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変身ロワイアルその5

1 : 名無しさん :2014/03/22(土) 14:01:01 eOkcmNEk0
この企画は、変身能力を持ったキャラ達を集めてバトルロワイアルを行おうというものです
企画の性質上、キャラの死亡や残酷な描写といった過激な要素も多く含まれます
また、原作のエピソードに関するネタバレが発生することもあります
あらかじめご了承ください

書き手はいつでも大歓迎です
基本的なルールはまとめwikiのほうに載せてありますが、わからないことがあった場合は遠慮せずしたらばの雑談スレまでおこしください
いつでもお待ちしております


したらば
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/15067/

まとめwiki
ttp://www10.atwiki.jp/henroy/


2 : 名無しさん :2014/03/22(土) 14:03:31 eOkcmNEk0
参加者

【魔法少女リリカルなのはシリーズ】1/7
●高町なのは/●フェイト・テスタロッサ/●ユーノ・スクライア/●スバル・ナカジマ/●ティアナ・ランスター/○高町ヴィヴィオ/●アインハルト・ストラトス

【仮面ライダーW】1/7
○左翔太郎/●照井竜/●大道克己/●井坂深紅朗/●園咲冴子/●園咲霧彦/●泉京水

【仮面ライダーSPIRITS】2/6
●本郷猛/●一文字隼人/○結城丈二/○沖一也/●村雨良/●三影英介

【侍戦隊シンケンジャー】1/6
●志葉丈瑠/●池波流ノ介/●梅盛源太/○血祭ドウコク/●腑破十臓/●筋殻アクマロ

【ハートキャッチプリキュア!】3/5
○花咲つぼみ/●来海えりか/○明堂院いつき/●月影ゆり/○ダークプリキュア

【魔法少女まどか☆マギカ】1/5
●鹿目まどか/●美樹さやか/○佐倉杏子/●巴マミ/●暁美ほむら

【らんま1/2】2/5
●早乙女乱馬/○天道あかね/○響良牙/●シャンプー/●パンスト太郎

【フレッシュプリキュア!】2/5
○桃園ラブ/○蒼乃美希/●山吹祈里/●東せつな/●ノーザ

【ウルトラマンネクサス】2/5
○孤門一輝/●姫矢准/○石堀光彦/●西条凪/●溝呂木眞也

【仮面ライダークウガ】2/5
●五代雄介/○一条薫/●ズ・ゴオマ・グ/○ゴ・ガドル・バ/●ン・ダグバ・ゼバ

【宇宙の騎士テッカマンブレード】0/4
●相羽タカヤ/●相羽シンヤ/●相羽ミユキ/●モロトフ

【牙狼−GARO−】2/3
○冴島鋼牙/○涼邑零/●バラゴ

【超光戦士シャンゼリオン】2/3
○涼村暁/●速水克彦/○黒岩省吾

【21/66】


3 : 名無しさん :2014/03/22(土) 14:04:19 eOkcmNEk0
ルールが長くなってしまったため、特徴的な部分だけ抜粋
詳細が知りたい方は、下記リンク参照してください

ttp://www10.atwiki.jp/henroy/pages/19.html

【変身用アイテムのデフォ支給】
基本支給品やランダムアイテムに加え、変身用アイテムがデフォルト支給されます

ガイアメモリ、デバイス、ソウルジェム等があたり、これらはランダムアイテムとは別に必ず本人に支給されます
照井竜のガイアメモリやスバル・ナカジマのデバイスのように、変身用アイテムが複数存在している場合も全て本人に支給とします
ただし、参戦時期によってはその限りではなく、例えば照井竜の場合、トライアルメモリを得る前からの参戦ならば、トライアルメモリは支給されません
また、変身アイテム以外の武装、例えば暁美ほむらの銃火器等は全てランダム支給へと回されます

固有の変身アイテムを持たない人間には、この枠でのアイテム支給はされません

※ハートキャッチプリキュアのプリキュア達には、プリキュアの種とココロパフュームを支給。妖精は支給されません。
※左翔太郎、ウルトラマンネクサスのデュナミストについて特殊ルールが存在

【特殊ルール】
・左翔太郎について

左翔太郎には、仮面ライダーWへの変身用ガイアメモリのうち、彼が使う3つのガイアメモリが支給されます
残る3つのガイアメモリと、エクストリームのメモリはフィリップが所持した状態とし、そのフィリップは主催に幽閉されている扱いになります

フィリップは、戦闘中(Wへ変身した時)のみもう一人のベルトの使い手と意志疎通でき、それ以外の手段を用いたフィリップ側からロワへの介入は禁止
フィリップが独力で脱出することもありえません。

かなり特殊ですが、ダブルドライバー自体をデバイスに代表される意思持ち支給品と同等に扱うと考えればわかりやすいかもしれません

・ウルトラマンネクサスのデュナミストについて

最初に光を持っているのは姫矢准。姫矢が死んだ場合、次の人物へと光が継承されいきます
他作品キャラへの継承については書き手任せとしますが、もちろん誰でも対象というわけではなく、姫矢と面識のあるキャラに限られます
当然、他作品キャラへ継承させず、孤門や凪に継承させるのもありです

その後の継承については、姫矢→次のデュナミストに置き換え、同様の処理を行いますが、姫矢と違い、孤門や凪との面識がないキャラならば、当然2人は継承対象にはなりません

・その他

まどかの魔女化は、原則禁止です
もしも魔女化の条件を満たしてしまった場合は、魔女化はせずにそのまま死亡扱いとなります


4 : ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:08:20 FKsPOkkk0
スレ立て乙です。
ただいまより投下を開始します。


5 : 騎士の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:09:24 FKsPOkkk0



 冴島鋼牙の前に、一人の男の遺体がある。
 彼の名は、Dボゥイ。つい先ほど、暗黒騎士キバによって殺害された宇宙の騎士。
 その男の事を、鋼牙もまだ詳細には知らない。テッカマンブレードと名乗ったあの男は、強く、どこか心に強い悪への憎しみを持った男だった。それ以外の事は何も知らない。しかし、鋼牙はその男をひとまず埋葬しようと思った。

「……」

 かける言葉は見つからない。ただ、黙々と彼の遺体に手を駆けようとする。
 相羽タカヤの手はまだ温かさが残っているが、じきに消えるだろう。
 鋼牙は少しばかり時間をかけて、彼の遺体に手をかけた。

 ……すると。

「!?」

 タカヤの遺体の後ろから、突如として奇怪な虫が鋼牙に飛びかかった。
 脳髄のみが大きく、複数の足を持ち、硬い殻を持ち、鋼牙の腕の上で落ちて蠢く──それは、この世の生物ではなかった。タカヤの体を乗っ取っていたラダムの虫である。
 しかし、鋼牙はそんな事を知る由もなく、ただただ黙ってその虫を黙って振り払う。
 毒虫かもしれない。だが、実際のところ、この虫が何なのかを鋼牙は知らず、ただただ蠢いているだけならば害はない。
 不気味ではあるが、果たして潰していいものなのか、鋼牙は迷った。

「……なんだ?」

 その後も、ラダム虫が鋼牙に何かしようという事はなかった。
 いや、おそらく、鋼牙に寄生したいという気持ち自体はあるのだろう。しかし、ラダム樹がなく、フォーマットが不可能である以上、寄生したところで完全にその体を乗っ取る事はできない。
 それで、何もできないまま、迷うように地面を蠢いていたのだ。
 ……とはいえ、すぐにラダム虫は、殆どあからさまに危険な虫である。

(一瞬、殺気を感じた……。潰しておくべきか)

 鋼牙は剣を抜いた。
 ラダム虫は先ほど、殺気を持って鋼牙に襲い掛かったから、念を押す事にしたのだ。
 虫とはいえ命だが、それでも、これはただの虫ではないと鋼牙も気づいている。
 次の瞬間には、ラダム虫は真っ二つに斬れて、生命を停止した。

「……何だったんだ」

 まあ、そのまま鋼牙は何も考えない事にして、Dボゥイの遺体を地面に埋めた。できるだけ時間をかけて、丁重に葬る事となった。その途中、不思議な緑色のクリスタルを見つけたが、それは黙ってタカヤとともに埋めた。黙って受け取ってしまうのも何だし、もしかすれば彼にとって大事な物かもしれない。
 その後、その地に一礼して、鋼牙は振り返り、歩いた。

「……」

 あとは、もう何も言う事なく、とにかく街の方に向かう事にした。バラゴの遺体にこれ以上構う暇はない。
 鋼牙は黙って、街の方に歩いて進んでいく事にした。







 森を出て、E−9の草原あたりに出た瞬間、鋼牙を迎えたのは、赤い光弾の一撃だった。
 ──不意打ち。
 森を出た瞬間に、誰かが鋼牙の命を狙って、何かを放ったのだ。

「くっ!?」

 鋼牙はそれを魔戒剣で弾き返し、赤い光弾を地に落とす。
 鋼牙の真後ろで小爆発が起こると、敵の姿は見えた。真正面から不意打ちをしたというのか。つまるところ、狙撃手のように姿を隠す事はなく。
 だが、不意打ちが失敗したので、そのまま強引に戦闘に持ち込む形だろう。


6 : 騎士の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:09:43 FKsPOkkk0

「なんだ、お前は」

 鋼牙は冷淡な声で問う。
 その女は、鋼牙もよく知る怪人、ホラーの人間体にも似ていた。
 現世で着るのがはばかられるような黒衣を平然と着こなし、その目は人の色をしていない。
 いやしかし、ホラーではないだろうと、確信していた。いわば魔戒騎士の勘である。

「私の名前はダークプリキュアだ。覚えておくがいい」

 これはプリキュアの悪評を広めるための名前だったが、他に名乗るべき名前もない。
 シンケンゴールド──梅盛源太のように誇らしく名乗れる名前もない。
 強いて名前を問われれば、この名前しか答えるものはないのである。

「……お前がダークプリキュアか」

 鋼牙はキリッと眉を顰める。剣の構えは一層強固になった。
 そこにあるのは、確かな警戒。ダークプリキュアの敵意を全身で感じながら、いつでも敵の攻撃を避け、攻撃に変える準備をしていた。
 ダークプリキュアの名前は、つぼみから聞いている。
 彼女に対しては、少し迷いのある表情を見せたつぼみ。それを思うと、やはり斬るという手段は使いたくないが、いざとなればいつでも斬る準備ができていた。

「なぜ俺に攻撃をしかけた。お前はこの殺し合いに乗っているのか」
「無論だ。しかし、私の攻撃を避けてくれたからにはお前の名前を聞いておきたい。……お前の名は?」

 殺し合いに乗っているというダークプリキュア。
 しかし、その物言いは、どこかスタンスが曖昧化されている証でもあるように思えた。
 他人の名前を知りたがる彼女の様子に、鋼牙は困惑する。
 それでも、鋼牙は名乗った。

「冴島……鋼牙だ」

 その名前が口に出た瞬間、二人の戦いは始まった。







 薄暗くなってきた森と草原の間で、魔戒騎士とダークプリキュアは己の技を交える。
 魔戒剣とダークタクト。ダークタクトは、その切っ先から砲撃を放つ。
 赤黒い旋風が鋼牙を襲うが、鋼牙はそれを魔戒剣で受ける。魔法衣がそよぎ、鋼牙もまた立ち止まる。

「はぁッッ!」

 そこへ来るのがダークプリキュアの一撃。ダークプリキュアは鋼牙のいる場所まで一瞬で距離を縮めた。
 鋼牙の視界で、ダークプリキュアの拳が大きさを増す。
 華奢ながらも硬く剛健なダークプリキュアの左拳が鋼牙の眼前に迫っていた。

「ふんッ」

 鋼牙は、すぐにそれを左掌で受け、刃をダークプリキュアの方へと突き出す。
 が、そちらの一撃はダークタクトがガードしている。

「くっ」

 どちらが発したかはわからないが、少し相手の力に圧されているような声を漏らした。
 ただ、違いは声を漏らしたか漏らさなかったかの違い程度で、実際のところ、二人とも表情は少し相手の力への驚きに満ちている。
 問題なのは、鋼牙よりダークプリキュアだろうか。鋼牙以上の疲労感に打ちひしがれている。

「……ふんっ」


7 : 騎士の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:10:01 FKsPOkkk0
 腕をクロスさせた状態で、二人の両足が高く上げられる。
 一撃、蹴りをお見舞いしようとしているのだ。そのつま先が狙ったのは、相手の顔面。
 二人は、お互いにその顔面めがけて足を叩き付けた。

「ぐァッ!」
「くッ……!」

 今度声を上げたのは、二人ともであった。
 クロスしていた両腕が崩れ、二人は顔面へのダメージを感じて地面に倒れる。
 魔戒剣とダークタクトが二人の手を離れて地面に吸い込まれるように落ちていき、二人はすぐさまそれを拾った。

「……やはり、やるな」

 ダークプリキュアは鋼牙にそう語り掛けた。
 しかし、鋼牙は殆ど憮然とした表情のまま、構えを崩さなかった。
 魔戒剣を手に取った状態で、ダークプリキュアを睨み、その体を捉えている。


 次の一撃がいつ繰り出されるのか……という中で──。


『参加者のみんなー、こんばんはー!!』


 18時、放送が始まり、二人の戦士は休戦となった。







『フハハハハハハハハ……』

 緊張感のない放送は終わった。
 放送で聞こえた名前は、鋼牙が知っている者では、殆ど死を目の当たりにした相手ばかりだった。はっきり言えば、殆どその放送に意外性はなかったといえるだろう。
 問題は、市街地エリアに禁止エリアが固まっている事だろうか。
 しかし、逆を言えば、おそらくそれは参加者がある程度そこに固定しているからではないかと、鋼牙は思った。
 これだけたくさんのエリアがあるというのに、マップの殆どは山地や森で、行動しにくい。そうした大部分のエリアは殆ど禁止エリアにもなっていないし、市街地を目指した参加者はかなり多かったのだろう。
 今後も、市街地エリアを目指す方針は変わらなそうだ。
 逆を言えば、警察署あたりに人がいるのなら、逃げる方向まで自然と決まる。

「奴も死に、残り三分の一か……」

 ダークプリキュアが呟いた。奴、というのは、鋼牙には誰の事だかわからなかった。それが、大道克己の事であるとは思いもよらないに違いない。警察署でその名前を知った相手だが、まあいずれダークプリキュアの知らないところで死ぬのではないかと思ってはいた。
 残る人数は二十一人。ここまで生き残ったからには、その覇者とならねばならない。
 そう、三分の一どころではない。
 ここから更に、二十一分の一に残る。六十六分の一の選ばれし戦士にならなければ、ダークプリキュアの悲願は果たされないのである。
 まあ、パペティアー・ドーパントの力もあるし、ダークプリキュア自身の身体能力もかなり高い。これがあれば、ひとまずは勝ち残る自信が辛うじて維持される。

(……だが、こいつは厄介だな)

 しかしながら、今の戦闘は少し問題だろう。目の前の敵は強く、パペティアー・ドーパントの力も使い難い。相手の変身方法がわかった方が良いに決まっているし、相手の能力が発動しきったところで使わなければ意味がない。
 たとえば、鋼牙の場合、運動能力は高くとも、その体そのものは、鍛えていても、おそらく人間だ。ダークプリキュアのように人造生命の可能性もあるとはいえ、生身の人間という前提で考えよう。そうなると、パペティアー・ドーパントを使ったところで、変身した相手と戦えば、上手く勝ち残る事は困難だろうとダークプリキュアは思う。彼がどう力を使うのか知ったうえでなければ、ダークプリキュアにとって、彼は操る価値はない。
 彼を信頼している人間が相手ならば不意打ちもできるが、彼が誰と親しいのかなど知るはずもないだろう。


8 : 騎士の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:10:22 FKsPOkkk0
(死者のペースは下がっていない。このペースで死者が出ているなら、いっそ……)

 まだ動かずに、体を休め、時々だけ戦う。それもまだアリかもしれない。状況的には問題ないはずだ。
 ダークプリキュアの身体は少しダメージが大きい。だから、ダークプリキュアが今探しているのは、強い「人形」であり、戦闘もそれを得る為の「確認」だ。しかしながら、鋼牙の殺害には失敗したし、人形として扱おうにも、人間の姿のままでいられると難しい。
 これ以上、鋼牙の相手をしていられる時間はないだろう。無駄に体力が減るだけな気もするし、引き際という物もある。

「……ダークプリキュア。お前は、なぜ殺し合いに乗った? お前はプリキュアではないのか」

 ダークプリキュアが思索を巡らせている中、鋼牙は尚、戦闘態勢に移ろうという瞳でダークプリキュアに問うた。
 ここに来てから、何度これを聞かれ、その度に、「教える必要はない」と答えただろうか。
 今回もまた、同じだ。

「お前に教える必要はない。この名前も、そう名付けられたから名乗っているだけだ。プリキュアなど、くだらない……」

 自ら進んで魔戒騎士となり、その名に誇りを持つ零とは違う。
 彼女は、プリキュアではない。他人によってプリキュアと名乗らされただけで、実質的には別物である。そのため、かつて鋼牙が零に説いたような言葉は通じない。

「……そうか。だが、そんなお前を守ろうとしているプリキュアがいる。本当に強いのは、守るべき者の顔が見えている者だ。今のお前に、この戦いを生き残る事はできないな」

 鋼牙は、ダークプリキュアの瞳を見て、つぼみを思い出していた。彼女は、ダークプリキュアに対して非常に複雑な様子を見せた。おそらく彼女にとって、ダークプリキュアは「護」の対象でもあるのだ。
 それならば──キュアブロッサムとダークプリキュア、どちらが強いかと言われれば、キュアブロッサムだろう。誰かを守るためという明確な目的がある彼女を、鋼牙は信じていた。

 鋼牙は、自ら打ち込む様子を見せなかった。ダークプリキュアの初動を見てから、それに対応する形で動くつもりだ。
 ならば、ダークプリキュアにとって、撤退は実に容易い話である。

「そのくだらない忠告は胸の片隅にでも秘めておこう。……今回は素直に負けを認めて撤退させてもらう」

 ダークプリキュアは捨て台詞のようにそう言い残すと、背中の羽を伸ばし、宙に舞い上がり、すぐにどこかへ消えていった。……少なくとも、森の方だ。
 鋼牙は、その姿に少しばかり茫然とする。
 ダークプリキュアが攻撃を仕掛ける前提で戦闘態勢をしていただけに、その撤退は肩透かしというか、拍子抜けでもあった。
 しかし、ダークプリキュアは正真正銘、撤退したのだと知ると、肩の力をすぐに抜いた。

「……行ったか」

 終わってみれば、戦闘というより、肩慣らしのような邂逅であった。そう、今思えば、お互い、どこか力をセーブしながら戦っていたようにも思える。鋼牙自身は、ダークプリキュアの命を本気で獲る気もなかった。
 ともかく、ダークプリキュアは見送ろう。追う必要性はない。森には、おそらくキュアブロッサムや仮面ライダークウガ、響良牙たちがいる。そう、ブロッサムだ。彼女に任せよう。今はもう、殆ど山中には参加者はいないだろう。彼女によって狩られる人間もいないはずだ。

「……俺も、行くか」

 鋼牙は今の邂逅を無視して、また街に向かって歩き出した。






9 : ふたりの物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:10:48 FKsPOkkk0


 ──一方、こちらは警察署である。

「──黙祷」

 翔太郎の掛け声とともに、全員が目をつぶる。翔太郎も帽子を外して、放送で呼ばれた死者に対する黙祷を行う。最初の放送の時も、タカヤや京水と一緒に、黙祷をした。二人の名前は、今この時、呼ばれてしまった。
 二人の死を目にした者は、ここにはいない。タカヤはシンヤと決着をつけられたのか、京水と克己は出会えたのか、それさえ、今はわからない。

 ゴハットによって告げられた情報は、既に多くの情報を持っていた彼らにとっても、驚きを禁じ得ないものだった。
 告げられた名前を一つ一つ探っていく。

『相羽タカヤ』
 左翔太郎が歩む道を切り開いた男。テッカマンブレードとなり、共に敵と戦った戦友である。その死は惜しいとしか言いようがなかった。

『アインハルト・ストラトス』
 忘れるわけがあるまい。翔太郎と杏子を除く全員の前で死に、今もこの警察署に遺体が眠る少女の事だ。

『泉京水』
 街を泣かせるNEVRでありながら、彼もまたこの場では翔太郎と一時共同戦線を張った。翔太郎を奮い立たせてくれたのは彼だ。

『一文字隼人』
 沖の友人にして、この場に人を集める事を知らせた男。栄光のダブルライダーの死に、沖自身も戸惑いを隠しきれなかった。

『梅盛源太』
 ここについ先ほどまでいたはずのムードメーカーだ。変わり者だが、少なくとも『良いヤツ』だったし、『優しいヤツ』だった。ダークプリキュアとともに姿を消した後、もう姿を消してしまったようだが、その後死亡したという……。

『西条凪』
 孤門たちナイトレイダーの副隊長にして、頼れる女性だ。まさか、ここで彼女との合流が果たされなくなるとは、孤門も思わなかっただろう。

『大道克己』
 風都を泣かせたテロリスト、悪の仮面ライダーエターナル。翔太郎は、その死にだけは、どこか安堵さえ感じた。

『バラゴ』
 ザルバによると、この男は慢心から闇に堕ちた魔戒騎士だという。

『溝呂木眞也』
 孤門たちの世界の敵でありながら、最後にはダークウルトラマンではなく、ウルトラマンとして散った男。ここでは敵だったのかもしれないが、どこか感慨深くなる。

『村雨良』
 沖の知らない、後の時代の仮面ライダー。その男が、この時『BADAN』だったのか、『仮面ライダー』だったのか、どちらでもないのかは、沖には知る由もないが、会う機会が絶たれたのは残念であった。

『モロトフ』
 悪のテッカマンだ。危険人物であるという情報はいきわたっていたので、ともかく彼がいなくなった事に安心する者もいただろう。風都タワーは彼に崩され、せつなは彼に殺された。そういう意味で、因縁の深い相手だったが、もういないという事だ。

『ン・ダグバ・ゼバ』
 霧彦、ヴィヴィオ、祈里、アインハルト、乱馬、沖……あらゆる人物と戦い、そして強さを見せつけた殺人鬼もまた、散った。もし、本当に彼が倒されたのなら、あるいは喜ぶ者も出たかもしれないが、素直に彼の死を喜べないのは、「誰が倒したのかわからない」という一点にあった。
 この死が、もし、「ダグバより強い者」による死であったなら……。

「もう、ずいぶんたくさんの人が、死んじまったんだな……」

 この時点で三分の一しか参加者は残っていない。
 残る参加者たちは、全て、その中で偶然にも選ばれた存在であった。
 次は自分かもしれない。
 このペースで死ぬとしたら、また身近な人間が死ぬかもしれない。
 そんな恐怖が、ここにいる誰にもあったに違いない。
 ダグバのような巨星がその命を絶たれているという事は、強さと生存率は関係なく、そこには、ただ単純に「運」が起因しているような気がした。


10 : ふたりの物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:11:16 FKsPOkkk0
 だから、彼らの中に、少しずつでも恐怖や焦りの感情はあっただろう。
 それを押し殺しながら、彼らは何とかこれから先戦っていこうとしていた。


 放送担当者ゴハットはふざけた男だったが、心当たりを持つ人間はここにはいない。
 彼はウルトラマンや仮面ライダー、魔戒騎士やプリキュアのほか、シャンゼリオンという人物にも呼び掛けていたが……。


 禁止エリアは、だんだんと警察署を囲み始めている。
 このまま、E−8エリアやE−9エリアを禁止エリアにされてしまうと、彼らも動く事ができなくなるだろう。
 しかしながら、まだ余裕はあるし、ここが集中的に禁止エリアに囲まれたという事は、参加者が集まりつつあるという事にも思える。それに、九時以降は逆に敵襲の方角を限定できるというメリットもある。周囲を禁止エリアにされた場合でも、一時間あれば脱出も不可能ではない。
 まだもう少し、警察署で待ってみようと彼らは思っていた。


 ボーナスの「制限解除」については、各人としても大きく思い当たる節はないようであった。
 これはゴハットの言い方が曖昧なのがいけない。沖のレーダーハンドや翔太郎にとってのフィリップのように、もしかすれば何らかの没収物や人質を解放してくれる可能性もあるが、それははっきりとはわからない。
 ただ、戦いが今後激化するかもしれない事、そして、いざという時はチャンスを利用してそれに頼ってみた方がいいかもしれないという事を各々は考えていた。







『相羽タカヤ、泉京水、大道克己、梅盛源太……それに、一文字隼人や村雨良まで死んでしまったのか』

 翔太郎は、タオルを胸に当てて休みつつ、ドライバーを用いてフィリップに放送の情報を伝えた。
 いずれの命も尊いものだが、特に気にかかる名前をフィリップは口にした。NEVERの二人は死亡し、タカヤや源太といった心強い仲間も死んだ。そして、残る仮面ライダーはスーパー1とダブル、そしてライダーマンのみという状況だ。
 1号、2号、ZX、アクセル、エターナル……彼らはみな死んだ。

「おい、フィリップ……どう思う? 源太の事」
『直前まで梅盛源太と行動していたのは、ほかならぬダークプリキュアだ。……おそらく、彼女が殺害したか、或いは行動中に敵に殺されたか、だろうね。ダグバを倒したのが誰なのかも気になるけど……今気がかりなのはダークプリキュアだ』

 ダークプリキュア。
 やはり、彼女が怪しいのだろうと、翔太郎も感じている。ダークプリキュアとはおおよそ面識もなく、危険人物とだけ知らされていたから、他の人たちのように裏切られたような感情はない。
 ただ、翔太郎は、軽快していく胸の痛みとは裏腹な胸中の複雑さを感じていた。
 プリキュア──翔太郎は、その名前を持つ人間に助けられた。今も目の前にいる。きっと、それぞれの住まう街の人々は、プリキュアを絶対的信頼のまなざしで見守っているはずだ。
 その名を騙りながら、こんな事をするダークプリキュアを、許す気には……とてもなれない。仮面ライダーエターナルを目にした時の怒りにも似ていた。

「翔太郎くん。どうだい、胸の傷は」

 仮面ライダースーパー1こと沖一也がそう呼びかける。
 一文字隼人の死を知り、少し瞳を曇らせながらも、ある程度の元気はあるようだ。
 ある意味、仮面ライダーの鑑ともいえる態度である。悲しみを仮面の下に隠し、涙を流しても、それが乾いてから仮面を外す。仮面の下の涙はぬぐえないのだ。

「……大した事ないっすよ、先輩」

 話を聞いてみたところ、どうやら沖一也は仮面ライダーとして活躍していた年代も、年齢も、翔太郎よりも少し上であるらしい事が判明した。
 その結果が、この呼び方の変化だ。
 先輩ライダーとして、沖は翔太郎を「翔太郎くん」と呼び、翔太郎は沖を「先輩」と呼ぶ。翔太郎としてはかなりノリノリで、沖はこの呼ばれ方に恥ずかしさを感じているようだった。


11 : ふたりの物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:11:39 FKsPOkkk0
 ……当然といえば、当然だ。
 ドグマとジンドグマを滅ぼして、まだそう時間は経っていないというのに、この呼ばれ方である。本来なら、ゼクロスなる仮面ライダーともこんな関係になったのだろうか。
 ともかく、翔太郎の胸骨骨折は、放っておけば痛まない程度ではあったし、今は折り曲げても何とか問題はない。おそらくは、折れたというほどではなく、ヒビが入ったとか、その程度を誤解しているのだろう。動くのには問題ない程度だった。戦うのも問題はないが、そこで完全に折れて心臓に破片が突き刺さる等の大事に至らないかが問題だ。
 よって、基本的には戦闘メンバーとして活躍させるわけにはいかない。
 改造人間である沖ならばともかく、彼のように生身の人間では今後の戦いも少し辛いだろう。

「ういー、ただいまー」

 杏子が胸いっぱいに食べ物と飲み物と医療用具を抱えて警察署に帰ってくる。
 湿布やら軟膏やら、結構たくさんある。これは、殆ど翔太郎やヴィヴィオのように結構重度の外傷(主に骨折や火傷、痣)を治療するための物である。
 必要なものは、フィリップが持つ「地球の本棚」で検索し、簡易な治療方法を調べた事によるものだ。とりあえずは、タオルで応急的な処置をしているのみだ。
 放送のすぐ後、買い出しに行ったのは、孤門と杏子といつきと美希である。小さな薬局が近かったので、そこに行く事にした。沖はここまでの道のりをほぼ覚えているが、説明は口でも充分だった。杏子も薬局の位置をちゃんと覚えていたらしい。

「おう、帰ったか杏子」
「言われた薬がなかなか見つからなくてさー。お菓子ばっかり見つかっちまったよ」

 杏子の口には既にポッキーが咥えられている。杏子は手いっぱいの荷物を全部机の上にばらまくが、その中に開封済みのお菓子が二つほどあった。清涼飲料水なんかもかなり多く、これは薬屋のロゴが入ったのビニール袋に入れられていた。

「なあ、それどう考えてもお前それ自分が食いたいから買ってきただろ! ……ていうか、残りの三人は?」
「ああ、後から来るよ」

 杏子は、八重歯を見せながら笑顔で言った。
 その笑顔は屈託がないが、何か悪戯っぽく、どこか含みも感じられた。

「杏子……お前、まさか……俺に一刻も早く薬を渡すために来たのか!? おいおい……いや、まさか俺、お前がそんなに良い奴だったとは思ってなかったぜ……」

 だから、杏子だけ先に帰ってきて、この大荷物を持ってきてくれたのか。
 そう思って翔太郎は、照れて後ろ髪を掻きつつ、感動する。なるほど、一刻も早く翔太郎に薬や医療用具を渡したかったに違いない。
 いやはや、ただのヤンキーだと思っていた杏子が、まさかこんなに良い奴だったとは……。





 ……しかしながら、そんな翔太郎の感動は直後に怒号によってぶち壊される。

「こらー!」

 杏子の後を追って、警察署に現れたのは、美希であった。息を切らせているところを見ると、どうやら全力で走ってきたらしい。
 どうやら、かなり怒っている様子で、表情を崩して杏子を追いかけてきている。
 その視線は杏子に向いている。美希の怒りが杏子に対しての怒りではるのは明らかだった。そんな様子に、杏子は挑発的に笑って答えた。

「おー、きたきた」
「……………………どうしたんだよ、杏子。お前、何かしたのか?」

 美希が怒っているという事はよほどの事なのだと、翔太郎も薄々感じている。
 沖とヴィヴィオは、ただ二人の様子に茫然という様子であった。
 美希がやってきた後から、いつきと孤門が現れる。この二人は、先に行った二人を追いかけて、少し困惑しつつも息切れしているようだった。
 杏子が口を開く。

「あたしは何も悪い事なんかしてねえよ。ただ、ちょっとその辺の店からこれを戴いて来ただけだ」
「いくら無人だからって、お金を払わないのはどうなの!?」


12 : ふたりの物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:11:57 FKsPOkkk0

 美希が怒っているのは、その一点らしい。
 この状況下でお金を払う必要はないと思うが、……まあ、美希にとっても、そういう事ではないのだろう。
 こうして、お店という場所で物をもらうからには、お金とのトレードが必要となる。
 中学生ながら、モデルとして少しはお金を稼いでいて、そのうえ真面目な美希だからこういう几帳面な事を言うのだろう。

「だって、これ全部あいつらが用意したモンだろ? わざわざ金なんか払う必要がないだろ」

 当の杏子はけろっとした態度で、全く無反省という様子である。悪びれる様子はまるでなく、むしろそれを正当な事として内心抑え込んでいる。
 善悪とかそういう物には縛られていないらしい。

「そういう問題じゃないの!」
「どういう問題だよ!」
「道徳の問題よ! お店で食べ物や飲み物を買う時は、ちゃんとお金を払う! これはどんな時でも当たり前! 火事場泥棒じゃないんだから……」
「その道徳が食い物にでもなるのかよ! あ?」

 杏子と美希が、顔を近づけていがみ合う。目元から火花が散り、二人の仲が険悪になっていくのがはっきりと見て取れた。
 二人の後ろに虎と龍みたいなオーラが現れ、二人とも「がるるるるる……」と吠えている。
 二人の背後で雷が鳴ったような錯覚をする。

「だいたい、この大量の飲み物。これは盗むどころか、自販機壊して手に入れてたじゃない! お店にいっぱい売っているのに……」
「自販機壊す!? ここは日本だぞ……」

 流石の翔太郎も呆れ模様であった。日本国外だと、お金の入った機械が置いてあると壊されるから、自販機なんて置いていないらしい。
 日本でもたまに自販機を壊す人間はいるが、まさか目の前にいたとは。

「一回やってみたかったんだよ。別にいいだろぉー」
「良くないわよ!!」

 うん。これは美希が正しい。杏子が悪い。──翔太郎はそう思った。間違いなく、杏子が悪い。
 店の金を払わないくらいなら、美希の言う事もわかるし、杏子の言う事もわかる……という状態だったのだが、これは普通に強盗である。

「まあまあまあ……」

 そんな二人の間に割って入ったのは、孤門であった。孤門は二人のオデコを掌で押して引き離し、愛想笑いを浮かべる。正反対の二人の少女の目元の火花が遠ざかっていく。しかし、視線は相手の方を見つめたままで、下手をすれば孤門の掌が頭に当たっている事に気づいていないのではないかという感じである。

「美希ちゃん、杏子ちゃん、ストップ、ストップ」

 この二人と特に親しいのは孤門だ。ここまでほぼ美希と行動している孤門と、姫矢やウルトラマンを通して知り合いになった杏子。だから、孤門とこの二人とは、自然と親しくなっている。
 ……が、当の二人は、買い出しだけで極めて深刻な仲になったようだ。はっきり言って、不仲だろう。翔太郎は、これから孤門がどう頑張るのか見届けようと思って、帽子の唾を少し上げた。

「えーっと、杏子ちゃん。君の言う事もわかるけど、人として、盗みはいけない。物を買う時はお金を払わなきゃ。……ね? じゃないと、元の世界に戻った時も盗み癖がつくかもしれない。あと物を壊すのもナシ」

 杏子に有無を言わさずに言い聞かせた後、すぐに振り向いて今度は美希に言う。

「美希ちゃん。君の言う事は尤もだ。でも、この状況だから杏子ちゃんがした事もわかる。効率よく食料や薬を得るには、お金を払う必要はないと思ったんだ。きっと、もしこれが普段の日常なら杏子ちゃんだってこういう事をする子じゃないはずだよ」

 孤門は、明らかに冷や汗をかき、本心とは違う焦りを込めた笑みを見せて相手を抑えながら、なんとか仲を取り持とうとしていた。
 ……が。


13 : ふたりの物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:12:28 FKsPOkkk0
「いや、あたしは普段から欲しいものは盗んでたけどさ」

 杏子は空気を読まなかった。そして、美希はその一言に過敏に反応した。

「ちょっと! 今の聞きました!? 普段からやってるって! 犯罪ですよ!?」
「だってそれしか生きる方法なかったんだもん」

 孤門が折角取り持とうとした仲は、一瞬で崩れ去る。
 流石に、こうなるとため息しかでない。孤門も後ろに隠れた杏子を美希が捕まえようとしたり、杏子がそれを避けて美希をもっと怒らせたり。
 孤門は、この杏子の倫理観や道徳観よりも、チーム内の仲が悪くなっていく事を案じて、ため息をついた。受難の男である。特に、女性に振り回される事必至だ。

「あぁ……」

 孤門は、防御壁か柱か何かだと思われて使われているらしい。しかも、杏子と美希が交互に目の前を横切るため、その位置から動きづらい。
 そんな孤門に、翔太郎は野次をとばす。

「……あんたも大変だな、モテ男さん。女難の相が見えてるぜ」
「なんでこんな事になってるんだろう……」

 翔太郎の野次も無視して、かしましい二人の少女に振り回される自分の状況に孤門は、ただただ残念な気分になっていた。
 沖とヴィヴィオといつきと翔太郎も、いま明らかに……必死に笑いをこらえている。彼らは、のんきだ。ほほえましいとさえ思っているだろう。杏子の窃盗行為に関しては咎める必要ありだと考えているに違いないが、……それでも、先に出てしまうのはこの状況への笑い。
 トムとジェリーのように追いかけ合う美希と杏子。壁に使われて一人ため息をつく孤門。笑わずにはいられない。

(つかの間の休息か……)

 ……まあ、笑うだけの余裕があるというのは良い状況だと、ここにいる全員は思う。心の片隅には、まだどこか、人の死とか、殺し合いとか……そんな物があるような気がして、ふと自分が本当に心の底から笑っているのか、怪しくもなる。
 それでも、笑うのをやめる事はできなかった。

 孤門にしてみれば、凪や溝呂木の死が少しばかり辛かったが、それでもまだ、この場にいる美希たちのような仲間が辛うじて生きている事に対する安堵はある。
 ここにいる人が、これから死んでいくのではないかと思うと怖い気持ちも、やはり心のどこかにある。あるいは、それが自分かもしれないと思うと、たぶん、もっと怖い。
 既に四十人以上、孤門が経験していない恐怖を、通り越し、死んでしまったという事もまだ信じられないくらいだ。
 ……まあ、今なんとかしなければならないのは目の前の二人だ。

「はぁ……仕方がない」

 ため息を合図に、孤門は思考を切り替える。一度、シャキッとしようと思ったのだ。
 二人の少女は、いま、孤門を軸に、それぞれの正義をぶつけ合って(?)、壮絶な追いかけっこを繰り広げている。
 二人の少女がお互いを捕まえる事はできない。
 ただ、柱である孤門ならばこの二人のどちらが正しいのかを見極め、その少女を捕まえて制裁を加える事もできる。
 つまるところ、今の孤門は絶対正義。杏子か美希、好きな方を選んで贔屓できる立ち場にある。
 それじゃあ、と。孤門は少し遠慮する気持ちを粉砕して、二人のうちから正義を決めよう。

「えいっ! 二人とも反省しろ」

 右と左に来た二人の少女の頭を、孤門はグーで殴った。
 喧嘩両成敗である。







 いま、この会議室の一室には、男性だけが固まる形になった。杏子が盗み、美希が後から金を払った例の薬で、翔太郎とヴィヴィオがそれぞれ上半身の服をめくって、軽く応急処置をしているのである。
 流石にこれで同室にするわけにはいかない。


14 : ふたりの物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:12:57 FKsPOkkk0

 で、当の翔太郎は、とっくにその作業を終えて服を着替え、どこから出てきたのか、変な鏡台を前に櫛で髪を梳いた後、手に唾をつけて髪型を直している。帽子を手に取って、頭にかぶせ、鍔を直した後に、キリッとした表情でネクタイを上げる。
 ……と、そんな彼は、何故か上半身スーツで、下半身はトランクスだ。ダメージを受けたのは主に上半身である。
 そんな翔太郎の姿が意味不明すぎて茫然とする二人を後目に、翔太郎は椅子に座った。トランクスのままで。

「まったく、大変だよなー、“モテる男”は」

 そう孤門に語り掛ける翔太郎の口調は、どこか含みのあるものだった。モテる男──孤門の事に違いない。まさか、翔太郎は、女性陣と積極的に絡んでいる孤門を妬んでいるのだろうか(小学生と中学生しかいないが)。
 翔太郎にはパートナーや恋人がいない。……というか、できない。他の奴ら(照井とかフィリップとか霧彦とか井坂とか大道とか)は何だかんだでモテているのに、翔太郎は何故か全くモテないのである。ので、翔太郎は少し、モテない男の嫉妬じみた感情を孤門に向けていた。
 しかし、孤門は、そんな翔太郎の言葉のニュアンスにも気づかずに、素直に訊いた。

「翔太郎さんって、モテるんですか?」

 孤門は天然である。しかも、何かと人の色恋に首を突っ込みたがる性格でもある。当人としては、斎田リコくらいしか頭になかったし、それがおそらく唯一の恋人だ。中学生と親しくなった事を、「モテた」とも言わない。
 まあ、確かに元の世界からして少女には縁があるが、凪や詩織といった特殊な人種しかいない職場では恋人の真柄になるような人との出会いも滅多にない。リコを失った今だから、また新しい相手を見つけるべきと周りも急かす事があるのだが。
 ともかく、孤門は翔太郎の目をじーっと見て、解答を待った。翔太郎は、一瞬黙る。そして、呆けた状態から、ふっと意識が戻ったように言った。

「お、おう……。それはもう、俺はハードボイルドだからな」
『嘘は良くないよ、翔太郎』
「依頼人と惹かれあいながらも、最後はその依頼人が犯人で、俺はカッコよくその依頼人を警察に引き渡すわけよ……」
『嘘は良くないよ、翔太郎(二回目)』

 フィリップの声を無視しながら、翔太郎は事実を誇張してハードボイルド仕立てにしたハードボイルド映画のような自慢をする。
 内容は嘘だらけ。見栄を張った結果がコレである。

「……へえ。翔太郎さんって、凄いんですねー」

 孤門は、その話を聞いて、笑みを浮かべて翔太郎を尊敬のまなざしで見つめていた。
 再度言う。孤門は天然である。翔太郎が言っている事がでまかせだとは、沖も思っていないだろう。そんな孤門の言葉を聞いた翔太郎は、思わず孤門の姿に後光が差しているように見えてしまった。

「うおっ! 孤門の笑顔が眩しい! やめろ……そんなまなざしで俺を見るな! すまねえ、今のは全部、俺の卑しい心が生み出した嘘なんだ! どうせ俺はモテない男だ!」

 翔太郎が孤門の視線を遮ろうと、自分の顔を隠すようにガードする。
 一人芝居のように滑稽ではあるが、彼なりに楽しんでいるのだろう。ちくりと胸が痛んだのは、おそらく普通に胸骨の痛みだろう。

「はは……。流石、二人で一人なだけはあって、仮面ライダーダブルくんは騒がしいな」

 沖はそんな二人の姿を見て横から笑う。しかし、一応外の様子からも目を離さない。今、会議室の窓から、警察署の外の様子を見張っているのは沖だ。実際のところ、今は翔太郎が一人で話しているだけなのだが、少しくだけた言い方をしたのだろう。仮面ライダーダブル、という言い回しは別に嫌味ではない。

「そうだ、沖さんはどうですか?」

 そんな折、孤門は次に沖に話しかけた。

「どうですかって、何が?」
「ほら、彼女とか、いるんですか?」

 孤門はけろっとして、どこか期待を含んだまなざしで訊いた。どうも短絡的に恋愛沙汰と結びつけるのは、まるで小学生のような興味である。
 沖は、思わず笑った。


15 : ふたりの物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:13:37 FKsPOkkk0

「ははは……。いや、俺には残念ながら、いないよ」

 しかし、沖には、恋人という立場の人間はいない(沖の事を追いかけている草壁ハルミという女性の好意にはまだ気づいていないようだ)。それは正直に言った。この余裕を見た感じでは、おそらく恋愛絡みでも結構上手なのだろうと、翔太郎は思う。
 一方、孤門は、なぜ沖が笑っているのかわからないといった表情で首を傾げた。

「なんでここの兄ちゃんは、こう、天然揃いなのかねぇ……」

 机上で、ザルバ(コイツも♂)が目の前の男性らの様子を見て、呆れたように呟いた。







「えーと、あの……そろそろ仲直りした方がいいんじゃないかな? ね?」

 いつきは、(イメージ的には頭にタンコブを作った)美希と杏子と杏子をなだめようとしている。治療のために男女でそれぞれ別室を使っているが、その結果として、いつきとヴィヴィオにとって非常に居づらい空気が漂っていた。
 二人をどれだけ丁寧になだめようとしても、どうにも二人は頑固で、それぞれのスタンスを崩さない。正直言って、いつきは自分をこの二人と同室にした男性陣三名を少し恨んでいる。
 先ほど、いつきは二人の喧嘩を前に笑っていたが、今は到底そんな気分になれない。ひきつった笑みで、ちょっと遠慮気味に言う。

「あんまり二人が仲悪くしていると、せつなも喜ばないよ……? ほら」

 二人の接点といえば、やはり東せつなの存在だろう。東せつなの存在、そして死は、二人にとって大きな影響を与えたに違いない。
 いずれも、せつなの友達なのだから、きっと分かり合えるだろうと信じて(しかし七割疑って)、いつきは二人の様子を見た。

「全く、なんでせつなはこんな子に力を託したのかしら」

 やはりというべきか、美希は杏子の方を見ずに言う。美希は、意図的に杏子を見ないようにしているので、壁の方を向いて目をつぶっている。
 手には、薬屋で仕入れてきた美容パックの箱を持っている。

「なんで、せつなはこんな奴と友達なんだろうな」

 杏子もまた、美希の方を見もせずに言った。
 口の中にチョコを入れながら、杏子は喋っている。美希としては、「口の中に物を入れたまま喋らないで」と言いたいところだろうが、そんな言葉が出るより前に、杏子の台詞に苛立ったようである。
 ちゃんと杏子の方を見て怒気の混じった声をあげる。せつなとの友情を侮辱されたようで気が立ったのである。

「私の方がせつなと長くいたわ!」
「一緒にいた時間の長さしか言う事が無いのかよ……大した友情だね!」
「何ですって!」
「何だよ!」

 二人はまたいがみ合っている。まるで、その姿は犬と猿(さっきの龍と虎より少し格が下がっただろうか)。先ほど、せつなの名前を出したのがかえって逆効果になってしまったらしい。いつきは、また頭を悩ませる。
 それでも、何とか二人の仲を取り持とうと必死になった。

「え、えーと……二人とも、一緒にお菓子食べる? あ、そうだ。お風呂入ろっか。ホラ、みんなでお風呂に入って仲良く……」

 最後の希望、裸の付き合い。

「勝手にやってろ」
「悪いけど、この子とは仲良くなれる気がしないわ……」

 杏子と美希がそんな事でどうにかなるはずがない。いつきも、万策尽きたところである。
 孤門がいかに二人を上手く扱っていたのかがいつきにもよくわかった。
 まあ、成人男性という事もあって、先生のような立場で二人を叱れたのかもしれない。いつきはそういう立場ではないので、少し勇気がいる。


16 : ふたりの物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:14:00 FKsPOkkk0

「いつきさん……」

 ヴィヴィオがうるうると涙を浮かべながら上目づかいでいつきを見つめている。
 泣きたいのはいつきの方である。
 男性陣が談笑している間、女性陣はこの微妙な空気に頭を悩ませていた。

「はぁ……どうして、この二人、仲良くできないんだろう」

 ため息しか、出ない。







 ────そして、そんな彼ら、彼女らの間に流れるこの微妙な空気を切り裂いたのは、外部から聞こえた轟音であった。果たして、何が起こったのかは誰にもわからない。ともかく、女性陣は男性陣のいる会議室へと足を急かせた。
 ドアを開け放って──

「沖さん!」

 会議室に、この場にいた女性たちが押し寄せてくる。真っ先にドアを開いたのはいつきであった。沖、翔太郎、孤門ともに、その速さに驚いているようだったが、まさかいつきが一刻も早くあの場を抜け出そうとか考えていたなど、誰も思うまい。
 会議室は窓から外が見えるし、彼らが女性陣の部屋に行くよりは、女性陣が男性陣の部屋に行った方が良い。

「……って、何でパンツ!?」

 いつきが思わず顔を隠した。翔太郎は何故かトランクスのまま、上半身はスーツを着ているというスタイルなのである。
 翔太郎は慌てた様子だ。

「あー! ノックもせずに入ってくんじゃねえ! お母さんかよっ!」

 慌てて手探りでズボンを掴もうと手で椅子を叩いている。

「……いったい何やってたの?」

 後から来た美希が翔太郎の様子を見て呆れたように言う。翔太郎は慌ててズボンを履いている。何をしていたのかはわからず、美希は視線を翔太郎の方に向けた。美希は、ジト目で、「本当に何をしていたの?」と語り掛けたが、孤門は、首を傾げた。
 なんで翔太郎があんな恰好をしていたのか、孤門にも理解しかねるところである。
 たぶん昔のハードボイルド(?)なドラマの真似事だが、それは誰も知らなかった。

「……で? レディたち、何しにここへ?」

 とにかく、今の出来事をなかった事にして、翔太郎は帽子を直し、キリッとした表情で壁にカッコよくもたれながら訊く。女性陣は更に黙った。

「おい、兄ちゃん。なんか出てるぞ」
「え?」

 杏子が指差した先は、翔太郎のズボンのチャックである。思いっきり開いており、その中からシャツが出ている。これはかなり情けない。

「うおっ! 恥ずかしいっ!」

 翔太郎は慌てて飛び上がり、シャツとチャックを直す。

「で、あの……翔太郎さんはともかく、今の音は?」

 ヴィヴィオが、そんな翔太郎を無視して沖に訊いた。翔太郎は、彼女の後ろで胸骨に微ダメージが入ったらしく、呻いており、彼の断末魔らしき声が聞こえたが、それは右耳から入ろうとして、すぐに同じ右耳から出ていった。なんでもいい。ようやく本題に入れたようだ。
 沖は先ほどから街の様子を見ていたが、街の中には、その音源らしき物はないのである。

「……わからない。ここから見える範囲じゃないみたいだ」


17 : ふたりの物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:14:24 FKsPOkkk0
「今の音、すごかったけど……」

 いつきが言った。確かに、震動さえ感じるほどの轟音である。一瞬、地震かと思ったほどだ。美希と杏子もいがみ合うのをやめて、すぐにこちらへ走ってきたくらいである。
 まあ、壁数枚の距離にとはいえ、戦力が分散している事への不安感も少なからずあったのだろう。すぐにでも彼らと合流したかったのだ。

「誰かが戦っているんだ。……近くかもしれない」

 孤門はディバイトランチャーを構えて顔をしかめた。いつでも戦闘の準備ができるように。今は確かに、戦うだけの力は持っていないかもしれないが、それでも力になる事はできる。ビーストだって葬ってきたのだ。

「……一度屋上に出よう。周囲を見渡せるはずだ」

 沖の提案で、全員屋上に出る事になった。
 屋上ならば、見通しは良いし、音源もわかるかもしれない。おそらくは戦闘音だろうから、その戦闘を行っているのが誰なのか確認できるかもしれない。
 七人は屋上へ急いだ。







 屋上。誰も使っていない時空魔法陣がいまだに光を放っている。時空魔法陣の周囲には、アインハルトの支給品であるデンデンセンサーによって見張りが行われている。ここに見張りをつけるのはやはり酷いものだろう。
 デンデンセンサーは、この時空魔法陣を通って誰かが現れた時に警告音を発するようにしている。
 ……が、翔太郎は一度それを手元に戻した。メモリを外し、暗視ゴーグルとして利用する。
 真っ暗闇でも、これを目につければ目視する事が出来る。

「あそこか……」

 沖は、煙を漂わせる山の一角を見つめた。レーダーハンドさえあればそこを注視できるが、没収されている現状では難しい。ただ、暗闇でも発達している彼の視力でははっきり見えるし、他の人々も煙や小火を目にするくらいはわけなかっただろう。
 山まではここから数キロはあるかもしれない。確かに結構な距離がある。しかし、今はそこを気にかけずにはいられない。

「……助けに行くぞ」

 翔太郎が言った。
 ダブルドライバーを構えて、今すぐにでも助けに行こうという準備をしている。
 悪人同士の相打ちかもしれないが、そこに誰かがいる可能性だって否めないのである。
 それならば、行くしかない。行って戦うしかない。そこに仲間がいるかもしれない可能性にかけて、助けに行くべきである。

「待って。全員で向かうわけにはいきません」

 孤門が言った。極力、出会った対主催陣の仲間とは共に行動する予定だった孤門は、翔太郎の提案をあまり快く思ってはいないが、それが仕方ないとはわかっていた。
 ただ、警察署内に人を置いておく必要はあるだろう。外部から街を目指してやってくる人間が、この警察署に来る可能性が高い。

「そうだな。向こうに三人、ここに四人で分かれよう。孤門はここに残って、俺か翔太郎くんが向かう」

 沖が提案する。

「俺が行く。先輩は残っていてくれよ」

 翔太郎はすぐさま、そう言った。沖は怪訝そうに翔太郎の顔を見た。
 確かに、仮面ライダーは二人それぞれ場所を変えた方がいい。変身能力や人知を超えた能力を持たない孤門は確実に警察署で待つ側として、残る男性二名は分断されなければならないだろう。

「胸の傷は大丈夫なのか?」
「ああ。何とか。……それに、俺が──いや、俺たちが行けば、向かうのは三人じゃなく、四人になる。だから任せてくれよ、先輩」


18 : ふたりの物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:14:41 FKsPOkkk0

 フィリップ。そう、彼を数に入れ忘れていた。これで四人と四人だという事か。なるほど、流石は「二人で一人」の仮面ライダーだ。

「……そうだな。じゃあ、翔太郎くん。君が見に行ってきてくれ」

 ならば、彼を向かわせよう。沖は残り、翔太郎が行く形になるようだ。
 残りは女性四人だが……。

「僕も行きます。ダークプリキュアがどこに向かったのかもわからないし。もしかしたら、彼女やつぼみがいるかもしれない」
「それなら、私も行きます」

 いつきとヴィヴィオが挙手する。いつきとヴィヴィオはこの中でもなかなか親しかった。
 しかし、そうなると今度は骨折レベルの怪我人が二人も危険な場所に向かうという状況になってしまう。ヴィヴィオは極力、建物から外に出さずに待っているべきだし、できるなら美希か杏子を向かわせるのが得策だろう。

「いや、いつきちゃんはともかく、ヴィヴィオちゃん、君は残っていてくれ。怪我人を何人も連れていくわけにはいかない」

 ヴィヴィオと翔太郎。この二人は他の人に比べてもダメージが違う。そんな手負いの二人を纏めて行かせてしまうと、今度はいつきの負担まで大きくなる。ヴィヴィオは反射的に自分が行くと言ったが、実際考え直してみれば、確かにそうなってしまう。

「……そうですか」

 そのため、ヴィヴィオはすぐにおとなしくあきらめた。
 ここで名乗り出たのは、蒼乃美希であった。

「なら、私が行きます」

 この中でいつきとのコンビネーションが高いのは、同じプリキュアである美希に違いない。それはこの場にいる誰にもわかりきっている事であった。
 指名するわけにはいかなかったが、美希の側から名乗り出た事で、問題はなく進行する事になった。

「……わかった。おそらくこれが最も良い形になる。……翔太郎くん、いつきちゃん、そして美希ちゃん。あの山の捜索は君たちに任せた。俺たちは、ここで他の参加者が来るのを待つ」

 沖がそう言うと、それぞれチームが分かれる事になった。
 全員、また帰ってくれば問題はないはずである。







 一度、会議室に戻った彼らは、荷物を整理する。その場に或る食べ物を少しずつ摘まんで、少し口に入れ、喉に通す。のんびりしている暇はないが、ある程度の準備は整えなければならない。
 翔太郎、美希、いつきの三人はそれぞれ必要な物だけを持って出かける事にした。

 翔太郎が選んだのは、まずは当然必要となるダブルドライバー。それから、ガイアメモリについて最も詳しい専門家として、沖の持つT2アイスエイジメモリも回収する。
 あとは、翔太郎の支給品の類を見る事になった。
 勿論、翔太郎もとうに支給品の確認くらいは済ませていたし、そのうえで必要ではないと判断したから、殆ど装備する事はなかった。

「これは……スーパープリキュアの種」

 一つは、スーパープリキュアの種。ハートキャッチミラージュに装填するプリキュアの種だが、これはもう二度と機能する事がないだろう。本来、ハートキャッチミラージュを使い、スーパーシルエットとなるには四人のプリキュアがそろう必要がある。しかし、もうそのうち二人が死んだ。ただ、その場にはいつきがいた。

「……翔太郎さん。これを、僕に、貰えませんか」

 だが、このスーパープリキュアの種はいつきにとっても思い出の品だ。
 だから、お守りのつもりで、それを受け取っておきたいのだ。本来の持ち主として。


19 : ふたりの物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:15:00 FKsPOkkk0

「これはもともと、君のものだ。貰うんじゃない、返してもらう……って事だな」

 翔太郎にとっては、何の意味もない支給品。ならば、いつきに返すのが自然だ。
 残りの二つの支給品は、ネットを発射する銃と短刀である。
 ネット銃は犬探しや猫探しには有効そうだが、あまり使いどころもないので放置していた。一応、探偵として、これまでも懐にしまっていたが、使いどころはほとんどない。
 短刀──これは、散華斑痕刀と呼ばれるものである。これはまあ、銃刀法違反確定な長さだし、普通の刀とは違う形状ながらダブルの能力ほど大きな力を持ってはいなさそうだ。だから、基本的に使う予定はないし、これも置いておこうと思っていた。しかし、まあこの短刀は何かのトラブルで変身して戦えなくなった時に、護身用程度には使えるだろう──そう思って、懐に入れた。

「私は全部置いていきます。あの、これの使い方がわからないんですけど……誰かわかる人は……」
「ああ、それなら俺が解析しておこう」

 美希は、マイクロレコーダーと双ディスクを含む三つの支給品を全て警察署に置いていく事にした。相羽家の人間は先ほどの放送をもって全員死亡、モヂカラのディスクを使える人間ももういない。
 そして、残る彼女の支給品は、「D−BOY FILE」と書いてある機械だ。中を開けると、カードなどが残っている。美希には、これの使い方はわからなかった。孤門も同様だ。これは全て置いておく事にする。
 沖はそういう方面で詳しいので、一応それを受け取った。


 いつきの支給品は、刃の長いナイフであった。熊でも殺すのかと思うほどの大きさで、これまた銃刀法違反レベルには間違いない。

「……ん。それ、どっかで見た事あるな」
「大道克己が使っていたナイフだって、説明書に書いてあります……。おそらく……」
「ああ……あいつのナイフか」

 これは参加者の大道克己が使っていたものらしい。
 いつきは少し考えて、それを翔太郎に差し出した。

「……もしよければ、スーパープリキュアの種と交換で……これ」
「あ、いや……いい。護身用に持っておいたらどうだ? 人殺しに使わないにしても、邪魔な草とかを斬るとかにも使えるだろ」

 翔太郎が拒否する。仕方がないので、いつきが持っていく事になった。
 大道克己のナイフが、いつきの掌に握られる。なかなか重い。確かに、これで人を殺すのは辛いから、敵を倒す時だけ使う事にしよう。
 そっと体の内にそれを隠して、各々は準備に乗り換える事にした。

「…………はい」







 各々は、警察署の玄関まで移動していた。全員そろっているが、向かう三人と残る四人は何となく見えないラインで分かれている。

「おい……死ぬなよ。ヤバくなったら逃げろよ」

 杏子が、翔太郎に言った。
 表情には不安の色が見られる。杏子がその死を不安に思うような相手が出来たのは、本当に久々な気がした。
 だが、翔太郎は言った。

「大丈夫さ。まあ、様子を見に行くだけだからな。状況によっては戦うし、状況によっては人助けもする」

 こんな時にメモリガジェットがたくさん手元にあればもう少し便利なのだが、そういうわけにもいかないらしい。
 デンデンセンサーは警察署にいる連中のために残しておき、翔太郎は山へ向かう事にした。

「おい。あんたも死ぬんじゃねえぞ」


20 : ふたりの物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:15:38 FKsPOkkk0
「あ、うん」

 いつきにも、杏子は声をかけた。いつきも立派な仲間だ。

「それからお前も。……ま、死なれると後味悪いからな」

 いつきを見たついでのように、美希にもそう言葉をかけた。杏子は、美希の目を、はっきり見ていない。
 随分と翔太郎に比べて態度に違いがあるものだ。全く、素直に死んで欲しくないと言う気はないらしい。

(……わ、私を、ついでのように……! ……ま、まあ、でも、別にいいわ……。この子に心配してもらえなくても……)

 美希は、そんな杏子の労いの言葉にも、何も答えなかった。
 杏子を認められない。
 この中に一人、杏子がいるのはいい。でも、仲良くできるとは到底思えなかった。
 美希が好きじゃないタイプだ。不真面目、不良、怠惰、挑発的……。美希とは正反対で、そのうえ犯罪までやっているというその生き方が、美希には認めがたいものだった。
 美希は杏子の言葉に答えなかった。

「おい、無視すんなよ。おい」
「……」
「……ったく。……おらっ!」

 杏子は、自分の目を見ようともしない美希に向かって何かを投げた。美希は、慌てて、……直撃を回避するようなつもりで、それを胸元で受け取った。杏子はいったい、突然、何を渡したのだろうと、胸元のそれを手に取って、見つめた。

「……何これ。どうして……?」

 美希は思わず、杏子の方を見て、杏子に声をかけてしまう。
 それは山吹祈里が持っていたリンクルンであった。
 美希は、祈里のリンクルンを杏子が持っていた事など知らなかったので、これが出てきた事に驚く。
 杏子が、これを持っていたのか。

「苦労したんだぜ、それを悪い奴から奪い返すのも。……ま、お守り代わりってやつさ。持っていきなよ」
「どうして……」
「だから、悪い奴から取り返したんだって。せつなの友達の物を盗んでいるのは許せねえ」

 意外そうに杏子を見つめる美希であった。
 胸の中にある幼馴染の形見。それを取り返したのが、目の前にいる少女。
 ……まさか、普段からの「盗み癖」とやらが、こんな所で活かされたのだろうか。
 美希は、杏子を見直す事はなかったが、……まあ、少しだけ認めてあげてもいいだろうと思った。

「この事に関しては、素直にお礼を言っておくわ。でも、人の物を盗んで平然としているあなたの事は……」

 美希は、なお険しい目で杏子を見つめた。

「ちょっと待てよ! 折角、渡してやるってのに……なんだよ! その態度は!」

 杏子もまた、決して優しい目とは言えなかった。
 二人の視線は、また、激しくぶつかっている。

「おいおい、喧嘩は後にしろよ。さっさと俺と一緒にちょっとだけ出かけんぞ。……Pretty Girls」

 翔太郎が気障に言うと、美希と杏子はお互いを睨んだまま警察署を立った。






21 : 変わり者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:18:09 FKsPOkkk0


「……ったく、なんなんだよアイツは。気に入らねえ」

 美希のいなくなった警察署で、杏子は悪態をつく。ストレスでお菓子を食い散らかしながら。
 杏子は、良かれと思ってキュアパインのリンクルンを渡した。キュアパッションの物は差し出す事ができなかったが、せめてパインの物は渡してもいいだろうと思ったのだ。
 少し、出し惜しみをしている気もしたが、それでも、渡してやったのだからもう少し言い方ってものがある。

「折角、心配してやったのに……」

 実は、彼女が内心、最も心配しているのは、翔太郎ではなくせつなの友達である美希やいつきの方であった。
 彼女ら二人と同じ「プリキュア」が死ぬのを、杏子は目にしている。プリキュアを倒したモロトフがもう死んだからと言って、安心はできない。
 どうしても、プリキュアと名の付く戦士が死んだあの時のことをフラッシュバックしてしまう。
 その場にいたわけではないが、もう一人、街で死んだプリキュアを杏子は知っていた。

「あの……杏子さん?」

 話しかけてきたのはヴィヴィオだった。
 齢、10歳ほど。……殺し合いに巻き込んだ主催者が許せないと、今の杏子なら思う。
 ただ、杏子が裏切ったフェイト・テスタロッサやユーノ・スクライアをよく知る者であり、アインハルト・ストラトスが死んでいる事に悲しみを抱いている最中だと思うと、少し話しかけるのも抵抗がいる。
 どんな顔して、彼女と話をすれば良いのかわからない気持ちもあったが、それでも杏子はヴィヴィオに、そんな内心を勘付かれないように答えた。

「何だい?」
「さっき言えなかったけど、お薬……ありがとうございます」

 そういえば、ヴィヴィオもお礼を言っていないんだっけ。
 それは、ずっと美希と杏子が張り合っていたせいで、いまいち二人に話しかけるタイミングというのがなかったせいだろう。

「いいよ、別に……。その辺の店から盗んだものだし」

 盗んだ。……まあ、杏子にとってはそうだが。
 後で美希と孤門といつきが律儀にその代金を……まあ、一部だけは払ったようである。払ったのは、実際のところ半額程度。無人となると、やはり杏子がここで回収してきただけの額(その額、×万円である)を払わなくてもいいんじゃないかと思う程度の隙間は生まれる。
 美希が怒っていたのは、そこでちゃんと全額払う事ができなかったストレスでもあり、そんな額になるぶんだけ物を盗んだ原因・杏子に対するものだろう。
 ただ、盗んだ物という言い方はするが、美希と孤門といつきはおそらく、薬や救命関連の道具に関しては、そのお金を少し出したと思う。

「……あの。さっき杏子さんは、生きる為に、元の世界でも盗みを働いていたって、言ってましたよね」
「ああ。でも、良い子は決して真似するんじゃねえぞ……」

 杏子は、ヴィヴィオの瞳を見た。
 目の前の高町ヴィヴィオは、母を亡くした。果たして、彼女に一人で生きていく道があるかというと、杏子にはそれは思いつかない。杏子と同じように、魔法少女の力で物を盗みながら生きていくのが、最も良い事だろう。
 道徳よりも、自分が生きるため──それを優先する杏子としては、ヴィヴィオにそんな事も言えないかもしれないが、まあ、それがいかに最悪な事かも教えてやった方がいいかもしれない。

「で、なんで、そんな事訊くんだ……?」
「いや、もしかして怖い人なのかなって……でも、そんな風にも見えないですし……」

 杏子は、ヴィヴィオがそう言っているので、笑った。

「……あたしはちょっと、事情があってさ。両親も妹も、少し前にちょっとした事件で亡くしたんだ。施設にも行ってない。魔法少女の力でフラフラしながら、金を盗んだり食べ物を盗んだり……まあ、自分で言うのも何だけど、最悪な事して生きてきたよ」

 これも罪という奴だ。
 ただ、この何もかもが偽りの街でまで、金を払ってやる義理はないと、杏子は思う。
 正しいとか間違ってるとかじゃなく、ただその方が合理的だ。それで良い、はずなのだ。


22 : 変わり者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:18:36 FKsPOkkk0

「でも、あたしはもう元の世界でも盗みはやらないつもりだ。あの兄ちゃんに出会って、そう決めた。……だけどさ、ここで生きるのに、別にそんな法律とか律儀に守る必要ないだろ」
「そうですけど……」

 ヴィヴィオは、何か言いたげでもあったが、その先が出てこない。
 代わりに、杏子は思い当たる事を言った。

「……道徳ってやつかい?」
「ええ……」
「ほんの少しでも、こんな状況でも、人としての道を外れる事が怖いってのか? ……なるほどな。もう、そんな気持ち忘れていたのかもしれない……あたしも」

 平然と盗みをやって生きてきた杏子が、もう忘れていたことだった。
 道徳。……それが金にならなかったから。

「……わかったよ。あたしも、ここではその辺の品物にちゃんと金を払う。あー、でも手持ちねえから、そのうち、帰ったらどっかの教会にでも寄付するか。後で美希にも謝るよ」
「……ありがとうございます」
「仕方ねえさ。変わり者の条件、一つ追加だな」

 杏子は、翔太郎から言われた例の条件を持ち出す。

「変わり者の条件……?」

 ヴィヴィオが不思議そうな顔をした。沖や孤門も、どうやらその言葉に疑問を持っているらしい。

「聞きてえか? あの兄ちゃんが考えた、変わり者の条件ってのはな……」










「……で、蒼乃美希、だっけ? 君は杏子をどう思ってるんだ?」

 仮面ライダーダブルは、キュアベリー、キュアサンシャインと並走しながら、美希に訊いた。杏子との不仲は、先ほどから見ていて明らかだ。
 しかし、杏子がいる当人の前でそんな事を聞くわけにはいかない。

「……一言で言えば、気に入りません。物を盗んで、人をからかって……もう少し真面目にできないのかしら」

「はは……違いねえな。……だがなぁ、ちょっとでいいから、あのヤンチャガールの事情も、察してくれよ。あいつは、本当は悪い奴じゃねえんだ。なあ、フィリップ」

 “翔太郎”がそう合図すると、“フィリップ”は語り出した。
 翔太郎と違い、フィリップは肉体的運動を伴っていないので、走りながらでも容易に話す事ができる。
 翔太郎とフィリップが聞いた杏子の過去。それを、この美希に伝えなければならないらしい。

『佐倉杏子。彼女は、今日、ここに連れてこられるまでに、少しばかり過酷な人生を辿っている。彼女はもともと教会の家に生まれた姉妹の姉だった。……蒼乃美希、君も“弟”を持つ“姉”で、明堂院いつき、君は“兄”を持つ“妹”だったね。彼女と同じだ』

 物語に入り込ませるため──少しでも杏子に感情移入させるためなのか、二人に語り掛けるようにフィリップは言った。
 フィリップは、姉を二人亡くしている。そして、姉は、「弟」を亡くしている。
 家族が亡くなるという事のつらみを知っている人間だから、家族がいる幸せを心に持っている二人に言いたかったのだ。

『その父親は、正直で優しい人だったらしい。新しい時代には新しい新興が必要だと考えて、教義にもない事を次々と人々に教え、……その結果、本部から追放され、彼女の家は酷く困窮したっていう話だ。それで、キュゥべえと呼ばれる悪魔に契約したんだ。キュゥべえについては知っているかい?』
「はい」


23 : 変わり者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:19:09 FKsPOkkk0

 と答えたのは、いつきだった。美希は人づてにしか聞いていないが……。
 確か、願いと引き換えに魔法少女の力を付与し、使命を与える使いだったという。
 それだけは知っている。プリキュアに力を付与した妖精とさして違わず、その存在が善か悪かもよく判断できなかったので、「悪魔」という言葉は引っかかったが。

『佐倉杏子の願い──それは、自分の父の話を聞いてほしい、というだけだった。彼女は自分の父の言葉が正しい事だと信じていたし、少しでも貰えれば支持してくれると信じていたようだね』

 ……ここまでの話を、美希は意外そうに聞いていた。
 神の御加護、なんていうものは祈里には似合っても、杏子には似つかわしくないものであるように思えた。祈里はミッション系の中学に通っていて、クリスチャンだった。教会の生まれという事は、杏子も、もともとはクリスチャンだったのだろうが、気弱な祈里のイメージとは正反対だ。何となく、クリスチャン全体に、美希は祈里のイメージを重ねてしまう。
 それに、お菓子をおいしそうに頬張る杏子の姿は、困窮していた少女のイメージとは異なったし、父の願いを聞かせようと必死だった娘の姿とも重ならなかった。

『杏子ちゃんも、世界を救うために、魔女と戦い、自分の父の言葉が人々を導いてくれるのを喜ばしく思っていた。それこそ、君たちプリキュアのようにね。……だが、そんな日々は長くは続かなかった。杏子ちゃんの父は、自分が杏子ちゃんの魔法で信者を獲得しているんだって、知ってしまったんだ。……それを彼女の父は受け入れられなかった。人の心を惑わせて信者を増やすなんて事がね。杏子ちゃんは、実の父に魔女として罵られた。父は酒に溺れて、家族に虐待を加えるようになっていった。……そして、佐倉一家は、杏子ちゃんだけを残して父親による一家心中で全員亡くなったそうだ』

 心中。──たまにニュースで、遠い世界で起こるような、そんな言葉。美希の前にいたのは、そんな過酷な運命に人生を狂わされた被害者だったのだ。
 そんな子が──一人残された中学生の少女が、それからどう生きていくか。
 ……きっと、まともな生き方なんてできない。美希なら耐えられない。自分の両親は離婚した。喧嘩だってしていた。そして、もし父が刃物を持って、母や弟や──あるいは美希に襲い掛かるとしたら。
 勿論、そんな事は、美希も想像できないし、想像したくなかった。だが、杏子だって、自分の一家が心中するなんて想像していなかっただろう。
 そして、美希や杏子の中には、そんな過酷な人生でも、施設に入らずに日々を過ごせる力があるではないか。好きなように自分の人生をゆがめられる手段があるではないか。
 世の中がいやになったなら、幸せな家庭を横目に恨みを持ったなら──この力で、奪う事だってできてしまうではないか。
 美希は、それを想像して鳥肌が立った。

『まともでいられるはずがない。普通の人なら。それから彼女は、自分のために生きる決意をしたんだろう。他人のために生きていく事が、その人の人生さえも壊す結果になるのなら……とね。それで、一人で生きていくと決めて、魔法少女の力を使って物を盗みながら生きてきたんだろう。実を言うと、最初は殺し合いにも乗っていたらしいんだ。誰か殺してはいないけど。……それに、今は違う。彼女は自分の答えを見つけた。罪を償うためにね』
「そんな……」

 美希は、心の中で愕然とし始めていた。
 目の前には、森が見え始めている。ここから山へと入っていくのみだ。
 杏子がいた警察署からは離れていく。

「美希。あいつのやってる事はまあ、確かに元の世界なら犯罪さ。……この状況でも自販機ブッ壊すのは流石にどうかと思う。だがな、あいつは生きる為に、そして、誰かに食べ物や飲み物や薬を分けてやりたくて……それで、ここでは金を払う必要はないと、そう自分で判断して、あれを盗んできた……いや、持ってきたと思ってるんだろうな。わかってやってくれよ」

 美希は、出かかった言葉を飲み込んだ。
 反論ができない。
 美希は、自分の生き方がいかに恵まれているものなのか、それを考えていた。
 美希は、両親が離婚してはいるものの、モデルとして売り出すパイプを持った親がいたし、家も裕福だ。片親ながら、私立の学校に通わせてもらっている。
 杏子のように、学校にもまともに通えず、その日の食べ物にさえ困る生活をしていた人間の事を、考える事ができなかった。
 そんな人間が自分の身近にいる事を考えなかったのだ。

(杏子……)

 美希は、祈里のリンクルンを握りしめた。
 杏子が取り返してくれたのに、ちゃんとお礼を言えていない。それどころか、自分勝手な言葉を杏子に突き付けてしまった。
 それが……とても……。


24 : 変わり者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:19:34 FKsPOkkk0
「あ、翔太郎さん、美希、あれ!」

 ふと、いつきの一声で、美希は我に返った。
 二人の目の前には、白いコートに身を包んだ、見知らぬ男が駆けていた。
 敵か味方かはわからないが、ともかく三人は彼に声をかける事にした。







 孤門は、杏子の話を聞いた後も、警察署の外を見つめていた。三人は今、どこまで行けただろうか。
 ……つい先ほど、西条凪と溝呂木眞也の死亡も伝えられた。遂に、残る知り合いは石堀光彦だけである。
 信頼していた相手、強かった人たちまで次々と死んでいく今、本来すべきは「全員で行動する事」なのは違いないと思っていた。そうすれば、敵と戦うための兵力として、お互い支え合う事ができる。
 怪我人の防御壁として前に立つ事もできるし、孤門自身は誰かを守りたいという気持ちが根底にある。
 ……それももう、あと二十名も守れないという事だが。

(副隊長……)

 死んだ凪は、厳しい人だが、時に優しい人だった。
 リコの死を乗り越えられたのはあの人のおかげだ。
 憎しみという力が正しいかはわからないが、あの時、孤門が「憎しみ」に手を伸ばさなければ、孤門はもっと深い闇に陥り、ナイトレイダー隊員ではなくなっていた。
 千樹憐と出会う事もなかっただろう。

「あのさ、孤門の兄ちゃん」

 杏子がふと、話しかけてきたので、孤門は振り向く。

「何だい?」
「……さっきの放送で死んじまった、西条凪って人、それから姫矢准って兄ちゃん、いただろ。兄ちゃん、その人たちと知り合いなんだよな……? その人の事について聞きたいんだ……光を継いだ者として」
「ああ……」

 こうして、死んだばかりの人間の事を孤門に対する配慮もなく聞けるのは、杏子の良いところであり、悪いところだ。……いや、少し間を置いてから話したのは、せめてもの拝領というやつだろうか。
 まあ、孤門も大人なので、杏子が根は悪い人間ではないと知っているし、信じている。姫矢によって光を託された彼女が、決して悪い人間ではないと。
 いつか話せばならない話だ。

「さっき亡くなった西条凪さんは、僕が所属していたナイトレイダーの先輩で、部隊の副隊長だよ。僕はまだまだヒヨッ子で……そんな僕を支えてくれたのが、西条凪副隊長なんだ」

 黄昏るように、窓の外に目をやる。見張りも兼ねているようには見えないが、おそらくその辺りはちゃんとしているのだろう。

「僕のいた世界はね、あんまり平和じゃなかったんだ。ちょっと前は……平和な日々を、ごく当たり前の物として生きてきたし、たくさんの人がそうやって生きている。目の前にある現実が、偽りの物だったなんて知らずに……」

 孤門は、全て一から話す事にした。杏子に対しても、まだ話していない。
 彼女がウルトラマンの光を継承した事は聞いたが、その力が一体どうやって伝わっていったのかを、孤門は教えなければならない。
 その光がある世界が、どんな世界なのかも、伝えなければならないだろう。

「……一見普通に見える日常にも、得体の知れない怪物が巣食っている事がある。僕たちの世界にとっては、スペースビーストという怪物だった」

 杏子は魔女を、沖はドグマやジンドグマを思い出しただろう。
 どんな世界にも、見えない脅威というのが潜んでいるのかもしれない。

「スペースビーストは、人間を捕食して生きる巨大な怪物なんだ。小さな物でも、数メートルはある。……僕は、ある時レスキュー隊から、突然TLTという組織に異動になって、その時に、そんな怪物がこの世にいる事と、それがTLTによって人々の記憶から消されている事を知った。……人々がパニックにならないためだって」


25 : 変わり者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:19:54 FKsPOkkk0

 魔女が秘匿されているのと同じ理由であるように思えた。
 人々の記憶を消す技術が存在し、組織的に怪物の存在を隠ぺいしているというのだ。
 その話を聞くと、恐ろしい。自分の記憶というものが当てにならないかもしれない、最悪の世界だ。

「僕が異動になったのは、スペースビーストを倒すための部隊・ナイトレイダーだった。隊長は和倉英輔、副隊長は西条凪、それから、僕の他に石堀光彦隊員と平木詩織隊員がいた。そこで、まあレスキュー隊の時より辛い訓練をさせられてね……あんまり良い思い出はないんだけど、その時の鬼教官が平木隊員で、鬼先輩が西条副隊長」

 どこか自嘲気味に笑った孤門の横顔。そんな日々を懐かしんでいるようにも思える。
 いたたまれない空気が漂う。しかし、当の孤門はそこまで凪の死というものをひきづってはいなかった。

「僕たちはビーストを倒しながら、ある時、ビーストと戦う光の巨人と出会った。……それが、ウルトラマン……君も知っている、姫矢さんだ」
「姫矢……」

 この時、杏子の中で、姫矢という人物と目の前の男が繋がった。全く、不愛想というほかない男と、このごく普通の天然の男の接点というのは、正直言って、今の今まで見えなかったのである。
 この弧門と姫矢が旧知の仲だとは思っていなかったが、そうした経緯で出会ったのか──それを、初めて聞いた。

「姫矢さんは、もともとカメラマンだったらしい。僕も知らないんだけど、昔はかなり熱血漢で、社会の不正を暴くために頑張ってたらしいんだ……。でも、そうして人間の暗部を知っていくのが姫矢さんには耐えられなかった。……やがて、日本の社会を離れて、紛争地で戦場の写真を撮りに行く事になったんだって」
「……そうだったのか」

 姫矢は職業さえわからない男だったが、杏子にとってもかなり予想外の仕事であった事に驚いた。
 社会の不正を暴くために真っ直ぐに突き進んで、人間の暗部が嫌いで、戦争が起こる世の中を悲しむ……そんな男を、杏子はかつて、父に持っていた。
 杏子は、姫矢に持ったあの……謎の共感の正体が突き止められていくのを感じた。
 そうだ、彼は、世の中に裏切られ、信じる者を失った父と……全く同じ目をしていたのだ。いや、もしかすれば、鏡が自分自身の姿を捉えた時も、その目を見たかもしれない。
 ただ、変身を解いて、杏子と翔太郎を先に行かせた時の姫矢の目は、あのくらい瞳とは違った。──そうだったのだ。
 孤門は続けた。

「……戦場で、ある少女に出会って、姫矢さんは打ち解けていった。姫矢さんはその子を妹のように可愛がっていて、元の明るい性格に戻っていったんだけど、……その子は、姫矢さんが戦地で写真を撮りに行った時、姫矢さんを追いかけて、姫矢さんの、目の前で爆撃を受けて、死んでしまったらしい。でも、その時の写真が、賞を得て、姫矢さんはずっとその罪の意識に苛まれていたんだ。
 妹のように可愛がっていた女の子が自分のせいで死んでしまった事も、その瞬間をとらえた写真で人々に称賛される事も、批判される事も……姫矢さんには、耐えられなかったんだ。……そんな姫矢さんが、夢の中で、その子に導かれて、そして手にしたのが、ウルトラマンの光なんだって。それから、姫矢さんは己の罪を償うために、ウルトラマンとして戦う事にした」

 光の正体──それは、孤門にもわからない。
 わかっているのは、姫矢や憐のように、辛い事情を抱えた人間にばかり、その力が回っている事だけだ。

「そのころ、もう二人のウルトラマンが現れた。ビーストを操る、ダークファウストとダークメフィスト。……ダークメフィストだったのが、元ナイトレイダー副隊長の溝呂木眞也だ。ビーストたちの使者、アンノウンハンドによって送り込まれた手先らしい。ウルトラマンと互角の力を持つファウストとメフィストは、僕たちにとっても厄介な敵だった」

 孤門は、口を噤んだ。
 ダークファウストの正体を言おうとして、それでやはり黙ってしまった。そこから先の言葉が、出すに出せなかった。
 だから、孤門は、懐から言葉ではなく、物を取り出した。
 小さな鳥のストラップである。片翼が折れており、壊れ物であるように見えた。没収から漏れたアイテムの一つらしい。まあ、こんなものを没収してどうするという話だが。

「このストラップ、……ガンバルクイナ君って言うんだけど、これは僕の恋人のリコがくれたんだ」


26 : 変わり者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:20:28 FKsPOkkk0
「恋人!? 兄ちゃん、彼女いたのかよ!」

 杏子が反応する。それは初耳である。
 この冴えない男に、まさか彼女がいたとは。……確かに、顔はかなり良い部類なのだが。
 しかし、孤門は少し笑って、答えた。

「……いや。もういないよ」
「あ、悪い……フラれたのか……。悪いな、厭な事思い出させちまって」

 孤門の哀愁に満ちた言葉に、杏子がそう誤解するのも無理はない。
 だが、孤門は首を振って、杏子の方を見て答えた。その顔には、少し哀愁のような笑みが込められていた。こういう流れになったからこそ、孤門はもう少しくだけたように言えた。

「リコはもう死んでしまった。……リコが、ファウストだったんだ」

 失恋など、まだ容易い現実にさえ感じるほどの、理不尽な現実であった。







「おい、そこのあんた! ちょっと待ってくれ!」

 鋼牙は、背後から聞こえた声に、咄嗟に振り向く。立ち止まり、後ろから現れる謎の怪人に向けて剣を構えた。一部の隙もない動作に、思わず怪人はたじろいだ。

「……なんだ、お前は」
「……っと、これはご挨拶だな。俺は仮面ライダーダブル、左翔太郎だ」
「仮面……ライダー……? お前も仮面ライダーなのか!?」

 鋼牙は、エターナルやゼクロス、クウガなどの仮面ライダーを思い出す。
 なるほど、確かにダブルが巻いているベルトは仮面ライダーエターナルが装着していたものに酷似しており、ガイアメモリがセットされている。間違いなさそうだ。

「お前も? ……じゃあ、あんたも仮面ライダー!?」
「……いや、俺は仮面ライダーじゃない。だが、仮面ライダーは何人も知っている」

 仮面ライダーエターナル、仮面ライダーゼクロス、仮面ライダークウガ。これまで出会った仮面ライダーは三人だ。いずれも、もう少し影があったような気がする。翔太郎のこの絶妙なテンションの人間はいなかった。
 まあいい。一条によると、五代もそういう人間だったようだ。
 鋼牙は、キュアサンシャインの方を見た。彼女の姿は殆ど、キュアブロッサムの色違いだ。

「……それから、君たちはプリキュアだな。プリキュアも知っている」
「プリキュア!? じゃあ、キュアピーチと会ったの?」

 間髪入れずにベリーが訊く。

「ピーチ? いや、俺が会ったのは、キュアブロッサムとダークプリキュアだ。キュアピーチとは会っていない」

 キュアピーチというプリキュアは、そういえばつぼみも言っていたが、「キュア〜」ばかりで少し迷った。そのプリキュアの名前とは、まだ会っていない。
 考えるに、キュアピーチは桃園ラブか蒼乃美希だったような覚えがある。
 キュアブロッサムの話をしたところで、キュアサンシャインが声をあげた。

「ブロッサムやダークプリキュアと会ったんですか?」
「彼女と知り合いか。すると、君は……」

 鋼牙といえど、プリキュアの名前を覚えるのには苦戦する。
 その言葉に、思い出しながら話すようなニュアンスを感じ取ったのか、いつきは自己紹介を兼ねて、すぐに答える事にした。

「キュアサンシャイン! 明堂院いつきです」
「そうか……君がいつきか。二人は、向こうに行った。……ただ、ダークプリキュアには警戒した方がいい。……奴は殺し合いに乗っている」
「……そうですか」

 キュアサンシャインは項垂れた。少し信じてみようと思ったのに、ダークプリキュアは悪事を重ねている。アインハルトも、源太も、彼女に殺されたのだろうか。


27 : 変わり者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:21:05 FKsPOkkk0
 それを思うと、悲しい。彼女はまだ悪事を重ねるのだろうか。
 彼女の心の闇を照らす事はできるのだろうか。
 ……キュアサンシャインはそう思いながら、やはり顔を上げた。
 ダブル、キュアベリー、キュアサンシャインらは、顔を見合わせた。

「……そうだ、まだ聞いてないんだが、あんたの名は?」

 ふと、翔太郎が鋼牙に訊いた。そういえば、名乗っていなかった。鋼牙は己の名前を名乗る。

「俺は冴島鋼牙。……いや、ここではもう一つの名前も名乗るべきか。もう一つの名は、黄金騎士牙狼(ガロ)という」

 ダブルが、男の名前を二つとも、脳内で反芻する。
 冴島鋼牙。黄金騎士ガロ。いずれも、どこかで聞いた名前だ。確か、誰かが出した名前だ。いくつもの名前を知っているので、少し考えてみる事にした。
 翔太郎、いつき、美希……彼らは全員、その名前を知っていたのである。ある者から聞いていたのだ。

『ザルバが言っていた人だよ、翔太郎』

 最初に口に出したのはフィリップだった。

「……そうか! あんたが鋼牙か! 魔戒騎士だな? 警察署でザルバが待ってるぜ!」
「ザルバ!? ザルバを知っているのか!!」

 鋼牙は、かなり驚いたように白衣を震わせる。
 魔導輪ザルバ。魔導具シルヴァもここにいたので、おそらくここにシルヴァもいるだろうと思っていたが、まさかザルバを知る者がいたとは。

「……あー……っと、そうだな、会って来いよ。あいつも会いたがってたみたいだし。向こうには俺たちが行くから大丈夫だ」

 翔太郎は、そう口にした。元の世界の相棒に一刻も早く会いたい気持ちは鋼牙にもザルバにもあるだろう。彼らは、そう、「相棒」だ。
 一緒にいるのが自然である。あの口うるさい指輪を鋼牙は指にはめ、共に行動するべきだろう。

「……あ。そうだ、美希。お前、こいつを警察署まで案内してやれよ」

 ふと、翔太郎が口にした。
 ここでまさか自分の名前が挙がるとは思っていなかったらしく、「え!?」と、美希は驚く。何故ここで自分が指名される事になるのか、美希にはわからなかった。

「でも……なるべく三人以上で行動しろって……孤門さんが」

 ここまでの道筋で、警察署から山までの区間にほとんど参加者がいないらしい事はわかっている。滅多な事では他の参加者には会わないだろう。美希たちは二人で行動しても安全だと思う。
 しかし、美希が心配しているのは翔太郎たちだ。

「……だから、“三人”だろ? 帰り道はだいたい安全だろうし、そっちは二人で大丈夫だろ」

 ダブルの腰のダブルドライバーを指で軽く弾いた。
 このダブルドライバーから聞こえる「フィリップ」の声。それが、三人目か。
 ……いや、それは美希にもわかる。しかし、そういう問題ではないだろうと美希は思う。
 実戦力としての人数は二人である事に違いはない。庇い合うにも、人数が少なすぎるだろう。

「……美希。行きなよ。私たちは大丈夫。杏子にお礼、言いに行きなよ」

 しかし、そう考えていた時にキュアサンシャインが肩をたたき、優しく微笑みかけた。
 鋼牙は事情を知らないようだが、黙って立ち尽くす。

「でも……」

 美希は彼らを心配する気持ちを胸に抱いた。
 ……しかし、ダークプリキュアを止められるとしたら、それはきっとキュアベリーではない。キュアブロッサムかキュアサンシャインなのだ。
 戦いの中で美希が彼らを手助けできる余地はあまり残っていないのではないかと思った。
 美希は、二人を信じる事にした。


28 : 変わり者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:21:44 FKsPOkkk0

「……わかったわ。……あなたも、もしダークプリキュアを見つけたら」
「……うん。わかってる。彼女は、私が止める」

 プリキュア同士は、お互いの目を見て、それぞれ、ある人と「友達」になるために道を分かつ事にした。
 お互いを信頼し、お互いに健闘を祈って。
 再び、ここで美希は警察署に戻る事になった。

(……杏子。私、ちゃんとお礼言ってない。それに、謝らなきゃ……)

 美希は、杏子の境遇を知った。それで、少し彼女の事を異なる視点で見る事になった。
 同情……じゃない。
 彼女の事を全く考える事ができなかった自分の戒め。そして、彼女が生まれつきの悪人ではない事がわかった複雑な想い。
 ──友達に、なれる。
 杏子と、もう一度話そうと美希は決意した。







「……リコは僕と会った日、もう死んでいた。その後僕がずっと会っていたのは、リコの体を使ったダークファウストだったんだ……。それでもリコは、最後にはリコの意思を取り戻して、ウルトラマンを助けてくれた。
 その時……僕は大事なリコが、溝呂木に利用されて、捨てられる人形のように使われていた事を憎んだ。ナイトレイダーもやめようとして、立ち直る事もできないままに毎日生きていた。でも、そんな時に僕を救い出してくれたのは副隊長だった」

 今となっては、もうその時の事さえ懐かしい。
 ほんの数か月前の話だというのに、ナイトレイダーで生きる毎日は長くも感じる。
 レスキュー隊にいた頃よりもずっと過酷で、命知らずな日々だ。そして、厳しいながらも孤門を助けてくれる副隊長の存在は、孤門の心の中でも大きなものだった。

「副隊長は、小さい時にビーストに両親を殺された。その事でビーストを憎んで、殲滅させる事に全てをかけていた。……それから、自分の先輩だった溝呂木の事が、アンノウンハンドによってメフィストにされて、ビーストを操っている事も憎かったんだと思う。
 だから、副隊長はビーストを憎んだ僕に自分の境遇を重ねて、励ましたんだよ。……強くて、厳しくて、それでも優しい人だった。彼女の厳しさが、僕を今まで支えてくれた。彼女の強さが……僕を勇気づけてくれた」
「……そうか」

 杏子にとっては、巴マミのような人だったのだろう。そして、彼らは袂を分かつ事はなかった。かつて、ベストパートナーとして、戦場で戦い抜いていったのだ。弟子だけが生き残った。
 それは、沖にとっては玄海老師だったし、ヴィヴィオにとってはなのはやスバルだったかもしれない。

「それから、その後も僕たちと姫矢さんはビーストと戦い続けた。人々の知らないところで。……そして、やがて姫矢さんとダークメフィストとの決戦の時が来た。結果は相打ち。姫矢さんはいなくなって、溝呂木も人々の前から姿を消した。
 でも、最後には姫矢さんは、罪を償うためではなく、その力でみんなを守るために戦った。僕に一言言い残して」
「一言……?」
「『孤門、光は絆だ。誰かに受け継がれ、再び輝く』」

 その「誰か」というのは、この場合、杏子に違いない。だから、孤門は杏子を見ながらそういった。しかし、孤門にとって、その継承者はもう一人、別にいた。
 この世界で矢が光を繋いだ相手は杏子だったが、元の世界では違ったのだ。

「……ここでは君が光を引き継いだけど、僕たちの世界では、千樹憐という17歳の男が姫矢さんから光を受け継いだ。憐は、姫矢さんよりも人懐っこい性格かな。彼も、自分が光を手に入れた意味を考えて、人を守るために戦ってるよ」

 孤門は薄く笑った。

「……僕の知っている事は殆ど終わりだ。ここにいた姫矢さんは、自分の光を君に託した。それにはきっと、深い意味がある。その光を手に入れた君を、僕は信頼するし、光はまた繋がれていくだろう。杏子ちゃん、君もきっと……」


29 : 変わり者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:22:09 FKsPOkkk0
 光を継いだ意味。
 ウルトラマンとなった者たちが誰も悩み、その答えを見つけていく。
 翔太郎や孤門は、杏子にその手助けをしているに過ぎない。
 本当の意味は、自分自身の力で見つけなければならない。
 この光がまだどこかに継がれていないのなら、それはきっと、彼女にはまだやるべき事があるという事なのだろう。

「……光を継いだ本当の意味? そんなもの、本当にわかんのかな?」

 杏子が難しそうに頭を掻く。そんなに難しい事ではなくても、どうしてもその言葉が難しそうに感じるのである。
 自分が本当に光を引き継ぐにふさわしいのか、その迷いはいまだに杏子の中に在った。

「わかるよ、絶対。君を選んだ姫矢さんの友人として、君が繋ぐ絆を、僕は信じる」

 孤門は、こんなに辛いはずの想いを、杏子に笑顔で打ち明けてくれた。きっと、内心では結構、悲しんでいるだろう。
 しかし、それを悟らせないために、笑って──

「……そうだ、杏子ちゃん。もしくじけそうになったら、一つだけ覚えていて欲しい言葉があるんだ。そうだね、変わり者の条件に、僕も一つ追加していいかな?」
「何だい?」

 杏子は訊いた。ヴィヴィオと沖は、その言葉を知っている。

「──諦めるな!」

 孤門が、唯一険しい顔をする時だった。
 どんな時でも諦めず、苦難を乗り越えた孤門の口から出た言葉。返せるわけもなかった。

「僕が昔、川で溺れた時に、誰かが助けてくれて、そう言ってくれたんだ」
「誰か……?」
「その人が、誰なのかわからない。でも、その人を目指してレスキュー隊に入って、今はナイトレイダーにいる。そして、僕はその人の言葉を今も胸にしまっているんだ。すごく、単純な言葉だけど、だからこそどんな時も僕の胸に残り続けた」

 小さい頃から、一貫して忘れない言葉。
 なるほど、これが、孤門が考える「変わり者の条件」という奴か。

「……はは、実は、美希ちゃんにも全く同じ事を言ったんだ。その時の美希ちゃん、今の君と同じような顔をしていたよ」
「あ!? あいつは関係ねえだろ!!」

 杏子は、思わず乱暴に立ち上がったが、孤門は、そんな彼女をからかうように笑っていた。
 美希と杏子が仲良くなる事を、孤門は望んでいる。誰だってそうだ。魔法少女とプリキュア、随分違いはあるだろうが、きっと仲良くなれると、信じている。
 似ていないからこそ、どこかで二人の息が合ったときに、可笑しいのだ。

(……でも、あいつに言わなきゃならねえよな)

 ヴィヴィオに対して言った変わり者の条件──ちゃんと物を買う時はお金を払い、悪い事をしたら謝る事。
 それを果たすのは恥ずかしいが、しかし、杏子は翔太郎のような変わり者になりたいのだ。







 ──それから。

「……美希ちゃんだ! 美希ちゃんが帰ってきた!」

 孤門の合図とともに、他の全員が窓を凝視した。杏子、沖、ヴィヴィオが全員窓に向けて顔を出した。
 美希は、こちらに向けて合図をしている。何かジェスチャーをしているが、よくわからない。かと言って、あまり大きな声を出すわけにもいかない。……彼女は、もう一人、誰かを連れていた。それは白衣の男である。

「何かあったのか……?」
「いや、途中で誰かに出会って、ここまで案内してきたのだろう。彼を知っている人は……?」


30 : 変わり者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:22:30 FKsPOkkk0

 沖がそう訊いても、誰も返事をしなかった。あの男は、沖の知り合いではないし、孤門やヴィヴィオや杏子の知り合いでもないらしい。では、なぜ……。
 そう思ったところで、杏子の指に嵌められた魔導輪が訊く。そうだ、コイツを忘れていた。

「おい、誰かいるのか? 見えねえよ」
「あー、悪い」

 杏子がザルバを外に向ける。指に嵌めている指輪が動いて喋る姿には、最初は少し嫌悪感さえ覚えるほどだったが、今は随分と慣れたものである。

「……って、もう誰もいないじゃねえか」

 杏子がザルバを外に向けた頃には、もう美希もその男も建物の中に入ってしまったらしい。誰だかわからないが、ザルバは特に期待していなかった。
 ここまで、ザルバは魔戒騎士の知り合いと一切会っていない。まるで一人だけ別世界にいるような感覚だ。しかし──

「えっと……白い服を着てたな。大人の男だぜ」
「白い服……? もしかして……」

 ザルバは思案めいた表情になった。
 ここの参加者の中でも、黒い服か白い服ならば、一人だけ心当たりがあるのだ。
 そう、それはザルバの相棒だ。

「……ザルバ!」

 聞き慣れた事のある声が、ザルバの名を呼んだ。

「鋼牙!」

 ────冴島鋼牙と魔導輪ザルバがいま、再び巡り合う。

「……よう、あんたも」
「杏子、あなたに……言いたい事がある」

 同時に──蒼乃美希と佐倉杏子もまた、巡り合った。

「「ごめんなさい」」

 そして、美希と杏子。二人が、お互いに頭を下げ合った。







「……これ、はい」

 美希が、杏子にお菓子を差し出す。この警察署にある物ではない。美希がおすすめする、少し高いシュークリームだ。値段は張るが味は確かというところか。

「何だよ、コレ」
「お店に落ちてたから貰ってたのよ」

 店に落ちていた。貰って来た。それはすなわち、美希にもっとも似つかわしくない行動──

「それ窃盗じゃねえか!」
「だから、やってみたのよ、あなた流を。ここで生きるのに、最も冴えたやり方なんでしょ? ……わかってるわ」

 杏子は黙った。
 黙って、袋入りのシュークリームを受け取った。杏子も食べた事がない銘柄だ。そもそも杏子の街にこの店のシュークリームが存在するのか、わからない。

「仕方ねえな、ホラ」

 杏子は500円硬貨を指の上で弾いて、美希に投げるように渡した。これも確かに盗んで稼いだゲーセンで遊ぶための物だが、仕方ない。


31 : 変わり者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:23:05 FKsPOkkk0

「……何これ」
「こんな時でも金を払うのがオマエ流なんだろ。あたしも乗る事にしたよ」

 美希は、杏子の。
 杏子は、美希の。
 その生き方を理解し、お互いを尊重し合った結果である。

「……これ、全然足りないわよ」
「マジかよ!? どんだけ高えもん食ってるんだよ!!」



【1日目 夜】
【F−9 警察署 会議室】

【沖一也@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、強い決意
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2、首輪(祈里)、ガイアメモリに関するポスター、お菓子・薬・飲み物少々、D-BOY FILE@宇宙の騎士テッカマンブレード
[思考]
基本:殺し合いを防ぎ、加頭を倒す
0:D-BOY FILEを解析してみる。
1:本郷猛の遺志を継いで、仮面ライダーとして人類を護る。
2:警察署内では予定通りに行動する。
3:この命に代えてもいつき達を守る。
4:先輩ライダーを捜す。結城と合流したい。
5:仮面ライダーZXか…
6:ダークプリキュアについてはいつきに任せる。
[備考]
※参戦時期は第1部最終話(3巻終了後)終了直後です。
※一文字からBADANや村雨についての説明を簡単に聞きました
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました
※18時に市街地で一文字と合流する話になっています。
※ノーザが死んだ理由は本郷猛と相打ちになったかアクマロが裏切ったか、そのどちらかの可能性を推測しています。
※第二回放送のニードルのなぞなぞを解きました。そのため、警察署が危険であることを理解しています。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※ダークプリキュアは仮面ライダーエターナルと会っていると思っています。
※霊安室での殺人に関して、幽霊の呪いである可能性を聞きましたが、流石に信じていません。

【蒼乃美希@フレッシュプリキュア!】
[状態]:ダメージ(中)、祈里やせつなの死に怒り 、精神的疲労
[装備]:リンクルン(ベリー)@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式((食料と水を少し消費+ペットボトル一本消費)、シンヤのマイクロレコーダー@宇宙の騎士テッカマンブレード、双ディスク@侍戦隊シンケンジャー、リンクルン(パイン)@フレッシュプリキュア!、ガイアメモリに関するポスター、杏子からの500円硬貨
[思考]
基本:こんな馬鹿げた戦いに乗るつもりはない。
1:杏子と話をする。その後は…。
2:警察署内では予定通りに行動する。
3:プリキュアのみんな(特にラブが)が心配。
4:相羽タカヤと出会えたらマイクロレコーダーを渡す。
[備考]
※プリキュアオールスターズDX3冒頭で、ファッションショーを見ているシーンからの参戦です。
※その為、ブラックホールに関する出来事は知りませんが、いつきから聞きました。
※放送を聞いたときに戦闘したため、第二回放送をおぼろげにしか聞いていません。
※聞き逃した第二回放送についてや、乱馬関連の出来事を知りました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※霊安室での殺人に関して、幽霊の仕業であるかもしれないと思い込んでいます。


32 : 変わり者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:23:39 FKsPOkkk0

【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:上半身火傷、左腕骨折(手当て済)、誰かに首を絞められた跡、決意、臨死体験による心情の感覚の変化
[装備]:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはシリーズ、稲妻電光剣@仮面ライダーSPIRITS
[道具]:支給品一式(アインハルト(食料と水を少し消費))、アスティオン@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ほむらの制服の袖
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:生きる。
2:警察署内では予定通りに行動する。
[備考]
※参戦時期はvivid、アインハルトと仲良くなって以降のどこか(少なくてもMemory;21以降)です
※乱馬の嘘に薄々気付いているものの、その事を責めるつもりは全くありません。
※ガドルの呼びかけを聞いていません。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※第二回放送のボーナス関連の話は一切聞いておらず、とりあえず孤門から「警察署は危険」と教わっただけです。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※霊安室での殺人に関して、幽霊の仕業であるかもしれないと思い込んでいます。
※一度心肺停止状態になりましたが、孤門の心肺蘇生法とAEDによって生存。臨死体験をしました。それにより、少し考え方や価値観がプラス思考に変わり、精神面でも落ち着いています。

【孤門一輝@ウルトラマンネクサス】
[状態]:ダメージ(中)、ナイトレイダーの制服を着用 、精神的疲労
[装備]:ディバイトランチャー@ウルトラマンネクサス
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2(戦闘に使えるものがない)、リコちゃん人形@仮面ライダーW、ガイアメモリに関するポスター×3、ガンバルクイナ君@ウルトラマンネクサス
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:みんなを何としてでも保護し、この島から脱出する。
2:警察署内では予定通りに行動する。
3:副隊長、石堀さん、美希ちゃんの友達と一刻も早く合流したい。
4:溝呂木眞也が殺し合いに乗っていたのなら、何としてでも止める。
5:相羽タカヤと出会えたらマイクロレコーダーを渡す。
[備考]
※溝呂木が死亡した後からの参戦です(石堀の正体がダークザギであることは知りません)。
※パラレルワールドの存在を聞いたことで、溝呂木がまだダークメフィストであった頃の世界から来ていると推測しています。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※霊安室での殺人に関して、幽霊の仕業であるかもしれないと思い込んでいます。

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(大)、ソウルジェムの濁り(小)、腹部・胸部に赤い斬り痕(出血などはしていません)、ユーノとフェイトを見捨てた事に対して複雑な感情、マミの死への怒り、せつなの死への悲しみ、ネクサスの光継承、ドウコクへの怒り
[装備]:ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、エボルトラスター@ウルトラマンネクサス、ブラストショット@ウルトラマンネクサス
[道具]:基本支給品一式×3(杏子、せつな、姫矢)、リンクルン(パッション)@フレッシュプリキュア!、乱馬の左腕、ランダム支給品0〜1(せつな) 、美希からのシュークリーム
[思考]
基本:姫矢の力を継ぎ、翔太郎とともに人の助けになる。
1:美希と話をする
[備考]
※参戦時期は6話終了後です。
※首輪は首にではなくソウルジェムに巻かれています。
※左翔太郎、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライアの姿を、かつての自分自身と被らせています。
※殺し合いの裏にキュゥべえがいる可能性を考えています。
※アカルンに認められました。プリキュアへの変身はできるかわかりませんが、少なくとも瞬間移動は使えるようです。
※瞬間移動は、1人の限界が1キロ以内です。2人だとその半分、3人だと1/3…と減少します(参加者以外は数に入りません)。短距離での連続移動は問題ありませんが、長距離での連続移動はだんだん距離が短くなります。
※彼女のジュネッスは、パッションレッドのジュネッスです。技はほぼ姫矢のジュネッスと変わらず、ジュネッスキックを応用した一人ジョーカーエクストリームなどを自力で学習しています。


33 : 変わり者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:23:56 FKsPOkkk0

【冴島鋼牙@牙狼─GARO─】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター、魔導輪ザルバ
[道具]:支給品一式×2(食料一食分消費)、ランダム支給品1〜3、村雨のランダム支給品0〜1個
[思考]
基本:護りし者としての使命を果たす
1:みんなの所に戻る
2:首輪とホラーに対し、疑問を抱く。
3:加頭を倒し、殺し合いを終わらせ、生還する
4:良牙、一条、つぼみとはまたいずれ会いたい
5:未確認生命体であろうと人間として守る
[備考]
※参戦時期は最終回後(SP、劇場版などを経験しているかは不明)。
※ズ・ゴオマ・グとゴ・ガドル・バの人間態と怪人態の外見を知りました。
※殺し合いの参加者は異世界から集められていると考えています。
※この殺し合いは、何らかの目的がある『儀式』の様なものだと推測しています。
※首輪には、参加者を弱体化させる制限をかける仕組みがあると知りました。
 また、首輪にはモラックスか或いはそれに類似したホラーが憑依しているのではないかと考えています
※零の参戦時期を知りました。
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※つぼみ、一条、良牙と125話までの情報を交換し合いました。


【特記事項】
※美希と鋼牙が今後どう行動するかは不明です。
※警察署屋上の時空魔法陣はデンデンセンサー@仮面ライダーWが見張っています。
※相羽タカヤの遺体は、D−8エリアに埋められています。クリスタルも同じように埋められています。
※タカヤに寄生していたラダム虫は鋼牙に倒されました。






34 : 冒険者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:24:23 FKsPOkkk0



 ダークプリキュアは、鋼牙とのわずかばかりの交戦の後、森の中を彷徨い、一つの戦いの終わりを見つけた。
 キュアブロッサム、仮面ライダーエターナル、それから見た事もない戦士が共闘し、ある怪物──特徴から考えれば、おそらく血祭ドウコク──を吹き飛ばす瞬間だ。
 ダークプリキュアは、驚くほどに冷静にその終わりを見つめていた。

(キュアブロッサム、それに仮面ライダーエターナル……なぜ共闘している……?)

 エターナルとクウガの二人によるキックはあまりに強力であった。だが、どうしても疑問は沸いてしまう。
 キュアブロッサムはともかく、仮面ライダーエターナルは本来殺し合いに乗る者のはず──いや。
 仮面ライダーエターナルには、ダークプリキュア自身も変身したではないか。
 となると、このエターナルは、かつてダークプリキュアが会ったエターナルとは全くの別人という事もありえる。

(なるほど……)

 ダークプリキュアは、あの進化を見届けた。
 いずれ、パペティアーメモリを使う事になるかもしれない相手だ。強力な戦士を手ごまにして利用し、その力を利用して殺し合いの覇者となる。あの進化を引き出さなければならない。
 ダークプリキュアは、跳躍する。
 殺し合いの覇者となるために相応しい力を見せてやろうと、ダークプリキュアは、三人の前に姿を現した。

「ダークプリキュア……!」

 キュアブロッサムが、いきなり驚いたようにこちらを見つめる。
 クウガのビートチェイサーは動きを止め、エターナルもまた動きを止めた。

「久しぶりだな、キュアブロッサム」

 今、用があるのはキュアブロッサムではない。プリキュアは意図的に避けているが、利用する相手としてはこの上ないと知っている。
 また、エターナルでもない。エターナルの強さは知ったうえで、自分より格下の相手だと理解している。
 ダークプリキュアが問題としているのは、仮面ライダークウガ。
 クウガを操り、その力を引き出すのである。

「……あなたは」

 ブロッサムが、前に出る。エターナルが警戒する。クウガがマシンから降りる。
 相手は警戒した様子を見せているが、ダークプリキュアは決して、すぐには殺しに来る気はない。
 クウガの情報は、ダークプリキュアは警察署で得ていなかったのである。
 またプリキュアを利用してそこに溶け込み、パペティアーメモリでチームを崩壊させようとしていた。

「今は戦うつもりはない。少し話を聞かせてくれ」

 ダークプリキュアは、できる限り穏やかにそう言う。
 言葉の端々に刺々しさは隠せない。利用する相手なのだから、精一杯穏やかにやろうとしていたが、ダークプリキュア本来の性格は消し去れなかった。

「……つぼみ、こいつ一応敵なんだろ? 何か隠している装備があるかもしれねえ。ガイアメモリとか……」

 エターナルに図星をつかれる。
 エターナルはメモリを使う戦士だ。だから、ガイアメモリに反応したのか。まあ良いだろう。
 相手は所詮この人数。すぐに解散させればいいのだから、迂闊に嘘をつくよりは、ガイアメモリを見せた方がいい。

「……私が持っているのはこの二本のメモリだけだ。ただ、これをお前たちに預ける気はない。私にもこのメモリは必要なものだ……」

 ヒートメモリとパペティアーメモリ。二つのメモリを翳す。
 身体検査などをされたらそれこそ没収されてしまう。あらかじめメモリの存在を語っておいても問題ないだろう。キュアブロッサムは殺害対象ではないし、残る仮面ライダークウガとエターナルで潰し合わせるくらいならば、隙はできるだろう。
 警察署ではそんな事をする暇はなかったが、ここでは問題ないと判断した。


35 : 冒険者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:24:44 FKsPOkkk0

「……だが、それを君のもとに置いておくことは……」

 しかし。
 クウガがそう言いかけた途端、ダークプリキュアと三人の間に、突如として爆発が起こった。
 来客。何者かが、ここに現れ、彼らに挑戦状を叩き付けたのである。







 サイクロン号は走る。カブトムシの怪人を乗せてただ走る。
 ガドルは山を、下る。己の騎馬に手さえ添えず、両手で銃を構える。
 鋭敏な感覚は、眼前の敵を狙う。新たなるクウガへの挑戦状を送り付ける為に。
 敵の数メートル前。そこにこのガドルボウガンを当て、相手の動きを封じ、挑戦する。

「フンッ!!」

 ガドルボウガンの先から空気弾が放たれる。
 流鏑馬の如く、騎馬の上から放たれた射撃体の一撃は、彼らとダークプリキュアの間の地面へと落ちる。眼前で強烈な空気圧による地面の爆発が起こる。
 風向きにかかわらず正面に進む、超感覚で放たれた射撃。もはや百発百中のレベルだった。
 不意打ちする事もできるが、それは面白くない。あくまでこれは威嚇の射撃だ。相手の動きを封じ、こちらに注目させるための壁である。
 無論、そこにいる誰もが、動きを止めた。

「今度はなんだ、いったい……」

 エターナルが言う。
 その間にも、サイクロン号は山を走り、斜面を下る。ガドルは、そのサイクロン号のグリップを握って加速する。
 加速していくサイクロン号から、ガドルは飛び上がる。走行するサイクロン号は真っ直ぐに走っていき、急な斜面に耐え切れず、クラッシュする。側面を山の斜面に削らせながら、山を下り、荒地にサイクロン号が空しい音を立てて崩れていった。
 キュアブロッサムと仮面ライダーエターナル、仮面ライダークウガは、突如として後方から聞こえた音に振り向いた。ダークプリキュアなど、意に介す事もなかった。
 そこには、月光の下、山の真上から一体の怪物がムササビのように手を広げて落ちてくる姿があった。

 ドシン。

 重い音が鳴り、人は言葉を無くした。彼らの目の前、十メートルの距離。
 禿げた大地に現れた新たなる刺客──ゴ・ガドル・バ。
 その邪悪な瞳に、そこにいる全員は、圧された。
 今の着地で感じた敵の重量感、そして力強さ。登場だけで場を凍らせるほどの強敵。

「46号……だと!!」

 カブトムシの異形に、仮面ライダークウガは反応する。
 彼は見た事がある。未確認生命体第46号。五代が変身した仮面ライダークウガを、一度打ち負かした怪人だ。西多摩警察署で男性職員108名を惨殺した、堂々の悪魔である。一条もかつて、生身でこの怪物と戦った。
 神経断裂弾を何発も放ち、一度は息の根を止めたと思った。だが、それさえ、このグロンギの怪人には無意味であった。数分の昏睡に終わり、この怪物は生存した。別種のグロンギを何人も葬ったあの弾丸を、だ。
 おそらく、究極の闇を齎す者──ン・ダグバ・ゼバの次に強いグロンギである。

「……ゴレ ゾ ゾン バ デ ヨブ ザ キガラ!(俺をその名で呼ぶ貴様は!)」

 ガドルも、確信した。
 グロンギをこのように呼ぶのは、リントの戦士(警察)のみだ。
 ロンギ族は未確認生命体としてその通し番号をつけられている。
 しかし、一般人で有名なのはせいぜい2号と4号くらいのもので、46号まで殆ど暗記し、一目見てその名前で呼ぶ事ができるのは、クウガである五代雄介か、リントの戦士たちくらいのものだろう。
 正確にそのナンバーを記憶し、一目見ただけでそれを認識できる相手。ガドルの知る限りでは一人。そして、この男はおそらく、その一人──

「イチジョウ──」


36 : 冒険者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:25:11 FKsPOkkk0

 リントの戦士、一条薫だと、確信した。
 しかし、その名で呼ぶのはたった一度だった。一条ではない、目の前の敵は、クウガだ。
 古代にガドルを封印し、現代でガドルを一度屠ったゲゲルの邪魔者──しかし、ガドルがその殺し合いを楽しめる稀有な相手。
 クウガ。

「タタバエ クウガ!(戦え、クウガ)」

 クウガの眼前に、ガドルボウガンが突き付けられる。
 ガドルボウガンは、鋭い矢を向けながら、いつでも発射できる準備に取り掛かっているようだった。
 しかし、すぐに打とうとはしない。

「……おい、二人とも! こいつ……!」

 エターナルが、ガドルの様子に何か気づいたのか、戦慄した様子であった。
 そこまで言ったところで、唾液をごくりと一飲みした。

「何を言ってるのか、……全然わからねえ」
「もう、そんな事言ってボケてる場合ですか! この人、敵なんですよ!?」

 キュアブロッサムはずっこけそうになったが、エターナルのボケに真摯な顔で突っ込んだ。

「わかってるよ! ……コイツの闘気、ケタ違いだ。ありえねえほど強い……」

 エターナルも、ガドルが持つ闘気が今までの敵と桁違いである事を察知している。ただ、言語がわからないのがちょっと辛かっただけだ。
 今眼前にいるガドルが放っているのは、ドウコクさえも超える圧倒的なまでの闘気だ。コイツは、戦いだけに生きて、容赦なく敵の首をかく戦鬼なのである。
 乱馬や良牙の持つ闘気の数倍。そこには殺気も交じって、更に強い力を感じさせる。
 日本語さえ喋れれば、その闘気の源を聞きたいところだが、残念だ。彼は外人らしい。

「わかるか。……貴様には」
「……って日本語喋れるのかよ!!!!」

 思わず、今度はエターナルがずっこけそうになった。

「フン」

 ガドルは、憮然としていた。まあ、せめて一言、良牙の言葉に感嘆して、リントの言葉で返したのみだ。
 ガドルが持つ“闘気”に気が付いた相手は珍しい。
 そして、良牙の持つ闘気の強さにも、ガドルは気づいていた。いずれ戦ってみたい相手だ。生身で戦っても相当強いに違いない。
 しかし、今のガドルの目的はあくまでクウガだ。彼は後でいいだろう。
 ガドルボウガンは、一瞬だけエターナルの方に向けられたが、再びクウガの前に向けられた。

「今は貴様らに用はない。用があるのはクウガだ」

 ガドルの眼中には、既にエターナルやキュアブロッサム、ダークプリキュアはない。

「そうは行くかよ。……お前が俺の敵なら、俺自身の手で自分を守る。……仮面ライダーとして」
「おい……!」

 エターナルは、己の持つT2ゾーンメモリをその手に持った。
 良牙は、この敵と戦うのに、相応の力が必要であるのを確信している。この身ひとつで戦うのも良いが、それでは到底敵わない相手なのではないだろうか。
 乱馬──あいつなら、あるいは──そう思ったところで、やはりやめる。
 戦いを楽しむのも良いが、コイツに負けてしまったら、仲間の命だって危ない。そんな時に楽しい戦いなんかできるはずはない。
 今は、格闘じゃない。殺し合いなのだ。

 ──Zone!!──

 エターナルの腰にあるマキシマムスロットにゾーンメモリが装填された。

「おい、折角だからメモリ借りるぜ」

 ──Zone Maximum Drive!!──


37 : 冒険者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:25:41 FKsPOkkk0

 電子音とともに、その場にあるガイアメモリがゾーンメモリの力で全て良牙の元に集結する。マキシマムドライブは使用者の体力を大きく消費するが、良牙の並外れた体力を前には、さほど大きなものではない。
 連続使用をすればかなり大きな負担はかかるだろうが、NEVERを以て、「タフ」と言わしめたほどである。
 それに、ゾーンメモリの力は肉体的な動作を伴わず、肉体の負担は他のマキシマムドライブよりも小さい。
 ゾーンの力によって、クウガやキュアブロッサムの持つ、いくつもT2ガイアメモリがエターナルの元へと転送される。







 ダークプリキュアの手にあったT2ガイアメモリの一つ、パペティアーメモリや、デイパックの中に入れられていたはずのヒートメモリも──ゾーンメモリの力では集められる例外ではなかった。
 AtoZのT2ガイアメモリを全て集める事もできるのが本来のゾーンメモリのマキシマムドライブの力だが、制限によって、せいぜいその範囲は1エリア。敵の手からT2ガイアメモリを奪う事もできるが、知覚していないメモリは奪えない。
 怪しまれないために魅せたとはいえ、「知覚」はされてしまった。
 場合によっては、ここで勝者を見極め、勝者を操り、そのまま優勝に近づく気だっただろう。
 しかし、その野望は、思わぬ形で絶たれるのである。
 完全に隠しておけば、こうして敵の手に渡る事はなかったに違いない。

「くっ……! 何だと……!?」

 ダークプリキュアは、宙を飛んで自らの手から勝手に放たれていくガイアメモリを必死に両手で押さえつけようとしていた。これはパペティアーメモリだ。
 ヒートメモリは既にエターナルの元へと転送されている。
 しかし、このパペティアーメモリは渡すわけにはいかない。このメモリが勝利の鍵となるはずなのだ。ゆりの為、月影家の為の希望──ダークプリキュアにとって、パペティアーメモリはそれだけの価値のある物だった。

 だが──

「ぐあっ……!」

 メモリによる拒絶。ダークプリキュアの両手を、静電気のように弾くメモリ。
 パペティアーメモリは、エターナルの元へと転送されていく。
 目の前で、エターナルの手元にヒートメモリが、そしてパペティアーメモリが飛んでいく。

「くっ……何という事だ……!」

 希望が崩れ去り、これから己の身を使って、非効率な戦いを強いられる事を、ダークプリキュアは嘆いた。
 この戦いへの希望が絶たれるという事は、すなわち、月影一家もダークプリキュアも救いから遠ざかるという事であった。







 ゾーンのマキシマムドライブの力で、ウェザー、ルナ、メタル、ヒート、パペティアーの五つのメモリがエターナルの元に転送される。エターナルは、それを体中のマキシマムスロットではなく、手元に集めた。
 二十六本ものメモリのうち、良牙の手元に来たのは、この五本のみ。しかし、それで充分足りるほどであった。

「じゃあ、ちょっと貸してもらうぜ」

 五つ。ダークプリキュアのメモリもある。とにかく、その中から使えそうなメモリをエターナルは手に持った。
 真っ赤なメモリを握りしめる。

 ──Heat!!──
 ──Heat Maximum Drive!!──


38 : 冒険者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:26:01 FKsPOkkk0

 ヒートメモリをベルト脇のマキシマムスロットに装填し、エターナルの両腕の青い炎が紅蓮に燃える。
 ヒートメモリは熱き記憶を有するガイアメモリである。エターナルの攻撃に「熱」の力を付与する事ができるのだ。
 そして、両腕の青い炎が本当の炎に燃え盛る事になるのであった。このエネルギーを敵に叩き付ければ途方もないダメージを与える事ができるだろう。

「獅子灼熱咆哮弾!!」

 エターナルは、ヒートメモリのエネルギーをそのまま、獅子咆哮弾のエネルギーに組み合わせ、敵に向けて放つ。灼熱の獅子は、鬣を燃やしながら、ガドルの全身を噛み千切ろうと駆けだす。
 ガイアメモリの能力は伊達ではない。そのまま、ガドルの全身を焼き尽くす。

「グァッ……」

 ガドルは小さく呻きながらも、己の身を剛力体へと変化させる事で、その場で耐え抜く。膨大なエネルギーがガドルの元に流れ込んだが、全て剛力体の強固な肉体が弾き、ガドルのダメージは最低限に抑えられた。

「見ろよ、効いてるじゃねえか!」

 良牙の中に、少しの慢心が生まれる。
 つぼみや一条もまた、エターナルの力を知っていたから、ガドルに打ち勝つだけの力があるのではないかと期待していた。
 楽観視には違いないが、それも納得するだけの強さがある。エターナルレクイエム以外の技が使えるうえに、それが五種類。心強いというほかない。

「次はコイツだ!」

 続けて、エターナルはウェザーメモリを取り出した。
 ガドルが自分の想像以上にタフである事を理解し、連撃を試みたのだ。大丈夫、マキシマムドライブの負担などさほど大きなものではない。
 ガドルが反撃する間は与えない。銀のメモリを手にする。

 ──Weather!!──
 ──Weather Maximum Drive!!──

 ウェザーメモリをスロットに挿し込むと、音声とともにガドルの頭上に暗雲が立ちこみ、豪雨が降り注ぐ。
 ウェザーメモリは天気を操る。そのために生まれた暗雲だ。
 山の天気は変わりやすいとはよく言ったものだが、ガドルの頭上にだけに生まれた雲は、風と雨を巻き起こす。一人の人間の上に、大豪雨が生まれた。

「キュグキョブ ン ジャリ……!(究極の闇……!)」

 何かを思い出したのか、ガドルは頭上のどす黒い雲を見上げた。
 それは、そう──究極の闇が生み出す力にそっくりだ。
 プラズマを操り、炎や黒雲、豪雨を自在に生み出す。その異常ともいえるパワーは、ガドルも旧知である。
 敵がそれに値する力を持っている事に、驚かざるを得ない。
 もしや、究極を継ぐ者ではないかと、ガドルは一瞬、思った。

「だから、日本語話せるなら日本語話せよおおおおおおりゃあああああああ!!!」

 エターナルは、そんなガドルに飛びかかり、雷を帯びた右の拳で叩き付ける。
 電撃の右腕は、ガドルの胸部に到達し、更に強い雷のエネルギーでショートする。
 ガドルの全身を濡らしている雨水から、その雷のパワーは両足両手の先まで伝っていった。それはガドルの全身を発光させ、全身からピリピリと音を立たせる。
 夜だというのに、彼の周囲数メートルはまるで快晴の昼間のように明るかった。

「ウグゥゥゥゥッ!!」

 その一撃を胸で受け止めながら、ガドルは獣のように慟哭する。
 しかし、両手を広げ、宙を掬うように拳を握って大の字になったガドルは、まるで眼前のエネルギーをその全身で受けんばかりであった。
 エターナルの攻撃を好機と思ってか、ガドルは内心で笑った。

「フハハ……」


39 : 冒険者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:26:45 FKsPOkkk0

 笑いは、その瞬間、声となって外に出た。
 笑み──?
 なぜ、この瞬間、敵は笑ったのだろう。良牙も、つぼみも、疑問に思ったに違いない。
 そして、その疑問を一瞬だけ頭に浮かべた後、一条は答えを出してしまった──。
 己が忘れていた事。

「……そうか! 駄目だ! 響君……!」

 そう、グロンギの敵に雷の技は禁じ手だ。
 エターナルの強さを前に、勝利をおおよそ確信してしまっていたのが敗因だ。
 電撃。雷。電気。──それは、彼らにとって、一瞬のダメージに過ぎない。
 五代が何度も受けた電気ショック、そしてガドルがそれに対抗するべく体に備えた武器。

「そいつは、クウガと同じ霊石を体に秘めている……電気の力を吸収して強くなるんだ!!」

 そう、グロンギの持つ霊石はクウガの持つ者と酷似しているというデータが既に椿の手によって明かされている。
 クウガの力は、霊石が電気ショックを受けた事によって強化されたのである。
 それならば──まさか、敵も同じではないのか。
 46号は、ライジングフォームのように電撃を使って戦う事ができた。……まさか、敵はそれを知っていたのではないだろうか。

「何……!?」

 エターナルは、その事について知らなかった。
 ゆえに、雷を使って、敵に強化のための架け橋を作り出してしまった。

「ウグルァァァァァァァッ!!!」

 しかし、それを知ったところでもう遅い。ガドルは、己の力が更に強い物となる喜びに身をゆだね、その力のごく一部を使って、エターナルを弾き返した。
 咆哮をとともに、膨大なエネルギーが周囲を吹き飛ばす。

「ウグルアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァッ!!!!」

 エターナルの姿が数メートル遠くへと弾かれ、木に背をぶつけて、落ちた。
 そして、ガドルの持つその余りのエネルギーに耐えられなくなったのか、エターナルの変身が解かれた。
 地面に落ちた良牙のもとにキュアブロッサムが駆けよる。
 咆哮が鳴りやむ。

「……手遅れか!」
「くそ……!」

 良牙は、起き上がれなくなった。体に残留していたダメージ、マキシマムドライブの負担、今の攻撃による衝撃、──そして何より、この圧倒的な威圧感と、己の失態。それが、良牙の体を起こす力を打ち消すようだった。
 ……自分の攻撃が、敵にダメージを与えるどころか強化してしまったというのか。
 何度とないフォトンランサーファランクスシフトによって強化された体が、更にウェザーのマキシマムドライブの力でガドルのベルトに力を注いだ。その結果が、ガドルの更なるパワーアップ。
 一条自身が禁忌の技を止めなかった責任であり、これまでフェイトや良牙が安易に電撃技をガドルに飲み込ませてしまった応酬でもある。
 ライジングフォームを超えた電撃体。それを超える力があるとすれば──

「くっ……!」

 良牙の顔が曇る。
 キュアブロッサムが固唾を飲む。
 仮面ライダークウガが、顔を顰める。
 ダークプリキュアさえ、絶望する。


40 : 冒険者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:27:09 FKsPOkkk0



「……ラタ チバヅギタ ビ キュグキョグ(また究極に近づいた)」



 ゴ・ガドル・バの胸部は発光し、瞳の色が黒く変色する。
 赤い瞳は、クウガのマイティフォームに対応する格闘体。
 青い瞳は、クウガのドラゴンフォームに対応する俊敏体。
 碧の瞳は、クウガのペガサスフォームに対応する射撃体。
 紫の瞳は、クウガのタイタンフォームに対応する剛力体。
 金の瞳は、クウガのライジングフォームに対応する電撃体。
 ならば、黒の瞳は──



「ゴゼパ! ザバギ ン バシグラ! ゴ・ガドル・バ────キョグデンタギ ザ!」
(俺は! 破壊のカリスマ! ゴ・ガドル・バ────驚天体だ!)



 驚天動地──まさしくその言葉に相応しかった。
 アメイジングマイティフォームに相当する新たなる力──ガドル・驚天体の全身から雷が鳴り響いた。







 ダークプリキュアの眼前で、進化しているガドルの姿。
 その覇気を、ダークプリキュアは全身で感じていた。
 足が震える。心臓が高鳴る。唾を飲む。
 強者──いや、王者。
 現れただけで風が舞い、砂埃が波打つほどの圧倒的なエネルギーがダークプリキュアを襲う。

(くっ……勝てるはずがない……!)

 あれは強敵という次元ではない。
 いや、あれはもう、これまでダークプリキュアがこれまで使ってきたような意味の「敵」じゃない。
 対等に戦えるような相手ではないのだ。あれは、いわば「狩人」。戦いという土俵にさえ立てないような相手である。

(最後の希望は、絶たれた……! 奴の勝利だ……!)

 パペティアーメモリも奪われた今、ダークプリキュアは戦略的撤退を試みるしかなかったのである。
 ダークプリキュアはもう、撤退するしかない。クウガにしか興味のないガドルは、ダークプリキュアが背を向けて逃げている事に気づいても、追う様子はなかった。
 ……そして、気づけば──ダークプリキュアは、元いた場所へと帰るべく、慌てて森を駆けていた。キュアブロッサムたちを監視している場合ではない。
 更なる闇。これまでの比ではない、最低最悪の闇。
 ダークプリキュアもその誕生の恐怖を全身で感じていた。

(エターナルめ、余計な事をしてくれた……!)

 パペティアーメモリの効力さえ知っていれば、エターナルがそれを使って敵を操り戦う事だってできたかもしれない。そもそも、ゾーンのマキシマムドライブを使いさえしなければ、ダークプリキュア自身が戦っていただろう。

(また奴のせいで、クソ……! どうやって奴を倒せばいい……! 今の私に……!)

 あのガドルの強化は、ダークプリキュアの誇りや自信さえも打ち破るほどだ。
 事実、今のダークプリキュアはどんな手を使ってでも、優勝し、この殺し合いの頂点に立つために奮闘しようとしていたから、正攻法で勝てない相手を操り殺すという手段も使おうとしていた。
 ただ、その正攻法で勝てない相手が存在しているのは、あくまで自分の体が弱っているからだ。万全ならば、キュアームーンライトがいない今、正攻法で勝ち進められるとダークプリキュア自身も思っていた。

 ……が。

 ガドルのオーラを見ればわかる。あんな圧倒的なパワーを有した相手は、少なくともダークプリキュアの中では、初めてだ。
 彼が倒せるか? ──ダークプリキュアが、万全だったとして。
 否。それは、おそらく確実。そして、倒す手段──いや、屈服させる手段だったのが、パペティアーメモリだ。確かに強い相手だが、パペティアーの力でガドルを使えば殺し合いに優勝する事も難しくなかっただろう。


41 : 冒険者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:27:32 FKsPOkkk0
 その希望も打ち砕かれた。

「ダークプリキュア!」

 その逃亡が始まってすぐの段階で、ダークプリキュアの名前が呼ばれた。
 何? ダークプリキュアは、顔を上げた。顔を上げた……という事は、自分自身が今、全く俯いた状態だった事を現している。まさか、自分が俯いているとは思わなかった。
 目の前に、知っている顔があった。それから、知らない顔も一つ。
 後方にも敵。前方にも敵。どうやら、別々の敵に挟み込まれたらしい。

「……キュアサンシャイン!」

 ダークプリキュアの目の前に、現れたのは、キュアサンシャインだ。
 警察署で分かれたはずだったが、ここで再び追ってきたらしい。
 キュアサンシャインが追ってくるのは当然として、もう一人の戦士が何者なのか、ダークプリキュアにはわからなかったが、おそらくその「半分半分に分かれた戦士」というデータから、それが仮面ライダーダブル──左翔太郎だろうと察した。
 警察署で得たデータもところどころ、役には立つようだ。

「見つけたよ、ダークプリキュア」
「……その瞳、私に挑もうという目だな」
「そうだね。当たりだよ。僕は君に挑ませてもらう」

 キュアサンシャインは、強がるように笑った。
 しかしながら、ダークプリキュアの目は、そんなキュアサンシャインに応えようとはしなかった。脱力したように、その体を動かしている。

「……キュアサンシャイン。無駄だ。私たちはもう、この殺し合いを勝つ事はできない」

 ダークプリキュアは、辛い表情で言った。見たところ、死への絶望という感じではなかった。ダークプリキュアの体そのものが度重なる戦闘でかなり弱っている事も確かだが、あの自信に満ちたダークプリキュアが、しょげている。
 確かに、向こうから、先ほど光が挙がり、なんだかわからない奇妙な恐ろしさがキュアサンシャインたちを襲った一瞬があった。

「……何だって?」

 仮面ライダーダブルが言った。ダークプリキュアは、かなり弱気だ。
 敵ながら、もう戦意を喪失しているように見える。ダブルには、ダークプリキュアが希望をなくし、怯えているように見えた。

「お前たちも知っているだろう? 奴はカブトムシの怪人、ゴ・ガドル・バだ……。奴が、新たなる力を得た。もう希望も何もない……! 終わりだ……! ゆりも、もう……!」

 敵に情報をばらまくのも、もう構わない。今は、とにかく一刻も早くガドルから逃げたい気持ちでいっぱいだ。ダークプリキュアに勝機などない。
 ゆりももう、蘇らないと考えて良い。……いや、それどころか、ダークプリキュアの命ももう、危ういといったところか。
 ガドルは強すぎる。それがよくわかった。奴は、キュアムーンライトよりもはるかに強い力を持っている。あそこにいるキュアブロッサムや仮面ライダーエターナルももう、死んでいるかもしれない。

「ゆりさん……?」

 ふと、キュアサンシャインは、そうオウム返しした後に、疑問に思った。
 ダークプリキュアは、月影ゆりを、「ゆり」と呼んだ。しかし、彼女は、月影ゆりを「キュアムーンライト」として見ている。彼女が、そんな事を言うはずがない。
 彼女がそう呼んだからには、わけがある。

「ガドル……!? 最悪じゃねえか!」

 ダブルが言った。ガドルとは面識がある。フェイトやユーノ、霧彦を葬ったカブトムシの怪人だ。ダグバに並ぶ最低最悪の敵だと、翔太郎は言える。そして、そいつが更にパワーアップしたと……そんな最悪の情報が、翔太郎の耳に入ってきた。

『彼女の言う通り、無理だ、翔太郎……。出直そう……。きっと、今の僕たちでは彼には勝てない』

 フィリップも、ダブルドライバーの向こうで、絶望を感じている事だろう。ガドルの強さは、フィリップもよく知っている。
 それが更なる力を得た。この距離で悪寒を感じるほどだ。
 だが、しかし。翔太郎は、訊く。


42 : 冒険者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:27:49 FKsPOkkk0

「おい、ダークプリキュア。ガドルの他には、誰か向こうにいるのか?」
「……三人いる。キュアブロッサムと、仮面ライダーエターナルと、それからもう一人だ。……全員、ガドルと戦っている」

 自暴自棄に近いが、持っている情報は明かしても不都合がないので、正直にダブルに明かした。ダブルもおそらく、エターナルを知っている事だろうし、ブロッサムとサンシャインは知り合いだ。

「エターナル……?」

 エターナルというと、大道克己だろうか──翔太郎とフィリップは思う。しかし、彼は死んでいる。
 ロストドライバーを使って、別の変身者がエターナルに変身しているのだろうか。

「ブロッサムが、いるの……?」
「ああ。……だが、もうやられているかもしれないな……」

 花咲つぼみは、月影ゆりの友人だ。ダークプリキュアとしても、生きていて欲しい。だから、プリキュアを殺すのは意図的に避けたのである。
 プリキュアの奇跡が、ゆりを蘇らせる事ができるのなら、それをゆりに分けてほしい。
 しかしながら、ガドルに敗北すれば、そこにあるのは死だ。奇跡など起こす暇もない。

「……チッ、何だか知らねえが、行くぞフィリップ。あのマッチョメンをぶっ倒す」

 この翔太郎の言葉には、流石にフィリップも絶句する。
 ダークプリキュアもまた、同じだった。だが、ダークプリキュアは、絶句しても尚、ダブルに悪態をついた。

「……やめておけ。奴には勝てん。知り合いがいるのかもしれないが、諦めるのが得策だ」

 ガドルを前にしたダークプリキュアの恐怖たるや、生半可なものではなかった。
 しかし、そんな言葉がダブルの、いや、翔太郎の耳を通る事はなかった。

「……おい、ダークプリキュア。一つ言っておく。俺は知り合いがいるから行くんじゃない。俺たちは仮面ライダーだ! 泣いている人がいるなら、絶対に助ける。困ってる人がいるなら、手を差し伸べる。危機が迫るのならこの身でその危機を振り払う……それが、俺たちだ。たとえ負けるとしても、俺はそこにいる誰かを救うための努力をする!」

 フェイトやユーノのような犠牲をこれ以上出すわけにはいかない。
 キュアブロッサムや、新しい仮面ライダーエターナルの変身者も助けるべきだと、翔太郎も思っているところだった。

「……何だと?」

 ダークプリキュアは、ダブルの一言に、苛立ちさえ覚えた。
 ダブルが、こうして正義の味方のような事を解いた時、それがダークプリキュアの沸点となった。……エターナルやスーパー1のような仮面ライダーと出会い、その度に感じていたストレスが、どこかにあった。
 この時は、自暴自棄で何を言うのも嫌だった心が、解き放たれた。

「ゆりを殺したのも、私から希望を奪ったのも、貴様ら仮面ライダーだ!! 仮面ライダーのために、私の……私の、ゆりはっ!!」

 ゆりを殺し、ダークプリキュアを一度でも悲しませ、そして──その望みがあるうちならまだしも、ゆりの命を諦めた今──仮面ライダーにしか、その怒りをぶつける矛先はなかった。それはいわゆる、八つ当たりに違いなかった。
 キュアサンシャインが黙って、ダークプリキュアの言葉を飲み込んだ。

「…………お前が何を言おうが、俺は行く。そして、そいつがどんな奴だろうが、俺は俺の仮面ライダーを貫く。ただ……ダークプリキュア、そいつはきっと……仮面ライダーじゃないし、今のお前にもプリキュアの名前を冠する資格はねえ」
『ぼくからも一つ。君が殺した人間の家族もまた、君と同じ苦しみを抱えた事──君の罪は重いという事を伝えておこう。そこで絶望して立ち止まるのなら、俯いて自分の罪を数えているといい』

 仮面ライダーダブルにとって、ダークプリキュアはただここで出会った『明日を諦めた』そんな、死人のような悪人にすぎない。
 その言葉は耳を通さなかった。

「じゃ、俺は行くぜ。サンシャイン。……お前は、お前のやる事を果たしていいぜ。コイツは任せた。その代わり、ブロッサムの事は俺に任せろ」


43 : 冒険者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:28:06 FKsPOkkk0
『結局行く事になるのか……、まあ、仕方ないか。どうせ行くと思っていたよ。僕も仮面ライダーだ。最後まで付き合うよ、翔太郎』

 仮面ライダーダブルは、それだけ言うと背を向けて、山の真上に向かって駆け出した。
 厳しい一言だったが、アインハルトや源太を殺したのがダークプリキュアだと、確信しているダブル──特に翔太郎にとっては、切実な怒りが込められた一言だった。
 それでも尚、ダークプリキュアの罪を洗い流すか、それとも裁くのかは──その場に残したキュアサンシャイン──明堂院いつきに任せる事にした。

「くっ……」

 ダークプリキュアに、ダブルの背に向けた反論はない。
 だが、それでも胸の内にわだかまりはあった。
 ダークプリキュアは、砂漠の使徒だ。「他者を尊重する」という事を習っていない。自分勝手に他人を巻き込み、自分の好きなようにする。多少、相手の感情を理解できても、それはそれ。自分が全てである。
 ゆえに、アインハルトや源太の肉親などの話に共感する事もない。最初から、他者に感情移入する事などプログラムされずに生まれた生命なのだ。
 むしろ、アインハルトや源太は羨ましい。おそらく、二人には、生まれた時から家族がいるのだから。ダークプリキュアには、そんな物はなかった。普通の暮らしなどなかった。サバーク博士の命令で、キュアムーンライトを倒すために戦う。それだけが目的だった。

 しかし。

 今は時折、バグのように生まれる、命がなくなる事への不快感を払拭できなかった。
 ゆりが死んだ。でも、ゆりは、生き返らせる事ができる。だから、その生命の停止を一時は悲しんだが、やがて、その蘇生を夢見るようになってからは、割り切れた。一時的な生命の中断だと。
 えりかも死んだ。ゆりの友達らしい。もしかしたら、生き返らせる事ができるかもしれない。できなければ、それはそれでいい。ゆりが生き返れば、ダークプリキュアは「家族」を得られる。
 源太が死んだ。これは殺した。テンションが高く、妙に張りきった声の男が、もう喋らなくなり、海に消えていくのを見た。死ぬかもしれない体で立ち向かおうとする源太の姿に、罪悪感さえ、感じた。

「……ダークプリキュア。君はもしかして、ゆりさんを生き返らせるために……?」

 キュアサンシャインが、少しばかり感情を緩めた声で囁いた。優しいような、しかし怒っているような。感情が読み取れないからこそ、内面で何を思っているかがわかりにくい。
 ダークプリキュアは、答えなかった。
 答えなかったが、すぐに口を開いて、実質的な回答とも取れる言葉を、口に出した。

「……それももう終わりだ。何もかも。……私には、できなかった」
「……」
「戦わなくてもわかる。奴には勝てない。……もう私はボロボロだ。ただでさえ勝てそうにない相手に、立ち向かう事なんてできるはずがない。私にとって、希望だったガイアメモリも奪われた……」

 ダークプリキュアの立てた計画は狂った。
 キュアサンシャインは、ガイアメモリという単語を聞いて、フィリップの推理を思い出した。
 あの推理は正しかったのだ。ダークプリキュアは、ガイアメモリを使って、この殺し合いを勝ち残ろうとしていた。

「警察署でみんなを襲ったのも、君なの……?」
「……」

 ダークプリキュアは、もはやどうにでもなれという気分であった。答える気はなかったが、きっとキュアサンシャインはその態度で察したに違いない。

「……あなたは私の友達の命を、奪ったんだ。……私は……とても悲しかったよ。許せない」

 ダークプリキュアにとって、それは知った事ではないが、改めてその知り合いから言われると、何も言えなかった。
 ダークプリキュアが殺した人間にも、友はいた。目の前のプリキュアは、その死に悲しんでいるらしい。……ダークプリキュアが、ゆりの死に際に抱いたような感情だろうか。
 全く見知らぬ人間が抱く分には、ダークプリキュアも不快感は抱かなかったかもしれない。しかしながら、こうしてゆりの仲間が同じ感情を抱いているのは、不快感があった。

「……だけど」

 キュアサンシャインは拳を握った。


44 : 冒険者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:28:39 FKsPOkkk0

「私の友達の命を奪ってまで、あなたはゆりさんの命を蘇らせようとした。……それなのに、こんな形で諦めてしまう事が……、それが、私にはもっと許せない! それじゃあ、死んだ二人は何のために死んだの!? あなたのやっている事は間違っているけど、それさえ諦めるのなら……あなたは二人の死さえ、こんな形で無駄にする気だったの……!? それが、……許せないよ!!」

 二人。三人殺したはずのダークプリキュアは、その言葉に少しばかり違和感を感じたが、それどころではなかった。

「あなたは、誰かのために殺し合いに乗った。それは許されない事だよ。でも……勝てない相手がいるからって、人を殺してまでやろうとした事を放棄していいの!? これまでのあなたの行いだって、正しくはない。絶対に間違ってる! ……それでも、あなたがした事は……」

 感情的になったキュアサンシャインの言葉が、一度途切れる。
 キュアサンシャインは、怒気の混じった声を、一度後ろに下げた。

 そして、深く呼吸する。
 一度、心臓を落ちつけた後、あふれ出る感情を、別の形でダークプリキュアにぶつける事にした。

「……いや、言葉で教える事はできないかもしれない。戦おう、ダークプリキュア。
 私はあなたを止める。あなたが勝手に諦めて止まるんじゃない。
 ……僕は君を倒す。既に倒れている君じゃない。
 私はあなたを救う。でもそれは、救いようがないあなたじゃない。
 ……僕は希望を失った君を止めるんじゃない。君の持つ、間違った希望を止めるんだ!!」

 キュアサンシャインは、ダークプリキュアのしょげた瞳を睨んだ。
 その生気のない瞳に、常に自信と余裕を持って戦うダークプリキュアの力の片鱗はない。普段はあの姿が恐ろしく、人々を脅かしていた。それが今、こんな形で奪われていた。
 しかし、それが今、キュアサンシャインには許せないのはなぜだろう。
 アインハルトの命や源太の命を犠牲にするほど、ゆりの命を大事に思っていたなら、なぜこんな所で諦める?
 ここにあるのは、ダークプリキュアの本当の心じゃない。偽りの心をぶつけ合ったところで、本当に他人の心を救う事なんてできるはずがない。

「ダークプリキュア、……このキュアサンシャインが照らすのは、敵に怯えて、自分の信念を曲げるような心じゃない!!」

 ダークプリキュアは、屍のようになっていた瞳を、キュアサンシャインに向けた。
 その瞳は、キュアサンシャインを睨んでいた。
 確かに、キュアサンシャインを睨んでいた。

「……面白い」

 「面白い」──まだ、そんな言葉が出る余地が己の中にあった事に、ダークプリキュアは驚いたが、すぐに納得した。
 いつもの癖で言葉が出たのかと思ったが、どうやら違うらしい。
 何だか、目の前の相手に無性に腹が立った。
 それだけだ。
 それだけだが、ガドルに怯える心よりも強い感情が、今ダークプリキュアの中に上書きされたようだった。

「今更私を救うなどと……!」

 ダークプリキュアはここまで、三人の命を殺めている。
 高町ヴィヴィオ、アインハルト・ストラトス、梅盛源太──この人数の殺害を行ったダークプリキュアだ。よもや救いようがないと、ダークプリキュア自身も思っていた。
 しかしながら、そんなダークプリキュアに対して、今もなお──その罪を知りながら、救おうとする人間がいる。

 自分が犯した罪を理解し始めているからこそ、自分が許せず、ダークプリキュアを許そうとする敵が許せず。感情は複雑になっていく。
 「父性の獲得」、「プリキュアの打倒」、「アイデンティティの確保」──それしかない単調だった脳に、次々と書き込まれていった感情が、キュアサンシャインを前に、自分でも理解できないほどに湧き上がる。
 殺し合いに乗る。それでいい。それがダークプリキュアが望んだ生き方だ。

 ──プリキュアを倒す事こそ、元はといえばダークプリキュアの原点だ。かつて、確かこの辺りのエリアでキュアブロッサムと戦った時も、それを求めたのかもしれない。


45 : 冒険者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:29:07 FKsPOkkk0
 キュアサンシャインを倒す──そのための本能が疼いているのである。これが彼女の持つ確かな本能。

「貴様に私を倒す事ができるか? キュアサンシャイン……」
「……私は勝つ! 勝って、君の名前を呼ぶよ、ダークプリキュア」
「名前とは、正しくこの世に生まれた者にだけ与えられる。人造生命の私は言わば、花を枯らす雑草のようなモノ……。私に名前などない! ダークプリキュアで充分だ!」

 名前──それが当然のようにそこに在る自分。それを誇りに思うのなら、ダークプリキュアにも、分け与えなければならない。
 本当の名前は、ダークプリキュアにも必要なのだ。

『それに……闇のプリキュアなんていう哀しい呼び名で呼ばないでちゃんと名前で呼んでください』

 高町なのはの──いつきより、遥か年下の少女の言葉を、キュアサンシャインはよく覚えている。彼女は死んでしまったが、彼女が求めた解答。それは、ダークプリキュアの救済だ。
 源太も、アインハルトもまた、生きていたなら……己の命を賭けて、ダークプリキュアを救おうとしただろう。源太は誰とでも仲良くなろうとする優しい人だ。アインハルトはあのなのはの友達なのだ。
 むしろ、彼女を許さずに救う事こそ、死んだ二人への侮辱。──そうなのだと、感じる。
 ダークプリキュアを生かし、この広い世界で──あるいは、光のプリキュアとして罪を償わせる事こそ、ダークプリキュアに必要な罰なのだ。
 罪は償える。キュアパッションだって、かつては敵だったのだ。

 名前がない孤独から、ダークプリキュアを解放しよう。
 なのはが教えてくれた事を、いつきが果たそう。

「さあ、始めよう……ダークプリキュア」

 キュアサンシャインが、ダークプリキュアを見て構えた。今すぐにでも目の前の敵に向けて駆けだす準備ができているようだった。
 ……しかし、ダークプリキュアはそんなキュアサンシャインの姿に物足りなささえ感じた。これではダメだ。これでは、戦いは始まらない。
 仕方がないので、一言言ってやる事にした。

「まだだ。……開始の合図がない。お前たちプリキュアは、己の名前を名乗ってから戦うんだろう?」

 それが開始の合図とは考えなかったが、いや、考えてみれば確かにそうだ。
 ダークプリキュアも面白い事を言う。

「おかしい事言うね、ダークプリキュア……。でも、確かに、必要だよね」

 キュアサンシャインは、初めて変身した時のポーズを思い出す。

「……陽の光浴びる一輪の花! キュアサンシャイン! またの名を、私立明堂学園生徒会長! 明堂院いつき! ダークプリキュア……あなたの心の闇、私の光で照らしてみせる!」

 キュアサンシャインの心も、明堂院いつきの心もひとつ。
 ダークプリキュアを救い────名前を、呼ぶ。そのために。







 目の前には、驚天体となったガドルがいる。尚、体に火花を散らして、しかしそれに動じないガドルの姿と、恐怖さえ感じるほどの怪物的なオーラに、そこにいる三人は息を飲んだ。
 最初に口を開いたのは、クウガ──一条薫だった。

「行け、二人とも」

 彼は、ゴ・ガドル・バを前に、どことなく冷淡な声でそう呟いた。
 否、冷淡というより、これからの戦いがどんなに過酷なものかを理解し、その恐怖をかみ殺しているような声だったのだろう。
 それが乾いて聞こえるのは仕方がない。

「ダークプリキュアはもう逃げた。彼女の判断は賢明だ。君たちも逃げた方がいい」


46 : 冒険者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:29:27 FKsPOkkk0
 彼の口からそんな言葉が出てくると思わなかった良牙とキュアブロッサムは、少し言葉を失ったが、言葉の意味を理解したところで、クウガに言い返した。

「行けって……オイ、そんなわけにもいくかよ」
「そうですよ! だって、今目の前にいる敵は……」

 良牙とキュアブロッサムは、自分も戦おうと構えている。
 しかし、クウガはそれぞれ二人の様子をちゃんと見ていた。キュアブロッサムはまだしも、変身が解除されるほどのダメージを負った良牙が戦えるだろうか。そんなはずはない。
 良牙は今、戦えるような状態ではないはずだ。

「この怪物は俺が倒す。……この怪物の目的はこの俺、そして五代が宿したこの力だ」

 良牙に戦わせるわけにはいかない。先ほどもそうだが、良牙がいくらタフネスとはいえ、一日に何戦もすれば当然だが疲労するし、ここしばらくで彼にかかった負担は小さなものではないだろう。
 それでも、良牙にも意地はある。いや、彼も早乙女乱馬と同じか。──意地だけで生きているような男だった。

「待てよ……。もしかして、俺がもう戦えないと思っていやがるのか……? 俺はまだ、コイツとろくに戦ってすらいないんだぜ……」

 良牙は、屍のように立ち上がり、エターナルメモリを取り出した。
 変身をしていないから戦えないのだと思ったのだろう。──良牙は、そう思って、それを鳴らす。姿を変え、装甲に身を包めば、きっと一条も認めてくれる。
 より強い力を。
 より強いエターナルを。望んで、彼は電子音を鳴らす。

──Eternal!!──

「変身!」

──Eternal!!──

 再び、良牙は仮面ライダーエターナルに変身するが、その息は切れ切れだった。

「見ろよ……変身してやったぜ」

 前のめりに立ちながら、ほとんど辛い全身を起こすようなものだった。その姿は、哀れとでも言うべきか。
 意地に対して、体の力が伴っていないようである。

「……駄目だ。今の君では、コイツには勝てない」
「こんな痛み……少し待てば消えるさ」
「……その少しの暇をくれる相手じゃない」

 こう言っている間にも、クウガは相手の瞳を睨んでいた。敵は、今は一応、待っている。
 ガドルの目的はあくまで、クウガ。他はオマケだが、あまり待たせれば、良牙も邪魔者の一人として殺すだろう。おそらくは、あくまでクウガのみを敵とするガドルならば、
 今の目的がクウガだからといって、それを倒したらどうなる……?
 勿論、死ぬつもりはないが、良牙は休ませるべきだし、この怪物との戦いには極力、他の人間を巻き込みたくなかった。

「……こんな奴を生み出したのは我々の世界の責任だ。同じ世界の人間として、決着をつける時が来たらしい」

 グロンギは、おそらく──遥か昔の人間たちだ。
 その人体構造が人間と全く同じという事は、一条自身もよく知っている。
 他の世界にグロンギがいるか否かは知らない。が、一条の世界には生まれてしまった。
 霊石が人の心を惑わせ、グロンギと呼ばれる怪物が野に放たれてしまったのだ。

 霊石の事を知っていた一条が、他所の世界の良牙に対して説明を怠ったがゆえに、ガドルは更なる力を得た。良牙の責任ではない。
 責任を果たすべきは、その世界の住人なのである。

「躊躇う必要はない。過ちを犯した者を見つけ出し、人を守るのが俺たち警察の仕事だ。これは我々の世界のが生み出した敵と、その世界の警察と仮面ライダーとの戦いだ。部外者の君たちを関わらせるわけにはいかない。……それに、仮面ライダークウガは必ず勝つ!」

 響良牙、花咲つぼみ。この二人には、逃げてもらう。その意思は、頑なだ。
 一条薫にもまた、強い意地と、意思がある。たとえ勝てないとしても、勝てるように見せる程度の迫力で、良牙たちを納得させるばかりの意地は、その胸にある。
 そして──


47 : 冒険者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:29:46 FKsPOkkk0

「五代も、俺も、こんな奴のために、これ以上誰かの笑顔が奪われるのを見たくない! この気持ちは同じだ! だから、あいつは……あいつは一人で戦い続けた。だが、今は一人じゃない……!」

 ガドルに殺害された西多摩警察署の108人も、ここでガドルと戦った戦士たちも、きっと辛かっただろう、痛かっただろう、怖かっただろう。彼らは笑顔を奪われたに違いない。家族がある者もいた。その家族も泣いている。
 だが、その苦しみをこれ以上、誰かに味あわせるわけにはいかない。味あわせたくない。
 突如として世界に現れた理不尽──そんなグロンギたちのために、これ以上誰かの笑顔を奪わせるわけにはいかないのだ。
 そして、警察の人間として、一条薫はこのガドルを仕留めなければならない。
 たとえ、それが暴力であったとしても。
 この拳が、人を殴り、人の命を殺めるとしても──。

 クウガは、ガドルの目を強く睨んだ。

「超変身!」

 クウガは黒の金のクウガ──アメイジングマイティフォームへと再び姿を変えた。今できる最高の姿だ。
 五代によると、確か強化されたアマダムは、「ずっと金でいける」という事だった。
 ならば、この形態にも、まだしばらく変身できてもおかしくはないはずだ。全て五代が受けた電気のお蔭である。一条自身は、まだ何もしていない。

「……アンオキ ン グガタ バ(あの時の姿か)」

 ガドルがかつて、戦い、朽ち果てた時の姿。
 黒の金。このクウガには、ガドルも借りがあった。
 命を奪われ、敗北という屈辱を感じたあの時の記憶。それを思えば、ガドルが最も戦いたい形態はこの姿なのだと言える。

「二人とも……さっきも言ったように、俺、いや……俺とクウガは勝つさ。また会おう、二人とも」

 クウガこと一条薫がサムズアップを送る姿が、エターナルとキュアブロッサムには見えた。
 そうだ、確かに、彼は今、仮面の下で笑っている。──二人を安心させるために。そして、必ず勝つから心配がいらないという事をアピールするために。
 その笑顔を信じていいのだろうか。虚勢という事は、ないのだろうか。

「……仕方ねえな。信じるぜ、一条刑事」

 ……少なくとも、良牙は、この男の意地を信じた。
 一条が勝てるか否かはわからない。しかし、これだけ説得力のある“意地”を見せてもらっては、良牙は一条を信じさせないわけはない。

「……だけど、その前にこれだけ受け取れ!」

 ──Weather!!──
 ──Weather Maximum Drive!!──

 ウェザーの力で、クウガの頭上に暗雲が立ち込める。
 エターナルは、そのクウガの懐に駆け寄ると、親指だけを立てた右腕で、クウガの胸元を叩いた。
 クウガの全身に、先ほどのガドルと同じように電撃のエネルギーが走る。

「ううっ……!!」

 雷の一撃は、先ほどと違い、殺気を持ったものではない。力を分け与えるような、どこかやさしさのこもった拳だった。
 人体には、ほんの少しばかり辛い一撃だが、それでも五代はきっと、こんな痛みにも耐えて、グロンギを倒そうとしたのだ。
 それを思えば耐えられる。
 良牙の想いが乗った電撃を無駄にするわけにはいかない。
 電流は全身に流れた。腕にも、胸にも、足にも、頭にも、アマダムにも……心にも。
 つぼみが持っていたウェザーメモリの力が、良牙の手で一条の体へと送られる。これは二人が与えれくれた力でもあるのだ。

「あぁっ……!!」


48 : 冒険者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:30:10 FKsPOkkk0

 エターナルは、その手を離した。マキシマムドライブの連発で、流石に彼も相当疲労しているのだろう。

「……わかった。俺、尊敬してるよ。あんたを。それから、五代も。俺にはとてもなれねえと思う……だけど、なれるとしたら、あんたらみたいな大人になるぜ」

 良牙は、ずっと思っていた事を一条に伝えた。
 成り行きで一緒にいた相手だったが、やっぱり、五代や一条と一緒にいられて、良牙は楽しかったし、ためになったと思う。とても一日に起きた出来事とは思えなかった。
 彼らの住む世界の人たちは、凄く良い人ばっかりだ。

「ははっ……彼に聞かせてやりたいな……。五代なら、君と冒険したみたいと思うだろう……」
「五代だって、聞いてるさ。……今は、……一緒なんだろ?」

 一条の腹部には、五代が戦った証──アマダムが埋め込まれている。それを、エターナルは指差した。

「……そうだったな」

 エターナルは距離を取って、キュアブロッサムとともに、右手の拳を握り、親指だけを立てた。五代雄介の癖だった。この親指を立てるしぐさで、笑いかけるのが。

「一条さん。また会えますよね?」

 不安そうな瞳で訊くキュアブロッサム。

「未確認生命体を殲滅するまで、俺は死なない」
「……わかりました。信じます」

 しかし、一条が放つそのパワーを、意思を、優しさを、つぼみは信じた。
 一条薫は、警視庁不死身の男だ。果たして、彼が負ける事があるだろうか。
 そして、彼はおそらく、嘘などついた事のない人だ。彼が勝つというのなら、クウガは勝つ。どこまでも律儀な人だ。

「一条さん、また……」

 彼は良い人だ。死んでほしくない。
 これまでも、どんな困難もともに乗り越えてきた仲間だ。

『Wish you good luck.(健闘を祈ります)』

 エターナルは、ビートチェイサーに積まれていた荷物を全て抱えていた。
 ビートチェイサーに乗る事はない。これは、一条が自分たちの元へとやってくるための手段になるだろうし、そもそもバイクに乗れるとしたら良牙だが、良牙では道に迷ってしまう。
 だから、ビートチェイサーに乗っていく事はできない。

「行くぞ……」
「はい!」

 エターナルとキュアブロッサムは山のふもとに向けて駆けていった。
 クウガは、少しだけ不安そうにその背中を見つめていたが、それでも、すぐにガドルの方を向き直した。

「ジャラモン パ キエタ(邪魔者は消えた)」

 ガドルはずっと、つぼみと良牙がいなくなるのを待っていたらしい。
 彼にとって、二人は邪魔者だ。かつて、クウガに敗れた時、ガドルはクウガと一対一で敗北した。その雪辱を果たすならば、もう一度あの時と同じ戦いを再現しなければならない。
 一刻も早く戦うために、あの二人を殺すのも一向だが、それをせずともクウガが二人を逃がすであろう事は、彼らの言葉から察する事ができた。だから、ガドルは待ったのだ。

「ベッチャグ ン オキ ザ!(決着の時だ!)」
「争いを……なくす時だ!」

 そう、かつても、とある森の中で、黒の金のクウガと未確認生命体46号は対峙した。
 しかし、かつてと違うのは、黒の金のクウガに変身するのが五代雄介ではなく、一条薫であるという事。
 そして、ゴ・ガドル・バが更なる力を得ている事だ。






49 : 冒険者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:30:49 FKsPOkkk0



「うおりゃああああああああっ!!」

 仮面ライダークウガ アメイジングマイティフォームの拳はガドルの胸部を殴る。
 壁を殴ったように硬い皮膚だ。しかし、目の前の相手は生物だ。どんなに誤魔化しても、これは暴力に違いない。
 殺意を乗せた拳で、相手の皮膚を貫こうとしたのだから。

「フンッ!」

 クウガの視界の外れから、ガドルの拳が顔の真横を殴る。突如として受けた一撃に、クウガは殴られたとさえ認識しなかった。真横から球速180キロのボールが飛んできたのかと錯覚するほどである。
 常人ならば即死。しかし、クウガの顔はその暴力にも屈しない。
 大きく右手によろめいた体を起こし、左足を上げる。力を込めて、足を延ばす。屈から、伸へと変わるエネルギーに、アマダムから送られるエネルギーを乗せて、マイティキック並の一撃がガドルの腹部を蹴り飛ばす。
 ガドルもまた、左足を後ろにつくほど、よろめいた。

「はぁっ!!」

 クウガは右腕を大きく引く。そのまま、息を吐き、声を漏らし、右手の拳でガドルの顔面に一撃お見舞いする。
 パンチはしっかりと、ガドルの鼻先を捉えた。
 仮面の中に在る一条薫の顔は、決して笑顔ではなかった。
 犯人を捕らえる時の一条の顔など、まだ聖人に見えるだろう。今は、般若だ。一条の笑顔を見た事がある者ならば、決して想像する事はできまい。

「くっ!?」

 しかし、そんなクウガの右腕を、ガドルは両手でがっしりと掴んだ。
 顔面の痛みなど、微々たる物とでも言うのか。──ガドルは、そのままクウガの右腕を真上に向けて放り投げる。それに追従する形で、全身が持ち上げられる。
 ガドルの真後ろで宙を泳ぐ事になったクウガは、そのまま木に叩き付けられた。

「ぐあっ!!」

 クウガは、うめき声を漏らした。
 アメイジングマイティとなったクウガでさえ、今のガドルには敵わないというのか。
 そうだ、────金になったクウガは、金と同じ力を得たガドルに手も足も出なかった。
 それならば、黒の金になったクウガが、黒の金の力を得たガドルに勝つ事が出来るだろうか……?
 確かに、変身者である一条薫は、五代雄介よりもはるかに戦闘経験がある。武術も心得ており、射撃能力も精密、そして、普段は暴力も止む無しの仕事に就いている。そこを割り切るだけの力がある。警察であれ、犯人を射殺した警官は辞職する事が多いし、人を殺す事には慣れないが、一条も、割り切って、未確認を何度も葬った。甘い事は言っていられない。
 はっきり言えば、五代が変身したクウガよりは強い。

 しかし──

 ガドルは、強い。ガドルは、クウガの一撃を通さない。
 純粋な力の差で、クウガは同じ形態ではガドルに及ばないのだ。

(負けるわけにはいかない……こんな奴に……!)

 それでも、クウガには、そんな力の差を埋めるだけの『想い』があった。
 クウガの足は自然と前に出た。両目が、振り返るガドルの顎を捉える。右拳がそこを狙いに行く。

「うおりゃあああああああああッッ!!」






50 : 冒険者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:31:23 FKsPOkkk0



 少し前──

『おまもり』

 ──そう書かれた、あのイラスト付きの紙を、一条薫は支給品の中に見つけた。
 お守りとは言っても、そこに神の力や祈りは宿っていない。何のお守りというわけでもない。しかし、2000の技を持つ冒険家の子供たちへの想いが込められた優しいおまもりが、参加者の誰かのもとに支給されていた。
 一条は、つい先ほど、荷物の整理をする時にそれを目にしてしまった。彼がわかば保育園の子供たち一人一人に送った、何十枚ものお守り──それを、こんな殺し合いの場に送り込んだ主催者が許せなかったが、一条薫は、それを自分自身のお守りとして、コートの中にしまい込んだ。

(やるぞ……)

 未確認生命体の犠牲者には、当然の事ながら、幼い命もあった。いくつもの夢や希望も奪い、未確認生命体は人殺しをゲームとして楽しんでいた。
 遺留品として警察に預けられるランドセルや子供向けのバッグ。一条はそれを何度も見てきたし、椿のもとには子供の遺体も預けられた。
 だから、彼はきっと、世界中の子供たちにも、このおまもりを届けたかったに違いない。
 でも、彼は己ができるだけ──悩みながらも、己が描けるだけの子供たちの絵をおまもりにした。そんな彼の作ったお守りだ。

(五代……!)

 誰かを守りたい男の想い。
 誰かを傷つけたくなかった男の想いが、今の一条の胸にある。

 今、戦っているのは一条だけではない。
 その男の強さが、力が──一条の体を強くする。



『こんな奴らのために、これ以上誰かの涙は見たくない! みんなに笑顔でいてほしいんです!! だから……見ててください、俺の、変身!!』



『一条さん。俺、なります』



『……そんな顔、しないでください、俺は後悔、してないんです……』





『……だって、一条さんに会えたから!』





 彼が一条の胸に響かせた数々の言葉。彼の言葉は、いつも真っ直ぐだ。
 何より、一条にとってうれしかったのは、最後まで一条に声をかけてくれたことだ。
 友情は、ホンモノだ。
 彼と一条の胸に輝き続ける友情は消えない。
 いつまでも、そう、輝き続ける。







 アメイジングマイティの右アッパーが、ガドルの顎に到達する。顎を砕き、首を持ち上げるようにしてガドルの体重を浮かせる。
 ガドルはつま先を立てて、己の体重がクウガの右手に持ち上げられている事を認識した。
 浮き上がり、そのまま、空中を泳ぐ。
 顎には、封印エネルギーの残滓が残ったまま、ガドルの体は数メートル吹っ飛び、地面に頭を打ち付けた。土がガドルの頭にこびりつく。頭は特に痛みを感じなかった。
 だが、己がこうしてアメイジングマイティの一撃に身を倒している事にショックを隠せなかった。


51 : 冒険者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:31:55 FKsPOkkk0
 今の己とアメイジングマイティクウガならば、おそらく己が上だと、確信していた。
 しかし、今、自分は倒れている──夜空を見ている。

「グォッ──!」

 ガドルが起き上がる。
 吠えるように声をあげながら、その手を地面について、立ち上がる。
 クウガが追い打ちをかける事はない。むしろ、何歩か退いている。
 ──いや、退いているのではない。
 あれは──

「……ゾグバッ!!」

 あれは、そう──かつてゴ・ガドル・バを打倒した技の再現。その構え。
 クウガは、片足を前に出して屈み、両腕を少し広げている。あそこから駆け出し、ガドルに向かって駆け出し、そこからキックを放つに違いない。
 そうか、ならばガドルも、己がクウガを超える力の持ち主だと証明せねばならない。
 今のガドルはあの時のガドルよりも数段強くなった。電気のエネルギーがガドルの肉体を強化している。
 勝てる。
 それを確信しながら、ガドルもまた、よろけたまま数歩退いた。

「──いくぞ、五代」

 クウガが呟くのを、ガドルは耳にした。

「ゼンゲビ……ビブブ!!」

 クウガは真っ直ぐ前に駆け出す。
 ガドルもまた、前傾しながら駆け出す。
 二人は同時に飛び上がる。


「うおりゃああああああああああああああッッッ!!!!」
「ハァァァァァァァァァァァァッァァァァッッッ!!!!」


 クウガの両足蹴りが。ガドルの回転蹴りが。
 二人のエネルギーが込められたキックが空中でぶつかり、炸裂する。
 空が晴れる。いや、これは晴れではない。──太陽光にも匹敵する一瞬の光。一瞬だけの朝。それが、二人のもとに降り注いだ。







 ──二つの影がいま、地面に降りた。
 空中で激突し、己の力を互いにぶつけ合ったクウガとガドル。
 勝つのは、クワガタか、カブトムシか。地上に落ちた影は動かない。
 膝をついたまま、二つの影は殆ど意識を失ったような衝撃を喫していた。
 微かな気の迷いさえも勝敗を左右するほどの互角。
 しかし──

「……やった」

 先に、クウガが膝を上げ、立ち上がった。
 クウガは勝利を確信している。
 黒の金のクウガが、辛うじて立ち上がった。
 そして、振り返る。
 振り返った先には、ゴ・ガドル・バが動かずに固まっている。

「勝った……倒したぞ、五代……」

 いま、クウガはガドルの元へと、よろよろと歩き出そうとしていた。
 奴はもう動けない。
 未確認生命体は殲滅された。
 あとは、この暴力を使うのは、残る主催者を打倒するためだけで良い。
 五代、やったぞ。
 ゴオマ、ダグバ、そしてガドル──全てのグロンギが倒された。
 倒された──はずだった。


52 : 冒険者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:32:48 FKsPOkkk0

「なっ……」

 クウガは、ガドルの元へと歩いて行こうとした時、地面に倒れた。
 彼自身も気づかないほど、体内に受けていたダメージは大きかった。
 今、クウガがガドルから受けた攻撃の強さは、半端な物ではない。

「……残念、だな……」

 俺は、負けたのか──。

 クウガの目の前で、ゴ・ガドル・バは立ち上がった。
 クウガの一撃は確かに胸部に叩き付けられた。大量の封印エネルギーがその胸、二か所に叩き込まれたほどである。
 しかし、その封印エネルギーの痕はベルトのバックルに到達する事はなかった。到達する前に、ガドルは封印エネルギーを弾き返したのだ。

(すまない、五代……)

 ガドルは、形態を剛力体へと変え、胸の装飾品をもぎ取る。装飾品はガドルソードへと変質した。彼は、クウガの方へと歩み寄る。

 ゲゲルの敗者はベルトを砕かれる。
 ガドルは、クウガのアマダムを完全に粉砕すべく、この剣でクウガの腹部を突き刺そうとしていたのだ。







(五代……)

 勝利を確信していた一条だったが、どうやら敗北したらしい。
 そして、敗北は死。いまこの瞬間もまた、一条は死に近づいているのを感じていた。


53 : 冒険者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:33:23 FKsPOkkk0
 全身は痛み、廃れ、アマダムなしには生命の維持さえできないほどである。
 全身に供給される力は、クウガとして戦うためではなく、生命の維持のために使われているような気がする。

『あきらめないで、一条さん』

 五代の声が聞こえる。
 遂に幻聴が聞こえるほどに──なってしまったのか。
 大丈夫だ、すぐお前のもとへ行く。だから待っていてくれ。

『確かに一条さんは頑張った。でも、まだやれる事、あるよ、絶対。……俺は信じてる、一条さんの事。だから……一条さんも俺を信じて!』

 五代は、言った。
 まだやれる事がある……?
 五代のもとへ行く前に、まだやり残した事があるのか……?

