不尽な暴力に対する怒り。やや自暴自棄。
1.目の前の少女に黙って殺されるワケにはいかない!
2.あの少女(=カオス)は何とかして止めたいが……。
3.バーサーカーと「火野という名の人物」を警戒。また、井坂のことが気掛かり。
4.切嗣に対する疑念。セイバーを退けたあと、切嗣を救い、この疑念を晴らしたい。
【備考】
※劇場版「AtoZ/運命のガイアメモリ」終了後からの参戦です。
※“地球の本棚”には制限が掛かっており、殺し合いの崩壊に関わる情報は発見できません
※衛宮切嗣のデイバッグを回収しています。
【全体備考】
※軍用警棒+スタンガンは切嗣の遺体に装備されたままです。
※アヴァロンがどうなったかは次の書き手さんに任せます。
【衛宮切嗣@Fate/Zero】
【所属】青
【状態】ダメージ(死亡寸前)、全身に打撲・内出血(大量出血)、四肢は全て複雑骨折、肋骨・背骨・顎部、鼻骨の骨折、片目失明、あらゆる感覚の麻痺、牧瀬紅莉栖への罪悪感
【首輪】5枚(加速度的に消費中):0枚
【コア】サイ(アヴァロンで使用中)
【装備】アヴァロン@Fate/zero、軍用警棒@現実、スタンガン@現実
【道具】なし
【思考・状況】
基本:士郎が誓ってくれた約束に答えるため、今度こそ本当に正義の味方として人々を助ける。
0.気絶中。当分目覚める気配なし。
1.偽物の冬木市を調査する。
2.1と併行して“仲間”となる人物を探す。
3.何かあったら、衛宮邸に情報を残す。
4.無意味に戦うつもりはないが、危険人物は容赦しない。
5.『ワイルドタイガー』のような、真木に反抗しようとしている者達の力となる。
6.バーナビー・ブルックスJr.、謎の少年(織斑一夏に変身中のX)、雨生龍之介とキャスター、グリード達を警戒する。
7.セイバーと出会ったら……? 少なくとも今でも会話が出来るとは思っていない。
8.間桐雁夜への約束で、この殺し合いが終わったら桜ちゃんを助けにいく。
【備考】
※本編死亡後からの参戦です。
※『この世全ての悪』の影響による呪いは完治しており、聖杯戦争当時に纏っていた格好をしています。
※セイバー用の令呪:残り二画
※この殺し合いに聖堂教会やシナプスが関わっており、その技術が使用させている可能性を考えました。
※かろうじて生命維持出来ている状態です。少しでも状況が悪化すれば死にます。
また、死亡寸前のダメージのため、当分は目覚める気配はみられません。
※顎部の骨折により話せません。生命維持に必要な部分から回復するため、顎部の回復はとくに最後の方になるかと思われます。
臓器類→四肢をはじめとした大まかな骨折部分、大まかな出血部の回復・止血→血液の精製→片目の視力回復→顎部 という十番が妥当かと。
また、骨折はその殆どが複雑骨折で、骨折部から血液を浪費し続けているため、回復にはかなりの時間とメダルを消費します。
367
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/03/16(土) 01:26:47 ID:kUGbLYf.
以上です。
セイバー接近によるアヴァロンの効果アップ忘れてました。
だもんで、急遽切嗣は生存案に切り替えることにしました。
タイトルは「運否天賦」で宜しくお願いします。
369
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/03/16(土) 20:46:17 ID:WgiQJ9Uc
修正版の投下乙でした。
これはこれで面白い展開だと感じるので、こちらで通しでも大丈夫と思います。
370
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/03/16(土) 20:55:53 ID:VHA.aRbY
修正お疲れ様です
こちらもこちらで面白いので問題はないかと思います
371
:
◆qp1M9UH9gw
:2013/04/06(土) 03:03:42 ID:iZbt5h6Y
遅れましたが修正版を投下します
伊達の場面以外にも問題がある箇所があったので、それらも幾つか修正しておきました。
372
:
あいをあげる(前編)
◆qp1M9UH9gw
:2013/04/06(土) 03:05:07 ID:iZbt5h6Y
【1】
『それでは皆さん、良き終末を――』
真木のその言葉を最後に、忌々しい放送は終了した。
その後に訪れるのは、重苦しい沈黙。
この場に居た三人の内誰一人として、口を開こうとはしなかった。
放送で名を呼ばれた織斑一夏は、鈴音の思い人である。
そして同時に、最初に殺された箒の幼馴染でもあった。
箒もまた――いや、鈴音の親友は皆、彼を好いていたのだ。
そんな大切な人の名を、真木はあまりにも平坦な口調で口にした。
何の感慨も無く、ただマス目を塗る様な感覚で。
真木清人は、鈴音が愛した人の死を告げたのである。
カリーナ・ライルとネイサン・シーモアは、バーナビーと志を共にしたヒーローであった。
シュテンビルドを護る正義の味方として、時には競い合うライバルとして、一緒に邪悪と戦ってきたのである。
きっとこの場においても、二人は正義を貫こうとしたのだろう。
ワイルドタイガーと同様に、真木への怒りと自分の胸に宿る正義を武器にして、
主催者に挑もうとしていたに違いない――そうに決まっている。
しかし、そんな二人のヒーローが、呆気なく死んだという。
それが意味する事は、ワイルドタイガーの敗北であり、バーナビーの敗北でもあった。
誰一人として死人を出させないという虎徹の覚悟は、残酷な現実の前に敗れ去ったのである。
上記の3人を含む、18人の名前が放送で呼ばれていた。
つまりは、およそ参加者の4分の1が命を落としたという事である。
その内の何人が殺し合いに乗ったのか、あるいは殺し合いを打破しようとしていたのかを、
正確に知る由など、今の伊達にはありはしない。
しかし、何にせよ18人の参加者が死んだという事実に変わりは無いのだ。
暢気に鴻上ファウンデーションを散策している間に、何人が悲鳴を上げたのだろうか。
心の何処かで、伊達は死人など出るものかと甘い観測をしていたのかもしれない。
誰一人として、沈黙を破れなかった。
いや、正式には"破りたくなかった"と言うべきなのだろう。
突きつけられた死者の羅列を耳に入れたその心は、沈黙を欲していたのだ。
「……嘘、よ」
そんな中、静寂の中に少女の声が零れ落ちた。
放送前の活発な様子とは一転して、頭を垂れる彼女の様子はひどく弱弱しい。
大切な者が呼ばれたという事実が、鈴音から活力を根こそぎ奪い取ってしまったのだ。
「アイツが死んだなんて、嘘」
そう言って死を否定する鈴音の声は、震えていた。
感情の氾濫を押し殺そうとしているのだろうが、彼女が今どういった心境なのかなど、二人の男には容易に把握できる。
「今まで無茶やってきて、それでも無事で済んでたのに。
それなのに……嘘よ、こんなの嘘、あの眼鏡が仕組んだ罠よ、そうに決まってる」
今にも崩れそうな意思を、自己暗示を支えにして持ちこたえようとしている。
必死になって現実を否定する彼女の姿は、見ている側にも悲しみを植えつけた。
同じ空気を吸うだけで、こちらまで嘆きで胸が一杯になってしまいそうである。
373
:
あいをあげる(前編)
◆qp1M9UH9gw
:2013/04/06(土) 03:05:56 ID:iZbt5h6Y
「……あの放送で嘘をつくメリットはありません。残念ですがその人はもう――――」
「五月蝿いッ!アンタなんかに何が分かるのよ!?」
バーナビーの言葉が、鈴音の怒りに火を付ける。
押し殺そうとした筈の感情は決壊し、怒号となって彼に叩き付けられる。
「アイツが死ぬ訳ないじゃないッ!今までだってそうだったのよ!
危ない橋渡ってきたけど、何とかやってこれたのよ!
こんな馬鹿げたゲームなんかで死んでいい奴じゃないの!」
目に涙を溜めながら、鈴音が叫ぶ。
一夏の死を聞いた鈴音の精神は、それだけでかなり困憊していた。
それだけではない――口には出していないものの、鈴音の友人だったシャルロットも放送で呼ばれているのである。
今まで平和を謳歌していた彼女にとって、思い人と友人の死という現実はあまりにも受け入れ難いだろう。
だからと言って、このまま怒りに震える彼女を放っておけるバーナビーではない。
鈴音の逆鱗に触れてしまったのは他でもないバーナビーだし、何より彼はヒーローなのだ。
喪失感と不安で押しつぶされそうな人間を救うのも、ヒーローの役目なのである。
励ましの言葉をかけようと、バーナビーが口を開こうとした――その時だった。
「――――伏せろッ!」
弾かれた様に動き出した伊達が、バーナビーと鈴音の身体を無理やり下げさせる。
彼の予期せぬ行動に二人は反応できず、そのまま体制を崩してしまう。
そして三人が床に倒れ込んだ直後――窓の硝子が突如として砕け散った。
その直後に外気から飛び込んでくるのは、これまでに感じた事の無い程の突風。
室内に侵入してきたそれは、整えられた部屋を容赦なく蹂躙していく。
伊達が二人を伏せさせてなければ、彼らもそれの巻き添えを食らっていただろう。
暴風が止んでから、バーナビーは頭を上げた。
一体何が原因で、この部屋は荒れ放題になる羽目になったのか。
それを確認する為に、彼は窓ガラスの向こうに目を向け――その災害の生みの親を発見した。
窓の向こうで浮遊していたのは、幼い少女だった。
ただ何も言わずに、口元を三日月に歪めている。
374
:
あいをあげる(前編)
◆qp1M9UH9gw
:2013/04/06(土) 03:06:31 ID:iZbt5h6Y
【2】
三人にとって、その少女の姿は異様としか言い様がなかった。
背中に生える刺々しい翼も、全裸と言ってもいい肉体も、常に笑みを絶やさぬ顔も、何もかもが彼らとは違っている。
何故、彼女はあんな禍々しい刃を身に着けているのか。
どういう経緯があって、あの様な身形になっているのか。
そして、何があってこの陰鬱な場に置いて場違いな笑みを浮かべているのか。
だがしかし、そんなものは今注目すべき事ではない。
最も重要なのは、この少女が自分達に向けて攻撃を仕掛けてきたという事なのである。
「挨拶……にしちゃあ随分と荒っぽいな」
「僕達を殺すつもりでしたよ、アレは」
冷静に判断するバーナビーの表情は、緊張感で強張っている。
彼女が放った嵐は、明らかに三人を巻き込もうとしていた。
どういう考えがあるのかは分からないが、何にせよ襲ったという事実に変わりは無い。
「どうして避けるの?おじさん達に"愛"をあげよう思ったのに」
「……愛?」
幼女のその言葉に、バーナビーが反応する。
彼女は"愛"とはまるで無縁の行為を行ったというのに、どうしてそんな事を言っているのか。
「うん、私がみんなに愛をあげるの!」
「おいおい……出会い頭に襲うのが愛だってのかよ」
「だってみんながそう教えてくれたもの!井坂のおじさんや火野のおじさんが、痛くして、殺して、食べるのが"愛"だって!」
「……何言ってやがる。火野はおじさんなんて齢じゃねえし、何よりそんな事言う訳がねえ」
井坂という男は知らないが、あの火野映司がそんな物騒な事を言う筈がない。
恐らくは、何者かが火野の名前を騙ったのだろう。
その男が平気な顔をして、あの幼女に誤った知識を押し付けたのだ――何とも胸糞の悪い話である。
「――何よ、それ」
今まで黙り込んでいた鈴音が、ここに来て漸く口を開いた。
しかし、その口調は先程とは打って変わって怒りに震えている。
彼女の表情もまた、前方の幼女への憎しみで歪み切っていた。
「殺すのが"愛"……?死ぬのが"愛"……ッ!?
何よそれ……ふざけんじゃ、ないわよ……ッ!」
震え声に反応して伊達が振り返った時には、鈴音は既にISを展開していた。
機動力を手に入れた彼女は一瞬の内にカオスへ肉薄し、そのまま彼女の矮躯を掴みとる。
そしてその勢いのまま、鈴音はガラス張りだった空洞を通って部屋から飛び出してしまった。
甲龍は上方に向かっていったから、恐らく屋上に移動するつもりなのだろう。
「何やってんだアイツ!」
「行きましょう!彼女――何をするか分からない!」
"彼女"というのは鈴音と襲撃者の二人を指していた。
襲撃者は言わずもなが、怒り狂った鈴音も何をするか予想できない。
何より、分厚い窓ガラスを風力だけで破壊してみせたあの幼女が、
鈴音一人だけを相手にするというのが一番の不安要素であった。
「無茶するんじゃねえぞ……!」
バーナビーのNEXT能力なら、伊達を抱えたまま最上階まで難なくたどり着ける筈だ。
それまでに、鈴音の身に何も起こってなければいいのだが……。
不安を隠せないまま、二人は屋上に向けて移動を開始した。
375
:
あいをあげる(前編)
◆qp1M9UH9gw
:2013/04/06(土) 03:07:45 ID:iZbt5h6Y
【3】
カオスを捕えた甲龍は、そのまま上空へ向かって突き進む。
空気を裂いて突き進む鈴音が目指すのは、このビルの屋上だ。
あそこなら、障害物を気にせずにISを操作する事ができる。
敵も同様に自由に動けるだろうが、鈴音にとっては関係ない話だ。
これから彼女が行うのは、戦いではなく一方的な蹂躙なのだから。
殺すのが、"愛"なのだという。
人間の命を弄び、挙句奪い取るのが"愛"なのだという。
そういう主張を掲げて、この幼女は殺人を肯定しているのだ。
それはつまり、一夏の死を"愛"などとのたまったのと同然である。
「よくも……よくも……ッ!」
鈴音にとって、一夏の死は絶望でしかなかった。
幼少期から思い続けてきた者が、こんな名も知らぬ土地で死んだのだ。
遺体も何処にあるか見当も付かず、最期に誰を思って逝ったのかも分からない。
その事実は、鈴音の意思を打ちのめすのは十分すぎる。
「じゃあ何だってのよ……一夏とシャルが殺されたのも"愛"のせいだって言うの……!?
"愛"のお陰で死んだって、アンタは喜んでいるの……!?」
だがこの狂人は、その絶望の権化を"愛"だと言ってみせたのである。
心に空洞を作るこの嘆きが、"愛"なのだと。
大切な者を奪われた怒りが、"愛"なのだと。
狂った笑顔を浮かべたまま、嬉しそうにそれが"愛"だと主張していたのだ。
「許さない……!アイツらを笑ったアンタだけは絶対に赦さない……ッ!!」
最早、怒りしかなかった。
彼女の笑顔が、一夏の死を嗤っている様で。
彼女の猫撫で声が、自分を挑発している様で。
自分の"愛"を否定するこの女が、憎くて仕方がない。
己の怒りに身を任せた鈴音の姿は、傍から見れば鬼の様であった。
屋上に到達した途端、鈴音はカオスをコンクリートに叩き付ける。
それだけでは終わらない――すぐさま"龍咆"の狙いを定め、カオスに向けて何発も撃ちこむ。
不可視の砲弾はカオスに直撃し、彼女の表情は苦悶に歪む――筈だった。
地面に叩き付け様とするその寸前に彼女は体制を立て直し、その砲撃を容易く回避する。
それを見た鈴音の表情には、蹂躙が不可能となった事に対する苛立ちが見て取れた。
あの巨大な翼といい、この女がただの人間ではないのは明らかだ。
だからといって、まさかここまで簡単に躱してみせるとは思っていなかったである。
しかし、彼女だって国を代表したISの使い手であるのだ。
例え相手が超人であろうが、このまま負けるつもりなどない――いや、負ける訳にはいかない。
ハイパーセンサーが、一つの反応を感知する。
それが何者であるかなど、深く考えなくても判断がつく。
襲い掛かるカオスの翼を、”双天牙月”の刃で受け止めた。
互いの刃が鍔迫り合い、激しく火花を散らす。
376
:
あいをあげる(前編)
◆qp1M9UH9gw
:2013/04/06(土) 03:09:10 ID:iZbt5h6Y
「そっか!お姉さんにとっても痛くするのが"愛"なのね!」
「……ッ!黙れェェェェェェッ!」
その鈴音の咆哮と共に、カオスの身体が吹き飛ぶ。
そのまま彼女はコンクリートに叩き付けられ、無様に地面を転がった。
これこそが、今鈴音が放った"龍咆"のもう一つの特徴である。
発射角度の制限が事実上存在しないので、あらゆる位置から発射が可能なのだ。
至近距離から"龍咆"を叩き込んだのだ。
いくら常識を逸脱した怪物であっても、流石にダメージを受けている筈だ。
未だ興奮冷めやらぬ状態のまま、鈴音は墜落した相手を見遣――れなかった。
彼女が気付いた頃には、屋上には既に誰も存在していなかったのである。
動揺が鈴音を襲うと同時に、ハイパーセンサーが一つの反応を捉えた。
その場所は――鈴音の、丁度真後ろだ。
「――じゃあ、今度はわたしの番」
背後から聞こえてきたのは、倒したとばかり思っていた幼女のものだった。
痛みなどまるで感じていないかの様に元気なその声に、鈴音の背筋は凍りつく。
全力で攻撃したというのに、彼女にはそれがまるで効いていないというのか。
しかも、こんなに素早い動きで相手の後ろを取るなんて誰に想像できようか。
咄嗟に振り返り、カオスに反応しようとした時にはもう遅い。
振りかぶった彼女の拳が鈴音に直撃し、彼女はまるで紙屑の様に吹き飛ばされた。
本来のカオスならば、ここまでの破壊力は生み出せなかっただろう。
しかし、今の彼女はアストレアに加えて、筋力が爆発的に増強していた至郎田をも取り込んでいるのだ。
今の彼女にとっては、拳一つでISを撃ち落とすなど造作もない事であった。
地に伏した鈴音に対し、今度はカオスが"愛情表現"を開始する。
体制を立て直そうとする鈴音に襲い掛かるのは、無数の紫電である。
生身の人間に当たれば一溜まりもない電撃は、シールドバリアーすら突き破り鈴音の肉体を痛めつける。
ISのお陰である程度威力は緩和されているものの、それでも彼女の行動に支障を起こさせるのには十分であった。
これまでに感じた事のない激痛が、絶え間なく鈴音を嬲り続ける。
雷撃が肉体を刺激する時の痛みは、まるで体中を絶え間なく鞭で叩き付けられているかの様だ。
全身の痛覚が泣き叫び、鈴音の精神をも削り取っていく。
今の彼女に残っていたのは、死に近づきつつあるという実感のみ。
いくら最新鋭の装備で武装しているとはいえ、彼女の精神はあくまで普通の少女のものなのだ。
ただの少女の心では、"死の実感"にはそう簡単に耐えられない。
しかし、死ぬまで続くと思われた電撃責めは、唐突に終わりを迎えた。
カオスの所持したメダルが底を尽きたのか、それとも単に彼女が蹂躙に飽きを見せたのか。
朦朧とする意識の中で、鈴音は瞼を開いてカオスの様子を伺おうとする。
そうして景色を視界に入れ――鈴音は絶句した。
そこにはあったのは、"太陽"だった。
火炎の色は赤ではなく黒であり、全てを焼き滅ぼすと言わんばかりに燃え上がる。
カオスの身の丈よりも巨大であろうそれは、周囲を仄暗く照らしていた。
黒い太陽が、カオスの頭上で静止している。
灰一つ残しはしないと猛るそれは、鈴音をじっと睨んでいる様に思えた。
「あ、ああ……あ、あ……あ…………!」
絶対的な死の権化が、すぐ目の前に顕在している。
鈴音の魂を食い潰す怪物が、今まさに襲い掛かろうとしている。
死の危機に瀕している彼女の表情に映るのは、目前の脅威への恐怖だけ。
それに対し、今まさに死を齎さんとするカオスの瞳は、どこまでも透き通っていた。
穢れ一つなく、そして誰よりも純粋で――だからこそ、鈴音にはそれが恐ろしかった。
きっと彼女は、自分が悪行を為しているという自覚すらしていないのだろう。
無邪気な悪意に、鈴音の魂は焼き払われようとしている。
377
:
あいをあげる(前編)
◆qp1M9UH9gw
:2013/04/06(土) 03:10:19 ID:iZbt5h6Y
「あ、あああああああぁあぁぁあぁあぁぁあぁああぁあぁぁあああああああッッ!!!!」
恐慌状態に陥った鈴音が、砲撃を我武者羅に乱射する。
狙いの全く定まらないそれらの攻撃は、どれも明後日の方向に飛んでいく。
彼女の肉体に命中した砲撃など、一つとして存在しなかった。
死神は五体満足のまま、鈴音をじっと見つめている。
「嫌……!来ないで……来ないでよぉ……!」
必死で逃げろと身体に言い聞かせても、傷ついた肉体はまるで言う事をきかない。
鎌を振り上げる死神を前に、少女にできるのは絶望する事だけ。
刃に乗せた無垢な"愛"を、小さな臓物で受け入れるしかないのである。
「お姉さんも――殺(アイ)してあげる」
その声と共に、黒炎が鈴音に向けて放たれた。
彼女に着弾した火炎は巨大は火柱となり、鈴音のISを焼き尽くす。
夜空の闇は業火によって暴かれ、静寂は形容し難い程に悲痛な絶叫で掻き消される。
やがてISは完全にその機能を停止し、鈴音を火炎から遠ざける唯一の護りは消失する。
灼熱が華奢な肉体を嘗め回し、健康的な肌をどす黒く染め上げていく。
先程の比ではない程の痛みを前にして、鈴音はただ獣の様に叫び続けるしかなかった。
思い出も、愛情も、鈴音を構成する全てが燃えていく。
走馬灯の如く過去の光景が映り始め、それらもまた炎に呑まれていく。
過去の恋情も、現在の交友も、将来の希望も、何もかもが愛の炎に消えて無くなる。
昔から思い続けた少年の記憶も、業火に喰われていってしまう。
「…………ぃ…………ち……か………………ぁ……………………―――――――――」
総身を焼かれる彼女の口から漏れ出たのは、先に逝ってしまった愛しい者の名前。
彼に助けを求めたのか、はたまた向こう側で待つ彼の姿を幻視したのか。
真意は定かではないが、カオスにとってはそんな事どうでもいい話である。
純粋に愛を届ける事にのみ執着する彼女には、愛の本質をまるで理解しない赤子では、
その名前にどういう感情を込められていたかなど理解できる訳もないのだ。
理解できないからこそ、歪みを歪みとしてそのまま相手にぶつけられる。
そこには一切の後悔も、一抹の悲しみもありはしない。
――"愛"という名の紅蓮の焔は、鈴音の魂を灰すら残さず焼き尽くしたのであった。
378
:
あいをあげる(後編)
◆qp1M9UH9gw
:2013/04/06(土) 03:13:26 ID:iZbt5h6Y
【4】
ようやく屋上に辿り着いたバーナビーと伊達を待っていたのは、絶望の権化であった。
相も変わらず悠然と宙に浮かぶ幼女と、彼女が生やす刃に突き刺さる一つの肉塊。
炎で徹底的に蹂躙されたその死体が誰かなど、二人には容易に理解できた。
一目では誰なのか判断し難い程に焼かれているが、あの華奢な身体は間違いなく、二人の同行者だった少女のものだ。
友を奪われた不幸な少女は、それをさらに上回る不幸を以て虐殺されたのである。
凄惨な現場を目の当たりにしたバーナビーが、大きく吼えた。
激しい怒りを伴わせた拳は、まだ己のNEXTの恩恵を受けている。
彼は瞬く間にカオスへ接近し、渾身の一撃を叩き込もうとする。
だがその拳は空しく宙を掻き、カオスはそのお返しと言わんばかりに彼を殴り飛ばす。
直撃を受けたバーナビーは、鈍痛を伴わせながら伊達の近くへ飛ばされた。
「バーナビー!大丈夫か!?」
「ええ……何とか」
NEXT能力に加え、バーナビーはヒーロースーツを着用しているのだ。
あの一撃だけでは、彼を殺すどころか昏倒させる事はできないだろう。
それでも彼女の攻撃は相当な威力を誇っていた様で、スーツには罅が入っていた。
まだ年端もいかない外見でこれほどの破壊力を出せるとは――バーナビーは、その事実に戦慄する。
既にバースへと変身していた伊達が、牽制としてバースバスターを連射した。
しかしそれらの攻撃は、案の定カオスの翼によって阻まれる。
あの翼をどうにかしなければ、遠距離攻撃の命中率は低いままだ。
何とかしてあの障害を突破しなければ――そう考えた直後に、伊達はある事に気付く。
翼に突き刺さっていた鈴音の亡骸が、何処へと消えているではないか。
「――伊達さんッ!」
何かに気付いたバーナビーが、伊達に向けて叫ぶ。
警告を聞いた伊達は、デイパックから容器を取り出し、それをそのまま地面に叩き付ける。
割れた容器から液体が漏れ出し、やがてそれは独りでに球体の形へ変化した。
この支給品の名は月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)――ある魔術師が使用していた魔術礼装だ。
水銀に魔力を練り込んで精製されたそれは、所有者の命令によって盾にも剣にもなるのである。
月霊髄液はすぐさま壁となり、バーナビーと彼を護る様に展開される。
そしてその数刻後、壁の外から鈍い音が響いた――何かが月霊髄液に着弾したのだ。
恐らくカオスが砲撃と思しきものを使ったのだろうが、バーナビーにはその砲弾は全く目視できなかった。
それならどうして、彼はカオスが攻撃してくると理解できたのだろうか。
それは、彼女が砲撃の直前にある物を装着していたからだ。
赤と黒を基調とした刺々しいデザインは、バーナビーには見覚えのあるものであったのである。
(あれは彼女のISの筈……どうして奴が……!?)
そう――今のカオスは、鈴音が扱っていた甲龍を装着していたのである。
鈴音の説明でしか聞いた事がないが、彼女が所有している甲龍は不可視の砲撃――"龍咆"という名前らしい――が可能らしい。
何故か甲龍を装着していたカオスは、伊達達に向けてその"不可視の砲撃"を放ったのである。
彼らは知る由も無いが、彼女は鈴音を吸収する際、待機状態となっていた甲龍をも食らっていたのだ。
それ故に、カオスは甲龍を自在に操れる様になっているのである。
"龍咆"を退けた伊達達が、改めてカオスと相対する。
カオスの方が、依然として笑みを消してはいない。
ついさっき一人の少女を殺したにも関わらず、だ。
379
:
あいをあげる(後編)
◆qp1M9UH9gw
:2013/04/06(土) 03:14:23 ID:iZbt5h6Y
「嬢ちゃんよ……これがお前の愛だって、そう言いたいんだな」
「そうだよ!痛くして、殺すのが愛なんだって皆が教えてくれたんだよ!」
そう楽しげに話すカオスに伊達が感じた感情は、怒りではなく哀れみだった。
きっとこの少女は、最初は本当に何も知らなかったのだろう。
それでも"愛"とは何かという問いに答えを出す為に、彼女なりに努力したに違いない。
だが少女の環境は、彼女が真っ直ぐに育つ事を許さずに、歪んだ知識ばかりを押し付けたのだ。
火野の名前が出てきていた以上、彼女が歪んだのはこのゲームが始まってからなのだろう。
つまりは、彼女を引き留められる可能性は確かに存在していたかもしれないという事なのだ。
伊達達がビルの探索をしている間に、無垢な少女は他者の介入で悪魔となってしまった。
「……っ……そんなものが"愛"だと……!?
人の命を奪って、他の誰かを悲しませるのが"愛"なのか……!?」
対して、バーナビーに湧き上がるのは怒りであった。
彼に愛を与えていた両親は、一人の犯罪者の手によって屠られている。
その罪人はバーナビーの目の前で、苦しむ彼らに対し無慈悲に引き金を引いたのだ。
カオスの言い分が正しければ、それは"愛"あってこその行動という事になる。
馬鹿げた事を言うな、と怒鳴りつけてやりたい気分だった。
人殺しなんて邪なものに"愛"などあって良い訳がない――例えそうだとしても、バーナビーはそれを認めない。
大切な者を奪う殺人はどこまで行っても犯罪であり、それで"愛"を語ろうなど言語道断だ。
「そんなものが――そんなものが愛であっていい訳がない!」
「じゃあお兄さんは教えてくれるの!?"愛"ってなあに!?私に教えてよ!
愛を、愛を!愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛をォッ!!」
悪魔は狂った様に愛を叫び続ける。
それを目にしたバーナビーは、さらに闘志を滾らせる。
どうしようもない程に、この少女は狂ってしまっている。
今この場で彼女を倒せれなければ、屍の山が築かれかねない。
命を護る"ヒーロー"として、それだけは絶対に止めなければならない。
バーナビーの脳裏に映るのは、無残な姿となっていた鈴音の姿。
救えなかった命への後悔が彼を苛み、同時に必ずあの悪魔を倒せと囁き続ける。
ワイルドタイガーの隣に立つのなら、例え命を犠牲にしてでも彼女を打倒しなければ。
「――ったく。ヒデエ事吹き込むヤツらもいるもんだよな」
何を思ったのか、伊達がバーナビーより一歩先に歩み出た。
まるで先に出ようとする仲間を牽制するかの様な行動に、バーナビーは僅かな苛立ちを覚える。
今更、あの少女に何を伝えようというのだ。
「"愛"が知りたいんだってな?だったら教えてやるよ」
伊達のその発現に、バーナビーは言葉を失った。
今になって彼女に"愛"を説いた所で、一体何の意味があるというのだ。
完全に狂ってしまっている彼女には、もう如何なる説得も意味を為さないだろう。
それなのに、どうして彼は今更"愛"について説こうとしているのか。
「"愛"っていうのはな、もっと暖かいものなんだよ。
大切な奴と手繋いで……心が暖かくなっていくのが"愛"ってヤツなんだ」
「あったかい……?」
"愛"は一人では生まれない。
他の誰かと共に歩んで、初めて"愛"というのは生まれるものなのだ。
カオスのやっている事など、所詮は押し付けでしかない。
無理やり渡すものは、決して"愛"ではないのだ。
380
:
あいをあげる(後編)
◆qp1M9UH9gw
:2013/04/06(土) 03:15:06 ID:iZbt5h6Y
疑問符を浮かべているカオスの瞳は、相変わらず一点の曇りもありはしない。
それを目にした伊達の表情が、僅かな曇りを見せた。
もしも、もっと優しい人間が最初に彼女に出会えていたとしたら。
その時はきっと、彼女も"愛"の何たるかを真に理解できていたのだろう。
「それがおじさんの"愛"なのね!ねえ、もっと教えてよ!」
「ああいいぜ。でも悪いな、今はちょっと厳しいんだ」
伊達の言い方は、まるでもうすぐこの場から居なくなるかの様な口ぶりであった。
おかしい――これから戦いが始まるというのに、どうしてそんな態度を取っているのか。
疑問を覚えるバーナビーだったが、伊達に支給された物を思い出し、すぐに彼の真意に気付く。
自分の予測が正しければ、伊達はあれを使って――――。
「伊達さ――――」
気付いた時には、もう遅かった。
伊達は隠し持っていた支給品を、カオス目がけて投げつけた。
それは彼女の丁度目の前で起動し、屋上一帯に大音量を響かせる。
突然目の前で発せられた爆音に、カオスは驚きのあまり身体を一瞬だが硬直させた。
伊達はその隙を見逃さず、バーナビーをその場から無理やり引き離した。
すぐさま踵を返して体当たりを決め、その勢いのまま半ば強引に彼を担ぎ上げたのである。
不意を突かれたのもあって、彼の身体は簡単に運ぶ事ができた。
当然それを放っておくカオスではなく、彼女はその翼を以て二人に"愛"を与えようとする。
しかし、彼女が肉薄しようとしたその瞬間――溢れんばかりの閃光が、カオスの視界に広がった。
音響手榴弾と閃光手榴弾を組み合わせた、ジェイク・マルチネスを打倒する為に製作された特殊な兵器。
一度自分の手で使用しているバーナビーが、それの存在に見覚えがない訳がなかった。
何の躊躇いもなく、伊達はバーナビーを担いだまま屋上を飛び出す。
伊達の意思に従う月霊髄液は、怒りに燃える男の意思に関係なく二人を包み込んだ。
381
:
あいをあげる(後編)
◆qp1M9UH9gw
:2013/04/06(土) 03:15:57 ID:iZbt5h6Y
【5】
強敵に果敢に挑んで死ぬよりも、無様だろうが逃げて次の手を練る方が良い。
少なくても伊達は、そう考えている。
脅威に立ち向かって死ぬのは、確かに賞賛される最期と言えるのだろうが、
彼としては、やはり命を投げ出す様な真似をする者を見過ごす訳にはいかないのだ。
カオスの異様な力を目にした瞬間、伊達は二人だけで彼女に挑むのは無謀だと確信した。
例え諦めずに向かっていったとしても、カオスによって築かれる骸の山が大きくなるだけだろう。
鈴音の無念を晴らせない悔しさは残るが、ここは撤退するのが得策である。
月霊髄液はかなり――ビルの倒壊に巻き込まれても無事で済む程度には――丈夫だと説明書きに書かれていたし、
これを使えばカオスの魔手から上手く逃れられるだろう。
そして、伊達のその予測は当たっていた様で、無事に二人はビルから脱出できた。
しかし、もう一人は伊達の判断に不服を抱いているらしい。
月霊髄液から解放された途端、バーナビ−は鬼気迫る表情で伊達の襟首を掴み上げたのだ。
彼は眼の奥底で怒りを燃やしながらも、何か言いたげにじっと伊達を見つめていた。
あの時、バーナビーの方は半ば暴走し始めてる状態であった。
あのまま彼を好き放題させていたら、鈴音同様に惨殺されていただろう。
それを防ぐ為には、半ば強引に彼を従わせるしかなかったのである。
「気持ちは分かるさ。俺だって鈴音ちゃんが殺されて悔しくない訳がねえ」
あの小生意気な少女の魂は、狂った襲撃者に踏み躙られてしまった。
彼女の凄惨な姿を目の当たりにすれば、"ヒーロー"が激昂するのも無理はないだろう。
しかも、完全な初対面ではなく2時間程度であるが行動を共にしていたのだ。
救えなかった悔しさは、その時間に比例して大きくなっていく。
「ならどうして……ッ!どうして逃げ出したんですかッ!?」
「ちょっとは落ち着けって。俺とお前であの娘に挑んだってな、どうせ二人とも死んでたぞ」
「どうしてやる前から決めつけられるんですか!?そんなのやってみなきゃ――」
「……俺は"落ち着け"って言ったぞ」
伊達の二度目の忠告で、バーナビーの怒号は打ち切られた。
彼を掴む腕の力も弱まっていき、僅かではあるが落ち着きを取り戻したのが見受けられる。
ようやく冷静になれたかと、それを確認した伊達も安堵した。
先程の戦いが限りなく勝率が低い事を、恐らくはバーナビー自身も勘付いていたのだろう。
「俺達が鈴音ちゃんの為にするのは、二人揃って無駄死にする事か?
……違げえだろ、俺達はアイツの分まで生きなきゃならねえんだ」
死んでしまったらそこで何もかもが御終いだ。
だが、生きてさえいればまた体制を立て直してチャンスを見出せる。
何より、伊達が逃走を決断するに至ったのは、鈴音の犠牲あっての事なのだ。
彼は彼女の死によって、改めてカオスの脅威を感じ取ったのだから。
それを無視して特攻するのは、彼女が意図せず残したメッセージを足蹴にするようなものでなのである。
尤も、鈴音が一人で戦いに行かなければ、また別の選択肢も在り得たのだろう。
三人が生きて脱出できる道だって、存在していたかもしれない。
もしそうなったとしたら、バーナビーの顔が怒りで歪む事も無かった筈である。
彼女の暴走を止められたら、もっと明るい結末だって存在したのだ。
その責任は、勿論その場にいた伊達達にある――責任があるからこそ、猶更彼らは死ぬ訳にはいかない。
382
:
あいをあげる(後編)
◆qp1M9UH9gw
:2013/04/06(土) 03:18:00 ID:iZbt5h6Y
「俺達が死んだら、誰が鈴ちゃんの悔しさを背負うんだよ。
あの娘の意思を汲んでやれるのは、今生きてる俺達しかいねえだろ?
……だから生きるんだ。俺達は生きて、あの子の思いを背負って歩くしかねえんだ」
"凰鈴音という少女が真木を倒そうとしていた"。
その事実を忘れ去られない為に、その決意が無駄で無かった事を証明する為に。
"伊達とバーナビーは仲間を止められなかった"
その過ちを無かった事にしない為に、いずれその失敗を清算する為に。
生き残った二人は、それを纏めて背負って前へ進まなければならないのだ。
「……もうじきここは禁止エリアだ。行こうぜ」
バーナビーは、無言のままそれに従った。
本人は気付いていないだろうが、その表情には言い様の無い苛立ちが見て取れる。
伊達にはまだ、彼のその感情を知る術はありはしない。
しかし、いずれは知らねばならない時が訪れるのだろう。
バーナビー・ブルックスJrという人間の心の奥底に、何があるのかを。
彼が戦う本当の理由とは、一体何なのかを。
O O O
分からない。
伊達は間違いなく正しい筈なのに。
本来ならば、否定する箇所など何処にもないというのに。
どうして自分は、ここまで伊達明という存在に憤りを感じているのだ。
(どうしてあなたは……!)
何故そうも、虎徹に似ているのだ。
もし彼がこの場にいたとしたら、きっと今の彼に向けて同じ様な助言をした筈だ。
無暗に命を投げ出すのは間違っていると、喝を入れるに違いない。
その忠告は決して間違いではなく、バーナビーは伊達に感謝するべきであろう。
それでも、彼の後ろにうっすらと虎徹の影が見えて。
その陰に気付かない伊達に、苛立ちを覚えずにはいられない。
虎徹と同じ様な行いをする彼に、怒りを感じずにはいられない。
どうしてこんな感情を抱くのか、自分でも理解できなかった。
苛立ちの原因は間違いなく自身の胸の内にある筈なのに、
それがどういったものなのかが、どうやっても明確な形にならないのである。
その不明瞭な感情を抱えたまま、バーナビーは歩いていく。
彼に生まれたその黒い染みは、今は小さくともいずれ巨大化していくだろう。
いずれ災いの種となるであろうそれを、彼は他言することなく背負っている。
伊達がバーナビーの"黒い染み"の正体に気付くのが先か。
バーナビーの"黒い染み"が災いを齎すのが先か。
この物語の行く末は、まだ誰にも分かりはしない。
383
:
あいをあげる(後編)
◆qp1M9UH9gw
:2013/04/06(土) 03:18:34 ID:iZbt5h6Y
【6】
たった一人屋上に残されたカオスは、先程の言葉を思い返す。
"あったかく"すれば"愛する"という事になる。
相手を暖かくするのが、その人への愛情表現になり得るのだ。
あの男は、確かにそうカオスに教えていた。
「……そっか」
これまでは、ただ殺して食べればいいと思っていたが、そうではないのだ。
暖かくして、殺して、食べる――それこそが、本当の"愛"に繋がる。
思いを込めて"あったかく"してあげれば、愛したという事になるのである。
「分かったよおじさん!私もみんなを"あったかく"してあげる!」
カオスは満面の笑みで、"愛"を教えてくれた恩人に礼を言った。
これでまた"愛"について詳しくなれた――彼女の心は、その実感で満たされていた。
次からは、皆にこの"愛"を教えてあげなければならない。
道行く人を"あったかく"して、彼が教えてくれた"愛"を伝えてあげよう。
それにしても、どうしてあの金髪の青年は怒り狂ったのだろうか。
カオスの考えが正しければ、"あったかく"した少女を見て激怒する理由など無い筈だ。
それについても含めて、彼にまた逢えたら"愛"について聞いてみよう。
そうすればきっと、また新たな収穫がある筈なのだから。
開け放たれたパンドラの箱は、もう誰にも閉じれはしない。
あまりに無垢すぎた天使は、"愛"という名の"絶望"を振り撒き続ける。
己の間違いを、真実だと思い込みながら――その偽りに、気付く事もなく。
【凰鈴音@インフィニット・ストラトス 死亡】
【一日目 夜】
【E-5/鴻上ファウンデーション・屋上】
【カオス@そらのおとしもの】
【所属】青
【状態】身体ダメージ(小・修復中)、精神疲労(大)、火野への憎しみ(無自覚・極大)、成長中、全裸
【首輪】180枚(消費・修復中)(増加中):90枚
【装備】なし
【道具】志筑仁美の首輪
【思考・状況】
基本:"あったかく"して、殺して、食べるのが愛!
0.ありがとう、おじさん!
1.みんなに沢山愛をあげて"あったかく"してあげる。
2.火野映司(葛西善二郎)に目一杯愛をあげる。
3.おじさん(井坂)の「愛」は食べる事。
【備考】
※参加時期は45話後です。
※制限の影響で「Pandora」の機能が通常より若干落ちています。
※至郎田正影、左翔太郎、ウェザーメモリ、アストレア、凰鈴音、甲龍を吸収しました。
※現在までに吸収した能力「天候操作、超加速、甲龍の装備」
※ドーピングコンソメスープの影響で、身長が少しずつ伸びています。現在は14歳の身長にまで成長しています。
※憎しみという感情を理解していません。
※彼女が言う"あったかい"とは人間が焼死するレベルの温度です。
384
:
あいをあげる(後編)
◆qp1M9UH9gw
:2013/04/06(土) 03:21:51 ID:iZbt5h6Y
【E-5/路上】
【バーナビー・ブルックスJr.@TIGER&BUNNY】
【所属】白
【状態】ダメージ(小)、伊達への苛立ち、NEXT能力1時間使用不可
【首輪】80枚:0枚
【装備】バーナビー専用ヒーロースーツ(腹部に罅)@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品、篠ノ之束のウサミミカチューシャ@インフィニット・ストラトス、ランダム支給品0〜2(確認済み)
【思考・状況】
基本:虎徹さんのパートナーとして、殺し合いを止める。
0.どうしてこの人は……ッ!
1.伊達と共に行動する。
2.伊達さんは、本当によく虎徹さんに似ている……。
【備考】
※本編最終話 ヒーロー引退後からの参戦です。
※仮面ライダーOOOの世界、インフィニット・ストラトスの世界からの参加者の情報を得ました。ただし別世界であるとは考えていません。
※時間軸のズレについて、その可能性を感じ取っています。
【伊達明@仮面ライダーOOO】
【所属】緑
【状態】健康、悔しさ
【首輪】85枚:0枚
【コア】スーパータカ、スーパートラ、スーパーバッタ
【装備】バースドライバー(プロトタイプ)+バースバスター@仮面ライダーOOO、ミルク缶@仮面ライダーOOO、鴻上光生の手紙@オリジナル
月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)@Fate/zero
【道具】基本支給品
【思考・状況】
基本.殺し合いを止めて、ドクターも止めてやる。
1.バーナビー次第だけど、できれば会長の頼みを聞いて、火野を探す。
2.バーナビーと行動して、彼の戦う理由を見極める。
3.あの娘……可哀想にな。
【備考】
※本編第46話終了後からの参戦です。
※TIGER&BUNNYの世界、インフィニット・ストラトスの世界からの参加者の情報を得ました。ただし別世界であるとは考えていません。
※ミルク缶の中身は不明です。
385
:
あいをあげる(後編)
◆qp1M9UH9gw
:2013/04/06(土) 03:22:25 ID:iZbt5h6Y
投下終了です
386
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/04/06(土) 08:58:02 ID:7.tf1wWY
早い話が伊達さん生存ルートなわけですね。
いいと思いますよ。彼はああ見えて一番色々見えてますからね。
投下&修正乙でした。
387
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/04/06(土) 19:17:30 ID:f5z2BEHA
同じく、問題なしだと思います。
388
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/04/08(月) 01:03:31 ID:HYjHhRfc
本スレ
>>88
以降の差し替えにあたる修正をこちらに投下します
ほむらはG3のマニュアルを岡部に渡し、葛西に向き直った。
「……ところで、貴方に一つ聞きたいのだけれど」
「オレに答えれることなら何でも答えるぜ。信用して貰わなきゃだしなぁ」
「…貴方、さっき仲間はおろか知り合いは一人もいないって言ったわね?」
「そうなんだよ、だから困ってんだ。何でオレなんかがこんな殺し合いにブチ込まれなきゃなんねぇのかね」
参ったとばかりに帽子に手を当て嘆息する葛西。
「随分と不用心なようだけど、もしも私達が殺し合いに乗っていたら、貴方はどうするつもりだったのかしら」
「そん時ゃぁ……ま、オレももう十分長生きしたからなぁ。
未来を次代の若者に託して逝くのも悪かねぇかもなぁ…火火ッ」
それ程生には執着していないとばかりにさらりと言ってのける葛西。
冗談のつもりなのかもしれないが、この状況では笑う気にはなれない。
それとも、この状況に未だに実感を得ていないのだろうか?
知り合いが誰一人いないから、殺し合いに現実感を得ていないとでも?
葛西の態度は、どうにも冷め切った大人の冷やかしのように思えた。
だが、この男から殺気のようなものは感じない。
あるのは、ただのやる気のない中年オヤジのニオイだ。
岡部がふいに、一歩前へ出て、強い眼差しで言った。
「そういうことを言うものじゃない。今、生きているんだ……死んだら終わりじゃないか」
「……岡部」
「岡部ではない、鳳凰院凶真だ」
ほむらの呼びかけに、いつも通りの返答を見せる岡部。
放送直後と比べると、随分と目に覇気が戻って来ている。
彼も彼なりに、自分の中で何かを振り切ったのだろうかと安心するほむら。
葛西は暫し無言で岡部の顔を見上げて、珍しく真剣な眼差しをむける。
だがそれは一瞬で、すぐに元のニヒルな笑みを浮かべた中年顔に戻った。
「まさかこんな若者にまで説教されちまうたぁ……おじさんいよいよ老害の仲間入りちまったか?」
葛西の皮肉に何かを言い返そうとした岡部を制して、葛西は続ける。
「でも…ありがとよ、鳳凰院? だっけか、あんたの言葉は覚えておくぜ」
それは、皮肉屋の葛西なりの感謝の気持ちなのだろうか。
この何事にも無気力そうな中年が、始めて見せた真剣な顔だった。
岡部もそれを理解したようで、すっと身を引いた。
くだらない揉め事が起こらなかったことにほむらは安堵の嘆息を落とす。
「で、貴方はこれからどうするつもりなのかしら?」
「そうだなぁ……正直、オレがいちゃ邪魔だろ?」
「そんなことはない。我々はこのゲームを打破する仲間を――」
「――おっと!」
ふたたび口を挟んだ岡部を、葛西が右手で制する。
「アンタはそうでも、そっちの嬢ちゃんはオレのこと全く信用しちゃいねぇ……そうだろ?」
葛西に向けられた視線。ポーカーフェイスを崩さないほむら。
なんの感慨もない風に、ほむらは「そうね」と小さく頷いた。
相手も気付いているのなら、下手な同調は不要だからだ。
正直な気持ちを言ってやった方がお互いのためになる。
「私は不要な不和は避けたいの。信用出来ない人間とは行動するべきじゃないわ」
「火火ッ……! こいつぁ随分とハッキリ言ってくれるじゃねぇか嬢ちゃん!」
そういって不敵に笑ってみせる葛西。
「その方がいっそ気持ちいいぜ」とさも愉快そうに続ける。
ひとしきり笑ったあと、葛西は真剣な面持ちで言った。
「そーいうワケだ、悪いな鳳凰院、オレは降りさせて貰うぜ」
「だ、だが待て! こんな夜道を一人で歩くのは危険すぎる……!」
「だったらこの先の町の民家で朝が来るまでゆっくり休むさ……静かな町だぜ、ありゃ。身を隠すには最適だ」
この田舎道ならば、目と鼻の先である空見町にもすぐに辿り付けよう。
下手に仲間を求めて動き回るよりも、単独ならばその方が安全でもある。
もっとも、民家に隠れているところを敵に見付けられなければ、の話だが。
「それに、おじさんもう歳でなぁ…一日中歩きまわったもんだから疲れちまってしょーがねぇ。
実のところ、お前らと一緒にいるよりも、とっととどっかの民家のベッドで休みたいんだよ」
暖かい布団が待ってるぜ、などと。
この男はそんなことを冗談半分に言うのだ。
ほむらの中での警戒心は、もう随分と小さくなっていた。
この中年は、ただの取るに足らない一般人だ。
何の事はない、ここで別れるというのなら、それも悪くない。
最初から出会わなかった、でいい。その方が互いのためだ。
完全に警戒も薄れた頃、葛西が立ち上がり、トレーラーの出口へ向かった。
389
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/04/08(月) 01:04:12 ID:HYjHhRfc
「何処へいくつもりかしら。勝手な行動は慎むようにと言った筈だけれど」
「便所だよ便所、一々言わせんな」
「ならば、オレがついていこう」
「オイオイ、冗談じゃねぇぜ。糞も自由にさせてくれねぇのか? 見張られてたんじゃ出るモンも出ねぇぜ」
葛西の言葉に、二人は顔を見合わせた。
どうするべきか、こいつは所詮ただのクズだ。
頭の回転もそれ程早そうだとは思えない。
仮に外から不意打ちをしかけようと、時間停止能力を持つほむらなら対処は可能。
大体、こんな中年オヤジの脱糞などみたくもない。
「わかったわ、とっとと済ませてきなさい」
ほむらの了承を得て、葛西は一人トレーラーを出た。
念のため入口から岡部がしばらく覗いていたが、葛西に不審な点はなかった。
ただ、少し離れた草むらの方に一人歩いて行き、そこでしゃがみこむだけだ。
「うむ、大丈夫だ。あの男に不審な点はない」
安堵する岡部に、ほむらは「そう」と短く返す。
それから数分後、葛西はトレーラーへ戻って来た。
トレーラーの外で出迎えた二人と短い世間話をして、別れの時がやってきた。
発進しようとするGトレーラーの助手席に向けて、葛西が手を振る。
「そんじゃ、見送りはここまでだ。せいぜい気をつけるこったな」
「そっちこそ。互いに生き残れることを祈っている……次に会う時は、ゲーム終了後であらんことを」
「火火ッ…そうなるといいよなぁ。んじゃ、オレもそーいう風に祈っとくとするかねぇ」
その会話を最後に、Gトレーラーは発進した。
どうやら葛西は岡部を気に入ったらしく、素直ではないが、心配するような顔も見せていた。
短い付き合いだったが、両者の間には奇妙な友情のようなものが芽生えていたとほむらは思う。
もっとも、ほむらにそんなものは理解出来ないし、必要のないものを尊重する気もないが。
サイドミラーを見れば、随分と小さくなっていく葛西は、今もまだ手を振っていた。
確かに、何だかんだで、いい人間ではあったのかもしれない。
○○○
「ほんとによぉ……気をつけてほしいもんだぜ、まだ若いんだしよぉ」
彼方へと走り去り、もう見えなくなったGトレーラーに葛西は微笑みを向ける。
岡部もほむらも、まだ若い。中年の葛西よりもずっと若く、未来に溢れている。
ほむらの方はいけすかないが、岡部の方は若いなりに中々いい男だった。
まさかこの歳になってあんなクソウザ……――
もとい、立派なご高説をして頂けるなんて思ってもみなかった。
嗚呼、鳳凰院クン。彼は実にいい男だったと、心の底からそう思う。
彼のような優しい人間こそ、これからの日本に必要な人材なのだと思う。
本当に、本当に。ああいう物分かりのいい若者は、とてもイイ。
……そういえば、あのトレーラーにはG3とかいうトンデモ武装が搭載されていた。
あれは岡部が装着して戦うのだろうか? 誰でも扱える以上、岡部にとっても頼もしい戦力の筈だ。
ところで、その誰でも使える武装は、人の領分を越えるのか越えないのか?
越えるともとれるが、ある意味じゃあれはただの兵器。実に微妙なところだ。
だが、しかしソレが自分のモノでない以上、邪魔なモノでしかないと思う。
だから葛西は、あんなものとっとと壊れればいい、と思っていた。
「ま、せいぜい頑張ってくれや」
火火っと笑いを漏らし、葛西はGトレーラーの進行方向に背を向ける。
静かで、のどかな、何処かなつかしい田舎道。
そんな道を、葛西は空見町に向かって歩き始める。
夜の間は、一日歩き回らされた疲れを癒すのも悪くない。
明るくなるまで、何処かの民家で電気を点けずに一服していよう。
それが一番いい。下手に動き回るべからず。最も合理的な判断だ。
クッソ重たい乖離剣の杖をつきながら、葛西は歩き出す。
今はもう、とにかく何処かでゆっくり休みたい。
冷蔵庫にビールでも入っているとさらにいい。
気の利いたおつまみなんかがあると、もう最高だ。
この殺し合いを賢く生き残るためには心の健康も大切なのだ。
「火火ッ……そうそう、"賢く"生き残らなきゃいけねぇ」
ちょうどその時、随分と離れた後方から、派手な爆発音が聞こえた。
別段驚きもしない。わかりきっていたことのように、後方をぼんやりと見る。
Gトレーラーが走り去っていった方向から、火の手が上がっている。
「おいおい、だから言ったじゃねぇか……気をつけろってよぉ」
さも残念そうに、しかし笑みを零しながら、葛西は言う。
390
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/04/08(月) 01:04:44 ID:HYjHhRfc
だが、すぐに興味を失ったように背を向けると、空見町に向かってまた歩き出した。
「ま、まだ若いんだ。火遊びなら止めはしねぇぜ」
自分も昔はそうだった。
小さい頃から火遊びが大好きだった。
“嗚呼、あの頃はイイ時代だったよなぁ……”
葛西善二郎は、なつかしい想い出に浸りながら煙草をふかす。
満点の星空の下、何処か昔を思い出させてくれる田舎道を歩きながら。
とてもいい気分だった。
とても、とても。
【一日目-夕方】
【D-2/空見町】
【葛西善二郎@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】無所属
【状態】健康、上機嫌
【首輪】所持メダル210(増加中):貯蓄メダル0
【コア】ゴリラ×1
【装備】乖離剣エア、炎の燃料(残量80%)
【道具】基本支給品一式×3、愛用の煙草「じOKER」×十カートン+マッチ五箱@魔人探偵脳噛ネウロ、スタングレネード×6@現実、《剥離剤(リムーバー)》@インフィニット・ストラトス、ランダム支給品1〜4(仁美+キャスター)
【思考・状況】
基本:人間として生き延びる。そのために自陣営の勝利も視野に入れて逃げもするし殺しもする。
1.夜の間は大人しく民家で隠れとくか。
2.殺せる連中は殺せるうちに殺しておくか。
3.鴻上ファウンデーション、ライドベンダー、ね。
【備考】
※参戦時期は不明です。
※ライダースーツの男(後藤慎太郎)の名前を知りません。
※シックスの関与もあると考えています。
※「生き延びること」が欲望であるため、生存に繋がる行動(強力な武器を手に入れる、敵対者を減らす等)をとる度にメダルが増加していきます。
※炎の燃料をさらに5%消費しました。
○○○
暁美ほむらの念頭から、既に葛西善二郎は消えかかっていた。
無駄なことを覚えるのは、脳の容量の無駄遣いだからだ。
無駄なことはしない。必要のないものは切り捨てる。
自ずとあのクズっぽい中年のことは忘れようとしていた。
そんな、せっかく忘れようとしていた時、助手席に座る岡部が口を開いた。
「なあ、コマンダーよ……あの人は、言う程悪い人ではなかったのではないか」
「……そうね、確かに悪い人ではないかもしれないわ」
ただ、気に入らないのだ。
真剣に、生き残りをかけて戦うほむらは、ああいう手合いを味方に引き入れない。
ああいう無気力な男は、いつかかならず不和を生む。
あの男一人のために統率がとれなくなるのは馬鹿な話だ。
岡部一人でも既に十分面倒臭いのに、そんなことになるのは非常にマズい。
だから、本人も同行を望まないようだし、無理して同行して貰う必要もない。
今回はなるべくしてそうなった。当然の結果だったと思う。
「…あの人は、自分の意思で同行を拒否した。だからオレも何も言わなかった……」
岡部の真剣な声。
「だが、今後救いを求める誰かが現れたなら…信用が出来ないからと捨て置くことは、オレには出来ない」
「何が言いたいのかしら」
「オレは決めたのだ。もう決してへこたれてたまるものか、どんな時でも前へ向かって邁進してやるのだ、とな」
「……それは、立派な心がけね。その考えが逆に不要な犠牲を生まなければいいけれど」
「オレは、もうまゆりやダルのような、不必要な犠牲を出さないために、そう決めた!」
「彼のような男を味方に引き入れること自体が、貴方の目指すモノとは真逆の未来に繋がるのよ」
「そんなことは分からないだろう? 仮にそうだとしても、オレはもう、どんな時も諦めない!」
強い、決意のこもった眼差し。
ダイヤモンドのように澄んだ、強い眼差し。
それをほむらに向けて、力強く言った。
「オレは友に、そう誓った」
強い決意の意思表明。
刹那、エンジンが異音を放った。
不審に思う暇もなく、爆発の轟音が耳を劈き、灼熱の業火が全てを焼き払った。
○○○
391
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/04/08(月) 01:05:16 ID:HYjHhRfc
不死身の魔法少女であること。
魔力で身体が強化されていたこと。
そして、爆発を認識すると同時に時間を停止し、車両から飛び出たこと。
それらが幸いとなって、暁美ほむらは辛うじて五体満足のまま、車外へ放り出された。
爆風に煽られて吹っ飛んだほむらの身体は、傍の田んぼに落ち、水と泥の飛沫をあげる。
大量の泥と水がほむらの口から入り込み、思わずせき込む。
「……ぐ……ぅっ……げほっ、げほっ!」
幸いにも、着地地点が田んぼだったことで、身体についた火はすぐに消えた。
火傷によるダメージは最小限に抑えられたが、それでも皮膚が焼けたことに変わりはない。
泥まみれになりながらも、ほむらは火傷の痛みを堪えて、田んぼから這いずり出た。
見れば、Gトレーラーは完全にひっくり返って、真っ黒焦げに焼けていた。
エンジン部に最も近い運転席のダメージは甚大だった。
硝子は粉々に砕け散って、運転席は押し潰されている。
ごうごうと燃える火の中で、ほむらは血まみれの腕がちぎれて転がっているのを見た。
白衣だったものは、目の前でただの煤と灰になって、消えてなくなっていた。
「………。」
何もいうことはない。
目の前の事実を、ただ粛々と受け入れるだけだ。
今までだって、ずっとそうしてきた。それがほむらの戦いだった。
かつて車だった筈の小さな地獄の中から、岡部の声が聞こえる筈もない。
おそらくは即死だろう。
身体はとっくに焼け焦げ、原形すら残さず押し潰されていることだろう。
車の事故で、人が原型を留めることなく死亡する話など、よくあることだ。
岡部の生死を確認しようとはしなかった。
ほむらが時間を停めた瞬間、岡部は止まった時の中で炎に呑まれていた。
強い決意を宿していた目玉は火で粟立ち、表情は苦悶に歪んでいた。
時間の止まった空間の中、今から連れ出しても助からないだろうと判断した。
煉獄の中で苦しみもがき、あのあと彼は、すぐに逝ったのだろう。
わざわざ無惨な遺体を確認して、自分の"傷"を増やす必要もない。
それよりも考えるべきは。
「葛西善二郎……あの男……ッ!」
憎々しげに、ギリリと音を立てて奥歯を噛む。
完全に油断していた。というよりも、油断させられていた。
おそらく、ヤツはトレーラーのエンジン部に何らかの細工をしたのだ。
走り出せば、少しずつ火の手がエンジンに回りいつかは着火するように。
どんな方法でやらかしたのかは知らないが、そうとしか考えられない。
とんだ策士だ。この殺し合いにおいて、もっとも下衆な手合いだ。
岡部は、葛西のことを信じていたのに。信じようとしていたのに!
――いや、やめよう。
そんなことは言うだけ無意味だ。
無駄な感傷で行動をするのは愚者のすることだ。
今はただ、やられてしまった事実を受け入れること。
そして、これからどう落とし前をつけるか。
それだけを考えた方がいい。
「……今からでは、もう追い付けない」
あの男は民家でゆっくり休みたいと言っていた。
この広大な町の中、ヤツが隠れ潜んでる民家だけをポンポイントに狙うことなど不可能。
かといって、ヤツ一人を仕留めるために町そのものを焼き払うのはリスクが多過ぎる。
そもそもの話、そんなことをするだけの手段もない。
第一、メダルだってもう残り少ないのだ。
「そう……分かったわ、葛西善二郎」
これは、高い授業料だと考える事にしよう。
Gトレーラーと岡部の命という授業料を支払って。
ほむらは、油断すればこうなるということを改めて教わった。
これは、貴重な経験だ。必ず自分の糧として次に活かさねばならない。
「次に出会った時は――必ず殺すわ」
絶対に。絶対に油断なく一撃で殺しにかかろう。
この落とし前は、いつか必ずつけさせて貰う。
静かな怒りに燃えながら、ほむらは月を見上げて宣戦を布告する。
【岡部倫太郎@Steins;Gate 死亡】
【一日目-夜】
【D-2 田んぼ道】
392
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/04/08(月) 01:05:47 ID:HYjHhRfc
【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】無
【状態】ダメージ(中)、火傷、泥まみれ、全身ずぶぬれ、苛立ち
【首輪】10枚:0枚
【装備】ソウルジェム(ほむら)@魔法少女まどか☆マギカ、G3-Xの武装一式@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、ダイバージェンスメーター【*.83 6 7%】@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:殺し合いを破綻させ、鹿目まどかを救う。
0.岡部の死による、葛西への激しくも静かな怒り
1.仲間と戦力及びメダルを補充する。
2.葛西善二郎、バーサーカー、青い装甲の男(海東大樹)、金髪の女(セシリア)を警戒する。次に見つけたら躊躇なく殺す。
3.岡部倫太郎と行動するのは構わないのだが……。
4.虎徹の掲げる「正義」への苛立ち。
5.泥を洗い流して着替えたい。
【備考】
※参戦時期は後続の書き手さんにお任せします。
※未来の結果を変える為には世界線を越えなければならないのだと判断しました。
※所持している武装は、GM-01スコーピオン、GG-02サラマンダー、GS-03デストロイヤー、GX-05ケルベロス、
GK-06ユニコーン、GXランチャー、GX-05の弾倉×2です。 武装一式はほむらの左腕の盾の中に収納されています。
※ダイバージェンスメーターの数値が、いつ、どのような条件で、どのように変化するかは、後続の書き手さんにお任せします。
※GA-04アンタレスをバーサーカーのために消費しました。
※自分の支給品は盾の中に入れているので無事です。
【全体備考】
※Gトレーラーは完全に破壊されました。
※Gトレーラーの周囲には岡部倫太郎の所持していたメダル85枚が散らばっています。
○○○
「火火ッ」
遡る事数分前。
葛西善二郎は、糞をするといって草むらに向かった。
当然、糞だなどというのは嘘だ。ただしゃがんで煙草を吸っていただけだ。
だがそこで葛西は、数本雑草を毟り取っていた。
何処の家の庭にでも生えている、何の変哲もないただの雑草だ。
新しい煙草に火をつけて、葛西はトレーラーへ戻る。
目を付けたのは、後部車両との連結部、タンクやエンジンが剥き出しになった箇所。
葛西はまず、タンクの蓋を開けて、にんまりと笑った。
次に、まだ火をつけたばかりの煙草に、草を結びつけた。
割とすぐに解けるように、緩めにだ。ここポイント。
その草をタンクの中程にひっかけて、また蓋を締め直す。
内側から草を蓋で挟んで固定しているので、外からは何も問題はなく見える。
これで全ての細工は終了した。
あとは走行による振動で草が解ければ、煙草がタンクに落ちることになる。
運が良ければ草は解けず、或いは煙草の火が先に消えることだろう。
が、運が悪ければドカンだ。
「煙草は古今東西火事の元ってな」
火火火と笑って、葛西は何事もなかったかのようにトレーラーの入り口へ向かい、二人を呼んだ。
あとはほむらもご存じの通り……
この事実を知る者は葛西だけだ。
393
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/04/08(月) 01:07:02 ID:HYjHhRfc
終了です
394
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/04/08(月) 06:22:36 ID:mhCUODQw
爆発の理由もはっきりしたし、これなら問題ないかと。
修正お疲れ様です。
395
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/04/09(火) 14:02:14 ID:4WkwcobA
修正乙です
これならおkです
396
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/04/14(日) 15:40:55 ID:fxeW63W2
修正版を投下します。
397
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/04/14(日) 15:41:29 ID:fxeW63W2
宵闇に赤い軌跡を描きながら、黒騎士がとぶ。
憎悪の咆哮を響かせて、黄金の宝剣の数々を流星の如く射出する。
そのどれもが一点を目掛けて殺到する、さながら煌びやかな流星群。
「……………」
それに対峙し靡く黒髪。
華奢な体躯には不釣り合いな重火器。
未だ幼さを残した少女はしかし、自分へと殺到する殺意にも恐れを見せない。
不敵に、傲岸に、不遜に。据わった眼光が、放たれた宝具の数々を睨む。
そして、黒騎士バーサーカーが怒りの咆哮をあげる。
寸前まで少女がいた空間には、最早だれもいなかったからだ。
放たれた宝剣の洗礼は、その全てがアスファルトを穿っただけに過ぎない。
「――――ッ!?」
否、もはやそんなことは問題ではない。
攻撃が"避けられた"のではない。
いま、自分は、攻撃を"されている"のだ。
眼前に無数の、それこそ星の数ほどの弾丸が現れていた。
そう、"現れた"のだ。
何の前触れもなく、突然に、それは"現れた"のだ。
いざ眼前の弾丸に対抗をしようとするバーサーカー。
だが、その刹那と待たず、今度はバーサーカーの背が弾けた。
「ッ!?!?」
眼前より迫る弾丸の数と同じか、それ以上の弾丸が背後から殺到していた。
それは、現代人が技術の粋を結集させて開発した、神の子を殺すための殺傷兵器。
地獄の番犬の名を冠する協力無比なガトリングの弾丸を一斉に受けたのだ。
いかな英霊のバーサーカーであろうとも、そんなものを受けて無事では済むまい。
バーサーカーの身体は、背後で弾けた弾丸によって前方へと吹っ飛ばされ――
「―――――――――――――――――――ッッ!!」
そして、前方から迫っていた弾丸すべてに、自分から突っ込むハメになった。
通常兵器を遥かに凌ぐ威力の銃撃の嵐に、前後から挟み撃ちにされたのだ。
バーサーカーの身体が滅多撃ちにされた人形のように痙攣して、どさりと崩れ落ちた。
だが、それでも英霊バーサーカーは戦闘不能にはならない。
そんなことでは戦闘不能にはなれないのだ。
すぐさま立ち上がったバーサーカーは、
「――!?」
自分が既に取り囲まれていることに気付いた。
ワイヤー付きのアンカーが、バーサーカーをぐるりと取り囲んでいる。
そのワイヤーを射出したのはやはりあの黒髪の少女だった。
この武器で甲冑を絡め取り自由を奪うつもりなのだろう。
が、そんなものでこの狂戦士が止められるものか。
逆にワイヤーを引っ掴んで、射出先にいるあの少女ごと手繰り寄せてやろう。
思考ではなく、本能で次の行動を決めたバーサーカーはしかし、次の瞬間には驚愕していた。
この手で掴もうとしたワイヤーが、既にその手からすり抜けていた。
瞬間移動、とでもいうべきか。
さながら"時間が消し飛んだ"かのように。
何も力を加えなければ数秒後には進んでいるであろう位置まで、ワイヤーは一瞬で移動していた。
もちろん、バーサーカーはワイヤーの移動の瞬間を感知してない。
一人時間に取り残されたバーサーカーを、少女のワイヤーが絡め取った。
ぐるり、ぐるり。何重にもなってワイヤーは絡み付き、この身を拘束する。
脚から頭まで、何重にも何重にも巻き付いた特殊ワイヤーの強度は尋常ではない。
最後にアンカーがバーサーカーの甲冑をロックして、彼の身動きは完全に封じられた。
「urrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrッッ!!!」
怒りと憎しみを込めた咆哮が、少女の口元の囁きを掻き消した。
最後に告げられた何事かの言葉に次いで、グレネードランチャーが飛来した。
弾頭を回避する術をもたないバーサーカーは、その直撃を受けて吹っ飛んだ。
もちろん、そんなものは大したダメージにはならない。
が、少女にとってはそれでも十分。
バーサーカーの落ちた先は――
――ドボォンッ!!
派手な水しぶきが、周囲に瞬間的に小雨を降らせる。
398
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/04/14(日) 15:42:19 ID:fxeW63W2
バーサーカーの重い甲冑は、見滝原の街を流れる川に浮かぶ術をもたない。
不運にも、バーサーカーが叩き落された川の水深は五メートルを越えていた。
急な街の開発によって汚れ濁った川の水が、彼の甲冑にどろりと纏わりつく。
水底の泥にどろりと脚を沈み込んだところで、狂戦士は怒りの雄叫びを上げた。
憎しみにその眼を赤くギラつかせながら、バーサーカーは雄叫びを上げ続けた。
【一日目 夜】
【C-3 見滝原市に流れる川の底】
【バーサーカー@Fate/zero】
【所属】赤
【状態】健康、狂化、身動き不能、激しい憤怒
【首輪】60枚:0枚
【装備】王の財宝@Fate/zero
【道具】アロンダイト@Fate/zero(封印中)
【思考・状況】
基本:???????????????????!!
0.令呪による命令「教会を出て参加者を殺してまわる」を実行中。
1.川から上がる。
1.無差別に参加者を殺してまわる。
【備考】
※参加者を無差別に襲撃します。
但し、セイバーを発見すると攻撃対象をセイバーに切り替えます。
※ヴィマーナ(王の財宝)が大破しました。
※バーサーカーが次に何処へ向かうかは後続に任せます。
※GA-04アンタレス@仮面ライダーディケイドによって身動きを封じられているので、泳ぐことも歩くことも出来ません。
※憎しみに満ちた雄叫びを上げ続けています。おそらく川の上からでも聞こえます。
○○○
もうすぐ時刻は"禁止エリア発動"の午後八時を回る。
まだ三十分程時間が残されてはいるが、今から禁止エリアを通過するのは避けたい。
Gトレーラーの運転席に座りながら、暁美ほむらは大きく迂回する道をとった。
「次は何処へ向かうつもりなのだ、コマンダー」
「アテなどないけれど、少なくとも見滝原で待っていても時間の無駄でしょう」
助手席に座る岡部の言葉に淡々と応えながら、ほむらは考える。
放送が始まる前、二人は見滝原に向かった。
鹿目まどかの自宅も、見滝原中学校も探索した。
だが、そこに目ぼしいものは何もなかったし、誰とも出会えなかった。
ゲーム開始から既に六時間経っているにも関わらず、あそこに身を隠している者は誰もいなかった。
魔法少女の誰かと出会えるなら見滝原だと思っていたが、どうやらそう甘くはないらしい。
この六時間で見滝原に辿り付けなかった者は、きっとあの仁美のようにもうこの世にはいない。
だとすれば、見滝原で待つよりも、アテがなくとも此方から仲間を探して動いた方がいい。
少なくとも、魔法少女らの名はまだ呼ばれていない以上、彼女らも何処かで戦っているのだろう。
放送後、そう話し合って、ほむらと岡部は見滝原を出ようとして――
そこで、あの黒騎士バーサーカーに襲われたのだ。
「…それにしても、あの黒騎士はまだ倒してはいないのだろう? 放っておいて大丈夫なのか?」
「ヤツの身動きは完全に封じたわ。誰かが助け出さない限り、あの川底からは這い上がれない。
そしてその"誰か"が現れない限り、ヤツはあのまま溺死するしかない……勝ったのは私たちよ」
それがバーサーカーに対して、ほむらが下した決断だった。
ヤツは空中に門を開き、予想だにしない攻撃を繰り出してくる強敵だった。
戦闘センスも、あの佐倉杏子や巴マミと同等か、それ以上にズバ抜けていた。
その上で、何度か時間停止からの砲撃を試みたが、ヤツには通用しなかったのだ。
時間停止能力を持つほむらに負けはないが、しかしアレでは勝ちもない。
現状の装備では、あの狂った黒騎士は倒せない。メダルの無駄遣いだ。
だからほむらは自力での完全撃破を諦めて、ヤツを川底に沈めた。
399
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/04/14(日) 15:42:53 ID:fxeW63W2
もっとも、あの化け物がタダの人間だなどとほむらは思っていない。
あれで溺死してくれるならいいが、やはりそう上手くはいかないだろう。
“いつか這い上がってきた時のことも考えると、やはりもっと装備を充実させるべきね”
アンタレスがもうない以上、次はこんな姑息なマネは通じない。
次にあの黒騎士と戦う時がきたなら、その時は確実に撃破せねばならないのだ。
この際だ。武器でも仲間でも何でもいい。
ああいった強敵にも太刀打ち出来るだけの"力"が欲しい。
元の世界に帰れさえすれば、もっと強力な軍事兵器だって揃えているのに……
せっかく集めた兵器に手の届かない歯痒さに、ほむらは苛立ちを募らせていた。
一方、岡部は最後にほむらに質問をしたあと「そうか」と言ったきり何も言わない。
あの放送を聴いてからというもの、岡部にも何処か元気がなかった。
仲間の死がつらいのはわかるが、こんなことでこの先大丈夫なのだろうか?
不安は募るばかりだった。
○○○
ダルが死んだ。
あのスーパーハカーのダルが。
たったの六時間で、あっけなく、殺された。
唯一親友と呼べる男の死は、岡部の心を乱す。
今は殺し合いの真っ最中なのだ。ダルが無事である保証など最初からなかった。
それは頭ではわかっているつもりだったのに、それでも虚心ではいられない。
となりに暁美ほむらが居てくれなかったら、きっと岡部は泣き崩れていただろう。
何度も自分と同じ絶望を味わって、それでも強く前を見ている彼女がいなければ。
そこで岡部は、暁美ほむらという少女の"強さ"を思い出す。
“そうだ……オレは、こんなところで立ち止まっているワケにはいかない”
椎名まゆりを救うと誓った。
暁美ほむらと共にこの世界線を打破すると誓った。
あの時、ほむらを前にしてあれだけの大見得を切ったのだ。
まゆりを殺された絶望の中から、もう一度希望を見出したのだ。
だったら、こんなことでへこたれていていいワケがない。
まだ、友を本当に救えないと決まったワケでもない。
この殺し合いを打破して、真のシュタインズゲートに到達すれば。
椎名まゆりも、橋田至も、鹿目まどかも、暁美ほむらも――
みんなが笑顔でいられる世界に、辿り着くことが出来れば。
“……そうだ、それが、オレの使命だったな”
固く目を瞑って、岡部はぶんとかぶりを振る。
目を覚ませ。現実と向き合え。何処までも戦い抜いてみせろ。
そう心の中で自分に言い聞かせ、岡部はもう一度前を見た。
強い眼差しだった。
迷いなど感じさせぬ目で、岡部は前をみていた。
そうすると、視界の端に一人の男が見えた。
赤いコートに、深々と被った帽子が特徴的な男だ。
「…おい、コマンダー」
「ええ、私も気付いているわ」
互いにアイコンタクトをして、ほむらは速度を落とした。
その場に車を停めて、ほむらが一人で外に出た。
勿論、いつでも時間停止を出来るように警戒をしながら。
誰かと出会った時はほむらが先にいくことにしよう――そういう手筈だった。
○○○
それから数分後……
Gトレーラーのオペレーションルーム。
内部に設置された椅子に、二人が出会った男――葛西善二郎が座っていた。
既に概ねの自己紹介は済んでいる。互いが殺し合いに乗っていないことも明かしている。
もっとも、ほむらはこの葛西善二郎という男を全くと言っていいほど信用していなかったが。
あんな夜道を、たった一人で呑気に煙草なぞ吸いながら歩いていたのだ。
警戒心が薄すぎる。ほむら達が悪人だったらどうするつもりだったのか。
「やっぱり、怪しいわ」
「ふむ……確かに少し気になる所はあるが……」
ほむらと岡部は今、数メートル距離を取ってひそひそ声で話している。
かろうじて葛西には聞こえない程度の距離で、二人だけで行われる作戦会議。
ほむらは葛西を信用せず、岡部は葛西を信用したい……といった様子だった。
400
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/04/14(日) 15:43:50 ID:fxeW63W2
横目にちらりと見てみれば、葛西はテーブルに置かれていた冊子を読んでいた。
G3-Xのマニュアルだ。
へー、とか、ほー、とか。
そんな感嘆を漏らしながら、葛西は薄ら笑みを浮かべていた。
つかつかと歩み寄ったほむらは、葛西からG3の資料を取り上げた。
「私達はまだ貴方を信用したワケじゃない。勝手な行動は慎んで貰えるかしら」
「固いねぇ……何となく見てただけじゃねぇか、そんな尖らなくたっていいんじゃねぇか」
「これは私達の貴重な戦力。信用ならない相手にその情報を隠すのは当然でしょう」
「あー、そうかい……そいつは悪かった、じゃあ今見たことは忘れるよ、それでいいだろ?」
そういってニヒルに笑った葛西は、小さく頭を下げた。
ほむらはG3のマニュアルを岡部に渡し、葛西に向き直った。
「……ところで、貴方に一つ聞きたいのだけれど」
「オレに答えれることなら何でも答えるぜ。信用して貰わなきゃだしなぁ」
「…貴方、さっき仲間はおろか知り合いは一人もいないって言ったわね?」
「そうなんだよ、だから困ってんだ。何でオレなんかがこんな殺し合いにブチ込まれなきゃなんねぇのかね」
参ったとばかりに帽子に手を当て嘆息する葛西。
「随分と不用心なようだけど、もしも私達が殺し合いに乗っていたら、貴方はどうするつもりだったのかしら」
「そん時ゃぁ……ま、オレももう十分長生きしたからなぁ。
未来を次代の若者に託して逝くのも悪かねぇかもなぁ…火火ッ」
それ程生には執着していないとばかりにさらりと言ってのける葛西。
冗談のつもりなのかもしれないが、この状況では笑う気にはなれない。
それとも、この状況に未だに実感を得ていないのだろうか?
知り合いが誰一人いないから、殺し合いに現実感を得ていないとでも?
葛西の態度は、どうにも冷め切った大人の冷やかしのように思えた。
だが、この男から殺気のようなものは感じない。
あるのは、ただのやる気のない中年オヤジのニオイだ。
岡部がふいに、一歩前へ出て、強い眼差しで言った。
「そういうことを言うものじゃない。今、生きているんだ……死んだら終わりじゃないか」
「……岡部」
「岡部ではない、鳳凰院凶真だ」
ほむらの呼びかけに、いつも通りの返答を見せる岡部。
放送直後と比べると、随分と目に覇気が戻って来ている。
彼も彼なりに、自分の中で何かを振り切ったのだろうかと安心するほむら。
葛西は暫し無言で岡部の顔を見上げて、珍しく真剣な眼差しをむける。
だがそれは一瞬で、すぐに元のニヒルな笑みを浮かべた中年顔に戻った。
「まさかこんな若者にまで説教されちまうたぁ……おじさんいよいよ老害の仲間入りちまったか?」
葛西の皮肉に何かを言い返そうとした岡部を制して、葛西は続ける。
「でも…ありがとよ、鳳凰院? だっけか、あんたの言葉は覚えておくぜ」
それは、皮肉屋の葛西なりの感謝の気持ちなのだろうか。
この何事にも無気力そうな中年が、始めて見せた真剣な顔だった。
岡部もそれを理解したようで、すっと身を引いた。
くだらない揉め事が起こらなかったことにほむらは安堵の嘆息を落とす。
「で、貴方はこれからどうするつもりなのかしら?」
「そうだなぁ……正直、オレがいちゃ邪魔だろ?」
「そんなことはない。我々はこのゲームを打破する仲間を――」
「――おっと!」
ふたたび口を挟んだ岡部を、葛西が右手で制する。
「アンタはそうでも、そっちの嬢ちゃんはオレのこと全く信用しちゃいねぇ……そうだろ?」
葛西に向けられた視線。ポーカーフェイスを崩さないほむら。
なんの感慨もない風に、ほむらは「そうね」と小さく頷いた。
相手も気付いているのなら、下手な同調は不要だからだ。
正直な気持ちを言ってやった方がお互いのためになる。
「私は不要な不和は避けたいの。信用出来ない人間とは行動するべきじゃないわ」
「火火ッ……! こいつぁ随分とハッキリ言ってくれるじゃねぇか嬢ちゃん!」
そういって不敵に笑ってみせる葛西。
「その方がいっそ気持ちいいぜ」とさも愉快そうに続ける。
ひとしきり笑ったあと、葛西は真剣な面持ちで言った。
「そーいうワケだ、悪いな鳳凰院、オレは降りさせて貰うぜ」
「だ、だが待て! こんな夜道を一人で歩くのは危険すぎる……!」
「だったらこの先の町の民家で朝が来るまでゆっくり休むさ……静かな町だぜ、ありゃ。身を隠すには最適だ」
この田舎道ならば、目と鼻の先である空見町にもすぐに辿り付けよう。
401
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/04/14(日) 15:44:21 ID:fxeW63W2
下手に仲間を求めて動き回るよりも、単独ならばその方が安全でもある。
もっとも、民家に隠れているところを敵に見付けられなければ、の話だが。
「それに、おじさんもう歳でなぁ…一日中歩きまわったもんだから疲れちまってしょーがねぇ。
実のところ、お前らと一緒にいるよりも、とっととどっかの民家のベッドで休みたいんだよ」
暖かい布団が待ってるぜ、などと。
この男はそんなことを冗談半分に言うのだ。
ほむらの中での警戒心は、もう随分と小さくなっていた。
この中年は、ただの取るに足らない一般人だ。
何の事はない、ここで別れるというのなら、それも悪くない。
最初から出会わなかった、でいい。その方が互いのためだ。
完全に警戒も薄れた頃、葛西が立ち上がり、トレーラーの出口へ向かった。
「何処へいくつもりかしら。勝手な行動は慎むようにと言った筈だけれど」
「便所だよ便所、一々言わせんな」
「ならば、オレがついていこう」
「オイオイ、冗談じゃねぇぜ。糞も自由にさせてくれねぇのか? 見張られてたんじゃ出るモンも出ねぇぜ」
葛西の言葉に、二人は顔を見合わせた。
どうするべきか、こいつは所詮ただのクズだ。
頭の回転もそれ程早そうだとは思えない。
仮に外から不意打ちをしかけようと、時間停止能力を持つほむらなら対処は可能。
大体、こんな中年オヤジの脱糞などみたくもない。
「わかったわ、とっとと済ませてきなさい」
ほむらの了承を得て、葛西は一人トレーラーを出た。
念のため入口から岡部がしばらく覗いていたが、葛西に不審な点はなかった。
ただ、少し離れた草むらの方に一人歩いて行き、そこでしゃがみこむだけだ。
「うむ、大丈夫だ。あの男に不審な点はない」
安堵する岡部に、ほむらは「そう」と短く返す。
それから数分後、葛西はトレーラーへ戻って来た。
トレーラーの外で出迎えた二人と短い世間話をして、別れの時がやってきた。
発進しようとするGトレーラーの助手席に向けて、葛西が手を振る。
「そんじゃ、見送りはここまでだ。せいぜい気をつけるこったな」
「そっちこそ。互いに生き残れることを祈っている……次に会う時は、ゲーム終了後であらんことを」
「火火ッ…そうなるといいよなぁ。んじゃ、オレもそーいう風に祈っとくとするかねぇ」
その会話を最後に、Gトレーラーは発進した。
どうやら葛西は岡部を気に入ったらしく、素直ではないが、心配するような顔も見せていた。
短い付き合いだったが、両者の間には奇妙な友情のようなものが芽生えていたとほむらは思う。
もっとも、ほむらにそんなものは理解出来ないし、必要のないものを尊重する気もないが。
サイドミラーを見れば、随分と小さくなっていく葛西は、今もまだ手を振っていた。
確かに、何だかんだで、いい人間ではあったのかもしれない。
○○○
「火火ッ」
遡る事数分前。
葛西善二郎は、糞をするといって草むらに向かった。
当然、糞だなどというのは嘘だ。ただしゃがんで煙草を吸っていただけだ。
だがそこで葛西は、数本雑草を毟り取っていた。
何処の家の庭にでも生えている、何の変哲もないただの雑草だ。
新しい煙草に火をつけて、葛西はトレーラーへ戻る。
目を付けたのは、後部車両との連結部、タンクやエンジンが剥き出しになった箇所。
葛西はまず、タンクの蓋を開けて、にんまりと笑った。
次に、まだ火をつけたばかりの煙草に、草を結びつけた。
割とすぐに解けるように、緩めにだ。ここポイント。
その草をタンクの中程にひっかけて、また蓋を締め直す。
内側から草を蓋で挟んで固定しているので、外からは何も問題はなく見える。
これで全ての細工は終了した。
あとは走行による振動で草が解ければ、煙草がタンクに落ちることになる。
運が良ければ草は解けず、或いは煙草の火が先に消えることだろう。
が、運が悪ければドカンだ。
「煙草は古今東西火事の元ってな」
火火火と笑って、葛西は何事もなかったかのようにトレーラーの入り口へ向かい、二人を呼んだ。
あとはほむらもご存じの通り……この事実を知る者は葛西だけだ。
葛西は夜道を歩きながら一人ごちる。
「気を付けてほしいもんだぜ、未来を担う若者にはよぉ」
彼方へと走り去り、もう見えなくなったGトレーラーに葛西は微笑みを向ける。
岡部もほむらも、まだ若い。中年の葛西よりもずっと若く、未来に溢れている。
ほむらの方はいけすかないが、岡部の方は若いなりに中々いい男だった。
402
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/04/14(日) 15:44:52 ID:fxeW63W2
まさかこの歳になってあんなクソウザ……――
もとい、立派なご高説をして頂けるなんて思ってもみなかった。
嗚呼、鳳凰院クン。彼は実にいい男だったと、心の底からそう思う。
彼のような優しい人間こそ、これからの日本に必要な人材なのだと思う。
本当に、本当に。ああいう物分かりのいい若者は、とてもイイ。
……そういえば、あのトレーラーにはG3とかいうトンデモ武装が搭載されていた。
あれは岡部が装着して戦うのだろうか? 誰でも扱える以上、岡部にとっても頼もしい戦力の筈だ。
ところで、その誰でも使える武装は、人の領分を越えるのか越えないのか?
越えるともとれるが、ある意味じゃあれはただの兵器。実に微妙なところだ。
だが、しかしソレが自分のモノでない以上、邪魔なモノでしかないと思う。
だから葛西は、あんなものとっとと壊れればいい、と思っていた。
「ま、せいぜい頑張ってくれや」
火火っと笑いを漏らし、葛西はGトレーラーの進行方向に背を向ける。
静かで、のどかな、何処かなつかしい田舎道。
そんな道を、葛西は空見町に向かって歩き始める。
夜の間は、一日歩き回らされた疲れを癒すのも悪くない。
明るくなるまで、何処かの民家で電気を点けずに一服していよう。
それが一番いい。下手に動き回るべからず。最も合理的な判断だ。
クッソ重たい乖離剣の杖をつきながら、葛西は歩き出す。
今はもう、とにかく何処かでゆっくり休みたい。
冷蔵庫にビールでも入っているとさらにいい。
気の利いたおつまみなんかがあると、もう最高だ。
この殺し合いを賢く生き残るためには心の健康も大切なのだ。
「さて、火の手はあがるかねぇ」
さっき仕掛けたトラップを思い出し、葛西は嗤う。
爆発したなら、きっとあの二人はもうおしまいだ。
トレーラーの爆発に、中に搭載しているバイクも引火するだろう。
あのトレーラーは二度と使い物にならない程度には吹き飛ぶハズだ。
その時は死ぬまでの短い間、是非楽しい火遊びを満喫していただきたい。
かくいう葛西も自分も若い頃はから火遊びが大好きだった。
“嗚呼、あの頃はイイ時代だったよなぁ……”
葛西善二郎は、なつかしい想い出に浸りながら煙草をふかす。
満点の星空の下、何処か昔を思い出させてくれる田舎道を歩きながら。
【一日目-夜】
【D-2/空見町】
【葛西善二郎@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】無所属
【状態】健康、上機嫌
【首輪】所持メダル205(増加中):貯蓄メダル0
【コア】ゴリラ×1
【装備】乖離剣エア、炎の燃料(残量85%)
【道具】基本支給品一式×3、愛用の煙草「じOKER」×十カートン+マッチ五箱@魔人探偵脳噛ネウロ、スタングレネード×6@現実、《剥離剤(リムーバー)》@インフィニット・ストラトス、ランダム支給品1〜4(仁美+キャスター)
【思考・状況】
基本:人間として生き延びる。そのために自陣営の勝利も視野に入れて逃げもするし殺しもする。
1.夜の間は大人しく民家で隠れとくか。
2.殺せる連中は殺せるうちに殺しておくか。
3.鴻上ファウンデーション、ライドベンダー、ね。
【備考】
※参戦時期は不明です。
※ライダースーツの男(後藤慎太郎)の名前を知りません。
※シックスの関与もあると考えています。
※「生き延びること」が欲望であるため、生存に繋がる行動(強力な武器を手に入れる、敵対者を減らす等)をとる度にメダルが増加していきます。
○○○
403
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/04/14(日) 15:45:23 ID:fxeW63W2
暁美ほむらの念頭から、既に葛西善二郎は消えかかっていた。
無駄なことを覚えるのは、脳の容量の無駄遣いだからだ。
無駄なことはしない。必要のないものは切り捨てる。
自ずとあのクズっぽい中年のことは忘れようとしていた。
そんな、せっかく忘れようとしていた時、助手席に座る岡部が口を開いた。
「なあ、コマンダーよ……あの人は、言う程悪い人ではなかったのではないか」
「……そうね、確かに悪い人ではないかもしれないわ」
ただ、気に入らないのだ。
真剣に、生き残りをかけて戦うほむらは、ああいう手合いを味方に引き入れない。
ああいう無気力な男は、いつかかならず不和を生む。
あの男一人のために統率がとれなくなるのは馬鹿な話だ。
岡部一人でも既に十分面倒臭いのに、そんなことになるのは非常にマズい。
だから、本人も同行を望まないようだし、無理して同行して貰う必要もない。
今回はなるべくしてそうなった。当然の結果だったと思う。
「…あの人は、自分の意思で同行を拒否した。だからオレも何も言わなかった……」
岡部の真剣な声。
「だが、今後救いを求める誰かが現れたなら…信用が出来ないからと捨て置くことは、オレには出来ない」
「何が言いたいのかしら」
「オレは決めたのだ。もう決してへこたれてたまるものか、どんな時でも前へ向かって邁進してやるのだ、とな」
「……それは、立派な心がけね。その考えが逆に不要な犠牲を生まなければいいけれど」
「オレは、もうまゆりやダルのような、不必要な犠牲を出さないために、そう決めた!」
「彼のような男を味方に引き入れること自体が、貴方の目指すモノとは真逆の未来に繋がるのよ」
「そんなことは分からないだろう? 仮にそうだとしても、オレはもう、どんな時も諦めない」
強い、決意のこもった眼差し。
ダイヤモンドのように澄んだ、強い眼差し。
それをほむらに向けて、力強く言った。
「オレは友に、そう誓った」
強い決意の意思表明。
それが命取りにならなければいいが。
ほむらは冷徹にそう思った。
仕掛けられた罠にも気付かずに。
【一日目-夜】
【D-2 田んぼ道】
【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】無
【状態】ダメージ(中)、火傷、泥まみれ、全身ずぶぬれ、苛立ち
【首輪】20枚:0枚
【装備】ソウルジェム(ほむら)@魔法少女まどか☆マギカ、G3-Xの武装一式@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、ダイバージェンスメーター【*.83 6 7%】@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:殺し合いを破綻させ、鹿目まどかを救う。
1.仲間と戦力及びメダルを補充する。
2.バーサーカー、青い装甲の男(海東大樹)、金髪の女(セシリア)を警戒する。次に見つけたら躊躇なく殺す。
3.岡部倫太郎と行動するのは構わないのだが……。
4.虎徹の掲げる「正義」への苛立ち。
【備考】
※参戦時期は後続の書き手さんにお任せします。
※未来の結果を変える為には世界線を越えなければならないのだと判断しました。
※所持している武装は、GM-01スコーピオン、GG-02サラマンダー、GS-03デストロイヤー、GX-05ケルベロス、
GK-06ユニコーン、GXランチャー、GX-05の弾倉×2です。 武装一式はほむらの左腕の盾の中に収納されています。
※ダイバージェンスメーターの数値が、いつ、どのような条件で、どのように変化するかは、後続の書き手さんにお任せします。
※GA-04アンタレスをバーサーカーのために消費しました。
404
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/04/14(日) 15:46:38 ID:4VmfwQ02
【岡部倫太郎@Steins;Gate】
【所属】無
【状態】健康、哀しみ、決意
【首輪】85枚:0枚
【装備】岡部倫太郎の携帯電話@Steins;Gate
【道具】なし
【思考・状況】
基本:殺し合いを破綻させ、今度こそまゆりを救う。
1.ラボメン№009となった暁美ほむらと共に行動する。
2.ケータロスを取り返す。その後もう一度モモタロスと連絡を取り、今度こそフェイリスの事を訊く。
3.青い装甲の男(海東大樹)と金髪の女(セシリア)を警戒する。
5.俺は岡部倫太郎ではない! 鳳凰院凶真だ!
【備考】
※参戦時期は原作終了後です。
※携帯電話による通話が可能な範囲は、半径2エリア前後です。
【全体備考】
※Gトレーラーのタンクに葛西による煙草の罠が仕掛けられています。
405
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/04/14(日) 15:46:57 ID:fxeW63W2
以上です。
406
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/04/14(日) 16:13:25 ID:xGgZRA6o
どうも、議論スレで意見させていただいたものです。
失礼なことをいくつも口走ってしまい、本当に申し訳なかった。
しかしやはり考え直していただいたようで光栄です。
では改めて、これなら大丈夫だと思います。二度の修正、お疲れ様でした。
407
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/04/17(水) 12:41:53 ID:wcylBjVk
同じく議論スレで意見させていただいたものです
作品に割り切れない物があったとはいえ名無しが書き手に口出しして申し訳なかったです
自分も考え直していただだきありがとうございます
改めて、これなら大丈夫だと思います。二度の修正、お疲れ様でした
408
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/04/23(火) 00:40:22 ID:t4uYycQc
修正したので投下します
409
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/04/23(火) 00:40:57 ID:t4uYycQc
どうやら既に参加者の三分の一は死んでいるらしい。
想像以上に加速していた殺し合いに、加頭順は若干の焦りを覚える。
この場にはあの大道克己をも越える脅威がまだ多くいるだろう。
そんな中で、自分に残されたメダルはあまりにも少なすぎる。
次の戦いで確実に誰かからメダルを奪い取らねばマズい。
少なくとも、今唯一所持しているコアメダルが回復するまでは待とう。
そう思い、放送後一時間程度をビルの一室で隠れて過ごした加頭は、
トラのメダルに再び色が戻っていることに気付き安心する。
少し心もとないがメダルはこれでとりあえずよしとしよう。
さて次に加頭が考えるのは、ポケットの中で輝く緑色の石だった。
一時間ほど前から気付いていたが、月の石が何かに反応を示している。
一体何に反応を示しているのかも加頭にはわからない。
だが、加頭はこれを何とかして自らの身体に取り込めないか考えていた。
霊石を身体に取り込むことで力を得られる仮面ライダーもいるのだ。
それと同じことが加頭にも出来れば……
“だが、方法が分からない……外科手術もなしに、どうやってこれを取り込めば?”
……いや、分からないなら今は考えるだけ無駄だ。
今考えるべきは、どうやってセルメダルを増やすか。
どうやって生き残り、冴子への愛を証明するか。
最早引き下がる道はない。
何としてでも、冴子への愛を貫かねばならない。
加頭は次の獲物を求めて、再び街へ繰り出るのだった。
○○○
それから数分後――
加頭は今、ナスカドーパントの翼を羽ばたかせ、空を飛び回っている。
体色は、青。やはり赤の身体はいつでも自由に使えるワケではないらしい。
飛来した赤く輝く追尾弾を回避し、ナスカブレードで叩き落とし、加頭は思考する。
“最も恐れていたことが起こってしまいました……私、ピンチです”
今し方叩き落した追尾弾による爆風に煽られながらも、空中で姿勢制御するナスカ。
いや、止まっている暇はない。止まれば、"ヤツ"の放つ兵器の餌食だ。
能面を張り付けて空に浮かぶ純白の天使を視界に捉えながら、ナスカは高速で飛ぶ。
ナスカウイングを羽ばたかせて、あの天使を斬り裂いてやろうと加速する。
そんなナスカを待ち受けるのは、あの赤き追尾弾。
それがナスカを撹乱し、牽制し、真っ直ぐな飛行を阻害する。
一発一発を回避し、撃墜し、少しずつヤツに接近するナスカ。
また次の一発を回避したと思った次の瞬間。
「なッ――」
目の前には既に、あの天使が肉薄してきていた。
桃色の髪を揺らして、振りかぶった拳。パンチだ。
加頭は咄嗟にナスカブレードを盾代わりに構え、その拳を受けた。
瞬間的にとんでもない威力がナスカの全身にビリビリと響いた。
ぎゅんと音を立てて凄まじい速度で地上へと落下するナスカ。
背中にアスファルトによる打撃の衝撃を受けて、全身が一瞬麻痺する。
これが常人であったなら、既に加頭は死んでいただろう。
死なないにしても、もう暫くはこれで動けなくなっていた筈だ。
自分がNEVERで、ドーパントだったことを幸いに思う。
見上げた空では、あの天使が巨大な砲門を構えてこっちを見下ろしていた。
確実にトドメを刺しにかかる気だ。あれを受けるのはどう考えてもマズい。
そんなことはさせるかと、ウイングで地を叩き再び空へと跳ね上がるナスカ。
あの天使の顔が、ナスカの更なる反撃が予想外だったのか、僅かに歪んだ。
「……ッ!」
しかし、すぐに対応し、赤い追尾弾を発射する。
あれに対して逃げは無意味だ。ナスカは飛行しながら、追尾弾を引き付ける。
高速で羽ばたくナスカに追いすがる追尾弾。
しかし、さしもの追尾弾といえど、意思をもって飛ぶナスカの変則的な軌道は追い切れない。
後方から追尾してきた弾丸同士をぶつけ合わせ、互いに爆発させる。
その爆発に誘爆して、他の弾丸も炸裂した。
410
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/04/23(火) 00:41:30 ID:t4uYycQc
“貰った……!”
その爆風に背中を押され、加速するナスカ。
向こうも格闘戦でねじ伏せる気になったのか、加速を開始。
ナスカの速度まで計算に入れた、あの天使の加速。
ヤツは、ナスカの加速力がこの程度だと完全に思い込んでいる!
だったら、未だ見せていない能力はいつ発動するのか?
今だろう。
これ好機にと超高速を発動させ、一瞬のうちに肉薄するナスカ。
ただでさえコアメダルを消費して変身しているのだから、
超高速などといったメダルを消費する技は出来れば避けたかった。
だが、どの道残されたメダルはもうそう多くはない。
だったら、今の隙を突いて一瞬でキメてやるしかない。
それが出来なかったら、次のチャンスはいつやってくるかわからない。
そう思ったナスカの一撃。刃にナスカの全エネルギーを集中させる。
光迸るナスカブレードによる一閃は――
「「――ッ!?」」
なんということだろう。
よもや超高速すらも、あの天使は見切ってみせたのだ。
確実に身体を両断するハズだった一撃は、寸でのところで回避される。
身を翻した少女の後方を、エネルギー迸る一閃が振り払われた。
そう――少女の、後方だ。
少女の背中には、巨大な翼がある。
翼まで完全に回避するには、少しばかり時間が足らなかった。
あとほんの一瞬でも対応が早ければ、結果は違っていただろう。
だが、そんなことを言っても起こった現実は変わらない。
結論から言って、ナスカブレードは、少女の片翼を根元付近で切断していた。
彼の天使の命とも言える可変ウイングの片方を、ナスカは全エネルギーをかけて奪い去ったのだ。
「!?!?!?」
空中での姿勢制御に異常をきたし、フラつく天使。
回転をやめる寸前のコマのように、彼女の身体がくるくると舞って落ちていく。
コアメダルで補った分の力は今ので尽きた。だが、セルメダルがまだ残っている。
“私の、勝ちだ――!”
命は奪えなかったが、それでも翼を持っていったのは十分に有効だ。
もっとも、今のは不意打ちと全エネルギーを費やしての攻撃……
同じ攻撃が二度通るとも思えない、ヤツにこんな痛手を負わせるチャンスもそうあるとは思えない。
だが、それでも今の一瞬の賭けに勝ったのは、ナスカの方だ。
このチャンスを活かして一気に畳み掛けなければ嘘というものだ。
空中でナスカウイングを羽ばたかせ、落下を始めた少女へ向けて急加速。
ブレードを構えて突貫するが、しかしその瞬間――
「……油断、禁物…」
「っ……!」
勝利を確信したその瞬間。
天使が、一瞬だけ片翼を羽ばたかせ、加速した。
ほんのワンセコンドの加速で、少女はナスカの背後へと回り込んだ。
さっき自分がやったこととと、全く同じことを少女にもやられたのだ。
馬鹿な、思わず口走りそうになる。考えることは両者共に同じだったのだ。
刹那、壮絶な威力を誇る拳が、ナスカの背部に叩き込まれた。
「ぐあッ!?」
これはたまらない。
ナスカの身体が、さっきと同じ要領で地へと加速する。
ぎゅんと音を立てて、地表に激突するまでの間はほんの一瞬。
地面に激突し、アスファルトに亀裂を生じさせ、砂埃をあげるナスカ。
だが、追撃の一手が打たれることはない。
一瞬遅れて、どさりと大きな音が響いた。
少女もまた、これ以上の連続飛行ならず、地面へと落下したのだ。
○○○
ポーカーフェイスの彼女にしては珍しく、表情に苦悶を浮かべるイカロス。
翼が片方、奪われた。大切な可変ウイングが。マスターの元へ行くための翼が。
地面に落ちた、もう使えない片翼を見て、イカロスの顔が陰る。
411
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/04/23(火) 00:42:04 ID:t4uYycQc
「……まだ、飛べる……けど、以前のような加速は……不可能」
その結論に達して、イカロスは大幅なパワーダウンを確信した。
そこらの鳥よりは十分以上に早く、正確に飛ぶことは出来るだろう。
だが、戦闘に必要なだけの機動力や、マッハを越える飛行はもう不可能だ。
随分と大きなハンデを背負わされた。
いや、それでもエンジェロイドの性能を考えればまだ十分此方が有利か。
むしろ、他の参加者とのパワーバランスを考えると、これでも少しハンデがついた程度だ。
さっきの青い怪人は……まだ、息をしている。
白いスーツの姿を晒して、ゆらりとその場に立ち上がる。
ダメージは、信じられないことだが、あまり感じられなかった。
そんな男にキッと視線を向け、イカロスはゆっくりと歩き出す。
そもそも、最初に彼に襲いかかったのはこっちだ。
街を白い服の男が歩いていたから、何も考えずに襲いかかった。
見月そはらもアストレアも死んだ今、思考などしていられる状況では無かった。
私がやらなければならない。私がマスターを救わなければならない。
その思いがイカロスを駆り立てて、緑でない陣営の参加者を襲わせたのだ。
そしたら男は青い怪人になって応戦し――今に至るというワケだった。
それがまさか、こんな深手を負わされることになるなどとその時のイカロスは思っていなかった。
別に憎くはない。やられたことはもう仕方がない。
だが、やられた借りは返さなければいけないと思う。
加頭順を明確な敵として認識し、この手でその命を奪い取ってやろう。
そして、ウヴァに言われたように、メダルをすぐに補充してやろう。
「貴様……」
男が、憎々しげにイカロスを睨んだ。
手元にメモリを構えて、もう一度ボタンを押す。
《NAZCA》
ナスカ――さっきも一度聞いた音声だった。
さっきと同じなら、ヤツはまたあのメモリをベルトに挿入するつもりなのだろう。
「……させない」
イカロスの片翼が空気を叩いた。
イカロスの健脚が大地を蹴った。
まるで弾丸の如き速度で、イカロスは男の腕を捻り上げた。
「――ぐッ!?」
男の手から、メモリがぽろりと地に落ちる。
イカロスはその橙色のメモリを踏み砕いてやろうと脚を振り下ろす。
ガツン、と鈍い音が響く。それは、メモリが破壊された音などではない。
勢いよく踏みつけたのに、メモリが壊れていない……そんな音だ。
なんという耐久性だろうか……
いや、そんなことは今はまあいい。
メモリを踏み締めている限り、男は変身は出来ない。
イカロスの腕がひゅんと風を切る音を立てて、男の首を掴む。
「ぐ……はっ……私が……こんな、ことで……!」
首を締め上げられながらも、男の眼に宿った敵意は消えない。
さらに力を込めて、首を締め上げる。普通に考えれば、これで死ぬ。
だがしかし、男は、それでも死なない。
「……どうして…」
「これ以上……死ねる、ものか……」
男の氷のような冷徹な目に、敵意の炎が揺らめく。
ガシッとイカロスの両腕に腕を回し、人ならざる力でイカロスの腕を締め上げる。
こいつは人ではないのか。少なくとも、人にしてはありえない怪力だった。
こいつは何者だ? そんな疑問がイカロスの頭を埋め尽くす。
その瞬間に、男の鋭い蹴りが、イカロスの腹を抉った。
「――!?」
ダメージと言う程のものでもない。
だが、イカロスを驚かせ、引き離すには十分な威力。
蹴りの威力に数メートル蹴り飛ばされたイカロスは、顔を上げた。
「私の、愛が……こんなところで、終わると……思うな……!」
「……愛?」
無表情ながらに、小さく疑問を漏らすイカロス。
愛とは、なんだ? 愛という感情は、人をここまで強くするのか?
どうでもいい、取るに足らない男の発言に、イカロスの動力炉が揺れる。
否――知らないフリはやめろ。自分は、愛という言葉を、知っている。
愛とは、イカロスが、たった一人のマスターに捧ぐ感情。
それが、この男もまた、同じ感情を――
いいやそんなことは関係ない。
412
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/04/23(火) 00:43:59 ID:t4uYycQc
愛がどうだというのなら、此方とて負けてはいない。
愛をかけた戦いというのなら、イカロスはむしろ、負けるワケにはいかない。
この男は確実にここで仕留める。そして、自分の愛の深さを証明しよう。
人間の姿で居る限り、少なくともイカロスの速度について来ることはない。
それはわかっている。加速すれば、例え片翼でもヤツは反応すら出来ない。
“確実に……殲滅する……!”
さっき以上の加速力。
イカロスの片翼が羽ばたき、一瞬で風の速度を越える。
今度は蹴りで、確実に男の胴を真っ二つにしてやる。
いかな強者であろうとも、エンジェロイドの全力の蹴りに耐えられるものか。
イカロスだけが認識する時の中、一瞬で肉薄したイカロスは、蹴りを放ち――
――その時、不思議なことが起こった。
イカロスの蹴りが命中したかに見えたその瞬間。
脚が触れていた場所。男のポケットにあたる位置。
そこから、緑色の輝きが溢れ出して、その光がイカロスの動きを掣肘する。
動かない。動けない。ほんの一瞬が、無限の時間のように感じられた。
蹴りを押し切ることが不可能だと判断した瞬間、イカロスは後方へと飛び退いた。
「これは……?」
「これは……」
二人の声が揃う。
男が、ポケットから緑色の石を取り出した。
男もまた何が起こっているのかを理解出来ていないようだった。
男の手の中で眩く光輝く緑色の宝石に、イカロスも心を奪われた。
否、その表現は少々不適切か。
ただ、動けないのだ。石に見入って、身体が動かないのだ。
それだけの威圧感を、あの石は周囲に無差別に振り撒いているのだ。
何が起こるのか。身構えるイカロスを尻目に、石は男の手から落ちた。
というよりも、男が自らあの石を離した、というべきだろうか。
石はあのメモリと同じように、男のベルトへと吸い込まれて行った。
正確には、ベルトに吸い込まれたワケではあるまい。
あの石が、ひとりでに男の体内に入っていったというべきか。
次の瞬間、あの銀のベルトの上に、緑色の宝石を収めたバックルが現れた。
それが男の腰に取りついて、全身に銀色の鎧を形成した。
“……何、が……!?”
銀色の姿になっても依然、威圧感を放つ男に、イカロスは戦慄する。
こいつは、危険だ。さっきまでの青い怪人とは比べ物にならないくらいの重圧感。
だが、倒せない敵であるとも思わない。むしろ、戦えば依然こちらが有利なハズだ。
カシャン、カシャン。金属音を鳴らして二歩。敵がこちらに向き直る。
その緑色の複眼から、確かな敵意を感じる。
排除しなければならない。
こいつは、排除しなければならない敵だ。
イカロスは、現れた敵に――?
【一日目-夜】
【E-6 市街地】
【イカロス@そらのおとしもの】
【所属】緑
【状態】健康、片翼、そはらとアストレアの死に動揺
【首輪】50枚:0枚
【コア】エビ(一定時間使用不可) 、カニ
【装備】なし
【道具】基本支給品×2、アタックライド・テレビクン@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:本物のマスターに会うため、偽物の世界は壊す。
1.本物のマスターに会うためにまずは目の前のシャドームーンをなんとかする。
2.嘘偽りのないマスターに会うために緑陣営以外は殲滅する。
3.共に日々を過ごしたマスターに会うために緑を優勝させねば。
【備考】
※22話終了後から参加。
※“鎖”は、イカロスから最大五メートルまでしか伸ばせません。
※“フェイリスから”、電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。
※このためイマジンおよび電王の能力について、ディケイドについてをほぼ丸っきり理解していません。
※「『自身の記憶と食い違うもの』は存在しない偽物であり敵」だと確信しています。
※「『自身の記憶にないもの』は敵」かどうかは決めあぐねています。
※最終兵器『APOLLON』は最高威力に非常に大幅な制限が課せられています。
※最終兵器『APOLLON』は100枚のセル消費で制限下での最高威力が出せます。
それ以上のセルを消費しようと威力は上昇しません。
『aegis』で地上を保護することなく最高出力でぶっぱなせば半径五キロ四方、約4マス分は焦土になります(1マス一辺あたりの直径五キロ計算)。
※消費メダルの量を調節することで威力・破壊範囲を調節できます。最低50枚から最高100枚の消費で『APOLLON』発動が可能です
※片翼をもがれました。今や片翼の堕天使です。
それにともない以前のようなブッ飛んだ加速力と安定性を失いました。
413
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/04/23(火) 00:44:31 ID:t4uYycQc
○○○
加頭が立っているのは、瓦礫の廃墟の中だった。
空は晴れている。太陽の日差しが暖かく、ここはさっきまでの場所とは違うことを悟る。
私はどうしたのだ? そう思いながら周囲をぐるりと見渡してみる。
あっちこっちから、無辜なる人々の悲鳴が聞こえる。
あっちこっちから、ひっきりなしに煙が上がっている。
何かの騒動の真っ最中であろうか?
話に聞いた、大ショッカーによる世界征服の映像だろうか。
それとも、その元組織であるゴルゴムの……?
いや、どちらでも構わない。
これはおそらく、夢だ。ただの幻だ。
あまりにも突拍子がなさすぎるし、こんな現実は有り得ない。
現実の自分はどうしてしまったのだろう。まさか、ここがあの世だなんてことはあるまい。
そう思った時、加頭は妙に耳に残る機械音を聞いた。
――カシャン、カシャン、カシャン、カシャン。
背後から聞こえるその音に、加頭はそっと振り向く。
そこにいるのは、銀色の戦士……外見的特徴だけをあげるなら、仮面ライダー。
加頭もよく知るあのダブルによく似た複眼の戦士が、そこに佇んでいた。
そして、そいつを加頭は知っている。
そいつが仮面ライダーでないことを知っている。
いや、知っているどころではない、アレは、自分だ。
今の、シャドームーンとなった自分自身の姿だ。
それを加頭は、何とはなしに理解した。
ごくりと生唾を呑みこむ加頭の中に、シャドームーンの記憶が流れ込む。
ゴルゴムの創世王となるべき戦士の誇りと矜持。
共に誕生した兄弟への激しい闘争心。
それは、シャドームーンの記憶というよりも、キングストーンの記憶というべきか。
両手に長さの違う剣を二本構えて、明らかな敵意の籠った眼差しを向けるシャドームーン。
ヤツはいま、確かめようとしている。
この加頭順が、本当に創世王の器に相応しいかどうか。
あの月影ノブヒコ以上の資質を持つに足るかどうかを、確認しようとしている。
何としてでも次の創世王を決しようと言う、キングストーンの深い執念。
それを、加頭はひしひしとこの身で感じた。
月影が死んでしまったなら、それはそれでいい。
だが、代わりにヤツ以上の創世王の逸材を用意せねばなるまい。
そう考えているのだ。
「……いいでしょう……私、貴方を認めさせてみせます」
これは試練だ。
冴子へ到達するための愛の試練だ。
加頭の身体が、自分のイメージする最も洗練された姿へと変わる。
それは、黄金の装甲に、赤い裏地の気高きマントを背負った姿。
もう現実では幻の存在となってしまった、ユートピアドーパント。
理想郷の杖を掲げて、加頭は……否、ユートピアは、世紀王に挑む。
【加頭順@仮面ライダーW】
【所属】青
【状態】健康、激しい憎悪、目的達成のための強い覚悟、シャドームーンに変身中、自我無し
【首輪】25枚:0枚
【コア】トラ(10枚目:一定時間使用不可能)
【装備】ガイアドライバー@仮面ライダーW、超振動光子剣クリュサオル(メラン)@そらのおとしもの
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:園崎冴子への愛を証明するため、彼女を優勝させる。
0.気絶中(精神世界では意識を保っています)。
1.冴子への愛を示すために、大道克己と美樹さやかは必ずこの手で殺す。
2.T2ナスカメモリは冴子に渡す。
3.笹塚衛士は見つけ次第始末する。
414
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/04/23(火) 00:45:12 ID:t4uYycQc
【備考】
※参戦時期は園咲冴子への告白後です。
※回復には酵素の代わりにメダルを消費します。
※アポロガイストからディケイド関連の情報を聞きました。
※アポロガイストから交戦したエターナルについての情報は詳しく聞いていましたが、さやかについてはNEVERのようなゾンビであるとしか聞いていませんでした。そのため魔法少女の弱点がソウルジェムであることを知りません。
※以下精神世界における思考。
1.シャドームーンを自分のモノにする。
【全体備考】
※E-6市街地にイカロスの片翼が落ちています。
※E-6市街地にT2ナスカメモリが落ちています。
415
:
◆QpsnHG41Mg
:2013/04/23(火) 00:47:06 ID:t4uYycQc
ここまでです。
タイトルは「アンブレイカブル・シャドームーン」に変更したいです。
駄目なら前のままでいいです。
416
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/04/23(火) 07:54:23 ID:Wk2pcy3k
修正乙です
これなら、問題はないと思います。
417
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/04/23(火) 08:30:59 ID:vOYgR2XI
修正お疲れ様です。
大幅にシーンも追加されていて、以前にも増して楽しめました。
問題視されていた点もこれなら大丈夫だと思います。
418
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/04/29(月) 14:29:54 ID:VPPV3J/2
うんうん、修正お疲れ様でした
これならおkです
419
:
こいつのコアは砕かれた
:こいつのコアは砕かれた
こいつのコアは砕かれた
420
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/05/20(月) 22:29:10 ID:QVkobJqE
皆様、どうも。こんばんは。
大変長らくお待たせしました。
完成したので、投下します。
421
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/05/20(月) 22:31:37 ID:QVkobJqE
一言で言うなら、外道。
若くは鬼か、悪魔か、少なくとも、人間が普通に持つ感情を凡て失った、若くは初めから持っていない生き物……。
衛宮切嗣とは、そんな男だ。
妻、アイリや、娘、イリヤに向ける愛情は、彼の所業を知る者からすれば、そんなものは嫌味以外なんでもない、そう思えるほどの男だ。
確かに、セイバーは彼とそう長いこと付き合っていた訳ではない。
寧ろ、普通の人間が同じ期間付き合うより、親しくなっていない。
だから、彼の事を本当に知っているかと言われたら、頷けない。
でも、普通の人間なればこそ……。
セイバーと、同じだけの期間を、彼と過ごせば、間違いなく思うだろう。
その、余りに清廉で美しい無償の愛が、どう考えても、嘘っぱちにしか見えないことを………
移動した先の言峰教会。
重症の切嗣はいまだ目覚めず、容体安定なれども予断不安定、とでもい*べきだろうか。
その苦しみと物理的に歪んだ顔は、如何にいけすかない切嗣の顔とはいえ、とても哀れに思ってしまう顔だった。
セイバーは襲撃者を恐れ、どんどん暗くなって行くあたりを睨みつけながら、切嗣の回復を待つ……。
422
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/05/20(月) 22:32:39 ID:QVkobJqE
「切嗣さん起きないね」
と、隣の鈴羽はそう言った。
ため息をつきながら、セイバーは頷く。
「はい」
全く時間の無駄だと、セイバーはそう思った。
このドジを踏んだ、どうせいつものように外道を働いていた冷血漢を、どうして待たなければならない?
その時間を、他に助けにいけるものを探すのに当てれば…、と思って、セイバーは、思わず笑出しそうになった。
そうだ、切嗣は心配で心配で仕方ないが、どうせこいつはそのうち治る。
話を聞けるかと期待して、コアメダルを二枚もくれてやったし、漁った鞄に残ったメモから察するに、切嗣はアヴァロンをもっている。
どうせ遠くない時期に目を覚ますのだから、それまでここで待つ必要もない……。
例え鈴羽の言う荒唐無稽が真実でも、この男が新年を曲げるとは思わない。
どうせまた、同じような外道を働くに決まってる。
仮にも聖杯戦争のマスターだ。
悪と断じて切り捨てたいのもあるが、そんな欲望を否定する理性もある。
423
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/05/20(月) 22:34:25 ID:QVkobJqE
-----------------だから、信頼できる仲間に、任せてしまおうと、セイバーは考えた。
仮面ライダーオーズバトルロワイアル
第100話―――「敗者の刑・ツヴァイ」
「ではスズハ、私は騎士としての勤めに果たしに、街をゆきます」
「うん。それで、次の放送までに戻ってくるんだよね」
「はい」
ドルンドルンと、エンジンがなるのが心地いい。
遠い昔に跨った愛馬の嘶きを思い出す。
「武器はいらないの?」
「ご心配なさらず。どんな相手だろうと受けて立ちます」
武器を受け取らないのは、良心が痛むから。
何があるかもわからない土地で、鈴羽とけが人を置き去りにして、正義を果たしにいくことが気が重いから。
だが。
きりつぐ
まるで外道のような置き去りをしようとするに値する、「嫌なこと」が、ここにはある。
間違ったことをしようとしても、鈴羽が止めてくれる。
そもそもこの怪我では難しいだろうが。
424
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/05/20(月) 22:38:09 ID:QVkobJqE
鈴羽が危険な目にあったら、見捨てられるかもしれない。
だから、武器は受け取らない。
ならば、私が、街で正義の行いを働いた方が、効率がいいというものだろう。
「では、ご健勝をお祈りいたします」
「ありがとう」
鈴羽に背を向けるセイバー。
その背中に注がれる視線を気にもせず、セイバーは教会の門をくぐり抜け。
――やがて、バイクのテールランプが、闇の中へ消えていった。
425
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/05/20(月) 22:47:52 ID:QVkobJqE
【一日目-夜中】
【B-4/言峰教会】
【衛宮切嗣@Fate/Zero】
【所属】青
【状態】ダメージ(極大)、貧血、全身に打撲、右腕・左腕打撲、肋骨・背骨・顎部・鼻骨の打撲、片目視力低下、牧瀬紅莉栖への罪悪感、回復実行中
【首輪】0枚:0枚
【コア】サイ、ライオン×1、タコ×1(一定時間使用不可)
【装備】アヴァロン@Fate/zero、軍用警棒@現実、スタンガン@現実
【道具】なし
【思考・状況】
基本:士郎が誓ってくれた約束に答えるため、今度こそ本当に正義の味方として人々を助ける。
0.――――――――。
1.偽物の冬木市を調査する。 それに併行して“仲間”となる人物を探す。
2.何かあったら、衛宮邸に情報を残す。
3.無意味に戦うつもりはないが、危険人物は容赦しない。
4.『ワイルドタイガー』のような、真木に反抗しようとしている者達の力となる。
5.バーナビー・ブルックスJr.、謎の少年(織斑一夏に変身中のX)、雨生龍之介とキャスター、グリード達を警戒する。
【備考】
※本編死亡後からの参戦です。
※『この世全ての悪』の影響による呪いは完治しており、聖杯戦争当時に纏っていた格好をしています。
※セイバー用の令呪:残り二画
※この殺し合いに聖堂教会やシナプスが関わっており、その技術が使用させている可能性を考えました。
※かろうじて生命の危機からは脱しました。
※顎部の骨折により話せません。生命維持に必要な部分から回復するため、顎部の回復はとくに最後の方になるかと思われます。
四肢をはじめとした大まかな骨折部分、大まかな出血部の回復・止血→血液の精製→片目の視力回復→顎部 という十番が妥当かと。
また、骨折はその殆どが複雑骨折で、骨折部から血液を浪費し続けているため、回復にはかなりの時間とメダルを消費します
【阿万音鈴羽@Steins;Gate】
【所属】緑
【状態】健康、深い哀しみ、決意
【首輪】70枚:0枚
【装備】タウルスPT24/7M(7/15)@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式、大量のナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、9mmパラベラム弾×400発/8箱、中鉢論文@Steins;Gate
思考・状況】
基本:真木清人を倒して殺し合いを破綻させる。みんなで脱出する。
0.この人が衛宮切嗣……。
1.衛宮切嗣の看病。
2.知り合いと合流(岡部倫太郎優先)。
3.桜井智樹、イカロス、ニンフと合流したい。見月そはらの最期を彼らに伝える。
4.セイバーを警戒。敵対して欲しくない。
5.サーヴァントに注意する。
6.余裕があれば使い慣れた自分の自転車も回収しておきたいが……。
【備考】
※ラボメンに見送られ過去に跳んだ直後からの参加です。
※セイバーの姿はもう闇に飲まれて見えません。
426
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/05/20(月) 22:48:26 ID:QVkobJqE
【B-4/言峰教会周辺】
【セイバー@Fate/zero】
【所属】無
【状態】疲労(小)
【首輪】60枚:0枚
【コア】無し
【装備】無し
【道具】基本支給品一式、スパイダーショック@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:殺し合いの打破し、騎士として力無き者を保護する。
1.どこかへ行く。切継のいないどこかへ。
2.悪人と出会えば斬り伏せ、味方と出会えば保護する。
3.衛宮切嗣、バーサーカー、ラウラ、緑色の怪人(サイクロンドーパント)を警戒
4.ラウラと再び戦う事があれば、全力で相手をする。
【備考】
※ACT12以降からの参加です。
※アヴァロンの真名解放ができるかは不明です。
さて、こうして別れてしまった三人。
皮肉な運命に弄ばれ、同じ方向へ協力して歩けるはずだったのに、それもかなわない。
騎士王
子供のような意地で別れるアーサー・オブ・ザ・キング。
魔術師殺し
眠り姫のように眠り続けるセイギノミカタ。
建物にいるバイト戦士。
二人はこれから、どこかで交わることができるのだろうか。
つづく。
427
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/05/20(月) 22:50:47 ID:QVkobJqE
ご静聴ありがとうございました。
これで修正した奴の投下完了です!!
ご満足いただけましたでしょうか?
428
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/05/21(火) 19:30:55 ID:wQwzQKHE
うーん、正直満足は出来ません。
確かに議論スレなどで指摘されていた問題点は『切嗣は回復せず』という一点でクリアはしている様には見えるのですが、
セイバーが離れるという結末だけは変えていないのですよね。
ただ、正直幾ら武器を置いていったといっても鈴羽1人を置き去りにして行くのはまずあり得ないのではないのでしょうか?
この状況でバーサーカー、ラウラ、サイクロンドーパントが襲撃したら終わりなのはセイバー自身がわかっていると思うのです。
それに、一応『Fに誓いを/ダイヤモンドは砕けない』で迷いながらも待つことにしていたのにあっさり見切りを付け過ぎではないのかと?
結局、修正前で言われている様に結果ありきでキャラの表現を飛ばしたという部分では何も変わっていないのですよね。
再修正するにしても既に1週間以上拘束していますし、氏のスケジュール的に厳しいでしょうからここは一旦決断する事も必要ではないでしょうか?
429
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/05/21(火) 23:30:42 ID:OZj1komo
もうこれでいいんじゃないかと思うけどな
それだってキャラ解釈の違いだし、大きな問題点はもうないんだから、いちゃもんと取られてもおかしくよ
430
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/05/21(火) 23:44:55 ID:HplNBRxo
とりあえず気になったのですが、
>>423
の『きりつぐ』や
>>421
のとでもい*べきだろうかは変換ミスですか?
違ったら申し訳ありません
431
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/05/22(水) 00:11:28 ID:rLC1e1g.
キャラ解釈の問題にしても修正前の段階で何度か指摘されていたからこれをまるっきり無視するわけにはいかないのでは? その辺に対する反論は氏からも他の人からも無かった筈。
それにやはり、セイバーの方針転換にしろ、鈴羽を1人放置するのはやはりあり得ない。襲撃者を考えるのは言うに及ばず、セイバー視点で危険人物である切嗣と共に置いておくのはどれだけ危険かセイバーだってわかっているはず。
むしろ、問題なのは修正するにせよ氏にその時間が取れるのかどうかなのだが。
432
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/05/22(水) 00:27:57 ID:aJ3rOQGU
そうですね、ラウラや(セイバー視点では切嗣をボコボコにした)サイクロンドーパントとの戦いを経てサーヴァント並みの実力を持つ参加者が多数いることは把握済みだと思われるセイバーが二人を置いてどっか行くかなぁとは自分も思いました。
何より数時間前に止む無しとはいえ鈴羽、そはらと別れ、結果論ですがそはらを死なせることになってしまったことを悔いていたセイバーがまた前述のような強力な参加者に襲われる可能性を考えずそれに対応する力のない二人を置いていくとは考え難いです。
とすると今回のssはコアメダル二枚消費しても切嗣が起きないことを確認するだけのものとなってしまい、とても中身の薄いものとなってしまうと思われます。
となると修正、というのも難しいと思いますので非常に言いづらいのですが、今回は一旦破棄という形をとるのが一番穏便に済むかと。
433
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/05/22(水) 00:36:19 ID:KwG.Jc/g
読み手が勝手に「書き手が時間を取れるかどうか」を推し量って破棄を要求するのはどうかな
「中身が薄い」だなんていう修正点にもなっていない意見が修正の理由にはならないし
他の書き手がダメだと言わない限り、これでいいと思います
434
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/05/22(水) 00:54:11 ID:rLC1e1g.
中身が薄いだけじゃ無く、複数がセイバーの思考の問題を指摘している筈では。
いや、修正が出来るのならばそれでも良いのだが、
ただ、正直書き手の態度にも問題があるのも確か、
というのも投下したのが先週の日曜日で、問題の指摘に関しては24時間以内である月曜日には出ていた筈なのに、
作者からの明確な意見が出たのは『このままコメント出さないなら破棄になりますよ』というコメントが金曜日に出た翌日の土曜日、つまり実質ほぼ1週間後。
幾ら初めてだからといって、仕事で忙しいから全く連絡が出来なかったというのは言い訳にしては苦しい。初めてなら尚のこと連絡は欲しかった、一言でも良いので。
他の書き手も忙しい中で時には破棄という苦渋の決断をしているからそこを考えてと言う話。
で、これを修正するのに忙しいのでまた1週間とかそういう話になると、流石に拘束しすぎで難しいので、今回はそういう方向で考える事も、というお話。
435
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/05/22(水) 00:59:37 ID:5XROqPQs
・今度はセイバー関係で矛盾があるので、採用はまだ見合わせが妥当だと思う
・他の書き手さんもこのパートを書きたいかもしれないかもしれないのが気になる
詳しいことは上で言われたので繰り返さないとして、私が思うのはこの2点です
436
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/05/22(水) 01:43:32 ID:SuZWF70g
皆さん、俺のせいで……ごめんなさい。
受験生なので、お母さんにばれないようにやっているので、返事が遅れてしまったことも、ごめんなさい……。
でも、今なら大丈夫なので、急いで修正しました。
今度こそ皆さんに満足していただけるように頑張りました!
>>423
の奴の入れ替えになりますが、投下します!
437
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/05/22(水) 01:45:39 ID:SuZWF70g
-----------------だから、信頼できる仲間に、任せてしまおうと、セイバーは考えた。
仮面ライダーオーズバトルロワイアル
第100話―――「敗者の刑・ツヴァイ」
「では、次の放送までには帰ってきますので、それまでは地下で大人しくしているように」
「うん、切嗣さんのことはあたしに任せて」
あれから教会に地下隠し部屋を見つけたセイバーは、鈴羽と切嗣に、そこに隠れているように指示した。
あそこに隠れてじっとしていれば、見つかることはそうそうないはずだ。
本当なら鈴羽達も連れていきたかったが、こんな状況の切嗣では足手まといもいいところ。
だが、かといって、放置しておくわけにもいくまい。
案ぜずとも、今の切嗣には武器はないし、アヴァロンの回復ペースを考えるに、次の放送までに鈴羽をどうにか出来るほどの体力回復も望めそうにない。
鈴羽にも武術の心得はあるようだから、そんな切嗣に遅れを取ることはありえない。
今は自分とて武器を失っている。
自衛だけならまだしも、鈴羽を守りながら戦うのはつらい。
足手まといになられるくらいなら、あそこに隠れて居てもらった方が悔しいが安全だろう。
「ではスズハ、私は騎士としての勤めに果たしに、街をゆきます」
ドルンドルンと、エンジンがなるのが心地いい。
遠い昔に跨った愛馬の嘶きを思い出す。
「武器はいらないの?」
「ご心配なさらず。どんな相手だろうと受けて立ちます」
武器を受け取らないのは、良心が痛むから。
何があるかもわからない土地で、鈴羽とけが人を置き去りにして、正義を果たしにいくことが気が重いから。
だが。
きりつぐ
まるで外道のような置き去りをしようとするに値する、「嫌なこと」が、ここにはある。
間違ったことをしようとしても、鈴羽が止めてくれる。
そもそもこの怪我では難しいだろうが。
438
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/05/22(水) 01:48:56 ID:SuZWF70g
これで大丈夫だと思いますが、どうでしょうか……?
439
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/05/22(水) 02:08:41 ID:rLC1e1g.
大丈夫ではありません。
教会の地下隠し部屋なら見つからないから大丈夫という発想自体、ちょっと浅知恵過ぎるかなと。
バーサーカーは言うに及ばず、キャスターの様なタイプだったらむしろこれでもマズイのではないでしょうか?
しかも
>>423
の差し替えとの事ですが、これだと、他の部分とのセイバーの思考が矛盾してしまっているのでは?
正直、結果ありきで書いているせいか全体的にちぐはぐな印象が。
あと、受験生云々で言い訳なんてしないでください。そういう事で言い訳するぐらいなら素直に手を引いて下さい。条件は他の書き手も一緒です。両立できないで言い訳するぐらいなら無理しなくて良いです。
440
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/05/22(水) 02:18:13 ID:6lJi.9j6
浅知恵とは言うが、かといって連れて歩くのもマズイってことは修正で描写された以上、セイバーの離脱の理由に関してはもうこれで通しでもいいと思いますよ。
そんなこと言い出したら、それこそイチャモンと言われても仕方ないでしょうよ。
個人的には、あとは全体的にちぐはぐなところさえ修正出来れば完成でいいかと。
441
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/05/22(水) 11:56:38 ID:Cd51I2cY
個人的には無しですね
二人の会話を削っただけでセイバーの前話の思考との矛盾が一切解決されていませんし
別れさせるという結論ありきで書かれた所為か、修正以前に挙げられた原作のキャラクターとの矛盾がより酷くなっています
上でイチャモンと仰られていますが修正点として挙げられた部分を修正しきれないままのモノを通しては議論の意味がないのでは?
というわけで
・前話までのリレー無視
・原作との矛盾
の二点からこの修正では足りないのではと意見しておきます
442
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/05/22(水) 16:20:14 ID:t6MFoUX2
あの、言峰教会に隠し地下室ってあるんですか?
笛に詳しくないので気になったのですが
443
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/05/22(水) 16:53:24 ID:k1hOAVO.
>>442
ステイナイトの方ですが登場した記憶はあります
444
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/05/22(水) 17:37:17 ID:t6MFoUX2
>>443
ありがとうございます
この修正案については…違和感が残る気もする反面、こんなものかと思わなくもないので、自分はまだどっち付かずです。すいません
ただ、改めて指摘したいことが一つ
推測ですが、氏はもしかして98話での状態表をコピペして加工したのかな?と見ていて感じたのですが、
もしそうならここで99話での状態表を改めてコピペしてから加工し直した方が良いと思われます
切嗣のダメージや鈴羽の思考の追加が結局フォローされてないので
445
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/05/22(水) 18:20:56 ID:Hic/FkZ2
セイバーが離れたら、アヴァロンの回復ペース落ちるんじゃないか?
446
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/05/23(木) 22:13:29 ID:n9uL3cjk
他の書き手が意見言わないってことは、これでいいと思ってるってことじゃないの?
読み手にしても、何人かはこれでいいと言ってる以上、総意というわけじゃない
書き手が意見しないことにはこれ以上の修正要求はできない
447
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/05/23(木) 22:40:18 ID:frgRZVG.
他の書き手が何も言わない=これでいいと思ってる
になる理由がイマイチわからない
加えて言うなら、総意でなくては修正要求できないとする理論もイマイチわからない
修正要求以前以後に出てきた指摘が解決されてない以上このまま通しってわけにはいかないんじゃないでしょうか
448
:
◆qp1M9UH9gw
:2013/05/24(金) 03:06:23 ID:v.DMGSgU
鳥付きで。
やはりセイバーの性格面に違和感を感じました。
特に、これまでに比べて切嗣への反応が明らかに辛辣になっているのには疑問を感じざるを得ません。
納得のいく心境の変化があったのならまだしも、突然彼を憎悪してるかの様な態度になるのは妙だと思います。
あと、誤字が多すぎて大変読み辛いです。
時間が無いのも分かりますが、投下する際には推敲くらいして下さい。
449
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/05/24(金) 08:28:38 ID:fnt/hb46
まず、他の方がおっしゃっているようにセイバーの性格にひどく違和感を感じます。セイバーが切嗣へ抱いているのはこうも直情的な嫌悪ではないでしょう。
ランサー陣営の件があったとはいえ内心では彼のことを認めていますし、前々からの話でのセイバーの言動にも矛盾が生じるように思います。セイバーが切嗣をこの話で見られるように憎悪・嫌悪しているのなら、そもそも助けようとすらせずにフィリップが正しい可能性にだって思い当たっていないとおかしいです。
そして何より、あなたは1つ前の話をちゃんと読んでいるのでしょうか。その前の話の状態表を使ってみたり、心理描写が矛盾していたりと、正直これはリレー無視も甚だしいのではないのでしょうか?
450
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/05/25(土) 09:56:42 ID:k8uLC4Ik
◆BXyDW0iXKw氏は受験生というならこれ以上修正に時間をかけて勉学の時間を削ってもらうのは気が引ける
だからどこか適当な落としどころを早く決めたほうがいい
最悪破棄も視野に入れて
451
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/05/25(土) 15:00:44 ID:XWd.9LjY
そうですねぇ。
書き手氏を悪く言う気はありませんが、今回は修正や議論への対応をするという時間まで確保しきれなかった◆BXyDW0iXKw氏の考えが足らなかったということで、一時破棄の対応をとるべきではないでしょうか。
私にも経験はありますが、受験期には自分の気の向く楽しいことで受験のストレスを発散しようとしてしまうのは、人間である以上ある程度仕方無いと思います。
しかし、仮にも書き手としてロワ企画に参加したからには、受験生であるという都合を知らないロワの人に自分の都合を知らせて気を使ってもらおうとするのではなく、自分の都合がどれだけ大事でも、
それを潰して作品の執筆、それの推敲、投下、問題点があった際の議論への対応、議論の結果を受けての修正……ここまで出来なければそれは最早書き手とはいえないと思います。
上でも仰られている方がいますが、未来ある若者の一生に一度しかない受験の時間を潰すというのは、我々としても望むことではありません。
……今日で丁度予約から三週間です。流石にキャラを縛り過ぎであると思うので、今日か明日までに連絡がなければ作品は破棄、ただし◆BXyDW0iXKw氏から連絡があり、また早急な修正が可能ならばその際はまた議論の必要ありと。
そして最後に、厳しいことを言うかもしれませんが、一つだけ。
私は、一生における受験期の大事さを、一成人として身に染みるほど感じております。
何の受験かを聞く気はありませんが、それによっては一生ものの友人、恩師、或いは恋人だって手に入るかもしれません。
そんな大事な人と出会える場所を、今のあなたの頑張りが決めるといっても過言ではないのです。
私は正直成功したとは言い難いのですが……、まぁそれは置いておくとして、未来有望なあなたには、ここでの作品執筆以上にやるべきことが溢れるほどあるのです。
息抜きも時には大事ですが、しかしそれは本当に息を一旦抜きたいときでけです。
見る分には構いませんが、書くとなるとロワ企画というのは息抜きには向かないものであると、私は思います。ですので今は勉強に集中して、落ち着いたら思いっきり作品を書いて頂きたいなというのが、私の本音です。
長いうえ、殆どロワとは関係なく受験生としての◆BXyDW0iXKw氏への言葉で申し訳ありませんでした。不快に思われた方がいるなら、この場で謝罪させていただきます。
452
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/05/25(土) 15:22:59 ID:41rF936U
これはさすがに自分語りが過ぎる
説教したいならよそでやれよ
453
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/05/25(土) 16:05:06 ID:89X.XIBA
修正を見込んで期間延長する措置は既に一度取りました。
なので今回は今日か明日で投下が来ない、または採用できない内容の修正案しか来ない場合はそれで破棄扱いで十分だと思います。
当該パート及び関連しそうなパートのためにも、もうケリを着けるべきかと。
454
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/05/26(日) 18:05:40 ID:1pSm7tGA
自分もそれで異論はないです。
書き手氏にも都合があるのはわかりますが、流石にこれ以上時間を取られるのはまずいでしょうし。
455
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/05/26(日) 21:25:23 ID:Va.biv76
それでよろしいかと
456
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/05/27(月) 02:06:20 ID:XOZjxbrQ
うぅ…皆さん、俺のせいで…今回は本当にごめんなさい…;
今回は期間内に皆さんの満足のいく作品を執筆出来なかった俺が悪かったです…。
おっしゃる通り、僕はいま高校受験で大変です…でも、本気でこのロワのためにも頑張りたい…その僕の熱意も本物なんです!
だから、次からはこんなことのないように頑張ります…すいませんでした…
それではまた、次回予約の時はよろしくお願いします。
457
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/05/28(火) 00:48:38 ID:BmlGsyCM
どうも、こんばんわ。
早速ですが、修正したので投下します!
458
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/05/28(火) 00:49:10 ID:BmlGsyCM
伊達明は、鏑木・T・虎徹にすごい似ている。
バーナビーは、そんな虎徹に、モヤモヤしていた……。
どうして、この人は、虎徹さんにこんなに似ているんだ……。
この人があの人にもっと似てなかったら、こんな気持ちにならなくていいのに……!
オーズロワ第101話
「Mは打たれ強い/敗者のその後」
「なあバーナビー、ちょっと休憩しねえか」
「休憩?そんなことしてる暇があるんですか」
「まあまあ、もうずっと歩いてんだし、ちょっとくらい休まねえと身が保たねえだろ?」
休憩の提案を受けたバーナビーは、釈然としないも伊達に従うことにした。
言われてみれば、あの少女との戦いから既に一時間近くも歩いているようだ。
伊達はまだしも、重たいスーツを着て歩くバーナビーが疲れていないわけがなかろう。
そこまで見越してバーナビーに休憩の提案をしてくれたのだとしたら、とても気の効くと思う。
そんな姿にまで虎徹さんを連想してしまって、バーナビーはまたモヤモヤする……。
「どうして……そんなに……似ているんだ……」
「ん?なんか言ったか?」
「……別に。何も言ってませんよ」
「そうか?変な奴だな」
思わず漏れた言葉は、どうやら伊達の耳には届いていなかったようなので、バーナビーは安心する。
もしも今の言葉が聞かれていたら……とても恥ずかしい。
きっと伊達さんは根掘り葉掘り聞いてくるからだ。
「それで?これからどうするんですか、伊達さん」
バーナビーはそこに立ち止まって、伊達に聞く。
虎徹のことを考えているとつらいので、話を逸らしたかった。
「そうだなぁ……俺ら二人だけじゃ、戦力的に無理があるってことはさっきの戦いで分かったんだ、となれば次は仲間集めかな?」
「そうですね、虎徹さんのような人ともっとたくさん合流して、巨大なチームを作れれば、きっと今度はあの少女にも……」
バーナビーの声には、苛立ちが混じっていた。
今の自分達の戦力では、カオス級の敵には勝てない……。
恐らく、そこに鈴音のようなIS使いが一人加わったとしても……。
勝てない……悔しいので……力が欲しい……。
鈴音のような犠牲を出さなくていいような力。
もう、あんな悔しい思いをするのは沢山だ……。
鈴音のことを考えると、無力な自分に悔しさがこみ上げる……。
必要なのは力だ……。
誰にも負けない、とても強い力……。
そしてそれを最も手っ取り早く満たす方法が、純粋な戦力の増強……つまり、仲間との合流……!
459
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/05/28(火) 00:51:23 ID:BmlGsyCM
バーナビーは今、一刻も早く虎徹と合流したいと思っていた。
「ハッ……!?」
いけない……。
また、虎徹のことを考えてしまっていた。
何かあると、すぐに虎徹さんのことを想ってしまう。
これでは、まるで恋する乙女だ……恥ずかしい……。
「にしても、ドクターもロクな支給品寄越してくんねえんだもんな、もっと強い武器がありゃ」
「ないものねだりをしても仕方ないでしょう」
「そりゃそうだけどさ、ほらISとか一回でいいから使ってみたくない?カッコいいし」
「ISは女性にしか使えませんよ」
「あれ?そうだっけ」
「そうですよ……」
「ははっ、いっけね」
まさか本当に忘れていたわけでもあるまいに、バーナビーはこの人のいい加減さにまたもため息をついた。
だが、もっと強い支給品があればというのは確かに同意する面もある。
「……これじゃ、飛べませんからね」
バーナビーは、デイバッグから自分に支給されていたガイアメモリなるアイテムを取り出した。
Mみたいなマークが書かれた黒いガイアメモリ、その名をマスカレイドメモリというらしい。
説明書によると、使用者に超人的な力を与える地球の記憶を内包したメモリ……とのことだ。
超人的な力という言葉をそのまま信用するなら、これを使用している限りはハンドレッドパワーが常時使用可能になるということにも等しいと思うが、慎重なバーナビーはこんな得体の知れないものを使う気にはなれなかった。
いや……。
もし、その慎重さが鈴音を死にいたらしめたのだとしたら……?
このメモリの能力を信じて、あの時使っていたなら、何か変わっていたのだろうか……?
そんなバーナビーの考えを読んだようなタイミングで、伊達が言った。
「変なことは考えんなよ、バーナビー」
「……分かってますよ、一応、持っているだけです。いざという時時のために」
「お前の言うようないざという時ってのには来て欲しくないもんだねぇ」
こんな気味の悪いもの、使わざるおえない状況にならない限りは使うべきでない。
それ故にこそにさっきの戦いでもこれを使うことはなかった。というか使っている余裕もなかった。
だが、これからの激化していく戦い……一つでも、戦力は多いほうがよかろう。
(いつか……これを使うべき時がくるなら、決断することも必要なのかもしれない……)
バーナビーは、伊達には悟られないうちに考えていた……。
デイバッグの中にある簡易型のL.C.O.Gを使って、自分の身体をマスカレイドメモリに適合させることを……。
伊達さんはバーナビーにこんなものは使うなと言った。
だが……禁忌の力に触れなければ勝てないと悟ってしまった時には……?
バーナビーは知らない……。
それが、実は最弱の下っ端メモリであることを……。
俗に言うところの、いわゆる一つのハズレ支給品であることを……。
超人的な力と、当たり障りのないことだけ説明書に書かれているが、それは一種の罠……。
バーナビーたちが主催にしかけられたハズレ支給の罠に気づくのは、一体いつになるのだろうか……。
夜の闇の中ーー
二人はそんな真実も知らず道路の端っこに立っていた……。
つづく。
460
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/05/28(火) 00:51:54 ID:BmlGsyCM
【E-5/路上】
【D-6 夜(終了間際)】
【バーナビー・ブルックスJr.@TIGER&BUNNY】
【所属】白
【状態】ダメージ(小)、伊達への苛立ち
【首輪】80枚:0枚
【装備】バーナビー専用ヒーロースーツ(腹部に罅)@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品、篠ノ之束のウサミミカチューシャ@インフィニット・ストラトス、マスカレイドメモリ+簡易型L.C.O.G@仮面ライダーW、ランダム支給品0〜1(確認済み)
【思考・状況】
基本:虎徹さんのパートナーとして、殺し合いを止める。
0.どうしてこの人は……ッ!
1.伊達と共に行動する。
2.伊達さんは、本当によく虎徹さんに似ている……。
3.今度こそ勝ちたいので仲間を集めるが、いざという時はガイアメモリを使う。
【備考】
※本編最終話 ヒーロー引退後からの参戦です。
※仮面ライダーOOOの世界、インフィニット・ストラトスの世界からの参加者の情報を得ました。ただし別世界であるとは考えていません。
※時間軸のズレについて、その可能性を感じ取っています。
※マスカレイドメモリをそれなりな強いアタリ支給品だと思っています。
【伊達明@仮面ライダーOOO】
【所属】緑
【状態】健康、悔しさ
【首輪】85枚:0枚
【コア】スーパータカ、スーパートラ、スーパーバッタ
【装備】バースドライバー(プロトタイプ)+バースバスター@仮面ライダーOOO、ミルク缶@仮面ライダーOOO、鴻上光生の手紙@オリジナル
月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)@Fate/zero
【道具】基本支給品
【思考・状況】
基本.殺し合いを止めて、ドクターも止めてやる。
1.バーナビー次第だけど、できれば会長の頼みを聞いて、火野を探す。
2.バーナビーと行動して、彼の戦う理由を見極める。
3.あの娘……可哀想にな。
4.仲間を集めたい。バーナビーにメモリは使わせなくて済むように。
【備考】
※本編第46話終了後からの参戦です。
※TIGER&BUNNYの世界、インフィニット・ストラトスの世界からの参加者の情報を得ました。ただし別世界であるとは考えていません。
※ミルク缶の中身は不明です。
461
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/05/28(火) 00:53:16 ID:BmlGsyCM
純粋なリスペクトのつもりが、無神経なことをしてしまっていたみたいです…ごめんなさい…。
要求されていた点はこれで問題ないと思います!どうでしょうか?
ルールを見た限り、ガイアメモリはあと一つまで出せるので、制限としては問題ないはずですが…
462
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/05/28(火) 12:39:20 ID:kLfgsf8A
仮投下乙です
バーナビー、追い詰められてるなあ
そしてそんな彼が目を付けたのはそれかよw 確かにハズレだわw
伊達さん、最悪のパターンになる前に止めてくれ
問題ないと思いますよ
463
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/05/28(火) 19:54:14 ID:gjbiiQRc
投下乙です
確かに普通の人よりは強くなれるけど…やられたら即消滅の副作用持ちだぞそれw
464
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/09(日) 13:37:00 ID:UnKqC.8o
修正したので投下します!
465
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/09(日) 13:37:34 ID:UnKqC.8o
窒息に困窮したネウロは、酸素の代わりとなる瘴気を求めて足を引きずって歩いていた。
目的地は、クウガの世界にあるという火山……そこに満ちているであろう火山ガス。
そこにいけば、瘴気の代わりの火山ガスを胸いっぱいに吸うことが出来るだろう……。
その過程で仲間と合流でも出来れば、まだネウロには十分可能性がある……。
だが……。
火山は少し遠すぎる……。
マップ上で2マスも北に進まなければならない……。
2マスというのは、つまりすごい遠いということに他ならない。
10キロ以上もあるのだから、普通に歩いていても疲れる距離だ。
それでもネウロが火山を目指す理由はひとつ……。
ここまでのダメージは、生半可な回復では足りないだろう。
酸素の代わりとなる瘴気を、火山ガスから十分に取り入れる必要がある。
そして、瘴気を得る上で、火山ガスに匹敵できるものは……おそらく他にはない。
だからネウロは火山を目指すのだ……。
今のネウロには、もうメダルがない。
体力も尽きかけだし、傷も大きいし凄く満身創痍なのだ。
もしも悪い奴に目を付けられたら、いかにネウロといえども危ない。
何故なら、ネウロには今、そんな悪人に対向する術が何一つないのだから……。
極力人に見つからないように、出来る限りは路地裏を歩いている。
もう、姿を消すような類の道具を使うだけのメダルも残ってはいない。
それ故にこそに、進行速度は悲しくなるくらい遅かった……。
でも、あそこでじっとしていては死を待つのみ。
死を避けるためには……動き出さねばならないのだ……。
そのため、道中キュウべえをいたぶりメダルの回復を狙おうかとも思っていたが……。
残念ながら、キュウべえは、ネウロの視界にはいない。
少し離れたところから、後ろをゆっくりついてきている。
さっき無駄にキュウべえをいたぶったせいで、警戒心をもたれたのだ。
八つ当たりを食らうのはごめんだと、キュウべえはあえて少し離れた距離からネウロを観察する……。
忌々しいことだ。
さて、あの放送からもうすぐ1時間もたつのに、まだE-4すら抜けてない。
この分だと、一体火山にたどり着くまでにどれくらい掛かるかわかったものじゃない。
466
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/09(日) 13:38:05 ID:UnKqC.8o
そんな一寸先は闇の状況で不用意に泥の指輪をかじって、後々の魔力消費を増やすわけにもいかない。
流石にこれだととてもまずいので、途中でメダルを補充せねばなるまいが……。
それには……仲間との合流か、謎を食らう必要がある。
いや、だが……こんな養殖の謎を食ったところで、大した回復は望めないと思う。
おそらく、謎を食えたとしても、火山にたどり着く分くらいで限界なのではないか……。
それでもないよりはマシなので、食える謎があるなら食いたいと思う。
ネウロはこんな時に傍にいないヤコが本当に役立たずだとネウロは思った。
無事再会出来たら、メダルを貰ったのち、キツ〜いお仕置きをしてやろう。
ーーそんなことを考えている時であった……。
「ぐはぁ!」
全身の傷口がまた開いた……。
血がどぱどぱと溢れ出てきた……。
身体に入った亀裂が沢山増えた……。
これは、ネウロの身体にかけられた制限……。
魔人の身体を維持するために必要な一時間ごとのメダルコスト。
たった二枚しかなかったメダルが纏めて吹っ飛んで、払えなかったツケが身体に回ってきたのだ……。
だがこの魔人ネウロ、放送の時にも同じ致死毒を食らったので、今更驚いたりはしなかった。
「元気そうだなぁ、ネウロ」
ネウロがウヴァに声をかけられたのは、その瞬間だった……。
オーズロワ第103話
綿棒の刑〜イジメ、ダメ!〜
いつからツケていたのか……。
緑色の皮のジャケット……満面の笑み……ウヴァだ。
ウヴァは絶妙なタイミングで、ネウロの背後から現れた。
まさかこんな時にあの虫頭に出会うなんて……なんということだろう。
「元気そうでよかったぜぇ、ネウロォ。どうしてそんな傷だらけなんだァ?おいィ!フハハハハ!!」
「おや、あなたは……ゴミ虫さんではありませんか。私が元気ならあなたはとても元気がなさそうにみえますね?」
「ああァ〜、そうなんだよォ〜!わかるかぁ?大事な大事な仲間の月影くんが死んじまってよ〜〜ッ!今は喪に伏してるところなんだよなぁ……」
「それはそれは……ご愁傷様です」
「フッフッフ、本当になぁ?あんまり悲しいからお前からも逃げるつもりだったのに、そんな元気そうな姿を見せられちゃ〜、話しかけずにはいられないよなぁ!ハッーハッハッハッハ!!」
ネウロは笑わない。
笑えるわけがない……。
467
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/09(日) 13:38:36 ID:UnKqC.8o
絶体絶命、というやつだ……。
ルールに適応するつもりでいたが、こんな短時間で適応出来るほど真木は甘くない。
外敵の襲来が予想以上に早すぎたのだ……。
それにしても……。
何故、路地裏を歩いていたのに気付かれたのだろう……。
考えるまでもない……ネウロは、血痕を地面にのこしていた。
あの虫頭は、ネウロの血痕を辿って追いかけてきたのだと思う。
そして、暫く観察したあと、ネウロが血を吐いたのをみて、これ好機にと姿を表したのだろう……。
「ああ、そうだそうだ……」
ウヴァの姿が、緑の虫の怪人に変わる。
ネウロに迫ってくるウヴァ……。
「よくも俺の大切な仲間の月影をいじめてくれたよなぁ?ネウロ!!」
ウヴァの虫頭に電撃がほとばしる。
それがバリバリ言わせながらネウロを襲ったが、こんな身体ではよけられない。
緑色の電撃がクリーンヒットして、ネウロの身体が吹っ飛んでビルの壁にぶつかった。
「イジメはダメだぜぇ〜……でも、イジメっ子には言ってもわからんから、こうするしかないだろ?言って聞かない悪い子には体罰も必要だぜ……イジメをやる奴は心が腐ってるからな、オラァ!報いを受けろ〜〜〜ッッッ!!!」
ふざけたことを言う奴だ……。
これが綿棒をいじめた報いだと……。
あの綿棒……本当にろくなものを残していかない。
まさかこんなアホみたいな台詞を吐く奴にいいようにやられるなんて……。
いや、今はあの綿棒のこととかどうでもいい……。
服がめちゃくちゃに焦げて、全身がブスブス言っている……これはまずい……。
だが、ネウロはプライドが高いので……弱音などは吐かない……決して!
