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仮投下スレ
320
:
子どもたちは毒と遊ぶ
◆j1I31zelYA
:2013/05/31(金) 00:23:59 ID:fdA0wjM2
口もとを手でおさえて、顔面を蒼白にしたのは――御手洗清志。
色をうしなって彫像のようになった顔を、だらだらと大量の汗が流れ、滑りおちてゆく。
それを目の当たりにして、四人の少女全員が尋常ならざる事態を感じ取った。
「ど、どうして――?」
アスカが、本当に『心の底からの』疑問を口に出す。
「どうしたの! 病気の発作? それとも、何かの異物でも……」
御坂美琴が顔色を変える。
「ま、まさか毒が入ってたんじゃ!」
吉川ちなつが、己の注いだ湯のみを見下ろす。
「『違う』っ! そんなはずが――」
それに対して、アスカはつい『本音』を口走り、ちっと舌打ちする。
相馬光子は、ただただ目を丸くしている。
御手洗はそれら一切の問いかけに答えることもできず、かっと目を見開いていた。
誰もが、その手で強くふさがれた口からの吐血という最悪の想像をした刹那。
乱暴に、椅子が蹴倒すように転がされた。
苦しみのあまりたたらを踏むように、よろよろと席を立ち。
「ぐほおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
毒を盛られた人間ならば『絶対にありえない』ような。
まるで『ものすごく刺激的な味のする飲料水』を口にしてしまったかのような絶叫をあげて、御手洗は、給湯室の蛇口へと全力で突進していた。
◆
告白すると、アスカはお茶ではなく食べ物の方に毒を持った。
さきの死体を見た後では誰も食欲が湧かないことは予想できたし、そうなれば食事をするのは時間差をおいてからになるだろうと、見越してのことだ。
情報交換やらデパートで起こった様々の事柄から、美琴らは栄養補給する機会を逃している。
しばらくデパートを離れてから正午にでもなれば、再び食事を勧める機会はあるだろう。
デパートを出発するのはアスカ、美琴、ちなつのたった3人なのだから、御坂美琴を狙って毒殺できる成功率はぐっと高くなる。
ちょっとちなつの注意をそらすなどして、先に美琴に口をつけさせてしまえば、それで終わり。
あとは一般人のちなつだけ、それも美琴が倒れて動転しているところをつけば、容易に2人を仕留めることができる。
その後デパートに引き返し、2人は襲撃に遭って殺されたと光子たちをごまかせばいい。
光子らはアスカを疑うかもしれないが、光子も元より少なからず美琴を警戒しているうえに、それなりの協力関係は成立している。
光子たちを同盟相手として利用することはできると見こんでいた。
だから、何もしていないお茶を飲んで、しかも御手洗清志が倒れたことで、一番に驚いたのはアスカだった。
しかし、その原因を理解するや憤激する。
321
:
子どもたちは毒と遊ぶ
◆j1I31zelYA
:2013/05/31(金) 00:25:17 ID:fdA0wjM2
あまりにもくだらない、原因に。
「うぅ……」
「ずいぶんと衰弱してる……よっぽど酷い飲み物だったのね」
「ごめんなさい……私が、ちゃんと管理してなかったから」
「吉川さんのせいじゃないわ。主催者が悪趣味なせいよ」
「私と御手洗君はデパートに残る予定だったけど……この体調じゃ、どのみち動くのは無理そうね」
しばらく前に気絶から目覚めたばかりだった御手洗清志は、またもといたベッドの上で寝込んでいた。
顔は蒼白から土気色へと変わり、病人のようにうんうんと唸り続けている。
事情を知らない人間が見れば、たった一口の飲料水を飲んだだけで、この重篤な症状が引き起こされたとはとても思えないだろう。
吉川ちなつに支給された支給品。
『乾汁』と題されたシリーズのひとつ、イワシ水。
ぱっとみは無色透明な水の入った、ただのペットボトル。
よくよく調べてみれば、それが『水』ではなく、『イワシの体液、そして余計な隠し味的な何かの混入物』だと分かる。
DHAと、DHAと、それから親の仇のように搾り取られたイワシのDHAがふんだんに含まれる、とても刺激的な健康ドリンク。
それが、くだんの『飲料水』の名前だった。
一般に、軟水の日本産ミネラルウォーターは日本茶に向くとされている。
だからちなつは、茶葉を売り場から持ってくるついでに、ペットボトルのミネラルウォーター(500ml)もいくつかディパックに放り込んでおいた。
ここでアクシデントが発生する。
ディパックの中にいれて運ぶうちに、元から入っていた支給品のペットボトル――乾汁セットA、という名前でひとまとめにされていた500mlのボトル3本――と混ざり合ってしまった。
普通なら市販の水と混ざっていたところで見間違えようのない『乾汁シリーズ』だけれど、イワシ水に限ってはそうではない。
複数ある『乾汁シリーズ』の中でもイワシ水の悪辣なところは、よく観察しなければただの真水にしか見えないということだ。
たいてい毒々しい原色をしていたり、ふたを開けてみるだけで刺激臭を感じたりすることの多い同シリーズだが、このイワシ水はミネラルウォーターと間違われて誤飲する危険が起こり得る。
加えて、『乾汁セットA』は誰かの自作したドリンクらしく、市販のラベルが付いたままのペットボトル容器に密封されていた。
ぱっと見には、市販の軟水と見分けがつかない状態だった。
偶然に起こってしまった取り違い。
しかしその真相を究明して、憔悴して倒れた御手洗を見て、美琴は考え、決断をした。
『栄養ドリンク』として支給された飲み物にこんな恐ろしい作用があった。
『ランダム支給品』として配られた飲食品は口にしない方がいい、と。
「だから、これも手をつけないようにしましょう」
(ちょっと……!)
声に出して止めさせたい衝動を、ぐっとこらえる。
捨ててはならないと主張する理由が考えつかない以上、ここで反対するのは不自然だった。
内心で歯噛みするアスカをよそに。
青酸カリを混入した弁当箱は、ぽいっと給湯室の隅っこに追いやられた。
御坂美琴を毒殺しようという企みが、実行する前におじゃんになった。
322
:
子どもたちは毒と遊ぶ
◆j1I31zelYA
:2013/05/31(金) 00:25:52 ID:fdA0wjM2
(こいつが……余計なことしたせいで……!)
どんな使徒に対して感じたよりも強い敵意を、何も知らずに落ち込んでいる吉川ちなつに対して抱く。
そんな苛立ちなど露知らず、ちなつは女子力を見せようとして盛大に失敗したことを落ち込んでいるようだった。
美琴も申し訳なさそうに、相馬光子へと手をあわせる。
「ごめんね、相馬さん。一人で看病をお願いすることになっちゃって……」
「大丈夫よ、御手洗くんが危ない人じゃないって分かったもの」
結局。
アスカのはかりごとが台無しになっただけで、一同の計画には何も変更なかった。
再び倒れた御手洗を光子と置いていくことには不安もあったけれど、かといって御手洗を動かせそうにもない。
そもそも毒物を飲んでしまったならともかく、とてつもなく不味い飲み物を飲んだからといって病院に連れて行ってもどうしようもない。
「じゃあ、やることが失敗しても成功してもここに戻ってくるから、留守番をお願いするわ。絶対に3人そろって帰ってくるからね」
「ええ、私も」
苛立ちを顔に出すまいと、両手をぶるぶると握りしめる。
まだだ。
これから、美琴とちなつと3人で移動することになるのだから。
状況は、何も悪くなっていない。チャンスはまだある。
◆
「…………その、すまない」
「拍子抜けしたけど……まぁ、いいわ。あんなの予想できないものね。それより、体調はどう?」
「まだ気持ち悪いかな……でも、もう動けるよ。すぐにでも出発できる」
「あら、回復が早いのね。さっきはあんなに顔色が悪そうだったのに」
「さすがに次の放送まで寝たままやり過ごすようじゃ、無能呼ばわりされても仕方ないからね」
気まり悪げに視線をそらしつつ、御手洗はむくりと半身を起こした。
「それより、光子こそあいつらを見逃して良かったのか?
確かに僕が倒れたのは痛かったけど、逆に言えばあいつらだって油断してたんだ。
不意を打つことだって不可能じゃなかった」
「放っておいても壊れそうだったから、敢えて手を出さなくてもいいと思ったのよ。
あの様子だと、アスカさんはまた別の手で御坂さんの背中を狙うはずよ」
わざわざ、リスクをおかして美琴を殺そうとしてくれる人がいるのだ。
黙って見守らない手はなかった。
毒を入れる現場を見なかったことにしたのも、そういう理由からだった。
……ただ、アスカが毒を混入しなかったからと油断して、お茶に口をつけたのは完全なミスだったけれど。
御手洗が倒れた以上、光子らが手を下すのはリスクが上回った。
323
:
子どもたちは毒と遊ぶ
◆j1I31zelYA
:2013/05/31(金) 00:27:03 ID:fdA0wjM2
「その女ひとりに任せて大丈夫なのか? ただの一般人なんだろ」
「問題は戦力じゃないわ。集団の中に、火種が紛れ込んでるってことよ。
例えば、殺し合いに乗った強い人たちとつぶし合いをしてくれるかもしれない。
御手洗くんだって例の『赤い悪魔』がまた襲ってきたら、倒せる自信はないんでしょう?」
からかうように悪戯っぽく笑いかけると、ますます拗ねたようにむっとする。
「そりゃあ……僕もアイツとは、もう二度と会いたくないし、倒してくれるならその方がいいけどさ」
拗ねても、『悪魔』への恐怖を正直に認めてしまうあたり、御手洗はやはり『いい人』だと思う。
「それに、あの3人は今でも、あたしたちを殺し合いに乗ってないと勘違いしてる。
だからほかの人たちにも、あたしたちが安全な人物だって伝えてくれるはずよ。その方が有利になるわ」
デパートに残るとは言ったが、光子らは言いつけどおりに籠城するつもりなどかけらもなかった。
御手洗清志という『牙』を使って最後の一人を目指すためにも。
そして御手洗の『人間を殺す』という望みを満足させてやるためにも、獲物を探しに行かなければならない。
「情報をつかまされた奴らが、油断してるところを殺すってわけか。ずいぶん姑息に立ち回るじゃないか」
「あら、あなたはそこに惚れたんじゃなかったかしら?」。
小首をかしげ、御手洗を見上げるようにする。
そっと、少年の鼻先が髪に触れるかどうかまで顔を寄せた。
御手洗は狂おしげに、深く重たい息を吐いた。
「まったく、お前はずるいヤツだよ」
「ふふ、ありがとう」
甘えるように、少年の肩に頭をもたれさせつつ、光子は冷静に思索を練る。
さて、これからどこに行こう。
御手洗はロベルトという少年と学校で待ち合わせているらしいけれど、あまり気乗りがしない。
聞いたところでは、ロベルトという参加者はとにかく『人間』に対して容赦しないらしい。
相馬光子という一般人の少女を殺さず連れ歩いているのを見れば、絶対に良い顔はしないだろう。
「これから、どうする?」
「そうねぇ――」
【F-5/デパート/一日目・昼】
【相馬光子@バトル・ロワイアル】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、、乾汁セットA(甲羅、シンジャエール、イワシ水)、おにぎり(毒入り)のお弁当箱@テニスの王子様、不明支給品×0〜1(武器じゃない)
基本行動方針:どんな手を使っても生き残る。
1:学校に向かうか、別方向に向かうか……。
2:御手洗清志に奉仕し、利用する。
324
:
子どもたちは毒と遊ぶ
◆j1I31zelYA
:2013/05/31(金) 00:27:44 ID:fdA0wjM2
【御手洗清志@幽遊白書】
[状態]:全身打撲(手当済み)、まだ少し気持ち悪い
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(ペットボトル全て消費)、ブーメラン@バトルロワイアル、ラムレーズンのアイス@ゆるゆり、鉄矢20本@とある科学の超電磁砲、水(ポリタンク3個分)@現地調達
基本行動方針:人間を皆殺し。『神の力』はあまり信用していないが、手に入ればその力で人を滅ぼす。
1:相馬光子と共に参加者を狩り、相馬光子を守る。そして最後に相馬光子を殺す。
2:ロベルトと中学校で待ち合わせ?
3:皆殺し。ただしロベルト・ハイドンと佐野清一郎は後回しにする。
4:あかいあくま怖い……。
[備考]
※参戦時期は、桑原に会いに行く直前です。
※ロベルトから植木、佐野のことを簡単に聞きました。
◆
――もし、この飲み物に×がはいっていたら。
吉川ちなつにとってのきっかけは、そんなたわいもない想像だった。
別に、本当にそれが混入されたと疑ったわけではない、はずだ。
そんなことが起こるとしたら、ヤカンから目を離したすきに、4人の中の誰かが犯行をしたことになるのだから。
いくら一度は殺されかけたとはいえ、現在進行形で運命を共にしているグループから疑心を抱くほど、ちなつも猜疑心が深くはない。
ただ、ちょっと怖くなっただけ。
たとえば、怖い怖いホラー映画を見た日に、オバケなんていないと頭では分かっていても夜中のトイレに行くことを怖がるような。
あるいは、親の手伝いをしたがる子どもが、たとえ手伝わなくとも親の労力が変わらないような些末な仕事さえ、とにかく自分でやってみたがるような。
そういう、『ないだろうけど、もしあったら怖いもの』に対する、自分自身にも説明のできない予防線だった。
御坂美琴を、守りたい。
誰から守るのか、何から守るのか。
その答えは、すぐそこに提示されていた。
園崎魅音らをあんな姿に変えてしまうような、『あれ』を生み出す連中から守る。
『あれ』から、御坂先輩を守らなければいけない。
『あれ』を生みだすモノと、戦わなければいけない。
正直なところ、敵う自信などなかった。
人より意思の強さと固さに自負はあるけれど、惨たらしい『あれ』の凶悪さに比肩できる何かが己にあるかというと、とても心もとない。
325
:
子どもたちは毒と遊ぶ
◆j1I31zelYA
:2013/05/31(金) 00:28:26 ID:fdA0wjM2
そもそも、御坂美琴は吉川ちなつよりずっと戦う力がある。
戦うとかの次元で『守る』を考えても役立たないかもしれない。
これが映画なら、か弱いお姫様でも、いざという時は王子様をつき飛ばして悪漢の刃からかばったり活躍するのだろうけど。
守りたい王子様は、背後からナイフで襲い掛かっても、余裕で察知して防いでしまうような人だった。
じゃあ、そんな彼女の命が危なくなるのは、どんな時だろうと。
そこで思いついたのが、『毒殺』だっただけ。
美琴の前にお茶を置いたあの瞬間に、ふっと閃きが落ちてきただけ。
お茶を飲もうとした美琴に話しかけて、注意を引いた。
美琴より先に、ほかの誰かがお茶を飲むのを待った。
もう少し、もう少しと、そんな目であの集団を見ていた。
別に、美琴のために他の人間を犠牲にしても良かったかったわけじゃない。そこは強調したい。
とっさに湧きだした妄想じみた恐怖が、そんなアドリブを選ばせたのだ。
もし現実的に『毒が入っている可能性が……』とか考えていたら当然、お茶を飲むことを止めさせただろう。
それでも、否定できないことはある。
ちなつには確固とした『優先順位』があるということ。
そしてそれは、本質的な意味では、御坂美琴でも、船見結衣でもない。
結衣先輩のことは、いちばんに大好きだった。
でも、ちなつがいちばん好きなことは、結衣先輩と一緒にいることじゃない。
(わたし……本当は、ごらく部のみんなといるのがいちばん…………好き、だから)
危ない場所に結衣先輩がいるだけでは、ここまで不安になったりしないだろう。
いくら一般中学生とはいえ、ちなつは、船見結衣のことを『それって人間なの!?』と赤座あかりから突っ込まれるぐらいの完璧超人として美化している。
『自分よりもずっとしっかりしているはず』ぐらいには、安心していた。
ただ、ごらく部の『みんな』が揃ってここにいるとなると、『みんな』の分だけ不安の総量だって膨らんでしまう。
つまりは、そういうことだ。
「美琴先輩っ。やっぱりお嬢様学校だと、真夜中のお茶会があったりとか――」
「ないないっ。いくらなんでもそこまで漫画みたいなのはないわよ……あー、でも、少女漫画みたいな呼び方をする後輩ならいたわね……引いちゃうようなのが」
御坂美琴と、他愛ない会話をする。
これも楽しいし、不安はやわらぐ。
これは、これでいい。
無垢にふるまうのは、乙女のつとめだから。
でも、気を抜いてはいけないことがある。
326
:
子どもたちは毒と遊ぶ
◆j1I31zelYA
:2013/05/31(金) 00:29:02 ID:fdA0wjM2
――ま、まさか毒が入ってたんじゃ!
ちょっと、失言すぎた。
『もう少し』という目で見てしまったから、あんな言葉が出た。
いくらなんでも、おおげさで不自然すぎる発言。
これが推理漫画で、本当に毒殺事件だったなら、あんなことを口走ったちなつは真っ先に疑われてしまっただろう。
でも、もっともっと不自然なことを言った人がいた。
――ど、どうして――?
――『違う』っ。そんなはずが
そんなはずが、と言いかけて止めた、アスカ・ラングレー。
お茶に毒が入っているはずがない。
毒を仕込む人間なんているはずない、という意味にもとれる。
でも、引っかかった。
美琴は御手洗のことを心配するあまりにスルーしたけれど。
『そんなはずがない』なんて、まるで計画していた別のことが失敗したかののようだ。
(式波さんは……御坂さんと、2人きりになりたがってた……)
アスカと2人で会話した時に感じたこともまた、邪推を深くさせた。
最初は、ちなつを足手まといだと除きたがっているのかもなどと、むっとした。
しかし今になって思えば、あそこまでしつこく美琴以外の人間を排除するなんて、どうにも違和感がぬぐえない。
ちらりと、後ろを見る。
美琴とアスカが並んで、会話をして歩く少し後ろから、アスカがついてくる。
考えすぎかもしれない。
過敏になっているだけかもしれない。
それでも、アスカから目を離さないようにしていようと心に留めた。
【F-5/デパート付近/一日目・昼】
【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:健康
[装備]:風紀委員の救急箱@とある科学の超電磁砲
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0〜2、スタンガン、ゲームセンターのコイン×10@現地調達
基本行動方針:仲間と一緒に生きて帰る。人殺しはさせない。皆を守る。
1:病院に向かい、PC機器を探す
2:初春さんを探す。黒子はしばらくは大丈夫でしょ
3:越前リョーマ、綾波レイを警戒
【吉川ちなつ@ゆるゆり】
[状態]:健康
[装備]:釘バット@GTO
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0〜2
基本行動方針:皆と一緒に帰る。
1:御坂先輩と共に行動し、絶対に彼女を守る。
2:アスカさんから目を離さない
327
:
子どもたちは毒と遊ぶ
◆j1I31zelYA
:2013/05/31(金) 00:30:25 ID:fdA0wjM2
【式波・アスカ・ラングレー@エヴァンゲリオン新劇場版】
[状態]:左腕に亀裂骨折(処置済み)
[装備]:ナイフ、青酸カリ付き特殊警棒(青酸カリは残り少量)@バトルロワイアル、『天使メール』に関するメモ@GTO、トランシーバー(片方)@現実 、ブローニング・ハイパワー(残弾0、損壊)
[道具]:基本支給品一式×2、フレンダのツールナイフとテープ式導火線@とある科学の超電磁砲
基本行動方針:エヴァンゲリオンパイロットとして、どんな手を使っても生還する。他の連中は知らない
1:御坂美琴は、どうにかして排除したい。
2:他の参加者は信用しない。1人でもやっていける。
[備考]
参戦時期は、第7使徒との交戦以降、海洋研究施設に社会見学に行くより以前。
【乾汁セットA@テニスの王子様】
吉川ちなつに支給。
中身は甲羅(コーラ)とイワシ水とシンジャエール(各500ml)。
見た目で判断したり名前をさらっと聞いただけでは、普通の清涼飲料水やスカッシュだと誤解しやすいドリンクばかり入っているのが特徴だろうか。
ちなみに『シンジャエール』とは番外編にて登場した立海の柳蓮二との共同制作飲料であり、
あの真田ですら白目をむいて泣きながら『たまらんスカッシュだな……』と立ち往生するほどの逸品。
【おにぎりの差し入れ@テニスの王子様】
御坂美琴に支給。
竜崎桜乃が全国大会の準決勝直後に、青学部員に差し入れした大量のおにぎり。
味の感想はリョーマと金太郎で異なるが、その発言を総合するに少なくとも不味くはないらしい。
ーーーー
投下終了です
このたびは何度も破棄してキャラを拘束してしまい、すみませんでした
328
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/03(土) 12:52:47 ID:mQj8N/DM
放送案仮投下します
329
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/03(土) 12:54:18 ID:mQj8N/DM
『ゲーム開始からおよそ半日が経過した。
これより、二回目の定時放送を伝える。
まずは前回と同じく、この六時間で新たに死亡した者の名前を読み上げよう。
――相沢雅
――赤座あかり
――跡部景吾
――碇シンジ
――桐山和雄
――真田弦一郎
――佐野清一郎
――鈴原トウジ
――園崎魅音
――滝口優一郎
――月岡彰
――歳納京子
――中川典子
――前原圭一
――吉川のぼる
――ロベルト・ハイドン
以上、16名が舞台から退場した。
残った参加者は26名――もはや、殺し合いも折り返し地点まで到達したということだ。
ただひたすら生き残りたい一心か、あるいは叶えたい願いのためか。
およそ半数の犠牲者の上に生きながらえている諸君には、よく生き延びたと健闘を称えたい。
続いて、補足に移る。
生存者の中には、これほどまでに労苦を重ねて優勝する価値があるのかと、疲れを覚え出した者もいるかもしれない。
しかし、改めて保証しよう。優勝を果たした時、確かな報酬は支払われる。
この場に呼ばれた者の中には、不可能を可能にする奇跡を体験した者もいるだろう。
機会があれば、そういった者たちに尋ねてみることだ。
最後の一人にまで生き残った時に、君たちの願いは叶う。
失われた過去を、取り戻すことも。
『人間』になりたいという、望みでも。
逆に、人間を皆殺しにしたいという野望でも。
――たとえ、すでに亡き者の『蘇生』でさえも。
君は何を望むのか。
来たるべき時のために、よくよく考えておくといい』
◆
330
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/03(土) 12:55:29 ID:mQj8N/DM
ただの部屋だった。
広すぎず狭すぎず、客人をもてなす応接室というよりは、客人を待機させておく待合室に趣きが近い。
ただひとつ異質なのは、壁に飾られるようにしていくつも並ぶ、長方形のモニター映像だった。
何もない中空にずらりと浮かび、どうぞ好きなチャンネルを見てくださいと言わんばかりに、『殺し合い』の様々な景色を映し出している。
ソファに腰かけてそれらの比較鑑賞をしながら、しきりと手帳に書き物をする男がいた。
「えーっと今のところ残り人数は男子13人、女子13人か。
うん、男女の検討ぶりは五分五分……いや、初期人数を考えれば女子の方が頑張ってるな。
ここいらは、うちの『プログラム』と変わらないとして……」
画面の方に視線をもどしがてら、ペンを持った右手で前髪を後ろへと掻きあげる。
そして、のびのびと一声。
「あー、いつもより仕事が少ないっていいなぁ」
くつろいだ姿勢でソファに座る男の容姿は、一度でも見ればなかなか忘れられないだろう。
背はやや低いががっしりとした体つきで、胴体のおまけに添えられたように脚が短かった。
地味なカーキのスラックスとグレーのジャケット、エンジ色のネクタイを締め、黒のローファーを履いているが、どれもくたびれた印象だ。
襟元には、とある世界のとある国の政府関係者であることを示す桃色のバッジ。
とても血色のよい顔。
そして、何より特徴的なのは、その髪型だった。
まるで妙齢の女性がそうするように、肩口まで、まっすぐ髪を伸ばしていた。
扉をたたく入室の合図に、筆記を中断して「どうぞ」と答える。
「退屈ではありませんか? ――坂持先生」
331
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/03(土) 12:56:09 ID:mQj8N/DM
その男、大東亜共和国を祖国に持ついち教師、坂持金髪。
「いえ、そうでもありませんよ。バックス市長」
入室してきた大柄な丸メガネの男に、朗らかな笑みで答えた。
その男、桜見市市長ジョン・バックスが向かいの席に腰かけるのを待って、ぺらぺらと感想をしゃべり始める。
「最初は、世界が違ってもやることはプログラムと変わらないんだなーって思ってましたけどね。
これで能力の高い奴らが多いから、戦闘シュミレーションとしても面白いし。
『皆殺しにしてから生き返らせよう』とか突飛なこと考える奴も出てきて、盛り上がってきたなぁってところです。
あー、でもウチから参加した連中がもう2人に減ってるのは残念だなぁ。桐山はこっちでもいいとこまでいくと思ってたんだけどなぁ……」
勝手な感想をつけていく坂持がどこか観客目線でいるのは、彼が『主催者』であると同時に『客人』でもあるからだった。
坂持の仕事は、『仲介人』であり『監察官』だった。
『桜見市』は『大東亜共和国』へと、異世界を介して入手した様々な『魔法』を提供する。
『大東亜共和国』は『桜見市』へと、それらの『魔法』を解析、改良した成果である『ゲームに必要なもの』を提供する。
互いの所属する組織が交わした取引は、それ以上でもそれ以下でもない。
その中には、坂持が『教員』として司会進行に携わってきた『プログラム』のルール、運営方法も含まれている。
ジョン・バックスとしては、ゲームに必要な各種の制限や道具を調達するために、国家規模のスポンサーが欲しかった。
大東亜共和国としても、極秘ルートでもたらされた『異世界』の情報を独占したかった。
「しかし、市長も太っ腹なことを言いましたねぇ。なんでも願いを叶えてやるとか……」
「ムルムルたちが独断で宗屋ヒデヨシを唆してしまいましたからな。
公平さを期すためにも全員に告げるしかないでしょう」
「あー、なるほど。そこんとこは公平にしないといけませんよねー。放送が少々事務的だったのも意識されてのことですか?