(そうだ……俺はまだ、倒すどころか……一矢報いる事さえできていない……! このまま倒れるわけにはいかない……!)

 そう、この戦いは決して死んだ五代のための戦いじゃない。
 生きている良牙やつぼみ──たくさんの人たちの笑顔を守るための戦いなのだ。
 ただ、五代は一条とともにある。
 五代はもうアマダムも関係ない人間として青空になった。しかし、一条は警察の道を選び、自ら戦う道を選んだ。それなら、俺は五代と一緒にいたアマダムと運命をともにしてもいい。

『俺たちで、一緒にやろう、最後の冒険……!』

 ここで満足してしまっては、何も果たしていないのと同じ事だ。
 死ぬのは良い。しかし、せめて最後の瞬間まで、ガドルを倒すための活路を開く。

(────!)

 一条の脳裏で、一瞬だけ“凄まじき戦士”のイメージが掠められる。
 これが、凄まじき戦士か。──一条はそう思った。これは、アマダムが、憎しみだけで戦わぬように「警告」として送るアルティメットフォームのイメージである。
 これに変身した時、もしかしたら理性を失い、グロンギと等しくなるかもしれないというクウガの究極の姿だという。これが現れるという事は、一条が危険な状態であるという事だろう。
 ……しかし、それが脳裏に現れた瞬間、一条は笑った。

(──大丈夫だ、俺は。なあ、五代……)

 ポケットには、五代のおまもりがある。君がくれた笑顔がポケットにしまわれている。
 これがあれば──これだけあれば、一条薫は、どんな憎しみに圧されたとしても、理性を保てる。
 一条は、心優しき警察官の一人でい続けられる。

「そうだな……俺もお前と行こう! これが俺の冒険だ!!」

 憎しみになど飲まれない。
 五代は、一条に笑顔を見せて、消えた。







 突如、ガドルの体表が燃える。
 ガドルは、己の体に突然発現した炎の正体がわからなかった。わからなかったが、クウガの手がこちらを向いている事に気づいた。
 熱い炎がガドルの体表を焼き、ガドルを苦しめる。
 ガドルが数歩下がる。

「ガギゴ ン ギジ バ!(最後の意地か!)」

 見れば、クウガの姿がまた変わっていた。
 全身が鋭利になり、黒が全身を支配し、金の意匠はより細かく全身に行き渡っている。
 四本角。そう、これは凄まじき戦士──仮面ライダークウガ アルティメットフォームに変身しているという事ではないか。


54 : 冒険者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:33:57 FKsPOkkk0

「ゴミギソギ……(面白い)」

 強化したガドルの力が究極の闇に匹敵する者なのか、この場で試せる。
 ガドルは、数歩後退した体を再び、ゆっくりとだが前に出した。
 炎に包まれる上半身の痛みを掻き消しながら、足を前に出す。

 アルティメットフォームになったクウガが地面に手をつき、体を起き上がらせる。
 その目は赤い。心が黒く染めあがる前の──わずかな理性が顔に見て取れた。
 そして、クウガはガドル以上に深刻なダメージを受けているらしい事もよくわかった。

「……くっ」

 クウガは、立ち上がりこそしたものの、それだけで全身の力を振り絞ってしまったような気さえする。しかし、敵の前に必死で手をかざし、プラズマ操作で敵の体を焼こうとしていた。
 仮面の下は泣いている。
 こうして、また人を苦しめ、暴力を振るう結果になる事を。それでも、五代とともに最後に果たさねばならない使命を果たすべく、右腕に力を込めた。

「うお……」

 クウガの全身を駆け巡る痺れ。体を支配する金縛り。
 全てを解き放つため、クウガは吠える。

「うおりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ…………!!!!」

 クウガの手は伸ばされ、ガドルの体めがけて駆ける。その拳が到達するのは、その直後だった。もともと、そう距離を置いていたわけでもない。結果的に、クウガの拳はガドルの腹のバックルの真上を叩いた。

 そこに封印エネルギーが込められた一撃。一条薫と仮面ライダークウガの最後の“暴力”が突き出される。アルティメットフォームの命をかけた一撃であった。全身を焼く炎よりも強い、封印の一撃ガドルの腹を再び襲う。
 本来ならバックルを狙うはずだったが、微かに位置がずれた。朦朧とした意識は、決してクウガには、優しくなかった。
 しかしながら、その一撃は、ガドルに物理的にも大きなダメージを与えたし、ベルトのバックルに近い箇所に封印エネルギーを込めた。

(……五代……)

 遂にアマダムが破損し、一条薫の変身が解かれる。眼前で、ガドルは腹を抱え、もがく。

(お前が声をかけてくれたおかげで……)

 これが決め手となるかはわからない。決め手となるかはわからないが、ガドルに一矢報いた事だけははっきりとわかった。

(この冒険は……成功した……よ……)

 いくらガドルが究極に近づいたとはいえ、本当の究極には勝てないだろうと──楽観視しすぎかもしれないが、そう思った。

(一緒に行こう、悲しみと争いのない未来まで……)

 このまま夜が青空になり、そこで誰かの笑顔を見届ける事はできなかったが、残念ながら一条薫の意識は薄れ、視界から全てが消えていく。

(俺も、お前と会えて、……良かった!)

 バトルロワイアル開始一日目、19時32分。──一人の戦士が、散った。


【一条薫@仮面ライダークウガ 死亡】
【残り20人】






55 : ピノキオの物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:34:30 FKsPOkkk0


 仮面ライダーダブルは、この山にひと時だけ来た「昼」をすぐ下で目にしていた。
 エレクトリックをはるかに凌ぐ電気の光。夜の山に光を齎すほどのエネルギー。
 それが今、おそらくガドルの手によって放たれているのを、ダブルは確かに感じていた。

「くそっ……!」

 ダークプリキュアが屈するだけはある。
 殺し合いの覇者を目指す戦士が新たなる力を得て、山の天候さえ答えている。
 キュアブロッサムは。仮面ライダーエターナルは。──彼らは生きているのか。
 いや、ダブルは、たった三人。そこにいる人を救えればいい。
 ガドルを倒す事はできないかもしれない。しかし、そこにいる人々が困っているなら、助ける。それがダブルの行動原理だ。
 問題なのは、その行動の果てに、全員が生きて帰れるか──という一点。

「エクストリームもねえのに……! これだと行動も制限されて──」

 ファングやエクストリームといった力さえあればまだしも、今のダブルで勝利するのは難しい。それはこれまでも感じていた力の差だ。
 あれらの姿へ変身する事ができれば、もう少し有利に戦えただろうが、今翔太郎の手にそれがないのは変えようのない事実だ。

「制限……?」

 ダブルは、エクストリームの不在で己の強さが“制限”されてしまっている事に気づく。
 そうだ、もしかするとゴハットに言われた制限という奴は、その事かもしれない。
 そうおとなしくフィリップを解放するわけがないとも思うが──人質だと思っていたフィリップは、実は「制限」なのだとしたら。

「チッ……まあいい。どっちにしろ行くしかねえ」

 それでも、どう頑張ってもエクストリームは今すぐには手元に来ない。それよりも、ダブルは今の姿でどう戦うのかを考えなければならないだろう。
 山の真上を見上げる。そこには人影があった。

「……オイ! あれは……」

 その時、前から駆け出す二人の姿にダブルが気づいた。
 そう、それはまさに赤いプリキュアとエターナル。ダークプリキュアから聞いていた二人だ。やはり、彼女は、嘘は言っていなかったらしい。
 しかし、死んだと言われた二人は生きて逃げ出す事ができたようだ。

「おい、お前ら!! おい!!」

 ダブルはそこにいる二人に手を振って声をかける。
 キュアブロッサムとエターナルはすぐにダブルに気づいて走り出す。
 いったい、今戦況はどうなっているのか。そして、一緒に行動しているはずのもう一人はいないのか。

「……あなたは?」
「俺は仮面ライダーダブル。お前たちの事は知ってる。キュアブロッサム、花咲つぼみに仮面ライダーエターナル、あー……」
「この人は響良牙さんです」

 エターナルの代わりにブロッサムが答える。
 響良牙。一応、警察署で貰った情報の中にはその名前もあった。全く不明なのは数名だけである。良牙は、確か信用していい人間に分類されていた気がする。

「良牙……か。あんたが。……まあ良い。いまお前らがガドルと戦ってるのはわかってる。だが、一体どうなってんだ? あとの一人は?」
「一条だ。いま、そいつが、そのガドルって奴と戦ってる。……たった一人で」
「一人!? 無茶言うんじゃねえ、あいつは一人で倒せるような相手じゃ……」

 そう聞いた瞬間、ダブルの体は勝手に動いた。
 ガドルの強さをよく知っているから、助けになろうとしたのだ。
 しかし、それをエターナルが止める。エターナルがそうしてダブルの腕を止めるのが、とても新鮮な体験だった。
 戦争屋の仮面ライダーだった彼が今、こうしてダブルを止めている。

「待て、ダブル。一条は勝つ。あいつも仮面ライダー──仮面ライダークウガなんだ。今の電撃を起こしたのはきっと、ガドルじゃない。クウガなんだ!」


56 : ピノキオの物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:34:48 FKsPOkkk0

 良牙が分け与えたウェザーによる電撃がクウガにも届いているはずだ。それがきっと、ガドルの打倒を果たしていると、良牙は信じる。
 いや、もっと消極的な言い方かもしれないが──信じたい。
 一条を知らぬこの男にわかるはずがないと、そう思いながら良牙は、まるで自分自身に言い聞かせるように言った。
 どこか激昂しているようにさえ聞こえた。

「……」

 ダブルは、少し悩みつつも、いや、やはり……心の中に在る不安を拭う事にした。その一条という男は、ガドルと交戦し、果たして勝つのか。それはわからない。しかし、クウガという男が仮面ライダーなら、信じるしかない。
 自分が同じ状況に陥ったとしたら、ダブルもまた、一条と同じように二人を逃がしてガドルと戦うのではないかと──そう、思わざるを得なかった。

「……わかった」

 その男が、翔太郎と同じなら、翔太郎は一条の策を無駄にしたくはない。
 折角、ガドルと戦おうという状況だったが、撤退しかない。……という事であった。

「……そうだ、キュアブロッサム。それからお前も。この下にプリキュアの仲間がいる。今、そいつはダークプリキュアと戦っているところだ」
「ダークプリキュアが!?」

 キュアブロッサムが反応する。ダークプリキュアは、先ほどの戦いの途中で消えてどこかへ行った。やはり、撤退したのか。殆どあの場で会ったばかりだから仕方がないとも思う。
 仲間のプリキュアというのがキュアピーチかキュアベリーかキュアサンシャインなのかはわからないが、どうやらダークプリキュアがいるらしいという事はキュアブロッサムについても、食いつかずにはいられない事実だ。

「……ダークプリキュア」

 キュアブロッサムは、憂いを込めた瞳でそう言った。
 先ほど、ダークプリキュアは本当に戦う気がなかったのだろうか。とてもそうは思えなかった。







「プリキュア・ダークパワー・フォルテッシモ!」

 ダークプリキュアが描いたfがキュアサンシャインに向けて全力で放たれる。
 この一撃の火力はなかなかに大きい。しかし、キュアサンシャインは即座にヒマワリ型のシールドを展開する。サンフラワー・イージスである。
 ダークパワー・フォルテッシモはダークタクトから送られてくる闇の力に呼応し、更に勢いを増す。
 闇。──そう、ダークプリキュアの力の根源は闇の力である。
 根本的に、プリキュアとは相容れない力で戦っているのだ。その力を持つダークプリキュアが、光に足を踏み入れる事などできるはずもない。

「はあああああああっ!!」

 ダークタクトから送り出される全力のエネルギーを注ぎ、障壁を壊そうとする。
 サンフラワー・イージスも限界に近いようであった。
 かつてならばもっとあっさりと障壁を打ち壊せたはずだった。しかし、サンフラワー・イージスはまだ持ちこたえている。
 それはキュアサンシャインの成長であり、ダークプリキュアの闇の力の減退でもあるようだった。

「くっ……!」

 それでも、やはりダークプリキュアの力は強大であった。
 サンフラワー・イージスに罅が入る。裂け目ができた瞬間は、そこからエネルギーが逃げ出そうとするため、非常に危険だ。このままいけば、すぐにダークパワー・フォルテシモに負ける。

 そして──


57 : ピノキオの物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:35:08 FKsPOkkk0

 すぐに、サンフラワー・イージスが弾ける。
 ダークパワー・フォルテシモがキュアサンシャインのいた場所に殺到する。
 キュアサンシャインは、その崩壊の瞬間をいち早く察知して、後方に逃げた。
 地面を強く蹴り、数メートル飛び上がる。
 ダークパワー・フォルテシモは不発だ。その隙にダークプリキュアのもとへ、キュアサンシャインがアーチを描くように飛んだ。まるで、落ちる位置さえ彼女にはわかっているようだった。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 掛け声が響くと、空中から降り注ぐ太陽は、地の闇に向けて拳を差し向けた。
 空を落ちる太陽の一撃は、ダークタクトが防ぐ。しかし、そこから体制を立て直すように地面に足をついたキュアサンシャインは、次に回し蹴りをダークプリキュアの脇腹に命中させた。

「ぐふっ!」

 ダークプリキュアがバランスを崩す。
 左に向けて少しよれたが、次のキュアサンシャインの突きは腕でガードした。
 その次のキュアサンシャインの一撃は、ダークプリキュアも手を伸ばしながら、真横でガードした。
 そこから、自然と連撃が始まる。
 キュアサンシャインもダークプリキュアも素早い「攻」に転じたのである。相手の体の一発でもパンチを当てようと、まるで拳がいくつもに増えて見えるほどの戦いぶりが始まる。

「はああああああああああああああああああああっっ!!」
「はああああああああああああああああああああっっ!!」

 全て相手に到達するが、お互いに急所への一撃を全て回避する。
 お互い、光と闇の力でパワーを強めあい、物理ダメージも最小限に抑えているので、急所以外の攻撃は受けても大きな問題はない。岩さえ砕くようなパンチが致命傷となる事はないほどだ。

「あっ……!」

 先に急所に一撃受けたのは、キュアサンシャインの方であった。みぞおちに一撃、ダークプリキュアのカウンターが入った。
 そこで出来た隙が、次のダークプリキュアの一撃に繋がる。
 両手の指先を絡ませ合い、二つの拳を繋げる。そこに全身の力を込める。二つの拳を、ハンマーのように、キュアサンシャインの頭上に振り下ろす。

「ああっ……!!」

 キュアサンシャインは上半身を地面に打ち付け、ダークプリキュアは空へと飛び上がった。キュアサンシャインが地面に叩き付けられた衝撃で、地面にはキュアサンシャインよりも一回り大きいクレーターが生まれたのである。そこに巻き込まれぬために、ダークプリキュアは飛び上がったのだ。
 キュアサンシャインはその中心で倒れ伏す。

 それでも、両腕を地に立てて、キュアサンシャインは立ち上がった。
 全身に受けたダメージに打ちひしがれながら、それでも立ち上がった。

「はああああああああああああああっ!!」

 跳躍。ダークプリキュアのいる空まで、サンシャインは飛ぶ。さながら、羽を傷つけた小鳥のような力のなさもあったが、声にだけは覇気があった。
 その時は、その跳躍に全身の体力を使ったような気がしたが、次の瞬間にはもう腕が前に出ていた。
 その腕はダークプリキュアを捉える。
 空に輝く太陽と月が激突する。

「ダークプリキュア……ッ!!」

 拳がダークプリキュアの胸に届く。
 ダークプリキュアの真っ赤なブローチに、キュアサンシャインの拳骨が触れる。

「……どこから、そんな力が……っ!!」

 跳躍時の様子から、その拳が届かないと思い、避ける事さえしなかったダークプリキュアは、己の胸元のブローチに到達したキュアサンシャインの拳に驚愕する。
 キュアサンシャインへの攻撃には常に全力を尽くした。


58 : ピノキオの物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:35:28 FKsPOkkk0
 サンフラワー・イージスのないキュアサンシャインのどこにそんな力があるのかと思いながら、ダークプリキュアはただ吃驚した様子で攻撃を受ける。

「……大好きな人達のためなら、頑張れる!! それが、私たち……プリキュアだから!!」

 衝撃がバランスを崩す。
 外的要因か、内的要因か。キュアサンシャインの拳が空中でダークプリキュアのバランスを崩させたのか、それともこの言葉がダークプリキュアの心の均衡を崩したのか、それはわからない。
 しかし、ダークプリキュアはそのまま、まっさかさまに落ちていく──それは確かな事実。

「アインハルトも、源太さんも、えりかも、ゆりさんも……大好きだった!!」

 ダークプリキュアが地面に到達する前に、太陽の光が見えた。

「……ブロッサムも、あなたも……大好きだから!!」

 ダークプリキュアは、辛うじて地面に両足で折りたち、手をついた。
 そのまま立ち上がる。

「大好き……? それならば、お前は何故、戦って死んだ人間を勝ち取ろうとしない!!」

 ダークタクトを握りしめて、ダークプリキュアは中空のキュアサンシャインを睨んだ。

「死んだ人間は……蘇らない!!」

 ダークプリキュアのもとに、無数の小型光弾が放たれる。
 サンシャイン・フラッシュである。サンシャイン・フラッシュは一瞬でダークプリキュアを取り囲んだ。
 何発もの光弾が、一瞬前までダークプリキュアがいた地面を次々とえぐっていく。ダークプリキュアは、縦横無尽にそれを回避していた。

「蘇るさ、NEVERの技術を使えば……」

「……NEVERになったら、それは私の大好きなゆりさんじゃなくなる……あなたの大好きなゆりさんでもなくなるよ!!」

 翔太郎から、NEVERについては聞いている。
 感情を失くしていく死者の兵士。大道克己や泉京水といった参加者がそうらしい。
 生前の人格とは殆ど別人になり、殺人に対する躊躇さえなくなってしまう。
 それは、ゆりじゃない。

「ならば、時代を超えて……生きている時のゆりを連れてくればいい!」
「そんなの……! あなたが好きなゆりさんじゃないよ……!? それでいいのっ……!?」
「くっ……」

 ダークプリキュアは、図星をつかれたようによろめき、サンシャイン・フラッシュの一つを腕で受けた。その一撃は回避ができなかったのだ。

「君の命も、僕の命も……有限なんだ!! だから僕だって怖いんだ!! いつ死ぬかわからないこんな状況で……それでも、大好きな人がいるから、僕は戦ってるんだ!!」

 そして──。
 キュアサンシャインとしての言葉ではなく、明堂院いつきとしての言葉が爆発する。
 友達がたくさん死んだのに、自分だけ大丈夫なんて思えない。
 いつきはまだやりたい事がたくさんある。帰りたい家があるし、学校がある。
 死ぬのが怖くないはずがない。
 命が何度でも蘇るならそれが良い。でも、本当にそうだったら、怖くなんかならないはずだ。

「私には大好きなんて人いない……。大好き……その感情がそんなに愚かな……自分さえ捨てるほど愚かな物なら、私は……」

 ダークタクトが、両手に闇のエネルギーを集めて、赤い光弾を作り出す。

「感情などいらない!! 私は心のない人形だ!!」

 赤い光弾が上空のキュアサンシャインを狙う。
 しかし、それが命中する直前にキュアサンシャインがサンフラワー・イージスを展開した。
 光弾は弾かれ、逆にダークプリキュアの方へと反射して襲ってくる。


59 : ピノキオの物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:35:59 FKsPOkkk0

「──!?」

 咄嗟に避けるが、地面を狙ったそれから、吹き荒ぶ砂埃に視界を奪われる。

「集まれ、花のパワー!」

 その隙に、キュアサンシャインは花のパワーを両腕に集中させる。

「シャイニータンバリン!」

 キュアサンシャインの手にシャイニータンバリンが作られる。

「はぁっ!!」

 シャイニータンバリンの淵を回転させて、キュアサンシャインは手、手、尻、手と四回シャイニータンバリンを叩いた。

「花よ、舞い踊れ! プリキュア・ゴールドフォルテ・バースト!」

 無数のヒマワリのエネルギー体が発現する。自らの光弾を避けたダークプリキュアの元へと殺到した。

「……これは、かつての!」

 ダークプリキュアをかつて襲った攻撃であった。
 そして、それはまたダークプリキュアの体へと集中し、全身の動きを封じる。

「なっ……くあっ……!」

 無数のエネルギー弾はそのまま炸裂し、ダークプリキュアを全身から苦しめる。

「ああああああああああああっ!!」

 かつてよりも威力を高めたプリキュア・ゴールドフォルテ・バーストを前に、ダークプリキュアは、力を失う。
 硝煙のような砂埃が、倒れていくダークプリキュアの姿を包んでいる。
 キュアサンシャインは一撃、当てた。ダークプリキュアがもう動き出す事はないだろう。

「……やっ、た……」

 キュアサンシャインは勝利の喜びに身を委ねていた。
 しかし、その喜びにはもう力が残っていなかった。ひきつった頬で笑うと、空中に立っていられるほどのエネルギーさえなくなり、キュアサンシャインは力を失って落下した。







 ……そして、いつきが目を覚ますと、そこはキュアブロッサムの顔があった。
 自分は、一体……。
 いつきは、そう思いながら、周囲を見た。自分がいるのは、キュアブロッサムの腕の中だ。
 あの戦いから、そう時間は経っていないらしい。……いや、まだ少しも時間は経っていないのだ。意識を失ったのは、ほんの数分。
 長い間眠っていたような気さえするが、キュアブロッサムは空中から落ちていくいつきをキャッチし、つい先ほど着地したばかりだった。
 いつきは、変身する途中のあの白い下着のような姿になっていた。

「……サンシャイン」

 ブロッサムが、心配そうな顔で言った。
 いつきは力なく微笑む。ブロッサムの顔がそこにある事に安心する。

「良かった……無事だったんだね、ブロッサム」

 ブロッサムがガドルという敵との戦いで生存している事を、まずサンシャインは喜んだ。彼女の事も心配だったが、生きていたのだ。
 あの戦いの後で、随分と疲れたが、とにかくサンシャインは勝った。
 思い返せば、これはかなり、楽しい武道だった──と、いつきは思った。お互いの全力を尽くして戦い、そして勝った。
 ダークプリキュアに勝ったのだ。


60 : ピノキオの物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:36:20 FKsPOkkk0

「……翔太郎さん」

 ダブルと、もう一人、知らない人がいつきの前にいた。この知らない仮面ライダーも、たぶん仲間だろう。ダークプリキュアはエターナルと、呼んでいたはずである。

「……ブロッサム。下ろして」

 ブロッサムを促して、いつきは地面に立つ。だいぶよろけてはいるが、とにかくダークプリキュアに勝ったのは確からしい。
 見れば、ダークプリキュアが、地面から倒れ、起き上がろうとしている。いつきは、ダークプリキュアのもとへと歩き出そうとしていた。
 ダブルが肩を貸してくれようとしたが、いつきは拒否した。それほど消耗しているわけじゃないし、自分の足で歩いて行きたい。
 ふらふらになりながらも、ダークプリキュアのもとへ行こうと、いつきは歩き出した。

「……ダークプリキュア」

 ダークプリキュアの前で、いつきは、彼女の偽りの名前を呼んだ。
 これで最後のつもりだ。キュアサンシャインは、明堂院いつきは勝った。今、呼びかけるのは勝負した相手の名だ。
 ダークプリキュアはダークプリキュアとして戦ったのである。
 だから、この場で呼ぶのはその名前だ。

「……立てる?」

 手を、差し伸べる。
 ダークプリキュアは茫然としているようだった。
 いつきが手を差し伸べる事に驚いたのではない。彼女がそういう人間だというのは、もうわかりきったことだ。

「私は……負けたのか……?」

 ……自分が負けた事に、彼女は驚いていた。
 全力だった。全力で戦った。それなのに負けた。キュアサンシャインに。
 全力の自分に打ち勝てるようなプリキュアが、キュアムーンライト以外にいるとは思っていなかったのだ。
 力の差は、本来、歴然であるはずだった。
 しかし、その差を、キュアサンシャインは埋めて戦った。……大好きな気持ち。それをエネルギーとして。

 同じような決闘を、ダークプリキュアは思い出す。
 海辺でのシンケンゴールドとの戦いだ。

「かつて、シンケンゴールドは私にこう言って戦いを挑んだ……。自分が勝ったら、殺し合いをやめろと」
「……源太さん。そんな事を」
「結果、奴は敗北し、死んだ。……私はその時、そんな奴が愚かだと思っていた。奴はあの状況下で私を信じようとしたのだ」

 ダークプリキュアは、いつきの手を握ろうとはしない。
 しかし、いつきはそれでも手をかざし続けた。

「……だが、奴はもしかしたら敗北などしていなかったのかもしれない……」

 源太やアインハルトの死を乗り越えたキュアサンシャインに、ダークプリキュアは敗れた。ダークプリキュアは、とうの昔に彼らに負けていたのかもしれない。
 それが今、キュアサンシャインに敗北するという形で、確かな物となったのだとしたら。

「……君はさっき、感情なんていらないって、う言ったけど、今の君はとても輝いて見える」

 そう……目の前にいるダークプリキュアからは、彼女の闇を象徴するかのような羽が消えていた。闇の力を集めるダークタクトももうその手にはなかった。
 ダークプリキュア自身は、今それに気づいたようで、その手が、キュアサンシャインの手を掴めるという事を、今更知ったらしい。

「そうか……」
「心のない人形なんて、嘘だよ。君は、きっと人間になれたんだ」

 “人形”は“人間”に“変身”した──。心の闇を吐き出して、人形の殻を脱ぎ捨てたのである。
 いつきは、それを確信していた。


61 : ピノキオの物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:36:56 FKsPOkkk0
 いつきは、ダークプリキュアに微笑みかけたが、すぐに……そこからいつきは少し表情を険しくした。

「でも、もう殺し合いをするのだけは……やめてほしい。いや、やめるんだ。君がどんなにゆりさんを望んだって、君の知ってるゆりさんは蘇らない。……それは、凄く残酷な話だけど。……それに、君は勘違いしていたようだけど、ゆりさんは多分……それじゃあ喜ばない」
「……そうか」

 憂いを帯びた瞳で、ダークプリキュアは空を見た。
 それは、もうダークプリキュアが「家族」を得る事ができないという事だった。 

「……所詮、叶わぬ夢だったか……」

 普通の人間のように生きる事は。
 諦めるのは辛かったが、心のどこかは既に諦めていたのかもしれない。

「私に勝ったお前が言うなら、そうなんだろうな……」

 ゆりの気持ちは、ダークプリキュアよりもキュアサンシャインの方が詳しいのだろう。……いや、おそらく彼女は確信している。
 ゆりの気持ちがわからず、エターナルが見せる“色”に全てを委ねたダークプリキュアなどよりも、ずっと確かにわかっていたのだろう。

「もう殺し合いをする意味なんて、どこにもない。……私がこれからすべき事も、もうないだろう。私に必要なものは……もう手に入らないなら、私に生きる意味なんてない」

 ダークプリキュアが望み続けたのは、キュアムーンライトの決着だった。それももうできない。
 ダークプリキュアが求め続けたのは、家族だった。それももう手に入らない。
 もう、何もない──びっくりするほど、何もなくなった自分に、もう生きる意味などないとさえ、ダークプリキュアは感じた。
 しかしながら、心が洗われたようで、不思議だった。

「そんな事ありません!」

 激昂するような声が、もうひとつ、いつきの後ろから聞こえた。
 キュアブロッサムであった。

「あなたの家族は、もういないかもしれません。でも、私たちは、もう戦い合う敵じゃない。友達になれるんです。……あなたは知らないだけで、友達だって、とても大切なものなんですよ」

 ダークプリキュアがこうしていつきと友達になった事を祝福するように、ブロッサムは笑顔でそう言った。

 友達。
 ……それはダークプリキュアには、存在しない言葉。
 友なんていなかった。
 彼女が求め続けたのは家族。友達などという単語は脳をかすめた事もなかった。
 しかし……彼女は、いま少しだけ、それが欲しいと思った。

「……だが、どうすれば友達とやらになれるんだ……? 私には、何も、わからない……私は、そんなもの……習っていない……」

 友達という物の大切さなど、わかるはずはないが、それを掴む事で何かを得られるのならば、それでいいのかもしれない。
 ダークプリキュアは、いつきに向けて手を伸ばした。しかし、その手が届く前に、いつきは一つ気づいたように言った。

「……友達になる方法。それは簡単だよ」

 いつきは、笑うように言った。
 簡単な事なんだ。なのはは、それを教えてくれた。
 なぜ、名前で呼ぶ事が大事なのか──。

「……名前を呼んで? ちゃんと僕の目を見て、はっきり僕の名前を呼ぶんだ」

 なのはが、名前を呼ぼうとした意味を、いつきは考えた。
 きっと、はじめはそれだけでいいんだろう。難しい事はいらない。

「キュア、サンシャイン……?」


62 : ピノキオの物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:37:24 FKsPOkkk0

 ダークプリキュアが、そう呼んでから、いつきは首を横に振った。いや、違う。その名前じゃない。ずっとダークプリキュアが呼び続けた名前じゃない。戦う時の名前じゃなく、友達の名前が必要なんだ。

「ううん……。僕の名前は、いつき。明堂院いつき」
「いつき」
「そう、いつき。君の名前は……?」

 そこで、ダークプリキュアは少し戸惑った。
 名前。それは与えられる物だと思っていた。自分で考えていいのだろうか。
 自分で少し考えたが、やはり、やめた。思いつかない。

「……悪いが、それを最初に呼ぶべき者は────もう、この世にいない。だから、本当の名前じゃない。……仮の名前でもいいのか……?」
「……うん。わかった」
「……それなら、それはお前が決めてくれ。きっと、私にはゆりが決めた名前があるはずだ。名前は自分でつける物じゃない……誰かがくれた名前が欲しい」

 ダークプリキュアは悩んだ。
 自分の名を自分で名づけるのは、普通じゃない。
 名前は本来、与えられるものなのだから。

「……そっか。じゃあ、僕に大切な事を教えてくれた……とても大切な友達の名前を……もう、いないけど、君に贈るよ」

 いつきもまた、少し考えて、その名前に決めた。
 ゆりもきっと、彼女の名前を考えていただろう。彼女が考えた名前が「本当の名前」。しかし、いつきが考えるなら──

「なのは」

 ダークプリキュアの名前を呼ぶ事を、いつきに教えてくれたあの子の名前を。

「月影なのは」

 菜の花の花言葉は──、「小さな幸せ」。

『That’s a nice name.』






63 : ピノキオの物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:37:48 FKsPOkkk0



 ダブルは、ダークプリキュアの様子を黙って見つめていたが、翔太郎はフィリップの一言聞いた。

「……なあ、フィリップ。あいつも罪を償えると思うか?」
『やっぱり、翔太郎はハーフボイルドだね。君は罪を償えると思っている。甘いよ。……でも、彼女の方がもっと甘いね。“ノットボイルド”ってところかな』
「焼いてすらいねえ! 生卵じゃねえか!」

 自分の仲間の命を奪った敵さえ、自分を裏切った相手さえ許す。
 それがプリキュアだ。

『……ただ、そうだね。ダークプリキュア、……彼女には家族と、それから名前がなかったのか。名前もなく、自分自身の決断もなく、ただ命令だけをこなしていた……そういう事か』

 フィリップが呟く。その言葉には、遠い昔を懐かしむような語調が込められていた。

『わかるよ、僕にも。彼女の気持ちが。……決して人を殺めていい理由にはならないけど、僕も彼女と同じだった時期がある。彼女もまた、最高の相棒……いや、仲間たちと出会えたみたいだ。……彼女はきっとやり直す事ができる。どれだけ時間をかけてでも……彼女は自分の罪を数えるだろう』
「フィリップ……」

 フィリップは鳴海壮吉に名前を与えられるまで、「名前」がなかった。小説の中の探偵フィリップ・マーロウの名を借りて、フィリップと呼ばれるまで、彼には名前も何もない。
 そして、翔太郎と出会うまで、「家族」がなかった。園咲来人でも、フィリップでもない時期というのが確かにかつて、彼の中には存在していたのである。

「結局、お前もハーフボイルドだな」
『失礼だな……翔太郎』

 そう言うフィリップの言葉も、どこか嬉しさを交えたようだった。







「さあ、手を……」

 いつきはダークプリキュアの手を取って起こそうとする。
 ダークプリキュアは、その手を掴んだ。

「手と手を繋いだら、もう、本当の友達です……私たちは」

 ブロッサムは、その姿に涙さえ浮かべていた。一人の敵が、いま和解しようとしている。
 ダークプリキュアは、長い間仇敵だった。確かに、彼女は敵だった。

「……ああ」

 ダークプリキュアが立ち上がり、キュアサンシャインの瞳を見る。
 そこにお互い、敵意という物が消えていた。

「キュアブロッサム……お前の名前も、教えてくれ」
「花咲つぼみです。よろしく……月影なのはさん!」
「……つぼみ」

 “なのは”はつぼみの名前を呼んだ。そして、彼女とも、手を繋いだ。
 一件落着、と言いたいところだった。しかし──

「なのは……その体」

 しかし、ふと……いつきが、“なのは”の異常に気付いた。


64 : ピノキオの物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:38:11 FKsPOkkk0
 そう、彼女の体が粒子のように消え始めていたのである。
 羽やダークタクトだけではない。スカートも消えかかり、腕さえ消えかかっている。
 このまま、体全体が消えてしまいそうなほど、粒子化が進んでいた。
 ダークプリキュアの表情が柔らかくなるにつれ、その速度は加速していた。

「……そうか」

 彼女は、いつきの一言で、己の体が消えかかっている事に気づいたようだ。
 そして、その理由にも、すぐに察する事ができた。

 ──そう、砂漠の使徒はその心が完全に浄化されると消滅する。彼女は闇に生まれ、闇に生きる戦士だった。その体もまた、闇の心が作り上げている。
 ここまで、よく保たれたと驚かれるほどだろう。それは、彼女自身が殺し合いに乗る事で「己」を保持していた事なのかもしれない。
 彼女が人になる事はできなかったのか──

「お別れの時だ、つぼみ、いつき……。私は、人間になれたようで、本当の人間にはなれないんだな……」

 所詮、ダークプリキュアは砂漠の使徒だったという事だ。
 正しい心に生まれ、正しい心に生きる事など最初から不可能な生命体だったらしい。

「闇に生まれた私は、心が浄化された時、体ごと消える運命だったようだ……。しかし、生まれた事にも、後悔はしていない。私は少しの間だけでも、人間のような心でいられた……それでいいのかもしれない。私は、生まれてきて良かった……」

 ピノキオは人間になれて本当に幸せになったのだろうか──。
 そんな疑問を説いた人がいる。人間には醜さもある。時に争い合い、人さえ殺める。実際、“ダークプリキュア”は人を殺した。
 しかし、ここにいるピノキオは、人間になれて幸せだったと、そう断言する事ができる。
 だから、心に何のわだかまりもなく消える事が許されると思った。

 だが、それでも──プリキュアたちは納得しなかった。

「駄目です……あなただけは、消させません! 友達になった人が消えるのは、もう……もういやなんです!」

 えりかの名前が放送で呼ばれた時の事や、友達になったさやかが死んでしまった事、折角仮面ライダーになれるはずだった大道克己や村雨良が消えていった事を、つぼみは思い出す。──そう、あの時のような悲しみを何度も背負いたくはない。
 折角、彼女は人間になれる。折角、彼女と友達になれる。

「そうだよ、お願いだ……。消えないで……。一緒に色んな事をしようよ……。まだ君と友達になったばかりじゃないか……」

 いつきが握っている手が消えていく。
 ダークプリキュアの体は透過して、間もなくお別れが来る事を示しているようだった。
 つぼみは何度も、ここで出会ってきた人たちとのお別れを前にしてきた。

「いいんだ、……もう、いいんだ……、つぼみ、いつき……“ありがとう”」

 彼女の口から、そんな当たり前の挨拶が出たのは、初めてだった。
 だが、つぼみは決して、それで良いとは思わなかった。何度も何度も、こうして人がいなくなるのを見たくはない。何度も何度も、それを抗えない自分の無力を痛感したくはないし、友達が消えるのは──厭だ。

(──お願いです! みんな、力を貸して!)

 ブロッサムは祈った。
 神に。仏に。花に。大地に。仲間に。世界に。







 ──この場所には、四つのプリキュアの力があった。
 キュアブロッサム──花咲つぼみが持つ、ココロパフューム。
 キュアマリン──来海えりかが持っていた、ココロパフューム。
 キュアサンシャイン──明堂院いつきが持つ、シャイニーパフューム。
 キュアムーンライト──月影ゆりが持つ、ココロポット。
 そして、それぞれが使うプリキュアの種。


65 : ピノキオの物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:38:38 FKsPOkkk0

『大地に咲く、一輪の花! キュアブロッサム!』

 ココロパフュームとプリキュアの種が光る──。

『海風に揺れる、一輪の花! キュアマリン!』

 ココロパフュームとプリキュアの種が光る──。

『陽の光浴びる、一輪の花! キュアサンシャイン!』

 シャイニーパフュームとプリキュアの種が光る──。

『月光に冴える、一輪の花! キュアムーンライト!』

 ココロポットとプリキュアの種が光る──。



『ハートキャッチプリキュア!!』



 四人のプリキュアは、いつも一緒だ──。
 友達が困っていたら、いつも助けてくれる──。







「……ココロパフューム!」

 それは奇跡と呼ぶべきものだろうか──“なのは”の身を、彼女たちの変身アイテムから来る四つの光が包んだ。
 赤、青、黄色、紫──それぞれ異なる色の花の力が、“なのは”に照射される。朽ち果てるはずの少女の元に、四つの光が降り注ぎ、消滅を食い止めていた。
 デイパックの中からそれらを取り出し、更に光を強める。

『つぼみ、いつき、私たち……ずっと一緒だよ──』
『不出来な妹だけど、お願いね……』

 光の中に、キュアマリンとキュアムーンライトが見えたような気がした。彼女たちの姿は、すぐに見えなくなったが、光とともに突き進んでいった。
 ダークプリキュアと呼ばれた少女に、光を与え、それでも尚、生き続けるだけの体を与える為に。

「えりか……」
「ゆりさん……」

 死んだはずのプリキュアたちも力を貸してくれている。
 闇の力の消滅で消えゆくダークプリキュアの体。そこに、花の力が新しい身体を与えようとする。

 つぼみが持つハートキャッチミラージュも光を照射する。
 いつきが持つスーパープリキュアの種も光を照射する。

 全てが、かつてダークプリキュアだった命を照らし、花の力で新しい身体を作り出す。
 彼女の中にある「命」と「心」がこの世に存在しているうちに、新しい身体を作り上げる為に──。

「花の力が……」
「私たち、みんなの想いが……」

「「……奇跡を、呼んだ……」」

 キュアブロッサムも、明堂院いつきも、あらゆるプリキュアの力が見せているその姿に驚く。

「「おいおい、信じらんねえぜ……」」
『『Beautiful.(ゾクゾクするねえ……)』』


66 : ピノキオの物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:39:04 FKsPOkkk0

 仮面ライダーダブルも、仮面ライダーエターナルも、マッハキャリバーも──その姿に茫然とする。単調な言葉しか出てこないほどに。
 まばゆい花の光が、“ダークプリキュア”をあの邪悪な羽のない、ただの人間の形として、転生させた。プリキュア四人の力が結集し、彼女を生み出したのである。
 ゆりを生き返らせるための一つの手段としてすがろうとしていた「プリキュアの奇跡」。それは、皮肉というべきか──ダークプリキュア自身を滅ぼし、新しく生まれ変わらせる。
 彼女の生命はもう人造ではない。
 大地の恵みにより生まれた、自然の生命。

 そして、眩い光は輝きを増して、

「──私は、生まれ変わったの? また、戦うために……」

 かつて、ラビリンスの幹部──イースが、キュアパッションへと生まれ変わったように。
 ダークプリキュアは、今度こそ完全な、つぼみたちと同じ年代ほどの人間の体が形作られた。その心からも、邪悪さは消え、彼女は心優しき少女──“月影なのは”となったのである。

「……いいえ」

 彼女は、ようやく、美樹さやかや大道克己のように、わかりあえるはずの人間との死別を避ける事ができた。

「私たちと友達になるために生まれ変わったんです」

 それは、つぼみといつきの新しい友達であった。



【“ダークプリキュア” ────消滅】





67 : 強者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:39:33 FKsPOkkk0



 ガドルは己の腹部に込められた究極の力に抗っていた。
 これが究極の力。──想像以上である。この一撃でガドルは敗北を悟りかけた。
 クウガが遺した最後の力である。
 クウガはもう死んだが、この一撃でガドルが死んでしまったら、それは同士討ち。
 クウガへの勝利とはいいがたい。

「フンッ……!」

 一分間、息さえ吸えないほどの猛攻がガドルの中で繰り広げられる。
 封印エネルギーは尚消えない。しかし、全くそのエネルギーはベルトまで進んでいかない。
 両者の力は互角。
 死してなお、ガドルと戦うとは、クウガは流石凄まじき戦士である。
 ガドルの力も弱り始めている。この封印エネルギーを振り払うために、腹部にエネルギーを溜めこみすぎたのだ。

「……ウガッ!!」

 封印エネルギーが少し、ベルトに近づく。
 このまま到達すればガドルの体ごと周囲数キロ圏内は大爆発する。
 ガドルの体、意思はこの世から消える。

「ラベスモンバ クウガ……!」

 しかし、ガドルは己が放てる限りの全力を腹部に集中させる。
 到達しようとする封印エネルギーを弾くために、体の隅々に僅かずつでも残っていたガドル自身のパワーを一点に集中させる。

「ハァッ!!」

 そして──

 ガドルは、究極の封印エネルギーを弾いた。

 ガドルの力はまだ、究極には届いていない。それでも、究極の一つ下にガドルはいる。
 ガドルはクウガと戦い、そして勝ったのである。

「バッタ……(勝った)」

 己の勝利に浸る。

 いや、まだだ。
 まだアマダムを砕いていない。ガドルはガドルソードを構え、一条の体のある場所に向かった。そして、それはもうあっさりと──アマダムを、砕いた。
 元々壊れかけていたアマダムはその役目を終え、一条の体とともに眠る。
 そこに、ガドルは『塔』のタロットカードを添えた。電撃のキックによる死者。雷を落とした塔の図柄のカードを添え、ガドルのゲゲルは更に趣向を凝らしたものとなった。
 ガドルはこれを持って、このゲゲルの勝者となる──。

「バッタ ビ “クウガ”!(クウガに勝った!)」

 かつて己を破り、言いようのない屈辱を味あわせたクウガに、ガドルは勝ったのだ。
 確かに、この身に、最も強い一撃を与えたのはクウガだ。しかし、それをガドルは振り払った。
 フェイトの一撃よりも、ナスカドーパントの一撃よりも、確かに強い一撃に朽ち果てそうになったが、それでも勝てた。
 もし、ガドルが進化していなければ、究極の力を持つクウガには勝てなかっただろう。

「“クウガ” ビ バッタ パ “ゴレ”!!!!!!(俺はクウガに勝った)」

 ガドルは吠えた。
 クウガではなく、勝者である己を強調して叫ぶ。
 どこまでその声が届いたかはわからない。
 とにかく、勝つべき相手に勝ち、ガドルはひとまずの満足に浸った。

「……ソグザ! ジャズ パ(そうだ、奴は)」


68 : 強者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:39:52 FKsPOkkk0
 しかし、ここで終わりではない。まだ戦うべき相手はいる。空虚な心をまた少し埋めるには、更に強い敵との戦いが必要だ。
 そう、クウガとの決戦の前、もう一人戦いたいと思えた男がいた。
 この力があれば、奴など容易く倒す事ができるだろう。

「カメンライダー……」

 もう一人の仮面ライダー、その名は、エターナル。──響良牙であった。







「ハァッ!」

 キュアブロッサムたちの前に、敵が、山を下りて現れた。
 ビートチェイサーにその身を乗せ、走らせるその怪物は、カブトムシの異形をしていた。
 ゴ・ガドル・バであった。

「……ガドル!?」

 最初に声を発したのは、ダブルであった。
 上方から迫りくる殺気。もしや──

「どういう事だ!? 奴は……奴は……」

 エターナルがガドルの方を見て、悲痛の声をあげていた。
 そう、ガドルが乗っているのは、自分たちを攻めてきた時のサイクロン号ではない。
 あれを乗り捨てて、新しく乗っている機体は一条薫が乗っていたビートチェイサー2000である。
 ビートチェイサーは、クウガが勝利してここに来る時、便利だろうと良牙たちが置いて来たものである。

「奴は、なんで……アイツのマシンに乗ってるんだよォッ!!」

 つまり、一条が敗北した、と──そういう事なのだろうか。

「フンッ!」

 ブルルゥゥン! ──ガドルは、バイクで飛び上がった。
 見れば、その右の手には、ガドルボウガンを装備している。ガドルボウガンは、クウガと同じように、ライジング化していた。電気の力を帯びた、ライジングペガサスフォームに近い形態である。
 銃口が、そこにいる人間の一人を狙う。

「……危ないっ!」

 “なのは”だった。
 この状況で最も無防備なのは、彼女に違いない。
 戦いを求め続けるガドルだが、その思考上、本来弱者は狙わないはずだった。
 しかし、残るは殺し合いの覇者となる事だけ──クウガもダグバももういない。
 ここからはその戦いの中で、強者との戦いを楽しむのみであった。
 その過程上、弱者を殺すのもまた構わない。何故ならば、もうガドルは「究極を超える者」だからだ。
 ゲゲルに縛られる事もなく、自由に殺害する事も厭わず、その過程で弱者が死ぬのは、いわば一つの「犠牲」だ。仲間が犠牲になるたびに、彼らは強くなる。それと戦う。
 究極に近づいたガドルには、そんなダグバのような思想さえ生まれ始めていた。

「なっ……!」

 ガドルボウガンが自分の真上から発射用意されている事に、“なのは”は驚く。
 プラズマ電気を帯びた空気弾が直前までなのはがいた地面に突き刺さる。

「危ないところでしたね」

 キュアブロッサムが助けてくれたらしい。
 なのはは、ブロッサムの腕の中にいた。そして、優しい声で微笑みながら言う。

「ありがとう、キュアブロッサム」
「はい!」


69 : 強者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:40:20 FKsPOkkk0

 浄化され、新しい心と体を得たダークプリキュアは、もうかつてのように刺々しい言葉と口調を使う事はなかった。
 その姿に、いつきは自らの父を「おとうさん」と呼んだ時の、あの優しい声を感じた。
 不思議な感じもあったが……少し照れるが、まあ良い。

 ブロッサムは、なのはをその場に下ろすと、ガドルの方を睨んだ。

「……一条さんは、どうしたんですか!!」

 それは、既に怒りの込められた一言。既につぼみは気づきながらも、その事実がまだ確実でない──わずかな確率でも信じようとしていた。

「クウガか。奴は俺の手で殺した!」

 ガドルは、リントの言葉で返す。一条が、死んだ。
 ダークプリキュアが死ななかった代わりに、一条が死んでしまった。
 その事実が悲しかった。ずっと一緒にいた一条が殺されてしまったのだ。

「そんな……私、堪忍袋の緒が切れました!」

 そして、ガドルを睨みながらも、ガドルの手にあるガドルボウガンがまだ生身の人間を狙おうとしている事を察知した。

「いつきも、早く変身を!」
「うん!」

 いつきは、再び変身しようとシャイニーパフュームを翳す。
 そこにプリキュアの種を装填、再び戦う。

「プリキュア、オープンマイハート!」

 シャイニーパフュームの力で、いつきはキュアサンシャインへと変身する。

「大地に咲く、一輪の花! キュアブロッサム!」
『海風に揺れる、一輪の花! キュアマリン!』
「陽の光浴びる、一輪の花! キュアサンシャイン!」
『月光に冴える、一輪の花! キュアムーンライト!』

「『「『ハートキャッチプリキュア!』」』」

 “四人”のプリキュアが声を揃える。キュアブロッサムとキュアサンシャインは背中合わせに、二人でポーズを決めた。

「えりか、ゆりさん……私たち、今も一緒なんですね……! それなら……」

 その声に応えるかのように、マリンのココロパフュームとムーンライトのココロポットが光る。ハートキャッチミラージュやスーパープリキュアの種もここにあった。
 ブロッサムは、ハートキャッチミラージュにスーパープリキュアの種を装填する。

「鏡よ鏡! プリキュアに力を……!」

 キュアブロッサムとキュアサンシャインの体が、鏡に反射する。
 心なしか、その中にマリンとムーンライトの姿も一瞬だけ映ったような気がした。

「世界に輝く一面の花! ハートキャッチプリキュア! スーパーシルエット!」

 スーパーキュアブロッサムとスーパーキュアサンシャインは、進化する。仲間たちの想いを乗せて。これは、ここに全てのプリキュアの力が結集した事による最後の奇跡。
 ダークプリキュアにではなく、キュアブロッサムとキュアサンシャインにだけ与えられた奇跡であった。
 二人は、その進化に何の違和感も感じなかった。ただ、すぐにガドルを狙い、地を走りだした。

「「はああああああああああああああっっ!!」」

 ガドルは、駆けてくる二人の少女を前に呟く。

「ゴモギソギ(面白い)」

 ガドルの体は、金の俊敏体になる。電撃俊敏体となったガドルは、ガドルロッドを取り出して、その切っ先で二人を捉える。
 二人のプリキュアはロッドの先端を掴み、逆上がりをするように、同時にガドルの体表を蹴り上げた。






70 : 強者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:40:41 FKsPOkkk0



(一条刑事……)

 響良牙は、その男の事を思い出す。一条薫は死んでしまった。
 それは、誰が原因なのか──良牙は考える。いや、自然と考えてしまった。

(俺の……俺のせいじゃねえか……)

 エターナルが突っ走って、ウェザーの力を敵に浴びせた。
 それが相手の力を強化させる事など知らなかったとはいえ、マキシマムドライブで余計な事をしてしまったのはほかならぬ良牙だ。
 新たな力に溺れ、良牙は敵を手っ取り早く倒そうと、マキシマムドライブを使った。
 それがこんな形で無に帰されるとは──

(……すまねえ……一条刑事……)

 自然と出てくる詫びの言葉。
 エターナルは、ガドルを前にも、どうすればいいのかわからなくなる。
 プリキュアたちは戦っている。
 だが、また自分自身の手で、敵に力を与えてしまうとしたら……。
 それが恐ろしい。
 ガドルを更に強くしてしまえば、良牙には今度こそ勝ち目がなくなってしまう。

(くそっ……くそっ……)

 五代のみならず、一条まで、自分のせいで死んでしまった。
 こんな事ならば、あの時、一条ではなく、自分の手で責任を取るべきだったのだ。
 良牙の心を、どうしようもない後悔が襲っていた。
 これ以上、何ができる……。また、良牙が戦う事が、「余計」であったら──。
 それなら、いっそ何もしない方が正しいのかもしれないと、良牙は思った。







「はあああああああっ!!」

 スーパーシルエットにまで進化したキュアブロッサムが、ガドルの胸部を蹴り上げる。
 一発、二発、三発、四発……。
 まるでガドルの胸で足踏みをするように何発もの蹴りを叩き込む。

「ボシャブバ(こしゃくな)」

 ガドルがガドルロッドで振り払おうとしたところで、スーパーキュアブロッサムはより強くガドルの胸を蹴り上げて、空へと飛ぶ。
 ガドルロッドは虚空を掠める。
 そして、次に隙のできたガドルの腹に重い肘鉄が叩き込まれる。スーパーキュアサンシャインによるものだった。

「……はあああああああああああああああああっ!!」

 スーパーキュアサンシャインはそこで静止する。
 肘から伝わる攻撃の余韻を敵の腹に残すために、肘を限界まで敵の腹に残しているのだ。実際、それは重い一撃であり、ガドルはその攻撃には「痛み」を感じていた。
 ガドルの体が、そこから遅れて数メートル吹き飛ぶ。
 それは、先ほどアルティメットクウガが狙った場所と同じ。
 この腹部への一撃は重かった。スーパーキュアサンシャインは離れる。

「クッ……!」

 ガドルは形態をチェンジする。
 電撃剛力体。既にアメイジングマイティフォームと同等の能力を得たガドルも、クウガと同じく金で戦い続ける事ができる。
 これはライジングタイタンフォームに匹敵するフォームだ。


71 : 強者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:41:04 FKsPOkkk0

「ハァッ!」

 そんな彼の背中や腕を無数の弾丸が打ち付けた。いくつかの弾丸をガドルソードが割る。
 自由自在、縦横無尽に攻撃を命中させる仮面ライダーダブル ルナトリガーの弾丸、炸裂。
 インファイトで戦うスーパーキュアブロッサムとスーパーキュアサンシャインに攻撃を当てないために、より確かな方法で戦う事にしたのだ。
 今は後方支援がちょうど良いところだろう。身の丈に合った戦い方をすべきだというのを理解したうえで、このポジションがちょうど良いと思ったのだ。

「ブスギ……!(温い)」

 しかし、それらはガドルが今、攻撃と認識できるほどのものではない。煙の中で憮然と立つガドルは、もはやノーダメージである。
 ダブルの現状の能力は、全く今のガドルとは程遠い物だったのだ。ガドルは以前もダブルと数戦交わしたが、それが果たして戦いと呼べるほどのクオリティに達していたかといえば、否と言える。
 それがただでさえ、ガドルの大幅なパワーアップによって強化されたとなれば、ダブルの立つ瀬はない。

「……カメンライダー」

 それでも、ダブルの一撃は、ガドルの本当の目的を思い出させるには充分だった。
 ガドルは、仮面ライダーエターナルと戦いに来たのだ。
 奴は確か、仮面ライダーと名乗った──ダブルと同じく。
 しかし、ダブルと違うのは、奴が「究極」に近い力を発動した事である。天候を自在に操り、火を作ってガドルを微かにでも苦しめた。
 クウガもダグバも死んだ今、「究極」を持つ数少ない敵だ。





「アバ、バ────」





 ガドルがエターナルの方を見やる。
 見れば、エターナルの腕が、青から赤へと変化し、背中のローブが消えている。
 赤、か。
 奴もまた、クウガやガドルのように、体の一部が赤や青になる。ダブルもそうだが、より確かな形で色を変える。メモリを入れ替える動作もなく、自発的に。
 おそらく、クウガと同じならば赤い姿が奴の基本形態。そういえば、青のエターナルは、バイクを追っていた時の姿だ。即ち、移動に適した俊敏体である可能性が高い。
 あの時のエターナルは本来の究極ではないというのか。──面白い。

「はああああああああああああああっっ!!!」

 上空から現れるスーパーキュアブロッサム。
 天使が舞い降りるとは言い難い怒声のような唸り声とともにガドルの元へと蹴りを入れる。降りて一回転、パンチを放つ。そして、退く。
 そこへ、スーパーキュアサンシャインの応戦。駆け出してきたスーパーキュアサンシャインは、ガドルの剣を持つ手を抑え込み、足を大きく上げ、ガドルの顔面を蹴る。それでも全くダメージを受けた様子がないので、次の瞬間には右足を下して、左足をガドルの右肩に乗せるように叩き込む。
 ガドルの体がよろめく。

「フンッ!!」

 ガドル、激昂──。スーパープリキュアの強さに魅せられながらも、彼にとって最大の目的は「究極」の力を持ち、闘気を理解するエターナルのみ。
 今の空虚な心を満たすには、そんな、「クウガ」や「ダグバ」に匹敵する超人との戦いを挑み、勝つ事で己がザギバスゲゲルに挑む価値のある男だと証明する事だけだ。
 ゆえに──

「ハァァァッッ!!」

 黒の金の力を、再び己の体から呼び覚ます。


72 : 強者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:41:21 FKsPOkkk0
 ガドルは驚天体へと進化し、地響きを起こす。それは周囲を振り払う嵐や竜巻ような覚醒であった。砂埃が舞い、全員がその場に立つバランス感覚が消える。
 驚天動地。
 ガドルの瞳が深く黒ずむ。その場にいる全員を威圧し、鼓動を急かすほどの最強形態。

「ズバエ ゾ キン ン チバラ! ソギデ ゴレ オ タタバエ、カメンライダー!!(金の力を使え! そして、俺と戦え、仮面ライダー!!)」

 砂埃の中からエターナルのもとへ、言葉がかけられるが、全く心当たりのないエターナルの耳は素通りする。
 己に語り掛ける事はないだろうと、エターナルは思った。
 あいつは戦いにしか興味がない。それなら、戦意が消えていく今のエターナルを狙うだろうか。──彼が呼んだ仮面ライダーとは、ダブルに違いない。

「エターナル! 今の状態のあいつをパペティアーの力で操って!!」

 そう声をかけたのは、なのはだった。
 今は戦う力を持たない彼女だが、敵に有効な力を思い出した。
 あのパペティアーメモリは、今仮面ライダーエターナルが所持しているはずだ。あれを使えば、姑息的な手段だが、ガドルを一瞬止められる。

「パペティアー……?」
『P・u・p・p・e・t・e・e・r』

 エターナルは、ゾーンメモリの力で手に入れた五本のガイアメモリのうち、どれの事だか一瞬わからなかったが、マッハキャリバーがサポートするようにアルファベットの名前で綴りを言う。
 通常は滅多に使わない単語であるがゆえ、サポートが必要だと思ったのだろう。

「……駄目だっ! 何が起きるかわからねえ……! 使えねえ、俺には……!」

 しかし、パペティアーメモリを見つめながらも、エターナルはそれを使う事ができなかった。自分が使ったメモリがガドルを強化させ、結果的に一条を死なせてしまった事実が、エターナルを苦しめる。
 メモリを握る手が震える。
 マキシマムドライブを使うのが怖い。たとえどんな能力でも、ガドルにとって、それが力となってしまったら──。

「赤い、エターナル……」

 ダブルは見ていなかったが、仮面ライダーエターナルは先ほどまで「青」だったのに、いつの間にか翔太郎たちも見たことのない「赤」のエターナルに姿を変えている。
 ダブルを苦しめたあのエターナルローブも装着されていない。
 やもすると、奴の──更に、弱い形態ではないのだろうか。

『翔太郎、彼は……』
「ああ。杏子と同じだ……。自分の力を出し切れなくなっている、いや、出し切れなくなっちまったんだ……。クソッ、味方になれば心強いと思ったのに……!」

 かつてエターナルと戦った事のあるダブルならわかるが、エターナルの力を最大限に引きだせば、それこそダブルはここで戦えないほどである。
 いや、考え直してみれば──そう、奴がマキシマムドライブの「エターナルレクイエム」を使えば、ダブルの変身が解除され、T2以前のガイアメモリは永久停止する可能性まである。
 そうだ、確かに彼を戦わせてはいけない。──しかし、それさえ使わなければかなり心強い相手のはずだ。

「ゴグビョグモン──(臆病者)」

 ガドルの顔は、エターナルに対して、失望の色を見せている。
 エターナルが全く自分を楽しませてくれそうにない事は、この戦いの全景を見渡して理解した。
 他人に言われた通りに「操る」などという姑息な手段を使おうとしたならまだ良い。エターナルは今、それを使う事にさえ臆している。戦う方法がないと思っているのか。
 その程度の相手が、あの究極を使いこなしたというのか。
 笑わせる。

「キガラ ビ ボン チバラ ゾ ズバグ バチ バ バギ(貴様にこの力を使う価値はない)」

 ガドルは、興が失せたように姿を変身させる。
 黒の金から、紫の金へ。わざわざ、一瞬だけ変えた究極に近い力も、彼らに使う気が起きなかった。しかし、その手にガドルソードを構えた。


73 : 強者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:42:06 FKsPOkkk0
 そして、エターナルの方へと走り出す。

「ギベ……!」

 ガドルは重量級の剛力体に変身したものの、あっという間にエターナルの前方へと距離を縮めた。
 そして、ガドルソードが振り下ろされる。

 ────ただし、ガドルがガドルソードを振り下ろそうとした相手は、エターナルではない。


「危ないっ!!」


 その対象者を心配する少女の声が、響く。ガドルが切り裂こうとしたのは、エターナルの隣にいた月影なのはであった。







「ぐ……」

 そして、ガドルソードは振り下ろされた。
 ガドルの狙いは、周囲の人間の殺害だったのである。周囲の人間が殺されれば、怒りが、エターナルを奮い立たせると信じた。
 クウガがそうして覚醒していくように、究極を持つ者もまた同じ覚醒を辿るのではないかと思ったのだ。
 言ってみれば、「ダグバ」に近い考え方だった。

「……ぁ」

 聞こえるのは、ガドルソードを受けた者の呻き声。
 声にさえ、ならないような小さな声が聞こえた。
 月影なのはの目の前で──

「いつき……!」

 そう、キュアサンシャインが、なのはを庇ったのである。
 間に合ってよかった、とばかりに、キュアサンシャインは微笑む。

「そんな……また……」

 かつて、彼女がダークプリキュアだった頃、同じように、彼女を身を挺して庇った人がいた。その人は、月影ゆりと言った。
 今、月影なのはを庇うのは、明堂院いつきであった。
 二人とも、彼女の大切な人、だった──。

「……な……の、…………」

 電気を帯びたガドルソードは、スーパーキュアサンシャインの左肩に振り下ろされ、彼女の肩の真上を切り裂いていた。
 彼女は、咄嗟になのはの前に出て、ガドルの一撃から彼女を庇ったのである。

「………………は……」

 そして、咄嗟になのはが、いつきの名前を呼んで、いつきは辛うじてそれに答えた。
 それを呼んだ事に満足してしまったいつきの意識が朦朧とし始める。
 その驚異的なダメージ──生命維持すら危うい致命傷に、プリキュアの変身も解かれた。
 プリキュアの力は、「闇」を「光」に還元してダークプリキュアに体を与える事はできても、こうして失われていく命をどうする事もできなかった。

「いつき……!!」

 ガドルの真後ろで、もう一人、いつきの名前を呼んだ。
 キュアブロッサムがスーパープリキュアの姿を解いて──いや、スーパーキュアサンシャインの力が解かれた事で自動的に解けて──そこに駆け出した。

「つ、ぼ、み……」


74 : 強者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:44:14 FKsPOkkk0

 エターナルは、自分の真隣で、少女の肩が胸元まで、剣で叩き斬られている事に、ショックを感じていた。
 ダブルもまた怒りの声とともに駆け寄ったが、彼もまた無力であった。

「……そんな、折角友達の作り方がわかったのに……私に愛を教えてくれたのに……私に、名前をくれたのに……私、何もまだ返せてないのに……友達になったばかり、なのに……」

 そうだ、最後に言わなきゃ──

「……全部、教えてくれてありがとう、いつき……私は……」

 いつきは、自分の背中から聞こえるそんな声に安堵しながら、微笑み、

(どういたしまして……)

 そして、この瞬間、完全に息絶えた。
 死んだ命は蘇らない──そう言ったのは、いつきだった。
 だからこそ、死ぬのは怖いと、──そう打ち明けたのも、いつきだった。

 まさしく、そう、彼女はその身を持って、命が消えていく瞬間を、月影なのはに教えた事になる。
 しかし、自分の命が失われる恐怖よりも、誰かの命が奪われる事が、厭だったのだろう。彼女は最後までプリキュアだった。
 ゆりの時と同じく、『彼女』がその死に悲しむ事はあっても──月影なのはが殺し合いに乗る事は、もうなかった。



【明堂院いつき@ハートキャッチプリキュア! 死亡】
【残り19人】






75 : 強者の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:44:33 FKsPOkkk0



「うわああああああああああああああああああっっっ!!!!!!!!」

 エターナルは立ち上がった。
 仮面の下に涙が流れる。ガドルは、そちらを凝視した。

「てめえっ!! なんで、俺を殺さなかった……っ!! てめえが殺したいのはこの俺なんだろっ!! ガドルッッッ!!!!」

 咄嗟に、エターナルの手から放たれた気。
 怒気──獅子咆哮弾のように、気を操り、ガドルを威圧する。つぼみの友達を殺し、つぼみの泣き顔を作り上げている目の前の怪物を殺したい。──良牙は、強くそう願った。
 怒りが、エターナルを強くする。
 怒りが、エターナルの色を変える。
 怒りが、エターナルをブルーフレアへと変える。
 再び青の姿を取り戻したエターナルは、仮面の下に悲しみを浮かべながら、叫ぶ。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオリャァッッ!!!」

 エターナルの拳が、ガドルの胸を一発殴る。
 ガドルは、それでも尚、憮然としていた。この一撃は全く通じていない。

「……バスホゾ(なるほど)」

 しかし、ダグバのやり方が効率的だったらしい事を、ようやくガドルは確信した。
 周囲の人間を殺せば、戦士はもっと強くなる。
 この一撃は、確かに以前、ガドルの胸を殴った一撃とそっくりだ。あの時の覇気だ。

「面白い」

 敵に伝わるよう、リントの言葉で言う。
 ガドルは、リントの言葉でそう返した。それが返って、良牙の顰蹙を買ったか。
 エターナルは怒っている。

「……面白い、だとォッ!?」
「そうだ。面白い。もっと強くなり、もっと俺の心を満たしてくれる存在となれ、カメンライダー」

 ガドルは、ダグバに近づいていた。体も、また、思考も。
 最初から人名など尊重する気もなく、ただ縦横無尽に暴れ、強い者との戦いを楽しむ。
 今、少女を庇ったスーパーキュアサンシャインの加速力も、また、一瞬でも早くその場に辿り着こうとした自己犠牲の精神を感じた。

「……お前たちリントも、いずれ俺たちグロンギと等しくなる。そうだ、俺を憎め。そして、憎しみを力に変え、凄まじき戦士として俺に挑むがいい……リントたちよ!」

 今は見逃そう。
 しかし、ここにいる全員が怒りを感じている。
 いずれまた、出会う事を信じて、ガドルは、周囲の視線をまるで意に介す事なく、その場を離れた。
 彼に手を出す者はいなかった。全員が、己の無力を痛感していたからだ。


 驚天体。あの姿より一段劣る形態ですら、あの強さだというのに、あれに変身されたらどう立ち向かえばいいのだろう──。
 ただ犠牲だけが彼らの前にある。敵に何もできず、そこに犠牲だけが横たわる。






76 : 風花の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:45:11 FKsPOkkk0



「……いつき」

 それはもう、生者ではなく遺体だった。
 明堂院いつきは死んだ。ガドルによって殺された。
 ガドルは、何のつもりかわからないが、いつきの遺体に『太陽』のカードを添えていた。
 確かにいつきは太陽のような、人だった……しかし。

「……私は」

 なのはは、その無残な姿を見ても、ガドルに対して怒りを感じる事ができなかった。
 そう、彼女は斬殺されている。これはかつて、ダークプリキュアとして、シンケンゴールドを操って行った暴虐と全く同じだった。
 自分は、誰かにこの痛みを与えていた。
 ゆりの時以上にその感覚が強まっていく。家族じゃなくて、友達でも、こんなに心は痛んでしまう。
 自分は、それをやった。

 自分は──

「なのはさん……」

 つぼみは、いつきの遺体を抱えるなのはに、声をかけた。
 こんな事をしても遺体に命は吹き返さない。それはわかっているはずだ。
 しかし、抱きしめずにはいられなかったのだろう。命が蘇らないと知りながら、命を諦めきれないように、その温もりが消えていくのを感じてしまう。
 繋がった時、あんなに温かった手には、触れる勇気さえ持てなかった。

「つぼみ。私は、これと同じ事をやったんだね……」

 つぼみは、黙ってしまった。
 彼女が言っている事が真実だ。彼女にとってはそれを言ってもらう方が幸せだろう。
 まだ、生まれたばかりで何もわかっていない子供のような彼女には、それも教えなければならない。

「……あなたは、ここで人の命を奪ったんですね」
「三人も……私のために……」

 二人、と言われたが、ダークプリキュアとしては三人殺害した記憶がある。
 しかしながら、実際のところ、高町ヴィヴィオは辛うじて生存している事を彼女は知らない。

「やり直す事なんてできるのかな……私が」
「できます。……絶対。やり直しのきかない事なんて、ないんですから……」

 以前はマッハキャリバーにそう言っただろうか。
 スバル、克己、さやか。罪を犯した人はいた。けれど、救いはあった。
 どうすれば世界は彼女を許すのか。それはわからない。日本の法律で、もし成人だったなら、死刑もやむを得ないほどの罪かもしれない。
 それでも、彼女にはこの場でも、帰ってからもまだできる事がある。
 彼女は生まれ変わったのだから、もうあの時のダークプリキュアとは別人なのだと、何度でも言ってわかってもらいたい。

「私は本当に生きていていいの? ……生きていたかった人の希望を奪って、その人の大事な人を悲しませて……。それなのに、私が生きていて、本当にいいの……? そうだ、姉さんも……」

 高町ヴィヴィオ、アインハルト・ストラトス、梅盛源太。それから、明堂院いつきや月影ゆりもまた、彼女を庇って死んでしまった。
 それに、月影ゆりも、罪を重ねていた。来海えりかを殺したのは彼女かもしれないという事だった。

「……ゆりさん、やっぱり」

 ……彼女は、そういえば以前に、月影ゆりが犯した罪を全て、自分のものとしてつぼみに話したのである。つぼみはきっと混乱している。
 なのはは、つぼみに全てを話す事にした。全てを話すと、つぼみはどこか納得して、驚きもせず、茫然とする事もなく、ただ……悲しそうな瞳をしていた。ずっと、心のどこかで疑っていたのかもしれない。
 ただ、あくまでえりかが死んだ一件は、ダークプリキュア、大道克己の推察であって、本当かどうかはわからない。その可能性があるというだけだ。それも踏まえて、全て、これまでのいきさつをちゃんと話した。
 つぼみは、そんななのはに、強く言った。

「行きましょう。あなたは自分の罪と向き合うべきです。……そうすれば、きっと答えがわかると思います。あなたが罪を犯した警察署で、みんなに謝って……それで許してもらえなくても、生きてください。私はそれでも、あなたと一緒にいます。私は、なのはの友達ですから」

 警察署。そこに行く前に、まだ行かなければならない場所がある事に、なのははふと気づいた。


77 : 風花の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:45:36 FKsPOkkk0

「……そうだ、行かなきゃ」
「行かなきゃって、警察署に、ですか……?」

 なのはは、首を振る。警察署ではない。

「……つぼみも、来る……?」

 なのはは、つぼみに告げた。

「えりかと……お姉さんが、眠っている場所」

 ある場所にえりかとゆりの遺体が収められている場所の話もした。これから行くのは、その場所だ。
 いつきもまた、同じ場所に寄り添うように、そこにいてほしいのだと。







「くそ……俺は……」

 良牙は、自分の姿を憂いた。
 五代も、一条も、そしていつきも自分の為に死んだ。──三人は、良牙のために死んでしまったのだ。

「つぼみ、それに、なのは……すまねえ……すまねえッッ!!」

 良牙は、項垂れて両膝を突き、地面を殴る。
 己を責めながらも、その顔を見られたくないような──合わせる顔がないような様子だった。少なくとも、いつきを守れなかったのは良牙の責任である。
 つぼみは、そんな彼に何も言う事はできなかった。

「……おい、お前」

 そんな良牙に声をかけたのは、翔太郎であった。

「……やっぱ、フィリップと同年代かそこらってとこか。確かに体だけは俺より強そうだ」
「なんだ、テメエ」

 良牙は、つぼみやなのはならともかく、他の人間に話しかけられたら、こんなぶっきらぼうな返事しかできないほどに、自分を責めていた。
 ガドルへの怒り、ひいては自分への怒りが良牙の中にあった。

「お前はいつから、仮面ライダーになったんだよ」
「……つい、さっきだ……」
「なんで、仮面ライダーになった」

 良牙はそれを言われて、少し悩んだ。何故自分がライダーになったのか、それを考え直すと……何もない。しかし、自分の記憶の糸を探りながら、口に出していく事にした。

「……俺はここで、たくさんの仮面ライダーに出会った。何人も……。
 ゼクロス、村雨良。感情がねえとか言ってたけど、あいつは魂を継ぐ者、仮面ライダーとして俺たちのために戦ってくれた。
 クウガ、五代雄介、それに一条薫。あいつらは誰かの笑顔を守るために戦った。
 そして、エターナル、大道克己。奴は本当に感情を失くしていて、俺たちを襲った敵だ。それでも最後にはゼクロスと全力でぶつかり、戦う事で、生きた。つぼみに心を救われて……。
 だが、このエターナルだけは最後までゼクロスやクウガのような仮面ライダーとして戦えなかった。だから俺はエターナルを仮面ライダーにしてやるために……!」

 いや、それなら──自分で言っていて、それが解答になっていない事に気が付いた。

「じゃあ、お前にとって、仮面ライダーって何なんだよ」

 そう、良牙にとっての仮面ライダーの意味は、わからないのだ。
 仮面ライダーにするために仮面ライダーになった。──それはおかしい。仮面ライダーが何なのかもわからず、そんな事を言えるわけがない。
 良牙は、己が変身する事の意味などわからなかった。

「……」


78 : 風花の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:45:53 FKsPOkkk0

 その問いに、答える事はできない。

「わからねえのか?」

 翔太郎は、しかめっ面で良牙に言う。

「俺たちは、街を、世界を、誰かを泣かせる奴を許さねえ……! だから仮面ライダーになった。だけど、仮面ライダーを名乗る意味さえわからないからお前はガドルを恐れたんだ! 確かにお前は体も強ェし、エターナルの力も強ェだろうよ……けどなッ!」

 翔太郎は、良牙の胸倉をつかみ、俯いていた良牙の泣き顔に顔を近づける。
 その顔は怒りに歪んでいる。しかし、強い意志にも見える。目を合わせる事が怖い良牙の目を、強い瞳で睨んでいる。
 フェイト、ユーノ、霧彦、一条に続いて、いつきまで死んだというその怒りが、翔太郎の顔を激昂に染めていた。
 胸が痛い。体を曲げている現状では、翔太郎の胸は軋んでいる。しかし、それさえ忘れさせるほどのアドレナリンが彷彿している。

「……俺は、誰かを、何かを……守りたい気持ちでは、心ではお前にも、誰にも負けないつもりだ! 俺の仲間も同じだ。どんな時でも誰かを守るために立ち上がった! でも、お前は弱い! だから仮面ライダーの意味がわからねえんだ! お前が何も考えてねえし、何も守ろうとしてねえからだろッ!!」

 その言葉は、良牙の胸に深く突き刺さる。

「……そうだ、俺は……くそっ……」

 こんな、生身では良牙に敵いそうもない男の覇気。──まるで、良牙に勝てる余地が見当たらない。
 純粋に格闘で戦っても、今ならば負けてしまうような気がする。
 そう思うほどに、翔太郎の心は強く、良牙の心は弱かった。

「……おい。お前の知り合いの──早乙女乱馬と、天道あかねの事を、俺は知ってるよ」

 ふと、良牙の顔色が変わった。

「早乙女乱馬だ!! ……お前のダチだろ!!」

 早乙女乱馬と天道あかねの事は、翔太郎も知っていた。
 良牙は、彼が乱馬を知っている事に驚き、躊躇いながらも、「ああ」と力なく答えた。もう会えない知り合いだ。
 友と認めるのは癪だが、彼が死んだ時、良牙は彼の事を「ダチ」と呼んだ。
 そう、好敵手──ダチだ。

「そいつはな、仲間を失っても、大切な人を守るために戦った。……ガドルより強いダグバと戦い、最後にはダグバに一矢報いたんだよ! その結果、あいつは死んだみたいけど……でも、俺は早乙女乱馬って奴を尊敬するよ。俺の心にその名前が残ってる、俺の中では死んでねえ。そいつの遺志を受け継いだ奴らの名前もな……。俺なんかよりずっと強い奴らなんじゃねえかって思うよ。けどよ、お前はどうして……早乙女乱馬と互角に渡り合えるほどの馬鹿力を持ってるのに、あんな奴にビビッてんだよ……それが、俺には、許せねえよ……!!」

 早乙女乱馬──翔太郎は、その戦いを見たわけじゃない。
 しかし、ダグバを追い込んだその戦士の意地を、翔太郎は凄いと思った。
 生身でダグバと戦った男がいる。それが自分より年下の──あろうことか、高校生だった。
 信じられないが、それが事実だと知った時、そいつの意地に翔太郎はただただ感嘆するのみだった。
 その戦いには、あまりにも……悲しい続きがあるのだが。

「あかねさんは……あかねさんは、どうしたんだ……」
「……そうだ、もう一つ。お前に知らせきゃいけない事が、あったな」

 翔太郎は言いたくはなかったが、あの女とは、もう会った。
 会って、戦ったのだ。

「天道あかねは、殺し合いに乗っている」
「!? そんな、バカな……」

 天道あかねと、最も似つかわしくない──しかし、どこかで不安として過っていた答えが、良牙の耳に入った。


79 : 風花の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:46:19 FKsPOkkk0

「本当だ。早乙女乱馬を蘇らせる──その為らしい。ドーパントの力にまで飲み込まれて、暴走までしている。……俺たちにはそいつを止められなかった!! 俺たちがどんなに言葉を届けようとしても、俺たちの言葉は、届かなかった……」

 しかし、伝えなければならない。
 乱馬がダグバに一矢報いただけならば、それはそこそこ綺麗にまとまる良い話かもしれないが、悲しい続きも含めて、良牙に全て話さなければならないのだ。

「……あかねさん……そこまでして……乱馬を……」

 乱馬への、これ以上ないほどの敗北を良牙は感じた。
 乱馬は、俺が負けたガドルより強いダグバって奴に善戦した。
 乱馬は、その死であの優しいあかねが殺し合いに乗るほどの愛を受けていた。
 強さでも、恋でも、また乱馬に負けた……。
 案外、もうそれもどうでもいい事なのではないかと、良牙は思った。
 そう感じてしまうほど、あかねが殺し合いに乗った事実はショックだった。

「あかねさんが……、この馬鹿げた殺し合いに乗っている……」
「ああ。いつか、お前の大事な人を奪うかもしれない。……そうなっちまったんだ。悲しい事にな」

 激しいショックを受ける良牙に、それでも尚、成長してほしいと思って、翔太郎は心を鬼にする。ただの怒りじゃない。
 確かに、先ほどは、ただの怒りが翔太郎を縛っていた。良牙が仮面ライダーとして戦う意味をよく理解せずに戦っていた事への、怒りだ。
 しかし、今は、そんな彼が仮面ライダーとなる事への希望と期待を乗せたうえでの、優しさが翔太郎の鬼のような心を言葉にしていた。

「あかねさんは、俺の大事な人だった。俺はあかねさんがずっと、大好きだった」
「……じゃあ、お前は天道あかねが、そこにいるお前の仲間を殺すかもしれないのを、黙って見ているのか?」

 花咲つぼみ。
 ここで、ずっと一緒にいた少女だ。
 もう一人の少女も、死んで欲しくない。ああして与えられた新しい命が奪われるのは許せない。
 良牙は、今まで誰かを守るとか、あかねやあかり以外に対しては全く考えた事がなかった。
 孤独に旅をし続けてきたからだろうか。しかし、つぼみや一条は道を示してくれた。あるいは、良もそうだった。

「厭だ! 俺は……」

 あかねは、本当に優しい人だった。
 良牙は、強くて優しいあかねが好きだった。
 そんなあかねが、今は──

「……お前が知っているあかねが、もうどこにもいないとしたら?」

 翔太郎の、遠い記憶。亜樹子が風都に来て、最初の事件。──街を泣かせたドーパントは、ずっと昔、一緒に遊んでいた、いつも一緒だった津村真里菜という翔太郎の幼馴染だった。
 翔太郎は、それこそ恋愛感情ではないものの、彼女が好きだった。彼女と一緒にいるのが楽しかった。彼女の帽子を探して、見つけ出そうとした。
 ……だが、翔太郎は街を守るために、彼女を倒すしかなかった。翔太郎にも辛い話だった。それと同じ事を、いま翔太郎は良牙に強いなければいけないのだ。

「俺の知っているあかねさんがどこにもいないとしても……俺は、俺の好きだった優しいあかねさんを見つけ出す……! 本当のあかねさんは優しい人だ。その心が今、どこにもないはずがない……。たとえどこにもいないと言われても、俺は見つけるまで探す! そして、俺はつぼみたちも守る……これは、絶対だ!」

 あかね。
 それは、良牙が守るべき存在だった。
 その名前を思い出した時、良牙は気づく。
 あかねを守りたい。
 だが、あかねが敵だったら……きっと、つぼみたちも守りたい。

「お前……そう思えるんなら、立派に仮面ライダーできるじゃねえか」

 翔太郎は、やっと、良牙に笑った。

「やってやれよ、お前が。仮面ライダーエターナルを、仮面ライダーにするんだろ? 良いじゃねえか……」


80 : 風花の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:48:27 FKsPOkkk0

 天道あかねと出会ったとしても、彼はきっと折れない。
 いや、ガドルと出会ったとしても彼は立派に、仮面ライダーとして戦うだろう。

「俺はお前を仮面ライダーの後輩として認めるぜ、仮面ライダーエターナル」

 悲しみを乗り越えて戦う。
 どんな世界でも、響良牙が仮面ライダーとして戦う世界など、誰も想像しなかっただろう。
 しかし、ここで今、数奇な運命によって、それは実現した。
 仮面ライダーエターナル、響良牙。──悪のライダーとしてでなく、正義のライダーとして、その名が伝説を塗り替える。

「俺は、あかねさんの笑顔を、みんなの笑顔を奪ったこの殺し合いをブッ壊す! 響良牙として……新しい希望、仮面ライダーエターナルとして!」







「……結局、こうなるのか」

 その後のそれぞれの行動方針は簡単だ。
 花咲つぼみ、月影なのは、響良牙──そして、明堂院いつきは共に、えりか、ゆりの墓地に行く。
 左翔太郎は、これから単独で警察署に向かう予定だった。仲間がそこにいる事も伝えている。まあ、今後ともどうなるかはわからないが。

「本当に一人で大丈夫なんですか?」

 翔太郎は、これからしばらく参加者としては単独で行動する事にしていた。
 単純に、警察署方面に向かう必要があるからだ。危険かもしれないが、今も相棒は心強い。
 それに──制限、という奴が気がかりだった。あれは一人で行動しなければならないらしい。その条件も、『参加者』の誰にも見られず聞かれずが一人になるという事である。
 フィリップやザルバのような存在を数に入れていないあたり、おそらく参加者以外は問題なしという事なのだろう。

「……俺は一人じゃねえよ、相棒はいつもココにいる」

 翔太郎はダブルドライバーを翳す。
 それかたもう一つ──

『Is that your buddy?(それが相棒なのですか)』

 マッハキャリバー。これは、翔太郎に預けられたもう一つの支給品だ。警察署にいるヴィヴィオと合流するために、翔太郎に預けておく必要がったのだ。
 警察署に、ヴィヴィオがいる事は、なのはにとっても衝撃だったが、少なくとも自分が殺めたと思っていた人間の一人が生きていた事には、安心しているようだった。

「わかりました。……私たちは、みんなのいる場所に行ってから、そちらに向かう事にします」
「おう……気をつけてな。俺たちは、まだしばらく警察署にいる予定だ。美希の事は任せとけ……」

 響良牙。花咲つぼみ。月影なのは。
 左翔太郎。フィリップ。マッハキャリバー。
 二人は、ここでまたチームをそれぞれ分ける事になった。


81 : 風花の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:49:03 FKsPOkkk0
【1日目/夜】
【E―8/森】

【響良牙@らんま1/2】
[状態]:全身にダメージ(大)、負傷(顔と腹に強い打撲、喉に手の痣)、疲労(大)、腹部に軽い斬傷、五代・乱馬・村雨の死に対する悲しみと後悔と決意、男溺泉によって体質改善、デストロン戦闘員スーツ着用
[装備]:ロストドライバー+エターナルメモリ@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(ゾーン、ヒート、ウェザー、パペティアー、ルナ、メタル、アイスエイジ)@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×14(食料二食分消費、(良牙、克己、一条、五代、十臓、京水、タカヤ、シンヤ、丈瑠、パンスト、冴子、シャンプー、ノーザ、ゴオマ、速水、バラゴ))、水とお湯の入ったポット1つずつ、志葉家のモヂカラディスク@侍戦隊シンケンジャー、ムースの眼鏡@らんま1/2 、細胞維持酵素×2@仮面ライダーW、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、歳の数茸×2(7cm、7cm)@らんま1/2、デストロン戦闘員マスク@仮面ライダーSPIRITS、プラカード+サインペン&クリーナー@らんま1/2、呪泉郷の水(娘溺泉、男溺泉、数は不明)@らんま1/2、呪泉郷顧客名簿、呪泉郷地図、特殊i-pod、細胞維持酵素×4@仮面ライダーW、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、バッドショット+バットメモリ@仮面ライダーW、スタッグフォン+スタッグメモリ@仮面ライダーW、テッククリスタル(シンヤ)@宇宙の騎士テッカマンブレード、水とお湯の入ったポット1つずつ×2、力の源@らんま1/2、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW、まねきねこ@侍戦隊シンケンジャー、滝和也のライダースーツ@仮面ライダーSPIRITS、黒子の装束@侍戦隊シンケンジャー、『戦争と平和』@仮面ライダークウガ、『長いお別れ』@仮面ライダーW、インロウマル&スーパーディスク@侍戦隊シンケンジャー、紀州特産の梅干し@超光戦士シャンゼリオン、ムカデのキーホルダー@超光戦士シャンゼリオン、双眼鏡@現実、ランダム支給品1〜6(ゴオマ0〜1、バラゴ0〜2、冴子1〜3)、バグンダダ@仮面ライダークウガ
[思考]
基本:天道あかねを守り、自分の仲間も守る
0:あかねさん…
1:つぼみ、“なのは”とともに、えりか、ゆりの死地に向かい、いつきを埋める。
2:その後、警察署に向かう。
3:いざというときは仮面ライダーとして戦う。場合によってはあかねも…。
[備考]
※参戦時期は原作36巻PART.2『カミング・スーン』(高原での雲竜あかりとのデート)以降です。
※夢で遭遇したシャンプーの要望は「シャンプーが死にかけた良牙を救った、乱馬を助けるよう良牙に頼んだと乱馬に言う」
「乱馬が優勝したら『シャンプーを生き返らせて欲しい』という願いにしてもらうよう乱馬に頼む」です。
尚、乱馬が死亡したため、これについてどうするかは不明です。
※ゾーンメモリとの適合率は非常に悪いです。
※エターナルでゾーンのマキシマムドライブを発動しても、本人が知覚していない位置からメモリを集めるのは不可能になっています。
(マップ中から集めたり、エターナルが知らない隠されているメモリを集めたりは不可能です)
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※つぼみ、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※男溺泉に浸かったので、体質は改善され、普通の男の子に戻りました。
※エターナル・ブルーフレアに変身できるようになりました(ただし彼の人間としての迷いや後悔がレッドフレアにしてしまう事もあります)。
※あかねが殺し合いに乗った事を知りました。


82 : 風花の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:50:59 FKsPOkkk0

【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、加頭に怒りと恐怖、強い悲しみと決意、デストロン戦闘員スーツ着用
[装備]:プリキュアの種&ココロパフューム、プリキュアの種&ココロパフューム(えりか)@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&ココロポット(ゆり)@ハートキャッチプリキュア!、こころの種(赤、青、マゼンダ)@ハートキャッチプリキュア!、ハートキャッチミラージュ+スーパープリキュアの種@ハートキャッチプリキュア!
[道具]:支給品一式×5(食料一食分消費、(つぼみ、えりか、三影、さやか、ドウコク))、鯖(@超光戦士シャンゼリオン?)、スティンガー×6@魔法少女リリカルなのは、破邪の剣@牙浪―GARO―、まどかのノート@魔法少女まどか☆マギカ、大貝形手盾@侍戦隊シンケンジャー、反ディスク@侍戦隊シンケンジャー、デストロン戦闘員スーツ(スーツ+マスク)@仮面ライダーSPIRITS、デストロン戦闘員マスク(現在着ているものの)、着替え、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア!、姫矢の首輪、大量のコンビニの酒
[思考]
基本:殺し合いはさせない!
1:つぼみ、“なのは”とともに、えりか、ゆりの死地に向かい、いつきを埋める。
2:その後、警察署に向かう。
3:この殺し合いに巻き込まれた人間を守り、悪人であろうと救える限り心を救う
4:南東へ進む、18時までに沖たちと市街地で合流する(できる限り急ぐ)
5:……そんなにフェイトさんと声が似ていますか?
[備考]
※参戦時期は本編後半(ゆりが仲間になった後)。少なくとも43話後。DX2および劇場版『花の都でファッションショー…ですか!? 』経験済み
 そのためフレプリ勢と面識があります
※溝呂木眞也の名前を聞きましたが、悪人であることは聞いていません。鋼牙達との情報交換で悪人だと知りました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※プリキュアとしての正体を明かすことに迷いは無くなりました。
※サラマンダー男爵が主催側にいるのはオリヴィエが人質に取られているからだと考えています。
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました。
※この殺し合いにおいて『変身』あるいは『変わる事』が重要な意味を持っているのではないのかと考えています。
※放送が嘘である可能性も少なからず考えていますが、殺し合いそのものは着実に進んでいると理解しています。
※ゆりが死んだこと、ゆりとダークプリキュアが姉妹であることを知りました。
※大道克己により、「ゆりはゲームに乗った」、「えりかはゆりが殺した」などの情報を得ましたが、半信半疑です。
※ダークプリキュアにより、「えりかはダークプリキュアが殺した」という情報を得ましたが、上記の情報と矛盾するため混乱しています。
※所持しているランダム支給品とデイパックがえりかのものであることは知りません。
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※良牙、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※全員の変身アイテムとハートキャッチミラージュが揃った時、他のハートキャッチプリキュアたちからの力を受けて、スーパーキュアブロッサムに強化変身する事ができます。


83 : 風花の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:51:29 FKsPOkkk0

【月影なのは(ダークプリキュア)@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:健康、人間化
[装備]:いつきの遺体(運んでいる途中)
[道具]:支給品一式×4(ゆり、源太、ヴィヴィオ、乱馬)、ゆりのランダムアイテム0〜2個、ヴィヴィオのランダムアイテム0〜1個(戦闘に使えるものはない)、乱馬のランダムアイテム0〜2個、パワーストーン@超光戦士シャンゼリオン、ふうとくんキーホルダー@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、須藤兄妹の絵@仮面ライダーW、霧彦の書置き、山千拳の秘伝書@らんま1/2、水とお湯の入ったポット1つずつ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ガイアメモリに関するポスター×3、『太陽』のタロットカード
[思考]
基本:罪を償う。
1:つぼみ、“なのは”とともに、えりか、ゆりの死地に向かい、いつきを埋める。
2:その後、警察署に向かう。
3:源太、アインハルト…。
[備考]
※参戦時期は46話終了時です
※ゆりと克己の会話で、ゆりが殺し合いに乗っていることやNEVERの特性についてある程度知りました
※時間軸の違いや、自分とゆりの関係、サバーク博士の死などを知りました。ゆりは姉、サバークは父と認めています。
※筋肉強化剤を服用しました。今後筋肉を出したり引っ込めたりできるかは不明です(更に不明になりました)。
※キュアムーンライトに変身することができました。衣装や装備、技は全く同じです。
※エターナル・ブルーフレアに変身できましたが、今後またブルーフレアに変身できるとは限りません。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※心が完全に浄化され、プリキュアたちの力で本当の人間の体を手に入れました。かつてほどの戦闘力は失っている可能性が高いと思われますが、何らかの能力があるのか、この状態では無力なのか、その辺りは後続の書き手さんにお任せします。顔や体格はほとんどダークプリキュアの時と同じです。
※いつきにより、この場での仮の名前として「月影なのは」を名乗る事になりました。
※つぼみ、いつきと“友達”になりました。

【いつきの所持品は次の通り(全て遺体とともにあります)】
プリキュアの種&シャイニーパフューム@ハートキャッチプリキュア!、支給品一式(食料と水を少し消費)、大道克己のナイフ@仮面ライダーW、春眠香の説明書、ガイアメモリに関するポスター


84 : 風花の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:51:44 FKsPOkkk0

【左翔太郎@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(大)、胸骨を骨折(身体を折り曲げると痛みます・応急処置済)、上半身に無数の痣(応急処置済)、照井と霧彦の死に対する悲しみと怒り
[装備]:ダブルドライバー@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(アイスエイジ)@仮面ライダーW、犬捕獲用の拳銃@超光戦士シャンゼリオン、散華斑痕刀@侍戦隊シンケンジャー、マッハキャリバー(待機状態・破損有(使用可能な程度))@魔法少女リリカルなのはシリーズ、リボルバーナックル(両手・収納中)@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[道具]:支給品一式、ガイアメモリ(ジョーカー、メタル、トリガー)、ナスカメモリ(レベル3まで進化、使用自体は可能(但し必ずしも3に到達するわけではない))@仮面ライダーW、ガイアドライバー(フィルター機能破損、使用には問題なし) 、少々のお菓子
[思考]
基本:殺し合いを止め、フィリップを救出する
0:いつきからプリキュアや砂漠の使徒について詳しく聞く
1:出来れば事件が起きた慰安室を調べておきたい
2:風都タワーを破壊したテッカマンランスは許さねえ。
3:あの怪人(ガドル、ダグバ)は絶対に倒してみせる。あかねの暴走も止める。
4:仲間を集める
5:出来るなら杏子を救いたい
6:泉京水は信頼できないが、みんなを守る為に戦うならば一緒に行動する。
[備考]
※参戦時期はTV本編終了後です。またフィリップの参戦時期もTV本編終了後です。
※他世界の情報についてある程度知りました。
(何をどの程度知ったかは後続の書き手さんに任せます)
※魔法少女についての情報を知りました。


【特記事項】
※シャンプーの支給品は、五代雄介製のおまもり@仮面ライダークウガでした。
※一条薫の遺体はE−7荒地に放置されています。彼の死体の傍らには、ミカヤ・シェベルの居合刀@魔法少女リリカルなのはシリーズ、レミントンM870(8/8)@現実、五代雄介製のおまもり@仮面ライダークウガ、『塔』のタロットカードが放置されており、アマダムは破壊されています。サイクロン号@仮面ライダーSPIRITSは遺体の付近に倒れた状態で放置されています。






85 : 風花の物語 ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:52:14 FKsPOkkk0



 ガドルはビートチェイサーに身を乗せて走る。変身を解除し、軍服の男の姿となっていた。
 胸と腹は痛む。……これまでで最も重い一撃は、今なお軍服の男の体を痛めている。
 彼は特に行くあてもなく、ただ一人、別の参加者との合流を求めて走っていた。
 荒地を超え、再び生い茂った森を走る。

(……戦え、戦え、戦え……!)

 クウガもダグバももういない。
 ガドルの心に開いた穴を開く何者かの存在を求めて、ガドルは夜を往く。



【1日目/夜】
【F―7/森】

【ゴ・ガドル・バ@仮面ライダークウガ】
[状態]:疲労(小)、全身にダメージ(小)(回復中) 、肩・胸・顔面に神経断裂弾を受けたダメージ(回復中)、胸部に刺傷(回復中)、腹部・胸部にかなり強いダメージ、ダグバの死への空虚感、電撃による超強化、ビートチェイサー2000に搭乗中
[装備]:ビートチェイサー2000@仮面ライダークウガ、スモークグレネード@現実×2、トライアクセラー@仮面ライダークウガ、京水のムチ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×8(スバル、ティアナ、井坂(食料残2/3)、アクマロ、流ノ介、なのは、本郷、まどか)、東せつなのタロットカード(「正義」、「塔」、「太陽」を除く)@フレッシュプリキュア!、ルビスの魔剣@牙狼、鷹麟の矢@牙狼
[思考]
基本:殺し合いに優勝し真の頂点に立つ。
0:ダグバのように、周囲の人間を殺して誰かを怒らせるのも良い。
1:参加者を探す。
2:石堀、エターナルと再会したら殺す。
3:強者との戦いで自分の力を高める。その中で、ゲームとしてタロットカードの絵に見立てた殺人を行う。
4:体調を整え更なる力を手に入れたなら今まで取るに足らんとしてきた者とも戦う。
※死亡後からの参戦です。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※ナスカ・ドーパント、ダークメフィストツヴァイを見て、力を受け継ぐ、という現象を理解しました。
※フォトンランサーファランクスシフト、ウェザーのマキシマムドライブによって大量の電撃を受けた事で身体が強化され、アメイジングマイティに匹敵する「驚天体」に進化できます。また、電撃体の使用時間も無限になっており、電撃体とその他のフォームを掛け持つ事ができます(驚天体では不可能です)。
※仮面ライダーエターナルが天候操作や炎を使ったため、彼に「究極」の力を感じています。また、エターナルには赤、青の他にも緑、紫、金などの力があると考えています。


86 : ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 14:58:07 FKsPOkkk0
以上、投下終了です。
本当は警察署残留組ももう少し書きたかったんですが、ちょっと忙しくて、ちょっとしか書けませんでした。
そのため、前半で終わってる参加者と後半まで登場する参加者で時間の差が結構ある(というか、前半時点で一部登場してすらいない人もいる)ので、
個人的には前半(〜「変わり者の物語」)、後半(「冒険者の物語」〜)で163話・164話に分けた方が良いかなと思います。

今回も結構支給品が出てきましたが、支給品解説は後でwikiの支給品一覧の方に登場分は収録します。
ちょっとしんどいんで、SSの最後に書くのはやめました。

なんか矛盾、修正点、問題点、感想なんかがあったらお願いします。


87 : ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 15:05:55 FKsPOkkk0
あ。あと一番大事な事を忘れてました。

もう始まってますが、したらばの方で変身ロワイアルの人気投票やってます!
今回のSSをまだ読んでいない人も、読んだ人も、人気投票よろしくお願いします。

部門は
「好きなエピソード」、「好きなキャラクター」、「好きな台詞」、「好きなバトル」、「好きな支給品」です。
この中から、好きな部門(全部でもいい)を選んで、自分が好きな●●、1位〜3位をランク付けして投票してみてください。
既にコメントを添えてくれている方もいますが、本当にこういうのは励みになるので、余裕があったら一言でもいいので何か言ってくれたらみんな嬉しいと思います。

どしどし応募してねー(ニチアサ風に)


88 : 名無しさん :2014/03/24(月) 15:43:22 l4H.pZwg0
投下乙です!
おお……これはなんて凄い乱戦なのでしょう!
冒頭では美希たんと杏子が互いの価値観の違いで喧嘩をして、仲直りをしそうになったり
鋼牙とザルバがようやく再会できて、チームの結束が更に深まりそう……
と思ったら、次はダークプリキュアの心を照らそうとするサンシャインの戦いや、クウガとガドルの戦い
そして強化したガドルとの戦いや、月影なのはとして生まれ変わった彼女や、スーパーシルエットの奇跡など、見どころが盛りだくさんでした!
一条さんといつきは死んでしまいましたが、二人が残してくれた希望が更なる奇跡を生むと信じたいです。
あと、翔太郎の口からついに良牙はあかねが殺し合いに乗ってしまったことを知りましたが、果たしてどうなるか……?

最後にもう一度、大作投下乙でした!


89 : 名無しさん :2014/03/24(月) 15:45:59 l4H.pZwg0
そして指摘なのですが、翔太郎の状態表のいつきや京水に関する部分は必要ないかと思います。


90 : 名無しさん :2014/03/24(月) 16:03:22 .zL52vUs0
投下乙です
一条さんが最後まで熱かった!閣下は更にパワーアップしちゃってとんでもないことに…
良牙に渇を入れる翔太郎も良かったなぁ


91 : ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 16:15:34 FKsPOkkk0
>>89
ごめんなさい、翔太郎の状態表だけコピペしただけで殆ど手を付けてませんでした(確認ミス)。
アイスエイジもだぶってますが、翔太郎が良牙にアイスエイジを渡す描写は入れてないので、これも翔太郎の手にあるのが正しいという事でお願いします。
翔太郎と良牙のところは後ほど修正します。


92 : 名無しさん :2014/03/24(月) 16:48:32 N7EV..uQ0
投下乙!
やばい、やばい、やばい!

二つの因縁の対決、むっちゃ良かった!
一条さんは五代と二人で一人の仮面ライダークウガとして戦い、お疲れ様でした!
最期の台詞が、五代への返答になってるのもまたいい!

そしてもう一つの因縁…
ダークプリキュアが名前をもらったところでウルっときたと思ったら、
浄化されて消えてしまうってことで別の意味で悲しくなったところへ、
プリキュアの奇跡で生まれ変わりって…
この涙腺三段コンボがやばすぎる!
ダークプリキュア改め月影なのはちゃんには、死んでしまったいつきの分までがんばってほしいね

良牙と翔太郎のやりとり…杏子の時もそうだったけど、このロワの翔太郎の貫録はパナい
良牙はあかねを止めることが、そして真の仮面ライダーとして戦う事が出来るのか、見どころですね

長くなりましたが、とにかくとてもおもしろかったです!改めて投下乙です!


93 : 名無しさん :2014/03/24(月) 21:06:42 cpx.zOo60
投下乙です

どうなるかなと思ったら…
よくぞここまで上手く、細かく書き切った!
GJ!


94 : ◆gry038wOvE :2014/03/24(月) 22:26:02 FKsPOkkk0
【左翔太郎@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(大)、胸骨を骨折(身体を折り曲げると痛みます・応急処置済)、上半身に無数の痣(応急処置済)、照井と霧彦の死に対する悲しみと怒り
[装備]:ダブルドライバー@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(アイスエイジ)@仮面ライダーW、犬捕獲用の拳銃@超光戦士シャンゼリオン、散華斑痕刀@侍戦隊シンケンジャー、マッハキャリバー(待機状態・破損有(使用可能な程度))@魔法少女リリカルなのはシリーズ、リボルバーナックル(両手・収納中)@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[道具]:支給品一式、ガイアメモリ(ジョーカー、メタル、トリガー)、ナスカメモリ(レベル3まで進化、使用自体は可能(但し必ずしも3に到達するわけではない))@仮面ライダーW、ガイアドライバー(フィルター機能破損、使用には問題なし) 、少々のお菓子
[思考]
基本:殺し合いを止め、フィリップを救出する
0:警察署に戻る
1:制限…?
2:あの怪人(ガドル、ダグバ)は絶対に倒してみせる。あかねの暴走も止める。
3:仲間を集める
4:出来るなら杏子を救いたい
[備考]
※参戦時期はTV本編終了後です。またフィリップの参戦時期もTV本編終了後です。
※他世界の情報についてある程度知りました。
(何をどの程度知ったかは後続の書き手さんに任せます)
※魔法少女についての情報を知りました。

----------

翔太郎の状態表はこんな感じに修正します。
あとアイスエイジは翔太郎の所持品という事で。


95 : 名無しさん :2014/03/24(月) 23:12:40 OK2LyX/E0
言いたい事は他の人たちが全部言ったのでこれだけ。超大作投下乙

…あれ?ガミオ復活のトリガーってなんだっけ?


96 : 名無しさん :2014/03/24(月) 23:30:07 l4H.pZwg0
修正乙です。


97 : ◆gry038wOvE :2014/03/25(火) 00:18:23 NVuF4zb60
>>95
グロンギによる死者の数が9人になった時ですね
一応、それもラストに添える形で書いてたんですけど、この話のラストでそれを入れるとそこだけ浮いちゃう気がしたので、別話として投下したいと思います。
14人も出てくると読む気失せると思いますし。

予約していいのか悩む方が多いと思うので、復活のトリガーを引いた僕がコレが24時間経って通ったら、その後で投下しますね。
何かアイディアがあって他に書いている方いましたら、言ってくれれば引き下がります(そんな長い話でもないし大した話でもないので)。


98 : 名無しさん :2014/03/25(火) 12:49:44 zx4OWaMIO
投下乙です。

タロットで唯一、位置に関係なく不吉なカード、塔。
誰かの笑顔を守る為には、自分の笑顔を犠牲にしなきゃいけないクウガにはお似合いだな。

ガドル閣下大暴れ。
殺して強くなる事を究めると、「どうやって強い獲物を作るか」に思考がシフトしていくんだろうか。


99 : ◆gry038wOvE :2014/03/25(火) 15:51:42 NVuF4zb60
じゃあ、まあン・ガミオ・ゼダで投下します。


100 : 超絶 ◆gry038wOvE :2014/03/25(火) 15:52:22 NVuF4zb60


【D-6 屈辱の丘 08:00 p.m.】


 ズ・ゴオマ・グ、ゴ・ガドル・バ、ン・ダグバ・ゼバ──三人のグロンギが、この殺し合いには招かれていた。
 そのグロンギたちは、この場では当人たちも知らぬ間に、あるゲゲルを行わされている。
 バギンの「姿を変えるリントと、その周りの戦士」を葬る──そして、ちゃんと当人たちの手でその数のリントを殺し、封印が解かれた時、“成功”とみなされる。このゲゲルの対価は、成功者の昇格ではなく、王の復活だ。
 ゲゲルが成功し、時計の小さい針が次の偶数を指した時、この闇の中から新たなる王が蘇る──。

 ──ユーノ・スクライア
 ──フェイト・テスタロッサ
 ──園咲霧彦
 ──山吹祈里
 ──早乙女乱馬
 ──溝呂木眞也
 ──西条凪
 ──一条薫
 ──明堂院いつき

 遂に、グロンギの算法における10の数、即ち、我々リントにおける9のリントの命が、グロンギ族によって奪われた。
 ここまで約20時間を要している。彼らにとっては、数に対してこれだけの時間を要したのは、予想外だろうか。
 いわば、彼ら9人は生贄と言ったところだろうか。

 ──もう一人の王が、動き出す。

 彼らなら、一体、この王に対して何をするだろう。

 ゴオマなら、己の新たな力とその強さを過信して、無謀に挑むだろうか。
 ダグバなら、もう一人の王の存在を認めず、しかし笑顔でもう一人の王に挑むだろうか。

 彼らに仇なす者ならばどうだろう。
 五代雄介なら、グロンギの王が誰かの笑顔を奪うのを許す事はないだろう。
 一条薫なら、警察として人々を守るために彼を倒しに向かうだろう。

 今、唯一この場に残るガドルなら──────いや、それは推測する必要はない。これからいずれ、実現する事になるかもしれないのだから。

「バセ ゴセ パ レザレタ?(なぜ俺は目覚めた?)」

 ──ン・ガミオ・ゼダは、己が地上の空気を吸っている事に気づく。
 丘の上には、封印の解かれた、見覚えのない棺。ガミオは、こんな棺に閉じ込められた記憶はないし、いつ封印されたのかさえ定かではなかった。
 真っ赤な狼の異形は、グロンギでありながら人の姿を持たない怪物の──しかし、かつて人だったかもしれない男の──唯一の「自分」。

「俺は二度と目覚めぬはずだった」

 ガミオは、リントの言葉でそう言う。彼がなぜ、長い眠りにありながら、リントの言葉を知っているのか──それは誰も知らない。

 五代雄介の物語はン・ダグバ・ゼバを倒すところで終わり、再び物語が動く事は、なくなったはずだった。いつか世に出るはずのガミオも世界に現れぬ事となった。ガミオは永久にこの世に目覚めぬはずだったのだ。その存在は、姿は勿論、名前さえ世に出ず──ただ紋様だけが、その世界に存在した証として在り続けるだけだった。
 もう一つのアークルや、この丘もそうだ。五代雄介の戦いの終わりとともに抹消され、永久に日の目を見る事がないはずの存在だったのである。
 しかし、本来存在し得ぬイレギュラーがガミオの存在を見つけ出し、再び、世に送り出したのだ。──何年も培われた強い意思たちが、この屈辱の丘さえも探し出したらしい。

 本来ならば、クウガの物語は、もう誰にも侵されず、誰が望んでも動き出す事はないはずだったのに。

「なぜ俺はここにいる。なぜ奴らが俺の世界にいる」

 五代雄介と一条薫は、悲しい暴力の果てに、みんなの笑顔を獲得したのだ。
 五代雄介が守った笑顔を無駄にされぬためならば、時空さえ歪められる。五代雄介がいる世界は、たった一人の男のために神の存在にさえ抗った。彼の戦いに続く神と人との戦いは、ただ五代の願いのお陰で、別の未来に──あるいは、その戦いの過去の方が「未確認生命体第4号が居た」というだけの全く別の過去に、分岐するほどの力を得た。
 それが正しい歴史であり、五代とガミオが同じ世界に存在する事はないのである。しかし、ガミオの存在までこの世に再び姿を現すほどの意思がどこかに存在したのである。……そして、その意思がこの場でも、再び発動し、ガミオは蘇った。

「この丘もまた、別の遺跡であるはずだった……。新たな世界が生まれた事で、あの遺跡をこの丘に変えたのか。……ならば、この世界は一体、なんだ」

 五代雄介が、一人の少女の手で死んだ。
 一条薫が、仮面ライダークウガとして死んだ。
 ズ・ゴオマ・グが、怪物の餌食となった。
 ン・ダグバ・ゼバが、クウガではない戦士に殺された。
 ラ・バルバ・デとラ・ドルド・グが、その戦いを操る存在になっていた。
 ゴ・ガドル・バが、グロンギ最後の勝者となり、王となった。


101 : 超絶 ◆gry038wOvE :2014/03/25(火) 15:53:56 NVuF4zb60

 そんな世界があって良いのだろうか。この殺し合いは、ガミオがいる世界や、もう一人のクウガの力が少女に宿る世界や、未確認生命体第4号の後に“アギト”が現れる世界以上に、存在してはならぬ世界ではないか。

 本来の世界とは分岐したはずのガミオの世界。
 ガミオがいるべきは、このクウガの世界で正しいのだろうか──。
 いや、違う。ガミオが現れるべきは、この世界ではない。
 五代雄介ではない。──彼のいる世界はガミオが現れる事なく終わるはずだ。
 では──小野寺ユウスケか。それが本来ならば正しいはずだ。しかし、それも違う。
 今、ここにその戦士はいないのだ。

「……だが、蘇ったからには仕方がない。俺は俺の目的を果たすとしよう」

 何にせよ、究極の闇を齎す。──それがガミオの王としての存在意義であり、本来生まれた場合の役割だ。ガミオが復活したからには、誰かにそれが望まれているという事なのである。本来なら、黒い霧を放ち、世界をグロンギの物へと変えていくのがガミオの究極の力であるはずだ。

「闇の力が使えん……。では、なぜ俺は──」

 ……しかし、今は何故かその力は発動しない。
 彼はそれを疑問に思いながらも、────すぐに理由を悟った。

「そうか、ガドル……奴がこの世界のもう一人の王となったか」

 そう、ンの戦士は二人存在してはならない。そのルールの矛盾がガミオの能力を封じているのだ。──不条理だらけのこの世界だが、己にまつわる矛盾だけは許すわけにはいかない。
 ガドルの世界の「究極の闇」は、世界を雷雲に包み、圧倒的な力で死の絶望へと落とす。
 ガミオの世界の「究極の闇」は、世界を黒霧に包み、人をグロンギに変える。
 その二つの闇の違いが、矛盾を生み、「究極の闇」が現れるのを妨害している。──そうか、ダグバがその本領を出し切る事ができなかったのは、彼が封印されていたからなのだ。

「面白い。この歪んだ殺し合いには、まだまだ存在しえない者がまだいるようだ。奴らは抗い続けるか、俺とともに消えるか……見届けよう」

 ガドルの猛攻とともに生まれた、「月影なのは」も。
 本来とは別の経路を辿り、佐倉杏子に受け継がれた「光」も。
 仮面ライダーのない世界の者が変身した「仮面ライダー」も。
 本来は、どんな世界にもない。世界に望まれているのか、望まれていないのか、それがわからない孤独な存在である。当人たちも気づいているかはわからないが。

 ガミオはそこに裁きを下す存在ではない。しかし、己の存在を証明する過程で、そんな者たちにも会うかもしれない。
 その時は、果たして何をすればいいのか、それはガミオにもわからない。

「そして、ガドルよ。お前はどれだけ、今のお前の存在を刻める……? 俺は──」

 今のガドルが、本来生まれるはずのないガドルなら、その存在の力は、どれほどか。
 ガドルは、世界に在ってはならない「IF」の存在。歴史上にあってはならない存在だ。
 ガミオもまた同じだ。彼もまた、世界にいてはならない存在である。



 この場にいられるだけで満足であるような、そんな安堵感と、この場にいていいのかわからに不安の二つがガミオの中に渦巻く。──しかし、そんな中でも、その存在を限界まで刻み付けたい本能が、ガミオを駆り立てる。
 ガドルを倒し、究極の力を取り戻す。──そして、究極の闇を齎す事で、この場に己の存在を刻みたい。
 しばらくはその本能に従おう。
 ガドルはこの夜、獣のように吠えた。



【1日目 夜中】
【D-6/グロンギ遺跡】

【ン・ガミオ・ゼダ@仮面ライダークウガ?】
[状態]:健康
[装備]:?????????
[道具]:?????????
[思考]
基本:この世界に存在する。そして己を刻む。
1:ガドルを倒し、究極の闇を齎す者となる。そして己の力と存在を証明する。
2:この世界にいてはならない者を──。
[備考]
※この殺し合いやこの「クウガの世界」について知っているかのような発言をしています。
※黒い霧(究極の闇)は現在使用できません。もう一人のグロンギの王を倒して初めてその力を発現するようです。
※この世界にいてはならない者とは、ロワのオリ要素や、設定上可能であっても原作に登場しなかった存在の事です(小説版クウガも例外ではありません)。


102 : 超絶 ◆gry038wOvE :2014/03/25(火) 15:58:11 NVuF4zb60
以上、投下終了です。
これは前の話と地続き?みたいな形になるのですが、時間表記の問題で一応単独話です。
次からガミオも予約メンバー入りという事でお願いします。


103 : 名無しさん :2014/03/25(火) 16:01:05 FjT/bEkg0
投下乙です!
ついにガミオも目覚めたか……果たして、彼はこれからどう動くのでしょうね。
究極の闇は使えなくて当然かも。あんなのが使えたら、地獄絵図になるだろうしww


104 : ◆LuuKRM2PEg :2014/03/25(火) 17:30:52 FjT/bEkg0
そして、自分も予約分の投下を開始します。


105 : なのはの決意! プリキュアとして、戦います!! ◆LuuKRM2PEg :2014/03/25(火) 17:31:58 FjT/bEkg0
 プリキュアの奇跡で生まれ変わったダークプリキュア……いや、月影なのはの案内に従って、響良牙は花咲つぼみと共に森の中を進んでいた。
 目的は、つぼみの友達である明堂院いつきの遺体を埋葬してあげる為。来海えりかと月影ゆりが眠る地に、いつきも眠らせようとしている。元の世界では一緒に仲良く過ごしていたのに、殺し合いなんかによって居場所を無理矢理壊されてしまう……だから、せめて一緒の場所で眠らせてあげたいと、つぼみとなのはは思っているのだ。
 その気持ちは良牙だって同じ。本当なら、早乙女乱馬とシャンプーの遺体を同じ場所に眠らせてあげたいけど、不可能だ。乱馬はどこにいるのかわからないし、シャンプーはスバル・ナカジマによって跡形もなく消されている。パンスト太郎や、五代雄介と一条薫だって同じだ。
 何もできない中途半端な自分がもどかしい。数時間前、中途半端はするなと一条から言われたばかりなのに、一体何をやっているのか。
 ウジウジしていても何も始まらないし、みんなからも怒られてしまう。仮面ライダーの先輩である左翔太郎やつぼみからも認められたのだから、彼らの為に正義の仮面ライダーを目指さなければならなかった。
 その為にも、あのガドルやドウコクをまた見つけたら今度こそ叩き潰す。そして、大切な仲間達を守らなければならなかった。あかねさんのことだって、絶対に止めてみせる。
 良牙は改めて自分にそう言い聞かせた。

「もうすぐ、着くと思うけど……周りに、気を付けて」

 そんな中、先頭を歩いていたなのはの声が聞こえる。
 彼女の声は、黒い翼が生えていた頃とは打って変わって、優しさに満ちていた。元の彼女のことを詳しく知らない良牙ですらも、随分と変わったと思ってしまう。
 良牙がそんなことを考えていると、なのはが振り向いて来る。

「あの、良牙さん。一つ、いいですか?」
「ん? どうかしたのか」
「えっと、私はエターナル……いや、大道克己さんのことを憎んでいました。お姉さんがあの人に殺されたから……でも、克己さんも、元々はいい人だったのでしょうか?」

 彼女の口から出てきたのは、問いかけだった。
 気になってしまう気持ちはわかる。大道克己は自らの口で、月影ゆりのことを殺したと言っていた。そんな克己など、なのはからすれば憎い仇であるはずなのに、今は憎悪が感じられない。
 プリキュアの奇跡によって、心が綺麗になったのか。そんなことを考えながら、良牙はなのはの疑問に答えることにする。

「……さあな。俺達は昔の大道のことは何一つ知らない。でも、大道の仲間は言っていたぞ。『克己はヒーローだった』って」
「ヒーロー……?」
「ああ。それに大道自身だって、この殺し合いの新しい希望となる仮面ライダーだって言っていた……だから、あいつも昔は人々の為に戦っていたはずだ。本当かはわからないけどな」

 言葉を紡ぐ度に、克己と良の最期が脳裏に過ぎっていく。
 克己は、キュアブロッサムと仮面ライダーゼクロスのおかげで心を取り戻して……この世を去った。そこに、憎悪や無念の感情は微塵もない。
 良は、克己が間違いを繰り返す前に死力を尽くして戦い……笑顔のまま死を迎えた。彼の笑顔は、五代雄介のように優しさと力強さで溢れていた。
 だから、良牙はそんな二人の遺志を尊重するつもりでいる。

「それに俺の仲間も言っていた。あいつのことを恨まないでやってくれって……俺は正直、大道にはあんまりいい印象はない。だけど、少なくとも恨むつもりはない」
「それもあるかもな……でも、何かが違っていたら大道だって俺達の仲間になってくれたかもしれない。克己だって、道を踏み外さないように案内をしてくれている誰かが必要だった。だから、俺は憎むつもりはない。だからって、なのはまで俺達みたいになる必要はないぞ」
「……私も、あの人のことはまだ許せないです。だって、お姉さんが殺されたのだから……」
「そっか……でも、それが普通だよな」

 なのはの返答に良牙は頷いた。
 いくら克己の過去を知ったとしても、それでゆりが殺された事実が消える訳ではない。殺人者に特別な事情があるのなら、親しい人が殺されても許せてしまう……そんなことができる人間なんていないだろう。それは死者への冒涜だ。それがまかり通るのなら、薫といつきを殺したガドルのことだって許さなければいけなくなってしまう。


106 : なのはの決意! プリキュアとして、戦います!! ◆LuuKRM2PEg :2014/03/25(火) 17:33:17 FjT/bEkg0
「でも、克己さんだってもしかしたら、私みたいに生まれ変わることができたかもしれません。だから、私も克己さんの想いを受け継ごうと思います。みんなだって、それを望んでいるはずですから」
「そうか……なら、俺も力を貸すぜ。いつきも、えりかやゆりって子も、一条も、同じことを言うはずだ」
「私も、良牙さんと同じ気持ちです……なのはさん、一緒に頑張りましょう」

 良牙だけでなく、つぼみも助言をしてくれた。
 彼女は微笑んでいる。先程、いつきが殺されたばかりなのに、なのはに笑顔を向けていた。今も穏やかな笑顔を保ち続けているいつきのように。最期まで微笑んでいたのだから、彼女の前では泣いていたくないのだろう。
 そんなつぼみの強さが、胸に突き刺さってしまう。これが、ガドルとの戦いで余計なことをしたせいで、二人を死なせてしまった俺自身の罰なのではないか……ならば、それを受け止めなければならない。

(なのはだって罪を償おうとしているのなら、俺もそうするべきだな。そして、今度こそみんなを守って、あかねさんも救う……そうだろ、一条、いつき、乱馬)

 殺し合いの中で散った仲間達や、親友のことを考えながら前に進む。
 早乙女乱馬。いつ頃に出会ったのかはもう覚えていない、永遠のライバルだ。
 最初は購買部のパンを奪い合うだけの縁だったが、戦っている内に確かな信頼が芽生えていた。怒ったこともあった、憎たらしいと思ったことはあった、消えろと願ったことはあった……でも、乱馬を始めとした仲間達との日常が愛おしかったのも確かだった。
 一条薫と明堂院いつき。この島で出会ったかけがえのない仲間。もしも、巡り会えたのがもっと違う場所だったら、きっと素敵な毎日を一緒に過ごしていたはずだった。時には一緒に飯を食って、時にはくだらないことで喧嘩をして、時には力を合わせる……だが、そんなささやかな幸せが、こんな殺し合いによって壊されてしまう。
 非常にやりきれないし、許せる訳がない。絶対に、仮面ライダーとなって殺し合いを破壊する為に戦わなければならなかった。

「あ、ここだよ……二人が眠っているお墓は」

 自らを奮起させる為に闘志を燃やしている良牙の前で、なのはは足を止める。
 彼女の前では、不自然に盛り上がった土が存在していた。そこは、周りに比べて色も茶色に染まっている。
 一見すると、ただの土の山にしか見えない。しかし、良牙はこの地にえりかとゆりが眠っていると察していた。

「えりか……ゆりさん……!」

 二人を呼ぶつぼみの声は震えている。恐る恐る振り向くと、彼女の目から涙が溢れ出ていた。
 それは当たり前だった。こんな形でしか大切な友達と再会できないなんて残酷すぎる。それに、ようやく再会できたいつきだって、すぐに別れさせられてしまった。

「やっと、二人に会えましたね……ごめんなさい、二人の所に来るのが遅くなってしまって。できることなら、もっと早く二人に会いたかったです……そうすれば、みんなが揃っていたはずなのに」

 土の下に眠るえりかとゆり、そしてなのはの腕で眠っているいつきに語りかけるつぼみは、涙を流し続けている。
 そんな彼女の姿を見るのが辛かった。なのはもつぼみのように憂いに満ちた表情を浮かべている。

「姉さん、えりか……つぼみといつきを連れてきたよ。二人とも、姉さん達に会いたがってた……ごめんなさい、今までみんなの邪魔をしてきたりして」

 そして、なのはは頭を下げる。きっと、これまでの行いを懺悔しようとしているのだろう。

「でも、私はこれからみんなの為に戦う。姉さんが私の為に戦ってくれたように、今度は私が姉さん達の愛をみんなに分けてあげる。だから、姉さん達はみんなを守って……みんな、一生懸命に頑張っているはずだから」

 彼女の言葉は、つぼみやいつきのように慈愛に溢れていた。
 なのははつぼみ達のおかげで変わることができたのだ。自分がエターナルになれたように、なのはは普通の少女として生まれ変わった。その姿を、見せたかったのだろう。
 だけど、それはもう永遠に叶わなかった。

(どうしてだよ……? どうして、彼女達がこんな目に遭わないといけないんだ? みんな、大切な人の為に頑張っていただけだろ?)

 良牙は疑問を抱くが、それに答えてくれる者は誰もいない。
 プリキュア達は誰かの心を守る為に戦っていた。なのはも前はプリキュアの敵だったが、大切な人の為に戦おうとしている点では変わらない。ベクトルが違うだけで、一生懸命な所は共通していた。
 だけど、そんな想いは無残にも踏み躙られてしまう。こんな不条理な世界に対する憤りと彼女に対する後ろめたさ。それが良牙の中でどんどん膨れ上がっていき、いてもたってもいられなくなってしまう。


107 : なのはの決意! プリキュアとして、戦います!! ◆LuuKRM2PEg :2014/03/25(火) 17:34:56 FjT/bEkg0

「……爆砕、点穴ッ!」

 だから良牙は、今に対する鬱憤を晴らすかのように人差し指を地面に叩きつけて、穴を開けた。
 こんなことをしても、自分のやったことは消えない。だけど、せめて少しくらいでも力になりたかった。この技は墓穴を作る為にある訳ではないが、他に適任な方法がない。
 こんなことの為につぼみとなのはには力を使わせたくないし、だからといって獅子咆哮弾やエターナルも墓を作るには強すぎる。だから、土木工事用の技しか思い浮かばなかった。

「良牙さん……」
「二人とも、すまない……俺にできるのは、これくらいだ」
「……いいえ、ありがとうございます。いつきを眠らせてくれるお手伝いをしてくれて」

 つぼみの言葉が良牙には辛かった。
 彼女は優しい少女だ。友達の仇である克己やガドルにさえも、怒りはしたが憎んでいない。きっと、主催者すらも心を救おうとしているはずだった。
 同じことができるかと聞かれたら、良牙は間違いなく首を横に振る。つぼみのように、誰かの心を思いやるなんて滅多にないからだ。

「ありがとう、良牙さん……それじゃあ、眠らせるね」

 良牙の開けた穴に、なのははゆっくりといつきを乗せる。そのまま、彼女の遺体に土を被せ始めた。
 いつきは今も太陽のような笑顔を浮かべている。もしかしたら、本当の太陽のように朝になれば瞼を開けてくれるのではないかと思ってしまうが、それはありえない。良の時だって、目覚めなかったのだから。

「いつき、今までありがとうございます……私達はいつきの笑顔と優しさが大好きです。あなたの光は、いつまでも私達の心を照らしています」

 額に伝った雫が地面に落ちて、弾けていく。それは留まる気配を見せず、むしろつぼみが喋る度に勢いを増していた。
 それはいつきを埋めているなのはも同じだった。彼女達を繋いでいる絆と優しさが、死んでしまった三人に届いていく。

「みんなのことは絶対に忘れません。みんなの分まで、私達は頑張ります……そして、プリキュアの力でこころの花を守ってみせます。そして、たくさん勉強をして、たくさんの人と仲良くなって、たくさんの人を守って、たくさんの人と夢を語り合います。ファッション部だって、みんなの分まで頑張ります……だから、みんなはゆっくり休んでいてください

 そして、つぼみは溢れ出る涙を拭った。
 それから沈黙が広がってしまう。つぼみの目元は真っ赤になっていて、良牙はますます気まずくなった。
 周囲の雰囲気がどんよりと重くなってしまう。まるで、獅子咆哮弾を使っているようだった。このままでは嫌な空気を引きずったままになるが、どうすればいいのかがわからない。人の心のケアなど、良牙には不可能だった。
 どうすればいいのか。そんなことを考えていた時だった。

「……私、堪忍袋の緒がブチ切れました!」

 つぼみが急に、大声で叫ぶ。
 突然の声によって良牙の鼓膜をジンジンと刺激される。
 あまりにも予想外の行動に、良牙は呆気に取られていた。

「つ、つぼみ……?」
「良牙さんになのはさん、ごめんなさい……私のせいで暗い雰囲気になってしまって。でも、私は大丈夫ですから!」
「……大丈夫な訳がないだろう。だって、お前は……!」
「お気持ちは嬉しいです! でも、私は挫けることも折れることもしません! むしろ、一度はそうなりそうだった自分の心に、堪忍袋の緒がブチ切れているのです!」
「本当、なのか……?」
「はい! 私がしっかりしないと、えりかも、ゆりさんも、さやかも、五代さんも、村雨さんも、克己さんも、京水さんも、一条さんも……それに、いつきだって怒るはずです! 皆さんは、いつだって諦めなかったはずですから!」

 そう宣言するつぼみからは迫力が感じられてしまい、良牙も思わず圧倒されてしまう。
 考えてみれば、彼女はスバルや克己が変身したエターナルにも啖呵を切ったほどの度胸を持っていた。そこに、一片の憎しみを混ぜないで。


108 : なのはの決意! プリキュアとして、戦います!! ◆LuuKRM2PEg :2014/03/25(火) 17:35:58 FjT/bEkg0

「えりか、いつき、ゆりさん……私達は行きます。もしかしたら、みんなの所にまた来るまで時間がかかるかもしれません。だけど、絶対にみんなの所に戻ってきます! だから、本当のお別れはその時に言います……今はまだ、さよならを言いません。もう少しだけ、待っていてください」

 寂しげな雰囲気が漂っていたが、それでもつぼみは笑っていた。
 この下で眠る彼女達の前では笑っていたかったのだろう。そうしないと、みんなだってあの世で悲しむはずだから。
 乱馬やシャンプー、それにパンスト太郎はどうだろうか。あの三人が悲しむ姿はいまいち想像できないが、自分の為に泣くことは望まないかもしれない。特に乱馬はそうだろう。
 つぼみには言いたいことはあるが、ここでそれを口にするのは無粋だ。彼女の意志を尊重するなら、余計なことを言わずに支えるのが筋かもしれない。

「みんな、私もつぼみの為に頑張るから。そして、全てを終わらせたらみんなの所に戻ってくるよ……だから、それまで待っていてね」

 つぼみに続いて、なのはもこの地で眠る三人に語りかける。

「えりか、いつき、ゆり……二人のことは俺が絶対に守る。だから、三人は安心して休んでいてくれ。俺は不甲斐無いが、それでも守り続ける……もう、あんなことは二度と御免だからな」

 そして、彼女達に続くように良牙も語った。
 きっと、この地で三人とも笑顔でいるだろう。そんな彼女達を笑顔にするのなら、これ以上の中途半端は許されなかった。

「皆さん、行きましょう」
「そうだな」
「うん」

 つぼみの言葉に良牙となのはは頷く。
 振り向くことも、止まることもせずに……ただ、真っ直ぐに進み続けていた。
 この先にいる、仲間達と巡り合えることを信じて……





 明堂院いつきの遺体を埋葬してから、一同はライディングボードに乗って森の中を進んでいた。
 今のままでは、例え変身をしていても徒歩では時間がかかってしまう。それにつぼみと良牙はガドルとの戦いで消耗をしているので、ここで体力を消耗する訳にはいかない。なので、なのはが持っていたライディングボードに乗って移動していた。
 三人も乗っているせいなのか、ビートチェイサー2000やサイクロン号に比べるとスピードが落ちている。しかし、それでも移動するには何の障害もなかった。
 まるで、空飛ぶ絨毯に乗っているようだとつぼみは思う。三人もいるせいでほんの少しだけ窮屈だけど、今は我慢しなければならない。

「そうだ、つぼみ……いつきの持っていたシャイニーパフュームはあなたが持っているべきだと思う」

 木々が通り過ぎていく中、隣にいるなのははシャイニーパフュームを差し出してくる。

「だって、いつきだってあなたに持っていて欲しいと思う気がするの……これは、あなた達プリキュアが使っていたから」

 なのはの表情は曇っている。ここで残酷な言葉を言ってしまったら、泣き出してしまいそうだった。
 彼女の気持ちはわかる。たくさんの罪を犯してきたのに、誰かを守る為の力を手にするなんて簡単にできない。罪を認めたなら、尚更だ。
 だけど、つぼみにはなのはの言葉を受け入れることはできなかった。


109 : なのはの決意! プリキュアとして、戦います!! ◆LuuKRM2PEg :2014/03/25(火) 17:36:40 FjT/bEkg0

「いいえ……それは、なのはさんが持っているべきです」
「えっ? どうして……? だって、これは……」
「いつきは最期まであなたのことを友達だと言ってくれました。きっといつきは、なのはさんがこれからみんなの為に戦ってくれると、信じていたはずです。だから、シャイニーパフュームはあなたが持っているべきだと思います」

 そうなのはに諭しながら、つぼみはデイバッグに手を伸ばす。
 その中から、かつてなのはから手渡されたプリキュアの種とココロポットを取り出した。

「それって、もしかして……」
「そうです。なのはさんが取り戻してくれた、ゆりさんの持っていた種とココロポットです。これも、あなたが持っているべきだと私は思います」
「……本当にいいの? 姉さんといつきは、それを望んでいるのかな……?」
「絶対に望んでいますよ! だって、二人はなのはさんの為に最後まで頑張ったのですから! 私だって、なのはさんに持っていて欲しいと思っています!」
「私が……」

 つぼみは説得するが、なのはの手はまだ震えている。
 やはり、簡単に受け取ることはできないのだろう。聞いた話によると、東せつなだってプリキュアとして戦うまで時間がかかったらしいのだから。せつなだって、すぐにキュアパッションとして戦えるようになった訳ではない。なのはだって、同じだった。

「おい、なのは……お前は悩んでいるけど、本当はどうしたい?」

 そんな中、良牙がなのはに問いかけてくる。

「お前は生まれ変わったんだろ? 罪を償って、みんなの為に戦うって言ったよな……それは嘘だったのか?」
「違います! 嘘じゃありません! みんなの為に……戦いたいです!」
「なら、その気持ちを嘘にするな。お前がそんな風に悩んでいたら、守りたい人だって守れなくなるぞ……それに、どうか中途半端だけはしないでくれ」

 そう語る良牙の表情は、どことなく寂しげだった。
 きっと、彼は一条から言われたことを思い出しているのかもしれない。村雨良の死体にメモリーキューブを埋め込む少し前に、そう言われたのだから。

「俺は前に、仲間から中途半端はするなと言われた。でも、俺は怖気づいたせいで、守れなかった……なのは、どうかお前は俺のようにならないでくれ」
「良牙さん……わかりました。確かに、良牙さんとつぼみの言う通りです。私も、お姉さんやいつきのようにプリキュアとなって戦います。だって、二人は私の為にプリキュアの力を使ってくれたのですから」

 頷きながら、なのははプリキュアの種とココロポットを受け取る。
 それを見て、つぼみは一気に表情を明るくした。

「なのはさん……ありがとうございます!」
「つぼみこそ、ありがとう。それに、良牙さんもありがとうございます」
「礼ならいいさ。それでなのはが頑張ってくれるのなら、それだけでいいんじゃないのか」
「……はい!」

 真っ直ぐに頷いてくれるなのはを見て、つぼみは笑顔を浮かべる。
 そして、希望はまだたくさんあると確信した。なのははプリキュアとして戦ってくれると決めて、良牙だって仮面ライダーになっている。それに街には、たくさんの仲間達が集まっているはず。
 彼らと力を合わせれば、どんな敵にも負けないはずだった。それに、良牙の友人である天道あかねだって元に戻せるはずだった。
 そう、花咲つぼみは信じていた。



 ……しかし、つぼみは知らない。いや、良牙となのはも知らなかった。
 ゴ・ガドル・バが一条薫と明堂院いつきを殺害したことがきっかけで、ここから離れたグロンギ遺跡でもう一つの『究極の闇』が蘇ろうとしていることを。また、彼女達が通り過ぎてしまった森の中には、高町なのはの相棒であるレイジングハートがいたことも、知らなかった。
 なのはは一度、街に向かったことがあるので、彼女の案内でライディングボードを動かしている。そして、不幸にもその道にバラゴの遺体は存在しなかった。もしも、レイジングハートと出会うことができていたら、鋼牙への誤解が解けたかもしれない。
 しかし、ここにいる三人はレイジングハートの怨念に気付けなかった。もしもレイジングハートが人間の身体を得たら、きっと鋼牙に牙を向けるだろう。無論、その矛先は鋼牙の仲間であるつぼみ達だって例外ではないかもしれない。
 希望と絶望は表裏一体。新たなる希望が生まれた一方で、また新たなる絶望が育とうとしている。彼女達がそれに立ち向かえるのかどうかは、まだ誰にもわからない……
 今はただ、仲間達と再会する為に市街地に向かって進むことしかできなかった。


110 : なのはの決意! プリキュアとして、戦います!! ◆LuuKRM2PEg :2014/03/25(火) 17:37:35 FjT/bEkg0
【1日目/夜中】
【D―8/森】
※明堂院いつきの死体は【C−8/森】に埋められました。


【響良牙@らんま1/2】
[状態]:全身にダメージ(大)、負傷(顔と腹に強い打撲、喉に手の痣)、疲労(大)、腹部に軽い斬傷、五代・乱馬・村雨の死に対する悲しみと後悔と決意、男溺泉によって体質改善、デストロン戦闘員スーツ着用、ライディングボードに乗っている
[装備]:ロストドライバー+エターナルメモリ@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(ゾーン、ヒート、ウェザー、パペティアー、ルナ、メタル)@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×14(食料二食分消費、(良牙、克己、一条、五代、十臓、京水、タカヤ、シンヤ、丈瑠、パンスト、冴子、シャンプー、ノーザ、ゴオマ、速水、バラゴ))、水とお湯の入ったポット1つずつ、志葉家のモヂカラディスク@侍戦隊シンケンジャー、ムースの眼鏡@らんま1/2 、細胞維持酵素×2@仮面ライダーW、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、歳の数茸×2(7cm、7cm)@らんま1/2、デストロン戦闘員マスク@仮面ライダーSPIRITS、プラカード+サインペン&クリーナー@らんま1/2、呪泉郷の水(娘溺泉、男溺泉、数は不明)@らんま1/2、呪泉郷顧客名簿、呪泉郷地図、特殊i-pod、細胞維持酵素×4@仮面ライダーW、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、バッドショット+バットメモリ@仮面ライダーW、スタッグフォン+スタッグメモリ@仮面ライダーW、テッククリスタル(シンヤ)@宇宙の騎士テッカマンブレード、水とお湯の入ったポット1つずつ×2、力の源@らんま1/2、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW、まねきねこ@侍戦隊シンケンジャー、滝和也のライダースーツ@仮面ライダーSPIRITS、黒子の装束@侍戦隊シンケンジャー、『戦争と平和』@仮面ライダークウガ、『長いお別れ』@仮面ライダーW、インロウマル&スーパーディスク@侍戦隊シンケンジャー、紀州特産の梅干し@超光戦士シャンゼリオン、ムカデのキーホルダー@超光戦士シャンゼリオン、双眼鏡@現実、ランダム支給品1〜6(ゴオマ0〜1、バラゴ0〜2、冴子1〜3)、バグンダダ@仮面ライダークウガ
[思考]
基本:天道あかねを守り、自分の仲間も守る
0:あかねさん…
1:つぼみ、“なのは”とともに警察署に向かう。
2:いざというときは仮面ライダーとして戦う。場合によってはあかねも…。
[備考]
※参戦時期は原作36巻PART.2『カミング・スーン』(高原での雲竜あかりとのデート)以降です。
※夢で遭遇したシャンプーの要望は「シャンプーが死にかけた良牙を救った、乱馬を助けるよう良牙に頼んだと乱馬に言う」
「乱馬が優勝したら『シャンプーを生き返らせて欲しい』という願いにしてもらうよう乱馬に頼む」です。
尚、乱馬が死亡したため、これについてどうするかは不明です。
※ゾーンメモリとの適合率は非常に悪いです。
※エターナルでゾーンのマキシマムドライブを発動しても、本人が知覚していない位置からメモリを集めるのは不可能になっています。
(マップ中から集めたり、エターナルが知らない隠されているメモリを集めたりは不可能です)
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※つぼみ、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※男溺泉に浸かったので、体質は改善され、普通の男の子に戻りました。
※エターナル・ブルーフレアに変身できるようになりました(ただし彼の人間としての迷いや後悔がレッドフレアにしてしまう事もあります)。
※あかねが殺し合いに乗った事を知りました。


111 : なのはの決意! プリキュアとして、戦います!! ◆LuuKRM2PEg :2014/03/25(火) 17:38:17 FjT/bEkg0
【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、加頭に怒りと恐怖、強い悲しみと決意、デストロン戦闘員スーツ着用、ライディングボードに乗っている
[装備]:プリキュアの種&ココロパフューム、プリキュアの種&ココロパフューム(えりか)@ハートキャッチプリキュア!、こころの種(赤、青、マゼンダ)@ハートキャッチプリキュア!、ハートキャッチミラージュ+スーパープリキュアの種@ハートキャッチプリキュア!
[道具]:支給品一式×5(食料一食分消費、(つぼみ、えりか、三影、さやか、ドウコク))、鯖(@超光戦士シャンゼリオン?)、スティンガー×6@魔法少女リリカルなのは、破邪の剣@牙浪―GARO―、まどかのノート@魔法少女まどか☆マギカ、大貝形手盾@侍戦隊シンケンジャー、反ディスク@侍戦隊シンケンジャー、デストロン戦闘員スーツ(スーツ+マスク)@仮面ライダーSPIRITS、デストロン戦闘員マスク(現在着ているものの)、着替え、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア!、姫矢の首輪、大量のコンビニの酒
[思考]
基本:殺し合いはさせない!
1:良牙、“なのは”とともに警察署に向かう。
2:この殺し合いに巻き込まれた人間を守り、悪人であろうと救える限り心を救う
3:南東へ進む、18時までに沖たちと市街地で合流する(できる限り急ぐ)
4:……そんなにフェイトさんと声が似ていますか?
[備考]
※参戦時期は本編後半(ゆりが仲間になった後)。少なくとも43話後。DX2および劇場版『花の都でファッションショー…ですか!? 』経験済み
 そのためフレプリ勢と面識があります
※溝呂木眞也の名前を聞きましたが、悪人であることは聞いていません。鋼牙達との情報交換で悪人だと知りました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※プリキュアとしての正体を明かすことに迷いは無くなりました。
※サラマンダー男爵が主催側にいるのはオリヴィエが人質に取られているからだと考えています。
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました。
※この殺し合いにおいて『変身』あるいは『変わる事』が重要な意味を持っているのではないのかと考えています。
※放送が嘘である可能性も少なからず考えていますが、殺し合いそのものは着実に進んでいると理解しています。
※ゆりが死んだこと、ゆりとダークプリキュアが姉妹であることを知りました。
※大道克己により、「ゆりはゲームに乗った」、「えりかはゆりが殺した」などの情報を得ましたが、半信半疑です。
※所持しているランダム支給品とデイパックがえりかのものであることは知りません。
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※良牙、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※全員の変身アイテムとハートキャッチミラージュが揃った時、他のハートキャッチプリキュアたちからの力を受けて、スーパーキュアブロッサムに強化変身する事ができます。
※ダークプリキュア(なのは)にこれまでのいきさつを全部聞きました。


112 : なのはの決意! プリキュアとして、戦います!! ◆LuuKRM2PEg :2014/03/25(火) 17:38:53 FjT/bEkg0
【月影なのは(ダークプリキュア)@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:健康、人間化、ライディングボードに乗っている
[装備]:プリキュアの種&シャイニーパフューム@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&ココロポット(ゆり)@ハートキャッチプリキュア!
[道具]:支給品一式×5(ゆり、源太、ヴィヴィオ、乱馬、いつき(食料と水を少し消費))、ゆりのランダムアイテム0〜2個、ヴィヴィオのランダムアイテム0〜1個(戦闘に使えるものはない)、乱馬のランダムアイテム0〜2個、パワーストーン@超光戦士シャンゼリオン、ふうとくんキーホルダー@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、須藤兄妹の絵@仮面ライダーW、霧彦の書置き、山千拳の秘伝書@らんま1/2、水とお湯の入ったポット1つずつ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ガイアメモリに関するポスター×3、『太陽』のタロットカード、大道克己のナイフ@仮面ライダーW、春眠香の説明書、ガイアメモリに関するポスター
[思考]
基本:罪を償う。その為にもプリキュアとして戦う。
1:つぼみ、良牙とともに警察署に向かう。
2:姉さんやいつきのようにプリキュアとして戦う。
3:源太、アインハルト…。
[備考]
※参戦時期は46話終了時です
※ゆりと克己の会話で、ゆりが殺し合いに乗っていることやNEVERの特性についてある程度知りました
※時間軸の違いや、自分とゆりの関係、サバーク博士の死などを知りました。ゆりは姉、サバークは父と認めています。
※筋肉強化剤を服用しました。今後筋肉を出したり引っ込めたりできるかは不明です(更に不明になりました)。
※キュアムーンライトに変身することができました。衣装や装備、技は全く同じです。
※エターナル・ブルーフレアに変身できましたが、今後またブルーフレアに変身できるとは限りません。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※心が完全に浄化され、プリキュアたちの力で本当の人間の体を手に入れました。かつてほどの戦闘力は失っている可能性が高いと思われますが、何らかの能力があるのか、この状態では無力なのか、その辺りは後続の書き手さんにお任せします。顔や体格はほとんどダークプリキュアの時と同じです。
※いつきにより、この場での仮の名前として「月影なのは」を名乗る事になりました。
※つぼみ、いつきと“友達”になりました。
※いつきの支給品を持っています。
※プリキュアとして戦うつもりでいます。


【備考】
※月影なのはの案内で、ライディングボードに乗りながら市街地に向かっています。


113 : ◆LuuKRM2PEg :2014/03/25(火) 17:40:40 FjT/bEkg0
以上で投下終了です。
それと、>>105の一部なのですが

「それに俺の仲間も言っていた。あいつのことを恨まないでやってくれって……俺は正直、大道にはあんまりいい印象はない。だけど、少なくとも恨むつもりはない」
「それもあるかもな……でも、何かが違っていたら大道だって俺達の仲間になってくれたかもしれない。克己だって、道を踏み外さないように案内をしてくれている誰かが必要だった。だから、俺は憎むつもりはない。だからって、なのはまで俺達みたいになる必要はないぞ」
「……私も、あの人のことはまだ許せないです。だって、お姉さんが殺されたのだから……」
「そっか……でも、それが普通だよな」



「それに俺の仲間も言っていた。あいつのことを恨まないでやってくれって……俺は正直、大道にはあんまりいい印象はない。だけど、少なくとも恨むつもりはない」
「それは、仲間に言われたからですか?」
「それもあるかもな……でも、何かが違っていたら大道だって俺達の仲間になってくれたかもしれない。克己だって、道を踏み外さないように案内をしてくれている誰かが必要だった。だから、俺は憎むつもりはない。だからって、なのはまで俺達みたいになる必要はないぞ」
「……私も、あの人のことはまだ許せないです。だって、お姉さんが殺されたのだから……」
「そっか……でも、それが普通だよな」

に修正します。


114 : ◆gry038wOvE :2014/03/25(火) 20:54:04 NVuF4zb60
投下乙です。
克己ちゃんの行動も色々と影響与えてるんだよなぁ。今後、翔太郎と無事再会できたらどう絡んでいくのか。
そして、もしやこれで、ハトプリ組は相方キュアへの変身ができるのでは…。
とりあえずこいつらが無事警察署に辿り着けばかなり集合してこの良牙の状態表の大量の荷物も何とかなるかも…。

ん…。前回俺がミスったみたいですが、良牙の支給品の数間違ってますね。
これはちゃんと修正しておきます。


115 : ◆LuuKRM2PEg :2014/03/25(火) 21:35:17 FjT/bEkg0
感想ありがとうございます。
そして、こちらこそ数の間違いに気付かなくてすみません。収録の際に収録させて頂きます。


116 : 名無しさん :2014/03/25(火) 22:46:32 qmNim6Yc0
投下乙です

ああ、終盤近くの対主催というか彼らは傷付いているがそれでも強く前を向いているわあ
もうこれ以上誰も死んで欲しくないが不安要素はまだまだあるという…


117 : 名無しさん :2014/03/26(水) 00:51:44 JULQxa9s0
投下乙です
ガミオが目覚めたか。果たして誰が最初に出会うのか…

マーダーやら不安要素が残ってるけどこのまま頑張って欲しいな
ってか確かに良牙の荷物が凄いことにw


118 : 名無しさん :2014/03/26(水) 14:01:58 cddW.SiA0
もしこのロワに悪口王ことズボシメシが来たら「シスコン」、「ブラコン」、「ファザコン」、「マザコン」、「噛ませ犬」とかでみんな吹っ飛びまくるんだろうか
最後のやつ言われたら大将死んじまうんじゃないか


119 : 名無しさん :2014/03/26(水) 18:21:44 nk6cgLbw0
ズボシメシ「シスコン」 照井・村雨・えりか・タカヤ・零「うわああああああああ」
ズボシメシ「ブラコン」 いつき・mktn・シンヤ・ミユキ「うわああああああああ」
ズボシメシ「マザコン」 大道・流ノ介・乱馬「うわああああああああ」
ズボシメシ「ファザコン」 冴子・大道・ダプリ・鋼牙「うわああああああああ」
ズボシメシ「改心が唐突」 霧彦・杏子「うわああああああああ」
ズボシメシ「クレイジーサイコレズ」 ほむら「うわああああああああ」
ズボシメシ「誰?」 石堀「うわああああああああ」
ズボシメシ「さやか」 さやか「うわああああああああ」
ズボシメシ「淫獣」 ユーノ・良牙「うわああああああああ」
ズボシメシ「半熟」 翔太郎「うわああああああああ」
ズボシメシ「お前にかかわった奴死にすぎ」 冴子・ゆり・タカヤ「うわああああああああ」

ズボシメシ「飲んだくれ」 ドウコク「あ?」
ズボシメシ「ニート」 ドウコク「はァーん…」
ズボシメシ「新フォームの噛ませ犬」 ドウコク「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


120 : 名無しさん :2014/03/26(水) 21:06:24 5GboUDQE0
自分の名前が悪口ってどういうことだよwww


121 : 名無しさん :2014/03/26(水) 22:04:19 nk6cgLbw0
さやかちゃんは、Google先生に「変身ロワ」と打つと予測変換で出てくるまでに成長したからな!