悔しいが……このままむざむざ殺されるわけにもいかないので……。
まずはこの場を切り抜けるために、泥の指輪をかじろうと思った。
だが……敵を目前にしてそれをさせてくれる程ウヴァは生易しい相手ではなかった……。
「こっちはなぁ……どうしてお前が傷だらけなのかなんざどうでもいいんだよ……だがな、仲間思いの俺は月影の仇を討たなきゃならない……分かるよなぁ?え?」
ネウロの頭を掴んで、無理矢理起き上がらせるウヴァ。
いつの間にかその手には、あの綿棒が持っていた赤い剣が握られていた……。
それが何を意味するのかがわからないネウロではない。
「月影が受けた痛みを思い知れ、ネウロ!!」
サタンサーベルが、ネウロの腕を根本から断ち切った。
弱りきり、メダルすら使い果たしたネウロの身体では、創世王の剣は耐えられなかった。
腕から大量の血がどぱー!と吹き出して、ネウロの意識が一瞬朦朧とした。
だが……これほどのダメージを受けても、ネウロはまだ死ねなかった……。
それが……魔人という身体に生まれてしまったネウロの不幸……。
「ハハハ、随分としぶといじゃないか〜?」
そう笑いながら、ウヴァはネウロの頭を離した。
ずり落ちたネウロの太ももを、怪人の脚がおもいっきりふみつけた。
468
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/09(日) 13:40:05 ID:UnKqC.8o
太ももの筋肉が断裂して、ブチブチ言いながら血を大量に吹き出して千切れた。
左腕だけでなく、右足までも失ったし、血もいっぱい出ているが、ネウロは死なない……。
いや……死亡寸前というべきか……。
「今のお前なら、俺でも楽勝で殺せるぜ〜?ならブッ殺すしかねぇだろ〜?生かしとく理由もないからなぁ!」
「……吾輩も……堕ちたものだな……貴様のような……虫頭に……」
「あぁん?なんだって〜?よく聞こえなかったぜ……まぁいい!あの世で月影に詫び続けろネウローッ!!!」
「ぐはっ!」
バリバリバリバリバリ……!
ウヴァの緑色の稲妻がネウロの身体を突き抜けた。
口から、そして全身からおびただしい血液が噴き出る……。
腕と脚の傷口の肉が焼け焦げて、得も言われぬ異臭を放つ……。
ネウロの霞んだ目には、ウヴァの背後で尻尾を揺らしてこっちを眺めるキュウべえが見えた。
キュウべえはやはり、こんな時にも表情を崩さないし助けてもくれない……。
はじめからそんなものには期待してないが……。
だが、ネウロにいたぶられるのを避けて距離を取っていたのはキュウべえ的には正解だろう……。
なぜなら、不用意にネウロに近づいていなかったおかげで、ウヴァに気付かれずに済んでいるのだから……。
こんな状況でも、ネウロは命乞いなどしない。
ネウロの目には、ウヴァに対する反抗の意志が……。
そんなネウロに、ウヴァはたずねた。
「最期に一つだけ教えてくれよネウロ〜」
「……」
「さっき俺がブッ殺す前にあのノブナガにも聞いたんだが、あの野郎、既に気が狂ってたのか訳のわからんことしか言わなかったんだよ」
「ほう……?」
「なんでお前らは、死ぬってわかってるのにそんな目をしてる?」
どうやらあのノブナガも最期までウヴァに反抗して死んだらしい……。
ノブナガらしいことだと思ったので、ネウロは思わずふふっと笑った。
「……昆虫は本能だけで活きているのだろう?」
「あ?」
「貴様のような虫には永遠に分からんという事だ」
ウヴァのサタンサーベルが緑色の雷をほとばしらせながらネウロの心臓を貫いた。
貫かれた心臓部から全身に激しい電気がバリバリ溢れ出したので、ネウロは体内から焼き殺された。
ネウロはもう動けない……二度と口をきくこともない……死人に口なしということだ……。
【脳噛ネウロ@魔人探偵脳噛ネウロ 死亡】
放送を聞いたあとATMからメダルを引き落としたあとウヴァは少し迷った。
これからどこにいこうか……目的地があるわけでもないのに……。
だが、ネウロが傍にいては、逃げざるおえないだろう。
だから本当はスタコラサッサと逃げるつもりだった。
だが、すぐに逃げなくて本当に良かった。
ライドベンダーで何処かに逃げようかという時、ウヴァは僅かに残る血痕を見つけた。
路地裏の方へ続いていく血痕だ……ウヴァは、逃げる前にその正体を確認しようと思った。
469
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/09(日) 13:40:35 ID:UnKqC.8o
殺せそうな奴ならブッ殺しておいて損はないし味方で既にそんな満身創痍なら、役立たずもいいところなので、他の陣営の奴に支給品とかを奪われる前に全部ウヴァが貰ってやろうと思った。
血痕を辿っていったら、そこにいたのはネウロだった。
何があったのかは知らないが……ネウロは酷く弱っていた……。
本当なら、ネウロとは絶対に戦わないつもりだった……。
だが……今の奴は……虫の息。
これは、絶好のチャンスだった……!
(俺は、本当にラッキーだ……ツイてるぜ……!)
放送については、特に何も思うことはなかった。
自分の損になることはさして見当たらないし、むしろ特の方が多かった。
せっかく鳥頭とウスノロが死んだときに生臭女と糞猫を殺せなかったのは残念だが、しょうがない。
まだまだチャンスはあるので、これから残ったグリードもブッ殺そう。
ネウロも死んだ今、ウヴァの脅威になる者などそうはいない……。
おまけにあのイカロスも今やこのウヴァの手駒……。
ウヴァ本人もメダルをいっぱい持っている……。
この戦い、勝った……。
結局最期に勝つのはこのーー
「ウヴァ様なんだよ!ハハハハハハハハッッッ!!」
そんなウヴァを、ネウロに支給されてたキュウべぇは街角の影から何も言わず見ている。
キュウべぇが何を考えてるのかは誰にもわからない……。
【一日目-夜】
【E-4/市街地】
【ウヴァ@仮面ライダーOOO】
【所属】緑・リーダー
【状態】健康、上機嫌、絶好調、大満足
【首輪】300枚:270枚(増幅中)
【コア】クワガタ(感情)、カマキリ×2、バッタ×2、サソリ、ショッカー、ライオン、クジャク、カメ
【装備】バースドライバー@仮面ライダーOOO、サタンサーベル@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品×3、参加者全員のパーソナルデータ、ライドベンダー@仮面ライダーOOO、メダジャリバー@仮面ライダーOOO、
ゴルフクラブ@仮面ライダーOOO、首輪(月影ノブヒコ)、ランダム支給品0〜4(ウヴァ+ノブナガ+ノブヒコ)
【思考・状況】
基本:緑陣営の勝利。そのために言いなりになる兵力の調達。
1.もっと多くの兵力を集める。
2.ネウロを始末出来たのでとても嬉しい。
3.屈辱に悶えるラウラの姿が愉快で堪らない。
4.緑陣営の兵器と化したイカロスに多大な期待。
【備考】
※参戦時期は本編終盤です。
※ウヴァが真木に口利きできるかは不明です。
※ウヴァの言う解決策が一体なんなのかは後続の書き手さんにお任せします。
※最強の敵の一角を落としたのでとても満足したのでメダルが大幅に増加しました。
※キュウべえがE-4にいます。何を考えているかは不明です。
※E-5の路地裏にひどいありさまになったネウロの惨殺死体が放置されています。
470
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/09(日) 13:41:56 ID:UnKqC.8o
どうでしょうか?
全体的に加筆しましたので、これなら問題ないと思いますが……。
471
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/09(日) 13:47:05 ID:UnKqC.8o
すみません、465は以下の文章に差し替えます。
窒息に困窮したネウロは、酸素の代わりとなる瘴気を求めて足を引きずって歩いていた。
目的地は、クウガの世界にあるという火山……そこに満ちているであろう火山ガス。
そこにいけば、瘴気の代わりの火山ガスを胸いっぱいに吸うことが出来るだろう……。
その過程で仲間と合流でも出来れば、まだネウロには十分可能性がある……。
だが……。
火山は少し遠すぎる……。
マップ上で2マスも北に進まなければならない……。
2マスというのは、つまりすごい遠いということに他ならない。
10キロ以上もあるのだから、普通に歩いていても疲れる距離だ。
それでもネウロが火山を目指す理由はひとつ……。
ここまでのダメージは、生半可な回復では足りないだろう。
酸素の代わりとなる瘴気を、火山ガスから十分に取り入れる必要がある。
そして、瘴気を得る上で、火山ガスに匹敵できるものは……おそらく他にはない。
だからネウロは火山を目指すのだ……。
今のネウロには、もうメダルがない。
体力も尽きかけだし、傷も大きいし凄く満身創痍なのだ。
もしも悪い奴に目を付けられたら、いかにネウロといえども危ない。
何故なら、ネウロには今、そんな悪人に対向する術が何一つないのだから……。
極力人に見つからないように、出来る限りは路地裏を歩いている。
もう、姿を消すような類の道具を使うだけのメダルも残ってはいない。
それ故にこそに、進行速度は悲しくなるくらい遅かった……。
でも、あそこでじっとしていては死を待つのみ。
死を避けるためには……動き出さねばならないのだ……。
止血をしてからのほうがいいかとも思ったが、ダメージを受けた面積が多すぎてしてもしきれない。
第一、一定時間ごとに致死毒のダメージを受けることを考えれば、止血などしても無駄だろう……。
ならば、そんな無駄な止血に時間を費やしている暇があれば、限られた時間で少しでも前進するべき。
そんな道中、キュウべえをいたぶりメダルの回復を狙おうかとも思っていたが……。
残念ながら、キュウべえは、ネウロの視界にはいない。
少し離れたところから、後ろをゆっくりついてきている。
さっき無駄にキュウべえをいたぶったせいで、警戒心をもたれたのだ。
八つ当たりを食らうのはごめんだと、キュウべえはあえて少し離れた距離からネウロを観察する……。
忌々しいことだ。
さて、あの放送からもうすぐ1時間もたつのに、まだE-4すら抜けてない。
この分だと、一体火山にたどり着くまでにどれくらい掛かるかわかったものじゃない。
472
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/09(日) 15:58:10 ID:UnKqC.8o
もう一度修正を投下します。
473
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/09(日) 15:58:41 ID:UnKqC.8o
窒息に困窮したネウロは、酸素の代わりとなる瘴気を求めて足を引きずって歩いていた。
目的地は、クウガの世界にあるという火山……そこに満ちているであろう火山ガス。
そこにいけば、瘴気の代わりの火山ガスを胸いっぱいに吸うことが出来るだろう……。
その過程で仲間と合流でも出来れば、まだネウロには十分可能性がある……。
だが……。
火山は少し遠すぎる……。
マップ上で2マスも北に進まなければならない……。
2マスというのは、つまりすごい遠いということに他ならない。
10キロ以上もあるのだから、普通に歩いていても疲れる距離だ。
それでもネウロが火山を目指す理由はひとつ……。
ここまでのダメージは、生半可な回復では足りないだろう。
酸素の代わりとなる瘴気を、火山ガスから十分に取り入れる必要がある。
そして、瘴気を得る上で、火山ガスに匹敵できるものは……おそらく他にはない。
だからネウロは火山を目指すのだ……。
今のネウロには、もうメダルがない。
体力も尽きかけだし、傷も大きいし凄く満身創痍なのだ。
もしも悪い奴に目を付けられたら、いかにネウロといえども危ない。
何故なら、ネウロには今、そんな悪人に対向する術が何一つないのだから……。
極力人に見つからないように、出来る限りは路地裏を歩いている。
もう、姿を消すような類の道具を使うだけのメダルも残ってはいない。
それ故にこそに、進行速度は悲しくなるくらい遅かった……。
でも、あそこでじっとしていては死を待つのみ。
死を避けるためには……動き出さねばならないのだ……。
そのため、道中キュウべえをいたぶりメダルの回復を狙おうかとも思っていたが……。
残念ながら、キュウべえは、ネウロの視界にはいない。
少し離れたところから、後ろをゆっくりついてきている。
さっき無駄にキュウべえをいたぶったせいで、警戒心をもたれたのだ。
八つ当たりを食らうのはごめんだと、キュウべえはあえて少し離れた距離からネウロを観察する……。
忌々しいことだ。
さて、あの放送からもうすぐ1時間もたつのに、まだE-4すら抜けてない。
この分だと、一体火山にたどり着くまでにどれくらい掛かるかわかったものじゃない。
そんな一寸先は闇の状況で不用意に泥の指輪をかじって、後々の魔力消費を増やすわけにもいかない。
474
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/09(日) 15:59:13 ID:UnKqC.8o
とはいっても、いきなり襲われたら困るので、常に泥の指輪を口に含むようにはしているが……。
流石にこれだととてもまずいので、途中でメダルを補充せねばなるまいが……。
それには……仲間との合流か、謎を食らう必要がある。
いや、だが……こんな養殖の謎を食ったところで、大した回復は望めないと思う。
おそらく、謎を食えたとしても、火山にたどり着く分くらいで限界なのではないか……。
それでもないよりはマシなので、食える謎があるなら食いたいと思う。
ネウロはこんな時に傍にいないヤコが本当に役立たずだとネウロは思った。
無事再会出来たら、メダルを貰ったのち、キツ〜いお仕置きをしてやろう。
ーーそんなことを考えている時であった……。
「ぐはぁ!」
全身の傷口がまた開いた……。
血がどぱどぱと溢れ出てきた……。
身体に入った亀裂が沢山増えた……。
これは、ネウロの身体にかけられた制限……。
魔人の身体を維持するために必要な一時間ごとのメダルコスト。
たった二枚しかなかったメダルが纏めて吹っ飛んで、払えなかったツケが身体に回ってきたのだ……。
だがこの魔人ネウロ、放送の時にも同じ致死毒を食らったので、今更驚いたりはしなかった。
「元気そうだなぁ、ネウロ」
ネウロがウヴァに声をかけられたのは、その瞬間だった……。
オーズロワ第103話
綿棒の刑〜イジメ、ダメ!〜
いつからツケていたのか……。
緑色の皮のジャケット……満面の笑み……ウヴァだ。
ウヴァは絶妙なタイミングで、ネウロの背後から現れた。
まさかこんな時にあの虫頭に出会うなんて……なんということだろう。
「元気そうでよかったぜぇ、ネウロォ。どうしてそんな傷だらけなんだァ?おいィ!フハハハハ!!」
「おや、あなたは……ゴミ虫さんではありませんか。私が元気ならあなたはとても元気がなさそうにみえますね?」
「ああァ〜、そうなんだよォ〜!わかるかぁ?大事な大事な仲間の月影くんが死んじまってよ〜〜ッ!今は喪に伏してるところなんだよなぁ……」
「それはそれは……ご愁傷様です」
「フッフッフ、本当になぁ?あんまり悲しいからお前からも逃げるつもりだったのに、そんな元気そうな姿を見せられちゃ〜、話しかけずにはいられないよなぁ!ハッーハッハッハッハ!!」
ネウロは笑わない。
笑えるわけがない……。
絶体絶命、というやつだ……。
ルールに適応するつもりでいたが、こんな短時間で適応出来るほど真木は甘くない。
外敵の襲来が予想以上に早すぎたのだ……。
それにしても……。
何故、路地裏を歩いていたのに気付かれたのだろう……。
考えるまでもない……この男、ずっとネウロを後ろからツケていたのだ。
475
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/09(日) 15:59:43 ID:UnKqC.8o
だが、すぐには襲わずに、しばらく観察してから……襲いかかってきたのだろう。
そして、ネウロが血を吐いたのをみて、これ好機にと姿を表したのだろう……。
魔人ネウロが、尾行にここまで気付かなかったとは不覚……。
どんな生物であれ死亡寸前まで追い込まれれば感覚は鈍る。
満身創痍のあまり尾行している敵を察知する能力まで鈍っていたようだ。
だが、そんなことは今更言っても遅い……。
今は、奴に対処せねばなるまい。
「ああ、そうだそうだ……」
ウヴァの姿が、緑の虫の怪人に変わる。
ネウロに迫ってくるウヴァ……。
「よくも俺の大切な仲間の月影をいじめてくれたよなぁ?ネウロ!!」
ウヴァの虫頭に電撃がほとばしる。
それがバリバリ言わせながらネウロを襲ったが、こんな身体ではよけられない。
だからせめて、口の中に含んでいた泥の指輪を噛み砕こうとしたが……それは、噛み砕けなかった。
ネウロの顎の力をもってしても、泥の指輪が噛み砕けない……その理由は一つ……。
この場でのあらゆる特殊能力は……すべて、メダルの制限を受けている……。
だから、今までネウロは回復手段があっても、その起動コストすら払えなかった……。
そして、ネウロが持っているメダルはゼロ……メダルなくして、魔界777ツ道具は使えない……。
発動コストが満たせないなら、能力は使用出来ない……。
噛み砕く事で発動する777ツ道具なら……メダルなくしては、そもそも噛み砕くことも出来ない!
そして緑色の電撃がクリーンヒットして、ネウロの身体は吹っ飛んでビルの壁にぶつかった……。
万事休すだ……。
「イジメはダメだぜぇ〜……でも、イジメっ子には言ってもわからんから、こうするしかないだろ?言って聞かない悪い子には体罰も必要だぜ……イジメをやる奴は心が腐ってるからな、オラァ!報いを受けろ〜〜〜ッッッ!!!」
ふざけたことを言う奴だ……。
これが綿棒をいじめた報いだと……。
あの綿棒……本当にろくなものを残していかない。
まさかこんなアホみたいな台詞を吐く奴にいいようにやられるなんて……。
いや、今はあの綿棒のこととかどうでもいい……。
服がめちゃくちゃに焦げて、全身がブスブス言っている……これはまずい……。
「こっちはなぁ……どうしてお前が傷だらけなのかなんざどうでもいいんだよ……だがな、仲間思いの俺は月影の仇を討たなきゃならない……分かるよなぁ?え?」
ネウロの頭を掴んで、無理矢理起き上がらせるウヴァ。
いつの間にかその手には、あの綿棒が持っていた赤い剣が握られていた……。
「月影が受けた痛みを思い知れ、ネウロ!!」
サタンサーベルが、ネウロの腕を根本から断ち切った。
弱りきり、メダルすら使い果たしたネウロの身体では、創世王の剣は耐えられなかった。
476
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/09(日) 16:00:13 ID:UnKqC.8o
腕から大量の血がどぱー!と吹き出して、ネウロの意識が一瞬朦朧とした。
だが……これほどのダメージを受けても、ネウロはまだ死ねなかった……。
それが……魔人という身体に生まれてしまったネウロの不幸……。
「ハハハ、随分としぶといじゃないか〜?」
そう笑いながら、ウヴァはネウロの頭を離した。
ずり落ちたネウロの太ももを、怪人の脚がおもいっきりふみつけた。
太ももの筋肉が断裂して、ブチブチ言いながら血を大量に吹き出して千切れた。
左腕だけでなく、右足までも失ったし、血もいっぱい出ているが、ネウロは死なない……。
いや……死亡寸前というべきか……。
「今のお前なら、俺でも楽勝で殺せるぜ〜?ならブッ殺すしかねぇだろ〜?生かしとく理由もないからなぁ!」
「……吾輩も……堕ちたものだな……貴様のような……虫頭に……」
「あぁん?なんだって〜?よく聞こえなかったぜ……まぁいい!あの世で月影に詫び続けろネウローッ!!!」
「ぐはっ!」
バリバリバリバリバリ……!
ウヴァの緑色の稲妻がネウロの身体を突き抜けた。
口から、そして全身からおびただしい血液が噴き出る……。
腕と脚の傷口の肉が焼け焦げて、得も言われぬ異臭を放つ……。
ネウロの霞んだ目には、ウヴァの背後で尻尾を揺らしてこっちを眺めるキュウべえが見えた。
キュウべえはやはり、こんな時にも表情を崩さないし助けてもくれない……。
はじめからそんなものには期待してないが……。
だが、ネウロにいたぶられるのを避けて距離を取っていたのはキュウべえ的には正解だろう……。
なぜなら、不用意にネウロに近づいていなかったおかげで、ウヴァに気付かれずに済んでいるのだから……。
こんな状況でも、ネウロは命乞いなどしない。
ネウロの目には、ウヴァに対する反抗の意志が……。
そんなネウロに、ウヴァはたずねた。
「最期に一つだけ教えてくれよネウロ〜」
「……」
「さっき俺がブッ殺す前にあのノブナガにも聞いたんだが、あの野郎、既に気が狂ってたのか訳のわからんことしか言わなかったんだよ」
「ほう……?」
「なんでお前らは、死ぬってわかってるのにそんな目をしてる?」
どうやらあのノブナガも最期までウヴァに反抗して死んだらしい……。
ノブナガらしいことだと思ったので、ネウロは思わずふふっと笑った。
「……昆虫は本能だけで活きているのだろう?」
「あ?」
「貴様のような虫には永遠に分からんという事だ」
ウヴァのサタンサーベルが緑色の雷をほとばしらせながらネウロの心臓を貫いた。
貫かれた心臓部から全身に激しい電気がバリバリ溢れ出したので、ネウロは体内から焼き殺された。
ネウロはもう動けない……二度と口をきくこともない……死人に口なしということだ……。
【脳噛ネウロ@魔人探偵脳噛ネウロ 死亡】
放送を聞いたあとATMからメダルを引き落としたあとウヴァは少し迷った。
これからどこにいこうか……目的地があるわけでもないのに……。
477
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/09(日) 16:00:44 ID:UnKqC.8o
だが、ネウロが傍にいては、逃げざるおえないだろう。
だから本当はスタコラサッサと逃げるつもりだった。
だが、すぐに逃げなくて本当に良かった。
ライドベンダーで何処かに逃げようかという時、ウヴァは遠くをゆっくり歩くネウロを見かけた。
路地裏の方へ歩いて行く……もしやと思ったネウロは、タカカンドロイドとバッタカンドロイドを使った。
流石にネウロに無計画に近寄るのは危なかったので、その辺は慎重なウヴァらしく頭をつかったのだ……。
それで遥か上空からネウロを監視し、もしイケそうなら……ここであの魔人を落とすつもりだった。
そして暫く様子を見ていたら……。
何があったのかは知らないが、ネウロは既に酷く弱っていた……。
本当なら、ネウロとは絶対に戦わないつもりだったが……。
だが……これ程の好機を見逃す手はない。
これは、絶好のチャンスだった……!
(俺は、本当にラッキーだ……ツイてるぜ……!)
放送については、特に何も思うことはなかった。
自分の損になることはさして見当たらないし、むしろ特の方が多かった。
せっかく鳥頭とウスノロが死んだときに生臭女と糞猫を殺せなかったのは残念だが、しょうがない。
まだまだチャンスはあるので、これから残ったグリードもブッ殺そう。
ネウロも死んだ今、ウヴァの脅威になる者などそうはいない……。
おまけにあのイカロスも今やこのウヴァの手駒……。
ウヴァ本人もメダルをいっぱい持っている……。
この戦い、勝った……。
結局最期に勝つのはこのーー
「ウヴァ様なんだよ!ハハハハハハハハッッッ!!」
そんなウヴァを、ネウロに支給されてたキュウべぇは街角の影から何も言わず見ている。
キュウべぇが何を考えてるのかは誰にもわからない……。
【一日目-夜】
【E-4/市街地】
【ウヴァ@仮面ライダーOOO】
【所属】緑・リーダー
【状態】健康、上機嫌、絶好調、大満足
【首輪】300枚:270枚(増幅中)
【コア】クワガタ(感情)、カマキリ×2、バッタ×2、サソリ、ショッカー、ライオン、クジャク、カメ
【装備】バースドライバー@仮面ライダーOOO、サタンサーベル@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品×3、参加者全員のパーソナルデータ、ライドベンダー@仮面ライダーOOO、メダジャリバー@仮面ライダーOOO、
ゴルフクラブ@仮面ライダーOOO、首輪(月影ノブヒコ)、ランダム支給品0〜4(ウヴァ+ノブナガ+ノブヒコ)
【思考・状況】
基本:緑陣営の勝利。そのために言いなりになる兵力の調達。
1.もっと多くの兵力を集める。
2.ネウロを始末出来たのでとても嬉しい。
3.屈辱に悶えるラウラの姿が愉快で堪らない。
4.緑陣営の兵器と化したイカロスに多大な期待。
【備考】
※参戦時期は本編終盤です。
※ウヴァが真木に口利きできるかは不明です。
※ウヴァの言う解決策が一体なんなのかは後続の書き手さんにお任せします。
※最強の敵の一角を落としたのでとても満足したのでメダルが大幅に増加しました。
※キュウべえがE-4にいます。何を考えているかは不明です。
※E-5の路地裏にひどいありさまになったネウロの惨殺死体が放置されています。
478
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/09(日) 16:01:49 ID:UnKqC.8o
何度もすみません……。
今度こそ大丈夫だと思います。
479
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/09(日) 21:13:55 ID:BONC7lhc
何度も修正お疲れ様です
これならもう問題点はないと思いますよ
それにしてもウヴァさんはマジで絶好調だなw
480
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/09(日) 22:53:32 ID:uPMiDylc
内容についての指摘は他の人に任せますが、気になった点があったので指摘を。
今回のタイトルなのですが、これは氏がリスペクトしているということらしい『敗者の刑』を元にしていますね?
以前にも同じ事指摘されていると思いますが内容的に全く掠っていないとリスペクトにすらなっていないのでは?
更に『綿棒』や『イジメ、ダメ!』という部分はネタで入れるのは少々ふざけが過ぎるのでは? ここまでくると件のSSの作者に対し失礼ではないでしょうか?
同じ事繰り返す辺り、以前の指摘を理解出来ていないとすら思いますがどうなのでしょうか?
どうしてもこのタイトルでなければSSが成立しないというのならばそれでも構わないのですが。
後、もうひとつ、氏のSSはいつも本編中に話数と共にタイトルを入れる形式になっていますが、
名前欄のトリの前に入れるという方法もありますけれども、またわからなくても投下後に『タイトルは『○○』でお願いします』という風にすることも出来ます。
これも、演出上どうしても必要ならばそれで構いません。
ただ、こちらについては知らなかったのであれば半年ぐらいROMして基本的な事を十分に理解した上で企画に参加して欲しいところなのですが。
481
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/09(日) 23:15:54 ID:rHLaC6dU
内容の指摘じゃないならもはや「俺が気に入らない」ってだけのイチャモンなんですが
読み手と書き手の違いを半年ぐらいROMして基本的な事を十分に理解した上でROMってたほうがいいんじゃない?
482
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/09(日) 23:18:19 ID:UnKqC.8o
別に今回はリスペクトなどしているつもりはないのですがそう思われたならタイトルを変更します。
ふざけたタイトルとおっしゃられましても、別にルール上問題があるわけでもないので、敗者の刑を連想させる箇所以外はそのままでいきたいです。
誤解を招くようなタイトルを付けてしまったことはすみませんでした。
では改めまして、タイトルは「綿棒の報い〜イジメ、ダメ!〜」で。
後者の指摘に関しましては、そのことは他の書き手さんの投下の形式を見ていてもわかります。
でも、僕の演出でのタイトル表記でもルール上なにか問題があるわけではないと判断しますので、これはこのままでいきたいです。
483
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/09(日) 23:18:53 ID:/ejrZHgw
>>480
いやいや、それは指摘としてどうなんでしょうかね。
まぁあなたの言いたいことが全く分からないというわけではありませんが、しかしそれでssを書いてくれている書き手さんを事実上長期間追放しようとするのは如何なものかと。
そもそもssタイトルなどというのは、書き手さんが勝手に決めることです。
誰も文句のつけようのないかっこいいタイトルも、或いは何人かはえっ?って思ってしまうような的外れなタイトルも、読み手には指摘する権利はないと思うのです。
というのも、私個人、ssタイトルというのはある種それを書きあげた書き手さんの身に与えられる特権のようなものだと考えています。
例えばこのロワにも幾つかネタに走ってるな、と誰しもが思うタイトルは幾つかあります(勘違いしないでいただきたいのは、私はそれらを叩きたいわけではない、ということです。)
ですがそれらは特にタイトルふざけてるじゃないか、真面目なのに変えろと指摘されていた覚えは(或いは別所では叩かれていたかもしれませんが未確認なので申し訳ない)ありません。
つまり長々と書いて何が言いたいかというと、
「あんた言いがかりつけて書き手さん追放させようとしてるだけにしか見えませんよ」ってことです。
失礼な物言いかと思いますが、折角企画のために貴重な勉強時間を割いてくれている書き手さんにあなたの言い分は少々不躾ではないかなと思った次第です。
喧嘩腰のようになってしまって申し訳ありません。しかし少々言動が目に余ったので。
そしてついでのようになってしまいますが、ss投下&修正乙です!
個人的に問題点はないように感じられますので、お疲れ様でした、とだけ。
484
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/09(日) 23:28:28 ID:BONC7lhc
書き手本人がタイトル変更するというならこれ以上口出しすることはないだろうけど、
>>480
を指摘として捉える必要はないと自分も思いますよ
まだ不慣れでしょうし指摘とそうでないものとで判別が難しいでしょうが、相手にする必要のないものにまで振り回されると疲れるだけですから…
485
:
こいつのコアは砕かれた
:こいつのコアは砕かれた
こいつのコアは砕かれた
486
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/10(月) 15:10:58 ID:i2Bim8Fo
……あの、作品ではなく書き手本人への批判を言うのは不適切ではないでしょうか
「その手のことを思うべきでない」とは言いませんが、少なくともこのスレで口に出すことではないと思います
487
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/10(月) 15:40:49 ID:jrFYe5x6
名無しが作品外の作者本人を批判するってことは、まあ自分が規制される覚悟があって言ってるんでしょうよ
488
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/10(月) 18:30:53 ID:9xagXOtY
人格批判っぽくなってしまい申し訳ない
作品は面白いんだから、受験とかの用事は済ませてから
言い訳とかできない状態で書いて欲しいって言いたかっただけなんだ
489
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/10(月) 21:16:35 ID:jL4UGSDc
規制しろとは言わないけど、少なくとも一連のレスは削除対象でしょうよ
幾らなんでも失礼が過ぎるし、誰が見ても気分のいいものではない
もし見ているなら管理人氏に削除を依頼しておきます
490
:
◆2kaleidoSM
:2013/06/12(水) 21:03:28 ID:6UlZSV5E
こちらでの投下は初めてで、少し不安なところもあるのでこちらに投下させてもらいます
491
:
◆2kaleidoSM
:2013/06/12(水) 21:05:44 ID:6UlZSV5E
川の中はそう深くもなく、ただ若干の濁りが視界に悪い。
もし飛び込んだのがただの人間であれば、まさに一寸先は闇といったところだったかもしれない。
だが、今この水中にいるのはただの人間ではない。
ある程度視界が悪くても、クウガの感覚を持ってすればどうということにはならない。
ペガサスフォームであれば、あるいはさらに視界の確保もできただろうが、ともすれば戦闘になる可能性もあるのだ。小回りの利く形態のほうが望ましい。
そして、小野寺ユウスケは水中においてその存在を認め、確認した。
(あれは…、バーサーカー?!)
そこにいたのは、病院でグリードとの戦いの中で共闘した、切嗣と去ったはずのサーヴァントの姿。
黒き鎧には何重にも巻かれたワイヤーが絡まり、身動きを封じている。彼の装備を考えれば、今の状態で自然に浮き上がるのは難しいだろう。
そして、彼のそんな姿を見て一人の存在が気に掛かった。
バーサーカーがここで沈んでいるということは、衛宮切嗣は一体どうしたというのか。
少なくともこの付近にはいなかった。ではバーサーカーと切嗣は離れて行動しているということになる。
もし彼の身に何かあったのなら、と心中に嫌な予感が漂ってきた。
「待ってろ、すぐに助けてやるからな」
水中というのは、空気中よりも音の伝達が早い。
バーサーカーの、言葉にならぬ叫び声は大きな衝撃と共にユウスケの耳に届いている。
接近し、ワイヤーに手をかけるが、その固さは想像以上だった。
ユウスケは知らないことだが、それは対グロンギ用の武装の一つ。生半可な力だけでは引きちぎることは難しいのだ。
「くっ…、こうなれば――超変身!!」
腰に手を翳し、その体の色を変えるクウガ。
目の色が変わり、赤き体は紫の堅牢そうな鋼の鎧となる。
仮面ライダークウガ・タイタンフォーム。
例え、いかに力を加えようと切れないワイヤーであったとしても、刃物をもって斬られた場合、耐え切れるものではない。
川底に落ちていた1本の木を拾い上げると、その木の棒は大きな両刃の剣に形を変える。
そして、ユウスケはそれを振り下ろし、一刀の下にバーサーカーを拘束していたワイヤーを切断した。
492
:
◆2kaleidoSM
:2013/06/12(水) 21:07:30 ID:6UlZSV5E
「よし、これで大丈夫だ。切嗣さんのところへ―――」
それが、バーサーカーの狂気を縛っていた鎖であったことにも気付かずに。
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
咆哮と同時に、全身に巻きついたワイヤーを振りほどいたバーサーカーは。
その背後に現した門、その中の剣を、ユウスケに向けて射出した。
「な…!」
味方だと思っていた存在からの、不意を撃つ形での攻撃。
幸い、門を投影してからの射出までにタイムラグがあったことが彼の命を救った。
飛んできた3本の剣をタイタンソードで弾き飛ばす。
「止めろ!俺だ、小野寺ユウスケだ!お前の敵じゃない!」
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
動揺のままに叫ぶユウスケの声は届かず、バーサーカーはその門から取り出した1本の剣を手に、クウガに斬りかかった。
水中という環境では思うように剣を振るうことができない。対してバーサーカーは水の抵抗など何のそのと言わんばかりの連撃を繰り広げる。
元々味方だと思っていた相手からの攻撃、そして水中という環境がクウガの全力を出させないでいた。
タイタンフォームの鎧にバーサーカーの連撃が、剣の射出が突き刺さっていく。
しかし、ユウスケとて多くの世界を巡り戦ってきた戦士。そのままやられっぱなしでいるわけにもいかなかった。
長期的な観察により、バーサーカーの攻撃の癖のようなものを、微かにだが掴む。
連撃の中に大振りの一撃が混じる瞬間。
敢えて、しかしダメージは最小限に抑えられるように攻撃を受ける。
そのまま剣を掴み、残った手でタイタンソードを振りかざした。
巨大な金属音と共に吹き飛ぶバーサーカー。
ある程度距離が取れたこのタイミングがチャンスだ。
「超変身!!!」
傷だらけでヒビも入った紫の鎧は、青くスマートな肉体へと姿を変える。
水を司りし形態、ドラゴンフォーム。
タイタンフォームではまともに動けない水中でも、この姿であれば少しは話が変わってくる。
手の大剣は長い棒状の武器に姿を変える。
剣の射出を持ち前の素早さで避け、眼前に迫った剣戟はドラゴンロッドで受け流す。
しかし、身軽となった反面、決定打には欠けるこの姿。いくら攻めどもバーサーカーを止めるほどのダメージは与えられずにいた。
493
:
◆2kaleidoSM
:2013/06/12(水) 21:09:11 ID:6UlZSV5E
(一体切嗣さんに何があったん…―――)
と、目の前で射出されようとしていた門の射線上、それは水面、陸上に向いたものだった。
この向きで剣が発射されれば、その先にいるのは―――
「まずい!」
ユウスケは川底を蹴り、水面に向けて飛び上がったと同時。
小さな金色の短剣のような武器が、金色の門より飛び出した。
◇
人間であれば潜水の名人といえども限界であろう時間が経過してもまだ、小野寺ユウスケは浮上してこなかった。
それどころか、金属音やうなり声が陸上までも聞こえてくる。
あの水中にいたのは敵であったということは疑いようがなかった。
では、自分達はどうするべきなのか。
水中に飛び込んで彼の援護をする?いくら千冬とて水中での白兵戦経験などない。
下手に戦いに飛び込めば足手まといとなる可能性もある。
音と衝撃が聞こえてくるということは、まだユウスケは生きて戦っているという証。
今は彼の無事を信じて待つしかない。
「オルコット、もしもの時は頼めるか?」
「――その、ブルー・ティアーズは今ダメージを受けてまして、今しばらくは調子が……」
「そうか、だがまあ念のためだ。持っておけ」
そう言って、千冬はセシリアに30枚のセルメダルを預けた。
もし戦闘まではできなくとも、逃走くらいは可能なはずだ。
「でも、織斑先生は大丈夫なんですの…?」
「私にこいつがまともに動かせるかは分からんし、最悪この剣だけでも凌いでみせるさ」
本来なら無謀としか思えない、しかしそれができうる人だということはセシリア自身はっきり分かっていた。
だからこそ、タイミングが重要なのだ、と。そう思った瞬間だった。
水面から二つの何かが飛び出すと同時、二人の目の前で大爆発を引き起こしたのは。
水柱と熱が視界を覆う中、それらから身を挺して庇った何者かが、目の前に降り立った。
「小野寺!何があった?!」
「バーサーカーです!体を縛られて沈んでいたところを助けたんですが、こっちに襲い掛かってきて。
俺が引きつけますんで、千冬さんとセシリアちゃんは離れていて下さい!」
と、水面から飛び出した黒き鎧の騎士に対し、爆風を防いだことでボロボロになったドラゴンロッドを投げつけ気を引いたユウスケ。
そのままドラゴンフォームの脚力を生かしてバーサーカーから離れ。
バーサーカーはそんなクウガを追って駆け出した。
「待て、小野寺!!」
「知り合い、ですの…?あの黒い鎧の方と…」
「少し、な。だが何やら様子がおかしい。
小野寺を追うぞオルコット。何か嫌な予感がする」
494
:
◆2kaleidoSM
:2013/06/12(水) 21:09:57 ID:6UlZSV5E
◇
特に逃げる道は決めていない。
唯一指針があるとすれば、あの二人から離れられればと思っただけだ。
そこで彼をどうにか取り押さえる。その後切嗣さんの安否を確かめるのだ。
コアメダルも既に消費済み。持つ限りはどうにか離れなければ。
さっきの二人を救えたという安堵の中、僅かにメダルが増えたのを感じたのは幸いか。
ドラゴンフォームの脚力で走るクウガにも負けない速さで追いすがるバーサーカー。
速く逃げるとはいえ、直進していてはいい的だ。
現在地の森という環境を生かし、木々の隙間を変則的に移動。
そして、そんなユウスケの下には多くの武器の弾幕が降り注いでいた。
広範囲を狙った弾幕を、高高度のジャンプで避け。
バーサーカーは飛び上がった彼に、狙い済ましたかのように巨大な戟を投擲し。
恐ろしい勢いで襲い来るそれを体を反らしてどうにか避けたユウスケ。
地面に降り立ったユウスケは再び走り出し。
それを追ってバーサーカーも駆けた。
◇
言峰教会。
未だ目覚めぬ己が主を前に、セイバーはどうするべきか思考中だった。
それは、今後の方針に限った話ではない。
もし目覚めたとき、もし鈴羽の言うことが正しかったとき、私は彼とどう接するべきなのか。
共に戦う、というのであれば異論はない。
殺し合いを打破するのであれば、協力できるはずだ。
彼がかつてのような外道のような戦いをしないのであればなおさらだ。
と、そのように割り切るのが難しいほど、セイバーの中にあるわだかまりは大きかった。
彼がここでどのように戦ってきたのかは分からない。
あるいは、敵が切嗣より上手だっただけかもしれないし、怪我に関しては考えすぎなのかもしれない。
だが、万一変わっていたとしても。そんな彼を受け入れられるのか。
ともあれ、彼が目を覚ますまでは安静にする必要がある。セイバーとて切嗣の死を望んでいるわけではない。
手持ちのコアメダルを一枚、そしてセルメダルも半分ほど切嗣に預けると体は少しずつだが回復を始めた。
あとは自分が傍にいれば、更に回復効率は高まるはず―――
だというのに。
彼の傍にいるということに抵抗を覚えている自分がいた。
もし変わっていないのであればまだ問題はないはずだった。
ではもし彼が、鈴羽の言うとおり変わっているのだとしたら。
私は彼とどう接すればいいのか。
憎めるのであれば、引き離せるのであればまだそう難しくはない。
だが、歩み寄るとなるとなかなかどうして難しい。
そんなことを、この教会に他に何かないか、誰かいないかということを見回りに出ながらセイバーは考えていた。
495
:
◆2kaleidoSM
:2013/06/12(水) 21:11:35 ID:6UlZSV5E
「セイバー、どうだった?何か見つかった?」
「いえ、襲撃者、あの怪人の正体についての痕跡くらいはあるかと思いましたが、建物内からは何も。
ただここよりは安全であろう場所は見つけました。もしもの時の為にキリツグはそちらに移動しておきたいのですが」
この建物に入るのは初めてというわけではない。しかし当然のことだが、その時は教会内を詳しく調べるなどできなかった。
教会の人間、そしてサーヴァント・アーチャーとそのマスターとの会合に使っただけなのだから。
探索の結果、地下室がこの教会にあることが分かった。そこであればしばらくは一目を避けて切嗣が目覚めるのを待てるだろう。無論それが万全といえるわけではないが、ここよりはマシだ。
セイバーは切嗣の体を背負い上げ、移動させようとした。
その時だった。
教会の窓。その中でも一際高いところに付けられたものの外から。
一瞬何かが煌くのが見えたのは。
「鈴羽、伏せて!!」
咄嗟に叫ぶセイバー。
次の瞬間、窓が割れる音、そこから何かが飛び込む衝撃が響き、そこから飛び込んだ何かが地面に突き立った。
教会の床にキラキラと降り注ぐ破片の中。そこにあったのは、1本の巨大な武器。
槍のような刃の両側に三日月状の刃が付いた、所謂戟と呼ばれるもの。
幸いその何かが彼らの元に直撃することはなかったものの、もしもう少し軌道がずれていたなら、セイバーはともかく鈴羽や切嗣は一たまりもなかっただろう。
そして、セイバーはそれに見覚えがあった。
「これは…、アーチャーの武器のようだが…」
港での5人のサーヴァントが集結の際、アーチャーが矢のごとく発射した中にあった宝具に、形状が似ていると思ったセイバー。
この長距離からの狙撃のごとき射出。まさかとは思うが、この教会を狙った一撃か。
と、その時割れた窓からほんの微か、おそらくサーヴァントであるセイバーでなければ捉えることのできないであろう音が耳に届いた。
――■■■■■■■■■■■ーーー!
「バーサーカー…?!まさかこの付近に…!?」
先に撤退した時とは状況が違う。
もしここまで来られたら鈴羽だけでなく未だ目を覚まさぬ切嗣をも守りながら戦うことになるかもしれない。
ならば、距離がある今ここまで来ることがないよう迎え撃ちに行くのが最善―――
と、決断することはセイバーにはできなかった。
あの時も必要だったことだとはいえ、鈴羽、そしてあの時はまだ健在だったそはらの元を離れた時に二人は襲撃を受け、そはらは命を落としてしまったのだから。
もし戻ってくるのに時間がかかってしまい、その際またあの時のように第三者からの襲撃を受ければ。
セイバーにはそれが恐ろしかった。
「……行ってきなよ、セイバー」
そんなセイバーの思いを感じ取ったのか、鈴羽はセイバーに、背中を押すように告げた。
「スズハ…」
「私なら大丈夫、同じ轍は踏まないって。今度は切嗣さんも、私自身の命も、絶対守りきるからさ」
「……」
「どうせここまでそのバーサーカー?ってのに来られたら終わりなんでしょ?だったら可能性が高い方を選ぶべきだって思うんだ私。
もう、そはらの時みたいにはなりたくないしさ」
「―――スズハ、もし襲ってきたものが手に負えないと分かる相手であれば、せめてあなただけでも逃げるようにしてください。
私が戻るまでの間、少しでも生き延びる可能性が高い選択肢を、常に選んでください。それが私からのお願いです」
「了解」
496
:
◆2kaleidoSM
:2013/06/12(水) 21:12:31 ID:6UlZSV5E
数分後、教会から高速で飛び出すセイバーの姿があった。
その手には先に飛び込んできた1本の戟。
セルメダルは先に切嗣に半分使い、そして今またコアメダルを換金した、合わせて60枚あったうちの20枚をもしもの為に鈴羽に預けておいた。
今はエクスカリバーが手元にない。つまりはあのバーサーカー相手に、使いこなせなくはないとはいえ慣れない武器で、風王結界のみで戦わなければいけない。
宝具無しで戦わなければならないならメダルが多くても手に余るだけだ。
今はむしろ鈴羽、そして切嗣にメダルが必要なのだから。
「風よ!!」
手元に残ったメダル、その一部を使い足元に高圧の風を作り出す。
セイバーの華奢な、それでいて精錬された肉体を、その風圧が一気に宙に押し上げ。
地面を蹴り飛ばした次の瞬間には、セイバーの体は遥か遠くの空を舞っていた。
◇
目を覚まさない衛宮切嗣。
今その体は教会に備えられた地下室にあった。
彼の体の治癒を見守る鈴羽。
不安は尽きない。あの時にそはらを失ったときのように。
それでも、今回はセイバーが戻ってくるまで守りきろう、生き残ろうと。
鈴羽はそう心に誓った。
【B-4 言峰教会地下室】
【阿万音鈴羽@Steins;Gate】
【所属】緑
【状態】健康、深い哀しみ、決意
【首輪】40枚:0枚
【装備】タウルスPT24/7M(7/15)@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式、大量のナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、9mmパラベラム弾×400発/8箱、中鉢論文@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:真木清人を倒して殺し合いを破綻させる。みんなで脱出する。
0.この人が衛宮切嗣……。
1.セイバーが戻ってくるまで、衛宮切嗣を守る。
2.罪のない人が死ぬのはもう嫌だ。
3.知り合いと合流(岡部倫太郎優先)。
4.桜井智樹、イカロス、ニンフと合流したい。見月そはらの最期を彼らに伝える。
5.セイバーを警戒。敵対して欲しくない。
6.サーヴァントおよび衛宮切嗣に注意する。
7.余裕があれば使い慣れた自分の自転車も回収しておきたいが……。
【備考】
※ラボメンに見送られ過去に跳んだ直後からの参加です。
【衛宮切嗣@Fate/Zero】
【所属】青
【状態】ダメージ(大)、貧血、全身打撲(軽度)、右腕・左腕複雑骨折(現在治癒中)、肋骨・背骨・顎部・鼻骨の骨折、片目失明(いずれもアヴァロンの効果で回復中)、牧瀬紅莉栖への罪悪感、強い決意
【首輪】60枚(消費中):0枚
【コア】サイ(一定時間使用不可) タコ(一定時間使用不可)
【装備】アヴァロン@Fate/zero、軍用警棒@現実、スタンガン@現実
【道具】なし
【思考・状況】
基本:士郎が誓ってくれた約束に答えるため、今度こそ本当に正義の味方として人々を助ける。
0.――――――――。
1.偽物の冬木市を調査する。 それに併行して“仲間”となる人物を探す。
2.何かあったら、衛宮邸に情報を残す。
3.無意味に戦うつもりはないが、危険人物は容赦しない。
4.『ワイルドタイガー』のような、真木に反抗しようとしている者達の力となる。
5.バーナビー・ブルックスJr.、謎の少年(織斑一夏に変身中のX)、雨生龍之介とキャスター、グリード達を警戒する。
6.セイバーと出会ったら……? 少なくとも今でも会話が出来るとは思っていない。
【備考】
※本編死亡後からの参戦です。
※『この世全ての悪』の影響による呪いは完治しており、聖杯戦争当時に纏っていた格好をしています。
※セイバー用の令呪:残り二画
※この殺し合いに聖堂教会やシナプスが関わっており、その技術が使用させている可能性を考えました。
※かろうじて生命の危機からは脱しました。
※顎部の骨折により話せません。生命維持に必要な部分から回復するため、顎部の回復はとくに最後の方になるかと思われます。
四肢をはじめとした大まかな骨折部分、大まかな出血部の回復・止血→血液の精製→片目の視力回復→顎部 という十番が妥当かと。
また、骨折はその殆どが複雑骨折で、骨折部から血液を浪費し続けているため、回復にはかなりの時間とメダルを消費します。
497
:
◆2kaleidoSM
:2013/06/12(水) 21:14:27 ID:6UlZSV5E
◇
1本の巨大な斧をもって斬りかかるバーサーカー。
受け止めるのは蒼き体を、紫の鎧、タイタンフォームへとその身を変えたクウガ。
斧を受け止める剣は、バーサーカーが撃ち込んだ大量の宝具の中の一つを変化させたもの。
精錬された一撃は、タイタンフォームでなければ武器ごと吹き飛ばされていただろうと言わんばかりの威力。
それを、タイタンフォームの腕力、そしてタイタンソードをもって受け流す。
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
「ッ…、切嗣さんはどこに…!」
ユウスケにはバーサーカーを殺すという選択肢はまだ取ることはできない。どうして彼が襲い掛かってきたのか、何者かに操られているのではないか。
その判断がつかない以上、踏ん切りがつかずにいた。
しかし、ユウスケがいかに迷おうと、バーサーカーはお構いなしに攻撃を続けてくる。
そして今、ユウスケはここにきてバーサーカーを取り押さえるのを諦めつつあった。
目の前の黒き騎士は手加減をして取り押さえられる相手ではない。それをこの身をもって実感したのだ。
殺す殺さないは後にしても、全力で戦わねば勝てない。
斧の一撃を、敢えて肩の部分で受け止める。
鎧にヒビが入るが、それだけ。逆に言えばタイタンフォームの堅牢な鎧にヒビが入ったのだ。
おそらくこの攻撃はタイタンフォーム以外で受けられるものではないだろう。
「おおおおおおお!!」
攻撃のために急接近したバーサーカーに対し、攻撃を受けたことで空いたタイタンソードを下から振り上げる。
その一撃はバーサーカーの身を纏った黒い霧に一瞬だけ切れ目を入れ、鎧を切り裂く。
バーサーカーはその反撃に一旦クウガから距離を取る。
空いた距離の元、ユウスケは瞬時にドラゴンフォームに変身。地面に刺さった槍を手に掴む。
そのまま一気に距離を詰め、バーサーカーの体にドラゴンロッドの連撃を叩きつける。
素早く、一撃一撃を確実に。相手に反撃の暇を与えないほどの勢いで。
宝具を射出する暇も、その手の斧を振りかざす隙も与えないように、関節部、そして先の攻撃の成果である、鎧に入った切れ目を攻撃。
パキッ
やがてバーサーカーの鎧に、さらなる亀裂が入る。
後ろに一歩下がったバーサーカー、それを見逃さず攻撃を加えようとしたところで―――
彼の手に、1本の剣が顕現する。
498
:
◆2kaleidoSM
:2013/06/12(水) 21:16:40 ID:6UlZSV5E
黒い西洋剣。
それは彼自身の宝具、無毀なる湖光(アロンダイト)。
解放させた代わりに、バーサーカーの他二つの宝具は封じられ、身を包んでいた黒き霧は消滅、斧も地面に投げ出される。
そしてここでユウスケに一つの不運があった。。
アロンダイトの特性には二つのものがある。
使用者の全パラメータを1段高めること、竜属性を持つ相手には追加で強化補正がかかるという二つ。
そして、今のユウスケの姿は、クウガ・ドラゴンフォーム。竜の属性を持っていた。
2段階の補正がかかったアロンダイトの一撃は、ドラゴンロッドを粉砕、それだけでは止まらずユウスケの体を袈裟懸けに切り裂く。
「ガ…!」
防御力は低めだったとはいえ、胸部の装甲をも切り裂いて中の肉体を損傷させたその一撃。
吹き飛んだユウスケは、背中を地面に打ち付ける。
起き上がろうとしたその時、バーサーカーは駆け出し、その手の剣をクウガに向けて振り下ろした。
タイタンフォーム―――ダメだ、武器がなければ受けきれない。
バーサーカーが発射した宝具は―――今となってはほとんどが回収され、僅かに残った武器も手元にはない。
起き上がって回避―――間に合わない。
「千冬さん、俺は―――」
と、諦めかけた、その瞬間だった。
振り下ろしたバーサーカーの剣を、突如目の前に現れた金髪の少女が受け止めたのは。
「………何故だ」
「■■■■!!」
499
:
◆2kaleidoSM
:2013/06/12(水) 21:18:44 ID:6UlZSV5E
バーサーカーにもその登場は予想外だったようで、意志は見えずともその動揺は見て取れた。
しかし、それ以上に、現れた少女は目の前に立つその存在に大きな動揺を隠しきれていなかった。
「―――バーサーカー。何故、貴様がその鎧を、そしてその剣を持っている?」
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
「答えろ!答えてくれ、ランスロット!!!」
そう叫んだと同時、金髪の少女はバーサーカーに蹴り飛ばされ、後ろに大きく後退する。
怯んだ彼女の元へ、叫び声を上げながら斬りかかるバーサーカー。
対してセイバーは、バーサーカーへの動揺からか対応が遅れてしまった。
「A――urrrrrrッ!!」
構えた戟は柄の部分で切断され、そのまま剣はセイバーの胸を切り裂こうと突き出され。
「うおおおおおおお!!」
次の瞬間、向かい来るバーサーカーの頭部の鎧を、紫の拳が対面から殴りつけた。
セイバーに完全に気を取られてしまったバーサーカーは、体勢を立て直したクウガの拳を正面から受けてしまったのだ。
クロスカウンターをまともに受けたことで、脳を揺らしたバーサーカーは一時的に体をふらつかせた。
「はぁ、はぁ…。あんた、セイバーさんだろ?」
「…あなたは…?」
「俺は小野寺ユウスケ。あんたのことは切嗣さんから聞いてる」
「切嗣から…?」
金髪の少女、セイバーは一瞬意外そうな表情でユウスケを見て、すぐに納得したように頷いた。
「キリツグは……、いえ、今する話ではない。それよりも、あのバーサーカーは――」
「切嗣さんに従っていたはずなんだけど、川に沈んでたのを助けたら襲い掛かられたんだ。何か知らないか?」
「な…、キリツグが彼を?!」
「セイバーさんは、切嗣さんがどこにいるか、知らないか?」
バーサーカーを切嗣が従えていた。
その事実は驚きはあったが、そこまで意外というわけでもなかった。
もし他のマスターから令呪を奪ったことで彼がバーサーカーを御しえたのなら、意志がない分彼の手駒としては最適なのかもしれない。
だが、それを他者が認識しており、なおかつ信頼関係を作っているというのは意外であった。
自分の知っている彼は、他者というものを信用しない。常に効率を選んで行動している。
情報が欲しければ、少なくともその名前や姿まで明かすことはそうそうないはずだろうし、最悪記憶操作や暗示という手段も用いたはず。
彼の言う切嗣が別人である可能性も考えたが、自分のことを知っている者は今となっては切嗣、鈴羽、あの”織斑一夏”しかいない。
500
:
◆2kaleidoSM
:2013/06/12(水) 21:21:40 ID:6UlZSV5E
(キリツグ、やはり、あなたは私の知るキリツグではないのか…)
しかし、その事実に思いを巡らせる暇はない。
バーサーカー―――ランスロットは既に脳震盪から立て直し、二足での直立を果たしていたのだから。
「キリツグは――教会で襲撃を受け、意識を失っている」
「何だって?!それは本当か!?」
「仲間もいる。だから――先に向かってほしい。彼は、………彼は私が――」
短くなった戟の柄を持ち、風を纏わせて透明化させるセイバー。
しかし、そんなやる気を表すような姿勢とは裏腹に、セイバーの声は、手元は震えている。黒い鎧が一歩近付いてくる度に、彼女の足後ろに下がりそうになっている。
そんな体勢でバーサーカーの一撃を受けられるはずもなく、アロンダイトの一振りでセイバーは吹き飛ばされる。
「く…」
セイバーの中には、まだバーサーカーの正体を知ったことへのショックが抜けきってはいない。
そんな精神状態で、セイバーを越える技量を持ちなおアロンダイトの補正がかかったバーサーカーは押さえられない。
だが、今この場にはユウスケがいた。
横からバーサーカーを押さえつけ、下ろされる剣を受け止める。
「な…、これは私の戦い、あなたが戦うことなど…――」
「事情は分からないけど…、そんな辛そうな顔した女の子に、戦わせられるわけがないだろ!」
「A――urrrrrrッ!!」
「こいつは俺がおびき寄せる。だから千冬さんと…セシリアちゃんを連れて、教会まで―――」
体を押さえたユウスケは、その背にバーサーカーの肘撃ちを受け力を緩めてしまう。
そのまま空いた手を打ちつけ、そのまま体から引き剥がして思い切り投げつけた。
投げ出されたユウスケを、セイバーは後ろから受け止めた。
「……確かに迷いはある、何故彼が狂気に落ちたのか、確かめたいという思いも。
しかしそれでも、己の戦いを投げ出すことは、決してしない。それが王たる者の勤めだ」
何故彼がああなってしまったのか。そんなにも私のことを憎んでいるのか。
聞きたいことはたくさんあった。
しかし、今は戦うことに集中しなければ、きっと彼はもっと多くの犠牲者を出すだろう。
それだけは、なんとしても止めなければならない。
「切嗣不在の今、バーサーカーを制御することはおそらくできないだろう。これまでのことは忘れて、バーサーカーを倒すことだけを考えてほしい」
「あんたは、それでいいのか?」
「もし彼が狂気に落ちたのなら、かつての友として私が止めなければならない。
だから、今だけその力を貸して欲しい」
ユウスケに断る理由はない。ただ一つ、どうしても気になってしまったことを言う。
「もちろんだけど、そんな辛そうな顔で戦おうとはしないでくれ。可愛い顔が台無しになるだろ」
「…私を女扱いは止めてもらいたい」
501
:
◆2kaleidoSM
:2013/06/12(水) 21:22:34 ID:6UlZSV5E
駆け抜けてくるバーサーカー。
クウガは、周囲に僅かに散らばるバーサーカーが回収しそこねた剣の1本をタイタンソードへと変化させ、セイバーの目前でアロンダイトを受け止める。
セイバーは、その隙に横から飛び掛り、短くなった刃をバーサーカーに叩きつける。
しかし、それも見通していたのかバーサーカーは片腕でそれを受け止める。
鎧に亀裂が走り、腕が後ろに大きく吹き飛んで体勢を崩した。
そのまま剣を地面に突き立て、クウガは後ろに下がる。
セイバーはそのタイタンソードを引き抜き、バーサーカーに振りかざす。
対するバーサーカーはその一撃を、アロンダイトで受け止めた。
しかし、相手の持っているのは竜殺しの属性を持った魔剣。セイバーの斬撃は数回で見切られ、タイタンソードは消滅する。
素手になったセイバーに、ここぞとばかりに襲い掛かるバーサーカー。
その時、セイバーの手の中に風が巻き起こる。
それまでに持っていた、戟の刃部を風王結界で隠したもの。それを取り出したのだ。
向けられた刃を防ごうとしたバーサーカーは、勝手知ったるセイバーの聖剣ではない武器の間合いを見誤り、手で受け止めようとするも掴み損ねてしまう。
掴み損ねた刃は体に密着させられ―――
「風王鉄槌(ストライク・エア)!!」
纏わせた風を、暴風として打ち付けた。
ゼロ距離からの風王鉄槌。その衝撃はランスロットを宙へと吹き飛ばす。
そして、
「うおりゃああああああああ!!」
宙に浮いたバーサーカーの体目掛けて、クウガは駆け、飛び上がり。
赤く燃える右足を、マイティキックをバーサーカーの胴体に向けて叩き込んだ。
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
クウガが着地すると同時、吹き飛んだバーサーカーは地面に叩きつけられる。
しかし、それでも未だ立ち上がる力を持っているバーサーカーは起き上がり。
次の瞬間、鎧の切れ目の罅が広がり、体を纏っていた黒き鎧は大きく割れ、地面に落ちた。
「……A……he……、■■■■■■■■ーーー!」
上半身の防具を失ったバーサーカー。
肉体に受けたダメージが大きかったためか、セイバーを前にしてバーサーカーは撤退を選んだ。
アロンダイトを収容し、全身に黒い霧を纏わせるとふらつく体を無理やり起こし、二人に背を向け跳び上がった。
502
:
◆2kaleidoSM
:2013/06/12(水) 21:23:43 ID:6UlZSV5E
◇
二人の姿が見えなくなった後、バーサーカーは地面に膝を着いた。
長期間水中に沈められていたこと、そしてセイバーとクウガとの戦闘による消耗。
逃走するだけの力は残していたものの、ここにきて限界がきてしまった。
意識を朦朧とさせる中、バーサーカーは己の中の欲望を爆発的に満たしつつあった。
セイバー―――アルトリア・ペンドラゴン。
かの王に会えたという歓喜が、心の中を埋め尽くしていたのだから。
だが、まだ足りない。
もっと戦いたい。そして、かの王に己の罪状を責められたい。
そして、己の罪を己自身で許したい。
そのために。
だが、今だけは休息を欲する肉体を押さえられなかった。
いかにセイバーに対する執着が、欲望が強くとも、己の体自体が求める生理的な欲には打ち勝てない。理性を捨て去っていればなおさらだった。
「A…t…ur……」
それでもその睡魔に抗い、前に進もうとしながらも。
バーサーカーはその意識を体の欲するままに、暗い闇に沈め、倒れた。
【バーサーカー@Fate/zero】
【所属】赤
【状態】疲労(大)、胸部にダメージ(大)、狂化、激しい憤怒、上半身の鎧破損 、気絶中
【首輪】100枚:0枚
【装備】王の財宝@Fate/zero
【道具】アロンダイト@Fate/zero(封印中)
【思考・状況】
基本:???????????????????!!
0.令呪による命令「教会を出て参加者を殺してまわる」を実行中。
1.意識無し
2.目覚め次第セイバーを追う。
【備考】
※参加者を無差別に襲撃します。
但し、セイバーを発見すると攻撃対象をセイバーに切り替えます。
※ヴィマーナ(王の財宝)が大破しました。
※バーサーカーが次に何処へ向かうかは後続に任せます。
503
:
◆2kaleidoSM
:2013/06/12(水) 21:24:20 ID:6UlZSV5E
◇
バーサーカーが逃走していく姿を見送ったユウスケとセイバー。
駆けていく方向は南。セイバーとしては教会から引き離すことには成功したといえるだろう。
無論、その先にいる人間が襲われてもいいということにはならず、何よりその真名を知ってしまった今、追いたいという思いはセイバーの中には大きい。
当然ユウスケとしても放置しておくわけにはいかないと考えている。
しかしセイバーには鈴羽が、ユウスケにはセシリアと千冬という気がかりな存在がいた。
彼らを放置してバーサーカーを追うということもまた、二人にはできなかった。
「救援、感謝します」
「気にするなって。それより、大丈夫か?ちょっと顔色悪いみたいだけど」
「…いえ、大丈夫です」
無論、それ以上にバーサーカー――ランスロットのあの有様はセイバーに少なくない精神的ダメージを与えていた。
それでも持ち直すことができたのは、ユウスケの存在がセイバーの状況対応力をどうにか引き出させたにすぎない。
(ランスロット…)
それでも、その正体を知ってしまった今、いずれまた彼と合間見えなければいけない。
その時までに、バーサーカーとなってしまった彼の前に立つことができるのか。その覚悟を、決めておかなければならないだろう。
そう心の中で考えるセイバーを見つめるユウスケは、その姿にここに来たばかりの時に士に襲われた後の自分を見たような気がした。
「そういえば、本当なのか?切嗣さんが大怪我負って目を覚まさないっていうのは」
「ええ、しかしメダルさえあれば、傷を回復させることは可能でしょう」
「ああ、あの鞘みたいな、宝具ってやつか。あれ俺達に支給されてたやつだったんだ」
「ではあなたは切嗣の命の恩人ということになるのですね。ありがとうございます」
「いいってそんなこと。それより千冬さんとセシリアちゃんと合流して早く教会へ――――」
と、その時だった。
――――ドォォォォン
「?!何だ!」
ここよりも東に位置する市街地辺り。
そこから、何かが爆発するかのような音が響いてきたのは。
「あそこは…、まさか千冬さん、セシリアちゃん!?」
504
:
◆2kaleidoSM
:2013/06/12(水) 21:25:38 ID:6UlZSV5E
【B-3 森林部西端】
【セイバー@Fate/zero】
【所属】無
【状態】疲労(大)、今後の未来への大きな不安、精神的疲労
【首輪】20枚:0枚
【コア】ライオン×1(一定時間使用不能)
【装備】折れた戟(ゲートオブバビロン内の宝具の一つ)@Fate/zero
【道具】基本支給品一式、スパイダーショック@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:殺し合いの打破し、騎士として力無き者を保護する。
1.ランスロット…
2.鈴羽達の元に戻りたいが、ランスロットも気がかり
3.悪人と出会えば斬り伏せ、味方と出会えば保護する。
4.衛宮切嗣、バーサーカー、ラウラ、緑色の怪人(サイクロンドーパント)を警戒。
5.ラウラと再び戦う事があれば、全力で相手をする。
【備考】
※ACT12以降からの参加です。
※アヴァロンの真名解放ができるかは不明です。
※鈴羽からタイムマシンについての大まかな概要を聞きました。深く理解はしていませんが、切嗣が自分の知る切嗣でない可能性には気付いています。
※バーサーカーの素顔は見ていませんが、鎧姿とアロンダイトからほぼ真名を確信しています。
【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】疲労(中)、胸部に軽い裂傷
【首輪】30枚:0枚
【コア】クワガタ:1 (一定時間使用不能)
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
基本:みんなの笑顔を守るために、真木を倒す。
1.千冬さん、セシリアちゃん?!
2.千冬さん、セシリアちゃん、セイバーさんと一緒に行動。二人と合流後は教会に向かいたい。
3.千冬さんとみんなを守る。仮面ライダークウガとして戦う。
4.井坂深紅觔、士、織斑一夏の偽物を警戒。
5.“赤の金のクウガ”の力を会得したい。
6.士とは戦いたくない。しかし最悪の場合は士とも戦うしかない。
7.千冬さんは、どこか姐さんと似ている……?
【備考】
※九つの世界を巡った後からの参戦です。
※ライジングフォームに覚醒しました。変身可能時間は約30秒です。
しかし千冬から聞かされたのみで、ユウスケ自身には覚醒した自覚がありません。
505
:
◆2kaleidoSM
:2013/06/12(水) 21:27:05 ID:6UlZSV5E
◇
時間はユウスケがバーサーカーからの逃走劇を始めたばかりのころまで遡る。
バーサーカーを引き受けて去っていったユウスケを追って、千冬はセシリアを乗せたダブルチェイサーを走らせていた。
ドラゴンフォームの脚力に加え、バイクでは追うことにできないルートを駆けていったユウスケ。
いくらバイクとて追うことなどできない。
追いつく頃には戦いが終わっていることを願って、千冬はバイクを飛ばしていた。
焦りからか、セシリアに話しかけることはできなかったため、移動中は物思いにふけるかのように無口であった。
そして、無口なのはセシリアとて同じ。しかしその心中は大きく異なっていた。
もしやるのであれば今がチャンス。
千冬を殺すことさえできればいい。ユウスケと合流しても誰かに襲撃を受けたと言えば、あのお人よしは信じるだろう。
問題は、彼女を殺すことができるのかどうかだった。
彼女は強い。もしブルー・ティアーズが万全であったとしてもいけるかどうかは分からない。
もし殺すのであれば、不意打ちが最も効果的だろう。
少なくとも彼女は自分のことを疑っている様子はないのだから。
それだけだろうか。
もしかすると、未だ彼女に手をかけることを恐れているのだろうか。
シャルロット・デュノアの時とは違う。
確かに彼女は、姉という存在から織斑一夏に最も近い女性だった。しかし、それゆえそこからさらに近くなることはない。
いつか越えなければならない壁であったとしても、恋敵ではない。
だからどうした。
彼女は己の弟の存在を無に化してなお、こうして生きようとしているのだ。
そんな彼女のことが許せるのか、許していいのか。
それでいいのか。
許さないことも、殺すことを心に決めることも簡単だが、それを実行に移すのは、相手が相手である以上どうしても難しかった。
「織斑先生、ユウスケさんとは、どのような方なんですの?」
己自身が沈黙に耐えられなかった。これ以上考えては覚悟が鈍るかもしれない。
だから、ふとそんなことを問いかけていた。
興味はなかった。しかし間を持たせるくらいは可能だろう。
506
:
◆2kaleidoSM
:2013/06/12(水) 21:28:13 ID:6UlZSV5E
「…あいつとはここにきて最初に出会った男だった。
その時、あいつは仲間に殺されかけ、気絶していたな」
千冬はぽつぽつと語り始めた。
井坂真紅郎という男とユウスケの戦い。見ているしかできなかった己の無力感。
気絶した彼を連れ、病院へ向かい―――
そこで見つけた、一夏の無惨な死体。
そのタイミングで接触を図ってきた、ラウラ・ボーデヴィッヒに化けたグリード。
そして、失意のままに殺し合いに乗って一夏を蘇らせることを決め、その場にいた人間に、そしてユウスケに襲い掛かった。
話しづらそうに話した事実だったが、それを聞いたとき、セシリアの心にふと安心感が生まれた。
この人もまた、彼が死んでそう思える人間だったのだと。
今ならまだ引き戻せるかもしれない。一夏さんを生き返らせるために戦おうと。
しかしそう言われることはなかった。
「だがな、私は殺せなかった。誰かのために戦い、私を信じると言ったあいつに、一夏の姿を重ねてしまった」
「―――――――――――」
それから織斑先生は色々なことを言っていた気がするが、あまり覚えてはいない。
そして、次に彼女の言葉を認識したときには、あの男自身の話になっていた。
「そうそう、小野寺自身の話だったな。
あいつも私に、自分の大切な人の姿を重ねたらしくてな。最初に会った時なんて言ったと思うか?
『姐さん?』だぞ?」
「そして私は言ってやったんだ。『私はお前の姉になった覚えはない』とな。
なのに、今となってはそんなアイツに、一夏を重ねているとはな」
うるさい。黙れ。
それ以上、あの男のことを一夏さんのように語るな。
なぜそこで狂ったままでいられなかったのか。
なぜあの男を殺せなかったのか。
なぜ、あなたは彼のいない世界をこんなにも受け入れたのか。
私は、こんなに苦しんでいるのに。
憎い。憎い。憎い。
殺してやりたい。
ダメだ。今はまだまずい。
もう少しだけ耐えろ。
507
:
◆2kaleidoSM
:2013/06/12(水) 21:30:08 ID:6UlZSV5E
「…随分、親しくなられたのですね。ユウスケさんと」
「そうだな。まだ出会って一日と経っていないというのにな。
まるで――――」
「あの時のお前も、こんな気持ちだったのだろうか」
あの時。それはきっと、あの模擬戦のことを指しているのだろう。
そこに深い意味はなかったのだろう。
恋心うんぬんではなく、その人のことについて様々なことを考えるようになったきっかけという意味での例えだったのだろう。
だとしても。仮にそうだったとしても。
あの男と引き合いに出すのに、その想い出だけを持ち出すのは。
それだけは耐えられなかった。
こんな人、死んでしまえ。
OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO
「正直な、一夏の死を放送で改めて聞いたときは不安に思ったものだったな。
一夏に恋焦がれたお前達が、変な気を起こしはしないか、と」
千冬はそう、冷静に告げる。
先ほどまでの口調と違い、どこまでも冷たい声で。
「お前を見つけた時は安心したものだ。
もし一夏の死をきっかけに狂おうとしているのであれば止められる。
生徒を殺人者にしなくても済むと、な」
セシリアは答えない。
サイドカーに乗っていたはずの彼女は、今は千冬の目の前に立っている。
そして、ダブルチェイサーは鉄くずとなって地面に転がっている。そして、千冬の左腕にはあまり軽くはない火傷があった。
508
:
◆2kaleidoSM
:2013/06/12(水) 21:31:39 ID:6UlZSV5E
「セシリア・オルコット。一つ尋ねるぞ。
シャルロットのラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ、何故貴様がそれを持っている!!」
もしも、この時のセシリアがその銃口をこちらに向けていなければ。
もしその銃口でダブルチェイサーを撃ち抜いていなければ。
それはシャルロット・デュノアがセシリア・オルコットに託したか、あるいは何かしらの手違いで拾ったものという推測も立ったかもしれない。
しかし今の状況では、その答えは一つしか思い浮かばなかった。
「貴様、デュノアを殺したな?」
「残念ですわ織斑先生。もしあのまま狂っていてくれたなら、一緒に生き抜くこともできたかもしれないですのに。
一夏さんのいない世界を受け入れてしまったあなたなんて、私には要りませんわ」
言うと同時、その手に構えられたアサルトライフルが発射される。
乱射される弾を、咄嗟に走って建物の陰に隠れることで避ける千冬。
と、武器を取り替えるような音が耳に届いたことに反応した千冬はさらに駆け抜ける。
先ほどまで盾にしていた建築物が一瞬で吹き飛んだ。
(ちっ、徹底的に接近させないつもりか)
いくら剣の扱いにおいてはかなりの力量をもっている千冬とて、相手が重火器を持った、それもIS装着者となっては防戦一方となる。
だからといって、このまま逃げ続けるだけではいずれ捉えられる。メダルが切れるまで持つかどうか考えてもあまりにリスクが高い。
しかし、それは自分の元にISがなければの話だ。
(……一夏)
バッグから取り出したのは、白い腕輪。
今は亡き弟が装着していた、専用のIS。
一夏専用とされたこれを私が使いこなせるかどうかは分からない。
だが、それでもやらねばならない。
(これ以上のオルコットの凶行を止めるため、力を貸してくれ――!)
と、次の瞬間、潜んでいた電柱に大口径のライフル弾が撃ちこまれた。
509
:
◆2kaleidoSM
:2013/06/12(水) 21:32:17 ID:6UlZSV5E
「やりましたの?」
コンクリートの破片が巻き起こす砂埃を前に、なおも警戒をしながらセシリアは連装ショットガン「レイン・オブ・サタデイ」を構える。
普通の人間であれば死んでいるような攻撃だが、相手はあの織斑千冬。油断などできない。
少しずつ収まっていく砂煙の奥。
そこに一つの影が、姿を見せる。
「やっぱり、ですのね」
不思議はない。
元々彼女が持っていることは知っていた。
そして、彼女は織斑一夏の姉であり、あの織斑千冬なのだ。扱えたとして何の問題もない。
そこにいた千冬は、生身ではない。
白い甲冑に身を包み、巨大な翼を展開したその姿は。
かつて織斑一夏の纏っていた、第4世代型IS、白式。
今のセシリアには、苛立ちの対象でしかなかった。
彼でない者がそれを纏っている事実。
その装着者が、彼のいない世界を肯定し、なのにこんなにも彼の面影を感じさせるところがなおさら。
「オルコット、お前にはきつめの教育的指導が必要なようだな」
と、雪片弐型を構える千冬。
「苛々しますわね。私の大切な思い出を穢そうと、そんなものまで持ち出して。
なら、思い出が綺麗なうちに消させてもらいますわ!!」
と、そういって空中へと飛翔するセシリア。
どこまでも接近戦をさせないつもりなのだろう。
(ユウスケ、あの時の私もあんな顔をしていたのだろうな)
ふと病院での凶行を思い出してそんなことを考えた。
(だが、私が立ち直れたのはお前のおかげだな。
オルコットにはそんなやつが誰もいなかった。なら、奴を止める役割は私が担おう――)
そう考えた千冬に向けてライフル弾が迫るのを確認した後、千冬もセシリアを追って飛翔した。
空中に二つの閃光。
想う対象は同じなれど、その道は決して交わらず。
愛に飢えし少女、前に進むことを選んだ姉。
二人の戦いが、ここに始まった。
510
:
◆2kaleidoSM
:2013/06/12(水) 21:32:48 ID:6UlZSV5E
【C-3 市街地上空】
【織斑千冬@インフィニット・ストラトス】
【所属】赤
【状態】精神疲労(中)、疲労(小)、左腕に火傷、深い悲しみ
【首輪】85枚:0枚
【装備】白式@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品 、シックスの剣@魔人探偵脳噛ネウロ
【思考・状況】
基本:生徒達を守り、真木に制裁する。
1.オルコットを止める。
2.鳳、ボーデヴィッヒとも合流したい。
3.一夏の……偽物?
4.井坂深紅觔、士、織斑一夏の偽物を警戒。
5.小野寺は一夏に似ている。
【備考】
※参戦時期不明
※白式のISスーツは、千冬には合っていません。
※小野寺ユウスケに、織斑一夏の面影を重ねています。
※セシリアを保護したことによりセルメダルが増加しました。
【セシリア・オルコット@インフィニット・ストラトス】
【所属】青
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、精神疲労(極大)、倫理観の麻痺、一夏への依存
【首輪】30枚:0枚
【装備】ブルー・ティアーズ@インフィニット・ストラトス、ニューナンブM60(5/5:予備弾丸17発)@現実
【道具】基本支給品×3、スタッグフォン@仮面ライダーW、ラファール・リヴァイヴ・カスタムII@インフィニット・ストラトス
【思考・状況】
基本:一夏さんへの愛を守り抜いてみせましょう。
1.ユウスケと合流するまでに千冬を殺す。ユウスケと合流後は彼を騙した後殺す。
2.一夏さんが手に入らなくても関係ありません。敵は見境なく皆殺しにしますわ!
3.一夏さんへの愛のためなら何だって出来ますの……悪く思わないでくださいまし。
4.一夏さんへの愛のために行動しますの。殺しくらいなら平気ですわっ♪
5.織斑先生達の前では殺し合いに乗っていないフリ。賢い生き方を、ですわ。
【備考】
※参戦時期は不明です。
※制限を理解しました。
※完全に心を病んでいます。
※一応、青陣営を優勝させるつもりです。
※ブルーティアーズの完全回復まで残り5時間。
なお、回復を待たなくても使用自体は出来ます。
※千冬を傷つけたことにより、セルメダルが若干増加しました
※ダブルチェイサーは破壊されました
※ユウスケとセイバーの元に届いた音はダブルチェイサーが爆破された音です
511
:
◆2kaleidoSM
:2013/06/12(水) 21:38:38 ID:6UlZSV5E
投下終了です
見落とした点などがありましたら指摘お願いします
512
:
◆ew5bR2RQj.
:2013/06/13(木) 00:18:59 ID:iQluJ1SA
投下乙です。
特に問題はないと思いますが、一点だけ指摘を。
>>498
>そしてここでユウスケに一つの不運があった。。
句点が二つになっています。
513
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/13(木) 05:52:59 ID:/zLJln/c
クウガのドラゴンフォームは名前こそドラゴンだけど、実際には竜と関係はないのではなかったでしょうか
モチーフが龍のアギト、そのまま龍を使う龍騎などはいいと思いますが
514
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/13(木) 09:34:39 ID:Tz7WB.Zc
仮投下乙です。
個人的に大きな修正点は見当たりませんね。
上で指摘されているものは竜属性云々を抜きにしてもアロンダイト装備のバーサーカーなら十分ドラゴンフォームを戦闘不能にすることはできるでしょうし。
>>513
てか他作品にそのまま竜属性なるものを持ち込んでいいのかな?というところから疑問ではありますね。
この作品に文句があるわけではないのですが、fateの竜属性のつくものとドラグレッダーなどが同じ扱いというのは疑問符を浮かべざるを得ません。
もちろん二次創作ですし、多少は構わないのでしょうが……。
この辺も少々議論の余地ありではないでしょうか。
515
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/13(木) 10:43:56 ID:8eNnujvw
仮投下乙です
自分は問題ないと思います
竜殺しの逸話がある英霊だからこそ、そのまま竜殺しというスキルを持っているわけで、それは他作品であろうと相手が竜ならば有効かと思います。
ドラゴンフォームも竜と関係なくとも、その名にドラゴンを含んだ存在である以上、その存在の在り方や逸話で能力が決定するFate的には竜属性を含むということでも問題ないかと。
というか、これくらいなら無茶なクロスオーバーとも言えないし、リレーに困る訳でもないのだから、二次創作の楽しみの一つとして捉えてもいいと思いますよ。
516
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/13(木) 10:46:15 ID:Q6gZ.gbM
うん、そのくらいなら許容範囲だと思う
517
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/13(木) 12:45:42 ID:udfZBp6k
逸話で能力が決まるってのは、トキワ荘でやってる某スレは仮面ライダーがそのままサーヴァントになってるからわかるが
ここって別にライダーや鯖や他キャラで設定的に優劣ってないんじゃないの?
都合のいい所だけFateの設定に準拠しろってのはどうも
518
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/13(木) 13:05:11 ID:dDHbTyh6
他作品のキャラに竜殺しが有効なのは問題無いと思いますが、ドラゴンフォームを竜属性だとするのは無理があると思います。
クウガの属性は「クワガタ」とか「虫」でしょう。
地水火風や水龍、天馬、巨人は、あくまでモチーフだと思います。
519
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/13(木) 17:20:11 ID:rnRVHKos
クウガのドラゴンフォームにどのような意味が込められているのか次第と思います
龍に関わる何らかの由来があるなら、私は今回の作品の内容に賛成します
商品展開の都合上の便宜的な呼称に過ぎないのなら、賛成しかねます
クウガとfateに疎いので自分に言えるのはこれくらいです
520
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/13(木) 17:46:44 ID:/zLJln/c
バッタの改造人間やウルフオルフェノクなど、根幹にその生物の特性があるならともかく
クウガの各フォーム名は能力と戦闘スタイルを区別する以上の意味がないはず
これはクロスオーバーじゃなくて単なるこじつけだと思うけど…
521
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/13(木) 18:30:07 ID:xK.oHbaE
龍馬ってキャラがいたとして名前に「龍」ついてるから特攻付く。
fateのそれが何処までこじつけられるのかわからないので、
一行目に書いたのがありなら問題ないかと思います。
522
:
◆2kaleidoSM
:2013/06/13(木) 19:10:28 ID:Ku6UBoXo
どうも混乱させてしまったようですみません
ドラゴンうんぬんの部分は本投下の際にはカットしておきます
523
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/14(金) 00:09:32 ID:uqkmku7M
修正出来たので投下します。
524
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/14(金) 00:10:37 ID:uqkmku7M
放送を聞いた士は……神妙な面持ちだった……。
あの剣崎が……あの仮面ライダーブレイドが……既に死んでいる……!?
奴はキングフォームになれるため、超強かったのに……。
ディケイドも苦戦を強いられたのは記憶に新しい。
ディケイドの目的は、増えすぎて融合しだしたそれぞれの世界の核となっている仮面ライダーを倒すこと……。
士自らが倒せなかったとはいえ、世界の核となってる仮面ライダーブレイドが倒されたので、ブレイドの世界は破壊されたはずであるが念のためもしブレイドのベルトを受け継いだ奴がいるなら、そいつもディケイドとして破壊するが。
あとはディケイドが頑張って他の世界を壊せばいい……今までと何も変わらない……。
ところで、残るはこの場にいるだけでもクウガと龍騎がいるから、それを倒さないといけない。
特にクウガの小野寺ユウスケは……声に出して言うのは恥ずかしいが……俺の友達だ……倒すならこの手で!!!
「いくか」
これ以上休んでるのはよくないので、士は歩き出した。
あと知り合いだと月影も死んでたが、月影は普通に敵だし勝手に倒れてくれたならそれは普通にいいことなのでオーケーだ。
士の記憶でも、月影は戦ってたらなんかいきなりやってきたダブルにボコボコにやられてたし、まあそんなところだろう。
「大丈夫かニャ……?」
フェイリスは心配してラウラに大丈夫かどうかきいた。
俯いていたラウラは……とても大丈夫じゃなさそうだった。
放送を聞いてからしばらくたったが……ラウラはやばそうだったのだ。
なにせ、一夏の名前が放送で呼ばれたのだから大丈夫なわけがないだろう……。
だが、そういうフェイリスも実は危なかった……。
ラボメンの仲間であるダルの名前が放送で呼ばれたからだ……。
それ故にこそにフェイリスも結構しばらく落ち込んでたが、もう大丈夫だ、立ち上がった。
なんてったって、フェイリスは既に……大好きなパパの死を乗り越え、まゆしぃを救うと決めたのだ……。
仲間の死は悲しいけど……未来に向かって歩いていくのをやめちゃいけニャい……決意は揺らがない!!!
それ故にこそに今はダルたちの分まで生き延びなければ。
まだ生きている鈴羽や紅莉栖、凶真たちとも合流して、一緒に頑張れると非常にいい。
そして悲しむのは……全てを終わらせて帰ったあとだ……。
読者諸兄に説明しておこう。
これは別にフェイリスが冷たいわけではない……。
愛ゆえにこそに、フェイリスは立ち上がったのだ……。
ハート
これはフェイリスのこころが強かったからこそ起こりうる必然……。
だからこそ、フェイリスはラウラにそういう思いを伝えようと思った。
「ラウにゃん……辛いだろうけど、今は死んでいったみんなの分まで戦わニャいと」
ラウラはつらそうに俯いたままだったので、そのまま続けた。
「さっきラウニャンも言った通りニャ。死んでいった人が悲しむことはしちゃいけニャいから、シャルニャンたちの分までラウニャンたちが生きないと」
ハート
フェイリスの心からの言葉をきいたラウラは……フェイリスの熱い想いが届いたのか、その気持ちを理解してくれ、目元の涙をぐっと拭った。
ーーーキラキラ……キラっ
銀髪の美少女の隻眼に溜まっていた涙の雫が美しく飛び散る……。
「そうだな……お前の、言うとおりだ……いつまでも……喪に伏しているわけにはいかないな……これでは、一夏にも、私の友にも顔向けができん」
顔を上げたラウラの顔には……再び覇気が宿っていた。
冷静でいながらも熱い眼差しでぐっ!とフェイリスを見つめる。
「すまない……情けない姿を見せてしまったな」
「ううん、フェイリスも気持ちはよく分かるニャ。だから一緒に戦おうニャ!」
ガシッ!
二人は握手をした……!
そして、次の出会いと進展を求めて歩き出した。
それから、すこし歩いた頃だった……遠くの方からふらりと誰かが歩いてきた。
見覚えのない長身の男だったので、フェイリスもラウラも警戒して身構えるが、そんな時、フェイリスの中のイマジンズが騒ぎ出した。
525
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/14(金) 00:11:51 ID:uqkmku7M
ディケイドじゃねえか!あれはディケイド!ディケイドやないか!ディケイドだー!
フェイリスの頭の中で、みんなが仲間のディケイドの登場に沸き立つ。
「ディケイド……あの人がそうなのかニャ……!?」
「ん?何を言ってるんだ、フェイリス」
「ラウニャン、あの人は敵じゃないようニャ!」
「そうなのか?」
ラウラの問いにフェイリスはあれがディケイドという仮面ライダーであることを説明しようと思ったが、その前にディケイドが口を開いた。
「お前、何者だ?今ディケイドって言ったな。俺のこと知ってるのか?」
「良くぞ聞いてくれたニャ!我が名はフェイリス・ニャンニャン……この絶望の饗宴で希望を捨てずに戦うネコミミ少女!」
「……私はラウラ・ボーデヴィッヒ。ゲームには優勝するつもりだが、殺し合いには乗ってない」
「なんだと……?」
ディケイドの表情がムム……?と歪んだ。
何を言ってるんだ……そう聞きたげな目をしてると思ったので、ラウラが説明する。
「このゲームは最後に残った陣営の参加者は全員で生還出来るというルールだろう?私たちはそのルールの穴を突いて、すべてのメダルを集めて唯一の陣営リーダーとなり、可能な限りの参加者を仲間にして、みんなで脱出するのが目的なんだ」
「ほぉ、ガキにしては面白いことを考えるな」
ディケイドのガキという挑発にラウラの顔がムッとしたので、空気が悪くなる前になんとかせざるお得なくなったので、フェイリスが割り込んだ
「だから、今は一人でも多くの戦力と仲間が欲しいのニャ!ディケイド、フェイリス達に手を貸して欲しいニャ!」
「その前に俺の質問に一つ答えろ」
「なんニャ?」
「お前、なんで俺のことを知ってる?俺はお前のことなんて知らない」
その質問に、フェイリスはデイバッグから電王ベルトをまるでこれが目に入らぬかとばかりに取り出して答えた。
「このゲームから脱出するまでの間は、このフェイリスが電王として、モモタロス……ううん、モモニャン達と一緒にいるのニャ!ディケイドのことはモモニャン達から聞いたニャ!」
「……お前、何言ってる?電王は既に俺が破壊したはずだ、ここにあるわけがない」
「え……?破壊……ニャ?」
フェイリスは意味が分からなくて首を傾げるが、フェイリスの中のイマジン達も誰もその意味を理解してないらしく、きょとんとしていた。
まあ、一番意味を理解していないのはラウラだが。
ディケイドこと門矢士は、電王が今ここにいることに疑問を感じていた。
ライドブッカーから電王のカードを取り出して見てみるが、電王は確かに破壊したし、電王を破壊したことで得たカメンライドカードは今士が持っているので破壊したことで間違いないはずである。
クウガは過去の時間軸から連れて来られていたが、まさか破壊が完了した仮面ライダーさえもここに連れてくるというのか……?
「モモニャンたちは、ディケイドに破壊された覚えなんてニャいって言ってるニャ。それに、ディケイドのこと、仲間だって……」
「俺は既に全ての仮面ライダーの敵だ。仲間なんてものは遠い過去に置き去りにしてきた」
「でも、モモニャンやウラニャンたちがそんな嘘をつく理由なんて何処にもないニャ」
「……」
「分かったニャ……さては、ツンデレって奴ニャ?素直になれないなら、それでもいいニャ……でも、ディケイドがどう言おうと、モモニャンたちとの間にある仲間の絆は切ってもきれないーーー」
フェイリスが何かうんちゃらかんちゃら言ってるが、思考に没頭する士の耳にはもうそんな言葉は入ってきてなかった。
今士が考えるべきことは、電王を破壊する必要があるかどうか……否、一度破壊し、そのカードを手に入れたなら、もう一度壊す必要はない。
だから……少なくとも今ここでこの電王と戦う必要はない……だったら、士にもやりようはある。
どのみちこのゲームは破壊しなければならない……それは前から変わらない考えである。
そして、このフェイリスの言うように、無駄な殺生をせずにゲームを破壊する手段があるときた。
526
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/14(金) 00:12:35 ID:uqkmku7M
純粋に陣営リーダーになって、悪い奴だけ倒して、それ以外はみんなで一緒に脱出出来るならそのほうがよかろう。
士は世界のために仲間を置き去りにして破壊者になったが、何も好き好んで悪者になりたいわけではないのだから。
ならば、今更どの面下げて……と思われるのは承知の上で、ここにいる間くらいはあの小野寺ユウスケとも協力してやってもいいかもしれない。
最も、一度でも破壊者の運命を受け入れた以上、今更そんな不恰好なことは出来ない……ここで破壊出来るならしてしまったほうがいいことには変わりない。
だが、ゲームを破壊して元の世界……おっと、元の世界なんて言った所で、士には元の世界などないのだった……。
では言い直そう……ゲームを破壊して、元の時間軸に戻ってから、自分と同じ時間を生きるクウガを撃破するのでも遅くはない……そう少し思ったのだ。
どうせ勝つのはこのディケイドなのだから……いや、全ての世界のために、勝たなければならないのだから……。
有言実行……ディケイドは破壊するといったら必ず破壊する。
「いいだろう、わかった……俺もお前らの仲間になってやる」
「本当か、ならばーー」
「ただし!」
士はやけに格好をつけた感じで大きな声で言った。
仮面ライダーディケイド
「すべてのグリードは俺が破壊する。いずれ誕生する唯一無二の陣営リーダーはこの俺…… 門 矢 士 だ!!!!」
「……は?」
フェイリスと……特にラウラは、唖然としていた。
士にしてみれば、わけがわからないまま戦うよりもハッキリとしたいい感じの目標が立った。
だが……いきなりやってきた第三者にいきなりこんな偉そうなことを言われたら、誰だって反感を抱くもの……。
フェイリスはいいとして……ラウラが士に反論するのは、また別のお話……。
To Be Continue
ーーーーーつ づ く 。
【一日目-夜】
【D-4/市街地 マップ右下寄り】
【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【所属】無
【状態】健康、苛立ち、疲労(中)、ダメージ(大)
【首輪】45枚:0枚
【コア】サイ、ゾウ
【装備】ライドベンダー@仮面ライダーOOO、ディケイドライバー&カード一式@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品一式×2、キバーラ@仮面ライダーディケイド、ランダム支給品1〜4(士+ユウスケ)、ユウスケのデイバック
【思考・状況】
基本:「世界の破壊者」としての使命を果たす。
0.ラウラにフェイリス、お前らは俺の仲間に加えてやってもいいぜ。
1.全てのコアメダルを集め、全てのグリードを破壊し、陣営リーダーとして生還する。
2.「仮面ライダー」とグリード含む殺し合いに乗った参加者は全て破壊し、それ以外は仲間にしてやる。
3.ディエンドとは戦う理由がないので場合によっては共闘も考える。
4.セルメダルが欲しい。
【備考】
※MOVIE大戦2010途中(スーパー1&カブト撃破後)からの参戦です。
※ディケイド変身時の姿は激情態です。
※所持しているカードはクウガ〜キバまでの世界で手に入れたカード、ディケイド関連のカードだけです。
※アクセルを仮面ライダーだと思っています。
※ファイヤーエンブレムとルナティックは仮面ライダーではない、シンケンジャーのようなライダーのいない世界を守る戦士と思っています。
※アポロガイストは再生怪人だと思っています。
※少なくとも電王は破壊する意味なしと判断しました。
527
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/14(金) 00:13:13 ID:uqkmku7M
【フェイリス・ニャンニャン@Steins;Gate】
【所属】無所属
【状態】健康、深い哀しみ、ゲームを打破するという決意、戦いに対する不安、イマジンズへの信頼
【首輪】100枚:0枚
【装備】IS学園女子制服@インフィニット・ストラトス
【道具】IS学園男子制服@インフィニット・ストラトス、
デンオウベルト&ライダーパス+ケータロス@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:仲間と共にコアメダルを全て集めて脱出し、マユシィを助けるニャ。
0.今はまだ、誰かと戦う覚悟はニャいけど……いつかはフェイリスも……?
1.この人がディケイド……呼び方はなんて呼ぼうかニャ?
2.アルニャンとセシニャンを止めなくちゃいけニャい!
3.凶真達とも合流したいニャ!
4.変態(主にジェイク)には二度と会いたくないニャ……。
5.イマジンのみんなの優しさに感謝ニャ。
6.世界の破壊者ディケイドとは一度話をしてみたいニャ!
7.ラウニャンに人殺しはさせたくニャい。とくに友達を殺すニャんて……
【備考】
※電王の世界及び仮面ライダーディケイドの簡単な情報を得ました。
※モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス、ジークが憑依しています。
※イマジンがフェイリスの身体を使えるのは、電王に変身している間のみですが、
ジークのみは特別で、その気になれば生身のフェイリスの身体も使えるようです。
※タロスズはベルトに、ジークはケータロスに憑依していました。
※ジークがまだフェイリスを認めていないので、ウイングフォーム及び超クライマックスフォームにはなれません。通常のクライマックスフォームまでなら変身できます。
※イマジンたちは基本的に出しゃばって口出しする気はありません。フェイリスの成長を黙って見届けるつもりです。
【ラウラ・ボーデヴィッヒ@インフィニット・ストラトス】
【所属】緑
【状態】ダメージ(小)、疲労(小)、精神疲労(大)、深い哀しみ、力への渇望、セシリアとウヴァへの強い怒り(ある程度落ち着いた)
【首輪】80枚(増加中):0枚
【コア】バッタ(10枚目):1
【装備】シュヴァルツェア・レーゲン@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、魔界の凝視虫(イビルフライデー)×二十匹@魔人探偵脳噛ネウロ、ランダム支給品0〜2(確認済)
【思考・状況】
基本:グリードに反抗する仲間とコアメダルを集めて優勝し、生還する。
1.この男はいきなり現れて何を言っているんだ……!?
2.セシリアを止める。無理なら殺すことにも躊躇いはない。
3.陣営リーダーとして優勝するため、もっと強い力が欲しい。
4.もっと強くなって、次こそは(戦う必要があれば、だが)セイバーに勝つ。
5.一夏やシャルロットが望まないことは出来るだけしたくはない。
【備考】
※本当の勝利条件が、【全てのコアメダルを集める事】なのでは? と推測しました。
※"10枚目の"バッタメダルと肉体が融合しています。
時間経過と共にグリード化が進行していきますが、本人はまだそれに気付いていません。
528
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/14(金) 00:15:25 ID:uqkmku7M
これならば指摘された問題点はもう大丈夫だと思います!
どうでしょうか?
529
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/14(金) 00:20:01 ID:uqkmku7M
>>526
の
すみません……早速ですが、
「いいだろう、わかった……俺もお前らの仲間になってやる」
という台詞を
「いいだろう、大体わかった。俺もお前らの仲間になってやる」
に変更します!
530
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/14(金) 10:59:43 ID:cmtBC/tU
書き手がトリ付きでキレてるのにガン無視とはいい度胸だな
531
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/14(金) 12:44:05 ID:78PLEslU
指摘には対応してるわけで、それ以外のプライベートに関わる部分には返事をしなければならない義務なんてないでしょ
それよりも書き手でもない第三者が公の場でそんな高圧的な態度でいることの方が問題かと思うけど
修正部分はこれで問題はなくなったと思いますよ
532
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/14(金) 17:44:49 ID:iOdlvrvE
一応確認すると、◆2kaleidoSM氏の作品の方は本投下でOKかな
533
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/14(金) 20:33:16 ID:nkP5w8sA
◆2kaleidoSM氏仮投下乙です。
個人的に問題は見つかりません。感想は本投下の時に。
そして◆BXyDW0iXKw氏、投下&修正乙です。
しかし少々気になる点が。
この場では仮面ライダーを破壊せず元の世界に戻ってから破壊すればいいのではと士が思考し、この場での仮面ライダーとの共闘を考える描写ですが、
過去の作品である◆qp1M9UH9gw氏の『誓いと笑顔と砕けた絆』で小野寺ユウスケを見逃した際、次あったら必ず破壊する、仲間だからなどという情は捨てる。
という思考パートがあり、
更に◆MiRaiTlHUI氏の『ナイトメア・ビフォア』ではダブルやアクセル、オーズなど、まだ見ぬ仮面ライダーが何人いるかわからない現状では一刻も早いライダーの殲滅が必要だと思考しており、
また他人から悪と考えられても構わない。寧ろ今までが甘すぎたから今後は問答無用でライダーを倒すと思考しています。
これらの描写から今更士が殺し合いの場では悪い奴だけ倒して皆で帰れば万々歳という安直な考えで落ち着くのは少々疑問を抱かざるを得ない部分だと思いました。
指摘だけでは失礼だと重々承知しているつもりではありますが、私、恥ずかしながらこれについての具体的な修正案が浮かびませんでした。
だから破棄しろ、などとは口が裂けても言えません故、無責任ながらこの指摘点についての修正案は他の方や書き手氏本人にお願いしてもよろしいでしょうか。
名無しの分際で指摘+他人に解決の責任を押し付けるような無責任なコメント、失礼致しました。
不快に思われた方がいるなら、謝罪させていただきます。
534
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/14(金) 21:03:59 ID:uqkmku7M
ご丁寧にご指摘いただきまして、ありがとうございます。
今はかろうじてPCに触れることが出来るので、出来上がった修正案を投下します!
535
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/14(金) 21:04:29 ID:uqkmku7M
放送を聞いた士は……神妙な面持ちだった……。
あの剣崎が……あの仮面ライダーブレイドが……既に死んでいる……!?
奴はキングフォームになれるため、超強かったのに……。
ディケイドも苦戦を強いられたのは記憶に新しい。
ディケイドの目的は、増えすぎて融合しだしたそれぞれの世界の核となっている仮面ライダーを倒すこと……。
士自らが倒せなかったとはいえ、世界の核となってる仮面ライダーブレイドが倒されたので、ブレイドの世界は破壊されたはずであるが念のためもしブレイドのベルトを受け継いだ奴がいるなら、そいつもディケイドとして破壊するが。
あとはディケイドが頑張って他の世界を壊せばいい……今までと何も変わらない……。
ところで、残るはこの場にいるだけでもクウガと龍騎がいるから、それを倒さないといけない。
特にクウガの小野寺ユウスケは……声に出して言うのは恥ずかしいが……俺の友達だ……倒すならこの手で!!!
「いくか」
これ以上休んでるのはよくないので、士は歩き出した。
あと知り合いだと月影も死んでたが、月影は普通に敵だし勝手に倒れてくれたならそれは普通にいいことなのでオーケーだ。
士の記憶でも、月影は戦ってたらなんかいきなりやってきたダブルにボコボコにやられてたし、まあそんなところだろう。
「大丈夫かニャ……?」
フェイリスは心配してラウラに大丈夫かどうかきいた。
俯いていたラウラは……とても大丈夫じゃなさそうだった。
放送を聞いてからしばらくたったが……ラウラはやばそうだったのだ。
なにせ、一夏の名前が放送で呼ばれたのだから大丈夫なわけがないだろう……。
だが、そういうフェイリスも実は危なかった……。
ラボメンの仲間であるダルの名前が放送で呼ばれたからだ……。
それ故にこそにフェイリスも結構しばらく落ち込んでたが、もう大丈夫だ、立ち上がった。
なんてったって、フェイリスは既に……大好きなパパの死を乗り越え、まゆしぃを救うと決めたのだ……。
仲間の死は悲しいけど……未来に向かって歩いていくのをやめちゃいけニャい……決意は揺らがない!!!
それ故にこそに今はダルたちの分まで生き延びなければ。
まだ生きている鈴羽や紅莉栖、凶真たちとも合流して、一緒に頑張れると非常にいい。
そして悲しむのは……全てを終わらせて帰ったあとだ……。
読者諸兄に説明しておこう。
これは別にフェイリスが冷たいわけではない……。
愛ゆえにこそに、フェイリスは立ち上がったのだ……。
ハート
これはフェイリスのこころが強かったからこそ起こりうる必然……。
だからこそ、フェイリスはラウラにそういう思いを伝えようと思った。
「ラウにゃん……辛いだろうけど、今は死んでいったみんなの分まで戦わニャいと」
ラウラはつらそうに俯いたままだったので、そのまま続けた。
「さっきラウニャンも言った通りニャ。死んでいった人が悲しむことはしちゃいけニャいから、シャルニャンたちの分までラウニャンたちが生きないと」
ハート
フェイリスの心からの言葉をきいたラウラは……フェイリスの熱い想いが届いたのか、その気持ちを理解してくれ、目元の涙をぐっと拭った。
ーーーキラキラ……キラっ
銀髪の美少女の隻眼に溜まっていた涙の雫が美しく飛び散る……。
「そうだな……お前の、言うとおりだ……いつまでも……喪に伏しているわけにはいかないな……これでは、一夏にも、私の友にも顔向けができん」
顔を上げたラウラの顔には……再び覇気が宿っていた。
冷静でいながらも熱い眼差しでぐっ!とフェイリスを見つめる。
「すまない……情けない姿を見せてしまったな」
「ううん、フェイリスも気持ちはよく分かるニャ。だから一緒に戦おうニャ!」
ガシッ!
二人は握手をした……!
そして、次の出会いと進展を求めて歩き出した。
それから、すこし歩いた頃だった……遠くの方からふらりと誰かが歩いてきた。
見覚えのない長身の男だったので、フェイリスもラウラも警戒して身構えるが、そんな時、フェイリスの中のイマジンズが騒ぎ出した。
536
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/14(金) 21:05:00 ID:uqkmku7M
ディケイドじゃねえか!あれはディケイド!ディケイドやないか!ディケイドだー!
フェイリスの頭の中で、みんなが仲間のディケイドの登場に沸き立つ。
「ディケイド……あの人がそうなのかニャ……!?」
「ん?何を言ってるんだ、フェイリス」
「ラウニャン、あの人は敵じゃないようニャ!」
「そうなのか?」
ラウラの問いにフェイリスはあれがディケイドという仮面ライダーであることを説明しようと思ったが、その前にディケイドが口を開いた。
「お前、何者だ?今ディケイドって言ったな。俺のこと知ってるのか?」
「良くぞ聞いてくれたニャ!我が名はフェイリス・ニャンニャン……この絶望の饗宴で希望を捨てずに戦うネコミミ少女!」
「……私はラウラ・ボーデヴィッヒ。ゲームには優勝するつもりだが、殺し合いには乗ってない」
「なんだと……?」
ディケイドの表情がムム……?と歪んだ。
何を言ってるんだ……そう聞きたげな目をしてると思ったので、ラウラが説明する。
「このゲームは最後に残った陣営の参加者は全員で生還出来るというルールだろう?私たちはそのルールの穴を突いて、すべてのメダルを集めて唯一の陣営リーダーとなり、可能な限りの参加者を仲間にして、みんなで脱出するのが目的なんだ」
「ほぉ、ガキにしては面白いことを考えるな」
ディケイドのガキという挑発にラウラの顔がムッとしたので、空気が悪くなる前になんとかせざるお得なくなったので、フェイリスが割り込んだ
「だから、今は一人でも多くの戦力と仲間が欲しいのニャ!ディケイド、フェイリス達に手を貸して欲しいニャ!」
「その前に俺の質問に一つ答えろ」
「なんニャ?」
「お前、なんで俺のことを知ってる?俺はお前のことなんて知らない」
その質問に、フェイリスはデイバッグから電王ベルトをまるでこれが目に入らぬかとばかりに取り出して答えた。
「このゲームから脱出するまでの間は、このフェイリスが電王として、モモタロス……ううん、モモニャン達と一緒にいるのニャ!ディケイドのことはモモニャン達から聞いたニャ!」
「……お前、何言ってる?電王は既に俺が破壊したはずだ、ここにあるわけがない」
「え……?破壊……ニャ?」
フェイリスは意味が分からなくて首を傾げるが、フェイリスの中のイマジン達も誰もその意味を理解してないらしく、きょとんとしていた。
まあ、一番意味を理解していないのはラウラだが。
ディケイドこと門矢士は、電王が今ここにいることに疑問を感じていた。
ライドブッカーから電王のカードを取り出して見てみるが、電王は確かに破壊したし、電王を破壊したことで得たカメンライドカードは今士が持っているので破壊したことで間違いないはずである。
クウガは過去の時間軸から連れて来られていたが、まさか破壊が完了した仮面ライダーさえもここに連れてくるというのか……?
アクセルやオーズとの戦いを経て、士はこれ以上は容赦せず仮面ライダーを叩き潰しにかかると決めた……。
だが、既に破壊した仮面ライダーを破壊する必要がないというのは、ディエンドと同じだ……。
破壊が完了した電王の世界を改めて破壊するなんていうのはメダルと体力の無駄遣いでしかない。
だからここは電王は相手にせずに捨て置こうと士は思った。
「モモニャンたちは、ディケイドに破壊された覚えなんてニャいって言ってるニャ。それに、ディケイドのこと、仲間だって……」
「……だろうな。だが、今の俺は既に全ての仮面ライダーの敵だ。仲間なんてものは遠い過去に置き去りにしてきた」
「でも、モモニャンやウラニャンたちがそんな嘘をつく理由なんて何処にもないニャ」
「……」
「分かったニャ……さては、ツンデレって奴ニャ?素直になれないなら、それでもいいニャ……でも、ディケイドがどう言おうと、モモニャンたちとの間にある仲間の絆は切ってもきれないーーー」
フェイリスが何かうんちゃらかんちゃら言ってるが、思考に没頭する士の耳にはもうそんな言葉は入ってきてなかった。
537
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/14(金) 21:05:34 ID:uqkmku7M
今士が考えるべきことは、電王は捨ておくとして、ではこれからどうするか……である。
ゲームを破壊するというのは前から考えていた通り、そこに変わりはない。
そして、このフェイリスの言うように、無駄な戦いを避けてゲームを破壊する手段があるときた。
ただ目的もなく破壊を続けるだけよりも、そういう目的を持って行動した方が合理的なのは言うに及ばず。
士は世界のために仲間を置き去りにして破壊者になったが、元はといえば悪者になりたかったわけではない。
目的のために手段を選べないなら、悪役になるのも致し方無いと思っていただけだ。
だからグリードは破壊するし、仮面ライダーも破壊する。
それが目的の最低条件。そしてその上でメダルも全部奪い取る。
ただ一人の陣営リーダーになり、陣営戦をルールから立ちいかなくさせてやる。
逆らう奴は破壊して、その上で配下に下る奴は味方として一緒に戦わせてやってもいい。
「大体わかった。だったら、お前らは俺の仲間だな?」
仲間になるのではなく……仲間にしてやる……という意味で。
そして二人が何か言う前に、士は大声で制した。
「ただし!」
やけに格好をつけた感じで大きな声で言う士……。
仮面ライダーディケイド
「すべてのグリードは俺が破壊する。いずれ誕生する唯一無二の陣営リーダーはこの俺…… 門 矢 士 だ!!!!」
「……は?」
フェイリスと……特にラウラは、唖然としていた。
士にしてみれば、わけがわからないまま戦うよりもハッキリとしたいい感じの目標が立った。
だが……いきなりやってきた第三者にいきなりこんな偉そうなことを言われたら、誰だって反感を抱くもの……。
フェイリスはいいとして……ラウラが士に反論するのは、また別のお話……。
To Be Continue
ーーーーーつ づ く 。
【一日目-夜】
【D-4/市街地 マップ右下寄り】
【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【所属】無
【状態】健康、苛立ち、疲労(中)、ダメージ(大)
【首輪】45枚:0枚
【コア】サイ、ゾウ
【装備】ライドベンダー@仮面ライダーOOO、ディケイドライバー&カード一式@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品一式×2、キバーラ@仮面ライダーディケイド、ランダム支給品1〜4(士+ユウスケ)、ユウスケのデイバック
【思考・状況】
基本:「世界の破壊者」としての使命を果たす。
0.ラウラにフェイリス、お前らは俺の仲間に加えてやる。
1.全てのコアメダルを奪い取り、全てのグリードを破壊してルール上ゲームを破壊する。
2.「仮面ライダー」とグリード含む殺し合いに乗った参加者は全て破壊し、それ以外は配下にしてやる。
3.ディエンドとは戦う理由がないので場合によっては共闘も考える。
4.セルメダルが欲しい。
【備考】
※MOVIE大戦2010途中(スーパー1&カブト撃破後)からの参戦です。
※ディケイド変身時の姿は激情態です。
※所持しているカードはクウガ〜キバまでの世界で手に入れたカード、ディケイド関連のカードだけです。
※アクセルを仮面ライダーだと思っています。
※ファイヤーエンブレムとルナティックは仮面ライダーではない、シンケンジャーのようなライダーのいない世界を守る戦士と思っています。
※アポロガイストは再生怪人だと思っています。
※少なくとも電王は破壊する意味なしと判断しました。
538
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/14(金) 21:06:21 ID:uqkmku7M
【フェイリス・ニャンニャン@Steins;Gate】
【所属】無所属
【状態】健康、深い哀しみ、ゲームを打破するという決意、戦いに対する不安、イマジンズへの信頼
【首輪】100枚:0枚
【装備】IS学園女子制服@インフィニット・ストラトス
【道具】IS学園男子制服@インフィニット・ストラトス、
デンオウベルト&ライダーパス+ケータロス@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:仲間と共にコアメダルを全て集めて脱出し、マユシィを助けるニャ。
0.今はまだ、誰かと戦う覚悟はニャいけど……いつかはフェイリスも……?
1.この人がディケイド……呼び方はなんて呼ぼうかニャ?
2.アルニャンとセシニャンを止めなくちゃいけニャい!
3.凶真達とも合流したいニャ!
4.変態(主にジェイク)には二度と会いたくないニャ……。
5.イマジンのみんなの優しさに感謝ニャ。
6.世界の破壊者ディケイドとは一度話をしてみたいニャ!
7.ラウニャンに人殺しはさせたくニャい。とくに友達を殺すニャんて……
【備考】
※電王の世界及び仮面ライダーディケイドの簡単な情報を得ました。
※モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス、ジークが憑依しています。
※イマジンがフェイリスの身体を使えるのは、電王に変身している間のみですが、
ジークのみは特別で、その気になれば生身のフェイリスの身体も使えるようです。
※タロスズはベルトに、ジークはケータロスに憑依していました。
※ジークがまだフェイリスを認めていないので、ウイングフォーム及び超クライマックスフォームにはなれません。通常のクライマックスフォームまでなら変身できます。
※イマジンたちは基本的に出しゃばって口出しする気はありません。フェイリスの成長を黙って見届けるつもりです。
【ラウラ・ボーデヴィッヒ@インフィニット・ストラトス】
【所属】緑
【状態】ダメージ(小)、疲労(小)、精神疲労(大)、深い哀しみ、力への渇望、セシリアとウヴァへの強い怒り(ある程度落ち着いた)
【首輪】80枚(増加中):0枚
【コア】バッタ(10枚目):1
【装備】シュヴァルツェア・レーゲン@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、魔界の凝視虫(イビルフライデー)×二十匹@魔人探偵脳噛ネウロ、ランダム支給品0〜2(確認済)
【思考・状況】
基本:グリードに反抗する仲間とコアメダルを集めて優勝し、生還する。
1.この男はいきなり現れて何を言っているんだ……!?
2.セシリアを止める。無理なら殺すことにも躊躇いはない。
3.陣営リーダーとして優勝するため、もっと強い力が欲しい。
4.もっと強くなって、次こそは(戦う必要があれば、だが)セイバーに勝つ。
5.一夏やシャルロットが望まないことは出来るだけしたくはない。
【備考】
※本当の勝利条件が、【全てのコアメダルを集める事】なのでは? と推測しました。
※"10枚目の"バッタメダルと肉体が融合しています。
時間経過と共にグリード化が進行していきますが、本人はまだそれに気付いていません。
539
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/14(金) 21:13:13 ID:uqkmku7M
ご清聴ありがとうございました。
ご指摘いただきました通り、甘っちょろい思考は全てやめさせました。
士の思考も前の話にきちんと沿っていると思います……これでどうでしょうか?
チャットに関しては、予め予定していた尺で完了する投下と違って、どう考えても沢山時間をとると思いますので、それだけの余裕はありません……。
ですが、修正依頼をいただきましたら、出来る限り迅速に対応するという形で、最初に犯した罪の償い……にもならないかもしれませんが、僕なりの誠意は見せているつもりです……。
それが、本スレでこんな僕のために苦言を呈してくれた書き手さんの問いへの僕なりの答えです……。
次からはもっときちんと前話を読みなおして、矛盾点をなくすように勤めます……だから、未熟者ですがこれからも皆さんと一緒に頑張りたいです……。
540
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/14(金) 21:24:02 ID:zvHJmgbE
後れ馳せながら拝見しました。
修正乙です。大体問題点は無いと思います。
ただ、私が気になったのは…士がリーダーを目指すのはともかく、集団行動にも肯定的になるのかな?というのが。
長らく単独行動を続けていただけに、「仲間」を近くに置こうと考えるようになったことに違和感が。
とはいえ私の感性の問題とも言えるので、それは違うと思ったらそれでいいです。
……それと、言いにくいのですが。
冒頭の「超強かった」は表現がさすかまに幼稚だなあ…と。
差し出がましいようですが、もしよければ剣崎の強さの表現を考えてみてもらえないでしょうか。
541
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/14(金) 21:25:44 ID:zvHJmgbE
さすかま は さすが の誤字です。失礼。
542
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/14(金) 21:32:33 ID:br8DkmLk
オーズやFMさんとの乱戦で単独ではきついってのがわかってるわけだし、原作でも大ショッカーの首領に収まってるのでなくはないんじゃないかな
もちろん対等な仲間、というよりはいずれ切り捨てる・裏切られることを前提とした関係だけど
543
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/14(金) 21:50:03 ID:uqkmku7M
うぅ…確かに少し幼稚でしたかね……;
では、こうします!
放送を聞いた士は……神妙な面持ちだった……。
あの剣崎が……あの仮面ライダーブレイドが……既に死んでいる……!?
奴はキングフォームになれるため、ディケイドですら苦戦を強いられた強さなのに……。
かつて手も足も出ずにやられたことを覚えているので、士は戦慄していた……。
これでどうでしょうか?
士の集団行動に関しては、自分から擦り寄っている訳ではないので、僕は大丈夫かなぁと思って書きました。
きっと、ラウラたちもこのまま黙って従う訳ではないと思うので、チーム組めるかどうかもそこは次の話の楽しみかなって思います!
他にもなにかあれば、出来る限り迅速に対応しますね。
544
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/14(金) 22:32:48 ID:zvHJmgbE
士について氏がそう思うなら、私も考え方を合わせようと思います。
あと、後から気づいたのですが、フェイリスって鈴羽と面識あったんでしょうか?本編中で二人が会うシーンがあった記憶が無いもので。
度々すみませんが、ご返答をお願いします。
545
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/14(金) 22:38:22 ID:uqkmku7M
すみません……そういえば鈴羽との面識はありませんでしたね。
それでは、
>>535
の鈴羽が登場する一文から、鈴羽を消して
それ故にこそに今はダルたちの分まで生き延びなければ。
まだ生きている凶真や紅莉栖たちとも合流して、一緒に頑張れると非常にいい。
そして悲しむのは……全てを終わらせて帰ったあとだ……。
このようにします!
546
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/14(金) 22:41:13 ID:zvHJmgbE
これで私はもう問題点は無くなったと思います。
改めて修正乙です。感想は本スレにでも。
547
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/14(金) 23:53:42 ID:WWsFfWCs
どうも、少しタイミングが遅れましたが氏の作品を読ませていただきました
全体通して気になったのですが、ラウラが一夏の死を知った反応が少し薄いように感じるのですが
確かに他のヒロインと比較した際は精神的に強い面もあるかもしれませんが、仮にも想い人が死んだという事実を知ったにしては、立ち直りが早すぎはしないでしょうか?
読むのが遅くなりこんなタイミングで言うのも恐縮なのですが、指摘させてください
548
:
◆ew5bR2RQj.
:2013/06/15(土) 00:05:00 ID:iMKmoMrk
>>539
そうですか、こちらこそ強引にお誘いする形になってしまって申し訳ありません。
どうしても申し上げたいことがあるのですが、貴方が受験生であること等の現実に事情に関する発言は控えていただけないですか?
私達は貴方の友人ではないので反応に困りますし、中学生であることを暴露するのはそれだけで付け込まれる隙になります。
本スレや仮投下スレでも度が過ぎた書き込みが少々見受けられますが、少なからず貴方にも原因があることを自覚していただけるとありがたいです。
上から目線の返答になってしまったことをお詫びします。
549
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/15(土) 00:09:52 ID:W8WlWiTM
そう言われれば、そうかもしれません……。
では、
>>535
の
フェイリスは心配してラウラに大丈夫かどうかきいた。
俯いていたラウラは……とても大丈夫じゃなさそうだった。
放送を聞いてからしばらくたったが……ラウラはやばそうだったのだ。
なにせ、一夏の名前が放送で呼ばれたのだから大丈夫なわけがないだろう……。
のところを
フェイリスは心配してラウラに大丈夫かどうかきいた。
俯いていたラウラは……とても大丈夫じゃなさそうだった。
放送を聞いてから三十分以上たってるのに……ラウラは未だにやばそうだった。
なにせ、一夏の名前が放送で呼ばれたのだから大丈夫なわけがないだろう……。
きっと色々な思い出があるのだろう……色々な思いが渦巻いているのだろう……。
フェイリスには計り知れないが、それが相当なものであることは分かった。
という風にします!
僕としてはこれで大丈夫だと思っています。
既に前の話でシャルの死も受け入れて、シャルや一夏の悲しむことは出来ないからと言ってるので。
これなら必要最低限の描写はこなしていると思いますので……もし気に入らない方がいらっしゃるようでも、それは次以降の話で十分補完出来るかなと思います……。
550
:
◆BXyDW0iXKw
:2013/06/15(土) 00:11:51 ID:W8WlWiTM
>>548
すみません……何気ない雑談のような気持ちだったのですが、いけなかったようですね……。
でも、ここの空気もだんだんわかってきたので、これからはもう少しTPOをわきまえて行動しようと思います!
551
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/15(土) 00:28:08 ID:BuTHdNiE
迅速な対応お疲れ様です。
個人的には心理描写については個々人のキャラ解釈次第だと思っているので、よっぽど無理な思考でもない限りは他人がとやかく言うことでもないかと。
今回は致命的だった士に関する諸々の修正もこなしたことですし、これで問題ないと思いますよ。
552
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/15(土) 00:45:04 ID:Ycoen0GY
修正お疲れ様です。
個人的には問題ないと思います、通して良いと思いますよ。
553
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/15(土) 14:10:33 ID:MAGeVHqE
矛盾点・問題点が無くなったからには通しでいい、と決着したところをかき回すようで申し訳ないのですが……
パロロワにおけるラブコメ勢や激情態ディケイドのキモとも言うべき展開を「必要最低限」の描写で流されるのは、個人的には様々な意味で残念に思います。
そこを次以降の話で補完させる、すなわちリレーを引き継ぐ他の書き手さんに丸投げするのではなく、
あくまで今回の話の中で描写を充実させた方が、より満足の行く作品になるのではないかと感じました。
失礼な物言いになってしまい、大変申し訳ありません。ご一考いただければ幸いです。
554
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/15(土) 17:33:53 ID:0kPqznaE
次以降の補完が「必須」なら確かに描写が足りないといえるだろうけど、これなら補完なしで「致命的」という程でもないでしょう。
勿論、より良くしようというお気持ちは理解出来ますが、そういうことを言い出すなら私だって今まで通ってきた話にそう言いたいものは幾つもあります。
……失礼、少し話が逸れましたが、つまり何が言いたいかと言うと。
そういうことを言い出すとキリがないので、今回はこれで通しでも構わないが、
>>553
はあくまでアドバイスとして受け止め、
氏がもしも修正をしたくなったなら勿論歓迎するし、そうでなくともこのままwikiに収録しても問題ありませんよ、というお話です。
補足ですが、私は別段致命的だとも思わないし、長時間落ち込んでいたこと、立ち直るための説得も描写されていて、
前話からの繋がりを考えるにここで立ち直るのも不自然とも思いませんので、更なる加筆修正の要求は致しません。
が、今回贈られたアドバイスと得られた教訓は決して無駄にはならないと思いますので、それを経て次回以降の投下、より一層の精進を期待しております。
最後になりますが修正お疲れ様でした。
555
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/06/15(土) 18:08:58 ID:Pcr9I7cM
この話が致命的では無いにせよ
これが積もり積もった結果
大きな影響を与える可能性も否定出来ないとは思いますが
まあこの話とは関係の無い事ですし通しで良いかも知れませんね
556
:
◆2kaleidoSM
:2013/07/15(月) 23:27:00 ID:dBiLH44M
少し気がかりなのでこちらに投下します
557
:
◆2kaleidoSM
:2013/07/15(月) 23:29:11 ID:dBiLH44M
「なるほどな、大体分かった」
ラウラ、フェイリスをとりあえずの仲間とした士は、この二人と一通りの情報交換を行っていた。
あわよくば破壊対象であるライダーの情報を得られればとも思ったが、士自身の出会ってきた対象の人数を考えてもそううまくはいかなかったようだ。
まず、ラウラのいた世界。
ISなる、女にしか動かすことのできないパワードスーツの普及した世界。
おそらくこのISという存在は、シンケンジャーやファイヤーエンブレムとルナティックといったヒーローのようなものであり、仮面ライダーではないのだろう。
いや、この場合ヒーローというよりはその世界の特色といったところか。
聞くと、ラウラの世界には怪人といえる存在はとりあえず発見されていないということだ。
もしかすると仮面ライダーとは無縁の世界なのだろう。
フェイリスの世界は、特に何の変哲もない普通の世界であった。
仮面ライダーも怪人もおらず、戦うヒーローや戦闘機なども存在しない。
何か隠している様子は見られたが、ライダーがいない、知らないのであれば重要なことではないだろう。
なお、ここで詳しい情報交換はこの二人もたった今のことで行ったようであり、異世界の話を聞いたラウラは驚いていた。
対してフェイリスはさして驚いている様子もなく、普通に受け入れていた。彼女の適応力の高さゆえか、あるいは他に何かあるのか。まあ関係ないが。
「ところで、一つ質問だ。お前の言うそのISとかいうやつ、それはあの時真木に斬りかかっていったやつの着けていたやつか?
名前は確か―――」
「箒だ、篠ノ之箒。私の、友達…だった」
「…悪い、余計なことを聞いたみたいだ」
「いや、構わない。大丈夫だ」
「ラウにゃん…」
そしてラウラから聞いた情報。
セイバーという、生身でありながらそのISとやらと互角に渡り合う女の存在。
殺し合いに乗っている様子はなかったらしいが、彼女もまた別の世界の存在なのだろうか。
名前から判断するに、バーサーカー、そして既に死んだらしいがキャスターという存在とも関わりがありそうだ。
が、それが仮面ライダーと関わりを持つものなのかどうかは分からない。
そしてライダーでこそないが、士にとっては仮面ライダーとしての破壊対象であり、この殺し合いの首謀者の一人であるグリード、ウヴァ。
親友の死と、仲間の裏切り。
その直後に追った先でフェイリスと合流し、今に至るということだ。
フェイリスからはラウラの知らぬ情報として、二人の天使と全裸の変態の話を聞いた。
天使はともかく、全裸の変態とは何だろうか。少し思考した後考えないことにしておいた。
そして、天使から聞いたという情報の中にいた、桜井智樹という少年の話。
話された特徴、名前には心当たりが無いわけではなかった。
だが、仮にも襲い掛かったなどということが言えるわけもなく、あえて黙っておく道を選んだ。
558
:
◆2kaleidoSM
:2013/07/15(月) 23:29:55 ID:dBiLH44M
そして士も、とりあえず出会った人物のことを話していく。
魔法少女、ファイヤーエンブレムとルナティックといったヒーロー、そして―――仮面ライダー。
無論、彼らに何をしたかまでは話さない。自分の問題であること、言う必要もないし、下手な誤解(事実ではあるが)を与えるのも得策ではない。
だが、アポロガイストとの戦いに関しては特に何を隠すわけでもなく黙っておいた。
話している際に一々目を輝かせるようなやつがいたのは気のせいと思いたい。
一通りの情報交換を終え、士は今後についての思考を始める。
グリードを全て倒し、唯一のリーダーとなって優勝するというラウラの行動方針。
なかなかに知恵の回る子供だと、素直に関心した。
しかし、いくつか重要なことが抜けているようにも見えた。
それを実現させるには、放送から放送までの間という限られた時間の中で、他陣営のリーダーを全滅させなければならない。
この広い会場にばらついた彼らを見つけるのは、困難なことではないだろうか。
そしてもう一つ。
既にグリードは2体、放送で名前を呼ばれた。
つまり、殺し合いの中で新しいリーダーが誕生した可能性が高い。
この少女は、そのグリードではないかもしれないリーダーも殺すのか。
後で聞いてみることにしよう。
(それにしても、な)
このラウラの戦い方に、何故か自分の役割を連想してしまった。
もし、今だけでも他の仮面ライダーとも協力することができたら、どれだけ楽だったか。
いや、もう悠長にしている段階ではないのだ。ある程度の無理があろうと全てのライダーは、この手で破壊しなければならないのだ。
剣崎一真――ブレイドについては殺し合いの中で破壊することはできなかった。
しかし、ここから脱出すればまた別のブレイドが存在する世界を見つけられる可能性もある。
剣立カズマと剣崎一真、ワタルと紅渡、同一にして別のライダーが存在したように。
そう考えれば、この場の別時間軸に生きるユウスケとは、あるいは協力関係がとれたのかもしれない。
あいつはお人よしのバカだが、そのクウガとしての力は、想いは士自身も認めているものなのだから。
しかし、もう戻ろうとも、戻れるとも思わなかったが。
一度殺そうとした以上、もう和解することなど無理だろう。
ユウスケも例外なく、次に会えばこの場で破壊する。それだけだ。
「止まれ」
「ん?どうした?」
559
:
◆2kaleidoSM
:2013/07/15(月) 23:30:47 ID:dBiLH44M
と、ラウラが士に声を掛けた。
耳をすませば、こちらに向けて歩いてくる何者かの存在を感じた。
「よお、ラウラ。やってるじゃねえか」
そんな声と共に現れたのは、緑色の服を着た茶髪の青年。
「ウヴァ…!」
だが、ラウラのその呼ぶ名、それは彼がただの人間ではないことを示すものだった。
◇
「そいつらが俺の陣営に入る新しいやつらか?」
上機嫌そうなウヴァが指し示すのは、士とフェイリス。
無所属である彼ら二人は、ウヴァからすればラウラが見つけた新しいメンバーのようにも見えたのだ。
「お前がグリードか」
「フン、世界の破壊者、ディケイドか。お前も俺の陣営に入りたいってか?」
「お断りだ。俺が組むのはあくまで俺の意思によるものだけだ。お前らの決めた陣営だの何だののルールに組み込まれるのはごめんだ」
「そうかよ、まあお前ならそういうと思ったが。
だが今はお前に用はねえ。用があるのはラウラ、お前だ」
と、士の少し前にいる少女に指を向けるウヴァ。
「ああ、私もちょうどお前に話があったところだ」
「ほう…?言ってみろ」
「私は、緑陣営の優勝を目指す。お前に言われたからでもない、私自身の意思でな」
「ハハハハハ、いいじゃねえか。それが親友を殺されたお前の答えか。
だが、分からねえな。なら何故そいつらを俺の陣営に引き入れねえ?」
「話は最後まで聞け。
私は、全てのグリードを倒した上で”緑陣営のリーダー”として優勝する。
そしてウヴァ、倒すグリードはお前も含めて、だ」
「何?」
それを聞いた瞬間、ウヴァの顔に何とも言いがたい表情が浮かんだ。
困惑か、怒りか、驚きか。どれなのかはラウラ達には判断がつかなかったが。
だが、好意的なものではないことは確実なようにも思えた。
「お前は不要なもの、いや、害虫だ。
私としてはもう少し先かと思っていたが、ここで会ったのであればちょうどいい。
ここで、お前を倒し、緑陣営のリーダーの地位を貰う」
560
:
◆2kaleidoSM
:2013/07/15(月) 23:32:26 ID:dBiLH44M
それはグリードに対する反逆宣言。
己の陣営のリーダーすらも敵に回す、その行動。
士は、若干ながらその少女に関心を覚えた。
「お前が全部メダルを貰うってか?現実的じゃねえな。
お前らには俺達より強めの制限かけられてるんだぜ?
さっきだって俺に手も足も出なかっただろ」
「そうだな、だから私は仲間を集める。
お前達を倒せる、そしてこの殺し合いに反抗しようという仲間を、な」
「……」
ウヴァは値踏みをするかのように、ラウラを眺め。
一瞬ニヤッと笑った後、ラウラに向かって告げた。
「ああ、そういうことか。
お前、何か自分の欲望を抑えてるだろ?」
「……っ」
ラウラには知る由もないことだが、ウヴァの生み出すヤミーは人間から誕生した後その宿主の欲望、欲求に応じた行動を取り、宿主のメダルを増幅させるもの。
そのメダルを効率よく増やすため、ウヴァ自身も積極的に前線に出て人間と関わり、その欲望を確かめ効率を上げてきた。
宿主自身の持っていた、心の奥底に潜んだ欲望からヤミーが誕生したこともある。
そういった経験から、人間の持つ欲望の方向性に対してはそれなりに多くの知識と経験を持っていた。
だからこそ、ウヴァにはそのラウラの姿や様子から彼女が抑えている欲望を持っていることも推測ができた。
ウヴァに対する、それまで以上に露骨な敵愾心、しかしその割に己の情報に対して妙に饒舌。冷静さも失っているように見える。
加えれば先の放送。
「隠さなくてもいいんだぜ?
分かってるよ。織斑一夏のことだろう?」
「―――――」
「惚れてたんだってなぁ?
お前が戦うって言った理由もやっぱりそいつのためなんだろ?
残念だったなぁ、こんなに早く死んじまってよぉ!」
「っ……」
「大方そいつらの気持ちを汲んでそういう方向を選んだんだろうが、俺に言わせりゃまだまだ甘いんだよ。
なあ、もし俺が織斑一夏を殺したやつを知ってるって言えば、どうする?」
ウヴァは笑いながら、そうラウラに告げる。
「な、何を…」
「あいにく今の俺は知らねえが、俺等グリードはドクターに顔が利くからな。そのくらいのことは分かるかもしれねえな。
いや、それだけじゃないぜ。ルールブックにもあったろ?『優勝したチームのリーダーは大量のコア・セルメダルで大きな力を得られる』ってな。
あれは俺達グリードが使えばさらに強力な力にもできるんだよ。
ここまで言えば俺が何を言いたいか、賢いお前なら分かるだろ?」
「織斑一夏を、生き返らせたくはないか?」
561
:
◆2kaleidoSM
:2013/07/15(月) 23:34:30 ID:dBiLH44M
ラウラが息を呑む。
「俺達グリードなら、それもできるかもしれないんだぜ?
この俺をリーダーに据えて、優勝した後でお前の大好きな男を生き返らせて元の世界に帰る。そしてその過程で織斑一夏を殺した誰かも殺す。
別にお前がリーダーなんざやる必要はねえ。俺の下にいりゃ悪いようにはならねえんだよ」
実際のところ、ウヴァ自身確かなことなど一つも話してはいない。
ドクターとは連絡を取る手段も無く、また自分だけにそのような特別扱いというのも考えられない以上、今言った情報が得られる可能性は限りなく低い。
そしてグリードが完全復活して大いなる力を手に入れたところで人の命を蘇らせることができるかという点もかなりハッタリを利かせている。
だが、それが可能かもしれないというところを匂わせておくだけでもこう言った人間には効果的なのだ。
「ラウにゃん…」
何かの感情にその身を震わせるラウラに、フェイリスの心配そうな声が掛かる。
ウヴァはそんな彼女を気にも留めず、答えを求めた。
「……ぁ」
「さて、どうする?ラウラ・ボーデヴィッヒ?」
「……るな…」
「ああ、聞こえねえぞ?」
「ふざけるなぁ!!」
叫び声と同時、ラウラの体を装甲が纏い、ウヴァに向かって飛び掛っていった。
IS―――インフィニット・ストラトス。
士はそれを見るのは初めてであり、フェイリスもそれが纏われる瞬間を目撃したのはこれが最初だった。
黒き装甲、肩辺りに浮遊するバックパックのような物体、その右側に備え付けられた巨大なレールカノン。
しかし、ラウラの行った攻撃はそれらの武装を生かしたものではない、腕につけられた装甲からの、いわば鉄拳。
自身のISに備え付けられたAICすらも使うことなく、彼女はウヴァに殴りかかったのだ。
向かい来るラウラの前で、その体を緑色の、虫を模した怪人の姿に変化させるウヴァ。
「そもそも、貴様らさえこんなことをしなければ!
箒も!シャルロットも!一夏も!
それにセシリアも道を誤ることなどなかった!!
それを、よりにもよって貴様らが生き返らせるだと?!ふざけるな!」
ラウラの怒りの声と共にぶつけられる拳。それをウヴァは何をすることもなく、グリードの姿で受け続けた。
「一夏を殺したやつは許さない!シャルロットを殺したセシリアもだ!
だが、それ以上に貴様らグリードは絶対に許さん!あの真木という男もだ!私が、一人残らず全員殺してやる!」
562
:
◆2kaleidoSM
:2013/07/15(月) 23:35:58 ID:dBiLH44M
しかし、その拳の連撃にもビクともせずに受け続け。
そのうち大きく振りかぶられた一発を、何でもないように受け止めた。
「…ダメだな。
いいか?パンチってのはこうやって出すんだよ」
と、左の手を握り締め、ラウラの体に打ち付けた。
防御機能により肉体に直接ダメージを与えることはなかったものの、その衝撃はラウラを大きく吹き飛ばした。
「がぁ…」
「分かってるよな?今の俺がもう少し本気出せば、お前のそのバリアを破ることだってできるんだぜ?」
「フン、じゃあせいぜい頑張れよ。それでも俺には叶わないだろうがな!
ハハハハハハハハハハハ!!」
高笑いしながらも、ラウラを見下しつつ去っていこうとするウヴァ。
未だその体に、ダメージすら与えられないこの事実。
このままあのグリードを倒すことも叶わず、ただ緑陣営の一人として戦うしかできないのか。
シャルロットの、一夏の仇も討てずに。
悔しさに、その拳を握り締める。
――――汝、より強い力を欲するか?
ふと、いつだったか聞いたそんな音が心に響く。
力、力が欲しい。このグリードを倒せる力が。
欲する思いが、その声を受け止めようとしたその時だった。
「ちょっと待て。そこの虫頭」
それまでラウラの後ろで情勢を静観していた士が、去り行こうとするグリードを引きとめたのは。
◆
563
:
◆2kaleidoSM
:2013/07/15(月) 23:37:36 ID:dBiLH44M
「なるほどな。事情は大体分かった。そして、お前らグリードの習性についても何となくだがな」
「フン、今貴様には用はないと言ったはずだが」
「お前らは俺のこと知ってるんだろ?なら俺がお前を逃がす理由もないことは知っているはずだ」
やれやれと言わんばかりに振り向くウヴァ。
その怪人態は未だに解かない。やはり警戒はしているのだろう。
「何より、お前のことはどうにも気にいらねえ。
殺し合いに放り込んでおいて、上から目線でそうやって生き返らせるだの他者の命を軽々しく扱うところがな」
「生憎だが、俺は人間じゃないからな。命の価値だのなんて知らねえ。
大体、お前に人のことが言えるのか?世界の破壊者さんよ」
と、士を指差してそう言うウヴァ。
その言葉から察するに、きっとこの怪人は士の戦う理由、世界を破壊する意味も知っているのだろう。
「世界の破壊と再生なんて名文で、罪もない”人間”を”殺している”お前だって同じじゃないのか?」
人間、そして殺しているという部分が強調されている。
それはおそらく、仮面ライダーについてほとんど何も知らないラウラ、フェイリスの二人からの印象を、そして他ならぬ士自身を揺さぶるための言葉だろう。
「別にお前のことを責めてるわけじゃねえぜ。
ただよ、自分の欲望を満たすために他者を蹴落とす。その何がおかしい?
この殺し合いだって一緒だろうが。生き残りたいという欲のために他の無関係なやつを殺してでも生き残る。そして願いを叶える。
その何がおかしい?」
「お前らと一緒にするな。
大体、人間なんてのはな、欲望に従って生きていけばいいわけじゃないんだよ。
望まない戦いをすることだってあるし、別の大切なもののためにもう一つを諦めなければいけないことだってある」
「ニャン…」
少女は父の友の、それぞれの命を天秤にかけ、己の欲望を捨ててでも友を救う道を選んだ。
少女は自身の想い焦がれた男の命より、この殺し合いの破壊を願った。
そしてある男は、己の友を、これまで歩んだ道のりを、自身の信念を、それら全てをうち捨てて、世界のために己の役目に殉じる道を選んだ。
564
:
◆2kaleidoSM
:2013/07/15(月) 23:38:18 ID:dBiLH44M
「だがな、その我慢だって決して無駄なものじゃない。
自分の中のマイナスの欲望、それに耐えた先にだって、もっと大切なものはあるんだからな。
少なくとも俺は、そう信じてる」
だが、それにより無為になった欲望は、決して無駄なものではない。
その先に、きっとかけがえのないものがあるはずだと。
世界の破壊者はそれを信じていると言った。
「士…」
「…貴様、一体何なんだ?」
「俺のことを知ってるなら分かるだろう?
俺は世界の破壊者で、――――通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ!」
そう宣言すると同時、士はバックルとカードを取り出す。
士の眼前に翳されたディケイドのカードを、
「変身!」
掛け声と共にバックルに差し込んだ。
KAMEN RIDE
D E C A D E!!
同時に、士の肉体をマゼンダのスーツが包み、異形の体がその場に顕現する。
「ニャ…、これが、仮面ライダー…」
聞いていたとはいえ初めてみる未知なる姿に驚愕するフェイリス。
彼女を尻目に、ディケイドは腰のライドブッカーをソードモードに変形させてウヴァに斬りかかる。
565
:
◆2kaleidoSM
:2013/07/15(月) 23:39:03 ID:dBiLH44M
それに対してウヴァは、取り出した赤き剣を掲げてライドブッカーを受け止めた。
「サタンサーベル…」
「見ての通りだ。今の俺はシャドームーンすらも殺せるんだぜ?」
「関係ねえ!」
押し返そうとした士は、しかしサタンサーベルの剣圧に逆に推し返されてしまう。
それをあえて受け入れ下がることで体勢を立て直す士。同時にライドブッカーをガンモードにしてウヴァに射出する。
しかし、ウヴァはそれをものともせずにサタンサーベルを突き出した。
ライドブッカーの銃身で受けきることはできず、ディケイドはそのまま体を斬りつけられてしまう。、
それでもどうにか踏ん張ることに成功した士は、一枚のカードをバックルに差し込む。
ATTACK RIDE
ONGEKIBOU REKKA!
するとソードモードに変化させたライドブッカーの先端から、炎の弾が顕現。
「なら、虫には炎だ」
言うやいなや、それを振りかざしてウヴァに火炎弾を放つ。
響鬼が魔化魍を倒すための技の一つとして用いてきた攻撃。それがウヴァの体を包み込む。
が、それすらもサタンサーベルは切り裂き、ウヴァには届かない。
「チ、腐っても世紀王の剣か。やっかいだな…」
「そんなものか、ディケイド。なら期待外れだな」
そのままさらに振り抜かれたサタンサーベルを、ライドブッカーで受け止める。
今のウヴァは合計10枚のコアメダルに加え、ノブナガを倒した際に発生した大量のセルメダルを取り込んでいる。
それは、現在の彼の力が全参加者と比較してもトップクラスのものであることを示している。
いくらディケイドとて、1対1で相手をできるものではない。
ATTACK RIDE
SLASH!
カードを差し込むと同時、ディケイドの動きが残像が残るほどの速さとなり、その剣捌きでウヴァに斬りかかる。
が、ウヴァは若干押されつつもサタンサーベルで的確に受け止めている。
ディケイドスラッシュを用いてようやく互角。
566
:
◆2kaleidoSM
:2013/07/15(月) 23:39:50 ID:dBiLH44M
一撃、二撃と的確に受け止められ、五度の斬り付けの後カードの効果は消滅。
再度押され始める。
が、その威力を把握したのか、ライドブッカーを手で掴み取り、サタンサーベルでディケイドの胸部を切り裂いた。
「ぐ…!」
飛び散る火花、再度吹き飛ぶディケイド。
そこにウヴァの触覚から発された緑の雷撃が、ディケイド目掛けて落ちる。
それは周囲のコンクリートを爆破させ、一帯をコンクリートの煙で包む。
「ふん、こんなものか」
再度サタンサーベルを構え、ディケイドにとどめを刺そうと近寄る。
が、
「ん?」
その体が急に止まる。
いや、止められたという方が正しいだろうか。
肉体の動きが、何かの力により強制的に止められたのだ。
さらに、砂煙の向こうから一発の砲弾がウヴァに炸裂。
「ヌ…」
ウヴァの視界の先、ディケイドの眼前、そこにはウヴァの雷撃を受け止めたラウラのISの姿があった。
「お前、大丈夫なのか?」
「あいつは、緑陣営のリーダーとなる私が倒さなければならない。
義務でもない、恨みでもない、私自身の欲望として、な」
「――フン」
「言うこと聞かねえガキにはオシオキするしかねえよな?」
と、AICによる拘束すらも振り切ったウヴァは、ラウラと士に再度サタンサーベルを向けた。
「モモにゃん、皆、私はどうしたらいいニャン…?!」
『フェイリスちゃん?』
「士ニャンもラウラにゃんも戦ってるのに、私だけこうやって見てるだけでいいニャン…?」
567
:
◆2kaleidoSM
:2013/07/15(月) 23:40:25 ID:dBiLH44M
あの電王のパスとやらを使えば、今の自分でも変身できる。つまりは戦えるということだ。
何より、目の前にいるのはあの時まゆりを殺したやつらの一味。
しかし、それでも今の自分があそこに入って戦うことができるのか。
『気になるなら戦ってみればいいじゃねえか』
『ちょっと、先輩。女の子にそんな無理言っちゃ…』
『亀公は黙ってろ!
そりゃ戦いが怖いってのも分かるさ。だがよ、戦うってんなら俺達がサポートしてやる。今までだってそうやってきたんだからよ。
お前を怪我させたりは絶対にしねえし、足手まといなんかにするつもりもねえ。
だけどな、やっぱり痛いぜ?よく考えておけ』
「戦うニャン!」
『早っ!』
もしここで迷って戦わなければ、あの時のアルニャンとセシニャンの時の二の舞だ。
それに、もし生き残るためにいつか決断しなければいけないというなら、それは今しかない。
目の前で戦っている、仲間のために。
『分かったよ、へっ、しゃあねえな。そのベルトを腰に巻いてパスを翳しやがれ』
『随分と楽しそうやないか』
『う、うるせえ!ずっと閉じ込められてたんだ、ちったあ暴れさせろ!』
「ニャッ、じゃあちゃんとポーズは決めニャイと…」
と、ベルトを巻いたフェイリスはパスを持った手を上に翳し、
「―――今ここに、フェイリスは己の真の力を解放するニャン…、変身!」
レールキャノンは弾かれ、AICも時間稼ぎにしかならない。
レーザーブレードで斬りかかってもその先にはサタンサーベルがある。
「どうした?こんなものかぁ?」
「く…」
ウヴァが交互に繰り出す拳と斬撃。
それをかわしていくラウラの顔には強い疲労の色が見えた。
568
:
◆2kaleidoSM
:2013/07/15(月) 23:41:09 ID:dBiLH44M
ATTACK RIDE
STRIKE VENT!
と、ラウラとウヴァの間に距離が生まれた瞬間、ディケイドの手に装着された龍の顎の手甲が火炎を噴き出す。
ウヴァは一瞬怯むも、次の瞬間には発した雷撃で炎ごと全てを吹き飛ばしていた。
FINAL ATTACK RIDE
DE DE DE DECADE!
しかし、次の瞬間。
音声と共にウヴァの目前に並ぶ大量のカード、その奥からは膨大なエネルギーが迫った。
「…!」
ウヴァに繰り出されたディメンションブラストはウヴァの体に直撃、体を構成するセルメダルを一部吹き飛ばす。
しかしコアメダルを吐き出すほどのダメージには届かない。
「こいつでもこんなものか…、甲殻だけは硬いんだな」
そのままディケイドにのみ対象を絞った雷撃を、士はどうにかかわす。
回避した先でまたも斬りかかるウヴァの攻撃を受け止める。
「フン、ならこういうのはどうだ?」
と、ウヴァは受け止められたサタンサーベルに雷撃を当てる。
赤い刀身に宿る緑色の電流は、ライドブッカーを通して士にダメージを通す。
怯んだ一瞬で、サタンサーベルを更に押し出して斬りつける。
「ガアアア!」
斬り付けられた士の悲鳴が上がり、横に吹き飛ばされるディケイド。
そのまま突きを放ちトドメを刺そうとしたところで。
――FULL CHARGE
飛来した何かがウヴァの肉体を拘束。
とっさの襲撃に戸惑うウヴァ、その肉体にさらに赤いポインターが狙いをつけた。
FINAL ATTACK RIDE
FA FA FA FAIZ!