あそこはオレがやるとしたら、もっと熱血教師っぽくなってましたねぇ」
坂持のプログラム担当官としての職業意識は強く、客人でありながら一時は放送の司会をやらせてもらってもと立候補したほどだった。
しかし、それは却下された。
332
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/03(土) 12:57:23 ID:mQj8N/DM
「それもありますが、あまり本家のプログラムに似せすぎても、いらぬ誤解を与えてしまいます。
先生にも放送をお任せしたくはありましたが、一部の生徒から『プログラムの主催者』として知られていましたからね。
先生が『神の力を与える』と説明しても信頼度が下がってしまうでしょう」
「そうでした、そうでした……もっともそれは、未来に起こることらしいんで実感はないんですけどね」
「実感がない割には、柔軟な考えをお持ちのようですね。己が本来ならば死んでいるはずだった、と聞かされても動じないとは」
「いや、うちの上司から吹き込まれたことをとりあえず鵜呑みにしてきただけですよ。本当に実感はないですね。
むしろ大東亜(ウチ)では技術部の連中がよっぽど頭柔らかいんじゃないかなぁ。
『ガダルカナル22号・改』もつくっちゃったし」
「ああ、あの首輪については『神』も大いに役立つと評価していましたね」
大東亜共和国の技術力は、特に軍部のそれはすさまじい。
国民1人あたりのGNPが世界で1位を誇るほどに、産業が発達しているのだ。
国土もさほど広くはなく、資源の産出量も決して多くはなく、あまつさえ反米体制を敷いており隣国との折り合いも悪いという極端に制限された国家で、この豊かさは本来ならばあり得ない。
そんな繁栄を成さしめているのが、あらゆる世界史上でも稀な全体主義国家として成功した統制の巧妙さと、もうひとつ。
重化学工業、精密機械工業を筆頭として発達した驚異的なほどの技術水準にあった。
ただし、その真価は開発力のみにあらず。
既存の製法を取り入れ、改良していく技量にあった。
驚くべきことに、きちんと近代国家の体を整えたのがたった七十六年前のことなのだ。
(もちろん、教育統制がしかれているので教科書には『現在の総統は三百二十五代目にあたる』と書かれている)
それ以前はまるきり封建時代のように武士がちょんまげを生やして完全な鎖国状態にあったというのだから、その発展速度は驚異的と言える。
とある世界の『学園都市』のように、単純な文明の水準だけならば、大東亜より発達した国や都市などいくらでもあった。
しかし、異世界の技術をちらつかせた際の食いつきの良さ。
そして、様々な世界の道具を複製ないし独自改造する速さ。
さらに、突如としてふって湧いた謎の力を、ごく一部の関係者だけに伏せておこうとする閉鎖的かつ秘密主義の体制。
様々な要素を加味してみれば、大東亜共和国ほどの協力者は存在しなかった。
提供された異世界の技術は、数多い。
例えば、『学習装置(テスタメント)』。
異なる時代から集められた学生にも、眠らせている間に『携帯電話』の使い方を教えこめる。
例えば、『樹形図の設計者(ツリー・ダイヤグラム)』。
本来は超能力にかかわる研究の予測演算に用いられている、『正しいデータさえ入力すれば完全な未来予測が可能』と評価されたスーパーコンピューター。
様々な制限の付加された未来日記の、精度向上に役立っている。
333
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/03(土) 12:58:17 ID:mQj8N/DM
「しかし、真に『柔軟』だと言えるのは、我々ではなく彼らでしょう」
くい、とジョン・バックスが首をかしげて示した先には、殺し合いを映し出した映像があった。
坂持も得心したようにうなずき、同意する。
「確かに、過去をやり直すだの、世界の謎を解くだの、突飛なことを考える連中もいますからねぇ。
プログラムにはそういうことは無かったもんで、生徒って色んなことを考えるんだなぁと感心しましたよ」
同意を得たことに気を良くしたのか、ジョン・バックスはさらに長く話した。
「我々には、すでに規定された所属社会があり、立場があり、役目がある。
それゆえに、『状況』が設定された時に限られた行動しか選べないのもまた事実。
例えば私が未知なる技術を手に入れたとしても、『桜見市民を優れた民族にする』という目的にしか使わないでしょう」
「なるほど、我々が祖国に命を捧げているように、ってことですね」
「はい。しかし彼らにはそれが定まっていない。だからこそ、迷い、悩み、変化する素養を持っている。
サンプルのパターンとしても、非常に興味深いものがあります」
坂持は首をかしげて、市長が語るに任せる。
ただ殺し合わせるためだけに殺し合わせてきた坂持からすれば、市長と『神』の意図は想像の範疇を超えていた。
むしろ、正直言って坂持には市長と『神』の真意などはどうでもいい。
しかし、市長がそれを極上のエンターテイメントだと確信していることだけは理解して、ふんふんと相槌をうつ。
「突然に、予知能力を与えられた時。
人を殺さなければ己が殺されるという時。
神にも匹敵する力が手に入ると言われた時。
他人を犠牲すれば、夢が叶うやもしれない時。
死人が生き返る可能性を提示されてしまった時。
異なる世界に生まれた、様々な人間と出会った時。
盤上で、己の果たすべき役割について思い悩んだ時。
『僕達は大人になれない』という絶望を見せられた時。」
あたかも『神』の代弁を任された神父のように、確信に満ちた声で桜見市市長は問う。
「果たして、どんな変化を遂げるのか」
「どうなるんでしょうねぇ」
冷徹な目で口の端をゆがめるジョン・バックスに対して、坂持はにこにこと追従笑いを浮かべる。
なんにせよ面白いものが見られそうだと、確信しているから。
下界で殺し合う少年少女の姿を、大人たちは嗤いながら見下ろし続ける。
【一日目正午】
【残り26人】
334
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/03(土) 12:59:50 ID:mQj8N/DM
以上です。
毎回お世話になって申し訳ないですが、
代理投下してもいいよという方がいたらお願いします
放送締め切りまではまだ余裕がありますが、
今回は主催側に踏み込む内容であるために是非を問う意味もあって早めに投下させていただきました
ご意見お待ちしてます
335
:
◆y8iHSx6A2M
:2013/08/11(日) 00:51:42 ID:UAhWU1OE
予約分が完成しましたが、想像以上に長くなったのと、2chの方の投下に慣れていないのと、
問題点矛盾点の確認のため一度こちらで仮投下します
336
:
類題:2で割ろう
◆y8iHSx6A2M
:2013/08/11(日) 00:53:18 ID:UAhWU1OE
『君は何を望むのか。 来たるべき時のために、よくよく考えておくといい』
男の声が、途絶える。
静かになった廊下で、一人の男が座り込んでいた。
「……はぁ」
少し間が空いて、溜息が一つこぼれる。
頭をあげた男の顔は、酷く消耗しきっていた。
悲しみとも、絶望とも取れない。ただ疲れ切っている顔。
「そうか………死んだのか……」
中川典子。先程の放送で、呼ばれてしまった名前。
それはつまり、死んでしまった――もう、この世にはいないと言う事を表していた。
単純で、残酷な宣告。その名前が、頭で何度も反響していた。
覚悟をしていなかった訳ではない。むしろ、そろそろかと思っていた。
この場所には人間離れした超人が少なからず存在している。
ただでさえ殺し合いという状況なのに、手も足もでないような奴がいるような場所で。
むしろ都合よく生き残れると思う方が夢物語だ。
事実、典子だけでなく、同じ出身の生徒たちもほとんど命を落としている。
これが現実だ。反抗するものとして、直視しなければならない現実。
救えない命だって、ある。それを切り捨てて、命を拾わなければならないのだから。
――それでも、思い出してしまう。あの姿を、言葉を、優しさを。
あの場所で、ずっと支えてくれていた少女は、もういない。
「……やっぱり、キツいな…………」
誰にも聞こえないよう、弱音を吐く。
革命家は止まらない。止まってはいけない。
例え誰も支えてくれなくても、前に進み続けなければ成せるものも成す事はできない。
死んでしまった『仲間』の為にも、ここで退く訳にはいかないから。
頬を叩いて、無理矢理気を入れなおす。そうでもしなきゃ、崩れ落ちてしまいそうだった。
「……願いが、叶う……か」
ぽつりとつぶやいたのは、放送の途中で言われた言葉。
その言葉は、甘い誘惑だった。
死者を生き返らせる事も、失った過去も取り戻せると。
確かにそんなものが手に入るなら、手を伸ばしたくなるのは否定しない。
「ふざけんな……って、言ってやりたいね」
秋也はその誘惑を一瞥の元払いのけた。
まるで、願いなんて叶わないと知っているような態度で、その道を外す。
何でもありの願いなら、この殺し合いがあったという事実自体を消してやりたい。
だがそんな事をしたなら、このプログラムを開催した意味がなくなってしまう。
だからこそ、例え『願いを叶える』事は出来たとしても、そんなものは有限だ。
叶えられない願いもあって、そしてそんなのは意味がない。
何より、それに乗るのは相手の手の上で踊る事に等しい。
ここで妥協してしまうのは『ここ』で死んだ皆への、そして『前』のプログラムに死んだ皆への侮辱だ。
革命家として、そんな醜態は晒せない。上のやつらへ反抗すると、既に決めたのだから。
337
:
類題:2で割ろう
◆y8iHSx6A2M
:2013/08/11(日) 00:54:52 ID:UAhWU1OE
「……そうと決まれば、まずはしないといけない事があるな……」
そう言って、男……七原秋也は腰をあげる。
しばらく自分の事ばかり考えていたが、今近くの部屋に居る二人の少女の事も気にかかる。
今回もまた、多くの人間が死んだ。その中で、彼女達が影響を受ける人物の名も少なからずいるだろう。
名簿と照らし合わせてみると、彼女達と同じ学校の生徒が数多く死んでいる。
その全員と無関係ならまだ問題は無いが、そう楽観視するわけにもいかない。
それだけじゃない。あの部屋に寝かせておいた少女、白井黒子も心配だ。
そのうち起きるだろうが、その後どうするかが問題。今の彼女に果たして何ができるだろう。
首輪の解除として心強い能力を持つ一方、その性格の扱い方が難しい。
今の放送で黒子と同じ学校のやつが呼ばれなかっただけ幸いだが、こちらの対処も考えなくては。
そして何より心配なのが、放送に惑わされる事だ。
一回目の放送では大したことを言っていなかったのに、今回はあそこまで喋るとは。
どう考えても、このプログラムを激化させるのが目的だろう。惑わされて狂わないかが一番の問題だ。
共に行動する仲間として、彼女達に一応のフォローを入れておいた方がいいだろう。
(……本当、損な立ち回りだよ)
心の中で、誰にあてた訳でもない愚痴を呟いて。
消耗しきった顔を引き締めて、先程の調子で扉を開けた。
* * *
「………嘘、だ」
長い沈黙を打ち破った言葉は、とても弱々しく、震えていた。
つい先程流れた放送の内容が、頭の中で反響する。
園崎魅音に、前原圭一。良く知っている名だ。
平和な日常の中で一緒に部活を楽しんで。非日常の惨劇でさえも、一緒に乗り越えた仲間の名前。
それが、名前も知らない男に呼ばれた。
その事が、どういう意味を持つのか。レナは理解していた。理解してしまっていた。
あの二人が、死んだ?
導き出されたたった一つの真実に、頭が真っ白になった。
あの笑顔が、あの日常が、あの世界が。
圭一くんと、魅ぃちゃんと一緒に、楽しく遊べた筈の世界が。
もう、戻らないというのか。
338
:
類題:2で割ろう
◆y8iHSx6A2M
:2013/08/11(日) 00:56:22 ID:UAhWU1OE
ぐわんぐわん、と。平衡感覚が失いそうになりそうだった。
結局再会する事すら叶わず、この世界のどこかで死んでしまった。
最後に交わした言葉は何だった?それすら覚えていないほどに、他愛ない会話で終わっていたと思う。
そんな、ずっと平和な……でも、楽しい日常だった。
でももう、帰れない。
もう声も聞けない。部活もできない。
そう認識した事実が、頭の中をひっかきまわしていく。
ボロボロになって、それでも収集つかない気持ちは、体中を傷つけているようだった。
そうやって、頭がゴチャゴチャになって、整理がつかなくて。
「………ぁ……?」
でも、そんな泥沼になりそうな思考は、視界に入った姿によってあっさりと中断された。
船見結衣。今、一番近い『友達』。
彼女の顔が、おかしいくらいに白く染まっていた。
自身の壊れそうな、しかしそれでも冷静な頭で考える。
今呼ばれた名前に彼女が気にする名前はあったか。
赤座あかり。名前の羅列の最初の方に呼ばれた名がある。
かなり親しい仲だったはずだ。前の放送の直前に、その話を聞いた。
でも、彼女が死んだ事は既に聞かされていた。
心の整理ができていたとは言えないだろうけど、少なくともあそこまで狼狽する原因にはならないはずだ。
「……きょう、こ……」
ぽつりとつぶやいた言葉は、人の名前だった。
きょうこ。その名前は聞いた事がある。
あの時、日常を語る中で、彼女が紹介した人。
そして……偏見が含まれてるかもしれないけど、多分、一番大切に思ってた人の名前。
――だから、私が、私たちが守ってやんないと
そう言った彼女の顔は、今まで見た中で一番真剣だった……ように、レナは思う。
それほど結衣にとって彼女は、とにかく大切な存在なんだと感じた。
具体的にどれほどの仲なのかは分からないけど、少なくとも並大抵の友情じゃない事は、理解できた。
そんな少女が、死んでしまった?
339
:
類題:2で割ろう
◆y8iHSx6A2M
:2013/08/11(日) 00:57:35 ID:UAhWU1OE
実を言えば、放送の内容をあまり覚えていない。
一回しか流れない情報を聞き逃す事の危険性は分かっていた。それでも、その衝撃には耐えられなかった。
だから、死者を全員把握できているといえば自信はないし、事実歳納京子という名前が呼ばれたかも覚えていない。
しかし、その姿はそんな事実を肯定しているようだった。
絶望に呆然としている少女の姿は、想像する仮定を、確信にもっていくには十分すぎた。
今でも、とても悲しい。すごく泣きたい。正直全部投げ出したいぐらいに、心が消耗している。
それでも……それは、駄目なんだと思う。
今にも壊れてしまいそうなその姿を見て、疲れ果てた心をそう奮い立たせた。
守るとか、そんな大それた事を言うつもりは無い。レナもまた、同じように打ちひしがれている。
ただそれでも、一番近くにいる友達の事を放っていくわけにはいかない――と。
「よ………各々、残念な連絡となったみたいだな」
そう思った瞬間の事だった。扉が開いて、一人の男が入ってきた。
その男はさっきと変わらないような顔で、変わらないような調子で声をかけてくる。
そんな姿が、今の雰囲気にあまりにも不釣り合いで、思わず黒い感情が出そうになった。
「……秋也くんは……残念じゃないの?」
「残念だよ。俺の気の許せる奴も死んじまって、来る前から知ってる奴もほとんど全滅。正直、かなり滅入ってるな」
レナの問いにも、その調子は崩さない。
ただその顔には、少しばかりの陰りがあるように思えた。
「でも、それで立ち止まってる訳にはいかない。
アンタらだってそうだろ? 確かに友人の死は悲しいだろうさ。でもそこで止まってたら、何の意味もない。
ここから、しっかりと前を向いて立ち向かわなくちゃあいけないんだよ」
そう語る秋也くんの顔は、まっすぐとこちらを見ていた。
その姿を見て、レナは先程の黒い感情がすっと引いていくのを感じていた。
顔つきは年不相応にしっかりとしていても、その中身は普通の中学生に変わりは無い。
「さっきみたいに……俺とアンタらは、きっと相容れない。が、これから共に行動する仲間なのも事実。
そして、その苦しみに関しては痛い程良く分かる。だからこその『忠告』さ。
そのまま腐り落ちたら生きてる意味がない。今すぐに切り替えろとは言わねえが、ずっと引きずるなよ。
ま……ご友人の後を追いたいって言うんなら別だけどな」
きっとその言葉は、『実体験』に基づいている。
私達と同じように……いや、もしかしたらそれ以上に辛くて、救いようの無い世界を進んでいたのかもしれない。
同じ年代と思える姿は垣間見えても、その姿には年相応に思えないものがあった。
だからこそ、非情とも思えるような行動だってとれているのかもしれない。
それでも……その言葉は、ひどいよ。
「………ッ!!」
その言葉が、彼女の撃凛に触れたのだろう。
結衣は咄嗟に近づいて、七原の胸倉を掴む。
レナからは顔は見えないが、その表情が怒りに満ちているであろう事は理解できた。
その後ろ姿からも、隠しきれない激情が溢れ出ているようだった。
340
:
類題:2で割ろう
◆y8iHSx6A2M
:2013/08/11(日) 00:58:24 ID:UAhWU1OE
「……秋也くん、それはひどいよ」
「あぁ……そうだな、今のは言いすぎた。悪かったな。
だが、言いたい事は変えるつもりはないぜ。いつまでも哀しんでる時間はない」
ギリ、と歯ぎしりのする音が聞こえる。
あれから、それ以上の事がおきる事はなかった。
殴る……とまではいかなくても、激情にまかせ怒鳴るぐらいまではあるかと思っていたけど、それもない。
ただただ、胸倉をつかみ睨んでいただけ。
言っている事は正論だった。七原は自分の理不尽さを自覚しているし、他人の気持ちを理解している。
対する者が反抗するすべは、感情だけ。冷静な人間が見れば、その優劣は明白だった。
ただそれでも、掴む手だけは離れなかった。
「念のため一応言っとくが……あの男の言葉は、鵜呑みにすんなよ」
「………!」
七原がぽつりと言った言葉に、結衣の体がびくりと震える。
まるで考えていた事をぴしゃりと当てたような、そんな反応だった。
「冷静に考えろ。お前が死者を生き返らせるとして、そんな事したらこのプログラム自体の意味が無くなる。
できるかどうかじゃなくて、あいつらがやるメリットがないんだよ。
夢物語に生きるな。希望に裏切られれば、待ってるのは絶望だ」
子供に言い聞かせるように、淡々と呟いていく。
その言葉には説得力もそうだが、凄みと言うべきか、迫力があった。
有無を言わせない雰囲気が、この場の主導権を握っていた。
「………言いたい事はそれだけだ。あまり引きずるな、立ち止まるな……って話さ。
すぐには行動に移せないだろうが、そう長く休息もとらないぜ。しっかり休めよ」
その言葉を言いきった後に、七原は踵を返す。
また扉の外へいくつもりだろう。相容れないと、自らを遠ざける。
レナは、それは悲しいと思っていた。
確かに思いにくい違いはあると思うし、その考え方に譲歩はできない。
でも、それでも七原自身も悲しい事があって、一人で抱えている。
反感を買うような事ばかりだけど、それでも確かにまっすぐに反抗しようとしている。
だったら、できるかぎり一緒にいるべきだと、そう思う。
結衣とそうしたように。時間がかかっても、いつかは。
そう思って、引きとめようとして。
「………分かった」
竜宮レナは、見逃さなかった。
俯く結衣の口角が、不自然につりあがっているのを。
* * *
その瞬間は、怒りで満ち溢れていた。
341
:
類題:2で割ろう
◆y8iHSx6A2M
:2013/08/11(日) 00:59:45 ID:UAhWU1OE
それ以前の彼女の心は、ぽっかりと空いた二つの穴と、それを埋め尽くす絶望があった。
赤座あかりが死んだ……と言うのは、事前に聞かされた。その瞬間は、とてもショックだった。
あの無垢な笑顔が、誰かに消されてしまった事が信じられなかった。
とても嫌で、目を背けたかった。嘘だと、そう思いたかった。
でも、それでも立ち向かわなくちゃって、その時はなんとか思い直せたんだ。
今一緒に居てくれるレナが、ずっとそばで支えていてくれたから。
目を背けたら駄目なんだって、どうにか思えた。
あの放送を聞くまでは。歳納京子の名を聞くまでは。
ああ、それは駄目だ。本当にだめなんだ。
嫌だ。そんな事はあったらいけないんだ。
目の前が明暗する。気持ち悪い。ぐらぐらする。このままだと、破裂してしまいそうだ。
一体あいつは、どこで死んだんだ?
