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オリロワアース

1名無しさん:2015/05/06(水) 16:45:35 ID:pYFZnHTQ0
ここは、パロロワテスト板にてキャラメイクが行われた、
様々な世界(アース)から集められたオリジナルキャラクターによるバトルロワイアル企画です。
キャラの死亡、流血等人によっては嫌悪を抱かれる内容を含みます。閲覧の際はご注意ください。

まとめwiki
ttp://www9.atwiki.jp/origin2015/

したらば
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/17154/

前スレ(企画スレ)
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/13744/1428238404/

・参加者
参加者はキャラメイクされた150名近い候補キャラクターの中から
書き手枠によって選ばれた50名となります。

また、候補キャラクターの詳細については以下のページでご確認ください。

オリロワアースwiki-キャラクタープロファイリング
ttp://www9.atwiki.jp/origin2015/pages/12.html

企画スレよりキャラメイク部分抜粋
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/13744/1428238404/109-294



地図
ttp://www9.atwiki.jp/origin2015/pages/67.html

201安土シンデレラ城現る ◆5Nom8feq1g:2015/05/23(土) 21:23:57 ID:US4FZGcU0
   

 そこにあったのは獣の肉塊だった。

 破壊されたコンクリートの中央に、黄色と黒の毛皮が付いた肉塊が打ち捨てられていた。
 もともとその肉塊に付いていたらしき首は、肉塊のすぐそばに転がっている。
 虎――にしては巨大だが――虎型の獣であっただろうそれは、
 徳川家康とムッソリーニの二人が現場に着いたときにはすでに動かぬ肉塊と化していた。

「すごい音がしたから参じてみたが、想像以上じゃのう……」
「おいおい、これも参加者か?」
「首輪は無い……が、首を取られている以上なんともいえんの。
 まあ、これを“この有様”に出来るだけの力を持った何かが近辺にいる、というのが今分かる情報じゃな……」

 当たりに散らばるガレキを見ては、徳川家康が目を細める。

「とてつもない有様じゃ」

 巨大虎は顎を砕かれていた。おそらくは戦闘がここであり、
 この巨大虎は何者かに鈍器か何かで“殴られ”、道からこの場所まで飛ばされて家を破壊したのだ。
 家康の常識にはそのような力を出せる兵器などない。
 奇特な発明力を持つ平賀源内であっても、この大きさの獣を殴り飛ばす馬力を持つカラクリを作れるかは怪しい。
 在りうるとすれば、アースE(エド)の闇にはびこると言われる妖魔の類であろうが――妖気はこの場には感じられぬ。

「おそらくは、別の“ちいむ”じゃろう。……危険な奴らも居たものじゃ」

 ムッソリーニと共にパスタを食すため南にある学校を目指す途中で、家康は彼との情報交換を一通り終えた。
 分かったのは、どうやらムッソリーニと家康はまったく違う時代、そしておそらく違う世界から来たということである。
 第二次大戦で日本側が勝利した世界と、そもそも第二次大戦以前に江戸が終わらなかった世界。
 戦国時代に天下統一を果たした武将とイタリア共和国首相。
 二人が歩んできた歴史や常識を照らし合わせて、噛みあわぬ点が多かったのが動かぬ証拠。

 とすれば不可思議なことに慣れている家康には、チーム分けの条件、そこから得られる推測も可能だった。
 別の常識、別の世界ごとにされたチーム分け。
 さらには――別の世界には家康の知り得ぬ力を持った者達がいるということ。
 一度死んで少女として蘇るという奇なる歴史を辿ってきた彼女としては、受け入れられないわけではない概念だ。

「むっそりーによ。ここは危険じゃし、一度……なにをしとる?」

 ともかくこの場は危険。一刻も早く動くべきだ。
 と思考し、隣にいるムッソリーニに声をかけようとした家康は、彼が隣から消えていることに気付く。
 見ればムッソリーニは虎のそばに座って何かをしていた。
 近寄ると、支給されたらしい大ぶりの鉈を使って、彼は肉塊から肉を斬り分けようとしている所だった。

「お、お主……まさか」
「うむ、イエヤスよ。ちょうどよかったではないか。パスタの具が見つかったのだからな!」
「食べるつもりか! 出自も分からぬ獣じゃぞ……衛生的にもどうだか」
「まだほんのり暖かい。新鮮な肉であることは確かだし、火を通せば食べられんことはないだろう。
 食糧の調達は戦時にはとても重要! ここは尊い命に感謝して頂こうじゃないか」

 家康は見開いた目をぱちくりさせた。
 その間にムッソリーニは慣れた調子で虎肉の脂の乗った部分をブロック状に切り取った。
 破壊された家の中からタオルのような布を引っ張ってくると、肉を包んで縛る。

「完了!」

 無駄のない手際だった。しかもしっかり終わった後に、死骸に向かってムッソリーニは敬礼さえした。
 食事への感謝を怠らぬ真面目な軍人の顔に、家康は呆れ、ため息を吐く。

202安土シンデレラ城現る ◆5Nom8feq1g:2015/05/23(土) 21:26:37 ID:US4FZGcU0
 
「はあ……命に感謝と言われては、反論のしようもないのう。
 分かった、その肉はワシも頂こう。じゃが代わりに一つ提案がある」
「ん? なんだ?」
「むっそりーによ。お主には悪いが、……学校へ行くのはよそう」
「……なぁ〜〜〜〜にぃ〜〜〜〜!?!?」

 家康の言葉にムッソリーニは急激に真面目顔を崩して変顔状態になった。
 
「何を言っている何を言っている何を言っているイエヤス・ス・ス・ス!!!
 俺たちはパスタ! パスタを! まだ! 食べてないのに学校に行くの止めないだろ普通!」
「落ちつけい。パスタを早く食べたい気持ちは分かるが、状況を考えよ。
 その獣の身体もまだ温かいということは、“それをやった者”は近くにまだおるということ。
 今はおらんが、こちらに戻ってこないとも限らんし。学校へ行く途中で見つかる可能性もある」
「……」
「そうなったとき、この地形は非常にやりづらいとは思わんか。
 建物に囲まれて、逃げる方向は限定されておる。狙撃もされほうだいじゃ。
 メリットとしては、建物に隠れてやりすごせる可能性じゃが――この下手人が建物を壊せる以上意味がない」

 これならばまだ最初に居た草原のほうが視界が効くだけマシじゃ、と家康は述べた。

「む……むむむむむ……地の利まで持ちだされては、俺としても何も言えんな。
 軍人でもあるが、どっちかと言えば俺は政治屋だしな……ここはそちらに従おう。
 だが草原に戻るとしてパスタはどうする! パスタは茹でなければ食べれんのだぞ!!」
「誰も草原に戻るとは言っておらんじゃろ。あそこじゃよ、あそこ」

 憤慨するムッソリーニをなだめつつ、家康は空を指差す。
 そこには、地図で言えば中央に鎮座している、「城」と呼ばれる巨大な施設の頂上付近が見えていた。
 目立つ施設である。
 なにせその「城」は……言及するのがためらわれるほど、いびつなかたちをしていた。

「目立ちすぎるがゆえに。初手から乗り込むのは控えようかとも思ったがの。
 斯様に恐るべき力を持った個がおるならば、取るべき策は“有利を取って迎え撃つ”じゃ。
 そうなればむしろ――早めに城を抑えて、敵に対し構えておくべきではないかのう?」
「あそこにも厨房はあるのか?」
「あるに決まっておろう。少なくとも“半分”は、ワシの知っておる城じゃからな。
 カテイカ・シツとやらと違い、食材はあるかどうか判然とせんが、蔵があればもうけものじゃ」
「なんだそうなのか! ならば一つも問題はない!」

 眉間にしわを寄せて口をとがらせていたムッソリーニは、
 パスタを食べられる可能性が潰えていないと分かったとたんにけろりと表情をにこやかに変えた。

「パスタ! パスタパスタパ〜スタをあの城のてっぺんで食べると言うのも乙かもしれん!
 いいぞイエヤス、目標変更だ! 城へ往こうではないか!!!! ふふふ、るんるん♪」
「……お、おう……」

 るんるん言い始めたムッソリーニに家康は乾いた笑いで応えた。
 ……まったく、此度の同行者にはいろんな顔があるものだ。

 虎から肉を頂くときの真面目な軍人の表情。
 パスタが食べられぬと知った時のパスタ大好きおじさんの表情。
 さらに、パスタが食べられると分かった瞬間の子供じみた愛嬌のある表情。

 ここまでころころと表情を替えられては、面白すぎて退屈しない。
 いい同行者を手に入れたものだと家康は思う。

203安土シンデレラ城現る ◆5Nom8feq1g:2015/05/23(土) 21:28:56 ID:US4FZGcU0
 
(ま、それだけではないがの)

 また、家康はしかりと同行者の分析もしていた。

(往々にして、このような色んな顔を持つものほど、実戦では“強い”ものじゃ。
 先ほど一瞬見せた軍人とやらの顔、あれは何事にも一切妥協せぬ男の顔だった。
 むっそりーに殿は一国の主であったとも聞く。きっと、パスタにも為政にも、妥協せず取り組んだのじゃろう)

 ムッソリーニがパスタ大好きおじさんの裏に秘める、為政者としての“顔”とその強さ。
 パスタに左右される精神性に危うい所を感じもするが……あるいは。
 この同行者となら、あるいは主催の打倒も可能かもしれぬと、家康はそう思うのだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 かくして二人は行路を替える。向かう先は中央の「城」。

 それは西から見れば、家康の知る日本式の城に近い姿をしていた。

 だが東から見れば、ファンタジー世界にあるような古城に近い姿をしている。

 世界の中央にそびえたつそれは、見れば一目でこの世界がただの世界ではないと分かる施設。

 その名を「安土シンデレラ城」。

 まるで雌雄を合わせてしまったかのように、

 ちょうど半分が安土城で、もう半分がシンデレラ城になっている不思議な城である。



【C-6/住宅街/1日目/黎明】

【徳川家康@アースE(エド)】
[状態]:健康
[服装]:ふりふりの着物、頭にリボン
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム0〜2
[思考]
基本:この下らぬ遊戯を終わらせる
1:むっそりーにと共に安土シンデレラ城へ向かってぱすたや甘味を食す
2:むっそりーに殿には“妥協せぬ強さ”があるのう……

【ベニート・ムッソリーニ@アースA(アクシス)】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:大きな鉈@アースEZ
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム1〜2、パスタの麺、怪獣虎の肉
[思考]
基本:パスタを侮辱したクソビッチを処刑する
1:イエヤスと共に安土シンデレラ城へ向かってパスタを調理する

※マップ中央の「城」は安土シンデレラ城でした。
 西から見ると安土城、東から見るとシンデレラ城に見えます。


【大きな鉈@アースEZ】
ゾンビものとかでよく恐い敵が持ってる系のやつ。血錆びに年季を感じる。

204 ◆5Nom8feq1g:2015/05/23(土) 21:31:47 ID:US4FZGcU0
投下終了です。
城って和風と西洋風どっちかな〜と悩んだ結果、どっちもあることにしてみました。
何かありましたらご意見お願いします

205名無しさん:2015/05/24(日) 08:21:58 ID:nXyvuV020
投下乙です
相変わらずパスタ大好きおじさん面白すぎるww
家康は家康で安定してるなあ、頼もしい

206名無しさん:2015/05/24(日) 15:31:31 ID:0QQGFMNc0
乙です!
そうだったおじさん首相だった(震え声)
まあ一党独裁形態作ったぐらいの人だからすごいのは確かだわな
そして家康冷静だ。天下人さすが。

この二人楽しみだー

207 ◆hRdS/lFjKw:2015/05/24(日) 20:50:29 ID:ZF4EErmw0
投下します。

208変身VS変心 ◆hRdS/lFjKw:2015/05/24(日) 20:50:52 ID:ZF4EErmw0
―人間としての君は既に死んだ。今の君は人の皮を被ったただの兵器だ。兵器を強くすることの何が悪い?

―機械的な改造だけではない。ナノマシン投与に強化細胞の移植、動物の遺伝子の組み込み、挙句の果てに得体のしれない霊石の埋め込み…もはや改造技術に対する耐久実験だ。一人の人間にここまでの改造を行う必要がどこにあったというのだ…。
筋肉や臓器は愚か、脳細胞の一部までが変化してしまっている。…残念だが、君の身体の中に人間と呼べる部分はもう…。

―すっげ…あれが改造人間って奴の威力なのかよ…!

―あれはバケモノだ。狂ってるから人間ではなく同じバケモノを襲う。

―三度もメス入れられたんでしょ?案外一回ぐらい脳改造成功してるかもよ?え?三度どころじゃない?

―宇宙人だ!僕以外にも宇宙人はいたんだ!

―我々の組織に入って一度頭を割るだけで良い。三つの組織に身体を弄られた貴様がそれだけで悩み苦しみから解放されるんだ。随分得な話ではないかな?







僕は…







僕は人間だ…!






―姿形は中々恰好いいじゃない。せっかくだからヒーローっぽい名前の一つ二つあった方が通りがいいんじゃない?
そうね、空を飛ぶ時の姿は――――――――――――――――――――――



209変身VS変心 ◆hRdS/lFjKw:2015/05/24(日) 20:51:15 ID:ZF4EErmw0
H-3、泉の畔にて。
平常時であれば静かなる憩いの場になったであろうこの場所に、似つかわしくない爆音が轟いていた。

「死ぃねやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」

逆立った髪にボロボロの学生服の出立で叫んだ男の名は道神朱雀。彼は何かに向かって手にしたものを投げつけていた。

「オイオイ、火の玉を投げつけてくる挨拶なんてMr.イヴィルの改造人間にだってされた事無いぞ!」

投げつけられている側の鳥を模したが如き姿の赤い怪人は巴竜人。またの名を、空の改造人間スカイザルバーという。
彼はこの場所に送られてすぐに朱雀の攻撃を受け、咄嗟に変身してこれを回避していた。

「はっはっは!避けるか!テレビに出てる奴は違うようだな!ただのコスプレ野郎ならガッカリしてたところだぜ!」
「テレビ?俺も随分と有名になったもん…だな!」

いつの間にか自分の戦う姿は報道陣のカメラに収められていたのか。だとしたら我が国の報道機関も馬鹿にしたものじゃないな。
そんなどうでもいい事を頭から振り払い、スカイザルバーは飛来する火球の回避に専念する。

(コイツ…改造人間には見えないな。だとすればミュータントの類か?)

眼前の男が放つ火球は掌から直接発生していた。無論普通の人間にそんな事が出来ようはずがない。
だが、彼の元いた世界アースHではそうした事が可能な人間はそこまで珍しいわけではない。
超能力を用いて悪事を働くヴィランも、同じく超能力を駆使して悪事を防ぐヒーロー達も一定数存在するのだ。
この男もそうした類の人種なのだろうと竜人は判断した。

「凄い力だな。どうせならターゲットは俺達にこんな馬鹿げた事をさせようとする主催者に変えてくれよ。鬱憤晴らしのつもりなら俺にやるよりもそっちの方が気が晴れるぜ?」
「馬鹿げてる?それは俺には理解出来ん考え方だなぁ。この有り余る力を振るえる戦場こそが我が居場所。バトルロワイアル大いに結構!!貴様が記念すべき第一ターゲットだ!!!」
「殺し合いに乗る気か…だったら、こっちだって容赦は出来ないぞ!」
「望む所だヒーローさんよぉ!」

この男に説得は無意味か。さして期待はしていなかったが。だが、殺し合いに乗るつもりだと言うのならヒーローとしては見逃すわけにはいかない。
そう判断したザルバーは大地を蹴って跳躍。連続で飛んでくる火球を飛び越えると朱雀に膝を叩き込んだ。

「この!ちぇりゃぁ!」

が、朱雀もこれを蹴りで受け、顔面目掛け拳を見舞う。
腕でガードしたザルバーだったが、朱雀は待ってましたとばかりにほくそ笑んだ。

「焼き鳥になりやがれ!でぇりゃあぁぁあぁぁ!!!」
「何!?」

拳から直接炎が撃ちこまれ、ザルバーの身体には炎が燃え移った。
更に追い打ちをかけるように朱雀は両の腕から連続で火球を見舞う。
数刻の後、硝煙が晴れた後には何も残ってはいなかった。

「ざまぁねぇや!跡形も無く燃え尽きやがった!灰すら残ってねえ!」
「そりゃあ凄い。廃品回収の仕事に就いたら大歓迎されるんじゃないか?」
「何だと!?うおっ!?」

声の主に振り向く前に、背後からの強い衝撃で朱雀は弾き飛ばされた。
立ち上って見てみれば、そこにいたのは獅子を模したイエローカラーの怪人。

210変身VS変心 ◆hRdS/lFjKw:2015/05/24(日) 20:51:36 ID:ZF4EErmw0
「もう一体いたのか!?」
「テレビ見てたんなら分からない?俺だよ、俺」

その姿こそ改造人間・巴竜人のもう一つの姿、陸の戦闘形態・ガイアライナーと呼ばれるものだった。

「マシーンいらずのガイアのスピードを見せてやるよ!」

再度飛来した火球が到達するより早く、黄色の怪人は朱雀の視界から消えた。
背後からの攻撃を予測し後方へ振り返る彼だったが―。

「がわぁ!?」
「読みは正確だ。けど、速さならこちらに分があるみたいだな」

ライナーの拳は迎撃の炎よりも早かった。竜人の変身形態の中で最もスピードに長けたのがこのガイアライナーなのだ。

「この…どこ行っtべぇあ!?チョロチョロと逃げ回りやがっtなわぁ!クッソ…当たれぇぇーっ!!!」

再び姿を消し、攻撃。反撃が来る前に移動、攻撃。この繰り返しのヒット&アウェイ戦法で朱雀の体力は削られていった。
だが、朱雀とて黙ってやられているわけではない。どれだけ速く動き回ろうとも移動から攻撃に転じるまでにはタイムラグが生じる。

(その一瞬さえ付ければ奴の動きは止められる。そして俺は奴の動きを見切りつつある!)

「ライナァァァァァッ!パァンチッ!!」
「見切ったぁっ!!」

果たしてその言葉通り、振り下ろされたライナーの腕は朱雀の両手に捕まれていた。

(さっきはご自慢のスピードで炎もかき消したようだが今度こそ逃さん!消し炭になりやがれ!)

そのまま両手から炎を流し込み、目の前の怪人は火に包まれる。両の手で掴んでいる以上もう奴に逃げ場はない。
…その筈だった。

「のわああああ!?」

ガイアライナーの右腕内部は杭打ち機のような構造になっており、生体火薬を内部爆発させる事で肘上をスライドさせ敵に叩き付ける事が出来る。
今しがた炸裂させたパンチはそうした仕組みで敵のガードを破る、ライナーの内部武装の一つであった。

「さっきの仕返しだ。割と熱かったんだぞ」

伸びた右腕を左で戻しながら皮肉を言うライナーに対し、朱雀の方は怒り心頭であった。

「クソ…………ッ!?血?血を吐いたのか…?吐かされたのか!?この俺がか!!?」

口元の血を拭いながら朱雀は肩を震わせる。
それは内蔵を傷つけられたなどという大層なものではなく、口元を切った為に吐き出されたレベルの物であったが、それでも傲慢な性格の彼の自尊心を傷つけるには充分すぎる物であった。



「この………ビックリドッキリ野郎がァァァァァァァッ!!!!!」




沸き立つ怒りがそのまま言葉となって口から飛び出したように朱雀は叫んだ。

211変身VS変心 ◆hRdS/lFjKw:2015/05/24(日) 20:52:29 ID:ZF4EErmw0
「いくらなんでもその呼び方は勘弁願いたいね…それに、自分から仕掛けた喧嘩でキレてちゃ世話無いぜ?」
「一々減らず口を叩かんと気が済まんのか!どこまでもどこまでもこの俺を馬鹿にしくさる野郎だぜ!」
「あんたみたいなの相手にするの、そうでもしてなきゃ気が滅入るんだ。察してくれよ」
「お互い様だな。俺は貴様の相手をしている内に更に更に殺意が沸いてきたぞ!…だが、一つだけ良い事があった。貴様にも教えてやろう。」

突然落ち着いた調子で話し始めた朱雀に対して竜人はなにか嫌な予感がした。そして、その予感は的中する事になる。

「俺の炎の源は怒りの感情だ!!!!貴様の今までの一挙一動全てが俺の火力を強くした!!!!!燃えてなくなれバケモノ!!!!!!!」

その言葉通り、朱雀の両の腕から放たれた炎は今までの火球などとは比べ物にならないものであった。
泉の周りに生えた植物達を枯らし、波高を増しながら迫りくるそれはさながら炎の波。左右の動きで到底躱しきれるものではない。

(ザルバーで飛んでもこの波の高さでは間に合わないか…なら!)

回避は不可能と判断したライナーは反転して駆け出し、泉の中へと飛び込んだ。

「はーはっはっは!愚策だな!逃げ足が取り柄の貴様がそんな狭いところに逃げ込んでどうする!?言っておくが泉の水如き俺の炎の前ではあっという間に干上がるぞ!」

その言葉の通り、泉は数秒後には炎の波に飲みこまれ、中にいたライナーも蒸し殺されるか焼き殺されるか…どちらにしても生存不能な状況下に追い込まれるのは目に見えていた。
だが―――

「ふおお!?」

朱雀には一瞬何が起きたか理解できなかった。
炎の壁を何かが突き破り、彼自身もその何かに飲み込まれていった。
水だ。水が渦潮となって襲ってきたのだ。

(す、すごい圧力だ!まるで身動きがとれん!奴め、一体何をしやがった!?)

朱雀の身体の自由は水の竜巻によって完全に奪われていた。やがて竜巻は朱雀を上方へと押し上げる方向へと向きを変えていく。
極限状態の思考回路をフル回転させ、彼は一つの結論に達する。

(あいつ泉の水を巻き上げて竜巻を作りやがったのか!どこまでインチキ野郎なんだ!)

そのインチキ野郎がいるはずの方角へと朱雀は唯一動かすことができる瞳を向ける。
だが既にそこに奴の姿はない。即ち、いるとするなら―

(後ろか!うおっ!?)

瞬間、朱雀の視界は上下反転した。彼は青を貴重とした体色の怪人によって飯綱落としの体勢に捉えられていた。
自身で発生させた渦潮を、まるで滝登りの如く上ってきたのは巴竜人第三の戦闘形態、水中戦に長けたドラゴンの改造人間・アクアガイナーだ。
朱雀が考えた通り、泉の水を巻き上げ渦潮竜巻を作り上げたのもこの形態の内部武装だったのだ。

(悪いが、手から火を吹きます殺し合いには乗ります、なんて危険人物を見逃せるほどヒーローとして甘くは育てられてこなかったんでね。このまま沈んでもらうぜ)
(やられるのか!?よりにもよって青い龍を相手に、この神の力を持った『青竜』様が負けるというのか!?)