二重の拘束を流石に破ることはできず、とっさに起き上がったディケイドのクリムゾンスマッシュが、横からの電王ロッドフォームのデンライダーキックが炸裂。
「グ…!」
ダブルライダーキックにより、メダルが先ほど以上に吐き出され、さらにコアメダルが一枚飛び出した。
それを咄嗟に拾い上げるラウラ。
569
:
◆2kaleidoSM
:2013/07/15(月) 23:41:44 ID:dBiLH44M
「なるほどな、こうやって大きなダメージを与えていけばいずれはメダルを全て吐き出すということか」
「か、返せ!俺のメダルだ!」
『クォラァ亀公!俺が入ったんじゃねえか!どうしてお前が割り込んでくるんだよ!』
「だって先輩じゃ、万が一にも女の子の体に傷でもつけかねないじゃない。ここは僕に任せて休んでてよ」
『ざけんじゃねえ!』
「お前、まさかフェイリスか…?」
「どうも、始めましてラウラちゃん。戦い終わったらお茶でもどう?」
「な…、ち、近寄るな!」
「ガアアアアアアア!!」
ラウラとウラタロスの会話が繰り広げられる間に、メダルを奪われた怒りで、ウヴァは大出力の雷撃を辺り一帯に放つ。
建物を一軒丸ごと粉々にするほどの電撃。三人はかろうじてそれと、それがもたらした破壊の証を避ける。
「おい、カメ。今お前の中にあのグリードに大きなダメージを与えられる攻撃はあるか?」
「ケータッチがあるから、クライマックスフォームになれればいいんだけど、ただ今変身しちゃうとメダルがもつか分かんないんだよね。
しかもそれで倒せなかったらもう事だし」
「なら、私が時間を作る。お前達は可能な限り強力な攻撃をぶち当てろ」
と、周囲の様子が晴れた瞬間飛び出してくるウヴァ。
狙いはおそらくメダルを持っているラウラ。
ラウラは士達から離れつつもシュヴァルツェア・レーゲンからワイヤーブレードを射出して迎え撃つ。
しかしいくら放とうとも弾かれ、かろうじて巻きついた1本は右腕に備えついた鎌で切り裂かれ拘束することもできない。
ならば、と高速で飛行しつつレールキャノンとレーザーブレードのヒットアンドアウェイで隙を伺おうと空中に飛び上がる。
が、ウヴァはサタンサーベルに纏わせた電流を、ラウラに向けて一直線に射出してきた。
一直線ならば避けるのは容易い、と思った瞬間、目の前で電撃が拡散、一気に広範囲に展開する。
どうにかAICをもって受け止めた瞬間、その横からラウラに向けて一直線に飛来した電気が直撃する。
「あああああああ!!!」
体全体を襲う衝撃と共に、ラウラの肉体は地面に落ちる。
電撃と衝撃に打ち付けられた全身が痛み顔を歪めるラウラの元に、ウヴァが迫る。
「手癖の悪いやつだ。とっととメダルを返せ」
「渡さん…!」
「そうか。まあ言うこと聞かないやつは一人くらいいなくなってもしょうがねえよな?」
570
:
◆2kaleidoSM
:2013/07/15(月) 23:42:14 ID:dBiLH44M
と、サタンサーベルを掲げ、一気にラウラに向けて振り下ろした。
その瞬間だった。
レールキャノンが一気に火を噴いたのは。
それはウヴァへと向けられた弾丸。しかし対象はウヴァの体ではない。
サタンサーベルを持った、その腕。
「何?!」
狙われた腕がダメージを負うことこそなかったものの、レールキャノンの衝撃は持っていたサタンサーベルを吹き飛ばした。
赤き剣が宙に浮くのを見て、そちらを振り向くウヴァ。
倒れた状態で軽い笑みを浮かべるラウラを尻目に、宙に浮くサタンサーベルをキャッチしようと走る。
―――CLOCK UP
と、それを受け止めようとジャンプしたウヴァの目の前で、サタンサーベルが消失。
その事実に動揺する暇もなく、今度は目の前に飛来した何かが、ウヴァの胸を貫いた。
「な…、ぐ、がああああ!」
何が起こったのかも認識できないまま、受身も取ることができずに地面に倒れ伏せる。
胸に刺さっているそれは、紛れもなくサタンサーベル。
「お前ら、今だ!そこの剣を狙え!!」
「おっしゃあ!来たぜ来たぜ来たぜえ!!」
――――CLIMAX FORM――――
ディケイドのクロックアップによりサタンサーベルを奪取、さらにその剣自体をウヴァに突き立てることで攻撃対象を作ったのだ。
そして、それを狙うは全てのイマジンを憑依させた電王最強形態、クライマックスフォーム。
その脚に、全てのイマジンを模した仮面が集まる。
「ま、まずい…」
571
:
◆2kaleidoSM
:2013/07/15(月) 23:42:45 ID:dBiLH44M
今サタンサーベルを引き抜けば、そのまま多くのメダルを吐き出してしまう。だから今はこのままでいるしかない。
せめて、これを安全に引き抜き、吐き出してしまったメダルも回収できる場所まで退かなければ――――
「逃がさんぞ、ウヴァ」
と、その脚に、腕にワイヤーが絡みつき、さらに全身の動きそのものが止まる。
全身に巻きついたワイヤーブレード、そしてAICによる身体停止。
「ラ、ラウラ貴様!」
―――FULL CHARGE
叫ぶ間にも、電王の攻撃態勢は整う。
「貴様は安心して消えろ。緑陣営なら私が優勝させてやる」
「ふざけるなああああああ!!!」
ラウラの言葉に怒りを爆発させたウヴァの雷が、辺り一面に降り注ぐ。
ISが警報を鳴らし始めるのにも気に留めず、ウヴァを拘束し続けるラウラ。
雷は飛び上がった電王にも降り注ぐが、クライマックスフォームはそれでも止まらない。
「てりゃああああ!!」
そして、繰り出されたボイスターキックは、ウヴァのサタンサーベルをさらに深く突き刺し。
それだけに止まらず莫大な威力を持ったキックと共にウヴァの体を貫き。
ラウラが離れ、電王が着地すると同時、爆風とメダルを撒き散らしながら爆散した。
「やったぜ!」
『アカン、若干浅い!』
『雷のせいでちょっと勢い落ちちゃったよ〜』
「じゃあまだ生きているということか?ゴキブリみたいなやつだ」
カポーン
と、謎の音が鳴り響くと同時、その爆風の奥から黒と緑のスーツに身を包んだ人影が現れる。
「き、貴様ら、よくも…!!そのメダルを、返せぇ!!」
多くのセルメダル、コアメダルを吐き出してしまった以上、まともに戦うのはもはや厳しい。しかしコアメダルだけは何としても取り返さなければいけない。
屈辱ではあるが、最後の抵抗として仮面ライダーバースに変身したウヴァ。
ふらつきながらもセルメダルをベルトにつぎ込むと同時、その胸に巨大な砲台が顕現する。
572
:
◆2kaleidoSM
:2013/07/15(月) 23:43:20 ID:dBiLH44M
カポーン
――セル バースト
「まずい!」
と、その手で電王を掴んだラウラは飛翔する。
それと同時に、今まで彼らのいた場所に高エネルギーの砲撃が撃ち込まれた。
「ハハハハハハハハハ!!!なるほど、こいつの力も意外と悪くはねえなぁ!」
もはや冷静さを失ったか、かつて貶めたバースの力を賞賛するウヴァ。
そこへ、
「なるほど、その力も仮面ライダーか。なら、破壊しないとな」
「―――ハッ!?」
FINAL ATTACK RIDE
DE DE DE DECADE
と、眼前の空中にカードが列を作り出現する。
さらにその奥には、足を突き出す体勢のディケイド。
避けようにも、ブレストキャノンにより機動力の下がったバースでは避けきれない。
そしてあのライダーキックは、バースでは受けきることもできない。
(ふざけるな、俺が、こんなところで俺が―――)
ここまでは絶好調であった。
ラウラ・ボーデヴィッヒを緑陣営に引きいれ。
ショドームーンには後れをとったもののノブナガを殺すことでメダルを大量に増やし、そのまま死にかけのシャドームーンすらも殺し。
高い戦闘力を誇るイカロスをも緑陣営にすることに成功し。
あのネウロですらも殺したこの俺が、俺が。
こんなところで―――――
「たああああああああ!!」
カードを貫き、その奥から現れたディケイドのキックがバースの胸部に突き刺さる。
それはブレストキャノンを破壊、バースの装甲をも貫き、中のウヴァ自身をも打ち砕く。
「ガアアアアアアア!!」
衝撃で大きく後ろに吹き飛ばされるウヴァ。
「おのれ、…ラウラ・ボーデヴィッヒ、おのれ…!」
バースの変身が解除され、外骨格を消失させ茶色の肉体を晒すウヴァが、ふらつきながらも怨嗟の声を上げる。
しかし、それももはや悪あがきにすらならず。
「おのれ、ディケイドオオオオ!!――――ガァッ?!」
そのまま地面に倒れこんだと同時、肉体を構成していたメダル全てを吐き出しながら、その体は爆風の中に包まれ、今度こそ完全にその肉体は消え去った。
◇
573
:
◆2kaleidoSM
:2013/07/15(月) 23:43:50 ID:dBiLH44M
『フェイリスちゃん、大丈夫?』
「だ、大丈夫ニャン、ちょっと疲れたけど、まだまだ元気ニャン!」
周囲に散らばったメダルを回収するラウラを士の後ろで、戦いで疲労した体を休息させるフェイリスにウラタロスが声をかける。
『で、どうだったよ猫女。これからも戦えそうか?』
「ニャ…、正直あの電気の中に突っ込んだときは怖かったニャ…。だけどつかニャンとラウラにゃんが戦っててみてるだけってのも嫌だったニャ…」
『そうかよ。まあ俺等も無理にとは言わねえ。戦えねえからってそこまで背負い込むこともねえよ。
お前のやりたいようにやれ』
一方、メダルを集めた士とラウラは、それら全てをフェイリスを含めて分配した。
士のメダルは、あの戦いの中で完全に枯渇してしまったが、ここに集めたメダルはそれを差し引いてなお数十倍のお釣りがくるほどの量だった。
「コアメダルが9枚に、セルメダルが……考えるのも面倒だなこりゃ。
フェイリス、お前はこのコアメダル、欲しいか?」
「ニャ、フェイリスが持ってても仕方ニャイし、ラウにゃんが持ってるべきニャ!」
「そうか。まあ別に俺もコアメダルは必要ないしな。その代わりセルメダルを多めに寄越せ」
「コアメダルがこっちに貰えるなら別に構わん、好きなだけ持っていけ」
そうして、ラウラは緑色のメダル5枚とそれ以外の5枚のメダルをその体に収めた。
セルメダルは士に500枚、残りを240枚ずつフェイリスとラウラに分配された。
「緑のメダルはこれで5枚か。お前が次の放送でリーダーになれるかが問題だな」
「なれなかったなら緑のメダルをまた探すまでだ」
「そうだな、それともう一つ聞いておきたいことがある。
リーダーが勝利するには、新しいリーダーが決まるまでの間に他のグリードを全滅させる必要がある。
ここまではいいな?」
「ああ、分かっている」
そう、リーダーがただ一人の状態で、他のリーダーを全滅させれば、それでこの殺し合いは終わる。
それがこのゲームのルールだ。
「そして、それを踏まえた上で一つ聞きたい。
分かっているとは思うが、既にグリードは二体、放送で名前を呼ばれている。
つまり、もう既に新しいリーダーが誕生していて、そいつはグリードではない、人間である可能性もある」
「………」
放送を過ぎた今、退場したグリードに代わり新しいリーダーが生まれているのだ。
それが、アポロガイストのようなやつならばまだいいが、もし人間であったなら、ラウラは人を殺すという選択を取ることになるのだ。
もしそれが、グリードに反抗し殺し合いを打破しようとする者であったなら。
「ラウラ、そいつをお前は、殺すことができるのか?」
「…………覚悟はある」
574
:
◆2kaleidoSM
:2013/07/15(月) 23:44:28 ID:dBiLH44M
その言葉の奥に、僅かながら迷いがあったようにも思えたのはきっと気のせいではないだろう。
しかし、それでもその決断を下したときの言葉は、はっきりとしていた。
「いいだろう。お前のそのやり方に付き合ってやる。
と言いたいが、お前はいいのか?」
「何がだ?」
「俺はウヴァのやつが言っていたように破壊者だ。
きっと仲間になり得るようなやつらも敵に回して、俺の役割を、仮面ライダーの破壊をしなけりゃいけない。
そんなやつと一緒にいて、大丈夫なのか?」
「生憎だが、私は仮面ライダーとやらのことをよく知らん。
それにもしお前が間違っていると感じるようなことがあれば、私が止めてやる。
それでは不満か?」
「いや、合格だ」
と、ウヴァのいた場所に転がっていたバースドライバーを拾い上げる士。
少なくともバースとかいうライダーは破壊した。だがこいつがまだ動くのかどうかは分からない。何しろ装着者はあのグリードだったのだから。
その辺りは追々調べていけばいいだろう。
「それと、これは私の勝手な願いだが……。
織斑千冬という人がいる。その人はできれば私の陣営に加えたいんだ。
あの人も、私にとっては大事な人だからな」
「なるほどな、じゃあさし当たってはその千冬とかいうやつを探すんだな」
「ああ、千冬さんは、一夏の姉だから…な」
と、その名を出したと同時、ラウラの表情に影が見えた。
その名前は、ウヴァが言っていたラウラの好きだったという男の名前。
「大丈夫か?」
「大丈夫だ、大丈夫。こんなところで立ち止まることなど、きっとシャルロットも一夏も望まないはずだからな」
「………5分だけだ」
「は?」
「5分だけ待ってやる。その間に、自分の中の気持ちにちゃんと整理をつけろ」
と、フェイリスの腕を掴んで外に出ようとする士。
「ニャ?!つかニャンどういうことニャ?!」
「察しろ」
「それだけじゃ分からないニャ!」
『あー、フェイリスちゃん、今はあのラウラちゃん、一人にしてあげよう。ね?』
「ウラにゃん…?分かったニャ」
575
:
◆2kaleidoSM
:2013/07/15(月) 23:45:01 ID:dBiLH44M
そうして一人になったラウラ。
いざ一人になると、様々なことが頭の中をよぎってくる。
織斑教官は、鈴は、果たして一夏の死に取り乱してはいないだろうか。
セシリアは、人を殺してはいないだろうか。
と、そこまで考えたところで、もう一夏はどこにもいないのだ、という事実が心に圧し掛かってきた。
もしかしたら、ウヴァの言うように一夏を生き返らせることもできたのかもしれない。
だけど、やつを倒した以上、もうその道は閉ざされた。
それは、一夏との完全な決別。
「…一夏」
もう、それは心に受け入れたはずだった。
あの放送を受けたとき、フェイリスを殺す可能性を、ほんの一瞬浮かばせ、しかしそれを完全に消し去らせたあの時から。
でも。
「一夏…、……一夏ぁ…」
一人になり、そして己のやるべきことを完全に定めた今は。
その瞳からあふれ出る涙は止まらず。
片目を覆った眼帯すらも、その涙を押し止めることはできなかった。
【一日目-夜】
【E-4/市街地】
【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【所属】無
【状態】苛立ち、疲労(大)、ダメージ(大)
【首輪】300枚:200枚
【コア】サイ、ゾウ
【装備】ライドベンダー@仮面ライダーOOO、ディケイドライバー&カード一式@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品一式×5、キバーラ@仮面ライダーディケイド、ランダム支給品1〜8(士+ユウスケ+ウヴァ+ノブナガ+ノブヒコ)、バースドライバー@仮面ライダーOOO、
サタンサーベル@仮面ライダーディケイド、メダジャリバー@仮面ライダーOOO、 ゴルフクラブ@仮面ライダーOOO、首輪(月影ノブヒコ)
【思考・状況】
基本:「世界の破壊者」としての使命を果たす。
0.ラウラとフェイリスと同行する。
1.全てのコアメダルを奪い取り、全てのグリードを破壊してルール上ゲームを破壊する。
2.「仮面ライダー」とグリード含む殺し合いに乗った参加者は全て破壊し、それ以外は配下にしてやる。
3.ディエンドとは戦う理由がないので場合によっては共闘も考える。
4.ラウラにそこそこ関心。
【備考】
※MOVIE大戦2010途中(スーパー1&カブト撃破後)からの参戦です。
※ディケイド変身時の姿は激情態です。
※所持しているカードはクウガ〜キバまでの世界で手に入れたカード、ディケイド関連のカードだけです。
※アクセルを仮面ライダーだと思っています。
※ファイヤーエンブレムとルナティックは仮面ライダーではない、シンケンジャーのようなライダーのいない世界を守る戦士と思っています。
※アポロガイストは再生怪人だと思っています。
※少なくとも電王は破壊する意味なしと判断しました。
※仮面ライダーバースは”破壊”しました。バースドライバーが作動するかどうかは不明です
576
:
◆2kaleidoSM
:2013/07/15(月) 23:45:32 ID:dBiLH44M
【フェイリス・ニャンニャン@Steins;Gate】
【所属】無
【状態】疲労(大)、深い哀しみ、ゲームを打破するという決意、戦いに対する不安、イマジンズへの信頼
【首輪】300枚:0枚
【装備】IS学園女子制服@インフィニット・ストラトス
【道具】IS学園男子制服@インフィニット・ストラトス、
デンオウベルト&ライダーパス+ケータロス@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:仲間と共にコアメダルを全て集めて脱出し、マユシィを助けるニャ。
0.今はまだ、誰かと戦う覚悟はニャいけど……いつかはフェイリスも……?
1.ラウニャン、大丈夫かニャ…?
2.アルニャンとセシニャンを止めなくちゃいけニャい!
3.凶真達とも合流したいニャ!
4.変態(主にジェイク)には二度と会いたくないニャ……。
5.イマジンのみんなの優しさに感謝ニャ。
6.世界の破壊者ディケイドとは一度話をしてみたいニャ!
7.ラウニャンに人殺しはさせたくニャい。とくに友達を殺すニャんて……
【備考】
※電王の世界及び仮面ライダーディケイドの簡単な情報を得ました。
※モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス、ジークが憑依しています。
※イマジンがフェイリスの身体を使えるのは、電王に変身している間のみですが、
ジークのみは特別で、その気になれば生身のフェイリスの身体も使えるようです。
※タロスズはベルトに、ジークはケータロスに憑依していました。
※ジークがまだフェイリスを認めていないので、ウイングフォーム及び超クライマックスフォームにはなれません。通常のクライマックスフォームまでなら変身できます。
※イマジンたちは基本的に出しゃばって口出しする気はありません。フェイリスの成長を黙って見届けるつもりです。
【ラウラ・ボーデヴィッヒ@インフィニット・ストラトス】
【所属】無
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、精神疲労(大)、深い哀しみ、力への渇望、セシリアへの強い怒り(ある程度落ち着いた)
【首輪】300枚:20枚
【コア】バッタ(10枚目)、クワガタ(感情)、カマキリ×2、バッタ×2、サソリ、ショッカー、ライオン、クジャク、カメ
【装備】シュヴァルツェア・レーゲン@インフィニット・ストラトス、ライドベンダー@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品、魔界の凝視虫(イビルフライデー)×二十匹@魔人探偵脳噛ネウロ、、ランダム支給品0〜2(確認済)
【思考・状況】
基本:グリードに反抗する仲間とコアメダルを集めて優勝し、生還する。
0.一夏……
1.士、フェイリスと行動する。
2.セシリアを止める。無理なら殺すことにも躊躇いはない。
3.陣営リーダーとして優勝するため、もっと強い力が欲しい。
4.もっと強くなって、次こそは(戦う必要があれば、だが)セイバーに勝つ。
5.一夏やシャルロットが望まないことは出来るだけしたくはない。
6.一夏を殺した相手は――――
【備考】
※本当の勝利条件が、【全てのコアメダルを集める事】なのでは? と推測しました。
※"10枚目の"バッタメダルと肉体が融合しています。
時間経過と共にグリード化が進行していきますが、本人はまだそれに気付いていません。
※コアメダルを、その体に取り込みました――――――――――――
577
:
◆2kaleidoSM
:2013/07/15(月) 23:46:22 ID:dBiLH44M
◇
(このままでは済まさん…!)
コアメダルだけとなったウヴァは、しかしそれでも意識を失ってはいなかった。
彼自身の生に対する執着心か、あるいは虫のしぶとさの表れか。
これで、これまでに増やしてきた戦力も、メダルも全てチャラになってしまった。
いくら自陣営が優勝するにしても、それが自分の優勝にならないのであれば意味がない。
しかし、こうなってはもはやどうしようもない。
そう、思っていた。
(ん…、あ、あれはまさか―――)
そうしてラウラの中を漂っていたウヴァは、ある事実に気付いた。
ラウラが取り込んだメダルの1枚、おそらく自分を倒す以前から取り込んでいたバッタメダル。
それが、ラウラの体内で肉体と融合しようとしている、という事実に。
(これは…、そうか、これならまだ俺にもチャンスはある―――!)
そう、もしもこのメダルがラウラの体に完全に馴染めば、彼女自身がグリードとなる。
そして、その力に溺れ、なおかつセルメダルが十分集まりさえすれば。
きっと、またグリードとしての肉体を取り戻せる。
復活さえできれば、今ラウラが持っている緑メダルの全ては俺の総取りだ。
こうなれば今の状況はそこそこ好都合だ。
少なくとも確認している限り唯一メダルを破壊できる手段を持つオーズと、ラウラと同行するディケイドは敵対している。
メダルに意志が残っていることに気付かれさえしなければ、破壊される可能性は低い。
(そうだ、俺はまだついている!こんなところでは終わらんぞ!
ハハハハハハハハ!)
もし、ラウラが力に、欲望に溺れることがあるとするなら、いつだろうか。
決まっている。織斑一夏への想いだ。
ああは言っているが、今だにその恋が消えたわけではないことは、ウヴァには分かった。
そして、それを増幅させるものがあるとすれば。
一夏を殺した人間と相対したときだろう。
(せいぜいあがいてみろ!その欲望の中でな!ハハハハハハハハ!!)
そうして、復活を望むウヴァは、誰に聞こえることもなくラウラの中で笑い続けた。
578
:
◆2kaleidoSM
:2013/07/15(月) 23:46:54 ID:dBiLH44M
◇
「ラウラ・ボーデヴィッヒか。なるほどね」
それは、ウヴァが爆散した衝撃で飛ばされたもの。
参加者全員のパーソナルデータ。
その中の、ラウラのページを眺めながら、彼らの戦いを眺めていたインキュベーターは呟く。
「やっぱり感情というものは理解できないなぁ。どうしてこうも非効率的な道ばっかり選ぶんだろう?」
ともあれ、ウヴァはいなくなり、新しい観察対象を探した方がいいのだろうかと考える。
「ん?この項目…、『VTシステム』?なんだろう、これ」
彼女のIS、シュヴァルツェア・レーゲンの説明の中にあったその単語。
それが何を意味するのかを確かめるため更に読み込もうとしたインキュベーター。
しかし。
「あれ?もう移動するんだね。こうしちゃいられない。早く追いつかないと」
インキュベーターはそれっきり、そのデータ集を拾うことも未練を残すこともなく。
去っていくラウラ、士、フェイリスの後を追いかけた。
誰もいなくなったその場で。
ラウラのデータが記された一ページが、ただはためき続けた。
【ラウラ・ボーデヴィッヒの備考・追記】
※取り込んだコアメダルは、緑メダルは全て取り込みましたがそれ以外はいくら取り込んだかは不明です。
その中の一枚には、ウヴァの意識が残っています。
また、メダルを取り込んだことでグリード化が若干進行しました。
※シュヴァルツェア・レーゲンにVTシステムが取り付けられている可能性があります。
【ウヴァ@仮面ライダーOOO 自律行動不能】
※E-4に参加者全員のパーソナルデータが放置されています。
※キュウべえがE-4にいます。士達の観察を目下の行動方針とした様子です。
579
:
◆2kaleidoSM
:2013/07/15(月) 23:48:20 ID:dBiLH44M
投下終了です
ちょっとルールを履き違えてるかもしれない箇所があるためこちらに投下しました
問題点などあれば指摘お願いします
580
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/07/16(火) 14:59:07 ID:PLW64OV2
借投下乙です
感想は本投下の際に。
一点疑問なのですが、前話のラストで士は自分が全陣営を乗っ取り唯一無二の陣営リーダーになる、というような話をしていたと思うのですが、
今回の話を見る限り、その自分の目的のためにラウラを仲間に取り込むという形ではなく、ラウラの目的のために士が協力しているように見受けられます。
士の行動についての描写がもう少しあった方がいいかなと思いました。
581
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/07/16(火) 17:38:26 ID:jVe4hmXk
気づいてない人がいると困るのであげ。
私も士がラウラに対して気を使いすぎてるかな、と思いました。
初対面の女子中学生(まどか)に対しその後一応謝ったとはいえ躊躇なく首を絞めたりした士が、
このゲームに対する「有効かもしれない」程度の攻略法を見つけたラウラにそこまで気を使うかなと。
そしてこれは解釈の違いかもしれませんが、ウヴァは果たして今のディケイドに対して戦う、という手段をとるかなぁと。
というのも、彼は前々からカオスやらの実力トップ勢には無理に戦いを挑まないという戦い方でコスく生き残ってきました。
詳しくはわからないので個人個人の意見なのでしょうが、高すぎる基礎の能力や加速能力、
そして彼と同じく参加者の詳細名簿を持っているメズールやカザリですらディケイドへ「警戒しなくてはならない」という思いを抱いているのは前までのSSで確認できます。
それならばディケイドはウヴァがいやでも戦いをしたくない面子の中に入っていても何らおかしくはないんじゃないかな、と。
長くなりましたが、正直後半は個人のとりようでどうにもなると思いますので、最悪無視してもらってもかまいません。
しかし少しでも「確かにそうかもしれないな」と思っていただけたなら、ぜひ御一考お願いしたいです。
582
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/07/16(火) 21:21:14 ID:fWkCSVlg
仮投下乙です。
感想は本投下までとっておくとして、一点だけ指摘をさせて貰います。
『ナイトメア・ビフォア』の前後編でディケイドが外道殺法を控えていた理由に
「仮面ライダーを破壊するとカード化してしまい、戦利品のメダルを得られなくなるのではないか」という懸念があったからという描写がありますので、
バースを破壊してもカード化しなかったということについて何らかの反応があった方が自然ではないかと思いますので、御一考頂けると幸いです
583
:
◆2kaleidoSM
:2013/07/16(火) 23:23:00 ID:lYJJLY5M
皆様ご指摘ありがとうございます
早急に問題点を改善した後、早めに本投下させてもらいます
584
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/07/17(水) 10:56:48 ID:rFShYxHo
すいません、作者さんの反応より後になってしまいましたが、1つだけ。
ウヴァが脱落した後でラウラが緑のメダルを回収したなら、その時点でラウラが次期リーダーに決定するので
ラウラは緑陣営の所属になるのではないでしょうか。
585
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/07/17(水) 23:24:50 ID:CufqBVCE
>>584
リーダーがやられたら、その陣営は次の放送まで無所属になったと思います。
586
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/07/18(木) 00:35:25 ID:G2b8YTUU
いや、確かリーダーに決まった人物だけはその場で即復活、首輪の色も前の陣営のままだったような
過去作でのアンクとまどかはそういう扱いだったはず
587
:
◆qp1M9UH9gw
:2013/09/12(木) 03:05:29 ID:LzyrC9j.
不安が残る内容なので仮投下させてもらいます
588
:
◆qp1M9UH9gw
:2013/09/12(木) 03:07:59 ID:LzyrC9j.
【1】
たったの六時間で、十何人もの明日が奪われた。
本来ならば明るかったであろう彼らの未来は、半ば強制的に閉ざされたのだ。
克己の拳が堅く握りしめられ、同時にわなわなと震え出す。
彼の内に秘められた感情は、殺し合いを開いた真木への怒りであり、同時に犠牲者の続出を食い止められなかった自分自身への怒りであった。
もしも、アポロガイストをあの場で仕留める事ができていたのなら。
もしも、財団Xの刺客を警察署で葬れていたのなら。
不条理に未来を破壊される者が、一人は減っていたのかもしれない。
所詮ifの話であったとしても、思考を巡らしても何の意味も齎さない空絵事であったとしても、そう考えずにはいられなかった。
とはいえ、そのまま後悔し続ける克己ではない。
救えたかもしれない命を救えなかった悔しさは、数分後には主催者打倒の為の強い意志へ転じていた。
ここで挫けてしまっていては、それこそ死んだ者達に申し訳が立たないではないか。
見据えるべきは未来である――主催を打倒する為にも、こんな場所で立ち止まるつもりは無い。
問題なのは、同行者であるさやかの方だ。
彼女は放送が終わった後、目に見えて動揺していた。
無理もない――死んだ志筑仁美は、さやかの親友の一人だったのだから。
「……よしっ」
そう掛け声を上げて、さやかが立ち上がった。
彼女の表情からは、既に悲しみは感じ取れなかった。
「……もういいのか?」
「うん、あたしはもう大丈夫」
失礼な言い方だが、立ち直るのにはもう少し時間がかかると思っていた。
だが、どうやら克己の心配は杞憂に終わったようである。
その証拠に、今のさやかから負の感情らしきものはまるで感じられない。
「仁美が死んで悲しいし、さっきだって泣いちゃいそうになったけどさ……でも、今はまだ泣く時じゃないよ」
泣く時は、真木達を倒して全てを終わらせた後。
その瞬間までは、前を向いて戦おうと決めたのだ――さやかはそう克己に宣言した。
無理をした様には見えなかったから、恐らくその意思は本物なのだろう。
克己がそうであったように、さやかも懸命になって明日を求めているのだ。
彼との戦いの記憶は、彼女を確かに変えているである。
「それにさ、あたしがクヨクヨするばっかりじゃ、何時まで経っても克己に追いつけないしね」
そう言って笑いかけるさやかに対し、克己も僅かに微笑んでみせた。
589
:
◆qp1M9UH9gw
:2013/09/12(木) 03:10:09 ID:LzyrC9j.
【2】
桂木弥子は、心の何処かで楽観視してたのかもしれない。
この殺し合いもきっと、いつもの様にあの魔人――脳噛ネウロが解決してくれるのだと。
何しろ彼は、死ぬ姿がまるで想像も付かない程に強いのだ。
人知を超えた存在が、人知の範疇にある人間に支配できる訳が無い。
今回もいつも通りに、ネウロが真木の「謎」を喰って一件落着になるのである。
そう信じ込んでいたから、目の前の光景が猶更信じられなかった。
弥子の視線の先にあったのは、最強であった筈の魔人の、見るも無残な屍骸。
片腕と片足が欠損し、全身が火傷だらけとなったその死体は、彼が如何に無様な最期を遂げたかを物語っている。
思わず弥子はネウロへと駆け寄るが、それでも彼は何の反応も示しはしない。
どんな生物であろうが、死んでしまってはただの肉塊――「死人に口無し」とはよく言ったものだ。
「嘘、だよ」
口から衝いて出た言葉は、否定である。
目の前に真実があるにも関わらず、弥子はそれを認めようとしない。
信じがたい光景から目を背ける彼女の行動は、一種の現実逃避と言えた。
「嘘だよ……!だって、そんな……あり得ないよ……。ネウロが……こんな……」
余程混乱しているのか、出てくるのは曖昧な言葉ばかり。
その様子からは、彼女のショックが相当なものである事が容易に理解できる筈だ。
そんな弥子の姿を、アンクは苛立ちの籠った表情で見つめていた。
あの様子を見るに、死んでいる男は弥子の関係者なのだろう。
知人が死んでショックなのは同情に値するが、だからと言ってずっとこのまま嘆いていられても困る。
「……いつまで嘆いてやがる。そろそろ行くぞ」
「ま、待ってよ……このまま置いてくの……?」
「当然だ。死んだ奴に今更何しようってんだ」
死者は生き残りに何の得も与えはしない。
強いて言うのであれば、強い喪失感を与えるだけだ。
それこそ「死人に口無し」と言うやつで、アンクは無意味な肉の塊などに何の興味も示さなかった。
ある程度知り合った仲ならまだしも、初対面の他人であれば尚更沸き上がるものがない。
「そいつが誰だろがな、死んだらもう無価値なんだよ。
それともなんだ、お前が背負っていればそいつは生き返るのか?」
そんな訳がない――もしそうなったとしたら、どれだけ幸福だろうか。
だが、そんな奇跡は決して起こり得ない事は弥子だって理解できている。
だからもう、ネウロは弥子に何も語りかけなどしない。
如何に魔人であれど、生と死の境界を乗り越えれはしないのだ。
弥子はただ、黙りこくる事しかできなかった。
アンクの言う事はもっともだ――死者は何も与えないし、何も齎さない。
死を嘆く暇があるのなら、前を見据えて歩くべきなのだ。
だが、それを知っていてもなお、歩き出す事に躊躇してしまう。
最も頼りにしていた魔人の死を目にした瞬間、弥子の自信は粉々に砕け散った。
彼でさえ打ち勝てない様な強大な敵を、一体どうやって倒せと言うのか。
そして、その強大な敵さえ監獄めいた空間に閉じ込めれてしまう主催者に、勝てる見込みなどあるのか。
粉砕された自信から生まれた不安は恐怖、あるいは絶望となり、弥子を浸食していく。
気付いた頃には、彼女の意志は脆弱なものとなり、一人の力だけでは立ち上がれなくなってしまっていた。
590
:
◆qp1M9UH9gw
:2013/09/12(木) 03:11:37 ID:LzyrC9j.
「立ち上がる気力も無いのか?」
「……」
「……だったらずっとそうしてろ」
そう呆れ気味に言って、アンクは踵を返した。
こうやって見捨てるような素振りを見せれば、どうせこの女は勝手に着いてくる。
このまま嘆いていたところで埒が開かない事くらい承知しているだろうし、
自分が進めば彼女もまた歩き出すのだろうと、そうアンクは認識していた。
もしそれでも立ち上がらないのであれば、弥子の意思とはその程度のものだったという事。
アンクとしては、彼女が立ち上がろうが立ち上がらなかろうがどちらでも構わなかった。
着いて行きたいなら勝手に来ればいいし、来ないのならそこまでだ。
別に、同情しているからこんなチャンスを与えているという訳では断じてないのである。
「ほお?つまりお前は、この女を見捨てたという訳か」
――この場にいたのが二人だけならば、結末は違っていただろう。
心に傷を負いながらも、それでも弥子はアンクを追いかけた筈だ。
だが、此処にはまだもう一人の男が存在している。
一切の情など持ち合わせない邪悪が、アンクの仲間として同行しているのだ。
そんな男が、果たしてアンク達の行動を見過ごすだろうか――答えは、"否"だ。
「……では、この女の命の炎を奪っても構わんのだろ?」
いつもと変わらぬ口調、しかし底冷えする様な殺意が込められた声。
振り向けば、ガイが居た筈の場所に赤い怪人が立っているのが見えた。
彼から滲み出ている殺気は、他でもない弥子へと向けられたものである。
【3】
どうしてこの男は、桂木弥子を連れているのだろうか。
アンクと行動を共にしている内に、アポロガイストにはそんな疑問が浮き出ていた。
当初は「合理的な判断」だと言って流したが、よくよく考えてみれば妙な話である。
何かしらの特殊能力がある訳でもないし、仮に彼女を赤陣営に引き込んだとして、一体何のメリットがあるのだろうか。
陣営戦に何ら恩恵を齎さないこの女を同行させているアンクは、胸中で何を考えているのだ?
浮き出た疑問は、やがて疑念へと姿を変貌させる。
もしやアンクは、お情けであの小娘を保護しているのではないか。
陣営の人数など所詮建前でしかなく、実情は弥子が心配だから同行しているのかもしれない。
そう思うと、途端にリーダーが信用ならなくなってくる。
本当にこの男は、赤陣営の長を名乗る資格を有しているのだろうか。
だからこそ、この機会を逃す訳にはいかなかった。
丁度アンクが弥子を見捨て、前へ進もうとしていたこの瞬間。
もし此処で自分が彼女を殺そうとしたら、アンクはどの様な反応を示すのか。
本当に弥子を陣営の頭数程度にしか思ってないのだとしたら、彼女の死に対し何の感情も抱かない筈だ。
しかし、逆にアンクが動揺したのであれば、それはつまり弥子を仲間と認識していたという事である。
アポロガイストが求める"リーダー"とは優勝だけを目指す合理主義者であり、
仲良しごっこに興じる者など、断じて"リーダー"として認める訳にはいかないのだ。
「……なんだと?」
アポロガイストの言葉を聞いたアンクが、怪訝そうな表情を彼に向けてきた。
その顔は、唐突に弥子を殺すと宣言したが故のものなのだろう。
本人にとっても、それは予想外の事態に違いない――やはりこの男は、弥子を仲間と認識しているのだ。
「何故その様な顔をする?貴様、この女の事などどうでもいいのではなかったのか?」
「どうせそいつは他の奴に殺される。別に今殺す必要は無いだろ」
アンクのその返答を聞くやいなや、アポロガイストは嘲る様に笑ってみせた。
もっともな事を言っている様に見えるが、このリーダーは弥子を殺されるのを防ごうとしているのだ。
大方、突き放す様な素振りを見せれば彼女も仕方なく着いてくるだろうと思ったのだろう。
なんとも甘い発想だ――戦場に立つべき"リーダー"に相応しいとは、とてもじゃないが思えない。
「ほお……?邪魔者は殺すのではなかったのか?随分と甘いのだなぁ、"リーダー"?」
「"リーダー"の命令に文句があるって顔してるな、お前」
「ああそうだ、大いにあるとも!大体、何故貴様はこんな碌な使い道も無い小娘を生かしているのだ!?」
「……ッ!そんな事お前には関係の無い話だろうが!」
「"関係ない"だと!?何もできん餓鬼を連れているだけでどれだけの負担が出ると思っているのだ!」
「もう黙ってろ!"リーダー"の命令に逆らうんじゃねえッ!」
591
:
◆qp1M9UH9gw
:2013/09/12(木) 03:15:01 ID:LzyrC9j.
アポロガイストが反論する度に、アンクの不快感が表面化していく。
この男は適当な理由を付けて納得させようとしている様だが、その程度で弥子の存在を容認するアポロガイストではない。
やはりアンクは、弥子に対し少なからず仲間意識を持っていたのである。
これで確信できた――この男と一緒に殺し合いを勝ち抜くなど、土台無理な話だったのだ。
「フン、どうやら貴様……やはり"甘ちゃん"だったようだな」
「誰が甘ちゃ……テメェまさか!」
「察しがいいなアンクよ、貴様の想像通りだッ!」
アンクがリーダーに相応しくないと判明した以上、彼に服従する必要などあるものか。
最早この男は、自分が生き残る為に邪魔な障害でしかないのである。
「言った筈だぞ!貴様が"甘ちゃん"だったのなら、そこの小娘諸共始末するとな!
約束通り……貴様の命の炎も!そしてリーダーの座も!全て奪わせてもらうぞ!」
放出された殺気を感じ取ったのか、アンクも臨戦態勢に移ろうとする。
彼がどんな武器を所有しているのかは知らないが、どんな装備だろうがパーフェクターの前では無意味である。
何しろ、パーフェクターで命の炎を吸い取ってしまえば決着は付いてしまうのだ――恐れる必要など、何処にもない。
心中で余裕を含みながらも、アンクから命の炎を奪い取ろうとした、その瞬間。
どこからともなく現れた大量の毛髪が、アポロガイストの腕に巻き付いてきた。
見ると、その毛髪は弥子から生えているものではないか。
「あ、あかねちゃん!?」
「ぬお!?なんだこれは……!?」
アポロガイストが知る由も無いが、弥子には「あかねちゃん」なる生命(?)が支給されている。
彼女は他人の毛髪と融合する事で毛髪を増幅させ、同時にそれを触手の様に操れるのだ。
アポロガイストの行動に憤りを示した彼女が、弥子の毛髪と融合しアポロガイストを妨害しているのである。
あかねちゃんの毛髪はアポロガイストの手にまで届き、遂にパーフェクターをはたき落す。
あらぬ方向へ飛んでいったパーフェクターに気を取られている内に、アンクはアポロガイストと距離を取る。
アンクが向き直した頃には、既にアポロガイストを拘束していたあかねちゃんの毛髪は切り裂かれていた。
「貴様……!よくも私のパーフェクターを!」
余計な横槍を入れられた事によって、アポロガイストの怒りが頂点に達する。
パーフェクターが使えない以上、戦闘に持ち込むしか無くなってしまった。
あれは自分の最強の武器であり、同時に自身の命を繋げる生命線なのだ。
それを奇襲で奪い取るなど、彼にとっては許し難い所業なのである。
「下賤な毛髪で私に触れおって……赦さんぞ小娘……ッ!」
アンクを始末した後で弥子の命の炎を頂くつもりであったが、予定は変更だ。
手始めにこの無礼な小娘を切り裂いてから、その後でアンクからリーダーの座を奪い取る。
アポロフルーレを取り出し、今もへたり込む弥子をその刃の錆にせんと襲い掛かった。
しかし、横からアンクに突き飛ばされたせいで、アポロガイストの行動は失敗に終わる。
「ええい、どこまでも迷惑な奴なのだ!貴様は一体何なのだ!?」
「俺が何なのか、だと……!?ハッ、見たけりゃ見せてやるよッ!!」
そう咆哮をあげる様に叫んだ途端、アンクの肉体が変異を遂げる。
たった一秒もしない内に、彼は鳥を連想させるような赤い怪人へと変貌していた。
まだ「もう一人の自分」が何処かで眠っている今、自分が全身をグリード態に変化できるか不安であったが、
どうやらその心配は杞憂だったようだ――泉信吾の肉体を利用すれば、「もう一人の自分」の力を借りずともグリード態になれる。
「来るなら来いッ!ぶっ潰してやるッ!」
「それが貴様の真の姿か……ならば私も、これを使わざるを得んな!」
592
:
◆qp1M9UH9gw
:2013/09/12(木) 03:16:25 ID:LzyrC9j.
アポロガイストは小箱を取り出すと、民家の窓にそれを向ける。
小箱が映された窓からベルトが出現し、独りでに彼の腰に巻き付いた。
「変身ッ!」
その掛け声と同時に、カードデッキをバックルに装填する。
するとづだろうか、アポロガイストは瞬く間に赤い装甲を身に纏ったではないか。
「仮面、ライダー……!?」
鎧を纏ったアポロガイストを見て、アンクが驚嘆する。
用いた道具の種類は違えど、その風貌は「仮面ライダー」を想起させるものであった。
アポロガイストもまた、映司や翔太郎と同じ力を得ていたのである。
「怪人はライダーに滅ぼされるのが似合っているぞ!」
「テメェも怪人だろうがッ!」
両者の殺気がぶつかり合い、いよいよ戦いが勃発しようとしている。
そんな中、アンクはふとまだ近くにいた弥子の姿をちらと見る。
怪物となった彼を見つめる彼女の表情は、恐怖で引き攣っていた。
今この場で戦闘を行えば、間違いなく彼女はその巻き添えを食らうだろうだろう。
「……すぐ戻るから大人しくしてろ」
そう弥子に告げると、アンクは翼を広げ、龍騎に変身したアポロガイストに飛びかかる。
彼は龍騎を捕獲すると、そのまま何処かへと飛翔していく。
二人の姿が建物の隠れて見えなくなるのに、そう時間はかからなかった。
【4】
どうすればいいのだろう。
残された弥子の脳内は、その一言で埋め尽くされていた。
アンクがアポロガイストと戦闘している中、自分は一人放置されたまま。
戦っている仲間の助けになりたいが、自分に戦えるだけの力などありはしない。
ただこうしてじっとしているのが関の山で、それは誰にとっても何の利益も齎さない行為である。
噛み切り美容師の事件から、自分が何も変わっていない事を痛感した。
アポロガイストの言う通りなのだ――アンクの為にしてやれる事が、何一つとして見つからない。
自分は結局役立たずの小娘でしかなく、彼にとって不要な存在なのだろうか。
そう悲観的になっている時であった――弥子の視界に、見覚えのあるスーツを着た男が姿を現したのは。
その漫画に出てきそうな奇抜な格好は、紛れもなく"ワイルドタイガー"のものだ。
堂々と真木に反抗してみせた"正義の味方"が、彼女の前に現れてくれたのである。
だが、どうも様子がおかしい。
弥子の視線の先にいる"ワイルドタイガー"の足取りが、実に弱々しいものとなっているのだ。
やがてその足取りのまま弥子の元に辿り着いた彼は、彼女のすぐ近くにあったネウロの亡骸を見つめ始める。
弥子の存在などまるで気にも留めないで、彼はじっと死体を見つめ続けていた。
「何だよ、これ。ちょっと待てよ、なんで……なんで死んでるんだよ」
ネウロの遺体の前で、"ワイルドタイガー"が膝を付く。
その様子は、まるで彼がネウロの存在を知っているかの様であった。
この男にとって、魔人の死とはそれほどまでに堪えるものなのか。
さながら旧知の友を喪ったかの様な態度に、弥子はただただ困惑する。
「大層な台詞吐いた癖に……なんだよそれ……格好悪すぎるだろ……」
死体の様子からして、恐らくネウロは為す術も無く惨殺されたのであろう。
あらゆる人間を超越していた魔人が、こんな無様な最期を遂げたなど、弥子にだって到底信じられない。
だが、目の前の光景は紛れもなく現実のものであり、認めざるを得ない事実である。
例えそれが、どれだけ残酷なものであったとしても、だ。
「だったら……本気になった俺が……馬鹿みたいじゃないか……」
その嘆きを聞いた所で、弥子はようやく気付く。
目の前の"ワイルドタイガー"が、真木に宣戦布告した"ワイルドタイガー"では無い事に。
今弥子の目の前にいるのは、"ワイルドタイガー"の皮を被った偽物。
そんななりすなしが可能であり、なおかつネウロを知っている者など、この地には一人しか存在しない。
「もしかして……X……なの?」
返答の代わりと言わんばかりに、"ワイルドタイガー"は顔を弥子の方に向けた。
バイザーを開けたマスクの奥にあったのは、ぐにゃぐにゃと形を変えている異形である。
不気味に変質を続けている彼の顔は、まさしく彼が怪盗Xである事の証明であった。
593
:
◆qp1M9UH9gw
:2013/09/12(木) 03:18:29 ID:LzyrC9j.
O O O
ネウロが死んだ。
どこの誰かも知らない奴に、いつの間にか殺されていた。
あれだけ尊大な台詞を吐いておきながら、一人で勝手に死んでいたのだ。
だが、そんな惨めな奴に負けた自分はどうなる。
生まれて初めて全力で戦い、最初に敗北を喫した相手が、その程度の男なのだとしたら。
彼の打倒が目的の一つとなりつつあった自分が、なんと愚かな事だろうか。
今弥子を殺してしまえば、彼女諸共ネウロを「箱」に出来てしまえる。
だがどうしてだろうか、目的の達成まであと僅かの所まで来ているというのに、少しも気分が高揚しない。
それどころか、ネウロの死を知った瞬間、気分がどん底にまで落ちていくのを感じた。
そんな自分の感情を鑑みて、Xは気付いた――自分はもう、ネウロの中身を見るだけでは満足できない事に。
彼をこの手で打ち倒した上で「箱」にしなければ、自身の欲望は満たされないのだ。
自分を打ち負かした男にリベンジする事で、初めて 自分は目的を達成できたと言えるのである。
だが、それに気付いた頃には手遅れだった。
ネウロはいつの間にか死亡し、Xだけが取り残される形になったのである。
「あ、あの」
絶望の淵に沈むXに、弥子が何か言いたげな様子だった。
何を考えているかなど見当も付かないが、とりあえず聞くだけ聞いてみよう。
「何さ、言いたい事があるならハッキリ言いなよ」
「え、えと……その……お願いが……あるの……」
弥子曰く、仲間が襲われているから力になって欲しいらしい。
自分の力ではどうにもならないし、頼れるのはこの場にいるXしかいない、という事だ。
何故犯罪者である自分にそんなお願いをするのか、一瞬不可解に思ったが、少し前の彼女との邂逅を思い出して納得する。
既に殺人を行っている身であるが、自分は決して殺し合いに乗っている訳ではないのだ。
あくまで自分の欲望に従っているだけであり、真木の言いなりになるつもりなど在りはしないのである。
そういう事情を知っていたからこそ、弥子はXに頭を下げれたのだろう。
本人が殺し合いに対し否定的なら、自分の願いを聞き入れてくれるかもしれない――そんな僅かな可能性に賭けたに違いない。
「……嫌だよ。なんでオレが厄介事に首突っ込まなきゃならないのさ」
いつもの調子であれば、乗っていたかもしれなかった。
だがしかし、最低な気分になっている今となっては、そんな依頼を受ける気力など何処にもない。
「箱」の事も、自分の正体の事も、今この瞬間だけはどうでもよくなっていた。
今はただ、誰にも関わらずに一人で時間の経過を待っていたかったのである。
しばらく時間が経てば、きっと受けたショックも和らいでいる筈だ。
拒絶された弥子は、目に見えて項垂れていた。
自分の様な犯罪者に協力を頼む辺り、相当切羽詰っていたのだろう。
だがそんな事、自分にとっては関係の無い話である。
とにかく今は、何事にも干渉するつもりは無かった。
そんな時、道端に放置されていた白色の物体を、Xの視線が捉えた。
確かあれは、アポロガイストが所有していたものである。
「もう一人のアンク」から奪い取った詳細名簿に、パーフェクターについての記述があった。
アポロガイストが所持している道具であり、それを使えば人間から生命力を吸収する事が可能らしい。
彼はパーフェクターを使用する事で、僅かな寿命を永らえさせている――そういった内容が、詳細名簿には書かれていた。
弥子もXの視線の先にあった物に気付いた様で、それに駆け寄って手にしてみる。
彼女はそれをまじまじと見つめると、その後にXへ問いを投げかけてきた。
「これを使って、"命の炎"ってものを奪うんだよね?」
「よく知ってるね。確かにアンタの言う通り、そいつは生命力を奪い取る事ができる」
「それなら、他の人に生命力を分け与える事もできるんじゃ……」
それを聞いて、Xは弥子の目的を察した。
恐らく彼女は、パーフェクターを利用してネウロを蘇生させるつもりなのだ。
確かに傷を治癒できる量のメダルと"命の炎"があれば、それは可能かもしれない。
594
:
◆qp1M9UH9gw
:2013/09/12(木) 03:19:21 ID:LzyrC9j.
「出来るだろうね。でもさ、誰から生命力を供給するっていうのさ?」
Xの言う通り、蘇生させようにも、生命力をどこから調達するのかが問題である。
ネウロを生き返らせるのにどれだけの"命の炎"が必要なのかは不明瞭だが、
例えどれ程の量であったとしても、"命の炎"を奪い取る対象の存在が必須なのだ。
この場にいるのは弥子とXだけで、他の人間の気配は全く感じない。
他の場所に移動して他の参加者から奪うという手もあるにはあるが、
生命力を奪う以上、対象やその仲間とトラブルが起こるのは間違いないだろう。
そんな状況で、一体どうやって"命の炎"を調達するというのか。
そう内心で嘲け笑っていた、その時であった。
弥子が、何か決意をした様な表情でXに向けてこう言ったのである。
「ねえ、X。もしも私が"命の炎"をネウロにあげるって言ったら……私のお願い、聞いてくれる?」
【5】
「……本気で言ってるの?それ」
Xのその質問に、弥子は首を縦に振ってみせた。
彼女の宣言は、彼にとっても予想外なものであった。
自分の命を削りかねないというのに、彼女には何の躊躇いも無かったのである。
ネウロに操られる人形だとしか認識していなかったが、一体どこにそんな勇気があるのか。
「死ぬかもしれないんだよ?大体、生き返るかどうかも分からないんだし」
「それでも、やってみる価値はあると思うの」
もし成功したら、その時はアンクの助力をして欲しい。
付け加える様に、弥子はそう言ってみせた。
「なんで……そこまでしてネウロを生き返らせようとしたいのさ」
Xだって、今ネウロが蘇ってくれたらどれだけ幸福だろうか。
だが、そんな都合の良い話なんて滅多に起こらないのが世の常であり、
そんな命懸けのギャンブルに挑むなど正気の沙汰ではない。
どの様な意思が、彼女をそこまで駆り立てるのだろうか。
595
:
◆qp1M9UH9gw
:2013/09/12(木) 03:20:20 ID:LzyrC9j.
「……私……今までずっとアンクや杏子さんの後ろを歩くばっかりで……これまで何もできなかった……」
ぽつりぽつりと、弥子が理由を述べていく。
確かに、これまでの弥子はアンク達に護られてばかりで、彼らの為に何一つ貢献できていない。
杏子の肉体を復活させる事だってまだ未達成だし、そもそもあれはXにソウルジェムを渡されていなかったら不可能た。
結局の所、弥子はまだ誰かの役に立っていないのである。
「だから……もし誰かの為にできる事があるなら……私……それに賭けてみたいの」
殺し合いの犠牲者が出る度に、何もできない自分が嫌になって。
そんな、何の役にも立ててない自分を変えたかった。
そして今、弥子の目の前にはその願望を叶えるチャンスがある。
例え賭けの範囲の話であったとしても、誰かの為になれるなら、その可能性に縋りたい。
「それに……やっぱり信じられないよ……ネウロが……死んじゃうなんて……認めたくないよ……!」
そして何より――ネウロに死んでほしくなかった。
あんなサディズムの塊の様な魔人だが、それでも一緒にいて悪い気はしなかった。
突然転がり込んで、いつの間にか弥子の日常の一部になっていたのである。
辛い事もある――というか辛い事ばかりある生活だが、それでもその"日常"が壊れてほしくなかったのだ。
「私なんかより……ネウロが生きてた方が……きっと、皆の為になると思うの……だから、ね」
無理やり作った笑顔から紡がれた言葉は、震えていた。
やはり彼女は、これから起こる事に恐れを抱いている。
だがしかし、彼女が言った事は紛れもなく本心であり、本気で自分の命を賭けるつもりなのだ。
「……ふーん、そっか」
ゆっくりと、Xが立ち上がる。
まるで幽霊の様に緩慢に、弥子がいる方向へ顔を向ける。
バイザーの奥にあったのは――口元に三日月を浮かべた"X"の顔だった。
「だったら、アンタの御言葉に甘えさせてもらうよ」
その瞬間、Xは持ち前の瞬発力で弥子に飛びかかる。
何が起こったのか理解する前に、彼女の意識は暗転するのであった。
596
:
◆qp1M9UH9gw
:2013/09/12(木) 03:20:57 ID:LzyrC9j.
【6】
弥子のいた場所から少しばかり離れた場所で、龍騎とアンクの勝負は繰り広げられていた。
ここならば巻き添えを食らう者がいないからか、アンクも存分に戦う事ができる。
ドラグセイバーによる斬撃を、アンクは手にした「aegis=L」で受け流す。
シナプスで製作された防具だけあって、耐久力は一級品のものだ。
これがあるお陰で、アンクは未だ斬撃を食らわずに済んでいるのである。
アンクの方も、クリュサオルで龍騎の装甲に傷を付けようとするのだが、彼の立ち回りも中々のもので、一向にダメージを与えられない。
流石は一大組織の幹部を名乗るだけの事はある――実に気に喰わないが、敵の実力を認めざるを得なかった。
このままでは埒が明かないと判断したのか、龍騎は一旦後退し、カードデッキからカードを一枚取り出す。
そして、黒い剣が描かれたそのカードを、左腕に取り付けられたガントレット――ドラグバイザーに差し込んだ。
-SOWRD VENT-
これまで太刀一本でエターナルと戦っていた龍騎が、ここで二本目の太刀を召喚した。
今まで獲物としてきたドラグセイバーと色違いのそれは、仮面ライダーリュウガが使う剣である。
本来ならば龍騎が使用する武器ではないのだが、ドラグブラッカーとの契約によって使用可能になったのだ。
二刀流になった事により、龍騎の攻撃は激しさを増した。
流石にアンクも余裕が無くなってきたのか、徐々に防戦一方となってくる。
しかし、ただ攻撃に晒され続けるのを容認する程、アンクは我慢強くは無い。
一瞬の隙の内に火球を龍騎に向けて発射し、彼を吹き飛ばす。
そうする事で、アンクは敵と距離を取る事に成功するのであった。
「フン……流石グリードといった所か」
龍騎が、そんな事を言いながら起き上がる。
彼のその様子からして、まだ余力は十分残っているようだ。
だがそれはアンクの方も同じで、この程度ではほとんど疲労していない。
このまま戦い続けていれば、恐らく先に音を上げるのは龍騎の方だろう。
明確な根拠は無いが、今のアンクにはそう思えてしまう程の自信があった。
何しろ、火災現場跡でメダルを拾ってから、すこぶる体の調子が良いのである。
今のコンディションならば、どんな局面だろうが切り抜けられる筈だ。
そんな慢心とすら言える感情が、アンクにはあったのだ。
何にせよ、アンクはこの戦いで負けるつもりなど毛頭ない。
陣営を奪われない為にも、必ず勝利しなければならないのだ。
だがそれは、龍騎とて同じ事である――彼も陣営を手にする為に、全力でアンクを潰しかかっている。
-AD VENT-
龍騎がカードをバイザーに差し込んだと同時に現れるのは、真紅の東洋龍――ドラグレッターである。
咆哮を上げると、龍はアンクに向けて、口から火炎弾を発射した。
アンクはグリードとしての身体能力とイージスを駆使する事で、どうにか直撃を回避する。
火炎弾は全て地面と衝突し、それらは爆発して周囲を煙で満たしていった。
アンクの視界も同様に煙で充満しており、それを利用した奇襲を警戒した彼は、空へと飛翔する。
-FINAL VENT-
その電子音が鳴り響いた直後、アンクは目を見開いた。
彼の視線の先にあったのは、自身と同じ目線になる位置まで浮遊する龍騎と、二体の東洋龍である。
赤と黒の双龍は、宙に浮かんでいく龍騎の周りを飛んでいる。
そして、アンクが瞬きしたその瞬間――龍騎の渾身の蹴りが炸裂した。
滞空している今のアンクに、それを回避する術はない。
真正面から受け止める以外に、彼に出来る事は無いのである。
構えた「aegis=L」が、龍騎の必殺の一撃と激突する。
ダメージは受けなかったものの、生じた衝撃までは吸収できず、バランスを崩したアンクは弾き飛ばされる様に地面に衝突した。
597
:
◆qp1M9UH9gw
:2013/09/12(木) 03:24:36 ID:LzyrC9j.
手放してしまった武装を取り戻す為と、アンクは起き上がろうとする。
しかし、彼が立ち上がるより早く、目の前に現れた龍騎の腕が、彼の肉体を貫いた。
肉体の内部を弄られ、激痛がアンクの全身を駆け巡る。
元々高い龍騎のスペックに、アポロガイストの戦闘技術が加わっているのだ。
腕の力だけでグリードの肉体を貫く事は、彼には十分可能なのである。
「……ほお?グリードの肉体とはこうなっているの――かッ!」
龍騎は掛け声勢い良く腕を抜き取った。
体内を弄っていた彼の左手には、二枚のメダルが握られている。
それら二枚はいずれも、鳥類の絵柄が目立つ赤色の物であった。
「……!?俺のメダル……返せ……ッ!」
「返せと言われて返す奴がおるか、馬鹿者め」
嘲る様にそう言ってみせると、龍騎は首元にメダルを放り投げる。
どうやらライダーの装甲の上からでも首輪は機能してくれるようで、
二枚のコアメダルはそのまま龍騎に吸い込まれていった。
「雌雄は決したな……どうだアンクよ、命乞いをすれば助けてやらん事もないぞ?」
「ッ!ふざけんな!誰がテメェなんかに媚びるかッ!」
「だろうな――では、潔く死ぬがいいッ!」
龍騎が、手にしたドラグセイバーを振り上げる。
この一撃でアンクの脳天をかち割り、とどめを刺す気でいるのだ。
だがしかし、腕を振って軌道をずらせば、攻撃の回避は十分可能である。
まだこんな場所で、呆気なく消滅するする訳にはいかない――!
アンクが右腕を振るおうとした、その瞬間であった。
龍騎の影が、何の前触れもなく消失したのだ。
いや、消失したのではない――何者かによって殴り飛ばされたのである。
龍騎の代わりにアンクの傍にいたのは、この場にいる誰もが知る存在であった。
「貴様は確か……ワイルドタイガーか!」
「覚えてくれてたか、そりゃ嬉しいぜ」
殴り飛ばされた龍騎が、その男の名前を呼んだ。
"ワイルドタイガー"――この殺し合いにおいて、堂々と真木に反抗してみせた命知らずだ。
こんな都合の良いタイミングで現れるとは、流石"ヒーロー"を自称するだけの事はある。
598
:
◆qp1M9UH9gw
:2013/09/12(木) 03:28:01 ID:LzyrC9j.
「なんだ貴様は……私に二人ががりで戦いを挑むつもりか?」
「……ああ、それなんだけどよ」
そう言うと、"ワイルドタイガー"は龍騎に向けてある物を放り投げた。
反れたその白い物体は、龍騎――もといアポロガイストの生命線となる道具である。
「これは……パーフェクターではないか!」
「これ、アンタのだろ?こいつで手引いてくれねーか?」
「!?何勝手に決めてんだ!?」
"ワイルドタイガー"が出した交渉に、アンクが思わず動揺する。
まだ十分戦えるというのに、あえて相手を逃すなど馬鹿のやる事だ。
それなのに、一体この男は何を考えているのだ。
"ヒーロー"の立場であれば、此処は加勢するのが普通ではないのか。
「……良かろう、今日の所は見逃してやるのだ。
だがしかし!次こそは貴様からリーダーの座を奪い取ってやるのだッ!」
二対一は分が悪いと考えたのか、龍騎もあっさりとその交渉に乗った。
「震えて待っていろ」とアンクに告げると、彼は鏡の中に飛び込む。
信じられない事だが、龍騎は鏡の世界とやらを移動できるらしい。
とにもかくにも、戦いは呆気ない形で終結したのであった。
【7】
「……礼は言わねえぞ」
アポロガイストが去った後、沈黙を破ったのはアンクであった。
その言葉は他でもない"ワイルドタイガー"へと向けられたものである。
「いいって、そんなもん最初から求めてねえよ」
アンクの無礼な発言に対し、彼は憤りもせずにそう言ってみせた。
最初の会場で思った通り、この男は映司の様に無償で人助けをする奴なのだろう。
命を賭ける場面が訪れたとしても、平気で自分の命を天秤にかけるに違いない。
「アンタの連れの桂木弥子って娘に頼まれてな。
困ってる奴を助けるのは"ヒーロー"として当然だろ?」
「……またアイツか」
どうやらこの男が来たのも、弥子の差し金らしい。
映司の時といい、どうもあの女は横槍を入れるのが好きなようだ。
尤も、彼女のお陰で窮地を救われた事があるのもまた事実。
その点については、あの甘い女を褒めてやってもいいかもしれない。
「俺はアイツの所に戻る。お前は……好きにしろ」
本来ならば、主催の打倒を狙う"ワイルドタイガー"はアンクにとっては邪魔者だ。
一応優勝を狙うつもりでいる以上、彼は早めに排除しておくべき存在だろう。
だが、もし仮に"ワイルドタイガー"を始末したとしたら、弥子は何と言うだろうか。
きっと酷く怒るだろうから、また下らない事でストレスを溜める羽目になりかねない。
だから、不本意ながら助けられた礼として、一度は見逃してやってもいいだろうと考えたのだ。
別に情が沸いた訳ではない。これも考えあっての行動なのである。
踵を返し、翼を広げ飛翔しようとする――が、アンクが空へ羽ばたく事は無かった。
「ガッ……ァ……!?」
"ワイルドタイガー"の拳が、彼の身体を背中から貫いていたからである。
「こうやって腹をブチ抜けば、コアを取り出せるんだろ?
……コア一枚にセルを五十も使ったんだし、これ位のお釣りは貰わないとなァ」
その言葉で、アンクは事の真相に気付く。
この男が都合の良いタイミングで来れたのは、最初から待ち伏せをしていたからだ。
それまで飛び込もうとしなかったのは、コアメダルを奪うタイミングを見計らう為か。
交渉を行ったのも、本当は手っ取り早く戦闘を終わらせたかったからに違いない。
何にせよ、アンクは騙されたのだ――"ヒーロー"の皮を被った怪物の存在に、気付けなかった。
"ワイルドタイガー"が手を引っ込めると、急激に全身から力が抜けていった。
グリードとしての姿は保てなくなり、元の泉信吾の肉体に戻ってしまう。
今体内に存在するコアメダルは四枚――ウナギとカマキリの二枚を奪われてしまったのだ。
599
:
◆qp1M9UH9gw
:2013/09/12(木) 03:30:03 ID:LzyrC9j.
「殺しはしねえさ、あの娘から"助けてくれ"ってお願いされてるしな」
助けてくれとは言われたが、それは無事を保障するものではない。
馬鹿げた屁理屈であるし、そんなふざけた解釈をした"ワイルドタイガー"を今すぐ殺してやりたいが、
力を奪われた今となっては、どれだけ殺意を抱いても無駄な話である。
「じゃあなアンク、生きてたらまた会おうぜ」
「待て……待ちやが……れ……ッ!」
どれだけ願えど、"ワイルドタイガー"との距離は遠くなっていく。
おまけに、奴は落ちていたクリュサオルと「aegis=L」までちゃっかり回収しているのだ。
幾ら怒気を孕めようが、最早何の意味も無い事は重々承知だが、それでも激怒せずにはいられない。
「許さねえぞ……ワイルド……タイ、ガー…………ッ!」
"ワイルドタイガー"が去った今、残されたのは屈辱感に悶えるアンクのみ。
スーツの内側でほくそ笑む怨敵の本性には、まだ彼は気付けない。
【一日目 深夜】
【E-4 路上】
【アンク@仮面ライダーOOO】
【所属】赤・リーダー
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、覚悟、屈辱感、仮面ライダーへの嫌悪感
【首輪】160枚:0枚
【コア】タカ(感情A)、クジャク:1、コンドル:1、カンガルー
【装備】シュラウドマグナム+ボムメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品×5(その中からパン二つなし)、ケータッチ@仮面ライダーディケイド
大量の缶詰@現実、地の石@仮面ライダーディケイド、T2ジョーカーメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1〜2
【思考・状況】
基本:映司と決着を付ける。その後、赤陣営を優勝させる。
0.ワイルド……タイ、ガー……ッ!
1.優勝はするつもりだが、殺し合いにはやや否定的。
2.もう一人のアンクのメダルを回収する。
3.すぐに命を投げ出す「仮面ライダー」が不愉快。
【備考】
※本編第45話、他のグリード達にメダルを与えた直後からの参戦
※翔太郎とアストレアを殺害したのを映司と勘違いしています。
※コアメダルは全て「泉信吾の肉体」に取り込んでいます。
【X@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】緑
【状態】ダメージ(小:回復中)、疲労(中)、鏑木・T・虎徹の姿に変身中
【首輪】250枚(消費中):0枚
【コア】タカ(感情L):1、カマキリ:1、ウナギ:1
【装備】ベレッタ(8/15)@まどか☆マギカ、ワイルドタイガー1minuteのスーツ@TIGER&BUNNY
超振動光子剣クリュサオル@そらのおとしもの、イージス・エル@そらのおとしもの
【道具】基本支給品一式×4、詳細名簿@オリジナル、{“箱”の部品×28、ナイフ}@魔人探偵脳噛ネウロ、アゾット剣@Fate/Zero、
ベレッタの予備マガジン(15/15)@まどか☆マギカ、T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW、佐倉杏子の衣服、ランダム支給品0〜1(X:確認済み)
【思考・状況】
基本:自分の正体が知りたい。
1.今は『ワイルドタイガー』として行動する。
2.次こそはネウロに勝って中身を見てみせる。
3.下記(思考4)レベルの参加者に勝つため、もっと強力な武器を探す。
4.バーサーカーやセイバー、アストレア(全員名前は知らない)にとても興味がある。
5.ISとその製作者、及び魔法少女にちょっと興味。
6.阿万音鈴羽(苗字は知らない)にもちょっと興味はあるが優先順位は低め。
7.殺し合いそのものに興味はない。
【備考】
※本編22話終了後からの参加。
※能力の制限に気付きました。
※Xの変身は、ISの使用者識別機能をギリギリごまかせます。
※傷の回復にもセルメダルが消費されます。
※アゾット剣は織斑一夏の支給品でした。
※タカ(感情L)のコアメダルが、Xに何かしらの影響を与えている可能性があります。
少なくとも今はXに干渉できませんが、彼が再び衰弱した場合はどうなるか不明です。
600
:
◆qp1M9UH9gw
:2013/09/12(木) 03:30:47 ID:LzyrC9j.
【一日目 深夜】
【?-?】
【アポロガイスト@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】疲労(小)、ダメージ(中)
【首輪】70枚:0枚
【コア】パンダ、タカ(十枚目)、クジャク:1
【装備】龍騎のカードデッキ(+リュウガのカード)@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、ランダム支給品0〜1
【思考・状況】
基本:参加者の命の炎を吸いながら生き残る。
1.赤陣営を優勝させる為に参加者を間引いていく。
2.リーダーとして優勝する為にも、アンクを撃破して陣営を奪う。
3.ディケイドはいずれ必ず、この手で倒してやるのだ。
4.真木のバックには大ショッカーがいるのではないか?
【備考】
※参戦時期は少なくともスーパーアポロガイストになるよりも前です。
※アポロガイストの各武装は変身すれば現れます。
※加頭から仮面ライダーWの世界の情報を得ました。
※この殺し合いには大ショッカーが関わっているのではと考えています。
※龍騎のデッキには、二重契約でリュウガのカードも一緒に入っています。
【8】
『起きたまえ』
光さえ届かない暗闇の何処かから、声がした。
もう誰も言葉も聞こえない筈の世界で、呼びかける声がある。
かつて戦った敵の命令が、耳に入り込んでくる。
『君の貪欲な脳は、私を打ち負かした脳は、こんな所で生存を放棄するというのかね?』
後悔が無いと言えば、それは嘘になる。
こんな場所で、あんな馬鹿な相手に殺されるのが不満な訳がない。
それに、まだ自分は究極の"謎"を味わっていないのだ。
その味を堪能するまで、死んでも死にきれない。
『膳立ては既に出来ている……後は君が目覚めるだけだ』
頭上に見えたのは、光だった。
微かなものだが、しかし確かに存在している。
それは少しずつその輝きを増していき、やがて自身の全身を照らす程にまで大きくなる。
溢れんばかりの輝きを放つ光に、無意識の内に手を伸ばす。
それは、自身がまだ生への欲求を満たしたいという意思の表れであった。
『さあ起きたまえ――脳細胞(ニュートン)の申し子よ!』
その瞬間――さらに輝きを増しした光が、彼の視界を埋め尽くした。
601
:
◆qp1M9UH9gw
:2013/09/12(木) 03:33:45 ID:LzyrC9j.
O O O
弥子は"命の炎"を与えれば蘇生は可能ではないかと推測したが、それは相当難しいだろう。
外部から与えられた傷が原因で死亡したのだから、その傷を修復しない限りは、いくら生命力を与えようが瞬く間にそれは減衰していく。
射殺されたのなら銃痕を消し去り、胴を断ち切られたのなら泣き別れになった肉体を繋げねばならないのだ。
もしそういった手当をしなければ、仮に生き返らせたとしても、死の瞬間の苦痛を味あわせた末に再び死亡させるのがオチである。
そんな事情もあって、仮に命の炎を与えたとしても、本当の意味で生き返るのは死体がほぼ損傷のない状態の者か、自己再生能力を持った者だけなのだ。
だが、仮に自己再生能力を持っていたとしても、死んでいる以上「死亡してしまう程の傷」を負っているのは間違いない。
その傷を癒すには、再生能力の高さは勿論、大量のメダルが必要不可欠になってくる。
それ故に、"命の炎"を用いての蘇生はかなり厳しいと断言してしまってもいいのだ。
さて、ネウロの制限は少々特殊で、所持しているメダルの枚数がそのまま魔力の量に換算される。
セルメダルを百枚所持していればDRを叩きのめした頃と同程度に、十枚所持していれば衰弱しきった状態になるのだ。
メダルを失えば失うほど、ネウロは弱体化していくという訳だ。
だがこれは、逆に言えば"メダルが百枚を超えれば強化されていく"という事でもある。
当然、魔力が増えるほど戦闘能力、そして再生能力も上昇していく。
命の炎を与えられた後にネウロに渡されたセルメダルは、弥子の120枚とXの30枚、そしてコンドルのコアメダルが一枚。
総数200枚に匹敵する量のメダルは、ネウロに著しい魔力の増幅を促した。
無残なまでの肉体の損傷は見る見る内に回復し、戦う為の気力が湧き上がる。
しかし、ネウロの復活を約束させるのにはまだ足りない――さらに傷を癒す必要があった。
だが、どういう運命の巡り合わせなのか。
偶然にも彼を発見したのは、治癒魔法に特化した魔法少女である美樹さやかだった。
瀕死の状態にあったネウロを見つけた彼女は、すぐさま駆け寄って治療を行う。
それによって肉体の再生はさらに加速し、その結果――――。
「……意識が戻った!」
意識を取り戻してから最初に耳にしたのは、聞き覚えのない少女の声であった。
眼を開いてみると、青髪の少女が自分に何かしているのが見える。
穴の開いた胸部で淡い青色の光が煌めいており、そこの痛みは徐々に引いてきている。
察するに、この光は怪我を治癒する効果があるらしい。
段々と、直前の記憶を思い出してきた。
自分は確か、ウヴァにいいようにやられた末に体内から焼き殺されたのである。
思えば、自嘲したくなる程に無様な最期であった。
あのような馬鹿に命を刈り取られるなど、過去最大級の失態だ。
あの虫頭だけは、次に出会ったら徹底的に拷問してやらねば気が済まない。
二度と自分に歯向かえない奴隷に仕立て上げれば、鬱憤も多少は下がるだろう。
それにしても、どうして自分はこうして現世に存在していられるのだろうか。
特に自分から何かした訳でもないというのに、一体何が起こっているのか。
602
:
◆qp1M9UH9gw
:2013/09/12(木) 03:37:08 ID:LzyrC9j.
周囲を見渡してみると、黒いジャケットの男が目に入ってきた。
それ以外にも、男のすぐ傍で横たわっている少女が一人。
その金髪の少女は、ネウロが地上にやって来てから、恐らく最も長い時間を過ごした者だった。
大方、空腹のあまり行き倒れてしまったとか、そういう下らない事情があったのだろう。
あの娘が次に目覚めたのなら、どんな暴言で責めてやろうか。
そんなとりとめも無い事を、考えている最中だった。
「……脈が無い。こいつはもう死んでる」
そんな言葉が、耳に入ってきた。
横たわる弥子の脈が、既に消えていると。
治癒を行っていた少女の手が止まり、表情に嘆きが浮かび上がる。
男の方も、自分の無念さを体現する様に顔を顰めてみせた。
だが、ネウロとしては二人の反応などどうでもいい。
弥子の脈が無いというただ一点だけが、彼の心を大きく揺さぶっていた。
桂木弥子が、死んだ。
もう二度と、彼女の意識は戻りはしない。
弥子がそうであった様に、ネウロもまた楽観視していた。
自分の助手がそう簡単に死ぬとは思えないなどと、高を括っていたのだ。
だが、現に弥子は死んだ事で、それが甘い推測である事を思い知らされた。
治癒された筈の心が痛む。
その痛みは、ウヴァに惨殺された屈辱感と、弥子の死を知った喪失感から来るものか。
自身の奥の手を封じられたXは、こんな感覚を味わっていたのだろうか。
そうか、ようやく理解できた。
この失意が、この感覚こそが――――。
「――――これが、敗北か」
【一日目 深夜】
【E-4 住宅地】
※桂木弥子の遺体の傍に以下の支給品が放置されています。
「基本支給品一式、桂木弥子の携帯電話(あかねちゃん付き)@魔人探偵脳噛ネウロ、ソウルジェム(杏子)@魔法少女まどか☆マギカ、
魔界の瘴気の詰った瓶@魔人探偵脳噛ネウロ、衛宮切嗣の試薬@Fate/Zero、赤い箱(佐倉杏子)」
【脳噛ネウロ@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄
【状態】ダメージ(極大)、右肩に銃創、右手の平に傷、全身に火傷(以上、全て再生中)
疲労(極大)、左腕&右足切断、弥子の死に対する動揺
【首輪】80枚(消費中):0枚
【コア】コンドル:1(放送まで使用不可)
【装備】魔界777ツ能力@魔人探偵脳噛ネウロ、魔帝7ツ兵器@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:真木の「謎」を味わい尽くす。
0.???
※DR戦後からの参戦。
※ノブナガ、キュゥべえと情報交換をしました。魔法少女の真実を知っています。
※魔界777ツ能力、魔帝7ツ兵器は他人に支給されたもの以外は使用できます。しかし、魔界777ツ能力は一つにつき一度しか使用できません。
現在「妖謡・魔」「激痛の翼」「透け透けの鎧」「醜い姿見」を使用しました。
※制限下ではセルメダルが魔力替わりのため、メダル数が多ければ多いほどネウロの体調は安定し、
またその魔人としての力も強大なものとなります(参戦時期の強さ=セルメダル100枚時点の強さです)。
しかし、瘴気のない環境での肉体維持に魔力を消費していたため、同様の維持コストとして一時間ごと(毎時0分)にセルメダルを消費します。
また、維持コストはシグマ算式で増加するため、後になるほど支払うメダル量は増加します。
支払いのタイミングで必要なだけのセルメダルが足りなかった場合、人間で言う窒息の進行に似た形でのダメージを受けます。
※瘴気での呼吸ができた場合は、その時点で維持状態が終了となります。
瘴気で呼吸した後に、また瘴気のない環境に戻るとその時点から改めて維持状態に突入します
(この際、シグマ算で増えた維持コストはまた初期値に戻ります)。
※セルメダル(=魔力)も瘴気もない状態でネウロがどれだけ生存できるのか、具体的には後続の書き手さんにお任せします。
※ネウロ自身の能力で、“欲望を満たさず”にセルメダル数を“回復”(※増加ではない)できるか、
またその上限値などの詳細については後続の書き手さんにお任せします。
603
:
◆qp1M9UH9gw
:2013/09/12(木) 03:39:35 ID:LzyrC9j.
【大道克己@仮面ライダーW】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】15枚:0枚
【コア】ワニ
【装備】T2エターナルメモリ+ロストドライバー+T2ユニコーンメモリ@仮面ライダーW、
【道具】基本支給品、NEVERのレザージャケット×?−3@仮面ライダーW 、カンドロイド数種@仮面ライダーオーズ
【思考・状況】
基本:主催を打倒し、出来る限り多くの参加者を解放する。
0.重傷を負った男(ネウロ)から詳しい話を聞く。
1.さやかが欲しい。その為にも心身ともに鍛えてやる。
2.T2を任せられる程にさやかが心身共に強くなったなら、ユニコーンのメモリを返してやる。
3.T2ガイアメモリは不用意に人の手に渡す訳にはいかない。
4.財団Xの男(加頭)とはいつか決着をつける
5.園咲冴子はいつか潰す。
【備考】
※参戦時期はRETURNS中、ユートピア・ドーパント撃破直後です。
※回復には酵素の代わりにメダルを消費します。
※仮面ライダーという名をライダーベルト(ガタック)の説明書から知りました。ただしエターナルが仮面ライダーかどうかは分かっていません。
※魔法少女に関する知識を得ました。
※NEVERのレザージャケットがあと何着あるのかは不明です(現在は三着消費)。
※さやかの事を気に掛けています。
※加頭順の名前を知りません。ただ姿を見たり、声を聞けば分かります。
※仮面ライダーエターナルブルーフレアのマキシマムドライブ『エターナルレクイエム』は、制限下においてメダル消費60枚で最大の範囲に効果を及ぼします
(それ以上はメダルを消費しても効果範囲は広がりません)。
エターナルレクイエムの『T2以外の全てのガイアメモリの機能を永久的に強制停止させる』効果は、最大射程距離は半径五キロ四方(エリア四マス分)となります。
また発動コストにセルメダル10枚が設定されており、それ以上メダル消費の上乗せをせず使用すると、半径二千五百メートル四方(エリア一マス分)に効果を及ぼします。
なお、参加者個人という『点に対して作用する』必殺技としての威力は、メダルの消費数を増減させても上下することはありません。
メダル消費量で性能に制限を受けるのは、あくまでMAPの広範囲に『面として作用する』ガイアメモリの機能停止に関する能力だけです。
【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】青
【状態】健康
【首輪】20枚:0枚
【コア】シャチ(放送まで使用不可)
【装備】ソウルジェム(さやか)@魔法少女まどか☆マギカ、NEVERのレザージャケット@仮面ライダーW、ライダーベルト(ガタック)@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、克己のハーモニカ@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:正義の魔法少女として悪を倒す。
0.傷だらけの人(ネウロ)を治す。
1.克己と協力して悪を倒してゆく。
2.克己やガタックゼクターが教えてくれた正義を忘れない。
3.T2ガイアメモリは不用意に人の手に渡してはならない。
4.財団Xの男(加頭)とはいつか決着をつける
5.マミさんと共に戦いたい。まどかは遭遇次第保護。
6.暁美ほむらや佐倉杏子とは戦わなければならない。
【備考】
※参戦時期はキュゥべえから魔法少女のからくりを聞いた直後です。
※ソウルジェムがこの場で濁るのか、また濁っている際はどの程度濁っているのかは不明です。
※回復にはソウルジェムの穢れの代わりにメダルを消費します。
※NEVERに関する知識を得ました。
604
:
◆qp1M9UH9gw
:2013/09/12(木) 03:40:13 ID:LzyrC9j.
【9】
目覚めて早々、自分は死ぬのだな、と思った。
もう目を開けるのさえ億劫で、瞼を閉じればすぐに眠りについてしまうだろう。
もし眠ったとしたら、きっともう二度とは目覚めない事も理解できていた。
恐らく、気絶させられた後に、パーフェクターで"命の炎"を根こそぎ奪われたのだろう。
それを行ったのは他でもないX本人である事など、推理しなくても分かっている。
後悔が無いかと言われたら、それは嘘になる。
やりたい事だって山ほどあるし、それを成し遂げれなかった悔しさだって相当のものだ。
だが、それら以上に大きかったのは、ただ一つの事柄への不安であった。
"命の炎"が奪った後、Xはどうしたのだろうか。
もうこの場にいない彼は、果たしてネウロに"命の炎"を与えたのか。
今はただ、そればかりが気がかりであった。
頭を僅かに動かして、ネウロの方に目を向ける。
そこにあったのは、僅かではあるが呼吸をしているネウロの姿だった。
ああ、良かった――Xはちゃんと、約束を果たしてくれたのか。
「……ネウ、ロ」
思い出されるのは、ネウロとの最後の会話。
お前の日付はいつになったら変わるのかと、淡々とした口調でそう言われた。
あの言葉は、今まで受けたどんな暴言よりも自分の心に重く響いていた。
「私の、日付……変われた、かな?」
この瞬間に、自分はあの頃から少しは変われただろうか?
自分の中にある時計の針を、1ミリでも動かせれただろうか?
それを知る術がないが、変わっていれば嬉しいな、と。
自分の行いが、僅かでも希望となってくれれば幸せだ、と。
そう願いながら、弥子は深い眠りに就いた。
――それっきり、彼女が目を開く事は無かった。
【桂木弥子@魔人探偵脳噛ネウロ 死亡】
605
:
◆qp1M9UH9gw
:2013/09/12(木) 03:40:49 ID:LzyrC9j.
投下終了です
606
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/09/12(木) 09:05:00 ID:4tdQqrwU
仮投下乙です。
自分としては特に問題はないと思います。蘇生に関してもパーフェクター使用とメダルの大量消費というきちんとした理由がありますし。
感想は本投下の際で。
607
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/09/12(木) 21:40:02 ID:AG3uNu62
仮投下お疲れ様です
自分も
>>606
さんと同意見です
608
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/09/13(金) 08:01:18 ID:ZzTQPg7Y
仮投下乙です。
う〜ん、でもこれだとパーフェクタと大量のメダルさえあれば厳しい条件であるが何人か死人が蘇るんじゃない?
…まあこのロワで死人が蘇る(正確には実は生きていた)ことはあんまり珍しくないのだけどね。
609
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/09/13(金) 10:48:46 ID:RcYptivM
仮投下乙です
感想は本スレ投下の時に
死者蘇生は条件が簡単でなく特定の手段でしかというのなら通しでよいかと
610
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/09/13(金) 18:54:34 ID:OrTBPvHk
今回の話は可決で大丈夫ですかね?
611
:
◆qp1M9UH9gw
:2013/09/14(土) 01:37:33 ID:IRzvV24Q
ご意見ありがとうございました。
皆さんの意見を参考にした上で、改めて本スレに投下させてもらいます。
612
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/09/14(土) 15:29:47 ID:X5brXn.c
誤字
ニュートン→ニューロン
ではないでしょうか?
613
:
◆z9JH9su20Q
:2013/11/24(日) 20:56:49 ID:7Mh2JJxE
予約分が一通り完成しましたが、主催側やロワ自体についてかなり踏み込んだり、クロスオーバーやオリジナルの設定を複数扱った内容になったので、まずは仮投下をしたいと思います
614
:
仮投下
◆z9JH9su20Q
:2013/11/24(日) 20:59:09 ID:7Mh2JJxE
まともな感性の持ち主であれば、陰気な印象を覚えるだろう薄暗い部屋。
無数に並ぶ小モニター郡に映るのは、閉鎖された空間内で繰り広げられる生存競争の様相。
その微かな光源で照らし出されたのは、それを囲む者全てが対等の関係であることを示すため、円環の形に並べられたテーブル。
そこはかの名高いアーサー王伝説において、アーサー王とその騎士達のためにキャメロット城に設けられていたという、円卓に由来する様式の議場だった。
ただ……数えられるその席は、誉れ高き伝説の半分にも満たぬ、六つ。
また伝承と異なるのは、部屋そのものの光度に反するかのような華美なまでの荘厳さ。
それもそのはず。並べられた六つの席に腰掛けるべきは、忠義に生きる滅私の騎士達などではなく、誰より強欲であるべき“王”たる者達なのだから――
「――また、白陣営が消滅したね」
表示装置の群れを中心に据えた、円卓を囲む六つの玉座。
しかし今、内五つの玉座に腰を置く者はいない。
それは資格を有する者が未だ現れていない、という意味ではなく。単純にそこに座るべき者達が今、各々の思惑のために席を外しているからに過ぎない。
「今度は代理リーダーも簡単には現れそうにないかな? これからの趨勢に大きな影響が出そうだね」
来たるべき時が訪れれば、六人の王が一堂に会することを知る彼――紫の玉座に腰掛けた真木清人は、それ故傍らに侍る白い小動物の声を聞いても、何ら焦りを覚えなかった。
そう、五つ――いや、正確には六つだが……の陣営の内一つが一時消失したという、此度のバトルロワイアルにおける重要事項のはずの出来事も、当事者はともかく、彼らのほとんどは所詮一時的な変化に過ぎないと、気にも留めないことだろう。簡単に動じるような輩では、“王”の座に相応しいとは言い難いのだから。
そんなことを取り留めなく思いながら、真木は眼鏡越しに、一人の参加者がその全てを燃やし尽くし、終焉を迎える様を眺めていた。
「祝福すべきことです」
感じたままに淡々と、真木は胸の内をインキュベーター――ではなく、肩にかけた人形に呟いた。
白陣営の現リーダーが参戦していた戦いについては、言われるまでもなく真木もまた、キャッスルドランのインキュベーターを介して送られてくる映像をつぶさに見守っていた。真木がその動向に興味を惹かれている参加者達が集っていた上、さらにそれに釣られたグリードが複数乱入する可能性さえある、現状最も注目すべき戦場であったからだ。
「鹿目まどかのソウルジェムが魔女を産む前に失われたのは、本来大きな痛手なんだけどね」
嘆息する様子の――実際はグリード以上に感情を持たず、こちらに合わせたコミュニケーションのための素振りに過ぎない動作を見せたインキュベーターは、真木を振り向きもせずに続ける。
「それでも君の願う終末か、それとも“彼”らの欲望が結実する瞬間にまた一つ、大きく近づいたんだ。確かに感情があれば、僕も君のように喜んでおくべきなんだろうね」
「いえ……世界の終わりにはまだ程遠い。今のは心優しい鹿目君が呪いを振り撒く醜い魔女となる前に、希望を齎す魔法少女のままでその魂を完成したことへの、単なる感想です」
「そうかい。でも出会い方が違っていれば、君こそ彼女を魔女にするために躍起になっていたかもしれないよ? それも世界を終わらせる有力な方法の一つだったろうからね」
互いに挑発し合うような言葉を吐きながらも、感情のないインキュベーターは無論、真木もまた話し相手に何かを感じてはいなかった。
むしろ、何かを感じ入っているとすれば――と、真木は再び送られてくる映像に集中する。
真木が今、齎すべき世界の終末以外に、最も関心を寄せている対象。それは――
真木と同じ、紫のメダルを体内に宿す因縁の相手・火野映司でも、
真木が姉以外で初めて情を抱いた伊達明に似通った雰囲気を持ち、開幕の場において正面から反抗の意思を示したヒーロー・ワイルドタイガーでも、
真実を何も知らぬまま、己が欲望のために彼らを屠らんと戦場に現れたグリード・メズールでもない。
無論、そこに映し出されていない伊達明でもなく。
真木が今、最も興味を惹かれている、奇妙な親近感を覚えている参加者とは――
615
:
仮投下
◆z9JH9su20Q
:2013/11/24(日) 21:00:22 ID:7Mh2JJxE
終わりを迎えた後、微かに残っていた鹿目まどかの痕跡すら喰らい尽くしたエンジェロイド――カオスだった。
――このバトルロワイアルが開始された時点では、真木はカオスに対し、特別な興味など抱いてはいなかった。
せいぜいが強大な戦力を持つエンジェロイドの中でも、彼女は特に純粋であるが故に不安定であり、比較的多くの参加者に終わりを齎す見込みがある、程度の認識でしかなかった。
そんな真木の心境に変化が生じたのは、カオスが彼女と――志筑“仁美”と出会ったためだ。
カオスは“仁美”のことを、実の姉のように慕い、愛していた。“仁美”もまたそんなカオスの純粋さに、愛を返していたように真木には見えていた――例えあの“仁美”が、魔女の口づけにより狂った、本来とは異なる精神状態の彼女だったとしても……その時の二人の間に偽りはなかったはずだ。
そしてカオスに対する真木の奇妙な執着が決定的となったのは、“仁美”がとうとう正気に戻り――人外の堕天使(エンジェロイド)であるカオスを拒絶する醜い彼女になってしまうことがないまま、葛西善二郎によって焼き殺され、終わりを迎えた後のことだった。
それというのも。姉と慕った“仁美”を炎の中に喪いながらも、美しい思い出として完成された彼女の教えを健気に守ろうとし続けるカオスの姿は。
“仁美”という名の姉が醜くなる前に焼き殺し、美しい思い出のままで終わりを迎えさせた真木清人自身に、酷く重なって見えたからだ。
物語がENDマークで完成するように、人もまた死で完成する。だから世界もまた、これ以上醜くなる前に終わりを迎えなければならない――そんな真木の終末思想も、姉である真木仁美の教えから辿りついた答えであることを考えれば――本当に今のカオスは、真木によく似ている。
「彼女はまるで、グリードのようですね」
だから、どうしても気にかけてしまう。
“愛”という欲望のために、世界の何もかもを喰らい尽くそうとしている彼女が、どんな終わりを迎えるのかを。
一度は終わりを迎えかけた、グリードである真木は……どうしても。
「カオスを君の作りたがっていた、メダルの器にでもするつもりかい?」
そんな真木の心境を読んだかのように、インキュベーターは言う。
「わかっているだろうけど、あの会場の中で一つの世界を終わらせることができる何かが誕生したとしても。その作用は、外にまでは波及しない。そういう仕組みだからね」
「もちろん、わかっていますよ」人形さえ見ていれば、今更真木が動揺することなどそうはない。「メダルの器が生まれ易い状況にあるというのは、単なる副産物です。今回重要であるのは、あくまで参加者のグリード化が進行し易くなるということなのですから」
「彼らにとっては、ね」
多分に含みを持たして、インキュベーターは真木の言葉を引き継いだ。
「君にとってはそうじゃない。むしろ新たなグリードの誕生なんて願い下げだろう?」
自分達にとってはどうなのか、をインキュベーターは直接口にはせず、しかし言外に仄めかしていた。
真木とインキュベーター。主催陣営の中でも、彼らしか知らない秘密を共有する立場同士、ということを強調するかのように。
もっとも――知識を授けられたのが両者だけということで。この獣の姿をした狡猾な異星人が、その情報を他の者――例えばあの最も強い“悪意”、即ち奪うという欲望を持つ“彼”辺りとの交渉材料に用いていないという保証は、どこにもないのだが。
「――おや」
616
:
仮投下
◆z9JH9su20Q
:2013/11/24(日) 21:02:21 ID:7Mh2JJxE
そんな時。不意に、インキュベーターが素っ頓狂な声を発した。
「海東純一に動きがあったよ。どうやら衛宮切嗣と間桐雁夜が接触した時の記録を解析しているようだね」
先の声は、記憶と認識を共有している監視用の個体を通じてそれに気づいたという合図、だったのだろう。
「ということはやはり、彼の目的は……」
「“我々”の誰かと成り代わること、ですか」
インキュベーターの続けただろう言葉を先取りしてから、真木は己の手の甲に視線を落とした。
そこに刻まれているのは、刺青のような紫色の痣。
プテラノドン、トリケラトプス、ティラノサウルス。三種類の絶滅動物の顔を模した図柄が、金色の円環に詰め込まれたその印は――
モニターの中で咆哮する、仮面ライダーオーズ・プトティラコンボのオーラングサークルに刻まれたそれと全く同じ、円形の紋章だった。
関連する知識のある者がそれを見れば。聖杯戦争に参加した魔術師に与えられる、令呪なる聖痕を連想することだろう。
そして、その者達が抱くそんな印象は――正しい。
真木の――さらには本来、残る赤、黄、緑、青、白の玉座に腰掛けているはずの五人に宿った、オーズの対応色のコンボと同型の紋章は、まさしく令呪であった。
「もちろん、英霊を使役する際に用いられる正規の物とは異なるけれど。君達が宿したそれもまた、聖杯から授けられた令呪であることに変わりはない。なるほど聖杯戦争に関する知識の足りない彼の立場なら、切嗣が雁夜から令呪を強奪した実例を参考にするというのは悪くない手だろうね」
「マルチネス君が衛宮君から令呪を譲り受けることができたのは、参加者としての特例でしたからね。海東君からすれば、参考にはならないでしょう。良い判断です」
確認された情報を元に、インキュベーターと真木は一先ず海東純一の動きを評価する。明確に獅子身中の虫と化した男の危険度を、改めて推し測るために。
ただ、真木の答えはすぐに下されたが。
「――まぁ。私は彼のことなど、気に留める必要はないでしょう」
真木の“紫”の令呪は、六つの令呪の中でも特殊だ。単純な支配欲を満たさんとする純一からすれば、無用の長物にしかならないだろう。
そして――海東純一の擁するカリス程度の力では、仮に挑んできたところでグリードと化した真木に太刀打ちすることなどできはしない。
また、ならばと彼が他の“王”と成り代わったところで……結局のところ、真木にとっては大して意味を持たないのだから。
「彼を警戒すべきなのは他のどなたかでしょう。海東君程度に終わらされるようでは、被害者の欲望もその程度だったというだけの話です。その程度の者には、あの――」
そうして真木は、人形に向けていた視線を持ち上げた。
薄暗い部屋の最上。真木の見つめる先にあったのは、まるで見えざる手に掲げられたかの如く中空に浮き続ける、巨大な黄金の器。
それは注がれるべき欲望の結晶を待ち続ける、奇跡の大聖杯だった。
「“欲望の大聖杯”を手にする権利など、最初からあるわけがない」
617
:
仮投下
◆z9JH9su20Q
:2013/11/24(日) 21:03:30 ID:7Mh2JJxE
――――“欲望の大聖杯”。
その使用権を獲得することこそが、このバトルロワイアルの“主催者”と言われる頂きに立つ者達――各陣営のグリード達の上に立つ、裏の“王”達の目的だった。
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
全ての始まりは、真木自身が一度終わりを迎え、道半ばで完成してしまいかけた時だった。
オーズ達との最終決戦に敗れた後。発生した時空の裂け目に飲み込まれ、別の時間軸へと飛ばされ消滅する運命にあった彼を、預言者を名乗る男が回収したのだ。
曰く、彼は世界を破壊する――しかしその実、再生のための破壊などという、真木とは相容れない使命を帯びた悪魔を始末するための、世界を渡る旅の途中だったのだそうだ。
彼に協力を要請され、別の世界の鴻上と協力体制を築き異世界への旅を再開した真木達は、やがてとある世界に辿りついた。それがあのカオス達、エンジェロイドのいる世界である。
その世界の“シナプス”という場所には、石版(ルール)という、世界一つを容易く書き換える力を秘めた恐るべき願望器が存在していた。預言者はそれを使い悪魔を始末する手段を得ようと考えていたが、ここで同行していた別の世界の鴻上が彼を出し抜き、先に石版を使ってしまったのだ。
そして鴻上は、彼自身の世界には作用し得ない石版を用いて、預言者との旅の過程で知ったもう一つの願望器である“聖杯”の概念を基とした、より高次の願望器を創造したのだ。
そうして生まれた欲望の大聖杯は、その時誕生に立ち会った者達が認識し得た全ての世界――特に預言者の訪れて来た世界や、さらにそれらの世界線が異なる並行世界全ての“欲望”と接続し。起動すれば比喩ではなく、文字通り無限のセルメダルを抽出することができるという代物だった。
欲望とは、即ち感情の根源。その全てをセルメダルという力として取り込むことにより、かつて鴻上が語った通りに∞(神)をも超える○○○(オーズ)の力を手にすることが可能となるのだ。
――少なくとも。信仰もまた、感情の一側面であることから考えれば。この大聖杯の力を手にすることは、本来聖杯の存在した世界にいた、信仰をパワーソースとする全盛期の“神”霊をも凌ぐ存在となれる可能性は、極めて高いと言えるだろう。
その力があれば、鴻上の願う欲望による世界の再生も容易く実現できたはずだったが――鴻上の欲望から生まれた大聖杯は、彼の思惑には収まりきらなかった。
まず、魔術師達の求める聖杯を基に創造されたその大聖杯は、その機能に色濃く影響を受けていた。
聖杯の使用権を得るためには、聖杯によって呼び出されたサーヴァント(従者)を殺し合わせ、そのサーヴァント達を贄とする必要があったのだ。
ただ。そのサーヴァントや、贄というのが――今度は鴻上の影響によって本来の聖杯戦争で召喚される英霊達の一側面や、その魂ではなくなっていた。
此度のサーヴァントたるは英霊ではなく、グリードという名の怪物。捧げるべき供物は高貴なる六つの魂ではなく、怪物に喰われ集積された貴賎なき数多の欲望。
618
:
仮投下
◆z9JH9su20Q
:2013/11/24(日) 21:04:49 ID:7Mh2JJxE
欲望の大聖杯の起動条件。それは五体のグリード達に加え、接続した無数の世界の中から聖杯が彼らの配下として選び召喚した六十名の参加者によるバトルロワイアルを行い、会場で最後に残ったグリードへセルメダルという形で集束・蓄積された参加者達の欲望のエネルギーを、直接大聖杯に注ぐこと。
即ち、命の危機に晒すことで参加者達の欲望を増幅し。それをセルメダルという形に変換して奪い合わせ。最後に首輪に蓄えられたそれをグリードに取り込ませることで用意した欲望の蠱毒を生贄とすることが、欲望の大聖杯降誕という儀式を締め括る行程だったのだ。
――もっとも、この知識を鴻上や預言者は得ることはできなかった。それが、聖杯が創造主(鴻上)の思惑を超えたもう一点。
この大聖杯の使用権は、他の参加者は無論、最後は哀れな贄となるだけの運命であるグリード達にも存在しない。
それを手にする資格があるのは、聖杯が無数の世界からグリードを使役するに足る、その欲望を司るグリードをも超越した欲望を持つと見初め選び出した者。裏リーダー、あるいは裏の王と仮に呼んでいる、同色のグリードに対応する令呪を宿した各陣営の真の所有者(マスター)のみである。
唯一このバトルロワイアルで利益を得る立場にある裏の王達は、一画限りの令呪とともにこの大聖杯に関する知識を授けられ、聖杯の誕生と共に各世界から呼び寄せられた。
会場内のバトルロワイアルは彼らが聖杯の獲得権を巡るための代理戦争。言うなれば各陣営一つ一つをサーヴァントとみなした、彼らによる聖杯戦争なのだ。
だが鴻上は、その裏リーダー権――令呪を得ることができなかったのである。
おそらく裏リーダーの中には、彼の強欲さには及ばない者も何人かいることだろう。少なくとも真木はそれに該当する。
彼はただ、該当し得ただろう陣営の競合相手が悪過ぎたのだと真木は推測している。
加えてさすがの鴻上も、何の罪もない多くの参加者を我欲のために犠牲にできるほどの呵責の無さは持ち合わせていなかったかもしれない。聖杯は当人の意思を無視して適合者に令呪を授けているが、当然乗り気である方がその欲望も強まるのだろう。その点が競合相手に遅れを取ってしまった要因なのだろうと予測がつく。
何にせよ、こうして鴻上の目論見を外れ、彼の生んだ欲望の大聖杯は自らの起動のため勝手に動き出し始めてしまった。ある意味では、いつものことだが。
裏リーダーとは別に、大聖杯は感情を持たない観察者としての性質と外部との遮断技術の両面において優れたインキュベーター達を監督官役に適していると判断して呼び出し、彼らにも裏リーダー同様の知識を与え協力を要請した。
宇宙の熱的死を回避すべく、大聖杯起動時のおこぼれを求めたインキュベーター達はこれを承諾し、裏リーダーの配下達や、海東純一のようなスカウトして来た運営スタッフと共に、万全の状態でバトルロワイアルを決行する準備に協力した。
その過程で彼らが会場周りに展開した遮断フィールドを超える力を持つ預言者を、いざという時のために始末すべきだとインキュベーター達が提案し、裏リーダー達の何人かがそれに賛同したことで、彼は亡き者となった。
鴻上は捕らえられ、事態を把握しきれないままに会場へ参加者宛の手紙を用意するなどしたが、一部の裏リーダーに気に入られていることもあって生き延びた。とはいえ当然、バトルロワイアル運営に関しての発言権はなく、また手紙の内容も――参加者から信頼されるために、敢えて偽った部分もあるのだろうが――真実からは遠い物となっているのだが。
当初は五体のグリード達も、裏リーダーと同時期にそれぞれの時間軸から呼び出され各自面識があった。しかし後のことを考慮し、開始直前にアルバート・マーベリックの能力で殺し合いの真相に関する記憶を消去され、何も知らぬまま裏リーダー達の代理戦争たる舞台へ登って行った。
やがて。全ての準備が完了し、遂にバトルロワイアルは開始された。
全ては選ばれし六人の王の、さらなる勝利者がその欲望を満たすために――
619
:
仮投下
◆z9JH9su20Q
:2013/11/24(日) 21:05:57 ID:7Mh2JJxE
「――その資格を最初から持っていない君が言うのも、おかしな話だろうけどね」
大聖杯を改めて目に収め、これまでの過程を振り返っていた真木に対し。先程呟いた言葉への感想を、インキュベーターが漏らしていた。
「本来これは、五つの陣営によるチーム戦だ。もう少し生き残れたなら、火野映司が紫のグリードとして会場に存在するようになるだろうけれど……紫の属性は無。聖杯に注ごうにも、折角集めた欲望を消してしまうのでは、願望器は機能できない」
他の陣営裏リーダーから令呪を奪えば、それを補うことができるかもしれないが――バトルロワイアルの趨勢を無意味にしてしまわないようにか、正規の聖杯戦争とは異なり、聖杯の作用で令呪を宿した者同士で相手を害することはできなくなってしまっており、それも困難だ。
まぁ、そうでもなければ裏リーダーは召喚された時点で一堂に会す以上、単純に武力に優れた裏リーダーがバトルロワイアル開始前に全ての令呪を掌握してしまうことは明白。当然の措置と思うべきなのだろう。
他にも裏リーダーは直接会場に踏み入ることができない等、特権と引換に幾つかの制限が存在しているが――そもそも、参加者に支給されたルールブックにも勝利条件など記載されていない紫陣営の裏リーダーである真木は、その中でも一番益のない――というより、紫の裏リーダーなど存在理由すらないようにも思われるが。
だが、それでも。対応するグリードが性質上、本来大聖杯起動の鍵にすらならずとも――紫の令呪は、現に真木の手の中にある。
「それでも私と、あなた方にとっては問題ない。そうでしょう?」
無論、他の主催陣営の者達も訝しんではいるが。紫というイレギュラーの真実を授けられているのは、先述の通り、真木とこのインキュベーターだけ。
故に両者は共謀者なのだ。無論信頼という感情など、人外である両者の間には無縁の代物であったが……白い獣は、真木の確認に頷いてみせた。
「そうだね。だから僕らもまどか達や――適齢期こそ過ぎているとは言え、観測史上最高の素質を持っていた椎名まゆりを犠牲としてでも、欲望の大聖杯をどんな形だろうと起動させることを優先した。
だから清人。君がどんな終わりを望もうと構わないけれど、それだけは達成して貰わないと、僕らが困るということだけは覚えておいて欲しいな」
インキュベーターは懇願するようでいて、その実恫喝のつもりなのだろう言葉を残して退室して行く。
ここまで来て今更頓挫させるなど、決して許しはしないと。
「……当然です」
人形にすら目を向けず、真木は独り言ちた。
あるいはカオスに向けた興味を疑われたのだろうか。だとすれば舐められたものだ。
「例え一度失敗に終わっていようとも……私のそれは欲望などではありません。崇高なる唯一の使命なのです」
620
:
仮投下
◆z9JH9su20Q
:2013/11/24(日) 21:06:56 ID:7Mh2JJxE
だからこそ、鴻上に比べれば抱える欲望は劣ろうと。真木は紫の陣営の所有者として聖杯に見初められたのだ。
自らの欲望さえ否定する真木だからこそ。他の欲望に誑かされ、目的を見失うことのない真木だからこそ――紫(無)の王に相応しいとして。
伊達や知世子と出会いながら、使命を優先した真木が今更新たに関心を持ったの存在の出現程度で止まるなど、あるわけがないのだ。
むしろ、“個”として隔絶された支給品のインキュベーターや、カオスといった興味深い存在の終わりを見たいからこそ――
そして。姉の人生を終わらせ完成させたあの日から、私には――
「――他の選択肢など、あるはずがない」
真木清人が、己の使命を自覚したと同時に。
どこかで《終わり》がその巨体を運ぶ歩みを、ほんの少し、だが確かに早めた――そんな気配がした。
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
盤面に残された駒の数は37。
世界に適応できずに、盤面から零れ落ちた駒達の欲望を食らって、彼らは進んでいく。
自らは血を流すことなく、この世全ての欲を我が手に収めんとする傲慢なる王達のために。
何も知らぬ哀れな贄達は、ただその時の到来を早める手助けをする。し続ける。
交わり結びつく彼らの欲望の果てに待つのは、勝利を得た“王”が掴みし黄金の杯が湛える、無限大をも超える可能性(オーズ)の力か。
それとも――
――――またどこかで、メダル《欲望》の散らばる音がする――――
621
:
仮投下
◆z9JH9su20Q
:2013/11/24(日) 21:08:21 ID:7Mh2JJxE
【一日目 夜中(?)】
【???】
【真木清人@仮面ライダーOOO】
【所属】無・裏リーダー
【状態】健康、左手の甲に令呪(紫)保有
【首輪】なし
【コア】不明
【装備】不明
【道具】不明
【思考・状況】
基本:世界に良き終末を。
1:バトルロワイアルを完結させ、“欲望の大聖杯”を起動する。
【備考】
※原作最終回後の参戦です。恐竜グリードと化してはいますが、参戦時期の都合から何枚の紫メダルを内包しているかは後続の書き手さんにお任せします。
※カオスに親近感を覚えています。
※無陣営に関するイレギュラーの真実を知っています。
【全体備考】
※主催陣営の共通目標は、【欲望の大聖杯】@オリジナルの起動です。
現在明らかになっている起動条件はバトルロワイアルで優勝し、生存者全てのセルメダルを取り込んだグリードを“欲望の大聖杯”に捧げることです。
※各陣営には、グリードに対する令呪を持つ裏リーダーが存在します。
現在判明している、裏リーダーについての共通事項は次の通りです。
1.裏リーダーは“欲望の大聖杯”が接続した世界(参戦作品の世界)から直接、各陣営の所有者に相応しいと選定されて、本人の意思とは無関係に聖杯に召喚された者達。裏リーダーの証として、対応色グリードに対する一画のみの令呪(デザインは仮面ライダーオーズの各同色コンボの紋章と同一)と、バトルロワイアルや大聖杯の真相に関して一定の知識を“欲望の大聖杯”から授けられている。
2.欲望の大聖杯が起動した際、願望器としての使用権を得られるのは優勝した陣営の裏リーダーのみである。
3.裏リーダー同士は、互いを害することができない(詳細は後続の書き手さんにお任せします)。
4.裏リーダーは会場内に直接立ち入ることができない。
※“欲望の大聖杯”から、無陣営裏リーダーの真木と監督官役のインキュベーターにのみ明かされたさらなる秘密があります。その内容については後続の書き手さんにお任せしますが、少なくとも真木、及びインキュベーターの目的を達成することに合致したものになります。
※真木以外の残る五陣営の裏リーダーの正体、及びその担当陣営は後続の書き手さんにお任せします。ただし海東純一、鴻上光生、インキュベーター及び名簿に載ったバトルロワイアルの参加者は少なくとも現在、どの陣営の裏リーダーでもありません。
※鳴滝@仮面ライダーディケイドは既に死亡しています。
※上記備考欄の内容について、グリード達はマーベリックのNEXT能力により関連する記憶を全て失っています。彼らが元々はどの程度までバトルロワイアルの真相を知っていたのかは、後続の書き手さんにお任せします。
622
:
◆z9JH9su20Q
:2013/11/24(日) 21:09:45 ID:7Mh2JJxE
以上で仮投下終了です。
全体備考に今回の要点は纏めておりますが、かなり冒険している自覚はあるのでご意見頂ければ幸いです。
一点だけ予め今回設定した要素の意図を説明しておくと、グリード用の令呪が各自一画限りなのは何かに由来するわけではなく、主催者が何度も参加者の意思を捻じ曲げられる権利を持っているのは企画上よろしくないと判断したためです。
623
:
◆z9JH9su20Q
:2013/11/24(日) 23:41:07 ID:7Mh2JJxE
すみません。読み返していて思ったのですが、全体備考の「裏リーダーは会場に直接立ち入ることができない」という部分ですが、余り不必要に制限を用意し過ぎるのもよろしくないと思うので、仮に本投下しても大丈夫な場合にはそれに関連する部分は削っておきます。
また、申し訳ありませんが明日は私事で一日反応ができないかもしれません。不在中にご意見を頂いていた場合、まとめて明後日の夜にはお答えしたいと思いますので、もし明日反応が遅れてしまった場合にはどうかご容赦ください。
624
:
◆qp1M9UH9gw
:2013/11/24(日) 23:53:20 ID:Gd7WMvDI
投下乙です。自分は通しでも構わないかと。
625
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/11/25(月) 11:53:53 ID:dkAwB8lg
名無しですが悪くないと思います
個人的には1回でここまでさらさずに数回で少しずつさらしたらと思いましたが
名無しより書き手の意見が優先するのが正しいです
設定そのものは文句ないです
清人やQB、他の主催者らの共通目標としては十分な目的かと
626
:
◆z9JH9su20Q
:2013/11/26(火) 21:53:19 ID:t5aCrubM
>>624-625
ご意見ありがとうございます。
今のところは(一先ずは)特に待った、の声はないと判断しますが、内容が内容なのでもう少しだけ引き続き意見を募集することにします。
十分な時間が経ってもこれ以上のご意見がなかった場合には、
>>623
で宣言した修正版での本投下に踏み切らせて貰います。
627
:
欲望まみれの名無しさん
:2013/11/26(火) 23:31:07 ID:bSPCZxlw
遅ればせながら仮投下乙です。
見たところ、自分には矛盾や問題は無いと感じました。
628
:
◆SrxCX.Oges
:2013/11/27(水) 23:15:14 ID:O8hvq16k
酉があった方が良いかもと思ったので、改めて。
自分の考えは
>>627
で書き込んだ通りです。
629
:
◆z9JH9su20Q
:2013/11/27(水) 23:36:24 ID:y7Wl/xm.
>>628
ご意見ありがとうございます。
それは期限も近いので、これより本スレの方に投下させて貰います。
630
:
◆z9JH9su20Q
:2013/12/02(月) 20:00:19 ID:kCrm50no
本スレの
>>626
にて、このスレの
>>623
で宣言した全体備考の「裏リーダーは会場に直接立ち入ることができない」という部分を消し忘れていました。
wikiの「明かされる真実と欲望と裏の王」から、今更ですが該当する一文を削除しておきます
631
:
◆2kaleidoSM
:2014/01/15(水) 00:09:25 ID:d4SzT1Qc
本スレ
>>677
の
まずい。
あそこでは桜井智樹が死んでいる。そしてその仇であるカオスがいる。
エンジェロイドの戦闘力の高さはカオスと戦って十分に理解した。
だからこそ。
もし今そこで、桜井智樹の骸を見た、彼と最も親しかったエンジェロイドがその仇を目の当たりにすれば。
そして、もし二人のエンジェロイドがぶつかり合えば。
この部分を以下のように修正します
まずい。
あそこでは桜井智樹が死んだのだ。そしてその仇であるカオスがいる。
エンジェロイドの戦闘力の高さはカオスと戦って十分に理解した。
だからこそ。
もし今そこで、彼と最も親しかったエンジェロイドが、そのカオスと出会ってしまい。
そして、もし二人のエンジェロイドがぶつかり合えば。
632
:
欲望まみれの名無しさん
:2014/01/15(水) 22:05:14 ID:AUz8xfpE
修正乙です
問題は無くなったと思います
633
:
欲望まみれの名無しさん
:2014/01/16(木) 20:41:36 ID:zHjgDSwI
修正乙です
俺も問題は無くなったと思いますよ
634
:
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 13:07:54 ID:0w6QAcqs
先日お話させて貰った、予約分の仮投下を始めます。
ただ今回で全てではなく、後半を残しての仮投下となってしまいますがご了承ください。
635
:
仮投下①
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 13:09:31 ID:0w6QAcqs
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
とことんツキに見放されたまま、屈辱的な敗北を迎えるしかない。
天から放たれた四条の光が戦況を一変させたのは、冴子がそんな度し難い現実への憤怒に、身を滾らせていた最中の出来事であった。
下手をすればメズールとの協力関係を白紙に戻しかねなかったが、カオスを餌として差し出したやり取りのおかげで敵三人の連携を妨害し、あまつさえ仲間割れで消耗させ一気に有利へと戦力比を傾けるなど、冴子の選択そのものに不備はなかったはずだった。
だというのに、結局のところ冴子は追い詰められている。一人一人が相手ならば、ゴールドメモリを使い熟す冴子が負けることなど、決してない程度の敵だというのに。
冴子の目的は白陣営の消滅。オーズ達の誰かが持ち逃げしただろう白のコアメダルを放送までに奪わなければ、この戦いの意味すらなくなるというのに。
仲間割れさせたはずだというのに、揃いも揃ってこちらの策通り踊っていたはずだというのに、結局は足止めを受けるどころか追い込まれてしまっている。何たる理不尽か。
いつだってそうだった。
どれだけ冴子が耐え忍び、成果を上げても――父は妹ばかりに愛を注いで来た。
そんな父の支配を打ち破ろうと手を取り合った井坂は、冴子の気持ちに応じてくれた直後、貰い物の力を使う小物に足元を掬われて、冴子を孤独に追い詰めた。
この戦いだってそうだ。冴子がどれほど巧みにルールの穴を見抜き、それを踏まえた上で必勝法を練っても、不運にも遭遇した思い上がりの酷い役立たずに数時間以上も拘束され、何も成すことができなかった。
いつだって世界は、冴子の努力に報いなどしない、理不尽な仕組みそのものだった。
だというのに――
「……友軍の無事を確認」
大地を砕き、震撼させ、土塊と砂利を逆向きの大瀑布として巻き上げるという、まるで撃ち込まれた砲弾のような派手な登場を見せた女は、バーナビーが落としていった数十枚のセルメダルを首輪で自動吸入しているナスカに一蔑をくれるなり、そんなことを機械的に呟いた。
見れば、首輪に灯るランプの色は黄。ナスカに変身した冴子と、同じ陣営の参加者だということがわかる。
「作戦内容を同陣営参加者の保護から、リーダーからのオーダー実行に移行します」
淡々と呟く内容から、どうやら彼女が真っ当な陣営戦を意識し、素直にリーダーに従っている参加者であることが窺い知れた。
なるほど、と冴子は周囲の様子を再確認する。
冴子を追い詰めていた二人の男が、急遽生死も不明な状態に追いやられたのは、彼女が同陣営の冴子を守るために介入したかららしい。
勝利を目の前にしての転落を味わった彼らに冴子は微かな共感を覚えたが、同情する気は毛程も湧いて来なかった。
「っ、はぁ……イカロス、貴女、黄陣営――っ!?」
同じく、眼前のエンジェロイド――イカロスによる武力介入を受け、無傷とは済まなかったメズールが、展開装甲の半分と機体左翼を消し飛ばされた紅椿を立て直しながら、襲撃者を確認して驚愕の声を漏らした。
メズールと交戦中だった仮面ライダー右腕を覆っていたユニットが砕け散り、未だ地を這い身悶えしてはいるが、逆を言えばまだ意識を保ったままに変身を維持していた。
636
:
仮投下①
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 13:11:32 ID:0w6QAcqs
冴子と戦っていた二人とは違い、ISや仮面ライダーの装甲に守られた彼らは、一撃だけで戦闘不能にまでは追い込まれていなかったようだ。それでも、もう一度同じ攻撃を耐えられるようには見えなかったが。
「レーダー感度不良。索敵範囲が大幅に制限されています。攻撃目標……仮面ライダーオーズ・火野映司、第二世代エンジェロイド・タイプε(イプシロン)カオス、位置特定に失敗」
聞いてもいないのに、状況理解に役立つ情報をべらべらとよく喋る女だと、冴子はイカロスに対し侮蔑と感謝を同時に覚える。
おかげで突然の介入にも、状況把握だけは付いて行く――が、予測された結論が正しいとすれば、対処法までは追いつかない。
冴子の覚えた嫌な予感を証明するかのように、イカロスはぎらつく紅瞳を同じ色のISに向けた。
「青陣営リーダー、水棲系グリード・メズール……捕捉、成功」
「――ッ!!」
押し殺した悲鳴は、メズールから。
漏れないように口腔に止めた舌打ちは、冴子から発されていた。
予想の通り――黄陣営リーダーの忠実な駒と化しているらしいイカロスがこの戦場に現れた理由の一つは、敵対陣営リーダーの抹殺だったのだ。
イカロスがその翼を広げる素振りに、メズールは反射的に紅椿の機首を翻し、逃走に入る。
「攻撃開始」
だが、その速度の差は余りに絶対的だった。
アクセルトライアルやレベル3に達したナスカの超加速を大きく上回り、音速の倍に届く紅桜の最高速度。それにイカロスは、充分な加速時間の足りないはずの初動で追いついた。
メズールが咄嗟に盾として展開した増設の装甲は、華奢に見えた拳の一振りで粉砕される。仮にシールドバリアーが残っていたとしても、齎される結果に差異など生じなかったろうと思わせるに足る、凄絶な一撃だった。
メズール自身に届いた拳の威力は、最後の守りである絶対防御によって防がれた。だが紅椿自体が持ち堪えることはできず、直撃の勢いのまま機体が宙を滑る。
「――『ArtemisⅡ』発射」
攻勢を緩めぬまま、イカロスは翼から四発の輝く魔弾を放つ。
厳密にはそれは、ナスカ達の放つようなビームではなく。先程冴子以外の四人を襲ったのと同じ、第一宇宙速度以上の超々音速で放たれているミサイルだ。
自身の最高速の約十倍で迫る、複数の永久追尾弾を防ぐ、あるいは躱すための手段など、中破した紅椿には残されていない。
紅椿は一瞬の後に爆炎に呑まれ、メズールごと粉砕され消滅する――そのはずだった。
しかし、着弾の寸前に紅椿が突如として、光の粒子へ分解される。量子空間へと格納され、待機状態へと移行したのだ。
当然、身を投げ出したメズールにアルテミスの群れが躊躇せず食らいついた……が、その身体に激突し貫通しても、爆発することなく過ぎ去って行く。
アルテミスの内一基が、確かに捉えたはずの標的の健在に急な軌道変更が間に合わず、メズールの真後ろにあった一際高いビルに直撃。中腹に龍の首を生やした異形の建造物はたったの一発で根元の半分を抉り飛ばされ、傾き出す。
残る三基のアルテミスは落下するメズールを追い、無事に方向転換。相変わらず常軌を逸した超音速で獲物を追う。
逃げ惑うメズールだが、紅椿に乗っていて逃れられない相手を撒けるはずがない。追いつかれるまで一瞬の猶予も存在しなかった。
だが再び、アルテミスの弾頭はメズールの体をすり抜けて、彼女の影となっていた路面に着弾し、下の地盤ごと爆砕するに留まった。
その際、メズールの体が液状化している事実に冴子は気づいた。
(オーシャンのメモリ……と、似たような能力ってわけね)
オーシャンメモリは、物理攻撃に対し絶大な防御性能を発揮する、液化能力を持ち合わせている。
どうやらメズールというグリードは、同様の特殊能力を身につけていたらしい。
637
:
仮投下①
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 13:15:28 ID:0w6QAcqs
それによってアルテミスの直撃をすり抜けさせ、一先ずは死を回避したようだが、果たしていつまで持つことか。
例えば先程は紅椿で防いだ、バースのブレストキャノンのような……純粋な高エネルギーで蒸発させられれば、メズールとて一溜まりもないはずだ。
そして、おそらくイカロスにはそれを成せるだけの力がある。詳細名簿を持ち、参加者の能力を把握しているメズールがああも必死に逃げ惑うのが何よりの証拠だろう。
そんなメズールの、みっともないほどに足掻く姿を見て、嘲笑う気持ちの一つも湧いて来ないほどにイカロスは圧倒的だった。
傍から見比べるだけでも、万全だった時のオーズはおろか、カオスすら遥かに凌駕するその驚異的なスペック。殺し合いの公平性など、凡そ無に帰してしまう理不尽なまでの戦闘力。
そんな理不尽が、同じ陣営として現れたのが何故なのかを、冴子は知らない。
空の女王を黄陣営に引き込めたのが、偶然などではなく。
冴子を愛した一人の男の、命をも捨てた献身あってのものだということを。
そんなこと、考えもしないし――例え全てを知ったところで、命を救われたことに、感謝を覚えることすらないだろう。
何しろ黄陣営のリーダーに忠実に尽くす大戦力というのが、下克上を目論む冴子にとっては、厄介な障害にしか成り得ないのだから。
(……っ、ここでイカロスを敵に回すのは避けたいのだけれど……!)
そのために、冴子はメズールに手を貸すことを躊躇っていた。
イカロスという一大戦力と敵対しないためというなら、このタイミングでメズールを切り捨てるという選択肢もないわけではないが、しかし。それでも可能な限りその事態は避けたいと冴子は考えていた。
まず、おそらくは彼女ほど都合の良い協力者はこの先、二度と得られないだろうということ。
それにイカロスは冴子を黄陣営として救ったが、この場所にオーズやカオス、メズールがいたことを彼女に教えたのが黄陣営のリーダーだというのなら、既に自身の目論見はそいつに見抜かれていることを前提にすべきだと冴子は判断していたからだ。ならばこの先の直接対決に向けても、メズールの戦力は惜しい。
メズールとの共同戦線を維持するためにはイカロスを撃破できればそれが一番だが、真っ向対決で敵う相手ではない。
勝算があるとすれば、メダルルール。持久戦に持ち込み、イカロスのメダルを消費させ尽くせばあるいは――
だがそれまで、冴子が戦線に加わったところで果たして持ち堪えられるのか?
低い成功率を前に冴子が二の足を踏む間に、アルテミスを被弾していた巨大なビルが崩れ落ちる。轟音と、それによって舞い上がった砂塵にメズールが姿を潜めると、イカロスもアルテミスで追撃することなく高度を上げ、全体を俯瞰しようとする。
そこで天使が、見えない筒のような物を抱える素振りを見せた時――予想外のことが起きた。
……突然、地響きのような、唸り声が聞こえて来たのだ。
「な……何?」
瓦礫の山から響くのは、巨獣の雄叫び。伝わってくる圧倒的な存在感に、イカロスさえ手を止めた。
ぶうんという、何かが大気を叩く音。
それが煙幕のように視界を覆っていた粉塵を切り払い、暗闇の中に蠢く巨躯を月光で照らし出す。
「嘘でしょ……?」
余りにバカバカしい光景に、冴子は恐怖するより先に呆れ、知らず声を漏らしていた。
胴体に比して異様に小さな翼で、文字通り城塞程の大きさを誇る巨体を浮遊させ――敵意に満ちた瞳を向けてくる、それは。
ビルの一部の、装飾として鎮座していた奇妙な竜――キャッスルドランだった。
638
:
仮投下①
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 13:18:22 ID:0w6QAcqs
(……あれ、生きてたの?)
そういえばカオスが暴れていた頃からここまでずっと、いびきを掻いていたようにも思うが、まさか。
あんな文字通りの大怪獣を生かしたまま、会場に設置していた真木清人の思考が、冴子には一切理解できなかった。
大きく変化し続ける戦況に冴子の理解が追いつけなくなった、その一瞬の隙に。
キャッスルドランの放った竜の息吹の一つが、彼女の目前に迫っていた。
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
「――だぁあああああもう! 何がどうなってんだよっ!?」
夜空を煌々と照らす戦いに、プロトバースに変身したまま伊達は思わず叫び出す。
突然降って来たミサイルにも驚いたが、クレーンアームを盾にすることで何とか凌ぎ切った。しかし、それでもすぐには起き上がれなかったほど強烈な一撃だった。推測ではあるが、その破壊力はオーズのタトバキックにも比肩するほどだろう。
それを豪勢に乱射する天使に対し、相対する巨大なドラゴンは被弾するたび確かな痛痒を垣間見せながらも、ダメージと呼べるほどの怯みを覚えてはいない。
殺し合い、と言いながら大半の相手に一方的な殺戮になってしまう戦力を有した者がいることは、あの娘(カオス)との接触時に学んでいたが、地図にも載っている施設がそのレベルの戦力と、独立した自我を持って参加者を攻撃し始めるとは想定外にも程があった。
仕掛けたのは確かにこちら――あのイカロスという娘だ。彼女の流れ弾があの竜の寝座となっていたビルをへし折ってしまったからこそ、キャッスルドランも目を覚ました。
快適な惰眠を妨げた者達に、警告代わりの息吹――高エネルギーの弾丸を放ったキャッスルドランに対して、イカロスがそれをバリアで反射し、反撃してしまったことから彼らは互いを敵と認識し、他の者達を無視した戦いを始めてしまったのだ。
竜と天使の織り成す、まるで神話そのもののような戦いには、プロトバースといえど単身で介入することはできない。
しかし逆を言えば、今は少なくともプロトバースは彼女達の意識外の存在となっていた。
少なくともイカロスは、キャッスルドランを無視して参加者と殺し合う余裕はない。キャッスルドランはそもそも、イカロスしか敵と認識していない。
その隙にプロトバースは、アルテミスの直撃を受けてから沈黙していたバーナビーの元に辿り着いていた。
「バーナビー! おいしっかりしろ!」
仰向けに倒れていた彼のヒーロースーツは、無残にも破壊されていた。被弾箇所である腹部を中心に、正面側の装甲はそのほとんどを砕かれ、爆ぜ飛んでいた。
その下のバーナビー自身の肉体も当然、無傷とは行かない。大小無数の掠り傷に水膨れ、その程度では済んでいない火傷と、数々の傷に蝕まれている。
「虎徹……さん?」
だがアルテミスⅡが体の芯に直撃したにしては、その程度で済んだことは僥倖と呼ぶに相応しいほどの軽傷だと言えた。
「悪い、俺だ」
頭を打っている可能性も高いかと脳裏に不安を過ぎらせた伊達だったが、勢いよく上体を起こし、痛みに呻いてから状況を尋ねて来る様子に、単純に気絶前後の記憶の混乱だと診察を下す。
月霊髄液とヒーロースーツによる防御、そしてバーナビー自身の能力により、百倍にまで強化されていた耐久性と回復力。それだけの要素が重なって、ミサイルの直撃という脅威でも一時的な失神程度に被害を抑えてくれていたらしい。
639
:
仮投下①
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 13:20:55 ID:0w6QAcqs
「……立てるか?」
しかし胸を撫で下ろすのは一瞬。それ以上の猶予を、伊達は自身に許さなかった。
イカロスとキャッスルドランから自分達が意識外とはいえ、互いに有する火力が火力だ。先程吹き飛ばされたナスカの例もある。いつ流れ弾を貰わないとも限らない以上、悠長にしては居られない。
何とか、という返事を残したバーナビーに頷き返し、プロトバースは混沌を極めて来た戦場を見渡す。
先程のイカロスの言葉からすれば、おそらく。ワイルドタイガー達が避難するための時間稼ぎという、最低限の目標は達成した。
可能であればグリードは倒し、危険人物を制圧しておきたいのが本心だが、この状況での深入りは危険だ。
伊達は医者であり、まず自分が生きていなければ誰かを助けることなどできないということをよく理解している。欲を掻いて己の命を無くしてしまっては、結局何の欲望も満たすことのできない、本末転倒にしかなり得ない。
「俺達も退くぞ」
故に、撤退の二文字を口にする。噛み付こうとしたバーナビーを無視して、プロトバースはさらに続ける。
「ルナティックは俺が助けに行く。メズールはともかく……あっちの姉ちゃんの方も、できるんだったら、な」
無理だったら逃げるけどね、と伊達はバーナビーに告げる。
「だから守ってやれないで悪ぃけど、先に一人で行けるか、バーナビー」
「……伊達さん」
神妙な面持ちの彼が今、NEXT能力を発動できない状態にあることはわかっている。
ヒーロースーツも損壊し、月霊髄液も失われた。できれば使って欲しくないガイアメモリを除けば、扱いの難しい“あのカード”しか、バーナビーの身を守れる代物は残っていない。
本来ならば、プロトバースが傍に立って護衛すべき状況だと言える。
ただ、キャッスルドランにせよイカロスにせよ、現状予想される脅威からの攻撃からは、最早プロトバースが付いていようと巻き込まれた時点で生身の人間は終わり、と見れる物だ。
それならばバーナビーの護衛に就くのではなく、これ以上の犠牲者を出さない――ワイルドタイガーの宣言に則った救助活動を申し出る方が、結果的に救われる命の期待値は高まり、バーナビーも大人しく戦線から離脱してくれるだろうと伊達は考えた。
「…………わかりました」
数秒の逡巡の後、キャッスルドランの咆哮に掻き消されそうになる声で、バーナビーが了承の意を見せた。
「よし。じゃあ気をつけてな」
それを受けたプロトバースが立ち上がり、踵を返した直後のことであった。
「――仮面ライダーだな?」
ぶっきらぼうな問いかけの直後、返事も待たれず背中を斬りつけられたのは。
640
:
欲望まみれの名無しさん
:2014/04/29(火) 13:23:06 ID:zYbyWYVA
支援あげ
641
:
仮投下?
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 13:23:15 ID:0w6QAcqs
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
「ニャニャ、あれは何事ニャ!?」
一行の中で最初に気づいたのは、フェイリスだった。
しかしここまでの言動から、彼女が言うことの大半は聞き流すのが賢明と学んでいたために、事態を悟るのにさらに暫しの間が必要だった。
「冗談なんかじゃないニャ! 大変なことになってるニョにィ!」
執拗に急かされてからようやく、ラウラも士も真っ暗な夜の街の彼方で、巨大な篝火が燃え盛っていることに気がついた。
光源は地平線の向こう、距離は一エリア分近く開いているか。相当に大きな物、例えばビルなどが燃えているのだということが伺える。
耳を澄ましてみれば、心なし爆音や怒号も響いて来ている。かなり規模の大きい戦闘が、あそこで行われている可能性は高い。
「……様子を見てくるか」
「そうするか。ただ、俺だけで充分だけどな」
告げると同時、士がカードを取り出し、瞬く間にディケイドへと変身していた。
「あそこは見る限り、かなり派手にやり合ってる。フェイリスは連れて行かない方が良いだろ」
「私にはそのための護衛に残れ、とでも言うつもりか?」
首肯するディケイドに、ラウラは噛み付く。
「戯けたことを。もし向かった先にいるのが、さっきのウヴァのような強敵だったら一人の手では負えんだろうに」
「そうでもない。もうメダルはじゅーぶん集まった。何ならおまえらとウヴァにまとめてかかって来られても、今の俺なら十秒あれば楽勝だ」
「ほう? 大した自信だな」
「ああ。何しろ俺は全てを破壊する……悪魔だからな」
議論は平行線だった。だがリーダーとなる身として彼の独断行動を制したいラウラとしては、そのためにまだ使える札がある。
「魔界の凝視虫(イビルフライデー)を使えば良い。おそらくギリギリの距離だが、見える。不用意に接近するより、まずは状況を把握すべきではないか?」
そう言ってラウラは自身に支給された瓶を見せたが、ディケイドはそっぽを向いた。
「単に覗くしかできないそいつだけじゃ、間に合わない可能性があるだろ? しかも見えないかもしれないってんだったら、やっぱり俺が先行すべきだな」
告げると同時、ディケイドは一枚のカードを取り出していた。
「ま、どーしてもっていうならそいつも使えば良い」
《――ATTACK RIDE INVISIBLE!!――》
「俺はもう行くけどな」
テンションの高い電子音と、最後まで聞く耳を持たなかったディケイドの捨て台詞を最後に、その姿がラウラの視界から消えた。
ウヴァとの戦いで見せた高速移動――違う、そんな気配などない。純粋に不可視化したのだ。
そんな手を使うとは、強気な言葉と裏腹にこれから向かおうとしている戦場の危険性について決して見くびってはいないのかもしれない。
642
:
仮投下①
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 13:25:28 ID:0w6QAcqs
あの士ですらそこまで警戒する危険地帯となると、彼が言うように支給品が強力だろうと本来非戦闘員であるフェイリスを連れて向かうのは避けるべきか。
となると――こうなっては半ば仕方ないことでもあるが、おそらく三人の中でも最も腕が立ち、実戦経験豊富な士が不可視化した状態で斥候を務めるというのは最善手だろう。
……その考えは認めるとしても、もう少し態度を考えて欲しいものだ。
「ツカニャン、勝手だニャ」
「ああ、全くだ」
でないとこんな風に、良く思われるわけがないというのに。
もしくはフェイリスの言うように、インビジブルを使ったのは単にラウラを撒くことが目的だったのかもしれないが――
「――ッ!」
そこで閃くものがあって、ラウラは魔界の凝視虫を一匹瓶から解き放ち、ディケイドが向かっているだろう火事の現場へ向かわせた。
「うぉぉぉ……な、なかなか気持ち悪いニャ……」
虫のような手足の生えた眼球に、既に容器越しに目にしていたはずのフェイリスがそう漏らす。確かに、動きが加わったおぞましさは瓶に詰められている時の比ではないが。
「それでも、役に立つからな」
答えながらラウラは、フェイリスをのことを見ていない。視覚は既に、凝視虫から転送されて来る映像に上書きされていた。
そのことを、ラウラの正面に回り込んで確認したらしいフェイリスは、感心したような素振りを見せた。
「……ラウにゃん」
その後、ポツリと呼びかけられて。やや沈み調子の声に、ふざけてはいない様子だと感じたラウラは相手をすることとした。
「何だ」
「ツカニャンのこと……疑ってるニャ?」
予想外に核心を、直球で衝いて来た。
暫し返答に窮したラウラを見兼ねてか、フェイリスはいつもの調子で変なポーズを取り、痛い台詞を口にする。
「黙ってても無駄ニャ! 遥か遠き前世において、混乱の渦に包まれていた地上を救うため、自ら神の座(ソレスタル・グレード)を降りた慈悲深き者(ベネポレント・ワン)から未来永劫授けられたフェイリスの魔眼、真眼(サイクロプス)の前では何人たりとも隠し事などできないのニャ!」
(……魔眼はリーディングシュタイナーではなかったか?)
思わずツッコミそうになったラウラだったが、下手なツッコミで脱線させると尚更頭が痛くなるということと――フェイリスの言う通り、胸の内は既に見抜かれていると思い当たり、素直な肯定を返すこととした。
「そういうことに……なるな」
「どうしてニャ? 確かに態度は悪いけれど、あれはただのツンデレニャ!」
本人が聞いたらそれこそ逃げ出しそうな評価を口にするフェイリスの言葉に、しかし思い当たる節のあるラウラは頷いた。
「ああ。私もあいつを信じたい」
共にウヴァと戦い、その打倒のために大いに活躍してくれただけでなく。その後のラウラの弱さを労わってくれた門矢士という男を、ラウラは悪人だと思いたくないのだ。
「それでも、士自身が自分のことを、破壊者などと呼んでいた」
そんな自分と共に居れば、手を取り合うべき相手とまで敵対することになるぞと、警告までして来た。
だからこそ、もし本当に、士が道を誤っているとラウラから見ても判断できる時が来ればこの手で止める、そう約束した。
だがここに至って彼は、その姿を晦ました。
「――姿を隠してまで私達から離れるのは、もしかすれば何か疚しさを感じているからではないか、と……そんな疑いの気持ちがあるんだ」
穿ち過ぎかもしれない。だが彼を信じたい仲間と思うからこそ、ほんの少しの疑惑でも見逃せなかった。
それを晴らしたいと、願うから。
643
:
仮投下①
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 13:26:36 ID:0w6QAcqs
「……大丈夫ニャ」
そんなラウラを安心させるように、フェイリスは寄り添った。
「ツカニャンは確かに悪ぶってるけど、あれは凶真みたいなキャラ作りニャ。ちょっと真性なところもあるけれど、本当に自分が悪いと思うことなら間違ってもしないはずニャ。
人類の自由と平和を守る正義の戦士、仮面ライダーなのに世界の破壊者なんて二つ名なのにも、きっと何かやむを得ない事情があるはずニャ」
「……随分、知ったように言うんだな」
だが、励まそうとしてくれているのはよくわかる。士ができる限り、自分達を危険から遠ざけようとしているのだということも。
「当然ニャ! 何故ならフェイリスには“機関”との戦いの中、悲劇を越えて開眼した、真実を見通す天帝眼(プヴィデンス・アイ)が備わっているのにゃ!」
「真眼(サイクロプス)じゃなかったのか!?」
舌の根も乾かぬ内の設定改変に、ついラウラもツッコミを入れてしまう。そのまま解説に入るフェイリスの厨二病は全く理解が追いつかない。
だが――次々と友を、想い人を失ったラウラの傍に立って、次は何を失うのだろうと臆病になっているのを、懸命に支えようとしてくれていることは、理解できる。
一夏を中心に繋がった学園の仲間や、関係を修繕できた黒ウサギ隊の部下達のように。
フェイリスとの間にあるのも、士との間にあると信じたいのも――そんな、仲間達に抱くのと同じ感情だということを、ラウラは静かに自覚しつつあった。
だが……きっと大丈夫、そんな仲間がラウラを裏切るはずがない、と強く思えないのは。
フェイリスと出会う前に、ラウラを裏切り、シャルロットの命を奪っていった彼女の存在が、知らぬ間にトラウマと化しているからかもしれない。
――――そしてそのトラウマは、再発することとなる。
「な……っ!」
ラウラの網膜に焼き付けられたのは、余りにも非現実的な光景。
荘厳な城を背負った紫色のドラゴンと、四枚の翼を背負った白い天使の繰り広げる、階級差などという概念もないほどに体格差の大きな空中戦。特に天使の方は、あれだけ地肌の露出が多い装備でどのISをも凌ぐ飛行速度を発揮している。
まずそれに目を奪われたのは間違いなかった。だがその後ラウラは、その華々しい戦いの影に隠れた、地上での争いの方に目を奪われていた。
そこにいたのは、ウヴァが最期に変身していたバースという仮面ライダー。いや、微妙に細部の彩色は異なるが、ほぼ同一の存在だと見て良いだろう。
問題なのは、ウヴァと異なり負傷者を庇うようにして戦う彼に、容赦なく斬りかかるディケイド――門矢士の姿だった。
「――止せ、やめろっ!」
知らず、上擦った声が出る。
だが士の言った通り。覗くことしかできない凝視虫越しでは、彼を止めることなどできやしない。
ラウラの視界に自身が捉えられていることを、知っているのかすら怪しい状態だ。
「――くそっ!」
「ニャニャッ!?」
凝視虫との視界共有を解除すると同時、説明する間も惜しんだラウラはシュヴァルツェア・レーゲンを展開し、フェイリスの身体を抱え込む。ライドベンダーはウヴァを倒した後、士との交渉で明け渡してしまっていたというのもあるが、こちらの方が確実に速く、使い慣れている以上は問題ない。
ただ、一気に加速するとフェイリスの負担が大き過ぎる。現場への到着は、最高速を発揮してとはいかないだろう。
「ラウニャン、いったいどうしたニャ!?」
脇に抱えられたことの抗議と、純粋な疑問の混じった声音にラウラは直接は答えず、ただこれで察してくれと願いながら――ここにいない“仲間”であるはずの男に、届くはずもなく祈っていた。
「早まるな、士……っ!」
644
:
仮投下②
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 13:29:06 ID:0w6QAcqs
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
別に、門矢士――ディケイドには、ラウラ達の前でインビジブルを使ったことに、何かの疚しさがあったわけではない。
……少なくとも、その時点ではそうだった。
ただ純粋に、一エリア隔てた距離からでも確認できた戦闘の規模から、ラウラ達を巻き込むわけにはいかず。かと言って――今の自分にそんな資格があるのかはともかく、仮にも仮面ライダーの名を背負う者としては見過ごすこともできずに先行しただけであり――自信はあれど、驕らず警戒していたから、この能力を使って近づいたに過ぎない。
結果、キャッスルドランと撃ち合う天使の姿を目撃し、それだけでは状況を掴みきれないからとさらに接近した結果――意図せず、発見してしまっただけだった。
自身の破壊対象――仮面ライダーを。
約束を交わしたラウラには悪いが、ここで見逃せば破壊する前に殺害されてしまうかもしれない、と――このバトルロワイアルでは、仮面ライダーだからと言って自身以外に倒されずに居てくれるとは限らないことを既に知ったディケイドは、仮借なくライダーを破壊することを最初の行動として選択した。
九と一を天秤に載せられ、十の全てを救う選択肢を見つけ出せなかった敗北者である悪魔には――己に架せられた使命に従うしか、できなかった。
「外見は同じだが、色が違う――ネガの奴らみたいなもんか」
一瞬、既に破壊したバースの別個体ではないかと考えもしたが、細部の相違点から種類自体が違うと結論したディケイドは、まずは攻撃を加えることとした。
「いきなり何すんだよ!?」
ディケイド到着前から既に消耗していた色違いのバースは武器もなく、ディケイドの容赦ない斬撃に晒される度に傷ついていく。しかしある一定以上は決して後退しようとせず、半ば捨て身で突撃してでもこちらの足止めをしようとして来た。
だが甘い、とディケイドは上から思い切り背中を打ち付け、崩れたところに膝を合わせる。転がったバースを踏みつけながら、ライドブッカーをガンモードへと変形させた。
これで、変身者がどんな人物であるか見定める。そう思いながらディケイドは銃口を下に向け。
「――ったく、何やってんだバーナビー! さっさと行けって!」
自身の危機より、まず他者の無事を優先したその声に一瞬、追撃の手を止めた。
……ようやく本物に出会えたか、という複雑な感慨によって。
確認は済んだ。これなら昼間の戦いのような手の込んだ真似をしなくて良い――そのはずなのに、少しだけ胸に凝りが残るのは、意識して無視をする。
「そんなこと、できるわけないでしょう……っ!?」
満身創痍の若い男が、体に張り付いたパワードスーツの破片を零しながら立ち上がっていた。やり取りから、彼が何を考えているかは明白だ。
「やめておけ」
だからディケイドは、半ば無駄と悟りながらも忠告しておくことにした。
「俺の狙いは仮面ライダーと、殺し合いに乗るような輩だけだ。そうでないなら……邪魔しない限りは見逃してやる」
「ふざけるな……っ!」
ディケイドの宣告に対し、案の定というべきか、バーナビーは侮るなと憤慨する。
「伊達さんはやらせない……僕は、ワイルドタイガーのパートナーだっ!」
叫びと共にバーナビーが取り出した物に、ディケイドも覚えがあった。
《――MAS……》
「こいつの意志ぐらい、尊重してやれ」
奏でられた電子音(ガイアウィスパー)は途中まで。その先は、銃撃によって葬られた。
645
:
仮投下②
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 13:30:51 ID:0w6QAcqs
バーナビーが取り出したのが、ガイアメモリという変身アイテムだということはディケイドにもわかった。
だが対応するベルトもなく、外観からして明らかに仮面ライダーの使うそれとは別物だと気づいた時点でライドブッカーを用いて撃ち抜き、破壊した。
僅かに爪の先を掠めていった光弾の曳を、バーナビーは茫然と見送る。その手の中で、辛うじて形を留めていたメモリが砕け散り、破片となってすり落ちる。
おそらく、こちらに対抗し得るほぼ最後の戦力だったのだろうが、妙にでしゃばられても困る。もし下手に傷つけでもしたら……伊達というこの仮面ライダーに申し訳が立たない。
そんな隙を見せ過ぎたか。バースはディケイドの足を掴み、無理やり引き倒そうとしていた。
無理に抵抗せず、引かれるまま前転し拘束から抜け出したディケイドと、踏みつけから脱したバースが起き上がるのは同じタイミングだった。
「バーナビー! この怖ーいお兄さんはどうやら俺が目当てらしいから、引き付けるのは任せとけ!」
「でも!」
「大丈夫だ! さっきは不意打ちされちまったが、正面からなら負けやしないって! だからおまえはルナティック達を連れて先に行けっ!」
思わぬ名前を聞いたが、だからと言って会話をする気にはならなかった。ソードモードに戻したライドブッカーで、ディケイドは再び無言のままに切りかかる。
正面からなら負けない、というのは何の根拠もない言葉だが、不意打ちに比べれば対処し易いのもまた事実のようだった。先程のように、揮う剣先全てがバースを貫くわけではなく、多くは掠めるに留まり、また躱される。
バースのおおよその性能は先の戦いで把握しているが、ウヴァとは比べ物にならないほど使い慣れている分、重傷の身でありながら強さが底上げされているように感じる。
それでも、数多くのライダーを狩って来たディケイドとの差は歴然。わざわざ弱らせるためだけに、カードを用いるほどではない、が……
「……言うだけのことはあるか」
無感動に呟くと同時、幾許かの億劫さを覚えたディケイドは、一気に仕留めんとばかりの勢いで続く一撃を繰り出した。だが片手の大振り、それに伴う隙を見逃すバースではない。
「捕まえたぁ……っ!」
予備動作の大きい一撃は、振り切る前に組み付かれ、当然のように押さえ込まれた――ディケイドの、想定通りに。
「そうか」
そしてバースの仮面に、真っ赤な刀身が突き立った。
何のことはない。空いた手でデイパックから取り出したサタンサーベル――本来の大ショッカー大首領である士にも所有権のあるその魔剣で、バースのカメラアイを叩き割ったのだ。
「ぐぁああっ!?」
突然の目潰しに、バースからの拘束が緩む隙を見逃すほどディケイドは微温くない。力を込めて脱出し、振り回し、蹴り飛ばす。
転がる過程で、サタンサーベルはバースの仮面から外れて飛んだ。切り裂いた敵の血を、その先端から垂らしながら。
「うわあああああああっ!!」
絶叫しながら、バーナビーが飛び掛かって来た。どこか奇妙なまでの壮絶な気迫に、しかし本質的に自分達と近しい物を感じながらディケイドは、彼を無造作に手で払う。
それでバーナビーは、車に跳ねられたようにして飛んで行った。
……加減を間違えたかもしれない、とは思ったが。今更心配して駆け寄るわけにもいかず、ディケイドは努めて淡々とカードを取り出す。
このまま一気に、破壊する。
《――FINAL ATTACK RIDE DEDEDE DECADE!!――》
ディケイドとバースの間に、十枚のカード状エネルギーが出現する。バースが蹌踉めくと、それに合わせて随時位置関係を補正する――必殺技の永久追尾機能は、破壊者としての運命を受け入れたことで付与された物だ。
「悪く思うな」
馬鹿げた使命に、結局バーナビーを巻き込んでしまったことを謝罪するつもりで、ディケイドはらしくない言葉を呟いた。それが、正しく理解されるとは思えないまま。
理解されないなら。身勝手な悪魔だと思って貰ったまま、破壊できる。
646
:
仮投下②
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 13:32:34 ID:0w6QAcqs
しかし。
欠けた仮面の奥から素顔を覗かせたバース――伊達は、皮肉げな笑みを浮かべて、ディケイドの頼みを拒絶した。
「むーり。だってあんた、俺の嫌いな……自分で自分を泣かすタイプだからね」
「……っ!」
動揺ごと握り潰すようにして、ディケイドはトリガーを引き絞った。
「――伊達さあああああああああああああああああああああああああああああああああああああんっ!!」
バーナビーの絶叫も虚しく、ライドブッカーから放たれた光はカードを潜るたびに太く、力強く。光の柱となったビームがバースの上半身を呑み込んで、消し去った。
残った下半身も、照射の続くディメンショブラストから叩き込まれたエネルギーの奔流に耐え切れず、爆発。仮面ライダーの肉体を、一つ残らず破壊する。
ただ一つの例外として、爆発の勢いのままに転がって来たバースのベルトにまでは、ディケイドも手を伸ばさなかった。
「あぁ……っ!」
その結末に崩れ落ちるバーナビーが、呆けた声を漏らす。目の前で同行者の命を断たれたという絶望が、彼の端正な顔を歪め、目元を濡らし始めていた。
悲しみを前にして、自身を取り囲む現実を忘れ果てたようなバーナビーの姿に、伊達の残した言葉がディケイドの――士の中で反響する。
――見透かされた、という後味の悪さが、士の胸を満たしていた。
忘我のまま力が抜け、ライドブッカーを構えていた手が下がる。仮面ライダーの破壊を成したはずだというのに、外から取り込んだ以外のメダルは一枚たりとて増えやしない。
世界の滅びと、それを破壊する唯一の方法。その詳細までは、伊達が見通していたということはないだろう。
だが、そのために――士が意に沿わぬ使命に屈する以外に世界を救う術を見出せず、その遂行のために破壊者となったことを――伊達は少なくとも、士が敗北者であることを見抜いていた。
憎まれる悪魔、最期は倒される敵役であらねばならない身の上で――哀れまれた。
その事実に怒りを覚えるとすれば、矛先を向けるべきは伊達ではなく。見抜かれるような甘さを捨てなかった自分にあると、士は拳を握り込む。
そんな甘さが、受け入れたはずの使命の遂行を危うくさせ、寄り道に過ぎないこの馬鹿げたゲームの破壊すら滞らせているのではないかと、自らを責め立てる。
メダルは確かに集まった。たった今バースから吐き出された物を含めれば、既に首輪の許容量を超えているほどだ。
だがいくら戦力が整ったところで、本当にこのままで、伊達のような――人類の自由と平和を守る偉大なる仮面ライダー達を、滅びの運命から救うことができるのか?
こんな使命とやらに頼るしかない、自分のような情けない敗北者が?
(……だが、だとしてもだ)
この使命は、自分にしか、仮面ライダーディケイドにしか背負えない。
ならば、迷うのは無駄でしかない。使命を放棄するという選択が残された時間は、最早ないのだから。
こんな手段しか残されていない自身への憐憫も、誰にもできないはずの使命を完遂できるか資格を問うことも、やめだ。
そうして感傷を振り払ったディケイドのすぐ近くに着弾したのは、上空で天使に弾かれたキャッスルドランの放つ魔皇力の塊だった。
647
:
仮投下②
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 13:33:27 ID:0w6QAcqs
キバの世界最強モンスターを兵器化した怪物の息吹は、今のディケイドどころか失われているコンプリートフォームに変身していても、直撃を許せば無傷で済む保証がないほどの威力を秘めている。
それを容易く弾く天使の力に驚愕を禁じきれないまま、バーナビーが巻き込まれていないか確認しようと視線を巡らせたディケイドは、因縁ある相手の接近に気がついた。
「――おまえもここに居たのか」
進路を読み、立ち塞がるようにして告げたところ、前進を止めた怪人は憎々しげな声を漏らした。
「ディケイド……っ!」
昼間に遭遇したグリード、メズール。
これまた随分と消耗した様子ではあるが、戦場を離脱する素振りを見せない。
いや、違う。一度自身への関心が希薄になった隙に逃亡しかけて、再び戻ってきたのだ。
何が彼女を惹きつけたのか――その正体は、すぐ見当がついた。
「――目当てはこれか」
ディケイドが拾い上げたのは、三枚のコアメダル。
バースが首輪の中で保有していた、タカ・トラ・バッタのコアメダルだった。
改めて手に取り眺めたところ、バッタこそ使用済みのために色が抜けているが、三枚とも微妙に他のコアメダル装飾が違う、ということにディケイドは気づいた。
「……それを渡しなさい」
メズールの要求に、ディケイドは一言も返さない。
「自分のコアじゃないから、バースが持っている間はわからなかった……だけど、今は感じるのよ! そのコアは、他とは違う! 私に完全体以上の力をくれるって!」
感情的な物言いは、その身を苛む焦燥からか。
「その力さえあれば、イカロスにだって負けない! それで私は手に入れるの! イカロスの、カオスの、誰も彼もの愛を、全部っ!」
「愛、か……」
言えた義理ではないか、と思いながらも。ディケイドは月並みに反論した。
「愛っていうのは、こんな殺し合いを開く側とは無縁だと思うんだがな」
「そんなことないわ。極限状態に追い詰められた欲望は、より一層強くなる。愛だって例外じゃない、私はそれに満たされたいの」
「随分身勝手な欲望だな。それで人が死んでも良いってことか」
「ええ。味わうために殺すなんて、生き物は皆そうしてるでしょう? 第一あなたに言われたくないわ」
おまえと違って好きでやっているわけじゃない、という言葉を飲み込む。それは自分自身が破壊された後まで、決して口にしてはならないものだからだ。
「……まあ良い。これでも俺も、一応は仮面ライダーだ。人を襲う化物を、ここで退治しといてやるとするか」
「吠えるわね。確かに警戒していたけれど……昼間の体たらく、忘れているわけじゃないわよ?」
言葉と共に、メズールの全身が液体へと変化する。
「結局貴方じゃ、私を破壊することはできないわ。二重の意味でね」
メズールの余裕は、昼間の乱戦で、イリュージョンで作った分身二体を翻弄した実績から生じる物だろう。
その時のディケイドは、液状化という反則的な能力を持つメズールに一切有効打を与えられず取り逃がした。ならば直接対決でも、少なくとも負けはないと高を括っているのだろう。
増長して大胆になった分、彼女が他の参加者に齎した被害がより甚大な物になっていた可能性に思い当たり、メズールにというより、これまた自身の甘さを突きつけられかねない現状に覚えた怒りから、出し惜しみせず選んだカードをディケイドライバーへと投げ込んだ。
妨害に放たれた高圧水流は、身を捻ることで直撃を躱し、背を立てにしてバックル付近を守りきって操作を完了させる。
《――FINAL ATTACK RIDE FAFAFA FAIZ!!――》
648
:
仮投下②
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 13:34:35 ID:0w6QAcqs
キバの世界最強モンスターを兵器化した怪物の息吹は、今のディケイドどころか失われているコンプリートフォームに変身していても、直撃を許せば無傷で済む保証がないほどの威力を秘めている。
それを容易く弾く天使の力に驚愕を禁じきれないまま、バーナビーが巻き込まれていないか確認しようと視線を巡らせたディケイドは、因縁ある相手の接近に気がついた。
「――おまえもここに居たのか」
進路を読み、立ち塞がるようにして告げたところ、前進を止めた怪人は憎々しげな声を漏らした。
「ディケイド……っ!」
昼間に遭遇したグリード、メズール。
これまた随分と消耗した様子ではあるが、戦場を離脱する素振りを見せない。
いや、違う。一度自身への関心が希薄になった隙に逃亡しかけて、再び戻ってきたのだ。
何が彼女を惹きつけたのか――その正体は、すぐ見当がついた。
「――目当てはこれか」
ディケイドが拾い上げたのは、三枚のコアメダル。
バースが首輪の中で保有していた、タカ・トラ・バッタのコアメダルだった。
改めて手に取り眺めたところ、バッタこそ使用済みのために色が抜けているが、三枚とも微妙に他のコアメダル装飾が違う、ということにディケイドは気づいた。
「……それを渡しなさい」
メズールの要求に、ディケイドは一言も返さない。
「自分のコアじゃないから、バースが持っている間はわからなかった……だけど、今は感じるのよ! そのコアは、他とは違う! 私に完全体以上の力をくれるって!」
感情的な物言いは、その身を苛む焦燥からか。
「その力さえあれば、イカロスにだって負けない! それで私は手に入れるの! イカロスの、カオスの、誰も彼もの愛を、全部っ!」
「愛、か……」
言えた義理ではないか、と思いながらも。ディケイドは月並みに反論した。
「愛っていうのは、こんな殺し合いを開く側とは無縁だと思うんだがな」
「そんなことないわ。極限状態に追い詰められた欲望は、より一層強くなる。愛だって例外じゃない、私はそれに満たされたいの」
「随分身勝手な欲望だな。それで人が死んでも良いってことか」
「ええ。味わうために殺すなんて、生き物は皆そうしてるでしょう? 第一あなたに言われたくないわ」
おまえと違って好きでやっているわけじゃない、という言葉を飲み込む。それは自分自身が破壊された後まで、決して口にしてはならないものだからだ。
「……まあ良い。これでも俺も、一応は仮面ライダーだ。人を襲う化物を、ここで退治しといてやるとするか」
「吠えるわね。確かに警戒していたけれど……昼間の体たらく、忘れているわけじゃないわよ?」
言葉と共に、メズールの全身が液体へと変化する。
「結局貴方じゃ、私を破壊することはできないわ。二重の意味でね」
メズールの余裕は、昼間の乱戦で、イリュージョンで作った分身二体を翻弄した実績から生じる物だろう。
その時のディケイドは、液状化という反則的な能力を持つメズールに一切有効打を与えられず取り逃がした。ならば直接対決でも、少なくとも負けはないと高を括っているのだろう。
増長して大胆になった分、彼女が他の参加者に齎した被害がより甚大な物になっていた可能性に思い当たり、メズールにというより、これまた自身の甘さを突きつけられかねない現状に覚えた怒りから、出し惜しみせず選んだカードをディケイドライバーへと投げ込んだ。
妨害に放たれた高圧水流は、身を捻ることで直撃を躱し、背を立てにしてバックル付近を守りきって操作を完了させる。
《――FINAL ATTACK RIDE FAFAFA FAIZ!!――》
649
:
仮投下②
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 13:37:09 ID:0w6QAcqs
そのままの勢いでメズールへと向き直ったディケイドライバーのトリックスターから、カウンターの要領で赤い円錐状のポインターが高速射出される。
それは油断し直進して来ていたメズールの回避を許さず、鋭い先端でその液化した体を固定した。
「なっ……!?」
今更上がる戸惑いの声には、耳を貸さない。
「動けない……っ!」
当然だ。先のウヴァならともかく、進化した世紀王にすら抵抗を許さない拘束を外す力など、メズールに備わっているはずがない。そのことは先の交戦時に確認済みだ。
動けない獲物を前に駆け出し、高く跳び上がったディケイドの体が、爪先から彼女を固定する円錐の底面に吸い込まれ――さらに加速した巨大な砲弾としてポインターの先端から発射され、メズールを蹴り抜き、貫いた。
「カ……ハ……ッ!」
かつて、ゲル化能力を持ったバイオライダーを正面から打ち破ったファイズの必殺技、クリムゾンスマッシュ。
多くのカードを取り上げられ、大幅に制限された今のディケイド激情態でも問題なく使用できたそれは、やはり液化能力を持つメズールを捉えることに成功していた。
「あ、ぐぅっ……どうして、あの時は……っ!?」
着地したディケイドの背後で蹌踉めくメズールの零した疑問は尤もだが、答えは簡単だ。あの不甲斐ない戦いぶりもまた、全ては士の甘さに起因していた。
もしもあの時、能力の割れたメズールを本気で倒しに掛かって、すぐ手の空いた分身二体がさらに戦線に加わっていれば――あれ以上はどう工夫して手を抜いてやっても、純粋に頭数の足りなくなる魔法少女やヒーローが、ディケイドを抑えきれなくなっていたことは間違いない。
そうなれば、ディケイドは龍騎をその場で破壊しなければならなくなっていた。そうせねば不自然であり、もし見逃す素振りを見せれば、マミ達が勝手にこちらの事情を汲んで、歩み寄ろうとする余地が生まれていた可能性すらある。
それは、ディケイドの使命にとって不都合だった。
だがそれでも。いくら士が手段を選んでいられないと、破壊者の使命を受け入れたとは言え……オーズやアクセル、伊達のような当事者や、ウヴァやアポロガイストのような悪党ならともかく。
偶然デッキが支給されただけの無関係な少年であると判明した桜井智樹を、一時的とはいえ殺害するまでの徹底は、できなかったのだ。
破壊者の使命を完了することで再生すると確定しているのは仮面ライダーの世界とその住人であり、関係ない世界の住人かもしれない智樹が対象に含まれている保証は一切ない。
そんな状況で殺せるわけ、ないではないか。
つまるところ、メズールがディケイドと遭遇し、あれだけの時間交戦しながらも生き延びることができたのは。仮面ライダーの関係者にこちらが手を抜いていることを悟られぬまま、歩み寄りの余地なく敵対するしかない悪魔であると認識された状態でわざと敗走するための演出に、ディケイド側から利用したからに他ならない。
――とはいえ、士自身が素直という言葉から縁遠い性格であったために、あの時は全てをはっきり意識してやっていたわけではなかったが。それでも智樹を殺めることを忌避し、加減していたのは間違いない。
そうでなければ、威力に乏しいマミ達の妨害を無抵抗に受け入れ攻め手を緩めることはなかった。
そして何より、こちらからそうなるように意図していなければ。
変身すらしていない照井からの、クロックアップしている側から見れば停止しているに等しい妨害で、永続的なホーミング機能を有する攻撃が標的を外したことに説明がつかない。
そんな不自然な戦いの流れに、しかしこの用心深いグリードが何ら疑問を抱かなかったというのだから、あの芝居は上出来だったと言えるのだろう。
650
:
仮投下②
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 13:38:38 ID:0w6QAcqs
「嘘でしょ……っ!?」
そしてその手心という枷を取り除いた結果が、増長を一瞬で破壊されたこの哀れなグリードの姿だ。
それでもどうにかしてあの時破壊しておくべきだったと、己の浅慮にディケイドは今更ながらの苛立ちを覚える。
「私の、コアが……っ!」
そんな感情に整理をつけて振り返えれば、メズールは悲嘆に暮れた声を漏らしていた。
「そんな……私まだ、全然、満たされてない……っ!」
必殺技の直撃を受けて体が崩れ始めているが、まだ絶命には至っていない。
こんな状態でも、元がかなり強力な怪人だ。生身の人間一人を殺すぐらいの力は残っている可能性もある。
だからここで、今度は確実にトドメを刺す。
「――ガメルの仇も、まだ取れていないのに……っ!」
「知るか」
ライドブッカーの一閃は、メズールの股間から頭頂までを駆け抜けた。
途中、硬い何かを砕く感触がするが、ディケイドは意に止めず一気に切り捨てる。
それが判明したのはメズールは絹を裂くような悲鳴を残し、ただのメダルの塊へと解けた後のことだった。
大量のセルメダルは即座に首輪に飲み干され、ほとんどが体内からATMへと転送される。
剣の先を撫で上げるディケイドの眼前に残されたのは、昼に自身の手から奪われたのを含む青のコアメダルが六枚。
それを拾い上げようと手に取った時にようやく、両断されたコアメダルが一枚あることにディケイドは気づいた。
確かコアメダルは、物理的に破壊することができないのではなかったか?
