したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

アニメキャラバトル・ロワイアル 2017

1 ◆ATykWUQR3E:2018/01/02(火) 21:29:04 ID:K53BxQpk0
 ここは2017年に公開されたアニメのキャラクターたちによるバトルロワイアルのリレーSS企画スレッドです。
 この企画は性質上、キャラクターの残酷描写や死亡描写が登場する可能性があります。
 苦手な人は注意してください。

【企画スレ】ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/13744/1513370169/l30
【地図】ttps://dotup.org/uploda/dotup.org1423885.jpg.html

2 ◆ATykWUQR3E:2018/01/02(火) 21:33:53 ID:K53BxQpk0
参加者名簿

7/7【けものフレンズ】
○かばん/○サーバル/○アライグマ/○フェネック/○ツチノコ/○ライオン/○ヘラジカ

7/7【Fate/Apocrypha】
○ジーク/○ルーラー(ジャンヌ・ダルク)/○黒のライダー(アストルフォ)/○黒のアサシン(ジャック・ザ・リッパー)/○赤のセイバー(モードレッド)/○赤のアーチャー(アタランテ)/○赤のバーサーカー(スパルタクス)

6/6【魔法陣グルグル】
○ニケ/○ククリ/○ジュジュ・クー・シュナムル/○トマ・パロット/○レイド/○カヤ

5/5【十二大戦】
○失井(樫井栄児)/○妬良(姶良香奈江)/○憂城/○必爺(辻家純彦)/○庭取(丹羽遼香)

5/5【プリンセス・プリンシパル】
○アンジェ/○シャーロット(プリンセス)/○ドロシー/○ベアトリス/○ちせ

5/5【宝石の国】
○フォスフォフィライト/○シンシャ/○ダイヤモンド/○ボルツ/○アンタークチサイト

4/4【キノの旅 -the Beautiful World- the Animated Series】
○キノ/○シズ/○ティー/○師匠

3/3【結城友奈は勇者である -鷲尾須美の章-】
○鷲尾須美or東郷美森/○乃木園子/○三ノ輪銀

42/42

3 ◆ATykWUQR3E:2018/01/02(火) 21:35:48 ID:K53BxQpk0

【基本ルール】

能力制限について
確定として
・サーヴァントへの物理攻撃有効、霊体化不可とする。
・他微制限については書き手の采配に任せる(特殊能力による精神疲労増加など)

【バトル・ロワイアルのルール】
 最後の一人になるまで殺し合い、最後に生き残ったひとりだけが帰還できる。
 参加者は主催からデイバックが与えられる
 中身は基本支給品として
「飲料水」
「三日分の食料(内容は問わない、書き手の采配に任せる)」
「筆記用具」
「地図」
「コンパス」
「ルールブック」
「参加者名簿」
「1〜3のランダム支給品(『宝石の国』の参加者たちは確定で『修復用の糊(3回分)を配布する」

 ルールブックは殺し合いの基本的な規定などが載っているものとする。
 デイパックは基本的に、どれほど物を入れても形状が変化しないし重くもならない。

【首輪について】
 参加者は全員、爆弾付きの首輪が装着されており、殺し合いを著しく阻害するような行動を取った場合などに爆発する。
 無理に外そうとすると一定時間警告音が鳴った後、首輪が爆破される。
 三日の間に死者が出なかった場合、全員の首輪が爆破される。

【NPCについて】
 基本的に書き手は会場の各施設にNPCを配置しても良い。描写は采配に任せる。原作キャラもあり。
 参加者が彼らを殺しても特に報酬やペナルティーはなく、
 その全員がバトル・ロワイアルの運営に支障を来さないような措置を施されているものとする。
 (能力制限、記憶操作、首輪によるエリア制限など)
 基本的にバトル・ロワイアルの詳細は知らされておらず、
 ただギミックとしてそこにいるだけ。

【ジョーカーについて】
 上記のNPCに該当。
 赤のランサー(カルナ@Fate/Apocrypha)が確定でジョーカーとなっている。
 主催のGOサインと共に出撃。
 目的は叛意ある参加者達の鎮圧とロワに積極的な参加者(マーダー)の軽度の支援。
 ランサーに対して戦意のない参加者を見逃すかどうかは彼の采配に任されている。
 ランサーが参加者を殺害するのは許可されていないが、令呪で強制されてもいない。
 主催のGOサインがでなければゲーム終了まで出撃しないこともありうる。
 また、戦闘後は主催の元へと直ぐに帰還する。
 (目安は出したら出した話のうちに帰還させる位で、また登場頻度についてもできる限り空気を読むように)

【定時放送について】
放送は6時間ごとに行われる。
放送内容
「前回の放送から今回の放送までに死んだ参加者の名」
 →死んだ順番に読み上げ
「残りの人数」
 →現在生き残っている人数。
「主催者の一言」
 →内容は書き手の裁量

【会場map】 ttps://dotup.org/uploda/dotup.org1423885.jpg.html

【時間について】
開始は昼12時とする

時間表記
未明:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
深夜:22〜24


【状態表テンプレ】

【○日目/時間帯/エリア】
【キャラ名@作品名】
【状態】キャラクターの状態
【所持品】キャラクターの所持品や支給品
【思考】キャラクターの思考、行動方針など
【備考】
※参戦時期や制限の内容、その他補足など

【予約について】
 予約はトリップ必須。期限は通常五日、延長で2日追加。それ以降は要相談。
 期限を過ぎても1日書き込みがない場合、その予約は破棄。

4オープニング ◆ATykWUQR3E:2018/01/02(火) 21:38:28 ID:K53BxQpk0
覚えのないビルのホールと思しき場所で、44名の選ばれし者たちは目を覚ました。
集められた者達を一言で表すならば、雑多だった。
フレンズ、サーヴァント、宝石、スパイ、勇者、旅人、戦士、グルグル使い…
そんな彼らが覚醒してまず抱いたのは違和感だった。
金縛りにかかっているように体が動かないのだ。
文字通り、指一本すら。
顔だけ動かして、己の体を見れば、椅子に座らされた状態で、囚人のごとく拘束されているようだった。
困惑そのままに辺りを見渡せば、見知った顔もいるようだが、如何せん暗く、視界も悪い。
声すら出せない音のない世界で焦燥と不安が募る中、コツコツと、たった一つの音が響く。
当然、音源へと視線は集まり、その先には老紳士が立っていた。
テラスに立つ老人。格好や顔立ちは紳士然としていたが、滲み出る胡散臭さが漂っている。



「Everybody clap your hands!!
私は今回のゲームの審判役を勤めさせて頂くドゥデキャプルと申す者。以後お見知りおきを」


パチパチと空虚な拍手がホールへ木霊する。


「さて、今回皆様に集まって貰ったのはある催しを行ってもらうためでございます。
その催しとは―――――『バトル・ロワイアル』
ルールは伝統あるコロシアム、十二大戦、聖杯戦争と同じく、と言えばピンと来る方もいらっしゃるでしょう。
この場の皆様で命をかけて戦いあってもらい、最後の一人を目指して頂く事です」

ドゥデキャプルの言葉に、静寂に包まれたホールの空気が一気に緊張する。
バトル・ロワイアル?この男は何を言っている?
中には殺し合いが何かよく分かっていない様子で、呆けた顔を浮かべている者もいたが、大多数の者はそう思っていた。

「最後に残った優勝者には、賞品として何でも好きな願いを一つだけ叶える権利の贈呈をを約束しましょう。
叶えられる願いを百に増やして欲しいという願いも結構でございます。
人の欲望は百程度で収まりきるものではありませんが」

老紳士はそう言って笑みを深める。
その薄ら笑いは人というより悪魔、と形容した方が的を得ている様な笑みだった。


「制限時間は72時間、六時間毎に死者の発表の放送を行い、十二回目の放送、つまりは約三日でゲームは終了となります。
……時間内に勝ち抜く自信のない方もご安心を、その様な方への救済措置として三つの支給品を配らせて頂きますので。何が入っているのかは開けてみてのお楽しみ。
その他の詳細ルールについては、ルールブックをご覧ください」

さて、最後に―――とドゥデキャプルによるルール説明も終わりに差し掛かったその時。

5オープニング ◆ATykWUQR3E:2018/01/02(火) 21:40:15 ID:K53BxQpk0
「バトル・ロワイアルなぞする必要はないですぞ!」


ドゥデキャプルの物とは別の声が、響く。
その声を聞きいた瞬間、参加者だけではなくドゥデキャプルすら驚愕し、瞑目する。
声の主はミノを巻き、上半身裸の……一言でいうのならば、分かりやすい変態だった。

「………これは…アドバーグ、いえ、キタキタおやじ様。
貴方様もほかの皆様と同じ処置をしたはずですが、一体どうやって?」
「それは勿論ワシのキタキタ踊りへの熱い想いが奇跡とかそんな感じの事を起こしたに決まってますぞ〜!!」

キタキタおやじと呼ばれたその変態は、至極雑な理論を以て
この場に集められ、拘束された者達の中で唯一動ける理由を吐き、ドゥデキャプルへと詰め寄る。

「さぁ、観念して悪趣味な催しは中止し、私と共に24時間紅白キタキタ合戦を――――っき、キタァッ!?」

その直後のことだった。
キタキタおやじの首輪が突然の発光を見せ、ほぼ同時に爆発した。
その結果、キタキタおやじは文字通り跡形もなく、爆発四散と相成った。
参加者たちはその光景に息を?む。何故かドゥデキャプルも息をのんでいた。
「火薬の量を間違えたのでしょうか…?」と小さく呟き、ここまで超然とした態度を崩さなかった老紳士が、本当に珍しいことに、一瞬だけ狼狽えている様だった。
主催にだって予想外のことは起きる。

だが、それも一瞬の事。
すぐにドゥデキャプルは元の薄ら笑いを浮かべて、

「…気を取り直して参りましょう。
または先程のアドバーグ様のようにこのゲームに不利益をもたらす方、放送時に発表される禁止エリアにとどまり続けた方は、
首に取り付けられた首輪が爆発する仕組みになっております
また、制限時間内にゲームが終了しなかった場合や無理に首輪を外そうとしても爆発する仕組みなので悪しからず」

さて、とそこでドゥデキャプルが参加者達を一瞥する。
その瞳は一切の熱がなく、屍殺場に連れていかれる家畜を見る様だった。

「残念ながら先程のアクシデントにより、首輪の動作チェックのためにもう一人
どなたかに実演してもらわなければ―――」
「あー、もういい。俺、なんだろ」

もう一つ、声が上がった。勿論先程の老人のものではない。
まるでこの後の展開を知っているかのような声色。
しかしドゥデキャプルも今度は想定通りと言った顔で声の方へと顔を向ける。

「……えぇ、寝住様。その通りで御座います」
「このやり取りも百一回目なもんでな」

寝住と呼ばれた眠たそうなその少年は、それ以上にとても疲れた顔をして立っていた。
百の選択肢の中からたった一つの正解を手繰り寄せるべく試行錯誤し、けれど出題された百の選択肢にそもそも解答が用意されていなかった事が発覚した瞬間の如く。