死ぬのが、怖くない筈がない。
いや、本来あいつは怖がりなんだ。本当なら、守らないといけないほど、弱いやつなんだ。
その間、私は何をしてた。何もしていなかったじゃないか。
絶望の後に襲ったのは、後悔の念。
こんな事になるなら、何を投げ捨ててでもあかりの元に駆けつければ良かったんだ。
そして、あかりを連れて急いで探していれば、あるいは京子も見つかったかもしれない。助かったかもしれない。
意味の無い事だって分かっているのに、その心は器用にできてはいなかった。
願い続けた想いは行き場を無くして、残ったものは、ただの負の感情だった。
「よ………各々、残念な連絡となったみたいだな」
不意に聞こえてきたのは、男の声。
先程と変わらぬ様子で、その男はあらわれた。
――七原秋也。その姿に、悲しみのようなものは感じられなかった。
「確かに友人の死は悲しいだろうさ。でもそこで止まってたら、何の意味もない」
七原の何もかもわかりきったような、そんな口調が癪に障った。
その苦しみは良く分かる? ふざけるな。お前に、私達の何が分かるというのか。
今まで過ごしてきた時間は何もなくたって、一番だったんだ。
それを失った悲しみが、お前なんかに……分かって、たまるか。
「ま……ご友人の後を追いたいって言うんなら別だけどな」
怒りが膨れ上がって、我慢ならなくて。
思わず激情に任せて掴みあげていた。
342
:
類題:2で割ろう
◆y8iHSx6A2M
:2013/08/11(日) 01:00:39 ID:UAhWU1OE
「――言いたい事は変えるつもりはないぜ。いつまでも哀しんでる時間はない」
ただ……それだけだった。
結局、私は無力だったし……それ以上に、自身がみじめだった。
その言葉には、重みがあった。
ただ駄々をこねているだけの子供とは違う。しっかりと現実を見ている。
要するに正論というやつだ。今のこの状態は、大人が子供を宥めているのに等しい。
どう考えてもあっちが正しくて、こっちが間違っている。
悔しい。
ただ、その思いだけが心の中に広がる。
なまじ相手の言い分を認めているからこそ、正しいと思うからこそ、より相手が憎い。
自分が身勝手な子供だって事を理解しているからこそ、悔しい、憎い、悲しい――
待て。
そもそも。
「念のため一応言っとくが……あの男の言葉は、鵜呑みにすんなよ」
本当に、この男の方が正しいのか?
ただ感情をぶつけているだけだから。こっちから放てる言葉を持たないから。
最初からこっちが間違ってるって『思い込んでいた』だけで。
本当は、あっちの方が間違っているんじゃないのか?
――たとえ、すでに亡き者の『蘇生』でさえも。
おぼろげに聞いた言葉が今、改めて頭の中で反響する。
放送の男は、確かにそう言ったじゃないか。
それを、そんな事はできないだなんて。
なんで、そう断言できる。
もしかしたら、あり得るかもしれないだろう。
ここには常識では考えられない超常現象を引き起こす奴らがいるんだから。
むしろ、できないと断言する方がおかしいのではないのか。
343
:
類題:2で割ろう
◆y8iHSx6A2M
:2013/08/11(日) 01:01:18 ID:UAhWU1OE
そうだ、死んだ奴だって蘇生できる。
いや、それだけじゃない。もっと大きい。
『願いは叶う』。どんな人間だって夢見てきた理想じゃないか。
そう、それは何だって――。
『失われた過去を、取り戻すことも』
できるんじゃないのか。
―――最後の一人に、なれれば!
「……わかった」
その事実に辿り着いた時の顔は、不覚にも考えが漏れていたかもしれない。
でも、そんな事は大した問題じゃない。
それに向かって、まっすぐ進んでいけばいいだけじゃないか。
何ら、問題は無い。
最後の一人になれれば、あの日常が、戻ってくるんだから。
相手が向こうを向いた。隙ができた。
殺せる道具はあるか。ある。自分のバッグの中に、素人でも殺せる武器が。
考え付いた後の行動は早かった。自分でもびっくりするぐらいに早く取り出せた。
心の中は、たった一つの想いでいっぱいだった。『これ』を向けて、引き金を―――
殺す。
「駄目ッ!!」
引き金を、引いた。
* * *
344
:
類題:2で割ろう
◆y8iHSx6A2M
:2013/08/11(日) 01:01:45 ID:UAhWU1OE
「駄目ッ!!」
唐突に響く声、耳をつんざく銃声、頬に走る熱いような痛み。
それだけ揃えば、七原にも何があったのか理解できた。
「チッ………!」
舌打ちして、とっさに銃を構える。
宥めきれたとは思っていなかったが、まさかここまで逆上するのは予想外だった。
顔を血が流れていく。傷自体はかすり傷で済んでいた。
竜宮レナが咄嗟に飛びかかってくれたおかげだろう。それは感謝しなくてはならない。
だが、この先はどうか……と、銃を構えながら頭をフル回転させる。
この先の、対処についてだ。
「そんな……やめて、結衣ちゃん!!」
「離せっ! 離して………!」
抱きしめてどうにか止めようとする竜宮レナ。
見た目に反して力があるのか、船見結衣はそれをふりほどけていない。
そんな込みあった状況で、七原はしっかりと標的を狙う。
銃口は確かに少女をさしている。このまま撃てば、確実に当たるだろう。
理由はどうあれ、こうなってしまった船見を放置するのは危険だ。
ここで殺す必要も出てくる。そのために、この引き金は引かなくてはならない。
(どうした……撃てよ、七原秋也……!)
だが、その次の段階へと踏み込めない。
狂ってしまった人間に、一線を越えた人間に、説得は意味を成さない。
それは、永いようで短い時間の中で理解した事だ。
その理論でいけば、目の前の少女は間違いなく狂っていて、救いようがない。
生き残る為に……上に勝つ為に、切り捨てなければならない筈、なのに。
それでも、引き金が引けない。
彼女を殺せばもう一人との確執が面倒になるとか、そういう理由もない訳じゃない。
ただ、それでも殺そうと思えば殺せるだけの心を持っていなければいけない筈だ。
ここで引けないのは、七原自身の捨てきれない甘さ。
船見結衣は犠牲者だ。
赤座あかりが死んだと聞かされて、更にもう一人同じ学校出身の少女が死んでいる。
絶望に陥るのも、仕方ないと思う。仕方ないと思うからこそ、ふんぎりがつかない。
同情とか感情移入とか、そういう言葉で言い表せるようで言い表せない微妙な感情。
そんな甘さがあることを自覚しているから、七原は内心焦っていた。
345
:
類題:2で割ろう
◆y8iHSx6A2M
:2013/08/11(日) 01:02:23 ID:UAhWU1OE
「あっ………」
そうしているうちに、二人は勢い余って後ろへ倒れる。
その音に思考を中断して、改めて気を引き締め、銃を構え直す。
「結衣ちゃん、なんでっ!」
そのままの勢いで抑えつけて、レナが上から覆い被さるような形になる。
こうなれば体重がかかって、船見に目立った抵抗はできないだろう。
その分体が重なり、七原が船見のみを撃つことが難しくなった。
そんな状況だからこそ慌ただしかった状況が静まり、語りかける時間も生まれる。
そして後は、答えを待つ静寂が生まれて。
「………言ったじゃないか」
ぽつりと、言葉が響く。
その声量は大きくなくとも、確かにその場にいた二人に届いた。
「願いは叶えるって、確かに言ったじゃないか……!」
静かに、しかし力強く少女は言う。
その声は震えていた。その顔は、おそらく涙で濡れていただろう。
「神様のような力があるんだ……超常現象だって、目の前で見た!!
いや……ような、なんかじゃない……神にもなれるって、あいつらは言ってたんだ…!
だったらっ、人が生き返る事だって、なかった事にだってできるんじゃないのか!
最後の一人になれれば………私が、全員を殺せば……っ!!」
先程とは変わって、張り裂けんばかりの大声で叫ぶ。
その内容には、顔をしかめずにはいられなかった。
「お前、そんなのはでたらめだって俺が…」
「絶対そうだって言い切れないだろ!? なんで断言できるんだよ!」
その返答に、七原は心の中で舌打ちをする。
それを気付かせたのは七原自身のミスだ。
余計な事は言うもんじゃなかった。後悔しても、後の祭りだ。
346
:
類題:2で割ろう
◆y8iHSx6A2M
:2013/08/11(日) 01:03:01 ID:UAhWU1OE
「……なかった事にできるかどうかが問題じゃない。
なかった事にされたらプログラムを開催した意味がないんだよ。
この殺し合いで何を得ようとしてるかはわからないが、何かを得る為に間違いなくこのプログラムは必要なんだろう。
だから、なかった事になんてできない……できたとしても、やらせてはくれない」
淡々と、自身の考えを連ねていく。
ただ、これで説得しきれるとは思えない。ああいうタイプは、理屈では止まらない。
「っ……そうやって、何もかも分かってるみたいに………!
お前に、何が分かるんだ! あかりも、京子も……っ、大切な、友達だったんだよっ!!
そんな淡々と割り切れ、なんて……できるわけないだろっ……」
どれだけ言葉を重ねても、伝わる様子は無い。
主導権を得るための発言が不快に思われる事は分かっていたが、ここまでの確執を生む程とは思わなかった。
やる事成す事がとことん裏目に出る……と、心中で自分をけなす。
もう、言葉を交わすのは無駄か。そう思って銃を構えなおして。
「止めて……もう、それ以上言わないで……!」
それを遮ったのは、問いかけてから無言に徹していたレナだった。
「そんなの、間違ってる……結衣ちゃんだって、あの時言ったよね……?」
あの時……というのがいつの事かは、七原は知らない。
ただ、二人はあれから――おそらく一緒に居たもう一人が死んでから――ずっといたのだろう。
こういう場所で気の許せる仲間ができたなら、それはとても心強い。
それは、ついさっきの二人の距離からも把握できた。二人にはじっくりと話す時間があった筈だ。
しかし、今の彼女にはそんな時間さえも伝わらない程に錯乱していた。
「……あぁ、間違ってるのは私だ。私が……私がいけなかったんだ……。
私が、何もしなかったから! あかりも京子も死んだんだ!!」
「違う、そんな事ないっ」
「私のせいだ……私が、京子を見殺しにしたんだ……私がぁ……」
どんな言葉も聞かず、今度は自分を責め続けている。
言い争いは平行線を辿っていた。無駄だ。なにも伝わらない。
どれだけのものがあったのかは知らない……それを知らない奴らが、止められるものか。
347
:
類題:2で割ろう
◆y8iHSx6A2M
:2013/08/11(日) 01:03:46 ID:UAhWU1OE
「本当は、私が助けなきゃいけなかったのに……私が、守ってやらなくちゃいけなかったのに……!
私の罪だ、私が何もしなかったから、もう京子には会えない……そんなの、やだ……!
もう、これだけなんだ……全員殺せば、また、京子に……!」
絞り出すような言葉はとぎれとぎれになり、要領を掴めない。
昂りすぎた感情が先行して、言葉が支離滅裂になっている。
傍から見て、相当なところまで行っているのは明白だった。
「っ………」
その姿に、かつての同行者の姿が重なる。
悪気は無い。融通のきかない想いが、暴走しているだけだ。
しかし、以前に同じような奴のした行動が結果としてあれほどの痛手を負う原因になった。
殺しておくべきだった……とは思わない。確かに一緒に行動する仲間だと思っていたから。
だが、実害を出してしまった以上はそうはいかない。覚悟を持たなければ、死ぬのはこっちだ。
女だから、という訳にはいかない。武器を持っている以上は、男も女も関係ない。
『革命家』として、どれだけ冷酷だろうと切り捨てなければならない―――
そう思っていた矢先だった。
「……そう、結衣ちゃんは全員殺すんだね」
いきなり、響くトーンが低くなった。
その雰囲気に対抗していた船見は勿論、傍観者である七原自身も身構えた。
その急変っぷりに警戒を緩めず傍観する。
七原の印象としては、レナという少女は人っ子一人殺せないような甘ちゃんのイメージがあった。
別にそれが悪いというわけではないし、当たり前の感情であると七原自身は思っている。
しかし、今目の前で言葉を発した少女は、そのイメージとは違う雰囲気を醸し出していた。
冷静なその言葉は、そのままひねり殺してしまうかもしれない。
そんな想像を抱かせるには、十分すぎた。
「っ…………」
船見の銃をしっかりと掴み、そのまま手ごとゆっくりと引っ張りあげる。
抵抗の意志はあったようだが、ほどけることはない。
その顔が恐怖にゆがむ。今この状況には誰も動けないような重圧があった。
―――このままだと、あいつは殺される。
端から見ていた七原がそう思った、その瞬間。
「え………」
その銃口を、自身の胸に当てた。
348
:
類題:2で割ろう
◆y8iHSx6A2M
:2013/08/11(日) 01:04:22 ID:UAhWU1OE
* * *
「……私を、殺せる?」
* * *
これは、賭けだった。
既に日常について語った二人だからこその、賭け。
「最後の一人にならないと、『願い』は叶わないんだよ?
その為に、みんなを殺さないといけない。
私だって……ううん、私だけじゃない。あの時、本当に大事そうに語ってたよね?
ちなつちゃんや綾乃ちゃんだって、まだ生きてる。でも、全員殺さないといけない。
……結衣ちゃんに、それができるの?」
震えながらも、はっきりと言葉を伝える。
唖然としていた結衣ちゃんも、だんだんとその言葉が伝わったようだ。
――言葉を伝えたいのなら、相手の言葉を遮る程、主導権を握らなくちゃいけない。
秋也くんの姿を見て学んだ事だ。これなら、きっと伝わる。
「……後で、生き返らせられるじゃないか…!」
「確かにそうかもしれない。
でも、結衣ちゃんがみんなを殺した、っていう事実は変わらないよ。
ねぇ、みんなはさ……『ヒトゴロシの結衣ちゃん』と友達になってくれるの?」
「………ッ!!」
その言葉に、結衣ちゃんの体が一際大きく震えた。
正直、かなり酷い事を言ってしまったと思う。でも、これは必要な事なんだ。
「どれだけ他のものが元通りになったって、結衣ちゃんだけは、別なんだよ。
どうしても戻らないものだってある。その道を進んだら、もう元の結衣ちゃんには戻れない。
例えそれをみんなが気にしないって言っても、結衣ちゃん自身がいつまでも罪を背負い続けて、押しつぶされちゃう。
結衣ちゃんは、そういう人だから。短い時間だったけど、それは分かる。
全部を元通りにしても、結衣ちゃんだけは元の輪には入れない……そんなの、悲しすぎるよ」
349
:
類題:2で割ろう
◆y8iHSx6A2M
:2013/08/11(日) 01:04:51 ID:UAhWU1OE
紡ぐ言葉は、全部本心だ。
一日の半分にも満たない時間だったけど、それでも分かる事はたくさんある。
友達思いだってこと。しっかりとした強さがある事。……本当は、とても優しい事。
日常でどんな時間を過ごして、どんな事をしていたか分からなくたって、伝えられる言葉はある。
もう部外者なんかじゃない。私だって友達だから。
「……私に出来る事は、もうこれしか……」
「違うっ!!」
発した大声に、結衣ちゃんはびくりと震える。
それだけは、認めさせてはいけない。
見えない罪に縛られて、罪を犯すなんて、あってはいけない事なんだ。
「本当に……本当に、みんなにごめんなさいって思ってるなら、そんな事はしたらいけないんだよ。
友達にそんな事をさせて生き返ったって、その子達は心の底から喜ばない。
私だって……圭ちゃんや魅ぃちゃんが、人を殺して私を救ったって嬉しくないし……逆は、もっと喜ばないと思う。
そんな方法で、罪を償うのは駄目なんだよ」
自分で言った言葉に、妙な感慨を覚えた。
まるで他人事じゃない。おかしなことだけど、いつかの自分にいえるような、そんなありえない気分にもなる。
……それなら尚更だ。絶対、止めないといけない。
同じような存在の、同じような結末を分かっているのなら、同じ間違いを友達に起こさせるわけにはいかない。
「……う…………!」
「……………」
胸に当たる銃口はとても震えている。
目の前にいる結衣ちゃんの顔も、もう涙でぐしゃぐしゃだ。
それでも、未だ踏ん切りはついてない。
良い事でもあり、悪い事でもある。まだ足りない。大きすぎる何かが。
それだけ結衣ちゃんの中で、二人の存在は大きかったんだ。
――竜宮レナという存在なんかでは、およびもしないほどに。
「……ちっ」
後ろで、舌打ちが聞こえた。
与えられている猶予は、とても短い。
350
:
類題:2で割ろう
◆y8iHSx6A2M
:2013/08/11(日) 01:05:21 ID:UAhWU1OE
ここで、秋也くんに撃たせる訳にはいかない。そうしたら、結衣ちゃんの全てが終わる。
結衣ちゃんは私の友達だ。短い時間だけど、確かに通じあっていた筈だ。
もうここに私の日常を過ごした人達はいない。それはとても悲しくて、辛い。
それでも私は、すべてを投げ出してまで、誰かを殺し続けてまで、元の日常を掴みに行く事なんてできない。
同じ状況に圭くんや魅ぃちゃんがいたとしても、そんな事はしないと『信じられる』から。
失ったみんなの分だけ、生きているみんなを助けたい。
弱くて、おぼろげで、もろくて……でも、確かな意思。竜宮レナの、生きる意味。
「それでも……それでも、進むっていうなら――」
あの時の結衣ちゃんが、信じてくれたから。
今度は私が……目の前の友達を信じたい。
「――私を殺して、進めばいいよ」
だから、最後の手段。
賭け金は―――自分の命。
「え………っ」
「な………!」
その言葉に二人の驚きが重なる。
唯一の問題としては、後ろにいる秋也くんが早合点して殺さない事。
「アンタ、一体何を考えて」
「止めないで、秋也くん」
その秋也くんの言葉を制止する。ただそれで止め切れたかは正直自信はない。
できれば……撃たない事を祈る。全てが終わるまで。
351
:
類題:2で割ろう
◆y8iHSx6A2M
:2013/08/11(日) 01:06:04 ID:UAhWU1OE
「わ、私が撃たないって……そう、思ってるの……!?」
違う、そういう事じゃない。
決して馬鹿にするつもりもないし、なめてるわけでもない。
ただ、たった一つの確信めいた思いが、竜宮レナにこんなおかしな事をさせてるのかも。
「……ちょっと違うかな。度胸がないとか、そういう話じゃないよ。
だって、私は『信じたい』。結衣ちゃんの事、友達だって思ってるから」
銃を握った結衣ちゃんの手を、優しく包み込むように握る。
こういう事はあんまり慣れない。可愛いものを愛でる事は好きだけど。
心臓がバクバクと高鳴る。
当たり前だ。命を賭けているのだから、緊張しない筈がない。
最も大きな足りないものに、きっとレナの命なんかじゃたりないだろう。
それでも、結衣ちゃんにとってレナが少しでも失いたくないと思っているのなら。
「私は……結衣ちゃんが罪を犯したなんて思ってない。
それでも、支えきれないものがあるなら……レナにも、少しは背負わせてほしいな」
この鼓動は、きっと銃を介して結衣ちゃんに伝わっている。
それさえも、結衣ちゃんにしっかりと伝わるメッセージになる。
「う……うぅぅぅぅ――――!」
結衣ちゃんが苦しんでる。でも、多分これが最後だ。
どっちに転ぶにしろ、そう遠くない時間に、全てが決まる筈。
お願い、それまで何も起きないで。
せめて、この結末だけは見させて――――
352
:
類題:2で割ろう
◆y8iHSx6A2M
:2013/08/11(日) 01:06:27 ID:UAhWU1OE
* * *
静寂の中、音が響いた。
* * *
「っ…………」
からん、と。
何かが落ちる音。
響いたのは、それだけだった。
353
:
類題:2で割ろう
◆y8iHSx6A2M
:2013/08/11(日) 01:06:59 ID:UAhWU1OE
「撃てないよ………撃てるわけ、ないじゃないかぁ……!」
目の前には、あふれる涙を両手でぬぐう船見結衣の姿があった。
「ごめん……っ、ごめんなさい………うああぁぁぁぁ……!!」
「……良かった」
泣きじゃくる少女を胸に抱いて、竜宮レナはほっと一息ついた。
いろんな事に対する安堵の気持ち。何も解決してないだろうけど、とりあえず目の前の友達は救えた。
――大事だった人達に、救う事はおろか会う事さえ叶わなかったけれど。
竜宮レナという存在は、確かに船見結衣を救えたんだ。
「……終わったみたいだな。それで、一体どうするおつもりで?」
その後ろから声をかけたのは、一人蚊帳の外だった少年、七原秋也。
手で銃を遊ばせながら、少女に問いかける。
「秋也くん……レナ達のわがままかもしれないけど……結衣ちゃんを殺さないで。
傷つけたのは分かってる。不安定で危ないのも理解してる。
でも……それでも、もう結衣ちゃんを間違わせたりしないから。
だから……お願い、殺さないで」
しっかりと目を見て、意思を伝える。
それを見ていた秋也は、一つ息を吐いて、銃を回して答えた。
「……信じてもらえないだろうが、俺だって殺さないに越した事はないと思っている。
そいつを『友達』であるアンタが支えてやるっていうなら、俺は別にかまわないさ」
そう言って、銃を仕舞う。
今度こそ踵を返して、扉へとむかった。
その言葉に、レナは一言「ありがとう」と返した。
354
:
類題:2で割ろう
◆y8iHSx6A2M
:2013/08/11(日) 01:07:42 ID:UAhWU1OE
(いわば、成功例だな。
上手くいったからよかったようなものの、下手すれば自分が死んでる。
俺だったら出来ない……そこまでやりきれない。やっぱり相容れないよ、俺達は)
その途中で、七原秋也は考える。
目の前にいる少女達は、確かに輝いている。
救えないと思っていた存在を、救った。
ゼロで割るような無理難題を、彼女は解いてみせた。
それはどうしても七原秋也が出来なかった事で、いつかの秋也が確かに目指していたものだ。
(目指す道は同じだろうに……こうも違うなんてな)
扉の前で、頭を押さえる。
泣きたくなるような思いを抑えて、目の前ではクールにいなくちゃあいけない。
そもそも、まだ問題は山積みだ。当面の問題を解決した所で、ほっとしていちゃあいけない。
白井黒子の事も忘れてはいけないし、首輪だって忘れているわけじゃない。
損するのはこちらだが、泣き事を言っている暇だってない。頭を抱えて考える。
(別にそれでいいさ。俺はアンタらができない事をやってやる……と、言いたい所だが)
七原秋也を悩ませていた一番の原因は、それだった。
あの時に銃を構えた七原には、引き金を引けなかった。
結果として良かったものの、レナや自身だって死んでいる可能性が十分にあったわけだ。
撃つかどうかはともかくとして、撃てるだけの気持ちは持っておくべきなんだ。
引かなかったんじゃない。『引けなかった』事が問題だった。
非情になれと思うわけではないが、必要以上の情は必要ない。
課題は十分にある。一度頭を冷やして、冷静にならなくてはならない。
(まだまだだな……とりあえず、まだ休むか……)
そして扉に手をかけ、一時退散しようとした時だった。
「あっ……秋也くん!」
レナが声をかけてきたのは。
「その……どうせなら、こっちで休憩した方がいいんじゃないかな、かな?」
振り向いて見たその姿に、あの時感じた冷酷さは微塵も感じられない。
正に普通……と言えるかは微妙だが、年頃の女の子ではあった。
で、その誘いは中々予想外なものだ。さっきまでとは一転、頭は別の方向に切り替わっていた。
まさか、その巧みな話術で俺をも術中にはめるつもりか……なんて、七原は冗談じみて考える。
とにもかくにも、今の七原には別に悪い気分ではなかった。
「………ま、女の頼みを断るのも興ざめか」
それは、はたして照れ隠しか。
演技がかった芝居で、返答した。
355
:
類題:2で割ろう
◆y8iHSx6A2M
:2013/08/11(日) 01:08:16 ID:UAhWU1OE
【D−4/海洋研究所前/一日目・日中】
【七原秋也@バトルロワイアル】
[状態]:健康 、疲労(小)
[装備]:スモークグレネード×2、レミントンM31RS@バトルロワイアル、グロック29(残弾9)
[道具]:基本支給品一式 、二人引き鋸@現実、園崎詩音の首輪
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1:今後の方針を二人と練り直す。首輪の分解も試したい。
2:白井については、どこまで同行する…?