竜巻の中を足裏に据え付けられたスクリューで逆流し、水底へと激突させる。
それで勝負は決まり、ヒーローが悪を討つ。アースHの世界では幾度となく見られた光景が再現される筈だった。

212変身VS変心 ◆hRdS/lFjKw:2015/05/24(日) 20:53:11 ID:ZF4EErmw0
だが、この世界はアースHではない。まして道神朱雀がいたアースGでも、彼が本来住んでいたアースRでもない。
AKANEが用意した殺し合いの為のこの世界では、常に勝利をつかみ続ける絶対的な正義も、またいつかは必ず滅び去る悪も存在しえない。
ただ殺す側と殺される側が存在するだけだ。そこに元いた世界による貴賤や善悪は関係しない。
場合によっては、元の世界での強さすら関係が無い。故に、この世界の理を崩しかねない力には枷が嵌められる。

(!?体が変わっていく…勝手に!)

異変は起きた。竜人の身体は頭はガイナーのままに、体はライナー、脚部はザルバーとライナーが混じり合った多脚という偉業の姿へと変貌していた。

(こんな時に不調…いや、あまりにも早すぎる!身体の制御が効かない!)


巴竜人は不完全な改造人間である。
彼の身体に赤い血は流れていない。脈打つ心臓の音も人とは違う。脳までもが移植された強化細胞に侵され変質しているという。
しかし、ある一点だけは人間のままであった。
洗脳処置――戦闘兵器となるべく人格を消す最終調整が行われる直前に、彼はあるヒーロー―今はヴィランだが―によって助け出された。
いかなる方法で洗脳するつもりだったのかは竜人本人すら知らない。だが、ともあれ戦闘兵器になる事は回避した。
ならば…未だ目には見えない、非常に曖昧な定義をされる物ではあるが…「心」は人のままなのではないか。

(水圧に耐えられるガイナーの装甲ならばともかく、ライナーでは身動きが…!?)

だが、人は完全な兵器にはなれない。技術体系が異なる改造を幾重にも施された体を完全に制御する為には、最終調整こそが必要不可欠とされるものであった。
最後に残った人間としての心が人ならざる体との間にノイズを生み出していき、いずれは身体に不調を…端的に言えば、バグる。
これは彼がこちらの世界に送られてくる前から抱いていた弱点だったがここまで酷くはなかったはずだ。
圧倒的な無敵の超人が望まれないこの世界ではこの弱点は強められるようだ。しかも、制御できなくなるのは変身機能だけではない。
アクアガイナーの頭に生えた角へと体内の電力が急速に集められていった。無論、竜人の意思とは無関係に。

(不味い…今こんな状態でサンダーホーンを撃ったら諸共吹っ飛んでしまう!止まれ!止まれーっ!)

サンダーホーン…アクアガイナーに内蔵された武装の一つ、角から放つ電撃砲だ。この武器でアースHでは組織に属する幾多の改造人間を屠ってきた。
だが、今はその必殺兵器が竜人自身に牙を向こうとしている。水中で、しかも至近距離で、ましてや今はホーンの反動にも耐えるべく作られたガイナーの身体ではないのだ。
放たれた電撃は自身にも跳ね返り、確実に命を奪う。

(止まってくれぇーーーーーーっ!!!!!)

発射停止命令…何度も出した。それで止まるなら不調とは言わない。
ガイナーへの再変身…それも無理だ。さっきから試し続けているが下半身の脚が生えたり減ったり奇妙な変形を繰り返すだけだ。正確に指令が全身に届くころにはもう発射されている。
今捕まえている男を手放して浮上…自分で発生させた水圧に阻まれ動けない。
変身解除して無理矢理止めるか?…どちらにせよ変身命令だ。発射までに間に合わない。仮に成功したとしても変身前で水底に衝突すればお陀仏。
首を振って別方向に撃つ…何の意味がある。ここは水中だ。
全ての可能性は潰えた。

(自滅か…いや、違うな。俺は俺自身に…戦闘兵器巴竜人に殺されるんだ。人間巴竜人はここで死ぬんだ!ならばせめてヒーローらしくこいつだけは道連れにしてやる!)

そして、目の前が真っ白になった―――。




213変身VS変心 ◆hRdS/lFjKw:2015/05/24(日) 20:53:54 ID:ZF4EErmw0
「つまり…多重人格?」
「ええ、僕と青竜以外にもあと二人。白虎と玄武が僕の心の中にはいるんです」
「一応聞いてみるけど、君はこのゲームに乗るつもりかい?」
「まさか」

竜人の目の前にいるのは道神朱雀―――つい先ほどまで拳を交えていた男だった。

電撃が放たれようとしたまさにあの瞬間、突然目に映る景色は荒れ狂った水の中ではなく、焼けた木々の生えた泉の畔へと変わった。
訳が分からないまま竜人は体勢を崩し、電撃はあらぬ方角へと飛んでいった。
なんとか変身を解除し、人間の姿へ戻った竜人に声をかけてきたのは他ならぬ朱雀であった。
再びやる気かと身構えたが、どうも様子がおかしい。話を聞いてみれば彼の身体には三体の『神獣』が宿っており、竜人を襲ったのは『青竜』に人格を支配された時の彼だったというのだ。
突拍子もない話だったが、竜人は不思議と信じられる気がした。人を超えた改造人間がいる世界に生まれ、先ほどまさに自身を制御できなかった自分には近しい話だと。

「…本当に申し訳ない事をしました。以前から傲慢な奴だとは思ってたけど、まさか殺し合いに乗るなんて…」
「君が謝る事無いよ。悪いのはその青竜って奴なんだろ?それに俺だって危うく君まで殺しかけたんだ。謝るならこっちさ」

目の前の青年は嘘を言っているようにも、演技で自分を騙そうとしているようにも見えなかった。
というか、火を投げつけて来た時とは完全に別人なのだ。口をきくだけでもハッキリと分かるレベルで表情から話し方から違う。
その後、2人は互いの持つ情報を交換した。ここに来るまでの事。自身の能力について。知人の事を。

「知り合いはいるのか?」

参加者候補リストを手に竜人は言うが、

「いえ、いないみたいですね」
「そうか」

ばっさりと、斬られてしまった。

「あ!でもこの九十九光一って人なら知ってますよ!」
「どういう人なんだ?」
「いえ、名前だけ…」
「そ、そうか」

これまたあっさりと。



214変身VS変心 ◆hRdS/lFjKw:2015/05/24(日) 20:54:13 ID:ZF4EErmw0
(…そうだ、俺は、危うく彼まで殺してしまうところだったんだな…)

朱雀の話によれば、電撃が放たれる一瞬前に彼は青竜から人格の主導権を奪い返し、白虎の力を使って渦の中から外へと自身と竜人を瞬間的に移動させたのだという。
だとすれば、自分の命も彼によって助けられたことになるのだな、と竜人は思った。

(体の制御を失って死にかけただけじゃなく、善人の道神君は殺しかけ、挙句その殺そうとした相手に助けられるか。…なんて無様なんだ)

元いた世界で彼は幾多の改造人間やヴィランを討ってきた。無論、彼らには彼らなりの人生があっただろう。
それでも彼らは人としての道理を外れていた。幾多の人々の人生を奪ってきた。それらを討つのならヒーローの役目だ。
だが、そのヒーローの力が無関係の者に振るわれ殺めてしまったら?その時自分は本当に戦闘兵器になってしまうのではないか。
今まで討ってきた者達と何ら変わりない存在になってしまうんじゃないか。

(『先生』が今の僕を見たら笑うかな、いや、今は…)

竜人は一人の女性の姿を思い出す。彼女がいなければ今の自分はまるで違っていただろう。
それこそあの青竜のように戦いだけに生きる戦闘兵器になっていたかもしれない。
だが、彼にとって恩人であり、師でもあるあの人は――――――裏切りのクレアは今や討たれるべき側に回った。

それを聞いたとき、ヒーローとして生きてきた今までの自分を否定されたような気になった。だから、そんな思いを拭い去るべく彼は悪を討ち続けてきた。
しかし今彼が立っているのは明確な善と悪との境が無い、狂った殺し合いの舞台なのだ。
果たして自分はヒーローのままいられるのだろうか?竜人の頭にはそんな考えがこびりついて離れないのだ。





「巴さん。お願いがあります。もし青竜が―――青竜だけじゃない、もし白虎や玄武が僕の身体を乗っ取って誰かを傷つけるようなことがあれば――――――その手で、僕を止めて下さい」

その言葉に竜人は首を縦に振ると、こう返した。

代わりに自分が暴走するようなことがあったら、君が止めてくれ。と。

【H-3/泉/1日目/深夜】

【巴竜人@アースH】
[状態]:健康
[服装]:グレーのジャケット
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合いを破綻させ、主催者を倒す。
1:朱雀とともに付近を捜索する。
2:自身の身体の異変をなんとかしたい。
3:クレアに出会った場合には―
[備考]
※首輪の制限により、長時間変身すると体が制御不能になります。

【道神朱雀@アースG】
[状態]:健康、朱雀の人格
[服装]:学生服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合いを止めさせる。
1:竜人とともに付近を捜索する。
2:他人格に警戒、特に青竜。
(青竜)
基本:自分以外を皆殺しにし、殺し合いに優勝する
[備考]
※人格が入れ替わるタイミング、他能力については後続の書き手さんにお任せします。

215 ◆hRdS/lFjKw:2015/05/24(日) 20:54:42 ID:ZF4EErmw0
投下終了です。

216名無しさん:2015/05/24(日) 20:59:12 ID:WZPWKb6A0
おお投下乙!
しょっぱなからバトルらしいバトルしたのは彼らが唯一か?
と思ったら悠といのりが居たか。失敬

朱雀君強いけど人格変わったらめんどくさそうだ
人格によってスタンスが変わとか、場合によって一番の地雷じゃあ…
竜人も強いけどなるほどそういう制限がかかるのかあ
設定じゃ強すぎたしいい制限かと



あと全員揃いましたねえー!乙でした!

217名無しさん:2015/05/25(月) 06:33:32 ID:lB16bP5s0
投下乙です
序盤から熱いバトルですね、戦闘描写が分かりやすくて読みやすいです

朱雀くんこれ地雷だよね……青竜消えたわけじゃないし、強いしで、同行する巴は大変そうだ
でも巴くんの安心感はすごい、ようやくまともなヒーローが出てきた感がある

218 ◆aKPs1fzI9A:2015/05/28(木) 23:21:23 ID:XnpPc7Rg0
出来た…投下します

219 ◆aKPs1fzI9A:2015/05/28(木) 23:23:44 ID:XnpPc7Rg0
図書館1階の『読書コーナー』と書かれたスペース。
そこに私たちふたりは座っていた。
大きな机の上に私たちの支給されたと思われるものを広げて、それを挟む形で私と石原が座っている。
だが石原は支給されていたものには目をくれず、真っ先に『参加者候補リスト』に目を向けた。そしてリストを一瞥。やがて安堵に近いため息をついたあとに呟いた。

「東條のヤローはいねーのか」
「…東條英機のこと?

」石原莞爾の居た時代、1930年代において『東條』となると『東條英機』以外ありえない。
日本史の教師が言っていたことを思い出す。
東條英機と石原莞爾は犬猿の仲で、その喧嘩に負けて軍部を辞めるはめになったとかなんとか、私はノートにメモを取った記憶がある。

「腹立つヤローでな。俺はアイツのいけすかない感じが大嫌えなんだよ」

石原は右足を貧乏ゆすりしながら、眉間に皺を寄せる。
どうやらあの教師の話は本当だったらしい。
『喧嘩するほど仲がいい』ともいうが、石原の様子から鑑みるに本気で嫌っているようだ。石原のことを考えると東條英機が呼ばれていなくてよかったとも考えるが…ここで一度、しっかりと確認しておきたいことがあった。

「単刀直入に言う。石原莞爾、あなたはあの、本物の石原莞爾なのか?」
「本物もクソもねーだろ俺は俺だ」

石原は見ていたリストを机に戻し、支給されたと思われる日本刀を持ち、色々な角度から眺めながら私に返答した。
当たり前のように私に言葉を返した石原。
だが、その当たり前が私には疑問に感じた。なぜ過去の人間が私の目の前に居る?それが不思議だった。
そして、何故過去の人間を呼んで殺し合わせる必要があるのかも分からない。
…なんにせよ今必要なのは、私の考えていた『歴史』を、この男に言うのが必要だ。

「…落ち着いて聞いてほしい」

私は自分の授業の中で石原莞爾という人物を習ったこと、そしてそこから考えられることとして、私が石原にとって未来の人間だということを石原に伝えた。
ゆっくりと、私の拙い知識であるものだったが、思っていた疑問をひとつずつ、ゆっくりと伝えていった。

=================

220現実という怪物と戦う者たち ◆aKPs1fzI9A:2015/05/28(木) 23:26:56 ID:XnpPc7Rg0
「はー、なるほどキラキラ。てめーの考えはそーゆことか」

私がそのことを伝え終わったあとの石原の返事は思ったよりも普通だった。
私は、「驚かないのか?」と逆に驚かされたように石原に言う。
石原は配られていた名簿を私に見せつけるようにして、一つため息をついて、またその口を開く。

「ま、こんなことに驚いてたらキリがねーだろ。この名簿にはジャンヌ・ダルクだの松永久秀だの織田信長だのツタンカーメンだの居るじゃねえか。テメーが言う俺が歴史上の偉人になってたなら、こいつらも本物の偉人が来てる可能性がある」
「…ルーズベルト、ムッソリーニ、ヒトラーのことはどう説明する?貴方と同じ時代の人間だ」

それは私も疑問に思ったことであった。やれ織田信長だの徳川家康だの豊臣秀吉だの偉人たちが名を連ねていたからだ。
しかし私は単なる同姓同名かなにかだと考えていた。なにせ身近な存在として戦国武将と同姓同名の道雪ちゃんもいる。
さらに過去の偉人を蘇らせて殺し合いさせる必要性が感じられない。だが現に、石原莞爾が目の前にいる。
と、なると。
名簿の中にいるルーズベルト、ムッソリーニ、ヒトラーの三人は石原莞爾が本物だというのならおそらく、彼らも本物が連れてこられているはずだ。
だが彼らのことを私は知識として知っていても実際の姿は知らない。
故に石原に聞いておく必要があった。
石原はまた名簿を眺めるように見回しながら私の質問に言葉をかえした。

「ムッソリーニの奴はパスタしか食ってないらしいが、ヒトラーは気をつけた方がいいな。あいつは筋金入りの独裁者だ。この場でも何企んでるか分からん。あと、ルーズベルトも」
「その、ルーズベルトは敵国の人間だから、という理由か?」
「まあな、敵国『だった』んだが。未来だと、あいつはどうなったんだ?」
「…えーと…確か世界恐慌後に日本と戦争をして…そして『日本の敗戦』が決定的になったあとに」
「待ちやがれキラキラ。今なんて言った?」

石原が目を名簿から私の方に向ける。何かおそらく言いたいことがあるのだろうか。
ただ習った事として細かいところは違えども、大きな間違いはないはず…。疑問に思いながらも私は復唱をした。

「だから、『日本の敗戦』が決定的になったあと、ソ連やイギリスとヤルタ会談とかをして…」
「テメー、それは記憶間違いじゃないよな?」

「…まあ、大まかな流れに違いはないはずだ」と石原に私は返すと、石原は椅子から立ち上がって大きなため息をつきながら、私の方を向き教授するように口を開き始めた。

「いいか、はっきり言うぞ。日本は戦争に勝った。アメリカを倒して、今は枢軸国の時代になってるはずだ。テメーの学んだ『日本史』にはそういうことは書いてねえのか?」

221現実という怪物と戦う者たち ◆aKPs1fzI9A:2015/05/28(木) 23:27:30 ID:XnpPc7Rg0

まさか。
日本が戦争に勝った?そんなはずはない。
日本は天皇によって魔法少女の戦争使用は禁止されていたためにか他の国の魔法兵器などに対応が出来ずに敗戦したというのが常識のはず。
石原が戦時下の時からタイムスリップしたとしてもこう自信満々に返すことはない。
それに様子から見ても石原が来た時の日本はどうやら終戦後のようだ。これは一体?


「まさか、歴史が改変されたとか?」
「それはねえだろ。たかが数十年の歴史の改変は不可能だ。写真の媒体もあるし、経験ある奴もまだくたばっちゃいねえ」

…まあ確かにそうだ。
教科書というのは国によって好きなように作り替えられるものである。私はその可能性を示唆してみたが、確かに写真媒体もあるし当時の戦争を生き残った人も居て、敗戦のことを聞いている。
それに日本国内のことならまだしも世界を巻き込んだ大戦争。それを改変されたというのは言い難い。

「これは…どういうことだ?石原、あなたは───」
「…待てキラキラ。誰か来たぜ」

石原が何かに気づいたように、入口の方角を見た。
ここからは入口の様子を見ることは本棚があって見ることができないが、どうやって察したのだろう。
戦場に長い間いたから、そういう危機察知能力?に長けているのだろうか。
なんにせよ、信憑性は分からないが見に行く必要はあるだろう。

「行ってくる。待ってろ」

石原はそう言うと入口の方面へと歩みを進める。
右手には支給されたと思われる日本刀を持っているが、一人だと不安な面もある。
私も戦えないということはない。はずだ。
私は石原の「待て」と言う言葉を聞かないようにして、後ろから着いていこうとした。

「バカヤロー。テメー死ぬつもりか?」

石原からの冷たい言葉。
だが、彼なりの気配りなんだろう、とは思う。現に石原と私とは明らかな経験の差がある。
だけど、このまま待つのは単純に不安だというのもあるけど、この状況に指をくわえて見ているのも嫌だった。

「…頼む」

頭を下げる。深く深く。
足手まといになるかもしれないのは私が一番分かっている。だけど、行動に移したかった。
やがて、数秒後、石原は軽く息を吐くと、私にこう言った。

「…勝手にしろ、ただ迷惑はかけんじゃねーぞ」

=======================

「けいやく?けいやくってなに?くりおねさん」

ところ変わって同エリア。
雨宮ひなは困り、困惑していた。目の前に現れたもがき苦しむようにプカプカと浮いているクリオネが自分に話しかけてきたからだ。
ただ、ひなの年齢から考えて、クリオネの言葉は難しすぎた。
ひなとしても目の前のクリオネを助けてあげたいのはやまやまだが、そのクリオネの言う「契約」だの「魔法少女」だの、その意味がわからない。

『説明している暇はありません…!早く…早く!』
「ごめんねくりおねさん、たすけたいけど、ひなね、けいやく?のしかたがわかんない…ひな、おべんきょうできないから」

あたふたと、しかし泣きそうになりながらし、助けたいことをなんとか絞り出す。
ひなのお友だちにはクリオネは居なかったが、このクリオネのように浮かびながら難しい言葉使う動物たちは多くいた。
友だちの友だちは自分の友だち。
なんとかして救ってあげたい。
雨宮ひなはそういう少女だった。

222現実という怪物と戦う者たち ◆aKPs1fzI9A:2015/05/28(木) 23:27:58 ID:XnpPc7Rg0

『言葉に出せばいいのです!簡易的な契約になりますが、魔法少女になる、ということを口に出してください!』
「まほう…しょうじょ?くりおねさんはそれでたすかるの?」
『はい!…どうか!』

クリオネはもがきながらも、ひなの方を向きながら、途絶えそうになっている声色でなんとかして伝えようとした。
ひなはそれを聞くと不安そうな顔はそのままだが、少し希望を見出したような表情を見せて、クリオネをみつめた。
もはや時間はない。ひなに残されたものは、その「まほうしょうじょ」になり、クリオネを助けること。それしかなかった。

「くりおねさん…ひな、まほうしょうじょになるよ!」

一瞬の閃光。
やがてひなの体が青くキラキラと光り出す。それを見たクリオネがひなの胸元から体内に入っていき、しばらくするとひなの体は一、二回ほどびくん、と跳ねた。

やがてまた一瞬の閃光が起きた。
しかし、その閃光のあとに居たのは、普段通りの雨宮ひな。だが、先程と違うことがただ一つ。
ひなの周囲をくるくると、先ほどのクリオネが飛び回っていたことだ。

『…ありがとうございます。おかげで助かりました…
私は水を司るクリオネ型マスコットウンディーネと申します。以後よろしくお願いします』

クリオネ、いやウンディーネはひなの目の前に浮かびながら、先ほどの苦しんでいた様子とは打って変わって冷静な声色でひなに話しかけた。
一方のひなは突然落ち着きを取り戻したウンディーネに対し安堵しながらも、どこか不安げに首をかしげながらウンディーネに対し言った。

「うん、でぃー、ね?…わかんない。くりおねさんでいい?」
『はい。あなたのお名前は?』
「あまみやひな。よねんせい!」

ひなは目の前に来たウンディーネに対して右手を4の形にして突き出した。
ウンディーネは「ひな、ですか」と確認するように言葉を発するとひなの眼前へと姿を見せると、優しく、ひなの年齢でも分かるように、ゆっくりと話し始める。

『ひな、色々説明したいことはあるのですが、とりあえずここは危険です。早く離れた方がいい』
「あぶないの?」
『はい』
「…うん。わかった…あのね。くりおねさん、ひなね、としょかんに行きたい。えほんがよみたいの」

雨宮ひなに人間の友だちと言えるような友だちは居なかった。
彼女の事を同年代の子どもたちは揃いも揃って彼女の事を忌み嫌っていた。
彼女にとっての友だちは、空想の中に現れる動物たちだけ。
ゆえにこの場でもそういった動物たちに似ていたウンディーネのことを信用するのがいい、とひなは考えていた。

『確か図書館はあの女の反対方向でしたね…分かりました。急ぎましょう』

ウンディーネはそう言ったひなのことを確認すると、図書館の方へと向く。
向いた先には、大きな黒い建物がそびえ立っていた。おそらくあれが図書館であろう。
こうやって見るとなかなか殺風景なところにあるものだと考えてしまうが、ここでは気にしない。
運良く先ほどの松永久秀のいる方向とは別だ。あそこでひなを守れるような協力者を見つけるのも得策だ。

そう考えると、ウンディーネはひなを案内するようにして図書館へ向かい始めた。

=================

223現実という怪物と戦う者たち ◆aKPs1fzI9A:2015/05/28(木) 23:28:27 ID:XnpPc7Rg0
『ひな、気をつけてください。誰かが接近しています』

図書館の入口前まで来たひなとウンディーネ。
その時、ウンディーネがひなに向かって注意を促した。
ひなは突如言われた言葉にあたふたしながら、また不安そうに「わるいひと?」とウンディーネに訪ねた。

『分かりません。ですがいざという時は───私に従ってもらえませんか?』
「したがう?…おねがいのこと?」
『はい。お願いです』
「…わかった。くりおねさんに任せるね」

ウンディーネはそのひなの言葉を聞くとひなの背中からひなの体内へと消えていった。
魔法少女として闘う際に、マスコットは魔法少女本人と同体になる必要がある。
戦闘経験がないひなを闘わせてしまうかもしれないというのは酷であるが、いざという時なら逃げるほどのハッタリをかませるほどの魔力がひなにはどうやらあるようだ。

(…これは…アリアと同様、いやそれ以上かも…)