「じゃあ皆、後は頑張ってくれ。俺はもう、御免だ」

人生に絶望した老人のような声色で誰に言うでもなくそう言って、彼は瞳を閉じる。
ドゥデキャプルも彼に敬意を払うかのように一度頷き、そして一切の慈悲も阻むものもなく、処刑は執行された。
爆発。
鮮血が舞い、首のなくなった寝住と呼ばれた少年の、胴体だったものがドサリと崩れ落ちる。
そして、それを確かめたドゥデキャプルは恭しく会釈し、

「………では、問題がないことが確認できましたので、このバトル・ロワイアル、
予定通り開始いたすとしましょう。皆様の健闘を、心より期待しております

6オープニング ◆ATykWUQR3E:2018/01/02(火) 21:41:14 ID:K53BxQpk0

静寂の、しかし確かに困惑、恐怖、怒りが伝播、浸透していく空気の中で、狂宴の開幕は告げられた。
参加者たちの意識は再び闇へと落ちていく。
それに抗うすべはない。



こうして、開幕の宣言から丁度一分で、ホールの参加者は誰もいなくなった。
だが、この一幕はここで終わらず。


「……始まったようだな」

声は背後から。
ドゥデキャプルが振り返ると、その背後には一人の青年が立っていた。
雪のように白い長髪に猛禽の瞳、黄金の鎧を纏いその胸元に真紅の宝石を覗かせた青年。
人間とはおおよそ思えぬ美貌の持ち主だったが、それもそのはず、彼は現在(いま)を生きる人間ではなかった。
ドゥデキャプルが借り受けた、槍兵(ランサー)の称号(クラス)を冠する、サーヴァントが一人であり、鬼札(ジョーカー)。

「えぇ、施しの英雄。この後は契約通りに」
「…オレが手を下すのはこの戦いに対する叛逆者。それも此方への戦意がある者に限る、だったか」
「えぇ、できうる限り公平性は保たれるべきですが、先程のようにアクシデントは起こりえるもの、私個人の心情としては、貴方様のお手を煩わせる事がないのが理想ではありますが」

ランサーは「構わん」と簡潔に言い切った。
自身はサーヴァント(使い魔)、真意はどうであれ、正当な契約上の命令ならば、それを履行する。
叛逆者の鎮圧とこのゲームに積極的に参加する戦士の軽度の支援、それこそが、彼に与えられた役目。
老紳士は胸に手を添え、冷厳とした態度を崩さない大英雄に無言で頭を下げた。
二人の背後に浮かび上がるモニター。
そこに映されるのは42人の参加者たちが覚醒していく瞬間、これで開幕の儀は真に幕を下ろし、


そして、運命は始まる―――――――――、




【アニメキャラ・バトルロワイアル 2017 開幕】

【審判役 ドゥデキャプル@十二大戦】
【見せしめ 寝住(墨野継義)@十二大戦、アドバーグ・エグドル@魔法陣グルグル】

7 ◆ATykWUQR3E:2018/01/02(火) 21:43:15 ID:K53BxQpk0
OPはこちらまでになります。
予約解禁は明日の1/3 00:00よりになります。

8 ◆ATykWUQR3E:2018/01/03(水) 00:48:47 ID:tCFWRu.w0
ダイヤモンド、赤のバーサーカー(スパルタクス)、必爺(辻家純彦) 予約します

9名無しさん:2018/01/03(水) 19:34:38 ID:v8eALWdw0
新ロワ乙です。
寝住とキタキタ親父見せしめは草。扱いに困りそうだから仕方ないね。
質問ですがこのロワって書き手枠はありますか?

10 ◆ATykWUQR3E:2018/01/03(水) 22:46:48 ID:ePxZ20nU0
書き手枠というかNPCとして登場させるならOKです

11 ◆ATykWUQR3E:2018/01/05(金) 03:01:00 ID:3uviBLJg0
>>8の予約で投下します

12未石狂 ◆ATykWUQR3E:2018/01/05(金) 03:02:20 ID:3uviBLJg0


 目覚めた場所を見渡すと、そこはのんびりとした平原だった。
 太陽の位置から察するに時間は正午。
 土地勘のない光景に物珍しさを感じつつ、ダイヤモンドはある疑問を抱いてた。
 それは「あの場所にいた"彼ら"は何者かのか?」という疑問である。
 自分達宝石と似てはいるが、傷口から赤い液体を流し、自分達と同じ言葉を話す存在など見たこともない。
 数百年も少数社会で過ごしてきたダイヤモンドからしてみれば、
 この殺し合いに集められていた参加者たちはまさに未知の存在なのだ。
 加えて殺し合いを強制されれば混乱も一押しだろう。

 殺し合いとは何なのか?
 それがダイヤモンドが目覚めて早々に抱いた感想でもある。

 そもそもダイヤモンドを含めた宝石たちは多少の欠点はあれど不老不死であり、死への恐怖というものが備わっていない。
 ダイヤモンドもその外見とは裏腹に気の遠くなるような年月を過ごしている。
 一応、細かく砕かれるかシンシャの毒液を満遍なく浴びせられたりしたら危ないだろうが、
 気を付けていればそれらも対処可能だ。

「でも……さすがにこれが爆発したら動けなくなるかも」

 おそるおそる首輪をさわる。硬度はそこまで差がないのか削れるようなことにはならなかったが、外せるような工夫もできない。
 基本的に首を破壊されると自分達は動けなくなる。復元してもらえれば話は別だろうが、周囲に仲間がいない上に名簿を確認すると医療担当のルチルも居ない。
これでは下手に損傷したら月人に連れ去られることよりも困難な状態になるだろう。
 
「ボルツならこんな状況でもへっちゃらなんでしょうけど……
 早く皆と合流しないと」

 知っている名前は四人。アンターク、シンシャ、フォス、それにボルツ。
 見知った名前があるというだけで生まれる安心感は、ダイヤモンドに一刻も早く合流したいという焦りを生じさせた。
 起きたときに側に置かれていた黒い入れ物(ディバック、というらしい)から地図をひっぱりだし、現在地を確認する。
 見たこともない材質の紙に驚きつつ、ある程度位置も判明した所で、
 あの謎の人物が語っていたランダムに渡されるアイテムとやらの事を思いだし、ついでに何か使えそうなものはないか探ってみる。
 武器になりそうなものがあれば、と思っていたら大当たり。
 貼り付けられていた説明書によると『三池典太』という刀らしく、シロウコトミネという人物の所持品らしい。
 名簿を見てもそれらしい人物の名前は無かったが、武器として使えるものが入っていたのは有り難い。
 可憐な見た目とは裏腹にダイヤモンドは月人から同胞を守る戦士でもある。自衛のために戦える実力も備わっている。
 ただ丸腰となるとそうはいかないが、これなら当分の心配はないだろう。

 試しに二、三回振ってみる。
 スパッと生い茂った雑草が宙に浮く、どうやら切れ味ともに問題はないようだ。

「よし、これなら戦える!」

 そう意気込み、いざ踏み出さんとしたときだった。



「ふははははははははっ!!!」

 穏やかな空気を切り裂くように、その声はダイヤモンドの元へと轟いてきた。

13未石狂 ◆ATykWUQR3E:2018/01/05(金) 03:03:17 ID:3uviBLJg0
 ――その男は、筋肉だった――



 様子を見に行ったダイヤモンドは唖然としてその光景を見ていた。
 その状況を一言で表すなら、万人は等しくそう答えるだろう。
 金剛先生並、いやそれよりも体格の良い何かが、襲われていた。
 首輪をしていることから、ダイヤモンドと同じくこのゲームの参加者なのだろう。
 襲っているのは、四足歩行でもふもふとした見たこともない生き物。
(ダイヤモンドは知るよしもないが、それは一般的に羊と呼ばれるものであった。)

 そう、羊が人を襲っていた!
 それも一匹や二匹どころじゃない。
 100に近い数の羊が、羊らしからぬ勇猛さで筋肉に突撃を繰り返す。
 対する筋肉男はそれを避けようともせず、あえて抱擁するかのように受け止める。
 その度にドスン!バギィ!と人体からなってはいけない音がするが、男は全く気にしていないようだった。

「獣とはいえその意気は良し!君たちの愛を私は受け止めよう! ふはは、ふはははははははははは!!!」

 寧ろ、とても喜んでいるように見える。
 もうそれは物凄くいい笑顔で羊たちに群がられている。
 鋼のごとき筋肉の壁に阻まれ、羊たちの突進は殆ど効いていないようだった。
 それでも少なからず痛みはあるだろうに、些細なこととばかりに流している。

「良いぞぉ!もっとだ! んんほぉうっ!ふはははははは」
 
 羊たちはそれを挑発と受け取ったのか、さらに勢いを増して突撃する。
 そして無抵抗の筋肉に弾き返されるも、また後続の羊が、といった具合に、延々とシュールすぎる光景が繰り返されていた。

 その何とも言いがたい暑苦しい空気に飲まれていたのか、ダイヤモンドは背後に近寄る人影に気づけなかった。

「こんにちはお嬢さん」

 聞きなれない声に慌てて振り返ると、そこにはどこかあの獣と似たような服装をした老人が立っていた。 
 (老人、といっても宝石は基本老いないため、しわしわな何か、と認識したが)
 
 まぁ待ちなされ、お若いの。と当然のごとく警戒するダイヤモンドを牽制しつつ、老人――未の戦士『必爺』は、ちらりと羊と筋肉の宴を見る。
 幸いにも羊たちは分かりやすすぎる獲物に夢中であり、
 ふたりには目もくれていなかった。

「ワシもあの忌々しい羊たちに追いたてられておったのですが、全てあの男が引き受けてくれたのですじゃ」

 心底疲れたような言葉から察するに、嘘ではないらしい。
 事実、必爺はダイヤモンドと同じく羊たちの平原で目を覚ましたものの、手持ちのアイテムを確認する前に羊たちに発見され、抵抗する間も無く追い立てられ追い付かれる寸前に遭遇したのがあのマッスルである。
 圧政者だとか叛逆だとか要領の得ないことを捲し立てていたマッスルはその存在感から羊たちの気を引き付け、
対するマッスルもそれを受け入れたことからこのカオスな光景が出来上がったというわけだ。
 
「ヒツジ、あの動物はヒツジと言うの?」

「おや、ご存じないですかな?それなりにメジャーな動物だと思うのですが、
そうですのぉ、羊ですじゃ。普通はもっと大人しい動物なのですが……」
 
 少なくとも、あれを大人しいという括りには出来ないとは断言できる。
 その勇猛すぎる羊の群を相手にして、高笑いを響かせるあの男もそれ以上に異常だが。

「凄まじいのぉ……いやはや、同じ人間とは思えないですな」

 心底から感心したような言葉だった。少なくとも、あの筋肉の防御力は午の戦士に匹敵するかそれ以上だろう。
 何気ない感想だったのかもしれないが、その言葉に含まれた聞きなれない単語にダイヤモンドは引っ掛かりを覚えた。

14未石狂 ◆ATykWUQR3E:2018/01/05(金) 03:04:08 ID:3uviBLJg0

「ニン、ゲン? あっちのアレも、貴方もニンゲンなの?」

 まるで自分が人間ではないような言い方に必爺は怪訝な顔をする。
確かに不気味なほど整った顔立ちをしている娘だが、人外という程でもない。
手玉にとれるかと思った相手の微かな違和感に警戒の度合いを上げつつ、返答する。