3:……こういうのも悪くはないか
【白井黒子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:気絶、精神疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式 、正義日記@未来日記、不明支給品0〜1(少なくとも鉄釘状の道具ではない)
基本行動方針:正義を貫き、殺し合いを止める
1:……………。
2:私は、間違えた……?
3:初春との合流。お姉様は機会があれば……そう思っていた。
[備考]
天界および植木たちの情報を、『テンコの参戦時期(15巻時点)の範囲で』聞きました。
【船見結衣@ゆるゆり】
[状態]:健康
[装備]:The wacther@未来日記、ワルサーP99(残弾11)、森あいの眼鏡@うえきの法則
[道具]:基本支給品一式×2、裏浦島の釣り竿@幽☆遊☆白書、眠れる果実@うえきの法則、奇美団子(残り2個)、森あいの眼鏡(残り98個)@うえきの法則不明支給品(0〜1)
基本行動方針:レナと一緒に、この殺し合いを打破する。
1:ごめんなさい……
[備考]
『The wachter』と契約しました。
【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康
[装備]:穴掘り用シャベル@テニスの王子様、森あいの眼鏡@うえきの法則
[道具]:基本支給品一式、奇美団子(残り2個)、不明支給品(0〜1)
基本行動方針:正しいと思えることをしたい。 みんなを信じたい。
1:結衣ちゃんと一緒に行動する
2:まずは泣きやませないとね
[備考]
※少なくても祭囃し編終了後からの参戦です
356
:
類題:2で割ろう
◆y8iHSx6A2M
:2013/08/11(日) 01:09:57 ID:UAhWU1OE
投下終了しました。勢いで書いた部分も多いので、何か矛盾点等ございましたら指摘よろしくお願いします。
特に問題がなければ明日明後日辺りに本投下する予定です。
あと、急いでいたので変更し忘れました。
七原秋也の状態表を
[状態]:健康 、疲労(小) 、頬に傷
に変更します。
357
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/11(日) 07:25:07 ID:6kAZB6Ds
ただいまPCが使えないので、携帯から失礼します
投下乙です!
読み手としての感想は本投下されました時につけるとして
書き手としては、すごい新人さんが来てくれたなぁ……と
どのキャラにも感情移入してしまって、ぐいぐいと引き込まれてしまいました
話については問題ないと思いますが一ヶ所だけ
七原が、「名簿と照らし合わせてみると、彼女達と同じ学校の生徒が数多く死んでいる」
と言っていますが、名簿には学校名までは書かれていません
(自分が所属学校の書かれた「学籍名簿」などという紛らわしい支給品を出してしまいましたが)
「境界線上の七原秋也」にて七原はあかりから友人の名前を聞いているので、
結衣たちの知り合いが呼ばれたことは薄々と察知可能であり、軽い修正で済むかと思われます
繰り返しますが、初参加と投下たいへんに乙です!
自分も破棄ばかりしてないで、早くちゃんとしたものを投下しないといけませんね…
358
:
◆y8iHSx6A2M
:2013/08/11(日) 22:53:05 ID:UAhWU1OE
訂正点の指摘と、それに対する丁寧な対策の提案ありがとうございます。
該当部分を訂正しましたので、今から本スレの方で投下させていただきます。
何かいける所があれば積極的に書きに行きたい所存ですので、これからもよろしくお願いします。
そちらの方もいつも楽しみにさせてもらっています。無理せず頑張ってください!
359
:
◆y8iHSx6A2M
:2013/08/11(日) 23:28:26 ID:UAhWU1OE
えー……すいません、さるさん規制されました。こういうものはしたらばでしか投下した事がなかったので……。
不慣れなせいでとまどってしまい申し訳ありません。時間を取ってから再投下します。
360
:
名無しさん
:2013/08/12(月) 23:08:41 ID:PJroEftA
思ったけど白井黒子って放送聞き逃してるよね
361
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:30:58 ID:tr3nIqwE
以前に予約しました面子の話が完成したので、ゲリラ投下します
362
:
その目は被害者の目、その手は加害者の手
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:33:24 ID:tr3nIqwE
――人は自分の気分しだいで壊せるものをそれぞれ持ってる。
おもちゃだったりペットだったり恋人だったり家庭だったり国だったりする。
霊能力者、格闘家・幻海
【1】
――そう言えば浦飯は、参加者の居場所が分かるレーダーを持っていたはずだった。
やっと思い出して、常盤愛ははたと足を止めた。
そこは道なき道で、住宅街の隙き間を埋めるような小さな林の中で。
膝から下は、草いきれの中をがむしゃらに走ったために細かな擦り傷が目立った。
浦飯たちとは、どれほどの距離をかせいだだろうか。
レーダーで捕捉されているなら今に追いつかれてもおかしくないけれど、
これまで追跡の気配を感じなかったからには、レーダーの探知範囲から逃げきれたのかもしれない。
このまま進路を変えずに逃げ続けるべきだろうか……いや、そもそも、追いつかれたらどうなるのだろう。
決まっている。きっとすごい形相で睨まれて、最初から不意打ちするつもりだったのかと問い詰められて.
殺されるか、雪村螢子を失った憂さ晴らしの道具にされるか、
頬をはり倒した瞬間の、浦飯の呆けた顔を思い出した。
胸をチクチクと刺されるかのように、ぬぐいさりがたい後味の悪さが残っていた。
どういうわけか、いつもの常盤愛らしい『引っぱたいて別れを告げてせいせいした』という感想さえ吐きだす気分になれない。
それどころか立ち止まったまま、独り言が漏れそうになる。
まぎれもなく、自嘲だった。
「あたし、何やってるんだろう……」
振り返れば、これまで一つでも計画通りに運ぶことができたかどうか。
中川典子は脅迫し、
高坂たち三人組には襲いかかって返り討ちに遭い、
浦飯幽助と秋瀬或には殺意を露見させて逃げだした。
自らの有利になるように場を動かそうなどと目論みながら、有利な情報の一つすら広められていない。
今ごろ、中川典子は男を殺しきれないまま、死の蛭がハッタリだと気づいてしまったかもしれない。
越前リョーマらは、たまたま本物の白井黒子と遭遇して誤解を解いてしまったかもしれない。
浦飯幽助たちは、常盤愛は見境なしに殺す危険人物だと広めて回るかもしれない。
今ごろ、たくさんの参加者が愛をブラックリスト入りにしていて、気づいていないのは当の我が身だけかもしれない。
そういう可能性があるから、うかうかしている暇なんてないはずなのに。
363
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:34:41 ID:tr3nIqwE
「あたしは強い。あたしは強い。あたしは強い…………って。
いつもなら、こう言えば落ち着いたのに」
強くなったのだと、信じていた。
上手く立ち回って、自分だけの力で、生き残れるはずだった。
他人なんて、特に男なんて信用できない。
脱出のために仲良く協力し合うなんて光景はあり得ない。
利用するか切り捨てるかして生き残るしかない。
そうやって、幾重にも頑丈な鎧を着て、これで間違っていないと言い聞かせていられた。
それは、愛が『怖がり』だから?
違う。そんなことあってはならない。
だって、怖がっても誰かが助けてくれるわけではないから――
誰かが――
「そこにいるの、誰」
誰かが、いる。
風が吹いたのかと思ってしまいそうな葉ずれの音だったけれど、
これまで森の中を歩き回った経験と、経歴がら人の気配に敏感になっていたことが役立った。
雑草の繁茂する、木と木の間に目を凝らす。
木陰から謎の人物が現れると予期していた愛は、しかしぎょっとして腰を抜かした。
透明な空気の布でもめくったかのように、何もなかった場所から少女の姿が現れた。
しかもその透明人間には、見覚えがあった。
「わー、よく気づいたわね。転校生の常盤さんだったかしら?」
吉祥寺学苑の制服を着た少女。
神崎麗美。
あの高坂王子と一緒にいたとかいう、付き合いのほぼ皆無な同じクラスの生徒。
「か、かんざき、さん……?」
「あ。あたしの名前覚えててくれたんだーうれしー。
そうよー、あたし同じ三年四組の神崎麗美ちゃん」
妙に明るい声で、愛が呆けていないか確かめるように眼前でヒラヒラと手を振ってみせる。
おかしい。
転校して日の浅い常盤にも、まずおかしいと感じられる。
なんでこんなに明るいんだろう、とか、なんで笑顔なのに不気味に見えるんだろうとか。
364
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:36:27 ID:tr3nIqwE
「どしたの? 幽霊と会ったような顔しちゃって。
ひょっとしてあんな登場したから、死んでて化けて出たとか思っちゃった?」
……いや、それ以前にもっと気にすることがあったはずだ。
そう、確か高坂はこいつと合流の約束をしていた。
時間を考えればとうに再会しているはずなのに、まるで常盤のことを何も聞いていないかのように話しかけてくる。
「まずは、お互い無事で良かったねーって言えばいいのかしら?
……もっとも、アタシが『無事』かっていうと疑わしいけどねぇ」
偶然か、理由があって合流に失敗したのか。
それとも、知らないと見せかける演技をして、愛が下手な実力行使に出るのを待っているのか。
こうやって話をしているのも罠だろうか。
読み取ることができずに、どう出るかを測りかねた。
「どうして、隠れてアタシを見てたの?」
「だって脇目も振らずに走ってきたかと思ったら、急に止まるんだもの。
まるで、『人殺し』から逃げてきたみたいだったじゃないの?」
語尾をあげ、さも気になるという風な流し目を送りつけて、愛が答えるのを待っている。
むっとしたけれど、だんまりを決めこめばそれをきっかけにクロと断定されるかもしれない。
どうしよう、と初めてうろたえる。
ここで今度こそ偽の情報を撒くという手もあったけれど、高坂王子らの仲間だったらしいことを思えば得策じゃない。
何より愛自身、そういった計算を繰り返すことに疲れを覚えだしていた。
「『死んだら生き返らせればいいじゃん』とか、頭のおかしいこと言う連中から逃げてきたの……」
結局、これだけを言った。
365
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:38:02 ID:tr3nIqwE
「へー、確かにそれは頭がおかしいわね。そいつら、気が狂ったりしてたの?」
「まともには見えたけど……話してることはまともじゃなかった」
浦飯たちの言ったことには怒りを抱いていたのに、他人から狂った連中だと言い切られるのは奇妙な抵抗があった。
ぽつりぽつりと、支障はなさそうな範囲で説明する。
浦飯幽助なる少年と、そのあとに秋瀬或という少年に出会ったこと。
死人が生き返る世界から来たとか、死んだ知人を生き返らせようという話になったこと。
死の蛭については伏せ、その言いざまに対して怒りを覚えたこと。
「なるほどね。確かに勝手な連中だわ」
神崎は口をへの字にして、うんうんと頷いた。
それは話を合わせての相槌ではなく、本当にそう思っての言葉に見えた。
やはりこの女は愛のことを何も知らないのではと、安堵を持ちはじめる。
「せっかく殺したのに、誰が生き返ってほしいなんて思うもんですか」
その言葉に、そう言った神崎がにっこりと笑っていたことに、安堵がふき飛んだ。
「生き返らせるってことは、償いをするってことじゃない。やり直すってことじゃない。
やり直すとか、がんばるとかは、もう捨てたのよ。
まぁ、吉川には生き返ってほしいと思わなくもないけどね。
でも、吉川たちを殺したアイツはダメ。絶対に許せない」
「殺し合いに……乗ってたの?」
「あれー? そんなに怯えることはないんじゃない?
こんな場所なら、誰が加害者になって誰が被害者でもおかしくないんだから。
あの道の駅の女もそうだったわ。人殺しのくせに、被害者ヅラして。
マシンガンなんてもので友達を撃ち殺しておきながら、開き直ってみせたの」
「………………え?」
道の駅。
マシンガン。
女。
アイツじゃない、と否定するには条件がそろいすぎていて。
「…………何よ、その顔と反応は」
動揺を悟られまいとする方が無理だった。
見逃さず、神崎麗美の眼が鋭い光を宿らせる。
◆
366
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:39:14 ID:tr3nIqwE
浦飯幽助と秋瀬或の追跡を中断させたものは、携帯電話の着信音だった。
時間的にそろそろだと踏んでいた秋瀬は、少しだけ待ってくれないかと幽助を制止する。
ほとんど先行するように駆けていた幽助も、神妙な表情を見て立ち止まった。
一刻を争う追跡劇の最中とはいえ、六時間に一度の生死確認を邪魔はできなかった。
幽助自身の身内はもういないにせよ、どれほどの犠牲者が出たのかは気になるし何より秋瀬の知り合いが呼ばれるかもしれない。
即座に携帯電話を耳に当て、二人は死者の名前を知る。
幽助を驚かせたのは、前回をはるかに上回る人数で読み上げられた死者の名前。
その中に、園崎魅音や前原圭一の名前があがったことにも表情を苦くする。
そして、秋瀬或にとっても驚くことがあった。
「真田君と……月岡君が……」
胸を刺突されたような驚きを覚えたことが、意外だった。
おそらく、役割を聞きまわった参加者たちの中で、初めて死亡を告げられたからだろう。
皆で這い上がる道を見つけられず、男は死んだ。
新しい『生まれ変わった月岡彰』は、二度目の死を迎えた。
知っていた。未来とはそういうものだと。
知っていたはずなのだが……。
「時間を取らせて悪かったね、捜索を続けようか」
「大丈夫か? 知ってるヤツが呼ばれたみたいだけど……」
「浦飯君ほどじゃないさ。それに、常盤さんだって放送を聞いて足を止めているかもしれない」
「距離をつめるなら今のうちってことか」
そう間をおかず、二人は歩みを再開する。
果たして秋瀬の読みは当たっていたのかどうか、間もなくして浦飯のレーダーには二つの光点が映った。
『神崎麗美』という名前の書かれた光点が、『常盤愛』のそばから離れていくところだった。
「もう一人が気になるけど、まずは常盤の方だな」
「いや、この人と常盤さんがどう接触したのかも気になるし、僕はこの子の方を追うよ。
少しでも多くの人と話しておきたいしね」
それに幽助の前では敢えて言わないが、レーダーからでは生死まではわからない。
常盤愛がすでに死体であり、神崎麗美が殺人者である可能性も否定はできないと見てのことだった。
まだ不安定そうな幽助を一人にするのは気がかりだが、少なくとも常盤に対しては穏便に接するだろう。
「レーダーを一度預けてくれないかな? 『神崎』さんへの対応が済んだら、君たちに合流するから」
「ああ、別にいいぜ。常盤のことは心配するな。さっきみたいに手を出させる真似はしねぇよ」
◆
367
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:40:46 ID:tr3nIqwE
「あんたが『秋瀬或』?」
「僕の名前は常盤さんから聞いたんだね。『神崎麗美』さん」
天才か狂人か。
この少女はそのどちらに近いのだろう、と秋瀬或は二択を直観する。
その笑顔のどことなく『壊れた』感じが、我妻由乃の片鱗と少し似ているからだ。
孤独だとか、飢えだとかが臨界突破した、負の想念からくる独特の迫力だった。
「へー。別に、どこでアタシの名前を聞いたのかは興味ないわ。
でもアタシは、あの女の知らないことだって知ってるわよ。
『探偵』で『前の殺し合いの関係者』で、『天野雪輝の味方』の秋瀬或クン」
ただし、我妻由乃とは違うところもある。
あの少女は、それでも懸命に『なにか』を獲得しようと足掻く狩人の目をしていたけれど。
この少女が笑顔に宿す瞳は、とても虚ろなものだった。
「……高坂君から、聞いたんだね」
「さぁね」
ハッタリによる断定だが、大筋に違いはあるまいと断定する。
天野雪輝のことを伝聞から知ったとすれば、可能性がある人物は3人。
我妻由乃が教えるケースは、およそあり得ない。
そして最初の放送で呼ばれた日向よりも、まだ生存している高坂の方が多くの人間と会話しているだろう。
しかし、事前に高坂王子から話を聞いたとすれば、或を危険人物だと認識することはないはずだ。
だとすれば、神崎麗美の試すような言動はどこから起因するのか。
少女の狙いが読めず、さらに問いかける。
「それで、君は僕たちのことをどう思ったのかな? ずいぶんと警戒されてしまったようだけれど」
「べっつにー。何かされるって警戒してるわけじゃないし、何をしようとも邪魔だてするつもりはないわよ?
ただ、いくつか聞いてみたいことはあったわね。たとえば――」
ニヤリと笑むように唇をゆがめて、言った。
「この殺し合いが開かれたのって、天野雪輝のせいなの?」
問いかけが、或を撃ち抜いた。
「いや、そんなことはないよ」
否定した。
否定したけれど、心中ではやはり、と思った。
予期しないでは、なかった。
だからこそ、これまで天野雪輝に関する情報をあまり口外しなかった。
全てのことが明るみになった時に、こう言い出す人間が現れるのではないか。
368
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:41:53 ID:tr3nIqwE
『なんだ、じゃあ殺し合いが始まったのは、天野雪輝のせいじゃないか』と。
「前の殺し合い参加者なんでしょ。次の神様が決まる寸前だったんでしょ?
だったら、どうしてこんなことが起こったのか説明できないの?
殺し合いに深くまで首突っ込んでたんだし、聞いた話じゃ神様目指してたんだからさ。
そこまで深く関わっておいて、こんなに大勢の人を巻き込んでるのに『何も知りません』じゃ済まないんじゃないの」
次の神様を決める殺し合いに参加していた。
『自分が優勝して、その後にみんなを生き返らせよう』と、客観的に見れば正気の沙汰ではない発想から殺し合いに乗って、優勝した。
結果として神様になったのに、恋人をなくした喪失感から神としての責務を放棄し、世界を消滅させて怠惰な一万年を過ごした。
ともに一万年を過ごしていた部下である使い魔ムルムルが、いつのまにか主催者の立場に立っていた。
主催者は、『神様の力』を優勝者に贈呈すると宣言した。
事実をつなぎ合わせれば、『雪輝が使い魔の勝手な行動をさえ見逃すほどに腐抜けていたから、みすみす殺し合いなんてものを開かせた』とも受け取れる。
人によっては『神様が関係する殺し合いなのに、現・神様である雪輝が何も知らないなんて無責任にもほどがある。雪輝が神として職務怠慢だったせいだ』と考えるかもしれない。
「君がどうしてそう思ったのかは分からないけれど、雪輝君に責任はないと断言する。
前のゲームと今回のゲームでは、ルールや趣向に違う点も多いんだ。
素直に、前回のサバイバルゲームと同じ催しだと考えることはできないよ」
或としては、そう思わない。
ムルムルが複数個体いることは雪輝の話から分かっているし、並行世界が無数にあるという事実だって掴んでいる。
主催側にいるムルムルが雪輝に仕えていたムルムルと同一かどうかなど断定できない。
それに主催者の『自称・神様』にせよ、雪輝が万全だったとしても止められたかどうか怪しい。
しかし血と恐怖の世界に十二時間以上も放り込まれ、友人や大切な人を殺され、
控えめに言っても主催である『神様』を憎悪しているに違いない生存者たちは、そう思うだろうか。
雪輝もまた被害者なのだと割り切って、協力者として受け入れられるだろうか。
あの遠山金太郎にはそれができていたけれど、ほかの参加者も皆がそうだとは限らない。
「ふーん。じゃあ、質問を変えるわよ」
そんな或の煩悶を、すべて見通したわけではないだろうが、神崎は軽やかな口調で続ける。
「実はあたし、天野のカノジョに、仲間を殺されてるの」
我妻由乃。
最大の障害のことに違いなかった。
「襲われた時はピンとこなかったけど、桃色の髪にいっちゃった目をした怖い女って、最初に会ったヤツが教えてくれてた特徴そのまんまだったわよ。
今思えば、『ユッキーと結ばれたい』とか言ってたもの。どう考えても天野雪輝のことじゃない?