ウンディーネはそのことに疑問を覚えていた。
彼女、ひなの持ち合わせていた魔力は他の魔法少女たちと成分が違っていたからだ。
通常アースMGにおける魔法少女たちの成分というのは純粋に生まれ持った魔力から成り立っている。
故に全員が全員魔法少女になれるとは限らない。魔力が一定量ないと魔法少女の契約を交わしても実際のところ魔法少女らしい活躍はできないと言える。
平沢悠を初めとした生まれつき魔力が足りないような魔法少女たちはマスコットたちによって魔力の代わりとなるような感情などを代用としている場合もあるが、特例中の特例だ。

ウンディーネはひなの魔力をもう一度確認してみる。
魔力にしてはどこか不安定。しかしはっきりとした魔力の成分は感じられた。
こういった魔力の成分は、学校で習ったもので見たことがないもの。

(…成り行きでこうなってしまいましたが、これは…)

───もしかしたら彼女なら───
そう思えてしまうほどの強力さをウンディーネは感じていた。

その感情をひなが感じ取るわけもなく、ひなは図書館へとゆっくりと入っていく。
自動ドアの前に立つと、ゆっくりと自動ドアが空いた。受付のおばさんや地域のおじいさん。自分よりもちいさなこどもや受験生で賑わう図書館の姿はなく、ただ本が規則的に並べられているだけの空間。
不安になった。まさか自分一人になってしまったのではないか、と。
受付の壁にあっあ図書館の見取り図を確認する。
「絵本コーナー」はあるようだ。だが自分で行くには少し難しい。
どうやっていこうか。ひなは考えていた。
近寄る姿のことを、忘れるまで考えてしまった。

224現実という怪物と戦う者たち ◆aKPs1fzI9A:2015/05/28(木) 23:28:56 ID:XnpPc7Rg0

「おいおいマジか」

受付を眺めていたひなを見た瞬間石原はそう呆れるように、かつ驚きながらそう呟いた。
目の前に居たのは自分の娘よりも若い子どもだったからだ。いや、綺羅星も石原からしたら赤子のようなものであるが、まさか綺羅星よりも年下の参加者がいるとはとは思わなんだ。
石原の存在に気づいただろうひなが、受付から目を石原、そして後ろにいた綺羅星へと向ける。
あどけない顔。しかし油断はしない、するつもりもない。
石原は持っていた日本刀に手をかけながら、注意深く冷たい口調でひなへと言い放つ。

「とりあえず聞くぞ。テメーは俺らとチームが違うが、殺し合いに乗ってんのか餓鬼?」
「石原!この子は子どもだぞ!こんなに小さい子どもがそんな…」
「キラキラ、こいつよりも幼い餓鬼が満州では襲ってきた。幼いからって信用すんなよ」

綺羅星の静止を押さえつけるように、石原は口を開いた。
石原莞爾が居た満州国において反日感情を持ち合わせてた現地の住民が多く彼らの襲撃を受けた部下たちを多く知っていた。
その襲撃には老若男女関係がなく、皆が皆明確な殺意を持ち合わせ、殺しにかかっていた。
石原はそのことを知っている。ましてやこの場所に連れてこられたとなるとどんな力を持っているかは分からない。

油断は少しもできない。「しかし…」と呟く綺羅星を差し置いて、石原は少しもその表情を変わらせることはなかった。
一方のひなは、突如として向けられた『殺意』を察したのか、逃げ出そうになっている。

「石原…!この子はやはり───」
『夢野綺羅星…!あなた夢野綺羅星ではないですか?』

綺羅星が石原に何か言いかけた時、ひなの背後から、クリオネ型マスコットのウンディーネがふわふわと石原と綺羅星の前に現れた。
突如として現れた謎の生物。
石原は何のことか分からず、疑問そうな顔を向けるが、綺羅星はそのウンディーネのことを知っていた。
大きく目を見開き、驚きながら綺羅星はウンディーネに対し口を開いた。

「君は先輩の…!先輩は!アリア先輩はどうなった!?」

夢野綺羅星の高校の時のよくしてもらった先輩の久澄アリアの不思議なペット。
アリア曰くここまで不思議でありながら魔法少女のマスコットたちとは違うというから驚きだった。

(なお、アリアの言葉の意味は『他の魔法少女のマスコットたちとは格が違う』という意味だったのだが言葉足らずのために綺羅星に伝わることはなかったのだが)

そばをくるくると飛び回るクリオネ、ウンディーネというこの子はアリアと常に仲良くそばにいる存在。
何故、ここに───?

その時アリアが笑いながら言っていたことが頭をよぎった。

「私とウンディーネは一心同体なんだ。片方が居なくなっちゃったら死んじゃうかもね」

…まさか。
綺羅星の頭に一つの最悪のシナリオが浮かんだ。
離れることができない二人が、何故今離れている?
離れているということは、まさか。

「…アリアは、死にました」
「え………」
『守りきれなかった…アリアを守るのが、私の役目だったのに…!』

ウンディーネは悔しそうな声色で、そう言い放った。
自分が長年一緒に居た相棒を助けるどころか力にもなれず、命を賭して助けてくれた。
その恩と、力になれなかった悔しさがウンディーネを襲っていた。

「先輩が…?あの先輩だぞ…!私よりも強くて!優しくて…頼りがいのある人だ!
なぜあの人が死ななきゃ…まだ殺し合いが始まって数時間しか経ってないじゃないか。
…なのに。なのにこんなに、こんなに早く死ぬなんて…そんなの、そんなのってないだろっっ!!!」

綺羅星は叫ぶ。現実を受け入れれずに。
自分を幾度となく助けてくれた先輩が死んだという事実に負けそうになっていた。
やがていつの間にか綺羅星は崩れ落ちるように地べたに座り込み、下をうつむいてしまったまま動かなかった。

しばらくの沈黙のあと、石原が綺羅星のことを一瞥したあとに、頭を掻きながら、ゆっくりとひなのウンディーネに近寄っていた。
綺羅星の事は、今は触れない方がいいはずだ、と考えていたからだった。

「…おい待ちやがれ。なんだソイツ?なんだそのフヨフヨして浮いてるのは?」
『…あぁ紹介が遅れました。私はクリオネ型マスコットのウンディーネと言います。あなたは…』
「待ちやがれっつてんだ。テメーの名前よりも、なんだ。どういう仕組みだそれ?」

225現実という怪物と戦う者たち ◆aKPs1fzI9A:2015/05/28(木) 23:30:22 ID:XnpPc7Rg0

ウンディーネに向けて指を指しながら、疑問そうに石原は尋ねる。
ウンディーネはふわりふわりと浮きながらも驚きを伺わせるような声色で石原にその疑問の答えを返した。

『珍しい方ですね、今の御時世で魔法少女のマスコットを知らないのは』

石原の単純な質問に対し帰ってきたその答え。
驚いていたのは石原と綺羅星の二人だった。
石原は単純に聞いたことがない『魔法少女のマスコット』という存在と、またその事をあたかも当たり前のように言う目の前の非科学的なクリオネに対して。
綺羅星はあのアリアが魔法少女だったという事実と、魔法少女であるなら闘えたはずのアリアを倒せる程の強い人間がこの殺し合いに居るということに対して。

「…!クリオネちゃん!君は魔法少女のマスコットだったのか!」
『アリアから…伝えられてないのですか?』
「おい、おい待て。そのことはすまないが後にしてくれねえか。なんだその魔法少女ってのは」
「石原、貴方の時代にも居たはずだ。『魔法少女』という存在が。確か国際条約で魔法少女の戦争の使用は禁止されていたと私は習ったが…」
「国際条約?…そんなもん結ばれてねーぞ」

二人は驚きと矛盾と疑問を解決しようとウンディーネに詰め寄った。
二人と一匹はお互いの意見の答えを探しながら、質問しては答えるの繰り返しを続けていた。
三分ほどだろうか。
進展的な意見は出ないままであったが、残されたように見つめていたもう一人が、ゆっくりと口を開いた。

「おじさん、おねえさん。ふたりは、わるいひと?ひなのこと、どうするきなの?」

それを聞き言葉を止める一同。
敵意がないことを伝えるのを忘れていた。それに、ウンディーネと綺羅星は知人であるしこんな議論をしているならばひなも殺し合うことはないだろう。
それに殺し合いに乗ってるならばすでに攻撃をしてくるはずだ、と。

ゆっくりと、綺羅星がひなの元へ向かった。顔を見る。セレナと同い年くらいだろうか。まだ幼い。
こんな子を殺し合いに巻き込ませるなんて、と綺羅星は怒りを覚えたがそれを露にはせず、まずは穏やかな顔つきと口調で、ひなの視線に自らの視線をかがんで合わせながら言った。

「…えっと、ひなちゃん?でいいかな。君のお友だちのクリオネさんと私は知り合いなんだ。それに私たち二人はひなちゃんを傷つけることはしないよ」
「ほんと?くりおねさん、そうなの?」
『はい。少なくともその方は私の知り合いです。奥の男性は…』
「…石原莞爾だ。少なくともこの殺し合いには乗ってない…」

それを聞いたひなはほっと一息をついて胸を撫で下ろす。
そして受付の地図を指さしながら、綺羅星に尋ねた。

「…ひな、えほんよみたい。おねえちゃん、えほんコーナーってどういけばいい?」
俯くひな。
綺羅星は自らの妹の姿を重ねていた。こうやって落ち込んでいる時はいつも優しく励ましていたものだ。
困ったことがあるとすぐに助けを求めてきた妹。もしこの殺し合いに巻き込まれていたら…。
頼りになる先輩も死んでしまった今、本当に自分が妹を始めとする知人たちから助けを求められても助けることができるのか。
不安だった。
正直泣き出したい程だ。
だが、ここで泣くわけにはいかない。守る者がいる者として。
目の前のこの子を守らなければ。

226現実という怪物と戦う者たち ◆aKPs1fzI9A:2015/05/28(木) 23:31:46 ID:XnpPc7Rg0

「…分かった!お姉ちゃんが案内してあげよう!ほう…こっちみたいだな!おいで!」

綺羅星はにっこりと笑いながら、ひなのてを引いた。強引にではなく、ゆっくりと。優しく導くようにだった。
妹を引き連れる姉のように、ゆっくりとだった。

「ほんと?ありがとう!お姉ちゃん、おなまえなんていうの?」
「夢野綺羅星だ!ひなちゃんは絵本好き?」
「うん!だいすきだよ!」
「そうか!朝になるまで、お姉ちゃんがたくさん読んであげるぞ!」

まるで本当の姉妹のように、手を繋ぎながら『えほんコーナー』に向かう二人を、石原とウンディーネは見つめていた。
まだ聞きたいことはあったのだが、ひなと綺羅星が居なくなっては仕方ない。

二人が向かい始めて少ししてからウンディーネが呟くように石原に言った。

『…強い方ですね。綺羅星は。
自分の先輩が…殺されたというのに。自分の家族が巻き込まれているかもしれないのに』

悔しそうに、無念そうなウンディーネ。
ある意味同情の念にも近かったし、自分の親友のようだったアリアを守れなかった申し訳なさも、それに含まれていた。
それを聞くと、石原は一息深く息を吐きながら、受付の方へと向かった。
やがて受付の裏のところにあった『当図書館の配置図』と書いてある紙を見つけ出すと、ほかにも何かないか探し出していた。

「勘違いすんなよフヨフヨ。
あいつは強くなんかない。ただ現実を受け入れたら壊れそうになってるだけだ。
だからあの餓鬼に向けた笑顔も、どこかひきつってるふうに見えたね俺は」


フヨフヨとは、おそらくウンディーネのことだろうか。
石原は受付から頭だけだして、ウンディーネに言い放った。
この石原という男はおそらくただものじゃないだろうということだけは、ウンディーネは考えていた。
こうして受付をずかずかと調べる大胆さと先ほどの殺気のような冷たさ、冷静さを持ち合わせている。
この男のことについても聞いておく必要がある。
そのことがどうも気になるが、今は雨宮と綺羅星の元へ向かうのが先決だろう。

『…石原さん、でいいですか?
私のいた世界と貴方がいた世界とでは違いがあるようです。いえ、それだけではありません。ひなも私の事をマスコットだと知りませんでした。何かしら裏があると思いますが、ひなから離れるのは怖いのでまた後でお話しましょう』
「…あぁ、それでいい。今は考える時間よこせ。頭の整理がついてねえ」

227現実という名の怪物と戦う者たち ◆aKPs1fzI9A:2015/05/28(木) 23:33:33 ID:XnpPc7Rg0

それを聞くとウンディーネはふわふわと浮かびながら、綺羅星とひなが向かった先へと進んでいった。
それを確認すると、石原は受付にこれ以上必要なものがないと見切りをつけ、立ち上がり受付から出る。
相変わらずこの図書館は不思議だ。
こんな多くの電子機器がある図書館を石原は知らなかった。
おそらく綺羅星の言うとおり、自分は彼女から見たら過去の人間だろう。
だが、「魔法少女」?そんな存在は過去に存在していない。
条約がどうこうした記憶もない。となるとこれは単なるタイムスリップではない可能性も頭に入れる必要があるかもしれない。

そのことはまた落ち着いてから他の参加者と情報交換する中で考えるとして、今はこの面子でどう殺し合いを乗り越えるべきか、それが先決だ。

(魔法少女…ねぇ…あの雨宮って餓鬼見たところ戦闘経験もなさそうだし戦力に加えていいのか…)
ウンディーネが魔法少女のマスコットであるというなら、あのひなという少女が魔法少女である可能性が高い。
ならば彼女は一般人なのか戦闘員なのかどちらにカウントすべきなのか。
いや、彼女を抜きにしても中年でろくに戦場の前線に居ないオヤジと武道をかじった程度の女学生。
これは戦力に不安がある。
魔法少女だとか、知らない敵が出てきてくるかもしれない。
敵の情報があればそれに似合った作戦を考えれるのだが。臨機応変に対応するしかなさそうだ。

(ま、それをどうにかするのが参謀だろ)

昔を思い出す。

「石原ァァァァァァ!!オヤジの仇、取らせてもらうッッ!!!」

張学良。
一度死んだものの改造手術を受けて、自分の親の敵討ちといって戦争を仕掛けてきた男。
同じように改造された兵士20万を連れて、挑んできた。誰もが絶望した。
関東軍には1万とわずかの平凡な兵士のみ。皆撤退を叫んだ。
そこで開戦し、張学良を打ち破ったのは誰だったか。
いわずとしれた、石原莞爾本人の策略だった。

(戦争は量じゃねえよ、力でもねえ。どう使うかが大切なんだよ。いかにこっちの被害を少なくして強敵を打ち破る。それが楽しいとこだ…!)

石原は口角を吊り上げる。
なぜかはわからなかった。楽しんでるわけでもないのだが、なぜかそうしたのだ。
頭の中で様々な策略が思い浮かぶ。
活動停止していた脳細胞が久々に動き出しているのが分かった。

「帝国陸軍の異端児」。そう呼ばれた男石原莞爾は、二人と一匹の後ろを追いかけるように歩み出すのであった。
まだ見ぬ敵を倒す策を思い巡らしながら。

228現実という名の怪物と戦う者たち ◆aKPs1fzI9A:2015/05/28(木) 23:38:48 ID:XnpPc7Rg0
【D-5/図書館 入り口前 受付/1日目/黎明】

【夢野綺羅星@アースMG】
[状態]:精神的不安、落胆
[服装]:神王寺学園制服
[装備]:フランベルジェ@アースF
[道具]:基本支給品、BR映画館上映映画一覧@アースBR、南京錠@?
[思考]
基本:知人たちを助け、この殺し合いを終わらせる。
1:…先輩
2:セレナが不安
3:ひなを守る
[備考]

【石原莞爾@アースA】
[状態]:健康
[服装]:甚兵衛
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ナポレオン・ボナパルトの伝記@アースR、図書館の見取り図@現地調達、三日月宗近@アースE
[思考]
基本;とりあえずは主催に対抗してみるか
1:キラキラ(綺羅星)に付き合う
2:東條のヤローはいねえのか。クソが。
[備考]
※名簿を見ました。

【雨宮ひな@アースR(リアル)】
[状態]:普通
[服装]:かわいい、オーラまとっている
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3
[思考]
基本:ひな、どうすればいいの?
1:魔法少女って?
2:図書館で本を読んで心を落ち着けたい。
3:きらぼしおねえちゃんに本を読んでもらう

229現実という名の怪物と戦う者たち ◆aKPs1fzI9A:2015/05/28(木) 23:40:04 ID:XnpPc7Rg0
投下終了です
タイトルは「現実という怪物と戦う者たち」です。高橋優の楽曲が元ネタです。
張学良は、まあいいよね。ルーズベルトいるし。うん。

なにか指摘あれば。

230名無しさん:2015/05/28(木) 23:46:50 ID:iMFUjdhA0
投下乙!
ひなちゃんは殺伐としたロワの癒しだなぁ
4年生のわりには言動が幼すぎる気がするけど。

231名無しさん:2015/05/28(木) 23:49:13 ID:kL1HypvM0
投下乙です。
キラキラにフワフワww
石原さんのネーミングセンスがいちいち楽しいです

232 ◆aKPs1fzI9A:2015/05/28(木) 23:54:24 ID:XnpPc7Rg0
>>230
ご指摘ありがとうございます。
うーん…四年生とは難しいうぐぐ…

WIKI収録時に幼すぎる言動修正できるところはしておきます。

233名無しさん:2015/05/29(金) 07:06:12 ID:S/ScKqMI0
ひなchangは空想少女しすぎてて精神幼いままな可能性も微レ存かも?
投下乙です
>変身vs変心
意外とここまでなかったガチバトル!見応えあったし
巴くんなんかはチュートリアルも兼ねてて力量が分かるいい戦闘だった
すわどちらか死ぬかと思ったが上手いことコンビ結成、でも互いに暴走フラグも抱えてて…どうなるどうなる

>現実という名の怪物と戦う者たち
魔法少女の戦争利用禁止…そうきたか。言われてみればこの世界、古くからずっと魔法少女が活躍してて
でも表向きは普通に日本だから戦争もちゃんとあったんだった。すり合わせ上手いなー
アリアの死に動揺しつつも守るべきものの為に動ける綺羅星ちゃんにじんとくる
ひなちゃんという不安定な戦力を手に入れた石原莞爾だがどう運用してくか楽しみだ

234 ◆5Nom8feq1g:2015/06/01(月) 02:01:45 ID:idBCvvpg0
投下します

235その信愛は盲目 ◆5Nom8feq1g:2015/06/01(月) 02:03:32 ID:idBCvvpg0
 

 とにかく遠くへと逃げたくて、麻生嘘子がたどり着いたのは駅だった。


 だが≪公園前≫の駅名が見えたところで気が抜けたのか、動かし続けていた足がもつれてしまって、
 麻生嘘子は走り幅跳びを失敗した時のような勢いで、思い切り前のめりに倒れ込んでしまった。
 膝。肘。おでこ。
 三点同時着地からの、がりがりと肌が削れるスライディングの音を全身で彼女は感じた。

「痛っ……いた……い……」

 起き上がってふらふらと駅構内に入った時には、
 ゴシック調の服に守られていなかった膝に、赤いバーコードができてしまっていた。
 おでこや肘は幸い皮がむけた程度で済んだが、こちらもひりひりと痛い。
 早めの処置が必要だが嘘子はやり方を知らなかった。ケガの処置は常にお母さんか兄さんにやってもらっていたからだ。

「う……うう……嘘……こんなの、嘘よっ……!」

 出来ないことは後回しにして、傷についてはとりあえず服に入ってたハンカチで拭きながら、
 歩いて時刻表の所まで来たのだが、それがまた嘘子に絶望を刻んだ。

 出発時刻
 0:00
 4:00
 8:00
 ・
 ・
 ・
 ・

 思わずデイパックを取り落す。
 がしゃん! と大きな音がする。

 備え付けの時計が指すのは2時過ぎという時刻。
 時刻表は、この駅からすでに電車が出てしまっていることと、
 次の電車が二時間後であることを無慈悲に示していた。

 麻生嘘子は逃げられない。
 いまにあの車いすのこわいおじさんがやって来て麻生嘘子の身体に白銀の剣を突き刺す。
 山村幸太のように。あっけなく殺されてしまう。
 あっけなく。

 嘘でなく。

 あまりに簡単に。
 最低最悪の真実が、麻生嘘子を貫き殺す。

「どうしてよ……い、いつもはこうじゃないじゃない……助けに……来てくれるじゃない……」

 痛み、恐怖、黎明時間の肌寒さに、足が身体が震えだす。
 いつもはこんなことはない。
 こんな時間には嘘子は布団でぬくぬくと眠っているし、隣には兄さんがいる。

 ケガをしたら嘘子の兄さんはすぐに飛んできてマキロンを塗ってくれるし、
 例えばいじめっこにケンカを売ったとするならば、
 そのいじめっこは兄さんの手によって次の日には完膚なきまでに成敗されているため、
 嘘子は今までの人生でケガを負わされることさえほとんど無かった。

 盲目的に麻生嘘子を何故か守り続ける兄さんのことを、麻生嘘子は盲目的に信頼していた。
 だから目を開くことができなかった。現実に目を向けることをしなかった。
 また兄さんがなんとかしてくれると思っていた。
 自分に振りかかる恐怖も災厄も痛みも全部兄さんが肩代わりしてくれると信じていた。
 いたのに。

 なのに兄さんは、
 麻生叫は未だ、嘘子の前に現れない。
 嘘子がケガをしたというのに、現れる気配もないのだった。

236その信愛は盲目 ◆5Nom8feq1g:2015/06/01(月) 02:04:56 ID:idBCvvpg0
 

「……兄さん……生きてる、よね……っ……あたしを守って……くれるよ、ねぇっ…………?」


 ――がしゃん。


「えひっ!?」


 がしゃん、がしゃん。がしゃんがしゃんがしゃん!!!! 「ひゅあ!!??」

 がしゃん、がしゃん、がしゃんがしゃんがしゃんがしゃん!!!! 「や、あっ!?」

 がしゃんがしゃんがしゃんがしゃんがしゃんがしゃんがしゃしゃん!!!! 「な、」


「な、な、な何ッ!!??」 
 
 そのときだった。
 突然嘘子の近くから、がしゃんという金属がこすれ合う音が聞こえたかと思えば、
 鎧が近づいてくるような、あるいは金属の箱を爪で引っ掻いて暴れているかのような、甲高い異音の連鎖が始まったのだ。

 駅の待合室という狭い空間に音が反響する。
 嘘子の他には誰も居ないのに、音が部屋を埋め尽くす。
 なにこれこわい。すでに竦んでいた足が突然の異音に逆に冷静になる、
 コントロールを取り戻して動く、何だかわからないけど逃げ、
 なきゃ、と思った麻生嘘子はそこで、不可思議な音が出ている場所に気付いた。


「……デイパック?」


 ――デイパックが動いていた。


 灯台下暗しと言うべきか。
 つい先ほど取り落したデイパックが、そのはずみで口を少しだけ空けていて。
 その中でなにかが、がしゃがしゃと動いているのが見えた。

 どうしてだろう、嘘子はすでにデイパックを確認したが、こんなものは入っていなかったはずだ。
 いや、そういえば嘘子は。
 “荷物を山村幸太にすべて持たせていた”。
 そして襲撃されて逃げる時には、幸太が刺されたときに落としたデイパックを持って――。