122 : 名無しさん :2014/03/26(水) 22:49:15 ErcEn9TU0
確かに出てきたw
そんなにこのロワで目立ったわけでもないのに何故w


123 : ◆gry038wOvE :2014/03/28(金) 23:06:51 i0df6Rfk0
ただいまより予約分の投下を開始します。


124 : 黒岩、死す!勝利のいちご牛乳 ◆gry038wOvE :2014/03/28(金) 23:07:36 i0df6Rfk0



 涼村暁、桃園ラブ、石堀光彦の一行は、街を歩いている。
 ここへの集合を呼び掛けてはいるものの、人の気配はない。激戦の跡も街の至る所を汚しており、最悪の場合、建物を破壊している。そこにずっと前、誰かがいて、今はどこかへ消えてしまった──という事だろうか。
 街中にバラまかれた箸袋という名のゴミを少しは気に留める人もいたかもしれない。少しばかり生々しい血痕が残っているような場所もあるが、周囲も薄暗いので、三人の中の誰かが少し気にしただけだった。
 街は夜に包まれて、少し乾いた香りを発していた。昼間の激戦など遠い過去の話に変えてしまっているようだ。
 涼村暁は、ここに来てから何度眠ったか知れないし、この夜は逆に目が冴えていた。
 桃園ラブは、度重なる戦闘の疲れもあって、少し眠気を感じ始めていた。
 石堀光彦は、特に眠気を感じなかったが、まあ寝ない人間と思われるのも不自然だろうから、眠いフリだけはしておこうと思った。わざとらしい欠伸も、あまり不快には思われなかった。

 歩いて行く中で、また、今度はもっと大量の血液の痕が見つかった。致死量、かもしれない。誰かがそこで、おそらくは命の危険に晒されたであろう事がはっきりと見て取れる。
 その血痕には、今度は誰しもが気づいた。……それは、ある建物の中に続いていた。
 誰がその血痕について口にする事もなく、恐る恐る、誰もがその建物へと足を向けた。きっと、自分たちとは全く関係ない参加者の一人が、そこで、……まあ、少し足を休めて、治療して、それでまたどこかへ行って、何とか助かったのではないだろうか、とそう思っただろう。少なくとも、ラブはそう信じたかった。

「……せつな」

 ……だが、違った。
 その建物の中にあったのは、無二の親友・東せつなの遺体であった。誰かが気づいて、こうしてここまで運んでくれたのだろうか。彼女を殺害したのがモロトフである事は承知していたが、彼女をここまで運んでくれたのは誰なのか、まだ会っていなかった。
 友人の遺体を見る事になったのも、この一、二時間で二度目だった。だから、この余りあるショックを、ラブはどうにか隠しきる事ができた。
 それは、山吹祈里の原型を留めない凄惨な焼死体よりも遥かに安らかなものだったし、もしかすれば生きているかもしれないと──そう思ってしまうくらいに、綺麗な死に顔であった。
 ただ、そんなのはやはり喩えにしかならなかった。傷口は、そこに間違えようのない死を実感させる、そんな大きな穴になっていた。この穴がなければ、またラブは、それを遺体だと確信できなかったかもしれない。
 いわば、祈里より、ずっと「まし」だった事が、この場においてせめてもの救いであった。
 そうであった事が、ラブのショックを落ち着かせ、また逆に、動悸を早めさせていた。

「……」

 言葉が出ない。しかし、涙は、枯れないのか、頬を伝う。
 祈里もそうだったが、伝えたい事の数に比べて、いざ当人の遺体を前に出せる言葉は少ないのであった。
 その様子を見ている暁はまあ、今日日まで女同士の友情はそこまで信じていなかったと思う。だいたいの場合、腹では相手の事を良く思っていないんじゃないかと、そういうのが女の友情だと思っていたし、経験上、確かな感覚だった。しかし、ラブがせつなの手をただ握り、言葉もなく、立ち尽くした時、そこにある友情は本物だったのだろうと感じる事ができた。
 二人は、もしかしたら……姉妹のような存在だったのかもしれない。

「……」

 放送を受け、彼女たちを殺害した者と会い、そして、遂に彼女たちの遺体と遭遇した。二人の友人に対して、彼女は三段階のステップを踏んで、ようやくその死を胸の中で確かなものにしていった。
 また、祈るように、今度は両手でせつなの指先を握った。
 今度は心の中でお別れの言葉を告げているのだろうと思った。
 そして、最後にまた、ドーナツを一つ、彼女の遺体に添えた。

 石堀は、まあ、せいぜい黙祷をしただろうか。目をつぶって、何を考えているかはわからないが。
 暁は、死に顔に黙祷をする事はなかった。ただ、愕然としていただろう。
 こんなに可愛い子が、次々と誰かに殺されている。ラブやほむらのように──。






125 : 黒岩、死す!勝利のいちご牛乳 ◆gry038wOvE :2014/03/28(金) 23:08:02 i0df6Rfk0



「中学校……」

 マップ上に書いてある施設のひとつ、「中学校」。どうやら、そこに辿り着いたらしい。
 外観はごく普通の中学校だ。ラブは元の世界、こういう場所にいた。
 いや、言ってみれば、昨日までは中学校に通っていた。どうしてこう、幸せというのを唐突に崩されてしまったのかはわからない。
 昨日までのラブは、翌日もまた普通に美希や祈里やせつなと普通に遊んでいると思っていたはずだし、まさかその再会が遺体との対面……という形になるなど、思っていなかったはずである。
 唯一、生きている美希もどこにいるかはわからなかった。ラブにとって、最後の日常生活の拠り所は美希である。
 ……ただ、ラブにとってわからないのは、果たしてこの殺し合いに参加していた「美希」や「祈里」や「せつな」が、元の世界にいるのかどうか──という事であった。
 パラレルワールドとか、時系列の矛盾とか、そういうのが正しく機能しているのなら、元の世界に帰れば、また祈里やせつな、えりかやゆりと会えるのか、それとも、ラブの世界の彼女たちもいないのか──それが気がかりだった。

「仕方がない……。誰もいないようだが、一応この施設も寄っておこう」

 石堀が提案する。
 マップ上に点在している施設。まあわざわざああして丁寧に施設の名前まで書いてくれているのだから、何かしら行ってみる価値はあるだろうと、石堀は踏んでいた。
 それに、学校というのは意外と何でも揃う場所でもある。総合的な学習のために、様々なルームが設けられている。特に行きたい場所があるというわけではないにせよ、石堀はそこで何か捜索してみようと思ったのだ。
 まあ、何人か集まっているかもしれないし、部屋を暗くしたまま、人気のないそぶりを見せて、この施設に息を潜めている可能性だってある。
 ……それが、都合のよい人間か、都合の悪い人間かは、石堀も知らないが。

「9時を回ったか……。どうする? もう警察署側に行く道は禁止エリアだぜ?」
「もう約束の時間から3時間も過ぎている。そこにもいるかどうか」
「3時間なんて遅刻のうちに入らねえっつーの」
「……いや、どう考えても3時間は相手が怒って帰るレベルの遅刻だろ」

 石堀は、やれやれと呆れた表情を見せた。暁は時間にもルーズらしい。6時の約束に9時に行くのも仕方がないとか。
 そして、ふと思い出す。その時刻、禁止エリアとやらに加えて、もうひとつ面白い情報があったではないか。
 確か、そう……制限の解除だとか何とか。

「そうだな、二人とも。一度、中学校をざっと見て、危険人物がいないようなら、一度、それぞれで別の階に分かれてみないか?」

 石堀が提案する。

「どうしてですか?」
「一人で行動すれば制限を解除するとか何とか、あの放送の怪人はそう言っていただろ。俺はどうか知らないが、二人の場合は思い当たる事もあるんじゃないか?」

 一応、石堀は一ナイトレイダーの隊員という事になっている。身体能力などに大きな制限とか、そんなのはかけられていないだろう──という事に、なっている。
 石堀にとって現状、最も厄介なのは、簡単に言えばダークザギの力を持っていない事だ。それを制限と呼ぶか否かはともかく、何らかの主催からの施しが頂ける可能性だって否めない。第一、凪の死によって石堀光彦は進路を失った。そこに何らかのフォローが必要となるのは確かである。
 石堀をどう使うか──主催陣営がそこを考えていれば、自然と「ダークザギの力を蘇らせる」という結論に至る事だろうと、自分自身も感じている。まあ、その後は主催陣営もろとも全て殺しつくし、壊しつくすまでだが。
 今のところ、幸いにも、主催陣が提唱した「条件」は、すべて、石堀にとっても都合が良い。一人きりで行動すれば、にもラブにも聞かれない自然な状況が出来上がるのである。それで充分だろう。

「……特に、思い当たる事は……」
「そもそも、俺なんかシャンゼリオンの力を使い始めてまだそんなに経ってないんだぜ。そんな事言われてもな……」
「だからこそ、まだ知られざる力があるかもしれないだろう」

 この様子だが、まあ、二人ともすぐに承諾した。
 要は、ゲーム上、シャンゼリオンの力やキュアピーチの力にまだ多段的な制限がかけられているかもしれない……という話をすれば、納得してもらえるだろうと思ったのである。
 中学校というのは広い。
 誰にも見られず、誰にも聞かれず──という状況を作るのは、この広い中学校を三人で独占すれば、さして難しい事ではないのだ。階ごとに分ければ、障害が生まれる事もない。


126 : 黒岩、死す!勝利のいちご牛乳(前編) ◆gry038wOvE :2014/03/28(金) 23:08:36 i0df6Rfk0





 最初は三人で中学校を数分程度見張りして、そこにおそらく誰もいない事を認識した。
 外側からライトをつけて各教室を照らしても、特に反応はない。入ってみても、人がいた形跡がある教室や水浸しの場所もあるが、人はいなかった。

「で、どうする?」
「あ、石堀。俺、ちょっと、図書室に用事あるんだけど」

 暁がいきなり、石堀の狙っていた場所を指定した。石堀も、パラレルワールドとやらに目をつけていたので、調べ物ができるそこを狙っていたのだが。
 暁の意外な提案である。石堀は自分が提案せずとも、確実に、図書室が自分の領域になるだろうと思っていたので、驚く。

「漫画なら、多分ないぞ? ……いや、手塚漫画や『はだしのゲン』はあるかもしれないが」
「漫画じゃねえ!」

 ……その暁の切り替えしで、石堀は少し悩んだ。そして、ラブの方をチラッと見て、暁にそっと耳打ちする。あまりラブの前で言える事じゃないのだ。

「エロ本か? もっと無いぞ」
「違う!」

 違ったらしい。漫画でもエロ本でもないとなれば、果たして暁が読むものはなんだろう。ラブは隣で頭にハテナを浮かべていた。
 絵本……? この状況で絵本は読まないだろう。漫画やエロ本を読むのもどうかと思うが、暁ならあり得る。しかし、絵本は似合わない。
 石堀は、真剣に悩んだ。

「……俺が勉強しちゃ悪いのか?」

 暁が半ばキレ気味にそう言っていた。
 今の一言を、石堀とラブは脳内でリピートした。

 ……暁、勉強。暁、勉強。暁、勉強。暁、勉強。暁、勉強。

 おそらくはこれまで、義務教育課程は勿論、高校受験も引き算ができれば受かるような高校に入って、探偵のライセンスを得る事さえ、たぶん代理のそっくりさんでも立ててやらせていたんだろうと考察していた彼らに、衝撃が走る。
 勉強はしていないだろうと踏んでいた。一生。
 いや、しかし当人はこう言っている。暁かな矛盾──そう、これは暁の行動や性格と矛盾しているのだ。

「」
「」
「言葉を失うな!」

 思わず、ラブも石堀も声を失っていた。口をあんぐりと開けて、暁の方をぼーっと見ている。そして、石堀が少しばかり深刻そうな顔で告げる。

「すまない、桃園さん。さっきの戦いで、たぶん……コイツは頭を打ったんだ。コイツはもう、俺たちの知っている涼村暁じゃない。本当にすまない……俺が至らないばかりに」
「石堀さんのせいじゃありません! ……私だって、あの時は……何も……何もできなかった!」

 ラブもまた、かなり深刻そうな顔でそう言った。俯き加減で、先ほどのダグバ戦の代償があまりに大きかった事を実感する。
 彼らは己の無力さを今、目の前の男が勉強を始めようと言い出した事で感じ取っていたのだ。
 そして、また暁と同じように人格を壊してしまう犠牲者が出ぬようにと、硬く心に誓う。

「……お前ら、本気で俺に喧嘩を売ってんのか?」

 どこまで本気でどこまでギャグなのかもわからない様子で、暁は突っ込んでいいやら、突っ込んじゃいけないやらの複雑な心境であった。
 そんな暁の様子を見ながら、石堀が暁の頭に手を当てる。


127 : 黒岩、死す!勝利のいちご牛乳(前編) ◆gry038wOvE :2014/03/28(金) 23:09:05 i0df6Rfk0

「だから熱もねえ!」

 とにかく、暁はそのまま怒って、すぐに図書室に消えていった。その後ろ姿を、石堀は悪役笑いで見届けた。随分と遊ばせてもらったが、全て冗談である。
 まあ、暁が行ってしまった以上、仕方がないので、石堀はそのまま一階の理科室あたりに入った。よく夜中の学校の理科室に入れるものだと、ラブは感心する。
 それから、ラブは三階まで行った。楽しい人たちと出会えた嬉しさの反面、まだ祈里やせつなの死に様に、胸が落ち着きを保てていないのを感じていた。階段のラスト一段を踏み外して転んだ時なんかは、特にそれを強く感じた。







 黒岩省吾は、この時、妙に落ち着いた気分で街に向かっていた。
 シャンゼリオンの進路はおおよそ調べがついている。おそらく、街に向かったに違いない。
 しかし、まあ、その途上、随分と面白い情報を得たものである。

 西条凪と、ン・ダグバ・ゼバが死んだ。
 ──もう、この世にいないという。
 ラームを吸っただけで死亡カウントがなされたのか、それとも肉体まで完全に殺されたのかはわからない。石堀光彦は激怒するだろう。
 どうやらダグバも、もう死んだというらしい。

「……ゴハット」

 黒岩はあまりはっきりとした面識はないが、闇生物の変わり者、ゴハットも主催側にいるらしい。黒岩は、そんな情報を一切得ていなかった。
 随分とはっちゃけていらっしゃるようだが、黒岩としては、それが不快だった。
 ダークザイドの人間たちにあれだけ売ってやった恩を、こうして仇で返される事となるとは……。
 そう、ダークザイドの人間界での生活を補助していたのは黒岩省吾その人だ。黒岩がいたから、本来籍も何もないダークザイドたちは職にありつけ、人間として人知れず静かに生活する事ができている。
 ゴハットだって同様だ。そのはずが、黒岩をこんなゲームに巻き込むなどとは。

「聞こえているか。……もし、この言葉を聞いている者がいるのなら、ゴハットや闇生物たちに伝えておけ。貴様らはダークザイドの恥さらし……この俺がすぐに処刑するとな!」

 恩を仇で返した事もそうだが、卑怯なこの殺し合いにおいて、自分たちダークザイドの人間がいるというのが、黒岩省吾には許せないのであった。
 自分の国の人間が他国で恥をさらす事を遺憾に思うような、そんな気分だろう。常に生まれた場所や国、立場をわきまえ、それに誇りを持って生きるのが騎士道であり、選ばれる民が持ち続けるべき意識だ。
 ゴハットのような下品・不潔・バカ・マゾヒストのオタク奴僕は、ハナからダークザイドの恥さらしに違いないが、黒岩はそのくらいは寛容に見ていた。それでもまあ、せいぜい個々人の趣味の範疇でふざけるくらいは許してやろうとは思っていたのだ。
 料理も、茶も、酒も、スーツも、政治も、黒岩にとっては趣味のようなものだ。趣味にも高尚とか低俗とかはあると思っていたが、まあそれでも趣味は自由だと思えるレベルではあった。

「……だいたい、制限だと? 笑わせる!! そんな物、かける必要がどこにもない……。そんな物がなくとも、勝ち残るのは俺かシャンゼリオンか……二つの一つだ! 全力全開の戦いも多いに結構。俺を見くびるなよ……?」

 たとえ負けた記憶があったとしても、黒岩はめげない。己の誇りだけは捨てない。
 ゴハットが、今ダークザイドの闇生物の名を借りて汚した誇りを、いずれ黒岩の勝利という形で返してやるしかないだろう。
 シャンゼリオンともいずれ決着をつけて、その首を叩き斬る。






128 : 黒岩、死す!勝利のいちご牛乳(前編) ◆gry038wOvE :2014/03/28(金) 23:09:31 i0df6Rfk0



 暁は、図書室の中でひとり、調べものをしていた。中学校の図書室ともなると、まあある程度は学習材料がそろっているもので、小学校の本棚の怪談本よりかはまだマシな本が揃っている。新書はない。その辺りがやはり、高校の本棚には行き届かないのである。
 しかしながら、暁にとっては充分難しい本であった。普段は本など読まない暁ではあるが、まあ時たま、読むときは読む。……漫画かエロ本を。

「んー……ふふーん……」

 鼻歌混じりに、図書室から適当な本を探る。
 まあ、声は出さない方がいいか。誰にも聞かれちゃならないのだから。
 とにかく、暁は図書室の本棚から、必要そうな本をざっと取り上げる。

「なるほど……そういう事か」

 暁としても、本などめくるのはいつ振りだろうか。教科書なら、わりと最近めくったが、それも小学生レベル。

「フムフム……。全然違うじゃねえか……」

 本を読みながら、まあななめ読みではあるが、暁は三十分の間に必要な知識を詰め込む。暁も関心のある材料の本だけ手に取って見ているから、まあ何とか、三十分のうちに多少は読んでいく事が出来た。
 パラレルワールド、とやらの本も、後で必要になりそうなので、暁はキープしておく。図書室から本をガメるくらいは問題ない。
 さて、三十分が経過する。

 すると……

「ん……?」

 暁の後ろに、人影が、現れた。その人影に気づき、暁は振り向く。
 自分には制限などないと思っていた暁だが、三十分ジャストで誰かが現れたらしい。
 ──そう、そこには意外な顔があった。







 石堀は、理科室で何という事もなく、三十分を過ごしていた。時刻は九時半を少し回る。
 何もせず、ただ色々と思索を巡らせているだけならば、随分と長い時間だ。戦闘ならば、何戦か終わるであろう時間を、ただぼーっと過ごすのもまあ、悪くはない。
 勿論、怖くも何ともない。明るいよりは暗い場所の方が落ち着くというものだ。

『……石堀光彦さんですね』

 石堀は、その声が聞こえたので、振り向いた。
 石堀は実に二十一時間ぶりに、その声を聞いた事になる。

「加頭、順……おまえ……」
『それでは、あなたにかけられた制限を簡潔に説明します。あなたにかけられていた制限は、……まあ、いくつかありますが、今回解除するのは二つ。あなたの記憶、そのものです』
「……記憶、だと?」

 加頭の目の焦点は石堀を向いているようには思えない。ホログラフィというよりは、まるでそう──録画映像が語り掛けているようだった。しかし、それは鮮明なホログラフィで、正真正銘、そこに広間のあの男がいるように見えた。
 果たして、加頭順。この男が、本当にこの世に存在しているのかさえ、石堀にはわからなかった。もしかしたら、あの広間にいたのもホログラフィで、データだけの存在かもしれない。
 イラストレーターもそういえば、こうしてホログラフィを使って自分たちの目の前に現れるという事を、石堀は思い出した。
 加頭は続ける。

『ええ。あなたには、我々の方から予知能力に関する記憶の制限をさせていただきました。あなたが持つ来訪者の力の中でも、『記憶操作』と『予知能力』はとりわけ厄介ですから、いっその事あなたの力を『記憶』ごと制限させていただく形にしていたのです』
「……そうか、なるほど」

 石堀の脳裏に、ふと色んな記憶が蘇ってくるのを感じた。
 山岡一を殺害した後、その体を乗っ取り、周囲の人間全体の記憶を操作──そうして『石堀光彦』は誕生し、この世に生まれた一つの人格として認められた。それ自体はよく覚えているが、『記憶を操作した事』が曖昧だった。
 西条凪が光を継ぐ未来を予知し、凪に長い年月をかけて憎しみを植え付けるために、光を強化した。しかし、『未来を予知した事』が曖昧だった。


129 : 名無しさん :2014/03/28(金) 23:10:39 i0df6Rfk0

 そう、たとえ、来訪者と同様の力を持っていても、記憶操作には引っかかる事がある。
 来訪者が山岡一のデータをいじれなかった事や、石堀光彦が新宿の災害の一件を知らず、ビーストについては覚えていても「デュナミスト」のデータの中に「真木舜一」の存在を記録していなかった事からも、それは明白だ。
 その記憶改竄を、石堀は受けていたわけである。
 ばかしているつもりが、逆にばかされていたという話だ。……まあいい、と石堀は思う。それもまあ、面白い話だ。

『既に『予知能力』だけはあなたに返還されています。これも一度使うと、二時間使用できないのですが、今後は自由にお使いください』

 来訪者やダークザギの予知能力は、もともと完全なものではない。来訪者やイラストレーターの予知は実際、ほとんど外れているし、運命を変えるだけの力が働けば、全て変わってしまう。ある世界で、ウルトラマンノアがダークザギを打ち破ったのもまた、同じ理由だろう。
 だから、主催陣はその返還には不利益がないと判断したに違いない。
 ただ、あくまでその予知の範囲も多少の制限があり、使うと二時間使用できないデメリットはあるが……。

「貴様ら、俺にこんな事をして、ただで済むと思うなよ……?」
『それからもう一つ。F-5エリアの山頂には、忘却の海・レーテを解放しておきました。これは光の力を奪う媒介として使用してください』

 そして、それだけ言い残すと加頭の姿がフェードアウトした。逃げるような形ではない。自分の優位を証明するかのような余裕に満ちた退場だった
 辛うじて、先ほど相槌が返ってきたので、会話は成立しているようだったが、終始、気味の悪い会話であった。会話というより、ただ機械的に物事をこなしているような男だ。
 まあ、平等な殺し合いのために、会話の内容は最低限にとどめられているのだろう。

「……フン。どちらにせよ、俺の力は戻らないか──」

 石堀は、躊躇なく、『予知』の力を使う。
 とにかく、一度でも使えるなら、まず調べたいものは一つ。
 ──そう、『ウルトラマンの力の継承者』だ。

「……そうか、あいつか」

 それが、既知の人物なのか、未知の人物なのかはわからない。
 ただ、石堀の中にはそのビジョンが見えたので、ニヤリと笑った。
 そう、その時が来るまで、石堀光彦は石堀光彦のまま行動する。この方針は変わらない。
 もし、その時が来たら──それは簡単。暁もラブも皆殺しにする。そして、あいつの闇に汚れた憎しみで、光を変換する。
 さて、これでダークザギの復活の準備は整った。……あとは、このおめでたい二人とバカ騒ぎしながら、「あいつ」の元へと向かい、まあ親しくしてやって、信頼とやらも深めて、何とか言いくるめてレーテのところへ向かうなりして、二人や「あいつ」の仲間を殺すか、殺害した事を打ち明ければいい。それで、憎しみで力を奪えばいいわけだ。

「……どうやら、“俺に制限なんてなかった”みたいだな。まあ当然か。さっさと二人の元へ向かおう」

 既に、ダークザギは、石堀光彦の思考に戻っていた。
 自分は石堀光彦であるとアピールするように、石堀の言葉で言い残し、彼はその場を去った。







 桃園ラブは、うとうとしながら一人で三階の教室の隅に体育座りしていた。
 夜の学校に一人。──というのは、心細い。
 電気をつけて存在を明かす事もできないし、下に二人がいるとはいえ、寂しかった。
 誰か、……本当に誰でもいいから、そばにいてほしいと、ラブだってそう思った。
 こうなると、勝手に涙が伝う。
 だから、膝でその涙を吸えるように、体育座りしていたのだろう。
 ラブは、膝を抱えて、顔を隠すようにして泣いていた。
 誰にも見られず、誰にも聞こえないという状況がいかに辛いものなのか、今をもって実感している。


130 : 黒岩、死す!勝利のいちご牛乳(前編) ◆gry038wOvE :2014/03/28(金) 23:11:36 i0df6Rfk0

「みきたん……」

 フレッシュプリキュアのメンバーで生きているのは蒼乃美希だけだ。
 ラブは悩む。元の世界に帰れば、また普通に彼女たちと会えるのだろうか。
 これは長い夢だったように、また普通の日々が待っている。
 どこかの世界では、また別のラブが悲しんでいるのかもしれない。──そう、思うとやるせない。人が死んだのは──そしてそれが、せつなであり、祈里である事は、確かだ。
 それはどんな世界でも変わらない。
 別の世界の少女、巴マミと心を通わせたように。
 別の世界の男性、一文字隼人が勇気づけてくれたように。
 どんな世界の人間でも、死んだら悲しい。誰かがきっと悲しむ。
 たとえ帰って、そこに祈里やせつながいたとしても……どこか晴れない心がラブを襲うだろう。

「つぼみちゃん、いつきちゃん……」

 他にもまだ生きているプリキュアはいる。
 彼女たちがこれからどうするのか、ラブも知りたかった。
 どうすればまた彼女に会えるのだろう。街にはいるのだろうか。
 こんな所にいて、いいのだろうか……。

「パラレル、ワールド……」

 パラレルワールド──その言葉は、かつても聞いた。
 ラビリンスが統治しようとした全パラレルワールド。それはおもちゃの国であったり、科学が異常に発展したラビリンスであったり、ラブたちが住む地球であったり、完全に性質の異なる物ばかりだった。
 石堀や暁、一文字やマミの世界もラビリンスのような世界なのだろうか。
 この果てしない話について、考え続ければ、三十分も短い物になるのではないかと、ラブは思った。
 時計の針はだんだんと過ぎていく。
 最初の一分は長かった。しかし、次の三分で眠ってしまった。それでもまた五分で起きて、その次の七分が長かった。九分間項垂れて、そのまま五分と少し待った。いつの間にか、三十分は、回想すれば短く感じるほどにあっという間に過ぎ去った。







 三人は時間になると、校庭に集合した。校舎の前、昇降口の外で石堀が合図のライトを照らす。
 暁とラブの三十分間は終わったらしい。そのライトの光を見たラブは、すぐに下に降りる事にした。
 彼女はすぐに下に降りていく。その最中に暁と合流し、二人で階段を下り、昇降口に出た。学校は上履きで入る場所だが、土足のまま中と外を行ったり来たり。上履きがないから仕方がない。

「……で、成果は?」

 集合すると、すぐに石堀が口を開く。自分に成果はなかったような顔で、相手に尋ねるようにそう訊いた。石堀も自分の成果など話せるわけがない。

「ありませんでした……」

 桃園ラブには成果はなかったらしい。
 ただ、一人寂しく教室に残させてしまった結果になるが、石堀としては実際、そんな事はどうでもよかった。
 ラブ自身の孤独に気付かなかったフリをして、石堀は暁の方を見る。

「俺はあったぜ」

 暁が言う。コイツはのんきだが、どうやらまだ何か強い力を隠しているらしい……と、石堀は少し勘ぐった。

「……で、お前の成果とやらはなんだ? そうだ、それからどうやって制限を解除してもらったのかを、教えてくれ」

 石堀のこの台詞を、主催者はどんな顔で聞いているのだろうか。
 そう思うと、自分が滑稽にも思えてくるが、まあそんな事は、今はどうでもいい。
 彼らを完全に騙しきる事ができれば、後はこっちのものだ。
 暁は、己の制限の解除について語った。






131 : 黒岩、死す!勝利のいちご牛乳(前編) ◆gry038wOvE :2014/03/28(金) 23:12:46 i0df6Rfk0



 先ほど。図書室で調べものをしていた暁の後ろに気配を感じ暁のところまで話は戻る。
 誰かがいる。──それを確信して、暁が振り向くと、そこにいたのは……

『シャンゼリオ〜ン。やあ、やっと会えたね〜』

 暁は、その姿を見ていきなりドロップキックをかました。
 本能が、その姿にドロップキックしろと告げていたのである。

『無駄無駄〜。僕のこの姿はホログラフィだからねぇ。触れないよ。君が僕を倒すのは今度会ったト・キ♪』

 暁は、「うぉぉっ!」──地面に全身を打ち付けて、「いてぇぇっ!」──痛そうに転がっている。
 現れたのは、怪人。青く、両手が触手になっているこの怪物は、先ほど放送で見かけた闇生物ゴハットだった。

「てめえ! 何しに来た!」

 暁は、地面にぶつけた右肩を抑えつつ、ゴハットにそう叫んだ。

『だ〜か〜ら〜。制限の解除でしょっ! おたく、本当に放送聞いてた?』
「……そんな事言ったって、俺に制限なんかないだろぉっ!? …………え、もしかして、あんの?」

 暁はこの時間ではシャンゼリオンになったばかり。制限も何も、力の使い方さえ殆ど手探りな彼に、なぜ制限なんかがかけられているのかはわからない。
 力も元の世界で使った時と対して違わないはずだ。

『チッチッチッ……あるんだなぁ、それが』
「ならすぐに教えろぉっ!」
『ハイ♪ コレを手に入れるのが君の制限。こっちとしてもさ〜、おたくには、もっとカッコよくて熱いヒーローになって欲しいのよ〜。だから出血大サービス』

 ゴハットは、ホログラフィの両手で何かを握っていた。どうやって掴んでいるのかはわからないが、おそらくドラ●もんのようにその辺を深く考えちゃいけないのだろう。
 その物体は、ちゃんと暁の手で触れる事ができた。暁は、そのままゴハットの手を掴もうとしたが、その前にゴハットは消えてしまう。
 暁は、訝しげな表情で、それを眺めた。







「……というわけで、俺はコレを手に入れました〜♪ ……ってふざけんな!」

 暁がゴハットにプレゼントされた青い本を地面に叩き付ける。
 「スーパーヒーローマニュアルⅡ」と書かれた同人誌だ。「Ⅰ」がないのに「Ⅱ」とは、また謎である。まるで、Ⅰ世もⅡ世もいないのに、いきなりⅢ世が出てくる怪獣のようだ。
 暁が地面に叩き付けたその同人誌を、まあ石堀は手に取って、ぱらぱらとめくる。

「二十一世紀を生きる新しい時代のヒーローたち……初代スーパーヒーローマニュアルの時代には存在しなかった、新たな時代のヒーローの言葉や戦い方を君に贈ろう……なんだこれ」
「へぇ、なんか随分と本格的な本ですねぇ」
「ふざけてんだろ!? 見てみろよ、この恥ずかしいセリフの数々……」

 新しい時代のヒーローの名台詞、名言などがずらっと載っていたり、ヒーローが必殺技を使う時の仕草が細かく紹介されていたりする。

「『戦う事が罪なら、俺が背負ってやる』、『派手にいくぜ!』、『ヒーローってのはな、誰かを犠牲にして戦ったりしねぇんだよ!』、『本当の戦いはここからだぜ!』……って、もうバカかと。よくこんな恥ずかしい事が言えるよな。俺はそういうのじゃないの」
「『俺ってやっぱり決まりすぎだぜ』」
「うっ……」
「いいじゃないですか、決め台詞。かっこいいですよ! あたしだっていろいろあるんですから! わ、悪いの悪いのとんでいけ〜……とか」


132 : 黒岩、死す!勝利のいちご牛乳(前編) ◆gry038wOvE :2014/03/28(金) 23:13:17 i0df6Rfk0

 石堀に痛いところを突かれたのか、暁は黙り、そこにラブがフォローしていた。例の台詞も相当恥ずかしいはずだが、半分無意識である。
 ラブも言っていて恥ずかしいところがあったが、これまた無意識に近いので仕方がない。

「……ま、とにかくこれは俺にはいらないの! その辺にでも捨てといてくれ。こっちのパラレルワールドがどうとかって本の方が、まだ使いようがあるぜ。こっちを読もう」

 暁はその辺の本を投げ捨てたり、勝手に図書室から本を持って来たり、色々とフリーダムだ。上履きで現れるのも仕方がないが。

「ちょっと待て。おい、この本、お前の事も載ってるぞ」
「ん……? なんで……?」
「シャンゼリオン、栄光の軌跡。……あー、そうだな。コレ、もしかしたらここに来なかった時のお前のその後が書いてあるのかもしれん」
「マジで!?」
「お前、シャンゼリオンの力を手に入れたばっかりだったよな。使い方のノウハウもよくわかってないんじゃないか?」

 シャンゼリオンの概略を見る。シャンゼリオンに割いてあるページはわずか一ページだけだ。暁はすぐさまそれを石堀の手から奪って見る。

『軟派な私立探偵・涼村暁が偶然、クリスタルパワーを浴びてしまった事から変身できるようになった超光戦士!』

 そういう煽りとともに、シャンゼリオンの全身像が書いてあった。

「……って、大した事書いてねえじゃねえか!」

 載っていたのは、シャンゼリオンがその後もダークザイドと戦っていた事だけ。
 詳細なデータを書き記す事はできないらしい。シャンゼリオンの写真が載っており、その腕やら足に線が引っ張られ、その能力や必殺技が書いてある。
 それは殆ど既知のものだった。

「……でも、これはどうだ? シャンゼリオンの腕で呼べる超光騎士」
「おい、ちょっと待て。そんな便利なものがあるなんて俺は聞いてねえぞ……」
「とにかく呼んでみたらどうですか?」

 仕方なく、暁はそれを試すために燦然する。
 その辺は、面倒なので省略する。変身は普通に考えればヒーローにとっては尊い物だが、暁の場合は仕方がない。
 今回は特にバンクとかを使う事もなく、次のシーンではシャンゼリオンに変身していた。

「……というわけで、人の迷惑顧みず、やってきましたシャンゼリオン!」
「いいからさっさと呼べよ。おら、あくしろよ」
「まあそう焦るなって♪」

 それだけ言って、シャンゼリオンは、顔に腕を近づけて、三体の超光騎士の名前を呼ぶ。

「リクシンキ! ホウジンキ! クウレツキ!」

 まあ、これまためんどくさいので結論だけ言えば、三体のメカはクリスタルステーションからシャンゼリオンのところに現れるわけもなく。
 シーン……と静寂だけが残った。

「…………ただし、現在クリスタルステーションはA−10エリアの海上に出現していますが、まだ電気が通っていませーん。高圧電流を流すと復旧するかもしれませーん……だって」

 ラブが、リクシンキ、クウレツキ、ホウジンキの説明部分の追記を読み上げた。
 クリスタルステーションは、21時よりその姿を現すらしい。それは既に条件を満たしているのだが、そこに高圧電流を流すというのが地味に辛い。

「高圧電流っ!? ふざけんなっ、そんな芸当できるか!!」
「そういえばエンジンメモリの効果の一つにエレクトリックが」
「それだ、石堀、それ使え!」
「無理だ。A−10が遠すぎる」


133 : 黒岩、死す!勝利のいちご牛乳(前編) ◆gry038wOvE :2014/03/28(金) 23:14:51 i0df6Rfk0

 ……どうやら、三体の超光騎士は呼び出すのが無理らしい。
 暁は、このまま最終回まで……じゃなかった、殺し合いが終わるまでにクリスタルステーションに辿り着くのは難しいだろうと思った。
 施設と施設を移動できる超便利な道具でもあれば別だが、まさかそんな物があるわけがない。もしそんな不思議な魔法陣があったら悪の組織が利用するに決まっているだろう。

「……まあいいや。燦然解除っと」

 ここまで何とかなってきたわけだし、これからも超光騎士なしで何とかなるだろう。
 そう思って、暁は変身を解除した。

「おい、ちょっと待て」

 石堀がそんな暁を制止する。
 暁が、石堀が指差す方を見ると、そこには闇に溶けて現れる黒岩省吾の姿があった。







 突如、中学校の校庭に現れた黒岩省吾。彼のスーツは、以前見た時よりも泥や土に塗れ、ボロボロに破けていた。
 しかしながら、表情は妙な余裕に満ちており、一歩一歩と暁に近づいていた。

「……久しぶりだな、シャンゼリオン! 時間にして、そう……およそ7時間半ぶりだ。一睡するのにはちょうど良い時間か。人間の場合、睡眠時間は6時間半〜7時間半にした人間が最も長生きする」
「黒岩……っ! 二人とも下がれ……、こいつとは俺が一対一で勝負をつけるッ……!」

 彼を前に、涼村暁は身構える。彼が黒岩の前から庇ったのは、桃園ラブであった。
 ラブの前に立ち、手を広げている。
 黒岩は、そんな暁の姿を見て、鼻で笑う。

「……その様子では、貴様は貴様の美学を捨ててはいないようだな……確かに、ダークザイドよりマシな人間もいる、という事か」

 ゴハットを見て、そう確信した。人間にせよ、ダークザイドにせよ、愚かな者とまともな者がいる。別に、人間が生きていても、黒岩にとっては構わない。強ければ生き残っていい。ただし、弱ければ死ね。それが黒岩の望む世界だ。
 誇りを大切にしろ。強さを持て。それでいい。黒岩は食料である人間に対しても、ある程度の敬意くらいは持っている。

「……美学なんかねえ……。黒岩、てめえのせいで、凪が死んだ……っ! だから、俺はてめえを憎んでいるっ! それだけだ!」

 そしてまた、暁も黒岩省吾に対する憎しみや怒りが原動力となっていた。
 美学、そんなものと暁は無縁だ。まあ、探偵としてのロマンとか、「太く短く生きる!」とかそんな生き方が美学と呼ばれるのなら、それはアリかもしれない。

「折角会ったんだ。それだけ俺が憎いのなら……決着をつけるか、シャンゼリオン」
「ああ! だがな……その前にてめえに言っておく事がある!」

 暁は黒岩に強い口調で言い放った。
 暁の瞳は真剣そのものだった。

「お前は人の事を散々いい加減だとかバカだとか抜かしたが、それはお前の方だッ!」
「何……?」

 黒岩が、暁の言葉に興味を示した様子である。
 暁がまだ、これだけの憎しみを負いながらも、戦いよりも優先して黒岩に言いたい事があるらしい。
 それは、お互いいつ死ぬかわからないからの言葉だろう。

「前にお前は、日本のお茶の間に『冗談は顔だけにしろよ』と言う台詞が知れ渡ったのは、1982年に日本でテレビ放映されたアメリカの某ドラマを起源と言ったな!」
「それがどうした……?」
「それは嘘だ! 1975年の日本のテレビドラマ、松田優作・中村雅俊W主演、『俺たちの勲章』を一度見てみやがれっ! 第1話で思いっきり言っているからな!」
「何だと……っ!?」


134 : 名無しさん :2014/03/28(金) 23:16:41 i0df6Rfk0

 驚く黒岩の顔を見ても、まだ暁は満足しない。
 そう、暁の戦いは既に始まっているのだ。黒岩を力で倒す前に、黒岩に精神で勝つ。言葉で勝つ。
 何においても彼に勝つという事だ。
 そのために、暁は先ほど、図書室で勉強し、黒岩に勝る知識を得るべく、「テレビドラマ辞典」やら「昆虫採集辞典」やら何やら、色々と物色していたのである。

 暁は続ける。

「それからお前は、世界で最初のメタフィクションは1096年、イノーエット・シキが書いた『チャンゲリオン』という小説だと言ったな! あれはさっき俺が読んだ『使うとダサいしウザい加齢臭親父の大嘘大辞典』(※適当です)に書いてあったウソ知識だ! だいたい、イノーエット・シキとかチャンゲリオンとか嘘臭いだろ、気づけよ」
「なっ!」

 そんなものが実在していたのかはわからないが、暁は言った。たぶん、それは調べていないだろう。
 勿論、黒岩の知識は間違っている。誰かが適当に書いたものなのだから。暁の知識も適当だが、黒岩もどこかから得た冗談のような知識を本気にしているのだろう。

「更に! お前は、世界で最初の昆虫採集は紀元前600年の事例が何とか言ってたな! そんな事実はどこにもない! だいたい、昆虫採集なんて人類が始まって間もないころからやってるだろ」
「確かに……っ!」

 黒岩ははっとする。いま、自分は暁の知識を認めてしまった。
 いや、考えれば嘘だとわかるような知識をひけらかしてしまった己への……罪。

「要するに、お前の言っている事は嘘ばっかりだ! 口先だけのでまかせ野郎……ペテン師だ! だから俺たちはお前を信用すべきじゃなかった……! そこだけは、俺たちの負けかもしれない……だがしかし! 散々俺たちを騙してコケにし続けたお前を俺は許さない!」
「待て! 俺はちゃんと調べたっ! 確かに俺はお前たちを騙したが、俺の知識はでまかせじゃない! 正しいのは俺だ、俺が間違う事はないっ!」

 黒岩は、連日図書館でちゃんと調べものをして得た知識だ。人間界を掌握するために、人間界の知識が必要だと思って、毎日勉強した。
 そこから都知事となったというのに、それが嘘であるはずがない。

「いーや、お前は、子供たちに間違った知識を教える子供の教育上よろしくない猥褻野郎だ! 子供番組から出ていけ! テ●東の水曜夕方枠に、お前の顔は不適切なんだよ! 地方局で死亡回がお蔵入りになれ、アホたれ! お前のやっている事は全部まるっとお見通しだ、このインチキ手品師野郎!」
「お、お前にだけは言われたくない……!」

 暁は黒岩の悔しそうな顔で増長して、好き放題言っている。
 暁は既に勝ち誇った顔で、黒岩の言葉などに耳を貸さない様子である。

「だいたい騎士のくせに日本刀なんか持ちやがって! どこが暗黒騎士だよ、騎士らしい事してねえじゃねえか。だいたいあの頭の包丁はなんなんだよ。意味が全くわからん! お前のせいで毎回ビデオのパッケージが暗い! お子様が借りる気にならないだろ! 由緒正しきお子様向け番組枠にお前の顔を映すなんて許せねえ! テ●東のお偉いさんも、とってもご機嫌ナナメだぜ!」
「……い、異議あり」
「却下だ!」
「くっ……」

 反論ができない。いや、反論しようにも確証がない。一部が暁のハッタリだとも知らないし、なぜだか妙に真実味のある知識もべらべらと出てくるからだ。
 ヒーローによる精神攻撃により、悪の暗黒騎士のライフポイントが削られていく。
 黒岩は、ただただ愕然とし始めていた。

「さあ、これでまず、お前の一敗だ。お前の嘘が白日の下に晒され、お前の有罪は確定した! 罰として、俺にいちご牛乳を奢り、そして……死刑になれ!」

 要するに、暁としては黒岩を言い負かす事ができて気分が良い。これで心置きなく戦える。暁としては、そのままノリで戦闘の方も勝ちたいわけだ。
 しかし、黒岩としてはまだ負けるわけにはいかない。己の力を、もとい知識を振り絞って薀蓄を叩き付ける。

「……し、知っているか! 世界で初めての死刑は紀元前578年ローマのグラシナスという小さな村で……」
「それも全くのでたらめだ! 世界で初めての死刑が行われたのは、ローマではなく、古代バビロニアだ!」
「なにっ……!」


135 : 書き込むたびに名前欄が消えてめんどくさい :2014/03/28(金) 23:17:33 i0df6Rfk0

 だが、直後に暁が知識を反す。黒岩の精神にダメージがかかる。
 暁はふんぞり返る。遂に黒岩が薀蓄を言い始めても、BGMが変わらないレベルにまで来ていた。バックヤードにまで愛想を尽かされているらしい。いや、きっとBGM担当も愚かで、真偽もわからぬまま暁に乗せられているだけに違いない。──そう思いながら、黒岩は暁の目を見る。
 こいつが正しいはずがない。嘘に決まっている。
 黒岩も最後の意地のように、落ち着いたそぶりを見せながら、逆に暁を挑発しようとした。

「……ふ、フン……。信用できないのは貴様のその腐った知識の方だ。お前の言っている事こそ出鱈目だ。……フッ、だいたい……いちご牛乳だと? くだらんな……!」

 黒岩は、拳を握る。

「お前はいい年をした大人だろう? そんな子供の味に興味を持つなど……。まさか、お前は紅茶も知らんのか」

 黒岩は尚、暁の目を強く睨み、己の知識で暁へと精神攻撃をしようとしていた。
 いちご牛乳など、甘い物を求めるなど、脳が幼児そのままである証ではないか。
 大人ならば、紅茶の一つも飲めるはず。これを言われれば暁も立つ瀬はないだろう。
 黒岩は、そこから更に薀蓄で図に乗るコンボへとつなげようとした。

「知っているか! アールグレイという紅茶は中国の着香茶を気に入ったグレイ伯がそれを気に入って作らせ生まれたという……」

 すると、今度は石堀が、割って入るように言う。

「……おい、奇遇だな。俺も紅茶は好きなんだ。セント・バレンタインという銘柄のバニラ風味のブレンドティーがあってね。ピスタチオとココナッツを細かく刻んでいて、これがまた美味い。オススメの紅茶だったが、もう廃盤になってしまったらしい。何かバニラフレーバでオススメでもあれば、ここはひとつ黒岩センセイに聞きたいんだが?」

 石堀は妙に詳しい紅茶の知識を説明を開始した。
 黒岩も何を言っているのかさっぱりわからず、ポカンと口を開ける。挑発的な口調に、怒りを感じつつも、紅茶の話題では勝てそうにないので、話題をそらす事にした。

「そんな事よりコーヒーの話をしよう。コーヒーはブルーマウンテン4、ブラジル5、モカ1の混合豆を使ったものが一番美味い。これに匹敵するものは未来永劫生まれることはだろう」
「どう考えてもブラジル多すぎだ。本当にそんなコーヒー飲んでいるとしたらお前の舌がおかしい」
「俺の舌には合うんだ! 出せよ、出してみろよ、今すぐここに俺が言った最高のブレンドのコーヒーを出してみろ! この俺がすぐに飲み干してウマイと言ってやる!」

 黒岩が必死で自分の紅茶知識の浅さに話題を変えようとしてコーヒーの話題をしたものの、それも石堀に破られた瞬間に逆ギレし、無茶な要求を始めた。

「お、大人げない……^^;」

 ラブも黒岩に呆れ始めた。顔文字まで浮かべれば、彼女がどんな表情をしているかは察する事ができるだろう。

 だが、黒岩はかなり今ので精神的ダメージを負ったようである。紅茶知識を石堀に看破されてしまうとは……。この地味な男が紅茶好きだったとは知らなかった(実際紅茶が好きなのかはわからないが)。

「おい黒岩! 往生際が悪いぞ、誰がどう見ても、100対0でお前の負けだ! さあ、死刑執行の時だ。そしてお前に、冥土の土産に教えてやる! いちご牛乳はな、いちご5、牛乳5が、一番美味い……!」

 こっちのバカは放っとこう。しかし、残りの二人にこうまで言われたのは、黒岩としても地味にショックだ。確かに、比較的マシな人間だと思っていたが、黒岩が想像していた以上の難敵らしい。

「……」

 黒岩は、その時、周囲の人間の白い目を感じていた。憐れむように自分を見ている。周りに味方が誰もいない孤独と、己の誇りが打ち砕かれたのを感じた。


136 : こういうタイトルじゃありません :2014/03/28(金) 23:18:19 i0df6Rfk0
 しかし、黒岩は、辛うじて自分を保っていた。
 石堀の、ラブの、そして暁の白い目が痛い。突き刺さるようだ。血管がブチ切れそうなほどの怒りがわいてくるが、なんとか理性を保ち、心を落ち着かせる。
 今の彼の顔は、まるでド深夜に一時のテンションで書いたSSを後から見返すと酷すぎて目も当てられない事実に気づいた書き手のような、そんな顔だろう。
 だが、それでも大丈夫だ、怒るな……怒るな……。
 冷静に、クールになれ……。
 ……クール、そう冷静だ。
 冷静に……冷静に……










「……暁、貴様ァッ……!! とうとう俺を……本気で怒らせたなッッ! ただで済むと思うなッッ!! だいたい、さっきからいつ言おうか迷っていたが、俺は手品などしていない……ッ!!」










 ……しかし、どう堪えようとしても、黒岩は奮起せずにはいられなかった。
 己のプライドが傷つけられ、あろうことか涼村暁に己の知識を看破されるとは。
 それが許せず、黒岩の心の闇が増大する。ダークメフィストの闇は更に大きく膨らんでいく。

「貴様だけは……貴様だけは絶対に許さんッッ!! 死刑になるのは貴様の方だァッ!!」

 暁と黒岩がが近づき、対峙する。
 ここからは本当に、暁と黒岩ではなく、精神でも知識でもなく、力と力、命と命の殺し合いになるらしい。

「いちご牛乳と手品がそんなに気に入らないのか……!?」

 暁はそう思いながらも、燦然の構えを取った。
 同じく、黒岩も手を顔の前に翳している。
 二人はそれぞれ、変身ポーズを取る。

「ブラックアウトッッッ!」
「燦然!」

 両者の掛け声は同時だった。
 暁の体は再び超光戦士シャンゼリオンへ、黒岩の体は暗黒騎士ガウザーへと変身した。
 シャンゼリオンの手にシャイニングブレードが握られる。
 両者は、距離を取り、互いの剣で敵に斬りかかろうとした。そして、鍔迫り合いが始まる。
 ブレードが激突。両者の顔も近づき、殆どゼロ距離で怒鳴り合った。

「てめえ、にわか雑学知識を看破されて手品師扱いされたくらいでムキになりやがって! こっちは実質、お前に仲間を殺されてるんだぜっ! お前の数倍、俺はお前を憎んでいるんだよ!」
「いや、俺の方が貴様を憎んでいる! そもそも手品にはそこまで怒っていない!」
「いや、俺の方が憎んでいる! じゃあいちご牛乳か!?」
「いや、俺の方が憎んでいる! いちご牛乳も関係ないッ!」
「いや、俺の方が」
「いや、俺が」
「いや」
「い」
「i」

 小学生のような言い争いで、声を小さくしながら、シャンゼリオンとガウザーの力が相殺されて弾けていく。両者拮抗の鍔迫り合いが崩れた。


137 : 投票明日まで!よろしく ◆gry038wOvE :2014/03/28(金) 23:19:27 i0df6Rfk0
 ブレードは弾かれ、両者は距離を取り、じりじりと真横に歩く。

「お前が凪のラームを吸って、そこをダグバの野郎に襲撃された! ……あいつを殺したのは確かにダグバだがな、そこはお前も同じなんだよっ! お前のせいで凪は死んじまった!」
「フン……。それは貴様らが守り切れなかっただけの事……! もっと早く俺を殺せば、そうはならなかっただろうっ!?」
「ッ! てめえ……望み通りに殺してやる!!」

 シャイニングブレードを振るい、ガウザーに向けて剣圧を飛ばす。
 ガウザーもまた、日本刀を古い、剣圧でそこにぶつける。
 二つの風がぶつかり合い、弾ける。両者は互角だ。

「だいたい、お前は勘違いをしている……! 俺たちダークザイドは人間のラームが主食だ。お前が肉を食うのと何が違う!?」
「んなもん知らねえよ!」
「そうだな、貴様にこんな話をしても仕方がないか……! 俺が間違っていた……!」

 両者の剣はまたぶつかり合い、火花を散らす。右に、左に、相手がけしかけてくる剣技を全て交し合う。
 剣を防ぐ剣、剣を破ろうとする剣、二つはぶつかり合い、ラブと石堀はその様子をただ黙って見つめていた。

「もういい……っ! 何でもいいから、とにかくお前は気に入らねえっ! だから潰す、もうそれでいいんだ! 長々と喋りながら戦う殺し合いはロボットが出てくるアニメだけで充分だ! 実写の俺たちがやると寒いだけなんだよ! この台詞も長いけどな!」
「そうだな、俺とお前は宿命のライバル……戦士の定め、それだけが戦う理由だ。それで充分だろう」
「そういう宿命のライバルとかいうのが一番寒いんだっ……!」

 シャンゼリオンの一撃が、一閃、ガウザーの左肩を斬りつける。
 しかし、それと同時にガウザーもまた、シャンゼリオンの脇腹に一太刀浴びせる。

「くっ……!」
「ちっ……!」

 ガウザーの左肩が抉られ、シャンゼリオンの脇腹のクリスタルが割れる。
 どうやら、本格的にダメージを負いながらの戦いになるらしい。
 意地と意地のぶつかり合いのようなものだ。互いに相手への怒りが頂点に達しており、その程度の痛みでは戦いに支障はない。
 シャンゼリオンは、そんなさなかでも胸に手を当てた。

「……ガンレイザー!」

 シャンゼリオンはガンレイザーを取り出す。その瞬間、ガウザーは距離を取る。至近距離からでは、飛び道具は当たってしまう。
 ガンレイザーは、ガウザーのいる地点を狙い、ビームを発射する。
 ガウザーはそれを右に左に回転しながら避ける。関係ない場所にビームが命中して、校庭の砂を焼く。砂埃が舞い上がる。

「なっ!?」

 怪我の功名か、舞った砂埃はガウザーの目に入り、ガウザーは左手でその目を塞いだ。
 咄嗟の出来事に、視界がぼやける。シャンゼリオンの事だから、おそらく策はなく、ただ偶然の出来事だろう。

「シャイニングアタック!」

 そこにできた隙をシャンゼリオンが必殺の叫びで攻撃しようとする。
 シャイニングアタック──クリスタルの結晶がもう一人のシャンゼリオンを作り上げ、それがガウザーの体の方へと、ポーズを決めて飛んでいく。
 相手に隙ができた瞬間が使いどころの必殺技である。
 クリスタルのシャンゼリオンはガウザーの胸元へと近づいていく。これが発動すれば、本来ダークザイドの怪物たちは動きを縛られる──が。

「ふんッ!」

 しかし、ガウザーはそれにも屈しない。
 目に入った砂埃を振り払うと、片手の日本刀でクリスタルのシャンゼリオンを弾き返す。
 一刀両断、シャンゼリオンの幻影が真っ二つになり、崩れ去り、消えていく。

「マジかよ……! そんなのアリ……!?」


138 : ここで前編おわり ◆gry038wOvE :2014/03/28(金) 23:20:37 i0df6Rfk0

 シャンゼリオンも驚いた様子だ。
 シャイニングアタックは必中の必殺技だと確信していたが、そうではなかったのである。
 騎士の意地と怒りがシャイニングアタックの縛りを振り払い、あっさりとシャンゼリオンの攻撃を回避する。

「トドメの技はこのように使うのだッ!!」

 ガウザーはすばやく駆け出し、跳躍する。空中で膝を曲げ、忍者のように身軽に、シャンゼリオンの元に落ちていく。

「秘技! 皇帝暗黒剣ッ!」

 手に持った日本刀が、シャンゼリオンの前で横一閃、凪いでいく。
 ガウザーに原作中で必殺技も何もないが、この居合は刀を持つ戦士としては、まあオーソドックスな一撃であった。技の名前もおそらく適当に考えたに違いない。とにかくオーソドックスな技なら使いそうだし問題もないはずだ。

「クソッ……! なんで……っ!」

 シャンゼリオンは、ガウザーが横に刀を凪いだのは見ていたが、それは数メートル先で刀を振るったシーンであった気がした。
 それが赤い剣圧となって、シャンゼリオンの体をぶった斬っていたのだ。
 そして、降り立ったガウザーが叫ぶ。

「知らないのか!? 強敵に安易に使った必殺技は、必ず破られるッ! 早い段階での必殺技は敗北の兆しだ! そして、逆に俺の必殺技だけは、必ず成功するッ!」

 ガウザーが今の勝因を語る。
 なぜ、シャンゼリオンの攻撃が不発で、ガウザーが成功した理由がごくごく単純だった。

「くそ……なんか今日は一段と薀蓄祭りだな……あれ、各回ごとに一回じゃなかったのかよ……!」

 シャンゼリオンは腹部を抑えながら、それでも立ち上がる。
 ガウザーの場合、薀蓄も立派な精神攻撃だ。とにかくウザいので、相手がイライラする。たまに関心する人がいると、ガウザーの士気が上がる。
 要するに、薀蓄祭りという事は、それだけガウザーのパワーがアップしているという事だ。

「……でもな、今のもまた出鱈目だッ! お前は嘘しか言わないんだなっ!」
「何だと……?」

 シャンゼリオンの必殺技が不発だったのは仕方がない。
 タイミングを間違えたのだろう。しかし、黒岩の知識など、所詮は殆どの場合、どこかしら間違っているのだ。

「黒岩! お前の理屈で返すなら、どっちにしろ勝つのは主人公の俺なんだ、お前じゃない! そしてお前は今回のタイトル的に見て、間違いなく、今ここで死ぬ!」

 ※この台詞はあくまでイメージです。『主人公の俺』と書いてある部分には「この俺」、『今回のタイトル』と書いてある部分には「状況」というルビを振ってください。

「フン……その自信はどこから湧いて来るのか……見せてもらおう」
「見せてやるよっ! おらぁっ!」

 シャンゼリオンは、よろよろの体でシャイニングブレードを振るう。
 剣圧がまた、ガウザーの方へと殺到する。

「だから無駄だっ! この程度の攻撃……」

 ガウザーはそれを両断し、ガウザーの視覚を遮っていた剣圧が消える。
 そこにまた、一人の戦士の影が駆けてくるのが見える。
 ガウザーは、その戦士を無謀に思うが、彼は叫んだ。

「リクシンキ! ホウジンキ! クウレツキ!」
「何っ……! 卑怯な……っ!」

 確かこの三体はシャンゼリオンのサポートメカ。まさか、それを利用して攻撃しようとしている。シャンゼリオンは囮だったのでは──
 そう思い、ガウザーは空を見上げた。

「嘘だよバーカッ! 一対一っつたろ! 星空とともに死ねバカッ!! クローバーストッッ!!」

 そして、その隙にシャンゼリオンは既にガウザーの前、零距離まで場所を縮めていた。
 虚空を見上げ、サポートメカの登場を予測していたガウザーであったが、この時のシャンゼリオンはまだサポートメカなど所有しておらず、その呼び出し方を知る事はあっても、反応は来ない。つまり、ガウザーが見た空はただの星空。
 シャンゼリオンが呼べば必ず来る仕組みがゆえ、ブラフには使えないはずの代物だった。
 ──しかし、三体の超光騎士がいま、眠りについている。それがゆえ、再び呼び出される事はなかった。

「がっ……!」

 ガウザーの腹に、光線が発射され、彼の体は一瞬で吹き飛んだ。






139 : 黒岩、死す!勝利のいちご牛乳(後編) ◆gry038wOvE :2014/03/28(金) 23:22:14 i0df6Rfk0



「くっ……」

 ガウザーは、いや、黒岩省吾は立ち上がる。
 いま腹部に受けたダメージは、確かに黒岩の体を吹き飛ばすほどの衝撃であった。
 しかし、致命傷には至らない。黒岩を何とか生存させていたし、歩くのも動くのも容易であった。

「ひ、卑怯な……」
「卑怯じゃないぜ。俺はあらかじめ、一対一の勝負だと言った。だから、邪魔者が来る事はありえないんだ。……だから俺はただ、適当な名前を叫んだだけなんだぜ?
 ……俺はお前との戦いを絶対に邪魔させない。それがお前の言う美学って奴だろ。……俺は、お前が俺を信じないと思った。俺の事なんてお前は信じないと、俺は信じた。そして、お前は俺が卑怯な手を使うと信じて、負けたんだ」

 ……確かに、超光騎士が来ると思って、空を見上げたのは黒岩の方であった。
 暁を信じなかった黒岩の敗北であるともいえる。

「……フン。確かに今の一撃は、そうだな。……ライバルである貴様を信じなかった、この俺の敗北。……だが、決闘はまだ終わっていない。死刑ならばそう、どちらかが死ぬまでが戦いだッ!! ここでは終わらん、俺が得た新しい力を、存分に受けるがいいっ……!!」

 黒岩は、再び立ち上がると、今度はダークエボルバーを取り出した。
 黒岩の手に握られた細長い物体は、彼がこの殺し合いで得た新たなる力が込められている。

「な、なんだありゃっ……!?」

 ダークエボルバーを初めて見るシャンゼリオンは戦慄した。

「俺は、俺は生きる……。貴様を倒して生き残る……。もはや、貴様を倒す事が俺の最後の生きがい。俺がこの殺し合いの場で手に入れた新しい力だっ! キサマを殺すために今、使わせてもらう……ッ!!!」

 そして、黒岩は、ダークエボルバーを抜き、ダークメフィスト・ツヴァイへと変身を果たす。その姿は、異形ではあるもののダークザイドのものとは全く異なるものであった。
 赤と黒に塗れた体や、銀色の頭の怪物。──右手には、シャイニングクローのようなかぎづめを持っている。
 必殺技の充実度もさることながら、純粋なパワーにおいてもダークザイドの姿よりも上手。
 更なる力として、黒岩はそれを使う事にした。

「死刑執行の時だ、シャンゼリオン……! ハァッ!!」

 右腕から火炎状の光弾・ダークフレイムが放たれる。
 棒立ちしていたシャンゼリオンのもとに、ダークメフィスト・ツヴァイの一撃が命中、彼の体は吹き飛ぶ。

「うわあああああああああああっっ!!」

 想像だにしない威力に、シャンゼリオンは起き上がれなくなった。
 悲鳴とともに、彼は石堀とラブの前で崩れ落ちる。彼らは結構距離の離れた場所で傍観していたはずだが、まさかその距離を一瞬で詰める威力とは。

「暁さんっ……! だいじょう……」
「近寄るな! ちょっと痛いだけだ……」

 シャンゼリオンは、ラブに心配され、何とか立ち上がろうとしたが、それでもまた膝を落とした。
 ダークメフィスト・ツヴァイの方を、シャンゼリオンは睨んだ。

「フッハッハッハ……感じるぞ……新たな力を……ダークメフィストの力を……。もはや、一対一などどうでもいい、貴様ら纏めて片づけてくれる……ッ!!」

 そう、ダークメフィスト・ツヴァイは暴走を始めていた。
 闇と力が、彼の心を変異させる。自分の敵は全て排除。シャンゼリオンとの決着も、もはやついたも同然。残る敵は全て皆殺しで構わないはずだ。
 暁たちによる精神攻撃や、ガドルに大敗した怒り……全てが彼を怒らせる。

「ハァッ!!」

 メフィストクローからメフィストショットが放たれる。
 その行き先は、石堀、ラブ、シャンゼリオンの三人の元だ。

「危ないっ!」
「きゃーっ!」

 石堀は咄嗟にラブを庇い、シャンゼリオンが二人の前の壁となるため、立ち上がる。そのまま、シャンゼリオンはメフィストショットの直撃を受けた。

「ぐっ……あああああっ!!」

 しかし、何とか吹き飛ばされず、シャンゼリオンは全エネルギーを胸元に集中して、そのエネルギーを弾き返す。弾き返された光弾は、地面へと跳ね返され、砂埃を舞わせた。
 それでも、シャンゼリオンが負ったダメージは巨大だった。
 シャンゼリオンの胸元に走った衝撃に耐え切れず、再びその場に崩れ落ちる。


140 : 黒岩、死す!勝利のいちご牛乳(後編) ◆gry038wOvE :2014/03/28(金) 23:22:42 i0df6Rfk0

「くそ……っ」

 あまりの厖大なダメージに、クリスタルパワーは拒絶反応を起こし、シャンゼリオンの変身が解け、涼村暁の姿になる。
 暁は脇腹を出血していたが、それ以上に、いま受けた胸の痛みが生半可なものではない。
 それでも尚、ダークメフィスト・ツヴァイを睨んでいた。

「……黒岩、てめえ」
「フッハッハッハッハッハッハ!!」

 ダークメフィスト・ツヴァイは高笑いをしながら、暁たちの姿を眺めていた。
 暁は、立ち上がれない。もはや、敵に勝ち目はなさそうだと、ダークメフィスト・ツヴァイは踏んでいた。

「力を貸すか、……暁。奴はもう、一対一で戦う気はないらしい」

 石堀が言う。その手には、アクセルドライバーとアクセルメモリを既に装備している。
 しかし、暁はそれを拒絶した。

「いらねえっ……! 絶対に使わねえ……っ!! あいつを倒すのは俺だ、何としてもな……!!」

 暁は我が儘であった。そして、この時ばかりは妙に頑なであった。
 何が彼をそうさせるのかはわらかない。
 それでも、石堀の力も、ラブの力も借りずに、ただ黒岩をブチのめしたい感情が暁を支配する。

「なら、このアクセルドライバーをお前に貸してやる。シャンゼリオンの力は今は──」

 石堀はアクセルドライバーを暁に差し出した。それをまた払いのける。

「いらねえッッ!! 俺は誰の力も借りずにアイツをぶちのめすッッ!! 俺は超光戦士シャンゼリオンなんだよ……ッッ!!」

 アクセルドライバーの力もいらない。
 しかし、暁は生身だ。生身でダークメフィストに立ち向かうなど、馬鹿げているなどという次元を超えているはずだ。
 暁は、胸を押さえながらも、一歩、ダークメフィスト・ツヴァイに近づく。

「なんだかわからないけど……黒岩、てめえ、ダークザイドの誇りとかいうのはどこに行ったんだよッ……!」

 ダークメフィスト・ツヴァイは、メフィストクローを暁に向ける。
 ラブと石堀が心配で、一歩前に出ようとするが、暁はそれを拒絶する。

「黒岩、確かにお前は最低のバケモノだ……! だが、最低のバケモノは、もっと最低のバケモノにはならないと思っていた……!」

 最低の遥か下にある最低。
 そこに黒岩は行ってしまったのだと、暁は思った。
 怒りが暁の感情を支配していく。
 メフィストクローは、今度こそ一撃で彼を吹き飛ばすために、闇のエネルギーを周囲から吸収し、更なるエネルギーを高めようとしていた。

「今のお前は、最低中の最低のバケモノだ……。お前が言っていた美学とかいうのは、どこに消えちまったんだよ……! 今のお前には美学も誇りもねえじゃねえか……!」

 暁はまた一歩前に出る。
 闇のエネルギーは、まだダークメフィスト・ツヴァイの腕で装填される。
 邪魔者がいない限り、そのエネルギーはより膨大になっていく。

「お前は……ダークメフィストじゃねえ……そうだろォッ?」

 暁は、それでもまだ、前にいる敵に怒りを向け続けた。
 そう、死ぬかもしれない。しかし、それは負けじゃない。黒岩は黒岩としての誇りを取り戻さない限り、死んだも同然なのだ。
 それなら、暁の勝ちになる。
 暁のモットーは、「太く短く生きる事」だ。一時の楽しみのために残りの人生を犠牲にするくらい造作もない。楽しければいい。そして、ムカつく奴に勝てるだけでも、いいのかもしれない。


141 : 黒岩、死す!勝利のいちご牛乳(後編) ◆gry038wOvE :2014/03/28(金) 23:23:19 i0df6Rfk0

 ダークメフィスト・ツヴァイのエネルギーの充填が完了する。後は、放つのみ。しかし──

「……お前が俺のライバルを名乗るなら、お前はダークザイドの……ダークザイドの暗黒騎士、ガウザーって事だろッッ!!」

 その言葉が、──闇のエネルギーを溜める腕に、少しの迷いを生じさせる。
 エネルギーの充填は足りている。しかし、放てない。
 いや、放つ事ができるはずなのに、意識のどこかが邪魔をしてそうさせない。
 自分の事を忘れ、そのエネルギーをどうする事もなく、ダークメフィスト・ツヴァイは頭を抱えた。

(くっ……何故、こいつは……)

 この暁が今、どうしようもないほどに強く見える。
 身体的には弱い。そこを突き詰めれば勝てる。
 だが、何故か──そこを倒してはいけない気が、黒岩にはしていた。

「この俺のライバルは、暗黒騎士ガウザーだ!! ダークメフィストなんかになっちまったお前に、この俺の……超光戦士シャンゼリオンの、ライバルを名乗る資格はねえッッ!!!! お前に倒されても、俺は負けを認めねえッッ!!」

 それはかつて、ガウザーが聞いた言葉。そして、三人の闇生物がその言葉通り、シャンゼリオンのライバルたる資格をはく奪された瞬間の言葉だった。
 暁はその言葉など知らない。しかし、ここにいるのも、将来黒岩が会う事になるのも、同じ暁だ。口から出てくる言葉は同じ。
 憎たらしい言葉も、黒岩を奮い立たせる言葉も……。

「ぐっ……ぐおおおおおおおおおおっっ!!」

 そう、俺は超光戦士シャンゼリオンのライバル、暗黒騎士ガウザーだ。
 シャンゼリオンのライバルを狙った四人の闇生物の中で、唯一、暁が認めた男。
 この暁も変わらない。いずれは反発し合う光と影となるはずだった。
 暁は、ここでも、しばらく黒岩といた事で、その想いを確信したに違いない。

 だが、今黒岩は──その資格を自ら溝に捨てようとしてしまったのだ。



「シャン……ゼリ……オォォォォォォォンッッ……!!」



 ダークメフィスト・ツヴァイのマスクが割れる。
 闇の力を打破するだけの意思、誇り、強さ、そして美学。
 黒岩省吾を縛っていた闇の力が解き放たれていく。
 シャンゼリオンを倒すのが、彼の目的。それは生きがいではあるが、卑怯な真似を使うわけでもない。
 黒岩省吾と、暗黒騎士ガウザー以外の力で手に入れるわけにもいかない。

 黒岩省吾。
 暗黒騎士ガウザー。
 ダークメフィスト・ツヴァイ。
 三つの姿に、交互に彼の体に幻影が重なる。
 いずれがホンモノか──それは、暗黒騎士ガウザーに決まっている。
 しかし、黒岩省吾としての姿もまた、彼の真実。
 唯一のニセモノは──

「はああああああああああああああああああっっ!!」

 ──ダークメフィスト・ツヴァイ、今の自分の姿。
 偽りの自分を取っ払い、全てを「己」に近づける。
 闇の力さえ、今の自分にはいらない。それを手放し、己を己として戦うのが、暗黒騎士ガウザーとしての誇りだ。

(あ、ありえない……自力でメフィストの闇を振り払っている……)

 石堀は、己のもとに闇の力が返ってくるのを感じていた。
 少しずつだが、確かに全て、それは石堀のもとへと返還されている。
 それだけの意志、それだけの誇り……。

「闇の力よ、消え失せろ……ッッ!! そうだ、……俺は……俺は、ダークメフィストなんかじゃない……ッッ!! 俺は、暗黒騎士ガウザー、黒岩省吾……!! 超光戦士シャンゼリオン──涼村暁のライバルだ!!」

 そう、彼の心は、闇の力を打ち消すほどであった。






142 : シャンゼリオンがんばれー ◆gry038wOvE :2014/03/28(金) 23:23:58 i0df6Rfk0



 そして、再び、二人の男が対峙する。
 一人、涼村暁。涼村暁は私立探偵である。
 一人、黒岩省吾。黒岩省吾は東京都知事である。
 二人は互いの目と目を見る。その瞳は、怒りに満ちていたが、同時に、不思議な喜びにも満ちていた。

「……暁、どうやら今の一撃でかなりボロボロのようだな。これを使え」

 黒岩は暁に、小さな銃を渡した。暁は、黒岩から直接手渡されたその銃を、訝しげに見つめた。それはデリンジャーと呼ばれる銃だったが、暁は知らない。

「なんだよ、これ……」
「俺は卑怯な手を使って貴様を攻撃した。その傷は、その時のものだろう。……ならば、今貴様がそれを俺に放つ事で、この戦いは初めて平等となる。弾丸は二発、さあ……好きな所に命中させてみろ!」

 黒岩は両手を広げた。
 暁は、手元のデリンジャーを強く握りしめた。
 そして、よく狙いを定め、引き金を引く。

 二発の弾丸は、見当違いのところに当たった。黒岩を狙う気があったとは思えない。

「……悪い、両方外れたわ」
「……何をやっている、暁」
「いや、なんかさ。こういうのは俺の好みじゃないっていうか。どっちにしろ、俺が勝つんだし……いいじゃん」

 暁は、弾丸も入っていないデリンジャーを校庭に捨てた。
 どうやら、わざと外したらしい事は明らかである。

「そうか……。ならば、いつまでもこんな姿で戦うワケにはいかないな。蹴りをつけるぞ、シャンゼリオン」
「そうだな……ダークザイドのバケモノ! 暗黒騎士ガウザー!」

 二人はお互いの姿を見ながら構えた。

「燦然!」

 ──燦然、それは涼村暁がクリスタルパワーを発現させ、超光戦士シャンゼリオンとなる現象である。

「ブラックアウト!」

 ──ブラックアウトとは、黒岩省吾がダークパワーによって、暗黒騎士ガウザーに変身する現象である。

「シャイニングブレード!」
「ガウザニングブレード!」

 わけのわからない剣の名前を叫びながら、二人は激突する。
 互いの剣が、お互いの体を斬りつけ合う。その痛みさえ感じない。その痛みさえ心地よい。
 どういう原理かわらかないが、二人の体から火花が散る。もはやその原理もどうでもいい。
 この戦いの行方は誰も知らない。

「もはや今回のタイトルなど関係ない……この法則全てを超えて俺が勝ってもおかしくはないな、シャンゼリオン!」
「いーや、おかしい。何故なら俺はスーパーヒーロー、シャンゼリオンだからだ!」

 無情なタイトルさえ、彼は打ち破る気でいた。いや、打ち破った。どちらが死ぬとしても、それは表題のせいでも運命の仕業でもない。それは、暁と黒岩自身の力で勝ち取る結末だ。
 シャンゼリオンに勝利する。それ以外はもはや、彼も何もいらない。


143 : ◆gry038wOvE :2014/03/28(金) 23:24:37 i0df6Rfk0
 ガウザーに勝利する。それ以外は、どうなってもいい。

「その法則さえ打ち破る! それがこの俺、暗黒皇帝、ガウザーだからだ!」
「やってみろよ! タイトル詐欺なんざ、お前には一万光年早いんだ! そういうのは90年代初頭の戦隊ヒーローがやるものなんだっ!」

 どちらが勝利するのか、行方は誰にもわからなかった。
 黒岩が勝ってもおかしくない。黒岩は死なず、暁が死んでもおかしくはない。
 もともと、シャンゼリオンのタイトルは脚本家が適当に決めているのだ。
 そのくらいの壁は、彼らならばいつでも打ち破れる。
 そう、今の彼らならばメタ的な法則など、全て打ち破ってでも勝てる気がしていた。

「来週から、『超光戦士シャンゼリオン』は『暗黒騎士ガウザー』へとタイトルを変える! そして、俺は皇帝へと上り詰める!」
「いや、来週からはテコ入れで新しいライバルが出てくるね……っ! お前はまるでいなかったように普通に物語を進行させてやる!」

 ちなみに、この辺りの言葉は全てイメージだ。実際は、「お前を倒す! そして、俺は皇帝へと上り詰める!」、「いや、俺は負けない! お前の事は忘れてやる!」とか、そんな会話が繰り広げられている事だろうと思う。ここまでの会話は実際、殆どそんな感じだろう。あるスーパー戦隊が外道衆を倒す時に映画とテレビ版で全く別の台詞を言っているのと同じ理屈だ。
 剣と剣がぶつかり合う。
 正義と悪とがぶつかり合う。
 ライバル──その言葉は、どちらが勝ってもおかしくはない、不思議な言葉。

 二人は、互いに距離を取った後、離れる。
 トドメの一撃が繰り出される瞬間だ。

「シャイニングアタック!」

 遠距離からの攻撃、そしてトドメはシャイニングアタックに決まっている。
 クリスタルのエネルギー体はガウザーの胸元に向けて進んでいく。

「ガウザーラッガー!」

 ガウザーの頭部の斧から、闇のエネルギー体が現れ、その頭部と同じ形の鋭利な攻撃を放つ。ガウザーは、制作スタッフが最後まで使うかどうか悩んだと言われる攻撃を繰り出していた。
 シャイニングアタックのエネルギーに向かって、ガウザーの頭の形をしたエネルギー体が飛んでいく。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」
「はああああああああああああああああああああああああっっ!!」

 両者は激突する。
 そして──


「何っ──!?」


 ──ガウザーラッガーが、シャイニングアタックに弾かれ、そのままシャイニングアタックのエネルギーがガウザーの体を貫通した。

「ば、かな……っ! くっ……!」







 ……星空が輝く。
 ここに来た時と同じ、満点の星空だった。
 星の数を数える。ひとつ、ふたつ、みっつ……四十八まで数えたが、まだ星はあるので、やめた。

 星空が見える校庭で、黒岩は倒れていた。そして、星の数を数えていた。きっと、からっぽの星ではない。そこにはいくつかの物語が刻まれている。
 あの星の数だけ、世界があるとすれば、黒岩がシャンゼリオンに倒されずに逝く世界もあったのだろうか。
 ……いや、きっとある。


144 : 黒岩、お前って奴は… ◆gry038wOvE :2014/03/28(金) 23:25:24 i0df6Rfk0
 誰も知る由はないが、本来の歴史の黒岩省吾は、涼村暁との戦いではなく、自分に叛逆した子供に撃たれ、命を落とすはずだったのだ……。

「暁……」

 敗北し、倒れた黒岩のもとに、暁が。別方向から、石堀とラブが駆け寄ってきた。
 黒岩省吾は、その姿を目に焼き付ける。最初にそこに辿り着いたのは暁だった。

「……黒岩」
「暁、どうやら俺の完敗のようだ。……だが、俺とお前はお互い、全力を尽くして戦った。これは他の誰が強要した運命でもない。どちらが勝つも、どちらが負けるも……全て決めるのは俺たち自身だった。そして、お前が勝った……これはシナリオ通りの結末じゃない……誰にも操られない、俺たちの戦いだ」

 たとえ、この物語のタイトルで黒岩の死が予言されていたとしても、死亡者の名前として載るのは涼村暁だったかもしれない。それほどの激戦だった。この戦いは、何事にも左右されず、ただ当人たちの力だけで戦い、決着したのである。
 そう、誰の介入もなく、ただ、お互いの力の差だった。そんな戦いだった。

「そうだな……」
「そうだ、罰のいちご牛乳は、貴様にくれてやる。いいか、味を想像しろ……。あかねっ娘の美味いいちご5、自然放牧の牛から取れた最高級の牛乳5……そんないちご牛乳だ……どうだ、美味いか……」

 黒岩にはもう、いちご牛乳を奢る力などない。
 視界もぼやけ始めていた。体は消え始めている。
 暁の口に、いちご牛乳など流れ込んでは来ない。しかし、暁は、虚勢を張るように答えた。

「ああ、美味い……。こんなに美味いいちご牛乳は生まれて初めてだ。……やっぱり、いちご牛乳はいちご5、牛乳5に限るな。……じゃあ、俺はお前に、死ぬ前に特別にコーヒーを奢ってやる。どうだ、美味いか……」

 暁の言葉は、黒岩の耳に辿り着いた。
 その言葉で、黒岩は自分が思う最高のブレンドのコーヒーとして流れ込む。

「……ああ、確かに美味い。どんな秘書が作ったものよりもな」

 暁と黒岩は、このひと時の戦いを楽しんだ。その満足感が、互いに飲み物を奢るのと変わらないほどの、ときめきを与えた。
 それでいい。お互いに、それで充分だ。

「黒岩さん……」
「桃園ラブ、いや、女といえど君も戦士か。キュアピーチと呼ぼう……。キュアピーチ……君は、暁に何か言ったのか……」
「……えーと……」

 そう、確かにラブは、暁に依頼した。
 必ず勝てと、そう暁に依頼した。デート一回と引き換えだった。
 悩んだラブを前に、黒岩は察した。

「……コイツは相当の女好きだ。女の言葉だけは裏切らんだろうな。君が生きろと言えば、コイツは何をしても生きる。……なるほど、それが俺の敗因か……こいつの女好きには敵わん」

 黒岩は冗談のように笑った。

「すまないが、二人は行ってくれ。……最後に話すのはコイツで在りたい。こいつこそ、本当の、終生のライバル……最後の時もまた、俺たちは二人、言葉をぶつけあって戦う存在でありたい」

 黒岩は、ラブと石堀にそう言った。
 石堀とラブは、少し躊躇った後、黙ってどこかへ消えた。







「……暁」
「なんだよ、夜に男と二人きりなんて、つまんねえ夜だぜ、本当に……」


145 : ◆gry038wOvE :2014/03/28(金) 23:25:58 i0df6Rfk0
「同感だ」

 暁と黒岩は、そう言ったが、別に悪くはないと思っていた。
 この黒岩省吾だけは認めてもいい。この涼村暁だけは認めてもいい。
 だが、黒岩は別に男二人の夜を満喫したくて彼以外を立ち退かせたわけではなかった。

「暁、聞け。俺を、ダークメフィストにしたのは、あいつだ……」
「あいつ?」

 そう、彼はダークメフィストとなった理由を打ち明けなければならない。
 人間を闇に飲み込ませる能力を持っているのは、あいつだ──。

「……石堀光彦だ。奴に気を付けろ……」

 その名前を知った時、暁の中に悪寒がした。
 今までずっと傍にいた人間が、誰かを悪の力に飲み込ませたというのである。

「……おい、マジかよ。最後までインチキじゃねえだろうな」
「おそらく……間違いない……」

 メフィストの力が消え去った今、黒岩は記憶操作の影響を受けない。メフィストになる直前の記憶を思い出しており、それを確信できる。
 メフィストである時は曖昧だった記憶も鮮明になる。
 石堀は他人の記憶が制限できるが、この場において、石堀の記憶制限は効果がないのだ。予知はできても、他者の記憶に干渉する事はできない。つまり、黒岩は石堀の行動を一瞬でも知っている。
 だから、黒岩はこうして、暁に石堀の真実を打ち明けられた。

「奴をよく、見張っておけ……。奴に欺かれるフリをして、いつでも奴の裏切りに対応する準備をしておけ……。奴はおそらく、今は危害を加えない。きっと、その時が来るのを待っている。その時まで、奴を逆に見張れ。そして、その時が来たら……女を、守れ。俺の道具は、全てお前に預ける」

 暁は、黒岩の言葉に頷いた。
 そして、全てを託したら、あとは勝者を讃えるのみであった。

「シャンゼリオン、お前は見事だった……。やはり戦士だな」
「お前もそう……見事さ。最後、お前に一撃受けたパンチが、今も効いてるぜ」

 パンチ──。
 黒岩は、そんなものを放った覚えはなかった。しかし、確かに暁の頬には痣ができている。
 いや、そうか──。シャイニングアタックの直撃の際、無我夢中で、ガウザーはシャンゼリオンに一撃でも浴びせようと、拳を突き出したのだ。
 己の中にあった戦士の血が、ガウザーをそうまでさせたらしい。
 なるほど、自分が想像した以上に良い勝負、そして良い執念であったのだ。

「暁、最後に一つだけ言っておく事がある」
「……言ってみろよ。まあ、聞いてやらない事もないぜ」

 そして、黒岩はいつも薀蓄を披露する時のように得意げに、言葉を紡いだ。

「知っているか……! 世界で最も素晴らしい決闘は、日付さえもどこにあるのかさえもわからない……この時、この場所で、超光戦士シャンゼリオンと暗黒騎士ガウザーによって刻まれた……! だが、この戦いはいずれ誰からも忘れられる……記録に残らず、やがて忘れられ、この一戦は誰にも知られる事なく、朽ち果てる! それでも尚、広い世界の片隅で……記録さえできない場所でひっそりと輝くだろう……! そう、それこそが俺が見つけ出せなかった、俺の過ちだ……! 本当に素晴らしいものは記録ではない、記憶に残り続けるものなのだ……!」

 世界で最初、世界で最高──そんなものは、広い世界のごく一部でしかない。
 誰にも見えない場所があるというのに、そんな言葉に何の意味があるというのだろう。
 黒岩は、自分の薀蓄の誤りが、一体どうして生まれたものなのか知った。
 記録に残っているそれを、記憶には残さなかった。どんな偉業も、データとして見ていた。それだけなのだ。だから、しっかりと細部まで覚えられなかった。
 その記録を、想いも全ても記憶に残せば、間違ったデータなどにはならなかっただろう。

「さあ行け……。俺も戦士だ、ライバルに最期の姿を見られたくはない……」

 黒岩は、最後に暁をそう急かした。
 ヒーローは、悪役に背中を向けて、それで去ればいい。
 そのまま画面に向かい、フェードアウトすればいい。
 いや、ガウザーが勝ったとしても、きっとそうする。
 青臭いひと時を終え、けじめをつける時が来たのだ。


146 : 井上敏樹先生リスペクト ◆gry038wOvE :2014/03/28(金) 23:27:11 i0df6Rfk0

「……わかった」

 暁は、そう言って黒岩の視界から姿を消した。
 仲間のもとへと、そして、仲間の皮を被った敵のもとへと、奴は向かっているだろう。
 まだ戦いは続く。まだあいつには戦士としての使命がある。
 暁は、一度だけ振り向いたが、それでも、またラブと石堀の元へと向かった。

(そうだ……誰より輝け、お前はこの俺に……皇帝に勝った戦士だ……)

 黒岩の体が消えていく。

(時を越えて、輝き続けろ……!)

 暁はもう、振り向く事なく過ぎ去っていく。



「──俺ってやっぱり、決まりすぎだぜ!」



 暁の声が聞こえる。
 お互いの心には、もはや一欠片の不安も、不満もない。
 奴は勝った。勝者の叫びだ。あれほど憎たらしい声をあげるのであれば、この先も過ちを犯したダークザイドを躊躇なく葬っていけるだろう。そんな後ろ姿に安堵する。
 安堵して、戦士としての役割を終えた。
 これで暁との因縁は決着したのだ。あとは、完全に消えるまでの間、ライバル以外の事を考えても良い、自由な時間がある。
 ──とはいえ、それは少ないが。

「エリ……」

 僅かであっても、戦士としての役目を終えた男は、愛しい女の名前を呟く事を許された。
 人間界でできた恋人──自分に惚れた女のラームを吸う黒岩にとって、唯一そのラームを吸う事ができない相手、それが南エリだった。
 彼女の笑顔が、最後に、彼女の瞼の裏にあったのかもしれない。


【黒岩省吾@超光戦士シャンゼリオン 死亡】
【残り18人】







 暁と、ラブと、石堀は保健室にいた。この保健室は誰かが使った形跡があり、おそらくずっと前に誰かが利用したであろう事は明白であった
 間もなく、22時に差し掛かろうとしている。暁は、そこにあるものを適当に使って、石堀に消毒してもらっていた。
 しかし、そんな暁はきっと、石堀の横顔を疑っているに違いない。
 ──彼は何かを企んでいる。今は大丈夫だと言われたが、そうらしい。
 それが真実だというのなら、暁はラブが殺される前に守らなければならない。

「……どうやら、こちら側には誰もいないみたいだな。……どうする? 警察署に向かうしかないが、そのためには遠回りをする必要があるかもしれない」
「あ、ああ……」

 石堀は、何ら変わらぬ姿であった。暁が石堀を疑っている事にも気づいていないようである。綿密に、普通の人間としての作戦を立てている。

「禁止エリアっていうのがどういうものなのかにもよる、よな……」

 暁は、本当に何事もないように話しかけた。石堀を警戒しながら。
 しかし、どこか黒岩の言葉も信じきれないまま。

『9.6秒、か。…………暁、それを言うなら『俺達は』だろ』

 不意に、暁の脳裏に浮かぶ、ダグバを倒した時の一言。


147 : 黒岩、死す!勝利のいちご牛乳(後編) ◆gry038wOvE :2014/03/28(金) 23:28:19 i0df6Rfk0
 本当にこいつが……。
 たまに冗談を言ってくる、この普通の冴えない男が、黒岩を操るほどの力を持っているのか……。
 そして、いつか機を見て、ラブに教えなければならない。

 ────そうだ。

 そのうち、二人きりになるチャンスがある。
 それは今じゃないかもしれないが、いつか、そう「デート」という権利が残っている。
 それを使う時がいつか来る。ただのデートじゃない。石堀光彦の不穏さを教えるひと時だ。
 デートは誰にも邪魔されない。特に、男にそれを邪魔する資格はない。
 いずれにせよ、暁は体を治療すると、立ち上がった。

 それから、警察署に行く方法。
 これは、禁止エリアを避ける場合、F−6の橋を通って、また森を抜けて警察署に向かわねばならないわけだが、果たしてどうするべきか。
 もしかすれば、G−8とF−9の僅かな道を抜ければ、辛うじてすぐに向こうに行けるかもしれない。しかし、首輪が爆発するタイミングがわからない以上、そこを通るのは危険だ。
 そもそも、もう22時に近い。ラブも欠伸を始めている。そんな中で、わざわざそこに向かう必要があるのだろうか。
 彼らがどう決断するのか──それは──



【1日目 夜中】
【G-8/中学校・保健室】
【備考】
※同エリアの市街地にある東せつなの遺体のもとには、カオルちゃん特製ドーナツ@フレッシュプリキュア!が供えられました。
※黒岩省吾の遺体は消滅しました。付近には彼の所持品のデリンジャーがありますが、全弾使用済です。

【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン】
[状態]:疲労(中)、胸部に強いダメージ(応急処置済)、ダグバの死体が軽くトラウマ、脇腹に傷(応急処置済)、左頬に痛み
[装備]:シャンバイザー@超光戦士シャンゼリオン、モロトフ火炎手榴弾×3
[道具]:支給品一式×8(暁(ペットボトル一本消費)、一文字(食料一食分消費)、ミユキ、ダグバ、ほむら、祈里(食料と水はほむらの方に)、霧彦、黒岩)、首輪(ほむら)、姫矢の戦場写真@ウルトラマンネクサス、タカラガイの貝殻@ウルトラマンネクサス、八宝大華輪×4@らんま1/2、スタンガン、ブレイクされたスカルメモリ、ランダム支給品0〜5(ミユキ0〜2、ほむら0〜1(武器・衣類ではない)、祈里0〜1(衣類はない)、黒岩0〜1) 、スーパーヒーローマニュアルⅡ
[思考]
基本:加頭たちをブッ潰し、加頭たちの資金を奪ってパラダイス♪
0:石堀を警戒。石堀からラブを守る。表向きは信じているフリをする。
1:石堀やラブちゃんと一緒に、どこかに集まっているだろう仲間を探す。
2:別れた人達が心配、出来れば合流したい。
3:あんこちゃん(杏子)を捜してみる。
4:可愛い女の子を見つけたらまずはナンパ。
5:変なオタクヤロー(ゴハット)はいつかぶちのめす。
[備考]
※第2話「ノーテンキラキラ」途中(橘朱美と喧嘩になる前)からの参戦です。
つまりまだ黒岩省吾とは面識がありません(リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキのことも知らない)。
※ほむら経由で魔法少女の事についてある程度聞きました。知り合いの名前は聞いていませんでしたが、凪(さやか情報)及び黒岩(マミ情報)との情報交換したことで概ね把握しました。その為、ほむらが助けたかったのがまどかだという事を把握しています。
※黒岩とは未来で出会う可能性があると石堀より聞きました。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限は『スーパーヒーローマニュアルⅡ』の入手です。
※リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキとクリスタルステーションの事を知りました。


148 : 黒岩、死す!勝利のいちご牛乳(後編) ◆gry038wOvE :2014/03/28(金) 23:28:42 i0df6Rfk0

【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、左肩に痛み、精神的疲労(小)、決意、眠気
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式×2(食料少消費)、カオルちゃん特製のドーナツ(少し減っている)@フレッシュプリキュア!、毛布×1@現実、ペットボトルに入った紅茶@現実、巴マミの首輪、工具箱、黒い炎と黄金の風@牙狼─GARO─、クローバーボックス@フレッシュプリキュア!
基本:誰も犠牲にしたりしない、みんなの幸せを守る。
1:どこかに集まっているだろう仲間を探す。
2:マミさんの遺志を継いで、みんなの明日を守るために戦う。
3:プリキュアのみんなと出来るだけ早く再会したい。
4:マミさんの知り合いを助けたい。もしも会えたらマミさんの事を伝えて謝る。
5:犠牲にされた人達のぶんまで生きる。
6:ダークプリキュアとと暗黒騎士キバ(本名は知らない)には気をつける。
7:どうして、サラマンダー男爵が……?
[備考]
※本編終了後からの参戦です。
※花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆりの存在を知っています。
※クモジャキーとダークプリキュアに関しては詳しい所までは知りません。
※加頭順の背後にフュージョン、ボトム、ブラックホールのような存在がいると考えています。
※放送で現れたサラマンダー男爵は偽者だと考えています。
※第三回放送で指定された制限はなかった模様です。


149 : 黒岩、死す!勝利のいちご牛乳(後編) ◆gry038wOvE :2014/03/28(金) 23:29:04 i0df6Rfk0

【石堀光彦@ウルトラマンネクサス】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、21時半ごろから2時間予知能力使用不可
[装備]:Kar98k(korrosion弾7/8)@仮面ライダーSPIRITS、アクセルドライバー+ガイアメモリ(アクセル、トライアル)+ガイアメモリ強化アダプター@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ+T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW 、コルトパイソン+執行実包(2/6) 、ロストドライバー@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×3(石堀、ガドル、ユーノ、凪、照井、フェイト)、メモレイサー@ウルトラマンネクサス、110のシャンプー@らんま1/2、ガイアメモリ説明書、.357マグナム弾(執行実包×18、神経断裂弾@仮面ライダークウガ×4)、テッククリスタル(レイピア)@宇宙の騎士テッカマンブレード、イングラムM10@現実?、火炎杖@らんま1/2、血のついた毛布、ランダム支給品2〜8(照井1〜3、フェイト0〜1、ガドル0〜2(グリーフシードはない)、ユーノ1〜2)
[思考]
基本:今は「石堀光彦」として行動する。
0:「あいつ」を探す。そして、共にレーテに向かい、光を奪う。
1:今は暁とラブの二人を先導しながら街を進む。
2:どこかに集まっているだろう仲間を探す。
3:周囲を利用し、加頭を倒し元の世界に戻る。
4:孤門や、つぼみの仲間、光を持つものを捜す。
5:都合の悪い記憶はメモレイサーで消去する
6:加頭の「願いを叶える」という言葉が信用できるとわかった場合は……。
7:クローバーボックスに警戒。
[備考]
※参戦時期は姫矢編の後半ごろ。
※今の彼にダークザギへの変身能力があるかは不明です(原作ではネクサスの光を変換する必要があります)。
※ハトプリ勢、およびフレプリ勢についてプリキュア関連の秘密も含めて聞きました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※つぼみからプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について聞きました。
※殺し合いの技術提供にTLTが関わっている可能性を考えています。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※TLTが何者かに乗っ取られてしまった可能性を考えています。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。予知能力の使用が可能です。
※予知能力は、一度使うたびに二時間使用できなくなります。また、主催に著しく不利益な予知は使用できません。
※予知能力で、デュナミストが「あいつ」の手に渡る事を知りました。既知の人物なのか、未知の人物なのか、現在のデュナミストなのか未来のデュナミストなのかは一切不明。後続の書き手さんにお任せします。


【支給品解説】

【スーパーヒーローマニュアルⅡ@オリジナル】
ゴハットが新たに制作した、スーパーヒーローマニュアルの第二作。
涼村暁に手渡されたこのスーパーヒーローマニュアルは、平成のヒーローっぽい名言やポーズが記されている(ヒーローの名前や姿は記されておらず、あくまで、あのヒーローやあのヒーローっぽい台詞などが載っているだけ)。その点では基本的に「Ⅰ」と同じであるものの、少しスタイリッシュでクールな新時代のヒーローの台詞などが描かれている。
また、シャンゼリオンのスペックも特別に掲載されており、リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキの呼び方が書いてある。


【施設紹介】
【クリスタルステーション@超光戦士シャンゼリオン】
A−10エリアの海上に出現。
リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキの三体の超光騎士を内蔵したS.A.I.D.O.C.の秘密基地。
ただし、初登場時と同じく、電気が通っていないので、何らかの手段で高圧電流を流さなければ不可能。
本当に最終回までに超光騎士を呼べるのか…?大いに疑問。

【忘却の海レーテ@ウルトラマンネクサス】
F−5エリアの山頂に出現。
来訪者たちの技術で作られた大型記憶消去装置。スペースビーストの記憶が更なる災厄を招かないよう、世界中の人間のウルトラマンとビーストの記憶を消し去り、その恐怖の記憶を封印した場所である。人々のマイナスエネルギーを溜めこんでいるため、ここを媒介として、石堀はデュナミストの憎しみを利用して光を奪い、闇に還元する事ができる。
ポテンシャルバリアーと呼ばれる防御壁があり、それが市街地にビーストを出現させる事を防いでいたが、今回のポテンシャルバリアーの状態は不明。どちらにせよ、今回は突破されてもビーストは出現しないかもしれない。


150 : ◆gry038wOvE :2014/03/28(金) 23:31:40 i0df6Rfk0
投下終了です。
書き込むたびに名前欄とE-mail欄が消えてしまう事があったので、たまに変な部分がありますが、タイトルはあくまで
「黒岩、死す!勝利のいちご牛乳(前編)」、「黒岩、死す!勝利のいちご牛乳(後編)」です。
前編と後編の境目はわかるかと思うので、そこで収録してください。


151 : 名無しさん :2014/03/29(土) 00:43:53 3PZit1b2O
投下乙です!
黒岩はついに倒れたか……まさかメフィストの闇を押し返すなんて凄すぎる!
それにしても暁が必死に調べて、黒岩の蘊蓄を否定するのは流石だなw 知ったかぶりで物を話すと、本当に痛い目を見るよね……
そして、暁は石堀の正体に気付いたけど、これからどうなるかな……?


152 : 名無しさん :2014/03/29(土) 01:34:20 9pwNv4BA0
投下乙です
ネタバレタイトルと前半のメタネタ含んだ精神攻撃に吹いたw
後半の対決も熱かったなぁ
ザギさんは復活に向けて本格的に動き出したか、暁はどうするのか…


153 : 名無しさん :2014/03/29(土) 01:59:14 0QNVqfFQ0
投下乙です。
黒岩散る、だが原作よりもヒーロー番組のライバルらしい決着で満足に逝けた事が幸いか……
しかも自力でメフィストの力を振り切るというのが末恐ろしい、それだけ暁との決着が重要だったという事か、
地味にクリスタルステーション開放(及び超光騎士解放フラグ)されているがこれが解放される日が来るのか。
そういえば暁ってあのダグバ殺したり(大半は石堀のお陰)、魔法少女と魔女の真実を把握していたり、石堀の正体情報GETしたり地味に下手な対主催グループよりも重要な立ち位置にいるんだよなぁ。その上キルスコアは下手なマーダーやボスキラー対主催よりも上な3……





そうか、『冗談は顔だけにしろ』の原点はアーノルド坊やじゃなくてその刑事ドラマだったのか。その台詞からアーノルド坊やに受け継がれたと……


154 : 名無しさん :2014/03/29(土) 03:25:27 zu4ismdo0
投下乙!
いやあ、面白かった!
前半の薀蓄合戦から始まって、そして最後の決着…シャンゼ時空がこれでもかというくらいに全開だったなあw
涼村暁と黒岩省吾、この二人らしい因縁の対決でした!
黒岩がメフィストに変身して暴走した時はどうなることやらと思ったけど、暁が暗黒騎士としての誇りを取り戻させるとはなあ…
2人の、一見くだらなくもみえる意地のぶつかり合い、最後まで楽しませていただきました!
改めて、乙です!


155 : 名無しさん :2014/03/29(土) 03:33:13 zu4ismdo0
ちなみに明日いっぱいまで、東映特撮youtubeでシャンゼリオンの黒岩死亡回および最終回が配信中だから見逃さないようにね!(宣伝)


156 : 名無しさん :2014/03/29(土) 07:16:38 9pwNv4BA0
原作の最期がアレだった事を考えると、宿敵との闘いで死ねたのは幸運だったのかもな


157 : 名無しさん :2014/03/29(土) 19:40:30 UNU8q7W2O
投下乙です。

メタネタ全開からの熱血バトル。
そして最後はちょっとしんみり、更に不穏な情報もゲット。
面白かったです!


158 : 名無しさん :2014/03/29(土) 22:11:44 Qu91RO.s0
投下乙です

原作ではこんなにガチガチなメタネタ使わなかったはずなのに、何故違和感がないんだ・・・・・・
ここでは決着つくことができてよかったな。暁も黒岩も


159 : 名無しさん :2014/03/29(土) 22:37:42 MnY4Z.Ic0
衝撃ゴウライガンとかいう神作品


160 : 名無しさん :2014/03/30(日) 11:04:27 eF0UBMps0
投下乙でした
ついに暁対黒岩に決着が…!
前半ニヤニヤしっぱなし、後半しんみりしつつも所どころ挟まれる小ネタにやっぱり笑わせてもらいました


161 : 名無しさん :2014/03/30(日) 12:04:30 Bpy6fXtI0
暁とかつぼみとかが初期は「放送超えたら死にそう」とまで言われていたのが懐かしい


162 : 名無しさん :2014/03/30(日) 13:30:52 Bpy6fXtI0
>>160
宇宙警備隊の隊長を退けたザギさんの紅茶知識…。


163 : ◆LuuKRM2PEg :2014/03/30(日) 23:05:00 aCT1WJrY0
これより予約分の投下を始めます。


164 : 壊れゆく常識 ◆LuuKRM2PEg :2014/03/30(日) 23:08:00 aCT1WJrY0


「こんな設備がこの警察署にあったとは……」

 警察署の一室で沖一也は瞠目していた。
 蒼乃美希から手渡された『D−BOY FILE』という謎のカードを解析する為の機械を捜していたら、多種多様の機械が並んでいた部屋を見つけたのだ。あのアメリカ国際宇宙開発研究所で使われているようなスーパーコンピューターは勿論のこと、一也にとって未知のマシンも光を灯っている。まるで、この部屋に近未来の技術を凝縮したと言っても過言ではなかった。
 しかし、ただの警察署にこんな設備が必要とは思えない。殺し合いの役に立つとも思えないし、何の為に用意したのかが理解できなかった。チェックマシンのように、特定の参加者に向けて意図的に作り出したのかもしれないが、情報が足りないので断定はできない。
 今は、この機械達を使ってファイルの解析をするしかなかった。

「まるで、ナイトレイダーの基地に戻ってきたかのようだ……ここまで揃っているなんて」

 隣に立つ孤門一輝も、この部屋の設備に感嘆している。

「ナイトレイダー……確か、孤門さんの所属する組織だったか?」
「はい。ナイトレイダーの基地も、これくらいに設備が整っていました……でも、ただの警察署にこんな施設が必要でしょうか?」
「恐らく、ここには特定の参加者に向けて用意されたのかもしれない。例えば、何か特殊な点検が必要な人物がいて、その為に作った可能性もある……ただの憶測に過ぎないが」

 チェックマシンを使った定期的なメンテナンスがスーパー1には必要だ。それと同じように、特殊な機械を使った健診が必要な人物がいてもおかしくない。ZXや先輩ライダー達はそれに該当するとは聞いていないが。

「とにかく今は、このファイルを解析しよう……これだけの施設ならば、できるかもしれない」
「わかりました」

 孤門が頷いたのを合図にするように、タイル状の床を踏み締める。ガラスのように綺麗で、数分前に誰かが掃除をしたと言われても信じてしまいそうだった。
 かつ、かつ、かつ……二つの足音を響かせながら、部屋の中を確認する。すると、すぐにカードが挿入できそうな四角い穴があったので、そこに差し込む。
 すると、部屋に設置されているスピーカーから男の声が発せられてきた。


 このファイルを残した男の名前はハインリッヒ・フォン・フリーマン。地球の侵略を企む悪質な知的生命体・ラダムと戦うスペースナイツという集団のチーフだった。
 ラダムは他の生命体に寄生して、脳を支配することで生態系を保っているらしい。
 相羽家やその知人が乗ったアルゴス号はラダムと接触して、悲劇が起こった。ラダム達はアルゴス号の乗務員達を支配して、テックシステムと呼ばれる生体兵器を生み出す。しかし相羽タカヤは相羽孝三の働きにより支配から逃れて、そして地球に帰還した。
 それから相羽タカヤはスペースナイツと共に戦うようになったが、あまりにも無茶な行動を繰り返すせいで「Dボウイ」と呼ばれてしまう。Dボウイはテッカマンブレードとなってラダムと戦えるが、不完全なテックシステムの影響で三十分以上の戦闘を続けると、ラダムに精神を支配されるデメリットを持っていた。
 スペースナイツの働きによってDボウイは正気に戻る。そして、ブレードのシステムを元に、人間達もソルテッカマンと呼ばれるパワードスーツを生み出した……しかし、その一方でラダム側に所属するテッカマン達が現れる。
 テッカマンエビルとテッカマンレイピア。相羽タカヤの双子の弟・相羽シンヤが変身するエビルはラダムに支配されていて、相羽タカヤの妹・相羽ミユキが変身するレイピアは精神支配から逃れていた。しかしミユキはテックセットをする度に肉体崩壊を起こすデメリットがあり、最期はタカヤを守る為にラダムテッカマン達と戦い……散ってしまった。


『……地球の、未来を信じる者に』

 フリーマンという男が残したメッセージが告げられて、そこで止まった。
 沖と孤門は何も言えなかった。相羽の名字を持つ参加者達がそんな壮絶な運命を背負っていたなんて、夢にも思わない。身体を弄られてしまい、そして自分の意志を奪われたまま殺戮を強いられてしまう……ドグマやジンドクマの悪行を聞いているようになってしまい、ラダムに対する憤りが湧きあがった。


165 : 壊れゆく常識 ◆LuuKRM2PEg :2014/03/30(日) 23:09:53 aCT1WJrY0
「……なんということだ」

 今の沖には、胸に湧き上がる感情を言葉に込めることしかできない。
 相羽家の人間達に対する同情をしても、彼らはもうこの世にいなかった。だから、もう彼らを救うことだってできない。もう少し早く知っていたら、彼らのことも助けられたはず……そんな可能性が芽生えてしまい、今度は無念の苛立ちが広がってしまう。
 だが、今となってはどうにもできなかった。相羽家の人間がどこでどんな風に死んだのかもわからない以上、弔うことすらできない。せめて、仮面ライダーとして人間をラダムから守りたかった。

「俺は、彼らの為に何かをすることもできないのか……」
「沖さん……」
「孤門。確か、美希ちゃんはマイクロレコーダーを持っていたね。それは、相羽シンヤのだったな」
「はい……子どもの頃に、シンヤが残したのだと思います。その頃はまだ、二人は普通の人間だったのでしょう」
「……くそっ」

 表情を曇らせている孤門の言葉を聞いて、沖の中で遣り切れない気持ちが更に強くなる。
 きっと、相羽タカヤと相羽シンヤは仲のいい兄弟だったはずだ。ミユキも含めて、家族全員で幸せに暮らしていたはずなのに、ラダムによってぶち壊されている。
 変わり果てた家族と戦わされてしまい、そして妹の死を目前で見せられてしまったタカヤの心境を考えただけでも、胸が張り裂けそうになってしまう。

「孤門。この話は、子ども達には内緒にしておこう……彼女達が知ってしまったら、きっと相羽タカヤ達の世界に行って、戦いに向かうはずだ。ラダム達と戦うのは、仮面ライダーの仕事だからな。翔太郎君にも、後で話しておかないとな」
「……わかりました。でも、その時は僕も一緒に行きます。僕だって、タカヤさん達が生きた世界の人々を守りたいですから」
「そうか……なら、その時は頼むぞ」
「はい!」

 孤門が頷くのを目にした後、沖はカードをケースの中に戻した。
 こんな残酷な話は未来ある子ども達が知る必要はない。これからを頑張ろうとしている少女達に、余計な絶望を植えつける訳にはいかなかった。残酷な現実を知らなければいけない時は確かにあるだろうが、それは今ではない。
 仮にタカヤ達のことを教えるにしても、殺し合いを終わらせてからだ。それまでは、このファイルのことは秘匿にして、信頼できる大人達の間に留めるべきだった。
 例え、タカヤが自分の世界のことを翔太郎や杏子に教えたとしても、このファイルの内容は限られた大人だけにした方がいいかもしれない。どうか、詳しい所まで話していないことを願う。
 首輪の解析などもしたいが、今は仲間の元に戻ってこれからのことを話し合うのが最優先だ。





「なるほど。これは見事に参加者のスタンスが纏められているな……有難い」

 冴島鋼牙は手元に握っている一丁の名簿を眺めながら、感心したように呟いた。
 魔導輪ザルバと再会してから、鋼牙は警察署にいる三人の少女達を見守っていた。沖一也と孤門一輝が調べ物をしている少しの間、子ども達を守る大人が必要だったからだ。
 子守りは鋼牙の柄ではない。だけど、ザルバを守って貰った恩があるのだから断る訳にもいかないし、何よりも未来ある子ども達を放置する訳にはいかなかった。

『そういえば、鋼牙。お前、本当にまたバラゴを倒したのか?』
「ああ。奴はこの地でも人を二人も殺した……同じ魔戒騎士として、奴の凶行を止めなければならなかった」
『それは当然だな……それにしても、キバの鎧だけじゃなくバラゴ自身もかなりしぶといな。もう、出て来ないことを祈りたいぜ』

 ザルバがうんざりしたようにぼやく。
 バラゴ。そして、バラゴの邪心から生まれた暗黒騎士キバとは幾度となく戦った。あるサバックの調査を行った時だって、キバの鎧は暁の精神を乗っ取った。いつかまた、キバの鎧は蘇る可能性もあるが、倒せばいいだけ。


166 : 壊れゆく常識 ◆LuuKRM2PEg :2014/03/30(日) 23:12:05 aCT1WJrY0

(涼村暁か……この男も、何者なんだ?)

 名簿を見るうちに、ある男の名前が目に飛び込んでくる。
 暁。参加者の中には涼村暁という名前がある。その人物に関する情報は書かれていなかったが、どうか危険人物でないことを願った。

『美希の嬢ちゃん、ヴィヴィオの嬢ちゃん、それにアンコ……どうか、仲良くやってくれないかねぇ』

 ザルバの目には、三人の少女の姿が見えているようだった。
 蒼乃美希と、高町ヴィヴィオと、佐倉杏子。この地で出会った、花咲つぼみと同じくらいに若い少女達だ。
 蒼乃美希。見るからに真面目で、品行方正という言葉が似合う少女だった。キュアベリーに変身する彼女はつぼみの友達らしい。
 高町ヴィヴィオ。美希のように固くはないが、真面目な少女だ。彼女は魔導師という戦士に変身することができるらしい。プリキュアや仮面ライダーのように高い戦闘力を誇るようだ。
 佐倉杏子。やや言動は荒いが、根はいい奴だとザルバは言っている。魔法少女、そしてある人物からウルトラマンとプリキュアの力を受け継いだらしい。ザルバが認めているのなら、信頼できるだろう。
 しかし、それとこの三人が集まったらすぐに仲良くなれるかと言われたら、話は別だ。

「なあ、やっぱり今まで盗んできた分って、働いて返さないと駄目か?」
「それは当たり前でしょ。あなたが辛かったのはわかるけど、盗まれた人達には関係ないわ。生活が困った人だっているのだから」
「やっぱりか……やれやれ、昔のあたしはとんでもないことをしていたんだねぇ」
「他人事みたいに言わないの!」
「はいはい」

 美希の咎めに対して、杏子は軽い態度で流す。それが許せなかったのか、美希は更に表情を顰めさせた。

「え、えっと二人とも……今は喧嘩はやめましょうよ! さっき、孤門さんからも言われたじゃないですか!」

 そんな彼女達の間で、ヴィヴィオはおろおろしながらも喧嘩を止めようとしている。

(こくこくこく)
「にゃー」
「ほ、ほら! クリスとティオだって、二人には仲良くして欲しそうですし!」

 ヴィヴィオの周りには、うさぎのようなセイクリッド・ハートと猫のようなアスティオンというぬいぐるみが、それぞれ頷いていた。
 どちらのぬいぐるみも人の言葉を話さない。しかし、それでもヴィヴィオには意思疎通ができるようだ。目と目で、気持ちを伝えあっているのだろうか。

「えっ? ヴィヴィオ、あたしは別にそんなつもりじゃ……」
「そうそう。あたしだって、また孤門の兄ちゃんに殴られるのは御免だよ」
「そ、そうですか……それなら、よかった」

 ヴィヴィオはホッ、と溜息を吐く。
 彼女としても、仲間が喧嘩をする光景など見たくないのだろう。こんな状況で内輪揉めなどされては、その瞬間に空気が悪くなってしまう。
 だが、このままでは同じことが繰り返されてしまうかもしれないから、空気を変えなければならない。そう思った鋼牙は口を開こうとするが……

『……おい、お嬢ちゃん達。難しいのはわかるが、あんまりギスギスしていると俺様も悲しいぜ?』

 指の中に収まっているザルバに先を越されてしまった。


167 : 壊れゆく常識 ◆LuuKRM2PEg :2014/03/30(日) 23:13:34 aCT1WJrY0
『アンコは今までのことを反省している。そして、美希もアンコのことを理解している……これで充分じゃねえか。これ以上、不安にさせるなよ』
「はぁ? あたし達は……」
『喧嘩はしていないってか? お前達はそうかもしれないが、傍からはそう見えないぞ? 尤も、いがみ合っているようにも見えないがな』
「ザルバ……どっちなんだよ!?」
『それは、これからのお前達にかかっている。俺様は見守りはするが、必要以上に干渉はしない……お前達の関係は、お前達で作るものだからな』

 そう語るザルバは、まるで教師のような態度だった。尤も、ザルバがそこまで面倒見がいいかは定かではないが。
 鋼牙は喧嘩の仲裁などあまり経験がないし、ましてや思春期の少女のメンタルケアなど専門外だった。涼邑零やゴンザなら何とかなるかもしれないが、鋼牙にそこまでの能力はない。
 冴島財閥のトップでもあるが、流石に女子中学生の面倒を見られるかと言われたら首を傾げるだろう。だが、逃げる訳にはいかない。

「杏子、そして美希……お前達が住む世界は違うだろう。そして、生きる道も違う。だが、それでも今は共に歩いている……それを忘れるな」
「鋼牙さん……?」
「つぼみは言っていた。最初はある少女と敵対していたが、それでも気持ちをぶつけあったことで友達になったと……俺が言えるのは、ここまでだ」

 美希の疑問に答えるように、鋼牙は答えた。
 なるべく暗くならないようにしたかったが、元々こういうのは得意な性格ではない。なので、もしかしたら余計に不穏になってしまう恐れもあった。

「気持ちをぶつけあう、ね……まあ、そういうのも悪くはないかな」

 頭をポリポリと掻く杏子は、納得をしたかのように呟く。

「さっきは喧嘩をしたけど、あたしは別に美希のことが憎い訳じゃない……美希のことだって、知りたいと思っている」
「……杏子?」
「せつなからも頼まれた。あんたや、ラブって奴のことをお願いって……せつなは、最期まであんた達のことを考えていた」
「……」
「あんたの堅物さにはイラついたことはあった。でも、あんたのことは決して嫌いじゃない……これだけは本当だ」

 杏子はどこかバツの悪そうな表情を浮かべながら、美希から視線を逸らしていた。
 ザルバが言うには、この二人で何やら一悶着があったらしい。美希が警察署に戻る前、杏子の素行の悪さに怒ったようだ。彼女からすれば、ルールを破る杏子は許せないのだろう。
 美希の気持ちは理解できるが、ザルバが言うように杏子は反省をしている。無論、反省をすれば全てが許されると言う訳ではないが、それでも変われるきっかけになるはずだった。

「杏子。あなたの気持ちはわかったわ……あたしも、昔のあなたの振舞いは許すことができない。誰かを助けられるはずの力で、誰かを不幸にしてきたのだから」
「わかってるよ……あたしだって」
「でも、杏子はせつなのことを守ってくれた。そして、せつなの想いを伝えてくれた。だから、あたしはあなたを信じることに決めたわ」

 そう言いながら美希は前に出て、杏子の手を握り締める。
 呆気にとられる一方で、美希は言葉を続けた。

「せつなのことを守ってくれて、ありがとう……ブッキーのリンクルンも守ってくれて、本当にありがとう……!」
「……どうしたしまして」

 美希と杏子は笑っていた。ぎこちなかったが、そこには確かな絆があった。
 そんな二人を見て、ヴィヴィオも表情を明るくする。ザルバも表情は動かないが、したり顔になっているはずだった。
 どうやら、この二人はもう心配する必要はないだろう。無論、完全に仲が良くなった訳ではないだろうが、前進はしている。

『……俺様が助言をして、正解だったな』

 そんな中、蚊の鳴くような声でザルバはぽつりと呟いた。


168 : 壊れゆく常識 ◆LuuKRM2PEg :2014/03/30(日) 23:15:18 aCT1WJrY0
「すまないな、ザルバ」
『何。ここはこの俺様が出なければ、不穏になるだろうからな……鋼牙では力不足だろう?』
「ムッ……」

 皮肉とも取れるザルバの言葉だが、否定することはできない。鋼牙では刺々しくなる可能性があるからだ。ザルバはそれを見通したからこそ、出てきたのだろう。
 しかし、鋼牙は怒るつもりはない。むしろその逆で、気配りをしてくれた相棒に感謝をしなければならなかった。

「……待たせたね、みんな」

 そして、ドアが開くのと同時に沖一也が姿を現す。隣には孤門一輝も立っていた。
 その手には『D−BOY FILE』というケースが握られている。つまり、解析が終わったのだろう。

「終わったのか?」
「ああ……この中には、相羽タカヤの戦いに関するデータが纏められていた。そして、相羽シンヤと相羽ミユキについても」
「……そうか」

 沖の言葉に鋼牙は何も返せない。
 ファイルの名前に『Dボウイ』が付けられているので、相羽タカヤと何らかの関係があるのではと推測していたら案の定だ。しかし、相羽タカヤはもうこの世にいない。
 鋼牙自身が、タカヤの遺体を埋葬したのだから。

「冴島さん、これからあなたはどうしますか?」
「俺は仲間達を待つつもりだ。彼らとは、ここで落ち合うことになっているのだから」
「そうですか……なら、よろしくお願いします」
「ああ」

 会釈する孤門に、鋼牙は頷いた。





 時計の針は既に21時を過ぎている。
 第三回放送の担当者であるゴハットが言っていたボーナスの時間はもう始まっていた。ゴハットが言うにはこれから三十分もの間、誰にも見られないように単独行動を続けなければいけないらしい。
 もしもそれが本当ならば、これからの戦いの役に立つかもしれない。だが、安易にそれを鵜呑みにするのは危険だった。

「なあ、沖の兄ちゃん。あのゴハットって野郎が言っていた時間が過ぎているけど……本当に何かがあるのか?」

 佐倉杏子は当然の疑問を口にする。だが、沖一也は上手く答えることができない。
 ゴハットの真意を確認する手段など参加者にはないのだから、不可能だった。


169 : 壊れゆく常識 ◆LuuKRM2PEg :2014/03/30(日) 23:15:38 aCT1WJrY0
「すまないな、ザルバ」
『何。ここはこの俺様が出なければ、不穏になるだろうからな……鋼牙では力不足だろう?』
「ムッ……」

 皮肉とも取れるザルバの言葉だが、否定することはできない。鋼牙では刺々しくなる可能性があるからだ。ザルバはそれを見通したからこそ、出てきたのだろう。
 しかし、鋼牙は怒るつもりはない。むしろその逆で、気配りをしてくれた相棒に感謝をしなければならなかった。

「……待たせたね、みんな」

 そして、ドアが開くのと同時に沖一也が姿を現す。隣には孤門一輝も立っていた。
 その手には『D−BOY FILE』というケースが握られている。つまり、解析が終わったのだろう。

「終わったのか?」
「ああ……この中には、相羽タカヤの戦いに関するデータが纏められていた。そして、相羽シンヤと相羽ミユキについても」
「……そうか」

 沖の言葉に鋼牙は何も返せない。
 ファイルの名前に『Dボウイ』が付けられているので、相羽タカヤと何らかの関係があるのではと推測していたら案の定だ。しかし、相羽タカヤはもうこの世にいない。
 鋼牙自身が、タカヤの遺体を埋葬したのだから。

「冴島さん、これからあなたはどうしますか?」
「俺は仲間達を待つつもりだ。彼らとは、ここで落ち合うことになっているのだから」
「そうですか……なら、よろしくお願いします」
「ああ」

 会釈する孤門に、鋼牙は頷いた。





 時計の針は既に21時を過ぎている。
 第三回放送の担当者であるゴハットが言っていたボーナスの時間はもう始まっていた。ゴハットが言うにはこれから三十分もの間、誰にも見られないように単独行動を続けなければいけないらしい。
 もしもそれが本当ならば、これからの戦いの役に立つかもしれない。だが、安易にそれを鵜呑みにするのは危険だった。

「なあ、沖の兄ちゃん。あのゴハットって野郎が言っていた時間が過ぎているけど……本当に何かがあるのか?」

 佐倉杏子は当然の疑問を口にする。だが、沖一也は上手く答えることができない。
 ゴハットの真意を確認する手段など参加者にはないのだから、不可能だった。


170 : 壊れゆく常識 ◆LuuKRM2PEg :2014/03/30(日) 23:16:36 aCT1WJrY0
「恐らく、可能性はあるかもしれない……だが、下手に単独行動を取るのは危険だ。その間に襲われては、大変なことになる」

 この島にはまだ危険人物がいる。もしも血祭ドウコクや天道あかねが戻ってきたら、襲撃されてしまう恐れがあった。
 数人で固まっているならまだしも、一人で戦って勝てる相手ではない。

『なら、心当たりのある奴だけがどっかの部屋で待っていればいいんじゃないか? 何かがあったら急いで変身をして、助けを呼べばいい……そうすれば、簡単には殺されないはずだろ?』

 沖の不安を払拭するかのように、ザルバが提案をする。

『ないと思う奴らだけが固まって、あると思うならこの部屋で静かに待つ……これでいいんじゃないか? その後に、休憩を取ればいい』
「それもそうだが……」
『もしも何か便利な力があるのなら、さっさと使えるようにした方がいいだろ? 出し惜しみをしたせいで死んだら、情けねえぞ?』

 ザルバの言うことは尤もだった。技が使えなかったせいで危機に陥るようになっては意味がない。

『鋼牙。お前も何か制限とやらがかかっているはずだ。確か、轟天が呼びだせなかっただろう? もしかしたら、敵さんのボーナスとやらで呼べるようになるかもしれない……ならば、試してみる価値はあるはずだ』
「ザルバ……だが、下手に離れる訳にはいかない。一也の言うように、敵は他にいる」
『なら、交互に部屋に入ればいいだけだ。三十分ごとに二人ずつで待機をして、戻ってきたらまた別の二人が行動をする……時間はかかるが、一度に大勢が単独行動を取るよりはマシじゃないのか?』
「それなら、あたしからやるよ」

 鋼牙の指で提案を続けるザルバに頷いたのは、杏子だった。

「代わりばんこなら、後回しにするのは面倒だ。さっさと済ませてやるよ」
「杏子、あなた……!」
「おっと、説教ならなしだ。三十分くらい、すぐに過ぎるだろ? ちょっとくらい、心配するなって……何かあったら、すぐに戻るからさ」

 美希は止めようとするが、杏子はそれに構わず背を向ける。そのまま軽く手を振りながら廊下に去っていった。
 今から呼んだとしても、絶対に戻ってこない。無理矢理にでも、ボーナスを待つはずだった。

「全く……」
『やれやれ、性急なこった……で、美希のお嬢ちゃんはどうするんだい?』
「あたしは……大丈夫。さっきも言ったように、特に心当たりはないから」
『了解。で、鋼牙はどうする?』
「俺は後にする。戦える奴は少しでも残るべきだ」
『そうか。それと、沖の兄ちゃんもやってみたらどうだ。何かあるかもしれないぜ……ここは、鋼牙達に任せたらどうだ』

 周囲を見渡すと、誰も特に異論はなさそうだった。
 沖としても不安だが、ここで断る訳にもいかない。戦力を整える必要もあるだろうし、何よりもみんなの好意を無碍にする訳にはいかなかった。

「……わかった。だが、もしも何かあったらすぐに叫んでくれ」
「当然ですよ。でも、ここは僕達に任せてください」
「頼んだぞ」

 孤門が頷くのを見てから、沖もまた背を向ける。
 そのまま、どこか静かな部屋はないかと捜し始めた。


171 : 壊れゆく常識 ◆LuuKRM2PEg :2014/03/30(日) 23:17:46 aCT1WJrY0
【1日目 夜中】
【F−9 警察署 会議室】


【蒼乃美希@フレッシュプリキュア!】
[状態]:ダメージ(中)、祈里やせつなの死に怒り 、精神的疲労
[装備]:リンクルン(ベリー)@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式((食料と水を少し消費+ペットボトル一本消費)、シンヤのマイクロレコーダー@宇宙の騎士テッカマンブレード、双ディスク@侍戦隊シンケンジャー、リンクルン(パイン)@フレッシュプリキュア!、ガイアメモリに関するポスター、杏子からの500円硬貨
[思考]
基本:こんな馬鹿げた戦いに乗るつもりはない。
1:今はここで沖さんと杏子を待つ。
2:警察署内では予定通りに行動する。
3:プリキュアのみんな(特にラブが)が心配。
[備考]
※プリキュアオールスターズDX3冒頭で、ファッションショーを見ているシーンからの参戦です。
※その為、ブラックホールに関する出来事は知りませんが、いつきから聞きました。
※放送を聞いたときに戦闘したため、第二回放送をおぼろげにしか聞いていません。
※聞き逃した第二回放送についてや、乱馬関連の出来事を知りました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※霊安室での殺人に関して、幽霊の仕業であるかもしれないと思い込んでいます。


【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:上半身火傷、左腕骨折(手当て済)、誰かに首を絞められた跡、決意、臨死体験による心情の感覚の変化
[装備]:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはシリーズ、稲妻電光剣@仮面ライダーSPIRITS
[道具]:支給品一式(アインハルト(食料と水を少し消費))、アスティオン@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ほむらの制服の袖
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:生きる。
2:警察署内では予定通りに行動する。
[備考]
※参戦時期はvivid、アインハルトと仲良くなって以降のどこか(少なくてもMemory;21以降)です
※乱馬の嘘に薄々気付いているものの、その事を責めるつもりは全くありません。
※ガドルの呼びかけを聞いていません。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※第二回放送のボーナス関連の話は一切聞いておらず、とりあえず孤門から「警察署は危険」と教わっただけです。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※霊安室での殺人に関して、幽霊の仕業であるかもしれないと思い込んでいます。
※一度心肺停止状態になりましたが、孤門の心肺蘇生法とAEDによって生存。臨死体験をしました。それにより、少し考え方や価値観がプラス思考に変わり、精神面でも落ち着いています。


172 : 壊れゆく常識 ◆LuuKRM2PEg :2014/03/30(日) 23:18:39 aCT1WJrY0
【孤門一輝@ウルトラマンネクサス】
[状態]:ダメージ(中)、ナイトレイダーの制服を着用 、精神的疲労
[装備]:ディバイトランチャー@ウルトラマンネクサス
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2(戦闘に使えるものがない)、リコちゃん人形@仮面ライダーW、ガイアメモリに関するポスター×3、ガンバルクイナ君@ウルトラマンネクサス
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:みんなを何としてでも保護し、この島から脱出する。
2:警察署内では予定通りに行動する。
3:副隊長、石堀さん、美希ちゃんの友達と一刻も早く合流したい。
4:溝呂木眞也が殺し合いに乗っていたのなら、何としてでも止める。
[備考]
※溝呂木が死亡した後からの参戦です(石堀の正体がダークザギであることは知りません)。
※パラレルワールドの存在を聞いたことで、溝呂木がまだダークメフィストであった頃の世界から来ていると推測しています。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※霊安室での殺人に関して、幽霊の仕業であるかもしれないと思い込んでいます。


【冴島鋼牙@牙狼─GARO─】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター、魔導輪ザルバ
[道具]:支給品一式×2(食料一食分消費)、ランダム支給品1〜3、村雨のランダム支給品0〜1個
[思考]
基本:護りし者としての使命を果たす
1:今は警察署で仲間達を待つ。
2:首輪とホラーに対し、疑問を抱く。
3:加頭を倒し、殺し合いを終わらせ、生還する
4:良牙、一条、つぼみとはまたいずれ会いたい
5:未確認生命体であろうと人間として守る
6:後で制限解除の為に、どこかの部屋で単独行動をする。
[備考]
※参戦時期は最終回後(SP、劇場版などを経験しているかは不明)。
※ズ・ゴオマ・グとゴ・ガドル・バの人間態と怪人態の外見を知りました。
※殺し合いの参加者は異世界から集められていると考えています。
※この殺し合いは、何らかの目的がある『儀式』の様なものだと推測しています。
※首輪には、参加者を弱体化させる制限をかける仕組みがあると知りました。
 また、首輪にはモラックスか或いはそれに類似したホラーが憑依しているのではないかと考えています
※零の参戦時期を知りました。
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※つぼみ、一条、良牙と125話までの情報を交換し合いました。



【特記事項】
※21時を過ぎているので、制限に心当たりのある者だけが単独行動をして、それ以外の参加者は一ヶ所に固まる方針です。
※また、一度に行動するのは二人までで、交代で単独行動をする予定です。
※それらが終わったら、休憩をする予定です。


173 : 壊れゆく常識 ◆LuuKRM2PEg :2014/03/30(日) 23:19:14 aCT1WJrY0





 沖一也は仮面ライダースーパー1に変身しながら、誰もいない部屋の中で構えている。先程、ファイルを解析した部屋を確認したが、やはり何の異常もなかった。
 敵意のある人物や罠は存在しないが、油断はできない。忍者のように闇の中に潜みながらも、気配を消す参加者が現れてもおかしくなかった。
 この警察署には悪の気配は存在しないが、殺し合いの会場だ。誰も知らない所から猛毒のガスが噴き出すと言われても、充分に納得できてしまう。ここも、敵地といっても過言ではないのだから。

(やはり、この首輪は解体自体はできそうだが……ここには普通の工具しかない。下手に解体などしたら、爆発する危険がある)

 スーパー1はボーナスの制限解除が訪れるまでの三十分間で、首輪の解析を選んでいる。ただ待つよりも、少しでも進めた方が建設的だからだ。
 巨大なリングにも見える首輪には、目を凝らすと一本の線がある。そこを辿れば解体の道筋が見えるかもしれないが……必要な道具が手元にはなかった。
 結城丈二が変身するライダーマンの持つオペレーションアームのような装備がない。それに加えて、この警察署にはドライバーやスパナを始めとする工具しか見つけられなかった。それだけで精密な機械の解体ができるわけがない。
 沖自身も技術者として高い技能と知恵を持っているが、だからといって道具もない状態での解体作業は不可能だ。小さな機械の内部構造を調べられる機械さえあれば別だろうが、そんなのはここにはない。そこまで都合よくはなかった。
 しかし、それを抜きにしてもこの部屋に結集された設備は凄まじかった。
 
(やはりこの部屋は異常だ……ただの警察署に、これだけの機械が必要とも思えない。何故、奴らはこんな場所を用意したんだ?)

 とある世界には未確認生命体対策本部という場所があるのなら、ここはそれを模したのかもしれない。未確認生命体とは、鋼牙が言うには人間を襲う怪物らしい。要するに、ドグマやジンドグマのような連中だろう。
 それをわざわざ、この殺し合いに持ってきても何の意味があるのか? もしや、どこかにいる未確認生命体を倒す為のヒントにするのだろうか? だが、それでは殺し合いのバランスが崩れかねない。
 どれだけ考えても答えは見つからない。真実を知るのは主催者だけだ。
 ふと、スーパー1は近くにある時計を見つめる。気が付いたら、約束の時間まで五秒もなかった。

『こんばんは、沖一也……いいえ、仮面ライダースーパー1と呼ぶべきでしょうか』

 闇の中より、聞き覚えのある男の声が聞こえる。
 それを察したスーパー1は意識を覚醒させて、周りを見渡す。すると、目の前には第二回放送で現れたニードルが、薄気味悪い笑みを浮かべながら立っていた。
 反射的に構えを取るが、目の前にいるニードルは何かを仕掛けて来ない。放送と同じ、ホログラフだと一瞬で察した。

「キサマは……ニードル!」
『数時間ぶりですね。また会えて光栄ですよ……こうして、貴方と話が出来るのですから』
「何……目的は何だ!?」
『目的? そんなの、決まっているじゃありませんか……貴方の制限解除ですよ。レーダーハンドとパワーハンドの解放です』
「……やはり、キサマらの仕業だったか」
『当然の処置ではありませんか。レーダーハンドを使われてしまっては、他の皆様との公平さを欠く結果になってしまいます。それにパワーハンドだって、普通に使うには危険な威力を持っていますから……でも、これからは自由に使えますから、安心してください』

 ニードルは吐き気を促すような笑みを浮かべながら、語り続ける。例え映像でも、不愉快になるには充分だった。
 その言葉が真実であると証明するように、身体の奥底に力が宿るのを感じる。
 この島に転送されてからレーダーハンドを使おうとしたが、使えなかった。また、ノーザとの戦いでもメガトンパンチを放っても倒せなかったのだから、威力が落ちていると言われても頷ける話だ。
 しかし、だからといってニードルに感謝をすることなどしない。奴は、嘲笑うような表情で参加者達を見下しているのだから。


174 : 壊れゆく常識 ◆LuuKRM2PEg :2014/03/30(日) 23:20:05 aCT1WJrY0

『それでは、私の役目は終わりです……健闘を祈りますよ』
「待て!」

 スーパー1はニードルに手を伸ばすが、触れようとした直前に消えてしまう。もう、この部屋にはスーパー1しかいなかった。
 心の中で憤りが渦巻いていく。こんな奴らに多くの命が弄ばれて、そして本郷や一文字達が死んだ……どれだけ考えてもやりきれない。
 しかし、今はもうどうにもならない。この手で守れる命を取りこぼさないよう、力を尽くすしかなかった。

(奴は俺が行っていた首輪の調査について何も言わなかった……どういうことだ?)

 そして、スーパー1の中である疑問が芽生える。ニードルが、首輪の調査をしていたことに対して何も口にしてこなかったことだ。
 一応、首輪を調べている最中は何も言わなかったが、それだけで主催者の目を誤魔化すことはできない。死体から首輪を確保した時から、解体を企んでいると主催者から警戒されてもおかしくなかった。
 しかしニードルは何も言及していない。やはり、この首輪には何か罠が仕掛けられているから、あえて見逃したのか。それとも見くびられているのか、何かもっと別の理由があるのか。
 今の段階では答えを見つけられない。

「……とにかく、今はみんなの所に戻らないと。話はそれからだ」

 首を振りながらスーパー1は部屋から出る。この三十分間で外から騒ぎの音は聞こえなかったが、それでも早く戻らなければならない。
 皆を心配させる訳にはいかなかった。首輪の解析の続きは、それからだ。

 
【1日目 夜中】
【F−9 警察署 研究室】

※研究室には様々な設備が搭載されています。


【沖一也@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、強い決意
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2、首輪(祈里)、ガイアメモリに関するポスター、お菓子・薬・飲み物少々、D-BOY FILE@宇宙の騎士テッカマンブレード
[思考]
基本:殺し合いを防ぎ、加頭を倒す
0:今は皆の元に戻る。
1:本郷猛の遺志を継いで、仮面ライダーとして人類を護る。
2:警察署内では予定通りに行動する。
3:この命に代えてもいつき達を守る。
4:先輩ライダーを捜す。結城と合流したい。
5:仮面ライダーZXか…
6:ダークプリキュアについてはいつきに任せる。
[備考]
※参戦時期は第1部最終話(3巻終了後)終了直後です。
※一文字からBADANや村雨についての説明を簡単に聞きました
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました
※18時に市街地で一文字と合流する話になっています。
※ノーザが死んだ理由は本郷猛と相打ちになったかアクマロが裏切ったか、そのどちらかの可能性を推測しています。
※第二回放送のニードルのなぞなぞを解きました。そのため、警察署が危険であることを理解しています。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※ダークプリキュアは仮面ライダーエターナルと会っていると思っています。
※霊安室での殺人に関して、幽霊の呪いである可能性を聞きましたが、流石に信じていません。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はレーダーハンドの使用と、パワーハンドの威力向上です。


175 : 壊れゆく常識 ◆LuuKRM2PEg :2014/03/30(日) 23:21:13 aCT1WJrY0




 佐倉杏子は警察署のとある部屋に入った後、魔法少女に変身していた。沖達には強気でいたが、万が一の時を考えて戦える準備だけはした方がいい。
 周りに人気はないが、油断はできなかった。この警察署には幽霊とやらが出て、そのせいで梅盛源太とアインハルト・ストラトスの二人が死んでしまったのだから。
 常日頃、幽霊なんかよりもよっぽど恐ろしい魔女や使い魔と戦っている杏子には子供騙しにしか思えなかったが、警戒だけは忘れない。少しの油断が死に繋がるなんて、これまでの戦いで何度も経験したのだから。
 魔法で生み出された槍を握りながら、杏子は時計の針が動くのをぼんやりと眺めていた。

『佐倉杏子……初めましてと言うべきかしら?』

 その時、どこからともなく声が聞こえる。それに意識を覚醒させた杏子が振り向くと、見知らぬ少女が立っていた。
 ドレスのように煌びやかな純白の衣装を纏い、まるでおとぎ話に出てくるお姫様のような雰囲気を放っている。フランス人形のように整った顔立ちも、そんな印象を更に強くさせた。
 しかし、その瞳は氷のように冷たい光を放っていて、友好的に見えない。それだけでも、杏子は反射的に槍を構えた。

「てめえ……何者だ!?」
『私の名前は美国織莉子。貴女と同じ、魔法少女の一人よ』
「魔法少女……?」

 美国織莉子と名乗った謎の少女の言葉に、杏子は思わず槍を握る力を緩めてしまう。
 よく見ると、目の前の織莉子からは気配が感じられない。立体映像であると杏子は理解した。
 つまり、この魔法少女は主催陣営の一人……それを察してから、力を込めなおした。

「……なるほどね。あんた、あのいけ好かない連中に加担しているってわけか。あたしと同じ、魔法少女の面汚しだな」
『否定はしないわ……貴女からすれば、私も元凶の一人なのだから』
「へっ。認めたってわけか!」
『そうね……でも、私はそんな口論をする為に現れたのではないわ。私は、貴女に真実を伝える為にやってきたの』
「はっ、あんたらが何を教えてくださるってんだ!」
『魔女……私達の同胞の、なれの果てについてよ』
「……は?」

 織莉子の口から出てきた言葉により、杏子は怪訝な表情を浮かべてしまう。
 しかし、そんな杏子のことなどお構いなしに織莉子は言葉を続ける。

『私達魔法少女はインキュベーター……いえ、キュウべぇと契約をして、願いを叶える対価として魔法少女になって、魔女と戦う存在になる……それは、貴女も知っているわね』
「そんなの、当たり前だろ!」
『でも、貴女は疑問に思ったことがない? 私達が戦っている魔女が、どこから現れるのかを……』
「え……結界の中から……だろ?」
『それは間違いないわ。でも、結界はあくまでも魔女が作り出しているだけ……その魔女が、どうやったら誕生するのかを、貴女は知っているの?』
「それは……」


176 : 壊れゆく常識 ◆LuuKRM2PEg :2014/03/30(日) 23:22:37 aCT1WJrY0
『私達、魔法少女の魂とも呼べる……ソウルジェムからよ』
「……何、言っているんだよ」
『魔法を使うことでソウルジェムが穢れていき、それが限界に達すると私達は変わってしまうわ……呪いと絶望を撒き散らすだけの魔女に』
「な……!?」
『既に美樹さやかと巴マミもソウルジェムが穢れきったことで、魔女へと変わったわ。そして、四度目の放送が終わると同時に……この島に君臨して貴女達に牙を向ける』
「……なんだよ、それ」
『これは私と貴女も例外ではないわ。魔法の過度や使用や、絶望を背負うことで魔女になって絶望を齎す……私はそれを伝える為に、貴女の元に現れたの。鹿目まどかと暁美ほむらはその条件から外れているけれど』

 織莉子から告げられるあらゆる事実が、杏子の心に突き刺さっていく。
 マミとさやかが既に魔女になっている?
 あたし達は、今まで同じ魔法少女すらも食い物にしていたのか?
 ゾンビにされただけじゃなく、人々を傷付ける化け物にもされてしまったのか?
 キュウべぇに騙されたのか? キュウべぇは何の為に、あたし達にこんな仕打ちをしたのか?
 様々な疑問が生まれて、杏子の脳裏で爆発していく。まともな思考が働かなかった。

『貴女も殺し合いを止めようとしているのなら、気を付けることね……迂闊に戦ったりしたら、周りの人達も絶望に巻き込まれるのだから』

 そう言い残した瞬間、美国織莉子の姿が部屋から消えていった。それに対して、杏子は何も言うことができない。
 今はそれどころではなく、疑問が増えていくだけだった。

「……ふざけるなよ」

 杏子はただ憤るしかできない。
 自分達をこんな身体にしたキュウべぇに対して。そんな事実を何でもないかのように話した織莉子に対して。そして、変わろうとしていたのに叶えられそうにない現実に対して。
 こんなのはボーナスではない。むしろ、最悪の罰ゲームだ。
 どうして、いつもこうなのか。一緒にいた人達が次々と死んでいき、同じ魔法少女は魔女になり、そして自分自身すらも魔女になろうとしている。
 せつなや姫矢の意志を継いで正義の味方になろうとしたのに、結局は呪いと絶望を撒き散らすだけの存在にしかなれない。
 もう、何が何だかわからなかった。

「なんでだよ……なんでだよ……なんでだよ……!」

 嘘だと切り捨ててしまいたかったが、本能がそれをしてくれなかった。織莉子の言葉からは一切の嘘が感じられなかった。
 みんなの為に戦うことすらも許されないのか。みんなに絶望を齎すことしか、自分にはできないのか。
 何も知らないまま、殺し合いを終わらせることができたのなら……楽だったのに。

「何でだよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 残酷な運命に対して、佐倉杏子は叫ぶことしかできない。
 しかし、それで何かが変わることはなかった。殺し合いも、魔法少女の真実も、呪われた存在である自分自身も……そのままの形を保っていた。
 これまでの常識は壊れてしまい、代わりに告げられたのは惨すぎる真実。それを前に、ただ嘆くしかできない。
 その叫びは、彼女しかいない部屋の中で空しく響いていた……


177 : 壊れゆく常識 ◆LuuKRM2PEg :2014/03/30(日) 23:23:37 aCT1WJrY0

【1日目 夜中】
【F−9 警察署 とある部屋】


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(大)、ソウルジェムの濁り(小)、腹部・胸部に赤い斬り痕(出血などはしていません)、ユーノとフェイトを見捨てた事に対して複雑な感情、マミの死への怒り、せつなの死への悲しみ、ネクサスの光継承、ドウコクへの怒り、真実を知ったことによるショック。
[装備]:ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、エボルトラスター@ウルトラマンネクサス、ブラストショット@ウルトラマンネクサス
[道具]:基本支給品一式×3(杏子、せつな、姫矢)、リンクルン(パッション)@フレッシュプリキュア!、乱馬の左腕、ランダム支給品0〜1(せつな) 、美希からのシュークリーム
[思考]
基本:姫矢の力を継ぎ、翔太郎とともに人の助けになる。
1:?????????
[備考]
※参戦時期は6話終了後です。
※首輪は首にではなくソウルジェムに巻かれています。
※左翔太郎、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライアの姿を、かつての自分自身と被らせています。
※殺し合いの裏にキュゥべえがいる可能性を考えています。
※アカルンに認められました。プリキュアへの変身はできるかわかりませんが、少なくとも瞬間移動は使えるようです。
※瞬間移動は、1人の限界が1キロ以内です。2人だとその半分、3人だと1/3…と減少します(参加者以外は数に入りません)。短距離での連続移動は問題ありませんが、長距離での連続移動はだんだん距離が短くなります。
※彼女のジュネッスは、パッションレッドのジュネッスです。技はほぼ姫矢のジュネッスと変わらず、ジュネッスキックを応用した一人ジョーカーエクストリームなどを自力で学習しています。
※第三回放送指定のボーナスにより、魔女化の真実について知りました。


178 : ◆LuuKRM2PEg :2014/03/30(日) 23:24:54 aCT1WJrY0
以上で投下終了です。
>>168>>169で被ってしまったのは、こちらのミスです……申し訳ありません。
それでは指摘する点がありましたら、お願いします。


179 : 名無しさん :2014/03/31(月) 00:35:51 l0tyEdds0
投下乙です
対主催者集結しだして安心と思ったのに杏子が…
これは雲行き怪しくなってきたぞ


180 : 名無しさん :2014/03/31(月) 01:03:57 XUM6jQBs0
投下乙
杏子、魔女化のこと知っちゃったかあ
それでも今の杏子なら、戦い抜いてくれるとは思うけども…


181 : 名無しさん :2014/03/31(月) 02:16:12 irlekUvI0
投下乙です

時限爆弾が数個あったが杏子は等々知ってしまったかあ
これは…


182 : 名無しさん :2014/03/31(月) 02:45:43 VPtKhJ.oO
投下乙です

制限解除ってなんだっけ?残念おりこちゃんでしたー。ちょっとタイミングが早かったら原作同様一時的なショックで済んでたろうけど…まあ原作以上に仲間に恵まれてるしなんとかしてくれるさ


183 : ◆gry038wOvE :2014/03/31(月) 14:31:34 Mvr2kvM20
短いですが、今回のSSを投下します。


184 : 双大将再会 ◆gry038wOvE :2014/03/31(月) 14:33:07 Mvr2kvM20
 血祭ドウコクの目の前には、巨大な嘆きのエネルギーの集合体が光っていた。
 位置はF−5(衛府之五)の山頂。不穏な光を見つけてやって来てみれば、そこにあったのは巨大な不可思議である。人々の嘆きや恐怖が集合し、それが集合する場所。
 青い光を発し、その中央に、どこかで見たような真っ赤な光を発するその施設。
 その名は、忘却の海レーテ──。

「こいつぁ一体……」

 然るドウコクでさえ、先ほどまでなかったはずのその物体に、不穏な気配を感じずにはいらなれなかった。このレーテには、人々がビーストを恐怖する負の記憶が封印されている。
 そんな場所だが、ドウコクがそんな物を知る由もない。
 ただ、その膨大な嘆きの力だけは彼も感じていた。

「……わからねえが、ただのデカブツってわけじゃなさそうだな」

 ともかく、他の参加者に比べれば、彼は動じない部類だっただろう。
 嘆き──そこから感じるマイナスエネルギーに不安を感じる事はなかった。
 血祭ドウコクの場合は、突如としてこれが現れた理由に不穏な気配を感じずにはおれなかった。
 これが今後、この殺し合いでどういう意味を持つのだろう。その疑問に答える者は何もない。

『──ドウコク殿』

 ふと聞こえたのは、ドウコクを呼ぶ声だ。
 血祭ドウコクを呼ぶ、何者か。──ドウコクは、瞬時に後方のその人物に向けて剣を振るった。
 何故、こんな行動に出たのか。
 それは簡単だ。相手は利用価値とは程遠く、また、ドウコクの知る人物──参加者外の存在であると、認識できたからだ。

「久しぶりだな……マンプク。いつぞやにテメエがくたばって以来じゃねえか」

 脂目マンプク。かつて、夏の陣にてシンケンジャーに敗北し、死亡したはずのクサレ外道衆の大将である。ドウコクが三途の川から掬いだしてやってみれば、ドウコクを家臣などと扱う傲慢さだ。
 まあ、ドウコクはそこを咎めるつもりはないし、何故彼がここにいるのかなど今更疑問に思う理由もない。
 彼が主催側からの使者である事は明白だ。
 昇竜抜山刀は、マンプクの喉元で止まっていたが、マンプクが動じる様子はなかった。

『ご挨拶ですな、ドウコク殿。拙者は目的を果たしに参上仕った次第。今ここに現れている私の体そのものは幻影でござる』

 そう言って、マンプクはドウコクの刃に指を通した。
 どこから、血を撒き散らすわけでもなく、指がちぎれるわけでもなく、まるで刀か指かのどちらかが存在しないようにすり抜けていった。
 なるほど、今ここでマンプクに余計な力を使う必要はなさそうだ。要件だけ話すべきだと思い、ドウコクは刀を下げる。

「で、テメエの目的ってのは何だ? この殺し合い、それにこのデカブツの話も聞きてえな……」
『手短に』

 そう、前置きしたうえで、マンプクは語る。

『……拙者はドウコク殿に、この殺し合いにおける縛りの解除──即ち、貴殿の死後、二の目が発動する事と、近々筋殻アクマロの二の目が解放される旨を申しに参ったのでござる』
「……何?」

 アクマロの二の目は、この殺し合いで発動していない。
 それらしい様子もなかったので、てっきりアクマロはこの殺し合いの会場では二の目になる事もできずに死亡したと思っていたが、どうやら何らかの縛りがかけられてアクマロが二の目を解放できずにいたのみだという話だ。

『言葉通りでござる。これは全て、アクマロ殿自身は知らない話。もしまみえる事があったら、アクマロ殿にはドウコク殿の口から説明していただきたい』
「フン……。まあいい。だが、とっととテメエも俺のもう一つの質問に答えろ」

 この殺し合いは何なのか、その問いにはマンプクはまだ答えていない。
 ドウコクに関心があるのは、アクマロがどうという話ではないのだ。あんな奴の話はもうどうでもいい。


185 : 双大将再会 ◆gry038wOvE :2014/03/31(月) 14:35:28 Mvr2kvM20
なんかNGワードが含まれているとかで投下できないので、いったん続きを仮投下のほうに投下させていただきます…。


186 : 双大将再会 ◆gry038wOvE :2014/03/31(月) 14:49:44 Mvr2kvM20

『ドウコク殿、拙者はただ、この殺し合いの縛りを無くす事だけ教えに来た身でござる。ここでそれ以外の事を口にする義理はござらんのだ。この嘆きの海もまた、別の者には説明する事はあっても、ドウコク殿に話す義理はない』
「何だと……?」

 明確な叛逆だと受け取って良いのだろうか。──マンプクは何食わぬ顔で、説明を続けた。

『貴殿は、偶然この殺し合いに巻き込まれ、拙者は、偶然こちら側になれた。……それだけの事。残念な話だが、次に会って話す事があるとすれば、それは貴殿がこの殺し合いで二の目を使わずに勝ち残るができた時でござる。それまで、貴殿は命ではなく、駒。死んだシンケンジャーやはぐれ外道、アクマロ殿もまた同じ……壊れた駒でござる。何も知らぬまま、この殺し合いで好きに動けばいい……』

 言葉の節々から、マンプクのかつてのような傲慢さが漂っていた。ドウコクにさえ、それは明確な叛逆であると認識させた。
 これは戯れではない。現に、ドウコクの身を危険に晒している。マンプクは恩を仇で返そうとしているのである。本来ドウコクに奉公すべきであるマンプクは、一かけらの情も──外道衆にとって、この言葉は変かもしれないが──見せる様子がなかった。

「オイ、テメエ、今言った事、俺にはもう二度と撤回させる余裕がねえとわかってるだろうな……? 戯言として受け取る気はねえぜ。たとえ冗談だとしても、本気の言葉として受け取っておく」
『無論でござる。……しかし、変な話でござるな』
「なんだと……?」

 マンプクは不敵に勝ち誇ったような笑みを見せる。一見すると表情は変わらないようだが、ドウコクはそれを感じ取った。

『いつから、世は、家臣が主に口答えできるようになったのでござろうか……』

 それだけ言い残し、マンプクの幻影は消え去った。
 どうやら、マンプクは本気でドウコクを家臣程度にしか思っていないらしい。
 腐れ外道、と呼ぶに相応しい外道っぷりであった。

「……あの野郎。すぐにブッ殺してやる。……だが、その前に」

 そうだ、筋殻アクマロ──彼もドウコクを殺しに来るに違いない。奴に全てを説明する義理はないが、いずれにせよ倒さなければならない。
 このサイズであれ、ドウコクは外道衆を縛る力は持っているし、アクマロの二の目を撃退するくらいの実力は持っている。
 早い話が、アクマロなど敵としては倒し甲斐がないほどであった。この刀は、やがてアクマロに会う事があれば、その体を二つに引き裂くだろう。

 ドウコクは、自身が二の目となる気はない。ゆえに、彼から得た情報では、アクマロが二の目となって襲い掛かってくる以上の、意味はない。
 アクマロがどこかに現れるまでに、ドウコクはともかく志葉の屋敷に向かう方針であった。
 この珍妙な光──嘆きの海、と呼ばれていた──に誘われてやって来てみれば、次に得たデータはアクマロの出現の話だ。
 アクマロと共通してよく知っている場所といえば、志葉の屋敷だろうか。やはり、行動方針としてそこに向かうのは変わらない。



 ──状態表のあと、(ry



【1日目 夜中】
【F−5/山頂・忘却の海レーテ前】

【血祭ドウコク@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:ダメージ(極大)、疲労(大)、苛立ち、凄まじい殺意、胴体に刺し傷
[装備]:昇竜抜山刀@侍戦隊シンケンジャー、降竜蓋世刀@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:なし
[思考]
基本:その時の気分で皆殺し
0:志葉の屋敷に向かう。アクマロを見つけたら殺す。
1:首輪を解除できる人間を捜す
2:加頭、マンプクを殺す
3:杏子や翔太郎なども後で殺す
4:嘆きの海(忘却の海レーテ)に対する疑問
[備考]
※第四十八幕以降からの参戦です。よって、水切れを起こしません。
※第三回放送後の制限解放によって、アクマロと自身の二の目の解放について聞きました。ただし、死ぬ気はないので特に気にしていませ


187 : ◆gry038wOvE :2014/03/31(月) 14:50:36 Mvr2kvM20
何とか投下できました。
以上で投下を終了します。


188 : 名無しさん :2014/03/31(月) 15:00:58 oER/1v9o0
投下乙です。
やっぱりマンプクさんは反逆する気が満々だったかww
果たしてドウコクはマンプクから地位を取り戻せるのか……?


189 : 名無しさん :2014/03/31(月) 16:45:10 VPtKhJ.oO
投下乙です

だからEDはいいよw


190 : 名無しさん :2014/03/31(月) 22:26:41 pEqU7Cxg0
投下乙です

素晴らしい主従関係(笑)だわ
ドウコクは一矢むくいる前にくたばるかどうかw


191 : 名無しさん :2014/04/01(火) 00:08:08 kGvU57kg0
ちょwwww
mktn……wwwww


192 : 名無しさん :2014/04/01(火) 00:42:59 o67DH.NE0
エイプリルネタ、むっちゃ凝ってるなあwww


193 : 名無しさん :2014/04/01(火) 00:48:21 o67DH.NE0
しかしネタが細かいなあw


194 : 名無しさん :2014/04/01(火) 02:45:54 Qea0Sf7M0
ザギさんどんだけ本出してんだよw


195 : 名無しさん :2014/04/01(火) 02:55:31 7wLNjw6g0
本の題名使って喧嘩してんじゃねえよ、バカ二人www


196 : 名無しさん :2014/04/01(火) 14:33:44 JeTFtUDc0
速報・ガンバライジングにほむスカル参戦!サポートライダーは仮面ライダー王蛇!
他変身ロワ発のライダーたちが豪華新参戦しているらしいぞ。
石堀アクセルのサポートって凪スカルなんかな?


197 : ◆gry038wOvE :2014/04/02(水) 02:20:02 0KEodLbA0
投下します。


198 : ◆gry038wOvE :2014/04/02(水) 02:20:33 0KEodLbA0



 私は、果たしてどれだけ、あの人を愛しているのでしょう。そして、どれだけ憎んでいるのでしょう。……月並みな問いですが、その問いに、答えを出そうとするにも、私の口から言葉が出る事はありません。
 私は自分の喉が枯れたのかとも思いましたが、いいえ、私の喉は枯れてはいません。私の頭が言葉さえ出せぬほど馬鹿になったのかとも思いましたが、それも無いのです。
 私は、つい一昔前ならば、その問いに、「あの人を愛してはいるが憎んではいない」と答える事ができた筈であるのは間違いないのです。それを回想できるならば、私は言葉を失っているわけではないという事なのです。
 しかし、どう足掻いても答えが出せないのです。私の胸の中には深い情念がある、とだけは答えられますが、それが愛と憎しみ、どちらなのかは今となってはわかりません。本当はどう想っているのか、それは今となっては、答える事ができないほど曖昧な物になってしまったのでしょう。



 愛と憎しみは表裏一体、とはよく言った話ですが、私にも裏の目を出す日が来てしまうのでしょうか。そもそも、本当に表側は「愛」だったのでしょうか。憎しみが前にあったのではないでしょうか。
 私の本性か、あるいは人の本性が、最初は憎しみでできていて、それを認めたくないあまりに「愛」を生み出したのかもしれない。そう、思ってしまいます。
 ある時までなら、私の中に在る「愛」は、決して憎しみに転じる事のない健やかな物だと、信じてられていたはずなのです。いつからでしょう、こうして、はっきりと否定さえできなくなったのは。



 元来、人殺しなどとは無縁の私が、いつからか、その人の為に人を殺すようになっている。あの、悪夢に出てくるような「人殺し」です。そう、あなたの隣には、おそらくいない「人殺し」です。
 そんな、恐ろしい人が普通は近くにいる物ではないでしょう? でも、人の真実の一部なのかもしれないと、私は思っています。
 幼い頃ならば、人殺しの危険を教える周囲に脅かされ、果たして雑踏の中にどれだけ人を殺した人がいるのだろうか……と震えた事もありました。しかし、やがて時が過ぎ去れば、人殺しは遠い国の出来事の事なのだと思うようになりました。自分の周りにはそんな者が一人もないと思っていました。その期待も外れましたが、よもや自分が手を汚す事などありえない話だったのです。
 ついずっと昔まで、自分の手が人の血に汚れるなど、思ってもいなかったのに、ある日、突然人の血に汚れ、私はあの人殺しとなったのです。
 本当は私もこの手を汚したくなかったはずです。いいえ、今だって本当ならばそうです。しかし、そんな私はある人の手によって、人殺しにされました。人の中身を食いちぎるような感覚も知っています。
 そして、こうして私の手が、体が汚れていったのは、紛れもないあの人の仕業です。私がその人殺しの真実に気付いたのも全て、あの人がいてこそです。
 あの人がいなければ、こうして私の手が血に塗れて、人の真実を間違っていく事はないのです。

 考えてみれば、私は、あの人を憎んでいるのかもしれない。
 あの人は、決して私があの人のために汚れている事など、知る由もないのでしょうけど、無自覚だからこそ恐ろしいものです。

 愛はひっくり返せば、いっそう強い憎しみに変わる。それは正しいのでしょうか、──しかし、それが真実なのだとしても、私はこの愛を手放しません。
 あの人が死んでしまった今となっては、あの人に怒り、涙し、罵詈雑言浴びせる事さえできません。あの人の手がそんな私を撫でるのか、殴るのかさえわかりません。それでもあの人の手は私の髪を櫛のように撫でるのだと信じたい気持ちが、まだ心にはあるのでしょう。
 それがいわば、私の持っている「愛」の欠片。
 いずれにせよ、愛か憎しみか、いずれか一方、どちらかが私の心の深くにあり続けるのでしょう。だから私は消えないのでしょう。そして、そんな想いが、私と全く同じ心を持つこの人と出会わせたのだと思います。



 ──私の愛する人の名は、腑破十臓と言います。私は、この刀に身を変じ、「裏正」と名を変えた彼の妻です。






199 : ◆gry038wOvE :2014/04/02(水) 02:21:13 0KEodLbA0



 そもそも私は、この状況をよく理解してはおりませんでした。
 気づけば外道に落ちた夫、腑破十臓の手ではなく、何故か彼が斬ろうとした志葉丈瑠の手にあり、どういう経緯かは知りませんが、彼の手の中で人を殺す事になりました。
 私はその事実に嫌悪さえ覚えました。たとえこの身が剣になっても、その柄を握り、人を斬るのは腑破十臓のみであるべきだと、そう願っていたのです。ただ、こう言うと誤解があるので、一応言っておきますが、私は別に人を斬りたいわけではありません。
 私はこの姿であっても、十臓を止めたいのです。それが、あろう事か、私と十臓を止めてくれようはずの真剣烈堂の手に握られ、銀の妖と身を転じた志葉丈瑠の手で、人を斬る事を強いられました。
 もし、これが十臓の手だったのならば、彼が人斬りの性分を捨てない事に嘆きながら彼の手で生きるでしょう。止めようとする言葉も響かないまま、彼の蛮行を悔い、涙ぐむ事になるでしょう。しかし、志葉丈瑠に握られた時はただ、言いようのない気分の悪さを感じました。嫌悪はあれど、どこか落ち着いた気分なのです。嘆きも苦しみもなく、ただ空虚な気分で彼に身を委ねていました。

 志葉丈瑠は生身の人間を斬る事ができず、それが心に迷いを持たせているような気がしました。しかし、彼ももし一度でも生身の人間を斬ったら、彼は十臓と同じく、外道になるのかもしれないという恐怖が、私の中にありました。
 彼もまた外道に堕ちる危険を孕んだ男──その瞳の奥はどこかかつての十臓に共通した孤独を見つけていたのです。彼にとっての何かが、十臓にとっての病魔と同じだったに違いありません。いつも男を外道に狂わすのは、ほんの少しの悩みや苦しみなのです。それが深ければ深いほど、外道に堕ちる可能性は高くなります。時代は違えど、人斬りと全く変わらない本性を持つ人間がいるに違いありません。
 それを爆発させる場所が、他者への暴力、侍にとっての人斬りなのです。いつも悩みや苦しみを言い訳に、本来自分を突き動かしているのが快楽である事を無視するのです。十臓はそれに気づき、開き直ってしまいました。病魔が先にあったのではない、そんなのはいいわけで、人斬りが自分の真実なのだと。それはきっと、私たち女には理解できない話なのでしょう。
 それでも、志葉丈瑠も腑破十臓は、きっと性根は外道ではなく、優しい人なのだと信じながら、私は生きてきました。
 私は、志葉丈瑠に身を寄せ、彼に同行する奇妙な男とともに移動させられていました。そして、その旅路の中で、突如として、死亡者の名が告げられる放送が聞こえました(どうやら、等間隔でこの放送が鳴り響いているらしい事は、後ほど、二回に渡る放送でわかってくる話です)。

 腑破十臓──その名前が最初の呼ばれた時、私は発狂しそうになりました。

 体の中から、果てしない嘆きの力が湧き上がりましたが、私には何をする事もできません。私は夫の傍にいて、その所業を止める事が出来なかったのだと確信しました。
 わけもわからぬうちに夫に死なれ、この私を寝取った新しい男(←違う)と共に、黙り込んでしまいました。この「裏正」となってからも、人の道にはぐれた夫を正そうと生きてきた日々は、何だったのでしょう。

 しかし、私はその名前が呼ばれた時、志葉丈瑠によって、ある種の救いを得て、同時に永久に救われなくなったような気がしました。
 そう思ったのは、厳密に言えば放送の瞬間ではなく、志葉丈瑠に同行する男が、十臓の名を口にした瞬間です。同行人の男は、十臓の死に対して、『手間が省けてよかった』と言いました。私はこの言葉にどうしようもない苛立ちを感じました。私は、十臓の手にあり、そこで彼の真実を目の当たりにする事を嘆いていましたが、一方で、そんな十臓の傍にいない事は不安でもあったのです。
 もしかしたら、私は刀と成り果てても、その情愛が人を斬る刀に利用されたとしても、彼を止めようとする自分自身に生きがいを感じていたのかもしれません。私も、刀に封じ込められても、十臓の傍にいなければ、ただの道具に過ぎません。十臓も私を「裏正」と呼びました。……おそらく、十臓は私が裏正の中にある事を、まだ気づいていないのでしょう。それでも、十臓の傍にいればいつか私に気づき、彼は斬り合いをやめてくれると信じていました。彼には私への愛が残っているはずだと思っていました。彼の傍で人を斬っているさなかでも、まだ彼を止められるならば、人をやめた甲斐があるというものなのです。
 志葉丈瑠もまた、何らかの形で十臓の存在を何か生きがいのようにしている、そんな目でした。
 同行者を憎み始めていたのです。


200 : ◆gry038wOvE :2014/04/02(水) 02:21:41 0KEodLbA0
 ……ですから、私の嘆きと、彼の嘆き、その二つが合わさって、殆ど無意識のうちにその男を斬りつける事になりました。今になって思えば、この時、私自身が、怨念や情念として、志葉丈瑠に取り憑いていたのかもしれません。そうでもなければ、これまで人を守ってきたであろう志葉丈瑠が、あんなにも短気になって、人を斬る事があるのでしょうか。結局これもまた男の本質だったというのでしょうか、それは信じたくありません。
 彼もまた、斬り合いこそが自分の真実だと、認めてしまったのだとは、思いたくありませんでした。十臓と同じ悲劇を、何度も同じ事を繰り返したくはないのです。そうして男の本性を知りたくはないのです。

 刀を持つ人が主導に人を斬るのではなく、人に持たれる刀の方が人を斬ろうとしていた──そうだったというのが、私の見解です。ですから、その時目の前にあった人の成れの果ては、私の罪なのかもしれません。
 ばらばらにちぎれていったその男の体を見つめた時、いっそう空虚な気持ちが私の中に生まれます。血のりは、土も雑草も穢します。私は何度も臓物に触れましたが、雑草や花は、臓物に触れるのは初めてでしょう。
 私と彼は、この瞬間、自分の真実もわからぬまま、本当の人斬りになってしまったのです。
 志葉丈瑠──彼は十臓を止めるはずだった男。彼が十臓を止める、あるいは、志葉丈瑠が志葉丈瑠として外道に堕ちる事もなく責務を全うするのを見届ける事で、私は救われるかもしれないと、そう思っていたのですが、それは叶わぬ願いでした。
 私が十臓を止めるのなら、志葉丈瑠の持つ狂気は、いずれ彼の家臣が止めてくれると信じていました。しかし、それを絶ってしまったのは私であるような恐れが、いまだ心にあります。あの同行者を殺したのは、彼ではなく、この私なのだとしても、彼の手が血に汚れた事は間違いありません。彼もまた、外道──人斬りとなったのでしょう。
 彼が閉じ込め続けた狂気が、おそらく私の犯した罪のせいで、完全に解放されてしまったのです。
 私は志葉丈瑠とともに、本当の地獄を彷徨う事になったのです。



 やがて、私はある男にその身を真っ二つに折られ、森の中へと捨てられました。その男が丈瑠に投げかけた言葉は、大方私の思っている事と同じでした。しかし、そんな本性を振り払えるほどの理性が男にはあるのだと、信じていました。
 ただ、一つ言うのなら、その相羽シンヤという男も、また内には何らかの暴力を振るう気持ちが芽生えていたのでしょう。彼もまた、外道なのです。彼もまた、自分では気づかぬうちに、「愛憎」を言い訳に他者へと暴力を振るった怪物だったのです。
 何にせよ、その男に¥真っ二つに折られ、捨てられた後、私は二度と志葉丈瑠の手に握られる事はありませんでした。当然です。折れた刀は使いようがありません。
 勿論、私はそこでまた空虚な時間を過ごす事になりました。他の人たちにとって、裏正は「モノ」以外の何物でもないわけですから、たとい見つけたとしても素通りを決めるに決まっています。
 ただ、それでも、唯一……少しだけでも私を満たしたのが、私の生きがいを穢したあの、志葉丈瑠の同行者の男を消せた事でした。その喜びが、胸に秘められているのは確かです。その喜びを自覚した時、実は女の性も人斬りなのではないかと思わせました。
 そして、言い訳として使っているのは「十臓」。彼がいなければ、おそらく、私は己の本性に気づかず、夫を止めようとする優しき妻であったに違いありません。私は彼を愛せるのでしょうか、憎んでいるのでしょうか。


201 : ◆gry038wOvE :2014/04/02(水) 02:22:04 0KEodLbA0



 昼まで、私は折れた身で、黙ってそこにい続けました。一日耐え忍ぶ中、私は何を考えればいいのかわからなかったのです。このまままた、私の無念がここに残り続け、あの地獄の二百年よりもずっと長い年月が私の魂をこの剣に閉じ込め続けるのではないかと、そう思いました。
 それはまさしく地獄です。人を斬るのも地獄でしたが、人を斬らずとも、身動きも取れぬ刀の中で嘆き続けるのは、地獄の苦しみという他ありません。ここは誰も通らず、仮に通ったとしても誰も私の存在を気にかけないのでしょう。十臓は私を「裏正」の名で呼び続け、時に声をかけましたが、その日々の方が幾分ましでした。
 何を考えればいいのかわからぬまま、ただ長い時間をこの刀の姿で見守り続けます。
 十臓は、もうこの世にはいない。ならば、私がこうしてここにいる意味もないはずなのに、私の体は消える事はありませんでした。十臓を止める事を考えるなど、もう無駄な徒労にしかなりません。
 中空に人が立ち、妖と思しき怪物が次々と死者の名前を告げていく時も、私の体はご覧のとおり、真っ二つに折れているのですが、私の名が死者の名として呼ばれる事はありませんでした。まるで、私はこの場にいないかのように扱われています。
 誰にも知られぬまま、こんなちっぽけな私が地獄の苦しみを味わい続ける──それほどの恐怖が、果たしてあるでしょうか。これから永久に、私は十臓と遠く離れて、志葉丈瑠にさえ握られぬ事なく、物言わぬ刀として地獄の苦しみに囚われ続けるのでしょうか。
 刀がどれだけ嘆いても、その言葉を聞いてくれる人はいませんでした。
 志葉丈瑠の名前もまた死者として呼ばれました。



 夕方を過ぎても、私の嘆きは消えません。妖や異形への恐怖は二百年のうちに少しずつは消えましたが、人の情はまだ私を叫ばせるのです。時に人であった頃の懐かしい父や母の姿を思い浮かべると、亡き二人の元へと逝けない悲しさと、貴方の娘が今は剣となって人を斬り続けている申し訳なさが湧き上がります。
 私の無念はいまだこの森に在り続けました。人斬りでなくなっても、地獄の苦しみと私の意志とは、永久に切り離されないようです。
 それから、中空に妖が現れるのは三度目でした。
 その三度目が、私の運命を変えました。

「あいん、はると……」

 放送の名前と被さるようにして、誰かがその名前を呟きました。
 この私の近くに誰かがいるのです。そして、今まさにそこで立ち止まり、放送を聞き、名前を反芻しているのです。
 この深い森の中、折れた刀に過ぎぬ私に気づく事はあるかわかりませんが、その少女はその名前に何か思うところがあるようでした。
 放送は続きます。その度に、彼女は少し声を上げる事がありました。呻くように、喘ぐように、彼女は誰かの名前に苦しめられているようでした。

「げん、たさ……」

 梅盛源太、という名前を聞いた時の彼女の苦しみようは、まさに私と同じく、何かに閉じ込められた人の嘆きのようです。彼女の魂もまた、泣いている事に気が付きました。
 私は、確信しました。
 彼女は私と巡り合う──と。
 たとえば、十臓と出会った時、私は十臓と夫婦になり、彼に献身する事になると、それを直感しましたが、それと同じく、彼女は私を拾う事になるだろうと思いました。
 私の刀身は真っ二つに折れているのですが、そんな事を彼女は構わない。何故なら、私と彼女は、どこか惹かれあっている、根本が共通している存在であったからです。

「ダグ、バ……」

 その名前が、彼女の嘆きを深めたようです。
 私にとっての十臓のような、そんな感情があったのでしょうか、その名前こそが、彼女の今の生きがいだったのでしょうか。

「ダグバ……? ダグバ……、嘘……私の手で倒すはずだったのに……」

 声を出す事ができたのなら、私の嘆きはこの直後の彼女の声に近かった事でしょう。
 筆舌に尽くしがたい声が、森に響きました。近くには誰もいなかったのか、彼女の嘆きが誰かを呼ぶ事はありませんでした。






202 : ◆gry038wOvE :2014/04/02(水) 02:22:27 0KEodLbA0



 彼女が歩き出した時、彼女は私の姿を見て、私を拾いあげました。
 折れた刀である私ですが、どうやら彼女は、それが森の中に落ちている事を気に入らなかったようなのです。
 彼女は、私の二つの刀身を拾い上げると、物言わぬ私に語り掛けました。

「……私の名前は天道あかね。よろしくね」

 私が魂を持つ刀である事に、気づいているのかはわかりません。ただ、彼女は自分の名前を紹介しました。てんどうあかね、という名前が私の頭の中に残ります。
 私は自分の名前を彼女に告げる事ができませんが、彼女は奇怪な剣たる私を拾い上げて、その場を後にしました。







 ……天道あかねは、目的を失っていた。
 放送で、アインハルトや源太の名前が呼ばれ、かつての仲間が少し減った事を知った。しかし、それでも日常に回帰するためには、またその悲しみを背負わなければならない。
 内外からのストレスは増す。あかねの綺麗な黒髪も、今はうっすらと白髪を蓄え始めているほどだ。
 その二人の死、以上に重いのは、そう──

「ダグバ……? ダグバ……、嘘……私の手で倒すはずだったのに……」

 ン・ダグバ・ゼバ。彼は、あかねにとっても倒さねばならぬ存在だったはずだ。どうしてそうなったのかはわからないが、彼を倒す事はあかねにとって、現在の指標だった。
 理由もわからぬまま彼に憎しみを燃やすのは苦痛であったが、それを思い出す気には、なれなかった。それもまたどうしてなのかはわからない。
 とにかく、今はダグバの「死」すら憎かった。
 ダグバはいつからか、あかねの全てを奪っていくような気がする。平穏な日常、「誰か」、あかね自身、そして、ダグバへの憎しみさえ、今は完全に消された。
 ダグバを殺すという行動方針は、ダグバが存在して初めて生まれるもので、彼が死んでしまえば、あかねは何もする事ができない。誰にこの憎しみを振りかざしていいのかわからない。
 あとは、そう、他の参加者を殺すしか目的がなくなってしまう。
 ダグバを倒すという最終目標が消された今、ガドルにしか興味というのがわかなかった。それも、ダグバと比べて、当人に酷い目に遭った覚えがない。全く、彼とは無縁であるが、それでもまだ同種というだけで憎しみの切れ端でも呼び起こせれば、それで充分だった。
 あかねは慟哭する。自分さえ、どんな声が出ているのか、想像もつかないほどの声で。

「──」

 そんな折、不意に、あかねの背後で、声が聞こえたような気がした。
 夜中の森。怖くないはずがない。あかねのストレスを更に強めるのは、この夜の恐怖であった。まだ夜といえど七時ほどではあるが、周囲の森は恐ろしく冷えるし、誰もいないのに人の気配を感じてしまう。
 元来、あかねは怖がりな性分で、幽霊などは嫌いだった。こんな樹海みたいな場所で一人歩き続けるのもまた恐ろしい。実際、ここには妖怪までいるらしいので、それを倒すためには克服しなければならないだろう。
 彼女が森を突き進む事を選んだのもまた、同じ理由かもしれない。

 先ほど、放送の前には人の死体も目にした。
 誰かもわからないが、真っ黒な衣装を着た男で、これがまた不気味であった。
 男の傍ら、首輪がいくつも、乱雑に置いてあったので、それを全て回収しようとしたが、それまた一苦労であった。男の死体が動き出すのではないかとさえ思ったのだ。
 しかし、精神的にも強くならなければならないと思い、やはり思い切ってそれを動かした。
 他にも、デイパックを奪い、あかねは山を越えて冴島邸の前まで来たのである。山を越える際、夕暮れの山のあまりの恐ろしさに、彼女は駆け出し始めていた。
 脳裏には、とうにくしゃくしゃに丸めて思い出さないようにしていた、あの不気味な絵が浮かんでくるくらいだ。
 後でデイパックを確認したら、ガイアメモリも入っていた。なかなかの収穫であったといえるだろう。

 今、こうして背後から声をかける者がいるというのも、あかねには恐怖でしかなかった。
 しかし、それでも、あかねは振り向いた。勇気を振り絞るような場面が続くが、まあ血の気が引いた状態ながらも、あかねはそちらを見た。


203 : ◆gry038wOvE :2014/04/02(水) 02:22:43 0KEodLbA0

 ……誰もいない。
 声を出す者など誰もいない。
 あかねがそれでも納得せずに、そこまで歩いて行く。そこにあったのは、人ではなく、真っ二つに折れた剣であった。
 折れた剣、といえば確かに使い難い武器だ。まあ、刃物としての役割は残しているだろうが、ナスカブレードに比べれば、明らかに不要な物である。
 しかし、あかねはその剣から声を聞いたような気がしてならなかった。
 その声を怪訝そうに見つめながら、あかねは呟く。不思議と、恐れはなかった。

「……私の名前は天道あかね。よろしくね」

 返事はない。返事はないが、どこかあかねの手に握られる事を喜ぶような、そんな感触が伝わってきた。どうやら、この折れた刃は、刀として扱われるよりも、人の傍にあった方がいたいらしいのだ。
 あかねはそう直感して、バルディッシュらと同じく、あかねの持つ道具たちの仲間入りを果たした。

 冴島邸に入ったが、これはまた西洋風の不気味な建物で、はっきり言えば、無人の豪邸というのはかえって恐ろしいものだった。森の中央にあるこの邸宅は、誰かの家というよりはむしろ廃墟だろう。

(……戦闘の痕があるのは家の周囲だけ、中は荒らされてもいないし、特に目立った特徴もないみたいね)

 ざっと、冴島邸を流し見したが、実は玄関まで入っただけであかねは調査を終えた。
 一人で入るには勇気がいる。まるでお化け屋敷である。
 あかねは、夜の森の中で、こんな灯りの付け方もわからない屋敷に入る気になれなかった。
 こんな所に入れるのは、おそらくこの館の持ち主である冴島鋼牙か、よほどの変わり者だけだろう……。

(隣、E−4エリアは23時に禁止エリア……予期せぬ事態が起こる可能性を考慮に入れると、あまり行くべきではなさそうね)

 そこで、またおおよそ、あかねの行く道が決まった。
 そちらの方向以外だと、近いのは「グロンギ遺跡」という場所だ。前よりも少し高い山に登る事になるが、そのくらいはまあ、いい。
 これから禁止エリアになろうというE−4エリア方面よりは安全だ。カナヅチなあかねにとっては天敵といえる「水」のある地帯が非常に多いが、それはまだ気を付ければ何とかなる。禁止エリアはどうしようもない物だ。
 あかねは、現在自分がこの薄暗い森の中心に一人でいて、すぐには抜けられない事が怖くてたまらなかったが、それでもまだ、己の中に愛がある限り、戦おうとしていた。

 そこに、一欠片でも憎しみがあるかもしれない事を、考えもせずに。


204 : ◆gry038wOvE :2014/04/02(水) 02:22:59 0KEodLbA0


【1日目 夜】
【E−5/森・冴島邸付近】

【天道あかね@らんま1/2】
[状態]:ファウストの力注入による闇の浸食(進行中)、肉体内部に吐血する程のダメージ(回復中)、ダメージ(大・回復中)、疲労(大)、精神的疲労(大)、胸骨骨折、
    とても強い後悔、とても強い悲しみ、ガイアメモリによる精神汚染(進行中)、伝説の道着装着中、自己矛盾による思考の差し替え、夜の森での一人歩きが少し怖い模様
[装備]:伝説の道着@らんま1/2、T2ナスカメモリ@仮面ライダーW、T2バイオレンスメモリ@仮面ライダーW、バルディッシュ(待機状態、破損中)@魔法少女リリカルなのは、二つに折れた裏正@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:支給品一式×2(あかね、溝呂木)、首輪×7(シャンプー、ゴオマ、まどか、なのは、流ノ介、本郷、ノーザ)、女嫌香アップリケ@らんま1/2、斎田リコの絵(グシャグシャに丸められてます)@ウルトラマンネクサス、evil tail@仮面ライダーW、拡声器、双眼鏡、溝呂木のランダム支給品1〜2
[思考]
基本:"東風先生達との日常を守る”ために”機械を破壊し”、ゲームに優勝する
0:グロンギ遺跡に行ってみる。森がちょっと怖い。
1:ガドルを倒す。
2:ダグバが死んだ…。
[備考]
※参戦時期は37巻で呪泉郷へ訪れるよりは前、少なくとも伝説の道着絡みの話終了後(32巻終了後)以降です。
※伝説の道着を着た上でドーパントに変身した場合、潜在能力を引き出された状態となっています。また、伝説の道着を解除した場合、全裸になります。
 また同時にドーパント変身による肉体にかかる負担は最小限に抑える事が出来ます。但し、レベル3(Rナスカ)並のパワーによってかかる負荷は抑えきれません。
※Rナスカへの変身により肉体内部に致命的なダメージを受けています。伝説の道着無しでのドーパントへの変身、また道着ありであっても長時間のRナスカへの変身は命に関わります。
※ガイアメモリでの変身によって自我を失う事にも気づきました。
※第二回放送を聞き逃しています。 但し、バルディッシュのお陰で禁止エリアは把握できました。
※バルディッシュが明確に機能している事に気付いていません。
※殺害した一文字が機械の身体であった事から、強い混乱とともに、周囲の人間が全て機械なのではないかと思い始めています。メモリの毒素によるものという可能性も高いです。
※黒岩によりダークファウストの意思を植えつけえられました。但し、(死亡しているわけではないので)現状ファウスト化するとは限りません。
 あかねがファウストの力を受ける事が出来たのは肉体的なダメージが甚大だった事によるものです。なお、これらはファウストの力で回復に向かっています。
 完全にファウスト化したとは限らない為、現状黒岩の声が聞こえても洗脳状態に陥るとは限りません。
※二号との戦い〜メフィスト戦の記憶が欠落しています。その為、その間の出来事を把握していません。但し、黒岩に指摘された(あかね自身が『機械』そのものである事)だけは薄々記憶しています。
※様々な要因から乱馬や良牙の事を思考しない様になっています。但し記憶を失っているわけではないので、何かの切欠で思考する事になるでしょう。


205 : ◆gry038wOvE :2014/04/02(水) 02:23:57 0KEodLbA0
投下終了です。
驚きの読みにくさ。書いている最中はこんなに読みにくい文になるとは思いませんでしたが。


206 : 名無しさん :2014/04/02(水) 02:49:21 COCStY2Y0
投下乙です
まさかの裏正、十臓の奥さん登場とは…
あかねー!そっちは危ないぞー!