ほかに、名前にユキがつく参加者っていないもんねー」
369
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:43:03 ID:tr3nIqwE
少ない手がかりから、まるで全貌をつかんでいるかのように推理を語った。
じっさい高坂ならば、雪輝監禁事件や8thとの戦いを見て『我妻由乃は危険人物だから気をつけろ』と警告したくもなるだろう。
そして、由乃の目的をいつもの例によって『天野雪輝を生かすため』だと勘違いしてもおかしくない。
「そいつは、我妻なら雪輝のために殺し合いに乗るかもしれないって言ってたわよ?
それって、雪輝クンのせいでたくさんの人が殺されたってことじゃないの」
「それは違う。信じてもらえるかは分からないけれど、彼女が殺し合いに乗った理由は、ごくごく利己的なものだ。
雪輝君を優勝させるためなんかじゃないよ」
「ふーん? じゃあ、聞き方を変えるわよ」
神崎はそこで句切り、ためてから言った。
「ちょー愛してる彼女さんが殺し合いに乗ってるようだけど、雪輝君はどうするの?」
少し、黙る。
まさに雪輝自身が答えを出せていない問題だったから、というのがひとつ。
楽しそうな少女の狙いが読めないから、ということがもうひとつだった。
間違いなく頭が切れる。そんな少女が、雪輝を糾弾したとして、それでなにをしたいのか。
雪輝に恨みを持って立場を危うくすることが狙いなら、この場ではなく第三者と出会った時に初めて披露するはずだ。
「少なくとも、彼女に同調して殺し合いに乗ることは絶対にないだろうね。
彼女を止める側に回るだろうことは、保証するよ」
或の擁護を意に介さず、少女は続けた。
「止めるってどうやって? 自分の恋人を殺すの?
それとも、愛のチカラってやつで説得とかしちゃうの?
でも、あんたたちっても元の世界でも殺し合いに参加してたのよね?
『帰ったらまた殺し合いしなきゃいけないけど、今は殺し合いヨクナイ!』とでも言って説得するの?
それってただの問題の先送りじゃない。脱出に成功しても、天野クンは遠からず彼女と殺しあうことになるわけよ
対主催派からすれば味方が増えて願ったりな話だけど、それで彼は幸せになれる?」
……まったく、痛いところを。
内心でつぶやき、或は言われずとも分かっている論説を反芻した。
現状、雪輝が我妻由乃を殺すのは不可能。最大のタブーのようなものだろう。
我妻由乃を殺せず、死なせたからこそ、一万年間も絶望し続けていたのだから。
ついさっき会った時も、『由乃の代わりに死んでもいい』とまで言ってのけた。
しかし、たとえ二人を死なせずして殺し合いから脱出させたとしても、問題はまったく解決されていない。
あの我妻は、『サバイバルゲームが決着する直前』の時点から来ている。
雪輝と我妻の、どちらかが神にならない限り、二週目世界のサバイバルゲームは決着しない。
つまり我妻由乃が生きていては、天野雪輝は神になれなかった。生きていれば歴史が変わる。
ならば、我妻を雪輝とともに『元いた世界(一万年後)』に連れて帰ってしまうことでタイム・パラドックスが起こる。
それこそ、かつて彼女自身が時間を戻して過去にとんだ時に、世界が分岐してしまったように。
『我妻由乃とともに生還した雪輝の世界』と『サバイバルゲームの決着前に我妻由乃が消失し、絶望する雪輝の世界』に分岐するだけだ。
それでは今この場にいる雪輝をどうにか幸福にしただけで、新たに雪輝が絶望する並行世界を生み出してしまう。
370
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:44:38 ID:tr3nIqwE
「あ、そうか。アタシ、いいこと思いついちゃった〜」
まるでゲームの攻略法でも閃いたかのように、神崎は両手のひらをパンと合わせた。
「もしかして、主催者の神様パワーに頼って、元の世界の殺し合いをどうにかしてもらう?
それはそれでいいかもね。『死んだら生き返らせよう』とか簡単に言えるんだから、もう何でもアリよねぇー?
だから、『死んだ人が生き返るかどうか』を気にしてたんじゃないの?」
そこまで、たどり着かれていた。
胃の中が冷えるような感覚と、神経が張り詰める感触があった。
月岡彰と交わしたような腹の探り合いにすらなっていない。
容疑者から自白させることに関しては、秋瀬或も自信があった。
だが、己が尋問される側に回るのは初めてのことだった。
「あんた、きっと我妻由乃を生き返らせたかったんでしょう。
最終的に2人が殺し合いをしても、生き返らせて二人幸せになればいいって」
「まさか。そこまで極端なことを考えてはいないよ」
例えば。
我妻由乃は、元いた二週目の世界、元の時間軸に返す。
そして、同じように雪輝を神にするために死んでもらう。
歴史と同じ結末をたどるのだから、タイム・パラドックスは起こらない。
その後に、死んだ我妻を生き返らせる。そして雪輝のいる一万年後に送る。
最大の反則手であることは理解しているが、それでも手段の一つとしては想像していた。
雪輝が我妻なくしては幸せになれないならば、私情を殺してでもそうするべきだろうかと思ったこともあった。
「ってゆーか、たくさんの人を殺しておいて、今さら自分たちだけ幸せになろうって言うの?
そんなことが許されると思ってるのかしら。
しかもアンタ、浦飯幽助には『生き返らせるのは慎重に考えた方がいい』とか言ってたそうじゃない。
自分も蘇生を考えてたくせに、どの口が言ってるのかしらねぇ。
浦飯のためなんかじゃなくて、敵に回したくなかっただけじゃないの」
頭のいいヤツってむしろ考えることが読みやすいのよね、決まったルートをたどるから。
そう指摘して、締めとなる言葉を言い放った。
「そんな風にすかした態度をとって余裕気取っちゃってさ。
本当はアンタこそが、誰よりも八方ふさがりなんじゃないの?」
371
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:45:51 ID:tr3nIqwE
或は、黙る。
諦めるわけにいかないからこそ、答えるわけにいかない。
事情のすべてを知悉してはいないけれど、神崎の指摘は逃げ場がないほどに的を得ていた。
雪輝が『我妻由乃をどうしたいか』について答えを出せるかさえ、こじれきった今ではおよそ困難すぎる試練だった。
しかしそれを乗り越えても、雪輝が『由乃を殺せない』と結論づけてしまえば、脱出後の二人をどうするかという解答不可能な難題が立ちはだかる。
それならば、いっそ我妻を殺して、己の手で雪輝を幸せにしてやればいいのではないかという欲望が持ち上がり。
しかし、由乃の存在なくして一万年間も不幸だった少年にそれを強いるのかと、理性が歯止めをかける。
さらに言ってしまえば、あれだけの人間を殺して壊れきった我妻を救いようなどあるはずもない。
無理難題だと分かっていた。
しかし諦めることも許されなかった。
そして、理解する。
この少女に、普段のペースを乱されている理由。
狙いが読めなかったのではない。
この少女には、最初から『狙い』などなかったのだ。
「まっ。そういう風にアンタがいかに手詰まりかを証明したところでー。
どうせだから、引き取ってほしいものがあるのよねー」
ごそごそとディパックを探り、数枚のメモ用紙をつかみ取る。
「これ、彼女に殺されたヤツがちょーっと首輪について調べてた情報なの。
跡部王国だか透視能力だか知らないけど、信頼できる筋の情報だとは思うわよ。
で、これを――」
二つに折りたたんで、両手の人差し指と親指でピリリと裂け目を入れて。
ビリビリと、一気に破いて引き裂いた。
念入りに細かく破き、パラパラと足元に落とす。
「ほら。欲しけりゃ、地面に這いつくばって拾いなさいよ。
もっとも――首輪を外せたって、アンタの大切な友達は幸せになれないでしょうけど」
彼女に狙いがあるとすれば、それは否定。
否定してどうしようというのではなく、ただ己が愉しむために否定した。
だから、神崎を呼び止められない。
世界一の探偵を志望する少年も、一人の中学生でしかなかったのだから。
ただ、立ち去る背中へと、竜宮レナや真田や月岡たちに尋ねてきた問いかけを放つ。
「君は、何になりたいんだい?」
「なりたいものなんて、ないわよ」
372
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:46:52 ID:tr3nIqwE
【F-4/南東部/一日目・日中】
【秋瀬或@未来日記】
[状態]:健康
[装備]:The rader@未来日記、携帯電話(レーダー機能付き)@現実、セグウェイ@テニスの王子様
[道具]:基本支給品一式、不明支給品(0〜1)、火炎放射器(燃料残り7回分)@現実、
インサイトによる首輪内部の見取り図(修復作業中)@現地調達
基本行動方針:この世界の謎を解く。天野雪輝を幸福にする。でもどうしたらいい?
1:神崎の落としていった見取り図を修復して書き写し、浦飯たちと合流する。
2:我妻由乃を止める。天野雪輝のために、まだ殺さないでおきたいが……?
3:越前リョーマ、切原赤也に会ったら、手塚の最期と遺言を伝える。
[備考]
参戦時期は『本人の認識している限りでは』47話でデウスに謁見し、死人が生き返るかを尋ねた直後です。
『The rader』の予知は、よほどのことがない限り他者に明かすつもりはありません
『The rader』の予知が放送後に当たっていたかどうか、内容が変動するかどうかは、次以降の書き手さんに任せます。
幽助とはまだ断片的にしか情報交換をしていません。
◆
隅っこにうずくまり、隠れていたつもりだったのだが。
それだけでは『そっとしておいてほしい』という意思表示にはならなかったらしい。
「常盤」
神崎がいなくなって、次に声をかけてきたのはさっきの男――浦飯幽助だった。
さっきまでの常盤だったら、警戒心が先行してまず逃げをうっていたかもしれない。
しかし、今は『うっとうしいな』と思っただけだった。
浦飯幽助を許す許さないよりも、今の常盤は自分自身の問題が重すぎた。
中川典子がどうなったのか、知ってしまったのだから。
「その……悪かったよ」
第一声は、謝罪だった。
怒りにまかせて掴みかかられるかと思えば、ひょうし抜けがする。
「そりゃあ、いきなり死んだって生き返らせればいいとか言われたらおかしくなったのかと思うよな。
っつーかよ、オレだって、ぐだぐだ考えるガラじゃねえってのに。煮詰まって変なこと言っちまってた。悪かった」
不器用そうに頭を掻きながらぺこりと頭をさげる。
自身が殺されかけたことなど、すっかり脇において話している。
人の気持ちも知らないで、と苛々する。
373
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:48:32 ID:tr3nIqwE
「その……これはオレの勝手な思い出語りなんだけどよ」
口を閉ざし続ける愛を、許していないと解釈したのか。
そんな前置きをして、幽助は喋り始めた。
「オレが死んだ時は、螢子が泣いてたんだよ。おふくろも生気が抜けたみたいになっちまってて……すっげぇバツが悪かった。
それまで、周りからもっと煙たがられてたはずだったから、あんなに泣かれるとは思わなくてよ。
だから、こんなに悲しませるぐらいなら生き返ってもいいかと思ったんだ。
螢子についても、それと同じように考えちまってた」
あの時の螢子は、俺が生き返るのをずっと待ってた。
浦飯はそう言った。
それがとてつもない想いのなせる行為だと、感じ取るぐらいはできた。
常盤だって死んだら悲しんでくれるような、ミホやケーコといった親友はいるけれど、
幽霊になって化けて出たとしても『絶対に生き返ってくる』と信じてくれるかどうか。
いや、むしろ早く死んでくれと願う連中の方が多いかもしれない。
さっきの、神崎麗美のように。
「だから、逆の立場になって。
俺が生き返ってほしいって言わなかったら、悪い気がして……」
顔を向けることができないから、どんな顔をしているか分からない。
こいつなりに『生き返りさえすればそれでいいのか』と言ったことに答えようとしたのだろう。
だとすれば、この男はきっと本物だ。
少なくとも、少女当人の気持ちを全く思わなかったわけじゃない。
でも、今さらそれを認めるのはしゃくにさわる。
清い気持ちでハッピーエンドを期待していたこいつが、妬ましい。
そんな感情が、ぶっきらぼうに反発の言葉を吐かせた。
「でもあんた、まるで泣いてないみたいじゃない。
いくら想ってるからって、涙も流さないようじゃ説得力なんてないわよ」
もう、優しい大人になんて、絶対になれそうにない。
真っ暗な気持ちで、そんなことを思った。
374
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:50:19 ID:tr3nIqwE
それきり浦飯は黙り込む。
言いたいことがつかめない。
浦飯はすぐに病院に行ったはずだった。何の落ち度もない。
螢子を殺したのは渋谷翔だし、殺し合いに呼んだのは主催の大人たちだ。
雪村螢子が殺し合いに呼ばれたことに、浦飯幽助の責任なんて――
――あれ?
気づく。
とても冷徹で、しかし腑に落ちてしまうことに。
学籍簿で、見たのだ。
浦飯幽助の知り合いは、同じ学校の『雪村螢子』と、仲間だったらしい『桑原和真』。
もう一人、敵対する人物が誰だかいたらしいけれど、つまりその四人が『浦飯幽助を中心とした人間関係』だったとは察しがつく。
桑原とかいう男は知らないけれど、色々な事件に巻き込まれたのは、浦飯が『霊界探偵』だったせいらしいのだから。
愛の知り合いもまた『三年四組のクラスメイト』だった。
だから、『色々な学校の生徒が無作為に選ばれた』ぐらいにしか思わなかった。
しかし、浦飯からすればどうだろう。
探偵で、色々な事件を解決してきた。
そっちの業界ではそこそこ有名で、何とか武術会なるイベントに友人ともども強制参加させられたこともあった。
そんな風に色々とあった人間だから、主催者も彼に目をつけた。
何十万人といる学生の中から、浦飯幽助を選んだ。
殺し合いに招かれたりしたら、そうなのだろうと納得してもおかしくない。
だとすれば。
『浦飯幽助の身近な人物』だったから、雪村螢子は巻き込まれた。
浦飯幽助という存在が、雪村螢子を殺し合いに巻き込み、死なせてしまった。
「自分が許せないから、泣く資格もないってわけ?
……螢子さんは『あんたのせい』なんて思ってないかもしれないわよ」
そういう風に、受け止めてしまったとしたら。
「分かってる。螢子はそんなことで恨んだりしない。今までもずっとそうだった。
でもな、分かってても、どうしようもできねぇんだよ……」
己を許そうとしても、許せない。
危険な目に巻き込んだこともあったのだろう。
しかし、真の意味での『手遅れ』に直面したことはなかったはず。
たとえ、当の大切なひとが許していたとしても。
許さなければ誰にとっても救われないと分かっていても。
「アイツの為に何をしてやれるんだって、そればっかり考える……」
だからこその、殺し合いの打倒。だからこその、死者蘇生なのか。
375
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:51:48 ID:tr3nIqwE
「なんで、そんなこと、聞かれるままに話しちゃうのよ。
アンタ、あたしに殺されかけたこと忘れてんじゃないの……?」
「そりゃあ……」
短時間の会話を交わしただけだが、浦飯が自分の心境を、それも繊細なところをベラベラと喋るタイプじゃないと分かる。
会ったばかり、しかも印象は最悪だろう相手に、どうしてここまで伝えようとするのか。
「引っ叩かれた時に、痛かったからかもな……」
「意味わかんない……マゾなの?」
ぴしゃりという軽い音から、浦飯が己の頬に触れたことが分かる。
「妙に懐かしい気分になって……。
親からげんこつを食らったり、殴られたことはあったけど、俺にビンタを食らわせたのは、アイツだけだったから」
それは違う。
常盤愛は、そんな女性と重ねられるキレイな女じゃない。
少なくとも、螢子さんは脅して殺人を強要させたりしない。
いざ惨事になったと知ってバカみたいに震えることもない。
『まさかそこまで殺すと思わなかった』なんて愚かなことも言わない。
「あたしはそのケーコさんじゃないわよ」
「んなこた分かってるよ。ただ、なんか懐かしかったんだ。そんだけだ」
常盤愛は、浦飯に助けてもらうべき少女じゃない。
――だから、助けは求めない。
すぅ、と息を吸い込み、きっぱりと吐き出した。
「――だったらさ、それってもう答えは出てるじゃない」
「答え?」
「自分を許すも許さないも、ぜんぶアンタの都合なんでしょ?
アンタ自身は、ケーコさんが喜ばないことぐらい分かってるんでしょ。
そんなに人をウダウダ悩ませてまで生き返りたいと思う人かぐらいは、分かるでしょ」
神崎麗美から、色々なことを言われた。
悪意があり、毒があり、正論があった。
男を許せないと思うのも、緊急避難だから悪くないと信じこむのも。
ぜんぶがお前の勝手で、同意するヤツなど一人もいないと言われた。
376
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:54:31 ID:tr3nIqwE
「あたしはそのケーコさんじゃないけど。
でも、あたしだったら怒るわよ。『それってどっちなの?』って。
生きてほしいから生き返らせるの?
それとも、自分が謝りたいから生き返らせるの?」
神崎は、愛がとち狂って蘇生目当てで殺し合いに乗ることを期待したのかもしれない。
ここで『生き返らせたい気持ちが分かる』と同調すれば、浦飯幽助を味方につけられるかもしれない。
どんな手を使っても生還するなら、それが手っ取り早いかもしれない。
「そんな不純な気持ちで『生き返ってほしい』とか思われたって、全然嬉しくなんかないんだから。
螢子さんがアンタの言う通りの女神さまみたいな人なら、そんなの許すはずないじゃない」
「女神って……」
でも、それは無理だ。
たとえ本当に生き返るのだとしても、殺される側は殺す側を恨むだろう。
責任を取るために、取るべき責任を増やすなんてばかげている。
嫌なものは嫌だ。
受け付けないものは本当に受け付けない。
たとえ味方ができるとしても『一緒に死者蘇生目指してがんばろう』なんて言えるはずない。
『たくさんの人を殺してしまったから、私を助けるために蘇生を肯定して』なんて思えない。
「螢子さんはアンタが死んだ時、生き返ってほしいって言ってくれた。
アンタも、生き返ってほしいとは思ってる。
だったら、それでいいじゃないの。思うだけなら自由でしょ?」
少しだけ、視線を浦飯へと向けてみる。
表情は、なかった。
小学生に髪と鉛筆を持たせて、『鏡を見て自分の顔を書いてごらん』と言った時に描かれる真剣な無表情のそれに似ていて。
「そうだな……」
だから、幼く見えた。
男とは、一定の年齢を通過したら欲望というケダモノを宿すのだと信じていた。
それでも、歳をとっても幼さは残るんだと何となく思う。
377
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:55:25 ID:tr3nIqwE
「てめぇが間に合わなかったせいで死なせておいて。
てめぇの都合で生き返らせますなんて、まかり通るわけねぇよな……」
憑き物が落ちたように、力が抜け落ちるのが分かった。
体から、表情から、目つきから。
「決めた。もう、考えねぇ。
うじうじ期待すんのは止める。
もしかしたら、オレ以外にも生き返らせようとする連中はいるかもしれねぇけど。
生き返るかもしれないのと、最初から生き返りを期待するのは違うよな」
声は、きっぱりとしていた。
心はまだ荒れっているのかもしれないけれど。
少なくとも、顔は穏やかそうだった。
善意からの苦言ではなかったはずだけれど、愛までふっと力が抜けてしまう。
だから、これで良かったのだと思うことにして。
「よし、それじゃ一人になるのも危険だし、しばらく秋瀬を待とうぜ。
オレが聞いたヤバい奴らのことも、まだ伝えられてねぇし」
それで、これからどうしよう。
生き残りを優先するなら、また騙し通すしかない。
しかし神崎麗美の言葉で、理論武装していた鎧はとうに剥がれ落ちてしまった。
それでも。
あれだけのことをしておいて、今さら後戻りもできるはずがない。
自分から逃げ道をふさいでしまったことを自覚して、愛は大きく息を吐いた。
秋瀬或が戻るまで、そう時間は残されていない。
【G-6/北西部/一日目・日中】
378
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:56:10 ID:tr3nIqwE
【常盤愛@GTO】
[状態]:右手前腕に打撲
[装備]:逆ナン日記@未来日記、即席ハルバード(鉈@ひぐらしのなく頃に+現地調達のモップの柄)
[道具]:基本支給品一式、学籍簿@オリジナル、トウガラシ爆弾(残り6個)@GTO、ガムテープ@現地調達
基本行動方針:生き残る。手段は選ばない
1:???
[備考]
※参戦時期は、21巻時点のどこかです。
※幽助とはまだ断片的にしか情報交換をしていません。
【浦飯幽助@幽遊白書】
[状態]:精神に深い傷、貧血(大)、左頬に傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×3、血まみれのナイフ@現実、不明支給品1〜3
基本行動方針: もう、生き返ることを期待しない
1:常盤と秋瀬を待つ。
2:圭一から聞いた危険人物(雪輝、金太郎、赤也、リョーマ、レイ)を探す
3:殺すしかない相手は、殺す……?