 あのとき取り違えたのだとすれば、つじつまが合う。

「こーた……」

 まるで幸太からのプレゼントのようなそのデイパックを、嘘子は開ける。
 中に入っていたのは横円筒式のポストに似た無機質な銀色のペット用籠であった。
 取り落とすまではこの籠の中で寝ていたため、暴れなかったし幸太も気づかなかったのだろう。

「……」

 鬼が出るか蛇が出るか、意を決して嘘子は籠の鍵を、開けた。






「たのもーーーーーーーーーーッ!!!!!」


 同時に、待合室の扉も開いた。

 待合室に入ってきたのは白の長髪の先をリボンで結び、フリフリの服を着て、
 ただし美しい顔を修羅みたいな形相にした、
 チェーンソーを持った少女、明智光秀であった。

237その信愛は盲目 ◆5Nom8feq1g:2015/06/01(月) 02:06:33 ID:idBCvvpg0
 

「わうわうー」


 そしてペット用籠から出てきたのは、
 鬼でも蛇でもなく、なんとなく眉毛が太く見える、犬であった。


「    」


 一気に場の空気が変わりすぎて脳の処理に遅延が発生した麻生嘘子は、
 ただ驚いた表情のまま、しばらくその場で固まった。

「……の……のぶのぶ?」

 また、待合室に乗り込んできた明智光秀も、
 チェーンソーを稼働させたままその場で止まった。

 主君である織田信長のために他のチームの参加者を殲滅すると決めた彼女は、
 今しがた駅へ辿り着き、人の声がした部屋に討ち入りしたのだったが、
 まさかそこに探していたペットがいるとは思っていなかったのだ。

 互いにフリーズした少女二人。
 そういうわけでチェーンソーのぎゅいぎゅい音が鳴り響く中、
 最初に動いたのは、犬だった。

「わう」

 太眉の犬は、すりすりと。
 麻生嘘子の方へと歩くと、膝に顔を擦りつけたのである。



♂ ♀ ♂ ♀



「きゃあ!?」
「……のぶ、のぶ……?? のぶのぶなのか……?」
「わうー」
「ちょ、やめ! ……舐め……くすぐった」
「あの眉……のぶのぶ!?」
「わうぺろー」
「くすぐったいわよ、やめなさいってば、やめ」
「莫迦な……のぶのぶが私以外の人間にああもすり寄るなど……??」
「わうわう」

 殺し合いの場、刃音が鳴り響く緊迫事態において、
 犬と少女がきゃっきゃと触れ合うという異常な光景が駅の待合室で発生していた。

「どうなっているんだ……」

 この光景に何より驚いたのは明智光秀だった。

 なぜなら彼の愛犬のぶのぶは、とても気難しく、その上主人にしか懐かなかった犬なのである。
 同じくアイドル活動をしていた柳生宗矩にすら良く吠えて、身体を預けることはなかった。
 それが光秀の知らぬ金髪ポニテロリ少女の足を、恭順の姿勢で舐めているのだから、驚く以外に無い。

「のぶのぶ! のぶのぶ! こっちに! 私のほうへ来るのだ!」
「わうー」
「や、やめっ……ひゃう、そこ敏感になってるのっ、舐め、ないでよっ、バカ犬っ」
「聞いているのかのぶのぶ〜ッ!! 私の言葉が聞こえないのか!
 この明智光秀の方に!! こちらへ戻ってくるんだ!!!!」
「わーん……わうー」

 ぷいっ。
 ――ぺろぺろ。

「ひゃん、や、あ! 
 っ、ぞくって来た、なにこの犬、舐めるの、上手すぎっ、よぉ……!」
「な……のぶのぶ……」

238その信愛は盲目 ◆5Nom8feq1g:2015/06/01(月) 02:09:36 ID:idBCvvpg0
 
 光秀が呼びかけると、のぶのぶらしき犬は一度舐めるのをやめて光秀の方を見た。
 しかし、すぐに少女の方へ向き直ると、彼女の膝の傷を舐めはじめる。
 それはまるで、光秀よりも少女のほうが重要であると言っているかのような動き。
 仕えるべき主君はこちらであると言ったかのような、そっけない態度……。

 いや、むしろ、光秀よりも金髪少女のほうが、“立場が上”だと暗に言っているかのような……。
 光秀より、立場が上……。

「莫迦な……いや、しかしそんな……!」 

 ここで光秀に天啓が降りた。
 慌てて目の前の少女の首輪を見やる。「R」だ。光秀の「P」とは違う。
 そうだありえない、
 いやしかし、
 “知り合いが同じチームだ”というのは光秀が一人で考えた推論であり証拠などはない。




「まさか……“信長様”……????」




 目の前の少女は金髪で、ゴスロリで、美少女である。
 生前の信長様は金髪でもゴスロリでも美少女でもなかったが、
 そもそも光秀もアルビノじゃなかったし、アイドルでもなかったし、美少女でもなかった。

 容姿が違うからと言ってそれが信長様で無いという保障はどこにもないのだ。

 そう、光秀は信長様がどこかで生きているか、同じように蘇ったのだと信じていたが、
 もし仮にどこかで信長様もまた蘇ったのだとすれば、
 それが“光秀と同じように少女である可能性”を考慮すべきではなかったか。

(わ、私は……冷静さを欠いていた!
 危うく……信長様の可能性がある人間を殺すところだった!)

 光秀は反省した。
 そして、光秀に冷静になる機会を与えてくれたのぶのぶに感謝した。
 うるさいのでチェーンソーのスイッチをオフにする。
 唾を呑み、意を決し、大きく息を吸って部屋中に響く声で明智光秀は問うた。

「そこな少女!!」

「……?」

「お前は――いや、あなた様は……まさかその……の、信長様なのでしょ、うか……?
 み、光秀です……私は明智光秀……! 信長様の、忠臣……犬に御座います……ッ!」

 精いっぱい武士らしく声を張り上げようとした光秀だったが、
 最後の方は尻すぼみになってしまった。
 明智光秀は信長様を全力で信頼し、前世レベルの盲目的な恋をしている。
 もしかしたら目の前に愛する人がいるかもしれないという考えが言葉を発しながら肥大化し、
 光秀は恋する乙女のような顔になって、もじもじとしてしまったのだった。
  


♂ ♀ ♂ ♀



(あたしが信長……? この人何言ってるの……ばかなの?)

239その信愛は盲目 ◆5Nom8feq1g:2015/06/01(月) 02:10:45 ID:idBCvvpg0
 
 一方、その問いを聞いた麻生嘘子は、光秀の突然の質問にドン引きしていた。
 当たり前だ。
 明智光秀……は確か武将で、織田信長を裏切った?
 ことくらいしか知らないが、小学四年生の嘘子でも織田信長についてはよく知っている。

 嘘子の知っている織田信長は男だし、ヒゲとか生えてるし、ちょんまげだし、そもそも死んでる。
 間違っても嘘子とは似通っていない。

(殺し合いで気が狂ってしまったのかしら……かわいそうな人だわ……)

 パラレルな世界では偉人が美少女になって甦っていることなど嘘子が知る由もない。
 嘘子から見たら、明智光秀は、なぜか武将の名を名乗り、
 そのうえいるわけもない信長を崇拝し、さらには信長と嘘子を間違えている狂人であった。
 だが。

(でも、この人、チェーンソー持ってるし……慎重に答える必要がありそう……よね。
 「あたしが信長なわけないじゃない! ばかねえ」
 って……、ちょっと前のあたしなら言ったんだろうけど)

 いまだに膝をぺろついてくる犬にこそばゆさを感じつつも、嘘子は思考する。
 思考しなければならない。
 嘘子は先ほど、ルーズベルト(この名前もどこかで聞いたような気はするが、どこだろう)に対して、
 考えなしに正直な返答をした結果ひどい目に合わされたばかり。

 相手のふざけた質問にも、必ず意図が存在することを嘘子は学んだ。
 だから思考しなければならない。
 この場で辿り着くべき真実を。やらなければいけないことを。

 想像力を、はたらかせて。
 そうしなければ、嘘子に待ち受ける運命はチェーンソーによるまっぷたつ死だ。

(ああもう……こういうのは、ひなの奴の得意分野だってのに……)
 
 想像力といえば。
 嘘子は『参加者候補リスト』に載っていたもう一人の知り合い、クラスメイトの雨宮ひなのことを思い出す。
 いつもいつも自分の妄想の世界に入り込んでまともに授業も聞いてない、メルヘン少女。
 むかつく奴だったが、その存在は嘘子にとって一つのヒントになった。

 雨宮ひなはよく、物語の登場人物に自分を重ねることがあった。
 普段は居もしない空想上の友達と話している彼女だったが、
 例えば嘘子が朝読書で図書室から借りてきていた『ハイルドラン・クエスト』を読ませてみたときは、
 主人公である銀色大剣の少女に感情移入しすぎて、その少女になりきっていた。

 言動も普段のふわふわっぷりから考えられないくらいきちんとしたかと思えば、
 三角定規を彼女のメイン武器である『生体魔剣』に見立てて先生に切りかかるような真似までした。
 あのときの雨宮ひなは完全に物語の主人公と同化していて、雨宮ひなではなくなっていたように思う。

(この人が、ひなと同等かそれ以上の、“なりきり病”だとしたら……)

 殺し合いによる現実逃避か、あるいは本当にキチガイなのかはともかく、
 目の前の白髪赤目のフリフリ服の女の人もまた、自分を“明智光秀”、
 それも信長に忠誠を誓っていたころの光秀だと思いこんでいるのだとすれば。

(あたしに向かって、信長かどうか聞いてきたのは……“信長役が欲しい”ってことかしら……?
 どうやらこの犬はこの女の人の犬みたいだし。犬が懐いてくれたから、
 あたしはそんなに悪い人じゃないと判断されて、……あたしを妄想に巻き込もうとしてる……??)

 精いっぱいつじつまを合わせようとすると、そういう解釈になる。
 つまり、明智光秀のロールをするには信長が必要不可欠だから、善良そうな人に信長役をやらせようとしている、という解釈。
 オレ勇者やるからお前モンスターな! と男子がよくやっている感じのアレだ。
 なまじ明智光秀になりきりしている関係上、その旨を説明して興醒めになりたくないということだろう。

(ということは、あたしが答えるべきは……!)

 そこまでたどり着くと、嘘子の脳細胞は活性化した。
 どちらにせよ間違えたら死ぬかもしれないのだ。失敗するかもしれないが、やってみる価値はある。


 麻生嘘子は――嘘をつくことに決めた。

240その信愛は盲目 ◆5Nom8feq1g:2015/06/01(月) 02:14:00 ID:idBCvvpg0
 

「――いかにも」


 TVでやってる時代物っぽい口調を真似し、嘘子は“信長”を、演じる。


「よく見抜いたのう……さすが余の忠臣じゃ。
 まさにその通り。余こそは織田信長よ。くく、光秀よ……再び余の下で働いてくれるな?」

「……は、ふぁ、……ふぁいいっ!! 一生御供させていただきましゅ!!」


 そして光秀は神を見るかのような崇拝表情になりながら膝まづき、
 犬と同じ目線から、信長様の足へと口づけしたのだった。


 麻生嘘子は思った。


(え、口づけとかするんだ……)



♂ ♀ ♂ ♀



「信長様と私を別チームにするとは言語道断にもほどがありますが、もはや取るべき手は決まっております。
 全員殺すのみです。信長様と私以外を全員鏖殺し、最後に私を信長様が屠って頂く、それ以外にありますまい」

 待合室にて電車を待ちながら、
 椅子に座る信長(嘘)とその膝で寝ているのぶのぶ(犬)を前に、光秀(女)は決断的に講釈した。
 ちなみに信長様がカワイイ女の子になったという事実を遅ればせながら噛みしめた光秀は鼻血を吹いてしまい、
 今は支給されていたティッシュを持って鼻に詰め物をしている。

「そんな……もうちょっと平和的な解決はないわけ? じゃなくて、えーと、ないのか?」
「????(゜Д゜)????」
「ひっなにその急に怖い顔」
「平和ボケしているのですか信長様?
 かつてのあなた様なら、こんなところで足踏みすらせずに嬉々として殺しに行っていましたよ」
「ほ、ほう、そうか……な、なにせ余も“蘇って”からは平和な生活を送っていたからな、
 確かに言われてみれば余も殺したい気分になってきおったわ、さすがだ光秀!」
「……の、信長様が私を褒めてくれた……ありがとうございますぅ……」

 うっとりとした表情で頬に手を当てる光秀。
 嘘子(信長ロール中)が上手いこと聞き出したところによると、どうやら彼女の中では、
 彼女は卑弥呼によって少女として蘇った戦国時代の武将明智光秀で、
 信長もまた本能寺で一度死に、現代には少女として蘇ったという設定らしい。

 なんだそれ……。

 小学生の妄想でももうちょっとマシなの考えるわよ、とツッコみたくなった嘘子だったが、
 あまりにも真剣に話された上、ちょっとでも彼女の考える信長から外れた言動をすると
 奈落の底から出てきた鬼のような恐ろしい表情で睨まれるのでツッコめないのだった。

「で、でも……いやしかし、余とおぬしの二人でどれだけ殺せる? そもそも何人おるかも分からぬのだぞ?」
「桶狭間を忘れたのですか。寡兵であろうと方法次第で勝利できると示したのは信長様、あなたではありませんか!」
「あ……そ、そうじゃったな……しかしもう少し仲間が欲しいのではないか?
 余には少し心当たりがあるのだが……」
「いりませぬな」

241その信愛は盲目 ◆5Nom8feq1g:2015/06/01(月) 02:17:01 ID:idBCvvpg0
  
 そっと兄である麻生叫の名を出して仲間に入れることを提案しようとした嘘子だったが、
 光秀はばっさりと、仲間を増やすこと自体を切り捨ててきた。

「仲間を増やせば、裏切られます。私はあの反逆の本能寺を忘れておりませぬ」
「むう……(いや本能寺で裏切ったのあんたじゃなかったっけ……?)」
「私が十人、二十人分働けば、凡夫二百人までなら殺し得ます。
 それにそこの犬、のぶのぶもただの犬ではありませぬ。戦闘訓練を受けさせております故、
 実質的に飢えた狼のようなものであるとお考えください」
「……まじか……」

 ぺろぺろと嘘子の手を舐めてぽけーっとしてる犬すら光秀は戦力として扱っているらしい。
 というか、考えてみれば嘘子は信長なのだから信長も戦力。
 三人分なら確かに、そこまで悪くはないと考えられるだろう。

 実際のところ嘘子は嘘子だし、
 犬もただの犬にしか見えないし、
 光秀も鬼気迫るものを持ってるとはいえ少女にしか見えないが。


「信長様」


 光秀は完全に信長しか見えていないような目で嘘子に向き直った。


「私ものぶのぶも同じです。私たちは信長様の犬。
 信長様の為に生き、信長様の為に死ぬためだけに、爪と牙を研いで参りました。
 ですから、不安もありましょうが――しかと前を向いて。
 自信を持って天下を進んだあのお顔を持って。我々をどうか、傲慢なままに使ってください」


 それが私の望みです、と言う光秀。
 嘘子から見てもちょっとかっこいい口上ではあったが、嘘子の脳内は不安でいっぱいだった。

(どうしよう、兄さん……もしこの嘘がばれたら……これあたし、殺される)
(ううん、それだけじゃないわ、もし……)
(もしこのまま兄さんに会ってしまったら――兄さんがこの人に、殺されちゃう……!!
 でもそれを止めたら、あたしが疑われて……あたしが今度は、殺される……!!)

 光秀が自らの布を裂いて作った簡易包帯に巻かれた膝はまだ、じんじんと痛む。
 しかしそれ以上に嘘子にとってそれは、頭が痛くなるような話だった。
 本来ならば考えなくてもいいはずだった問いかけ。

 兄さんを殺さなければ、自分が生き残れなくなったとき。
 麻生嘘子は、どうすればいいのか……?



 ――かくして、信愛なる嘘にまみれた盲目的な戦は続く。



【B-2/駅・待合室/1日目/黎明】


【麻生嘘子@アースR】
[状態]:不安、膝にけが
[服装]:ゴシック調の服
[装備]:のぶのぶ@アースP
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考]
基本:他人の力を借りて生き残りたい。兄と合流したい。
1:兄さんに会いたい。でも今のままだと…
2:この人なんなの…とりあえず信長のフリしなきゃ
3:ひながいることに驚き
4:こーた…犬とかいってごめんなさい…なんかもっと犬な人が来た…
[備考]
※明智光秀を「変な設定の明智光秀を演じてる狂った人」だと思っています。
※支給品は山村幸太のものと入れ替わっていました。

242その信愛は盲目 ◆5Nom8feq1g:2015/06/01(月) 02:19:19 ID:idBCvvpg0
 
【明智光秀@アースP(パラレル)】
[状態]:健康
[服装]:アイドル衣装
[装備]:マキタのチェーンソー@アースF
[道具]:基本支給品一式、ポケットティッシュ、ランダムアイテム0〜1
[思考]
基本:信長様の軍を勝利へ導く
1:信長様の牙として信長様に仕える
2:信長様とチームが違うなんて考えもしていなかった
3:信長様はしかしどうやら平和ボケしておられるようだ
4:信長様を励ましながら他の参加者を殺戮する
5:信長様と私だけになったところで信長様に殺してもらう
6:そうして信長様を生かすしかもはや道はないというのに…
7:ああでも信長様めっちゃ可愛いなあ金髪ロリとかさあ
8:正直いって超タイプだし愛し合いたいラブしたい
9:でもまずは戦、戦だぞ光秀
10:戦でいいところを見せて、信長様に明智光秀が必要だと思われないと!
[備考]
※麻生嘘子のことを織田信長だと思いこんでいます


【のぶのぶ@アースP】
アースPの明智光秀が飼っていた犬。基本的に光秀にのみ懐く
光秀の手によって戦闘訓練がされ、戦えるように仕込まれているらしい

【マキタのチェーンソー@アースF】
闇の武器商人マキタの手によって造られた闇のチェーンソー
アーゴイルの店に置いてあり、その攻撃力と貴重な闇属性のマナ印加により
連日仕入れ中の人気商品であった

243 ◆5Nom8feq1g:2015/06/01(月) 02:20:54 ID:idBCvvpg0
投下終了です
タイトルはWIXOSSアニメのサブタイの形式っぽい感じで
なにか問題あれば指摘を

244名無しさん:2015/06/01(月) 05:16:27 ID:lovhkzoo0
投下乙です
嘘子ちゃん、なんとかピンチを切り抜けた……?
嘘で切り抜けるのが彼女らしいww
そして光秀めんどくせえwwこれ本物の信長に出会っても素直に組めない気がするなあ……

245名無しさん:2015/06/01(月) 08:52:42 ID:4PD4r.8s0
投下乙!
光秀の思考がヤンデレの其れなんですが・・・

246 ◆aKPs1fzI9A:2015/06/03(水) 20:32:05 ID:4rYqNk2U0
皆様乙です
投下します。

247くろださん@うごかない ◆aKPs1fzI9A:2015/06/03(水) 20:32:36 ID:4rYqNk2U0
警察署内の『シャワールーム』と書いてある個室に、探偵黒田翔琉は居た。
彼が活動を開始する時に真っ先にする事がシャワーを浴びることだ。
温度は34℃のぬるめで、水圧は強すぎず弱すぎず浴びること。それが彼にとって最高のシャワーであった。
長く黒いトレンチコートを脱ぎ、ネクタイをほどく。フランスのブランド物だ。仕事するときはいつもこのネクタイを締めることにしている。
やがて下に着ていた白シャツをおもむろに脱ぎ捨てると、そのまま丈が長いズボンもベルトを外し、脱いだ。
次に黒色の靴下を脱ぐ。するり、と脱いで、また脱ぎ捨てたシャツの上に投げた。
最後。藍色のボクサーパンツ。彼は生まれ持ってからのボクサーパンツ派だ。ブリーフ、トランクスを履くような男は───男じゃない。
彼の持論であった。

風呂場への入口は引き戸であった。
ゆっくりと開くと、そこには本当に簡易的なシャワールームの個室があった。
温度調節は、悔しいが細かいところまでは出来はしなさそうだ。
しかしこの際浴びれるだけでもありがたい。

赤の蛇口を捻る。
シャワーから出るお湯の温度を手で確かめながら、そして青の蛇口も徐々に捻りながら───彼が納得できる温度にまで調節をする。
ミリ単位で動かしていく精神のすり減る作業だったが、彼にとっては必要なことだ。
そう。すべては彼の頭脳のためであった。

数分後、納得ができる温度になった。
水圧調整はこの際捨てて、温度に専念をした。その点については反省すべきであるがとりあえずいいだろう。
まず、彼は右肩から左脇腹にかけるかのようにシャワーを当てた。
次に左肩から右脇腹まで。最後は頭から全身に行き渡るように、丁寧にゆっくりと。
仕事はじめの時のシャワーは、黒田にとって入浴ではない。ゆえに頭や体を洗うことはしない。
あくまでも、自分の頭を覚まさせるためのこと。そのためだけに必要なこと以外はしない。

5分後。

蛇口を赤、次に青とひねり、シャワーを止めた。
5分の間、黒田は何か思考することはなかった。
シャワーを浴びる間に一旦頭の中をリセットし、完全にリセットしたあとに残された情報から真相を探るためだ。

外側に引き戸を押して、脱衣所へ入る。
脱ぎ捨てた服を手に取りながら、黒田は思考を再開することにした。
今回の事件───いや事件と言っていいかは疑問だが、不可解な点が多すぎる。
まず、参加者候補リストという与えられたディパックに入っていたリスト。
自分の名前がそこにあったのは勿論だし、西崎や、その西崎と旅行(黒田が懸賞でイギリス旅行を当て、行く相手が居らずに西崎を誘った)した先に出会ったサラというメイドの名前に留まらず、アイコレクターや自分が捕まえた御母衣朱音。さらには世を騒がす怪盗ナイトオウルと著名の犯罪者たちがおそらく『候補』となっているらしい。

248くろださん@うごかない ◆aKPs1fzI9A:2015/06/03(水) 20:44:12 ID:4rYqNk2U0
いや、既に捕まった犯罪者がこの場に参加させられるのはまだ分かるとするが、彼には大きな疑問が生じていた。

(剣崎渡月、だと)

1800年代、日本のN県の小さな農村、「矢津間村」で起こした事件をきっかけに当時のの探偵や警察を騒がせた伝説的な殺人鬼で、殺した死体を持っていた鉈で残虐的に切り刻み村民45人を殺した事からついたあだ名は「矢津間45人殺し」。本名剣崎渡月。
歴史から名を葬りされ、今では矢津間村においてすら一部の人間しか知らない人物の名前。
その名前がそこにあった。

黒田は単なる同姓同名を疑った。
織田信長だの豊臣秀吉などもいたが、彼らの名前を借りた同姓同名の人物は多く存在する。
それに死体を生き返らせるなんて、非常識だ。ありえない。と。
ただ、もしそういった場合でないことを考えると一つ、黒田には考えがあった。

