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仮投下スレ
1
:
名無しさん
:2011/09/19(月) 16:59:55 ID:NJdP5UEU
投下される作品の内容に心配があるとき、規制などが理由で本スレに投下できないときなどにご利用ください。
371
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:45:51 ID:tr3nIqwE
或は、黙る。
諦めるわけにいかないからこそ、答えるわけにいかない。
事情のすべてを知悉してはいないけれど、神崎の指摘は逃げ場がないほどに的を得ていた。
雪輝が『我妻由乃をどうしたいか』について答えを出せるかさえ、こじれきった今ではおよそ困難すぎる試練だった。
しかしそれを乗り越えても、雪輝が『由乃を殺せない』と結論づけてしまえば、脱出後の二人をどうするかという解答不可能な難題が立ちはだかる。
それならば、いっそ我妻を殺して、己の手で雪輝を幸せにしてやればいいのではないかという欲望が持ち上がり。
しかし、由乃の存在なくして一万年間も不幸だった少年にそれを強いるのかと、理性が歯止めをかける。
さらに言ってしまえば、あれだけの人間を殺して壊れきった我妻を救いようなどあるはずもない。
無理難題だと分かっていた。
しかし諦めることも許されなかった。
そして、理解する。
この少女に、普段のペースを乱されている理由。
狙いが読めなかったのではない。
この少女には、最初から『狙い』などなかったのだ。
「まっ。そういう風にアンタがいかに手詰まりかを証明したところでー。
どうせだから、引き取ってほしいものがあるのよねー」
ごそごそとディパックを探り、数枚のメモ用紙をつかみ取る。
「これ、彼女に殺されたヤツがちょーっと首輪について調べてた情報なの。
跡部王国だか透視能力だか知らないけど、信頼できる筋の情報だとは思うわよ。
で、これを――」
二つに折りたたんで、両手の人差し指と親指でピリリと裂け目を入れて。
ビリビリと、一気に破いて引き裂いた。
念入りに細かく破き、パラパラと足元に落とす。
「ほら。欲しけりゃ、地面に這いつくばって拾いなさいよ。
もっとも――首輪を外せたって、アンタの大切な友達は幸せになれないでしょうけど」
彼女に狙いがあるとすれば、それは否定。
否定してどうしようというのではなく、ただ己が愉しむために否定した。
だから、神崎を呼び止められない。
世界一の探偵を志望する少年も、一人の中学生でしかなかったのだから。
ただ、立ち去る背中へと、竜宮レナや真田や月岡たちに尋ねてきた問いかけを放つ。
「君は、何になりたいんだい?」
「なりたいものなんて、ないわよ」
372
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:46:52 ID:tr3nIqwE
【F-4/南東部/一日目・日中】
【秋瀬或@未来日記】
[状態]:健康
[装備]:The rader@未来日記、携帯電話(レーダー機能付き)@現実、セグウェイ@テニスの王子様
[道具]:基本支給品一式、不明支給品(0〜1)、火炎放射器(燃料残り7回分)@現実、
インサイトによる首輪内部の見取り図(修復作業中)@現地調達
基本行動方針:この世界の謎を解く。天野雪輝を幸福にする。でもどうしたらいい?
1:神崎の落としていった見取り図を修復して書き写し、浦飯たちと合流する。
2:我妻由乃を止める。天野雪輝のために、まだ殺さないでおきたいが……?
3:越前リョーマ、切原赤也に会ったら、手塚の最期と遺言を伝える。
[備考]
参戦時期は『本人の認識している限りでは』47話でデウスに謁見し、死人が生き返るかを尋ねた直後です。
『The rader』の予知は、よほどのことがない限り他者に明かすつもりはありません
『The rader』の予知が放送後に当たっていたかどうか、内容が変動するかどうかは、次以降の書き手さんに任せます。
幽助とはまだ断片的にしか情報交換をしていません。
◆
隅っこにうずくまり、隠れていたつもりだったのだが。
それだけでは『そっとしておいてほしい』という意思表示にはならなかったらしい。
「常盤」
神崎がいなくなって、次に声をかけてきたのはさっきの男――浦飯幽助だった。
さっきまでの常盤だったら、警戒心が先行してまず逃げをうっていたかもしれない。
しかし、今は『うっとうしいな』と思っただけだった。
浦飯幽助を許す許さないよりも、今の常盤は自分自身の問題が重すぎた。
中川典子がどうなったのか、知ってしまったのだから。
「その……悪かったよ」
第一声は、謝罪だった。
怒りにまかせて掴みかかられるかと思えば、ひょうし抜けがする。
「そりゃあ、いきなり死んだって生き返らせればいいとか言われたらおかしくなったのかと思うよな。
っつーかよ、オレだって、ぐだぐだ考えるガラじゃねえってのに。煮詰まって変なこと言っちまってた。悪かった」
不器用そうに頭を掻きながらぺこりと頭をさげる。
自身が殺されかけたことなど、すっかり脇において話している。
人の気持ちも知らないで、と苛々する。
373
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:48:32 ID:tr3nIqwE
「その……これはオレの勝手な思い出語りなんだけどよ」
口を閉ざし続ける愛を、許していないと解釈したのか。
そんな前置きをして、幽助は喋り始めた。
「オレが死んだ時は、螢子が泣いてたんだよ。おふくろも生気が抜けたみたいになっちまってて……すっげぇバツが悪かった。
それまで、周りからもっと煙たがられてたはずだったから、あんなに泣かれるとは思わなくてよ。
だから、こんなに悲しませるぐらいなら生き返ってもいいかと思ったんだ。
螢子についても、それと同じように考えちまってた」
あの時の螢子は、俺が生き返るのをずっと待ってた。
浦飯はそう言った。
それがとてつもない想いのなせる行為だと、感じ取るぐらいはできた。
常盤だって死んだら悲しんでくれるような、ミホやケーコといった親友はいるけれど、
幽霊になって化けて出たとしても『絶対に生き返ってくる』と信じてくれるかどうか。
いや、むしろ早く死んでくれと願う連中の方が多いかもしれない。
さっきの、神崎麗美のように。
「だから、逆の立場になって。
俺が生き返ってほしいって言わなかったら、悪い気がして……」
顔を向けることができないから、どんな顔をしているか分からない。
こいつなりに『生き返りさえすればそれでいいのか』と言ったことに答えようとしたのだろう。
だとすれば、この男はきっと本物だ。
少なくとも、少女当人の気持ちを全く思わなかったわけじゃない。
でも、今さらそれを認めるのはしゃくにさわる。
清い気持ちでハッピーエンドを期待していたこいつが、妬ましい。
そんな感情が、ぶっきらぼうに反発の言葉を吐かせた。
「でもあんた、まるで泣いてないみたいじゃない。
いくら想ってるからって、涙も流さないようじゃ説得力なんてないわよ」
もう、優しい大人になんて、絶対になれそうにない。
真っ暗な気持ちで、そんなことを思った。
374
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:50:19 ID:tr3nIqwE
それきり浦飯は黙り込む。
言いたいことがつかめない。
浦飯はすぐに病院に行ったはずだった。何の落ち度もない。
螢子を殺したのは渋谷翔だし、殺し合いに呼んだのは主催の大人たちだ。
雪村螢子が殺し合いに呼ばれたことに、浦飯幽助の責任なんて――
――あれ?
気づく。
とても冷徹で、しかし腑に落ちてしまうことに。
学籍簿で、見たのだ。
浦飯幽助の知り合いは、同じ学校の『雪村螢子』と、仲間だったらしい『桑原和真』。
もう一人、敵対する人物が誰だかいたらしいけれど、つまりその四人が『浦飯幽助を中心とした人間関係』だったとは察しがつく。
桑原とかいう男は知らないけれど、色々な事件に巻き込まれたのは、浦飯が『霊界探偵』だったせいらしいのだから。
愛の知り合いもまた『三年四組のクラスメイト』だった。
だから、『色々な学校の生徒が無作為に選ばれた』ぐらいにしか思わなかった。
しかし、浦飯からすればどうだろう。
探偵で、色々な事件を解決してきた。
そっちの業界ではそこそこ有名で、何とか武術会なるイベントに友人ともども強制参加させられたこともあった。
そんな風に色々とあった人間だから、主催者も彼に目をつけた。
何十万人といる学生の中から、浦飯幽助を選んだ。
殺し合いに招かれたりしたら、そうなのだろうと納得してもおかしくない。
だとすれば。
『浦飯幽助の身近な人物』だったから、雪村螢子は巻き込まれた。
浦飯幽助という存在が、雪村螢子を殺し合いに巻き込み、死なせてしまった。
「自分が許せないから、泣く資格もないってわけ?
……螢子さんは『あんたのせい』なんて思ってないかもしれないわよ」
そういう風に、受け止めてしまったとしたら。
「分かってる。螢子はそんなことで恨んだりしない。今までもずっとそうだった。
でもな、分かってても、どうしようもできねぇんだよ……」
己を許そうとしても、許せない。
危険な目に巻き込んだこともあったのだろう。
しかし、真の意味での『手遅れ』に直面したことはなかったはず。
たとえ、当の大切なひとが許していたとしても。
許さなければ誰にとっても救われないと分かっていても。
「アイツの為に何をしてやれるんだって、そればっかり考える……」
だからこその、殺し合いの打倒。だからこその、死者蘇生なのか。
375
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:51:48 ID:tr3nIqwE
「なんで、そんなこと、聞かれるままに話しちゃうのよ。
アンタ、あたしに殺されかけたこと忘れてんじゃないの……?」
「そりゃあ……」
短時間の会話を交わしただけだが、浦飯が自分の心境を、それも繊細なところをベラベラと喋るタイプじゃないと分かる。
会ったばかり、しかも印象は最悪だろう相手に、どうしてここまで伝えようとするのか。
「引っ叩かれた時に、痛かったからかもな……」
「意味わかんない……マゾなの?」
ぴしゃりという軽い音から、浦飯が己の頬に触れたことが分かる。
「妙に懐かしい気分になって……。
親からげんこつを食らったり、殴られたことはあったけど、俺にビンタを食らわせたのは、アイツだけだったから」
それは違う。
常盤愛は、そんな女性と重ねられるキレイな女じゃない。
少なくとも、螢子さんは脅して殺人を強要させたりしない。
いざ惨事になったと知ってバカみたいに震えることもない。
『まさかそこまで殺すと思わなかった』なんて愚かなことも言わない。
「あたしはそのケーコさんじゃないわよ」
「んなこた分かってるよ。ただ、なんか懐かしかったんだ。そんだけだ」
常盤愛は、浦飯に助けてもらうべき少女じゃない。
――だから、助けは求めない。
すぅ、と息を吸い込み、きっぱりと吐き出した。
「――だったらさ、それってもう答えは出てるじゃない」
「答え?」
「自分を許すも許さないも、ぜんぶアンタの都合なんでしょ?