「不思議なことを申されますな、わしも人間、彼方もまぁ、ちょっと凄まじいですがまだ人間の括りに入る方だとは思いますがのぉ」

「ふむ、お互い情報交換もしておきたい所ですがの、まずは此処を離れませんかな? 
……正直、彼方さんとはあまり関わりたくないのですがのぉ」

 結果的に都合のいいスケープゴートとなってくれた事に感謝はしているが、あの筋肉にはできる限り関わりたくなかった。
 戦士である必爺からしてもあの男は異様である。関わっても絶対にろくなことにならない。
長年の経験から、アレは長生きするどころか敵味方巻き込んで盛大に自爆するタイプだと察していた。
 それに羊たちが痺れを切らしてこちらに向かってこないとも限らない。
 そう告げると、ダイヤモンドも同じく関わりたくないのかそっと視線を向けるものの直ぐ様そらし、場を移動することに同意した。
 人の良さそうな仮面を被りつつ、必爺は内心でほくそ笑む。

(まずは第一目標の達成、といった所ですかな)

 必爺の目的は戦力となる手駒の確保である。何の因果かこうして虎の戦士に敗北したはずの身が五体満足でいることに驚きはしたが、またチャンスを掴めたことに代わりはない。
 恐らくこのバトル・ロワイアルは十二大戦の新たな趣向、敗者復活戦か何かかとあたりはつけたものの、自身の最高傑作の醜怪(しゅうかい)送りも没収され、丸腰に等しい状態では老いた身では明らかに力不足。

 必爺の鑑定にしてみれば、手駒の候補としてダイヤモンドは比較的扱いやすそうな類だと判断したのだ。
 華奢な見た目をしているが、此方を警戒した佇まいは一級の戦士のそれ。恐らく実勢経験はそれなりに積んで、かつ実力も戦力としてカウントするのに申し分ない。
 何より、あの筋肉よりは有益な形で話が通じそうである。
 少なくとも、意思疏通ができれば小娘一人幾らでも抱き込める。
 『騙して殺す』ことこそが未の戦士の真骨頂なのだから。

 まさかダイヤモンドが自分よりもはるかに歳上で、正真正銘の異種族であることなどまだ知るよしもない必爺であったが、
ダイヤモンド本人は(良かった、話が通じるなら何とかなるかも)と多少安堵していた。
 まぁ、それは仕方がない。なにせ、よくも悪くも頭数が30にも満たないコミニティで暮らしてきたダイヤモンドは、
こういった駆け引きや裏表のある相手との交渉・接触に慣れていないこともその鈍さに拍車をかけた。

(ニンゲン……こうして話し合いを望む人たちばかりなら、思ったより早くボルツたちと合流できるかも)

(さて、どう丸め込みましょうかな)


【1日目/日中:12〜14/羊たちの草原】

【ダイヤモンド@宝石の国】
【状態】健康、損傷0%
【所持品】三池典太@Fate/Apocrypha、ランダム支給品×1(確認済み)、修復用の糊(3回)、基本的支給品
【思考】
1:皆(ボルツ、フォス、シンシャ、アンターク)と合流する
2:ニン……ゲン?
【備考】
※第2話前からの参戦です

『三池典太』@Fate/Apocrypha
 シロウコトミネの所持品。かつてとある剣豪が愛用していた品で、赤のキャスターの「エンチャント」により強化され、Cランク相当の宝具と化している日本刀。

【必爺@十二大戦】
【状態】健康、疲労(小)
【所持品】ランダム支給品×3(確認済み)、基本的支給品
【思考】
1:最終的には優勝する。まずは手駒が欲しい
2:この娘(ダイヤモンド)をうまいこと戦力として扱う
【備考】
第6話、死亡後からの参戦です

15未石狂 ◆ATykWUQR3E:2018/01/05(金) 03:05:38 ID:3uviBLJg0

 その場から駆け足で離脱する老戦士と宝石、世界も種族も異なるふたりの末路はまだわからない。
 金剛石がどう動くのか、老猾な未の戦士の意図しない結末になるのか。
 異種間交流はまだ始まったばかりである。






 筋肉ー―もとい、赤のバーサーカー(スパルタクス)は、遠ざかるふたりの後ろ姿を見つめ、さらに笑みを深めた。
 その間にも猛り続ける羊たちへの抱擁は続けている。彼らの勇猛さは多少物足りないとはいえ心地のよい痛みをバーサーカーに与えていたし、強者に挑み続けるその姿勢が彼にとって好ましいことも一因していた。

「ぬぅ、やはり弱者の盾となる以上の快感はない」

 狂戦士であるスパルタクスは、狂化によりその理性を失っている。
 珍しいことに狂化を受けてもスパルタクスは会話を行うことができるが、”常に最も困難な選択をする”という風に思考が固定されており、実質的に意思疎通は不可能である。
 圧政者への叛逆こそが彼にとっての存在理由であり、行動方針でもある。
 さて、そんな彼が聖杯大戦からこのバトル・ロワイアルという新たな舞台に招かれて、何が変わるだろうか。

 否、何も変わらない。

「叛逆である。それが私の全てである」

 首輪などという隷従の証を強制し、弱者に強者の都合を強要する。
 これが圧政者でなくて何だというのか。
 主催者は圧政者、そしてこの世すべての圧政者は例外なく粉砕されるべきである。

「さて、小さな同胞たちよ。私は新たな叛逆のために凱旋せねばならない。
全ての圧政者の傲慢を打ち砕き、強者の奢りを蹴散らさなければならないのだ!」

 盾となり庇護すべき弱者は去った。名残惜しいが、この場にとどまり続ける理由はない。
 バーサーカーは移動を開始した。
 その歩みは決して早くはないが、さながら戦車のごとき重圧とパワーで群がる羊たちを吹き飛ばしていく。
 

「ふは、ふはははははははははは」


 スパルタクスにこれもいった計画や作戦などはない。
 ただただ圧政者と定めた敵の姿を探し求め、みなぎる叛逆の衝動に任せているだけだ。
 彼は狂っている。それは確かだが、ただ、少なくとも理不尽に反抗し、打ち砕かんとする姿は紛れもなく英雄のものであった。


【赤のバーサーカー(スパルタクス)@Fate/Apocrypha】
【状態】ダメージ(微量&『被虐の誉れ』で回復中)、『疵獣の咆吼』による魔力チャージ(小)
【所持品】なし
【思考】圧政者に叛逆する
【備考】
※ディバックはそこらへんに放置してます
※ユグドミレニア城に向かっている途中からの参戦

16 ◆ATykWUQR3E:2018/01/05(金) 03:06:32 ID:3uviBLJg0
自信ないですが投下終了です

17 ◆ATykWUQR3E:2018/01/05(金) 03:08:46 ID:3uviBLJg0
あと作成していただいた地図ですが見れなくなっていたので再アップお願いします

18名無しさん:2018/01/05(金) 20:43:50 ID:G.p7ufjA0
反応遅くなってすみません、新パロロワテスト板で地図作った者です。

地図の再アップ、了解しました。
ただ、テスト板の方で少し話になったのですが、抜けていた施設案、アラハビカ@グルグルとコロシアム@キノは追加したほうが良いでしょうか?
今ならまだ地図を修正しても問題ない時期だと思うのですが。

19 ◆ATykWUQR3E:2018/01/06(土) 00:04:59 ID:rQY9j4JI0
>>18
返答ありがとうございます。追加修正に関しましては再アップにともない実施していただければありがたいです。ただ両施設ともにどうしても必要不可欠というわけではないので、氏が御忙しいなどリアルでお時間がとられないなど不都合があればそのままで大丈夫です。

20名無しさん:2018/01/06(土) 12:10:56 ID:DdHzDfTw0
地図を修正してあげ直しました。
主な修正点は、
・アラハビカ@魔法陣グルグルを市街区として、コロシアム@キノの旅を施設として追加
・病院とクイーンズ・メイフィア校の位置を交換(メイフィア校とロンドンが同作出典であることを踏まえて)
・線路の解説を追加
・龍の定期便の誤字修正
ぐらいでしょうか。

あとついでに参加者の配置図も作ってみました。
頻繁には更新できないかもしれませんが、折を見て余力のあるときに作れればと思います。

新地図
ttps://dotup.org/uploda/dotup.org1432657.jpg.html

参加者配置図
ttps://dotup.org/uploda/dotup.org1432662.jpg.html

21名無しさん:2018/01/06(土) 12:26:43 ID:DdHzDfTw0
訂正。
線路解説のところ、空路が抜けてたので追加しました。こちらが最新版です。

新地図
ttps://dotup.org/uploda/dotup.org1432676.jpg.html

参加者配置図
ttps://dotup.org/uploda/dotup.org1432678.jpg.html

22 ◆2lsK9hNTNE:2018/01/08(月) 00:53:48 ID:IIy/omlQ0
>>16
投下乙です
長い話ではないのにどのキャラも確かな個性を感じられて、書き手の方を上手さを感じます
ダイヤモンドの可愛さや羊爺の狡猾さ、スパルタクスのイカレ具合。どれも凄いらしい
話のところどころユーモアも感じられて凄く面白かったです
参加作品も知ってるものがほとんどだし私も参加させて頂こうと思います

>>21
地図と参加者配置図ありがとうございます
色々な施設があって様々な話を書けそうです
参加者配置図もこうやって絵で配置が書かれると凄く分かりやすいです

それでは憂城、レイド、ベアトリスを予約させて頂きます

23 ◆2lsK9hNTNE:2018/01/12(金) 22:17:14 ID:bV/X7gPg0
予約延長します

24名無しさん:2018/01/12(金) 22:27:21 ID:uKS9pQfI0
投下おつです

ダイヤモンドはお人よしな性格だし必爺に上手いこと利用されそうで心配
次に誰と出会って二人がどうなるのか気になる組み合わせでした
スパルタクスも対主催?なのに盛大に暴れてくれそうで楽しみです

25 ◆2lsK9hNTNE:2018/01/14(日) 23:50:26 ID:XIyDundY0
お待たせしました。投下します

26少年少女と兎 ◆2lsK9hNTNE:2018/01/14(日) 23:52:11 ID:XIyDundY0
突如拉致され殺し合いを命じられるという大の男でも恐怖し動けなくなる異常な状況に対して、
まだ十代半ばの少女、ベアトリスの行動は小柄で小動物じみた雰囲気に反して以外にも素早かった。
会場東の草原で目覚めた彼女は混乱もそこそこに支給品の確認を終えるやいなや目的地に向かって歩き出したのだ。
目的地、即ち仲間たちが共通で通う学校、クイーンズ・メイフィア校にだ。みんなが仲間との合流を目指すならきっとそこに向かうだろうと考えて。

一見みためが可愛いだけのどこにでもいる普通の少女ベアトリスがそれほど冷静に動けているのには理由がある。それはもちろんは彼女が普通じゃないからだ。
アルビオン共和国が王国に潜ませたスパイ、チーム白鳩のメンバーのひとり、それが彼女の現在の肩書きだ。
日夜スパイとして活動する彼女にとっては感情を殺し冷静沈着に動くことなど朝飯前――ではまったくないが、
頭に浮かぶ疑問や恐怖や怒りをほっぽり出して、いま自分にできることをやろうと思うくらいはなんとかできた。
それが仲間と合流することというのも少し情けない話かもしれないが。

(でも、それが今できる最善のことのはずです)

心のなかで言い聞かせる。
いま彼女がいるのはロンドン市街のとある一画だ。会場内に収めるためか一部削られているところはあるが、その景観はベアトリスの知るロンドン市街とまったく同じだった。
地図で最初に地名を見たときはクイーンズ・メイフィア校共々、形を似せたものがある程度だと思っていたのだが。
これではまるで本物の市街の一部を切り取って運んできたかのようだ。不自然極まりないがその疑問もいまは放り投げてクイーンズ・メイフィア校目指してもくもくと歩みを進める。
それが止まったのは小道を抜け普段なら人で賑わう大通りに入ったとき。まさしくバッタリという感じで人と出くわした。

「え?」

少しのあいだ動きが止まって。
次の瞬間慌てて飛び退いた。

(ほ、他の参加者!)