そんな説明書きを思い出したが、続けて自身が何者であるかに思い至り、一人納得した。
「なるほど……結局俺は、破壊者だということか」
かつて剣の世界でも、決して死なない怪人であるアンデッドを何体か爆殺した経験がディケイドにはあった。
こと、実体を破壊できないという概念(ルール)は、世界の破壊者の前では意味を為さないのかもしれない。
それにしても、己の力でコアメダルを破壊できるということ――その事実を知れたことは、今後の方針を決める上で大きな収穫となるかもしれない。
そんな風にディケイドが己の戦果を分析していた、ちょうどその時。悪魔の頭上で展開されていた戦いにも、終わりが訪れようとしていた。
651
:
仮投下②
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 13:40:08 ID:0w6QAcqs
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
予想外に手こずった、というのがイカロスの抱いた感想だった。
イカロス本体のバージョンアップに伴い、威力が格段に強化されたアルテミスでも、キャッスルドランに与えられるダメージは微小だった。
これでは連射してもメダルの枯渇を早めるだけと判断したイカロスは、ヘパイストスの一撃で葬り去るのが最善手であると理解する。
しかし、キャッスルドランの放つ火球や、肩の辺りに生やした塔を誘導ミサイルとして放って来る攻撃はアルテミスを凌ぎ、今のイカロスをして無防備に受けるには危うい威力。大幅に索敵範囲を制限された今の状態では遠距離からの砲撃は信頼性が低過ぎ、近距離で撃つ必要があることもあって、隙の大きい対艦砲の使用には機を伺う必要があった。
幸いキャッスルドランは、エンジェロイドと比べるまでもなく鈍重だった。正面に立って火球を誘い、それをイージスで反射するたび着実に弱らせることに成功した。
途中、下で他の参加者同士が交戦していることがレーダーで感知できたが、最初にキャッスルドランからの攻撃の余波に巻き込まれ、吹き飛ばされていた園咲冴子の反応はその付近にはない。援護を急ぐ必要はないとイカロスは判断する。
参加者の反応がとうとう一つ消えた頃には、キャッスルドランもその猛威を衰えさせていた。
それを見て取ったイカロスは格段に勝る機動性で敵を攪乱し、狙い通りに惑わされた隙に背後へ回る。
キャッスルドランが鈍重になった巨躯を振り向かせた時には、イカロス本人より長大な超々高熱体圧縮対艦砲の砲身が、既に顕現し終えていた。
「『HephaistosⅡ』……」
チャージには更に数秒を要する。その間にキャッスルドランが火球を放ったが――もう遅い。
「……発射」
空の女王は無慈悲に、蓄えた破滅を解き放った。
迸ったのは、圧縮された超高密度の指向性エネルギー。大気中で減退しても、有効射程距離が地球の直径程の超極大を誇るといえば、その紫の光にどれほどのエネルギーが秘められているのかを察することができるだろう。
いくら制限されているとはいえ、その洗礼をわずか数百メートルの距離で浴びることとなったキャッスルドランの運命も、また。
射線上にあった火球を掻き消した殲滅の光が、その輝きを何ら衰えさせることのないまま、キャッスルドランの半身を呑み込んだ。
堅牢な城塞の壁が灼熱の衝撃に晒され、一枚一枚が強固な盾そのものと言うべき鱗の群れごと、分厚い筋肉と脂肪の塊が突き破られる。被弾箇所は瞬時に炭化し蒸発、その輪郭を怒濤となった閃光の中に溶け込ませて行く。
竜を屠った莫大な光の束はそのまま、星空を貫いて遥か宙まで還って行く柱となるはずだった。だが途中、天蓋に激突したことでその収束を解れさせ、夜天を稲光のように白へと染め上げる。
それが進化したヘパイストスすら受け付けない、会場を覆う結界だという事実を、イカロス当人はそれほど意に止めなかった。
ただ、そういうものがあるのだと――照射を終えたヘパイストスを格納しながら、淡々と受け止める。
652
:
仮投下②
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 13:41:06 ID:0w6QAcqs
目の前では、巨体の半分近くを削り取られたキャッスルドランが、最期の痛哭が涸れると同時に絶息していた。
「――敵性戦力の沈黙を確認」
イカロスの確認と同時、半分を失ってもなお巨大な肉と岩の塊が、重力に掴まれ落ちて行く。落下の瞬間、周辺の大地が波打って揺れ、押し潰された家屋から巻き起こった粉塵が波濤と化して全方位に拡散した。
衝撃波に等しい大音声が響く中でも、イカロスのレーダーは本来の標的を逃してはいなかった。
いや、正確に言えば。キャッスルドランを射殺す寸前に起こった――その消失を、見過ごさなかった。
「殲滅対象の反応消失を確認。原因との接触を試みます」
メズールを代わりに葬ってくれただけならば、問題ない。だがもしその参加者が無所属で、青のコアメダルと一体化していれば意味がなくなる。
もし代理リーダーとなってしまっていたのなら、イカロスはその参加者――メズールの呼称によれば、ディケイド――を、改めて抹殺しなければならない。
(ディケイド……)
確か、フェイリスが口にしていた名前だった。
彼女は今も無事だろうか、などと。不要なはずのことを考えながら、目標地点に自然落下より速く着地したイカロスの前に立つのは、赤紫の装甲に身を包んだ戦士だった。
シャドームーンや、写真で確認したオーズとの類似性を感じるその姿――仮面ライダーだと、推定できる。
「メズールを撃破したのは……あなた?」
そうだ、と。イカロスの問いかけに、何を隠すでもなくその仮面ライダー――ディケイドは答えた。
証拠と言わんばかりに、ディケイドは手に持った青いコアメダルを数枚、イカロスに晒す。
どうやら、彼は無陣営のままで――コアメダルとの一体化は、していないらしい。
それなら、攻撃する必要はない。よかったと、そう結論付けようとした時だった。
「そのコアメダル……割れてる?」
「ああ。どうやら壊せるらしい」
ことも無さげに告げるディケイドに対し、イカロスはその事実を重く受け止めた。
何故、オーズを殲滅しなければならないのかを。
「……どうして?」
「あん?」
「どうして、あなたはメズールを倒したの? 自衛の……ため?」
「奴はグリードだぞ。それ以外に理由が要るか?」
ぶっきらぼうなその返答は、イカロスの心に痛みを生んだ。
だけど、これも忘れなければ。無視しなければ、イカロスの願いは叶わなくなる。
だから。痛くても、大丈夫――まだ、やり直せるから。
最後には今からイカロスのすることも、全部をなかったことにできるのだから。
「――仮面ライダーディケイドを、仮面ライダーオーズと同理由による危険因子と判断」
「……そうか」
イカロスの声が硬くなり、さらにそこから紡がれた宣言を聞いて、目前の仮面ライダーも漂わせていた呑気さを掻き消す。
「――だいたいわかった」
次の瞬間には、こちらの目的への理解を示す言葉とともに、ディケイドの闘志が漲り出す。
闘争の予感に、しかし最強のエンジェロイドは何の緊張もせず、気負いもせず。
ただ、一瞬脳裏を掠めた鳥籠の笑顔に、後ろ髪を引かれるような躊躇いを感じながらも、今だけは振り切って。
「……殲滅します」
宣告とともに、イカロスがその身に備えた兵装を解放し――その轟きが世界の破壊者と、『空の女王(ウラヌス・クイーン)』の激突する合図となった。
653
:
仮投下②
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 13:42:17 ID:0w6QAcqs
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
《――ATTACK RIDE CLOCK UP!!――》
天使――おそらくメズールの言っていたイカロスの翼が輝きを増したと同時、ディケイドもまた予めバックルに差し込んでおいたカードをライドさせ、自身の能力を発動していた。
キャッスルドランを一撃で殺した光景は、ディケイドも直接目の当たりにした上で、さすがに戦慄を覚えていた。コンプリートフォームが使えるならともかく、全ての仮面ライダーを破壊する激情態をしても、たった一撃でキャッスルドランを殺すことなど困難を極める。ましてや、あれほどの火力はとても捻出できない。
その上で、超音速の飛行能力。もしも敵であるなら、かつてないレベルの脅威であると予想できた。
万が一に備え、最も汎用性に富む強力なカードを予めバックルにセットし、最終工程を除いて使用準備を完了していたが――懸念は杞憂に終わらず、闘争の火蓋は切って落とされた。
イカロスからの先制攻撃として四枚の白翼から放たれた光の弾丸が、クロックアップの発動を合図にして大幅に動きを鈍らせ、表面の加工まで悠然と確認できる円筒となる。
だがそんな、クロックアップによって時間流を隔絶された状態から見てなお、そのミサイルはディケイドの半分近くの速度を叩き出していた。
「マジかよ」
驚きながら、バックステップで距離を取りつつ、ディケイドはコアメダルを首輪に叩き込む。その中で割れていたシャチのコアだけは、吸い込まれることなく地に落ちた。
追い縋ってくる追尾ミサイルを、ライドブッカーのガンモードでディケイドは逐次撃墜する。爆風もまた今のディケイドよりは遅く、注意している限り脅威には成り得ない。
そのことを確認する隙に、時間操作への信頼が慢心となったことも手伝って――少しの間、ディケイドは注意が疎かになった。
「――何っ!?」
だから全基撃ち落としてからイカロスが目前まで迫って来ていたことに気づいた時は、心底からの驚愕を味わうこととなった。
通常時のおよそ千倍にまで加速された体感時間の中、クロックアップしているわけでもないイカロスがこれだけの距離を移動しているということ、それ自体が尋常ではない話だった。ミサイルもそうだが、果たしてどれほどのスピード――それを可能とするエネルギーで動いているというのだろうか。
……それでも、まだ倍以上こちらの方が速い。その事実を認識し、右側へ回り込むようにして動いて背後を取ろうとしたディケイドは、三度目の驚愕に打たれた。
何しろイカロスの紅い双眸が、ディケイドの動きを追って来ていたのだから。
あろうことか、体の向きすらディケイドを追い、緩慢ながらも方向転換しようとして来ている。
この敵は、クロックアップにすら付いてくる――しかも、感知可能というレベルの話ではなく、ある程度小回りを効かせて追って来ている。
イカロスはバージョンアップ以前から第一宇宙速度を超える、音速の二十四倍、秒速八キロメートル以上のトップスピードを発揮できていた。
無論、それは充分な加速距離があって初めて叩き出せる最高速ではあるが、その状態で飛行可能ということは、相対的に秒速八キロメートル以上で動く周囲の世界を、対処できる程度の余裕を以て認識できていたことに他ならない。
そこからさらに格段の進化を遂げたバージョンⅡのイカロスならば、クロックアップによって第三宇宙速度以上の移動速度に到達した今のディケイドの挙動にも反応し、ある程度なら追い縋ることすらできるというのは、実のところ決して奇妙な話ではないことだ。奇妙ではないのだが、やはりそのスペックは常軌を逸していると言わざるを得ない。
つまりは彼女は、常時からクロックアップにも迫る戦闘速度を叩き出せるということなのだから。
654
:
仮投下②
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 13:43:18 ID:0w6QAcqs
先程の砲撃からも、出力そのものが桁違いであることをディケイドは理解していた。故に、下手をすれば捕まりかねない接近戦は早々に放棄して、ガンモードのライドブッカーでの遠距離攻撃に主軸を置いた戦闘を開始する。
だがディケイドが発砲した瞬間に、イカロスはその全身を六角形の集合したような球状のシールドに包み込んだ。
そのシールドに触れた途端、ライドブッカーから放たれた光弾が、反射されて戻って来る。
「――っ!」
予想外にも自らの銃撃を肩に受けて、ディケイドは無様に転がった。
ディケイドとイカロスは今、別の時間流の中にいる。だからイージスの反応が微かに狂い、寸分過たずとは行かなかったが――それでもディケイドという的を完全に外れはせず、反射できている。
明らかに狙い澄まされた、カウンターの一撃だった。
(ちっ……牽制で正解だったっていうことか)
これでいきなり必殺技など放っていれば、盛大に自爆するハメになるところだった。何か少し狂っていれば実現したかもしれない恐怖の可能性に、ディケイドは舌打ちする。
幸いイカロスからの追撃はなく、あくまでバリアの中に篭っている状況であることから、ディケイドは撹乱目的に移動を続けながら思考を巡らせる。
このバリアは、有体に言って厄介だ。破る手段がないとは限らないが、失敗のリスクを考えるとあまりに危険過ぎる。
当然、こんな高性能な防御手段には相応のメダル消費が設定されていないはずはないが……クロックアップの持続時間の方が、あのバリアを維持できなくなるよりも前に確実に終わりを告げる。
それなら、と――ディケイドは攻撃を加えず、攪乱のために動き回りながら、状況を打開するためのカードを一枚取り出していた。
ただ、これもまた少しばかり博打であるという不安を、確かに覚えながら。
――速い。
今や加速性能においてもアストレアをも凌いだ、最速のエンジェロイドであるイカロスⅡ。目の前の仮面ライダー・ディケイドが披露したのはそれをさらに大きく上回るスピードと、この世界の物理法則を嘲笑うような加速力だった。
しかしこの敵が高速移動に移行する直前、ディケイドがシナプスのカードにも似た何かのカードをベルトに読み込ませていたことと、レーダーが突如感知した特殊な粒子の反応を見るに、これはディケイドの標準スペックから叩き出される機動性ではなく、一時的に発動できる何らかの特殊能力に依るものだとイカロスは分析していた。
そうであれば、使用に際した時間制限、最悪でも単純なメダル消費のことを考えれば、クロックアップとやらはそう長持ちしない……はずだ、と推測する。
故に、まずは守りを固める。イカロスでも完全に捉えきれないならば、まずは守りきる。そして動きが鈍ったところを、一息に仕留めれば良い。
制限されたレーダーでも、辛うじてこちらの三倍近い速さの敵影を追うことはできていた。その機体を包む粒子の反応が消失した瞬間、捉える。
互いの速度と防御に、双方が攻めあぐねたのは当人達の感覚で言えばともかく。標準時間に直せば、ほんの一秒にも満たない極短時間の膠着でしかなかった。
《――CLOCK OVER――》
それまでにディケイドは、その高速移動状態を終了していた。
「――――――――!」
粒子反応の消失を検知した瞬間、イカロスは可変ウイングを展開し、フルスロットルで飛翔する。
655
:
仮投下②
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 13:44:29 ID:0w6QAcqs
《――ATTACK RIDE――》
こちらからの攻撃も遮ってしまうイージスは解除。自身の展開していた防壁の消失を確認すると同時に、新たなアルテミスを四基発射する。
仮にもう一度あの超加速状態に移られたとしても、最早逃げ場を残すことのないよう、イカロス自身と合わせて包囲し追い詰める。
捉えた、と確信したその瞬間。
《――TIME!!――》
《BIKI!!――》
《KIVA!!――》
――イカロスの認識が、明らかに断絶した。
抜け落ちた時間が確かにあったとしか思えない異常事態に、イカロスは直面する。
ある一瞬にも満たない刹那に、ロックオンしたはずの敵を一瞬、見失った。
それがどこに行ったのかをレーダーが再補足するのに、やはり刹那も要しはしなかった。
だがその刹那を境にイカロスの得た情報は余りにも多く、奇妙なほど唐突だった。
残り少ないセルメダルを惜しまず放ったアルテミスⅡが、全基撃墜され。
レーダーが再補足した敵の反応は瞬間移動したかのように座標が変化し、前方に四つ、左右に一つずつ――全く同一の物が、同時に存在している。
そして、あのベルトから発せられる電子音の残響を拾ったと同時。左右から、未知の力による拘束を受けた。
――いや、片方は完全な未知ではない。あのキャッスルドランが放っていたのと、運用法こそ違うが同種のエネルギーを感知できる。
もう片方は完全に知らぬもの。何かの力を帯びた円盤がイカロスの右脇腹に埋め込まれ、その動きを縛ろうとしていた。
だがその二重の拘束以上に、イカロスをその瞬間止めたのは困惑だった。
「……ジャミングッ!?」
イカロスの前方には、アルテミスを迎撃したと思しき火器を構えたディケイドが、四人、いた。
さらに左右にも、それぞれ異形をした紫の戦槌と、赤い二本の撥を構えたディケイドがそれぞれ、一人ずつ。
……ついでに言えば、本来空高くにある月とは別の朧月が出現していたのだが、そのことにはイカロスの意識が向けられることはなかった。
真っ先に想起されたのは、ニンフが得意とする電子戦による攪乱。
だが違う、とイカロスはその可能性を否定する。
電子戦を仕掛けられれば、例えニンフ相手だってイカロスはそれを感知できる。そのイカロスがバージョンアップしてなお、ハッキングの痕跡すら発見できない。
これはジャミングではなく――この敵が持つ能力で作り出された、実体を持った現実だ。
正体不明ながらも、この拘束によりイージスの展開も、反撃用のアルテミスの発射口すら閉じられていることを認識した瞬間、イカロスはさらに出力を上げる。
二重の拘束は緩くはないが、今のイカロスなら外せないような代物ではない。機体の各所から軋みを上げながらも、マスター以外に施された忌むべき戒めを脱して行く。
656
:
仮投下②
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 13:45:25 ID:0w6QAcqs
《――FINAL ATTACK RIDE DEDEDE DEN-O!!――》
その左目に、投槍の要領で叩き込まれたライドブッカーが突き刺さらなければ、確実にそれには成功していたことだろう。
眼球の貫かれる不快な感触と、伝達された衝撃に頭を跳ね上げた直後。剣は分解されて光の網となり、イカロスの全身をさらに捕縛。動きが鈍った隙に、左のディケイドが持つ稲妻を纏ったハンマーに備えられた魔眼の輝きが一層増す。加え右脇腹の円盤を太鼓のように撥で叩かれて異様な振動(清めの音)を送り込まれ、機体の各所に浸透させられれば、一度は脱しかけた元二つの拘束までも、その効力を一層強固な物とする。
そうして三重となった戒めは、進化した空の女王すら完全に制圧した。
《――FINAL ATTACK RIDE KUKUKU KUUGA!!――》
《――FINAL ATTACK RIDE AAA AGITO!!――》
《――FINAL ATTACK RIDE DEDEDE DECADE!!――》
さらに――拳状の魔鉄槌の指が開かれて行くに従って生じる重い鉄の塊を引きずるような音と、撥が太鼓を叩いて奏でる演奏とが支配していた月夜に、新たな電子音の合唱が加わる。
身動ぎ一つ困難な中、何とか首と右目だけを動かして、視界を音源へと向けてみれば――イカロスに投擲したためにライドブッカーを手放したのを除いた三人のディケイドが、揃って攻撃態勢に入る様子が確認できた。
一人は腰を落として姿勢を低くし、その右足に燃え盛る烈火を携え。
一人は大地に出現した六本角の竜のような紋章の輝きを、その両足に吸い込んで。
残る一人とイカロスの間には、十枚の高密度エネルギーのプレートが展開される。
それぞれの準備が済んだ時、四人のディケイドは揃って高く跳んだ。
同時、右側からイカロスを延々打ち付けていた打撃が止む。
だがそれは、それで終わったというわけではなく――むしろ最後の一撃のための、タメとして生まれた空隙だった。
「――ハァアアッ!!」
まず右側のディケイドが、二本の棒を揃えて太鼓越しにイカロスを殴打し、内部へとダメージを浸透させる。
「――やぁああああああっ!!」
「――フンンンッ!!」
続いて炎を纏ったディケイドの跳び蹴りが正面から着弾したのと、左側面からイカロスを謎の力で拘束していたハンマーが、背中へ向けて打ち込まれたのは全くの同時。先の音撃打で内から蝕まれ、脆くなっていたところに鉄槌を受けた翼が根元からへし折れ、キックを受けたイカロスの左足がボロクズのように千切れ飛ぶ。
ただの打撃でアルテミスのような威力を発揮する猛威はしかし、それだけでは終わらない。
さながら流星群の如く、続々と襲来するディケイドの爪先は続いてイカロスの右肩を捉えた。ハンマーが後方に吹き飛ばされるという逃げ道を塞いでしまっている分、驚異的な破壊力が被弾箇所へと集中し、外殻の耐久値を突破。ディケイドは右腕をもぎ取った勢いのまま、先に一撃を浴びせたディケイド共々流れるようにしてイカロスの背へと抜けて行く。
657
:
仮投下?
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 13:47:55 ID:0w6QAcqs
やはり、これは幻などではなく――実体と攻撃力を併せ持った分身なのだと理解したイカロスの左眼窩を、ライドブッカーの辿った軌跡をなぞるようにして飛来した次のディケイドの踵が粉砕し、通り過ぎる。
着弾のたびに機体の一部と大量のセルメダルを撒き散らしながら、顔を砕かれた余波でハンマーの拘束を外れ吹き飛ばされるイカロスが、最後にその目に焼き付けたのは。獲物の移動に合わせ際限なく追加される輝きで視野を圧す、十枚を遥かに超えたエネルギーゲートを潜り抜けた最後のディケイドの蹴り足が、自身の胴へと過たずに吸い込まれる瞬間だった。
衝撃とともに、徹底的なまでに破壊されたイカロスはほぼ全てのメダルを放出し、痩身をくの字に曲げて吹っ飛んで行く。
六人並んだ悪魔に見下ろされながら、蹂躙された天使は地を滑り、理解の追いつくよりも先に瓦礫の山に抱き止められた。
――何が起きたのか。
何をされたのか。
クロックアップとは異なるアプローチでの、時間への干渉。耐久値以外、オリジナルと同スペックの分身の複数召喚。
そうして単純に増えた手数からの、時間停止中に成功した多重の拘束を含む一斉攻撃。
そんな反則地味た特殊能力の重ね合わせなど、初見で理解しきれるはずがない。
ただイカロスは、最強を誇った『空の女王』は、自身が敗北したという事実だけを理解し――そんな現実を、受け入れられずにいた。
「ぃ……ゃ……」
まともな発声すら、満足にできやしない。
視界の片方は潰れたまま、それでもシナプスよりもずっと開けた空へと、イカロスは残った左手を伸ばす。
まだ届くはずだった。遠くへ、二度と会えない場所へ行ってしまったあの人に――最愛の、桜井智樹(マスター)に。
ニンフとも仲直りできたはずだった。そはらやアストレアと一緒に、帰ることができたはずだった。
ただ、最強の兵器としての力で、全ての敵を倒せば良かっただけなのに。
こんな、こんなすぐに……こんなにも呆気なく。もう、届かなくなるなんて。
(マス……ター…………)
星の煌きを捕まえるようにして閉じられた掌に、しかし掴めた物は何もなく。
その手が地べたに投げ捨てられたと同時に、右目に残っていた赤い輝きも、瞬かずに消え失せた。
戦略エンジェロイド・タイプα「Ikaros」――大破。
658
:
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 13:55:58 ID:0w6QAcqs
>>648
はミスによる多重投稿です、申し訳ありません。
以上で今回の仮投下分を終了します。
今の時点で審議を仰いで良いのかは悩ましいところですが、この時点で仮投下を通すべきと判断したのは、
・キャッスルドランが自立行動している
・ディケイドがコアメダルを破壊可能
・主役ライダーの能力のため確実に有していると考えられるものの、本編中での使用がなかったカードの使用
以上の三点となります。
一点目については既に拙作「時差!!」でキャッスルドランが眠っているという描写が通っているのですが、念のため
二点目は文中で触れているように、アンデッドを破壊者として爆殺できるなら、同じ平成ライダーシリーズであるオーズのコアメダルも破壊しても大丈夫ではないかと考えたのですが、独断で通せる内容とは思えなかったため、
三点面についてはブレイド由来のアタックライド・タイム以外はあくまで念のため、という形ですが、他のロワでも使用されていましたがタイムスカラベ使用は大丈夫なのか不安なので仮投下しました
659
:
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 13:57:34 ID:0w6QAcqs
すいません、またミスで今度は途中送信を……
全体を投下してから判断を仰ぐべきかとは思いますが、その後からでも構わないのでご意見考えて頂けていれば幸いです
660
:
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 21:59:43 ID:0w6QAcqs
時間ができたので、残りの部分を仮投下させて頂きます。
661
:
仮投下③
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:01:27 ID:/CxA9zxQ
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
要した時間だけで言えば、ディケイドがイカロス相手に繰り広げたのは紛れもない秒殺劇だった。
だが紙一重の攻防だったと、賭けに勝ったことにディケイドは胸を撫で下ろしていた。
あのバリアを張ってからというもの、こちらから手が出ない代わりにイカロスも攻撃して来なかった。そこでディケイドはバリアは内外の双方に作用している――つまり、攻撃時には解除する必要がある類の防御であると推測し、クロックアップ中に攻勢を仕掛けず、クロックオーバー直後の隙を敢えて晒すことで、イカロスにバリアの解除を促したのだ。
当然、クロックアップ状態での攻撃に対し、カウンターで展開できるようなバリアを張らせないという早打ちでイカロスを仕留めるのは、本来のディケイドには不可能だ。
だがカメンライドなしで他の仮面ライダーの能力を使える激情態ならば、一気に仕留める態勢に持っていくことができる。
もし、こちらの能力発動よりイカロスが早ければ。あるいは読みが外れ、バリアを解除されなければ。おそらくは逃げる隙すら与えられないままディケイドの敗北していただろうが、結果としてアタックライド・タイムの発動は、紙一重の差でイカロスに先んじた。
如何にイカロスの反応性がクロックアップした者に追いつくほど優れているとしても、存在する世界の時間ごと停止させられてしまっては対処できる道理はない。無防備のままで固定してしまえば、ディケイドの勝利は確定したも同然だった。
もっとも、時間が停止した存在には、時を止めた張本人からの干渉も無効であるため、解除後には別の物理的な拘束が必要となった。凍りついた時の中で、解除と同時に即発動できるよう準備したドッガハンマーと音撃鼓による二重拘束が破られそうになった時には心底肝が冷えたが、それでも最終的に勝ちは拾った。
その後の様子を見守るが、メダルの枯渇のせいか衣を変えたイカロスは天に伸ばした手を落としたっきり、動く様子がなくなった。撃破したと見て良い、だろう。
「……使用済み、か」
イリュージョンを解除し、イカロスの吐き出していった色のない二枚のコアメダルを拾い上げたディケイドは、そう嘆息した。
そのコアメダル二枚分の余力があったと思われるイカロスから得たセルメダルは、実際のところ三十枚を下回っていた。向こうも勝負を焦っていたのかもしれない。
そういうこちらも、タイムからの一連の行動だけで百枚以上セルメダルを消費していた。グリード二体と、何故かコアメダルを三枚も有していた伊達を破壊した後だったから良かったものの、それ以前に遭遇していればと考えるだけでゾッとする。
ディケイドはそう思いつつもさらにイカロスへ一歩近づき、オーメダルや己の部品以外にもう一つ、イカロスの落とした物を回収する。
「このカードは……」
アタックライド・テレビクン。
以前迷い込んだ世界で一度だけ手にしたことのある、ディケイド専用のライダーカードだ。
あの時は効果も知らないままとりあえず使ってみたが、その火力はディケイドの扱える全カードの中でも疑う余地なく最強の一枚。
失われていたと思っていたが、まさかこんなところで支給品として配られているとは想像もしていなかった。
思わぬ拾い物に意識を奪われるのも数秒。改めて悪魔は、自身の粉砕した天使に目をやる。
手足が吹き飛び、翼は折れ、顔の半分ごと左目を喪失し、胴に大穴が空いている。
明らかな致命傷。最早彼女にはピクリとも動く気配は残されていない。
それでもイカロスはまだ、爆散せずに原型を留めてはいた。
「……念には念を入れておくか」
仮に生きているとしても、おそらく余力は先のメズール程にも残っていないだろうし、放置してもすぐ事切れるかもしれない。それでも用心するべきかと、ディケイドはテレビクンを収納したライドブッカーをガンモードに変形させる。
「――士っ!」
叱責するような声が追いかけて来たのは、ちょうどその時だった。
「……ラウラか」
若干の後ろめたさを覚えながらも、ディケイドは振り返る。
ちょうど、抱えていたフェイリスを下ろしたラウラが、シュヴァルツェア・レーゲンを纏ったまま怒りの声を上げるところだった。
662
:
仮投下③
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:02:44 ID:0w6QAcqs
互いに闘志はない。敵意もない。――今は、まだ。
それでも武装解除しないままに、共闘し絆を結んだはずの二人は向かい合っていた。
「……正直に聞かせろ」
未だ害意はなくとも、怒気は滲ませたラウラが詰問する。
「さっきおまえが襲っていた、仮面ライダーはどうした?」
「ああ、悪いな。そいつならもう破壊した」
軽い調子での返答に、ラウラの憤怒は一層膨れ上がった。
「ふざけるな! 確かにおまえを信用すると言った! だがあの仮面ライダーは明らかに人を庇おうとしていたんだぞ!?」
「ああ。そりゃそうだろ。人類の自由と平和を守る――それが仮面ライダーの使命だからな」
「なら、どうして……!?」
理解できない、と言った様子のラウラに、士は変身したままで良かったと無意識に感じながら、答える。
「言ったはずだ。俺は破壊者……おまえの仲間になるような奴らも敵に回すことになる。
全ての仮面ライダーを破壊することが、俺の……仮面ライダーディケイドの使命だからな」
「――ふざけるなぁああっ!」
絞り出すような怒声は、少女二人のどちらが発した物でもなかった。
「何が使命だ! 貴様が伊達さんを殺したことの、何が人類の自由と平和に繋がると言うんだっ!?」
声の主は、重傷の身を引きずるようにして近づいてきたバーナビー。
外聞もなく泣き腫らした跡を隠しもしない美丈夫は、壊れたプロトバースドライバーを握り締めながら、さらにディケイドの罪を糾弾する。
「貴様は仮面ライダーなんかじゃない。ただの人殺しだ……っ!」
「……そうかもな」
「僕は、タイガー&バーナビーのバーナビー……ワイルドタイガーの相棒の、ヒーローだ。
ヒーローは悪人を絶対に許さない。貴様が何をしようとしているのか知らないが、これ以上の殺人は一切許さない! 誰も殺さないし誰も殺させない! その上で貴様を逮捕して、法で裁く……っ!」
聞き覚えのあるフレーズは、怒りに震えると同時、まるで何かに縋るようで。
外傷以上に痛ましい姿のまま突撃しようとするバーナビーだったが、ラウラに動きを制されて足を止める。
まるでディケイドからバーナビーを庇うように立つ、彼女の姿を目にした瞬間。何がそれほどまでに衝撃的だったのか、愕然とした表情を浮かべた彼に一蔑もくれないまま、ラウラはディケイドと対峙する。
しかし未だに敵意はないまま。それどころか怒りさえ、鳴りを潜め始めている。
ただ、微かな煩悶を刻んだ表情で、少女はディケイドを見つめていた。
「……アルニャン?」
それでも決心したように、ラウラが口火を切ろうとした瞬間だった。
それまで周囲の剣幕を前に、一人状況理解が追い付いていなかったこともあって所在なさげに黙っていたフェイリスが、ディケイドの背後に何かを見つけていた。
「酷い怪我ニャっ!」
「――っ、待てフェイリス!」
「ゆ、許してくれ……っ!!」
飛び出したフェイリスを呼び止めようとしたラウラに、突如許しを請うたバーナビーが崩れ落ちた。
必然、そちらに注意を逸らされたラウラの制止を逃れたフェイリスが向かってくるのを、それ以上イカロスに近づけまいとディケイドはその身で遮った。
663
:
仮投下③
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:03:31 ID:0w6QAcqs
「ツカニャン離すにゃ!」
「断る。危ないだろおまえ……色々と」
「関係ないニャ! アルニャンが大怪我してるニャ! 仲間だったフェイリスには、放っておけないニャ!」
「アルニャンって……名前全然違うだろうが」
フェイリスの出会った参加者の中に、アルニャンと呼ばれる天使の姿をした少女がいるらしいことは聞いていたが、どうやら彼女がそうであったようだ。
では、イカロスとは他の誰かの名前だろうかと考えたが、アルファーという名が名簿になかったことから、門矢士にとっての仮面ライダーディケイドと同じように、アルファーという呼称こそイカロスの別称なのだろうと結論付けつつ、続ける。
「悪いが、あいつを助けさせるわけにはいかない。あいつは乗っていたからな」
泣き崩れているバーナビーとラウラの様子を確認したディケイドはさらに、イカロスを振り返り――ここまで痙攣の一つもなかったことを確認して、続ける。
「それにもう……とっくに死んでいる」
諦めさせるための言葉を告げ、引き止める理由がなくなったと手放すと同時、フェイリスは悟ったようにこちらの顔を、仮面越しに伺ってきた。
「ツカニャンが……アルニャンを殺したニャ?」
「……そうだ」
一瞬だけ、言葉に詰まった。
「おまえの仲間だった奴を破壊したのは、俺だ」
衝撃にフェイリスの瞳が開かれるのを、抱き合うような至近距離でディケイドも目撃する。
最早こうなっては決別することは承知の上だったが、それでも一度は共に戦った仲間である少女を傷つけるような言葉を吐かねばならないことに躊躇を覚えた事実に、とことん自身の甘さを思い知らされる。
疾うに捨てたと思っていたのに、九つの世界を巡っていた時のようにこうなってしまったのはきっと、ここに呼ばれてから一番最初に遭遇したのが彼だったせいなのだろうが……
「……まぁ、ある意味では俺も乗っているようなものか」
改めて、わかった。
バーナビーの激昂を叩きつけられては、嫌でも悟らざるを得なくなる。
呆然とした様子のフェイリスから離れた隙に、ディケイドは伊達とイカロスの落とした使用済みのコアメダルを三枚、首輪から排出させる。
「ラウラ!」
泣き崩れるばかりで話をしようともしないバーナビーを前に困惑しており、投げ渡したそれに不意を衝かれながらもラウラは何とか掴み取る。
全てのコアメダルを明け渡すことは、この先の戦いを考えればできない相談ではあったが、現在使用済みのコアメダル程度の枚数ならラウラに渡しても支障はないはずだろう。
「……どういうつもりだ」
「手切れ金だ。受け取っておけ」
ラウラ達はユリコとは違う。自分は彼女達の傍に、いるべきではない。
最も多くの参加者を救える可能性があるのが、ラウラ達の選んだ道だ。なのにそこに賛同する人間を減らす自分はいない方が良い。
決別を告げられた際、ラウラが浮かべただろう表情はわざと視界に収めず、そのままディケイドは横たわったままのイカロスの残骸へと歩を進める。
思えばラウラ達と行動を共にしたのには、ただ目的達成のための効率を求めただけではなく。ユリコと一緒に居たのと同じで、士自身が孤独に耐え切れなかったのが何より大きい。
そうして仮初とは言え、仲間と共にいるという心地の良さに甘えて長居をし過ぎ、結果余計に傷つける羽目になった。
そんな甘さは、ここで完全に捨ててしまう。その第一歩として、あの天使の死体を完全に破壊する。
「……させられないニャ」
そんなディケイドの背に掛けられたのは、固い決意を秘めた声。
「アルニャンをこれ以上傷つけるのも、これ以上ツカニャンが悪者みたいになるのも、フェイリスは仲間として見過ごせないのニャ!」
――こちらの気持ちなど、知りもしないくせに。
デンオウベルトを構えたフェイリスが、ディケイドの前に立ち塞がろうとしていた。
664
:
仮投下③
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:04:38 ID:0w6QAcqs
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
――逃げなくては。
園咲冴子は深手を負った身体を、そんな思いで動かしていた。
実のところキャッスルドランが起きてすぐの攻撃で、あっさり吹っ飛ばされてしまっていた冴子だったが、気を失ったりしていたわけではなく、事の顛末を見守っていた。
とはいえ、流れ弾が掠めただけで既にダメージを蓄積していたナスカの変身は解除され、挙句メモリはブレイクされてしまっていた。
キャッスルドランの攻撃力は、その巨体に見合った凄まじいものだった。
そのキャッスルドランを問題とせず葬ったイカロスはやはり規格外だったが、プロトバースとメズールをまるで寄せ付けず、イカロスさえも秒殺したディケイドはさらに危険だ。万が一にも敵対すれば、おそらく冴子に生存の目はない。
何を考えているのかわからないが、明確に『仮面ライダー』と『殺し合いに乗った者』を殺すと口にしていた。後にメズールだけでなくイカロスまでああも手酷く殺害したことから、その言葉に嘘はない仮借のなさを伺うことができた。
であれば、冴子が乗っていることを寸前まで敵対していたバーナビーとやらに告げられてしまわぬように……気づかれる前に、この場を離れなくては。
「……屈辱、ね」
言い逃れようのない敗走の体に、冴子は歯軋りする。
だが冴子は、矜持を貫くためには結果が必要であり、そのために手段を選んではいられないと考えている。
それでも井坂を亡くした時と同じ以上の先行きの暗さが、冴子の足を遅らせていた。
「せめて、これを使うべきかしら……?」
意識を向けるのはデイパックの中。冴子の初期支給品だったスパイダーメモリ。
ドーパント化すれば、今よりは体も楽になる。何より単純に、いざという時咄嗟に戦える力を確保できているのとそうでないのとでは雲泥の差が生じる――それがゴールドメモリとは比べるべくもない、旧式の量産型だとしても。
ないよりはマシ、贅沢は言っていられない……正直言って生身のままでは、ここから無事に逃げ果せるのかすら怪しいのだから。
そんな風に、使用へと思考を傾けかけていたその時だった。
冴子が自身の足元に、黄色のメモリを発見したのは。
「これは……」
一見すると、Wが使うのに酷似したガイアメモリ。
しかしそこに刻印されたアルファベットは、N。色もまた、つい先程ブレイクされたあのメモリと非常に似通っている。
《――NASCA!!――》
導かれるようにそれを手に取り、ボタンを押してみれば。それは予感通りのガイアウィスパーを奏で、一人でに冴子の体内へと侵入して来た。
そして空色の騎士に変化した肉体は、さらに夕焼け色へと染まり――Rナスカ・ドーパントへと、冴子は再びの変身を果たしていた。
T2ガイアメモリには、自らを適性の高い運命の人物へ導く能力がある。
アポロガイストのデイパックから抜け出し、加頭順を介してイカロスとの交戦に至ったナスカメモリもまた、その後イカロスが冴子の近くに行く未来を予感し、彼女とシャドームーンの死闘の後、カザリによって運ばれるその翼の中に潜り込んでいた。
そして後は、機を見てその中から離脱し、冴子の近くへと舞い降りていたのだ。
そんな旅路を知る由もない冴子であったが、失われたはずの力が更なる質を以て自身に充満するのを感じ取り、落ち込んでいた気持ちが多少は晴れ渡るのを実感していた。
「――まだ、ツキに見放されたわけじゃないわね」
665
:
仮投下③
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:05:47 ID:0w6QAcqs
体力こそ消耗したが、それさえ回復すれば冴子自身の能力は更なる増大を見せている。飛行能力を使えば、あれほど億劫に感じた逃走も捗るだろう。
ついでに散々苛立たせてくれたバーナビー達をこの勢いのまま殺害できれば実に爽快だろうが、それでもさすがにディケイドと今敵対するような真似は自殺行為とわからなくなるほどにはトリップしていなかった。
故に憂鬱を脱した高揚を抑え、平静さを取り戻す。
「あら」
そうして過不足ない視野を取り戻した結果、偶然にも自身の近くに二振りの魔剣が転がっていることに気づいた。
ザンバットソードと、サタンサーベル。それぞれアルテミスとプロトバースが爆発した際に所有者の手から飛ばされていたものだが、まさか揃って放置されていたとは驚きだ。
どちらもナスカブレードを凌ぐ業物。使う使わないはともかく、他人に回収されるよりは手元に置いておきたい。ディケイド達がまだ言い争いに夢中な間に頂いておくとしよう。
どちらかといえば損失の方が大きいが、それでもまだ、冴子の運気が尽きたわけでもないようだ。
そう――諦めるのはまだ、早い。
(井坂先生……)
彼との再会――そして二人で築く、未来と栄光は。
夢想しながら茜色の翼を拡げ、Rナスカは戦場からの離脱を図る。その夢をいつか、現実の物とするために。
偶然にも――飛び立ったその先で、愛しい彼が戦っている最中だなどということを、今はまだ知らないままで。
――しかしその飛翔は、誰にも気づかれなかったというわけではなかった。
ユーリ・ペトロフ――ルナティックは冴子と違い、至近距離でのアルテミスⅡの炸裂によって昏倒していた。
肉体の耐久性はあくまで人間の域を出ず、スポンサーの付いたヒーローに支給される高性能スーツではなく、あくまでユーリお手製のコスチュームでは優れた防御力を期待できるはずもない。撃墜された後にまで一命を取り留めたこと自体が、彼の掴み取った奇跡に近い幸運だと言えた。
そんな状態から意識を回復したとしても、正気に帰るとまでは言えず。重傷の身を衝き動かすに足りる情念よりも、押さえ込んでいたはずの異なる感情が噴き出して、深刻なダメージで視界の霞む彼の状況理解を一層妨げていた。
(鹿目まどかは……死んだのか)
つい先程は、意に止めず流すことに成功したその事実。
悲しむべき犠牲であると同時、ルナティックの正義を証明する何よりの根拠だと、悪を裁く力に変えたはずの少女の死。
だがこの胸に喪失感が生じたのは、甘かろうとも心優しい少女の死を悼む心からだけでも、彼女が愚かであろうと救うことができなかった無力感からだけでもなかった。
この胸にぽっかりと空いた穴を生んだのは――そう。
失望、だ。
666
:
仮投下③
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:07:12 ID:0w6QAcqs
(馬鹿な……)
いったい自分は、何を望んでいたというのか。鹿目まどかに、火野映司に、鏑木・T・虎徹に。
自身の正当性を、彼らに見せつけに来たのではなかったのか。それが叶わず、彼女に己が過ちを認めさせることができなかったからか?
混乱する思考を表すかのように、未だ焦点の合わない視界の中に、突如として朱が差し込む。
――まただ。
また、あの男だ。
こちらが目を回し、それに釣られて思考が混乱しているのを良いことに、信義までもを揺さぶろうと姿を現す。
「……いつまで続けるつもりなんだ、あんたは」
その言葉は、誰に向けて吐いたものか。
……関係ない。『パパ』の幻影など。鹿目まどかの死に感じた失望など。
悪い奴らは裁かれるべきだ。例え積極的には人を害していなかったのだろうと、殺し合いの始まりを止めようとしなかったあのグリードも、それに与したまどかも同罪であり、その死は当然の報いでしかない。火野やワイルドタイガーが彼女を救えなかったのもまた、その偽善が辿り着くべき当然の帰結に過ぎない。
綺麗事が実現しなかったことに、何の失望も感じる必要はない――悪を裁き無辜の人々を救えるのは、ルナティックの掲げる正義だけなのだから。
私は何も、間違ってなどいやしない。
そうしてつい先程終えたばかりの正当化のプロセスをまた、ユーリはルナティックとして完了し、忌まわしき幻を霧散させる。
ユーリの記憶で、誰より誇らしい正義の味方として輝いていたその姿を、知らず知らずに投影していた者達の敗北への失望も、その事実に目を背けたままに蓋をする。
未だ視力は完全回復とは行かないが、ほんの一分前と比べてもかなり快方に向かっている。この調子ならば問題ないはずだ。
むしろ、聴力の方が不全であることに気づいたのは今になってのことで、さらに起き上がった時にようやく痛みを覚える。
肋骨に罅が入っているようだと分析しながら、近場に投げ出されていた愛用のボウガンを拾う際、視界の隅を黄昏色の影が横切ったのを、ルナティックは確かに目撃した。
「……逃がさん」
気絶する直前まで戦っていた、明確に殺し合いに乗った悪――Rナスカ・ドーパントの飛翔する姿を見て、ルナティックは呟きと共に浮遊する。
他に大きく動く気配はない。他に逃さずに済む者がいないというなら、このルナティックの手でわからせてやらねばなるまい。
何人も、己の犯した罪からは逃げられないのだということを。
向かった方角はほぼ同じ。おそらくは彼らを狙うナスカの向かう先にいるのだろう、ワイルドタイガーに連れられたあの少女にもまた、遭遇次第裁きを下す。
使命感という炎に燃えるまま、正義の処刑人は――裁きを下すべき悪魔との接近に今は気づくことがないまま、遠くない未来に罪を犯すだろう怪人の追跡を開始した。
【一日目 真夜中】
【C-5 平地】
【ユーリ・ペトロフ@TIGER&BUNNY】
【所属】無(元・緑陣営)
【状態】ダメージ(極大)、肋骨数本骨折、疲労(大)、怒り、微かな寂しさ、一時的な視力聴力低下、混乱中、Rナスカを追って飛行中
【首輪】45枚:0枚
【コア】チーター(放送まで使用不能)
【装備】ルナティックの装備一式@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:タナトスの声により、罪深き者に正義の裁きを下す。
(訳:人を殺めた者は殺す。最終的には真木も殺す)
1.罪人(冴子)を追い、相応しき裁きを下す。
2.火野映司の正義を見極める。チーターコアはその時まで保留。
3.だが彼はまどか達を守りきれなかった……?
3.人前で堂々とNEXT能力は使わない。既に正体を知られたことへの対応はまだ保留。
4.グリード達と仮面ライダーディケイド、カオスは必ず裁く。
【備考】
※仮面ライダーオーズが暴走したのは、主催者達が何らかの仕掛けを紫のメダルに施したからと考えています。
※参戦時期は少なくともジェイク死亡後からです。
※巴マミが生きていることを知りません。
※気絶していたため、キャッスルドランでのイカロス襲来以後の出来事を把握していません。
※ナスカが自分達の防衛線を突破して、映司達の追撃に向かっていると考えています。
667
:
仮投下③
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:09:40 ID:0w6QAcqs
【園咲冴子@仮面ライダーW】
【所属】黄
【状態】ダメージ(大)、疲労(中)、ディケイドへの恐怖心、Rナスカに変身中、飛行中
【首輪】60枚:0枚
【装備】T2ナスカメモリ@仮面ライダーW、魔皇剣ザンバットソード@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品一式、スパイダーメモリ+簡易型L.C.O.G@仮面ライダーW、メモリーメモリ@仮面ライダーW、IBN5100@Steins;Gate、夏海の特製クッキー@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:リーダーとして自陣営を優勝させる。
0.今は撤退する。
1.黄陣営のリーダーを見つけ出して殺害し、自分がリーダーに成り代わる。
2.しかし、そのためにはどうすれば良いのか……?
3.井坂と合流し、自分の陣営に所属させる。
4.後藤慎太郎の前では弱者の皮を被り、上手く利用するべきではなかった。
【備考】
※本編第40話終了後からの参戦です。
※ナスカメモリはレベル3まで発動可能になっています。
※T2ナスカメモリは園咲冴子にとっての運命のガイアメモリです。副作用はありません。
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
「……本気か?」
「本気ニャ」
ベルトを巻きつけ、いつでも変身に移れる態勢のフェイリスを相手に、ディケイドは驚愕を隠せずにいた。
「イマジンの皆は言ってくれたニャ。フェイリスが守りたいって思った時が、戦うべき時ニャんだって。
フェイリスは今、思うのニャ。例えツカニャンと戦うことになっても、大切な仲間を皆、守りたいって!」
その瞳に灯る意志は揺るがない。
ラウラならともかく。いくらアルニャンことイカロスを破壊したとは言え、まさかフェイリスが。そんな動揺を隠せないままにディケイドは続ける。
「――そいつは乗っていたんだぞ?」
「それでもニャ!」
フェイリスは全力で、語尾こそふざけていようが、本気で叫んでいた。
「それでもアルニャンは、ベーニャンと一緒にフェイリスの傍に居てくれたニャ!
何の役にも立たないフェイリスの傍に、何の見返りも期待しないで一緒に居てくれたニャ! ラボメンの皆みたいに!」
ラボメン――元の世界での、フェイリスのかけがえのない仲間達。
そんな仲間と重ねるほどに、彼女はイカロスを大切に思っていたというのか。
「勘違いしてベーニャンを撃った後でも、例え殺し合いに乗った後でも! フェイリスのことを殺さなかった、守ってくれたニャ!
そんなアルニャンがこれ以上傷つくところなんて、見たくないのニャ!」
ふーっ、と。猫のように威嚇してくるフェイリスに、ディケイドはどう対応したものか考えあぐねる。
「それに……ツカニャンだって大事な仲間ニャ」
「……おまえ達とのチームは、ついさっき解消したつもりだったんだがな」
「関係ないニャ! 一度仲間として運命を共にした以上、フェイリス達の魂はずっと絆で繋がっているのニャ!
虫頭からラウニャンを助けてくれて……フェイリスの代わりに、アルニャンを止めてくれたツカニャンが、これ以上無理をして罪に手を染めるのなんて見たくないのニャ!」
「わかったような口を……」
「わかるニャ! ツカニャンは無理してるニャ! そんな苦しそうなの、黙って見ていられないニャ!」
ディケイドの反論を、フェイリスは勢いのまま封じ込む。まるで仮面に隠されたその表情を、見て取っているかのように。
「……乗ってしまっていたアルニャンをツカニャンが倒して止めたというのは、とってもとっても悲しいけれど、仕方のないことなのニャ。
本当はフェイリスがやらなくちゃいけないことだったけれど、それがフェイリスにはできなかったのニャ。
そのことを責めるつもりはないニャ……でももう死んでいるアルニャンをこれ以上、撃ったりする必要はないはずニャ! それは、ツカニャンが自分を追い詰めるためにしようとしているだけニャ!」
668
:
仮投下③
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:10:17 ID:0w6QAcqs
……こちらの気持ちも知らないくせに、と言ったのは訂正する。
だがわかっているなら、黙っていてくれというディケイドの密かな気持ちを知る由もなく、フェイリスは続けた。
「どうしてツカニャンが破壊者なんてやらなくちゃいけないのか、フェイリスにはわからないのニャ。
だけどツカニャンは、自分でも悪いと思っていることができるほど強い人間じゃないのニャ。だからきっと、その使命を何も知らないフェイリスが止めるべきじゃないとは思うニャ。
それでも今フェイリスが止めようとしていることは、その使命には関係ないはずなのニャ」
フェイリスの続ける言葉に、ディケイドはいよいよ何も言い返せない。
伊達に続いて、フェイリスにまで見透かされているという事実に、ただ沈黙することしかできないのだ。
「……だからお願いなのニャ、ツカニャン。アルニャンをこれ以上傷つけるのは、やめて欲しいニャ。
それで、できればフェイリスに……友達との、アルニャンとのお別れをさせて欲しいのニャ」
縋るような訴えと、それを退けられたならば、戦ってでも望みを叶えようとする強い覚悟が見て取れる。
……おそらくあのイマジン達のことだ。今のフェイリスになら、喜んで力を貸そうとすることだろう。
対イカロスのために強力なカードを消費した状態で、さらに死体蹴りだけのためにクライマックスフォームのある電王と戦い、消耗するような事態は避けたい。
「……好きにしろ」
こうする方が合理的だと。自分にそう言い聞かせ、ディケイドは矛を収めることとした。
「……ありがとう、ツカニャン」
感謝の気持ちに表情を輝かせ、イカロスへと向かって行ったフェイリスを無視して、デイパックの中に入れておいたライドベンダーを取り出し、セルメダルを一枚用意する。
長居は無用だ。今は素顔を晒したくないという理由で変身は解かないが、いつまでも維持し続けていては無意味なメダル消費も大きくなって来る。
「待て……っ!」
バイクモードへ変形させたのを見て、ディケイドを呼び止めたのはラウラだった。
「何を勝手に行こうとしている! 私はまだ納得していない。おまえが間違っていると感じたなら私が止める、そう言ったはずだ……っ!」
「……そうだったな」
しかしディケイドはラウラを振り返らず、突き放す言葉を選択する。
「何なら俺で練習しておくか? いつか、グリードじゃないリーダーを殺さなくちゃいけない時のために」
「――ッ!」
「もっとも、仕掛けてくるなら俺も黙ってやられたりはしないがな」
息を詰まらせるラウラに、さらに挑発を重ねる。
意地が悪いとは自分でも思う。だがここで止まるようでは、ラウラの目指す勝利は絵空事で終わってしまう。
ディケイド自身、ここで終わるつもりはないが。最終的に失われるものが異なるとはいえ、自身の達成しなければならない使命と似通った罪を背負おうとしているラウラにもう一度、その覚悟を問い質さなければならないと感じていた。
必要があるなら、手を汚せるか。一度は仲間と思った相手でも、殺すことができるのか。
それができないなら――咎を背負うのは自分だけで良い。これ以上、彼女達に戦いを強要しない。
自分一人でこの殺し合いを破壊して、ラウラ達を解放するための手段を模索すれば良いと。決して言葉にはしないが、無意味に傷つけた贖罪として、そう静かに決意していた。
669
:
仮投下③
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:10:58 ID:0w6QAcqs
果たしてディケイドの見守る中、ラウラがおずおずと口を開く。
「わた、しは……」
「……これはどういう状況だ?」
今更になって全く新しい人物が現れたのは、ラウラの言い淀んだその瞬間だった。
何者かと一瞬警戒したが、姿を見せた相手は特に誰かへの害意も感じられない、一人の若い男だ。
「……誰だ」
ディケイドの誰何に、足を止めた男は一先ず争いの終わった状況であることを悟ったらしく、手にした銃を向けることもなく素直に答えた。
「俺は後藤慎太郎。殺し合いには乗っていない……ワイルドタイガーや、火野映司と言った男を知らないか? この近くで戦闘に巻き込まれていたはずだったんだが……」
「ワイルドタイガー?」
火野映司という名前には覚えがない。だが開幕の場で真木に啖呵を切っていたその男の名は、ディケイドもよく記憶している。
「俺が来た時には見当たらなかったな。そこにいる奴にでも聞いたらどうだ?」
「……いや、そいつが言っているのは私のことじゃない」
後藤に目を向けられたラウラが弱々しく首を振り、自身よりも後藤に近いはずのバーナビーを指し示すように見下ろして、言う。
「我々が来た時点で居たのはこの男ぐらいだが……先程からこんな調子でな」
未だ、何かに打ちのめされたように黙り込むバーナビーに、同じように打ちのめされた様子のラウラはそれでも気丈さを装い、告げる。
「許してくれと言われても、何のことだかわからん以上は何とも言えん。それにこの後藤という男の質問にも答えてやってくれないか?」
促されて、嗚咽を詰まらせたバーナビーは……震えながらも、ようやく意味のある言葉を吐き出した。
「……僕は、僕じゃ虎徹さんには釣り合わない」
悲嘆の滲んだ声で、いきなり何を言い出すのかとその場の誰もが思っただろう。
「僕は守れなかった……伊達さんも、鈴音ちゃんも、誰も……っ!」
「――――――何?」
バーナビーの告白の意味を、ディケイドとラウラが理解したのと同時。
「アルニャ……ン?」
ずぶりという、酷く容易く肉を裂く音と共に。
溺れるようなフェイリスの声と、大量のメダルが溢れ吸い込まれるのが聞こえて来た。
「――っ!?」
まさか。そんな拭い難い戦慄と共に、ディケイドは振り返った。
「……モード・『空の女王(ウラヌス・クイーン)』」
ラウラ、後藤、バーナビーと、他にばかり注意を回していたその隙に。
ディケイドは己が、取り返しのつかない過ちを犯した事実を悟る。
血に塗れた左手が、フェイリスの胸を貫いている様を、ディケイドは確かに目撃した。
「バージョンⅡ――再起動」
そして――悪魔の甘さを断罪する天使の冷徹な宣誓が、その瞬間完了した。
「……ッ、フェイリスゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!」
絶叫は、視野を圧す輝きによって掻き消された。
670
:
仮投下④
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:12:31 ID:0w6QAcqs
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
何も見えなかった。
何も聞こえなかった。
それほどまでに、イカロスの機体は破壊されていた。
自己修復は、機能していない。シャドームーンから受けたよりも遥かに甚大なダメージは、それを成すために必要なイカロスのメダルを根刮ぎ奪い去っていた。
(マスター……)
辛うじて、可変ウィングコアは健在で――意識だけは残っている。
だがそれも、いつまで持続するのかわからない。
(まだ、死ねない……死にたく、ない……!)
ここで死んだら、もうニンフと仲直りできなくなる。
もうマスターと、会えなくなってしまう。
まだ優勝して、真木を倒して、その技術を手に入れれば――全部に手が、届くのに。
手が届く可能性が、どんなに極少でも存在する限り――イカロスの抱く欲望と言う名の呪いは、彼女に諦めることを許しはしなかった。
(メダルを……!)
これもダメージによる障害で、識別機能が働かなくなっていたが……ディケイドだけでなく、複数の参加者が接近して来ていることは、辛うじて生きていたレーダーでわかっている。
こちらから接近する余力はない。動けてせいぜい、目の前に素手の一撃を繰り出せるだけ。
だからイカロスは待った。微動だにせず、完全に機能を停止している体で。一度だけ許される機会にメダルを奪える相手が、手の届く範囲に近づいてきてくれるのを。
可能性の低い望みだということはわかっている。
もし……もしも、接近したのが、今の機体状況で倒せるはずのない、ディケイドのような強敵であれば。あるいは、誰も近寄らず、そのままイカロスの意識が消失してしまえば。
そして、運良く一撃でメダルを奪える相手だとしても、その時に手に入ったメダルがイカロスを修復するのに足りなければ、間違いなくディケイドにトドメを刺されてしまう。
それでも、可能性がゼロでなければ……諦められなかった。
671
:
仮投下④
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:13:46 ID:0w6QAcqs
(私は、もう一度……!)
――わかっている。マスターがそんなこと、絶対に望まないはずだということは。
きっとイカロスの所業を、彼が許してはくれないのだということを。
それでもこれは――イカロスが、自分で決めたことだから――――!
そんなイカロスの切望を、運命が聞き届けたというのか。
レーダーは、一人の参加者の接近を感知していた。
立ち止まって、何事を呟くかのような間を置いた後、もう一歩。その参加者は――セルメダルを運ぶ器は、イカロスに近づいた。
「―――――――っ!!」
同時、イカロスは残された全ての力を振り絞り、跳ね上がって――その手を、突き出した。
接触した掌は、寒天のように対象の肉体を貫いた。途中、拍動する臓器に触れたが、勢いのまま繋がった管を引き千切り、破裂させる。
今イカロスが貫いたのはきっとただの人間で、だからこれだけのことで即死したのだろう。放出された大量のセルメダルを浴びるように吸い込みながら、獲得した瞬間から即自己修復に消費する。
飛び出したセルメダルは、カザリから譲り受けた量に匹敵する膨大な枚数だった。望外なまでの幸運に見舞われたイカロスはセルメダルを未だ浴び続けながら、さらに自己修復機能を高めるために『空の女王』を発動する。
攻撃と機動の要である、可変ウィングの復元を最優先。合わせてレーダーの識別機能を取り戻し、最優先排除対象――ディケイドを瞬時にロックする。
「『ArtemisⅡ』――発射」
攻撃までに、修復の間に合った砲口はたったの三門のみ。それでも、悠長に完全回復を待ってディケイドに対処の隙を与えるわけには行かない。
放たれた三基のミサイルの内、一基はそれでも撃墜されたのを確認。しかし残る二発が、ディケイドに着弾したのを――機能を回復した右目で見届ける。
正確には一発は、ライドベンダーを盾に防がれていた。だが最後のアルテミスⅡが、ライドベンダーの爆発に振り飛ばされたその肩口に食らいついて、炸裂。肩部装甲が爆ぜ、一部の支給品を零し、セルとコアの混合された大量のメダルを吐き出しながら、ディケイドがさらに大きく吹き飛ばされる。
672
:
仮投下④
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:15:04 ID:0w6QAcqs
さらに現状を整理。他の参加者は三人。突然の事態に思考の追いついていないらしい彼らと交戦する可能性も踏まえつつ、イカロスはまず先制攻撃よりも自己修復を優先する。
二対の翼、聴力、右腕を優先的に修復しつつ、左手に刺さったままだった用済みの死体を投げ捨てる。
そのまま最前の戦術を組み立て、次の行動に移行する――半分だけ蘇った視界が、端を過ぎった物に気づいていなければ、何の淀みもなくそうなるはずだった。
「えっ……?」
だが現実のイカロスは、気づいてしまった。
桃色の髪が――ちょうど自分が、投げ捨てた死体と同じ方向に、流れて行ったのに。
「そんな」
どうして、彼女が。
その情報を否定するように、嫌々と首を振っても――イカロスの視線の先で、胸に赤黒い孔を開けた人物の亡骸は、その容姿を変えはしない。
服装こそ、あのメイド服とは違っていても。
「フェイリス――ッ!?」
あの時イカロスに、最後の良心を想起させた涙の主である――フェイリス・ニャンニャンという少女の物であった。
《――KAMENRIDE HIBIKI!!――》
理路整然とした思考など決して許しはしないと言わんばかりの激痛に、意識を奪われるその瀬戸際で抗しながらディケイドは、何とか一枚のカードをディケイドライバーに投げ込んでいた。
瞬間、ベルトを残してその姿が世界の破壊者ディケイドから、音撃戦士響鬼へと変身を遂げる。
「――ッ!」
気を込めることにより爆発的に高められた治癒力は、ディケイドから肉体そのものを変化させる響鬼へ変身したことによって、骨が露出するほどの大怪我となっていた左肩の傷までもを瞬く間に塞ぎ、修復する。
あらゆるアタックライドカードをカメンライドなしで使用可能となった激情態だが、例えばクウガペガサスの超感覚のような身体能力に由来する能力の行使には、やはりカメンライドを必要とする。
響鬼の爆発的な治癒力もまた、カメンライドでなければ得ることのできない能力であった。
「――ッ、は――っ!」
響鬼の肉体を再現したことにより、自身を苛んでいた痛みが遠退き、致命に近かった傷も一先ず塞がった。
「逃げろ、おまえらっ!」
だがそこで一息吐いている場合ではないとして、ディケイドは響鬼へのカメンライドを解きつつ起き上がる。
世界の破壊者としてどう振舞わなければならないとか、そんなことは頭の片隅に追いやられてしまっていた。
ただ今は、フェイリスに続く犠牲をこれ以上生まないためにどうするのか――それだけを考えて、知らず知らずの内に叫んでいた。
しかし、直撃こそ何とか避けたが、完全な回避は不可能だったアルテミスから受けたダメージで、行動不能になっていた間にもっと絶望的になっていると思われた戦況は――イカロスがその翼と右腕をほぼ修復し終えているということ以外、四人ともが固まっているという奇妙な状態で停滞していた。
だがディケイドの呼びかけが引き金となってしまい、フェイリスの死体に呆然と隻眼を寄せていたイカロスが正気に返る。
同時、ラウラがシュヴァルツェア・レーゲンを飛翔させ、ディケイドは次のアタックライドカードをディケイドライバーに挿入する。
673
:
仮投下④
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:16:31 ID:0w6QAcqs
《――ATTACK RIDE BLAST!!――》
本体だけでなく、複数の虚像となって現れたライドブッカーの銃身から放たれた無数の銃弾が、イカロスの射ち出したアルテミスの群れと正面から激突。ミサイルは弾幕の壁を突破しきれずに、何もない宙空での爆発を連続させるに留まる。
しかしその余波である颶風ですら、至近距離では一度アルテミスを被弾し弱ったディケイドを吹き飛ばすのに充分な威力を持ち合わせていた。
苦鳴を漏らしながら、爆風に煽られるままにディケイドは地を転がる。その状態でも我武者羅にライドブッカーでの射撃を続け、追撃を何とか防ぎきる。
その間に、まずシュヴァルツェア・レーゲンはその機動性を活かして距離を稼げた。
おそらく未だ修復中の状態とはいえ、イカロスが本気で追えば容易く捕捉されてしまう程度の距離でしかないが――今の彼女の狙いは確実に、一番の脅威であるディケイドに絞られている。
ただのショットガンで介入できる戦いではないと悟ってくれたのだろう。後藤もまた、重傷の身であるバーナビーに寄り添いながらも撤退を開始しようとしていた。
その事実に違和感を覚えつつも、正体を特定している猶予はないと考えたディケイドだったが、また迎撃の遅れたアルテミスの炸裂に至近距離から巻き込まれ、地を舐める。
更なる追撃を予感してすぐに顔を持ち上げたが、しかし次のアルテミスは飛来して来てはいなかった。
イカロスは、両腕の復元を合図とし、空へと飛んでいた。
ディケイドを、後藤とバーナビーを、地を這う全てを見下すようにして飛ぶ天使の手に、揺らめく炎で形作った弓と矢が出現する。
御しきれず、漏れ出す圧倒的な熱量の余波が地上を炙るのを感じ、あれこそイカロスの切り札であるとディケイドは悟る。
迎撃――いや、駄目だ。例のバリアが展開されている以上、こちらの攻撃は届かない。おそらく解除された瞬間に合わせてこちらの最大火力を放ったとしても、適切な迎撃タイミングを逃し、打ち負ける。
「……どうしてだ」
攻撃の無為を悟ったディケイドは、しかし裁きの矢が放たれるまでの猶予の間にイカロスへと言葉を叩きつける。
ラウラ達が逃れるための時間を、ほんの一瞬でも多く稼ぐため――そして何より、内に秘めた怒りを抑えておくことができなかったから。
「どうしておまえを庇ったフェイリスを殺した!? あいつはおまえの友達だったんだろうがっ!?」
「……私だって……殺したくなんか、なかった……っ!」
絞り出すようなイカロスの声から、言外に非難の色をディケイドは感じ取る。
あなたのせいだ、と。
「だけど……大丈夫。まだ、やり直せる……!」
そのことに怒りを覚えるより先に、不可解な言葉がイカロスから発された。
「……何?」
「やり直せる、から……あなたもフェイリスも、死んだのをなかったことにできる。
だから、安心して」
イカロスを包むバリアが、消失する。
674
:
仮投下④
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:17:43 ID:0w6QAcqs
「……今は、私に殺されて」
まるで、ディケイドの使命の醜悪さだけを取り出し凝縮したかのような呟きと共に。矢尻を摘んでいたイカロスの指が、手放される。
《――ATTACK RIDE MACH!!――》
同時にディケイドは、ブラストから次のカードへと切り替えた。
最終兵器『APOLLON』を放ったと同時、ディケイドの動きが加速した。
だが交戦の最初に見せた加速に比べると、その五十分の一にも満たないほどに、遅い。精々音速程度にしか届いていない。
そんなことではイージスを再展開するまでにイカロスの懐に潜り込むことも、直撃を躱したところで『APOLLON』の効果範囲から逃れきることも、決してできはしないだろう。
既にイージスの絶対防御圏内にその身を潜めたイカロスは、透明な殻の向こうで彼が走るのをそう無感動に観察していた。
アルテミスの着弾で吐き出した、コアを含むメダルの回収に向かうでもなく。当然イカロスに向かって来るでも、身を翻して遠くへ逃げようとするでもなく。
イカロスの真下、フェイリスの亡骸を拾い上げると同時、再び踵を返して駆け出した。
今更メダルの散らばった場所に戻ろうとするその行動を訝しみながらも、その意味をイカロスが推察するより先に、解き放たれた最終兵器が猛り狂った。
イージス越しに眺めていた景色が、一片の余地も残さず紅蓮の炎に塗り潰される。
ビリビリと感じる震えは、三度目となる太陽の投下に会場そのものが震え、悲鳴を発しているのだろう。
破壊の濁流が暴れ続けている間は、事を成した本人のイカロスをして何の情報も視認できない――それほどの猛威の中、しかしレーダーは確かな戦果をイカロスに伝えていた。
仮面ライダーディケイド――反応、消失(ロスト)。
おまけ程度に、他二人の参加者の反応も掻き消えていた。――放送直前に交戦したのとよく似た機動兵器の少女は、『APOLLON』が炸裂するより前にレーダーの索敵範囲から脱していた以上、おそらく逃しているだろうけれど。
ただ、イカロスすら脅かすディケイドという障害を排除できただけで、これはもう十分な成果と言って差し支えなかった。
そう、そのためなら……彼女の犠牲だって、とても意義のあるものだったはずなのだ。
「……フェイリス」
それでもイカロスは、その名を呼ぶ声が震えるのを、堪えることができなかった。
わかっているのだ。どうしようもなく身勝手だということは。
だとしても、自らの手で彼女の命を絶ってしまったという事実は、イカロスが自身を苛むのに十分過ぎる罪となってその心に突き刺さっていた。
ディケイドに言ったように割り切るのが、本当にすぐできてしまうだけの心の強さがイカロスにあったのなら――そもそもこんな行為には、及ばずとも済んだのだ。
罪に手を染めるたび、その心に感じる重さが増すのは無視できない。
それでもイカロスは、願わずにはいられない――都合の良過ぎる、自身の救済を。
「……マスター」
せめてもう一度、彼と出会うために。
675
:
仮投下④
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:18:35 ID:0w6QAcqs
悲しみは悲しみとして抱えたまま、それでも自分で選んだ道をやり遂げるために。その途中で、何度自分を泣かすことになったとしても。
イカロスは未だ葛藤を抱えたままに、等しく焼き払われた地上を見下ろした。
セルメダルの残量は残り少ない。自己修復に必要な分まで考えると、実質枯渇していると見なせる心許なさだ。
メダルが足りなくなれば帰投しろとカザリは言っていた。しかし一方で、ディケイドがコアメダルを保有していた事実をイカロスは記憶している。
(コアメダルは破壊できない……から、探せば見つかる……はず)
おそらくそれで、イカロスの完全回復と、今後の戦闘に必要なメダルは十分に確保できるだろう。
問題はその後。カザリと合流するか、それとも引き続き単独でオーズとカオスを探し出し、殲滅するか。
右足を先に修復し終えたイカロスは、未だ熱を持った大地へとゆっくりと着地しながら、考える。
この呪いを解くには――どちらの方が早いのだろうか、と。
【一日目 真夜中】
【C-6 キャッスルドラン付近跡地】
【イカロス@そらのおとしもの】
【所属】黄
【状態】ダメージ(大・回復中)、左目消失(修復中)、疲労(大)、智樹の死に極めて強いショック、フェイリスを殺してしまったことへのショックと罪悪感
【首輪】50枚(消費中):0枚
【コア】なし
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
基本:生きて、"本物の"マスターに会う。(訳:優勝後、時間操作の技術を得て全部なかったことにする)
0.――やり直すんだ。
1.まずは残ったコアメダルを探す。
2.その後はカザリのところに戻る? それともカオスとオーズを探す?
3.フェイリス、ごめんなさい……
4.ニンフと仲直りしたい。
5.共に日々を過ごしたマスターに会うために黄陣営を優勝させねば。
6.目的達成の障害となるものは、実力を以て排除する。
【備考】
※22話終了後から参加。
※“フェイリスから”、電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。
※このためイマジンおよび電王の能力、ディケイドについてをほぼ丸っきり理解していませんでしたが、ディケイドについては本人を目にした限りの情報を得ました。
※最終兵器『APOLLON』は最高威力に非常に大幅な制限が課せられています。
※最終兵器『APOLLON』は100枚のセル消費で制限下での最高威力が出せます。それ以上のセルを消費しようと威力は上昇しません。
『aegis』で地上を保護することなく最高出力でぶっぱなせば半径五キロ四方、約4マス分は焦土になります(1マス一辺あたりの直径五キロ計算)。
※消費メダルの量を調節することで威力・破壊範囲を調節できます。最低50枚から最高100枚の消費で『APOLLON』発動が可能です
※『Pandora』の作動によりバージョンⅡに進化しました。
※桜井智樹の死で、インプリティングが解除されました。
※「『自身の記憶と食い違うもの』は存在しない偽物であり敵」という考えを改めました。
※カザリの言葉を信じたいと思っています。そのため、最終的に大体のことはやり直せるから気にしないようにするつもりです。
※『APOLLON』使用を境にレーダーからの反応消失をイカロスが確認できたのは、ディケイド、バーナビー、後藤の三名についてだけです。それ以外の周辺参加者の安否については後続の書き手さんにお任せします。
676
:
仮投下④
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:21:14 ID:0w6QAcqs
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
後藤慎太郎は生きていた。
「何だ……ここは」
イカロスがディケイドに襲いかかった直後、たまたま無理なく回収できる位置に転がって来た――本人は知らないが、彼と非常に深い縁を持つ――ディケイドの落とした支給品を回収しつつ、後藤は怪我をしている金髪の――火野映司達の行き先を知っている可能性が高いという男の下に辿り着くことに成功していた。
しかしその直後、イカロスの放った攻撃が明らかにディケイドだけでなく、後藤達の命まで脅かす段になった時。金髪の青年が咄嗟に取り出した支給品が輝いた直後、後藤と彼はその支給品――奇妙なカードに吸い込まれて、気づいた時には見覚えのない空間に連れて来られていたのだ。
「僕の、支給品です」
傍らで座り込んでいる青年が、後藤の疑問に答えた。
「何でも、『智樹の車窓』という別の空間に行けるカードだとかで……本当かどうかも疑わしかったし、何の役に立つのかと思っていたのですが。さっきみたいな状況から逃げるのに役立つだろうから大事にしておけって、伊達さんに言われて持っていたんです」
項垂れたままの彼が、何かに相当打ちのめされているということは、初対面の後藤から見ても察することができた。
「伊達さんを守ることはできませんでしたが……それでもあの人が、とても大切に思っていた後藤さんを助けられて、良かった」
力なく自嘲する青年の言葉に、後藤はしかし理解が追いつかない。
「その伊達というのは……誰だ?」
「――えっ?」
今度は彼が、理解できないといった様子で聞き返してきた。
彼らは知らなかった。伊達明と後藤慎太郎が、全く別の時間軸から連れて来られているのだということを。
そしてこの空間――かつて『智樹の車窓』と呼ばれたシナプスカードの中で彼らを待ち受けている、運命も。
【一日目 真夜中】
【???(シナプスカード(智樹の車窓)内)】
【後藤慎太郎@仮面ライダーOOO】
【所属】無(元・青陣営)
【状態】健康、若干の気持ちの焦り、バーナビーの言動に対する戸惑い
【首輪】100枚:0枚
【コア】サイ(感情)
【装備】ショットガン(予備含めた残弾:100発)@仮面ライダーOOO、ライドベンダー隊制服ライダースーツ@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式×6、橋田至の基本支給品(食料以外)、不明支給品×1(確認済み・武器系)、バースドライバー@仮面ライダーOOO
【思考・状況】
基本:ライドベンダー隊として、できることをやる
1.現状を把握し、バーナビーと情報交換する。
2.今は園咲冴子と牧瀬紅莉栖を守る。協力者が見つかったら冴子達を預ける。
3.殺し合いに乗った馬鹿者達と野球帽の男(葛西善二郎)を見つけたら、この手で裁く。
4.マミちゃんのために、火野映司とワイルドタイガーを助けたいが……
5.今は自分にできることを……
【備考】
※参戦時期は原作最初期(12話以前)からです。
※メダジャリバーを知っています。
※ライドベンダー隊の制服であるライダースーツを着用しています。
※メズールのことを牧瀬紅莉栖だと思っています。
※巴マミからキャッスルドランで起こった出来事を一通り聞きました。
※オーズドライバーは火野でなくても変身できる代わりに暴走リスクが上がっているのではと考えています。
※バースドライバーが作動するかどうかは不明です。
677
:
仮投下④
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:22:41 ID:0w6QAcqs
【バーナビー・ブルックスJr.@TIGER&BUNNY】
【所属】無(元・白陣営)
【状態】ダメージ(大)、疲労(中)、無力感、ディケイドへの憎しみ、ラウラへの罪悪感、後藤の言動に対する戸惑い
【首輪】10枚:0枚
【装備】バーナビー専用ヒーロースーツ(前面装甲脱落、後背部装甲中破)@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品、篠ノ之束のウサミミカチューシャ@インフィニット・ストラトス、シナプスカード(智樹の車窓)@そらのおとしもの、プロトバースドライバー@仮面ライダーオーズ(破損中)、バースバスター@仮面ライダーオーズ
【思考・状況】
基本:虎徹さんのパートナーとして、殺し合いを止める。
1.現状の確認。
2.後藤さんと情報交換したい。
3.虎徹さんと行動を共にしたいが、自分では彼に釣り合わないのではないか?
4.伊達さんは、本当によく虎徹さんに似ているけど少しだけ違った。
5.ディケイドは許さない。
6.ディケイド、イカロス、Rナスカ(冴子)を警戒。
【備考】
※本編最終話 ヒーロー引退後からの参戦です。
※仮面ライダーOOOの世界、インフィニット・ストラトスの世界からの参加者の情報を得ました。ただし別世界であるとは考えていません。
※時間軸のズレについて、その可能性を感じ取っています。
※ArtemisⅡの直撃で大量のメダルを吐き出しました。
※バーナビーの最後の支給品はシナプスカード(智樹の車窓)でしたが、ランダム支給され智樹も死んでいる現状、原作通りの空間であるかは後続の書き手さんにお任せします。
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
桐生萌郁がその異変に気づいたのは、鏡越しに見つめていた戦いが一段落した後のことだった。
本当はメズールが倒された時点で報告しようとしていたが、流転し続ける戦況を前に、そういえばと携帯の充電を気にかけてその時まで待ったのだ。
そうして、何が起こったのかを文章に纏め、メールを送信しようとして――できなかった。
「……あれ?」
圏外、のようだ。
ついさっきまでは平気だったのに、と萌郁は場所を移動して再送信を試みる。
FBの指示通り、ミラーワールドに身を置いたまま。
二度目は、まだ苛立ちで済んだ。
さらに見晴らしの良い場所に移動しての三度目には、耐え難い焦燥と化していた。
「どうして……っ!?」
届かない。届けられない。
FBとの繋がり――萌郁にとってたった一つの寄る辺が、絶たれた――?
「――っ!」
悲鳴はまだ、声にならない。
必死に走る。仮面ライダーに変身して遙かに強化された脚力で、電波の届く場所を求めて駆け巡る。
――ミラーワールドの中では、外側の世界からの電波が届かないという可能性に萌郁が気づいたのは、出口である鏡を目にした時だった。
外に出れば、状況は変わるかもしれない。
そんな希望と、しかしミラーワールド内に待機するように、というFBの言いつけを破ることへの躊躇いがせめぎ合う。
だがそれでも、最終的には、FBと繋がりたいという欲求が勝った。
怒られるかもしれない。だけれどこのまま切り離されて怒られることすらなくなる方が、嫌だ。
決心を固め、駆け出したその瞬間――
鏡界面が、朱に塗り潰された。
678
:
仮投下④
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:23:54 ID:0w6QAcqs
「――っ!?」
透明な壁に隔絶された先の光景は、まるで焼却炉の覗き穴。否、それ以上の紅蓮が猛り、狂い、吹き荒れる。
蓋をしていたようだった鏡が割れた時は、そのまま焔に呑み込まれるのではないかと思ったが、これまで監視中に覗き込んでいた鏡が巻き込まれた時と同様。まるでテレビの画面が割れただけであるかのように、その向こう側での出来事は萌郁には波及して来なかった。
いや、正確には。
向こう側の出来事は、そこにいない萌郁にだけは、影響していなかった。
「………………えっ?」
変化に気づいたのは、灼熱に焼かれまいと閉じていた目を開けた直後。
割れた鏡という、ミラーワールドの出口の消失。だけどそれだけではない。
街が丸々、消えていた。
「何、これ……」
建物も、道も。
街灯も、草木も。
何一つ残らず、焼け焦げ荒廃した大地だけが萌郁を中心に、地平の果てまで広がっていた。
わずかに残った獲物に貪欲に食らいつき、燃焼を続ける焔と――傍らに寄って来たアビソドン以外、萌郁の他に動くものはなかった。
突如として眼前に展開した死の世界。しかし萌郁を絶望させたのは、厳密には異なる要因だった。
「かが……鏡! 鏡は、どこっ!?」
この世界の出口。元の世界へ帰るための扉。
いくら見渡せど、先程まで掃いて捨てるほどあったそれは灰一つ残さず、地に降誕した太陽によって焼き尽くされていた。
そんな――そんな!
帰れない。FBと繋がれる場所に、戻れない。
萌郁にとって世界そのものであるその空間から、本当に世界ごと切り離された。
その事実に気づいたと同時、絶叫が喉の奥から迸る。
――これは、罰なのだろうか。
FBの言いつけを破ろうとした自分に下された、何より重い罰。
そんな考えに思い至って、どうか覆して下さいと、その決断を下した存在に萌郁は縋る。
だがそんな願いを聞き入れる者など、ミラーワールドのどこかにいるとは思えない。
それでも萌郁は崩れ落ちたまま、誰にも聞こえないはずの悲鳴だけを、ただひたすらに張り上げていた。
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
679
:
仮投下④
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:25:40 ID:0w6QAcqs
文字通り脱兎の如く、ラウラ・ボーデヴィッヒはシュヴァルツェア・レーゲンを駆る。
決別したはずのディケイド――門矢士に言われたように、ただひたすら危険から逃れようと。
ISの機動性をフルに引き出し、音速以上にまで加速した直後に、背後から凄まじい輻射熱と膨張した大気圧がシュヴァルツェア・レーゲンを襲った。
シールドバリアーのおかげでダメージこそ受けなかったものの、それでも機体が流され、そのまま墜落することを余儀なくされる。
これまたシールドバリアーのおかげで無傷で済んだが、大地に突っ込む形で停止したISで再飛翔するのではなく。最終兵器『APOLLON』の余波が収まるまで耐えた後、待機形態へ戻したラウラは自分の足で起き上がり、爆心地を振り返った。
「士……」
隻眼を窄め、自らを逃がすためにその場に残った仮面ライダーの姿を脳裏に浮かべる。
これがイカロスの攻撃であり、おそらく逃れる術など残されていない以上――彼は敗北したのだろう。
彼のおかげで生き延びることはできたが、フェイリス同様にラウラを置いて、逝ってしまったのだ。シャルロットや鈴音と、同じところに。
その下手人の姿を、ラウラは脳裏に強く描き出す。
最強のエンジェロイド・イカロス。彼女はこの先、ラウラが優勝を目指す上で最も強大な壁の一つとして立ち塞がることだろう。
ディケイドが一度は追い詰めたが、彼を失った現状、正面からでは勝ち目がない。
それでも必ず、彼女を倒し、勝利を掴み取らなければならない。
それが犠牲にしてしまった者達への、何よりの手向けにもなることだろう。
「――待っていろ」
固い決意を秘めて、緑陣営のリーダーである少女は歩き出した。新たな仲間を引き込み、イカロスやそれを有する黄陣営に対抗する戦力を揃えるために。
そして、己の欲望を満たすため――自らの陣営を、優勝させるそのためには。
どれほどラウラの心が摩耗していようと、立ち止まっている暇などこの身には許されてはいないのだった。
【一日目 真夜中】
【???】
【ラウラ・ボーデヴィッヒ@インフィニット・ストラトス】
【所属】緑・リーダー代行
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、精神疲労(大)、深い哀しみ、力への渇望、セシリアへの強い怒り(ある程度落ち着いた)、フェイリスの死に強いショック
【首輪】285枚:0枚
【コア】バッタ(10枚目)、クワガタ(感情)、カマキリ×2、バッタ×2、サソリ、ショッカー、ライオン、クジャク、カメ、スーパーバッタ(放送まで使用不可)、エビ(放送まで使用不可) 、カニ(放送まで使用不可)
【装備】シュヴァルツェア・レーゲン@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、魔界の凝視虫(イビルフライデー)×19匹@魔人探偵脳噛ネウロ、ランダム支給品0〜2(確認済)
【思考・状況】
基本:グリードに反抗する仲間とコアメダルを集めて優勝し、生還する。
0.士、フェイリス……
1.新たな仲間を探す。
2.イカロスはいつか倒す。
3.セシリアを止める。無理なら殺すことにも躊躇いはない。
4.陣営リーダーとして優勝するため、もっと強い力が欲しい。
5.もっと強くなって、次こそは(戦う必要があれば、だが)セイバーに勝つ。
6.一夏やシャルロットが望まないことは出来るだけしたくはない。
7.Xというやつは一夏を―――?
【備考】
※緑のコアメダル7枚と融合しています。
※時間経過と共にグリード化が進行していきますが、まだ完全なグリードには至っていません。そのため未来のコアメダルの力は引き出すことができません。
※シュヴァルツェア・レーゲンにVTシステムが取り付けられている可能性があります。
※士は既に死んだと思っています。
680
:
仮投下④
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:29:09 ID:0w6QAcqs
「――――この俺が、最後の勝者になる時をなぁ」
彼女の物ではない一人称を用いたラウラはそこで歩みを止めて、我慢できないとばかりに噴き出した。
「くっはっはっは……本当にありがとよ、士、バーナビー、イカロス! おかげで思ったより早く出て来られた……」
夜空を仰いだ野卑な笑みは、ラウラ・ボーデヴィッヒ本来の物ではない。
またその右目の色も、本来の真紅とは真逆の緑色に――瞳孔だけでなく、虹彩までもが不自然に染まり、光芒を漏らしていた。
そう――彼女の肉体を今、操っているのはラウラ・ボーデヴィッヒの意思ではなく。
「……まぁ、俺の実力あってのことだがな」
彼女と融合したクワガタのコアメダル――そこに宿っていたグリード、ウヴァの精神だった。
参加者であるアンクが泉信吾にそうしているように、グリードには人間に寄生し、支配する能力が備わっている。
とはいえアンクでも、複数のコアメダルを保有している状態で仮死状態の人間でなければ乗っ取ることなどできないが……ウヴァは他のグリードとは実力が違う。以前にもコアメダル一枚だけになってしまったことがあったが、その時も生きた人間の意識を完全に乗っ取り、自由に操ることができていた。
ましてやラウラのように、複数枚のウヴァのコアと融合している状態ならば、その影響力は一層増していた。こうなるのは最初から、時間の問題でしかなかったのだ。
それでもヤミーを作るのと同じように制限がかけられていたのか、あるいは軍属経験から生じる彼女の精神力か。なかなかウヴァにも付け入る隙を見せてくれないラウラだったが……先程一気に瓦解した。
自身を気遣ってくれた、頼れる仲間だと思った士が殺人に手を染め、さらにこれからラウラのしようとしていることも同罪だと突きつけた上で決別を言い放たれ、加え畳み掛けるようなタイミングでバーナビーから鈴音の死を告げられ、トドメに目の前でフェイリスを、彼女が仲間と信じ庇ったイカロスに殺された。
一夏の死に加え、前の二件で憔悴していたラウラにとって、セシリアの凶行を思わせるその悲劇はトラウマを再発させるに十分だった。結果揺らいだ意識の隙を衝き、遂にこのウヴァが肉体の支配権を獲得するに至ったというわけだ。
681
:
仮投下④
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:30:18 ID:0w6QAcqs
「とはいえまだグリードとして復活したわけじゃないが……人間の体ってのも悪くない」
とんとん、と。ラウラの爪先で軽く地面を蹴ってみる。
その感触、音色。くすんだ世界に生きてきたグリードにとってはその鮮明な五感自体が素晴らしい体験であるが、ウヴァはその快さについてばかり言ったわけではなかった。
「何しろ……確かアンクの奴が、人間の身体が足りないコアの代わりになるとか言っていたしな」
事実ドクター真木や火野映司も、たった五枚、あるいは三枚だけのコアメダルでも、完全体の恐竜グリードに変貌していた。
ラウラの体ごとグリードとして復活できれば、ウヴァの実力はただ蘇るよりも更に目覚しいものとなるかもしれない。
しかも、先程ディケイドから渡された、ウヴァも知らないバッタのコアメダル――これらの力まで手に入るということを考えれば、セルこそ大半を失いはしたものの、ディケイド達に撃破された時以上にウヴァが強大な存在となるのは確実だろう。
となればさっさとラウラの欲望を刺激し復活したいところだが、一方でウヴァが支配権を握った現状で、ラウラの感情を強く刺激し過ぎては足元を掬われてしまう可能性も高い。Xとの接触は、積極的に狙うべき事柄ではないかもしれない。
つい先程ディケイド達に敗れた時のように、急いては事を仕損じることもある。グリードとしての完全復活は、もっと機を伺っても良いことだろう。
(それに……逆に考えれば、このピンチにはチャンスもある)
後藤慎太郎の首輪を見た時、青陣営であったはずの彼のランプは紫色となっていた。
それはつまりメズールの脱落を意味しており、残る目下最大の敵はイカロスを取り込んだ黄陣営ということになる。
一見すれば、敵の戦力は強大無比。一度の崩壊もなく、バトルロワイアル開始からあのカザリが慎重に蓄えてきただろう陣営の力は侮り難い。
しかし、今のウヴァには全く勝算がないわけではない。
何故なら一時緑陣営だったイカロスが黄陣営になっているということは、カザリはウヴァが脱落したと認識しているはずなのだ。
例えラウラが代理リーダーであると見抜かれても……中身がウヴァであり、彼女が知り得るはずのないカザリの情報を握っていることまでは、悟られる道理がない。
(例えばカザリおまえ……今、セル足りないんじゃないか? イカロスはメダル喰らいだからなぁ)
身体を構成するセルメダルの多寡は、コアメダル程ではなくともグリードの戦闘力を左右する重要な因子となる。
カザリが弱っているという事実を知るのは、メズールも散った今、ウヴァだけであるはずだ。
イカロスは確かに強大だが、加減知らずのあのエンジェロイドがあの調子で暴れるほど、相対的にカザリの骨肉たるセルが削られて行くことになり、やがては両者揃ってまともな戦闘力を発揮することができなくなる。そうして弱り果てたところを叩き潰せば良いのだ。士のように甘さを見せず、確実にトドメを刺して。
この情報アドバンテージを握り、しかもカザリの意表を衝ける現状は、決して先行きの暗い物ばかりではない。
「とはいえ、カザリやイカロスが消耗するまでにやられちまっちゃあ意味がない……ここはまた、適当な奴らを仲間にして、士みたいに働いて貰うとするか」
現状は、これまでのラウラのようにして振る舞い、新しい仲間となる者達を引き込んでいけば良い。
その上で役立たずは隙を見て処分し、メダルをこの身に蓄えて行く。ISを使えるならば余程の相手でなければ遅れは取らないだろうし、危険な相手からも逃げ延び易い。
そう、俺はまだツイている。
ここに来る前オーズにやられても、ここに来てからディケイドにやられても、こうして蘇ったのだ。ならばこのまま死なない限り、ウヴァに負けはない。
「最後に笑うのは……そう、このウヴァだ!」
ラウラの口を使ってそう宣誓し、高笑いを残しながら、ウヴァは栄光が待つと信じる未来に向けて歩んで行った。
――たすけて、という。
682
:
仮投下④
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:31:04 ID:0w6QAcqs
ウヴァに奪われた身体の奥から発された、声にならぬその願いは――彼女の傍から離れて行ってしまった仲間達に届くはずもなく。
ただ、欲望渦巻く嘲笑によって掻き消されていた。
【ラウラ・ボーデヴィッヒ@インフィニット・ストラトス】&【ウヴァ@仮面ライダーOOO】
【所属】緑・リーダー代行
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、ウヴァが精神略奪中、上機嫌(ウヴァ)
【首輪】285枚:0枚
【コア】クワガタ(感情)、バッタ(10枚目)、カマキリ×2、バッタ×2、サソリ、ショッカー、ライオン、クジャク、カメ、スーパーバッタ(放送まで使用不可)、エビ(放送まで使用不可) 、カニ(放送まで使用不可)
【装備】シュヴァルツェア・レーゲン@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、魔界の凝視虫(イビルフライデー)×19匹@魔人探偵脳噛ネウロ、、ランダム支給品0〜2(確認済)
【思考・状況】
基本:緑陣営の優勝のため動く
0.まずはイカロスの近くから離れる。
1.グリードとして復活したい。
2.そのために手っ取り早くはXに会いたいが、下手に刺激するとラウラに乗っ取り返されるかもしれない?
3.再スタートだが、黄陣営に対抗するために仲間を集めなければ。
4.イカロス筆頭にヤバい相手と出会ったら、今は逃げに専念する。
【備考】
※緑のコアメダル7枚と融合しています。
※時間経過と共にグリード化が進行していきますが、まだ完全なグリードには至っていません。そのため未来のコアメダルの力は引き出すことができず、またその秘めた力に気づいてもいません。
※シュヴァルツェア・レーゲンにVTシステムが取り付けられている可能性があります。
※士、バーナビー、後藤の三人は死んだと思っています。
※クワガタの感情コア(ウヴァ)によってラウラの精神が乗っ取られました。但しラウラの精神状態次第では、十分乗っ取り返せる可能性があります。
683
:
仮投下⑤
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:33:41 ID:0w6QAcqs
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
建物も、道も。
街灯も、草木も。
何一つ残らず、焼け焦げ荒廃した大地だけが広がる、かつてキバの世界だった場所。
その中心に一人、膝を着いたままの男がいた。
他でもない――この世界において唯一無事である彼こそ、この地に大破壊を齎した惨禍が本来獲物としていた張本人。
仮面ライダーディケイド、門矢士だった。
『なぁおい、ディケイド。フェイリスの奴は……』
ディケイドの手にしていたのは、デンオウベルトとケータロス。
その中に潜んでいるイマジン達の声が、今はこの二つのアイテムの所有者となったディケイドにも届いていた。
「……連れて来れなかった。死ぬことのないミラーワールドには、死体を持ち込むことができないようだな」
あの最終兵器による破壊が、解き放たれるその寸前。ディケイドはフェイリスの遺体ごとイマジンズを回収後、破壊されたライドベンダーのサイドミラーからイカロスが存在しているのとは別の世界――ミラーワールド内へと避難し、その猛威を躱していた。
イカロスの攻撃もミラーワールドまで追っては来れず、ディケイドはあの最終兵器による被害を飛沫を浴びるほども受けることなく、こうして命を拾っていたのだ。
『そんな……ネコちゃん、やっぱり死んじゃったの!?』
だがフェイリスは、やはり息を引き取っていた。即死、だったのだろう。
その死体だけはミラーワールドへ運び込むことができず、あの炎の顎に捕らわれ、炭も残さず掻き消えた。
『無理もない。あんな怪我したら、人間や助かりっこないで』
そんな現実を嫌だと叫ぶリュウタロスに、キンタロスが悲しみを滲ませつつも諭すようにそう告げる。
『ちっくしょーがっ!! 許せねぇあの手羽先女! フェイリスはあいつのことを、最後までダチって思ってたんだぞ!?』
『先輩と同じ意見だなんて癪だけど……僕もいくら女の子とは言え、イカロスちゃんのことはちょっと許せそうにないかな……』
義憤と憎悪を滲ませて、モモタロスとウラタロスが続ける。
『こうなりゃ仇討ちだ! おまえら、皆であの手羽先女ぶっ倒すぞ!』
『ふむ……良かろう。その進言、聞き届けてやろう』
『手羽先!? おまえ寝てたんじゃ……どういう風の吹き回しだ』
『まず、常から不敬だがよりにもよってあの女と同じような呼び方をするのはやめろお供その2』
『まだ降格させられてたのかよって違うそうじゃねぇ! おまえどういうつもりなんだよ!?』
『私はフェイリスという娘の、その心意気に感心したまで。それを裏切り蛮行に及んだあのイカロスという女、見過ごすは我が誇りが許せんのだ』
『お、おぉし見直したぜ手羽先! よーしディケイド、おまえ次にあいつと会ったら俺達で変身して……』
「断る」
勝手に盛り上がっていたイマジンズの提案を一刀両断し、ディケイドは首を振った。
『何でだよ! おまえあの女をほっとくつもりか!?』
「そんなわけあるか。あいつは次に見つけたら……俺が潰す」
デイパックにデンオウベルトとケータロスを押し込みながら、ディケイドは続ける。
「だからおまえらは首を突っ込むな……これ以上、俺の戦いに」
さすがにミラーワールドに置いていくわけには行かないが、いつまでも彼らと同行する気にもなれない。
684
:
仮投下⑤
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:34:46 ID:0w6QAcqs
いや、そもそも――これ以上誰とも、行動を共にしようとは思えなかった。
「結局、俺は破壊者だ……仲間を作ったって、そいつらまで破壊してしまう」
ラウラは無事だと信じたいが、それでも負う必要のない傷を心に与えてしまった。
そしてフェイリスは、ライダー大戦の世界で共に戦ってくれたワタルやアスムのように死んでしまった。
いや……ディケイドが使命さえ完遂すればまだ救える少年二人と違い、フェイリスの死はもう、覆ることはない。
例え殺し合いの最中だろうと、世界の破壊者としての使命を捨てるわけには行かない。だがその使命がある限り、ディケイドの周りは敵だらけだ。
そんな旅に付き合わせては、その誰かはいつか、必要もないのに命を散らすことになる――それでは、士が使命を受け入れた意味がなくなってしまう。
例え、士自身が使命を終える前に死んでしまえば全てが水泡に帰すとしても、それだけは認められない。
世界の再生には、全ての仮面ライダーを破壊し終えたディケイド自身が最後に破壊される必要がある。
そうして士の命と引き換えに、ディケイドが破壊してきた者達を含めた全ての世界とその住人達は復活し、滅びの現象からも解き放たれる。
この使命を完遂すれば、最終的に犠牲になるのはたったの一人。仮面ライダーディケイド――門矢士だけで済むというのに。
その過程で無関係な者達まで危険に晒し、死なせてしまっては、自身の覚悟は滑稽なものでしかなくなってしまうでないか。
こんな事情を、他の仮面ライダー達に伝えられるはずがない。誰かが不条理な犠牲になる世界を認めず戦う彼らはきっと、士も含めて世界を救う方法を模索しようとするに違いない。
だが、最後のチャンスだった旅を終えた今、そんな悠長に構えている時間はない。だから彼らに歩み寄りの余地を感じさせ、徒に使命の遂行を妨げぬよう――迎え撃つしかない悪魔と思われ、最期まで悪魔と信じられたまま討たれることだけが、この先にディケイドが辿るたった一つの道のはずなのだ。
なのに……
(おまえのせいだぞ……ユウスケ)
昔のままの――旅の途中から連れて来られた彼のせいで、あの日々を思い出してしまったから。
仲間恋しさに、ここまでの戦いでディケイドはずっと余計な迷いを、甘さを、躊躇いを抱えてしまっていた。
ようやくそのことを、フェイリスという出てはならないはずだった犠牲を目にして自覚できた。
だから立ち上がったディケイドは、もう一度。己に架した使命を宣誓する。
「仮面ライダーは全て破壊する……そして奴らの分も、俺がここにいる全ての悪を叩き潰す……!」
そのためのメダルは、二体のグリードを破壊したことで確実に貯蓄できた。例え出口が近くにないミラーワールドからの脱出までに相当量を消費したところで、まだ十分お釣りが残るほどに。
ならばいよいよ、ディケイドに徒党を組む必要などどこにもない。セルメダルさえ潤沢ならば、結局のところ今のディケイドに破壊できない者など存在しないのだから。
イカロスだって、あそこで自分が甘さを捨て切れてさえいれば、フェイリスを殺される前にトドメを刺せていたのだ。
だからこれからは、一人で戦う。世界の再生も、バトルロワイアルの粉砕も、全て一人で成し遂げる。
この先二度と、甘さを生む仲間などを作りはしない。
685
:
仮投下⑤
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:36:24 ID:0w6QAcqs
(……そうだ。バトロワイアルの最中だろうが、時間はない。共闘の必要などない……ライダーは全て、ここで破壊する!)
オーズを、アクセルを、龍騎を、そして、クウガを。
一人たりとも逃しはしない。
それは、あの天使もだ。
……イカロスに感じているのが、ただ人命を奪う脅威への怒りでも、フェイリスを殺された憎しみだけでもないことに、士自身は目を背けている。
最後には全てチャラになるからと、それしか手段がないからと。私欲と使命の差はあれど、今誰かを理不尽に傷つけることを正当化している彼女に対する、同族嫌悪もあるのだということを。
悪を討つのに、そんな私情を挟むまいという、深層心理が蓋をする。
そして自身の行いが他者からどう見えるのかを理解して、またも躊躇ってしまうことのないように、敢えてそこから目を逸らす。
(こいつらは……次に適当な奴にあったら、渡しとくか)
デイパックの中に背負う、デンオウベルトに意識を配る。
仲間は作らないと言ったが、会場に戻ってすぐ野晒にするというのも危険だ。破壊する必要のない仮面ライダーは殺し合いを打破しようという者達の心強い味方となることだろうし、せめて誰かに預けられるまでは連れて行くしかない……と。覚悟を完了しながらもまだほんの少しだけ、引っ掛かりを残してしまった世界の破壊者が、辺り一帯を吹き飛ばされたミラーワールドからの出口を探し、歩き出した瞬間だった。
閉じた世界から切り離され、望まぬ世界に取り残された女の悲鳴を、彼の耳が拾ったのは。
【一日目 真夜中】
【C-6 ミラーワールド内キャッスルドラン付近跡地】
686
:
仮投下⑤
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:37:16 ID:0w6QAcqs
【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【所属】無
【状態】苛立ち、疲労(大)、ダメージ(大)、左肩に傷跡、フェイリスへの罪悪感、覚悟完了、仮面ライダーディケイド(激情態)に変身中、ミラーワールド内に侵入中
【首輪】120枚(消費中):350枚(250枚)
【コア】ゾウ、シャチ、ウナギ、タコ、スーパータカ
【装備】ライドベンダー@仮面ライダーOOO、ディケイドライバー&カード一式@仮面ライダーディケイド
【道具】バースバスター@仮面ライダーOOO、メダジャリバー@仮面ライダーOOO、キバーラ@仮面ライダーディケイド、ランダム支給品1〜8(士+ユウスケ+ウヴァ+ノブナガ+ノブヒコ)、ゴルフクラブ@仮面ライダーOOO、首輪(月影ノブヒコ)、アタックライド・テレビクン@仮面ライダーディケイド、デンオウベルト&ライダーパス+ケータロス@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:「世界の破壊者」としての使命を果たす。
0.こいつ(アビスの変身者)どうした……?
1.全てのコアメダルを奪い取り、全てのグリードを破壊してルール上ゲームを破壊する。
2.「仮面ライダー」とグリード含む殺し合いに乗った参加者は全て破壊する。
3.仲間はもう作らない(被害者を保護しないわけではないが、過度な同行は絶対しない)。イマジンズは適当な参加者に出会い次第預ける。
4.ミラーワールドからの出口を探す。
5.イカロスは次に出会えば必ず仕留める。
【備考】
※MOVIE大戦2010途中(スーパー1&カブト撃破後)からの参戦です。
※ディケイド変身時の姿は激情態です。
※所持しているカードはクウガ〜キバまでの世界で手に入れたカード、ディケイド関連のカードだけです。
※アクセルを仮面ライダーだと思っています。
※ファイヤーエンブレムとルナティック、バーナビーは仮面ライダーではない、シンケンジャーのようなライダーのいない世界を守る戦士と思っています。
※アポロガイストは再生怪人だと思っています。
※既に破壊した仮面ライダーを再度破壊する意味はないと考えています。少なくとも電王は破壊する意味なしと判断しました。
※仮面ライダーバース、仮面ライダープロトバースは殺し合いの中で”破壊”したと考えています。
※()内のメダル枚数はウヴァのATM内のメダルです。士が使うことができるかどうかは不明です。
※ディケイドにコアメダルを破壊できる力があることを知りました。
※もう仲間は作らないという対象の中に、海東大樹を含むか否かは後続の書き手さんにお任せします。
※現在、インビジブル、FARディケイド(ディメンションブラスト)、FARファイズ(クリムゾンスマッシュ)、クロックアップ、タイム、イリュージョン、FARキバ(ドッガ・サンダースラップ)、FAR響鬼(音撃打 豪火連舞)、FAR電王(デンライダーキック)、FARクウガ(強化マイティキック)、FARアギト(ライダーキック)、FARディケイド(ディメンションキック)、KR響鬼、ブラスト、マッハのカードを使用済みのため、一度変身を解除するまでこれらのカードは再使用できません。
※タロスズはベルトに、ジークはケータロスに憑依していました。
【桐生萌郁@Steins;Gate】
【所属】無(元・青陣営)
【状態】健康 、FBとメールが繋がらないことへの極度の混乱と恐怖、仮面ライダーアビスに変身中、ミラーワールド内に侵入中
【首輪】75枚:0枚(消費中)
【装備】アビスのカードデッキ@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、桐生萌郁の携帯電話@Steins;Gate、ランダム支給品0〜1(確認済)
【思考・状況】
基本:FBの命令に従う。
0.FBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFB……
【備考】
※第8話 Dメール送信前からの参戦です。
※FBの命令を実行するとメダルが増えていきます。
※ミラーワールド内ではFBにメールが届かず、また届きません。
687
:
仮投下⑤
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:37:49 ID:0w6QAcqs
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
火野映司は目を覚ましたのは、直前までの戦いの気配などと縁遠い、静寂の中でのことだった。
「目ぇ、覚めたのか」
「……鏑木さん」
ベンダーモードのライドベンダーに背を預け、座り込んでいる虎徹に声を掛けられた映司は、まずは辺りの様子を見渡して、続いて既視感を覚えた。
「ここは……」
「地図だとクスクシエってところ、みたいだが……また酷く壊されてんな。何か布団はあったから、おまえら休ませるのにちょうど良いかって思ったんだけど」
「キャッスルドランの辺りほどじゃ、ないでしょうけどね……」
映司の声が、本人も気づかないまま消沈する。馴染み深い景色の手酷く荒らされた様を見て平気でいられるほど、今の映司に余裕はなかった。
そうした気持ちに釣られ、視線までもが下がった時、ふと虎徹の言葉の重要な意味を流してしまっていたことに気づく。
「おまえ……ら?」
そうして改めて、今度は低めに巡らせた視界の中に――離れた位置に敷かれた布団の上に、三人目の参加者の姿を見つけ出し――思わず驚愕の声を発した。
「――っ、この娘は!?」
そこで深い眠りに落ちていたのは――先程自分達を散々蹂躙してくれたあのエンジェロイド、カオスだった。
「そいつはな……伊達の奴から託されたんだ」
「伊達って……伊達さんから!?」
虎徹の口から出た予想外の名とその内容に、映司は思わず鸚鵡返しした。
そんな映司に、虎徹は何があったのかを説明してくれた。
相変わらず頼りになる伊達の活躍を聞いた映司の表情を見取ってか、虎徹は降参とばかりに肩を竦める。
「ったく、すげー奴だぜあいつはさ。こいつのことまで助けてやりたいだなんて……俺もそう思わなくちゃ、いけなかったのにな」
「何を言ってるんですか。実際こうして、鏑木さんも助けてるんじゃありませんか」
「そりゃー言われてからだし……それに多分、最初から俺じゃなくてあいつだったら、全部上手くやってたんじゃねーかってぐらい、その……」
どこかしょげた様子の虎徹に苦笑しながら、映司は首を振る。
「そんなことないですよ。伊達さんは凄い人だけど、鏑木さんだって立派な人です」
「……ほんとにぃ?」
「はい。だって鏑木さん、伊達さんでもできなかったことをやってみせたんですから」
「……何のことだよ?」
「俺の暴走、止めてくれたじゃないですか」
心底からの感謝と尊敬の念を込めて、映司は頭を下げる。
「あの時は、本当にありがとうございました。おかげで俺、まだここで死んじゃいけないんだって思い出せましたから」
「……そうか。いや、あそこじゃなくても死んだらダメだけどな」
照れるような虎徹の何気ない一言に、映司はそうですね、と当たり障りのない返答をする。
……これ以上、虎徹にまで余計な心配は掛けない方が良いだろう、と判断してだ。
「……けどまぁ、伊達や俺がどう思っているからってだ。おまえまで無理して付き合う必要はねぇぞ、映司」
そんなことを考えていた映司に、虎徹が声に硬さを戻して告げる。
「俺だって、何にも感じてないわけじゃない。……もっと付き合いの長かったおまえなら、なおさらだろ」
そんな虎徹の言葉に、映司は思わず一瞬、口を噤む。
688
:
仮投下⑤
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:39:06 ID:0w6QAcqs
恨む気持ちがないといえば、嘘になる。
智樹もまどかも、いいやあの二人だけではなく、誰も。誰一人、死んで良いわけがなかった。
カオスの手にかかったのは、あの二人だけではないだろう。命こそ奪われずに済んでも、映司や虎徹のように暴行を受け、マミのようにその心を傷つけられた者もいるはずだ。
そのことに対する割り切りなど、簡単にできるはずがない。
だが。
「そうもいきませんよ。たった一度の失敗も許さないような正義なんて認めたくないって……そう言ったのは、俺ですから」
口に出した欲望(ユメ)を、諦めるな。
そう訴える虎徹の言葉は、今のカオスの姿を見たことで一層強く、映司へと働きかけている。
「伊達さんや鏑木さんの言うように。この娘が間違いを知って、やり直せる可能性があるとしたら……俺はその、助けにならなくちゃいけないんです。
……まどかちゃんも、この子を見捨ててはいませんでしたしね」
まどかの最期の言葉と、彼女を“食べて”しまったカオスの変化。まどかの記憶がわからないという、その嘆き。
そこからカオスが、「ごめんなさい」と口にするまで至ったというのなら。
無邪気故に歪んでしまっていた彼女に過ちを悟らせたのは、きっと――まどかなのだという予感が、映司にはあった。
そうだとしたら、せめて。
あの子に手を届けることができなかった罪滅ぼしには、決してなりはしないとしても。
気づかせた後、きっとまどかが担うはずだった、己の罪に悔やみ、苦しむカオスを見守る役目ぐらいは――まどかに救われ、カオスにこれが正しいのかと尋ねられた自分が、代わりに成し遂げなくてはならないはずだ。
そんな義務感が、映司の中に生じていた。
――ある意味では、欲望が生んだ呪いのように。
「まどかだけじゃない……智樹の奴も、そんな感じだった」
そんな映司に同調するように、虎徹が映司の間に合わなかった少年の最期を伝える。
「こいつのことを叱って、そんなの間違ってるってぞ! って……もう悪いことしないように、教えようとしていたんだ。多分、こいつに刺された後にもな」
「じゃあ……なおさらですね」
たとえどんなに憎かろうが、勝手に苦しんでおけと見捨てるわけには行かない。
映司の心情がどうであれ、映司がそうなって欲しいと願った明日は――もっと、寛容な物であるはずだ。
ましてやそれを、あの心優しい少年と少女も望んだのなら。
この先、どうしても言葉が届かない、グリードと同じような怪物でしかないと証明されるまでは――カオスにも平等に、やり直す機会は与えられるべきだ。
(本当は、おまえにもそうすべきなのかな……アンク)
彼が考えを改めてくれるなら、映司だって戦いたくはない。
だが、コアメダルを全て砕き、バトルロワイアルそのものをノーゲームとするためには……アンクのコアもやはり、砕くしかないのだろうか。
不意に生じた、今のこの場には相応しくない迷いを振り切って、映司は虎徹に向き直った。
「そのためにも、改めてよろしくお願いします。鏑木さん」
689
:
仮投下⑤
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:40:42 ID:0w6QAcqs
「おう。とはいっても、誰がこの件を預かるのかはまぁ、この娘本人が起きてからだろうけどな。いくらごめんなさいっつってるからって、まだ俺達が勝手に盛り上がっているだけかもしれないし……ってああクソ、バーナビー達と落ち合う場所決めてなかったなぁ……」
「集合場所といえば……マミちゃんは先に、ニンフちゃんのところに向かったんですよね?」
智樹と同じぐらいに、虎徹がそこに直行したがっていたことを思い出した。
そんな映司の抱いた疑問を察したように、虎徹は苦笑した。
「なのにこんなところで止まっているのは、まぁ……さすがに俺もちょっと、休憩欲しくてな……」
らしくない発言だが、おそらく傷の治りが早まっている映司以上に今の虎徹は重傷だろう。そこに加えて気絶者二名も抱えていては、さすがのワイルドタイガーもニンフの下まで強行軍とは行かなかったか。
「とはいっても、マミが先に着いたたらなら治療してくれているはずだ。それならニンフも多分、大丈夫なはず……」
そんな予想を裏付けるかのように、一瞬気を失いそうになりながらも、虎徹は気合で踏み止まる。
「眠ってくれてても、良いんですよ?」
「馬鹿言え。そんなことできる状況かっての」
ヒーローとしての矜持を見せる虎徹の言い分に、映司は少しばかり苦笑しながら立ち上がる。
「少し、休んでてください。俺はちょっと、その子の服になるもの探してきますから」
クスクシエなら、着る物には困らないだろうと……さすがにエンジェロイドとはいえほとんど全裸のままというのは色々と良くないと考えた映司は、適当に服を見繕う。
予備をいくつか自身のデイパックに入れ、勝手に着せるのはさすがに憚られたから、掛け布団代わりに彼女の上に一先ず一枚置いた。
「……ん」
その時少しだけカオスの表情が和らいだのは、直接は夜風に晒されることがなくなったからか。
羨ましいな、と……その感覚も、徐々に人間から離れ、その感覚を消失して行っている映司は、自分よりも人間のような反応を見せたカオスへと、複雑な心境で微笑みを浮かべる。
――どんなに悪い人だってやり直すことができるって、私はそう信じたいんです
ふと、ジェイク・マルチネスの処遇を巡った言い争いで、一人の少女が漏らした言葉を思い出す。
結局ジェイクは何も省みることのないまま、その願いを踏み躙って逝ったが。あの子がやり直して欲しいと願ったこの娘(カオス)には、叶うことならちゃんとやり直して欲しい、と……全く状況は変わっていないはずだというのに。映司は自分の立場や義務感とは別の、密かな欲望を抱いていた。
――キャッスルドランの方角に、太陽よりも大きな火の玉が出現したのは、その直後のことであった。
【一日目 真夜中】
【D-5 クスクシエ跡地】
690
:
仮投下⑤
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:41:45 ID:0w6QAcqs
【火野映司@仮面ライダーOOO】
【所属】無
【状態】疲労(極大)、ダメージ(極大)、精神疲労(大)、まどか達への罪悪感、カオスへの複雑な心境、伊達達への心配
【首輪】70枚:0枚
【コア】タカ、トラ、バッタ、ゴリラ、プテラ、トリケラ、ティラノ 、プテラ(放送まで使用不能)、ティラノ(放送まで使用不能)
【装備】オーズドライバー@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式、カオス用の替えの服(クスクシエから回収したものです。種類、枚数は後続の書き手さんにお任せします)
【思考・状況】
基本:グリードを全て砕き、ゲームを破綻させる。
0.あの方角は……!
1.虎徹、カオスと同行する。
2.カオスがやり直せるのか見守りたい。
3.ある程度回復したらD-4エリアに向かい、マミとニンフに合流したい。
4.グリードは問答無用で倒し、メダルを砕くが、オーズとして使用する分のメダルは奪い取る。
5.もしもアンクが現れたら、やはり倒さなければならない……?
6.もしもまた暴走したら……
【備考】
※もしもアンクに出会った場合、問答無用で倒すだけの覚悟が出来ているかどうかは不明です。
※ヒーローの話をまだ詳しく聞いておらず、TIGER&BUNNYの世界が異世界だという事にも気付いていません。
※通常より紫のメダルが暴走しやすくなっており、オーズドライバーが映司以外でも使用可能になっています。
※暴走中の記憶は微かに残っています。
※暴走(一回目)中の詳しい話を聞きましたが、その顛末全てを知る者が残っていなかっため、不明瞭な部分が残っています。二回目については詳細を全て虎徹から把握しました。
※真木清人が時間の流れに介入できることを知りました。
※「ガラと魔女の結界がここの形成に関わっているかもしれない」と考えています。
※世界観の齟齬を若干ながら感じました。
※詳細名簿を一通り見ましたが、全ての情報を覚えているかは不明です。
【鏑木・T・虎徹@TIGER&BUNNY】
【所属】黄
【状態】ダメージ(極大)、疲労(極限)、背中に切傷(応急処置済み)、カオスへの複雑の心境、バーナビー達への心配
【首輪】15枚:0枚
【装備】ワイルドタイガー専用ヒーロースーツ(両腕部ガントレット以外脱落)、天の鎖@Fate/Zero
【道具】基本支給品×3、不明支給品0〜2 、タカカンドロイド@仮面ライダーOOO、フロッグポッド@仮面ライダーW、キュゥべぇ@魔法少女まどか☆マギカ、P220@Steins;Gate、カリーナの不明支給品(1〜3)、切嗣の不明支給品(武器はない)(1〜3)、雁夜の不明支給品(0〜2)
【思考・状況】
基本:真木清人とその仲間を捕まえ、このゲームを終わらせる。
0. バーナビー……!
1.映司、カオスと同行する。
2.ある程度回復したらD-4エリアに向かい、マミとニンフに合流したい。
3.できればシュテルンビルトに向かい、スーツを交換する。
4.イカロスを探し出して説得したいが………
5.他のヒーローを探す。
6.マスターの偽物と金髪の女(セシリア)と赤毛の少女(X)を警戒する。
7.カオスがやり直せるか見守る。
【備考】
※本編第17話終了後からの参戦です。
※NEXT能力の減退が始まっています。具体的な能力持続時間は後の書き手さんにお任せします。
※「仮面ライダーW」「そらのおとしもの」の参加者に関する情報を得ました。
※フロッグポットには、以下のメッセージが録音されています。
・『牧瀬紅莉栖です。聞いてください。
……バーナビー・ブルックスJr.は殺し合いに乗っています!今の彼はもうヒーローじゃない!』
※ヒーロースーツは大破し、両腕のガントレット部分以外全て脱落しています。
※ジェイクの支給品は虎徹がまとめて回収しましたが、独り占めしようとしたわけではありません。
※虎徹の不明支給品の一つは 『虚栄の兜(イビルフルフェイス)』でしたが、使用されたことで消滅しました。
691
:
仮投下⑤
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:42:23 ID:0w6QAcqs
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
エンジェロイドは、夢を見ない。
彼女達にはそもそも、眠るという機能が搭載されていない。
なのに、彼女がこうして眠っているのは――第二世代である彼女が、第一世代にとって禁忌であった夢への干渉能力を与えられていたからなのか、それとも何人もの“人間”を吸収しその性質を取り込んで自己進化して来てからなのか、あるいはその両方か。正確なところはわからない。
わからないままではあるが、カオスは今、夢を見ていた。
まるで罪の意識から逃れるかのように、彼女の望んだ景色を。
それは柔らかく暖かい笑顔を湛えた、あの人のいる世界。
正しい「愛」を知るために辿る、鹿目まどかの記憶の中の、志筑仁美との思い出。
まどかと、仁美と――カオスの知らない、青い髪のお友達と、三人で仲睦まじく過ごす毎日。
ただ一緒にご飯を食べて、一緒に遊んで、お喋りして――たったそれだけで、とても幸せな日々。
遠くから見つめているだけで、温かな気持ちになることができた。
愛しい人ともう一度、夢の中だけでも逢うことができるということ。
それが、自身の姉である天使がどれほど求めた救済であるのかも知らないままに、カオスは奇蹟のような思い出を眺めていた。
だけど今はまだ、ただ見守るだけ。
きっとそこは、カオスの踏み込んではいけない世界。
きちんと正しく「愛」を学ぶまでは、まだ傍に行ってはだめな場所だ。
でないとまた、“愛”だと思って相手に嫌がられることしてしまうかもしれない。
もし、そうなってしまったらこの幸せを、損ねてしまうから。
だからカオスはただひたすら、その思い出の観客となるに留めていた。
しかし、そんなカオスの気遣いとは裏腹に。
前触れもなく、宝物であるべき光景に、瑕疵が走る。
途端に、その美しさは劣化する。仁美の顔は何かに喰い破られたようにして隠れ、見えなくなる。
これでは、わからない。カオスの知らない志筑仁美も、カオスの勘違いしていた、本当の「愛」も。
(もっと、見せて!)
そう願っても、カオスの中の“まどか”は、それ以上鮮明な記憶を読み取らせてくれない。
現在の自身の電算能力だけでは、これ以上取り込んだ記憶を解析することができないのだということをカオスは理解した。
そうして消沈し、夢の中だけに向けていた意識を緩めた時に……ふと、どこからか聞き覚えのある名前が齎された。
692
:
仮投下⑤
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:43:32 ID:0w6QAcqs
――ニンフ。
電子戦用エンジェロイドタイプβ(ベータ)。
それに特化した彼女の電算能力は、万全であれば第二世代であるカオスをも上回る。
(ニンフおねぇさまに、手伝って貰えたら……)
でも。
カオスはかつてニンフに、とても痛くなることをしてしまった。
痛いのは、多くの人にとっては「愛」ではなくて嫌なことなのだということは、今のカオスにも理解できている。
そんなことをしたカオスのお願いを、おねぇさまは聞いてくれるだろうか?
聞いてくれないかもしれない、という。そんな心配が鎌首をもたげる。
ニンフだけではない。あのおにいちゃんもおじさんも、おねぇちゃんも、皆、皆。許してはくれないのではないか。そんな不安が蘇る。
仁美おねぇちゃんも、勘違いしてお友達に酷いことをした悪い子のことを、嫌いになるんじゃないか――と。そんな恐怖が蘇る。
――そんなの、嫌だ。
嫌だから、カオスはちゃんと、今度こそ見つけないといけない。仁美の説いた、本当の「愛」を。
そのために必要なことを、他に頼める相手もいないのだ。
もしこの先、出会うことがあれば――許して貰えなくたって、頑張ってお願いしてみよう。
きちんと、これまでのことを謝って。
他の皆もそうだけれど、せめて……ニンフおねぇさまにだけでも。
そのお願いすべき相手がもう、この世にいないのだということも知らないで。
何も知らず、だからこそ識ることを欲する天使はまだ、微睡みの中にいた。
【一日目 真夜中】
【D-5 クスクシエ跡地】
【カオス@そらのおとしもの】
【所属】無(元・青陣営)
【状態】精神疲労(極大)、“火野”への憎しみ(無自覚・極大)、ダメージ(小)、頬に青痣、罪悪感(大)、成長中、就寝中、全裸(クスクシエにあった服を被せられている)
【首輪】100枚:90枚
【装備】なし
【道具】志筑仁美の首輪
【思考・状況】
基本:「愛」を知りたい
1.ニンフおねぇさまに力を貸して欲しい、けれど……
2.“火野”のおじさんに、もう一度会ったら……
【備考】
※参加時期は45話後です。
※制限の影響で「Pandora」の機能が通常より若干落ちています。
※至郎田正影、左翔太郎、ウェザーメモリ、アストレア、凰鈴音、甲龍、ジェイク・マルチネス、桜井智樹、鹿目まどかを吸収しました。
※現在までに吸収した能力「天候操作、超加速、甲龍の装備、ジェイクのバリア&読心能力」
※鹿目まどかのソウルジェムは取り込んでいないため、彼女の魔法少女としての能力は身につけていません。また双天牙月を失いました。
※ドーピングコンソメスープの影響で、身長が少しずつ伸びています。現在は17歳前後の身長にまで成長しています。
※憎しみという感情を理解していません。
※智樹、及びまどかを吸収したことで世間一般的な道徳心が芽生える素地ができましたが、それがどの程度影響するかは後続の書き手さんにお任せします。
※まどかの記憶を吸収しましたが、「Pandora」の機能が低下していたこと、死体の損壊が酷かったことから断片的にしか取り込めておらず、また詳細は意識しなければ読み込めません。
※読心能力で聞き取った心の声と、実際に口に出した声の区別があまりついていません。
693
:
仮投下⑤
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:44:10 ID:0w6QAcqs
【全体備考】
※青陣営が消滅しました。現在リーダー代行は現れていません。
※キャッスルドラン@仮面ライダーディケイドが死亡しました。
※『APOLLON』により、キバの世界全体が焦土になりました。巻き込まれた伊達明、フェイリス・ニャンニャンの死体、智樹の支給品だったエロ本等は完全に消滅しています。また、該当エリア内のミラーワールドでも施設が消失するなどの影響が出ています。
※これによりカザリが放っていたタカカンドロイド&バッタカンドロイドの内何機かが影響を受けたかもしれません。カンドロイド達は少なくともイカロスより後にキバの世界に到着しましたが、『APOLLON』発射時にキバの世界にいたカンドロイドは全滅していると考えられます。
※キバの世界跡地のどこかにコアメダル(サイ、ウナギ、タコ、スーパートラの四枚)があります。
※マスカレイドメモリ@仮面ライダーW、月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)@Fate/Zero、ナスカメモリ@仮面ライダーWは破壊されました。
※ミルク缶@仮面ライダーOOO、グロック拳銃(14/15)@Fate/Zero、T2オーシャンメモリ@仮面ライダーW、紅椿@インフィニット・ストラトス、キュゥべえ@魔法少女まどか☆マギカ(支給品)、メズールのランダム支給品が破壊されているのか、どこかに残っているのかは後続の書き手さんにお任せします。
※キャッスルドランにいた監視用インキュベーターの安否は後続の書き手さんにお任せします。
※シナプスカード(智樹の車窓)はキバの世界跡地付近にあると思われますが、具体的に会場内のどこにあるのかは後続の書き手さんにお任せします。
※会場を覆う結界が確認されました。結界は少なくとも内側から制限下最大出力の超々高熱体圧縮対艦砲『HephaistosⅡ』による攻撃を受けても影響がありません。
※ミラーワールド内に侵入可能な仮面ライダーのミラーワールドにおける活動制限時間は、DCD出典である本ロワ内では特に決まっていませんが、ミラーワールド内だと加速度的にメダルを消費し、変身状態でなければ脱出はできないものと思われます。
※結界に防がれた『HephaistosⅡ』、及び『APOLLON』の影響は会場の広い範囲で観測できたと思いますが、具体的には後続の書き手さんにお任せ致します。
※ディケイドによって、シャチのコアメダル(メズールの感情コア)が破壊されました。青のコアメダルは残り8枚です。
かくして、一つの長い戦いは幕を閉じた。
都合六名の参加者が命を落とし、二つの陣営が消滅し、残された者達に多大な影を残した一連の激闘も、バトルロワイアル全体から見れば所詮、たった一つのエピソードに過ぎない。
それでも一つの区切りとなったこの戦いは、来たるべき終わりの到来をまた一歩、確かに早めたことだろう。
――――しかし、いつか訪れることが確定していても。
まだその形は、定まっていない。
いつか訪れる、終末/未来/明日の形を本当に決定づけるものは――斯くあって欲しいと望む、たった一つの想いだけ。
それを抱く誰かが選択される、その最後の瞬間まで――戦いは、続いて行く。
【伊達明@仮面ライダーOOO 死亡】
【メズール@仮面ライダーOOO 消滅】
【フェイリス・ニャンニャン@Steins;Gate 死亡】
694
:
仮投下⑤
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 22:47:13 ID:0w6QAcqs
以上で、予約分の仮投下を完了します。
>>658
で挙げさせて貰った点に限らず、何か問題点、気になった点等ございましたらご意見お待ちしておりますので、よろしくお願い致します。
695
:
◆z9JH9su20Q
:2014/04/29(火) 23:09:12 ID:0w6QAcqs
すいません、挙げようと思っていた点を一つ忘れていました。
今回仮投下側で、カオスがエンジェロイドなのに夢を見る展開を書いている点について、
一応の理由付けは作中で行いましたが、それで大丈夫かもご意見頂ければ幸いです。
696
:
欲望まみれの名無しさん
:2014/04/30(水) 00:17:49 ID:VMZHMfaI
感想はあんま今言っちゃいけないんだけど……、一つだけ!
よくぞこのパートをここまで丁寧に描き切ったとただただ感嘆しました、素晴らしい長編、お見事&超面白かったです!
大体の気になる点として挙げられている点は許容範囲内だと思いますが、ディケイドがコアメダル破壊できるのだけは要議論かと。
今までプトティラだけが唯一行える行為として書かれていたので。
とはいえ、理由づけも個人的には納得できるものでしたので、書き手さんないし数人の読み手の同意、あるいは反論がなければ通しでいいかと。
697
:
欲望まみれの名無しさん
:2014/04/30(水) 14:45:31 ID:NcfBrq/k
仮投下乙です。全体通して理由付けもしっかりされているのでこのまま通しても問題ないと思います。
ディケイドがコアを破壊するという展開も兼ねてから雑談スレなどで妄想され期待されてきたものですし、逆に言えば世界の法則すら破壊しアンデッドすら爆殺してきたディケイドがコア破壊は不能と断じてしまうのはそれこそ設定的に勿体無いものがあるのではないでしょうか。
698
:
欲望まみれの名無しさん
:2014/04/30(水) 18:49:02 ID:v94LoFSU
大作の投下、大変お疲れ様でした。
感想は本投下の時に書き込むとして、今は気になった点を一つ。
作中時間が真夜中となっていますが、過去作から今作まで戦闘が続き空白時間がほとんど無い内容であることを考えると
この時点では起点となる「怠惰 ――Sloth―― 」と同じ枠内の夜中である方が自然じゃないかと思いました。
この点についての修正または◆z9JH9su20Q氏のご意見が欲しいです。
なお、他に気になった点は無いので上記の点が解消されれば通しで良いと思います。
699
:
欲望まみれの名無しさん
:2014/04/30(水) 19:05:49 ID:x2VDkvdg
すいません、読み直したらもう一点ありました。
冴子が回収したサタンサーベルが状態表にも載っていないので、修正が必要と思います。
700
:
◆z9JH9su20Q
:2014/04/30(水) 23:39:28 ID:SqOhYMeo
皆様ご意見ありがとうございます。
概ね不安であった点は大丈夫とのお言葉に胸を撫で下ろしております。
また、
>>698
で頂いたご指摘について返答させて頂きます。
空白時間がほとんどないとは言っても、前二作の時点で戦闘そのものが相応の時間を必要としたものであったと考えているので、
そこからさらに戦いや言い争いの続いた今作終了時点の時間帯は真夜中が適切ではないかな、と自分では考えました。
ただ氏の仰るように夜中である可能性も十分考えられるものだとは思うので、他の方から見ても真夜中では納得できない、夜中の方が適切とのご意見が多いようでしたらすぐにでも修正対応させて頂きます。
また、
>>699
のサタンサーベルの件については完全に私のミスでした、ご指摘ありがとうございます。修正しておきます。
ところで自分でも読み返してみたところ、最後の映司視点のパートでとある展開が起こった方が自然ではないのか、という疑問を持ちましたので、それについて考え場合によっては加筆したいと思っているので、本投下までもう少しお時間頂ければと思います。
その遅れてしまうかもしれない本投下までの間、まだまだご意見募集中ですので、何か気がかりなこと等ありましたら指摘して頂ければ幸いです。皆様どうかよろしくお願いします。
701
:
欲望まみれの名無しさん
:2014/05/01(木) 23:09:33 ID:eu6fwb.o
夜中でも真夜中でもどちらの解釈でもいけるなら、企画としてスムーズな進行を優先するって意味でも真夜中でいいと思いますよ。
何なら補足として、「真夜中になったばかり」というような説明を入れるのでもいいかもしれませんね。
702
:
欲望まみれの名無しさん
:2014/05/01(木) 23:32:46 ID:ybRXGM0I
真夜中でいいでしょ
あの時間枠はそこまで厳守しなきゃいけないもんでもないし、いつまでも同じ枠にいると話が進まないよ?
703
:
欲望まみれの名無しさん
:2014/05/02(金) 20:40:57 ID:L6oIrDcg
>>698
で意見した者ですが、◆z9JH9su20Q氏および他の方が述べた
「真夜中であることの理由付けも可能」「企画の進行がよりスムーズになる」の2点は
考えてみると確かに一理あるだろうと思いました。
なので
>>698
の意見を取り下げることとします。
それと、仮投下から何日も経過したタイミングで言うのは恐縮なのですが…
士が持っていた正規型のバースドライバーが今作で後藤さんの手元に移動していますが、
いつ渡されたのか(または奪われたのか)読み返してもよく分からなかったので、説明を貰えると嬉しいです。
704
:
欲望まみれの名無しさん
:2014/05/02(金) 20:51:37 ID:L6oIrDcg
すいません、たった今自己解決しました。
>――ディケイドの落とした支給品を回収しつつ――
この一文を見落としていたようです。お目汚し失礼しました!
705
:
◆z9JH9su20Q
:2014/05/03(土) 01:11:15 ID:dbjLtxh2
皆様ご意見ありがとうございました。
それではこれより、本スレに今回のSSを投下して参ります。
706
:
◆z9JH9su20Q
:2014/11/28(金) 21:02:46 ID:V11kjDO6
一通り書きあがったので、これより予約分の仮投下を開始します。
707
:
◆z9JH9su20Q
:2014/11/28(金) 21:04:15 ID:V11kjDO6
硬貨を模した円盤が、ひっくり返る。
海東純一の前で、縁っていた環を残した円の裏面が表となった時。寸前までなかったはずの、赤い紐で結ばれた金と銀の鈴がいつの間にか鎮座していた。
盤の動きが停止したのに合わせ、軽やかな金属音を鳴らしたのは、第四世代インフィニット・ストラトス『紅椿』――その、待機形態だった。
「お疲れ様です」
支給されていたメズールの脱落に伴って放置され、遠からず最終兵器『APPOLON』の攻撃に巻き込まれ消滅するはずだったこのISを、時空を越えて会場から回収するという任務を終えた
同志に向けて、純一は張り付いた笑顔のまま労いの言葉を送った。
「全くだ」
そんな純一に、疲弊感を隠そうともせずに答えるは、橙と黒を中心としたローブのような衣類に身を包む、奇天烈な風体の人物だった。
「あの中で気取られず、他を巻き込まずに回収するのは我でも骨が折れた」
気位の高い物言いだが、どこか舌っ足らずな発声。決して低身長ではない純一も見上げねばならない背丈でありながら、体躯そのものは十にも満たぬ幼子のそれだ。
小さな頭を覆う、背まで伸びた白銀の髪の上には黄金の王冠を載せているが、不釣り合いに大きいがために一動作ごとにずれ動く。金色の骨のような篭手で包まれた右手には、如何に
も童話の中の魔法使いが持っていそうな木の杖を、指の長さが足りないがため必死に掴んでいた。
全体的にアンバランスな印象を覚える、しかし雪の妖精のように美しい童女。その紅玉の瞳は、自らの回収した代物から純一へと視線の注ぐ先を変えた。
「……とはいえ、貴様も立会ご苦労であった」
「いえ、それが私の役目ですから」
爽やかな印象を打ち消す、やはり張り付いたような笑顔のままで、純一は彼女――否、彼に答えた。
「実働を任されているガラさんに比べれば、何でもないようなことです」
「そうか」
笑顔で告げる純一に対し、異邦の少女――の姿をした、古の天才錬金術師ガラの態度は実に素っ気ないものだった。しかし気にするような事柄ではないとして、純一は貼り付けた笑顔
のままで受け流した。
今現在、主催側の運営スタッフとして純一に任されている役割。それはエリア管理委員会での実績に基づいた、会場への干渉に対する監視役だった。
バトルロワイアルが開始された後、場合によっては主催側が進行のために干渉する必要が生じることも想定された。故に、隔離された時空にある会場とこの主催陣本拠地を、聖杯の力を借りずに繋ぐための装置が設けられた。それが備えられているのが、この大小様々な円盤の設置された一室となる。
表と裏とで、別々の時空を繋ぐこの円盤を自在に操れるのは、主催陣営の中でもそれを作ったガラだけだ。
そんなガラの独断を防ぐためには、監視が必要となる。彼がこの円盤に近づく際には、いざという時にインキュベーターだけでは抑止力足り得ないとして、どの裏リーダーの配下でもない純一が常に立ち会うこととなっていた。
そうして、ガラが密かに会場から、参加者の誰にも気づかれないよう苦心しながら回収した紅椿を、純一が手に取ろうとした時だ。
連なったセルメダルを、まるで触手のように操ったガラが、純一に先んじてそれを掴み取っていた。
708
:
◆z9JH9su20Q
:2014/11/28(金) 21:05:14 ID:V11kjDO6
「これは我が届けよう」
告げてから、高い位置にある幼い美貌を微かに歪めて、ガラは艶然と微笑む。
「気を悪くするな。ただ、“青”の王は人間嫌い……特に、男が嫌いであろうからな」
「ガラさんは、本来男性だったとお聞きしていますが?」
「それでも、今の器の性別は……見ればわかろう?」
「なるほど……しかし、それでは困ります」
ガラの意図を察した純一は、この茶番に乗させて貰うこととした。
「今回は青陣営裏リーダーの開始以前からの要望で、会場から紅椿を回収しました。そこまでは確かに私も見届けましたが、それがあるべき場所に収まるまでを確認しなければ、監督不届きとなってしまいます」
無論、会場内に支給されたアイテムを回収するなどという行為は――純一も、他人のことは言えないが――如何に裏リーダーの一人といえども、否、むしろだからこそ“名目上”禁忌となっている境界を、一歩越え兼ねない振る舞いだ。
そのため、紅椿を所有する参加者の死後、誰も回収せず、そのまま放置すれば確実に破壊されたと思われる状況下でのみ、回収が許されるという条件が引き換えとして提示された。
そして現実は青の裏リーダーが狙った通りのシチュエーションとなり、紅椿はガラを介してその手元に届けられるはずとなっていた。
「私も、ガラさんが件の“王”に紅椿をお渡しされるまで、同行させて貰いましょう」
「仕事熱心な男よ……ふむ、仕方ない。よかろう」
面倒そうに、深々と溜息を吐いたガラが杖で床を突いた次の瞬間、大量のセルメダルが津波のようにして押し寄せてきた。
瞬く間に、巨人の手のようになったセルメダルの流れはガラと純一を拾い上げると、走るより速くその身を運び始める。
「おまえが奴に会うのは、初めてだったな」
メダルの生む漣が、周囲の聞き耳から遮断してくれる中で。ガラは純一に、芝居の終わりを告げる呟きを漏らす。
「ええ。是非お会いしたいと思っていたのですが……」
「そうか。だがあれは、人を選ぶぞ?」
ガラがそんな誂うような、憐れむような物言いで返答したところで、目的地に着いた。
金の円環の中に、三種類の海洋生物――シャチ・ウナギ・タコと、オーズのシャウタコンボのオーラングサークルと同じ紋章が刻まれた扉の前に、純一とガラは立っていた。
「……入るぞ」
「…………あー、がっくん!」
断定口調で告げながらも、扉が開かれるまで待機していたガラへの返答には、幾許か奇妙な間が存在していた。
「うん、いいよいいよ! どうぞー」
軽い調子の女の声を合図に、扉が開かれる。床を揺るがす歩みを再開したガラが微かに嘆息していたのを、純一は見落とさなかった。
純一が足を踏み入れた室内は、暗闇に覆われていた。薄闇越しに辛うじて見える用途不明の機器の数々はまるで、中世の魔女の儀式部屋のようにも思えた。
それらに目を奪われていたところ、二人が踏み入ったのを感知したかのようにパッと照明が点き、純一の網膜を白く灼いた。
「おー、もう取って来たんだ。仕事早ーい!」
明順応を果たし、視力を回復した頃には、純一達の前にテンションの高い様子の女性が立っていた。
709
:
◆z9JH9su20Q
:2014/11/28(金) 21:07:29 ID:V11kjDO6
先程ガラと言葉を交わした声の主。純一は彼女と初対面でこそあったが、既にその姿を見知っていた。故に、微かな驚愕を覚えていた。
「貴女は……篠ノ之博士ですね?」
問いかけたが、確認するまでもない。目の前にいるのは青と白のワンピースや垂れ気味の瞳が愛嬌を感じさせる、長髪の女性。目を通した資料に載っていたのと寸分違わぬ、篠ノ之束その人だ。
真木達に監禁されていたと思われた彼女の、あまりにあっけらかんとした登場に一瞬ばかり面食らってしまったが――既に状況のほとんどを掴むことに成功した純一は、彼女が会話に応じてくれるのを待つこととした。
しかし――束は不機嫌を隠そうともしない表情で、目を窄めて純一を睨めつけてきた。
「はあ? 誰だよ君は」
「これは失礼致しました。私はエリア管理委員会次官の、海東純一と……」
「別に聞いてないよ」
思いっきり聞かれましたが。
「私の知り合いにそんな気持ち悪いスマイルの人はいないんだよ。今はようやく手元に戻ってきた紅椿の様子を一刻も早く見たいのに、いきなり出てきて貴重な時間を浪費させようなんて、君はいったいどういう了見なのかな」
「それは……申し訳ありません、このような対応で」
さすがの純一も、一方的過ぎる物言いに苛立ちを覚えた。しかし感情を顕にする愚を犯さず、いつも通り心中と表情とを完全に切り離して礼儀正しく謝罪してみせたが、束の表情にはなおも変化はなかった。
「そこまで言ってやるな、束」
しかし純一が下手に出ているとは言え、明らかに険悪なものになりつつある雰囲気を察したガラが苦笑しながら仲裁を買って出た。
「その男もまた、“我が”同志なのだ」
「……ふーん。まぁ、がっくんがそう言うならわかったよ」
不承不承、という様子ではありながらも。先の物言いから想像できないほど容易く譲歩を見せた束の様子に、純一はまた微かな驚きに打たれる。
「くーちゃん、ちょっとお願いー」
「はい、束さま」
束の呼びかけに対し、部屋の隅で佇んでいた少女が応じた直後。
その銀髪の少女は、ずっと閉じていた両目を見開いた。白目が黒色に、黒目が金色に染められた異形の双眸を。
「――ワールド・パージ」
そして、それだけを呟いた。
目に見えて何かが変わったわけではない――満開の花のような笑顔を、束が浮かべたこと以外は。
「それじゃ改めて。これで自由にお話できるよ。くーちゃんのおかげだね!」
ぱちぱちぱちぱち、と擬音を発しながら拍手する束がくーちゃんと呼ぶ少女の謎めいた行動に、どんな意味があるというのか。自身に応えてくれた少女の頑張りを、踊り出さんばかりに喜んだ束の様子をまたも純一が訝しむことしかできずにいると、ガラが補足をしてくれた。
「そこのインキュベーターの目を気にしなくとも良いということだ」
純一達を監視していた異星の白い獣を、ガラはその小さく柔らかそうな顎を使って指し示す。
「他に電子機器があろうと無駄だ。生体同期型のIS『黒鍵』の前ではな……そして魔術的な手段であれば、我に悟られぬ細工をするなど不可能なことよ」
「つまりつまり、今この部屋は文字通り、世界から隔絶(ワールド・パージ)されたわけなのだ。これで出歯亀の心配はナーッシーング!」
テンションの高い束がまとめたところで、純一も理解できたと反応を示した。
「成程、では――」
「ああ。ようやく本音で話せるな? 同志達よ」
ガラの含み笑いの後、純一と束も同様の笑みを浮かべた。
710
:
◆z9JH9su20Q
:2014/11/28(金) 21:08:29 ID:V11kjDO6
己の欲望のために何もかもを踏み躙ろうとする者特有の、底冷えする笑みを――
「……“欲望の大聖杯”を掴むのは、今グリードを保有する“王”の誰でもない。我らの内、最後に残ったその一人が、真のオーズとなるのだ――っ!」
そうしてガラは、高らかに宣言した。
――そう、そのために純一はガラと結託していた。
純一とガラは、大聖杯に令呪を与えられなかった。真のオーズ――大聖杯を掴んだ、∞(神)をも超える存在になる資格を、見初められなかったのである。
ただ、儀式の円滑な運営を補助せよと、その権利を得た王達によって小間使いとして召喚され、裏方として関わっているに過ぎない。
しかし――それは、現時点での話。
大聖杯を掴む者が誰であるのかは、まだ確定していない。
そして、その資格である令呪とは、本来所有者から奪うことのできる代物なのだ。
それを知るからこそ、彼らは今は真のオーズ候補者達に媚を売る者のようにして振る舞いながら――いずれ来る簒奪の機会を狙って、牙を研いでいたのだ。
「――しかし、篠ノ之博士が青の裏リーダーだったとは驚きです」
本音で語って良い、などと言われても。現裏リーダーどもと同じく、いずれは出し抜かねばならない相手に本心を見せるわけもない。
故に笑顔の仮面を被ったまま、束の手の甲にシャウタ柄の令呪を見つけた純一は、当たり障りのない会話を始めていた。
とはいえ裏リーダーの中に、真っ当な勝利を早々に諦め、ガラ達と同じく勝者の令呪を奪おうと目論んでいる同志がいるとは聞いていたが。それが青陣営の裏リーダーで、しかもそれが篠ノ之束だということは先程まで伏せられていたのだから、驚いたというのは本心だ。
「この分では、私がドクター真木達から与えられていた情報の大半はアテにならないのでしょうね……貴方と同志であるということは、光栄ですが」
事実としてあの時、篠ノ之箒に語った情報に嘘を混ぜたつもりは純一にはなかった。あの時点では、純一は真木らに束は拉致された一被害者だと思い込んでいたのだ。
しかし蓋を開けてみれば、被害者どころか発端である真木とも対等な地位――スタッフや支給品となる道具をかき集めた、主催陣営の根幹を成す裏リーダーの一角であったのは、流石に予想外であった。
「まぁ、奴らからすればおまえに正確な情報を渡す旨みもないだろうからな」
ぞんざいな扱いだ。もっとも、どんな好待遇だろうが純一が裏切るのは確定していたのだから、その判断も間違っているとも言えないのだが。
「まぁマッキーもねー……結構天才だけどほら、私ってば超天才だしー? あんまり本当のこと言いたくなかったんじゃないかな」
待機形態の紅椿を早速何かの端末で解析しながらなはははと笑う束の様子を見るに、箒が彼女に対する人質というのも、どこまで信じて良いかわかったものではないように思えた。
「そんなおまえでも、開始早々読みが外れて焦っていたな」
ガラが小さく失笑して漏らした言葉に、束は一瞬固まった後、変わらぬ調子で喋りを再開した。
「あれはねー。白式持ってるいっくんが、あいつにいきなりやられちゃったのは流石の束さんも予想外だったよ」
表情は笑っているが、目と声が笑っていない。それが織斑一夏の死によるものなのか、ガラに揶揄されたせいなのかまでは純一には探れなかった。
711
:
◆z9JH9su20Q
:2014/11/28(金) 21:09:57 ID:V11kjDO6
「だって生体兵器って言っても、あの遅れてる世界の技術での産物だし。一応ちーちゃんよりは基礎スペック高く作れてるみたいだけど、こっちじゃ骨董品のバズーカ以下の攻撃力しかないんじゃあ初見でISに勝てるわけない……って思ってたら、いっくんが気づく前に奇襲であっさりだよ? 観察するんじゃなかったのかーって思わずポルポルしちゃったよ」
ポルポルとかどんな擬音語だ、というのはさておき。どうやら一夏の、少なくともあの時点での死は。束にとっても想定外、意図を外れた結果であったらしい。
「しかもあの後、素人のはずのあいつが普通に白式使えていたし……やっぱり緑のが全部仕込んでたんだろうね。調子乗ってくれちゃってさぁ」
隠しもしない憎悪を滲ませて、束は表情を険しくした。
――織斑一夏の早すぎた死に、あるいはとある“悪意”の関与を嗅ぎ取って。
ああ――おそらくはこういう時に人質が必要だったのだろうなと、純一は何となしに察した。そしておそらく、ある程度は有効だったということも。
彼女に対して消えかけていた類の関心が、ほんの微かに蘇った。
「その件については、おまえも人のことを言えまい」
「んー? だって私が有利になるよう仕込んだのはグリードにだけだよ? 一参加者にまでそんな依怙贔屓して良いんだったら、いっくんがあんなのに殺されてるわけないじゃん」
ガラが再度束を諌めるようなことを口にするが、彼女はその言葉をあっさりと流した。
ただ、明朗な印象通り。喋ることが好きなのか関連した事柄について、裏の事情をベラベラと喋ってくれるのは、未だ情報不足であることを知ったばかりの純一には有り難かった。
現時点での話題によると――本来ISの扱いにおいて素人であったXやメズールがそれぞれ、実戦で通用するレベルでの扱いを可能としたのには、カラクリがあったということらしい。
推測すると開幕までの準備期間中に、各陣営の裏リーダーの手で特別に訓練を受けさせられていた、というのが真相だったようだ。
無論その記憶はマーベリックのNEXT能力で消失しているが、体に染み付いた技術はある程度残っていた、ということなのだろう。
しかし他の参加者とは別枠としてある程度自由だったグリードや、支給品となった物品の数々はともかく、聖杯の力で時を停止させられていた参加者への干渉は容易ではないはずだ。せいぜい、緑の裏リーダーが密かに干渉したと思しきX一人が、束以外の全裏リーダーやその配下が手を取り合ったところで干渉できる限界だろう。
「でもわざわざ特訓してあげて、束ちゃんの最高傑作まで調整して貸し出してあげてたのにねー。普通の銃でも殺せる奴一人始末しただけとか、一ミリも戦力にならなかったなあの魚」
そもそも、ISとは人が乗って初めて真価を発揮する代物だ。
グリードというメダルの塊を引っ付けていたところで、その性能は無人機の場合と同様。万全を願うのは高望みだったのだろう……等と自分で解説しながらも、束は不満を隠そうともしない。
「まぁ、世界そのものの技術水準が違い過ぎたからねー。さすがにバージョンⅡのIkarosには敵わないにしても、紅椿なら本領発揮しなくたってあの状態のオーズを仕留めるぐらいならできたろうに、全く。挙句ディケイドに突っ込んで死ぬし」
「あの詳細名簿は、戦力面の把握にはそこまで役に立ちませんからね」
ただ聞いているだけなのもつまらないので、純一もわかる話題には相槌を打ってみることにした。
あの詳細名簿は、純一も目を通したことがある。確かに主催陣が把握できた範囲ではあるが、簡易な人物説明から詳細な背景、プロフィールについて余すことなく記載されている。
しかし、その情報をグリードが活かせるように作られた結果、欲望に関わりの薄い部分については記載が控えめとなっている。参加者の戦闘能力についてはその最たるものだ。
例えばイカロスはビームやミサイルなどの強力な兵装を持ち、国の一つや二つ軽く殲滅できるほどの戦略兵器であるとか、カオスはエンジェロイドでも唯一イカロスに匹敵する戦闘力を持ち、他の兵装や生物を取り込むことで更なる自己進化が可能であるとか。
セイバーはビル群をも一瞬で蒸発させる光を放つ聖剣『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』を保有した最優のサーヴァントで、バーサーカーはそのセイバーすら上回る基礎能力に加え、更なる力を与えるエクスカリバーの姉妹剣の担い手であるとか。
門矢士こと仮面ライダーディケイドは全ての仮面ライダーを破壊する悪魔とされ、事実数多の世界を渡って来た彼を止められる者はここまで存在しなかった、だとか……大雑把な危険度はわかるが、その詳細が欠けているのである。
712
:
◆z9JH9su20Q
:2014/11/28(金) 21:11:35 ID:V11kjDO6
例えばカオスやバーサーカーは同格とされる者達と比べて、大規模高火力の武装がないことが一目見ただけでは把握し難い。一見すればカオスも国家単位の攻撃規模を持った戦略兵器であるように読み取れたり、バーサーカーは全ての面でセイバーを超えていると誤解を招くことだろう。
故に、例えばウヴァが存命していた頃は、バーサーカーが凄まじいビーム攻撃をして来る最強のサーヴァントだと誤解し怯えている姿が確認できていた。実際のバーサーカーは第四次聖杯戦争においては、相性の問題もあるがアーチャー・ランサー・ライダー・キャスターと過半数を相手に敗色濃厚な中堅止まりのサーヴァントであり、高位の英霊とはいえ最強と呼ぶのは憚られる存在だ。更に言えば単なる身体強化の『無垢なる湖光(アロンダイト)』の攻撃では、対グリード特攻を持つメダガブリューすら受け付けない完全体のウヴァを打倒することは困難――狂化スキルの影響で搦手を使われる心配もなく、ウヴァ自身からすればむしろカモと呼ぶべき相手であったにも関わらず、だ。
そんな詳細がわからない解説に踊らされたがために、束のグリードであったメズールも最初の交戦でダメージを受けなかったなどと油断して、液状化能力を攻略できるディケイド相手に挑発するなどという墓穴を掘る羽目になったのだろう。昼間のディケイドが――理由は純一には不明ながら――明らかに手を抜いていたということも、いくらグリードとはいえ参加者の身分ではわかるはずもない。
「……とはいえ、束よ。どの道メズールが終盤を待たずに脱落することは、貴様も想定済みだったのだろう?」
ガラの問いに、「んー」と束はなおも渋い顔をする。
「まーそれはね? 明らかにグリード単体の戦力じゃ緑が突出してるし、予め代理リーダーが仕込まれている赤が始まる前から有利だったりで、まともにやるよりはがっくん辺りと手を組んで漁夫の利を狙うべきってのは明白だったし。でも一応は普通の優勝も最低限狙おうと思ってこれ渡してたから、魚の不甲斐なさがね……まさか代理リーダーも作れないなんてさ」
待機形態の紅椿を見せて嘆いてみせる束の様子にほとほと疲れたのか、ガラは呆れたような溜息を吐いた。
「そこまで考えてそれでも青を有利にしておきたかったのであれば、ブレイバックルに細工なぞしなければ良かったのだ」
ただ、そのために口にした内容が余りにも無茶であったために、束もたちまち反発する。
「それは別の問題だよ。反抗されるのわかり切っているんじゃ戦力に勘定できないし……っていうかあれを野放しにしてたら確実に失敗するもん、この聖杯戦争」
そうして束は、もう一人――主催陣の干渉が原因で、不当な脱落を遂げた参加者について言及した。
その名は、剣崎一真――純一達の持つそれと極めて近いライダーシステムの、仮面ライダーブレイドに変身する男だった。
まだ、参加者達の時が止まっていた頃の話だ。
主催陣営は水面下で牽制し合いつつ、参加者の情報収集や支給品の選定を行っていた。
そして、参加者の情報が集まるに連れて、殺し合いを破綻させかねないいくつかの問題も浮上して来た。
その内、会場からの脱出に直結するような異能は既に聖杯によってメダル制限とは別個に枷を設けられていたため、単純に問題となったのは参加者間のパワーバランスにあった。
特に魔人ネウロ、イカロスにカオスというエンジェロイド、仮面ライダーディケイドなどは、この聖杯戦争において他とは隔絶した戦闘力を誇っていた。
その力で儀式そのものを瓦解されるのはもちろん、一方的な力ですぐに決着してしまってもセルメダルを参加者の欲望に馴染ませることができず、聖杯の起動条件を満たせない可能性がある。故にこれら規格外の参加者には、主催陣営の手が及ぶ範囲での対策が必要とされたのだ。
そして――そんな規格外の参加者の中でも、制限されたディケイドや、あのスーパータトバの上位互換とも言える戦力を発揮し、なおかつ確実に殺し合いに反抗して儀式を破綻させるものと危険視されたのが、剣崎一真だった。
無制限の時間停止という、対人戦においておよそ反則的な能力。それを含めた多彩な特殊能力を操るのは、世界を破壊する不死の邪神すら一刀の下に滅する力を持った、仮面ライダーブレイドキングフォーム。
713
:
◆z9JH9su20Q
:2014/11/28(金) 21:12:23 ID:V11kjDO6
しかもそれを纏う剣崎自身が、単純な力量ならキングフォームにも匹敵する最強のアンデッド――純一が同化を目論むほどに強力な死神、ジョーカーアンデッドの力を持つ。
その力を殺し合いの阻止に向けられては、高確率で儀式は破綻する。故にその存在は主催陣営から何より危惧された。
しかし、“欲望の大聖杯”の起動条件を満たすためには、聖杯が選んだ参加者である剣崎達を殺し合いの前に始末することはできなかった。
剣崎に限らず、厄介な参加者については首輪で爆破できれば簡単なことだったかもしれない。しかし見せしめに用いるダミーとは異なり、参加者の首に既に巻きついている本物のそれは聖杯が用意した物であり、様々な情報を開示してくれはすれど、未だ聖杯を手にしていない主催陣営の意志で自由に起爆することはできなかったのだ。
規格外の参加者の内、ネウロは聖杯の力によって放っておいても窒息死することが明らかになった。ディケイドは殺し合いを促進する存在になり得るということで、カードの大部分を奪って弱体化させるに止めた。エンジェロイド達もまた、その不安定な精神性からむしろディケイド同様に儀式の完遂に役立つために微調整で良いと結論づけられたが、剣崎一真だけはそれだけではいかなかった。
ブレイバックル、あるいは一部のラウズカードを取り上げれば、戦力の絶対性を奪うだけなら十分だったかもしれない。しかしキングフォームがなければ代用されるだろうジョーカーの力だけでも参加者中最上位に迫り、周囲の人間にも影響する強靭な精神性を持つために、あるいは精神の不安定を理由に見逃されたエンジェロイド達がその代理を果たしてしまう恐れもあった。
ジョーカーの力さえも剥奪できれば良かったのだろうが、前述の通り支給品ならともかく参加者に干渉するのは容易ではなく、まして星の集合意思が生み出した最上のアンデッドの力を抑制する手段も、人間に戻す技術も彼らは持ち合わせていなかった。
危険性を認識した上で、ブレイバックルを没収して参戦させるしかないと、話が纏まりかけていた頃だ。一計を案じた真木が、打開策を皆に提示したのは。
真木が示した対策が、ブレイバックルに細工を施した上での剣崎の暗殺だった。
剣崎を人間に戻すことはできない。しかしブレイバックルという人造物に細工を加えることならできる。そういった発想の逆転だった。
こうして真木達は、剣崎を仕留めるためにブレイバックル、それを通してキングフォームに罠を潜めた。同じカードは変身中一度しか使用できないよう設定することでタイムスカラベとロイヤルストレートフラッシュの同時使用の阻止と合わせてその能力の万能性を損なわせ、更に融合係数に強固な制限をかけることで出力を低下。加え変身の負担を大幅に増加させ、トドメに変身してから一定時間が経過することでバックルが自壊するように仕掛けた。
これで、状態の把握できていない初戦において普段の力が出せないまま戦いを長引かせ、弱り果てた剣崎が生身を晒すというお膳立ては整った。
消耗したジョーカーアンデッドなら倒せる者も少なくはなかったが、最終的に刺客として配置されるのは理性のないバーサーカーが選ばれた。初戦で死に至って貰わなければ通じない策だが、序盤にカオスを接触させては彼に懐柔されてしまう危険性があり、シャドームーンやグリードでは警戒して交戦を避ける可能性が高いためだ。
そこまでの準備を重ねた結果、目論見通り剣崎一真は初戦で敗北した。アンデッドである以上ラウズカードに封印されているだけだろうが、解放する手段はこの殺し合いに関与していない以上、脱落に変わりはない。
細工の副作用か、消え去るはずだったキングラウザーが会場に残り続けていることは想定外だったが、大した要素ではない。後は計画通り、ではあるのだが――そんな解体待ちの爆弾を持たされれていた青陣営は、他より頭数が少ない状態でのスタートを強いられていたのに同義だったのだ。成程そうして見ると、早々に真っ当な勝敗に見切りをつけたのが青の裏リーダーであることは自然な成り行きにも思えた。
714
:
◆z9JH9su20Q
:2014/11/28(金) 21:13:17 ID:V11kjDO6
「――ま、最初にがっくんを誘ったように、ここからは私も他の令呪を狙うスタンスで割り切っていくよ」
それでも未練を見せていたことに不快感を示された束はようやく譲歩して、その感情を引っ込めた。
「……それで? 新顔くんにも背景を説明してみたけれど、今回は他に何かお題はあるのかな?」
「うむ……所詮はただの顔合わせであったからな」
束の確認に対し、ガラは鷹揚に頷いてみせた。
「今の時点では、何色の令呪を奪うかも決まっておらぬからのう」
「仰る通りです。暫くはこのまま、殺し合いの進行を見守りましょう」
純一も頷きつつ、今後の展望を提案する。
純一達の目的は、最終勝利者となる裏リーダーが聖杯を獲得する寸前に、その令呪を強奪することだ。
一度令呪を得てしまうと、制限によって他の裏リーダーには攻撃を加えることができなくなる。またその後のことを警戒されると考えれば、決行はまさに終盤、一度きりに限られる。
それまではせいぜい、決戦に向けた各陣営への工作と、そのための情報収集ぐらいしかできることはない。現時点ではまだ、どの陣営が優勝するかも定かではないのだから。
故に、そこで解散となった。
「よーし! それじゃそれじゃ、紅椿の修理始めちゃおっかなー!」
でもただ直したのを渡しても、箒ちゃんも嬉しくないだろうなー、などと。天真爛漫にすら見える勢いではしゃぐ束は、紅椿の鈴を鳴らしながら部屋の奥に消えていった。
「……監視については、まだ暫く誤魔化しておけます。実際のお二人の動きに合わせて調整できる内に、ご退室を」
異色の双眸を開いたままの少女は、言外に早めの退場を促していた。
この十代前半の少女については、束の付き人であることしか純一にはわからない。
ただ、いずれは主人と聖杯を取り合うガラや純一のことを、快く思っていないということは理解できた。
ここは表面上にこやかな態度のまま、純一もガラを促し、退室しようとした。
「待て」
しかし小さな声で、歩み寄ったガラに耳打ちされた。
「例の件は、どうなっている?」
高い位置から見下ろすガラの紅玉の視線に、純一はだからここまで切り出さなかったのか、と察しを付けた。
「成程……確かに、魔術の心得のない私だけでは解析できませんでしたからね。こちらに記録を纏めてあります」
呟いて純一は、合流する事前に確保しておいた資料の一つを取り出した。
「天才錬金術師であるガラさんの智慧、是非ともお貸しください」
意味深な単語を口にしたことを咎めるような視線をしていることに気づき、内心ではしてやったりと思いつつも焦った表情を純一は作る。
暫しの後、嘆息したガラが目を瞑った一瞬の隙に、純一はもう一人の銀髪の少女に目配せをする。
あくまで一瞬のこと。こちらの視線に彼女が気づいているかは定かではない。しかし険しくなっていた表情を見て、証人を確保した手応えを悟り、密かに拳を握り込んだ。
715
:
◆z9JH9su20Q
:2014/11/28(金) 21:14:29 ID:V11kjDO6
これで、後に反故にされる可能性を下げることができる。ガラといえど純一や束まで同時に敵に回したくはない以上、今のやり取りをあの少女に聞かせたことは、肝心の令呪の移植で出し抜かれる事態への牽制になるはずだ。
「……良い。では約束通り、今度は我が事を進めておく」
足元を揺るがせながら、ガラが去って行く。
純一が入手してきた、衛宮切嗣が間桐雁夜から令呪を奪った過程を、魔術的な見地から解析するために。
(愛娘をあんな風に扱われ、会場内での己の行動すら利用される……同情するよ、魔術師殺し)
その背を見送りながら、哀れな道化である男の姿を思い出した純一もまた、失笑を殺しながら歩みを再開した。
緩慢な終わりの到来を少しでも早めるべく、自ら迎えに行こうとするように。
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
「束さま」
研究所でもある自室の最奥。束が紅椿を解析にかけていると、目を開いたままで銀髪の少女が駆け込んで来た。
「あー、ありがとくーちゃん! がっくん達は帰ったの?」
束の返答に、銀髪の少女――クロエ・クロニクルは、心なし苛立ちを含めた声音で答えた。
「はい。ですがあの者ども、束さまを置いて……」
「あー、うん。どうせ令呪の移植について勝手に事を進めてるんでしょ?」
図星だったのか、すぐさま驚いた顔を浮かべたクロエの素直さに、束は明るく微笑みかける。
「どの道魔術の専門家としては、ここにはがっくん以上の人は居ないだろうしねー。元々その点であっちにアドバンテージがあるのはわかっていたし。がっくんは分野こそ違っても、私でも一目置くぐらいの天才だもんね。
でも束さんはもっと凄いのだ! とっくに私なりのやり方で、他の色の令呪を手に入れる準備ぐらいできちゃってるんだよー!」
ブイブイ、と続けていると、やがてクロエは驚きに固まっていた表情を和らげてくれた。
「流石です、束さま」
「いえーい、もっと褒めて褒めてー……うん、くーちゃんはやっぱり怒ってない声の方が、私は好きだよ」
ガラ達との関係も、あくまで互いに、共通の敵の手の内を探り、その戦力を削るために結成した形だけの同盟であることを、束は十分に理解していた。
何かしら提供できる情報と交換に、相手が掴んだ情報を引き出すギブアンドテイクのドライな関係。それを弁えている――というより、ほぼ全ての人間に執着のない束にとっては自然に近い認識だったために、彼らが自分を除け者にして何かしようとしていたのだとしても気にはならなかった。
「それでねくーちゃん、紅椿どうしちゃおっか? そんなに時間がないから大したことはできないだろうけど、どうせ直すならシナプス辺りの技術を組み込んでも面白そうじゃない?」
「ええ、とても」
クロエと言葉を交わしながら、自身の最高傑作――大切な一人っきりの妹に、時が来れば届けるためのプレゼントをどう仕上げるのかを、束は夢想する。
異世界の技術というのは、十二分に束の関心を引いた。束が世界の何十年先を行く頭脳を持とうと、出発点としては現在持ち得る知識を基準にしてしまう。遥かに進んだ技術に触れることができたのは、今の世界を楽しくないと思っていた束にとってはそれだけで幸運だったのだ。
ましてや、数多の並行世界への干渉すらその一端。無限大をも超えると言われる“欲望の大聖杯”の力を手に入れれば、もっと楽しくなるだろう――そう考えた束がこの聖杯戦争なるイベントを歓迎したのは、至極当然のことだった――そのための生贄候補の中に、織斑姉弟がいたとしても。
716
:
◆z9JH9su20Q
:2014/11/28(金) 21:15:19 ID:V11kjDO6
無関係だった箒を牽制として捕らえられたのは失態だったが、既に解放の計画は準備してある。彼女にはいざという舞台の時まで、もう暫く待っておいて貰おう。
(ところでさーマッキー……別にブレイド倒すのに使うの、ディケイドでも良かったよね?)