(…となると摸倣犯か)

殺人鬼に憧れて殺人鬼になる人間は多い。単なる摸倣犯であるとする可能性が高い。
しかし少なくともそんな摸倣犯は聞いたことない。
もし、自分の情報不足であることを考慮してもこの人物が摸倣犯という訳と断定するには早いだろう。
まさか本物の剣崎が連れてこられたという訳でもあるまい。

(なんにせよ、剣崎という人物には注意だな。こういった場所だ。ただの一般人を連れてくる筈がない)

旗のことに辿り着くにはまだ情報が足りない。黒田には目の前に現れた疑問について思慮するしかなかった。
それが今出来る最大限のことだ。
少し不甲斐ないとも思うが受け容れるしかない。
黒田は少し首の骨を鳴らすと、最後にトレンチコートを羽織った。
やがてシャワールームから出て行きドアをあけた。

最後になるが。
シャワーに入る前に見ておいた、主催から渡されたと思われる『武器』。
これも黒田にとっては不可解なことであった。
いや名簿以上にむしろ不可解なことであったかもしれない。
自分に渡されたのは、『御園生優芽』という少女のグラビアが載った漫画雑誌と、新型と思われるタブレット。
ここまではよかった。戦闘に使えるものではないが、タブレットとなるともしかしたらネット回線などを見つければ情報を得るカギにでもなるかもしれないと。そう黒田は好意的に考えた。
だが、最後の支給された『武器』。それは鉄製の缶の中に入ってあった───

「かけるくん!遅かったね!僕待ちぼうけしちゃったよー!」

来客用と思われるソファの上で跳ね回る、喋るピンクのカエルであった。

私立探偵黒田翔琉。
魔法少女のマスコットとの、はじめての出会いだった。

「…待たせた。話を聞かせてくれ、キュウジ」

黒田翔琉の頭脳は、ゆっくりと動き出す。

【A-4/警察署/1日目/黎明】

【黒田翔琉@アースD】
[状態]:健康
[服装]:トレンチコート
[装備]:キュウジ@アースMG
[道具]:基本支給品、週刊少年チャンプ@アースR、タブレット@アース???
[思考]
基本:この殺し合いと『旗』の関係性を探る
1:眠気は覚めた
2:早朝まではここに待機
3:剣崎渡月に注意
4:目の前のカエルの話を聞く
[備考]
※名簿見ました。

【キュウジ@アースMG】
魔法少女のマスコットの一匹。魔法少女マスコット学校では優秀な成績を修めたがなにせ見た目がピンクのカエルというキモさから誰も契約しようとしなかった。

【週間少年チャンプ@アースR】
御園生優芽のグラビアつき。人気雑誌。

【タブレット@アース?】
普通のタブレット端末。

249 ◆aKPs1fzI9A:2015/06/03(水) 20:47:13 ID:4rYqNk2U0
以上です。
えーとですね剣崎さんの元ネタは都井睦男です。あだ名も彼が起こした事件のもじり。
剣崎さんごめんね。

タイトル元ネタは日日日原作のライトノベル「ささみさん@がんばらない」です。

何かあればぜひ。

250名無しさん:2015/06/03(水) 22:27:24 ID:28FSmBrM0
投下乙です。
探偵はシャワーシーンでも何だかハードボイルドだ
名簿の気になる名前は剣崎さんか、いろいろ妄想できるな
ピンクカエル登場で猿の登場可能性もちょっと出てきた気がするwこの一人と一匹何を話すんだろ…w

251名無しさん:2015/06/03(水) 22:36:35 ID:zLJqPaes0
あのエテ公はエド組に支給したいねww

252名無しさん:2015/06/03(水) 23:32:03 ID:hX9xXdmc0
投下乙!
黒田と西崎一緒にイギリス旅行行ったのかよw普通に仲良いじゃん。

253 ◆5Nom8feq1g:2015/06/07(日) 10:45:40 ID:yVteYQAM0
投下します。

254星に届け ◆5Nom8feq1g:2015/06/07(日) 10:46:13 ID:yVteYQAM0
 

 月が欲しいと思っていた。
 夜空に燦然と輝く、完全な月が欲しいと思っていた。

 だが、シルクのスーツの裏に編みこまれた、彼の世界の今のアメリカの国旗。
 その国旗にかつて48個刻まれていた星は、20程度まで減っている。 
 他は全て奪われてしまった。
 敗けて取られて奪われてしまった。
 彼がまず最初にしなければならないことは、奪われた星を取り返すことだった。





 車輪は回り、黒衣の老人は世界の淵に辿り着いた。
 からからという車椅子独特の音が廻る中で、ルーズベルトの耳は静かな波音を聞く。

 深い森を抜けた先。

 世界の淵には何もなく、ただ海が広がっていた。

 水平線はかすかに青紫に光っていたが、海は底も見えぬ黒で、まるで淀んだ闇が重さを持って地を這い回っているかのようだった。
 闇は嫌いだから、ルーズベルトは上を見る。
 夜も明けぬ漆黒の空、一人殺して初めて、ルーズベルトは月を見る。
 星に囲まれながら輝くそれは、波めいて栄光と衰退を繰り返す影の周期の終点であり始点、
 ルーズベルトと彼の国が永遠にその姿で留めておきたかった望みの姿――完全なる光の円を描いていた。
 フルムーン。
 きれいだと、思った。
 あれが欲しいと、取り戻したいと、今でも願っている。


 嗚呼――

 だが見惚れるにはまだ早い。

 ――――取りに行くには、さらに遠い。
 

 老人は目線を現実に向き直し、海の向こうを注意深く眺め回した。
 ルーズベルトが麻生嘘子を追いかけず、逆方向に駆けてこの世界の淵、海辺まで来たのは、
 決して完全な月を望みながらその情景に酔いしれたかったからではない。
 望みに酔わなければ保てないような弱い心はとうの昔に捨ててきた。
 たった一人殺した程度、たった一つ星を捧げた程度では、月には届かない。
 ルーズベルトがやっておきたかったのはまず一つ、この島じみた世界の周囲に何があるかの確認だった。

 思い描く理想のビジョンは、
 忌まわしき枢軸国の参加者を皆殺しにした上での主催の打倒、そして束縛からの解放と勝利だ。
 そのビジョンを手に入れるためには、場当たり的な行動だけではいけないというのが大統領の論だった。
 すなわち、島の周囲の把握、例えば他の島が見えるか、などの情報の把握。

 システムによれば脱出は首輪の爆破対象とのことだが――首輪を仮に外せたとして、
 脱出する先の当てがなければそもそも島から脱出する意味がない。
 だからこそルーズベルトは、今いる島の近くに他の島、あるいは大陸がある可能性を考えていた。
 それを発見できれば首輪を外した後の航路も取れる。仲間を勇気づける材料にもなろう。
 足は不自由だが代わりに夜目は効く方だった。
 水平線目視5kmの先に僅かにしか見えぬ陸だろうとルーズベルトは発見できるつもりだった。

 つもりだったが。

 A-2から見える範囲の海に、遠く陸が見えるということはなかった。



 落胆ということはない。
 まだ西側だけだし、西側の海少なくとも5kmに“なにもない”という情報も、それはそれで大事な情報である。
 地図に港が存在することを考えれば、島が絶海の孤島である可能性も充分に考えられた。
 ルーズベルトは切り替えて、海に来た理由の二つ目を遂行する。

255星に届け ◆5Nom8feq1g:2015/06/07(日) 10:47:37 ID:yVteYQAM0
 
 漆黒に塗られた大型車いすの背面下部にあるカバーを開ける。
 すると自動的にそこから蛇腹のホースが降りてきて、浜辺の砂地に着地、そのまま海へと進んでいく。
 着水し、海水を吸い取って、後部タンクへ貯蔵するためである。

 ちゃぽん。
 と音を立てて、ホースが海へと着水。
 水がゆっくりと吸われていく。
 およそ10分ほどの給水時間。

 フリーメイソンの技術の粋を詰め込まれたルーズベルトの車椅子であるが、
 その動力は意外にも水だった。
 開始時点でメーターの0近くまで減らされていたタンク内の水を補充するため、というのが、
 ルーズベルトが海に来たもう一つの理由だった。

 水を電気分解してエネルギーを取り出しているのか、はたまた水素の核融合か何かでエネルギーを
 取り出しているのか――細かいことまではルーズベルトは知らない。
 製された不純のない水がもっとも効率よくエネルギーになるということは教えられたが、
 海水でも、多少効率は落ちるものの問題なく車椅子を動かすことができると技術者は言っていた。

 海水をタンクいっぱいに詰めて、動かせるのは四半日(6時間)といったところ。
 支給された飲み水を動力へ回すのはあまり頭のよい方法とは言えないため、
 およそ一日に四度はどこかで水を補充する必要がある。
 それもできれば塩っ気や不純物のない、綺麗な水が望ましい。

 ルーズベルトとしてはその他、島の東側から見える海も確認しておきたい。
 その点を踏まえ、地図を眺める――行く先を選定すると。

「まずは温泉。そして、泉、だね」

 北にある温泉では、地下から沸く純粋な水が手に入る可能性がある。
 まずはそこで、より車椅子にとって優しい水を手に入れ、
 出来うるならば半日で泉へと到達したいところだ。

 なに、仮に計画に変更をきたさなければならなくなったとしても、水道の通っているであろう
 公園・町・駅などに寄れば、一応水は補充できる(水道を探すと言う手間は発生するが)。
 燃料問題については、今後さして気にする必要はないだろう。

 そうこう考えているうちに10分が経った。
 試しに赤いボタンを押し、車いすを旋回させて前進してみる。
 制限によって元々の回転速が落とされているのか、やはり速度は劣るが、エンジンの暴発はない。
 メーターも回復している。さしあたり、補充は完了だ。

 あるいはこの島にメカニックが居るならば、この車椅子に掛けられた枷も外せるかもしれない。
 Axis Powers(枢軸国)やJapを星へ還すと共に、その線で人探しも行ってみるべきかもしれないとルーズベルトは思う。
 ともかくこれで――燃料の懸念は無くなった。

 ここからしばらくは、エンストを気にせずに“フルスペックで行動できる”。

 ルーズベルトは車椅子を走らせながら、青いボタンを押した。


 ――車椅子の底面からジェット機構が顔を覗かせる。
 ――ジェットから青白い熱光が発されて、車椅子が宙へと浮いた。


 同時に車輪はプロペラに、チェーンソーの刃部分はスライド可変して機体安定用の翼へと変形。
 これにて、車椅子の空路移動用モードの完成である。
 少しでも夜空に近づくために、ルーズベルトの車椅子は空を泳ぐ。
 月を取る為。
 それが叶わずとも、まずは奪われた“星”に手を届かせるために。

256星に届け ◆5Nom8feq1g:2015/06/07(日) 10:49:17 ID:yVteYQAM0
 

「さあ諸君、奪われたものを取り返す――戦争の始まりだ」


 彼の国の旗を胸に。
 大統領フランクリン・ルーズベルトは、出陣した。

 
 
【A-2/森/一日目/黎明】

【フランクリン・ルーズベルト@アースA】
[状態]:いたって健康、高揚、飛行中
[服装]:スーツ、ネクタイなどなど
[装備]:フランクリン・ルーズベルトの車椅子@アースA
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考]
基本:連合国の人間と協力し、この殺し合いを終わらせる
1:枢軸国は皆殺し。容赦はしない
2:車椅子を治せるメカニックを探す
3:よりエンジンに優しい水を求め、温泉や泉へ向かう
[備考]
※まだ名簿を見ていません。
※ルーズベルトの車椅子には制御がかけられています。まだ何が使えて何が使えないか確認していません。
※一応ルーズベルトの車椅子は支給品扱いです。

257 ◆5Nom8feq1g:2015/06/07(日) 10:52:39 ID:yVteYQAM0
投下終了です。水で燃料をまかなうとかいう夢の技術
何かあったら指摘お願いします
タイトル元ネタはルーズベルト名言×「君に届け」です

258名無しさん:2015/06/08(月) 02:59:41 ID:oPqSK.QQ0
投下乙!
ルーズベルトは連合国側の人とは協力する気があるんだな

259名無しさん:2015/06/09(火) 20:50:37 ID:H0602iBQ0
投下乙です!
ルーズベルトまじでどうなってんだその車椅子!
フリーメイソンすごい(小並感)

雑談スレでも出てたけど連合国の人間結構少ないんだよな
味方は見つかるのか

260 ◆/MTtOoYAfo:2015/06/11(木) 00:07:43 ID:2qbc99qQ0
投下します。
遅れてすみません。

261楽しさと狂気と ◆/MTtOoYAfo:2015/06/11(木) 00:23:50 ID:2qbc99qQ0
「な、なんだ!あれは…!!」

ティアマトを追いかけているためにダンプカーを走らせていた鬼小路君彦は目の前の光景を信じることができなかった。
目の前にいた全世界のモンスターマニアにとって伝説の存在ティアマトが50m級の大きさから小さくなり、人間のような見るに堪えない姿に変わっていってしまったからだ。
これでは怪獣ではなく怪人である。鬼小路にとってもはやあれはティアマトではない。ただの出来損ないのレプリカのようなものであった。

「はぁ〜…凄いのお!なあ君彦!あれはどういう仕組みなんじゃ?」

世界が違う故か怪獣を見たことない卑弥呼は、その変化も目の前の怪獣が行ったことではないかと考えていた。当然のことだ。
卑弥呼がかつで女王であった邪馬台国でも、呪術の類で猛獣を作り出した事はあったが、あのサイズの物は見たことなかったし、ましてや更に小さくなり人型になるような技術は存在していなかった。
なので単純な疑問として君彦に返したのだが、双眼鏡を覗く君彦はワナワナと震えていて、言葉を返すことはない。

「…ふざけるな」
「…君彦さん?」

ナイトオウルがダンプカーを一旦停めて、君彦を運転席から不思議そうに見た。
わなわなと震えているその表情は、自分の玩具を無理やり取られた子供のようにも見え、涙すら見えた。
そしてゆっくり大きな声で、彼は大きく目を見開き、空に向かって叫ぶ。

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!なんだ!なんだあの姿は!あれは俺の求めていたティアマトではない!あんな小さくない!あんなに人間のようではない!もっとティアマトってのは!美しい物だ!素晴らしいものなんだ!!!!ふざけるな…!ふざけるなぁ!」

君彦はダンプカーから飛び降りると、着地もうまくできずにその場に崩れる。
だがそれを気にもとめず立ち上がるとティアマトの方へと大きくて足を振りかぶり、無様にも思える姿で全速力で走っていった。
ナイトオウルは突如とした君彦の奇行に困惑していた。
先程までの子どもらしい一面は既に消えていた。彼のあの憎悪にも近い表情は、ナイトオウルを怯ませるのに充分だった。

実はナイトオウルは、2代目だ。
偉大な祖父の名を受け継いだのはつい最近のこと。
祖父が死んでから2年後、死亡説が囁かされていたナイトオウルを復活させたのが自分であった。
祖父は西崎という新人女警部の事をいたく気に入っていたようで、彼女をおちょくっていたとも聞く。
それほどまで余裕があった祖父とは違い、彼はまだまだ未熟者(一応西崎のことを言及するものの本心ではない)。
困惑するのも無理はなかった。

「追え、ないとおうる」

あたふたしているナイトオウルに、冷たく、また先ほどの無邪気な声色とは異なる声色で卑弥呼が言い放った。
口角は高く釣り上がり、目はティアマトを見た時のようにキラキラと輝いているが、どこか濁っているようにも思える。
そしてにやりと、口角を歪ませながら卑弥呼は含み笑いをしながら言い放った。

「面白いものが見れそうじゃ」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

262楽しさと狂気と ◆/MTtOoYAfo:2015/06/11(木) 00:25:12 ID:2qbc99qQ0


「ティアマトおお!!!!何があったんだ!君の姿はそんなに醜いものじゃないはずだ!まるで漆のように美しい鱗!すべて切り裂く鋭い爪!世の中を恨むような眼光!すべて…すべて無くなってるじゃないかあああ!ふざけるな!!」

ティアマト『だったもの』に君彦はぜえぜえと息切れをしながらたどり着くと、まず真っ先にそう咆哮した。
殺し合いの場において大声を挙げるなんて愚策ともいえるが、今の彼にはそんなことは関係ない。
ただ素晴らしき存在の、あのティアマトが何故こんな姿になってしまったのか。彼はそれが許せなかったのだ。

「ぜえ…ぜえ…こ、これもすべてあの女!AKANEという奴のせいだろう!ぬ、ヌッフフフフフ…大丈夫だぞ…俺が、俺がなんとかしてやる!なぜなら俺は、どくた───」

君彦がそう言い終わる前、一瞬であった。
ティアマトがその右手を大きく横に振りかざした瞬間、鬼小路君彦の上半身と下半身は分離し、君彦の上半身が原形をとどめないような形になって吹き飛ばされたからだ。
上半身を失った下半身はその場で崩れ落ちる。ティアマトはそれを見て近寄るとその下半身を───おもむろに食べ始めた。

ティアマトにとってディパックの中の食料なんて人間においての豆一粒と変わらないようなものだ。 ゆえに、ティアマトは食べれるうちに食べてしまおうと考えたのだった。
着ている化学繊維から成り立つ邪魔な布はすべて破り捨て、人間という食材ありのままの姿にする。
それをティアマトは大きな両手で掴むとそのまま貪るように食べ始めた。
骨もそのまま噛み砕く。今必要なのは食べれるものだ。
やがて、そこにあった人間だったものは跡形もなく綺麗に無くなっていた。
ふと腹が満たされたティアマトは吹き飛ばした上半身の方を見た。
あれはもう、食べるのは難しいだろう。
服の繊維が絡まっている。勿体ないが諦めよう。

「…ぐるるる…タベタ…カッタ…」

ぽつりと呟くように、唸るような鳴き声の中から声が聞こえた。
気のせいかもしれない。だが、それらしき音、怪獣だった頃の鳴き声からは考えられない高い声。

ティアマトは、『知性』を得始めている。もちろん幼児にも満たない知性ではあるものの、かつてのティアマトであれば服の繊維云々で食べないことはなかった。
そもそも───『繊維』という物質の存在も知らなかったはずだ。

「ぐるる…ニンゲン、コロス…!ミナ、コロス…!」

ティアマトはそうまた呟くと目の前の食料をその場に放置して、またゆっくりと歩みを進める。
人間を憎む怪獣は皮肉にも、最も憎むべき『人間』に徐々に近づいているのであった。
【A-7/草原/1日目/黎明】

【ティアマト@アースM】
[状態]:無傷、怒り心頭
[服装]:裸
[装備]:無
[道具]:無
[思考]
基本:人間が憎い
1:邪魔な物は壊す
2:攻撃する奴は潰す
3:廃工場の方へ向かって破壊する
[備考]
※メスでした。
※首輪の制限によってヒトに近い姿になりました。
 身長およそ5m、ただしパワーと防御力は本来のものが凝縮された可能性があります。
※どうやら知性が生まれ始めました。あくまでも断片的。

263楽しさと狂気と ◆/MTtOoYAfo:2015/06/11(木) 00:26:00 ID:2qbc99qQ0

◇◆◇◆◇◆◇

「…そんな…」

双眼鏡を握ったまま君彦は走っていった為に、先程よりも必要以上にジープをティアマトに近づかせる必要があったナイトオウルは、目の前の光景を信じることが出来なかった。
ジープを停まらせて、遠い物陰に隠れてながら見ているとはいえ、これは少し衝撃的すぎる。
経験の少ないナイトオウルには、あのグロテスクな光景を耐えることはできなかった。

「うっ…うええ…ごほっ、ごほっ、おええ…」

数秒間吐いたあとに、ディパックの中にあったペットボトルの水を口に含み、ゆすいだ。
喉の中が焼けるような感覚。
間違いない。この場は異常だ。
振り回されていて忘れていたが、この場は殺し合い。ああいった怪物を、下手すれば殺さなくてはならない。
しかし、それが出来るのか?ナイトオウルはとてつもない絶望感と恐怖感に襲われていた。

「いや〜ないとおうる見たか?〈楽しい〉のお〜!」

だが、そんなナイトオウルの事など露知らず、卑弥呼は相変わらず楽しそうな表情を見せていた。
ナイトオウルは恐怖を覚えた。一体なぜ、この年端も行かない少女はけたけたと笑っていられるのか。

「…楽しいって…人が!人が死んだんですよ!なのになんで───」
「ないとおうるよ、妾は『楽しいこと』が見たいのじゃ。あれは実によかったのではないか」

震えながらのナイトオウルの声に対して、素っ頓狂に、当たり前のように卑弥呼は返した。
卑弥呼の目的はただ一つ。主催者に打倒するわけでもない、ただ楽しいものを見たいだけ。
それを見るのを邪魔する者が居るならば、殺すしかない。
彼女が生きていた時代も、それが当たり前と言えるものであり、彼女はただ『楽しいこと』を求めていただけ。
ゆえに戦争を起こし、魏の皇帝を洗脳したりと、散々なことをやり遂げることができた。
現代においては上手くいかず失敗することもあるがそれもまた一興。ムカムカするが結果的には楽しくなってしまうのだ。

「…もう嫌です!私はここから離れます!卑弥呼ちゃん!君は狂ってる!皆!皆どうかしてる!」

ナイトオウルはゆっくりと立ち上がると停めていたジープへと向かい始める。
足がふらつきながら、表情には軽蔑に近いものを伺わせてゆっくりと向かっていた。

「どうかしておるのはお主じゃ。ないとおうる。この場に呼ばれた段階で、そして君彦が殺されている間黙って見ていただけで───妾と大差ない」

それを見た卑弥呼は、また冷たく、ナイトオウルに言う。
ナイトオウルは気にもとめない。運転席に座ると、シルクハットを脱ぎ捨てて髪の毛をぐしゃぐしゃにした。
シートベルトを閉め、エンジンをかける。大きな音を立てて、ジープのエンジンが温まっていく。

「もううんざりだ…こんな場所」

そう言って、ナイトオウルはハンドルを握った、その時だ。
卑弥呼が手に持っていた鎖のような剣、『蛇腹剣』を取り出してブツブツと呪文を唱えると───ナイトオウルの首の右側を貫いた。
ナイトオウルは目を見開き、口を何回も酸素が足りなくなった魚のようにパクパクさせながら、卑弥呼の方を見つめた。

「…悪いのお、ないとおうる。お主を逃がしたら妾の悪評が広まってしまいそうじゃ」

やがて何かナイトオウルは言葉らしき音を発したが、口の中に広がる血が貯まり、ろくに喋れずに。そのまま糸が切れたようにその場に崩れた。
蛇腹剣を引き抜くと、卑弥呼は巫女服の中に仕舞い込む。

264楽しさと狂気と ◆/MTtOoYAfo:2015/06/11(木) 00:27:22 ID:2qbc99qQ0

(…妖力で動く剣、か…妾の知らないことがあるものじゃな)