ベアトリスより少し年下、十代前半と思しき少年だった。黒いマントを羽織っているのがいかにもカッコつけている感じで子どもっぽい。
しかし油断はできない。この少年は、まだまだ未熟とはいえスパイとしての訓練を受けているベアトリスにまったく接近を気づかせなかったのだ。
それは単にベアトリスが周囲への警戒を怠っていたからなのだが、余計な思考を放棄するくらい余裕がない彼女はそのことに気づかなかった。
自分に存在を気づかせなかった相手として最大限に警戒を少年に向ける。

が、少年のほうは突然背中を向けて走り出した。道を曲がり路地に入って姿が見えなくなる。
てっきり襲い掛かってくるのではないかと思っていたベアトリスは拍子抜けした。
少年がなぜそんな行動に出たのかを考え、やっと自分が警戒を怠っていたことに気づいた。同時に少年の行動の理由も。
つまりあの少年は殺し合いなんて言われて途方にくれていたところ、初めて会った参加者に敵意を向けられて怖くなったのだろう。

「ま、待って!」

そう考えたベアトリスはすぐに少年を追いかけた。他人の心配なんてしている余裕は全然ないが、だからといって放っておけない。
しかし路地で待っていたのは予想外の光景だった。
先程の少年が両手を組んで目をつむりながら壁に寄りかかっていたのだ。

27少年少女と兎 ◆2lsK9hNTNE:2018/01/14(日) 23:54:27 ID:XIyDundY0
「ふっ、命をかけた戦いなんていうからどんな悪鬼羅刹が待ち受けているのかと思えば、最初に会った奴がこんな少女とはな。
安心しろ。お前に危害を加える気はない。
このレイド様はあんなジジイの言葉に安々と踊らされる男ではないからな」

(この子いまの状況をちゃんと理解できてないんだ)

即座に判断した。

「へ、へえ、そうなんですか。私はベアトリスっていいます」

とりあえず名乗ってみた。普段年下の男の子と――それもこれほど子どもっぽい男の子と――接する機会がないのでどう対応すればいいのかよく分からないのだ。
幸い少年はベアトリスの態度を気にしたふうもなく言う。

「人を探している。オレと同い年くらいの栗色の髪の女の子か、顔の怖いジイサンを見なかったか?」
「ごめんなさい、私あなたがここに来てから初めて会った人なんです」
「チッ、そっちもか」

どうやら彼のほうも人に会ったのはベアトリスが最初らしい。仲間の誰かに会ってないかともちょっとだけ期待していたのだが。
レイドはそれだけ聞くと背中を向けてさっさと去ろうとする。しかしこんな子どもをひとりにしておいたら間違いなく悪人の餌食だ。
ベアトリスは慌てて呼び止めた。

「待ってください! レイドくんはあのお爺さんに言われたとおりにするつもりはないんですよね?」
「それがどうした」
「だったら私と一緒に行動しませんか。ひとりじゃ危ないですよ」
「無用な心配だな。だいたいお前みたいなガキンチョと一緒に行動してなんになる」
(ガ、ガキンチョ!?)

思わず頭に血が上りかけるが相手は子どもだ。ここは余裕を持って無視しなければ。

「じ、実は私さっきまでずっとひとりで不安だったんです。だからお願いします、私と一緒にいてください!」
「し、しかしなぁ……」

断ってはいるが態度が弱腰だった。これはこのまま勢いで押し切れるそうだ――そう思ったときだった。

「へえ、つまり君たちも『バトル・ロワイアル』に乗るつもりはないんだね。嬉しいなあー、初めて会った参加者が僕と同じ平和主義者で」

その声はやけに不吉に響いた。
ベアトリスたちが入ってきたのとは逆方向の路地の入口。男がひとり立っていた。
異様に丈が短いホットパンツに肌の上に直接着けたサスペンダー。頭と尻にはそれぞれ兎の耳としっぽを模した飾りをつけている。
どうみても変態だった。右手に持った剣は現状を考えれば護身用としてもそれ以外の部分が言い訳のしようもないほど異常だった。

「僕もみんなで協力して『バトル・ロワイアル』の主催者に立ち向かいたいとおもってんだー。ねえ、僕も君たちの仲間に入れてよ」

そんなことを言われても全く信じられないし仮に本当だったとしても関わりあいになりたくない。たとえいまが殺し合いの最中じゃなかったとしても。絶対に。
だがその気持ちを素直に伝えることはできない。そんなことをすればなにをしでかすかわからない。
ここはどうにか穏便に納めなくては。そう思ったのだが――

「なんだお前は。お前みたいな変態信用できるわけないだろ。とっとと失せろ」
「レ、レイドくん!?」

あまりにも正直すぎるその言い様に思わず叫んでいた。
男はわざとらしく左手で頭を抱え、これまたわざとらしくため息をついた。

28少年少女と兎 ◆2lsK9hNTNE:2018/01/14(日) 23:55:55 ID:XIyDundY0

「……ひどいなー、初対面の相手をいきなり変態呼ばわりするなんて。いままでいったいどんな環境で育ってきたの?
君みたいな失礼な奴を信用するなんてとてもできないよ。背中を向けて去るなんてとてもできないよ」
(ああ、やっぱりぃ)

男は敵意をむき出しにしている。
それは男の性格というよりレイドの言葉が酷過ぎたのが原因かもしれないが、それだって自業自得というか変態と言われるのが嫌ならもうちょっと格好をどうにかしろって感じだ。
ベアトリスはそう思った。そう思うだけの余裕がこのときにはまだあった。
目の前の男を頭のおかしい変態としか思っていなかった。どれほどの存在か分かっていなかった。

「『卯』の戦士――『異常に殺す』憂城」

男がこちらに剣を突きつけ名乗り? を挙げる。
瞬間、姿が消えた。

(え?)

いや消えてはいなかった。男はベアトリスのすぐ近く、レイドの目の前にいた。
消えたように見えたのは単にそれだけ速く彼が動いたからだ。そしてその速さでもってレイドに剣が振り下ろされる。
だがそれよりもさらに一歩速くレイドは後ろに飛び退いていた。

「貴様、いきなりなにをする!」

怒鳴るレイドに憂城と名乗った男は構うことなく斬りたてる。
もはやベアトリスには視認さえできない無数の斬撃。その全てをレイドはかわしていた。
年端もいかない少年が変態が繰り出す鋭い剣技を次々とかわす。全くもって意味がわからない光景だった。
しかしそれでもどうにか理解しようと見ているうちにひとつだけ分かったことがあった。

憂城がこっちをまるで気にしていない。気にする余裕がないのか、ただ無視しているだけなのかはわからない。
それでもベアトリスはふたりに背中を向けて走り出した。
それは傍目にはレイドを見捨てて逃げているようにしか見えなかったし、おそらく憂城にもそう見えただろう。
実際そうしてもおかしくはなかった。
レイドが保護すべきただの子どもではないことはもはや明らかだし、所詮は会ったばかりの他人だ。決して命がけで助けなくてはいけないような相手ではない。
しかしベアトリスはそんなことができるほど冷徹ではなかったし、そもそもそんなことが思いつくほど冷静でもなかった。

デイパックを前に回して憂城から隠しながら支給品を取り出し、振り向きざまにそれを投げる。
耳を塞ぎ目を閉じた。投げられた物体は戦うふたりの近くを転がり強烈な閃光と轟音を発した。
スタングレネードだ。音と光で視覚と聴覚を封じる生きたまま敵を無力化するために作られた武器。
懇切丁寧な説明書も同封されていたし、チームの仲間からこういった物の扱いを教わっていた彼女にとって使うのに支障はない。
目を開けるとそこにはなにが起きたか分からずフラフラしているレイドと、逃走する憂城の姿が見えた。

(平衡感覚もおかしくなってるはずなのに)

おそらく来た道を戻っているのだろうが。やはり尋常じゃない。見た目以上にその実力こそが恐ろしい男だった。

回復したらまた引き返してくるかもしれない。
ベアトリスはレイドの腕を引っ張って近くの民家の中に入った。
遠くに行かずに側の民家を選んだのはレイドがまともに歩けないからでもあるが、仲間から教わった戦略でもある。
人はなにかから逃げようとするとき遠くに離れようとしがちだ。だから逆にすぐ側に隠れると案外見つからなかったりするらしい。
スタングレネードはそう長い時間効果を発揮するものではない。レイドを座らせて声をかけた。

「レイドくん、大丈夫ですか。しっかりしてください」
「うう、ここはどこだ。いったいなにがあった」
「ここは近くにあった家の中です。ごめんなさい、助けるためとはいえあの人と一緒にレイドくんにもスタングレネードを……」
「スタングレネード? いやそれよりあの変態は?」
「いまは近くにはいません。だけどたぶんすぐに戻ってくると思います」
「ちょうどいい。今度こそ返り討ちにしてやる」
「あぶないですよ。レイドくんが強いのはわかりますけど、相手は武器も持ってますし隠れてやり過ごしましょう」
「安心しろ。さっきは不意を突かれて取り出す暇がなかったが武器にならこっちにもある。それもとっておきのがな」

そう言って彼がデイパックから取り出したのはベアトリスが見たこともない謎の物体。
しかしレイドの説明を聞くとそれは確かにとっておきの武器のようだった。

29少年少女と兎 ◆2lsK9hNTNE:2018/01/14(日) 23:57:01 ID:XIyDundY0





「ハァーハッハッハ。のこのこやって来やがったな変態! 貴様の命運もここまでだ! コイツで息の根を止めてやる!」

ベアトリスの読み通りにもどってきた憂城にレイドは高らかに、高いところから告げる。彼は空に浮いてるのだ。身につけた奇妙な形の鎧の力で。
ガジェットアーマー。レイドに支給されたそのアイテムは実はかつてレイド自身が作った物だった。
飛行能力と魔力を放出する遠距離攻撃を併せ持つこれならば、地上にいる相手を一方的に攻撃し続けられる。

胸の部分についた赤い石に魔力を充填、それが光線となって放たれた。
憂城は斜め上に飛んで避け建物の壁面に着地。そのまま壁を駆け上がる。再度放たれた光線をかわしながら今度は反対側の建物へ。
三角飛びと壁面走りを組み合わせて上へ上へと超人的な動きで登っていく。

(だがアマイな)

十分な高さに達したと判断した憂城が飛びかかってきたところでレイドはさらに高度を上げた。
ガジェットアーマーはただ空にぷかぷかと浮けるだけではない。
急上昇に急降下、さらには急ブレーキまで可能な機動性、安全性とも最高クラスの飛行アイテムだ。
地上の兎がいくら跳ねたところで届くはずもない。
しかもいま相手は自由落下の最中。身動きできない空中でガジェットアーマーの攻撃を避けるすべはない。
これで積みだ。