それと一つ気になったのですが、裏正は2回目、3回目の放送はどこで聞いたんでしょうか?
放送の音声は首輪から発せられるので近くに首輪がない場合放送は聞こえないはずですが…


207 : 名無しさん :2014/04/02(水) 08:45:45 gl9M8YLU0
投下乙です!
よりにもよってあかねは裏正を拾うとは……しかも、進行方面にはガミオがいるしw


208 : 名無しさん :2014/04/02(水) 19:27:50 LuUEPkVQ0
投下乙です

あかねはとことん運が悪いなあw
ロワに掘り込まれた時点で運勢は悪いんだけどさw


209 : 名無しさん :2014/04/02(水) 20:43:52 jwVK38MoO
投下乙です。

あかねを見たら、ガミオが「リントはグロンギと等しくなったのか」とか言いそう


210 : ◆gry038wOvE :2014/04/02(水) 22:35:42 0KEodLbA0
>>206
そうですね。wiki収録時に第二回放送、第三回放送に関する記述、該当部分を削除します。


211 : ◆LuuKRM2PEg :2014/04/05(土) 10:02:35 TR.FWUvs0
これより投下します。


212 : ラブのラブレター! 驚きの正体!? ◆LuuKRM2PEg :2014/04/05(土) 10:03:40 TR.FWUvs0
「……なあ、石堀。そろそろ休まないか?」
「何?」
「ほら? 俺達、ここまで結構戦ったじゃん? なのに、ほとんど休めていない……これじゃあ、いつかバテちまうぜ? ラブちゃんだって、疲れていそうだし」

 涼村暁が、桃園ラブを見ながら提案をしてくる。言われてみれば、その顔には何処となく疲労の色が感じられた。

「えっ? あたしはまだ、大丈夫ですけど?」
「子どもは無理をしなくていいの! それに実は言うとさ……俺もヘトヘトなんだよね……だからさ、休もうぜ?」

 それが暁の本音なのだろう。治療はしたがあくまでも応急処置なので、いつ開いてもおかしくない。この男はバカだが、ここで死んでは面倒なことになりかねなかった。

「……わかった。お前の提案を受け入れよう。流石に俺も疲れているからな」
「マジで? サンキュー!」
「言っておくが、一人で変なことをするなよ。何かあっても俺達ではどうにもならないからな」
「おいおい……俺がそんなことするわけないでしょ!」
「どうだか。お前のことだから、またバカなことをしないか心配になっただけだ」
「なにぃ!?」
「まあまあ、二人とも……」

 怒りだした暁を宥めるようにラブが現れた。また軽口をぶつけたが、流石に限度を超えると疲れるだけなので、この辺りにしておかなければならない。
 時刻は既に22時を過ぎている。四度目の放送までもう遠くなかった。
 相当の体力を消耗してしまったので、黒岩省吾が死んでからずっと中学校に留まっていた。涼村暁はダークメフィスト・ツヴァイと戦ったばかりで、桃園ラブも連戦で疲労が溜まっている。ここで無理をさせては肝心な時に使えなくなる恐れがあった。
 それに石堀光彦自身だって、ガドルやダグバとの戦いでダメージを受けている。今の所、行動に支障はないが休憩をして損はない。それに、予知能力の再使用までの時間を稼ぐのも悪くはなかった。

「とりあえず、警察署までの行動ルートを次の放送までに考えておく……お前達はその間に少しでも身体を休めてくれ。他の部屋に行って一人で休むのは構わないが、あまり遠くに行くなよ」
「オッケー」
「わかりました」

 暁とラブは頷きながら部屋を出る。
 能天気な二人を見て、やはり人間とは利用しやすい生き物だと石堀は思う。あの平木詩織だって、自分のことを欠片も疑わずに信頼をしている。一見するとナイトレイダーの有能なメンバーだが、本質的にはただのお気楽な女だ。いずれ、信頼を寄せていた相手に裏切られて絶望するに違いない。ここにいる二人だって、例外ではなかった。
 とにかく今は、今後の進行プランを練りながら暁とラブを見守らなければならない。警察署に向かうとしても、そのルートがあまりにも過酷だった。

(市街地の方はどちらも禁止エリアとなって塞がっている……かといって、森の方を通るとなると遠回りになる上に、次の放送ではそこが選ばれる危険だってある。そもそも、この街だっていつまでもいられるとは限らない……)

 普通に行くなら【F−8】エリアか【G−9】エリアのどちらかを通るべきだが、首輪がある限り通れない。足を踏み入れたら爆発するのか、それとも爆発までの猶予があるのかわからなかった。
 死んだ参加者の首輪を放り投げれば実験できるだろうが、手元にはない。ダグバや黒岩から確保するべきだったかもしれないが、それでは二人からの信用を失ってしまう。何の躊躇いもなく首を切るような男を見たら、普通の人間は嫌悪する。いざという時に裏切られては意味がなかった。
 アクセルブースターに変身してから二人を抱えて、そのまま海を経由して警察署に向かう……この方法もあるが、途中で二人が暴れださないか心配だ。ラブはまだしも、暁だったら絶対に騒ぐはずだった。


213 : ラブのラブレター! 驚きの正体!? ◆LuuKRM2PEg :2014/04/05(土) 10:04:26 TR.FWUvs0
 トライアルになり、同じように二人を抱えながら禁止エリアを突っ走る方法もある。だが、爆発のタイミングがわからないのでは危険だし、加速の時間自体も限られている。そんな状況ではあまりにも危険すぎた。
 やはり、一番無難な方法は森を通ることだろうか? しかし、森でガドルのような参加者と遭遇してしまったら、今度こそ二人の内のどちらかは殺される危険がある。

(どうやら、多少のリスクは背負わなければならないようだな……人間のように躊躇っていても、何も得られない。いざとなったら、二人には言い聞かせなければならないようだな)

 どの道、仲間と合流をするならば多少の危険は避けられない。こんな島の中で安全な場所など存在しないのだから、強行突破も考えなければなかった。
 そう思いながら、石堀は立ち上がる。既にこの部屋には暁もラブもいない。
 彼らがどこにいるのか。それだけでも把握しておかなければならなかった。





 暁は数時間前のように図書室にいる。
 あの黒岩はもう倒してしまったのだから、別に間違った知識を指摘する為に調べ物をしている訳ではない。そうでないなら、勉強が嫌いな暁が自分から本を読むなんてことはありえなかった。
 しかし、暁は再びたくさんの本を取り出して調べ物をしている。しかも、ご丁寧に筆記用具とメモ用紙まで用意した上で。

「ふんふん、なるほど……ここはこうすればいいのね」

 納得したように独り言を零しながら、暁はメモを取る。もう制限解放は終わったのだから、誰かに聞かれることを気にする必要もない。尤も、今回は別の意味で誰にも知られたくない内容だが。
 一ページ、また一ページと……本をゆっくりと捲る。その度に、暁は感心したかのように「おおー」と呟いていた。
 今回の本に書いてあることも暁にとっては必要な知識だ。戦いではなく、愛の為……いや、ある意味では戦いの役に立つかもしれない。この殺伐とした世界に希望を与える為の知識だ。あの速水克彦とかいう男がいたら、きっと「お前はなんてふしだらだ!」なんて怒鳴っていたかもしれない。でも、仮にそう言われたとしても暁は無視するつもりだ。
 黒岩だったらどうだろうか? きっと、相変わらずこんな自分をバカ呼ばわりしながら蘊蓄を振りかざすだろうが、構わない。そうなったら、こっちから逆に黒岩の間違いを正せばいいだけだ。
 そんなことを考えながら本を読んでいると、部屋のドアが開く音が聞こえる。それに気付いた暁が振り向くと、あの石堀が立っていた。

「ここにいたのか、暁」
「げえっ、石堀!? な、何の用だよ!?」

 石堀の姿を見て、慌てふためいた暁はメモ用紙と本を後ろに隠そうとする。だが、隠し切れていない。

「……お前こそ、どうして俺の姿を見て怯える? 俺が化け物にでも見えたか?」
「あ、当たり前……いや、違う! ノックもしないで入るなんて、失礼だろ!」
「トイレじゃあるまいし、こんな所でノックをする方がどうかと思うぞ?」
「うっ……まあ、でもそこは空気を読もうぜ!」
「……やれやれ」

 石堀は呆れたように溜息を吐きながら、図書室に足を踏み入れる。歩みを止める気配はない。
 このままでは、バレてしまう……そう思った暁は、腹を括ることにした。


214 : ラブのラブレター! 驚きの正体!? ◆LuuKRM2PEg :2014/04/05(土) 10:05:35 TR.FWUvs0
「それで、お前はここで何をしていたんだ? また、勉強をしているのか?」
「そ、そうだ! 俺は実は言うと、勉強熱心だから常に勉強を欠かさないようにしているのさ!」
「嘘を言うな」
「ぐう……」

 咄嗟に言ってみたが、やはりバレてしまう。こんなやり方で騙せる訳がなかった。
 そうしている内に、石堀が近づいてくる。あと数歩だった。

「休みたいと言ったのはお前だろう? なのにどうして、こんな所で本を読んでいる?」
「わ、わかった! わかったから、そこで止まってくれ!」
「何?」
「俺が勉強していることは、実は言うと秘密にしておきたかったんだ! でも、見つかったからお前にだけは教える……このことは、誰にも言わないでくれよ!」
「あ、ああ……」

 頷きながらも石堀は足を止めてくれる。やはり、表面上ではいい奴でいてくれているのだろう。胡散臭い奴は好きになれないが、今だけは有難かった。
 軽く安堵しながら、暁は石堀に耳打ちをする。男同士でこんなことをしたくないが、今だけは仕方がなかった。

「いいか、石堀……本当に秘密にしてくれよ」
「……早く言え」
「じゃあ、言うからな……」
「ああ……」

 ドラマとかなら、緊迫感を煽るようなBGMが流れそうだが、今は静寂に包まれている。ごくり、と息を呑んでもよさそうなのに、石堀は無表情のままだ。
 しかしそれなら仕方がない。誰にも聞かれないように、ひそひそと呟く。

「実は言うとな……」
「実は言うと……?」
「……ラブレターの勉強をしていたんだ」

 暁は静かに、そして強く宣言した。

「……は?」
「俺、実は言うとラブちゃんとデートの約束をしている……だから、その為にラブレターを書きたくて、勉強をしていたんだ」
「……そうなのか。でも、こんな時に書く必要があるのか?」
「わかってないねぇ、石堀君! 雰囲気だよ! ふ・ん・い・き!」
「雰囲気、か」
「そういうこと! だから、内緒にしてくれよ! 俺はお前を友達だと思っているから、信じているぞ!」
「わかったわかった……」

 そして、石堀も了承する。この辺りを察してくれるのだから、やはり石堀は場の空気を読んでくれる信用していい男だ。
 そう思いながら、暁は石堀から離れる。やはり、男同士でくっつくのは趣味じゃないからだ。


215 : ラブのラブレター! 驚きの正体!? ◆LuuKRM2PEg :2014/04/05(土) 10:06:12 TR.FWUvs0
「何にせよ、きちんと休めよ。いざと言う時に死んでも、俺は知らないからな」
「その位、わかっているって……心配するなよ! あと、本当に秘密にしてくれよ!」
「しつこいぞ……」

 やれやれと言わんばかりの態度で石堀は溜息を吐きながら、図書室から出ていく。
 暁もホッと息を吐いた。これで秘密を知られずに済むからだ。ゴハットを始めとする主催者達にはバレてしまうかもしれないが、どうせ後で倒すから気にする必要はない。
 気を取り直しながら暁は再び椅子に座った。

「さ〜て。愛の告白、愛の告白、愛の告白!」

 陽気な態度で鼻歌を歌い、再び筆を握る。
 テーブルの上に置かれているのは、デートやラブレターの書き方に関するテクニックが書かれた本だ。その数は十冊に達している。
 普通なら、この類の本は学校には置かれないかもしれないが、暁はそんなことを気にしない。ラブとのデートをするのに必要だから、丁度良かったとしか思えなかった。

「なになに? 行儀が良すぎず、長すぎず! それでいて、上から目線にならない! あと、心からの言葉を贈る! これはわかるわかる! たまにいるよな、ダラダラ長いのを個性と勘違いしている奴って!」

 暁は上機嫌に本を読みながら、ノートにポイントを纏める。
 テクニックを読んだ暁の脳裏には、黒岩省吾が蘊蓄を披露する姿が浮かび上がっていた。奴は上から目線の態度で出鱈目な知識を披露しているが、本当に知識を得ている人間からすれば滑稽以外の何物でもない。ウケを狙ったとしても苦笑をされるのがオチで、最悪の場合として信頼を失う結果に終わってしまうこともある。そんなのをラブレターに書いたとしても、確実にフラれてしまう。
 また、無駄に長い文章はあるだけでも読む気を無くす。国語の教科書だって真面目に読んだことがないのに、挿絵もない小説など読める訳がない。どうでもいい蘊蓄や誰も求めていない解説なんかをラブレターに書いたら、速攻で破り捨てられるだけだ。
 わかりやすく、それでいて心を込める! 必要のない所は書かない! ラブレターに限らず、どんな文章でも大切なことだ。

「ラブちゃん、俺は君を愛しているよ! いや、これじゃありふれているか……あなたの瞳はプラネタリウムのように輝いている! さむっ、ポエムかよ! あるいは……君と出会えて、ウルトラハッピー! これは、未来の後輩に失礼な気がする! う〜ん、どうするか……」

 難しい参考書の問題を解こうとしている学生のように悩みながら、暁は白い紙と睨めっこをしている。
 胸の想いを……そして、秘密を教えるのにどうやって書けばいいのか。暁は物凄く悩んでいた。





 人気のない教室で空を眺めている。
 何か特別な理由があってこの部屋に入った訳ではない。ただ、何となく一人になりたかっただけだった。
 夜空に浮かぶ満月の光が窓から差し込んできて、暗い教室に柔らかな明かりを照らす。電気や太陽に比べればあまりにも頼りないが、完全な闇よりは頼もしかった。
 桃園ラブは窓から顔を出して、暗くなった空を見上げる。雲が一つもなく、月と数え切れない程の星が確認できた。
 夜空を見るのはこれで二度目になる。この島に連れて来られてから以来だけど、今は違う所がある。犠牲者の数が……増えすぎていることだ。
 最初は三人だった。それが、一八人になり、十五人になり、十二人になる……六時間ごとに、人がどんどん死んでいく。それが余りにも辛すぎるけど、どうすることもできなかった。


216 : ラブのラブレター! 驚きの正体!? ◆LuuKRM2PEg :2014/04/05(土) 10:08:40 TR.FWUvs0

「流れ星、見えないかな……?」

 不意にラブは呟く。
 もしも流れ星に願い事ができるのなら祈りたかった。もう、誰も死なないように……そして、こんな戦いが一秒でも早く終わるように……ただのお祈りだけど、それでも願わずにはいられない。沖縄で大輔との雰囲気が悪くなったときだって、一緒に流れ星に願ったおかげで仲直りができたから、今回も見つけたかった。
 微かな期待と共に夜空を眺めたが、流れ星は見つけられない。どれだけ目を凝らしても同じだった。

(今も、どこかで誰かが戦っているのかな……?)

 この星空の下で殺し合いは進んで、他の誰かが傷付いている。穏やかに見える星空の下でも、やっていることは一人一人で違っていた。暁と黒岩の戦いを、ラブはただ石堀と一緒に見ているだけだったように。
 思えば、ダグバとの戦いだって仲間達に任せるだけだった。理由があって戦わせようとしなかったのはわかるけど、やはりもどかしくなってしまう。本当なら彼らと一緒に戦わなければならなかった。
 その為にも今はしっかりと休んで、次に備えて体力を回復させなければいけないのに、寝ようと言う気になれない。いつもだったらこの時間には寝ているし、今だって充分に眠いけど、やっぱり眠る気にはなれなかった。
 他のプリキュア達は何をしているのか? それを考えると、やっぱり簡単に眠ることができなかった。
 美希といつきはどこにいるのかわからない。つぼみとは村に行けば再会できると信じていたけど、反対側の街に到着してしまう。つぼみも街に向かっているらしいが、本当に巡り合えるのか……ラブはどうしても不安だった。祈里やせつなとは最悪の形で再会してしまったのだから、尚更だ。
 マミと同じ魔法少女である佐倉杏子のことだって心配になる。マミは彼女を信頼していたのだから、絶対に助けたかった。これまでの放送では呼ばれていないけど、これからどうなるのかわからない。

(杏子ちゃん……大丈夫だよね? 今、どこで何をしているのかな?)

 顔も知らない少女の無事を祈る。
 マミからは名前しか聞いていない。髪の色や顔の特徴も聞いておけば良かったと思うけれど、もうどうにもならなかった。石堀や暁に聞いてもわからないだろう。
 軽い後悔が芽生える。その瞬間、ドンドン! というドアを叩く音が聞こえてきた。

「ラブちゃん、起きてる〜?」

 続いて聞こえたのは、暁の軽い声だった。
 それを聞いたラブはドアの方に振り向いて、足を進めた。

「暁さん……あたしなら起きてますよ」
「そっか。なら、入ってもいい?」
「どうぞ」

 ラブは暁に答える。
 すると、ガラリと扉が横に開くと同時に暁が姿を現した。

「どうしたんですか、暁さん?」
「いや、ラブちゃんとデートの約束をしたでしょ……だから、その前に俺からプレゼントを渡しに来たの!」
「プレゼント?」
「そうだよ……じゃじゃーん!」

 暁は大げさに言いながら、懐から小さな封筒を取り出す。
 ニコニコと朗らかに笑いながら差し出してくる封筒を、ラブは受け取った。


217 : ラブのラブレター! 驚きの正体!? ◆LuuKRM2PEg :2014/04/05(土) 10:09:46 TR.FWUvs0
「なんですか、これ?」
「ラブちゃんへの、ラブレター!」
「えっ……ラブレター!?」
「そうそう! 君とデートをするなら、ラブレターも必要でしょ? だから……書いてきたんだ!」
「はぁ……」
「そういう訳で、俺の心を込めたラブレターをちゃんと読んでね! あ、でも誰にも言っちゃダメだよ? 俺と君だけの、約束だよ!」
「わかりました……」
「サンキュー!」

 そう言い残しながら暁は手を振って、部屋から出ていく。
 あれだけ盛り上がっていた雰囲気が嘘のように、部屋に静寂が戻る。まるで嵐のようだった。

「ラブレターか……」

 封筒の裏側を見てみると、豪快な字で『親愛なるラブちゃんへ』と書かれている。汚くはないが、丁寧とも言えない。普通の大人が書くような文字だった。
 ラブは封を開けて、中に入っている折り曲げられた手紙を開く。そこに書かれている文字も、やはり豪快だった。


 ラブちゃんへ。
 この俺、涼村暁様がいるからにはどんなデートだって楽しくしてあげるよ!
 遊園地だろうと、プールだろうと、映画館だろうと、公園でも、都会でもこの俺がエスコートしてあげます! 君とラブラブしちゃうよ!
 ラブちゃんのスマイルが見たいから、ドキドキで胸をキュンキュンさせるし、ハピネスがチャージできるデートにしてあげるから楽しみにしていてね!


「涼村暁より……か」

 書かれているのは、たったこれだけ。
 ラブは最初こそは呆気にとられたが、読み終えた途端に笑ってしまう。手紙の中に暁の情熱がたくさん込められているからだ。
 こんな状況でも暁は落ち込まないでありのままでいる。もちろん、本当は辛いのかもしれないけど、それを表に出すようなことはしない。悲しむ暇があるのなら笑うのが、暁という男だ。
 きっと、このラブレターだって楽しみながら書いていたはずだった。笑っていなければ、こんなにも元気に溢れている手紙なんて書ける訳がない。
 そんな暁の為にも絶対に生きなければならない。いつか、デートをしないといけないのだから、身体を大切にするべきだ。大輔とは、それからだ。

「……ん?」
 
 その時、手紙の片隅に小さな文字を見つける。普通に見ていたら、見逃してしまいそうなくらいに小さかった。

「何だろう、これ?」

 ラブは小さな文字を凝視する。


 追伸。
 ラブちゃん。これを見ることがあるのなら、教えるぜ。
 石堀には気を付けろ……黒岩の野郎はそう言っていた。
 俺も正直、信じられないけどあいつが嘘を言っているとも思えない。あいつはペテン野郎だけど、最後の最後には本当のことを言ったはずだ。
 詳しいことは、二人っきりのデートの時に教えるからね。


218 : ラブのラブレター! 驚きの正体!? ◆LuuKRM2PEg :2014/04/05(土) 10:10:45 TR.FWUvs0


「……なに、これ」

 ラブレターを握る手は震えていた。
 その内容はとても信じられない。あの黒岩が石堀に気を付けろと言っていたのは、どういうことなのか? 彼はこれまでたくさんの人を守ってきたし、凪の死にも怒りを抱いて戦っていた。
 いくら考えてもわからないので、ラブは急いで部屋から飛び出した。辺りを見渡すが、暁の姿は見えないので廊下を走る。普通なら先生に怒られるが、ここにはそんな人などいないので構わない。
 ただ、今は暁の真意が知りたかった。どうして、こんなことをラブレターの隅に書いたのかがわからない。暁が言うように、石堀も何かを隠しているのか?
 そんなことを考えながら走っていると、すぐに暁の背中を見つけた。

「暁さん!」
「あれ? ラブちゃん、どうかしたの?」
「あの、暁さん……さっきのラブレターなのですけど……」
「それは、俺達だけの秘密だって言ったでしょ?」

 ラブの言葉を止めるかのように、暁はひょうきんな笑顔と共に人差し指を突き付けてくる。

「全部、デートで二人っきりになった時に教えてあげるから、それまでは俺達だけの秘密って約束したでしょ? 約束を破るなんて酷いよ?」
「で、でも……」
「大丈夫! デートまでのお楽しみにしようぜ? それまではみんなで仲良くしながら、のんびりと休む! 大丈夫、俺が君を守るからさ」

 困惑するラブの前で、暁は右目でウインクをした。
 その姿を見て、ラブは追求をやめる。ここまで言うからには、やっぱり暁もよっぽどの理由があるのだと察した。
 彼が何を考えているのかはわからない。でも、暁だって直接は口にできない理由があって、ラブレターに混ぜて伝えることしかできなかったのだ。だから今は、秘密にするしかなかった。

「……わかりました。でも、デートの時には絶対に教えてくださいね」
「大丈夫だって! 俺は、秘密と約束を守る義理固い男だからさ!」
「あたしも、デートの時を楽しみにしています!」
「おう! なら、今はちょっとでもいいから寝ようぜ……俺も眠いしさ」
「あ、そうだった! もう、そんな時間ですよね……おやすみなさい、暁さん」
「おやすみ、ラブちゃん」

 そのやり取りを終えると、暁は保健室の扉を開く。中からは石堀と楽しげに話す声が聞こえてきた。
 何気ないやり取りだけど、暁は石堀を警戒しているかもしれない。ラブだって、石堀を信じていいのかどうかわからなくなってきた。
 ずっと前、お母さんに化けたソレワターセがシフォンを捕まえようとしたことがある。もしかしたら、石堀も巧みな演技で大勢の人を騙してきたのかもしれない……そう考えただけでも、不安になった。
 だけど、ここで石堀の正体を明かそうとする訳にはいかない。もしかしたら、石堀にだって何か理由があるかもしれなかった。つぼみのことだって守ってくれていたのだから、できるなら信じていたい。
 でも、暁との約束だって守るつもりだ。お母さんを助けてくれたせつなのように、暁だって頑張ってくれている。
 ラブもまた身体を休めようと思いながら、部屋へ戻ることにした。





「……お前達、まだ休んでいなかったのか?」
「いや、デートのプランを立てていたら遅くなって……」
「それはお前達の勝手だが、休憩の時間を無駄にするな。お前らはバカか」
「うるせえ!」


219 : ラブのラブレター! 驚きの正体!? ◆LuuKRM2PEg :2014/04/05(土) 10:11:40 TR.FWUvs0
 暁は石堀光彦と話をしている。怪しいと言われた男と一緒の部屋にいるのは不安だが、今は仕方がなかった。
 幸いにも、さっきの会話は聞かれていない。また、聞かれたとしても困るような話はしていないから……大丈夫なはずだ。
 本当ならタイミングを見計らって話したかったが、石堀がいる限りそんな隙などない。話している陰でひっそりと聞かれてしまったら、その瞬間に殺されてもおかしくなかった。
 でも、あまり先延ばしにする訳にもいかない……そう思って、暁はラブレターにメッセージを付け加えたのだ。こうすれば、ラブだって石堀のことを気を付けるはず。
 そういえば、石堀はクローバーボックスというオルゴールから弾かれた。それを踏まえると、石堀の正体はダークザイドのような怪人である可能性もある。こいつが本性を現したら、勝てるかどうかわからなかった。
 だから、もしも結城丈二や涼邑零と再会できたらこっそり相談をしなければならない。味方は一人でも多い方がいいからだ。

「だが、放送が終わったら警察署に移動をする……どのルートだろうと、文句を言うなよ?」
「わかっているって……ん? ちょっと待てよ、もしかしたらあの禁止エリアって所を突っ走るつもりか?」
「それは状況次第だ。とにかく、今はさっさと身体を休めろ……いいな?」
「わかったよ……」

 暁は渋々ながらも頷く。ここで下手に反論などしては、余計なトラブルを生むだけだ。
 移動だって、無茶なルートを通らないのなら余計なことを言う気はない。今は石堀に従うしかなかった。
 どうか、少しでも安全なルートでありますようにと願いながら、暁もまた休憩を選ぶことにした。

『……石堀光彦だ。奴に気を付けろ……』

 生前、黒岩が遺した言葉が頭の中で再生される。
 この男が本当に黒岩を悪魔にしたのか。そして、自分やラブに危害を加えるきっかけを与えたのか……
 ラブを守ったのも嘘だったのか。凪を守ろうとした姿も嘘だったのか。森の中で結城や零と良い雰囲気を作っていたのも嘘だったのか。
 石堀にとっては全てが嘘なのか……? その顔の下には何が潜んでいるのか?
 そう考えただけでも、暁の中で不安な気持ちが強くなっていた。



【1日目 深夜】
【G-8/中学校】

【備考】
※三人とも今は休憩をするつもりでいます。
※その後、仲間を捜すに予定ですがどのルートを選ぶのかは後続の書き手さんにお任せします。


220 : ラブのラブレター! 驚きの正体!? ◆LuuKRM2PEg :2014/04/05(土) 10:12:18 TR.FWUvs0
【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン】
[状態]:疲労(小)、胸部に強いダメージ(応急処置済)、ダグバの死体が軽くトラウマ、脇腹に傷(応急処置済)、左頬に痛み
[装備]:シャンバイザー@超光戦士シャンゼリオン、モロトフ火炎手榴弾×3
[道具]:支給品一式×8(暁(ペットボトル一本消費)、一文字(食料一食分消費)、ミユキ、ダグバ、ほむら、祈里(食料と水はほむらの方に)、霧彦、黒岩)、首輪(ほむら)、姫矢の戦場写真@ウルトラマンネクサス、タカラガイの貝殻@ウルトラマンネクサス、八宝大華輪×4@らんま1/2、スタンガン、ブレイクされたスカルメモリ、ランダム支給品0〜5(ミユキ0〜2、ほむら0〜1(武器・衣類ではない)、祈里0〜1(衣類はない)、黒岩0〜1) 、スーパーヒーローマニュアルⅡ
[思考]
基本:加頭たちをブッ潰し、加頭たちの資金を奪ってパラダイス♪
0:石堀を警戒。石堀からラブを守る。表向きは信じているフリをする。
1:石堀やラブちゃんと一緒に、どこかに集まっているだろう仲間を探す。
2:別れた人達が心配、出来れば合流したい。
3:あんこちゃん(杏子)を捜してみる。
4:可愛い女の子を見つけたらまずはナンパ。
5:変なオタクヤロー(ゴハット)はいつかぶちのめす。
[備考]
※第2話「ノーテンキラキラ」途中(橘朱美と喧嘩になる前)からの参戦です。
つまりまだ黒岩省吾とは面識がありません(リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキのことも知らない)。
※ほむら経由で魔法少女の事についてある程度聞きました。知り合いの名前は聞いていませんでしたが、凪(さやか情報)及び黒岩(マミ情報)との情報交換したことで概ね把握しました。その為、ほむらが助けたかったのがまどかだという事を把握しています。
※黒岩とは未来で出会う可能性があると石堀より聞きました。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限は『スーパーヒーローマニュアルⅡ』の入手です。
※リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキとクリスタルステーションの事を知りました。


【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、左肩に痛み、精神的疲労(小)、決意、眠気
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式×2(食料少消費)、カオルちゃん特製のドーナツ(少し減っている)@フレッシュプリキュア!、毛布×1@現実、ペットボトルに入った紅茶@現実、巴マミの首輪、工具箱、黒い炎と黄金の風@牙狼─GARO─、クローバーボックス@フレッシュプリキュア!、暁からのラブレター
基本:誰も犠牲にしたりしない、みんなの幸せを守る。
1:どこかに集まっているだろう仲間を探す。
2:マミさんの遺志を継いで、みんなの明日を守るために戦う。
3:プリキュアのみんなと出来るだけ早く再会したい。
4:マミさんの知り合いを助けたい。もしも会えたらマミさんの事を伝えて謝る。
5:犠牲にされた人達のぶんまで生きる。
6:ダークプリキュアと暗黒騎士キバ(本名は知らない)には気をつける。
7:どうして、サラマンダー男爵が……?
8:後で暁さんから事情を聞いてみる。
[備考]
※本編終了後からの参戦です。
※花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆりの存在を知っています。
※クモジャキーとダークプリキュアに関しては詳しい所までは知りません。
※加頭順の背後にフュージョン、ボトム、ブラックホールのような存在がいると考えています。
※放送で現れたサラマンダー男爵は偽者だと考えています。
※第三回放送で指定された制限はなかった模様です。
※暁からのラブレターを読んだことで、石堀に対して疑心を抱いています。


221 : ラブのラブレター! 驚きの正体!? ◆LuuKRM2PEg :2014/04/05(土) 10:15:14 TR.FWUvs0
【石堀光彦@ウルトラマンネクサス】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、残り1時間予知能力使用不可
[装備]:Kar98k(korrosion弾7/8)@仮面ライダーSPIRITS、アクセルドライバー+ガイアメモリ(アクセル、トライアル)+ガイアメモリ強化アダプター@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ+T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW 、コルトパイソン+執行実包(2/6) 、ロストドライバー@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×6(石堀、ガドル、ユーノ、凪、照井、フェイト)、メモレイサー@ウルトラマンネクサス、110のシャンプー@らんま1/2、ガイアメモリ説明書、.357マグナム弾(執行実包×18、神経断裂弾@仮面ライダークウガ×4)、テッククリスタル(レイピア)@宇宙の騎士テッカマンブレード、イングラムM10@現実?、火炎杖@らんま1/2、血のついた毛布、ランダム支給品2〜8(照井1〜3、フェイト0〜1、ガドル0〜2(グリーフシードはない)、ユーノ1〜2)、暁が図書室からかっぱらってきた本
[思考]
基本:今は「石堀光彦」として行動する。
0:「あいつ」を探す。そして、共にレーテに向かい、光を奪う。
1:今は休憩をして、その後に暁とラブの二人を先導しながら進む。
2:どこかに集まっているだろう仲間を探す。
3:周囲を利用し、加頭を倒し元の世界に戻る。
4:孤門や、つぼみの仲間、光を持つものを捜す。
5:都合の悪い記憶はメモレイサーで消去する
6:加頭の「願いを叶える」という言葉が信用できるとわかった場合は……。
7:クローバーボックスに警戒。
[備考]
※参戦時期は姫矢編の後半ごろ。
※今の彼にダークザギへの変身能力があるかは不明です(原作ではネクサスの光を変換する必要があります)。
※ハトプリ勢、およびフレプリ勢についてプリキュア関連の秘密も含めて聞きました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※つぼみからプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について聞きました。
※殺し合いの技術提供にTLTが関わっている可能性を考えています。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※TLTが何者かに乗っ取られてしまった可能性を考えています。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。予知能力の使用が可能です。
※予知能力は、一度使うたびに二時間使用できなくなります。また、主催に著しく不利益な予知は使用できません。
※予知能力で、デュナミストが「あいつ」の手に渡る事を知りました。既知の人物なのか、未知の人物なのか、現在のデュナミストなのか未来のデュナミストなのかは一切不明。後続の書き手さんにお任せします。


222 : ◆LuuKRM2PEg :2014/04/05(土) 10:17:07 TR.FWUvs0
以上で投下終了です。
それと石堀の支給品一式数が3になっていたので、6に修正させて頂きました。


223 : ◆7pf62HiyTE :2014/04/05(土) 14:38:30 FvKuPTJM0
投下乙です。
そういや暁ってバカだが意外と機転が利く所あるからなぁ。とりあえず、何も知らないラブに最低限の事を伝える事は成功したか。
果たして勝つのはバカかダークザギか?
しかし今更な話だが……この中学校の図書室の本って一体どういうバリエーションなんだろう?


というわけで此方も左翔太郎、佐倉杏子分投下します。


224 : X、解放の刻/楽園からの追放者 ◆7pf62HiyTE :2014/04/05(土) 14:41:45 FvKuPTJM0
第2節 フィリップの検索



「検索を始めよう……」


 白一色の空間、そこに立つフィリップの周囲に無数の本棚が展開されている。


「キーワードは『佐倉杏子』、『魔法少女』、『魔女』、『キュウべえ』、『ソウルジェム』、『グリーフシード』……」


 その言葉と共に、無数の本棚が縦横無尽に動き回る。その結果、フィリップの近くに展開される本棚は大幅に減少される。


「大分絞れた様だ……だがこれではまだ足りない……追加するキーワードは……『暁美ほむら』、『鹿目まどか』、『巴マミ』……そして『美樹さやか』……」


 これにより更に本棚が動き回り、フィリップの周囲の本棚の数が大幅に減少する。


「まだ多いか……となると……『ワルプルギスの夜』……」


 その言葉と共に、本棚が一気に動き、フィリップの前に展開される本棚は1つだけとなる。そしてそこに収められている本も十数冊という所まで減少した。


「どうやら当たりだった様だ……現状これ以上の絞り込みは難しい様だが……ここからなら1つずつ確かめて見ても問題は無い……」


 その言葉と共に、その中から1冊の本を取る。そこには『HOMURA AKEMI』というタイトルが入っている。


「ふむ……この本には暁美ほむらの事が収められている様だ……病気により長い間入院していたのか……」


 そしてフィリップはその本を迅速に読み込んでいく。


「学校にもなじめなかった彼女はある時魔女に襲われる……その時に彼女は鹿目まどかと他1名の魔法少女に助けられた……」

7
 タイトルの通り、そこには暁美ほむら、彼女の詳細が記されている。


「だが、ワルプルギスの夜の襲来により鹿目まどかは死亡……暁美ほむらはキュウべぇに彼女との出会いをやり直す事を願い魔法少女となった……そして、その願いによって得た力……時間遡行により転入する直前まで戻る……
 なるほど、魔法少女の力は彼女達の願いによって決まるらしい……となると杏子ちゃんの本当の力は……いや、そんな事はどうでも良いか……」


 そしてフィリップはほむらの足跡を調べ上げていく――そんな中、


「何だって……!」


 状況的に不謹慎ではあったが興味があったが故に、どことなく楽しそうに笑顔を浮かべていたフィリップではあったが、あるページを目の当たりにした瞬間表情が変わる。


「そんな……それじゃあ杏子ちゃん達は……!!」


 そのページに書かれていた事項を見たフィリップの衝撃は大きい、急ぎページを進め真偽を確かめる。


「嘘だ……そんな……」


 そう零してもフィリップはわかっている。そこに書かれている事は明らかな真実だという事を。
 別の本を手に取り読み進めてもフィリップの求める、いや望んでいる答えは決して手に入らず、否定したい真実ばかりが突きつけられる。


 無論、検索の結果だけを検討すればある意味理にかなった話ではある。普遍的な話とも言えよう。だが、


「これじゃあ……あまりにも救われなさ過ぎる……杏子ちゃんや……彼女を信じ助けようとするみんなが……翔太郎……!」


225 : X、解放の刻/楽園からの追放者 ◆7pf62HiyTE :2014/04/05(土) 14:44:30 FvKuPTJM0





第6節 楽園からの追放者



 警察署の一室――そこには1枚の書き置きだけが残されていた。
 そこにはほんの数分前まで佐倉杏子がいた。だが今はもう彼女の姿は無い。

 それは彼女に課せられた制限の解除にあった。そう、杏子自身も知り得なかった制限――

 彼女に伝えられた事は纏めるとこういう事だ、『24時以降、魔女が解放され行動を開始する』。魔法少女が倒すべき敵が現れるという事だ。
 同時に、『何処から魔女が現れるのか?』という真実も伝えられた。

 それを知った彼女のショックは余りにも大きかった。
 唯々自分の為だけに戦っていた頃ならば衝撃は受けてもすぐに立ち直れただろう。
 だが今はそうではない、冒した数えきれぬ罪を数え、今度は数え切れないぐらいの人々を救いたいと願っていたのだから――

 そう、どれだけ多くの人々を救い希望を与えたとしても、今度はそれ以上の絶望を――
 自分一人だけならばまだ良い、だが今更他人を苦しめたくはないのだ。
 どれだけ願おうとも最早結末を変える事は出来ないのだ、最初から決まっていたという事だ。

 そもそもこの真実、魔女の正体を仲間達が知ったらどうするだろう?
 彼女達に魔女を倒させ――いや敢えて言おう、殺させるというのか? あるいは殺す所を見せるというのか?
 それがどれだけ辛い事か、杏子は想像できてしまったのだ。そんな事言えるわけがない。

 いっそ『別に解除される制限は無かった』とでも言って自分の内に秘めるという手もあった。
 だがそれは出来なかった。24時以降2体の魔女が現れる事は確定事項、障害となる2体の敵が現れるのがわかっていて黙っている事など出来やしない。
 それを伏せる事は仲間達を危機に晒す事に繋がる、出来るわけがないだろう。
 では『魔女が2体現れる』事だけを伝えるか? それもダメだ。何故それが杏子にだけ伝えられるたのかという疑問が出てしまうのだ。
 そう、これはあくまでも杏子達魔法少女に課せられた制限解除に関する話なのだ。2体の魔女の出現はその延長線上の話に過ぎない。
 頭の切れる者ならば『魔女が2体現れる』という情報だけでも十分『何処から魔女が現れるのか?』という謎に行き着くだろう。
 それ以前に、そもそもの前提として『何処から魔女が現れるのか?』という情報は『魔女が解放される』という現象を説明する為の前提に過ぎない。
 つまり本来ならば伝えられる情報は『24時以降魔女が解放される』という事だけなのだ。だが、それはそのまま『何処から魔女が現れるのか?』という問いの答えにも繋がるのでそれを知らない杏子に説明されたというだけの話なのだ。

 それに幾ら杏子が伏せたとしても、『何処から魔女が現れるか?』の真実が露呈する可能性はある。
 そう杏子の知り合いの中に確実に1人はその真実を知っている者がいるのだ。
 キュウべぇがイレギュラーと語っていた人物こと暁美ほむら、彼女の言動には謎が多い。
 しかしその真実を知っているとするならばその行動にもある程度説明がつく。
 勿論彼女がそういう情報をそうそう明かしたりはしない事は杏子自身も推測出来る。しかし絶対に明かさないという証明にはなり得ない。
 彼女が退場したのは1度目の放送前、死に際に同行者に自身の持つ情報を託さないとどうして言い切れる?
 それから12時間以上も経過しているのだ。自分達の知らない所でその情報が拡散している可能性は多分にある。

 つまり早いか遅いかの違いはあれど何れ真実は露呈するだろうという事だ。更に前述の通り魔女の出現だけは確定事項。
 悲劇的な結末は最早避けられないという事だ。そしてそれは杏子自身の問題にも直結する。


226 : X、解放の刻/楽園からの追放者 ◆7pf62HiyTE :2014/04/05(土) 14:45:19 FvKuPTJM0


『貴女も殺し合いを止めようとしているのなら、気を付けることね……迂闊に戦ったりしたら、周りの人達も絶望に巻き込まれるのだから』


 そう、今更簡単に命を投げ出すつもりはないが、下手に戦う事も出来なくなったのだ。
 杏子自身の死は既に仲間達の危機に直結する致命的な爆弾となったのだ。
 死なない様に戦う? 自身への負担を最小限に抑えつつ戦う? 確かにそれ自体は可能だろう。
 だが出し惜しみをして勝てる戦いでは無い事はゴ・ガドル・バ、血祭ドウコク、そして天道あかねの変身した赤いナスカ・ドーパントとの戦いで痛い程理解している。
 そんな連中を相手に出し惜しみなど足手纏い以外の何者でも無い、そんな状態で戦ったって誰も守れないし救えない。
 それ以前にそんな動きを見せれば仲間達だって不審に思う。真実を明かそうが明かすまいが迷惑をかける事は確実だ。

 だが考えている余裕は全く無い。先程の叫び声が聞こえたら仲間達は確実にやってくる。
 それ以前に既に単独行動してから十分過ぎるほど時間が経過している。何時までも戻らなければ何かあったのかと思い駆けつけるだろう。


 だが杏子には最早仲間達にどんな顔をして会えばいいのかわからなかった――


 だから、最低限伝えるべき情報を書き残し――


 アカルンの力を使い、その部屋から姿を消した――


 杏子が記した書き置きはこうだ


『24時を過ぎたら2体の魔女が現れるから倒せ』


 はっきりと書かれている部分を纏めるとこうなる。
 しかし杏子は冷静では無かった。内心パニックに陥っていったと言っても良い。
 そう、何度もペンで書いては消してを繰り返しているのだ。先の『2体』の所も実は『3』と書いた後二重線で消した痕跡がある。
 そして他にも、


『魔女の正体は魔法少女の』
『もし次にあったらあたしのソウ』


 そういった文を書いては線で消してを繰り返していた。
 杏子自身迷っていたのだ。真実を明かすべきか最後まで――
 だが、魔女の真実を知った上で魔女と戦う仲間達の姿を想像する度に書く手が止まってしまうのだ。
 完全に書き潰せていない以上、その気になれば何が書かれているのかは簡単に看破出来る程度のものだ。
 それでももう時間はなかった。だからこそ最後にある言葉をはっきりと記して消えたのだ――


 それはさながら、知恵の実を食べた事で楽園から追放された罪人の様であった――


『ごめん、こんな形で別れる事になって』


227 : X、解放の刻/楽園からの追放者 ◆7pf62HiyTE :2014/04/05(土) 14:46:11 FvKuPTJM0





第1節 地球の開放



 ――ゴ・ガドル・バとの戦いを終えた後、響良牙、花咲つぼみ、ダー……いや月影なのはの3人と別れた俺とフィリップ、そして響から託されたマッハキャリバーと共に仲間達の待つ警察署へと戻ろうとした。
 だが、俺はすぐには戻らず警察署より約200メートル離れた場所にある建物の中にいた。
 そこは何かのレストランらしく休憩するには丁度良い場所だ。ハードボイルドにとっては少々似つかわしくない気もするが四の五の言える状況じゃない。
 そう、俺は単独で待つ事にしたのだ。21時以降、30分以上単独行動する事で解放される制限解除の時を、
 主催陣の思惑もあるのだから当然と言えば当然だが単独行動によるリスクが大きいのは理解している。それでも参加者としては単独で行動出来るこの機会を逃す理由は無い。そして何より、別行動を取る前、俺達はこんな事を話していた――





『そういや響、1つ聞きたい事があるんだが……』
『何だ?』
『いや、仮面ライダークウガ……一条薫だったか……そいつから何か託されたものはなかったか? 物とかじゃなくてだな……魂みたいなもんだ……』
『魂か……』
『確かにあのマッチョメン……ガドルにクウガは敗れたかも知れねぇ……だがその魂、いや想いまでは消させたくはねぇ……俺も仮面ライダーWとしてそれを受け継ぎてぇんだ……』
『う゛ーん……言いたい事はわかるがどういえば良いかは……そうだ、『中途半端はしないでくれ』……そう言っていたぜ……』
『中途半端はするなか……わかったぜ』
『中途半端……本当に大丈夫なのかな? ハーフボイルド……』
『ってフィリップ、いきなりハーフボイルド言うんじゃねぇ!!』
『ハーフボイルド……?』
『半熟卵の事ですね』
『That is, it is half a man.(つまり、半人前です)』
『半人前でもハーフボイルドでもねぇ!! 俺はこれでもハードボイルドな探偵なんだ!!』
『そう言っている時点でハードボイルドじゃねぇと思うが……』
『大丈夫なのかしら……』
『大丈夫ですよ…………………………多分』
『それフォローになってねぇよ!!』





 ――と、ともかく、『中途半端はするな』、それが一条が俺達に託したメッセージだ。
 思えば、ここまでの戦い、人々を守る仮面ライダーを自称していながらも戦いでは足を引っ張る事が多く結果的に杏子や姫矢達に任せてしまう事ばかりだった。
 その原因の1つは仮面ライダーWの戦闘力不足である事は揺るぎない事実だ。エクストリームメモリを封じられている状況ではその全ての力を発揮できない。
 勿論、Wの真価は6本のメモリを状況に応じて使い分ける事で多種多様の状況に対応する事だ。だからこそエクストリームが無ければ戦えないという事は無い。
 しかしエクストリームとなったWを超える力を持つエターナルのパワーをもってしてもあのガドルには全くダメージが届いていないという現実、
 これはエクストリームを得てもガドルには届かない事を意味している。当然、その力を使えないままのWでは戦いにすらならないだろう。
 特にガドルは状況に応じて戦い方を変えるというWに似た力を持っている。Wの持つ柔軟性すらガドル相手には通用しないということだ。
 そんな中途半端な状態で戦い続けても何も守れない。また人々を泣かせるだけだ。
 だからこそ、制限の解除は最優先事項だった。十中八九俺に課せられた制限はエクストリームだ。それを解放できなければ戦いにおいては足手纏いのまま……これ以上、俺達よりも若い奴らばかりを戦わせるわけにはいかねぇしな……
 今は只、その時を待つだけ――





『Narration of what is carried out alone? And it is long(何を一人でナレーションしているんですか? しかも長いです)』
「前にも似た様な事言われたぞ! それより周囲の様子は」
『No problem(問題はありません)』


228 : X、解放の刻/楽園からの追放者 ◆7pf62HiyTE :2014/04/05(土) 14:47:17 FvKuPTJM0


 かくして左翔太郎はF-9にある警察署から少し離れた所にあるレストランの奥の椅子に座りその時を静かに待っていた。
 その場所は丁度死角となっている為、店外からは翔太郎の姿を確認する事は不可能。中の様子を確かめるには店内に入るしか無い。
 だが店内に入れば流石の翔太郎も接近を察知できるしマッハキャリバーに周囲を警戒させてもいる。それ故、単独行動を維持する条件はクリア出来ていると言えよう(加えて言えば監視カメラの存在が無い事も確認済)。
 勿論、何かあった時はすぐに動ける様、ドライバーは装着済みだ


『翔太郎』


 そんな中、フィリップが話しかけてきた。


「どうしたフィリップ、頼んでおいた事はわかったのか?」


 実は少し前にこんなやり取りをしていた。



『フィリップ、ゴ・ガドル・バ……いや、仮面ライダークウガについて調べてくれ』
『それ自体は構わないが……忘れたのか翔太郎、地球の本棚で検索できるのは僕達の世界に関係する事だけ、他の世界の事は対象外だ。恐らく検索しても……』
『だろうな……だが切り口はある』
『切り口……』
『俺達も接触したアイツ……』
『まさか……』
『そのまさかだ……仮面ライダーディケイド門矢士、通りすがりの仮面ライダーであるアイツならば仮面ライダークウガの事も……』
『なるほど、考えて見れば何度か共闘はしたとはいえ、長々と話した事はなかった……試してみる価値はある……だが例え僕達と接触したとは言え異世界の存在である事に違いは無い。過度な期待はしないでくれ』


 というわけで、フィリップに仮面ライダークウガの事を調べる事を依頼していたのだ。勿論これは来たるべきゴ・ガドル・バとの戦いに備える為だ。


『要点の説明をしよう。仮面ライダーディケイド門矢士、彼は自らの記憶、あるいは世界を探す為に数多の世界を旅してきた。その旅の仲間の中に仮面ライダークウガがいた』
「大当たりか! けど頼んでおいてアレだがよくそこまで調べられたな……異世界なのに……」
『旅の仲間の1人、光栄次郎が園咲琉兵衛……父さんの知り合いだったからかな……?』
「え、何だって?」
『何でも無い、だが大当たりとは言い切れない……何しろ門矢士と旅をしていたクウガの正体は……小野寺ユウスケなのだから』
「別人って事か……」
『だが、ここからが重要だ、門矢士は数多くの仮面ライダーの世界を旅してきた。クウガ、キバ、龍騎……』
「そういや俺達が初めてディケイドと戦ったのはどのライダーの世界だったんだ? 確か銀ピカ野郎をぶちのめした世界だったが……」
『そんな事はどうでもいい、話の腰を折らないでくれ……彼の旅した世界の1つに仮面ライダーのいない世界があった……』
「仮面ライダーのいない世界?」
『そう、その世界は5色の侍戦士によって守られている世界……故に仮面ライダーが存在する必要が無いという事だ。ちなみにその世界ではクウガも戦った』
「その言い方じゃディケイドと旅していたクウガはあんまりクウガとして戦ってねぇ風に聞こえるが……ん、ちょっと待て、5色の侍戦士……それはまさか……」
『そう、志葉丈瑠達シンケンジャーのいる世界だ』
「ちょっと待て、それじゃ梅盛達は仮面ライダーの事を知っているって事じゃねえか、けどそんな事梅盛の野郎一言も言ってなかったぜ」
『驚く事じゃない、彼がディケイドの現れる前のタイミングから連れてこられたというだけの話だろう』
「そうか……ん、おかしくねぇか? 何でシンケンジャーの世界の情報がそこまで詳しくわかったんだ?」


 そう、ここまで話して翔太郎は事の異常に気付いたのだ。
 地球の本棚はその名の通り地球の記憶が収められた本棚だ。それ故、別の世界の地球とは一切関係が無い。
 だからこそ、翔太郎達の世界以外の事はフィリップがアクセス出来る地球の本棚では検索不可能という事だ。
 翔太郎は自分達と接触したという一点を利用しディケイド経由で検索する事を考えた。それでも別世界の情報を得られるとは思えなかった。
 しかしフィリップのもたらした情報は明らかな異世界の情報だ。


229 : X、解放の刻/楽園からの追放者 ◆7pf62HiyTE :2014/04/05(土) 14:48:18 FvKuPTJM0


『気付いた様だね、それが僕にもよくわからない……突然本棚の数が大量に増えたんだ……』
「突然増えた? どういう事だ?」
『それは僕の台詞だ……そうだ、翔太郎今何時だ?』
「今……丁度21時を数分過ぎた所だ」
『なるほど……どうやら21時を過ぎた時点で検索範囲が広がる仕様になっているらしい』
「あーそういう……って確か21時を過ぎた上で30分単独行動しなきゃならねぇんじゃなかったのかよ!?」
『それは参加者にかけられた制限だろう。地球の本棚は実質僕専用とはいえ施設の様なもの、解放条件が多少異なっても不思議は無いし僕達に知らせなければならないという決まりもない』


 フィリップの推測は的中している。
 制限の解放の中には時間が来た段階で行われるものもあり、ものによっては参加者に知らされる事無く行われるものもある。
 例えばシャンゼリオンの拠点であるクリスタルステーションの出現も21時になった時点で行われる(但し利用できるかは別問題)。だがそれは直接参加者に伝えられる事は無かった。
 それと同様に地球の本棚の検索対象の拡大は21時を以て行われる事は確定事項だった。但し、例え関係者であるフィリップ達といえどもそれを伝えられるとは限らない。
 厳密には首輪解除に動いた参加者2人がそのボーナスの一環としてその情報が伝えられているわけだがそれをフィリップ達が知る事は無い。
 とはいえ、時間が来た時点で解放されている事に違いは無く、実際に利用する事で容量拡大を実感する事が出来たという事だ。


「つまり、これで情報に関しては問題が無いと……」
『そうとは限らない。検索範囲が広がったという事は絞り込む為に必要なキーワードも増えるという事だ。特に仮面ライダーに関しては余りにも多くの世界に存在している……簡単に検索ができるとは考えない方が良い』
「じゃあどうすりゃいいんだ……」
『仮面ライダーについてはもう少しキーワードが欲しい所だ……』
「どうすっかな……ん、範囲が広がったなら……そうだ、フィリップ……魔法少女について調べてくれないか?」
『杏子ちゃんを助ける為にか……状況わかっているのか翔太郎……気持ちはわかるが……』
「出来るならな……俺は杏子の身体を元に戻してやりてぇんだ……死ぬまで戦い続けるのはあまりにも辛すぎるだろう……」
『だが、罪を数え救うと決めたのは杏子ちゃん自身だ、それは彼女に対して失礼じゃ……』
「魔法少女じゃなきゃ人は救えないってわけじゃねぇだろう」
『もっともだね、わかった翔太郎……だがキーワードはどうする? 絞り込めなければ探しようが無い……』
「そうだな……杏子達魔法少女に関係する用語を片っ端から入れて……後は知り合いの名前、確か暁美ほむらはイレギュラーとかどうとかって言っていた筈だ」
『イレギュラー……なるほど調べて見る価値はある……だがまだ足りない、もう1つ決め手が欲しい所だ……例えば有名な魔女の名前とか……』
「有名な魔女の名前? そんなもん知るわけが……」


 と、


『Walpurgis Nachi(ワルプルギスの夜)』
「ワルプルギスの夜……?」


 マッハキャリバーが不意に言葉にし翔太郎もオウム返しのように復唱してしまった。


『『ワルプルギスの夜』……興味深い名前だ、わかったこれで試してみよう』


 そう言って検索に入っていった。


「おい、フィリップ……」


 呼び止めようともフィリップが答える事はなかった。


――とはいえ、何かに夢中になったフィリップがこうなる事は何時もの事だ。だがきっと、そんなフィリップなら闇に潜む真実を見つけ出せる。俺はそう信じている――


『It is shortly short(今度は短いですね)』


230 : X、解放の刻/楽園からの追放者 ◆7pf62HiyTE :2014/04/05(土) 14:51:38 FvKuPTJM0





第3節 状況の整理



――今は只待つ事しか出来ない。だがこの時間を無駄に過ごすつもりはない。今は仮面ライダーとして戦えなくても俺が探偵である事に変わりは無い。今一度状況を整理することにした――


「3回目の放送の時点で残る参加者は21人、だがあの後一条といつきが死んだ事により残りは19人だ」
『It decreased very much(大分減りましたね)』
「ああ、順を追って整理するぜ……まず今現在警察署にいる冴島、美希、杏子、孤門、沖先輩、そしてヴィヴィオの6人、こいつ等は全員殺し合いを打破する為の仲間だ、ここまではわかるな」
『Yes(はい)』
「次に、いつきをつぼみの仲間達の所に埋葬に向かった後警察署に戻る手筈になっているのが響、つぼみ、なのはの3人、警察署の一件もあるからそうそう簡単に上手くいくかまではわからねぇがこの3人も仲間だ」
『And , Mr.Half Boiled(そしてハーフボイルドも)』
「というわけで俺を含めて10人が仲間という事になる……ってナチュラルにハーフボイルド呼ばわりすんじゃねぇ」
『The half was already exceeded...(既に半分を超えた……)』
「残り9人だな。まず美希と同じプリキュアである桃園ラブ、この子は間違い無く仲間だ……どうでもいいがなんでラブって名前なんだ……」
『Please go ahead with the talk(話を進めて下さい)』
「で沖先輩の先輩である仮面ライダー4号ライダーマン結城丈二先輩、そして響やつぼみから聞いた冴島同様魔戒騎士である銀牙騎士絶狼(ゼロ)こと涼邑零、2人は警察署を離れてからずっと行動を共にしているらしい。
 涼邑と冴島の間には何か因縁があったらしいがそれは既に解消されたらしい、結城先輩も一緒である事も踏まえれば離れているとはいえ2人も頼れる仲間となる」
『Kamen Rider is a senior...(仮面ライダーは先輩なんですね……)』
「そして孤門の同僚である石堀光彦、聞いた話じゃ孤門同様特別な力は何も無いがこういう有事では頼れる仲間でつぼみも色々助けてもらったらしい……俺自身が会っていないからピンとこねぇけどな……」
『Remaining 5 persons(残り5人)』
「ああ、ここまでの14人は実質的にこのゲームを打破する仲間と考えて良い……だが仲間達を泣かせる危険人物が何人かいる……
 まずゴ・ガドル・バ、俺の把握している限り一条といつき、霧彦、そしてフェイトにユーノを仕留めた現状最悪の相手だ」
『Ms.Fate...(フェイト……)』
「頼むからユーノの事も思い出してくれ……次に血祭ドウコク……あの時は杏子のお陰で撃退する事が出来たが未だ奴は健在……並の相手じゃ戦いにすらならねぇだろうな……」
『Next is ...(次は……)』
「本来なら殺し合いに乗る筈がなかったが許嫁……要するに婚約者あるいは恋人である早乙女乱馬が殺された事で殺し合いに乗った天道あかね……彼女自身の戦闘力そのものは大した事は無いが……
 達人級にまで強化する伝説の道着、そして赤レベルまで引き上げたナスカの力を持っている」
『Is it so dangerous?(そんなに危険なのですか?)』
「ああ……赤いナスカ自体エクストリームを以てしても対応仕切れないレベルだ……そして伝説の道着のお陰で強化されている事を踏まえれば……ガドルやドウコクに決してひけはとらないだろうな」


231 : X、解放の刻/楽園からの追放者 ◆7pf62HiyTE :2014/04/05(土) 14:54:56 FvKuPTJM0
『Remaining...(残りは……)』
「そう……涼村暁と黒岩省吾……この21時間俺達は多くの参加者と遭遇し情報を得たが……この2人の情報だけは未だ掴んでいない……」
『An enemy or an ally , is it unknown?(敵か味方か、それも不明ですか?)』
「だが推測は可能だ。さっきの放送を覚えているか?」
『Yes.(はい)』
「あのゴバットというオタク野郎は仮面ライダー、プリキュア等々と並べて『シャンゼリオン』と言った、つまりこの『シャンゼリオン』は仮面ライダー及びプリキュア同様人々を守るヒーローという事になる。
 そして調子に乗って呼びかけたり、一昔見た様な悪役みたく気取った所を見ると相当なオタクと考えて良い……
 多分、あの野郎は放送役を与えられ舞い上がって俺達に呼びかけてしまったんだろうな……」
『Possibility of performance?(演技の可能性は?)』
「あれは間違い無く素だ。そしてつい言ってはならない事を言っちまった様だ……放送が止まり本部から苦情が来たというのはそれだろう……それは参加者の情報だ」
『What?(何?)』
「つまり現在生き残っている参加者の中に仮面ライダー、ウルトラマーン、魔戒騎士、プリキュアがいる事を口走ってしまったんだ……放送が止まったのはそれが理由だ。
 それを裏付ける情況証拠はある……あの野郎は『シンケンジャー』とは呼ばなかった……あの野郎の性格上呼びかけないわけがない……つまり参加者の中にシンケンジャーはもういない事を証明したというわけだ……」
『The reason for not having called "magic girl" ?(『魔法少女』を呼ばなかった理由は?)』
「それは確かに引っかかるが……まぁ一番にありえるのはあの野郎の琴線に引っかかる『ヒーロー』じゃ無かったってとこだろうな……
 もしくは……あの野郎の中では杏子はもう『魔法少女』じゃなくて『ウルトラマン』って事だろう。そうなると『魔法少女』はいない事になるしな。
 ただ、何にせよあの野郎の言葉からシャンゼリオンが残る参加者にいる事は確実だ。だがさっきまで話した17人の中に該当する人物はいない……
 つまり、涼村暁か黒岩省吾のどちらかがシャンゼリオンという事になる。断定は出来ないがまず味方と考えて良い。
 未だ同行は掴めないが、恐らくは長い間同行がわかっていない参加者、ラブ、石堀、結城先輩、涼邑零……そのいずれかと同行しているか単独あるいはその2人で行動しているか……」
『It is how like a detective to talk.(探偵みたいな喋り方ですね)』
「探偵みたいじゃなく俺は元々探偵だ! なんかこのネタも前にもやったぞ!! というか今回こんなんばっかじゃねぇか!!」


 ともかく残る参加者のスタンスを纏めると以下の様になる。


 味方A(動向がある程度把握出来る者)……10

 左翔太郎
 冴島鋼牙
 蒼乃美希
 佐倉杏子
 孤門一輝
 沖一也
 高町ヴィヴィオ
 響良牙
 花咲つぼみ
 月影なのは(ダークプリキュア)


 味方B(長期間動向が不明)……4

 桃園ラブ
 石堀光彦
 涼邑零
 結城丈二


 敵……3

 ゴ・ガドル・バ
 血祭ドウコク
 天道あかね


 不明……2(注.但し片方は恐らくシャンゼリオンであり味方の可能性が高い)

 涼村暁
 黒岩省吾


「……?」


 19人のスタンスを改めて確認した翔太郎はある種の違和感を覚えた。


「(待てよ……確か3度目の放送の時点では一条といつきが生きていて、月影なのはがダークプリキュアとして殺し合いに乗っていた頃だ……そうなると……味方に該当するのは15人、敵に該当するのは4人という事になる……
 そして俺の推測通りなら涼村暁と黒岩省吾の内確実に片方は味方……もう片方を敵と仮定しても……味方は16人、敵は5人となる……

 敵の数……少なくねぇか?)」


232 : X、解放の刻/楽園からの追放者 ◆7pf62HiyTE :2014/04/05(土) 14:55:42 FvKuPTJM0


 そう、現在の状況から見ても3度目の放送の時点から見ても敵対参加者が少ないのだ。


「(主催の連中にしてみりゃ……これはマズイ状況だぜ……)」


 殺し合いの完遂が狙いとするならば放送時点で残り5人で16人を仕留めなければならない。
 勿論、ガドルやドウコクの戦闘力を計算に入れればそれ自体はそう難しいことではない。
 だが、状況はそうそう都合良くはいかない。


「(そもそもガドルやドウコク達だって別に組んでいるわけじゃねぇ、互いに潰し合う事だってあり得るだろう。それに……難しい事だが絶対に倒せない奴等じゃねぇ)」


 前述の通り、敵対している参加者は何れも強敵と言える。
 が、ガドルにしても、ン・ダグバ・ゼバと対峙した事のある翔太郎視点で考えればそれに匹敵あるいは若干超えるレベルだと判断している。
 そしてダグバが打倒できている事実がある以上、ガドルを倒すことも困難ではあっても不可能ということはない。
 ドウコクに関しても1度杏子が撃退しているし、聞いた話では後に良牙達が遭遇し倒しているわけなのでこちらも倒す事は十分可能だ。
 またあかねの変身した赤いナスカ・ドーパントも強敵ではあるがエターナルやエクストリームとなったWならば対応は可能であり、美希が一度撃退している事からもこちらも問題はないだろう。

 加えて言えば、放送時点で殺し合いに乗っていたダークプリキュアもガドルの戦闘力を見て戦意を喪失した辺り、ガドルよりも大幅に弱い事は明らか。

 そして、彼等は何れも単独で動いているわけなので互いに潰し合う事もあり得るということだ。
 つまり、戦力のバランスが対主催側に傾いていると言える状況だ。


「(だが、連中は制限の解放で俺達を強化しようとしている。無論、ガドル達が強化される可能性もあるが……条件付きとは言え俺達も強化されるからそこまで致命的じゃねぇ……)」


 主催陣の言動を見る限り、此方の行動をそこまで諫める様子は無い。幾ら殺し合いを続けろと言っても主催側が殺し合いを止めさせる発言をするわけもなく普通は煽るわけなので言葉自体に意味は無い。


「(そうだ、主催側にしてみりゃもっと積極的に此方が不利になる事を仕掛ける筈だ……それこそ殺し合いに乗った参加者が有利になる様な……制限の解放だってする必要もねぇだろう……
  あいつらだって判っている筈だ……俺達が敵対する参加者を全て撃退すれば……次は自分達が危ないと……気付いていねぇのか?)」


 そう、勿論まだ先の話ではあるが、敵対する参加者を撃退すれば主催陣の所に乗り込んで決戦という流れになる。
 だが、それは主催陣にとっては良い状況では無い。殺し合いを催しておいてそれを壊される事など言語道断だ。
 つまり、なんとしてでも殺し合いを継続すべき筈なのだ。しかし主催陣の言動を見る限り、あまり積極的とは言い難い。


「(何かおかしくねぇか……?)」


 とはいえ、主催との戦いを考えるのは時期尚早、そんな中


233 : X、解放の刻/楽園からの追放者 ◆7pf62HiyTE :2014/04/05(土) 14:56:38 FvKuPTJM0


「そういや響の奴に渡しそびれたな……」


 と、T2のアイスエイジ・メモリを出す。エターナルは26個のT2ガイアメモリを使いこなす事が可能。それ故、このメモリもエターナルにとって大きな力になるわけだ。


「ま、いきなりメモリが増えた所で使いこなせるとは限らねぇか……それに確か月影なのはの持っていたメモリを持ってるらしいからな……恐らくパペティアー……ん、パペティアー?」





 ここで物語は警察署で待機していた時に遡る。それは3度目の放送後、杏子達が買い出しに行く前、参加者の動向を纏めたものを確認していた時の事だ。


『なぁ、この響良牙って奴について詳しい話聞いている奴いねぇか?』
『乱馬さんやあかねさんの知り合いですね』
『ああ、確か乱馬は女、シャンプーは猫、パンスト太郎はなんかよくわからねぇ怪物に変身するってあるが……』
『そーいや、あの時現れた怪物、パンストか何かが見えた様な気が……アレか?』
『あんまり女の子がそういう事口にしないの……翔太郎さん、もしかして……』
『ああ、もしかしたらコイツも水を被ったら変身するんじゃねぇかと思ってな……』
『僕は聞いてないけど……美希は?』
『あたしも聞いてないわ……そもそも聞く余裕も無かったし……』
『梅盛の野郎も天道あかねとずっと行動していた割にそういう事は知らなかったみてぇだからな……』
『なぁそれじゃあ、その良牙の兄ちゃんは別に水を被ってもなんともならねぇんじゃねぇか?』
『………………あの、私……聞いてます』
『ヴィヴィオ? そうかそういや早乙女乱馬と長いこと一緒にいたんだったな』
『確かPちゃんっていうこれぐらいの子豚に変身してしまう体質で、時々あかねさんに抱きしめられたり一緒に寝たりしていたって聞いています』


 この瞬間、ヴィヴィオ以外の3人の女性陣そして翔太郎の表情が通常ではあり得ないぐらいの驚愕の表情を見せる。


『なななななんだと、そんなうらやまし……いやいやいやいやけしからん事していたというのか!? その響良牙っていうPちゃんっていう子豚ちゃんは!?』
『兄ちゃん、本音がダダ漏れになってるぜ!! というか正気に戻ってくれ!!』
『ちょっと、どうしてそれ今まで黙っていたの!?』
『落ち着いて美希、そんな事普通は言えないと……』
『はい、乱馬さんからあかねさんには黙ってろと口止めされていたので……それに色々あって言いそびれて……』
『でもおかしいとは思わなかったの?』
『確かユーノさんも昔フェレットに変身したときなのはママと一緒にお風呂に入ったり寝ていたりしたらしいという話だがら……』
『ユーノォォォォォォ!! 俺を裏切ったなぁぁぁぁぁぁ!! お前だけはハードボイルドだと俺は信じていたんだぞぉぉぉぉぉ!!』
『落ち着いてくれよ兄ちゃん、9か10ぐらいだったら一緒に入っても……』
『あり得ると思う?』
『流石にそれはないでしょ……』


 そんな一同を余所に、


『何やっているんだみんな……』
『そろそろ買い物に……』


 そうツッコム沖と孤門であった。ちなみにこの時、



『う゛っ、なんか寒気が……』
『大丈夫ですか?』
『もう夜だ、冷えてくるだろう……』



 とある場所にて微妙に寒気を感じる元Pちゃんがいたとかいなかったとか。





「つか、アイツにつぼみとなのはを任せて大丈夫だったのか……」


 そんな事を思い出し流石に不安を覚えてくる。


「いや、だがまぁそういう奴とは限らねぇか……マッハキャリバー、確か響と一緒に行動していたんだろ、どんな奴だった?」
『He was doing hot britches with the marvelous body of buddy.(そいつ、相棒のマーベラスな躰で欲情していた)』
「響ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 ――新たなエターナルに不安を覚えていた俺だったが、すぐさま現実に引き戻される事になる……そう、その時がやってきたのだ――


234 : X、解放の刻/楽園からの追放者 ◆7pf62HiyTE :2014/04/05(土) 14:57:21 FvKuPTJM0





第4節 男爵との遭遇



――それは突然現れた。音も無く、マッハキャリバーにも察知される事も無く――


『随分と騒がしいな……仮面ライダーW、いや左翔太郎。まぁ支給品は対象外だから別段問題は無いが……』


 そう、店内に赤髪の男性がいたのだ。


「あんたは……サラマンダー男爵か……」


――サラマンダー男爵……砂漠の使徒の元幹部で、砂漠の使徒やプリキュア達に復讐すべく世界の破壊を目論もうとした奴だ。
 もっとも、ルー・ガルー……オリヴィエとの出会いといつき達との戦いの果てに改心、和解したという話だ。
 だが、そんな奴が加頭達と組んでこの殺し合いの主催として参加している。最初の放送を担当したのもこの男だ――


『自己紹介の必要はないな……言っておくが今君の目の前にいる私はホログラフだ……手を出そうとしても無駄だ……』
「まさかアンタが来るとはな……俺はてっきり加頭の野郎が来ると思っていたぜ……」
『こっちも色々担当があるのでな……あの男も別の……いやこれは言うまい』
「いつきから話は聞いている……男爵、アンタは……」
『悪いが質問に答えるつもりはない……俺の用事は……制限の解放だ』


 その言葉と共に指を鳴らす。するとあるものが出現した。


「エクストリームメモリ……」
『私の担当はこれの監視役でね、その関係もあって君の前に現れたという事だ。さて、左翔太郎……正確にはダブルドライバーの持ち主に課せられた制限を説明しよう……』
「エクストリームメモリとそこに幽閉されているフィリップの解放、そうだろう」
『御名答、いやいや説明の手間が省けて実に都合が良い……ん、妙だな……フィリップもすぐに出るとは思ったが……
 まあいい、ともかくこれで君は仮面ライダーWの全ての力を使える事になる。
 今更説明するまでも無いがフィリップ主体によるファングジョーカー、そして2人が1つになったサイクロンジョーカーエクストリーム……ここからはこの力を使い存分に戦いたまえ……』


 そう言って用事を済ませ消えようとするが。


「ちょっと待て、アンタ本当にあの連中の手先になっているのか!? もしかしてオリヴィエ……ルー・ガルーが人じ……」


 だが、男爵がステッキを向ける。ホログラフとはいえ翔太郎は思わず言葉を詰まらせる。


『答えるつもりはない。二度もいわせないでくれ……これ以上余計な事を言うならば、折角再会出来た相棒と早々に別れることになる……』
「まさかフィリップにも首輪を……」
『当然の措置だろう。今はこのまま戦い続けるしかないという事だ……だが、君たちが再び私の前に現れた時は……いや、言うまい……』


 そう言って、後ろを振り返る。


『そう、君達の声は私の耳に届いている……キュアブロッサム……彼女の声も……それではさらばだ。運があったら……また会おう』


 と指を再度鳴らし、男爵はその姿を消した――


235 : X、解放の刻/楽園からの追放者 ◆7pf62HiyTE :2014/04/05(土) 14:59:09 FvKuPTJM0


 ――何事もなかったかの様にレストランに静寂が戻る……だが俺の中には1つの疑問があった。最後の男爵の言葉は何を意味しているのだろうか?
 監視しているから下手な事をするなという意味か? だが何故キュアブロッサムの名前が出てきた?
 いや、男爵に関する推測は後でも出来る……そう、今一番重要なのは――


「フィリップ……」


 その言葉に反応したのかエクストリームメモリから1人の男が放たれる。傍らでは恐竜型のファングメモリが縦横無尽に走り回っている。


「……さっきまで普通に話していたのに随分と久しぶりに会った気がするよ……翔太郎」


 そしてその手にエクストリームメモリとファングメモリを掴む。


「ああ……正直もう二度と会えねぇんじゃねぇかと何度も思ったぜ……フィリップ」
「奇遇だね……僕もだ」
「ははっ……よっしゃぁぁぁぁ! フィリップが帰ってきたぁぁぁぁぁ!!」
「翔太郎、こういう時はこう言うんだ、こうやって『フィリップキタァー!!』とね」
「なんだそりゃ!?」
『Congratulations(おめでとうございます)』


 ――そう、制限の解放なんてどうだってよい、最高の相棒と再会出来た事を喜んだ。だが――


「そうだ翔太郎、喜んでいる所悪いがのんびりしている場合では無い」
「そうだな、すぐにでも警察署に戻らねぇと……」


 と言ってマッハキャリバーを握り店外へと出ようとしたが、


「待ってくれ、先に話したい事がある」
「何だそりゃ、んなもん警察署に戻ってからでも十分だろ、大体杏子に関係する事なら本人の前で……」
「ダメだ、この事はまだ杏子ちゃんにも警察署にいる仲間達にも話すわけにはいかない」
「まさか……何かマズイことがわかったのか……」
「ああ、だからこそまず君だけに話す……」


 ――そしてフィリップは検索結果を語り初めた。だが、俺は最初それを信じる事が出来なかった――


「何だそりゃ……本当かよ……」
「何度も検索した、間違いは無い……」
「巫山戯んなよ……杏子達魔法少女が戦っていた魔女の正体が……


 魔法少女の成れの果てだと……!!


 それじゃあ杏子達は……自分達の仲間を……かつて同じ人間だった女の子達を殺していたってことじゃねぇか!!


 そして今度はその杏子達自身も……魔女になって……人々を泣かせるっていうのかよ!!


 何の冗談だ!! フィリップ!!」


236 : X、解放の刻/パンドーラーの箱 ◆7pf62HiyTE :2014/04/05(土) 15:00:49 FvKuPTJM0
第5節 悪魔な相棒



「……冗談? 僕は検索結果を話しただけだ……そうそう、君の求めていた答えは見つけられなかった。つまり魔法少女となった者を元の人間に戻す方法は無い、そういう事だ」


 何事も無かったかの様に口にするフィリップ、更に、


『Mr.Philip's woad is truth(フィリップの言葉は真実です)』


 マッハキャリバーがフィリップの言葉を肯定した。


「ちょっと待て、なんでマッハキャリバーが……そうか」


 ここで翔太郎は大事な事を思い出した。
 そう、アインハルト・ストラトスが言っていたではないか。ソレワターセに取り付かれたスバル・ナカジマが多くの参加者を殺し取り込んでいったと。
 その中には杏子の知り合いの鹿目まどかもいた。彼女が魔法少女の事を知っていたのならば、その記憶を取り込んだソレワターセを介しマッハキャリバーが把握していてもおかしくはない。
 魔女の名前を知っていたのもそれが理由だったのだろう。


「杏子ちゃん達魔法少女は何れ魔女となって人々を脅かす、それが魔法少女の真実さ」
「ちょっと待てフィリップ、確か魔法少女を産み出しているのはキュウべぇだろう。願いを叶える代わりに魔女を倒してくれって言って……それじゃキュウべぇの野郎は魔法少女と魔女の両方を産み出し戦わせて潰し合わせているって事だろう。なんでそんなマネする必要がある」
「キュウべぇ……君はそれを思っているのかい?」
「どういう意味だ?」
「インキュベーター、それがそいつの本名さ……その正体は地球外生命体……要するに異星生命体さ」
「だからどうした?」
「彼等は自分達の宇宙を守ろうとしただけさ」


 フィリップは真実を語る。
 キュウべぇことインキュベーターの住む宇宙のエネルギーは減少しつつあった。つまり何れ滅びを迎えるという事だ。
 その為減少しないエネルギーが必要だった。
 そこでインキュベーターの文明は感情をエネルギーに変換する技術を開発した。


「まぁよくある話だな、でそれと魔法少女が何の関係がある? 大体そういう技術があるなら自分達で……」
「残念ながらそれは出来なかった。何故ならインキュベーターには感情というものがないからだ」
「自分で使えない技術なんて開発するんじゃねぇよ……俺達のガイアメモリだって一応自分達で使っているんだぜ……ってまさか……」
「そのまさかさ、杏子ちゃん達の地球の人類にそれを見出したんだ。地球の総人口は数十億人、繁殖力を考えれば実に膨大な数字だ。そして1人の人間が産み出すエネルギーは成長するまでに消費したエネルギーを凌駕する……
 そう、インキュベーターにとってあまりにも都合の良いエネルギーだったということさ。
 そして最も効率が良いのは……第二次性徴期を迎えた少女……ここまで説明すればもうわかるだろう……」
「感情豊かな多感な時期……その時に魔法少女となればその力は強い……」
「そう、そして……その魂が燃え尽きた時、つまりは魔女となった時、膨大なエネルギーを発生させる……魔法少女になった時のプラスエネルギーがそのまま反転し魔女のマイナスエネルギーとなる、
 その差となったエネルギーをそのままインキュベーターは手に入れるというカラクリさ
 つまり、魔法少女が魔女となったエネルギーを手に入れる、その為にインキュベーターはあの手この手を使い魔法少女を増やしていったというわけさ」
「魔法少女が増えれば当然その分魔女も増える、それだけインキュベーターが得られるエネルギーは大きいというわけか……くっ、ミュージアムや財団Xよりも質が悪いじゃねぇか!
 こっちにしてみりゃ、魔法少女になって希望を与えても、それと同じだけ絶望を振りまいているわけだろう、それじゃプラスマイナスゼロで何の意味もねぇだろうが。そのくせインキュベーターはエネルギーをそのまま確保……あまりにも悪趣味じゃねぇか……」
「彼等にとっては宇宙のための小さな犠牲に過ぎないってことさ、感情の無い彼等にしてみれば取るに足らない問題だ」
「巫山戯るな! 杏子達は人々を守る為に魔法少女になったんだぞ! それなのに人々を泣かせる存在になったら意味ねぇじゃねぇか!!」


237 : X、解放の刻/パンドーラーの箱 ◆7pf62HiyTE :2014/04/05(土) 15:01:23 FvKuPTJM0
「意味が無い? 確かに短絡的にみればそうだろう。だが長期的に見れば大きな意義があった……」
「どういう事だ?」
「魔法少女が大きな奇跡を起こす事は杏子ちゃんの話からもわかるだろう。彼女の場合は悲劇的な結末に終わったが……契約した魔法少女の中にはその奇跡によって世界に発展という名の変革をもたらした英雄もいる。
 そう、魔法少女の存在が杏子ちゃん達の世界を発展させたんだ」
「だが結局その魔法少女は魔女になったんだろう!」
「だがそれは彼女達の自業自得だ、杏子ちゃんの例を見てもわかるだろう、道理に反した歪な力である以上、その歪みは自身に返る、わかりきった事だ。それがイヤなら最初から願わなければ良かったんだ。
 それにさっきも話したがそんな彼女達の犠牲があったからこそ彼女達の世界は発展した」
「そんな犠牲の上に成り立つ発展なんかなぁ……」
「別にこれは彼女達の世界に限った特別な話じゃあない、僕達の世界を見ても戦争によって技術が進歩したという実例がある。
 僕達の使うWの力もガイアメモリの研究がもたらしたものだ、そこに至るまでにどれだけ犠牲が出たのか、わからない君じゃないだろう。
 そう……そういう犠牲が無ければ……人類は未だ野生の猿として自然の中で生きていただろう……」


 フィリップの語る魔女の真実、それは一見理不尽にして残酷な話ではあるがそれは特別な話では無い。
 見方を変えればそれは自分達の世界の1つの縮図でもあるのだ。
 だが、それを素直に受け入れられる程翔太郎は冷徹では無い。


「確かにキュウべぇの作り出したシステムはある意味理にかなっているかも知れねぇ……けどな、人の感情なんてそんな簡単に数値化や計算出来るもんじゃねぇ……絶対に何処かに無理が生じる筈だ……」
「その通りだ翔太郎……そう、杏子ちゃん達の世界は何れ滅びを迎える事になる……その切欠がワルプルギスの夜さ……」
「なっ……どういう意味だ? そいつが世界を……」
「確かに並の魔法少女が束になっても勝てる相手じゃあない……だが言っただろう、それは切欠に過ぎないと……そう、そのワルプルギスの夜は1人の魔法少女によっていとも簡単に倒される……」
「1人の魔法少女によっていとも簡単に倒される? ちょっと待て、並の魔法少女が束になっても勝てない魔女を簡単に倒せる魔法少女って事は……」
「そう、その魔法少女が魔女に変貌し……その星は滅びた……10日程度でね……」
「キュウべぇはそんな状態になって何もしなかったのか!?」
「する必要がなかったのさ、その魔法少女が魔女に変貌した際のエネルギーでインキュベーターの求めるだけのエネルギーは得られたのだからね。後はどうなろうと知った事じゃない。たった1つの星が滅んだ、広い広い宇宙にとっては小さな犠牲って事だ」
「まさか最初からそれを狙って……巫山戯るんじゃねぇ、それじゃ完全に詐欺じゃねぇか!!」
「翔太郎……前にも言っただろう……拳銃を作った工場の人間が悪いんじゃない……使って悪さをする奴が悪いと……
 確かにインキュベーターの使った手法は悪辣だ。だが本当に悪いのはその歪みに手を出した少女達、そしてそれに気付かず発展の恩恵を受け続けていた愚かな人間達だ。
 知恵の実を食べたアダムとイブは楽園から追放され苦難の道を歩む事になった、そういう事さ」
「だがな、楽園を追われたからといって終わりってわけじゃねぇ……その先にきっとそいつらだけの楽園が……」
「そんなものが本当のあるのかな……?」
「何……」
「少女が魔法の力を得た事で魔法少女となり、魔法少女が力を使い果たし魔女へと変貌した、これは1つの成長といえる……
 だったら、絶望を振りまいた先に悪意の象徴となり、女性という殻すらも脱皮したものは何と呼べば良いのだろうね?
 それはきっとこう呼ばれるのだろう……悪魔と……
 魔女すら超越した悪魔はそれを産み出した者すらをも害を成す……
 つまり最後の楽園すらも消し去ってしまうだろう……故に誰一人として救われる事は無い……決して……!!」


 その言葉で翔太郎の中で何かが切れた。


「フィリップ、テメェェェェェェ!」


 気が付いた時には、翔太郎はフィリップを殴り飛ばしていた。そしてすぐに我に返る。


 ――そうだ、こんな所でフィリップを殴ったって意味はねぇ……それに何かおかしい……なんでフィリップは急に悪魔みたいに魔法少女の真実を語ったんだ?――


238 : X、解放の刻/パンドーラーの箱 ◆7pf62HiyTE :2014/04/05(土) 15:01:57 FvKuPTJM0


「気は済んだか翔太郎……」


 そう言ってゆっくりとフィリップは立ち上がり、


「だが、一発は一発だ……」


 そう言って構えを取り、


「少し……頭、冷やそうか……!」


 その言葉と共に、右拳で翔太郎の左頬を殴り飛ばした。


「がはっ……」


 と、何とか踏みとどまろうとするが、


「もう一発」


 続いてフィリップの左拳が右頬に炸裂した。


「ぐっ……」


 今度は耐えきれず翔太郎は倒れた。


『Deja vu(あれ、どっかで見た様な気がする)』


 そして翔太郎の中で急速に熱が冷めていくのを感じた。


「フィリップ……俺をわざと怒らせて……考えて見れば当然だ、初めて会った頃ならともかく今のお前がその真実を知って冷静でいられるわけがねぇ……」
「翔太郎……君は優しい男だ、この真実を聞けばきっと嘆き悲しむ。それ自体は理解出来る……だが僕達には最早、戻る事も立ち止まる事も許されない……
 それに、この真実を知って一番辛い想いをするのは誰だ? 僕か? それとも君か? 違うだろう、それを知って一番辛いのは杏子ちゃんだろう!
 だが美希ちゃんやヴィヴィオちゃんがこの真実を聞いたら彼女達もショックを受ける……彼女達ではすぐに杏子ちゃんを支える事は出来ない……
 だったら誰が杏子ちゃんを支えられるんだ!? 君しかいないだろう! そんな君が潰れたら誰が杏子ちゃんを……みんなを支えるんだ! 君は人々を守る希望……仮面ライダーなんだ!!」


 その叫びを聞きながらゆっくりと立ち上がる。


「ああ……お陰で目が覚めたぜ……そうだな、俺が……いや、俺達が支えなきゃならねぇよな……こんな所で腐っているわけにはいかねぇ……全く、悪魔らしいやり方しやがって……」
「最大級の褒め言葉として受け取っておくよ」
「………………けどよ、1発目はともかく、2発も殴る事は無かったんじゃねぇか?」
「ああ、それは天道あかねとの戦いでメモリを奪われた時の分だ」
「いや、あの時のは杏子が代わりに……」
「それはドライバーも付けずに単独で挑んでいった時の分だ……それにこういうのは人任せにするより自分でやらなければ意味が無い」
「だったらあの時も殴らせるんじゃねぇよ、殴られ損じゃねぇか!」


 そう言いつつも態勢を整える。


「ともかく、足止めしておいて悪いが急いで戻った方が良い」
「そうだな、警察署の先輩達にもいつきや月影なのは、それにガドルの事とか色々説明……」
「いや、それもそうだが杏子ちゃんの方が心配だ」
「? ちょっと待て、確かにその真実を知ったらショックを受けるだろうが、それは落ち着いてから説明すりゃ……」
「翔太郎、『ソウルジェムが穢れきった時、魔女へと変貌する』、言い換えれば魔法少女が死んだ時魔女になる……これはある意味死んでも1度復活出来るという他の参加者にはないアドバンテージだ……」
「そうか、自我の有無を考えに入れなきゃ……他の参加者よりも有利じゃねぇか! それを主催側が制限しない理由はねぇ……」
「勿論、これは只の推測に過ぎない。だがこの推測が的中しているならば……それが杏子ちゃんに説明される事になる……」
「だが単独行動しなけりゃ……」
「そんなもの交代でやればどうにでもできる、真っ先に杏子ちゃんがやらない保証はない」
「そうだな、杏子……早まるんじゃ……」


 その時、


『Something comes!!(何か来ます!!)』


 僅かな異変をマッハキャリバーが察知、そして次の瞬間――


 2人の目の前に杏子が出現した――その時刻、21時41分


239 : X、解放の刻/パンドーラーの箱 ◆7pf62HiyTE :2014/04/05(土) 15:03:41 FvKuPTJM0





第7節 パンドラの箱



「「「『……』」」」


 レストラン内に静寂が包み込む――数十秒も経過していないというのにもう何十分も経過しているように錯覚してしまう。


「(杏子……何で『そいつが兄ちゃんの相棒か? よかったじゃねえか、無事に相棒取り戻せて』って言わねぇ……まさか)」
「(兄ちゃん……何で……『何故1人で勝手に出歩いてるんだ!?』って言わねぇんだ……まさか)」


 その無言の反応だけで気付いてしまった。


『翔太郎達(杏子)は魔法少女の真実に気付いている』と


「(最悪のパターンじゃねぇか……)」


 冷静さを取り戻したとはいえ、正直なんて言えば良いのか判らない翔太郎、それを余所に、


「(はぁ……誰にも会わずに出てきたのに……これじゃ意味ねぇじゃねぇか……)」


 そう、誰にも会わずにアカルンの力で出たのに出た先に翔太郎達がいては意味が無い。
 偶然にしてはあまりにも出来すぎているとも感じる。
 だが、もしかするとアカルンが杏子を助ける為に翔太郎の所に移動させてくれたという風にも考えてしまう。
 真相はどうとでも取れる話という事だ。


「(けどまぁ……兄ちゃん達も気付いているなら都合が良いか……)」


 そう言って杏子は自身のソウルジェムを出す。


「これ、砕いてくれ……」
「!!」


 その頼みに言葉を失う翔太郎、


「その反応……やっぱりか……やっぱり知っちゃったんだな……知らなかったら『何馬鹿な事言ってんだ』っていう筈だもんな……」


 翔太郎は言葉を紡げないでいた。本音は杏子の言う通りの事を言いたい。だが真実を知った以上、それを口にする事は出来ない。
 わかっている、杏子は自殺するつもりでソウルジェムを砕かせようとしているのではない。
 魔女になった後、自我を失い仲間達を傷つけてしまいたくない。だからこそ魔女へと変貌する前に終わらせるつもりなのだ。
 今なら真実を知るのは自分達だけ、参加者としての魔法少女は最早杏子だけである以上、警察署の皆にはまだ誤魔化し様がある。
 仲間達が真実を知りショックを受ける前に事を済ませる事も出来るだろう。


「あたしの所に美国織莉子という魔法少女が現れた、そいつの話じゃ24時を過ぎたら2体の魔女が兄ちゃん達を襲う為に現れる。マミとさやかのソウルジェムが変化した……そいつを倒さなきゃ兄ちゃん達が危ない……」
「ちょっと待ってくれ、確かもう1人魔法少女がいた筈だ、彼女は魔女にはならないのかい?」
「さぁなんか条件から外れているとかどうとか言ってたけど……」
「条件……そうか彼女のソウルジェムは既に砕けている、だから魔女にはならないというわけか……」
「その声……そうか、あんたが兄ちゃんの相棒の……」
「今更自己紹介の必要は無いと思うが……僕はフィリップ……またの名を園咲来人……どちらでも好きな方で呼んで構わない……」
「じゃあ言いやすそうな方でいいや……フィリップ兄ちゃん……なぁ……」
「魔法少女を普通の少女に戻す方法は無い……既に翔太郎から依頼されていたからね……もし可能な方法があるならすぐにでも説明するよ……」
「説明出来ないって事は無いって事だな……」
「奇跡さえ起これば良いだろうが……それを説明出来ないからこそ奇跡だ、僕に頼まれてもそれは出来ない相談だ……」
「はっ……本当に悪魔みたいだね……けどまぁ、変な希望を持たされるよりもずっといいや……これで諦めもついた……」


 そう言って改めてソウルジェムを出す。


「フィリップ兄ちゃんの推測通りならソウルジェムさえ砕けば魔女になる事はねぇ……早く砕いてくれ……」


240 : X、解放の刻/パンドーラーの箱 ◆7pf62HiyTE :2014/04/05(土) 15:04:26 FvKuPTJM0


 その言葉に遂に翔太郎が口を挟む


「ちょっと待て杏子、それがどういう事か判ってるのか? そいつを砕いたら死ぬんだぞ? もう命を粗末にしないんじゃなかったのかよ……」
「そんなこと……あたしだってわかってる……あたしだって絶対に生きてみんなを助けたかった……けどダメなんだ……どれだけ強く願っても……魔女になったらそれが全てひっくり返される……魔女になってみんなを傷つけたくはねぇんだよ……」
「だからってなぁ……」
「兄ちゃん達は割り切れているかもしれねぇよ! けどもしあたしが魔女になった姿を美希やヴィヴィオ、それにいつき達がみたらどうなる!?
 あいつらきっとショックで動けなくなる……目の前で暴れている怪物がついさっきまで笑い合った仲間だった事実……あまりにも残酷過ぎるだろう……
 元に戻す方法が無い以上、倒すしかねぇ……その時、あいつらがどれだけ哀しい顔をするか……わかるだろう……
 もしかしたらあいつらは方法もわからないのに奇跡を信じて自分の命を投げ出してでも助けようとするかもしれねぇ……
 倒したらグリーフシードじゃなくてソウルジェムの方が出てくるという愛と勇気が勝つストーリー……それをあいつらは信じている……」
「(そう……確かに君は一度それを信じ、ある魔法少女を助けようとした……だが、それは結局無駄に終わった……)」
「けどな、あたしがあいつらの立場、助ける側だったらそう思えただろうけど……助けられる側に立っちまったらそう思えねぇんだ……わかってるんだ……そんな奇跡や魔法なんて無いって……」
「けどな、魔法少女はその奇跡を願って魔法少女になったんだろ! どんな奇跡だって起こせるって思えねぇのか!?」
「気休めはもういい!! あたしだけじゃねぇ……マミにさやかもみんな希望を信じて魔法少女になった……けど結局それは全部無駄だったってわけだ……
 きっとほむらは全部知っていたんだ……だからああいう態度を……はっ……あいつも結局希望を信じて裏切られたピエロだったってわけか……キュウべぇという演出家に騙された……
 結局の所さ……あたし達が信じた希望は全部無駄だったんだ……マミ達が人々を守り続けようとしても……あたしらが死んで全て無駄に……
 まるでキュウべぇにそそのかされて箱を開けた憐れなパンドラだな……世界に絶望を振りまくだけの……」
「ちょっと待て、だが最後には希望が」
「翔太郎、それは解釈の1つに過ぎない。偽りの希望とする説もあるし災いの1種と捉える説、そして希望だけが残ったからこそ世界には希望が無いという説もあるぐらいだ」
「ははっ……なんだやっぱりそういう事か……なぁ、もういいよな……このソウルジェムを壊してくれ……
 人々を泣かせたくはねぇんだろ……だったら、人々を泣かせる魔女になる前にこいつを……」

 そう言ってソウルジェムを差し出す杏子、ドウコク等との戦いで僅かな穢れがあるにはあるがその輝きは殆ど衰えていない。

――そう口にした杏子の目には今にも涙が溢れ出しそうだった。
 人々を泣かせる泣かせない以前の問題だ、今一番泣いているのは他でも無い杏子だ、
 だが、俺はそんな杏子に掛けるべき言葉が未だ見つからないでいた。
 相棒を取り戻しWは本来の力を取り戻した。だが仮面ライダーの力の有無など関係無い、この場においては俺は……



 余りにも無力だった――



【1日目 夜中】

【左翔太郎@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(大)、胸骨を骨折(身体を折り曲げると痛みます・応急処置済)、上半身に無数の痣(応急処置済)、照井と霧彦の死に対する悲しみと怒り
[装備]:ダブルドライバー@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(アイスエイジ)@仮面ライダーW、犬捕獲用の拳銃@超光戦士シャンゼリオン、散華斑痕刀@侍戦隊シンケンジャー、マッハキャリバー(待機状態・破損有(使用可能な程度))@魔法少女リリカルなのはシリーズ、リボルバーナックル(両手・収納中)@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[道具]:支給品一式、ガイアメモリ(ジョーカー、メタル、トリガー)、ナスカメモリ(レベル3まで進化、使用自体は可能(但し必ずしも3に到達するわけではない))@仮面ライダーW、ガイアドライバー(フィルター機能破損、使用には問題なし) 、少々のお菓子
[思考]
基本:殺し合いを止める。
0:杏子……


241 : X、解放の刻/パンドーラーの箱 ◆7pf62HiyTE :2014/04/05(土) 15:08:17 FvKuPTJM0






























『What are you talking about?(冗談顔だけにしろよ)』


 今まで沈黙を保っていたマッハキャリバーが口を挟んできた。


「なっ……冗談なんかじゃ……てか宝石がしゃべ……」
『I'm not worried about that(そんな事はどうでもよい)
 "Since I do not want to wound people, I die."? Do you already give up helping people? Can't you help people?
(『人々を傷つけたくないから死ぬ』? もう人々を助けるのを諦めるのですか? 人々を助ける事は出来ないのですか?)』
「なっ……あたしだって諦めたくはねぇよ! だけど、魔女になったら……」
『Is it right now? Are you already helped for nobody? (それは今すぐの話ですか? もう誰も助けられないのですか?)』
「そうじゃねぇけど……」
『If it becomes, don't give up till the last moment...(ならば、最期まで諦めるな……)』
「テメェに何がわかるんだよ!」
「杏子……コイツはマッハキャリバー……スバル・ナカジマのインテリジェントデバイス……いや相棒だ……」
「え……」
「アインハルト・ストラトスから聞いているだろう、ソレワターセによって望まぬ殺戮を強いられた悲劇の少女を……」
「彼女の死を目の当たりにした響やつぼみ達の話じゃ解放された時にはもうどうにもならない状態だったらしい……」
「操られていたとはいえ彼女の罪は重い……しかし彼女にはその罪を数える事も、やり直す事も許されなかった……」

『Buddy could never give the opportunity to help people, but could not but die... However, you are different. You are still alive...
 (相棒は二度と人々を助ける機会を与えられず死ぬしかなかった……だが貴方は違う、貴方はまだ生きている……)
 There is an opportunity to still help people without limit... Do you crush it yourself?
 (まだ幾らでも人々を助ける機会はある……それを自ら潰すというのか?)』
「だけど魔女になったら……」
『It is set to Witch "some day"...When is it "some day"? It may be tomorrow however, it may be in tens of years...
 (いつか魔女になる……それは『いつ』ですか? 明日かも知れない、しかし何十年先かも知れない……)
 What is necessary is just to help people who count and are not competent until that time comes...
 (その時が来るまでに数え切れないぐらい人々を助ければ良い……)』
「それは……」
『The future had not been decided yet!! Which gives hope by the life, or give despair , it can be chosen for yourself.
 (まだ未来は決まっていない!! その命でどれだけ希望を与えるのか、あるいは絶望を与えるのか、そしてそれはまだ貴方の手で選ぶ事が出来る。)
 You are going to abandon it yourself, although it is trying to choose to give hope!
 (貴方は希望を与える事を選ぼうとしているのにそれを自ら放棄しようとしている!)』
「そりゃあたしだって諦めたくなんかねぇ……だけどそれは最初から無理だったんだ……変わるなんて事、出来なかったんだ……だったらもう死ぬしか……」


242 : X、解放の刻/パンドーラーの箱 ◆7pf62HiyTE :2014/04/05(土) 15:09:00 FvKuPTJM0


『A certain person said!!(ある人は言った!!)』


『ったく……死ぬ事でしか救われない……死んで救われるなんて話……そんなもんもう二度と聞きたくねぇんだ……』


 それは理不尽な死に嘆き悲しみ死による救済を否定した永遠を受け継ぎし一人の迷い子の言葉――


「Moreover, a certain person said!!(またある人は言った!!)」


『君を悲しませたままにする事も私には出来ない……私の友もきっと今の君を見れば放ってはおかないだろう……もう君が悲しみの涙を流す必要は無いんだ……』


 それは誰よりも人々の笑顔を望んだ友の遺志と共にあり続け空となった一人の戦士の言葉――


『And a certain person also said!!(そしてある人も言った!!)』


『生きているならば何度でもチャンスはあります。今からでも変わる事は絶対に出来ます。もし、変わる事すら許さないという人がいるならば……そんな人達から私が貴方のこころの花を守ります!』


 それは変わりたいというその心を守ろうとする花の名を持つ一人の少女の言葉――


 マッハキャリバーは自身が受け取った言葉を杏子へとぶつける――


 自分達は何処で間違えたのか?
 あの時、シャンプーとの戦いの最中にソレワターセを植え付けられ最悪な結果を引き起こした。
 どうすればそれは避けられたのだろうか?

 翔太郎とフィリップ、相棒同士再会出来たにもかかわらず突然互いに殴り合う姿を見てマッハキャリバーは困惑していた。
 なぜ相棒同士でこうも争うのか、それが相棒なのだというのか?
 だが真相は違った、2人はあくまでも互いの意志を察し、それぞれが考える最良の判断をとっただけなのだ。
 そう、相棒は決して唯々もう片方に従うだけの存在では無い。状況によっては相棒の意見を根本から否定する事も必要なのだ。
 致命的な過ちを犯す前に止める、そうでなければ相棒の意味などない。

 そう、マッハキャリバーはあの時ただスバルに従うまま戦うのではなく、推測しうる最悪の事態を彼女に伝えるべきだったのだ。
 シャンプーを再起不能にまでダメージを与える事も視野に入れるべきと、そして周囲への警戒に当たるべきだと、彼女の甘さを戒めるべきだと。
 それが出来なかったからこそ僅かな隙を突かれソレワターセを植え付けられ、スバルが知らぬままシャンプーを惨殺し戻れない所に陥らせてしまったのだと。
 例えば、予めシャンプーを潰してでも止めるべきと伝えておけば仮に惨殺する結果になったとしてもいくらかショックを軽減できたかもしれない。
 周辺をもう少し警戒しておけばそもそもソレワターセが植え付けられる事もなかったかもしれない。
 甘さを諫めれば、殺戮兵器となったとしても早々に心が壊れる事もなかっただろう。
 IFの話に意味は無い。だが、マッハキャリバーの甘さが最悪な結果を引き起こしたのだ。だからこそスバルは誰にも真意を知られず破滅の道を進むしか無かった。

 そして、目の前の佐倉杏子はその破滅の道を進もうとしている。
 今更となっては遅すぎる。だがまだその後悔があるならば――今度こそあの時出来なかった事をするのだ――相棒として


『Is it said that even such people's thought is betrayed!?(そんな人々の想いすら裏切るというのか!?)』


243 : X、解放の刻/パンドーラーの箱 ◆7pf62HiyTE :2014/04/05(土) 15:09:23 FvKuPTJM0


「ははっ……みんなバカだよ……お人好しすぎるよ……けどよ……魔女になったら全部無駄になっちまうんだぜ……あたしたちのやってきた事は最初から……」
「杏子ちゃん、君には少し話したと思うが……僕は1年ほど消えていた事があった」
「ああ、そういやそんな事……それがどうかしたのかよ?」
「実はその時、僕は不思議な体験をした……そう不思議な世界に行ったんだ……その世界でも僕はある男と仮面ライダーWとして戦っていた」
「おいおい、俺じゃねぇのかよ?」
「ああ君じゃない……その男の正体は1人のマンガ家……いや、萬画家の先生だった」
「なんでマンガ家がライダーやってるんだよ……ていうかどんなマンガ描いてたんだ?」
「その人は9人のサイボーグ戦士の戦いを描いた萬画を描いていた……もう何十年も前からね……」
「何十年も?」
「ああ……言ってしまえば何十年も戦い続けていたと言っても良い……だから、その人はその戦士達の戦いを終わらせる……つまり完結させようとしていたんだ」
「ちょっと待ってくれ……何十年も前ってことはその人もう結構な歳じゃ……」
「それ以前の話さ……その先生は既に死んでいた……そう、僕の行った世界はそういう死者が辿り着く世界だったというわけさ……ちなみにその世界には仮面ライダースカル、鳴海荘吉もいた」
「おやっさん、死んでもなお戦っていたんだな……」
「死んでも希望があるっていうのかよ……」
「僕が言いたいのはそれよりも先のことさ……確かに志し半ばにして先生はその戦いを終わらせる事は出来なかった……だが、彼の息子……その人が先生の遺志を継いでその物語をある形で発表した……」
「じゃあフィリップ、その9人のサイボーグ戦士達は……」
「ああ、彼等の戦いは終わったよ……そう、先生が与えようとした希望はその息子が引き継ぎ9人に希望を与えたんだ……
 そう、杏子ちゃん達魔法少女の戦いは決して無駄なんかじゃない……例え杏子ちゃんが散ってもその希望を引き継ぐ者が必ずいる……
 わかるだろう、君は姫矢准、そして東せつなから力を、その希望を引き継いだんだ、まさか君は彼等が死んだから彼等のした事が無駄だったと言うつもりかい……」
「いや……そんな事絶対に……絶対に無駄になんてしないよ……」
「だったら諦めるにはまだ早い、ここでソウルジェムを砕く事は簡単だ。だがそれをする事は彼等の願いすら無駄にしてしまう……それでもいいのかい?」
「いやだ……そんなのは……」
「そしてもう1つ……散っていった魔法少女も恐らく僕の行った世界で人々の希望を守る為に今も戦っていると僕は思う……だがそんな彼女が絶望を振りまく存在として戻ろうとしている……
 彼女達の生き様を泣かせる……それを君は許せるのか……?」
「許せねぇよ……マミやさやか達……人々を守る為に戦っていたあいつらの想いを踏みにじる事なんて……あいつらが何も判らずみんなを傷つける姿なんて見たくねぇよ……」
「そう……彼等を人々を泣かせる怪物にするわけにはならない……なら……」
「ああ……あたしは戦う……みんなから受け継いだ想いを無駄にしない為にも……だけど……」


 最早杏子にはソウルジェムを砕いてもらおうという意志は消えていた。
 だが、内心ではやはり不安が残る、戦いの果てに魔女になった時、今度は自分が仲間達を傷つける事になるからだ。
 それが何時かはわからない、遠い先かもしれないが次の瞬間にはそうなっているかもしれないのだ。
 早いか遅いかの違いはあれど最早それは不可避なのだ。


244 : X、解放の刻/パンドーラーの箱 ◆7pf62HiyTE :2014/04/05(土) 15:10:26 FvKuPTJM0


「ふっ……世話になったなフィリップ、マッハキャリバー……」


 そう口にしながら杏子へと向き直る。
 つい数分前に『杏子の支えになれるのは翔太郎しかいない』と言われておきながら結局2人に頼ってしまった。
 相変わらずの半人前だ、だが最後の締めだけは自身の手でやらなければならない。


「何も心配するな……魔女は俺が倒す……」
「翔太郎、それを言うなら『俺達』だよ」
「頼んどいてアレだけどわかってるのかよ……アレはマミやさやかだった奴だぜ……それを本気で」
「ああ……邪魔するのがそいつら自身だっていうならそいつらとも戦う……あいつらの本当の願いは俺達の胸の中にあるからな……」


 かつて、翔太郎の前に師である仮面ライダースカルこと鳴海荘吉が立ちふさがって来た事があった。
 自身の罪から一度は戦えなかった翔太郎だったが、フィリップからの言葉などから再起し、再度対峙した時には自身の中にある荘吉の教え、それを胸に戦うと明言した。
 そう、翔太郎にとって、例え相手がかつての師や友、仲間であっても、人々を守る為ならば彼等を倒す事にも迷いはない――


「はっ……あいつらに会ったことないくせに……」
「それに杏子……お前が魔女になったとしても何も心配はするな……
 お前が人々に絶望を振りまき泣かせる前に……俺がお前を殺してやる」
「なっ……本気か?」
「ああ……だから杏子、お前も諦めずに最後まで足掻いてやれ、偉そうにしているその美国の野郎に思い知らせてやれ」
「魔法少女だから女なんだけどね……それより翔太郎、それは仮面ライダーとしての言葉か?」
「いや、先輩達だったらもっと上手いこと言えるんだろうけどな……俺にはそれは無理だ……だからこれは仮面ライダーとしての言葉じゃねぇ……
 街を泣かせる存在から人々を守る、1人の探偵としての言葉だ……」
「ははっ……半人前のハーフボイルドのくせに……」


 そう言いながらも泣きながら嬉しそうに笑う杏子である。


「何時までも半人前でいるつもりもねぇし、心だけは常にハードボイルドだ……」


 ふっと優しい笑みを浮かべる翔太郎であった。


「どうやら纏まった様だね……それじゃそろそろ警察署に戻ろうか」
「そうだな。杏子、ちゃんとあいつらに事情を説明してやれよ。何処まで話すかにしろフォローはしてやるからな」
「あ、ああ……そのごめん……なんかまた迷惑かけちまって……」
「気にすんなそんな小さな事……」


 そんな中、フィリップが笑っている。


「何がおかしい?」
「いや、大した事じゃ無い、さっきの君の言葉……これが本当の『殺し文句』だと思うとね」

「「な゛!!」」


 フィリップの言おうとする意味に2人も気付いた様だ。


「ちちち違うぞフィリップ、俺にそんなつもりはねぇ!」
「ななな何言ってんだよ兄ちゃん、あたしだってそんな悪い趣味じゃねぇよ!」
「翔太郎……いくらモテないからって杏子ちゃんはまだ若すぎる……節操がなさ過ぎだとは思わないか?」
「ばばばバカ言ってんじゃねぇ、もう少しこう胸とか腰の辺りとか……」
『Is a schoolchild the highest too?(やっぱり小学生は最高ですか?)』
「小学生じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「お前等人をおちょくってんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


245 : X、解放の刻/パンドーラーの箱 ◆7pf62HiyTE :2014/04/05(土) 15:11:05 FvKuPTJM0





第8節 1つの終わり、1つの始まり

 ――何はともあれ、俺達は警察署へと移動をしていた。道中で杏子にダークプリキュア改め月影なのはの事やガドルの襲来によりいつきが殺された事、そして新たなエターナルの事などを大まかに話した。
 月影なのはの事を受け入れてもらえるかは気がかりだったが――


「そもそもあたし直接会ったことねぇからなぁ……あいつらが良いって言うんだったらいいんじゃねぇか? 今更あたしが偉そうに言える口じゃねぇし」


 ――と、何時もの軽い調子で言った。その最中、俺は密かにフィリップに頼まれドライバーを装着している。
 この状態ならば俺とフィリップの意志は繋がっている、だが一体何を――


『翔太郎、ここから先の話はまだ誰にも言わないで欲しい』
『ああ、わざわざこうさせたってことはそういう事なんだろうが……』


 2人は声を出さず、心だけで話している。


『君の所に現れたのは誰だ? 加頭順か?』
『いや、サラマンダー男爵だ……』
『君の目から見て彼はどんな人物に見えた?』 
『人々を泣かす様な悪人、救いがたい程の奴には思えなかったぜ……』
『恐らく君の事だからきっとそうなんだろう……ところで、今の状況……奇妙だとは思わないか?』
『お見通しか……ああ、確かに目先のガドルやドウコクは強敵だが……数だけを見れば殺し合いに乗った奴が少ない気がする……正直、主催側にとっては良くない状況だと思うが……その割には動きが静かだ……』
『そう、それに条件付きとはいえ制限解除という強化の機会……少々僕達にとって都合の良い状況だ』
『何が言いたい?』
『翔太郎……さっき杏子ちゃんが話していた美国織莉子という人物についても検索出来ている……細かい説明は省くが彼女も彼女なりのやりかたで世界を守ろうとした魔法少女だ……』
『ん、じゃあなんでそいつがあの連中に従って……ちょっと待て……』
『気付いた様だね、そう、主催の仲間である彼女の詳細は簡単に調べる事が出来ている』
『あの連中……何考えているんだ? 仲間の情報を明かして……』
『そもそも他世界にわたって検索出来る事自体が異常なんだ、普通はそんな事はあり得ないし、閲覧範囲を弄る事もまずあり得ない』
『でもよ、確か若菜姫がエクストリームの力を得た時はフィリップよりも強い権限あっただろ』
『原理自体は若菜姉さんと同じだと考えて良い……だが重要なのはそれが無数の世界の範囲まで広がっているという事だ。
 纏めよう、連中は無数の世界の地球の記憶……いや言い換えれば『無限の記憶』にアクセスする力を持っている』
『ちょっと待て、それが本当だとしたら……』
『ああ、連中は途方も無い力を持っている。先程それが解放されたといっても恐らくはごく一部、肝心要な部分だけは何も閲覧出来ないと考えて良い』
『その言い方じゃ美国は別に重要じゃねぇって事か?』
『勿論そう見せかけたフェイクという可能性もなくはない。だが恐らく目に見える主催側、その殆どは本当の敵とは言えないと考えて良い……』
『本当の敵? 待てよ、それじゃ加頭も男爵もニードルやゴバット、それに美国は全員そうじゃねぇって事か? ていうか本当に何が言いたい?』
『落ち着いてくれ、これはまだ誰にも明かせない事なんだ……それともう1つ……24時を過ぎたら現れる2体の魔女……』
『確かさやかとマミの魂が変貌した奴だよな……』
『だが2人は既にこのデスゲームから退場している。自我の有無を考慮に入れなければ24時間経って敗者復活というのはゲームとしては余りにも不公平だと思わないか?』
『そりゃ……』
『何故24時間というタイムラグが必要か……恐らくこのゲームが次の段階に移行する事を意味しているんじゃないのか?』
『次の段階……まさか……主催陣との戦いか?』
『そうだ、魔女は主催側が参加者達に差し向ける刺客、つまり美樹さやかと巴マミは既に連中の手駒という事だ。そして21時を過ぎてから徐々に解禁される制限、これは殺し合いを勝ち抜くためのものではなく主催戦を見据えてのもの……』
『ちょっと待て、それじゃ前提が間違っていたということか?
 俺達は最後の1人になるまで殺し合う中、主催側はゲームを円滑に進めるべく妨害を行う、ではなく、
 俺達と主催陣の2陣営が戦う中、最後の1人になろうとする者は妨害する、
 こういう構図になっているというわけか?』
『状況はそういう風に移行している様に見受けられる』


246 : X、解放の刻/パンドーラーの箱 ◆7pf62HiyTE :2014/04/05(土) 15:11:48 FvKuPTJM0
『けどそれおかしいだろ、主催側にしてみりゃさっさと首輪爆破すれば済む話だろ、その構図じゃ主催連中も参加者……そうか、そういう事か……
 主催連中もゲームの参加者というわけか……それじゃフィリップの言った本当の敵というのは……』
『そう、加頭達主催陣、そして僕達参加者をそれぞれの陣営に配置した真の黒幕の事だ……』
『なるほどな……確かにそれなら主催連中があそこまでバラバラなのも頷ける……じゃあその真の黒幕は誰だ?』
『それはまだわからない……ずっと裏で潜んでいるか、それとも主催陣、あるいは参加者の中に潜んでいるか……』
『おいおい、参加者の中にいる可能性なんてあるのか?』
『可能性は低いだろうが0じゃない。そもそもミュージアムの幹部、つまりは僕の家族だって表向きは風都の一住民に過ぎないんだ、疑えというつもりはないがありとあらゆる可能性は考えておくべきだ……
 もっとも、現状では未だ姿を見せていないという可能性が一番高いけどね……地球の本棚を解放したという事はその気になれば主催連中だっていくらでも調べられる。だが、そうそう簡単に足を掴ませるマネもしないだろう?』
『まぁそうだろうな……』
『それと気をつけた方が良い……地球の本棚の管理権限が牛耳られているという事は、地球の本棚は監視されていると考えて良い。通常の参加者についての情報は問題無いだろうが、このゲームの根幹に関わる部分には手を出せないと考えて良い』
『つまり、あまりフィリップの検索を当てにしすぎる事も出来ないというわけか……けど美国の事がわかったのはなんでだ?』
『簡単さ。暁美ほむらが彼女と面識があったからさ。つまり本棚を使わなくても情報を得られるという事さ、その気になれば調べられる事を伏せても仕方ないだろう』
『俺が地道に足で調べるか、フィリップの検索で一気に見つけるか、その程度の違いって事か……』
『ともかくだ、僕達が本当の意味でこの戦いに勝つには真の黒幕が持つ『無限の記憶』をどうにかしなければならない……』
『そうか、俺達の全てがわかるという事はその対処法も全てわかるという事だからな……』
『いや、それ以上に……それをどうにかできなければこのゲームは永遠に繰り返される事になる』
『な……どういう事だそりゃ!?』
『無論、同じゲームとは限らない……だが、真の黒幕は『無限の記憶』を手にしそれを悪用してこのゲームを催した……ここで奴を倒しそびれ逃げられれば……』
『再び悪用され繰り返す……』
『それも同じミスはしないように対策を取った上で……だからこそ『無限の記憶』、これは確実に奴等から取り戻さなければならない』
『……なぁ、その推測が間違っているという可能性は? 説明を聞いても突拍子もなさ過ぎるんだが……』
『根本的な所で間違えている可能性は否定しない、だが地球の本棚に影響を与えている存在、つまり『無限の記憶』にアクセスできる存在がある事だけはまず間違い無い。その脅威は僕達が一番わかるだろう?』
『そうだな……』
『とはいえ、最優先にやるべき事はそれじゃあない。現状でもまだ殺し合いに乗った人物は多い、1つずつ対処していくしかない』
『ああ……仲間達を集め、ガドルにドウコクを倒し、そして天道あかねを止める、それがまずやるべき事だな』
『その通りだ、だが気をつけてくれ……恐らく主催陣の差し向ける刺客は魔女だけじゃない……それら全てを切り抜け無ければ僕達に勝利は無い……』
『わかったぜフィリップ……頼りにさせて貰うぜ、相棒!』
『その意気だ……翔太郎』


 そんな2人を余所に、


「おーい、何やってんだ、早く戻るぞ!!」
「わかってる、すぐ行くよ」


 ――相棒は取り戻した……だが、それは戦いの終わりでは無く新たな始まりに過ぎなかった。
 フィリップの推測が正しいと言う保証は無い。が、状況が悪化の一途を辿っているのは確実だ
 それでも俺達は足を止める事は無い、散っていった者達が託したものを受け継いでいるのだから。
 彼等の想い、あるいは願いを胸に、必ずこの戦いを終わらせると。
 フィリップの出会ったマンガ家が志半ばで成し遂げられなかったサイボーグ戦士達の戦いの完結を、その息子が果たした様に――


247 : X、解放の刻/パンドーラーの箱 ◆7pf62HiyTE :2014/04/05(土) 15:12:39 FvKuPTJM0





――そして後2分弱で22時になろうと言うとき、俺達は警察署前に辿り着いていた――


「……なんだこりゃ」
「あ、沖の兄ちゃんから頼まれたんだっけ。チェックなんとかって……ていうか出る時気付かなかったのかよ」
「あーそういや何か違和感は覚えたが気付かなかったな……」
「それでよく探偵出来るな……」
「ふむ、実に興味深い」
「……って杏子テメェ確か店から持ち逃げして真っ先に帰ってきただろうが、持ってきたのはいつきと孤門だろ」
「いいじゃん別に無事にここまで運べたんだし、確か禁止エリアにあったから……」
「というか、そういう大事な事は先に言え……」
「それにしても、兄ちゃん達が別れた奴ら大丈夫か……」
「大丈夫だろう、もう月影なのはは人々を泣かせる様な奴じゃ……」
「いや、さっきも言ったけどあたしもとやかく言うつもりはないって……それよりも……Pちゃん」
「あ゛」
「流石にPちゃんと一緒にさせたのはまずかったんじゃないの……なんか色々危なそうだし……流石にああいう小動物はもう信用が……」
「仕方ないね」
「そうだな……アイツにエターナルを託して良かったのか……」
『Reasonable(ごもっとも)』





【1日目 夜中】
【F-9/警察署前】

【左翔太郎@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(大)、胸骨を骨折(身体を折り曲げると痛みます・応急処置済)、上半身に無数の痣(応急処置済)、照井と霧彦の死に対する悲しみと怒り
[装備]:ダブルドライバー@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(アイスエイジ)@仮面ライダーW、犬捕獲用の拳銃@超光戦士シャンゼリオン、散華斑痕刀@侍戦隊シンケンジャー、マッハキャリバー(待機状態・破損有(使用可能な程度))@魔法少女リリカルなのはシリーズ、リボルバーナックル(両手・収納中)@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[道具]:支給品一式、ガイアメモリ(ジョーカー、メタル、トリガー)、ナスカメモリ(レベル3まで進化、使用自体は可能(但し必ずしも3に到達するわけではない))@仮面ライダーW、ガイアドライバー(フィルター機能破損、使用には問題なし) 、少々のお菓子
[思考]
基本:殺し合いを止め主催陣を打倒する。
0:杏子達と共に警察署に戻り、色々事情を説明する。
1:ガドル、ドウコクは絶対にに倒してみせる。あかねの暴走も止める。
2:仲間を集める。
3:出来るなら杏子を救いたい。もし彼女が魔女になる時は必ず殺す。
4:現れる2体の魔女は必ず倒す。
[備考]
※参戦時期はTV本編終了後です。
※他世界の情報についてある程度知りました。
(何をどの程度知ったかは後続の書き手さんに任せます)
※魔法少女の真実(魔女化)を知りました。
※※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はフィリップ、ファングメモリ、エクストリームメモリの解放です。これによりファングジョーカー、サイクロンジョーカーエクストリームへの変身が可能となりました。


【フィリップ@仮面ライダーW】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:ガイアメモリ(サイクロン、ヒート、ルナ、ファング)@仮面ライダーW、エクストリームメモリ@仮面ライダーW
[思考]
基本:殺し合いを止め主催陣を打倒する。
0:杏子達と共に警察署に戻り、色々事情を説明する。
1:翔太郎及び仲間達のサポートをする。
[備考]
※参戦時期はTV本編終了後です。
※検索によりまどマギ世界(おりマギ含む)の事を把握しました。
※参加者では無く支給品扱いですが首輪を装着しています。


248 : X、解放の刻/パンドーラーの箱 ◆7pf62HiyTE :2014/04/05(土) 15:13:26 FvKuPTJM0


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(大)、ソウルジェムの濁り(小)、腹部・胸部に赤い斬り痕(出血などはしていません)、ユーノとフェイトを見捨てた事に対して複雑な感情、マミの死への怒り、せつなの死への悲しみ、ネクサスの光継承、ドウコクへの怒り、真実を知ったことによるショック(大分解消)。
[装備]:ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、エボルトラスター@ウルトラマンネクサス、ブラストショット@ウルトラマンネクサス
[道具]:基本支給品一式×3(杏子、せつな、姫矢)、リンクルン(パッション)@フレッシュプリキュア!、乱馬の左腕、ランダム支給品0〜1(せつな) 、美希からのシュークリーム
[思考]
基本:姫矢の力を継ぎ、魔女になる瞬間まで翔太郎とともに人の助けになる。
1:翔太郎達と共に警察署に戻り、色々事情を説明する。但し、魔法少女の真実についてはどこまで話せば良いか……
[備考]
※参戦時期は6話終了後です。
※首輪は首にではなくソウルジェムに巻かれています。
※左翔太郎、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライアの姿を、かつての自分自身と被らせています。
※殺し合いの裏にキュゥべえがいる可能性を考えています。
※アカルンに認められました。プリキュアへの変身はできるかわかりませんが、少なくとも瞬間移動は使えるようです。
※瞬間移動は、1人の限界が1キロ以内です。2人だとその半分、3人だと1/3…と減少します(参加者以外は数に入りません)。短距離での連続移動は問題ありませんが、長距離での連続移動はだんだん距離が短くなります。
※彼女のジュネッスは、パッションレッドのジュネッスです。技はほぼ姫矢のジュネッスと変わらず、ジュネッスキックを応用した一人ジョーカーエクストリームなどを自力で学習しています。
※第三回放送指定のボーナスにより、魔女化の真実について知りました。


【特記事項】
※G-9にあったチェックマシン@仮面ライダーSPIRITSは163話の段階(杏子達の買い出し)で警察署前に移動させました。
※警察署のとある部屋(170話での杏子が織莉子と遭遇した部屋)に杏子の書き置きが残されています。具体的な内容は本編を参照。


【フィリップと翔太郎の推測】
※このデスゲームは参加者同士の殺し合いから、主催陣対参加者の構図に以降しつつある。
※24時以降に出現する魔女、21時以降解禁される制限は主催戦を見据えてのもの。
※現在表向きに現れている主催陣(加頭、サラマンダー男爵、ニードル、ゴバット、織莉子)は全員、本当の敵ではない可能性が高い。
※本当の敵(黒幕)は現在も現れていない可能性が高い、但し上述の主催陣あるいは参加者の中に潜んでいる可能性も低いがある。
※主催側は全ての世界の地球の記憶(『無限の記憶』と呼称)とアクセスでき、地球の本棚に干渉できる『存在』を手にしている。
※その為、その『存在』を奪取しなければ勝てる可能性は限りなく低く、仮にその『存在』が奪われたまま逃げられた場合、似た事が繰り返される可能性が高い。
※地球の本棚は監視されている可能性が高く、核心に触れる内容の検索は危険、但し現状現れている主催者を含めた参加者については問題無い可能性が高い。
※以上の内容は現時点での推測である為、間違っている可能性はある。但し、『無限の記憶』にアクセスできる『存在』だけはほぼ確実。
※以上の内容は下手に明かす事は危険故、現在の段階ではまだ他の参加者に明かすべきではない。





『う゛……また悪寒が……』
『大丈夫、良牙さん……?』
『ああ……それにしても……なのは、お前の声聞いているとなびき思い出すんだが……』
『そういえば私に支給されたパラシュートにもその名前が……って『なびき』って誰???』
『良牙さんの『お友達』のあかねさんのお姉さんです』
『ううっ……』
『どうして泣いているの……?』


249 : ◆7pf62HiyTE :2014/04/05(土) 15:15:03 FvKuPTJM0
投下完了しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。

wikiへの収録に関してはストーリーの区切りの関係で2分割収録でお願いします。

>>224-235(第2,6,1,3,4節)が『X、解放の刻/楽園からの追放者』
>>236-248(第5,7,8節)が『X、解放の刻/パンドーラーの箱』

以上の通りとなります。


250 : 名無しさん :2014/04/05(土) 17:15:08 TR.FWUvs0
投下乙です!
杏子はどうなるかと思いきや、翔太郎達とマッハキャリバーのおかげでどうにか立ち直ってくれましたか。
やっぱり、この二人はいいコンビですね。この二人は早速、考案を進めてくれましたが今後の活躍も楽しみです。
それと、サイボーグ009のネタには思わずニヤリときました。


251 : 名無しさん :2014/04/05(土) 19:16:33 TVum0KfE0
投下乙です

暁の行動が石堀の打算をどう狂わせるだろうか
確かにラブに最低限の事を伝える事は出来たが…
それとは別に暁とラブはデートできるかどうかも気になる

あんこちゃんがあのまま消えると思ったらばったりと再会できたのは不幸中の幸い
さすがに納得は難しいと思ったらマッハキャリバーがやってくれたぜっ
もしかしたら悪い意味で長引くと思ったがここであんこちゃんを引き留めれたのは大きいぜ
このまだ打開まで進んで欲しいぜ

すまん、なんでここでサイボーグ009のネタが出るのか判らないんだが


252 : 名無しさん :2014/04/05(土) 20:15:51 ebIpUqygO
投下乙です。

杏子が思いとどまってくれて良かった。
「死んで終わり」なんて、まっぴらだ!

黒幕視点だと、これは主催者チームと参加者チームのチーム戦かもしれないのか。
どちらかが全滅したら終わりなのか、それとも?

インキュベーター、ユーノ、Pちゃん。
もう小動物は信じられない!


253 : 名無しさん :2014/04/05(土) 23:56:15 9U0o4rzI0
投下乙。
中学生とフラグを立てつつある私立探偵ェ…
照井さん一条さんこっちです

そして疑惑の広がるPちゃんこと良牙w
でもこいつ、Pちゃんのこと抜きにしても、横恋慕&二股とかやらかしてるからなあ
女性陣に知られたら顰蹙ものかもしれない…w


254 : 名無しさん :2014/04/07(月) 20:43:49 lIWBF5P60
いまさらですが、黒岩の最期
>彼女の笑顔が、最後に、彼女の瞼の裏にあったのかもしれない。
これは「彼女の笑顔が、最後に、”彼”の瞼の裏にあったのかもしれない。」でいいのかな?


255 : ◆gry038wOvE :2014/04/07(月) 23:47:46 5IJNqrkg0
>>254
そうですね。修正しておきます。

ただいまより、次の投下を行います。


256 : ルシアン・ヒルの上で ◆gry038wOvE :2014/04/07(月) 23:57:58 5IJNqrkg0


 結城丈二、涼邑零の二名は21時まで周囲の探索をする事にしていた。
 襲撃された場合の事を考えて二人馬織の行動を主としているが、現状でこの村エリアには誰も来る気配がなかった。無造作に置かれた遺体に手をかけた様子がなかったのも、この村エリアの人気のなさを物語っている。
 おそらく志葉屋敷の持ち主と思しき志葉丈瑠ももうこの世になく、いくつかの戦いの痕らしきものも既に乾いた様子を見せていたので、単純に村エリアの不人気よりは市街地エリアの利便性に惹かれた人間が多いのだろう。
 また、とうに過ぎているとはいえ、十八時には市街地エリアに向かう約束があった。それが周囲に伝わった可能性も高い。現状では禁止エリアの多さで不便さもあるだろうが、施設の多い市街地エリアに向かうのだろうか。
 もともと、市街地エリアに一度足を運んでいた結城丈二と涼邑零であったが、その時は様々な理由込で、未確認生命体対策本部の資料も得られなかった。

 しかし、両名とも、村エリアを散策する中で、このエリアならではの特色のようなものにはうっすらと気づき始めていた。

「どうやら、便利な道具が多様に取り揃えられているようだな……」

 支給品外のアイテムが髄所に隠されているのである。
 このエリアには、二人も知らないが、以前はビートチェイサー2000やサイクロン号といった仮面ライダーのマシンが配置されていた。それと同様に、まだこの村には支給品として主催側から送られた以外の隠しアイテムが豊富に取り揃えられているのである。民家に稀に隠されている小物のようなアイテムもあれば、かなり堂々と置いてあるアイテムもある。
 主催陣としても、村エリアと市街地エリアの二か所では、市街地に人が集中する事を予測していたのだろう。村エリア側にこうしたアイテムを配置し、ここの特色を作る形を取ったのだ。

 これまでも、まあ少しばかり小物アイテムを手に入れている。
 たとえば、「AtoZ・スロット専用T2ガイアメモリ」と書かれたガイアメモリのケースだ。中にはもちろん、ぴったり納まる形でガイアメモリが入っているのだ。これは、このしばらくの間で四つも手に入っている。いずれも探索は難しいが、注意深く探すと隠されていた。

 民家のクッションの中に硬い感触を感じたら、その中に一つ。結城丈二が、まるで運命に惹かれるようにして発見した「Rocket(ロケット)」のガイアメモリ。
 机の引き出しの中……ではなく、机の引き出しの二重底の下。「Accel(アクセル)」のガイアメモリ。
 木彫りの熊の置物の中。「Unicorn(ユニコーン)」のガイアメモリ。
 一番わかりやすかったのは、道にあった看板の裏。「Queen(クイーン)」のガイアメモリ。
 そんなこんなで、宝探しのように見つけたガイアメモリの数が四本である。AtoZという事は、もしかするとAからZまでのガイアメモリがこの場所に隠されているのかもしれないが、時間がないのでそれに関しては他の専門家に語る事にした。
 このT2ガイアメモリは、警察署で出会った──もう死んでしまった泉京水と、その知り合いの大道克己がもともと探していたものらしいが、敵の仮面ライダーたるダブルもおそらくは何か知っているだろう。
 ロケットとユニコーンが結城、アクセルとクイーンが零のデイパックの中に押し込まれる形になったが、今後、それを必要とする人間に会うまでは全く不要なものだろう。

 更に、今彼らの前には、もう少し大きめのアイテムもあった。

「シトロエン2CVだな。フランスの車だ」
「なんか詳しいな……」
「マシンには凝っていてね」

 今彼らが目にしているのは、緑の車──シトロエン2CVという小型の自動車である。一般道をこの車が走っているのはあまり見ない。なかなか古いタイプの車のようだ。実を言うと、彼らが合流した涼村暁という男の愛車なのだが、そんな細かい情報まで彼らは得ていないので、この車が彼の所持品である事など誰も知る由もない。
 ちなみに結城丈二がこれを発見したのはB-1エリア沿岸部であった。誰かが手を付けた様子はなく、鍵は挿しっぱなしであった。ずっとこの潮風に晒されて放置されていたのだろうか。

「でも、時空魔法陣があれば、こんなものいらないしなぁ……」
「確かに惜しいが、まあ見たところ、しっかりした整備もされていないようだ。使う事になるとすれば、また後だろうな」
「あーあ、もっと早く見つけられればよかったのに」

 零としては、これまでの面倒な道のりを考えれば、少し惜しい道具の一つであったが、今となってはソルテッカマンに時空魔法陣まで、もう少し最先端かつハイブリッドな道具が手に入っている。


257 : ルシアン・ヒルの上で ◆gry038wOvE :2014/04/08(火) 00:05:13 WwdulAGs0
 まだ村には移動手段となる乗り物があるかもしれないが、そろそろ時間も近い。時空魔法陣の管理権限が移るというのなら、なるべく早めにそれを使ってみたいものだった。







 午後九時。
 この時刻になると、もう人気のなさははっきりとわかってくる。ゴーストタウン同然のこの民家の群れを見ている時の胸の寂しさは、いっそう強くなっていた。
 彼らはまた、翠屋の入り口にいる。ソルテッカマンがどこか遠くを見ているようだった。

『こんばんは。仮面ライダー、それに魔戒騎士のお二方』

 彼らの目の前にいるのは、ホームレスのような小汚い風体の男。めがねも、とんがり頭も、無精ひげも、白衣も──忘れるはずがない。薄気味悪い笑みを浮かべているこの無精な怪人の表情を見て、零と結城は顔を顰める。
 何も言わずに一歩前に出て刀の柄を握った零を、結城が右手を前に出して制した。

「……ニードルだな。その姿はホログラムか?」

 結城がそんな言葉を投げかける。彼は、第二回放送を行ったニードルである。無論、倒すべき相手だ。零も、ニードルの姿が幻影である事くらいわかっていた。だが、万が一の可能性に備えて構えたに過ぎない。攻撃の意志はさほど強くはなかった。

『ええ、察しが良いようで。流石は、首輪を外した功労者……。ザボーガーというネーミングは悪くないと思いますよ』

 ニードルは下品に笑っていた。結城が額に汗を浮かべる。どうやら、何度も繰り返されると恥ずかしいらしい。
 零は、そんな結城丈二の様子を見て、どことなく安堵を浮かべた。
 ニードルは続けた。

『ともかく、まあこれからまたヤボ用があるので、手短に話します。あなたたちが知ってのとおり、時空魔法陣の簡易的な管理システムをこちらの喫茶店の奥、二階の一室に転送しました。機械によって時空魔法陣を操る特殊装置です』
「その使い方を教えてくれるんだな」
『はい。これまでは人数も多かったので、こうした強力なアドバンテージはあってはなりませんでしたが、もうそんなしがらみに囚われなくとも良い頃合いでしょう。……現在の時空魔法陣の使用条件は、知ってのとおり、二人以上殺害した参加者の移動、翠屋・警察署間の移動です。本来なら一度使えば消滅する仕組みになっていましたが、残念ながら現在に至るまで利用した人間は皆無……これは甲斐のない話でしょう?』
「……いらないからくれるっていうのか。なら都合が良い」

 零は、ニードルの物言いに腹を立てながらも、あくまでニヒルに返した。顔は笑っていない。

『あなたたちのように、普通に移動していても何時間も誰とも合流できない方がたまにいるんですよ。人口密度が更に低くなった今、はぐれ者が他の参加者に出会える可能性はいっそう減ります。ゲームそのものが成り立たなくなる……わかりますね?』

 ゲームを面白く進めるには、やはり時空魔法陣のような道具が必要だとわかったのだろう。主催側も、その解禁をあまり問題とは感じていなかったようである。
 最初からゲームの一部に組み込んでいたかのように、その準備や設備が万端であるところを見ると、やはり誰かしらがこうして管理権限を受けられるようになっていたのだろう。
 その条件が果たして、首輪解析に関わるものかどうかはわからないが。

『管理システムは、時空魔法陣の前に転送しました。ただ、現在も時空魔法陣は二つの施設を繋ぐ事はできますが、その管理はこの翠屋にある装置を使わなければできません。簡単に言えば、翠屋と別の施設を繋ぐ装置という事です』
「使い方は?」
『あなたたちの持っている地図の改訂版が、画面に表示されています。それを利用してください。タッチパネルを搭載していますので、行きたい施設をタッチする事で時空魔法陣の移動先を変更する事ができます。ただし、破壊された施設には発動する事ができませんので、ご注意を……。他にも多様な機能を取り揃えていますが、管理者が著しく優位になるようなものはありません。……私が伝えるべき事は以上です』

 ニードルの説明は殆ど終了したようだった。実に手軽な説明だ。
 ニードルも背を向けて、今からどこかへ消えようとしていた。
 しかし──


258 : ルシアン・ヒルの上で ◆gry038wOvE :2014/04/08(火) 00:05:47 WwdulAGs0

「待て、ニードル。首輪が外れたというのに随分と無反応だな」

 結城が声をかけて、ニードルが消えるのをやめた。
 いや、消えかかった体で結城の方を見ていた。──一体、どういう仕組みになっているのかはわからない。ただ、そんな彼の表情からは下卑た笑いも少し消えている。語調を強めて、彼は言う。

『はい?』
「この首輪は、俺たち……参加者全員を縛るために必要な道具の一つだ。何故、この首輪を外させて、ろくに触れもしないんだ?」

 単純にそれは、結城丈二の疑問だった。
 ニードルは、殆ど頭を悩ます事もなく、すぐに返答した。

『……そういう段階に来ているという事ですよ。いずれにせよ、あなたたちはこの島から外へは出られない。外には何もありませんし、どこへも行けません。強いていれば、そう、禁止エリアが使用できなくなるだけでしょうか。とにかく、最後の一人が決まるまで、あなたたちは囚われたまま……聞きたい事はそれだけですか?』

 結城は何か考えているように黙った。ニードルは、それを見て、安心したように笑って、遂に完全にどこかへ消えた。零は、そんな様子を茫然と見つめていた。
 二十一時三十分ごろ、ニードルは別の場所に現れる事になったが、それはこの少し後の話である。







 ケーキを振る舞う喫茶店の奥には、おそらく店主自身の居住地となっている民家のような家がある。そして、その子供部屋──そこには、全く不釣り合いな機械と魔法陣があった。
 時空魔法陣の制御装置。大きさは、この近くにあるものでいうならレジカウンターほどであろうか。青い装置の上部は、液晶のスクリーンがあった。

『タッチで起動ください。ユーザー名:結城丈二』

 画面には管理者名が記入されている。そのユーザー名は、結城丈二だ。真っ青で中央に文字だけが記載されている画面に、誰かがタッチしなければ起動しないらしい。

「どれ……」

 零が横から、ひょいと現れてコンピュータをタッチする。コンピュータには慣れていないのか、手つきは雑だ。
 結果は、当然の如く無反応である。

「…………反応しないよ、コレ。壊れてるんじゃないか」
「涼邑……お前は管理対象者じゃないだろう」

 結城が画面に触れると、今度はしっかりと起動する。
 どうやら、結城丈二以外はタッチできないらしい。既に指紋も何もない鋼鉄の腕だが、手袋越しにタッチは可能だったので、指紋以外のどこかから送られてくる情報でそれを管理しているようだ。
 そこから先の画面は、パソコンのデスクトップのようになっており、その中にはいくつかのアイコンが存在する。そのうち、『管理システム』を結城がタッチした。
 すると、確かにマップをそのまま張り付けたような画面になった。

「俺たちの持っているものと、ほぼ同じだな……」

 紙製の島内マップに比べると、いささかハイテクで綺麗な画質である。エリア区分もしっかりなされており、殆どは手持ちのマップと同じものだが、やはり黄色い○で記された施設の一部は破壊されていた。
 教会、風都タワー……この二つの施設が既に跡形もないらしい。あのタワーを破壊するとなると、相当なエネルギー量が必要であるのは明白。やはり、超人だらけの殺し合いであるのは間違いないようだ。
 逆に、新たに追加されている施設も存在する。クリスタルステーションや忘却の海レーテといった施設が随所に追加されており、紙製のマップでは不可能なエリアマップの更新が可能となっているのである。島外で、海を越えた位置にぽつんと佇んでいる施設が点々としていた。
 マップの左側には、『KILL SCORE : OVER ≪2≫』、『MAX : 1』との表示がある。これは殺害人数、利用人数の定員及び利用回数のようで、結城はすぐにこれを『OVER ≪0≫』へと変更した。『UNDER ≪〜≫』にする事も可能だが、これが原因で、悪人のみを葬ってきた仮面ライダーのような人間が利用できなくなる事は忍びない話である。


259 : ルシアン・ヒルの上で ◆gry038wOvE :2014/04/08(火) 00:06:11 WwdulAGs0
 他の人間の状況がわからないので、無差別にやるしかない。仮にマーダーの良いように利用されるかもしれないにしても、対主催の結束を深めるために利用した方が使用しやすいだろう。
 上限人数も『MAX : 1』から『∞』に変更する。まるで、最初からその二通りしかないようだった。

 ここでおおよそ、時空魔法陣に関する現状で厄介な設定は解除された。ここからどうするかが議論の種である。

「……さて、どうする」

 どこへ行くか、という話はまず零が投げかけた。
 これからは、もうタッチで簡単に行きたい施設に行ける事になる。
 結城は、それを考えているようで、親指を顎に当てていた。

「……現在は警察署に繋がっているらしいな」
「そのまま警察署に行くのか?」
「確かに、仲間は街に集まるようになっている。俺たちが行く場所も自然と警察署になるはず、だが……」

 そう口にしながらも、結城は熟考しているようで、どこか言葉が消えかかったり、再び出てきたりするような形になっていた。
 零がそんな姿を不審がる。

「現状、この時空魔法陣は人を殺していなければ使われない移動手段であると認識されている。もし、警察署側にいる人間も……警戒しているんじゃないか?」
「確かに。警戒されているかもしれない……」

 結城と零は、この場所に現れた時空魔法陣を放置していたが、もしあの時空魔法陣の出現を他の参加者が察知していたら、普通は罠を張るなどの対策を練る。それがどんな罠であるか……にもよるだろう。
 たとえば、そこを見張っている人間がいるとして、二名以上の殺害を行った結城に対して攻撃をしかける可能性だって否めない。結城が来るとするのなら、時空魔法陣のある場所ではなく、通常は入口から入ってくると思うに決まっている。
 第一、市街地エリアで人が集まっているのが警察署とは限らない現状では、どこに向かっていいのかも難しい問題だ。

「個人的には、まず新しく追加された施設が気になるところだな」

 余計な森や海のエリアには、新たに追加された施設があるようだ。
 そこならば、おそらく現状では誰もいないと推測される。

「……移動もいいが、その前に他のアイコンも見てみるか。このコンピュータに関してある程度調査してからにしよう」

 時空魔法陣を利用するのも良いが、まずは他のアイコンの内容も気になった。
 結城がタッチしたのは、『ゲーム』というアイコンだった。こんな時にゲームか、と思うかもしれないが、彼らが考えていたゲームとは、テレビゲームでもボードゲームでもない。彼らにとって、その言葉が想起させるのは、主催陣から見たこの殺し合いの事であった。
 その情報を得られると思ってタッチしたのだが、やはり都合よくはいかず、内容は想定した物とは全く違った。

『AtoZのガイアメモリを探せ! 村エリアにはマキシマムスロットやドライバーと互換性のあるT2ガイアメモリが隠されているぞ! 細かく調べてみよう(※このガイアメモリは制限下ではドーパントへの変身には使用できません。ご了承ください)』

 どうやら、先ほど結城や零が見つけたガイアメモリの事らしいのである。
 これを搭載したのは、おそらく加頭やサラマンダー男爵やニードルではなく、あのテンションの高いゴハットという男に違いない、と二人は確信する。もっと他に主催者にあんな性格の人間がいる可能性も否めないが、現状把握している人間ではあるようだ。
 とにかく、スロットというのが、マキシマムスロットという物やドライバーと呼ばれる何かに関わるものであるのはわかった。

「なるほど……」

 村エリアは、人によっては充分に役に立つ場所であるようだ。ただ、そのマキシマムスロットともドライバーとも無縁の彼らは、そんなゲームに付き合う暇はない。
 ダブルドライバーという道具の存在は既に説明書によって示唆されているが、そこがやはり関連してくるだろうか。どうやら持ち主とは浅からぬ縁で結ばれているようである。


260 : ルシアン・ヒルの上で ◆gry038wOvE :2014/04/08(火) 00:06:38 WwdulAGs0

「他には?」
「施設紹介か……各施設がどんな機能を持っているのかが書いてある」

 『施設紹介』は、「志葉屋敷」や「冴島邸」がどんな施設なのかを写真付きで簡潔に示していた。数行に渡るものもあれば、一行に満たない説明もある。
 敷地の面積などは書かれていないが、画像から何となく推察する事ができる。

「風都タワーの大きさは予想を上回るな……。これを倒壊させたとなると、やはり只者ではなさそうだ」

 基本的に、破壊、倒壊状態にある施設はある程度大型のものばかりであった。
 それが破壊されているという事は、相当なエネルギーを発散する戦いが行われたという可能性が高い。
 ともかく、現状無事である中学校や警察署は魔の手に晒されていない可能性が高く、比較的行きやすい場所であるのは明白だった。
 ただし、やはりもう一つ気がかりな沿岸施設なども行ってみたいところであった。

「そうだ、新施設を利用しよう」

 結城丈二が提案する。施設紹介をざっと見たところで判断したようだ。

「街エリアの近く、G−10の海上に現れた施設……鳴海探偵事務所。ここならば、殺し合いに乗った人間が現れる事もないし、街エリア内だ」

 画像上では、『かもめビリヤード』と書かれた看板がある。
 問題は、その内蔵メカニズムの類であった。この中には、地下ガレージが存在し、そこにリボルギャリーやハードボイルダーなどといったメカニックがあるらしいのだ。
 また、本土と離れ施設は、簡易的に細い道路が開通されている模様である。

「ここに向かおう」
「……ああ。わかった」

 結城は、再度『管理システム』をタッチし、行先をG−10エリアの『鳴海探偵事務所』に設定する。
 設定反映までにかかる時間を利用し、零は結城の協力を得てソルテッカマンを装着する。
 時空魔法陣が発生しているのは翠屋の上空。パワードスーツであるソルテッカマンを利用し、零を背中に乗せてソルテッカマンを飛行させようというのだ。
 準備が整った二人は、鳴海探偵事務所への移動を急いだ。


261 : ルシアン・ヒルの上で ◆gry038wOvE :2014/04/08(火) 00:06:54 WwdulAGs0



【一日目/夜中】
【C-1/翠屋前】

【結城丈二@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:ライダーマンヘルメット、カセットアーム
[道具]:支給品一式、カセットアーム用アタッチメント六本(パワーアーム、マシンガンアーム、ロープアーム、オペレーションアーム、ドリルアーム、ネットアーム) 、首輪のパーツ(カバーや制限装置、各コードなど(パンスト太郎、三影英介、園咲冴子、結城丈二、涼邑零))、首輪の構造を描いたA4用紙数枚(一部の結城の考察が書いてあるかもしれません)、支給品外T2ガイアメモリ(ロケット、ユニコーン)
[零の道具](ソルテッカマン装着中の零が持てないために持ってあげてます):支給品一式、スーパーヒーローセット(ヒーローマニュアル、30話での暁の服装セット)@超光戦士シャンゼリオン、薄皮太夫の三味線@侍戦隊シンケンジャー、速水の首輪、調達した工具(解除には使えそうもありません)、支給品外T2ガイアメモリ(アクセル、クイーン)
[思考]
基本:この殺し合いを止め、加頭を倒す。
0:時空魔法陣を利用し、G−10鳴海探偵事務所に向かう。
1:殺し合いに乗っていない者を保護する
2:沖と合流する。ただし18時までに市街地へ戻るのは厳しいと考えている。
3:加頭についての情報を集める
4:異世界の技術を持つ技術者と時間操作の術を持つ人物に接触したい。
5:石堀たちとはまた合流したい。
6:また、特殊能力を持たない民間人がソウルメタルを持てるか確認したい。
7:時間操作の術を持つ参加者からタイムパラドックスについて話を聞きたい
8:ダブルドライバーの持ち主と接触し、地球の本棚について伝える。
[備考]
※参戦時期は12巻〜13巻の間、風見の救援に高地へ向かっている最中になります。
※この殺し合いには、バダンが絡んでいる可能性もあると見ています。
※加頭の発言から、この会場には「時間を止める能力者」をはじめとする、人知を超えた能力の持ち主が複数人いると考えています。
※NEVER、砂漠の使徒、テッカマン、外道衆は、何らかの称号・部隊名だと推測しています。
※ソウルジェムは、ライダーでいうベルトの様なものではないかと推測しています。
※首輪を解除するには、オペレーションアームだけでは不十分と判断しています。
何か他の道具か、または条件かを揃える事で、解体が可能になると考えています。
※NEVERやテッカマンの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
※首輪には確実に良世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※零から魔戒騎士についての説明を詳しく受けました。
※首輪を解除した場合、ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。 →だんだん真偽が曖昧に。
※彼にとっての現在のソウルメタルの重さは、「普通の剣よりやや重い」です。感情の一時的な高ぶりなどでは、もっと軽く扱えるかもしれません。
※村雨良の参戦時期を知りました。ただし、現在彼を仮面ライダーにすることに対して強い執着はありません(仮面ライダー以外の戦士の存在を知ったため)。
※時空魔法陣の管理権限を得ました。
※首輪は解除されました。
※変身に使うアイテムや能力に何らかの細工がされていて、主催者は自分の意思で変身者の変身を解除できるのではないかと考えています。


262 : ルシアン・ヒルの上で ◆gry038wOvE :2014/04/08(火) 00:07:40 WwdulAGs0

【涼邑零@牙狼─GARO─】
[状態]:健康、首輪解除、ソルテッカマン装着
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター
[道具]:シルヴァの残骸
[思考]
基本:加頭を倒して殺し合いを止め、元の世界に戻りシルヴァを復元する。
0:時空魔法陣を利用し、G−10鳴海探偵事務所に向かう。
1:殺し合いに乗っている者は倒し、そうじゃない者は保護する。
2:会場内にあるだろう、ホラーに関係する何かを見つけ出す。
3:結城に対する更なる信頼感。
4:また、特殊能力を持たない民間人がソウルメタルを持てるか確認したい。
5:涼村暁とはまた会ってみたい。
[備考]
※参戦時期は一期十八話、三神官より鋼牙が仇であると教えられた直後になります。
※シルヴァが没収されたことから、ホラーに関係する何かが会場内にはあり、加頭はそれを隠したいのではないかと推察しています。
実際にそうなのかどうかは、現時点では不明です。
※NEVER、仮面ライダーの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
仮面ライダーに関しては、結城からさらに詳しく説明を受けました。
※首輪には確実に異世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※首輪を解除した場合、(常人が)ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。→だんだん真偽が曖昧に。
また、結城がソウルメタルを操れた理由はもしかすれば彼自身の精神力が強いからとも考えています。
※実際は、ソウルメタルは誰でも持つことができるように制限されています。
ただし、重量自体は通常の剣より重く、魔戒騎士や強靭な精神の持主でなければ、扱い辛いものになります。
※時空魔法陣の管理権限の準対象者となりました(結城の死亡時に管理ができます)。
※首輪は解除されました。
※バラゴは鋼牙が倒したのだと考えています。


【特記事項】

【支給外T2ガイアメモリ】
村エリアには、『マキシマムドライブ発動』、または『対応するドライバーを介した仮面ライダーへの変身やフォームチェンジ』のみが可能となるT2ガイアメモリが隠されています。
よく注意して探さないと見つかりません。
翠屋の中も特に探していないようなので、今後翠屋でも見つかるかも…。

【時空魔法陣の管理システム】
管理システムは2階の高町なのはの部屋に置いてあります。

現在判明している管理コンピュータで閲覧可能な情報アイコンは以下(タッチパネルで操作、結城丈二以外は認証しない)
【管理システム】:最新版のマップが表示され、黄色い○をタッチする事で、翠屋と繋がる時空魔法陣の行先を変更する事ができます。
【ゲーム】:『AtoZのガイアメモリを探せ! 村エリアにはマキシマムスロットやドライバーと互換性のあるT2ガイアメモリが隠されているぞ! 細かく調べてみよう(※このガイアメモリは制限下ではドーパントへの変身には使用できません。ご了承ください)』という表示が出ます。
【施設紹介】:各施設の説明が書かれています。


263 : ルシアン・ヒルの上で ◆gry038wOvE :2014/04/08(火) 00:07:59 WwdulAGs0

【施設紹介】

【鳴海探偵事務所@仮面ライダーW】
G−10エリア海上に出現。
風都風花町一丁目二番地二号「かもめビリヤード場」の二階にある探偵事務所で、鳴海亜樹子が所長を務める。所員は左翔太郎とフィリップの二名。
風都ではその名が知れ渡っており、ドーパント絡みの事件で依頼が舞い込んでくる、ガイアメモリ関連事件の駆け込み寺のような存在。
一見するとただの探偵事務所のようだが、地下にはリボルギャリーなど、仮面ライダーダブルが利用するメカニックが内蔵。


【アイテム紹介】

【今回見つかったT2ガイアメモリの能力】
アクセル:加速能力を与える(またはドライバーを利用した仮面ライダーアクセルへの変身)
クイーン:鉄壁のバリアーで敵の攻撃を防ぐ
ロケット:攻撃対象にミサイルを発射
ユニコーン:打突攻撃の破壊力を高める(またはマキシマムドライブで螺旋状のオーラを宿したコークスクリューパンチを放つ)

【シトロエン2CV@超光戦士シャンゼリオン】
B-1エリア沿岸部に配置。
涼村暁の愛車で、カラーは緑。フランスのシトロエンが1948年に発表した前輪駆動式の乗用車。定員は四名の小型大衆車。
ガタが来始めているので、動きは極めて遅く、鈍い。
ぶっちゃけ今こんな物が出てきても用なし。


264 : ◆gry038wOvE :2014/04/08(火) 00:08:23 WwdulAGs0
以上で投下終了です。


265 : 名無しさん :2014/04/08(火) 09:29:50 e7aeiO2Y0
投下乙です!
まさか村には暁の車までもがあったとは……でも、今のタイミングじゃ確かに使い道がないw
T2ガイアメモリやリボルギャリーは果たしてどういう風に使われるかな?
あと、ゲームも誰かやってくれるか?


266 : 名無しさん :2014/04/08(火) 11:37:19 ZvMQZj6c0
投下乙です
確かにライダーのバイクに比べたら暁の愛車は必要無いなw


267 : 名無しさん :2014/04/08(火) 12:49:04 OtnWBlvgO
>>266
一応搭乗人数の点ではバイクより利点がある


268 : 名無しさん :2014/04/08(火) 20:03:13 bufzPqo.0
投下乙です

車は車でネタになると思うけどライダーのバイクに比べたらなあw
しかしここにきてT2ガイアメモリとかどうするんだろう


269 : 名無しさん :2014/04/09(水) 12:01:11 G7vsOzRM0
どうするもこうするも、普通に書いてある通りの用途に使えるかも…としか

そんな事より、ライディングボードで飛行してる回あったけど、あれは本人の魔力で飛んでるんじゃ


270 : 名無しさん :2014/04/09(水) 12:51:36 RgssMfAg0
量産化を視野に入れられてたこととティアナに貸そうとしてたってNanohawikiの記述を信じるなら、一応本人以外でも使えるんじゃないか?


271 : 名無しさん :2014/04/09(水) 13:00:05 G7vsOzRM0
Wikipedia

>固有武装は多種の機能を持つ巨大な盾「ライディ ングボード」で、ISはそれを飛行させる「エリア ルレイヴ」。

飛行能力はライディングボードにはない


272 : ◆LuuKRM2PEg :2014/04/09(水) 17:10:21 8617g/ow0
それでは、自作でつぼみ達がライディングボードを使用した部分は、使わない展開に修正した方がよろしいでしょうか?


273 : ◆7pf62HiyTE :2014/04/09(水) 23:34:12 GUZbEiXc0
ライディングボード登場させた僕の見解についてですが、

>>270の通り、Nanohawikiにティアナに貸す的な旨が書かれていて、これはクロニクルからの出典なので、本人以外でも使用自体は可能と僕は判断しています。
つまり、元々の持ち主ほどではないにせよ飛行など十分出来るという解釈です。

その為、拙作『no more words』でも、

 彼女は自身の先天固有技能ISを駆使する事でライディングボードを時には砲撃に、時には盾に、時には移動用に使用していた。
 なお、量産を視野に入れたという説もあり、ウェンディ以外にも使用する事は可能である。

という風に書いた筈なのでこれで問題無いと考えています。


後、>>271でwikipediaの記述を出していますが、wikipediaの内容をそのまま鵜呑みにするわけにはいかないのでもう少し公式に近い出典が欲しい所です。

その為、僕個人は使用可能で問題無いとは思います。

が、それでも問題があるのであれば念の為、上の文章を少々修正して。


 彼女は自身の先天固有技能ISを駆使する事でライディングボードを時には砲撃に、時には盾に、時には移動用に使用していた。
 なお、量産を視野に入れたという説もあり、ウェンディ自身もディアナ・ランスターに貸そうとした事があった。
 実際に魔力や戦闘機人の力が無ければ使えるかは不明瞭ではあるが、主催陣の計らいかはたまた、元々使えるのかこの地で支給されたそれは使用するだけならば誰でも使用となっている。
 
 この様に『no more words』で修正しておけば、後の話を修正する必要は無いと思いますが、どうでしょうか?


274 : ◆LuuKRM2PEg :2014/04/10(木) 08:51:42 /LwU8w7A0
それで問題はないと思います。


275 : ◆gry038wOvE :2014/04/10(木) 10:37:05 tMYDteYI0
調べてみました。

Gakken刊『魔法少女リリカルなのはStrikerS OFFICIAL FAN BOOK』には次の表記があります。

>ライディングボード(p.35)
盾・乗機・砲という3つの性質を持つ固有武装。機体の開発にはガジェットドローンと同系の技術が流用された。

>No.11 ウェンディ(p.134)
飛行はボードに乗ることで可能

>ウェンディのライディングボード(p.136)
武器としても防具としても使えるウェンディのライディングボードは、それ自体に浮遊する力があり、手を放しても浮くようだ。
ただし、射撃をする場合は、左手で本体を支えてやることで、焦点がブレることを少なくしている。

本体自体に浮遊する力があります。(左手だけですべての重さを支えているわけではなく重力無視っぽく…)


・本体の『浮遊』は可能である。
・ガジェットドローンの技術が流用されている→それで『飛行』できない事はないかと。

修正しなくていいんじゃないでしょーか。


276 : ◆7pf62HiyTE :2014/04/10(木) 10:56:43 lVtJqzQc0
◆gry038wOvE氏、情報提供ありがとうございました。
一応、僕の最終判断は夜(>>273の書き込みの大体24時間後)まで待つ方向ですが、今の流れだと、
>>273の方向で修正する』or『>>275の通りなら修正する必要なので修正無し』のどちらかで固まると思いますが、

どちらの場合でも ◆LuuKRM2PEgのSSで修正する必要は無くなると思うのですが、
◆LuuKRM2PEg氏はこのまま修正したままにしますか、それとも修正を取り下げますかどうします?


277 : ◆LuuKRM2PEg :2014/04/10(木) 12:15:10 /LwU8w7A0
では、自分の修正案は取り下げようと思います。
手間をかけさせてしまい、大変失礼しました。


278 : ◆7pf62HiyTE :2014/04/11(金) 00:37:42 D2iOee060
>>275での◆gry038wOvE氏の提供情報通りなら、拙作での描写にも問題はなさそうですね。他に問題あるという意見もなさそうなのでこの方向で進めます。
ただ、一応『no more words』にて>>275で書かれている通りの説明を若干追記した上で修正を行い、支給品紹介でも詳しい説明を入れておきます。
修正の方が出来ましたらまた報告致します。

最後に情報提供頂いた◆gry038wOvE氏、修正の手間をかけてしまった◆LuuKRM2PEg氏両名に拙作の不備で御迷惑をかけた事をお詫び致します。


279 : ◆LuuKRM2PEg :2014/04/11(金) 08:13:28 fZInL4Qg0
短くて恐縮ですが、SSの投下を始めます。


280 : 挑戦 ◆LuuKRM2PEg :2014/04/11(金) 08:15:46 fZInL4Qg0
 太陽が沈んだことによって、世界から光が消えて闇は深くなっていく。
 代わりに、数多の星と空に浮かぶ月が輝いているが、太陽に比べると頼りない。発達した文明と科学によって生み出された光も存在するが、世界全てを照らすには余りにも足りなかった。
 人間は闇を恐れる。闇は全てを飲み込んで、そして静寂の世界にしてしまうのだから。安らぎを与える優しい闇も存在するが、時には未来と希望を奪う凶暴な闇も存在する。
 例えるなら、古代より弱きリントを蹂躙し続けたグロンギという種族が、その代表例だ。グロンギは己の快楽の為、そしてゲゲルのスコアを稼ぐ為に数えきれない命を奪ってきた。グロンギが生きる世界でも、このバトルロワイアルでも変わらない。
 殺し合いに呼び出されたグロンギの一人であるゴ・ガドル・バは、今も木々の間を駆け抜けている。ただ、強き者と戦いたいという己の欲望を満たす為に次の獲物を探していた。
 既にクウガもダグバもいない。だが、この島には奴らと同等に面白いリントが数えきれないほどいる。カメンライダーとプリキュアがその例だ。

(どこだ……どこにいる。リント達よ、出てこい……出て来ないなら、俺の方からお前達を狩るぞ)

 ビートチェイサー2000に跨りながら、ガドルは先程の戦いを思い返す。
 弱くなった仮面ライダーエターナルを強くさせる為に、仲間を殺した。すると、期待に答えるようにエターナルは再び究極の闇となった。
 どうやら、リントは同胞を殺されると怒り狂って更なる力を発揮するらしい。そういえば、聞いた話によるとあのゴ・ジャラジ・ダもゲゲルの最中にクウガの怒りを買ったようだ。
 その場には居合わせていないが、ジャラジと戦っていたクウガも憎しみに任せて戦っていたのかもしれない。

(この俺が戦士でもない弱きリントを餌にするか……だが、それもまた一興か)

 何故、たかが同胞の一人や二人が死んだくらいで怒るのかは理解できないが、それはそれで面白い。リントが守ろうとする存在を狩ることで、リントが更に強くなるのならばいくらでも狩ろう。
 冷酷な思想を現すかのように、ビートチェイサー2000が走る道に存在する植物は踏み躙られていくが、ガドルはそれに目を向けずにただ前だけを見つめていた。

――残り30秒で爆発します。

 その最中。
 どこからともなく、グロンギのように無機質な男の声が聞こえてくる。
 それを聞いたガドルは、反射的にブレーキをかけて急停車をした。
 ガドルは周囲を見渡すが、他者の気配はない。ならば、音源は一体どこなのか?

――ここは禁止エリアです。速やかに脱出をしてください。

 疑問が解決されないまま、男の声が聞こえてくる。それは、オープニングで姿を見せたあの加頭順の声だった。

(禁止エリア……だと!?)

 ガドルは加頭の声によって、意識を急激に覚醒させる。
 禁止エリア。それは、定期的に放送が行われる度に設置される場所のことだ。加頭が言うには、そこに留まってしまうと参加者の首輪は爆発してしまい、誰であろうとも例外なく殺されてしまう。名も知らぬ三人の男がそれを証明していた。
 小規模な爆発で『ゴ』のグロンギが死ぬとは思えないが、加頭の言葉が嘘とも思えない。一刻も早く脱出をしなければならなかった。
 ガドルはハンドルを握り締めて、急激に方向転換をさせながらビートチェイサー2000を全速力で走らせる。
 迂闊だった。リントを捜すことに拘りすぎて、それ以前に大事なことを忘れてしまっていたとは。考えてみれば、この島に来てから地図をまともに確認したことは少ない。
 己の判断に呪いたくなるが、それは後回しだ。今は生存が最優先だ。

――残り20秒です。速やかに脱出をしてください。

 死へのカウントダウンは止まることがないが、それでもガドルはバイクを走らせている。
 ガドルは知らないが、ここは【G−6】エリア。最初の放送で7時から禁止エリアに指定された場所だった。


281 : 挑戦 ◆LuuKRM2PEg :2014/04/11(金) 08:18:04 fZInL4Qg0

(こんな所で……負けてたまるか!)