アンタ自身は、ケーコさんが喜ばないことぐらい分かってるんでしょ。
そんなに人をウダウダ悩ませてまで生き返りたいと思う人かぐらいは、分かるでしょ」
神崎麗美から、色々なことを言われた。
悪意があり、毒があり、正論があった。
男を許せないと思うのも、緊急避難だから悪くないと信じこむのも。
ぜんぶがお前の勝手で、同意するヤツなど一人もいないと言われた。
376
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:54:31 ID:tr3nIqwE
「あたしはそのケーコさんじゃないけど。
でも、あたしだったら怒るわよ。『それってどっちなの?』って。
生きてほしいから生き返らせるの?
それとも、自分が謝りたいから生き返らせるの?」
神崎は、愛がとち狂って蘇生目当てで殺し合いに乗ることを期待したのかもしれない。
ここで『生き返らせたい気持ちが分かる』と同調すれば、浦飯幽助を味方につけられるかもしれない。
どんな手を使っても生還するなら、それが手っ取り早いかもしれない。
「そんな不純な気持ちで『生き返ってほしい』とか思われたって、全然嬉しくなんかないんだから。
螢子さんがアンタの言う通りの女神さまみたいな人なら、そんなの許すはずないじゃない」
「女神って……」
でも、それは無理だ。
たとえ本当に生き返るのだとしても、殺される側は殺す側を恨むだろう。
責任を取るために、取るべき責任を増やすなんてばかげている。
嫌なものは嫌だ。
受け付けないものは本当に受け付けない。
たとえ味方ができるとしても『一緒に死者蘇生目指してがんばろう』なんて言えるはずない。
『たくさんの人を殺してしまったから、私を助けるために蘇生を肯定して』なんて思えない。
「螢子さんはアンタが死んだ時、生き返ってほしいって言ってくれた。
アンタも、生き返ってほしいとは思ってる。
だったら、それでいいじゃないの。思うだけなら自由でしょ?」
少しだけ、視線を浦飯へと向けてみる。
表情は、なかった。
小学生に髪と鉛筆を持たせて、『鏡を見て自分の顔を書いてごらん』と言った時に描かれる真剣な無表情のそれに似ていて。
「そうだな……」
だから、幼く見えた。
男とは、一定の年齢を通過したら欲望というケダモノを宿すのだと信じていた。
それでも、歳をとっても幼さは残るんだと何となく思う。
377
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:55:25 ID:tr3nIqwE
「てめぇが間に合わなかったせいで死なせておいて。
てめぇの都合で生き返らせますなんて、まかり通るわけねぇよな……」
憑き物が落ちたように、力が抜け落ちるのが分かった。
体から、表情から、目つきから。
「決めた。もう、考えねぇ。
うじうじ期待すんのは止める。
もしかしたら、オレ以外にも生き返らせようとする連中はいるかもしれねぇけど。
生き返るかもしれないのと、最初から生き返りを期待するのは違うよな」
声は、きっぱりとしていた。
心はまだ荒れっているのかもしれないけれど。
少なくとも、顔は穏やかそうだった。
善意からの苦言ではなかったはずだけれど、愛までふっと力が抜けてしまう。
だから、これで良かったのだと思うことにして。
「よし、それじゃ一人になるのも危険だし、しばらく秋瀬を待とうぜ。
オレが聞いたヤバい奴らのことも、まだ伝えられてねぇし」
それで、これからどうしよう。
生き残りを優先するなら、また騙し通すしかない。
しかし神崎麗美の言葉で、理論武装していた鎧はとうに剥がれ落ちてしまった。
それでも。
あれだけのことをしておいて、今さら後戻りもできるはずがない。
自分から逃げ道をふさいでしまったことを自覚して、愛は大きく息を吐いた。
秋瀬或が戻るまで、そう時間は残されていない。
【G-6/北西部/一日目・日中】
378
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:56:10 ID:tr3nIqwE
【常盤愛@GTO】
[状態]:右手前腕に打撲
[装備]:逆ナン日記@未来日記、即席ハルバード(鉈@ひぐらしのなく頃に+現地調達のモップの柄)
[道具]:基本支給品一式、学籍簿@オリジナル、トウガラシ爆弾(残り6個)@GTO、ガムテープ@現地調達
基本行動方針:生き残る。手段は選ばない
1:???
[備考]
※参戦時期は、21巻時点のどこかです。
※幽助とはまだ断片的にしか情報交換をしていません。
【浦飯幽助@幽遊白書】
[状態]:精神に深い傷、貧血(大)、左頬に傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×3、血まみれのナイフ@現実、不明支給品1〜3
基本行動方針: もう、生き返ることを期待しない
1:常盤と秋瀬を待つ。
2:圭一から聞いた危険人物(雪輝、金太郎、赤也、リョーマ、レイ)を探す
3:殺すしかない相手は、殺す……?
◆
(いい気味)
ゲームを打倒することはあれほどに脅威で、難関で、絶対に無理だと膝をついたのに。
何かを壊してしまうことは、面白いほど簡単だった。
べつに、天野雪輝のことを心底から恨んでいたわけじゃなかった。
あの時の少女イコール我妻由乃だと気づいたのもほとんど閃きだし、別に殺し合いが開かれた事情なんてもうどうでもいい。
ただ、気に入らなかった。
見方さえ変えればもっと苦しむべき立場にいるはずなのに、余裕を気取って俯瞰して。
もっと苦しんで、じたばたと足掻いた方が見ていて『面白そう』じゃないか。
だから、もっとも痛手となりそうな言葉を投げつけた。
もっと『死者蘇生』を焚きつけて殺し合いに乗せる手もあったけれど、相手も頭が切れる。
意図があからさま過ぎれば、かえって失敗していただろう。
首輪の情報を落として行ったのは、光明があった方が却って足掻くだろうという気まぐれが働いたから。
それに、持ち続けていた『重荷』を、背から降ろしてしまいたかった。
常盤愛に対しては、少し違った。
恨んだし、呪った。
口を滑らせてしまえば、吐かせるのも推理するのも容易い。
379
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:57:16 ID:tr3nIqwE
吉川のぼるが死んだことも。
あの女があの殺人現場に立っていたのも。
麗美に許せるかと問いかけたのも、ぜんぶ。
こいつの、せいなんだ。
殺そうか、と思った。
もう、世の中のルールは見限った。『悪いこと』かどうか気兼ねすることもない。
それでも、殺してしまえば一瞬で終わってしまう。
麗美はあんなに苦しんだのに、こいつは撃ち殺されるだけでリタイアできるなんて。
気に食わない。
――まさか『こんなおおごとになると思わなかった』なんて考えてないわよね?
――脅迫した女が暴走することぐらい、予想できなかったはずないでしょ。
――無関係そうな女の子だって、殺されてたのよ。
だから、説明した。道の駅で起こったことを。
常盤愛が、どんな大罪を犯したのかということを。
ひな鳥が飲みこめないものを親鳥がかみ砕いて口移しで与えるように、懇切丁寧に説明してやった。
――要するにアンタは、私怨のしかも逆恨みで他人に嫌がらせをして、被害を拡大しただけじゃない。
――誰もアンタが正しいなんて思わないわよ。違うって言うなら死んだヤツの知り合い全員全員に『アタシは悪くない』って納得させてみれば?
――アタシは優しいからそんなモノ要らないケド。
――結局さぁ、男は殺すべきだとか緊急避難とかにかこつけて、殺人を正当化したかっただけじゃないの?
――だってそうよね。参加者の過半数が男なのに『男を信用できない』って時点で対主催グループに混じれるはずないし、その時点で優勝するしか道がないもの。
放心する常盤を横に放置すると、放送を聞き終えてからさらに言葉を重ねた。
380
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:58:11 ID:tr3nIqwE
――そんなに自分の殺人を正当化したいなら、優勝してから生き返らせればいいじゃない。
――生き返らせるのは勝手なこと? でも、アンタがしてきたこととどっちが勝手かしら
――別にあの女に生き返ってほしくなんかないけどー。友達や先生が生き返るなら、アタシだって泣いて喜んで感謝だってしてあげるわ
別に、友人が生き返ることなんかこれっぽっちも期待していない。
蘇生が可能だったとしても、そんな慈悲を働かせるような大人たちではないことぐらい、天才児でなくとも分かるだろう。
――それさえできないって言うなら、
吊るした餌に乗らないならそれでもいい。
前にも後にも進めずに立ち往生するか、あるいは開き直って自身の優勝を目指し暴走をするか。
どっちにしても、あの場で撃ち殺してしまうより苦しみそうだ。
――アンタは天使なんかじゃない。ただの人殺しの、死にぞこないだ。
神崎麗美は、死人の生き返りなど信じない。
天国も地獄も信じない。
だから、死んでしまえばもう永遠の別れだと悟っている。
だから、放送で呼ばれた友人の名前を呼ぶ。
誰にも悟られないように、そっと。
「さよなら、雅」
【F-4/南東部/一日目・日中】
【神崎麗美@GTO】
[状態]:高揚
[装備]:携帯電話(逃亡日記@未来日記)、催涙弾×1@現実 、イングラムM10サブマシンガン(残弾わずか)@バトルロワイアル 、シグザウエルP226(残弾12)
[道具]:基本支給品一式 、インサイトによる首輪内部の見取り図@現地調達、カップラーメン一箱(残り17個)@現実
997万円、ミラクルんコスプレセット@ゆるゆり、草刈り鎌@バトルロワイアル、クロスボウガン@現実、矢筒(19本)@現実、隠魔鬼のマント@幽遊白書、火山高夫の防弾耐爆スーツ@未来日記
火山高夫の三角帽@未来日記、メ○コンのコンタクトレンズ+目薬セット(目薬残量4回分)@テニスの王子様 、売店で見つくろった物品@現地調達(※詳細は任せます)
基本行動方針:傍観者としてゲームを『楽しむ』。
1・他の参加者を見つけたら、『面白くなりそう』な方向に扇動する。
2・自身が殺されることも否定はしない。ただし、できるだけ長く楽しむ為になるべく生き残る。
[備考]鬼塚英吉は主催者に殺されたのではないかと思っています。
381
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:58:56 ID:tr3nIqwE
以上です
毎度のことですみませんが、
お手すきのかたいましたら代理お願いします
382
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/15(木) 00:15:10 ID:XgOs2ZrQ
すみません、会話が一か所抜けてたせいで、前後のつながりがおかしなことに…
>>374
の訂正版を投下します
383
:
>>374訂正
◆j1I31zelYA
:2013/08/15(木) 00:19:01 ID:XgOs2ZrQ
「泣けねぇよ…………俺のせいだって思ったら」
「さっき言ってた『間に合わなかった』ってやつ?