レイドは赤い石を憂城に向ける――その眼前に銀色に光る刃が迫っていた。

「うおっ!?」

すんでのところで高度を下げる。憂城の投げた剣はレイドの真上ギリギリを掠めていった。
危ないところだった。あと一瞬でも反応が遅れていたら顔が真っ二つになっていただろう。
だがこれで向こうは自由落下に加えて剣まで失った。今度こそ為す術のない完全なる積み。そのはずなのに――

「レイドくん逃げてください!」

ベアトリスが窓から顔を出してそんなことを叫んでいる。大人しく隠れていろと言っておいたのに。
だがそれを疑問に思うよりも早く異変に気づいた。
ロープだ。おそらく剣に結ばれていたのだろう。剣が通過した場所をなぞるようにロープが張られている。だが問題はそこではなかった。
まるでそのロープに引っ張られるように。
憂城がこっちに向かって上昇してきていた。

「バカな!」

人が投げた剣に引っ張られるはずがない。人間の体重はそんなに軽くない。
だが現にこの男は引っ張られている。

(上昇、いや、それじゃロープが絡まるから横に……)

一瞬の迷いが明暗を分けた。
レイドと同じ高さにまで到達した憂城が肩を掴んでくる。
辛うじて撃った光線は肩を起点に後ろに回り込まれてかわされた。
背後から剣をキャッチする音が聞こえる。腹に激痛を感じた。アーマーの隙間から剣を刺されたのか。意識が急速に薄れていくの感じる。

「……ククリ」

最近友達になったばかりの女の子の名前を呼ぶ。それがレイドの今際の言葉になった。





レイドの腹から剣が引き抜かれ、吹き出した血が降り注ぐ。彼の身体は憂城に抱えられながらゆっくりと降りてきた。ベアトリスはその光景を呆然と眺めていた。
彼女は全てを見ていた。レイドがなぜ殺されてしまったのかも。
憂城はロープ付きの剣を投げたあとデイパックから支給品を取り出したのだ。
ベアトリスやレイドが支給品を持っているようにあの男だって当然持っている。。そしてそれは剣だけだとは限らない。最初に言われていたはずだ。三つの支給品と。

憂城が取り出した物はベアトリスが知っている物だった。
Cボール
重力を遮断し周辺の空間を無重力にすることが出来るケイバーライトの中でも、特に高濃度の物を使って作られた個人型重力制御装置。
ベアトリスの仲間のひとりが持つ切り札的装置。
あの男はCボールを使って自分にかかる重力をなくし、投げた剣に自分の身体を引っ張らせたのだ。

(逃げなきゃ)

その言葉がベアトリスの頭の中を染め上げる。彼女は民家を飛び出すや否や脇目も振らず一心不乱に走り出した。あの男から少しでも遠くへ。その想いだけで。
冷静に考えれば彼女の脚力で憂城から逃げられるはずは到底ないのだが、いまの彼女はそんなことすらわからず、なにも考えずひたすらに走った。
あるいは殺されたのがレイドではなくベアトリスの仲間の誰かだったなら、同じ考えなしに走るでも復讐に走っていたかもしれない。
そういう意味では殺人者への怒りよりも死への恐怖が勝つ程度には冷静だったともいえる。
結局のところ彼女とレイドの関係は会ったばかりの他人の域を出なかったというわけだ。
しかしそれで彼女を冷たいからと攻めることはできないだろう。
少なくとも彼女はそのほんの小さな冷たさによって命を拾うことになった。

30少年少女と兎 ◆2lsK9hNTNE:2018/01/14(日) 23:59:07 ID:XIyDundY0





彼女の脚力で憂城から逃げられるはずは到底ない。ではなぜ助かったかといえばそれは憂城がベアトリスを追わなかったからだ。
そもそも彼は最初からレイドにしか興味がなかったのだ。
最初に声をかけたのもその後の戦いも全て秘めた力を感じさせるレイドが目当てだった。
ベアトリスもずぶのド素人ではないし一度は憂城にスタングレネードを喰らわせたが、逆にいえばそれでもなお殺害にまで至れない程度の存在ということ。

いつどこでどんな敵と出くわすか分からない現状、そんな相手をわざわざ追いかけて殺すよりも別のことに時間を使うべきだと憂城は判断したのだ。
まさか彼女が偶然にも憂城の支給品、Cボールの能力に正通していて、それが周りに漏れるかもしれないとは考えもしなかった。
これは彼の落ち度というより運命のめぐり合わせというほかないだろう。
憂城にしてみればCボールは完全に未知の技術。ベアトリスはおろか全参加者を合わせても知っている存在がいるか怪しい代物だったのだ。

それに結局のところそんなことは大した問題ではないのかもしれない。
なぜならベアトリスは対憂城戦において最も注意すべき彼自身の能力、殺した相手とお友達になるネクロマンチスト(死体作り)の力を知らずに逃げたのだから。

憂城はレイドの死体を下ろす。魂の抜けたただの動く死体となったレイドが身体を起こした。憂城は屈んでレイドの目の前に参加者名簿を広げた。

「僕ねー、一緒に戦ってくれるお友達を探してるんだー。だからこの中に知ってる人がいるなら教えて」

憂城の『お友達』は基本的に喋らないがそれは喋る必要がないだけで喋れないわけではない。
質問されれば生前の記憶で答えることもできる。
もっとも複雑な思考ができないので必要な情報を引き出したいなら細かく何度も質問しなければならず時間はかかるが。
倒したいと思った宿敵のことも、守りたいと思った女の子のことも、一緒にいてくれた男のことも、『お友達』は訊かれるままに躊躇いもなく答えていった。




【1日目/日中:12〜14/ロンドン市街区】


【憂城@十二大戦】
【状態】健康
【所持品】牛蒡剣@十二大戦、Cボール@プリンセス・プリンシバル、ロープ(ロンドン市街区で調達)ランダム支給品×0〜1基本支給品
【思考】
1:一緒に戦ってくれるお友達を捜す

【ベアトリス@プリンセス・プリンシバル】
【状態】健康、動揺
【所持品】スタングレネード×4、ランダム支給品×0〜2(確認済み)、基本支給品
【思考】
1:ここから逃げる
2:仲間たちと合流する



支給品紹介
【牛蒡剣@十二大戦】
皆殺しの天才、丑の戦士失井が愛用している剣。
特別なところはない量産型の剣だが失井は大切に扱っている。

【Cボール@プリンセス・プリンシバル】
個人型重力制御装置。連続使用すると熱を放ち、冷却しないと制御不能に陥る。

【ガジェットアーマー@グルグル】
自由自在な飛行能力と胸ところにある赤い石から光線を撃つ力を併せ持つ。
レイドの体格に合わせて作られているため本人以外では似た体格の者しか扱えない。憂城は扱えない。

31 ◆2lsK9hNTNE:2018/01/15(月) 00:04:30 ID:ZCvsTpWU0
投下終了です

それとすいません。地図をダウンロードし忘れてしまったため正確なエリアが書けません
それと本文の後に
【参加者名@作品名】死亡
残り○○名
の文を入れ忘れました。もうしわけありませんでした

32 ◆2lsK9hNTNE:2018/01/15(月) 00:09:26 ID:ZCvsTpWU0
【レイド@魔法陣グルグル】死亡
残り41名
だ。なにやってるんだ自分

33名無しさん:2018/01/19(金) 21:02:27 ID:7di1ND5M0
投下乙です。
最初の犠牲者はレイドとなりましたか。善戦虚しく、南無。
ベアトリスも形の割に中々クールな立ち回りで、今後に期待ですね。

あと地図ですが、どうにもすぐ見れなくなってしまうようで、申し訳ない。
サイトを変えてみたので、お手数ですがご確認をお願いいたします。配置図も更新しました。

地図
ttps://www.fastpic.jp/viewer.php?file=6388674457.jpg
配置図
ttps://www.fastpic.jp/viewer.php?file=4192382381.jpg

34名無しさん:2018/01/20(土) 22:00:40 ID:.kVxRetA0
おつ

35 ◆EPyDv9DKJs:2018/01/29(月) 13:30:34 ID:Q1Udsr9Q0
アンジェ 師匠で予約します

36 ◆FY./pCA9FM:2018/01/30(火) 18:54:19 ID:WYeyYuOY0
ジャック・ザ・リッパー、キノ 予約します

37 ◆EPyDv9DKJs:2018/02/02(金) 11:18:15 ID:gavtVJKU0
投下します

38 ◆EPyDv9DKJs:2018/02/02(金) 11:19:56 ID:gavtVJKU0
 D-4、この舞台の中央とも言うべき場所に位置する病院。
 聖杯大戦の舞台であったトゥファリス市街区の中に存在しており、
 都会のビルの中に違和感なく残る外見は、この場では少々浮いた建物になる。

 ある意味では、ここがスタート地点の参加者は恵まれているのだろう。
 今後のための包帯と言った応急処置、場合によっては武器、食料と多岐にわたる物資の調達。
 数多くの部屋があるので身を隠したり、逃走経路も数多く存在すると言ってもいい広さ。
 加えて、自身が受けた怪我の手当てや、それを狙って来る参加者と、中々人が集まりやすい。
 殺し合いをするしないどちらにおいても、此処がスタート地点は一つのアドバンテージになる。



『殺し合いの中で・b』



(随分厄介な状況ですね。)

 無人の病院の廊下を音を極力減らしながら歩く、一人の女性がいた。
 黒い長髪を持ち、身軽さを残しつつも整った格好をしており、
 落ち着いた雰囲気を持つ妙齢の彼女は、名簿には『師匠』と明記された女性である。
 ある国で警察を相手に篭城してる最中、目が覚めればあのホール、説明が終わればこの病院に招かれた。
 技術も、経緯も、全てが一切不明のまま自分は拉致され、首輪による生殺与奪の権利までも握られた状況。
 警察を相手するよりもずっと厄介な状況に彼女は巻き込まれていたが、さほど焦ったりはしなかった。
 元々波乱万丈な人生をしてたので、こういった危機的状況も十や二十どころの数ではない。
 これもそんな危機的状況の一つと思えば、普段通りの気構えでいけばいいだけのことだ。

(参加者は四十二名。一人で相手するのは難しい人数でしょう。)

 名簿に目を通した後、師匠は悩む。
 師匠と言う人物は自分の利益のためなら、色々利用して稼ぐのが彼女だ。
 その為に人を撃った人数も殺した人数も、既にいくつか分かったものではない。
 時に義理堅くとも、この場において平和の為に殺し合いはしません、なんて考えはなかった。
 方針は最初から決まっている。殺し合いを制して利益を得て、さっさと相棒の下へ戻るだけだ。
 もっとも、相手は無断で拉致して、殺し合いを強要させた存在で、彼女にとってあの老人の信用は今ひとつ。
 一つの妥協のようなものであり、優勝以上に利益のあるものが存在するなら、そっちに乗りたくもある。
 あくまであればの話だ。あるとは思えない現状、優勝を捨て置いて模索するつもりはない。

(暫くは武器や装備の充実を優先しますか。)