 首が吹き飛んだせいで死ぬ。低級のグロンギならまだしも、破壊のカリスマを自負するガドルがそんな間抜けな最期を迎えるなどあってはならなかった。
 ただ、ひたすらに前を進んでいる。まだ見ぬ敵と戦う為。そして、己の勝利を掴む為。

――残り15秒で……

 そんな中でも続いて来る加頭のカウントは、唐突に聞こえなくなる。ガドルがそれに気付いたのはすぐだった。
 不審に思いながらも疾走を続けるが、やはり聞こえて来ない。どれだけ待っても、首輪が爆発することはなかった。
 つまり、禁止エリアから抜け出すことに成功したのだ。
 
(俺は、勝ったのか)

 命の危機から脱したことを認識して、ガドルは再びビートチェイサー2000を止める。そして、息を吐いた。
 ここまで、命を賭けたのはクウガとの戦い以来かもしれない。こんなことで生死を分ける羽目になるとは予想外だったが、これもゲゲルの一種と考えればいいだろう。
 気を取り直して、また他の戦士を捜せばいい。
 ガドルがそんなことを考えた時だった……

『命拾いをしたようだな、ガドル』 

 今度は女の声が聞こえてくる。それもまた、ガドルにとって聞き覚えがあった。
 振り向くと、女の姿が見える。ゲゲルの進行と監視を行う役割を持つ『ラ』に所属するグロンギ……ラ・バルバ・デだった。
 しかし、目の前のバルバからは気配が感じられない。これはただの映像だと、ガドルは瞬時に察した。

「お前は……バルバだな」
『そうだ。お前に、新たなる王の誕生を伝える為に現れた』
「新たなる王?」
『お前と、ダグバがゲゲルを果たしたことにより、王は現れる。王と戦う資格を得たのだ』

 バルバが淡々と告げた後、指を軽く鳴らす。
 すると、彼女の手元にゲゲルリングが突如として現れた。これは、ゲゲルを行う際にゲドルードのバックルに嵌める物だ。
 つまり、ここから本格的なゲゲルが始まると言うことだろう。それを察したガドルは怪人体へと姿を変えた。

『ゴ・ガドル・バ……これよりお前は、ン・ガドル・ゼバに昇格する。ゲゲルはもう始まったのだ』

 その言葉と共に、ガドルのバックルにはゲゲルリングが装着される。それを終えるとバルバの姿は消えてしまい、後にはガドルだけが残された。
 バルバが現れた理由は、この殺し合いにはグロンギも関与していることになる。この島に転送されてから『ラ』の集団はずっと自分達を監視して、そしてこうして現れたのだろう。
 あのゴハットは制限を解放すると言っていた。ならば、自分の場合は今の昇格がそれに該当するのだろう。

(新たなる王か……面白い)

 今の自分はもう、ゴ・ガドル・バではない……ン・ガドル・ゼバという殺し合いの覇者となる王だ。
 新たなる王がどこにいるのかはわからないが、それならこちらから出向いて殺せばいいだけ。
 グロンギ遺跡か。それとも全く別の場所か。だが、どこであろうとも島のどこかにいるはずだから、いずれ出会えるはず。新たなる王も比類なき力を持つだろうから、リント達に屠られることもないだろう。
 ゲゲルの前に死んでしまったら、それまでの器だったと言うこと……そう思いながら、ガドルは再び森の中を進み始めた。


282 : 挑戦 ◆LuuKRM2PEg :2014/04/11(金) 08:18:55 fZInL4Qg0

【1日目/夜中】
【G―7/森】


【ン・ガドル・ゼバ(ゴ・ガドル・バ)@仮面ライダークウガ】
[状態]:疲労(小)、全身にダメージ(小)(回復中) 、肩・胸・顔面に神経断裂弾を受けたダメージ(回復中)、胸部に刺傷(回復中)、腹部・胸部にかなり強いダメージ、ダグバの死への空虚感、電撃による超強化、怪人体に変身中、ビートチェイサー2000に搭乗中
[装備]:ビートチェイサー2000@仮面ライダークウガ、スモークグレネード@現実×2、トライアクセラー@仮面ライダークウガ、京水のムチ@仮面ライダーW、ゲゲルリング@仮面ライダークウガ
[道具]:支給品一式×8(スバル、ティアナ、井坂(食料残2/3)、アクマロ、流ノ介、なのは、本郷、まどか)、東せつなのタロットカード(「正義」、「塔」、「太陽」を除く)@フレッシュプリキュア!、ルビスの魔剣@牙狼、鷹麟の矢@牙狼
[思考]
基本:殺し合いに優勝し真の頂点に立つ。
0:ダグバのように、周囲の人間を殺して誰かを怒らせるのも良い。そして、新たなる王とも戦う。
1:参加者を探す。
2:石堀、エターナルと再会したら殺す。
3:強者との戦いで自分の力を高める。その中で、ゲームとしてタロットカードの絵に見立てた殺人を行う。
4:体調を整え更なる力を手に入れたなら今まで取るに足らんとしてきた者とも戦う。
※死亡後からの参戦です。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※ナスカ・ドーパント、ダークメフィストツヴァイを見て、力を受け継ぐ、という現象を理解しました。
※フォトンランサーファランクスシフト、ウェザーのマキシマムドライブによって大量の電撃を受けた事で身体が強化され、アメイジングマイティに匹敵する「驚天体」に進化できます。また、電撃体の使用時間も無限になっており、電撃体とその他のフォームを掛け持つ事ができます(驚天体では不可能です)。
※仮面ライダーエターナルが天候操作や炎を使ったため、彼に「究極」の力を感じています。また、エターナルには赤、青の他にも緑、紫、金などの力があると考えています。


【備考】
※禁止エリアに突入してから、首輪が爆発するまで30秒のタイムリミットがあります。


283 : ◆LuuKRM2PEg :2014/04/11(金) 08:20:46 fZInL4Qg0
以上で投下終了です。
もしも首輪爆発の部分などで問題がありましたら、後で修正をさせて頂こうと思います。


284 : ◆7pf62HiyTE :2014/04/11(金) 08:51:37 .Ux07xSc0
投下乙です、
まさかガドルがクウガ以上の戦いと評するとは、禁止エリア恐ろしい奴だ……
それはともかくンに昇格したか、強化されているというわけでもないのが救いだが。


それから、修正スレの方にライディングボード関係で『no more words』の修正版を投下したのを報告いたします。


285 : 名無しさん :2014/04/11(金) 22:21:09 Y4wJk6JY0
投下乙です
何となく微笑ましいガドルvs禁止エリアw
そしてガミオとの遭遇対決は果たされるのだろうか


286 : ◆gry038wOvE :2014/04/13(日) 16:28:37 b4iOO57I0
投下します。


287 : 「Wish」 ◆gry038wOvE :2014/04/13(日) 16:30:31 b4iOO57I0
『わたしのおかあさん』

 わたしのおかあさんはプレシア・テスタロッサといいます。
 おかあさんは技術かいはつの会社につとめる技術者です。おかあさんはかいはつチームのリーダーで、なかよしのかいはつチームのみんなといっしょに、世界でくらすみんなのためになる技術をまいにち研究しています。
 おかあさんはいつもいそがしいけど、だけどすごくやさしいです。
 毎日つくってくれるごはんはいつもおいしいし、夜はいっしょのベッドで寝ます。
 ことしの誕生日は2人でピクニックに出かけました。
 いつもいそがしいおかあさんだけど、こういうときは一日中いっしょにいられるのでうれしいです。たのしくてうれしくて「ママ大好き」って言うと、、おかあさんはいつもちょっと寺ますが、だけどいつもあとで『ぎゅっ』ってしてくれます。
 そんな照れ屋でやさしいおかあさんのことが、わたしはほんとうにだいすきです。

 ──アリシア・テスタロッサの作文(Magical Girls Lyrigal NANOHA MOVIE 1st THECOMICS)より







 レイジングハート・エクセリオンにとって、その夜はいかに深い夜だろう。
 この殺し合いになのはとともに巻き込まれて、まだ一日も経っていないが、ただ待っている時もレイジングハート自身の疲労は加速していくばかりであった。こんな途方もない疲労感を抱えながら何時間も待ち続ける事に、いまや何の抵抗も示さないようになってきている。──そう、これで二回目だ。
 なのはを喪った戦いの後、駆音に拾われるまで。
 そして、駆音が黄金騎士に斬られた今。
 駆音の遺体は、薄暗い煙と化して消え去って行き、衣服と首輪だけが残った。──もはや、レイジングハートたりとも駆音の顔を忘れかけ始めているほど。
 残存した彼の首輪を通じて聞こえたのは、やはり悲しい結果と言わざるを得ない報告である。
 バラゴの名前は勿論の事、アインハルト・ストラトス、一文字隼人、梅盛源太などといったホテルの知り合いの各人の名前も呼ばれている。その他の命も、割り切っていいものではないだろうが、参加者ではないレイジングハートにとって、真っ先に着目された名前は主にその数名だった。
 冴島鋼牙、涼邑零、ノーザ、筋殻アクマロの名前はこの放送では呼ばれる事はなかった。敵対する人間の名前そのものが全く呼ばれないのだった(尤も、それは当たり前の事だが)。 善良な人間ばかりが死に、あくどい人間ばかりが現状で生き残っているというのだ。世の中というものがいかに残酷なのか、はっきりとわかる。

 放送の男の口調は、レイジングハートにとっても、全く気に食わないという他ない。あまりにもネジの外れた日本語に、嫌悪感は増大した。生命倫理というものを一切持たない不愉快な人造生命だと、レイジングハートは解釈する。
 ここまでで初めて耳にした放送だったが、あの言葉が人の口から出てくる言葉だとは信じられなかった。善でも、悪でもなく、ただ無邪気に命を弄んでいるかのような、そんな恐ろしささえ感じるようであった。

 そして、たとえ声が消えてなくなっても、首輪から漏れる放送の音を耳にしてレイジングハートを救い出す者はいなかった。







 主催陣がいる一室──吉良沢優は、ガイアメモリを見つめていた折、来客が現れるのを察知した。敵意のある人間が突然押し寄せてきたわけではないのは、吉良沢にもよくわかった。椅子を回転させて、来客に挨拶する。
 来客の顔を見て、吉良沢も少し驚いたように目を見開く。

「君は……アリシア・テスタロッサか。眠らなくて大丈夫かい」

 金髪の幼女、アリシア・テスタロッサ。同年代の名子役がいくら作ろうとしても無理が生じるであろう、感情のない瞳で、吉良沢を見つめる。
 彼女は別に表情がないわけではない。笑ったような顔を見せる事も、困ったような顔を見せる事もできるが、どれも希薄化する感情の中で振り絞られた、歪みある表情であった。


288 : 「Wish」 ◆gry038wOvE :2014/04/13(日) 16:34:11 b4iOO57I0
 あるいは、この状況下で平然と喜怒哀楽を顔に出せるのも、彼女の感情がNEVERの支配によって壊れかけている証であるともいえるだろう。大道克己、泉京水、堂本剛三、加頭順、そしてアリシア・テスタロッサ──ここまで五人のNEVERの姿を見ているが、確実に共通しているのは、「生命」という観念の有無だ。
 少なくとも、身内の死に一憂する事はあるだろうが、通りすがりの誰かが死んでも不快感さえ表さない。常人ならば、人の死に対して何かしらの不快感を得るはずだが、彼らはそれが無いのだ。そして、おそらく自身の死さえも、何とも思わないのだろう。
 アリシアもまた、本来なら誰かの死に対して感じるはずの「不快感」もなく、死に対して妙に達観し、諦観したような少女となっていた。

「眠れと言われても、最低九時半までは無理なんだ……」

 アリシアの徹頭徹尾、冷えた口調。──吉良沢も、こうしてアリシアと対面して話すのは殆ど初めての話だが、天使のような外見とのギャップは凄まじい。まだ呂律が回らないような年頃ながら、その言葉遣いも妙に鋭い。
 幸いなのは、敬語を使わない事だろうか。敬語を使い始めると、それこそかえって落ち着きすぎて恐ろしいほどである。プレシア・テスタロッサが忌み嫌ったフェイトの面影はどこにもない。彼女の生真面目さよりかは、アリシアの無邪気さそのままに、性格に支障をきたし始めているのがわかっていた。だからこそ、プレシアはこんな風に狂いを見せているアリシアを突き放す事もしない。母に対してはまだ少なからず甘えているようで、そこは大道克己に似通っているような気がした。
 吉良沢は、気にしない風に口を開いた。

「そうか……。それで、何の用?」
「……別に、何でもない。ただの暇つぶし」

 用がない……。それで吉良沢のところに来る理由もまた、何となくわかった。

 吉良沢にしろ、アリシアにしろ、異界の道具を使わなければ「変身」ができない同士、孤独なのだ。ダークザイドにも、外道衆にも、砂漠の使徒にも、グロンギ族にも、魔法少女にも、BADANにも、財団Xにも属さず、まあ言ってみれば完全な普通の人間。既に亡くなった八宝斎もそうだが、「ガイアメモリ」を支給されなければ変身もできない。
 魔法の素養があり、死者にまでなったアリシア。
 来訪者の声を聞いて、未来を予知する事も可能だったプロメテの子・吉良沢。
 常人に比べれば勿論、特殊な出生ではあるが、その中にもまだ変身能力は絡んでいない。充分まっさらな人間である二人だ。なんとも、自分が場違いな感じがしてならない。


289 : 「Wish」 ◆gry038wOvE :2014/04/13(日) 16:38:25 b4iOO57I0

 尤も、変身などしたくもないだろうが……。
 いくら吉良沢でも、ガイアメモリという未知の道具の利用など、恐ろしくて仕方がない。これまでも散々その危険性を目の当たりにしてきた。ガイアメモリの危険性を知ったうえで、護身用とはいえ渡されたメモリを使用するのには躊躇がいるというものである。一応、安全利用するためのガイアドライバーは受け取っているが、それがあるからといって安心もできない。
 ともかく、吉良沢は顔色を変えずにアリシアに訊いた。

「……丁度僕も退屈なんだ。気の合いそうな人はここには全くいない」
「そう」
「……君は、フェイト・テスタロッサと同じ世界の人間だね。言ってみれば彼女のオリジナルだ」

 複製に対する複製元──月影ゆりとダークプリキュアの奇妙な顛末を見ても、それを姉妹と呼ぶのに、吉良沢だけは、抵抗を持っていた。来訪者の伝えによってダークザギの出生を知っている彼は、ダークザギをウルトラマンノアの弟とは思わない。
 彼らはお互いの宿命上、殺し合わなければならない光と影である。
 まあ、フェイトやダークプリキュアの場合は、プレシアやサバーク博士のような、オリジナルと共通の親を持っているがゆえに、もう少しわかりやすい関係だが。

「……お姉ちゃん、とも呼ぶかもしれない。そう、お姉ちゃんなんだよね、わたし」

 アリシアは、そう言った。彼女は少なからずそう想っているのだろうかと吉良沢は思った。しかし、言葉のわりに他人行儀で、殆ど悲しみ、苦しみの感じられない声だった。フェイトに対して、「姉」として接する機会を一秒も持たなかったとはいえ、その死に対して一切の感情を見せる様子もない。
 ただ、何かを確認するような言葉だった。
 姉の責任を確認するのか、妹への愛を確認するのか。いや、彼女の場合はどちらでもなかった。
 彼女が確認したかったのは、そう──

「私はこれからあのデバイスのところへ行くの。彼女は私の顔を見てどう思うのかな」

 ──自分の顔が、フェイトと酷似しているという事実、だけだ。
 初対面になるが、もしレイジングハートがアリシアの顔を見たらどんな反応を示すか、そこに興味がわいたのだろう。
 吉良沢は、やはりと思いながら、感情を除いて彼女と言葉を交わした。

「……あのインテリジェントデバイスも特殊条件に合致したんだっけ。だから九時半まで眠れないのか」

 レイジングハートはどういう理屈か、特殊条件に合致した。別になのはにもバラゴにもナイトレイダーの隊員が絡む事は殆どなかったので、レイジングハートの情報はあまり目を通していないが、制限解除に関する概説は見ている。
 何でも、レイジングハートは呪泉郷の水を浴びたらしいのだ。
 通常は呪泉郷に入る相手といえば人間だが、この場には意思を持つアイテムもあるし、実質的に生物に近い存在や、生物であった物も存在するので、もしそれらが条件を満たした場合については、これまで空間で制限をかけるようにしていた。しかし、人数の減少に伴い、あらゆる制限機能を解除する事が決定した。
 明日より、その制限の解除が行われるらしい。二日目以降は、更に敵が増えるという事だ。

「……そうか。でも、いくら元が人間ではないといっても、あの姿で冴島鋼牙を倒すのは無理だろうね」

 吉良沢は冷静に状況分析して呟く。
 殺し合いゲームは加速している。ほぼ全員が変身能力者である現状、普通の若い娘の姿になったレイジングハートが殺し合う事ができるだろうか。彼女の現状の目的は、殺し合いではなく鋼牙や零への(吉良沢から見れば濡れ衣そのものな)復讐だが、それさえ難しい。
 彼らにはそう簡単に倒す隙が無いに違いないだろう。

「ううん。……そうとも言えないと思う」

 しかし、返ってきたのはアリシアによる否定。
 自信に溢れているわけではないが、口調は少しばかり強かった。

「彼女にも支給品を一つだけあげるの」

 アリシアの左手には、一本のT2ガイアメモリが握られている。
 それはアリシアに支給されているメモリではない。──彼女に支給されているのは吉良沢と同じくミュージアム製のガイアメモリだったはずだ。
 今、彼女が手にしているのはT2ガイアメモリの中でも、マップ内には存在していない稀有なメモリ。


290 : 「Wish」 ◆gry038wOvE :2014/04/13(日) 16:38:48 b4iOO57I0

 それは──

『DUMMY』

 敵の記憶を読み取り、死者に擬態する事もできる特殊なメモリ。かつて、死人還りと呼ばれる事件を引き起こしたデス・ドーパント──否、ダミー・ドーパントに変身する能力を持っている。
 使いようによっては最強のガイアメモリである。
 イエスタデイメモリとダミーメモリの二本は、能力そのものの強力さがバランス崩壊を引き起こすため、支給品・村エリアともに完全に支給外のメモリだったのである。

「……なるほど。最強のガイアメモリか」

 ダミーには、相手の記憶を読み取る能力があるが、その能力を使って鋼牙や零の潔白を証明する事は──果たして、できるのだろうか。
 吉良沢は、ダミーの能力がどの程度、主催に都合よくいじくられているのかを勘ぐりつつも、アリシアの瞳を見つめた。その瞳は、感情こそ失われているように見えるが、そうした卑怯な知略を得るには、まだ幼かった。NEVERであっても、この幼さではそんなずる賢さも生まれない。このメモリを用意したのは別の人間だ。
 吉良沢は、財団Xの白い服のNEVERの顔を思い出した。







 ──そして、時間は、何という事もなく九時半を回った。

 レイジングハートは、誰にも見つかる事なく、実質、放置されたまま「単独行動」を貫いた。実際のところ、誰かに拾われた場合に自動的に人の姿になられると彼女も困惑するだろうが、レイジングハートが何者かに拾われる可能性など皆無に等しい。
 現状では、彼女も抜け殻のような黒衣の中に隠された石ころだ。誰かが来るような場所でもなかったし、この森林の夜に黒衣の下の輝きに気づく者もいない。

 誰かが、地面に放られているその黒衣を捲った。ピンポイントでその場所にレイジングハートが居る事を感知している誰かが。

『……?』

 突如、自分を覆う黒い幕が消えた時、レイジングハートは一体どう思ったのだろう。
 救いとは思わなかったかもしれない。何も期待はしていなかった、何も希望を持たなかった。しかし、ただその暗闇を捲り上げたのが誰なのか、レイジングハートは気にかけた。
 そして、いざその顔を認識した時に、レイジングハートはひとたび驚いたに違いない。

『Fate……!?』

 フェイト・T・ハラオウンと瓜二つの顔が、そこにはあった。
 フェイトより数歳幼い……という事さえ、今のレイジングハートが認識するのは少し遅れたようだった。ただし、それに気づいて、尚更正体がつかめなくなったようである。
 見たところ、実体ではなく、それは幻。魔力もそこからは感じない。──一瞬、夢でも見ているのかと思ったほどだ。

「あーあ、やっぱり、そういう反応か……でも違うんだよ。わたしはアリシア・テスタロッサ。……あ、わたしが死んでるはずだとか、そういうのは、今はいいから、それはまた後で考えてね」
『……』

 アリシアも眠気が襲い始めているので少し早口だった。死んだのは五歳。流石にこの時間も普段は寝ている。レイジングハートは、アリシアの名前を聞いた瞬間は驚いたが、何かを口にする前にアリシアに言葉を遮られ、何も言えなくなってしまった。
 レイジングハートも、実際に会った事はなくともその名前だけは知っている。フェイトは彼女を模して造られた。ジュエルシード事件の時も鍵を握る存在である。彼女が今ここにいるのは驚きであるが、これまでの流れを見ていると、考えてみれば、この場ではそうそう珍しい事ではないのだろうと自分を納得させた。

「ねえ、レイジングハート、あなたはバラゴ……えっと、龍崎駆音の手で、水を浴びたでしょ?」
『……Yes』


291 : 名前欄が消える病 :2014/04/13(日) 16:39:45 b4iOO57I0

 覚えていないにしろ、バラゴの手で謎の水に体を漬けさせられた事がある。

「あの水は、浴びた者を特殊な体質にする水なの。中でもあなたが被った水は、入った者を若い娘の姿に変身させる娘溺泉。……そのうち、あなたは水を被ると娘になり、お湯を被ると今の姿に戻る……。そんな変身体質を得る事になる」
『My body becomes human……?』
「そう、その時が来たら、支給品が一つあなたの手に渡る。……良ければ、それを使って? ほら、こんな風に……」

 レイジングハートが見れば、アリシアの体には金色のベルトが巻かれていた。本郷猛のように、腰部に変身ベルトを巻き付けていたのである。
 それも全てホログラムかもしれないが、どこかでアリシアの実態が変身を行おうとしているのは確かだった。アリシアは左手で金色のガイアメモリのボタンを押した。

──CLAYDOLL──

 クレイドール。ゴールドクラスのガイアメモリに宿された土細工の記憶が電子音を鳴らす。
 アリシアはそのメモリをガイアドライバーに挿入し、その姿を光らせる。──その姿が異形へと変身するのに、数秒も待たなかった。
 ハロウィンに仮装した人間がこんな姿になるだろうか。
 白と茶色。土の色をした不気味な案山子人形のような怪物。そこには人の面影はあっても、アリシアの面影は見当たらない。

「あなたに支給されるT2ガイアメモリには、このガイアドライバーは必要ない。体のどこに挿してもあなたは変身できる。……やりたい事があるなら、あなたは自分自身の力でそれを行える。わたしからの説明はこれだけ。あとはまあ、好きになりなよ」

 アリシアの、──いやクレイドール・ドーパントの姿はその言葉とともに消えていく。
 ホログラムが消え、レイジングハートは再び一人になった。

『Phantom……? ……No』

 少しだけ、それが完全に自分の心が生み出した「幻」である可能性を考えながら、やはりレイジングハートはその可能性を否定した。現状でそこまでシステムに異常をきたす事はないだろうと思う。自己管理できるシステムは生きているだろう。
 そうなると、アリシアが現れた事もそうだが、何より自分が人になるという事が引っかかった。
 自分の姿が、なのはたちと同じ「人間」になるという、考えもしなかった事実。美しく、強く、優しく、儚いあの人間の姿になるという事──それを、レイジングハートはどう捉えただろう。
 吉か、凶か。どちらと呼ぶべき話なのだろう。

『……Master , Fate , Euno , Karune……』

 己が知る人間たち。その姿に自分の身を移し替える事が、レイジングハートは怖かった。
 確かに彼女たちは素晴らしい人間であったが、その姿を自分が維持し、歩き、人間のようにふるまう事が出来るのだろうか。四肢を持ち、微かな視点しか持たない彼女たちの体で自分は動けるだろうか。
 妙な不安感を持っている。
 そして、同時に、自分が醜く穢れていく事も、弱く脆い人間にならないだろうかという恐ろしさ。──他人に容易に危害を加える事もできるあの暴力的な手足が、感情に任せて悪に動いてしまわないかと言う恐怖。
 あらゆる想いがレイジングハートの胸を騒がせる。
 期待、というものは持っていなかったが、ただひとつ──冴島鋼牙や涼邑零、ノーザやアクマロと戦いに行ける事は、唯一果たさなければならぬ悲願であった。






292 : 「Wish」 ◆gry038wOvE :2014/04/13(日) 16:40:39 b4iOO57I0



 ──アリシア・テスタロッサが、主催者たちの元へ帰っていく。用を終えるのはすぐだった。たかだか三分足らずの用事のためにこんな時間まで起こされていたと思うと腹立たしいと思うかもしれないが、もともとプレシアが伝えに行く予定だったものをアリシア自身が退屈しのぎに行う事にしたのである。だから彼女は文句を言わない。

 この時間、彼女は眠りにつく予定だった。アリシアはこの殺し合いの運営には殆ど無関係に、プレシアにくっついているだけである。かつての事故をトラウマにしているプレシアは、生き返った娘を傍に置いている。しかし、それでは退屈だと、アリシアは、殺し合いの様相を目に焼き付け、ちょっとした手伝いをしていた。そこには純粋な興味関心みたいなものもあったのだろうか。

「おかえり、アリシア」

 プレシアはその部屋で、財団Xのメンバーから送られてくる殺し合いのデータに目を通しながら、アリシアの方に目を向け、声をかけた。66人分のデータは全て財団Xの加頭の部下が管理し、通信で必要情報(交戦、死亡、負傷、スタンスの変化、特殊な動向など)が送られてくるのだ。流石にしばらくは目を通すつもりでいる。そんなプレシアに対し、アリシアは、小さな声で「ただいま、ママ」と言って、プレシアに少しだけ目をやって、そのままベッドの方へ向かっていった。彼女は別に疲労している様子はない。
 アリシアの背中を目で追いながら、プレシアは動きを止め、押し黙った。プレシアの顔から、張り付いたような笑みが消える。
 ……やはり、アリシアは、プレシアの方に駆けつけて抱き寄る事もなかった。プレシアも、何故か彼女を、心から温かく迎え入れる事ができなかった。
 顔は笑っているし、アリシアがここにいる事は嬉しく思う。
 それでも──

(何か、違う……)

 プレシアはそう思った。
 これまで、プレシアはアリシア・テスタロッサの蘇生を考えて二十六年も生きてきた。そのためにこの殺し合いで主催運営の一端を担う事になった。風都工科大学のNEVERの技術を利用し、アリシアが蘇る事になったのである。そのリスクなどは、定期的な酵素注入以外は教えられなかった。それもまあ、アリシアが蘇るならばと、代償の一つとして飲み込んだ。
 それでいい。それでも、アリシアが生きていればそれでいいはずだった。
 これまで、アリシアを求め続けて研究してきた努力を神は見ていたのだ。それが人体蘇生を可能とする異世界の誘いをよこした。アリシアは再びこの世界の空気を吸えるのだ。誰も苦しませない、まっさらな酸素を。きっと、死に際にアリシアが求め続けたであろう、穢れの無い綺麗な空気を。

 ……しかし、そうして蘇ったアリシアは、かつてのアリシアとどこか、いや、全く違った。以前は明るく、無邪気で優しい子供だったはずなのに、今はむしろ正反対だ。ただ姿だけがアリシアのまま、感情の無い悪魔のような姿になっている。
 そう、喩えるなら、フェイト・テスタロッサとアリシア・テスタロッサの中間のような──嫌いになりきれないが、好きだと断言する事もできない、そんなアリシア。その姿に、プレシアも疑問を持ち始めていた。


293 : 「Wish」 ◆gry038wOvE :2014/04/13(日) 16:41:07 b4iOO57I0

(違う……? そんなわけ、ないじゃない……。あの子はアリシア、……きっとそう)

 かつて、リニスが届けてくれたアリシアの作文。
 今夜もまた、プレシアはその作文を読みながら、この違和感を別の感情で埋めようとする。
 あのアリシアの手が、この作文を書いたのだ。スケッチブックにクレヨンで描かれた母の絵も、ここに大事に取ってある。全て彼女の左手が生み出した小さな芸術だ。
 大丈夫、ここにいるプレシアは左利きだし、ちゃんと我が儘も言う事がある。──フェイトの時に抱えた違和感が少しだけでも晴れていれば、それが何とか違和感をおしこめる事ができた。
 あの作文を読んだ時は涙を流した。あの絵を見た時は慟哭した。生半可な幸せは、それを崩した時に人を狂わすのかもしれない。
 だが、今の彼女はそれを見て微笑む事ができる。微笑む事ができるのに、どこか心にわだかまりを持たずにはいられなかった。

(フェイト……とは、あんな子とは違う……。でも……)

 プレシアは、先ほどから何度か、フェイト・テスタロッサのこの場での一連の行動を再生していた。右手を利き腕に戦うフェイトの姿も、従順に母のために戦おうとするその信念も、アリシアは嫌っていたが、何だか妙にその姿が恋しくなった。
 アリシアは、思い出話に付き合ってくれない。まるで記憶が抜け落ちているかのように。たまにだけ、作文や絵を見て、その事を思い出したように、ほんの少し語るだけだ。
 フェイトは、きっと思い出話には付き合ってくれる。彼女はアリシアの記憶を引き継いでいるのだから。アリシアと二人いれば、ようやくこの違和感は完全に晴れてくれるような気さえする。

 ……別にフェイトを認めているわけじゃない。
 代替品だった彼女の台詞──「おかあさん」。その言葉を、彼女の声でもいいから聞きたくなったのだ。

 もうフェイトはこの場にはいない。確かに死んでしまった。その時はプレシアも、何か感じる事はなかった。別に彼女が死のうが生きようがどうでもよかったのだ。
 しかし、今思えばフェイトも、微かにはアリシアに似ていたし、今のアリシアには足りない何かが、根っこにあったのではないかと感じてしまう。
 リニスと殆ど同じ山猫を連れてきても、アリシアはその頭を撫でない。あろう事か、触れようともしない。
 フェイトなら、きっと、その頭に手を乗せるだろう。──しかし、それももう叶わない。

 死んだら二度と蘇らない。そんな命の法則に逆らう願いというのは、常に最悪の結末しか生まない──その事に、プレシアは気づきながらも、その事実を必死にかき消さざるを得なかった。



【1日目 夜中】
【D-8 森】

【レイジングハート・エクセリオンについて】
※第三回放送指定の制限解除を受け、2日目以降に娘溺泉の効果が発動します。
※若い娘の姿に変身した時にT2ダミーメモリが支給されます。

【バラゴの遺体について】
※消滅しました。

【主催陣営について】
※アリシア・テスタロッサはガイアドライバーとクレイドールメモリを所有しています。
※参加者個人個人の管理はおそらく財団Xの下っ端が行っています。


294 : ◆gry038wOvE :2014/04/13(日) 16:41:25 b4iOO57I0
異常、投下終了です。


295 : 名無しさん :2014/04/13(日) 17:43:50 8B6CeeZE0
投下乙です!
レイジングハートがこのまま一人だとダミーメモリを渡されるのか。あれは使い方次第じゃとんでもないアイテムだぞww
で、プレシアもプレシアでアリシアに対して疑問を抱き始めているか……


296 : 名無しさん :2014/04/13(日) 22:51:38 0TfMMZVQ0
投下乙です

今のレイハに危険なアイテムを渡されたらヤバいフラグ立つぞw
そしてこのロワに疑問を覚える主催者側の人間がまた一人
もっともどこまで運営に関わってるのやら


297 : 名無しさん :2014/04/14(月) 00:17:25 DgN3tRqk0
投下乙です
よりにもよってダミーメモリかw魔戒騎士二人(特に鋼牙)に危険が迫ってるがどうなるか


298 : 名無しさん :2014/04/14(月) 19:52:26 8zEmvL1c0
レイハさん全裸じゃないんだね!ありがとうバラゴ


299 : 名無しさん :2014/04/14(月) 20:17:17 Dy7UpT8kO
投下乙です。

アリシアには、人を模した神の偶像。
レイハには、偽り。
まあ、皮肉のきいた支給品。

アリシアは、魔法の才は無かったんじゃなかったっけ。


300 : 名無しさん :2014/04/14(月) 22:22:44 CP7TxBxw0
母親や妹ほどの才は無くても、多少はできたんじゃなかったっけ


301 : ◆LuuKRM2PEg :2014/04/17(木) 21:12:39 gcFP41Io0
これより投下を始めます。


302 : 歪み ◆LuuKRM2PEg :2014/04/17(木) 21:14:05 gcFP41Io0
 夜の闇に包まれた森の中は、辺り一面が漆黒に満たされている。何の用意もしないでそんな場所を進むのは、無謀以外の何物でもなかった。支給品に照明器具は含まれているが、森林の前では余りにも頼りない。
 整備された街の光に慣れた人間にとって、異世界と呼んでも過言ではない森の中を天道あかねは一人で進んでいる。前は源太や十臓という人外が一緒にいたけど、今は隣に誰もいない。それがどうしようもなく不安だったけど、人間ではない存在と一緒にいるよりはマシだと割り切った。
 暗い森の中にはどんな怪物が潜んでいるのかわからない。でも、道ちゃんとNちゃんの力さえ使えば勝てない訳がなかった。現に、あの仮面ライダーだって殺すことに成功している。
 ガイアメモリもまた手に入れたし、武器に使えそうな刃物もある。この二つだって上手く使えば戦いの役に立つかもしれなかった。

(これだけあれば、機械と化け物達をみんな殺せる……殺して、私は元の毎日に戻る! 大切なものは、もう何も壊させない!)

 まだ見ぬ敵への憎しみを燃やしながら、あかねは駆け抜ける。
 身体は痛い。でも、耐えなければならなかった。
 暗い森の中は怖い。でも、それに囚われてはいけなかった。
 休みたい。でも、そんな余裕なんてなかった。

(ガドルは、私からみんなを奪った奴の仲間……あんただけはあたしの手で壊してみせる!)

 脳裏に浮かび上がっていく甘い誘惑を憎しみで振り払う。
 ガドルは顔もわからない相手だけど、何故かダグバの仲間である確信があった。根拠はないし、誰かに教えて貰った訳でもない。仮に仲間では無かったとしても、壊してしまえば関係なかった。
 ガドルだって、ここではないどこかで大切なものを壊しているはず。ダグバの仲間だから、何の躊躇いも無しに命を奪っていてもおかしくない。ガドルは、ダグバと同じ絶対悪だ。
 許さない。
 壊してやる。
 絶対に、この世から消してみせる。
 全身に刻まれた傷のせいで、本当ならまともに歩くことすら難しい。しかし、あかねの身体は軽やかに動いていた。道ちゃんの力とメモリの毒によって、痛覚が薄くなっているのはある。だが、それ以上に身を焦がすほどの憎悪が彼女に力を与えていた。

(殺す……壊してみせる……そして、みんなを守ってみせる! あたし達で力を合わせれば、できないことなんてないわ!)

 表情は悪鬼の如く歪んでいて、何も知らない者が見たら「化け物」と呼ぶだろう。だが、彼女はそれに気づくことのないまま森を駆け抜けていた。
 何処からともなく、川のせせらぎのような音が聞こえる。その音に向かって、あかねは走るペースを上げた。
 肉体が強化されているおかげか、川に辿り着くまで時間は必要ない。穏やかに流れる川があかねの目に飛び込んできた。
 凄惨な殺し合いの会場であるにも関わらず、その流れはとてもゆっくりしている。見る者の心を和ませてもおかしくないが、あかねはただ無表情で見つめていた。
 いくら道ちゃんの力があったとしてもあかねのカナズチが治る訳ではない。落ちてしまったら、溺死するだけだ。
 ここがどのエリアに流れている川なのかはわからないけど、川上に向かえばグロンギ遺跡まで辿り着けるはず。地図にもそう描いてあった。
 闇を切り裂くような勢いで駆け抜けて、グロンギ遺跡を目指している。もう遠くないと思った、その時だった。

「……アアアアアァァァァァァァオオオオオオオオオォォォォォォォォンッ!」

 どこからか、獣のような咆哮が聞こえてくる。
 空気すらもピリピリと振動させるほどの叫びによって鼓膜が刺激されてしまい、あかねは反射的に足を止めてしまった。

「アアアアアァァァァァァァオオオオオオオオオォォォォォォォォンッ!」

 狼のようにおぞましい叫び声は近くから聞こえてくる。それはとても人間のものには聞こえない。つまり、機械か化け物しかあり得なかった。
 グロンギ遺跡には先客がいる。それを察したあかねは懐からナスカメモリを取り出しながら、戦意を燃やした。


303 : 歪み ◆LuuKRM2PEg :2014/04/17(木) 21:14:42 gcFP41Io0
『NASCA』

 メモリから発せられるのは、魑魅魍魎の如く呻き声。しかしあかねにはそれが心地よく聞こえてしまい、微塵の違和感を持たずに身体へ刺し込む。内蔵された膨大な記憶は華奢な体躯を駆け巡り、一瞬で毒々しい青色に彩られた怪物へと変貌した。
 T−2ナスカ・ドーパントに変身した天道あかねの行動は早かった。炎のように赤く染まった一対の翼を背中から生やして、暗闇に覆われた森の中を飛翔する。大空を舞う戦闘機に匹敵する程の速度が齎されることで、無数の木々が通り過ぎるように見えた。
 叫び声が止むことはない。この先にいる怪物は血を求めている……まさしく本当の化け物で、生きていると考えただけでも苛立ちが溜まっていく。化け物が人間の世界にいてはいけない。この手で殺さなければならなかった。
 感情が胸の中で更に燃え上がる中、石で造られた建造物が視界に飛び込んでくる。それがグロンギ遺跡であるとナスカ・ドーパントは察するが、叫び声はそこから聞こえて来ない。違う方面の斜面からだった。

(入れ違いになったのね……面倒だけど、今から追えばいいだけだわ。道ちゃんとNちゃんの力さえあれば、すぐに追いつけるわ!)

 無駄足に終わったなんて考えない。叫び続ける怪物さえ殺してしまえばそれで終わるのだから。
 ナスカ・ドーパントはグロンギ遺跡から目を逸らして、耳を凝らす。醜悪な唸り声は、発達した聴覚によってすぐに捉えることができた。
 もしかしたらグロンギ遺跡にも誰かが隠れているかもしれないが、いるかどうかもわからない相手を捜していたら逃げられてしまう。それは余りにも間抜けだった。

(待っていなさい、化け物。あんたがどこに行こうが、あたしは必ずあんたを殺してみせる……森だろうと、この近くにある呪泉郷だろうと……)

 そこまで出てきた途端、思考が急に止まってしまう。
 呪泉郷。グロンギ遺跡の近くにある泉で、あかねにとって殺し合いのスタート地点だ。
 そこで黒い翼を生やした女・ダークプリキュアに襲われてしまい、源太と出会った。それから色々なことを殺し合いの場で経験して、大切な何かを失った。それが何なのかを思い出そうとするが、思考に靄がかかってしまう。
 思い出せない。この殺し合いで何を失ったのかがわからない。ダグバは一体、何を奪っていったのかが見えなかった。とても大切なことだけはわかっているだけに、もどかしく感じてしまう。
 それに、奪われた何かが呪泉郷と深い関係があると、あかねは思う。確証はない、ただの予感。しかし、あかねは斬り捨てることができなかった。

(誰……誰なの……一体、ダグバはあたしから誰を奪ったの……?)

 あかねは思い出そうとするが、その『誰か』の顔が浮かび上がらない。霧にかかったかのように、全体の像が見えなかった。それにもう一人、この島には知っている『誰か』がいる。その人は、あかねにとっても大切な友達で、平和だった日常にいた……だけど、それだけしか思い出せない。
 また、その『誰か』達が今の自分を知ったら、絶対に悲しむと断言できる。理屈はわからないけど、それだけは確かだった。

「……オオオオオォォォォォォォォォン」

 しかし、湧き上がる疑問は遠ざかっていく叫び声によって遮られてしまう。
 それを捉えたナスカ・ドーパントは一気に意識を覚醒させた。考えている刹那の間に、怪物はもう遠くまで向かっていると知って、軽く舌打ちをする。こうしている間にも、獲物が逃げられたら元も子もない。早く殺さなければならなかった。
 ナスカウイングを再び広げて飛び上がるが、それでも蟠りは消えない。むしろ、闇の中を駆け抜ける度にどんどん積み重なっていた。

(もしもあんたが呪泉郷に向かうなら……あたしは許さない。あんたなんかに、私『達』の思い出を壊させないわ)

 無意識の内に、ナスカ・ドーパントは……いや、天道あかねは想う。そして、叫び続ける怪物が呪泉郷に向かわないことを祈った。
 それは、早乙女乱馬や響良牙のことを心のどこかで想っているあかねとしての気持ちだったのかもしれない。だが、それはあかね自身も含めて、気付く者は誰もいなかった。
 ただ、ナスカ・ドーパントは闇の中に潜む獲物を狩る為に、飛び続けていたのだった。


304 : 歪み ◆LuuKRM2PEg :2014/04/17(木) 21:15:38 gcFP41Io0




 ン・ガミオ・ゼダは己の存在を知らしめるかの如く吠えながら、闇に覆われた森の中を駆け抜けている。蘇ったばかりであるにも関わらず、そのスピードは封印される前と変わらなかった。
 辺りの闇によって光は微塵も見えないが、究極の闇に比べれば微々たるものでしかない。グロンギの齎す闇と、夜の闇は全く別の存在だ。自然の闇は時に安らぎを与えるが、究極の闇から与えられるのは絶望だけ。
 究極の闇を取り戻す為にガミオは疾走していたが、あてはない。ガドルがどこにいるのかだってわからないのだから、具体的に決めることはできなかった。
 しかし、ガミオはそれを微塵も気にかけていなかった。この世界のどこかに、王となったガドルがいる。それだけがわかれば、ガミオにとっては充分だった。

(俺の力は、本当にこの世界で発揮できるのか?)

 しかしガミオには微かな懸念がある。
 『究極の闇』が封じられている今、他にも封じられている力が存在するかもしれないことだ。
 封印される前、ガミオはこの世を究極の闇で染めてリント達から畏怖される存在になったが、今は違う。もう一人の王・ガドルが存在することによって闇が封印されてしまっている今、他の力が充分に発揮できる保証はなかった。

(どうやら、腕試しが必要だな……)

 ゲゲルの一環として制約が加えられることがある。だが、それを完全に把握しないまま、ガドルの元に向かっても勝てるとは思えない。認めるのは癪だが、今の自分は生まれたての赤子に等しい。これから戦おうとしているのは、何も知らないままで勝てる相手ではなかった。
 それが、世界のルールに従った存在であるかどうかは関係ない。己の力を存在する為の生贄になれば、誰であろうとも構わなかった。

(む……?)

 そんな中、遠くから声が聞こえてくる。ここから離れているが、ンのグロンギは聴覚も常人を遥かに上回っているので、捉えるのは容易だった。
 数人のリントが話していることを察するが、その内容はガミオにとって関心はない。ただ、己を刻む為の駒が現れたとしか思えなかった。
 ガミオはニヤリと笑った後、再び吠える。その姿は、まさに獲物を見つけた獣と瓜二つだった。





「アアアアアアアアアアアオオオオオオオオオォォォォォォォォォォンッ!」

 その叫び声に気付かなかった者はいなかった。
 闇の中から発せられた咆哮によって、周囲に存在するあらゆる物がピリピリと振動する。空気も、植物も、機械も、人も、何一つの例外はない。地震と呼んでも差し支えない衝撃が襲いかかり、ライディングボードを反射的に止めてしまう。
 それを見計らったかのように、次の瞬間には目前の地面が爆発を起こして、熱風が襲いかかった。
 彼らは悲鳴を発するが、それは耳を劈くほどの轟音によって遮られてしまう。そのまま地面に叩きつけられた響良牙に、何が起こったのかを判断する余裕はなかった。

「つぼみ! なのは! 大丈夫か!?」

 素早く起き上がりながら、良牙は叫ぶ。
 爆発の原因よりも、今は守らなければならない少女達の安否が気がかりだった。もしもまた、仲間が失うようなことがあっては今度こそ立ち直れなくなってしまう。
 先程まで木々が生えていた場所は、既に煉獄の炎しか見えない。周囲にどんどん広がっていくことで、良牙の不安が更に膨れ上がっていた。


305 : 歪み ◆LuuKRM2PEg :2014/04/17(木) 21:16:59 gcFP41Io0
「私なら、大丈夫です! 良牙さん! それよりも、なのはさんは……」
「私も大丈夫だよ、つぼみ!」

 しかし、それを杞憂であると証明するように、花咲つぼみと月影なのはが現れる。服は微かに汚れてしまったが、目立った怪我をしなくて済んだようだ。
 彼女達の姿を見て、良牙は胸を撫で下ろす。よく見ると、ライディングボードも無事だった。
 しかしその直後、凄まじい殺意が肌に突き刺さってきたので、安堵することはできなかった。

「なるほど……どうやら、リントどもを屠る力は残っているようだな」

 地の底から響くような不気味な声と共に、灼熱の中から怪物が現れる。
 血に飢えた狼のように瞳からは異様な雰囲気を放ち、全身に備え付けられた装飾品が威圧感を醸し出していた。鎧のように発達した筋肉も赤く染まっていて、どこからどう見ても人間とは思えない。首輪は見当たらないが、敵であることはわかった。
 そして、腹部に備え付けられた金色のバックルが、良牙には見覚えがあった。

「そのバックル……ガドルの野郎と同じ物だ。てめえ、まさか……!?」
「ほう。ガドルを知っているのか」
「やっぱり、ガドルの仲間か!」

 怪物が頷くのを見て、良牙は声を荒げる。
 目の前に現れた怪物……ン・ガミオ・ゼダは、いつきと薫を殺したガドルと同じ未確認生命体だ。この島に残っている未確認はガドルだけだったはずだが、そんなのは関係ない。クウガの敵が他にいるのなら、残された自分の手で倒さなければならなかった。
 良牙はロストドライバーを腰に添えて、T−2エターナルメモリのスイッチに指で触れる。

『Etarnal』

 エターナルメモリから響き渡る音声・ガイアウィスパーに鼓膜が刺激されて、良牙の戦意が刺激された。
 大切な二人をゴミのように殺したガドルへの怒り。そして、そんなガドルに対して何もできなかった自分自身への怒り。絶対に忘れられない二つの激情によって、良牙の目にはガミオとガドルの姿が重なって見えた。そんな相手を生かす選択肢など良牙にはない。
 絶対に仕留めなければならなかった。そんな戦意を燃やしながら、良牙は叫ぶ。

「変身ッ!」
『Etarnal』

 己の感情ごと、エターナルメモリをロストドライバーに力強くセットした。
 メモリは再び鳴り響いた瞬間、良牙の肉体は純白の装甲に覆われていく。蒼い灼熱が四肢で燃え上がり、暗黒色のローブが背中から生成される。仮面ライダーエターナル・ブルーフレアの形態に変身したのだ。
 しかし、本来の姿に慣れたとしても良牙は安堵しない。ただ、胸の中にはガミオへの怒りが暴れまわっていて、それを発散させる為に走り出した。後ろからつぼみとなのはが「良牙さん!」と呼びかけてくるが、それに答えている場合ではない。
 何としてでも、ガミオを倒すことが最優先だった。

「オオオオオリャアアアアアアァァァァァァッ!」
「フンッ!」

 蒼い炎を帯びたエターナルの白い拳と、岩のように巨大なガミオの拳が同時に振われて、そのまま激突した。衝撃によって冷たい空気が振動して、燃え盛る火炎が吹き飛んでしまう。
 しかしエターナルはそれに目を向けずに、握り拳で再びストレートを繰り出して、ガミオの巨体に叩きつけるが、鈍い轟音が響くだけ。ガミオが揺れることはなかった。
 だが、そんなことはエターナルだって百も承知。この程度で倒せる相手だったら、最初からいつきと薫が殺される訳がなかった。二人の無念を考えた瞬間、エターナルの拳に更なる力が込められていく。
 無論、ガミオもただ受けるだけではなく、エターナルの一撃を確実に回避して、そこから反撃の一撃を振るった。唸りをあげながら突き進んでいくが、エターナルは身体を少し右にずらすように避けて、そこからエターナルエッジを振るった。
 コンバットナイフを扱うのは慣れていないので、ただ力に任せただけの斬撃になってしまう。しかし、それでもガミオの固い皮膚を確実に切り裂くことができた。それに確かな手ごたえを感じて、今度はガミオの腕を一閃する。すると、ガミオは呻き声を漏らした。


306 : 歪み ◆LuuKRM2PEg :2014/04/17(木) 21:17:58 gcFP41Io0
「ムッ……!」
「まだまだぁ!」

 エターナルはそれを好機と見て、ひたすらエターナルエッジを放ち続ける。
 一閃。ガミオが繰り出す拳を前に、体勢を低くすることで回避しながら左脇腹を抉る。
 一閃。ガミオの横に回り込んだエターナルは勢いを保ったまま、振り向くのと同時に背中に斬撃を放つ。だが、傷は浅い。
 一閃。瞬時に振り返ったガミオの蹴りが襲いかかるが、エターナルは躱しながらナイフを振るう。
 それはどれも荒々しく、本来の変身者である大道克己に比べればいい加減な形だった。無論、素手で戦ってきた響良牙ではそれも当然で、子どもが遊びで振るっているのと変わらない。もしも、これが剣だったらチャンバラごっこと呼ばれてもおかしくなかった。
 しかし、良牙の誇る戦闘技術及びに腕力。そして、エターナルエッジの切れ味が合わさったからこそ、ガミオにダメージを与えることができていた。
 鋼鉄のような筋肉によって、一撃の威力は期待できない。だが、どんな強度を誇っていようとも数を重ねれば打ち破れるはずだった。それを信じたエターナルは、握り締めたナイフを力強く振るうが――

「ヌオオオオオオオオオオォォォォォォォォォッ!」

 エターナルが神速の勢いで一閃を放つのと同時に、ガミオもまた力任せに拳を放っていた。重い一撃が来ると察するが、途中で攻撃の軌道を修正することはできない。一秒の時間も経たずに衝突して、そのまま弾き飛ばされてしまった。

「ぐあっ!」

 数メートルも宙に浮かぶが、エターナルはすぐに体勢を立て直して着地する。
 エターナルエッジを取りこぼすことはなかったが、その手には稲妻が迸ったような痺れを感じていた。それだけで、ガミオが誇る腕力の凄まじさが窺えてしまう。
 しかし、エターナルにはそれ以上に、疑問が芽生えていた。

「テメエ……さっきのは、手を抜いていやがったな?」
「何故、俺が貴様らリントを相手に全力を尽くさなければならない?」

 ガミオは否定もせずにあっさりと言い放つ。
 その事実を突き付けられて、エターナルの怒りが更に燃え上がった。舐められていることもそうだが、命を奪おうとしている相手のことを見下している態度が許せない。未確認生命体に他人を慈しむ心など微塵も存在しないのはわかっていたが、それでも納得できなかった。
 こんな奴らの為に五代と一条は傷付いて、そして死んだ……そう思うと、やるせなくなってしまう。

「俺達を……舐めるなよ!」

 溜まった鬱憤を晴らすように叫びながら、エターナルは他のT−2ガイアメモリを手に取り出した。
 ウェザーメモリは通用しない。調子に乗ってガドルに使ったせいで痛い目を見たのだから、同じ失敗を繰り返すつもりはなかった。
 ゾーンメモリも意味がない。ガイアメモリを持っていない相手に発動した所で、何になるのか。
 ルナメモリも微妙だ。京水が変身したドーパントを見る限り、腕は伸びるようだが……ガミオにやっても効き目はないだろう。
 だが、グダグダと考える時間などない。まずは、ガドルにも通用した深紅のメモリ・ヒートメモリからだ。

『Heat』
『Heat Maximum Drive』

 ヒートメモリをマキシマムスロットに装填して、ガイアウィスパーを響かせる。メモリに内蔵された熱き記憶が全身に駆け巡って、エターナルの感情がどんどん昂ぶっていった。
 ガミオが突貫してくるが、関係ない。その図体を吹き飛ばしてやるだけだ。

「獅子灼熱咆哮弾ッ!」

 ガドルにも放った灼熱の四肢を、今度はガミオに放つ。それは零距離からの攻撃だった。
 解放されたエネルギーはガミオの巨躯を容赦なく燃やし、そして吹き飛ばしていく。しかし、やはりガミオは倒れなかったが、それはエターナルも充分予想していた。
 今度はメタルメモリを手に取る。メタル……金属を意味するので、未確認を強化させる電撃は含まれていないはずだった。説明書にだって書いていないのだし、試す価値はある。

「どうか、頼むぞ……!」

 ガミオをパワーアップさせないことを祈りながら、メタルメモリをマキシマムスロットに差し込んで、マキシマムを発動させた。


307 : 歪み ◆LuuKRM2PEg :2014/04/17(木) 21:19:20 gcFP41Io0

『Metal』
『Metal Maximum Drive』

 今度はメタルの音声が鳴り響いて、エターナルの全身に闘士の記憶が伝わっていく。
 ウェザーメモリのように暗雲が立ち込めることはなく、身体の奥から力が漲っていた。まるで、鋼鉄に匹敵する頑丈なボディを手に入れたように思えてしまう。

「……フンッ!」

 一方で、ガミオは全身に纏わり付いた灼熱を、気合いで吹き飛ばすのが見えた。だが、筋骨隆々とした肉体は微かに焦げている。仮面の下で目を見開いた瞬間、ガミオは咆哮と共に地面を蹴った。
 その勢いはまさに野生の狼に匹敵していて、避ける余裕はない。なので、エターナルは反射的に拳を振るうしかなかった。

「くそっ!」
「ダアアアァァァァッ!」

 距離が徐々に縮んでいき、両者の拳は激突して、轟音が鳴り響く。
 しかし、その結果は先程とは大きく異なっている。エターナルは数歩ほど後退する一方、ガミオは大きく後ずさっていた。

「「……何ッ!?」」

 この結果に、エターナルも目を疑っている。目の前のガミオも同じだった。
 手ごたえを感じたことに戸惑いながらも、エターナルは追撃する。突き刺さった拳によって、ガミオはまたも後退した。
 それは、T−2メタルメモリの効果だった。闘士の記憶を持つメタルメモリは、使用者を鋼鉄の肉体と怪力を持つ闘士に変化させる効果を持つ。結果、エターナルの肉体に鋼鉄の怪力が増すことになった。
 尤も、それだけで究極の闇であるガミオを倒すことは不可能。いくら力を増したからと言って、ガミオのスペックはエターナルを圧倒的に上回っている。ガミオからすればただの小手調べに過ぎない一撃でも、エターナルの全力に匹敵するのだから。

「リントよ……小細工を使ったとはいえ、少しでも俺に迫ったことだけは称えよう。光栄に思え」
「何だと……!?」

 目前に顕在するガミオからは余裕が感じられる。絶対的強者と言わんばかりの態度が癪に障るが、事実なのだからどうしようもない。
 このまま正面から戦っても勝てる確率は0%だ。格闘では大したダメージにならないし、メモリの力を借りたとしても互角にすら届かない。だからといって相当の鋭さを誇るエターナルエッジも、ガミオの筋肉を貫くことは不可能。
 残った手札はパペティアーのガイアメモリだけだが、これもガミオに通用するのかわからない。なのはは効果を信頼していたが、ガミオを止められるとは限らないし、下手をしたら使う前に妨害されてしまう危険があった。これだけガイアメモリを使った以上、ガミオだって警戒をしてもおかしくない。
 悩みながらも、それを悟られないようにエターナルはガミオと睨み合う。視線が激突する中、ガミオは唐突に右腕を翳して、そこから稲妻を放った。

「……ッ!?」

 唐突の輝きを前に、エターナルの背筋に悪寒が走る。
 ガミオが放った稲妻は凄まじい勢いで突き進んでいき、回避や防御をする暇を与えなかった。このままでは、エターナルは稲妻の餌食になってしまうと、誰もが思うだろう。
 その時だった。

「プリキュア! ピンク・フォルテウェイブ!」
「プリキュア! シルバー・フォルテウェイブ!」

 聞き覚えのある少女達の叫びと同時に、視界の外から桃色と銀色のエネルギーが現れて、ガミオの稲妻を吹き飛ばした。凄まじい爆音が響くと共に、周囲に大量の粉塵が舞い上がっていく。
 エターナルが振り向くと、フラワータクトを構えるキュアブロッサムと、ドレスのようにひらひらとしている白銀のコスチュームを纏った少女と共に立っているのが見えた。

「大地に咲く、一輪の花! キュアブロッサム!」
「月光に冴える、一輪の花! キュアムーンライト!」

 そして、少女達は堂々と名乗りを挙げる。エターナルはその姿に見覚えがあった。
 ガドルとの戦いではつぼみといつきがプリキュアに変身して、ガドルを相手に構えを取っている。だが、いつきはもういない。ならば、キュアムーンライトは変身しているのは……一人しかいなかった。


308 : 歪み ◆LuuKRM2PEg :2014/04/17(木) 21:21:20 gcFP41Io0
「キュアムーンライト……もしかして、なのはなのか?」
「そうですよ、良牙さん……いいえ、エターナル!」

 エターナルの問いかけに、キュアムーンライトは力強く答える。
 その姿がとても頼もしく見えるが、喜びに浸っている場合ではない。戦いは終わった訳ではないし、ガミオから突き刺さってくる殺意は微塵も衰えていないのだから。





 月影なのははキュアムーンライトに変身していた。最愛の姉・月影ゆりの遺志を受け継いで、ココロポットを手にしてガミオの前に立っている。
 キュアムーンライトに変身するようになったのはこれで二度目だ。大道克己が変身した仮面ライダーエターナルとの戦いの末、ゆりのパートナーであるコロンの魂と出会って、認められるようになったことを忘れない。
 今、こうしてまたキュアムーンライトを名乗ったけど、一度目の時とは違って違和感はなくて、むしろ心が満たされていた。姉の衣装を再び着ることができて、嬉しかった。

(姉さんは……この力を、私やお父さんの為に使ってくれた。本当は辛かったはずなのに……)

 ゆりは自分の為に殺し合いに乗って、えりかの命を奪った。本当は彼女だって、そんなことは望んでいないはずだった。姉に望まない殺戮をさせてしまい、そして自分自身もいくつもの命を奪ったことに対して、後ろめたさを感じてしまう。
 だけど、それはこれから償ってみせる。生きているみんなを救う為に、今度こそキュアムーンライトの力を正しく使わなければならなかった。

(お父さん、姉さん、いつき、えりか、源太さん、アインハルト、ヴィヴィオ……見ていてね、私が絶対にみんなを守るから!)

 ここにいない人達に想いを捧げるように、キュアムーンライトは構えを取る。
 隣には友達になった花咲つぼみが変身するキュアブロッサムと、こんな自分を見守ってくれている響良牙が変身する仮面ライダーエターナルがいてくれて、それだけでも非常に頼もしかった。
 かつて、エターナルとは敵対したけど、今のエターナルは克己が望んでいた正義のエターナル。ある意味では、キュアムーンライトと似ている存在かもしれなかった。
 そんな奇妙な偶然を体験したことで、不思議な気持ちになってしまう。

「……お前達、やはりこの世界に存在してはならない者だな」

 相対する深紅の怪物は、唐突にそう呟いた。

「本来の世界では生まれなかったはずの戦士が二人……まさか、こんなにも早く巡り会えるとは」
「はぁ? てめえ、いきなり何だよ?」
「お前達も俺と同じ。殺し合いによって生まれた、この世界にあってはならない歪んだ存在だ……そんな俺達が出会うのも、必然かもしれないな」
「……訳のわからねえことを、ごちゃごちゃ抜かすな!」

 エターナルは激昂する。その気持ちはキュアムーンライトも同じだった。
 怪物は、ここにいるみんなが同じ存在だと言った。どうしていきなりそんなことを口にしたのかはわからないし、肯定する気が微塵も起きない。罪を重ねた自分ならまだしも、誰かの為に戦ってきたエターナルとキュアブロッサムが、怪物と同じなんて絶対にありえなかった。

「あなたとこの二人が同じだなんて、私は思わない!」

 だからキュアムーンライトは、その想いを全力で口にする。


309 : 歪み ◆LuuKRM2PEg :2014/04/17(木) 21:22:52 gcFP41Io0
「エターナルとブロッサム……いいえ、良牙さんとつぼみはいつだって誰かの為に頑張ってきた! そんな二人があなたと同じだなんて、絶対にない!」

 キュアムーンライトは宣言しながら地面を蹴り、ガミオに向かって突貫した。
 距離は瞬時に縮んでいき、一瞬で目前にまで到達する。同時にハイキックを叩きこむが、ガミオは交錯させるように構えた両腕で防いだ。衝突によって、大気が破裂するような轟音が響き渡る中、キュアムーンライトは反対側の脚でキックを繰り出す。それはガミオの肉体に到達するが、手ごたえはない。
 今度はガミオが拳を振るってくるが、キュアムーンライトは跳躍することで回避する。だが、それで終わることはない。
 キュアムーンライトを見上げてくるガミオは、発達した右腕を向けてきたのだ。

「受けろッ!」

 咆哮と共に、雷撃が襲いかかる。
 闇を照らす邪な光はバリバリと音を鳴らして、辺りの植物ごと空気を焼いていく。しかしキュアムーンライトは微塵も動揺せずに、両腕を真っ直ぐに向けながら叫んだ。

「ムーンライト・リフレクション!」
 
 宣言と共に掌から白銀のバリアが生じたことにより、ガミオの稲妻から守られる。
 これは、ゆりが生前に何度も行った防御技だ。キュアサンシャインのように、空の輝きを力に変えてたくさんの人を守ったのだ。
 しかし、ガミオの放つ光の威力も凄まじく、両腕に振動を感じてしまう。この身体を守る盾にも亀裂が生じていて、破られるのは時間の問題だった。
 だが、キュアムーンライトは悲観していない。

「はああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「おりゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 キュアブロッサムとエターナルは打撃を与え続ける。
 スピードを重視したキュアブロッサムと、パワーを重視したエターナル。どちらの一撃も、ガミオの肉体に突き刺さっていた。
 ガミオも四肢をフルに活用して反撃を繰り出してくる。だが、ある一撃は軽々と避けられてしまい、ある一撃はエターナルローブに遮られてしまう。一方で、二人は重い一撃を見切りながらガミオに攻撃を続けていた。
 一進一退とも呼べる状況だが、これはチャンスでもある。それを確信したキュアムーンライトは、地面に着地すると同時にムーンタクトを再び握り締めた。

「花よ、輝け! プリキュア! シルバーフォルテ・ウェイブ!」

 彼女の叫びによって、ムーンタクトの先端から銀色のエネルギーは解放されて、射線上にいたエターナルとキュアブロッサムは横に跳躍する。その結果、残ったガミオは飲み込まれるしかなかった。
 しかし、ムーンタクトを握る両手からは圧力が襲いかかる。ガミオの抵抗に表情を顰めながらも、キュアムーンライトは他の二人に目を向けた。

「エターナル、ブロッサム! 今よ!」
「ああ!」
「わかりました!」

 エターナルとキュアブロッサムはすぐに頷く。
 その勢いを保ったまま、二人はそれぞれの武器を手に取った。キュアブロッサムはブロッサムタクトを、エターナルはエターナルメモリを。

「花よ、輝け! プリキュア! ピンクフォルテ・ウェイブ!」
『Etarnal Maximum Drive』

 ブロッサムタクトから桃色に輝く花のエネルギーが放たれるのと同時に、エターナルメモリからガイアウィスパーが響き渡る。エターナルはマキシマムドライブを発動しようとしているのだ。
 姉の命を奪った一撃が、今度は妹である自分を守る為に使われる。それは複雑な気持ちだったが、同時に頼もしさも感じていた。

「はああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「はああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「うおおおおぉぉぉぉぉぉりゃああああああああっ!」

 キュアムーンライトとキュアブロッサムのフォルテ・ウェイブがガミオを圧倒し、そのエネルギーを上乗せするようにエターナルは跳躍して、エターナル・レクイエムを放つ。
 膨大な力が込められたキックはガミオの肉体に到達した後、その反動を利用したエターナルは宙返りをしながら地面に降りた。彼の一撃によってガミオは体勢を崩し、そのまま大爆発を起こす。
 爆音を響かせながら大気は荒れ狂い、周囲の植物を無差別に振動させていく。ほんの一瞬だけ周りが照らされたが、またすぐに闇で包まれてしまう。
 これでガミオは倒れるか? 一瞬だけそんな期待が芽生えたが、すぐに打ち砕かれてしまう。何故なら、ガミオはすぐに立ち上がったからだ。


310 : 歪み ◆LuuKRM2PEg :2014/04/17(木) 21:23:47 gcFP41Io0

「フハハハハハハハ……面白いな、リント達よ」

 ガミオは平然と笑っている。
 数えるのも馬鹿馬鹿しくなる程の打撃を与えて、三人で力を合わせて必殺技も叩き込んだ。それによるダメージも半端ではないはずなのに、ガミオから放たれる戦意は微塵も衰えていない。
 その瞳は未だにギラギラと輝いていた。

「やはり、目覚めた甲斐があったか……お前達のような望まれない存在は、やはり比類なき力を誇っている。お前達と戦うことで俺の存在も刻まれて、お前達の価値も証明されている」
「いいえ、違います!」

 ガミオの言葉を否定するのは、キュアブロッサムだった。

「二人は……エターナルとムーンライトは歪んでもいなければ、誰にも望まれていない訳がありません! だって、二人のことを想ってくれている人がたくさんいますから!」
「だが、本来のそれらは歪んだ目的に使われた力……これが何故、正しいと言える?」
「過去を反省して、今を生きているからです! エターナルもムーンライトも、正しく使われるようにチェンジしました! それを否定するなんて……私、堪忍袋の緒が切れました!」

 まるでキュアムーンライトの気持ちを代弁するように、彼女は大きく叫ぶ。
 一方のガミオは何も感じないで、当たり前のように聞き流しているようにしか見えなかった。やはり未確認生命体は、かつてのダークプリキュアのように人を思いやる心を持っていない。ガドルもガミオもそうだ。
 ガミオの態度がキュアブロッサムの言葉が冒涜されているように見えて、キュアムーンライトは視線に怒りを込める。その時だった。

「たああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 殺気と共に、この場に新たなる叫びが割り込んでくる。
 それに気付いたキュアムーンライトが振り向いた先では、翼を生やした青い怪人が闇の中から姿を現すのが見えた。凄まじい速度で飛翔するその怪人は、一瞬でエターナルの身体にしがみつく。
 反攻の余裕など与えないとでも言うように飛び上がり、二人は木々の間に消えていった。

「なっ、てめえ……!」

 エターナルの抵抗する声が聞こえてくるが、それは怪物の叫びに掻き消されてしまう。
 キュアブロッサムとキュアムーンライトはエターナルの名前を呼ぶが、返答はなかった。怪人……ナスカ・ドーパントのスピードも凄まじかったので、追いつくのは難しそうだった。

「……グロンギではない、殺し合いによって生まれた存在か」

 そんな中、ガミオは思い当ることがあるかのように呟く。

「あれも面白そうだが……今はお前達からだ。さあ、来るがいい!」

 ガミオは吠える。
 どうやら、逃がすつもりも戦いをやめるつもりもなさそうだ。エターナルは心配だけど、まずはガミオを倒さなければならないと、瞬時に察する。
 ン・ガミオ・ゼダを前にしたキュアムーンライトとキュアブロッサムは、静かに構えを取った。


【1日目/夜中】
【D―8/森】


311 : 歪み ◆LuuKRM2PEg :2014/04/17(木) 21:26:01 gcFP41Io0
【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、加頭に怒りと恐怖、強い悲しみと決意、デストロン戦闘員スーツ着用、キュアブロッサムに変身中
[装備]:プリキュアの種&ココロパフューム、プリキュアの種&ココロパフューム(えりか)@ハートキャッチプリキュア!、こころの種(赤、青、マゼンダ)@ハートキャッチプリキュア!、ハートキャッチミラージュ+スーパープリキュアの種@ハートキャッチプリキュア!
[道具]:支給品一式×5(食料一食分消費、(つぼみ、えりか、三影、さやか、ドウコク))、鯖(@超光戦士シャンゼリオン?)、スティンガー×6@魔法少女リリカルなのは、破邪の剣@牙浪―GARO―、まどかのノート@魔法少女まどか☆マギカ、大貝形手盾@侍戦隊シンケンジャー、反ディスク@侍戦隊シンケンジャー、デストロン戦闘員スーツ(スーツ+マスク)@仮面ライダーSPIRITS、デストロン戦闘員マスク(現在着ているものの)、着替え、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア!、姫矢の首輪、大量のコンビニの酒
[思考]
基本:殺し合いはさせない!
0:今はキュアムーンライトと一緒に怪物(ガミオ)と戦う。
1:良牙、“なのは”とともに警察署に向かう。
2:この殺し合いに巻き込まれた人間を守り、悪人であろうと救える限り心を救う
3:南東へ進む、18時までに沖たちと市街地で合流する(できる限り急ぐ)
4:……そんなにフェイトさんと声が似ていますか?
[備考]
※参戦時期は本編後半(ゆりが仲間になった後)。少なくとも43話後。DX2および劇場版『花の都でファッションショー…ですか!? 』経験済み
 そのためフレプリ勢と面識があります
※溝呂木眞也の名前を聞きましたが、悪人であることは聞いていません。鋼牙達との情報交換で悪人だと知りました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※プリキュアとしての正体を明かすことに迷いは無くなりました。
※サラマンダー男爵が主催側にいるのはオリヴィエが人質に取られているからだと考えています。
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました。
※この殺し合いにおいて『変身』あるいは『変わる事』が重要な意味を持っているのではないのかと考えています。
※放送が嘘である可能性も少なからず考えていますが、殺し合いそのものは着実に進んでいると理解しています。
※ゆりが死んだこと、ゆりとダークプリキュアが姉妹であることを知りました。
※大道克己により、「ゆりはゲームに乗った」、「えりかはゆりが殺した」などの情報を得ましたが、半信半疑です。
※所持しているランダム支給品とデイパックがえりかのものであることは知りません。
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※良牙、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※全員の変身アイテムとハートキャッチミラージュが揃った時、他のハートキャッチプリキュアたちからの力を受けて、スーパーキュアブロッサムに強化変身する事ができます。
※ダークプリキュア(なのは)にこれまでのいきさつを全部聞きました。




【月影なのは(ダークプリキュア)@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:健康、人間化、キュアムーンライトに変身中。
[装備]:プリキュアの種&シャイニーパフューム@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&ココロポット(ゆり)@ハートキャッチプリキュア!
[道具]:支給品一式×5(ゆり、源太、ヴィヴィオ、乱馬、いつき(食料と水を少し消費))、ゆりのランダムアイテム0〜2個、ヴィヴィオのランダムアイテム0〜1個(戦闘に使えるものはない)、乱馬のランダムアイテム0〜2個、パワーストーン@超光戦士シャンゼリオン、ふうとくんキーホルダー@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、須藤兄妹の絵@仮面ライダーW、霧彦の書置き、山千拳の秘伝書@らんま1/2、水とお湯の入ったポット1つずつ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ガイアメモリに関するポスター×3、『太陽』のタロットカード、大道克己のナイフ@仮面ライダーW、春眠香の説明書、ガイアメモリに関するポスター
[思考]
基本:罪を償う。その為にもプリキュアとして戦う。
0:今はキュアブロッサムと一緒に怪物(ガミオ)と戦う。
1:つぼみ、良牙とともに警察署に向かう。
2:姉さんやいつきのようにプリキュアとして戦う。
3:源太、アインハルト…。


312 : 歪み ◆LuuKRM2PEg :2014/04/17(木) 21:27:25 gcFP41Io0
[備考]
※参戦時期は46話終了時です
※ゆりと克己の会話で、ゆりが殺し合いに乗っていることやNEVERの特性についてある程度知りました
※時間軸の違いや、自分とゆりの関係、サバーク博士の死などを知りました。ゆりは姉、サバークは父と認めています。
※筋肉強化剤を服用しました。今後筋肉を出したり引っ込めたりできるかは不明です(更に不明になりました)。
※キュアムーンライトに変身することができました。衣装や装備、技は全く同じです。
※エターナル・ブルーフレアに変身できましたが、今後またブルーフレアに変身できるとは限りません。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※心が完全に浄化され、プリキュアたちの力で本当の人間の体を手に入れました。かつてほどの戦闘力は失っている可能性が高いと思われますが、何らかの能力があるのか、この状態では無力なのか、その辺りは後続の書き手さんにお任せします。顔や体格はほとんどダークプリキュアの時と同じです。
※いつきにより、この場での仮の名前として「月影なのは」を名乗る事になりました。
※つぼみ、いつきと“友達”になりました。
※いつきの支給品を持っています。
※プリキュアとして戦うつもりでいます。



【ン・ガミオ・ゼダ@仮面ライダークウガ?】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)
[装備]:?????????
[道具]:?????????
[思考]
基本:この世界に存在する。そして己を刻む。
0:腕試しの為、目の前のリント達(キュアブロッサム、キュアムーンライト)と戦う。
1:ガドルを倒し、究極の闇を齎す者となる。そして己の力と存在を証明する。
2:この世界にいてはならない者を──。
[備考]
※この殺し合いやこの「クウガの世界」について知っているかのような発言をしています。
※黒い霧(究極の闇)は現在使用できません。もう一人のグロンギの王を倒して初めてその力を発現するようです。
※この世界にいてはならない者とは、ロワのオリ要素や、設定上可能であっても原作に登場しなかった存在の事です(小説版クウガも例外ではありません)。
※仮面ライダーエターナル、キュアムーンライト、ナスカ・ドーパントを「この世界にいてはならない者」と思っています。
※首輪は存在しません。






313 : 歪み ◆LuuKRM2PEg :2014/04/17(木) 21:29:03 gcFP41Io0
 叫び声を追いかけていたナスカ・ドーパントが見たのは、二人の少女とあの仮面ライダーエターナルが謎の怪物と戦っている場面だった。
 赤い怪物のベルトに存在するバックルはあのダグバと全く同じ。だから、あの怪物がガドルかもしれない。実際、三人同時を相手にしても有利に戦っていて、ダグバに匹敵する力を誇っていた。
 キュアピーチやキュアベリーの仲間に見える少女達が、どうしてあの仮面ライダーエターナルと力を合わせているのかという疑問はある。だけど、今はどうでもいいことだった。
 ガドル(ナスカ・ドーパントがそう思っているだけで、実際はガミオ)を殺してしまいたいが、まともに戦っても勝てる見込みはない。だからといって、三人に加勢をしても有利になるとは思えなかった。逃げる選択肢もあるが、それでは優勝への道が遠ざかってしまう。
 キルスコアを稼ぐなら、仮面ライダー二号の時のように分断させるしかなかった。仮面ライダーエターナルには借りがあるのだから、憎しみの鬱憤晴らしには最適だし、何よりも負ける気がしない。

「やあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ナスカ・ドーパントの振るうナスカブレードが、エターナルの胸板を横に一閃する。
 エターナルは呻き声と共によろめいたので、ダメージになっていた。その反応に愉悦を感じてしまい、ナスカ・ドーパントは更に得物を振るう。だが、エターナルもただ受けているだけではなかった。

「おりゃああああぁぁぁぁっ!」

 咆哮と共にエターナルは拳を振るうが、ナスカブレードでそれを受け止める。しかし、その衝撃が凄まじすぎて、ナスカ・ドーパントは吹き飛んでしまった。咄嗟にナスカウイングを展開させて、空中で体勢を立て直す。
 そこからゆっくりと地面に着地して、ナスカブレードを握り締めた。だが。

「てめえ……いきなり何だ!? 俺の邪魔をするんじゃねえ!」

 エターナルのマスクから響いた叫び声によって、力が緩んでしまう。
 その声は、前に出会った時とは明らかに違う。ほんの少しだけ籠って聞こえるけど、その声はナスカ・ドーパント……いや、天道あかねにとって聞き覚えがあった。
 この声は誰なのか? それを思い出そうとするが、思い出せない。誰の声なのかはわからないけど、知っている。そんな確信があったけど、顔が思い浮かばなかった。
 知っているはずなのに、わからない。あと少しだけど思い出せない。もどかしくなるだけで、思い出せない。疑問と葛藤によって心が大きく揺れてしまい、ナスカ・ドーパントの動きは止まってしまったのだ。

「……あなたは、一体……?」
「はぁ? お前は一体……何がしたいんだよ!?」

 ナスカ・ドーパントに対するエターナルの問いかけは怒号。
 決して長くない言葉だが、それは心に深く突き刺さっていた。
 やっぱり、この声を知っている。元の日常で何度も聞いた声だけど、誰の声なのかは思い出せない。お姉ちゃん達でもないし、お父さんでもないし、男子生徒達でもないし、九能先輩や校長でもないし、東風先生でもなかった。
 頭の中には思い浮かばないはずだけど、知っている。だけど、やっぱり思いだせなかった。

「……あ、あ、あ、あ、あ、あ……!」

 ナスカ・ドーパントは頭を抱えてしまう。致命的な隙を晒しているとは考えられなかった。
 エターナルは勿論のこと、ダグバやガドルのことを憎んでいた。だけど、この声を聞いたことで憎しみが揺らいでしまった。優勝したいのは変わらないし、今だってガドルのことを殺したいと思っているのに、この声を聞いた途端に奇妙な違和感が芽生えてしまう。
 それを振り払う為にナスカブレードを振うが、呆気なく避けられてしまう。二度、三度と続けても同じだった。感情が揺れる中で力任せに振り回しても、当たる訳がない。
 苛立ちが募っていく中、エターナルが背後に跳んだことで距離が開いてしまう。その距離を縮める為に、ナスカ・ドーパントは走るが──

「獅子、咆哮弾ッ!」

 エターナルの両腕から気の塊が放出される。それを前に急ブレーキをかけた後、ナスカ・ドーパントは咄嗟に回避行動を取った。
 行き場を無くしたエネルギーは大木を破壊して、そのまま四散する。もしも命中したら、ダメージは避けられないはずだった。
 しかし、今の技に対する警戒は芽生えていない。むしろ、懐かしさすらあった。何故ならこの技も、あかねにとって見覚えがあるからだ。
 元の日常にいる誰かが、不幸をエネルギー源にしたこの技で誰かと喧嘩をしていた。その二人はいつも喧嘩ばかりしていたけど、友情があったのは確かだった。
 でも、その二人が誰なのかは思いだせない。喉まで出かかっているのに、顔が思い浮かばなかった。


314 : 歪み ◆LuuKRM2PEg :2014/04/17(木) 21:31:20 gcFP41Io0
「……獅子、咆哮……誰なの……誰なの……誰なの……!?」
「お前……一体、何なんだ?」

 エターナルの言葉に、ナスカ・ドーパントは何も答えられない。エターナルに対する闘争の意識がまたしても揺らいでいるからだ。
 しかし、戦いは未だに続いている。勢いは弱まっているが、ナスカ・ドーパントは再び剣を振るった。
 二人は知らなかった。エターナルに変身している響良牙は、目の前にいるナスカ・ドーパントが天道あかねの変身した姿であることを知らない。また、ナスカ・ドーパントこと天道あかねも、目の前にいるエターナルが響良牙の変身した姿であることを知らない。
 いや、もしかしたら事実から目を背けているだけかもしれない。これまで、早乙女乱馬と良牙のことを忘れようとしていたが、その場凌ぎに過ぎなかった。
 一度でも罪を犯してしまえば、償わない限り解放されることはない。例えどれだけ逃げたとしても消える訳ではないし、人の心を苦しめてしまう。ようやく己の罪と向き合う時が近づいてきたのだ。
 天道あかねと響良牙は運命の再会を果たしている。だが、二人はまだそれを認識していない。一人は苦しみ、一人は困惑している。真実を知るのは主催者しかいなかった。


【1日目/夜中】
【D―8/森】

【響良牙@らんま1/2】
[状態]:全身にダメージ(大)、負傷(顔と腹に強い打撲、喉に手の痣)、疲労(大)、腹部に軽い斬傷、五代・乱馬・村雨の死に対する悲しみと後悔と決意、男溺泉によって体質改善、デストロン戦闘員スーツ着用、ナスカ・ドーパントに対する困惑、仮面ライダーエターナルに変身中
[装備]:ロストドライバー+エターナルメモリ@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(ゾーン、ヒート、ウェザー、パペティアー、ルナ、メタル)@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×16(食料二食分消費、(良牙、克己、一条、五代、十臓、京水、タカヤ、シンヤ、丈瑠、パンスト、冴子、シャンプー、ノーザ、ゴオマ、速水、バラゴ))、水とお湯の入ったポット1つずつ×3、志葉家のモヂカラディスク@侍戦隊シンケンジャー、ムースの眼鏡@らんま1/2 、細胞維持酵素×6@仮面ライダーW、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、歳の数茸×2(7cm、7cm)@らんま1/2、デストロン戦闘員マスク@仮面ライダーSPIRITS、プラカード+サインペン&クリーナー@らんま1/2、呪泉郷の水(娘溺泉、男溺泉、数は不明)@らんま1/2、呪泉郷顧客名簿、呪泉郷地図、特殊i-pod、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、バッドショット+バットメモリ@仮面ライダーW、スタッグフォン+スタッグメモリ@仮面ライダーW、テッククリスタル(シンヤ)@宇宙の騎士テッカマンブレード、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW、まねきねこ@侍戦隊シンケンジャー、滝和也のライダースーツ@仮面ライダーSPIRITS、黒子の装束@侍戦隊シンケンジャー、『戦争と平和』@仮面ライダークウガ、『長いお別れ』@仮面ライダーW、インロウマル&スーパーディスク@侍戦隊シンケンジャー、紀州特産の梅干し@超光戦士シャンゼリオン、ムカデのキーホルダー@超光戦士シャンゼリオン、双眼鏡@現実、ランダム支給品1〜6(ゴオマ0〜1、バラゴ0〜2、冴子1〜3)、バグンダダ@仮面ライダークウガ
[思考]
基本:天道あかねを守り、自分の仲間も守る
0:こいつ(ナスカ・ドーパント)は一体……?
1:あかねさん…
2:つぼみ、“なのは”とともに警察署に向かう。
3:いざというときは仮面ライダーとして戦う。場合によってはあかねも…。


315 : 歪み ◆LuuKRM2PEg :2014/04/17(木) 21:32:29 gcFP41Io0
[備考]
※参戦時期は原作36巻PART.2『カミング・スーン』(高原での雲竜あかりとのデート)以降です。
※夢で遭遇したシャンプーの要望は「シャンプーが死にかけた良牙を救った、乱馬を助けるよう良牙に頼んだと乱馬に言う」
「乱馬が優勝したら『シャンプーを生き返らせて欲しい』という願いにしてもらうよう乱馬に頼む」です。
尚、乱馬が死亡したため、これについてどうするかは不明です。
※ゾーンメモリとの適合率は非常に悪いです。
※エターナルでゾーンのマキシマムドライブを発動しても、本人が知覚していない位置からメモリを集めるのは不可能になっています。
(マップ中から集めたり、エターナルが知らない隠されているメモリを集めたりは不可能です)
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※つぼみ、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※男溺泉に浸かったので、体質は改善され、普通の男の子に戻りました。
※エターナル・ブルーフレアに変身できるようになりました(ただし彼の人間としての迷いや後悔がレッドフレアにしてしまう事もあります)。
※あかねが殺し合いに乗った事を知りました。


【天道あかね@らんま1/2】
[状態]:ファウストの力注入による闇の浸食(進行中)、肉体内部に吐血する程のダメージ(回復中)、ダメージ(大・回復中)、疲労(大)、精神的疲労(大)、胸骨骨折、
    とても強い後悔、とても強い悲しみ、ガイアメモリによる精神汚染(進行中)、伝説の道着装着中、自己矛盾による思考の差し替え、夜の森での一人歩きが少し怖い模様、困惑、ナスカ・ドーパントに変身中。
[装備]:伝説の道着@らんま1/2、T2ナスカメモリ@仮面ライダーW、T2バイオレンスメモリ@仮面ライダーW、バルディッシュ(待機状態、破損中)@魔法少女リリカルなのは、二つに折れた裏正@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:支給品一式×2(あかね、溝呂木)、首輪×7(シャンプー、ゴオマ、まどか、なのは、流ノ介、本郷、ノーザ)、女嫌香アップリケ@らんま1/2、斎田リコの絵(グシャグシャに丸められてます)@ウルトラマンネクサス、evil tail@仮面ライダーW、拡声器、双眼鏡、溝呂木のランダム支給品1〜2
[思考]
基本:"東風先生達との日常を守る”ために”機械を破壊し”、ゲームに優勝する
0:エターナルを倒したい……けど……
1:ガドルを倒す。
2:ダグバが死んだ…。
[備考]
※参戦時期は37巻で呪泉郷へ訪れるよりは前、少なくとも伝説の道着絡みの話終了後(32巻終了後)以降です。
※伝説の道着を着た上でドーパントに変身した場合、潜在能力を引き出された状態となっています。また、伝説の道着を解除した場合、全裸になります。
 また同時にドーパント変身による肉体にかかる負担は最小限に抑える事が出来ます。但し、レベル3(Rナスカ)並のパワーによってかかる負荷は抑えきれません。
※Rナスカへの変身により肉体内部に致命的なダメージを受けています。伝説の道着無しでのドーパントへの変身、また道着ありであっても長時間のRナスカへの変身は命に関わります。
※ガイアメモリでの変身によって自我を失う事にも気づきました。
※第二回放送を聞き逃しています。 但し、バルディッシュのお陰で禁止エリアは把握できました。
※バルディッシュが明確に機能している事に気付いていません。
※殺害した一文字が機械の身体であった事から、強い混乱とともに、周囲の人間が全て機械なのではないかと思い始めています。メモリの毒素によるものという可能性も高いです。
※黒岩によりダークファウストの意思を植えつけえられました。但し、(死亡しているわけではないので)現状ファウスト化するとは限りません。
 あかねがファウストの力を受ける事が出来たのは肉体的なダメージが甚大だった事によるものです。なお、これらはファウストの力で回復に向かっています。
 完全にファウスト化したとは限らない為、現状黒岩の声が聞こえても洗脳状態に陥るとは限りません。
※二号との戦い〜メフィスト戦の記憶が欠落しています。その為、その間の出来事を把握していません。但し、黒岩に指摘された(あかね自身が『機械』そのものである事)だけは薄々記憶しています。
※様々な要因から乱馬や良牙の事を思考しない様になっています。但し記憶を失っているわけではないので、何かの切欠で思考する事になるでしょう。
※獅子咆哮弾を見たことによって、意識に揺らぎが生じています。
※ガミオのことをガドルだと思い込んでいます。


316 : ◆LuuKRM2PEg :2014/04/17(木) 21:33:01 gcFP41Io0
以上で投下終了です。
問題点などがありましたら指摘をお願いします。


317 : 名無しさん :2014/04/18(金) 23:04:59 0RuZUrQc0
投下乙です
ついに出会ってしまったか
良牙とあかね、ここからどうなるだろうなあ


318 : 名無しさん :2014/04/19(土) 15:47:07 n8bkygus0
投下乙です

ガミオとあかねが出会うかなあと思ったらそこに良牙らが加わってそういう組み合わせになったか
ガミオVSプリキュアらも気になるが一番気になるのは…
ここから先はどうなるか…


319 : 名無しさん :2014/04/21(月) 17:20:36 pSiUfWQk0
良牙とあかねの予約が来てるぞ


320 : 名無しさん :2014/04/21(月) 23:44:45 uJiLUBZo0
予約来た
対主催チームが本格的に集まるかな?


321 : ◆LuuKRM2PEg :2014/04/22(火) 21:54:32 WMW1uDBM0
以前投下した拙作「壊れゆく常識」の修正版を修正スレに投下させて頂いたことを報告します。


322 : ◆7pf62HiyTE :2014/04/23(水) 20:35:52 JdJSZ5lk0
響良牙、天道あかね分投下します。


323 : Pに翼/OAR ◆7pf62HiyTE :2014/04/23(水) 20:38:59 JdJSZ5lk0
PART.1 対決

 エターナルのセンサーは伝える。後方で今も響く戦いの音を。
 その仮面の下で響良牙は考える。

「(マズイぜコイツは……)」

 後方では突如襲撃してきたゴ・ガドル・バと同じ未確認生命体の狼の怪人と花咲つぼみ及びダークプリキュア改め月影なのはが交戦中なのだ。
 その真の実力は不明瞭、だがガドルに匹敵する力を持つと考えて良い。
 自分達が総力を挙げても倒せない相手であるガドル、それと互角並と考えるならば、幾ら仲間、友人あるいは家族から受け継いだ4人分もしくはそれ以上のプリキュアの力を持つ2人といえども楽観視は出来ない。

 やはりここで戦力を分断されたのは非常に痛い事態だ。

「(今すぐにでもコイツを振り切って戻りてぇが……)」

 そう、良牙にはそれが出来ない理由があった。それは 方 向 音 痴 である。
 筋金入りの方向音痴である良牙、彼は例え家の中であっても迷子になるという致命的なレベルな方向音痴なのだ。
 故に、すぐ近くの戦場といえども戻れる可能性は低い。実際、この地でもそれで仲間達に多大な迷惑を掛けたのを自覚している。

「(となると……)」

 そう言って、青き翼を持つ怪人の方に意識を傾ける。
 突如として戦場に現れ、自身を連れ去ったその怪人へと。
 何故か頭を抱えて苦しんでいるその怪人へと。

 その正体が自身が探していた少女、天道あかねだという事を知らぬまま――


「おいテメェ、あの狼野郎の仲間か!?」
「ううっ……アイツの仲間……ガドル……そんなわけないでしょ!!」
「ガドル? ちょっと待てアイツはガドルじゃね……いや、そんな事は今は関係ねぇ、だったらここは一時休戦しねぇか?」
「は?」

 突然の提案にクエスチョンマークを浮かべる青き怪人ナスカ・ドーパントである。

 良牙は考えた。何故青き怪人は自分を真っ先に狙ったのか?
 戦力を分断した上で各個撃破を狙うのは有用な手法だ。だが何故その相手として自分を選んだのか?
 普通に考えるならば、つぼみの変身したキュアブロッサムあるいはなのはの変身したキュアムーンライトの方が外見的には弱い。
 故に標的はそのどちらかだろうが青き怪人が狙ったのは良牙の変身しているエターナルだ。
 プリキュアの力を知っているとしても迷うこと無くエターナルを選ぶ理由にはなり得ない。
 だが、良牙はその理由に推測が付いていた。

「大方、あの2人じゃなく俺を狙ったのは……コイツ、エターナルに恨みでもあるんだろう」

 かつてのエターナル大道克己は殺し合いに乗っていた。ならば彼に襲撃された事を根に持ったという事は想像に難くない。

「だったら、あの狼野郎を倒した後で幾らでも相手してやる。あの狼野郎はテメェ一人じゃ勝てる相手じゃねぇ、俺達が力合わせなきゃ……」
「何よ……バカにしないでよ!!」

 実の所、数度ナスカ・ドーパントの攻撃に対処した時点で大体の実力は把握出来ていた。
 単純な格闘技術だけならば恐らく自分や早乙女乱馬以上、しかしエターナルに変身した今となっては相手が幾ら怪人の力を持っていると言えど全く負ける気がしなかったのだ。
 正直な所、良牙は弱い相手を嬲る様な趣味は無い。しかもその言葉使いから正体は女性、そんな相手に本気で戦う気など起きなかった。


324 : Pに翼/OAR ◆7pf62HiyTE :2014/04/23(水) 20:39:59 JdJSZ5lk0

「バカにしているわけじゃねぇが……大体、そんな調子で優勝出来ると思ってるのか?」
「……何か悪いものでも食べたの? ……さっきと全然キャラが違うけど……」
「ちっ……やっぱりそういう事か……テメェがさっき会ったエターナルは俺じゃねぇ」
「ウソツキ、どうせみんな同じ機械に決まっているわ」

 天道あかねは致命的なまでに鈍い。頭は決して悪くはないがそれはイコール察しが良いという事にはならない。
 それは少し前に佐倉杏子が『知り合い』の話として口にした話を他の連中は杏子自身の話だと気付いていても彼女自身は最後までその事に気付いていなかった事からも明らかだ。
 故に、エターナルの中身が違う事など全く想像出来ていない。いや、確かに声は違う――だがあかねはそれを振り払った。
 だからこそ中身が同じ『機械』だと断じたのだ、声が微妙に違うのも故障しただけなのだろう。

「機械? 何言ってやがる……?」
「どうしてアンタがプリキュア2人と組んでいるかまでは知らないけどあの2人だって人間じゃ無い……只の機械よ……だから壊しても……」

 その言葉を聞いて、良牙の中で何かが切れた。

「……!!」
「何……?」

 良牙はそれを容認する事が出来なかった。
 大道にしろなのはにしろ(普通の人間とは言い難いが)機械では無いと言いたいわけじゃない。
 良牙がこの地で出会った男、村雨良、彼は全身がほぼ機械化された改造人間だ。彼はある意味『機械』と言っても差し障りは無い。
 だが、短い付き合いだったとはいえ彼は彼なりに怒り哀しみそして最期には笑顔で逝ったのを良牙は知っている。
 そして偶然が重なり出会ったマッハキャリバー、彼はいわゆる魔術師を補佐する為のデバイス、まさしく『機械』でしかない。
 だが、彼は自らの冒した罪に嘆き哀しみ苦しんだのを良牙は知っている。
 『機械』であっても彼等が必死に足掻き生き続けていたあるいは生きている事に違いは無い。
 そして『機械』ではなくても作られた生命であるダークプリキュアも創造主いや父親あるいは家族の為に殺人を犯し苦しみながらも最期には奇跡が起こり新たな生命を得て月影なのはとして転生しその罪を胸に生きようとしている。
 また、人ならざるクウガの力を得た五代雄介、そしてそれを受け継ぎ笑顔を守る為に戦い散っていった一条薫、
 そして一度命を失い人としての感情や記憶を失いつつもあがき続けた大道克己と泉京水、

 彼等はある意味『機械』と言えるだろう。だが、彼等の生き様は人間となんら遜色の無いものである事もまた事実。
 それを『機械』だと断じて壊す? そんな事が許されるわけが――

 いや、良牙はそんな難しい事など全く考えていない。そう、上述の説明など存在していないのと同じだ。
 良牙が考えたのはたった1つのシンプルな事、

「なのはや良……あいつらに対する暴言、許さーん! 殺す!」

 そう、彼等に対する暴言が許せない。それだけの話だ。それだけで倒す理由は十分だ。

 その言葉と共に一気にナスカ・ドーパントへと間合いを詰める。

「そう……ようやくやる気になったのね……でもあの時と同じだと思ったら大間違いよ!!」


325 : Pに翼/OAR ◆7pf62HiyTE :2014/04/23(水) 20:40:35 JdJSZ5lk0





PART.2 続・対決

 ――マッハキャリバーは左翔太郎に問う。

『響が変身したエターナルと、天道あかねが変身したナスカ・ドーパント、実際に戦ったらどっちが勝つかって?』
『Yes』
『……そうだな、まずエターナルの力自体はエクストリームの力を得たWよりも圧倒的に上だ。そして、赤いナスカもエクストリームでも手を焼く程のパワーとスピードを持つ……そういう意味じゃどちらも敵に回したら厄介な相手だ』
『Which wins?(では、どちらが?)』
『勿論、並のドーパントならエターナルと勝負にすらならねぇが……赤いナスカなら勝機もあるだろう……だがな』
『What?』
『戦いなんてのはな、メモリの力だけで決まるわけじゃねぇ。天道あかねの変身したナスカは伝説の道着のお陰で冴子や霧彦以上の戦闘力を発揮している……
 そして響の変身したエターナル……もし、響の格闘能力を合わせた上で、エターナルの力を最大限に発揮できたならば……もしかすると大道以上のエターナルになるかも知れねぇ……
 勿論、エターナルの力を発揮出来なきゃ、当然俺達の知るエターナルと比べものにならない程弱くなるだろうがな……』
『It is a difficult(難しい話ですね)』
『戦いなんてそんなもんだ。何か1つ変われば幾らでも変わる、俺とフィリップの変身したWだってシュラウドに言わせりゃ本物のWじゃ無かったらしいからな……』



 一見すると戦いはナスカ・ドーパントがその手数の多さから押している様に見えた。
 しかしエターナルはその攻撃をエターナルローブやエターナルエッジを駆使し上手く裁いていく。
 しかも、

「獅子咆哮弾!」

 時折、獅子咆哮弾を織り交ぜる事でナスカ・ドーパントの猛攻の流れを寸断していく。攻撃こそ紙一重で回避しているが猛攻が途切れる事で態勢を整える時間を与えてしまっている。

「ううっ……」

 ナスカ・ドーパントことあかねは頭痛で苦しんでいた。
 あの技に見覚えがあるのだ。何故エターナルがあの技を? いやそれ以前に、あの技はなんなのか?
 そう、その答えに近づくにつれあかねは苦しんでいるのだ。だが、それを口にするわけにはいかない。
 エターナルの正体が○○○であることなど無いのだ。
 そもそも○○○とは誰なのか?

「ぐっ……」
「ちっ、まだやるつもりか……」

 一方のエターナルこと良牙は違和感を覚えていた。
 目の前の怪人の正体は誰なのか?

「(あの口調……女なのは間違いねぇが誰だ……声が妙に篭もっているから正体がわからねぇ……いやそれ以前に似た声の奴かも知れねぇし……)」

 既視感があったのだ、ナスカ・ドーパントの中身に。しかし良牙はそれにきづかない。
 気づけない理由、それは良牙自身、時折女性化した乱馬(らんま)に騙される事からも騙されやすいバカという事もある。
 しかし、ここではもう1つ理由があった。そう、ナスカ・ドーパントの正体とあかねを結びつける事ができなかったのだ。
 その理由はあかねの装備している伝説の道着にある。伝説の道着はその道着に選ばれた者を達人級にまで引き上げる効果がある。
 つまり今のあかねの実力は格闘の達人レベルという事だ。
 しかし、実は良牙自身はこの伝説の道着の一件に関わっていないのだ。つまり、伝説の道着を着たあかねの実力を知らないのだ。

「(格闘の実力だけで言えばおそらく乱馬や俺以上……当然シャンプーよりも上の筈だ……)」

 流石に口にはしないがあかねの格闘の実力は良くてシャンプーと互角前後、つまりそれよりも圧倒的に強い故にあかねではないと判断してしまったのだ。
 せめてこの一件に絡んでいれば推測の可能性もあったが接点が無い以上、結びつけようが無いのも道理だろう。


326 : Pに翼/OAR ◆7pf62HiyTE :2014/04/23(水) 20:47:09 JdJSZ5lk0

「(だが正体がなんであれ関係ねぇ、さっさとコイツをぶちのめしてつぼみ達の所に連れて行って貰う!!)」

 そう、重要なのは早々に決着を着けて、今も戦っているつぼみ達の所に案内して貰うのだ(注.方向音痴なので単独で向かうという考えは抹消した)

 何にせよ、一気に間合いを詰め1本のメモリを装填し、

――Luna――

「(ルナ……メタルやウェザーと違っていまいち意味はわからねぇが……京水のあの姿から察するに……)」

――Luna Maximum Drive――

 どことなく狼の怪人の声を彷彿とさせる音声と共にその力を発現させる。
 必殺の一撃が来るとナスカ・ドーパントは高速で後退するが

 ルナ、その意味は月、月の神秘的な力がエターナルの全身を巡る。
 そして、その拳は通常よりも伸びナスカ・ドーパントを捉える。
 ナスカ・ドーパントは翼を展開し上方へと逃げ様とする、しかし、
 エターナルの拳は大きくカーブしナスカ・ドーパントへと――

 幻想の力によりエターナルの肉体は現実的ではあり得ない程の伸縮を見せ、そのエネルギーを保ったまま変幻自在な動作で標的を捉えるのだ。
 そしてマキシマムドライブのパワーは強大、幾らナスカ・ドーパントといえども決まればメモリブレイク、決まらずともメモリ排出させる事は可能だ。
 そう、決まれば――

「はぁぁぁっ!!」

 あかねはエターナルの発動した技に覚えがあった。
 Wと交戦した時、Wはルナの力を使っていた。逃げても逃げても追撃するその力、単純なスピードだけでは逃げる事は不可能。
 ならば、単純では無い通常を超えるスピードを出せば良い。
 制御出来るかどうかは関係無い、レベル3つまり赤いナスカとなって高速で回避したのだ。
 そして光弾を何発もエターナルへと乱射する。

「ちぃっ!! 何処だ!?」

 エターナルはエターナルローブを翻し光弾を防ぐ。エターナルローブの防御能力、そして良牙自身の耐久力のお陰でダメージは殆ど無い。

 だが、突如色を変えスピードを上げたナスカ・ドーパントを見失い動揺する。
 しかし常人ならばともかく良牙は歴戦の格闘家、エターナルの力もあり微かではあったがその姿を視界に捉える。

「だが、早すぎる……しかもさっきよりもスピードが……」

 そう言っている間にナスカ・ドーパントが光弾を乱射しながら急速に接近し間合いを詰めていく。

「だったら……!!」

 エターナルはエターナルローブに闘気を注ぎ込み丸めて1本の棒にする。そしてそれを振り回して光弾を全て弾き返していく。
 しかしナスカ・ドーパントとてそれを予測していないわけではない。

「見えた……!」

 おおよそあかねにとってはイマジネーションにより勝利のイメージが見えていたのだろう。
 一気に懐に入り込み、エターナルの力を司るドライバーを破壊しようとブレードを――

 だが、彼女は忘れていた。少し前に同じ手段を使って敗れていた事を――故に、

 あかねが見たのは、ブレードで貫かれるドライバーのイメージではなく、
 ブレードが粉砕されている現実だった。

「爆砕……点穴」

 そう、良牙はエターナルの弱点がドライバーである事を知っていた。というより自身もそれを狙って仕掛けた事があった。
 だからこそ、ナスカ・ドーパントの狙いがそれだと気付いた良牙は全神経を集中してエターナルエッジでナスカブレードのツボを突き、ブレードを文字通り完全粉砕したのだ。
 (ちなみに通常は指一本で突くわけだが、原理的にはツボを付ければ良いわけなのでエターナルエッジでも理論上は可能)
 そしてそのまま闘気を解き元のローブに戻したローブを翻し軽やかに回避した。

「爆砕……点穴……ううっ……ああ……」


327 : Pに翼/OAR ◆7pf62HiyTE :2014/04/23(水) 20:47:29 JdJSZ5lk0

 いつの間にかナスカ・ドーパントの色が青に戻っている。
 攻撃が不発に終わったショックよりも、エターナルが使ったあの技を見て全身の震えが止まらなかった。
 『爆砕点穴』や『獅子咆哮弾』、聞いた事の無い技の筈なのに何故か覚えがあった。
 何故それを覚えているのだろうか?
 いや、何故それを『知らない』と言っているのだろうか?

 それでもあかねは振り払う。今重要なのはそんなことじゃない。どうにかして目前の永遠の怪物を破壊しなければならないのだ。
 だが、レベル3をもってしてもまだ届かない。それだけエターナルの力は圧倒的だったのだ。

「(どうしたらいいの……エターナルの口ぶりだとガドルはエターナルよりも……)」

 そう、そのエターナルよりもガドルは強いのだ。仮にエターナルを倒せても先は無いという事だ。
 つまり今のあかね自身にとってはナスカすらもガドルやエターナルにとっては非力だという事だ。
 ならばどうする? いくら何でもそんなポンポン相手を倒せる力なんてない。そんな都合の良い必殺技など――

「(………………あるわ……1つだけ……)」

 脳裏にはある技のヴィジョンが浮かんだ。
 何故そんな技を自分は知っているのか?
 しかしそんな事は今はどうでも良い、道ちゃんとNちゃんの力を借りれば十分に発動は可能だ。

「急に弱くなった様だが関係ねぇ……さっさと終わらせる……」

 そう言って一気にエターナルはナスカ・ドーパントへと間合いを詰めていく。
 しかしナスカ・ドーパントは反撃を仕掛ける事無く後方へ跳び回避していく。

「どうした、防戦一方じゃねぇか! もう終わりか!?」
「そっちこそ、さっさとトドメを刺したらどう!?」

 挑発するエターナルに対し挑発仕返すナスカ・ドーパント、
 その挑発に乗り猛攻の勢いを強めるエターナルに対しナスカ・ドーパントは見事な動きで防御を回避を続けていく。

「(何だこの違和感……)」

 その最中、エターナルこと良牙は違和感を覚えていた。あれだけ猛攻を仕掛けてきたナスカ・ドーパントが急に防戦一方になったのだ。
 単純に消耗しただけ、そう解釈しても良かったがどうにも奇妙さは拭えない。
 そう、ここでマキシマムドライブなり獅子咆哮弾なり撃ち込めば確実に勝てるだろう。

――Heat――

 そう熱い一撃を撃ち込めば、力を失い冷めたナスカなど簡単に倒せるだろう。

「(待てよ……まさか……)」



 だが、それに気付いた瞬間、エターナルの中で急速に熱が冷めていくのを感じ――



「はぁぁぁぁぁぁ!!」



 飛竜昇天破――
 熱い闘気を持つ敵を冷たい心を以て螺旋のステップに巻き込み、闘気の渦を発生させ竜の如く竜巻を巻き起こしその一撃を叩き込む技だ。
 その性質上、相手が強い程、自身が弱い程、その威力は増大する技だ。故に決まりさえするならば何の力を持たない一般人でも凶悪な怪物を仕留める事は理論上は可能だ。
 あかねはそれを狙ったのだ。スピード以外のナスカ・ドーパントの力を最小限に抑え、その上でエターナルの猛攻を誘い伝説の道着のサポートを駆使し螺旋のステップに巻き込む。
 平時のあかねでは難しくても伝説の道着の力があれば螺旋のステップもそう難しいことではない。
 そして、エターナルの必殺の一撃が繰り出されるタイミングでアッパーを放ちエターナルを竜巻で仕留めるという事だ。決まれば撃破する事も出来ただろう。


328 : Pに翼/OAR ◆7pf62HiyTE :2014/04/23(水) 20:48:40 JdJSZ5lk0



 決まればの話だが――



「はぁ……はぁ……」



 眼前にはローブで全身をガードしているエターナルが平然と立っていた。



 そう、技は発動せず只のアッパーにしかならなかったのだ。多少の風は巻き起こったがエターナルを吹き飛ばす竜巻とは到底言えないものだ。



「そんな……」
「くっ……」



 だが目の前のエターナルも何処か震えていた。それどころか――



「え……赤く……」



 いつの間にか、エターナルの炎が青から赤に変わっておりローブも消失していた。だが、エターナルはそれを気にする事無く、



「その技……飛竜昇天破……」



 飛竜昇天破……それはかつて乱馬が八宝斎により貧力虚脱灸で弱体化した時に、八宝斎を倒す為にコロンから教わった女傑族の技である。
 参加者中でその技を使えるのは乱馬だけと考えて良い。勿論女傑族であるシャンプーなら使えるだろうが実例が示されたわけではない為、今回は考慮に入れない。
 だがその理論だけならば会得するための特訓に付き合った良牙も知っている。とはいえ、良牙には螺旋のステップを描いて巻き込む事など方向音痴ゆえにまず不可能。だから教える事は出来ても使う事はまず無理だろう。
 しかし、その理論を知るものがもう1人いる。そう――



「まさか……貴方だったんだな……あかねさん……」



 天道あかね、彼女もその理論を知っている筈なのだ。使用するとは思っていなかったが使ってきた以上、幾らバカで騙されやすい良牙でも流石にわかる。



「え……?」



 ナスカ・ドーパントの反応に構わず、エターナルはドライバーからメモリを抜き取り元の姿に戻る。
 それが無謀な行為なのは理解している。
 だが認めたくは無いがあかねの性格上、幾ら口で説明しても自身のエターナルと大道のエターナルが同一人物だと決めつけ頑として聞いてくれないだろう。
 ならば実際に正体を晒すしか方法は無い。



「俺だ……良牙だ……」



 かくして、遂に響良牙は天道あかねと再会を果たしたのだ。


329 : Pに翼/OAR ◆7pf62HiyTE :2014/04/23(水) 20:49:28 JdJSZ5lk0



 だが――



「………………だれ…………貴方……!?」



 あかねの反応は余りにも残酷だった。



「なっ……違うのか……いや、そんなわけは……」

 自身の推測は外れていたのか? だが先程までの言動、それに飛竜昇天破の存在を知っていた事から最早正体はあかね以外にはありえない。
 いや、心の何処かではそれを否定したかったのだろう。

 あの天道あかねが殺し合いに乗り、他人を『機械』だと決めつけ平然と殺人を続ける、そんな現実認めたくは無かったのだ。

『……お前が知っているあかねが、もうどこにもいないとしたら?』

 翔太郎はそう言った、翔太郎は薄々気付いていたのだろう。その最悪な現実が起こっている可能性に。
 確かにあの時はそう問われても取り戻すと力強く応えた。しかし実際に突きつけられて冷静でいられる程割り切れる人間では無い。

 そう、目の前の相手が天道あかね以外の何処かの知らない悪女であればそれはそれで良かった――

 と、そう諦める事が許される状況では無い。



「あ……あ……ああぁ……!」



 何故かナスカ・ドーパントが頭を抱えて苦しんでいる。



「!? どうしたんだあかねさん!? 一体何が……!?」



 そして再びナスカ・ドーパントの色が赤く変色しそのエネルギーを放ち高速で動こうとしていた。



「!! まさか……」


 その瞬間、良牙の脳裏にフラッシュバックしてしまったのだ。
 なのはを守る為に、その身を挺してガドルの攻撃を受けて死んだ明堂院いつきの姿を――
 そう、自分のミスが無ければ避けられた筈の事態を――

 それだけではない、自身のミスで多くの仲間達を死なせてしまっている。
 もし方向音痴が無ければ五代雄介、それに美樹さやかは死ぬ事は無かっただろう。
 もし自身の力が及んでいればティアナ・ランスターは死ぬ事は無かっただろう。
 もし自身の力で強化する事が無ければ一条薫は死ぬ事は無かっただろう。
 もし自身が俯いていなければ明堂院いつきは死ぬ事は無かっただろう。
 もしこのまま動かなければナスカ・ドーパントはどう動く?

 自分ならばまだ良い。だが仮にすぐ近くで戦っているつぼみとなのはの所に向かうとしたら?
 今度は花咲つぼみ、あるいは月影なのは、もしくはその両方を死なせるというのか?

 自身のミスで誰かを殺させるのか?
 自身のミスで惚れた女性に罪を重ねさせるのか?



「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」



 最早思考なんて消え失せていた。無我夢中だった――


330 : Pに翼/OAR ◆7pf62HiyTE :2014/04/23(水) 20:50:26 JdJSZ5lk0





PART.3 けがはなくとも

『闇の力よ、消え失せろ……ッッ!! そうだ、……俺は……俺は、ダークメフィストなんかじゃない……ッッ!! 俺は、暗黒騎士ガウザー、黒岩省吾……!! 超光戦士シャンゼリオン──涼村暁のライバルだ!!』




「はぁ……はぁ……」

 良牙の周囲に巨大なクレーターが形成されている。そして、その中にはナスカ――いやあかねが胴着姿のまま倒れ込んでいた。

 自身のミスでまたしても誰かを死なせる。その重い負の感情が最大級の獅子咆哮弾を放たせてくれたのだ。
 上方に放たれた重い気はすぐさま下へと落ちる。例えどれだけ高速で動こうとも関係無い、射程範囲から抜け出せなければ直撃は免れない。
 あのエターナルとてその重力地獄のお陰で一時的な戦闘不能に陥ったのだ。ナスカ・ドーパントのメモリを排出するほどのダメージを与える事が出来てもおかしくはない。
 ちなみに良牙本人は一種の放心状態に陥る為、その直撃によるダメージを受ける事は無い。



「やっぱり……あかねさんだったんだな……」



 戦いには勝った、だが達成感はない。唯々空しさと悲しさが感情を埋め尽くす。



「メモリか……そうかあかねさんもガイアメモリの所為で……」



 そう回収しようと手を伸ばしたが――



 ピクリとあかねが動き出したのだ。



「!! 気が付いたのか……いや……」



 何やら様子がおかしい。そう、あかねの躰が変貌しているのだ。黒い複眼と赤と黒の模様を持つ銀色の――



「ちょっと待て、こいつは……さやかと同じ……」



 良牙はその姿に覚えがあった。そう、確か美樹さやかも突如として同じ姿になったのだ。



「ファウスト……だがどういう事だ、溝呂木の野郎はとっくに死んだ筈だよな……それ以前にどうしてあかねさんが……」



 疑問符だけが駆け巡る。だが考えている余裕などあるわけない。ファウストはゆっくりと立ち上がり視線を良牙へと向ける。

「ぐっ……」



――Eternal――


 ドライバーにメモリを装填


――Eternal――



 すぐさまエターナルへと変身した。だが白き躰が纏いし炎は青では無く赤だった。それでも生身で戦うよりはまだマシだ。
 しかしファウストの様子がおかしい。何故か再び動きを止めたのだ。



「なんだ……?」



 そして再びファウストは姿を変える――



「!? コイツは……溝呂木の野郎が変身した……」



 そう、ファウストとは違う銀色と黒と赤の模様を持つ闇を体現した存在、メフィストであった。


331 : Pに翼/OAR ◆7pf62HiyTE :2014/04/23(水) 20:51:48 JdJSZ5lk0



「いったいどういう事だ……何故あかねさんがファウストになったり溝呂木の野郎が変身した姿になったり……!?」



 立て続けて起こる異常事態に理解は最早追いつかない。だが、思考している余裕など無い。
 次の瞬間にはメフィストはエターナルへと一気に間合いを詰めていたのだから。



「ぐっ!」



 エターナルは両腕を構え防御の姿勢を取る。しかし――



 ほんの一瞬、僅かな衝撃を感じた程度でメフィストはエターナルの横を掠めていく。



「!?」



 すぐさま振り返りメフィストへと向き直ろうとするが、



――Nasca――



 すぐ後方でガイアメモリの音声が響く、



「何ぃ!? 誰が……」



 思わず振り向くが後方には誰もいない。しかし、次の瞬間にはガイアメモリが超高速で飛んでくる。



「え゛え゛え゛え゛ーっ!?」



 だが、ガイアメモリもエターナルの真横を掠めていく――



「!! まさか……」



 異常事態の連続ではあったがこの後起こる事を予見し急いで振り返る。そこには――

 赤いナスカ・ドーパントが超高速で飛び去っていくのが見えた。
 そう、エターナルが振り向く前に既にメモリはメフィストつまりはあかねの体内へと装填されていたのだ。



「そんな……待ってくれ、あかねさん……!」

 良牙は気付いたのだ、この一連のあかねの謎の行動、それは全てこの場からの離脱の為、
 それが彼女自身の意志によるものか、それとも暴走状態によるものか、あるいは邪悪な意志に操られているのか、それは良牙には知り得ない。
 だが確かな真実はたった1つ、

 良牙はあかねを止める最大の機会を逃したという事だ、

「ダメだ……あかねさん……そんな事してもあの野郎は絶対に喜ばねぇ……なびきやかすみさん、それにおじさん達だって絶対に望まねぇ……!!」

 どれだけ口にしても赤き翼は小さくなっていくだけで届く事は無い。
 追跡しようにもスピードが違いすぎる、方向音痴の良牙ではまず追い切れない。
 幸いつぼみ達の戦っている位置や街の方とは真逆なのが幸いだがそんなのは救いにすらなりはしない。

「くっ……」



 夜の闇、深い森、赤い光が消えるのにはそう時間はかからない、十数秒程度の事だ。



「あかねさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっっっっっっ!!!」



 唯々、無力な迷い子の慟哭だけが響き渡った――


332 : Pに翼/OAR ◆7pf62HiyTE :2014/04/23(水) 20:52:22 JdJSZ5lk0



 気が付いたら変身は解除していた、無意識のことだったのだろう。

 過ぎてしまえばほんの数分程度の出来事だ。少し離れた所では今でも狼怪人と2人のプリキュアは戦っているだろう。
 だが良牙は動けなかった。項垂れたまま地面を叩き続ける。


「俺は……俺は……!」


 あまりにも無力だった。
 いや、エターナルの力はあまりにも十分だ、良牙の素の力を合わせればナスカ・ドーパントを撃破する事については全く問題は無い。
 そしてメモリさえ排出してしまえばゾーンの力で回収出来るからもう悪用される事も無い。
 つまりこの場での最善は短期決戦での撃破だったのだ。

 だが良牙にはそれが出来なかった。ナスカ・ドーパントの正体があかねだと気付いた瞬間、そのまま仕掛ける事など出来なくなっていた。
 甘いと言えば否定は出来ない、だがそれを非難などできようか?
 想い人の余りにもあり得ない豹変を目の当たりにして、何かあったのかと問いかける事の何処がおかしい?
 知り合いを知らずに襲っている者の誤解を解くために変身を解除した行動はリスクがあると言えど完全に否定出来るものでもない。
 正体を知らずならばともかく、正体を知ってしまえば、下手に攻撃して大切な物を壊してしまうと思い躊躇する事など人として当たり前な感情だ――

 だが現実は甘くは無い、その甘い決断が最悪な結果を現在進行形で引き起こしているのだ。
 きっとあかねはこの後も人々を襲い続ける、哀しみが広がり続けていくだろう。
 それを止められなかったのは誰だ、他でも無い良牙自身だ、他の誰の責任でも無い。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁっっっ!!」


 後悔だけが強く残る。結局自分は同じ事を繰り返してしまうのか、誰も守れず、命が奪われるのを唯々見ている事しか出来ないのか――



 そんな時だった。



 ハーモニカの音色が響いてきたのは――



「!? なんだ……?」



 何故ハーモニカが? そういえば持ち物の中にそんなのもあった気がする。だが重要なのは誰が吹いているのかだ。



『あぁ……まさか再び吹く事になるとはな……』



「その声……テメェ、何のつもりだ」



 ゆっくりと立ち上がっていく、



『理由はわからんがこの曲を聞くと妙に落ち着くんでね……あんたに聞かせてやっただけだ……』



「……なんでテメェが此処にいる……」



 そう言いながら声の方向へと視線を向ける。



『生きているくせに死人みたいな顔をしてるあんたにな……響良牙……!』



「おい……質問に答えろ……大道克己!!」



 良牙の眼前――そこにはハーモニカを持った大道克己がいた。


333 : Pに翼/OAR ◆7pf62HiyTE :2014/04/23(水) 20:53:06 JdJSZ5lk0





PART.4 OAR

『ふっ……不甲斐ないあんたの姿を見て笑いに来た……とでも言っておこうか?』
「何ぃ……」
『冗談だ。安心しろ、今更そんな悪趣味な事をするつもりはない』
「まさか……エターナルを取り返しに来たんじゃねぇんだろうな?」
『何言ってやがる、そいつにとってはもう俺は過去の存在だ、エターナルは俺を必要としていない……』

 克己の言葉に違和感を覚える。普通逆では無かろうか? 『大道はもうエターナルを必要としていない』ではないのか?

「まるでメモリの方が主人みたいな言い方じゃねぇか」
『案外そうかもな……あんたは自分がエターナルを選んだと思っている様だが……実際はそうじゃねぇ、エターナルの方があんたを選んだ……他の連中やあんたがどう思っているかは知らねぇが俺はそう思っている……』

 克己の言葉を良牙は正直理解出来ないでいる。
 そもそも、良牙がエターナルを手にしているのは大道という主を失った事による半ば成り行き的なものだ。
 良牙自身は正直な所悪人以外ならば誰が所有しても構わなかったが、変身能力が無い事やつぼみからの勧めもあり良牙が結果的に所持する事になったというだけの話だった筈だ。

『信じられない顔をしているな。だが、さっきのメモリの動きを思い出してみろ……アレはあのメモリがあの女……あんたの彼女か知らないがソイツを選んでいるから起こった現象だ……』
「言われてみりゃ……だがアレは只のメモリじゃ……」
『さぁな、俺に言わせりゃ運命を感じたとしか言いようが無い……まぁその辺りは専門家にでも聞くんだな』
「ちっ……だがだからといってコイツもそうだとは……」
『そうか? だったら何故エターナルは俺の仲間だった京水の所に向かわずあんたの手元に在り続けた? 単純に強いだけなら他に相応しい奴など幾らでもいる……にもかかわらず何故あんたを選んだ?』
「偶然じゃねぇのか?」
『なぁ……覚えているか? 俺とZX……村雨良との最初の戦いにあんたが乱入した時の事を……』
「忘れるわけがねぇ」

 あの時、大道が変身したエターナルは良牙を仕留めようとしたが、その際に良牙自身が放った獅子咆哮弾を(ZXの援護込みではあったが)エターナルは受け一時的に動きを封じられたのだ。

『今にして思えば……あの戦い、俺がZX……村雨良に運命を感じていた様に……エターナルもあんたに運命を感じていたのかも知れねぇな……
 NEVERでもない改造人間でもない只の人間がエターナルを一度は地に伏せさせたわけだからな……』
「俺にはそれも偶然にしか思えねぇが……」
『かもな、だが偶然も重なれば運命と同じだ……まぁ信じる信じないはあんたの勝手だ……どちらにしてもあんたがエターナルの力を引き出せている事に違いは無い……』
「ちょっと待て、だが時々テメェが使った様な青じゃなく赤になる時があるぞ、アレは一体どういう事だ?」
『それぐらい自分で考えろ、船を漕ぐオールぐらい自分で探せって事だ』


 そう言って再びハーモニカを吹き始める


334 : Pに翼/OAR ◆7pf62HiyTE :2014/04/23(水) 20:53:44 JdJSZ5lk0


「おい、話を聞きやが……」
『良牙……』



 と、背後から声が聞こえる。



「この声……まさか……良か?」



 振り返るとそこには村雨良の姿があった。だが彼の死体は遠く離れた場所にあった筈、恐らく消滅した筈の大道が現れたのと同じ理屈なのだろう。
 しかし、良牙の知る彼の表情とは大分違って見えた。
 今までは何処か近づきがたい雰囲気があったが今の彼はどことなく穏やかでそして儚げな表情をしていたのだ。



「ああそうか……記憶……戻ったんだな……」



 良牙はその理由が先程彼の躰にメモリーキューブを収めたからだと察した。死んでからも効果があるかは半信半疑だったが効果があったらしい。

『ああ、良牙につぼみ……それに一条のお陰だ』
「一条……」

 良牙の表情は暗い、その一条の死には自身のミスが致命的に関わっているからだ。
 そして、今またあかねを逃した事も良牙の中で暗い影を落としている。

『助けられなかったんだな……』
「あぁ……どういうわけか知らねぇが、俺や乱馬の技は覚えているのに俺の事はまるで覚えていない感じだった……そういやアイツの名前も何故か言ってなかった気がする……」
『奪われた……か』
「ああ殺し合いに乗ったのはそれが……もう俺の声なんて届いてねぇ……ふっ……良の言う通りだったな……」
『………………そうだな……もう40人以上も奪われているんだったな……その上、今更エターナルの力があっても奪う者1人も止められない……ムチャかもな……』


 意外にも良牙の発言を素直に認める村雨である。そして、


『……じゃあ、やめるか』


 穏やかな顔で優しそうな笑顔でそう言い放った。しかし良牙には、


「………………何言ってやがる……良……記憶が戻ったら……嘘もつける様になりやがって……心にも無い事を……」


 それが嘘だとすぐにわかった。


『なぁ、良牙……他の奴等はどうか知らないが少なくとも俺はお前に救われた……』
「おいおい、俺が何時お前を救ったって……」
『お前がいなかったら俺は何もわからず、唯々奪われまいとたった一人この地を彷徨い続けていただろう……もし五代達と出会っても一緒に行く事は無かっただろうな……』

 これは仮定の話になる。もし、村雨が単身で五代雄介達と遭遇したならばどうなっていただろうか?
 五代自身は何事も無く村雨を受け入れるだろう。だが、あの時点では西条凪及び美樹さやかが同行していた事が問題になる。
 名簿に無いゼクロスと名乗る無愛想な全身が兵器の人間、そんな奴を凪やさやかはどう見る?
 恐らく完全な危険人物と警戒するだろう。五代が間に入っても凪やさやかは受け入れようとしないだろう。
 同時に村雨ことゼクロスから見てもむやみやたらと群れたりはしないのは想像に難くない。

 結果論にはなるが、良牙が同行していたお陰で、五代達と無事に情報交換を行う事が出来、溝呂木眞也によってファウストと化したさやかを巡っての凪との決裂こそあったが五代と行動を共にする事となった。

「そうか……?」
『ああ、そうして五代と行動を共にして、奴の死を看取らなかったら……ここまで奪う者から守ろうとは思わなかっただろう……そうでなければライダーマンからも敵視されていただろうな……』

 村雨は一度この地でライダーマンこと結城丈二と遭遇している。
 その時点では村雨は友の命を奪った結城達を敵視しており、一方で結城もまた村雨の連れてこられたタイミング次第では危険人物になり得ると認識していた。
 結城の推測通り村雨のタイミングはBADANを抜けた直後、それ故人々を守るという意味では信頼に値しないタイミングだった。
 更に状況的には村雨の同行者冴島鋼牙は結城の同行者涼邑零にとっての仇敵(当時はそう認識していた)、まさに一触即発の事態を引き起こしかねない状態だった。
 結果的に最悪の事態を避ける事が出来たが、その時襲撃してきたバラゴとの戦いでの村雨の立ち回り次第では結城は村雨を危険人物と断定していたかも知れない。
 そう、あの状況でバラゴよりも結城を優先したならば――
 そうならなかったのは五代達との出会いがあったのは言うまでも無い。勿論、それがなければこの状況すら起こりえなかっただろう。


335 : Pに翼/OAR ◆7pf62HiyTE :2014/04/23(水) 20:54:38 JdJSZ5lk0

『そして俺は憎んでいたその称号を受け入れ、最期にはエターナルと戦い……お前達に見送られて逝く事ができた……それが出来たのはお前達……特にお前のお陰だ……』

 そしてエターナルこと大道との決戦、仲間達の想いと共に村雨は戦い――相打ちという形で撃破、仲間達に見送られ『笑顔』で逝ったのだ。

「はっ……そんな大した事なんて……」
『いや、お前は俺に大事なものを与えてくれた……俺の名前を思い出せた……それで俺はZXではなく村雨良として戦えた……』

 それは『良牙』と『良』、同じ『良』という字が使われていたという小さな偶然に過ぎない。
 だがそんな小さな切欠がゼクロスだった村雨をほんの少し人間に戻せたと言える。

『なぁ良牙……覚えているか、確かあかねだったか……彼女が乱馬の記憶だけが奪われた時、彼女はどうやってそれを取り戻したか……』
「そうだ、あの時乱馬の野郎が暴言の数々を……」
『ああ、良牙……お前が言っていたんじゃないか……切欠さえあれば幾らでも思い出せると……俺だってメモリーキューブが無くても少しは思い出せたんだ、幾らでもチャンスは……』

 そう語る村雨は良牙達の知る村雨と違い何処か優しい。きっとこれこそが本来の村雨良なのだろう。

『良牙……判っていると思うが、あかね……彼女が恋人を生き返らせる為とは言え、その為に他人の命を奪う姿……それを見れば』
「乱馬……アイツは泣きはしねぇだろうが、きっと怒るに決まっている……」
『そう、お前にも話したが俺は時折ある女が見えていた……そう、俺にとって『大切な人』だった……姉さ……いや、あの人はずっと俺を止めようと……守ってくれていたんだろう……』
「そうだろうな……」
『だがな良牙、残念だがあの人には俺の行動を縛るだけの力は無い……目を背けるだけで簡単に振り切る事が出来る……恐らくあかねも同じだろう、その乱馬が泣いている姿を見ても目を背け続けている……』
「何が言いたいんだ?」
『彼女を本当に止められる……救えるのはあの人や乱馬の様な死んだ人間じゃない……生きている人間だけだ……わかるか、それが出来るのは良牙やつぼみ、鋼牙達といった生きている奴だけだ』
「出来るのか……俺に……」
『それは俺にもわからん……だが……何度も言う、お前は俺を救ってくれた……俺はそんなお前を信じている……』

 その言葉を最後に村雨は振り向く。

「行くのか?」
『ああ、正直恨むのも筋違いな気もするが……三影を殺された落とし前は付けなきゃならないからな……本郷と一文字、あいつらに一撃ぐらい入れてくる』
「今更復讐か?」
『そうじゃない……俺の中のケジメだ。正直あいつら相手にそうそう簡単に行くとは思え無いが……良牙、お前も負けるなよ』
「良、お前もな」

 そのやり取りを最後に良は去って行く。良牙は只、1人の盟友を見送った。


336 : Pに翼/Place〜 ◆7pf62HiyTE :2014/04/23(水) 20:57:43 JdJSZ5lk0
PART.5 Place〜

「ったく……大道といい良といい……」
『響君』
『響』



 そんな中、再び背後から声が聞こえてくる。



「まさか……五代……それに一条!?」



 眼前には五代と一条が並んで立っていた。

「五代……一条……すまない……俺の……俺の所為で……」

 良牙の中には2人に対し罪悪感があった。
 五代が死んだ戦いにおいて、良牙自身方向音痴で五代を振り回していた。
 仮にそれが無ければ溝呂木への追撃も成功していただろうし、またそれとは別にはぐれたりしなければ五代がさやかに刺される前に良牙が対応が出来た可能性もあった。
 一条に対しては言うまでも無くウェザーの力による電撃によるガドルの強化だ。それがなければ一条が敗れ去る事も無かっただろう。

 俯く良牙に対し、

『気にしないで……短い間だったけど、俺、響君と村雨さんと一緒に旅が出来て良かったと思うから……』

 意外にも五代は良牙に感謝していた。

『確かに方向音痴のお陰で道を間違えた事もあったけど……冒険なんてそんなものだって、間違えたりするからこそ冒険だから……だからこそ、目的地に着いたとき嬉しいんじゃないかな……』
「五代……」

 そうだ、五代はこういう奴だった。戦いや争いを好まない、そんな五代といられた時間は良牙や村雨にとっては確かに穏やかで楽しいものだった。

『だから『ケ・セラセラ』、なるようになるさ……響君達ならこんな悲しい戦いからきっと抜け出せるって……みんなを助ける事が出来るから……』

 変わらない笑顔で五代はそう口にする。

『五代の事、支えてくれたこと……礼を言わせてくれないか……』

 続いて一条が良牙に対しそう口にする。

「支えた? 何の話だ?」

 だが、良牙には心当たりが無い。むしろ逆だろうと思う。

『君も知っているだろう……五代は争いを好まない。だが、この殺し合いの場ではそれがどれだけ厳しい事か……君達の前では大丈夫だと笑顔で口にしていても心の中ではずっと泣いていた筈だ……』
「そうだな……だがそれと俺が……」
『さっき五代が話していただろう、響達と一緒に呪泉郷まで行く事ができたと……それは響達の友人と合流する為ではあったが、五代にとっては久々の冒険だった……未確認と戦う為にそれをしないでいた五代にとってどれだけ嬉しい事だったか……
 それに、君がこの場所でも変わらず平然と笑っている姿、それは五代にとって大きな支えになった筈だ……』
「ちょっと待て、それだけしかしていないのにか?」
『五代にとってはそれだけでもう十分だ……だからもう気にするな……』

 決して表情には出さないが、五代にとってこの殺し合いは非常に辛いものだった。
 理不尽な襲撃と人の死、人ならざる者となる非常な現実、さやかを巡っての凪との対立と決別、それは五代の心を深く締め付けていた。
 クウガの力があっても全てを救う事は出来ない。
 だが、良牙(それと村雨)と行動を共にする事が出来たのは五代にとっては幸運だった。
 どことなく楽天的な良牙と無愛想だが悪人では無い村雨との呪泉郷への旅路、無論良牙の友人と合流する事が主目的ではあったが五代にとっては争いとは関係無い久々の冒険だったのだ。
 殺し合いの中にいても何時もの調子で旅をする良牙の姿は五代にとってささやかとはいえ決して小さくない救いとなっていたのだ。
 そして何より、良牙達と行動を共にしていたからこそ最後の最後で一条と再会が出来たのだ。五代にとってはそれだけで感謝しきれない程だ。


337 : Pに翼/Place〜 ◆7pf62HiyTE :2014/04/23(水) 20:59:23 JdJSZ5lk0

『それに46号の事なら気にしなくて良い、その事を説明しなかった俺にも責任がある。
 むしろ、響が最後に与えてくれた電撃のお陰で奴に少し報いる事が出来た……だから君がそれ以上責任を感じる必要は無い……』
「一条……」

 一条もまた良牙を責める事は無い。

『むしろ、謝るのは俺の方だ……再び必ず会う、死なない、46号に勝つ、その約束を破ってしまった事……
 そして何より、46号を部外者である君達に押しつけてしまった事……中途半端な形で投げ出してしまった事、どれだけ謝っても許される事じゃない……本当にすまない……』
「顔を上げてくれ……一条……俺はあんたに謝ってもらえる資格なんてない……俺のせいでまた1人……つぼみの友達を……」
『それでも君が責任を感じるなら……1つだけ頼めるか……』
「ガドルを倒せっていうのか……」
『いや違う……俺……いや、俺と五代が望むのは……君達が笑っている事、たったそれだけだ……』
「笑う……」
『ああ、五代……そして俺は皆の笑顔を守る為に戦ってきた……だから、笑ってくれ……こんな悲しい殺し合いを打破して……皆、笑顔で元の場所に帰るんだ……
 そうでなければ……それこそ五代の戦いが報われない……だから……頼む……』

 一条は戦いを求めたりしない。その為に笑顔が失われては本末転倒だからだ。
 だからこそ願うのは『笑顔』なのだ、争いの無い世界で皆が笑っている、それこそが一条いや青空となった2人の冒険者の望みなのだ。

「ああ……今度こそ、中途半端はしない……最後の最後には笑ってやるぜ……みんな揃ってアンタ達にな……」
『頼んだぞ……!』
『負けないで……!』

 3人は同時に親指を立ててサムズアップのサインを出した。



「五代……一条……待てよ……まさか……」



 まだいるのかと思い振り返ると、



「さやか……いつき……それにスバルにティアナ……京水までいるのか……」


 10数メートル離れた先に女子制服を着た美樹さやか、九能小太刀のレオタードを着たティアナ・ランスター、その後ろで全身は見えない様に(多分全裸)顔だけ出しているスバル・ナカジマ、
 そして男子制服を着た明堂院いつきに彼女達の後ろで手を振る泉京水が良牙の方を見ていた。
 そう、彼女達は良牙が出会い死を見てきた『乙女達』である。

 だが、距離が開きすぎているのか、何を言っているのかまでは聞こえない。
 いや、むしろ今までマトモに会話できていた方が異常だったのだ、死者と話す事自体通常はあり得ない。
 彼等は何を言っているのだろうか? 良牙を励ましているのか、それとも何かを託そうとしているのか、あるいは、それすらもわからない。
 そんな中、京水の後ろに隠れていた1匹のアヒルが高く飛び上がり紙飛行機を飛ばしてきた。

「ムース……いや違う……シンケンレッドか……?」

 紙飛行機は落ちる事無く良牙の上を通過していく、

「そうか、俺はまだ飛べるんだな……」

 そのアヒルこと志葉丈瑠が紙飛行機へと込めたメッセージ、それは良牙の推測とは少し違う。
 だが、それは大した問題では無い。
 真意の解釈が間違いではあっても、それが良牙にとって支えになるのであればある意味では正解だ。
 死んだ者は最早飛ぶことは出来ない、誰を救うことも出来ない。
 だが生きているならば幾らでもやり直せる。何度でも飛ぶ事が出来るのだ。

「わかった……お前等が何を願っているのかはわからん……だから願い事を叶えてはやれない……だが、俺は今度こそ……あかねさんを救い……つぼみやなのは達を守り……このフザケた殺し合いをぶっ壊してみせる……!」

 そう皆に向かって宣言する。背後にいる『乙女達』と飛べないアヒルは笑っている様に見えた。


338 : Pに翼/Place〜 ◆7pf62HiyTE :2014/04/23(水) 21:00:32 JdJSZ5lk0



『はっ……なんだ……死んだくせに随分救われている連中じゃねぇか……どうやらあんたは知らず知らずの内に希望を与えていたらしいな……
 なぁミーナ……お前はどうだったんだ……救われたのか……それとも……?』



 その一方、ハーモニカの演奏を終え大道が天を仰ぎながら呟いている。

「大道、今までずーっとハーモニカ吹いていたのか? それに今なんて言った?」
『俺の勝手だ、それにあんたには関係無い話だ……それより顔つきが変わったみてぇじゃねぇか』
「ああ、俺はもう1人じゃねぇからな……何時までも泣いてられるか……」
『まぁあんたはどうせ筋金入りの方向音痴だ、だからこそエターナルが選んだのかもな』
「何言ってやがる、方向音痴とエターナルに何の関係がある?」
『過去に囚われる奴に永遠は微笑まない……それは下手に道を捜して迷路を抜け出せないでいる迷子と似ていると思わねぇか?』

 唐突に謎の例えを出す大道に対し良牙は疑問符を浮かべる。

「よくわからねぇ例えだな……それがどうした?」
『過去は必要ない……と俺の考えをあんたに押しつけるつもりはないが……前だけを見続ければ良いって事だ……お前は目的地に行く時、何時も前だけ見て走るだろう、まぁ間違った道だろうがな』
「ケンカ売ってんじゃねぇ!」
『だがそれで良い、前だけを見続けろ、何が起ころうとも気にするな……例えそれが一瞬であっても歩いた道筋は永遠だ、お前に助けられた奴らの様にな……』
「方向音痴じゃ目的地に辿り着けねぇだろうが……」
『わかってねぇな……何でもかんでも決められた道やレールがあると思っているのか? 未開の地にある目的地へと進む時に都合の良い道案内なんてない……
 俺のやって来た事はある意味そういう事だ……そして良牙、あんたもそういう意味じゃ俺と同じだ……
 俺は過去という道案内を失い消えつつある現在だけを以て進み足掻き続けた、
 あんたはそもそも道無き道をがむしゃらに前だけを見て走り続ける、つまりはそういう事だ』
「そうか……エターナルが青くなったり赤くなったりしたのは……」

 思い返せば、初めてエターナルに変身した時、一条とつぼみを守りたいという一心だった。だからこそその炎は青かった。
 ガドルとの戦いの時も眼前の敵を倒す為、だからこそ青かった。
 しかし突如赤くなったのは自身の失敗による後悔の念によるものだ。
 その後再び青くなったのはいつきの死の衝撃と無念さ、そして怒りの感情から後悔の念が消し飛んだからだ。
 狼野郎と戦った時青かったのもつぼみ達を守る為だった。
 そして、あかねとの戦いで赤くなったのは正体があかねだと知り迷いが生じたから、そしてその後も赤かったのはあかねを止められなかった後悔からだ。

『どうやら、漕ぎ出す為のオールは見つかった様だな……勿論、これは俺の仮説だ……だが的を射ていると思うぜ……過去も未来も関係無い、現在だけを全力で刻み込める奴だけが永遠を手に入れられる……だから良牙……進め』
「大道……結局教えてくれるんじゃねぇか……」
『はっ、俺を倒し永遠を手に入れた奴等がこんな所で無様な姿を晒すのを黙って見ていられなくなっただけだ……只の気まぐれだ……アンタが気にする事じゃねぇ』
「礼は言わねぇぜ」
『いらねぇよ』



 そう言って良牙は振り返る。



『行けよ響良牙……いやエターナル、人々の新たな希望になってみせろ……』
「ああエターナル……いや大道克己、地獄の底から見ていろよ……」
『あぁ、そしてエターナルのメモリ……今まで付き合ってくれてありがとな』
「じゃあな……もう、二度と会うことはない……」



 そして良牙は歩き出す――まぶしい光が差す場所へと――












『……よかったんですか乱馬さん、良牙さんにあかねさんの事頼まなくて』
『けっ、誰がアイツにそんな事頼むかよ、俺はフヌケたツラしてるあの野郎を笑うつもりだっただけだ』
『ふぅ……心にも無い事を……』
『うるせぇ……それよりアインハルトこそ良かったのか? ヴィヴィオの事良牙に頼まなくて……』
『いいんです……あの子……ヴィヴィオさんは私が思っているよりもずっと強いですから……一人でもきっと大丈夫です……それに良牙さんだって頼まれなくてもきっとヴィヴィオさんの事守ってくれると思いますから……』
『そうだな……何っつったって良牙は……アイツが思っている以上にセンチでいいやつだからな……』


 その言葉を最後に遠くで見ていたおさげの少年は振り返る。


『じゃあな……負けるなよ……Pちゃん……!!』


339 : Pに翼/Place〜 ◆7pf62HiyTE :2014/04/23(水) 21:01:17 JdJSZ5lk0











PART.6 良牙 現実に帰る

「……ん、ここは?」

 気が付くと暗い森の中だった。遠くでは未だ戦いの音が響いている。

「夢か……」

 先程までの現象は何だったのか? 恐らく最初にエターナルとZXの戦いの中で死にかけてシャンプーと遭遇したのと似た現象だったのだろう。
 激闘による消耗からほんの僅か意識を失った、それによる不思議な現象だと解釈することにした。

 ともかく意識を失った時間はたかだか1,2分程度、早々に態勢を整える必要がある。周囲を見るとデイパックから幾つかものがこぼれている。その中にはハーモニカもあった。

「こいつは……克己が吹いていたハーモニカか……」

 そのハーモニカを拾い上げる。その最中、

「……ん、デイパックの数、少なくねぇか?」

 周囲を見渡す限りデイパックの数が2個ほど足りない事に気が付いた。

「まさか、あかねさんが……待てよ、どのデイパックを持って行かれた……?」

 その最中、あるものを見つける。

「警察手帳……一条のか……確か……」

 呪泉郷での騒動の後、一条は多少濡れた警察手帳を懐に入れずに自身のデイパックにしまっていた。

「持っていかれたのは一条の……」

 そして大まかに確認した所奪われたデイパックの1つは一条のものだという事を確認した(ちなみにもう1つは速水克彦のもの)。

「!! 確かあの中には……」

 良牙は大事な事を思い出す。一条のデイパックにはある重要なものが入っていた。
 そしてそれによる最悪な展開を予見してしまう。

「あかねさん……!!」

 正直、今にも胸が張り裂けそうだ、だがもう俯くつもりはない。例えあかねが『それ』を使ったとしても、必ず取り戻す事を誓ったのだ。五代や一条のパターンだってある、今更絶望する理由にはなり得ない。
 そんな中、あかねがいた所に妙な箱が落ちているのを見つけた。

「ん、なんだこりゃ……イービルテイル……只のハケじゃねぇか……『さえこ、わかな、らいと』……どっかで聞いた名前だが……まあいい、それよりもつぼみとなのはが心配だ……あいつらの所に戻らねぇと……」



 その時、



『Why does the name of "Nanoha" come out!?(何故、『なのは』の名前が!?)』



 声が響いてきた。



「!? 誰だ?」


 周囲を見渡すと、すぐ近くに金色の三角形の物体があった。



「!! ……まさか……お前、マッハキャリバーの仲間か」
『Mach Calibur? Who is it?(マッハキャリバー? 何ですかそれは?)』
「レイジングハート……いや、バルディッシュか?」
『Why does it know my name?(何故私の名前を?)』
「あかねさんが持っていたのか……おい、時間が惜しい、手っ取り早く話してもらうぞ」


340 : Pに翼/Place〜 ◆7pf62HiyTE :2014/04/23(水) 21:02:08 JdJSZ5lk0





PART.7 あかね変身

 良牙は一条にこんな事を聞いた事があった。

『そういや一条、あの遺跡で見つけたアレ、クウガのベルトだって言っていたが……そいつを着ければクウガになれるって事か』
『あのベルトがクウガのベルトと同一であるとするならそういう事になる……だが実際の所は調べてみないと何とも言えない所だ……』
『そうか……』
『ただ、他の誰にも着けさせるつもりはない……その理由はわかるな』
『ああ……一度身につけてしまえば……元に戻れなくなるって事だからな……一条、あんただってもう……』
『いや、俺はとっくの昔に覚悟はできている。だから気にしなくて良い……』
『ならいいが……ん、だったら悪用されない様に壊した方が良いんじゃねぇか?』
『悪用か……確かにその懸念はある……クウガと同一ならば恐らくは問題無いと思うが……』
『どういう事だ?』
『五代の様な心清く健やかな躰を持つものでなければならないからだ』
『要するに、五代や一条の様な奴じゃなきゃ使えないってことか……なる程それなら殺し合いに乗った奴は使えないな……』
『だと良いが……』
『ん、何か言ったか?』
『いや、なんでもない……(だが、もしその前提が無いとするならば……いや、それ以前に……その条件を満たした者が何かの理由で殺し合いに乗っているとするならば……一見矛盾している様に見えるが、その矛盾がクリアされるならば……)』



 先に天道あかねについて起こった異変について解説しておこう。
 まず、先の戦いの際、あかねの精神は致命的なレベルにまで追い詰められていた。
 エターナルの使った技、それはあかねが自ら封印している良牙のものだったからだ。
 だが、あくまでも眼前にいるのは永遠の悪魔エターナル、ここであかねの鈍さが上手く作用してくれた。
 あかね自身、エターナルが良牙の技を使ってもすぐさま同一人物だと結びつけられなかったのだ。
 普通の人ならば覚えた違和感から推測する事は十分に可能だが、あかねにはそれが出来なかったのだ。いや例えどれだけヒントを出してもあかねは気付かないだろう、それだけ鈍いのだ。
 だからこそ先に正体に気付いた良牙は変身を解除し正体を晒した、そうする事でしか自身の存在を確認させる事が出来なかったからだ(ただ、あかねの場合、ここまでやってもまだ致命的な勘違いをして気付かない可能性があるのが恐ろしい所)。
 そしてそれはある意味では成功した。だが、それは決して成功させてはいけなかったのだ。

 あかねが記憶を封印したのは、乱馬達の為に凶行に及ぶ事を乱馬達が望まない為、乱馬達の想いを穢さない為に関係無いと引き離した事によるものだ。
 つまり、あかねにとっては乱馬と良牙の存在を思い出してはならないのだ。乱馬と良牙に、人々を泣かせる悪魔となった自身の姿を見られたくなかったのだ。
 それ故に、知らない様な反応を見せたのだ、もしかすると本当に忘れていたかの様に見えるかも知れないが――

 だかそれがどれだけ精神に負担をかける? それでなくてもガイアメモリの乱用で汚染は大分進んでいる。その状態で無理矢理思い出す切欠を与えたら――
 思い出すのを拒否するために更に精神に負担をかけて――そのまま限界を超えて崩壊してしまうだろう。
 そして、ナスカの力を制御出来ずに暴走した。言ってしまえばそれだけの話だ。

 とはいえ、それだけで良牙に勝てるわけも無い。
 いや、あかねが知る範囲の良牙ならともかく、今の良牙はあかねは勿論ではあるが、他にも守りたい仲間がいる。その上、先程自身の失敗で仲間を死なせている以上、絶対に落とせない状況に追い詰められていた。
 その結果、地に伏せられたという事だ。

 何度も語られている事だがあかねの身体は度重なる激闘、ナスカのレベル3の乱用でボロボロとなっていた。ある意味生きているのが不思議なぐらいな状態、ゾンビに近いと言っても良い。
 そして、屍に近い状態で精神が限界を超え、ある者に植え付けられた闇が芽吹いたのだ。
 そう、闇の体現者ダークファウストとなったのだ。

 だが、仮にファウストとなった所で限界を超えたあかねでは良牙を屠る事は出来ない。
 赤い炎のエターナル、通称レッドフレアが幾ら本来の力を発揮出来ないとはいえ通常のWやアクセル並の力はある。良牙の能力を加味しても負ける可能性は低い――


341 : Pに翼/Place〜 ◆7pf62HiyTE :2014/04/23(水) 21:04:07 JdJSZ5lk0


 が、ここで誰も知り得ない奇跡的な偶然が起こったのだ。


 あかねにファウストの力を植え付けたのは黒岩省吾、闇の力を得て闇黒皇帝と自称した彼はあかねを配下に加えこの殺し合いを勝ち抜こうとしていた。
 ただ、実際はそこまで都合良く話は動かない。間の抜けた話ではあったが、黒岩は早々にあかねを見失っていた。
 とはいえ闇黒皇帝がその程度でめげるわけもない。早々に頭を切り換え放送に怒りを覚えつつ街へと向かっていた。


 そして、黒岩は中学校にて宿敵涼村暁との決闘に挑んだ――


 黒岩の裏切りに対し暁の怒りは凄まじく、加えて持ち前の機転(ヒーローとは言い難いずる賢さともいう)もあり圧倒されていた。

 だが、黒岩はそんな暁に対し闇黒皇帝としての力、そうメフィストの力を繰り出した――
 その力は絶大、普通に考えれば暁の敗北は必至――

 しかし暁はダークザイドとしての誇りさえも捨て去った黒岩に激怒した、仲間達の協力すらも拒否し自らの力だけで挑もうとした。

『この俺のライバルは、暗黒騎士ガウザーだ!! ダークメフィストなんかになっちまったお前に、この俺の……超光戦士シャンゼリオンの、ライバルを名乗る資格はねえッッ!!!! お前に倒されても、俺は負けを認めねえッッ!!』

 その言葉が黒岩の心を震わせ奇跡を起こした――黒岩は自身の中の完全な異物、つまりメフィストの闇の力を全て振り払ったのだ。
 黒岩にその力を与えた存在、敢えて『アンノウンハンド』と呼ぼうか、彼すらもあり得ないと称した現象だ。
 そして、『アンノウンハンドが与えた力は全て』彼の元へと戻った――

 しかし、黒岩の野心は強く闇の力は膨れあがっていた。そう、与えた力以外の余剰の闇の力が存在していたのだ。
 『アンノウンハンド』すらあり得ないと断じた現象、それ故彼すらも読み切れなかった事が起こったのだ。
 そう、黒岩と闇の力が繋がっているあかねにその力が流れ込んだのだ。

 つまり――メフィストの力はあかねの方へと宿ったという事だ。
 故に、ファウストと化したあかねはそのままメフィストへと変貌した。それだけ闇が深かったと言っても良い。
 無論、これは通常では起こりえない現象だ。しかし、前述の通り通常ではあり得ない現象が起こっている、それがどのような結果を引き起こしても不思議ではないだろう。

 ともかく長々と説明したが、要するにあかねは新たなメフィストとなった、纏めるとこういう事である。

 メフィストと化したあかねにどれだけの自意識があったかは不明。しかし、あかねは冷徹なまでにこの場を切り抜けようとした。
 そう、良牙の所持していたデイパックを幾つか奪い、ナスカの力で高速離脱を行ったのだ。
 レベル3となったナスカのスピードは10数キロ程度の距離を僅か数分で移動できる。

 元の姿に戻った時、そこは彼女にとっての約束の地、呪泉郷だった。

「はぁ……はぁ……」

 だが、あかねの意識は朦朧としていた。
 無理も無い、それでなくても限界を超えていた所に闇の力を更に受け、その上でナスカの力を使ったのだ。
 それでも所持品を並べて中身の確認をする。その中にはメフィストの力を引き出すダークエボルバーもあるが気に留める余力は無い。
 ウルトラマンの光、それを奪えと声が聞こえるがそんな事に構っていられる余力は無い。

 手に入れた道具を見たがめぼしいものは殆ど無い。ライダースーツはともかく、今更梅干しやムカデのキーホルダー、それに印籠やディスク、おまけに本を出されても正直困る。がらくたと言っても良い。


342 : Pに翼/Place〜 ◆7pf62HiyTE :2014/04/23(水) 21:04:29 JdJSZ5lk0



 が、その中であるものを見つけた――



「ベルト……」



 それを手にした瞬間、何か大きな力を感じた――



 確信があった。この力があればガドル、そしてダグバを倒し『みんな』を守れると――



 気が付けばベルトを腹部へと装着していた――



 そして程なくベルトはあかねの体内へと同化していった――



 ベルトに宿る聖なる石があかねの願いに反応し全身へと神経を伸ばしていく――



 天道あかねはあまりにも純粋だった――



 そして、殺し合いを好む様な残虐なわけもなかった――



 血生臭い争い事とは無縁の騒がしくも楽しい日常を愛する者達と送っていた――



 そして、格闘家故に健やかなる躰とそれなりに誰かを守りたいという感情もあった――



 そして何より――理不尽な暴力に対する無念があった――



 そう、『条件』は全てクリアされていたのだ。



 一条、そして良牙が懸念した最悪な状況への――



 消耗したあかねの躰の状態、それに加えあかねには頑固なまでの強い意志があった。
 故に、アマダムが彼女の躰を作り替えるのにはそう時間はかからない――



 そして今、夜の星に照らされて、呪泉郷の畔にて1人の戦士が復活した――



 ゴ・ガドル・バとの戦いで完全に失われたクウガ、それより前に作られたもう1人の、プロトタイプのクウガ――



 プロトタイプ故の仕様かあかね自身の精神の問題か、その姿は本来のクウガの赤ではなく白、角も本来のそれとは違い短い――



 それでも単純なパワーだけで言えば本来のクウガと比べて劣るものではない、
 しかし、プロトタイプ故に不完全。そう、致命的な欠陥を抱えていたのだ。
 元々その力に精神的な要素が強く関わるクウガ、それ故に持ち主が闇に染まれば元々構造の近いグロンギと同じ存在となってしまう。
 無論それはリントを守るという意味では本末転倒、故に安全装置が組み込まれていたのだ。究極の姿とその危険性を警告する形で――
 だが、プロトタイプのそれには安全装置が存在しない。つまり全てを闇に葬る存在となる危険性が高いという事だ。
 だからこそのプロトタイプ、その危険性があるからこそ後に作られたクウガには安全装置が組み込まれたという事だ。

 もっとも、仮に安全装置があろうと無かろうと、あかねがその警告に従うかどうかは全くの別問題だ。
 これは別に頑固なあかねに限った話ではない、五代以外の世界に存在するクウガ、そのクウガは他の要因があるとはいえ凄まじき戦士の姿を晒し、またある時はそれすら凌駕する姿となったのだ。
 つまり、クウガという存在は決して安全な存在ではないという事だ。一条はそれを知っていた。だからこそその懸念を最期まで持ち続けていたのだ。


343 : Pに翼/Place〜 ◆7pf62HiyTE :2014/04/23(水) 21:05:06 JdJSZ5lk0



 躰の調子が軽い――これでもうガドルにもエターナルにも負けやしない――



 今度こそ、『みんな』との日常を取り戻せる――



 何か大事な事を忘れている様な――そんな空しさを感じながら――



「アァァァァァァンンンンンンンアァァァァァァァッッッッッ!!!」



 その叫びはどんな意味だったのだろうか?



 こんな展開は他の誰も望んでいない――皆、あかねを止めようと声を届かせようとするだろう。



 だが、あかねは他者の声に一切耳を傾けず、自分だけの世界を守る為、たった1人堕ちていく――



 茜色の天の道は――深い奈落の底へと続いていた――



【1日目/夜中】
【C-7/呪泉郷】

【天道あかね@らんま1/2】
[状態]:アマダム吸収、メフィストの闇を継承、肉体内部に吐血する程のダメージ(回復中)、ダメージ(極大・回復中)、疲労(極大)、精神的疲労(極大)、胸骨骨折(回復中)、 とても強い後悔と悲しみ、ガイアメモリによる精神汚染(進行中)、伝説の道着装着中、自己矛盾による思考の差し替え、プロトタイプクウガに変身中
[装備]:伝説の道着@らんま1/2、T2ナスカメモリ@仮面ライダーW、T2バイオレンスメモリ@仮面ライダーW、二つに折れた裏正@侍戦隊シンケンジャー、ダークエボルバー@ウルトラマンネクサス、プロトタイプアークル@小説 仮面ライダークウガ
[道具]:支給品一式×2(あかね、溝呂木、一条、速水)、首輪×7(シャンプー、ゴオマ、まどか、なのは、流ノ介、本郷、ノーザ)、女嫌香アップリケ@らんま1/2、斎田リコの絵(グシャグシャに丸められてます)@ウルトラマンネクサス、拡声器、双眼鏡、インロウマル&スーパーディスク@侍戦隊シンケンジャー、紀州特産の梅干し@超光戦士シャンゼリオン、ムカデのキーホルダー@超光戦士シャンゼリオン、滝和也のライダースーツ@仮面ライダーSPIRITS、『長いお別れ』@仮面ライダーW、ランダム支給品1〜2(溝呂木1〜2)
[思考]
基本:"東風先生達との日常を守る”ために”機械を破壊し”、ゲームに優勝する
0:何処に向かう?
1:ガドルを倒す。
2:ダグバが死んだ……。
3:ネクサスの力……
[備考]
※参戦時期は37巻で呪泉郷へ訪れるよりは前、少なくとも伝説の道着絡みの話終了後(32巻終了後)以降です。
※伝説の道着を着た上でドーパント、メフィスト、クウガに変身した場合、潜在能力を引き出された状態となっています。また、伝説の道着を解除した場合、全裸になります。
また同時にドーパント変身による肉体にかかる負担は最小限に抑える事が出来ます。但し、レベル3(Rナスカ)並のパワーによってかかる負荷は抑えきれません。
※Rナスカへの変身により肉体内部に致命的なダメージを受けています。伝説の道着無しでのドーパントへの変身、また道着ありであっても長時間のRナスカへの変身は命に関わります。
※ガイアメモリでの変身によって自我を失う事にも気づきました。
※第二回放送を聞き逃しています。 但し、バルディッシュのお陰で禁止エリアは把握できました。
※バルディッシュが明確に機能している事に気付いていません。
※殺害した一文字が機械の身体であった事から、強い混乱とともに、周囲の人間が全て機械なのではないかと思い始めています。メモリの毒素によるものという可能性も高いです。
※黒岩が自力でメフィストの闇を振り払った事で、石堀に戻った分以外の余剰の闇があかねに流れ込みメフィストを継承しました(姿は不明)。今後ファウストに変身出来るかは不明です。
 但し、これは本来起こりえないイレギュラーの為、メフィストの力がどれだけ使えるかは不明です。なお、ウルトラマンネクサスの光への執着心も生じました。
※二号との戦い〜メフィスト戦の記憶が欠落しています。その為、その間の出来事を把握していません。但し、黒岩に指摘された(あかね自身が『機械』そのものである事)だけは薄々記憶しています。
※様々な要因から乱馬や良牙の事を思考しない様になっています。但し記憶を失っているわけではないので、何かの切欠で思考する事になるでしょう。
※ガミオのことをガドルだと思い込んでいます。
※プロトタイプアークルを吸収したため仮面ライダークウガ・プロトタイプへの変身が可能になりました。


344 : Pに翼/Place〜 ◆7pf62HiyTE :2014/04/23(水) 21:05:48 JdJSZ5lk0





PART.8 獅子に翼

「そうか、フェイトとユーノを殺したのもガドルの野郎か……ともかくこれでレイジングハートの誤解が解けるな……」
『Her name to her...(彼女の名前が彼女に……)』

 良牙とバルディッシュは大まかに情報交換を済ませた。
 最初はあかね(及びパンスト太郎)の知り合いだった事もありバルディッシュは警戒していたが良牙の口にした『なのは』の名前が気に掛かり思わず反応してしまい接触してしまったのだ。
 急を要する状況だったが両名にとって意義はあった。
 バルディッシュの話によるとフェイト・テスタロッサ達がガドルに殺された後、2度目の放送後あかねによって回収された。
 その後、あかねは2号を仕留め今度はある参加者に仕掛けたが敗北、その後森を彷徨い良牙達に仕掛けたという話だ。
 だが問題はその参加者だ。あかねはその参加者によってファウストにさせられたという事を良牙は把握したが、

「なぁ、バルディッシュ……もう1度聞くがあかねさんをファウストにしやがったのは溝呂木じゃなかったんだな?」
『He had declared himself darkness emperor Mephisto.(闇黒皇帝メフィストと名乗っていました)』
「溝呂木がそんな古いセンスな名乗りするわけねぇしなぁ……」
『He had called "Newly acquired power"(『新たに得た力』と言っていました)』
「……? 新たに得た力? それじゃまるでその野郎はついさっき溝呂木の力を手に入れたみたいじゃねぇか……待てよ……」

 この時、良牙はある思い違いをしていたのではと考えた。
 今まで良牙含めた多くの者は溝呂木が諸悪の根源だと考えていた。随分前につぼみが溝呂木を説得しようとしたが割と本気で呆れていたのが正直な話だ。だが、

「(もし、溝呂木の野郎が持っていた力、メフィストも誰かから与えられたものだったとしたら……溝呂木の野郎もスバル達と同じ被害者って事になるじゃねぇか……)」

 そう解釈するならばつぼみの行動はある意味では正しい事になる。
 とはいえ、仮にそうでも今更溝呂木を許すつもりは全く無い。しかし重要なのはそこではない。

「(で、誰だか知らねぇが、あかねさんをファウストにしやがった闇黒皇帝はメフィストの力を新たに得たって話だ……という事は……)」

 導き出される結論は

「(メフィストの力を与えた奴がいるって事じゃねえか……そいつが全ての元凶……)」

 多くの参加者を苦しめた溝呂木、そしてあかねをファウストに変えた闇黒皇帝、彼等に力を与えた存在が参加者の中にいる事に気付いたのだ。

「(つまりそいつが本当の元きょ……)」

 が、ここである事に気が付いた。


345 : Pに翼/Place〜 ◆7pf62HiyTE :2014/04/23(水) 21:06:50 JdJSZ5lk0

「(ちょっと待て、それおかしくねぇか? 何でそれだけの事が出来る奴が参加者にされているんだよ……いやそれ以前にガドルやドウコクの様な連中もいる……
  大体呪泉郷がこの島にあるのだっておかしいじゃねぇか……
  そんな連中をこの殺し合いに巻き込んで殺し合いをさせようとして、呪泉郷まで用意する奴は一体どんな野郎なんだ!?)」

 そう、メフィストの力を与えた存在、ガドルやドウコクすらも掌の上で転がせる者、それがこの殺し合いを司る真の黒幕なのだ。
 その異様にして強大な存在に良牙は気付いたのだ。

「(まずいぜ……ガドルやそいつを倒せば済む話じゃねぇぞ……どうすれば……)」

 だが悩んでいる間にも戦いの音は遠く響いている。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーっっっ!! ええい考えていても仕方ねぇ、後で左やつぼみになのは、それに冴島に考えてもらえば良い」


 正直考えたってどうにもならない。仲間ならきっと良い答えを出してくれるだろう。そう結論づけた。


『It asks once again, Mr.Left and Ms.Kyoko are safe?(もう一度聞きますが、左と杏子は無事なのですね?)』
「ああ、左とはさっき会ったから間違いねぇぜ、杏子の方は話に聞いただけだが警察署にいるらしい……(あれ、そういや五代が『杏子ちゃんについては気をつけた方が良いかも知れない』って言っていた様な……まいいか)」
『(Had not it ridden?(……あれ? 乗ってなかったっけ?))』

 ちなみにバルディッシュは佐倉杏子が殺し合いに乗っていて翔太郎達を利用していたと認識しており、
 良牙も方も五代から杏子については少し気をつけた方が良いという注意を受けていた。
 これはさやかが杏子が危険人物だと五代に伝えた事が原因で、五代はそこまで杏子を悪人と断じたくなかったがさやかの事も信じていたため念の為注意したという話だ。
 ともかく、バルディッシュはパンスト太郎やあかねの事もあってから警戒していたが実際に話してみた所、良牙はそれなりに信頼出来る人物だと判断した。

「まぁいい、ともかくつぼみやなのは達を助けに行く。バルディッシュ、付き合ってくれ」
『Yes』



 そして良牙はメモリを作動させ、



――Eternal――



「変身……!」



 ドライバーへと挿入、



――Eternal――



 その音声と共にエターナルへと変身した、その炎の色は――青、



 だが、今更その事に一々反応したりはしない。
 大道は運命と言っていたがそんな言葉で片付けるつもりはない。
 運命だというのならあかねが闇に墜ちる事も運命だったという事になる。
 そんな運命、絶対に認めてなるものか、だからこそその運命の道すらも振り払い進み続けるだけだ。



「方向音痴の俺じゃまずこの距離でも辿り着けねぇだろうが……」



 取り出したる1本のメモリ、



――Weather――



 気象の力を宿すメモリを作動させる。



――Weather Maximum Drive――



 気象というのは雷に限らない、冷気、熱気、風、雨、ありとあらゆる現象が存在する。その1つを使い竜巻を発生させ自身に纏う。
 そう、竜巻の力で自ら上空へと飛び上がるのだ。



 良牙が考えた秘策、それは上空から現在進行形で戦う3人を見つけ出し空中から駆けつけるという方法だ。
 目的地が明確に見えれば幾ら筋金入りの方向音痴な良牙でも辿り着ける。万が一間違える可能性があってもバルディッシュがサポートしてくれる。
 ナスカ・ドーパントによって分断されてから約15分、まだ間に合うだろうが一刻の猶予も無い。



「何処だ……つぼみ……なのは……ブロッサム……ムーンライト……」



 獅子咆哮弾――それは不幸を呼ぶ技だ。
 それ故に、それを会得した者は崖から蹴落とされる獅子の如く、深い奈落の底へと堕ちていく。



「(あかねさん……今は貴方を追う事は出来ない……他にも守らなきゃならない奴等がいるから……だが、何時か必ず……あかねさんを闇から救い出し……笑顔を取り戻してみせる……!!)」


346 : Pに翼/Place〜 ◆7pf62HiyTE :2014/04/23(水) 21:08:10 JdJSZ5lk0



 だが今の良牙はもう1人ではない、仲間達の想いがある、それに応えるのだ――



 想いは翼となり、獅子へと与えられる。



 獅子は高く飛び上がり、果て無き道を進む――



 過去も未来も省みず、現在だけを見て走り続けた――



 進み続けた道は間違いでは無かった。



 その道程は輝いていた――永遠に――



「見つけたぜ……あそこか!!」



 仲間達の声は響き渡り、良き牙と成りて空を舞う――



【D-8/森上空】

【響良牙@らんま1/2】
[状態]:全身にダメージ(大)、負傷(顔と腹に強い打撲、喉に手の痣)、疲労(大)、腹部に軽い斬傷、五代・乱馬・村雨の死に対する悲しみと後悔と決意、男溺泉によって体質改善、デストロン戦闘員スーツ着用、仮面ライダーエターナルに変身中
[装備]:ロストドライバー+エターナルメモリ@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(ゾーン、ヒート、ウェザー、パペティアー、ルナ、メタル)@仮面ライダーW、バルディッシュ(待機状態、破損中)@魔法少女リリカルなのは、
[道具]:支給品一式×14(食料二食分消費、(良牙、克己、五代、十臓、京水、タカヤ、シンヤ、丈瑠、パンスト、冴子、シャンプー、ノーザ、ゴオマ、バラゴ))、水とお湯の入ったポット1つずつ×3、志葉家のモヂカラディスク@侍戦隊シンケンジャー、ムースの眼鏡@らんま1/2 、細胞維持酵素×6@仮面ライダーW、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、歳の数茸×2(7cm、7cm)@らんま1/2、デストロン戦闘員マスク@仮面ライダーSPIRITS、プラカード+サインペン&クリーナー@らんま1/2、呪泉郷の水(娘溺泉、男溺泉、数は不明)@らんま1/2、呪泉郷顧客名簿、呪泉郷地図、特殊i-pod、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、バッドショット+バットメモリ@仮面ライダーW、スタッグフォン+スタッグメモリ@仮面ライダーW、テッククリスタル(シンヤ)@宇宙の騎士テッカマンブレード、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW、まねきねこ@侍戦隊シンケンジャー、黒子の装束@侍戦隊シンケンジャー、『戦争と平和』@仮面ライダークウガ、双眼鏡@現実、ランダム支給品1〜6(ゴオマ0〜1、バラゴ0〜2、冴子1〜3)、バグンダダ@仮面ライダークウガ、evil tail@仮面ライダーW、警察手帳
[思考]
基本:天道あかねを守り、自分の仲間も守る
0:バルディッシュと共に狼野郎(ガミオ)、つぼみ、“なのは”の戦いの場に戻る。
1:つぼみ、“なのは”とともに警察署に向かう。
2:あかねを必ず助け出す。仮にクウガになっていたとしても必ず救う。
3:誰かにメフィストの力を与えた存在と主催者について相談する。
4:いざというときは仮面ライダーとして戦う。
[備考]
※参戦時期は原作36巻PART.2『カミング・スーン』(高原での雲竜あかりとのデート)以降です。
※夢で遭遇したシャンプーの要望は「シャンプーが死にかけた良牙を救った、乱馬を助けるよう良牙に頼んだと乱馬に言う」
「乱馬が優勝したら『シャンプーを生き返らせて欲しい』という願いにしてもらうよう乱馬に頼む」です。
尚、乱馬が死亡したため、これについてどうするかは不明です。
※ゾーンメモリとの適合率は非常に悪いです。対し、エターナルとの適合率自体は良く、ブルーフレアに変身可能です。但し、迷いや後悔からレッドフレアになる事があります。
※エターナルでゾーンのマキシマムドライブを発動しても、本人が知覚していない位置からメモリを集めるのは不可能になっています。
(マップ中から集めたり、エターナルが知らない隠されているメモリを集めたりは不可能です)
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※つぼみ、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※男溺泉に浸かったので、体質は改善され、普通の男の子に戻りました。
※あかねが殺し合いに乗った事を知りました。
※溝呂木及び闇黒皇帝(黒岩)に力を与えた存在が参加者にいると考えています。また、主催者はその存在よりも上だと考えています。
※バルディッシュと情報交換しました。バルディッシュは良牙をそれなりに信用しています。


347 : ◆7pf62HiyTE :2014/04/23(水) 21:10:58 JdJSZ5lk0
投下完了しました。
ちなみに『冒険者の物語』〜『風花の物語』の状態表を確認した所、プロトタイプアークルと警察手帳がどうなっていたのか記述されていませんでしたが、
本編の内容を見る限り一条の所持品は良牙が所持しているという描写になる為、今回の話ではその前提で描写した事を明言しておきます。

他に、何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。

wikiへの収録に関してはストーリーの区切りの関係で2分割収録でお願いします。

>>323-335(PART.1〜4)が『Pに翼/OAR』
>>336-346(PART.5〜8)が『Pに翼/Place〜』

以上の通りとなります。


348 : 名無しさん :2014/04/23(水) 22:31:13 vEves6Ck0
投下乙
プロトクウガに変身したのはあかねか…また厄介なことになったな


349 : 名無しさん :2014/04/23(水) 22:33:24 eBAZ4V4Q0
投下乙です。
ようやく良牙とあかねは再会できたと思ったら、まさかこんなことになるとは……
あかねもあかねでやばいことになっているし、彼女は本当にどうなるのかな?


350 : 名無しさん :2014/04/24(木) 01:45:54 L3eMGmsE0
投下おつです
あかねがますます酷いことに…
なんかスバルを思い出す
良牙がんばれ超がんばれ!とりあえず迷子で遅刻はやめてぇ


351 : 名無しさん :2014/04/24(木) 13:03:05 UiXm/f1wO
投下乙です。

今のあかねは力を求めてるから、あっという間に黒くなっちゃいそうだな。

良牙と死者の会話は、フレプリを思い出す。
敵がいるのは、ラビリンス。
迷宮は出口が決まっていて、他の道は選べない。迷子なんて排除される。
しかし、プリキュアの住む商店街は、どの店をどんなルートで通ったって自由。間違った道なんて存在しない。


352 : 名無しさん :2014/04/25(金) 01:48:03 gg55OPA.0
予約キャラの追加きたー!