やがて――インキュベーターへの『ワールド・パージ』を解除すべく、目を伏せたクロエの様子を確認した束は一人。それまでとは異なる思考を展開していた。
このタイミングが訪れるまで保留しておいた、重要な問題を。
(バックルを壊す必要もなかったよねー……何ならデメリットを上手く調整してから、バーサーカーに使わせても良かったんだし。キングフォームはどうせ本人かバーサーカー以外じゃ使えないんだろうから、別段困る物でもないよね)
一見すれば、自壊機能を積み込むことも、何もおかしくはない……の、だが。
真木清人は――この殺し合いに関わる存在の中でも、最古参たる人物だ。
即ち今は亡き“預言者”と最も通じ――主催陣営の誰よりも、並行世界についての知識を持つ存在。
そして、本来なら勝利条件――というより聖杯を使用できる理由が存在しない、無所属こと“紫”陣営の裏の王という、存在そのものが不可解な立場に就いている。
(何を企んでいるのかな?)
その全容を知る術はない。しかし不足した情報を埋める手段なら――ある。
もう一人、いるのだ。裏リーダーよりも古くから、“預言者”と関わりのあった存在が。
その情報源を残すために、束もかの者の処刑には反対したのだから。
(当然……マッキーの監視も厳しかったし、がっくん達と共有するべき情報なのかは手に入れてから判断したかったもんね。今の今まではまだ青陣営があったから私も会場の監視に気を払っていたけど……今なら話は、別だよね?)
青陣営が消滅し、放送までに復帰する様子はない。紅椿の回収も完了した以上、暫くは束も暇ができた。
逆に、他の裏リーダーはまだまだ会場の監視に忙しいはずだ。今なら彼らの目を盗んで、バトルロワイアル開始以前では困難だった行為も達成し易いはず。
この殺し合いの発端となった人物の一人――鴻上光生との、接触が。
「ねえくーちゃん、ちょっとお使いを頼まれてくれないかな?」
そこまで考えたところで束は、目を閉じたまま自分に追従しているクロエに声をかけた。
娘として拾ったこの少女に与えたのはその名前と、生体同期型のIS『黒鍵』。その能力を持ってすれば、鴻上の握る真木との秘密を暴くことも容易い。
実際に役立つ情報なのかはわからないが、それは手に入れてから判断すべきこと――
「――くーちゃん?」
そこまで考えたところで、束は異常に気がついた。
「……失礼しましたっ、束様」
クロエは母想いの良い娘だ。束の頼みとあれば、少々堅苦しい言い回しでも喜んで飛びついてきてくれそうなものなのに――
「……何なりと、ご申し付けください」
そんな彼女が、束の言葉を聞いていなかった。
「んー……」
慌てた様子を目撃した束は、クロエに関する記憶を検索していた。
これは珍しい事態だ。非常に珍しい。初めて料理させた時に、促しても失敗作を束の前に出すのを躊躇っていた時以来だ。
「やっぱいいや」
だから、娘に何か辛いことがあったのだろうと、母として束は考えた。
おそらく――監視端末用のインキュベーターに『ワールド・パージ』を仕掛けた際。そのネットワークを介して、会場内の情報を取得してしまったのだろう。
クロエの精神に影響を与え得る人物……ラウラ・ボーデヴィッヒの身に、何かあったのかもしれない。
717
:
◆z9JH9su20Q
:2014/11/28(金) 21:16:15 ID:V11kjDO6
操作していた端末を閉じ、腰を折った束はクロエの顔を覗き込む。
「大丈夫かにゃー? くーちゃん」
「は、はい……束様」
頷く愛娘を、束は優しく抱き寄せた。
急な包容に驚く様子が伝わってきたが、柔らかい力加減を心がけたまま、手放さない。
「よかったぁ……でも、やっぱり堅いよくーちゃんはー。束さんのこと、ママって呼んでくれても良いんだよ?」
戸惑う彼女を温めるようにしながら、束は耳元で優しく囁いた。
「ママはずっと、くーちゃんの傍にいるからね?」
「……束、さま……っ!」
感極まったクロエの声。それでも改められない呼称に「かったいなぁ」と思わず脱力しながらも、束はその胸を貸し続ける。
――お使いを頼むのは、また後にしようと考えながら。
青陣営の女王は、偽りの母娘の愛に浸っていた。
【一日目 真夜中(?)】
【???】
【篠ノ之束@インフィニット・ストラトス】
【所属】青・裏リーダー
【状態】健康、左手の甲に令呪(青)保有、真木清人の真意に若干の興味
【首輪】なし
【コア】不明
【装備】不明
【道具】紅椿@インフィニット・ストラトス、他不明
【思考・状況】
基本:面白そうだから、“欲望の大聖杯”を手に入れてみる。
0:クロエが辛そうだから慰める。
1:バトルロワイアルを完結させ、“欲望の大聖杯”を起動する。
2:1と並行して、自身が聖杯を獲得できる準備を進める(青陣営を優勝させるか、令呪を消費・放棄して他色の令呪を奪う)。
3:期を見てクロエを鴻上光生に接触させ、“預言者”に関する情報を集めておきたい。
4:箒に紅椿を返す前に、異世界の技術で強化改造してみるのも面白いかもしれない。
【備考】
※同じ天才として、今のところガラと真木の名前は覚えているようですが、純一のことは笑顔の気持ち悪い奴としか記憶していません。
※剣崎の暗殺に関連して、真木が何らかの企みを進行させていると予想しています。
※素人のXが白式を満足に扱ったことから、一夏の死に緑陣営の裏リーダーの関与を疑っています。
【クロエ・クロニクル@インフィニット・ストラトス】
【所属】不明
【状態】健康、精神的ショック(中)
【首輪】なし
【コア】不明
【装備】黒鍵@インフィニット・ストラトス
【道具】不明
【思考・状況】
基本:束さまに尽くす。
0:束さま……
1:束さまに尽くす。
2:あの子……
【備考】
※ラウラ・ボーデヴィッヒがウヴァに精神を乗っ取られたことを知りました。
718
:
◆z9JH9su20Q
:2014/11/28(金) 21:17:10 ID:V11kjDO6
【ガラ@仮面ライダーOOO】
【所属】不明
【状態】健康、イリヤスフィールの身体に憑依中
【首輪】なし
【コア】不明
【装備】不明
【道具】不明
【思考・状況】
基本:真のオーズとなるため、“欲望の大聖杯”を手に入れる。
1:バトルロワイアルを完結させ、“欲望の大聖杯”を起動する。
2:1と並行して、自身が聖杯を獲得できる準備を進める(優勝陣営の令呪を奪う)。
【備考】
※器にはイリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/Zeroを利用しています。
【海東純一@仮面ライダーディケイド】
【所属】不明
【状態】健康
【首輪】なし
【コア】不明
【装備】カリスラウザー&ラウズカード(ハート A〜K、ジョーカー、ケルベロスA)
【道具】不明
【思考・状況】
基本:全ての世界を支配するため、“欲望の大聖杯”を手に入れる。
1:バトルロワイアルを完結させ、“欲望の大聖杯”を起動する。
2:1と並行して、自身が聖杯を獲得できる準備を進める(優勝陣営の令呪を奪う)。
【備考】
【全体備考】
※主催側に【篠ノ之束@インフィニット・ストラトス】が存在しています。また、束が青陣営の裏リーダーでした。
※主催側に【クロエ・クロニクル@インフィニット・ストラトス】が存在しています。
※主催側に【ガラ@仮面ライダーOOO】が青以外、いずれかの陣営の裏リーダーの協力者として存在しています。
またその器として、主催側に【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/Zero】が存在しています。
※参加者の首輪は、ルールに明記された特定条件を満たさない限り、主催陣営にも任意の起爆はできません。
※紅椿@インフィニット・ストラトスが主催陣営に回収され、バトルロワイアル会場から失われました。
※主催陣営は“欲望の大聖杯”を起動させるには、参加者の欲望にセルメダルを馴染ませる必要があるのではと考えています。そのためにどの程度の期間を見ているのかは後続の書き手さんにお任せします。
719
:
◆z9JH9su20Q
:2014/11/28(金) 21:19:56 ID:V11kjDO6
以上で仮投下終了です。タイトルは本投下の際に。
裏リーダーの枠を一つ使わせて貰った以外にも、内容的にも今回もかなり冒険している自覚はあるので、ご意見頂ければ幸いです。
720
:
欲望まみれの名無しさん
:2014/11/28(金) 23:19:43 ID:KxRZa8yo
仮投下乙です。
剣崎を危険性の一つとしてタイムが出てくるのに違和感があります。
時間停止能力だけ見れば、ほむらの方が高性能だからです。
ほむらは自分が触れている相手以外の全世界を停止できますが、タイムは一つの対象のみで、止めている相手に攻撃が通じません。
剣崎を殺した意図は他にもあるかもしれないと示されてますし、タイムのところは削っていいんじゃないでしょうか。
721
:
◆z9JH9su20Q
:2014/11/28(金) 23:29:48 ID:V11kjDO6
ご意見ありがとうございます。
時間停止の件については、時間停止中に繰り出せるほむらと剣崎の基礎スペック+決定力(あと精神力)の差が重視されたと考えていました。
火力だけで言えばロイヤルストレートフラッシュが一番とも断言はできませんが、時間停止と最強クラスの火力を両立できているために剣崎が危険視されると。
またタイムについては(『仮面ライダー剣』の描写になってしまいますが)一つの対象ではなく、指定した空間にある者を自分以外全てを停止できる上、
ほむらや同じカードを持つディケイドと違って(設定上ですが)意志一つで発動できるので隙が少なく、殺し合いに活用する上ではほむらの物に劣っているわけでもないと思います。
……というのが自分なりの考えなのですが、あくまで個人の見解なので、
>>720
氏と同様に違和感があるというご感想が多いようであれば、本投下の際にはご提案に従って対応させて頂きたいと思います。
改めて、ご意見ありがとうございました。
722
:
◆z9JH9su20Q
:2014/11/28(金) 23:40:10 ID:V11kjDO6
すいません、もう一つ補足を。
剣崎を謀殺した意図が他にもあるのでは、という点については現時点では束のみが勘づいている扱いで書いていたので、他の主催キャラが納得するための要素として、時間停止能力を取り上げた形となっています。
723
:
◆z9JH9su20Q
:2014/11/29(土) 23:12:31 ID:uJNZjHw6
>>721-722
に対する反論、及び他のご意見がない場合、本スレへの投下ができればと思うのですが、よろしいでしょうか?
724
:
◆SrxCX.Oges
:2015/01/01(木) 23:23:14 ID:fcIuCla6
これより仮投下を開始します。
725
:
◆SrxCX.Oges
:2015/01/01(木) 23:24:09 ID:fcIuCla6
世界は、突然に崩壊した。
視界を埋め尽くす荒廃した光景、しんと静まり返った空気、手元には鳴らない携帯電話。
広大なようで、実の所現実世界から隔離された閉鎖空間であるミラーワールドの中で、桐生萌郁は他の何もかもとの交信を絶たれていた。
誰もいない。数少ない知り合いのラボメンもいない。怪物同然の戦鬼達もいない。
FBも、いない。独りぼっちの桐生萌郁を世界と繋ぎとめてくれた親愛なるあの人が、いない。
「嫌だっ、嫌ぁああっ……!」
闇雲に走る。適当に文面を作成する。送信ボタンを押す。圏外。
闇雲に走る。適当に文面を作成する。送信ボタンを押す。圏外。
萌郁はひたすらに、狂ったように同じ行動パターンを繰り返す。
その行為が異次元の世界で無意味でない保証があるかなど、わからない。いや、わかりたくないと言うべきか。
これが無意味であり最早手の打ちようが無いと確定したら、桐生萌郁の世界は終わる。FBとの関係の切断がそのまま、萌郁は永遠に孤立したままになってしまう。
……嫌だ、そんなことなど考えたくない。
「あっ……」
息を激しく荒げながら何十回目かのメール送信の操作を行おうとした瞬間、脚がもつれて体勢が崩れ、身体が無様に地面と激突する。
アビスの鎧を纏っていたため痛みこそ小さいものの、それでも衝撃の影響は確かにあった。握っていた携帯電話が右の掌から離れてしまう。
暗闇の中、液晶画面の光が視界で跳ねる……自分の手の届かない場所へと行ってしまいそうになる。
距離にすれば精々50センチメートル。たったそれだけの距離が、萌郁には果てしなく遠い。
携帯電話だけは、失くしては駄目なのだ。FBとの繋がりを、こんな自分が他者とまともに交信するための唯一の道具を奪われたら、桐生萌郁はどうやって生きて行けばよい?
だから、たった50センチの距離を必死に埋めるため、萌郁は地に伏せたまま手を伸ばす。
指先が、パープルの本体に触れる。
やっと、世界に帰る鍵を取り戻せる。
そう安堵した瞬間だった。
「アビスか。だったら倒さなくてもよいか」
いつの間にか誰かが目の前に立っていて、そいつは携帯電話をひょいと拾い上げた。
桐生萌郁にとってどれほどの価値がある代物なのか、まるで分かっていないかのように。
「私の、かえせ――」
声すらろくに出せない萌郁にしては珍しく、焦りと衝動的な怒りが綯交ぜになった要求が口から出てきた。いや、出てきそうになって、飲み込んでしまった。
突然現れた第三者の姿を、その眼で確かに見てしまったから。
「おい、早くここから出た方がいいぞ」
マゼンダ色の装甲を纏った仮面の戦士――ディケイド。
彼が、萌郁の目の前にいた。
「いつまでもミラーワールドにいたらメダルを無駄に食うだけだ。出口は……探せばどこかにあるだろ」
銀色の装甲のライダーを焼き払い、青のグリードを斬り伏せ、遂には大火力を誇る天使すらも一度は完膚なきまでに叩き潰したディケイド。
手当たり次第に人々を襲っていたようにしか見えず、萌郁自身がミラーワールドの中にいたために語る言葉さえ聞き取れず、萌郁からすれば結局「理解不能の凶悪なモンスター」との印象しか持ちようのないディケイド。
奴が、目の前に立っていた。
「おい。俺の話を聞いてるのか?」
FBとの繋がりを絶たれ、FB以外との繋がりを構築しようとしなかった桐生萌郁は対峙する。
自らの選んだ行動の果て、誰の助けも期待できない境遇に陥った上で、萌郁はディケイドと対峙する。
世界の破壊者と、一対一で。
彼女がその先に待つ凄惨な結末へと想像が行き渡るのも、さほど時間はかからなかった。
726
:
◆SrxCX.Oges
:2015/01/01(木) 23:24:45 ID:fcIuCla6
「ぁっ……あ……来るなああああああっっ!!」
悲痛に叫びを上げながら、萌郁は駆けだしていた。
駆けて、駆けて、逃げる。
逃げる方向にミラーワールドからの出口があるかなど、頭になかった。ディケイドから距離を取れればどうでもよかった。
しかし必死の逃走をどれだけ続けようと、それは意味を成さない。当然だ。萌郁が走るのと全く同じ方向に、ディケイドも萌郁を追って走るのだから。
振り向いた先で存在感を放つ恐怖の象徴に、視界が滲み始める。
しかし、ディケイドの姿は程なくして見えなくなった。二者の間に割り込むようにアビソドンがその巨躯で飛び込んできたのだ。
萌郁の苦しみを汲み取ってか、はたまた獣の本能か。ともかく、今の萌郁の唯一の味方となった怪物は自らの鋭い牙と角を以てディケイドに襲い掛かる。
あれの行動でディケイドを抑えきれれば、萌郁が逃げる十分な時間を稼いでくれれば非常に嬉しい話だった。
勿論、そんな淡い期待はすぐに実現不可能と思い知らされる。
片手に持った剣でアビソドンの攻撃を受け流し、カウンターの要領で蹴りを叩き込む。怯んだところに、さらに剣で追撃する。それが数回繰り返される。
たかだか10秒未満の中で見せたディケイドの攻勢が、たったそれだけで恐怖に竦みきった萌郁には暗い未来――アビソドンの敗北を想起させるのに十分だった。
ここまで追い詰められたところで、ようやく萌郁は一枚のカードの存在を思い出す。
腹部のバックルに手を伸ばし、目当てのカードを引き出した。一刻も早くと、カードをバイザーに装填しようとする。微かに震えた手ではスムーズにはいかないが、それでもどうにか完了させた。
――FINAL VENT――
仮面ライダーアビスの最大威力での攻撃を発動させるカード、ファイナルベント。
電子音性を合図にアビソドンが雄叫びを上げ、まさしく泳ぐように空中を荒く舞い始める。
ディケイドから十分に距離を取ったところで、その鋭利な角を標的まで一直線に向ける。突貫の準備は、整った。
(早く、行って……!)
終わりの名を冠するカードは、本来なら確実に止めを刺せる終盤の場面でこそ使用するべき一手だ。
しかし、そんなセオリーは今の萌郁にとって心底どうでもよいことだった。一秒でも早く目の前の悪魔を消し去りたい、ただその一心で萌郁は切札の使用に踏み切った。
……そしてその判断は、当然の如く失敗という結果に繋がる。
――FORM RIDE FAIZ ACCEL――
獲物と見定められていながら、ディケイドは一切臆することなくカードをバックルに装填する。
赤い光に包まれたディケイドの身体が、銀の装甲に身を包んだ見知らぬ戦士のものへと変わる。直後、胸部装甲の展開と同時に身体に走るラインが赤から銀へ、複眼が黄から赤へと変化する。
エンジェロイドとの戦闘の最中にも見せた、別の仮面ライダーへの変身能力の類だろう。その能力を行使した意味を考える余裕は、残念ながら今の萌郁には無い。
何があろうと知ったことかと言わんばかりに、アビソドンが自らの得物を以てディケイドを仕留めんと飛び出す。
二者の距離は、僅かな時間のうちに埋まる。角は空気を切り裂き、ディケイドの身体へと迫る。
――START UP――
今まさに貫かれるはずだったディケイドの身体。それが、瞬きする間もない時間で萌郁の前から消えた。
標的を失ったアビソドンは無様にも地面に突っ込み、勢いのまま無意味に大地を抉り取っいく。
なぜ。どうしてこうなった。
混乱の極致となった萌郁の脳がそれでも必死に事態を理解しようとした矢先、その脳は思い切り揺さぶられた。
遅れて、自らの顎に生じた激痛を萌郁は理解する。
この時になってようやく、銀のライダーとなったディケイドが眼前に立つのを認識できた。
「悪いが、このままお前を連れて行く」
ディケイドが何事か喋った内容を、十分には把握できなかった。
把握するよりも先に、萌郁の意識が暗転したのだから。
727
:
◆SrxCX.Oges
:2015/01/01(木) 23:25:48 ID:fcIuCla6
◆
アクセルフォームのファイズが有する超加速に物を言わせて、アビスを一撃蹴り上げて気絶させる。残された制限時間の限りでミラーワールドからの脱出口を求めて駆ける。
時間切れで変身解除となったら、続いてガルルフォームのキバへと変身し、指折りの脚力に任せて再び走る。
速度に秀でたライダー達の姿を借りながらの脱出は、追ってきたアビソドンの眼がディケイドの後姿を捉えたその時に終了した。
アビスの身体を抱えたまま、ディケイドはビルの窓ガラスへと飛び込む。その一秒後、鏡面から飛び出した身体は現実世界の大地に降り立った。
こうして現実世界への帰還を果たした士は、鏡面の向こう側に映るアビソドンの恨めしそうな姿を一瞥し、しかしそれ以上の興味を持つことなく視線をアビスへと移した。
気を失って身動きしない身体を抱えたまま、空いた手を腹部へと伸ばしバックルからカードデッキを抜き取る。即座に変身が解除され生身の姿が露わとなった。ぐったりと士の腕に身体を預けるのは、眼鏡をかけた若い女だった。
「……変な手間をかけちまったか」
ミラーワールド内部で偶然発見したアビスと接触し、一先ず見境無く襲い掛かってくる類の相手ではないだろうと確認したため脱出を提案した矢先の、逃走と迎撃であった。
閉鎖空間に閉じ込められたために冷静さを失っていたのかと考えたが、今ではもう一つの可能性にも既に行き着いている。
門矢士が、ディケイドだから。破壊者として暴虐を尽くす姿を目撃されたから。
もしそうだとしても何も不自然なことではないだろうと、士の頭は冷静に受け止めていた。
課せられた使命を果たす過程は誰にも理解されない。有無を言わさず戦意を向けるのだから、恐怖されてもおかしくはない。
士が誰からも警戒されるのは、ごく自然な話だった。
「おい、出てくればいいだろ」
例えば、こうして士に銃口を向けられてようやく建物の陰から姿を現した男のように。
「……ディケイド」
「お前、俺を知ってるのか?」
「小野寺ユウスケから聞いた。今の君が変わってしまったということも」
現れたのは、若い少年が一人だけだった。
士からすれば初対面の相手であったが、向こうは既にこちらを知っているようだ。どうやらどこかでユウスケと出会い、話を聞いたのだと思われる。
そうであるならば、彼が士に向ける瞳に警戒の色を含ませているのも、破壊者としての名で士を呼んだのも頷ける。
「だったら話は早い。答えろ。お前は、仮面ライダーなのか?」
投げ掛けられた士からの問い。
それを受けて幾何かの逡巡を見せながらも、少年は意を決したように自らの名を名乗った。
「僕はフィリップ、そして仮面ライダーダブル…………だった」
「だった?」
「今は仮面ライダーじゃない、というだけだ」
答えは肯定、しかし過去形。
士はその真意を考え、いくつかの仮説を思い浮かべる。
一つは仮面ライダーへの変身に必要な能力を失ったとの意味。
もう一つは、いつかの照井竜のように仮面ライダーとしての自己認識を捨てたという意味。
そして、少なくとも後者の場合は彼の意思に関わらず士は彼を仮面ライダーであると判断し、破壊しなければならない。
正確な判断が、求められている。
「……そうか。お前の言葉を信じるとすれば、俺はお前を倒す必要は無いな」
「仮面ライダーなら破壊する、ということか……? 教えてくれ、そんな戦いに何の意味がある?」
「それが分かったら、俺を止めようとでも言う気か?」
「……その話の前に、その女性を僕達に預けてほしい。君に事情が無いなら、彼女は僕が保護させてもらう」
フィリップの目当ては、どうやら横たわっている女性のようだ。
知り合いなのか赤の他人なのかは不明だが、保護と言ったところを見るに少なくとも害する意図は無いのだろう。
「何だ。それなら別に構わん。連れていけ」
すぐ後ろのビルの壁面に女性の身体を運んで持たれかけさせ、安静な姿勢にさせる。
その士の様子を見て、とりあえず安全であると認識したのだろう。士から目を離さないままではあるが、フィリップが士の方へと歩みを進めてくる。
728
:
◆SrxCX.Oges
:2015/01/01(木) 23:27:01 ID:fcIuCla6
「力ずくで、な」
そして士は、踏み出されたフィリップの足元にライドブッカーの弾丸を撃ち込む。
「……君は」
「まあ、これも必要なことだ。悪く思うな」
言いながら、二発目のために銃口を向け直す。
その時には既に少年の手に緑色の物体が握られていた。その小さな箱型は、照井竜やバーナビー・ブルックスJr.も所持していたガイアメモリだろう。
そして次に彼が取った行動は、照井竜のように媒介となるツールの使用ではなかった。
――CYCLONE――
緑のガイアメモリは、少年の首筋に直接押し当てられていた。
直後、彼の身体が緑の異形へと変貌する。
その姿を一目見ただけで、士には瞬時に判別出来た。彼の肉体は怪人のそれであり、仮面ライダーではない。わざわざ怪人の姿で応戦するのを見るに、仮面ライダーでなくなったという言葉には変身ツールの紛失の意が含まれているようだ。
……勿論、全てはこの少年の言葉と行動をそのまま真実と受け止めるなら、の話であるが。
そして事実を確認した士が取るべき行動は決まっている。
「仮面ライダーなら誰かを傷つけない……とでも思ったか?」
「……狙いはその女性か、それとも僕か!?」
「自分で確かめてみろ、“元”仮面ライダー」
挑発的な態度を取り、少年に敵意を向ける。
名の知らぬ女性の身柄をかけての、緑の怪人となった彼との戦闘。それが今の士の選択だ。
理由は一つ。門矢士が、“仮面ライダー”を探し求めているから。
◆
「なあ、やっぱりこんなの引き受ける必要無かったんじゃないのか?」
「……俺に」
「質問するなって言われてもな。実際無駄だろ、これは」
火蓋が切られたサイクロン・ドーパントとディケイドの攻防――と言っても、サイクロン・ドーパントの防戦一方なのだが――を見つめながら、笹塚は照井に語りかける。
いかなる原理か鏡の中から飛び出したディケイドを発見した時点で、こちらに気付かれる前に逃げるかまともに相手にせずにやり過ごすかを考えた照井達であったが、ただ一人フィリップだけは別の案を提示した。
ディケイドとの対峙、および素性の知れない女性の保護である。
女性の保護に関しては、彼女が目覚めた後で情報交換を行えるメリットがあると言った。その後に面倒まで見なければならない羽目になるかもしれないと考えれば気が進まないのも事実だが、そちらは最重要事項ではない。
問題は、照井が明確にディケイドの標的とされている点だった。
以前の戦闘での口振りから判断するに、ディケイドは“仮面ライダー”を特に優先的に倒すことを方針としているようだ。しかし奴の考え方を全て把握しているわけでもない以上、照井が仮面ライダーの力を失ったと知ったところでディケイドが納得するかは不明と言わざるを得ない。
ゆえに、フィリップの策を実行すれば照井は手傷を負わされる可能性が高く、また彼女との情報交換がその不利益を見込んでまで実行するに値するメリットのある物かと言われれば、答えは否。
そうしてフィリップの案を却下しようとした頃には、ディケイドもいよいよ照井達の気配に気付いてしまった。さてどう撒くべきかと考える照井に、フィリップはなおも食い下がった。
ディケイドは自分が引き付ける。その間に二人で女性を確保し、すぐに自分を回収して撤退すればいい。そのためにも、笹塚には少量で構わないのでセルメダルを貸してほしい。
結局、照井達はフィリップの提案を呑むことにした。セルメダルこそ消費するが、それでも速やかな撤退が目標ならば……と、フィリップに付き合うことにしたのである。
「あのフィリップって奴、自分で体張るのは結構だけどな」
「だけど、何だ?」
「あの女を保護しようってのも、要は単なる善意じゃないのか? そんなものに、俺達が付き合ってる場合なのかよ」
「……分かっている。何かあったら、俺がけじめをつける」
笹塚の指摘したことは、実の所照井にも思うところがあった。
自らの意思で“仮面ライダー”の正義を放棄した照井とは異なり、相棒を喪ってなおフィリップの正義感は消えていないことは再会の際の会話からも明らかだ。
そのフィリップが提案した「正体不明の女性の保護」は、題目こそ情報収集だが、その実は単なる正義感に拠るものなのではないか。
彼との付き合いは短くないのだ。その程度、笹塚よりも想像するに容易い。
729
:
◆SrxCX.Oges
:2015/01/01(木) 23:27:39 ID:fcIuCla6
それでもなお照井がフィリップの案を呑んだのは、フィリップ自身が最前線に出るために照井の不利益が小さいことを評価したためか。
はたまた、十二分の十二分の実力を持つディケイド相手に打って出る度胸を買ったのか。
「まさかとは思うが……今になってあいつに肩入れしようってわけじゃ」
「黙っていろ」
……亡き翔太郎が遺した正義が果たされるのを見届けたいと、心のどこかで望んでいるでもいうのか。
最後の可能性だけは無いだろうと思っているが、それでも照井の判断を客観的に見ればそのように受け取られてもおかしくはない状態にあった。
そもそも、照井達がキャッスルドラン周辺まで移動してきたこと自体もフィリップの提案が発端だ。
何らかの爆発の類だったのだろう、夜空の暗さの中でひときわ異彩を放った強い輝きを視界に収めた三人の中で、真っ先に現地への急行を提案したのがフィリップであった。その際に照井と笹塚に述べた理由付けもまた、今回とほぼ似たようなものだ。
(俺は……また繰り返してはいないか?)
これでは、同じではないか。
シュテルンビルトで鹿目まどかの願いを聞き届け、ディケイドやオーズとの戦いに割り込んで。そして、照井の本懐とは何ら関わりの無い理由で手傷を負わされたあの経験。
ここでフィリップに付き合って時間を費やすこともまた、あれと同じような話ではないのか。
そして、この先もまたフィリップは照井に今回のような提案をしては、あれこれと理由を付けて突き合わせるのではないだろうか。
戦力増強のために引き込んだフィリップが、フィリップの中で今も熱を持つ仮面ライダーの正義が……結局、照井の枷となっていくのではないか?
仮面ライダーごっこは、もう終わったのに?
「……あ−、そろそろ行っとくか? これ以上やるとフィリップがヤバそうだ」
「何?」
疑念に囚われようとしていた照井の意識は、笹塚の呼びかけで現実に呼び戻される。
見ると、随分と距離が開いた先でサイクロン・ドーパントがディケイドに斬りつけられていた。
実力差が明白である以上、確かにこれ以上戦わせるのは本当に危険かもしれない。
何より、ディケイドとの距離がこれだけ開けば十分か。
……とりあえず、今は面倒事だけ片付けておくのが手っ取り早い。
「だったら、いい加減切り上げさせてもらうか」
胸に巣食う歯痒さを、振り切ってしまうために。
赤のガイアメモリのスイッチで、心の揺らぎを一度リセットする。
――ACCEL――
◆
フィリップが笹塚から借り受けたセルメダルの枚数は必要最小限の量に過ぎない。
サイクロン・ドーパントへの変身状態の維持コストを賄うだけならともかく、固有の能力の発動コストに枚数を充てる余裕はほとんど無い。
そのため、サイクロン・ドーパントの本領である風を操る能力を迂闊に使うことが出来ず、強化された肉体のみを武器としての戦闘を強いられていた。
そのことは当然ながら、フィリップが不利な状況に陥るのに十分な理由となっている。
セルメダルの節約のためかディケイドも能力発動のキーとなるカードを使用することなく戦っているが、それでもなおフィリップを守りの体勢に追い込むほどに攻撃の勢いが苛烈だった。
そして、今また剣がフィリップの胸部を斬りつける。
「ぐぅっ……!」
浅い傷に留まってくれたが、それでもダメージには変わりない。
呻くフィリップの隙を突いて繰り出されたディケイドの肘打ちも命中し、体勢を崩し地面に膝を付く。
そんなフィリップを見下すディケイドの双眸には、敵意以外のいかなる感情が秘められているのか読み取ることは出来ない。
「……こんなことを、している場合じゃないだろう、ディケイド……!」
「生憎、俺にも俺なりの責務ってのがあるからな」
怒りを滲ませたフィリップに対しての、不遜なディケイドの言葉。それがまた、フィリップの中の不可解と苛立ちを増大させる。
730
:
◆SrxCX.Oges
:2015/01/01(木) 23:28:13 ID:fcIuCla6
相棒の死と共にフィリップの仮面ライダーダブルとしての姿は失われた。
照井竜は、仮面ライダーアクセルの力も正義も自ら放棄してしまった。
人々の命が脅かされている中で、人々を守るべき仮面ライダーがいない。
それでも戦わねばならない責任があるというのに、自分達は一体何をやっているのだろう。
「君は……」
目の前の戦士は、今のフィリップが願っても得られない“仮面ライダー”の名を冠したディケイドは、どうしてこんな所でフィリップと戯れているのだろう。
為すべきことは、他にいくらでもあると言うのに……!
「君が誰かを守らないなら、僕が守る……!」
突き出した右の掌から、真っ直ぐに吹き荒ぶ突風が発生する。
今の今まで控えていたサイクロン・ドーパントの能力の発動に、今このタイミングで踏み切ったのだ。
勿論、風一つでディケイドを倒すことなど不可能だ。精々数秒の間動きを止めるくらいしか出来ない。
しかし、それで十分だ。
――ACCEL――
向こう側から響いた電子音声と共に、赤い影が飛び出した。
アクセル・ドーパントと化した照井竜が、笹塚と共に女性の下へと駆ける。
二人がこの行動こそ、フィリップの策が達成に近づいている証拠である。
わざわざフィリップが単身でディケイドに挑んだのは、何のことはない陽動作戦である。
穏やかに事を収めることが叶わない可能性に備え、まずフィリップが一人でディケイドと接触し、戦闘になったら守りに徹しつつ少しでもディケイドを女性から離れさせる。
ある程度の距離を稼げたと感じたらディケイドの足止めに集中し、そのタイミングを見計らって照井と笹塚が女性の保護に向かう。
他者の保護に消極的な照井達の不満を小さくするために考え出した策だが、少なくとも今の瞬間の時点では上手くいっているようだ。
しかし、この策には欠点もいくつか存在する。
ディケイドがフィリップとの応戦に執着する保証が確実ではなかった点。
そもそもフィリップが倒されてしまっては元も子もないために危険な戦いを強いられる点。
そして、何よりもう一つ。
「なるほどな」
フィリップの狙いが陽動に過ぎないとディケイドに気付かれる可能性が、決して低くは無い点。
照井達がいよいよ姿を見せたことに対してディケイドがさして驚いた反応を見せていないのを見るに、この危惧はどうやら的中してしまっていたようだ。もしかしたら、最初に会った時点で既に見透かされていたのだろうか。
それでも、フィリップは引き下がるわけにはいかない。
もう一度や二度能力を使うくらいのセルメダルなら残されている。たとえディケイドが銃を使って照井か女性を撃とうとしたところで、風で手元を狂わせるくらいは可能なはずだ。
フィリップへの攻撃を重視するつもりなら、それこそ防いでみせるまでだ。
ディケイドが次に取る行動に備え、一瞬の動きも見逃さぬよう注視するフィリップ。それに応えるようにディケイドが見せたのは、二枚のカードだった。
(トランプ……?)
一見するとなんの変哲も無いトランプのカードが二枚、ディケイドの左手に握られていた。
走る照井の方をちらりと一瞥し、それと同じくしてディケイドの左手が微かに動き始めるのをフィリップの目が捉える。
カードを投擲するつもりなのか。しかし、普通に考えればカードが人間の身体に当たったところで殆どダメージにはならない。
それでも、ディケイドがその行動を取ろうとしたことに言い知れぬ不安感を抱かずにはいられなかった。
もう一度、ディケイドの身体に向けて風を発生させる。
狙い通り、手から離れたカードが、あらぬ方向へと飛ばされていく。
どんな目的があってのことか知らないが、少なくともカードが何者かの身体に襲い掛かることはなくなったはずだ。
そのことを認識し、小さく安堵したフィリップ。
しかし、そんな安堵は容易く消されることとなる。
731
:
◆SrxCX.Oges
:2015/01/01(木) 23:28:58 ID:fcIuCla6
照井からも女性からも離れて行ったはずの二枚のカード。
それが、空中で旋回し再び彼ら目掛けて滑空し始めた。
(自律型!?)
カードに仕組まれていた機能に気付いた頃には、もう遅い。
「照井竜っ!」
今更フィリップが追い付けないとあっては、頼みの綱は照井達だけだ。
名を呼ばれた照井竜は、移動を止めて既にエンジンブレードを構えている。
その刀身で、飛来したカードを受け止める。その瞬間、カードは小規模な爆発へと変貌した。
「くっ……」
咄嗟にエンジンブレードの刀身で受け止めたことで、二人ともダメージは避けられた。しかしその代わりに、行軍を止められる羽目になる。
たった一秒程度のタイムラグ、それが文字通り致命的な隙となる。
「あっ――!」
回転しながら空気を切り裂くカードが、女の身体へと迫る。
フィリップとの距離は、遠い。今更何をしようと防ぎようが無い。
照井達は、動かない。ブレードを振るったところで正確に叩き落とすのは困難だ。
跳べ、跳んでくれ。
フィリップの脳裏に過った願いは、つまり身体を張って照井が女性を庇えとの命令に等しい。
それが身勝手だとしても、願わずにはいられなかった。
何も救えぬ自分が嫌だから、せめて照井が“仮面ライダー”であってくれと、フィリップは必死に願い続ける。
そして、その想いに応えるようにもたらされた結末は、
◆
『もー! ワケわかんない! なんでディケイドはあいつ等と戦ってるのさ!?』
『僕に聞かないでよ……正直、ディケイドもディケイドでバースとかいうライダー倒したりして様子がおかしいとは思ってたけど、一体何考えてるの?』
『アカンわ、ワイらでディケイドと力合わせようと考えとったが、こりゃあそんなこと言ってる場合やないぞ』
『おいディケイドォー! テメーのやるべき使命ってこんなことじゃねーだろ! とっととここから出しやがれ!』
『あ、桃の字。上開いたで』
『なんと? よし、こいつはチャンス! 俺達でまずディケイドをふんじばって……』
『センパイ。今の僕達じゃ無理だってば。ていうか、ディケイドが自分でディバッグを開けたってことは、多分……』
『そりゃあお前、ベルトを取り出して、その後、お、お、おおおぉぉぁぁぁああああーーーーーっ!?』
732
:
◆SrxCX.Oges
:2015/01/01(木) 23:29:56 ID:fcIuCla6
◆
「とんだ茶番だったな」
目の前で起こったいっそ間抜けですらある光景を前にして、笹塚が小さく呟いた。
女性を狙って飛んでいた一枚のカード。
それが、今まさに衝突寸前となったところでぴたりと静止した。
勢いを失ったカードははらはらと漂いながら地面へと力なく落下し、小さな爆発を起こして消えた。
その一連の流れを見届けたディケイドは、茫然と立つフィリップを横目に腹部のバックルを展開して変身を解除する。
生身の人間――門矢士としての姿を晒したのは、もう戦闘の意思が無いということなのだろう。
この時になってやっと、フィリップは彼が最初から女性を傷付ける気など無かったのだと察した。
フィリップの応戦も、照井の急行も、何もかもただの徒労であったわけだ。
……何だ、それは。
「…………ディケイド、君は一体何の意味があって、こんなふざけた真似を……!」
「受け取れ」
義憤のままに食って掛かろうとしたフィリップに構わず、士はディバッグから取り出した何かを放り投げてきた。
一つは機械的な外見のベルト、二度目が硬質なケース、そして三度目が真っ赤な携帯電話だ。
慌てて受け取ったフィリップだが、その意図が分からずまたも呆気に取られる。
いや、正確にはその道具一式の使用意図が推測できたからこそ、士がフィリップに渡した意図が余計に分からない。
「これは……」
「仮面ライダー電王に変身するためのベルトだ。お前も仮面ライダーだったなら、大体分かるだろう?」
「なぜ、僕にこれを渡すんだ?」
「お前なら、まあ相応しいだろうと思ったからだ。少なくともそいつ等とは気が合うだろうしな」
「……俺達を試したのか?」
声を上げたのは、様子を伺っていた照井だった。
問われた士は照井の方へと顔を向け、大した問題では無いかのように言ってのけた。
「まあ、そう取ってもらっても構わない」
「だったら、今の戦いで俺達を倒そうという気は無いということか?」
「……この場に“仮面ライダー”はいないからな。そういうことになる。だったら、今はお前らに“仮面ライダー”を譲ってやる」
その一言で今度こそ、本当は最初から士に敵意が無かったことを確信した。
全ては、フィリップ達の人間性を観察するための演技だったのだ。その目的は……認めるに値する人間に、仮面ライダーの力を譲り渡すこと。
そしていかなる因果か、三人の中でベターと認められたのは目的をろくに果たせなかったはずのフィリップであった。
士の行動の意図は分かった。だからこそ、フィリップには門矢士という人間がますます分からない。
仮面ライダーを付け狙う、暴力的な人間性に変わり果ててしまったのではなかったのか? この行動は話に聞く人間像とぶれていないか?
仮面ライダーという名の重みを理解はしているのか? ならば、なぜその名を持つ者を討とうとする?
士の本質は、正義なのか? 悪なのか?
何のために、今も仮面ライダーを名乗っている?
「君は……君にとっての“仮面ライダー”とは、一体――」
「それじゃ、もう用も無いしさっさと行かせてもらう」
「待て、君はこれからもこんなことを……」
「それが俺の責務だからな……まあ、喧嘩を売ったことだけは謝っておく」
フィリップの質問も静止も空しく、士は撤退の一手を打つ。
先程は投擲に使っていたトランプのカードが、今度はまるで巨大な板のような形となって士の身体に重なる。
その大きさを保ったまま、また回転しながら空の中へと消えていく。士の姿は、既にどこにも無かった。あのカードに張り付いたといったところなのだろうか。
ともかく、門矢士はベルト一式と女性の身柄だけを残して消えてしまった。それだけが、事実として残された。
「……何だっていうんだ」
殆ど状況に流されるまま辿り着いた結末に、フィリップは徒労感をたっぷり含ませながら嘆息した。
一先ず、今自分が得たものくらいは確認しておこうと考えた。混乱の収まらない頭は、その後でゆっくり落ち着ければいい話だ。
そんな言葉を頭に並べながら、フィリップは渡された目の高さまでベルトを翳し、
『何で今度は僕達を投げ捨てるの!?』
『僕に聞かないでってば……』
『ああぁぁーーっ! 誰か俺に分かるように説明しろお!』
けたたましく重なる声色に、またも呆気に取られることとなった。
733
:
◆SrxCX.Oges
:2015/01/01(木) 23:31:12 ID:fcIuCla6
◆
フィリップ達が士と言葉を交わすのを視界の端に収めつつ、笹塚は一人黙考していた。
懸案は今回その身柄を巡って一悶着を起こす羽目になった眼鏡の女性――桐生萌郁のことである。
(あんまりバレてほしくないこともあるからな)
笹塚は萌郁という人間と既に面識があったにも関わらず、今に至るまで彼女に関する情報の一切を照井とフィリップに明かしていない。
その理由は簡単。下手に話したせいで、知られたくない部分にまで触れられるのを避けたためだ。
桐生萌郁とは、黄陣営のリーダーであるカザリ扮するFBの指示に従い、それでいて「自分が本当は誰に従っているか」という肝心な部分に盲目的な、ある種の哀れな使い走りである。そしてこの会場に連れられてから最初に受けた指令に従い、彼女は笹塚(の複製)を殺害している。
これが笹塚と萌郁、そしてカザリ扮するFBの三者の関係である。
さて、笹塚と萌郁の関係については知られたところでまだ許容範囲内だ。
仮に萌郁の前で笹塚の存命を明らかにしたとして、その時はシナプスカードと言うカラクリを明かせば一応の説明は付き、話はそれで終わりだ。精々フィリップ辺りから情報の隠匿を非難される程度だろう。
危惧したのは、萌郁とFBの関係が露呈すること。より正確に言えば、万が一にもFBが照井達の追及を受ける羽目となった挙句、そのグリード・カザリとしての正体、そして笹塚と関係を有していた事実を知られる可能性があることだった。
明確に所属陣営の優勝を狙う者、あるいは今の笹塚自身のような特別な事情を持つ者でない限り、真木清人の手先であるグリードと積極的に関わる理由は無い。それはフィリップや照井にも同じく言えるはずだ。
そんな奴と笹塚が関係を持っていると知られたら、どうなるか?
情報提示などで上手く立ち回れば、少なくとも照井とは共闘関係を維持できるかもしれない。しかし下手を打てば、場合によっては障害と見なされた挙句に対立へと発展しかねない。そうなれば、笹塚は頼れる味方のどちらかを切り捨てざるを得なくなる。
照井という理解者を手放す気は起きず、かと言って今後のバトルロワイアルの展望次第では今カザリに倒れられても困る。
シックスへの復讐が最優先であるからこそ、手駒となりうる存在を下手に奪われては困るのだ。
結局、萌郁が照井達を追及されることは不都合な事態への第一歩となりかねない。ゆえに、ここで回避しなければならない。
(じゃ、ちょっと拝借するか)
とは言え、方法は簡単。照井達に必要以上の情報を与えなければよい。
具体的には、照井達が士に注意を向けている今の内に萌郁が持っている携帯電話を預からせてもらう。
そうすれば、今はFB本人への追及は手掛かり無しとして見送りとなるはずだ。
(いいだろ? 一回やられた時点で、アンタはどうせ手駒失格だしな)
これだけ変化し続ける状況にいながら大した動きも出来なかった萌郁に心中で言い訳を述べつつ、手元に持っている携帯電話に手を伸ばす。
(って、無いのかよ……)
伸ばそうとしたところで、今の萌郁が携帯電話を手に持っていないことにようやく気付く。
照井達の目を盗みつつ、それとなく衣服のポケットもディバッグの中も調べてみるも空振り。
受信機となるアイテムを彼女が手放すとは思えない。だとすれば、大方何者かに先に奪われたのだろう。
そして一番の候補となる人物は、彼女と最後に接触したディケイド――門矢士だ。
その当の本人である士はと言えば、たった今いかなる原理か巨大化したトランプと共に姿を消した。こうなっては、彼が携帯電話を持っているのかどうかすら最早確かめようがない。
(まあ、結果オーライか)
結局「FB」自身への追及が行われないなら、話は同じことだ。
強いて言うなら、自分の手元に置いておけば任意のタイミングでカザリと再接触が図れたはずだったというのが惜しいことか。
……惜しいと言えば、萌郁が持っていたはずのアビスへ変身するカードデッキも預かることができたなら良かったのだが、それこそ言っても仕方が無い。
(俺も欲しいんだがな、ああいうの)
カードデッキの存在を一度思い起こした笹塚の思考は、続いて“仮面ライダー”へ向かい始める。
エターナル、ディケイド、そして今は亡きアクセル。笹塚の知る限り最強の存在である魔人には及ばずとも、怪物強盗と同等かそれ以上の力を持つ超人。
それは今更手に入れられない先天的な要素の結果ではなく、今まで見た限りでは専用の装備によって人間の肉体が変化したものだ。
今も何やら呟いているフィリップが持つベルトも、どうやら仮面ライダーに変身するためのツールらしい。
あれが自分の物になれば良いのに、と恨めしく思わずにはいられない。
734
:
◆SrxCX.Oges
:2015/01/01(木) 23:32:06 ID:fcIuCla6
ディケイドの価値観なぞ知る由も無いが、ともかく笹塚は彼の御眼鏡に適わなかったためにベルトを譲り受けられなかったようだ。
理不尽な話である。
目的のための覚悟の強さなら、笹塚は他者に決して劣りはしないと自負している。
そして、その達成のために生まれる力への渇望の切実さも。
にも関わらず、笹塚には今もお鉢が回ってこない。
肉体的な条件によっては使用にリスクがある可能性も予想はつくし、実際に不適合であると言われたら笹塚とて一応の諦めがつく。しかし、その条件の可否を確かめる機会すら得られないのでは不満も溜まるものだ。
照井やフィリップの口振りを聞く限り、“仮面ライダー”の名を背負うには相応の気質や品位のようなものが求められるらしい。
それこそ、笹塚には興味の無い話であった。
「別にいいだろ、誰がどう使おうが」
力は所詮力。生み出した者が込めた意味やら願いやらに持ち主が束縛されるなど馬鹿馬鹿しいことだ。
このように考えるのは、結局笹塚の住む環境に“仮面ライダー”が存在しなかったための無関心に根付くものかもしれない。だからと言って、照井達の価値観を改めて考察する理由など、笹塚にありはしない。
ゆえに、笹塚の中で欲望は静かに育ち続けてる。
俺にも力を寄越せと。
俺を、“仮面ライダー”にしろと。
独善的な黒い炎は、静かに燃える。
◆
デルサー軍団の大幹部ジェネラルシャドウの愛用したトランプの力により、士は戦場からの離脱を果たした。
士が地に足を着けると共にトランプは掌サイズに縮小し、空中へと霧散していく。
支給された枚数がスペードのAからKで13枚。爆弾代わりに使った2枚も抜けば、残りはあと10枚。
先程の戦闘が長引かせる意義の無い内容であったことを考えると、消費が3枚で済んだのは妥当なラインだろうか。
「ライダーじゃないなら、あいつ等と戦ってもらうしかないな」
肉体的な変身を遂げた結果という意味での“仮面ライダー”は、あの場には一人もいなかった。しかし、正義感の持ち主としての“仮面ライダー”なら、フィリップが最も近いと言える。
これが士の出した結論だった。
そしてこの結論を出すために、士は彼等との交戦に踏み切り、敵視されるべき立場であることを敢えて利用して彼等の敵役を演じることに決めたのだ。
全ては“仮面ライダー”を探し出すために。
ただ単に言葉を交わすだけで人間性を判別する選択肢も確かにあった。そのような穏健な手段を取らず、むしろ傍目にはただ面倒で、体力やメダルの消費をも伴う手段を取ったことにも理由はある。
一つは、フィリップ以外にも姿を見せない者達がいることに薄々感づいており、彼等の出方も伺いたかったこと。
もう一つは、より確実な信頼感を得るためにも、士の求める素質を言葉ではなく行動で見せてほしかったこと。
最後の一つは、友好的な関係の兆しを下手に作ってしまって再び余計な温情を胸中に生むのを避けたかったこと。
そして観察に徹し破壊者として打倒する選択をしなかったのは、仮面ライダーの力を失った者を倒した場合に世界再生の条件が達成されるか、前例が無いために確信できなかったため。
中途半端な見込で事に及んだものの当てが外れ、フィリップを本来の手段で倒すことが永遠に叶わなくなり世界崩壊が確定するなどという可能性だけは避けねばならなかった、というのが実情である。
もしも彼らがいつの時か本来の姿を取り戻したなら……その時には、改めて破壊に向わねばならないのだから。
観察対象となった人間としては、フィリップ以外にも二人が確認できた。
その一人が、かつて仮面ライダーアクセルであったはずであり、しかし今は怪人のアクセルとなった照井竜。
アクセルがフィリップの協力者として姿を現したことは、一瞬だが士を驚かせた。
それでも躊躇うことなく、士はトランプに爆弾機能を持たせて射出した。身動きのできない人間に脅威が迫った時、彼がどのような行動を取るのか見るべきと考えたためだ。
士の見てきた仮面ライダー達の大抵は、同じ状況に置かれたら咄嗟の判断で他人を守ろうとしただろう。もしも照井か、あるいは同行者していた男が同じ行動を見せたら、その者の人柄を士は認める気でいた。それを試すための一撃である。
勿論そのような者に手傷を負わせるのは本意ではないので、爆弾の威力は最小限となるよう意思を込めて、ではあったのだが。
そして結果は、士を少なからず落胆させるものだった。
735
:
◆SrxCX.Oges
:2015/01/01(木) 23:32:55 ID:fcIuCla6
「仮面ライダーではない……そういう意味だったのか」
士は確かに目撃した。トランプ爆弾が女に迫るのを前にして、照井竜の身体がほんの一瞬、しかし確実に躊躇いを見せたのを。
身を乗り出せば、女を庇うことも不可能では無かったはずだ。それにも関わらず、照井は動こうとしなかった。動けなかったのではなく、動こうとしなかった。
何もその判断が醜悪だと断ずるつもりは無い。自分の怪我に構わず他者を守れ、と要求するのは些か酷な話ではあるだろう。
ただ、あの女性を保護するための作戦に身を投じ、他者の負傷の可能性に悲痛な叫びを上げたフィリップ程には“仮面ライダー”らしくない、と感じただけの話だ。
もしかしたら、自分を危機に晒してまで身を挺して他者を庇うことを馬鹿らしいと思ったのだろうか。あの逡巡が、“仮面ライダー”の名を捨てたと言う証明であったのだろうか。
そうだとすれば。やはり照井竜に“仮面ライダー”の力を渡すのは、まだ、好ましくない。
こうして観察を兼ねての戦闘を終えた士は、フィリップが最も“仮面ライダー”として妥当だろうと考えるに至り、“仮面ライダー”の資格を譲渡するに至ったである。
デンオウベルトだけを渡し、成り行きで預かることとなったアビスのデッキを手元に残したのは、単に相応しい者の人数が一名きりであったからという理由だけではない。
電王なら、万が一ベルトが悪しき心の持ち主の手に渡ってもイマジンがストッパーとなると期待したためだ。逆に、モンスターという独立した別個の戦力を持つアビスは暗殺の用途にすら使用可能であり、悪用された時が恐ろしい。
せっかく渡したアイテムが正体不明の人物――たとえば、照井の傍にいた素性の知れない男のような――の手に渡った時のリスクを、特に保護の必要がある人物がいる状況では避けねばならなかったのだ。
こうして一人は破壊する必要の無い“仮面ライダー”になる資格を得た。そのことは士に若干の満足感を与えながらも、焦燥を拭い去るほどのものにはならない。
緑の怪人となったフィリップ、赤の怪人となった照井竜。
二人の姿が示すのは、ダブルとアクセルという二人の仮面ライダーが一時的に、もしくは永遠に失われた事実である。
数多くの命が奪われただけでなく、世界を救うために存在し続けなければならない仮面ライダーまで世界から姿を消されてしまった。
「仮面ライダーが奪われた……やらかしたな、俺も」
間違いなく、士の怠慢のツケであった。
理解していたつもりではあったが、こうして新たにミスの結果を見せつけられるとやはり苦々しい感覚がある。
「……だったら、もう誰もやらせるわけにはいかない」
全ての敵に一人で立ち向かう覚悟は、とっくに決めている。
ならば、自分に敵意が集中する状況を自ら積極的に完成させていく必要もある。
そんなことを考える士がディバッグから取り出したのは、二枚の青のコアメダル。メズールを撃破した際に散らばった五枚のコアメダルのうち、ある懸念から士は二枚だけ首輪ではなくディバッグに収納していたのだ。
「こいつを取り込めば、俺が次のリーダーってわけか」
陣営のリーダーが脱落した場合、以後該当する陣営と同色のコアメダルを多数所有していた無所属の参加者が次期リーダーに着任する。陣営戦のこのルールに従えば、メズールの身体から排出された青のコアメダルを総取りすれば士が青陣営のリーダーになるのは明らかな話であった。
そのことを理解した上で、敢えて士はセルメダルの代用に必要最低限な枚数しか青のコアメダルを取り込まなかった。
ラウラの編み出した必勝の策を、下手に打ち崩さないように。
「悪いな、ラウラ」
可能な限り多くの者を救済できるリーダー討伐の策に基づけば、士が青陣営のリーダーになれば必然的に士とラウラは対立せざるを得なくなる。
士からすれば彼女の方針を尊重こそすれ阻害する理由も無い以上、敢えて士はリーダーの立場に就くことを避けたのだ。
甘い。見通しが、甘い。
フェイリスが死に、ラウラが傷付き、仮面ライダーが敗れた。それなのにラウラのリーダーとしての立場の尊重しようと……彼女が敵意に晒され、手を汚さんとするのを容認しようなどと考えては、それこそ無責任だ。全てが後の祭りとなってしまった今、最早士は彼女に、いや他の善意ある何者にも余計な負担をかけさせるわけにはいかない。
ならば士が取るべき手は一つ。害意を持つ者達全ての目を、士に向けさせる。
736
:
◆SrxCX.Oges
:2015/01/01(木) 23:33:39 ID:fcIuCla6
「お前の作戦は、果たされない」
ちゃりん、ちゃりん、と金属音が二度響き、青のメダルが士の首輪に吸収される。直後、首輪のランプが放つ光は紫から青へと変化した。
この瞬間を以て、門矢士が青陣営の次期リーダーに確定した。
これで士を倒さない限り、ラウラもグリード共もバトルロワイアルでの勝利が叶わない。バトルロワイアル自体に反発する者以外の全員が、無視の許されない倒すべき標的として士を追わねばならなくなった。
そして士は、バトルロワイアルでの勝利を目指す気など無い。リーダーでありながら、青陣営に貢献する気もゲームをまともに進行させる気も一切持っていない。
即ち士がリーダーとして君臨し続ける限り、バトルロワイアルが正規の方法で完遂される瞬間など訪れやしないのだ。
これが庇護されるべき人々に刃を向けさせないための士なりの働きであり、ゲームの完遂を望む全ての愚者への反逆にして嫌がらせ。
もう後には引けない。このゲームが終わりを迎えるのはただ一つ――他でもない、ゲームを運営する者達が士の手で討ち取られる時だけだ。
こんなふざけたゲームの齎す恩恵など、知ったことか。
世界を救う鍵である仮面ライダーも、見境なく人々を脅かす悪も、全ての元凶である真木清人も、全て士の手で潰す。
痛みも罪も、この門矢士が背負っていく。
「……誰にも倒されるなよ。仮面ライダー」
想起するのは、今しがた別れたばかりの元・仮面ライダーの姿。
今の彼が敵を倒すための戦いへ積極的に身を投じる必要は無い。ただ、守護者であってくれればいい。
被害者である弱者の命も、正義の行使のために託した力も、道を踏み外しかける者から失われようとしている正義も、彼に守ってもらいたいと士は願う。
つい先程こちらの都合で迷惑をかけて、更にいつか彼を倒すための再会すら考える側の立場からこのような願いを抱くのは、やはり身勝手なのだろう。それでも、士の手の届かない僅かな部分に関して正義の戦士を頼るくらいの自由は、許されてほしいと思った。
紛れも無く、世界の救済を欲する一人として。
「それじゃ……っと」
感傷的な気分を入れ替えるように大きく息を吐きだし、士は一歩踏み出した。
が、その一歩はふらりとよろめいた。
どうやら連戦による疲労の蓄積は、いよいよ隠せない段階に来ていたようだ。
俺が死ぬのはまだ先だからな、と誰に聞かせるでもなく呟き、士は一先ずの休息の場を求めて今度こそ歩き出した。
◆
ディケイドから渡されたデンオウベルトに宿っていたのは、イマジンという一種の精神体だ。
ベルトを装着した上で彼らと精神を一体化させることで、電王――かつてディケイドやクウガと並び立って戦ったあの仮面ライダーへの変身が叶うらしい。
イマジン達との対話を終え、引き出した情報――電王への変身や、フェイリスやラウラや岡部倫太郎といった知己の人物について――を照井達に話したところで、笹塚に問われた。
「で、そのベルトをどうする? 誰が使うんだ?」
「それは……」
「俺やフィリップにはガイアメモリがある。だったら……」
電王のベルトがれっきとした戦力である以上、誰かが使用するべきだ。
フィリップと照井が別の道具で戦えるとなれば、笹塚が使用するのが必然的な流れだろう。
そこまで冷静に考えを纏めたところで、フィリップと笹塚の目線が交錯した。
737
:
◆SrxCX.Oges
:2015/01/01(木) 23:34:18 ID:fcIuCla6
「……!」
笹塚の双眸に宿った、暗く、それでいて嬉々とした光。
一瞬で自らの顔が強張るのを、フィリップは実感した。
「…………いや、君は使わない方がいい」
「は?」
「彼等イマジンと息を合わせられないと、電王としては戦えないらしい。彼等も……本来の変身者以外とは気が合わなそうだと言っている」
「……やってみないと分からないと思うけどな」
「いざという時のことを考えると、当てに出来るか分からない力を持たせるわけにもいかない……本当に拙い時まで、使うのは待ってくれないか? それまでは僕と照井竜で対処する」
捲し立てるような口調になっているのが、喋っているフィリップ自身にも実感出来てしまう。
それほどまでに、笹塚に電王の力を託すことへの拒絶感は一瞬で成長していた。
話を聞き終えた笹塚は、納得したのかしていないのか分からないような表情で、そーかい、とだけ言ってまた煙草を吸いだした。
ほっと息をついたフィリップに、照井が近寄ってくる。そして、そっと耳打ちした。
「やはり、“仮面ライダー”は大切か」
見透かされていたか。
照井竜がフィリップの真意を見抜いたのは、フィリップの表情が分かりやすかったか、はたまた照井もまた似た感情を抱いていたのか。
肯定も否定も口に出すことも出来ず、言葉に窮するフィリップを見かねたのか、照井は小声で言った。
「気持ちはわからなくもない。だが、俺達は俺達の目的のために動いているんだ。それだけは忘れるな……お前の我儘に付き合うのも、限度があるぞ」
それだけ言って、照井はフィリップから離れて行く。
どうやら照井は、フィリップの中の“仮面ライダー”への執着にも気付いているようだ。その心情を決して褒め称えることもなく、むしろ妨げとならないよう警告される。
これが、今のフィリップと照井の間にある距離の大きさだった。
フィリップの数歩先に立つ二人の中に、“仮面ライダー”の正義は無い。
それを理解しているために、今の照井と進んで行動する笹塚衛士が“仮面ライダー”となることに、本能的な部分での拒絶感が湧いたのだ。
そして一応はそれらしい理由を付けることで、フィリップの管理下に置くこととさせてもらっている。
しかし、こんな誤魔化しがいつまで通用するのだろうか。
爆心地まで同行させたことも、ディケイドとの交戦に協力させたことも、電王の力を取り上げたことも。
全ては苦し紛れの言い訳で照井達に協力させただけだ。一応のメリットの提示が可能だったからこそ今まで問題は生じていないが、この先も無理を重ね続けてはいつか限界が来るのは容易に想像が付く。
その時にはいよいよ、彼を繋ぎ止めるのは不可能となるのだろう。
「……そんなことはさせない」
“仮面ライダー”がいなくなった今だからこそ、自分が頑張らなくてはならない。
正義を忘れた戦士達、蔓延る数知れぬ悪m恐らく救うべき対象である女性、解決しなければならない問題は沢山ある。
そのための意思は今も胸にあり、そして、そのための力も――
738
:
◆SrxCX.Oges
:2015/01/01(木) 23:34:54 ID:fcIuCla6
『良かったじゃねえか、フィリップ。守る人もいて、力も手に入れて、今のお前はまさしく仮面ライダーだぜ』
彼の声が、聞こえた。
『で、その程度で、お前のミスが帳消しになんかならねえって分かってるよな? 結局何もしちゃいないも同然のお前が、また“仮面ライダー”を名乗ろうってのは烏滸がましい話だよな?』
容赦の無い糾弾が、フィリップの耳に突き刺さる。
聞こえない振りをすることなど、不可能だ。
『――――“仮面ライダー”の力が照井達に相応しくないって言ってるけどな、お前にも不釣り合いなんじゃねえのか?』
否定など、できなかった。
「買い被りすぎだ。僕は、そんな器じゃない」
否定の言葉を向ける先は、耳に聞こえる声の主では無く。先程フィリップを“仮面ライダー”と認めた、門矢士だった。
彼からの評価がどうであれ、フィリップは自身を仮面ライダーの器だとは思えない。そうありたいとの願望があっても、これまでの醜態とは合致していないのが現実だった。
話を聞く限り、電王として戦ったイマジンとその契約者は立派な戦士であると言える。
今のフィリップは、そんな彼等には到底釣り合わない。照井や笹塚と同じく、フィリップもまた電王に、“仮面ライダー”に変身するべきではないのだ。
だから、ディバッグの中に収納したベルトを次に取り出すのは、きっと自分よりずっと電王の力を継ぐに相応しいと思える人間に会えた時になるだろう。
イマジン達には悪いが、それが彼らに対する礼儀だ。今はそうとしか、考えられそうになかった。
「……とにかく、彼女に話を聞こう」
半ば無理矢理に思考を切り替え、フィリップは次に為すべきことへと臨むこととする。
力無き者と思われる人間の保護に向けての準備。正義感に従えば至極当然である選択だ。
何より、義務的に行動している間は余計なことを考えずに済みそうだった。
『こうして力の無い誰かを守っていれば、“仮面ライダー”を演じられるからか?』
「……そうだとしても、だ」
余計なことを考えたくない。
そんな望みすら、今は叶いそうにない。
739
:
◆SrxCX.Oges
:2015/01/01(木) 23:35:38 ID:fcIuCla6
◆
桐生萌郁が所持していたはずの携帯電話は彼女の手元から消え、しかし士の手にも笹塚の手にも渡っていない。
ならば一体どこへ消えてしまったと言うのか。その答えは至って簡単。
ミラーワールドの中に置き去りにされてしまっただけだ。
アビスに変身した萌郁が士に気絶させられた際に手放してしまい、士はすぐにアビソドンの追撃を受けたためにいちいち携帯電話に気を回す余裕などなく、結局地面に落下したまま今もミラーワールドの大地に横たわっている。
そして、今後この携帯電話が誰かの手に渡ることは恐らく有り得ないだろう。
萌郁のようにこの携帯電話を必要とする者は、ミラーワールドに入るための手段を既に持っていない。
士のようにミラーワールドに入る手段を持っている者には、わざわざ携帯電話を回収しに行くためだけに手間をかける理由が無い。
仮に何者かがミラーワールドに入る機会があったとしても、回収される見込みは無いに等しい。広大なフィールドの中にぽつんと佇む携帯電話は、まさしく砂漠に落とした針一本。その地点を正確に探し当てろという方が無理な話だ。
結局、桐生萌郁の携帯電話というアイテムは廃棄されたも同然なのである。
話題は変わるが、桐生萌郁が現在に至るまでの間に他者と直接対面した回数は極端に少ない。まともにコネクションの構築が出来ないという意味では不利な事実だ。
しかし不幸中の幸いと言うべきか、他者から敵意や殺意を向けられる決定的な行動に手を染める機会にも殆ど恵まれていない。
この点も一因となっているのだろう。例えば門矢士、例えばフィリップ、そして例えば岡部倫太郎。それぞれに思惑の違いはあれど、数名とはいえ萌郁の生存を望んでいる他者がいるのが事実となっている。
つまり、萌郁は今後の立ち回り次第で今からでも独自に仲間を作ることが可能であると言える。
しかしそれが、FBとの繋がりを断ち切られ、絶対的な心の拠り所を奪われた萌郁にとってどれほどのプラスになるのだろうか。
それは、目覚めた彼女が自身の現状を認識しないうちにはまだ語れない。
【一日目 真夜中】
【C-5 路上】
【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【所属】青・リーダー代行
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、左肩に傷跡、フェイリスへの罪悪感、覚悟完了
【首輪】80枚:350枚(250枚)
【コア】ゾウ、シャチ、ウナギ、タコ、スーパータカ
【装備】ディケイドライバー&カード一式@仮面ライダーディケイド
【道具】バースバスター@仮面ライダーOOO、メダジャリバー@仮面ライダーOOO、キバーラ@仮面ライダーディケイド、ランダム支給品1〜7(士+ユウスケ+ウヴァ+ノブナガ)、ゴルフクラブ@仮面ライダーOOO、首輪(月影ノブヒコ)、アタックライド・テレビクン@仮面ライダーディケイド、アビスのカードデッキ@仮面ライダーディケイド、ジェネラルシャドウのトランプ(残り10枚)@仮面ライダーOOO
【思考・状況】
基本:「世界の破壊者」としての使命を果たす。
1.ゲームを破壊する。そのためにもゲーム自体をルール通りに完遂させない。
2.「仮面ライダー」とグリード含む殺し合いに乗った参加者は全て破壊する。
3.仲間はもう作らない(被害者を保護しないわけではないが、過度な同行は絶対しない)。
4.イカロスは次に出会えば必ず仕留める。
5.ダブルとアクセルが「仮面ライダー」として復活した時は、今度こそ破壊する。
【備考】
※MOVIE大戦2010途中(スーパー1&カブト撃破後)からの参戦です。
※ディケイド変身時の姿は激情態です。
※所持しているカードはクウガ〜キバまでの世界で手に入れたカード、ディケイド関連のカードだけです。
※ファイヤーエンブレムとルナティックは仮面ライダーではない、シンケンジャーのようなライダーのいない世界を守る戦士と思っています。
※アポロガイストは再生怪人だと思っています。
※既に破壊した仮面ライダーを再度破壊する意味はないと考えています。
※仮面ライダーバース、仮面ライダープロトバースは殺し合いの中で“破壊”したと考えています。
※仮面ライダーとしての能力を失っている人間を“破壊”することには、現状では消極的です。
※()内のメダル枚数はウヴァのATM内のメダルです。士が使うことができるかどうかは不明です。
※ディケイドにコアメダルを破壊できる力があることを知りました。
※もう仲間は作らないという対象の中に、海東大樹を含むか否かは後続の書き手さんにお任せします。
740
:
◆SrxCX.Oges
:2015/01/01(木) 23:36:48 ID:fcIuCla6
【一日目 真夜中】
【C-5 路上(キバの世界のエリア内)】
【フィリップ@仮面ライダーW】
【所属】無
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、精神疲労(極大)、幻覚症状、後悔
【首輪】5枚:0枚
【装備】{ダブルドライバー、サイクロンメモリ、ヒートメモリ、ルナメモリ、トリガーメモリ、メタルメモリ}@仮面ライダーW、
T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW、約束された勝利の剣@Fate/zero
【道具】基本支給品一式、マリアのオルゴール@仮面ライダーW、トンプソンセンター・コンテンダー+起源弾×12@Fate/Zero、デンオウベルト+ライダーパス+ケータロス@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。"仮面ライダー"でありたい。
1.照井達と行動を共にする。
2.保護した女性(萌郁)から話を聞く。
3.復讐に燃える照井を放っておく訳にはいかない。
4.あの少女(=カオス)は何とかして止めたいが……。
5.バーサーカーと「火野という名の人物」を警戒。また、井坂のことが気掛かり。
6.デンオウベルトは自分以外の相応しい人物に使ってほしい。
7.切嗣を救いたかったが、どの面下げて会いに行けというのか。
8.ディケイドの目的は一体……?
【備考】
※劇場版「AtoZ/運命のガイアメモリ」終了後からの参戦です。
※“地球の本棚”には制限が掛かっており、殺し合いの崩壊に関わる情報は発見できません。
※T2サイクロンメモリはフィリップにとっての運命のガイアメモリです。副作用はありません。
※タロスズはベルトに、ジークはケータロスに憑依しています。
※萌郁の保護を達成したことでセルメダルが少量増加しました。
【照井竜@仮面ライダーW】
【所属】無(元・白陣営)
【状態】激しい憎悪と憤怒、覚悟完了、ダメージ(大)、疲労(小)
【首輪】40枚:0枚
【装備】{T2アクセルメモリ、エンジンブレード+エンジンメモリ、ガイアメモリ強化アダプター}@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、エクストリームメモリ@仮面ライダーW、ランダム支給品0〜1
【思考・状況】
基本:全てを振り切ってでも井坂深紅郎に復讐する。
1.フィリップ達と行動を共にする。
2.何があっても井坂深紅郎をこの手で必ず殺す。でなければおさまりがつかん。
3.井坂深紅郎の望み通り、T2アクセルを何処までも進化させてやる。
4.他の参加者を探し、情報を集める。
5.誰かの為ではなく自分の為だけに戦う。
【備考】
※参戦時期は第28話開始後です。
※メズールの支給品は、グロック拳銃と水棲系コアメダル一枚だけだと思っています。
※T2アクセルメモリは照井竜にとっての運命のガイアメモリです。副作用はありません。
※笹塚、フィリップと情報交換しました。
741
:
◆SrxCX.Oges
:2015/01/01(木) 23:37:22 ID:fcIuCla6
【笹塚衛士@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄
【状態】健康、加頭順への強い警戒、照井への確信的な共感
【首輪】60枚:0枚
【コア】イマジン
【装備】44オートマグ@現実
【道具】基本支給品、44オートマグの予備弾丸@現実、ヴァイジャヤの猛毒入りカプセル(右腕)@魔人探偵脳噛ネウロ、煙草数種類
【思考・状況】
基本:シックスへの復讐の完遂。どんな手段を使ってでも生還する。
1.照井と行動を共にする。
2.目的の達成の邪魔になりそうな者は排除しておく。
3.首輪の解除が不可能と判断した場合は、自陣営の優勝を目指す。
4.元の世界との関係者とはできれば会いたくない(特に弥子)。
5.最終的にはシックスを自分の手で殺す。
6.戦力、特に“仮面ライダー”への渇望。
7.もしも弥子が違う陣営に所属していたら……。
【備考】
※シックスの手がかりをネウロから聞き、消息を絶った後からの参戦。
※殺し合いの裏でシックスが動いていると判断しています。
※シックスへの復讐に繋がる行動を取った場合、メダルが増加します。
※照井を復讐に狂う獣だと認識しています。
※照井、フィリップと情報交換しました。
【桐生萌郁@Steins;Gate】
【所属】無(元・青陣営)
【状態】健康、気絶中
【首輪】40枚:0枚
【装備】無し
【道具】基本支給品、ランダム支給品0〜1(確認済)
【思考・状況】
基本:FBの命令に従う。
0.気絶中。
【備考】
※第8話 Dメール送信前からの参戦です。
※FBの命令を実行するとメダルが増えていきます。
【全体備考】
※門矢士が青陣営の次期リーダーとなりました。これに伴い、元・青陣営で現在無所属となっている参加者は第二回放送を以て青陣営に復帰します。
※桐生萌郁の携帯電話はミラーワールド内部に放置されています。
・支給品紹介
【ジェネラルシャドウのトランプ@仮面ライダーOOO】
月影ノブヒコに支給。全13枚支給。
『オーズ・電王・オールライダー レッツゴー仮面ライダー』に登場したジェネラルシャドウが武器として愛用したトランプ。
カッターや爆弾の他、目眩ましや飛行手段など多岐に渡る能力を持つ。
本来はジェネラルシャドウ本人の使用によって能力が発動するものと思われるが、本ロワ内ではセルメダルの消費により誰でも本人と同様に使用することが可能となっている。
742
:
◆SrxCX.Oges
:2015/01/01(木) 23:38:30 ID:fcIuCla6
以上で仮投下を終了します。不安を感じているのは以下の点です。
・士とフィリップ組の戦闘開始〜終了の流れの整合性
・戦闘シーンにおける設定矛盾の有無
・士が青陣営のリーダーとなる展開の是非
・その他、キャラクターの描写について
これらについて、また上記以外にもご意見などあればよろしくお願いします。
743
:
◆z9JH9su20Q
:2015/01/02(金) 01:10:35 ID:sKpyMMIY
仮投下お疲れ様です。
拝読させて頂きましたが、氏の気にされている点を含め、特に矛盾点等wiki収録に向けた問題点は見当たらなかったと思います。
ただ二点ほどの、誤字と思しき箇所が気になりましたので、そちらだけ指摘させて頂きます。
まず
>>729
の上から二行目、>>十二分の十二分の実力 と十二分のという修辞が重複されているのかな、と。
また
>>737
の下から二行目、>>蔓延る数知れぬ悪m恐らく救うべき対象である女性 と誤変換らしき箇所がありました。
もしもこれらが氏の意図されていないミスであった場合は、推敲の際参考にして頂ければと思います。
作品そのものの感想につきましては、本投下まで我慢させて貰いますね。
744
:
人間【にんげん】
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/06(火) 20:04:11 ID:J4xHT0co
ただいまより仮投下させていただきます
745
:
人間【にんげん】
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/06(火) 20:05:31 ID:J4xHT0co
ガチャリと、音を立ててドアが開く。
そこから現れたのは美樹さやかと、今正に傷が治りつつある──新しい服に着替えたらしい──脳噛ネウロであった。
まさに化け物級という例えが相応しい程の速度で治っていく彼を見て、大道克己はニヤリと口角を吊り上げる。
「ハッ、ある程度予想しちゃいたが、想像以上に化け物だな、アンタ」
「当たり前だ、貴様のような中途半端と同等に扱うな、我が輩は生まれつき魔界の住人、魔人だぞ」
克己の皮肉に一切怯まず返したその言葉に最初は“人間”であった"さやかと克己は眉を潜め、しかしそれに構うことなくネウロは真っ直ぐにこの場にいるもう一人の“化け物"の元へと歩を進める。
「アンク、と言ったか。貴様がヤコの荷物を持っているな、寄越せ」
「フン、渡しても良いが、中身は大したもんじゃないぞ。それとも、案外お前も、こいつと同じようにお友達の遺品くらいは持ってたいって口だったか?」
「笑わせるな、御託は良い、さっさと寄越せ」
半ばふんだくる様にアンクからデイパックを受け取ったネウロはまさかこの用途でお前を頼ることになるとは、などとぼやきながら、ヤコの携帯を取り出した。
「携帯?そういえばここって電波通るのかな……っていうか何その髪の毛のストラップ!趣味悪!」
思わずさやかがそんな言葉を口走ってしまうのも無理はない。
その携帯についていたのは──何故かとても毛並みの良い──毛の束であったのだから。
一風変わった、などと説明づけるのも困難なほど、それは異様なストラップであった。
「ほう、やはりそれが普通の反応か。そういえばヤコ以外にお前を見せるのは初めてだな、“アカネ"?」
「……アカネ?誰?」
「何を言っている、目の前にいるだろう?」
さやかはキョロキョロと周りを見渡すがアカネなる人物は見当たらない。
克己とアンクはしかしもう勘づいているのか、意味深な笑みを浮かべていた。
「ちょっとネウロ、適当なこと言って私のこと惑わそうとしてるなら……ってえぇ!?」
周りの状況にいまいちついていけていなかったさやかが声を荒らげようとして、しかし目の前の光景に言葉を失う。
そこにあったのは、先程趣味が悪いと称した髪の毛が、怒り狂っているかの様に乱舞している姿だったのだから。
感情があるのだとすれば、先程のさやかの「趣味悪い」という発言に怒っているのだろうか、そう考えれば少し可愛いものである。
「だから言ったろう?“目の前にいる"と。さて、アカネ、怒るのも結構だがそれより今は貴様に聞きたいことがある」
乱舞するのを抑えて、髪の毛──ネウロ曰く「アカネ」──がネウロの次の言葉を待つ様に沈黙する。
その様子を見て、ネウロは携帯のメールフォームを開きながら、囁く様に言った。
──ヤコの死の瞬間の状況と、下手人の特徴を教えろ、と。
それを受けてプチプチと慣れた様子で──しかしアポロガイストに少し切られた分少しぎこちなく──携帯のボタンをプッシュしだすアカネを見て、克己は思わず感嘆の声を漏らす。
「ほう、腕がくっついたと思えば今度は生きてる髪の毛か、とことん常識破りだな」
「弥子から聞いて知ってはいたが……、ああまで自在に動けるとはなぁ」
「二人とも、驚かなさ過ぎでしょ……、髪の毛が動いてんだよ?」
「死体がこうして動いてるんだ、今更髪の毛が動いたところで驚きようが無いだろ」
「それはそうなんだけど……」
746
:
人間【にんげん】
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/06(火) 20:06:33 ID:J4xHT0co
言われてしまえばその通りなのだが、しかしさやかには納得することが出来なかった。
特殊な技術や魔法によって死体が動くからといって、魔人の力で髪の毛が動くことはそうまで何ともないことなのだろうか。
不可思議がどんどん当たり前になっていくことへのモヤモヤを上手く消化する事も出来ぬまま悶々とするさやかだが、そんな時、ネウロがほうと声を上げた、かと思えばいきなりクツクツと笑い出した。
「どうした、何かわかったか?」
「クク、アンク、貴様確かワイルドタイガーにメダルを奪われた、といったな?」
「……あぁ、野郎、俺がグリードだからか、最初の会場の時とはまるで別人だったぜ」
「フン、仕方あるまい?実際、他人なのだから」
「ハァ?」
意味がわからない、といった顔をするアンクに、ネウロは画面を見せる。
そこには確かにワイルドタイガーのアーマーの特徴、及び“彼”の正体、怪物強盗サイの名と、彼の行った行為が如実に書かれていた。
──ネウロがアカネを弥子に持たせた理由に今回の様な、弥子が死んだ際に自身が下手人を特定し“お仕置き"する為というのがあるのかは定かではない。
だが結果として彼女は弥子殺害の瞬間において唯一の目撃者であり、用心深いサイを以てしてその存在を把握する事は叶わなかった。
あろうことか彼はこの髪の毛を単なる護身用にネウロが持たせた魔界道具だとでも思ったか、全く確認することなくアンクの下に向かってしまったのである。
──無論、悪戯好きでネウロに挑戦を挑み続ける彼の事である。アカネの存在に気づいた上で、ネウロに下手人は自分だと伝えるために敢えて証拠を残した可能性も、否定できないが。
「フム、怪盗サイ……、予想はしていたがなるほどあの子虫め、どうやら本当にきついお仕置きをせねばならない様だ……」
そして彼に対し、ネウロは、サディスティックな笑みを浮かべながら、心の奥で今まで感じたことない様な深い怒りを感じていた。
自身がこの地上で熱心に調教したボロ雑巾、桂木弥子。
以前にも一度弥子を人質に取られた際それを殺した場合にどうなるか、などとサディスティックに笑っていたが、今はそれが実現してしまったのである。
その笑みにその時の様な愉悦は感じられず、それ以上の復讐の炎が燃えたぎる。
そんな彼に呼応するかの如く、手に持った携帯についている髪の毛、アカネも逆立つ。
彼女にとって弥子は大切な友達だった。
言葉も通じないのに遊んでくれた、トリートメントしてくれた、勉強を教えた──何気ないことだが、しかし確かに彼女の不思議な日常の中心に、弥子はいた。
それをどんな理由があったにしろ殺したサイへの怒りは、彼女を燃えさせるに十二分だった。
「怪盗サイ……か、とことん舐め腐りやがって……!」
そしてメダルを奪われたアンクもまた、怒りに燃える。
ワイルドタイガーの姿を驕っていた事など、アンクにとってはどうでもいいが、杏子を箱にして殺した際に奴は、俺は殺し合いに乗っていない、と言った。
それならば捨ておいてもよいとも思ったが、自身に直接手を出しメダルを持って行き、弥子をも殺した現状では話が違う。
奴がネウロに狙いを定めてそれを超えるために自身のメダルを使おうとしているというのなら、それを利用してやる。
ネウロと共に行動していれば、奴は変装など捨ておき戦闘を仕掛けてくるだろう、不意打ちを用いようが、それは確実に訪れる。
なればその時こそ自身を欺きメダルを奪った大罪のツケを払わせる時である。
再生能力が人間離れしているだかなんだか知らないが、所詮グリード態になった自分には遠く及ぶまい。
メダルを取り返し、この状況で好き勝手やったツケを払ってもらわねば、自身の気が済まぬ。
鳥の王たる彼もまた、今この状況では自身のために外道に怒りを燃やすのだった。
747
:
人間【にんげん】
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/06(火) 20:07:56 ID:J4xHT0co
「怪盗サイ、許せない……!タイガーを、ヒーローを何だと思って……!」
そして、サイという存在を少しでも聞いていたさやかは、何よりそんな犯罪者がワイルドタイガーの名と姿を驕っているという状況に怒りを示していた。
最初の場で主催者に対しああまで真っ直ぐに敵意を示した英雄、ワイルドタイガー。
昔にテレビで見ていたヒーローそのものの様な彼の事を貶めようとする悪の存在が、さやかには許せなかったのだった。
「そうカッカするな、さやか。にしても怪盗サイか、少し興味深いな」
意識外から降ってきた様な声に、さやかはハッとする。
カツリ、と一歩進んで声の主、克己がニヤリと笑った。
「常人離れした回復力、身体能力、そして顔を変幻自在に変えられるその特異性……、NEVERにいれても良い程の飛び抜けた能力だ」
「はぁ?何言って──」
「あくまで“能力は"だ。美術品を盗む程度ならともかく、自身のルーツに近いものを感じた人間をミンチにして箱に詰める様なイカレ野郎、俺の仲間にはいらん」
今度はふざける様子も無く、克己は言い切った。
彼が仲間であるNEVERに求めるものは、死人であること、以上に自身が持っていない個性を持つ事である。
確かにサイの個性は強烈だが──サイ自身は自分が分からないからそれを探すための犯行だといいきっているらしいが、正直これ以上強烈な個性は中々無い──しかしそれは克己の求める個性ではない。
財団の男──加頭順──やヴィレッジのプロスペクトと同様に、憎むべき敵とすら言えるサイを、その能力は買っても彼の内面を評価する気にはなれなかったのであった。
それを受けてさやかも溜め息をつき、全くめんどくさい奴、などと思いながら口を開く。
「確かに、凄い能力だよね、文字通りの化け物。この力を手に入れてなかったら……こんな体になってなかったら、戦おうなんてとても思えな──」
「ほう、サイが化け物だと?」
背筋が凍る思いがした。
びくんと跳ねながら振り向けば、そこには目を見開き耳まで裂けているのではと思うような邪悪な笑みを浮かべたネウロがいた。
いつの間に、などと思いながらさやかはしかしネウロの言葉に疑問を投げかけていた。
「だって、化け物でしょ、どう考えても……。怪力も回復力も、変装能力もそうだけど、何より他の人間なんてどうとも思ってない様な身勝手な犯行……!化け物じゃなかったら説明がつかないでしょ?」
「フム、なるほど。サイに対する考えは最初の頃のヤコのそれに似ているな……、まぁいい。それよりも、奴はどうなろうと化け物ではない。礫器とした、人間だ」
「はぁ!?言うに事欠いてアンタ一体何を……!」
さやかは思わず声を荒らげる。
化け物ではない、というだけで納得が出来なかったが、それどころか、言うに事欠いて人間とは!
まるで理解できない、といった様子で彼女は怒りの表情を浮かべていた。
「フム、貴様は何か勘違いをしているようだ……。丁度いい機会だし、ついでに貴様に聞いておこう。
“貴様にとって、人間とは何だ?"」
「は……?」
748
:
人間【にんげん】
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/06(火) 20:08:52 ID:J4xHT0co
理解が出来なかった。
いや、勿論質問されたことが何かは分かっている。
だがそれでも理解できない、そしてわからない。人間とは何かなど、人間の定義など。
問いに困惑し答えが見つからず模索するさやかを尻目に、ネウロはしかしその様子に満足げな表情を浮かべた。
「それだ、サヤカよ。人間とは自身が分からないこと、出来ない事に対して、必死に努力できる。強い向上心と、そしてそれを成し遂げられる強い意志を持っている。
それこそが我が輩の食料、謎を生み出す原料であり、魔人に無い、人間の利点だ」
「そんな、でもだからって……」
「……何度も言う様に、我が輩は魔人だ、魔界の住人だ。魔人は生まれついて身体能力や頭脳に大きな個体差が生じる。
故に努力を早々に諦め、上には敵わないと悲観し続ける人生を送る。だが人間は違う、個体差などたかが人生の千分の一、或いは万分の一にも満たぬ程度の努力でたやすく覆る。だから人間は面白いのだ」
思わず熱く語るネウロに、さやかは言葉を継げない。
物理的に口を挟む瞬間が無いのではない。
ただ純粋に、ネウロの、魔人なる存在の語る“人間"について、何も自分が付け加える事も、批判する事も出来ないのである。
「故にサヤカよ、怪盗サイは人間であり──、そして同時にお前も、人間なのだ」
「な……、でも私は──」
「異論は認めぬぞ、サヤカ。一体何が人間でないというのだ、悪を倒さんと努力が出来、外道に怒る事が出来、他者の為に悲しむ事が出来る。どれも我が輩の見た、“人間”そのものだ」
言葉が、出なかった。
私が……人間?
そんな筈無い、だって……だって、こんな体なんだよ?
魂は小さい石ころになっちゃったし、痛みだって消しちゃえる。
こんな私が……人間?
俯き思考するさやかを構うことなく、ネウロはまたも笑う。
サディスティックないつもの笑みでなく──例えるなら小動物を見守る様な──どこか喜びのこもった、笑みを。
「悩め、サヤカよ。そうしてあのどうにも役に立たぬだろうと見限っていた我が奴隷は、我が輩が目を見張るほどに成長して見せた。
貴様はヤコともサイとも違うが……しかし確かに人間だ、我が輩が保証してやろう」
「そんな事……」
「悩め、そして自分で納得の出来る答えを見つけられる様、望む自分になれる様努力をするが良い。そうして努力し奮闘する姿、見ていて実に好ましい。
我が輩を驚かせてみろ、サヤカ。貴様は、人間は確かに、それができる可能性を秘めている」
749
:
人間【にんげん】
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/06(火) 20:09:30 ID:J4xHT0co
我が輩からは以上だ、と言い残して、ネウロはそのままクルリと背を向けた。
さやかに色々言うだけ言っておいて後はほっぽらかしである、文句の一つでも言いたい気分だ。
だがそんな気持ちがすぐに消え失せるほど、ネウロに言われた言葉は衝撃であった。
人間とはなんぞやなどと、哲学めいた問いは、当たり前ながらさやかは一度も自身に問うた事が無かったのだ。
この体になった時点で、他の、“普通の”人間と異なった時点で、自身は人間ではないのだとそう漠然と思っていたのである。
だがネウロにああ言われた瞬間、その反論は露と消えてしまった。
魔法少女だとか元人間の死人だとかではなく、生まれついての、完全な“人ならざるもの”から見れば、自身もまだ人間だという。
自分は果たして未だ人間なのか。だが少しでも人間と異なってしまったと後ろめたい感情を抱いた時点で、自分は人間だと胸を張れないのではないだろうか。
いや或いはこうして悩み答えを模索する行為それこそがネウロの定義する“人間”ではないのか。
またも頭を痛める彼女だが、そんな彼女を横目に、ただひたすら二人のやりとりを見ていた克己は、思考する。
(よりよい自分になる為に、努力する事が出来るのが人間、か……)
先程のネウロの言葉の中に幾度と無く出てきた、努力という単語。
それを考えるなら、果たして自分は人間であると言えるのだろうか。
確かに自分は明日を目指して生きている。
しかしそれは自分でも分かっている程にただの足掻きであり、運命への無駄な抵抗だ。
明日新しい何かを探したいだとか自身の可能性を追い求めるだとかの努力は、当の昔に置いてきた。
それだけでなく、今も確実に、自分から大切な何かが消えていく気がするのだ。
この徐々に消え行く記憶が、自身の最後の足掻きすら奪った場合、自分は問うまでもなくただの化け物へと成り果てる。
段々と確実に心が化け物になっていく存在を、人間であると胸を張って言える筈も無かった。
だが、と克己はふと思う。
これを口に出せば、きっとさやかは言うのだろう──お袋の様に──お前は人間だ、と。
自分自身、まだ自分が化け物に成り果てたと言うつもりは無い、最後の瞬間まで、残った“人間”に縋らせてもらう。
だが、何故か思うのである。さやかと自分には、超えようの無い人間と化け物の壁があると。
(さやか、もし、もし俺が正真正銘化け物になったなら、その時はお前に──)
その思いは、未だ頭を痛める少女には、届かなかった。
750
:
人間【にんげん】
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/06(火) 20:10:09 ID:xYyAMLlM
◆
さやか、克己の両者から少し離れた地点で、アンク、ネウロの二人は壁に背中を預けていた。
元々疲労の大きい二人だ、休める内は少しでも休んでおきたい気持ちが強いのだろう。
そんな中、アンクは笑い飛ばす様に口を開いた。
「ハッ、人間だどうだ……下らないな」
「そういえば貴様も生まれついての“化け物”だったか、アンク」
「フン、自分が化け物だろうと人間だろうと興味は無い」
アンクの言葉には嘘は含まれていない。
ただ、彼は命に興味があるだけなのだ、それさえあれば自分が人間だろうと魔人だろうと全く関係ないと、彼は考えているのである。
「そういえば、あの女に随分と入れ込んでる様だが……、魔女については教えなくていいのか?」
「……何故我が輩が知っていると?」
「杏子のソウルジェムを随分熱心に見てたんでなぁ」
先の弥子のデイパックを受け取った後一応他のものも目認はしていた。
その時確かに魔界の障気の詰まったビンと同じくらいにその赤い石の事も目に留めていた。
だがそれを含めてもデイパックを見たのは時間にして二秒。
その中で自分の目先を追えるとは──。
「なるほど、流石の鳥目、という奴か、だが貴様は勘違いしている。我が輩がサヤカにショックを与えない為に魔女化の事実を話さなかったと思っているな?」
「……」
沈黙。
肯定なのかはともかくネウロは続ける。
「我が輩は俗に言うドSだ、だが我が輩遊べる玩具は長く遊ぶ趣味でな、一気に負荷を掛けて玩具を壊す趣味は無い。
元々不安定なサヤカの心を適度に痛めつけ、それが治って前より強くなればまたギリギリの負荷をかける」
「ハッ、あいつの心はどこまで行っても魔女の真実には耐えられないと思うがな」
「なれば所詮そこまでだった、という事だ。我が輩とて壊れた玩具で遊ぶ趣味は無い。だが、人間としての在り方をああまで考えるのはサイ以来だ、実に興味深い」
またもどこか嬉しげに笑ったネウロは続ける。
751
:
人間【にんげん】
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/06(火) 20:10:41 ID:J4xHT0co
「もちろん我が輩が無理に負荷をかけるまでもなくこの場では様々な負荷が心にかかるだろう、魔女化についても、案外早く知る事になるかもしれん、その時に奴の心が壊れても……我が輩の知ったところではないがな」
冷たい言葉、だがその表情には一体どうなるのかという様な期待が浮かんでいた。
期待していなかったが故に自然の流れに任せ結果長期的な成長を見せた弥子。
彼女の成長も目を見張るものがあったが、この場で流れに任せているわけにも行かない。
成長を望めると考えたさやかには、多少強引だろうが負荷をかけ、その進化が見たい。
そうネウロが考えてしまうほど、今のさやかは可能性に溢れていた。
「フン、まぁあの女がどうなろうと、俺には関係ない、それより──」
アンクが言うより早く、ネウロはデイパックより杏子のソウルジェムを取り出す。
その表情を見て、アンクはまたニヤリと笑って、しかし瞬時にそれを止めた。
「見て分かったとは思うが、このソウルジェムは少し黒ずんでる」
「フム、時間経過でほんの少しずつ黒ずんでいってる、と言いたいのだろう?」
「……フン、お前も中々の目をしてるらしい」
そう、そのソウルジェムは、ほんの少し、ほんの少しだが、杏子が死んだその時より、ネウロが確認したその時より、黒ずんでいる。
ネウロが先程目を奪われたのは、正にその少し黒ずむ瞬間を見てしまったからに他ならない。
そして、ソウルジェムが少しずつでも黒ずんでいくというのは何を意味するかといえば──。
「問題は、魔女がこの状況で現れるのか、だな」
そう一番大きな問題はそれである。
杏子の意識がソウルジェムの中で目覚め、この状況に絶望して行っているのか、或いはメダルの供給が無い故に時間経過で黒くなっているのかは分からないが──。
しかし現状確かにソウルジェムが黒ずんで行っているというのは事実であった。
そしてそれだけならともかく、ソウルジェムが完全に黒に染まったとき、現れる魔女が、この場でどう扱われるのか、それが頭を悩ます要因なのである。
「魔女が出現するのにもやはり相応のメダルが必要なのか、あるいは魔女だけは特別扱いで時間経過で無条件に出現するのか……」
「どっちにしろ、杏子は戦力になる。完全に黒に染まるその瞬間まで、これは割らないでおきたい。
……それに何より、試してみたい事もあるしな」
「フム、首輪無しで蘇生することが出来るのか、出来た場合メダルの制限等はどうなるのか、か」
752
:
人間【にんげん】
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/06(火) 20:11:22 ID:J4xHT0co
そう、この場には、ネウロの様な特殊な状況を除いても、通常の生命活動に必要不可欠な部分、首を落としてもそのあとに蘇生する事の出来る存在が、それこそわんさかといる。
魔法少女もその一例だが……、何より、本体が一枚のコアであるとも言えるグリードもその一つなのだ。
もしもメダルを無くしてメダルシステムの呪縛から解き放たれるなら、出来る奴は望んでやるべきだといえる。
しかしそもそもの話、この場そのものにメダルシステムを使用しないと能力を行使できない様な制限がかかっていた場合はこの限りではない。
寧ろメダルが首輪から供給されず、常にメダル残数0の状況を強いられるのである。
これでは生き返り損である。
故に、杏子という身近にある存在を用いて、一度試してみたいのだ、首輪が無い場合に一体どうなるのか。
制限がなくなりより強い味方になるならそれでよし、メダルシステムの弊害で何もできない一般人に成り下がるなら──。
首輪が再度調達できるまで、残念だがまたソウルジェムの中で眠っていてもらうしかあるまい。
冷酷な判断だが利己的に生きるグリードらしい判断である。
だが一方でこの作戦はハイリスクハイリターン、つまり当たればおいしい作戦とも言える。
杏子がこの場にいて選択の余地を与えたならば、きっと迷わずこの作戦を実行しただろうことを付記しておく。
それをも踏まえてアンクがこの作戦を考えたかは、本人に聞いても確かなところは出ないだろうが。
「取り敢えず、今の段階でこれに気づけたのは大きい。これの対策は後々じっくり考えるとして……」
「あぁ、今はともかく、行動、だな」
もう充分といわんばかりに壁から体を離した両者は、そのまま克己たちの元へ歩きだす。
今後の方針を、考える為に。
◆
四人は、今後の方針について語り合っていた。
ネウロとしては障気を一旦吸えた為、メダル消費が落ち着き、腰を据えて話し合う時間が出来た今のうちに今後について大まかにでも決めておきたかったのだ。
何気なく自分の行きたい方向を話しつつ、ネウロはその裏で思考する。
(アンク……頭も回るが何よりも……、グリードであり多量のメダルを持っている、か)
彼が思考するのは先程も話していたアンクの事。
会話していて思ったが、彼はかなり頭が切れる。それこそネウロも油断ならぬ程に。
だが彼がそれ以上に思うのは、彼の体が結局メダルで構成されている、という事である。
753
:
人間【にんげん】
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/06(火) 20:12:02 ID:J4xHT0co
(現状は裏切る理由もないから我が輩に楯突く意味はないと分かっているだろうが……しかしいつかは対処せねばならぬな)
ネウロが危惧しているのは、彼のスタンスである。
彼は対主催か、殺し合いに乗っているのか、と問うた際、こう答えた。
負けるつもりは無い、と。
先程確認して思ったが、間違いない、彼の首輪の赤に金の丸印がついているのは、リーダーの証だろう。
彼は自分の持っているメダルの詳細を語ろうとはしなかったが、恐らく現状赤系のメダルを一番多く持っているのはこのアンクであるという自分の推理は、間違っていないはずだ。
そしてここで彼のスタンスが問題となってくる。
現赤リーダーが負ける気はない、と言っているのだ。
リーダーでないなら死にたくない、程度の意味で済むが、自分の陣営について負けたくないなどと言うならば、積極的に殺し合いには乗らないだけで、先を見据えればゲームに乗る可能性を秘めているといえる。
もしもこの男が敵に回ったならば、その時は自分も頭脳面で裏をかかれぬ様油断は出来ない。
頭脳対決、という面で言えば、彼が地上に来てから最強の敵になりうる可能性が確かにあるのである。
(それに何より……、こいつの体は大量のセルとコアのメダルで出来ている。非常食、というわけには行かないだろうが、戦力増強の際に選択肢の一つとして捉えておく必要があるか)
そう、何よりも、彼の体を構成しているセルメダルと、コアメダル。
それを手にする事が出来れば、当たり前だが自身の戦力はこれ以上無く増大し、メダル切れの心配は、長い事せずに済むのである。
故に場合によっては卑怯と罵られようと彼はアンクを殺しメダルを補充する算段を立てていた。
現に、ネウロの首輪の中にあるコンドルメダル。
それはアンクのものであるとネウロは分かっているが、アンクに易々と渡すつもりは無い。
敵になりうるかもしれない存在の戦力を増やす様な愚策を、彼が簡単に取るわけも無かった。
(アンクよ、我が輩貴様にも進化の可能性を見いだしているのだ、あまりがっかりさせる様な結果には、ならない事を祈るぞ……)
そんな自分勝手な思考を重ねるネウロの横で。
(とでも、やはりネウロは考えているだろうな……、俺は一体どうするか……)
と、思考するのは克己である。
彼もまた、今のアンクの不安定なスタンスに頼って仲間だ何だとのたまうつもりは無い。
ネウロが自分と同じようにアンクのメダルを補給源として考えるだろう事まで、予想済みである。
問題は、自分はその状況が訪れた際、どうするか、である。
自身もさやかも、どちらかといえばメダルを食う性質(タチ)である。
このまま時間経過でメダルが切れ死ぬなどというのは勘弁願いたい。
754
:
人間【にんげん】
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/06(火) 20:12:36 ID:J4xHT0co
だが、だからといって弥子の死に複雑な表情を見せていたアンクをただのメダルの塊として殺せるほど、克己は悪魔ではなかったのである。
理想としては、なるべく殺したくはない。
だがそれで自分が死ぬなどというのは論外だ、未だ自分は何も成し遂げていない、何も残せていない。
そんな現状で死ぬのだけは、克己は絶対に嫌だった。
(悪く思うなよ、アンク。グリードとしてこの場に呼ばれた以上、今のお前の体は魅力が多すぎる)
苦しいながら自分を納得させる様な考えを抱いた克己の正面で。
(……とでも、こいつらは考えてるんだろうが、そう簡単に殺されてたまるか)
思考するのはアンクである。
こいつらが、正確にはさやか以外の二者が自分をメダルの補給源として捉えているだろう事は容易に想像がつく。
だが、アンクとて生き延びてやり遂げたい事があるのだ。
こいつらにどんな事情があるにせよ、自分の身に比べれば最早比べるまでもなかった。
(それに、俺の体はちょっと特殊でな……、他と違って“俺”は“右手だけ”なんだぜ)
そう、それが今の状況でアンクの持ちうる最大の切り札。
ネウロは見たところ、人間の可能性をこれ以上無い程までに評価している。
なればそれを利用するまで。
自身の右手以外の体は、泉信吾というまるっきりの人間である。
無論、メダルが同化しつつある現状まるっきりとは言い切れないかもしれないが、それでもメダルの塊である自分などよりはよっぽど人間であり、ネウロの言う人間の定義に当てはまるだろう。
(もちろんこれはその時まで教えないがな……、色々考えてるのがお前らだけだと思わない事だ)
簡単に消えてたまるか。
その一心で周りの人間への殺意を見抜かれない様に三者が抱く中で。
彼女だけは、美樹さやかだけは、純粋に周りの人間を仲間と信じていた。
いや、正確に言えば、それを考えるより大事な事を考えているために、そこまで考えが回っていないのかもしれないが。
(私が人間……、でもそれでも今の私が、恭介に胸を張って人間として想いを伝えられる?)
755
:
人間【にんげん】
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/06(火) 20:13:09 ID:J4xHT0co
相も変わらず彼女の悩みの種は先程のネウロの言葉であった。
自身を人間として認めると言い切ったネウロ。
その言葉に甘えたいのは山々だが、しかしそれで自分に納得が出来るかといえば、それは話が違うのである。
悩み、答えを探す努力こそ人間だとネウロは言った。だがさやかには、幾ら探しても答えが見つかる気がしないのであった。
(私は、私の答えは──)
彼女の中の日付は、未だ変わらず。
むしろやっと秒針が動き出した段階であった。
◆
「フム、これで大体の事は話し終わったか、では行くぞ」
と、四者四様の思考を済ませ、表面上滞り無く進んだ会話が一段落し、彼らはすくと立ち上がった。
少し遅れてさやかが立ち上がりそれに続く。
答えが見つからずとも、少なくとも今ただ立ち止まっているわけには行かない。
少しでも、ちょっとずつでも、歩きださなくては。
と、そこで、かねてより気になっていた疑問が、ふとさやかの口をついた。
「ね、ねぇ、ネウロ」
「ム、何だサヤカよ」
「あのさ、あんたって魔人の素性で出来るだけ隠しておきたかったんじゃないの?何で私たちには最初からオープンなのさ」
今まで聞くタイミングも無かった上、それ以上の問題に悩んでいた為切り出せなかったその疑問を、今さやかはやっと口にしたのであった。
「フム、大した理由は無い。こうして首輪をつけられ我が輩の能力に制限を掛けられ、ヤコも死んだ現状だ。元の世界と違いのんびりと自分を偽るほどの暇が無くなったというだけの事」
我が輩には時間がないのだ、と小声で付け足してネウロは未だ治りきらない箇所の傷をさする。
現状のメダル総数の関係か、或いは自身の体そのものが地上に対応しきれなくなっているのか、──或いはヤコの命の炎だけでは、魔人の体には足りなかったのか。
どちらにせよ、ネウロに残された時間はあまりない。
主催を倒すまで持つかどうか……、持ったとして、その後また弥子の後続の探偵を探しその助手として活動するには、自身は有名になりすぎてしまったのもあり、もうそこまでの時間は残されていないのだ。
究極の謎が無くなるかもしれないのは非常に、非常に残念だが、しかしこの場で自分の素姓を隠してのんびりやっていれば即ち死に直結すると、そう判断したのである。
(覚悟しろ、真木よ、我が輩はこれから貴様を倒すのに全力をかける。魔人を、我が輩を本気にさせた罪、しかと思い知るが良い)
756
:
人間【にんげん】
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/06(火) 20:13:50 ID:J4xHT0co
故に、全力だ。
この事件を最後に自分の魔力が枯れはてようと、信頼が出来ない人間に自身の正体がばれようと、真木が何の謎も持たないと分かったとしても。
最早関係ないのだ、彼は今、真木を倒す為だけに全力を尽くす。
それが、ネウロの、覚悟だった。
「そ、そうなんだ」
凄味のこもったその言葉に、さやかは思わず怯む。
しかし決して面白半分に言ったわけではない彼に対し、さやかは心強さを覚える。
本気になった魔人が、味方になった。これが心強くなくて何だというのか。
「質問はないな?……では、行くぞ」
濃くなりつつある闇に、一歩進む。
その闇は深く最早先は見えなくなりつつあり──。
しかし彼ら彼女らの歩く先には、確かな光明が差していた。
【一日目 真夜中】
【E-4 道路】
【アンク@仮面ライダーOOO】
【所属】赤・リーダー
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、覚悟、仮面ライダーへの嫌悪感
【首輪】130枚:0枚
【コア】タカ(感情A)、クジャク:1、コンドル:2、カンガルー:1(放送まで使用不可)
【装備】シュラウドマグナム+ボムメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品×5(その中からパン二つなし)、ケータッチ@仮面ライダーディケイド
大量の缶詰@現実、地の石@仮面ライダーディケイド、T2ジョーカーメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1〜2
【思考・状況】
基本:映司と決着を付ける。その後、赤陣営を優勝させる。
1.優勝はするつもりだが、殺し合いにはやや否定的。
2.もう一人のアンクのメダルを回収する。
3.すぐに命を投げ出す「仮面ライダー」が不愉快。
4. サイへの殺意、次に会ったときは容赦しない。
5.ネウロ、克己への警戒、簡単には殺されない。
【備考】
※本編第45話、他のグリード達にメダルを与えた直後からの参戦
※翔太郎とアストレアを殺害したのを映司と勘違いしています。
※コアメダルは全て「泉信吾の肉体」に取り込んでいます。
※ネウロ達の考えに薄々勘づいています。その時が来たら自分の右腕以外の体は実際は人間である事を示し覚悟を鈍らせようと考えています。
※映司関連の内容も話したはずですが、上記の翔太郎、アストレアについての考察、及びプトティラの暴走について話したのか、そもそもどのような関係だと話したのかは後続の方におまかせします。
757
:
人間【にんげん】
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/06(火) 20:14:20 ID:J4xHT0co
【大道克己@仮面ライダーW】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】15枚:0枚
【コア】ワニ
【装備】T2エターナルメモリ+ロストドライバー+T2ユニコーンメモリ@仮面ライダーW、
【道具】基本支給品、NEVERのレザージャケット×?−3@仮面ライダーW 、カンドロイド数種@仮面ライダーオーズ
【思考・状況】
基本:主催を打倒し、出来る限り多くの参加者を解放する。
1.さやかが欲しい。その為にも心身ともに鍛えてやる。
2.T2を任せられる程にさやかが心身共に強くなったなら、ユニコーンのメモリを返してやる。
3.T2ガイアメモリは不用意に人の手に渡す訳にはいかない。
4.財団Xの男(加頭)とはいつか決着をつける
5.園咲冴子はいつか潰す。
6.人間……か。
7.悪く思うなよ、アンク。俺も簡単にくたばるわけにはいかない。
【備考】
※参戦時期はRETURNS中、ユートピア・ドーパント撃破直後です。
※回復には酵素の代わりにメダルを消費します。
※『仮面ライダー』という名をライダーベルト(ガタック)の説明書から知りました。ただしエターナルが仮面ライダーかどうかは分かっていません。 また、『仮面ライダー』であるオーズやダブルのことをアンクから聞いたのか、また聞いていた場合それについてどう感じたのかは不明です。
※魔法少女、グリード、ネウロ関係に関する知識を得ました。
※さやかの事を気に掛けています。
※加頭順の名前を知りません。ただ姿を見たり、声を聞けば分かります。
※制限については第81話の「Kの戦い/閉ざされる理想郷」に続く四連作を参照。
※アンクをメダル補給の為に殺す事に躊躇しています、がこの場において有効な戦術である事が否定しきれない為その時が来たら感情を殺すつもりです。
※アンク、ネウロが魔女について知っている事は知りません。
【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】10枚:0枚
【コア】シャチ(放送まで使用不可)
【装備】ソウルジェム(さやか)@魔法少女まどか☆マギカ、NEVERのレザージャケット@仮面ライダーW、ライダーベルト(ガタック)@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、克己のハーモニカ@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:正義の魔法少女として悪を倒す。
1.人間……って何なの?私は人間?それとも……?
2.克己達と協力して悪を倒してゆく。
3.克己やガタックゼクターが教えてくれた正義を忘れない。
4.T2ガイアメモリは不用意に人の手に渡してはならない。
5.財団Xの男(加頭)とはいつか決着をつける
6.マミさんと共に戦いたい。まどかは遭遇次第保護。
7.暁美ほむらや佐倉杏子とは戦わなければならない。
8.怪盗サイへの強い怒り。ヒーローを何だと思って……!
【備考】
※参戦時期はキュゥべえから魔法少女のからくりを聞いた直後です。
※ソウルジェムがこの場で濁るのか、また濁っている際はどの程度濁っているのかは不明です。
※回復にはソウルジェムの穢れの代わりにメダルを消費します。
※NEVER、グリード、ネウロ関係に関する知識を得ました。
※アンク、ネウロが魔女について知っている事は知りません。
758
:
人間【にんげん】
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/06(火) 20:15:22 ID:J4xHT0co
【脳噛ネウロ@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄
【状態】ダメージ(中)、疲労(大)、右肩に銃創(治りかけ)、右手の平に傷(治りかけ)、悲しみ? 本気、新品同然の服
【首輪】40枚:0枚
【コア】コンドル:1(放送まで使用不可)
【装備】魔界777ツ能力@魔人探偵脳噛ネウロ、魔帝7ツ兵器@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品一式、弥子のデイパック
【思考・状況】
基本:真木の「謎」を味わい尽くす……がお仕置きの方が先だな。
1.さやかに興味、悩め人間よ。
2.怪盗サイに今度会ったときはお望みどおり“お仕置き”してやる。
3.アンクをメダル補充の為殺す準備も必要……か。
※DR戦後からの参戦。
※ノブナガ、キュゥべえ、アンク、克己、さやかと情報交換をしました。魔法少女の真実を知っています。
※魔界777ツ能力、魔帝7ツ兵器は他人に支給されたもの以外は使用できます。しかし、魔界777ツ能力は一つにつき一度しか使用できません。
現在「妖謡・魔」「激痛の翼」「透け透けの鎧」「醜い姿見」「禁断の退屈」を使用しました。
※制限に関しては第84話の「絞【ちっそく】」を参照。
※弥子のデイパックには以下の支給品が入っています。
「基本支給品一式、桂木弥子の携帯電話+あかねちゃん@魔人探偵脳噛ネウロ、ソウルジェム(杏子)※黒ずみ進行度(中)@魔法少女まどか☆マギカ、 衛宮切嗣の試薬@Fate/Zero、赤い箱(佐倉杏子)」
なお、現在あかねちゃんは通常通り動いています。
※杏子のソウルジェムがほんの少しずつ濁っている模様です。進行のタイミングや、杏子の精神が目覚めて絶望しているのか、この場での制限か何かなのかは現状不明です。また、濁り切ったとき魔女が現れるのか、現れるとしてメダルが必要なのかは不明です。
※魔界の障気の詰まった瓶@魔人探偵脳噛ネウロは空になったので捨てました。また、その障気を吸った為体の維持コストもリセットされました。
※体の維持が少しずつ困難になってきています。メダルの枚数の為なのか、最早メダル関係無しに体が限界なのか、弥子の命の炎ではネウロの体にパワー不足が生じているのか、或いは全く違う理由なのかは不明です。
※現状魔人としての素姓を隠すつもりはありません。能力がばれようが何だろうが、この殺し合いを潰す為の努力は惜しみません。
※コンドルメダルはアンクだけでなくここにいる全員に秘匿中です。
※アンクが赤陣営リーダーだと睨んでいます。
※服装は民家からパクッ……借りて返さないものに着替えました。
【全体備考】
ワイルドタイガーに変装し弥子を殺害したのがサイだと知りました。
今後どこに向かうのかは後続の方にお任せします。二手に別れるのか、四人で行動するのかも不明です。
759
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/06(火) 20:17:11 ID:J4xHT0co
以上で仮投下終了です。
えー今回気になった点としてはズバリ、展開に不自然がないか、です。
とても荒い作品と自覚しておりますが、どうかご指摘のほどお願いします。
760
:
◆z9JH9su20Q
:2015/01/06(火) 23:05:55 ID:nU5vsT1.
仮投下お疲れ様です。
拝読させて頂いた限りでは一点だけ、かなり細かいことですが気になったのは
>>752
の
>>もしもメダルを無くしてメダルシステムの呪縛から解き放たれるなら、
のもしもの後のメダルは首輪の間違いではないかな、とだけ疑問に思いました。
それ以外、氏の気にされているような展開の不自然さ、過去作との矛盾点などは自分はなかったように思います。
761
:
欲望まみれの名無しさん
:2015/01/06(火) 23:46:55 ID:J4xHT0co
ご指摘&有り難いお言葉ありがとうございます。
氏のおっしゃる通り首輪の間違いです。誤字脱字等はかなり注意深く確認したはずなのですが、やはり完璧はありませんね
他にも内容や誤字脱字の指摘等ありましたら是非お願いします。
762
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/06(火) 23:48:03 ID:J4xHT0co
すみません、酉付け忘れです。
IDで分かるとは思いますが、混乱させて申し訳ありませんでした。
763
:
欲望まみれの名無しさん
:2015/01/07(水) 19:00:18 ID:mI2cKaw.
仮投下乙です。
さやかに杏子の治療をさせようとするシーンがあった方がいいかなと思います。
アンクとネウロは、首輪無しの参加者の制限がどうなるか気にしていますし。
さやかのメダルは少ないし、杏子にもあまりいい感情を持ってないので「治療しない」という展開でも問題は無いと思いますが。
764
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/07(水) 22:55:39 ID:AHdol6yA
ご指摘ありがとうございます。
それは自分でも少し、投下後にですが「必要だったな」と思っていました。
やはり気になりますよね、ではその箇所を加筆してもう一度ここに提示、それも問題がなければ本スレに投下、という形でよろしいでしょうか。
765
:
欲望まみれの名無しさん
:2015/01/07(水) 22:58:28 ID:I7uAm0B.
仮投下乙です
作中で新たに指摘したい点はありませんが、それとは別に一つ気になった点を
ネウロ風のサブタイトルを付けたいのだとしたら漢字は一字のみが通例ですが、
漢字が「人間」で二字になっているのは意図してのことでしょうか?
もしかしたら伝えた方がいいかもしれないと思い書き込みました
不必要な指摘だとしたら、差し出がましい意見をして申し訳ありません
766
:
欲望まみれの名無しさん
:2015/01/07(水) 22:59:59 ID:I7uAm0B.
リロード忘れで氏の書き込みに気付かなかったので追加
今後の流れとしては
>>764
で十分だと思います
767
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/08(木) 00:17:54 ID:ctcNpCjM
>>765
耳が痛いご指摘です。
仰る通りサブタイトルの法則は把握しているのですが、
今回のタイトルとして自分は【】内に「にんげん」という言葉を入れたいと感じ、色々と考えたのですがどうにもピンと来ず、
また、過去にも当ロワにて◆qp1M9UH9gw氏の作品で59【ひづけ】、00【ひづけ】の前後編があり、二文字でもいいのかなぁと思った次第です。
(もちろんこれは、◆qp1M9UH9gw氏がやっていたから私も良いと思ったなどという氏を盾にするような意図のある発言ではないと補足させて下さい)
自分も本投下までに少し考えますが、恥ずかしながら、もしよろしければ皆様の知恵もお借りしたいところです。
なお皆様に意見を考えていただきたいとお願いしておいてなんですが、自分が気に入るタイトルが浮かぶか、
失礼ながら皆様に出していただいたタイトルにしっくり来なかった場合、それらを没にして、最悪今のままでタイトルとさせていただく可能性がある事を、先にお詫び申し上げます。
768
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/08(木) 00:24:15 ID:ctcNpCjM
えー、先程書き込んでおいて何ですが、一応加筆文を書いたので投下します。
また、その際、指摘された部分を加筆する場合に必要だと思った描写を加えて書き加えたことも、付記しておきます。
769
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/08(木) 00:25:52 ID:ctcNpCjM
まずは
>>752
の差し替えです。次から差し替え部分です。
770
:
(タイトル未定)加筆分
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/08(木) 00:26:43 ID:ctcNpCjM
そう、この場には、ネウロの様な特殊な状況を除いても、通常の生命活動に必要不可欠な部分、首を落としてもそのあとに蘇生する事の出来る存在が、それこそわんさかといる。
魔法少女もその一例だが……、何より、本体が一枚のコアであるとも言えるグリードもその一つなのだ。
もしも首輪を無くしてメダルシステムの呪縛から解き放たれるなら、出来る奴は望んでやるべきだといえる。
しかしそもそもの話、この場そのものにメダルシステムを使用しないと能力を行使できない様な制限がかかっていた場合はこの限りではない。
寧ろメダルが首輪から供給されず、常にメダル残数0の状況を強いられるのである。
これでは生き返り損である。
故に、杏子という身近にある存在を用いて、一度試してみたいのだ、首輪が無い場合に、参加者の扱いは一体どうなるのか。
制限がなくなりより強い味方になるならそれでよし、メダルシステムの弊害で何もできない一般人に成り下がるなら──。
首輪が再度調達できるまで、残念だがまたソウルジェムの中で眠っていてもらうしかあるまい。
冷酷な判断だが利己的に生きるグリードらしい判断である。
だが一方でこの作戦はハイリスクハイリターン、つまり当たればおいしい作戦とも言える。
杏子がこの場にいて選択の余地を与えたならば、きっと迷わずこの作戦を実行しただろうことを付記しておく。
それをも踏まえてアンクがこの作戦を考えたかは、本人に聞いても確かなところは出ないだろうが。
「だが、貴様も分かっての通り、サヤカは頼れまい?」
現状、一番身近にいる、強力な回復能力を持つ参加者である、さやか。
彼女の力を使って杏子を治すのは、メダルが足りないのはもちろん、本人の強い拒絶があった為に選択肢から外されていた。
それでも彼女がソウルジェムを割ろうと強く主張しないのは、アンクより聞いた杏子のこの場でのスタンスが、主張が、自身の想像しているものとあまりに異なっていたからである。
飄々と、何のことも無いように人の命を見捨てる彼女と同一人物と思えないほど、聞いた限りのこの場での杏子の行動は余りに見返りを求めておらず。
……まさに彼女が否定した、巴マミのような“正義の魔法少女"然した行動といえる。
そして彼女の最後も、アンクと弥子を逃がすために青年に変装したサイと戦い、敗北し箱詰めにして殺されるという、何とも酷たらしいものであったこと。
771
:
(タイトル未定)加筆分
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/08(木) 00:27:48 ID:ctcNpCjM
それが、サイに対し怒りを抱いていた現状、さやかに杏子への少しの同情を生んでいたのも、その一因である。
しかし、さやかは自分の見た彼女の冷酷さを、彼女に与えられた痛みを、彼女自身の憧れる先輩への侮辱を、断じて忘れるつもりは無い。
それにこの場での行動もアンク達をだまし、サイと組もうとしたところで交渉が決裂し、死んだだけなのかもしれないと現在も疑っているのである。
これらの理由から何時でも破壊できるソウルジェムを所持することは構わないが、杏子の回復は率先しては御免だ、という彼女のスタンスが成ったのであった。
「あぁ、杏子からあいつへは随分ご執心な様子だったが、さやかからはそうでも無かったらしい」
「……本当にそれだけだと思うか?」
だがここで疑問が浮かぶ。
アンクが杏子から聞いた話によれば、随分と杏子はさやかに入れ込んでおり、この場でも一番と言っていいほど心配していた。
無論、さやかも言っていたように双方のファーストコンタクトの印象が最悪だったとも、杏子は言っていたが、果たしてそれだけの理由で、双方の相手への考えが、ここまで異なるものだろうか。
「我が輩、何度も言うが人間ではないのでな、人間の感情の些細な機微はよくわからん。だが──」
「そんなお前を以てして、この二人の感情の行き違いは無視できない、と」
ネウロは何を言うでも無く沈黙で肯定する。
実際の所、アンクも、今までにもこの場に来てから幾つか違和感を感じる瞬間を経験している。
そもそも片割れの自分が未だ生きていることや、映司の攻撃的すぎる自分への態度。──これに関してはアンクとて唐突すぎたが故違和を感じたが、将来的にそうなる事には何も感じていないが──。
そして、他でもない現在会話しているネウロの話にも、アンクは少し違和感を覚えた。
中でも特に大きい差異は、弥子の話ではサイは未だ逃げ回り続け世間を騒がす怪物の筈が、ネウロの話ではシックスなる謎の人物にその身柄を拘束され、長いこと経つのだと言う事だ。
これや、さやかと杏子の感情の行き違い、これらを踏まえて導き出されるのは──。
「やはり、連れてこられている瞬間が異なっていると考えるのが普通か」
参加者毎に、連れてこられた時間軸に差が生じていると考えるのが、妥当だろう。
「そうだとすれば、真木の奴、厄介なことになってやがるな」
「あぁ、だが関係ない。奴が時間を自在に操れるとしても、そのどれの時間軸でも、我が輩は奴を砕くまで」
772
:
(タイトル未定)加筆分
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/08(木) 00:28:36 ID:ctcNpCjM
ふざける様子も無く言いきったネウロに、アンクは何が気に入らなかったか鼻で笑い飛ばす。
それを気にする様子も無しに、問題は山積みだな、としかしどこか楽しそうな表情を浮かべるネウロは言葉を続ける。
「取り敢えず、今の段階でこれに気づけたのは大きい。これの対策は後々じっくり考えるとして……」
「あぁ、今はともかく、行動、だな」
もう充分といわんばかりに壁から体を離した両者は、そのまま克己たちの元へ歩きだす。
今後の方針を、考える為に。
◆
四人は、今後の方針について語り合っていた。
ネウロとしては障気を一旦吸えた為、メダル消費が落ち着き、腰を据えて話し合う時間が出来た今のうちに今後について大まかにでも決めておきたかったのだ。
何気なく自分の行きたい方向を話しつつ、ネウロはその裏で思考する。
(アンク……頭も回るが何よりも……、グリードであり多量のメダルを持っている、か)
彼が思考するのは先程も話していたアンクの事。
会話していて思ったが、彼はかなり頭が切れる。それこそネウロも油断ならぬ程に。
だが彼がそれ以上に思うのは、彼の体が結局メダルで構成されている、という事である。
773
:
(タイトル未定)加筆分
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/08(木) 00:29:54 ID:ctcNpCjM
次に
>>755
の差し替えです。これは主に杏子へのさやかの心理描写の追記です。
774
:
(タイトル未定)加筆分
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/08(木) 00:31:03 ID:ctcNpCjM
相も変わらず彼女の悩みの種は先程のネウロの言葉であった。
自身を人間として認めると言い切ったネウロ。
その言葉に甘えたいのは山々だが、しかしそれで自分に納得が出来るかといえば、それは話が違うので
ある。
(それに佐倉杏子も……、私が戦ったあんたと、ここにいるあんたは別人だって言うの……?)
アンクが語った、佐倉杏子の活躍。
それを語る彼の顔はどこか不機嫌そうだったが、その話の中身に嘘は感じられなかった。
彼の言うように、自身が見た彼女とこの場にいる彼女が別人のような性格で、自身の尊敬する魔法少女
である巴マミと同じように正義を信じているのなら、協力したい。
だが、それでも。
そのマミの死を嘲笑うような言葉を吐いた彼女を、さやかはすぐに許すことは出来ず。
例えそれが、姿と語った名前だけが同じの全くの別人だったとしても、彼女には、まだそこまで杏子の
ことを信頼できなかったのであった。
悩み、答えを探す努力こそ人間だとネウロは言った。だがさやかには、幾ら探してもこれらの疑問に対
しての答えが見つかる気がしなかった。
(私は、私の答えは──)
彼女の中の日付は、未だ変わらず。
むしろやっと秒針が動き出した段階であった。
◆
「フム、これで大体の事は話し終わったか、では行くぞ」
と、四者四様の思考を済ませ、表面上滞り無く進んだ会話が一段落し、彼らはすくと立ち上がった。
少し遅れてさやかが立ち上がりそれに続く。
答えが見つからずとも、少なくとも今ただ立ち止まっているわけには行かない。
少しでも、ちょっとずつでも、歩きださなくては。
と、そこで、かねてより気になっていた疑問が、ふとさやかの口をついた。
「ね、ねぇ、ネウロ」
「ム、何だサヤカよ」
「あのさ、あんたって魔人の素性で出来るだけ隠しておきたかったんじゃないの?何で私たちには最初
からオープンなのさ」
775
:
(タイトル未定)加筆分
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/08(木) 00:33:24 ID:ctcNpCjM
すいません……ずれてしまいました。
スレを無駄遣いしてしまい本当に申し訳ありませんが、再度次から
>>755
の差し替えを投下します。
776
:
(タイトル未定)加筆分
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/08(木) 00:34:16 ID:ctcNpCjM
相も変わらず彼女の悩みの種は先程のネウロの言葉であった。
自身を人間として認めると言い切ったネウロ。
その言葉に甘えたいのは山々だが、しかしそれで自分に納得が出来るかといえば、それは話が違うのである。
(それに佐倉杏子も……、私が戦ったあんたと、ここにいるあんたは別人だって言うの……?)
アンクが語った、佐倉杏子の活躍。
それを語る彼の顔はどこか不機嫌そうだったが、その話の中身に嘘は感じられなかった。
彼の言うように、自身が見た彼女とこの場にいる彼女が別人のような性格で、自身の尊敬する魔法少女である巴マミと同じように正義を信じているのなら、協力したい。
だが、それでも。
そのマミの死を嘲笑うような言葉を吐いた彼女を、さやかはすぐに許すことは出来ず。
例えそれが、姿と語った名前だけが同じの全くの別人だったとしても、彼女には、まだそこまで杏子のことを信頼できなかったのであった。
悩み、答えを探す努力こそ人間だとネウロは言った。だがさやかには、幾ら探してもこれらの疑問に対しての答えが見つかる気がしなかった。
(私は、私の答えは──)
彼女の中の日付は、未だ変わらず。
むしろやっと秒針が動き出した段階であった。
◆
「フム、これで大体の事は話し終わったか、では行くぞ」
と、四者四様の思考を済ませ、表面上滞り無く進んだ会話が一段落し、彼らはすくと立ち上がった。
少し遅れてさやかが立ち上がりそれに続く。
答えが見つからずとも、少なくとも今ただ立ち止まっているわけには行かない。
少しでも、ちょっとずつでも、歩きださなくては。
と、そこで、かねてより気になっていた疑問が、ふとさやかの口をついた。
「ね、ねぇ、ネウロ」
「ム、何だサヤカよ」
「あのさ、あんたって魔人の素性で出来るだけ隠しておきたかったんじゃないの?何で私たちには最初からオープンなのさ」
今まで聞くタイミングも無かった上、それ以上の問題に悩んでいた為切り出せなかったその疑問を、今さやかはやっと口にしたのであった。
「フム、大した理由は無い。こうして首輪をつけられ我が輩の能力に制限を掛けられ、ヤコも死んだ現状だ。元の世界と違いのんびりと自分を偽るほどの暇が無くなったというだけの事」
我が輩には時間がないのだ、と小声で付け足してネウロは未だ治りきらない箇所の傷をさする。
現状のメダル総数の関係か、或いは自身の体そのものが地上に対応しきれなくなっているのか、──或いはヤコの命の炎だけでは、魔人の体には足りなかったのか。
どちらにせよ、ネウロに残された時間はあまりない。
主催を倒すまで持つかどうか……、持ったとして、その後また弥子の後続の探偵を探しその助手として活動するには、自身は有名になりすぎてしまったのもあり、もうそこまでの時間は残されていないのだ。
究極の謎が無くなるかもしれないのは非常に、非常に残念だが、しかしこの場で自分の素姓を隠してのんびりやっていれば即ち死に直結すると、そう判断したのである。
(覚悟しろ、真木よ、我が輩はこれから貴様を倒すのに全力をかける。魔人を、我が輩を本気にさせた罪、しかと思い知るが良い)
777
:
(タイトル未定)加筆分
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/08(木) 00:35:19 ID:ctcNpCjM
次に、これは本投下のときでもいいかと思ったのですが、一応状態表にずれなどが生じていたので、それも含め修正したものを投下しようと思います。
778
:
(タイトル未定)加筆分
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/08(木) 00:36:14 ID:ctcNpCjM
【一日目 真夜中】
【E-4 道路】
【アンク@仮面ライダーOOO】
【所属】赤・リーダー
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、覚悟、仮面ライダーへの嫌悪感
【首輪】130枚:0枚
【コア】タカ(感情A)、クジャク:1、コンドル:2、カンガルー:1(放送まで使用不可)
【装備】シュラウドマグナム+ボムメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品×5(その中からパン二つなし)、ケータッチ@仮面ライダーディケイド
大量の缶詰@現実、地の石@仮面ライダーディケイド、T2ジョーカーメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1〜2
【思考・状況】
基本:映司と決着を付ける。その後、赤陣営を優勝させる。
1.優勝はするつもりだが、殺し合いにはやや否定的。
2.もう一人のアンクのメダルを回収する。
3.すぐに命を投げ出す「仮面ライダー」が不愉快。
4. サイへの殺意、次に会ったときは容赦しない。
5.ネウロ、克己への警戒、簡単には殺されない。
6. 杏子を復活させられる人材とメダルを準備したい。
【備考】
※本編第45話、他のグリード達にメダルを与えた直後からの参戦
※翔太郎とアストレアを殺害したのを映司と勘違いしています。
※コアメダルは全て「泉信吾の肉体」に取り込んでいます。
※ネウロ達の考えに薄々勘づいています。その時が来たら自分の右腕以外の体は実際は人間である事を示し覚悟を鈍らせようと考えています。
※映司関連の内容も話したはずですが、上記の翔太郎、アストレアについての考察、及びプトティラの暴走について話したのか、そもそもどのような関係だと話したのかは後続の方におまかせします。
※参加者毎に参戦時期の差異が生じることに気づきました。佐倉杏子と美樹さやか、桂木弥子と脳噛ネウロには確実に発生していると考えています。自身と映司に関してはどう考えているか不明です。
【大道克己@仮面ライダーW】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】15枚:0枚
【コア】ワニ
【装備】T2エターナルメモリ+ロストドライバー+T2ユニコーンメモリ@仮面ライダーW、
【道具】基本支給品、NEVERのレザージャケット×?−3@仮面ライダーW 、カンドロイド数種@仮面ライダーオーズ
【思考・状況】
基本:主催を打倒し、出来る限り多くの参加者を解放する。
1.さやかが欲しい。その為にも心身ともに鍛えてやる。
2.T2を任せられる程にさやかが心身共に強くなったなら、ユニコーンのメモリを返してやる。
3.T2ガイアメモリは不用意に人の手に渡す訳にはいかない。
4.財団Xの男(加頭)とはいつか決着をつける
5.園咲冴子はいつか潰す。
6.人間……か。
7.悪く思うなよ、アンク。俺も簡単にくたばるわけにはいかない。
【備考】
※参戦時期はRETURNS中、ユートピア・ドーパント撃破直後です。
※回復には酵素の代わりにメダルを消費します。
※『仮面ライダー』という名をライダーベルト(ガタック)の説明書から知りました。ただしエターナルが仮面ライダーかどうかは分かっていません。 また、『仮面ライダー』であるオーズやダブルのことをアンクから聞いたのか、また聞いていた場合それについてどう感じたのかは不明です。
※魔法少女、グリード、ネウロ関係に関する知識を得ました。
※さやかの事を気に掛けています。
※加頭順の名前を知りません。ただ姿を見たり、声を聞けば分かります。
※制限については第81話の「Kの戦い/閉ざされる理想郷」に続く四連作を参照。
※アンクをメダル補給の為に殺す事に躊躇しています、がこの場において有効な戦術である事が否定しきれない為その時が来たら感情を殺すつもりです。
※アンク、ネウロが魔女について知っている事は知りません。
779
:
(タイトル未定)加筆分
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/08(木) 00:36:56 ID:ctcNpCjM
【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】10枚:0枚
【コア】シャチ(放送まで使用不可)
【装備】ソウルジェム(さやか)@魔法少女まどか☆マギカ、NEVERのレザージャケット@仮面ライダーW、ライダーベルト(ガタック)@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、克己のハーモニカ@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:正義の魔法少女として悪を倒す。
1.人間……って何なの?私は人間?それとも……?
2.克己達と協力して悪を倒してゆく。
3.克己やガタックゼクターが教えてくれた正義を忘れない。
4.T2ガイアメモリは不用意に人の手に渡してはならない。
5.財団Xの男(加頭)とはいつか決着をつける
6.マミさんと共に戦いたい。まどかは遭遇次第保護。
7.少なくとも、暁美ほむらとは戦わなければならない。佐倉杏子は……?
8.怪盗サイへの強い怒り。ヒーローを何だと思って……!
9. 佐倉杏子、あんたは一体……?
【備考】
※参戦時期はキュゥべえから魔法少女のからくりを聞いた直後です。
※ソウルジェムがこの場で濁るのか、また濁っている際はどの程度濁っているのかは不明です。
※回復にはソウルジェムの穢れの代わりにメダルを消費します。
※NEVER、グリード、ネウロ関係に関する知識を得ました。
※アンク、ネウロが魔女について知っている事は知りません。
※佐倉杏子の、アンクから伝え聞いたこの場での活躍と、自身の見た佐倉杏子の差異に困惑しています。
【脳噛ネウロ@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄
【状態】ダメージ(中)、疲労(大)、右肩に銃創(治りかけ)、右手の平に傷(治りかけ)、悲しみ? 本気、新品同然の服
【首輪】40枚:0枚
【コア】コンドル:1(放送まで使用不可)
【装備】魔界777ツ能力@魔人探偵脳噛ネウロ、魔帝7ツ兵器@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品一式、弥子のデイパック
【思考・状況】
基本:真木の「謎」を味わい尽くす……がお仕置きの方が先だな。
1.さやかに興味、悩め人間よ。
2.怪盗サイに今度会ったときはお望みどおり“お仕置き”してやる。
3.アンクをメダル補充の為殺す準備も必要……か。
4. 佐倉杏子を復活させられる人材とメダルを準備したい。
【備考】
※DR戦後からの参戦。
※ノブナガ、キュゥべえ、アンク、克己、さやかと情報交換をしました。魔法少女の真実を知っています。
※魔界777ツ能力、魔帝7ツ兵器は他人に支給されたもの以外は使用できます。しかし、魔界777ツ能力は一つにつき一度しか使用できません。
現在「妖謡・魔」「激痛の翼」「透け透けの鎧」「醜い姿見」「禁断の退屈」を使用しました。
※制限に関しては第84話の「絞【ちっそく】」を参照。
※弥子のデイパックには以下の支給品が入っています。
「基本支給品一式、桂木弥子の携帯電話+あかねちゃん@魔人探偵脳噛ネウロ、ソウルジェム(杏子)※黒ずみ進行度(中)@魔法少女まどか☆マギカ、 衛宮切嗣の試薬@Fate/Zero、赤い箱(佐倉杏子)」
なお、現在あかねちゃんは通常通り動いています。
※杏子のソウルジェムがほんの少しずつ濁っている模様です。進行のタイミングや、杏子の精神が目覚めて絶望しているのか、この場での制限か何かなのかは現状不明です。また、濁り切ったとき魔女が現れるのか、現れるとしてメダルが必要なのかは不明です。
※魔界の障気の詰まった瓶@魔人探偵脳噛ネウロは空になったので捨てました。また、その障気を吸った為体の維持コストもリセットされました。
※体の維持が少しずつ困難になってきています。メダルの枚数の為なのか、最早メダル関係無しに体が限界なのか、弥子の命の炎ではネウロの体にパワー不足が生じているのかは不明です。
※現状魔人としての素姓を隠すつもりはありません。能力がばれようが何だろうが、この殺し合いを潰す為の努力は惜しみません。
※コンドルメダルはアンクだけでなくここにいる全員に秘匿中です。
※アンクが赤陣営リーダーだと睨んでいます。
※服装は民家からパクッ……借りて返さないものに着替えました。
※参加者毎に参戦時期の差異が生じることに気づきました。佐倉杏子と美樹さやか、桂木弥子と自身には確実に発生していると考えています。アンクから聞いた映司の情報によってはノブナガと映司にはそれ以上のものが発生していると気付いているかもしれません。
【全体備考】
ワイルドタイガーに変装し弥子を殺害したのがサイだと知りました。
今後どこに向かうのかは後続の方にお任せします。二手に別れるのか、四人で行動するのかも不明です。
780
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/08(木) 00:42:10 ID:ctcNpCjM
長々と申し訳ありませんでした。
最後の状態表は克己のものと全体備考は何も変わっていません。
今回の主な加筆箇所は
・さやかと杏子の感情の擦れ違い
・それや弥子とネウロなどの事象から時間軸の差異に勘づくアンク&ネウロ
・アンクの話を受けて杏子に複雑な感情を抱くさやか
などです。
他にも説明不足な点や、また今回の加筆部分への指摘等ありましたら是非お願いします。
781
:
欲望まみれの名無しさん
:2015/01/08(木) 14:30:06 ID:GSlexRvQ
問題ないと思います。
サブタイトル案としては、
悩【にんげん】
や
情【にんげん】
とか、どうでしょうか?
782
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/09(金) 07:23:12 ID:G79hyYVc
えー、修正案投下から、24時間経過しましたので、
現状私のSSに特に問題点は見つからなかった、と捉えてよろしいのでしょうか?