 殺し合いに乗ると思ってはいるが、積極的に殺そうとは思ってはいない。
 参加者は数十名、そして殺し合いを要求する以上、実力者は多いと推測できる。
 主催者は類似した戦いを例に挙げたが、別にそれらを経験せずとも環境で人は強くなるもの。
 殺し合いに積極的になるのは、ある程度人数が減ってからを目安にしたい。
 何も一人で全員を倒さなければならないわけではない。理由は多種多様であれども、
 勝ち残ろうとする者の共通点は、優勝と言うたった一つの席を奪い合う戦いだ。
 漁夫の利を得ることも、立派な戦術の一つ。せこいが、十分正攻法である。
 常に理知的に行動し、老婆になっても油断しないのが師匠の恐ろしい性格だ。

(まだ、このパースエイダーの感覚も分かっていませんし。)

 殺し合いに積極的に参加しないのは、彼女の持つ武器にも理由がある。
 その手に持つのは、ウェブリー=フォスベリー・オートマチック・リボルバー。
 彼女のいた世界とは別の銃で、十八世紀に登場した自動回転式拳銃。
 多数のパースエイダーを使用してきたが、随分と機構が違う以上、
 いくら銃器の扱いに慣れた彼女でも、試し撃ちが必要になる。

 師匠は振り向きながら銃を向けて、引き金を引く。
 銃弾は何の問題もなく放たれ、無音の院内に銃声を響かせた。
 銃声に続くかのように音が響き、師匠は狙った的を見やる。

(一応、使えなくはないようですが・・・・・・)

39 ◆EPyDv9DKJs:2018/02/02(金) 11:21:28 ID:gavtVJKU0
 彼女が狙ってみたのは、病室の鍵穴。
 弾丸は見事にヒットし、鍵穴は原形を留めていない。
 小さい的を狙えるのは師匠だからこそではあるものの、あくまで撃てればの話だ。
 説明書にあったとおり、銃を構えた状態でフレームを後退させ、コッキングを行う。 
 この銃、コッキングの際に片手を使ってフレーム全体を後退させる必要がある。
 一般的な回転式拳銃のコッキングはハンマーさえ引けばそれで澄むのだが、
 その特性上、必ず両手を使わなければコッキングが出来ないと言う問題を抱えていた。
 当然、多数のパースエイダーの経験のある師匠にとっても、これは性能が高いとはいえない。
 現在は晴れで、石造りの街並みとも言うべきトゥファリスにおいては影響は恐らくないが、
 環境にも影響されやすいと、後に進化していく銃としては、使い勝手のいいものではない。
 とは言うが、今はこれと予備の弾薬だけが武器であり、贅沢はいえなかった。

(さて、これから―――)

 病院でも散策しようかと思ったそのとき。
 その狙った鍵穴の病室から、窓が勢いよく開ける音が聞こえる。
 近く、もとい院内に参加者がいないとは彼女も思ってはない。
 寧ろ今の銃声は人をひきつける目的もあったのだが、
 まさか音を立てて存在を示すとは、予想はしていなかった。
 普通、銃声を聞けば警戒して音を立てないのが定石だからだ。
 わざと立てるのであれば、相手が頭が回らない例外を除けば、罠になる。

 一先ず、スライド式のドアを開けて部屋の様子を伺う。
 罠がありえる現状は、下手に突入はせず、軽く部屋を覗く。
 六人程人が寝かせられるベッドが並ぶ、無人の病室。
 此方には死角となる幾つかの機材や遮蔽物が存在しており、
 音の通りに窓は開いて、吹き込んだ風がカーテンを靡かせる。
 人の姿は見えないが、人がいたとされる形跡は残っていた。

「地図と・・・・・・あれは名簿でしょうか。それに―――帽子。」

 窓際のベッドの上に乱雑におかれたものを遠目に一瞥し、一考する。
 罠と言う可能性は否定できないが、本当に逃げた可能性も否定できない。
 事の発端は偶然とは言え、彼女が部屋のドアの鍵を壊したのが原因なのだから、
 どちらであろうと決してありえないと断言できるものではなかった。
 名簿はともかく地図まで捨てるのは、よほど銃声に焦ったか、回収している余裕がなかったか。

「素直に、病院の探索でも済ませておくのがよさそうですね。
 捨てて逃げる判断をしたなら、戻ってくることもないでしょうし。
 話を伺いたかったのですが、仕方のない事と割り切るしかないですね。」

 選んだ判断は―――突入しない。
 銃声を前に悲鳴も上げず、すぐに行動に移した観点を考えると、
 判断力は十分に優れている相手だと、理解するに難くない。
 先の音はわざと出して用心させて、時間稼ぎのためのフェイクか、
 今も待ち構えているのかもしれないが、どっちにしても待機する意味はない。
 この殺し合いには経験者が多いと言う推測は当たった実証も得られた。
 使い慣れないこの武器だけで戦うには不十分であり、相手の実力は未知数。
 国に侵入する際は、相棒が用意してた物のお陰で楽に行動を移せたが、
 あれはあくまで充実した装備が用意されているのであればの話。
 現状武器と言えるのは手に持つウェブリー=フォスベリーのみで、充実とは程遠い装備。
 相手も自分と同じ状況かもしれないが、それでも真っ向から挑む意味はない。
 念のため、裏から回り込んで病室がどうなってるかは確認はしておくつもりで、
 相手がこの場に残っていた場合に行動を伺う嘘の言葉も呟きつつ、その場を後にする。

 隣の部屋の窓から周囲を確認するが、人らしき姿はない。
 地雷と言った罠らしきものもなく、何事もなく窓から部屋へと入れた。
 死角になりやすい、シーツで隠れたベッドの下も確認するが、誰もいない。
 音を出したのは時間稼ぎの目的で、師匠は踊らされた側になったようだ。
 出会えなかったのは別に構わず、この院内に残っている可能性が高く、
 さほど気にすることはなく、ベッドの上に置かれていたものを一瞥する。
 置かれていたものは、殆ど同じものを所持し、何れも分厚くはないので、
 服の裏に隠して致命傷を回避する、と言う行為にも不向きで持っていく意味はなく。
 持っていくとすれば、せいぜい持ち主のものと思われる帽子ぐらいである。
 中が赤紫色で外は黒と言う、シンプルなデザインのシルクハット。
 防具にはなれないが、自分を知っている人物に出会ったときのための、
 申し訳程度の変装みたいなつもりとして師匠はそれを被っておいた。

40 ◆EPyDv9DKJs:2018/02/02(金) 11:22:25 ID:gavtVJKU0
 申し訳程度の変装みたいなつもりとして師匠はそれを被っておいた。





 参加者と出会うことがないまま、師匠は病院内を物色していく。
 一通りは揃った病院だけあって、食料や医療器具、包帯と言ったものはある。
 とは言え、支給品と言う限られたものを使うというシステムのせいかは不明だが、
 目に付く所においての食料については、さほど品揃えがいいとはいえなかった。
 水分補給としてペットボトルのお茶を飲みつつ、二階を歩く。
 イマイチ殺し合いをしているという風には見えない光景だが、
 いつでも撃てるように、常に銃を手に握っていところは、
 これが殺し合いなのだと認識させるには十分だろう。

(?)

 二階を歩いていると、院内に響くエンジン音。
 音だけで何の音かは判断つかないが、次に起きたことを見た瞬間理解できた。
 病院の玄関から、一台の乗り物に搭乗し、走る人の姿を見かける。
 先の音も合わせ、院内で助走をつけていたことが十分に伺える速度だ。
 非常に目立つことをしているので最初は主催者関係の者かと思うが、
 首には生殺与奪の権利の象徴とも言う首輪がある以上、参加者だ。

(モトラドがあったのであれば、戦うべきだったでしょうか。)

 病院を散策していくうちに、分かったことがあった。
 この病院の周辺、まともな遮蔽物が余り少なく、かなり狙撃されやすい。
 あの咄嗟の判断で逃げると言う判断をした相手が、それに気づかないはずがなく、
 院内に残って邂逅を望んだが、まさか相手にモトラドがあるとは思っていなかった。
 あると分かっていれば、同じようにこの場を脱出しようとも考えにいたり、
 そのためなら、多少のリスクは覚悟で奪うつもりではあったが、もう遅い。
 スナイパーライフルならまだしも、まだ一回しか試し撃ちしてない銃で、
 十分な速度で走る、その上この場が射程距離か怪しい銃で相手を撃つというのは、
 いくら銃器の技術において卓越した技量を持つ彼女でも無理だ。

 とは言え、別に落胆するわけではない。
 相手が逃げたのは、現状勝つことが出来ないか戦いを忌避するか、戦えないか。
 最後以外は手錬であれば、殺し合いの参加者を減らすか負傷させるには十分な存在だ。
 残る一つに至っては、そもそも放っておいても勝手に死ぬだろうから構うことはない。
 もっとも、三つ目の理由で逃げた先に、他の参加者にその支給品を奪われ場合の損失は、
 決して無視できるものではないが、師匠は過ぎたことを悔やむような人ではない。

(武器の調達もしたいところですが、どうしたものですか。)

 銃器が充実した、まさに彼女が篭城したあの国の時のような装備であれば、
 この場所は篭城するにはうってつけの、狙撃もしやすい待ちにおいては最適だ。
 武器がない現状ではそれは叶わず調達が必要だが、彼女もまた同じ立場。
 数十メートル、遮蔽物が存在しない病院の周辺を一度は走る必要がある。
 どうにかしたくもあるが、現状彼女の持ち物でスピードを出せたり、
 人に気づかれないで行動を起こすことが出来るものはなかった。

(病院ですから、救急車が動くといいのですが。)

 支給品なんてシステムがある以上、車を調達できるとは思えないが、
 一先ず移動手段の確保がてら、救急車を目当てに師匠は一階へと戻る。
 もしかしたら、警戒するほど周囲に人がいないことも考えつつ。



【1日目/昼/E―4 病院二階】
【師匠@キノの旅】
【状態】健康
【所持品】基本支給品、ランダム支給品0〜2(あるなら確認済み、武器or移動手段orステルスには使えない)、病院で確保可能な食料や包帯など(お茶のペットボトルは確定)、ウェブリー=フォスベリー・オートマチック・リボルバー@プリンセス・プリンシパル、アンジェの帽子@プリンセス・プリンシパル
【思考】
1:優勝による生還。だが、それ以上に有益なものがあれば別(自分から進んで行動はしない)
2:人数が多い現状、疲労や消耗のある戦いは避けたい
3:武器を充実させる
4:移動できる物がないかを確認する。なかったらリスク覚悟で移動
【備考】
※参戦時期は七話『歴史のある国』にて、
 相棒と共に時計塔に立て篭もってからです
※デイバックの仕様を理解してないので、
 病院で確保した食料や包帯などは少なめです










 『殺し合いの中で・a』

41 ◆EPyDv9DKJs:2018/02/02(金) 11:23:10 ID:gavtVJKU0
 彼女の行動は迅速だった。
 周囲に人がいないことを確認して、一つの病室へ鍵をかけて入る。
 明らかに一般人とは思えないが、当然ながら彼女は一般人ではない。
 彼女―――アンジェはスパイだ。それも、スパイ養成所では成績はトップの。
 アルビオン共和国の情報組織『コントロール』に属したスパイのエースなのだから、
 これぐらいの動きはできたとして、彼女の素性を知る者には驚かれることはない。

 複数のベッドが並ぶ、複数人を管理する病室。
 カーテンは閉じられており、外からは人の姿は確認しづらいのは、彼女にとって好都合だ。
 調べる以上、時間をかけるのだから出来るだけ無防備な姿は晒したくなかった。
 最初に目を通すのは地図。場所が、と言うより自分が何処に拉致されたかと言う意味で。

(どういうこと?)