だからそれは責任でもなんでもないじゃない。
そんな理由で泣いてくれないなんて――」
「間に合わなかったことだけじゃ、ねぇんだよ」
それきり浦飯は黙り込む。
言いたいことがつかめない。
浦飯はすぐに病院に行ったはずだった。何の落ち度もない。
螢子を殺したのは渋谷翔だし、殺し合いに呼んだのは主催の大人たちだ。
雪村螢子が殺し合いに呼ばれたことに、浦飯幽助の責任なんて――
――あれ?
気づく。
とても冷徹で、しかし腑に落ちてしまうことに。
学籍簿で、見たのだ。
浦飯幽助の知り合いは、同じ学校の『雪村螢子』と、仲間だったらしい『桑原和真』。
もう一人、敵対する人物が誰だかいたらしいけれど、つまりその四人が『浦飯幽助を中心とした人間関係』だったとは察しがつく。
桑原とかいう男は知らないけれど、色々な事件に巻き込まれたのは、浦飯が『霊界探偵』だったせいらしいのだから。
愛の知り合いもまた『三年四組のクラスメイト』だった。
だから、『色々な学校の生徒が無作為に選ばれた』ぐらいにしか思わなかった。
しかし、浦飯からすればどうだろう。
探偵で、色々な事件を解決してきた。
そっちの業界ではそこそこ有名で、何とか武術会なるイベントに友人ともども強制参加させられたこともあった。
そんな風に色々とあった人間だから、主催者も彼に目をつけた。
何十万人といる学生の中から、浦飯幽助を選んだ。
殺し合いに招かれたりしたら、そうなのだろうと納得してもおかしくない。
だとすれば。
『浦飯幽助の身近な人物』だったから、雪村螢子は巻き込まれた。
浦飯幽助という存在が、雪村螢子を殺し合いに巻き込み、死なせてしまった。
「自分が許せないから、泣く資格もないってわけ?
……螢子さんは『あんたのせい』なんて思ってないかもしれないわよ」
そういう風に、受け止めてしまったとしたら。
「分かってる。螢子はそんなことで恨んだりしない。今までもずっとそうだった。
でもな、分かってても、どうしようもできねぇんだよ……」
己を許そうとしても、許せない。
危険な目に巻き込んだこともあったのだろう。
しかし、真の意味での『手遅れ』に直面したことはなかったはず。
たとえ、当の大切なひとが許していたとしても。
許さなければ誰にとっても救われないと分かっていても。
「アイツの為に何をしてやれるんだって、そればっかり考える……」
だからこその、殺し合いの打倒。だからこその、死者蘇生なのか
384
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 21:58:20 ID:LWCqFp7I
例によって規制されていましたので、こちらに予約分を投下します
385
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 21:59:54 ID:LWCqFp7I
もう二度と会えないなんて信じられない。
まだ何も伝えてない。
まだ何も伝えてない。
◇
温泉ペンギンの亡骸は、ツインタワービルの中に安置することにした。
元からディパックにいた支給品とはいえ、目から血を流す遺体を荷物のようにディパックに入れてガタゴト運ぶような扱いはできない。
かといって抱え持って歩くには重たすぎるし、何よりも誰かと出会った際にショックを与えすぎる。
いずれ碇シンジには返さないといけないが、今は置きざりにするしかなかった。
「高坂さんは、これからどうするんスか?」
「ここで秋瀬を待つ手もあるけど、雪輝のバカも探したいからな……。
菊地とかいうヤツは神崎の知り合いっぽいし、しばらくはお前らと一緒に行ってやるよ」
「そりゃどーも」
「おいこら、そこはもうちょっと嬉しそうなリアクションを……まぁ、いいや。
秋瀬への伝言を書いてくるから、先に行ってるぞ」
ペンギンを抱きかかえて置き場所を探す越前に何かを察したのか、高坂は文句を中断して場を離れていった。
ペンペンに関しては高坂より二人のほうが長く付き合っていただけ遠慮をしたのかもしれない、と綾波は自分なりの分析をする。
高坂の話によれば、神崎麗美は度胸があって頭の良さそうな少女だったという。なので、どちらかと言うとその豹変が気がかりらしい。
「ん、しょっと……」
スタッフルームのソファの上に、越前がペンペンを寝かせた。
しゃがみこみ、綾波が差し出したジャージ(元は越前のものだが)を広げてふわりと亡骸にかける。
最後にジャージの上から亡骸を撫でて、言った。
「ごめん」
二回目の謝罪だった。
背後からそろそろと表情をうかがえば、強く唇を噛んでいるのが見える。
悲しい。悔しい。苦しい。
本に書かれていた感情のことを思い出して。
レイ自身にもある胸のうずきと重ねてみる。
知り合いがまた一人死んだのだと言われた。
それも、自分に銃口を向ける少女から、この手で殺したのだと言われた。
いろいろな思いを否定されて、その少女を撃とうとしてしまった。
少女を排除できずに、ペンペンを死なせてしまった。
「辛いの?」
「別に……どうすれば良かったのかとか、いろいろ考えてただけ」
否定が嘘だということは分かる。でも、それ以上のことが分からない。
「越前くん」
「ん?」
それでも、まずは言わなければいけないことがあった。
386
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:01:07 ID:LWCqFp7I
「ありがとう。助けてくれて」
越前が顔を上げる。口からえ、とか、ふぇ、に似た音を漏らした。
「……なんで、今?」
「まだ言ってなかったから。
あなたがいなかったら、私はもっと前に死んでた」
白井黒子の一件や神崎麗美のことを経た後では、言葉の通りだと実感できる。
越前がいなければ、綾波は遠くないどこかで危険人物を殺そうとして逆に殺されるような、あっけない結末だった。
アスカ・ラングレーに助けられた時は、ただその善意をありがたいと思うだけだった。
白井黒子から守られた時は、越前の助けを頼りにした自分自身に驚いていた。
しかし神崎麗美に撃たれそうになった時には、困惑と混乱と葛藤があった。
己の身を盾にして、庇われた。
「瑕疵はあったかもしれない。でも、あなたは無力でもない」
いつだって綾波レイは守る立場だった。
その対象が碇シンジになってからも、その為に命を投げ出せるのが当たり前だった。
守ったシンジや、ゲンドウから血相を変えて心配してもらったことはある。
その時にもらったゲンドウの壊れたメガネは、大切に保管している。
しかし、命を賭けてでも守られたのは初めてのことだった。
そのことが不思議で、感謝だけでなく恐怖もあって、自分のことも越前のことも図りかねている。
「だから、次からは自分の身を守ることも考えて」
高坂王子が見つけてきたシンジの音楽プレイヤーを、越前の左手に握らせる。
どのみちシンジの手に返すならば、越前の手から渡すほうが負い目を解きやすいと思えたからだ。
越前は握りしめたS-DATプレイヤーを見下ろし、しばらく黙っていた。
驚いた様子からバツの悪そうな顔へ、つづけて神妙そうな面持ちへと細かく変化を刻む。
そして、そそくさと後方を向いて歩き出しながら、
つまり、わざわざ自分の顔が見えないようにしてから。
レイにも聞こえる声で「ちぃース!」と答えた。
◆
387
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:04:06 ID:LWCqFp7I
憎むなというのは、無理だった。
人間じゃないとはいえ、ずっと一緒にいた同行者みたいなのを殺されて。
強くあろうとしたら、その強さが人を傷つけると理不尽な主張をされて。
それでも、やり方を間違えたことに責任はある。高坂や跡部の仲間だった人を傷つけたことに、後悔もある。
思いを乗せれば、私はそんなに強くなれないと卑屈になった。
ついて来てほしくても、もう頑張れないと拒まれて、願い下げだと殺されそうになった。
だったら、神崎麗美の胸がすくように、『勝ち』を諦めればいいのか。
誰も傷つけないように、じっと蹲っていればいいのか。
違う。
それだけは絶対に、違う。
初めて会う人種だからとか、考えが違うからとか。
そんな理由で関心をなくしたら、高坂とも綾波とも、過去に出会った多くの人たちとも、楽しくなれなかった。
高坂は、神崎のことがあったのに煙たがらずに『付いて行ってやる』と言う。
綾波は、道を踏み外さないように止めてくれて、彼女なりに慰めてくれて、とにかく何度も助けてくれた。
だから。
前に進みたいところだから。
だから。
その名前が呼ばれたら、いけないんだ。
『碇シンジ』
388
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:06:03 ID:LWCqFp7I
いけないのに。
ビルから続くアスファルトの地面の上を、涼しい風が通過する。
木々のざわめく音がまるで聞こえずに、時間が止まったような気がした。
聴覚のすべてが、携帯電話から聞こえてくる名前を受け止めるので精一杯だった。
まだ出会っていない人物の名前だったけれど。
その名前が、呼ばれたら駄目な名前だということは知っていた。
『桐山和雄』
しかし、やはり時間は止まってなどいなかった。
次の名前が読みあげられて、やっと綾波の様子を確かめなければと気づく。
少女のいる方に、顔を向ける。
そこには、凍り付いた少女がいた。
無表情、ではない。
ゼロと氷点下の間には決定的な違いがあって、それは『冷たい』と感じるかどうかだ。
『どうしよう』と焦るしかできなかった。
『真田弦一郎』
その次に呼ばれた名前は、リョーマもよく知った人物だった。
思ったのは、なんで、という疑問。
なんで、こんな時に。
こんな時に死んで、動揺する暇も与えてくれないような頼りない人じゃなかったのに。
そして。
綾波の瞳から、焦点がふっと抜け落ちた。
白く細い指から、するりと携帯電話を持つ力が抜け、それを落下させる。
倒れる。
思った瞬間には駆け寄り、両腕に綾波の体重がのしかかってきた。
「綾波さん! 綾波さんっ」
卒倒した少女に呼びかける声は、らしくもなく引きつっていた。
糸の切れたように意識を失った体は、触ってみるとやはり冷たく、軽かった。
◆
綾波レイは、近くにあったベンチに運ばれた。
ビルの一階にあったソファは、ペンギンを寝かせるのに提供してしまっていたからだ。
自動販売機がすぐ近くにあり、どうやら高坂が越前たちに助けられた時に、発見された場所から近いらしい。
彼女が横になっただけでベンチが満席状態なので、越前はすぐそばの地面にじかに座っている。
腰をおろすと目線の高さが綾波とほぼ同じところにあり、じーっと観察するかのように見つめていた。
無愛想な目つきで口をへの字にしているから読み取れないが、心配しているのだろう。
389
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:07:07 ID:LWCqFp7I
ここが殺し合いの真っ最中ではなく怪我や風邪で寝こんだだけなら、熱いねぇと冷やかしのひとつでも叩くシチュエーションだが、
彼女の命を賭けてでも守ろうとした思い人が死んでしまったとなれば、深刻にならずにはいられなかった。
「おい……綾波のヤツ、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないから倒れたんじゃないの」
「そういうことじゃなくて、起きてからの行動だよ。
あの放送で妙な気を起こしたりしねぇだろうな」
「妙な?」
おそるおそるだが、その懸念を口にしてみる。
「たとえば……碇ってヤツを生き返らせるために殺し合いに乗るとか」
「それ、どうゆう発想っすか」
「オレだって考えたくねぇけどよ……じゃあお前、彼氏に死なれた女がどうなるかとか分かるのかよ?」
「…………」
彼女いない暦約14年の高坂王子だけれど、世の中には恋心から破滅的なほどの暴走をする女子がいることは知っていた。