では早速本投下……と言いたいところなのですが、ここから数日どうにも忙しくなりそうで、投下できるのは早くて来週火曜日位になりそうです。
ウィキから私の予約の期限の表記は消えていますが、もし本投下までの期限が土曜日、という事なら申し訳ないながら誰かに代理投下をお願いしたいです。
そして次に、
>>781
氏、タイトルを考えて頂き本当にありがとうございます。
私としては、自分で良いものが浮かぶ予感すらしないので、氏の『悩【にんげん】』というタイトルを頂こうと思います。
783
:
◆z9JH9su20Q
:2015/01/09(金) 22:01:04 ID:1QFIZ43o
>>782
修正お疲れ様です。
ご事情把握致しました。そういうことでしたら、私の方で代理投下を承りさせて貰います。
784
:
◆z9JH9su20Q
:2015/01/12(月) 22:12:32 ID:kUUgsjbg
これより仮投下を開始します。
785
:
仮投下
◆z9JH9su20Q
:2015/01/12(月) 22:14:23 ID:kUUgsjbg
「俺だ。現地に到着した」
「……それ、毎回しなくちゃいけないの?」
助手席を降りて早々。どこにも繋がっていないケータイに話しかけた俺の奇行に対し、それが三度目の目撃となった暁美ほむら改めコマンダーは、呆れ調子のまま呟いた。
女子中学生から浴びせられる冷たいリアクションにも負けず、俺は一人囁きを続ける。
「ああ、これから敵艦に向かう……問題ない。俺を誰だと思っている? コマンダーの面倒も任せておけ」
「…………」
無言のままコマンダーが歩き出す気配を感じ、慌てて別れの合言葉を唱えた俺は、ともすれば闇の中に見失ってしまいそうな小さな背中を追いかけた。
「おい待てコマンダー。ああは言ったが、どうやってあそこまで行くつもりだ?」
歩幅の差か、すぐに追いつけた――目と鼻の距離にいる少女よりも、よほど雄弁な存在感を放っている目的地を、俺は顎を使って指し示す。
灯り一つない海の上。先程使ったケータイの色合いすらはっきりしない夜闇に包まれているにも関わらず、浮かび上がるその巨大なシルエットで圧迫感を伝えて来る、鋼鉄の塊。
原子力空母『オズワルド』。G-3エリアの歪な港に停泊したその軍艦が、桂木弥子魔界探偵事務所の次に俺達の選んだ目的地だった。
中央部や秋葉原と比べて、現在位置から格段に近い位置にあったこと。そして何より、魔界探偵事務所――“魔界”という、俺達と未だ見ぬ同志桂木弥子を繋ぐ単語は今後も忘れずに記しておきたい――で発見した、一つの資料がこの決定を選ばせた。
それは、電人HALと自称するテロリストの起こした原子力空母『オズワルド』乗っ取り事件を、桂木弥子が解決したと報じる新聞だった。
この一つの紙資料により、地図だけではその正体が掴めなかった巨大船オズワルドの分類がはっきりした。軍艦なら何らかの戦力の補充に繋がる物もあるのではと予想し、コマンダーが次の目的地にと主張したのだ。
軍艦なら武器があるのでは、というコマンダーの考えは正直なところ、俺には疑問に思えた。おそらく彼女は警察署でG3ユニットを手に入れた経験を踏まえているのだろうが、あれはそもそもが彼女の支給品だったのだ。現地調達できる武器、それも軍艦などわかり易い場所から容易く銃火器類が手に入るようでは、支給品というシステムが有名無実化してしまう。軍艦があるからと言って強力な兵器が手に入るというコマンダーの発想は、過去の成功談を安直に、己に都合良く結びつけてしまっているだけにも感じられた。
とはいえ、前述の通り直近にあるということ。また真木達が敢えて地図に載せた船に更なる新事実の発見を期待し、その提案に乗ることとした。
しかし、地図から伺えたのと全く同様。オズワルドは繋留されてはおらず、埠頭から何百メートルと離れた位置で浮かんでいた。
時折人間離れした動きを披露するコマンダーはともかく、運動不足な俺にはこの距離を泳ぎ、乗艦するのは無理だ。しかも冷たい夜の海。仮に決行すれば、俺は誰かに殺されるまでもなく、かなり間抜けな脱落を遂げてしまいかねない。
「残念だがこの鳳凰院凶真、水の上を歩ける加護の類は収めていないぞ」
「……だと思っていたわ」
故にそのことを遠回しに伝えてみたが、返ってきたのはまたもつんけんとした反応だった。というか、気のせいでなければ鼻で笑ってないかこいつ!?
「私も泳ぐつもりはない。あれを借りましょう」とコマンダーが懐中電灯から放った光線で示したのは、沿岸に繋がれた一隻の小さな漁船だった。
「ああ、あれなら楽そうだが……あれも操縦できるのか?」
この多芸ぶり、ハワイで親父にでも仕込まれたか、という俺の疑問は軽くスルーされた。
「出すわよ」
二人して乗り込んで早々、コマンダーが宣言する。
それを合図に、俺の隣に彼女が腰掛けたまま――何かに手を伸ばすこともないまま、突如として漁船のエンジンが吠えた。
「なぁ――っ!?」
俺が驚愕に打たれ、間抜けな叫びを上げるその間にも、古臭い漁船はモーター音を鳴らしながら夜の海を漕ぎ出す。こちらが心構えする前に襲いかかった慣性に一度振り回された後、それが無茶苦茶な暴走ではなく、オズワルドを目指して正確に操舵されているのを確認した俺は、コマンダーを振り向いた。
786
:
仮投下
◆z9JH9su20Q
:2015/01/12(月) 22:14:59 ID:kUUgsjbg
「コマンダー……これもおまえか?」
「ええ、そうよ。言ったでしょう? 裏技があるって」
コマンダーは俺の問いかけにも、冷淡な調子で頷いた。それを受けた俺は、ほんの少しだけ思案に沈む。
これまでの同行で、彼女が真木の言う――俺やフェイリスのような妄想ではなく、本物の異能の力を持つ存在であることは把握している。
ならば、直接触れずに船を操るという魔法のようなこの現象もまた、彼女が引き起こしたものであることは、何もおかしくはない。本人も出発すると宣言したのだし。
ただ、俺にとってはほんの一度の経験でしかなかったために、すっかり意識する比重が軽くなってしまっていたが……この殺し合いにおいて重要な消耗品を、俺は思い出していた。
「成程――こんな芸当まで可能とは、我ながら良い拾い物をしたものだ。いやこれも、全ては“運命石の扉(シュタインズゲート)”の選択か……」
ククク……フゥーハハハと、俺は実にわざとらしく高笑いする。
いい加減慣れたのか、鬱陶しそうでしかないコマンダーの反応は正直少し寂しい。
そんな彼女に向かって、俺は首輪からセルメダルを放出した。
「見事な働きだコマンダー。これまでの甲斐甲斐しい献身振りを評して、俺から褒美を遣わそう。我が欲望より結晶せしセルメダル、貴様に恵んでやる」
船の底に散らばる、総計三十五枚のセルメダル。ちゃりんちゃりんと小さく跳ねるそれらは正確にはただの初期支給品なのだが、この言い回しの方が決まっているのだから仕方ない。ご了承下さい。
おそらく俺は、メダルによる制限を意に留める必要性が薄い。
少なくとも制限されるような能力は――リーディングシュタイナーがあると言えばあるが、因果律を遡り、物質と精神の乖離する現象に対してメダルによる制限がどこまで影響するのか以前に、そもそもこの殺し合いにおいてDメールを活用できるのかも疑問だ。
とはいえ万が一の保険として手元には残しておくが、それ以前にこの先生き残らなければ取らぬ狸の何とやら、だ。
ならば死蔵させるより、一方的にメダル消費を負担しているコマンダーに何割かを提供する方が、よほどチームとして益があると判断したのだ。
幾度となくタイムリープを繰り返したことを除けば、所詮暇を持て余した学生に過ぎない俺があんなアクション映画のような立ち回りに素で混じれるわけがないとはいえ……ここまで全ての戦闘行為に加え、こんな移動まで殆ど彼女に任せ切りにして来てしまった。
俺がラボメンの頂点に立つマッドサイエンティストである以上、雑事は全て僕であるコマンダーに任せて当然――などとふざけてばかり居られる状況ではないことも、一応は理解している。
「――どうした。受け取らないのか?」
ただコマンダーは、突然のことにどう対応したものか迷っているような表情を見せていた。
真意を探るように向けられたやや開き気味の目を見返し、俺はふふんと鼻を鳴らす。
「案ずるな。こんな首輪程度でこの俺が戒められると思っているのか?
この鳳凰院凶真、忠実なる部下のためならこの身から無限に湧き上がる力をもっての助力に躊躇などしない……そう言っただろう?」
「……別に、心配なんてしていないわ」
貴方にメダルは無用の長物でしょうと、生意気ながら真実を口にした後もう一秒だけ黙考して、コマンダーは小さく首肯した。
「そうね……ありがたく受け取らせて貰おうかしら」
返答したコマンダーが、首輪にメダルを吸い込んだ頃には。
目的地(オズワルド)は、俺達の前に絶壁のようにそびえ立っていた――
――疲れた。
787
:
仮投下
◆z9JH9su20Q
:2015/01/12(月) 22:15:59 ID:kUUgsjbg
艦内に潜入し、探索を始めてそろそろ一時間という頃だろうか。
兵士という、この世で最も体が資本というべき人種による利用が前提の空間に、快適性は期待していなかった。いなかったが、狭い通路を歩き、急な階段を何回も昇り降りするというだけの行為に対し、俺の想定は甘く見積られ過ぎていた。
また一つ、階段を上がりきったところで俺は膝に手を置いた。キツすぎる……。
肌寒いぐらいの気温だというのに、額には汗が滲んでいた。白衣が重たい。
「早くしてくれるかしら?」
そんな俺を冷ややかに見下ろすのは、次の階段を半分ほど上ったコマンダーだ。重篤な病人のように喘鳴を漏らす俺とは違い、息の一つも乱れていない。
これほどの疲労の蓄積は、甲鈑を調査した際夜風に体力を奪われたというだけでなく、意地を張って彼女のペースに合わせていたというのも大きいだろう。一時間前に追認したばかりとはいえ、華奢な少女に体力で負けているというのは嫌な事実だ。
「ちょ……待っ……」
我ながら情けない、と感じながらも俺は岡部倫太郎の限界という、素を曝け出してしまっていた。
「この場所を希望したのは貴方なのに……無限の力とやらも、大したことないのね」
コマンダーの嘲りには、しかし。もっと明確に、別の感情が滲んでいるように思えた。
それが何であるのかまでは、わからなかったが。
「ぬっ……お、おぉおおおおおっ!」
ここで俺は、走らねばならない気がした。
瞠目するコマンダーまで、一息。そこで止まらず、彼女の脇と手摺りの隙間を潜り抜け、その先の頂上へ。
目指す扉の前に立った俺は、そこでコマンダーを振り返った。
「どぉうだコマンダーよ……この鳳凰院凶真の何が大し……っ」
そこで咽せた。
「……馬鹿じゃないの」
喘いでいる俺の下まで歩み寄ったコマンダーは心底から呆れた調子で呟いた。
ただその声には、冷淡さは余り含まれていないような……そんな気がした。
その後、コマンダーが開けた扉を潜り、夜風を避けられるようになった俺が動ける程度まで回復するのには暫く時間を要した。ご了承下さい。
回復した俺達が改めて赴いたのは、オズワルドの艦橋だった。
ここまでコマンダーの要望に沿い、甲鈑や格納庫を中心に何らかの武器を求め捜索していたが、結局兵器や弾丸どころか火薬の一つすら見当たらなかった。
露骨に不機嫌になった彼女に対し、俺は自身の目的だった、オズワルドがわざわざ地図に明記されていた理由を探るためとして艦橋の調査を希望したのだ。
外部から視覚的に遮蔽された格納庫とは異なり、窓のある艦橋で室内灯を点ける気にはなれない。元より消耗しつつあった懐中電灯のか細い光で照らしながら、俺とコマンダーは一室ずつ順繰りに検分して行く。
とはいえ、何も見つからない。兵器としての機能は削ぎ落とされているのか、通信機やレーダーもコマンダーの異能でも利用不可だった。使えたところで対人戦である殺し合いでは無用の長物かもしれないが、それでも敵になる心配も薄いことは幸いか。
そんな歯痒い結果だけを集めながら、残すは二部屋だけになっていた。
無駄足だったか、という不安が膨れ上がる。戦力にせよ情報にせよ協力者にせよ、何一つ掴めずメダルと時間を消費しただけだとしたら……
しかし開いた扉の奥には、そんな不安を俄かに払拭する景色が広がっていた。
「……スパコン?」
複数の艦橋の内、他にはない物がそこにあったのだ。
部屋の奥に備え付けられたのは、俺の背丈の倍もあるような巨大な筐体。
788
:
仮投下
◆z9JH9su20Q
:2015/01/12(月) 22:16:59 ID:kUUgsjbg
「……まさかな」
この船と縁のある存在が要求したという品物を前に、脳裏を過ぎった考えを俺は否定した。
「どうしたの?」
先に踏み込んでいたコマンダーが、入口で立ち止まった俺を振り返った。
「いや……ここを選んだ経緯を思い出してな」
「……電人HAL事件ね。でも」
「ああ。オズワルドには元々スパコンが搭載されていたらしいからな。おそらくそれだろう」
そう――大した意味はない、はずだ。
ただ、他に比べれば何かしら意義のある情報が閲覧できるかもしれない。例えば、この船と関わった参加者である桂木弥子やその関係者について、事件当時の様子などが。
そんな俺の期待に頷き、コマンダーが壁際に設置されたコンピュータ端末を起動して――
――背後で、甲高い轟音が響いた。
それを認識したのは、目の前からコマンダーの姿が忽然と消えているのに気づいてからだ。
慌てて音源となった方向に首を回すと、そこに長髪を靡かせた魔法少女の姿があった。
丸みを帯びた形状のサブマシンガンを片手にした彼女は艦橋の出口に立ち、金属製のはずの階段を蜂の巣に変えてしまっていたのだ。
特に直撃を受け引き裂かれた通路部分の足場は大穴を空けて拉げ、とても本来の用途には耐えそうにない……って、
「何をしているのだコマンダー!?」
今にも崩れ落ちそうな階段が破壊される音そのものは今聞いたが、銃声はまるで耳にしなかった。彼女の持つ時間停止能力を発動し、事に及んだということはわかる。
だが何故、こんな行為に及んだのかがわからない。もしかしなくてもこんなに不安定な階段を降る能力は俺にはないというのに……
俺の叫びに対し、コマンダーは答えないまま崩れ落ち、尻餅をついた。
理解が追いつかない突拍子のなさが、銃を持つ相手に近づくという恐怖心を増幅させる。それを、コマンダーが意味もなくこんな行為に及ぶはずがないという理性で説き伏せて、俺は絡まりそうな足を進ませた。
息が荒い彼女の横にまで歩み寄った時には、ふとコマンダー……ほむらはその人差し指で、ひしゃげた鉄板の隅を指差していた。
「……白い、毛皮?」
真っ赤な血と共に飛び散った物をそのまま、俺は言葉にして漏らす。
対してほむらは、己の成したことが信じられないと言った様子で、戸惑い気味に返答を寄越した。
「インキュベーター……よ」
何者だそいつは、という俺の問いに対し、ほむらは後で話すと首を振った。
「……立ち上げた画面、先に読んでおいて貰えないかしら」
どこか憎々しげに呟く彼女に、俺は押され気味になりながらも頷いた。
まるで軽い発作のようにして震えたまま座り込んだ彼女の足を畳ませて、扉を閉じる。これで夜風に冷やされる心配はないだろう。
それから俺はようやく踵を返し――先程まで沈黙していた筐体が、稼働していることに気づいた。
ほむらが立ち上げた端末に連動していたのだろうか、などと何でもないように思いながら……徒事ではないのだろうと、俺は予想していた。
789
:
仮投下
◆z9JH9su20Q
:2015/01/12(月) 22:17:30 ID:kUUgsjbg
多分、これから覗き込む画面はほむらの突然の行動と、現在の消耗した様子と無関係ではないのだろう。
彼女の頼んで来た様子からしてその可能性が高いとは言えないが、何かしら危険が伴うかもしれない。覚悟を決める必要がある。
だが、それでも俺は頼まれたのだ。ラボメンナンバー09である、コマンダー・暁美ほむらから。
彼女に助力を躊躇しないと告げた手前、逃げるつもりは毛頭無い。
そして俺は、待機状態から回復させた画面を覗き込んだ。
『警告:首輪には盗聴器が備えられている』
文章化されたメッセージは、重要ながら極めて単純な内容だった。
『応答には、以下の入力欄への打ち込みを推奨する』
「……そういえば、某国の軍艦だったな」
なのに映し出された言語は、親切にも日本語だ。
この程度なら聞かれても構わないだろう。また、俺が英文に苦戦しているかのようにも聞こえることで、内容が差し変わっていることへのカモフラージュにも使えるのではという考えもあった。
だが何より、この無音の会話が望外の代物であることを予感した俺は、思わず震え出す体を抑えるため、気を紛らわそうと呟きを漏らしていたようだ。
それを自覚して、深呼吸。一度を目を閉じて思考を統一し、キーボードを操作する。
『目的はなんだ?
それと、この画面を見てから暁美ほむらの様子がおかしい。何をした?』
何者であるのかは、問わなかった。
そこに表示されたシンボルを見れば、俺の知っている相手であることは明白だったからだ。
『ほう……暁美ほむらが、か』
返答は、最初の印象よりは人間的だった。
『外部情報の受容機能は人体に依存したままとはいえ、電子ドラッグによる命令が魔法少女に通じるのかは確証がなかったが……どうやら影響は出たらしいな。効きの強いVer.2だからなのか、インキュベーターの排除が彼女自身の欲望に沿っていたからなのか、そういった要素は関係ないのか……こんな時でなければじっくり研究したいところだが』
画面は俗に言うSNSのそれに近い。しかし俺がメッセージを入力してからレスポンスまでは、どんなタイピング速度でも間に合わない空隙しか存在しなかった。
もっとも、それも予想の範囲内だが。
『ああ、失礼した。今の私の能力は大幅に劣化している。このメッセージも半ば思考を垂れ流している状態に近くてね、やや相互コミュニケーションとしては不適切な形になってしまうこともあるかもしれない』
恐怖と、ほむらを実験動物のように検分するような物言いにそれ以上の怒りを覚えた俺が次のメッセージを打ち込むよりも早く、相手の独白に近い文章が表示される。
790
:
仮投下
◆z9JH9su20Q
:2015/01/12(月) 22:19:12 ID:kUUgsjbg
『ふむ。緊張を解す意味も兼ねて、まずは敵ではないということの表明と、後者の返答から行っておこうか。一応集音マイクは生きているのでね、状況はある程度把握できているよ。
先程述べた通り、彼女には電子ドラッグを介して一つお願いをさせて貰った。
監視役のインキュベーターの排除及び、完了後に私との情報交換だが……そちらについては自分ではなく君に任せたか。支配力が切れたのか、ドラッグの影響で正常な意志状態でない自分よりも、同行者に任せた方が適切だと思ったのか。魔法少女であるために生じた変化なのかどうかは興味深いところだ』
「ふざけ……っ!」
そこで、漏らしかけた声を飲み込む。しかし既に零れてしまった声を窘めるように、無音のまま表示される文章が切り替わる。
『誤魔化したまえ。私の耳よりは、距離が近い分首輪の方が聞き漏らしたということはないだろう』
「……コマンダー! 英語はわかるかっ!?」
咄嗟のフォローに、ほむらはいいえ、と首を振っていた。直前の声と感情の具合が違うと気づかれていれば危ういが、その場凌ぎには難解な英文に不平を漏らしたように演出するのが限界だ。
『思ったよりも彼女と親しくなっているようだね、岡部倫太郎』
おそらくは声紋を照合する程度の機能はあったのだろう。俺の名前を既に知っていたらしい。
『電子ドラッグの治療薬(ワクチン)は、今の私の家……スパコンの裏側に隠してある携帯端末にインストール済みだ。影響は薄いだろうが、心配なら早く渡してあげたまえ』
こちらの怒りが伝わったのか、表示されたメッセージは真剣な物になっていた。それを信じて俺はスパコンの背後を探る。
やがて、固めの手触りを見つける。大きさは掌に収まるかどうかといったところ。引っ掛けていただけだったのか、掴んでみると簡単に取れた。
出てきたのはありきたりな、プラスチック製のケース。蓋を開けてみると、スマートフォンが手前にあった。
他にも妙に機械的なデザインのカードが数枚入っていたが、今は無視して取り出す。二又の水色のストラップが付いているのは持ち主の物なのだろうか。
ホーム画面を確認し、ワクチンプログラムがアイコン化されているのを発見。音声をカットした後、起動したそれをコマンダーに握り込ませる。
「ちょっとそれ、見ててくれ」
これくらいなら、盗聴されても問題ないだろう。
「岡部……」
「ちゃんと頼むぞ」
酷く疲れた様子のほむらの呼びかけをそこで遮り、俺は先程チャットしていたモニターの前まで戻った。
『ちゃんと治療できるのだろうな? 事態の収集に三日を要したと聞くぞ』
『それは重度の中毒者での話だ。元より速効性と引換に長期的な支配率を下げたVer.2なら、指令を達成した後は放っておいてもさしたる害にはならないだろう。
とはいえ、勘付かれる前に奴を排除する必要があったとしても、いきなり洗脳したのは私とて悪かったと思っているよ。だからこそのプレゼントだ』
戻って早々の俺の詰問にも、取り乱すことなくチャットは続けられる。
『その他の支給品も、最初にここへ辿り着き、無事に条件をクリアしてくれた君達への相応の報酬として用意したつもりだ』
『条件とは何だ?』
『難しい話ではない。電子ドラッグの知識を有している方が、洗脳を介すとはいえ奴らに勘付かれず穏便に話ができると想定し、この場で私の名を口にした者が起動してくれた場合のみ、私も反応できるように調整しておいて貰ったというだけだ。後は先程述べたように、この船に居着いていたインキュベーターの排除が該当する』
成程、現に俺もワクチンの存在を知れていた。それがプログラムであることも含めて、だ。
もし仮にそのような事前知識がなければ、言われている通りこうして情報交換することなどできやしなかっただろう。
791
:
仮投下
◆z9JH9su20Q
:2015/01/12(月) 22:20:00 ID:kUUgsjbg
『では改めて聞くが、貴様の目的は何だ?』
『簡単に言えば報酬の譲渡、となるかな』
『報酬?』
『そうだ。このバトルロワイアルを打倒するために動き、そして私の名を知った上でここまでたどり着くような有望な者達への、な』
何故俺達が殺し合いに反対していると知っているのか。一瞬疑問に思ったが、おそらく参加者の情報を把握済みで、以後は推測したのだろうと一先ずは納得する。
『報酬はいくつかある。君達に馴染みの深いのタイムマシンの類は確保できなかったがね』
その言い回しに違和感を覚えながらも、正体までは掴みきれなかった。そしてそのまま、相手の提示する情報力に引っ掛かりは流されて行った。
『例えば戦力として、既存兵器を凌駕する新型の機動兵装。例えば脱出の可能性を秘めた、他者の《夢》に立ち入ることのできる装置』
そこで――アルファベット三文字を組み合わせたディスプレイアイコン越しに語りかけてきていたそれは、ようやく名乗りを上げた。
『そして何よりこの私――“電人”HALという、メッセンジャーの存在』
画面を占領する、電人のアイコン。
桂木弥子の居た日本を震撼させたという大犯罪者と、俺は今、一人で対面していた。
『さて。一先ずは放送までとなるが……話をしようか。岡部倫太郎』
【一日目 真夜中】
【G-3/原子力空母オズワルド 艦橋】
【岡部倫太郎@Steins;Gate】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】50枚:0枚
【装備】岡部倫太郎の携帯電話@Steins;Gate、シナプスカード×?(旧式:「ダイブ・ゲーム」含む。他一枚以上)@そらのおとしもの
【道具】無し
【思考・状況】
基本:殺し合いを破綻させ、今度こそまゆりを救う。
0. “電人”HALとの情報交換を行う。
1.ラボメンNo.009となった暁美ほむらと共に行動する。
2.協力してくれそうな人物を探す。主催者に関係しそうな情報も得たい。
3.ケータロスを取り返す。その後もう一度モモタロスと連絡を取り、今度こそフェイリスの事を訊く。
4.青い装甲の男(海東大樹)と金髪の女(セシリア)を警戒する。
5.ほむらはどうやって鹿目まどかを救うつもりなのだろうか。
6.俺は岡部倫太郎ではない! 鳳凰院凶真だ!
【備考】
※参戦時期は原作終了後です。
※携帯電話による通話が可能な範囲は、半径2エリア前後です。
※メダルルールによる制限にリーディング・シュタイナーは含まれないか、大した影響が出ないものであると考えています。
792
:
仮投下
◆z9JH9su20Q
:2015/01/12(月) 22:20:43 ID:kUUgsjbg
【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】無
【状態】ダメージ(中)、電子ドラッグVer.2視聴済み
【首輪】50枚:0枚
【装備】ソウルジェム(ほむら)@魔法少女まどか☆マギカ、G3-Xの武装一式@仮面ライダーディケイド、電子ドラッグのワクチンプログラム入りスマートフォン@魔人探偵脳噛ネウロ(?)&ミステリアス・レイディ@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、ダイバージェンスメーター【*.83 6 7%】@Steins;Gate、阿万音鈴羽の自転車@Steins;Gate、Gトレーラーの鍵@仮面ライダーディケイド、
【思考・状況】
基本:殺し合いを破綻させ、鹿目まどかを救う。
1.仲間と戦力及びメダルを補充する。主催者に関係しそうな情報も得たい。
2.バーサーカー、青い装甲の男(海東大樹)、金髪の女(セシリア)を警戒する。次に見つけたら躊躇なく殺す。
3.岡部倫太郎と行動するのは構わないのだが……。
4.虎徹の掲げる「正義」への苛立ち。
5.まどかのことについて誰かに詳しく話す気は無い。
【備考】
※参戦時期は後続の書き手さんにお任せします。
※未来の結果を変える為には世界線を越えなければならないのだと判断しました。
※所持している武装は、GM-01スコーピオン、GG-02サラマンダー、GS-03デストロイヤー、GX-05ケルベロス、GK-06ユニコーン、GXランチャー、GX-05の弾倉×2です。武装一式はほむらの左腕の盾の中に収納されています。
※ダイバージェンスメーターの数値が、いつ、どのような条件で、どのように変化するかは、後続の書き手さんにお任せします。
※GA-04アンタレスをバーサーカーのために消費しました。
※ミステリアス・レイディの待機形態はスマートフォンに取り付けられています。
※電子ドラッグの後遺症については後続の書き手さんにお任せします。
【全体備考】
※【G-3 埠頭】にGトレーラーが鍵をかけた状態で停車しています。
※オズワルドに“電人”HALを名乗るプログラムが存在します。本文中で描かれた以外の彼についての詳細は後続の書き手さんにお任せします。
※オズワルドの監視用に設置されていたインキュベーターが少なくとも一匹、暁美ほむらによって殺害されました。またその際艦橋の階段が一部破壊され、利用不可能となっています。
※オズワルドの艦橋にいくつかの支給品が隠されていました。電子ドラッグのワクチンプログラム入りスマートフォン、待機形態のミステリアス・レイディ以外はシナプスカード(枚数は不明)に収納されていますが、シナプスカード(旧式:「ダイブ・ゲーム」)以外はその中身がどの作品出典の何であるのかは後続の書き手さんにお任せします。但し、過去への干渉を可能とする類のアイテムは含まれていません。
【支給品紹介】
・電子ドラッグのワクチンプログラム入りスマートフォン@魔人探偵脳噛ネウロ(?)
原子力空母オズワルドの艦橋に設置されていた支給品の一つ。
名前の通り電子ドラッグのワクチンプログラムがインストールされ、非ネット環境でも視聴可能となっている。
・ミステリアス・レイディ@インフィニット・ストラトス
原子力空母オズワルドの艦橋に設置されていた支給品の一つ。
更識楯無専用機。第三世代の水色のIS。他のISに比べ装甲が少なく、それをカバーするように左右一対で浮いている『アクア・クリスタル』というパーツからナノマシンで構成された水のヴェールが展開されており、ドレスやマントのような形で装着者を包み防御力を発揮している。兵装である四連装のガトリングガンを内蔵したランス『蒼流旋』、高圧水流を発することができる蛇腹剣『ラスティー・ネイル』の他に、前述のナノマシンを潜ませた水を操り、水蒸気爆発を発生させるなどの攻撃も可能。
待機形態は更識楯無の扇子に付いていた、水色のストラップ。上記のスマートフォンに取り付けられている。
・シナプスカード(旧式:「ダイブ・ゲーム」)@そらのおとしもの
原子力空母オズワルドの艦橋に設置されていた支給品の一つ。
過去にシナプスで流行した、文字通り地上人の夢に潜入(ダイブ)するゲームのために用いられる機器。操作は難しくなく、地上人でも操作が可能。
桜井智樹の夢はシナプスと繋がっていたので、彼の夢に潜入するとシナプスへ行くことができる。元が夢なだけに、潜入した先で入手したものは持ち帰れないが、シナプス等の現実と繋がっている場合は例外となる。
793
:
◆z9JH9su20Q
:2015/01/12(月) 22:24:33 ID:kUUgsjbg
以上で仮投下完了です。
参加者以外の人物を会場に登場させたこと等、要議論の内容が多々含まれているかと思いますので、ご意見頂ければ幸いです。
よろしくお願いします。
794
:
欲望まみれの名無しさん
:2015/01/13(火) 18:01:49 ID:YhQEreRc
仮投下乙です。
私は特に要修正となる点は無いと思います。
795
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/13(火) 18:18:36 ID:09/9Awso
◆z9JH9su20Q氏、自分の代わりに代理投下ありがとうございました。そして仮投下乙です。
今回の話に関する感想は置いておくとして……、個人的には、そもそも根本的な話、HALを出した意図を知りたい所存です。
いえ、別に参加者が増えるのはロワにおいて仕方のないことなのですが、正直なところ、今回ここで彼を出す意味はあったのかなぁ……と。
HALは人気の高いキャラですし、把握にもネウロ本編で事足りるのでそこに関して問題はないと思いますが、主催者側でもない存在を、あまり悪戯に増やすのはどうかなと少し思いました。
そしてこれは今後の展開に活かしていく箇所なのかもしれませんが、HALは主催とは異なる勢力、ということでよろしいのでしょうか?
今後、放送などでその存在に触れられるのかもしれませんが、しかし今の段階では、正直自分としてはHALを含めた面子でリレーできる気がしない位、この場での存在している理由や彼の立ち位置が不明瞭すぎると思いました。
少なくとも彼がこの殺し合いをどう思っているのか、或いはどういった立ち位置でこの殺し合いに関わっているのか(強制的なのか、自発的なのか)程度は、キャラクターを増やすなら明記してほしいかなぁというのが自分の意見です。
一作しか投下していない書き手が出過ぎたことを言っている自覚はあるのですが、これがそのまま通しになるのはちょっと個人的に見過ごせなかったので意見させていただきました。
自分からは以上です。改めまして代理投下、ありがとうございました。
796
:
◆z9JH9su20Q
:2015/01/13(火) 21:27:58 ID:437y6Jmc
皆様、ご意見ありがとうございます。
>>795
◆VF/wVzZgH.氏、ご疑問に思われたことは妥当な内容かと思いますので、説明責任を果たさせて頂ければと思います。
とはいえ、今後の展開についての自分の考えをSS以外の形で晒すことになってしまいかねない箇所については、お答えしかねてしまうことがあることを予めご了承いただければと思います。
まずHALをここで登場させた意図については、このロワの背景として独自の設定が存在するため、参加者の持ち得る知識だけでは考察材料が絶対的に不足することへの対抗策のつもりでした。
つまり参加者とは別の立場の、氏のお言葉を借りるのであれば第三勢力に該当する、参加者の握り得ない情報を持つキャラクターを参加者と接触させたいという意図によるものです。
その役割の登場人物を用意するにあたって、事実上の参加者の追加は好ましいと思えなかったため、基本的には参加者になり得ない=肉体を持たないキャラクターかつ、単なる外部からのメッセージよりは後の展開の自由度が高まる電人HALを選択しました。
(今回は電子ドラッグで参加者を洗脳したりしていますが、流石に当初は以後電子ドラッグが完全に使用不可になるという制限を設けるつもりでした)
今回ここで登場して貰おうと考えたのは、彼と接触させるのは岡部倫太郎と暁美ほむらのチームが話を展開する上で好ましいと考えたためです。
彼らはネウロ世界についての情報を独自ながらも収集しているためHALの名を知っている可能性があること、また本ロワにおける舞台背景の考察を特に進めているチームであったため、他のキャラクターよりはHALとの会話を作り易いと予想しました。
またHALを登場させる場合、進行に合わせて考えを重ねて行った結果彼と縁のあるオズワルドでの遭遇が適切だと判断しました。そのこともまた、地理的にオズワルドに踏み入る可能性の高いチームであり、ちょうど前話で次の目的地の候補として挙げていた上記二名と接触させるのが自然になると自分には思えました。
次に、HALの立ち位置や背景が不明瞭であるという点についてですが、これも意図的に行いました。
ここで自分が何もかもを決めてしまうより、後にリレーされた方が自由に設定できる方が話を作り易いのではないか、と考えたためです。
拙作では反バトルロワイアル派の第三勢力であるように登場させたつもりですが、リレーされる際には必ずしもそのような意図通りのみならず、それこそHALが主催側で自らの利益のため密かに参加者に干渉している扱い等にも後から変更し易いよう、敢えて目的や背景、能力制限についても不明瞭となるように描写致しました。
以上が氏の疑問に思われた問題への回答となります。
まとめますと、まずHALをこのタイミングで出したのは、自分の意図する役回りとして登場させるのなら、おそらくこのタイミングが一番面白いのではないかという極めて個人的な判断によるものとなります。
またHALの設定を不明瞭としたのは、その方がリレーする際の自由度が上がるのでは、という意図によるものでした。
しかし、逆に難易度を悪戯に上げるだけである等のデメリットの方が大きいのであれば、◆VF/wVzZgH.氏はじめ、皆様のご意見次第では当然修正等の対応を行う心積もりです。
つきましては、引き続きご意見募集させて頂ければ幸いです。
797
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/13(火) 21:50:12 ID:09/9Awso
なるほど、氏の意図は把握いたしました。
下手すれば今後氏の考えている展開を潰しかねない質問だったにも関わらず、自分の疑問に答えていただきありがとうございます。
HALの不透明なスタンスが意図したものであり、彼を出した意図がはっきりしているなら自分からはもう特に指摘はありません。
ただ、これは他の書き手さんの意見にもよりますが、HALが現在不透明なスタンスであることは本編ないし全体備考に記しておいた方がリレー企画的にはよろしいかと自分は感じました。
798
:
◆z9JH9su20Q
:2015/01/13(火) 22:32:33 ID:437y6Jmc
>>797
お返事ありがとうございます。納得して頂けたようで何よりです。
詳細不明である件については、全体備考の
>>※オズワルドに“電人”HALを名乗るプログラムが存在します。本文中で描かれた以外の彼についての詳細は後続の書き手さんにお任せします。
で示したつもりでしたが、確かにわかり難かったかもしれませんね。本投下の際には修正しておきます。
内容が内容ですので、もう暫くご意見募集したく思います。
本来の予約期限は迫っておりますが、仮投下してあるということでせめてもう一日だけご容赦頂ければ幸いです。
799
:
◆z9JH9su20Q
:2015/01/14(水) 23:04:47 ID:TWkAdfo2
一日経ちましたので、一先ず本投下を行います。
800
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/25(日) 19:39:42 ID:6AerOhU.
ただいまより、第二回放送案を仮投下します。
801
:
第二回放送と蠢く悪意と怒りの悪魔
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/25(日) 19:41:52 ID:6AerOhU.
──カラン、カラン、カラン。
秒針、分針、時針。
全ての針が12を指したその瞬間、どこからともなく西洋の鐘の音が鳴り響く。
全ての参加者に平等に、しかし何人集おうと決して耳障りに重なることなく、その音は数度繰り返される。
全てが、六時間前と同じだった。
いや、違う点は少しあるか。
──この放送を聞くものが、前回より確実に減っているという、揺るぎない事実が。
気を失っているものを除けば、全ての参加者の意識が今から始まる定時放送に向けられた、その瞬間。
再び、放送が、始まった──。
◆
皆様、定時放送の時間になりました。
これを聞いているということは、皆様は前回放送からのこの六時間を無事生き延びたということですね。
前回の放送の際、私の言った“進化"を皆様が遂げたということでしょうか。
或いは、周りの者に守られたまま、或いはただ単に運がよく生き延びてしまった参加者の方もいるかもしれませ
ん。
しかしこの状況でよりよい“進化"を遂げない者は必ず淘汰されます。
──とはいえ、欲望に身を任せ暴走してばかりでは生き残れないのも、また事実ですが。
……前回の放送から六時間が経過しました。
ただいまより、放送を開始いたします。
初めに死者の発表を。
前回と同じく、私が読み上げるのは一度限りです。
聞き逃してももう一度は無いので、よくお聞きください。
ウヴァ
雨生龍之介
加頭順
桂木弥子
鹿目まどか
桜井智樹
ジェイク・マルチネス
セシリア・オルコット
伊達明
ニンフ
脳噛ネウロ
凰鈴音
フェイリス・ニャンニャン
牧瀬紅莉栖
メズール
以上、15名。
あるものは美しいまま終わりを迎え、あるものはその欲望を膨れ上がらせ、醜い終末を迎えました。
彼ら彼女らの死を受け、今生きている方々も、より美しい終末を迎えられることを、祈っています。
802
:
第二回放送と蠢く悪意と怒りの悪魔
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/25(日) 19:42:49 ID:6AerOhU.
では次に「禁止エリア」を発表します。
前回のものと同様、この放送から二時間後に作動し、その場にいる参加者の首輪を爆発します。
もちろん前回発表の禁止エリアも引き続き作用していますので、目的地へのルートは良く考えるべきでしょう。
【G-6】
【D-2】
【F-2】
以上、3エリア。
今まで首輪の爆発で死亡した参加者は確認していませんが、皆様はくれぐれも、禁止エリアにはお気をつけを。
不注意より生まれる不本意な死など、我々は望んでいませんから。
では続いて、各陣営のメダル所有数の発表です。
この場に存在するコアメダルの合計は64枚。
そのうち、
18枚を緑陣営が。
15枚を黄陣営が。
11枚を赤陣営が。
8枚を青陣営が。
12枚を無所属が所持しています。
引き続き、緑陣営がトップです。しかし黄陣営も着実にその勢力を拡大しています。
また、白陣営は現在リーダーが存在しない状況ですので、陣営自体が存在しません。
次の放送までにはこの陣営戦に復帰できるよう、祈っております。
また、前回の放送よりメダルの総数が減っていますが、間違いではありません。
一枚のコアメダルが、とある参加者により砕かれました。
皆様のもつコアメダルは知っての通りこの殺し合いを生き抜くのに大切なもの。
どうかくれぐれも、これ以上砕かれることの無いよう、お大事になさって下さい。
……それでは以上で、第二回放送を終了させていただきます。
六時間後にまたこの放送を聞けるよう、皆様が“進化"することを、我々は祈っています。
──それでは、皆さん、良き終末を。
803
:
第二回放送と蠢く悪意と怒りの悪魔
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/25(日) 19:44:15 ID:6AerOhU.
◆
「フフフ、死者の名前に、脳噛ネウロを連ねるとは……、なるほど蘇ったからと言って死亡したことに代わりは無いからね」
放送を自身の部屋で聞きながら、男は笑う。
男が言うのは、放送で呼ばれた、現在は蘇りその肉体で活動する脳噛ネウロの事である。
彼は第一回放送の後、確かに一度死に、そして第二回放送の前に蘇った。
考えれば、第二回放送時点で死亡していない彼を放送で呼ぶ意味は薄い。
だが、放送で発表されるのは、“死亡者"のみで、“蘇生者"の名を発表する義務は主催者にはない。
放送時点で状態がどうであれ、主催が一度でも首輪を通して死亡を確認したならば、その名は放送で呼ばれるのであった。
……何故ならば、第一回放送、第二回放送そのどちらで呼ばれた参加者の中にも、その生を再開させかねない参加者は数多く存在するため。
この殺し合いにおいて、放送で呼ばれたからと言って、永久の脱落を意味しない者も数多くいるということは、読者諸君も知っているだろう。
故に放送で既に名を呼ばれたガメルやウヴァを初めとするグリード、そして佐倉杏子のような魔法少女、そういった蘇生の可能性のある参加者も、放送で名前を呼ばれているのである。
これは、主にそういった蘇生する可能性のある参加者への特別措置という面が多く含まれる。
元々、条件さえ揃えば、この殺し合いにおいて、ある種無敵とさえ言える参加者達なのだ。
放送でその名前が呼ばれると言うことは、「現在生き、動いてその名を騙る者は偽物かもしれない」と他の参加者に思われることに繋がる。
それでも先程の放送で呼ばれるのは“死亡者"のみであり、蘇生の可能性のある参加者も放送で呼ばれているという点などに気付けば誤解を解く事は出来るだろう。
しかしそれでも一時の疑惑に繋がる事は事実。
殺し合いに否定的な参加者ならばそういった参加者の集いでは少なからず疑惑の目を向けられ、逆に殺し合いに肯定的な参加者ならば、他者の不意をつける。
これは所詮突き詰めてしまえば、殺し合いに消極的な参加者には多くのデメリットが、殺し合いに積極的な参加者ならば蘇生にメリットが生まれる仕組みなのであった。
「しかしまぁ、“私が担当する陣営"に、“君たちがいる"とは……、これも、運命という奴なのかな」
言ってニヤリと口角を吊り上げたその瞬間、男の顔がモニターの光に照らされる。
余りにも不気味に威圧感を発しながら楽しそうにモニターを見つめる男の名は、“シックス"。
彼の手にはライオン、トラ、チーター、所詮、ラトラーターコンボのオーラングルの形をした痣──令呪──が、刻まれていた。
それが意味するものはつまり。
彼が、黄色陣営の裏リーダーであると言う事。
その強烈な悪意と強い欲望は、欲望の大聖杯に裏リーダーと認められるに足るものである事は、最早言うまでもない。
804
:
第二回放送と蠢く悪意と怒りの悪魔
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/25(日) 19:44:47 ID:6AerOhU.
そして今、彼の目は、そう多くない参加者、事象しか捉えていない。
殺し合いの途中経過で起きる些細な事象や脱落するであろう存在に興味は無いのか、ともかく彼の目は、この殺し合いが始まってからずっと大きな事柄や数人の参加者しか監視していないのである。
そうして彼は、その中でも特に長く監視している三人の参加者を再び捉えた。
一人目、笹塚衛士。
自身の陣営の人間であり、この殺し合いに自分が関わっていると見て、精力的にその力を発揮している。
全くもって恐れ入る復讐心と洞察力である。
こんな悪趣味な殺し合いに自分は必ず関わっているだろうという彼の推測は──笹塚の考えているものよりずっとシックスの関与は少ないと言え──、実際当たっているのだから。
シックスはこの殺し合いが始まる前に彼の復讐心を見、自身が見てきたなかでも特に強い彼のそれに、強く惹かれた。
そう、彼の支給品に復讐に捕らわれる前の彼と離別できるように、特製のシナプスカードを忍ばせたのも。
特別な力を持たぬ参加者ならば簡単に殺せるように自身の指の一つであったヴァイジャヤのカプセルを与えたのも。
全てシックスの差し金であったのだ。
自身が復讐を誓った男から与えられた支給品をありがたく重宝し、必死に生き抜く男の姿、彼にとっては実に滑稽で見ていて好ましいものであった。
そう、これは彼が自身の下に来ても、自身を殺せる可能性がゼロだからこその、遊び。
シックスの、他人の人生を使った残酷すぎる、彼にとっては当たり前のゲームの一環であった。
そうして知恵を練り生き抜かんとする男から目を離し、シックスの目は次の参加者に移る。
それはシックスの監視対象の二人目、脳噛ネウロ。
一度情けなく死亡し誰から見ても明らかなほど、たかが一人の小娘の死に嘆く。
やっと本調子を取り戻したかと思えば、やったことは一人の少女を、死んだ相棒に重ね叱咤すること。
全くもって情けない姿だが、仮にも自身の指を全て倒した男が、情けない死にざまを晒しながら死ぬだろう事は、彼にとって一時の暇つぶしとしては、監視するに足るものであったのだった。
だが、彼が一番の注目を向けているのは、最後のモニターに移った一人の参加者。
それはかつての同胞の葛西でも、自身の息子とも言える存在になりうるXでもなく。
シックスがこの場で監視し続けるに足ると判断した最後の参加者、それは──カザリ。
現黄陣営のリーダーであり、他のリーダーと比べても臆病すぎるほどの作戦で動いている彼。
生きるために臆病で、生きるために他者を殺す事を戸惑わない。
利己的で、賢いその頭脳を自身に利益のために使う事しか考えない。
そんな“悪意"に満ちたカザリは、自身の友であった葛西──自分の期待を裏切った、会場にいる同名の“誰か"ではなく──と重なり、彼の暇つぶしに一役買っていた。
「頑張って生き残ってくれ、そうすれば、私の次くらいには長生きできる」
もしかしたらグリード以上に利己的なのではとすら思える言葉を吐いて、彼は椅子に深く腰掛けた。
805
:
第二回放送と蠢く悪意と怒りの悪魔
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/25(日) 19:45:28 ID:6AerOhU.
◆
「白陣営が消滅……、全く巴マミが後藤慎太郎にコアメダルを全て渡していればこんな事には……!」
幾つかのモニターに照らされただけの、薄暗い部屋で一人ごちるのは一人の少女。
彼女の独り言の内容やその手に印されたサイ、ゴリラ、ゾウから成る所詮サゴーゾコンボの痣が、彼女が白陣営の裏リーダーである事を示していた。
陣営が無くなってしまえばそのリーダーを操れる効果を持つ令呪も意味を持たない上、聖杯を手にできる可能性は無くなる故、彼女の怒りはもっともだと言えるだろう。
ハァハァと動悸を荒くした彼女は、何に思い至ったか何も存在しないように見える空間に手を伸ばす。
するとそこから現れ出でたのは、彼女に私的に渡された──その皮が剥がれ赤い身が露出してしまっている──インキュベーターであった。
いつにも増して虚ろな目をしたそれを、彼女は殴りつけ、踏みつけ、撃ち抜き、しかし殺さず。
正にそれの扱いを、どこまでやれば死んで“しまうのか"を正確に理解しているかのように彼女はそれを数瞬弄び──。
やがて飽きたのか、或いはもう満足したのか、どちゃっ、と鈍い音を立ててそれを地面に叩きつけた。
先程までの動悸は落ち着き、彼女は平静を取り戻した事を示すかのようにその長い黒髪を撫でる。
そうしてモニターの光にさらされたその表情は、笑顔。
まるで今まで溜めてきた鬱憤を晴らすのが楽しくてたまらないと言わんばかりに口角を吊り上げた彼女の名は、暁美ほむら。
しかし、彼女を殺し合いに参加している暁美ほむらと同一と思うなかれ。
彼女は会場にいる暁美ほむらが、遠い未来、もしかすれば辿り着いただろう真実を知り、神を弄ぶことの出来る“悪魔"となった存在なのである。
そもそも会場にいるほむらは、“この"ほむらが聖杯に裏リーダーに足ると判断された後、異なる平行世界より召還されたもの。
何、おかしいことは何も無い、巴マミが連れてこられた時間軸から連れてこられた鹿目まどかが問題なく存在する時点などで、既に幾つも平行世界があることは分かりきったこと。
それが今度は、同一人物にも起こったというだけなのだ。
──さて、もしかしたら、“愛"の力で現在の限りない力を手にした(と考えている)彼女は、青の裏リーダーが適任なのではと思うものもいるかもしれない。
しかし、彼女のそれは親愛、友愛、恋愛……何れにも当てはまらぬ、自身の想像が多分に入り交じった“妄信"とでも言うべきものなのである。
彼女は鹿目まどかの事を深く理解していると言い難く──まどかがそれを受けてどう思うかどう行動するかを踏まえず美樹さやかを殺そうとしたり──彼女のまどかに向ける感情は、最早狂信者のそれに近い。
神としての記憶を失ったまどかがぽつりと洩らした「皆と一緒が良い」という言葉を彼女の総意と思い込み、彼女の願いだからと無理やり望む世界を作った──まどかではなく自身の望む世界を。
そんな“自分中心"な欲望を抱く彼女は他の適任者を押し退け──或いは、その陣営にいた鹿目まどかに引きつけられるように──、白の裏リーダーとなったのであった。
「ごめんね、まどか、怖かった?」
806
:
第二回放送と蠢く悪意と怒りの悪魔
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/25(日) 19:46:18 ID:6AerOhU.
そう薄く笑って彼女が語りかけるのは、これもまた会場にいた鹿目まどかとは大きく異なる高次の存在、円環の理というシステムそのものであった。
辛うじて鹿目まどかの形を取り続ける円環の理だが、しかしそれに鹿目まどかとしての意識は存在しない。
そういう様に成る様“鹿目まどかという少女"と“円環の理"を切り離したのは、他ならぬほむらなのだから。
彼女に声をかけたほむらだが、返事は得られない。
元より期待していないのか、さして気にする様子も無く彼女の頬を撫で、そのままモニター前の椅子に腰掛ける。
ふと目を上げたとき彼女の視界に入ってしまったのは、この会場において最も視界に留めたくない参加者が、監視用インキュベーターが殺された故に画面上で止まり続けている映像だった。
──それは、自分。
正しくは、過去の、自分。
まどかの為にとのたまいながら、得体の知れない男と同行し、そしてその男に情を抱きつつある。
まどかの事を真に思う“今の"自分なら、遭遇した瞬間あの男を殺し、メダルを補給して、Gトレーラーと時間停止を駆使して即座にまどかを保護する。
例え場所がわからないからと言ってこんな状況でまどかを放置し続けるなど、自分ならば耐えられないだろう。
故に。
そんな状況に耐え悠々と下らない考察など重ねるこの女は、自分ではない。
自分でないのに自分の体験を語り、鹿目まどかとの思い出を思うこの女が“ほむら"にとっては一番憎かったのだった。
「どうせ今回の放送でまどかの死を聞いて嘆くんでしょう?或いはもう行動してるかしら?その時に精々今までの自分を責めなさい、まぁどうあったってあなたの罪は消えないけど」
そう言って笑った彼女だが、しかし読者諸君は気にならないだろうか?
何故彼女が、執着していた筈の鹿目まどかの死に嘆いていないのか。
その答えは実に簡単、それは──。
「まぁいいわ、まどか“達"に会いに行こうかしら」
807
:
第二回放送と蠢く悪意と怒りの悪魔
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/25(日) 19:47:21 ID:6AerOhU.
そう言って立ち上がり、部屋に取り付けられた黒い何かが漏れだす亀裂──彼女の良く知る魔女の結界の入り口のような──の前で手を広げる。
するとそこにあったのは──辺り一面の、桃色の髪。
「あ!ほむらちゃんだー!」
「ほむらちゃん、会いたかったんだよ!」
まるで教室の様な部屋に移動した彼女を迎えたのは、皆同じ桃色の髪、丸い頬──鹿目まどかの、大群であった。
自身を取り囲みキャイキャイと再開を喜ぶ声を各々に浴びせられながら、ほむらは恍惚とした表情を浮かべる。
彼女が会場の鹿目まどかに執着しない理由、それは、自身の部屋に、無限のまどかと会える部屋があるから。
無論会場のまどかにも一定の興味はあった。
グリードであるガメルを母性と善意で保護し、数多の悪意に晒されながらしかし自分を見失わず逝った。
これが真木の言う美しい終末なのかと思うほど美しいその生きざまにより一層“鹿目まどか"への想いを強くし──しかしそれだけだった。
彼女の、“まどかルーム"とでも言うべき部屋には、ありとあらゆる時間軸、世界のまどかが集められている。
そこにいるまどかから無造作に選んだ一人の鹿目まどかの死は確かに悲しいが、しかし度重なるタイムループによって彼女の死にすらほむらの感覚は麻痺してしまった。
故に無限に存在する彼女が一人減ったところで、“今"のほむらには大きな悲しみには繋がらなかったのだ。
まどかのいない世界に比べればこの程度我慢できるとそう考えたところで。
「ほむらちゃん、大丈夫……?さっきから難しい顔してる……、保健室連れて行ってあげようか?」
部屋に入ってきてから何も喋らない自分を怪訝に思いまどかが心配してくる。
心配させてしまった自分を責めつつ、ほむらは前以上にぎこちない笑みを浮かべる。
「ええ、大丈夫よ、まどか。それよりも今は楽しみましょう?不本意だけれど、少し時間が出来たの」
「……?うん、わかったよ、ほむらちゃん!」
808
:
第二回放送と蠢く悪意と怒りの悪魔
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/25(日) 19:48:13 ID:6AerOhU.
自分に都合のいいことしか言わないまどか──ほむらが洗脳したのか、他者にされたのか、或いは何らかの考えがあるのか──をその視界いっぱいに留めながら、彼女はまどか達の輪に入っていった。
(あぁ、たまらない。……でも、まだ足りない。まだ私は、全てのまどかを愛せていない、満たされてない。大聖杯を手に入れて、まどかとの永遠を──)
鹿目まどかに囲まれながら、今以上に甘い世界を望んで、ほむらは今一度大聖杯への願いを思い描く。
まどかとの真の永遠。
宇宙など終わろうと、構うものか。
老いず歪まず、色あせず。
もし今の世界が終わりを迎え、新しい世界が生まれ、また滅びそれを繰り返したとしても。
ずっと続く、愛しい人との永遠、それを望んで、彼女、“暁美ほむら"はこの欲望の殺し合いを勝ち抜くのだ。
裏リーダーが消え、より薄暗くなったその部屋の隅で。
“鹿目まどか"から切り離され感情の無いシステムと化したはずの円環の理の、その金色の瞳から。
一滴の水滴がこぼれたように見えた事を、恐らく知ることもないまま。
◆
会場に現れた、電人。
彼の目的とは一体何で、果してどういった存在なのか。
何よりその存在を彼ら彼女らは、真木は把握しているのか。
全ては未だ、欲望の中。
それが掻き分けられるのは、まだ先の話──。
809
:
第二回放送と蠢く悪意と怒りの悪魔
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/25(日) 19:48:51 ID:6AerOhU.
【二日目 深夜】
【? ? ?】
【シックス@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄 裏リーダー
【状態】健康
【首輪】なし
【コア】不明
【装備】不明
【道具】不明
【思考・状況】
基本:欲望の大聖杯を手に入れる。
0:現状は殺し合いを静観する。
1:カザリ、笹塚、ネウロの順に興味、監視を続ける。
【備考】
※連れてこられた時期は少なくとも自分が死ぬ前、五本指が全て倒された後の模様です。
※戦力や配下がいるのか、大聖杯に何を望むのかは不明です。
※シックスが“彼"なのかは不明です。
【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ劇場版 叛逆の物語】
【所属】白 裏リーダー
【状態】健康、恍惚
【首輪】なし
【コア】不明
【装備】ダークジェム@魔法少女まどか☆マギカ劇場版 叛逆の物語
【道具】インキュベーター@魔法少女まどか☆マギカ
【思考・状況】
基本:大聖杯を手に入れ、まどかとの永遠を願う。
0:あぁ、まどか……。
1:会場にいる“暁美ほむら"に嫌悪感。
2:白陣営が消えて時間が出来た分、まどか達と戯れる。
【備考】
※参戦時期は叛逆の物語終了後です。
※彼女の持っている、真木から私的に渡されたストレス解消用のインキュベーターに監視性能が備わっているのかは不明です。
【円環の理@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】なし
【状態】健康?
【首輪】なし
【コア】不明
【装備】不明
【道具】不明
【思考・状況】
基本:不明
【備考】
※鹿目まどかの姿をしていますが、彼女の心がどうなっているのかは不明です。
※目から涙がこぼれたように見えたのは彼女に鹿目まどかの心が残っており実際に流したのか、或いは何ら関係ない理由なのか、実際は流していないのかは不明です。
※彼女の本来の役割である「魔女化を未然に防ぐ」が会場に影響するのかは不明です。
810
:
第二回放送と蠢く悪意と怒りの悪魔
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/25(日) 19:49:28 ID:6AerOhU.
【全体備考】
※ほむらのいる白裏リーダー用の部屋に結界があり、中にはあらゆる時間軸、世界から連れてきたまどかがごった返しています。
※まどか等は不自然なほどほむらに懐いていますが、これが本人たちの何らかの考えによるものなのか、ほむらか或いは他の人物に洗脳されたものなのかは不明です。
※“まどかルーム"を作ったのがほむらなのか、真木や他の主催陣営の人物なのかは不明です。ほむら以外の人物が作ったとして、その意図は現状不明です。
※“電人HAL"のことを真木や主催陣が把握しているのか、していた場合裏リーダーに情報は行っているのかなどは不明です。
【第二回放送 終了 残り人数 33人】
811
:
第二回放送と蠢く悪意と怒りの悪魔
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/25(日) 19:52:27 ID:6AerOhU.
以上で仮投下終了です。
>>801
で書式のミスを一カ所見つけたので、そこは本投下のときに直しておこうと思います。
812
:
欲望まみれの名無しさん
:2015/01/25(日) 20:47:30 ID:33437meA
仮投下乙です。
一先ず一点だけ確認しておきたいのですが、ヴァイジャヤのカプセルは笹塚ではなくカザリに支給されていた物でしたので、シックスが笹塚に与えたというのはそのままでは問題があるかと思います。
カザリが与えたことがそうなるよう、事前にシックスがカザリ(記憶はきえている)に何らかの暗示など仕込みしていた、といった形に修正して頂ければ、と思います。
813
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/25(日) 21:49:02 ID:6AerOhU.
わかりました。確認不足で申し訳ありません。
では
>>804
の
そう、彼の支給品に復讐に捕らわれる前の彼と離別できるように、特製のシナプスカードを忍ばせたのも。
特別な力を持たぬ参加者ならば簡単に殺せるように自身の指の一つであったヴァイジャヤのカプセルを与えたのも。
全てシックスの差し金であったのだ。
という箇所を
そう、彼の支給品に復讐に捕らわれる前の彼と離別できるように、特製のシナプスカードを忍ばせ使用させたのも。
特別な力を持たぬ参加者ならば簡単に殺せるように、自身の指の一つであったヴァイジャヤのカプセルをカザリに与えさせたのも。
全て──カザリ本人は忘れたとはいえ暗示を掛け──カザリという仲介役を通して彼に施した、シックスの差し金であったのだ。
──ちなみに、カザリのこの場での活躍を全てシックスによる物と解釈されかねないので追記しておくが。
シックスが、カザリに仕向けた暗示は笹塚にシナプスカードを使わせる事、ヴァイジャヤのカプセルを渡すよう仕向ける事、それだけである。
それ以外の、海東大樹やイカロスを自陣営に入れ、上手く活用するなどの活躍はすべて、カザリの実力によるものであることを、ここに記しておく──。
と修正します。
814
:
欲望まみれの名無しさん
:2015/01/26(月) 22:57:12 ID:.qt8xNQ6
すいません、一応確認したいことが二つ
まず、笹塚はカザリが接触する前にシナプスカードを使っていると思うんですよね なのでカザリに使わせたというのは矛盾するかと
それとこれは決まってなかったとは思うのですが、笹塚は本来無所属で後からカザリが自陣に取り込んだのですが無所属の笹塚の支給品もシックスが選んだのでしょうか?
別にどの支給品を誰がとは明言されていなかったとは思いますが、もし各陣営の支給品は各陣営の裏リーダーが決めている前提で書かれていたのなら笹塚はシックスの担当ではないんじゃ……と思ったので、一応の指摘をさせて貰えればと思います
815
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/27(火) 12:40:03 ID:wMzdGQRU
ご指摘ありがとうございます。自分の確認不足が本当に情けないです……。
では早速ながらシックスパートを全体的に修正、加筆しましたので、問題ないかご確認いただければと思います。
816
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/27(火) 12:42:12 ID:wMzdGQRU
「フフフ、死者の名前に、脳噛ネウロを連ねるとは……、なるほど蘇ったからと言って死亡したことに代わりは無いからね」
放送を自身の部屋で聞きながら、男は笑う。
男が言うのは、放送で呼ばれた、現在は蘇りその肉体で活動する脳噛ネウロの事である。
彼は第一回放送の後、確かに一度死に、そして第二回放送の前に蘇った。
考えれば、第二回放送時点で死亡していない彼を放送で呼ぶ意味は薄い。
だが、放送で発表されるのは、“死亡者"のみで、“蘇生者"の名を発表する義務は主催者にはない。
放送時点で状態がどうであれ、主催が一度でも首輪を通して死亡を確認したならば、その名は放送で呼ばれるのであった。
……何故ならば、第一回放送、第二回放送そのどちらで呼ばれた参加者の中にも、その生を再開させかねない参加者は数多く存在するため。
この殺し合いにおいて、放送で呼ばれたからと言って、永久の脱落を意味しない者も数多くいるということは、読者諸君も知っているだろう。
故に放送で既に名を呼ばれたガメルやウヴァを初めとするグリード、そして佐倉杏子のような魔法少女、そういった蘇生の可能性のある参加者も、放送で名前を呼ばれているのである。
これは、主にそういった蘇生する可能性のある参加者への特別措置という面が多く含まれる。
元々、条件さえ揃えば、この殺し合いにおいて、ある種無敵とさえ言える参加者達なのだ。
放送でその名前が呼ばれると言うことは、「現在生き、動いてその名を騙る者は偽物かもしれない」と他の参加者に思われることに繋がる。
それでも先程の放送で呼ばれるのは“死亡者"のみであり、蘇生の可能性のある参加者も放送で呼ばれているという点などに気付けば誤解を解く事は出来るだろう。
しかしそれでも一時の疑惑に繋がる事は事実。
殺し合いに否定的な参加者ならばそういった参加者の集いでは少なからず疑惑の目を向けられ、逆に殺し合いに肯定的な参加者ならば、他者の不意をつける。
これは所詮突き詰めてしまえば、殺し合いに消極的な参加者には多くのデメリットが、殺し合いに積極的な参加者ならば蘇生にメリットが生まれる仕組みなのであった。
「しかしまぁ、“私が担当する陣営"に、“君がいる"とは……、これも、運命という奴なのかな」
言ってニヤリと口角を吊り上げたその瞬間、男の顔がモニターの光に照らされる。
余りにも不気味に威圧感を発しながら楽しそうにモニターを見つめる男の名は、“シックス"。
彼の手にはライオン、トラ、チーター、所詮、ラトラーターコンボのオーラングルの形をした痣──令呪──が、刻まれていた。
それが意味するものはつまり。
彼が、黄色陣営の裏リーダーであると言う事。
その強烈な悪意と強い欲望は、欲望の大聖杯に裏リーダーと認められるに足るものである事は、最早言うまでもない。
そして今、彼の目は、そう多くない参加者、事象しか捉えていない。
殺し合いの途中経過で起きる些細な事象や脱落するであろう存在に興味は無いのか、ともかく彼の目は、この殺し合いが始まってからずっと大きな事柄や数人の参加者しか監視していないのである。
そうして彼は、その中でも特に長く監視している三人の参加者を再び捉えた。
817
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/27(火) 12:43:57 ID:wMzdGQRU
一人目、笹塚衛士。
今や自身の陣営の人間であり、この殺し合いに自分が関わっていると見て、精力的にその力を発揮している。
全くもって恐れ入る復讐心と洞察力である。
こんな悪趣味な殺し合いに自分は必ず関わっているだろうという彼の推測は──笹塚の考えているものよりずっとシックスの関与は少ないと言え──、実際当たっているのだから。
シックスはこの殺し合いが始まる前に彼の復讐心を見、自身が見てきたなかでも特に強い彼のそれに、強く惹かれた。
そう、彼の支給品に復讐に捕らわれる前の彼と離別できるように、特製のシナプスカードを忍ばせ使用させたのも。
特別な力を持たぬ参加者ならば簡単に殺せるように、自身の指の一つであったヴァイジャヤのカプセルをカザリに与えさせたのも。
全て──笹塚やカザリ本人は忘れたとはいえ暗示を掛け──カザリという仲介役を通して彼に施した、シックスの差し金であったのだ。
自身が復讐を誓った男から与えられた支給品をありがたく重宝し、必死に生き抜く男の姿、彼にとっては実に滑稽で見ていて好ましいものであった。
そう、これは彼が自身の下に来ても、自身を殺せる可能性がゼロだからこその、遊び。
シックスの、他人の人生を使った残酷すぎる、彼にとっては当たり前のゲームの一環であった。
そうして知恵を練り生き抜かんとする男から目を離し、シックスの目は次の参加者に移る。
それはシックスの監視対象の二人目、脳噛ネウロ。
一度情けなく死亡し誰から見ても明らかなほど、たかが一人の小娘の死に嘆く。
やっと本調子を取り戻したかと思えば、やったことは一人の少女を、死んだ相棒に重ね叱咤すること。
全くもって情けない姿だが、仮にも自身の指を全て倒した男が、情けない死にざまを晒しながら死ぬだろう事は、彼にとって一時の暇つぶしとしては、監視するに足るものであったのだった。
だが、彼が一番の注目を向けているのは、最後のモニターに移った一人の参加者。
それはかつての同胞の葛西でも、自身の息子とも言える存在になりうるXでもなく。
シックスがこの場で監視し続けるに足ると判断した最後の参加者、それは──カザリ。
現黄陣営のリーダーであり、他のリーダーと比べても臆病すぎるほどの作戦で動いている彼。
生きるために臆病で、生きるために他者を殺す事を戸惑わない。
利己的で、賢いその頭脳を自身に利益のために使う事しか考えない。
そんな“悪意"に満ちたカザリは、自身の友であった葛西──自分の期待を裏切った、会場にいる同名の“誰か"ではなく──と重なり、彼の暇つぶしに一役買っていた。
──ちなみに、カザリのこの場での活躍を全てシックスによる物と解釈されかねないので追記しておくが。
シックスが、カザリに仕向けた暗示は笹塚を黄陣営に取り込ませる事、ヴァイジャヤのカプセルを渡すよう仕向ける事、それだけである。
それ以外の、海東大樹やイカロスを自陣営に入れ、上手く活用するなどの活躍はすべて、カザリの実力によるものであることを、ここに記しておく──。
818
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/27(火) 12:45:15 ID:wMzdGQRU
さて、気になっている読者もいるだろうから補足しておくが、笹塚の所属陣営は本来無所属。
しかしそれを黄陣営に取り込むようカザリに暗示をかけるなど、容易い事。
だが、幾ら彼が裏リーダーで、様々な権限を持つとはいえ、多くの参加者への不必要なほどの干渉は禁じられている。
故にシックスが手をかけた参加者はつまるところ自陣営、無所属含めてこれだけなのである。
彼の悪意は既に殺し合いに大きな影響を与えてはいない。
彼の息子とも言えるXが、事実上殺し合いの間半永久的にISを使えることに比べれば、寧ろ干渉は少なすぎると言っても良い。
そしてもう一つ。
無所属である笹塚の支給品にシックスが手を加えられたことに疑問を持つものもいるかもしれない。
しかし、無所属とは所詮、多陣営に取り込まれる前提の陣営。
自身が全体の支給品の調整を行う前、大きくバランスを壊さないのならと、自陣営の参加者の他に少数なら無所属の者の支給品にも裏リーダーは関与していい、と真木は言ったのである。
故に他の裏リーダーはともあれ、シックスは笹塚の支給品を操作する事が出来たのだった。
また、天敵のオーズから離れ、支給品の関係上最初から自身に従う桐生萌郁と無所属の笹塚の近くというカザリの初期位置。
これもまた、シックスが期待するカザリに対し送った、戦いを生き抜くための最後のアドバンテージであったのだった。
これだけ彼が手をかけたのだから、カザリの性格も相まって無様な真似はするはずもない。
そう現状黄陣営が着実にその勢力を延ばしつつあるのは、最早当然と言ってもよかったのだ。
この強すぎる悪意に、その加護を受けているのだから。
……ここで、そもそも何故シックスがここまでカザリに手を尽くしているか疑問に思うものもいるだろう。
答えは簡単、彼の願いは、欲望は、突き詰めてしまえばシックスと同じだからだ。
カザリは百獣の王であるライオンすら従える王であり、シックスは生態系最強の存在と言える新しい血族を纏める王である。
カザリの欲望は策略をめぐらせ他者を上手く弄ぶことであり、その為に自身に信頼を向ける存在を切り捨てることを戸惑わない。シックスも同様。
カザリの最終的な目標は頭脳で全ての考えを読み、あらゆる目論見を潰し、全てにおいて自身に敵わないと分からさせ、支配したいという欲望にある。
シックスもまた誰も敵わぬ悪意で以て全てを支配したいという欲望に満ちている。
──そう、カザリとシックスは、似ている。
色々言いくるめて信頼しているように見せかけて、最終的には自分と並ぶものなどいないと、そう確信している部分も。
そういった面を記憶を消される前のカザリとの交流でこれ以上なく察したシックスは、だからここまでカザリに手を尽くしたのだ。
もしかしたらそれが、私がこの陣営の裏リーダーに選ばれた理由なのかもしれないねと、彼は薄く笑って。
「頑張って生き残ってくれ、そうすれば、私の次くらいには長生きできる」
もしかしたらグリード以上に利己的なのではとすら思える言葉を吐いて、彼は椅子に深く腰掛けた。
819
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/27(火) 12:48:56 ID:wMzdGQRU
以上で修正の投下を終わります。
追加したのは特に後半で、
・無所属で少数の参加者なら支給品をどの裏リーダーもある程度操作できる
・暗示は笹塚にもかけていた。
・シックスが暗示をかけた参加者はこの二人だけ
・シックスが何故ここまでカザリに手をかけるのか&黄陣営裏リーダーになった理由の考察
などです。二度も訂正していただいたのに情けないですが、まだ問題点あればお願いします。
820
:
◆z9JH9su20Q
:2015/01/27(火) 19:09:29 ID:aRg95v3s
仮投下及び修正お疲れ様です。
本来なら拙作の仮投下までは書き込みは待とうと思っていたのですが、個人的に少々気になる点が生じてきたので、◆VF/wVzZgH.氏の放送案に修正要求をお願いに参りました。
まずは非常に細かく、簡単な点から。令呪の形状と一致するオーズのパーツ名は『オーラングル』ではなく『オーラングサークル』であるということ、次にXは生物的には雌であると原作のシックスは扱っているので、Xについては自身の息子ではなく娘と呼ぶのが適切かと思われます。
また、カザリの初期配置位置をシックスがカザリ贔屓に決定したとの記述ですが、そうすると氏が優勝狙いとして登場させた裏リーダーのほむらがガメルをオーズの近くに配置していることが奇妙であると思います。シックスだけが参加者の位置を自由に決定できるというのもおかしいかと思いますので、該当する箇所についてはシックスの意志は介在していない扱いが妥当かと思われます。
まず、以上三点の修正をお願いできれば、と思います。
次の点ですが……長くなりましたので、続きは次の書き込みで行います。
821
:
◆z9JH9su20Q
:2015/01/27(火) 19:12:04 ID:aRg95v3s
こちらの指摘は、氏のシックスパートの展開に大きく関わる内容になります。なお長過ぎたようでこちらも二回分けることになります、ご了承ください。
まず、開始前から笹塚にシックスが興味を抱いているという設定が、原作と大きく矛盾しているのです。
原作においてシックスは笹塚を返り討ちにした後、笹塚が復讐心に囚われながらも結局自分以外はその部下さえも殺さなかったことに「だとしたら興醒め」と発言していたからです。
その後イレブンから笹塚の記憶を聞くと発言していることから、それが笹塚の意図であったどうかを明白に把握していることになります。
そしてオーズロワ内ではシナプスカードの一件があるのでともかく、原作における笹塚は本編の要所要所、また彼が主役の外伝小説において、大切な知り合いの命が脅かされている状況でも(おそらくシックスは例外としても)他者を殺せず、完璧な復讐ができる人物ではないと強調されています(この外伝小説の内容は、原作での笹塚死亡シーンのおける走馬灯の左端上から二コマ目で本編に取り込まれているため、パラレルの出来事ではないことを念のために断っておきます)。
これらのことから考えると、少なくとも原作の笹塚はシックスからすれば「興醒め」な人物であることになります。
そのため、バトルロワイアルでの経過を見て心変わりしたという形ならばともかく、原作そのままとなる開始前からシックスが笹塚に興味を持って手を加えているという展開には無理があると私は感じました。
そのため、本編開始前のシックスの過剰な参加者への干渉についても可能なら考え直して頂ければ、と思います。
また、このような参戦時期〜本編開始前の間に主催者が何かしら参加者に干渉していた、という展開は本来好ましくないものであると念のためお伝えしたく思います。
参加者は皆原作のある時期から参戦しているという前提で書かれているところに、もしも主催が本編開始前に干渉していたという設定をあまり自由に盛り込めば、いくらでも都合の良い設定がその場で捏造できてしまうからです。
物凄く極端な例で言いますと、あんまりそういったことを許すと「実はとある死亡済み女性キャラが本編開始前に魔法少女の契約をしていたため、死亡確認されたはずがソウルジェムが無事だったため復活できた(本人は気づいていなかった)」というような後付けご都合展開も許してしまいかねないわけです。
それが原作設定との矛盾に対してリレーを成り立たせるため、あるいはロワそのものを成り立たせるための必要悪である場合ならばともかく、原作を参考に多人数で参加するリレー企画としての二次創作で、原作に存在しない設定を過剰に盛り込むことは、上記のようなご都合展開を招く危険性があるため、私は歓迎できません。
また、拙作『陰謀と計略と不実の集い』においてXがISを使えるように干渉を受けたのでは、という推測について、本編開始前に干渉を受けていたという後付けの設定捏造を◆z9JH9su20Qもしているではないか、とのお声が返って来そうですが、これについては上記の原作設定と既に成り立ってしまったリレーへの矛盾を解消するための最低限の必要悪であったと自分では考えており、またこれが禁じ手であるという意識から『支給品はともかく、参加者についてはそのX一人が主催の総力を挙げてもバトルロワイアル開始前に干渉できる限界だろう』という断りを入れています。(私が執筆する以前の主催話との整合性のため、初期リーダーのグリードに限定して記憶を抹消されているものの裏リーダー他主催陣営から何かしら干渉を受けている可能性がある、という設定についても同様です)
822
:
◆z9JH9su20Q
:2015/01/27(火) 19:12:35 ID:aRg95v3s
最後です。
無論、後々にこの断りが必然性があって覆されるのであれば(要議論としても)採用されることを拒否するものではありませんが、上記のようにシックスが本編開始前から笹塚に肩入れするというのが無理のある展開ではないかと感じているため、それが本当にどうしてもリレーや企画を成り立たせるために必要な展開であるのかをご一考願いたいのです。
もちろん、氏も「カザリと笹塚にしかシックスは干渉していない」とされており、先刻承知であったかもしれませんが、Xは特例中の特例であり、『裏リーダーなら誰でもグリード以外の参加者にも開始前に干渉できる』ことが前提であるような話となってしまっているのは看過できない、と思い改めて考えを表明させて貰いました。
というのも、繰り返すように、Xの件は既に複数作のリレーが繋がれた後に気づいたため、修正困難となった展開が原作との著しい矛盾(IS学園が必要という、原作世界観の根幹を否定しかねない要素)を何とか解消しようとした苦肉の策であったのですが、今回の笹塚にはそのような必要性が見受けられないと判断したための指摘となります。
別に、今後一切シックスが本編開始前に参加者に働きかけていてはならないというわけではないのですが、シックスが陣営戦の勝利を目指しているのに容易ではない干渉を行った相手が興味が薄いだろう笹塚、というのも奇妙な話かと思うので、どうしてもこの展開が必要であるというのであればまずその理由をご説明して頂ければ、と思いました。
大変長々となりましたが、私からは以上になります。
823
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/27(火) 21:48:03 ID:wMzdGQRU
◆z9JH9su20Q氏、長文でのご指摘お疲れ様です、そして本当にありがとうございます。
自分としては返す言葉もございません。
笹塚への干渉はしていない&カザリへの物も必要最小限にという形で修正しましたのでご確認いただければと思います。
824
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/27(火) 21:49:18 ID:wMzdGQRU
一人目、笹塚衛士。
今や自身の陣営の人間であり、この殺し合いに自分が関わっていると見て、精力的にその力を発揮している。
全くもって恐れ入る復讐心と洞察力である。
こんな悪趣味な殺し合いに自分は必ず関わっているだろうという彼の推測は──笹塚の考えているものよりずっとシックスの関与は少ないと言え──、実際当たっているのだから。
シックスはこの殺し合いが始まる前に彼の復讐心を見、自身が見てきたなかでも特に強い彼のそれに、強く惹かれた。
しかし殺し合いの前に知った彼の本性。
激情にかられたのなら無関係の人間でも、復讐のためならば問答無用に殺しまわれるのだろうと期待していたというのに、彼は恐らく自身以外の人間の命を奪えないのである。
だが、シックスは笹塚に、しかしそれでも飛び抜けた復讐心を見出し、今回の殺し合いという状況が彼を変えてくれるのではと多少に期待したのだ。
そのシックスの目論見は半ば成功し、彼は殺し合いの場で、同じ復讐を誓う同志を見つけたからか、元の世界では恐らく見せなかっただろう相手にもその激情を見せているのである。
――今から、放送で呼ばれる桂木弥子と脳噛ネウロの名前を聞いて彼がどう反応するか、気になってしまう程度には、笹塚はこの場でシックスの興味を引いたといっていい。
知り合いが敵しかいなくなったと錯覚した状況で、確実に足手まといにしかならないだろう、携帯を失くした桐生萌郁を、行動に不審な点の多いフィリップをどうするか、気になってしまう程度には。
そう、これを予想してなのかカザリに彼を黄陣営に入れさせるよう仕向けたのも。
特別な力を持たぬ参加者ならば簡単に殺せるように、自身の指の一つであったヴァイジャヤのカプセルをカザリに与えさせたのも。
全て──カザリ本人は忘れたとはいえ暗示を掛け──カザリという仲介役を通して彼に施した、シックスの差し金であったのだ。
自身が復讐を誓った男から与えられた支給品をありがたく重宝し、必死に生き抜く男の姿、彼にとっては実に滑稽で見ていて好ましいものであった。
そう、これは彼が自身の下に来ても、自身を殺せる可能性がゼロだからこその、遊び。
シックスの、他人の人生を使った残酷すぎる、彼にとっては当たり前のゲームの一環であった。
そうして知恵を練り生き抜かんとする男から目を離し、シックスの目は次の参加者に移る。
それはシックスの監視対象の二人目、脳噛ネウロ。
一度情けなく死亡し誰から見ても明らかなほど、たかが一人の小娘の死に嘆く。
やっと本調子を取り戻したかと思えば、やったことは一人の少女を、死んだ相棒に重ね叱咤すること。
全くもって情けない姿だが、仮にも自身の指を全て倒した男が、情けない死にざまを晒しながら死ぬだろう事は、彼にとって一時の暇つぶしとしては、監視するに足るものであったのだった。
だが、彼が一番の注目を向けているのは、最後のモニターに移った一人の参加者。
それはかつての同胞の葛西でも、自身の娘とも言える存在になりうるXでもなく。
シックスがこの場で監視し続けるに足ると判断した最後の参加者、それは──カザリ。
現黄陣営のリーダーであり、他のリーダーと比べても臆病すぎるほどの作戦で動いている彼。
生きるために臆病で、生きるために他者を殺す事を戸惑わない。
利己的で、賢いその頭脳を自身に利益のために使う事しか考えない。
825
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/27(火) 21:49:58 ID:wMzdGQRU
そんな“悪意"に満ちたカザリは、シックスの興味を多く引き、彼の暇つぶしに一役買っていた。
──ちなみに、カザリのこの場での活躍を全てシックスによる物と解釈されかねないので追記しておくが。
シックスが、カザリに仕向けた暗示は笹塚を黄陣営に取り込ませる事、ヴァイジャヤのカプセルを渡すよう仕向ける事、それだけである。
それ以外の、海東大樹やイカロスを自陣営に入れ、上手く活用するなどの活躍はすべて、カザリの実力によるものであることを、ここに記しておく──。
さて、気になっている読者もいるだろうから補足しておくが、笹塚の所属陣営は本来無所属。
しかしそれを黄陣営に取り込むようカザリに暗示をかけるなど、容易い事。
だが、幾ら彼が裏リーダーで、様々な権限を持つとはいえ、多くの参加者への不必要なほどの干渉は禁じられている。
故にシックスが手をかけた参加者はつまるところカザリだけなのである。
彼の悪意は既に殺し合いに大きな影響を与えてはいない。
彼の娘とも言えるXが、事実上殺し合いの間半永久的にISを使えることに比べれば、寧ろ干渉は少なすぎると言っても良い。
これは、シックスが期待するカザリに対し送った、戦いを生き抜くためのアドバンテージであったのだった。
これだけ彼が手をかけたのだから、カザリの性格も相まって無様な真似はするはずもない。
そう現状黄陣営が着実にその勢力を延ばしつつあるのは、最早当然と言ってもよかったのだ。
この強すぎる悪意に、その加護を受けているのだから。
……ここで、そもそも何故シックスがここまでカザリに手を尽くしているか疑問に思うものもいるだろう。
答えは簡単、彼の願いは、欲望は、突き詰めてしまえばシックスと同じだからだ。
カザリは百獣の王であるライオンすら従える王であり、シックスは生態系最強の存在と言える新しい血族を纏める王である。
カザリの欲望は策略をめぐらせ他者を上手く弄ぶことであり、その為に自身に信頼を向ける存在を切り捨てることを戸惑わない。シックスも同様。
カザリの最終的な目標は頭脳で全ての考えを読み、あらゆる目論見を潰し、全てにおいて自身に敵わないと分からさせ、支配したいという欲望にある。
シックスもまた誰も敵わぬ悪意で以て全てを支配したいという欲望に満ちている。
──そう、カザリとシックスは、似ている。
色々他者を言いくるめて信頼しているように見せかけて、最終的には自分と並ぶものなどいないと、そう確信している部分も。
そういった面を記憶を消される前のカザリとの交流でこれ以上なく察したシックスは、だからここまでカザリに手を尽くしたのだ。
もしかしたらそれが、私がこの陣営の裏リーダーに選ばれた理由なのかもしれないねと、彼は薄く笑って。
「頑張って生き残ってくれ、そうすれば、私の次くらいには長生きできる」
もしかしたらグリード以上に利己的なのではとすら思える言葉を吐いて、彼は椅子に深く腰掛けた。
826
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/27(火) 21:56:08 ID:wMzdGQRU
修正終了です。
>>816
の箇所はご指摘いただいた誤字の修正だけでしたので、それは本投下の時にしようかと。
今回の大きな修正は
・開始前にシックスは笹塚に大きな興味は抱いていなかった、シナプスカードは本当にランダムで笹塚の所に行った。
・干渉したのはカザリだけに。干渉内容も笹塚を黄陣営に入れる、ヴァイジャヤのカプセルを渡すだけに。
・現在の笹塚はシックスの興味は少なからず引いている。
といった点になります。
もちろん修正箇所のご指摘があればその都度応答しますので、もし何かあればよろしくお願いします。
827
:
◆z9JH9su20Q
:2015/01/27(火) 22:12:44 ID:aRg95v3s
修正お疲れ様です。大変素早い対応、誠にありがとうございます。
拝読させて頂いたところ、笹塚への関心は「もしかしたら」という遊び程度にシックスが捉えていたという形で、それを逸脱しない範囲であるなら私にも納得できました。
それと、上記の指摘に当たって文章が必要以上に威圧的であったかもしれないことをお詫びさせて貰います。大変申し訳ありませんでした。
なぜそう思ったのかというと、シナプスのカードをシックスが与えたという部分も削除されていたためです。
結局カザリに笹塚と接触するように暗示していたという展開なら、「もしかしたら」という遊びのために、シックスが過去の自分との決別を促すために笹塚にカードを与えていてもおかしくはないかな、とも思えたので……
もちろん氏のお考えが一番で、私は戻せとも戻すなとも強制は致しませんが、私が危惧したのは(ロワを成立させるための制限等を除く)参加者の意志や設定面への主催者の過度な介入が多発してしまうことだったので、支給品決定についての理由付けは過去作や原作と矛盾しない範囲であればご自由にお願いしたいです。
例えば無所属の参加者の支給品も他陣営の裏リーダーが少数ならば決定可能、という設定は実に面白いと思っておりましたので、長々と指摘しておいてどの口がと思われるかもしれませんが、どうかあまり萎縮せずに書いて頂けたら幸いです。
最後に、改めて修正お疲れ様でした。私もできるだけ早く氏に続ければと思います。
828
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/01/27(火) 22:39:22 ID:wMzdGQRU
納得いただけたようで何よりです。
支給品決定の部分に関しては個人的には失礼ながら当時要議論対象であった
オリジナルシナプスカードに理由をつけたいと盛り込んだものだったので、問題ないようなら本投下の際にはどこかに差し込んでおきたいと思います。
もちろん、今後もご指摘があれば都度対応しますのでお願いします。
829
:
◆z9JH9su20Q
:2015/01/29(木) 01:29:19 ID:gHxhCPBA
これより、予約していた放送案の仮投下を行います。
830
:
第二回放送案
◆z9JH9su20Q
:2015/01/29(木) 01:30:02 ID:gHxhCPBA
深夜。
時計の針が00時00分00秒を指したその瞬間、欲望渦巻く殺し合いの舞台に遍く鳴り響いたのは、金属質の乾いた旋律。
今から正確に六時間前、全ての生存者が等しく耳にしたのと全く同じ、定時放送の開始を告げる鐘の音だった。
「午前0時0分0秒……素晴らしい。新しい一日の誕生だ――ハッピィバースデイッ!!」
その放送を聞く者の耳に最初に潜り込んだのは、目眩がするほどに遠慮のない大声の、祝福だった。
「殺し合いの中、この誕生の瞬間に立ち会えた諸君は大いに喜びたまえ。君達は一日目を生き延びた。生きたいという欲望を、今この時は確かに満たすことができているのだからね!」
前回の放送を担当した真木清人とは異なる、実に感情的な語り口。
しかしその裏に爛々と輝く、真木清人と比肩する狂気については、彼の声を聞く誰もが等しく感じ取っていた。
「欲望――それこそが生きるもの全ての原動力。そしてこの世を作る力だ。
君達の着る服も、最後に食べたパンも、帰る家も歩く道も! 君達自身さえ、その存在を「欲しい」と望んだ誰かによって産み落とされ、生を享けた瞬間に「欲しい」と泣いた命っ! 森羅万象の全ては、尽く何者かの「欲しい」という想いから生まれた欲望の塊ッ!!
万物の根源と呼ぶべき欲望は、まさにこの世で最も大切なものと言えるだろう。素晴らしいっ!!!
……だが何かを欲するということは、一方で何かを奪うということだ。欲しいという気持ちが強い者が奪い、欲しいという気持ちが弱い者が奪われる。それは、命であっても同様だ。
誇りたまえ、君達の心の強さを。己が貪欲さを! 昨日を今日に、今日を明日に変える権利(いのち)すら、それ無くしては掴めない財宝なのだからッ!!
……それではその限られた権利に届かず、奪われてしまった敗者達の名を告げるとしよう」
情熱的に語られた前置きが終わり、いよいよ通達事項としての本題に移る。
伝えられる情報を聴き零すまいと身構える者。読み上げられるその事実を受け入れまいとばかりに耳を塞ぐ者。元より関心もなく、泰然、あるいは狂奔としている者。
種々多様な対応を見せる生存者達に向かって、遂にその羅列が読み上げられた。
「雨生龍之介
ウヴァ
加頭順
桂木弥子
鹿目まどか
桜井智樹
ジェイク・マルチネス
セシリア・オルコット
伊達明
ニンフ
凰鈴音
フェイリス・ニャンニャン
牧瀬紅莉栖
メズール
以上十四名。
彼らの死を気にする必要はない。彼らはただ、君達より欲がなかった――限られた権利を、奪われて当然の存在だったのだ。
だが勝者諸君、油断はしないことだ。君達もまた、いつより強い欲望によって奪われる側に立つかもしれない――六時間後、ここで呼ばれるのは君の名かもしれないのだからね。
故に、恐れたまえ。いつ全てを奪われるかもしれないという、君達の置かれた閉じた世界を。
失ってしまうかもしれないという想像が君を奮い立たせる。それはより強い欲望となり、誰にも奪われることのないパワーを生むっ!!
……その力で、明日を掴んでみせたまえ。ここまで生き残った君達には、私も期待しているよ!」
831
:
第二回放送案
◆z9JH9su20Q
:2015/01/29(木) 01:31:18 ID:gHxhCPBA
満足した様子で立ち去ろうとした声の主だったが、そこで「おっと」などと、本気なのかどうかわからない心づきを漏らした。
「……まだ通達内容の途中だったね。特に今回は重要なお知らせもあるというのに、これは失敬。
それでは気を取り直して……次は、禁止エリアの発表と行こうじゃないか。
今日の午前二時を持って、新しい禁止エリアとなるのは
【B−2】
【C−7】
【G−3】
の三箇所だ。くれぐれも注意してくれたまえ。
次が、カウント・ザ・メダルズ! 各陣営の獲得したコアメダルの枚数だ。現在、
赤陣営が11枚。
黄陣営が15枚。
緑陣営が18枚。
青陣営が8枚。
そして、12枚を無所属が保有している。
白陣営については、またもリーダーが失われてしまった。今度は代行者も出現していないため、陣営そのものが消滅したままとなる。
当然だが、生還するための第一条件は優勝した陣営に所属していることだ。明日が欲しい現在無所属の者はそろそろ、いずれかの陣営に参加できるように策を巡らせるべきだろう。勘違いしている者もいるようだが、無所属から他の陣営に入り込むことは可能だからね。
現状、枚数こそ緑陣営が首位だが、人員の規模では一度もリーダーが交代せず安定している黄陣営が一番だ。今はこの二つが最も勝利に近い位置で争っていると言えるだろう。
しかし、他の陣営にもまだ十分な勝機は残されている。この戦いの結末は今からでも、君達の奮闘次第でいくらでも変化するだろう。頑張ってくれたまえ!」
戦いの勢力図を解説しながら、声の主は生存者達の健闘を促す。
――前回と同様であれば、放送はそこで終わりのはずだった。
「次に、本日を以て解禁された、新しい要素の紹介だ」
しかし此度の放送では、先程告げられていた通り。更なる情報が、彼の口より放たれた。
「君達のセルメダルを預けることができるATM……そこでただ貯蓄したメダルを引き出すだけでなく、振り込みが可能となるように設定を追加した。
もちろん自分の口座に振り込むことも可能だが、特定のサービスも必要なセルメダルを払えば受けられるようになるというものだ。
その特定のサービスの内、現時点で君達に解禁された項目は、ずばり殺害数ランキングの閲覧。
誰が誰に殺されたのかを、セルメダル50枚と引換に明らかにすることができるサービスだ。
警戒すべきは誰なのか、憎むべき敵は誰なのか、嘘吐きは誰なのか……そんな、君達が喉から手が出るほど欲しいだろう情報が得られるんだ。素晴らしいだろう?」
提示されたそれはまさに、価千金の代物。
数多の命を踏み躙った恐るべき脅威、親愛なる者を奪った討つべき仇、虚言を駆使して隣に潜伏する殺人者。
それらの知識を得るということは、生存戦略におけるこの上ない情報アドバンテージを掴むということだ。
セルメダル50枚という代価は決して安くはないが、それに見合うだけの価値はある。
齎された望外の幸運に、ある参加者達は少なからずその目を輝かせた。
832
:
第二回放送案
◆z9JH9su20Q
:2015/01/29(木) 01:32:13 ID:gHxhCPBA
「但し! このサービスを利用するためには、セルメダルの支払い以外にもう一つ条件がある」
――だがそれも、他に何の条件もなければの話だ。
「それは、その口座の持ち主自身がこのランキングにノミネートされているということだ」
その有利を得られるのは、既に誰かを殺害した者のみ。
たった一つの条件が、この新たな要素の重みを反転させる。
「閲覧資格そのものは随時更新される。つまり今この瞬間初めて誰かを殺しても、後はメダルさえ支払えば問題なく利用可能ということだ。この催しは殺し合いだからね、乗ってくれている者を優遇するのは当然の話だろう?」
意地の悪い忍び笑いが、放送に乗って全ての生存者の耳に届けられる。
「このランキングが見たければ、まずは自分自身が名乗りを上げろということだ。既に資格を得た優秀な君は、存分にこれで得られるメリットを享受してくれたまえ。
なお、ATMで表示される殺害数ランキングは現在、第二回放送までで脱落した者に対するキルスコアしか反映されていない。これが今後、どのタイミングで最新の情報に更新されるのかは……秘密だ。
以上で本放送で定められた伝達事項は終了となる……のだが」
そこで放送の主は、ふとそのトーンを落とし、声に真剣な色を滲ませた。
「……気づいた者もいるかもしれないが、前回の放送からこれまでの間にコアメダルが一枚消失している。
嘆かわしいことだが、この素晴らしき欲望の結晶を破壊した者が存在するのだ。
欲望の否定とは即ち世界の否定。そんな真似をする者達はまさしく世界の天敵、悪魔と呼ぶに相応しいだろう……私には、その存在がどうにも受け入れ難い。
しかし彼らも参加者であることに変わりはなく、私個人の感情で勝手に処断しては公平性を欠いてしまう。
そこでだが、私はドクター真木を始めとする仲間達に提案しようと思っていることがある。
正式に決定するまで、それ以上の詳細は伏せておこうと思う。しかしこの提案が受け入れられた場合は、君達にとっても得のある展開が待っているだろう……それこそ、コアの破壊者達にもある程度、公平にね。
無論、私の提案が仲間達に受け入れられればの話ではあるが……私は自分にとって得である事柄を譲るつもりはないと、ここに宣言しておこう」
力強く、声の主は断言する。
萌芽するのかも不明な、新たな争乱を生む欲望の種を、とめどなく蒔き散らしながら。
……それから数秒の後。また何事かを思い出したように、男は「ああ」と呟いた。
「そういえば、約束をするのに名を告げないのでは失礼だったかな」
一人納得したように頷いた気配の後、その男は厳かに告げた。
「私はかつてオーメダルの誕生を欲した者。あらゆる王を束ねる真の王として君臨する者。そしてこの世の全てを手に入れ、無限さえも超える者。
――我が名は、“オーズ”
さぁ! その欲望を解放し、奪い、飾り、愛で、がめるといい。
弱き欲望を喰らい、更に膨れ上がった欲望を持って生き残れ!
このオーズの名の下に、君達の欲望全てを肯定すると約束しようっ!!
……以上で放送は終わりだ。
生きていれば、また会うこともあるだろう。グッドラック!」
大演説の後、『王』を名乗った男の声は、そこでぷつりと途絶えた。
833
:
第二回放送案
◆z9JH9su20Q
:2015/01/29(木) 01:33:18 ID:gHxhCPBA
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
真紅の不死鳥の紋様――赤の令呪を手の甲に刻んだ、オーズを名乗った声の主はその後、一人通路を闊歩していた。
「――相変わらずの調子であったな、『王』よ」
そんな彼の前に現れたのは、波打つ大量のセルメダル。その上に座った奇妙な風体の童女――イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの肉体に憑依した、錬金術師ガラだった。
どこか眠たげな紅玉の瞳は、本来倍もある背丈のオーズ――『王』を、逆に見下ろして来ていた。
「しかし戦っているのは貴様ではないのだ。未だ聖杯の所有者は確定していないというのに、後で大恥を掻いても知らんぞ?」
「それは全く無用な心配だ。アンクくんにはもちろん期待しているが、いざという時は君や束くんの考えているように、勝利したグリードの令呪を持ち主から奪えば良いだけだからね」
「……あまり大声で言ってくれるな」
周りに誰もいないとはいえ、堂々と叛意を喧伝されたガラは小さな声で『王』を諌めた。
「……いつから束もそうだと思っていた?」
己自身のことについては、ガラは尋ねない。
それは『王』自身の手によって施された封印を解かれ、バトルロワイアルのために協力を要請された時点で、他ならぬ『王』が自ら彼に提示した見返りであったからだ。
聖杯の起動までその力を提供してくれさえすれば、後は勝利者――それこそ、それがこの『王』であったとしても令呪を奪い、“欲望の大聖杯”を掴めば良い、と。
無論、自身に刃が向いた時には叩き潰すと『王』は伝えたが、元より対決は避けられぬ間柄であり、そして聖杯に関わるチャンスからして、裏リーダー以外にはまたとないことだったのだ。
故にガラはその提案に乗り、その力を会場内に参加者の欲望を刺激する、馴染みある町並みや施設の一部を転移させて雛形を作り、また殺し合いの進行のためのオーメダルの機能調整を行うために注いだ。
しかし、赤陣営の裏リーダーの配下という体で主催側に加わっておきながら、かつてのような王と従者ではなく最初から同盟に過ぎない関係であるとして、ガラは彼に対する臣下の礼を捨てて接していた。
故にさも対等な口を効く錬金術師の疑問に対し、『王』は怒るでもなく泰然としたままで答えを紡いだ。
「この場にいる者で、本気で聖杯を掴むつもりがあるなら誰でも同じ結論に至ると思っただけだよ。それこそ本気で誰かに忠誠を誓った、それ自体が欲望である者でもなければ、たかが最初に令呪を与えられなかった、勝利する陣営ではなかった程度のことで諦める理由がないからね」
「成程……グリード達の殺し合いなど、貴様にとって元より茶番に過ぎない、ということか」
我と同じように、と続けるガラの見解を、『王』は首を振って興奮気味に否定した。
「茶番だなどと、とんでもない! 閉鎖された空間内での、理不尽に巻き込まれた者達による強制されたバトルロワイアル……これほどに欲望渦巻く環境は目にしたことがないよ。何故これまでに思いつかなかったのかと、私自身を恥じたほどだ!
殺し合いに囚われた彼らの様子を観察することで、ますます私も欲望についての理解を深めることができるだろう。こんなに素晴らしいことはない!」
事実『王』にとって、殺し合いが始まってからの半日は実に心躍る時間だった。
追加された殺害数ランキングの閲覧権を巡っても、生存者の中にある情や利己心が引き金となって更なる欲望を加速させ、また疑心暗鬼を誘発し、更に刺激的な舞台となることが期待できる。もう暫くの間、かつてないほどに愉しい時間を過ごせると『王』は確信していた。
834
:
第二回放送案
◆z9JH9su20Q
:2015/01/29(木) 01:34:43 ID:gHxhCPBA
尤も、所詮“欲望の大聖杯”を得るための前座といえばその通りで、それを成し遂げるために蠱毒の様子ばかりでなく、周囲にも目を向ける必要があるのは紛れもない事実だ。
故に『王』は、自身の敵となり得る者達を見逃してはいなかった。
「ただ、彼女は今の裏リーダーの中でも特に思い切りが良いし、同時に用意周到だっただからね。紅椿の件も、予め君と会合する場を自然に設けるためのものだったと予想していただけだよ」
並べられた推論に、成程とガラは頷いた。
聞き手の反応を確認した後、『王』は「もっとも」と付け足した。
「彼女も全員の目を欺けると思うほど楽観的ではないだろう。私や他の誰かに勘付かれている可能性ぐらいは、彼女自身もとっくに予想しているだろうね。その上で裏を掻こうと、何かしら手を打ってくるはずだ」
「……楽しそうだな?」
「楽しいとも」
ガラの問いかけに、『王』は喜々と目を輝かせて頷く。
「様々な世界から集められた、グリード以上の強欲の持ち主達との知恵比べ、奪い合いだ。実に刺激的で、最後に彼らの血で満たす杯はさぞ甘美だろうと胸が高鳴るよ」
「……変わらぬな、本当に。忌々しいままだ」
ガラが漏らした通り、『王』は変わらない。
八百年の時を封印の中で過ごしても。一度はその器に収まりきらなかった力によって、その身を滅ぼしていたとしても。
これは、そんなことで諦めるような、ぬるい欲望の持ち主ではない――むしろ頂点から失墜したその経験を、更に欲望を掻き立てるための糧としているのだ。
際限なき欲望のままに全てを奪い、支配することを止めぬ暴君。
それが、神をも越える力――何者よりも高い座からの景色を求めた、一人の『王』。最初の、オーズであった。
八百年前、数多の王を殺し、大陸中の土地と文化と生命の全てを手に入れたように。ガラや他の裏の王達の欲望さえも、やがては己の所有物となる物への、箔づけ程度にしか捉えてはいないのだ。
そんな暴虐の『王』はふと、喜悦に歪んでいた表情を引き締めた。
「しかし、だからこそ気になる者がいる」
「……今世(いま)のオーズと、例の破壊者か?」
「違う。確かに火野映司くんとは幾つかの点で近い存在だが……ドクター真木のことだよ、ミスターガラ」
微かな危機感に包まれてその口から飛び出したのは、彼の子孫と同様――この聖杯戦争の発端に関わった、紫の“王”たる存在の名だった。
「彼とインキュベーターだけが握っている紫の秘密。
ドクター真木の求めるものからすれば答えは明白だが、それが彼らの結託には結びつかない」
語る『王』の目は、疑惑を通り越して焦燥に近い色を孕んでいた。
「第一回放送の時も、確認してみれば「余計なことはせずに早く終わってね」みたいなことしか言うつもりがなかったような彼だ。我々が聖杯起動のためにもっと参加者の欲望を煽れと促しても、進化だの適応だのは彼にとって信念の対極、唾棄すべき概念だったからね。実験に協力した見返りだとインキュベーター達が要求した際に彼が折れていなければ、もっと辛気臭い放送になっていたか……ドクターの高慢さに、誰かしら暴発していただろうね」
誰よりも我が強い者達の集まり故、易々と譲る者がいないために危うく第一回放送前に主催陣営で起こりかけた間抜けな内戦の火種をしかし、『王』は軽んじていなかった。
835
:
第二回放送案
◆z9JH9su20Q
:2015/01/29(木) 01:36:00 ID:gHxhCPBA
「たったあれだけの妥協がなかなかできなかったことからもわかるように、彼が持つ欲望を否定し終末を望む意志は本物だ。
感情のないインキュベーターが、その齟齬に気づいているのかは知らないが……」
現在こそ主催側の“目”として活躍しているインキュベーターだが、本来彼らは監督役として“欲望の大聖杯”に召喚された。
彼ら自身は聖杯の使用権は得られずとも、例えば『王』の担当する赤陣営を始め、無所属以外が勝利してその無限を越える力を獲得する折に、おこぼれが彼らの宇宙の延命のため提供されることが約束されているからこそ、その役目、そして現在もバトルロワイアルの完結のために尽力しているのだ。
では、本来想定された全能の力の獲得、という目的には使えない無所属が勝利した場合だが――その時にも同等の見返りがあるからこそ、インキュベーターは他の裏リーダーに対するそれと変わらぬ態度で真木に協力しているはずなのだ。
本来の使用法とは違う、紫陣営が勝利した場合のイレギュラーな大聖杯の起動。真木とインキュベーター以外は詳細を知り得ないその事態に至った場合、インキュベーターが得られる報酬――それ自体については、予想することは難しくない。
まず、紫が勝利した際、大聖杯によって齎される結末だが――それが少なくとも一つ以上の宇宙への終末の到来であることは、真木の思想からしても疑う余地はない。
この聖杯戦争における無所属の役回りが、剣崎一真の出身地で行われるバトルファイトでのジョーカーアンデッドのそれと解釈すれば、すんなり理解のできる結論だ。
そして、おそらくその時に聖杯は一つ、あるいは複数の世界を滅ぼすのだろうが、インキュベーターが生き続けるための宇宙は存続を許される。
少なくとも真木の世界は終末を迎え、インキュベーターは他世界の崩壊によって生じるエネルギーを自身の宇宙の延命に費やす――それが彼ら双方にとっての益だから協力しようと、そんな筋書きなのだろう。
しかし……それではやはり、大いに疑問が残ってしまう。
「――あの終末の化身が、容認すると思うかね? 少なくとも一つ以上、醜く腐って行く世界を残したままの結末を」
無数に存在する並行世界。
その実在を知った以上、少なくとも自らが観測できる限りにおいては塵の一つでもその存続を真木が見逃す道理はないと、『王』は確信していた。
「しかし紫陣営が勝利した結末がどのようなものであるかは、インキュベーターも把握しているのだろう? 真木もそれ以上は望めないなら、妥協する他になかったのではないか?」
ガラの見解は尤もであるが、しかし『王』は首を縦に振らなかった。
「それ以上が望めないなら、ね。しかしそうではないとしたら?」
『王』の疑問の発露に対し、ガラは微かな驚愕をイリヤスフィールの幼貌に浮かべていた。
そこに込められていたのが、自身の知る男に似つかわしくない純粋な危惧であることを見て取ったからだ。
836
:
第二回放送案
◆z9JH9su20Q
:2015/01/29(木) 01:37:04 ID:gHxhCPBA
「例えばさっきの放送も、実は一日の終わりを祝いたいドクターと、一日の誕生を祝いたい私とで担当者の争奪戦をしていたのだが、流れの中で別の話題――その時はむしろ彼に対する挑発ぐらいのつもりで、火野くん達の討伐令を参加者に下したいという考えを示したのだが。その途端、それが代替条件とばかりに容認し、放送権を譲ってくれたのだ。
私の予想が正しいなら、むしろ彼にとっては不利益なはずの事柄を受けて、ね」
この聖杯戦争が始まる以前なら、大量のコアメダルを使用することでグリードの暴走を促そうとしていた真木が、コアを砕ける他者の存在を疎むのは理解できる。
しかしバトルロワイアルが始まった以上、グリードの暴走に対して彼が拘る必要性はなく、事実執着をなくしている以上、それは理由になり得ない。
また、無所属の勝利条件を予想すると、他陣営の勝利条件との競合を避ける決着として真っ先に思い浮かぶ候補は、ノーゲーム――勝者たるグリードが、不在となってしまうことだ。
しかしこの仮定が正しい場合、その達成に重要な駒であるはずの今のオーズやディケイドを排除するという案に、真木が乗るのは理解し難い。彼らが優先的に狙われることで結果的にコアの砕かれるペースが上がるかもしれないが、全てを砕く前に消耗し切るのは目に見えている。
無論、優勝したグリードが確定してから聖杯が起動されるまでのタイミングで、真木自身がそのグリードを迎撃し砕くという最終手段も存在するだろう。しかしその時には『王』や、他の者からの妨害も必至であり、会場内で全てが砕かれることに期待する以上に分の悪い賭けであるとしか言えないのだ。
その時に備えた戦力増強のため、火野映司の持つ紫のコアを彼の体内から取り出すために死を望んでいるのだとしても、首輪の影響で他の参加者も同化し易くなっている以上、そんな真似に意味はない。
果たして、どんな目論見があってそのような判断を下しているのか。
あるいは単に、『王』の予想が的外れなだけかもしれない。
だが、しかし。
「――もしかすると。彼の隠し持った札は、聖杯の秘密だけではないのかもしれない」
『王』達にさえ開示されていない、真木とインキュベーターだけが把握している無所属の隠された勝利条件。そしてそれによって齎される報酬が、実は――他の陣営が勝利しても替えが効くインキュベーターだけでなく、真木にとっても最優先に達成すべき事柄ではないとしたら。
自分達の宇宙を救いたいインキュベーターが、その目的に利用できると思っている大聖杯のイレギュラーなど。全ての宇宙を終わらせたい真木からすれば、二の次三の次に過ぎず。
監督役として大聖杯の全情報を与えられた、あの狡猾な異星獣すら知り得ない隠し球が、まだ真木清人にはあるのでは――?
そんな疑問が、『王』の中で確かに芽吹いていた。
「メダルを破壊する存在など全て消し去ってしまいたいのだが、それがドクターの思惑に沿うのであれば、今からでも引っ込める方が得策ではないかとすら思えてしまえるよ」
とはいえ、垣間見えた真木の秘密の糸口でもある。
故に今は、そのような存在がいる――そして、討ち取れば特別な褒美が得られるかもしれない、と放送の中で仄めかすだけに止めた上で、様子を見ることにしたのだ。無論、他の面子にまだ話を通していないというのも事実ではあるのだが。
「その目的がわかっていながら、彼の勝利条件がわかっていないことは問題だ。どのタイミングで足元を掬われるともしれない今の状況は、そう易々と看過できないよ。本来なら早々に殺して憂いを断ちたいところだが……あくまで現状把握している戦力での話だが、この場にいる者で彼を倒せるのは私ぐらいだ。その私は、暫く裏リーダーという立場が足枷になって手を出せない。実に厄介だ。
……彼にばかり目を向けているわけにもいかない。他の競争相手は無論、ドクター真木以外にも我々とは全く違う結末を目指す者もいるかもしれないからね。
それでもやはり、彼にこそ一番の警戒が必要だろうと、私は思うよ」
本心から――おそらくは此度の戦争における最大の敵を見据えて、『王』は胸の内にある警戒心を旧知に語った。
837
:
第二回放送案
◆z9JH9su20Q
:2015/01/29(木) 01:39:25 ID:gHxhCPBA
「……存外、奴のことを恐れているのだな」
揶揄するわけではなく、真剣味を帯びたガラの確認に対し、『王』は躊躇うことなく頷く。
「ああ、私は誰よりも失うことを恐怖している。その恐怖心こそが何より欲望を奮い立たせるからね。
……かつて見ていた景色に永遠に届かないかもしれない、という恐怖で奮い立ち、誰より強欲であろうとするアンクくんのように」
かつて最も己と似ていると語り、予想通りその片割れが先立って脱落した今、自らが聖杯を掴むための傀儡となっているグリードの名を、『王』は懐かしむように口遊む。
「そして人が最も恐れるのは、理解の及ばないものだ。私にとっては、己自身の欲望を否定し狂った使命などに憑かれた、ドクター真木こそがそれに当たるのだよ」
自らの不明を、『王』は潔く認めた。
そして――
「まったく以て――恐ろしく、愉しい相手だ、彼は」
紳士然としていたその顔に、獰猛で残忍な笑みを刻んでいた。
「失墜する恐怖を、実際に体験した上で――また、それを私に齎しかねない敵がいるのだ。こんな緊張感は、かつて得たことがなかった。
これを下し、その全てを奪い尽くし、勝利の杯を掴んだ時……私の中に生まれる満足はどれほどのものなのか、楽しみで仕方がないよ」
それこそ、真木だけではなく。
かつて世界の頂点に、最も近づいたその『王』を取り囲むのは、時を越え世界を越え、集められた数多の障害。
未だ全貌を知らぬ敵も多い。数多残る未知なる恐怖の全てを解き明かし、屈服させ、支配するその時に思いを馳せながら――『王』は口角を釣り上げたまま、会場の観戦に戻るべく歩を進め始めた。
「そして、あの時は掴めなかった力……聖杯から齎される、真に無限のセルメダルと合わせれば、全てのコアメダルを取り込むことも可能となるだろう。
今度こそ、私は全てを手に入れる! 私が支配する、新たな世界を誕生させるよ!」
「――つくづく欲望に塗れ、腐れた輩よ」
昂ぶりのまま哄笑する『王』の背を見送りながら、ガラは嫌悪を交えて呟いていた。
「とはいえ、やはり話程度は聞いてみるものだな。
真木清人……令呪を奪ったところで旨みがないと軽視していたが、多少は意に留めるとするか。
『王』の望み通り奴ら同士で潰し合わせたいところだったが、令呪の縛りとは難儀なものよ」
この先に待つのは、大聖杯への切符たる令呪を巡る未曾有の争奪戦だ。その果てに掴み取った色が万が一にも外れていては、喜劇にもなりはしない。
どうせ、戦いの趨勢が定まるまでは迂闊に手は出さないつもりであったが……聖杯を掴む唯一の権利である令呪を手にするために行動に移るタイミングは慎重に検討を重ねるべきなのだろう。
故に、雌伏の時は暫し続くだろう。
838
:
第二回放送案
◆z9JH9su20Q
:2015/01/29(木) 01:40:09 ID:gHxhCPBA
「――今は仮初の玉座の心地を堪能するが良い、『王』よ。
新たな世界を作るのは貴様ではない……そして世界を終わらせるのも真木ではない。
欲望で腐った今の世を終わらせ、新たな世界を作る真のオーズは、この我だ」
野心の錬金術師もまた、己の勝利を目指し歩みを再開した。
「――――ああ。君の欲望が生み出す余興にも、期待しているよ」
既に聞こえなくなっていたはずの言葉への返答は、やはり相手に届くことはなかった。
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
互いに喰らい淘汰し合い、盤面に残された駒の数は33。
最後に残ったそれを掴もうと、卓を囲む強欲の席は五つ。
その席を狙う影はなお、数知れず。
そして、未だ思惑の知れぬ終末の探求者が一人。
盤の上で、その外で。絡み交わり睦み合う彼らの欲望の果てに待つのは、勝利を得た“王”が掴みし黄金の杯が湛える、無限大をも超える可能性(オーズ)の力か。
それとも――
――――ただ、確かなのは。
終局図を決めるものは、たった一つ。
どこにいるとも知れない、それを抱く誰かが選ばれる、その終わりの時まで――物語は、続いて行く。
――――またどこかで、メダル《欲望》の散らばる音がする――――
【残り 33人】
839
:
第二回放送案
◆z9JH9su20Q
:2015/01/29(木) 01:40:51 ID:gHxhCPBA
【二日目 深夜(?)】
【???】
【『王』@仮面ライダーOOO】
【所属】赤・裏リーダー
【状態】健康、左手の甲に令呪(赤)保有
【首輪】なし
【コア】不明
【装備】不明
【道具】不明
【思考・状況】
基本:“欲望の大聖杯”を掴み、全てを手に入れる。
1:バトルロワイアルを完結させ、“欲望の大聖杯”を起動する。
2:1と並行して、自身が聖杯を獲得できる準備を進める(赤陣営を優勝させるか、令呪を消費・放棄して他色の令呪を奪う)。
3:ドクター真木の動向を警戒。
4:コアメダルを破壊できる存在に対する討伐令を本当に参加者に下すかは、これからの様子を見て判断する。
【備考】
※800年前、初代オーズに変身していた『王』本人です。この場では人間としての名前は捨てて“オーズ”と名乗っています。
※参戦時期ははっきりしていませんが、現代の時間軸において聖杯の力で封印から解き放たれ復活しての参戦です。
※無所属が勝利することで世界に終末が訪れるが、少なくともインキュベーターの宇宙は存続を許されると予想しています。そして真木がその結末では満足しないだろうことから、他にも何か隠し球を持っている可能性を考えています。
※無所属の勝利条件が、他陣営から勝利者が出ない状況=全てのグリードが砕かれたノーゲーム状態ではないかと予想しています。
※彼の配下としてガラの他に誰が存在するのか、誰もいないのかは後続の書き手さんにお任せします。
【ガラ@仮面ライダーOOO】
【所属】不明
【状態】健康、イリヤスフィールの身体に憑依中
【首輪】なし
【コア】不明
【装備】不明
【道具】不明
【思考・状況】
基本:真のオーズとなるため、“欲望の大聖杯”を手に入れる。
1:バトルロワイアルを完結させ、“欲望の大聖杯”を起動する。
2:1と並行して、自身が聖杯を獲得できる準備を進める(優勝陣営の令呪を奪う)。
3:2のために、『王』を出し抜く。
【備考】
※器にはイリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/Zeroを利用しています。
※劇場版で倒されたのとは別の世界線の、復活する前からの参戦です。
【全体備考】
※主催側に【『王』@仮面ライダーOOO】が存在しています。また、『王』が赤陣営の裏リーダーでした。
※【G‐3】が禁止エリアに指定されましたが、主催陣営がオズワルド内で起こっている事象を把握しているか、している場合どこまで情報が共有されているのか、どのように認識しているのかは後続の書き手さんにお任せします。
※会場内の土地や施設の一部は、ガラが元の世界から持ち込んだものでした。しかしアインツベルン城が空美町に存在するように本来の空間と相違点もあるため、どこまでが本物でどこまでが再現された造り物であるかは後続の書き手さんにお任せします。
※会場内の全てのATMで、振り込み機能が追加されました。
300枚に達さずとも首輪から取り出したセルメダルを自分の口座に振り込んだり、特定のサービスを受けるために支払ったりすることができます。
現在ATMで利用できるサービスは、『殺害数ランキングの閲覧』のみになります。
※『殺害数ランキングの閲覧サービス』について:
一人以上の参加者を殺害している参加者がATMから主催側の口座に50枚のセルメダルを振り込むことで、殺害数ランキングの閲覧が可能となります。
該当人物の殺害数、及びその被害者名を確認することができますが、ランキングされた者の生死やスタンス、所属陣営については表示されません。
現時点では第二回放送までの殺害数ランキングしか閲覧情報に反映されていませんが、これがどのタイミングで最新の情報に更新されるのかは後続の書き手さんにお任せします。
840
:
◆z9JH9su20Q
:2015/01/29(木) 01:42:32 ID:gHxhCPBA
以上で放送案の仮投下は完了になります。
何か問題点等ありましたら対応致しますのでご指摘の方よろしくお願い致します。
841
:
◆m4swjRCmWY
:2015/02/07(土) 21:17:58 ID:snjdR.yE
仮投下します
842
:
第二回放送案
◆m4swjRCmWY
:2015/02/07(土) 21:20:40 ID:snjdR.yE
カチリ、と時計の針が1日の終わりを示す。
本来ならば誰もが暖かい布団に身を包み、惰眠を貪るべきこの時刻。
───この場でも。
同じように過ごすことができたらどれだけ良かったことか。
『……生き残りの皆さんこんばんは。お初にお目にかかります』
欲望渦巻く会場に───どこか胡散臭さが漂う、男の声が響く。
▲ ▲ ▲
折角の放送だというのに、申し訳ございません、声だけのお伝えで。
私としても直接お伝えしたいのですが、それは出来ない決まりでして。
ああ、名乗り遅れました。
私の名は海東純一と申します───以後、お見知り置きを。
さて、皆さんも気になるでしょう。
悲しくも敗北した脱落者の名を読み上げたいと思います。
一度しか言えませんので……どうか、お聴き逃しのないようお気をつけください。
雨生龍之介。
ウヴァ。
加頭順。
桂木弥子。
鹿目まどか。
桜井智樹。
ジェイク・マルチネス。
セシリア・オルコット。
伊達明。
ニンフ。
凰鈴音。
フェイリス・ニャンニャン
牧瀬紅莉栖。
メズール。
───以上、14名です。
……嬉しいです、貴方達がこんなにも協力的で。
次は禁止エリアのお知らせです。
今まで通り、禁止エリアに侵入し一定時間経過すると首輪が爆発してしまいますので、気をつけてください。
次の禁止エリアは、
【B-2】
【G-6】
【E-4】
以上三エリアが二時間後に禁止エリアとなります。
首輪の爆発なんて最後、貴方達も望んではいないでしょう。
次は、各陣営のメダル数の通達です。
現在、この場にあるコアメダルは64枚。
赤陣営───11枚。
黄陣営───15枚。
緑陣営───18枚。
青陣営───8枚。
無所属───12枚。
白陣営についてはリーダーが消滅しているので陣営自体が存在していない、ということですね。
生還したいのならば、無所属の方達は早めに他の陣営に所属することをお勧めしますよ。
コアメダルの保有数では緑陣営が一番ですが、黄陣営がトップの人数を誇っています。
敵陣営の人数を減らすか、リーダーを倒して他の参加者を自陣営に引き入れるか……方法は自由ですが、まだどの陣営にも勝利は残されています。
他にも様々な方法を考えるのも自由……皆さん、頑張ってください。
ではこれで放送を終わらせて───
ああ、あと一つ。
一つだけ、まだありました。
皆さんの中で、大切な存在が亡くなられた方はいらっしゃいますか?
家族は?姉弟は?相棒は?思い人は?友達は?仲間は?宿敵は?恋敵は?
その亡くなった大切な存在がどのようにして亡くなったか、ご存知ですか?
───亡くなった方が……誰に殺されたか、知りたくはないですか?
843
:
第二回放送案
◆m4swjRCmWY
:2015/02/07(土) 21:22:29 ID:snjdR.yE
そんな貴方達のために、私達も手を打ちました。
この放送終了後から新しい機能が追加されます。
セルメダルを預けることができるATMに、です。
貴方達の所持するメダルから50枚ATMに投入していただければ……指定した脱落者一名が脱落したその一部始終を、映像でお見せしましょう。
そう───脱落してしまった、貴方達の大切な人を殺した方が分かるのです。
しかし、誰も彼もが見てしまえるのでは、このゲームに協力的な方が損をしてしまいます。
そこでもう一つ、条件を付属させることにしました。
脱落者の首、です。
首輪───脱落者の首輪をATMに投げ込んでいただければ、お見せしましょう。
脱落者の首輪とセルメダル50枚で大切な人の仇が誰なのか、それを知ることができる……良い取引でしょう?
利用されることを、私はおすすめします。
さて、放送としてはこんなところでしょうか。
では私はこれで失礼したいと思います。
次の放送でまた出会えるよう、頑張ってください───
▲ ▲ ▲
カツ、カツ、と革の靴が床面を叩く。
その足音から感情は感じ取れない───当たり前だ、彼は己の世界で自分の野望を勘付かれることなく隠し通した男なのだから。
(……何故だ)
しかしその頭の中は、疑問が飛び交っていた。
真木は何故このタイミングで放送を自分に任せたのか───1度目の放送は己の手で済ませたというのに、何故。
放送自体はそう手のかかることでもない上に、現時点では此方が慌立たしくなるようなことも起こってはいない。
放送に構っていられないほど忙しい、ということはないだろう。
ならば。
純一はゆっくりとポケットの中の硬い感触を確かめ、思う。
(もしやコレのことがバレて───いや、それは無い筈だ。
知っていて泳がされている、という可能性もあるが旨味が無さ過ぎる)
第二のジョーカーになるという思考までが見抜かれているのならば、即座に対応するはずだ。
ジョーカーとは正に世界にとっての天敵そのもの───生物を無に帰す最悪の切り札。
楽に始末できる存在ではない。
そのジョーカーへとなることまで見抜かれているのならば、その前に対処するのが上策だ。
だからこそ『見抜いているが泳がせている』という可能性は低くなる。
(行動を見抜かれているにしてもいないにしても、もう少し慎重に動かなくてはいけないかもしれないな)
ジョーカーの力は強大。そのものになってしまえば、ヤツらのある程度までの行動などでは歯も立たないであろう。
それまでの辛抱だ。気配を殺し、何としても上手くやってみせる。
カツカツ、と足音を鳴らしながら次の行動へ移る。
惚けている暇はない。
彼が歩むのは野望と修羅の道。
止まる必要も、理由もないのだ。
(───大樹は呼ばれなかったか)
だが。
己の中の小さな安堵に気づかぬまま、彼は進む。
▲ ▲ ▲
844
:
第二回放送案
◆m4swjRCmWY
:2015/02/07(土) 21:23:41 ID:snjdR.yE
「コアメダルが破壊されましたか」
明かりが行き届かない、暗い部屋にて真木は一人呟く。
いや、腕に彼の本体と称しても過言ではない存在が腰かけているので、正確には一人と一体か。
「まさかここまで早く砕かれるとは思っていませんでした……が、この程度ならば想定の範囲内。
対策は必要でしょうが、しょうがいにはならないでしょう」
早急に手を打っておくに越したことはありませんが、と続ける真木の顔には表情と呼べる物は存在していなかった。
あくまで、事実を告げるだけ。
其処に感情など含まれてはいない。
だが。
この時、この一瞬だけ、目元に苛立ちが宿った。
「……貴方に言っているのですが、反応は無しですか」
それは。
独り言にしては───誰かに投げかけるような、奇妙な言葉だった。
真木が視線を向けた先には、光の届いていない暗いタイル張りの床のみ。
生物の存在など毛ほども感じ取れない。
だが、真木は再度言葉を投げかける。
其処に、誰かがいることを知っているように。
「貴方がいることは分かっているんですよ───間桐の御老体」
間桐。
魔術師ならば、多くの者がその名を知っているであろうその名。
その名を口にした瞬間。
ぞぞ、と。
何かが這うような、音がした。
ぞぞ。
ぞぞぞ。
ぞぞぞぞ。
ぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞ───
大量の『何か』が床を這う音。
人間ならば生理的な嫌悪感を抱かずにはいられない音が暫く続いた。
そして。
その音が止んだ頃。
人らしき声が、聞こえた。
「───呵」
それは、笑い声だった。
老人の枯れた喉から発せられる声。
「───呵々」
しかし、弱々しさなど皆無。
むしろ声から発せられるその存在感は、ソレと正面から対峙してはいけないと警告を鳴らす。
「呵々々々、呵々々々々々々々々!!
───いや、まさか気づかれるとは思わなんだ。気配は殺していたつもりだったのだがなぁ」
闇より出でたのは───魔術師、間桐臓硯。
ある世界の一つの冬木市で行われる『聖杯戦争』を創り上げた、御三家と呼ばれる家系の一つ。
その、長である。
「そう怒るでない。儂としてもおぬしと争うつもりは無いのでな。
清人よ、おぬしも分かっていよう。おぬしの力ならば儂など簡単に消し飛ばせるのを」
「……貴方のことです、どうせ隠し玉でもあるのでしょう」
「さあ、どうであろうな」
ニヤリと笑うその口元からは、笑みに込められるであろう暖かさなど篭ってはいない。
確かに、真木の体内に眠る紫のコアメダルの力を使えば臓硯など瞬く間に消し飛ばせるだろう。
だが、しかし。
真木としては───目の前のこの老人が、そう簡単に殺されるようにはとてもではないが思えないのだ。
845
:
第二回放送案
◆m4swjRCmWY
:2015/02/07(土) 21:24:47 ID:snjdR.yE
「コアメダルの破壊については儂が何とかしよう。
全部破壊されては困るしの───コアメダル破壊を禁止にして好戦的な参加者に慎重になられても困る。
破壊する側にも集めたい側にも、ある程度公平になるようにする術を考えておくぞ」
「……ええ、お願いします」
「儂としてもこのゲームが頓挫するのは困るのでな。
おぬしもこの儂が出す提案なら安心出来ようて」
チラリ、と臓硯は真木の手の甲───正確には、刻まれた紫の令呪に視線を投げかける。
間桐とは、聖杯戦争における御三家の一人である。
遠坂は儀式に必要な環境の土地を。
アインツベルンは聖杯として機能する『器』を。
そして間桐は───聖杯戦争のシステムと令呪を創り上げた。
そして、この場は欲望の大聖杯を巡る、言わば亜種の聖杯戦争とも言える存在。
聖杯についての知識量は間桐臓硯はこの場の何者よりも上回る。
「まあ、あの白猫の知識も借りることにはなるであろうが。
残念だが、ゲームについての知識は疎いのでな」
呵々、と臓硯は笑う。
その姿を見た真木は、思わず眉間に皺が寄る。
聞いたところによると、この間桐臓硯は長い時を生き続けている存在らしい。
常人より遥かに長い時を、このような醜い姿で。
───それは、正に真木清人が嫌う『醜さ』そのものだった。
長い時を生き続け、醜くなってしまう。
『醜くなる前に、美しい内に終わらせる』『終わって初めて完成とする』彼の思想の真逆の存在。
だからこそ、真木は間桐臓硯を認められない。
好ましく思っていない。
普段ならば今にでも消し去りたいほど───だが、真木はそれを行わない。
否、出来ないのだ。
何故ならば。
───間桐臓硯の手の甲に刻まれた、緑の令呪。
彼も、裏陣営リーダーの一人だからである。
裏陣営リーダー同士は、お互いを害することができない。
それ故、真木は手出しができないのである。
昆虫系コアメダルの王の三枚、ガタキリバコンボのオーラングサークル。
肉体が既に蟲の軍隊となっている彼に宿るのは、当然と言えた。
「ではな、清人よ。案が決まればまた会おうぞ」
と。
その言葉を最後に臓硯は消えた。
ふう、と口から吐息が漏れる。
臓硯は真木の最も嫌う象徴であり醜くはあるが、その知識は折り紙付きだ。
信頼してもいい人物の一人。
……のはず、なのだが。
「……インキュベーター君」
誰もいないはずの虚空へ呼びかける。
すると、何時の間に其処に居たのか、鈴を鳴らしたような可愛らしい声と共に白い体毛の小動物が現れた。
真木がインキュベーターと呼んだ存在である。
「なんだい?君から呼ぶなんて珍しい」
「ええ……間桐臓硯の監視を頼めますか」
「……それは、何故だい?間桐臓硯は君と同じ裏のリーダー……言わば仲間だと思うけど」
「……」
846
:
第二回放送案
◆m4swjRCmWY
:2015/02/07(土) 21:25:32 ID:snjdR.yE
真木は答えない。
如何しても間桐臓硯を野放しにしてはいけない、と彼の直感が叫ぶのだ。
理由がある訳でも、確証がある訳でもない。
一つだけわかることがあるならば───真木清人と間桐臓硯は決して相容れないということ。
それだけだ。
だというのに───いや、だからこそか。
正反対に位置する二人はいつか必ず衝突する、と直感じみた確信が真木の中にはあった。
「……まあいいよ。君の目的のための行動は僕の目的のための行動でもある。
不審な行動はないか、よく見ておくよ」
「頼みます」
インキュベーターが再び消える。
残りの障害は───特にない、か。
コアの破壊の対策に関しては間桐臓硯という不安事項があるものの、インキュベーターも共に考えるというので大丈夫であろう。
海東純一はまだ野放しで大丈夫だろう。
『放送を任せる』という牽制を放った今、目立った行動はしないだろう。
「……」
がちゃり、とその場にあった椅子に腰掛ける。
「伊達君は脱落しましたか」
ポツリと呟くのは、一人の男の名前。
感情など入っていないその声は、悲しみなのか失望なのか───何方にも取れるような、空虚を感じさせた。
▲ ▲ ▲
847
:
第二回放送案
◆m4swjRCmWY
:2015/02/07(土) 21:26:15 ID:snjdR.yE
(呵々、残念よのう清人よ。感づいたのは正しいが、いやはや手段が悪い)
緑陣営の裏リーダー、間桐臓硯は笑う。
あくまで心の中で。表情には出さず。
既に臓硯の使い魔───一匹の蟲が、真木清人とインキュベーターの会話を聞き遂げていたのだ。
よって。
真木が此方を警戒していることも、インキュベーターが見張りとしてやってくることも把握済み。
(まあ、さすがに儂の目的にまでは感づいていないようだがの)
臓硯はサスリ、と己の手の甲に刻まれた令呪を撫でる。
この緑の令呪に対応する陣営───つまり緑陣営が勝利した時のみ欲望の大聖杯をこの臓硯が使用できるらしい。
ということは。
優勝が決まるまで臓硯は何もすることはできず、そして他の陣営が勝利した場合手をこまねいてそれを見届けルコとしかできないと言うことである。
陣営裏リーダーは互いを害することができないため、阻止すら難しい。
よって今の臓硯は眺めていることしかできない。
……だが。
この長き時を生きた魔術師が、そのように行儀の良く静観するだろうか?
(細工をするなら聖杯そのもの───否、この令呪か。何ならメダルというのも良いか。
まだ細工を施す時間も思案する時間も多く残っておる。
ぼちぼち行動していくかのう)
ニヤリ、と臓硯は笑う。
もしかすると海東純一を含む『リーダーではない者』を手懐けて此方を排除する可能性も考えておかねばならないか、と。
(まあそれでも構わん。
儂には『アレ』がおるのでな───)
老獪の魔術師は歩を進める。
全ては、己の望みを叶えんとする欲のために。
───長い時が流れ歪んでしまった、己の欲望のために。
▲ ▲ ▲
848
:
第二回放送案
◆m4swjRCmWY
:2015/02/07(土) 21:27:42 ID:snjdR.yE
───残った餌は33。
生きたいのならば喰らえ。
勝ちたいのならば喰らえ。
欲のままに、あらゆるモノを喰らえ。
欲望のままに、己のためだけの願いのために。
さすれば奇跡は与えられん。
───しかし。
それが己のモノかどうかは、また別の話。
がばり、と足の下で欲望が口を開く。
喰われるな。喰い尽くせ。
勝利の鍵は───己の内に眠る、求める本能だけである。
【残り人数 33人】
【二日目 深夜(?)】
【???】
【真木清人@仮面ライダーOOO】
【所属】無・裏リーダー
【状態】健康、左手の甲に令呪(紫)保有
【首輪】なし
【コア】不明
【装備】不明
【道具】不明
【思考・状況】
基本:世界に良き終末を。
1:バトルロワイアルを完結させ、“欲望の大聖杯”を起動する。
【備考】
※原作最終回後の参戦です。恐竜グリードと化してはいますが、参戦時期の都合から何枚の紫メダルを内包しているかは後続の書き手さんにお任せします。
※カオスに親近感を覚えています。
※無陣営に関するイレギュラーの真実を知っています。
※間桐臓硯に嫌悪感を抱いています。
【間桐臓硯@Fate/ZERO】
【所属】緑・裏リーダー
【状態】健康、左手の甲に令呪(緑)保有
【首輪】なし
【コア】不明
【装備】不明
【道具】不明
【思考・状況】
基本:“欲望の大聖杯”を掴み、全てを手に入れる。
1:バトルロワイアルを完結させ、“欲望の大聖杯”を起動する。
2:優勝の他に自身が聖杯を獲得するために細工する(令呪に細工するか、コアメダルに細工するか聖杯に細工するか。現時点では不明)。
3:ドクター真木の動向を監視。
4:コアメダルの破壊についての対策法をインキュベーターと考える。
【備考】
※参戦時期は不明ですが、少なくとも第四次聖杯戦争が終結した後です。
※例え誰かに襲われたとしても、対応できる『何か』を所持しています。
※蟲を配置し真木を監視しています。
他にも何か監視しているかは不明です。
【海東純一@仮面ライダーディケイド】
【所属】不明
【状態】健康
【首輪】なし
【コア】不明
【装備】カリスラウザー&ラウズカード(ハートA〜K、ジョーカー、ケルベロスA)
【道具】不明
【思考・状況】
基本:全ての世界を支配するため、“欲望の大聖杯”を手に入れる。
1:バトルロワイアルを完結させ、“欲望の大聖杯”を起動する。
2:1と並行して、自身が聖杯を獲得できる準備を進める(優勝陣営の令呪を奪う)。
【備考】
※真木に己の行動が勘付かれた可能性を考えましたが、その線は薄いと思っています。
【全体備考】
※主催側に【間桐臓硯@Fate/ZERO】が存在しています。また、間桐臓硯が緑陣営の裏リーダーでした。
※『殺害時の映像公開制度』がATMに追加されました。
セルメダル50枚と脱落者の首輪を一つATMに投入し脱落者の名を選べばその脱落者の死亡までの映像の一部始終を見ることができます。
849
:
第二回放送案
◆m4swjRCmWY
:2015/02/07(土) 21:30:06 ID:snjdR.yE
投下終了です。
そして修正点なのですが間桐臓硯の出展は
Fate/ZERO
ではなく
Fate/Zero
でした
誤字してしまっていたようです
他ご指摘、問題点などあればお願いします
850
:
◆qp1M9UH9gw
:2015/02/07(土) 23:53:16 ID:rjmwJebI
放送案投下開始します
851
:
◆qp1M9UH9gw
:2015/02/07(土) 23:55:20 ID:rjmwJebI
【1】
第一回定時放送から六時間が経過した。
予告通り、定時放送を始めさせてもらう。
真木氏は多忙につき、放送に手が付けられない状況だ。
故に今回は私――言峰綺礼が放送役を務めさせてもらおう。
まず、この時点で死亡した参加者を発表する。
前以て言っておくが、この内容に嘘偽りはない。
全てが真実である事を、肝に銘じておくといい。
雨生龍之介
ウヴァ
加頭順
桂木弥子
鹿目まどか
桜井智樹
ジェイク・マルチネス
セシリア・オルコット
伊達明
ニンフ
凰鈴音
フェイリス・ニャンニャン
牧瀬紅莉栖
メズール
以上十四名が死亡した。
残り人数は三十三人、およそ半分の参加者が死亡したという事になる。
この調子で参加者が減れば、ゲームの完遂までそう時間はかからない筈だ。
真木氏に代わり、諸君らの更なる奮闘に期待させてもらおう。
次に、禁止エリアを発表する。
【B−2】
【G−6】
【C−7】
【】
真木氏が先の定時放送で述べた通り、指定されたエリアに踏み込んだ者は首輪を爆破される。
現在の禁止エリアの状況を把握し、それに応じた戦術を練るのをお勧めしよう。
次に、各陣営のコアメダル所持数を発表する。
赤陣営が11枚。
黄陣営が15枚。
緑陣営が18枚。
青陣営が8枚。
そして、12枚を無所属が保有している。
白陣営はリーダー喪失に伴い、陣営自体が消滅する事となった。
承知しているだろうが、生還できるのは一つの陣営のみとなっている。
現在無所属の参加者は一刻も早く他陣営に取り入る様、善処するように。
最後に、追加ルールの発表を行う。
各所にセルメダル用のATMがあるのは知っているだろうが、そこに一つ新機能が加わった。
それは、諸君らに嵌められた首輪とセルメダルの換金機能だ。
生体反応の失われた首輪を用意された装置に投入する事で、セルメダル50枚の取得が可能となっている。
首輪の数には限りがある、更に首輪を外すには遺体の首を刎ねるのと同義だ。
……私としては強く勧めるつもりはない。戦略の一つとして視野に入れておくといい。
以上で、定時放送を終了させてもらう。
次回も六時間後の放送を予定している。
諸君らの健闘に期待する。
852
:
◆qp1M9UH9gw
:2015/02/07(土) 23:55:52 ID:rjmwJebI
【2】
パチ、パチ、パチ、と。
言峰の後ろから、渇いた拍手の音が響いてきた。
つい先程まで使用していた放送器具に背を向けると、視界には言峰に勝るとも劣らない長身の男の姿が見えた。
「随分とつまらない放送だったね、どうして原稿通りに話さないんだい?」
「定時放送はあくまで情報提供の一環だ。過度に参加者を煽り立てる場ではない」
あくまで冷静に、淡々と言峰はそう述べる。
放送を担当しろと真木に指示された際、彼は専用の原稿を受け取っている。
そこに書かれていたのは、参加者をあざけ嗤い、そして闘争に駆り立てる悪劣な演説だった。
言峰がその文章通りに放送を行わなかったのは、その内容に不快感を覚えたからに他ならない。
定時放送には私情を交えず、あくまで事務的に行うべきだというのが、彼の持論である。
「違うね綺礼、放送だからこそ、彼等を扇動するしなければいけないのさ」
「……仮にそうだとしても、あの様な悪意に満ちた文章など誰が――――」
そこにきて、言峰はようやく気付く。
あの悪意の羅列を紡げる男が、丁度自分の目の前にいる事に。
彼こそが、この緑の王こそが、此度の放送の仕掛け人と見て違いない。
「アレを書いたのはお前か、緑の王」
「頑張ってみたんだが、気に入ってくれないようだね」
肯定の言葉を示した後、彼は楽しげに笑う。
その様はまるで、子の成長を見守る父親さながらであった。
彼の父親でも血族でもない言峰は、その様子を前に目を細めた。
「君に放送に出ろと命じたのも私さ、良い退屈しのぎになると思ってね」
言峰が緑の王に抱く印象は、最悪と言っても過言ではない。
殺し合いなどという悪趣味極まりない催しを企画したという時点で、
主催陣営は邪悪以外の何物でもないのだが、この男はその中でもよりわけ悪質だった。
何しろ、たった一目見ただけで悪人だと本能的に理解させられる程に、"彼"の悪意は強大なのだから。
「……何故、私なのだ」
「それはどういう意味だい?」
「何故私を放送役に選んだ。それだけではない。私がこの殺し合いに関わる必要性はあったのか?」
ずっと胸に燻っていた疑問が、思わず口から衝いて出た。
此度のバトルロワイアル――の皮を被った聖杯戦争において、言峰は監督役の立場に置かれている。
何らかの形で不正が行われた場合を考慮し、それぞれの王を監視するという役目を担っているのだ。
だが言峰としては、その立場の必要性に疑問を禁じ得ない。
何しろ、この聖杯戦争には既にインキュベーターという監視役が存在するのである。
常時複数人の監視を行える彼等がいて、言峰の様な一個人がどうして必要となるのか。
853
:
◆qp1M9UH9gw
:2015/02/07(土) 23:56:23 ID:rjmwJebI
疑問はそれだけに留まらない。
監督役という立場が必須だとしても、何故真木達は言峰綺礼をその位置に立てたのだろうか。
もし聖杯戦争に詳しい存在を必要としたのなら、父である言峰璃正の方が適任だっだ筈だ。
「なるほど、君も疑問だったようだね」
待ってましたと言わんばかりに、緑の王は笑う。
そう問うのが当然かの様な態度を前に、言峰の頬に一筋の汗が伝う。
この男の姿を視界に映していると、時折異様な威圧感に襲われるのだ。
まるで人間以外の存在を、かといって死徒の様な化物とも違う何かを相手にしている様な感覚。
「知っているのか?」
「当然だとも。何しろ君を呼んだのは私なんだからね」
答えを聞いた途端、言峰の眼が見開かれた。
あまりにも分かりやすい愕然を顔に浮かべた後、
「なっ……何故だ!?何が楽しくてそんな真似を!?」
「私が君の本質を知っているからさ。君の奥底にしっかりと根付いた本質をね」
見透かされた様な目線が、言峰を総身を射抜く。
背中に冷や汗が流れ、心臓が早鐘を打ち出した。
自身の奥底に潜む本能が、警鐘を鳴らし始めている。
この男に関わってはいけないと。関われば最後、言峰綺礼という存在を根本から変えかねないと。
「痴れた事をッ!会って間もないお前に私の何が理解できる!?」
「そう怒るのが証拠さ。図星を突かれて動揺しているじゃないか、君は」
無意識の内に檄を飛ばした事実に、言峰はようやく気付く。
彼は隙間もないのに後ずさり、踵を放送器具にぶつけてしまう。
そして、衝突音を合図にしたと言わんばかりに、緑の王は話を続ける。
「自分の中に潜む悪性を否定し、それ以外の愉しみを手にする為に命を賭してきた。
だが諦めた方がいい。君が人間の娯楽如きで愉悦を掴むなんて、それこそ不可能なのだからね」
「ならば、どうしろと……ッ!?」
「簡単じゃないか。君の悪性を受け入れればいい」
自分が禁じていた行為を、緑の王は容易く言ってのけた。
その通りである。他でもない言峰が、それが近道である事を一番理解している。
言峰綺礼という男は、幸福な結末よりも不幸な結末を望む男であるという事を。
美しい物を美しいと思えず、醜悪な破滅に美を見出す存在である事を。
自分の負の一面を取り込めば、今までこんな苦労などしなかったに違いない。
だが、それを理解していたからこそ、彼はその悪性と戦ってきたのだ。
「馬鹿な!それこそ罰せられるべき悪徳だッ!唾棄すべき邪悪ではないか!」
「そうだとも、君は邪悪だ。私と同じ悪意の怪物なんだよ」
「同じだと!?どこにそんな証拠が――」
「なら逆に聞こうじゃないか。どうして君はこのゲームに参加したんだい?」
854
:
第二回放送-起源覚醒-
◆qp1M9UH9gw
:2015/02/07(土) 23:56:53 ID:rjmwJebI
投げられたその問いに対して、すぐに答えが出せなかった。
聖杯戦争の監視役として参加した事に、特に深い理由などない。
単に必要とされたから応えただけであって、それ以上の目的などありはしない筈なのだ
「我々の誘いを断る道もあった。だが君はあえてこの聖杯戦争に協力した。
君は無意識の内に願ったのさ。この殺し合いを存分に愉しみたい、と」
そうだろうと、と言わんばかりの言い分。
それに反論をする事が、言峰には出来なかった。
確かに、強制的に拉致された参加者側と違い、主催側は無理やり集められた訳では無い。
その気になれば、殺し合いに関わるのを止める道もあった筈なのだ。
緑の王は所詮屁理屈に過ぎない。聴くに値しない戯言である。
だが、その聴くに値しない戯言に、言峰の脳は混乱させられている。
「綺礼、君は人間とは違う。人間の数倍の悪意を持って生まれた新種なんだ。
君は私の盟に加わる資格がある。いや、最早運命と言ってもいい」
扉のすぐ近くにいた緑の王が、放送器具の背にする言峰に近づいてくる。
後ずさりしようとする言峰だったが、何故か身体は微動だにしない。
半ば金縛りにあったも同然の状態のまま、彼は緑の王と相対した。
黒い服装に黒い長髪、そして小さな髑髏が幾つも括りつけられたネックレス。
彼の格好は、神父である言峰にある一つのイメージを浮かび上がらせる。
地獄から現れ、無数の人間を堕落させてきた神々の宿敵――悪魔の姿を。
「私の仲間になりなさい、綺礼。そうすればきっと、君は全ての苦しみから解放される」
そう言って緑の王が差し伸べた手を、言峰はまじまじと見つめる。
この手を掴むという事は、それまで唾棄していた己の本質を認めるという事だ。
神に仕える者として、それ以前に一人の人間として、そんな真似は決して許されない。
しかし、そう理性で判断し、誘惑を拒絶しようとしても。
言峰の手はさながら夢遊病患者の様に動き出し、目前の手を握ろうとしていた。
この男には、他者の悪性を引き摺りだし、隷属させる才能がある。
あの手を取れば、言峰の苦悩は残らず霧消するだろう。
だが、それで良い訳がない。それを認めていい筈が無い。
そう必死に目の前の悪意を拒んでも、言峰の身体はまるで言う事を聞かない。
そのまま何かに縋る様に、彼の手は緑の王の元に――――。
855
:
第二回放送-起源覚醒-
◆qp1M9UH9gw
:2015/02/07(土) 23:58:15 ID:rjmwJebI
「綺礼を誘惑するのはマズいんじゃないかな?」
差し込まれた声は、緑の王の背中越しに発せられたものであった。
それで我を取り戻した綺礼は、半ば反射的に伸ばした手を引っ込める。
その直後、緑の王の肩にその身を乗せたのは、見慣れた獣の姿であった。
「彼は今回の聖杯戦争の監督官だ。君の手中に収まると均等が保てなくなる」
「誘惑……何の事かな?私はちょっとからかっただけさ」
悪ふざけをした子供の様な、屈託のない笑顔。
しかし、その身から放たれるのは、人間を超越した莫大な悪意。
「余計な時間を使わせてしまったね、綺礼」
自分の持ち場につきなさいと言い残し、緑の王は踵を返す。
彼の肩に乗ったインキュベーターも彼の肩から飛び降り、そのまま出口に向かう。
「ああ、それと。君が中立な監督役を続けるつもりなら、海東純一には警戒しておきなさい。
私にとってはどうでもいい羽虫同然だが、君にとっては重大な反逆者だからね」
そう言い残し、緑の王はインキュベーターと共に部屋を後にした。
一人残った言峰は、王に隷属しようとした自身の手を、焦燥交じりに見つめている。
彼をその様な状態にさせているのは、他でもない自分が催した感情への困惑だった。
「……そんな、馬鹿な」
認め難い、しかしその身で体感した事実である。
それ故に、言峰は自身に疑念を向けずにはいられない。
あの瞬間、"彼"の手を握ろうとしたあの時。
これまでにない程、自らの魂が高揚していた事に。
856
:
第二回放送-起源覚醒-
◆qp1M9UH9gw
:2015/02/07(土) 23:58:59 ID:rjmwJebI
【3】
自室のモニターを眺めながら、緑の王は一人考える。
言峰綺礼にどう接すれば、自らの囲いに取り込めるのかを。
彼はもう既に、言峰綺礼の願いの顛末を知っている。
あの男が他者の絶望を啜る外道になり果てる事は、最早確定事項だ。
幾つもの邂逅を重ねた後、彼は新たな種族に進化するのである。
だが、彼と会話を交わした言峰は、その"幾つもの邂逅"を経験していない。
己が本質に未だ苦悩を続け、愉悦の何たるかを理解していない哀れな求道者だ。
幾つもの監視の中で彼を導いてやるのには、少々骨が折れる。
(しばらくは愉しめそうだがね)
言峰が本質を受け入れるまでに、誰が絶望し誰が死ぬのか。
今は欲望の大聖杯の行方より、そちらの方に興味があった。
緑の王からすれば、欲望の大聖杯など所詮おまけに過ぎないのだ。
聖杯戦争という蠱毒の中で、絶望の中で死に絶える人間を鑑賞するのが、彼の一番の楽しみなのだから。
(そういえば、インキュベーターが面白い事を言っていたね)
ふと、インキュベーターの言葉を思い返す。
「言峰が中立で無くなると、聖杯戦争の均衡が保てなくなる」という彼の発言。
何を馬鹿げた事をと、緑の王は心中でほくそ笑んだ。
この聖杯戦争は端から平等ではないというのに、今更何を言っているのか。
コアメダルの量に差が出ているのが、不平等の根拠だ。
本来何の効力もない筈の800年前のタトバ――即ち10枚目のコアが強大な力を有し、
アクシデントの都合とはいえ、スーパータトバのメダルまでもが会場に散乱している。
これらの共通点は、どちらも赤、黄、緑のメダルの三種しか存在しないという所だ。
逆に言えば、白陣営と青陣営には10枚目のコアもスーパー系のコアも与えられていないという事でもある。
参加者の人選から見ても、10枚目のコアを持たない二陣営には不遇な点が目立つ。
青陣営には愚かにも他陣営の為に行動する参加者が複数おり、白陣営に至っては復讐鬼とその標的が同じ括りに入っているのだ。
協力が必須の状況でこの有様では、二陣営が早期に脱落するのは無理も無い話である。
欲望の大聖杯の大元となった冬木の聖杯は、セイバー,アーチャー,ランサーの三騎士が優位に立てるシステムだった。
最初に聖杯を呼んだ御三家を勝たせる為の処置であり、他のクラスはそれらの当て馬と言ってもいい。
言ってしまえば、赤、黄、緑の三陣営がその三騎士に相当し、残りの二つはその他のどうでもいい陣営も同然なのだ。
コアの枚数や参加者から透けて見える、特定陣営へのえこ贔屓。
この事実から生まれてくるのは、欲望の大聖杯が冬木の聖杯を模倣している可能性だ。
もしやあの聖杯は、"元にした"などという次元ではなく、冬木の聖杯の特徴をそのままコピーしているのではないのか。
そうだとすれば、格陣営の不平等な境遇にも納得ができてしまう。
そして、欲望の大聖杯が冬木の聖杯をトレースしていたのであれば。
もしかしたら、あの聖杯の中に潜む"絶対悪"も再現しているのではなかろうか。
もしそれが産声を上げたのなら、世界に齎されるのは間違いなく――。
知らずの内に口角が吊り上がり、頬も緩む。
後に起こり得る全ての悲劇に思いを馳せ、心を躍らせる。
悪逆を生き甲斐とする男に、嘆きと絶望の舞台ほど高揚するものはない。
「楽しい。こんなに楽しいのは久しぶりだ」
彼は――"絶対悪"シックスは、クツクツと嗤い出す。
今頃、海東純一はどんな手段を使って王に成り代わろうか思案しているのだろう。
無い知恵を必死に振り絞って、背後にいるであろう協力者と水面下で活動しているに違いない。
自分が裏切りを働いている事など、真木にすらお見通しだというのに。
「せいぜい足掻きなさい。そうすればきっと、綺礼の次くらいには長生きできるかもしれない」
"人間"を生きて返す気など無いのだがね、と。
唯一の新種は、再びモニターに意識を集中させるのであった。
857
:
第二回放送-起源覚醒-
◆qp1M9UH9gw
:2015/02/08(日) 00:00:20 ID:gqcItwSU
【0】
何故、緑の王はシックスとなったのか。
何故、青の王は篠ノ之束となったのか。
邪悪の名に相応しい悪である両者を、聖杯は何故選んだのか。
確証はない。所詮は可能性の物語。
だが、当てが外れる確立もゼロではない。
聖杯の奥底に、誰もが知らぬ魔が潜むという事実に。
駒も、王も、まだ誰も気付いていない。
彼等のすぐ傍で、巨大な悪意が芽吹きだしている事に。
その芽が花を咲かせた時、絶望だけが世界を食い潰すのだ。
盤面に残された駒の数は33。
舞台から零れ落ちる砕けた駒、それを受け止めるのは何者か。
万物を救済する黄金の窯か。あるいは、万物を破壊する漆黒の窯か。
積み上がる欲望の果てに、王はその瞳に何を写す――――。
――――またどこかで、メダル《欲望》の散らばる音がする――――
【シックス@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】緑・裏リーダー
【状態】健康、左手の甲に令呪(緑)保有
【首輪】なし
【コア】不明
【装備】不明
【道具】不明
【思考・状況】
基本:この殺し合いを愉しむ。
1:海東純一とその協力者が足掻く様を見届ける。
2:"新しき血族"の素質を持つであろう言峰に期待。
3:可能であれば欲望の大聖杯を入手しておく。
【備考】
※欲望の大聖杯が冬木の聖杯の特徴をトレースしているのではないかと推測しています。
【言峰綺礼@Fate/zero】
【所属】不明
【状態】健康、シックスへの不快感、高揚?