353 : ◆gry038wOvE :2014/04/27(日) 22:16:07 Befvl..s0
ただいまより、予約分の一部を投下します。

今日の登場キャラクターは、蒼乃美希、沖一也、高町ヴィヴィオ、孤門一輝です。


354 : Waiting for Girl ◆gry038wOvE :2014/04/27(日) 22:16:46 Befvl..s0



 蒼乃美希は時計を見つめていた。時間はまだ九時十五分。彼女は、別室からマットやソファを持ってきて、就寝の準備をしていた。何も美希だけが寝るわけではない。ヴィヴィオやいつきの分も用意していた。
 マットは体操用のやや固い材質だ。少女が寝るには少し乱暴な寝具だが、早朝まで寝続けるわけにもいかない。このまま仮眠を取るには充分だろう。
 それを広げて、掛布団を用意する。警察署というのは、時たま泊りがけになる人間が出てくるような場所であるため、こうして毛布などの簡単な寝具は用意されている。あまり綺麗ではない薄い毛布だが、まあ、せめてこうした物を使う事にしよう。
 時刻は九時十五分。美容のためにはそろそろ寝た方がいい時間だが、そう眠気が出るほどでもなかった。晩飯は軽食とはいえ口に運んだが、風呂には入っていない。……まあ、シャワー程度になってしまうかもしれないが。

「えっと、このくらいかな……うーん」

 孤門の肩幅より少し広げた程度の間隔で、ヴィヴィオは距離を測る。ヴィヴィオは、ソファを運ぶために大人モードに変身している。簡易的な作業に使う程度の魔法だ。骨折した左腕を使わなくても、右腕だけで軽い運搬はできる。
 この警察署で現在、共に眠る事になるであろう人数は、蒼乃美希、高町ヴィヴィオ、孤門一輝、沖一也、佐倉杏子で五名。それに、後から来る人間としては、明堂院いつき、左翔太郎、花咲つぼみ、響良牙、一条薫、冴島鋼牙がいる。とはいえ、せいぜいこの中から二人の見張りを除いた人数で睡眠を取る事になるだろうから、既にいる人数よりも多めに寝られるはずだ。どうやら、一つのマットで三人分のスペースは確保できているようだが、足はおそらく床の上だ。贅沢は言えない。唯一贅沢な寝方が出来るのは、せいぜいソファで寝る一人だけだろう。
 ここまで二十一時間、基本的には睡眠を取る事を知らずに行動してきた。そろそろ頭が少しだけぼんやりとしてきた感じもする。睡眠を取るに越した事はないが、基本的に睡眠を取る必要がない沖一也のような人間は心強いが、孤門や美希も少しずつ寝ていればそのくらいの役割は果たせるだろうし、一人よりは二人以上で見張りをした方がいい。

「だいたい、七人くらいならギリギリ寝られます」

 現状なら七人眠れれば充分だ。睡眠をとらない沖を除いて十名だから、三人はマットやソファからはぐれて、床で寝るか見張りをするかという事になるが、まあ贅沢も言えない。それに、今はあまり探れないだけで、そのうちまだ寝具をどこかから引っ張りだしてくる事ができるかもしれないので、そこで困る事はないだろう。

「まあ、充分かな。……あとは、三十分過ぎに二人が戻ってくるまで、ここでのんびりしていていいよ」

 そう言う孤門は、外の景色を凝視している。
 時間が時間なので、外は暗い。しっかり見ていなければ見過ごす可能性もあるから、目が離せないのだ。こうした力仕事を美希やヴィヴィオがやる羽目になったのも、一重にそこが原因である。
 ヴィヴィオは作業を終えたので、再び子供の姿に戻った。流石に周囲もこの子供と大人の使い分けに慣れたようで、ヴィヴィオが突然子供に戻っても驚く者はいない。

「いつきさんと翔太郎さん、まだかなぁ……。いつきさんに格闘を教えてもらいたいのに……」

 そう呟くヴィヴィオはまだ知らない。
 明堂院いつきは、まだ帰ってこない事を。
 いつきの分も敷かれたマットに、眠る者はない事を。

「もう二時間くらい経つけど、大丈夫かしら?」
「……距離的にも結構遠いみたいですからねぇ」

 心配の声も挙がる。しかし、それはあくまで声だけで、内心ではどこか安心感を持っていた。翔太郎たちは確認に行ったのであって、危険が迫ったら帰ってくるだろうと、そう信じているのだ。
 そこで一波乱あった事も知らないし、なかなか帰ってこないのも、思った以上の距離があったからだろうと考えていた。孤門は、そんな二人の声を背中に、外の景色を見ている。
 外から誰かが来る事はない。
 景色が移り変わる事もなく、退屈な光景を、延々と見続けている。彼とて、それは退屈だった。そして、窓枠の上に首を乗せて寝てしまいそうになる事もあった。






355 : Waiting for Girl ◆gry038wOvE :2014/04/27(日) 22:17:10 Befvl..s0



 ……十五分間、何をしていれば良いのか、彼女たちはわからなかった。

 ただ、静寂が起こると、死者が遺した何かを見て、涙が出そうになるので、唇を口の中に引っ込めて、強く噛みしめた。
 美希の手の中にある、リンクルン。それは美希が普段使っていた者ではなく、祈里が使っていたキュアパインの変身用。もう変身機能はなく、いわば「思い出」の為の品になってしまった。「キルン」はまだこの中に存在し続けている。祈里がいなくなった事を、キルンはどう思っているのだろうか。
 彼女は、それをまたそっと、胸の中にしまった。

「にゃー」

 そして、もし祈里が生きていれば、この動物語の読解でキルンを役に立てる事ができただろう。アインハルト・ストラトスが遺したアスティオンはたまに鳴いているのだが、何を言っているのか全くわからない。
 アスティオンの言葉は、基本的にアインハルト以外にはよくわからず、ヴィヴィオでさえその聞き取りには四苦八苦する。ただ、セイクリッド・ハートはアスティオンの言葉を理解しているようなので、「アスティオン→セイクリッド・ハート→高町ヴィヴィオ」の順で翻訳されて、伝言ゲーム式で伝わってくる。
 これが、祈里の持つキルンの力があればもう少しまともに会話できるのかもしれないが、残念ながら美希はキルンの能力を使えない。

「え、えっと……怪獣が現れたから南本願寺まで逃げろ……。え? そんな事は言ってない?」

 今もまた、ティオとクリスとヴィヴィオをめぐる伝言ゲームが繰り広げられている。何やら深刻な表情のティオが何かを言っているのに対して、クリスは物凄く慌てたように身振り手振りを激しくしている。
 仲介役のクリスもいっぱいいっぱいで、あまりヴィヴィオに伝わっていかないようだ。

「にゃー、にゃー!」
「(ビシッ! バシッ! バタタタタタ!)」←ものすごくはげしいどうさ
「こんにゃくがスーパーで30円!? あーもう! 何を言ってるのか全然わからないー!」

 何が何だかわからずに肩を落とすヴィヴィオだが、その隣で美希が少し前に出た。
 ヴィヴィオたちのやり取りが少し和ましく見えて、何とか二人の前で涙を流すのを堪えた美希であった。彼女は、少し遅れながらもティオに向けて言う。

「ゆっくり……ゆっくり言ってみて」

 ティオは、そんな美希の言葉を理解して、すぐにまた口を開いた。
 今度は、一斉に言葉を伝えるような事はなかった。ゆっくりと言い直す事にしたのだ。

「にゃー」
「(ビシッ!)」←しんけんなひょうじょう
「三人とも」(訳:ヴィヴィオ)

 細かい文節で区切っているので、ティオの言葉は素早くクリスのもとへ、クリスの動作はそのままヴィヴィオに伝わった。どうやら、正しく訳されたらしく、ティオ自身も安心の表情を浮かべている。
 ティオは続けた。

「にゃあ」
「(バシッ!)」←あついまなざし
「疲れているから」
「にゃーん」
「(ガシッ!)」←むだのないうごき
「少し回復させてあげます」

 ……どうやら、ティオなりの気遣いをしていたようだ。それがこの伝言ゲームのせいで全く違う言葉にさせてしまったらしい。
 ティオは、主人の死に直面をしながらも、ヴィヴィオを支えるための行動をしようとしていたのだ。

「ええーっ! でも、ティオだって疲れてるのに……」


356 : Waiting for Girl ◆gry038wOvE :2014/04/27(日) 22:17:35 Befvl..s0

 アスティオンはダメージ緩和と回復補助の能力に特化したデバイスだ。アインハルトもその補助を受けながら戦っていたのだろう。ティオ自身の精神的な負担も大きく、その効果は時間を置くごとに減少気味になっていたようである。
 しかし──

「にゃあにゃあ」
「(ビシッ!)」←かなしみをこらえるしぐさ
「もう誰かが傷ついていくのは」
「にゃあ」
「(バシッ!)」←けついをかためたようす
「見たくないんです」

 アスティオンの涙混じりな表情が、ヴィヴィオにも伝わってきた。
 主人であるアインハルトを喪い、自分の言葉をわかってくれる人間もいなくなった。ティオが懐く事ができる相手もいない。大事なマスターの不在は、当然ティオの心を強く痛めている。それは、ティオ自身が無茶を禁じられたがゆえの話だが、ティオも多少の無茶をしなければ誰も救えない。
 それを強く認識したのだろうか。

「ティオ……」

 ティオの鳴き声にこめられたメッセージに、ヴィヴィオはぐっと表情を硬くして拳を握る。不意打ちに敗れたアインハルトの血だまりを、ティオはその肌で感じたのだ。
 誰かが死んでいく不快感がまだティオの中にあるはずだ。

「ティオ、心配しなくていい。僕はまだ大丈夫だ。やるなら、今はこの二人を頼むよ」

 孤門が言った。孤門は疲労こそしているものの、戦闘によるダメージはない。長距離移動でも、間に何度も休憩を挟んだので、そこまで大きな疲れを感じる事はなかった。これは自分の力でどうにでもなる疲労だ。
 孤門は変身能力を持たないため、これまでも直接的な戦闘は基本的に避けるような形にされている。戦闘を重ねた二人を優先すべきなのはよくわかっている。
 美希は美希で、自分のダメージがヴィヴィオほど深刻でないと自負しているので、その回復能力は全部ヴィヴィオに注がれるべきだと思っていた。だから、続けて美希も同じ事を言った。

「私も大丈夫。もしできるなら……全部、この子にお願い」
「にゃあ!」

 孤門と美希の言葉に頷き、アスティオンはヴィヴィオの胸へと飛びかかる。どうやら、それで納得したらしい。
 ヴィヴィオは自分の胸元に飛び込んできたアスティオンの瞳を見つめた。
 お互い、その瞳は真剣そのものであった。いつもの悪戯子猫のアスティオンの瞳とは、全く違った色をしている。

 この子の本気を受け止める──。

「ティオ……! お願い……!」
「にゃああああああっっ!!」

 ヴィヴィオの体に小さな風が舞う。ヴィヴィオの中を、全身を回復させるよう、ティオは全開の力を使う。アインハルトに対してのダメージ緩和や回復を繰り返してきたティオも、殆ど限界に近かったが、それでもある限りの力を振り絞る。
 それが誰も傷つかぬための道だと、ティオは確かに認識していた。

「くっ……」

 あらかじめ治療を受けていた左腕は、その風に包まれながら、少しだけ回復する。クラッシュエミュレートとは違い、実際の骨折である以上、それを全て回復させる事はできない。……だが、痛みは緩和され、少しだが全身の疲労も消えていくのがわかった。
 ヴィヴィオがこれまで抱えていた火傷の損傷も少しだが色が薄くなり、体全体が癒えていく魔法の力を確かに感じていた。回復能力に関してはクリスをも超える。アインハルト用に最適化されていったとはいえ、回復はヴィヴィオにも充分な力を与えた。
 少しだが、戦いやすい体になったと思う。

「はぁ……ありがとう、ティオ……」
「にゃあ……」

 それだけ聞くと、ティオは安心したように瞼を閉じ、もう一度深い眠りについた。かねてより精神的疲労度が高く、本来の能力である回復も本領発揮とまでは行かなかったようだが、それでもティオなりの全開は僅かばかりでもヴィヴィオの体を癒した。
 そんなティオの頭をヴィヴィオは撫でる。ヴィヴィオの体も先ほどより少し良くなっている。熱心に看病してくれた人間のお陰もあるだろうし、そこに相乗してティオの力が使い込まれたのは、ヴィヴィオにとっても大きな力となった。


357 : Waiting for Girl ◆gry038wOvE :2014/04/27(日) 22:18:05 Befvl..s0

「ティオのお陰で……私ももう少し、みんなの役に立てる気がします!」

 ヴィヴィオはガッツポーズを決めた。
 アインハルトを喪った悲しみにあるはずのティオが、こうしてヴィヴィオに力を託した事。アインハルトが持つべき力が、ヴィヴィオにその全力全開を注いだ事。
 それが、ヴィヴィオの血をたぎらせる。
 これからもまだ、充分に戦える喜びがある。ヴィヴィオは、その拳をより強く握った。







 三人が会議室で待っていると、沖一也の方がそこに顔を出してきた。
 どうやら、制限解除の時間を終えたらしい。時刻は9時3X分であった。
 佐倉杏子の姿は見えなかったが、別の部屋にいるのだから、同時にやって来る事もないだろう。どっちにしろすぐに帰ってくると踏んでいた。

「……みんな、待たせたね」
「沖さん!」

 三十分、どうやら何かの成果があったらしく、沖は少し自信に満ちた表情を浮かべていた。

「どうやら制限解除の話は本当らしい。第二回放送を行ったニードルが、俺の使者だった。制限はパワーハンドの能力強化と、レーダーハンドの使用だ。俺たちの戦力も大幅に強化される」

 メリットしかないような条件だが、それで誰かの顔が明るくなるような事はなかった。敵対している人間も、同様に制限の解除を行われているとなると、やや響くものがある。
 とはいえ、殺し合いに乗っている人間の方が少ないような現状では、主催に仇なす人間たちの何割かが強化されれば充分に損をしない寸法だ。

「よかった……それじゃあ、これまで以上に戦えますね!」
「……しかし、だからこそ気がかりだ。俺は首輪の解除も行っていたが、どういうわけかそれに対する文句もなければ、危害を加える様子もない。むしろ、妙に落ち着いた様子まで見せていた。これが敵からの施しである事も考慮に入れておいた方がいい」

 沖が見たニードルは、文句をつけないどころか、超然とした──もしかしたら、優越感や自信を織り込んだような表情と態度で、消えていったのである。
 彼らが対抗をして来る事が一切ないのを好都合と割り切る事ができない。
 まだ何か、奥の手やたくらみがあるのかもしれないと、沖は考えていた。

「……あの、ちゃんと相手との会話は成立していたんですか? もしかしたら、収録された映像である可能性も……」
「会話は、成立していた。だから、少なくとも収録された映像である事はありえない」

 あるとすれば、既に主催者など存在しておらず、ニードルも加頭も、ホログラムの存在なのではないか──という可能性。ショッカーやデストロンといった悪の組織の首領が通過点に過ぎず、全てはデルザー軍団の「大首領」と呼ばれる存在の傀儡であったように、悪の元凶と思しき存在が、ほんの末端に過ぎないという事もありうる。
 沖は少し、考え込む。

「……この戦い、俺たちの想像以上に長引くかもしれないな」

 残り二十一人の現状にあって、それ以上の大きな力を感じる。
 その敵に立ち向かうには、果たしてここにいる参加者だけで事足りぬのだろうか。
 たった一人でも悪の組織と戦ってきた仮面ライダーたちは、かつても同じ想いをした。
 強敵への不安。──それがまだ、沖の中には僅かながら存在している。

「それにしても、杏子ちゃん遅いな……。もう彼女の方も戻って来ておかしくない頃なんだけど」

 沖が考え途中ながら、孤門がそう口にした。
 そう、沖とほぼ同時刻に同じ行動をしたはずの佐倉杏子がまだ戻らない。誤差といえば、ほんの数分程度に収まってもおかしくないが、その数分というのが間もなく過ぎ去ろうとしている。
 場合によっては、警察署内に何かが潜伏している──という恐ろしい想像を張り巡らせずにはいられない。
 仮面ライダーが戦ってきた悪の怪人たちも、周囲に見張りがいる密室のうえで人間を誘拐する事など容易い。壁を抜け、泡となって現れるような連中だ。
 それを思った時、やはり沖も少し不安になった。──「様子を見に行こう」と、沖が口に出そうとした時。


358 : Waiting for Girl ◆gry038wOvE :2014/04/27(日) 22:18:36 Befvl..s0

「様子を見にいきましょう!」

 先に口を開いたのは、美希であった。
 やや折り合いが合わない部分を持ちながらも、懸命に互いを理解しようとし合っている二人だ。お互いを心のどこかで心配しているのだろう。
 無論、誰もがそれに頷いた。

「……そうだな。二人とも、ここで見張りを頼む。俺たちは杏子ちゃんの様子を見に行く」
「わかりました!」

 警察署の出入り口を筒抜けにしているこの場所で、見張りをする人間が一応は必要だ。
 見張りは一人で充分だが、この警察署内でも単独行動が心配になる昨今だ。杏子の身に何かがあるのだとすれば、単独行動が危険であるのは明らかだと言えよう。
 やはりここでもチームを分ける形で、大げさな言い方だが、別行動をとる事になった。







 美希と沖が辿り着いたその部屋には、一枚の置手紙が残されていた。

『24時を過ぎたら2体の魔女を倒せ』

 置手紙では、3体と書いてあるはずの部分を二重線で消して、2体と上書きされている。紙の随所にある消し痕から、それがただの書き間違いではないのがよくわかった。
 何度も何度も上書きの痕。ちゃんと消しゴムで消さないあたりが、杏子らしくもある。
 3の上から2を書いている部分は二重線で雑に消しているが、他はもう少し慎重な消し方がされている。

「何よ、これ……」

 美希の声が震えた。
 杏子がここの部屋にいたのは明白だ。これは確かに杏子の字。
 しかし、杏子はもうここにはいない。いや、おそらく警察署にもいないだろう。その理由はわからない。何かが彼女を全員の前から消し去った。手品のようにではない。杏子自身の気持ちを利用して、杏子自身がここから消えるように、仕組む「理由」という敵が存在した──。
 きっと、制限解除の際に何かがあり、それが彼女を狂わせたのだろう、と美希はすぐに理解する事ができた。

『ごめん、こんな形で別れる事になって』

 手紙に残された、誠意のない謝罪の言葉。その字から感じ取れるのは後悔と迷い。本当は別れたくはないが、それでも何かの理由があって別れねばならない決意をしたのだと、その言葉は継げている。消し痕から微かに見えるのは、読み取れた二文とは全く無関係の文字だった。
 『のソウ』──佐倉杏子が消そうとした、本文と無関係な消し残し。
 ここに書き残した事とは別の事を、彼女はそこに書こうとしたはずだ。しかし、何かの迷いがそれを消させた。誰かに伝えるべきか、伝えぬべきか迷っていたのだ。

「ごめんじゃないでしょ……。そういうのは……ちゃんと口で言いなさい!」

 美希の手が、一枚の紙を握りつぶす。
 冷静に考えれば、その紙から読み取れるはずのデータはある。消された文字を解読すれば、何か糸口が見つかる可能性もある。
 しかし、美希は今、そう思うよりも怒りに任せてそれを握りつぶすほどに感情的だった。
 握った直後に後悔して、ばつが悪そうに沖の方を見た。重要な手がかりを判別させにくくしてしまったのだ。だが、そんな美希の不安もかき消すだけの能力を沖は持っている。

「美希ちゃん。俺の目はペンで塗りつぶされた箇所も視認、判別する事ができる。今の文も少し見せてもらえればわかるよ」
「本当ですか?」
「……貸してくれ」

 しわくちゃになってしまった紙を、美希は少し気恥ずかしそうに手渡した。
 一時的に高ぶった感情の証なのだ。冷静さを欠き、こうして手がかりになるかもしれない物をつぶしてしまった自分が情けなくも恥ずかしい。しかしそれが人間らしい姿なのだと、彼女は自覚していなかった。


359 : Waiting for Girl ◆gry038wOvE :2014/04/27(日) 22:18:58 Befvl..s0

「魔女の正体は、魔法少女の……」
「魔法少女の?」
「……そこから先は書いていない」

 魔女というのは、杏子のいた世界を脅かす怪物である。
 杏子からは、異世界に結界を張って暗躍し、人々を操り殺す不可解なモンスターだと聞いている。その正体については杏子が言及する事もなかったし、おそらくは誰も知らなかったのだろう(状況によってはアインハルトや沖にまどかを通じてその情報が伝わったかもしれないが、そうならなかった)。
 それが、今回の制限解除によって何者かに明かされた可能性は高い。
 このタイミングで杏子が魔女の正体を伝えようとしたのはその証明だ。「魔女の正体」──それが今回、杏子が姿を消した理由に関わるキーワードである。

「もし次にあったら、あたしのソウ……これも書きかけだ」

 他に読み上げられる文章を沖は読み上げた。
 似たり寄ったりな内容や、字を変えただけのものがいくつかあるが、際立って目につくのはこの二つの文章。
 ソウ──その言葉から続く言葉、何か心当たりはないだろうか。

「ソウ……ソウ……ソウルジェム、か……? しかし、何をすればいいのか」

 杏子に関わる言葉で、ソウで始まるのは「ソウルジェム」だ。
 しかしながら、「ソウ」という言葉の意味がわかったところで、文全体の意味は全く理解できない。次に会った時に杏子のソウルジェムをどうすればいいのか──。
 結局、沖では何もわからなかった。

「……結局手がかりなし!?」
「この書置きだけでは、直接聞かない事にはどうにもならないな……」
「全く、本当に仕方がない子なんだから! もうちょっとわかりやすく書きなさい!」

 美希は、そう悪態をつくと、気合を入れたように眉を顰めた。
 少しだが冷静な気持ちで、美希はぐっと表情に怒りを蓄えた。
 相変わらず、杏子は美希の価値観とは違う。自分だけで何かを背負い、こんな不完全──いや、不完璧な手紙でイライラさせる。
 勿論、こんな別れ方では美希の気が済まない。
 杏子が何を伝えたかったのかはわからないが、いずれにせよもう一度会う必要ができたのである。

「仕方がないから行ってくるわ!」
「あ、ちょっと!」

 沖が止めるのも聞かずに、美希は警察署の廊下を走り出してしまった。

「待つんだ、美希ちゃん! 杏子ちゃんの居場所なら──」

 沖が彼女を止めるために何かを言いかけた。その言葉は、美希の背中に届いた。


360 : Waiting for Girl ◆gry038wOvE :2014/04/27(日) 22:19:23 Befvl..s0


【1日目 夜中】
【F−9 警察署 杏子がいた部屋の前】


【蒼乃美希@フレッシュプリキュア!】
[状態]:ダメージ(中)、祈里やせつなの死に怒り 、精神的疲労
[装備]:リンクルン(ベリー)@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式((食料と水を少し消費+ペットボトル一本消費)、シンヤのマイクロレコーダー@宇宙の騎士テッカマンブレード、双ディスク@侍戦隊シンケンジャー、リンクルン(パイン)@フレッシュプリキュア!、ガイアメモリに関するポスター、杏子からの500円硬貨
[思考]
基本:こんな馬鹿げた戦いに乗るつもりはない。
0:杏子を探しに行く。
1:警察署内では予定通りに行動する。
2:プリキュアのみんな(特にラブが)が心配。
[備考]
※プリキュアオールスターズDX3冒頭で、ファッションショーを見ているシーンからの参戦です。
※その為、ブラックホールに関する出来事は知りませんが、いつきから聞きました。
※放送を聞いたときに戦闘したため、第二回放送をおぼろげにしか聞いていません。
※聞き逃した第二回放送についてや、乱馬関連の出来事を知りました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※霊安室での殺人に関して、幽霊の仕業であるかもしれないと思い込んでいます。

【沖一也@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、強い決意
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2、首輪(祈里)、ガイアメモリに関するポスター、お菓子・薬・飲み物少々、D-BOY FILE@宇宙の騎士テッカマンブレード、杏子の書置き(握りつぶされてます)
[思考]
基本:殺し合いを防ぎ、加頭を倒す
0:美希を追う。
1:本郷猛の遺志を継いで、仮面ライダーとして人類を護る。
2:警察署内では予定通りに行動する。
3:この命に代えてもいつき達を守る。
4:先輩ライダーを捜す。結城と合流したい。
5:仮面ライダーZXか…
6:ダークプリキュアについてはいつきに任せる。
[備考]
※参戦時期は第1部最終話(3巻終了後)終了直後です。
※一文字からBADANや村雨についての説明を簡単に聞きました
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました
※18時に市街地で一文字と合流する話になっています。
※ノーザが死んだ理由は本郷猛と相打ちになったかアクマロが裏切ったか、そのどちらかの可能性を推測しています。
※第二回放送のニードルのなぞなぞを解きました。そのため、警察署が危険であることを理解しています。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※ダークプリキュアは仮面ライダーエターナルと会っていると思っています。
※霊安室での殺人に関して、幽霊の呪いである可能性を聞きましたが、流石に信じていません。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はレーダーハンドの使用と、パワーハンドの威力向上です。






361 : Waiting for Girl ◆gry038wOvE :2014/04/27(日) 22:20:04 Befvl..s0



 警察署の窓から、変な音が聞こえてきた。
 ピーーーーーーーーーーー。
 外で何かが鳴っているのだ。低音だが、何かを必死に訴えかけている機械の音。孤門は耳を澄ませて、その音の正体を探った。

「何の音だ……?」

 訝しげにその音の在りかを探る孤門。
 空、……そう、それが聞こえるのは空からだ。上空に何かあるのだろうか──と考えたところで、孤門は、すぐにその音の意味を知る。

「……もしかして、デンデンセンサーが!?」

 それに気づき、孤門は慌てた。誰かが警察署の屋上の時空魔法陣に現れたという事。──二人以上殺害した誰かだ。
 孤門は、ディバイトランチャーを構えた。

「……孤門さん、私も行きます」

 ヴィヴィオが言う。孤門は頷いた。沖と美希は警察署内のどこに向かったのかわからない。
 そして、逆にヴィヴィオをここに一人にしてしまうのも危険だというのはすぐにわかる話だ。二人でいるならば、二人三脚で向かうのが一番良いのは当然だ。
 孤門は緊張で鼓動を速めながらも、屋上へ向かおうとしていた。







 しかし──

「……誰も、いない」

 孤門が屋上のドアを開けて、ディバイトランチャーを構えると、鳴りやまぬデンデンセンサーが待っていた。デンデンセンサーだけが待っていた。
 ここには誰もいない。誰かが来た形跡もない。到底、二人以上殺した人間がここを踏み荒していったような痕もないし、階段の途中で誰かに会う事もなかった。
 飛び降りたのだろうか、と孤門は警戒しながら真下を見る。

「時空魔法陣は消えています……」
「一体、どういう事だ……?」

 孤門は、デンデンセンサーを拾い上げて音を止ませる。
 時空魔法陣に何かあったのだろうか。──孤門は、そんな疑問を浮かべずにはいられなかった。
 ……とにかく、この屋上にいても仕方がない。
 消失した時空魔法陣については、また後ほど沖たちとともに考える事にして、孤門は会議室に戻る事にした。



【1日目 夜中】
【F−9 警察署 屋上】

【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:上半身火傷(ティオの治療でやや回復)、左腕骨折(手当て済+ティオの治療でやや回復)、誰かに首を絞められた跡、決意、臨死体験による心情の感覚の変化
[装備]:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはシリーズ、稲妻電光剣@仮面ライダーSPIRITS
[道具]:支給品一式(アインハルト(食料と水を少し消費))、アスティオン(疲労・睡眠中)@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ほむらの制服の袖
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
0:会議室に戻る。
1:生きる。
2:警察署内では予定通りに行動する。
3:時空魔法陣が消えた理由を考える。
[備考]
※参戦時期はvivid、アインハルトと仲良くなって以降のどこか(少なくてもMemory;21以降)です
※乱馬の嘘に薄々気付いているものの、その事を責めるつもりは全くありません。
※ガドルの呼びかけを聞いていません。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※第二回放送のボーナス関連の話は一切聞いておらず、とりあえず孤門から「警察署は危険」と教わっただけです。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※霊安室での殺人に関して、幽霊の仕業であるかもしれないと思い込んでいます。
※一度心肺停止状態になりましたが、孤門の心肺蘇生法とAEDによって生存。臨死体験をしました。それにより、少し考え方や価値観がプラス思考に変わり、精神面でも落ち着いています。


362 : Waiting for Girl ◆gry038wOvE :2014/04/27(日) 22:20:17 Befvl..s0

【孤門一輝@ウルトラマンネクサス】
[状態]:ダメージ(中)、ナイトレイダーの制服を着用 、精神的疲労
[装備]:ディバイトランチャー@ウルトラマンネクサス
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2(戦闘に使えるものがない)、リコちゃん人形@仮面ライダーW、ガイアメモリに関するポスター×3、ガンバルクイナ君@ウルトラマンネクサス、デンデンセンサー@仮面ライダーW
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
0:会議室に戻る。
1:みんなを何としてでも保護し、この島から脱出する。
2:警察署内では予定通りに行動する。
3:副隊長、石堀さん、美希ちゃんの友達と一刻も早く合流したい。
4:溝呂木眞也が殺し合いに乗っていたのなら、何としてでも止める。
5:時空魔法陣が消えた理由を考える。
[備考]
※溝呂木が死亡した後からの参戦です(石堀の正体がダークザギであることは知りません)。
※パラレルワールドの存在を聞いたことで、溝呂木がまだダークメフィストであった頃の世界から来ていると推測しています。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※霊安室での殺人に関して、幽霊の仕業であるかもしれないと思い込んでいます。


363 : ◆gry038wOvE :2014/04/27(日) 22:26:49 Befvl..s0
以上、本日分は投下終了です。

今回の予約分は少し変則的な投下方法をします。
出来上がった話を三分割ではなく、163話・164話のように話数に分けて投下します。
1日1話ペースで投下していき、予約期限までには投下終了する予定です。全3話予定。
今回夜中パートで終わったキャラクターが、次回以降深夜パートで登場するので、予約分のキャラクターは全く平行線という事はありません。
(1話に今回の連中、2話に杏子と翔太郎とフィリップ、3話に結城と零……みたいな投下の仕方をするわけではありません)


364 : ◆gry038wOvE :2014/04/27(日) 22:27:22 Befvl..s0
明日分も完成しているのでお楽しみに!


365 : 名無しさん :2014/04/27(日) 22:42:44 7DFa9Z.60
投下乙です
対主催者同士の合流も近くなってきたな


366 : 名無しさん :2014/04/27(日) 22:44:50 ap6vmpdo0
投下乙です。
ヴィヴィオの怪我も治り始めてきた一方、美希たん達は杏子を追い始めましたか
もしも真実を知ったらどうなるか……?


367 : 名無しさん :2014/04/28(月) 01:48:20 9fTjhx460
投下乙です!

僭越ながらおそらく誤字と思われる箇所が
・明道院いつきはまだ→明道院いつきはもう
・デンデンセンサーだけが待っていた


368 : 名無しさん :2014/04/28(月) 13:39:12 tz7jvBWY0
投下乙です

対主催同士もあるがこいつらが上手く合流して仲良く団結して欲しい
終盤への最後の平穏だろうなあ


369 : ◆gry038wOvE :2014/04/28(月) 20:53:04 AnI3/TBc0
ただいまより、投下を開始します。


370 : のら犬にさえなれない(前編) ◆gry038wOvE :2014/04/28(月) 20:54:52 AnI3/TBc0


 ──これまでの仮面ライダーW in 変身ロワイアルは!!
(♪BGM『今までのダブルは』)

『ははっ……よっしゃぁぁぁぁ! フィリップが帰ってきたぁぁぁぁぁ!!』

『だったら誰が杏子ちゃんを支えられるんだ!? 君しかいないだろう! そんな君がつぶれたら誰が杏子ちゃんを……みんなを支えるんだ! 君は人々を守る希望……仮面ライダーなんだ!!』

『人々を泣かせたくはねぇんだろ……だったら、人々を泣かせる魔女になる前にこいつを……』

『ああ……あたしは戦う……みんなから受け継いだ想いを無駄にしないためにも……だけど……』

『ふっ……世話になったなフィリップ、マッハキャリバー……』

『Is a schoolchild the highest too?』

 (BGMがこの辺で終了。)







 ──この偽りの街で殺し合いを始めてから、針は既に二度目の円を描こうとしていた。俺もついに時間感覚がいかれたか。「あと二時間もある」というのが、「あと二時間で終わる」ような気がした。この一日分の疲労で俺も随分と体が麻ひしていたが、不思議な事に眠気だけは襲ってこなかった。俺が今、こうして冴えたナレーションを始められるのもその証だった。
 俺の頭は、夜風に晒されて、冷やした瓶ジュースよりも冴えていた(意味不明)。風は今宵もまた、俺を一段とハードボイルドに仕立てあげている。少し強い風が目に入り、俺の額を空に近づけさせた。
 星が見えた。空っぽの空を埋め尽くす満点の星は、俺を見下ろしているのか、見上げているのか。あの星の中のどこかに殺し合いとは無縁の星があるのなら、俺はそこを掴みとりたい衝動にかられた。誰もそうだろう。俺たちはこの一日を何とか耐え抜いたが、次の一日がまたあると思うと、ひどく憂鬱な気分にさせられる。ならばいっそ、俺たちの頭上の星で、星間戦争もなく自由を謳歌する人々の姿がどんなに良い事か。
 こんな地の果てで俺たちはあの星に想いを馳せ続ける。あの空の人々も、俺たちがこうして殺し合いに巻き込まれている事など知る由もないだろう。
 隣にいる相棒が言う。

「夜空の星は、どれもガスでできている。中心部で核融合を行って、そのエネルギーで光り輝いているんだ。人は住んでいないよ」

 まったく、浪漫のない相棒だ。俺は帽子の唾から目を覘かせた。相棒はこじゃれた外ハネの髪を指で弾くように触りながら、何食わぬ顔で星を見ている。

「……そろそろナレーションうるさいから切っていいか?」

 ……と、杏子が俺のハードボイルドの邪魔をする。
 杏子はもう、俺のハードボイルドなナレーションに慣れているのか、落ち着き始めていた。

「……てか、いま星とか浪漫とかどうでもいいからさ。それより兄ちゃんのセルフナレーション、略してセフレで伝えるべきは警察署の話だろ。もう警察署の目の前だぞ」
「はーん、セルフナレーション、略してセフレ……か、なるほど。…………って、花も恥じらう乙女がそんな略し方するんじゃねえ!!」

 かくして、俺は情けない怒号とともに、ハードボイルドなナレーションはひとたび幕を閉じる羽目になった。
 こからは口から出ていかない、本当に俺の頭の中のナレーションだ。突然ナレーションを切っても仕方がない。ハードボイルドというのは常に一人称で行う物だ。

「……ったく、ほんとにしょうがねえな」


371 : のら犬にさえなれない(前編) ◆gry038wOvE :2014/04/28(月) 20:55:41 AnI3/TBc0

 俺は冷や汗混じりの顔を帽子の中の小さな闇に溶け込ませて、再びのハードボイルドモードに切り替えた。
 これまで俺のハードボイルドの軌跡をたどってくれている人間は今更何度もおさらいしなくてもわかる通り、俺は私立探偵・左翔太郎だ。相棒はフィリップ。つい先ほど主催陣営、サラマンダー男爵の手によって、エクストリームメモリやファングメモリと共に相棒の身柄が開放された。ここに来てまだ一日というのに、久方の再会のようだった。
 昨日までの俺を見て、今日の俺を知らない人間にとって、見慣れないのは、この俺の隣にいる佐倉杏子。こいつもまあ、この二十二時間の俺の奮闘を見ている人間にとっては、もう説明しなくてもわかってもらえるだろう。
 うちの所長と同じくらいの背丈と顔立ちの幼さだ。所謂、女子中学生──最近の若者の言葉を借りればJC。そう、何でもアルファベット二文字で略すのが一番いい。セルフナレーションを略すならば、SNが一番いいだろう。できればそう略してもらいたかったところだ。

 そんな俺たちの前には、もう警察署の入り口がある。それだけ説明すれば良いものをわざわざこれだけ時間を費やして説明するからには理由がある。……そう、その方がハードボイルドだからだ。
 警察署というのは、俺たち探偵にとっても縁の深い場所だ。フィリップ・マーロウ然り、工藤俊作然り、どういうわけかハードボイルドな探偵というのは、年に四、五回ほど警察の世話になる。プロになると隔週で誤認逮捕されるらしい。俺も見習いたいものだ。警察につっかかられる事はあっても、そう毎週逮捕される事もない。早く照井も俺を誤認逮捕しに……おっと、いけねえ。
 ……とにかく、そんなハードボイルドのメッカ・「警察署」に、今日一日で三度目の立ち入りになる。これはもう、俺が完成されたハードボイルドである決定的証拠であると言っていいだろう。

 この警察署の中では現在も俺たちの仲間がチームを築いているはずだ。
 そこにいる人間の名前を順に報告しよう。
 蒼乃美希、高町ヴィヴィオ、孤門一輝、冴島鋼牙、沖一也。彼らもまた説明不要だ。この中では俺が一番ハードボイルドであろう事は間違いない事実だろう。俺しかハードボイルドを目指している人間はいないのだから、自ずと俺が最ハードボイルドになる寸法だ。

「……さて、翔太郎。いまだに続いているきみの自己満足的な導入は終わったかい?」

 相棒がそんな俺に声をかける。

「今いいとこなんだ」
「悪いけど、終えてくれないか。……これ以上、警察署に入るだけのために余計な前振りをしても仕方がないしね」

 相棒は俺に冷たい言葉を返した。

「……ったく、こっちもしょうがねえな」

 俺の気持ちの良いハードボイルドはそこで終わりを告げ、俺たちは警察署内に入る事になった。







 警察署の入り口では、俺たちを迎えるように年の差アベックが立っていた。
 そう、沖一也と、蒼乃美希だ。二人はさほど疲れた様子もなく、来るのを待っていたとばかりにそこに立っていた。
 警察署を抜け出した杏子を探すのではなく、待っていたのだ。ここに帰ってくるという自信でもあったのだろうか。──まあ、私立探偵である俺はこういう勘は利く。家出娘っていうのは、だいたいの場合において、すぐに帰ってくるのだ。
 杏子も例外ではなかった、という話。彼らもそれに勘付いていたのだろうか。……とはいえ、実際この状況で人がいなくなっても「家出娘だから放っておけ」と言えるだろうか。

「おい、なんだよお前……」
「待ってたのよ。この書置きを見て」

 追わない、という彼女の選択は結果的には間違ってはいなかっただろう。
 しかし、それはあくまで結果の話だ。もし、本当に杏子を探したいのであれば、自分の足で探しに行くのが普通だろう。ましてや、この状況だ。
 何故、美希たちはそれをせず、こんな玄関口で息を切らす事もなく待っていたのだろう。


372 : のら犬にさえなれない(前編) ◆gry038wOvE :2014/04/28(月) 20:56:27 AnI3/TBc0

「……翔太郎くん、君も帰って来たのか。……いつきちゃんは? それに、その少年は……」

 沖さんが、開口一番に訊かれたくない事を訊いて来た。俺が訊きたい事よりも、相手が訊きたい事を先に訊かれた。俺はフィリップの方を少し見た。フィリップは、そのままの表情で俺を促した。
 ……そう、警察署に入ったなら、まず、俺はそこにいる仲間に伝えなければならない。
 この場にいる人間の中では、俺とフィリップと杏子だけしか知らないその事実を。これからまだまだ降りかかる残酷な真実の、その一握りを、まずは、俺自身の口から告げなければならない。ここにいる誰も知らないフィリップという男を紹介するよりも、マッハキャリバーという仲間を紹介するよりも、まずは、もうどこにもいない少女の事を伝えなければ、けじめがつかない。

「あ……あぁ……。明堂院いつきは……亡くなった」

 俺の唇は、目の前の二人にそう伝えた。
 美希の手から、杏子の帰還を喜ぶような表情が消えた。沖さんが、思わずデイパックを地面に落とした。このタイミングで向こうから階段を下りて走ってくる孤門一輝と、高町ヴィヴィオも緩やかに足を止めた。呆けたような顔、衝撃を受けたような表情──その視線が俺に注がれる、俺に突き刺さる。
 誰もが、俺はいつきと帰還するのだろうと想像していただろう。その予想を裏切る形になった。俺は帽子を外したまま、ただ詫びる言葉も出ないままに頭を垂れた。その一連の事件は、俺の責任であり、俺の罪だった。
 たとえば、蒼乃美希がここに来るのを俺が引き換えさせなければ、味方の戦力が増えて、いつきは助かったかもしれない。
 たとえば、俺がいつきをあの場に連れていかなければいつきは助かったかもしれない。
 たとえば、あの時身を投げ出したのが俺だったなら、いつきは死ななかっただろう。
 いくつかの判断は、俺の誤りだった。

「……そうか」

 沖さんが、突然の報告にどう返していいのかわからないように、そう答えた。俺も何から伝えればいいのかがわからなかった。

「すまねえ……」

 俺の口から出るのは、本当にそれだけだった。
 沖さんは、それでも俺を責める事なく、悲しみを堪えて言った。

「詳しい話は、中で聞こう」

 その言葉に誘導されるように、俺たちは、暗い表情で歩き出した。この葬式のような行列。慶弔するという意味では、もはや葬式とは区別がなかった。
 階段を上るときも、誰も何も言おうとはしなかった。







 脇目を振る。会議室にはマットが敷かれている。寝具として利用しているらしい。
 このマットには、おそらくいつきの寝る場所も確保されていただろう。そのスペースは、もう必要ないものになってしまった。とうに死んでしまった者のために、彼らは準備をしていた。その思いやりが、彼女の生存を疑いもしなかった彼らの心情を伝えているようで、辛かった。
 誰もが待っていた少女を、俺は守る事ができなかったのだ。信頼を裏切る結果になった。
 俺たちの姿が警察署の窓から見えた時、足りない誰かがいる事を、誰も不安に思わなかったに違ない。きっと、ただ別行動をしているだけだろうと、そう思っただろう。
 だから、孤門たちは返す言葉をすぐには出せなかった。俺は、ずっと用意しようとしていても、何から話せばいいのかわからなかった。

「彼女を殺害したのは、ゴ・ガドル・バだ」

 フィリップが、そんな俺よりも少しばかり冷静に、ただ、少し気に病んだ様子が感じられるトーンで、そっと言った。

「……ちょっと待って。きみは? その声、聞き覚えがあるけど……」

 孤門が、フィリップを見て訊いた。殆どの人間の顔の上には、「この男が誰だかわからない」と言った疑問の色が浮かんでいる。フィリップが自己紹介を忘れるというのは珍しい。言いながらも、孤門はその正体に薄々勘付いたようだ。他もそうだろうか。いずれにせよ、フィリップはちゃんと自己紹介をする事にした


373 : のら犬にさえなれない(前編) ◆gry038wOvE :2014/04/28(月) 20:56:58 AnI3/TBc0

「ごめん。名乗り遅れていたね。僕はフィリップ。ベルト越しで何度も会っていたとはいえ、直接会うのは初めてだ。君たちの紹介はいらないよ。僕はもう君たちの顔と名前を知っている。……そう、僕も翔太郎の制限の解除によって、ようやくこの場に開放されたんだ。……残念ながら、首輪つきだけど」

 フィリップは、己の首元の金具を鬱陶しそうに触りながら、自分の立場を簡潔に説明した。殺し合いに巻き込まれるまでが遅かった分、俺たちよりも客観的に、冷静に、機械的に、言葉を舌に滑らせるように話せるのは、こいつの良いところでもある。
 フィリップが名乗り遅れたのは、おそらくフィリップ自身に、あまり初対面という自覚がなかったからだろう。

「そうか……君が」

 沖さんがフィリップの顔を見て、妙な関心を浮かべた。声だけしか聞こえなかった存在の表情や体格を見た、この違和感。誰もがその感覚を持っていると思う。アニメーションの声優なんかが身近だろうか。
 ここにいる人間は、どんなフィリップ像を想像していたかはわからない。その美男子像を裏切ったか、裏切っていないかもわからない。俺が言うのも何だが、フィリップはなかなかの美男子でもある。俺の推測では、裏切られたと感じる者はあまりいないだろう。

「よろしく。アナザー仮面ライダー。それに君たちも。こうして会えて光栄だ。……とにかく、これまでのいきさつは翔太郎に代わって、僕が全て話す。君たちの耳が受け入れる限り聞いていてくれ」

 フィリップは、聞かなくてもいい、という前置きだったをした。それは一つの優しさだった。しかし、聞かない者はいなかった。

「あの轟音の向こうには花咲つぼみ、響良牙、それからダークプリキュアもいた。明堂院いつきも一度は彼女たちと合流する事ができたんだ。……ただ、それで僕たちの足は止まった。彼女も状況確認だけでなく、そこで足を止めて、ダークプリキュアと戦う必要ができてしまった。……それでも、明堂院いつきは、凄い子だと思う。信じられないかもしれないけど、ダークプリキュアは、彼女のお陰で生まれ変わり、今は全く別の名前になった。驚く人がいるだろうから、その名前を伝えるのは、今はやめておこう」

 フィリップの語り口調は、冷静でありながら、どこか脇道にそれがちでもあった。要旨だけを伝えるような口ぶりではなかった。フィリップ自身も、そうしなければ落ち着かないのだ。

「彼女は、ダークプリキュアの心を正し、彼女と和解する事に成功した。……ただ、そこに悪魔が現れてしまったんだ。それが、ゴ・ガドル・バだ。彼は僕たちの前に姿を現した時、既に一条薫を殺害していた……。そして、明堂院いつきは、大事な友達を庇うために身を投げ出して、ガドルに…………」

 そこから先は、フィリップも言う事はなかった。

「それが全てだ」

 俺たちが交戦していた事は、途中まで一緒にいた美希も、そこに向かっていたはずの鋼牙も知らない。自分たちがそこから少しでも前に踏み出せば、その少女の遺体と顔を合わせる事になったかもしれないと、あるいは、自分自身がそうなっていたかもしれないと、そんな現実をどう思っているのだろうか。

「すまねえ……。俺たちは、また……守れなかった」

 俺はまだ、ちゃんと顔を上げる事ができなかった。

「……あまり気に病むな。顔を上げるんだ」

 沖さんが言う。
 俺は、どう言われても、いまヴィヴィオの方に目をやる事だけはできなかった。フェイトもユーノも霧彦も、俺は守れなかった。それに加えて、いつきも守る事ができなかった。ヴィヴィオと親しかった人間がまたいなくなった。俺が駆けつける余地があった状況でこれだけヴィヴィオの大切な人を喪っているのだ。
 彼女にどんな声をかけていいのか。
 謝るべき、なのだろうか。

『Vivio?』


374 : のら犬にさえなれない(前編) ◆gry038wOvE :2014/04/28(月) 20:57:21 AnI3/TBc0

 そんな俺の心中よりも先に、「彼女」が口を開いた。マッハキャリバーだ。
 俺は、ばつが悪そうな顔をしながらヴィヴィオの方を向く。ヴィヴィオもショックを受けているようだったが、その一声には反応せざるを得なかったようだ。

「誰?」
『I’m Mach Caliber』
「マッハキャリバー!?」

 ヴィヴィオは、それもまた信じられないといった様子で俺の方を見た。俺は、そこに俺を責める色は感じられない事にどこか安心しながら、青い宝石を取り出した。マッハキャリバーは、俺の手からヴィヴィオの手へと渡される。
 かける言葉は見当たらないのに、手と手が触れ合うというのは不思議な感覚だった。

『You grow up so quickly(随分大きくなりましたね)』
「ええーっ!? もしかして……私が知るよりも前の……?」
『It was surprised me(私も驚いています)』

 ヴィヴィオの飲み込みは早い。自分より前の時系列の存在と会うのは、これが初めてだろうか。しかし、アインハルトがなのはと会った事も彼女は知っている。直接的ではないが、間接的なデータなら幾つか入手済だ(ヴィヴィオの時代にはとっくにインテリジェントデバイスは浮遊して自律移動する機能が備わっているが、このマッハキャリバーにはまだその機能はなかったのも、彼女がマッハキャリバーを過去のマッハキャリバーだと認識できた理由の一つだろう)。

『Who are you?(あなたは?)』
「(シュビッ! シュバッ! シュババババババ)」←なのってはいるが、つたわらなくてあせっている

 マッハキャリバーは、自分と同じく言語を話すデバイスだと思って、クリスに問うた。
 しかし、とうのクリスは非常にあせった様子で答えている。言語を話さないデバイスの難点だ。ヴィヴィオが簡易的に通訳する事になった。本当なら、マッハキャリバーもデバイス同士で心を通じ合う事をできるかもしれないが、ヴィヴィオが話すのが確実だった。

「この子は、クリス……本当の名前はセイクリッド・ハートって言います」
「(コクコク)」←うなずく
『……』
「な、仲良くしてね……って」

 マッハキャリバーも絶句する。流石に、うさぎのぬいぐるみの姿をした変身アイテムが存在するなんて思わなかったのか。

『……OK』

 マッハキャリバーの戸惑いに満ちた返事が聞こえた。それは機械的とは言えない。戸惑っている様子がはっきりと伝わって来た。

『Vivio , Your mother was……』

 マッハキャリバーが辛そうに口を開いた。
 彼女が何を言おうとしているのかはわかっている。俺も、ヴィヴィオもだ。

「……わかってるよ、マッハキャリバー。全部みんなから聞いたから」

 マッハキャリバーが告げたい事実については、全てヴィヴィオが知っている。
 アインハルト、いつき、沖のようにその場にいた人間たちから全て聞いているのだ。

『……You don’t know everything(あなたは全てを知っているわけではありません)』
「うん。でも、本当の全部は後で聞くよ……。今はお礼を言わなきゃ」

 ヴィヴィオはマッハキャリバーにそう言って、俺の方を見た。

「あの……翔太郎さん。マッハキャリバーを見つけてくれて、ありがとうございます」

 ヴィヴィオが俺に声をかける。俺は下を向いて顔を隠していたが、咄嗟にヴィヴィオに目を向けた。俺の両目に、緑と赤のオッドアイが映った。
 そこには、大きな悲しみを乗り越えた──いや、大きな悲しみを受け取る隙を持たなかった少女の明るさが散漫していた。それは決して悪い事ではない。いつきの死を悲しんでいないわけでもないだろう。
 俺に気を使っているのか。こんな成人の半分しか生きていないような女の子が、俺に──そう思うと、俺の情けなさばかりが際立つ。

「マッハキャリバーを見つけたのは、響良牙だ。……俺じゃない」
「でも、その人から受け取って、ここまで届けてくれたのなら……それで充分だと思います。私をまた、大切な人の相棒に出会わせてくれた。それは、左翔太郎さん、あなたです」


375 : のら犬にさえなれない(前編) ◆gry038wOvE :2014/04/28(月) 20:58:22 AnI3/TBc0

 俺は、その時、やはり俺はハードボイルドではないと気づいた。
 十歳の少女の慰めに涙を流しそうになるハードボイルドが、この世の中にいるだろうか。俺の手が、まだこんなにも無力で、俺の想いが、救う事ができない命があると、──それがまた、目の奥に涙を持ってこさせた。
 俺を責めてもおかしくない少女が、必死に堪えている。
 それなのに俺は何もできない。これからも俺は誰かを救うために戦う。それでも、……その過程で失った命が、俺の胸を刺す。
 目の前にいるのは、俺が救えなかった命の片割れだ。

「あ、あの……翔太郎さん?」
「……いや、ありがとう、ありがとよ、ヴィヴィオ……。俺も……頑張らなきゃな」

 この夜は、そう──。俺たちが救えなかった命を、俺たちが見送ってしまったような死を、思い出させるような厳しい風が吹いた。
 俺は涙を流す事はなかったが、帽子が小さな闇を作った時、一瞬だけ何かが頬を伝った。







 俺は、真夜中の街を見下ろしながら、風を感じていた。
 本当に、この街は偽りの街だ。外の建物には灯りがない。等間隔な街灯と、夜空の星々だけが照明の役割を担っている。星の灯さえかき消してしまうような人々の生活が、この街からは感じられなかった。
 俺はこの街のために命を捨てる事はできない。しかし、俺はこの街を守る事ができる。
 この街は、人を包んではいないが、俺たちに確かな出会いを齎した。悲劇も齎した。友も齎した。この街がくれた物のぶんだけ、街を守るのも悪くはない。
 話すべき悲劇は、まだそこにある。

「……杏子、この書置きについてだけど、訊いていいかしら?」

 そう、厄介な事に、杏子がこの警察署に残してくれた余計な書置きだ。
 美希が最初に、その書置きについて触れた。俺も先ほど、その皺だらけの紙を見せてもらったが、それは、粗雑な消し痕だらけで、説明不足な置手紙だった。到底、他人に見せる事を意識した手紙とは思えない。しかし、それほど、いっぱいいっぱいな人間もいる。
 俺は、街を眺めるのをやめて、美希の方を見た。美希の視線の先には杏子の姿があった。ごく真剣な表情で、杏子を見つめていた。

「なぁ、先に訊いていいか? ……あんたたちは、あたしたちを警察署の前で待ってたけど、なんで戻ってくると思ってたんだ? もし、翔太郎の兄ちゃんに会わなければ、あのままどっかに行くはずだったしな……あたしが戻って来たのは、ほんの偶然なんだ。なんであんな余裕の表情で待っていられたんだ?」

 杏子が、そう訊き返した。先に事情を話すべきは明らかに杏子だが、俺はこの二人の会話に口を挟む事はなかった。どんなツッコミ所も、聞かないふりをして当人たちのペースで話させるのが一番良いと思った。

「……なんか質問が多いけど、まあいいわ。それじゃあ、私から答えるわ。……それは全部、沖さんのお陰よ」

 美希は、杏子の事情を早く知りたいようだが、自分の事情を手短に話す自信があるのか、語り始めた。







 〜回想〜

 時間は、蒼乃美希が警察署の外に杏子の姿を探しに行ったところまで遡る。
 美希は、もう体が覚えた出入口に向けての経路へと、走り出そうとしていた。
 沖は、その背中を視認し、そんな美希に向けて手を伸ばしていた。

「待つんだ、美希ちゃん! 杏子ちゃんの居場所なら──」

 そう、美希の背中に向けて、沖はそう叫んだ。


376 : のら犬にさえなれない(前編) ◆gry038wOvE :2014/04/28(月) 20:59:00 AnI3/TBc0

「──杏子ちゃんの居場所なら、俺のレーダーハンドを使えば、すぐに調べる事ができる!」

 美希は、その言葉をかけられて、足をゆっくりと止めた。数歩だけ生まれた、微かなあそびとともに、美希は背後を振り向いた。

「……本当に?」

 そう訊くと、沖は頷いた。

「本当だ。きみも居場所がわかっていないのなら、むやみに飛び出すべきじゃない」

 諭すように沖がそう言った後も、美希は沖の方に近づく事はなかった。またいつでも杏子を探しに階段を下れるような準備をしていた。

「彼女はまだそう遠くへは行っていないはずだ。それなら、俺のレーダーハンドから発されるレーダーアイが彼女の姿を探し、確認する事ができる」

 しかし、その準備も沖の前では無意味だ。レーダーハンドの使用範囲圏内は、完全に沖のテリトリーである。
 誰かを探すのにはおあつらえ向きの力が沖の元にある。
 それを使い、杏子が逃げた場所をあらかじめ知ったうえで、感知をしながらそこへ向かう事ができるはずだ。

「ニードルによって解放されたこの力……お見せしよう!」

 沖は、美希と一定の距離があるのを確認したうえで、変身の構えを形作る。複雑な拳法の構えにたじろぎ、美希はその姿に近づかなかった。
 沖は構えたまま、変身の呼吸を整える。
 そして、その言葉を叫ぶ。

「変身!」

 両腕を前に構え、ベルトを開く。──電子音が鳴り、沖一也は仮面ライダースーパー1へと変身した。変身の呼吸は完璧であった。
 スーパー1はそのまま、息をつく間もなく、ファイブハンドを装着する。

「チェンジ、レーダーハンド!」

 ベルトの腰にあるファイブハンドボックスは、金色の点滅を始めた。スーパー1が持つ五つの腕の一つ、レーダーハンド。レーダーハンドから発されるレーダーアイは、周囲10kmの様子を確認する事ができる。
 杏子も、いくら何でもこの短時間で10km圏外に出る事はありえないだろうと考えられる。スーパー1の腕から発射されたレーダーアイは、窓の外へと出ていく。

「……待っていろ、すぐに彼女の居場所を探り出す」

 それはプリキュアたちが持っているはずのない力。改造された人間でしかありえない力。
 レーダーアイから送られる情報を、スーパー1の頭部のスーパー触角が感知する。
 まだ、ただの街並みの光景しか映していない。レーダーアイは高速で動き、どこかで動いている物体を探り出す。

「……どうですか?」
「今探している……」

 美希の問いかけに応えつつも、更にスーパー1は己の神経を鋭敏化した。
 レーダーアイは高速で移動し、スーパー触角にもその情報が一瞬で送られてくる。

「ん……?」

 スーパー1は、その途中で、一瞬だけ何か心配事があるかのように眉をひそめたが、すぐにまた探査を続けた。

「あっ!」

 スーパー触角に送られた電波は、ヘッドシグナルからSアイへと映される。
 そこには、佐倉杏子と、二人の男性の姿があった。──うち、片方は左翔太郎である。もう片方の男性は見覚えがないが、もしかすると一条薫や涼邑零といった仲間の男性である可能性もある。
 とにかく、三人はこちらへ向かっているようだ。


377 : のら犬にさえなれない(前編) ◆gry038wOvE :2014/04/28(月) 20:59:21 AnI3/TBc0

「杏子ちゃんたちは、翔太郎くんたちとこちらへ向かっている。周囲には敵もいないようだ」
「翔太郎さんと……?」
「……その通りだ。安心していい。すぐに来るから迎えに行こう」

 スーパー1は己の変身を解き、沖一也の姿へと戻った。
 その顔には、さわやかな笑顔がある。沖は頷くと、美希とともに階段を下りていった。


 〜回想おわり〜







「……というわけなの」

 美希が、全ての説明を終えた。

「なるほど。……レーダーハンドか、興味深い」

 俺の隣で、フィリップがまた知識欲を埋めようとする。

「……レーダーハンドはファイブハンドの一つ。金色の腕だ。ロケット型のレーダーアイを飛ばして、半径10km四方の情報を素早くキャッチする。レーダーアイから送られた情報はスーパー触角、ヘッドシグナルを通してスーパー1の中に情報を伝達する。レーダーアイは小型ミサイル弾にもなる。……確かに僕たちの力になるはずだ」

 フィリップは、話を聞きながら『無限の本棚』の中に入って、既に『レーダーハンド』に関する資料を得ていたようだ。『仮面ライダースーパー1』のデータも獲得済。流石に仕事が早い。興味のある事はすぐに調べてくれる。

「『無限の本棚』も……確かな情報のようだな」

 沖さんがフィリップの所蔵する本棚の情報量に唖然とする。感心しているというより、ただただ唖然といった様子である。沖さんも研究所や組織の人間だ。こうして機密情報を簡単に調べられるのは厄介な話に違いない。
 とはいえ、もともと最重要機密のようなものを調べるにはロックがかかるので、そんなに心配しなくていいものだが。
 俺とフィリップにとって心配なのは、レーダーハンドという強力な武装が増えた事が、また『主催戦』へと一歩駒を進めているような予感があったからだ。それは全て、俺たちの想い過ごしであってほしいものだが……。

「……本当に何でも調べる事ができるのか?」

 孤門が横から訊いた。

「……地球の記憶にある限りは、おそらく。君たちの世界の事も調べられるはずだ」
「……それなら、僕からも一つだけ検索を頼んでいいかな?」
「構わないよ。……それで、キーワードは?」

 孤門の問いかけにフィリップは応じて、美希や杏子もそちらに意識を集中させたようだ。少しだが、会話と会話の間に余裕ができる。その間に、杏子は適当な言い訳を考えるだろう。
 孤門は、フィリップに調べさせたい単語を口にした。

「アンノウンハンド」

 孤門の口から出たのは、孤門たちの世界を暗躍する、正体不明の敵の名前。
 フィリップは、「わかった」と頷いて、『無限の本棚』にアクセスした。

「……さあ、検索を始めよう。キーワードは、『アンノウンハンド』」

 それから、僅かな時と沈黙が流れた。フィリップは一見すると動かないが、既に検索を初めて、その無限の書庫から本を引き出している。
 そういえば、ユーノも同じように、図書館で本を探り出していた。あれが俺とユーノとの出会いだった。
 フィリップは、すぐに検索を終えて、意識を取り戻した。彼は、孤門の方を向き直す。

「……孤門一輝。アンノウンハンドに関する本は驚くほどに少ない。君たちの世界が情報の秘匿を行っていて、ごく一部の限られた人間しかその言葉を知らないせいもあるだろう。……そして、内容は殆ど削除されているのか、最初から白紙なのか、閲覧する事ができない。ミュージアムと違って、閲覧そのものは難しくないんだ……。でも、肝心の内容が無い。もしかすると、地球の記憶が削除されているのか、君たちの世界の本棚にアンノウンハンドが関わっているのか……」


378 : のら犬にさえなれない(前編) ◆gry038wOvE :2014/04/28(月) 20:59:55 AnI3/TBc0

 フィリップは顎に右手を当てて考えている。右ひじに当てた左腕を摩りながら、検索ブロックがかかっている原因について少し考えていた。
 園咲と違うのは、検索そのものは難しくない事。内容だけが全くの白紙となっている。

「……そうか。ありがとう、フィリップくん」
「いや、こちらこそお役に立てなくて申し訳ない限りだ。……これは推測だけど、もしかすると、君たちの地球の記憶そのものが、アンノウンハンドの正体を知らないのかもしれない。あるいは君たちの世界そのものが、その正体を完全に忘れ去っているのかも」

 そう言われて、孤門には心当たりがあるように言った。孤門の目は見開いている。

「僕たちの世界にはメモリーポリスがいる……。記憶の削除を行える端末が存在するんだ」
「……その結果生まれたのが、地球の記憶さえも封じるトップシークレット、か。……今後も僕は必要と思った情報は全て調べるようにする。だから、何か手がかりがあったらお互いに情報を交換し合おう」
「わかった」

 フィリップという存在に対して、全員の好意が集中する。
 フィリップが持つ『無限の本棚』はかなり便利な存在だ。俺は相棒としてもフィリップを買っているが、その一方で『地球の本棚』の能力にも何度も助けられた。フィリップはそうして人々を助けているのだ。自分の力が誰かに必要とされる事を不愉快には思わないだろう。
 ただ、、とにかく、孤門たちの世界の諸悪に関する資料は出てこなかった。出てこなかったとしても、次に訊かれるべき諸悪。それは、話の流れを考えればすぐにわかる話だった。

「……で、脱線したけど、魔女の正体って何なの?」

 美希が話を戻す。このまま忘れてくれるわけにはいかなかった。
 勿論、杏子も言い訳を考えただろう。魔女の正体を訊かれた時に、何と答えるべきか。
 杏子は考えたうえで、他の仲間には嘘を突き通す事を考えたのだ。

 嘘をつく。──それは、上手な人間と下手な人間に分かれる行為の一つだ。
 杏子は自分自身に嘘をつき続けて生きてきた。下手なはずがない。どんな嘘が飛び込んでくるのか。俺はそれを少し楽しみに待った。

「あ、ああ……。そうだな。魔女の正体はな……」

 書置きでは、「魔女の正体は魔法少女の」とまで書いてあった。
 そこから先に繋がる言葉を考えてあるのだろう。
 フィリップは、黙っている。彼は検索する事ができるが、ここから先はそういうわけにもいかない。隠しておく事実というのも存在する。フィリップもそれを理解しているのだろう。
 現状、孤門たちは俺たちに隠し事する事ができないが、俺たちは他の全員に自在に隠し事ができる。……決して、それが有利な事実とは言いたくないが。

「魔女の正体は……」

 杏子は、何度も同じ言葉を口にする。そこから先を言うのを躊躇している証だ。しかし、二度目の躊躇。杏子は息を飲んだ。ついでに言うなら、俺も少し息を飲んだ。

「魔女の正体は…………」

 今の杏子は、嘘を吐く事に僅かの躊躇いがあるように見て取れた。
 そして、三度目の躊躇の後に、杏子は言った。

「魔女の正体は、魔法少女のエネルギーから生み出された怪物なんだ!」

 ……俺にもわかった。こいつは、嘘が下手だと。

「魔女は……わ、悪い奴らがあたしたちの戦っている時の力を利用して生み出したんだよ……。これまでのあたしたちの戦いで使ったエネルギーで、ここにも魔女が生まれちまうんだ」

 不自然な笑みで誤魔化しながら、必死に嘘を作り出している。危ない橋を渡るかのような苦笑いなのかもしれない。自分自身が魔女になるという事実を秘匿しながらも、魔法少女のエネルギーの危険性を伝える為に、そして魔法少女たちの責任も果たす為に、杏子は嘘をついていた。

「エネルギーを生み出すのは、あたしたちのソウルジェムだろ? ……あれを砕けばさ、あたしは魔法少女じゃなくなるけど、魔女は生まれないから、それを書こうとしたんだ」


379 : のら犬にさえなれない(前編) ◆gry038wOvE :2014/04/28(月) 21:00:17 AnI3/TBc0

 嘘に嘘を重ねる杏子の姿を、全員で黙って見つめていた。
 沖さんが口を開いた。

「フィリップくん、本当かい?」
「……ああ、本当だ」

 フィリップは、息を吐くように嘘をついたが、内心で呆れている様子が俺も聞き取れた。
 確かにこれなら、魔法少女のエネルギーの危険性や、いざというときにソウルジェムを砕かなければならない事を、最も重い真実を隠しながら教えていく事ができた。
 フィリップの同意が決定打だろうか。

「……わかったけど、それなら、もっと早く事情を教えてよ」
「悪い……。魔女を生み出していたのがあたしたちだったっていう事が……ちょっとショックでさ。思わず」

 杏子の苦笑いは、乾いているようにも見えた。おそらくだが、この嘘を貫き通しても、仲間がソウルジェムを砕きに来る事はないだろう。いざという時にそれをしなければならないのは俺の役目だ。
 俺は、その役目を果たせるかわからない。こうして、杏子の内面まで見つめながら行動を共にしているのだ。俺は、いざという時も躊躇いの味を忘れないだろう。
 何はともあれ、騙され上手な俺の仲間たちには、悪戯な感謝を贈ろう。







 おおよその事情を話した俺たちが次に来た場所は、警察署の屋上だった。屋上は冷えた空気が溢れていた。

「確かに消えているな……」

 そこにあったはずの小奇麗なミステリーサークル──時空魔法陣は、完全に姿を消していた。俺の手に、孤門からデンデンセンサーが渡された。こいつはもうお役御免という事か。
 どうやら、孤門とヴィヴィオが会議室で待機している間、デンデンセンサーの反応があったらしい。
 それで、不審に思って、二人で屋上まで来ると、そこには「何もなかった」。あるはずのものがないという異常だけが、そこにあった。

「……一体、なんで時空魔法陣が消えたんだ?」
「レーダーハンドを用いても、誰かが来た様子はない。時間切れというわけでもなさそうだが……」

 先ほど、また沖がレーダーハンドを使うために変身したが、周囲に誰か人の様子があるという事はなかった。
 時空魔法陣が結んでいるのは二点のみ。最低でも誰かが使用するまで消えないと思っていたが、どうやらそういうわけではないらしい。
 何らかの不都合、何らかの異常。それがこの時空魔法陣を消したのだろうか。

「もしかして、アインハルトさんや源太さんを……二人の命を奪った犯人が、まだ警察署に潜んでいたのかも」

 と、誰かが言った。女性の声だ。ヴィヴィオだった。アインハルトの友人だった彼女は、それを口にするだけでも辛いはずだった。味方に一つの可能性を提示するためとはいえ、その言葉をひねり出すのにどんな心の葛藤があっただろう。俺たちはそうまでして出てきた言葉を否定しなければならなかった。

「……それは、……違うよ」

 フィリップも、そう否定するのには抵抗があったのだろう。

「……僕たちはその犯人の告白を聞いた。二人を殺したのは、そして君を傷つけたのはダークプリキュアだ」

 その場に戦慄が走る。言葉が出なくなる。隠していたわけではない。ただ、話すタイミングが少しばかりなかったのだ。
 いずれにせよ、彼女はヴィヴィオの命を奪いかけ、大切な友達を喪わせた存在だ。その事実は変わらない。勿論、いつか言わなければならない話だった。
 ただ、誰も納得していた。かつて、俺たちがその可能性を一度提示したせいもあるだろうか。


380 : のら犬にさえなれない(前編) ◆gry038wOvE :2014/04/28(月) 21:01:02 AnI3/TBc0

「彼女は確かに、許されない事をした。……彼女を受け入れるか、受け入れないかは……僕たちの判断だけではどうにもならない。大事な同行者、大事な友人を奪われた君たちが、彼女を恨むのなら……僕たちもここで彼女を突き放す選択肢を選ぶだろう」

 感傷に流されない冷徹非情なハードボイルドが、フィリップの中にはあった。
 確かに、月影なのはが今後、果たしてここに来て受け入れてもらえるのか否かは、今後の重要な課題の一つだ。突き放すという判断だって、決して間違いではない。
 罪を憎んで人を憎まず──とはいっても、隣人を殺した罪を、どこまで許せるのか。
 俺たちの前にいる杏子も、直接手を下していないとはいえ、それに近い事を繰り返してきた。彼女を受け入れられるのなら──と、俺は少し期待した。

「……まあ、その事は直接会わなければわからないと思う。だが、近いうちにその機会は訪れるだろう。彼女を受け入れれるのか、受け入れないのかは、その時に考えてくれればいい。今は彼女の事で悩むよりも、この時空魔法陣について考えようか」

 それでもフィリップは、僅かな感傷──ハーフボイルドも持っていた。
 問題は先送りになるが、実際、今考えたところでどうにもならない。今許せると告げても、いざ会ってみればその想いが壊れる事もある。
 俺たちは、未来の話よりも、まずは目の前にあるそいつの話をする事にした。

「この時空魔法陣は、おそらく誰も使っていない。それなのに姿を消した。理由はわからない。……ただ、一つの目安があるとすれば、それはやはり、『制限の解放』だ」

 デンデンセンサーの反応があったのは、だいたい三十分を少し過ぎたあたりらしい。
 沖一也が制限の解除を終えたあたりとなると、やはりその前後が何かの目安だと考えられる。

「時空魔法陣を操れる奴の制限が解除されたっていう事か……?」

 誰かが、時空魔法陣を操る力を持っている。そして、制限されていた力を解放し、時空魔法陣の行先を変えた──その可能性を、俺は考え、口にした。

「あくまで一つの可能性、か。……まあ、一番筋が通る説明だと思うけど」
「問題はそれが、敵か味方か……」

 沖さんが、深刻な表情で付け加えた。勿論、味方であってほしいが、そうとは限らないのが無情の世の中だ。
 この街は何度でもこんな不安を煽り、戸惑いを投げかける。
 そしてまた、これも俺たちが考えてもどうにもならない問題だった。

「味方であってほしいですよね……」

 争いの種はあってほしくない。しかし、争いの種を撒いている奴はどこにでもいる。
 そういう奴が俺たちの前に突然現れては、大事な仲間を奪っていく。
 俺たちが何より許せないのは、そういう奴らだ。

「……やめよう。このままここでそんな事を考えても仕方がない。考えるのは後だ。俺たちはここに確認に来ただけさ」

 沖はそう言って、中に入るよう促した。この寒空の下にあまりいると風邪をひく。そんな状態で考えるのはもうやめようと、俺たちはすぐに考え至った。
 俺たちは、またぞろぞろと会議室に戻る行列を作った。







 俺たちが会議室に戻ると、目の前で机が全部どかされた。机は端に追いやった。キャスターがついていると、どかしやすい。机は寝るのにも邪魔だったのだ。
 そして、俺たちは、それでようやくその部屋にスペースを作り上げた。
 ……が。

「はぁぁあっ!」

 どういうわけか、俺の目の前のスペースは、寝具の置場ではなかった。マットさえもどかされた。俺たちが寝る為のスペースは、目の前で戦う二人の格闘家の手によって、踏みあらわされていた。


381 : のら犬にさえなれない(前編) ◆gry038wOvE :2014/04/28(月) 21:01:31 AnI3/TBc0

「!!」

 大人の姿になった高町ヴィヴィオ(ストライクアーツ)と、その打ち込みを両腕で回避する沖一也(赤心少林拳)。俺たちの目の前で繰り広げられる迫力の一戦だ。
 風呂に入る前に、少し、トレーニングをしているようだ。それ専用の部屋があるというのに、わざわざこの部屋でやるのはやめてほしいものだが、すぐに終えるという事で、こうして会議室が使われる事になった。
 俺たちは全員、目を奪われるようにその様子を観戦していた。それぞれ、何でこんな物を見せられているのかという思いはない。それは、本当に、凄すぎたのだ。

「はぁっ!」

 覇気を込めたヴィヴィオの攻撃を、沖一也は何なく両腕で防ぐ。まるで、敵の攻撃を予見しているかのように、敵の一撃一撃を吸収していた。風の流れを感じる。ヴィヴィオの腕が沖さんの体へと向けられた時、生じた風──それを、沖さんはまるで操るかのように自分の方へ引き寄せた。
 螺旋の形の風を吸収し、沖さんが解き放つ。

「ふんッ」

 ヴィヴィオがもともと、結構なダメージを受けていた事を踏まえたうえでも、沖さんの身のこなしは軽い。ヴィヴィオの攻撃を一切押し付けないようだ。
 ヴィヴィオの息が切れ始めても、沖さんの息は安定したまま。汗もかいていない。沖さんは殆ど打ち込んではいないが、適格に、無駄のない動きで回避している。

「……くっ、はぁぁぁあっ!!」

 ヴィヴィオが消耗しているのは、一撃でも喰らったからではない。一撃も当てられなかったからだ。沖さんも大人げない人間ではない。ヴィヴィオに遠慮をしているのか、打ち込む事がないのだ。それを遠慮して、「防御」と「回避」に徹している。
 沖さんの余裕や優勢は、素人目にもはっきりとわかるものだった。

「なあ、フィリップ。沖さん、あれ手を抜いてるんじゃねえか」

 俺は思わず、フィリップに小声で訊いた。

「そんな事ないと思うよ」

 フィリップは、微かに笑みを浮かべながらそう言った。俺には、その笑みの意味がわからなかった。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 既にヴィヴィオも諦めたらしく、ファイティングポーズのまま、打ち込んでくる気配はなかった。俺たちは、それを無理もないと思った。
 沖さんは、ヴィヴィオに一礼。ヴィヴィオは、疲れた体ながら、遅れて沖さんに一礼する。
 最初からここで試合を終えるつもりだったのだろうか。スポーツのように、攻守両方に一定の信頼感が見られた。

「……ありがとう、ございました」

 ヴィヴィオは、ようやく息と唾を飲み込んで、そう返した。
 息切れは止まらない。沖さんは、そんなヴィヴィオの姿の前に、少し力を抜いた表情で返した。沖さんは、年長者としてヴィヴィオにアドバイスでも送ろうとしているのだろうか。

「……君の攻撃は確かに強い。基礎体力も気合も充分、伊達にストライクアーツをやってはいないようだ。……このまま鍛えれば、確かにトップクラスの格闘家となる事は間違いないよ」
「え……?」

 沖さんの言葉に、ヴィヴィオは戸惑っているようだ。自分の完敗を感じたヴィヴィオは、沖さんからこうして至上の賛辞を受け取れるとは思わなかったのだろう。
 一撃も当てられず、全て避けられたのが少しばかりきいたらしい。

「俺が使う梅花は、防御に徹し、相手の木を外へと誘う守りの拳だ。勿論、攻撃の基礎も覚えているが、……実はそれは君ほどじゃないんだ。かわす事はできても、君のような攻撃はできない」

 沖さんは、そう言いながら、後ろ髪を掻いて自嘲気味に笑った。

「赤心少林拳には二つの流派がある。一つは『玄海流』、防御の型・梅花。一つは『黒沼流』、攻撃の方・桜花。……この人が修得したのは梅花だ」


382 : のら犬にさえなれない(前編) ◆gry038wOvE :2014/04/28(月) 21:01:52 AnI3/TBc0

 フィリップはどうやら、赤心少林拳についても調査済だったらしい。おそらくは、ストライクアーツについても既に調べつくしてあるのだろう。
 格闘の流派の話は、はっきり言えば俺にはわからない。ただ、少年漫画のような話に燃えてしまう心は、男の中にはいつまでも残る。正直、俺も結構ヒートアップしていた。

「明日の朝、簡単な基礎を君に伝授する。完璧に複製するのは……そう簡単な事ではないが、少しは身につくだろう。そして、何より……俺の拳と君の拳、二つを合わせた時、どんな技になるのか──少し楽しみになった」

 格闘家として、同じ格闘家に共感を得ているのだろうか。
 今の戦いで自分が認められた事を、ヴィヴィオは少し嬉しそうにしていた。

「無差別格闘早乙女流・早乙女乱馬、無差別格闘天道流・天道あかね、明堂院古武術・明堂院いつき、それにカイザーアーツ・アインハルト・ストラトス。……本当は彼らにも伝授したかったが……」

 一方の、沖さんは、嬉しい一方で、少し残念そうな言葉を投げかけた。
 とにかく、俺たちはその場をしばらく動けなかった。今の格闘の様子に驚き、動けなかったのだ。全員、ある程度の心得はあるが、そんなに強いものではなかった。






383 : のら犬にさえなれない(後編) ◆gry038wOvE :2014/04/28(月) 21:02:23 AnI3/TBc0



 ……。

「先ほどレーダーアイで見たところでは、周囲10km以内に敵の姿は無い。おそらくすぐに誰かが俺たちの目の前に現れる事はないだろう」

 …………。

「今なら行ける、という事か。どうする? みんな」

 ………………。

「勿論、行くわ……!」

 ……………………さて。
 俺たちは、ほんの一時的にだが、警察署を出ていた。会議室のホワイトボードに伝言を残す。俺たちは、風呂に入るために外出していると。
 沖さんはここまでの道程を殆ど記憶しており、この偽りの街を「庭」にしていた。北も南も知りつくしている。俺は風都なら隅から隅まで覚えているが、ここは風都じゃない。俺はこの街の姿を覚えるのは苦手だった。

 俺たちの前には、銭湯がある。
 銭湯──何とレトロな響きか。一家に一台風呂がある時代に、廃れていってしまうこの施設。銭湯屋が潰れるたびに、俺たちは切なさを感じるだろう。風都にも良い銭湯があるので紹介したいが、それはまた後にしよう。

「よっしゃぁぁぁぁぁ! 久々の銭湯だぁぁぁぁぁぁっ!」

 ……俺のこの時の歓喜の叫びは無視してくれ。

「はしゃぎすぎだ、翔太郎。いくら周囲に人がいないからって」
「でも、結構汗かきましたからね……。少しはのんびりしたいです」

 そう、ヴィヴィオの運動は、いわば風呂の前の僅かな休憩だ。
 その時の汗──それから、今日一日の全ての汗と悲しみを洗い流すには、今日の終わりに風呂に入るのが一番いい。

「そうだね。みんな、一日疲れただろうから、少しゆっくりするといいよ」

 孤門が言う。
 一日のご褒美としては、まあ妥当だろう。
 銭湯に入るのが久しぶりという奴は、ここにもいるだろうか。
 俺たちは、そこへ足を踏み入れた。
 俺たちは無人の番台に330円払い、「男」と「女」の二つの更衣室に入った。







 ……そして、そんな俺を待っていたのは、男祭りだ。

 当たり前だが、男湯には男しかいない。孤門一輝、沖一也、俺、フィリップの四人のマッチョメンが全裸で、横一列Gメン歩きで、タオル一枚を手に持って、銭湯の中へと進んでいく、冗談のような光景。恐ろしいのは全員、首輪だけはしている事だ。
 所謂裸の付き合い、男祭り。下町人情まっしぐらの世界だ。下町生まれの日本男児は、裸の付き合いで絆を深める。だから、これは何という話でもない。
 あの富士山なんか、いかにも下町の風呂屋じゃないか。──そう、ここからは俺もハードボイルドをやめて、少し下町風情のある、「日本のハードボイルド」の世界に入る。
 タオルはいらねえ。俺はタオルをぶん投げる。
 湯船にタオルを入れる行為は禁止されている。俺たちはタオルを外し、行水するようにお湯を浴びる。
 これが日本の風呂。俺たちの風呂。

『……おい、ヴィヴィオ、走んな! あぶねえぞぉー!』

 ……と、そんな俺の耳には、嘘のような言葉が聞こえた。
 俺は半分既に湯船に漬かろうとしていた。

 ──俺たち四人は、その声の方を凝視した。
 まさか、これは──そう。
 壁。
 壁だ。俺たちの横には、壁がある。湯煙と音声が、二つの壁の上を通る。……もしや、これは本当に昔ながらの銭湯ではないか。

 女湯の声が、そのまま男湯に筒抜けになっているという、例の気まずい銭湯だ。
 この壁一枚だけが、男湯と女湯を区切っている。女同士がバストの大きさを語り合うかもしれないのが恐ろしい。そうした会話も全て筒抜ける。気づいてしまえば、男湯の側から声をかける事もできず、声を出すのも何となく避けられる。


384 : のら犬にさえなれない(後編) ◆gry038wOvE :2014/04/28(月) 21:06:17 AnI3/TBc0

 しかし、孤門たちは気にしない風に全身をお湯に漬けていった。

「あ、あの……沖さん、言いにくいんですけど、沖さんは水の中に入って大丈夫なんですか?」

 ──孤門、空気読め! 聞こえなかったのか、今の杏子の声が。このすぐ隣にいる杏子は服を着ていない。お互いにそんな声が聞こえたら凄く気まずいんだ!
 お前、普通に喋り出して隣に聞こえたらどうする気だ。男の声が女湯に聞こえると何となく気まずいんだよ、こういうところは。

「……人工皮膚の感度でも、殆ど生身と同じ温度を感じる事ができる。たとえ体が機械でも、魂はこうして洗われるんだ。改造人間の体は、水が苦手という事もない。むしろ長時間の潜水もできるほどだからな。……まあ、生活は人間と変わらないさ」

 そして、沖さんが更に長い説明をする。これは流石に聞こえたんじゃないだろうか。それよか、沖さんの耳に隣の銭湯の声が入っていないわけがない。常人の俺でも聞こえるくらいだ。
 沖さんはこの程度なら無視を決め込めるようだ。

『ねえ、杏子。いま何か聞こえなかったー?』
『気のせいだろー』
『そうですよー』

 隣から聞こえる声。女湯は声を大きくして楽しんでいるが、男湯はぼそぼそと喋っているだけなので、さして隣に響くような声ではないらしい。
 俺のほか、三人も黙り始めた。やはり、男性陣は、こういう時は聞かなかったフリをしてぼーっとしているのが一番いいのだろう。
 ふと、隣から声が聞こえてきた。

『……つーかさ、ずっと気になってたんだけど、美希。おまえ胸デカくね?』

 いきなりお約束かよ! お前も空気読めよ杏子!
 こっちではいい年こいた男が揃って赤面してんだよ(フィリップ除く)!
 美希の胸がやたらデカいのは服の上からでもわかるけど!

「ンーッ!! ンッンッ!! ンッ!!」

 俺はわざとらしい咳払で、何となく隣の浴槽にこちらの存在を知らせようとした。見れば、沖さんや孤門も苦笑いをしつつ、どこか赤面していた。
 流石に、今の俺の咳払いが届けば、流石にそんな話はやめるだろう。

『マミとどっちがデカいかな? ……流石にマミか。あれは破格だ』
『なのはママやフェイトママに比べたら、まだまだですよ!』
『ちょ……ちょっとやめてよ、二人とも!』

 壁の上の僅かな隙間から筒抜けてくる女湯のから騒ぎ。
 女三人寄ればかしましいとはよく言ったもので、男の肩身は狭くなるばかりだ。
 ……俺の咳払いは届いてくれなかったらしい。

「さあ、検索を始めよう……。キーワードは、『無差別格闘天道流』」

 一方、フィリップは、何もお構いなしに検索を始めている。こいつだけは湯船から出て、ちゃんと腰にタオルを巻いていた。興味のあるデーターベースを閲覧しては、湯気で真っ白になった鏡に指で何か書き込んでいる。
 『無限の本棚』を用いて、とにかくここで出会ったあらゆる単語について調べているようだ。フィリップはフィリップのままである。俺はたまにこいつのマイペースさがうらやましい。

『……うわはははは、やめてくださいよ、杏子さん!』
『おら、こちょこちょこちょこちょー』
『うわっ! ほんとにやめなさい! こら、あ……! あっ……』

 マジで何やってんだあいつら……。
 何か杏子が暴れているらしく、波音のようなものがこちらまで響いてくるほどだ。
 俺は、顔の半分をお湯に委ねて、湯船でとにかく耳を塞いだ。これ以上聞いてはならない気がした。孤門も同じ状態になっている。沖さんに至っては、水中だろうが無関係に隣の声が聞こえるので、既に拳法の極意で無心モードに入っている。

『……あー、もう、本当に元気すぎるわよ』
『へへへ。まあ、有り余ってるってほどじゃないけどな……』


385 : のら犬にさえなれない(後編) ◆gry038wOvE :2014/04/28(月) 21:06:40 AnI3/TBc0

 ……しかし、耳を漬けているふりをして、実は聞いているのが男の常。
 いくら相手が女子中学生以下とはいえ、何を話しているのかは気になってしまうのが情なのだ。
 向こうもさっきまで暴れていたが、随分と静かになった様子である。



 俺は、次に彼女らがどんな言葉を言い合うのか、少し期待していた。

『…………ねぇ、杏子。あなた、あの四人の中で誰が一番イケメンだと思う?』

 修学旅行か! ──と、思わず俺は心の中で突っ込んだ。
 美希はいきなり、杏子にそんな事を訊いている。好きな人が誰か、ではなく、誰が一番イケメンか、という問いだ。
 これはまた微妙に俺たちにも緊張が走る。「好きな人」という条件ならば、元の世界の人間などもありえる。それで、自分が周囲と競い合う必要もなくなる。しかし、四人の中で誰が一番イケメンか、という質問だと、「選んでくれ」という期待が湧かざるを得ない。
 目の前にいる三人がライバル。──少し敵対心が湧いてしまう。俺たちの耳に全部筒抜けだと知っていれば、おそらくしないであろう質問。だからこそ、本気になる。
 周囲の人間よりも自分がイケメンだと、そう信じて、答えを待つ。

 杏子、頼む。俺を選んでくれ。

『……フィリップの兄ちゃんかな』
『そう』

 意外とあっさりと答えられてしまった。この瞬間、少しフィリップに対するジェラシーと羨望が湧いたのは言うまでもない。
 俺の事は選ばれないが、まあいい。それは孤門も沖さんも同じだ。伊達にモテない語りをした仲だけはある。
 すると、杏子は訊き返した。

『美希は?』
『……ずっと一緒にいたせいもあるけど、やっぱり孤門さんかしら』(←面食い)
『ふーん。確かにカッコいいよな。ヴィヴィオは?』
『やっぱり沖さんですね!』(←格闘馬鹿)

 うおおおおおおおおおおおおおォォォオィ!!! ちょっと待て!! これ俺だけ選ばれてねえぞ!!!!
 これは予想外だ。選ばれた一人以外は団結できるかと思ったが、甘かった。
 このままだと、俺の居心地が悪いだけに終わってしまう。

 ……まずいぞ。このまま会話を終えると、俺だけ立つ瀬がねえ。ハードボイルドは死んだのか。ハードボイルドがカッコいいと言われる時代は終わったのか! ボギー、ボギー、あんたの時代は良かった……男がピカピカのキザでいられて。
 クソッ……前が見られない。俺の前で、孤門と沖さんがどんな顔をしているのかを見たくない。憐れんでいる。きっと憐れんでいるはずだ。

『え? クリスはフィリップさんでも孤門さんでも沖さんでもって?』

 ん。クリスもいるのか。男だか女だかわからないが、とにかくラストチャンスだ。
 うさぎのぬいぐるみでも何でもいいから、俺が選ばれればそれだけでホッとする。
 勝ち負けとかはいいんだ。とにかく、俺の話題を出してくれ。

『ふむふむ……。ああ、なるほど。…………さんがハードボイルドでカッコいいと』

 お……? 一部聞き取れなかったのが不安だが、これはどう考えても俺だ。ざっと見渡しても、ハードボイルドの条件に合うのは俺だけ。そもそもハードボイルドを目指しているのは俺だけだから、俺以外にありえない。
 もはやハードボイルドは俺の枕詞。他に該当者がいるはずがない。
 仮にクリスが男だとしても、それは男の憧れとして俺を選んだという事。俺のハードボイルドさにあこがれを持ってもおかしくはないだろう。

『へー、冴島鋼牙か……確かに、ああいうのをハードボイルドっていうんだよなぁ』

 そっちかよ!!
 ハードボイルドといえば俺だろ、あいつじゃなくて!!
 変な言い回しで期待させるんじゃねえ!!

『……ねえ、杏子。あなた、翔太郎さん派じゃないの?』
『何派とかあるのか? ……まあいいけど』
『いや、翔太郎さんは”アレ”だけど、一応イケメンじゃない。それにあなた、ずっと一緒にいたでしょ?』


386 : のら犬にさえなれない(後編) ◆gry038wOvE :2014/04/28(月) 21:07:13 AnI3/TBc0

 アレって何だよ。一応って何だよ。もう突っ込むのも疲れる話だ。
 とにかく、イケメンの一言を聞けただけでもよしとしよう。

『確かにあの兄ちゃんは”アレ”だけど、一応顔は良いんだよな。”アレ”だけど』

 ……やっぱり、何だか傷つくから、アレを連呼するのはやめてくれ。曖昧すぎていくらでも想像の余地があるのが傷つく。

『……でも、本当に尊敬してるし、憧れてるよ。あたしをいつも勇気づけてくれた人、なんだよな。良い人だよ』
『好きだったりする?』
『あ、それ私も聞きたいです!』

 今度はさっきまでの蔑ろっぷりが嘘のように、急に俺の話題で活気づいて来た。……が、それもまた不穏といえば不穏だ。
 話してほしいような、話してほしくないような複雑な心境が俺を襲う。
 フィリップがこっちの世界に戻ってきて、耳を傾け始めていた。俺の方を見てニヤつくのをやめろ。俺はハードボイルドだ。女子中学生、略してJCには興味はない。仮にホレられたとしても、俺は背中を向けてカッコよく去っていくのみだ……。

『……あー、悪いけど、そういう話は苦手だ。人の恋路を茶化すのは得意なんだけど、茶化されるのは好きじゃないんだ』

 杏子も同じだ。恋愛対象ではないだろう。俺としては、杏子の解答が無駄にハードボイルドなのが鼻につくが、まあいい。男女バディもなかなかハードボイルドじゃないか。

『でも、まぁ……あたしがもう少し大人で、魔法少女じゃなければ、もしかしたら、アリだったかもな』

 ん。マジかよ。
 ……でも待て。魔法少女じゃなければ……って。

『……今はまだ、いや……今はもう、わからねえや、はは……』

 そうか……。
 ……俺は、その言葉を聞いた時、ふと杏子の身の上を思い出した。「結局、わからない」というのが、杏子の出した答えだが、それは俺に向けられた言葉じゃない。誰に対しても、きっと同じ言葉が向くだろう。
 杏子は魔法少女だ。既に体は人とは違う。彼女の本体はソウルジェムにある。……杏子は、そんな体で恋をしてはいけないと思っているのだろう。人じゃないから、人とは違うから。仲間がいても、恋人はいちゃいけない。

 魔法少女の体。それが負い目なのだろう。一人で生きるという決意もまだ、根っこにある。

 杏子は、「恋」というのを知らない。天道あかねの恋の話を問いかける事があっても、自分の恋は語らない──語れない。
 俺は、それが少し寂しい気もした。
 せめて、杏子が誰かを好きになる事があるのなら、俺はそいつを応援したい。俺たちみたく、安全なドライバーで変身するのではなく、自分の体も、家族も、命もかけて変身する少女たち──魔法少女の人生に、ほんの少しでもいい。華を贈りたかった。誰かを好きになる事さえできない生涯なんて、面白くも何ともない。

「……」

 この場にいる中で、俺とフィリップと杏子だけが知る、魔法少女の本当の事情。
 俺たちだけしか知らない秘密──孤門たちは、今の会話をどう思っただろう。戦う宿命が周囲を傷つけないために恋を捨てたと思っているのだろうか。
 違う……。杏子は、体ごと、人間のそれとは少し違う物になってしまっている。沖さんなら、もっとよく、その意味がわかるのかもしれない。それでも、沖さんに伝える事はできない。杏子自身が、それを周囲に伝えないようにしているのだ。
 俺たちは杏子の言葉がいかに重い意味を持っていたのか、悟られないように──それを表情に出さないようにしなければならなかった。
 何事もなかったかのように、女湯では会話が続いていく。……杏子が抱えていた孤独に、気づく者はなく。

 杏子、お前だって、いつかはきっと……。






387 : のら犬にさえなれない(後編) ◆gry038wOvE :2014/04/28(月) 21:07:43 AnI3/TBc0



 それからまた少し経って、全員おとなしくなってからは、彼女たちは少し違った話をし始めた。

『……でもさ。やっぱり、お風呂に来るならさ。みんなで一緒に入りたかったよね』

 その時、俺が聞いたヴィヴィオの声は、どこか哀愁に満ちていた。俺たちの中で、一瞬時間が止まった。誰もが、その言葉で現実に引き戻されたような気がした。湯煙だけが流れていく。
 俺たちは刹那的に、それを忘れた気になっていたが、頭の片隅に、そんな想いもあった。この風呂がこんなに広いのなら、まだ生きてこうして体の疲れを洗い流せる仲間が入る余地はある。

『前にいつきさん、一緒にお風呂に入ろうって言ったけど……やっぱり……』

 湯煙が目に入り、涙と混ざり合う。しゃがれ声と、喘ぐような鳴き声が男湯にも、女湯にも響きだした。

『やっぱり……』

 ヴィヴィオがいま、泣いているのを俺たちは知っていた。女たちだけの秘密の涙だと、彼女たちは思っているのだろう。それは男湯にも響いていた。
 彼女は確かに、強い。それでも、もう終わろうとしている今日という日の全てを振り返ると、涙だけがこぼれていくようだった。彼女の涙は、この狭い海に受け止められる。俺たちの一日の汗を洗い流すこの適温が、共に洗い流してくれるだろう。
 俺たちは、このヴィヴィオの涙を、正真正銘に聞かなかった事にしようと思った。
 それでも、誰かを守れなかった自分自身の罪がそこにあるのなら、この言葉を聞きのがしてはならないと、俺は思っていた。彼女たちが仲間を喪った事をどれだけ悲しんでいるのか──それは、俺たちが知らなきゃいけない現実だ。
 ヴィヴィオは、こうして風呂に入っている時に、ずっと何かを思い出していたようだ。

『前に合宿で、アインハルトさんや……ティアナさん、スバルさんとも一緒にお風呂に入った事があって……なのはママやフェイトママとも、いつも一緒にお風呂に入ってて……』

 日常。昨日まであったはずの日々。それが、崩れ去った一日。彼女は、それを風呂で思い出した。生暖かい煙が目に入っていくとともに、堪えていた涙は、落ち着いていた心は、だんだんと均衡を保つのを忘れる。
 それは俺にもわかった。こうして、隣から聞こえる声を辿っていくと、俺も照井竜──昨日まで隣で一緒に解決していたような仲間の死がだんだんと実感として胸に湧き出てくるような気がした。
 あいつが俺たちの探偵事務所のドアを叩く事はもうない。
 仮面ライダーアクセルが俺たちとともに街を救う事ももうない。
 それが明日からの日々。自分がいた場所に戻っても、修復されないであろう日常世界。
 果たして、俺たちが戻った世界には誰かが迎えてくれるのだろうか。──照井竜が、そこにいる日常は、あるのだろうか。

『もう、……もう、会えないのかなぁ……』

 俺は、その言葉が聞きたくなくて、一度潜って、また浮き上がった。もう会えない、それがおそらく真実。
 虚空を見上げ、照井の姿を思い出す。俺の頭の中からは、あいつの笑顔が消えなかった。
 俺たちが知る誰かの姿──消えていってしまった人間の姿。
 俺たちはその未練を断ち切れるのだろうか。本当に断ち切れているのだろうか。
 大切な人がそこにあった日の事を、何度でも思い浮かべるんじゃないだろうか。

『そうだよね……もっと、もっと一緒にいたかったよね……』

 美希の声は、慰めるというよりは、涙混じりの共感だった。
 そう、彼女もいま、泣いている。──山吹祈里や、東せつな、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆり。失った仲間は多い。
 共に歩んできた道を振り返ってみると、置いて行かれた仲間の姿だけがある。もう、同じ道を一緒に歩んでいく事はない。

『当たり前だろ……あたしだって、もっと……もっとさ、もっと……別の会い方をしたかった人が……いるよ……』

 杏子の声は、涙こそ入り組んでいなかったが、遠い何かを見つめているように郷愁的だった。彼女ももう、大人よりも過酷な人生を生きてきている。誰かの死を耐えるのだけは一人前なのだろう。
 それでも、わからない。
 俺は杏子が泣いているのか否か、俺がそれをはっきりと知る事はなかった。


388 : のら犬にさえなれない(後編) ◆gry038wOvE :2014/04/28(月) 21:08:14 AnI3/TBc0

 ……俺もそこにいる彼女たちに声をかけたかった。かける言葉がないとしても、ここに男女を隔てる壁があるとしても。
 俺は、まだ何人もの仲間が死んでいった事を覚えている。
 死んだ仲間の数を数える事ができる。その名前を記憶している。

 女湯からの泣き声は重なり合う。
 俺たちは、それを黙って聞いていた。
 自分の無力、あるいは、この殺し合いの残酷さ、無情さ。
 誰かの悪意が生み出したこの悪趣味なゲームを、俺たちは一刻も早く終わらせたいと、切に願った。
 今も、恥知らずな誰かが、俺たちの声を聞いているだろう。
 殺し合いに巻き込まれていく俺たちの運命を、誰かが見て、聞いている。──俺はそいつを、ぶっ飛ばすだけでは気が済まないのだろう。

 残り、十九人、もしくはそれ以下──俺たちは、その数の重みを、改めて思い出した。







 ……俺は、風呂から出て着替えて、ドライヤーで髪を乾かすと、すぐにコーヒー牛乳のある自動販売機にお金を入れた。風呂上りといえば、やはりコーヒー牛乳が王道だ。ここに異論を挟む奴はそうそういない。
 俺は、自動販売機に引っかかっている針にキャップを刺して、瓶牛乳を開ける。
 それを飲み干すと、俺はわざとらしい声をあげた。美味い、と、コーヒー牛乳に賛辞を贈る。ここはもう、更衣室の外だ。男女問わず、俺の姿に目を向けた。

「女は長風呂だって聞いてたが、思ったより早かったな」
「こんな状況ですから、あまり長風呂もしていられません」

 美希はそう返す。涙の痕はない。涙を乾かすのに少し時間がかかったのかもしれない。ヴィヴィオにも、美希にも、杏子にも、誰の目にも涙の痕はなかった。
 俺たちは、やはり知らないふりを通そうと思った。誰もそんなルールを口にする事はなかったが、暗黙の了解だった。今更触れる奴もいない。

「んじゃ、まあ、少し休んだらすぐに警察署に戻るか。もう良い子が寝る時間はとっくに過ぎちまってる」

 時刻はもう、二十三時半も超えている。随分風呂も長引いた。
 風呂上り、俺たちの一部はもう眠くなりかけていた。ヴィヴィオや美希の顔色からは、それがはっきりと見て取れた。
 美希はモデルだ。普段は早寝早起きが基本。美容にも気を使っている。生活のリズムも随分狂わされただろう。
 俺は、牛乳瓶をケースに入れた。勿論、最初の一人だ。この銭湯に立ち寄って、自動販売機に硬貨を入れて、コーヒー牛乳を飲んだ最初の一人が俺らしい。
 続けて、俺よりゆっくりと牛乳を飲み干していた残りの奴らも、空き瓶をケースに入れた。

「……忘れ物はない?」

 孤門はしっかり者だ。こういう事をよく言ってくれる。
 これはだいたい、美希か孤門の役回りだ。几帳面というか、周囲をやたら気遣うタイプというか。……俺は、デイパックがある事や、手元に道具や財布がある事を確認した。

「……って、翔太郎さん、帽子は?」

 そう訊いたのが、美希だ。やっぱりこっちもしっかり者には違いない。
 俺は大事な帽子を忘れていた。おそらく、髪を乾かした時。ドライヤーをかける時に外して、そのまま洗面台に置き忘れたのだろう。
 俺はその時の情景を思い出した。

「あっ、そうだ。洗面台に忘れた……悪い、みんな。ちょっと取ってくる」
「おいおい、あれ大事なチャームポイントだろ。忘れるなよ」

 杏子が俺の背中に茶化す。
 俺が帽子を忘れる事など滅多にない。俺にとって、帽子とは、俺の師匠が刻み込んだハードボイルドの掟そのものだからだ。俺はずっと、帽子が似合う男に憧れて生きてきた。一人前の男に憧れて生きてきた。
 だから、その帽子を忘れるという事は、俺が少なからず動揺しているという事だった。
 俺は、すぐに「男」と書かれた暖簾をくぐった。






389 : のら犬にさえなれない(後編) ◆gry038wOvE :2014/04/28(月) 21:08:37 AnI3/TBc0



 帽子は、やはり俺の睨んだ通り、洗面台の上にあった。
 俺はそれを手に取ると、再び鏡を見た。
 勿論、鏡には俺が映っている。他にはロッカーしか映っていない。この銭湯には本当に誰もいないだろう。単独行動だからといって、誰かが襲ってくる事もない。

「うっし……」

 俺は、それでもわざと声を出した。
 目の前にいる男に気合を入れるように。俺がまだ、杏子の師でいられるように。
 俺も鳴海壮吉のような、おやっさんのような立派な人間になりたい。
 死者への未練──それがまだ俺の中に少しでもある事を、杏子に悟られたくはない。
 勿論、俺の中にはきっとそんな生ぬるい優しさがあるだろう。
 フィリップがいなくなった一年、俺はずっとフィリップがいる日常を想定して行動し続けた。フィリップの名前を呼び、フィリップに協力を仰ごうとしてきた。
 おやっさんがいなくなった時も、広々とした事務所をどう使えばいいのか、ずっと迷っていた。
 照井がいなくなった今の俺。
 ユーノも、フェイトも、霧彦も、姫矢も、いつきも……守り切れなかった俺。
 また、いつどんな失態を犯してしまうかわからない。俺の心の均衡が、俺のハーフボイルドが、いつまた、些細なミスを起こすかもわからない。

(しっかりしろよ、ハーフボイルド野郎。……お前を尊敬して、お前に憧れている奴がいるんだとよ。みっともない姿は見せるんじゃねえぞ)

 ドン、と。小さなパンチを、鏡の前へと一発。
 鏡を割る気はない。鏡の向こうの俺の拳に、少しでも響いてくれればいい。
 鏡の向こうから放たれたパンチは、俺の右拳を少しだけ、じんとさせる。
 俺はそれで気合を入れた。

(おやっさん……。あんたも俺を弟子に持つ時、こんな気持ちだったのか? ……あんたも本当は、仮面の裏で、帽子の下で……悲しみを抱いていたのか?)

 おやっさんは、ずっと自分が仮面ライダースカルである事を隠していた。
 俺が知らない痛みを、悲しみを、事情を、おやっさんはまだ抱えていたのかもしれない。
 俺は、それに全て気づく事はなかった。
 俺が杏子の前で隠し続けている、痛み。罪。心の傷。弱さ。──それを隠して、俺はただのハーフボイルドな、面白い兄ちゃんを気取らなきゃならない。
 いや、それが全て俺の偽りというわけじゃない。それも含めて俺自身だが、そこには悲しみを隠すためのフィルターという役割もある。

(……俺の抱えている辛さなんか、あいつは知らなくてもいい。俺の方が大人なんだ。あいつの方がずっと辛い想いをしている。……せめて、俺たちだけは、あいつが本音でいられる居場所じゃねえと……じゃねえと、あいつは潰れちまう)

 俺は、ソフト帽をかぶりなおして、キリッとした表情を鏡に見せる。
 大丈夫。俺はまた、一人前の顔付きに近づいている。帽子が似合う男になり続けている。
 そこに弱さはない。──俺の弱さは映っていない。
 俺は、そのまま銭湯の更衣室を出た。







「いやー、さっぱりしたねー」

 女性陣たちは、より一層、絆を深めたという感じか。三人とも風呂が嫌いなわけではないらしい。俺たちの全員の体からは白い煙が立っている。こんな状態で夜風に晒されるのは寒さを余すだけのように思えたが、時折温かい風も吹いた。

「一日の疲れも少しは取れたか?」


390 : のら犬にさえなれない(後編) ◆gry038wOvE :2014/04/28(月) 21:09:02 AnI3/TBc0

 俺が女性陣に訊くと、「おう」、「はい」と肯定の声が届いた。
 どうやら、殺し合いの最中でも風呂の時間を作ったのは正解だったらしい。
 つかの間の休息という感じだが、充分に心の栄養になる時間が取れた。この小一時間も、そのために潰されたと思えば怒りも湧かないところだろう。
 彼女らは、あとは眠りにつくだけだ。もう丸一日寝ていないわけだから、眠くないはずがない。

 帰り際、沖さんが俺とフィリップの方を向いて言った。

「……そういえば、一つ伝え忘れていた事がある」

 俺たちは全員、足を止めた。沖さんの言葉を真剣に聞こうとしていた。
 何を伝えるのだろうか──ここに来てから、前置きがあるニュースに、あまり良い印象はないので、咄嗟に真剣な表情にさせられてしまう。

「先ほど、レーダーアイが海上に謎の建造物があるのを捉えた。……こちらの島と繋がっているが、俺の記憶では、つい少し前まで存在しなかった建物だ。そこには妙な人型の置物が乗っていた。……実はもともとあったのを見落としていただけかもしれないが、あんな不自然な場所は地図にも載っていないんだ」

 レーダーアイが使用されたのは、おそらく俺たちを探す時だ。その時は俺たちを優先したが、一つの異変としてそれを認識していたのだろう。ただ、話すタイミングがなく、頭の片隅に置かれていた。
 どうやら、この会場にまで、色んな異変が起こっているらしい。
 殺し合いが行われている島の周囲の海上に、謎の建造物が現れる。──風都でもありえないような出来事だ。

「……その時、少しだが建物の看板の文字が見えたんだ。フィリップくん、一応、それについて検索をお願いしてもいいか?」
「ええ。……構いませんよ」

 フィリップは勿論、快く受け入れた。
 レーダーハンドと『無限の本棚』、どうやら便利さに関しては、どちらもピカイチのようだ。

「海上に現れた謎の建造物──その名前は」

 フィリップが検索の準備を始める。

「かもめビリヤード場」

 かもめビリヤード場……って、どっかで聞いた気がするな……。

「……なんだ。その単語ならば、検索の必要はない……」

 そうだ、フィリップ。
 だって、その「かもめビリヤード場」を、俺たちは本棚の中身よりもよく知っているじゃないか。
 だって、その「かもめビリヤード場」ってのは……






「……うちの探偵事務所じゃねえか!!!!」


391 : のら犬にさえなれない(後編) ◆gry038wOvE :2014/04/28(月) 21:09:36 AnI3/TBc0




【1日目 深夜】
【F-9/警察署前】


【蒼乃美希@フレッシュプリキュア!】
[状態]:ダメージ(中)、祈里やせつなの死に怒り 、精神的疲労
[装備]:リンクルン(ベリー)@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式((食料と水を少し消費+ペットボトル一本消費)、シンヤのマイクロレコーダー@宇宙の騎士テッカマンブレード、双ディスク@侍戦隊シンケンジャー、リンクルン(パイン)@フレッシュプリキュア!、ガイアメモリに関するポスター、杏子からの500円硬貨
[思考]
基本:こんな馬鹿げた戦いに乗るつもりはない。
0:警察署に帰る。
1:警察署内では予定通りに行動する。
2:プリキュアのみんな(特にラブが)が心配。
[備考]
※プリキュアオールスターズDX3冒頭で、ファッションショーを見ているシーンからの参戦です。
※その為、ブラックホールに関する出来事は知りませんが、いつきから聞きました。
※放送を聞いたときに戦闘したため、第二回放送をおぼろげにしか聞いていません。
※聞き逃した第二回放送についてや、乱馬関連の出来事を知りました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。

【沖一也@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、強い決意、お風呂に入ってさっぱり
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2、首輪(祈里)、ガイアメモリに関するポスター、お菓子・薬・飲み物少々、D-BOY FILE@宇宙の騎士テッカマンブレード、杏子の書置き(握りつぶされてます)
[思考]
基本:殺し合いを防ぎ、加頭を倒す
0:警察署に帰る。その前にフィリップくんに『かもめビリヤード』を検索してもらおう
1:本郷猛の遺志を継いで、仮面ライダーとして人類を護る。
2:警察署内では予定通りに行動する。
3:この命に代えてもいつき達を守る。
4:先輩ライダーを捜す。結城と合流したい。
5:仮面ライダーZXか…
6:ダークプリキュアについてはいつきに任せる。
[備考]
※参戦時期は第1部最終話(3巻終了後)終了直後です。
※一文字からBADANや村雨についての説明を簡単に聞きました
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました
※18時に市街地で一文字と合流する話になっています。
※ノーザが死んだ理由は本郷猛と相打ちになったかアクマロが裏切ったか、そのどちらかの可能性を推測しています。
※第二回放送のニードルのなぞなぞを解きました。そのため、警察署が危険であることを理解しています。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※ダークプリキュアは仮面ライダーエターナルと会っていると思っています。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はレーダーハンドの使用と、パワーハンドの威力向上です。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。


392 : のら犬にさえなれない(後編) ◆gry038wOvE :2014/04/28(月) 21:11:01 AnI3/TBc0

【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:上半身火傷(ティオの治療でやや回復)、左腕骨折(手当て済+ティオの治療でやや回復)、誰かに首を絞められた跡、決意、臨死体験による心情の感覚の変化、お風呂に入ってさっぱり
[装備]:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはシリーズ、稲妻電光剣@仮面ライダーSPIRITS
[道具]:支給品一式(アインハルト(食料と水を少し消費))、アスティオン(疲労・睡眠中)@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ほむらの制服の袖、マッハキャリバー(待機状態・破損有(使用可能な程度))@魔法少女リリカルなのはシリーズ、リボルバーナックル(両手・収納中)@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
0:警察署に帰る。
1:生きる。
2:警察署内では予定通りに行動する。
[備考]
※参戦時期はvivid、アインハルトと仲良くなって以降のどこか(少なくてもMemory;21以降)です
※乱馬の嘘に薄々気付いているものの、その事を責めるつもりは全くありません。
※ガドルの呼びかけを聞いていません。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※第二回放送のボーナス関連の話は一切聞いておらず、とりあえず孤門から「警察署は危険」と教わっただけです。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※一度心肺停止状態になりましたが、孤門の心肺蘇生法とAEDによって生存。臨死体験をしました。それにより、少し考え方や価値観がプラス思考に変わり、精神面でも落ち着いています。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。


【孤門一輝@ウルトラマンネクサス】
[状態]:ダメージ(中)、ナイトレイダーの制服を着用 、精神的疲労、お風呂に入ってさっぱり
[装備]:ディバイトランチャー@ウルトラマンネクサス
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2(戦闘に使えるものがない)、リコちゃん人形@仮面ライダーW、ガイアメモリに関するポスター×3、ガンバルクイナ君@ウルトラマンネクサス
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
0:警察署に帰る。
1:みんなを何としてでも保護し、この島から脱出する。
2:警察署内では予定通りに行動する。
3:副隊長、石堀さん、美希ちゃんの友達と一刻も早く合流したい。
4:溝呂木眞也が殺し合いに乗っていたのなら、何としてでも止める。
[備考]
※溝呂木が死亡した後からの参戦です(石堀の正体がダークザギであることは知りません)。
※パラレルワールドの存在を聞いたことで、溝呂木がまだダークメフィストであった頃の世界から来ていると推測しています。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。


393 : のら犬にさえなれない(後編) ◆gry038wOvE :2014/04/28(月) 21:11:26 AnI3/TBc0

【左翔太郎@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、胸骨を骨折(身体を折り曲げると痛みます・応急処置済)、上半身に無数の痣(応急処置済)、照井と霧彦の死に対する悲しみと怒り、お風呂に入ってさっぱり
[装備]:ダブルドライバー@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(アイスエイジ)@仮面ライダーW、犬捕獲用の拳銃@超光戦士シャンゼリオン、散華斑痕刀@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:支給品一式、ガイアメモリ(ジョーカー、メタル、トリガー)、ナスカメモリ(レベル3まで進化、使用自体は可能(但し必ずしも3に到達するわけではない))@仮面ライダーW、ガイアドライバー(フィルター機能破損、使用には問題なし) 、少々のお菓子、デンデンセンサー@仮面ライダーW
[思考]
基本:殺し合いを止め主催陣を打倒する。
0:俺の事務所があるのかよ!
1:ガドル、ドウコクは絶対にに倒してみせる。あかねの暴走も止める。
2:仲間を集める。
3:出来るなら杏子を救いたい。もし彼女が魔女になる時は必ず殺す。
4:現れる2体の魔女は必ず倒す。
[備考]
※参戦時期はTV本編終了後です。
※他世界の情報についてある程度知りました。
(何をどの程度知ったかは後続の書き手さんに任せます)
※魔法少女の真実(魔女化)を知りました。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はフィリップ、ファングメモリ、エクストリームメモリの解放です。これによりファングジョーカー、サイクロンジョーカーエクストリームへの変身が可能となりました。


【フィリップ@仮面ライダーW】
[状態]:健康、お風呂に入ってさっぱり
[装備]:無し
[道具]:ガイアメモリ(サイクロン、ヒート、ルナ、ファング)@仮面ライダーW、エクストリームメモリ@仮面ライダーW
[思考]
基本:殺し合いを止め主催陣を打倒する。
0:かもめビリヤード……。
1:翔太郎及び仲間達のサポートをする。
[備考]
※参戦時期はTV本編終了後です。
※検索によりまどマギ世界(おりマギ含む)の事を把握しました。
※参加者では無く支給品扱いですが首輪を装着しています。
※検索によりスーパー1についてや、赤心少林拳について知りました。元祖無差別格闘等、伝えられた格闘流派についても全て調べているようです。
※アンノウンハンドについて調べる事はできませんでした(孤門たちの世界でその正体が不明であるほか、記憶操作・情報改竄などが行われているためです)。


394 : のら犬にさえなれない(後編) ◆gry038wOvE :2014/04/28(月) 21:11:45 AnI3/TBc0

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、ソウルジェムの濁り(小)、腹部・胸部に赤い斬り痕(出血などはしていません)、ユーノとフェイトを見捨てた事に対して複雑な感情、マミの死への怒り、せつなの死への悲しみ、ネクサスの光継承、ドウコクへの怒り、真実を知ったことによるショック(大分解消)、お風呂に入ってさっぱり
[装備]:ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、エボルトラスター@ウルトラマンネクサス、ブラストショット@ウルトラマンネクサス
[道具]:基本支給品一式×3(杏子、せつな、姫矢)、リンクルン(パッション)@フレッシュプリキュア!、乱馬の左腕、ランダム支給品0〜1(せつな) 、美希からのシュークリーム
[思考]
基本:姫矢の力を継ぎ、魔女になる瞬間まで翔太郎とともに人の助けになる。
0:警察署に帰る……予定。
1:翔太郎達と共に警察署に戻り、色々事情を説明する。但し、魔法少女の真実についてはどこまで話せば良いか……
[備考]
※参戦時期は6話終了後です。
※首輪は首にではなくソウルジェムに巻かれています。
※左翔太郎、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライアの姿を、かつての自分自身と被らせています。
※殺し合いの裏にキュゥべえがいる可能性を考えています。
※アカルンに認められました。プリキュアへの変身はできるかわかりませんが、少なくとも瞬間移動は使えるようです。
※瞬間移動は、1人の限界が1キロ以内です。2人だとその半分、3人だと1/3…と減少します(参加者以外は数に入りません)。短距離での連続移動は問題ありませんが、長距離での連続移動はだんだん距離が短くなります。
※彼女のジュネッスは、パッションレッドのジュネッスです。技はほぼ姫矢のジュネッスと変わらず、ジュネッスキックを応用した一人ジョーカーエクストリームなどを自力で学習しています。
※第三回放送指定のボーナスにより、魔女化の真実について知りました。

【特記事項】
※G-9にあったチェックマシン@仮面ライダーSPIRITSは163話の段階(杏子達の買い出し)で警察署前に移動させました。

【フィリップと翔太郎の推測】
※このデスゲームは参加者同士の殺し合いから、主催陣対参加者の構図に以降しつつある。
※24時以降に出現する魔女、21時以降解禁される制限は主催戦を見据えてのもの。
※現在表向きに現れている主催陣(加頭、サラマンダー男爵、ニードル、ゴバット、織莉子)は全員、本当の敵ではない可能性が高い。
※本当の敵(黒幕)は現在も現れていない可能性が高い、但し上述の主催陣あるいは参加者の中に潜んでいる可能性も低いがある。
※主催側は全ての世界の地球の記憶(『無限の記憶』と呼称)とアクセスでき、地球の本棚に干渉できる『存在』を手にしている。
※その為、その『存在』を奪取しなければ勝てる可能性は限りなく低く、仮にその『存在』が奪われたまま逃げられた場合、似た事が繰り返される可能性が高い。
※地球の本棚は監視されている可能性が高く、核心に触れる内容の検索は危険、但し現状現れている主催者を含めた参加者については問題無い可能性が高い。
※以上の内容は現時点での推測である為、間違っている可能性はある。但し、『無限の記憶』にアクセスできる『存在』だけはほぼ確実。
※以上の内容は下手に明かす事は危険故、現在の段階ではまだ他の参加者に明かすべきではない。


395 : 名無しさん :2014/04/28(月) 21:19:16 AnI3/TBc0

 ──次回、変身ロワイアル!!
(♪BGM『W-B-X 〜W-Boiled Extreme』)

『……おい、お前ら何者だ? どうしてそれを使ってんだ』

『君は左翔太郎くんか。私は結城丈二。君と同じく仮面ライダーをやっている』

『君……いや、君たちの実力を、あえてここで試させてもらう!』

 (BGMがこの辺で終了。)


396 : ◆gry038wOvE :2014/04/28(月) 21:19:50 AnI3/TBc0
以上、投下終了です。
明日で全部投下終わります。


397 : 名無しさん :2014/04/28(月) 21:35:18 vRAkiwzQ0
投下乙です!
杏子が戻ってきてくれたおかげで、何とか纏まったけどきちんと真実を伝えられなかったか……
その後の入浴や特訓シーンを経て、絆は更に深まりましたけどこれからどうなるか?
そして次回、ついに結城さん達と合流ですかね?


398 : 名無しさん :2014/04/28(月) 22:33:00 9/BCgwgc0
投下乙です
翔太郎視点で進むギャグ回かと思ったらしっかりシリアスしてて流石...


399 : 名無しさん :2014/04/28(月) 23:00:30 DU5gP6Jk0
投下乙です
そういえば、牙狼の人はなんでまだ戻ってないんですかね?
何かトラブルがあったか、それかそのまま別の仲間を探しに行く、的な事でも
言ってたんでしたっけ?


400 : 名無しさん :2014/04/29(火) 00:13:02 uLdztI8E0
>>399
鋼牙は前回の話の修正で警察署を去ったよ


401 : 名無しさん :2014/04/29(火) 02:11:13 0PtikvqU0
昨日に引き続き投下おつです
魔法少女のエネルギーが魔女を産み出すなら、極力魔法を使わないよう心がけるのも自然な流れ!
なかなかいい機転ですね。
第三話楽しみに待っています


402 : 名無しさん :2014/04/29(火) 04:41:25 6P9mHxeg0
今更ですが、データ化するようなフィリップに首輪(物理)って意味あるのだろうか?
サンデーロワのおキヌちゃんではないが…


403 : 名無しさん :2014/04/29(火) 13:12:35 cDIpcI4I0
投下乙です

良い意味で対主催らがまとまってるがロワでこれは…
みんな生き残って欲しくなるような展開でした


404 : ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:14:14 EkbuDiGE0
それじゃあ、最後のパートを投下します。


405 : 孤独も罪も(前編) ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:15:07 EkbuDiGE0



 光が二人を包んでいく。
 翠屋から、鳴海探偵事務所まで、マップの端から端までの距離を一瞬で縮める、その不思議な光は、二人の体を少し温めた。

 ──二つの場所を結ぶ転移システム・時空魔法陣。

 それは、次の瞬間には、結城丈二と涼邑零の体を鳴海探偵事務所まで移動させていた。
 目の前の景色が変わる。何もない田舎の村の土まみれのアスファルトから、真新しいアスガルトを街灯が照らす街の物へと。──一瞬、ただ景色が小綺麗に変わっただけかと思った。
 人がいなければ、田舎も都会も、結局は同じという事か。
 彼らがいるのは、その建物の真上。ソルテッカマンの巨体が、鳴海探偵事務所を内包する建物の上でどしんと音を立てて着地する。

「……すげえな、本当に全然違う場所に来ちまった」

 ソルテッカマンから声が聞こえた。
 この中には零が入っている。こう言いつつも、零はあまり凄いと関心している様子はなかった。魔戒騎士にとっては、結界を使った移動は日常茶飯事。仕事として日常に取り入れているものの一つである。出自が違うだけで、同じような原理を使っているのだろう……と、あっさり受け入れる事ができる。
 結城も殆ど同じような──ありきたりな感想しか抱かなかった。次の瞬間には、全く別の事に興味を向ける。

「ここが、鳴海探偵事務所か」

 どうやら自分たちは鳴海探偵事務所の上にいるらしい。探偵事務所というのは、一つの建物がまるまる探偵事務所として建てられている場合は殆どなく、だいたいの場合は大家に借りて、建物の一部を探偵事務所として使っている。
 見下ろして、看板を見てみると、そこには「かもめビリヤード場」と書かれていた。かもめの形をした愛らしい風車が回っている。この探偵事務所は、大人のアミューズメントと複合しているらしい。

「涼邑、ソルテッカマンの装着を解除しろ」
「ああ」

 この装備のままでは、満足に鳴海探偵事務所の中に入る事もできないだろう。結城はそう言った。零は、言われてすぐにソルテッカマンの装着を解除して、身軽に一飛びしながら、その中から現れた。いちいちそんな一挙一動に驚く事はなかった。零の身体能力が極めて高いのは既知の話だ。

「さて、とりあえず、中に入ってみよう」

 結城は、促すようにそう言った。







 ソルテッカマンはそのまま屋上に置いて、零と結城は真下に飛び降りた。二階ほどの高さしかないので、二人は身軽にそこを飛び下りる事ができた。鳴海探偵事務所は、まさしく二階にあるのだが、入り口は当然下にある。
 いやでも最初に目につくのは、探偵事務所へと繋がるドアではなかった。

「とりあえず、バイクは見っけたな」

 探偵事務所の外には、三台のバイクと自転車が停められている。駐輪場なのかどうかは知らないが、屋根の下に上手く三台駐車されていた。バイクをのぞきこんでみたが、しっかりと鍵もついているようだ。零も結城もバイクならば心得があるので、上手に乗り回す事ができるだろう。

 ──ハードボイルダー。
 ──ディアブロッサ。
 ──スカルボイルダー。
 ──ふうとくんバイシクル。

 それが個々のバイクの名前だった。風都の三人の仮面ライダー、全員のバイクがそこに停められていた(ついでに変な物もあるが気にしてはいけない)。後部にある巨大ユニット・リボルギャリーで換装する事で、更なる強化が図れるマシンだ(一つは明らかに違う)。


406 : 孤独も罪も(前編) ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:15:44 EkbuDiGE0
 ……ただ、欲しいのはこれだけじゃない。勿論、ハードボイルダーがあれば便利だが、それ以上に、換装ユニットを必要とする。それがあって、初めてこのマシンでの行動範囲は広がるのだ。ただの移動手段ならば村エリアでも充分に利用する事ができる。

「なかなか良いマシンだが、今は停めたままにしておこう」
「ああ。どうせ後で使うんだけどな」

 まあ、ここを出る時は移動手段として使われるだろう。道幅の広い道路が設けられているが、おそらくそれが装甲車の通り道、本島への架け橋となる。そこを通ればすぐに本島への道に辿り着くはずだ。
 まずは探偵事務所の方を探す事にしよう。バイクを視界から外すと、今度見えるのはいくつかのドアだった。このドアのうちのいずれかが探偵事務所に繋がっている。

「……これはビリヤード場のドアか」

 探偵事務所があるのはビリヤード場の一角に過ぎないらしく、零が開けたドアにはビリヤード台が並んでいる薄暗い部屋があった。
 薄暗く、家族で入るには抵抗のいる店だろう。

「一つやっていくか、結城さん」
「やらない」

 結城は、冷ややかにそう言って、零の冗談を無視した。スルーされて肩をすくめて苦笑しながら、零が結城の方へ歩いて行く。彼が見ていたのは、鳴海探偵事務所の看板であった。
 かもめビリヤード場の看板に比べると小さい。木の札に派手な装飾をしたファンシーな看板に、妙なボール紙が画鋲で突き刺されていた。更にその上から、変な文字が書かれた緑のスリッパが張り付けられている。

「……あらゆる事件、ハードボイルドに解決します。だって」
「この看板の煽りが既にハードボイルドとは程遠い気がするが」
「……これもここのオーナーの冗談だろ。真剣に受け取るなよ、結城さん」

 最近の店の看板には、ちょっとした遊び心や冗談っ気を交えているものが多い。特に、個人経営の店などは、飲食店にしろ美容室にしろ、看板にこんな冗談を交えているのだ。あまり本気に受け取るべきではない。……まあ、実際のところこの事務所の探偵は、本気で言っているのだが、誰もそう信じなかった。

「さて、じゃあそのハードボイルドな探偵事務所に入れてもらうか」

 先に歩き出した結城の背中を、零は追う事にした。
 結城は入口の階段を上り、探偵事務所の前までたどり着いた。彼は、ノブを捻り、鳴海探偵事務所の中へと入っていった。







「確かに随分と洒落た内装だな……」

 零は、壁にかけられたWIND SCALEのソフト帽子を手に取る。気に入っているのだろうか。同じブランドの帽子の色違いがいくつもある。内装をより上品にするためかもしれない。内装は妙に拘られている。

「いかなる事件もハードボイルドに解決する、鳴海探偵事務所か。……形から入っのたか、確かにハードボイルド映画にでも出てきそうな部屋だ」

 ハードボイルドな探偵事務所を目指しているのだろう。内装にも気を使っているらしい。
 本棚を見てみると、そこにはレイモンド・チャンドラーの小説が何編か飾られており、中にはチャンドラーの小説を原作にした映画のDVDまで揃えられている。なるほど、ハードボイルドの代名詞となった小説も役立てているわけか。
 机には、今時誰も使わないような欧文タイプライターが置いてある。
 帽子も、ハンフリー・ボガートに触発されたような中折れ帽子ばかりである。ビリヤードやダーツ、バスケットゴールのような大人の遊びも、この部屋だけで充実しているようで、確かに事務所の内装だけはハードボイルドと言えよう。

 しかし──

「……なんだ、この調査資料は」


407 : 孤独も罪も(前編) ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:16:09 EkbuDiGE0

 結城がデスクの横の緑の梯子を上り、奥のダンボールを物色していた。そこで得た捜査資料は、この事務所の人間のイメージを損なうものだった。タイプライターで打ち出したらしい文章、報告書がそこにある。
 ……これが驚くべき事に、ローマ字で打ってあるのだ。欧文タイプライターは見栄だったのだろうか。読みにくいうえにシュールで、失笑を買うような文面だ。
 これだけではなく、他にも過去の事件の資料らしく物が次々と見つかった。しっかりとした正式な報告書もあれば、前述のようにタイプライターでローマ字打ちされた怪文もある。

「……犬探し、猫探し、亀探し……そんなのばっかりだな」
「だが、その中にたまにだが不可解な事件のデータが混ざっている。……ガイアメモリ犯罪か」

 二人が物色したデータからは、やはりガイアメモリの存在が消えなかった。
 ガイアメモリに関する調査報告書だけでも結構な数があり、数年分は溜まっている。
 一時はそんな事件ばかりだが、ある時からペット探しの依頼は急に増えたようだ。零が手にしているのは、その時期以降の報告書だろう。

「風都の探偵か……。各ガイアメモリ犯罪者の対策や、実際の使われ方についても一定のデータは記されているようだな」
「何これ、まさか全部に目を通すのか……?」
「ああ」
「おいおい……」
「すぐ終わる」

 結城はそう言いつつ、流し読みをしているようには思えない目つきで一つ一つの資料に目を通していく。しかし、手の動きと目の動きはそれなりに早い。
 調査報告書ごと持って行ってしまえば良いと思うのだが、極力は暗記して頭にとどめておきたいそうだ。当初、未確認生命体に関する資料を得た時も同様の理由で、資料を手元に置いてはいない。
 しばらくつまらなくなりそうなので、零はそこにあるダーツやビリヤードを適当にいじっては、高いスコアを出して遊んでいた。

「……なるほど」

 零は、数十分経って、ようやくその一言を訊く事ができた。零は退屈すぎて、背を向けたままダーツをしていた。それでもブルズアイに当てる事ができる。
 結城は資料を全て数十分程度で読み終えたらしい。必要分のデータしか頭に入れていないようだ。明らかにガイアメモリとは無関係な動物探しの依頼は全て無視していた。充分に早く読み終えたといえよう。
 結城は資料を纏めて、ダンボール箱の中に戻す。

「もう読み終わったのか?」
「ああ。少し読みにくかったがな」

 ローマ字で書かれた日記のような報告書は、やや読みにくかった。ただ、依頼者に明かされていない部分も含めて、少々役立つ話だ。

 左翔太郎。それがこの事務所で現在働いている探偵である事。
 園咲、風都、ガイアメモリ、ガイアドライバー、地球の本棚──それらが全て彼らの世界の産物であり、特にダブルドライバーの持ち主は「左翔太郎」である事。
 泉京水から獲得したデータは全く間違っていない事。

 全てを彼らは把握する事ができた。もともと、予感はしていたが、今後会いに行く相手はこれで確実に決まったようだ。
 しかし、その前に確認しておきたい事もある。そう、まずはこの施設に来た大本の理由である「リボルギャリー」だ。

「さて、リボルギャリーがあるというガレージはどこだ?」

 結城は見渡すが、この事務所の中にそんな物の様子はない。
 ただの探偵事務所ではないか。依頼内容を見た限りでは、ただの探偵というわけではないようだが、この一室だけ見ると、そんなガレージがどこにあるのかわからない。

「結城さん、こっちこっち」

 先にそのガレージを見つけ出したのは、零だった。ソフト帽子がいくつもかかったドアをいじっていたのは彼だ。結城が資料に目を通している間、零はビリヤードをしたりダーツをしたりして遊んでいたが、ガレージはとうに見つけ出していた。
 零がそのドアノブを捻る。……ドアが押されると、帽子が少し揺れた。

「ここから先が秘密基地、というやつか」


408 : 孤独も罪も(前編) ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:16:28 EkbuDiGE0

 ドアの向こうには、巨大なガレージが広がっている。
 ただの探偵事務所ではない……それは本当だったらしい。
 螺旋階段の下には、だだっ広い無数のホワイトボードが残されていた。







「……さて、どう動かせばいいのかね」

 彼らがいる場所は、本当にただのガレージに過ぎない。
 バイクを置いておくにも使えそうだが、装甲車などが置いてある雰囲気は殆どないのだ。
 あるのは何も書かれていないホワイトボードだけ。灯りは不気味に彼らのもとへと降り注いでいた。

「弱ったな……特殊な計器もない。管理システムがある前提でここに来たんだが」
「探してみようぜ、あるかもしれないだろ」

 結城は頷いた。
 ガレージの壁を叩いてみたり、さすってみたりするが、装甲車リボルギャリーを発進させるための計器に繋がるものはない。
 そもそもリボルギャリー自体がどこにあるのか、これでは全くわからないほどだ。

 結局、見つけられず仕舞という事になる。

「……と思ったけど、どこを探してもないみたいだな」
「仕方がない。この状況ではどうしようもないしな……諦めるか」
「確かにな。目当ての物がないんじゃ仕方がないか」

 少し時間をかけてしまっただけだったらしい。すぐに結城と零はそこを出る準備をする事にした。結城は、ともかく街エリアの方へと再度向かう事にした。警察署や中学校といった施設が気になるが、まずは警察署に行ってみる。
 今や二人は禁止エリアの影響も受けないような状態だ。首輪がないので、禁止エリアを突っ切って、すぐに中学校へと出向く事もできる。
 ソルテッカマンは置いていくが、おそらく現状でソルテッカマンを使用方法も知らずに利用できる人間はいないだろう。
 ……まずは、置いてあったバイクで警察署に向かう事にした。







 ──およそ一時間後。

 ……二台のバイクが、巨大な道幅の道路を走っていく。
 ヘルメットに顔は隠れて見えないだろうか。一人は結城丈二、もう一人は涼邑零。二人とも、バイクの技術は一流だった。
 二人は殆ど同系で、カラーリングだけが微かに違うようなバイクを選んだ。
 ハードボイルダーとスカルボイルダー。二台のバイクが夜を駆ける。

(……やはりこの道路はまだひと気がないようだな)

 先ほどまでなかったような道だ。当然、誰も通っていない。この付近にいた人間が気づいて寄ってくる可能性もあったが、そうした様子もなかった。
 時刻から考えても、日付が変わるまであと二時間を要さないような現状だ。

 メーターの数字に目をやる。二人とも高速道路のようなスピードを出している。
 夜の街を並走する二人は、運転技術には自信があった。この人通りのない道で突然に誰かが飛び出してきても、それを回避する事ができるだろう。

 やがて、二台のバイクは本島と探偵事務所を繋ぐ道路を渡り終えた。
 二人は何も言わずにバイクのスピードを緩めた。60km程度のスピードだが、周囲には人影は見当たらない。
 エンジン音だけがこの都会に木霊する。街灯だけが二人を照らしている。

(うん……?)


409 : 孤独も罪も(前編) ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:17:06 EkbuDiGE0
 結城と零は、前方に人影を感じて、バイクを減速させ、止めた。ほとんど同時だ。
 バイクは前輪の位置も殆ど同じに止まっている。二人同時に、その人影を見つけていた。警戒したのか、不意に後ろに下がったが、その人影は幻だったのか現実だったのかを改めて確認するために、零は訊いた。

「今、誰かいたよな……?」
「ああ。三人いた」

 ライトを切り替え、結城と零は降車してヘルメットを脱ぐ。
 ライトは、前方の三人の人影を照らした。幻ではなかったらしい。三人は眩しそうに顔を隠したが、指の隙間からそっとこちらを向いた。
 そのうち誰かが、意を決して、帽子で顔を隠しながらこちらへ向かってくる。結城と零は、ライトをまた切り替え、相手の目を気遣った。

「……おい、お前ら何者だ? どうしてそれを使ってんだ」

 先に声をかけてきたのは相手方。ソフト帽子を被った、カジュアルな服装の男性だ。結城はその男の名前に心当たりがあった。間違いない。
 ──左翔太郎だろう。
 隣にいる残りの二人の男女は誰だかわからないが、探偵事務所の主としての彼の姿勢は結城も好感を持っている。おそらくは殺し合いに乗っていないのだろうお。

「君は左翔太郎くんか。私は結城丈二という者だ」
「ゆ、結城丈二……って事は、沖さんの先輩……ライダーマンか!?」

 どうやら、左翔太郎はこの時間内に沖一也との合流をしたらしい。
 結城は頷いた。いかにも、自分こそが結城丈二である。知っているのなら話は早かった。

「そして、彼は涼邑零──」

 結城が真横にいる零を紹介しようとしていた。
 ……が、そこに涼邑零の姿はなかった。零の姿を探す。見れば、彼は既に十メートルほど歩いており、目の前の三人組のうち、背の低い女性の真ん前まで来ていた。
 彼女の至近距離、彼女の目を見て、僅かな微笑を浮かべながら訊く。

「俺は涼邑零。君の名前は?」
「って、おいおい……」

 結城も呆れる。女性に対してのこの行動力は、年代を問わないらしい。
 この男は徹底的に人懐っこく、妙に人を引き寄せる。自らが他人に対して近づいていくそぶりもある。到底、復讐を果たそうとしていた男とは思えないだろう。
 だが、実は、そんな態度の裏に、満たせない寂しさがあるのかもしれない。

「なんだよ、あんた……」

 少女は、引き気味ながらも強気な表情で言う。

「だ・か・ら、涼邑零だって」
「そうじゃなくてさ……」

 と、そんな零の襟をつかんで、結城が引き寄せた。
 かなり近づいていた零と杏子の顔の距離が引き離されていく。
 零の足は宙を泳ぐ。結城丈二は、成人男性ひとりの体をこんなにも軽々と持ち上げているのだ。持ち方を工夫すれば簡単な事だが、それでもある程度の体重を支える力は必要である。

「結城さん、冗談だって……」
「俺に冗談は通用しない。科学者だからな」
「それが一番意味わからねえよ……!」

 零は、あっという間に適度な距離にまで引き離された。
 翔太郎たちはその様子に茫然とする。結城のこの力の使い方は、まさしく沖一也の先輩たる姿だ。──いや、仮面ライダーの先輩という意味では、翔太郎の先輩でもあるわけか。
 その大人の落ち着きも、熟練された戦士のように見えた。

「で、今度は真面目に訊くが、君たちは?」
「あ、ああ……。あたしは佐倉杏子」

 安心したのか、彼女はすぐに質問に答えた。名前を出し渋る理由はない。
 あの零という男には戸惑ったが、結城ならば少し落ち着ける。

「僕はフィリップ。参加者ではありませんが、つい先ほどこの場に呼ばれました。……それより、僕としてはお二人に訊きたい事が。その首元が少しばかり気になるんですが、もしかして、解除したんですか?」


410 : 孤独も罪も(前編) ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:17:31 EkbuDiGE0

 フィリップは、気障に零の首元を指さした。結城を指さす事ができなかったのは、この結城の奇妙な威圧感に、フィリップでさえ指をさすのを躊躇ったからだろうか。
 全員の視線が、結城と零の首元に注ぐ。

「ほんとだ……首輪がねえ!」

 翔太郎も二人の姿に違和感を抱いていたが、その正体がつかめなかった。仲間の中でも、杏子は首輪をしていないが、それは首輪がソウルジェムに取り付けられているからで、その条件は魔法少女である事だった。目の前の二人が魔法少女という事はあるまい。
 零は、誇らしそうに首を、二、三度、掌で叩いた。

「……結城さんが解体したんだ。俺たちは晴れて自由ってわけさ」
「その通りだ。勿論、我々の手で、君たちもいずれ自由にする。俺たちの目的はこの殺し合いの打破、脱出、そして、この殺し合いを主催した悪魔たちを滅ぼす事だ。……君たちとも協力する事になるだろう」

 結城が、饒舌に言った。情報を提供する事に対しては、一切惜しみはない。できれば、自分たちと同じ志を持つ参加者がいるのなら、その首輪を外していきたいほどだ。
 翔太郎とフィリップに対して、若干の不審を飲み込み切れなかったが、彼は黙っていた。

「マジかよ……! それなら早速、あいつらに知らせて……俺たちの首輪も解除を……」
「……ただし」

 慌てる翔太郎に対して、結城が一言、強い言葉で制止する。
 翔太郎は、思わずその一言に圧されて、ほんのひと時ばかり言葉を失った。

「そのための条件、と言っては何だが……少し君たちからも訊きたい事がある。一つや二つではないが、構わないか?」

 結城は、そう言った。条件をつけるつもりはないのだろう。あくまで、情報を引き出しておきたいわけだ。

「何でもお答えしましょう」

 結城の一言に、フィリップは冷静にそう答えた。少しだが、フィリップは悪戯じみた笑みを浮かべていた。現状、まだチームメイトが誰も解除できていない首輪を、結城は解除しているのだ。そこに興味が湧いているのは、フィリップらしいと言える。
 自分の持つ本棚からは引き出せない情報を引き出せる相手だと、フィリップは勘付いていた。

「まず、前提として訊いておきたい。君たちは『ダブルドライバー』の持ち主で間違いないな?」
「はい」

 ダブルドライバーの持ち主、という言葉はここしばらく、結城たちの考察上で必ずといっていいほど出てくる言葉であった。そのダブルドライバーというものが果たして何なのかは誰も知らなかったが、

「なら……君──フィリップの『地球の本棚』というものが21時より拡張されたらしい、という事は知っているか?」
「既に知っています」

 フィリップは、むしろ何故そんな事を知っているのか、結城に尋ねたかったが、あえて今は結城の質問を優先する事にした。

「そうか。……それなら訊きたい。一体、『地球の本棚』とは何だ? それがあれば、今後俺たちが何かを考えるうえで、役に立つらしいんだが……」

 その単語も何度も出てきた。調査報告書の中にも、時折『地球の本棚』の話題は挙がっていた。しかし、それが何なのかまでは、はっきりとは記されていない。そのため、結城たちはそれが何なのか、まだよく知らないのだ。

「僕の精神が入り込める特殊空間、それが『地球の本棚』です。これまで地球で起こった全ての情報──『地球の記憶』がその無限の本棚の中に所蔵されています。僕はその中から必要な情報を検索していく事で情報を引き出す事ができる……それで、おそらく僕が役に立つと言われているのでしょう」

 地球の本棚というのは、少しばかり説明の難しい物だ。精神世界の話をいきなりされてもすぐに飲み込める人間は少ない。しかし、結城も零も、そういう人間だったのは幸いだろうか。彼らの世界では、実際に精神体や精神世界の存在が現れているのだ。


411 : 孤独も罪も(前編) ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:17:56 EkbuDiGE0

「なるほど……アカシックレコードのようなものか」
「その通り。……今現在は、過去に引き出せなかった異世界の情報も検索する事が可能な状態にまで拡張されています」

 それから、既に結城は鳴海探偵事務所で調査報告書を読んでいた。あらゆる事件の依頼において、その『地球の本棚』が役立った事は言うまでもないようだ。すぐに飲み込めるどころか、フィリップを信じる事も容易かった。

「よくわかった。今後、使わせてもらう事になるかもしれないが、構わないか?」
「ええ。いつでも」

 フィリップの返事は、いつもとは打って変わって、快諾という感じの返事をした。翔太郎も意外そうに見つめたが、相手を見つめて、フィリップの興味関心がそそられる相手であるのは無理もないだろうと思った。
 ただ、どうしてこうも自分の周りの「仮面ライダー」は総じて頭が良いのか、少し劣等感みたいなものも湧いてくる。仮面ライダーエターナルとなった響良牙の存在が少し、翔太郎の中で救いになりつつあった。

「それから、君たちに渡しておきたい物もある」
「……渡しておきたい物?」

 結城は、ポケットの中から二本のガイアメモリを取り出した。零も、結城がそうして行動したのを見て、乱雑にポケットにしまわれていたガイアメモリを取り出した。それは、いずれもT2ガイアメモリであった。

「マキシマムドライブ専用のガイアメモリらしい。ドーパントへの変身はできない」
「……おい、マジかよ」

 翔太郎が、真横からそれを見ていた。フィリップが、二つの掌の上に乗せられた四本のガイアメモリを丁寧に取り上げた。フィリップは即座に、そのスイッチを押したが、音声は鳴らず、誰がドーパントになる事もなかった。
 状況が整わなければ使用不可能なのだろう。

「確かに受け取りました。アクセル、クイーン、ロケット、ユニコーンですね」

 フィリップは、ダブルドライバーの持ち主の一人として、それの受け取りを確認する。

「アクセル、か……」

 翔太郎は、T2アクセルメモリを見た時、思わずそう口に出した。
 アクセル──それは、照井竜が変身に使うメモリ。T2ではなかったが、そのメモリを見た時、仮面ライダーアクセルの姿を少し思い出した。

「それから、まだ話したい事はある。……君たちは、リボルギャリーを知っているな?」
「ええ……」
「我々は先ほど、鳴海探偵事務所に行った。リボルギャリーという装甲車があると聞いてそこに向かったんだが、それらしい物は置いていなかった」

 そう聞いた時、フィリップが眉を顰めた。

「……リボルギャリーを発車する方法を教えろ、という事ですか?」
「その通りだ」

 結城がそう告げると、フィリップは顎を指で触れた。何かを考え込んでいる様子がわかった。翔太郎自身も、あまり簡単に全てを話す気にはなれなくなっていた。
 おかしい。
 探偵の勘が、この状況が不自然だと伝えている気がする。

 地球の本棚の拡張について、彼らはどういうルートで知ったのか。
 彼らはどうして、突然現れた施設の方から現れたのか。
 何故、彼らはリボルギャリーの発車方法について訊きたがるのか。

 不自然なまでに詳しい。──そして、逆に肝心なデータを落としていて、それを聞きたがっている。

「おい、フィリップ。……なんか詳しすぎねえか? なんでこの人たちは、こんなに何でも知ってるんだ?」
「ああ。確かに、詳しすぎる。……失礼ですが、あなた方は本当に、翔太郎たちと同じ『参加者』なのですか?」

 翔太郎とフィリップは、同じ事を考えていた。
 そう、二人が考察した内容──『参加者』対『主催者』の構図。それが近づいているという可能性。それは、もう目の前に来ているのかもしれない、という事だ。


412 : 孤独も罪も(前編) ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:18:17 EkbuDiGE0

 目の前の二人は、首輪もしておらず、フィリップたちの事について妙に詳しい。
 それだけではなく、新たにできたはずの施設に現れたり、沖のレーダーハンドの目を掻い潜って現れたり、フィリップたちから情報を引き出そうとしたりしている。
 却って怪しい存在なのだ。

「まさか……」

 ──そう、目の前の二人は、主催者側に取り入れられているのかもしれない。

「おい、どういう事だよ……」
「杏子、ちょっとこいつらから離れろ。……なんか少しヤバい。警戒した方がいいかもしれねえ」

 翔太郎は、ダブルドライバーを左手に構えた。
 翔太郎とフィリップと杏子に直接的な面識がない結城と零の名前を騙っているが、果たして彼らが本当にそうなのか──いや、仮に面識があったとしても、怪しいものだ。
 杏子は、翔太郎によって、少し後ろに下げられた。

「おいおい、どういう事だって訊きたいのはこっちだぜ」

 零は、その状況に少し困惑しつつも、敵が何か仕掛けてくるなら、と双剣を出し、構えた。
 翔太郎と杏子は、ごくりと息を飲む。まさか、剣を持っているとは思わなかった。──零は剣を構えている。それなら、相手は、すぐに斬りかかる様子はないが、いつでも三人を斬り殺せる準備をしているのだ。
 刃は二つ。一瞬で二人を切り裂き、次の一瞬で残りの一人の息の根を止める事ができるだろう。

「結城さん、こいつら、俺たちの事を少し誤解しているみたいだけど、どうするよ」

 零は、隣の結城丈二にそれを訊いた。結城は憮然とした表情で答えた。
 どうやら、何かの意を決したらしい。

「……零、お前は下がっていろ。……丁度良い。肩慣らしに少し、戦わせてもらおうか」
「戦うって……本気か?」
「話し合いで解決するのも良いが、この方がかえって都合が良い事もある。誤解したままならば、敵さんも本気で戦ってくれる事だろう」

 結城の声は少しばかり冷徹だった。何か一つの考えがあるといった様子だった。
 何故、結城丈二は話し合いなどせずに戦おうとしているのか──零はそれを少し考えた。
 勿論、結城は殺し合いに乗っていないし、主催に仇なす者同士で殺し合うなど、言語道断だろう。それを、結城はあえてやろうとしているのだ。

「何か考えがあるみたいだな。……じゃあ、俺は見物する事にするよ」

 零は、結城にも何か考えがあるのだろうと思って、数歩下がり、ビルの前の段差に座り込んだ。
 結城は、何も言わずにその手でライダーマンヘルメットを掴み、頭上に掲げた。

「ヤァッ!!」

 ──結城丈二は、このマスクをつける事によってライダーマンとなり、手術した腕が電導し、アタッチメントを操る事ができるのである。

「ライダーマン!!」

 結城丈二は、ヘルメットを装着すると、強化服に身を包み、ライダーマンへと姿を変えていた。ライダーマン、彼は仮面ライダー4号の称号を得た正義の闘士であった。

「さあ、かかって来い、仮面ライダーダブル……俺たちが貴様の敵だと思うのなら、全力でそれを排除しろ」

 ライダーマンの真っ赤な両目が暗闇の中で光る。
 その右手はアタッチメントを取り換え、ロープアームを装着していた。

「君……いや、君たちの実力を、あえてここで試させてもらう!」

 ライダーマンの唇が、そう告げた。
 唇や鼻、人間の表情を少しでも見せている仮面ライダーの姿に、流石に翔太郎も少し驚いた様子だった。


413 : 孤独も罪も(前編) ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:18:46 EkbuDiGE0

「……く、口が出た仮面ライダー?」
「侮ってはいけない。あれがライダーマンの姿だ……。戦闘用スーツに強化ヘルメット……他の仮面ライダーたちとは違い、改造されているのは右腕のみ。アタッチメントを付け替えながら戦う戦士だ……僕たちと同じく、イレギュラーな戦い方をするかもしれない」

 ライダーマンの事は検索済らしく、フィリップはその情報を告げた。
 一見するとライダーマンは貧弱そうに見えるが、その立ち振る舞いは剛健。いささか自信に満ちた口元が少しばかり恐ろしかった。

「……でもあいつも仮面ライダーなんだろ!?」
「勿論、彼は仮面ライダーだ。しかし、僕のデータによれば、結城丈二という男は、ある時まで悪の組織デストロンの科学者として高い地位を築いていた。デストロンの殺戮規模を考えれば、彼の研究成果が何百……いや、何万という人を殺していた可能性がある」
「ほんとかよ……。どうして、そんな奴が仮面ライダーなんて……」

 仮面ライダーの称号を持つライダーマンと出会えたと思っていた翔太郎は、その事にいささかショックを受ける。

「彼はライダーマンとなってからも、自分を失墜させたヨロイ元帥への復讐を目的に戦っていた。その為ならば、たとえ味方の仮面ライダーであろうとも攻撃したという。……後に、心を入れ替えて、自らの命を賭してプルトンロケットの爆発を食い止める事になり、その時に仮面ライダーの称号を得る事になったが……果たして本当に彼が心を入れ替えているのか、その時より後のライダーマンであるかは、僕たちにはわからない。……そもそも、主催側の変装という事だってあり得る」
「そんな……じゃあ、もしかしたら俺たちは、本当は仮面ライダーになれたかもしれない男と戦うかもしれないってのか?」

 フィリップは頷いた。
 ここに来た時期が、もしも結城丈二が危険な人間であった時期ならば、迂闊に信用する事はできないのである。結城の姿を見ていると、彼を信じる事が難しくなっていった。
 ともかく、相手がその気ならば、こちらも変身するのみだ。そうしなければ、誰も守る事はできない。

「……翔太郎。怪我をしているだろう。……今回は、久々に僕が変身するよ」

 翔太郎は、一応胸部に怪我をしていた。一日中戦っていた翔太郎に対して、フィリップなりの配慮だろうか。翔太郎も、その意見には乗る事にした。
 どうやら、フィリップの方がやる気らしい。

「……くっ。仕方ねえ。わかった。いくぞ、フィリップ」

 あまり浮かない顔をしているが、翔太郎はダブルドライバーを装着する事にした。翔太郎が腰にダブルドライバーを当てると、コネクションベルトリングが伸長し、彼の腰をベルトが巻き付けた。続けて、フィリップの腰にもダブルドライバーが発現する。

「……じゃあ杏子ちゃん。悪いけど、翔太郎をよろしく」
「え?」

 フィリップの一言に、杏子は疑問符を浮かべた。翔太郎がライダーマンを見たまま、ゆっくりと後退していく。

「さて。準備は良いよ、翔太郎」
「ああ……」

 物陰から小型恐竜ファングメモリが現れ、駆け出し、フィリップの手元へと飛んだ。
 恐竜型のガイアメモリは、フィリップの手の中で姿を変形させる。ガイアメモリとなっている部分を露出させ、フィリップはそれをベルトのスロットに挿し込んだ。
 ファングが慟哭する。闇夜に鳴く獣の姿は、まさしく風流ともいえた。

──FANG!!──
──JOKER!!──

 ファングメモリの鳴き声とともに、ガイダンスボイスが響いた。

「「変身!!」」

──FANG!!──
──JOKER!!──

 フィリップの体は、仮面ライダーダブルの形態のひとつ、ファングジョーカーへと姿を変えた。白と黒の二色──そして、杏子が知らなかったのは、その全身凶器の鋭利な腕や肩、足。凶暴なボディは、全身に牙を剥いているようだった。
 それは杏子がこれまで見てきた仮面ライダーダブルの姿とは違った。もっとなめらかなボディをしていたのがこれまでの仮面ライダーダブルの姿だった。


414 : 孤独も罪も(前編) ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:19:23 EkbuDiGE0

「お……おい、兄ちゃん……どうした!? 大丈夫か!?」

 そして、翔太郎の体が、魂が抜けたように地面に倒れている──。呼び起こそうとしても返事がない。変身した途端、突然翔太郎の体がこうなったのだ。杏子は、ダブルの変身で、一方が倒れるのを初めて見たので、驚いている。

『杏子、俺はここだ。それじゃ、俺の体をよろしくな!』

 そんな杏子に対して、そう言ったのは、ダブルだった。左目が点灯している。
 翔太郎の声だった。杏子が、地面に倒れている翔太郎を見やる。そこからは声が出そうもない。
 そういえば、ダブルはこれまでも右目を点灯させながらフィリップの声を発していた。あれは、フィリップの意思をダブルの中に宿していたからなのだ。

「え!? お、おい……変身してない方はこうなるのかよ……。これ狙われたらどうすんだ」

 杏子は、翔太郎の体を何とか抱き起そうとする。
 杏子が翔太郎の体を任されるのはこれで二度目だ。一度は、翔太郎が傷を負った時におぶるあのドウコク戦の時。──今度は、まさか魂の抜け殻を持つ事になるとは。
 厄介事に巻き込まれた気分だが、杏子は翔太郎の体を抱えながら、ダブルの戦いを観戦する事にした。
 ライダーマンは、そんなダブルの様子を黙って見ていた。

「「……さあ、お前の罪を数えろ!!」」

 ダブルは、ライダーマンに向けて、いつもの台詞を投げかけ、右手で指をさした。
 罪。──その言葉を訊いて、ライダーマンは少し空を見つめた。

「……数えるさ、この命がある限り……何度でも、いつまでもな」

 ライダーマンは、自分自身に告げるようにそう呟くと、ロープアームをしっかり構えた。その声はダブルの耳には届かなかった。
 仮面ライダーダブルとライダーマン、二人の仮面ライダーの争いが開戦する。

「ロープアーム!!」

 ロープアームは、ライダーマンの腕から伸びて、ファングジョーカーの左腕の小さな刃へと引っかかる。引っかかった時点で、吊り上げる。ダブルは、己の体が浮き上がるのを感じた。

「やぁっ!!」

 ダブルの体をそのまま、ライダーマンは宙へと放った。ダブルは放物線を描くように吊り上げられ、地面に叩き付けられる。轟音とともに、砂埃が舞う。アスファルトに大きな亀裂が生まれ、衝撃分の穴ぼこが空く。その中央にダブルが倒れた。左腕から叩き付けられたダブルは、真横を向いていた。

「くっ……!」

 いきなりの大打撃。ライダーマンのアームの強力さである。
 見た目以上の強さを持っているのがライダーマンだ。ライダーマンの周囲の仮面ライダーたちの中では、さほど強くないかもしれないが、彼の戦闘経験はダブル以上。アタッチメントの使い方も充分に慣れている。

『フィリップ、こいつはなかなか……』
「はぁ……ああ、強敵だ……。思った以上だよ」

 ダブルは、自身のダメージを認識したうえで起き上がる。アスファルトの滓がダブルの体から雪崩れ落ちていく。
 立ち止まる暇はない。ファングメモリのレバーを一度引いた。

「アームファング!!」

 ダブルの右半身で、腕の刃が一つ、巨大で鋭利な形状に変わる。これがアームファングだ。
 巨大化した刃にエネルギーを溜めながら、ダブルは一瞬でライダーマンの元まで、獣のように駆ける。フィリップと翔太郎の視界は、目くるめく速さでライダーマンとの距離をゼロにした。
 ──そのまま、すれ違うようにして、ダブルの右半身の刃がライダーマンの左半身を斬りつける。


415 : 孤独も罪も(前編) ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:20:04 EkbuDiGE0

「ぐっ……!!」

 ライダーマンは耐え抜く声をあげた。
 ライダーマンの体を左側面から斬りぬけていくダブル。左半身から右半身への横一閃を狙っていた。
 しかし、右半身を斬りぬけようとしたところで、ダブルの持つ感触に違和感が生じた。

「何っ……!?」

 ダブルのアームファングがそのままライダーマンの体を斬り、勢いづいて空を斬る事はなかった。アームファングはライダーマンの体の何かがせき止めていたのだ。
 アームファングが斬りぬけるのをせき止めていた障害物──それは、ライダーマンの右腕だ。ライダーマンはアタッチメントを交換して、別のアタッチメントで、腹部に向けられた一撃を受け止めていたのである。

 三日月を象った刃を持つアタッチメントアーム──

「パワーアーム!!」

 そのアタッチメントは、パワーアームといった。
 パワーアームはその絶大な力で、アームファングの一撃をようやく空に返した。ダブルの右腕が後方に向けて跳ね返され、そのまま体もライダーマンの元から遠ざかった。足が自然と後ろに退く。そこに、ライダーマンはそのまま勢いでダブルの体に向けて斬りつけるようにパワーアームを振るった。
 パワーアームの刃が、ダブルの腰部を叩き付ける。

「ぐあっ……!!」

 ダブルの固い体表もライダーマンのパワーアームの一撃に切り崩された。
 しかし、それでもダブルは諦めない。数歩下がって、距離を取る。

「ライダーマンの力を、限界以上に使っている……なかなかだ」

 敵ながら、賛辞を贈るべき対象だろう。ファングの力を耐え抜き、その痛みを堪えて次の一手につないだ。なかなかの戦法だ。

「……くっ。ダブル、なかなかやるな」

 一方、ライダーマンは、先ほどのダメージを感じて、一瞬左わき腹を少し押さえた。それほど深手であるように見えなかった。ライダーマンの戦闘スーツは抉られ、傷ついていたが、その目はダブルの方を睨んでいた。
 あまり痛めているようには見えない。ダブルが息を飲む。

『……フィリップ、無理するんじゃねえぞ』
「了解している」

 翔太郎が投げかけた言葉に、肩で息をしながら答えるフィリップ。
 ダブルは、敵の方を見つめながら、次の攻撃に警戒した。

「ネットアーム!!」

 次の動作を行ったのもライダーマンだった。
 ライダーマンは早くもアタッチメントを交換して、ダブルの動きを封じるネットアームを射出。ダブルの体をネットアームが包み込んだ。
 ダブルは、更にもう二回、ファングメモリのレバーを弾く。

「ショルダーファング!!」

 ダブルの右肩部分から白い刃、ショルダーファングが現れる。
 これは敵に直接近づいて仕留める武器ではない。敵に向けて投げるブーメランカッターであった。ダブルは、すぐにそれを掴みとり、自分の周囲に張り巡らされたネットを切り裂く。糸は解け、ダブルの体の上に糸滓だけを残した。
 そして、自分が捕獲されなかった事に安心したうえで、そのままショルダーファングをライダーマンめがけて投げつけた。
 ライダーマンもそれを認識して、アタッチメントを付け替える。ショルダーファングのカッターは眼前まで迫っていた。

「ふん……マシンガンアーム!!」

 ライダーマンは右腕を巨大なマシンガンへと変形させた。マシンガンはショルダーファングの赤い閃光へと向けられる。マシンガンアームの右腕を、左腕で支え、同じく左腕で引き金を引く。


416 : 孤独も罪も(前編) ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:20:32 EkbuDiGE0

「はぁっ!!」

 ぱららららららっ。
 マシンガンアームから無数の弾丸が連射される。いくつかの弾丸がショルダーファングへと命中し、流れ弾は前方のビルの壁にめり込んでいった。
 ショルダーファングはその弾丸を逆に切り返して、何事も無いかのようにライダーマンへと進行していく。ライダーマンは、咄嗟に顔の前にマシンガンアームを構え、その銃身でショルダーファングを受ける。

「ぐぬっ……!!」

 ショルダーファングのエネルギーを吸収しきれず、ライダーマンは悲鳴とともに数歩後退し、耐え切れずに数メートル吹き飛ばされた。しかし、吹き飛ばされながらも、ライダーマンは倒れなかった。
 ライダーマンは、ショルダーファングの刃が進行をやめるまで、立つ事だけはやめなかったのである。彼の足腰はその一撃に耐え抜いていた。倒れず、バランスを崩す事もなく、そのままアタッチメントを交換する。

「……ドリルアーム!!」

 鋭利な刃には、同じく近接的な凶器で仕留める。
 ライダーマンは、右腕の巨大なドリルアームを支えながら前進──。先端が激しく回転する。何もかもを貫く一撃がダブルに近づいていく。

「ドリルアームか……。実に厄介だな。喰らったら一たまりもなさそうだ」
『いいからさっさと回避しろって……!』
「わかっている……!」

 翔太郎の焦りとは裏腹に、フィリップは冷静だった。
 自分の身に近づいていくドリルアームを確認し、距離が縮まるのを待つ。
 そして、おおよそ確実な距離を認識し、ファングのレバーを素早く三度弾く。

──Fang Maximum Drive!!──

 ファングのマキシマムドライブを発動するために、構えた。
 充分に待ち、ライダーマンを引き寄せる。

「「ファングストライザー!!」」

 ドリルアームが体表を抉る直前でダブルは飛び上がる。
 ファングジョーカーの回転蹴り、ファングストライザー。二人の掛け声は見事に揃っていた。
 しかし、ドリルアームが咄嗟に上部へと向けられる。その動作は素早かった。ファングストライザーを出し渋ったのは、偏に敵の攻撃を引き寄せ、直前で飛び上がる事で回避しながら、相手の隙を狙う事だった。作戦は失敗らしい。

「何!? ……僕たちのキックに対応した!?」

 フィリップでさえ、その早さに度肝を抜かれた。

「ライダーキックのタイミングには慣れている……!!」

 ライダーマンの答えは簡単だった。キックを武器とする仮面ライダーたちと共に戦っている彼は、その初動やタイミングを既に把握しているのだ。ダブルは見たことがない相手とはいえ、戦法をおおよそ理解していたライダーマンには効かない。

 そのまま、ファングストライザーとドリルアーム──二つの技と武器が拮抗した。
 回転蹴りのファングストライザーは、その刃をドリルアームに狙われる。

「はああああああああああああっ!!」

 足に生まれた巨大な刃が、ドリルアームを引き裂いていく。
 ドリルアームが、その刃を削っていく。
 二つの凶器がぶつかり合い、そのまま爆ぜ、二人は爆心地から放り出された。ライダーマン、ダブルの両名が数メートル吹っ飛ばされた。

「「ぐああああああっ!!」」

 二人の仮面ライダーの叫び声は似通っていた。
 二人は相反する方向へと転がる。アスファルトの上を、何度かバウンドし、体の中身を激しく揺らしながら、自然に止まるまで、横になって転がり続けた。


417 : 孤独も罪も(前編) ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:21:53 EkbuDiGE0

 ライダーマンとダブルは、少しボロボロに廃れた体ながらも、すぐに起き上がった。目の前には火が立ち、煙が出ている。
 とにかく、立った。立った以上は次の一撃をどちらが先に浴びせるかだ。
 ダブルは、先制攻撃をしようと構えた。

 だが──

「な……何っ……!?」

 ダブルは立ち上がった自分の右足に、「それ」がある事に気が付いた。
 そう、自分の右足を捉えているかぎづめ。その先にはロープ。ロープを辿っていくと、ライダーマンの右腕がある。
 いつの間にかライダーマンのアタッチメントアームが変えられていたのである。
 先ほど使われたアタッチメントに、ダブルは引っかかっていた。

「油断したな……仮面ライダーダブル! ロープアーム!!」

 ライダーマンは立ち上がり、への字の口のままで、どんな感情でダブルを襲ったのかも悟られぬまま、ダブルの体を引き上げた。ダブルはバランスを崩し、そのまま地面に再び倒れた。
 そして、ロープアームを自在に操るライダーマンは、そのままその右腕を高く掲げ、ダブルを真後ろのビルへと叩き付けた。高い音が鳴る。窓が割れ、大量の破片が地面に降りかかる。

「ぐあああああああああああああああっっ!!!!!!」

 ダブルは、悲鳴とともに、そのままシールがはがれるように壁から離れて落ちていく。
 ダブルの体はすうっと、魂が抜けたように地面に落下していった。
 ライダーマンは、膝をついて、その様子を見つめていた。──彼が受けたダメージも生半可なものではない。
 しかし、ライダーマンはその痛みを堪えて、落ちていったダブルのもとまで歩いた。

「お、おい……何でこんな事すんだよ!」

 その手前で、杏子が割り込むように現れる。
 彼女の場合、多少傷ついたところで死ぬ事はない。だからこそ、躊躇なくライダーマンの前に出る事ができた。ライダーマンは、アタッチメントを付け替え、銀色のグローブの腕へと変わった。

「……君には関係のない話だ」
「な、何……っ!?」

 ライダーマンの態度に、少し杏子は苛立った様子だ。魔法少女に変身しようかとも思った。
 当たり前だ。自分に危害を加えないとはいえ、自分の仲間を攻撃している。
 そのうえ、関係ないとまで言われたのだ。腹も立つ。
 しかし、ライダーマンは、妙に落ち着いており、そこから攻撃をしかけるような様子が微塵も感じられなかった。彼は露出した唇を開いた。

「左翔太郎、そしてフィリップ。……君たちが、戦い果てた仲間たちと同じ、『仮面ライダー』の名を名乗るにふさわしい人間なのか、それとも否か──少し試させてもらった。どうやら、答えは出たようだな」

 杏子が振り向く。目の前では、ダブルが立ち上がり、ライダーマンの方へと牙を剥いていた。先ほどは倒れたが、それでも尚立ち上がる意志があるらしいのだ。
 ダブルは、いつでもライダーマンを倒せるよう、腰を落とし、まるで獰猛な獣のように構えている。
 少しでも杏子に触れる事ができぬように、少しでも触れたらすぐに距離を縮めてその首を刈り落そうとするように。

「試した……だと?」

 その言葉からは、怒りのニュアンスが感じられた。

「ああ。……本郷猛や一文字隼人、村雨良と同じ称号を得るのに恥じないかの確認だ」

 ライダーマンは、冷静にダブルの方を見つめていた。
 ダブルは尚、攻撃の意思をやめようとしない。その瞳に、杏子を傷つけさせまいという思いも、たとえ倒れても立ち上がる力強さを感じた。


418 : 孤独も罪も(前編) ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:24:13 EkbuDiGE0

「……守るべきもののために立ち上がるその意志さえあれば、負けないか……。君たちが確かに仮面ライダーであるという事も、今の戦いで充分に知る事ができた! 今の無礼は詫びよう。しかし、ここらで君たちの誤解も解いておきたい」

 ダブルは、急に態度が変わったライダーマンの方を見て、少し構えを崩した。
 どうしていいのかわかなくなったのだ。果たして、ライダーマンはこれからどうするのか。
 その答えは、ライダーマンが変身を解除し、結城丈二となった事で解決された。
 ライダーマンの武装を解除し、結城は「すまない」と一言言ってから杏子の肩を掴んで体をどかして、ダブルの方へと突き進んでいく。
 いま、左肩に触れた指先は妙に冷たかった。

「……もう一度名乗ろう。俺の名前は結城丈二。又の名を、ライダーマン──仮面ライダー4号だ」

 その言葉を訊いた時、ダブルは変身を解除した。──仮面ライダー4号の名を持っている以上、時期が過去でない事はよくわかる。また、彼がその名にある程度の誇りを持っている事も、その口ぶりからよくわかった。
 フィリップが、よろけた体で結城の目を睨みつける。
 いまだ、怒りは冷めやらぬといった感じだった。先ほどより落ち着いてはいるが、怒りと困惑はフィリップの中にある。

「……随分なご挨拶ですね。てっきり、もっと昔のあなたがここに呼ばれたのかと思いました」

 フィリップの口から出てきたのは、皮肉に満ちた言葉である。当たり前だ。先ほどまで万全だったフィリップも、全身に負傷を負った。倒れるほどではないが、ライダーマンは本気でダブルを襲っていたようにしか思えなかった。

「安心してくれ。俺はデストロンを脱退し、バダンと戦っている時のライダーマンだ」
「……今の攻撃。相手を殺してしまうかも、とは思いませんでしたか?」
「俺は仮面ライダーの中では弱い……どう贔屓目に見ても、俺が敵いそうなライダーは仲間内にはいないほどだ。俺ごときに敵わぬようでは、これからの戦いも苦労する事になるぞ」

 フィリップは、その言葉に、いっそう機嫌悪そうに結城を睨む。
 そんな結城の後ろから、翔太郎がマラソン走りで現れ、フィリップの横に立った。
 翔太郎も結城の顔を見た。

「……おい、あんた……。ライダーは助け合いじゃねえのか?」

 かつて、別のライダーから言われた言葉を、結城に投げかける。

「その通りだ……しかし、馴れ合いではない。確かに俺たち仮面ライダーは、確かに悪を倒すために助け合う。だが、助け合いというのは、ただ仲良く一緒に戦う事ではない」

 結城の目は少し険しかった。

「お互いの力を高める為、時にその力をぶつけ合い、己の技や強さに磨きをかける事も大切だ。時に、実力のわからぬ相手の力を試させてもらう事もある」

 ……翔太郎は、そう言われて黙ってしまう。
 確かに、自分の技を高めるために特訓する事も大切だ。しかし、初対面でいきなり襲い掛かってくるとは思わなかったのだ。

「……まったく、何かと思えば、結局特訓かよ。でもまあ、少し手荒な特訓だけど、確かにこのくらいやらないと相手の実力ってのはわからないからな」

 零も結城の後ろからのんびりと現れる。
 魔戒騎士は、常に死と隣り合わせな特訓を行う。実戦では敵は殺しにかかってくるのだから、当然だ。刃を交えて戦うのは基本である。

「……それならそうと、最初から言ってくれれば……」

 翔太郎も少しスネ気味であった。あまり機嫌がよくなる話ではない。
 随分なスパルタ教育だと思えた。……しかし、仮面ライダーの先輩である彼が、仮面ライダーの名前を任せるのに、充分な働きをしなければならない身だ。

「言ったうえで君たちが本気の戦いをしてくれるのかはわからないだろう」


419 : 孤独も罪も(後編) ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:24:57 EkbuDiGE0
ごめんなさい、
>>417-418は「孤独も罪も(後編)」です。


420 : 孤独も罪も(後編) ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:25:28 EkbuDiGE0

 結城が求めたのは、あくまで本気のダブルだ。特訓をするつもりでかかってこられたようでは、結城はダブルの真の実力を知る事ができない。まあ、実際のところ、何事もなく、お互いに誤解もなく進んでいれば、ちゃんと伝えたうえで戦いを始める事になっただろうが、相手が結城を敵だと思っているならば、都合が良いと感じたのだ。

「……俺たちがあんたを敵だと思っているのを良い事に、悪人のフリをして俺たちを本気にして試した……そういう事だったんすか?」
「……悪人のフリをした覚えはないが、大方そんなところだ。お前たちの本気は見せてもらった」

 その辺は、フィリップたちの一方的な勘違いだった。それを利用して戦わせてもらったのも確かだが。
 フィリップは、結城を見つめた。彼の様子をうかがっているようだった。

「……しかし、結城丈二さん。僕もあなたの経歴は知っています。……僕のデータが正しければ、かつてのあなたは、確かに悪の組織の一員だったはずだ。あなたを信用していいのか……」
「……ああ」
「多くの命を奪った罪を……あなたは数えたんですか」

 フィリップの問いが、結城を微かにでも憂鬱な顔にさせた。
 遠き日、自分がデストロンによって利用され、かつて存在したはずの右腕が悪の片棒を担いでいた事。その首領に心酔していた時代、結城の研究は全て悪の為の利用されていた。
 デストロンによる犠牲者の大半は、結城が間接的に絡んでいる。
 その言葉は、結城の心を僅かにでも抉ったが、結城は再び顔色を正して答えた。

「……数えたんじゃない。数え続けている」

 フィリップの言葉の端を捕まえるように、結城はそう言った。

「罪は消せない。背負って生きていくしかないんだ……」

 結城丈二はその罪から逃れる手段として、死を選ばない。
 一度、その死を以て償おうとした日──プルトンロケットから人々を守った、ライダーマン誕生の日。そこで死ぬのも一つの手だっただろう。
 だが、結城丈二は死に損なった。死と言う終わりは彼に降り注がなかった。
 タヒチで知った──「自分は償うためにまた生まれ変わった」という事実。それがこの世界の意思ならば、そのために償い生きようと、結城丈二は誓っていた。

「……そう、ですか。……しかし、そこまでわかっているなら。それをちゃんと知っているなら……あなたは一体何故、デストロンに魂を売ったのですか? その経緯を、僕はまだはっきりとは知らない。あなたを信じる為に、あなたの口から……全て教えていただきましょう」

 デストロンで悪事の数々を働いていたという結城丈二のデータと、今の彼の姿は一致しない。地球の本棚であっても、引き出せるデータは限られている。人物の内面などは殆ど書かれていない。

「……わかった」

 結城丈二は、その声のトーンを少しばかり下げた。
 暗い過去を見つめる時に、明るい声を出せるはずもない。それを話すという事は、また自分の罪を直視する事に違いない。

「言い訳になるかもしれないが、訊きたいならば、訊かれた通りに応えよう。デストロンは、科学の力によるユートピアを創造するための団体だと……俺は信じていた」
「……一体、何故そんな与太話を」

 ユートピア。そんなものは存在しない。全て、幻なのだ。
 あるのは、それを作り出した人間だけの、一人きりの理想郷をそう呼ぶ。

「俺の昔ばなしになるが、……俺の家は、その昔、母子家庭だったんだ……母と二人、長屋で毎日貧しい暮らしをしていた。母も病気を患っていて、その日に飯を食べる事さえできなかった。それでも俺は、母のために科学者や医者になろうと、子供の時からずっと科学の勉強していた」

 その日の食べ物にも困るような貧乏な暮らし──杏子もかつて経験した、辛くひもじい毎日を、この目の前の男も経験していたらしい。それでも、結城丈二は未来のために勉強をしていたという。

「しかし、ある時、俺の母は亡くなった。俺はそれからずっと病気によるものだと思っていたが、……それがデストロンによる陰謀だと知ったのは、もっとずっと後の話だ。俺は、その時、自分が行くあても、生きる希望も無くした。そんな俺を拾ってくれたのがデストロンの首領だった。俺の生活の面倒を見てくれて、人々のための研究をさせてくれるデストロンの首領は、……俺の父のような存在だった。この時、俺の研究が、悪に利用されているとも、首領こそが悪の根源だとも、俺は知らなかった。……全く、言い訳にもならんだろうな」
「おい、そんな話、俺も聞いてないぜ……」


421 : 孤独も罪も(後編) ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:25:57 EkbuDiGE0

 零も、結城の口からその事を聞くのは初めてだった。
 ……彼にも、家族はいなかった。彼も孤児で、引き取ってくれた道寺が父になったのだ。
 そんな父に心底恩義を感じた結城の気持ちはわかる。その果てに裏切られた結城丈二の事が、いたたまれず、なんだか身近に感じた。彼も超人ではなかったのだ。

「俺はデストロンにいる間、自分自身で決断するという事をしなかった。たとえ少し怪しんでも、自分の疑念を封じ込め、首領は絶対だと信じ続けた。俺の意思を殺して、自分ではない何かに流されるまま、悪の片棒を担ぎ続けたんだ。その結果、俺の研究は何万という人々の命を失わせた」