いや、我妻由乃のパターンが少数派なことは理解しているが、いかんせん生前の碇シンジと綾波レイの関係を客観的に見たことがないのだから、前知識がない。
「だけど……だからって、俺たち含めて皆殺しは無いっスよ。
そこまで勝手な人なら、とっくに乗ってるはずだし……乗りかけたけど」
「待てコラ、乗りかけたとか初めて聞いたぞ」
「だって聞かれなかったから」
しれっと意味深なことを口走ってはいるが、信頼はしているようだった。
単純に『今までずっと一緒にいた綾波がそんなことをするとは思えない』からと否定したのだろう。
それより、目を覚ました綾波にどう接するか悩んでいる風だった。
日野が死んだ時の高坂への態度とずいぶん違うじゃないかと腹も立ったけれど、そう言えばあの会話では綾波がフォローに入ろうとしていた。
越前が高坂の神経を逆立てるようなことを言えば、すかさず綾波が会話に割って入り。
逆に、綾波が難しい用語やずれた言動を使った時には、越前がやれやれと説明に入る。
そんな風に、不器用ながらも助け合おうとしている関係がうかがえた。
自分だって色々あったり知り合いが死んで凹んでいるところなのに、無理するじゃないか。
そう評してみて、かく言う高坂自身は何かしようとしただろうかと省みる。
ツインタワービルを探索して輝いた成果は残したけれど、こういった女ごころや精神的なことはまるでお手上げだった。
390
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:08:26 ID:LWCqFp7I
手が届くことなら、俄然と張り切れる。
だが、誰に言われずとも雪輝を助けようと動く日野日向や、その日向の為にできることは何でもする野々宮まおのように、
みずから他人のために行動するような積極さを要求されると困ってしまう。
少なくとも秋瀬や日向や野々宮らは、高坂のように『面倒くさい』とか『嫌々ながらも』という態度で事件に関わることがなかった。
自分だけを予知する『高坂KING日記』から、周囲に目を向けた『Neo高坂KING日記』に改めた時にも、それは薄々と感じていた。
べつに怠惰でも不人情でもないぞと、反論は色々とできる。
君子危うきに近寄らず。
頭のネジのぶっ飛んだような連中の殺し合いなど、好んで関わりたいものか。
かつて監禁事件や8thとの戦いで雪輝に協力したのも、日野日向の父親をめぐる事件で助けられた借りがあったから。
そして秋瀬や日向やまおが雪輝を助けようとしたので、それに付き合ったから。
それでも、高坂KING日記の力に目覚めて、予知能力者になれた時は嬉しかった。
その予知能力で『あの』我妻由乃と対峙した時に、ヒーローになったような高揚感を覚えたりもした。
輝いていたいのに、顧みればどうにも半端者だった気がする。
この殺し合いでも、同じ一般人Aなのに『白紙の未来を守る』と宣言した神崎や、『勝ってみせる』と豪語した越前らの方が、しっかりした芯があるように見えた。
もう生存者は半数ぐらいになってしまって、『秋瀬に任せれば何とかなるかも』なんて言ってられないはずだ。
神崎を見て。
越前を見て。
綾波を見て。
彼女らと自分の違いについて、高坂も少し思うところがあった。
それは――
「あ――」
越前の口から、緊張をはらんだ声が漏れる。
綾波の瞼が、目を覚ます前兆のように小刻みに震えていた。
◆
風がすこし、吹いている。
日差しが強くて、目を細める。
知らない場所にいた。
あたたかそうな茶色の煉瓦で組み上げられた、図書館のような建物がそこにある。
ふかふかした芝生のじゅうたんを歩き、煉瓦へと手を触れてみた。
本は嫌いじゃない。よく読んでいる。
空気はあたたかくてぽかぽかするし、ここは嫌いな場所ではない。
そんな感想を持ちながら図書館の周りを歩き、日差しで体をあたためた。
外壁のひとつに人ひとりは通れそうな大きさの穴があいていて、何があったのだろうと小首をかしげてしまう。
391
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:09:16 ID:LWCqFp7I
呼ばれたような気がして、左へと顔を向けた。
芝生のじゅうたんの先にいくつかの遊具が置かれていて、公園のようになっている。
その公園のいちばん向こう側に、薄桃色をした珍しい花がたくさん咲いていた。
大きな、ふとい幹をした、大木から咲き誇っている。
文献で見たことがある。
『桜』という木の花だった。
咲いたばかりで、すぐに散ってしまう。
そういう花だと、本には書かれていた。
寿命の短い花が咲く、その木の根元で。
白いシャツを着て黒い学生服のズボンをはいた、小柄な少年が立っていた。
ぽかぽかとした光に包まれて、はにかむように笑っていた。
碇くん。
そう、名前を呼んだ。
名前を呼ばれ、少年が頷く。
少年の口が動き、何かを言おうとする。
それを、彼女は待った。
綾波、と。
名前を呼ばれるのを、待った。
その時、景色が変わった。
ざぁっと、風がひときわ強く吹く。
たくさんの、薄紅色をした花びらが散っていく。
散りゆく花弁が巻き上げられ、全ての花をちらさんとばかりに、吹き散らされる。
花びらの嵐に耐えられず、眼をつぶった。
桜も、緑も、日差しも、図書館も、景色からいなくなる。
眼を開ける。
少年は、消えていた。
何もない、真っ白な世界だけが残った。
いなくなってしまった。
何故なら、碇シンジは死んだのだから。
死なないなんて、思っていたはずがない。
でも、先に世界から消えるとしたら綾波レイの方だと思っていた。
それが『正しい順番』だと、漠然と信じていた。
392
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:10:07 ID:LWCqFp7I
何がいけなかったのか。
どこで間違えたのか。
自分がいなくなった後の世界を心配したことはなかったのに。
彼が世界から消えてしまったと知ると、どうしようもない『寒さ』に襲われた。
全部が全部、凍り付いてしまったような。
死んだ人間が、がんばりしだいで帰ってくるかもしれないと語られた。
そうかもしれない、と思う。
しかし、同時にそうではないだろうと思う。
ほかならぬ『アヤナミレイたち』がそうであるが故に。
それがまったく不可能ではないと知っているし、同時に不可能だろうと知っている。
もしもの話。
仮に、碇シンジが『綾波シリーズ』と同じように生まれ直したとして。
『二人目』の碇シンジが、目の前に現れたとして。
カケラも笑わない『碇シンジ』に、初対面の人間を見るように見られたとして。
綾波も、ほかの誰も、きっと碇くんが生き返ったと喜ぶことなんてできないだろう。
だから、どうにかなるわけがない。
もっとも、それは碇シンジだけの話であって、綾波レイにとっては違うだろうけれど。
これも、もしもの話。
碇シンジからすれば、『新しいアヤナミレイ』が現れたところで、違う人間だと見分けがつかないんじゃないか。
同じものがたくさんあるということは、要らないものがたくさんあるということだから。
この場所に来て、綾波レイという人間に代わりはいないと言われた。
だから、代わりがいない人間らしくなってみようとした。
だが、彼に対して何かをすることができただろうか。
会えなかった。
何も、できていなかった。
何も、伝えられていなかった。
知らないところで、知らないうちに死なせてしまった。
あなたは死なないわ。
わたしが守るもの。
そう、言ったのに。
彼を守れなかった。
――碇シンジのいない世界で、綾波レイは目覚めた。
◆
393
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:11:09 ID:LWCqFp7I
幾度かの瞬きを繰り返し、視界がクリアになる。
意識が戻って最初に感じたことは、どこか固い椅子の上に寝かされているらしいこと。
そして、神妙な眼差しで見つめている、越前リョーマ。
殺し合いが始まってから、ずっと一緒にいた同行者。
「わたし……」
そして、認識した瞬間に、思い出していく。
放送で、碇シンジの名前が呼ばれたこと。
綾波レイが、エヴァのパイロットとしてではなく、
ただの綾波レイとして生きる目的だった人を、喪ってしまったということ。
「……何もできなかった」
力の入らない体で、起き上がることもできないまま。
ぽつりと言葉は漏れた。
「そんなことない」
即答は、越前の口から返って来た。
「綾波さん、頑張ったじゃん。できることは全部やって。
人を助けるのに戦おうとしたり、しゃべるの苦手なのに長く話したり、強くなろうとして……」
初めて見るんじゃないかというぐらい一生懸命そうに反論していたけれど、
やがて言葉を途切れさせ、うつむいて口にする。
「オレが、碇さんのところまで連れていくって言ったのに……」
「ううん。それは無い。」
彼らに料理などを作ったりしている間にシンジがどこかで死んだのだと思えば、心臓にたくさんの針が刺さったような感覚になる。
しかし彼らの探索に付き合わず、シンジを探していればよかったとは思えない。
おそらく白井黒子や変わってしまった神崎麗美のような相手に出会って、何もできずに殺されるのが落ちだっただろう。
その証左に、一人では、ここまで生きていられなかったのだから。
「越前くんにも、たぶん高坂くんにも、感謝してる」
「『たぶん』って何だよオイ」
後ろに立っていた高坂に文句を言われたが、『たぶん』を付けざるを得ない気がするのだから仕方がない。
どうにか腕に力をいれて身を起こし、ベンチに座る。
まるで自分の腕ではないように、体がぐらぐらした。
いや、おかしいのは綾波レイの全部で、気温は低くないのに体も心もすごく寒い。
それでも、二人に対する感謝は本当だから。
ぺこりと、小さく頭を下げて言った。
394
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:12:23 ID:LWCqFp7I
「だから、今までありがとう。さようなら」
「は…………?」
越前がけげんそうな声をだし、眉をひそめる。
おかしなことを言ったつもりはない。だから意外な反応だった。
「何言ってんの?」
「碇くんを探す目的はなくなった。
だから、お世話になるのは終わり」
自然かつ当然の帰結。
それに、今の綾波レイではおそらく足手まといになるだろう。
暗くて寒くて大きな穴があいたような、体じゅうがそんな感覚に縛られている。
「だからっ……。それっておかしくないっスか。
だって綾波さん一人だと危ないし、こっちのやることに首つっこんでおいて、今さら全部やめるとか無しだよ」
そう言えば、彼にはさっきも命懸けで助けられたばかりだった。
どうしてそこまで大切にしてくれたのかは分からないままだったけれど、
ヱヴァと関係のないところで、そこまで絆を作れたのだとしたら、おそらく意味のあることだった。
そこまでのことをしてもらえたのに無しにするのは、きっと失礼なことだろう。
「いいの。碇君が死んでしまったら、もう全部いいの」
できるだけ平素どおりに伝えると、越前が表情をゆがめた。
初めて目にする顔だった。知り合いが死んだ時も、こんな顔はしていなかった。
これは、この顔は、違う。
別れを選びたくても、傷つけたかったはずがない。
ただ、傷つけないように言葉を選ぶことができないだけだ。
「私が頑張ろうとしたのは、碇くんのため。
碇くんがいなくなったから、もういいの」
目的がなくても、この少年たちについていけば、まだ寒さを埋められるかもしれない。
越前と、高坂王子と過ごした時間は……悪いものではなかった。
違う。
良いものだった。
碇シンジに感じたぽかぽかとは少し違うけれど、浮かされるような、熱のような感覚を知ることもできた。
395
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:13:29 ID:LWCqFp7I
でも、その未来を選ぶことは恐ろしかった。
あたたかくしてくれる人なら、碇くんじゃなくても誰でもいいの?