【首輪】なし
【コア】不明
【装備】不明
【道具】不明
【思考・状況】
基本:"欲望の大聖杯"を巡る聖杯戦争の円滑な進行。
1:与えられた任務をこなす。
2:自分の本質を認める訳にはいかない。
【備考】
※第四次聖杯戦争開幕前からの参戦。
※自身が本来の時間軸で悪性を受け入れる事を知りません。
※主催陣営にシックス@魔人探偵脳噛ネウロの存在が確認されました。また、シックスは緑陣営の裏リーダーです。
※主催陣営に言峰綺礼@Fate/zeroの存在が確認されました。主催側の監視を主な任務としています。
※ATMに換金機能が実装されました。今後はATMにて首輪をセルメダル50枚と交換できます。
858
:
第二回放送-起源覚醒-
◆qp1M9UH9gw
:2015/02/08(日) 00:00:53 ID:gqcItwSU
投下終了となります
859
:
◆qp1M9UH9gw
:2015/02/08(日) 03:56:21 ID:gqcItwSU
投票の最中ですが、追加ルールの案を変更させてもらいます。
>>851
の追加ルールの説明を、
最後に、追加ルールの発表を行う。
各所にセルメダル用のATMがあるのは知っているだろうが、そこに一つ新機能が加わった。
それは、諸君らが所持するセルメダルをアイテム等に交換する販売機能だ。
武器,弾丸は勿論、メダルさえあれば重要な情報の入手も可能となっている。
ただし、セルメダルは諸君らの力の源でもある。よく考えて利用するといい。
>>857
の参考の欄を
※ATMに売店機能が実装されました。今後はATMにてセルメダルをアイテムや情報に交換できます。
に変更します。
860
:
◆SrxCX.Oges
:2015/02/16(月) 23:10:28 ID:nYjSVlfc
大変遅れてしまいましたが、これより仮投下します。
861
:
◆SrxCX.Oges
:2015/02/16(月) 23:11:33 ID:nYjSVlfc
あの日から今までいつだって、一夏は私に優しくしてくれた。
それなのに、私はちゃんと本音も伝えられない不器用さばかりを晒していた。
照れ臭さを抑えて私の気持ちをアピールしては、それに気付かない一夏の鈍さに怒り、後になってから一方的に感情をぶつけた私自身に少し嫌気が差す、その繰り返し。
私なりに精一杯の恋をしているつもりでも、結果は切ないほどに空回り。
一夏に都合良く甘えるだけの、後悔の思い出ばかりを積み重ねていた。
それでも、いつの日か想いをちゃんと伝えられたら、きっと一夏はこの全ての思い出を笑い話にしてくれる。
無駄に強がっている今の私も、やっと素直になれた未来の私も、一夏は両方を理解し受け止れてくれる。
その日を迎えるために、私は明日こそはと何十度目かの決意を一人固める。
半ば習慣となっているのは、失敗する度に次は次はと引き延ばし続けたことを示しているのだが。
実際、今日もまた思い返すだけでも下らないことで一夏に癇癪を起こしたきり、別れてしまったのだ。
それでも、今日は、今日の決意は本物だ。
明日こそは恋を実らせ、一夏のとなりに立てるようになる。
同じ夢を、歩けるようになる。
大丈夫、きっと叶うはず。だって、誰にも負けないくらいに好きだから。
だから、もう少し待っていてくれ。
きっともうすぐ、ちゃんと――
◆
「少し、入らせてもらってもいいかね?」
格子越しに目線を向けるアルバート・マーベルックは、篠ノ之箒にとって久方ぶりに接触する他者であった。
力関係が明らかである以上箒の意思など聞かずに踏み込んでくれば良いものをこうして訪ねてくるのは、絶対的優位から為せる余裕か、はたまた別の理由か。
「……拒否できる立場じゃないことをわかって聞いているのか?」
「ああ、それは失礼したね」
何であれ、ここで拒否したところで箒に得は無いのは明白である。ならば、この機会を利用して自分の置かれた状況を少しでも把握する方がまだ有意義だろう。
そう結論づけた箒は、眉を潜ませながら頷き、マーベリックの入室を赦した。
箒の首肯をマーベリックが見届けた直後、恐らくドアロックの解除キーでも挿し込んだのだろう、短いアラーム音が鳴ると共に鉄の扉が開け放たれる。
「先程も名乗ったかもしれないが、改めて名乗ろう。アルバート・マーベリックだ。よろしく」
室内に足を踏み入れたマーベリックの手には、小さくは無い紙袋があった。
観察するようにマーベリックを凝視する箒の視線もさして気に留める素振りを見せず、部屋の隅に置かれたテーブルの上に紙袋の中身を取り出し置いていく。
それは、濃い青のビニール袋だった。中身が透けて見えることは無く、何が入っているのかは分からない。
「その恰好だといい加減寒いだろう? こちら側の人員に頼んで、代わりの服を調達してもらったよ。私の目では確認していないが、君が通った学校の制服らしい」
マーベリックの説明を信じるならば、ビニール袋の中身は衣服のようだ。
紅椿を奪われたことで着衣の再構成が出来なくなり、肌の露出が多いISスーツのまま過ごすことを余儀なくされていた箒にとっては有難い話ではある。
「……本当に、お前は中を確認していないんだな?」
「そうだ。誓って言うよ」
例えばもしも制服だけでなく下着が一緒に入っているなら、よりにもよってこうして顔を合わせた目の前の男にこれから身に付けるそれを晒してしまった可能性もある。
箒にとって恥ずべき事態が起きたか否かを、口にははっきりと出さずに確認する。当然のように返された肯定を、マーベリックの目に好色の気配が見られないという理由で信用する。いや、せめて信用したいと言うべきか。
862
:
◆SrxCX.Oges
:2015/02/16(月) 23:12:08 ID:nYjSVlfc
そんな箒の些細な苦悩をよそに、マーベリックは「さて」と一息入れ、こちらに向き直る。
「ここに来たのは、君に聞きたいことがあってね」
「その前に、」
マーベリックの声を遮り、箒は意を決し口を開く。ようやく訪れた機会を逃さぬように。
「教えろ……私は今、どういう状況に置かれている? お前らは何者だ、何が狙いで私を捕らえているんだ?」
篠ノ之箒には、この部屋に連れられるまでの間に自分に何があったのか未だ理解できていない。
最後の記憶は、白騎士事件を仲間達と共に解決し、再び謳歌し始めた日常であった。それが途切れたと思えば、いつの間にかこのような狭苦しい部屋で監禁されている。
不覚にも良からぬことを考える連中の手に落ちたのだろう、とは大方予想がつく。しかし、それだけだ。誰が何のためにこのような真似をしたのかは、不本意でも仕立人の手先だろうマーベリックにでも聞かないと分かりようが無いのが事実だった。
「……我々、と言うより私の上の人間は、目的があって君をこうして監視下に犯せてもらっている。今はこの部屋で大人しくしていてくれればいいのだが、何かあった時に君を戦力として使いたい、という話だと聞いているよ」
「……ISが無い私に何を期待している? 紅椿はどうせお前達が奪ったのだろう」
「それも、既に手配済みだそうだ。そこは安心してくれて構わないよ」
「だとしても、お前達に協力など……!」
「……これを信じろと言うのは無理な話かもしれないがね。少なくとも、君を罪の無い善良な人間と戦わせるような真似をする気は無いよ」
食いつくような箒の視線を浴び、マーベリックは答える。
何を言うかと思えば、戦力として箒を捕らえているとのことだった。
それが、どれだけ無意味な行いであることだと分かっているのだろうか。
「だとしても、目的は何だ!? おかしな連中の抗争に付き合う気など」
「目的は私の口からは言えないな。わかってくれ、私にも事情があってな」
……これでは、何の意味も無いではないか。
ようやく接触出来た相手だというのに、ろくに情報を引き出せない。
箒相手に話すことは無いと言うだけか、それともマーベリックもまた下っ端に過ぎないのか。
何であれ、長く話したところで意味は無そうだった。
「……最後に一つ、聞かせろ」
徒労感に包まれながらも、箒はどうにか言葉を口に出した。
「巻き込まれたのは、私だけか? 私の仲間……一夏やセシリア達は、無事なんだろうな?」
最も気がかりなのは、仲間達の安否だった。
ISを奪われた時点でマーベリックの一味が箒をIS操縦者として見なしていることは明白。
ならば、同じくISを扱う一夏達もまた標的となっているのではないかとの発想に至るのは難しいことではなかった。
これだけは、どうしても今聞かねばならなかった。
「……無関係だ、などと私の口からは言えないな」
「貴様……!」
箒の右手が、沸騰する熱情のままにマーベリックの胸倉を掴む。
義憤に燃える両の瞳に射抜かれ、ぎりぎりと歯が音を立てるのを聞きながらも、マーベリックは動じない。
ほんの僅かに視線を下げ、ただ淡々と言葉を継ぐだけだった。
「私を罵倒して気が済むならそれでいい。だが、そんなことが問題ではないことくらい君にも分かるだろう」
「っ……」
憎らしいことだが、事実であった。
罵倒したところで箒の感情の問題が解決するだけ、抵抗する手段を奪われた今の状態ではマーベリックを捕らえてもその次が続かない。
結局、行き場の無い苛立ちを胸に押し込み、胸倉を掴んだ手を離すくらいしか出来なかった。
済んだし私は失礼させてもらうよ……君がまだ脱出など考えているなら、精々君を訪ねる者に取り入るくらいしてみることだね」
皮肉に近い言葉を言い残し、マーベリックは背を向けた。
その背に飛び掛かる事すら、今は到底意義が無いことも明らかである。
「……聞きたいこととやらは、いいのか」
「ああ。もう確認できたからね。では、またそのうちに」
ただ彼を見送るだけの自分が、どうしようもなく歯痒かった。
863
:
◆SrxCX.Oges
:2015/02/16(月) 23:13:53 ID:kI6fk/l6
◆
数時間前に行った箒への記憶改竄にぬかりが無かったか、自分で確かめたい。
マーベリックが箒との接触を周囲に申し出たのは、あくまで確認のためであった。
主催者の人員の何名かには既知の事実だが、マーベリックによる記憶改竄を受けたバーナビー・ブルックスJr.は些細な切欠から自身の記憶の矛盾に気付くこととなった。悲しいかな、マーベリックの能力も万能ではないのだ。
こういった事情もあるためか、マーベリックの提案はあっさりと了解された。
マーベリックが主催者の一人に要請された記憶改竄、その内容は「開催の場での記憶を取り除き、自らが殺し合いに巻き込まれたことすら忘れさせよ」というものだった。
このような殺し合いを良しとしない性格である箒に必要以上の情報は与えるべきではない、特に協力者となり得る元々の仲間がいることを把握されるのは下手に希望を与えることにもなりかねない、といったような理由であった。
記憶を消し飛ばすだけの改変なら造作も無いと、マーベリックは了承し既にそのノルマを達成済みである。と言っても、拒めるような立場でもないのだが。
どうせなら真木達全員を恩人だったと誤認させるように弄ってしまえば手っ取り早いのではないか、とも思ったが、どうやら極端な改変を嫌った者がいたらしい。懐柔するなど後からでも出来るだろう、というのは何かの確信でもあるのだろうか。
確認のついでとばかりに箒に新しい衣服を与えたのは、「そういえばあの部屋は寒いだろうな」というマーベリックの何気ない発言が元となってのことだ。
少しの話し合いの末に、物品管理を担当する海東純一が衣服を手配し、訪問の際のついでとしてマーベリックが箒に手渡しすることとなった。
一応海東も同行した方が良いのではないかとは思ったが、わざわざ兵器を渡しに行くわけでも無いのに、決して暇なわけでも無い彼がいちいち同行するのは煩わしいというところだろうと一人で納得した。
極端な話だが、例えばボールペン一本の移動のために海東の同行が義務となるのであれば……主催陣営の中でも良からぬことを考える者が海東の行動を制限したいと目論んだとしても防げないことになる。
それならば、自分で用意した衣服の一着くらいはマーベリックに託し、海東も海東なりの仕事に着手したいといったところか。
それとも、マーベリックがここで何を企もうが構わないというわけなのか。
「全く、見くびられたものだな」
自室に戻り椅子に腰かけたマーベリックは、つまらなそうに一人ごちた。
記憶改竄のNEXT能力を買われて主催者としての参加を許されたマーベリックは、少なくとも能力においては一定の評価を得ている。
しかし、だからと言ってマーベリック一個人が畏れられているわけではない。自分の行動の自由こそあるが、相応の立場を持つ者から一度指示を受ければその通りにしなければならない程度の身分である。
この先も、何かトラブルが生じればマーベリックは都合よく駆り出されるのが目に見えている。そして上の立場の者達――裏リーダー者達は、マーベリックに感謝の念を抱き返礼をしようなどとは考えないのだろう。
ましてやその能力を以て反抗しようなどとは考えてもいるまい。いや、想定したところで別に恐れるに足りないと見なされているのか。
これが、敗者の扱われ方である。
シュテルンビルトで罪を暴かれ、欲望の大聖杯の下でも主となれなかった男の情けない有様だ。
「……このまま、終わる訳にはいくまいな」
重々しく呟きながら、マーベリックは自らの右手で左の手の甲を擦る。
そこには、彼の重ねた年を示す皺だけが深く刻まれていた。
大聖杯から令呪を託される裏リーダーの座を懸けた競争率は、何もマーベリックにとって絶望的な数字というわけではなかった。
それはマーベリックにも相応の欲望があると自負していたこともあるが、その他に有力と目されていた者が数名、裏リーダーを決定する前の段階になって儀式の運営者の立場を下りたことにも起因していた。
864
:
◆SrxCX.Oges
:2015/02/16(月) 23:14:44 ID:nYjSVlfc
その一人は、太古の時代に於いて『英雄王』と崇められた弓兵の英霊である。
今回のデスゲームの基礎となった聖杯戦争の発祥地、言うなれば『聖杯戦争の世界』から訪れたその英霊は、疑いようも無いほどの強欲の権化であった。
世界の万物は我の所有物、そう述べた彼の態度は常に不遜であり、しかし彼の放つ威厳を目の当たりにすれば納得のいく振る舞いと思えるのも事実だった。
『欲望の大聖杯』すら当然のように標的とする底無しの欲、彼の象徴たる全ての秘宝を納めた宝具、どれを取っても英雄王が裏リーダーの座に収まるには十分な説得力を持ち、六つの椅子の一角を彼が担うのを誰も疑いはしなかった。
その確信に近い予想を覆したのは、裏リーダーを決定するための儀式を執り行う段階になって、彼が連れていた一人の男の発した命令だった。
――令呪を以て命じる。自害せよ、アーチャー。
その一節を発した男は、元来の聖杯戦争における英雄王のマスターという地位にあるらしかった。
とは言えそれは元の世界の話でしかなく、むしろ傍目にはマスターの男の方が相対的に下の側であるようにさえ映ったため、実質的には英雄王の配下のようなものだろうと思われていた。
二人の関係は決して険悪なものにも感じられなかったため、尚更マスターの男が突然に裏切りに及んだ真意がマーベリック含め誰にも読み切れない。
しかし、ともかく結果は結果。英雄王は驚愕と憤怒に目を見開いたまま己が乖離剣で腹を裂き、鮮血と呪詛の言葉を撒き散らしながら息絶えた。
この情けない死に様が、太古の英霊の勇名にはあまりに不釣り合いな英雄王の最期である。
皆が一様に呆気に取られる中、マスターであった男は言った。
強すぎる宝具を独占する彼は、いずれ我々にとっての害悪とすらなり得たからここで退場させただけだ。そのような事態になるくらいならば、彼の所有物であった宝具の数々をいっそ支給品に充てるのが丁度良いだろう。自分の陣営の参加者の手に渡れば、その者には優位に事を進められるのだから。
彼の言い分には怪しさを感じる部分も無いわけではなかったが、結局は男が何か咎められることは無かった。周囲としても、男の出方を伺いたかったのだろう。
こうして彼は今も存命し、儀式の運営者の一人としてマーベリック達と同じ空気を吸っている。
腹の内は、やはり未だ知れない。
英雄王以外にも、裏リーダーの候補者の座から消えたのはもう一人。数多の並行世界への侵略活動を行う大組織こと大ショッカーの首魁、『大首領』と呼ばれた存在である。
かつて仮初のトップとして祭り上げられた門矢士でもなく、棚から牡丹餅とばかりにその地位を我が物にしようとした月影ノブヒコでもない彼は、何十何百の怪人共から畏怖の念を一身に注がれた正真正銘の悪の親玉であった。
今は亡き鳴滝との間に有していた関わりを通じて今回の計画に参加した大首領が、真木達に齎した恩恵は大きい。
並行世界間を集団で往来するための技術。セルメダルの消費に伴う適応能力を開発するための手掛かりとなった、クラインの壺のデータ。万が一参加者の反逆を許した時に備えての、防衛用の戦力。いずれも大ショッカーから提供された代物だ。
これに代えて大首領が求めたのは、彼がまだ見ぬ世界に関する情報と、そこに存在する独自の技術の入手。これらは大首領が真木の計画への参与を継続するに伴って、自然と行き渡っていった。
こうした持ちつ持たれつの関係を続けた大首領が特異だったのは、真木の前に自らの姿を現したのが僅か数度のみであったことだった。
真木の計画に大きな関心を寄せながら、基本的には伝達役を受け持った部下を通じてのやり取りが主となり、本人は大ショッカーの玉座に鎮座したままであることが殆どだった。
865
:
◆SrxCX.Oges
:2015/02/16(月) 23:15:41 ID:nYjSVlfc
そして、大首領は結局ゲームの開始前になって計画から手を引き、自らの組織へと帰還した。
勿論、前述の配下の怪人達はこちら側に置いたままではあるが、彼等が大首領に再び謁見できるのはゲームの終了後になるだろう。
全ての世界の征服を掲げる大首領ならば、裏リーダーに選ばれるなど確定事項も同然であったのは一目瞭然だった。それにも拘らず彼が『欲望の大聖杯』という逸品を得る機会を自ら捨てた理由は恐らく、何れかの陣営のリーダーであるよりも、大ショッカーという組織のリーダーであり続けることを欲したためだ。
本人の意思で古巣にいつでも戻れたゲーム開始前の段階と異なり、一度裏リーダーに任命されゲームが開始すれば最後、ゲーム終了まで外部との接触を絶たれ、裏リーダーの座という名の椅子に縛り付けられることとなる。
大首領は、このような制約を課されることを嫌ったのだろう。世界の守護者たるヒーロー達と大ショッカーの軍勢との戦況は次々と変化し続けるのに、たとえ数日でも大ショッカーのトップが完全に持ち場を離れてしまうのでは話にならない。
そして、裏リーダーの候補者は全ての世界から無作為に選ばれるのではなく、儀式を行う時点で『大聖杯』の下にいることが条件となる。言い換えれば、『大聖杯』の下を離れれば、裏リーダーに任命される可能性は取り除ける。
ゆえに彼は真木達の前から姿を消し、世界征服のための大計画に再び本腰を入れることとしたのであった。
今頃はマーベリックの知らない何処かの世界で、正義と悪の戦争を高みから見下ろしていることだろう。
『大聖杯』を懸けた戦争を他所にして余裕のある態度を取れるのは、『大聖杯』を手にした何者かがいつか反旗を翻す未来すら、大ショッカーにとっては数多の敵達との戦いの一つに過ぎないと見なしているためだろうか。
奴の考えもまた、マーベリックは全てを理解出来ていない。
このような経緯でライバルが二人消えた後、マーベリックはある種の安心感と共に裏リーダーの候補者として儀式に臨んだ。
そして……その結果、マーベリックは資格を得られなかった。
真木清人に、篠ノ之束に、『王』を名乗る男に後れを取り、マーベリックは連中の手下に収まらざるを得なくなった。
その事実に愕然とし表情を固めていたマーベリックの心は、裏リーダーの地位を掴んだ一人の嘲りの言葉で更に抉られた。
この結果も当然だろう。君は所詮、自己保身しか考えられない程度の器なのだから。
「それが、私の限界だと?」
人間もNEXTも、ヒーローもウロボロスも利用してマーベリックが目指したのは理想郷の創造。
この大いなる野望の正体が、保身のための言い訳だと?
野望のための手段として自らの罪をひた隠しにしていたマーベリックを、ただの小心者だと言ったか?
「……いいだろう。そこまで言うなら証明してやろうではないか。私が、断じてつまらぬ小悪党などではないとね」
元々自らの野望のためにも『欲望の大聖杯』を手に入れるつもりであったが、その理由が一つ増えた。
連中に、舐めた態度を取らせた報いを受けさせ、密やかな行動が臆病ではなくれっきとした戦略であると理解させる。マーベリックという男が偉大であったと知らしめねばならないと、新たな決意が固められる。
相応の地位を得られなかったマーベリックは、それ故に自らの欲望を強く燃やすこととなっていた。
そして達成のための一手は、既に打たれている。
866
:
◆SrxCX.Oges
:2015/02/16(月) 23:16:32 ID:nYjSVlfc
◆
結局、状況はこれといって変わらなかった。
誰が敵で誰が味方かも分からず、この事態が生じた動機もはっきりしないまま。
マーベリックが立ち去ると共に、箒はまた鬱屈した時間の中へと戻された。
「一夏……」
思い返すのは、想い人の顔。
彼は今頃、どこで何をしているのだろうか。
まさか箒とは別の場所で、同じように拉致監禁されているのか。
……いや、そんな姿よりももっと自然な光景があるではないか。
一夏は、箒を救い出すために力を尽くしている。
級友にして仲間である彼女達と共に、箒の下へ一直線に空を駆けているはず。
いくらなんでも都合の良い妄想だろうと、口元から皮肉げな笑みが零れる。
ただ、箒を導いてくれた織斑一夏という存在は、箒にとってはそんな想定をさせるのに十分であったというだけだ。
となると、自分も出来ることをしなければならない。
少しでも凛とした姿を見せるためにも、出来る事は何かと考えねばならないのだ。
「よし」
そんなことを考えながら制服の上着に袖を通し終えた箒は、ビニール袋の中に何かが残されていることに気が付いた。
袋を逆さまにするとはらりと落下したそれは、折り畳まれた一枚のメモ用紙のようだった。
何の気も無しに紙片を手に取り開いてみる。そこには、整った形の文字が並んでいた。
無意識のままに、箒はそれへと視線を落とす。
『悪い知らせだが、君に伝えなければならないことがある』
『先に伝えておくが、この手紙を見たことは我々の仲間に知られてはならない』
「ん……?」
どうやら、箒に宛てたメッセージの類であるようだ。
誰が寄越したものなのだろうか、などと頭の片隅で考えながら、箒は読み進めていく。
やはり見なければよかったと、後悔することになるのだとしても。
867
:
◆SrxCX.Oges
:2015/02/16(月) 23:17:03 ID:nYjSVlfc
『織斑一夏は我々のグループの者の手によって、既に殺害された』
『この最悪の事態だけは防ぎたかったが、叶わなかったのは私の無力さゆえだ』
「――――何だ、と?」
素っ気ない文面で告げられたのは、箒の想い人の死。
まるで冗談とすら思えるほどの悲劇を知らされ、箒の脳は一瞬働きを停止する。
それでも、目だけは後の文章を捉えてしまっていた。
『既に君の救出を試みる者達が行動を開始している』
『君はこの先、君を救う者達と行動する時を待つべきだ』
『このような結果になったことは詫びようも無いが、せめて君だけは保護させてほしい』
何を言っているのだろうかと混乱するばかりの脳が、その文面の示す意味を正確に理解出来ているのかは怪しい。
心臓は暴れるように鳴り響き続け、息一つすら吐き出せなくなる。
箒の表情は、ただただ茫然としていた。
『アルバート・マーベリックより』
ぐしゃり、と紙片を握り潰す。ほとんど反射的な行動であった。
あの男は一体、何を言っているのだろうか。
一夏が死んだ? 済まない? 謝られる以前に、こんな話を受け入れろと?
幾分かの冷静さを取り戻した脳は、荒唐無稽極まりない話だと切り捨てようとしていた。
仲間達と過ごした日常からあまりにかけ離れた事象は、箒にとっていっそ非現実的ですらあったから。
……それでも、紙に書かれた情報を信頼するだけの根拠があったことは、箒にとってある意味で不幸だった。
得体の知れない連中の囚われの身となったこの状況。
その手先として先刻接触してきた、薄気味悪い笑顔を張り付けた男。
奴から向けられた、こちらに危害を加えようという邪悪な意思。
そして、奴に口利きすることで結果的に箒を庇ってくれた――今もこうして箒に情報を伝えてくれた、マーベリックという老人。
既に取り返しのつかない事態になってしまった可能性を肯定するだけの理由は、ゼロでは無かった。
「……嘘だ」
ふらりと足をもたつかせながらベッドに腰を落とした箒は、力無く否定の言葉を吐き出す。
状況を鑑みれば有り得なくはない現実を、それでも箒は信じない。いや、信じようとしない。
一夏の死体を実際に見ていない、そう簡単に死ぬような男じゃない、などとそれらしい反論は次々と思い付く。
しかし……その根本に存在するのは、自分に都合の悪い事実だから信じないなどという子供じみた理屈であることを、箒は自覚していない。
とは言え、全てを冷静に受け止めよと若い箒に求めるのは無理な話だろう。
ゆえに、箒は必死に否定する。
「早く来い、一夏」
一夏が死に、もう会えない。
篠ノ之箒が織斑一夏に向けた想いが辿り着いたのは、失恋ですらなく死別。
好きの一言も伝えられることなく、ただの乱暴者として一夏の中の箒が完成する。
酷い思い出だけが積み重ねられて、箒の育んだ恋心は幕を下ろす。
もう、“明日”なんて来ない。
「嘘だと言え、一夏ぁ……!」
想い人に縋り付くかのような言葉を、誰も受け止めてはくれない。
部屋の片隅で怯えるように身を縮める箒を、誰も抱きしめたりはしない。
ただ、冷え切った空気だけが箒の身体を包んでいた。
868
:
◆SrxCX.Oges
:2015/02/16(月) 23:17:41 ID:nYjSVlfc
◆
マーベリックが陣営の裏の主になることが叶わなかったのは動かしようのない事実。魔術の類に疎いゆえに、令呪の奪取など実行する術も無い。仮に縁あってその方法を知れたとして、能力自体が戦闘向きでないのでは実戦で勝ち目が無い。
こうして振り返れば、聖杯の力を目当てにする今のマーベリックに出来るのは六色の陣営の中で優勝候補と見える陣営の裏リーダーに媚び諂うのが精々だろう。
結局、お零れを狙うことでしか『欲望の大聖杯』には肖れないのだ。
そんな屈辱的な結論を出そうとしていたマーベリックが一つの論点に気付いたのは、ガメルと呼ばれたグリードがオーズに敗れ、そのオーズもまたディケイドに撃墜される様がモニター画面に映し出された時であった。
この二名は行動方針こそ特殊とは言え、正攻法でバトルロワイアルの勝者となることなど考えていない。そんな二人が、他の追随を許さぬ実力を保有している事実。
ここで思い至ったのは、発想の転換。
バトルロワイアルの様相を六色に色分けするのではなく、二色に塗り変えれば良いのではないか。
『赤』やら『白』やら『紫』といった陣営の色ではなく。参加者の方針によって、『バトルロワイアルに肯定的な人間』と『バトルロワイアルに否定的な人間』の二項対立の構造で全体を見直せば、また違った景色が見えた。
欲望の大聖杯が呼び出した参加者には、思いのほか理性的な者が多い。開始時点での各人のスタンスを鑑みても、ざっと五割以上は『否定派』であった。
そして『肯定派』だけが特筆すべき戦力を保有していると言うわけではなく、『否定派』を支える数の論理はそのまま維持されていたと言える。
ここまで条件が揃っているなら、話は簡単だ。
どうせ正攻法での勝者となることが叶わないなら、このゲーム自体を『否定派』がノーゲームに終わらせてしまう時を待てばよい。
自分らの権益にのみ執心している裏リーダー達を『否定派』が力を合わせて残らず退場させ、マーベリック一人が『否定派』と共に勝ち残る。
儀式の完遂が叶わず役目を果たせなくなった欲望の大聖杯など、その後で今回の儀式と関わりの無い者達と協力して――あるいは、記憶を捻じ曲げられた奴隷として扱って――時間をかけて解明していけば済む話だろう。
「……ふん、簡単な話じゃないか」
そう、マーベリックはかつてのシュテルンビルトでの在り方を再現するだけで良い。
悪に対して従う素振りを見せ、一方で正義に媚を売り、最後は有益となる方のみを味方とし、邪魔となった残りを切り捨てる。
あの頃と同じように、いや、より慎重に行動を積み重ねていけば、最後に笑うのはマーベリックなのだ。
この方針を選ぶ上でマーベリックの強みとなるのは、何も記憶改竄のNEXT能力に限らない。
相手の隙さえ突ければほぼ完全に実質的な支配下に置けることが記憶改竄の能力の特長だが、そのためには相手との間に信頼関係を築く必要がある。
しかし、マーベリックが主催陣営の連中以外に存在すら認識されていないのはアドバンテージだろう。
これは実際に『否定派』が主催陣営への本拠地に突入を仕掛けた際、「自分は事情があって主催陣営にいるが、今は君達に協力的だ」と持ちかける余地があることを意味する。
万が一マーベリックもまた望んで主催陣営に参入したことを告げられたとしても、マーベリックの本心はマーベリックにしか証明できない以上、最後は水掛け論にならざるを得ない。
そこでマーベリックの潔白を重ねて証明するのが、篠ノ之箒である。
マーベリックは既に二つ、箒に自らを信用させるための仕込みを済ませている。
869
:
◆SrxCX.Oges
:2015/02/16(月) 23:18:17 ID:nYjSVlfc
一つは、NEXT能力での記憶の改竄。
主催一同に要請された「自らが殺し合いに巻き込まれた自覚の喪失」という記憶を植え付ける際、実はマーベリックは更にもう一つの改竄を加えていた。
それは、彼女が海東純一と接触した際の記憶を取り除かず、その一部始終に少し改変を加えて記憶させるというものだ。
海東純一は“何らかの理由により”箒に危害を加えようとする意思を示した。その際に近くを立ち寄ったマーベリックが海東を説得し、箒への暴行を止めさせた。
酷く曖昧な記憶であるが、少なくともマーベリックが箒を害する意図が無いと示す出来事。この事実を、箒の脳内に捏造したのだ。
海東を敵対者のポジションに置いたまま、マーベリックが敵対者でない可能性の片鱗を見せたというのが箒にとっての事実。これに相違を主張できる者は海東純一一人だけ、彼以外には誰も捏造を証明できない。
そしてマーベリックへの僅かな疑念を箒の頭に植え付けたところで、配達役の務めを果たす傍ら、荷物に紙片を潜ませることで箒に幾つかの情報を伝えた。
これが、第二の一手。マーベリックにとって都合の良い動きを箒に取らせるためのものだ。
一夏の死は、自分を攫った連中への箒の怒りと憎しみを焚き付けるため。
箒を救出しようとする者達の存在は、箒が今の状況を打開するための決意を固める手助けとするため。
アルバート・マーベリックの名前を添えたのは、先刻自分を助けた者が自分の味方になり得る人物であると思わせるため。
また殺し合いという状況や真木清人の名前を伝えなかったのは、箒の口からマーベリックの反逆の下準備が露呈するという由々しき事態を防ぐため。
あの手紙一つだけで箒がマーベリックに靡くはずがない。しかし、このような小さな行動でも重ねて行けば、いずれ箒は主催者の中でもマーベリックに対してのみ敵対感情を和らげていくこととなるだろう。
いつか『否定派』が彼女の下に辿り着いた時までに、箒をマーベリックに信頼を抱く同志、マーベリックを守護する剣とするために、今はじっくりと準備をする。
今のマーベリックが味方とするべきは、最早儀式の成就を願う者達ではない。この中でただ一人、儀式の破綻を欲する――言うなれば、ヒーローの素質を持つ篠ノ之箒こそマーベリックの味方となるべきなのだ。
下準備は着実に進めている。
あとは、マーベリックの待ち望んだ正義のヒーロー達が目の前に姿を現すその時まで、慎重に立ち振る舞うのみ。
何、心配はいらない。今の彼等の中には、マーベリックの悪意を証明できるものなどいないのだから。
……少なくとも一人を除いて、ではあるが。
「君がそのまま朽ち果ててくれたら、私にとってはとても嬉しい話なのだがね」
自室に備えられたモニター画面の一つを、マーベリックは忌々しげに見つめる。
そこに映し出されているのは、正義の炎を絶やしかけ、弱々しい背中を晒す一人の青年の姿であった。
「親を喜ばせるのは子の責務というものだ。賢い君なら分かるだろう、バーナビー?」
現状においてある意味では最大の障害となるのは、マーベリックの本性を記憶に刻んだ『息子』である。
叶うならば今すぐにでもこの手で消し去ってしまいたいのに、と言わずにはいられない思い出を保持する彼へ向けて語りかけた言葉は、当然ながら届くことなどなかった。
870
:
◆SrxCX.Oges
:2015/02/16(月) 23:19:33 ID:nYjSVlfc
【二日目 深夜】
【???】
【アルバート・マーベリック@TIGER&BUNNY】
【所属】無し
【状態】健康
【首輪】無し
【コア】不明
【装備】不明
【道具】不明
【思考・状況】
基本:『欲望の大聖杯』を手に入れるために、今回のバトルロワイアルを破綻させる。
1:対主催の参加者が主催陣を打倒することを当面の到達点とする。
2:対主催の参加者およびその同志への手助けを行い、協力者としての地位を固める。
3:今は篠ノ之箒へと便宜を図っておく。
4:必要となれば記憶改竄のNEXT能力も使用する。
【備考】
※第23話以降からの参戦です。
【篠ノ之箒@インフィニット・ストラトス】
【所属】無し
【状態】健康、IS学園制服を着用中
【首輪】無し
【コア】不明
【装備】無し
【道具】無し
【思考・状況】
基本:この状況を打破する。
0:一夏……!
【備考】
※アニメ第一期終了後以降からの参戦です。
※マーベリックにより記憶改竄を受けています。内容は「バトルロワイアル開始時の記憶の消滅」「マーベリックが海東純一から箒を庇ったという事実の捏造」です。
【全体備考】
※【アーチャー@Fate/Zero】は主催陣営の一員でしたが、バトルロワイアル開始前に死亡しました。
※【大首領@仮面ライダーディケイド(?)】は主催陣営の一員でしたが、バトルロワイアル開始前に主催者の地位を退きました。既にバトルロワイアル会場および主催陣営の本拠地から立ち去っています。
※「アーチャーを令呪によって自害させた男」が主催陣営に存在します。
※マーベリックの行った記憶改竄のうち「バトルロワイアル開始時の記憶の消滅」の実行は主催者一同に把握されていますが、「マーベリックが海東純一から箒を庇ったという事実の捏造」の実行は現時点でマーベリックしか把握していません。
871
:
◆SrxCX.Oges
:2015/02/16(月) 23:23:34 ID:nYjSVlfc
以上で仮投下を終了します。
主に気になるのは、間接的な形とはいえアーチャーと大首領を主催者の人員として登場させた点について、
またこの二名を作中の舞台から退場させた理由付けに無理がないか、という点です。
その他、マーベリックの動向に無理が無いかといった点についてもご意見いただけたら幸いです。
最後に、投下途中にミスに気付いたので報告を。
>>862
の下部の、
> 結局、行き場の無い苛立ちを胸に押し込み、胸倉を掴んだ手を離すくらいしか出来なかった。
>済んだし私は失礼させてもらうよ……君がまだ脱出など考えているなら、精々君を訪ねる者に取り入るくらいしてみることだね」
> 皮肉に近い言葉を言い残し、マーベリックは背を向けた。
> その背に飛び掛かる事すら、今は到底意義が無いことも明らかである。
を
> 結局、行き場の無い苛立ちを胸に押し込み、胸倉を掴んだ手を離すくらいしか出来なかった。
>「用は済んだし私は失礼させてもらうよ……君がまだ脱出など考えているなら、精々君を訪ねる者に取り入るくらいしてみることだね」
> 皮肉に近い言葉を言い残し、マーベリックは背を向けた。
> その背に飛び掛かる事すら、今は到底意義が無いことも明らかである。
に訂正します。
872
:
◆z9JH9su20Q
:2015/02/17(火) 01:11:50 ID:i.NJn35k
◆SrxCX.Oges氏、仮投下お疲れ様です。
まずアーチャー及びに大首領の扱いについてですが、アーチャーについてはこれ以外にないと私も思っておりました。
自分の宝具、特に天の鎖が自身の手から奪われ、参加者に与えられている状況で彼が大人しくするはずがないので、それらの支給品が出た時点でどんな形であれアーチャーは本編の頃には死亡済みである以外の状況はあり得ないかと。
その場合、本編開始前に存在を疎まれ、令呪を利用され自害させられていたというのが最も自然な形での退場かと思いますので、アーチャーの扱いについては全面的に賛成致します。
また大首領の件を一旦置かせて貰うと、マーベリックの行動・目的や考えについても、独特ながら彼らしく、非常にすんなりと納得ができました。
ただ、大首領の扱い含む設定面については、大変不躾ながらいくつか議論を交わさせて頂ければ、と思っております。
まず裏リーダーが選出される条件について、初出である拙作『明かされる真実と欲望と裏の王』においては聖杯の誕生と共に裏リーダーのみが知識を与えられ、それぞれの世界から召喚された、という設定であったこととの兼ね合いについてになります。
一応、その後の拙作ではその前提で他二名の裏リーダーを登場させており、また作品のメタ的な狙いとしては裏リーダーに選出されるキャラクターが、その時点で鳴滝と行動を共にしていない人物では当てはまらなくなる(=欲深くても団体行動できそうにないキャラクターが出し難くなる)、という不自由さの軽減を目的としていたものでしたので、面子が揃っていない現時点では後の拡張性を考えて、可能なら残したい設定であると思っております。
そのため、大首領が聖杯誕生前から真木達と同行していたのかはともかく、意図的に裏リーダーの座から外れた方法と顛末については拙作との調整をお願いできれば、と思いました。
……とはいえ、幸いというべきかそれに関して触れたSSはまだ拙作しか収録されていませんので、議論の結果次第では他の後続作品に影響が出ない範囲で、裏リーダー絡みの設定を一度整理する意味で拙作の手直しを加えても良いかとも思っております。ですので、どうか遠慮なさらずにご意見を頂ければ幸いです。
一先ず自分が考えてみた案としては、バトルロワイアル開始までの猶予期間中なら裏リーダーは令呪を意志一つで放棄でき、そうすると他の候補者に令呪が聖杯によって委託されることがある、といった形にすればこれまでの設定に即したまま、大首領が事前にこのバトルロワイアルから撤退したことにもできるかな、と思いました。また、アーチャーが死亡したことで同様に代役が(主催陣営の中からか、または原作世界から)聖杯によって用意され裏リーダーとして召喚された、という形にもできるかと。
マーベリックの心境についても、その時の補欠にすら選ばれなかったということで氏の案に近い形にも持っていけるかと思うのですが、ご一考頂ければと思います。
最後に細かいことになってしまいますが、
>>862
にある>最後の記憶は、白騎士事件を仲間達と共に解決し、 という文中の白騎士事件という単語は、箒達が解決したと言うなら銀の福音事件の誤植かと思いますので、ご確認頂ければ幸いです。
873
:
◆SrxCX.Oges
:2015/02/17(火) 21:10:40 ID:hek45mNQ
◆z9JH9su20Q氏、ご意見ありがとうございました。
銀の福音事件については私の勘違いなので、本投下の際に修正しておきます
また、恥ずかしながら拙作に氏の作品との矛盾点とも言うべき点を抱えていたのは、完全に私の確認不足ゆえです。
氏の指摘と定時なさった代替案を踏まえて、内容を再整理してみた修正案をここで投下しようと思います。
大まかな内容としては
・アーチャーは大聖杯によって一度裏リーダーに選ばれたが、令呪によって自害した
・大首領も同様に裏リーダーに選ばれたが、自ら令呪を放棄することで辞退した
・↑はロワ開始前と言うタイミングが成功の原因であり、今では同様の行動は難しいだろうという説明を特定のキャラにさせる
・所有者が消えた令呪は大聖杯に一度返還された後、裏リーダーの再選出が一度目と同じく大聖杯によって行われた
・マーベリックは再選出でも落選した
といったものです。
それでは投下します。
>>863
の下部から
>>865
までと差し替えとなります。
874
:
◆SrxCX.Oges
:2015/02/17(火) 21:13:07 ID:hek45mNQ
大聖杯から令呪を託される裏リーダーの座を懸けた競争率は、何もマーベリックにとって絶望的な数字というわけではなかった。
正確に言えば、当初裏リーダーとされた者達のうち数名がその資格を失った際、空席を埋める代替者――相応の果てしない欲望を持つ者として選出されることに自信があったと言える。
裏リーダーとしての資格を失った一人は、太古の時代に於いて『英雄王』と崇められた弓兵の英霊である。
今回のデスゲームの基礎となった聖杯戦争の発祥地、言うなれば『聖杯戦争の世界』から訪れたその英霊は、疑いようも無いほどの強欲の権化であった。
世界の万物は我の所有物、そう述べた彼の態度は常に不遜であり、しかし彼の放つ威厳を目の当たりにすれば納得のいく振る舞いと思えるのも事実だった。
自らを選出した『欲望の大聖杯』すら当然のように手中に収めんとする底無しの物欲、彼の象徴たる全ての秘宝を納めた宝具、どれを取っても英雄王が裏リーダーの座に収まるには十分な説得力を持ち、六つの椅子の一角を彼が担うのは当然の話であった。
しかしその常識が覆されたのは、バトルロワイアルの開始に向けて本格的な準備に着手しようというタイミングでの出来事、英雄王が連れていた一人の男の発した命令だった。
――令呪を以て命じる。自害せよ、アーチャー。
その一節を発した男は、元来の聖杯戦争における英雄王のマスターという地位にあるらしかった。
とは言えそれは元の世界の話でしかなく、むしろ傍目にはマスターの男の方が相対的に下の側であるようにさえ映ったため、実質的には英雄王の配下のようなものだろうと思われていた。
二人の関係は決して険悪なものにも感じられなかったため、尚更マスターの男が突然に裏切りに及んだ真意はマーベリック含め誰にも読み切れない。
しかし、ともかく結果は結果。英雄王は驚愕と憤怒に目を見開いたまま己が乖離剣で腹を裂き、鮮血と呪詛の言葉を撒き散らしながら息絶えた。
この情けない死に様が、太古の英霊の勇名にはあまりに不釣り合いな英雄王の最期である。
皆が一様に呆気に取られる中、マスターであった男は言った。
強すぎる宝具を独占する彼は、いずれ我々にとっての害悪とすらなり得たからここで退場させただけだ。そのような事態になるくらいならば、彼の所有物であった宝具の数々をいっそ支給品に充てるのが丁度良いだろう。自分の陣営の参加者の手に渡れば、その者には優位に事を進められるのだから。
彼の言い分には怪しさを感じる部分も無いわけではなかったが、結局は男が何か咎められることは無かった。周囲としても、男の出方を伺いたかったのだろう。
こうして彼は今も存命し、儀式の運営者の一人としてマーベリック達と同じ空気を吸っている。
その腹の内は、未だ知れない。
英雄王以外にも、裏リーダーの座から消えた者はもう一人。数多の並行世界への侵略活動を行う大組織こと大ショッカーの首魁、『大首領』と呼ばれた存在である。
かつて仮初のトップとして祭り上げられた門矢士でもなく、棚から牡丹餅とばかりにその地位を我が物にしようとした月影ノブヒコでもない彼は、何十何百の怪人共から畏怖の念を一身に注がれた正真正銘の悪の親玉であった。
世界征服、などという妄言にも近い野望を実現せんとする意志に怪人共は心酔し、そして奴の貪欲さに惹かれたのは『大聖杯』も同様だ。
大首領が裏リーダーの資格たる令呪を一旦は有したことが、その証明である。
今は亡き鳴滝との間に有していた繋がりを通じて召喚され、今回の計画に参加することとなった大首領が真木達に齎した恩恵は大きい。
並行世界間を集団で往来するための技術。セルメダルの消費に伴う適応能力を開発するための手掛かりとなった、クラインの壺のデータ。万が一参加者の反逆を許した時に備えての、防衛用の戦力。いずれも大ショッカーから提供された代物だ。
これに代えて大首領が求めたのは、彼がまだ見ぬ世界に関する情報と、そこに存在する独自の技術の入手。これらは大首領が真木の計画への参与を継続するに伴って、自然と行き渡っていった。
875
:
◆SrxCX.Oges
:2015/02/17(火) 21:15:28 ID:hek45mNQ
そして、大首領はバトルロワイアルの開始前になって計画から手を引き、自らの組織へと帰還することを決断した。
勿論、前述の配下の怪人達はこちら側に置いたままではあるが、彼等が大首領に再び謁見できるのは全てが片付いた後になるだろう。
彼が『欲望の大聖杯』という逸品を得る機会を自ら捨てた理由は恐らく、何れかの陣営のリーダーであるよりも、大ショッカーという組織のリーダーであり続けることを欲したためだ。
本人の意思で古巣にいつでも戻れた『大聖杯』誕生前の環境と異なり、一度裏リーダーに任命されゲームが開始すれば最後、ゲーム終了まで外部との接触を絶たれ、裏リーダーの座という名の椅子に縛り付けられることとなる。
大首領は、このような制約を課されることを嫌ったのだろう。世界の守護者たるヒーロー達と大ショッカーの軍勢との戦況は次々と変化し続けるのに、たとえ数日でも大ショッカーのトップが完全に持ち場を離れてしまうのでは話にならない。
令呪による制約の解決策として大首領が取った行動は、『大聖杯』から授かった令呪の放棄であった。
いかなる絡繰りかはマーベリックの知る所でなかったが、結果的に彼は裏リーダーの資格の辞退に成功させたのだ。
……先述したアーチャーの元マスターに後から聞いた話によると、令呪の放棄自体は本来の聖杯戦争でも可能な行為であるらしい。
その手続きに少し手を加えたプロセスで試したところ、大首領はあっさりと令呪を放棄出来たのだという。
しかし、バトルロワイアルが本格的に開始してしまった今では、同様の行動が出来るかは怪しいとのことだ。
裏リーダー同士の直接的な抗争を禁じた『大聖杯』の魔力は、令呪の移植の禁止という点においても強い効果を持つ。
大首領が令呪の放棄に成功したのは、単にタイミングが好都合であったゆえだろうというのが彼の考えである。
同様に、彼にとって既知の方法による令呪の奪取もまた、今となっては最早困難であると見るべきだとも告げられた。
「つまらぬことは考えるな」との念押しの意が含まれていると感じたのは、恐らく気のせいではあるまい。
こうして真木達の下を去った大首領は、今頃マーベリックの知らない何処かの世界で、正義と悪の戦争を高みから見下ろしていることだろう。
『大聖杯』を懸けた戦争を他所にして余裕のある態度を取れるのは、『大聖杯』を手にした何者かがいつか反旗を翻す未来すら、大ショッカーにとっては数多の敵達との戦いの一つに過ぎないと見なしているためだろうか。
しかし予測は予測でしかなく、奴の真意もまた結局マーベリックには完全に図り切れない。
このような経緯で二人の裏リーダーが舞台から消えた後、本来彼等の所有物であった二画の令呪は『欲望の大聖杯』へと還元された。
監督役を担う者の管理下に置かれることとなる本来の聖杯戦争以上に、今回の儀式において令呪の奪取の防止は徹底されているようだ。
『大聖杯』が生み出した令呪の再分配の結果を決めるのは、やはり『大聖杯』であった。
しかし裏リーダーに選出される条件が明らかとなった後では、マーベリックに懸念など無かった。
遺憾ながら強欲を競う対決において一度は後れを取ったマーベリックだが、仮にもシュテルンビルトの実質的な支配者の地位を掴みかけた自身が、まさか二度目の敗者になるとは思わなかったためだ。
欲望と覚悟に相応の自負を抱いていたマーベリックは、ある種の安心感と共に裏リーダーの再選出の時と待った。
そして……マーベリックはまたもや資格を得られなかった。
新たな裏リーダーとなった二名に敗れ、補欠合格すら叶わなかったマーベリックは連中の手下に収まらざるを得なくなった。
この事実に愕然とし表情を固めていたマーベリックの心は、裏リーダーの地位を掴んだ一人の嘲りの言葉で更に抉られた。
876
:
◆SrxCX.Oges
:2015/02/17(火) 21:17:36 ID:hek45mNQ
この結果も当然だろう。君は所詮、自己保身しか考えられない程度の器なのだから。
「それが、私の限界だと?」
人間もNEXTも、ヒーローもウロボロスも利用してマーベリックが目指したのは理想郷の創造。
この大いなる野望の正体が、保身のための言い訳だと?
野望のための手段として自らの罪をひた隠しにしていたマーベリックを、ただの小心者だと言ったか?
「……いいだろう。そこまで言うなら証明してやろうではないか。私が、断じてつまらぬ小悪党などではないとね」
元々自らの野望のためにも『欲望の大聖杯』を手に入れるつもりであったが、その理由が一つ増えた。
連中に、舐めた態度を取らせた報いを受けさせ、密やかな行動が臆病ではなくれっきとした戦略であると理解させる。マーベリックという男が偉大であったと知らしめねばならないと、新たな決意が固められる。
相応の地位を得られなかったマーベリックは、それ故に自らの欲望を強く燃やすこととなっていた。
そして達成のための一手は、既に打たれている。
◆
----
以上で修正案の投下を終了します。
内容の点検および新たな矛盾点の有無の確認などお願いします。
877
:
◆z9JH9su20Q
:2015/02/17(火) 23:19:49 ID:i.NJn35k
◆SrxCX.Oges氏、修正お疲れ様です。
>>872
で提示させて頂いた点については、今回の修正でもう問題はないように見受けられました。迅速な対応大変ありがとうございます。
ただ、時間を置くことで気がかりな点がもう一つできてしまいましたので、今更かもしれませんが改めてご意見させて貰えれば、と思います。
それでは何が気になったかというと、現時点でも大ショッカーの勢力が主催側に残されているという点について、です。
拙作『陰謀と計略と不実の集い』において束が、真木と鴻上が最も古くから鳴滝と行動を共にしていた=主催陣営で最も並行世界についての知識を持っていて、真木はその知識を何かしらに利用しようとしているのではないかと推測する描写を入れたのですが、ある一定以上の地位を持った大ショッカーの手の者がいるのならそちらの方がより詳しい知識を持っているのが妥当であり、束がその点に何も触れていないのは奇妙ではないか、と思えてしまったのです。
そのため、この設定を巡っては、「大ショッカーは少なくとも現状、完全に主催陣営から手を引いた」もしくは「本当に大した知識もない末端の、単なる戦力のみを提供しただけ」、という形にするかした上でそれを氏のSS内で明言するか、等といったような形で「並行世界について正確な情報を握っている大ショッカー関係者は、現在の主催陣営には残ってはいない」といったような形の調整をして頂ければ自然になるかな、と思いました。
もちろん、氏にこの点についてはどうしても、というお考えがある場合には、先述の通り議論の結果次第では拙作側の独自設定の整理を含めた手直しも考えておりますので、遠慮なくご意見頂ければと思います。
大変厚かましいお願いかとは存じますが、ご一考頂ければ幸いです。
878
:
◆SrxCX.Oges
:2015/02/17(火) 23:34:55 ID:hek45mNQ
再びのご意見ありがとうございます。
氏の指摘する大ショッカーの戦力の詳細については、ブレイン役を置くか置かないか私自身も悩んだため
他の書き手の方の解釈次第でどうとでも受け取れるようにしたという事情がありました。
ただ、氏のいうように過去作との齟齬が生じるならば、どうしてもブレイン役を置きたいという理由もないので
今回「本当に大した知識もない末端の、単なる戦力のみを提供しただけ」の方向で決定し、作中で言及する一節を付け加えようと思います。
879
:
◆z9JH9su20Q
:2015/02/18(水) 00:17:07 ID:RvrS1VmI
お返事ありがとうございます。
二度に渡っての素早い対応、大変ありがとうございます。
私から見た限りではもう問題点等見当たらないと思いますので、後は本投下されるのを楽しみにさせて貰いますね。
880
:
◆SrxCX.Oges
:2015/02/18(水) 00:35:33 ID:B12bf1lc
度重なるご意見ありがとうございました。
それでは、これより本投下をしようと思います。
881
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/02/18(水) 20:25:01 ID:iFGHIfiQ
幾つか不安要素があるので、仮投下します。
882
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/02/18(水) 20:26:46 ID:iFGHIfiQ
「鈴音ちゃん……ごめん、伊達さん……すいません……」
虚ろな目のままで虚空に呟くのは、バーナビー・ブルックスjrである。
彼が思うのは、死なせてしまった同行者のこと、そして、新たに放送で告げられた彼らを除く12の死者のことである。
自分は最初、この場ではもう一度ヒーローとして、タイガー&バニーの片割れとして、戦うと決めた。
だが、結果はどうだ、僅か半日の間にこの殺し合いに参加させられた者の内、およそ半数がその命を既に落としているではないか。
無論、中には彼も知るジェイク・マルチネスのように裁くべき悪もいるのだろう。
しかし、彼の相棒、ワイルドタイガーはこの殺し合いが始まる前、言ったのだ、「絶対に犠牲は出さずに主催者を逮捕する」と。
故に本当なら、ジェイクのような外道すら、殺すことは許されなかったのだ
なのにその決意は、まるで元々一ミリも叶う可能性が無かったかのように簡単に踏みにじられた。
それがまるで、タイガーの言っている事は実現不可能だとそう主催者が嘲笑っているように感じられて。
それでも、或いは前回の放送のように、伊達と鈴音、この場で同行した仲間と共に聞けていたなら、放送に直接の仲間の名前の無い分、バーナビーは冷静でいられたのかもしれない。
だが、彼ら彼女らは死んでしまった。
バーナビーの目の前で、一人は火達磨にされ、一人はその体を吹き飛ばされて。
「う……うぅ」
彼の喉から、嗚咽がもれる。
吐き気や、死に対する悲しみからではなく、自身の不甲斐なさを感じて。
何故こんな自分が生き残って、未来ある鈴音や自分よりよっぽどヒーローらしい伊達が死ななければならなかったのか。
何も守れない自分は、この場でヒーローを名乗れる筈も無い、このワイルドタイガーの相方の印であるスーツを、着る資格もない。
様々な葛藤が沸き上がり、その度に彼の足は重くなっていく。
やがてその足が自責の念に耐えきれなくなって。
一人のヒーローが、ここに、膝をついた。
こんな所で立ち止まっていては、ワイルドタイガーの相方を名乗ることなど出来ないどころかヒーローとして最低限の仕事すら出来ないと、心の中では分かっている。
しかしそれでも、彼に立ち上がれる気力はなく、またそれを行えるだけの欲望も、すっかり影を潜めてしまっていた。
いっそ、智樹の車窓という世界の中のような袋小路の世界に、永久に引きこもることが出来たなら。
しかしそれが出来ない真面目さがあるからこそ、彼はこんなにも迷っているのだ。
そうして、どうにも体も思考も動かなくなりだした、その時。
883
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/02/18(水) 20:28:08 ID:iFGHIfiQ
「ねぇ、君、バーナビー・ブルックスjr……だよね?」
──悪魔が、現れた。
◆
「ねぇ、君、バーナビー・ブルックスjr……だよね?」
話しかけてきたのは自分より若いだろう金髪の青年、その後ろにはとてもつまらなそうな顔をした青年が一人。
二人組──話しかけてきたところを見るに今すぐ襲いかかる気はないようだが、戦いになれば負ける可能性は大きい。
相手のスタンスを探るためには会話が必須、その状況でこれは情けないと、バーナビーはその赤くなった目を擦る。
「えぇ、そうですが……僕に何か?」
「うん、実はね、簡単なお願いがあるんだけど」
お願い。
二対一という状況を見れば、大変なものを要求される可能性も大きい。
ここは慎重に応対するべきだ。
「あはは、そんな畏まらないでよ、本当に簡単なお願いなんだ」
「……なんなんですか」
「うん、僕の仲間になってほしいんだけど」
仲間?とバーナビーはその単語を繰り返す。
バーナビーの問いに頷く青年、その後ろでもう一人の青年は暇そうに虚空を見上げていた。
セルも尽きかけている現状では仲間もほしいが……それ以上に、もう自分の目の前で誰かに死んでほしくないという思いの方が強く。
故に、彼の答えは。
「いえ、すいません。お断りさせていただきます」
NO、だ。
しかしそれを聞いて可笑しくてたまらないといった様子でクスクスと笑う青年。
正直な話失礼である、それに対しバーナビーはその表情を硬くする。
「ははは、あー、ごめんね、バーナビー。僕の仲間になってほしいって言うのは、同行してほしいってことじゃなくってさ」
言って彼はその右手を広げる。
そこには何も持っていない、いや待て、その手は──。
884
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/02/18(水) 20:29:24 ID:iFGHIfiQ
「メダル……!?」
ジャラジャラと彼の手の中で蠢くのは間違いなく自身の首輪にも入っているセルメダルである。
その光景を数秒見て、彼はメダルが体の中に存在する可能性のある参加者について聞いていたことを、思い出した。
「まさか……お前……!」
「そういう事。僕はカザリ。黄陣営のリーダーで、グリードだよ」
金髪の青年、カザリは今一度、愉悦の笑みを浮かべる。
それに対して、バーナビーの殺気は、先程まで萎えていたのが嘘のように張りつめた。
「伊達さんから聞いているっ!お前はグリードのなかでも狡賢く、最も信頼しちゃいけない相手だと!」
「うーん、スマートって言ってほしいんだけど。何て冗談はともかく、僕の仲間……つまり僕の陣営に入ってほしいんだよね、どう?」
「受ける訳がないっ!」
先程よりも強い拒絶。
相手は逮捕も何も無い、それどころか本当に血も涙もない化け物だ。
陣営に入るどころか、交渉の価値すらない。
そうしてそのやり場の無い感情を、やってぶつけられる相手が見つかったとばかりに、彼は体に力を込め──。
「ちょっと待ってってば、話だけでも聞こうよ、ねっ?」
「聞く気はない!!」
そう言って思い切り地面を蹴る。
ハンドレッドパワーの能力を使用すれば、一瞬の内に勝負がつくだろう。
出し惜しみをするつもりも無い、故にその体は常人を大きく超えるスピードでその強力な拳を──。
──打ち込むことは、叶わなかった。
「なっ……!?」
「あーあ、だから言ったのに──ねっ!」
言ってカザリの肉体はメダルに覆われていく。
それが完了するのを待たず、カザリの膝がバーナビーのスーツの腹部を砕く。
最早防護スーツとしての機能を果たしきれていないそれがメキメキと悲鳴を上げ、中のバーナビーも嗚咽を洩らした。
膝をつきフェイスオープンしたその口から吐瀉物と血の混じったような液体を吐き出す。
何とも言えない嫌な臭いが辺りに広がる中、上から圧力がかかったことにより、バーナビーはその上に倒れ伏した。
痛む体に鞭打って見上げれば、そこには表情も何も見せない冷酷な、ネコ科を思わせる風体の怪人。
885
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/02/18(水) 20:30:29 ID:iFGHIfiQ
「はぁ、抵抗しても無駄なのはわかってたけど、まさかメダルまで無いなんてね。能力が使えないなら、万が一にも君の勝ちはないよね」
言われてバーナビーは気付く。
自身がメダルを使うのは能力使用時のみだからと大して気にしていなかったが、ことここに至ってメダル切れが発生してしまったのだ。
考えうる限り最悪の相手に,考えうる限り最悪のミスを侵してしまった。
詰みだ。
泣きたくなるほどの情けなさが彼を襲うが、しかし心中には一つの決意があった。
「殺したいなら殺せ……、絶対にお前の言いなりにだけはならないぞ」
「あーもう、物騒なことばっかり考えるんだから。あのね、僕が言ってるのは言いなりになってほしいってことじゃなくて、ただ僕の陣営に入ってほしいだけなんだよ」
「それの何が言いなりになることと違うんだ!」
声を荒らげれば、体のあらゆる所が悲鳴をあげるかのように痛む。
だとしても、彼は、カザリに弱みだけは見せまいと全力を尽くして抗うつもりだった。
だが、そんなバーナビーの必死の形相を、カザリはただただ困惑したように見つめて。
「うーん、君なら話が早いと思ってたんだけど。……まぁいいや。
簡単に言うと、君は僕の陣営に入っても、僕の指示どおり動く義理はないし、もちろん情報なんて吐かずにどこか離れてもらって構わない。
他陣営の人間を無理に殺す必要なんてないし、あとは……そうだな、メダルも足りないだろうから少しあげるよ」
「甘言で惑わそうとしても無駄だぞ、それじゃお前に少しも得がない」
「ところがそうでも無いんだよね。君のスタンスが何であれ、僕の陣営に入ってくれれば、それだけで僕にはメリットが生まれるんだ」
「どういうことだ……?」
思わず疑問符を浮かべるバーナビーに、カザリは心中ほくそ笑む。
──引っかかった、と。
「陣営に入った人間は、リーダーが死なない限り無所属にはならない。
で、僕に死ぬつもりは無いから、今他陣営に所属してる人とか、無所属の人が全員僕の陣営に入れば、この殺し合いは終わり。
まさか元からその陣営の人間以外殺して戦いを終わらせるのが正解、なんて君は言わないよね?」
その発言にバーナビーは思考するかのような顔を見せる。
そうすることこそが、カザリの術中に嵌まっている証だと知ることも無く。
「それに、君の最初の陣営は白、さっきの放送でも言ってた通り、白陣営は今潰れてるから、君の陣営は今無所属なの。ここまでいい?
……この戦いが、陣営戦だってことは、覚えてるよね?簡単に言うと、君のチームの勝ち筋は今凄く薄いわけ。だから形式だけでも僕の所に所属替えする。
勝ちの確立がゼロのところより、一でもあるところの方が良いでしょ?僕が言ってるのはそれだけの話なんだ」
纏めれば、カザリ側のメリットは自陣営の人間が増えることで結果的に優勝への道のりを進めること。
バーナビー側は、これに応じればメダルを手に入れ、殺し合いで無駄な人死にを少なくすることが可能になるということだ。
確かに双方にメリットがある相談だが、しかしバーナビーの瞳は未だ強く自身を持って。
「話は分かった。結局、優勝のために僕を勧誘したいって話か。なら応じるつもりは無い。少しでもお前の得に なるなら僕は──」
「あーあ、タイガーはどう思うんだろうね」
「──!おじさんは、今関係ないだろ!」
886
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/02/18(水) 20:31:15 ID:iFGHIfiQ
冷静にと努めていたはずが、今の自分に組むことの許されない相棒の名を出され、バーナビーは思わず声を荒らげる。
その様子を見て、カザリはまたも小さく嘲笑するかのように笑った。
「タイガーは、こんなところで相棒が助かる命を投げること、どう思うんだろうね?」
「くっ……おじさん……」
「それにタイガーも元々僕の陣営なんだ。君が僕の陣営に入れば、黄陣営優勝の暁には、仲良く二人で帰れる未来が約束されるわけ」
自身の死が、誰の心も痛めないなら、バーナビーはこの瞬間恐らく迷うことなく命を絶つことをしたはずだ。
しかし、数カ月前にはなかった、相棒の存在が、今優秀な若手ルーキー、バーナビー・ブルックスjrの判断を遅らせてしまっていた。
そしてその隙こそが、目の前の悪魔には致命傷となりうる。
そこにこれでもかと甘い蜜を放り投げてくるカザリ。
だが、バーナビーの正義もまた、簡単に揺らぐものではなく。
「だが、優勝後、元の世界に帰還できる人間を指定できるのはお前だけ。お前がそんな事をするはず──」
「うん。僕も最初は利用するだけ利用してって考えてたんだけどね。
真木博士に加えて、“アイツ"まで主催者のほうにいるって分かった以上、どうにもこの殺し合いはきな臭く思えてきちゃって、この殺し合いを抜けてから、戦力を多く残してたいって言うのは、あながち嘘でも無いんだ」
アイツ?と疑問が浮かぶが、先程までと変わってカザリの顔は曇っている。
その様子に先程までと比べ物にならない真剣さを感じたバーナビーは、思わず息を呑んだ。
「そうだとしても、お前に頼る必要はない。きっとおじさんが、この殺し合いを抜け出す方法を何か見つけて──」
「見つけられなかったら?」
「何?」
自身の言葉を遮るように、カザリは呟く。
その度に、確固たる自分の決意がひび割れていくように感じられて、バーナビーは目の前の悪魔を心底恐怖してしまう。
「もしも、タイガーがここから無事に抜け出す方法を見つけられなかった場合さ。君はその時、一体何が出来るって言うのさ?」
「お、おじさんは……きっとこの状況でも最善の解決策を──」
「僕が言ってるのは見つけられなかった場合だよ。タイガーの作戦が上手くいかなかったとき、代替案を考えておく。それがチームの、タイガー&バニーの頭脳役の君の仕事なんじゃないの?」
割れていく。割れていく。
自分の決意が。
この男の提案に乗らない理由など考えつかなくなっていく。
それこそがこの男の狙いであると頭では分かっているのに。
全てが自分に都合のいい提案に、乗らない自分が愚かなのではないかとすら思えてくる。
最早反論すらままならなくなったバーナビーだが、まだカザリの誘いに乗るつもりは──。
「うーん、悩むね、君も。じゃあさ、特別大サービス。君の憎い相手、ディケイドの情報をあげる」
「何だと……何故それを知っている!?」
「そんなの、今はどうだっていいでしょ?それより、もう一つ教えてあげる、僕の後ろでずっとボーッとしてる彼、実は仮面ライダーなんだけど……、名前がね、“ディエンド"っていうんだ」
「!?」
887
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/02/18(水) 20:34:25 ID:iFGHIfiQ
僅かに浮かんだ疑問すら吹き飛ばすほどの衝撃。
ディエンド。カザリの口ぶりからしても、ほぼ百パーセントディケイドと関係する存在。
そんな男と仲間になり、なおかつ情報が得られる。あの、伊達さんを吹き飛ばした憎い相手の──。
「あと、これはおまけ程度だけど。キャッスルドランでさ、天使みたいな格好した女の子に襲われたでしょ?
彼女もね、黄陣営なんだ。イカロスって言うんだけどね。で、彼女の使命は、「黄陣営の人間の保護、ディケイドと他リーダーの殲滅」なんだ。
……ここまで言えば、わかるよね?」
圧倒的な戦闘力を誇って、天使のような姿をして、悪魔のような被害をキャッスルドラン周辺に齎した少女。
バーナビー自身も食らったあの強靱無比な攻撃を、食らわなくて済むようになる。
ディケイドに匹敵しうる二大戦力を保持し、リーダーの頭も回る。
この陣営は、恐らく単純な総力戦でも、この会場で上位に値する。
そんな風に。
戦力の面でも頭脳の面でも、目の前の悪魔が率いる軍勢を恐れてしまった時点で、最早彼の運命は決まっていたのだろう。
「さぁ、バーナビー?最後に、もう一度だけ聞くよ?僕の陣営に、入る気、あるかな?」
その右手には、既にセルメダルが握られていて。
最初と違いすっかり光を失った彼の瞳は、ただその王の顔に引き込まれ──。
「僕の、僕の答えは──」
◆
「……意外と、あっさり堕ちたね。彼」
「まぁ、僕の話術を以てすれば、あのくらい、どうってことないよ」
様々な情報提供を終えて、自身の官軍に下った男の背中が見えなくなってから、海東大樹はやっとその口を開いた。
バーナビーを自陣営に引き込もうとしたのは何よりキャッスルドランの近くだったからだが、もう一つの理由としては、心が既に折れていたからだ。
簡単に自陣営の人間を増やせるならそれでよしと、彼はバーナビーによりどころを与えてやったのだ。
自身が交渉してる間は口を挟むな、というのはカザリの指示だが、随分素直に従ったものだと寧ろ警戒してしまう。
だがそうして策を巡らせてもらっている方が楽しいなと、カザリは心中で一人笑った。
「にしても、何故あんな心身ともにボロボロなのを仲間にするんだい?まさか本当に今残ってる全員で主催者と戦うため、なんて言わないよね?」
「うーん、さっきも言った通り、あながちそれが無いわけでも無いんだけど。でもそれ以上に、彼を入れれば、恐らく白陣営は壊滅的な人数しかいなくなるっていう算段もあったよ」
「どういう意味?」
言われて、カザリはニヤリと笑う。
何度考えても笑えてくる、とばかりに。
「実はね、僕の読みが正しければ、元白陣営の人は残り二人なんだ」
「二人……」
それでは確かに勝ち目は無いな、とそう考えてから海東にふと素朴な疑問が浮かぶ。
「何で、君はそう予想できるんだい?君と同じように、白のリーダーが他人を陣営に入れる可能性もあるだろう?」
「僕らには、君たちと比べ物にならないほど情報があるのさ。
……それにガメルはもっての外、第二リーダーの候補で考えられる参加者も、陣営戦についてちゃんと考えてたとは考えづらいし」
888
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/02/18(水) 20:35:32 ID:iFGHIfiQ
そんなものなんだ、と素っ気なく返しつつ、海東は心中でやはりそうだったかと一人ごちる。
自身と戦ったとき、どうにも自分の能力に対する驚きが薄いなと感じてはいたが、やはり事前に知られていたか。
ディエンドの能力は、纏めてしまえばトリックスターとでも言うべきものだ。
ただ一つの銃を単なる武器と侮ったが最後、ホーミング弾、拡散弾、巨大なビーム、挙げ句の果てには仮面ライダーまで飛び出してくるのである。
しかしそういった情報を事前に知られてしまっていては、なるほどディエンドの基本的な戦闘方しか出来なかった海東は、カザリにとって鴨も良いところだろう。
どうしたの、と素っ頓狂な声を上げてくるカザリを無視して数時間前の自分を責める海東。
だがそれを抑え、一つ、先程から沸き上がっている疑問を、吐き出した。
「ねぇ、一つ聞きたいんだけど」
「なんだい、ディエンド」
「彼も、君に楯突いたろう?何で僕と違って拘束しないんだい?」
「あぁ、簡単な答えだよ、ディエンド。それはね──」
◆
「全く、ふざけた相手に負けたものだ。僕も」
暗闇の中、一人ぼやくのは海東大樹。
やっとあの建物から出られたかと思えば、今度はさっきの放送の内容をちょっと整理したいからちょっと待っててと来た。
全く自由の無い現状と、それを生み出したあの時の一瞬の好奇心を恨むが、しかし今はどうしようもない。
カザリに従っているという現状は実に不快なものだが、しかしカザリをなんとしてでも早急に潰すことが自分の今後のメリットに直結するかと問われれば、それは否であった。
最初の、第一回放送の前ならともかく、今彼はイカロスという兵器を手に入れてしまった。
だから殺せないというのではなく、海東は彼女のその比類なき戦闘力こそ、お宝だと判断したのである。
そう、海東もまた、キャッスルドランから送られてくる映像を見ていた。
故にイカロスの絶対的な戦闘能力をお宝だと称し、それを手に入れたいと欲望を燃やしたのである。
そしてカザリに付き従っている今のイカロスは、利用できる。
(折角労せず手に入れられる可能性のあるお宝を、わざわざ手放す必要もないからね)
自分がリーダーになっても、彼女が自分の命令を聞くか分からない現状、下手にカザリを殺してしまっては、すぐそこにあるお宝を逃してしまいかねない。
だからカザリを殺すのは、最悪でもイカロスが“リーダー"に従っているのか、“カザリ"に従っているのか、わかってからだと、海東は考えていた。
(キャッスルドランと言えば。……士、使命に躍起になってるみたいだね)
もちろん、彼はキャッスルドランでの戦いに参戦した、激情態と化したディケイドの戦いもその目に焼き付けていた。
彼が想像していた通りの、強靱なパワー。
あのイカロスすら一度は完封したそれを、しかし海東はその実あまり恐怖してもいなかった
889
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/02/18(水) 20:36:15 ID:iFGHIfiQ
(士、見てるだけで分かったよ。君は、使命に生きようとしても結局君なんだってね)
バースに止めを刺すその瞬間も、メズールに止めを刺すその瞬間も見ていたから、わかる。
彼は結局の根っこの所は、何一つ変わってなどいない。
きっと一度破壊したライダーは、もう一度復活したとして破壊することなど、彼はしないだろう。
僕は君の事を良く知ってるからねと笑って、海東はデイパックからカードを抜き取った。
それは、ディエンドライバーに付属する、カード群。
(僕はともかくとして──このカードのライダーも君の破壊の対象なら、やっぱり戦うことになるのかな)
そこにあるのは恐らくディケイドが未だ破壊していないのだろう、数多の仮面ライダーたち。
これも彼の破壊の対象なら──、やはりその時は戦うことになるのだろう。
まぁ、勝つのは僕だけどね、とまたも笑うが、しかしそれきり海東の笑顔は曇る。
続いて手に持ったのは、幾つもの固有名詞の書かれた、紙束である。
(あーあ、一体全体、この中のあとどれくらいがお宝として残ってるんだろう)
らしくなく難しい顔をする彼が見つめるのは、最早何度見たか分からない、支給品リストの紙。
誰に何が、そしてそれはどういったものなのか一切書かれてすらいないが、それでも名前だけで興味を惹かれるお宝は多数ある。
それらがもう破壊されてしまったかもと思うたび、彼の焦りは加速していくのである。
そして、彼の目は今また見慣れた支給品群に向かう。
(アークル、龍騎のデッキ、ファイズドライバー、ブレイバックル……はぁ)
九つの世界のそれぞれの代表者がもつ、海東の狙うべきお宝。
名前だけでも心ひかれるそれを是非手に入れたいという欲望が何度目とも知れず渦巻くが、しかしそれが叶わないのは、彼自身が良く知っていた。
そしてベルト群の中にあった、出来れば見たくなかったその名前を、もう一度視界に留めて。
(グレイブバックル……兄さん……)
自身の出生の世界において、兄、海東純一が使用していた、グレイブバックル。
お宝とかなんだとかではなく、ただそのベルトが支給品としてこの殺し合いに存在するということが、彼の心を不安にさせていた。
もしかしたら、兄はもう──、幾度と無く反芻したどうしようもない思いを、もう一度心に描いて。
──もちろん、この殺し合いに主催者側として参加しているなど、思いも寄らずに。
海東大樹は、この瞬間、ただの弟として、兄を心配していた。
890
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/02/18(水) 20:36:48 ID:iFGHIfiQ
(それに気になる支給品はまだあるんだよね……)
そして彼が目を向けたのは、恐らくはこの場での自身にとっての最高のお宝。
その名は──。
──ディエンド用ケータッチ
彼からすれば遠い未来、再び訪れた「電王の世界」で手に入れたはずの、自身の強化アタッチメント。
その存在を手に入れることさえ出来れば──今でも負ける気はしないが──、カザリや、士、イカロスにも、負けることはないだろう。
その為にもまずは──。
「どうにか、行動するように、リーダー様を動かさなきゃね」
彼の野心は止まることを知らず。
怪盗ライダーの戦いはまだ、始まったばかり。
目標のために、彼は考える。その胸に、先程の、カザリの言葉を思い出しながら。
『ねぇ、一つ聞きたいんだけど』
『なんだい、ディエンド』
『彼も、君に楯突いたろう?何で僕と違って拘束しないんだい?』
『あぁ、簡単な答えだよ、ディエンド。それはね──、君が、面白いからさ』
◆
「ふぅ、ちょっと落ち着いた。さてと、色々整理しなくちゃね」
考えを整理しやすそうな椅子を見つけて、カザリはそれに腰掛ける。
本当に、放送の前のキャッスルドラン戦から何から、整理しなくてはいけないことが多い。
こう言うのを嬉しい悲鳴って言うのかなとぼやきながら、彼はまず最近で一番インパクトの大きかった“あれ"について考えることにした。
(王様、まさかこんなところで見るなんて思わなかったよ)
それは放送役を務めた、忌ま忌ましい男の事。
今の時代の鴻上光生にも似ているが、しかし百パーセント違う。
出来れば二度と見たくもなかった男の登場に、しかしカザリはあまり恐怖していなかった。
いや、恐怖以上に沸いた感情が、大きすぎるといった方が適切か。
(王様。君が、自分はただ争奪戦を見てるだけ、なんて、生ぬるいことするわけないよね。……一体どんな裏があるの?)
それは、警戒。
主催者側として、ただ目の前で繰り広げられる欲望の奪い合いを、彼が見てるだけなんて、するはずがない。
自分から会場に飛び込むか、さもなければ放送などあんな嬉々として行うはずが無いのだ。
891
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/02/18(水) 20:37:22 ID:iFGHIfiQ
(それに真木博士も。終末を望んでるはずの君と、全てを奪って新しい世界を支配したい王様。……どう考えたって、利害が釣り合わないよね?)
主催者側にいる中でその二人だけしかまだ見ていないカザリでも、いや、その二人を知っているからこそ、この状況そのものに違和感を覚えた。
あの王は奪われるのを誰よりも恐怖する。
そんな彼が、身近にそれを齎しかねない真木を置いておくとは考えがたく、また真木も、新しい世界を望む鴻上を嫌悪していた手前、それの生き写しのような王を放置しておくとは考えがたい。
これらの疑問と、王が不機嫌にならずむしろ上機嫌でこの戦いを傍観している理由。
カザリは、それについて考え、そして一つの仮説を立てるに至った。
(もしかして、だけどさ。この戦い自体は前哨戦みたいなもので、そっちはそっちで奪い合いがあるんじゃないの?)
それは、王や真木が、何らかのルールのもと、彼ら自身も奪い合いを行っているという仮説。
こうでも考えなければ、彼の知る王との齟齬は否定できず、かつ彼らが潰し合わない理由も説明できない。
だが、その仮説を考えてから、もちろんだがカザリの心象は穏やかなものではなかった。
(もしもこれが本当なら──、わかってるだろうけど、僕は君たちの思い通りにはならないよ?)
もしも、今までのように懐柔出来る参加者だけを仲間にし全体的な参加者を減らしては、主催者の思うつぼだろう。
それすらも予想どおりだとしても、しかしカザリは、もう二度とあの王の全てがお見通しだという笑みを見たくはなかった。
故に、場合によってはウヴァやアンクといったグリード連中、そして宿敵とも言えるオーズと手を組んででも、彼らに抗う必要があると、カザリは考え始めていた。
(最も、代理でもリーダーを潰さなきゃいけないのは事実なんだけどね?)
先の放送で、自分以外の陣営の初期リーダーは全員消えた。
白以外は無事代理リーダーを立てることに成功したことを考えると、王たちとの対決のためには、少なくとも代理リーダー三人の死が必要となる。
最高の理想でも三十人。
王に勝てると断言出来るかは微妙なところである。
が、それでも、カザリは今最終的に優勝しただけでは自分の悲願は果たされないと、そう判断を改めたのだ。
ここまでを見て、もしかしたら諸君は、“カザリは王を恐れる余り文字通り牙を抜かれてしまったのか"とお考えの方もいるだろう。
だが、答えは否である。
何故なら。
892
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/02/18(水) 20:37:58 ID:t7MzCOAA
(もちろん、王様も真木博士も倒して、お人好しの連中の信頼を得られたなら、背中から襲える可能性が増えるって言うのも、魅力的だしね)
このように、最終的に彼が見ているビジョンは、皆でお手手繋いで主催を打倒、などという夢見ごとではなく。
自身が、全ての参加者を裏で支配し一人勝ちする光景だからだ。
しかし、彼が王の出現により大幅に今後に関する考えを改めたのは事実。
だが、そんな中でも、先程バッタカンドロイドを送って得たキャッスルドランでの戦いから得た情報を整理することは忘れない。
考えを改めた今だからこそ、現状をはっきり理解する必要性があるのだ。
(ディケイド、イカロス、メズール、バース……、オーズは確認できなかったけど、それでも収穫は十分すぎるよね)
彼のバッタカンドロイドが戦場に着いたのは、丁度ディケイドがバースを破壊した辺り。
つまりディケイドとメズールの戦い以降辺りからは、あの戦いでの全てを見ていたと言っていい。
つまりそれは、あの状況にいた参加者も気付けていない情報にまで、目が届いたということにも繋がる。
(ラウラ・ボーデヴィッヒが緑の代行リーダーなのは確認したし……、多分メズールを倒したから青のリーダーはディケイドになってるはず。……ラウラはともかく、ディケイドはちょっときついかなぁ)
ラウラの首輪の色に始まり、園咲冴子とユーリ・ペトロフが同方向に離脱したこと、そしてディケイドの戦闘の全ても。
そう、全てを、自分は見ていたはずだったのだ。
(まさかあそこまで破格の能力持ちだとは思わなかったよ、ディケイド。女王様を完封同然で倒せるなんてね。……メズールも、もうちょっと賢ければ生き残れてたかもしれないのにね)
自身が最高級の戦力として信じて送り出したイカロスを一瞬の内に──あれが噂に聞くタイムのカードだろうか──破壊し、その後もあの超広範囲から──大方ミラーワールドにでも逃げ込んだのだろう──無事に逃げ出した。
そんな彼に何が根拠か慢心して戦いを挑んだメズールの敗北は、当たり前とすら思えた。
ただ敗北するだけなら、カザリは当たり前だとそこまで気にも留めなかっただろう。
そう、ただ敗北するだけだったなら。
(まさかオーズだけでなく、君までメダルを砕けるとはね。……ドクターも、一体どれだけディケイドを優遇したら気が済むんだい?)
メズールの死の瞬間、カザリは“メズールが完全に消滅する"のを感じた。
ダメージにより体を保てなくなったのではなく、完全な、消滅。
感情を内包したコアメダルを、ディケイドの手で破壊されるのを、映像越しでも感じたのである。
893
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/02/18(水) 20:38:32 ID:iFGHIfiQ
同じくタイムを使えるはずの剣崎一真が早期退場していることを踏まえても、主催者のディケイドに対する優遇は、異常とすら言えた。
だが、だからこそ、こんな場合のために、カザリは同行者に彼を付けているのではないか。
(って思ってたんだけど……、正直、今のディエンドがあのディケイドと戦ったところで勝てるのかって言われると……うーん)
ディケイドと対をなす強力な仮面ライダー、ディエンド。
自陣営に下り同行者としたその瞬間から、メズールとの対決以外に強力な仮面ライダーと目したディケイドとの対決の際にも、役立つだろうと大事にしてきた。
だが、しかし事ここに至って、彼らの戦力差は思った以上に大きいのではと思えてきたのである。
ディエンドに対ディケイド用の強力な能力があるならともかく、そうでないのなら正直イカロスをぶつけた方がいいメダル削りにはなりそうである。
故に常に身近に拘束して寝首を掻かれる心配を抱き続けるよりは、その抑圧された欲望を開放してもらった方がよいかとも思えてくる。
だが、やはり今すぐそれは出来ない。なぜなら、と、そこまで考えて、彼は握り拳を作る。
(さっきのバーナビーとの遭遇で、試してみたけど……やっぱり二百枚じゃ大幅に能力は制限されちゃうよね)
それは自身の能力の低下のため。
イカロスに自身の体を構成するセル三百枚を譲渡したのは周知の通りだが、しかしそれには当たり前だがデメリットが多く発生する。
……と、ここで、グリードにおけるセルとコア、それぞれが一体どういったものなのか、という事について、話しておかなくてはなるまい。
グリードの体は、諸君も知っての通り、セル多数とコア最大九枚で構成される。
これを人間に置き換えるのは非常に難しいが、例えるならセルは血液、コアは臓器……というのはどうだろうか。
臓器は人間の活動に必要不可欠なものであるが、実際の所、そのうちの幾つかは無くなっても生存が可能である。
だが不便なことに代わりは無いし、例え諸君の肺が片方無くても生きられるとして、それが手に入るなら手に入れたい欲望が生まれるのが普通である。
そして血液は体の活動を行う際に必要なものであり、少数輸血されても変わらないが、相応の量を輸血されたなら、それは大きな力にも繋がる。
血流が少なければ貧血に悩まされ、そもそも動物的活動そのものに支障が出るといっていい。逆に血液を一気に輸血されれば、身体が熱で暴走する。
グリードであり、人間とは根本的に異なるカザリもまた、この法則と大凡同じことが起きているといっていい。
つまり今、“体に対して非常に有益な動きをする臓器(コア)を、活用しきれる血液(セル)が足りない"のだ。
これが、この場でグリードに課された、非常に大きなデメリットの一つであった。
この場では、セルは他の参加者の能力使用にも大きな役割を果たす。
故に設けられた制限だが、具体的には以下の通り。
・セルが499〜400までの間は、未来のコアメダルの能力を使用できない。
・セルが399〜300までの間は、他色のコアも取り込まないと完全体と同等の力を発揮できない。
・セルが299〜200までの間は、コアを幾ら取り込んでも完全体にはなれない。
・セルが199〜100までの間は、コアメダルを取り込むことによって発揮できる能力が使用できなくなる(猫系なら風、水棲系なら放水能力等)
・セルが99〜0の場合は……、そもそも体の構成を保つのが困難になる。
894
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/02/18(水) 20:39:10 ID:iFGHIfiQ
わかりやすいように、なのか、百枚ごとに制限が設けられている。
そして今のカザリのセル枚数は、二百。
故に今の彼は、九枚の自身のコアを手に入れたとして、完全体になることは不可能なのである。
そして、わかりやすいデメリットの上記以外に、もちろん体を構成するセルが少ない分、戦闘力も低下する。
それを先程のバーナビーとの会合で理解したからこそ、彼は今単独で行動することは出来ないのだ。
(とはいえ、ディエンドに今これを悟られるのも、不味い。イカロスと合流して、ディエンドは一旦開放って言うのが、今の目先の行動方針かな)
ディケイドとの戦闘においてディエンドが真に切り札足りうるか疑問を抱かざるを得ない現状では、正直なところ手元にディエンドを置いていても、メダルが少なく戦闘でも期待できない上、寝首を掻かれる心配のある不安定な駒でしかない。
彼を手元に置いたのは自身に逆らった見せしめ以上に面白かったしメズール戦に役立つと踏んだからだが、いい加減彼の欲望を抑圧させておくほうが勿体ないと思えてきたのである。
(殺し合いを面白く進行した上で、王様の予想の裏をかいて、主催者陣を出し抜いて完全体になって生還する。……纏めてみても、課題は多そうだなぁ)
ま、出来なくはないだろうけど、とほくそ笑んで。
その為にも、今は会場全域の情報が、少しでも多くほしい。
故に、そうした利用方法のために手に入れた駒との遭遇、情報の交換は重要な事項であった。
(って思ってたのに、桐生萌郁……、もしかして、期限切れだったりするのかな?)
先程から山のようにメールを送っているのに、一切反応する様子の無い、青陣営にいながら自身に従う、萌郁。
彼女がここまで連絡に応答しないのは、もう彼女を切った方がいいのではとカザリに考えさせる要因となっていた。
彼の言う期限切れが、賞味期限切れ(価値は落ちてもまだ利用できる)なのか、消費期限切れ(すぐに捨てないと不味い)なのかは、未だ明らかではないが。
(それに笹塚衛士もさ、君が入れ込んでた桂木弥子は死んじゃったよ?次に会うとき、楽しみにしてるからね)
復讐の修羅として会場に存在し、自身がこの会場で一番最初に陣営に取り込んだ、笹塚衛士。
殺し合いを面白くしてくれそうな要素である彼が、情を抱いていた桂木弥子が死んだ。
今まで以上に面白い行動を期待して、そして次に遭遇するときを心待ちにして、彼は笑った。
(ホント、僕の陣営の人間は面白いのばっかりだよ。君にも、面白い事期待してるからね?バーナビー?)
先程手に入れたばかりの新品の玩具が、どうか早めに壊れませんようにとそう期待しながら。
この殺し合いを、そしてその先の戦いを制覇せんとする王は、不敵に笑った。
895
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/02/18(水) 20:39:54 ID:iFGHIfiQ
◆
「おじさん……、伊達さん……、鈴音ちゃん……、すみません。僕は、あいつの甘言に……)
ふらふらと一人歩くのはバーナビーブルックスjr。
ディケイドの情報を多く得て、伊達の復讐に一歩近づいたというのに、その欲望は一切満たされていない。
それ以上に、自身が警戒していたはずの悪の策略に嵌まってしまった事実が、彼の心を占めているのだ。
せめて、彼がもう少しでも無責任だったなら。
終わってしまったことは仕方ないし、命が助かるにはああするしかなかったと開き直れる強さがあったなら。
……いや、そうだったなら、バーナビーはこんな状況に陥ってはいないはずだ。
そう、真面目で責任感が強く、この場ではきっとタイガー以上に正しくヒーローであろうとするからこそ。
彼の悩みの種は、きっと消えることは無い。
自分を責め続けることが、何の解決にも繋がることは無いと分かっていても。
それでも自分を責めずにはいられないから、彼は彼なのだ。
「マミちゃん、後藤さん、それに冴子さんも……僕はもうあなたたちに合わせる顔も無い……」
彼の足はどこともなく道を彷徨って。
ヘリオスエナジー社に向かっているのか、それとも違うところなのか。
どこに向かっているのか、彼自身にも、わからぬままに。
迷えるヒーローは、ただ謝罪だけを述べ続けていた。
【二日目 深夜】
【C-6 南西 キャッスルドラン寄り】
【カザリ@仮面ライダーOOO】
【所属】黄
【状態】健康、王の登場に対し強い警戒、恐怖。
【首輪】70枚:0枚
【コア】ライオン×1、トラ×2、チーター×2、トラ(10枚目)
【装備】ヴァイジャヤの猛毒入りカプセル(左腕)@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品、詳細名簿@オリジナル、天王寺裕吾の携帯電話@Steins;Gate、ランダム支給品0〜1
【思考・状況】
基本:黄陣営の勝利、その過程で出来るだけゲームを面白くする。
1.イカロスと合流し、ディエンドは開放。その後、 会場での情報を多く収集する。
2. 王の打倒のため、また裏で繰り広げられているだろう戦いの情報を得るため、場合によってはオーズやグリードとも協力し王の裏をかく。
3.まだ「FB」として萌郁に指令を与え、上手く利用出来るだろうか。
4.笹塚に今まで以上に期待感。きっとゲームを面白くしてくれる。
5.海東に興味を抱きながらも警戒は怠らず、上手く利用する……つもりだったがそろそろ開放するべきか?
6.タイムマシンについて後で調べてみたい。
7.ゲームを盛り上げながらも、真木、王を出し抜く方法を考える。
8.体を構成するセルを回収するため、行動する
【備考】
※現緑リーダーをラウラ、現青リーダーを士だと考えています。ラウラは確信、士もほとんど間違いないと考えています。
※キャッスルドランでの戦いは、イカロスがキャッスルドランを倒した辺りからアポロンで周囲が消滅するまでを確認しています。
※10枚目のトラメダルを取り込みました。
※身体を構成するセルメダルから300枚をイカロスに渡しました。残数は200枚です。
※身体を構成するセルメダルの量によって、単純な戦力の減退以外に、以下のデメリットがあります。
{・セルが499〜400までの間は、未来のコアメダルの能力を使用できない。
・セルが399〜300までの間は、他色のコアも取り込まないと完全体と同等の力を発揮できない。
・セルが299〜200までの間は、コアを幾ら取り込んでも完全体にはなれない。
・セルが199〜100までの間は、コアメダルを取り込むことによって発揮できる能力が使用できなくなる(猫系なら風、水棲系なら放水能力等)
・セルが99〜0の場合は、そもそも体の構成を保つのが困難になる。}
※バーナビーを取り込んだことによって生まれたセルメダルは、バーナビーに譲渡しました。
※主催の裏に関して今まで以上にきな臭く感じられてきたので、場合によっては本気でオーズや他のグリードも復活させた上で懐柔し、協力して主催戦に挑みたいと考えています。
896
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/02/18(水) 20:40:38 ID:iFGHIfiQ
【海東大樹@仮面ライダーディケイド】
【所属】黄
【状態】健康
【首輪】20枚:0枚
【コア】クワガタ
【装備】ディエンドライバー@仮面ライダーディケイド、ライドベンダー@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式、支給品一覧表@オリジナル、不明支給品("お宝"と呼べるもの)、キングストーン@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:この会場にある全てのお宝を手に入れて、殺し合いに勝利する。
1.今はカザリに協力し、この状況を最大限に利用して黄色陣営を優勝へ導く。
2.チャンスさえ巡ってくれば、カザリのメダルも全て奪い取るが、その前にイカロスを手に入れたい。
3.他陣営の参加者を減らしつつ、お宝も入手する。
4.天王寺裕吾の携帯電話(?)、ディエンド用ケータッチに興味。
5.“王の財宝”は、何としてでも手に入れる。
6.いずれ真木のお宝も奪う。
7.グレイブバックル……。
【備考】
※「555の世界」編終了後からの参戦。
※ディエンドライバーに付属されたカードは今の所不明。
※キングストーンは現在発光していません。
※キャッスルドランでの戦いは、イカロスがキャッスルドランを倒した辺りからアポロンで周囲が消滅するまでを確認しています。
※その為、ディケイドが現状激情態となっていることを把握しました。映像を見た上で勝てると踏んでいますが実際の所は不明です。
※この場に、支給品として「ディエンド用ケータッチ@仮面ライダー超電王トリロジー」が存在します。
【二日目 深夜】
【??? 不明】
【バーナビー・ブルックスJr.@TIGER&BUNNY】
【所属】黄
【状態】ダメージ(大)、疲労(中)、無力感、ディケイドへの憎しみ、ラウラへの罪悪感、自分への不甲斐なさ
【首輪】35枚:0枚
【装備】バーナビー専用ヒーロースーツ(前面装甲脱落、後背部装甲中破、)@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品、篠ノ之束のウサミミカチューシャ@インフィニット・ストラトス、
プロトバースドライバー@仮面ライダーオーズ(破損中)、バースバスター@仮面ライダーオーズ
【思考・状況】
基本:虎徹さんのパートナーとして、殺し合いを止めたかった。
1.園咲冴子の保護、巴マミとの合流……をしたかったが……。
2.今はまだ、虎徹さんに会いたくない。
3.伊達さんは、本当によく虎徹さんに似ているけど少しだけ違った。
4.ディケイド、Rナスカ(冴子)を警戒。特にディケイドは許さない。
5.僕は……、カザリのいいなりになってしまった……。
【備考】
※本編最終話 ヒーロー引退後からの参戦です。
※仮面ライダーOOOの世界、インフィニット・ストラトスの世界からの参加者の情報を得ました。ただし別世界であるとは考えていません。
※時間軸のズレについて、その可能性を感じ取っています。
※シナプスカード(智樹の社窓)は消滅しました。
※カザリの策略に嵌められたことに対して、自身の不甲斐なさ、情けなさを感じています。
※今彼がどこにいるのか、またどこに向かっているのかは不明です。
897
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/02/18(水) 20:44:15 ID:iFGHIfiQ
以上で仮投下終了です。
お聞きしたい内容としては、全体的な内容の不備がないかという点以外に
・ディエンド用ケータッチを支給品名簿で出してしまうという形で登場させてよいのか
・グリードのセル枚数に対する制限は妥当か。また内容に異議はないか。
という二点が大きな点です。
今回も修正にはなるべく早急に対応したいと思いますのでお願いします。
898
:
◆z9JH9su20Q
:2015/02/18(水) 22:55:34 ID:RvrS1VmI
◆VF/wVzZgH.氏、仮投下お疲れ様です。
氏が気にされている二点について、意見させて貰えれば、と思います。
結論を先に述べると、個人的にはどちらも大きな問題はないように判断できました。
ディエンド用ケータッチの出典となる『仮面ライダー電王』シリーズは厳密には参戦作品には含まれてはいませんが、内容的にいえば海東大樹が主人公の『仮面ライダー超電王トリロジー』のエピソードイエローは事実上『仮面ライダーディケイド』の派生とも扱える作品であり、複雑な設定があるわけでもありませんので、ディエンド用ケータッチの存在、及び支給品一覧表に記載されている件についてはほぼ問題ないと思いました。
次にグリードのセル枚数に対する制限についても、ほぼ問題ないかと思いました。
ただ、自分の読解力不足かもしれませんが、
>>893
の制限に関する文章がカザリ自身が把握している情報として明示されていることなのか否かが確信できなかったため、未来のコアメダルの制限に関して気になった点ができました。
未来のコアメダルについては既に手に入れているウヴァが(グリードとして不完全なため)その能力に気づいていない、という過去作の描写から、本編途中からの参戦であるグリード達はスーパータトバのコアメダルに関する知識を持っていないものと思われます。
ですので、もしも単なる私の理解力の問題で、氏としては最初からその意図であったとすると大変失礼ではありますが、その辺りをわかり易くするため、差し支えなければ制限について触れる文章に「カザリは具体的な制限までは把握していない」旨を(少なくとも未来のコアメダルに関しては)書き足して頂けたら、という風に感じました。
他に気になった点としてはバーナビーの虎徹への呼称は現在「おじさん」ではなく「虎徹さん」ではないかということと、作中世界での彼らのコンビ名は番組名とは異なり「タイガー&バーナビー」であるので修正をお願いできれば、と思いました。
意見としては以上となります。お手数とは思いますが、対応よろしくお願い致します。
899
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/02/18(水) 23:11:16 ID:iFGHIfiQ
了解しました。
呼称等のミスは本当に情けないですね……。言われた通り訂正しておきます。
あと、見直していて、ファイズ世界終了後の、
オーガドライバー等を手に入れファイズドライバーへの興味を無くした海東がそれを欲しているのは不自然かと思いましたので
該当個所をカブトゼクターにでも差し替えておこうと思います。
900
:
◆z9JH9su20Q
:2015/02/18(水) 23:54:35 ID:RvrS1VmI
>>899
いえ、ミスは誰にでも起こりえますので、あまりお気に病まずに。
それと一応、ファイズドライバーに関してはダイバージェンス三部作中で実物を手にした海東自身が改めて手に入れたいと発言しているので、そのままの方が自然かと思います。
とはいえ修正の手間もありますし、正直どっちにしても話を左右するわけでもないので、判断は氏にお任せします。
901
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/02/19(木) 00:33:00 ID:DB5A/H0E
そうですか、ではこのままで。
何度もご指摘ありがとうございます、氏には頭が上がりません。
902
:
欲望まみれの名無しさん
:2015/02/19(木) 01:34:38 ID:q36/CoGA
すいません、バニー同様呼称について指摘が
カザリが真木を呼ぶ時は真木博士ではなく、ドクターであったかと思います
903
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/02/19(木) 07:33:21 ID:DB5A/H0E
それに関しては、王様呼びと同様、皮肉のつもりで敬称を硬くしている、という表現でしたが、今見返すとそれが伝わりづらいですね……。
普通にドクター呼びにしようと思います。
904
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/02/19(木) 23:04:44 ID:DB5A/H0E
すいません、今ちょっと投下できる状況ではなくて、明日の期限までに間に合いそうにありません……。
前回もお願いした手前、非常に申し訳ないのですが、また代理投下をお願いできますか?
いつもタイミングが微妙に悪くて本当に申し訳ありません……。
905
:
欲望まみれの名無しさん
:2015/02/19(木) 23:19:05 ID:q36/CoGA
>>903
対応ありがとうございます
投下の件については修正もあるみたいですし、 既に氏には延長権がありますので代理投下するよりも予約を延長された方が良いかと思います
906
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/02/20(金) 07:24:38 ID:D9/fO/Qo
ありがとうございます。
もう延長権あったんですね、他の所とごっちゃになってました。
では延長したいと思います。
907
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/10(火) 23:23:34 ID:cHLVg0K.
不安要素がありますので、仮投下したいと思います
908
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/10(火) 23:29:06 ID:cHLVg0K.
音さえ置き去るスピードで、湖の騎士が駆け抜ける。
上半身を護るはずの鎧は既に消え失せ、雄々しい筋肉に包まれたその胸は激しく打ち付けられたような打撲痕と熱傷の跡。
常人ならば既に息絶えていても不思議ではない傷をその身に負いながらも、湖の騎士・ランスロット───バーサーカーは止まらない。
何故ならば。
「■■■、■■■■」
───其処に、いるはずのだ。
感じるのだ。
魔力で察知した訳でもなく、騎士としての感が働いた訳でもない。
ただの『先程まで其処にいたから』という安直で短絡的な思考回路。
理性を狂気で塗り固められているが故の浅はかな思考。
そこに理由などなく、確証も根拠もない。
だというのに。
───この身体を蝕む狂気が、叫ぶのだ。
『おまえの王は其処にいる』と。
『おまえの王は逃げていない』と。
ならば。
此の身体がその場へと向かうのは、必然と言えた。
「Ar───ur」
ああ、彼の君よ。
穢れなき清廉な騎士王よ。
此の身は疾く貴方の元へ馳せ参じよう。
焼け焦げた胸の傷など捨て置いて。
砕けた見苦しい鎧など捨て置いて。
全てを捨て未知なる武具を手に貴方に牙を向けよう。
この身に宿した武練を持って、貴方に反逆しよう。
だから、どうか。
「Ar、thur……」
許されざる此の私を。
許されざる此の身を。
どうか、貴方の剣で。
どうか、貴方の腕で。
「Arthur───ッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
───私の罪を、裁いて欲しい。
▲ ▲ ▲
とある騎士は、城を去る前にこう言った。
───『アーサー王は人の心がわからない』、と。
その騎士の言葉はある意味では間違っていない。
それ程までに彼の王は『王として』完成されていた。
王として少しでも似つかわしくないと判断すれば王の座を奪おうとしていた騎士も、王の完全さにその機会を奪われ。
王としてその能力が確かであるならばと耐えた。
王として優秀であれば、性別など関係ない。
見目麗しいその姿は少年のようで、歳を取らず傷も修復するその不死性を『王の神秘だ』と讃える騎士もいた。
……そう。
彼等は『アーサー王』を必要としていただけで『アルトリア』のことなど一切必要としていなかったのだ。
皮肉な話だ。
王として完璧であるためには人としての感情を捨てねばならないが───人の感情を捨て理想の王として君臨すれば『王は人の心がわからない』などと言われてしまうのだから。
───誰よりも理想の王を求めたのは、彼等だというのに。
しかし、それでも彼の王は王としてその在り方を崩すことはなかった。
そして。
その末に手に入れたのは───眼前に広がる死屍累々の丘。
「ええ、わかっています───その為に、私は聖杯を求めたのだから」
全ては、あの結末を変えたいが為。
よってこのような悪趣味な儀式に協力する義理もなく、疾く終わらせるべきなのだ。
彼女は、彼女の許せる範囲の行動しか行わない。
相手が騎士で、戦士であるのならば不意打ちも行おう。
状況と己の技術で命を取り合う、それが戦いというものだ。
しかし───無防備な人を殺すのは、それは虐殺だ。
909
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/10(火) 23:32:46 ID:cHLVg0K.
しかし、セイバーはその虐殺を否定はしない。
いざ戦いが始まれば犠牲は発生する。
彼女もそれは知っているのだ。
生前は被害を最小限にするために少なくない犠牲も払った。
出来ることならばこの場でも犠牲が出る前に儀式を破綻させてしまいたい───しかし、今己の後ろには二人の存在がいる。
少女、阿万音鈴羽とマスターである衛宮切嗣。
戦力も少なく、恐らく今他参加者と出会ってしまえば戦死してしまう可能性が高い。
それに───サーヴァントはマスターに従うもの。
戦いを疾く終わらせたい気持ちはあるが、己を自分の剣だと認めた切嗣も同じ気持ちであるのならば共に行動をすればそれが事態の解決に向かうハズ。
卑劣な行為こそ認めはしないが、その手腕は認めているのだ。
「…此処からではよく見えませんね」
教会の屋上にてセイバーは呟く。
風に靡く美しい金の髪は、それだけで辺りに高貴な雰囲気を醸し出す。
残念ながら、セイバーのクラスは監視というものに向いていない。
アーチャーのクラス、弓兵は目が良くなくては成り立たない為遠隔視が可能なサーヴァントが多いのだが、セイバーのクラス、剣士は主に戦闘にて能力を発揮するクラスだ。
『遠くを見る』ということや『情報を集める』という点では他より劣る。
だからこそ、少し目を凝らしても───南方に確認できた人影を特定することができない。
「───」
切嗣や鈴羽が後ろにいる以上、ここを離れる訳にはいかない。
確かめるためにここを離れる訳にはいかない以上、あの人影が此方に到達するしか接触する方法はないだろう。
それに放送もあるのだ。
今は、様子見の時期で打って出る時では───
『Arthur───ッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
「───ッ!?」
それは、聞き覚えのある声だった。
最初に聞こえたのは怒声。
その直後。
遥か向こうの空に装甲らしきものを纏ったバーサーカーが、飛来するのが見えたのだ。
(───あの奇妙な鎧は)
この場にて一度相見えた少女───ラウラ・ボーデヴィッフィが装着していた物と似ている。
色や形状こそ違うものの同じ類のものであることは間違いない。
ギリ、とセイバーは歯を噛みしめる。
バーサーカーの特徴の一つとして、触れた物は何であれ己の宝具へと昇華させる宝具を持つ。
およそあの奇妙な鎧も己の宝具としていることだろう。
飛行していることからも、機動力も以前と比べて上昇しているようだった。
そう判断した後のセイバーの行動は、速かった。
「切嗣、スズハ!!バーサーカーが此方へ向かっています!
迎え打ちますので、退避を───!」
屋上から飛び降りつつ、教会の内部へと届くように声を張り上げる。
教会内まで移動して退避を手伝う余裕はない。
バーサーカー相手に───ランスロットを前に、悠長に移動している暇はない。
ならば、と。
セイバーが向かった先は、教会のすぐ側だった。
「貴公が空を駆けるソレに乗るならば」
此方にもそれ相応のモノが必要だ、と。
視線の先には、鋼鉄の馬。
教会までセイバーを運んだモンスターバイク。
缶の型に収まっているトラカンドロイドと、ライドベンダーだった。
「……時代も馬も違うが───馬上戦と行こうか、ランスロット」
静かに呟いたその言葉が、空気に消えるのと同時。
戦いの始まりを告げるかのように、放送が始まった。
▲ ▲ ▲
910
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/10(火) 23:41:04 ID:cHLVg0K.
『切嗣、スズハ!!バーサーカーが此方へ向かっています!
迎え打ちます───!』
「……このタイミングで」
セイバーの警告は切嗣と鈴羽にしっかりと届いていた。
バーサーカーは強力なサーヴァントだ───万全のセイバーでも勝てるかどうかわからない。
それに加え、現在セイバーは聖剣を所持していないらしい。
単独での撃破は難しいだろう。
逃走するか───いや、この場には織斑千冬と小野寺ユウスケが帰還する。
上手く逃げ仰せたとしても、バーサーカーと相対するのは彼女達となる。
……それは、出来ない。
では、如何するか。
「ここでバーサーカーを倒すしかない、か」
「…あたしも協力するよ」
「いや、駄目だ、……駄目というより、無理だ。
サーヴァント同士の戦いに人間が介入しても出来ることなんて数えるほどもない───小野寺ユウスケのような力があるなら別だけど、今の僕達には能力もなければメダルもない。
放送を超えればメダルは何とか出来るけどね。
でもこのメダルは温存した方がいい───セイバーの勝敗がどうであれ、メダルが必要になるだろうからね」
武器と呼べるものも、今は戦闘に有効なものと言えばタウルスPT24/7Mとナイフ程度しか持っていないのだ。
そして動くこともギリギリの男と、実戦経験があるらしい少女。
この程度の武装でバーサーカーに臨むのは殺してくださいと願いに行くようなものだ───そんな事はできないし、させられない。
「セイバーが負けるのは想像出来ないけど…それでも、負けたら」
「その時は仕方ない。
何処かに隠れるか、逃げるしかないね───」
カチャリ、と。
終わらない内に鈴羽の手が切嗣の懐から何かを奪い取る。
───警棒とスタンガン。
相手が普通の人間ならばなんとか役に立つだろう程度の武器。
「…セイバーは負けないよ。きっと、勝って戻ってくる」
だから、と。
その身に釣り合わない程の硬い印象を持たせる銃を片手に彼女は、言い放つ。
「それまではあたしが守る。だから衛宮切嗣は回復に集中して」
「……済まない」
切嗣の口から漏れたのは、謝罪だった。
歩行・走行が不自由なく可能なまで回復すれば、この身も敵わないとしても戦闘に参加できただろう。
それが出来ないのが───申し訳なかったのだ。
「謝らなくていいよ。あたしはあたしがやりたいことをしてるだけだから。
───もう、守れるところにいる人が死ぬのは、嫌なんだ」
『……ありがとう、鈴羽さん』
それは、月見そはらの最期の言葉。
それは、手の届く範囲に居たはずだったのに、守れなかった罪のない命。
それは、殺される理由など欠片もなかったはずの命。
そんな命が奪われるなんて───間違っている。
「もう、誰も死なせたくない」
───命を奪いに襲い掛かる、下らない殺人者などにくれてやる命など、一つ足りとも存在しない。
今は亡き少女の面影を背に。
新たな少女が、決意を燃やし立ち上がる。
───それと同時に。
『午前0時0分0秒……素晴らしい。新しい一日の誕生だ──ハッピィバースデイッ!!』
二回目の、放送が始まった。
▲ ▲ ▲
数多くの人が、死んだ。
中にはグリードやこのゲームに乗っていたものも多くいるだろう。
だが。
中には、何の罪もなかった人もいたはずだ。
「……クソッ」
その現実が、切嗣の心を蝕んだ。
正義の味方。
誰かを救うということは、誰かを救わないということ。
そう士郎に言い聞かせたはずなのに───誰かを救わないどころか誰も救えていない自分は、とんだ半端者だ。
正義の味方になってみせると。
口では唄い続け、結局のところ誰一人として救えていない。
911
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/10(火) 23:44:16 ID:cHLVg0K.
「済まない……でも」
───それでも。
止まることは、出来ない。
『安心しろって。爺さんの夢は───』
そう月下の誓いを交わした少年に恥じない存在にならないといけないのだ。
その過程で自分が死んだとしても───正義の味方を、諦める訳にはいかないのだ。
「……そのためにも、行動だ」
追加されたという新システム。コアメダルの破壊というワード。
考えなければいけないことは山ほどあるのだ。
そのためにも先ずはここを切り抜けるべきで───
「……阿万音、」
鈴羽、と続けようとしたその唇が、止まる。
ガリッと、音がした。
歯を噛み締め、何かに堪えるために、身を抱きしめている少女がいた。
……ああ、そうか、と。
切嗣は、察したのだ。
知り合いか、仲間か───その誰かが、呼ばれたのだ。
「……ッ!!」
その感情は怒りか、悲しみか。
ギリギリ、と。
唇を噛み切りそうなほど歯を食いしばり、握った銃が砕けそうなほど握り締めていた。
───それは、まるで。
自分の侵す受け流せないほどの感情を、力業で耐えているようだった。
「……阿万音鈴羽」
「大丈夫」
「大丈夫、だから」
かける言葉が、見つからなかった。
ああ、そう言えば。
士郎はあまり泣かない子だったな───と。
『誰かを励ます』という経験が余りにも足りていない切嗣は、すまない、と一言だけ発し。
もしセイバーが敗北したら───その可能性を感じつつ、動くことすらできない自分を恥じた。
▲ ▲ ▲
912
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/10(火) 23:46:54 ID:cHLVg0K.
『Arthur───ッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
「くっ、化け物め……!」
恐らくかなり距離が離れているというのにはっきりと聞き取れるその大音量に悪態を吐き、織斑千冬は駆け抜ける。
これならば放送を待つより先に百式を展開して駆け付けたほうが良いのではないか───いや待て、それでバーサーカーに追いついたとして心許ないメダル量で何ができるというのだ。
しかし、ようやく着いた先にはセイバー達の死体が転がっていた、なんてことになっては───
「……何を弱気に取り憑かれている」
パン、と頬を叩き己の心に巣食った弱気を追い払う。
セイバーも相当の実力者なのだ。
そう簡単に敗北するはずなない、と今は信じる他ないのだ。
すると。
『午前0時0分0秒……素晴らしい。新しい一日の誕生だ──ハッピィバースデイッ!!』
よく通る男の声と共に───放送が、始まった。
聞いたことのない声。
喧しい男だ───おそらく自分の知らない人間だろう、と判断する。
しかし、放送を大人しく聞いている暇は今の千冬には存在しない。
聞き流す程度で耳に収めつつ、聞き漏らしはしない程度の感覚で彼女は走る。
「しかしこれで……」
と、念じると同時にメダルが増えるのが感じ取れた。
使用可能になったコアメダルを即座にセルへと変える。
その数、60枚。
これならここからISを起動して駆け付けても戦闘分は大分残るだろう。
『───セシリア・オルコット』
「ッ!」
目の前で散った教え子の名が、再び読み上げられる。
救えなかった、教え子。
ああ、もう。
彼女のような結末を迎える者を出してはいけない───ならば。
「すまない、オルコット───この事件を解決したらまた綺麗に埋葬する。今は、安らかに」
彼女の眠るべき場所は、こんな血塗られた会場ではない。
亡くなった教え子の思いを胸に、まだ生きている仲間と教え子の為に、彼女はISを起動する。
IS。その名は、白式。
最愛の弟である一夏の、恐らく死亡するまで身につけていたであろうそのIS。
それを起動し、メダルをエネルギーに推進力に変え───
「セイバー、今行『凰鈴音』───は?」
その足が、止まった。
今度は無様に喚き散らすこともなかった。
突然だったからか、予想外の方向からの衝撃だったからか。
絶望も哀しみも、感情が追いついていなかった。
ただ、理解した。
───ああ、死んだんだな、と。
「……馬鹿者が」
「……馬鹿者が」
「……馬鹿、者が……ッ!」
突如。
辺りを吹き飛ばす程の突風と共に、白式が空へと舞い上がる。
スラスターが火を噴き、全推進力を移動に費やす。
「……すまない。私の力不足だ」
なんて、無様。
教師という生徒を守る立場でありながら、一人も守れていない。
家族である弟すらも。
これでは───教師失格だ。
「───」
喪ったものが、多過ぎた。
唯一の弟を。
弟に好意を寄せてくれていた生徒達を。
殺し合いを打倒すると心を通わせた仲間を。
この短時間で無くすには余りにも多過ぎるものを、亡くしてしまった。
許してくれ、なんて言うつもりはない。
守れなかった生徒に、教師が許しを請うなど、赦されない。
哀しみもある。絶望もある。
出来ることならば、不甲斐ない自分をここで殴り倒したい。
だが。
だが───まだ、自分はすべきことがある。
「……白式、行くぞ───!」
向かう先は、今戦っているであろう仲間の元へ。
感傷は置き去りに。
哀しむのも絶望に跪くのは───全てが終わった、その後で。
「───おい!?何があったんだ!?」
その時だった。
あの始まりの会場で、殺し合いの打破を宣言したヒーローに出会ったのは。
▲ ▲ ▲
913
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/10(火) 23:49:07 ID:cHLVg0K.
「……サー・ランスロット。まさか貴方と、こんな場所で剣を交えることになるとは思ってもいなかった」
「───」
教会前。
IS、打鉄弐式を展開したバーサーカーは、其処で浮遊していた。
トライドベンダーに跨り、凜然とした姿で迎えるかつての己の主君を前に。
セイバーの問い掛けには答えない。
ただ狂気で歪ませたその顔を晒しているだけ。
「語り合う言葉もなく、名乗りを上げる自由もない───我らが交えるのは互いの武器に載せた思いのみ。
ならばこそ、迷いのある心で武器を交えるのは貴公に失礼と言えよう」
「……Ar」
カチャリ、と。
風を纏った戟をバーサーカーへと向ける。
折れている為、もはや風王結界でリーチを隠したとしてもさしたる効果は期待できない。
ならば───その分の風を斬れ味と一撃の重さへと利用しよう。
「私はもう迷いを消したぞ。私の背後には、潰えてはならない命がある。
貴公が私の前に立ちその命までもを摘み取ると言うならば、互いの立場は明白だ」
「…thur…」
トライドベンダーが獣の雄叫びを挙げる。
まるで、王の闘争心を現すように。
打鉄弐式がカタカタと小刻みに震える。
まるで、この時を待ちわびたかのように。
「それでも貴公の怒りが私を赦さぬと言うならば───いざ、死力を尽くしてくるがいい。
この身にかけて、貴公の挑戦に受けてたとう」
「Ar…thur……!!」
チャキリ、と。
互いの得物が起き上がる。
片方は折れた戟を。
片方は、近未来的な薙刀を。
「サー・ランスロット───いや、バーサーカー。
此処が貴公の死地だ───!!」
「Arthur───!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
それが、合図だった。
四つのタイヤが大地を削り、熱を発するスラスターは空気を焼く。
陸を縦横無尽に駆け回る虎に対し、バーサーカーが行ったのは多数の宝具の掃射だった。
先ずは機動力を削ぐ───しかし剣や槍の群れは、何一つとしてセイバーを貫くことはなかった。
まるで生物のように駆け回るトライドベンダーが掃射の間を潜り抜けるように駆け回り、それでも避けられない直撃をその戟で弾いているのだ。
折れた戟だが、まだ刃は付いている。
切断され戟としては役不足なほど短くなったソレでも、風王結界を駆使すれば使えないこともない。
───そしてこれは振るっているセイバーも、そして射出したバーサーカーもあずかり知らぬことであるが。
宝具であるため当然なのだが、この戟にも真名が存在する。
名を『方天戟』。
中国からと伝わる『戟』の一種、その原点。
『無毀なる湖光』との打ち合いでは神造兵器とでは分が悪かったのか、覚悟の決まっていないセイバーの構え方が悪かったのか折れてしまったが、それでもこの戟も立派な宝具の原典の一つなのだ───風王結界と魔力放出でカバーされている今、『王の財宝』の掃射を少しずつ弾くぐらいならばやってのける。
「ハァッ───!」
「Au───rrrrrrッッッ!!!」
そして。
掃射の間を掻い潜り魔力放出と風王結界の推進力、そしてトライドベンダー自体の重さも加えて振るわれた一撃を───バーサーカーは、薙刀で受け止める。
折れた戟の威力不足、リーチ不足は機動力と加速で補う。
それがセイバーの考えた戦法であった。
しかし、侮ることなかれ。
バーサーカーの纏うIS『打鉄弐式』は機動性を重視したISである。
機動性ではトライドベンダーに引けを取らない───しかも空も飛行できるのだ、行える戦法としては彼方の方が上なのだ。
そして彼の持つ打鉄弐式の近接武器、『夢現』。
対複合装甲用であるこの超振動薙刀は、並の強度のものならば触れただけでバターの様にスライスしてしまうだろう。
それがバーサーカーの筋力と技巧を持ってして振るわれるのだ。
いくらセイバーの鎧があるとはいえ、生身で受けるとどうなるかは想像するまでもないだろう。
「ぐうっ!」
ガイン!と。
互いの得物の衝突が、嫌な音を響かせる。
だが、弾き飛ばされるのはトライドベンダーごとのセイバーだった。
914
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/10(火) 23:53:02 ID:rbsKYkJA
いくらトライドベンダーがモンスターバイクとはいえ、バーサーカーもISを所持しているのだ。
そしてバーサーカーが持つは無限の
宝具に対し、セイバーの得物は折れた戟一本。
技も速さも向こうが上───ならば、セイバーには力しかない。
力も不十分に込められない折れた戟に最大の力を込め、叩きつける。
「Au───rrrrrrッッッ!!!」
距離を取るセイバーを追うバーサーカー。
まるでそれは、乗馬戦のようだった。
駆る馬の姿形は変わり、舞台は変わっても───騎士の戦いは此処にあった。
薙刀と戟が接触する。
バーサーカーはそのまま器用に薙刀を振り回しから突きへと移行する。
音すら置き去りにし空気を裂くその一撃を、セイバーは上体を逸らすことで回避する。
そして生まれた隙を狙いバーサーカーの首元に戟が迫るが───それを、薙刀の柄の部分で弾く。
互いの距離は、1mもない。
互いの武器の間合いの中で───バーサーカーの連撃が、始まった。
突き。
弾き。
振り回し。
袈裟斬りに。
弾き。
振り下ろし。
切り上げ。
受け止め。
弾き。
生まれた隙を───突く。
「……ッ!」
バーサーカーの正確無比の技巧に、セイバーは防戦一方だった。
全ては受け切れず、次々とその身体に裂傷が刻まれる。
隙を狙い戟を振るったとしても弾かれ、逆に此方が隙を作らされる。
しかし距離を取れば、マシンガンのような連射でありながら大砲級の破壊力を生み出す王の財宝の掃射がセイバーを襲うのだ。
バーサーカーは距離が近ければ、遠距離攻撃から近接戦闘に切り替える。
よって、セイバーには近接戦闘しか残されていない。
致命的な傷はない。
致命的な傷を齎す位置への攻撃は避け、それでも避けられなかった場合は戟で弾く。
セイバーは事実、攻めあぐねていた。
既に十数合は武器を交えている。
だがしかし───バーサーカーに傷を与えるには、至っていない。
「このままでは……ッ!」
いずれ、此方が押し負ける。
メダルの残量の問題もあるのだ。
このまま防戦一方では、いずれメダルが底をついて敗北するのは此方だ。
バーサーカーのメダルが幾つあるのかもわからない現状、メダル切れを狙う余裕もない。
ならば。
(───ならば、賭けに出るしかない)
ガィイン!と。
一際甲高い音と共に───弾き飛ばされる形で距離を取ったセイバーとバーサーカーが相対する。
互いの距離は、約10m程。
其処でセイバーは、トライドベンダーのエンジンを最大限にまで回す。
───決死の一撃。
「バーサーカー……貴公の技量、やはり当時と変わらぬ素晴らしいものだ。
未知の鎧と東洋の武具ですら扱いこなすとは」
「───」
バーサーカーは答えない。
フルフルと小刻みに震えるその身体は、歓喜か。
しかしセイバーはその事など眼中にもなく、言い放つ。
「しかし、次の一撃で仕留める。
この一撃を受けてみるがいい、バーサーカー!」
「Aurrrrrr───!!!」
915
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/10(火) 23:55:41 ID:cHLVg0K.
そして二つの騎士が、全速力で互いに迫る。
バーサーカーは相も変わらずの突進だが───セイバーは、違った。
トライドベンダーをウイリーの容量で前輪を持ち上げたのだ。
そのまま、全速力で突進する。
技で劣るならば、質量すらも味方につけた一撃を。
トライドベンダーと打鉄弐式が、激突する。
ギャリギャリギャリ、と擦れるような火花が、夜の教会前を照らす。
「Au───rrrrrrッッッ!!!」
───しかし。
打ち負けたのは、トライドベンダーだった。
超振動薙刀『夢現』で、トライドベンダーごとセイバーを両断する。
無様に爆散し、破片を飛び散らすトライドベンダーを前にバーサーカーは勝利の確信を得ると同時に───違和感に、気がついた。
トライドベンダーごと、セイバーを両断した筈。
だというのに───何故、この薙刀には少量の血痕すら付着していないのだろうか?
「───ハァァァッ!!!」
そして。その一瞬の隙が、致命的な迄のチャンスを作った。
セイバーの作戦は元よりトライドベンダーは犠牲にするつもりだったのだ。
トライドベンダーをウイリーの容量で持ち上げ───小柄な己の身を隠した。
そしてバーサーカーが斬りかかるタイミングで離脱し『葬った』という確信の際に生まれる隙を狙う。
バーサーカーとて理性はないが、本能はあるのだ。
そして『勝利における確信』などというものは、本能が行うもの───其処に、隙が生まれる。
魔力放出と風王結界を解放することにより得る、莫大な推進力。
其れを全てこの一撃の為に、構える。
「はあぁぁっ───!」
───ズドン!!と。
轟音と共に、戦場は夜の静けさを取り戻した。
「───ほんの一歩、届かなかったか」
セイバーは、ポツリと呟いた。
戟は、真っ直ぐとバーサーカーの心の臓を狙って突き進んだ。
この重い一撃ならば、ISの絶対防御すら貫いてもおかしくはない。
おかしくはない、はずなのに。
───パラパラ、と。
絶対防御に止められた、戟がその形を失っていく。
限界だったのだ。
無毀なる湖光の一撃で折れた戟を手に。
王の財宝の掃射を受け。
ISの超振動薙刀『夢現』の猛攻を捌き続けた。
破損した武具の耐久力などたかが知れている。
度重なる攻撃と防御の果てに───戟の方が、耐えられなくなったのだ。
それは。
普段ならこの威力と共に貫けたはずの絶対防御を前にして───己が砕け散ってしまうほどに。
「…私は、まだ───」
「Arthur……!」
敗北を避けるため、身体を動かそうにも。
カチャリ、と持ち上げられた薙刀を、セイバーは既に避けることは出来なかった。
そして。
驚異的な速さで振り下ろされた薙刀は。
驚異的な速さでもって、止められた。
「───?」
セイバー自身も、敗北を覚悟した瞬間の出来事に言葉が出ない。
目の前に、自分の頭蓋を砕くはずであった薙刀が静止していて。
己の足元に───西洋の剣が、刺さっていたのだ。
「……今度は、間に合ったぞ」
「───」
バーサーカーは己と王の戦いに水を差した存在を、叫ぶでもなく、ジッと見つめている。
「貴様がバーサーカーだな。
どういう技法でそのISを制御しているのかは知らないが───倒させてもらう」
「チフユ……?」
───白式を纏った織斑千冬が、其処に居たのだ。
黒騎士は、現れたブリュンヒルデを見つめている。
コイツは、敵だ。
彼の王との戦いに介入した、邪魔者だ。
ならば───消さねばなるまい。
「───■■■■■■■」
黒騎士は、ブリュンヒルデへと向かって飛び立つ。
そして。
第二ラウンドが、始まった。
916
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/10(火) 23:56:53 ID:cHLVg0K.
▲ ▲ ▲
怪盗は笑う。
怪盗は、神出鬼没だから怪盗なのだと。
怪盗は、盗むから怪盗なのだと。
中身のない怪物は、地を這い空を駆け迫る。
しなやかに、貴方の動きを絡め取る。
───さあ、中身を知りにいこう。
▲ ▲ ▲
917
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/11(水) 00:00:57 ID:VOwtT2Y6
「大丈夫か!?」
武器を失ったセイバーに、鎧の男が声をかける。
セイバーはその男の姿を見て───即座に名前を思い出す。
「貴方は───確か、ワイルドタイガー?
何故貴方が、ここに」
「おうよ、さっきそこで千冬と会ってな。
仲間を助けに行くって言うんでついてきたんだ」
セイバーは再び立ち上がり、大地に刺さった───恐らく千冬が投げたものであろう剣を手にする。
千冬の所持品のため名前は知らないが、相当の業物のようだ、
「ワイルドタイガー、救援感謝します。貴方の真木への啖呵、とても素晴らしいものでした」
「ああ、感謝はアイツをふん縛ってからだッ!」
そして。
新たに二人が加勢のため参戦した時には───黒騎士とブリュンヒルデは、上空を舞っていた。
雪方弐型と夢現が激突する。
二度、三度、四度と激突するが───千冬の身体に傷は未だ無い。
「どうした、バーサーカー……パワーはあるが、読み易い太刀筋じゃないか」
「■■■■■!!!」
バーサーカーの夢現を寸前で避け、ひらりと体制を立て直す。
「確かに貴様の技巧は素晴らしい。
ISの使い方にも慣れていて、他の代表候補生にもそれなら引けを取るまい……いや、それより上か。
だがな」
雪方弐型が、バーサーカーへと向けられる。
そこには、先程までの迷いと絶望に打たれていた女の姿はなかった。
其処にあるのは一人の戦士。
ブリュンヒルデと讃えられ恐れられた、ISの騎士。
「───ことISにおいてなら、私は貴様に負けるつもりはない。かかってこい、バーサーカー。
私より弱いのならば───セイバーが戦線復帰するまでもない、私が勝つぞ」
「■■■■■───!!」
バーサーカーの雄叫びが、耳を劈く。
実のところを言えば、千冬もギリギリであった。
いくら自分の土俵で、そしてブリュンヒルデ唄われた千冬と言えどキャメロット最強の騎士相手に何もなく勝つことなど難しい。
現に今は攻撃を避け、隙を探ることで精一杯だった。
(如何にかしてバーサーカーからISを引き剥がす方法はないものか……)
ISさえ剥がして飛行能力を奪ってしまえば、地上にいるセイバーや───此処に到達する前に出会ったワイルドタイガーと共に三対一として戦える。
故に、この戦いは勝つのが目的ではなく───ISを剥がすことにあるのだ。
しかし、事態はそう簡単には転がらない。
バーサーカーの一撃は千冬より重い。
直撃してしまえば、絶対防御があるISを纏っているとはいえどうなるかわからない。
最悪、挽肉にされてしまう可能性だって否定できない。
だからこそ強気な攻めを行うことができないのだ───しかし。
「あぁァッ!!」
攻めなければ勝てない。
よって千冬は、バーサーカーの攻撃をギリギリで躱すことにより───強引に攻撃のチャンスを作っていた。
雪方弐型と夢現が更に激突する。
双方が衝突し行き場を失ったエネルギーはその間で火花を散らしている。
「■■■、■■!!」
がシャリ、と音がした。
バーサーカーの背中の荷電粒子砲『春雷』が稼働を始めた音だった。
(コイツ、0距離で……!!)
寸でのところで、スラスターを噴かし回避する。
(何処までISを使い熟し───なっ!?)
そして。
回避行動を終えた千冬が見たものは───まるでそう動くのを読んでいたかの如く、夢現を高く振り上げたバーサーカーの姿だった。
迎撃を───不可能。
回避を───もう遅い。
防御を───それしか、ない。
「■■■■■───!!!」
ガゴンッ!!と轟音が鳴り響く。
振り下ろした夢現を、雪方弐型が受け止めた音だった。
「ッ──ぁ、っ─!」
千冬の口から声にならない悲鳴が挙がる。
正面から、受け止めてしまった。
右か、左か。絶対防御ですら受け止めきれず何方かの腕の骨が、折れた。
しかし、それだけではバーサーカーの攻撃は終わらない。
雪方弐型で受け止めた千冬を───そのまま、力技で押し込んでいく。
いや。
地面に向かって、叩き落とすと言った方が正しいか。
しかし。
それは、未遂に終わることとなった。
「───チフユ、下がって!」
教会の壁を駆け上がり、風王結界のブーストを利用して空へと跳んだセイバーが、その剣をバーサーカーに叩きつけたのだ。
予想外の一撃であったのか、踏み込みが足らなかったのか───ISを破壊するまでには至らなかったが。
その隙に千冬はバーサーカーから離れ、地上へと降り立ち体制を立て直す。
918
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/11(水) 00:06:19 ID:VOwtT2Y6
「……すまない、しくじった」
「いえ、構いません。それよりチフユ……まだ、戦えますか」
バーサーカーから離れ、地上へと着地したセイバーが問う。
バーサーカーは体制を立て直し、此方へと狙いを定め───宝具の嵐を、解き放った。
剣。槍。斧。矢。ありとあらゆる宝具の原典が、嵐のように降り注ぐ。
「ハァッ!!」
ソレを、西洋剣───シックスの剣にて、叩き落とす。
叩き落としきれない宝具はその身を翻し、躱す。
「戦えるのならば───一瞬。
一瞬でいい、バーサーカーに隙を作っていただけませんか」
「一瞬、でいいんだな?」
「はい。その隙に、私が仕留めます」
一瞬の、静寂。千冬は片腕が折れている。
一瞬を作り出せるかも怪しい───状況だけ見れば、分の悪い賭けでしかない。
なのに。だと、言うのに。
セイバーは凛とした瞳でバーサーカーを見つめ、迎撃しつつそう語ったのだ。
まるで、千冬の失敗など考えてもいないように。
「───ああ、良いだろう。その代わり、必ず成果を出せ」
「わかっています。貴女が作るその隙を、無駄にはしません」
「それなら俺にも任せろ!隙ぐらいなら安いもんだ」
ワイルドタイガーが顔部分のマスクを上げ顔面を露出して笑う。
それと同時に───雪方弐型が、変形する。
エネルギー状の刃が形成され、新たな姿へと生まれ変わる───『零落白夜』。
対象のエネルギーを無効化するが、エネルギー消費量が莫大な諸刃の剣。
この一撃に賭けると。その必殺の意思を持って、彼女は空へと飛び上がる。
「行くぞ、ワイルドタイガー!」
「おうッ!」
そのスピードは、ミサイルのようだった。
ワイルドタイガーは下から。千冬は上からの挟み撃ち。
回避不能の同時攻撃───しかし。それは宙を旋回し夢現を振るうことで簡単に避けられてしまう。
しかし。
「もはや小細工をするつもりもない───全力でいくッ!!」
織斑千冬は、諦めない。
両の腕で握りしめた零落白夜を、バーサーカーに叩きつける。
「っ───!?」
零落白夜を通した衝撃が、激痛となって腕に伝わる。
アドレナリンが分泌されていたからか、折れた腕にはほとんど痛みはなかったため何方の腕が折れたのかはわからなかったが───今の衝撃ではっきりとわかった。
左だ。左の腕の骨が、折れている。
……ああ、だから何だというのだ。
シャルロット・デュノアは死んだ。
セシリア・オルコットも死んだ。
凰鈴音も死んだ。
織斑一夏も、跡形もないほどに死んだ。
きっと彼らはこれ以上の痛みを経験したのだ。
恐らく、死ぬその瞬間まで、気が狂いそうになるほどの。
生徒は、其処まで頑張ったのだ。ならば。
ならば……教師である織斑千冬が、骨が折れた程度の痛みで立ち止まるはずがあろうか───?
「あ、ああ、ああああアァァァァッ!!」
「■■■■■───!!!」
そのまま力の限りで、夢現を押し返す。
しかし、バーサーカーはビクともしない。
むしろ、千冬の方が押し返されている。
ああ、敵わない。力技では、バーサーカーには遠く及ばない。
正真正銘の怪物だ、勝てるはずがない。
そう。
一人では勝てるはずがないからこそ───バーサーカーには、二人で挑んだのだ。
「捕まえたぞ鎧野郎ォッ!!」
「■■ッ!?」
ワイルドシュートこと、ワイルドタイガーの腕に内蔵されたワイヤーガンが、夢現に巻き付いたのだ。
ギリギリ、と。
ワイルドタイガーの強靭な腕力により、ほんの僅かだが───夢現を扱うバーサーカーの腕が止まった。
その隙を、千冬は逃さない。
ザンッ!!と。
零落白夜が───打鉄弐式の、シールドバリアーを引き裂いた。
そして。
その隙を、セイバーは見逃さない。
「───有難う御座います、チフユ。貴女の道を、無駄にはしない」
「……ああ、やってやれ」
役目を終えバランスを保てず地に堕ちていく千冬と正反対に魔力放出をブーストさせバーサーカーに迫るセイバーが、交差する。
労う言葉は、一言だけ。
送り出す言葉も、一言だけ。
それぞれの思いを乗せて───騎士王は剣を振るう。
シールドバリアーが消失したその、僅かな隙に。
「はぁぁぁぁぁぁァァァァァァァッ!!!!」
───打鉄弐式ごと、バーサーカーを切り捨てた。
▲ ▲ ▲
919
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/11(水) 00:07:30 ID:VOwtT2Y6
▲ ▲ ▲
ああ、斬られた。
斬り伏せられた。
でも、何故か。
まだこの身体は動くのだ。
死まではまだ遠いぞと。
まだ、動くのだ。
ならば、このようなものはいらない。
機械仕掛けの兵器など捨て去ろう。
無限の財宝など捨て去ろう。
やはり、罪深きこの身体には。
同じく罪深き、この剣が似合う。
王へ向ける剣は───共に私の罪である、この魔剣でなくてはならない。
我は、疎まれし者。
嘲られし者。
蔑まれし者。
我が名は賛歌に値せず。
我が身は羨望に値せず。
我は英霊の輝きが生んだ影。
眩き伝説の陰に生じた闇。
故に、我は憎悪する。
我は怨嗟する。
あの貴影こそ我が恥辱。
その誉れが不朽であるが故、我もまた永久に貶められる───
───そうだ。
───まだ、朽ち果てる訳にはいかない。
▲ ▲ ▲
920
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/11(水) 00:09:38 ID:VOwtT2Y6
(───浅かった!)
バーサーカーが纏っていたISは、右側背部のユニットを斬り落とされ大幅に機動力が落ちている。
しかし絶対防御に護られたバーサーカーの肉体には、傷一つ付いていなかった。
(ならば、このままッ!)
返す刃で、バーサーカーの首を落とすべく、剣を奔らせる。
だが、しかし。
それより早く───バーサーカーの纏っていた打鉄弐式が、視界から消えた。
所謂待機状態に戻ったのだ。
纏っていた黒い瘴気も、消え失せる。
そして。
それと引き換えに、バーサーカーのその手に黒い魔剣が握られる。
「くるか、バーサーカー!」
「Arthur───ッ!!!!!!!!!!」
───『無毀なる湖光』。
各ステータスをランクアップさせる、神造兵器。
他二つの宝具を封印することで抜くことが出来る、バーサーカー───ランスロットの真なる宝具。
それを今抜いたのだ。
ギィン!と。
セイバーの剣と無毀なる湖光が激突する。
硬直したのは、一瞬。
直後力と技が合わせられたその一撃に、まだ空中で浮遊していたセイバーは一瞬の内に地面に叩き落とされる。
「ぐぅっ……!!」
「Ar───thur」
地に着地したバーサーカーのその顔は、狂気に染まっていた。
地面に堕ちた千冬は、肉体へのダメージが大きいのか、地に倒れ伏しながらも意識を保とうともがいている。
バーサーカーの隙を伺っているワイルドタイガーですらも、動くことができない。
それと当たり前だろう。
セイバーが見る限り、装甲を纏っているだけのワイルドタイガーではバーサーカーと相対するには無謀過ぎる。
それがわかっているからこそ、ワイルドタイガー自身も近づくことすらできず立ち尽くし、見ていることしかできなかった。
故に。
恐らく───『無毀なる湖光』を抜いた今、バーサーカーとまともに相対できるのは、セイバーしかいないのだ。
「…その剣を抜いたか、バーサーカー」
地面に剣を突き立て、叩きつけられた地面からその身を起こす。
倒れてなどいられない。
サーヴァントの戦いにおいて、己の象徴である宝具を解放した時が真の戦いの始まりなのだから。
つまり。
英霊にとって宝具を解放が真の戦いであるということは───『約束された勝利の剣』を持たない今のセイバーでは限りなく勝機が薄いということでもあるが。
キッ、と。
前の存在を見据えたセイバーの眼に映るは、狂気に歪んだ酷く恐ろしい顔。
延々と理性を蝕むその怨嗟。
口から出でるは、憎み妬むその名を呼ぶ声。
───ああ。
───それ程迄に私が、憎いのか。
───御身を修羅に堕としてしまったのは、私なのか。
覚悟で固めたはずの迷いが、かつての騎士の名剣を視認したことで顔を出す。
「それでも、私は戦わなければならない。
例え、貴公が私を呪うとしても……私は、止まらない」
御身が狂気に堕ちた理由が、この私にあるならば。
その狂気を止める責任は、全てこの身にある。
だから。
この身に代えてでも、バーサーカー───ランスロットは、此処で。
「さあ、来いランスロット。
遠慮はいらん───私も、全力で応えよう」
「Ar───urrrrrrッ!!!」
921
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/11(水) 00:11:17 ID:VOwtT2Y6
刹那に響いたのは、轟音。
跳躍したバーサーカーの脚力にアスファルトの地面が耐え切れず、割れた音だった。
それと同時に閃光のように突撃する、一人の騎士。
上空から一息で迫るバーサーカーに対し。
セイバーはその着地点で迎え撃つ───!
「やあぁぁっ!!」
「Arthur──!!」
ギィン!!と。
宵闇が支配する教会前で、金属音が鳴り響く。
バーサーカーを一言で表すならば、圧倒的の一言だった。
一度振るうだけで全てを千切り撒き散らすその魔剣は、何処までも圧倒的かつ暴虐的であった。
その魔剣の振り払いが暴風ならば。
その正確さは、精密機械のそれだ。
セイバーから出来ることと言えば、その魔剣にありったけの力を叩き込み、威力の軽減と反撃の隙を伺うのみ。
つまるところ───セイバーは、劣勢だった。
「ぐぅっ───!」
一際甲高い金属音と共に、セイバーの身体が後退する。
龍の因子を持つセイバーにとって、ランスロットの魔剣は天敵。
防いでも尚、その身に傷が刻まれる。
バーサーカーの一撃によりその見ごと弾かれたのだ。
だが、しかし。
膝を突くことすらせず、彼女は再度突撃する。
そうだ。
いくら劣勢であったとしても、騎士王は後退を許されない。
彼女のその後ろには、守るべき仲間が存在しているのだ。
引けるはずはなく───元より、後退するつもりもない。
しかし、それは狂戦士とて同じ事。
眼前に彼の王がいるのだ。
待ち侘びたその御身があるのだ。
引けるはずが、あろうか。
───故に、此処は前進しか許されない絶対防衛戦線。
逃亡は許されない。
敗北など以ての外。
互いに互いを消し去らんとする、その境目。
───それは。
騎士王と湖の騎士が共に何度も続けてきた、国を護る為の戦いに酷似していた。
───戦乱の世を駆け抜け、数多もの伝説を残した英霊の人生も、このようなものだったのだろう。
互いに譲れぬものを剣に乗せ。
勝った者が伝説として語り継がれ、敗北した者は無残な死を遂げる。
武具を打ち付け千載一遇の機会を待ち。
それすら与えられず、消えていった者。
この戦闘はまるで、その再現だった。
千載一遇の機会を待ち続ける騎士王には。
見る者を魅了するほどのこの戦闘は、セイバーの敗北という未来しか残されていなかった───。
「Aruuuu!!」
振り下ろしの一撃を剣で受けたセイバーの身体が、衝撃でくの字に曲がる。
頭上に待機する魔剣。
断頭台の刃のように、宣告を告げる恐ろしき刃。
両断せんと迫るその刃を、身を捩ることで回避する。
ガリガリ、と。
避けきれず、魔剣の刃が鎧を削る。
振り終わったその隙を狙い、騎士王の刃が狂戦士の首を刈らんと疾る。
───しかし、躱された。
隙を狙ったその必殺の一撃は、上体を逸らすことで容易く空を切る。
「Ar───ruuuu!!」
───まるで、その光景は大嵐のようだった。
あらゆるものを削り取り、例外なく巻き込み破壊する防ぎようのない災害。
セイバーはその渦中に退くことなく対峙しているのだ。
故に、交差するごとに削られる。
鎧が欠け、宙に舞う。
限界は既に近い。
そして。
「ぁ───」
僅かに拮抗していたセイバーが、崩れた。
922
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/11(水) 00:14:06 ID:VOwtT2Y6
「セイバー!!」
折れた腕の鈍痛を耐えながら、なんとか立ち上がった千冬が叫ぶ。
バーサーカーの一撃を受け流し切れなかったセイバーの身が、たたらを踏んで後退したのだ。
それは、明確な隙。
その隙はバーサーカーが望んだものであり。
故に、見逃すはずもなく。
バーサーカーはその剣を一閃する。
セイバーは為す術なくその剣を受け、鮮血が飛び散り、肉片が空を舞った。
「───いや、違う」
空を舞った肉片が───カランカランと地に落ちる。
そうだ、舞ったのは肉片ではない。
───鎧だ。
セイバーはわざと隙を作り、紙一重で鎧にだけ剣を直撃させその鎧を砕かせたのだ。
好機と見たバーサーカーの大振りを誘い。
待ち続けた千載一遇の機会を見出すために。
セイバーは、魔剣を振り切ったバーサーカーの懐に全力で突貫する───!
「はあぁぁっ───!!」
ドゴン、と。
轟音を発し、あの機関車のように突貫するだけであったバーサーカーを後退させる。
狂気に支配されても尚消えることのないその技量故か、刃は寸でのところで魔剣を盾にするようにして防がれたが───衝撃までは殺しきれなかったか。
そこで。
「セイバー、避けろッ!!」
バランスを立て直したバーサーカーに───青い弾丸が、叩き込まれる。
一つではない。
二つ三つ───計四つの銃口からレーザーが吐き出される。
発射したのは、千冬だった。
───ブルー・ティアーズ。
蒼い雫。
遠隔誘導型の小型の銃器を使用した連続射撃。
腕が折れ、ロクに応急処理すらしていない千冬では大したサポートはできないが───遠隔誘導型の装備が整ったブルー・ティアーズでなら話は別。
しかし。
このISは彼女のものではなく、救うべきだった彼女の生徒のもので。
(オルコット───救えなかった私が言うのだ、罵ってくれても構わない。
だが……今だけはこのIS、借りるぞ)
心の中で、すでにこの世にはいない教え子に懺悔しつつ。
遠隔誘導の弾丸を放ち続ける。
「ar───ruuuuuッ」
バーサーカーはその弾丸を魔剣で叩き落とし───バランスを崩したからか銃弾を数発その身に受けながら、クイっと指を動かす。
すると、バーサーカーの背後の空間歪む。
『王の財宝』。その一つの宝具である宝剣が顔を出す。
───”邪魔をするな”と。
───”王と私の、剣と剣での決闘に水を差すな”と。
言外に告げているような、錯覚を千冬は感じた。
しかし、それも束の間。
放たれた宝剣が千冬を狙う───!
「チフユッ!!」
しかし、その宝剣は千冬を貫くことなく地面に落ちる。
セイバーの一撃によって弾かれたのだ。
「セイ、バー」
「下がっていてください…バーサーカーは私との剣での果たし合いをご所望のようです」
「駄目だ。バーサーカーは強い……此処は私もサポートす」
「───チフユ」
最後まで言葉を聞かず、セイバーは言葉を切る。
それ以上は喋らない。
だが───なんとなく、わかってしまった。
これは私の戦いなのだと。
これは私が決着を付けるべきことなのだと。
何も語らない───小さな背中が、そう言っていた。
今のセイバーは既に満身創痍だ。
使い慣れた聖剣もない。
息も絶え絶えで、肩は激しく上下している。
それでも。
それでも彼女は、バーサーカーとは己の手で決着をつけると言ったのだ。
「……わかった。ならば、必ず勝て」
「ええ、わかっています」
ゆっくりと、前進する。
標的は、バーサーカー。
もうセイバーには、何度も剣を交える余力は残っていないのだ。
923
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/11(水) 00:15:49 ID:VOwtT2Y6
しかし、それはバーサーカーとて同じ。
重傷を負いながらここまで駆動し、ここに来て限界が近づいている。
───故に。
互いが放つのは、全身全霊を込めた一撃のみ。
セイバーの身体が蒼く発光する。
その身体にどれだけの魔力が込められているのか、想像すら難しい。
ピシリ、と音がする。
シックスの剣に亀裂が走る。
この剣も───魔剣との幾度とない戦闘に、耐え切れなかったのだろう。
バーサーカーの威圧感が、周囲にもわかるほどに増す。
それ程の憎悪。怒り。そして己への不甲斐なさ。
それを、全てこの一撃に乗せる。
狙いは彼の王へ。
我が思いは、此れ、この一撃。
───風がセイバーの剣を保護する。
後一撃だけ保ってくれと。
───バーサーカーの構えが変わる。
襲撃から、迎撃へと。
遥か昔。
ブリテンの王国にて叶わなかった決闘が、此処に再現される。
突貫するは騎士王。
受けて立つは狂戦士。
風を纏い、景色をも置き去りに突貫する。
───腰を低く、あらゆる衝撃に耐え得る体制に。
剣を構え、自らを一振りの剣と化し。
───あらゆる技術を総動員し、迎撃の後に斬り伏せよう。
決着は此処に。剣の英霊は大地を駆ける。
───決着は此処に。狂戦士の英霊は彼の王を待つ。
そして。
「決着をつけよう───バーサーカー!!」
「Arthur───ッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
二つの騎士が、激突した。
▲ ▲ ▲
924
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/11(水) 00:18:22 ID:VOwtT2Y6
ポキリ、と。
シックスの剣が、根元から折れる。
「───ああ」
セイバーの目は虚ろだった。
鎧すら失ったその身には、大量の血液が。
「───負けました、我が王よ」
そして。
狂戦士は、ポツリと呟いた。
折れたシックスの剣は、地面に堕ちることなくバーサーカー───ランスロットの胸へと突き刺さっている。
本来ならば、ランスロットはセイバーを倒すことが出来たのだ。
その剣を魔剣の一振りで受け、返す刃で首を落とす。
何時もならそれが出来たはずなのに。
今回だけ───いや、この場でだけ出来なかった。
何故か。それは、ランスロットにすら分かっていなかった。
だが、しかし。
ああ、己は敗北したのだな、と。
「私が王に剣を向けた理由を、問わないのですか」
そして、自らの死期が近いことを悟り。
ランスロットは怨嗟などではなく、己の意思で王へと言葉を放った。
「───貴公が私に剣を向けたのならば、それは確固とした理由があってのこと。
私は貴公から命を奪った。それ以上のものを、取り上げることは出来ない」
返ってきたのは、あの頃と変わらぬ王としての言葉。
人の心を捨てた、王としての。
狂気から解き放たれた今ならばわかる。
この場での最初の王の狼狽した顔と、今の王ではまるで別人のようだ。
───ああ。迷いは捨てたのですね、王よ。
「つくづく貴方は───変わらぬお方だ」
王は変わってはいなかった。
今も昔も、変わらぬ理想の王として顕現していた。
だというのに───己の不甲斐なさを棚に上げ、いっそ狂気に呑まれた方がと王に剣を向けた。
ああ、醜い。
なんと救いようがないのか。
彼の王には落ち度はないというのに。
「王よ…この剣を。友とその家族の血を吸った相応しくない魔剣ですが、貴方の力になるでしょう」
「ランスロット、貴方は」
「…私は王に裁いてほしかった。悪いのは貴様だと。
全ての元凶はお前にあると───王ではなく、人としての言葉で」
───王が、もし理想の王ではなく。
人としての未熟さを併せ持つ王だったのならば、私を裁いたのではないかと。
ある騎士が言った。
『王は人の心がわからない』と。
その言葉を憎んだ。
王であるために人の心を捨てねばならなかった、その要因全てを憎んだ。
「私は正しくなどない……悪いのは全て私だった。
ああ───私は、貴方に許されず、裁いてほしかったのです」
「ラン、スロット」
王は、果たして何を思ったのか。
ランスロットからは確認する術はない。
漏れるのは狂気ではなく、己の言葉。
バーサーカーのサーヴァントは死が近づくと狂気が解ける。
もう、己の存在が消えるまで1分とない。
それならばこの短い時間を、醜い己の為ではなく───王の為に。
「王───これを。
王に剣を向けた罪状が晴れるとは思いませんが」
「……これは?」
ランスロットの背後の空間が歪む。
この蔵を自在に操れるのは英雄王のみ───だが、己の宝具としてしまえるこの身ならば、望んだものを取り出せる。
ランスロットの掌にあるのは、小瓶だった。
英雄王の財の一つ。
しかし───差し出したその小瓶を、セイバーが受け取ることはなかった。
「貴、様……」
驚愕に染まった、セイバーの瞳。
それは、己の背後に向けられていた。
「───何故、ワイル、ド、タイガー」
「───この時を待ってたんだよ、騎士サン」
ランスロットが見たのは。
貫通こそしてないものの、背に腕を差し込まれ。
口から血を吐く、王の姿だった。
▲ ▲ ▲
925
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/11(水) 00:20:27 ID:VOwtT2Y6
怪盗Xは、狡猾だった。
ワイルドタイガーに扮し、移動の際にバーサーカーの叫びを聞いたのだ。
ああ、丁度いい。
バーサーカーは『中身』を見てみたかった者の一人。
ここで襲うのも一興だったが───バーサーカー相手では、恐らく苦戦する。
さてどうしたものかと思案していた時───織斑千冬を、発見したのだ。
放送を聞き一憂し。
己の仲間の元に駆けつけようとしていたことは、彼女の言葉を聞けばすぐにわかった。
つまり。
バーサーカーと、千冬の仲間が戦っているということだったのだ。
幸い、今の姿は最初の会場で啖呵を切ったワイルドタイガーの姿。
他の参加者の姿と比べれば、疑われる可能性は格段に低くなる。
そこで、Xは決めたのだ。
バーサーカーが勝つにしろ、負けるにしろ───ある程度消耗させてから、油断した後に『箱』にしてやればいい。
そして、戦場に向かってみると───そこには、あの女騎士がいるではないか。
好都合だ。
何方が勝つかはわからないが、セイバーに加勢したのだ。
自分が傷つかない程度に加勢し。
そして最後の一撃───セイバーがやられそうになった瞬間、バーサーカーの腕にワイヤーを巻きつけたのだ。
バーサーカーの腕力によりワイヤーはすぐに切れてしまったが。
結果、バーサーカーの一撃は一秒ほど遅れ、セイバーの一撃を胸に受けた。
迎撃は叶わず。
全力を出すことなく、致命傷を受けた。
そして、Xは満身創痍で最も油断している『勝利の瞬間』を狙い───セイバーに攻撃を仕掛けたのだ。
これが、怪盗Xの技。
某略。
歴戦の英雄に対し、勝利をもぎ取る───どこまでも人間の、技だった。
▲ ▲ ▲
926
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/11(水) 00:23:09 ID:VOwtT2Y6
「ぁ──ぅ─」
「セイバーッ!!」
セイバーの口から言葉が漏れる。
千冬もすぐに駆けつけようと動くが───ワイルドタイガーに静止される。
「お、動かない方がいいぞ?今、騎士サンの命は俺が握ってるんだしな」
「貴様ァッ……!」
マスクを上げ、ネタリとした笑みを浮かべるワイルドタイガー。
───正義の面を被った外道。
千冬はXのことを素直にそう称した。
「さて、セイバーさんだっけか?凄いなアンタ。
強すぎて驚いたぜ」
「何故、貴方、が───」
「なあ、教えてくれよ───アンタの中身、如何なってるのか」
ぐぐ、と。
背中に差し込まれた腕が、傷口を開こうと動く。
奔る激痛にセイバーは気を失いかけ、抗うことも出来ずに、その意識を手放した。
「あらら、死んだか?……おっ、まだ生きてる。
良かった良かった、出来れば生きてる内に「王を、離せ」───ん?」
その瞬間。
野太い声と共に───ワイルドタイガーの前に、刃物が通過した。
「王を離せと、言ったのだ───!!」
ワイルドタイガーは、その場から飛び退く。
セイバーの背から手を抜き、宙に飛び上がる。
すると。
先ほどまでワイルドタイガーが立っていた地面に、轟音を立てながら数本の槍が突き刺さる。
「───なんだ、アンタまだ生きてんのか」
───其処に居たのは。
───倒れ伏せる王をその手に抱いた、湖の騎士だった。
ランスロットの掌にあるのは、空の瓶。
それは。
王の財宝の中の一つ───『エリクサー』と呼ばれる万能薬が入った、小瓶だった。
本来ならば、不老不死を齎すその秘薬。
それを飲み干したのだ。
「千冬殿───でしたか。
貴女を襲ったこの身から言う言葉ではないかもしれませんが───王を連れて、お逃げください」
「な、は───?」
「速く。私も、そう長くは保ちません」
状況が理解出来ず、千冬から疑問の言葉が漏れる。
しかし、ランスロットは質問を許さず。
抱き抱えたセイバーの身体を、千冬に預けた。
「ヤツは、私が引き止めましょう」
「……どういう、ことだ」
「私がヤツを引き止めている内に、お逃げください。
私は───王を、此処で死なせたくはない」
千冬からすれば、意味がわからなかった。
先程まで獣のように暴れ続けた存在が、次は打って変わって自分達を守るために盾になろうと言っているのだ。
しかし。
何故か。
”私は───王を、此処で死なせたくはない”
何故か、その一言が。
生徒を、仲間を失いたくない一心で駆け抜けた自分と、思わず似たものを感じてしまって。
「わかった───頼む」
そう、答えてしまっていた。
千冬の身体を百式が再度包む。
左腕が折れていようと、これならば楽にセイバーを運ぶことができる。
ドンッ!!と。
スラスターを吹かせ、千冬はそこから退却する。
向かう先は、教会内部。
中の2人を連れて、この場から離れるべく。
「あー……逃したか」
それを流し目で見送りながら、ワイルドタイガーは呟く。
追撃することもできたのだが、それをすれば確実にランスロットの対応が遅れる。
その為に、今回は見逃したのだ。
と言っても、セイバーらは既に瀕死だ。
後から追っても十分間に合う。
「で、アンタは俺をどうやって止めるんだ?