彼女に支給された武器の1つは、ヘイス・アーゴイル特性の、魔力や妖力を原動力とする蛇腹剣であった。
魔力や妖力が無いものが使うとただの剣だが、あるものが使うと剣の部分がまるで鎖のように伸びていき、相手の急所を貫くことができる、というアーゴイル商店自慢の一品だ。

ナイトオウルは殺さずとも口封じのために拷問してもよかったかもしれないが、とちって殺してしまった。その点は反省すべきである。
ジープを運転する人間が居なくなってしまったが、この際仕方ないので自分で運転してみるとしよう。
ナイトオウルを運転席のドアを開けて外に蹴飛ばすと、卑弥呼は運転席に座った。

ぴこん。ぴこん。ぴこん。
高い金属音が鳴る。卑弥呼の巫女服の上着の中に閉まってあったレーダーだった。
近づいている参加者の首輪を探知するというものらしい。詳しいことは知らないが…なんにせよこの近くに二人、参加者が居るようだ。
方角、距離的にもB-6だろうか。

「折角じゃし行ってみるとするかのお…てぃあまとはつまらぬ外見になったし、他の参加者のところで楽しむのもいいじゃろう」

そう言うとエンジンがかかったままのジープをギアチェンジして、ゆっくりとアクセルを踏み込む。
鈍い音が鳴る。
向かう先は『楽しさ』を求めれる場所。
そのためならば殺すことも厭わないし、弱者のフリをするのもいいだろう。


「はははー!ゆけいゆけい!妾を止められる者はおらんわー!」

ジープが一台、闇を切って走り抜けた。

【鬼小路君彦@アースM 死亡】
【ナイトオウル@アースD 死亡】

265楽しさと狂気と ◆/MTtOoYAfo:2015/06/11(木) 00:32:59 ID:2qbc99qQ0
【F-6/ジープで平原を疾走/1日目/黎明】
【卑弥呼@アースP】
[状態]:健康、興奮
[服装]:巫女服
[装備]:無
[道具]:基本支給品一式、蛇腹剣@アースF、生体反応機
[思考]
基本:「楽しさ」を求める
1:アハハハハ!行け行けぇ!!
2:このままB-6を目指す
[備考]
※怪獣が実在することを知りました。

【生体反応機@アースEZ】
周囲二キロにわたって参加者の首輪を探知してレーダーに映す。
誰なのかまでは分からない。



「あー…かわいいなぁ。キスしたいくらいだよ…ほんと」

すやすやと眠るエンマを見ながら、柊麗香はうっとりとしながら呟いた。
先ほどの強さとは一転、疲れて眠っているエンマを見ると、悪戯をしたくなる。
ただそれは、子供の悪戯ではなく、もっと汚れたものではあるが。

柊麗香は男である。
吸血鬼の力を手に入れていた頃、通りすがりの可愛い女学生を捕まえ、『楽しんだ』あとに皮を剥ぎ取り、自分のものとした。
今は力を封じられて出来ないが───もし力が戻れば麗香は真っ先にエンマを狙うだろう。
勿論エンマの強さは知っている。おそらく上手くは行かないだろうが、麗香はそう願った。

「…駒にするには、勿体ないくらい。ほんとにそう思う」

髪もつやつやと艶があるし、流れるように美しい。肌は雪のように白い。
体には幼さが残るが、麗香としてはそれがまたそそる。
それにほどよい筋肉が彫像のような肉体を作り上げていた。

これが『自分』に出来れば、なんとよいことか。

「…ま、今は我慢ね。楽しみはあとに取っておかなくちゃ」

麗香は空を見上げた。
この殺し合いが始まってもう数時間だ。
吸血鬼の力を封じられてしまった自分が生き残れる自信はあまり無いが、エンマを使えばなんとかなるはずだ。

「楽しみは最後。今は生き残ることを優先しなくちゃね」


二人の楽しさを望む女が出会うのは、あと少し。
【B-6/町/1日目/黎明】

【柊麗香@アースP(パラレル)】
[状態]:健康
[服装]:多少汚れた可愛い服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:生き残る
1:早乙女エンマを利用する。
2:エンマちゃんかわいいよペロペロしてくんかk(以下略
※吸血鬼としての弱点、能力については後続の書き手さんにお任せします

【早乙女エンマ@アースH(ヒーロー)】
[状態]:疲労(中)、まだ回復中
[服装]:血で汚れている
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:師匠と合流して、指示を仰ぐ
1:zzz
2:麗香(名前は聞いていない)と一緒に師匠を探す

266楽しさと狂気と ◆/MTtOoYAfo:2015/06/11(木) 00:33:50 ID:2qbc99qQ0
以上です。
うーん。ちょっと無理やり感あるかも。
卑弥呼の行動方針とかその他もろもろ意見ある方はぜひ。

267楽しさと狂気と ◆/MTtOoYAfo:2015/06/11(木) 00:38:00 ID:2qbc99qQ0
だった。追記。
※鬼小路、ナイトオウルの支給品はそれぞれ二人の死体のそばにあります

268名無しさん:2015/06/11(木) 01:14:36 ID:2H9xHFcE0
投下乙!
自分の不利益だからとあっさりと人を殺す卑弥呼が怖いよぉ〜

269名無しさん:2015/06/13(土) 12:38:27 ID:C63eX0Hs0
おお投下乙です
怪獣としてのティアマトを愛していた君彦の無惨な死…
凶暴性の取り除かれた怪獣といつも暮らして愛玩化していた彼は、怪獣の本心を分かってあげられていなかったのかもしれないな
人間に近づいていくティアマトも悲しいが愉悦に生きて命の弄び方がひどい卑弥呼や人を皮としか思ってない麗香も怖い奴らだ

270 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:00:19 ID:q2MF8e5o0
投下します

271彼女は貫く胸の華 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:03:22 ID:q2MF8e5o0
 

 灰色の駐車場に、スパイダー・コルサのブレーキ音が甲高く響く。
 ドアを開いて白の建物を見上げると、上には赤の十字マークが見えた。
 ――間違いない、ここが病院だ。

 西崎詩織は、わずかに緊張を解いて、胸をなでおろす。
 やっと目的地に着いた――ただその一挙動も急ぎ目だ。
 ……救護物資や安全な休憩場所の確保。『旗』についての情報集め。
 この殺し合いや、先ほど見た触手のようなものを手から発する奇怪な少女に関する推理。
 まだやることはいろいろある。

 慌ててはならないが、怠けてもいけない。難しい話だがやるしかなかった。
 それにもちろん刑事として、そして大人として、同行者をいたわることも彼女は忘れない。
 車のエンジンを止め終えると詩織は、先ほど後部座席に保護した少女に優しい口調で語りかける。

「ごめんなさい、荒い運転だったかもしれないけど、病院に付いたわ。
 とりあえずここで休みましょう……いろいろ聞きたいこともあるけれど、心をまずは癒さないと……」
「……うぅ……」
「……!」

 ――ここでひとつの誤算が発生する。
 それは触手に襲われ衰弱したカウガール少女、不死原霧人が、
 病院に来るまでに意識を眠りに落としてしまっていたことだった。
 これはいけない。西崎詩織は奥歯をぎりと噛んだ。

 柔道で鍛えた詩織には体力はあるが、肉付きも体格もある少女を運ぶのは骨が折れる。
 時間がかかるし、移動の間は完全に無防備になってしまう。
 もし先ほどの触手少女がこちらを追ってきていたら。
 あるいは他の、乗っている参加者がこの場に来たら――。

「まずいわね……あなた、ちょっと、悪いけど起きて……?」
「……やだぁ……やだよ、サムライ……」

 身体を揺さぶって起こそうと試みるも反応は悪い。引っ張ってみても動かない。
 顔色は少し良くなっているものの、知り合いらしき人の名前を呼び、
 いじらしげに眉根を寄せて、苦しそうな息を吐くのみ。
 そういえば少女には名前すら聞いていなかった。これも誤算といえば誤算だが、

(どうする……? 西崎詩織。考えろ……!)

 状況をいい方向に向かわせるために、頭を回すのが先だ。

(この子をベッドまで安全に運ぶ方法――病院には傷病者を運ぶための担架はあるはずよね。
 ――いえ、一人じゃ担架を持っても意味がないわ。焦るな私、他になにか……。
 そうね、車椅子――車椅子に載せれば運べるし、それだけなら取ってくるにも時間はかからない。
 まずは車椅子を取ってきて、この子を載せて――待って。――そもそも、病院は安全なの?)

 聳え立つ無機質な病院を見上げて、詩織は思い至る。
 病院は目立つ施設だ。
 傷病者が多くなると予想される殺し合い状況下では、尚更その需要は高い。
 詩織が保護したい弱者も来るだろうが、それ以上にありうるのは、多少人が集まっていても関係なく、
 殺しを進められると自負している強者――乗っている者の襲撃ではないか。
 だとすれば病院は安全とは言い切れない。
 
(むしろ――誰かがすでに潜んでいる可能性も否定できない。クリアリングの必要性。
 でもそうなると、この大きな施設を1人で――? 現実的じゃないし、その間この子はどうするの?
 それに、もし乗っている者が――さっきの触手の子みたいな危険人物が来たとき、
 私に昏睡中のこの子を守れるだけの力が果たしてあるかと言うと――)

 ごくりと唾を呑む。汗で前髪が額に張り付く。
 未だ薄暗い空を覆うような高さの病院、という建造物が、だんだん詩織の心を威圧していく。
 泥沼に嵌る思考の中で、詩織はいったい何が正しいのか分からなくなっていく。
 こんなとき――黒田翔琉がいれば。
 あの、マイペースで豪放磊落で、けれど常に正しい道を進んでいく憎らしい探偵がいれば。
 あるいは今の詩織に、正解を示してくれるのだろうか?

(――なんて、探偵を頼ってるようじゃ私もまだまだね)

272彼女は貫く胸の華 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:04:30 ID:q2MF8e5o0
 
 頭をぶんぶんと振って悪い考えを振り払う。
 もっとシンプルに考えるべきだ。尊敬している父も言っていた。
 「迷うな。自分が正しいと思うことをしろ――正しさなんてものはいつも、自分の中にしかないのだから」、と。
 いま詩織が考える正しさは、憔悴した少女を安全な場所へと保護すること。
 幸い少女は襲われてはいたものの、外傷はなく手当ての必要はない。
 病院に安全要素と共に危険要素も感じ取ったのならば、病院にこだわる必要は、ない。

 地図を見る。 
 病院から一番近い施設は映画館、そして映画館前の駅。
 こんな状況で映画館に行こうという人間はあまりいないだろう。つまり逆に穴場ではある。
 しかし、駅――島に唯一用意されている交通網の近くというのは気になるところ。
 できればもっと、人気(ひとけ)がなさそうな場所。
 人が立ち寄る必要性を感じさせない場所のほうが都合がいい。
 
「……よし」

 もうちょっと、待っててね。
 詩織は後部座席に横たわって呻く不死原霧人に声をかけると、もう一度運転席に乗り込んだ。
 走らせ、病院の入り口付近で一旦止める。
 入り口付近には急患用の医療室があり、そこには一通りの医療道具が揃っていることを詩織は知っていた。
 ごめんなさい、と謝りながら鍵を自動小銃で破壊し、侵入して、医療道具をデイパックに詰める。
 それをトランクに詰め終えるまで五分とかからなかった。
 
(器物損壊、不法侵入、強盗行為か。緊急時じゃなかったら始末書じゃ済まないわね)

 なんて。呑気に考える余裕がまだあることに少しだけ驚きつつ、
 再び慣れない左ハンドルで、詩織と少女は病院を後にする。
 向かう先は――島の外周――森の先にぽつりと存在する、“屋敷”。

(救える命を救うこと。それがこの場で今、私がやるべきこと――そうよね? お父さん)

 胸ポケットに手を当てながら、気持ちを落ち着かせるための長い息を吐く。
 そこに収められている警察手帳には、桜の代紋が刻まれている。

 西崎詩織はそれを貫く。


******  
  

 ぐらぐらゆれる。そとのせかいをわずかにかんじる。
 でも、げんじつから、めをそむけたかった。
 あたしはゆめのなかにいた。

「やだぁ……やだよ、サムライ……」

 はじめてのヴィランとのたたかいで、アタシはまけてしまった。
 あいてはしょくしゅをつかっておんなのこをはずかしめてくる、ヴィラン。
 みためがつよくなさそうだったから、たいしたことないとゆだんした。
 とらえられて、ころされるとおもった。
 だけどあいてのもくてきは、アタシをころすことじゃなくて。ころされるよりおそろしいことをされた。
 こわかった。
 なのに、それいじょうに――――――アタシは。

「あつい、よ……あついぃ……」

 ――じわじわと。
 ヴィランにきざまれた“きず”が、ゆめのなかで“ねつ”をおびてくる。
 それはからだの“きず”ではない。
 アタシにきざまれたのは、こころの“きず”。

 はいぼくのきず。
 かいらくのきず。
 
 げんじつから目をそむけさせる、堕落への、いざない。

273彼女は貫く胸の華 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:07:02 ID:q2MF8e5o0
 
『んふふ、こんにちわ、お姉さま♪』

「……!」

 “それ”はアタシのすがたをとって、アタシのゆめのなかにあらわれた。

『あらぁ、驚かないでくださいまし。
 私(わたくし)にあなたの夢の中に入れるような力はありません。
 この私はあなたが見ている幻ですわ。私に刻まれた恐怖と――現実から逃げた後ろめたさが生んだ幻』

「なによ……アタシは、アタシは逃げないって……」

『逃げているじゃあ、ありませんか。
 眠るほど憔悴しているわけでもないのに、さっきあなたは、“起きるのを、拒否した”んですよね?
 まったく、助けてくれた人を困らせて。
 ちょっと怖い目にあったからって、わがまま言っていいと思ってますの? わるい子ですわ、わるい子ですわぁ♪』

「う……うるさい」

『あなたはいつも自分勝手なわるい子。正義に酔って、周りを顧みない子。
 手柄ばかり求めるその姿は、周りから見ればただのヒーローごっこ。成績は優秀でも――ヒーローの素質はあるのかしら?』

「うるさい、あんたにアタシの何が――」

『あら。私はあなたをよく知っていますわ。だって私はアタシですもの♪』

 闇ツ葉はららのことばづかいで、
 アタシのすがたをとった“それ”が、アタシをぎゅっと、だきしめる。
 いきなりのことにたいしょできない。
 アタシにだきしめられたアタシ。おどろくくらいの、あたたかさ。やわらかさ。
 こわがっていたこころが、どろどろにとかされていくみたいな。

『大丈夫。全部わかってますわ。
 あなたの苦しみも、悲しみも、ほんとうは誰よりもこわがりだってことも、アタシはぜんぶ分かってる。
 だから、――無理しなくてもいいんですわ。助けを求めても、いい。わがまま言って、良いんですのよ。
 だってあなたは今、“被害者”なんですから――あなたを咎めるひとなんていませんわ!』

 ぎゅーっと、だきしめられながら。
 みみもとでささやかれるあまいことば、うれしくて。
 アタシはからだのちからをぬいて、ぐずぐずにとろけていってしまう。

『いい子、いい子ですわ。わるい子でいても、いい子なんですわ』

 それはとてもきもちいいこと。
 なにもかんがえずに、
 じぶんだけにしたがってしまうのは、とてもとても、きもちいいこと。

『快楽には、人間は逆らえない。だから逆らわなくていい。さ、お姉さま――きもちよく、なりましょう?』

 アタシが心に咲かせていた、 
 勇気、の花が、じわじわと、堕落の熱につらぬかれて。
 意識が、どんどん――ゆめに“お”ちていく。
 

******


 屋敷は南蛮風のハイカラな外見をしていた。
 好事家が町のはずれに立てたのだろうか? プールなども完備されていて、豪華なつくりだった。
 中は一部屋一部屋が広い単純なつくりで、クリアリングも手早く済ませることができた。
 それでも一人でやったならもう少し時間はかかってしまっただろうが、
 幸いなことに詩織が屋敷に着いたとき、そこには正しい心を持った先客がいたのだった。

274彼女は貫く胸の華 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:09:38 ID:q2MF8e5o0
 
「――頼もしい人と合流出来て助かりました。感謝します、十兵衛さん」
「いいってことよ。霧人も連れてきてくれたことだしな。……して、嬢ちゃんたちはどうだ?」
「どちらもまだ、起きないわ。それにしてもこっちの子、脇腹にあざができてるわね。
 傷害罪。一体誰がこんなことを……犯人を見つけたら捕まえなきゃいけないわ」
「お、おう、そうだなぁ……」

 いま、西崎詩織は柳生十兵衛と共に屋敷の寝室に不死原霧人と花巻咲を寝かせ、一息ついたところだ。
 最初にこのスーツの男――柳生十兵衛に出会ったときは、少し疑いもした。
 気絶した少女を扉のそばの壁に寄り掛かるようにして座らせて屋敷の扉に手を掛けようとしていた、鋭い眼をしたサムライのような顔の男。

 すわ少女を手に掛けんとする犯罪者かとも疑いかけ、
 思わず銃と警察手帳を手に飛び出してしまったが、早とちりだとすぐに気づかされた。
 男はすぐに両手を挙げて潔白をアピールしたあと、後部座席の少女を見て驚いて駆け寄ると。
 娘の無事を確認した父のような、あるいは妹の無事を確認した兄のような表情で、嬉しそうに破顔したのだ。

 そう、伝説の剣豪と同じ名前を持つこの柳生十兵衛という男こそが、
 詩織が助けた少女、不死原霧人が言った“サムライ”だったのである。
 彼によれば肩に抱えていた少女は何者かに殴打されて森の中で倒れていたという。

「まったく、幼気(いたいけ)な女の子に危害を加えるなんて、これをやった奴は最低ですね、十兵衛さん」
「おう、本当にな……まったくそうとしか言いようがない」
「……どうかされました?」
「!? い、いやぁ何でもねぇよ。ちょっと俺も疲れがなほら、運んできたから」
「ああ、そうでしたか。そしたらそちらの茶菓子でも食べながら、少し休憩しましょう」

 詩織は十兵衛に支給されていた箱詰め和菓子を指して言う。
 4人分の支給品はもう確認したが、さしあたり有用そうなものが発見されることは無かった。
 武器は十兵衛が助けた少女、花巻咲――学生証がポケットの中から見つかった――が持っていた鉄パイプ。
 霧人が使っていたロープ。詩織に支給されたジェリコのみ。
 
 数でいえば6つあった不明支給品は、それぞれテーブルに載せられている。
 箱詰めクッキー、推理小説、扇子、青のペンライト、魔よけのお札、そして宝箱。
 宝箱については鍵で開けなければいけないタイプで今は手が付けられない状態だ。

「お、このクッキー美味えな。どこのブランドだ?」
「箱には徳川家の家紋が入ってますね。うーん、こんなブランドあったかしら。でも美味しい」
「にしても鉄扇かと一瞬思ったが、似たデザインでもただの扇子じゃあなあ……」
「魔よけのお札も、本当に効果があるのかどうかいまいち分からないところですね」
「あ、西崎さん――だっけっか? 俺に別に敬語使わなくていいぜ、俺ぁそんな偉ぇやつじゃねえ」
「そう? じゃあ、そうさせてもらうわ、十兵衛さん」
「おうおう。そっちのほうが俺としても話しやすい。さて――」

 十兵衛は天蓋つきの二つの大きなベッドの方を見る。
 苦しそうな息を吐いていた霧人も、頭に濡れタオルを載せると少し良くなった。
 花巻咲のほうも今の所ぐっすりと眠っている。
 踏み込んだ話をするなら、今だ。

 テーブルに座る詩織と十兵衛。十兵衛が、推理小説に手を伸ばす。

「これ――覚えあるかい? 西崎さん」
「ないわね。かといって勝手に書かれたにしては、詳細まで詰められすぎている」
「ってえこたぁ、そういうことってわけだ。あんたは“他の世界”じゃ、小説の登場人物になってるんだな」

 タイトルは『メイドは見た!~あるじ様、殺人事件でございます。~サラ・エドワーズの事件簿』。
 その推理小説に書かれていたのは、
 詩織があの黒田翔琉とイギリス旅行へ行く羽目になって、
 しかも事件に巻き込まれることになった時の話をそのまま小説にしたようなものだった。

 詩織はイギリス旅行の話を誰かに大っぴらに話したことはない。
 事件を解決したのはメイドだったし、
 黒田と一緒に旅行に言ったと周りに知れたら自分の探偵嫌いキャラに影響が出るからだ。
 にもかかわらずその話がこうして小説になっている。自分と黒田しか知らないような場面まで含めて。

275彼女は貫く胸の華 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:12:28 ID:q2MF8e5o0
 
 黒田が誰かに事件の話を聞かせ、その誰かが小説にしたという可能性は残るが、
 詩織の知る黒田の知り合いに小説家は居ないし、黒田がそういうことをする男だとはあまり思えなかった。
 あの男は基本的に解いた事件には興味を無くす。
 とすればこれは誰が書いたのか。
  
「他の世界……ねえ」

 この謎を解決する方法が、柳生十兵衛が示した異世界論だ。
 曰く、――世界はひとつじゃない。
 様々な世界が存在していて、自分たちはそのいずれかから集められたのだと。

「俺ぁ実際、世界渡航を経験したこともあってな。人よりは察しが早かった。
 首輪の“あるふぁべっと”が、その世界を表してるんだとすりゃあ辻褄も合う」
「霧人ちゃんとあなたが『H』、私が『D』、咲ちゃんが『R』……確かにね。
 そちらの世界はヒーローとヴィランが跳梁跋扈する世界。に対してこっちは、探偵と怪盗の世界、か……」
「ちなみに俺が元いたのは江戸がずうっと続いてる世界だった。
 あんたが俺の名前に憶えがあるのも、そっちの世界の俺が居たってことだろうなあ」
「じゃああなたは他の世界の、私が知っているのとは違うけど同じ、
 剣豪の十兵衛そのものってことになるわけね――ややこしいわね!」
「そうだややこしい。
 そんで、あの“あかね”とか言う奴がどうしてこんなややこしいことをしたのかも、謎だ」

 詩織は口をつぐんだ。
 そうだ。一番考えなければいけないのはそこだ。
 様々な世界から人を集めて殺し合わせたのが仮に真実だとして、
 どうしてそんなことを主催はしたのか。
 ――分からない。はっきりいって、手掛かりが少なすぎる。ただ、

「世界、といえば、『旗』のこともあったわ」
「『旗』?」
「私がここに来る前、私の世界中の人が目の前に『旗』の幻覚を見ていたの。
 危険が迫っているのか、旗はほぼ全員が赤い色で――たまに青や黄色の人もいた」
「俺のほうじゃ、そういうことはなかったなぁ。だが」
「だが?」
「主催の奴がいろんな世界に手を出したってんなら……その『旗』も奴らの仕業かもな」
「……!」

 十兵衛の意見に詩織は目を見開く。

「あの赤旗が――主催からのメッセージだった? ここに連れてくるっていう?」
「かもな、ってだけだ。なんで西崎さんの世界だけにその『旗』が現れたのかも分からんし、
 それに世界の全員が『旗』を見たってんなら、それはそれで矛盾もある」

 そう言って十兵衛が取り出したのは、参加者全員に配られていた“参加者候補”のリストだ。
 詩織も確認済だが、そこには詩織の知る名前は十名に満たない数しか書かれていない。
 世界中に現れた『旗』の数に対しては、その候補者数は少なすぎる。

 殺し合いに連れてくるという行為に対して『旗』で知らせたのだとすれば、
 リストにはもっと多くの名が書かれていなければおかしい。
 ――結局、これについても不明点ばかりが挙げられ、答えには辿り着けそうになかった。

「実のある話ではあったけど、根本的な所は煙に包まれたままね」
「まだこんなもんだろうな。もしかしたらそこの宝箱からとんでもない情報が出てくるやもしれんし、
 焦らず気長にいくとしましょうや。それで――ものは一つ、相談なんだがな」
「何?」
「実は俺、ちょいとした焦りから、お前さんに一つ吐いちまってる嘘があってだな――」

 と。
 推理パートも一息ついて、
 十兵衛が改めて自分の罪を詩織に告白しようとしたときだった。


 ぴんぽーん。


 と、屋敷のチャイムが鳴らされた。

276彼女は貫く胸の華 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:14:38 ID:q2MF8e5o0
 
「……来客?」
「にしては――おかしくねぇか。チャイムを鳴らすってのは、“中に人が居るかも”って分かってるってことだろ」
「車は屋敷正面に停めたままだから、それ自体はあまりおかしくないんじゃ?」
「ここに最初から車があったとも考えられるだろ。……まあ、そうなるとチャイムを鳴らすこと自体は変じゃないが……」
「いいえ、待って。十兵衛さん、扉に鍵はかけた?」

 詩織ははっとした表情で十兵衛に問いかける。

「いーや、掛けてない」
「じゃあやっぱりおかしいわ。この状況で、入ってこれるのにわざわざチャイムを鳴らしたってのは――」

 バタン!!
 続いて聞こえたのは、少しいらついたような――扉が閉じる大きな音。

「どちらかというと、迎えに出てきた人を襲うための策よね」

 敵襲――そうと決まれば二人の行動は早い。
 跳ね上がるように椅子を蹴り、十兵衛が霧人の前へ。詩織は先の前へと動いた。
 広い寝室、窓を背に、守りの体勢。
 十兵衛は鉄パイプ、詩織はジェリコを握って、扉を見つめ呼吸を整える。

「安全な場所だと思ってここに来たのに、なかなかそんな場所ってのも無いものね……」
「そうやって軽口叩けんなら上等。神経研ぎ澄ませろよい、来るなら一瞬だ」
 
 十秒……変化なし。
 二十秒……変わらず。
 三十秒……誰も来ない。



「死ね――――化け物ッ!!!!」



 四十秒。
 少女は、窓を破って部屋に入ってくる。
 正面扉を閉めた大きな音は陽動だった。少女は正面から中に入ったと見せかけ、
 実際には屋敷の周囲を回って人の居場所を突き止めていたのである。

「な、」

 詩織が振り向いた時にはもう、小さな殺人鬼は獲物にドスを突き刺そうとしていた。
 学生服の少女が狙っていたのは――眠っている不死原霧人。
 の心臓で、

 キィン!