心の内側にいる、意地悪な綾波レイがそう言っている。
それを否定したくて、たまらない。
それに、まだ恐ろしいことがある。
碇シンジを助けられなかった綾波レイが、彼のいない世界で、彼のことを忘れて笑っている。
そんな未来が、とても怖い。
それに、綾波レイが元の世界に帰還しなくても、別のアヤナミレイがエヴァに乗るだろう。
だから、綾波にはもう役割がない。
「わたしには、もう何もないの。
何もないし、何もしたくない」
越前が両の手を強く握りしめ、震わせていた。
自暴自棄な言葉を、わざと投げつける。
これでは、まるでさっきの神崎麗美がしたことに似ている。心が痛んだ。
だからなのかも、と想像する。
死んでほしくなかった人たちをたくさん失ったからこそ。
これ以上、失うのが嫌になったから自棄になった。
そして、置いていった眩しい人たちを恨むようになった。
だとしたら、やっぱりそうなるのは嫌だ。
神崎麗美のように、碇シンジを恨むような未来は嫌だから。
だから、ここで終わりにしてもいいはずだ。
「だから、あなたたちも必要ない」
きっぱりと要らないと言われて、少年はまっすぐに怒った顔をする。
いや、傷ついたのか、悲しんでいるのか。
とにかく、その顔は『かっとなった』ように見えた。
これは見捨てられる、と思う。
何を言われても、もう受け取れないけれど。
396
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:14:24 ID:LWCqFp7I
「あっそう。そんなに一人が――」
「何もないだぁ!? 嫌味言ってんじゃねぇよこのリア充がっ!!」
謎の暴言を食らい、遮られた。
リア充。
その意味はよく分からないけれど、とんでもない侮蔑を吐かれた気がして。
考えていたことが白紙になり、驚きとともにその人物を注視する。
腰に手をあて、胸をそらす。
高坂王子、その人だった。
◆
曲りなりにも仲間である綾波がひどく沈んでいる。
全てを投げ出し、自殺行為同然のことをしようとしている。
仲間が危ういのに何もしない人間など、とうてい輝いているとは言えないだろう。
だから、どうにかしようという気持ちが無いではなかった。
神崎麗美のことが、気にかかっていたこともある。
短い付き合いとはいえ、命の恩人なのだから。
高坂を逃がそうと単独行動した結果、ああなったのだから、何があったのか知りたいし、後悔だってする。
だから、目の前で嫌な方向に堕ちそうになっている仲間を見過ごすのは後味が悪いという思いもあった。
しかし、それだけでは面倒に思いこそすれど苛立ちはしない。
私には、何もない。
その言葉だけは、我慢ならなかった。
高坂王子からすれば、綾波レイは十分に『輝いてる』人間だったのだから。
「言っとくけどなぁ! この中でいちばん『何もない』のは絶対にこの高坂王子様だぞ!
周りにいる女が変人かブサイクばっかりでフラグも立たねぇし!
戦闘機パイロットになって人類を守ったりもしてねぇし!
学校じゃあ陸上部の補欠で、しかもうちの学校は全国大会とか夢のまた夢だしよぉ!
雪輝みたいに特別な戦いに巻き込まれたりもしてないし、秋瀬みたいに事件の調査もやったことねぇ。
認めたくねぇけど、正真正銘のどこにでもいる一般人Aなんだからな!」
「高坂くん?」
「な、何言ってんの……?」
初めて、口に出して認める。
今までの自分が、イマイチ輝けていなかったことを。
397
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:15:11 ID:LWCqFp7I
高坂は碇という少年を知らないから、二人の関係について何も言えない。
だが少なくとも、綾波レイは碇シンジという少年を助けたいという“芯”があり、それに基づいて行動方針を決めていた。
それは、半端者だった高坂には無いものだった。
しかも、恋愛している男女を雪輝と我妻由乃のいびつな関係ぐらいしか知らない高坂には、とても新鮮に写るものだった。
「でもなぁ、そんな俺様だって輝こうとして日々頑張ったりしてるんだよ!
走るのが早くなるように新しいシューズを勝って走り込みしたり!
かっこいい形の棒を拾ったらコレクションにして、日記につけたり!
何もなくたって、自分にもできること探して頑張ってんだよ」
「かっこいい、棒?」
心なしか越前の反応が『うわ、こいつ引くわー』な感じになっているが、無視した。
「それに、オレだって彼女の一人ぐらい欲しいかなーと思ったことぐれーあるんだよ!
でも周りの女が彼氏持ちとかレズとかブサイクしかいねぇからできねぇんだよ!
それなのに、好きな男がいたお前は、そいつが死んじまったからもう全部やめるってのかよ。
だったら恋愛とかしたことない俺たちはどうすりゃいいんだ。
死んだり別れるたびにそんなんになるなら、怖くて恋愛のひとつもできやしねーじゃねぇか!」
言ってみて、ウザいのを通り越して割と最低だった。
大切な人を喪って暗く沈んでいる少女に、『リア充爆発しろ』と言っているようなものである。
(綾波たちがリア充という概念を知っているかはともかく)
何となく、見えてきた。
天野雪輝や、秋瀬或や、神崎麗美や、越前リョーマや、綾波レイにあって、高坂にないもの。
高坂王子には、芯がなかった。
輝いている“何”になりたいのか。
その場に応じて格好をつけていただけで、なりたい自分像がなかった。
天野雪輝をサバイバルゲームの中心人物(しゅじんこう)たらしめ、高坂王子があくまで部外者(わきやく)である、その決定的な違い。
雪輝は泣き虫で気弱で、自分でしたことの責任も取れないようないい加減なヤツだったけれど。
少なくとも、我妻由乃と幸せになりたいという思いだけは本当だったのかもしれない。
あれだけの監禁事件に遭わされて、まだ別れなかったのだから。
そんな高坂でも、ツインタワービルに乗り込もうと決めた時はそうじゃなかった。
初めて、自分自身の意思で、関わらなくとも誰も責めない条件下で、関わることを選んだのだ。
無力でも、一般人でも、なりたい自分ぐらいは自分で決められる。
何もなくたって、お先真っ暗というわけじゃないはずだ。
「何もないってことは、俺様と同じじゃねぇか。これから探しゃいいんだよ。
俺様と同じってことは、つまり輝ける人間だってことなんだぜ?」
「高坂さんと同類にされるってむしろ嫌な「テメーは黙ってろ」
398
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:16:04 ID:LWCqFp7I
それに……さっきまで和気藹々としていたのに、亡き人との二人の世界に突入されて腹が立ったのもある。
越前も少なからず同じ理由で怒ったはずだし、一緒にいた時間の長いだけにいっそう何を言うか分からない。
そう、これは越前に任せられないという気遣いなのだ、気遣い。
「だいたい、俺の周りの女はどうして『あなたが死んだら生きていけない』って方向に行くんだよ。
好きな男の為に何かしてやりたいなら、もっと他にできることあるだろうが。
殺し合いから生き残って、そいつの親に遺体を持ち帰ってやるとか。
死ぬ前にそいつが何をしてたのか聞いて、心に刻んでおくとかよ。
そっちの方が健気でいい女してると思うぜ?」
「好き……?」
高坂の剣幕にぽかーんとしていた綾波が、初めて反応を見せた。
尋ねかけるように、呟く。
「私は……碇くんのことが、好きだったの?」
小首を傾げていた。
呆れた。
まさか、あれだけ碇くん碇くんと言いながら、こいつは自覚がなかったのか。
重い役目を背負っていたくせに、何も知らないんじゃないか。
「好きでもない男を、そこまで必死に守ろうとするヤツがいるかよ。
そいつがいないならもうどうでもいいとか、傍目から見て重すぎるぐらいだっつーの」
しゃべり過ぎて疲れてきたので、ふぅと息を吐く。
「好き……」と噛みしめるようにつぶやいて、綾波は目を丸くしていた。
どういう思考回路をしているのか分からないが、重苦しい空気をぶち壊すことには成功したらしい。
ぐいぐい、と越前が服を引っ張り、もういいから下がれと無言で示していた。
見たところ、かなり落ち着いているようだ。
もうバトンタッチしてやってもいいだろう。
◆
高坂の言ったことはかなり八つ当たりだったけれど、そのおかげか頭は冷えた。
399
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:17:00 ID:LWCqFp7I
改めて綾波の前に立つと、互いがしばらく無言になる。
「綾波さん……これから、どうしたい?