───見た限り、もう死に体だろ」
927
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/11(水) 00:27:16 ID:VOwtT2Y6
ワイルドタイガーが呟く通り。
ランスロットの身体は、既に死に体だった。
不老不死を与える万能薬───エリクサーは、彼を死の一歩手前から救うには役不足だった。
主催から何か改造が加えられているのだろうか。
瞬時に体力や傷を回復させるその薬は、ランスロットの死を数分先まで引き延ばしただけだった。
元よりこの薬は王に渡すつもりだったのだが───王が襲われているのを見た瞬間、身体が勝手に動いてしまったのだ。
王を死なせたくはないと。
王の死に間に合わなかったあの時の行いを───もう一度繰り返してはならないと。
「ああ……確かに私は既に死に体。この身体では、もう手遅れでしょう。
ですが…時間を稼ぐこと、ぐらいには」
バーサーカーの背後が歪む。
王の財宝。その中の一つの宝剣を抜き取る。
「王の元へは、行かせない。それが、王に剣を向けた私の出来るただ一つの贖罪……」
息も絶え絶えに。
胴体に刻まれた傷は痛々しく、胸の傷は数分とせずにこの命を奪い取る。
しかし。
この瞬間。
湖の騎士・サーランスロットは───キャメロット最強の騎士として、王を守るべく立ち上がった。
「……まあ、いいか。
アンタの『中身』も見てみたかったしな」
ニタリ、と。
ワイルドタイガー───怪盗Xの顔面が笑う。
ネウロほどではないが、人間にしてはあり得ないほどの戦闘能力を誇る存在。
その彼らの中身を知る機会を目の前にして、興奮しないはずがなかった。
方は内なる興奮に心を躍らせ。
方は、贖罪に身を任せ。
勝敗は決して覆らない───決まりきった勝負が、始まった。
この数分後に、ランスロットは死亡する。
ワイルドタイガーこと怪盗Xに数発の傷を与え、力尽きる。
その傷も怪盗Xには数分で回復できる程度の傷でしかなく。
”王の為に身を張って盾になるなど───まるで、私が忠節の騎士だったかのようではないか”
心に浮かんだ自嘲を、最後の感情として。
彼の意識は、消滅した。
【バーサーカー@Fate/zero 死亡】
▲ ▲ ▲
928
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/11(水) 00:28:54 ID:VOwtT2Y6
そして、戦場である教会から少し離れた場所にて。
セイバーを地面の上に寝かせたまま、三人は待機していた。
動けない切嗣は鈴羽が運び。
気を失ったセイバーは百式で千冬が運んだ。
セイバーはまだ生きている───今は目を覚まさぬほどの重傷だが、サイ・コアと全て遠き理想卿は切嗣の手の中にあり、現在はセイバーに渡している。
時間さえあれば治るだろう、と切嗣は語った。
千冬の折れた左腕は応急処置ではあるが固定し、動かないようにしておいた。
「バーサーカーは?」
「…恐らくワイルドタイガーに殺されただろう。最期はセイバーを逃がすために、尽力していた」
「ワイルドタイガーに…?」
『ワイルドタイガーが殺し合いに乗っていた』。
その情報は切嗣に強く衝撃を与えた。
何せ、指針にしていた人物の一人が殺し合いに乗っていたというのだ。
放送の新しい機能のこともある───そのため、千冬と切嗣における今後の話し合いを開いていた。
切嗣は放送の新しい機能についての利用法と、セイバーのこれからについてのことを。
千冬もこれからの戦闘をどう切り抜けるべきかを共に思案していた。
現在はセイバーは持ち前のメダルで回復に努めている。
それでも足りないならば、切嗣のサイ・コアも使うことも視野に入れている。
セイバーはこのメンバーの主力なのだ───失うわけにはいかない。
それまでは、千冬が前線に立つことになる。
よって千冬の持っていたタコ・コアも今は使用することなできないが、戦闘を行う千冬が持つより鈴羽が持っていた方が安全だろう、という理由で現在は鈴羽に渡している。
そして。
ある程度話し合いが経過した後、千冬がふと発言する。
「…鈴羽はどこへ?」
「ああ。…放送で知人が呼ばれたらしい。今は、一人にしておいてあげてくれ」
「…そうか」
千冬は、短く答えた。
恐らく───自分では、ユウスケのようには励ませない。
救おうとした結果、救えなかったセシリア・オルコットのことが鈴羽を励まそうとする彼女の足を引っ張っているのかも、しれない。
▲ ▲ ▲
929
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/11(水) 00:36:29 ID:VOwtT2Y6
切嗣らと、10mほど離れた地点にて。
鈴羽は一人星を眺めていた。
(セイバーが重傷になって帰ってきた)
(織斑千冬も左腕を折って、身体中に傷があった)
(衛宮切嗣も回復したけど、今もまだ動けないぐらいの怪我がある)
(───それで、みんな死んだ)
橋田至の死。
見月そはらを救えなかった。
フェイリス・ニャンニャンの死。
牧瀬紅莉栖の死。
仲間の負傷。
逃亡。
それらのことが鈴羽の心に重くのしかかる。
この間、自分は何をしていた?
───セイバーに守られていただけではなかったか。
バーサーカーとの戦闘の間、何をしていた?
───守ると言いながら、何もできていないではないか。
知人が死んでいたかもしれない間、自分は何をしていた?
───切嗣を、見ていただけではなかったか。
そう。
鈴羽を襲っていたのは───途轍もない、無力感。
闘争も知っているだけに。
怯える少女ではいられないことを知っているが故の、無力感。
───自分が、もし。
───セイバーのように強く、戦える力を持っていたらまた結果は変わったのではないか。
途轍もない無力感は、やがて欲望へと変わる。
力が欲しいと。
罪もない人を失わないで済むだけの、力が欲しいと。
───そして。
───少女の中のコアメダルは、それに答えつつあった。
非戦闘員である鈴羽が持っていた方が敵に奪われる可能性が低い。
そのような理由で鈴羽に渡されたタコ・コアは、鈴羽の欲望に応えるように───体内に、吸い込まれた。
【二日目 深夜】
【A-4 南】
【織斑千冬@インフィニット・ストラトス】
【所属】赤
【状態】精神疲労(大)、疲労(大)、左腕に火傷・骨折、肉体に多くの裂傷
【首輪】40枚:0枚
【コア】
【装備】白式@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品×4、ニューナンブM60(4/5:予備弾丸17発)@現実、スタッグフォン@仮面ライダーW、ブルー・ティアーズ@インフィニット・ストラトス、ラファール・リヴァイヴ・カスタムII@インフィニット・ストラトス
【思考・状況】
基本:生徒達を守り、真木を制裁する。
0. セイバーが治るまで、前線に立つ。ワイルドタイガーを危険視。
1. 落ち着いたら、ユウスケがどうしているのかをセイバー達に伝える。
2.鳳、ボーデヴィッヒと合流したい。
3.井坂深紅郎、門矢士、一夏の偽物を警戒。
4.ユウスケは一夏に似ている。
5.セイバーが迷いを吹っ切ったら再戦したい。
【備考】
※参戦時期は不明ですが、少なくとも打鉄弐式の存在は知っています(開発中か実戦投入後かは不明です)。
※小野寺ユウスケに、織斑一夏の面影を重ねています。
※ブルー・ティアーズが完全回復しました。
【セイバー@Fate/zero】
【所属】無
【状態】疲労(極大) 、気絶中、肩口に深い裂傷、背中に深い傷、全身に裂傷、全て回復中
【首輪】30枚(消費中):0枚
【コア】ライオン(放送まで使用不能)
【装備】無毀なる湖光@Fate/zero、全て遠き理想卿@Fate/zero
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:殺し合いを打破し、騎士として力無き者を保護する。
0. ???
1.衛宮切嗣に力を貸す。彼との確執はこの際保留にし、彼が望むならもう少し向かい合っても良い。
2.悪人と出会えば斬り伏せ、味方と出会えば保護する。
3.バーサーカーを警戒。いざという時は全力で戦うことこそが、彼に対する最大の礼儀。
4.ラウラと再び戦う事があれば、全力で相手をする。また、相応しい時が来れば千冬と再度手合わせをする。
5. 聖杯への願い(故国の救済)に間違いはないはず。
【備考】
※ACT12以降からの参加です。
※アヴァロンの真名解放ができるかは不明です。
※鈴羽からタイムマシンについての大まかな概要を聞きました。深く理解はしていませんが、切嗣が自分の知る切嗣でない可能性には気付いています。
※バーサーカーの素顔は見ていませんが、鎧姿とアロンダイトからほぼ真名を確信しています。
※切嗣と和解したこと、及びユウスケ達に自身の願いを肯定されたことでセルメダルが大幅に増加しています。
※ランスロットの本心を聞きました。
930
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/11(水) 00:37:04 ID:VOwtT2Y6
【衛宮切嗣@Fate/Zero】
【所属】無(元・青陣営)
【状態】ダメージ(大)、貧血、全身打撲(軽度)、背骨・顎部・鼻骨の骨折(軽)(現在治癒中)、片目視力低下、牧瀬紅莉栖への罪悪感、強い決意
【首輪】0枚:0枚
【コア】サイ
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
基本:士郎が誓ってくれた約束に答えるため、今度こそ本当に正義の味方として人々を助ける。
0.まずはセイバーを回復させる。
1. ワイルドタイガーが敵……?
2.回復後、偽物の冬木市を調査する。それに併行して本当の意味での“仲間”となる人物を探し、『ワイルドタイガー』のような真木に反抗しようとしている者達の力となる。
3.何かあったら、衛宮邸に情報を残す。
4.無意味に戦うつもりはないが、危険人物は容赦しない。
5.バーナビー・ブルックスJr.、謎の少年(織斑一夏に変身中のX)、雨生龍之介とグリード達を警戒する。
6.セイバーはもう拒絶する必要はない?
【備考】
※本編死亡後からの参戦です。
※『この世全ての悪』の影響による呪いは完治しており、聖杯戦争当時に纏っていた格好をしています。
※セイバー用の令呪:残り二画
※この殺し合いに聖堂教会やシナプスが関わっており、その技術が使用されている可能性を考えました。
※意識を取り戻す程に回復しましたが、少しでも無理な動きをすれば傷口が開きます。
【阿万音鈴羽@Steins;Gate】
【所属】無
【状態】健康、深い哀しみ、決意、強い無力感
【首輪】0枚:0枚
【装備】タウルスPT24/7M(7/15)@魔法少女まどか☆マギカ 、軍用警棒@現実、スタンガン@現実
【道具】基本支給品一式、大量のナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、9mmパラベラム弾×400発/8箱、中鉢論文@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:真木清人を倒して殺し合いを破綻させる。みんなで脱出する。
0.戦うための力がほしい。
1.まずはセイバーを回復させる。
2.罪のない人が死ぬのはもう嫌だ。
3.知り合いと合流(岡部倫太郎優先)。
4.桜井智樹、イカロス、ニンフと合流したい。見月そはらの最期を彼らに伝える。
5.余裕があれば使い慣れた自分の自転車も回収しておきたいが……。
【備考】
※ラボメンに見送られ過去に跳んだ直後からの参加です。
※タコメダルと肉体が融合しています。
時間経過と共にグリード化が進行していきますが、本人はまだそれに気付いていません。
931
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/11(水) 00:40:24 ID:VOwtT2Y6
「……やっぱり無理かぁ」
ワイルドタイガーの姿に扮した怪盗Xは、まるで玩具の箱を弄る子供のように王の財宝の中を弄り回していた。
目当てはバーサーカーが飲み、死の淵から少し戻ったような万能薬。
それがあれば今後が楽になる───そう思い探しているが、中々出てこない。
それもそのはずだ。
王の財宝は無限の宝具を仕舞う最古の蔵。
その中から自在に好きな宝具を引き出せたのは───『騎士は徒手にて死せず』の効果により王の財宝を己の宝具へ昇華させ、どんな武具でも扱えるランスロットの能力があったからこそだ。
その能力なしに王の財宝を自在に扱えるのは、蔵の中身を全てとは行かずとも把握している英雄王のみ。
怪盗Xでは王の財宝の中から特定の宝具を抜き出すのは、かなり困難なのだ。
それこそ、大宇宙の中から一人の人間を見つけ出すようなもの。
「まあ武器撃つ用には使えるみたいだし、いいか」
現在は、ワイルドタイガーではなく怪盗Xとしての言葉使いに戻っている。
姿はそのままだが、此方の方がやはり楽だ。
さて、と。
手をパンパン、と叩く。
その手にあるのは『箱』の部品。
その目の先にあるのは、湖の騎士の身体。
「お前の中身、見せてもらうよ───」
【二日目 深夜】
【B-4 教会前】
【X@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】無(元・緑陣営)
【状態】健康、鏑木・T・虎徹の姿に変身中 、バーサーカーの中身への興奮
【首輪】300枚:50枚
【コア】タカ(感情L):1、カマキリ:1、ウナギ:1
【装備】ベレッタ(8/15)@まどか☆マギカ、ワイルドタイガー1minuteのスーツ@TIGER&BUNNY
超振動光子剣クリュサオル@そらのおとしもの、イージス・エル@そらのおとしもの
【道具】基本支給品一式×4、詳細名簿@オリジナル、{“箱”の部品×26、ナイフ}@魔人探偵脳噛ネウロ、アゾット剣@Fate/Zero、
ベレッタの予備マガジン(15/15)@まどか☆マギカ、T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW、佐倉杏子の衣服、王の財宝@Fate/zero、打鉄弐式(破損中)@インフィニット・ストラトス
ランダム支給品0〜1(X:確認済み)
【思考・状況】
基本:自分の正体が知りたい。
0.バーサーカーを箱にし、中身を見る。
1.今は『ワイルドタイガー』として行動する。
2.次こそは必ずネウロに勝つ。今はネウロの完全な復活を待って別行動。
3.第二回放送を待つ。その後は言峰教会に立ち寄ってみる。
4.ネウロほか下記(思考5)レベルの参加者に勝つため、もっと強力な武器を探す。
5.セイバー、アストレアにとても興味がある。
6.ISとその製作者、及び魔法少女にちょっと興味。
7.阿万音鈴羽にもちょっと興味はあるが優先順位は低め。
8.殺し合いそのものに興味はない。
【備考】
※本編22話終了後からの参加。
※能力の制限に気付きました。
※傷の回復にもセルメダルが消費されます。
※タカ(感情L)のコアメダルが、Xに何かしらの影響を与えている可能性があります。
少なくとも今はXに干渉できませんが、彼が再び衰弱した場合はどうなるか不明です。
【全体備考】
※現在バーサーカーの死体を“箱”にしています。
※B-4にて折れた戟(王の財宝内の宝具の一つ)@Fate/zero が粉々に、シックスの剣@魔人探偵脳噛ネウロが折れた状態で放置されています。
※王の財宝はバーサーカーの『騎士は徒手にて死せず』と無窮の武練により自在に中身を取り出せましたが、それがない人物が使うと蔵の中身を把握できないため、武器を飛ばすためだけの武器となります。
【支給品紹介】
エリクサー@Fate/zero(?)
王の財宝の中の一つ。
本来は錬金術において飲めば不老不死をもたらすという霊薬を指す。
ギルガメッシュの蔵の所持品であり、カルピスのように薄めて飲むらしい。
『EXTRA』ではHPとMPを完全回復させる効果がある。
尚、この宝具はFate/zero内では登場していない。
932
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/11(水) 00:44:13 ID:VOwtT2Y6
投下終了です
不安な点としては
・バーサーカーの狂化解除です。
バーサーカーのサーヴァントは死の間際になると狂化が解けますが、拙策では「秘薬により死の間際を数分ほど伸ばす」ことにより狂化を解いたままで数分ほど伸ばしています。
ご意見、お待ちしております。
933
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/11(水) 01:18:03 ID:VOwtT2Y6
>>909
>この場にて一度相見えた少女───ラウラ・ボーデヴィッフィが装着していた物と似ている。
は
>この場にて一度相見えた少女───ラウラ・ボーデヴィッヒが装着していた物と似ている。
そしてXの状態表に放送前のが載っていたので
【思考・状況】
基本:自分の正体が知りたい。
0.バーサーカーを箱にし、中身を見る。
1.今は『ワイルドタイガー』として行動する。
2.次こそは必ずネウロに勝つ。今はネウロの完全な復活を待って別行動。
3.ネウロほか下記(思考5)レベルの参加者に勝つため、もっと強力な武器を探す。
4.セイバー、アストレアにとても興味がある。
5.ISとその製作者、及び魔法少女にちょっと興味。
6.阿万音鈴羽にもちょっと興味はあるが優先順位は低め。
7.殺し合いそのものに興味はない。
後千冬の状態表にも放送前のがあったので、
【思考・状況】
基本:生徒達を守り、真木を制裁する。
0. セイバーが治るまで、前線に立つ。ワイルドタイガーを危険視。
1. 落ち着いたら、ユウスケがどうしているのかをセイバー達に伝える。
2.ボーデヴィッヒと合流したい。
3.井坂深紅郎、門矢士、一夏の偽物を警戒。
4.ユウスケは一夏に似ている。
5.セイバーが迷いを吹っ切ったら再戦したい。
こちらに差し替えます。
そして小さな誤字がちらほら見かけたので、そちらも本投下の際に直しておきます
934
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/11(水) 01:19:32 ID:VOwtT2Y6
そして切嗣・Xの陣営復活も追記して、後ほど修正部分を仮投下したいと思います
935
:
◆z9JH9su20Q
:2015/03/11(水) 19:33:05 ID:Z/ZR2mWQ
仮投下お疲れ様です。
拝見させて頂いたところ、バーサーカーの狂化解除含め特に問題はないかと思います。
ただ、
>>912
で千冬がコアメダルをセルメダルに変換した際、60枚となっているのは換算枚数である50枚、
もしくは元々の所有数である20にその50をプラスした70枚の(どちらでも意味が通るので)どちらかの誤りかと見受けられたました。
もしもそうであれば、本投下の際にはどちらかに修正して頂ければと思います。
936
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/12(木) 04:33:53 ID:25fqbTcY
>>935
申し訳ないです、50枚の押し間違いでした
投下時に直しておきます
切嗣・Xの陣営についてですが、過去話を確認したところ無陣営化への反応がなかったのでここで反応するのもまたおかしい印象を持ってしまうので、状態表のみの修正にしたいと思います
問題点がなければ今夜にでも本投下したいのですが、よろしいでしょうか……?
937
:
◆z9JH9su20Q
:2015/03/12(木) 19:49:20 ID:CYKErBfU
>>936
了解致しました。私としては本投下に当たっての問題はないと思います。
938
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/12(木) 23:55:50 ID:25fqbTcY
>>937
了解しました
では本投下したいと思います
939
:
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 22:56:27 ID:XLjNw8AI
予約分後半の仮投下開始します。
940
:
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 22:57:32 ID:XLjNw8AI
事態は悉く、アポロガイストにとって都合の良い方に転がっていた。
突然乱入したクウガが、どういうわけだかアンクだけでなく仮面ライダーであるエターナルを敵と誤認し、そのために絶体絶命の窮地から、ネウロの邪魔立てが入るまでに一度は反撃の機会を得ることができた。
そしてその時、アンクのデイパックから地の石が零れ落ち――仮面ライダー同士の潰し合いを止めようとネウロが動いた隙に、その切札を手中に収めることができた。
地の石とクウガ。大ショッカーが切札として用意していたキングストーンの一種と、それで強化し操る対象と選定されていた仮面ライダーがピンチの瞬間目の前に揃うとは、このアポロガイストに天運が味方している証と言えるだろう。
それを裏付けるかのように、肝心の地の石によるクウガの洗脳も、恐るべき魔人の妨害に間に合った。
そうして今、アポロガイストの前には、究極を超えた暴力の化身が降臨していたのだ。
「何がどうなっていやがる……!?」
戸惑いの声を上げるばかりのアンクにも、地の石によって制御されたクウガは何一つ反応を示さない。
忠実な下僕と化したライジングアルティメットクウガに、アポロガイストは高笑いと共に指示を下した。
「やれぇ、クウガよ!」
アポロガイストの激と共に。烈風と化して、クウガが動く。
「――ぐぁっ!?」
まずは、憎きアンク。奴の胴にクウガは太い腕を突き刺し、無造作にその身を貫いていた。
しかし、アンクへのトドメは許していない。それはこのハイパーアポロガイストが成すべきことであると決めていたからだ。
故に、アンクからはコアメダルを抜き取らせるに留めていた。
血風のように飛び散る数十枚のセルメダルに加え、一気に四枚のコアメダルを失った結果、アンクはまたも金髪の青年の姿に戻って崩れ落ちる。
無力化した仇敵のことを一旦無視し、アポロガイストはクウガを手元に招く。
主に対して恭しく跪いたクウガは、その手の中に掴んでいたコアメダルをアポロガイストへと捧げる。
「ふははは、これで後は貴様が死ねばリーダー交代だな、アンク!」
上機嫌でクウガからコアメダルを受け取ったアポロガイストは、まずクジャクとコンドルを一枚ずつ、己の両掌に吸収させる。両手が熱くなり、その熱は両腕から胴体へ、そして体の隅々にまで行き渡って行く。
「おぉ……力が、漲るのだ」
思わず感嘆の声が漏れ、そのまま残り二枚も取り込んでしまいたい衝動に駆られたが、ふとその内一枚の色を見てアポロガイストは正気に返る。
「ふむ……これは貴様に一旦預けるのだ」
残る二枚の内、カンガルーのコアは、アポロガイストと融合した鳥類系とは別の系統のメダルだ。取り込むことで得られる僅かな自己強化よりも、今はクウガの戦力を持続させるために使用することをアポロガイストは選択し、二枚目のコンドルを取り込むと同時にカンガルーのコアを傀儡の首輪に投げ込んだ。
同時にバサリとマントを靡かせて、白い影がアンクと自分達の間に入り込んで来ていた。
「ほう……次は貴様か、エターナル」
「そいつには、まだ用があったんだが……」
振り返ったクウガと対峙しながら、アポロガイストへ仮面越しに問いかけるエターナルの声は、いつもの不敵な響きの裏から怒りと、そして警戒の色が透けて見えていた。
「……何をした?」
「ふん……良いだろう、教えてやるのだ。
この地の石には仮面ライダークウガを洗脳し、意のままに操る力があるのだ」
「何……?」
「この石を通して私から下される命令に、クウガの意志は抗えない。例えば悪である私を守るために、正義の味方である貴様らを殺せと命じられても……小野寺ユウスケの心がどれだけそれを拒否しようが、クウガの肉体は我ら大ショッカーの傀儡として従順に従うのだ!」
「貴様……っ!」
エターナルの仮面の奥で、変身者が激情に声を詰まらせたのがわかった。
「嫌々どころか、心を捻じ曲げさせてそいつに戦いを強要しているだと……!?」
そんなエターナルの怒りも、この状況下では逆に嗜虐心を刺激するものでしかないと、アポロガイストは内心で笑みを深める。
941
:
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 22:59:35 ID:XLjNw8AI
「好きなだけ怒りを燃やすが良いのだ、エターナルよ。それが己の無力に対する絶望をより強くすることとなるのだ。
全てのライダーを闇に葬るための、究極を超えた生物兵器の力……思い知れ――ッ!」
アポロガイストが告げた瞬間、クウガがエターナルに襲いかかった。
尋常ではない瞬発力で伸びた、人型をした金色の闇から放たれた拳を、エターナルは咄嗟に掴んだローブの端を緩衝材にして受け流す。かつてガイストカッターを防いだローブの防御力は、今のクウガの攻撃にも有効な様子だった。今のアポロガイストには、それに忌々しさを覚えることなく感心する余裕があった。
しかし、それでも守りきれていない箇所がある。強烈な一撃を何とか凌いだばかりで、次の行動までの余裕がなかったエターナルの、唯一露出していた部位――仮面に向けて、クウガは角と角を打ち合わせるようにして、自身の額を叩き込む。
「――ガッ!?」
砲撃のような頭突きによってつんのめるエターナルに対し、意図した衝突から瞬時に体勢を立て直したクウガは、番えたままだった右の拳を繰り出した。
開けてしまったローブを、再び掴んでいては間に合わない。そう判断したエターナルが咄嗟の体重移動と共に構えた掌ごと、クウガの拳が白い胸に突き刺さる。
「――ッ!?」
抵抗虚しく、胸の装甲を窪ませたエターナルの体が、大通りの後方に吹き飛ぶ。哀れにも射線上に存在していた街灯が弾丸と化した仮面ライダーに撃ち抜かれ、崩落。打ち上げられたそれが地に着くより早く、接触によって軌道を変えたエターナルは回転しながら車道に叩きつけられ、なおも止まらずに二度三度と跳ねて行く。
「克己――っ!」
これは愉快だとアポロガイストが失笑していた場面に思わず、といった様子で飛び出して来たのは――エターナルの背後でアンクを介抱していたはずの、例のゾンビの小娘だった。
「馬鹿が、前に出るな!」
何とか上体を起こしたアンクの警告を無視し、無我夢中に仲間の元へ駆け寄ろうとする、これといった防具を何も身につけていない少女に対し。アポロガイストは、慈悲の心など一片も持ち合わせていなかった。
間抜けにも背後を晒した敵へと引き続き攻撃命令を下し、それに従って追いついたクウガは、その手で少女を払い除けた。
「――さやかぁっ!?」
アンクが息を呑む音は、遠方からのエターナルの悲鳴にかき消されるが、しかし。
「……む?」
クウガの平手を受け、本来なら弱点の宝石――今は何やら、ゼクターのいないライダーベルトで隠されている――ごと血霧になっているべき小娘は何故か、五体満足のまま並の人間が転倒する程度の勢いで、その場に倒れ込んだだけだった。
あの少女の肉体が、せいぜい常人に毛が生えた程度の脆弱性であることは既に確認している。素人の小娘に、エターナルでさえ押し切られる攻撃をいなせるはずがない――となれば、この不可解な現象の理由は明白だ。
「ちっ、クウガめ、無駄な抵抗を……!」
忌々しい事実に気づいて、アポロガイストはそれまでの高揚していた気持ちに水を差された。
地の石によって支配している間も、クウガ――小野寺ユウスケの意識は完全に消えているわけではない。こちらの命令に抗うことはできないが、自らの眼前で繰り広げられている事態を認識する程度のことはできる――もう一つ合理的な理由もあるが、何よりその方が仮面ライダーの心をより苦しめられるだろうという、開発者の趣が表れた素晴らしい仕様なのだ。
これはアポロガイストも賞賛する悪の心意気ではあるが、しかしそれが望ましくない効果を生み出してしまったらしい。
おそらくは他の怪人や魔人、仮面ライダーの場合と異なり――純粋な人間の姿をした魔法少女への攻撃命令には、その微かな精神力を振り絞って、先程の面々の時よりも激しく小野寺ユウスケの心が抵抗しているのだ。
それでも命令そのものには逆らえず、せいぜい勢いを加減している程度ではあるが。屈強な魔人や怪人、仮面ライダーを一蹴するだけの暴力に晒されながら、あの小娘程度が五体満足で生き残っているのはそういう理屈に違いない。
942
:
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:00:31 ID:XLjNw8AI
(むぅ……この調子では変身の解けたライダーへトドメを刺すのに手間取って、逃げられてしまうやもしれぬのだ。帰ったら科学者どもにもう少し調整するよう報告する必要があるな)
アポロガイストがそんな呑気な思考を巡らせている間にも、仮面ライダー同士の愉快な潰し合いは再び繰り広げられていた。
「うぉおおおっ!」
相方のゾンビを庇ってか、全力で駆け戻ってきたエターナルはナイフを片手に攻勢に移る。だが、超感覚と圧倒的な身体能力を持つクウガは間合いの短いナイフによる連撃を容易く見抜いて躱し、反撃のアッパーをエターナルの腹に叩き込もうとする。
「甘い――!」
しかし事前にそれを誘い、ローブを腹の前に漂わせておいたエターナルはそれで拳の勢いを殺して受け止めると、得物のナイフで伸びきった腕を斬りつけていた。
ブチブチと、超密度の強靭な繊維が断ち切られる不快な音が響き、次の瞬間にはジュクジュクと融けるようにしてそれが接合されて行く。
「おいおい……」
腕の腱を切り、最低限のダメージで敵を無力化しようとしていたエターナルは、クウガの披露したゾンビ少女並の再生力にその無為を悟り、続いた反撃への対処に追われていた。
あのマントはライジングアルティメットと化したクウガの攻撃すら無力化するようだが、メダル消費の都合上、頼り過ぎることもできないのだろう。使用を最低限に抑えるため、先程のように芯で受けてしまうことがないようエターナルは素手でクウガの打撃をいなして行くが、微かに接触するたびに威力に圧され、その技量の冴えが衰えていく。
それでも時にローブによる絶対防御を挟むことで痺れを取り除く猶予を確保し、時には完全に回避し、エターナルはクウガの圧倒的なラッシュを前に立ち続けていた。
「エターナルめ……しつこい奴なのだ」
ネウロに取り上げられ、奴が殴り飛ばされて以降転がっていたガイストカッターを回収したアポロガイストは、防戦に徹して予想以上に粘るエターナルの姿に舌打ちを漏らした。
強敵とは思っていたが、その実力はアポロガイストの読み以上だ。徒手空拳が基本となる今のクウガはメダル消費の効率が悪いことはなかろうが、あれだけの戦力を従え維持するためにアポロガイストに架されるコストが安い物とも思えない。それを惜しんでドラグレッダーをミラーワールドに帰還させ、自分も飛ばずに地に足着いているのだから、可能なら短期決戦で終わらせたいところだ。
故にアポロガイストはエターナルの防御を崩すべく、自らも攻撃に参加することとした。
「喰らえ! ハイパーアポロフレアー!!」
今考えた技名を叫び、アポロガイストは蓄えた火炎を射出した。
943
:
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:01:21 ID:XLjNw8AI
火球の接近に気づいたエターナルは小癪にもそれを容易く躱すが、その瞬間に逆しまの落雷のようにして迸ったクウガの蹴りを捌ききれなくなり、左腕へもろに被弾。肩関節の可動域を超えて腕を曲げながら体そのものが同じ向きへと回転し、足の裏が宙に浮いたところに追撃の拳が着弾。輪舞する白と黒の軌跡を描きながら、踏ん張りようのなかったエターナルは先のそれを遥かに越える勢いで吹き飛ばされて行く。
その頭で路面を割りながらも止まらずに弾み、更に彼方へ消えて行くエターナル。そんな敵を追って地を蹴ろうとしたクウガの腰に、飛びつく者があった。
「やめろぉっ!」
腰に抱きついて来たさやかなぞ、クウガは直進するだけで粉砕できただろうに。一々自身から遠ざけるようにして、その掌を使って払い除ける。もちろん、まるで力も込めずに、だ。
それでもさやかは勢い良く倒れ込むが、ゾンビの再生力を考慮すればなきに等しいダメージだろう。歯痒い様に、アポロガイストは思わず地団駄を踏む。
「ええい、大人しく言うことを聞かんか! 貴様は既に偉大なる大ショッカーの兵器なのだぞ、クウガよ!
余計な抵抗などせず、地の石を持つ私の命令通りにその小娘を叩き潰すのだ!」
「おまえ……っ!」
そんなアポロガイストの言葉に、地べたから顔を起こしたさやかの表情は憤怒に歪んでいた。小娘に凄まれたところで怖くもなんともないのだが。
しかし振り返ったクウガは、アポロガイストの要望には応えなかった。
代わりに、その掌に夜よりなお濃い闇を纏わりつかせて――圧縮したそれを、一気に前方へと解放する。
「――なっ!?」
触れた端でアスファルトを掘削して土砂を巻き上げ、空間を圧搾して進む闇の波動は、さやかでもエターナルでもアンクでもなく、アポロガイストの目前を横切って行く。
まさかの叛逆か、と狼狽えたアポロガイストは、しかしその暗黒の波濤を掻き分ける紫色の鈍い輝きを見て安堵した。
クウガは背いたのではなく、予め最上位に設定しておいた「地の石の所有者の守護」という命令を優先し、さやかを放置したに過ぎなかったのだ。アポロガイストの知覚を潜り抜け、戻って来た脅威に対処するために。
「“無気力な幻灯機(イビルブラインド)”も看破するか」
暗黒掌波動の照射が終わった後、微かに蹌踉めきながらも闇の濁流を切り裂いた爪の主――魔人ネウロは、疲労の色濃い顔にそれでも不敵な笑みを浮かべていた。
「……面白い」
944
:
【Y】/こころにすみついていたもの
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:02:43 ID:XLjNw8AI
――――少しだけ、時間は前後する。
「……興味深いことになっているみたいだね」
馴染みの顔を見かけた白い獣は、大地に半ば埋没していた男にそんな言葉を掛けた。
「――ふん、案の定戻ったか」
何事もなかったように土塊を払い、立ち上がった魔人――脳噛ネウロは、キュゥべえを一瞥するなり、どこか不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「僕が戻って来るのを予想していたんだ?」
「放送で我が輩の名は呼ばれなかったからな。虫頭はともかく、貴様は真相を知るために戻って来るとは思っていた」
成程、ご明察の通りだ。
ラウラ達を追っていたキュゥべえだったが、士が離脱した暫し後、ラウラ達までISで移動した上、続いた爆発から逃れたためにキュゥべえは彼らとはぐれてしまった。その後、放送でネウロが呼ばれなかったことから、一先ず死んでいたはずの現場に急行しようとしていたところの再会だったのだ。
しかし。
「ウヴァは脱落したよ?」
放送を聞いたなら、ウヴァが死んだことも把握しているはず――ネウロの奇妙な返答に、キュゥべぇは心底からの疑問を零す。
「ちょうど良い。一つ聞きたいことがあるのだが」
「質問に質問を返さないで欲しいな」
「ウヴァが脱落するところを、貴様は見たのか?」
「? 見たよ」
「なら、誰の手に奴のメダルが渡ったのか……把握しているなら吐いて貰おうか」
「……意図は理解できないけど、質問には答えておこうか」
爪を見せびらかすネウロに対して、キュゥべえは疑問を抱えたまま、聞かれたことだけを答えた。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ、か……」
告げられた名前を復唱するネウロが何を考えているのかは、キュゥべえにはわからない。
「……一先ず、それだけ確認できれば十分か。生きていたらまた後で詳しく聞かせて貰うぞ」
「おや……随分と弱気だね」
「貴様がだ」
キュゥべえの純粋な感想に短く返したネウロは、折れ曲がっていた両腕を体に沿わせ、器用に直線へ伸ばしていた。
「貴様に吐かせる情報がある間は生かしておきたいところだが、今回は巻き込まない保証ができんのだ」
元の完全な形に戻った腕を軽く振りながら、ネウロが歩み出す。
そんな魔人の返答に、キュゥべえは予想外という見解を示す。
「最後に見た時と違って、今の君には魔力がまだ残っている。なのに、そんなことを言うなんてね」
あれだけ余裕を見せ、挙句死の淵からも蘇ってみせたネウロが不安を漏らしたことは、キュゥべえが築いていた魔人像を崩しかねないほどの衝撃だった。
「……この先からは美樹さやかの魔力を感じる。君の様子を見るに、彼女じゃ生き残れないだろうなぁ」
「……そうさせぬために行くのだ」
キュゥべえの述懐に嘯くネウロの顔に、しかし余分な表情は見受けられない――彼にも、余裕がないのだ。
それが純粋に敵の戦力によるものなのか、それとも他の要因あってのことなのかはわからないが……魔力を残したまま苦境に陥った魔人が、その障害(ストレス)にどう対抗するのか――それはこれまでに集めたどの情報より、観察対象として関心をそそられる。
実に興味深い、のだが……キュゥべえはそれ以上の接近を、躊躇っていた。
(魔人ネウロまでああ言ってるのに……本当に巻き込まれちゃったら、危ないじゃないか)
945
:
【Y】/こころにすみついていたもの
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:03:28 ID:XLjNw8AI
何故だかわからないが、今のキュゥべえはインキュベーターとしての総体から断絶されている。
故に魔人ネウロを始めとした数々の新発見、その観測結果はインキュベーターの母星に還元されておらず、仮にこのままキュゥべえが死ぬことがあればインキュベーター全体に情報が共有されないまま消えてしまう。
故にキャッスルドランで起こった爆発の後も、観察よりも危険回避を優先してキュゥべえはその場を離れていたのだ。
(この情報を持ち帰れないのは、勿体無いからね)
――そんな思考を促すモノを、何と呼ぶのか。
キュゥべえはまだ、気づいてはいなかった。
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
――そうして。白き異星獣との対話を終えた魔人は、再び戦場に降り立っていた。
「――魔界777ツ能力(どうぐ)、“惰性の超特急5(イビルレイピッド)”」
クウガと対峙したネウロが召喚したのは、機関車に似た風貌の魔界生物だった。
本来は乗り物であるそれは、誰も背に乗せることなく急発進する。
一秒でマッハまで加速した車体は、超巨大な砲弾と化してアポロガイストへと肉薄していた。
「ぬぉ……っ!?」
咄嗟に飛び上がったアポロガイストは半ばまで躱していたが、そのままならば完全な回避が叶わず足を巻き込まれていたことだろう。
それを阻んだのは、先んじて魔界の超特急とアポロガイストの間に割り込んでいたクウガが再び放つ、暗黒掌波動だった。
獲物を噛み砕かんと牙を剥いていた魔界生物の口腔へと直接注ぎ込まれた波濤は、その巨躯を運ぶ十本脚の勢いを弱め、人体が千切れ飛ぶほどの加速度で既に生じていた慣性をも減殺し。巨体を呑み込む荒波に翻弄され、更に体内で猛り狂う闇の圧力に膨れ上がり、苦悶の表情に歪む“惰性の超特急5”の顔面に、クウガの豪腕が突き刺さる。
劫火を纏う拳の着弾に、頬に備えられていた装甲板が砕けて弾け飛び、擂鉢状の大穴が魔物の顔に穿たれる。あまりの打ち込みの速度を前に、鯨ほどの大きさがある鋼鉄の巨体が半ばからへし折れ空に跳ね上がった後でやっと、凄まじい衝突音が炸裂していた。
――直前、“惰性の超特急5(イビルレイピッド)”の尻を掴んでいた手を離したネウロは、その被害を何ら受けることなく、敵陣の懐に潜り込んでいた。
「……その石で奴を操っているそうだな?」
叩き込まれた破壊力により崩壊する“惰性の超特急5(イビルレイピッド)”の残骸が、重力に引き戻されるよりも早く。ネウロはアポロガイストに肉迫する。
接近に気づいたアポロガイストがその楯に隠した黒い石を砕かんと、無意味な防御を嘲笑ったネウロは空気中に魔力を走らせる。しかし、楯を迂回して目標に到達した途端、微弱とは言え十分な破壊力を秘めていたはずの魔力の波が、不思議な力に弾かれる感覚を味わった。
(むっ……)
どういうことかは不明だが、あの石は魔力による干渉を受け付けないらしい。
ならば、物理的に砕くしかないか――そう考え楯を睨んだネウロの頭を、背後から鷲掴みにする者がいた。
迎撃の能力を発動するより速く、ネウロの肉体は圧倒的な腕力で以て、剥き出しの地肌へと叩き落とされる。
大地を割る追撃の拳を、半身が地中に突き刺さった体勢のまま飛び跳ねるという奇術染みた動きで回避したネウロだったが、結果として彼我の立ち位置を振り出しに戻されていた。
「さて……どうしたものか」
落下した車体の響かせる耳障りな轟音に隠れて、頭皮に空いた五つの穴と頭蓋骨の罅割れを魔人の治癒力で修復しながら、凄まじき戦士を前にしたネウロは独りごちる。
946
:
【Y】/こころにすみついていたもの
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:04:33 ID:XLjNw8AI
「――ネウロ!」
「下がっていろ。今の貴様では足手纏いだ」
駆け寄って来ようとしたさやかを制し、ネウロは続ける。
「我が輩腐っても未だ魔人の領域。それがたかが、地上の存在に遅れを取るとでも?」
「……さっき、思いっ切りぶっ飛ばされてたじゃん」
「その場のノリという奴だ」
半信半疑、と言った様子のさやかをそれで黙らせ、渋々ながらの後退を容認させる。
(……とは言ったものの)
しかし――実のところネウロは、今の自分が、この敵に正面から勝てるとは考えていなかった。
生物に限らずとも、疑う余地はない。魔界の外で経験した中では、ライジングアルティメットと化したクウガの一撃が最も強力な攻撃力(パワー)を有していた。
――それこそ、電脳空間で受けた“スフィンクス”三機分の妨害さえも大きく上回るほどに。
“惰性の超特急5(イビルレイピッド)”を葬った炎を帯びた拳の威力は、目測ながら最初の一撃の更に数倍。戦いの舞台が地上の真っ向勝負である限りは、仮にネウロが全快でも殺す気でかからねば苦戦しかねないほどの難敵だ。
今のメダル数――夕方にXと交戦した際と同程度の魔力量では、この敵を相手取るにはあまりにも足りない。
怪力や敏捷はともかく、無防備では通常の人類が個人で携行できるような低火力の銃火器や少量の爆弾で穴を空けられてしまうほど柔な今の肉体では、このクウガを前にすれば泥より脆いと言わざるを得ないのだ。
無論、魔力で補強するか魔人本来の肉体へと変化させれば、個人兵装の銃弾どころか搭乗型兵器の砲弾とて跳ね返せる強度はまだ十分確保できる。またどれだけ手酷い傷を受けても、そこから本当に泥人形のように再生可能なのが魔人という種族だ。現時点でも総合的な耐久力では、仮面ライダーら超人にも遅れは取らない。
しかし、現在の魔力量では基礎的な身体能力が既にクウガを下回っている上、変形や強化、傷の再生には貴重な魔力をその度に消費する。魔力が減れば減るほどに現状から身体能力が低下し、防御力も治癒力も損なわれて行くため、被弾を許すたび加速度的に不利となってしまう。
しかも、生き返ってからのネウロの体は一層の弱体化が進んでいるのだ。トドメとばかりに戦闘向けの中でも扱い易い能力(どうぐ)は夕刻、楽しいという感情に任せ、無意味に浪費し過ぎて使用不能と来ている。
これだけの悪条件下で、正面から満足に戦えると思う方がどうかしている。そして正面から戦えない以上、誰かを庇っている余裕がないというのは紛れもない真実だ。
――故に、ここは一人自由に、搦手で攻める。
「『謎』に繋がりもしない失敗と手順を繰り返すのは、正直徒労のようで好まないのだが……」
立ち込める粉塵の中、そんな嘆息を漏らしていたネウロの蟀谷(こめかみ)を陥没させたのは、文字通り瞬く間に繰り出されていたクウガの横殴りの一撃だ。
咄嗟に左側頭部だけ魔人化させ、硬化した皮膚で受け止めてなお、鈍い轟音と共に頭蓋が割れて血が噴き出す。この僅かな時間で自身が明確に弱体化している事実を、ネウロは実感を伴って再認識する。
脳震盪に視界を揺らし、足を地から浮かせながらも。しかしネウロは既に、次の能力を発動し終えていた。
「……“射手の弛緩(イビルスリンガー)”」
クウガの強靭な首筋に巻き付かせる形で発動していたのは、パチンコ状に展開された魔界の発条(バネ)だ。
その出現に気づいたクウガが両端を掴んで拘束を緩め、縛鎖から抜け出すまでは一瞬の出来事だ。絞め落とすには到底至らなかったが、しかし長さを調整していたそれはクウガが拘束から抜け出すまでの間に、殴られた方向に成す術なく飛ばされていたネウロを引き止め、クウガの顔面目掛けて再射出するだけの役割を見事果たしていた。
――もう一つ能力を発動しながら、“射手の弛緩”から解き放たれたネウロは、その右手をクウガの頭部目掛けて繰り出す。
魔人の指先が、真黒き双眸に沈み込むその寸前。艦砲射撃に等しい腕の一振りが、三度目の大地への接吻をネウロに強要していた。
肩甲骨を変形させ用意した即席の装甲板のおかげで、撃墜されても目が回る程度で済んでいた。しかし携行ミサイルぐらいなら軽く防げるそれも、容易く粉砕されてしまっていた。
947
:
【Y】/こころにすみついていたもの
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:05:55 ID:XLjNw8AI
故に追撃を躱すための時間も、防ぐ手段も尽きたこの瞬間。限りなく致命的だったはずのその隙を、しかしクウガは衝いて来なかった。
誰もいない虚空目掛けて、何かに翻弄されるかのようにしてその手足を振るい、ネウロから離れ始めていたのだ。
その奇妙な行動の原因は無論、敵対者であるネウロに由来する。
(――“卑焼け線照射器(イビルロウビーム)”……)
接触の寸前まで、ネウロはその魔界能力を発動し――その光線を、クウガの両目に注いでいたのだ。
対象者の網膜に特定の映像を焼き付ける力を持ったこの指先により、クウガは突如現れた偽の敵影との戦いに視覚情報を埋め尽くされ、幻の中に囚われてしまっていたのだ。
(……どれだけ優れた感覚器官と反応速度を持っていようと、所詮は地上の者ということだ)
魔人の本領が発揮される魔界の生存競争に放り込んでも、ゼラ辺りの下級魔人になら打ち勝てそうな怪物ではあったが――あくまで地上の法則に拠って立つ限り、いくつか明確な限界が存在する。
文字通り光速で作用する、視覚情報として知覚した時点で術中に嵌ってしまうこの目潰しには、如何にライジングアルティメットクウガとはいえ対処できなかったのだ。
もちろん、例えば“目潰し目薬(イビルドロップ)”で放つような、単なる破壊光線であれば予兆を察知され、対処を許してしまうのだろう。しかし何の破壊力も伴わない能力であるために警戒が遅れた上、顔面に迫る残りの指が刃物に変化していたという事情もあって、クウガは魔のレンズを注視してしまっていたのだ。
アポロガイストが操っている以上、長持ちする時間稼ぎではないが――それでも確かにこの瞬間、厄介な護衛(クウガ)を無力化することができた。
クウガに悟られぬよう、幽鬼のようにして立ち上がった満身創痍の魔人は、その全身を構成する肉を蠢かせ盛り上がらせ、内部の露出していた傷口を隠して行く。
「……これで残るは貴様だけだ、アポロガイスト」
口の中だけで囁いた宣告と同時、地を蹴って――操り人形の奇行に困惑していた迷惑な怪人へと、ネウロは肉迫する。
ライジングアルティメットの瞬発力は凄まじいが、最高速度そのものは今のネウロとも大差ない。もしすぐに追って来られたとしても、こちらが加速するに足る隙を稼げた以上、その間に地の石を砕けるとネウロは確信した。
「――ぬぅっ、甘いわぁっ!」
ただそこで、ネウロが計算を誤ったのは。
ダメージの蓄積と魔力の消耗による、自身の弱体化の度合――ではなく。
ネウロが知らぬ間に果たされた、アポロガイストのパワーアップが勘定に漏れていたためだ。
不意打ちに近い状況から閃いた魔の爪を、アポロガイストは易々と楯で弾き返していた。先程までとは段違いの反応速度と膂力の向上を前に、押し返されたネウロも微かに瞠目する。
その一瞬の隙は、怪人に至近距離から巨大なマグナム銃を発砲させるのを許すのに、十分な隙となってしまっていた。
一撃で戦車を破砕するその弾丸もまた、通常のショットガンで穴の空く状態のネウロが無防備に受けるには、過剰に威力があり過ぎた。
暗黒掌波動の時同様、前面に集めた魔力を楯として受け止めたその瞬間、右肩に灼熱が走る。
「――っ!!」
食い破られたのは、背後から。
防御の間に合わなかった右肩は、杭のようにして打ち込まれたクウガの肘、その先端の突起の流れるままに切り裂かれ――そちらに気を取られた隙に、今度は左からの回し蹴りが襲来する。
緩衝材として巨大な刃状に変化させた左腕は、蹴りへの迎撃に間に合った。激突の際に脛を切り裂いてやったが、力負けしたネウロは横滑りに発射されることとなった。歪に曲がった刃を突き立て地を削り、勢いを殺して持ち堪えたネウロが、脱落しかけた右腕を垂らしたまま視線を巡らせた時には――クウガは既に、パックリ割れていた脛を再生し終えていた。軽傷に対する再生能力は、今のネウロ以上――Xにも劣らぬ驚異的な速度のようだ。
948
:
【Y】/こころにすみついていたもの
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:07:45 ID:XLjNw8AI
「待て……何か、妙な手品を目に受けたようだな」
完治と同時、またも虚空に向けて走り出そうとしていたクウガを制止したアポロガイストが、意外にも聡く絡繰を見抜いてみせた。
「ならばその目、潰すのだ」
他者を軽んじた躊躇いのない命令の実行は、これまた一瞬の躊躇もなく。
暗黒の波動を蓄えた掌を、自らの顔面に押し当てたクウガは、その真黒い両目を焼き潰した。
常人ならば目を背けるような狂行。しかし、その程度の沙汰に躊躇うような魔人はいない。隙を逃すまいとネウロは駆け出したが、同時にクウガも淀みなく飛び出したのを見、微かに瞠目する。
例え視力を失ったとしても、どうやらその他の情報だけで十分に戦闘可能な感覚を備えているらしい。それでも流石に視力を失った分、初撃はそれまでより容易く回避できた。しかし沈んだ上体を反撃のために起こそうとしたネウロは、既に殆どを復元された暗黒の双眸を前にして反射的に飛び退る。
「目の異常が残っていたらパンチ、治っていたらチョップで追撃なのだ!」
アポロガイストの気の抜けるような指示を受けたクウガは即座に手刀を横薙ぎして、変化させたままだったネウロの左腕を再びへし折り、魔人の体を弾き飛ばす。どうやら、“卑焼け線照射器(イビルロウビーム)”の影響を受けた網膜を自ら破壊し新たな眼を再生することで、クウガはアポロガイストを通さずとも済む健常な視力までも取り戻したようだ。
容易く全快した凄まじき生物兵器に対し。短時間とはいえ、両腕を使い物にならなくされた魔人は距離を取り、荒い呼吸の中で表情を険しくする。
「……勝てないな」
そしてただ一言。小さく小さく、誰にも聞き取れないほどの声で、密かに現状認識を吐き出した。
今のネウロに残されていた策は、通じなかった。
無駄に浪費した能力が残されていれば。せめてDR戦前の魔力があれば。あるいは、蘇生後に感じている不調さえなければ……結果は、変えられていたかもしれない。
しかしそのいずれも足りない弱り果てた魔人の打てる手では、この怪人達には通じなかったのだ。
……否。
この苦境を覆す方法は、本当になかったわけではない。魔界777つ能力の上位、魔帝7つ兵器(どうぐ)を以てすれば、クウガを戦闘不能に追い込むこと自体は可能なはずだった。
しかし、召喚(ローディング)に要する時間に受けるだろう攻撃、及び発動そのものに伴う自身の消耗を考えれば、アポロガイストを討つ余裕が残らない。クウガを倒したとしても、あのバカ丸出しの怪人に抗う術をなくし、高確率で殺される羽目となる。
加えて、クウガはこれまで相手にしてきた犯罪者どもとはスペックが違い過ぎる。魔帝兵器でも、加減して通じる相手ではなく――故に場合によっては、殺してしまいかねない。
それでもより強大な敵であるクウガだけでも何とかできるなら、するべきかもしれない。しかし、クウガこと小野寺ユウスケは洗脳された被害者に過ぎず、何より――どんな突然変異だろうが、彼もまた今この体を動かす命の主の、同族だ。
自身に降りかかるリスクのみならず、可能な限り彼の死を避けたいという躊躇いが、知らず知らずネウロの内で膨らんで――その選択を、忌避させていた。
(それにこれは、そのための魔力は……アポロガイストを仕留めるのに残しておかねばな)
アンクの言によれば、アポロガイストはコアメダルと融合済み――即ちグリードと化している。
グリードはコアメダルがある限り存在し続けるという。単純に撃破するだけでも一度は無力化できるのだろうが、ウヴァに関連してコアを残す危険性を聞かされたばかりだ。可能ならばできるだけ早く、最低でも本体となるコアメダルを砕いておくに越したことはない。
欲望の結晶であるために、物理的に破壊することはできないとされているコアメダル――しかしネウロは、自身の切札ならその前提を覆せると目していた。
魔帝七つ兵器(どうぐ)の中でも最強を誇る、絶対無敵の刃。過程がなく結果だけを創り出すその斬撃は、対象が実際に切断可能か否かという命題を、全くの無意味とする。
発動さえすれば防御不能、必中必殺の一撃というだけではなく――コアメダルの特性すら突破し得る、二重の意味での切札が、ネウロにはあった。
クウガを解放した後、その一撃をアポロガイストに叩き込む。それが理想的な展開だった。
949
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【Y】/こころにすみついていたもの
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:08:30 ID:XLjNw8AI
しかし、現実には未だクウガを突破する目処が立たないまま、着実に追い詰められている。最早ネウロの葛藤に関わらず、クウガを無力化するために魔帝兵器を用いることすら困難な状況だ。
残る勝ち筋は――ネウロよりも先に、クウガのメダルが尽きて無力化される、その隙を突くこと。
しかし、戦いが長引くほどネウロ側が不利になるのは先述の通り。それを実現できる可能性もまた、絶望的だ。
(だが、退くことはできない。ここで我が輩が倒れれば……)
脳裏を過るのは、インキュベーターの漏らした言葉。
そして――ネウロを向いて眠ったまま、二度と瞼を開けることのなくなってしまった、奴隷の顔。
――次は勝つと、そう決めた。
彼女が命を代価に繋げたのは――きっと、ネウロが彼女の同族に、人間に齎す可能性だ。
一定の敬意を払っていたとはいえ、あれだけの扱いを重ねてきたネウロのためにあの時期の彼女が命まで擲つとしたら、そんな理由しか人あらざる身には思いつけない。
覚悟と共に弥子が全てを託したこの魔人ネウロは、ここで敗走することなど許されない。
そうなれば誰がこの脅威から人間の命を、“謎”を、未来の可能性を庇護できるというのか。
そんな強迫観念にも似た、他者に背負う必要がないと説いた感情を――自身が生まれて初めて抱えていることを、理解すらしていないまま。
魔界一の頭脳が、相棒の願いという簡単な真実に辿り着くことができないほどに……体だけではなく、心にこそ不調が残っていて――なのに、それに気づくこともないまま。絶望的な暴力に晒される最前線へと、意固地になって立ち続けているその間に。
朽ちて行く魔人に残された魔力(メダル)は、既に、一割(三十枚)を切りつつあった。
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
――僕の心に弱さは住み着いていた。
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
「……あいつはもう保たないな」
遠巻きに戦況を見守っていたアンクへと近づきながら、エターナルは苦境に晒された魔人を指してそう言葉を掛けていた。
「……置いて逃げられるんなら、別にそれでも良いんだがなぁ」
アンクの返答には忌々しさ。それはネウロに対する執着ではなく、単純にこれ以上離れた際に、アポロガイストが自分達を見逃さないだろうということを示していた。
「勘違いするな。壁として期待できない、という意味だ」
対しエターナルは、自らの発言の意図を正しく伝える必要性を感じていた。
「魔人の命がどこまで保つものなのかは俺も知らん。ただあいつよりは、俺の方がまだ削り役になるだろうと思っただけだ」
戦場に逆走するまでの僅かな時間で、ネウロは明らかに被ったダメージ以外の要因により、目に見えて弱体化している。今の彼に持久戦を望むのは無茶というものだろう。
また、先の突撃をあしらわれてしまったことから、クウガを足止めすることも、その後アポロガイストを倒すことも、今のネウロには困難だとエターナルは判断していた。
しかしそんなエターナルの様子が余程意外だったのか、アンクは白亜の仮面をまじまじと見つめていた。
「……勝てるつもりか?」
退却する、のではなく――そう言いたげな顔のアンクに、エターナルの仮面の中、克己は当然だとばかりに鼻を鳴らす。
「少なくともアポロガイストの好きにさせるつもりはない」
生きている小野寺ユウスケの心を捻じ曲げ、明日を奪う戦いを強要する悪の存在を、克己は許容することができずにいた。
950
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【Y】/こころにすみついていたもの
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:09:34 ID:XLjNw8AI
しかし、現実には未だクウガを突破する目処が立たないまま、着実に追い詰められている。最早ネウロの葛藤に関わらず、クウガを無力化するために魔帝兵器を用いることすら困難な状況だ。
残る勝ち筋は――ネウロよりも先に、クウガのメダルが尽きて無力化される、その隙を突くこと。
しかし、戦いが長引くほどネウロ側が不利になるのは先述の通り。それを実現できる可能性もまた、絶望的だ。
(だが、退くことはできない。ここで我が輩が倒れれば……)
脳裏を過るのは、インキュベーターの漏らした言葉。
そして――ネウロを向いて眠ったまま、二度と瞼を開けることのなくなってしまった、奴隷の顔。
――次は勝つと、そう決めた。
彼女が命を代価に繋げたのは――きっと、ネウロが彼女の同族に、人間に齎す可能性だ。
一定の敬意を払っていたとはいえ、あれだけの扱いを重ねてきたネウロのためにあの時期の彼女が命まで擲つとしたら、そんな理由しか人あらざる身には思いつけない。
覚悟と共に弥子が全てを託したこの魔人ネウロは、ここで敗走することなど許されない。
そうなれば誰がこの脅威から人間の命を、“謎”を、未来の可能性を庇護できるというのか。
そんな強迫観念にも似た、他者に背負う必要がないと説いた感情を――自身が生まれて初めて抱えていることを、理解すらしていないまま。
魔界一の頭脳が、相棒の願いという簡単な真実に辿り着くことができないほどに……体だけではなく、心にこそ不調が残っていて――なのに、それに気づくこともないまま。絶望的な暴力に晒される最前線へと、意固地になって立ち続けているその間に。
朽ちて行く魔人に残された魔力(メダル)は、既に、一割(三十枚)を切りつつあった。
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
――僕の心に弱さは住み着いていた。
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
「……あいつはもう保たないな」
遠巻きに戦況を見守っていたアンクへと近づきながら、エターナルは苦境に晒された魔人を指してそう言葉を掛けていた。
「……置いて逃げられるんなら、別にそれでも良いんだがなぁ」
アンクの返答には忌々しさ。それはネウロに対する執着ではなく、単純にこれ以上離れた際に、アポロガイストが自分達を見逃さないだろうということを示していた。
「勘違いするな。壁として期待できない、という意味だ」
対しエターナルは、自らの発言の意図を正しく伝える必要性を感じていた。
「魔人の命がどこまで保つものなのかは俺も知らん。ただあいつよりは、俺の方がまだ削り役になるだろうと思っただけだ」
戦場に逆走するまでの僅かな時間で、ネウロは明らかに被ったダメージ以外の要因により、目に見えて弱体化している。今の彼に持久戦を望むのは無茶というものだろう。
また、先の突撃をあしらわれてしまったことから、クウガを足止めすることも、その後アポロガイストを倒すことも、今のネウロには困難だとエターナルは判断していた。
しかしそんなエターナルの様子が余程意外だったのか、アンクは白亜の仮面をまじまじと見つめていた。
「……勝てるつもりか?」
退却する、のではなく――そう言いたげな顔のアンクに、エターナルの仮面の中、克己は当然だとばかりに鼻を鳴らす。
「少なくともアポロガイストの好きにさせるつもりはない」
生きている小野寺ユウスケの心を捻じ曲げ、明日を奪う戦いを強要する悪の存在を、克己は許容することができずにいた。
951
:
【Y】/こころにすみついていたもの
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:10:22 ID:XLjNw8AI
仮に逃げられたところで、互いが互いである以上、いつか倒さなければならないことに変わりはない。
逆に、他の参加者を襲われ、十分なメダルを補充されてしまうことの方が厄介だと克己は考えていた。
「……俺にメダルを寄越せ。あいつのメダルが切れるまで粘れるだけのな。潤沢なメダルさえあれば、アポロガイストに補充させる隙も与えん」
脱臼していた肩も既に完治している。治癒力ではさやかに及ばないかもしれないが、NEVERである克己の再生力と、何より打たれ強さは元より一級品だ。
それをエターナルへの変身で底上げし、更に多用できないとはいえエターナルローブの絶対防御を合わせれば、守りにおいてこそ圧倒的な性能を発揮する――それこそ、メダルに糸目をつけなければ今のクウガを相手に、アポロガイストの横槍を考慮に入れたとしても、防戦なら互角の立ち回りも可能なほどに。
そしてクウガさえどうにかできれば、今のアポロガイストが相手でもエターナルならば勝てる。石を砕いてすぐ正気に戻せるなら、あのクウガもこちらの戦力として勘定できる可能性すらある。何にしても、まずはクウガを操っているとアポロガイスト自ら明かしたあの石を砕くのが勝利条件だと、克己は考えていた。
「どうせおまえじゃ敵わないんだ。そこで腐らせておくよりは俺に投資しろ」
「……タダで叶う望みはない、か」
舌打ちの後、自らの異形の右腕を見つめていたアンクは、エターナルに向き直ると首輪からセルメダルを放出した。
「……これだけか?」
「貰っておいてそれか」
しかし提供されたのは、わずか三十枚ほどのセルメダルのみ。
いくらクウガにコアを奪われたとはいえ、グリードとして桁違いに多くのメダルを有するはずのアンクから提供されたにしては、あまりにも乏しい量。仮にローブを用いてライジングアルティメットクウガの攻撃を防ぐとなれば、単なる拳数発で使い切ってしまう程度でしかない。如何にエターナルとはいえこれだけではとても、クウガとアポロガイストを同時に相手取った持久戦で勝利を掴める目処など立てられない。
「もう少し寄越せ」
故に要求を重ねたエターナルに対し、アンクは忌々しそうにそっぽを向いて答えた。
「……これ以上は、俺を維持できなくなる」
――つまり、まだメダルはあるわけだ。
多くが生き残るために必要な糧が。しかしそれを提供することに、己の命運が懸かる以上、持ち主であるアンクは合意できないと。
そのことを意識した瞬間、知らずエターナルエッジを握る手に力が篭った。
(……綺麗事じゃあ生き残れない、か)
克己の心の中に住み着いた何かが、そんな囁きを漏らした。
誰も犠牲にせずに、最後には愛と正義が勝つ大団円。そんな夢ばかりを見てはいられないのだと。
……そんなものを見る人間性(資格)すら、克己からは一瞬ごとに失われて行っているのだから。
なのにまだ、自分は――何も、成し遂げてはいないのだ。
(――悪いな、アンク)
まだ、何も刻み込めてはいない。自分の存在を、この世界に。
永遠に刻みつけるその時まで、死ぬわけにはいかない――そしてそのための贄は、目の前にある。
(……どうせこの先俺は、悪魔になっちまうらしいからなぁ)
今は悪の操り人形と化してしまった、正義の仮面ライダーからぶつけられた罵倒の言葉が脳裏を過る。
ネウロ達が、真木が時間操作の技術を持っているのではないかと疑っているのを、克己もまた聞いていた。
確証があったわけではないが、ユウスケの言葉が正しいなら――そして、自分が死体であるという疎外感に常に悩まされていた克己にとって、故郷の人々を皆NEVERにしてしまうという計画には確かに惹かれるものを感じていて。それが未来の自分の選択なのだと言われても、否定することができずにいたから――
いつか、己は本当に、完全に人間性を喪ってしまうのだと。そんな、確信めいた予感があった。
952
:
【Y】/こころにすみついていたもの
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:11:26 ID:XLjNw8AI
本当ならユウスケを問い詰めて、真実を明らかにして、違うのだと思いたかった。心を揺らがされたと感じていても、それは勘違いだったのだと。
しかし――今この瞬間、まだ何の罪もないアンクを前にして閃いた冷めたい思考が、ユウスケの仄めかされた未来が真実であることの、何よりの証明のように克己には思えていた。
(どんな形になろうと……俺は俺を永遠にする。そのためには……あいつが必要なんだ)
そうして――訝しむようにして仮面越しの表情を覗き込んでいたアンクの、隙だらけの喉元を掻き切ろうとした、その瞬間。
「――やめろぉおおおおおおおおっ!!」
怒りに満ちた声が鼓膜を叩いて。
まるで母に叱られた幼子のようにして、びくりと手を止めた克己はエターナルの仮面を被ったまま、声の主を探して視線を巡らせていた。
そして――
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
振り返ると 幼き僕に あの日の勇気(melody)
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
克己が戦場に視線を戻した、その時。
「これ以上、やらせるもんか!」
既に言葉を発する余力もなく、まるで惨殺死体のような有様で倒れ込んだネウロを庇って――さやかが一人、クウガと対峙していた。
魔人を終始圧倒した絶対的な暴力の化身を前にして、さやかは竦む体をそれでも割り込ませ――その細い剣を構えて、無謀にもクウガの攻撃を受け止めようとしていたのだ。
拳そのものは、横向きの刀身に触れる前に寸止めされる。しかしその動作で生じていた暴風は、少女一人を吹き飛ばすのに十分過ぎる威力を有していた。
さやかという障害が離れた後、クウガは改めてネウロへと距離を詰める。
しかし少女はその剣を地面に突き刺して持ち堪え、刀身の撓みを利用して体勢を立て直し、蹴り飛ばしたネウロに追撃を仕掛けようとしていたクウガの腰に抱きついた。
「ねえ、やめてよ……っ! あんた、あたしには本気で攻撃してないよね? まだ意識があって、人を傷つけたくなんかないって思ってるんだよね!?」
アポロガイストの言葉がなくとも。ネウロの惨状と自身とを見比べれば、それは素人と侮られるさやかからも明らかな事実だったのだろう。
「だったら負けないでよ、あんな石ころなんかに!」
「――小娘が、図に乗るな!」
涙を湛えての懇願に対し、アポロガイストの一括と共に、クウガが手を一振りする。
地べたを舐めたさやかはしかし軽傷だ。その様に舌打ちしながらも、手加減されても抗うことのできない少女の非力さを悪は嘲笑う。
953
:
【Y】/こころにすみついていたもの
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:12:20 ID:XLjNw8AI
「情けで生かされているだけのゾンビが、一丁前に正義の味方気取りとは片腹痛いのだ」
「気取りなんかじゃない……!」
そんなアポロガイストの言葉に、立ち上がりながらさやかは強く言い返していた。
「あたしは……もう、認めて貰ったんだよ。だからそう生きるって、決めたんだ……! もう誰にも、大切なものを失わせたりなんかしない、正義の味方になるんだって――っ!」
奪われたことへの怒りと悲しみと。そして認められたという誇りによって吐き出された言葉と共に駆け出したさやかの、左腕が宙を舞う。
マグナム銃を構えたアポロガイストの攻撃を躱しきれず、掠めた細腕が千切れ飛んでしまっていたのだ。
クウガの攻撃とは異なり、一片の容赦も挟まれていない銃弾の威力にさやかは吹っ飛ばされ転倒する。
「愚か者めが。貴様がどう思おうが、今更貴様如きに何をできる力があるというのだ!」
「――だけど、あたしはもう、一人じゃない……っ!」
追撃の銃弾は、トドメとばかりに腰を狙っていた。しかしそれを読んでいたさやかは跳躍して躱し様、転がっていた自身の腕を拾って露出した肩口に押し当てる。NEVERさえ上回る再生力によって蒸気を上げて腕と肩が接合されて行き、滑らかな肌が刷毛で塗られるようにして傷跡を埋めて行く。
「今のあたしがどんなに弱くたって、足掻き続けてやる。最後の、最後まで! あたし達が信じた、明日のためにっ!」
叫んださやかは、傷口が完全に塞がるのも待たずに、再びその痩身を両足で送り出した。
全く敵へ及ばない不利に臆する本能を、抱えた願いに応えた心で押さえ込んで――どんなに困難でも、孤独ではない限り存在するはずの希望を信じて。
――きっと彼女は、エターナルがすぐ傍まで戻って来ていることに気づいていない。
それでも、自分を認めてくれた仲間は、戻って来るのだと信じきったまま――自身の信念のために、足掻き続けている。
彼女が抱えているのは、きっと――陽の沈む直前に、克己と交わした約束。
それに思い至った時、克己――エターナルは、アンクを置いて戦場のど真ん中へと駆け出していた。
954
:
W/弱き僕らの祈りの風
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:13:40 ID:XLjNw8AI
「――小賢しいゾンビめが、死ねぇっ!」
苛立ちを顕にしたアポロガイストが、ネウロの下に向かおうとするさやか目掛けた追撃を続ける。
翼から放たれた火炎は、それ自体が中途半端に大きいために、目にしてからの横っ飛びで回避できた。
しかし同時に放たれていた銃弾はそれより速く、小さい故に躱し難い。しかして秘めた威力のほどは、先程腕をもがれた際に把握済みだ。
そこでさやかは、くっつけ直したばかりの左腕を用い、自身のマントをはためかせていた。
翻った白い暗幕は、焦慮から急所であるソウルジェムを狙っていたアポロガイストの銃口を惑わせる。推測から放たれた一発が通過する位置さえ予想できていれば、銃弾の伴った衝撃波にマントを引き裂かれながらも、さやかの痩身は直撃を躱すことができていた。
(――できた……!)
ナスカ・ドーパントとの戦いの時同様。マントを用いた幻惑という、克己の得意とする技術を再現することができている。
もうアポロガイストのような強敵が相手でも、無意味に攻撃を喰らうような無様は晒さない。己の確かな成長を実感し、さやかは微かな喜悦を発露させていた。
とはいえアポロガイストが言うように、ガタックの力を失くした自分が今の奴を倒すことは困難だ。そもそも仮にそれが可能としても、その際にはクウガによる妨害も予想される。
成長できているとは言っても、未ださやかは彼らには届いていない。だから今は、とにかくできることを――時間稼ぎをやってみせる。
このまま放っておけば、間違いなくネウロは殺されてしまう。あの小野寺ユウスケという青年も、まるで魔女の口づけを受けた被害者のように、望まぬ罪に手を染めてしまう。
悪いことをしていない皆が悲しい思いをして、得をするのはアポロガイストと真木達だけ――そんなことは許せないと、さやかは闘志を滾らせる。
もう――音楽や、夢や、命や。誰かの大切なものを、理不尽に奪われたくない。誰にも、自分と同じ痛みを覚えて欲しくない。
二人の親友との別れを経験したさやかの願いは、一層強いものと化していた。
「――甘いのだ!」
そんな決意と共にアポロガイストを振り切ろうとしていたさやかだったが、しかし。まだ未熟な魔法少女は、銃撃を躱したところで油断してしまっていた。
「ハイパーガイストカッター!!」
故に、三撃目――マントを構えられた時点で投擲の準備がされていた、刃の生え揃った日輪の楯の襲来に、気づいた時には思考を塗り潰されていた。
「しまっ――」
縦ではなく、横に動き出したばかりだったさやかは、この一撃を躱せる体勢にはなかった。また、防げるだけの力も持ち合わせていなかった。
狙いは過たず腰のベルト。その奥に隠された、さやかの魂そのものである青い宝石(ソウルジェム)。
運良く即死は免れても、胴を両断されてしまう運命からは逃げられない。そうなれば、次のアポロガイストの攻撃で確実に死んでしまう。
「サヤ――っ!?」
その様子に気づいたらしいネウロが、名を呼ぶ途中にクウガに殴打され、吹き飛んで行く。家屋を倒壊させる音を聞く限り、そもそも救出に向かおうとしていた魔人からの助けを期待することはできそうにない。
「――はぁああっ!」
絶体絶命のその時。さやかの頭上を飛び越えたそいつは、蒼炎を纏った爪先でさやかの眼前に迫っていた飛輪を、見事一撃で蹴り落とした。
着地と同時、自らの足元に突き刺さっていた楯を蹴り上げて掴み、さやかを庇うような姿勢で佇んだその男は、さやかが誰より待ち望んでいた人物だった。
「――克己!」
「むぅ、ライジングアルティメットに恐れを成したと思っていれば、貴様……!」
「生憎だが、俺はとっくに死人でな。そういう感情は忘れちまってるんだよ」
「もう……」
またそうやって嘯くエターナルに、思わず叱咤を漏らしてしまいそうになりながらも。今はそういう状況ではないと、さやかは傷んでいた剣を具現し直す。
さやかは克己が帰って来てくれると、疑う余地なく信じていた。しかし彼でもクウガの相手は楽ではない。
だから、と。既にネウロへの追撃を止め、こちらへと踵を返していたクウガへとさやかは向き直った。
955
:
W/弱き僕らの祈りの風
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:14:33 ID:XLjNw8AI
生身の人間そのものな姿のさやかに対してだけは、石の魔力に囚われながらもユウスケも意地を見せ、邪悪な支配に抗ってくれている。動きを多少なりとも妨げられる自分がサポート役になれば、今度こそきっと、克己なら……
「受け取れ」
そう考え、俄かに汗を滲ませていたさやかに投げ渡されたのは、エターナルが掴んでいたアポロガイストの楯だった。
「うわっ、ちょ克己!?」
慌てて具現化したばかりの剣を捨てて、さやかは真っ赤な楯を受け止める。掴んだ両手が重さに沈むが、何とか堪えて持ち上げる。
「クウガは俺がやる。おまえはその間、それでアポロガイストから俺を守れ」
自身の魔法で作ったサーベルよりも強靭だが、全く不慣れな武器を渡されて困惑していたさやかへと、エターナルの仮面越しに克己は端的に指示を下す。
「無理に攻めなくて良い。ただあいつの横槍さえ防いでくれていれば、後は俺が何とかしてやる」
「いきなりそんなこと言われても……あたし、楯とか使ったことないし……」
「さっきのマントの使い方を思い出せ。アレで良い」
さやかの戦いぶりを評価した克己は、未だネウロにも注意を払っているらしいクウガと改めて対峙しながら、続ける。
「俺の背中は、おまえに任せた」
「……しょうがないなぁ」
不承不承、と言ったような口ぶりながらも。本当は小躍りしたいぐらいの喜びに胸を滾らせながら、さやかは受諾を表明する。
「やってあげるよ。弱虫な克己は、一人じゃ戦えないもんね」
「おまえほどじゃない」
先の戦いの後に交わした言葉を思い出して、不利へ臨む相方の気持ちを軽くしようと。さやかとエターナルは、互いに冗談を口にする。
いや、全くの冗談ではないかもしれないが――だからこそ、何でもないことのように会話できたことが、さやかの心から余計な重荷を取り除いてくれていた。
――いける。
弱くても、力が足りなくても……同じ志を持った仲間と、それを補い合って戦うことができる。
もう、さやかは――一人じゃ、ないのだから。
確信したさやかの背後で、エターナルが地を蹴ったのが聞こえた。ほとんど同時に、大地を破裂させるようにしてクウガが迫って来ていたのも。
どこで途切れているのかもわからないような、連続した打撃音が響いて来る。しかしどこで途切れているのかわからないということは、それは先の二回とは異なり、此度の激突は拮抗していることを示していると、さやかにも判断できた。
それを証明するかのように、アポロガイストが手元に残された銃を構える。対してさやかも、ガイストカッターを抱えて走り出していた。
「余計な邪魔を……っ!」
「それが役目なんでね!」
着弾の衝撃に手を痺れさせ、危うくひっくり返りそうになりながらも。射線上の障害物として立ち塞がったさやかは奪った楯を用い、エターナルへ向けられたアポロガイストの一撃を防いでいた。
「引っ込んでおるのだ!」
続いた連射の威力に、さやかはその場に釘付けにされた。しかし堅牢な楯の機能は損なわれず、さやかの無事は保たれている。
業を煮やしたアポロガイストが接近を開始する。そのために銃撃の間隔が微かに拡がった瞬間、さやかは体勢を立て直し、身体能力の強化のみに全魔力を回して重い楯を持ち上げた。
(さっきみたいに……っ!)
巨大なガイストカッターを前面に掲げて、疾走。先のように正面から受ければ体勢を崩されることを学習したさやかは、射線と着弾面が直角にならぬよう斜めに楯を構え、背後の音の移動に合わせてアポロガイストの視界を阻むようにして縦横無尽に飛び跳ねる。
956
:
W/弱き僕らの祈りの風
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:16:19 ID:XLjNw8AI
「ぬぅ、大きな楯が目の前でヒラヒラと……」
「迷惑かけられる人の気持ちがわかった!?」
取り返そうと接近するアポロガイストに、隙を見て具現化した剣を投げつける。直撃したところで致命傷には程遠い一撃は容易く弾かれるが、地の石を砕くのに十分な威力のそれは、不用意な接近を躊躇わせる牽制として機能した。
結果、再び遠巻きな攻撃を試みるアポロガイストだが、飛び道具では彼自慢のガイストカッターを砕けない。
何とかさやかは、アポロガイストの足止めに成功していた。
だがそれも、アポロガイストの頭に血が上っている間でしか成り立たないことだ。
奴が冷静さを取り戻せば、アンクから奪った翼で飛ぶという選択肢を思いつくはず。今の状況でも余裕はないのに、上空から攻められるとなればとてもさやかでは守りきれない。
(――急いでよ、克己……っ!)
さやかが防いでいる間に何とかすると、彼は言ったのだ。ならきっと何とかしてくれると、さやかはこれまでの彼を見て疑うことなく信じている。
ただ、そのためにさやかが稼げる時間は、現実的に考えれば決して長くないのだ。
おそらくそのことは、克己とて理解しているはずだ。
それでも――仮面ライダーの力もない、素人の魔法少女である自分が、それでも彼の背中を任された。
(あたしも、やれるだけのことはするから……!)
「どうした!? ど素人の小娘も倒せないの、大迷惑な大幹部さん!」
「貴様ッ、私の楯を使っておいて図に乗るなぁあっ!」
その期待に応えるためにと、力も知恵も意志の下に総動員して、言葉さえも武器にして。怒り任せに乱射される銃弾を防ぎ、時に反撃しながら――さやかは全力を、尽くし続けた。
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
クウガの繰り出した拳を、エターナルは横合いから蒼炎を纏った手刀で外側に弾く。
蒼炎で強化を施している分、完全な素手で受けていた時に比べれば遥かに軽いが、それでも手に痺れが残る恐るべき剛力だ。おそらくは正面からの打ち合いでは、こちらだけ強化している状態でもまだ届いていないだろう。
しかし、それでもエターナルは、ライジングアルティメットの猛攻を凌ぐことができていた。
怪力や敏捷性でエターナルを上回っていた時期のネウロでも圧倒されていたクウガに、それでも克己が食い下がれているのは、防御力だけの問題ではなく、両者の技量の差が要因だ。
ネウロは地上においてはもちろん、魔界でも圧倒的な存在として君臨していた。故に魔人ネウロはどこまで行っても互角の勝負を経験したことがなく、また努力という概念のない魔界ではそんなものを学ぶこともできなかったために、同格の敵との戦いに入ってから優位に立つための戦術や技術というものを修められていなかった。生まれながらに圧倒的であり過ぎたが故に、その強さはどこまでも直線的だった。
それが地上という環境や、殺し合いにおける制限や、身を動かす命の炎の不足や、相棒を喪った動揺といった要因で損なわれてしまえば。初めて得た弱さを持て余し、その結果相対的に自身を上回るようになった敵と突発的に戦うとなると、策が不発に終わってしまえばどうしようもなく脆かったのだ。
対して大道克己は、元は音楽が好きだっただけの、争い事とは縁遠かった人間だ。
悲運な事故からネクロオーバーとなり、死の商人である財団Xに死体兵士の有用性を証明するために、後付けでその強さを高めて来た。
不死性だけに頼ることなく、元の弱さを補うために、人類が研鑽し続けてきた戦いの術を、ひたすらその身に修めて来た。
故にネウロと異なり、自身を上回る強敵との戦闘経験も、そこから逆転するための術も、克己には備わっていたことが、エターナルを今もクウガの前に立たせ続けている理由となっていた。
「――おぉぉおおおおおおおおおあぁああああああああっ!!」
拳をいなし、蹴りを逸らし、手刀を捌く。微かに開いた暴風雨の目を見逃さず、空隙目掛けて全力で拳の矢を放つ。
しかし堅い。重厚だったタイタンフォームを遥かに凌駕する金の装甲は、エターナルの拳を正面から受けて小動(こゆるぎ)もしない。装甲に覆われていない漆黒の肉体も、それ自体が圧倒的な強靭さと弾力を併せ持つ筋繊維が鎧となって、生半可な攻撃を跳ね返し、寄せ付けない。
一瞬で再生する程度とはいえ、傷を与え得るエターナルエッジの直撃を許してくれるほど、究極を超えた暴力の化身は甘くない。そんな欲を掻けば、刹那のうちに攻守は入れ替わる。
957
:
W/弱き僕らの祈りの風
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:17:26 ID:XLjNw8AI
パワーの差は文字通りに桁違い。敵の一撃一撃が、受け損ねれば勝敗を決し得る威力。それに比べれば地獄の傭兵も、何と弱々しいことか。
だがそんなことは百も承知。元よりNEVERは、大道克己は最強無敵などではなかった。ガイアメモリの生む怪物ドーパントに比べれば劣るとして、財団Xに切り捨てられた存在だ。
しかし、もしも最初から、ドーパントにも勝る完成した強さを自分が持っていれば。己の弱さを知らなければ。克己は自分を救ってくれた母の研究のためでも、あんなに辛い訓練など積まなかった。
もしも自分だけで完結してしまっていたのなら、きっと克己は泉京水や、芦原賢や、堂本剛三や、羽原レイカを求めはしなかっただろう。
ミーナとも、そして美樹さやかとも、出会うことはなかっただろう。
克己が一人だけで完全ならば。己の欠落する人間性を繋ぎ止めてくれる者達を、今も残っているこのメロディを伝えるための他者を、求める必要などどこにもなかった。あらゆるものが抜け落ちて行くこの身を、こんなにもたくさんのもので補うことはなかった。
そう――弱かったからこそ、大道克己は戦える。
時にその弱さが言い訳をして、諦めを促す悪魔になることがあるとしても。弱さとは、それだけのものではない。
幼き日の克己は弱かったからこそ、同じく弱い人々を思い遣る勇気を与えてくれるものの尊さが、理解できた。
揺るぎない強さに支えられた自信ではなく、補える弱さを知っているからこそ生まれる願いが、どんなに辛く苦しい時でも克己を足掻き続けさせていたのだ。
そんなことを、とっくに忘れてしまっていた克己に思い出させてくれたのは――母の名と同じ姓を持つ、克己と同じ死人の少女だった。
世界の不条理に、誰も悲しまずに済むような幸せな未来が欲しい。
誰かの心を豊かにする、人間の育む素晴らしい音楽(可能性)を、もっとたくさんの人々に届けたい。
そんな願いを抱えて戦う美樹さやかは、大道克己が失くした過去そのもの――幼き日の、自分自身だった。
――正しく言えば、今も思い出したわけではない。克己の記憶は本当に、抜け落ち消えてしまっているのだから。
それでも、変わらず克己の中に響いているこの曲が共鳴したものこそが、在りし日の自分がこのメロディに懐いた祈りだったのだと、そう理解できていた。
幼き己を知る母と、同じ言葉を掛けてくれた少女の願いこそが、と――
だから克己は、足掻き続ける。どれだけ絶望的だろうと、幼き日から懐いたままだった望みを叶えるために――明日へ、向かって。
――それを阻む敵は強大だが、勝機は実に単純明快な形で存在する。
一人では足りないのならば、二人で。
そしてメモリが一つでは足りないのなら、二つで。
数多のメモリスロットを持つエターナルもまた、克実と同じように、足りない物を補い合える力を持っていた。
ただ一つ、問題は――それを活かす機会が、見えないことだ。
さやかがアポロガイストを足止めしてくれているおかげで、エターナルはクウガの相手に専念できている。
しかし掠めるだけで徐々に蓄積されてきた手足の痺れは、確実にその動作を遅らせ、精密性を損ねて行く。
958
:
W/弱き僕らの祈りの風
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:18:17 ID:XLjNw8AI
やはり完全に防ぐには、絶対防御のエターナルローブに頼るしかない。だが持久戦ではなく正面からの勝利を目指す場合、自己強化に回すだけなら惜しむ必要はないが、ローブに頼り切るには心許無いメダルしか、今のエターナルには残されていない。
しかしセルメダルの猶予以前に、打ち合うたびに断裂していく筋組織の修復が、NEVERの再生力を以てしても追いつかない。最低限の使用に止めている絶対防御のローブすらも、徐々に割り込む余裕を無くして行く。
このままでは遠からず、クウガの攻撃を捌ききれなくなる。
次に一度でも、芯に直撃を許せば――逆転どころか拮抗すら、もう永遠に作り出せないだろうに。
そんな事実を意識した瞬間、ふとした考えが過ぎった。
今のままでは一撃でも受ければ、勝つことは難しい。引き際を誤れば、待っているのは全てを失う敗北だ。
だが……メダルを補充すれば、彼女を連れて――
「――黙っていろ!」
とっくに滅びたものが、往生際も悪く残響させていた妄言を、克己は一刀の下に両断する。
……心の弱さは、他者を思い遣る優しさを生むと同時に、諦めを齎す悪魔でもある。
かつてさやかが、その気高さ故に他人の不幸を見ないふりで済ませず、そんな人々を救えない己を許すことができず。蓄積され行く苦い記憶が、明日を求める指針としての後悔を通り越し、押し寄せる闇の澱となって。懐いた祈りを見失い、諦めかけてしまったように。つい先程、克己は心の中の弱さ(悪魔)に屈しかけた。さやかが仲間と信じているアンクを、自身の欲望のために殺そうとしてしまった。
どうして己は、そこまで目を曇らせてしまっていたのか――
――それはきっと、さやかを喪うことを恐れたからだ。
克己はただ、彼女に覚えていて欲しかった。親子の情を想起させる少女に――死人の身では得られるはずのない、未来への系譜を感じさせてくれた幼き日の自分に。
……きっと、あまりにも自分らしくなく。彼女には妙に甘かったのも、そんな感覚のせいなのだろう。
だから克己は自分だけでなく、彼女を生かすための力を求め、悪魔の囁きに耳を貸してしまうところだったのだ。
だが、さやかが己の祈りを取り戻して、自身を取り込もうとしていた闇を振り払ったように。結局は克己も、悪魔にはならなかった。
それこそがさやかに対する裏切りなのだと、他ならぬ守ろうとした相手に気づかされたのだ。
彼女に受け継いで欲しいのは、誰かの明日を奪うような悪魔の所業ではなく――皆に平和で幸せな明日が来て欲しいという、切なる願いであるはずだと。
誰かに賢しげに諭されるまでもない。それが叶うわけがない夢だということは、わかっている。
それでも、最初に誰かがそうなって欲しいと望まなければ、祈らなければ。何も生まれず、始まらない。
だから。
「おまえもすぐに取り戻してやる……小野寺ユウスケ!」
959
:
W/弱き僕らの祈りの風
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:19:19 ID:XLjNw8AI
その願いを、どこで聞いた何の歌だったのかももう覚えてない――それでも確かに、心に住み着いていた弱さ(優しさ)が今も歌っているこの曲を、祈りを。己の手で壊すような真似だけはするまいと。克己は強く、強く、決意していた。
――少なくとも、さやかの前では。
あるいは今見せている姿は、偽りなのかもしれない。殺したのは悪魔のような連中ばかりとはいえ、克己はとっくに血に塗れ、罪過を背負った存在だ。そしていつかの未来に、正義の味方に倒されるべき悪魔に成り果ててしまうような輩なのだ。
なのに、己の姿を綺麗に偽り過ぎてはいないかと、彼女を騙してはいないのかと、そんな疑問が心の内にあることは、無視できない。
だが――だったら、嘘を、例え嘘でも、貫き通す。
もしも今の姿が偽りでも、そうさせている願いだけは、疑いの余地なく大道克己の本心なのだ。
なら、これこそを――誰にも見せられなかった、本当の姿にできるように。失われた過去を、未だ見ぬ明日へ繋ぐために――最後の瞬間まで、足掻き抜いてみせる!
だからこそ、自由を奪われ、嫌々戦わさせられているユウスケを見捨てて逃げるなど、克己には許されない。
どんな大義のためだろうと、罪もない他の誰かの明日を奪うこともまた、許されるはずがない。
そうさせぬために、抗う(戦う)のだから。
気高き少女の導きにより、己の中の悪魔に打ち克った仮面ライダーエターナル――大道克己は、この時。確かに在りし日の、人間に戻っていた。
しかし、それでも――それでも、及ばない。
欲さなければ、望まなければ。何も生まれないのだとしても、それだけでは何も変えられない。
現実は詰将棋のようにして、徐々に活路が閉ざされて行く。
まだ凌げている。だが完全には捌ききれない。クウガの打撃が掠める際、接触する面積が増え始めた。じりじりと、足の裏が街路を抉って後退る距離が、伸び始めた。
勝機を掴むために温存しておくべきメダルの残量すら、限界に達しつつある。
「うぉおぉおおおおおおおおおおおおおっ!!」
だとしても。克己は吠えて、足掻き続ける。少しでも前へ進もうとする。
愚直なまでに。内から響く勇気(メロディ)に、従うがまま。
叫びを発する顔面を目掛け、急上昇していた拳を弾いた結果、エターナルの体勢が大きく崩れた。三度目の激突が始まってから、エターナルが見せた中では最大の隙。
当然、クウガは見逃さない。更なる破壊力を秘めたその右足を撓め、超絶の威力を解放する。
意図して作った隙ではなかった。エターナルでも躱せない。正面からでは、素手で防げるような攻撃でもない。
だが、エターナルローブを掴むのは、刹那の差で間に合わない。その程度のことは、クウガも織り込み済みだからこその、勝負を決める大振りだ。
それでも――間に合わないとしても、エターナルは手を伸ばした。
(届け……っ!)
ここでやられるわけにはいかない。さやかは役目を果たしてくれているのだから。
克己が何とかしてくれるのだと信じて、自身よりも遥かに強大な悪へと、たった一人で立ち向かってくれているのだから。
――幼き己のあの日の勇気に、応えたい。
そんな想いが、届くはずがない切札に、それ以外にない活路を求めて、エターナルの手を伸ばさせていた。
(届けぇええええええええええええっ!!!)
――エターナルローブは、どんな攻撃をも遮断する絶対防御のマントだ。
ひらりひらりと頼りない所在とは相反し、自身のメモリの効力すら含めありとあらゆる害なる物を無力化し、その身を守り抜く無敵の加護。
そんな絶対防御のマントが、受け入れるものがあるとすれば、それは即ち――装着者に決して、害を齎すことのないものだけだ。
そして通り過ぎた風は、ローブの端を微かに持ち上げて。
クウガの蹴りに先んじて、それをエターナルの指先に引っかけた。
960
:
W/弱き僕らの祈りの風
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:20:44 ID:XLjNw8AI
「――――――ッ!!」
無我夢中だった。紙一重だった。
翻すのが刹那の差で間に合ったマントは、エターナルを打ち上げるはずだったクウガの蹴りを見事に無力化していた。
(――この、風は)
それは、明日の来る方向から届いた風。
南東の――風都から吹き抜けて来た、風だった。
圧倒的な超感覚を誇る今のクウガでも、微弱で気まぐれな自然現象である風が――それが届くはずがないのに、決して足掻くことをやめなかったエターナルに、大道克己に味方して。一瞬にも満たない刹那だけ、時を縮める奇跡を起こすなど……完全に予測することは、不可能だったのだ。
(やはり風都は、良い風が吹きやがる――っ!)
かつてあの街で出会い愛したメロディのために、あの街で懐いた祈りのために戦う大道克己の――仮面ライダーのために故郷から届けられた応援を、どうしてエターナルローブが弾くものか。
その風によって生まれた、エターナルの限界を超えたたった一度限りの動作は。
移動に使う足を攻撃に用い、更に正面を完全に遮断されてしまったクウガにその時、一瞬限りの明確な隙を作らせていた。
――チャンスは、今しかない。
勢いを増した風がマントを靡かせ、クウガに対する壁を作っているその影で――克己はエターナルエッジのマキシマムスロットにメモリを差し込み、その秘めたる力を解放する。
《――ETERNAL!! MAXIMUM DRIVE!!――》
当然、クウガも風が止むまで待ち惚けてくれなどしない。
風都から届く風を断ち切る烈風と化して、ローブに庇護されていない隙間へと回り込んで来る。
だが――足掻き続けた末に掴んだ活路はもう、拓けていた。
――更に、もう一本。
《――UNICORN!! MAXIMUM DRIVE!!――》
予めロストドライバーのマキシマムスロットに挿しておいたユニコーンのメモリもまた、その中に秘めたエネルギーを最大にする。
……本来、エターナルのマキシマムドライブは物理的な破壊力を持たない。
しかしそれでもこのメモリは全てのガイアメモリの王者。その秘めたるエネルギーは、他のメモリの追随を許さない。
本来の用途のために効率化される前の、漏れ出したエネルギーを攻撃に纏わせたという変則使用ですら、他のメモリのマキシマムドライブに匹敵する威力を発揮できる。
だがそんな不完全な攻撃では、今のクウガには届かない。
「導け、ユニコーン」
だからここで、ユニコーンの力を借りる。
ユニコーンのマキシマムによる物理攻撃に、エターナルのエネルギーを同調させる。漏れた物を再利用するのではなく、元より攻撃用の一撃に丸ごと同化させれば、そのエネルギーを直接叩き込むことが可能なはずだ。
とはいえ、マキシマムの同期発動は本来T2ガイアメモリ全てで同調し、負担を分配して行うもの。単独でエターナルに付き合わなければならないユニコーンのメモリはこれで何かしらの障害が生じてしまうかもしれないが、他に手がない以上は見逃して貰うしかない。
互いのマキシマムドライブの指向性と、出力をそれぞれ補い合うこの一撃――如何にライジングアルティメットクウガとはいえ、直撃させれば行動に支障を与えられるはずだ。
番えられていた拳に対し、既に踏み込んで来ていたクウガは回避の間に合わないことを悟ると全身のバネを駆使して更に加速し、先手を取って叩き潰さんとばかりに豪腕を振り翳す。
「――はぁあああああああああああああぁあああぁああああああっ!!」
応じて克己も、全力を乗せた拳を振り切った。
961
:
W/弱き僕らの祈りの風
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:21:48 ID:XLjNw8AI
そして、一角馬が王者を導いたツインマキシマム――巨大な突撃槍と化した蒼炎の拳は、燃え盛る彗星と化した紅蓮の拳と交錯し――金と黒へと、同時に到達していた。
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
さやかの背後で、蒼と紅、夜気を払う二色の炎が、双子の嵐のように吹き荒れた。
「――馬鹿なっ!?」
それを正面から目の当たりにしたアポロガイストは、さやかに向けていた苛立ちの全てを、驚愕に押し流されていた。
「ライジングアルティメットが――ッ!?」
背後で響くのは小さく地を揺らし、何者かが派手に転がる音。
何が起こったのか、さやかには振り返らずとも理解できていた。
仲間の活躍を誇らしく思いながら、さやかは隙を逃すまいと具現化させたサーベルを投擲する。
これに気づいたアポロガイストは自身の剣で軽々とさやかの投剣を砕くが、同時、十字に交錯するようにして短い刃物が彼の首元に迫っていた。
「ぬぅ――う、ぉおおおおおおっ!」」
アポロガイストが雄叫びと共に高速展開した翼は、飛来したエターナルエッジに裂かれながらもその軌道を逸らし、弾き返す。
「……冷や汗を掻かされたぞ、エターナル。だが見よ! ライジングアルティメットは健在なのだ!」
アポロガイストの宣告に、思わずさやかは視線を巡らせる。
その先では、左胸の金の装甲を穿孔され流血しながらも、その傷を見る見る塞ぎながら立ち上がろうとする、未だ戦闘続行可能なクウガの姿があった。
しかしその事実に対して、さやかが臍を噛む暇はなかった。
それはさやかとエターナルによる連続攻撃を凌いだ自らの勝利を誇示するため、そして傀儡の無事を確認するためにアポロガイストが見せた最大の隙に。クウガが全快するのを待たずに放たれた、一発の銃声が鳴り響いていたからだ。
「な――っ!?」
「……馬鹿が」
再び驚愕に染まり、声を詰まらせたアポロガイストへ向けられたのは、嘲弄と喜色の入り混じった男の声。
「――アンク!」
ここぞという場面で手助けしてくれた仲間の名を、さやかは喝采するようにして呼んでいた。
「ち、地の石がぁあああぁぁぁあああああああっ!?」
アポロガイストが悲痛な叫びを上げると同時。シュラウドマグナムの着弾により、全体に蜘蛛の巣状の亀裂を走らせていた地の石が、砕け散る。
真黒い水晶のような石が割れた次の瞬間。その全身に小さな稲妻を走らせたかと思うと、アポロガイストを庇いに走り出そうとしていたクウガの体から、闇の波動が放出された。
「うっ……わぁああああああっ!?」
叫びの直後、クウガはその漆黒の肉体を闇に還したかのようにして、一人の青年の――小野寺ユウスケの姿へと戻っていた。
ユウスケは自身から放射された力の反動を受けたかのようにして、更にその場でもんどりを打って転がる。
「うっ……みん、な」
しかし、心配は無用だった。一度ひっくり返った後に放たれた、謝意と気遣いが滲んだその声は、確かに正気に戻った彼の物だったのだから。
そう……心配は、無用だった。
「……っ、大道さん!」
小野寺ユウスケに、対しては。
962
:
W/弱き僕らの祈りの風
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:22:27 ID:XLjNw8AI
「……………………えっ?」
逼迫したユウスケの声に釣られ、視線を巡らせたさやかが見た彼は既に、エターナルへの変身を解いていた。
しかし生身を晒したその体から、淡い粒子が大気中へと溶け出している――まるで、エターナルへの変身を逆再生しているのかのように。
「……ここまで、か」
彼自身は、そんな風に溶けていく己の掌を目にして、ポツリとそれだけを漏らした。
「お別れだ、さやか」
「何、言ってんの、よ……?」
妙に晴れ晴れとした表情で、徐々に輪郭の揺らいで行く克己が告げて来るのに、さやかは掠れた声を返すのが精一杯だった。
お別れ、だなんて。体が消え始めたからって、何を急に言っているのか、彼は。
それではまるで……そんな、まさか――克己が、死ぬ? NEVERなのに?
そこまで考えたさやかの脳裏に、ハッと閃くものがあった。
「克己、メダルをっ!」
NEVERの正体は、特殊な技術によって生前の何倍にも強化され、蘇生した死人兵士だ。ソウルジェムのような弱点もなく、常人ならば致命傷となるダメージをもあっという間に治癒してしまえる、まさにNECRO OVER(死を越えた者)と呼ぶに相応しい存在。
しかし、彼らは完全に死の軛(くびき)から解き放たれたわけではない。専用の細胞維持酵素を定期的に摂取しなければ、元の死体に戻ってしまう。
この場においては、酵素の代わりにメダルが消費される。それが尽きてしまったのが原因なら、自身のメダルを分け与えれば――!
しかし彼は、無情にも首を振った。
「無駄だ。確かにメダルも切れているが……これはもう、体がダメージで限界なんだよ」
克己が告げたと同時、さやかともう一人、ユウスケが息を詰まらせた。
「くくっ……ふあーはっはっはっ! そうか! 貴様既に終わっていたということか!」
そんな中、愉快で堪らないとばかりに笑声を漏らしたのはアポロガイストだ。
耳障りな声にさやかは思考を怒りへと染め上げられそうになるが、今は克己だ。
駆け寄ったさやかは治癒魔法を発動しようとするが、その手を他ならぬ克己によって止められる。
「もういい。自分のことは自分が一番よくわかる。おまえだって消耗が激しいんだ、メダルを無駄に使うな」
「――無駄なんかじゃないよっ!」
さやかは思わず叫び、弱々しくなった彼の手を押し切って、癒しをその体に与えていく。
「あんたに生きていて欲しいって思うのの、何がいったい無駄なのよ!?」
首輪からメダルを放出する。しかしそうしているのかそうなっているのか、宙に飛び出たセルメダルは克己の首輪に吸い込まれても、すぐに再放出されてさやかの中に戻って来る。
「もういいって言っているだろう」
さやかの腕を掴む彼の手の力は、一秒ごとに弱まって行く。
単に弱っているのではない。触れている箇所から粒子と化した克己の一部が漏れ続け、満足に掴むことすらできなくなっているのだ。
さやかの治癒魔法ですら、その進行を微かに緩めるだけで……大道克己は少しずつ、確実に消え失せて行く。
なのに、その――意地っ張りの克己らしからぬその優しい声は、優しいままでその力をむしろ、増して行くのだ。
「良くない……!」
だけどそれは、さやかにとっては何も優しくなどなかった。
「あたしは、あんたに助けて貰ったんだ! 何回も何回も……やっと、仲間らしいことができたと思ったのに、できてなかった……っ!」
何とかすると言ってくれたから、信じて役目を全うできた――そう思っていたのに。ただ彼に、押し付けただけだった。
全てさやかが弱かったせいだ。アポロガイストを倒せる力があれば……そこまでは望まずとも、せめてそれまでの戦いで、もう少しだけ彼の負担を減らしてメダルだけでも温存させてあげられていれば――こんなことには、ならなかったはずなのに。
「あんたを、死なせちゃうなんて……まだ何も、返せてないのに……っ!」
なのに、守られてばっかりで。
口先では正義ぶって、勇ましいことを言いながら。いつもマミや、克己や、ガタックゼクターや――他の誰かに頼りっぱなしで、肝心な時に役に立たなくて。
963
:
W/弱き僕らの祈りの風
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:23:28 ID:XLjNw8AI
「……もう、十分に助けて貰ったさ」
なのに克己の声は、そんなさやかを責めることも、疎んじることもなく――ただ、感謝の色に染まっていた。
それは、足手纏いのせいで今にも消え去りそうな男が浮かべるには、あまりに満ち足りた笑顔だった。
「……おまえがいなきゃ、俺は自分の悪魔(弱さ)に負けていた。おまえという人間のおかげで、俺は自分を取り戻せた――明日を、自分で選べたんだ」
あれだけ明日が欲しいと口にしていた彼の顔にはもう、生への執着など一切見て取れなくて。
あれだけ足掻き続けていたその声には、ただ他に道がないからではなく――取り戻した上で自分で選択できたという、それだけのことへの、ただひたすらの充足が溢れていた。
「だから、明日を諦めるなよ? さやか。おまえは確かに、俺に希望をくれた……おまえはまだ、未来を創ることができるんだからな」
「克、己……」
「――ならばそんな未来、今この場で砕いてくれるのだ!」
慈しむような克己の言葉に、さやかの中で何かが弾けかけたその瞬間――鳴り響いたのはアポロガイストの嘲笑と、銃の吠える轟音だった。
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
「……大道さん――っ!」
名前を呼ばれて目を向けると、青年――小野寺ユウスケが悲痛に歪んだ顔で息を呑む様を直視することになり、克己は知らず笑みを浮かべていた。
克己のことをNEVERだと知っているだろうに、彼はさやかに対するのと何ら変わらぬ心配を向けてくれたのだ。
彼を救えて……彼を見捨てない選択ができて、本当に良かったと克己は思った。
「……これで俺にトドメを刺したのは、癪だがアポロガイストってことになるなぁ」
「克己……?」
ユウスケに向けた言葉を聞いて、腕の中に抱き寄せていたさやかが訝しむような声を上げた。
「……克己、あんた――っ!」
視線を巡らせた彼女はきっと、見たのだろう。
衝撃の後、完全に感覚がなくなった背中の大部分が、銃撃によって消し飛ばされている様を。
あの時――枯渇寸前のメダルにアポロガイストに一撃加える余力を残すために、クウガの拳をツインマキシマムで打ち負けない程度にしかエターナルローブで防がなかった時点で限界を迎えたこの体はもう、以前のようにアポロガイストの凶弾に耐え得るだけの耐久性すら失っていたのだ。
さやかを抱きしめている、というよりは……彼女を離してしまえば崩れるしかないのが、今の克己の状態だった。
それでも……消え去る前の本当の死に損ないでも、こうしてさやかを庇えた上でまだ意識が残っているという幸運を、克己は噛み締める。
「だから、気に病むな。……後は任せたぞ、仮面ライダー」
かつて自分やさやかを救ってくれたガタックと同じ、クワガタの仮面ライダーに向けて、克己は言う。
倒れ伏したままだった彼は、一度衝撃に打たれたような顔をした後……震えながらも、確かに頷いてくれた。
アポロガイストに対抗できる力が残っているのは、彼だけだ。その彼が引き受けてくれたのなら、安心できる。
「なぁにを安心しているのだ!」
「――させるかっ!」
アポロガイストが再び銃撃して来ようとしたのに対し、ユウスケが叫ぶと同時――アポロガイストの下へと、さやかの手放していたハイパーガイストカッターが急襲した。
「何っ!?」
攻撃を中断し、飛来した己の楯をアポロガイストが掴んだ次の瞬間、その楯と持ち主の周囲を旋回した蜘蛛型の機械が、吐き出したワイヤーでその全身を拘束していた。
「……良いもの持ってるじゃないか」
いつの間にやら、ユウスケの着けていた派手な腕時計がなくなっていた。おそらくあの蜘蛛型のガジェットの正体だろう。
重たいガイストカッターを容易く引き寄せ、更にはアポロガイストの身動きを封じたところを見るに、カンドロイドと比べてもかなり高性能だ。あれがこちらにあれば結果が変わっていた可能性もあったかもしれないが、過ぎたことは仕方ない。
964
:
W/弱き僕らの祈りの風
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:24:57 ID:XLjNw8AI
仕方ないことを考えるよりも、最後に残された時間を有効に使おうと。克己は手を伸ばして顔の見れる距離を作り、俯いているさやかと向き直った。
「おまえも……後のことは、よろしく、頼む」
「……無理、だよ」
崩れそうになる体を必死に立たせた克己に、俯いたままのさやかが震える声で漏らしたのは、諦念だった。
「最後まで、結局あたしはあんたに守られてばっかりで……何かできたのだって、全部あんたに頼っただけで……っ!」
「……それでも、変われるさ。おまえは……確かに弱さ(昨日)を抱えたまま、明日を信じることができたんだからな」
それが、他に道がなかっただけの克己とは違う――さやかの持つ、可能性だ。
克己が繋げたいと選んだ――本当に望んだ、明日だった。
告げられたさやかは息を呑み、でも、と言葉を淀ませる。
「あたしは……あんたに願いを諦めさせてまで、明日なんか欲しくなかった……っ!」
駄々をこねるようなさやかの物言いに、思わず克己は苦笑する。
相変わらず他の誰かのことばっかり考えて、自分のことを責めている彼女に、克己は力強く言い聞かせた。
「大丈夫だ。おまえは俺を――大道克己という人間を、忘れずにいてくれるんだろ?」
弾かれたようにして、ようやく面を上げたさやかの見開かれた瞳と、克己は真っ向から視線を交え……その口からかつて聞いた声を、思い返していた。
――覚えておいてあげるよ、永遠に
その言葉こそが、克己にとっての救済だった。
悲しみや過ちが起きたとしても、それを乗り越え、より良い未来を次の誰かへと受け継いで行く。
命を亡くして、生物ですらなくなった克己が得られるはずのなかったそれこそが。決して終わることなく続く、本当の――――
そんな救いをくれた少女に対し、胸の内から込み上げる感情を、克己はそのまま表に出した。
「おまえのおかげで、俺はただ死体が動かなくなるんじゃなくて……人として死ねる。それで、満足だ」
その言葉を吐いた時……きっと、克己はこれまでの人生の中で一番、綺麗に笑えていたと思う。
しかし、それを確かめる術はもう、残されていなかった。
既に、何も見えなくなっていた。
暗闇に閉ざされた視界に、多くは残されていない記憶が、それでも走馬灯として駆け抜ける。
最初に思い浮かんだのは母の顔。死んだ自分をNEVERとして蘇生し、それからも自分を生きている人間と同じように成長させ、大人にして――こうして誰かを護り、抱きしめるための力をくれた、母。
克己だけでなく、息子の孤独を思って京水達をNEVERにしてくれた――互いに胸の寂しさを埋め合った、たった一人の肉親。
NEVERのメンバーや、ミーナ達も……互いに失われていたものを補い合うことで、欠かすことのできない己の一部となってくれた。
965
:
W/弱き僕らの祈りの風
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:25:31 ID:XLjNw8AI
「ありがとな……」
その全てに向けて口にした感謝の言葉も、既に口腔が消えて、意味のある音にはなっていなかったのかもしれない。
それでも、克己はその想いを、この声の限りに伝えたかった。
どこまでも抜け落ちて行く空虚な自分の中身を埋めてくれた、今覚えている、そして忘れてしまってもこの胸に残ってくれていた、全ての出逢いに。
そして――自らを崩して行く風を感じた克己が、暗闇の孤独の中、映らぬ目で最期にもう一度、見た者は。
「……さやか」
彼らと同じように――この胸の中で奏でられているメロディを共有してくれた、過去と未来を補い合った……一人の娘の顔だった。
向いた先は違っていても。今の自分と同じ孤独を感じながら、幼き己と同じ勇気を胸に抱いて戦うと約束してくれた彼女と、出逢えた。
そんな彼女に、自分はきっと――本当の姿(想い)を、見せることができたはずだ。
道半ばでも、後に続いて行ってくれる者に、本当に残したかったものを。
あの時潰えていれば、繋がることのなかったはずの希望を。
嗚呼――ならきっと、己は、やり遂げたはずだ。
後は……克己が諦めてしまっていた過去(もの)まで連れて、きっと彼女が、彼女達が、その系譜が……明日に向かって足掻き続けてくれる、はずだから。
確信となった期待に満たされて、大道克己は既に失せていたはずの瞼をそっと、閉じた。
――そして、燃えて消えゆく星のように。
やがて零れ落ち、かつての夜空(記憶)を失くすのだとしても。
いつか大地(永遠)を造る一掴みの灰となり、もう一度、青空(未来)へと芽吹く何かを生むために。
祈りに殉じ燃え尽きた、かつて大道克己だった塵は、明日へ――風都へと駆ける、風に乗って。
涙に濡れた美樹さやかの頬を、通り過ぎた。
【大道克己@仮面ライダーW 死亡】
966
:
永遠のM/サヨナラの向こう側まで
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:27:21 ID:XLjNw8AI
小野寺ユウスケの目の前で、大道克己は風に還った。
人ならざる者と化してしまった己に絶望することなく、その力を悪用することもなく。誰かの自由で平和な明日を護るために戦い続け、見ず知らずの上一方的に攻撃してきたユウスケすら助けるために果てた男。
翔太郎やフィリップから聞かされていた情報や、ダミーメモリで彼らの記憶から再現された複製とは、まるでその様子が異なる理由などユウスケにはわからない。
それでも、一つだけ確かなことは。彼は、ユウスケが目にした限りの大道克己は、悪魔なんかじゃなく――紛れもなく、一人の仮面ライダーであったということだ。
その喪失を惜しみ、彼の死を招いた己を責め立てようとする衝動を、ユウスケは意志の力で捩じ伏せる。今は、感傷に浸っている時ではない。
何故なら――同じ仮面ライダーとして、託されたのだから。
「ふははははは! これは好い、跡形もなく消え失せるとは、薄気味悪いゾンビにはお似合いの結末なのだ!」
――この邪悪から、皆が笑顔で過ごせる明日を、護り抜くという使命を。
気高き最期を、理解する能力もないまま嘲弄するアポロガイストに対峙して、ユウスケは消耗を無視して立ち上がる。
全身から発した炎でスパイダーショックを破壊し、その拘束から脱したアポロガイストを同じく怒りに燃えた眼差しで睨む美樹さやかは、しかしまだ立ち直れてはいない様子だった。
それで良い、とユウスケは思う。こんな奴のために、彼女がこれ以上暴力に訴える必要なんかない。
罪を背負うのは……こんな奴に好いように操られ、大道克己の死を招いて――笑顔を消してしまった、自分だけで良い。
「……変身」
決意を乗せて、ユウスケは静かに言葉を紡いでいた。
これ以上、誰の身も心も傷つかずに済むように――一刻も早く、あの疑う余地のない悪の怪人を、倒すための力を求めて。
だが、奴は手強い。消耗した今、いつもの姿では届かない。
なら、ありったけを――――っ!
そんなユウスケの意志に応えた霊石アマダムが放出したのは、黄金の波動だった。
金色の霞に包まれたユウスケの肉体は、戦士クウガのものへと変容する。
一瞬の後に顕となった四本角の禍々しい姿は、あの忌まわしき石の影響によって覚醒した最強の形態。
しかして、石の所有者ではなく自らの心でそれを制御するクウガの眼は、黒ではなく――常と同じ、暖かな赤。
例え自分一人が闇に落ちることになるとしても、誰かを笑顔にしたい――友の信じてくれた覚悟によって、己の意志で仮面ライダークウガライジングアルティメットへの変身を遂げたユウスケは、その両足が許す限りの力で地を蹴って、己の意志でアポロガイストへと飛びかかった。
――そして、違和感に気づく。
「調子に乗るなっ!」
先程までに比べて、明らかに遅い、遅過ぎる――そのことに気づいた直後、クウガはアポロガイストが迎撃に疾らせた刃に胴を薙ぎ払われ、撃墜されてしまっていた。
「ぐぁ――っ!?」
無様に投げ出され、倒れ込んだ上体を起こそうとするが、意志と行動の間に明白なラグを感じる。不快感に手間取っている間に、視界一杯に映り込んだのはアポロガイストの爪先だ。
「大馬鹿者めが。我ら大ショッカーの切札の一つであるライジングアルティメットが敵に回るかもしれん状況で、何故この私が戦略的撤退を選ばなかったのかわからんか!?」
顔面を激しく蹴り上げられ、ひっくり返っていたクウガに浴びせられたのは、愉悦の滲んだアポロガイストの嘲笑だった。
967
:
永遠のM/サヨナラの向こう側まで
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:28:04 ID:XLjNw8AI
「貴様が支配に抵抗しあの小娘を殺さずに済んだのは、元々そのような地の石の仕様に因るものだ。意識は残したまま我らの傀儡とすることで、貴様ら仮面ライダーの心を苦しめるためのなぁ!」
身を起こし、拳を振り被ったところにアポロガイストは更に一閃。強固な装甲のおかげで致命傷には程遠いが、力の入らない肉体はそれだけで何歩もの後退を余儀なくされる。
おかしい。アポロガイストは確かに強敵で、ユウスケも謎の疲労感に襲われてはいるが、無視できないほどではない。なのに、あの仮面ライダーエターナルさえ圧倒したこの姿で……何故、未だ触れることすらできていないというのか?
「だが、我らがそのためだけにただ戦力を損ねかねない真似をしたと思っていたのか? 馬鹿め。その仕様の本当の目的は、こういった事態への対策なのだ!」
そんなクウガの疑問に答えるように、アポロガイストは悪趣味な嫌がらせ以外の真相を口にする。
「何……うぁっ!?」
アポロガイストが放った銃弾が直撃し、困惑していたクウガは踏み堪えられず仰向けに転がった。
「キングストーンである地の石で常にフルパワーを強制されながら、それを押さえ込もうと支配に抗い続けるということが、どれほど己の負担になっていたのかもわからんか。そして、クウガの力の源であるアマダムが、二つの矛盾した命令や貴様からの要求の変わり様を受けてどれだけ混乱し……その結果が、どうなるのか!」
苦痛に呻くクウガを力任せに踏みつけて、アポロガイストは見下すままに言葉を吐く。
「今の貴様は肉体こそライジングアルティメットにできても、その力はグローイングに毛が生えた程度しか発揮できん状態にあるのだ!」
どんな姿でもな、と付け足しながら、アポロガイストは嗜虐的な欲望を隠そうともせずにクウガへの踏みつけを連打する。
タイタンフォームを遥かに凌ぐ強靭さを得たこの肉体なら、大したダメージにはなり得ない攻撃力だ。だが満足な抵抗も許されずに積み重なれば、高い治癒力を以てしてもいずれ致命となることは明白だ――少なくとも、変身を維持するためのメダル消費は、確実に追いつかなくなってしまう。
「クウガが奪還された際の対策として、そうなるように我ら大ショッカーの優秀な科学者達は調整しておいたのだ。アンクのメダルを奪い、魔人を弱らせ……そしてエターナルも倒した今、弱り果てた貴様を仕留めるなど容易いこと。回復の暇は与えん、このまま処刑してやるのだ!」
(待て……今こいつ、回復の暇は、って……!)
執拗なストッピングに晒されながらも、クウガは逆転の糸口を求めていた。故に、アポロガイストの漏らした情報を聞き逃さなかった。
奴の言う通り、この姿でもマイティフォームほどの力を発揮できなくなっていることは明白だ。だがそれも一時的な症状で、回復さえ間に合えば……!
一縷の希望を見出したクウガは、自らの胸の上に乗っていたアポロガイストの足首を掴む。
メダル消費に間に合うのかはわからない。だが、混乱に打ちのめされ、何の勝算もなかった頃よりは、遥かに意志の力も蘇って来ている。
諦めない、彼のように。自分も、仮面ライダーなのだから……!
「ええい、放さんかっ!」
しかし、やはり肉体はその意志に付いて来れない。
顔面に銃撃を受ける。視界が揺れた隙に捕らえていた足はあっさりこちらの拘束を抜け出して、右腕ごと再び踏み付けられる。
そしてアポロガイストが足裏から放出した火炎は、クウガの全身を呑み込んだ。
「ぐぁあああぁあああああああああああっ!?」
全身を超高温の炎に嬲られながら、更に力強く蹴りつけられる。
まるで見えたばかりの希望を、蹂躙するかのように。
負けるわけにはいかない。自分だって仮面ライダーの名を背負っているのだから。
これ以上、誰かの笑顔が失われるのを見たくないから。
戦うべき理由がある限り――仲間が呪縛の中から救い出してくれたクウガの心はもう、何者にも屈することはない。
だが、肉体がそれに付いて来る前に――変身を維持するために残されたメダルもまた、その猶予をじりじりと、目減りさせ始めていた。
968
:
永遠のM/サヨナラの向こう側まで
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:28:56 ID:XLjNw8AI
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
「あっ……あ、わあぁぁぁああああああああああああっ!」
喪失に座り込んでいたさやかは、予想外の苦戦の末に追い詰められたクウガを見、絶叫とともに弾かれたようにして駆け出した。
先程までの圧倒的な力を、クウガはまるで発揮できていない――このままでは、成す術なくアポロガイストに殺されてしまう。
克己が命と引き換えに解放した彼が、明日を奪われてしまう。
そんなのは、絶対に嫌だった。
「む……ふんっ!」
しかしさやかの投剣を、アポロガイストは翼を出現させるだけで遮断する。
それで敵が自ら視界を塞いだ隙に、さやかは自らの体重を切っ先に乗せて飛び掛かったが、翼が開くだけで手にしていた剣までへし折られる――克己のようには、いかなかった。
「いつまでも調子に乗るな、ど素人めが!」
そして一閃。アポロガイストの刃が、さやかの腰目掛けて振り切られる。
「さやかちゃ――うあっ!?」
咄嗟にアポロガイストの足を引き、攻撃を妨害しようとしたクウガだったが、それでも刃が少女に届くのを阻みきれなかった。さらには羽撃きを利用して勢いを増したアポロガイストの踏みつけにより、苦嗚と共に再度大地へと沈められる。
対照的に、切り上げられた衝撃でさやかの痩身は宙を舞っていた。
それでも急所を狙ったアポロガイストの一撃は、少女のソウルジェムを砕くには至っていなかった。
(ごめん……ガタックゼクターッ!)
百戦錬磨の大幹部の一振りを狂わせたのは、クウガによる抵抗だけではない。残るの恩人の正体は、さやかの腰で輝いていた銀の帯だ。
そこに鎮座すべき相棒を失ってからも、その勇姿を忘れまいと身に着け続けていたさやかの気持ちに応えたかのように――今は亡き彼と同様、ベルトもまた、その身を楯に斬撃の進行を微かに遅らせ、さやかの命を守護していた。
しかし正面から断たれたベルトはさやかの腰から外れ、重力に引かれて地べたに叩きつけられる。
見事に両断され、二度と身につけることの叶わぬだろう形見を回収する余裕は、今のさやかにはなかった。
「ハイパーマグナムショット!」
炎を纏った銃弾が、さやかの頬を裂き、髪を一摘み散らして行く。
追撃の弾幕から、さやかは逃れるのに必死だった。
いくら再生できるとしても、あのマグナム銃の威力に頭や足を吹き飛ばされてしまえば、露出したソウルジェムは今度こそ砕かれてしまう。
(死んで、たまるか……っ!)
ここで自分が死ねば。誰がユウスケを助ける。誰が既に戦う力を失くしたアンクを、瀕死のネウロを護れる。
誰が、克己の最期を――覚えて、いられるのか。
そんなさやかの意地も虚しく、アポロガイストの射撃は徐々に精度を増して来て――そして大きく外れた家屋を吹き飛ばした。
「――貴っ様、アンクゥウウウウウウウっ!」
アポロガイストの憤怒の先には、再びシュラウドマグナムを構えたアンクの姿があった。
地の石はともかく、あれで今のアポロガイストは倒せない――それでも手元を狂わせる程度の力はあった。
横槍に激怒したアポロガイストは、踵を返して物陰に隠れようとするアンクへと応射を開始した。生半可な物陰では意味のないことを知っているアンクが逃げ惑うのを、戦車すら破砕する銃弾がひたすらに追っていく。
「やめろ……っ!」
今度は足を押し除けたクウガが手を伸ばした。アポロガイストの銃を払い飛ばすと、巨体を壁にするようにして立ち塞がる。
しかしただでさえ劣化していた力は、度重なる暴行によって更に損なわれていた。アポロガイストの猛攻に抗えず、クウガは瞬く間に膝を着く。
「どいつもこいつも邪魔ばかりしおって……まぁ良い。どうせ奴らではこのハイパーアポロガイストは脅かせん。当初の予定通り、まずは貴様から処刑してやるのだ!」
改めて標的をクウガに絞ったアポロガイストの宣告に、さやかは再び飛び出しそうになる己を必死に抑えた。
奴の言う通りだ。ガタックを失ったさやかやアンクが今可能とする攻撃では、精々手元を狂わせるだけ。弱り果てた今のクウガと比べてなお劣るような力では、アポロガイストを倒すことなどできはしない。
969
:
永遠のM/サヨナラの向こう側まで
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:29:34 ID:XLjNw8AI
だが――切札はまだ、ある。
ガタックゼクターの形見が思い出させてくれた、そして克己が何度も見せてくれた、正義の力が。
「……お願い、力を貸して!」
銃撃の止んだその隙に、さやかは飛び出す前の位置――克己が果てたその場所にまで、駆け戻って来ていた。
手にしたのは克己が腰に巻いていたロストドライバーと……自らに支給されていた、翡翠のパッケージ――T2ユニコーンメモリだった。
《――UNICORN!!――》
「なっ、貴様……!」
「変身!」
ガイアウィスパーの囁きに、クウガから目を離したアポロガイストが驚愕の声を晒す前で――さやかはメモリを、身に着けたロストドライバーへと挿入する。
《――UNICORN!!――UNICORN……UNICOR……UNI……》
「――どうして!?」
変身は、できなかった。
もう一度挿し直しても、直に肌に押し付けても。ユニコーンは無意味な電子音を漏らすだけで、さやかに力を貸し与えてなどくれない。魔法少女への変身を解き、生身で試しても同様だ。
「ふふ……はーっははは! 焦らせおって! 所詮貴様のようなゾンビの小娘が、仮面ライダーの力に相応しいわけがないのだ!」
そんなさやかの戸惑いと徒労を、アポロガイストは無様と嘲笑った。
――無論、ユニコーンメモリがさやかを変身させなかったのは、彼女を拒否していたからではない。
ユニコーンは、エターナルと一対一でツインマキシマムを発動するために、メモリの王者の出力に釣り合いを取ろうとした。
結果マキシマムドライブにメモリが特化し過ぎた弊害として、一時的に変身能力に不調を来たしてしまったというのが真相だ。
だが、そんな事実を知る者は、この場にはおらず。
「……仮面ライダーの力にも見放された惨めな小娘よ、そこで己が無力を噛み締めているが良いのだ!」
故にアポロガイストの嘲弄も、その後に暴力に晒される者を救えぬ己の無力さも、徹底的にさやかを打ちのめしていた。
「――お願い……!」
それでも。
どんなに打ちのめされても、今のさやかは、ただで絶望に屈しはしなかった。
「お願いだから、あたしに力を貸して……! このままじゃ、あの人が殺されちゃう!」
どんなに惨めだろうと、無様だろうと。さやかは仮面ライダーの力を与えてくれる記憶の結晶に、正義のための力を懇願していた。
足掻くことができる限りは、できる限りのことを尽くそうと決めていたからだ。
「そんなの、許せない……ずっと覚えていて欲しいっていう克己の望みを、あたしはこんなところで終わらせたくない!」
それは、彼の思い出させてくれた祈りと――彼と交わした忘れえぬ約束が、今も力強くこの胸に響いていたからだ。
970
:
永遠のM/サヨナラの向こう側まで
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:30:10 ID:XLjNw8AI
しかし、どんなにさやかがそれを求めても、ユニコーンが応えようと望むも。願うだけでは、物理的な不調まではどうしようもない。
魔法少女なのに、奇跡も魔法も呼び起こせないのか――そんな無力感が、気づけばまたも雫となって頬を伝う。
「あたしはあいつの、あいつの想いを、永遠に……っ!」
どんなに願えども、それは叶わないのかと――――涙に声を詰まらせた、その、瞬間。
―――――――夜を染め上げるようにして輝く、蒼白い光が生まれた。
「何ィッ!?」
あまりの眩さに、再びアポロガイストがクウガから目を逸らした時には――その発光体は、自らさやかの掌に収まっていた。
その中心に刻まれた、無限回廊を思わせる意匠の凝らされたアルファベットを目にしたさやかは――悲しみや恐怖とは異なる感情に、もう一度だけ涙を流す。
「……ありがとう」
――認めて貰えたのだ、自分は。
克己やガタックゼクターだけでなく……共に戦っていた、この子にも。
さやかの願いは――人々の記憶に残され、永遠に受け継がれて行くべきものなのだと。
なら、そのためにこそ戦おうと。
昨日の弱さを抱えたまま、信じた明日を掴めるように。
未熟を言い訳に誰かに守られてばかりだった自分から、この瞬間今度こそ変わってみせようと――さやかはその覚悟を表明するための言葉を、全霊を以て宣誓した。
「――変身ッ!!!」
《――ETERNAL!!――》
ドライバーを介してメモリと一体化したその瞬間、力強く高らかに歌い上げられたのは、彼が願った夢。
叶うはずのない理想を、それでも胸に足掻き続けて――少しでも昨日よりも素敵な今日を、そして未だ見ぬ明日を作って欲しいという望み。
忘却の炎に焼かれ、記憶の内から忘れ去られても、なお灰から再生して人々の魂に受け継がれて行く尊き祈りを、途絶えさせることなく守るための力が――さやかの中に、満ち溢れて行く。
逞しく伸びた白い四肢を彩る紅の炎が、蒼へとその色を変え――白い装甲が剥き出しだった手足や胸に、仲間と力を合わせるための帯が巻きついて。
新たな希望の誕生を祝福するかのように吹く風が、肩から出現した黒いローブを翻す。
「克己は死んでない、死なせるもんか! あたしがあいつを永遠にするって……そう、約束したんだから!!」
叫び終えると同時、さやかの顔を白い兜が覆い尽くし――――――ここに、仮面ライダーエターナルブルーフレアが再誕した。
971
:
永遠のM/サヨナラの向こう側まで
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:30:58 ID:XLjNw8AI
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
君が抱きしめているのは
あの日の約束、一つ。
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
「馬鹿な、小娘如きが仮面ライダーに……っ!?」
弱り果てたクウガへの暴行を止め、喫驚するアポロガイスト。
しかし己の半身となった存在が覚えたのと、アンクが打たれた驚愕はまったく別のものだった。
――おまえのおかげで、俺はただ死体が動かなくなるんじゃなくて……人として死ねる。それで、満足だ
(……死んだ?)
ただ、動かなくなったのではなく。
ただ、消え去ったのではなく。
元より命を無くしていた死人が、単なる化学反応の結果でもう一度動けるようになっただけで。
次々と人間性を欠落し、そこにある花の美しさにも、暖かな日差しにも、熟れた果実の味にも……何も感じない、そこにあるだけの単なるモノに、自分達グリードに近づいていたあの大道克己が、死んだ、というのか。
――死んだことに、満足したと言ったのか。
戦える力が残っていないからと、地の石を破壊した後再び距離を取っていたアンクはしかし、思わず身を乗り出してしまっていた。
永遠を求めていた克己が最期に残した言葉は、アンクにとってそれほどの衝撃だった。
「……それがあいつのおかげ、だと?」
克己が消えたのではなく死んだのは、あのどこか苛立たしくも扱い易い、馬鹿な娘によるものだというのか。
魔法少女とは言え、何か特別な奇跡を持っているわけでもない美樹さやかが――大道克己に、命を与えたというのか。
気がつけば、危険だというのにもう一度だけ手を貸してしまっていた――さやかの力で状況を打開できるはずなど、ないとわかっているのに。もう少し、彼女のことを見ていたくて。
だがアンクが再び身を潜める間に、無視できない言葉が、もう一つ……さやかの口から、吐き出されていた。
「克己は死んでない、死なせるもんか! あたしがあいつを永遠にするって……そう、約束したんだから!!」
そんな絶叫が、再びアンクを射抜き、身を乗り出させていた。
彼は完全に消滅した。ただ消えただけなのか、死んだと言って良いのかはともかくとして、その存在が終わりを迎えたことは疑う余地もない。
なのにさやかは、克己は死んでいないなどというのだ。
それを、単なる逃避だと謗るのは簡単だ。無意味な気休めでしかないなどと、これまでのアンクなら人間の愚かさを笑うところだっただろう。
しかし……グリードに近しい存在となっていた、克己の生命の有無と満足に関わるというのなら、話は別だ。
ましてそれが、単なる命ではなく――『永遠の命』だと言うのなら。
972
:
永遠のM/サヨナラの向こう側まで
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:31:45 ID:XLjNw8AI
死ねることに――命あることに満たされたと、あの克己が漏らす一方で。それが約束なのだと、さやかが永遠を謳うそれは。
それこそが――――アンクの果てなき欲望を満たす、一つの光明なのではないのかと。
思わず、もう一歩。アンクはエターナルに変身したさやかへと近寄る。
命を求める欲望の化身は、そこに命への、新たな可能性を見出していた。
そして、今一人の人外――“謎”を喰らう魔人は、そこに進化と、一つの解を見出した。
「……我が輩は、何と愚かな思い違いをしていたのか」
彼女は、桂木弥子ではなかった。
美樹さやかを護り進化に導くのは、脳噛ネウロではなかった。
弥子の死の負い目を本当に感じているのは、さやかではなかった。
人間を魔人が救ったのではなく、魔人を救ったのが人間だった。
人間とは、既に――魔人に食料源として護られるだけの存在では、なくなっていた。
「素晴らしいぞ、人間よ」
そして、さやかが克己を受け継いだように。
人間だとか、魔人だとか。何の役に立つとか立たないとか、それが得だの損だのと言った理屈などなく。託す託さないですらなく。
相棒の命を受け継いだのは、結局のところ……相棒でしか、なかった。
「よくぞこの、愚かな魔人の目を覚まさせた……!」
本気だの全力だの言ったところで……結局ネウロは、恐れて虚勢を張っていただけだ。何より恐怖していたのだ――再び敗北し、失うことを。
生まれて初めての敗北は、自分でも気づかないような、しかし確かな折れ目を脳に残していた。
だが、人間は。敗北すらも、喪失すらも超えるほどに強かった。一つの命に与えられた時は短くともそれを無為にせず、更には先人を礎に悠久を歩み、足掻き、前に進み続けていた。誰に何を言われるまでもなく、進化し続けていた。種族と性別しか似ていないような相手に、みっともなく喪った影を重ね縋っていた魔人に心配される筋合いなど、どこにもなかった。
……そもそもこの胸に空いた穴は、そんな簡単に替えが効くような、安い物ではなかったというのに。要らぬことにばかり、気を回し過ぎた。
ならば、どれもこれもを保護(まも)らねばなどという、余計な気遣いはここまでだ。
これより魔人探偵脳噛ネウロの――自分自身が欲する望みのためだけに、我が身に許される全ての力を費やそう――!!
「魔帝7つ兵器(どうぐ)………………!!」
笑えるほど時間を要する切札の召喚を始めながら、ネウロは瓦礫の中から這い出した。
タイムリミット、などと……もっともらしい言い訳で、自分自身すらも騙したその脳髄の欲望を、満たすために。
――一度折れた脳こそが、強くなるチャンスを秘めているのだから。
973
:
永遠のM/サヨナラの向こう側まで
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:32:28 ID:XLjNw8AI
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
運命を受け継ぎ、エターナルへの変身を果たした直後。一瞬だけ目を閉じ、記憶を確かめたさやかの脳裏を過ぎったのは――微かな寂寥を滲ませた彼と交わした、約束だった。
――せめておまえは忘れるな。何もかも
「忘れないよ。絶っ対に忘れない……誰のことも、絶対にっ!」
見開いた目で、仮面越しに討つべき邪悪を見据えて――鮮明に思い出したその言葉に、さやかは本心からの返答を吐き出した。
失敗して迷惑をかけて、嫌われるのが怖くて、言い訳ばかりしていた駄目なさやかでも、克己は必要としてくれた――ただ、さやかという少女の魂に、覚えていて欲しいからと。
まどかや仁美だって、別にさやかがマミのように完璧だから一緒に居てくれたんじゃなくて――ただ、他の誰でもない美樹さやかという一人の少女を好いて、ただの級友ではなく親友になってくれたはずなのだ。
魔法少女や、ムードメーカーや、正義の味方や――そんな、言い訳(メッキ)ではない、本当のさやか自身を、見て。
だから…………そんなものに振り回されるのは、もうやめよう。
彼が届けたかった音楽は、祈りは――そんな、過ちを隠した上っ面だけじゃなくて。
輝きも穢れも等しく抱えたさやかの心にこそ、響いて欲しかったもののはずだから。
自分を良く見せようという、言い訳のためではなく。ただ、この震えている胸が、さやかが経験した何もかも――さやかを構成する全ての中から迷い傷つき、それでも他ならぬさやか自身が愛して選び取った、祈りのために。
見て聞いて感じた昨日を、明日へ繋いで見せるために。さやかは今日を、足掻き抜くのだ。
克己達のように。誰かのためでも、誰かのせいでもなく――自分自身の、そうなって欲しいという望みのために。
「――忘れさせて、たまるかぁああああああああああっ!!」
抱きしめた約束を守りたいという願いのまま、この声の限りに叫びを上げて。
克己に。まどかに。仁美に。
そしていつか繋げる、まだ知らぬ誰かに――サヨナラの向こう側まで、心の中で響いているこの曲が、届くように。
エターナル=さやかは、未来を描くために。仮面の下に隠された涙も乾かぬまま、目の前の道を走り出した。
【二日目 深夜】
【F-3(北東端) 市街地】
974
:
永遠のM/サヨナラの向こう側まで
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:32:58 ID:XLjNw8AI
【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】青
【状態】健康、決意、杏子への複雑な感情、X及びアポロガイストへの強い怒り、仮面ライダーエターナルブルーフレアに変身中
【首輪】25枚:0枚
【コア】シャチ(放送まで使用不可)、ワニ(放送まで使用不可)
【装備】ソウルジェム(さやか)@魔法少女まどか☆マギカ、NEVERのレザージャケット@仮面ライダーW、T2エターナルメモリ+ロストドライバー+T2ユニコーンメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品、克己のハーモニカ@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:克己の祈りを引き継ぎ、正義の魔法少女として悪を倒す。
1.皆を守るために、アポロガイストを倒す。
2.事態が落ち着いたら、小野寺ユウスケと情報交換したい。
3. アンク達と一緒に悪を倒し、殺し合いを止める。
4.克己やガタックゼクターが教えてくれた正義を忘れない。
5.T2ガイアメモリは不用意に人の手に渡してはならない。
6.財団Xの男(加頭)とはいつか決着をつける
7.マミさんと共に戦いたい。
8.少なくとも、暁美ほむらとは戦わなければならない。佐倉杏子は……?
【備考】
※参戦時期はキュゥべえから魔法少女のからくりを聞いた直後です。
※ソウルジェムがこの場で濁るのか、また濁っている際はどの程度濁っているのかは不明です。
※回復にはソウルジェムの穢れの代わりにメダルを消費します。
※NEVER、グリード、ネウロ関係に関する知識を得ました。
※アンク、ネウロが魔女について知っている事は知りません。
※佐倉杏子の、アンクから伝え聞いたこの場での活躍と、自身の見た佐倉杏子の差異に困惑しています。
※エターナルの制限については、第81話の「Kの戦い/閉ざされる理想郷」に続く四連作を参照。
※T2ユニコーンメモリはツインマキシマムの影響で一時的に変身機能を失っています。具体的にいつまで不調が続くのかは後続の書き手さんにお任せします。
【アンク@仮面ライダーOOO】
【所属】赤・リーダー
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、覚悟、仮面ライダーへの嫌悪感、『王』への恐怖と憎悪、さやかと克己のやり取りへの非常に強い興味
【首輪】50枚:0枚
【コア】タカ(感情A)
【装備】シュラウドマグナム+ボムメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品×5(その中からパン二つなし)、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、大量の缶詰@現実、T2ジョーカーメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1〜2
【思考・状況】
基本:映司と決着をつけ、その後は……
0. アポロガイストに対処する。
1.『王』が背後にいるのなら、素直に優勝を目指すつもりはない、が……
2.もう一人のアンク、及びアポロガイストのメダルを回収する。
3.すぐに命を投げ出す「仮面ライダー」が不愉快。
4. Xへの殺意、次に会った時は容赦しない。
5.ネウロへの警戒。場合によっては肉体の真実を明かし、牽制する。
6. 杏子を復活させられる人材とメダルを準備したい。
7. 事態が落ち着けば小野寺ユウスケと情報交換したい。
8. 克己は、さやかのおかげで死ねた……?
【備考】
※本編第45話、他のグリード達にメダルを与えた直後からの参戦
※翔太郎とアストレアを殺害したのを映司と勘違いしています。
※コアメダルは全て「泉信吾の肉体」に取り込んでいます。
※参加者毎に参戦時期の差異が生じることに気づきました。
※アポロガイストのグリード化、及び所持メダル数の逆転により、グリードとしての力が弱まっています。
※ネウロにコアメダルを破壊することができる能力があると推察、警戒しています。
※『王』と真木の結託に何かしら裏があり、それが主催陣営の弱点になるかもしれないと予想しています。
975
:
永遠のM/サヨナラの向こう側まで
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:33:32 ID:XLjNw8AI
【脳噛ネウロ@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、高揚、「二次元の刃」召喚中、右肩に貫通創、ボロボロの服
【首輪】25枚(消費中):0枚
【コア】コンドル:1(放送まで使用不可)
【装備】魔界777ツ能力@魔人探偵脳噛ネウロ、魔帝7ツ兵器@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品一式×2、弥子のデイパック(桂木弥子の携帯電話+あかねちゃん@魔人探偵脳噛ネウロ、ソウルジェム(杏子)※黒ずみ進行度(中)@魔法少女まどか☆マギカ、 衛宮切嗣の試薬@Fate/Zero)赤い箱(佐倉杏子)
【思考・状況】
基本:己の欲望を満たす
0. 「二次元の刃」でアポロガイストを倒す。
1.さやかの進化に感心。
2.怪盗Xに今度会った時はお望み通り“お仕置き”をしてやる。
3.アンクをメダル補充の為殺す準備も必要……か?
4. 佐倉杏子を復活させられる人材とメダルを準備したい。
5. ラウラ・ボーデヴィッヒを探し出し、ウヴァに操られていないかを確認する。ウヴァが生きている場合は丁重にもてなした後コアを砕く。
6. ラウラやウヴァについて、可能ならインキュベーターから情報を搾り取る。
【備考】
※DR戦後からの参戦。制限に関しては第84話の「絞【ちっそく】」を参照。二日目0時時点での維持コストはセルメダル1枚です。
※魔界777ツ能力、魔帝7ツ兵器は他人に支給されたもの以外は使用できます。しかし、魔界777ツ能力は一つにつき一度しか使用できません。
現在「妖謡・魔」「激痛の翼」「透け透けの鎧」「醜い姿見」「禁断の退屈」「花と悪夢」「無気力な幻灯機」「惰性の超特急5」「射手の弛緩」「卑焼け線照射器」を使用しました。
※ノブナガ、キュゥべえ、アンク、克己、さやかと情報交換をしました。魔法少女の真実を知っています。
※杏子のソウルジェムについては第131話の「悩【にんげん】」を参照。
※体の維持が少しずつ困難になってきています。メダルの枚数の為なのか、最早メダル関係無しに限界なのか、弥子の命の炎ではネウロの体にパワー不足が生じているのかは不明です。
※コンドルメダルはアンクだけでなくここにいる全員に秘匿中です。
※参加者毎に参戦時期の差異が生じることに気づきました。アンクから聞いた情報によっては、ノブナガと映司にはそれ以上のものが発生していると気付いているかもしれません。
※「二次元の刃」でコアメダルを破壊することができると予想しています。
※『王』と真木の結託に何かしら裏があり、それが主催陣営の弱点になるかもしれないと予想しています。
※さやかの成長を目撃したことで、セルメダルが増加しました。
【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、精神疲労(大)、克己を殺めてしまった罪悪感、仮面ライダークウガライジングアルティメットに変身中、地の石への抵抗による消耗、アマダムの不調
【首輪】20枚:0枚
【コア】クワガタ(次回放送まで使用不能)、カンガルー(次回放送まで使用不能)
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
基本:みんなの笑顔を守るために、真木を倒す。
0. 大道さんを殺してしまった……
1. アポロガイストを倒す。
2. 事態が解決したら、さやか達と情報交換後、B-4に戻って千冬、切嗣達と合流する。
3.井坂、士、織斑一夏の偽物を警戒。
4.士とは戦いたくないが、最悪の場合は戦って止めるしかない。
5.千冬さんは、どこか姐さんと似ている……?
6. 大道克己の変わり様が気になる。
【備考】
※九つの世界を巡った後からの参戦です。
※ライジングフォームに覚醒しました。変身可能時間は約30秒です。
しかし千冬から聞かされたのみで、ユウスケ自身には覚醒した自覚がありません。
※ライジングアルティメットクウガへの変身が可能になりましたが、地の石の支配に抗っていた反動からの消耗及びアマダムの不調により、暫くの間は本来の力を発揮できません。
反動が続く具体的な時間は後続の書き手さんにお任せします。
976
:
永遠のM/サヨナラの向こう側まで
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:34:04 ID:XLjNw8AI
【ハイパーアポロガイスト@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)
【首輪】50枚:0枚
【コア】クジャク(感情:アポロガイスト)、タカ(十枚目)、クジャク:1、コンドル:2、パンダ(次回放送まで使用不可)
【装備】龍騎のカードデッキ@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品
【思考・状況】
基本:生き残る。
0. 小娘の変身したエターナルに対処する。
1.リーダーとして優勝する為にも、アンクを撃破して陣営を奪う。
2. アンクの仲間もこの場で全員殺す。特にクウガは力を回復する前に殺す。
3.ディケイドはいずれ必ず、この手で倒してやるのだ。
4.真木のバックには大ショッカーがいるのではないか?
【備考】
※参戦時期は少なくともスーパーアポロガイストになるよりも前です。
※アポロガイストの各武装は変身すれば現れます。
※加頭から仮面ライダーWの世界の情報を得ました。
※この殺し合いには大ショッカーが関わっているのではと考えています。
※パーフェクターは破壊されました。
※ドラグブラッカーが死亡したため、龍騎のカードデッキからドラグブラッカーに関わるカードが消滅しました。
※クジャクメダルと肉体が融合しました。
グリード態への変化が可能な程融合が進んでいますが、五感の衰退にはまだ気付かず、夜目が悪くなった程度にしか思っていません。そのため自分が受けたダメージが体感以上であることにまだ気づいてはいません。
※大道克己=仮面ライダーエターナルを、仮面ライダークウガを用いて死に追いやったことでセルメダルが増加しました。
【全体備考】
※地の石@仮面ライダーディケイド、スパイダーショック@仮面ライダーWが破壊されました。
※E-4南東端にキュゥべえ@魔法少女まどか☆マギカ(ネウロの支給品だった個体)が存在しています。
※F-3北西端の市街地に克己のデイパック{基本支給品、NEVERのレザージャケット×?-3@仮面ライダーW、カンドロイド数種@仮面ライダーOOO}、ライダーベルト(ガタック)の残骸が放置されています。
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
……僕の心に 住み着いていた 弱さが今も歌っている
忘れぬmelody 未だ見ぬ景色 明日を越えてあの場所で……
977
:
◆z9JH9su20Q
:2015/03/17(火) 23:51:17 ID:XLjNw8AI
以上で仮投下分終了となります。
>>944
以降タイトルをつけておりますが、名前欄に入りきらなかっただけでそれぞれ冒頭に『sing my song for you〜』が付く形となります。
仮投下を通した理由としては主に二点、クウガ及びエターナルの作中の描写となります。
まずクウガについてですが、原作における『複数のライダーを圧倒したかと思うと、生身の人間一人満足に倒せず、一主役ライダーであるWに瞬殺されるDCD版シャドームーンに圧倒される』という展開の理由付けを本SS独自で行っているため、仮投下を行う必要があると判断しました。
つまり、『設定通り複数の仮面ライダーを圧倒し得る、アルティメットフォーム以上の戦力』ですが『生身の人間を攻撃する際には操られているユウスケが抵抗し力を発揮できない』上で、『大ショッカーが裏切り対策に洗脳解除直後はほとんど力を引き出せないよう調整している』という拙作中での扱いです。
矛盾はないかと思いますが、原作で一切言及されていない点についての独自解釈のため、判断を仰ぐ必要があると判断しました。
次はエターナルについてですが、こちらも『エターナルメモリと他のT2一本でのツインマキシマムでは、T2側に負荷がかかり機能に障害が生じる』という独自設定を拙作中に盛り込んでいます。
これは一切ドーパント態、及び仮面ライダーとしての設定がないユニコーンメモリを原作通りマキシマムドライブ発生用のメモリとしてしまうために盛り込んだ設定となりますが、こちらについても通しで良いか判断を仰ぐべきだと考えました。
上記以外にも何かしらご意見・矛盾点等ありましたらご指摘の方よろしくお願い致します。
978
:
◆z9JH9su20Q
:2015/03/18(水) 20:41:53 ID:MmHdKN6w
すいません、二点ほど
>>950
は私の不注意による
>>949
の多重投稿になります、無意味な消費をしてしまって申し訳ありません。
次に
>>944
-
>>953
の小タイトル、「【Y】/こころにすみついていたもの」ではなく「Y【こころにすみついていたもの】」に修正します。
それと別件ですが、◆m4swjRCmWY氏の「湖が赴いた丘」において、鈴羽も緑陣営に復帰しているはずなので修正をお願いできれば、と思います。
979
:
◆m4swjRCmWY
:2015/03/18(水) 20:52:36 ID:UTL4Oook
了解です、後ほどwikiにて修正しておきます
そして「Y【こころにすみついていたもの】」ですが、特に問題はないと思われます
過去話との矛盾もないですし、大丈夫かと
980
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/03/19(木) 07:16:20 ID:OyFZ8Rv.
仮投下乙です。
凄まじい力作ですね……、自分も問題はないかと。
あと、全く関係の無い私的な質問なのですが、今回のように分割をする場合、
どの程度の量でどの程度の分割が必要になる、などの目安はあるのでしょうか?
今聞くべきではないかもしれませんが、前々から気になっていることなので、もしよろしければお教えください。
981
:
◆z9JH9su20Q
:2015/03/19(木) 23:55:21 ID:lSTp.hQ6
両氏ともご意見ありがとうございます。
ただ、時間を置いてみるとエターナルの件についてはさやかとの間に運命のガイアメモリとしての絆が構築されてしまったという形で、原作の設定のみで同じ展開にできるんじゃないかと考え直したので、これより行う本投下の際にはそういった形に修正しようと思います。
>>980
多数派の目安としては、約30KBが分割の基準となっていますね。
少し前までのアットwikiの仕様として一ページがそこまでの容量しか入れられなかったので、だいたい一ページの文章が長くても30KBということになり、
以後仕様が変更されて上限が増えてもそれ以前のSSとの整合性や、慣習としてその程度で分割されることが多くなっています。
ただある程度は自分で切りたいところで切ってしまっても問題ないとかと思います。
例えば拙作でも分割する際の幅が話の転換点になるようにした場合、容量的には同じ40KBほどのSSでも分割したりしなかったりしていますので、現在は30KB前後に拘る必然性は薄いとも思います。
982
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/03/20(金) 22:12:49 ID:OIVlDAWQ
ご返答ありがとうございます。
なるほど、ある程度なら自分で区切ってしまっていいんですね、勉強になりました。
あと、指摘……になるのか分かりませんが、その修正は待ったをかけさせてもらいたいかと。
今まで、さやかの運命のメモリはユニコーンであるという様な文章は多々見られてきたかと思います。
(ユニコーン初登場時の会話や、ガタックゼクター登場時の推測など)
そういった描写を蔑ろにしてまでエターナルをさやかの運命のメモリとして設定するのは色々もったいないかなぁと。
そういった意味では個人的には修正前の理由の方がいいかなと思ったので本投下の前にご一考頂ければと思います。
983
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/03/20(金) 22:33:08 ID:OIVlDAWQ
……と言っておいて何ですが、もう本投下されてたんですね……すいません。
本投下後の指摘は正直面倒だとは思いますが、こういった意見もあるとご一考頂ければ幸いです。
984
:
◆z9JH9su20Q
:2015/03/21(土) 00:41:44 ID:lmcwjZoY
◆VF/wVzZgH.氏、ご意見ありがとうございます。
氏の仰ることは自分も最初考えていたのですが、やはり原作にある設定だけで説明がつけられるのならそれで済ませるべきだと判断しましたので、申し訳ありませんが本投下での形で通させて貰えたらと思います。
氏のご意見にお応えできる形になるかはわかりませんが、wikiに収録する際にはもう少しユニコーンとの適合率についても言及する文章を追加しようかと思います。よろしくお願いします。
985
:
◆VF/wVzZgH.
:2015/03/21(土) 10:32:50 ID:r5rMpIIc
ご返答ありがとうございます。
氏の意見は把握いたしました。
少しでも私の意見を取り入れていただけたなら幸いです、こちらこそありがとうございました。
986
:
◆z9JH9su20Q
:2015/08/12(水) 22:57:59 ID:1oGmGZtY
拙作『そんなあなたじゃないでしょう』のミスを発見しましたので、こちらに修正の報告を。
>>232
のマミさんの台詞、及びイカロスの状態表における目的地がD-2となっていますが、正確にはD-4でした。
推敲不足のまま投下・収録してしまい、大変ご迷惑をお掛けしました。謹んでお詫び申し上げます。
987
:
◆2kaleidoSM
:2016/01/27(水) 22:10:53 ID:yX9fKWoY
『戦いの果てに待つものはなにか』において指摘を受けた口調の修正です
本スレ
>>319
「私、この場所にきて数時間くらいの頃だったかな。似たような状況に遭遇したわ。
友好そうな顔で近寄ってきて襲いかかられたことが。 と言っても、そいつすごく雰囲気がおかしかったからすぐにヤバイやつだって気付いたんだけど。
でも逃げられなくて、仲間が、そはらが殺されたの」
↓
「私、この場所にきて数時間くらいの頃だったかな。似たような状況に遭遇したの。
友好そうな顔で近寄ってきて襲いかかられたことが。って言っても、そいつすごく雰囲気がおかしかったからすぐにヤバイやつだって気付いたんだけど。
でも逃げられなくて、仲間が、月見そはらが殺されたの」
また、鈴羽のそはらに対する二人称とIS名称についてはwikiにて修正しておきます
988
:
欲望まみれの名無しさん
:2016/01/29(金) 07:50:32 ID:9YrUECwM
>>987
修正お疲れ様です
指摘された部分はもう問題ないかと思います
989
:
こいつのコアは砕かれた
:こいつのコアは砕かれた
こいつのコアは砕かれた
990
:
欲望まみれの名無しさん
:2016/04/22(金) 17:26:22 ID:uCXvOSVo
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:
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994
:
◆z9JH9su20Q
:2016/08/19(金) 22:44:11 ID:79JleSwY
予約分について、一度議論を通すべき要素があると判断したので仮投下を行います。
但し、このスレッドの残りレス数では投下しきれないので、新スレを用意させて頂きます。よろしくお願いします。
995
:
◆z9JH9su20Q
:2016/08/19(金) 22:47:16 ID:79JleSwY
新スレを用意しました。
以後の修正、仮投下分の投下については次のスレッドのご利用をお願いします。
次スレ:ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/15005/1471614354/
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