 そう言われて、フィリップはふと、自分の境遇を思い出した。
 フィリップはガイアメモリの開発に関わった。自分の研究は、確かに多くの命を奪っている。ガイアメモリの存在は悪ではない、使う者が悪なのだと信じて……。
 園咲に利用されながら、フィリップはガイアメモリを製造し続けたのだ。
 決断をしなかった事による、罪。──それは、フィリップが抱えている物と同じだった。

「ずっとデストロンで研究開発をして実績をあげていた俺はやがて幹部候補とまで呼ばれた。そんな俺を失脚させようとした男がいた。その男はヨロイ元帥といった。奴は俺に裏切り物の烙印を押し、俺を死刑にしようとした。……だが、兄弟のように思っていた研究仲間の部下たちに俺は助けられ、右腕を失うだけに済んだ。俺の右腕をこのアタッチメントに付け替えてくれたのも彼らだ」

 鋼鉄の右腕は──体温を持たないその義手は、仲間たちの支えでもあった。
 時として辛くなるとしても、それが、仲間がくれた力だと思えるからこそ、結城丈二は耐えられる。

「しかし、その部下たちもヨロイ元帥に殺された。俺は、部下の……そして俺自身の右腕の右腕の仇を取るため、デストロンと離反した。裏切り者と呼ばれたまま、俺は何度でも戦ったさ。……時には、復讐のために、大切な何かを忘れながら。周囲を巻き込み、暴走し……今度は、自ら決断し、間違った行動する事で罪を重ねた」

 翔太郎は、自分が仮面ライダーダブルとなった日の事を思い出した。
 翔太郎が手柄を得る為に突っ走り、結果として鳴海壮吉の命は奪われた。彼の指示を無視した結果の罪。
 決断をした事による、罪。──それは、翔太郎が抱えている物と同じだった。

「……それが、結城さん……あんたの、ビギンズナイトなのか……」

 仮面ライダーとなった者が抱える、辛い過去。背負って生きていかねばならない罪。
 それを翔太郎は再認識する。

「ビギンズナイト……?」

 その単語を、結城は知らない。
 翔太郎の代わりに、杏子が答えた。

「あたしたちの人生を変えた、忘れられない過去の事……だよな」
「ああ。……俺たちの運命を決めた時、俺たちを戦士にした日……それが、ビギンズナイトだ」
「なるほど……」

 翔太郎が補完した内容に、結城は相槌を打った。

「……全ての始まりの夜、か。夜じゃないけど……俺にもそんな時がある」

 零は、そう呟いた。
 父・道寺の最期を看取り、婚約者である静香が暗黒騎士によって貫かれるのを見つめたあの日──二人の墓前で、名前をなくした日。それが涼邑零のビギンズナイトだ。
 しかし、今となっては、それを他人に話すのも余計に思えて、零は詳しくは口にしなかった。

「なあ、母親も、兄弟のように思っていた人も失って……父親にまで裏切られて、あんたはどうして……そんな孤独に耐えられるんだよ」

 その問いかけに、杏子は既視感があった。どこかでそれと同じような語調の言葉を、杏子は訊いた事があった。
 杏子がそれを問うたのは、自分自身が全く同じ境遇で、それに耐えられなかった──耐え続けたフリをしていても、心が耐えていなかったからだろう。態度を変えた父。死んだ母、兄弟。──杏子と、同じだった。


422 : 孤独も罪も(後編) ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:26:26 EkbuDiGE0

「……俺に仮面ライダー4号の称号を贈った男がいるんだ。その名も風見志郎。三人目の仮面ライダー、仮面ライダーV3だ。平和のために戦う風見の邪魔を、俺は何度もした。しかし、俺と風見とは、デストロンと戦う日々の中で、ぶつかり合いながらも友情に結ばれていった」
「……」
「俺も奴に感化されたのだろう。デストロンは、東京を破壊するプルトンロケットを射出した。俺は、首領に何度も掛け合った。ロケットの発射を中止してくれ、と。……しかし、首領は答えなかった。俺が自分の父が悪だと認識したのは、その時だ。俺はロケットを止める為に、自らロケットに乗り込み、軌道をずらす事で自爆した。……まあ、結局、死に底なってタヒチに流れ着いたんだがな。その時に風見が贈ったのが、仮面ライダー4号の称号だ」

 杏子は、その風見志郎という男の名前を刻んだ。
 それは、杏子にとっての左翔太郎やフィリップのような男だと、はっきりわかったのだ。

「そいつが、あんたの孤独をなくしてくれたのか……」
「……いや」

 しかし、結城が否定する。

「確かに、風見や仲間たちとの時間は俺にとって、かけがえのない物だ。しかし、だからといって、家族や仲間を失ってきた孤独が消えるわけじゃない……それでも……」

 結城は、杏子の目を見て言った。

「たとえ孤独でも、命ある限り戦う……それが、仮面ライダーだ」

 結城は、そう答えた。
 そう、孤独は結城の中から消えていないのだ。
 それでも、自分の罪だけを見つめ、どんな苦難も、戦いの為に見つめている。
 仮面ライダーになったから──その孤独を見つめ、時として悲しみに暮れても、前を向いて生きている。

「……俺は仮面ライダーになった以上、たとえ孤独でも戦う意志を貫く。同じ仮面ライダーの仲間たちのように。彼らも俺と同じく、あらゆるビギンズナイトを持ち、心に孤独を抱えているんだ」

 風見やその他の仮面ライダーたちが傍にいるとしても、かつて失った仲間たちが戻ってくるわけでも、裏切った父が結城の理想通りになるわけでもない。
 死者への未練を持たず、仮面ライダーとして、前だけを見て生きているのだ。
 人間の自由と平和──そこに辿り着くために。

「孤独も罪も……全て、背負って生きて、戦うのが俺たちさ」

 杏子や零が抱える孤独。翔太郎とフィリップが抱える罪。
 結城丈二は、そのいずれも背負っていた。

「……」

 フィリップは、少し間を置いた後、少し息を吸って、言った。

「……すみません。僕は、ずっとあなたの事を誤解していました」

 フィリップは、ようやく結城に頭を下げたのだった。
 結城を全面的に信頼する、という選択肢を取ったのである。──少なくとも、彼の言っている事は作り話ではなさそうだ。誰もがそう思っているだろう。
 感情が揺れ動いたから……という理由で誰かを信じられる人間ではないが、フィリップは結城を信じてみる事にした。
 結城は返す。

「誤解じゃないさ。デストロンの研究員、結城丈二の開発は人の命を奪い続けた。悪魔と呼んでもいい。……しかし、俺は風見と出会った。俺は彼にもらった称号──仮面ライダー4号に恥じぬよう、誰かを守り、その罪を償わねばならない」

 結城がダブルを試した理由も、よくわかった。「仮面ライダー」という言葉に対して、結城はダブル以上に深い思い入れを持っているのだ。
 おそらく、彼は仮面ライダーダブルの在り方に、少しでも疑問を持ったのだろう。
 その疑問を、力ずくでも払拭しないわけにはいかないような性格だったのだ。──そこは、フィリップにも似ていた。


423 : 孤独も罪も(後編) ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:26:56 EkbuDiGE0

「生きる限り戦い続け、一人でも多くの命を救う。世界を……未来を。ユートピアは生まれなくとも、人々が当然持つべき、自由と、平和のために。その邪魔さえしなければ、俺はどんな苦難も受け入れてみせよう」

 完熟の仮面ライダー──それがライダーマン。決して迷う事なく、正義感の導くままに戦う男。
 その姿は、まさしく、仮面ライダーの先輩として相応しい魂を胸に刻んだ男だった。

「……結城さん。いや、結城先輩。……僕も全て理解しました。僕たちは、あなたたちに協力します。でも、あなたも教えてください。何故、『地球の本棚』について知っているのか。何故、あんなところに探偵事務所があったのか。何故、あなたたちはそこにいたのか」

 結城は頷いた。
 ともかく、五人はここで結束し合う事になった。







 結城、零、翔太郎、フィリップ、杏子はそこである程度の情報交換をしていた。
 リボルギャリーの出動はスタッグフォンで行う事なども全て伝えられる。
 結城たちのこれまでの経緯は、特に重要だ。時空魔法陣を操れる事なども伝えたうえで、あらゆる情報を翔太郎たちに詰め込んでいく。
 そして、今は翔太郎たちのここまでの動向について語られていた。

「……要するに、海上に現れた探偵事務所に向かうために三人で行動していたというわけか」

 翔太郎たちは、とにかく、これまでの経緯のうち、警察署に関わる部分を教えた。
 沖一也のほか、蒼乃美希、孤門一輝、高町ヴィヴィオがいる事。それから、冴島鋼牙が警察署を出ており、近くにいる仲間たち──花咲つぼみ、響良牙、月影なのはを探しに行っている事。

「沖さんの指示だ。俺たち二人で行けって言われたが、杏子もついてきた」

 沖がレーダーハンドで見つけた場所に向かうのは、殆ど必然的に翔太郎、フィリップに決まり、追従する形で杏子もやって来たのだ。──そこには、確かに杏子と、誰にも知られないところで魔女についての会話をする意図があったかもしれないが、そんな事をする前に翔太郎たちは前方からのバイクの光に目を覆ったのである。
 零は、そんな翔太郎を茶化すように言う。

「んで、お仲間たちは先に警察署に戻って、寝る準備をしている、と……。鳴海探偵事務所を知っているあんたたちが、女の子をお供に連れて、夜の街に連れていったんだな」
「誤解を招くような言い方するんじゃねえっ!!」

 翔太郎が半ギレで言った。なんだか、ここ数時間、そういう話ばっかりな気がするのだ。
 しかし、零は息を吐くように女の話ができる男であった。翔太郎の様子を無視して、態度をすぐに切り替える。

「鋼牙も近くにいるってわけか。殆どの仲間はだいたい集まっているみたいだな。暁や石堀の事は知らないのか?」

 戸惑ったが、翔太郎はそれに合わせるように、相槌を打った。

「あ、ああ……。俺もそいつらには会ってねえし、今もどこにいるのか……」

 と、零が言ったその時、結城が少し考えたような様子になった。
 やや現状を厄介に思った様子だった。暁、ラブ、黒岩、石堀は、現状で生きている中で、主催に仇なす立場ながら、その動向がつかめていない。
 ただ、推測する事っくらいならできるだろうと、結城は少し頭を回転させた。

「……『こちら側』にいないという事は、もしかすると『向こう側』の街にいるのかもしれないな」

 答えは、すぐに出た。

「向こう側?」
「禁止エリアで隔てられた、中学校側だ」

 その返事を訊いた時、全員がはっとする。
 指定された集合場所は、街というアバウトなものだった。禁止エリアがある以上、合流地点間を動きづらくなってしまう。その移動が面倒になるのは言うまでもない。


424 : 孤独も罪も(後編) ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:27:17 EkbuDiGE0

「……なるほど。でも、俺たちには禁止エリアだろうが何だろうが、関係ないな」
「禁止エリアが反応するのは、首輪だからな。首輪を解除した俺たちならば、向こうへのメッセンジャーになる事も容易だ」

 確かに、禁止エリアをまたいで、二地点間を結ぶ存在になる事ができる。
 首輪がない事で最も便利なのは、やはり禁止エリアや衝撃による爆発を確実に回避できる事だ。爆弾が首に巻き付いた状態では、落ち着けない。
 ましてや、禁止エリアの近くと言えば、かなりデリケートな行動だ要されるはずだ。

「……それならすぐに行かねえと、遠回りで移動を始めちまうんじゃねえか? 動かなかったら動かなかったで、向こうに殺し合いに乗っている奴が襲いに行くかもしれない」
「そうだな……。それなら、……俺たち二人がそちらへ向かおう」

 そう言ったのは、結城丈二であった。
 彼は、中学校側にいるかもしれない暁や石堀の首輪を解除する事ができる。そうすれば、全員で警察署側に向かってこられるはずだ。
 首輪を二つ解除した実績があるのだから、問題はない。

「首輪の解除方法は覚えた。……首輪の構造を書いたメモ書きと解除済のパーツは、そちらに渡しておく。少なくとも、沖一也は科学者としても優秀だ。きっと、君たちの首輪を解除する事ができる。……いざという時は、フィリップくん。君も頼りにしているぞ」

 ……と、任された既にフィリップは結城がまとめたメモ書きを読んでいる。
 半笑いを浮かべており、何やらそのメモ書きに書いてある事を呟いているようだ。

「凄い……完璧だ……。この首輪の構造、そして不可解な点の考察が、殆ど完璧に記されている。これなら、僕でも何とか解除する事ができるでしょう」

 フィリップは、そう言っていた。
 流石、結城丈二といったところか。翔太郎には、フィリップがここまで感心するデータを書き記した結城が、よりいっそう大きく見えた。

「そうか、心強い。鏡の前で首輪を外すのは少し難しかったからな。君と沖が、お互いの首輪を解除し合えれば、全員すぐに首輪を解除できるだろう」
「……心から感謝します。結城先輩」

 フィリップも、結城丈二に対して、ある程度の信頼を寄せるようになったようであった。
 そんな結城も、翔太郎たちから受け取った名簿のスタンス表を見て、感心していた。

「俺も君たちにはとても感謝している。俺たちもここに来て、重要なデータを手に入れられた。このスタンス表は画期的だ。……これまで殆ど参加者に会う事がなかったからな。君たちがさまざまな人と交流してきた証だな」

 涼村暁や黒岩省吾のデータが埋められた事で、現状でのスタンスが発覚している。六十六人もの参加者だ。その殆どのデータが揃っているデータというのは、あまりにも強力である。
 暁や黒岩、速水克彦などの名前は検索に入れていたが、暁や黒岩の人格を知ったうえでも、二人のスタンスはわからなかった。速水は確実に主催に反抗する人間だとわかっていても、この二人はデータだけでは難しかったのだ。そこを埋められた事で、全参加者のデータが完成した。

「あ、ああ……」

 翔太郎は、結城の言葉にそう相槌をした。何か思うところがあるらしい。
 確かに、翔太郎はこれまで、たくさんの参加者と出会い、戦ってきた。
 その道程を思い出す。そうすると、少し情緒が動かされるのだ。

「不謹慎だけど……なんだか、俺たち……この殺し合いの中で、随分たくさん好きな人ができちまったんだよな。仲間もたくさん失っちまったけど、そんな仲間とも、ここに生きている仲間とも……この殺し合いに来なければ、会わなかったってのがよ……何だか切ないぜ」

 口に出していいのか、ずっとわからなかったが、実際、この殺し合いのお陰で出会えた仲間もいる。照井とは会えず仕舞だったし、照井が死んだのは翔太郎についても辛い話だ。
 しかし、確かに、本来なら出会えぬはずの人間たちと出会った。
 それを僅かにでも喜んでいるのは──おそらく、ここに生き残っている五人、全員同じだろう。

「……言うな。俺たちが巡り合ってしまった事は、一つの不幸だ。出会うはずのない俺たちは、出会わないままで良かった」


425 : 孤独も罪も(後編) ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:27:54 EkbuDiGE0

 結城は、あくまでストイックに、そう言った。内心では、出会えてうれしいような相手もいる。しかし、その出会いはあってはならないものだと、結城はわかっている。

「……いや。俺はいつか、もしかしたら出会ってたかもしれないと思うぜ」

 零が、横から言う。

「俺たちの未来なんてわからないもんさ。だって、そうだろ。もしかしたら、殺し合いがなくても、俺たちはどこか、未来で出会っていたかもしれない。それなら、死んでしまった奴らは、将来出会えるはずの人間と出会えなくなったって事なんだ。あいつらはみんな、未来を、命を奪われた。その事実に変わりはない」

 確かに、必ずしも自分たちが出会わなかったと断言できるものではない。
 この殺し合いが正しいわけがないのだ。──少しでも、自分たちに利を齎したなどと思いたくはなかった。

「……そうだな。悪い。こんな事が、許されていいわけねえもんな」

 翔太郎は、そう言って、結城の方を見た。
 零は、スカルボイルダーに跨っていた。彼が運転手を務めるのだろう。師匠、鳴海壮吉の愛機だが、彼もきっと、男の中の男である結城たちに使われるのならば、許すだろう。
 翔太郎の手元には、ハードボイルダーが残った。

「さて、君たちともしばらくお別れだ。また生きて会おう」

 結城は、翔太郎たちにそう告げた。
 結城は、翔太郎に近づくと、顔の前に肘を出した。翔太郎も、そのサインの意味を知り、顔の前に肘を出した。お互いが、お互いの肘をぶつけた。それは、かつて翔太郎と照井が、NEVERとの戦いの時に行った友情の証と、とてもよく似ていた。

「「健闘を」」

 結城は、ヘルメットを高く掲げて少し笑うと、それを装着して、零の後ろに乗った。
 スカルボイルダーがエンジン音を鳴らす。
 アクセル音、そして、進行。──結城と零の背中が遠ざかっていく。
 その背中を見送った後で、翔太郎は言った。

「さて、それじゃあ、俺たちも警察署に戻るか」

 次の放送までには戻れるだろう。翔太郎とフィリップと杏子は、警察署にいる仲間のもとへと戻る事にした。


426 : 孤独も罪も(後編) ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:28:23 EkbuDiGE0



【1日目 深夜】
【F-9/警察署前】

【結城丈二@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、首輪解除、スカルボイルダー後部に搭乗中
[装備]:ライダーマンヘルメット、カセットアーム
[道具]:支給品一式、カセットアーム用アタッチメント六本(パワーアーム、マシンガンアーム、ロープアーム、オペレーションアーム、ドリルアーム、ネットアーム) 、スカルボイルダー@仮面ライダーW、スタンスが纏められた名簿(おそらく翔太郎のもの)
[思考]
基本:この殺し合いを止め、加頭を倒す。
0:スカルボイルダーに乗り、禁止エリアを抜けて中学校側の街に向かう。
1:殺し合いに乗っていない者を保護する
2:沖と合流する。ただし18時までに市街地へ戻るのは厳しいと考えている。
3:加頭についての情報を集める
4:異世界の技術を持つ技術者と時間操作の術を持つ人物に接触したい。
5:石堀たちとはまた合流したい。
6:また、特殊能力を持たない民間人がソウルメタルを持てるか確認したい。
7:時間操作の術を持つ参加者からタイムパラドックスについて話を聞きたい
8:ダブルドライバーの持ち主と接触し、地球の本棚について伝える。
[備考]
※参戦時期は12巻〜13巻の間、風見の救援に高地へ向かっている最中になります。
※この殺し合いには、バダンが絡んでいる可能性もあると見ています。
※加頭の発言から、この会場には「時間を止める能力者」をはじめとする、人知を超えた能力の持ち主が複数人いると考えています。
※NEVER、砂漠の使徒、テッカマン、外道衆は、何らかの称号・部隊名だと推測しています。
※ソウルジェムは、ライダーでいうベルトの様なものではないかと推測しています。
※首輪を解除するには、オペレーションアームだけでは不十分と判断しています。
何か他の道具か、または条件かを揃える事で、解体が可能になると考えています。
※NEVERやテッカマンの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
※首輪には確実に良世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※零から魔戒騎士についての説明を詳しく受けました。
※首輪を解除した場合、ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。 →だんだん真偽が曖昧に。
※彼にとっての現在のソウルメタルの重さは、「普通の剣よりやや重い」です。感情の一時的な高ぶりなどでは、もっと軽く扱えるかもしれません。
※村雨良の参戦時期を知りました。ただし、現在彼を仮面ライダーにすることに対して強い執着はありません(仮面ライダー以外の戦士の存在を知ったため)。
※時空魔法陣の管理権限を得ました。
※首輪は解除されました。
※変身に使うアイテムや能力に何らかの細工がされていて、主催者は自分の意思で変身者の変身を解除できるのではないかと考えています。


427 : 孤独も罪も(後編) ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:28:34 EkbuDiGE0

【涼邑零@牙狼─GARO─】
[状態]:健康、首輪解除、スカルボイルダー搭乗中
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター
[道具]:シルヴァの残骸、支給品一式、スーパーヒーローセット(ヒーローマニュアル、30話での暁の服装セット)@超光戦士シャンゼリオン、薄皮太夫の三味線@侍戦隊シンケンジャー、速水の首輪、調達した工具(解除には使えそうもありません)
[思考]
基本:加頭を倒して殺し合いを止め、元の世界に戻りシルヴァを復元する。
0:スカルボイルダーに乗り、禁止エリアを抜けて中学校側の街に向かう。
1:殺し合いに乗っている者は倒し、そうじゃない者は保護する。
2:会場内にあるだろう、ホラーに関係する何かを見つけ出す。
3:結城に対する更なる信頼感。
4:また、特殊能力を持たない民間人がソウルメタルを持てるか確認したい。
5:涼村暁とはまた会ってみたい。
[備考]
※参戦時期は一期十八話、三神官より鋼牙が仇であると教えられた直後になります。
※シルヴァが没収されたことから、ホラーに関係する何かが会場内にはあり、加頭はそれを隠したいのではないかと推察しています。
実際にそうなのかどうかは、現時点では不明です。
※NEVER、仮面ライダーの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
仮面ライダーに関しては、結城からさらに詳しく説明を受けました。
※首輪には確実に異世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※首輪を解除した場合、(常人が)ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。→だんだん真偽が曖昧に。
また、結城がソウルメタルを操れた理由はもしかすれば彼自身の精神力が強いからとも考えています。
※実際は、ソウルメタルは誰でも持つことができるように制限されています。
ただし、重量自体は通常の剣より重く、魔戒騎士や強靭な精神の持主でなければ、扱い辛いものになります。
※時空魔法陣の管理権限の準対象者となりました(結城の死亡時に管理ができます)。
※首輪は解除されました。
※バラゴは鋼牙が倒したのだと考えています。


428 : 孤独も罪も(後編) ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:29:17 EkbuDiGE0

【左翔太郎@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、胸骨を骨折(身体を折り曲げると痛みます・応急処置済)、上半身に無数の痣(応急処置済)、照井と霧彦の死に対する悲しみと怒り、お風呂に入ってさっぱり
[装備]:ダブルドライバー@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(アイスエイジ)@仮面ライダーW、犬捕獲用の拳銃@超光戦士シャンゼリオン、散華斑痕刀@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:支給品一式、ガイアメモリ(ジョーカー、メタル、トリガー)、ナスカメモリ(レベル3まで進化、使用自体は可能(但し必ずしも3に到達するわけではない))@仮面ライダーW、ガイアドライバー(フィルター機能破損、使用には問題なし) 、少々のお菓子、デンデンセンサー@仮面ライダーW、支給品外T2ガイアメモリ(ロケット、ユニコーン、アクセル、クイーン)、ハードボイルダー@仮面ライダーW
[思考]
基本:殺し合いを止め主催陣を打倒する。
0:警察署に向かう。探偵事務所にはまた後で。
1:ガドル、ドウコクは絶対に倒してみせる。あかねの暴走も止める。
2:仲間を集める。
3:出来るなら杏子を救いたい。もし彼女が魔女になる時は必ず殺す。
4:現れる2体の魔女は必ず倒す。
[備考]
※参戦時期はTV本編終了後です。
※他世界の情報についてある程度知りました。
(何をどの程度知ったかは後続の書き手さんに任せます)
※魔法少女の真実(魔女化)を知りました。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はフィリップ、ファングメモリ、エクストリームメモリの解放です。これによりファングジョーカー、サイクロンジョーカーエクストリームへの変身が可能となりました。

【フィリップ@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、お風呂に入ってさっぱり
[装備]:無し
[道具]:ガイアメモリ(サイクロン、ヒート、ルナ、ファング)@仮面ライダーW、エクストリームメモリ@仮面ライダーW、首輪のパーツ(カバーや制限装置、各コードなど(パンスト太郎、三影英介、園咲冴子、結城丈二、涼邑零))、首輪の構造を描いたA4用紙数枚(一部の結城の考察が書いてあるかもしれません)
[思考]
基本:殺し合いを止め主催陣を打倒する。
0:警察署に向かう。 探偵事務所にはまた後で。
1:翔太郎及び仲間達のサポートをする。
2:沖一也とともに首輪を解除する。
[備考]
※参戦時期はTV本編終了後です。
※検索によりまどマギ世界(おりマギ含む)の事を把握しました。
※参加者では無く支給品扱いですが首輪を装着しています。
※検索によりスーパー1についてや、赤心少林拳について知りました。元祖無差別格闘等、伝えられた格闘流派についても全て調べているようです。
※アンノウンハンドについて調べる事はできませんでした(孤門たちの世界でその正体が不明であるほか、記憶操作・情報改竄などが行われているためです)。


429 : 孤独も罪も(後編) ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:29:34 EkbuDiGE0

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、ソウルジェムの濁り(小)、腹部・胸部に赤い斬り痕(出血などはしていません)、ユーノとフェイトを見捨てた事に対して複雑な感情、マミの死への怒り、せつなの死への悲しみ、ネクサスの光継承、ドウコクへの怒り、真実を知ったことによるショック(大分解消)、お風呂に入ってさっぱり
[装備]:ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、エボルトラスター@ウルトラマンネクサス、ブラストショット@ウルトラマンネクサス
[道具]:基本支給品一式×3(杏子、せつな、姫矢)、リンクルン(パッション)@フレッシュプリキュア!、乱馬の左腕、ランダム支給品0〜1(せつな) 、美希からのシュークリーム
[思考]
基本:姫矢の力を継ぎ、魔女になる瞬間まで翔太郎とともに人の助けになる。
0:警察署に戻る。
1:翔太郎達と協力する。
[備考]
※参戦時期は6話終了後です。
※首輪は首にではなくソウルジェムに巻かれています。
※左翔太郎、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライアの姿を、かつての自分自身と被らせています。
※殺し合いの裏にキュゥべえがいる可能性を考えています。
※アカルンに認められました。プリキュアへの変身はできるかわかりませんが、少なくとも瞬間移動は使えるようです。
※瞬間移動は、1人の限界が1キロ以内です。2人だとその半分、3人だと1/3…と減少します(参加者以外は数に入りません)。短距離での連続移動は問題ありませんが、長距離での連続移動はだんだん距離が短くなります。
※彼女のジュネッスは、パッションレッドのジュネッスです。技はほぼ姫矢のジュネッスと変わらず、ジュネッスキックを応用した一人ジョーカーエクストリームなどを自力で学習しています。
※第三回放送指定のボーナスにより、魔女化の真実について知りました。

【フィリップと翔太郎の推測】
※このデスゲームは参加者同士の殺し合いから、主催陣対参加者の構図に以降しつつある。
※24時以降に出現する魔女、21時以降解禁される制限は主催戦を見据えてのもの。
※現在表向きに現れている主催陣(加頭、サラマンダー男爵、ニードル、ゴバット、織莉子)は全員、本当の敵ではない可能性が高い。
※本当の敵(黒幕)は現在も現れていない可能性が高い、但し上述の主催陣あるいは参加者の中に潜んでいる可能性も低いがある。
※主催側は全ての世界の地球の記憶(『無限の記憶』と呼称)とアクセスでき、地球の本棚に干渉できる『存在』を手にしている。
※その為、その『存在』を奪取しなければ勝てる可能性は限りなく低く、仮にその『存在』が奪われたまま逃げられた場合、似た事が繰り返される可能性が高い。
※地球の本棚は監視されている可能性が高く、核心に触れる内容の検索は危険、但し現状現れている主催者を含めた参加者については問題無い可能性が高い。
※以上の内容は現時点での推測である為、間違っている可能性はある。但し、『無限の記憶』にアクセスできる『存在』だけはほぼ確実。
※以上の内容は下手に明かす事は危険故、現在の段階ではまだ他の参加者に明かすべきではない。


430 : 孤独も罪も(後編) ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:30:02 EkbuDiGE0

【特記事項】
※ソルテッカマン1号機改は、G-10 鳴海探偵事務所に放置されています。
※鳴海探偵事務所前には、ディアブロッサ@仮面ライダーW、ふうとくんバイシクル@仮面ライダーWが放置されています。
※リボルギャリーを動かすには、スタッグフォンによる呼び出しが必要です。

【支給品紹介】

【ハードボイルダー@仮面ライダーW】
仮面ライダーダブルが使用するバイク。最高時速580kmで走行できる。
リボルギャリーで換装する事で、ハードタビュラー、ハードスプラッシャーなど、あらゆる形態に変形する。
翔太郎は普段からこのバイクに乗っているが、何故街の人たちにバレないのかは不明。

【ディアブロッサ@仮面ライダーW】
照井竜が普段使用しているカスタムバイク。主に変身前に乗用。
普段はエンジンブレードをこれに積んでいる。

【スカルボイルダー@仮面ライダーW】
仮面ライダースカルが使用するバイク。
ハードボイルダーとほぼ同形だが、カラーリングは黒。

【ふうとくんバイシクル@仮面ライダーW】
ウォッチャマンがネットオークションで手に入れたマウンテンバイク。
二輪免許を持っていない人は使える。自転車にすら乗れない人はドンマイ。


431 : 孤独も罪も(後編) ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:34:55 EkbuDiGE0
投下終了です。

>>419のとおり、>>417-418は「孤独も罪も(後編)」です。

結城丈二の過去については、山田ゴロによる漫画版の設定から拝借(母親と困窮した生活をしていた設定は、S.I.C. HERO SAGAなどでも踏襲されています)。
ややV3本編とは違った表現をしている描写も多い漫画ですが、おそらく本編の内容に対して影響がないので、この設定を組み込みました。


432 : ◆gry038wOvE :2014/04/29(火) 21:36:49 EkbuDiGE0
本日分で、予約分の投下は完了になります。
mktnたちのパートより、翔太郎たちのパートが少し時間が進んでいます。
これが通って、初めて全作品がwikiに収録という形で。
おそらくそれは自分でやります。


433 : 名無しさん :2014/04/29(火) 22:19:55 yYbLhrl60
投下乙です!
まさかここでライダーマンVSWの戦いが見られるとは。そして、結城さんの過去やオールライダー版の台詞が見られて「おおっ」ってなりました!
ファングすらも圧倒してしまうライダーマンは、やはりライダーとしての経験が豊富だなと思います。
これから、首輪解除も進んでくれるといいですね。


434 : 名無しさん :2014/04/30(水) 01:04:41 0B8mjEE20
投下乙です
結城さんは格好良いなぁ、翔太郎達にとっても良い出会いになったな


435 : 名無しさん :2014/04/30(水) 12:36:59 89sXWJs.O
投下乙です!
あのファングすらも圧倒するライダーマンは強いな! やはり、先輩ライダーとしての実力が感じられます。
首輪解除も本格的に進んでくれるといいな。


436 : 名無しさん :2014/04/30(水) 16:46:23 I.pQG3JA0
投下乙です!
やはり昭和ライダーは経験が強いですね。
ファング相手でも有利に戦いを進められる強さもあり首輪解除にも貢献しとライダーマン大活躍!
フロッグポッドを制作することができたフィリップと、科学者の沖と首輪解除できる対主催も増えて良い感じ
ライダーマンは本当に対主催として働き者ですね
果たして、ふうとくんバイシクルが役に立つ日はくるのだろうか・・・w


437 : 名無しさん :2014/05/01(木) 01:35:24 b1kTxZok0
次の予約来たな


439 : 名無しさん :2014/05/03(土) 14:27:55 8d..e3Kk0
かなり今更だが、杏子ってこの参戦時期だとロッソ・ファンタズマ使えないよな


440 : ◆LuuKRM2PEg :2014/05/03(土) 17:56:25 MsczkRKI0
もしもその部分が問題でしたら、修正をした方がよろしいでしょうか?
(モロトフの肉体を槍で拘束して、その隙に杏子がせつなを連れて撤退する流れで)


441 : 名無しさん :2014/05/03(土) 19:38:29 QBpVPV9.O
それ言い出すと、杏子は魔女の真実知ってるから、制限解除周りの話が吹っ飛ぶ。


442 : 名無しさん :2014/05/03(土) 19:47:04 2WNkTuR20
あれはせつな助けるためにトラウマ吹っ切って使ったのだと解釈するものだと思ってたが
後、この時期の杏子は魔女の真実知らないはずですよ


443 : 名無しさん :2014/05/03(土) 20:14:33 bbY5SJ3M0
ソウルジェムが本体だとは知っているけど、魔女は六話時点では知られていないはず


444 : 名無しさん :2014/05/03(土) 20:51:04 QBpVPV9.O
確認したんだが、「自業自得」で魔女になると最近知ったとなってる。
これは、参戦時期が間違ってるのか、地の文が間違ってるのか?


445 : 名無しさん :2014/05/03(土) 21:29:57 bbY5SJ3M0
そもそもそれ知ってる時期に殺し合いに乗らんだろ


446 : 名無しさん :2014/05/03(土) 21:38:52 2WNkTuR20
>>444
参戦時期は前の話で確定してるから、後者だろうな
それに仮に参戦時期が魔女化知ってる時期だとしたら、>>445が言うように、殺し合いに乗る理由そのものが覆るし


447 : ◆LuuKRM2PEg :2014/05/03(土) 23:00:00 MsczkRKI0
指摘されていた箇所の修正版を修正スレに投下させて頂いたので、確認の方をお願いします。
ただ、もしも修正の必要がないという意見が他にもあるのであれば、そちらに合わせようと思います(案を通したら、説明の部分も直す必要が出てくるので)


448 : ◆gry038wOvE :2014/05/04(日) 00:35:36 0SXyWisg0
>>442にある通りの解釈の方が面白そうなので、個人的には展開を変えるよりも、その解釈をもう少しわかりやすく文章に組み込む修正にしてほしい気持ちがあります。
今まで>>442の解釈をしてきた人間も決して少なくないかと思います(というか、>>442さんはそれまで、そうした解釈でその話を見てきたわけです)。
その解釈をしてきた人にとっては、その技がロッソ・ファンタズマでなくなれば場面そのものの意味が変わってしまいますし、そこが普通の拘束魔法にされると味気ないと感じるのではないかと思うんですよね。
はっきり言って、ここは、味気ない修正ではなく、そこで後の展開の伏線として昇華できる修正ができる場面です。できればそうしてほしい。

ただ、確かに>>439のように疑問を呈する気持ちもわかるので、「読み手の解釈次第」ではなく、それが発現した意味を明記したり、杏子が無意識下で封印された魔法を使った事に対する疑問を感じたり……といった描写を付け加えたら、わかりやすいと思うのです。
リレー小説ですし、「解釈次第」というのが割と命とりになってしまう(特に技が発動できるのか否かという点では)部分がありますから、そこはやっぱりはっきりと文章に組み込んでみた方がいいかと。

以上が、「正しいか正しくないか」、「無理があるか無理がないか」よりも、「面白いか面白くないか」を優先したい私の意見です。


449 : ◆LuuKRM2PEg :2014/05/04(日) 01:00:47 DHjWvkhk0
貴重なご意見、ありがとうございます。
それは御尤もです。他の方の解釈を蔑ろにするような形にして申し訳ありません。
それでは、また後ほど指摘された部分の修正を投下させて頂こうと思います。


450 : ◆LuuKRM2PEg :2014/05/04(日) 22:12:17 DHjWvkhk0
修正スレに投下させていただいたので、確認を再度お願いします。


451 : ◆gry038wOvE :2014/05/07(水) 00:24:26 NU2bkzH20
ただいまより投下を開始します。


452 : 赤狼 ◆gry038wOvE :2014/05/07(水) 00:25:05 NU2bkzH20



 この一戦は爆風に始まった。
 土煙に木の葉の滓も混ぜ込まれ、土の表面とともにプリキュアたちのスカートが一瞬、浮き上がり、揺れた。
 地面で爆弾が破裂したようだったが、違う。
 見れば、ガミオの両拳が指先で硬く結ばれたまま、その地面に叩き付けられている。そこには地面の形に歪が生まれ、二人のプリキュアを遠ざけている。

「避けたか──」

 ほんの一瞬前まで、その歪んだ地面の中心にはキュアムーンライトがいた。

 先ほど、キュアムーンライトはガミオの言葉を合図に、真っ先に前を出て、脇腹に蹴りを入れた。続けて、追従するように、一秒遅れてガミオの懐に現れたキュアブロッサムがガミオの左頬を打った。
 次の一瞬で、手足が増えて見えるほどの攻撃の連打を始めた。プリキュアの攻撃スピードは速く、ガミオの体を一秒で何打も狙った。──が、ガミオはそれを全て肘で受け止めた。プリキュアの攻撃を無力化するほどの硬い体表は、その中の血肉に僅かな震動さえ届かせない。
 全ての攻撃を受け切った後、ガミオは、両掌を組み上げて、真上からキュアムーンライトを叩き付けようとしたのだ。その攻撃が、地面に穴を作っているという事は、ガミオが頭部だけを殴るのではなく、頭から足の指先まで叩き潰そうとした証だった。

「……!!」

 キュアブロッサムは、ガミオの両拳が地についた意味を、遅れて理解した。
 ──そう、その両腕だけで圧死させるつもりだったのだ。人一人の身体を、ひしゃげた肉片の飾られた血だまりに、変えようとしたのである。

「──何故、あなたはそうまでして戦うんですか!」

 その惨状は、キュアブロッサムの精神を沸点に届かせた。
 赫怒を填め込んだ語調に肩が揺れる。腕も言葉に沿うようにして、勝手に荒く動いていた。
 激しい怒りを前にしても、ガミオは淡々と両腕を上げ、立ち上がるようにして直立体勢へと彼の恰好を変えるのみだった。

「お前は望まれないものの生き方を知っているか──」

 ガミオは、逆にそう彼女に尋ねる。問われた本人も、返答が来た事を意外に思う心持だった。彼女も、そこに言葉を返す事はなかった。息と固唾を飲みこんで、当人が答えを言うのを待った。傍で、キュアムーンライトが怪訝そうな顔を浮かべる。
 ガミオは、まるで呼吸をしていない人間のように言った。

「望まれないものは、小さな箱に閉ざされる。
 箱の中には光は通らない、外の者からも俺の姿は見えない。
 誰かに望まれ、箱が開けられぬ限り、光を浴びる事も、誰かの目に映る事もないのだ」

 寂しい言葉だが、ガミオ自身は機械のようにそれを読み上げていた。あらかじめ決まった台本があるかのように、すらすらと台詞を舌に流していた。ブロッサムの方へと飛ばす言葉にも聞こえなかった。自分自身に対する言葉かも怪しいほどだ。
 その言葉こそが、まるで誰にも求められないような──意味ありげでありながら、何の意味のないポエムのようだった。誰に対して投げかけられた言葉でもない。

「……だが、俺はここに光を浴びている。お前たちは俺を見ている。確かに目にしている。
 それは誰かに望まれた、求められたという証だ。
 俺を閉ざしていた箱は開かれた。そこには何か意味があるはずだ──」

 ガミオは、全てを知っていながら、肝心な事を知らなかった。自分を望んだ存在は「誰」なのか。考えてみても一向にわからなかった。──しかし、その何者かの意思に答える気だけは十二分にあった。
 それだけが、彼の生きる答えなのかもしれない。それだけが、彼が辿っていける糸──ある意味で悲しく、ある意味で最も楽な生き方だと言えた。

「究極の闇となる事──それが、箱を開けた者が求めた、俺の存在意義なのだ」

 グロンギの王としての使命か、宿命か、──彼はそんな物に縛られていた。彼自身が苦痛とも感じず、まるで人間らしい感情を持っていなかったからか、誰かが意図的に彼を縛るというより、むしろ、誰にも縛られていないからこそ、グロンギの生き方から何処にも動かないようだった。
 生まれないならば生まれないままで良かったが、生まれた理由があるのなら、それを果たす他なく、彼自身もそれに不満を感じていない。


453 : 赤狼 ◆gry038wOvE :2014/05/07(水) 00:25:25 NU2bkzH20

「エターナルと、大道克己と同じ……!?」

 キュアムーンライトが、眉間の皺を寄せ、奥歯を強く噛んだ。かつて、彼女が遭った男も、また同じように、己の存在意義を永久に世界に刻み付ける為に殺し合いに乗ったと語っていた。大道克己の事は、思い出すだけでも苛ってしまう程だ。──いや。

「……いや、私も……同じ……?」

 しかし、ふと頭をよぎるのは、かつての自分の姿であった。サバーク博士の中に「存在」したいという気持ちが、かつてあった事だった。──いや、今も、心のどこかには、その気持ちある。
 誰かの中に自分という存在を保たせる。そして、アイデンティティを確保する。自分という存在を他の誰にも重複させたくないという思いは、一人の人間としてサバーク博士の中に存在したかった、その気持ちに近い。
 まだ僅かでもそれを心の中に秘めているからこそ、よくわかる。

「自分の存在を誰かに示す……それは間違った事ではありません。私も、みんなも、そうです」

 隣で、キュアブロッサムが言う。彼女は、その時、キュアムーンライトの方を、一瞬ちらっと見つめた。

「私たちの事は、長い時間とともに、いつしか忘れられていきます。確かに、それは寂しい事です。その前に、少しでもいいから自分が生きた証をどこかに残したい気持ちもわかります」

 それはキュアムーンライトへの慰めではなく、純粋な彼女自身の気持ちであった。
 これだけ長い間生き続け、たくさんの人を知り、その人生を謳歌している。誰かの些細な優しさや、楽しいひと時に触れるたび、それがいつしか忘れ去られてしまう運命を呪いたくなる。
 自分がいつか死に、いつか忘れ去られ、風化していってしまう事に怯えて眠れなくなる人もいるだろう。──それが当然である。

「しかし、私たちが残していくものの中には、消えないものも……消してはならないものがある。存在し続けなければならないものがある」

 命はいつしか消えてゆく。しかし、命の尊さだけは消えない。
 記憶もいつしか消えてゆくだろう。しかし、心は消えない。
 彼女は勿論、消えていく物も守ろうとしている。命も守っている。体も守っている。花も守っている、人も守っている。
 しかし、何より大事なのものは朽ち果てていかない物であった。

「それをあなたは自分のために消そうとしています。私たちが、させません!」

 キュアブロッサムは、両足を開き、腰を落とし、右拳を体の前で曲げ、顎を引き、ガミオに怒鳴るように言った。何度、こうして、砂漠の使徒に啖呵を切っただろうか。花咲つぼみという女性は、気弱そうに見えて、その実、明確な意志が心の中にあるのだった。

「……やはり、お互い殺し合う定めのようだな」

 ガミオも体勢を変えた。両腕を高く上げ、そのまま体の後ろに下げる。五本の指が全て開かれ、爪の尖った指先がよく見える。右足を前にだし、腰を落とし、獣のように、吠え損ねたような呻き声を喉元から発する。
 これ以上、言葉はないという意味だった。うぐるるるる……。うぐるるるる……。喉の奥で木霊する。

「──殺し合いなんていう言葉は大嫌いですッ!」

 再び、キュアブロッサムが駆ける。
 パンチが飛ぶ。ガミオの胸に微かな痛みが宿る。しかし、ガミオは、キュアブロッサムの右手を掴んだ。その右手を強く握る。ガミオの握力が、ブロッサムの右手の骨に軋むような音を立たせる。数秒握れば折れるほど。

「くッ!」
「定めには抗えん」
「……私が、あなたに対して殺意を持たない限り……これは、殺し合いじゃない……!」

 ガミオは、更に力を込めようとしたが、そこを真横からのキュアムーンライトの蹴りによって妨害される。四十五度、綺麗かつ円滑な落下の飛び蹴りと、鋭い爪先が、ガミオの頭に命中。数メートル、吹き飛ばされて煙が立ちこむ。


454 : 赤狼 ◆gry038wOvE :2014/05/07(水) 00:25:43 NU2bkzH20
 キュアブロッサムは右手の様子を見る。終わってみれば大事ではない。ガミオの異形の手の痕だけがくっきりと残っている。しかし、実は握られていたのはほんの一秒の話でしかないが、まるで数秒間握られていたようだった。
 右手の痕を見て一瞬呆けるブロッサムを、ムーンライトが心配する。

「大丈夫?」
「モチのロンです!」
「そう……良かった」

 相手の、ただ純粋な「力」。そこの強さが、先ほどからよく伝わっている。
 あまり接近戦が好まれない相手であるのは、よくわかった。──しかし、どう攻撃を仕掛ければいいのか。
 不用意に接近するのは危険。遠距離の戦法はどうだろうか。……いや、それも先ほど、ガミオはまるで、緩やかな水流に身を寄せただけであるように、平然と飲み込んでいた。
 彼には、必殺級の技も無効。二人で戦うには分が悪いようであった。

「──オオゥゥ……」

 ブロッサムとムーンライトは、ガミオの口から漏れた小さな声に、耳を傾げた。
 何かを不都合に思っているようだった。
 ガミオの視線は、二人には向いていなかった。彼の目が見つめているのは、二人のいる場所よりも少し後ろ。もう少し遠目だ。ガミオの目を彼女たちがどれだけ見ても、目は合わない。
 しかし、背後から何かが接近しているとしても、ブロッサムたちは動けない。一瞬、目を離せば、ガミオは獣のように二人の目の前へと駆け出すだろう。

「……お前たちの仲間か」

 ガミオが、キュアブロッサムに問う。
「え?」と、キュアブロッサムは、ガミオの一言に最初は戸惑った。
 仮面ライダーエターナル、響良牙が助けに来てくれたのだろうか。

「──そうだ」

 答えたのは、キュアブロッサムでもキュアムーンライトでも──仮面ライダーエターナルでもない。
 その声の直後、何かが靡く音と人影が、二人の頭上を去る。二人のいる場所を飛び超えて、敵の胸元に向かっていくのは、白い魔法衣の男の後ろ姿。
 空で刀を鞘から引き離し、白銀の刃がそのままガミオの胸の装飾に突き刺さる。
 その刃は、その剣を持つ男にとっては、立つ鳥が残した羽毛よりも軽い。──そう、“彼にとっては”。
 しかし、敵にとっては、ただの剣と同じように胸に刃の重さが圧し掛かるのだ。その剣は、持つ者によって重量を変える「ソウルメタル」という特殊な材質だった。

「鋼牙さん!」

 それは、冴島鋼牙であった。
 次に、鋼牙の左中指で、見知らぬ指輪が声を発する。──彼女たちは知らないが、それは魔導輪ザルバといった。
 ザルバは彼女たちには脇目も振らない。ガミオの胸に突き刺さった剣を両手で構える相棒にだけ語り掛けた。

『鋼牙、ホラーじゃないが、こいつにもとてつもない邪気を感じる……』
「ホラーじゃないなら、何だ」
『こいつも、もともとは人間……かもしれない。俺にもわからない存在だ』
「もしや、薫が言っていた、未確認というやつか」

 鋼牙はすぐに剣を引き抜いた。──ガミオは、剣が自分の体表を掠めたようにしか思っていないだろう。まるで、もう一撃当ててみろとばかりに、直立で鋼牙の瞳を見つめていた。
 鋼牙は、魔戒剣の柄でガミオの顔面を叩く。
 常人ならば、額が割れてもおかしくないような一撃。しかし、ガミオにとっては、その一撃はプリキュア以下のもの──さほど甚大な傷を生む事はなかった。
 ザルバは言う。

『斬れ! 鋼牙。どっちにしろ、こいつはおそらく手遅れだ。斬るしかない』
「……」
『躊躇はするな。……こいつこそ、守りし者の天敵だ。ホラーと同じになった別世界の陰我の結晶みたいなもんだぜ。こいつはもうホラーも同じ、そしてお前は……』

 一条と同じく、未確認生命体の殺害をやむなしとするザルバの判断。
 鋼牙は、眉を顰める。彼の使命は、ホラーを狩り、人間を守る事。人間を斬る事ではない。


455 : 赤狼 ◆gry038wOvE :2014/05/07(水) 00:26:04 NU2bkzH20
 彼が斬れるのは、斬られる覚悟を確かに持っており、闇に堕ちた時に斬られる誓いを持つ者だけだ。──そう、魔戒騎士たちが、闇に堕ちた時の話である。
 しかし──

「……ホラーを狩る、魔戒騎士だ」

 仮にガミオがそのどちらにも該当しないとしても、鋼牙は覚悟を決めた。
 柄から、刃へ。鋼牙は魔戒剣を再び持ち変える。この場に来てからは、そうした相手を斬る覚悟も必要だと知る。

『ま、同じ狼同士、仲良くしてもらいたいところだが、血の味を覚えちまった狼とは、分かり合える気がしないだろ』

 そう言う、ザルバ。ザルバ自身も、ホラーである。もともと、人間とホラー自体は共存の道を歩んでいるが、ホラーの中には戒律に反して人を襲う者がいる。それをプリズンホラーと呼ぶ。鋼牙が狩るホラーはプリズンホラーであって、只のホラーではない。
 そんな同族狩りに協力しているザルバらしい意見であった。いわば、彼も人間界でいう警察に近い存在なのである。
 同族とはいえ、人の道を外れた者とは相容れない。ホラーに協力する人間は、鋼牙も何度見た事だろうか。──彼がそれと同じだというのなら。
 鋼牙は少々、考えた。

「その通りだな、ザルバ。行くぞ!」

 やや不本意ながらも、鋼牙は目の前のガミオに、再度剣を振るう。
 敵が人間であるとして、もう助からないならば、やむを得ない。感情を亡失した大道克己や、暗黒騎士に成ったバラゴと同じ、「例外」だと言えよう。
 剣はガミオの右肩を抉り、そのまま左の腰に向けて切り払われる。続けて、息をつく間もなく、もう一撃。反転した、左肩から右腰にかけての切り払い。ガミオの胸の×印が残る。

「効かん……」

 ガミオはもう一歩、前へ。怯む様子はない。
 鋼牙も左足を一歩下げ、顔の横に剣を持ってくる。その剣を物差しに、先端がガミオの喉元を捉えるようにして構えていた。
 本来なら一分の隙もない構えではあるが、剣技そのものが効いていないガミオにとっては、隙の無さも全くの無関係であった。

『本当に全然効いてないみたいだぜ!』
「……何だと。このまま戦っても埒が明かないな」

 やむを得ない、とばかりに鋼牙はすぐに戦闘方法を変える。
 腕を頭の上に伸ばし、更にその手に強く剣を伸ばす。天にでも届かせようとしているのだろう。
 「天」、「地」、そして、「魔戒」──全てを超越する光を得るために、鋼牙は魔戒剣で、空に円を描いた。
 その一筆が空に金色の光の輪を残す。その輪から降り注ぐ光の残滓に、鋼牙は飛び込んでいった。常人では考えられない跳躍力で、鋼牙は光の輪を潜る。
 そこを潜り抜けた時、鋼牙の姿はもう無い。

 ──あるのは、その名の通り、黄金の輝きを見せた、黄金騎士ガロの鎧。

 黄金騎士ガロが、この殺し合いの地に再びその姿を現した。

「なるほど、狼同士とはそういう事か。よく言ったものだな!」

 ガミオは、駆け出すと空に飛び上がった。中空を彩る黄金騎士の体に飛びかかり、叩き落とそうとする。ガミオは空に浮く事もできたのである。
 追って、二人のプリキュアが空に向かって地を蹴り上げる。

「はぁっ!」
「やぁっ!」

 ガミオの体が黄金騎士の鎧へとたどり着く前に、両脇からガミオの元へと飛び上がる二人のプリキュア。──それぞれ、両足を前に出し、膝をガミオの脇腹に向けて素早く振るう。
 ガミオの動きが、一瞬だが、止まる──。

「──そこだ!」

 牙狼剣は、その一瞬の隙を狙い、ガミオの頭へと叩き付けられる。

「甘いッ!」


456 : 赤狼 ◆gry038wOvE :2014/05/07(水) 00:26:23 NU2bkzH20

 ガミオの頭部がダメージを受けるかと思えたが、それは甘い考えだった。剣には何かを切り裂くための刃があるというのに、その刃よりも硬い石頭が相手なのである。ガミオは傷を負う事もなかった。
 ガロもソウルメタルの力を調整し、おそらく最大限、相手にダメージを与えうる形にしたはずであった。それも全く効いていない。

「くッ」

 次の一手を考えた時──。
 何か、黒い影が一瞬、ガロの前で旗めく。ガミオの背後に何かが居た。空中へと飛び上がった、第三勢力であった。

──HEAT!!──
──Heat Maximum Drive!!──

 突如、敵か味方か、何者かが鳴らした聞き覚えのあるガイダンスボイスが空に響いた。
 その音は、ガミオの声にも微かに似た、中年男性の声のような低音であった。ガイアメモリが、こんな音をいつも鳴らす。今日一日、何度目かになるその声。

「うおりゃああああああああああああああああっっ!!」

 次の雄叫びもまた、聞き覚えがあった。その声は忘れない。鋼牙にとっても、今日出会った少年の声、そのものだった。真正面を見れば、白い死神の仮面ライダー──仮面ライダーエターナルの姿があった。激情を練り混ぜた炎のパンチがガミオの背中で炸裂──烈しい炎がガミオの背中に伝う。
 ガミオは、その声に思わず振り向いた。青色に変わった火炎の紋様が、ガミオの体を引いて、体の横に戻されたのがわかった。
 この不意の攻撃に驚くのはガミオだけではなかった。ガロ、プリキュア問わず、その出現に驚愕する。

「仮面ライダーエターナル……!? お前は……響良牙か!」
「当たりだ!」

 ガロも、それが、響良牙が変身しているエターナルであろう事は理解する。エターナルメモリを所持しているのは良牙だ。彼がそれに変身する決意をした事が意外であった。己の体一つで戦う自信を持っていた良牙である。

「ほ、本当に良牙さんですか……!? ほ、本当に一人でここへ来られたんですか……!?」
「し、信じられない……迷子にならないなんて!」

 一方のプリキュア二人は、方向音痴たる彼がここまでたどり着いたという事実に、ショックを受けていた。本気で開いた口が塞がらないといった様子であった。思わず、良牙もあまりの茫然ぶりに恫喝する。

「おい、そりゃどういう意味だ!」

 四人は、言いながらも、そのまま自由落下する。──自由落下中に起こっているのは、戦闘ではなく言い争いであった。
 ガミオは、そんな四人の様子を見て、自らも念動力を抑え、地面に向けてゆっくりと降りていった。
 ともかく、全員が地面につくと、今の少しの驚きと怒りは忘れられ、そのまま戦闘は再開する。

「……まあ、とにかくまたコイツをブチのめす機会がやって来たって事か……丁度良い」

 エターナルは、指の関節を鳴らす。──運動不足ではないので、いまいちしっかり鳴らなかったが、肩を回すと少し音が鳴った。
 目の前の怪物の全身を、エターナルの黄色い複眼が捉える。
 真っ赤な体表に奢侈な装飾──その姿を見ていると、まるで、酔っぱらった成金にでも遭ったような気分になる。ただ、やはりその姿をよくよく見れば、やはり怪物には違いなかった。

「……おれは今、生まれて以来、一番気が立っている……!!
 丁度、誰でもいいから、ブチのめしても構わない奴を一人くらいブチのめしたい気分なんだ……」

 ガミオの周囲を、ざわめくような気が覆う。それが何なのか、まず真っ先に理解したのは黄金騎士の指に嵌めこまれた指輪だった。
 それは、怒気であった──獅子咆哮弾で現れる重い気と同じように、良牙の中に在る怒りの気が、般若の表情でガミオに早速噛みついていた。ガミオは、すぐにそれを振り払う。
 振り払われるが、この怒気には威嚇以上の意味はない。


457 : 赤狼 ◆gry038wOvE :2014/05/07(水) 00:26:44 NU2bkzH20
 そして、それは直接ガミオに向けられた怒りではなく、この殺し合いの主催を──殺し合いを強いる運命を呪った、あらゆる理不尽や悪意に向けられた怒りであった。

「──草食動物が肉食動物を喰らおうとするか!」

 ガミオは、口の中に挑発じみた笑みを含んでいた。──ガミオには、その男が子豚のようにしか見えないのである。
 たとえ、その姿が死神を模した仮面ライダーへと変身していたとしても。
 結局のところ、ガミオにとっては、誰も同じだった。誰がかかって来ようが、結局は己の敵となる者を倒すだけ。

「全員纏めてかかって来いッ!」

 ガミオは、そう唆した。







 99.9秒。それが魔戒騎士の鎧の装着タイムリミットである。
 その時間は厳守されなければならない絶対の戒律がある。破れば、装着者の方が鎧に飲み込まれ、人を捨て、怪物へと成り果てる事になる。それを行ったのが暗黒騎士キバであり、先ほど黄金騎士の刃が貫いたバラゴという男であった。
 その掟を破る機会は、金輪際、彼には訪れないだろう。
 涼邑零、という男の手によって、冴島鋼牙が鎧の力から救われたあの日から、もう二度と。

「……ッッ!」

 牙狼剣が貫く事ができない体表を持つ怪物が目の前にいたとしても、例外ではない。
 タイムリミット、1分半。そのあまりにも短い時間設定の中で、鋼牙は敵将を葬らなければならない。
 狙うのはガミオの右腕。牙狼剣は、素早く、吸い寄せられるようにしてそこを突く。

「でやぁっ!」

 一方、同じくガミオの左胸を狙っているのが仮面ライダーエターナル。エターナルエッジがガミオの胸から何かを引き出さんとする。
 良牙は、生来の戦闘能力そのものが非常に高い。生身では勿論、武器を使った戦法も得意だ。格闘新体操ですら一瞬でマスターするほどである。運動神経そのものも勿論高いが、何より、「戦闘」「格闘」となれば、乱馬と並ぶ達者な実力の持ち主だ。
 ガロの動きに合わせ、当初狙っていた右腕から左胸へと軌道修正した。
 ガミオに近づこうとも、ざくりという音一つしない。エターナルエッジを通さない頑丈な体であった。決してエターナルエッジが柔なわけではないが、ガミオの体はそれ以上であった。グロンギの王と呼ばれるだけはある。

「──フンッッツ……グレェェェ!!!」

 そして、至近距離から、ガミオの右拳によって放たれる緑の電撃。そこから発生したプラズマは真っ赤な火柱へと転換される。そんな灼熱が二人の体を遠ざける。
 火炎の直撃は回避するも、二人は何歩か後退する事になった。

「く……ッッ!!」
「火を出せるのか……!」

 言いながらも、二人はその火を掻き消している。
 ガロは火炎さえも斬る事ができた。鎧の表面を少し真っ赤な炎が燃やす。エターナルは、背中のローブで炎を払う。ガミオは、それを単なる回避術として使ったまでであって、攻撃性を求めてはいなかったようだ。回避された事自体に嫌悪感、不快感を示す様子はない。──もとより、彼がそんな感情を露わにするのかはわからないが。

 二人が下がったのを見計らってか、二人のプリキュアが助走をつけて、ガロとエターナルの真上を飛んだ。脳内でガミオにぶつける一撃を頭の中でイメージし、その通りに、ガミオの体を蹴上げようとする。

「「はぁぁぁぁぁっっ!!」」

 掛け声がガミオの鼓膜に響いてくる。二人の声が大音声になった次の瞬間には、ガミオの両腕には蹴りが叩き込まれていた。
 キュアムーンライトが蹴る、右腕。キュアブロッサムが蹴る、左腕。
 そのまま、その腕を足場に見立てて、蹴りの威力で跳ぶ。よろめくガミオの前に二人は着地する。


458 : 赤狼 ◆gry038wOvE :2014/05/07(水) 00:27:07 NU2bkzH20
 地面に着地した二人は、また次の瞬間には、同じ息の合った行動を取っていた。
 二人、左を向きながら、ガミオの身体へと肘鉄を急がせる。右拳を左掌が包んだまま、しかし、優しくはなく、右拳を押し出すような力を左掌に込めながら──ガミオの胸元に少女の肘が殺到する。

「はっ!」

 重い一撃。鈍い音とともに空気が揺らぎ、時が一瞬だけ止まる。二人のプリキュアはその一瞬の沈黙の後に、手足の殆どを動かしてガミオの体から離れる。
 ガミオは、尚も顔色を変えない。
 ガロとエターナルの元へと、後転しながら辿り着く。ガミオのその無表情を知ったのは、そこに辿り着いた後だった。

「……やはりお前たちの実力はその程度か」
「何……?」

 ガミオの言葉は挑発的であった。そこにいる誰もが眉を顰めるだけの中、良牙だけは、その挑発に乗りかねない牽制をしていた。
 しかし、ガミオにしてみれば、何となく呟いただけだったのかもしれない。
 次の瞬間には、もう既にガミオは戦闘態勢へと戻っていた。
 今後は、ガミオからの襲撃だった。
 狙ったのは、月影なのは、という仮の名前を持つ少女だった。今はキュアムーンライトの衣装に身を包み、全く別の姿で戦っている。
 そんな彼女を狙い目としたのは、ガミオ自身が、その存在に最も興味を持つ相手だったからだろう。本来存在しえない、──望まれているのか否かもわからない産物。それが彼女だ。その存在、その実力を試し、ガミオが消え去る時までには、共に消えていて貰おうと思ったのである。

「ウオオオオオオオオオオーーーーンッッ!!」

 遥か遠方から聞こえるような咆哮。──ガミオの喉からの叫び。周囲の木々を揺らし、風を吹かせて響いていく。ふと、その場にいる誰かの背筋が凍った。
 それが鳴りやんだか、鳴りやまぬか、というところで、キュアムーンライトの胸がガミオの拳に打擲される事になった。

「うぐっ……!」

 一瞬、誰も何が起こったのか理解できなかっただろう。
 瞬間移動的な速さ──いや、実際に瞬間移動と呼べるかもしれない。
 グロンギの上位が持つ、その幻想のような加速、あるいは転送の力。王であるガミオが有していないはずがない。
 それを利用してキュアムーンライトを殴ったのである。

「──はぁぁぁっ!!」

 真横から一閃、現れたのはガロ。
 ガミオの左半身を狙って、牙狼剣が振り上げられる。──それを、ガミオが肩を上げるようにして、左腕で防御する。硬い体表はソウルメタルの刃さえ通さない。

「うわぁっ!!」

 キュアムーンライトの胸を殴った右腕はそのまま開かれ、鋭い爪で、一度、二度、三度と彼女の胸部をひっかく事になった。彼女の口から悲鳴があがり、三度目の引っ掻きによって、彼女の体は数メートル吹っ飛ばされた。

「な……大丈夫か!?」

 その間、ガロはその左腕に阻まれて動く事ができなかった。鎧の中で眉を丸めながら、その腕に込める力を強めた。
 ガロの両腕と、ガミオの左腕の力は拮抗。しかし、力の面では、どちらが勝ってもおかしくはなかった。
 ガロは、一度刃を引き離し、再び体制を練り直してから、もう一度刃を振るう。

「お前はこの場で何一つ変わった形跡がないな。
 お前から始まった物語は、一体どこまで続いていく……」

 ガミオは、今度はその刃を腕で掴んで見せた。

「何を言っている……」
『こいつの話は聞くな、鋼牙! なんだか触れちゃいけない気がするぜ……!』
「……そうか」


459 : 赤狼 ◆gry038wOvE :2014/05/07(水) 00:27:38 NU2bkzH20

 そう答えたガロの右足が、ガミオの腹を力強く蹴る。ガミオの体は牙狼剣を離し、咄嗟に腹を抑えると真後ろに何メートルも滑っていった。
 そこへ横凪ぎに剣を振るう。
 一閃──ガミオの体に吸い込まれるように、可視光線と貸した斬撃がぶち当たる。

 そこでガロの動きも変わる。
 相手の動きを一瞬でも封じたならば、その次の一手を講じる。

 魔導火のライターから緑の炎が噴出。ソウルメタルに生成された剣を、その炎が焼き尽くす。

「──はぁッ!」

 ガロは剣で空に十字を描く。空に出来上がった十字は、そのまま、ガミオの体表へと距離を縮め、ガミオの体を貫いていく。

「ぐおッ!」

 更に、その貫いた緑の炎は、生物のように空を飛ぶ。ガロは、その二つの炎に向けて飛び上がると、炎に向けて飛び込み、全身に緑の炎を同化させた。
 自らの体に火を灯す様相は異常とも言えたが、これは彼の戦法のひとつ。烈火炎装であった。この炎は戦闘への気概を高める特殊な力を持っていた。
 鎧の節目節目から緑炎を生じる彼の姿は、ガミオでさえ近づくのを躊躇うほどの気力に満ち溢れている。
 牙狼剣がガミオの元へと距離を縮める。

「火には火だぁぁッ!」

 ガミオの拳から発される炎。──しかし、今のガロの元にその炎が届くはずもない。
 火炎は、緑炎に吸い尽くされ、その輝きを失う。ひとたび、いや、みたびは鋼牙も鎧の中で眉をひそめたが、烈火炎装された今のガロは、辛うじて耐えられるレベルであった。
 またも、一閃。縦一文字に牙狼剣が、ガミオの頭部から腰のベルトへと。

「ウがァッ!」

 炎に燃ゆる切っ先がベルトに辿り着こうとした瞬間、ガミオの両腕がベルトの前で交差される。交差された腕が防御壁となって、ベルトに緑炎が到達する事はなかった。
 だが、ガミオの体の中央には、尚も緑の炎が小火として残ったままであった。
 それが更に、ガミオの腕まで燃やす。

「くッ」

 ガロも、ガミオの体の予想以上の硬さに一度、剣を退く。
 その後には、既に次の一閃へと繋ぐ。──ガロの剣はまた、真一文字、横凪ぎ。
 ガミオの胸元を緑の炎の残滓を残す。十時型に緑の炎を残したガミオは、流石に呻き声をあげ始めた。

『まずいぞ、鋼牙! 時間がない!』
「わかっている!」
『早く鎧を解除しろ、鋼牙ッ!!』

 ガミオが苦しむのを横目に、ガロは後退、鎧を解除する。金色の輝きは消え、魔戒剣をその手に握る鋼牙の姿だけが、そこにあった。
 少し時間を置いて、隙ができてからでなければ鎧は再装着できない。

「ウオォォォォォーーーーーーン」

 ガミオの遠吠えが響く。
 全身を焼き尽くさんとする緑の炎を必死に振り払おうと模索しているようであった。
 緑の炎に包まれた体を掻きむしるように触れるが、それではキリがないほどに、彼の体は魔導火に蝕まれていた。

「よし、一気に畳みかけるぞ!」

 次鋒のようにエターナルが地を蹴り、ガミオへと向かっていく。
 引いていた拳は、ガミオの体に一発、力強く叩き込まれる。青い炎の拳が叩き付けたのは、やはりガミオの胸元の金の装飾。
 すぐに拳を退いて、次は左足が高く上げられる。ガミオの顔面へと吸い込まれるように──しかし。

「フンッ!」


460 : 赤狼 ◆gry038wOvE :2014/05/07(水) 00:28:03 NU2bkzH20

 ──その踝を、ガミオが掌で受け止め、掴む。

「何っ!」

 エターナルの驚嘆。
 ガミオは、そのまま、エターナルの体を放り投げる。エターナルは空中で体制を立て直すが、そこへガミオが駆け出す。緑の炎は尚もガミオを蝕んでいるはずだというのに、彼を動かす戦闘の本能を崩す事はないようであった。

「はあああああああっっ!!」

 次の瞬間には、プリキュアが二人、ガミオの体の前へと迫っていた。
 ガミオもそれを、攻撃の直前で補足する。

「ウゥゥゥゥ……」

 腰の真横に位置を変えた両腕。ガミオは、それを眼前に組み上げる。
 そして、また彼女たちが駆け出してくる軌道に向けて拳を突き出す。

「ガァァァァァァァァッ!!」

 ──そこから発される緑のプラズマ粒子。
 それは一瞬で灼熱の火柱へと成り変わる──。

「きゃあっ!!」

 そのマグマの如き高温は濁流となって二人の元へと突き進んでいく。
 キュアブロッサムとキュアムーンライト、二人のプリキュアが咄嗟に回避運動を取ろうとするが、それが間に合わず。出来るのは、ダメージを深くするばかりの前進くらいだ。
 当然、キュアブロッサムにはそんな判断はせず、その場にとどまるしかできなかった。

「なっ……!!」

 二人のプリキュアは、先ほどまで進んでいた方向と正反対に押し上げられる。
 なだれ込むような炎の圧力に屈し、二人の体は後方へと投げ出された。
 何メートルも吹っ飛び、地面に叩き付けられ、変身が解除される。桃色と紫の輝くベールの姿に戻った二人は、地面で苦渋の表情を浮かべていた。
 あまりの衝撃に足腰を痛め、二人はすぐさま立ち上がる事もできない。

「ウオオオオオオオオオオーーーンッッ!!」

 ガミオ、駆ける。
 目標は──そう、月影なのは。髪型を変身前のおかっぱ髪のまま、体を光り輝くベールに包んだ彼女に、次なる一撃を加えようと前進している。
 そんな狙いを察知してか、冴島鋼牙がすぐさまガミオとなのはの間に入る。
 厳格な目つきのまま、ガミオを凝視する鋼牙。その手には、魔戒剣が硬く握られていた。

「邪魔だッ!!」

 ──が。
 いくら鋼牙といえど、ガミオのような強力な怪物の突進を前に即座の対応は望めなかった。ガミオは足の動きを止めず、右手を前に突き出した。
 鋼牙の左腕へと、ガミオの爪が食い込む。
 真っ白な魔法衣を切り裂き、ガミオの鋭い爪が鋼牙の肌に触れた。──そして、そのまま乱雑に、ガミオは鋼牙の体を吹き飛ばす。

『鋼牙……!』

 ザルバが咄嗟に声をかける。
 鋼牙の左腕を駆け巡る、ガミオの鋭い爪の痛み。──鋼牙の体が背から木に叩き付けられる。

「……ッ!」

 左腕に滴る血を気にかけるほどの余裕もなく、鋼牙は木の表面を滑り落ち、地面に落ちた。
 倒れた鋼牙の視界には、ガミオがなのはの体へと近づいていく様子が見えた。
 左腕を抑える暇もない。鋼牙は、右手に持った魔戒剣を杖にすべく、それを地面に突き刺した。






461 : 赤狼 ◆gry038wOvE :2014/05/07(水) 00:28:26 NU2bkzH20



「──あがッ!!」

 ガミオは、なのはの首元を掴み、近くの木に向けて背中を叩き付けた。指の長さが首の回り一尺に足りず、木の皮を用いて、初めてなのはの首回りは全て塞がれた。
 彼は、一向に他人をいたわる気持ちというのを持ち合わせなかった。
 あまりにも雑多に、乱暴に、少女の体に暴力を振るう。

「リントでもクウガでもない……貴様らのような戦士に会えるとはな……!!」
「どういう、事……」
「……貴様はいてはならない者、そしてこの世界はあってはならぬ世界のようだ。まずは貴様から始末する」

 この世界は勿論の事、その中でもとりわけ、「いてはならない者」──本来の歴史とは異なる「IF」の道を辿った者。それが彼女であった。ガミオは、その異端の臭いを鋭敏な嗅覚で感知し、こうして吊り上げているのかもしれない。
 とにかく、ガミオが真っ先に滅ぼすべき相手は、彼女だと理解した。
 この本来の裏で、二次的に存在する異常な世界を象徴する敵──それが彼女だ。
 ガミオは、まるでこの世界の破壊者の役割を率先して行っているようだった。彼はその拳を首の真横で高く掲げる。

「やめろ……!」
「やめてっ!!」

 鋼牙とつぼみ。この戦いで変身を強制解除された二人が、ぼろぼろの体を起こしながら叫ぶ。首の真横で、構えられた拳は、そのまま、なのはの顔面に向けて突き出されていく。
 そこへ到達すれば、その頑健な拳になのはの顔が見るも無残な姿に潰される。そんなビジョンは明白だった。
 しかし、それを止める術は、今は鋼牙とつぼみの手にはなかった。無力である事の残酷さに、両名の胸が、悪い意味で高鳴る。息を飲む。ガミオのパンチがなのはの顔に近づいていくたびに。

「──うおりゃああああああっ!!」

 その時、一番美味しいところを持っていったのは、そこにいた仮面ライダーエターナル──響良牙だった。
 彼とガミオの間には、尚も距離がある。その距離を一瞬で埋めた技が、彼が得意としていた戦法である。彼は果たして、どんな戦法を使ったのであろうか。

「何っ!!」

 ガミオの右腕を襲ったのは、一メートル半ほどの巨大な黒いカッターであった。それがガミオの右腕に向けて、回転しながら斬りつけてきたのである。
 ガミオの右腕は、表面を微かに抉られる事はあったが、その回転カッターによって切断に至る事はなかった。
 ガミオの表面で少しずつ回転速度を落としていくカッター。それは、だんだんと本来の姿を現していった。

「……貴様ぁっ!!」

 ガミオが、仮面ライダーエターナルの方を見れば、彼の姿はガミオの眼前にまで迫っている。唯一、先ほどと違うのは、エターナルの背中が真っ黒なローブを背負っていなかった事である。
 そう、彼は背中のエターナルローブに「気」を注入して硬質化し、回転するカッターとしてガミオに向けて放ったのである。彼は、軟質の物体に気を送り込んで硬質化させる技術を持っていた。
 風にひらひらと旗めくようなローブも、このように、一瞬にして頑丈な刃へと形を変える。

──Eternal Maximum Drive!!──

「地獄を楽しみなーっ!!」

 走行中、既にエターナルメモリのマキシマムドライブを発動していたエターナルは、そのままガミオの眼前でその技を放った。
 エターナルレクイエム──青い光を伴った回し蹴りが、ガミオの首に叩き込まれる。
 そこに耐衝撃性の首輪がなく、爆発に至らないのは残念だが、狙いとしては悪くなかった。生物の急所であるのは確かに間違いない。
 足元に力を込め、一気に発散。
 ガミオの首でも落とすかのような一撃が、そこで炸裂する──。


462 : 赤狼 ◆gry038wOvE :2014/05/07(水) 00:28:46 NU2bkzH20

「うがああああああああああああああっっ!!」

 ガミオが悲鳴とともに、遠くに投げ出され、ひとまずなのはがそこから助け出される。
 ただ、どうも彼女は、むすっとした表情というか、唖然とした表情を崩せなかった。
 そのエターナルレクイエムという技が、一種のトラウマとなっていたのだろうか。彼女が姉と呼んだ少女の命を奪った技が、まさにこのエターナルレクイエムだった。助けられたのを感謝したい反面で、それを素直に口に出せないような──発作的なもどかしい感情に襲われた。
 ただ、良牙としても、呆然とする彼女に恩を売る気はなく、そんななのはの様子を気にかける事もなかった。
 エターナルは、空を戦いでいるエターナルローブを掴みとると、それをまた背中にかけなおした。

「……はぁ……はぁ……なかなかの強敵じゃねえか、あの赤狼野郎は」

 エターナルは、そう独り言つ。
 目の前に吹き飛ばされたガミオは、すぐには起き上がらなかった。何とか倒したのだと安心したいところだったが、起き上がらないという事は動かなくなった事ではない。──そう、ガミオはまだ動いていた。
 しかし、流石にダメージは大きかったのか、呻くような声をあげながら立ち上がっている。

「くっ……」
「……はぁ……はぁ」

 それぞれ、体を痛めた様子ながら、鋼牙、つぼみ、なのははエターナルの元へと近づいていった。鋼牙は左腕から滴る血を、右手で止めている。つぼみは足を引きずるように歩いている。なのはは首をやられたせいか、むせ始めているようだった。
 ガミオの死を見守るような気分であった。
 彼が、果たして何者なのかはわからない。とにかく、ガドルの仲間らしいが、参加者にそんな相手はいない。何故、彼がこんな所に現れたのかは知る由もない。
 しかし、それは決して終わりではなかった。

「……くっ……リントよ、勝ったと思うな……。これはまだ始まりに過ぎない……」

 驚くべき事に、ガミオはよろよろとした姿ながらも立ち上がった。
 まるで目の前の四人に何かを伝えるためだけに、エターナルたちの方を向いたようだった。……いや、もしかすると、端から彼は、何かを伝えるために彼らを襲ったのかもしれなかった。
 その強さを、そして、それから始まる更なる恐怖を。

「……今日のところは見逃してやる。
 いずれ、俺がガドルを倒し、再び究極の闇となるだろう……。
 その時まで再戦はお預けだ……それまで、せいぜい究極の闇の泡を確かめていろ……!」

 ガミオは、そう言うと、森の闇の中に消えていこうとしていた。
 そんな彼の背中に、思わず良牙と鋼牙が「待て!」と叫んだが、それをザルバがすぐに制した。

『これ以上深追いするんじゃない。今回の戦いでの傷は結構深いぜ。
 ……俺たちも警察署に戻った方がいい』

 ザルバの言う事は尤もだった。
 今のパーティは、良牙以外、全員今作られたばかりの生傷を負っている。この状態で戦っても、犠牲が生まれる可能性を高めるだけと言っていい。
 あのまま放置するのも危険な気がしたが、自分たちの身の安全も当然、保守しなければならないのである。

「……待って」

 その時、なのはが口を開いた。全員が彼女を凝視する。彼女は、ひどく疲れた様子だった。
 当然とも言える。人間の体になってから、プリキュアとして戦ったのは初めてだ。かつてあれだけの激戦を繰り返してきたとはいえ、彼女はもう普通の人間に変わったのだ。
 しかも、その初戦の相手がグロンギのン族なのだから、尚更負担は大きい。歴戦の勇士たる鋼牙でさえ、生傷を回避できなかったほどだ。
 彼女は本題に入った。

「警察署に行く前に……寄りたいところが……」

 その後、彼女は自分が寄りたい場所を三人に告げて、瞼を閉じ、倒れた。






463 : 赤狼 ◆gry038wOvE :2014/05/07(水) 00:29:07 NU2bkzH20



 ン・ガミオ・ゼダは、疲弊した体を木に靠れかけさせながら、何とか森の中を進んでいた。
 体の傷は辛うじて、自己修復が進んでいる。参加者ではない彼の制限は他に比べても比較的弱く、ベルトがある限り、その回復スピードはダグバやガドルを凌駕する程度には早かった。
 とはいえ、それでも彼の体に溜まった敗北の傷は、すぐには枯渇しなかった。

「……そろそろ、か」

 ガミオは、それでも、確かな打撃を与えていたのを確信する。
 確かに、先ほどの戦い、仮面ライダーエターナルによって敗北に導かれたのは確かだろう。
 しかし、ガミオは敵方に確かな痛手を残したのを感じた。

「それが究極の闇……俺の真の力はまだ発揮できないが……充分だ」

 ガミオの攻撃を、生身の人間が、素手で受けたならば、どうなるか──。
 冴島鋼牙は左腕に、月影なのはは首に、ガミオの指で攻撃を受けていた。その際に、いずれも爪が二人を傷つけただろう。

「リントども、闇の力の欠片をその目に焼き付けるがいい……」

 ガミオが齎す、「究極の闇」。それは、ガミオの体から発される黒い霧であった。
 その効果は、その濃霧に巻き込まれた人間をグロンギへと変える事である。それは、当然、究極の闇の最悪の力として、「王」が二人いる現状では使う事はできなかった。
 全ての参加者がグロンギと姿を変えてしまう地獄絵図にはならず、ガミオの黒い霧は発動できない事になっていた。

 しかし、──それを、全ての参加者に与える絶望ではなく、ごく微弱な力の一部として使う事ができたならばまた話は別だろう。
 ガミオ自身の体に或る黒い霧の遺伝子を、敵の傷を通じて体内や血液に混入する。
 それは一種の毒物ともいえた。悪性の種子ともいえた。ガミオの体が作り上げる黒煙を、ほんの微かにだけでも他人に感染させる経路として、ガミオの技があった。

「これから更なる闇がこの世界を覆い尽くす……!」

 冴島鋼牙は魔戒騎士、月影なのはは花の力によって生まれた人間。通常の人間に比べれば、その効果は遅れてやってくるだろう。──魔戒騎士などは、魔弾や毒なども通常効かない存在だという。両名ともに、根本的に効果が現れるのか否かも謎に思えるが、ガミオは確信を持っていた。
 ガミオが与えた痛手は、やがてリントがグロンギとなって争い合う地獄絵図へと繋がっていく。究極の闇が完全復活すれば、霧に覆われた殺し合いの場で、正真正銘の殺し合いが始まるだろう。
 ガミオは、その時を待つ。

「ガドル、いずれ貴様と──」

 ゴ・ガドル・バ──改め、ン・ガドル・ゼバ。
 究極の闇が発現するのは、別世界の王の栄華が終わり、ガミオが唯一無二の王となった時。その時、世界は王を認め、選ばれた闇を作り出す。
 ガミオが勝てば、黒い霧がこの世界を覆う。
 ガドルが勝てば、青空の下に夜の如き闇と異常気象が生まれるだろう。

 ──彼との再戦の時、そして勝利の時を求めて、ガミオは森の中を彷徨った。



【1日目 深夜】
【現在地:不明(森)】

【ン・ガミオ・ゼダ@仮面ライダークウガ?】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)
[装備]:?????????
[道具]:?????????
[思考]
基本:この世界に存在する。そして己を刻む。
1:ガドルを倒し、究極の闇を齎す者となる。そして己の力と存在を証明する。
2:この世界にいてはならない者を──。
[備考]
※この殺し合いやこの「クウガの世界」について知っているかのような発言をしています。
※黒い霧(究極の闇)は現在使用できません。もう一人のグロンギの王を倒して初めてその力を発現するようです。
※この世界にいてはならない者とは、ロワのオリ要素や、設定上可能であっても原作に登場しなかった存在の事です(小説版クウガも例外ではありません)。
※仮面ライダーエターナル、キュアムーンライト、ナスカ・ドーパントを「この世界にいてはならない者」と思っています。
※首輪は存在しません。
※黒い霧を発する事はできませんが、生身の状態でガミオの攻撃を受けて体内に微弱ながらその力を受けた場合は、通常よりスローペースながらグロンギの力に蝕まれていきます。
 主な効果はグロンギ化ですが、作中ではグロンギにならずに死亡した人間もいるので、衰弱等の効果が現れる場合もあります。


464 : 赤狼 ◆gry038wOvE :2014/05/07(水) 00:29:29 NU2bkzH20







 なのはを背負って先頭を歩くのは響良牙だった。
 そこに遅れて、つぼみと鋼牙が歩いてくる。歩きながらも、お互いの情報交換は欠かさなかった。それは、もはや悪いニュースの伝え合いのようなものである。

「……つぼみ。薫はどうした?」

 彼がそれを訊かぬはずはなかった。この殺し合いが始まってから、殆どの時間、冴島鋼牙は誰と一緒であったか。──その人物はもうこの世にはいないと、告げなければならない。
 放送まで時間があり、鋼牙に伝えるのは口頭によるものになってしまう。それは少し気が重い話だったが、つぼみは鋼牙の問いに答える事にした。

「……一条さんは、亡くなりました」
「何!?」

 鋼牙が、足を止めた。つぼみの方を見て、目を見開き、意外そうな顔をしている。
 殺し合いがこの瞬間も確かに進んでいる証であると言えた。ほぼ一日、共に行動し続けた一条薫が、自分の知らないところで死んだ事に驚きを隠せないようだった。
 鋼牙たりとも、ショックは大きかった。

「私たちを逃がして……それで……」
「そうか……」

 しかし、その衝撃を辛うじて飲み込んだ。
 今行われているのは殺し合い。そして、それに巻き込まれた人間は、現状では生者より死者の方が多いほどであった。確かに、特に親しい真柄だった相手がその命を絶たれたのは不幸な話だったが、ここまで目の当たりにしてきた惨状から考えれば、珍しい事ではない。
 ただ、一条薫の死はその中でも特別ショックが大きかったのは言うまでもない。

「彼もまた、守りし者だった……というわけだな」

 死の経緯が、誰かを逃がしてのものだったというのは、一条薫らしいともいえた。
 警察組織の人間として、その職務を全うした。それは、魔戒騎士の一生と同じであった。多くの魔戒騎士は、ホラーとの戦いで命を落としていく。
 その胸には、必ずと言っていいほど、誰かを守る意志が刻まれていた。
 その使命に殉じた男の死を、鋼牙はこれ以上否定する事ができなかった。

「一条を倒したのは……?」

 言いかけたところで、ふと思い当たり、鋼牙は倒れている少女の姿を見つめた。
 それは、無意識という奴に支配されての事だった。鋼牙は、教えられずともその少女の正体を、何となく察していたからだ。──鋼牙は、その少女がかつて黒衣に身を包んで人を襲っていたのを知っている。
 だが、それを慌てて、つぼみが撤回する。

「違います! ……一条さんを倒したのは……」
「ゴ・ガドル・バとかいう奴だ」

 良牙が横から口を挟んだ。彼の目は、鋼牙の目を見てはいなかった。
 遠い向こうの景色を見ていた。

「さっきの奴と全く同じベルトをしていた。奴の仲間だっ……」

 その瞳は遠くを見つめながらも、憎しみを帯びていた。自分の知り合いを殺した人間がまだ生きている事に、尚も怒りを募らせていた。

「ガドルはまだ生きていやがるんだ……いつかぶっ潰さなきゃならねえらしい」
「……わかった。いずれ協力する」
「それから、この娘はもう殺し合いに乗る事はないだろう。それだけは安心してくれ」

 良牙はぶっきら棒に言った。
 とにかく、彼女がもうダークプリキュアではない事だけは信頼してほしいのである。
 良牙は、それ以上何も言わなかった。

『で、随分と紹介が遅れちまったが、一応俺も名乗っておいた方がいいよな?』
「……ああ」
『俺の名はザルバ。コイツの相棒だ。よろしく頼む』

 ザルバの自己紹介は簡潔だ。鋼牙は左手を二人の目線の位置に上げた。

「……響良牙だ」
「花咲つぼみです。よろしくお願いします」

 つぼみは笑顔で自己紹介する。
 そんな横で、良牙が三角形のエンブレムを取り出した。

「バルディッシュ」
『Sure. I’m Bardiche』

 それは、つぼみさえも知らない存在である。良牙がいつ手にしたのかもわからない、その物体につぼみは言葉を失う。

「マッハキャリバーさんじゃない……? 新たなデバイスですか?」
「ああ……さっき、ちょっと拾ったんだ……」

 そう言う良牙の表情は、微かに物憂げだった。
 その横顔の意味がつぼみにはわからなかったが、きっと彼がほんの数分の間に、何か新たな悲しみに直面したであろう事は間違いなかった。
 彼が口にしない限り、つぼみはそれについて訊く事はできなかった。






465 : 赤狼 ◆gry038wOvE :2014/05/07(水) 00:29:49 NU2bkzH20



 既に、そこは芝生を踏む余地もない、アスファルトに舗装された街の中であった。
 警察署のある場所はとうに過ぎている。彼らがなのはの要望で向かったのは、警察署ではない。
 そこは、F−10──港であった。

「……」

 鋼牙も、ここまでの道のりでこの月影なのはと名付けられた少女に関する事情を耳に入れていた。彼女がかつてダークプリキュアであった事は、つぼみ経由で先ほど聞かされている。確かに、何となくその面影を残していたので鋼牙自身もどこかで察して、気にしないように戦っていた。戦いの中に、無用な言葉を発するのは無粋で命とりである。
 鋼牙自身は、彼女の心変わりも一つの転生として、少し怪訝に思いながらも、認める事にした。先ほどの戦闘でも、彼女には鋼牙たちを陥れようという様子が見られなかったので、当面は敵となる事はないだろう。
 何はともあれ、それぞれ、ふらふらになりながらも、なのはの希望通り、港にやって来る事ができた。

「おい、起きろ……!」

 辿り着くと、良牙はすぐになのはを起こす。彼女の目は覚めぬままだった。
 見れば、ひどくうなされているようだった。額には汗がのぼり、呼吸も切れ切れ。意識の有無さえわからないほどに喘ぎ、目を開ける事もおぼつかない様子で瞼の下に涙を見せている。
 それが、「異常」である事に、良牙はすぐに気付いた。気づかない方がおかしいほどだった。
 良牙は慌てた。

「……おい、大丈夫か!」

 良牙は、その頬をはたこうとしたが──やめた。
 自分では、力が出すぎる可能性がある。それはどうも苦手だった。彼の馬鹿力では、時たま、少し壁に触れただけのつもりが、瓦礫を生み出してしまう事があった。これは人体では喩える暇もなく危険だとわかるだろう。
 隣で、つぼみが交代するようにして、なのはの頬を軽く叩いた。
 彼女が目覚める事はない。仕方なしに、彼は水をかけて、彼女を起こした。起こさなければ危険な気がした。海水では可哀想なので、ペットボトルから出された水をなのはは顔にかけられる事になった。汗や涙は穢れを落とすようにして流れていった。
 なのはが目を覚ますと、そこにはぼんやりと、良牙とつぼみの顔が映った。
 外は星に満ち満ちていた。波の音が聞こえ、そこが海である事は容易にわかった。
 そして、またそこが、かつて源太を殺害してとおりすがった場所であるのも、すぐにわかった。
 なのはは、慌てて起き上がった。

「あ……」

 体のバランスが崩れる。体の力が入らない。
 人間の体で受ける身体的負担を、いま確かに実感した気がする。必要以上に肩や足が重かった。
 いや、それはかつて味わった事のない痛みだった。ダメージ以上の苦しみや高すぎる体温が彼女の体を蝕んでいた。

「だ、大丈夫ですか!?」

 その問いかけに、起き上がって頷く事で答えた。言葉を発すれば、体の奥から何かを吐き出してしまいそうなほど気分が悪かったのだ。
 彼女は、ふらふらと水面に向かっていった。
 そんな彼女の肩を、良牙が抑えた。

「……待て。ここで何をすんだ、……よ……」

 言いかけた良牙の目の前。水面には、一人の人間が浮き上がっていた。
 言葉を失う。──なのはが求めたのは、その死体だったらしい。彼女は、口を紡いでいるが、驚いた様子は見せなかった。
 それはまだ、水の中で息絶えてからそう時間が経っていないようで、大きく膨らまず、腐敗もせず、人の形を残していた。

「源太……」

 梅森源太──ダークプリキュアが殺した人間の名前であった。
 彼がそこにいた。死亡から約六時間経過し、波に押されて港に引き寄せられていた。
 源太を殺害したのは、他ならぬ彼女自身だった。彼女は一刻も早く、彼を寒い海中から引き出し、別のもっと温かい場所へと持ち運ぼうとしていたのであった。
 つぼみや鋼牙も言葉を失った。


466 : 赤狼 ◆gry038wOvE :2014/05/07(水) 00:30:11 NU2bkzH20

「すぐに……」
「待て、俺が引き上げてやる。……お前はここで待ってろ」

 良牙が、水中に入っていこうとするなのはを制した。
 主に肉体面で、彼女の状態は非常に悪いといえよう。今の彼女にあまり刺激を与えてはならない。まして、この夜水に晒すなど、危険そのものである。
 今の良牙は、この水の中に入っていく事ができた。

「つぼみ、任せた」
「あ……はい!」

 なのはの体重をつぼみの肩に任せると、良牙は上半身の衣服を脱ぎ始めた。水に入る準備であった。
 良牙はタラップを見つけると、それを丁寧に辿っていき、水の中へとその半身を漬けた。
 もう、彼は小さな子豚の姿には変わらなかった。そんな自分の体を見て、少しの感慨に浸るが、良牙はすぐにその死体のもとへと水をかいた。

「……」

 誰もがその様子を黙って見つめていた。
 良牙の手際は良かった。源太の首もとを片手で掴み、すぐにまたタラップのところまで泳いで、その男の死体を引き上げた。正直言って、感触はあまりよくなかった。良牙の指には、ただただ不快な柔らかい感触が残った。
 つぼみが手伝おうとそこに寄ったが、良牙は掌を前に出して彼女を制した。

「つぼみ、寄るな」
「え……?」
「あまり触れて気持ちの良いもんじゃない」

 水死体の不快な感触はあまり他人に味あわせたくはなかった。

「おい、なのは……この死体は、一体誰の死体だ? 落ち着いてからでいい……言ってみろ」

 そう言われて、彼女は微かに黙った。
 一瞬だけ脇目にそらした瞳を、再び良牙の方に向ける。その顔には、まだ水滴が残っている。

「……私が殺した、梅盛源太という人」

 誰も意外には思わなかった。ただ、言葉は出てこなかった。

「……そうか。……わかった」

 良牙は、梅盛源太の遺体をなのはの元に手渡した。
 重く不快な感触の物体が、人から人の手に渡っていく。なのはは、力が足りず、一瞬バランスを崩した。それが罪の重さであった。

「ちょっと待ってろ。まだ、海の中には何か沈んでる。多分、その男が持っていたものだ」

 良牙が再び、海の中にその身を投げ出した。今度は、丁寧な降り方ではなかった。大きな音と波を立てて、水に飛び込んだのである。
 つぼみも鋼牙も、その飛沫に一瞬だけ目をやったが、またなのはの方へと視線を変えた。
 彼女は、つぼみの体から離れると、体が安定しない様子ながら、源太の遺体のもとへと寄っていった。

「ごめんね……」

 彼女は、そう言って源太の遺体を抱きしめ、涙を流す事しかできなかった。
 人が人を殺す事──それは許される事ではない。罪は背負わなければならない。
 そして、ダークプリキュアが殺したのは彼だけではなかった。
 もう一人、ダークプリキュアは少女を殺している。──その少女の命の分もまた、月影なのはは背負わなければならず、謝らなければならない。

「本当にごめんね……」

 謝罪の言葉とともに、少女の涙が、無念に散った男の肌に落ちていった。その涙が人の命を吹き返す魔法を持つ事はなかった。
 ただ、その涙が落ちた時、その男は、「無念に散った男」ではなくなっていた。






467 : 赤狼 ◆gry038wOvE :2014/05/07(水) 00:30:29 NU2bkzH20



 良牙は、またなのはを背負って歩いていた。彼女の身体の状態が非常に悪いため、結果的には源太の遺体は警察署まで運ぶのではなく、陸に上げて、放置するしかなかった。そのままでは可哀想なので、体の上から、彼の体を覆うようにして支給された黒子の装束を被せておいた。体が濡れたまま、温かみもない夜風の下に放置では流石に可哀想に思ったのだ。
 先ほど、良牙は水の中に潜ったが、そこでは電話のようなボタンが備わった小さな機械が手に入った。おそらく、それは源太の生前の所有物だろう。なのはに確認を取ると、そのうち一つは源太が使用していたもので間違いないという事だった。
 なのはの怪我は深刻だった。先ほどの戦いで受けたダメージがよほど強かったのか、一向に一人で立てるような様子を見せなかった。
 人間になってからの初めての戦いだから──というのも、あるだろうか。
 いや、それにしても、何処かおかしい気がしてならなかった。

「うっ……!」

 そう思っていた時、横で鋼牙が突然呻くような声をあげて、崩れるように膝をついた。
 左腕はとうに止血しているが、どうやらそこが痛んだようだった。
 良牙とつぼみは怪訝に思う。
 鋼牙はそんなに深刻な怪我など負わないと思っていたが、あの程度の一撃でこんなに苦しむだろうか。

『大丈夫か? 鋼牙……』
「ああ、問題ない……」

 そう言って、再び鋼牙が立ち上がった。気を抜いただけのようだった。立ち上がると、いつもの屈強な鋼牙だった。
 多少の痛みもまるで無いように振る舞えるのが彼だ。深刻な痛みならば通常は顔に出すだろう。
 しかし、それでも二人の中では、厭な予感が消えなかった。
 そんな不安を誰よりも抱えているのは、鋼牙の左手の指に嵌めこまれた魔導輪であった。

『鋼牙……。もしかして、さっきのあいつは、特殊な毒でも持っていたんじゃないか?』

 ザルバのその一言に、その場にいる全員が顔を凍り付かせた。

『お前とあの子は、変身していなかった状態で奴から傷を負っている。姿を変えて戦っていた二人はピンピンしている……妙だと思わないか?』

 鋼牙がそう言われて、自分となのはを見比べる。
 確かにその様子は、受けたダメージに比べても不自然であった。
 片手から流血しているだけならまだいいが、どうやらそれだけではないらしい。

「……奴に一杯喰わされたという事か」
『そういう事になる』
「まずいな……」

 鋼牙は、自分の危機が迫っている時も冷静沈着であった。実感していないわけではないが、どんな時も強くあらねばならない事を信条とするのが彼だった。
 ガミオは圧倒したと言えよう。しかし、ガミオの僅かな意地がこうして後を引く傷を齎している事は計算外だった。

「鋼牙さんは大丈夫なんですか?」
「……多少の毒なら、平気だ。だが、どうやらそういうわけでもないらしい。今は平気だが……」
「大丈夫じゃねえって事か」

 良牙が事態を重く受け止めたようだった。
 すぐにガミオを倒しに駆け出さんばかりであった。だが、彼がそうした行動を示す前に、鋼牙は先の行動を口に出して決めてしまう事にした。

「……とにかく、ひとまずは警察署に向かう。その後で奴を倒す」
「時間がねえんだろ!」
「一度落ち着いた方がいい。……安心しろ、警察署には仲間もいる。対策を練るのはそれからだ」

 鋼牙は、何とか良牙を制した。
 鋼牙は一度、警察署で他の参加者の姿を目にしている。主催に反抗する参加者の殆どがそこにいる事はわかっているのだ。
 ガミオを倒すにしても、そこで一通りの事情を伝えた方が良いだろうし、何より深刻な怪我を負っているなのはをそこで何とかしなければならない。


468 : 赤狼 ◆gry038wOvE :2014/05/07(水) 00:30:51 NU2bkzH20

「……わかった。どっちにしろ、急ぐしかないみたいだな」

 良牙は、なのはを背負ったまま警察署に向けて駆けだした。
 つぼみと鋼牙も彼の背中を追う事にした。

「あ、良牙さん。そっちじゃなくてこっちです!」
「ぬぁーっ! また俺はまたこんな間違いをーっ!!」

 ──訂正。
 良牙と鋼牙は、つぼみの背中を追う事になった。



【1日目/夜中】
【F―10/港付近】

【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、加頭に怒りと恐怖、強い悲しみと決意、デストロン戦闘員スーツ着用
[装備]:プリキュアの種&ココロパフューム、プリキュアの種&ココロパフューム(えりか)@ハートキャッチプリキュア!、こころの種(赤、青、マゼンダ)@ハートキャッチプリキュア!、ハートキャッチミラージュ+スーパープリキュアの種@ハートキャッチプリキュア!
[道具]:支給品一式×5(食料一食分消費、(つぼみ、えりか、三影、さやか、ドウコク))、鯖(@超光戦士シャンゼリオン?)、スティンガー×6@魔法少女リリカルなのは、破邪の剣@牙浪―GARO―、まどかのノート@魔法少女まどか☆マギカ、大貝形手盾@侍戦隊シンケンジャー、反ディスク@侍戦隊シンケンジャー、デストロン戦闘員スーツ(スーツ+マスク)@仮面ライダーSPIRITS、デストロン戦闘員マスク(現在着ているものの)、着替え、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア!、姫矢の首輪、大量のコンビニの酒
[思考]
基本:殺し合いはさせない!
0:警察署に向かう。
1:警察署に行った後、ガミオのもとに向かう。
2:この殺し合いに巻き込まれた人間を守り、悪人であろうと救える限り心を救う
3:南東へ進む、18時までに沖たちと市街地で合流する(できる限り急ぐ)
4:……そんなにフェイトさんと声が似ていますか?
[備考]
※参戦時期は本編後半(ゆりが仲間になった後)。少なくとも43話後。DX2および劇場版『花の都でファッションショー…ですか!? 』経験済み
 そのためフレプリ勢と面識があります
※溝呂木眞也の名前を聞きましたが、悪人であることは聞いていません。鋼牙達との情報交換で悪人だと知りました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※プリキュアとしての正体を明かすことに迷いは無くなりました。
※サラマンダー男爵が主催側にいるのはオリヴィエが人質に取られているからだと考えています。
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました。
※この殺し合いにおいて『変身』あるいは『変わる事』が重要な意味を持っているのではないのかと考えています。
※放送が嘘である可能性も少なからず考えていますが、殺し合いそのものは着実に進んでいると理解しています。
※ゆりが死んだこと、ゆりとダークプリキュアが姉妹であることを知りました。
※大道克己により、「ゆりはゲームに乗った」、「えりかはゆりが殺した」などの情報を得ましたが、半信半疑です。
※所持しているランダム支給品とデイパックがえりかのものであることは知りません。
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※良牙、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※全員の変身アイテムとハートキャッチミラージュが揃った時、他のハートキャッチプリキュアたちからの力を受けて、スーパーキュアブロッサムに強化変身する事ができます。
※ダークプリキュア(なのは)にこれまでのいきさつを全部聞きました。


469 : 赤狼 ◆gry038wOvE :2014/05/07(水) 00:31:12 NU2bkzH20

【月影なのは(ダークプリキュア)@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、人間化、ガミオのガス侵攻中
[装備]:プリキュアの種&シャイニーパフューム@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&ココロポット(ゆり)@ハートキャッチプリキュア!
[道具]:支給品一式×5(ゆり、源太、ヴィヴィオ、乱馬、いつき(食料と水を少し消費))、ゆりのランダムアイテム0〜2個、ヴィヴィオのランダムアイテム0〜1個(戦闘に使えるものはない)、乱馬のランダムアイテム0〜2個、パワーストーン@超光戦士シャンゼリオン、ふうとくんキーホルダー@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、須藤兄妹の絵@仮面ライダーW、霧彦の書置き、山千拳の秘伝書@らんま1/2、水とお湯の入ったポット1つずつ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ガイアメモリに関するポスター×3、『太陽』のタロットカード、大道克己のナイフ@仮面ライダーW、春眠香の説明書、ガイアメモリに関するポスター
[思考]
基本:罪を償う。その為にもプリキュアとして戦う。
0:警察署に向かう。
1:ガミオに毒の浄化方法を訊く必要がある。
2:姉さんやいつきのようにプリキュアとして戦う。
3:源太、アインハルト…。
[備考]
※参戦時期は46話終了時です
※ゆりと克己の会話で、ゆりが殺し合いに乗っていることやNEVERの特性についてある程度知りました
※時間軸の違いや、自分とゆりの関係、サバーク博士の死などを知りました。ゆりは姉、サバークは父と認めています。
※筋肉強化剤を服用しました。今後筋肉を出したり引っ込めたりできるかは不明です(更に不明になりました)。
※キュアムーンライトに変身することができました。衣装や装備、技は全く同じです。
※エターナル・ブルーフレアに変身できましたが、今後またブルーフレアに変身できるとは限りません。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※心が完全に浄化され、プリキュアたちの力で本当の人間の体を手に入れました。かつてほどの戦闘力は失っている可能性が高いと思われますが、何らかの能力があるのか、この状態では無力なのか、その辺りは後続の書き手さんにお任せします。顔や体格はほとんどダークプリキュアの時と同じです。
※いつきにより、この場での仮の名前として「月影なのは」を名乗る事になりました。
※つぼみ、いつきと“友達”になりました。
※いつきの支給品を持っています。
※プリキュアとして戦うつもりでいます。


470 : 赤狼 ◆gry038wOvE :2014/05/07(水) 00:31:33 NU2bkzH20

【響良牙@らんま1/2】
[状態]:全身にダメージ(大)、負傷(顔と腹に強い打撲、喉に手の痣)、疲労(大)、腹部に軽い斬傷、五代・乱馬・村雨の死に対する悲しみと後悔と決意、男溺泉によって体質改善、デストロン戦闘員スーツ着用
[装備]:ロストドライバー+エターナルメモリ@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(ゾーン、ヒート、ウェザー、パペティアー、ルナ、メタル)@仮面ライダーW、バルディッシュ(待機状態、破損中)@魔法少女リリカルなのは、
[道具]:支給品一式×14(食料二食分消費、(良牙、克己、五代、十臓、京水、タカヤ、シンヤ、丈瑠、パンスト、冴子、シャンプー、ノーザ、ゴオマ、バラゴ))、水とお湯の入ったポット1つずつ×3、志葉家のモヂカラディスク@侍戦隊シンケンジャー、ムースの眼鏡@らんま1/2 、細胞維持酵素×6@仮面ライダーW、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、歳の数茸×2(7cm、7cm)@らんま1/2、デストロン戦闘員マスク@仮面ライダーSPIRITS、プラカード+サインペン&クリーナー@らんま1/2、呪泉郷の水(娘溺泉、男溺泉、数は不明)@らんま1/2、呪泉郷顧客名簿、呪泉郷地図、特殊i-pod、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、バッドショット+バットメモリ@仮面ライダーW、スタッグフォン+スタッグメモリ@仮面ライダーW、テッククリスタル(シンヤ)@宇宙の騎士テッカマンブレード、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW、まねきねこ@侍戦隊シンケンジャー、『戦争と平和』@仮面ライダークウガ、双眼鏡@現実、ランダム支給品1〜6(ゴオマ0〜1、バラゴ0〜2、冴子1〜3)、バグンダダ@仮面ライダークウガ、evil tail@仮面ライダーW、警察手帳、ショドウフォン(レッド)@侍戦隊シンケンジャー、スシチェンジャー@侍戦隊シンケンジャー
[思考]
基本:天道あかねを守り、自分の仲間も守る
0:ガミオに毒の浄化方法を訊く必要がある。
1:つぼみ、“なのは”とともに警察署に向かう。
2:あかねを必ず助け出す。仮にクウガになっていたとしても必ず救う。
3:誰かにメフィストの力を与えた存在と主催者について相談する。
4:いざというときは仮面ライダーとして戦う。
[備考]
※参戦時期は原作36巻PART.2『カミング・スーン』(高原での雲竜あかりとのデート)以降です。
※夢で遭遇したシャンプーの要望は「シャンプーが死にかけた良牙を救った、乱馬を助けるよう良牙に頼んだと乱馬に言う」
「乱馬が優勝したら『シャンプーを生き返らせて欲しい』という願いにしてもらうよう乱馬に頼む」です。
尚、乱馬が死亡したため、これについてどうするかは不明です。
※ゾーンメモリとの適合率は非常に悪いです。対し、エターナルとの適合率自体は良く、ブルーフレアに変身可能です。但し、迷いや後悔からレッドフレアになる事があります。
※エターナルでゾーンのマキシマムドライブを発動しても、本人が知覚していない位置からメモリを集めるのは不可能になっています。
(マップ中から集めたり、エターナルが知らない隠されているメモリを集めたりは不可能です)
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※つぼみ、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※男溺泉に浸かったので、体質は改善され、普通の男の子に戻りました。
※あかねが殺し合いに乗った事を知りました。
※溝呂木及び闇黒皇帝(黒岩)に力を与えた存在が参加者にいると考えています。また、主催者はその存在よりも上だと考えています。
※バルディッシュと情報交換しました。バルディッシュは良牙をそれなりに信用しています。


471 : 赤狼 ◆gry038wOvE :2014/05/07(水) 00:31:52 NU2bkzH20

【冴島鋼牙@牙狼─GARO─】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、ガミオのガス侵攻中
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター、魔導輪ザルバ
[道具]:支給品一式×2(食料一食分消費)、ランダム支給品1〜3、村雨のランダム支給品0〜1個
[思考]
基本:護りし者としての使命を果たす
0:警察署に戻る。
1:ガミオに毒の浄化方法を訊く必要がある。
2:首輪とホラーに対し、疑問を抱く。
3:加頭を倒し、殺し合いを終わらせ、生還する
4:後で制限解除の為に、どこかの部屋で単独行動をする。
[備考]
※参戦時期は最終回後(SP、劇場版などを経験しているかは不明)。
※ズ・ゴオマ・グとゴ・ガドル・バの人間態と怪人態の外見を知りました。
※殺し合いの参加者は異世界から集められていると考えています。
※この殺し合いは、何らかの目的がある『儀式』の様なものだと推測しています。
※首輪には、参加者を弱体化させる制限をかける仕組みがあると知りました。
また、首輪にはモラックスか或いはそれに類似したホラーが憑依しているのではないかと考えています
※零の参戦時期を知りました。
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※つぼみ、一条、良牙と125話までの情報を交換し合いました。
※もしかすると今回、つぼみと良牙のもとに現れるまでに鋼牙に架されている制限が解除されている可能性があります(おそらく三十分間単独行動していたため)。


【特記事項】
※源太の遺体は、陸上に引き上げられました。彼の遺体の上には、黒子の装束@侍戦隊シンケンジャーがかけられています。


472 : 名無しさん :2014/05/07(水) 00:32:20 NU2bkzH20
以上、投下終了です。


473 : 名無しさん :2014/05/07(水) 03:54:35 QWPI1eoo0
投下乙です
格好良く書かれた対ガミオ戦に興奮しました!ガミオの毒を解除する方法はあるのか…
そして源太の最期がここで影響するとは


474 : 名無しさん :2014/05/07(水) 07:31:11 gSCVwYtU0
投下乙です!
ガミオとの戦いは痛み分けに終わりましたか。ガミオの毒を受けてしまった二人はこれからどうなってしまうか……?
そして、源太の遺体と変身アイテムがようやく回収されましたか。これから、どう生きていくか……?


475 : 名無しさん :2014/05/07(水) 13:12:42 C/KElWpcO
投下乙です。

源太の想いは無駄では無かった!


476 : 名無しさん :2014/05/07(水) 19:09:10 sFRQbyTc0
投下乙です

ガミオ戦は燃えに燃えたぜええっ!!
そしてここで源太が、おまああああっ
よかったです


477 : ◆gry038wOvE :2014/05/07(水) 21:07:38 NU2bkzH20
修正。
状態表が「夜中」になっている奴らがいますが、ガミオと同じく「深夜」です。


478 : ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:11:19 j9QAkj0U0
ただいまより投下しようかなと思います。
何分、やたらと人の多いパートですので、なんか書いている人も忘れてたり欠如していたりする情報とかあるかもしれません。
なんか付け加えてほしい描写とか絡みとかがあったら、できる限り随時どっかに差し込みます。


479 : The Gears of Destiny - 託される思い、激昂の闘姫 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:12:12 j9QAkj0U0



 夜の中学校で二人の成人男性が、角のない丸いカードを配り合う。
 桃園ラブは、その姿を横目で見ていた。
 ここまで涼村暁が三戦三敗。ムキになってポーカーを続けている。

「……」

 暁の手元のカードはハート・スペード・クラブの3と、ハートとダイヤの10。所謂フルハウスという役である。……ここまで、暁は全くのブタやワンペアばかり繰り返していたが、どうやらやっと突きが回って来たらしい。
 暁は笑みを浮かべなかった。まるっきりポーカーフェイスで、良い役が来なかったとばかりに長髪の頭を掻く。

「……チッ」

 石堀光彦は舌打ちとともにカードを全て交換した。自棄っ八という奴である。
 しめしめ……と、暁は内心で思う。
 どうやら、ここで派手な勝利を刻めるらしい。負け続けた以上は、そろそろ勝利が来てもおかしくない頃合いなのである。
 それが今だった。それだけの話だ。簡単な事である。

「悪いな、石堀。フルハウスだ」

 暁が得意げに手元のカードをオープンした。この瞬間、暁はニヤリと笑っていた。
 手札をオープンした以上は、最早ポーカーフェイスを続ける意味はない。
 勝ち誇ったような暁を前に、石堀は口を開く。

「……悪いね、暁」

 石堀の手から並べられる五枚のカード。
 それは、運否天賦ではありえないスペードの綺麗な並びであった。

 ……スペード、10、J、Q、K、A。ジョーカーを除いたうえでのこのポーカーでは最強のペアである。

「ロイヤルストレートフラッシュだ」

 そう、ロイヤルストレートフラッシュが全カード交換で出てくるなどありえない。
 暁とラブは茫然と、石堀の得意げな笑顔を見ていた。

(す、すごい……!)

 ラブが唾を飲む。

(何の意味もなく、突然二人だけでポーカーを始めてる……!!)

 ラブは、つい、そう心の中で突っ込んでしまった。
 ただの井上敏樹の脚本で、よくある始まり方である。







 冴島鋼牙の歩みは、いつもより少し遅かった。
 きびきびと動く事ができる彼だが、左腕の負傷に対して、全身に来る辛み、痛み、痺れが通っていたのである。──それは、所謂毒物が回ったような感覚だった。
 全身に傷を負ったような重だるさが彼を支配する。一歩一歩が億劫だった。ザルバの心配通り、鋼牙を蝕んでいる何かがそこにはあった。

「到着しました」

 花咲つぼみの言葉で、鋼牙はふと我に返った。痛みに思考さえ縛られていたというのだろうか。
 目の前を見れば、そこには確かに冴島鋼牙がかつて立ち寄った警察署があった。
 本来ならここに来た事がある鋼牙が案内すべきだっただろう。──しかし、とてもそんな事ができる状態ではなかった。つぼみもそれを察していたから、自然と前に出たのである。


480 : The Gears of Destiny - 託される思い、激昂の闘姫 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:12:34 j9QAkj0U0

 警察署には既に灯りが点っており、中に人がいる気配を感じさせる。──いや、実際、孤門一輝がこちらを見下ろしているのが見えた。やはり、まだあの時の警察署の人間たちは離れる事なくそこにいるらしい。
 このまま友好的な人間が揃っていけば、それは非常に都合の良い話だ。
 現状で友好的と思われる人物は、ここにいる冴島鋼牙、花咲つぼみ、響良牙、月影なのは(名簿上での名前はダークプリキュア)と死者たちを除けば、蒼乃美希、石堀光彦、沖一也、孤門一輝、佐倉杏子、涼邑零、高町ヴィヴィオ、左翔太郎、桃園ラブ、結城丈二。
 そのうち、石堀光彦と涼邑零と左翔太郎と桃園ラブと結城丈二を除いた全員が先ほどまでここにいた。そして、良牙たちによると、左翔太郎も、鋼牙と入れ違いにそこに帰った可能性も高いとされる。
 残りの黒岩省吾、ゴ・ガドル・バ、涼村暁、天道あかね、血祭ドウコクのうち、少なくとも三名は敵。それに加えて、先ほどの怪人も参加者外だが殺し合いに乗っている。そのように、主催が用意したような参加者外の怪物も現れる事があるらしい。
 これで、味方は十名。それだけの人数がここに集まる寸法になる。そうすれば、ひとまず、このマップ上にいる敵に対してはある程度の対策が練れるだろう。

「……やっと着いたな」
「長かった……ですね」

 街に辿り着くまでの道というのがずいぶん長かった。島の端から端まで、辿り着くのにおよそ一日。そこにはいくつもの戦いがあった。
 ただ、そこはつぼみにとって、一文字が当初指定した「合流場所」であった。
 その一文字ももういないが、一文字の言葉を受け取った人──沖一也がいるはずだと聞いて、つぼみは少し嬉しかった。

 その嬉しさゆえに、足取りは早くなる。せかせかと、つぼみたちはそこに入っていった。







 孤門一輝は、ただ一人、会議室でその姿を見ていた。
 彼以外は、全員、一度、三十分だけ別室で過ごしている。沖一也は既に制限の説明を受けているので、全くの不要なのだが、研究施設でまだデータを見ているようだ。
 ともかく、ここにいた四人の参加者は、全員単独行動をしていた。レーダーハンドの監視によって、少なくとも周囲一帯の参加者の存在が否定され、警察署内部の危険性も薄まった頃で、署内で単独行動を許すのは何となく暗黙の了解となっていたのである。
 ……時間にして、十分程度だろうか。
 制限解除のための単独行動は妨害され、再び制限解除を行うには三十分単独行動する必要ができた。単独行動中の条件は、「誰にも聞かれず誰にも見られず」との事だったが、いままさに、冴島鋼牙と目が合ったのである。

(……まあいいか。どうせ僕には制限なんてないだろうし)

 孤門はそう思った。自分は、所謂、一般人だ。
 制限されるほどの能力はない。美希のようにプリキュアになるわけでも、ヴィヴィオのように大人の姿になるわけでも、沖のように仮面ライダーになるわけでもない。
 もともと、制限などに関する説明はないだろうと思いながら、彼は少し楽観的な気持ちでそこにいた。孤独というのも、この張りつめた殺し合いの中では、時に悪くないのかもしれない。
 広くなった会議室で一人、何もせずに冷たい風を吸い込むのも悪くはなかった。

(彼らを待とう……)

 歓迎に向かう途中で美希やヴィヴィオの邪魔をするのも何なので、孤門はぼうっとそこで待っていた。
 今は、一人を漫喫したい気分もあった。
 姫矢准や西条凪の死に浸る事ができる唯一孤独な時間は、今だけなのだろう。







 蒼乃美希は、給湯室で三十分の経過を待っていた。
 彼女は、残り十分という頃になったら、紅茶かコーヒーでも淹れる予定だった。
 これから監視をし続けなければならない人間に、せめてもの労いとして。
 美希も、既に一杯飲み干していた。温かい液体を飲み干す、というだけでも少し落ち着く。
 それは市販のものと何ら変わりないパックの紅茶だったが、湯気も、香りも、濃くも、閉じ込められた孤島で一人肌寒い部屋に座する少女にとっては、美味に感じられた。


481 : The Gears of Destiny - 託される思い、激昂の闘姫 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:12:51 j9QAkj0U0

「……はぁ〜〜〜〜」

 溜息が漏れる。
 結局、ラブたちと会うに至るまで、どれくらい時間がかかるだろう。現状で、ラブの所在は全くと言っていいほど、わかっていない。
 のんびりとしている時間はないが、焦燥感で肩を張りつめているのももう疲れたらしく、動きたいが動けない状態が、彼女を一番落ち着かせるようになってきていた。
 ここで動かずにラブの所在に関する情報を待ち続けるも効率の良い手段かもしれない。
 情報伝達は進んでいるし、街エリアには自然と人が集まっている。ラブも案外近くにいるのではないか、と美希は思う。
 むしろ、そのため息は、待つしかできない自分が嫌になって出てきたものだった。

(……っと、いけない。『聞かれる』のもダメなんだっけ)

 独り言、ため息の類はあまりすべきじゃないと、思い直し、大きく開けた口を閉ざす。
 音声によって存在を提示してはならないのだ。少なくとも三十分間は、美希は存在そのものを消したようにしなければならない。
 それは、僅かの間だけ死ぬのと同じだった。──わずかな間、誰にも見られず、誰にも聞かれない。誰からも存在を消される。
 おそらく、今し方、美希の事を考えている人間は殆どいないだろう。……まあ、突然行方不明になった自分を心配する母、そして父と弟だけだろうか。
 そうか、よく考えれば一日外出しているわけだ。母は、きっと父にも連絡をしているに違いない。

(あんまり心配はかけたくないわね……)

 現実に、山吹祈里や東せつなは亡くなった。祈里の両親、ラブの両親にどう告げようかと考えると、むしろ帰りたくないとさえ思う。彼らが自分の目の前でどれだけ辛い表情をするかというのを思うと、それを告げるのを避けたい気持ちにもなる。
 帰りたくない。
 ……ある意味では、この空間への依存。帰りたいが、帰れば帰るで辛い体験が待ち構えているジレンマ。それが今、彼女の中で悲しみと同居していた。
 人間によって来る世界、時間軸が異なっているのは理解しており、その結果として、美希が来る世界の彼女らが別人──という事もあるかに思えたが、その可能性は薄いと美希は密に思っていた。

 死亡したノーザを呼んだのは、殺し合いに明確な「敵」を作るためであるともいえるが、桃園ラブ、蒼乃美希、山吹祈里の三名の時間軸の差異は、主催側にとってメリットを生み出さない。唯一その可能性があるのは、かつて敵であった東せつなのみだ。
 現状で美希は、明堂院いつきと合流したが、いつきは殆ど美希と異なる認識をしているわけではない。
 花咲つぼみ、来海えりか……もどうだろうか。彼女たちに関しても、世界線を変える意味は大きくない。こちらも、ゆりに関してはいつきの懸念があったが、他の二人はスタンスを変えるほどの大きな不幸や出来事には巡り合っていない──あるいは、それが美希にとって、遥か未来の出来事ならば別だが。

(帰って終わり……というわけにもいかないのよね)

 これから先、美希はどう祈里やせつなの失踪を家族に語ればいいのだろう。信じてもらえるだろうか。──プリキュアとしての活動を受け入れてくれた両親も、世界も、異世界で殺し合いに巻き込まれた事を信じてくれるのだろうか。
 ただ、死を伝えなければならないのは確かだ。いつまでも行方不明のままにはしておけない。
 仮に信じてもらえたとして、我が子の死が全くの異世界で、唐突に起きてしまった両親の気持ちを、どう抑えてあげる事ができるのだろう。
 葬式はどう執り行うのか──とにかく、様々な想いが美希のその後を不安にする。

「はぁ〜〜〜〜」

 それを考えると、悲しむ暇もない気がしてきた。
 また、ため息が出てしまう。
 ……まあ、制限については、もう大分、楽観的というか悲観的というか、一種の諦観が始まっていた。三十分間待ったところで、どうせ誰も来ないだろうし、どうせ制限は来ないであろう事は、何となく察しがついている。──杏子、翔太郎、沖の三人分の前例はあるが、美希自身にかかっている制限などは全く思い浮かばないくらいだった。
 まあ、戦闘力がやや下がっているのは確かだが、それについては杏子たちも現状で抱えている制限だろう。これは制限解除でどうなるわけでもなく、参加者同士の戦力差は縮められている。
 三人の場合は、「没収された支給品の獲得」、「今後に関する情報の入手」というもので、戦闘力向上などではないのだ。おそらく、ここで解除される制限の殆どはそんなパターンだろう。でなければ、バランスはこれからも崩れてしまう。しかしながら、美希はそういう物を持ち合わせていないので、平気だろうと思えた。


482 : The Gears of Destiny - 託される思い、激昂の闘姫 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:13:07 j9QAkj0U0

(残り十九人中、今少なくとも残っているのは……)

 美希、ヴィヴィオ、孤門、沖はほぼ確実な生存。
 翔太郎、杏子も鳴海探偵事務所の様子を見にいくまでに死んでしまう事はなさそうだ。
 一応、六人の生存は確定事項と考えていい。
 心配なのは鋼牙のようにここを出た者や、一切合流の気配がない者だ。

(ラブ……)

 今回、本当に眠れるのだろうか──と、美希は少し恐ろしい気分になった。眠れそうな気配はないが、流石にそろそろ寝ないとまずい。頭は少しぼーっとしている。以前、プリキュア活動と学校、モデル、ダンスと色々やりすぎて倒れた事があったが、その時と同じく、半端ない眠気がしてくる。
 眠気はするが、眠れない──という複雑な状況でもある。
 目は瞑る事ができても、判然としない意識をシャットダウンする事ができない辛い状態だ。そうなると、思いもしないタイミングで眠りかねないし、危険な判断ミスをしかねない。……たとえば、身の危険が迫っているような状態でも。

(温かい物を飲むと眠くなるんだっけ? でも、紅茶もカフェインが入ってるから……えーっと、あー、もう、どっちなの!?)

 困惑しながら、とにかく色々と考える美希。
 眠気で混乱しつつある証だった。
 放送まで、まだしばらくはあるが──。







 高町ヴィヴィオの場合は、鍛練のために備え付けられた一室にいた。おそらくは、誰もがヴィヴィオの居場所を二択で考えただろう。
 このトレーニングルームか、アインハルトの遺体がある霊安室の二択。
 そのうち、ヴィヴィオが選んだのはこちらだった。──まあ、おそらくは、その可能性が高いだろうと、みんな、何となく察しただろう。まだ幼い少女が、わざわざ親友の遺体のある場所には向かわない。ヴィヴィオならあり得ると思ったが、それでも、やはり、大人でもあまり行きたくはないに決まっている。
 それは水入らずで対話できる機会でもあったが、そこに三十分となれば、苦痛も伴うだろう。穏やかな死であれば良いが、後ろから背中を切り裂かれた遺体があまり穏やかな顔をしているわけもない。

(……)

 そして、今ここで。
 ヴィヴィオは、床板に膝をつけ、正座していた。
 彼女の母・高町なのはは、時として、剣道場でこうして一人、心を落ち着かせる事があった。それと似ていた。血縁はないが、こういう癖が似ていた。
 彼女も目を瞑り、心を落ち着ける。──眠気はあるが、それを掻き消して。
 目を瞑っても意識を集中させて、眠りにつかないように心掛ける。ヴィヴィオは、一応、ここに来て間もなく、殆ど意識もなく介抱されていた期間があった。そのお陰か、何とか耐えられる程度には意識が覚醒していた。

(……)

 黙想し、自分の世界に浸る。
 呼吸のリズムさえ、彼女は気にした。僅かの乱れはすぐにわかる。それが生じたら、また心を落ち着けるよう意識するのだ。
 今は、まったく乱れていなかった。
 いや、それはかつてこの殺し合いに招かれる以前よりも、落ち着いた心を保てた。

(……)

 隣では、クリスが同じく膝を揃えて正座、黙想している。
 ハイブリッド・インテリジェントデバイスのクリスは、当然落ち着いていた(とは言っても、ティオならば絶対に落ち着かないので、そこはクリスの性格もあるだろう)。
 本来、機械仕掛けであるはずのクリス以上に、呼吸が整い、冷静な心を保っているヴィヴィオ。その効果は、おそらくは一度、臨死体験をした事から生まれている。
 ただ、二人は、それだけ落ち着きながらも、それ以上に落ち着いた『今』を欲していた。この『今』を掴む事が、この三十分間の目標であった。制限解除、以上に──そこで自分の呼吸を掴み、自分の気の流れに乗る事が彼女の目的であった。


483 : The Gears of Destiny - 託される思い、激昂の闘姫 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:13:24 j9QAkj0U0

(……アインハルトさん)

 独り言なのか、呼びかけなのか。──彼女は、心の中でその名前を呼んだ。

(アインハルトさんの命を奪った人が、いずれここに来るみたいです)

 フィリップの言葉を思い出す。
 その仇敵に対して、もしヴィヴィオが敵討ちの意思を持っていれば、少しは簡単だっただろう。すぐに、ヴィヴィオの中に在る、僅かながらの恨みや復讐心を絞り出し、爆発させて戦うだろう。

 ──しかし、アインハルトの命を奪った人間は、心を入れ替えたというのだ。

 ヴィヴィオ自身も、その人が心を入れ替えるのを望んでいたし、おそらくはアインハルトも同じだ。喜ばしい事には違いない。だが、やはり素直に認められない気持ちもどこかにある。許したいが、許していいのかがわからない複雑な気持ち。
 アインハルトの遺体を見に行かなかったのは、そこに、アインハルトが受けた「傷」があるからだろう。──それは、かえってヴィヴィオの悩みを強くするに違いない。
 その傷を生み出した人間の罪の重さ。それをヴィヴィオ自身が実感してしまう。それが少し恐ろしかったのだ。

(……私も、どんな顔をして会えばいいのかわからないけど、きっと、会ってみればわかる事もありますよね)

 ダークプリキュアはいずれ来る。
 ただ、彼女に対しても──やり方は同じだ。二人の母はかつて、そうしてわかり合った。どんな時も、会ってみなければわからない。
 相手の目を見て、名前を呼ぶ事で友達になれる。
 もし争う事になっても、拳をぶつけ合えば相手の気持ちを知る事ができる、相手の想いを受け止められる。それは一塊のストライクアーツ選手の勘だ。──その魂がゆえ、ヴィヴィオの胸は震え立つ。
 戦うか、戦わないか。すぐに彼女の名前を呼べるのか、戦う事になるのか。……どちらになるのかはわからない。
 まずは、相手がどう出るか。

(私、会います。会って、話をします)

 ダークプリキュア、だった人は──どんな名前で、どんな目をしているのか。
 それがわかってから、友達になるか、それとも拳をぶつけ合うのか──知ればいい。
 ヴィヴィオは時が過ぎていくのに身を委ねていた。







 沖一也の目の前で、爆発が起こる──。

 そう、それは、まさしく「失敗」だった。山吹祈里の首輪の外周を刃物でなぞり、解除する事ができるのを一也は知った。それから、中の構造を確かめ、どうにかして次の工程に移ろうと、ひとまず首輪の中身を記憶していた時だった。
 突如、結構な爆発が目の前で起きたのだ。
 一也は、咄嗟に腕を引き、顔の前に組んだ。爆発を起こした首輪の破片が、彼の腕にぶつかる。まだ熱い金属の破片が地面に落ち、ジュゥ……と音を残す。その僅か一瞬の出来事に、背筋が凍る。肝が冷えた。

「爆発、した……?」

 特にあの状態からいじってはいないはずだ。何も刺激を与えていないのに、突如目の前の首輪が爆発した事態に、一也は怪訝に思わずにいられなかった。
 火力は、破片が一也の天井まで跳ぶほど。台は一也の腰よりも少し下にあるので、二メートルほど飛んで、まだ飛び足らず、天井にぶつかり落ちたのだろう。この小型の爆弾でそんな爆発を起こし、小火も残している。人体ならば、これが首元で爆発すれば無論、即死。
 彼は茫然としていた。しかし、爆発物であるのは明示されていたので、得体の知れなさというのは感じなかった。
 手がかりが一つ消えた、とそう思ったのであった。──一也は、だんだんと冷静な思考を取り戻していく。


484 : The Gears of Destiny - 託される思い、激昂の闘姫 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:13:46 j9QAkj0U0

「くっ……なるほど。首輪を外すには時間制限があるのか」

 我に返る。
 ちょうど、カバーを外してから五分での爆発だったのである。それはおそらく、首輪に刻み込まれたシステムなのだ。──そうのんびりとしている暇はないという事だ。僅か五分で爆発してしまう、というのは少し冷静な動作が強いられる。
 中の仕組みはかなり複雑だが、おそらくはダミーとなるコードも複数存在しているように見えた。明らかに不要な部品が多い。いや、もしかすれば一也の理解の範疇を越えた機能が備わっているのかもしれないが、余計な交差をした部品や、明らかに意味のない場所に繋がっているとしか思えないコードがある。
 そもそも、一也がもし殺し合いを開く立場になった場合ならば、参加者の重圧と支配ができる首輪にはそうした仕掛けも作るだろう。勿論、それは首輪全てにそんな面倒な仕組みを作れる余裕がある場合のみだが、実際に主催側の準備には妙な余裕も感じられる。
 この島自体が、模造された街や、不自然な部屋のある警察署……といった異常なまでに手間のかかる準備がされているくらいだ。実際に常人がこんな事をすれば、何億、何兆円という資金がかかるかもしれない。
 一也は、そんな主催側の余裕に対して、五分というタイムリミットでしか首輪をこじ開けられない自分たちの余裕のなさに、ため息を吐く事になった。

(……しかし、この威力で本当に俺たちを殺せるのか?)

 一也は、机に触れた。
 机上には、熱だけが残っている。殆どこの机が崩壊した様子はない。首輪を乗せていた研究施設内の机は、わりと頑丈だ。爆発物に耐えうる仕様ではあるらしい。机そのものが異常な頑丈さを誇っているわけではない。スチール製の実験台なのだ。

(確かに常人ならば即死……しかし、俺たち改造人間がこの程度の爆発で死ぬわけがない……)

 それは甚だ疑問であった。
 少なくとも、沖一也──惑星開発用改造人間S−1は、この程度の爆発では死なない。それは自覚している。生身で大気圏さえ突破する事ができる改造人間だ。この程度の爆発は、首に大きな衝撃が走った程度にしか思えないだろう。確かに、首の周囲全体からこの爆発が来るという事を想定すればダメージは負うだろうが、スチール製の机よりかはいくらか頑丈にできている体である。
 しかし、実際広間では見せしめとして、三名の首が飛んでおり、彼らはいずれも人ならざる物であった。あれだけ丁寧に主催が解説してくれたのだから、一也も勿論爆破によって死亡するに違いない。

(何らかの仕組みがあるのは明らかだ……しかし、今の俺には突き止める事はできそうにないな……破片から何かわかればいいが)

 ……と、考えて破片を拾っていた時に部屋の外が騒がしくなってきた。
 勿論、それは当然の事だ。これだけ派手な爆発が起こった後に、心配しないわけがない。
 周囲一帯がほぼ静かな中、この部屋で首輪が爆発したのである。外から見れば、もしかすれば、中で死人が出た事を勘ぐるほどだろう。
 一也は、少し冷静な心持になる必要があった。

 一也がドアに近づこうとしたが、先に向こうからノックの音が聞こえる。

「大丈夫ですか!?」

 声が聞こえる。一也は慌ててドアを開いた。
 そこに現れたのは、一也の予想とはまた少し異なった人間だった。







 つぼみ、良牙、鋼牙の三名(と、良牙に背負われているなのは)は、階段を上っていた。
 つぼみが先導して歩いているが、目的は会議室だった。彼女も、それがある階を推定していた。灯りが点っていた一室、人影が見えた一室はそこだ。
 鋼牙が説明するまでもなく、つぼみは、自ずとその階を目指して歩いている。

「……」

 この、微妙な沈黙。
 その沈黙を生み出しているのは、鋼牙やなのはの持つ傷の重さではない。
 それだけなら、どれほどましか。──最も得体の知れない孤独が、良牙の中に感じられた。
 こうして警察署まで来たというのに、全く喜びなどといった感情を表に出そうとはしない。ガミオとの戦闘中に少し離れた時に、良牙の中で何かが変わっているような気がした。
 大人の男が持つような孤独を、つぼみより一、二年分年上の良牙が得てきたような、超然とした態度。つっけどんとした態度が、より一層強くなっている。


485 : The Gears of Destiny - 託される思い、激昂の闘姫 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:14:02 j9QAkj0U0

「……」

 つぼみは、いつ彼に声をかけるべきなのか悩んでいた。
 なのはを背負いながらも、その背に乗った重量を全く意識せず、とにかく彼は「何か」に対して思いをはせているようにも見えた。
 前を見つめてはいるが、それが悲しくも見える。正しく、より強い生き方をしているが、そこには良牙の苦しみがある。
 それに口を出す事ができないのは、やはりそれが強さであり、前向きな生き方の一つだからだ。何せ、そうして生きていかなければ人間は成長できず、大人にもなれない。
 ──しかし。放っておけない。
 過去に縛られる気持ちを、自分の中で殺しているような気さえする。

「……良──」

 意を決して、つぼみは振り返り、良牙の名前を呼ぼうとした。
 だが、まさにその瞬間だった──

 爆音!

 今日、何度それを耳にした事かわからないが、かえってそれほど小さな爆音は新鮮にさえ感じられた。つぼみはそこまで詳細には知らないが、実は、彼女の知り合いである雪城ほのかの理科実験が失敗した時、こんな爆音が響く。
 室内に閉じ込められているはずだが、外にも聞こえる銃声のような爆音。
 その小ささこそが、かえってリアリティのある危険性を示していた。──閉じ込められて、誰かが爆発に巻き込まれたのなら、それはむしろ致死に近づく物である。

「……爆発!?」

 それぞれ同じリアクションだった。
 勿論、彼らの行動は一つだ。爆心地となった部屋に向かうのである。
 三人は足並みを揃えて駆け出した。なのはも、その音に刺激を受けて目を覚ます。


 部屋はおおよそ察しが付く。察しをつけたのは、冴島鋼牙だ。
 鍛練の中で同時に鍛え上げられていった鋭敏な五感は、爆発が起こった一室を特定する。
 良牙がドアを開こうと、ドアノブを捻ろうとするのを、つぼみが制した。
 バックドラフト現象という、どういう原理で起こるのかも忘れてしまった現象が頭をかすめたのである。とにかく、あまり咄嗟に開けてしまうのは危険に思った。

「大丈夫ですか!?」

 ノックして、相手に訊くところから始まる。
 その時、ようやくドアのノブが向こうから回った。







 勿論、この静寂の中で爆発音が気にかからないわけもなく。
 自ずと、研究施設の前に、人だかりができた。つぼみ、良牙、鋼牙、なのはの次から現れるのは、美希、孤門。
 それから、少し遅れて、ヴィヴィオとクリスが階段を駆け上って来た。

「うぅ〜……痺れた〜……爆発があったのに〜……」
『(トボトボ)』←ヴィヴィオのまねをしてかたをおとしている

 正座をしすぎていたせいでの足の痺れで、ヴィヴィオが歩けなくなっていた。
 爆発の音にさっさと向かおうとしていたヴィヴィオを襲った足の痺れは、この時、七人分の視線を浴びるヴィヴィオは恥ずかしさで耳まで真っ赤になり、少し体を縮めずにはいられなかった。
 日本ならともかく、あくまで、養母が日本人のヴィヴィオが十分も正座に耐えられるわけがない(日本人ですら危うい)。黙想は恰好だけだったのである。

「……驚かせてしまったか」

 しかし、気恥ずかしいのは一也も同じだった。自分の失敗の瞬間に、これだけ大量の人だかりができて恥ずかしくないはずもない。
 特に何の心配もない状況ほど、こうして注目を浴びるのが羞恥であった。一也もヴィヴィオもそれを感じていた。


486 : The Gears of Destiny - 託される思い、激昂の闘姫 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:14:21 j9QAkj0U0

「いや、すまない。……あまり大きな心配はいらないんだ。首輪の解体に失敗してしまって……」

 何となく、そんな事だろうとは思っていた美希と孤門は、ほっと胸をなでおろす。
 その首輪の威力が心配だったのだ。流石の一也も危険なのではないかと。しかし、どうやらそれが杞憂で、使ってしまったのは時間だけだったと知るや否や、すぐに美希が口を開く。

「……つ、つぼみ?」

 ふと目に入るのは、花咲つぼみの姿であった。
 彼女は、目をぱちくりさせて少し考えた後、すぐに美希に気づいた。

「鋼牙さん、それに……」

 見覚えのある少女がもう一人。
 それは、ここにいる全員がある出来事から知っているはずの少女だった。

「……あなたは」

 その風貌、間違いなくダークプリキュアと呼ばれていたはずの少女だ。
 美希は言葉に詰まった。会話をしていいものなのか、少しの悩ましい。声をかけるのとかけないのとでは、些か障壁のようなものがある。彼女とは一時和解したかに思えたが、それは幻に過ぎなかったらしいのだ。フィリップによると彼女は心を入れ替えたらしいが、その言葉だけで信用できるものではない。良牙が横から口を挟む。

「俺は響良牙だ。そして、こいつは──」

 良牙は自分の名前で言葉を詰まらせたと勘違いしたのであろう。
 美希と初対面で、自己紹介から始めるべきに思った彼は、すぐにそう口にしたのだ。
 ただ、美希は勿論、誰も良牙の姿を注視しているわけではなかった。

「こいつは、月影なのはだ」

 そして、その場がどよめき、少し訝しげな表情を見せていた。美希、孤門、一也は眉を顰め、彼女を注視する。
 視線が突き刺さるも、なのはは同じ視線で弾き返す。
 それは決して相手を威嚇するようににらみつけている意図ではなく、相手に何を問いかければいいのか思案している目であった。

「ええーーーーっ!!」

 その気まずい空気をぶち壊すかのようにひときわ大きい声をあげてその名前に驚愕するのは、高町なのはの娘であった。







 月影なのは──その名前は、明堂院いつきが名付けたものであったが、当の高町なのはの家族である高町ヴィヴィオがそれを了承するか否かは、やや難しい問題であった。
 それは高町なのはたっての願いが、遠回りで巡り巡って通じた結果だ。
 そんな事は誰も知る由もなく、ダークプリキュアが名を改めた理由も、はっきりとわかるはずもなく、そのドラマを詳細に語れる者ももういない。
 明堂院いつきも、池波流ノ介も、勿論高町なのはも死んだのだから。

「月影、はわかるとしても……なんで、なんで……ママの名前が!?」

 怒りというよりは、ただただわけがわからず茫然とするヴィヴィオ。
 感情に支配される事もなく、頭にハテナが浮かぶばかりだ。隣でクリスも耳を垂れている。

「……いつきを知ってるよね」

 なのはは、顔を少し下げながら、暗い面持ちで言った。
 ヴィヴィオに顔を向ける事ができない気持ちと、いつきを喪った悲しい気持ちの二つが、目と目を見せ合っての会話を無意識に避けさせた。
 誰もが、ダークプリキュアだった彼女と全く違う声のトーンや言葉遣いに奇妙さを覚えただろう。


487 : The Gears of Destiny - 託される思い、激昂の闘姫 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:14:42 j9QAkj0U0

「はい」
「……彼女が名付けてくれたんだ。友達の名前だって」

 高町なのはとダークプリキュアは一切面識がないため、「なのは」の名前に込められた意味は知らない。ただ、花咲つぼみだけは、その花の花言葉もよく知っていた。いつきも知っていたのかもしれない。
 友達の名であり、意味の通った名でもある「なのは」。
 当人は一切知らないが、ヴィヴィオにとっても極めて複雑な気持ちが宿る。

「……」

 ヴィヴィオやフェイトが、「クローン」であった事。
 目の前の少女も同じく誰かの「クローン」で、オリジナルが同時に存在してしまった事。
 境遇に微かな違いはあれど、彼女はそこに自分を重ねざるを得なかった。
 ヴィヴィオとダークプリキュアは表裏一体。──似通った境遇である以上の、責め難さ。
 自分自身の影が目の前にいるような気分で、安易にダークプリキュアを責められない部分があった。
 ましてや、その「影」さえ過去の事だったというのなら。

「あの時は、ごめん……。許してもらえるかどうかは、わからないけど……いや、許してもらえるなんて思ってはいないけど……あの時の事を、謝りに来た……」

 その言葉には深い感情が込められており、だまし討ちを狙っている間さえもそのプライドを折らずに仰々しい口調を貫いたダークプリキュアらしからぬものがあった。
 だからこそ、それは確かに「変わった」彼女であると印象付けてしまい、その結果、ヴィヴィオの口を余計に封じさせた。
 彼女を許したくなる気持ちが強くなる。
 アインハルトを殺した事も、自分の首を絞めた事も、母の名を名乗る事も──全部ひっくるめて。

 ……ただ、それ自体はもしかしたら、もっと早く許せたのかもしれないと思った。
 たとえ、どんな形であっても、彼女が反省しているのならば、許せたのだろう。

 いや、しかし。──何故か、引っかかる。

 口調の違いが、かえってヴィヴィオの中で引っかかる形になったのである。
 それが、果たしてあの時のダークプリキュアだと言えるのか──。
 心まで全く入れ替わってしまったならば、正真正銘全くの別人で、ダークプリキュアという人は、その行動を反省する事もなく逃げおおせたのと同じような気がした。
 それは些細な物に見えて、重大な問題であると言えよう。ダークプリキュアの根幹にあった物は、消失したのか、否か──それを知ったうえでなければ、「アインハルトの殺害者」を許す事にならない。
 ヴィヴィオは、ぐっと拳を握る。

「……“なのは”さん」

 ヴィヴィオは名前を呼んだ。それは、その名前を名乗る事を認めたという意思の表れ。
 ただ、それでも「ダークプリキュア」を完全に許しきれない気持ちが、ヴィヴィオの心に靄を作る。
 アインハルトの事でも、ヴィヴィオの事でも、高町なのはの事でもない、何か。
 それを見つけ出すために、もっと一緒になる必要があった。

「一緒に、アインハルトさんがいる部屋まで行きましょう……」







 数分後。

 霊安室の遺体を、おそるおそる見る人がいた。
 それは、月影なのはに他ならない。後ろには、高町ヴィヴィオと花咲つぼみが待機している。彼女によって友を奪われた者と、彼女を許した者──この二人でなければ、バランスが悪かった。
 他の誰がここに来ても意味はない。
 この二人が揃ってここにいるからこそ、責任を逃れるわけでも、過度の責任に押しつぶされるわけでもないバランスが生まれるのだ。

 まずは、暁美ほむらの遺体だった。
 この遺体は、ヴィヴィオを“殺す”のに利用したもので、全く死者への礼儀というものを無視した結果だった。
 死してなお、人殺しに利用される者の気分は最悪だろう。
 なのはは、彼女の腕を握った。そして、祈るように目を瞑った。


488 : The Gears of Destiny - 託される思い、激昂の闘姫 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:14:59 j9QAkj0U0

 アインハルト・ストラトスの遺体は、若干十三歳の少女には惨過ぎる仕打ちが残っていた。
 ひっくり返して背中を確認しようとしたが……その時点で、気分が悪くなり、やめる。ひっくり返すには背中を触れる必要があるが、その時点で、傷がわかったのだ。
 刃物によって抉れて、ざらざらとした感触だけが残っている。サカナマルによって体の奥まで切り裂かれた少女の痛み。──自分に投影するだけで恐ろしい。

「……」

 今度は謝罪の言葉を引き出す事さえできなかった。
 遺体の耳は、生者の言葉を通してくれるのだろうか。死んだ人間は、喋る事はできない──それでも、こうして遺体が残っている限りは「聞いて」くれるのではないか。
 ふと思って、やはり声に出す。
 その遺体の耳元に唇を近づけて、「ごめんね」と、涙混じりの声を一つ。
 それは、決して届かないかもしれない。届かないとしても、届くかもしれないならば……。

「あの……“なのは”さん」

 ヴィヴィオに呼びかけられて、彼女は振り返る。

「アインハルトさんの命を奪った事……これは責めなくても、もう反省していると思います。この場合、『充分反省する』なんていう事はないかもしれないけど、でも……反省しようとしている事自体は、私も認めます。だから、それについてはこれ以上責めません……責められません」

 震える声でヴィヴィオはなのはに告げる。
 そう、責めるに責められないのが現状だ。責めたところでどうにもならない。
 ダークプリキュアは死んでしまった。憎しみというものは乗り越えられる。──ずっと一緒にいた孤門一輝は、孤門の恋人を殺害した溝呂木眞也の事を殺しはしなかったらしい。
 それを聞いて、憎む心だけは持たないようにした。

「私もいつきさんがあなたにあげた優しさを無駄にしたくはないんです。アインハルトさんも、きっと……」

 許してくれるだろう、とヴィヴィオは思った。
 それでも、何かが腑に落ちない。
 今のダークプリキュアの姿には、かつての仰々しく傲慢に満ち溢れた姿が微塵も感じられず、それは彼女の更生の証だろうと思えた。
 だが、それこそが変だった。
 人の心がこんなにもあっさりと、全く正反対の人格になる事があるのだろうか。──それがあるというのなら、それはかつてのダークプリキュアと同じ人だといえるのだろうか。
 その辺りがヴィヴィオの中ではっきりとしなかった。

「……だけど」

 そう、わからないなら確かめればいい。
 確かめる術はただ一つ。──そう。なのはたちの会話の仕方。

「それでも、決着はつけないといけない。私と一度、戦ってください、“なのは”さん。私はあなたの事をまだよく知らないから、今は──そうしなきゃならないと思うんです」

 戦い。スパーリングのような一戦で、彼女は“なのは”を確かめようとしていた。
 わけがわからないといった様子で、つぼみが止める。

「な、なんでですか!? 一緒に手を取り合うんじゃ……。それに……! “なのは”は……」

 慌てふためくつぼみ。勿論、つぼみはなのはが今、特殊な重病に侵されている事をよく知っている。今は多少元気な姿を見せているように見えても、またいつどうなるかがわからないくらいだ。

「待って。つぼみ」
「なのはさん!?」

 止めるのは、“なのは”自身だった。

「やろう、本気の一戦。……私といつきも、そうやってお互いを理解し合った……だから、今もそうして、この子と戦いたい」

 彼女が自らの体の痛みを耐え抜いている事は明白だった。
 ヴィヴィオは気づかず、つぼみはそれを告げる事ができなかった。……それは、かつて仮面ライダーエターナルと仮面ライダーZXの戦いを止められない時のもどかしい気持ちにそっくりだ。
 戦いたくないつぼみには、こうした思考は理解できず、そして何より止めたいものだった。
 戦いを止めようとする心さえもエゴの一つであるように、つぼみは思ってしまうのだ。
 彼女らを生かすにもまた、戦いという名の毒が必要なのかもしれない。






489 : The Gears of Destiny - 託される思い、激昂の闘姫 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:15:39 j9QAkj0U0



 ワックスが隅々まで塗り込まれた、木製フローリングの床の上。少し跳ねると、音が鳴る。体育館でバスケットボールをすると、どうしても五月蠅い音が鳴るのと同じで、これは床の性質上避けられない物だろう。
 二人は、ぐっと、全身で床を踏み込んでいる。指先で床を噛みしめ、上半身からもその地に立つだけの力を送る。体制、構え……完璧。そのまま互いの目と目を見ながら、一斉に声をあげた。

「セイクリッドハート・セットアップ!」
「プリキュア・オープンマイハート!」

 セイクリッド・ハートがヴィヴィオの中に閉じ込められる。ゆっくりと一つになったプリキュアの種がココロポットにはめ込まれる。
 ヴィヴィオの体は体格を変化させ、なのはの体は紫の衣装に身を包んだ。
 次の瞬間には、二人は全く別の姿になって対峙していた。
 大人モードのヴィヴィオと、キュアムーンライトに変身したなのは。

 親子対決……といきたいところだが、ここにいるのは高町なのはではなく、月影なのはという全く別の存在である。
 一対の戦士が戦う理由は、ただ一つ──「分かり合うため」だ。
 ヴィヴィオは、まだ目の前の少女の事をよく知らない。わかっているのは、相手の過去、ヴィヴィオの親友の命を奪った事や、母の名を受け継いでいるという事。心を入れ替えたというが、その想いは果たしてどんな物なのか。
 決着は必要だ。
 ヴィヴィオの中に蟠りがあってはならない。ヴィヴィオの中に在るこの不満と思しき感情を払拭するには、相手を理解する必要がある。
 それを、始める。──“なのは”も受け入れた。

「ストライクアーツ、高町ヴィヴィオ……行きます!」
「月光に冴える一輪の花……キュアムーンライト、月影なのは……参る!」

 花咲つぼみが見守る中で、二人は目の前に踏み出した。目の前の相手に突き出されていく拳、それがぶつかる瞬間を見届ける。
 なのはの体を流れる猛毒の力を危ぶみながら……しかし、何もできずに。
 何故、こんな事をしなければならないのかは理解できなくとも──それでも、止める事はできないままだった。







 会議室。
 冴島鋼牙は、元レスキュー隊である孤門によって、傷の応急的な処置をなされていた。
 孤門は意外と手際よくそれを行っている。一見すると不器用そうで──実際その通りではあったが、応急手当に関しては彼も専門としている。
 傷口は、勿論、念のためとばかりに消毒されている。が、この毒が一般の傷薬に殺されるとは思えなかった。孤門も、その点においては悲観的だ。たとえ医者であっても、原因不明の痛みや病は手の施しようがない。ましてや、孤門のように、医療に関して詳しいわけではなく、次の作業を医者に任せる架け橋的な存在がそれをどうにかできるわけがなかった。
 鋼牙も、そろそろどうにか動かなければならないと思っていた。

「……すまない。不覚だった」

 鋼牙はあまり素直に礼を言うのが得意なタイプではない。Thank youではなく、Sorryで感謝の気持ちを表現してしまう。目も合わさず、しかめたままの面持ちだ。これは無礼と言えるだろう。孤門は包帯を巻きながら、全く気にしていない風に返す。

「……いえ」

 当の孤門自体、何を謝っているのかわかってない、という感じだ。孤門はとりあえずそう適当な返事をしただけである。包
 帯を巻き終えたのを見計らい、鋼牙は立つ。腰に剣を携え、いつもと同じく彼は使命に殉じる事ができる「魔戒騎士」としての歩みをまた始めようとしていた。
 死亡までの期限がわからない病に、些かの焦りがあるのは確かだった。
 孤門や、そこにいる他の全員に告げる。

「もし、ここに零が来たら伝えてくれ。……いずれ帰る、と」

 そうして脇目も振らずに去っていこうとする鋼牙。あまりに自然で、一見すると何の非も見当たらないような動作に、そこにいる誰もが茫然と見送りかけた。
 ……が、慌てて一也は立ち上がる。


490 : The Gears of Destiny - 託される思い、激昂の闘姫 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:16:00 j9QAkj0U0

「待つんだ……どこに行く!?」
「あの怪物のもとだ」
「無茶を言うな、本当に猛毒だったら戦える体ではないんだ……」
「それなら尚の事、時間がない」

 鋼牙の言葉はまるで棘のようだった。
 一刻も早く、この体内に潜む何かを消し去らねばならない。無茶をやりにいくのではないのだ。これから果たすべき使命がいくつもあるから、こうして何もせずに待ち続け、得体の知れない毒物に侵されるわけにはいかない。──そして、その苦しみを持っているのは自分だけではなく、もう一人いるという事を忘れていないからこそ、鋼牙は進もうとしていた。
 その判断は鋼牙自身、適切であると思っていた。

『いや、鋼牙、この兄ちゃんの言う事は間違ってないかもしれないぜ……』

 だが、ザルバが鋼牙の意とは異なる判断を下した。いや、ザルバ自身、どちらにしようか迷っていた最中だったが、とどまる方を取るように決めたのだ。
 放送までそう時間があるというわけではなく、このまま待つだけの時間はあると思った。安易な単独行動よりは、今はここにいた方がいい。

「様子見という事か?」
『今は何とかなってるだろ?』
「今はな。いつどうなるかもわからん」

 冷静に見えて、内心では少し逸る気持ちもある。毒というのは、気づいた時には急激にその体を蝕むものだ。だからこそ、鋼牙はザルバの言葉を無視して、なお会議室の出入り口に体を向けたままであった。
 だが、少しだけ迷った後、それを押し切るように進行方向を変え、乱暴に椅子に座った。
 流石の鋼牙にも、言い知れない焦燥感が生まれていた。







 激突──。

 ヴィヴィオの右掌がキュアムーンライトの胸へ。
 キュアムーンライトの拳がヴィヴィオの顔を捉え、真っ直ぐに延ばしている所へと、ヴィヴィオの掌が一瞬早く到達した。
 時が止まったか、ゆっくりでも進んでいるのか──それさえわからない一瞬の隙。空気は揺れ動き、波を作ってキュアムーンライトの体を押し出す。
 そこで初めて、それが一撃として機能する。

「ぐぁっ……!」

 そう、確かな手ごたえ。
 ストアライクアーツをやってきた少女が何度も身に宿してきた快感が、また腕を伝って脳に行き届いた。この高揚感、この楽しさ──それは確かにストライクアーツだった。
 キュアムーンライトは後方宙返りし、両足をついて地面に着地する。しかし、まだバランスは保たれていない。
 そこへ、もう一度、ヴィヴィオが踏み込んだ。


491 : The Gears of Destiny - 託される思い、激昂の闘姫 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:16:17 j9QAkj0U0

「リボルバー……ッ!!」

 地を蹴り、空で上体を捻る。空中からキュアムーンライトの上半身に目標を定める。
 体を更に捻ると、足元は自然と前へ出た。
 なのはは、顔の前で静止するヴィヴィオの全身を見上げた。高すぎるジャンプ力で、次の一手が始まろうとしている。

「スパーーーイクッ!!」

 ノーヴェが放つ技と全く同じ、おそらくは彼女から受け継がれた技。
 ジェットエッジがないため、所謂名前と形だけの技だが、当たり所が良ければ相手の体力を大きく削る事が出来るとび回し蹴りだ。
 しかし、その直前に、キュアムーンライトは一瞬にして姿を消す。ヴィヴィオの脚が宙を掠めてるなり、彼女が姿を消した先がわかるようになった。

 ──ヴィヴィオの上。

 キュアムーンライトは、落下しながら蹴りを叩き込もうとするヴィヴィオに対して、回避運動として真上に跳躍したのである。アーチを描くように、ヴィヴィオの真後ろへと着地。
 そこから、キュアムーンライトは拳を突き出す。

「はぁっ!!」

 キュアムーンライトの拳もまた、確かにその感触を確かめていた。

「あーーーーっ!!」

 拳はヴィヴィオの背中に殺到。バランスを崩して、転がっていく。
 どんがらがっしゃん、と。
 数十キロのダンベルが台から落ちるも、その下で巻き込まれたヴィヴィオは無事だ。つぼみとしては、その轟音だけで心臓が止まりそうになるほどたったが、今のヴィヴィオの体は鋼のようだと言っても過言ではない。
 必殺技を華麗に回避し、真後ろから次の一撃を放つ彼女の戦闘力の高さに驚きながらも、転がった先でヴィヴィオは高揚感に打ちひしがれていた。
 そう、これだ──。相手も決して弱くない。手加減抜き。これでこそわかる。

「……っく、いたたたたたたたぁ……」

 流石にソニックシューターのような技は、この場ではつぼみを巻き込むし危険だ。
 手加減抜きとはいえ、考えながら相手を倒す方法を考えねばならない。
 埃を払うように足を叩く。そして、再び腋を締めて構え、ムーンライトに目を送る。
 その瞳は、不思議と笑顔に溢れていた。

「次ッ!!」

 そう高らかに叫ぶと、またヴィヴィオは惜しげもなく前に出る。
 彼女は相手の攻撃を恐れずに前に出て撃ち込むカウンターヒッターだ。ここで倒れてもまた前に出る。
 相手の出方、相手の戦法、相手の思いを受け止め、それを学習して戦闘する。

 ヴィヴィオもすぐにムーンライトの戦闘の仕方を理解する。ダークプリキュアの時とあまり大きくは違わない。
 おそらく、相手方は身軽で華麗、余裕を持った無駄のないファイトスタイルを使っている。少なくとも、今までは──。
 しかし、そのファイトスタイルを切り崩すのがまず最初にやるべき事だ。
 相手に余裕を持たせない。ヴィヴィオのスピードを活かして、相手の感情を高ぶらせる。
 それで、初めて相手の本当の感情が拳に乗ってくる。ヴィヴィオ、前進──。

(──喰らえぇっ!!)

 距離が縮むと、魔力を込めた右腕をムーンライトの顔に向けて放つ。
 それもムーンライトは疾風のようなスピードで回避。ムーンライトの左頬を掠める右拳。
 右腕を強く引き、左足を上げる。

「はぁっ!」

 次の動作を見越したうえでの突撃だ。
 ムーンライトの回避は、今回真横に体を傾ける事で成功している。
 だが、その時の回避の勢いを利用するのだ。ムーンライトの右目の横に一瞬できた「死角」から魔力を込めた左足が現れる。
 弾丸のような左足の魔力がムーンライトのもとへ、引き込まれていく。

「なっ!?」


492 : The Gears of Destiny - 託される思い、激昂の闘姫 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:16:36 j9QAkj0U0

 それはムーンライトにとっても予想外だ。
 咄嗟に顔を守ろうと出てきた右手が縦になる。そこへ魔力の込められた左足が叩き込まれる。その足技が骨に響く。腕の付け根まで電撃のような感覚が走り出す。
 手ごたえがあった。音も、乾きすぎてもおらず、湿り気もない、見事に決まった時の快音だった。
 そこからまた、引いた右拳をムーンライトの顔の前に突き出す──。

「……っ!!」

 思わず、顔をガードすべく両腕を顔の前に組んでしまうムーンライト。
 しかし、その組んだ両腕の前を、ヴィヴィオの右腕が横断──ヴィヴィオの右腕は、真っ直ぐにその顔に叩き付けられると見せかけ、カーブを描いて転回したのだ。
 いや、動いているのはヴィヴィオの右腕ではない。
 ヴィヴィオは、全身を動かすための勢いをつけるために右腕を前に出したのだ。

「はぁっ!!」

 ヴィヴィオは、彼女の眼前で跳んでいた。全身で螺旋を描くような廻り跳び。──次に来るのは、回し蹴りか。
 それに気づいた瞬間、慌ててムーンライトは体を切り崩すが、その瞬間には、空中で一回転したヴィヴィオの左足はムーンライトの首に巻き付いていた。髪を巻き込みながら、ヴィヴィオの長い脚はムーンライトの首を半周する。ムーンライトの首をその長い脚で締め付けたヴィヴィオは首輪の冷たい感触を感じていた。
 そのまま、自由落下に任せ、ヴィヴィオが直立に着地──するならば。

「うわっ……!」

 ──当然、ムーンライトの体は立ってはいられない。その瞬間の音は筆舌に尽くしがたい。顔を打ち、胸を打ち、腹を打ち、足を打つ。全身が床板に叩き付けられ、倒れる。
 無論、それですぐに立つ事ができる状態ではなかった。
 ムーンライトの体の中で痛みや体温が高まっていく。……それは、病人の限界だった。
 ヴィヴィオの本気にノックアウト。今はひとたび水を飲みたい気分だったが、それも許されない。

「決まりっ!」

 その一撃を浴びせたヴィヴィオは、そのままバックステップで数歩後退する。
 ダウンした相手に追い打ちをかけるのは、武道家としてのルールに反する。どんな時もフェアプレイがストライクアーツをやる者の信条である。
 ゲームが終わるのは、カウントテンでも起き上がらないような状況の時。
 いや、しかし。ムーンライトは立つと、ヴィヴィオの武道道としての勘が告げている。

「……はぁ……はぁ……」

 そして、朦朧とした意識で一人立つのは、キュアムーンライト。やはりヴィヴィオの睨んだ通りだ。彼女はそう簡単にやられるような人間ではない。
 いや、こここそが始まりだ。彼女もここからは本気で来る。違いない。

「……っく、なかなかやるな」

 その予感通りだった。ムーンライトは立ち上がった。
 その言葉や、敵を強く睨みつける表情は、かつてのダークプリキュアの姿を、ほんの少しでも重ねさせた。

「この言葉遣いは……!」

 つぼみは戦慄する。まさか、今の衝撃で、どこかに眠っていたダークプリキュアが覚醒したのではないかと。
 彼女の中に在る闘争心や憎しみを刺激してしまったのではないかと。

「……だが、楽しい。……いつもこんな事をやっているなんて、羨ましい奴だな」

 そんな不満をよそに、彼女はそう言って笑った。
 その笑みは、人形の瞳ではなかった。屈託のない、人間の少女の表情だった。
 まるで不作法な不良娘のような口調であったが、いや決して、悪い人間の笑顔ではなかった。

「誰でも練習すればできますよ。魔力はないかもですけど……代わりに、プリキュアの力が……。でも、うーん……競技上、ありなのかなぁ……」
「……興味がある。ここから帰ったら、少し話を聞かせてもらおうか」

 ヴィヴィオだけは、わかっているようだった。
 なのはの口調が、ダークプリキュアの時に戻っている理由にも。


493 : The Gears of Destiny - 託される思い、激昂の闘姫 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:16:56 j9QAkj0U0

(どういう事……? まさか……)

 傍観していたつぼみも、ふと思い出した。
 それはまさしく、他のプリキュアたちが行ったハートキャッチミラージュの試練に似通っていた。鏡の中に在る己のコンプレックス、裏面、劣等感、弱さとの戦い。

(最初から消えていたわけじゃなかったんですね……なのはは、プリキュアであるために押し込めて……)

 彼女の強さ、彼女の弱さ。──それは、しっかりと向き合っていくべきものだ。自分の中の弱さを抱きながら、それを糧に成長していく事だってできる。
 繊細で引っ込み思案なら、そのぶん傷つく痛みを知って優しくなる。悪に手を染めた人間なら、悪の道を突き進もうとする若者の気持ちを汲んで、変える事もできるだろう。
 月影なのはとなった彼女は、ダークプリキュアとしての全てを切り離したわけではないのだ──その感情とも向き合って生きて、それで強くなっていかなければならない。

(……眠っていたんですね、なのはの中にも影が)

 なのはは、自分で気づいていないのか、それとも必死に押し込めていたのかわからないが、自分の中にまだ『ダークプリキュア』を眠らせていたのである。
 それにつぼみは気づかなかったのだ。
 なのは自身も、それを周囲の人間にも自分にも隠し通すストレスを振り払ったらしい。
 直感的に、その気持ちよさを理解しているのだろうか。

「二人とも……! む、無理せずに頑張ってください! フレー、フレー! 二人とも!!」

 確かに、なのはの口調は、つい先ほどまで、本来の彼女と全く異なった清楚で穏やかな物だった。父親の愛を早くに獲得していたならば、ああいう口調が自然だったのかもしれないし、彼女の中の優しさが口の中を通り抜けていた。
 しかし、自己の存在や父性に悩み、ダークプリキュアとして行動していた過去もある。その時間がある。彼女の心は、時間は、あの言葉はどこに消えたのだろう。それは彼女自身の弱さであり、いずれ克服すべき物であったかもしれないが──消えてはいないのだ。
 心の中で、かつての彼女のような気持ちが『消さないで』とささやいていたのかもしれない。──そう、それはつぼみ自身の引っ込み思案で内気な心が、かつて語り掛けたように。
 彼女の気持ちは今、彼女の中で覚醒しているのだ。

「行くぞっ……! ヴィヴィオっ……!!」

 ヴィヴィオは、ムーンライトのその姿を見て、思わず笑みをこぼした。
 明堂院いつきがキュアサンシャインになる時、その言葉は変わった。それと同じように見えた。
 表に出ている自分と、仮面の下にある自分は表裏一体。──いずれも自分自身。

「はいっ!」

 被っていたペルソナを破壊した、理性のない本心が飛びかかってくる。悪役のような口調でもあるが、それは確かに、彼女自身の持つもう一つの感情を体現していた。
 これも彼女が彼女らしくいる為に消してはならない物なのだ。彼女は、自分自身が変わった証として、その乱暴な言葉をおしこめていた。それがいつか、消えるまで──おそらくいつか消えるものだろうと思っていたのだ。
 しかし、時折、彼女自身の表に出ない思考は、「ダークプリキュア」の時と同じだったのだろう。

「はあああああああああああああああああっっ!!」

 今は一切の嘘偽りなく、彼女の中の想いがぶつかってくる。
 ヴィヴィオは、真っ直ぐに自分のもとへと吸い込まれてくるパンチを前に両腕を開き、翳す。

「梅花──っっ!!」

 沖一也より教わった梅花……の真似事。
 梅の花は真っ直ぐな拳を包み込み、やがて緩和する。しかし、いくら学習能力が高くとも、その要領を一昼一夜で掴む事ができないヴィヴィオは、クリスの防御特化の性質を活かして、魔力で敵の攻撃を封じ込めながら、梅花の型を発動していた。

「なっ……!? ……くっ。だがっ!!」

 防御の姿勢をされたからといって、ムーンライトもその一撃を今更ひっこめる気はない。
 月光に冴える花のパンチを、梅の花が包み込む──それは異様な光景であった。


494 : The Gears of Destiny - 託される思い、激昂の闘姫 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:17:14 j9QAkj0U0

「はああああああああああああああああああああああああああっっ!!」
「はああああああああああああああああああああああああああっっ!!」

 相手を倒そうと──炸裂。
 技を防ごうと──爆発。
 二つの技は、一つの青白い光となって爆ぜる。直後には埃のような煙が二人を包んでいた。つぼみが見届けるべき勝敗も、ひとたび風の中に消える。
 どちらが勝ったのかは定かではない。
 否、この瞬間に勝敗が決したのか否かも判然とはしていなかった。
 しかし、だんだんとその薄い霧は晴れていった。

「くっ……!」

 ムーンライトの姿が見える。
 ムーンライトは周囲を見回しながら、敵の居所を探っていた。──真横から見ているつぼみには、ヴィヴィオがどこにいるのか、すぐにわかった。
 おそらく、ぶつかった直後に出た煙幕そのものが、ヴィヴィオの魔力の残滓によるものなのだ。この空間には破壊された物が一切なく、煙が現れる事などありえない。ムーンライトの攻撃を防御するために放出された魔力が宙を漂い、埃を巻き込んで視界をぼやけされているのである。
 それならば、初動はおそらく、魔力に精通したヴィヴィオにある。

「はあああああああああーーーっっ!!」

 そして、ヴィヴィオがいるのは、────上だ。

 右腕と表情以外、ヴィヴィオの体の全ては脱力状態だった。
 空中でまた、右腕だけを退いて、パンチの体制に入っている。
 それをムーンライトが、掛け声を聞いてようやく目視する。──回避行動が間に合わない。
 ヴィヴィオの体が近づいてくるのを、ムーンライトは敗北を確信しながら見つめ続けるしかなかった。

(これで、あなたの罪が清算できるのか、わからないけど……!)

 放つのは、そう──共に戦ってきた親友の技の真似事。
 彼女の断空をそのまま真似する事はできないかもしれない。しかし──彼女と共に水場で訓練した時のあの感覚を思い出す。
 研ぎ澄まされた五感が、真下のムーンライトに当たるタイミングで振り下ろす。

(“なのは”さんを恨むなら、この時……これが最後……! だから……!)