「おいおい、部屋はノックしてドアから入れってぇ、教わらんかったかね、嬢ちゃん!!」

 一直線に向けられたその殺意は、鉄パイプによって弾かれる。
 柳生十兵衛。
 不測の事態にも反射で動けるのが剣豪だ。
 弾いてそのまま、鉄パイプを剣に見立てて少女の脳天めがけ振り下ろす。容赦している場合ではない。
 だが、少女のほうは柳生の剣を幾度か体験済みであった。
 一般人なら避けられない速度のその大上段を、ひらりと蝶のようにかわす。
 柳生はさらに踏み込む。
 襲撃少女はドスで受け流すも、絶対的な筋肉量の差がそこにはある。打ち合いは不利。

「ぐぅ――邪魔……邪魔しないで!! 殺させて、あたしにその化け物を!」
「人違いじゃねぇのか! こいつはれっきとした人間だぞ!」
「違うわ! そいつはね、人の皮を被れるの!」

 だから姿なんて何の指標にもなりはしないのだと吐き捨てて。
 少女は咲く。
 アクロバティックに空中で回転すると、窓枠を蹴って天井へ。
 天井を蹴って、ベッドの天蓋を貫きながら、憎悪を殺意に乗せて叫ぶ!


「その纏ってる“淫気”! 間違いない、そいつが――朔(さく)を殺した『化け物』だ!!」
 
 
「だから! 何言ってんのかさっぱりなんだってぇの!!」


 しかし天蓋を目くらましにしての刺突さえ十兵衛には通じなかった。
 ラメ入りビーズで彩られたドスは、大きなベッドのマット部に思い切り突き刺さるのみで手ごたえ無し。
 十兵衛はその前にとっさに霧人の身体を抱きあげて、テーブルの方まで飛び離れたのだ。

277彼女は貫く胸の華 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:16:40 ID:q2MF8e5o0
 
「はぁ……はぁ……あんたの太刀筋……見覚えあるわよ……柳生ね?」
「……いかにも。俺ぁ柳生の十兵衛よ」
「いつもいつも……邪魔をしてくれるわね……分からないの? そいつが纏ってるおぞましい淫気を!」
「淫気だぁ……?」
「じ、十兵衛さん! 霧人ちゃん! だ、大丈夫!?」
「おうよ、何とかな! だがこいつぁ骨だぜ……!」

 西崎詩織はここでようやく状況を把握した。
 あまりに詩織の常識から離れた戦闘光景に、眼と脳が追いつかなかった。
 気づけばベッドは一つ大破していて、その上に膝を突く少女がマットからドスを抜き、立ち上がるところ。
 襲撃者のその少女は――見目麗しい色白小柄で、服から察せるにまだ学生。
 首輪の文字は『P』。
 またも詩織とは別の世界の住人か。
 整っているはずのかんばせも殺意に歪みきって、全身から黒い炎が吹き上がっているかのよう。
 そして――淫気、というワードをしきりに叫んでいる。
 詩織はそれに心当たりがあった。

「あなた! そっちの子が纏ってる淫気ってのは、さっき襲われたときに……」
「外野は黙ってて! これはあたしの復讐だ! 邪魔するならあんたも殺す!」

 襲撃者の少女が殺そうとしている不死原霧人が、先ほど襲撃された案件――あの触手の少女。
 今にして思えばあれもまた、別の世界の住人なのだろうが、
 あれに襲われた名残は、まだシャワーも浴びれていない霧人に色濃く残ってしまっている。
 もしかしなくても、襲撃少女はその残り香を自分の復讐相手と勘違いしているのではないか。
 そう推理して伝えようとするも、襲撃少女に言葉は届かない。

「西崎さん、こいつは俺が相手する! サキちゃんのほうは頼む!」

 十兵衛は霧人を広いテーブル上に寝かせると、再び鉄パイプを構え襲撃少女に対峙する。
 詩織は言われたとおり、銃を襲撃少女に向けつつ花巻咲をより守るような位置へと動く。
 先の戦闘シークエンスだけでも、この場で自分が戦いに加わっても何も手助けはできないということは理解済だ。
 それに、襲撃少女もあり得ない動きをしているが、
 おそらく全力でぶつかれば十兵衛のほうが一枚上手だということも、詩織には把握できていた。
 人を見る目はある方だ。
 この場は、十兵衛さんに任せておくのが最もリスクの少ない場面――。



「あつい」




「あついよぉ、サムライ……っ」
 
 
 
 だが、戦況は変わった。
 騒々しさにいよいよ起き上がった不死原霧人が――惚けた口調でサムライを呼んだかと思えば。
 彼女は目をとろんとさせたまま、後ろから、柳生十兵衛に抱きついたのである。

「なっばっ――み、霧人!?」
「サムライー……サムライの、におい……あんしん、する……」
「馬鹿やめろい! どうしちまったんだおめぇ、」
「あつい……あついの、あつくて、こわいの、ねぇサムライ……なぐ、さめて……?」
「……な――」

 媚を売る姿はまるで娼婦のように。
 夢心地、上目使いに訴えかけるそれは今まで見たこともないような同居人の蕩け顔。
 さしもの柳生十兵衛であってもこれには意識を乱さざるを得ない。
 カランと鉄パイプを取り落とし。
 大きな空白時間を脳内に生んだ。
 その隙だらけの心では。

278彼女は貫く胸の華 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:18:50 ID:q2MF8e5o0
 

「……ほら、やっぱりそいつが化け物だ!!」
「!!」


 十兵衛は壁を天井を咲いて迫り来る襲撃者に対して、反応することが出来なくて。


「――やめなさいッ!!」


 だから西崎詩織は、引き金を引いた。


******
 
 
 フラウ・ザ・リッパー肩斬華の誕生は数年前に遡る。

 彼女には親友がいた。
 名前は、鼻木朔(はなき・さく)。
 アースRにおける片桐花子の親友、花巻咲(はなまき・さく)に値する人物である。

 むかしは内向的だった花巻咲の対になるように、鼻木朔は行動的な人物で、
 当時は普通の少女だった華も彼女に引き摺られるようにして色々なところへ出かけた。
 どんなときでもよく笑い、快活なエネルギーにあふれている朔のことを華は信頼していた。
 だから6月、肝試しの時期に危険な路地裏に行ってみようとの誘いも、
 止めもしなかったし断りもしなかった。

「だ、大丈夫なのかな……」
「鬼が出て取って喰うなんてことがない限り大丈夫でしょ!」
 
 結果として、鼻木朔は闇から出てきた吸血鬼に取って食われ、
 その存在を皮だけにされて、何者かも分からなくされて、死んだ。

 華は親友が食べられ、中身を吸われて皮だけにされ、
 その皮を着られる過程を、隠れさせられたゴミバケツの隙間から全て見ていた。
 あまりの出来事に覚えることが出来たのは、
 その光景と、化け物が漂わせていた性のにおい――淫気だけだった。

 ゴミバケツの中で固まっていた華は警察に保護された数日後、図書館に籠って調べた。
 どうやら少女の失踪事件はここ最近になって急増しているらしい。

 ――あいつだ。
 ――あいつが少女を食べているんだ。
 ――少女を食べて、少女に成り代わっているんだ!
 
 華だけがそれを知ることが出来た。
 だから華だけが、そいつを退治することができる。
 華は決意した。――あたしがあいつを、必ず殺す。

 フラウ・ザ・リッパーの誕生である。

 化け物はどいつに化けているのか見当もつかないから、
 華は淫気を身体に染みつかせた少女や女性を手当たり次第に殺すほかなかった。
 それはほとんどが外れで、娼婦や援助交際後の学生だった。
 殺人を犯したあとはきちんと“中身”を引きずり出し、
 あのおぞましい化け物かどうかを確認したから間違いなく言える。
 まだあの化け物はどこかで少女の皮を被って生きながらえていると。


 この殺し合いに呼ばれたときもだから彼女は元の世界に帰ることしか考えていなかった。
 柳生宗矩に「戯れ」と揶揄された彼女の復讐を完遂させることだけが彼女の生きている理由であり、
 こんなふざけた殺し合いに関わっている暇などなかったからだ。

 男という時点でありえないと思ったが、最初に出会った長耳の男からは淫気は感じなかった。
 やはりこの島には仇敵はいないのだろう。そう思って海の方へとあてどなく歩いて、
 屋敷の近くにまで来たところで、華は急に驚くほどの淫気を感じた。
 そう、闇ツ葉はららが不死原霧人になすりつけた触手粘液――その淫気である。
 感度を倍増させる魔力が込められたその粘液から発される淫気たるや並みのものではない。

 間違いなく、屋敷に“奴”がいる。

279彼女は貫く胸の華 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:20:45 ID:q2MF8e5o0
 
 実際のところ、彼女の仇敵である柊麗香は今や魂吸血能力を封じられてしまっており、
 身体に纏う淫気もそう強いものではないのだが……。
 あくまで淫気だけを頼りに彼女(彼)を探している華がそう勘違いしてしまうのも、無理はないといえよう。
  
 ともかくそれが、肩斬華が不死原霧人を狙うこととなった理由であり。

 それを邪魔した西崎詩織が、殺された理由でもある。


「あたし言ったよね――? 邪魔するならあなたも殺すって」

「……警察はね……人を助けるのが仕事なの……命が奪われるところを、黙って見てるなんて、出来ないわよ……」


 詩織の胸にはドスが突き立てられている。
 ジェリコから放たれた銃弾を躱したフラウ・ザ・リッパーが返す刀で投擲したものだ。
 それは寸分違わぬ正確さで、詩織の警察手帳を貫いた。
 彼女の胸の華を。
 心臓まで。
 ――その一撃で、詩織の死は確定した。

「はーっ……ねえ、せっかくこっちを向いてくれたんだし……私の推理、聞きましょうよ」
「どうして初対面の人の話をわざわざ聞かなきゃいけないのか、教えてくれるならいいけど」
「あなたは、大切な人のために殺しをしてる」
「……へぇ」
「いっぱい犯罪者は見てきたからね……見れば、なんとなく分かるわよ……どう?」
「そうね。正解よ。でもだから何なの? 復讐しても誰も喜ばないとか、そういうきれいごとを言うつもりなら」

 そんな葛藤はもう通り抜けたよ――と華は言う。
 がばっと制服をずらし、ブラをずらし、見せるのはいつも鏡で確認する彼女の花。
 入墨されたそれはシロツメクサ。
 花言葉は、「幸福」「約束」「私を思って」「私のものになって」、そして、「復讐」。

「あたしはあたしの胸に咲いた、この花を貫くって決めたんだ。迷いなんて、遠い昔に捨ててきた」
「……そうね……そこまで決意してるんだってのは、伝わってきたわよ。
 でもね……あなた、多分、考えられてないわ……“復讐を終えたのこと”をね」
「何……?」
「復讐の先には――何もないわよ」

 それは彼女の口から発されたとは思えないほど、重いトーンの言葉だった。
 たくさんの事件を、たくさんの復讐とその果てを見てきた詩織だからこそ言える言葉。

「達成感も……喜びも……嬉しさすらも、そこにはないの……。
 ただ、結局大切な人は帰ってこないって言う、虚しさだけが残るだけ……。
 仮に復讐を遂げたとしたら……あなたはその先、何の目標もない世界で生きる苦しみを、味わうことになるわ。
 それってきっとね……なによりも、かなしいこと……」
「……」
「あは……もう、げんかい、みたいね……。
 ……あなたのことも、すくい、たかったのに……悔しいな……」

 どしゃり。
 肩斬華が言葉を言い返す前に、西崎詩織は床に崩れ落ちた。
 そしてすぐに、動かなくなった。
 心臓を刺されて生きている人間はいない。当たり前だ。


【西崎詩織@アースD 死亡確認】


「……何よ。言うだけ言って死んじゃってさ。そっちこそ自己満じゃん」

 ようやく返せた言葉もなんだか負け惜しみみたいになって、肩斬華はいらいらした。
 いらいらしていたから、ドスを抜いて再度手にしようと詩織の方へ一歩向いたところで、
 自分に向かって投擲されていたロープに気付くことが出来なかった。

280彼女は貫く胸の華 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:22:34 ID:q2MF8e5o0
 
「なっ」

 ぐるりと巻かれるロープ。
 速度と瞬発力に定評のあるフラウ・ザ・リッパーでも、その縛りから抜け出ることはできなかった。

「やって……みるもんだな、他人の武器を使うってのもよぉ……」

 ロープの先に目を向けると。
 鬼のような形相をした男が、射殺すような目線を華に向けていた。
 傍らには腹部を抑えてのたうちまわる不死原霧人の姿。
 柳生十兵衛はまとわりついてくる霧人に、花巻咲にしたように無慈悲な鉄拳を叩きこみ、
 その腰につけていたロープを奪い取ると肩斬華を捕縛したのだ。

「なんで……いたい、いたいよ、サムライ……」
「何でもくそもあるかぁッ! 色に惑わされおって、お前さんは後で説教だ!
 ……ああくそっ、情けねえ! 弱さに堕ちた霧人も、そんなこいつに一瞬でも乱された俺も!
 霧人を助けてくれた恩人を、目の前で殺されて――武士(もののふ)失格じゃねえか!
 腹ァでも斬りてぇ気分だが……、その前にお前さんにゃあ、これ以上の狼藉を許さねぇぞ……!」
「……ぐ、あ、あああッ!」

 ぎりぎりと食い込んでいくロープ。
 未熟な霧人のそれと違って手首をしっかりと固定する捕縛の仕方であり、抵抗できる隙は皆無である。
 
「主催の思惑に乗るのは癪だが、お前さんを生かしておくのは危険すぎる。殺させて、貰う!」
「かはっ……!」

 十兵衛がロープを捌くと、肩斬華の首にそれは巻きついた。
 奇しくも元の世界で、柳生を名乗るアイドルにされたのと同じ――首締めという方法で。
 今度はフラウ・ザ・リッパーの命の灯が脅かされる番となる。

「ああああ……ア……」
「……何やら言いてえこともあるみてぇだが、俺は聞かねえ……地獄で閻魔にでも愚痴るんだな!!」
「が……」

 口上までもなぞらえて同じような展開。
 前回は男の娘スレイヤーが現れて肩斬華は幸運にも救われたが。
 まぐれは、二度はない。
 今度こそ肩斬華の喉は潰され、骨は折れて、彼女は地獄へと向かうだろう。
 普通であればそうなる。
 だがしかし――殺し合いという状況。
 そして異世界から集められた様々な因果が、普通の展開を歪ませて。

 胸に咲いたクローバーの化身は、彼女にまたも、偶然の幸運を呼び込む。



「は――花子ちゃんに、なにしてるの!!」



 その幸運とは、その場にいた誰もが意識を外していた、もうひとり。
 花巻咲であった。
 彼女が震える手で握るのは、先ほどまでは西崎詩織が握っていた自動小銃。
 そしてそれを向ける先は、彼女にとっての友達の姿をした少女を殺めようとしている、柳生十兵衛。

「わ、私の友達を、殺さないでっ!」
「な……」
「いますぐその縄、緩めてよ、じゃないと――う、撃つわよ!? というか、う、撃つ!!」
「おま、落ち着け――」

 落ち着けるわけもない。引き金を引くなら一瞬だ。
 ドン、という発砲音。
 咲が持つジェリコの銃口から発射された銃弾は――これまた幸運にも。
 あるいは不運にも、なのか。柳生十兵衛の腹部へと着弾した。

281彼女は貫く胸の華 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:24:07 ID:q2MF8e5o0
 
「ぐ……あ……っ」
「に、逃げよう花子ちゃん!! この人から逃げるの!」
「ま、待って、あそこに朔の敵が――ってえ? ええええ? さ、朔(さく)??」
「そうだよ咲(さく)だよ花子ちゃん! ね、早く!」
「うそ……うそだ……でも、淫気は感じない……何で……?」
「ああもうじれったいんだってば、行くよ!」

 腹部を抑え膝をつく十兵衛を後目に、混乱する華を引っ張るようにして咲は
 サッカー部マネージャーで鍛えたのだろうバイタリティで窓を踏み越えると、華に手を差し伸べる。
 ロープが緩み、抜け出せるようになった華は、
 何が何だか分からないままにその手を取り、窓から逃げ出した。
 
 二人の姿が窓の外から見えなくなるまで、二分とかからなかった。


【H-4/森/1日目/黎明】

【花巻咲@アースR】
[状態]:軽傷(腹部)
[服装]:学生服
[装備]:ジェリコ941(13 /16)@アースR
[道具]:なし
[思考]
基本:帰りたい
1:花子ちゃんと合流できた、やった
2:十兵衛許せない
[備考]
※肩斬華を片桐花子と間違えました。
 
【肩斬華@アースP(パラレル)】
[状態]:健康、疲労(小)
[服装]:学生服
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1~2
[思考]
基本:元世界へ帰る
1:『化け物』に復讐する
2:え……朔???
3:不死原霧人=『化け物』のはず
4:『淫気を発してる女』は見かけ次第殺す
5:『淫気を発してる女』でなくても自分の邪魔をすれば殺す、かも
6:復讐の先には何もない、か……。
[備考]
※花巻咲に対しかつて殺された親友、鼻木朔の面影を見ています
  

******


 ――不死原霧人が正気を取り戻したのはそれから数分後のことだった。
 部屋に充満し始めた血の匂いが、快楽と堕落の負の引力から霧人の精神を引き上げた。

「え……さ、サムライ……」

 まず目に入ったのは、倒れている十兵衛。その腹部から広がる血だまり。
 苦しそうに息を吐きながら、時折ぴくり、と動いている。
 まだ生きている、けれど声もない。……非情に危ない状況だ。
 そしてベッドの近くにも女の人が倒れている。
 こちらは胸のあたりに、ラメ入りビーズでデコられたドスが刺さっている。
 ――駆け寄って手を取ってみると、死んでいた。
 どうして。どうしてこんなことに。どうしていったいこんなことになっているの。

「あ、アタシ、な、何を――何をしてたの――?」

 ちかちかという頭痛と、腹部の痛みと共に思い出す。
 先ほどの先頭で自分が犯した罪をありありと思い出してしまう。
 弱さから甘い言葉の夢に堕ち、痴女じみた言葉を遣い、十兵衛に抱きついて――。
 そのせいで、女の人が――アタシを助けて、くれた人が――死んでいる。
 アタシが――アタシのせいで。
 あのときちゃんと起きていれば――夢の中に、逃げ込まなければ……。

「あ……あああ、う、う……ああああああ!!!」

 頭を抱えて霧人は叫ぶ。
 その叫び声に触発されたのか、辛うじて十兵衛が言葉を紡ぎだす。

282彼女は貫く胸の華 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:27:03 ID:q2MF8e5o0
 
「み、霧人……起きたか」
「さ、サムライ、どうしよう、どうしよう、アタシ――」
「いいか――西崎、さんが、医療道具をデイパックに詰めてる。使え。医療マニュアルの授業、覚えてるかい」

 十兵衛は、出血で体力を奪われながらも冷静に霧人に指示する。
 霧人も理解力は低くない。パニックを一旦遠くへ置いておいて、いま自分がやるべきことを見つけ出す。

「う、うん、覚えてる……覚えてるよ、だから……た、助けるから! しなないで、サムライ!」
「おう、まだ死なねぇよ……ああ、しかしちくしょう……」

 慌ただしく西崎詩織のデイパックを取りに行く霧人の姿を最後に視界に収め、
 ヒーロー世界のサムライは、静かにその意識を手放そうとしていた。
 最後に――悔恨の思いを込めて、一つだけ呟く。

「あの子の名前……咲(さき)じゃなくて、咲(さく)だった、か……」

 ――学生証には漢字の読み方まで書いてねえもんなあ。
 ――いやいやホント、やっちまったやっちまった。

 ――あ、まだ死なねえよ死なねえ。
 ――こんな失態ばっかで死んじまったら、親父殿に笑われっちまうってえの。


【H-4/屋敷/1日目/黎明】

【柳生十兵衛@アースH】
[状態]:重傷(腹部に銃創)、気絶
[服装]:スーツ
[装備]:ロープ@アースR
[道具]:支給品一式、鉄パイプ@アースR
[思考]
基本:刀返してもらってすぐに主催者を切り伏せる
1:ちくしょう…こりゃぁ武士失格レベルの失態
2:基本挑む奴には容赦はしない。
3:今日の献立を考える
4:霧人にはあとで説教だ
[備考]
※アースDの情報を共有しました。

【不死原霧人@アースH】
[状態]:軽傷(腹部)
[服装]:カウガール
[装備]:医療道具
[道具]:基本支給品、ジェリコ941の弾《32/32》
[思考]
基本:この殺し合いを終わらせる
1:サムライ(柳生十兵衛)を助ける
2:闇ツ葉はららへの恐怖
3:アタシは一体何を……ヒーロー失格じゃん……。
[備考]
※名簿は確認しています。


※スパイダー・コルサ@アースAがH-4屋敷前に停まっています。
※西崎詩織の胸にデコ・ドス@アースRが刺さっています。
※H-4屋敷の寝室テーブル上に以下の支給品があります。
 箱詰めクッキー@アースE、推理小説@アースR、扇子@アースR、
 青のペンライト@アースC、魔よけのお札@アースG、宝箱@アースF

283彼女は貫く胸の華 ◆5Nom8feq1g:2015/06/14(日) 06:29:48 ID:q2MF8e5o0
投下終了です。以下、支給品


【箱詰めクッキー@アースE】
 徳川家康の甘味処でお土産用に売っているもの。匠の味。

【推理小説@アースR】
 『メイドは見た!~あるじ様、殺人事件でございます。~サラ・エドワーズの事件簿』。
 サラ・エドワーズ最初の事件が収録されている。

【扇子@アースR】
 修学旅行で京都で買う感じの扇子。柳生十兵衛の鉄扇とデザインだけ似ていた。

【青のペンライト@アースC】
 スライムちゃんのライブ会場で売られているペンライト。中身は回復薬。

【魔よけのお札@アースG】
 アースGの神々がありがたい力を籠めて作ったお札。聖なる力で邪を払う。

【宝箱@アースF】
 アースFに点在する「ダンジョン」に存在する過去の遺物。開けるには銀の鍵が必要。

【デコ・ドス@アースR】
 御園生優芽が愛用しているドス。ラメ入りビーズでデコられている。

284名無しさん:2015/06/14(日) 09:04:46 ID:NcWmU5g.0
投下乙です!
西崎の死、フラウと柊の因縁、アース設定の活用
様々な要素が含まれた良作でした!