◆
(いい気味)
ゲームを打倒することはあれほどに脅威で、難関で、絶対に無理だと膝をついたのに。
何かを壊してしまうことは、面白いほど簡単だった。
べつに、天野雪輝のことを心底から恨んでいたわけじゃなかった。
あの時の少女イコール我妻由乃だと気づいたのもほとんど閃きだし、別に殺し合いが開かれた事情なんてもうどうでもいい。
ただ、気に入らなかった。
見方さえ変えればもっと苦しむべき立場にいるはずなのに、余裕を気取って俯瞰して。
もっと苦しんで、じたばたと足掻いた方が見ていて『面白そう』じゃないか。
だから、もっとも痛手となりそうな言葉を投げつけた。
もっと『死者蘇生』を焚きつけて殺し合いに乗せる手もあったけれど、相手も頭が切れる。
意図があからさま過ぎれば、かえって失敗していただろう。
首輪の情報を落として行ったのは、光明があった方が却って足掻くだろうという気まぐれが働いたから。
それに、持ち続けていた『重荷』を、背から降ろしてしまいたかった。
常盤愛に対しては、少し違った。
恨んだし、呪った。
口を滑らせてしまえば、吐かせるのも推理するのも容易い。
379
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:57:16 ID:tr3nIqwE
吉川のぼるが死んだことも。
あの女があの殺人現場に立っていたのも。
麗美に許せるかと問いかけたのも、ぜんぶ。
こいつの、せいなんだ。
殺そうか、と思った。
もう、世の中のルールは見限った。『悪いこと』かどうか気兼ねすることもない。
それでも、殺してしまえば一瞬で終わってしまう。
麗美はあんなに苦しんだのに、こいつは撃ち殺されるだけでリタイアできるなんて。
気に食わない。
――まさか『こんなおおごとになると思わなかった』なんて考えてないわよね?
――脅迫した女が暴走することぐらい、予想できなかったはずないでしょ。
――無関係そうな女の子だって、殺されてたのよ。
だから、説明した。道の駅で起こったことを。
常盤愛が、どんな大罪を犯したのかということを。
ひな鳥が飲みこめないものを親鳥がかみ砕いて口移しで与えるように、懇切丁寧に説明してやった。
――要するにアンタは、私怨のしかも逆恨みで他人に嫌がらせをして、被害を拡大しただけじゃない。
――誰もアンタが正しいなんて思わないわよ。違うって言うなら死んだヤツの知り合い全員全員に『アタシは悪くない』って納得させてみれば?
――アタシは優しいからそんなモノ要らないケド。
――結局さぁ、男は殺すべきだとか緊急避難とかにかこつけて、殺人を正当化したかっただけじゃないの?
――だってそうよね。参加者の過半数が男なのに『男を信用できない』って時点で対主催グループに混じれるはずないし、その時点で優勝するしか道がないもの。
放心する常盤を横に放置すると、放送を聞き終えてからさらに言葉を重ねた。
380
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:58:11 ID:tr3nIqwE
――そんなに自分の殺人を正当化したいなら、優勝してから生き返らせればいいじゃない。
――生き返らせるのは勝手なこと? でも、アンタがしてきたこととどっちが勝手かしら
――別にあの女に生き返ってほしくなんかないけどー。友達や先生が生き返るなら、アタシだって泣いて喜んで感謝だってしてあげるわ
別に、友人が生き返ることなんかこれっぽっちも期待していない。
蘇生が可能だったとしても、そんな慈悲を働かせるような大人たちではないことぐらい、天才児でなくとも分かるだろう。
――それさえできないって言うなら、
吊るした餌に乗らないならそれでもいい。
前にも後にも進めずに立ち往生するか、あるいは開き直って自身の優勝を目指し暴走をするか。
どっちにしても、あの場で撃ち殺してしまうより苦しみそうだ。
――アンタは天使なんかじゃない。ただの人殺しの、死にぞこないだ。
神崎麗美は、死人の生き返りなど信じない。
天国も地獄も信じない。
だから、死んでしまえばもう永遠の別れだと悟っている。
だから、放送で呼ばれた友人の名前を呼ぶ。
誰にも悟られないように、そっと。
「さよなら、雅」
【F-4/南東部/一日目・日中】
【神崎麗美@GTO】
[状態]:高揚
[装備]:携帯電話(逃亡日記@未来日記)、催涙弾×1@現実 、イングラムM10サブマシンガン(残弾わずか)@バトルロワイアル 、シグザウエルP226(残弾12)
[道具]:基本支給品一式 、インサイトによる首輪内部の見取り図@現地調達、カップラーメン一箱(残り17個)@現実
997万円、ミラクルんコスプレセット@ゆるゆり、草刈り鎌@バトルロワイアル、クロスボウガン@現実、矢筒(19本)@現実、隠魔鬼のマント@幽遊白書、火山高夫の防弾耐爆スーツ@未来日記
火山高夫の三角帽@未来日記、メ○コンのコンタクトレンズ+目薬セット(目薬残量4回分)@テニスの王子様 、売店で見つくろった物品@現地調達(※詳細は任せます)
基本行動方針:傍観者としてゲームを『楽しむ』。
1・他の参加者を見つけたら、『面白くなりそう』な方向に扇動する。
2・自身が殺されることも否定はしない。ただし、できるだけ長く楽しむ為になるべく生き残る。
[備考]鬼塚英吉は主催者に殺されたのではないかと思っています。
381
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/14(水) 21:58:56 ID:tr3nIqwE
以上です
毎度のことですみませんが、
お手すきのかたいましたら代理お願いします
382
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/15(木) 00:15:10 ID:XgOs2ZrQ
すみません、会話が一か所抜けてたせいで、前後のつながりがおかしなことに…
>>374
の訂正版を投下します
383
:
>>374訂正
◆j1I31zelYA
:2013/08/15(木) 00:19:01 ID:XgOs2ZrQ
「泣けねぇよ…………俺のせいだって思ったら」
「さっき言ってた『間に合わなかった』ってやつ?
だからそれは責任でもなんでもないじゃない。
そんな理由で泣いてくれないなんて――」
「間に合わなかったことだけじゃ、ねぇんだよ」
それきり浦飯は黙り込む。
言いたいことがつかめない。
浦飯はすぐに病院に行ったはずだった。何の落ち度もない。
螢子を殺したのは渋谷翔だし、殺し合いに呼んだのは主催の大人たちだ。
雪村螢子が殺し合いに呼ばれたことに、浦飯幽助の責任なんて――
――あれ?
気づく。
とても冷徹で、しかし腑に落ちてしまうことに。
学籍簿で、見たのだ。
浦飯幽助の知り合いは、同じ学校の『雪村螢子』と、仲間だったらしい『桑原和真』。
もう一人、敵対する人物が誰だかいたらしいけれど、つまりその四人が『浦飯幽助を中心とした人間関係』だったとは察しがつく。
桑原とかいう男は知らないけれど、色々な事件に巻き込まれたのは、浦飯が『霊界探偵』だったせいらしいのだから。
愛の知り合いもまた『三年四組のクラスメイト』だった。
だから、『色々な学校の生徒が無作為に選ばれた』ぐらいにしか思わなかった。
しかし、浦飯からすればどうだろう。
探偵で、色々な事件を解決してきた。
そっちの業界ではそこそこ有名で、何とか武術会なるイベントに友人ともども強制参加させられたこともあった。
そんな風に色々とあった人間だから、主催者も彼に目をつけた。
何十万人といる学生の中から、浦飯幽助を選んだ。
殺し合いに招かれたりしたら、そうなのだろうと納得してもおかしくない。
だとすれば。
『浦飯幽助の身近な人物』だったから、雪村螢子は巻き込まれた。
浦飯幽助という存在が、雪村螢子を殺し合いに巻き込み、死なせてしまった。
「自分が許せないから、泣く資格もないってわけ?
……螢子さんは『あんたのせい』なんて思ってないかもしれないわよ」
そういう風に、受け止めてしまったとしたら。
「分かってる。螢子はそんなことで恨んだりしない。今までもずっとそうだった。
でもな、分かってても、どうしようもできねぇんだよ……」
己を許そうとしても、許せない。
危険な目に巻き込んだこともあったのだろう。
しかし、真の意味での『手遅れ』に直面したことはなかったはず。
たとえ、当の大切なひとが許していたとしても。
許さなければ誰にとっても救われないと分かっていても。
「アイツの為に何をしてやれるんだって、そればっかり考える……」
だからこその、殺し合いの打倒。だからこその、死者蘇生なのか
384
:
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 21:58:20 ID:LWCqFp7I
例によって規制されていましたので、こちらに予約分を投下します
385
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 21:59:54 ID:LWCqFp7I
もう二度と会えないなんて信じられない。
まだ何も伝えてない。
まだ何も伝えてない。
◇
温泉ペンギンの亡骸は、ツインタワービルの中に安置することにした。
元からディパックにいた支給品とはいえ、目から血を流す遺体を荷物のようにディパックに入れてガタゴト運ぶような扱いはできない。
かといって抱え持って歩くには重たすぎるし、何よりも誰かと出会った際にショックを与えすぎる。
いずれ碇シンジには返さないといけないが、今は置きざりにするしかなかった。
「高坂さんは、これからどうするんスか?」
「ここで秋瀬を待つ手もあるけど、雪輝のバカも探したいからな……。
菊地とかいうヤツは神崎の知り合いっぽいし、しばらくはお前らと一緒に行ってやるよ」
「そりゃどーも」
「おいこら、そこはもうちょっと嬉しそうなリアクションを……まぁ、いいや。
秋瀬への伝言を書いてくるから、先に行ってるぞ」
ペンギンを抱きかかえて置き場所を探す越前に何かを察したのか、高坂は文句を中断して場を離れていった。
ペンペンに関しては高坂より二人のほうが長く付き合っていただけ遠慮をしたのかもしれない、と綾波は自分なりの分析をする。
高坂の話によれば、神崎麗美は度胸があって頭の良さそうな少女だったという。なので、どちらかと言うとその豹変が気がかりらしい。
「ん、しょっと……」
スタッフルームのソファの上に、越前がペンペンを寝かせた。
しゃがみこみ、綾波が差し出したジャージ(元は越前のものだが)を広げてふわりと亡骸にかける。
最後にジャージの上から亡骸を撫でて、言った。
「ごめん」
二回目の謝罪だった。
背後からそろそろと表情をうかがえば、強く唇を噛んでいるのが見える。
悲しい。悔しい。苦しい。
本に書かれていた感情のことを思い出して。
レイ自身にもある胸のうずきと重ねてみる。
知り合いがまた一人死んだのだと言われた。
それも、自分に銃口を向ける少女から、この手で殺したのだと言われた。
いろいろな思いを否定されて、その少女を撃とうとしてしまった。
少女を排除できずに、ペンペンを死なせてしまった。
「辛いの?」
「別に……どうすれば良かったのかとか、いろいろ考えてただけ」
否定が嘘だということは分かる。でも、それ以上のことが分からない。
「越前くん」
「ん?」
それでも、まずは言わなければいけないことがあった。
386
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:01:07 ID:LWCqFp7I
「ありがとう。助けてくれて」
越前が顔を上げる。口からえ、とか、ふぇ、に似た音を漏らした。
「……なんで、今?」
「まだ言ってなかったから。
あなたがいなかったら、私はもっと前に死んでた」
白井黒子の一件や神崎麗美のことを経た後では、言葉の通りだと実感できる。
越前がいなければ、綾波は遠くないどこかで危険人物を殺そうとして逆に殺されるような、あっけない結末だった。
アスカ・ラングレーに助けられた時は、ただその善意をありがたいと思うだけだった。
白井黒子から守られた時は、越前の助けを頼りにした自分自身に驚いていた。
しかし神崎麗美に撃たれそうになった時には、困惑と混乱と葛藤があった。
己の身を盾にして、庇われた。
「瑕疵はあったかもしれない。でも、あなたは無力でもない」
いつだって綾波レイは守る立場だった。
その対象が碇シンジになってからも、その為に命を投げ出せるのが当たり前だった。
守ったシンジや、ゲンドウから血相を変えて心配してもらったことはある。
その時にもらったゲンドウの壊れたメガネは、大切に保管している。
しかし、命を賭けてでも守られたのは初めてのことだった。
そのことが不思議で、感謝だけでなく恐怖もあって、自分のことも越前のことも図りかねている。
「だから、次からは自分の身を守ることも考えて」
高坂王子が見つけてきたシンジの音楽プレイヤーを、越前の左手に握らせる。
どのみちシンジの手に返すならば、越前の手から渡すほうが負い目を解きやすいと思えたからだ。
越前は握りしめたS-DATプレイヤーを見下ろし、しばらく黙っていた。
驚いた様子からバツの悪そうな顔へ、つづけて神妙そうな面持ちへと細かく変化を刻む。
そして、そそくさと後方を向いて歩き出しながら、
つまり、わざわざ自分の顔が見えないようにしてから。
レイにも聞こえる声で「ちぃース!」と答えた。
◆
387
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:04:06 ID:LWCqFp7I
憎むなというのは、無理だった。
人間じゃないとはいえ、ずっと一緒にいた同行者みたいなのを殺されて。
強くあろうとしたら、その強さが人を傷つけると理不尽な主張をされて。
それでも、やり方を間違えたことに責任はある。高坂や跡部の仲間だった人を傷つけたことに、後悔もある。
思いを乗せれば、私はそんなに強くなれないと卑屈になった。
ついて来てほしくても、もう頑張れないと拒まれて、願い下げだと殺されそうになった。
だったら、神崎麗美の胸がすくように、『勝ち』を諦めればいいのか。
誰も傷つけないように、じっと蹲っていればいいのか。
違う。
それだけは絶対に、違う。
初めて会う人種だからとか、考えが違うからとか。
そんな理由で関心をなくしたら、高坂とも綾波とも、過去に出会った多くの人たちとも、楽しくなれなかった。
高坂は、神崎のことがあったのに煙たがらずに『付いて行ってやる』と言う。
綾波は、道を踏み外さないように止めてくれて、彼女なりに慰めてくれて、とにかく何度も助けてくれた。
だから。
前に進みたいところだから。
だから。
その名前が呼ばれたら、いけないんだ。
『碇シンジ』
388
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:06:03 ID:LWCqFp7I
いけないのに。
ビルから続くアスファルトの地面の上を、涼しい風が通過する。
木々のざわめく音がまるで聞こえずに、時間が止まったような気がした。
聴覚のすべてが、携帯電話から聞こえてくる名前を受け止めるので精一杯だった。
まだ出会っていない人物の名前だったけれど。
その名前が、呼ばれたら駄目な名前だということは知っていた。
『桐山和雄』
しかし、やはり時間は止まってなどいなかった。
次の名前が読みあげられて、やっと綾波の様子を確かめなければと気づく。
少女のいる方に、顔を向ける。
そこには、凍り付いた少女がいた。
無表情、ではない。
ゼロと氷点下の間には決定的な違いがあって、それは『冷たい』と感じるかどうかだ。
『どうしよう』と焦るしかできなかった。
『真田弦一郎』
その次に呼ばれた名前は、リョーマもよく知った人物だった。
思ったのは、なんで、という疑問。
なんで、こんな時に。
こんな時に死んで、動揺する暇も与えてくれないような頼りない人じゃなかったのに。
そして。
綾波の瞳から、焦点がふっと抜け落ちた。
白く細い指から、するりと携帯電話を持つ力が抜け、それを落下させる。
倒れる。
思った瞬間には駆け寄り、両腕に綾波の体重がのしかかってきた。
「綾波さん! 綾波さんっ」
卒倒した少女に呼びかける声は、らしくもなく引きつっていた。
糸の切れたように意識を失った体は、触ってみるとやはり冷たく、軽かった。
◆
綾波レイは、近くにあったベンチに運ばれた。
ビルの一階にあったソファは、ペンギンを寝かせるのに提供してしまっていたからだ。
自動販売機がすぐ近くにあり、どうやら高坂が越前たちに助けられた時に、発見された場所から近いらしい。
彼女が横になっただけでベンチが満席状態なので、越前はすぐそばの地面にじかに座っている。
腰をおろすと目線の高さが綾波とほぼ同じところにあり、じーっと観察するかのように見つめていた。
無愛想な目つきで口をへの字にしているから読み取れないが、心配しているのだろう。
389
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:07:07 ID:LWCqFp7I
ここが殺し合いの真っ最中ではなく怪我や風邪で寝こんだだけなら、熱いねぇと冷やかしのひとつでも叩くシチュエーションだが、
彼女の命を賭けてでも守ろうとした思い人が死んでしまったとなれば、深刻にならずにはいられなかった。
「おい……綾波のヤツ、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないから倒れたんじゃないの」
「そういうことじゃなくて、起きてからの行動だよ。
あの放送で妙な気を起こしたりしねぇだろうな」
「妙な?」
おそるおそるだが、その懸念を口にしてみる。
「たとえば……碇ってヤツを生き返らせるために殺し合いに乗るとか」
「それ、どうゆう発想っすか」
「オレだって考えたくねぇけどよ……じゃあお前、彼氏に死なれた女がどうなるかとか分かるのかよ?」
「…………」
彼女いない暦約14年の高坂王子だけれど、世の中には恋心から破滅的なほどの暴走をする女子がいることは知っていた。
いや、我妻由乃のパターンが少数派なことは理解しているが、いかんせん生前の碇シンジと綾波レイの関係を客観的に見たことがないのだから、前知識がない。
「だけど……だからって、俺たち含めて皆殺しは無いっスよ。
そこまで勝手な人なら、とっくに乗ってるはずだし……乗りかけたけど」
「待てコラ、乗りかけたとか初めて聞いたぞ」
「だって聞かれなかったから」
しれっと意味深なことを口走ってはいるが、信頼はしているようだった。
単純に『今までずっと一緒にいた綾波がそんなことをするとは思えない』からと否定したのだろう。
それより、目を覚ました綾波にどう接するか悩んでいる風だった。
日野が死んだ時の高坂への態度とずいぶん違うじゃないかと腹も立ったけれど、そう言えばあの会話では綾波がフォローに入ろうとしていた。
越前が高坂の神経を逆立てるようなことを言えば、すかさず綾波が会話に割って入り。
逆に、綾波が難しい用語やずれた言動を使った時には、越前がやれやれと説明に入る。
そんな風に、不器用ながらも助け合おうとしている関係がうかがえた。
自分だって色々あったり知り合いが死んで凹んでいるところなのに、無理するじゃないか。
そう評してみて、かく言う高坂自身は何かしようとしただろうかと省みる。
ツインタワービルを探索して輝いた成果は残したけれど、こういった女ごころや精神的なことはまるでお手上げだった。
390
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:08:26 ID:LWCqFp7I
手が届くことなら、俄然と張り切れる。
だが、誰に言われずとも雪輝を助けようと動く日野日向や、その日向の為にできることは何でもする野々宮まおのように、
みずから他人のために行動するような積極さを要求されると困ってしまう。
少なくとも秋瀬や日向や野々宮らは、高坂のように『面倒くさい』とか『嫌々ながらも』という態度で事件に関わることがなかった。
自分だけを予知する『高坂KING日記』から、周囲に目を向けた『Neo高坂KING日記』に改めた時にも、それは薄々と感じていた。
べつに怠惰でも不人情でもないぞと、反論は色々とできる。
君子危うきに近寄らず。
頭のネジのぶっ飛んだような連中の殺し合いなど、好んで関わりたいものか。
かつて監禁事件や8thとの戦いで雪輝に協力したのも、日野日向の父親をめぐる事件で助けられた借りがあったから。
そして秋瀬や日向やまおが雪輝を助けようとしたので、それに付き合ったから。
それでも、高坂KING日記の力に目覚めて、予知能力者になれた時は嬉しかった。
その予知能力で『あの』我妻由乃と対峙した時に、ヒーローになったような高揚感を覚えたりもした。
輝いていたいのに、顧みればどうにも半端者だった気がする。
この殺し合いでも、同じ一般人Aなのに『白紙の未来を守る』と宣言した神崎や、『勝ってみせる』と豪語した越前らの方が、しっかりした芯があるように見えた。
もう生存者は半数ぐらいになってしまって、『秋瀬に任せれば何とかなるかも』なんて言ってられないはずだ。
神崎を見て。
越前を見て。
綾波を見て。
彼女らと自分の違いについて、高坂も少し思うところがあった。
それは――
「あ――」
越前の口から、緊張をはらんだ声が漏れる。
綾波の瞼が、目を覚ます前兆のように小刻みに震えていた。
◆
風がすこし、吹いている。
日差しが強くて、目を細める。
知らない場所にいた。
あたたかそうな茶色の煉瓦で組み上げられた、図書館のような建物がそこにある。
ふかふかした芝生のじゅうたんを歩き、煉瓦へと手を触れてみた。
本は嫌いじゃない。よく読んでいる。
空気はあたたかくてぽかぽかするし、ここは嫌いな場所ではない。
そんな感想を持ちながら図書館の周りを歩き、日差しで体をあたためた。
外壁のひとつに人ひとりは通れそうな大きさの穴があいていて、何があったのだろうと小首をかしげてしまう。
391
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:09:16 ID:LWCqFp7I
呼ばれたような気がして、左へと顔を向けた。
芝生のじゅうたんの先にいくつかの遊具が置かれていて、公園のようになっている。
その公園のいちばん向こう側に、薄桃色をした珍しい花がたくさん咲いていた。
大きな、ふとい幹をした、大木から咲き誇っている。
文献で見たことがある。
『桜』という木の花だった。
咲いたばかりで、すぐに散ってしまう。
そういう花だと、本には書かれていた。
寿命の短い花が咲く、その木の根元で。
白いシャツを着て黒い学生服のズボンをはいた、小柄な少年が立っていた。
ぽかぽかとした光に包まれて、はにかむように笑っていた。
碇くん。
そう、名前を呼んだ。
名前を呼ばれ、少年が頷く。
少年の口が動き、何かを言おうとする。
それを、彼女は待った。
綾波、と。
名前を呼ばれるのを、待った。
その時、景色が変わった。
ざぁっと、風がひときわ強く吹く。
たくさんの、薄紅色をした花びらが散っていく。
散りゆく花弁が巻き上げられ、全ての花をちらさんとばかりに、吹き散らされる。
花びらの嵐に耐えられず、眼をつぶった。
桜も、緑も、日差しも、図書館も、景色からいなくなる。
眼を開ける。
少年は、消えていた。
何もない、真っ白な世界だけが残った。
いなくなってしまった。
何故なら、碇シンジは死んだのだから。
死なないなんて、思っていたはずがない。
でも、先に世界から消えるとしたら綾波レイの方だと思っていた。
それが『正しい順番』だと、漠然と信じていた。
392
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:10:07 ID:LWCqFp7I
何がいけなかったのか。
どこで間違えたのか。
自分がいなくなった後の世界を心配したことはなかったのに。
彼が世界から消えてしまったと知ると、どうしようもない『寒さ』に襲われた。
全部が全部、凍り付いてしまったような。
死んだ人間が、がんばりしだいで帰ってくるかもしれないと語られた。
そうかもしれない、と思う。
しかし、同時にそうではないだろうと思う。
ほかならぬ『アヤナミレイたち』がそうであるが故に。
それがまったく不可能ではないと知っているし、同時に不可能だろうと知っている。
もしもの話。
仮に、碇シンジが『綾波シリーズ』と同じように生まれ直したとして。
『二人目』の碇シンジが、目の前に現れたとして。
カケラも笑わない『碇シンジ』に、初対面の人間を見るように見られたとして。
綾波も、ほかの誰も、きっと碇くんが生き返ったと喜ぶことなんてできないだろう。
だから、どうにかなるわけがない。
もっとも、それは碇シンジだけの話であって、綾波レイにとっては違うだろうけれど。
これも、もしもの話。
碇シンジからすれば、『新しいアヤナミレイ』が現れたところで、違う人間だと見分けがつかないんじゃないか。
同じものがたくさんあるということは、要らないものがたくさんあるということだから。
この場所に来て、綾波レイという人間に代わりはいないと言われた。
だから、代わりがいない人間らしくなってみようとした。
だが、彼に対して何かをすることができただろうか。
会えなかった。
何も、できていなかった。
何も、伝えられていなかった。
知らないところで、知らないうちに死なせてしまった。
あなたは死なないわ。
わたしが守るもの。
そう、言ったのに。
彼を守れなかった。
――碇シンジのいない世界で、綾波レイは目覚めた。
◆
393
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:11:09 ID:LWCqFp7I
幾度かの瞬きを繰り返し、視界がクリアになる。
意識が戻って最初に感じたことは、どこか固い椅子の上に寝かされているらしいこと。
そして、神妙な眼差しで見つめている、越前リョーマ。
殺し合いが始まってから、ずっと一緒にいた同行者。
「わたし……」
そして、認識した瞬間に、思い出していく。
放送で、碇シンジの名前が呼ばれたこと。
綾波レイが、エヴァのパイロットとしてではなく、
ただの綾波レイとして生きる目的だった人を、喪ってしまったということ。
「……何もできなかった」
力の入らない体で、起き上がることもできないまま。
ぽつりと言葉は漏れた。
「そんなことない」
即答は、越前の口から返って来た。
「綾波さん、頑張ったじゃん。できることは全部やって。
人を助けるのに戦おうとしたり、しゃべるの苦手なのに長く話したり、強くなろうとして……」
初めて見るんじゃないかというぐらい一生懸命そうに反論していたけれど、
やがて言葉を途切れさせ、うつむいて口にする。
「オレが、碇さんのところまで連れていくって言ったのに……」
「ううん。それは無い。」
彼らに料理などを作ったりしている間にシンジがどこかで死んだのだと思えば、心臓にたくさんの針が刺さったような感覚になる。
しかし彼らの探索に付き合わず、シンジを探していればよかったとは思えない。
おそらく白井黒子や変わってしまった神崎麗美のような相手に出会って、何もできずに殺されるのが落ちだっただろう。
その証左に、一人では、ここまで生きていられなかったのだから。
「越前くんにも、たぶん高坂くんにも、感謝してる」
「『たぶん』って何だよオイ」
後ろに立っていた高坂に文句を言われたが、『たぶん』を付けざるを得ない気がするのだから仕方がない。
どうにか腕に力をいれて身を起こし、ベンチに座る。
まるで自分の腕ではないように、体がぐらぐらした。
いや、おかしいのは綾波レイの全部で、気温は低くないのに体も心もすごく寒い。
それでも、二人に対する感謝は本当だから。
ぺこりと、小さく頭を下げて言った。
394
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:12:23 ID:LWCqFp7I
「だから、今までありがとう。さようなら」
「は…………?」
越前がけげんそうな声をだし、眉をひそめる。
おかしなことを言ったつもりはない。だから意外な反応だった。
「何言ってんの?」
「碇くんを探す目的はなくなった。
だから、お世話になるのは終わり」
自然かつ当然の帰結。
それに、今の綾波レイではおそらく足手まといになるだろう。
暗くて寒くて大きな穴があいたような、体じゅうがそんな感覚に縛られている。
「だからっ……。それっておかしくないっスか。
だって綾波さん一人だと危ないし、こっちのやることに首つっこんでおいて、今さら全部やめるとか無しだよ」
そう言えば、彼にはさっきも命懸けで助けられたばかりだった。
どうしてそこまで大切にしてくれたのかは分からないままだったけれど、
ヱヴァと関係のないところで、そこまで絆を作れたのだとしたら、おそらく意味のあることだった。
そこまでのことをしてもらえたのに無しにするのは、きっと失礼なことだろう。
「いいの。碇君が死んでしまったら、もう全部いいの」
できるだけ平素どおりに伝えると、越前が表情をゆがめた。
初めて目にする顔だった。知り合いが死んだ時も、こんな顔はしていなかった。
これは、この顔は、違う。
別れを選びたくても、傷つけたかったはずがない。
ただ、傷つけないように言葉を選ぶことができないだけだ。
「私が頑張ろうとしたのは、碇くんのため。
碇くんがいなくなったから、もういいの」
目的がなくても、この少年たちについていけば、まだ寒さを埋められるかもしれない。
越前と、高坂王子と過ごした時間は……悪いものではなかった。
違う。
良いものだった。
碇シンジに感じたぽかぽかとは少し違うけれど、浮かされるような、熱のような感覚を知ることもできた。
395
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:13:29 ID:LWCqFp7I
でも、その未来を選ぶことは恐ろしかった。
あたたかくしてくれる人なら、碇くんじゃなくても誰でもいいの?