 地図を広げて、アンジェは疑問に思った。
 彼女が通う、ロンドンの王国領域にある名門校、
 『クイーンズ・メイフェア校』がなぜか此処に存在するのだから当然だ。
 無論、ロンドンがこんな地図の首都ではないし、アラハビカなどの地域に至っては聞いたこともない。
 病院の周辺はルーマニアに類似した場所ではあるが、名前はトゥファリス。此方も聞いたことがなく。
 老人が参加者をからかうための悪戯とも思えたが、病院を移動する際に一瞥した窓には火山が見えた。
 地図上にも、病院の向かいに火山が存在していたことから、これが嘘とも思えない。
 それらを用意する手段などは抜きに、一先ずこの地図は本物だと仮定しておく。
 移動する場合に地図と照らし合わせて、本物かどうか見極めておけばいい。

(こっちは予想通りだけど・・・・・・全員いるようね。)

 次に目を通したのは名簿。
 自分だけがこの殺し合い来るとは思ってはいなかった。
 組織には『プリンシパル』、学校では『博物倶楽部』、
 そしてプリンセスの命名は『白鳩』と呼ばれたメンバーがいることぐらい。
 もっとも、全員揃って参加してるとは、流石に思わなかったが。

(いや、寧ろ全員ならこの状況はおかしいとも思えないかもしれない。)

 誰か一人でも欠けていれば疑問に思うものもあるが、
 五人全員で殺し合いに招かれていれば余り不思議には思わない。
 メンバー全員で、上司や他のコントロールの関係者がいないのであれば、
 コントロールが敵対する、ノルマンディー公の関係者が関わっているのかもしれない。
 自分達の正体が露呈し、任務に失敗して捕まったと言う、一つの可能性が生まれてくる。

(極限の状況下の中で判断力を失わせて、情報を聞き出す算段?
 と言うのは余りに飛躍しすぎている気がするけれど・・・・・・越したことはないわね。)

 今置かれた状況は、言うなれば情報を吐かせるための『拷問』の可能性があるが、
 実際のところ、手間が余りにもかかりすぎているので、実際のところ可能性は低い。
 最初から拷問なり何なりする方がコストが軽いし、他の参加者の存在も気になる。
 とは言え、いると想定して警戒するに越したことはないだろう。

(盗聴器も、自然な形であるでしょうし。)

 そう思いつつ、アンジェは近くの洗面所の鏡で首元を見た。
 十代中頃の女子らしからぬ、精悍な顔つきが写し出される。
 そして、自分含め参加者全員が身につけているであろう生死を握る首輪。
 老人は不利益をもたらす行動を取ろうとする参加者を爆破すると言った。
 つまり盗聴器などの、参加者の行動を把握できる機能を内包しているはずで、
 首では全ての発言を拾われるだろうから、発言も出来るだけ選びたいところだ。
 とは言え、余計な発言と言うのも、この場合どういうのが余計なのか判断しがたい。
 少なくとも、仕事の内容を無闇に話すことぐらいか。

(名簿に気になるのはあるけど、気にしないでおきましょう。
 少なくとも、方針は決まったから今のうちに行動をしないと......)

 名簿には名前と言うよりあだ名と言うべきものや、
 動物の名前から逸話と同名の名前など奇妙なものはあるが、
 出会ってない以上気にしたところで仕方のないもので、問題は方針。

42 ◆EPyDv9DKJs:2018/02/02(金) 11:27:23 ID:gavtVJKU0
 アンジェは自分だけであれば、優勝も視野に入れてはいた。
 (情報漏洩を防ぐため、あの老人も殺害対象に含めているものだが。)
 けれども、彼女の仲間がいる以上は乗るわけにはいかない。
 自分達に誰一人気づかせることなく拉致して殺し合いに招いたのと、
 もし地図が本当にその通りであったのならば、願望を叶える力はあるのだろう。
 しかし、信用に値する理由はあれども、相手がその約束を守るとも思えない。
 確かに願いはある。彼女を、プリンセスを王女にしたいと言う願いを。
 だが、それをこの屍の山で築いたもので叶えたいものではない。
 手を汚すのを忌避するわけではない。スパイの仕事をしてる以上今更な話だ。
 彼女が殺し合いに乗らないのは、それがプリンセスの行動を否定するからだ。
 あの革命の時に入れ替わってから、彼女は自分が別人だと気づかれないように
 あらゆる方面において、プリンセスと偽る為に血の滲む程の努力をしてきて今に至る。
 元々スリだった彼女が、貴族として振舞えるように、誰の手も借りれず一人で戦い続けてきた。
 誰よりも彼女を想うアンジェが、努力を全て否定するような願いを叶えはしない。

 名簿のついでにルールブックも軽く目を通していたが、
 目を通しているが、ホールで言われた内容とほぼ同様だ。
 真新しい情報は注視すればいいかもしれないが、

「!」

 今しがた、銃声が聞こえた。しかも、この扉に向けられて。
 鍵の部分が見事にひしゃげており、鍵としての機能は失われている。
 何を意味するかなど、分かりきっていたことだ。『狙われている』と。
 素手での戦闘は養成所で相応の腕は持っているが、限度はある。
 相手が武器を持ってる状況で、素手で戦うと言う選択肢は最初からない。
 アンジェは聞かれても構わないともいいたげに、窓を開ける。
 相手に気づかれている以上、今更音を隠す理由はなく。
 途中で帽子を落とすが、他と同様に回収している暇はなかった。





 スパイとして鍛えられただけに、
 足音を極力減らしつつ、速度を維持した走りで逃げる。

(まずいわ・・・・・・)

 すぐに病院から離れようとは思ったが、逃げる間、四方八方全てに身を隠せる遮蔽物がない。
 相手は銃を所持してる状況で、逃げる際に身を隠す場所がないのは危険だ。
 優秀なスパイと言えども銃弾を避けれる速度を持っているわけではない。
 一先ず、先ほどの病室からは離れた病室に鍵をかけて、状況を整理する。
 名簿、地図、帽子の三つを落としたが、それらについては殆ど問題ない。
 名簿も地図も既に頭に入っていて、帽子に何か仕込んでもない。

(あの老人が言っていた言葉・・・・・・予想していたけど厄介ね。)

 十二大戦、コロシアム、聖杯大戦。
 いずれも聞いた事はないが、類似したものを喩えとして上げる以上、
 これらのいずれかを経験した者は、相応の能力を持っていると言うことだ。
 最悪、白兵戦に長けたちせと対等かそれ以上の能力を持った参加者もありうる。
 先の参加者も、鍵を破壊するまでその存在に気づかなかったのだから。
 いくら優秀なスパイといえども、そういった連中が何人もいては勝ち目は薄い。
 ドロシーとちせは、戦いの方面においては十分に応戦できるかもしれないが、
 プリンセスとベアトリスの場合は、そういった面は厳しくもある。
 だからこそ、任務の際は緊急時に備えて、いつもちせに護衛させていた。
 主に二人を優先して探したいが、現状の脱出は危険だ。
 それと、確認したいことはもう一つある。

(あの老人は、救済処置があるといっていた。となると・・・・・・)

 デイバックに武器がある。
 Cボールも銃も没収された現状、
 頼れるのはそれらしかないように仕向けられている。
 少々主催者の思惑通りに動くことになるが、背に腹は変えられない。
 一先ず武器を確保しようと、アンジェはデイバックの中を覗く。
 コンパスや食料以外に、ルールブックには記載されてない支給品があったが、
 それはデイバックの中に入ってるものでは、トップクラスに異質な存在だ。
 いや、異質すぎる。そんなものが何故このデイバックに入っているのか。

(―――ハンドル?)

 中にあったのは、ハンドル。
 ハンドルと言っても車のとは違う。バイクの方だ。
 (因みにバイクの起源は十九世紀なので、彼女の時代の十九世紀末にも存在している。)
 こんなものが何故デイバックに入っているのか不思議に思い、気になって引っ張り出すが―――

「あー、真っ暗からおさらば。遅いよキノ・・・・・・って、誰?」

 そんな気の抜けた声と共に、『ソレ』は喋った。





「そう、ありがとうエルメス。」

43 ◆EPyDv9DKJs:2018/02/02(金) 11:28:42 ID:gavtVJKU0
 病室の窓から出た外で、アンジェはそのバイクと類似した存在、
 モトラドと言う喋る二輪の乗り物『エルメス』を病院の壁に立てかけ、
 自身は病室の中にいるまま、情報の共有をしていた。

 最初、あの出会いの後アンジュはすぐにエルメスをしまった。
 見なかったことにしようとか、そういうわけではない。
 単純にこれを出すならば、外の方が適切だと判断しただけだ。
 外へ出て引っ張り出せば、明らかにデイバックに入りきらないであろう、
 十分な大きさと重量の乗り物だったのは、流石にアンジェも表情には出ないが関心を抱く。
 質量も、何もかも無視した仕組みは奇妙とは思うが、彼女の使うCボールも似たようなものだ。
 似たようなものなのかもしれないと言うことで、エルメスが喋れる疑問と共に保留にしておく。
 今必要なのは、エルメスの持っている情報である。

 エルメスは何故此処にいるのか分かっておらず、
 アンジェが説明すると『僕も大変な目にあってるんだ』と、
 随分と楽観視しているかのようにも感じられるが、真意は不明だ。
 エルメスもまた、彼女と似た経緯で拉致されたようであり、
 主催者に関する情報となりうるものは特になかった。

 説明を終えると、アンジェはキノについて尋ねた。
 先の言及から、参加者のキノとつながりがあるのは明白だ。
 キノ以外にも参加者の情報が得られたが、もう一つ重要な情報もある。
 この殺し合い、参加者に縁のある支給品を用意している可能性が高いこと。
 となれば、彼女が愛用する銃や、Cボールもあるのではないか。
 可能ならば確保はしたいが、何れも殺し合いにおいては有力な武器になりうるもの。
 確実に参加者との交渉が必要不可欠であり、色々難しくもある。
 (自分達にとって害ある存在が所持してれば、交渉もせず殺して奪い取るが。)
 情報と移動手段、此処に武器があれば満足ではあったが、残念ながら武器はなかった。
 モトラドの予備燃料のお陰で、探索の移動には困らないかもしれないが。

「エルメス、私に協力してくれる?」

 情報はひと段落ついたところで、アンジェは問う。
 これからの目的には、エルメスのような移動手段は必要不可欠。
 特に、銃の危険に晒されやすい病院を比較的安全に抜け出しやすく、
 なおかつ迅速に人を探すなら頼もしい部類になるのは間違いない。
 エルメスが意志なき存在であれば問答無用で行動していたのだが、
 意志があるとなれば、初対面である以上意見を聞かなければならない。
 肝心な時に余計なことをされるのは、任務上では余りに危険だ。