個人的に好きなシーンはフラウと咲が出くわすシーンですね
この二人がこれからどうなるのか気になります

285名無しさん:2015/06/15(月) 01:53:53 ID:zeZY/ChA0
投下乙!
宝箱の中身が気になるなぁアースF産だからマジックアイテムかな?

286名無しさん:2015/06/16(火) 12:17:46 ID:F.zpVZIs0
投下乙!
うわあ…これはなんてこった…すごいことに…
こういうのあるから並行世界設定はおもろいところがあるね。


そしてやはり触手プレイの障害はでかかったか…
そりゃ霧人ちゃんがメスの顔になったら柳生も困るわ

あと詩織ちゃんが死んだのでかいな黒田さんがどうなるか…

逃げ出した咲と華はどうなるんだろう…

色々先が気になる話でした。

287こんどの敵は、デカスゴだ。 ◆hRdS/lFjKw:2015/06/18(木) 23:30:22 ID:Ovh/MFRM0
投下します。遅れて申し訳ありません。

288こんどの敵は、デカスゴだ。 ◆hRdS/lFjKw:2015/06/18(木) 23:30:47 ID:Ovh/MFRM0
「なんなのあのでっかいモノ…」

片桐花子は酷く混乱していた。
目が覚めたら見知らぬ場所に連れてこられ、首輪を嵌められて殺しあえと言われた―。
これだけでも十二分に現実離れした突拍子もない出来事ではある。しかして、その現実離れした舞台で花子が最初に見た物は吐き気を催す凄惨な殺戮の現場―――

などではなく、×××の生えた同い歳の女の子が女性の形をした不定形のスライム…スライムか?本当に?とにかくそういったものに×××を×××されて×××しそうになっている光景であった。
意味が分からない。
まるで意味が分からない。
何故、殺し合いの場に連れてこられて盛り合いを見せられるのか。何故、女の子に×××が生えているのか。何故、×××を×××するのか。
全てが片桐花子の今までの人生で培われてきた理解の範疇を大幅に超えていた。
例えば、だ。この事を彼女の友人・花巻咲に伝えてみたとしよう。

=================================

「咲!私ふたなりがスライムにシゴかれてアヘってるとこ見ちゃった!」
「花子ちゃん、明日から学校で話しかけないでくれる?」

=================================

なんと想像に難くない光景なのだろう。例え立場が逆だったとしても自分も同じ対応をするだろう。
うん、アウトだこれ。常日頃からフラウ・ザ・リッパーを自称して周りから冷笑を買っている自分でも自覚できるレベルでアウト。

そして彼女は逃げ出した。
だが、離れない。
頭にこびりついて離れない。
あの雄々しく聳え立ったビッグナイフが頭から離れない。
男の象徴が、自身にはない物が、命の源が忘れられない。
















そう!チンk












「そこの君!止まって!」

だからだろう。男の声が聞こえた瞬間、自分でもびっくりする程間抜けな声を挙げてしまったのは。
文にすれば「ひへふぇあ!?」とか。そんな感じ。



289こんどの敵は、デカスゴだ。 ◆hRdS/lFjKw:2015/06/18(木) 23:31:53 ID:Ovh/MFRM0
東雲駆にはその少女が酷く怯えているように見えた。無理もあるまい。
今まで普通の生活を送ってきた人間が、突然殺し合いの場に放り込まれれば混乱するのも無理はないだろう。
しかも、彼女は何かから逃げてきたように見えた。考えたくはなかったが、やはりこの催しに乗った人間がいたという事なのだろうか。

「落ち着いてくれ、俺は東雲駆。この殺し合いには乗ってない」

見れば自分の通う学校指定の制服を着ている。面識はないが同じ学校に通う女子生徒という事か。
ひとまず混乱状態の彼女を冷静にさせることが先決だと、以前の殺し合いの経験から駆は判断した。

「話してくれないか。何かから逃げてきたように見えるけど、向こうで一体何があったんだ?」
「えっ…な、ナニって…」

何があったって、そりゃあナニである。ナニをナニしてた、としか言い表しようがない。
しかし花子とて花も恥じらう16歳である。そうした事を口に出す事に対する羞恥の念から思わず言い淀んでしまい、顔を背けてしまう。

(口に出すのも憚られるって事か…余程酷い物を見たんだな)

だが、その対応は少し拙かった。駆の眼にその反応は恐怖から来るものとして映る。
以前の殺し合いでもこんな反応は見た。駆は己の経験を信じる。

「お…女の子が…」
「うん」
「お、おっきい…を…」
(大きい?凶器か?いや、大きい「人」か?)

無論、ナニである。だが、そんな発想は駆にはない。

「その…刃渡りで言えば30cmサイズというかランボーナイフというか…」
(30cm!やはり凶器だったか。平沢茜め、そんな物まで用意しやがったか。まさか刀嫌いの俺に対する当てつけなのか?)

無論、例えである。だが、そんな発想は駆にはない。

「ぶよぶよしたスライムみたいなのの上で寝転がってて…」
(ぶよぶよした…まさか臓物か!?いや、この殺し合いではそう珍しくもないか…!)

無論、スライムちゃんの事である。だが、そんな発想は駆にはない。

「お、お、お…」
「お?」
「お…っぱいを顔に乗せてて!」
「なに?」

ここで駆も流石に違和感を覚える。「おっぱい」…無論その単語そのものの意味が分からない駆ではない。彼自身そうしたものに興味が無いと言えば嘘になる。
しかしここはバトルロワイアル、狂った倫理が支配するこの世の地獄だ。そこでこのような単語を耳にする、というのは何かがおかしい。
もしかすると自分は何か思い違いをしているのではないだろうか。それとも目の前のこの子こそが何かを間違えている?
ここで間違えてはいけない、誤解は悲劇を生む。以前の殺し合いで自分はそれを学んだはずだ。そう考えた時の駆は少し焦っていたのかもしれない。

「本当に何があったんだ!?話してくれ、頼む!」

やや強引だったかもしれないが、駆は花子の肩を掴んで言った。この時の行動こそが自身の明暗を分ける…根拠はない、だが自身の第六感がそう告げている。
ここで彼女の話を聞き逃すのは恐らく得策ではない。もしかすると危険なマーダーがすぐ近くにいるのかもしれないのだ。







残念ながら片桐花子にはその真意が伝わる事は無かったのだが。

290こんどの敵は、デカスゴだ。 ◆hRdS/lFjKw:2015/06/18(木) 23:32:27 ID:Ovh/MFRM0



(ちょちょちょっと待ってよ!何でこの人おっぱいの話した途端こんな喰いついてくるのぉ!?
 変態なの!?この人変態なの!?あるいは常識がずれちゃった変態の世界ではまともな人なの!?リッパー様案件なタイプなの!?ああ立派ー様ってそういう)

今の彼女の頭の中は先ほど目撃した×××が強烈に焼きついており、絶賛脳内ピンク色状態であった。
まさに大混乱。そんな状態の彼女に正常な判断などできようか。もう構うものか、言ってしまえ。私は言ってやるぞ!そう思った時には彼女はもう言ってしまっていた。

「だから!女の人の形したスライムにおっぱい顔に押し付けられて×××掴まれてイキそうになってる女の子がいたのぉ!!!」

嗚呼、言ってしまった。なんという意味不明。なんという支離滅裂。
日頃から周りから浮いた存在であることは自覚していたがとうとうドロップアウトか。さらば青春、花子はお嫁に行けませぬ。
そう自暴自棄になる花子と対照的な反応を駆はしていた。




「な、何だって…!!」


まさに戦慄。まさに驚愕!
殺し合いの場における思考に則って…灰色の楽園を壊そうと考えている駆には、花子の言葉はまるで違った意味に聞こえていたのだ。

(刃渡り30cmのナイフで人を肉塊に変え、乳房や陰茎を切り取って絶頂する女だと!?)

狂っている。以前の殺し合いですらそんな狂った奴はいなかった。
平沢茜が既に殺し合いを経験し優勝した――つまりはアドバンテージを持った自分を再びこの場に送った事にはいささかの疑問を覚えていたが、初めから狂いきったサイコパスも投入する事でバランスを取る、という事か。

(ゆ、許さん…許さんぞ平沢茜!!!)

平沢茜は今度こそ殺しに来ている。自分や知人たち、それだけではない。後輩にあたる目の前の少女や顔も知らない人々…それら皆が狂人たちによって弄ばれ、壊され、狂い、そして死んでいくのをあの女は笑いながら見ているのだ。




…灰色の楽園を壊そうと足掻く少年には、桃色の楽園がすぐそばにあったなど、とてもではないが想像できなかった。



291こんどの敵は、デカスゴだ。 ◆hRdS/lFjKw:2015/06/18(木) 23:33:18 ID:Ovh/MFRM0
「ありがとう。よく話してくれた。それにしてもよく逃げ切ってこられたな」
「え?は、はい」

てっきりドン引きされるか、それとも物凄く食らいついてくるか。そのどちらかの反応を予期していた花子にとってそんな答えは予想外だった。
フラウ・ザ・リッパー・肩斬華のキャラ付けも忘れて素で返してしまう。

「その女の子について何か分かる事はある?外見とか、付けてるものとか…」
「た、確か『キョーコ』って言ってたような…」
「『キョーコ』…」

それを聞くや否や駆は参加者候補リストを広げ、『キョーコ』という名の参加者を探す。

(恭子…杏子…いた!こいつか!『谷山京子』!)

いずれ対決すべきサイコパスの名を見つけた駆は思わず候補者リストを強く握った。これが自分が対峙しなければならないサイコパスの名か。そう考えると身が震える。

「まだ名前を聞いてなかったな。俺と同じ高校の生徒だろ?」
「わ…私はフラウ・ザ・リッパー!肩斬…」

そこまで言いかけて、花子は自分を真剣に見つめる駆の視線に対して何故か怯んでしまった。

「花子…です」

なんだか、酷く疲れた気がする。考えてみたらなんで切り裂きジャックの子孫がおっぱいだの×××だの言って恥ずかしがるんだ。

(帰りたい…)

【D-3/草原/1日目/黎明】
【東雲駆@アースR】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:変幻自在@アースD
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考]
基本:平沢茜が作り出した灰色の楽園を壊す
1:首輪を解除出来る参加者を探す
2:出来る限り早く知人と合流したい
3:山村幸太、花巻咲、麻生叫を警戒
4:谷山京子は特に警戒。見つけ次第殺す
5:片桐花子と共に行動する。
[備考]
※世界観測管理システムAKANEと平沢茜を同一人物だと思っています。
※谷山京子を危険人物だと認識しました。

【片桐花子@アースR(リアル)】
[状態]:健康
[服装]:学生服
[装備]:???
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:帰りたい…
1:なんか…疲れた…

292 ◆hRdS/lFjKw:2015/06/18(木) 23:35:54 ID:Ovh/MFRM0
投下終了です。
タイトルの元ネタは映画「ウルトラマンティガ&ウルトラマンダイナ 光の星の戦士たち」のキャッチコピーより
結構無理のある展開だと自分でも思うのでご指摘があれば

293名無しさん:2015/06/19(金) 00:55:24 ID:/7cI6Trk0
投下乙。
花子、かわいいなww

294名無しさん:2015/06/19(金) 06:39:03 ID:DiMRLiQM0
投下乙です!
前話との温度差ww駆くん空まわってるなあww
そして花子ちゃんかわいい

295 ◆hRdS/lFjKw:2015/06/20(土) 00:26:02 ID:v8zaLTZk0
訂正
×いずれ対決すべきサイコパスの名を見つけた駆は思わず候補者リストを強く握った。これが自分が対峙しなければならないサイコパスの名か。そう考えると身が震える。
○そのサイコパスの名を見つけた駆は思わず候補者リストを強く握った。これに自分はいずれは対峙しなければならないのか。そう考えると身が震える。

なんで同じこと二回言っとんねん…

296名無しさん:2015/06/20(土) 00:37:40 ID:3zHAAuYk0
投下乙です
誤解すんな駆www前回との話との落差が面白いね
花子はなんとか味方は出来たけど結構包囲網できつつあるからなあ

297名無しさん:2015/06/21(日) 03:06:30 ID:evkIctJo0
投下乙です
駆くんギャグ時空に取り込まれるの巻
コントめいた掛け合いとどんどんこじれてく話が面白すぎて爆笑したw
殺し合いの場にスライムがいてふたなりといたしてるなんて理解できんわなそりゃあ
灰色の楽園に対する桃色の楽園のネーミングも上手い。京子ちゃんどうなっちゃうんだ…w

298 ◆5Nom8feq1g:2015/06/21(日) 03:07:51 ID:evkIctJo0
投下します

299泣け ◆5Nom8feq1g:2015/06/21(日) 03:11:08 ID:evkIctJo0
 
 早乙女エンマと柊麗香を取りのがしたジル・ド・レェは、
 彼女らを追いかけることはせず、反対側――もともと居た方向へと帰った。
 いまはD-6の町の、一件の民家の前にいる。

 少女を追いかけ、恐怖を与えたのち拷問することを至上の喜びとする彼女が、
 どうして目の前の少女を諦めて反対方向へ進んだのか。
 答えは簡単な話である。
 ジル・ド・レェは柊麗香を追いかけるより前にすでに一人、拷問対象を捕まえていたのだ。

「まあ! 嬉しい。まだ気絶もしていないのね!」
「……ジル……ドレ……」

 民家の扉を開けると、玄関先で彼女を迎えたのは、
 可愛い少女めいた容姿のエルフの苦悶顔と、かすれた声だった。
 おもわずジルは顔をほころばせる。
 クリーム色の髪を振り乱し、蜂蜜色の目を憎悪に染めたそれは、ゆっくり呼吸をしながらジルの笑顔を睨む。
 睨める程度にはまだまだ元気があるということだ。
 これは楽しめそうだと、ジルは小さく舌なめずりをした。

「放置しちゃってごめんなさいね。ちょっと外の空気を吸いに行くだけだったのだけれど、
 可愛い女の子を見つけてしまったから、追いかけっこをしていたの。
 ――ああ、あなたが可愛くないというわけではないわよ? すごくかわいいわ、あなた」
「……」
「いっぱい汗を流して……オンナノコみたいな、あまぁい匂いさせて。
 苦しいのにまだ反抗できる隙をさがしてるその目。いい、いいわぁ。お姉さん欲情しちゃう」

 いま、捕らわれた哀れなエルフは、
 背中に回した両手首を頑丈な物干し用ロープで縛られ、天井から吊られている。
 足は床に着くぎりぎりの高さ。
 必然と身体をくの字に折れ曲がらせてつま先までぴんと伸ばした状態になる。
 これだけでも非常に苦しい体勢――だがジルはここにさらにひとつスパイスを加えた。
 エルフの足首を太めの尖った木の枝で貫き、それを床に刺しておいたのだ。

 こうすると、エルフは身体バランスを取るために足を動かすたび、苦痛を上げる羽目になる。
 事実上、何度も何度も傷口ををささくれだった木の棒で貫かれるようなもの。
 足には痛みだけが残って、だんだんとつま先を立てるのも難しくなっていくが、
 つま先に入れた力を緩めれば、今度は後ろ手の手首に全体重がかかり、肩までを痛みが貫く。
 辛くても足に力を入れ続け、感覚を味わい続ける必要があるのだ。
 痛みや苦しみに慣れるということを許さない、ジルの狡猾で残忍な拷問であった。 

「器具がなかったから簡素なもので悪かったのだけれど、心地はどうかしら?」

 ジルはエルフに気分を問う。
 放置される前に大きな声で叫べないよう喉を破壊されたエルフはざらついた声で返す。
 
「さい……あく……だよ。
 こんな簡単に、捕まっちゃってさ……。ライリー、さまに、申し訳がたたないよ」
「そういうことを聞いてるんじゃないんだけれど?」

 ぐり。

「あ、う゛えうぅ……ッ!!」

 ジルがエルフの足を躊躇なく踏みつける。
 じゅぐ、と腐った果実が汁をにじませるようにして足首の傷口から赤血が漏れる。
 足首の痛みは、脳へ届くまでに身体を貫くように通り抜けていく。
 痛みを全身に染み込ませるような感覚を味あわせられるので、ジルはこれが大好きだった。

「そういうことを聞いているんじゃないのよ」
「……は、ぁう」
「痛いかな、苦しいかな、辛いかなって聞いてるの。言わなきゃ分からない?」
「そ、そう……ざ、残念だったね。
 あいにくボクはね、ずっと虐げられてきた、んだよ。この程度じゃ、辛いとは、ふふ、感じないな」
「まあ!」

 エルフは挑発的な眼でジルに反抗の意思を訴える。
 するとジルは、嬉しそうに弾んだ声を出すと手を叩いた。

「やっぱりね。あなた、“蜜色の眼のアリシア”でしょう」
「……」
「人間に虐げられたエルフの中でさえ虐げられた、はぐれもののエルフ。
 クリーム色の長髪に蜂蜜色の眼。小柄ながら魔力は高く、回復魔法や防御魔法が得意。
 少女みたいな可憐な容姿で、魔勇者パーティーを名乗る暴徒集団の花の一つに見えるけど――」

300泣け ◆5Nom8feq1g:2015/06/21(日) 03:14:27 ID:evkIctJo0
 
 ジルは足を踏んでいた足を上げ、大股開きになっているエルフの股間に膝を近づけていく。
 膝にはすでにビリ、ビリと電気がまとわりついていて、

「性別は、男♪」

 刺すような痛みを伴う鋸糸状の雷による容赦ない攻撃が、
 可憐なエルフの少年の陰部へと加えられた。

「あ゛――――あぁあああああああッ!!」
「どうしてそんな細かい情報まで知ってるかって?
 一応、領地内で起きた事件の首謀者グループについて調べさせるくらいはしてたのよ、私。
 ……本音を言うと、目に付く可愛い子の情報を片っ端から集めてただけとも言うけどね」
「あ゛、があぁああああああ、あゃあああッ!!」
「別に私、領地の民に愛情とかなかったからあなたたちがやってることはどうでもよかったけど、
 首領のライリーって子とあなたは可愛いからいつか捕まえて楽しみたいと思ってたのよ。
 なかなか捕まらなかったから残念だったし、
 先に私のほうが処刑されちゃって本当に残念だったんだけど、
 どういうわけか私は生き返っちゃった上に、狙ってた子とこうして遊べているのよね。
 生前の行いがよかったのかしら?」

 心にもないことを言いながらも、陰部の小さなふくらみに当てた膝をぐりぐりと押し込むようにする。
 膝の雷撃は今だ継続されており、
 アリシアは自分のそれが断続的に5mm直径の針串で貫かれるのと同等の激痛を感じ続けている。
 
「やめ、やめへっ、あ゛があああああああ!!」
「うふふ、どんな気分? 延々と×××をハンマーで叩かれ続けている感じじゃない?
 さすがにこんな拷問をされたことはないんじゃないかしら。新感覚でしょう?」
「あ゛あああああああ!!」
「ねえ、泣いて?」

 電気の威力を一瞬“弱”にしてジルは微笑みかけた。

「惨めに無様に涙を流して、やめてって私に懇願してごらんなさい。
 そしたら一旦許してあげる。ふふふ、そうねえ、縄を外してあげてもいいわ」
「あ……あ゛あああ」
「ほら早く」
「……」
「泣いて」
「……」
「泣きなさい」
「……」
「ねえ早く」
「……」
「泣け」
「――泣かない」

 エルフは楽しそうに攻めるジルに対して、唾を吐いた。

「泣かないよ。ボクは、もう弱虫のアリシアじゃない」
「……」
「ボクは、勇者だ。勇者が泣いていいのは……仲間を、守るものを失ったときだけだ」
「……あら、そう」

 するとジル・ド・レェは、一気に不機嫌そうな顔になると、
 アリシアの側面へ周り、雷撃の手刀で天井から伸びるロープを勢いよく焼き切った。
 後ろ手に縛られたまま支えを失ったアリシアは前へと倒れ込む。
 手を付かなければ――だが先に記述した通り手は縛られたままなので、
 当然顔から床へ突っ込むことになる。
 耳にしただけで嫌な気分になるごすっ、という音と、エルフの濁った悲鳴がハーモニーを奏でた。

 ジルはお尻を突きだすような形で倒れ込んだエルフの顔を見ることもせず、
 手のひらに強電気を蓄えさせながら冷酷に宣言した。

「勇者だから泣かないだなんて。そういう生意気を言ってるようじゃ、まだまだ勇者失格よ」

 ワンピース風の服をめくりあげ、アリシアのつるつるした生尻が露出された。
 そこへジルは雷掌打を叩き付けるつもりなのだ。
 何度も何度も叩き付けるつもりなのだ。
 泣くまで叩き付ける。


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