心の内側にいる、意地悪な綾波レイがそう言っている。
それを否定したくて、たまらない。
それに、まだ恐ろしいことがある。
碇シンジを助けられなかった綾波レイが、彼のいない世界で、彼のことを忘れて笑っている。
そんな未来が、とても怖い。
それに、綾波レイが元の世界に帰還しなくても、別のアヤナミレイがエヴァに乗るだろう。
だから、綾波にはもう役割がない。
「わたしには、もう何もないの。
何もないし、何もしたくない」
越前が両の手を強く握りしめ、震わせていた。
自暴自棄な言葉を、わざと投げつける。
これでは、まるでさっきの神崎麗美がしたことに似ている。心が痛んだ。
だからなのかも、と想像する。
死んでほしくなかった人たちをたくさん失ったからこそ。
これ以上、失うのが嫌になったから自棄になった。
そして、置いていった眩しい人たちを恨むようになった。
だとしたら、やっぱりそうなるのは嫌だ。
神崎麗美のように、碇シンジを恨むような未来は嫌だから。
だから、ここで終わりにしてもいいはずだ。
「だから、あなたたちも必要ない」
きっぱりと要らないと言われて、少年はまっすぐに怒った顔をする。
いや、傷ついたのか、悲しんでいるのか。
とにかく、その顔は『かっとなった』ように見えた。
これは見捨てられる、と思う。
何を言われても、もう受け取れないけれど。
396
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:14:24 ID:LWCqFp7I
「あっそう。そんなに一人が――」
「何もないだぁ!? 嫌味言ってんじゃねぇよこのリア充がっ!!」
謎の暴言を食らい、遮られた。
リア充。
その意味はよく分からないけれど、とんでもない侮蔑を吐かれた気がして。
考えていたことが白紙になり、驚きとともにその人物を注視する。
腰に手をあて、胸をそらす。
高坂王子、その人だった。
◆
曲りなりにも仲間である綾波がひどく沈んでいる。
全てを投げ出し、自殺行為同然のことをしようとしている。
仲間が危ういのに何もしない人間など、とうてい輝いているとは言えないだろう。
だから、どうにかしようという気持ちが無いではなかった。
神崎麗美のことが、気にかかっていたこともある。
短い付き合いとはいえ、命の恩人なのだから。
高坂を逃がそうと単独行動した結果、ああなったのだから、何があったのか知りたいし、後悔だってする。
だから、目の前で嫌な方向に堕ちそうになっている仲間を見過ごすのは後味が悪いという思いもあった。
しかし、それだけでは面倒に思いこそすれど苛立ちはしない。
私には、何もない。
その言葉だけは、我慢ならなかった。
高坂王子からすれば、綾波レイは十分に『輝いてる』人間だったのだから。
「言っとくけどなぁ! この中でいちばん『何もない』のは絶対にこの高坂王子様だぞ!
周りにいる女が変人かブサイクばっかりでフラグも立たねぇし!
戦闘機パイロットになって人類を守ったりもしてねぇし!
学校じゃあ陸上部の補欠で、しかもうちの学校は全国大会とか夢のまた夢だしよぉ!
雪輝みたいに特別な戦いに巻き込まれたりもしてないし、秋瀬みたいに事件の調査もやったことねぇ。
認めたくねぇけど、正真正銘のどこにでもいる一般人Aなんだからな!」
「高坂くん?」
「な、何言ってんの……?」
初めて、口に出して認める。
今までの自分が、イマイチ輝けていなかったことを。
397
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:15:11 ID:LWCqFp7I
高坂は碇という少年を知らないから、二人の関係について何も言えない。
だが少なくとも、綾波レイは碇シンジという少年を助けたいという“芯”があり、それに基づいて行動方針を決めていた。
それは、半端者だった高坂には無いものだった。
しかも、恋愛している男女を雪輝と我妻由乃のいびつな関係ぐらいしか知らない高坂には、とても新鮮に写るものだった。
「でもなぁ、そんな俺様だって輝こうとして日々頑張ったりしてるんだよ!
走るのが早くなるように新しいシューズを勝って走り込みしたり!
かっこいい形の棒を拾ったらコレクションにして、日記につけたり!
何もなくたって、自分にもできること探して頑張ってんだよ」
「かっこいい、棒?」
心なしか越前の反応が『うわ、こいつ引くわー』な感じになっているが、無視した。
「それに、オレだって彼女の一人ぐらい欲しいかなーと思ったことぐれーあるんだよ!
でも周りの女が彼氏持ちとかレズとかブサイクしかいねぇからできねぇんだよ!
それなのに、好きな男がいたお前は、そいつが死んじまったからもう全部やめるってのかよ。
だったら恋愛とかしたことない俺たちはどうすりゃいいんだ。
死んだり別れるたびにそんなんになるなら、怖くて恋愛のひとつもできやしねーじゃねぇか!」
言ってみて、ウザいのを通り越して割と最低だった。
大切な人を喪って暗く沈んでいる少女に、『リア充爆発しろ』と言っているようなものである。
(綾波たちがリア充という概念を知っているかはともかく)
何となく、見えてきた。
天野雪輝や、秋瀬或や、神崎麗美や、越前リョーマや、綾波レイにあって、高坂にないもの。
高坂王子には、芯がなかった。
輝いている“何”になりたいのか。
その場に応じて格好をつけていただけで、なりたい自分像がなかった。
天野雪輝をサバイバルゲームの中心人物(しゅじんこう)たらしめ、高坂王子があくまで部外者(わきやく)である、その決定的な違い。
雪輝は泣き虫で気弱で、自分でしたことの責任も取れないようないい加減なヤツだったけれど。
少なくとも、我妻由乃と幸せになりたいという思いだけは本当だったのかもしれない。
あれだけの監禁事件に遭わされて、まだ別れなかったのだから。
そんな高坂でも、ツインタワービルに乗り込もうと決めた時はそうじゃなかった。
初めて、自分自身の意思で、関わらなくとも誰も責めない条件下で、関わることを選んだのだ。
無力でも、一般人でも、なりたい自分ぐらいは自分で決められる。
何もなくたって、お先真っ暗というわけじゃないはずだ。
「何もないってことは、俺様と同じじゃねぇか。これから探しゃいいんだよ。
俺様と同じってことは、つまり輝ける人間だってことなんだぜ?」
「高坂さんと同類にされるってむしろ嫌な「テメーは黙ってろ」
398
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:16:04 ID:LWCqFp7I
それに……さっきまで和気藹々としていたのに、亡き人との二人の世界に突入されて腹が立ったのもある。
越前も少なからず同じ理由で怒ったはずだし、一緒にいた時間の長いだけにいっそう何を言うか分からない。
そう、これは越前に任せられないという気遣いなのだ、気遣い。
「だいたい、俺の周りの女はどうして『あなたが死んだら生きていけない』って方向に行くんだよ。
好きな男の為に何かしてやりたいなら、もっと他にできることあるだろうが。
殺し合いから生き残って、そいつの親に遺体を持ち帰ってやるとか。
死ぬ前にそいつが何をしてたのか聞いて、心に刻んでおくとかよ。
そっちの方が健気でいい女してると思うぜ?」
「好き……?」
高坂の剣幕にぽかーんとしていた綾波が、初めて反応を見せた。
尋ねかけるように、呟く。
「私は……碇くんのことが、好きだったの?」
小首を傾げていた。
呆れた。
まさか、あれだけ碇くん碇くんと言いながら、こいつは自覚がなかったのか。
重い役目を背負っていたくせに、何も知らないんじゃないか。
「好きでもない男を、そこまで必死に守ろうとするヤツがいるかよ。
そいつがいないならもうどうでもいいとか、傍目から見て重すぎるぐらいだっつーの」
しゃべり過ぎて疲れてきたので、ふぅと息を吐く。
「好き……」と噛みしめるようにつぶやいて、綾波は目を丸くしていた。
どういう思考回路をしているのか分からないが、重苦しい空気をぶち壊すことには成功したらしい。
ぐいぐい、と越前が服を引っ張り、もういいから下がれと無言で示していた。
見たところ、かなり落ち着いているようだ。
もうバトンタッチしてやってもいいだろう。
◆
高坂の言ったことはかなり八つ当たりだったけれど、そのおかげか頭は冷えた。
399
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:17:00 ID:LWCqFp7I
改めて綾波の前に立つと、互いがしばらく無言になる。
「綾波さん……これから、どうしたい?
『何もしたくない』以外で」
「分からない……二号機の人は、会いたいけど」
要らないと言われた時は頭に血が上ったけれど、冷めるとこれはこれで気まずさがある。
もしかしたら、これは余計なおせっかいかもしれない。
神崎麗美のように、綾波も付いていけないと叫ぶ時が来るかもしれない。
「ごめんなさい……こんな時、どんな顔をすればいいか分からないの」
これには、即答していた。
「泣けばいいと思うよ」
それでも、支えるぐらいのことはしたい。
越前リョーマは『柱』なのだから。
綾波レイは、『柱』についてきてくれた人だから。
「泣き方が、分からない……」
自分が優しい人間だと思ったことなんかないけれど。
今だけは、優しくなりたいと思わなくもない。
「えっと……死んだ人のこと思い出したり、こんなこと考えてたはずだって思ったり。
自然に思い出せるようになったら、泣けてくるんじゃないの?」
「あなたは、そうだったの?」
「…………まぁ」
やばい、割と恥ずかしい。
もしかして高坂は、後から何を言っても恥ずかしくないようにあんなことを言ってくれたのか……いや、それは無い。
さっきのあれは自虐ネタにしても痛々しい。
「わたしは……まだ、泣き方が分からない」
ひと呼吸おいて、寂しげに言った。
「今まで、泣いたことがなかったから」
「綾波さん。嘘でもいいから『まだまだだね』って言ってみて」
「まだ、まだ?」
「うん、まだまだ、これから」
まだまだ。
自分にも言い聞かせるようにつぶやいて、綾波にどうしてほしいのかを思う。
400
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:17:52 ID:LWCqFp7I
「泣いたからって立ち直れるかは人によるけど、
泣きたいのに泣けないままだと、たぶん思い出すのが辛いよ」
綾波からついて行けないと言われた時には、腹が立った。
「オレも、まだまだ知りたい。跡部さんに何があったのかとか。
撃たずに済ませる方法とか。どうしたら神様に勝てるのかとか」
しかし、そういう自分は一度でも『ついてきてほしい』という意思を示しただろうか。
それを伝えていないなら、きっとフェアじゃない。
「止めてもらえた時は、嬉しかった。
朝ご飯作ってくれた時も、悪くないと思ったし。
神崎さんみたいな人とまた会った時に、綾波さんがいた方が上手く話せそうだし」
話しているうちに、本当に照れ臭くなってきて、帽子のつばをずらした。
表情をなるべく見えないように隠して、意思を伝える。
「オレも、まだまだだから。綾波さんが来てくれた方が、心強い」
『来い』でも『来ればいい』でもなく『来てほしい』なんて、普段はめったに使わない類の言葉だった。
心なしか、顔のあたりに脈拍が集中している感じがする。
もしかして、パートナー関係を作ろうと思ったらいちいちこんなに緊張しないといけないのだろうか。
だとしたら、絶対に自分にダブルスは向かないと確信する。
もう、永遠に返事が来ないんじゃないかというほどの沈黙を挟んで
「分かった方がいいことなら……私は知りたい」
透明な無表情で、綾波が言葉を発した。
良かった。
言葉にはしなかったけれど、代わりに綾波へと、左手をのばす。
握った手にぐい、と力をこめてベンチから立ち上がらせた。
「『来てほしい』って……お前ら、俺様も一緒に行くことを忘れてないか?」
「あ、高坂さん。まだいたんだ」
「ずっといたっつーの! 丸く収まったのは誰のおかげだと思ってんだよ」
会話を一部始終聞かれていた気恥ずかしさもあり、わざと冷淡にあしらう。
こっちの感謝は、逆に言葉にしなくてもいいことだった。
◆
401
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:18:43 ID:LWCqFp7I
高坂の言うことは、よく分からなかった。
それでも、響いたことがある。
何もない人間なんて、どこにでもいるということ。
そして、綾波レイは、碇シンジが好きだったこと。
あたたかくしてくれる、碇シンジの『代わり』なら誰でもよかったのだろうか。
違う。
それだけは違う。
綾波レイは、碇シンジを代わりのいない人間として、そういう感情を持ったはずだから。
そしたら、高坂が言った。
それで好きじゃないはずがないだろう、と。
他者から見れば、それは『好き』にしか見えなかったらしい。
アスカ・ラングレーに同じことを聞かれて、答えられなかったことを、
高坂はどう見ても分かると評した。
そのことが新鮮で、胸が痛くて、少し恥ずかしかった。
誰でもわかることを、碇シンジへの想いを、綾波は知らなかった。
それが、綾波レイには無くて、ほかの人間は持っているものだった。
そして、越前は一緒に来てほしいと言った。
守る相手ではなく、頼りにする存在として必要とする言葉だった。
何もすることがないなら、誰かの求めることをするのは。
いけないことではないかもしれない。
シンジを恨むような末路を迎えたくないなら、彼を思って泣けるようになることは、きっと無駄ではないのだろう。
そして一人きりでいたら、それはきっと分からないままだ。
だったら、もう少しだけ歩いてみるのが、正しい終わらせ方じゃないかと思った。
もう立ち上がる力なんて、残っていないはずだったけれど。
分かったことが一つある。
手を繋がれて引っ張られたら、立ち上がるのに必要な力が少なくなった。
何も言わずとも、越前はそのまま、手を引いて歩き始めた。
そう言えば、と思い出す。
殺し合いが始まって間もないころ。
最初に武器を確認した時に、使えないと死蔵した武器があった。
それを使う時は、死ぬ時だから。
だから、碇シンジの身代わりにでもなって死ぬ時でもない限り、使えないはずだった。
武器の名前は、心音爆弾。
402
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:19:51 ID:LWCqFp7I
もう少し歩いてみたい欲求は、ある。
けれど、そう思わせてくれたのも、歩く力をくれたのも、二人がいたからだ。
だから。
それは、二人を守るために使うことにしよう。
その時が来たら、きっと躊躇わないだろう。
◆
一人が手を引く。
一人が手を引かれる。
一人が付いていく。
そんな風に、三人が三人として歩いていく。
地面に、三人の足跡が残る。
◇
――Everybody finds love in the end.