『何もしたくない』以外で」
「分からない……二号機の人は、会いたいけど」
要らないと言われた時は頭に血が上ったけれど、冷めるとこれはこれで気まずさがある。
もしかしたら、これは余計なおせっかいかもしれない。
神崎麗美のように、綾波も付いていけないと叫ぶ時が来るかもしれない。
「ごめんなさい……こんな時、どんな顔をすればいいか分からないの」
これには、即答していた。
「泣けばいいと思うよ」
それでも、支えるぐらいのことはしたい。
越前リョーマは『柱』なのだから。
綾波レイは、『柱』についてきてくれた人だから。
「泣き方が、分からない……」
自分が優しい人間だと思ったことなんかないけれど。
今だけは、優しくなりたいと思わなくもない。
「えっと……死んだ人のこと思い出したり、こんなこと考えてたはずだって思ったり。
自然に思い出せるようになったら、泣けてくるんじゃないの?」
「あなたは、そうだったの?」
「…………まぁ」
やばい、割と恥ずかしい。
もしかして高坂は、後から何を言っても恥ずかしくないようにあんなことを言ってくれたのか……いや、それは無い。
さっきのあれは自虐ネタにしても痛々しい。
「わたしは……まだ、泣き方が分からない」
ひと呼吸おいて、寂しげに言った。
「今まで、泣いたことがなかったから」
「綾波さん。嘘でもいいから『まだまだだね』って言ってみて」
「まだ、まだ?」
「うん、まだまだ、これから」
まだまだ。
自分にも言い聞かせるようにつぶやいて、綾波にどうしてほしいのかを思う。
400
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:17:52 ID:LWCqFp7I
「泣いたからって立ち直れるかは人によるけど、
泣きたいのに泣けないままだと、たぶん思い出すのが辛いよ」
綾波からついて行けないと言われた時には、腹が立った。
「オレも、まだまだ知りたい。跡部さんに何があったのかとか。
撃たずに済ませる方法とか。どうしたら神様に勝てるのかとか」
しかし、そういう自分は一度でも『ついてきてほしい』という意思を示しただろうか。
それを伝えていないなら、きっとフェアじゃない。
「止めてもらえた時は、嬉しかった。
朝ご飯作ってくれた時も、悪くないと思ったし。
神崎さんみたいな人とまた会った時に、綾波さんがいた方が上手く話せそうだし」
話しているうちに、本当に照れ臭くなってきて、帽子のつばをずらした。
表情をなるべく見えないように隠して、意思を伝える。
「オレも、まだまだだから。綾波さんが来てくれた方が、心強い」
『来い』でも『来ればいい』でもなく『来てほしい』なんて、普段はめったに使わない類の言葉だった。
心なしか、顔のあたりに脈拍が集中している感じがする。
もしかして、パートナー関係を作ろうと思ったらいちいちこんなに緊張しないといけないのだろうか。
だとしたら、絶対に自分にダブルスは向かないと確信する。
もう、永遠に返事が来ないんじゃないかというほどの沈黙を挟んで
「分かった方がいいことなら……私は知りたい」
透明な無表情で、綾波が言葉を発した。
良かった。
言葉にはしなかったけれど、代わりに綾波へと、左手をのばす。
握った手にぐい、と力をこめてベンチから立ち上がらせた。
「『来てほしい』って……お前ら、俺様も一緒に行くことを忘れてないか?」
「あ、高坂さん。まだいたんだ」
「ずっといたっつーの! 丸く収まったのは誰のおかげだと思ってんだよ」
会話を一部始終聞かれていた気恥ずかしさもあり、わざと冷淡にあしらう。
こっちの感謝は、逆に言葉にしなくてもいいことだった。
◆
401
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:18:43 ID:LWCqFp7I
高坂の言うことは、よく分からなかった。
それでも、響いたことがある。
何もない人間なんて、どこにでもいるということ。
そして、綾波レイは、碇シンジが好きだったこと。
あたたかくしてくれる、碇シンジの『代わり』なら誰でもよかったのだろうか。
違う。
それだけは違う。
綾波レイは、碇シンジを代わりのいない人間として、そういう感情を持ったはずだから。
そしたら、高坂が言った。
それで好きじゃないはずがないだろう、と。
他者から見れば、それは『好き』にしか見えなかったらしい。
アスカ・ラングレーに同じことを聞かれて、答えられなかったことを、
高坂はどう見ても分かると評した。
そのことが新鮮で、胸が痛くて、少し恥ずかしかった。
誰でもわかることを、碇シンジへの想いを、綾波は知らなかった。
それが、綾波レイには無くて、ほかの人間は持っているものだった。
そして、越前は一緒に来てほしいと言った。
守る相手ではなく、頼りにする存在として必要とする言葉だった。
何もすることがないなら、誰かの求めることをするのは。
いけないことではないかもしれない。
シンジを恨むような末路を迎えたくないなら、彼を思って泣けるようになることは、きっと無駄ではないのだろう。
そして一人きりでいたら、それはきっと分からないままだ。
だったら、もう少しだけ歩いてみるのが、正しい終わらせ方じゃないかと思った。
もう立ち上がる力なんて、残っていないはずだったけれど。
分かったことが一つある。
手を繋がれて引っ張られたら、立ち上がるのに必要な力が少なくなった。
何も言わずとも、越前はそのまま、手を引いて歩き始めた。
そう言えば、と思い出す。
殺し合いが始まって間もないころ。
最初に武器を確認した時に、使えないと死蔵した武器があった。
それを使う時は、死ぬ時だから。
だから、碇シンジの身代わりにでもなって死ぬ時でもない限り、使えないはずだった。
武器の名前は、心音爆弾。
402
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:19:51 ID:LWCqFp7I
もう少し歩いてみたい欲求は、ある。
けれど、そう思わせてくれたのも、歩く力をくれたのも、二人がいたからだ。
だから。
それは、二人を守るために使うことにしよう。
その時が来たら、きっと躊躇わないだろう。
◆
一人が手を引く。
一人が手を引かれる。
一人が付いていく。
そんな風に、三人が三人として歩いていく。
地面に、三人の足跡が残る。
◇
――Everybody finds love in the end.
【H-5/G-5との境界/一日目・日中】
403
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:20:45 ID:LWCqFp7I
【越前リョーマ@テニスの王子様】
[状態]:決意
[装備]:青学ジャージ(半袖)、太い木の枝@現地調達
リアルテニスボール(ポケットに2個)@現実
[道具]:基本支給品一式(携帯電話に撮影画像)、不明支給品0〜1、リアルテニスボール(残り8個)@現実 、自販機で確保した飲料数種類@現地調達、S-DAT@ヱヴァンゲリオン新劇場版
基本行動方針:神サマに勝ってみせる。殺し合いに乗る人間には絶対に負けない。
1:菊地らと合流するために、学校に向かう。
2:1と並行して切原、遠山を探す。
3:ちゃんとしたラケットが欲しい。
4:神崎麗美のことが気になる。
【綾波レイ@エヴァンゲリオン新劇場版】
[状態]:疲労(小) 、傷心
[装備]:白いブラウス@現地調達、 第壱中学校の制服(スカートのみ)
由乃の日本刀@未来日記、ベレッタM92(残弾13)
[道具]:基本支給品一式、 天野雪輝のダーツ(残り7本)@未来日記、第壱中学校の制服(びしょ濡れ)、心音爆弾@未来日記
基本行動方針:今は、もう少し歩いてみる。
1:自分にとって、碇くんはどういう存在だったのか、気になる。
2:二人についていく。
3:いざという時は、躊躇わない。
[備考]
※参戦時期は、少なくとも碇親子との「食事会」を計画している間。
【高坂王子@未来日記】
[状態]:疲労(小)、全身打撲
[装備]:携帯電話(Neo高坂KING日記)、金属バット
[道具]:基本支給品(携帯のメモにビルに関する書き込み)、『未来日記計画』に関する資料@現地調達
基本行動方針:秋瀬たちと合流し、脱出する
1:輝いた男として、芯を通す。
2:神様を倒す計画に付き合う。
3:雪輝を探し、問い詰める。
4:神崎のことが気になる。
[備考]
参戦時期はツインタワービル攻略直前です。
Neo高坂KING日記の予知には、制限がかかっている可能性があります。
『ブレザーの制服にツインテールの白井黒子という少女』を、危険人物だと認識しました
※ツインタワービルの一階ロビー奥に、ペンペンの亡骸が放置されています。
※ツインタワービルの入り口付近に、高坂王子からの伝言(秋瀬或宛て)が残されました。詳細は任せます。
【心音爆弾@未来日記】
綾波レイに支給。
雨流みねねが11thの立てこもる我妻銀行の大金庫をぶち破るために使用した最後の爆弾。
コードを繋いだ使用者の心停止を合図として起爆する。
つまり、自爆装置である。
ーーーー
投下終了です。
毎度毎度すみませんが、どなたか代理お願いします
404
:
◆JEMTQAOagI
:2013/08/25(日) 01:40:44 ID:wxirbof6
申し訳ありません
本スレで規制になったようですので続きをこちらに投下させていただきます
405
:
限りなく純粋に近いワインレッド
◆JEMTQAOagI
:2013/08/25(日) 01:41:27 ID:wxirbof6
「ならどうしたらいいんすか!?みんな、みんな死んじまって!!」
解らない事が有れば他者に救いの手を伸ばし協力を求める。
中学生というまだ成長途中である赤也は当然の如く疑問を放つ。
まだ己の力で道を切り開ける程大人ではない。
「立海も青学も氷帝も――もう『あのチーム』ではないんすよ!?もう別モンになっちまった!!」
仲間。
その誰か一人でも欠けてしまえば以前のチームと同じとは呼べない。
それも真田、手塚、跡部クラスのプレイヤーになればチームに与える影響は尋常ではない。
「――仲間?」
一緒に練習を通して信じあえる存在となった掛け替えの無い大切なもの。
人を殺したと仮定してまた同じように笑顔で会えるだろうか。
無理だ。罪悪感が己を包みあおの頃と同じようにはならない。
「ハッ!……そう云うことですか副部長」
何も優勝することが全てではない。
あいつらがそんなファンタジーを可能にするならば。ならばの話だ。
その方法だけを聞き出しこちらの物してしまえば誰も悲しむことはない。
つまりだ。
「信頼出来る仲間と協力して裏で笑ってる奴等を潰せばいい――そうっすね?」
常勝を信念に行動すればいい。
406
:
限りなく純粋に近いワインレッド
◆JEMTQAOagI
:2013/08/25(日) 01:42:05 ID:wxirbof6
一礼。
今度は帽子を外した姿勢で深く感謝を込めて。
この事が無ければ赤也は人を躊躇いなく殺す悪魔となっていた。
デビルマンなど洒落にも為らない殺人鬼に成り下がる所であったのを止めてくれた。
信念深き覚悟は迷いを吹き飛ばし足を軽くする。
悪魔の血は引いていき見慣れた肌の色が再び現れる。
その色は普段よりも明るく、まるで天使のようだった。
天使化。
大切な存在の死を乗り越えた赤也に訪れた神様の施し。
この力は中学生である彼らが勝利へと辿り着くための大きな力となるだろう。
「ありがとうございます――だから待っていて下さい」
ラケットを背負い踵を鳴らし帽子を被る。
出発の準備は整い足を進め外へと飛び出す。
太陽の光が天使を照らしその輝きは誰も止める事は出来ない。
あのまま悪魔だったならば確実に元には戻れないだろう。
胸を張ってチームに帰ることも出来ない。
ビックスリーに挑むなど資格も持ち合わせないだろう。
だが今は違う。
この力は全ての参加者を導くために使うべきだ。
人は神にも悪魔にもなれない。
ならば天使である赤也が導くのは当然のことである。
407
:
限りなく純粋に近いワインレッド
◆JEMTQAOagI
:2013/08/25(日) 01:42:25 ID:wxirbof6
「――行ってきます!」
天高く照らし続ける太陽を見上げる。
そこには懐かしい人影が見える気がした。
――あなたはそこにいますか?――
408
:
限りなく純粋に近いワインレッド
◆JEMTQAOagI
:2013/08/25(日) 01:42:37 ID:wxirbof6
【C-6/ホテル前/一日目・昼間】
【切原赤也@テニスの王子様】
[状態]:天使状態 、固い決意、『黒の章』を見たため精神的に不安定、
[装備]:越前リョーマのラケット@テニスの王子様、燐火円礫刀@幽☆遊☆白書、月島狩人の犬@未来日記、真田弦一郎の帽子
[道具]:基本支給品一式、バールのようなもの、弓矢@バトル・ロワイアル、矢×数本
基本行動方針:あいつらを倒す
1:他の参加者と協力してあの日々を取り戻す。
[備考]:天使化しました。余程の事が無い限り再び悪魔に戻ることはないでしょう。
※ホテルを支える柱に損傷が入りました。強い衝撃を加えると崩壊する可能性があります。
409
:
限りなく純粋に近いワインレッド
◆JEMTQAOagI
:2013/08/25(日) 01:43:21 ID:wxirbof6
――あなたはそこにいますか?――
「居る訳ねぇだろバァーカッ!!ハハハハハハハハハハ!!」
都合よく天使化など起きるはずもない。
それこそ甘い妄想であり現実逃避の他ならない。
今まで見てきた光景はもしも、所詮もしもの世界。
それも都合のいい事象だけを取り揃えた甘すぎて反吐が出る程の偽善。
人の生命はそこまで軽くない。
◆
410
:
限りなく純粋に近いワインレッド
◆JEMTQAOagI
:2013/08/25(日) 01:43:48 ID:wxirbof6
差し込む太陽光と入り込む風。
死者を弔うように?何を言っている。
こんなの死体を腐らせる要因になるだけであり寧ろ悪化するだけ。
協力して?