「いいも何も、モトラドは誰かがいないと動けないからね。
 拒否権もないし、キノもいないことだから、特に気にしないよ。
 でも、どうせだしアンジェが何に協力してほしいかが知りたいな。
 あ、話しちゃダメなのは、話さないから安心して。モトラドは約束を守るから。」

 キノと出会ってみないことには、
 エルメスの言うことが信用できるかは怪しい。
 とは言え、即席で作る嘘とも思えぬぐらいに彼の情報は細密だった。
 妥協と言う思いはあると言えばあるが、信用できる相手であり彼女は方針を伝える。

「私がこの殺し合いでしたいことは―――」










「私はプリンセスを王女にするために、彼女を優勝させたいの。
 だから殺し合いに乗りたいのだけど、エルメスはそれでもいいかしら。」










『殺し合いの打破をしたいのだけど、協力してくれる?
 勿論、このことを示唆する言葉は口にしないで欲しいわ。
 このメモが見えているなら、最初にキノって人への言及をして欲しい。』

 と言いつつ、彼のライトを目と思って、そのメモを見せる。
 自分が殺し合いに乗っていると認識すれば、主催からは盛り上げてくれる存在。
 少なくとも今すぐ爆破される可能性や、殺し合いが停滞した際の対策を仕掛けては来ないはず。
 問題は、エルメスにそれが伝わっているのかと言う不安だが。

「つまり、キノも殺すんだね。なるほど、それは無茶な道のりだ。
 移動手段もなしで殺し合いに挑むなら、モトラドの手も借りたくもなるね。」

 メモは見えたらしく、メモの通りの返答をするエルメス。
 それでいて、彼女の嘘の言葉とかみ合うように話をあわせている。

「止めないのね。」

 不自然に思われないように、適当な相槌を打つ。

44 ◆EPyDv9DKJs:2018/02/02(金) 11:30:05 ID:gavtVJKU0
「止めようがないからね。僕は喋れるだけで、
 君が僕を壊そうとしたら、抵抗は喋ることしかできないし。
 確かにキノは、長いこと付き合ってるパートナーなのは事実だけどね。」

「随分と薄情ね。」

 彼女もまた、情に流されず任務を遂行する。
 人のことは言えない仕事をしているのだが、
 エルメスにはそのことは伝えてはいないので、
 特にそれを言及されることはない。

「モトラドと人間の持つ価値観が同じとは限らない。
 君だって、誰しも同じ価値観を持っているって思わないでしょ?」

「そうね。」

 真意かどうかは全く分からない。
 表情の類がなく、声も普段通りの声とも言うべきで、
 エルメスがキノに何を抱いているのかを伺うことはできない。

「と言っても、一つだけ条件と言うか忠告。
 見ての通り、僕は運転手がいないと動けないんだ。
 だから、アンジェが危険を冒すなら忠告はするよ。
 それに納得できないなら、僕を使うのは余り勧められないよ。」

 走るのが、モトラドにおける『生きる』と言うこと。
 即ち、運転手がいなくなった瞬間、エルメスは死ぬと同義だ。
 もしもアンジェが死んで、殺した相手が移動手段を必要とせず放置したのなら。
 エルメスは自力で動けず、命を絶つことも叶わず、運転手を待ち続けなければならない。
 死よりも惨いということは、人であるアンジェにも理解できることだ。

「問題ないわ。と言っても、相手によるかもしれないけれど。」

 十兵衛のような多勢でも犠牲が出るような強者は必ずいるはず。
 中にはリスク承知で殺さなければならない相手もいるだろう。

「ゲートオブゲートだね。分かった、協力するよ。」

「・・・・・・ケースバイケース、かしら?」

「そうそれ。」





 話を終えると、アンジェは病院の玄関へと戻ってくる。
 モトラドの操作は当然初めてで、曲がる場合の基本すら知るはずがない。
 だから最初は病院をとりあえず出るため、真っ直ぐな道が必要になる。
 この病院には狙撃されにくい、もとい陽を避けるための道存在せず、
 真っ直ぐ行く場合は、スピードが出ない場面が必ず訪れてしまう。
 一気にスピードを出して病院を出たいが故に、スタート地点は自動ドアの手前からだ。
 病院の玄関からスタートと言う、本来ならば非常識な行動はそんな理由がある。
 音は響くので多少の危険は伴うが、何処にいるか分からない銃で狙われるよりかはましで、
 付属品であるゴーグルをつけて、エルメスの指導の下、無事に病院から飛び出すように走り出す。
 十九世紀のバイクとモトラドでは随分と仕様は違うものの、さほど時間はかからなかった。
 とは言え操作は覚えたばかり、スピードは撃たれないようにかなりの速度。
 彼女といえども、まだ集中力を要する状態だ。

「そうだ、アンジェ。どうせだから君の話でも聞いていい?」

 目的地へ向かう間、止まるまでできることは殆どない。
 出来るとすれば、せいぜい会話ぐらいなものだ。

「もう少し運転に慣れてからでいいかしら。
 まだ集中していないと運転が出来ないし、
 それで事故になったら、貴方も痛いでしょ?」

「そうだね。じゃあ大丈夫になったら教えて。」

「ええ。慣れたら黒蜥蜴星の話でもしようかしら。」

「お、何だか面白そうだ。」



 バトルロワイアル。殺し合いによって、屍を築く舞台。
 この殺し合いの中、一台のモトラドに乗る、一人の少女の姿があった。
 運転手は十代中頃で、黒いリボンで結んだ銀髪に、精悍な顔を持つ。
 機械であるモトラドに対し、少々ミスマッチな黒いゴシックな服装だ。
 彼女は病院から逃げるようにスピードを出して、南東へと向かう。
 目指すは仲間が集う可能性のある、クイーンズ・メイフェア校へ。


 もしも。
 もしも、プリンセスが誰かに討たれたのならば。
 果たして彼女は同じ考えでいられるのだろうか。
 願いを百にしても良いと言う、老人の甘言に縋るのか。
 エルメスの行く道に、答えはまだ出てこない。

45 ◆EPyDv9DKJs:2018/02/02(金) 11:34:49 ID:gavtVJKU0
【1日目/昼/D-4 病院周辺】
【アンジェ@プリンセス・プリンシパル】
【状態】健康、エルメス運転中(結構なスピード)、ゴーグル(エルメス付属)、任務の際の格好
【所持品】基本支給品(名簿、地図はない)、エルメス@キノの旅、モトラドの燃料のタンクと給油用ポンプ×1@キノの旅、ランダム支給品0〜1(ある場合確認済み、武器ではない)
【思考】
1:仲間と合流し、この殺し合いの打破
2:ある程度、殺し合いに乗ってる風を装う(スタンスは簡潔に言えばステルス)
3:聖杯、十二大戦、コロシアムを知る参加者に警戒
4:エルメスの言う人物を探す
5:クイーンズ・メイフェア校へ向かう
6:武器の確保(Cボールなど使い慣れたものを優先したい)
【備考】
※参戦時期は少なくともcace7、メンバーが揃った後
 (具体的なのは後続にお任せしますが、任務中の格好の時期)
※この殺し合いにノルマンディー公が関わってる可能性も視野に入れてます
 (可能性は無に等しいとは思うも、いた時のことを考えてる程度)
※エルメスから、一部参加者の情報を大まかに把握しました
 (エルメスの参戦時期次第で変動。キノと師匠(但し老人)は確定)
※現在病院から南東へ南下しています
※エルメスの運転に不慣れですが、彼女の才能なら時間はかからないでしょう
※地図、名簿は頭に入ってます。ルールブックは細かい所は読めていません

『エルメス@キノの旅』
『状態』無傷、燃料100%、黒蜥蜴星に興味
『思考』
1:アンジェと共に行動する
2:キノと会った時、どっちが運転するんだろう?
3:黒蜥蜴星? 聞いたことないから楽しみだ
『備考』
※エルメスの参戦時期は後続の方にお任せします
※モトラドは約束を守るらしいので、彼女の筆談の内容を口にはしません
※エルメスの聴覚など人と違った感覚についての制限は後続にお任せします
※アンジェの素性については余り語られていません





※病院の一室に鍵穴がひしゃげた病室、
 窓が開いていて、部屋に鍵がかかった病室があります
 また、院内の売店の食料は品揃えが良くありません
 (自動販売機など他のものについては後続にお任せします)
 NPCの存在はこの病院にはいません
 (通院するNPCと言う理由でトゥファリス市街区から来るかも)

支給品情報
エルメス@キノの旅
二輪で空を飛ばない乗り物を指す、バイクのような乗り物
(キノの旅におけるバイクは空を飛べるもの)
キノが国を出た時からずっとキノと共に旅を続けている
原理不明の視覚、聴覚、痛覚などを持つ、意志を持った機械
機械ゆえに博識だが諺などを(わざとだが)間違える
また、モトラドと言う人とは違う存在ゆえ人と価値観は違い、
キノ以上に結構ドライな部分を持っていることも多い
キノが使っていたゴーグルがおまけで付属

モトラドの燃料@キノの旅
車とかの燃料とは別と思われるが、原作からして詳細が曖昧なので深く追及はしない
エルメスの燃料の予備。ポリタンクに入っているが、一回分の給油しか出来ない量
給油用のポンプもおまけで付属。電動式なのでスイッチさえ入れれば本人不在でも給油可能

ウェブリー=フォスベリー・オートマチック・リボルバー@プリンセス・プリンシパル
十八世紀に誕生した、リボルバーでありながらコッキングが特殊な機構をした、マニア向けの銃
リアルでも軍人も使った経歴はあるが、環境に影響されたりと色々不便な部分も多く、実績は余りない
アンジェは任務の際にはこれを用いている

46 ◆EPyDv9DKJs:2018/02/02(金) 11:35:46 ID:gavtVJKU0
以上で『殺し合いの中でb・a』投下終了です
エルメスの状態表は他と紛らわしくないように『』にしてます

所謂意志持ち支給品なので、問題ありましたらお願いします

47 ◆2lsK9hNTNE:2018/02/02(金) 22:49:32 ID:glFvZs3E0
投下乙です
師匠とアンジェ、お互い顔は合わせていないのに相手を警戒して動くのが緊張感があって凄く面白かったです
結果だけ見ればどちらも警戒し過ぎた感がありますがあくまで結果論。どちらにも冷静さや頭の良さが感じられました
アンジェは同じような思考をしているときでもベアトリスに比べてスタイリッシュな雰囲気で格好いい

エルメスは自律行動できるわけではないし、支給しても問題ないと私は思います
一人と1台の会話もらしくて好きです。とくに黒蜥蜴星のところが

48名無しさん:2018/02/14(水) 21:54:27 ID:azjr4b9.0
投下おつです

>> 少年少女と兎

自分のなかでは変な魔法使うギャグキャラなイメージが強かったレイドがまさかの善戦に驚き
憂城の狂人でありながら戦闘を周到にこなすところなど、らしさがよく出ていたと思います
ネクロマンサー能力を知ることなくベアトリスが離れてしまったので、まだまだお友達作りは続きそう

>>殺し合いの中でb・a

登場話から筆談で主催を欺こうとするとはさすがスパイですね
ステルス対主催の立ち回りに期待です
師匠も冷静に淡々と戦略を構築していて、タダモノではない印象を受けました
積極的には動かない方針みたいですが、はやく戦闘してるところを見てみたい


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板