【H-5/G-5との境界/一日目・日中】
403
:
桜流し
◆j1I31zelYA
:2013/08/21(水) 22:20:45 ID:LWCqFp7I
【越前リョーマ@テニスの王子様】
[状態]:決意
[装備]:青学ジャージ(半袖)、太い木の枝@現地調達
リアルテニスボール(ポケットに2個)@現実
[道具]:基本支給品一式(携帯電話に撮影画像)、不明支給品0〜1、リアルテニスボール(残り8個)@現実 、自販機で確保した飲料数種類@現地調達、S-DAT@ヱヴァンゲリオン新劇場版
基本行動方針:神サマに勝ってみせる。殺し合いに乗る人間には絶対に負けない。
1:菊地らと合流するために、学校に向かう。
2:1と並行して切原、遠山を探す。
3:ちゃんとしたラケットが欲しい。
4:神崎麗美のことが気になる。
【綾波レイ@エヴァンゲリオン新劇場版】
[状態]:疲労(小) 、傷心
[装備]:白いブラウス@現地調達、 第壱中学校の制服(スカートのみ)
由乃の日本刀@未来日記、ベレッタM92(残弾13)
[道具]:基本支給品一式、 天野雪輝のダーツ(残り7本)@未来日記、第壱中学校の制服(びしょ濡れ)、心音爆弾@未来日記
基本行動方針:今は、もう少し歩いてみる。
1:自分にとって、碇くんはどういう存在だったのか、気になる。
2:二人についていく。
3:いざという時は、躊躇わない。
[備考]
※参戦時期は、少なくとも碇親子との「食事会」を計画している間。
【高坂王子@未来日記】
[状態]:疲労(小)、全身打撲
[装備]:携帯電話(Neo高坂KING日記)、金属バット
[道具]:基本支給品(携帯のメモにビルに関する書き込み)、『未来日記計画』に関する資料@現地調達
基本行動方針:秋瀬たちと合流し、脱出する
1:輝いた男として、芯を通す。
2:神様を倒す計画に付き合う。
3:雪輝を探し、問い詰める。
4:神崎のことが気になる。
[備考]
参戦時期はツインタワービル攻略直前です。
Neo高坂KING日記の予知には、制限がかかっている可能性があります。
『ブレザーの制服にツインテールの白井黒子という少女』を、危険人物だと認識しました
※ツインタワービルの一階ロビー奥に、ペンペンの亡骸が放置されています。
※ツインタワービルの入り口付近に、高坂王子からの伝言(秋瀬或宛て)が残されました。詳細は任せます。
【心音爆弾@未来日記】
綾波レイに支給。
雨流みねねが11thの立てこもる我妻銀行の大金庫をぶち破るために使用した最後の爆弾。
コードを繋いだ使用者の心停止を合図として起爆する。
つまり、自爆装置である。
ーーーー
投下終了です。
毎度毎度すみませんが、どなたか代理お願いします
404
:
◆JEMTQAOagI
:2013/08/25(日) 01:40:44 ID:wxirbof6
申し訳ありません
本スレで規制になったようですので続きをこちらに投下させていただきます
405
:
限りなく純粋に近いワインレッド
◆JEMTQAOagI
:2013/08/25(日) 01:41:27 ID:wxirbof6
「ならどうしたらいいんすか!?みんな、みんな死んじまって!!」
解らない事が有れば他者に救いの手を伸ばし協力を求める。
中学生というまだ成長途中である赤也は当然の如く疑問を放つ。
まだ己の力で道を切り開ける程大人ではない。
「立海も青学も氷帝も――もう『あのチーム』ではないんすよ!?もう別モンになっちまった!!」
仲間。
その誰か一人でも欠けてしまえば以前のチームと同じとは呼べない。
それも真田、手塚、跡部クラスのプレイヤーになればチームに与える影響は尋常ではない。
「――仲間?」
一緒に練習を通して信じあえる存在となった掛け替えの無い大切なもの。
人を殺したと仮定してまた同じように笑顔で会えるだろうか。
無理だ。罪悪感が己を包みあおの頃と同じようにはならない。
「ハッ!……そう云うことですか副部長」
何も優勝することが全てではない。
あいつらがそんなファンタジーを可能にするならば。ならばの話だ。
その方法だけを聞き出しこちらの物してしまえば誰も悲しむことはない。
つまりだ。
「信頼出来る仲間と協力して裏で笑ってる奴等を潰せばいい――そうっすね?」
常勝を信念に行動すればいい。
406
:
限りなく純粋に近いワインレッド
◆JEMTQAOagI
:2013/08/25(日) 01:42:05 ID:wxirbof6
一礼。
今度は帽子を外した姿勢で深く感謝を込めて。
この事が無ければ赤也は人を躊躇いなく殺す悪魔となっていた。
デビルマンなど洒落にも為らない殺人鬼に成り下がる所であったのを止めてくれた。
信念深き覚悟は迷いを吹き飛ばし足を軽くする。
悪魔の血は引いていき見慣れた肌の色が再び現れる。
その色は普段よりも明るく、まるで天使のようだった。
天使化。
大切な存在の死を乗り越えた赤也に訪れた神様の施し。
この力は中学生である彼らが勝利へと辿り着くための大きな力となるだろう。
「ありがとうございます――だから待っていて下さい」
ラケットを背負い踵を鳴らし帽子を被る。
出発の準備は整い足を進め外へと飛び出す。
太陽の光が天使を照らしその輝きは誰も止める事は出来ない。
あのまま悪魔だったならば確実に元には戻れないだろう。
胸を張ってチームに帰ることも出来ない。
ビックスリーに挑むなど資格も持ち合わせないだろう。
だが今は違う。
この力は全ての参加者を導くために使うべきだ。
人は神にも悪魔にもなれない。
ならば天使である赤也が導くのは当然のことである。
407
:
限りなく純粋に近いワインレッド
◆JEMTQAOagI
:2013/08/25(日) 01:42:25 ID:wxirbof6
「――行ってきます!」
天高く照らし続ける太陽を見上げる。
そこには懐かしい人影が見える気がした。
――あなたはそこにいますか?――
408
:
限りなく純粋に近いワインレッド
◆JEMTQAOagI
:2013/08/25(日) 01:42:37 ID:wxirbof6
【C-6/ホテル前/一日目・昼間】
【切原赤也@テニスの王子様】
[状態]:天使状態 、固い決意、『黒の章』を見たため精神的に不安定、
[装備]:越前リョーマのラケット@テニスの王子様、燐火円礫刀@幽☆遊☆白書、月島狩人の犬@未来日記、真田弦一郎の帽子
[道具]:基本支給品一式、バールのようなもの、弓矢@バトル・ロワイアル、矢×数本
基本行動方針:あいつらを倒す
1:他の参加者と協力してあの日々を取り戻す。
[備考]:天使化しました。余程の事が無い限り再び悪魔に戻ることはないでしょう。
※ホテルを支える柱に損傷が入りました。強い衝撃を加えると崩壊する可能性があります。
409
:
限りなく純粋に近いワインレッド
◆JEMTQAOagI
:2013/08/25(日) 01:43:21 ID:wxirbof6
――あなたはそこにいますか?――
「居る訳ねぇだろバァーカッ!!ハハハハハハハハハハ!!」
都合よく天使化など起きるはずもない。
それこそ甘い妄想であり現実逃避の他ならない。
今まで見てきた光景はもしも、所詮もしもの世界。
それも都合のいい事象だけを取り揃えた甘すぎて反吐が出る程の偽善。
人の生命はそこまで軽くない。
◆
410
:
限りなく純粋に近いワインレッド
◆JEMTQAOagI
:2013/08/25(日) 01:43:48 ID:wxirbof6
差し込む太陽光と入り込む風。
死者を弔うように?何を言っている。
こんなの死体を腐らせる要因になるだけであり寧ろ悪化するだけ。
協力して?
こんな残虐な行為をする奴等と協力出来る筈もなく夢物語。
出来たとしても疑心暗鬼の腹の探り合いを繰り広げるだけ。
何時かは壊れてしまい惨劇に繋がるだけ。
真田副部長が教えてくれた――
「死体が喋る訳ねぇだろォ!!俺はそこまでイカれてないからなァ!!」
悪魔は悪魔らしく行動すればいい。
「全員殺して元通りのハッピーエンドォ!!いいよなァ!!最高だよなァ!!」
もう止まらない。止められない。
大切な存在の消失は中学生には重すぎた――。
411
:
限りなく純粋に近いワインレッド
◆JEMTQAOagI
:2013/08/25(日) 01:44:05 ID:wxirbof6
【C-6/ホテル前/一日目・昼間】
【切原赤也@テニスの王子様】
[状態]:悪魔化状態 、強い決意、『黒の章』を見たため精神的に不安定、ただし殺人に対する躊躇はなし
[装備]:越前リョーマのラケット@テニスの王子様、燐火円礫刀@幽☆遊☆白書、月島狩人の犬@未来日記、真田弦一郎の帽子
[道具]:基本支給品一式、バールのようなもの、弓矢@バトル・ロワイアル、矢×数本
基本行動方針:知り合い以外の人間を殺し、最後に笑うのは自分
1:全員殺して願いを叶える
[備考]:余程のことがない限り元に戻ることはありません。
※ホテルを支える柱に損傷が入りました。強い衝撃を加えると崩壊する可能性があります。
412
:
◆JEMTQAOagI
:2013/08/25(日) 01:45:34 ID:wxirbof6
以上で終了です。
やはり支援なしでは厳しいですw…すいませんが本スレに何方か続きの代理をお願いします
413
:
◆j1I31zelYA
:2013/09/20(金) 00:30:43 ID:UheuCCTw
さるさんがかかりましたので、こちらに続き投下します
414
:
四人の距離の概算
◆j1I31zelYA
:2013/09/20(金) 00:31:11 ID:UheuCCTw
何もできずに少年を見送り、佐野の死体の前でしばらくぼんやりとしていた。
やがて、少年のそばにいた飼育日記の犬が引き返してきた。
やはりあの赤い悪魔と行動を共にするのは、野生動物として身の危険を覚えるところがあったのだろうか。
しばらく無力な動物同士でぼんやりと慰めあいをしていたのだが、やがて犬の方が地面の臭いを嗅ぎはじめた。
ふんふんと地面に鼻を近づけて、どこかへと移動を始める。
それを見て、テンコとしてもピンとくるものがあった。
七原や黒子たちの死体はない。
もしやこの犬は、この場にいた生き残りの痕跡をたどっているのではないか。
思いついたテンコは、ぴょこんと犬の背に乗った。
もっと冷静に考えれば、途中であの悪魔や宗谷ヒデヨシと出くわしてしまう可能性もあったわけだが。
よほど訓練されているのか狩猟犬の走る速度はすさまじく、あっという間に海洋研究所に着いてしまった。
しかし、幸運もここで途切れる。
人間の建造した研究所をさまよううちに、一匹の“悪魔”と遭遇してしまったのだ。
「かぁぁぁいいぃぃぃよおぉぉぉぉ!」
そんな奇声をあげてとびかかってくる、茶色い髪の悪魔と。
ふたりの少女は、七原に肉じゃがの“味見”をしてもらおうと、それだけの思いつきで廊下を引き返していた。
重たい会話もひと段落し、やっと和気あいあいとし始めていたのが良くなかった。
いや、それはもしかしたら竜宮レナが本調子を取り戻すための空元気だったのかもしれない。
しかし抱きつかれる側にとっては、降ってわいた災厄だった。
ともかくも、ゲーム開始時点からの同行者である白井黒子に合流できたのである。
彼はごく当たり前に、再会を喜んだ。
しかし、
「なんだよ、それ」
それが双方にとっても喜ばしかったかは、また別の話だった。
◆
なんだよ、それ。
それが、船見結衣の開口一番。
そして、さらに言った。
「あかりは……仲間に殺されたってこと?」
あえぐように吐き出した。
そうさせているのは、七原たちも知りえなかった新たなる真実。
宗屋ヒデヨシが、赤座あかりを殺した。
一部始終を見ていたテンコも、半信半疑のままに告げたこと。
ソファに座ってテンコを囲んだ一同は、それを聞いて絶句した。
415
:
四人の距離の概算
◆j1I31zelYA
:2013/09/20(金) 00:31:53 ID:UheuCCTw
それでも七原は、さほど驚かない。
あのヒデヨシならば、ありえたかもとさえ考える。
狂ったと見てもおかしくないような悲鳴をあげて、逃げ去るところを見たのだから。
腑に落ちないとすれば、あの集団で誰よりも無害だった赤座あかりに殺意を向けたことだろうか。
――わかる必要なんかないぞ。
それは、川田から最初に教わったことだった。
すっかり理解することなんてできないのだから、割り切っていくしかない。
「お前が」
でも、そうではない人種もいる。
身内同士で裏切り合うなんて考えられない、幸せな世界に浸かりきっていた少女が。
七原を見すえて、声を絞りだした。
「お前が連れてきた仲間が、あかりを殺したの?」
理不尽に対するやり場のない怒りは、どうしたって七原に向く。
それはそうだろう。
結衣の視点で七原を見ていれば、仲間ときちんと信頼関係を築ける人間かどうかは疑わしい。
しかも結衣自身が、七原の言葉が遠因となって殺し合いに乗りかけたばかりだった。
「仲間が、どうして裏切ったの?
どうして、裏切らせたりしたんだよ。
お前がそんなだから、さっきの私みたいにそいつがキレたんじゃ――」
「結衣ちゃん、やめ――」
「違います。責任は私にありますの」
怒りだけではない。
不信だとか悲しみだとか混乱だとかがないまぜになった、引き裂かれそうな顔が糾弾する。
遮ったのは、白井黒子の振り絞るような声だった。
黒子とて、七原に落ち度はないと断言できるほどの信頼を築けてはいない。
しかし、守れなかった赤座あかりのことで誰かが糾弾を受けているのに沈黙できるほど、彼女の責任感は弱くなかった。
「私があの時、宗屋さんへの対応を間違えたことがそもそもの原因でした。
それに、桐山さんを犠牲にしたりしなければ宗谷さんだって……」
しかし、そこから先のことに対して黒子は言葉を詰まらせる。
桐山の犠牲を否定すること。
それは、『ならばどうしていれば良かったのか』を自問することと近い。
桐山がロベルトを撃とうとしたのを、止めなければ良かったのか。
それとも、赤座あかりの保護を宗谷ヒデヨシに任せたところがまず間違いだったのか。
目覚めたばかりの黒子は、その慚愧に対して答える準備などできていない。
「私が……赤座さんを守らなければならなかったのに」
だから、そんな言葉で悔いることしかできない。
その言葉に対して、結衣もまた顔をゆがめた。
「やめてよ……あかりを守らなきゃいけなかったのは、私だって――」
「あのな、やめてくれないか。そういうの」
語り終えた生き物が、おずおずと彼女らを止めた。
テンコは、四人の間にある距離のことを何も知らない。
放送を聞いた後の船見結衣の憔悴や、七原との争いを見ていない。
416
:
四人の距離の概算
◆j1I31zelYA
:2013/09/20(金) 00:33:50 ID:UheuCCTw
「あかりを理由にして諍いを起こすのは、止めてくれねぇか」
しかし、赤座あかりの死に際は見ていた。
だから、七原秋也と白井黒子の二人を見上げて、二人に向かって話した。
「あかりは、佐野だけじゃなくてお前らも助けたんだ。
あかりが佐野を説得しなかったら、佐野はクロコたちを助けに行かなかったんだからな。
だから、自分だけ生き残っちまったなんて思わないでやってくれ」
テンコは参加者ではないし、さらに言えば大人というわけでもない。
人間年齢で換算すれば十代前半よりは上かもしれないが、それでも天界獣の年齢で言えば子どもにあたる。
だから気のきいた言葉を思いつかないという意味では、七原たちと変わりない。
ただ、事実を語るだけだ。
「アイツは誰のせいで自分が死んだとか、残された連中にどう動いてほしいとか。
そんなことはちっとも考えてなかったはずだぞ。
何にも恨み言を言ってなかった。ただ、みんなに助かってほしかった。そんだけだったぞ」
真実は事実としてそこにあり、真実でしかないからこそ否定しようがない。
伝えられた船見結衣の、呼吸がとまる。
瞳に、みるみると透明な雫がせりあがってきた。
透明なものがいっぱいになって、瞳が揺れる。
まるで早回しの映像を見ているように、たたえられた雫がまぶたの許容を越えるのはすぐのことだった。
決壊した。
「――っ…………ぅっ……ひぅっ…………ぇっ…………」
理不尽への怒りも。
守れなかったという慚愧も。
原因を追究しようとする、憎悪も。
そんなことを言われたら、棚上げにするしかなかった。
赤座あかりが最期まで赤座あかりだったという真実は、船見結衣からすべてを追い払うのに十分すぎた。
「…………そう、でしたの」
そんな納得の言葉を呟いて、黒子もじわりと涙をにじませる。
しかし船見結衣のいる手前だからか、決壊だけは堪えていた。
嗚咽の音が続いていく室内で、誰もがそれ以上の言葉を発しない。
そんな光景を、七原は見ていた。
ちょっと辛いな、と思った。
知ってしまったことが辛かったのではない。
真実を知った中で、自分の存在がなんとなく場違いに思えた。
優しい真実を知ったぐらいで涙をこぼすようなら、恋人の死を知った時にもっと泣いている。
417
:
四人の距離の概算
◆j1I31zelYA
:2013/09/20(金) 00:34:34 ID:UheuCCTw
伝えられたからといって、そのしあわせギフトが届いたかどうかはまた別の話だった。
船見結衣には届いたのかもしれない。白井黒子にも届いているかもしれない。
しかし、七原秋也が『届きました』と言えるはずがなかった。
命を救ってもらった感謝はあるけれど、それとこれとは別の話だ。
それこそ、さっきのゼロで割るような難題と同じ。
あくまで偶然と幸運が生み出した特殊なケースに過ぎないと断言できるし、同じことを誰かがやろうとすれば止めるだろう。
どうしたものかと視線を投げた時。
たまたま竜宮レナと、目が合った。
この場で口をはさんでも野暮だと、そんな見解だけは共通だったらしい。
言いたいことがあれば聞くよと、小首をかしげたまなざしが問いかけている。
これなら席を外しても大丈夫かと、七原は立ち上がった。
泣きじゃくる結衣とぼんやりした黒子が、目線だけで見上げてくる。
何度めかの失敗で学習していた七原は、さすがに慎重に言葉を選んだ。
「ちょっくら席を外すよ。飯の様子でも見てくる。
アンタは赤座あかりの友達だし、白井は赤座さんと長く一緒にいた人だし。
だから…………テンコのことは、“任せる”さ」
レナが『合格』と言うように微笑んで、七原に続くように席を立った。
◆
届かなくとも、否定できないことはある。
七原秋也がどうにか死なずにすんでいるのは、赤座あかりのおかげだということだ。
だからやるべきことは続けるし、続けようという決意だって固くなる。
『以上が、首輪について分かってることだ。
断定はできないから、今はまだ口外しないでほしい』
調理室のテーブルとイスを使って、七原は筆談によるあらかたの伝達を終えた。
対面に座る竜宮レナが、自分に配られた紙と鉛筆を使ってカリカリと書きつづる。
『分かったよ。でもどうして、今、私に?』
『いや、オレが死んだ時のことも考えてな。もちろん、簡単に死んでやるつもりはないぜ?』
ちなみに調べた首輪の入手先については、一対一の筆談という情報量の制限される状況を利用して適当にごまかし……もとい、押し通している。
筆談でなければ、こうはいかなかっただろう。
ごまかすと言えば、この情報交換にしてもそうだ。
いまだ信頼関係を築いたとは言えない竜宮レナにここまで打ち明けることは、本来ならばリターンよりリスクが上回る。
しかし多くの知り合いが死んでしまった今となっては、己の身に何かあった時のことも考えておく必要がでてきた。
さらに言えば、竜宮レナならば『船見結衣の暴走を見逃してもらった』という『借り』を抱えている。
その分だけ、空気を読んでヘタな漏えいはしないだろうという打算があってのことだった。
『テレポートについては知らない部分も多いから、飯の後にでも白井から見解を聞きたい。
問題は、テレポートでどうこうできる首輪なら、そもそも白井を参加させるはずがないってことだな』
更に言えば、首輪をどうこうする段階で白井黒子の協力が必要になる可能性もある。
傷心中である少女たちに向かって首輪がどうだ能力がどうだと事務的な会話をしかけても、船見結衣の時のように冷たいと映るだろう。
あらかじめ女子組の一人にでも話を通しておけばスムーズにことが運ぶだろうという『根回し』こそが、この打ち明け話の最大の目的だった。
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:
四人の距離の概算
◆j1I31zelYA
:2013/09/20(金) 00:35:16 ID:UheuCCTw
『白井が自分の能力で首輪を外そうとしない理由は分かる。
たとえ自分の首輪が外れても、主催者が『ルール違反者に罰を』とか言い出してお友達の首輪を爆破したりしたら……って考えればな。
けど、主催者にとってはそうじゃないだろう。たとえば、白井が最後の二人まで残ったりすれば、右手と左手で2人の首輪を外して終われるんだ。
ゲームにこだわる主催者が、そんな能力に対策を講じないはずがない』
『そうでも無いと思うよ?』
楽観論じみた書き込みが、七原の筆談を中断させた。
真剣そうな顔つきで、竜宮レナはさらに書き綴る。
『七原君……首輪をつける目的って、なんだと思う?』
考えるまでもない。
初めて銀色の首輪をつけられた時に感じた屈辱感、焦り、あがき。
その経験が、さらさらと答えを書かせる。
『命を握るための道具。反抗する意思をくだくための脅し道具。逃亡を防ぐための装置。オレたちに境遇を分かりやすく思い知らせるシンボル。こんなとこか?』
『うん、私もそうだと思う。でもね』
レナもまた、さらさらと反証を書いた。
『私たちには、どこに攻め入ればいいのかも、どこに逃げたらいいのかも、分からないよね?』
あ、と吐息が漏れる。
なまじ“経験”があったからこその盲点だった。
“プログラム”では、坂持金髪ら政府の人間の立て籠もっている場所が、島の中央の分校だと最初から分かっていた。
“プログラム”では、日本のどの地方のどの島が会場に使われているかが、おおよそ察知できていた。
“あそこさえ襲撃すれば”、あるいは“捕捉されずに海にさえ出てしまえば”という指標があった。
しかし、今回のゲームにはそれがない。
襲撃される恐れがないからこそ、主催者は観客席に座った気分で悠々とくつろいでいられる。
――なるほどな。
内心だけで感嘆し、七原は結論を書いた。
『確かに、首輪を外せたってオレたちにはなすスベがない。
最後の数人になったタイミングで首輪が外れたって、携帯電話で指示を出すなり、空から爆撃を加えるなりして、オレたちをいくらでも脅せる。
しかし逆に言えば、首輪の攻略はそこまで難しく考えなくてもいいかもしれない』
『むしろ、場所の情報が集まるまでは首輪を外さない方がいいぐらいかもしれないね。
首輪がなくなったら、次はどんな手段で脅してくるか分からないよ』
楽観論じゃなく、黒子ちゃんの能力でも通用するかもしれないよと書き結んで。
レナはぐっとのびをした。
「うん、そろそろ結衣ちゃんたちも落ち着いてるころだし、ご飯にしようか」
「そうだな……もともと、腹が減ったって話からこうなったんだし」
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四人の距離の概算
◆j1I31zelYA
:2013/09/20(金) 00:35:58 ID:UheuCCTw
例えば、手段は限られるだろうが、どうにかしてブラックボックスの爆破装置を確認したとする。
生き残った反主催派を一箇所に集めて、白井の手に十数個の小さな絶縁体を持たせる。
白井のテレポートが破壊にも転用できることは、ロベルト戦で確認している。
手に持たせた物質をピンポイントでいっせいに転移させて、爆破機能『だけ』を破壊する。
問題は……今の黒子の精神状態で、そんな細かい精度の能力が使えるかどうかということだが。
――そんな首輪解除は、さすがに安直だろうかと苦笑して、
「七原くん」
肉じゃがの鍋を再加熱しながら、レナは振り向いて言った。
「結衣ちゃん、がんばって肉じゃがを作ってくれたんだよ。
“みんな”に食べさせるために」
ふんわりと、微笑んでいた。
鍋から、やわらかな独特の臭いが香りはじめた。
「ああ、そりゃ楽しみだな」
これは、打算ぬきの言葉だった。
理想論者だってリアリストだって、空腹には勝てないし食欲はわく。
そう言ったのが聞こえたように、調理室のドアが開いた。
「あの……七原、さん」
もじもじと、船見結衣が立っていた。
何度も大泣きしたせいで、目が赤くなるのを通り越して腫れぼったくなっていた。
それでも、視線はレナではなく七原に向いていた。
「いろいろと言って、ごめんなさい」
頭をさげた。
ぼそぼそした口調で、謝罪した。
ぶっきらぼうにも見えたけれど、気まずそうなもじもじとした態度からは、しっかりと罪悪感がこもっていた。
だから七原も、内心ではやれやれと呟きながら、それでも明るく返答していた。
「気にしちゃいないよ」
【D−4/海洋研究所前/一日目・日中】
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