こんな残虐な行為をする奴等と協力出来る筈もなく夢物語。
出来たとしても疑心暗鬼の腹の探り合いを繰り広げるだけ。
何時かは壊れてしまい惨劇に繋がるだけ。
真田副部長が教えてくれた――
「死体が喋る訳ねぇだろォ!!俺はそこまでイカれてないからなァ!!」
悪魔は悪魔らしく行動すればいい。
「全員殺して元通りのハッピーエンドォ!!いいよなァ!!最高だよなァ!!」
もう止まらない。止められない。
大切な存在の消失は中学生には重すぎた――。
411
:
限りなく純粋に近いワインレッド
◆JEMTQAOagI
:2013/08/25(日) 01:44:05 ID:wxirbof6
【C-6/ホテル前/一日目・昼間】
【切原赤也@テニスの王子様】
[状態]:悪魔化状態 、強い決意、『黒の章』を見たため精神的に不安定、ただし殺人に対する躊躇はなし
[装備]:越前リョーマのラケット@テニスの王子様、燐火円礫刀@幽☆遊☆白書、月島狩人の犬@未来日記、真田弦一郎の帽子
[道具]:基本支給品一式、バールのようなもの、弓矢@バトル・ロワイアル、矢×数本
基本行動方針:知り合い以外の人間を殺し、最後に笑うのは自分
1:全員殺して願いを叶える
[備考]:余程のことがない限り元に戻ることはありません。
※ホテルを支える柱に損傷が入りました。強い衝撃を加えると崩壊する可能性があります。
412
:
◆JEMTQAOagI
:2013/08/25(日) 01:45:34 ID:wxirbof6
以上で終了です。
やはり支援なしでは厳しいですw…すいませんが本スレに何方か続きの代理をお願いします
413
:
◆j1I31zelYA
:2013/09/20(金) 00:30:43 ID:UheuCCTw
さるさんがかかりましたので、こちらに続き投下します
414
:
四人の距離の概算
◆j1I31zelYA
:2013/09/20(金) 00:31:11 ID:UheuCCTw
何もできずに少年を見送り、佐野の死体の前でしばらくぼんやりとしていた。
やがて、少年のそばにいた飼育日記の犬が引き返してきた。
やはりあの赤い悪魔と行動を共にするのは、野生動物として身の危険を覚えるところがあったのだろうか。
しばらく無力な動物同士でぼんやりと慰めあいをしていたのだが、やがて犬の方が地面の臭いを嗅ぎはじめた。
ふんふんと地面に鼻を近づけて、どこかへと移動を始める。
それを見て、テンコとしてもピンとくるものがあった。
七原や黒子たちの死体はない。
もしやこの犬は、この場にいた生き残りの痕跡をたどっているのではないか。
思いついたテンコは、ぴょこんと犬の背に乗った。
もっと冷静に考えれば、途中であの悪魔や宗谷ヒデヨシと出くわしてしまう可能性もあったわけだが。
よほど訓練されているのか狩猟犬の走る速度はすさまじく、あっという間に海洋研究所に着いてしまった。
しかし、幸運もここで途切れる。
人間の建造した研究所をさまよううちに、一匹の“悪魔”と遭遇してしまったのだ。
「かぁぁぁいいぃぃぃよおぉぉぉぉ!」
そんな奇声をあげてとびかかってくる、茶色い髪の悪魔と。
ふたりの少女は、七原に肉じゃがの“味見”をしてもらおうと、それだけの思いつきで廊下を引き返していた。
重たい会話もひと段落し、やっと和気あいあいとし始めていたのが良くなかった。
いや、それはもしかしたら竜宮レナが本調子を取り戻すための空元気だったのかもしれない。
しかし抱きつかれる側にとっては、降ってわいた災厄だった。
ともかくも、ゲーム開始時点からの同行者である白井黒子に合流できたのである。
彼はごく当たり前に、再会を喜んだ。
しかし、
「なんだよ、それ」
それが双方にとっても喜ばしかったかは、また別の話だった。
◆
なんだよ、それ。
それが、船見結衣の開口一番。
そして、さらに言った。
「あかりは……仲間に殺されたってこと?」
あえぐように吐き出した。
そうさせているのは、七原たちも知りえなかった新たなる真実。
宗屋ヒデヨシが、赤座あかりを殺した。
一部始終を見ていたテンコも、半信半疑のままに告げたこと。
ソファに座ってテンコを囲んだ一同は、それを聞いて絶句した。
415
:
四人の距離の概算
◆j1I31zelYA
:2013/09/20(金) 00:31:53 ID:UheuCCTw
それでも七原は、さほど驚かない。
あのヒデヨシならば、ありえたかもとさえ考える。
狂ったと見てもおかしくないような悲鳴をあげて、逃げ去るところを見たのだから。
腑に落ちないとすれば、あの集団で誰よりも無害だった赤座あかりに殺意を向けたことだろうか。
――わかる必要なんかないぞ。
それは、川田から最初に教わったことだった。
すっかり理解することなんてできないのだから、割り切っていくしかない。
「お前が」
でも、そうではない人種もいる。
身内同士で裏切り合うなんて考えられない、幸せな世界に浸かりきっていた少女が。
七原を見すえて、声を絞りだした。
「お前が連れてきた仲間が、あかりを殺したの?」
理不尽に対するやり場のない怒りは、どうしたって七原に向く。
それはそうだろう。
結衣の視点で七原を見ていれば、仲間ときちんと信頼関係を築ける人間かどうかは疑わしい。
しかも結衣自身が、七原の言葉が遠因となって殺し合いに乗りかけたばかりだった。
「仲間が、どうして裏切ったの?
どうして、裏切らせたりしたんだよ。
お前がそんなだから、さっきの私みたいにそいつがキレたんじゃ――」
「結衣ちゃん、やめ――」
「違います。責任は私にありますの」
怒りだけではない。
不信だとか悲しみだとか混乱だとかがないまぜになった、引き裂かれそうな顔が糾弾する。
遮ったのは、白井黒子の振り絞るような声だった。
黒子とて、七原に落ち度はないと断言できるほどの信頼を築けてはいない。
しかし、守れなかった赤座あかりのことで誰かが糾弾を受けているのに沈黙できるほど、彼女の責任感は弱くなかった。
「私があの時、宗屋さんへの対応を間違えたことがそもそもの原因でした。
それに、桐山さんを犠牲にしたりしなければ宗谷さんだって……」
しかし、そこから先のことに対して黒子は言葉を詰まらせる。
桐山の犠牲を否定すること。
それは、『ならばどうしていれば良かったのか』を自問することと近い。
桐山がロベルトを撃とうとしたのを、止めなければ良かったのか。
それとも、赤座あかりの保護を宗谷ヒデヨシに任せたところがまず間違いだったのか。
目覚めたばかりの黒子は、その慚愧に対して答える準備などできていない。
「私が……赤座さんを守らなければならなかったのに」
だから、そんな言葉で悔いることしかできない。
その言葉に対して、結衣もまた顔をゆがめた。
「やめてよ……あかりを守らなきゃいけなかったのは、私だって――」
「あのな、やめてくれないか。そういうの」
語り終えた生き物が、おずおずと彼女らを止めた。
テンコは、四人の間にある距離のことを何も知らない。
放送を聞いた後の船見結衣の憔悴や、七原との争いを見ていない。
416
:
四人の距離の概算
◆j1I31zelYA
:2013/09/20(金) 00:33:50 ID:UheuCCTw
「あかりを理由にして諍いを起こすのは、止めてくれねぇか」
しかし、赤座あかりの死に際は見ていた。
だから、七原秋也と白井黒子の二人を見上げて、二人に向かって話した。
「あかりは、佐野だけじゃなくてお前らも助けたんだ。
あかりが佐野を説得しなかったら、佐野はクロコたちを助けに行かなかったんだからな。
だから、自分だけ生き残っちまったなんて思わないでやってくれ」
テンコは参加者ではないし、さらに言えば大人というわけでもない。
人間年齢で換算すれば十代前半よりは上かもしれないが、それでも天界獣の年齢で言えば子どもにあたる。
だから気のきいた言葉を思いつかないという意味では、七原たちと変わりない。
ただ、事実を語るだけだ。
「アイツは誰のせいで自分が死んだとか、残された連中にどう動いてほしいとか。
そんなことはちっとも考えてなかったはずだぞ。
何にも恨み言を言ってなかった。ただ、みんなに助かってほしかった。そんだけだったぞ」
真実は事実としてそこにあり、真実でしかないからこそ否定しようがない。
伝えられた船見結衣の、呼吸がとまる。
瞳に、みるみると透明な雫がせりあがってきた。
透明なものがいっぱいになって、瞳が揺れる。
まるで早回しの映像を見ているように、たたえられた雫がまぶたの許容を越えるのはすぐのことだった。
決壊した。
「――っ…………ぅっ……ひぅっ…………ぇっ…………」
理不尽への怒りも。
守れなかったという慚愧も。
原因を追究しようとする、憎悪も。
そんなことを言われたら、棚上げにするしかなかった。
赤座あかりが最期まで赤座あかりだったという真実は、船見結衣からすべてを追い払うのに十分すぎた。
「…………そう、でしたの」
そんな納得の言葉を呟いて、黒子もじわりと涙をにじませる。
しかし船見結衣のいる手前だからか、決壊だけは堪えていた。
嗚咽の音が続いていく室内で、誰もがそれ以上の言葉を発しない。
そんな光景を、七原は見ていた。
ちょっと辛いな、と思った。
知ってしまったことが辛かったのではない。
真実を知った中で、自分の存在がなんとなく場違いに思えた。
優しい真実を知ったぐらいで涙をこぼすようなら、恋人の死を知った時にもっと泣いている。
417
:
四人の距離の概算
◆j1I31zelYA
:2013/09/20(金) 00:34:34 ID:UheuCCTw
伝えられたからといって、そのしあわせギフトが届いたかどうかはまた別の話だった。
船見結衣には届いたのかもしれない。白井黒子にも届いているかもしれない。
しかし、七原秋也が『届きました』と言えるはずがなかった。
命を救ってもらった感謝はあるけれど、それとこれとは別の話だ。
それこそ、さっきのゼロで割るような難題と同じ。
あくまで偶然と幸運が生み出した特殊なケースに過ぎないと断言できるし、同じことを誰かがやろうとすれば止めるだろう。
どうしたものかと視線を投げた時。
たまたま竜宮レナと、目が合った。
この場で口をはさんでも野暮だと、そんな見解だけは共通だったらしい。
言いたいことがあれば聞くよと、小首をかしげたまなざしが問いかけている。
これなら席を外しても大丈夫かと、七原は立ち上がった。
泣きじゃくる結衣とぼんやりした黒子が、目線だけで見上げてくる。
何度めかの失敗で学習していた七原は、さすがに慎重に言葉を選んだ。
「ちょっくら席を外すよ。飯の様子でも見てくる。
アンタは赤座あかりの友達だし、白井は赤座さんと長く一緒にいた人だし。
だから…………テンコのことは、“任せる”さ」
レナが『合格』と言うように微笑んで、七原に続くように席を立った。
◆
届かなくとも、否定できないことはある。
七原秋也がどうにか死なずにすんでいるのは、赤座あかりのおかげだということだ。
だからやるべきことは続けるし、続けようという決意だって固くなる。
『以上が、首輪について分かってることだ。
断定はできないから、今はまだ口外しないでほしい』
調理室のテーブルとイスを使って、七原は筆談によるあらかたの伝達を終えた。
対面に座る竜宮レナが、自分に配られた紙と鉛筆を使ってカリカリと書きつづる。
『分かったよ。でもどうして、今、私に?』
『いや、オレが死んだ時のことも考えてな。もちろん、簡単に死んでやるつもりはないぜ?』
ちなみに調べた首輪の入手先については、一対一の筆談という情報量の制限される状況を利用して適当にごまかし……もとい、押し通している。
筆談でなければ、こうはいかなかっただろう。
ごまかすと言えば、この情報交換にしてもそうだ。
いまだ信頼関係を築いたとは言えない竜宮レナにここまで打ち明けることは、本来ならばリターンよりリスクが上回る。
しかし多くの知り合いが死んでしまった今となっては、己の身に何かあった時のことも考えておく必要がでてきた。
さらに言えば、竜宮レナならば『船見結衣の暴走を見逃してもらった』という『借り』を抱えている。
その分だけ、空気を読んでヘタな漏えいはしないだろうという打算があってのことだった。
『テレポートについては知らない部分も多いから、飯の後にでも白井から見解を聞きたい。
問題は、テレポートでどうこうできる首輪なら、そもそも白井を参加させるはずがないってことだな』
更に言えば、首輪をどうこうする段階で白井黒子の協力が必要になる可能性もある。
傷心中である少女たちに向かって首輪がどうだ能力がどうだと事務的な会話をしかけても、船見結衣の時のように冷たいと映るだろう。
あらかじめ女子組の一人にでも話を通しておけばスムーズにことが運ぶだろうという『根回し』こそが、この打ち明け話の最大の目的だった。
418
:
四人の距離の概算
◆j1I31zelYA
:2013/09/20(金) 00:35:16 ID:UheuCCTw
『白井が自分の能力で首輪を外そうとしない理由は分かる。
たとえ自分の首輪が外れても、主催者が『ルール違反者に罰を』とか言い出してお友達の首輪を爆破したりしたら……って考えればな。
けど、主催者にとってはそうじゃないだろう。たとえば、白井が最後の二人まで残ったりすれば、右手と左手で2人の首輪を外して終われるんだ。
ゲームにこだわる主催者が、そんな能力に対策を講じないはずがない』
『そうでも無いと思うよ?』
楽観論じみた書き込みが、七原の筆談を中断させた。
真剣そうな顔つきで、竜宮レナはさらに書き綴る。
『七原君……首輪をつける目的って、なんだと思う?』
考えるまでもない。
初めて銀色の首輪をつけられた時に感じた屈辱感、焦り、あがき。
その経験が、さらさらと答えを書かせる。
『命を握るための道具。反抗する意思をくだくための脅し道具。逃亡を防ぐための装置。オレたちに境遇を分かりやすく思い知らせるシンボル。こんなとこか?』
『うん、私もそうだと思う。でもね』
レナもまた、さらさらと反証を書いた。
『私たちには、どこに攻め入ればいいのかも、どこに逃げたらいいのかも、分からないよね?』
あ、と吐息が漏れる。
なまじ“経験”があったからこその盲点だった。
“プログラム”では、坂持金髪ら政府の人間の立て籠もっている場所が、島の中央の分校だと最初から分かっていた。
“プログラム”では、日本のどの地方のどの島が会場に使われているかが、おおよそ察知できていた。
“あそこさえ襲撃すれば”、あるいは“捕捉されずに海にさえ出てしまえば”という指標があった。
しかし、今回のゲームにはそれがない。
襲撃される恐れがないからこそ、主催者は観客席に座った気分で悠々とくつろいでいられる。
――なるほどな。
内心だけで感嘆し、七原は結論を書いた。
『確かに、首輪を外せたってオレたちにはなすスベがない。
最後の数人になったタイミングで首輪が外れたって、携帯電話で指示を出すなり、空から爆撃を加えるなりして、オレたちをいくらでも脅せる。
しかし逆に言えば、首輪の攻略はそこまで難しく考えなくてもいいかもしれない』
『むしろ、場所の情報が集まるまでは首輪を外さない方がいいぐらいかもしれないね。
首輪がなくなったら、次はどんな手段で脅してくるか分からないよ』
楽観論じゃなく、黒子ちゃんの能力でも通用するかもしれないよと書き結んで。
レナはぐっとのびをした。
「うん、そろそろ結衣ちゃんたちも落ち着いてるころだし、ご飯にしようか」
「そうだな……もともと、腹が減ったって話からこうなったんだし」
419
:
四人の距離の概算
◆j1I31zelYA
:2013/09/20(金) 00:35:58 ID:UheuCCTw
例えば、手段は限られるだろうが、どうにかしてブラックボックスの爆破装置を確認したとする。
生き残った反主催派を一箇所に集めて、白井の手に十数個の小さな絶縁体を持たせる。
白井のテレポートが破壊にも転用できることは、ロベルト戦で確認している。
手に持たせた物質をピンポイントでいっせいに転移させて、爆破機能『だけ』を破壊する。
問題は……今の黒子の精神状態で、そんな細かい精度の能力が使えるかどうかということだが。
――そんな首輪解除は、さすがに安直だろうかと苦笑して、
「七原くん」
肉じゃがの鍋を再加熱しながら、レナは振り向いて言った。
「結衣ちゃん、がんばって肉じゃがを作ってくれたんだよ。
“みんな”に食べさせるために」
ふんわりと、微笑んでいた。
鍋から、やわらかな独特の臭いが香りはじめた。
「ああ、そりゃ楽しみだな」
これは、打算ぬきの言葉だった。
理想論者だってリアリストだって、空腹には勝てないし食欲はわく。
そう言ったのが聞こえたように、調理室のドアが開いた。
「あの……七原、さん」
もじもじと、船見結衣が立っていた。
何度も大泣きしたせいで、目が赤くなるのを通り越して腫れぼったくなっていた。
それでも、視線はレナではなく七原に向いていた。
「いろいろと言って、ごめんなさい」
頭をさげた。
ぼそぼそした口調で、謝罪した。
ぶっきらぼうにも見えたけれど、気まずそうなもじもじとした態度からは、しっかりと罪悪感がこもっていた。
だから七原も、内心ではやれやれと呟きながら、それでも明るく返答していた。
「気にしちゃいないよ」
【D−4/海洋研究所前/一日目・日中】
420
:
四人の距離の概算
◆j1I31zelYA
:2013/09/20(金) 00:37:49 ID:UheuCCTw
【七原秋也@バトルロワイアル】
[状態]:健康 、疲労(小)、頬に傷
[装備]:スモークグレネード×2、レミントンM31RS@バトルロワイアル、グロック29(残弾9)
[道具]:基本支給品一式 、二人引き鋸@現実、園崎詩音の首輪、首輪に関する考察メモ
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1:今はとりあえず、飯を楽しみにする
2:食べ終わったら、白井も含めて話す。白井の能力についても確認したい。
3:首輪の内部構造を調べるため、病院に行ってみる?
4:……こういうのも悪くはないか
【船見結衣@ゆるゆり】
[状態]:健康
[装備]:The wacther@未来日記、ワルサーP99(残弾11)、森あいの眼鏡@うえきの法則
[道具]:基本支給品一式×2、裏浦島の釣り竿@幽☆遊☆白書、眠れる果実@うえきの法則、奇美団子(残り2個)、森あいの眼鏡(残り98個)@うえきの法則不明支給品(0〜1)
基本行動方針:レナ(たち?)と一緒に、この殺し合いを打破する。
1:ごめんなさい……
2:とりあえず、ご飯を用意する
[備考]
『The wachter』と契約しました。
【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康
[装備]:穴掘り用シャベル@テニスの王子様、森あいの眼鏡@うえきの法則
[道具]:基本支給品一式、奇美団子(残り2個)、不明支給品(0〜1)
基本行動方針:正しいと思えることをしたい。 みんなを信じたい。
1:結衣ちゃんと一緒に行動する
2:まずはご飯にしよう
[備考]
※少なくても祭囃し編終了後からの参戦です
【白井黒子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:気絶、精神疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式 、正義日記@未来日記、不明支給品0〜1(少なくとも鉄釘状の道具ではない)、テンコ@うえきの法則、月島狩人の犬@未来日記
基本行動方針:正義を貫き、殺し合いを止める
1:赤座さん……。
2:私は、間違えた……?
3:初春との合流。お姉様は機会があれば……そう思っていた。
[備考]
天界および植木たちの情報を、『テンコの参戦時期(15巻時点)の範囲で』聞きました。
第二回放送の内容を聞き逃しました。
ーーーー
投下終了です。
毎度のことですが、代理してくださる方いましたらお願いします
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