 ヴィヴィオの体が回転していく。



「 聖 」

 ──脱力した静止状態から

「 王 」

 ──足先から下半身へ

「 断 」

 ──下半身から上半身へ

「 空 」

 ──回転の加速で拳を押し出す

「 拳 ──ッッ!!」



 目の前の少女がかつて奪った命の分の重さは、ムーンライトの胸部にぶち当たった。それだけで充分な痛みが伝わってくるが、二次的に閃光とともに、熱い魔力の残滓がなだれ込むようにムーンライトの呼吸を乱す。
 全身が圧迫されるような感触とともに、ムーンライトの体でプリキュアの衣装が燃え尽きていく。胸元をはだけ、スカートが風に消え、服が生々しく破けて肌が露出されていく。
 胸元と下半身は大事な部分だけは露出しないように綺麗な感じで破け、ムーンライトは地面に落ちた。


495 : The Gears of Destiny - 託される思い、激昂の闘姫 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:17:34 j9QAkj0U0

「プ、プリキュアの衣装って、……大ダメージを負ってもあんな風にはならないと思うんですけど……」
『It’s in the specifications.(仕様です)』

 マッハキャリバーの冷静な一言に納得しそうになるが、考え直して、つぼみはすぐに返す。

「い、いや……そんな仕様ではないはずで……!」
『This time only.(今回だけです)』

 細かい事は気にするな、とばかりにマッハキャリバーが言った。







「ありがとう……ございました……っ!!」

 子供の姿に戻ったヴィヴィオが挨拶したのは、倒れたなのはの眼前だった。
 そんな近くにまで来たのは、彼女に手を差し伸べる為だった。倒れ、起き上がる気力を失っている彼女に向けて右手を差し出す。

「……はぁ……はぁ……」

 ぼろぼろの胸元を隠しながら変身を解く。流石に変身前の衣服までは変わらなかった。
 なのはは差し出された右手に重ねようと、右手を前に出す。

「ありがとう、ござい……」

 戦いの後の挨拶。──それは基本だが、その後に言葉が出なかった。
 いや、言葉を出す事はできるのだが、その言葉を言い終える直前に、彼女にとって意外な事が起きてしまった。
 右手を前に出すと同時に、上体が真後ろへ倒れたのだ。
 頭の中が真っ白になり、視界がぼやけ、自分が何を言いかけていたのかさえ忘れ去った。

 ──倒れる。

 ただ、後頭部がフローリングの床に叩き付けられて大きな音を出すまでに、その事だけは考える事ができた。







 なのはの顔は酷く紅潮し、大量の汗に溢れていた。苦痛にゆがみ、息も切れ切れ。
 戦闘後のただの疲労には思えない。──そう、これは言わば高熱を患った人間の姿だ。
 それも非常に危険で、この状態で彼女が戦っていた事実にヴィヴィオは愕然とする。
 つぼみが、少し口惜しそうに言葉を開いた。

「なのはは、この前の戦いから……少し、調子が悪くなっていたんです」
「そ、そんな無理までして……」

 慌てるヴィヴィオだった。自分が事情も知らずに彼女を戦いの場に借り出してしまった事が原因なのかもしれないと、責任を感じているだろうし、同時に自分の体調よりもヴィヴィオの要望を聞いた彼女の愚直さに辟易しているようだ。
 しかし、そんな、どう声をかければ迷うヴィヴィオに対して、その少女は優しい笑みを浮かべた。

「いいんだ……ヴィヴィオ、今の試合、楽しかっただろう?」

 ヴィヴィオは、それを訊かれて少しだけ躊躇った。
 楽しかったのは確かだが、それをこんな時に言っていいのか、……迷ったが、やはり、嘘はつけなかった。

「……はい」

 今の試合は、アインハルトとの戦いの時に感じたあの高揚感を再び蘇らせていたのだ。


496 : The Gears of Destiny - 託される思い、激昂の闘姫 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:19:26 j9QAkj0U0
 本気と本気、それぞれの全力全開がぶつかり合って、それが心を伝え合ってくれる。
 それを確かに感じさせる一戦だった。かつてダークプリキュアであった人の素直なパンチが自分の前に突き出されるたびに、心にも刺激を受ける。
 楽しい。
 そう感じられるのは、決して嘘偽りがなく、悪意や手抜きも許されない戦いだったからに違いない。

「私はそれでいい。ただ人形のように生きるより、自分で楽しい事をして終わるなら……これでいい……いや、これ『が』いいと思うんだ……」

 人形だった少女は、人間になれた。それはもっと前の話だったが、確かに今、何の隠し事も封印もなく、ただ素直に優しく生きられた時、本当に最高の人間になれたのだ。
 穏やかであるだけが、人間ではない。
 何にも媚びず、ありのままの自分で人と向き合う事ができる自由を持ってこそ、彼女は人間になれたのだ。

「つぼみ……。私はプリキュアになれたんだな……」
「はい……。自分自身の弱さと戦って、認めて、進んで、変わって、強くなって、優しくなって……あなたは……立派なプリキュアでした」

 ……そして、人間だけではなく、本当のプリキュアになる事もできた。
 わずかな間でもプリキュアとして共に戦えたこの時が楽しかったのである。

「……じゃあ、友達として、プリキュア仲間として、最後に一つだけお願いだ……」

 なのはは、つぼみの目を見て、最後に一言──

「殺し合いじゃなくて、互いに生かし合えるような未来の為に……!」

 ──彼女の心に生まれた、新たな願いを告げる。

「この戦いをぶっ潰して……!」

 目を開ける事もなく、何も言わなくなり、人形のように消滅してしまう事もなかった。
 ほんのささやかな、小さな幸せを得る事ができた、一人の人間の亡骸がそこにあった。







 彼女はその場では、最後まで仮の名前でい続けた。
 月影なのは。──友達から授かった名前は、遠く繋がっている一人の少女と同じだった。その名前は悪くない。



 しかし、忘れてはならない。
 彼女に、『絶対』の名前を付けようとしたたいせつな家族がいる事を。
 七歳の純粋な少女のような心に退化しながら、体に強い傷を負いながらも──大切な妹のために、最後にその名前を決める未来を描いた少女の事を。
 これからは、小さな幸せではなく、もっと大きな幸せを待たなければならない事を。



 ……ふと、誰かが後ろから声をかける。
 ああ、そうだ。この人が名前を呼んでくれる。
 その名前を聞かなきゃならない。本当の名前を決めてくれても、これまでの名前と合わせて大事にする。

 ああ、聞こえる。素敵な名前が。……いや、少しセンスがずれているような気がする。意外とおかしな名前をつける人だと思えてならない。
 この名前と一生付き合っていくのは少し、うーん……。

 ……いや。
 それでもいいか。

 そこに名前がある。命に一つの名前がある。それが「個」である証だ。
 それが嬉しい。私はクローンじゃない。一人の人間なんだ。
 本当のその人に、それを認めてもらえた事が嬉しいんだ。
 だから……。



 ……名前を、ありがとう。



【ダークプリキュア/月影なのは/****@ハートキャッチプリキュア! 死亡】
【残り17人】






497 : The Gears of Destiny - 託される思い、激昂の闘姫 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:19:46 j9QAkj0U0



 ──主催側の人間は、間もなく終わろうという一日に、息をついていた。

「また死んだ、か……」

 また、一人画面上で死んだ。
 ダークプリキュア……マーダーとして殺し合いに投入されたが、結果的にスタンスが二転三転。このゲームの中でも、特に高いドラマを持った少女だっただろう。
 しかし、残念ながらもうそのドラマは終わった。

「少しずつペースは下がっていたんだが……」

 もう終わるまでに一時間もなく一日目が終わる頃だ。残る参加者は十七名。この放送区画では四人しか死者が出ておらず、主催に仇なす者もだんだんと集合を始めている。
 それ自体は、わりと吉良沢にとっても都合が悪くはない展開だった。都合が悪いのはダークプリキュアが死んだ事。それは、非常に残念だった。彼らの力となれる存在となった後であるゆえ、以前までの厄介者とは別人になった彼女がこうして死んだ事実は少し重い。
 しかし、報いでもあると思った。

 だから、吉良沢は彼女の死をそこまで気にしなかった。

 そして、今は、そんな殺し合いの状況以上におかしい、一つの不自然に直面していた。

(これはどういう事だ……?)

 吉良沢の手元にある貝殻が、どういうわけか、“透けて”いたのである。
 まるでこれから存在が消えていくかのように、吉良沢が憐にもらった貝殻は空気や周囲の色との同化を始めたのだ。重みも、質量も消えていき、微かな色だけがそこに残っている。
 それは吉良沢にとっても大事な貝殻だったが、それが消えていく事で平静を忘れるほど子供ではない。
 吉良沢自身、何故それを持ち続けているのかさえ、心の中では判然としていないくらいなのだから──。

 今は、むしろそれが消えつつある現状への疑問、懸念の方が優先された。

(……まさか!)

 あらゆる可能性を考えた末に、吉良沢の中に一つの仮説が生まれる。
 そして、それは吉良沢にとっても、最も恐れるべき仮説だ。
 何より、気づいてはならない未来なのかもしれない──。

(……僕がここに来た理由、それも含めて、探ってみる可能性がある)

 貝殻が消滅している理由はわかり始めていたが、非戦闘員であるはずの吉良沢までが主催側に連れてこられた理由なども含め、色々と探るべき事が生まれてしまった。
 とにかく、ひとまず彼は、自分と同一の能力を持つある人物に接触する事を考えた。

(監視の目はあるが、とにかく美国織莉子に接触しよう)

 予知能力、そして自分の世界の破滅への抵抗。
 その二つの条件が重なる美国織莉子──彼女との接触が、今の吉良沢が真っ先にすべき行為であった。


498 : The Gears of Destiny - 託される思い、激昂の闘姫 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:21:56 j9QAkj0U0
The Gears of Destiny - 結成!ガイアセイバーズ ヒーロー最大の作戦 -

名前が長すぎるとか言って弾かれますが、一応次の分割区画はこのタイトルで。
wikiに乗せるのも無理だったら「ヒーロー最大の作戦」とかいう部分をカットで。


499 : 結成!ガイアセイバーズ ヒーロー最大の作戦 ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:24:43 j9QAkj0U0



「てめぇ、石堀、コノヤロー! ……ずっと、俺たちを騙してたんだな!」

 顔を真っ赤にして怒る暁の前には丸いトランプカードが大量に散乱していた。
 裏切り。その行為に憤る暁の姿は、まさしく普段の彼とは全く異なる面持ちだっただろう。
 当人が見られたくないと言うその怒り顔──それが今。

「イカサマ野郎!」

 ポーカーのイカサマを発見した事で、爆発する!
 あの不自然なロイヤルストレートフラッシュを怪しく思った暁がカードを一枚一枚並べて確認した。その結果、疎らな五枚のカードが欠損していた事が判明する。
 そして、そのカードは、すぐに石堀の袖の中から出てくる事になった。勿論、全く見当違いなカードばかりのブタである。記号も数字もかけ離れており、ワンペアにさえならない。

「カード五枚、はじめに隠してやがったな!」

 要するに、石堀はロイヤルストレートフラッシュを袖の中に隠して、手元に来たブタと交換。それで暁から勝利していたのである。
 まあ、ギャンブルではなく、遊びのポーカーだったので、そのくらいはいいのだが、やはり暁としては何度も如何様に引っかかっていたと思うと腹も立つ。
 石堀に対する怒りは、ここまで本気で悩みぬいた気持ちあらばこそである。

「くそ……頭来た! ぶっ潰す! 燦然!」

 燦然とは(ry

 暁はシャンバイザーを出現させ、即座に超光戦士シャンゼリオンに変身し、石堀を襲う事になった。パンチを見舞うか、シャイニングブレードを取るか……という少しの悩みの間に石堀がごく冷静な対処をする。

「次郎さんが大変なんじゃなかったのか……? 変身!」

 ──Acc(ry

 仮面ライダーアクセルへの変身だ。手元に対抗手段があるのだから、自衛のために使わない手はない。エンジンブレードを片手に構えるなり、シャンゼリオンはシャイニングブレードを取り出した。
 狭い一室で、シャンゼリオンと仮面ライダーアクセルは対峙する。
 エンジンブレードとシャイニングブレード──二つの刃が今、ぶつか

「あ・の!」

 ……ろうとしたところでラブがややご機嫌ななめな声で二人に呼びかけた。
 当たり前である。プリキュアでもこれはキレる。女神でもキレる。

「本気でやめてもらえませんか!? 空気読んで!」

 眉を巻いたラブのその迫力を前に、シャンゼリオンとアクセルはすぐに変身を解き、カードを片付け始めた。
 角のないこの丸いトランプカードは、やや片づけにくく、手間取っているようだ。
 ラブはそんな姿をあきれ果てながら見つめていた。







 良牙と鋼牙が、三人があまりに遅いのを気にかけて二人を探しにやって来ると、そこには手遅れの遺体があった。
 わずかな間でも共に戦った仲間の体を象っている物体。命や魂なる物がどこにあるかはわからないが、一目見て、何となくそれがないのだと実感する。今日一日、ここにいる者に備わり始めていた技能である。
 傍らで泣くつぼみに声をかけられるはずもない。良牙はこんな光景を見るのは、もう三度目だった。──美樹さやかの時と、大道克己と村雨良の時、そして今。
 霊安室にいるはずの三人が何故こんな所に来たのか、それは今訊く事ではないようだった。

「……手遅れだったか」

 鋼牙が無力な自分を祟るような言葉を告げる。一見すると無表情だが、内心では深い後悔の念と苛立ちもあった。刻一刻と、自分の中に迫っている「死」を明示する出来事だった。それは死に至る病なのだと。
 このままでは鋼牙自身も危ういという事実が、改めて目の前にはっきりと表されたようだった。


500 : 結成!ガイアセイバーズ ヒーロー最大の作戦 ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:25:08 j9QAkj0U0

「なあ、どうして死んじまってるんだよ……! なんでこんな所に……!」

 良牙は、傍らのヴィヴィオに問うた。霊安室にいたはずの彼女がこんな所にいる事──それが彼には疑問でならなかった。あらゆる部屋を探して、その結果として良牙たちはここに足を運んだ。何故こんな事になっているのかは良牙とて知る由もない。
 言いようのない複雑な気持ちが喉のあたりから噴き出す。良牙も彼女とはあまり長い交流はなかった。ただ、良牙も、なのはの命の温もりは確かにその背で感じた事があった。今は着々と彼女の体からその温もりが消えている。
 人の姿になった彼女の体は消滅しない。だんだんと冷えていき、固くなり、安らかな寝顔にそっくりな物を見せてくれるだけだった。

「私が説明します」

 ヴィヴィオが立ち上がる。
 それは、ここに彼女を連れだし、結果的に死期を早めさせた人間としての責任だ。
 そして、つぼみも──泣きながらではあったが、事実を共に述べた。彼女にも、止めなかった責任はあった。彼女の状態を知ったうえで……という点で、つぼみの罪はヴィヴィオよりも重いかもしれない。しかし、罪のなすり合い(というよりは被り合い)をすべき場面ではなかったし、実際にそれに応じたのはなのは自身だった。
 ゆえに、これは仕方のない事故であるともいえた。そうして処理するのが、無法地帯では最も簡単な判決であった。司法的な正義よりは、感情に依る正義の裁きが、彼女たちを数分の涙だけで許した。
 その場所には、残念ながら、一人また死んだ──という事実だけが残った。







 美希とつぼみが注文通りに淹れたコーヒーと紅茶を、会議室では皆で口にしていた。
 ヴィヴィオだけは、ホットミルクであった。──その味気のないミルクに、彼女は何を思い出しているのだろうか。そこにキャラメルの風味が微かにでも入っていれば、ヴィヴィオは寒い冬の夜の事でも思い出すだろう。
 今は、それよりは少し落ち着いていたが、また目の前で死者が出て、霊安室に安置される遺体の数が増えた事に対する落ち込みがあった。

「……ういーっす。帰ったぞー……」

 会議室に入ってくる人間が、プラス三人。
 左翔太郎、フィリップ、佐倉杏子。その表情には、余裕さえ感じられる。
 孤門は勿論、彼らが来るのを窓から見ており、彼らがバイクを一台運んでここにやって来た事までしっかりと把握していた。監視係としては、だんだんと細かい情報も記憶できるほど注意深くなっている。ただ、やはり夜ともなると見えにくい物があるので、少し不安げでもある。彼自身は気づいていないが、そうした臆病さも精神的に注意深い監視を意識させていた。

「お。ちゃんと来たのか。……あとここにいないのは、えっと……」

 翔太郎は、つぼみと良牙と鋼牙に目配せする。誰か足りないような気がするが、他に来ていない参加者がいないか思い出している最中に、フィリップは横から口を挟んだ。

「残る参加者は、石堀光彦、黒岩省吾、ゴ・ガドル・バ、正式名ダークプリキュア、血祭ドウコク、涼村暁、天道あかね、桃園ラブ……そのうち友好的なのは、五人。石堀光彦、黒岩省吾、涼村暁、桃園ラブだけだ。結城丈二と涼邑零は、現状では残っている彼らを探しに向かっている」

 彼はまるで台本を丁寧に読み上げるように、一度もつまらず滑らかにそう言った。
 言い終える前に、少しばかり周囲の反応が暗くなったのを、フィリップは見逃さなかった。
 どういう事か気になったフィリップだが、解答は先に孤門の口から出てくる。

「……いや。残念だけど、ダークプリキュア、いや、月影なのはという子は……もう」

 孤門もここであらゆる人から事情を聴いた。「ダークプリキュア」は「月影なのは」となった事は良牙から訊き、その矢先、こうしてン・ガミオ・ゼダとの戦いで負った微かな傷が災いして、死に至る羽目になった事はつぼみから、最期の戦いについてはヴィヴィオから訊いたのである。
 孤門たちは、そうしてまた死人が出てしまった現実を重く受け止め、残り参加者がまた減っている事を悲しんだ。
 まさしく、彼らの帰還はその直後の出来事だったのである。


501 : 結成!ガイアセイバーズ ヒーロー最大の作戦 ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:25:35 j9QAkj0U0

「そうか……」

 翔太郎、フィリップは彼女の事を少なからず知っていたので、少し落ち込んだ。
 いつきによって、やっと届けられた思いが潰えたという事である。一つの命が絶える事は、そこに込められた親たちの思いまで消されてしまう事だ。実際、親の想いの深さというのを、フィリップは厭と言うほどよく知っていた。
 いつきは、月影なのはの「ゴッドファーザー」である。その想いが僅か数時間保たれた後、結局、託された側の死という結末に終わった。それでも、その数時間だけで彼女は満足するだろうか。彼らには結局のところ、それはわからない。

「ちょっと待て。……おまえは誰なんだよ」

 良牙がフィリップに訊く。そういえば、つぼみと良牙と鋼牙は、まだ彼の事を知らなかった。フィリップ側からは面識があるので、つい忘れがちだ。

「……そうそう、まだ自己紹介をしていない相手もいるから、何度目かになる人もいるけど、言っておくよ。僕の名前はフィリップ。初めまして、よろしく」

 良牙たちの方に顔を向けて、フィリップはそんな自己紹介をする。
 その名前に僅かなどよめきが走る。翔太郎のドライバーの中にいる存在だと思っていたが、実在人物だったらしい。どこかから助け出されたのだろうか。
 同じように自己紹介で佐倉杏子が口を開こうとしたところで、横から一也が邪魔をした。

「フィリップくん。結城丈二については何故知っているんだ? この近くにいるという事もないだろう」

 レーダーハンドで捉える事がなかった結城丈二、また涼邑零の動向を知ったフィリップに、一也はそう問いかける。
 考えられるのは、遠距離から通信、交信をしたパターンだろうか。
 しかし、フィリップは述べる。

「それを話すと、喜んで自己紹介どころではなくなってしまいます。良いニュースを伝えるのは、ひとまず自己紹介を終えてからにしましょう。……その方が礼儀的だ」

 フィリップの言葉は、それに関しては妙な自信に満ち溢れていた。
 翔太郎も同様だ。……彼らは、何か一つは良いニュースを届けに来たらしい。彼らはどうやら、旅先で悪いニュースは持ってこなかったらしい。こちらが悪いニュースばかりである事に比べれば、その方がずっと立派に見える。

「ほら、杏子。まずはお前からだろ」
「あ、ああ……。あたしは佐倉杏子。よろしく頼むよ」

 そう言われて佐倉杏子は、八重歯を見せて、ぎこちなく笑う。翔太郎にはその笑みの意味もわかる。その笑みは、いずれ自分の運命がどう転ぶかわからない不安を隠す仮面に違いなかった。
 こうして多くの人と関わるだけ、その不安は膨れ上がっていくようでもある。しかし、そんな彼女の様子など知る由もなく、自己紹介は続く。

「……私は花咲つぼみです。よろしくお願いします」
「響良牙だ」

 警察署に初めて来る二人も、同じように自己紹介を始める。良牙は、相変わらずつっけどんとした態度であった。
 ともかく、これで十。お互いの名前を知り合った人間同士だ。
 ここまで随分とゲームを続けてきたが、翔太郎にとっても、この人数で集合できる機会というのはなかなかに少なかったように思う。……そして、これだけの人数を相手にフィリップがやらなければならない過酷な仕事も、突き出されたらしい。







「……さて、それじゃあ、話を続けさせてもらうよ」

 誰も、フィリップが話を続ける事には異論はないようだった。
 フィリップは沖一也の方に体と目を向ける。誰もが、その方へと何となく耳を傾けていた。

「沖さん。……それに、皆さん。第一回放送の時のボーナスを覚えていますか?」

 先輩である一也の手前か、探偵のような口調で語らいだしたフィリップ。
 それは、ある種の雰囲気作りのようだった。一也は、それに揺らぐ事なく答える。


502 : 結成!ガイアセイバーズ ヒーロー最大の作戦 ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:25:51 j9QAkj0U0

「ああ……。ここにあった時空魔法陣だな」
「それです。結城さんは、その時空魔法陣の設定を変更できる権限を得たのです。ある条件とともに……」
「ある条件?」
「首輪を解析し、取り外す事です」

 そこにいる全員がざわめいた。彼ら三人が妙な自信を持ってここに来ているのは、そのニュースを告げられるからだったのだろう。
 そう、それは平たく言えば、既に首輪を解除する技術者が出たという事だった。それは確かに、この上なく嬉しいニュースに違いない。首に繋がれた爆弾を取り外すだけでも、ひとまずの安心は得られる。主催に反抗する行為そのものも案外楽になるというものだ。

「僕たちは首輪の解除方法をメモした紙を結城さんから預かってきました。これを使えば、間違いはありません」
「……見せてくれ。先ほど、俺も首輪の解除に一度失敗してしまった。一応確かめさせてもらう。もし、メモと実際で構造が違えば、すぐにわかる」

 フィリップは、ポケットから、丁寧に畳んだ紙を取り出した。首輪の解除方法が書いてあるメモに違いない。一也は、それを受け取り、広げた。
 一也は端から端まで、そこに書いてある絵や言葉に目を向ける。

「なるほど……。確かに、俺がさっき見た内部構造と全く同じだ。……俺にも全くわからなかった部分に対しても面白い考察が書かれている。流石結城さんだ」
「僕とあなたでこれを解除しましょう。ここにいる全員分です。それぞれ五人分ですね。少し神経のいる作業になりますが……」

 フィリップはそう嬉しそうに告げたが、一也の中には少し迷いも生まれた。
 自分に解除できるのだろうか、というものだ。
 先ほどの爆発。……あれは、幻ではない。もし、手元が狂えば、あれと同じく仲間の首元で大爆発が起こるというわけだ。
 そう簡単に受け入れられる作業ではない。一回でもかなり神経を使いそうなものを、五人、六人ともなると簡単ではない。

「……悪いが、少し待ってくれ」

 いくら技術者といえど、こんな危険な個所に取り付けられた爆発物を相手に、そこまで細かい作業をした事はない。
 安易にそれを呑めば、かえって危険な事に違いはない。
 一也、フィリップ、結城といった極一部以外にも、もっと有能な技術者がいるとするなら話は別だが、残りの人間に機械工学への精通データはない。いずれやらなければならない事には違いないのだが、案外難しい話だ。

「俺もそこまで落ち着いてはいないんだ。……みんなもそうだろう。そうすぐには解除の準備に取り掛かれない」

 一也の真面目な表情は伝わってくる。それは当然と言えた。
 フィリップのように強い好奇心が心の殆どを占有しているわけではない。一也の強い責任感は、あまり安易な行動をとらせなかった。フィリップもその気持ちを理解する。
 彼とて、少しは悩んだ。フィリップが最初に解除する事になる首輪が誰のものかは、とうにわかっていたからだ。その人物の命をなくしたくはない気持ちがあり、首輪解除を行う勇気を、その人物の命の重さが邪魔しているようだ。

「……そうですね。できれば放送を越えたらすぐにでも解除したいところですが、僕も放送を終えてすぐに解除……というわけにもいかないでしょう。ただ、僕はここまでの道のりで、首輪を外す覚悟らしいものは決めておきました。それは彼も同じです。……だろう? 翔太郎」

 そう、彼が真っ先に首輪を外す事になるであろう人物は、左翔太郎であった。
 佐倉杏子の場合は、ソウルジェムに装着されている分、作業がやりやすいだろうが、いきなり小さな首輪から解除する事になるのは危険とも言える。
 他の人間からでは、フィリップに命を託せるほどの信頼感はない。ましてや、いきなり沖一也など相手にして失敗してしまえば、その後の解除はフィリップ一人で行わなければならない。
 そう、翔太郎の首輪を外す……それが、彼が最初に責任を果たすべき決断だ。
 いくら、結城丈二が鏡を見ながらできるような産物であるとはいえ、フィリップにとって最初の一回、それも大事な人の命を握った首輪解除──緊張しないわけがない。

「ああ……ここに来るまでに覚悟は決めてある。こんな時も、俺は悪魔と相乗りしてやるよ」

 翔太郎の覚悟。──それは、フィリップとともに仮面ライダーダブルとなったあの夜から全く変わらない。しかし、翔太郎も息を飲んでいた。目だけは本気だ。
 フィリップが最初に解体する首輪のサンプルは、そこにしかない──ここで成功すれば、次からもっと楽になるのだ。


503 : 結成!ガイアセイバーズ ヒーロー最大の作戦 ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:26:12 j9QAkj0U0

「あ、あの……ちょっと待ってください」

 と、その時、つぼみが制止した。

「首輪なら、私が一つ持っています。まずは、これをお願いします」

 つぼみが、ドウコクの所持していたデイパックを拾った時に出てきた首輪だ。
 その中に入っていた、一つの首輪が彼らの手元にあった。人体やソウルジェムとくっついていない首輪ほど楽な物はない。
 フィリップが、それを受け取る。

「……わかった。ありがとう。構造を知ったうえでどれくらい時間がかかるか、試しだね」

 まずは、これである程度の要領を得てから……という事になる。
 それだけで実際の首輪解除も随分と変わるだろう。
 ともかく、翔太郎はそれだけで少しほっとした。フィリップはすぐにでもその首輪の解除に取り掛かりたい気持ちがあるようだったが、……やめた。
 まずは、ここで必要な情報も得ておかねばならないと思ったのだろう。

 各々は支給品の確認や、これまでの経緯で互いに知らない事を話し始めた。







 杏子の手に握られているのは、バルディッシュと呼ばれるインテリジェントデイバイスだった。良牙の手からヴィヴィオに渡されようとしたバルディッシュが彼女の方に目を付けたのだ。
 バルディッシュにとっては、ヴィヴィオは全くの初対面であり、また、高町なのはともこれといった面識がない。……そのために、現状でバルディッシュは、翔太郎又は杏子と言葉を交わさなければならないのだ。
 特にバルディッシュ自身やフェイトとのかかわりが強い相手は、杏子であった。

「よぉ……久しぶり」

 杏子の言葉はぎこちない。とうのバルディッシュは、杏子に疑いのまなざしを込めていた。
 無理もない。バルディッシュが知っている杏子は、フェイトとともに優勝を狙い、集団の中に紛れ込んで協力するフリをして潰し合おうとした過去がある。
 ただ、一方で、杏子自身がフェイトと一緒に、ある程度コンビネーションを発揮していたのも事実だ。本来的な優しさはバルディッシュも何となくは見抜いている。
 しかし──だからといって、殺し合いに乗っていないとは言い切れないのだ。参加者ではないバルディッシュには関係のない話かもしれないが、一応警戒だけは忘れなかった。

「……バルディッシュ、だったな。フェイトの事はすまねえと思ってるよ」

 果たして、それが真実なのか否か、それを判断する術はバルディッシュにはない。
 杏子のスタンスを考えてみれば、彼女はできうる限り外面を取り繕う必要があるはずなのだ。そう、たとえ藁を掴んでも。

『It’s water under the bridge.(もう過ぎてしまった事です)』
「過ぎた事って……それでも」

 バルディッシュの突き放すような態度に、杏子は戸惑った。
 それは、会話自体を拒否しているかのようにさえ思えた。杏子のもとに身を寄せたのはバルディッシュであったが、杏子を観察しても結局今の彼女のスタンスがどういったものなのかはわからないといった様子であった。
 杏子の眉が少し頼りない表情を形作った。
 そんな杏子に弱みを見つけて、そこに叩き込むように一言、バルディッシュは正直な言葉を投げかけた。

『I can’t believe in you.(私はあなたを信じる事はできません)』

 ただ……その言葉と共に、もう一つの正直も重ねた。

『But I will tell you this.(しかし、これだけは言えます)』

 バルディッシュとしても、一つだけ杏子に言いたい事があったのである。

『You and Fate were good partner.(あなたとフェイトはとても良い相棒だった)』

 それだけはバルディッシュにも確かに思えた。
 それが、信用の置けない杏子の手に、あえて居ようとする意味であった。






504 : 結成!ガイアセイバーズ ヒーロー最大の作戦 ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:26:36 j9QAkj0U0



 良牙の所持していたメモリガジェットの類は、すべて翔太郎とフィリップに渡された。
 必要があるか否かはわからない。しかし、evil tailも手渡され、大道克己と関連する物以外、あらゆる支給品が翔太郎の手に渡る。

「……探偵七つ道具、着々と俺の手に戻ってきてるぜ」

 翔太郎はそう陽気に言いつつも、スタッグフォンが手に入った事で、鳴海探偵事務所から便利なアイテムが呼び出せるようになった事に安堵する。
 結城丈二が見たがっていた物だが、流石にいまそれを機動させる必要はなく、かえって勘付かれて面倒事を引き起こしかねないので、翔太郎は今は呼び出すのをやめる事にした。

「翔太郎、だんだんといつもの僕たちに近づいて来たね」
「ああ、俺たちが持てる力の全てが結集しつつある……」

 ただ一人、そこに、照井竜という男の力がないのは残念であった。
 メモリガジェットやマシンの他に、大事な仲間がいるのが今の仮面ライダーダブルだ。
 そのたった一人が欠けただけで、翔太郎の中にはもどかしい気持ちが残る。
 せめて、心だけは力になれよと、照井の姿を思い出した。







 冴島鋼牙にとって幸運だったのは、リヴァートラの刻が支給品に混ざっていた事だろう。
 美希が支給品の山の中から発見した小瓶は、鋼牙にも覚えのある物だった。
 リヴァートラの刻。これを飲み干した後、魔導火を使って傷口を消毒すると、傷が治癒する。……そういう道具であった。以前、破邪の剣を受けた時にもこうして対処したのである。
 鋼牙はすぐにそれを使って消毒し、何とかひとまず傷口を塞いでみる事に成功した。

『とはいうものの、果たして完治するかどうか……ってところだな』

 傷口の消毒は終わったものの、ガミオの攻撃が殆ど正体不明であった以上は、安易に治ったとは言い難い。
 鋼牙は勿論、フィリップでさえ検索不可能な領域の技である。
 わかったのは、少なくとも生身でガミオと戦ってはならない……という事だけだ。

「完治させないわけにはいかない……絶対にな」

 それは、鋼牙の絶対の意思であった。
 なぜならば、この殺し合いには────






505 : 結成!ガイアセイバーズ ヒーロー最大の作戦 ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:27:00 j9QAkj0U0



 数時間前。
 鋼牙が単独行動を三十分成功させた区間があった。警察署を出てから、ガミオとの戦いに行きつく間の出来事である。
 鋼牙とザルバは、森に向かう為、草原を駆けていた。
 そこに──

「鋼牙」

 背後から呼ばれて、鋼牙は声をかけた。
 その声、確かに聞き覚えがある声だった──。

「カオル!?」

 そう、振り向けば、そこにいるのは御月カオル。鋼牙が帰るべき場所にいるはずの女性である。
 彼女が優しい微笑みで、鋼牙の後ろに立っていた。
 何故、こんな所にいるのか……鋼牙は疑問に思ったが、すぐに走るのをやめた。
 そして、カオルのもとへと走り出そうとする。

「何故お前がこんな所に……」
『駄目だ、鋼牙! 幻だ!』

 近づいたところで、鋼牙を危惧するザルバの一声。
 それは確かに鋼牙を納得させる言葉であり、鋼牙は歩みを止めた。
 時間を知る。……今、ちょうど三十分。主催側の人間がカオルの姿を借りているのか。

「……貴様はこの声と、この姿ならば必ず反応すると思ってな」

 そんな言葉とともに姿を消す、一体の怪人物……。
 いや、その姿にも鋼牙は見覚えがあった。カラスの羽で作ったような真っ黒なドレスに身を包んだ、隈のようなメイクの女。
 彼の女の名前は、ガルム。

「ガルム……これも幻か?」
『いや……』

 鋼牙がかつて所属していた番犬所の三神官が一つになった姿である。
 しかし、おかしいのは、ガルムはかつて死んだ存在であるという事──バラゴがいるこの殺し合いではおかしくないが。

「幻だが、ここに我が存在がまた生まれいでた事は幻ではない。この宴の主催者として、話が息子とともに貴様らの姿を見物させてもらっている」
「何だと……貴様らがこの殺し合いを開いたのか!?」
「それは否だ。だが、詳しく答える気はない」

 ガルムは鋼牙に対して、確かな敵意を持っている。
 しかし、この場で鋼牙を殺すような無粋な真似をする様子はなかった。
 ただ、鋼牙に事務的な内容を伝えに来ただけのようである。

「貴様に制限を伝える……それだけの為に」

 そこから先は、三途の池や「魔女の結界」が魔界に近い性質を持っており、そこでは鎧の装着にタイムリミットがない事や、魔導馬の解放を宣告されたが、鋼牙は現状でその使いどころを持っていなかった。また、それを信じていいのか否かと言う疑念も鋼牙の中にはあった。
 ただ、ガルムとコダマがここで復活している事実は、鋼牙に対しても僅かな動揺を与えた。
 いずれも鋼牙と零が二人がかりで苦戦したような強敵である。……果たして、これから小機がどの程度あるのだろうか──。







「奴らは俺たち魔戒騎士でなければ敗れん……」

 ソウルメタルを自在に操る事ができる人間でなければ、彼らホラーは斬れない。
 ホラーの対抗策は僅かだ。この場に鋼牙と零以外の魔戒騎士が少しでもいればまた違ったのだろうが、他にはもう一切いない。
 零は、いずれここに帰ってくる。彼が制限解除でガルムたちの事を知っているか否かはわからないが、一応零にも伝えておかなければならないだろう。

『……ったく、厄介だぜ、本当に』

 今後の方針としては、放送を聞き、首輪を解除し、その後でガミオを探して倒し、その後であかね、ガドル、ドウコク、魔女……といったマップ内の敵を、極力和解や共同戦線という形で処理していく事だ。
 最後に脱出方法を考え、残る全員での脱出を図る。

 ただ、やはり魔戒騎士のような特殊な存在でなければ倒せない相手、というのが厄介である。

「翼のような外部の魔戒騎士と接触できれば楽だが、そういうわけにもいかないらしい……」
『今のところそんな方法はない……。俺たちだけで何とかしろって事だな』

 山刀翼や四十万ワタルがいれば、まだもう少し勝機はあったかもしれない。
 レギュレイス戦で世話になった仲間と、鋼牙の幼少を支えた師匠だ。
 勿論、こんな殺し合いに巻き込まれないに越した事はないが……。

(……リヴァートラの刻で完治したのか、気休めにすぎないならいつまで持つか……というところだな。お手上げだ)






506 : 結成!ガイアセイバーズ ヒーロー最大の作戦 ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:27:24 j9QAkj0U0



 その後、翔太郎は、フィリップ、佐倉杏子、花咲つぼみとともに霊安室に訪れていた。つぼみは、この警察署をまだよく把握していない三人の案内役である。
 そこには、月影なのはと呼ばれた少女の遺体のほか、二つの遺体が安置されている。
 彼らがここに来たのは他でもない。知っている人間の遺体を前に、焼香し、手を合わせる為である。
 そこまで多く一緒にいたわけではないとはいえ、せめてもの手向けと言うものだ。

(「狼 グロンギ」で検索してもダメだった……あったのは赤い紋章だけ)

 遺体を前にも、翔太郎はガミオの毒への対抗策を考えている真っ最中であった。
 もう一人、冴島鋼牙がガミオによって攻撃を受けている。
 孤門の指示では、結城や零が帰った後は、ガミオの討伐が最優先事項との事だったが、果たして鋼牙の体がどのような状態なのかは依然として不明だ。
 対抗策が僅かにでも浮かぶならばともかく、フィリップの検索を以てしても、彼女の仇を取り、鋼牙を救う術はわからない。それは孤門は勿論、全員がお手上げであった。
 ただ、鋼牙自身は、辛うじてある程度の強さを持ち合わせた人間であった。
 魔戒騎士──と呼ばれる特殊な職である事が幸いしたのだろうか。ただの人間の女になった月影なのはとの決定的な違いだろう。
 ただ、やはり鋼牙には今後、戦闘を避けてもらわねばなるまい。

「……コイツ、ここにいたのかよ」

 月影なのはと一切交流のない杏子がここに来たのは、暁美ほむらの遺体確認の為だった。
 推察はついていたが、断定はされていない状況だったが、それが暁美ほむらだというのはここで確定した。
 杏子も知っている魔法少女だが、こんな所にいるとは思わなかった。

「あの……杏子さん」
「ん。なんだよ」

 つぼみが声をかけて、杏子が振り向く。

「その方ともお知り合いで、さやかともお知り合いなんですよね?」
「ああ。……まあ、確かに」

 杏子はわざとらしく視線を逸らした。
 あまり、美樹さやかの話はしたくない。この杏子は、さやかとは良い関わり合い方をしていなかった。元の世界でも殺し合っていたくらいである。
 考えを改めた今ならまだしも、さやかとの最後のコンタクトは最悪の思い出となってもおかしくないレベルのものだ。

「さやかはどんな人だったか……杏子さんはわかりますか?」
「あー、いいから、あたしも杏子で。同じくらいのトシだろ? 別に呼び捨てでいいっての」
「そうですか。じゃあ、杏子。……私、ここでさやかに会ったんです。でも……そんなに長い間は一緒にいられなかったので」

 杏子は、そう訊かれて少し悩んだ。
 やはり、良い言葉は出てこない。ありのまま、自分の認識しているさやかの想像を、相手に悪い気をさせない程度に話した。
 しかし、内容は、悪い気をさせてもおかしくないようなものであった。

「……どうしようもない変わり者さ。自分の為だけに生きてりゃいいのに、いちいち他人の面倒見たがる。どうせ、ここでもそんな風に死んだんだろ……あいつのことだしさ……」

 ──ふと、杏子が勝手な推察をするように、そう言った時。
 つぼみも、杏子も──背筋が凍るような思いをした。言わなければよかったのではないか、という後悔が一瞬、杏子を襲う。


507 : 名無しさん :2014/05/17(土) 01:28:06 j9QAkj0U0

「……」

 つぼみは、杏子の言葉が全く見当はずれになってしまった事を思い出した。さやかはそんな生き方を貫く事を望んでいたはずだが、それは叶わず、むしろ一人の人間の命を奪って自分も命を絶つ結果に終わってしまった。
 杏子は、さやかが魔女になるという事を思い出したのだ。ソウルジェムが穢れると魔女になる仕組み……それは、さやかがまだ完全には死んでいない事、いや……さやかがまだこの後に及んで利用されるという事だ。

 お互いに黙る。

「……そうです。さやかは、最後まで誰かの為に何かをしようとしていました……」

 そう言うのが、つぼみにとっても精一杯だった。嘘をつく事はできないが、それでも、本当の事を言い切る勇気が出ないジレンマ。
 そんなつぼみの姿に、杏子は何も言えなかった。杏子は、きっとつぼみがさやかの死に様を思い出して暗くなっているのだろうと勘違いしていたが、その結果、杏子はつぼみに告げるか否かの迷いを持っていた。

 ……さやかも魔女になる。

 いずれ倒さなければならない障壁となる。
 つぼみは、それを倒す事ができるのだろうか。
 杏子もまた同じく……それを倒さなければならない。

「……杏子」

 翔太郎が、労わるような優しい声で杏子を呼んだ。
 しかし、そうして何か意味深な言葉を勘ぐられるのを嫌い、杏子は言い直した。

「……行こう。もう放送も近づいてるし、十分前には戻った方がいいだろ?」

 杏子が、話題を遮るかの如くそう言う。
 魔女。
 その二文字が、杏子を壊そうとしている。それを急いで直さなければならない立場にあるのが、翔太郎とフィリップだ。
 二人は焼香など全てを済ませたが、すぐに戻らなければならないようだった。

「あの……翔太郎さんたちにも一つ、訊きたい事があります」

 つぼみが去りゆこうとする翔太郎に声をかけた。
 翔太郎は立ち止まるが、つぼみは歩く体制を取ったので、歩きながら話す事にした。

「なんだ?」
「仮面ライダーエターナル、大道克己さんの事です」
「大道の?」

 翔太郎がそう言う隣で、フィリップが少し表情を険しくした。
 大道克己をよく知るのは、翔太郎以上にフィリップである。
 しかし、まだ余計な口を挟む事はしなかった。

「あの人は、この戦いに乗っていました。しかし、あの人はそれだけじゃないような気がしたんです……」
「何だと?」
「……悲しい目をしていました。そして、私たちに、『財団Xを潰したいなら早く行け』と……そう言い残しました」

 財団X、というワードに翔太郎は反応したが、それ以上に、大道克己がそんな事を言ったのが意外で仕方がなかった。
 思わず言葉を返したのはフィリップである。

「本当かい? つぼみちゃん」
「はい。……あの人は、もしかしたら心の奥では……大事な人を労わる心が残っていたのかもしれません」

 もう間もなく、会議室というところまで彼らは歩を進めていた。
 話を切り上げるタイミングというのは、もう間もなくだっただろう。
 フィリップは少し思案した。

「そうか……」
「フィリップ……」
「大道克己、彼ももしかしたら、仮面ライダーだったのかもしれない。だとしたら……」

 元来、NEVERになる前の大道克己は心優しい少年だったという。大道マリアは、そんな克己の事を取り戻したくて、悪魔のささやきに身を寄せた。その結果が、死者の体を使った、人の心を知らない人形であった。
 そして、結末はマリアを射殺する克己の残虐な姿──しかし、今思えば、克己のその叫びは、言いようのない悲しみにも満ち満ちていたような気もした。

「……だとしたら、マリアさんも少しは浮かばれるのかな」

 フィリップは、僅かな迷いの後で、そのたった一つの笑顔だけで、大道克己についての必要分の結論をまとめた。
 それでいい。今となっては、大道克己が果たしてどんな人間だったのか、彼は知る術を持たなかった。






508 : ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:28:43 j9QAkj0U0



「……これで十人、か」

 蒼乃美希、キュアベリー。
 高町ヴィヴィオ、聖王のゆりかご。
 佐倉杏子、魔法少女。
 左翔太郎、仮面ライダーダブル。
 沖一也、仮面ライダースーパー1。
 響良牙、仮面ライダーエターナル。
 冴島鋼牙、黄金騎士ガロ。
 花咲つぼみ、キュアブロッサム。
 参加者外では、フィリップ、セイクリッド・ハート、アスティオン、マッハキャリバー、バルディッシュ。

「随分たくさん揃いましたね、本当に」

 孤門の周囲にいる仲間たちはかなりの頼もしさを誇っている。
 かなりの大チームである。参加者の半数(フィリップを除いた九名)がここに属し、いずれも強い力を持った猛者ばかり。
 孤門は残念ながら、彼らに匹敵する力というのを持っていなかった。
 必要とあらば、トレーニングルームに置いてある、例の青いソルテッカマン2号機を利用する事ができるが、それもやはり科学の産物で、限界というものがある。これからの戦いをどう生き延びるかという点でもあまり優秀な支給品ではないように見えた。
 それから、この殺し合いそのものがこれからどう展開していくのかも少しばかり不安であった。

 禁止エリアは警察署の周囲を固めつつある。
 おそらく……予想では、次に禁止エリアとなるのは、この警察署があるF−9や、完全包囲を可能とするE−9。それまでに首輪の解除をしなければならないし、その首輪の解除に関する対策を練る可能性だって否めない。

 首輪を解除する事ができれば、おそらくは爆死はない。
 主催者側も、首輪と無関係に禁止エリアで全員を爆発させる事はないだろうし、これまでのルールを崩す事もないだろう。
 現時点で、主催者側はゲームに、プレイヤー外の存在を大量投入しているのもはっきりしている。

 例を挙げるならば、ン・ガミオ・ゼダ、二体の魔女、フィリップ……。
 ガミオなる敵が既に犠牲者を出している事や、味方四人でかかっても倒せない相手であった事を考えれば、むしろ非常に危険だと言える。
 追加された存在(魔女の誕生方法を考えれば、おそらくはこの殺し合いの参加者が何らかの方法で生み出してしまった存在)を含めて考えれば、あまり敵が少ないとも言えない。
 要するに、これからも戦いは続くという事だ。

「色んな世界を救ってきた変身ヒーロー、アンド、ヒロイン。歴史に残る一大チームの結成ってわけだ」

 翔太郎が隣で言う。
 確かに、そうなのだが、例外もいる事をお忘れなく……と孤門は思う。孤門は変身などしない。いわば、ただ巻き込まれた凡人だ。ナイトレイダーの隊員とはいえ……ついていける範囲にはいない。

 こうして揃ったのが僅か十名……これから残りの仲間が揃っても十五名だけというのが残念だ。
 あらゆる誤解やすれ違いがなければ、もっと多かったかもしれないし、無謀な戦いを挑まずに仲間になれたかもしれない人間はまだたくさんいる。
 死に損なった人間の集いであるともいえた。

「これだけいると、このチームを一体どういう風に呼べばいいやらわからないわ……。プリキュアでもない、仮面ライダーでもない、ナイトレイダーでもないし、魔法少女でもない……」

 美希が苦笑した。「クローバー」というダンスチームや、「プリキュア」と呼ばれる集団に属し、常に名前のある集団で行動してきた彼女ならではの言葉だった。
 魔戒騎士や魔法少女、仮面ライダーといった総称で呼ばれ、基本的に個人の活動が重視される他の数名は特に気にしていないようだったが、孤門は少し気になっていた。やはり、ナイトレイダーA斑のように、一個の集団には名前があるべきに思えた。

「こんな時に何ですけど……チームの名前、考えましょうよ」
「別にいいだろ……チーム名なんて考えなくても」

 それぞれ、ヴィヴィオと杏子の言葉だ。
 それぞれが生きてきた世界での、それぞれの立場による意見の違いだが、やはりこうした違いも含めて一つに纏めるには、名前が必要だと思えた。今のは些細な意見の違いだが、全く統一感のない連中に、正真正銘フリーな居場所を作ってしまうと、またすぐに破綻してしまうだろう。
 孤門が口を開く。

「いや。名前、考えよう。……誰一人欠けてもいけない。これからもっと増やしていく、この戦いを絶対に終わらせる僕たちのチーム名を」

 全員が孤門の方を注視する。ここまで積極的に発言する立場の人間だとは思われなかったのか、少し意外そうな表情を浮かべている者もいる。
 そんな姿を、孤門は気にも留めなかった。


509 : ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:29:06 j9QAkj0U0

「僕たち一人一人がこれから集団である事を意識するためには、名前が必要だ。勝手な行動はしちゃいけない。もし、そういう勝手な行動をしたい思いがあったら、心の中でチームの名前を唱えるんだ。そして、冷静になって、自分がチームの一員だって自覚したうえでの行動を取ってもらいたいんだ。……だから、名前をつけよう」

 意図を明確に伝え、全員に理解してもらう。
 基本的には、ヴィヴィオたちを除いて、それぞれのいる世界は地球の日本だ。そういう意味である程度の統一性はある。民族や国籍が違うわけではないが、根本的な世界の仕組みや時代が違ってしまうと、結局は民族や国籍レベルで違うのと同義だ。それぞれの元の世界での戦いは全く別だ。
 たとえば、美希と杏子のように、過去を辿れば全く別の生き方を辿っているかもしれない。
 それもひっくるめて、自分たちはチームなのだ。
 西条凪の憎しみ、石堀光彦の静けさ、平木詩織の軽さ、和倉英輔の威厳、孤門一輝の未熟さ……あらゆる物を内包しているのがナイトレイダーであるように。

 誰かが返事をするまでに少しの間が空き、孤門は少しその間に怖さを覚えた。
 最初に、誰かが声を出した。
 光を継いだ、佐倉杏子だった。

「わかった。そこまで言うなら、……あたしは乗るぜ。ここであたしたちはチームを築く。この、孤門一輝の兄ちゃんをリーダーにな」
「リーダー……? って、え!? 僕!?」

 言われて、少し時間が経過してから思わず慌てふためく孤門であった。
 自分自身がリーダーを任されるとは思わなかったのだろう。自分にはリーダーの素質はないのだと、沖一也あたりにでもリーダーを譲りかけたその瞬間。

「適任だ。……俺も乗るぜ」

 と、翔太郎が言う。なれなれしくも、彼は孤門の肩に手を回した。その所作に孤門は自分の口をふさがれたような気がした。

「僕たちは運命共同体だ。だから、正しくは『俺たちも乗るぜ』、だろ? 翔太郎」

 と、フィリップ。翔太郎の左肩に手をぽんと当てる。

「勿論、私も……!」

 と、ヴィヴィオ。慌てて、座っていた椅子から立ち上がる。クリスもコクコクと頷いていた。

「完璧な指示、よろしくお願いしますね」

 と、美希。彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべている。彼女は孤門の近くにいるのには慣れており、そのうえで采配は「完璧」であると思ったらしい。

「頼むよ、リーダー」

 と、一也。孤門がリーダーに適任だと思ったのは彼だったが、彼が孤門にそう返してしまうと難しい。

「お願いします!」

 と、つぼみ。彼女はまだ孤門についてよく知らないが、この信頼感を信じた。

「特に意義は無い」
『俺もだ』

 と、鋼牙にザルバ。彼らは極めてクールに椅子に座っていた。彼らもそれが合理的だと判断したのだろう。

「リーダー……か」

 隊長、というわけだ。和倉英輔隊長のような立場を、一番力のない自分がまかされている事に少し戸惑いながらも、そうなった以上は仕方ない。
 たった一人、孤門がリーダーである事に了承していない男がいるのに気づいて、孤門はそちらを向いた。

「……」

 そう、響良牙だけは、少しだけ悩んでいた。
 腕を組み、椅子を傾かせ、右足を浮かせている。一見して、彼はその議論に一切興味はないようだった。話し合いという物を嫌う性質の人間だったのだ。
 彼は、自分に視線が集中している事に気づいて、孤門の方を向き直し、口を開く。


510 : ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:29:32 j9QAkj0U0

「……俺は別に、誰がリーダーだろうと、俺がチームの一員にされようと、異議はない。だが……」

 彼は、基本的には一匹狼な人間だ。誰かから指図されるのを嫌う。しかし、現状ではここは集団だ。今までも充分に集団行動だったが、その時よりはっきりとした集団行動がここから先にはある。
 いわば、「部隊」。生きる為ではなく、戦う為の集団が完成してしまったような気がする。
 良牙も戦いは嫌いではない。……しかし。

 絶対にしたくない戦いもできてしまった。

「あかねさんを殺せ、とかそんな最悪な指示は絶対に無視するが、構わねえだろうな?」

 良牙がギロリと孤門を睨む。
 しかし、その言葉の意味を介せば、孤門がその目に怯む理由はなかった。

「……勿論だ。僕たちは、殺し合いを進めるんじゃない。……このゲームを主催した人を倒す為に戦うんだ。救える限りの相手は救う。何かすべき事、やりたい事があったなら、それを言ってくれればいい。リーダーになったなら、命令はするけど……僕は、理不尽な命令はしない」

 リーダーとしては、威厳はないかもしれないが……孤門は、チームメイトの我が儘も、できうる限りは聞く気でいる。ただ、最終的な指示を下せる存在として、孤門はそこにいるのだ。
 TLTの理不尽な命令に辟易して戦ってきた孤門は、そんなおおらかな隊長であろうとしたのである。
 しかし、どうにも良牙は孤門の事を安易に気に入る性質ではないらしい。

「じゃあ、あんたはどんなメーレーをすんだよ。俺もそうだが、仮に乱馬が生きてたなら、命令なんて絶対聞くタマじゃないだろ」
「それは……よくわかってる」

 早乙女乱馬という男が、決して安易に縛りつけられない存在だった事は、既に知っている。
 いや、その時も孤門一輝は、実質的リーダーだった。自分がもっと強く言っていれば、どうにかできただろうか──と考えるが、それは無理だったに違いないだろう。
 協調性という意味では、最低最悪。聞く耳持たず、我が道を行く……そんな存在だ。孤門の事を気に入っているようでもなかった。
 良牙も同じような目をしていた。警察署にいたメンバーは、乱馬の事も、そしてああなる前のあかねの事も知っているのだ。それでいて、彼らは止められなかった。孤門たちに対する良牙の心情は複雑に違いないだろう。

「……だから、僕から君への命令は、ほんの少しだけだ」

 孤門は良牙の前まで近づいた。
 本当は良牙の視線が怖くなりもしたが、一応はリーダーとしての責務を果たすべく、威厳のある姿を見せているのだ。
 基本的には誰も孤門を止めなかった。

「一つ。命を粗末にしない事。
 一つ。人から預かった物はなくさない事。
 一つ。食べ物を粗末にしない事。
 一つ。物を買う時はちゃんとお金を払う事。
 一つ。悪い事をしたら謝る事。そして……」

 杏子が後ろで、薄く笑った。
 変わり者の条件を言われて、少し目が点になっている良牙の姿を嗤った。
 つぼみと鋼牙も、突如として当たり前の事を言い出した孤門の姿に茫然としているようだった。

「諦めるな……!」

 最後の一つは、やはり孤門の言葉そのものだった。

「……それだけが今、僕から君にできる命令だ。悪いけど、リーダーなんて初めての経験なんだ。それくらいしか僕に言える事はない。でも、これだけは絶対に守ってもらわないと困るんだ」

 孤門の表情は頑としている。最初にこれだけ珍妙な命令を下すリーダーの目が真剣である事に、良牙も茫然自失といった様子であった。
 ただ、良牙も、力でなら孤門に敵いそうだが、何か別の部分では敵いそうにない気がしてきた。
 少なくとも、リーダーとしての器は孤門の方が大きいだろう。良牙がもしリーダーになったらこんなチームは破綻するに決まっている。


511 : ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:30:02 j9QAkj0U0

「……仕方ねえ。本当にそれだけ守ればいいんだな?」
「いざという時の指示は、勿論もっと具体的にする。……でも、あかねちゃんの事は、君に任せる。その為に僕たちは協力するよ」
「リーダーってのはもっとうるさいものだろ」
「そうじゃないリーダーがいたっていいと思わないか?」

 そう言われると、良牙は言い返す気力をなくした。
 ……まあいい。あかねの事を任せてくれるのなら。
 対立する理由はなく、むしろこれなら好意的に孤門の事を見られる。
 良牙自身も、仮にこの場にいたとして乱馬やあかねの事を止められる力など持っていなかったのかもしれないのだ。……それは仕方のない事なのだと、そう考えよう。

「……わかった。俺もそのチームに入る。あんたの言う事も聞いてやる」
「ありがとう」

 孤門は、元の席に戻っていった。
 これで、この場にいる全員の了承がとれたと言っていいだろう。
 あとは、石堀光彦、桃園ラブ、涼村暁、黒岩省吾、涼邑零、結城丈二も無論、合流次第このチームの一員となる。

「じゃあ、これより、僕たちは共に戦うチームだ。共に生き、共に殺し合いを止める。そのために協力し合い、支え合い、助け合う」

 孤門に視線が集まった。
 そして、孤門は全員の視線が集中したのを感じて、そこに名前を贈った。



「僕たちのチーム名は……ガイアセイバーズ!!」



 それは、かねてより何らかの形で地球を守って来たヒーローたちに贈られるチーム名にぴったりであった。
 仮面ライダー、ウルトラマン、プリキュア、魔戒騎士、魔法少女、呪泉郷出身者、魔導師、テッカマン……あらゆる者たちがそこに属しているような気がした。
 この十人だけではない。
 彼らとともにある人間、全てに贈られる名であった。
 奇しくも、そのリーダーとなる男は、「ただの人間」であった。

「ガイアセイバーズ、か……いいじゃねえか」

 ガイアの名に縁のある翔太郎は、そのチーム名に不敵な笑みを浮かべて見せた。






512 : ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:30:27 j9QAkj0U0



「……こんな時間に私たちの部屋に何の用?」

 何かの間違いが起これば、吉良沢の首元を刈り取る距離に、その巨大なカギ爪は突き立てられていた。ドアをノックし、開けた瞬間の出来事であり、吉良沢は驚く暇もないままに後ずさる。

(う……いきなり攻撃的な態度か……)

 息を飲めば、喉仏に鋭利な刃物が当たってもおかしくなかった。
 これでは、問いに答える事さえできない。彼は冷静な素振りを見せていたが、内心はその刃に威圧されているだけだった。

「コラ。やめなさい、キリカ。……吉良沢さんは特別よ」

 部屋の中から現れるのは美国織莉子だった。このカギ爪は織莉子の前方にて左目で吉良沢を睨む呉キリカから出現している。彼女は魔法少女の力を使い、吉良沢を威嚇しようとしたのである。
 おそらくは、彼女たちも主催側に積極的な協力をする気がないのだろう。それは、脂目マンプクや加頭順が部屋に入って来た時のための一撃に違いない。

「吉良沢ぁ……? えーっと……」

 当のキリカは全く吉良沢の事を覚えていないようだった。織莉子以外の主催陣の事はあまり深い認識をしていないらしい。白い服の人間が随分と多いので、同じような服を着ている吉良沢は間違えられたのだろう。
 ……そもそも、織莉子以外の事を彼女が覚えているのかさえ怪しい。そこは服の色以前の問題かもしれない。
 とにかく、キリカは魔法少女の変身を解いて、カギ爪を消した。

「で、吉良沢さん。ここへは何の用ですか? 放送担当……の任命というわけでもなさそうですが」
「ああ……少し気になる事があるんだ」

 そう言うと、織莉子はキリカを退かして、「どうぞ」と吉良沢を部屋に招き入れた。流石に彼が魔法少女の自分たちに性的な行いを求めてくるわけはあるまい……そう判断したのだろう。
 何か重大な用事があると見て来たのだと、すぐに察した。

「じゃあ、お邪魔させてもらうよ」

 吉良沢は殺風景な部屋で、団地の一部屋のような本当に必要程度の設備しか備えられていない。女の子らしい飾りつけをする時間もなく、わざわざそんな事をするほどここに押し込められ続けるわけでもない。
 お嬢様育ちの織莉子だが、キリカとともに難なくここで過ごしているようだ。
 二人の時間を妨害されたキリカが見るからに不機嫌そうな視線を送るが、吉良沢もなるべく無視する事にした。
 織莉子は、吉良沢に対しては丁寧に接する。すぐに紅茶を出して、吉良沢に振る舞うのだった。吉良沢は椅子の上に座らされると、一応、紅茶を一口飲む。

「……結論から言うと、この殺し合いが僕たちの世界に影響を与えてしまうかもしれない」

 何の躊躇もなく吉良沢がそう言えるのは、織莉子やキリカが比較的冷静に対処できる存在だと思っていたからだ。実際、それを訊いても二人は眉を顰めるだけだった。


513 : ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:30:54 j9QAkj0U0

「どういう事ですか?」
「まずはこの貝殻を見てほしい。この貝殻は僕の所持品だ。……僕の世界から持ってきた物で、これと全く同じ物が参加者の中に支給されている。種類が同じというわけじゃなく、本当に異世界の同一物だ」
「待ってください。貝殻なんて……」

 と、言いかけたところで、織莉子は「それ」が確かにそこにある事を知った。
 最初は吉良沢の掌があるだけに見えたが、よく目を凝らすと、確かに貝殻のようなビジョンが織莉子とキリカにも見えたのだ。もう殆ど、タカラガイの貝殻は透明と同化しかかっている。一体、どんな特撮なのかと疑った。しかし現実の人間の手の上にそうした幻のような現物がある事に、新鮮な驚きを感じるのみだった。
 それがどういう意味なのか、まだ織莉子とキリカは知らない。

「世界は一直線にしか進まないらしい。……もしかしたら、僕の世界そのものが消えかかっているのかもしれないんだ」

 吉良沢は結論を口にした。その事実は吉良沢にとっても最悪な物だったが、彼は比較的冷静にそう口にすることができた。冷徹さに慣れた証拠だろうか。しかし、極甘の紅茶の味さえわからなくなっている事は、一つの動揺であるようにも思えた。

「僕はずっと、一つの流れに沿った世界から誰かを消せば、その時点で世界は別のルートを辿る二つの未来に分断され、『IF』が生まれる物だと思っていた。その前提で『財団X』に協力する事にしたんだ。……そして、確かに『オリジナル』の世界から分岐した『二次』的な世界は生まれた。だけど……その世界が自らオリジナルに近づき、融合しようとしているんだ」
「……どういう事かな?」

 そう訊いたのはキリカだ。
 キリカは、だんだんとそれを重大な事実と受け止めて、自分の脳内にその情報を溜めこもうとするようになっていた。
 これは織莉子と自分にも関わってくる話だと、直感が告げたのかもしれない。吉良沢としても少し話しやすくなった。

「たとえば、参加者の高町なのはと高町ヴィヴィオを知ってるかい?」
「ああ……それくらいは」

 どうやら、参加者の名前の一部は覚えているらしい。同じ魔法少女だからだろうか。

「……高町なのはと高町ヴィヴィオの来た時間軸は全く別だ。母であるなのはがいなくなった時点で、『高町ヴィヴィオ』は存在できなくなるはずだ。つまり、全く別の未来が生じていなければありえない事例だろう?」
「……なら、そうなんじゃないか?」

 キリカが頭に疑問符を浮かべている間、織莉子も、黙ってはいるが、思索を巡らせているようだった。少なくとも、キリカの質問と同様には考えていないらしい。
 しかし、吉良沢はキリカに合わせて話をする事にした。

「確かに一時的に、『なのはが消えた世界』は発生した。しかし、おそらく、今日が終わると同時に、なのはが消えた世界とヴィヴィオが消えた世界は、一つに統合されてしまうんだ。彼女たちの場合、七人の人間の不在によって別の時間に分かれていたけど、それが最終時間軸……ヴィヴィオかアインハルトが来た世界を『オリジナル』だと思って、そこに統合して、『なのはが消えた』という事実そのものを消してしまう」
「だから、それはどういう事なんだ?」

 吉良沢は少し説明のもどかしさを感じた。それは相手がキリカでなくても、非常に説明に難を要する原理であった。そもそもパラレルワールドなどが出てくる時点で、非常にややこしい話題になるのは間違いない。
 だが、行き詰るわけにはいかない。どうしても説明しなければならない話なのだ。

「僕たちの世界は、全て一つの軸が存在する。それが『オリジナル』だ。魔法少女たちが来た時間軸も全て同じだっただろう? 巴マミが死に、美樹さやかが魔女になり、佐倉杏子が死に……そこまでの流れは、彼女たちがいるどの世界も同じだった。ただ、その細かい話があまりにも、同じすぎるんだ。こうしてその世界の人間が取り除かれた時点で、もっと別のルートがあってもいいはずだと思える。君たちの来た世界は、実際、別のルートのはずだけど、それは暁美ほむらの特殊な干渉によって生まれている物だろ?」
「……」
「だけど、世界の流れは、そうして逆行や再構成によって阻害されない限り、定められた一つの未来にしかならないみたいなんだ。……少なくとも、ここにある十二の世界は全て」

 織莉子が息を飲む。吉良沢と織莉子のように、予知能力を持った人間はその原理をどこかで知っていたのかもしれない。


514 : ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:31:15 j9QAkj0U0

「魔法少女たちの場合、巴マミがお菓子の魔女に食べられて死に、そこから進んでいく時間軸があくまで、通説的な世界で、世界の正当な流れだ。暁美ほむらの旅も含めて一つの世界として形状が記憶されているのかもしれない。しかし、同一の流れに進もうとしている世界同士の別時間軸の存在がこうして一同に会す事で、重ね合い、自分たちの歪みを誤魔化し合う事ができるんだ」
「……歪んだ『二次』世界は、少しでも『オリジナル』に近い世界になろうと、融合を始めてしまう……という事ですか?」

 織莉子が理解したようだった。
 オリジナル──と呼ばれる一つの世界が存在し、その流れを全員が辿ろうとしていたという事である。

「その通りだ。傷ついた細胞のように、一つ一つが正しい時間の流れに戻ろうとしている。そして、それぞれの世界は、最もそれに近い最終時間軸と融合し、元の世界では『高町なのは』をはじめとする同一世界の人間たちは大人になってから同時に殺し合いに招かれたのと同じ事にされる」

 少なくとも、今なのはたちを必死に捜索している家族や友人たちは、明日にはそれを忘れて、数年後の「なのは」を探す人間と結合される事になるのだろう。おそらく、人物が消える前の時点で、そこまで同じ歴史を辿って来た世界とリンクし、上書きされ、『オリジナル』と同様の世界に近づいていく。
 しかし、最終時間軸に調整された時点で、相互影響のない『オリジナル』世界の捜索が難しくなり、融合が終わる。そこに至るまでの時間が、この殺し合い会場の時間で一日程度という事だ。本来の通り、殺し合いなど存在せずに進む世界はここには存在せず、

「多分、ここには、実験台に近い物が揃っていると思う」

 吉良沢は、ここまで話して、ようやく紅茶の異常な甘さに気づいたようで、カップを二度と触らなくなった。

「……涼村暁や速水克彦がその一例だ」

 暁や速水、黒岩の三名は、本来なら一人の人間の『夢』の中の存在である。しかし、彼らがこうしてここにいる。夢の中の人間が、こうして確かな人格を持ってこの場に召喚されている事は異常だと言えよう。それはまるで、一人の人間の脳内で殺し合いが行われているようでもあるが、それは違う。
 確かに、現実で行われている殺し合いの中に、夢人格が存在しているのだ。

「時間遡行者、暁美ほむらもそうですか?」

 ほむらの時間遡行によって、改変された世界の一つから来た織莉子とキリカ。
 彼女たちは、ほむらの旅のうちの一つを共有している五人の魔法少女から外れている。
 参加者の魔法少女たちは全員同一の世界から来ているが、彼女たちは違うのだ。
 それが世界の融合にどう影響を与えていくのかも一つの実験。

「ああ。きっと。それに、世界の破壊者と接触したシンケンジャーや仮面ライダーダブルも」

 何より、全く同じ『世界の融合』を経験する仮面ライダーディケイドと、接触を図った者たち。ディケイドの旅の果てには、結果的に全く別の世界同士での融合を許してしまった。
 全く近しい世界同士ならば、もっと簡単な融合が行える。

「僕たちがこの殺し合いの主催者に引き抜かれた理由。……それも、おそらく予知能力が、世界の融合に対してどう反応するのか試した……あるいは、予知能力を持つ人間を手元に置いておきたかったという事じゃないかと思う……」
「もしかして、この殺し合いそのものが実験という事ですか?」
「……いや。それはわからない。でも、きっと、それだけじゃない。もっと大きな野望のついでなんだ。……そんな事の為にこれだけ大掛かりな実験をするなんて、普通は考えられない」

 吉良沢もそこまではわからなかった。
 加頭順やニードルはもっとちゃんと理解しているかもしれないが、彼らに訊く事はできない。

「……でも、これだけはわかる。僕たちは自分たちの未来の救済を保障されてここに来たけど……おそらくは、世界の流れによって作り変えられてしまうんだろう。僕が見た憐の回復も、全てなかった事になる。財団にとって想定内か、想定外かはわからないけど」

 吉良沢はたった数日の幻のためにこうして殺し合いの片棒を担がされていたわけだ。

「じゃあ、暁美ほむらが旅した世界の一つに過ぎない私たちの存在は……? その流れに飲み込まれたら……救おうとした世界も別の世界に統合されてしまうの……?」


515 : ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:31:34 j9QAkj0U0

 そう言われて、吉良沢は押し黙った。
 そう、やがて、ほむらたちの世界の織莉子やキリカと等しくなっていくかもしれない……。
 この殺し合いの影響下では、殺し合いの中に二つ存在してしまう物体以外は、平気だろう。

「織莉子は、私たちの世界を救う為にここまでやって来たんだ! 別の世界に取り込まれたら、織莉子がやってきた事も全部……無駄じゃないか! 私たちが守りたい世界は、……守ろうとした世界は……」
「無駄かどうかはわからない。イレギュラーな君たちの世界が融合していくのかどうか……」

 暁美ほむらが遡行した分も含めて一つの時間軸だというなら、彼女たちもワルプルギルの夜との決戦前まで時間が飛ぶ事になる。その辺りは複雑に思えた。
 しかし、ほむらの行動を淹れてしまうと、世界はリセットされる。この織莉子とキリカのこの日までの行動は無駄になってしまうだろう。手放しに喜ぶ事はできない。

「……ダークザギが倒される事が、僕の世界の救済条件だ……。でも、このままだと、果たしてどうなるか……」

 吉良沢にとっても、最終時間軸に辿り着く前に石堀がここで死ねば世界は救われる事には違いない。それは諸刃の剣だ。一種の賭けにしかならない。
 しかし、吉良沢が行ってきた注文の数々も、全て水泡だ。

「おそらく、僕たちがこの仮説に辿り着いた事は財団Xも気づいているだろう。ただ、実験台である僕たちを安易に殺す事はない。……僕たちはまだ協力し続けるしかないみたいだ」

 吉良沢がそう告げた。


516 : The Gears of Destiny - 忘れえぬ思い出を胸に - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:32:13 j9QAkj0U0



 ──壁には、今日という日々を彩る写真が映し出されていました。
 決して良い記憶ばかりではないけれど、悪い記憶だけというわけでもない一日。
 しかし、もしそこで出会えた人と出会うとしたなら、今日ではない方が一日。
 そんな一日も、もう終わりを迎えようとしています。
 今日一日は、私たちの今日までの人生で、最も長い日でした──。







 セイクリッド・ハートが映し出している日常カメラの記録。映写機のように、真っ暗な部屋に一筋の光を発して、全員でそれを見つめる。壁に反射して輝くその写真には、今日一日のヴィヴィオを映し出していた。

 ハイブリッド・インテリジェントデバイスの中でも、セイクリッド・ハートは特に日常カメラ機能が充実したデバイスであった。それは、普段、格闘や普通の生活を営む彼女たちの「日常」を映したものばかりで、今日この時まで、「事件の証拠映像」を記録する事など、殆どなかったのである。
 高町ヴィヴィオも、クリスがそうして今日の一日をしっかりと記憶していた事など、殆ど知らなかった。そこに映し出される、この殺し合いに巻き込まれてからの二十四時間の記録は、全て、真実を映し出した貴重なデータであったが、今は思い出として映し出されている。
 殺し合いに巻き込まれる以前の写真も、中にはある。
 なのはやフェイト、スバルやティアナ、ユーノやアインハルトが映された日常の記録。
 その後から、大量に撮影されている、管理局に提出するための非日常の記録。

 しかし、その提出用資料を、クリスは壁に映し出していた。今日一日を、確かに刻み付けるために。







【Sequence:1】



 天道あかね。
 写真に写っているのは、笑顔の少女だった。
 隣には、いつもおさげ髪の男がいた──その男は、たまに「女」だった。
 ヴィヴィオが特に親しくしていたのは、その男女の方だ。その名前は早乙女乱馬。彼は、水を被ると「女」になり、お湯を被ると元の「男」に戻る特異体質の持ち主であった。
 写真の中でだけは、その男──あるいは女は、快活であった。笑顔でピースする写真まである。彼はクリスが映像をカメラで撮っているのに気づいていたのだろうか。彼は、今はもう、何も言わない。
 この笑顔も、とうに写真の中でだけ輝くものになってしまっていた。







 ──あたしは、ホテルに来ていた。
 呪泉郷からも近い施設だ。いずれにせよ、呪泉郷の水に入れば、カナヅチであるあたしは一瞬で溺れてしまうだろう。協力できる人間がいれば良かったのだが、今更呪泉郷の力を使う必要もないだろうと、あたしは思い、あのすぐ後に呪泉郷を離れた。

 ××(誰か物凄く強い人だった)でさえも軽く押しのけた伝説の道着。
 ナスカやバイオレンスのガイアメモリ。
 何かの力を封じ込めたダークエボルバー。
 そして、この腹部に埋め込まれた不思議なベルト。

 天は彼女に次々と力を与えてくれる。この殺し合いに勝ち残るための力──それがあたしのもとに降りかかっている。


517 : The Gears of Destiny - 忘れえぬ思い出を胸に - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:32:43 j9QAkj0U0

 ただ──

「はぁ……はぁ……」

 ホテルのベッドで横になるあたしの姿は、あまりにもはっきりと、疲労困憊の様子を見せていただろう。あたしの体内へと延びていくベルトの力は、確かにそれまでの疲労を回復させている。そう、確かに回復させてはいたが、すぐに全回復させるほどではないのだった。
 それに、あたしも人間だ。食べたり、寝たりしないと生きていけない。
 ホテルで体を休めて、その後で殺し合いを再開するのでも遅くはない。見たところ、この時間でもホテルは誰か他の参加者の巣にはなっていないようだった。もし、誰かいたならば、敵を打ちのめしてから、睡眠にありつける。
 ……いや、その前にシャワーだ。
 一日、疲れた体を癒さなければならない。水道、電気、ガスは通じているので、勿論、お風呂のお湯も湧かせるが、私は風呂でゆっくりする気分にはなれなかった。
 部屋に備え付けられた小さなバスルーム。傍目にはトイレもある。
 ……今は、シャワーだけでいい。

「……道ちゃん。見張りをお願い……」

 私は道ちゃんにそう頼んだ。彼は、私の衣服でありながら、意思を持っている。
 自立移動も可能な、非常に特殊な道着なのだ。戦闘だけでなく、こういう時も役に立つ。
 道ちゃんを外し、あられもない姿となった私は、すぐにシャワーを浴びる為にバスルームへ入った。

 ──その時、なんだか妙な記憶が私を襲った。

「え……?」

 全裸で、バスルームのドアを開けた時、ふと湯船の方を見た。
 そこには誰もいない。──確かに誰もいないが、誰かが出てきてもおかしくないような気がした。
 一瞬、何か既視感のある光景が、あたしの頭の中に浮かんだのである。
 ぐゎら、と音を立てて、その湯船に入った時に、そこにおさげ髪で全裸の男が湯船から出てくるような気がした。

 実際にそこにいるとしたら、……変態?

 あたしが入ろうとしている風呂に、先に入っている男なんていないだろう。天道家は三姉妹に、父が一人。しかし、お父さんはおさげ髪ではない。
 自宅以外の個室風呂に入る機会もない。
 だいたい、お風呂に入るときまでおさげ髪でいるなんて、それだけで異常だ。

「なんだったんだろ……」

 今の既視感に向けてそう思いながら、あたしは顔から、体中を洗い流した。
 そんな不思議な出会いがかつて、あったような気がした。
 ……そして、髪を洗い流そうとしている時、ふと自分の髪が短くなっている事に気づいた。ロングヘアを梳くようにして洗おうとしていたのに、だ。
 いや、むしろ、何故、自分はロングヘアを梳こうとしたのだろうか。あたしは、確かもっと以前からショートヘアのはずだ。
 つい先ほど見た夢では、確かに長い髪を振り回していた気がするが──それは、あくまで夢だ。

「……?」

 じゃあ、どうして、髪を切ったんだっけ……?







 ……ヴィヴィオは、写真を眺めていた。
 早乙女乱馬、山吹祈里、園咲霧彦。ヴィヴィオがこの殺し合いに来て、親しくなった仲間たち──そして、今は一人もこの世にはいない。

「ブッキー……」

 美希が呟いた。
 写真の中では、山吹祈里は、カメラに向かって微笑んでいた。
 彼女は動物が好きだったので、ウサギのぬいぐるみの形をしたクリスに何か語り掛けたのだろう。
 クリスは、記録映像とは別に、そこをシャッターチャンスと考えたのだ。


518 : The Gears of Destiny - 忘れえぬ思い出を胸に - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:33:00 j9QAkj0U0

 そう、確かに山吹祈里は、「そこ」にいた。
 実際に会ってみない限り、はっきりと湧かないはずの実感。それが、確かにこみあげてくる。画像の中の山吹祈里は、蒼乃美希がよく知る──昨日まで隣にいた山吹祈里と、全く変わらなかった。
 何枚か映っている写真の中で、困ったような表情を見せたり、どこか世話を焼くような笑みを見せたりしている彼女は、もうこの世にはいないのだ。

「……」

 園咲霧彦。
 左翔太郎とフィリップは、かつても一度、その男の死を経験していた。
 ミュージアムの一員でありながら、街を愛したドーパント。──彼が三人の子供の保護者をしていたらしい事は知っている。
 写真の中の霧彦は、戦いの中で深い傷を負っていた。
 この男が、無理を通してガドルと戦い、そして果てた時の声を、翔太郎と杏子は聞いていた。

「……てめぇ……」

 ただ、その写真の中に、強い憎悪の言葉を投げかける男も、一人だけいた。
 響良牙であった。──彼の怒りの矛先は、無論、早乙女乱馬にある。
 良牙は、気づけば、そこに映し出された映写パネルに向けて殴りかかっていた。
 ただ、半透明な粒子の塊を殴れるはずもなく、良牙の拳はその男の笑顔をすり抜けた。

「……くそっ」

 その顔を見ると、途端にぶん殴りたい衝動を抑えられなくなる。
 死んだ友人。
 良牙は、その男の顔がそこにあると、やはり殴らざるを得ない気がしたのだ。
 それは宿命だった。戦い合う強敵同士の宿命だ。──しかし、その宿命は終わりを迎えた。拳を交え合う、殺伐とした楽しい日常も今日が最後だった。
 ヴィヴィオは、アインハルトを喪った時に、その気持ちが少しわかる気がしたのだった。







【Sequence:2】



 写真に写っているのは、白と金の怪物だった。
 炎の中で右手を掲げ、写真を通じても、その外形には背筋が凍るほどだった。
 写真の中で生きているが、その男は既にもうこの世にはいない。
 記録映像の一つとして残された、怪物の姿。──その頬はひきつっているのだろうか。
 写真の中でも、その怪物はそこにいる者たちを震え上がらせるほどの迫力を見せていた。

 ン・ダグバ・ゼバ。

 史上最悪。人を殺す事に快楽を感じ、笑顔を見せる。そして、その笑顔のために誰かを殺し、誰かと戦う本能を疾走させる怪物であった。
 彼らは、その男を、この写真の中でも「人」とは思えなかった。
 仮に目の前に彼のような敵が現れれば、人として扱わないであろう者もこの中にはいた。

 誰が、「ガドル」が今、彼と同じ位についている事を予測しただろうか……。そんな者はこの場にはいない。







 ン・ガドル・ゼバ──そんな名前の新たなる王に昇格した俺の前には、広大な海があった。
 弱い波がこちらに寄って、砂浜やテトラポットに打ち付けられる。あまり激しい波ではなかった。
 海は星に照らされていた。灯台があるわけではないが、充分に明るかった。月あかり、星あかりは街の近くでも充分に届いた。──街の大半が灯りを消していたからだ。中には付けっぱなしにされた施設や、煩わしいほどに光るネオンサインもあったが、人工的な灯りは自然の灯りに敵わなかったらしく、星空の輝きは消えていなかった。
 その光る海に呼ばれたような気がして、俺はここまでバイクを走らせたのだった。


519 : The Gears of Destiny - 忘れえぬ思い出を胸に - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:33:15 j9QAkj0U0

 海。ゴ・ベミウ・ギ、ゴ・ジャーザ・ギ……などと言った、水棲生物の力を得た同族たちが好みそうな場所だ。奴らはここが一番戦える。奴らのステージはここだ。この場所に引き込まれれば、俺も奴らとどう戦えばいいのかわからなかっただろう──そう、「ゴ」である時は、絶対に。
 そんな二人の死を、俺は残念に思っていた。
 この二人は、かつてクウガに敗北し、ザギバスゲゲルに挑む権利を失った戦士だ。二人とも俺以上にリントの文化を理解していた。楽譜に準えたゲゲル、妙な機械を使って予告してから殺すゲゲル。──下手をすれば、リント以上にリントに詳しい者も仲間にいたという事だ。しかし、いずれも全てクウガに敗北している。
 仲間たちは、確かに「敗者」だった。クウガに敗れ、散った哀れな「敗者」には違いないのだ。「敗者」──言い換えれば「弱者」には過ぎない。しかし、それは俺も同じのはずだ。──一度はクウガに敗れ、俺の記憶が正しければ、俺は確かに死んだ。
 それが、どういうわけか、俺は再びクウガやダグバに挑む権利を受けてしまったのだ。
 俺と同じように、奴らもザギバスゲゲルに挑む権利を有していたら……? あるいは……。

 それだけに、同族の死は惜しかった。
 ン・ベミウ・ゼギ、ン・ジャーザ・ゼギとなった奴らと戦えたかもしれない。
 もしくは、同じように俺が「ン」に昇格した場合でも、ゴ集団から挑戦を受ける事になったかもしれない。
 そして、奴らを殺す事になっただろう。──その時が永久にないのは残念だ。強い戦士の息の根を、更なる強さを持って止めてやる面白さ。それが果たされないままに終わった。

「ん……?」

 ふと、俺は、その海の上に浮かぶ何かがあるのを見つけた。
 星空に照らされ、光を見せる海上で、真っ白なその物体は厭に目立った。
 まるで捨てられた生ゴミのようになった何か──俺は、不審に思ってそちらへ出向いた。波に足を取られる事はなかった。流されていくその物体に、俺は異常な関心を示した。あれが俺をここに導いたのかもしれない。
 俺は、近づく前から、それが「死体」であるのは予感していた。何となくだが、人の形を象っているのは見えた。死体ならば何度も見慣れている。

 見慣れているが──

「ダグバ……」

 ──その男の死体は、初めて見た。

 半身を海水に漬かった俺は、少しばかり言葉を失う。これは確実に死体だ。胸部を貫かれている。内臓が海に投げ出され、細かくちぎれ始めている。これは魚の餌になる予定だ。殺されてから随分と時間が経過しているので、もうこれ以上血を流す事もなさそうに思える。残りかすのような血の跡は、死体の周りに僅かに感じられた。

 ──ン・ダグバ・ゼバ。その確かな敗北の証がここにあった。

 究極の闇と呼ばれた王はもういない。……この男の役職を継ぎ、グロンギを束ねる事になるのは俺だ。古き王は倒れ、この男の下にあった男が王となった。
 カブトムシがクワガタの上に立った瞬間だ。クウガを破り、ダグバの座を奪った俺は、世界最強の存在となったに違いない。
 ……そう思うと、俺は、すぐにその男の肉に興味を失った。
 その男の肉を背にして、再び海岸へと戻る。俺の半身は濡れていたが、あまり不快ではなかった。それ以上の高揚感と、もう一つの興味がすぐに湧いて来たのだ。それが、軍服を汚す水を些細な事に変えてしまった。

「キュグキョグ ン ジャリ ゾ モタラグ ンザ ゴレ ザ……」

 究極の闇を齎すのは、俺だ……。
 そう、絶対に──この役割だけはもう渡す事はないだろう。
 この殺し合いの会場にいるらしい「もう一人の王」の息の根を止めるべく、俺はまた鉄の騎馬に跨った。
 そいつを殺した時、俺は「究極の闇を齎す者」になれる。

 次には、そうだ……まずは、「中学校」を目指そう。






520 : The Gears of Destiny - 忘れえぬ思い出を胸に - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:33:35 j9QAkj0U0



【Sequence:3】



 梅盛源太は活発な男で、所謂ムードメーカーだった。寿司屋らしいが、その腕はもう二度と寿司を握る事はなく、ここにいる誰もその寿司を口にする事はなかった。
 果たして、本当に彼は美味い寿司を握るのか──。それは、写真の中にしかない彼を見ても、わからないだろう。
 写真はただ視覚と感情だけに訴えかける。彼が寿司を通して訴えかけたい「味覚」も、彼の甲高い声を伝えてくれる「聴覚」も、写真を通して感じられる感覚ではない。
 彼らシンケンジャーが倒すべき敵はまだ生きている。

 血祭ドウコク。
 奴はまだ、この殺し合いの会場のどこかにいる……。






 俺はF−3三途の池で体を休めていた。
 俺にとって落ち着くのは、やはり嘆きの水が溜まった場所だ。参加者はまだ誰も来てねえが、少し心を落ち着かせるにはちょうど良かった。

 くそっ……。

 敵が多すぎる。それと同時に味方が少ねえ。
 まずはあの銀の化け物に変身するガキだ。あいつが一番の問題児だ。あいつはまだ死んでいないらしい。それから、他にもあの仮面ライダーとかいう奴らや、プリキュアとかいう奴ら。面倒だが、そのうち全員潰さなければならない。
 そいつらよりも優先すべきなのが……マンプクに、アクマロ。
 あいつらは絶対に潰す。どんな手を使ってでも。それに、こんな首輪をつけやがった加頭もだ。
 せめて、仲間の外道がいりゃあ、この殺し合いももっと早く侵攻できたんだろうが、残念ながら俺が束ねるべき奴らがいねえ。
 だいたい、このまま首輪を外せたとして、その後、どうする……? どうすりゃあ、マンプクは幻惑ではなく、本物として俺の前に出てくるんだ……?
 畜生。浮かばねえ。
 いざって時は、仕方ねえが、あの仮面ライダーやプリキュアとかいう奴らに訊くしか……。

 ……いや。

 ……それは極力避けてえところだな。

(まぁ、こいつが手に入っただけ……暴れ甲斐はある)

 昇竜抜山刀。これがなけりゃあ話にならねえ。
 俺からこれを没収するなんて、何考えてやがるって話だ。
 最初からこいつがあればもう少し手っ取り早く終わったかもしれねえが……。だいたい、シンケンジャーどもが自分の変身道具を支給されている時点で刀を持ったも同然だってのに、俺にコイツが支給されてねえなんてのは道理に合わねえ。

(まずは手始めにアクマロの奴をぶっ殺す)

 二の目とはいえ、アクマロを早々に殺しておけば、調子も戻るだろう。
 負け慣れちまうのが一番いけねえ。おそらく、制限って奴か、あるいはマンプクの野郎が俺だけ細工しやがったか……。
 わからねえが、ともかくアクマロを殺しておけばこれからもまた勝ちの流れになる。
 博打と同じだ。
 負け慣れるのが一番いけねえ。






521 : The Gears of Destiny - 忘れえぬ思い出を胸に - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:33:51 j9QAkj0U0



【Sequence:4】



『You……』

 マッハキャリバーはスバルの姿を見て、そう呼んだ。
 それは、かつての日常の一コマ。なのはも、フェイトも、ユーノも、スバルも、ティアナも、写真の中では笑っている。
 だが、それはもう夢。過去の出来事になってしまった。写真の中のスバルの風貌は、マッハキャリバーが知っているスバルよりも少し大人びており、ヴィヴィオが確かに未来のヴィヴィオである事を確かめさせた。
 マッハキャリバーは、その写真に自分も映り込んでいる事を知っている。
 どうやら、将来的にはデバイスは浮遊しているらしい。マッハキャリバーも同様だ。

 未来の自分が映り込んだ写真とは珍しい。

 しかし、その未来に自分は行きつけないのだろうと、マッハキャリバーは思う。
 スバルがいない。誰もいない。

 写真の中で、何の違和感も持たずに平和を漫喫している自分を、マッハキャリバーはただただ羨望のまなざしで見つめていた。
 レイジングハート・エクセリオンの姿も、写真の中では健在だった。







 私は待ち続ける……。

 この黒い闇の中で、私は定時放送が始まるのを待っていた。
 アリシアが言った通りならば、私は定時放送の頃合いに人の姿を得られる。
 私はこれまで、人になりたいと強く願った事はなかった。マスターの相棒としてそこにあれば充分、人のように生きられた。
 しかし、今ほど人になるのが待ち遠しい時はない。


 静寂は、正確な時間間隔を鈍らせる。……私の中の機能も壊れているのかもしれない。
 ひたすらに長い時間が私を焦燥感で苛立たせる。
 これから、私は「復讐」を実行する。
 無計画かもしれない。計画というものが通用する相手ではないかもしれない。しかし、コウガ・サエジマを倒す為に出来る限りの事をしたい。
 マスター、フェイト、カルネ……あらゆる人間を私は奪われた。
 私は、彼女たちの無念を晴らさなければならない。

 ただただ、優しくあり続けた彼女たちが死に、冷徹非情の悪魔がこの世に存在し続ける事が許せなかった。
 復讐……否、正義とも呼べるかもしれない。
 私の中で、上空に人の姿が浮かぶまで、本当に長い時間を要したと思えた。






522 : The Gears of Destiny - 忘れえぬ思い出を胸に - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:34:05 j9QAkj0U0



【Sequence:5】


 涼邑零は、スカルボイルダーを加速させた。法定速度など、とうに守る気がない。
 メーターの数字は百数十キロにものぼる。
 彼がこれほどまでにマシンのスピードを上げているのは、ここが禁止エリアだからに違いない。ここを通る者は誰もおらず、あるのは危険な障害物のみ。
 ただ、零はバイクにおいても達人級であった。
 スカルボイルダーを見事に駆り、障害物を殆ど何なく回避してみせる。

 結城でさえ肝を冷やしたのは、裏の狭い路地を走り出した時だ。彼はここでかなり無理な運転をした。いっぱいに詰められたゴミ袋を吹っ飛ばした時など、いかにマシだったか。
 彼がカーブをした瞬間に、眼前に行き止まりの壁があったのだ。
 あろう事か、零はその壁に向けて前輪を持ち上げ、ウィリー走行状態で壁に衝突させたのである。しかし、なんとそのまま壁を利用して転回──結城が気づけば逆を向いている。
 結城ですら目を瞑って交通事故を覚悟した。
 二人乗りでウィリー走行をするなど、普通はやらない。

「……ここは向こうのエリアに繋がってないみたいだな」

 零はこれだけの事をしたうえで、こう平然と言って見せるのである。
 殺されるかと思った。
 しかし、零の運転技術の高さは本郷猛をはじめとする知り合いたちの姿を想起させた。
 立花藤兵衛ならば、この男をどれだけ気に入ってくれるだろうか。

「真っ直ぐ普通の道を行け。近道なんて考えるな」
「……普通の道?」

 どうやら、走行中は風の音などなどに遮られて、結城の声が聞こえていないらしい。
 このスピードでは当たり前だ。独り言を言う余裕があるのが不思議なほどである。高速道路並のスピードを出して走るならば、普通は視界だけで情報を得ようとするだろう。
 ただ、結城の言っている事を聞いていたのか聞けなかったのかはわからないが、結果的にすぐに零は無茶な運転をやめた。……スピードだけは危険そのものだったが。
 河を渡り、街の向こう側には到着する。

「もうすぐか?」

 零は、そう訊いた。
 どこに行くのかは決まっている。中学校だ。
 警察署という施設に人が集まっているように、チームを組むには一つのたまり場が必要だ。それは時として、最悪の敵を招く事もある諸刃の剣だが……。

 バイクが減速する。

 中学校がもう見え始めている。
 中学校の中には灯りが点っている。誰かいるのだろうか。

「オイ! うるせえんだよ! バカ野郎!!」

 聞き覚えのある声が、向こうの窓から響いて来た。間違いない……あいつだ。
 結城と零は、お互いの顔を見合って、苦笑する。
 どうやら、ここで間違いなかったらしい。ひとまずは襲われている様子もなく、安心のようだ。

 そうして結城たちが校庭の前に辿り着くと、上空に放送担当者のホログラムが出現した。






523 : The Gears of Destiny - 忘れえぬ思い出を胸に - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:34:32 j9QAkj0U0



 涼村暁と石堀光彦と桃園ラブは、ポーカーにも飽きていた。
 ラブはだんだんと、眠気を感じてウトウトし始めている。
 丸っこいトランプは机の上に置かれており、「いつでも遊んでくれよな!」と視線を送っているが、残念ながら視線を返す者はいない。
 こんな状況でまだトランプを続けようという者はいなかった。

(……確かに、予知はできている)

 実は石堀は、ポーカーを通じて予知能力を試していたのである。
 また二時間使用不能らしいが、実際のところ、その信憑性を確かめればあとはどうでもいい話だ。ポーカーで石堀がブタを引き、暁がフルハウスを出す事を石堀は予知していた。
 そのうえで、ロイヤルストレートフラッシュを手の中に隠していたのだ。
 遊ぶように見せかけて、石堀は着々と計画を練っていた。

「ん? 暴走族か? こんな時間にバイクがうるせえな……オイ! うるせえんだよ! バカ野郎!!」

 暁が外に向かって怒鳴り散らす。
 そんな暁に冷や汗を流して石堀が怒鳴り返す。

「バカはお前だ! 暴走族のわけがないだろ! 敵かもしれないってのに……まったく」

 石堀はアクセルドライバーを準備する。万が一、外にいるのが敵だった場合の為だ。
 そんな石堀の姿を、暁は横目に見ている。
 ラブもまた同じだ。
 ……この男が、黒岩の言ったようにいずれ裏切るとは、彼らも考えられなかった。
 一緒にいて楽しいとさえ思えるこの男が……裏切り者。
 本当にそうなのだろうか。

「ボケっとするな。どっちにしろここに来る気だったみたいだが、戦闘になるかもしれない」

 そう石堀が言った時、この殺し合いの一日が終わった。







【Final Sequence】



「……今日は、一日が随分長く感じましたね」

 ヴィヴィオは、写真の前でそう呟いた。
 この写真の山は、全てヴィヴィオを中心に撮られたものだ。クリスはこの殺し合いで片時もヴィヴィオから離れておらず、それはクリスの撮影がそのままヴィヴィオの行動に直結するという事であった。
 よって、この殺し合いの一日をほぼ全て把握し直せるのは彼女のみという事だった。他はまた、整理し直すのに少し時間を要するだろう。冷静でいるように見えて、記憶の混乱は起きていると思う。
 ヴィヴィオも、ざっと眺めてみても、よく見ると順番が曖昧になっている記憶もある。
 無限図書館の司書の資格を持つ彼女も、自分の脳内のデータを整理し直すのが難しかったかもしれない。

「でも……。明日からもまた……短くはない一日だと思います」

 今日は長かった。長い一日に随分と疲れた。
 放送を聞いたら、仮眠を取る者も出てくる。

「明日も……いえ、これからも……よろしくお願いします!」

 ヴィヴィオは、こちらに向けてペコリと頭を下げた。






524 : The Gears of Destiny - 忘れえぬ思い出を胸に - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:35:38 j9QAkj0U0



【Extra Sequence】



 そして。
 ン・ガミオ・ゼダは歩き出していた。
 それは、一つの因果か──。彼はガドルの居場所に着々と近づきつつあった。
 エリアはG−6。もう少し前にガドルがいたエリアでもある。
 彼は中学校を目指して進撃している。

 ガドルとガミオ。二人のグロンギは確かに今、中学校に近づいていた……。

 ゲームはまだ、確かに続いている。




【バトル・ロワイアル 1日目 終了】


525 : The Gears of Destiny - 全参加者最終状態表 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:36:21 j9QAkj0U0


【1日目 終了時点】
【全状態表】







【ガイアセイバーズ】
※魔女に関する事、翔太郎・フィリップ間の考察以外のほぼ全部の情報を共有してます。

【F−9 警察署】
※警察署の前にハードボイルダー@仮面ライダーWが置いてあります。

【孤門一輝@ウルトラマンネクサス:アーステクノロジー】
[状態]:ダメージ(中)、ナイトレイダーの制服を着用、精神的疲労、「ガイアセイバーズ」リーダー
[装備]:ディバイトランチャー@ウルトラマンネクサス
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2(戦闘に使えるものがない)、リコちゃん人形@仮面ライダーW、ガイアメモリに関するポスター×3、ガンバルクイナ君@ウルトラマンネクサス
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:みんなを何としてでも保護し、この島から脱出する。
2:ガイアセイバーズのリーダーとしての責任を果たす。
3:石堀さん、美希ちゃんの友達と一刻も早く合流したい。
[備考]
※溝呂木が死亡した後からの参戦です(石堀の正体がダークザギであることは知りません)。
※パラレルワールドの存在を聞いたことで、溝呂木がまだダークメフィストであった頃の世界から来ていると推測しています。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。

【蒼乃美希@フレッシュプリキュア!】
[状態]:ダメージ(中)、祈里やせつなの死に怒り 、精神的疲労
[装備]:リンクルン(ベリー)@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式((食料と水を少し消費+ペットボトル一本消費)、シンヤのマイクロレコーダー@宇宙の騎士テッカマンブレード、双ディスク@侍戦隊シンケンジャー、リンクルン(パイン)@フレッシュプリキュア!、ガイアメモリに関するポスター、杏子からの500円硬貨
[思考]
基本:こんな馬鹿げた戦いに乗るつもりはない。
1:ガイアセイバーズ全員での殺し合いからの脱出。
2:ラブが心配。
[備考]
※プリキュアオールスターズDX3冒頭で、ファッションショーを見ているシーンからの参戦です。
※その為、ブラックホールに関する出来事は知りませんが、いつきから聞きました。
※放送を聞いたときに戦闘したため、第二回放送をおぼろげにしか聞いていません。
※聞き逃した第二回放送についてや、乱馬関連の出来事を知りました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。


526 : The Gears of Destiny - 全参加者最終状態表 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:36:37 j9QAkj0U0

【沖一也@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、強い決意
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2、ガイアメモリに関するポスター、お菓子・薬・飲み物少々、D-BOY FILE@宇宙の騎士テッカマンブレード、杏子の書置き(握りつぶされてます) 、祈里の首輪の残骸
[思考]
基本:殺し合いを防ぎ、加頭を倒す
1:本郷猛の遺志を継いで、仮面ライダーとして人類を護る。
2:警察署内では予定通りに行動する。
3:結城と合流したい。
4:仮面ライダーZXか…
[備考]
※参戦時期は第1部最終話(3巻終了後)終了直後です。
※一文字からBADANや村雨についての説明を簡単に聞きました
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました
※18時に市街地で一文字と合流する話になっています。
※ノーザが死んだ理由は本郷猛と相打ちになったかアクマロが裏切ったか、そのどちらかの可能性を推測しています。
※第二回放送のニードルのなぞなぞを解きました。そのため、警察署が危険であることを理解しています。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※ダークプリキュアは仮面ライダーエターナルと会っていると思っています。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はレーダーハンドの使用と、パワーハンドの威力向上です。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。

【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:上半身火傷(ティオの治療でやや回復)、左腕骨折(手当て済+ティオの治療でやや回復)、誰かに首を絞められた跡、決意、臨死体験による心情の感覚の変化
[装備]:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはシリーズ、稲妻電光剣@仮面ライダーSPIRITS
[道具]:支給品一式(アインハルト(食料と水を少し消費))、アスティオン(疲労・睡眠中)@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ほむらの制服の袖、マッハキャリバー(待機状態・破損有(使用可能な程度))@魔法少女リリカルなのはシリーズ、リボルバーナックル(両手・収納中)@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:生きる。
2:警察署内では予定通りに行動する。
[備考]
※参戦時期はvivid、アインハルトと仲良くなって以降のどこか(少なくてもMemory;21以降)です
※乱馬の嘘に薄々気付いているものの、その事を責めるつもりは全くありません。
※ガドルの呼びかけを聞いていません。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※第二回放送のボーナス関連の話は一切聞いておらず、とりあえず孤門から「警察署は危険」と教わっただけです。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※一度心肺停止状態になりましたが、孤門の心肺蘇生法とAEDによって生存。臨死体験をしました。それにより、少し考え方や価値観がプラス思考に変わり、精神面でも落ち着いています。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。


527 : The Gears of Destiny - 全参加者最終状態表 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:37:07 j9QAkj0U0

【左翔太郎@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、胸骨を骨折(身体を折り曲げると痛みます・応急処置済)、上半身に無数の痣(応急処置済)、照井と霧彦の死に対する悲しみと怒り
[装備]:ダブルドライバー@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(アイスエイジ)@仮面ライダーW、犬捕獲用の拳銃@超光戦士シャンゼリオン、散華斑痕刀@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:支給品一式、ガイアメモリ(ジョーカー、メタル、トリガー)、ナスカメモリ(レベル3まで進化、使用自体は可能(但し必ずしも3に到達するわけではない))@仮面ライダーW、ガイアドライバー(フィルター機能破損、使用には問題なし) 、少々のお菓子、デンデンセンサー@仮面ライダーW、支給品外T2ガイアメモリ(ロケット、ユニコーン、アクセル、クイーン)、ハードボイルダーの鍵、パワーストーン@超光戦士シャンゼリオン、ふうとくんキーホルダー@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、須藤兄妹の絵@仮面ライダーW、霧彦の書置き、バッドショット+バットメモリ@仮面ライダーW、スタッグフォン+スタッグメモリ@仮面ライダーW、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW、まねきねこ@侍戦隊シンケンジャー、evil tail@仮面ライダーW
[思考]
基本:殺し合いを止め主催陣を打倒する。
1:ガドル、ドウコクは絶対に倒してみせる。あかねの暴走も止める。
2:仲間を集める。
3:出来るなら杏子を救いたい。もし彼女が魔女になる時は必ず殺す。
4:現れる2体の魔女は必ず倒す。
[備考]
※参戦時期はTV本編終了後です。
※他世界の情報についてある程度知りました。
(何をどの程度知ったかは後続の書き手さんに任せます)
※魔法少女の真実(魔女化)を知りました。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はフィリップ、ファングメモリ、エクストリームメモリの解放です。これによりファングジョーカー、サイクロンジョーカーエクストリームへの変身が可能となりました。

【フィリップ@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)
[装備]:無し
[道具]:ガイアメモリ(サイクロン、ヒート、ルナ、ファング)@仮面ライダーW、エクストリームメモリ@仮面ライダーW、首輪のパーツ(カバーや制限装置、各コードなど(パンスト太郎、三影英介、園咲冴子、結城丈二、涼邑零))、首輪の構造を描いたA4用紙数枚(一部の結城の考察が書いてあるかもしれません)
[思考]
基本:殺し合いを止め主催陣を打倒する。
1:翔太郎及び仲間達のサポートをする。
2:沖一也とともに首輪を解除する。
[備考]
※参戦時期はTV本編終了後です。
※検索によりまどマギ世界(おりマギ含む)の事を把握しました。
※参加者では無く支給品扱いですが首輪を装着しています。
※検索によりスーパー1についてや、赤心少林拳について知りました。元祖無差別格闘等、伝えられた格闘流派についても全て調べているようです。
※アンノウンハンドについて調べる事はできませんでした(孤門たちの世界でその正体が不明であるほか、記憶操作・情報改竄などが行われているためです)。
※ン・ガミオ・ゼダについても検索不可能でした。


528 : The Gears of Destiny - 全参加者最終状態表 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:37:32 j9QAkj0U0

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、ソウルジェムの濁り(小)、腹部・胸部に赤い斬り痕(出血などはしていません)、ユーノとフェイトを見捨てた事に対して複雑な感情、マミの死への怒り、せつなの死への悲しみ、ネクサスの光継承、ドウコクへの怒り、真実を知ったことによるショック(大分解消)
[装備]:ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、エボルトラスター@ウルトラマンネクサス、ブラストショット@ウルトラマンネクサス
[道具]:基本支給品一式×3(杏子、せつな、姫矢)、リンクルン(パッション)@フレッシュプリキュア!、乱馬の左腕、ランダム支給品0〜1(せつな) 、美希からのシュークリーム、バルディッシュ(待機状態、破損中)@魔法少女リリカルなのは
[思考]
基本:姫矢の力を継ぎ、魔女になる瞬間まで翔太郎とともに人の助けになる。
1:翔太郎達と協力する。
2:さやかと交流があるつぼみには魔女について話しておくべきか…。
[備考]
※参戦時期は6話終了後です。
※首輪は首にではなくソウルジェムに巻かれています。
※左翔太郎、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライアの姿を、かつての自分自身と被らせています。
※殺し合いの裏にキュゥべえがいる可能性を考えています。
※アカルンに認められました。プリキュアへの変身はできるかわかりませんが、少なくとも瞬間移動は使えるようです。
※瞬間移動は、1人の限界が1キロ以内です。2人だとその半分、3人だと1/3…と減少します(参加者以外は数に入りません)。短距離での連続移動は問題ありませんが、長距離での連続移動はだんだん距離が短くなります。
※彼女のジュネッスは、パッションレッドのジュネッスです。技はほぼ姫矢のジュネッスと変わらず、ジュネッスキックを応用した一人ジョーカーエクストリームなどを自力で学習しています。
※第三回放送指定のボーナスにより、魔女化の真実について知りました。


529 : The Gears of Destiny - 全参加者最終状態表 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:37:46 j9QAkj0U0


【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、加頭に怒りと恐怖、強い悲しみと決意、デストロン戦闘員スーツ着用
[装備]:プリキュアの種&ココロパフューム、プリキュアの種&ココロパフューム(えりか)@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&シャイニーパフューム@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&ココロポット(ゆり)@ハートキャッチプリキュア!、こころの種(赤、青、マゼンダ)@ハートキャッチプリキュア!、ハートキャッチミラージュ+スーパープリキュアの種@ハートキャッチプリキュア!
[道具]:支給品一式×5(食料一食分消費、(つぼみ、えりか、三影、さやか、ドウコク))、鯖(@超光戦士シャンゼリオン?)、スティンガー×6@魔法少女リリカルなのは、破邪の剣@牙浪―GARO―、まどかのノート@魔法少女まどか☆マギカ、大貝形手盾@侍戦隊シンケンジャー、反ディスク@侍戦隊シンケンジャー、デストロン戦闘員スーツ(スーツ+マスク)@仮面ライダーSPIRITS、デストロン戦闘員マスク(現在着ているものの)、着替え、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア!、姫矢の首輪、大量のコンビニの酒
[思考]
基本:殺し合いはさせない!
1:警察署に行った後、ガミオのもとに向かう。
2:この殺し合いに巻き込まれた人間を守り、悪人であろうと救える限り心を救う
3:……そんなにフェイトさんと声が似ていますか?
[備考]
※参戦時期は本編後半(ゆりが仲間になった後)。少なくとも43話後。DX2および劇場版『花の都でファッションショー…ですか!? 』経験済み
 そのためフレプリ勢と面識があります
※溝呂木眞也の名前を聞きましたが、悪人であることは聞いていません。鋼牙達との情報交換で悪人だと知りました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※プリキュアとしての正体を明かすことに迷いは無くなりました。
※サラマンダー男爵が主催側にいるのはオリヴィエが人質に取られているからだと考えています。
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました。
※この殺し合いにおいて『変身』あるいは『変わる事』が重要な意味を持っているのではないのかと考えています。
※放送が嘘である可能性も少なからず考えていますが、殺し合いそのものは着実に進んでいると理解しています。
※ゆりが死んだこと、ゆりとダークプリキュアが姉妹であることを知りました。
※大道克己により、「ゆりはゲームに乗った」、「えりかはゆりが殺した」などの情報を得ましたが、半信半疑です。
※所持しているランダム支給品とデイパックがえりかのものであることは知りません。
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※良牙、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※全員の変身アイテムとハートキャッチミラージュが揃った時、他のハートキャッチプリキュアたちからの力を受けて、スーパーキュアブロッサムに強化変身する事ができます。
※ダークプリキュア(なのは)にこれまでのいきさつを全部聞きました。


530 : The Gears of Destiny - 全参加者最終状態表 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:37:59 j9QAkj0U0

【響良牙@らんま1/2】
[状態]:全身にダメージ(大)、負傷(顔と腹に強い打撲、喉に手の痣)、疲労(大)、腹部に軽い斬傷、五代・乱馬・村雨の死に対する悲しみと後悔と決意、男溺泉によって体質改善、デストロン戦闘員スーツ着用
[装備]:ロストドライバー+エターナルメモリ@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(ゾーン、ヒート、ウェザー、パペティアー、ルナ、メタル)@仮面ライダーW、
[道具]:支給品一式×14(食料二食分消費、(良牙、克己、五代、十臓、京水、タカヤ、シンヤ、丈瑠、パンスト、冴子、シャンプー、ノーザ、ゴオマ、バラゴ))、水とお湯の入ったポット1つずつ×3、志葉家のモヂカラディスク@侍戦隊シンケンジャー、ムースの眼鏡@らんま1/2 、細胞維持酵素×6@仮面ライダーW、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、歳の数茸×2(7cm、7cm)@らんま1/2、デストロン戦闘員マスク@仮面ライダーSPIRITS、プラカード+サインペン&クリーナー@らんま1/2、呪泉郷の水(娘溺泉、男溺泉、数は不明)@らんま1/2、呪泉郷顧客名簿、呪泉郷地図、特殊i-pod、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、テッククリスタル(シンヤ)@宇宙の騎士テッカマンブレード、『戦争と平和』@仮面ライダークウガ、双眼鏡@現実、ランダム支給品0〜6(ゴオマ0〜1、バラゴ0〜2、冴子1〜3)、バグンダダ@仮面ライダークウガ、警察手帳、ショドウフォン(レッド)@侍戦隊シンケンジャー、スシチェンジャー@侍戦隊シンケンジャー
[思考]
基本:天道あかねを守り、自分の仲間も守る
1:ガミオに毒の浄化方法を訊く必要がある。
2:あかねを必ず助け出す。仮にクウガになっていたとしても必ず救う。
3:誰かにメフィストの力を与えた存在と主催者について相談する。
4:いざというときは仮面ライダーとして戦う。
[備考]
※参戦時期は原作36巻PART.2『カミング・スーン』(高原での雲竜あかりとのデート)以降です。
※夢で遭遇したシャンプーの要望は「シャンプーが死にかけた良牙を救った、乱馬を助けるよう良牙に頼んだと乱馬に言う」
「乱馬が優勝したら『シャンプーを生き返らせて欲しい』という願いにしてもらうよう乱馬に頼む」です。
尚、乱馬が死亡したため、これについてどうするかは不明です。
※ゾーンメモリとの適合率は非常に悪いです。対し、エターナルとの適合率自体は良く、ブルーフレアに変身可能です。但し、迷いや後悔からレッドフレアになる事があります。
※エターナルでゾーンのマキシマムドライブを発動しても、本人が知覚していない位置からメモリを集めるのは不可能になっています。
(マップ中から集めたり、エターナルが知らない隠されているメモリを集めたりは不可能です)
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※つぼみ、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※男溺泉に浸かったので、体質は改善され、普通の男の子に戻りました。
※あかねが殺し合いに乗った事を知りました。
※溝呂木及び闇黒皇帝(黒岩)に力を与えた存在が参加者にいると考えています。また、主催者はその存在よりも上だと考えています。
※バルディッシュと情報交換しました。バルディッシュは良牙をそれなりに信用しています。


531 : The Gears of Destiny - 全参加者最終状態表 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:38:13 j9QAkj0U0

【冴島鋼牙@牙狼─GARO─】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、ガミオのガス侵攻中(リヴァートラの刻によって延命)
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター、魔導輪ザルバ
[道具]:支給品一式×2(食料一食分消費)、ランダム支給品1〜3、村雨のランダム支給品0〜1個
[思考]
基本:護りし者としての使命を果たす
1:ガミオに毒の浄化方法を訊く必要がある。
2:首輪とホラーに対し、疑問を抱く。
3:加頭やガルムやコダマを倒し、殺し合いを終わらせ、生還する
[備考]
※参戦時期は最終回後(SP、劇場版などを経験しているかは不明)。
※ズ・ゴオマ・グとゴ・ガドル・バの人間態と怪人態の外見を知りました。
※殺し合いの参加者は異世界から集められていると考えています。
※この殺し合いは、何らかの目的がある『儀式』の様なものだと推測しています。
※首輪には、参加者を弱体化させる制限をかける仕組みがあると知りました。
また、首輪にはモラックスか或いはそれに類似したホラーが憑依しているのではないかと考えています
※零の参戦時期を知りました。
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※つぼみ、一条、良牙と125話までの情報を交換し合いました。
※第四回放送ボーナスの制限解除によって、魔導馬が解放されました。また、三途の池や魔女の結界内が魔界に近い場所だと知りました。


【ガイアセイバーズ共通】
以下の支給品を共有しています。
※支給品一式×5(ゆり、源太、ヴィヴィオ、乱馬、いつき(食料と水を少し消費))、ゆりのランダムアイテム0〜2個、乱馬のランダムアイテム0〜2個、山千拳の秘伝書@らんま1/2、水とお湯の入ったポット1つずつ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ガイアメモリに関するポスター×3、『太陽』のタロットカード、大道克己のナイフ@仮面ライダーW、春眠香の説明書、ガイアメモリに関するポスター






532 : The Gears of Destiny - 全参加者最終状態表 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:38:25 j9QAkj0U0



【中学校組】

【G-8/中学校・保健室】

【備考】
※三人とも今は休憩をするつもりでいます。
※その後、仲間を捜す予定ですがどのルートを選ぶのかは後続の書き手さんにお任せします。

【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン】
[状態]:疲労(小)、胸部に強いダメージ(応急処置済)、ダグバの死体が軽くトラウマ、脇腹に傷(応急処置済)、左頬に痛み
[装備]:シャンバイザー@超光戦士シャンゼリオン、モロトフ火炎手榴弾×3
[道具]:支給品一式×8(暁(ペットボトル一本消費)、一文字(食料一食分消費)、ミユキ、ダグバ、ほむら、祈里(食料と水はほむらの方に)、霧彦、黒岩)、首輪(ほむら)、姫矢の戦場写真@ウルトラマンネクサス、タカラガイの貝殻@ウルトラマンネクサス、八宝大華輪×4@らんま1/2、スタンガン、ブレイクされたスカルメモリ、ランダム支給品0〜5(ほむら0〜1(武器は無い)、ミユキ0〜2、祈里0〜1(衣類はない)、黒岩0〜1) 、スーパーヒーローマニュアルⅡ、グロンギのトランプ@仮面ライダークウガ
[思考]
基本:加頭たちをブッ潰し、加頭たちの資金を奪ってパラダイス♪
0:外にいる何者かに対応。
1:石堀を警戒。石堀からラブを守る。表向きは信じているフリをする。
2:石堀やラブちゃんと一緒に、どこかに集まっているだろう仲間を探す。
3:別れた人達が心配、出来れば合流したい。
4:あんこちゃん(杏子)を捜してみる。
5:可愛い女の子を見つけたらまずはナンパ。
6:変なオタクヤロー(ゴハット)はいつかぶちのめす。
[備考]
※第2話「ノーテンキラキラ」途中(橘朱美と喧嘩になる前)からの参戦です。
つまりまだ黒岩省吾とは面識がありません(リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキのことも知らない)。
※ほむら経由で魔法少女の事についてある程度聞きました。知り合いの名前は聞いていませんでしたが、凪(さやか情報)及び黒岩(マミ情報)との情報交換したことで概ね把握しました。その為、ほむらが助けたかったのがまどかだという事を把握しています。
※黒岩とは未来で出会う可能性があると石堀より聞きました。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限は『スーパーヒーローマニュアルⅡ』の入手です。
※リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキとクリスタルステーションの事を知りました。


533 : The Gears of Destiny - 全参加者最終状態表 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:38:41 j9QAkj0U0

【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、左肩に痛み、精神的疲労(小)、決意、眠気
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式×2(食料少消費)、カオルちゃん特製のドーナツ(少し減っている)@フレッシュプリキュア!、毛布×1@現実、ペットボトルに入った紅茶@現実、巴マミの首輪、工具箱、黒い炎と黄金の風@牙狼─GARO─、クローバーボックス@フレッシュプリキュア!、暁からのラブレター
基本:誰も犠牲にしたりしない、みんなの幸せを守る。
0:外にいる何者かに対応。
1:どこかに集まっているだろう仲間を探す。
2:マミさんの遺志を継いで、みんなの明日を守るために戦う。
3:プリキュアのみんなと出来るだけ早く再会したい。
4:マミさんの知り合いを助けたい。もしも会えたらマミさんの事を伝えて謝る。
5:犠牲にされた人達のぶんまで生きる。
6:ダークプリキュアと暗黒騎士キバ(本名は知らない)には気をつける。
7:どうして、サラマンダー男爵が……?
8:後で暁さんから事情を聞いてみる。
[備考]
※本編終了後からの参戦です。
※花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆりの存在を知っています。
※クモジャキーとダークプリキュアに関しては詳しい所までは知りません。
※加頭順の背後にフュージョン、ボトム、ブラックホールのような存在がいると考えています。
※放送で現れたサラマンダー男爵は偽者だと考えています。
※第三回放送で指定された制限はなかった模様です。
※暁からのラブレターを読んだことで、石堀に対して疑心を抱いています。

【石堀光彦@ウルトラマンネクサス】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、残り2時間予知能力使用不可
[装備]:Kar98k(korrosion弾7/8)@仮面ライダーSPIRITS、アクセルドライバー+ガイアメモリ(アクセル、トライアル)+ガイアメモリ強化アダプター@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ+T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW 、コルトパイソン+執行実包(2/6) 、ロストドライバー@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×6(石堀、ガドル、ユーノ、凪、照井、フェイト)、メモレイサー@ウルトラマンネクサス、110のシャンプー@らんま1/2、ガイアメモリ説明書、.357マグナム弾(執行実包×18、神経断裂弾@仮面ライダークウガ×4)、テッククリスタル(レイピア)@宇宙の騎士テッカマンブレード、イングラムM10@現実?、火炎杖@らんま1/2、血のついた毛布、ランダム支給品1〜8(照井1〜3、フェイト0〜1、ガドル0〜2(グリーフシードはない)、ユーノ0〜1)、暁が図書室からかっぱらってきた本
[思考]
基本:今は「石堀光彦」として行動する。
0:外にいる何者かに対応。
1:「あいつ」を探す。そして、共にレーテに向かい、光を奪う。
2:今は休憩をして、その後に暁とラブの二人を先導しながら進む。
3:どこかに集まっているだろう仲間を探す。
4:周囲を利用し、加頭を倒し元の世界に戻る。
5:孤門や、つぼみの仲間、光を持つものを捜す。
6:都合の悪い記憶はメモレイサーで消去する
7:加頭の「願いを叶える」という言葉が信用できるとわかった場合は……。
8:クローバーボックスに警戒。
[備考]
※参戦時期は姫矢編の後半ごろ。
※今の彼にダークザギへの変身能力があるかは不明です(原作ではネクサスの光を変換する必要があります)。
※ハトプリ勢、およびフレプリ勢についてプリキュア関連の秘密も含めて聞きました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※つぼみからプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について聞きました。
※殺し合いの技術提供にTLTが関わっている可能性を考えています。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※TLTが何者かに乗っ取られてしまった可能性を考えています。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。予知能力の使用が可能です。
※予知能力は、一度使うたびに二時間使用できなくなります。また、主催に著しく不利益な予知は使用できません。
※予知能力で、デュナミストが「あいつ」の手に渡る事を知りました。既知の人物なのか、未知の人物なのか、現在のデュナミストなのか未来のデュナミストなのかは一切不明。後続の書き手さんにお任せします。


534 : The Gears of Destiny - 全参加者最終状態表 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:39:09 j9QAkj0U0







【中学校の外】

【G-8/中学校前】

【結城丈二@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、首輪解除
[装備]:ライダーマンヘルメット、カセットアーム
[道具]:支給品一式、カセットアーム用アタッチメント六本(パワーアーム、マシンガンアーム、ロープアーム、オペレーションアーム、ドリルアーム、ネットアーム) 、スカルボイルダー@仮面ライダーW、スタンスが纏められた名簿(おそらく翔太郎のもの)
[思考]
基本:この殺し合いを止め、加頭を倒す。
0:中学校内にいる暁たちと接触。
1:殺し合いに乗っていない者を保護する
2:沖と合流する。
3:加頭についての情報を集める
4:異世界の技術を持つ技術者と時間操作の術を持つ人物に接触したい。
5:石堀たちとはまた合流したい。
6:また、特殊能力を持たない民間人がソウルメタルを持てるか確認したい。
7:時間操作の術を持つ参加者からタイムパラドックスについて話を聞きたい
8:ダブルドライバーの持ち主と接触し、地球の本棚について伝える。
[備考]
※参戦時期は12巻〜13巻の間、風見の救援に高地へ向かっている最中になります。
※この殺し合いには、バダンが絡んでいる可能性もあると見ています。
※加頭の発言から、この会場には「時間を止める能力者」をはじめとする、人知を超えた能力の持ち主が複数人いると考えています。
※NEVER、砂漠の使徒、テッカマン、外道衆は、何らかの称号・部隊名だと推測しています。
※ソウルジェムは、ライダーでいうベルトの様なものではないかと推測しています。
※首輪を解除するには、オペレーションアームだけでは不十分と判断しています。
何か他の道具か、または条件かを揃える事で、解体が可能になると考えています。
※NEVERやテッカマンの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
※首輪には確実に良世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※零から魔戒騎士についての説明を詳しく受けました。
※首輪を解除した場合、ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。 →だんだん真偽が曖昧に。
※彼にとっての現在のソウルメタルの重さは、「普通の剣よりやや重い」です。感情の一時的な高ぶりなどでは、もっと軽く扱えるかもしれません。
※村雨良の参戦時期を知りました。ただし、現在彼を仮面ライダーにすることに対して強い執着はありません(仮面ライダー以外の戦士の存在を知ったため)。
※時空魔法陣の管理権限を得ました。
※首輪は解除されました。
※変身に使うアイテムや能力に何らかの細工がされていて、主催者は自分の意思で変身者の変身を解除できるのではないかと考えています。


535 : The Gears of Destiny - 全参加者最終状態表 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:39:26 j9QAkj0U0

【涼邑零@牙狼─GARO─】
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター
[道具]:シルヴァの残骸、支給品一式、スーパーヒーローセット(ヒーローマニュアル、30話での暁の服装セット)@超光戦士シャンゼリオン、薄皮太夫の三味線@侍戦隊シンケンジャー、速水の首輪、調達した工具(解除には使えそうもありません)
[思考]
基本:加頭を倒して殺し合いを止め、元の世界に戻りシルヴァを復元する。
0:中学校内にいる暁たちと接触。
1:殺し合いに乗っている者は倒し、そうじゃない者は保護する。
2:会場内にあるだろう、ホラーに関係する何かを見つけ出す。
3:結城に対する更なる信頼感。
4:また、特殊能力を持たない民間人がソウルメタルを持てるか確認したい。
5:涼村暁とはまた会ってみたい。
[備考]
※参戦時期は一期十八話、三神官より鋼牙が仇であると教えられた直後になります。
※シルヴァが没収されたことから、ホラーに関係する何かが会場内にはあり、加頭はそれを隠したいのではないかと推察しています。
実際にそうなのかどうかは、現時点では不明です。
※NEVER、仮面ライダーの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
仮面ライダーに関しては、結城からさらに詳しく説明を受けました。
※首輪には確実に異世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※首輪を解除した場合、(常人が)ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。→だんだん真偽が曖昧に。
また、結城がソウルメタルを操れた理由はもしかすれば彼自身の精神力が強いからとも考えています。
※実際は、ソウルメタルは誰でも持つことができるように制限されています。
ただし、重量自体は通常の剣より重く、魔戒騎士や強靭な精神の持主でなければ、扱い辛いものになります。
※時空魔法陣の管理権限の準対象者となりました(結城の死亡時に管理ができます)。
※首輪は解除されました。
※バラゴは鋼牙が倒したのだと考えています。


536 : The Gears of Destiny - 全参加者最終状態表 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:39:38 j9QAkj0U0







【中学校に向かう者A】

【I-8 浜辺】

【ン・ガドル・ゼバ(ゴ・ガドル・バ)@仮面ライダークウガ】
[状態]:疲労(小)、全身にダメージ(小)(回復中) 、肩・胸・顔面に神経断裂弾を受けたダメージ(回復中)、胸部に刺傷(回復中)、腹部・胸部にかなり強いダメージ、ダグバの死への空虚感、電撃による超強化、怪人体に変身中、ビートチェイサー2000に搭乗中
[装備]:ビートチェイサー2000@仮面ライダークウガ、スモークグレネード@現実×2、トライアクセラー@仮面ライダークウガ、京水のムチ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×8(スバル、ティアナ、井坂(食料残2/3)、アクマロ、流ノ介、なのは、本郷、まどか)、東せつなのタロットカード(「正義」、「塔」、「太陽」を除く)@フレッシュプリキュア!、ルビスの魔剣@牙狼、鷹麟の矢@牙狼
[思考]
基本:殺し合いに優勝し真の頂点に立つ。
0:ダグバのように、周囲の人間を殺して誰かを怒らせるのも良い。そして、新たなる王とも戦う。 まずは中学校に行く。
1:参加者を探す。
2:石堀、エターナルと再会したら殺す。
3:強者との戦いで自分の力を高める。その中で、ゲームとしてタロットカードの絵に見立てた殺人を行う。
4:体調を整え更なる力を手に入れたなら今まで取るに足らんとしてきた者とも戦う。
※死亡後からの参戦です。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※ナスカ・ドーパント、ダークメフィストツヴァイを見て、力を受け継ぐ、という現象を理解しました。
※フォトンランサーファランクスシフト、ウェザーのマキシマムドライブによって大量の電撃を受けた事で身体が強化され、アメイジングマイティに匹敵する「驚天体」に進化できます。また、電撃体の使用時間も無限になっており、電撃体とその他のフォームを掛け持つ事ができます(驚天体では不可能です)。
※仮面ライダーエターナルが天候操作や炎を使ったため、彼に「究極」の力を感じています。また、エターナルには赤、青の他にも緑、紫、金などの力があると考えています。


537 : The Gears of Destiny - 全参加者最終状態表 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:39:54 j9QAkj0U0







【中学校に向かう者B】

【G-6 森】

【ン・ガミオ・ゼダ@仮面ライダークウガ?】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)
[装備]:?????????
[道具]:?????????
[思考]
基本:この世界に存在する。そして己を刻む。
0:中学生になる。
1:ガドルを倒し、究極の闇を齎す者となる。そして己の力と存在を証明する。
2:この世界にいてはならない者を──。
[備考]
※この殺し合いやこの「クウガの世界」について知っているかのような発言をしています。
※黒い霧(究極の闇)は現在使用できません。もう一人のグロンギの王を倒して初めてその力を発現するようです。
※この世界にいてはならない者とは、ロワのオリ要素や、設定上可能であっても原作に登場しなかった存在の事です(小説版クウガも例外ではありません)。
※仮面ライダーエターナル、キュアムーンライト、ナスカ・ドーパントを「この世界にいてはならない者」と思っています。
※首輪は存在しません。
※黒い霧を発する事はできませんが、生身の状態でガミオの攻撃を受けて体内に微弱ながらその力を受けた場合は、通常よりスローペースながらグロンギの力に蝕まれていきます。
 主な効果はグロンギ化ですが、作中ではグロンギにならずに死亡した人間もいるので、衰弱等の効果が現れる場合もあります。


538 : The Gears of Destiny - 全参加者最終状態表 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:40:16 j9QAkj0U0







【はぐれものA】

【F-3 三途の池】

【血祭ドウコク@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、苛立ち、凄まじい殺意、胴体に刺し傷
[装備]:昇竜抜山刀@侍戦隊シンケンジャー、降竜蓋世刀@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:なし
[思考]
基本:その時の気分で皆殺し
0:志葉の屋敷に向かう。アクマロを見つけたら殺す。
1:首輪を解除できる人間を捜す
2:加頭、マンプクを殺す
3:杏子や翔太郎なども後で殺す
4:嘆きの海(忘却の海レーテ)に対する疑問
[備考]
※第四十八幕以降からの参戦です。よって、水切れを起こしません。
※第三回放送後の制限解放によって、アクマロと自身の二の目の解放について聞きました。ただし、死ぬ気はないので特に気にしていません。


539 : The Gears of Destiny - 全参加者最終状態表 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:40:33 j9QAkj0U0







【はぐれものB】

【B-7 ホテル】

【天道あかね@らんま1/2】
[状態]:アマダム吸収、メフィストの闇を継承、肉体内部に吐血する程のダメージ(回復中)、ダメージ(極大・回復中)、疲労(極大)、精神的疲労(極大)、胸骨骨折(回復中)、 とても強い後悔と悲しみ、ガイアメモリによる精神汚染(進行中)、自己矛盾による思考の差し替え、全裸
[装備]:伝説の道着@らんま1/2、T2ナスカメモリ@仮面ライダーW、T2バイオレンスメモリ@仮面ライダーW、二つに折れた裏正@侍戦隊シンケンジャー、ダークエボルバー@ウルトラマンネクサス、プロトタイプアークル@小説 仮面ライダークウガ
[道具]:支給品一式×4(あかね、溝呂木、一条、速水)、首輪×7(シャンプー、ゴオマ、まどか、なのは、流ノ介、本郷、ノーザ)、女嫌香アップリケ@らんま1/2、斎田リコの絵(グシャグシャに丸められてます)@ウルトラマンネクサス、拡声器、双眼鏡、インロウマル&スーパーディスク@侍戦隊シンケンジャー、紀州特産の梅干し@超光戦士シャンゼリオン、ムカデのキーホルダー@超光戦士シャンゼリオン、滝和也のライダースーツ@仮面ライダーSPIRITS、『長いお別れ』@仮面ライダーW、ランダム支給品1〜2(溝呂木1〜2)
[思考]
基本:"東風先生達との日常を守る”ために”機械を破壊し”、ゲームに優勝する
0:放送を聞いた後、ホテルで少し休む。
1:ガドルを倒す。
2:ダグバが死んだ……。
3:ネクサスの力……
[備考]
※参戦時期は37巻で呪泉郷へ訪れるよりは前、少なくとも伝説の道着絡みの話終了後(32巻終了後)以降です。
※伝説の道着を着た上でドーパント、メフィスト、クウガに変身した場合、潜在能力を引き出された状態となっています。また、伝説の道着を解除した場合、全裸になります。
また同時にドーパント変身による肉体にかかる負担は最小限に抑える事が出来ます。但し、レベル3(Rナスカ)並のパワーによってかかる負荷は抑えきれません。
※Rナスカへの変身により肉体内部に致命的なダメージを受けています。伝説の道着無しでのドーパントへの変身、また道着ありであっても長時間のRナスカへの変身は命に関わります。
※ガイアメモリでの変身によって自我を失う事にも気づきました。
※第二回放送を聞き逃しています。 但し、バルディッシュのお陰で禁止エリアは把握できました。
※バルディッシュが明確に機能している事に気付いていません。
※殺害した一文字が機械の身体であった事から、強い混乱とともに、周囲の人間が全て機械なのではないかと思い始めています。メモリの毒素によるものという可能性も高いです。
※黒岩が自力でメフィストの闇を振り払った事で、石堀に戻った分以外の余剰の闇があかねに流れ込みメフィストを継承しました(姿は不明)。今後ファウストに変身出来るかは不明です。
 但し、これは本来起こりえないイレギュラーの為、メフィストの力がどれだけ使えるかは不明です。なお、ウルトラマンネクサスの光への執着心も生じました。
※二号との戦い〜メフィスト戦の記憶が欠落しています。その為、その間の出来事を把握していません。但し、黒岩に指摘された(あかね自身が『機械』そのものである事)だけは薄々記憶しています。
※様々な要因から乱馬や良牙の事を思考しない様になっています。但し記憶を失っているわけではないので、何かの切欠で思考する事になるでしょう。
※ガミオのことをガドルだと思い込んでいます。
※プロトタイプアークルを吸収したため仮面ライダークウガ・プロトタイプへの変身が可能になりました。




【支給品紹介】

【グロンギのトランプ@仮面ライダークウガ】
ユーノ・スクライアに支給。
グロンギ族が人間界で入手した丸い形のトランプ。ガメゴ、ザザル、ジャラジがアジトの中でよくこれを使って遊んでいる模様。

【リヴァートラの刻@牙狼】
高町ヴィヴィオに支給。
魔戒騎士が所有している薬。これを飲んだ後に傷口を魔導火で炙る事で傷が治る。
作中では、破邪の剣の傷を治療している。


540 : The Gears of Destiny - 全参加者最終状態表 - ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:40:55 j9QAkj0U0







【シャンプー 死亡】
【相羽ミユキ 死亡】 
【照井竜 死亡】
【速水克彦 死亡】
【園咲冴子 死亡】
【来海えりか 死亡】
【巴マミ 死亡】
【ズ・ゴオマ・グ 死亡】
【鹿目まどか 死亡】
【高町なのは 死亡】
【池波流ノ介 死亡】
【本郷猛 死亡】
【ユーノ・スクライア 死亡】
【フェイト・テスタロッサ 死亡】
【三影英介 死亡】
【暁美ほむら 死亡】
【ノーザ 死亡】
【腑破十臓 死亡】
【パンスト太郎 死亡】
【園咲霧彦 死亡】
【東せつな 死亡】
【美樹さやか 死亡】
【五代雄介 死亡】
【月影ゆり 死亡】
【姫矢准 死亡】
【山吹祈里 死亡】
【志葉丈瑠 死亡】
【スバル・ナカジマ 死亡】
【ティアナ・ランスター 死亡】
【筋殻アクマロ 死亡】
【井坂深紅郎 死亡】
【早乙女乱馬 死亡】
【相羽シンヤ 死亡】
【大道克己 死亡】
【村雨良 死亡】
【モロトフ 死亡】
【一文字隼人 死亡】
【溝呂木眞也 死亡】
【泉京水 死亡】
【バラゴ 死亡】
【相羽タカヤ 死亡】
【アインハルト・ストラトス 死亡】
【梅盛源太 死亡】
【西条凪 死亡】
【ン・ダグバ・ゼバ 死亡】
【一条薫 死亡】
【明堂院いつき 死亡】
【黒岩省吾 死亡】
【ダークプリキュア 死亡】

【残り17人】


541 : ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 01:41:14 j9QAkj0U0
以上で投下終了です。


542 : 名無しさん :2014/05/17(土) 03:09:21 4CBqdy5Y0
投下乙です
ダープリは最期は安らかに逝ったか、対主催者陣も結束が更に強くなったな
吉良沢の推測通りだとしたら、近々主催者同士で争いが起きそうだが果たしてどうなるんだろう
そしてグロンギ二体が接近中とか中学校が新たな激震地にw


543 : 名無しさん :2014/05/17(土) 06:56:44 GJsItts.0
投下乙です!
ダークプリキュアは死んで、そして長かった一日は終わりを告げましたか……
そしてキリカの登場と共に主催陣では新たなる考案が芽生えるけど、真相は果たして?
あとグロンギ達は中学校に接近してるしw やばい、やばいよww


544 : 名無しさん :2014/05/17(土) 08:33:52 GJsItts.0
あと、今更見つけたのですがガミオの状態表に関して指摘を

0:中学生になる。

ここは、中学校に向かうでは?


545 : 名無しさん :2014/05/17(土) 10:02:59 13G7mV6Q0
中学生になるwwwwwwww


546 : 名無しさん :2014/05/17(土) 11:49:17 YHcTaLd.O
グロンギ中学校3年N組ガミオ君


547 : ◆gry038wOvE :2014/05/17(土) 12:19:14 j9QAkj0U0
誤 字 で す

正しくは「中学校に向かう」です。


548 : 名無しさん :2014/05/17(土) 12:23:57 o4zLXpzUO
誤字でよかった


549 : 名無しさん :2014/05/17(土) 18:31:39 9gu9uiSk0
シュール過ぎる誤字...www


550 : 名無しさん :2014/05/17(土) 18:34:23 WL5VCQg20
投下乙です

ダークプリキュアはお疲れ様
そして、そうかこれでやっと一日が終わったのかあ…濃い一日だわ
主催者らもきな臭くなってきて…


551 : 名無しさん :2014/05/17(土) 22:39:01 M9zLOAkw0
ちゃんとそこまで目を通してたのに「そっかー、中学生になるのか」としか思わなかった自分ェ…
シャンゼ時空ならあるいはッ!!!


552 : 名無しさん :2014/05/18(日) 01:57:53 EmYFW4C20
対主催も集まったけど魔女にグロンギにとまだデカイ障害が沢山残ってるな
ダークプリキュアお疲れ、ゆっくり休んでほしい

ガミオ中学生になる


553 : 名無しさん :2014/05/18(日) 06:32:29 s/lYlzrU0
どんだけ誤字を引き摺るんだよw


554 : 名無しさん :2014/05/18(日) 13:36:56 IxHmoL1E0
いや正直すげー受けたよ
いっそ中学生生活満喫させてやろうぜwww


555 : 名無しさん :2014/05/18(日) 21:40:59 cezNsJEI0
【ン・ガミオ・ゼダ@仮面ライダークウガ?】
[状態]:青春時代への懐かしさと憧れにより興奮
[装備]:セーラー服@現実


556 : 名無しさん :2014/05/18(日) 23:14:31 GrEYz6K20
もやし「お前も元は、中学生だったのかもな」


557 : 名無しさん :2014/05/19(月) 01:01:46 2eOcMmtwO
近くでやってる中学生ロワに乱入したかったのかもしれない


558 : 名無しさん :2014/05/19(月) 01:06:31 BLQ0rVjM0
いっそ魔法少女かプリキュアにでもなったらいいんじゃないかな


559 : 名無しさん :2014/05/19(月) 02:03:38 cSZHpO1Q0
>>555
思考


560 : 名無しさん :2014/05/19(月) 12:52:06 Cns4/4HkO
「俺が中学に進学する事は、無かった筈だった」


561 : 名無しさん :2014/05/19(月) 15:35:02 BLQ0rVjM0
つまりガミオは永遠の小学生...?


562 : 名無しさん :2014/05/19(月) 21:07:21 uAS0KWGc0
それならロリショタロワにも参加資格を得た可能性が…


563 : 名無しさん :2014/05/19(月) 22:18:18 eotc6an60
用語集更新されとるwww


564 : 名無しさん :2014/05/20(火) 12:58:21 yam5ZuJc0
用語集の誤字はわざとなのか素なのか


565 : 名無しさん :2014/05/20(火) 23:37:53 2HgI/3rw0
キャラの破壊者ガミオ!9つのロワを巡りその瞳は何を見る!?


566 : 名無しさん :2014/05/20(火) 23:44:37 4Jz2BEZI0
(しつけぇな…)


567 : 名無しさん :2014/05/21(水) 12:11:36 cDiFQ5kA0
雑談スレで支給品の募集の話してるけど、なんか良い支給品あるかな?
中学生の話ばっかりしてないで、何か推薦して協力しようぜ


568 : 名無しさん :2014/05/23(金) 00:31:18 NFH7MeVo0
ツイッターで話し合えば?


569 : ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 22:44:36 0T41iMLk0
それじゃあ、第四回放送を投下します。


570 : 第四回放送Y(前編) ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 22:45:33 0T41iMLk0



 深夜、0時。
 何年何月何日から何年何月何日に変わるのかはわからないが、とにかくその時に日付は変わった。23時59分から0時になり、長い一日はその瞬間に確実に終わった。
 勿論、これから放送が始まる合図である。

「クェックェックェッ……」

 下卑た笑いとともに現れるホログラムに心当たりのいる者はいないだろう。
 そう、それはここにいる誰も知らない怪物だった。黄色人種というわけではないが、体の殆どが真っ黄色で、頭でっかちな小男は、一目見てそれが地球人ではないとわからせる触角を頭に生やしている。更には、耳はとんがっており、小さな口からは牙を覗かせて、真っ赤な目を見せていた。
 紫のマントは、彼がある程度の地位にある事を示している。だが、それを到底感じさせない下品さを漂わせていた。

「元気かね、諸君。私の名はランボス……諸君らを絶望に陥れる悪党星団ワルダスターの団長であ〜る!」

 悪党星団ワルダスター──それは、ある宇宙でテッカマンと戦った悪の集団であった。宇宙征服を目論む悪党異星人たちで構成され、その頂点にはドブライという名の帝王がいる。
 テッカマンの敵といえど、彼が相羽タカヤや相羽シンヤ、相羽ミユキやモロトフと面識があるわけではない。その宇宙ともまた別の宇宙だ。彼らの敵のテッカマンは、南城二といった。現状ではフィリップの検索に「ランボス」、「ワルダスター」といたキーワードが対処できる見込みもないだろう。

「こうして我々が現れるという事がどういう事か、もうわかっているだろう……? そう、無論、これから哀れに死んでいった地球人どもの名を教える放送が始まるのだ!
 ちなみに今回の死亡者は四人! …………四人!? ……なんと、たったの四人だ! 何をしておる! ええいっ、これでは折角の出番だというのに名前の読み上げ甲斐もないわ!
 ……つまらんが、一度しか言わんぞ。
 一条薫、黒岩省吾、ダークプリキュア、明堂院いつき……以上の四名だ。たったこれだけしか殺せなかった罰だ、貴様らにはボーナスはやらんっ!!」

 彼はわざとらしい口調で一人怒り狂い、乱雑に死者の名前を読み上げた。
 その言葉にどれだけの人間が怒りを覚えただろうか。ここまでの放送担当者で最も下品で、最も怪しい男だった。サラマンダー男爵の頃の放送は、呼ばれる人数こそ異常に多くともまだまともであったと言えただろう。
 彼は続けた。

「さて、次は禁止エリアだが……これも、今回……無いっ! なんとつまらない放送だっ! 首輪を解除した参加者がいるのだっ! これではもう禁止エリアも何も意味がなーいではないかっ! 折角このランボス様の出番だというのにぃ…………。
 と、とにかく、スペースナイツだかガイアセイバーズだか知らんが、貴様らは全員、生かしてはおけんっ! このマップ上の刺客どもがすぐに貴様らを殺すだろう……ふっふっふっ。強いて言えば、その新たな刺客が貴様らにお似合いのボーナスというやつだな。
 それに、仮に貴様らが勝ち抜いたとしても、この私やドブライ様やあのお方には勝てん……カッカッカッ」

 そのまま、相変わらずの下卑た笑いとともに、ランボスの姿は消えていった。幸いなのは、彼がニードルやゴハットのように、回りくどい挑発ではなく、直接的で、かえって乗る気も失せるような挑発をした事だろうか。残り参加者たちの緊迫した空気は、彼らの放送によっていっそう張りつめた様子になるかもしれない。
 何にせよ、またもや、吉良沢優の放送原稿は誰も守られなかった事が、主催者側にとっては残念極まりない事実だった。







 吉良沢優、美国織莉子、呉キリカの三名は、首の後ろで手を組みながら長い廊下を歩いていた。真っ白な蛍光灯が、白い廊下を白い光で照らしている。その上を歩いている白い服の二人に囲まれているキリカは、気が狂いそうな気分であった。
 三人の周囲の黒服たちは、所謂財団Xの下っ端や戦闘員であった。それは所謂、護送というやつだ。世界の融合という仮説に行きついた三名は、こうして加頭順による呼び出しを受けていたのである。


571 : 第四回放送Y(前編) ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 22:46:04 0T41iMLk0
 イラストレーターが織莉子たちの部屋から一歩外に出ると、財団Xの下っ端たちが待ち構えていた。太い腕の無骨な男たちは、加頭たちを見下ろすような不作法な態度で「来い」と告げ、強引に手を首の後ろまで引いて、イラストレーターたちを呼んだ。酷い体育会系軍団である。力で他社を制圧するために体を鍛えたような人間に見えた。
 一人だけ、白い服の一際か細い男がおり、これはおそらく加頭の側近か何かに見えた。イラストレーターの記憶によると、名は田端。

「……ちっ」

 その時のキリカの舌打ちは、自分たちを拘束する財団Xたちに向けた物だっただろうか。あるいは、巻き込んだイラストレーターに対する物だったかもしれない。もしかすれば、その両方だ。
 これから何をされるかわからない以上、不安ばかりが募る。特にキリカは、織莉子を殺させてはならないと誓っている。この三人、纏めてこのまま殺されるのではないかという警戒が、自ずとソウルジェムを包む手を強くさせた。財団Xの人間はそれを一瞥しながらも、奪う様子は見せなかった。
 キリカも、彼らの目的がわからない以上、迂闊には動けない。主催組織の反乱分子となるまでには、まだ少しの様子見が必要だ。敵の兵力に敵わないのはわかっているが、死ぬかもしれない時だけは足掻くだろう。その為の前準備に過ぎないものだった。

「キリカ。しばらく従って」

 そして何より、織莉子のその小声の忠告を信じて、キリカは黙って歩いているのだろう。その間は、財団Xの人間たちが目立った動きを示す事はなかった。ただ、「加頭さんのところへお連れする」という言葉以外に、言葉を発する事もなく、さながらその様子は機械のようだった。
 少しずつ加頭順の部屋は近づいていく。一歩、また一歩……。全て殺風景な廊下であると、改めて思った。
 そして、すぐに部屋の前までたどり着き、田端が、ドアノブを捻る。

『クェックェックェッ……』

 ……この時、不意に超えたバケモノのような笑い声に、一同は固まった。それがランボスによる放送だという事も、すぐにわかった。ほっと息をついた後は、さほど目立った内容でもないので、始まった時点では聞き流すようにした。

 イラストレーターたちは部屋に招き入れられる。その所作は、「強引にぶちこまれる」と言い変えると、いっそうその様子がはっきり伝わるかもしれない。その部屋の中で、加頭はデスクの前で椅子に座ってこちらを見ていた。
 そこからどんな言葉が放たれて、どんな行動を取るのか、少し距離を置いて警戒しながら、相手の出方を待つのだった。

「三人とも、夜分遅く申し訳ありません。急な用事です。どうぞ、そこのソファに腰かけてください」

 加頭の口調は淡々としており、相変わらず無機質だ。
 加頭のこのトーンは常に変わらない。だからこそ、行動が読みづらかった。
 だというのに、この時の加頭の様子が不自然である事は、イラストレーターも本能的に感じた。自分が平素無感情である事に彼は気づいていないのだろうか──無感情な彼は、『無感情な自分』を演じているようだった。
 どこか無理のある様子が微かに見られた。イラストレーターは少し警戒する。

 ともあれ、イラストレーターたちは、詰めて五人がけほどのソファを贅沢に三人でいっぱいに使った。加頭はキャスターを使って、椅子をソファの前まで移動させ、再び腰かける。
 そのタイミングでイラストレーターは訊いた。

「どんな用事かな」
「……あなたたちは、世界が融合しつつあるという話をしていた……。それが事実かどうか確認したいので、貝殻を見せてください」

 それを訊いて、イラストレーターはどこかほっとした。少なくとも、何かに勘付いて殺されるというわけではないらしい。そこは事前に考えていたうえでの行動だったが、いざこうして強面の男たちに連れて来られると、イラストレーター自身の意識に反して少し恐ろし気な気持ちも出てくるものだった。
 とにかく、加頭たちにとって、時空の歪みなどが想定外の話だったらしいのははっきりと告げられた。

 そういえば、左翔太郎は既に加頭順を倒している。──イラストレーターの考察による「最終時間軸」が翔太郎である以上、もし本当にゲームが終われば、加頭は存在できない可能性が生じるかもしれないのである。勿論、加頭が恵愛する園咲冴子も同様だという事を思い出した。
 イラストレーターは、おとなしく貝殻を見せようとしたが……それは現実には至らなかった。ポケットの中には何もない。
 彼は首を横に振り、事実通り、「もうないんだ」と返した。


572 : 第四回放送Y(前編) ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 22:46:36 0T41iMLk0

「そうですか」と、加頭の淡々とした声。

 もう一日が終わってしまった。イラストレーターにとって思い出深い貝殻も、今は一つに統合され、消え去ったのである。しかし、イラストレーターはその事に心を折られている暇はなかった。加頭に同情する事もない。心なしか加頭は悲しんでいるようにも見えたが、それはわからない。
 イラストレーターも、NEVERである彼には感情が欠如しつつあると知っている。

「ただ、僕の考えもあくまで仮説だから、何ともいえない」

 ……イラストレーターは、そう口にした。あくまで正直な言葉だ。
 それに対して、加頭も二三質問をしようとしていた。聞いた限りでは、まだ何故「世界の消滅」ではなく「融合」と考えるのかが加頭にもわからないくらいだったのだ。いくらでも考えようのある中で、何故イラストレーターがそんな仮説を通したのかが加頭にもわからなかった。
 しかして、その瞬間に聴覚的な妨害が入り、会話が中断される。

『それに、仮に貴様らが勝ち抜いたとしても、この私やドブライ様やあのお方には勝てん……カッカッカッ』

 耳を素通りしていた放送の中で、聞きのがせない言葉が発され、イラストレーターはそちらに意識を向けた。何かが引っかかったのだ。今の放送で、何かが……。

「……ッ!」

 そして、その言葉を訊いた時、眼前で加頭の血の気が引いているのがわかった。先ほどよりも表情が変わり果てている。
 イラストレーターの方は、その突然の放送に、ただ疑念だけを抱いた。深い考えはない。

 あのお方──とは? イラストレーターにとって、何となく違和感のある言葉が、ランボスの口から出てきたのである。この殺し合いの主催陣は珍妙奇天烈な者ばかりだが、「あのお方」などと呼ばれる存在は知らない。そうまでして暈す人間がいるのだろうか。
 イラストレーターの把握する限りでは……この殺し合いの主催は財団Xであるはずだ。そのトップの位に立つ人物の事かもしれないが、吉良沢は一切その人物を知らされていない。幹部である加頭たちに従属し、ボスに関しては殆ど面会謝絶で詳細さえ教えてもらえなかった。ランボスがイラストレーターでさえ知らない謎の人物について把握しているという事だろうか。

「……あの馬鹿が」

 加頭が呟いた言葉に、イラストレーターは戸惑う。
 加頭の瞳が物凄い剣幕でイラストレーターを睨み、イラストレーターも息を飲む。心なしか、その目は、「秘密を聞いたか」と告げているように思えた。
 あのお方とは……と、イラストレーター訊く事はできなかった。財団Xという組織にはイラストレーターも知らない謎が多いが、これは明らかにその類ではない。

「ごめんなさい。少し、待っていてください。またも急な用事です」

 加頭は、そう言うと、慌ててその場を去った。
 その姿には、何かある──それだけは誰もが思っただろう。







 イラストレーターは、加頭が席を外した瞬間、横にいる織莉子とキリカに問うた。

「……君たちは、『あのお方』と呼ばれる人物について、心当たりはある?」

 二人は首を振った。キリカはおそらく把握していないだろうと思っていたが、やはり織莉子も知らなかった。つまりは、「あのお方」の存在を知らされていない参加者も中にはいるという事だ。その点では、この三人は共通している。
 知っているのは、少なくともランボスと加頭か……。あるいは、ワルダスターと財団Xと呼んでもいい。

「この殺し合いを開いたのは、一体誰だと思う?」
「……財団X、ではありませんか?」


573 : 第四回放送Y(前編) ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 22:47:12 0T41iMLk0

 そう、この殺し合いの参加者の中でも、イラストレーターや織莉子は、「あのお方」を知らない。「あのお方」という言い回しは、その人物について知らない限り出てこないはずだ。イラストレーターがあれだけ訊いても姿を現さなかった財団Xの首領をランボス如きに教える事があるだろうか。そこが奇妙に思えた。

「確かに僕もそう聞いている。でも、加頭順のあの慌て様は、それだけじゃない何か重大な秘密をバラされたように見える。きっと、何か知られてはならない存在を口走ったんだ」

 その言葉が、おそらく「あのお方」だ。
 テッカマンの世界からやって来た悪の怪物はドブライとランボスのみ。ランボスだけが知るドブライ以上の位の人間がこの殺し合いの主催者とも考えられない。

「……あのお方、か。全く、この殺し合いの主催者は私たちに何も知らせなさすぎるな」
「我々にも表向きの主催者を明かさなかった……何か強い目的があるようです」

 加頭の挙動だけでは、その人物の正体までは想定できない。財団Xの首領かもしれないし、それ以外かもしれない。だからこそ、不透明で強大な力に、彼らは怯えたのであった。

「……なるべく関わりたくない所だけど、いずれ僕たちが関わらざるを得なくなるかもしれない」
「ただ、そうならないようにしたいですね……」

 織莉子とキリカも、将来的に自分たちが積極的にそれに関わる事を察した。だからこそ、眉を顰めた。
 できる限りはことなかれ主義でいたい。殺し合いの主催者が自分たちの世界に来てしまう事だけはどうしても避けたいのだ。しかし、やもすればそれがあり得るかもしれない事を薄々感じ始めていた。
 自分たちだけでは到底勝てそうにない壁に、近づいていくような感じがした。







 ランボスが帰った場所にあるのは、一ツ目の体から触手を生やす不気味な怪物であった。それこそ、異文化どころか異進化体系の宇宙人の姿だと言えよう。二足歩行ではなく空中浮遊、皮膚も人間の「肌」ではなく、タコやイカのような光沢を見せている。ランボスにさえ認められる我々人類の特徴は完全に廃されていた。
 我々人類の常識から考えれば、そこに生命が宿っているとは到底想像しえない異形である。……そして、その珍妙で尊大なオーラは、薄々とその正体を予感させ、見る者を閉口させるだろう。
 これがワルダスターの帝王ドブライの姿であった。
 実を言えば、彼は全宇宙の意思たる存在である。そんな尊大な怪物までも、この殺し合いの主催陣として招かれていた。
 ランボスが帰るなり、ドブライは「ランボスよ」と、明らかに不機嫌な声を上げた。この声がどこから響いているのかは誰も知らない。この空間の奥から、エコーをかけて響いていくような声は、聴覚に異常を来したとしても頭に流れ込んでくるような怪しさを持つ。

「ランボスよ……貴様、話してはならぬ事を話したな」
「は? ドブライ様、それは一体どういう事でございましょ……」

 ランボスがそう言った瞬間、ランボスに向けて電撃が放たれる。所謂お仕置き光線である。どこから発されているのかはわからないが、それがドブライの意思によって自在に敵に発する事ができるものであるのははっきりとしている。
 ただ、例によってそれを使う相手は、殆どの場合において、このランボスであったが。

「ぐぎゃあああああああ!!!!」

 致命傷を与えない程度ながら、死んだ方がいっそ楽になるような刺激と苦しみがランボスを苦しめ続ける。いわば雷を浴びているのに黒焦げにならないような物であった。ランボスに弁解する余地を与えてやるため、ドブライは一度電撃を浴びせるのをやめた。

「この私と『奴』の事は全て不用意に語ってはならん事だ……」
「はっ! そうでした……! すっかり忘れておりました……」
「この大馬鹿者ォォォォォォォ!!」

 更に強力な電撃がランボスに降りかかる。今度は、あまりの痛みに意識が遠のくほどであった。動く事さえもままならず、力を振り絞ってようやく声帯に力を込められる。
 ランボスも弁解だけは必死だった。その執念だけは、一人前の狛犬だと言えよう。……単純に頭の出来が悪いのが彼の最大の問題である。


574 : 第四回放送Y(前編) ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 22:47:50 0T41iMLk0

「ひえっ……お許しください!! 許して……ごめんなさい……ごめんなちゃい……っっ!! ……うぎゃあああああああああああ!!」

 最終的にはまた一段強い電撃がランボスから悲鳴以外の言葉を奪った。
 ドブライとしては処刑のつもりではなく、戒めや制裁のつもりだったが、それはその直後に殺意ある者の意思で、性質を変えられる。

「──ッッ!!?」

 悲鳴を上げるランボスの体が、突如として宙に持ち上げられた。──彼を持ち上げた者は、遠隔的にランボスの体を操作し、手を使う事なく宙に引き上げている。当のランボスは、電撃に気を取られて、その時自分が宙に浮いている事さえ気づかなかっただろう。
 重力操作。
 ドブライは、咄嗟にその妙技の正体を見破って、電撃を止める。その瞬間に、ランボスの姿は無様に地面に叩き付けられる事になった。

「加頭順、いや、ユートピア・ドーパントか……」

 ドブライの前方、ランボスの後方にはユートピア・ドーパントが理想郷の杖を構えて立ちすくんでいた。どこからか現れたのかは知らないが、彼はいわば処刑人という奴であった。
 勿論、財団Xの側から見ても、ランボスの発言は安易なもので、不都合な物には違いなかった。まあ、おそらく参加者側が察する事はないが、それでもこのままランボスを放っておくわけにはいかない。
 あのお方──というのは、参加者側から考えれば、財団Xの上層部などを連想するだろうが、実際には違うのだ。財団Xはこの殺し合いでは、あくまで技術や資金面での運営を目的に行動している。それは全て「あのお方」の管理下に置かれた以上、仕方のない事だ。
 財団Xの幹部以下はほぼ狩りだされ、こうして殺し合いの運営や外世界での管理活動に従事している。

「ひえっ……ひえっ……」

 ランボスは這いつくばり、ドブライに縋ろうとしたが、ドブライの姿は遠のいていくようだった。ドブライは「壁よりも奥にいる」かのようだった。ランボスの震える手は少しも届かず、助けを求める声もむなしく響いている。
 ユートピア・ドーパントは一切感情を払う事なく、ドブライに告げる。

「処刑の為にここに来たものの、どうやら飼い主が責任を取ってくれるようだ」
「処刑……か。そのつもりはなかったが、なるほど、やむをえん」

 ドブライは処刑のつもりはなかったが、こちらの組織の戒律ではどうやら、処刑やむなしと断定されたようで、ドブライはすぐにそれに従う事にした。
 ランボスはワルダスターの団長であり、彼がいなくなる事はワルダスターにも不利益な話だったが、今となっては、代わりはいくらでもいる状態だ。……いや、ドブライ自身が代わる事もできる。

「……ワルダスターの馬鹿者は、ワルダスターの手で処刑させてもらう。貴様は黙って見ていろ」

 ドブライの言葉に、ユートピアは従った。理想郷の杖を両手に持ち、優雅な立ち振る舞いで攻撃を中止する。ドブライの素直さに従い、ユートピアは退いたのである。
 その直後、ドブライは掛け声とともに一筋の光となってから、その身を再び変じる事になる。

「テックセッター」

 ドブライの体は、硬質の装甲に包まれ、まるでラダムのような奇怪な生物に姿を変えた。
 テックセット。──それは、特殊な波長に合う人間の細胞を凝縮強化する禁断の妙技だ。
 人間を強化プロテクターで覆い、通常はペガスの内部にいる人間のみを強化するのがスペースナイツのテックシステムだが、ワルダスター製造の新たなテックセットにそれらの準備はいらなかった。ドブライは、ワルダスター軍側のテッカマンとして、更なる力を得ているのである。
 それを見た瞬間、ランボスは酷く怯えた。這いつくばり、土下座する。今こそ、これまでで最も誠意を持って謝る時だと、ランボスの本能が告げていた。

「ひええええっ……ドブライ様、どうかお許しを……! どうせ奴らは『あのお方』と言われても、気にも留めません! どうせ奴らはここに辿り着かないのですから……!」
「ご苦労だった……ランボスよ」

 しかし、ドブライは無慈悲だった。そこに感情があるのかわからない。全宇宙の意思なる生命体は、そもそも誰より平等で、感情的ではない判断を崩さなければならないのである。
 ランボスは、それでも素直に謝った。


575 : 第四回放送Y(前編) ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 22:49:26 0T41iMLk0

「お……お許しくだちゃい!」
「ボルテッカ」

 そして……その言葉とともに、ランボスは今度こそ完全に黒焦げになった。
 最後の瞬間も、ランボスはいつも通りドブライの攻撃が自分の命を奪わないと信じただろう。……だが、ランボスの体はもう二度と動く事もなく、命を宿す事もなかった。
 当人自身、自分の命が今度こそ完全に燃え尽きた事に気づいていなかったかもしれない。
 ドブライがテックセットを解除した時、ユートピアも変身を解除した。一礼すると、彼は去っていった。







 田端の胴体が真後ろから鋭い爪で突き刺された。……それが、まず最初に起きた事象だった。おそらく、それでそこにいた全員の注意が喚起されたのだ。
 イラストレーターたちが招かれている加頭の部屋の外に張っていた数名の財団Xの兵士。真っ白なライトの下で、それを合図にしたかのように、団体行動に出る。全員がマスカレイドメモリを使用してマスカレイド・ドーパントに変身し、敵に対処しようとした。
 細長い廊下では、多人数でけしかけるのは不利であったが、ともかくやむを得ない。

──MASQUERADE──

 マスカレイド・ドーパントは計七名。黒いマスクの裏で、突如裏切りに出た敵を探る準備をした。勇気を持っていたのか、無謀であったのか、それとも無意識に動いたのか……マスカレイドの一人が、まず田端の死体に駆け寄り、刺客の姿を探した。
 だが、その田端の体の後ろには既に怪物の正体はなかった。そのマスカレイドの首が、次の瞬間には壁に向けて吹き飛び、またその直後に体ごと爆発した。誰もその出来事を視認できなかっただろう。今度は敵方が加速し、勢いづいてマスカレイドの首元を爪が抉ったのだ。死したマスカレイドの行動は、結果的に「無謀」に分類される事になった。
 駆け出した刺客は、スミロドン・ドーパントであった。スミロドンは爆炎の中を更に駆けていく。

「なっ……」

 スミロドンの爪は、流れに乗るように、次々とマスカレイドを倒していく。二体のマスカレイドがその直後には消え去っていた。腹と胸に傷跡があったかもしれないが、爆発した今となっては、誰も興味はない。同僚が二人逝った事実と、次に狙われるのは自分かもしれないという恐怖だけが胸を締め付ける。生存の本能に従って、ただ怯えるマスカレイドたちであったが、残りのうちの二体が偶然にもよほどの兵だったのか、スミロドンの片腕をそれぞれ掴んだ。
 それは、神様がくれた最後の好機だ。
 スミロドンの動きは封じられ、残り二体のマスカレイドで倒せるかもしれない。あるいは、この二体を捨て駒に、残りの二体が逃げおおせるかもしれない。おそらく、押さえつけた二体は前者を期待しているだろうが、残された二体は後者の選択を取ろうとしただろう。

 だが……

──CLAY DOLL──

 その直後にその音声が聞こえたと思うと、その微かな期待も消え去った。逃げようとした二体のマスカレイドが順々に、背後からのクレイドール・ドーパントのパンチの餌食となって消えた。唖然とする残り二名をよそに、スミロドンは腕を広げて拘束を解き放つ。両腕を捕まえていたマスカレイドたちは、それをすぐに解き放ったスミロドンの攻撃によって爆発四散する。この戦いで、十秒保ったマスカレイドは、まあ優秀で運が良いと言える状態だった。あっという間に八つの命が散り、そこには殺人者を除いて誰もいなくなった。田端の遺体だけが残り、後は全て硝煙に消え、筋肉質の黒服男でぎゅうぎゅうに埋められていた廊下は随分と広くなる。
 それだけ、マスカレイドと各二種のメモリには戦力差があった。
 二人のドーパントの正体を種明かしすれば、それは山猫リニスとアリシア・テスタロッサである。彼女たちの高い戦闘能力もあり、財団Xの下っ端では手に負えないのである。

「……一丁上がり」

 クレイドール・ドーパントが冷淡に告げる。スミロドン・ドーパントはその後ろで自分の爪の先を見つめながら肩を震わせていた。
 二人の目的は、この一室に入る事だけだった。それはイラストレーターという男に会う為だ。会って何をすべきかはわからない。イラストレーターには特別惹かれるだけの魅力はないが、ここにいる人間では、どうも透き通る安心感があった。


576 : 第四回放送Y(前編) ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 22:49:54 0T41iMLk0
 血の匂いを沁みつけた者たちばかりであるのに対して、彼にはそれがなかった。アリシアがそうして、血の匂いのない者を見つけ出して近づこうとする理由はわからなかった。
 ただ、彼が加頭に呼ばれたと聞いて、何となくここに来る事になってしまった。加頭に呼ばれるという事が、不穏な意味を感じさせてならなかったのだろう。プレシアの静止を訊く事はなかった。
 目の前でドアノブが捻られる。内側の部屋から誰かが顔を覗かせる。加頭だろうか。

「……君か」

 いや、そう言って現れたのはイラストレーターだった。織莉子とキリカは警戒し、構えて顔をこわばらせ、二体の怪物を見ていた。彼女たちはアリシアの目的など知らない。
 兎にも角にも、タブーとスミロドンは変身を解除する。その姿が幼い少女と山猫に変わった時、キリカは唖然としているようだった。今にも腰を抜かしそうに、「この子たちが今の怪物に……!?」と、吃驚の一言を告げた。
 アリシアは、笑みも見せずに頷くと、すぐにイラストレーターの方へ向き直った。

「おにーさん」
「君は……寝てないのかい」
「……面白そうなんだもん」

 アリシアは、そう答えた。嘘ではない。ある意味、興味本位だ。
 感情は消失しているはずだが、NEVERもしばらくはこの遊戯を楽しむ性格が薄れない。母に依存し続けたり、誰かを愛したり、冷たい体に劣等感を抱いたり、誰かに忠誠を誓ったり……という断片的な心の姿は視られる。
 アリシアも、一部ではそうした心の姿が残っているようでもあった。ただ、酵素が注入され、細胞が生まれ変わるたびに、それはだんだんと消えていくのかもしれない。

「うわ……可愛い顔して、よくやるなぁ……」

 気づけば、キリカが田端の遺体を見ながら、そう呟いた。後ろからグサリ、一撃である。血まみれで、周囲では飛沫の痕が壁も地面も汚していた。

「それをやったのはこっち。リニス」
「ニャー」

 アリシアは冷静に補足するが、キリカの顔は二の句も告げない状態だった。
 自分も随分とハイな性格である自信はあったが、これは越えられないだろう。
 一方の織莉子は、そうして人の死を何とも思わなくなった五歳児と猫の様子に、不快感さえ抱いているくらいだった。

「……とゆーか、これって結構ヤバいんじゃないかなっ!」

 そう言って、キリカは急に慌てた様子を見せた。状況を思い出したのだ。普段ならばこうした殺人は問題ないが、この場合、織莉子やキリカにも危険が及ぶかもしれない。織莉子とイラストレーターも、目立って騒がないだけで、少しは恐怖を抱いている。
 いわば、これは同組織内の規律の乱れだといえる。特に規則があるわけではないが、同じ組織の人間を命令以外で殺すなど、当然許される事ではない。
 無邪気で、約束事に対する意識の薄い少女だからこそ、こうして危険な行為を平然と行ってしまうのだろう。気にしていないのは、当のアリシアだけである。

「あーあー、全くこんなに汚しちまって……。まあ、他が全部爆発した分、マシって感じだがなぁ。こりゃ後片付けと言い訳が面倒だぞぉ」

 ふと、ワイルドな中年男性の声が聞こえて全員の視線がそちらに集中した。さも当然のようにそこに立っているのは、サラマンダー男爵である。神出鬼没というか、突如そこに現れて、当然のようにそこで喋り出してもおかしくない風体の男だった。一言で言って、つかみどころがない。──そして、現れるのが最も厄介なタイミングで現れる。例によってこの男か……と、イラストレーターは思った。
 突然霧のように現れても、それに驚くに至るまで数秒かかる。キリカが今、驚いたあたりであった。

「俺も随分暇なんでな。物音を聞いて見に来てみたら、いきなり一大事って局面か」
「一大事とかいう次元じゃないと思うけど」
「死体を見る機会なんて、もう珍しくも何ともないだろ?」

 サラマンダー男爵の一言は的を射ており、少しイラストレーターの背筋を凍らせた。
 確かに、もはや人の死に対して、ドライになれるほど見慣れてしまっている。それが怖い事であると、いま再び認識させられた。
 サラマンダー男爵は、他を退かせて、田端の遺体の前に屈んだ。

「……こりゃあ、加頭もそろそろ雷落とすんじゃないか」
「物理的に?」


577 : 第四回放送Y(前編) ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 22:50:23 0T41iMLk0
「これは加頭のお仲間らしいからな。それもありえる」

 加頭はクオークスなる超能力兵士だ。天候を操って攻撃する能力を得ている。
 更に、NEVERとして強化された体力に、ユートピアメモリとの高い適合率やメモリそのものの底知れぬ力が彼を只の人間から恐ろしい存在へと変えていた。
 まあ、才が薄いとはいえ魔術に関する素養が微かにでもあり、NEVERかつゴールドメモリのドーパント……という少女がこの事件の当事者なのだが。

「これはどういう事ですか」

 そう言い現れたのは、加頭だった。
 ランボスの処刑を見届けた後、再び部屋に帰れば、部屋の周りに連れていた財団Xの人間が跡形もなく消え去り、幹部の田端も殺害されているのである。

「おにーさんを殺そうとしてたんでしょ。だから、助けに来たの」

 アリシアは平然と言ってのける。
 実際、イラストレーターが殺されるかもしれないので、この監視を全滅させて彼に会おうとしていた事は間違いない。しかし、不用意にこうした突飛な行動に出て、その次を想定できないのがアリシアの幼さであった。
 奥から、マスカレイド・ドーパントが何人も駆けてくる。数は先ほどの三倍はいるだろう。どうやら騒ぎをききつけて現れたらしい。全員が加頭の後ろで立ち止まった。

「待て! 加頭。……殺めるわけにもいくまい? ……彼女が死んでしまえば、今度はプレシアも離反する。後々面倒だろう?」

 横からフォローするのが、サラマンダー男爵である。
 極力、小さな子供を殺したくはなかったのだろうか。アリシアを庇いつつも、どこか曖昧な位置であった。加頭に対して強気に発言する事はできず、いざとなればアリシアを見捨てる覚悟も持っているようだった。

「確かに……。しかし、彼女にも相応の罰が必要だ」
「だから待てって! まだ子供だ」
「男爵。逆らえば、あなたの目的が潰えますよ」

 加頭の言葉で、またサラマンダー男爵の表情が強張った。立っているだけで、何かの重圧に押しつぶされそうなサラマンダー男爵である。まさしく、板に挟まれているようなサラマンダー男爵の姿がイラストレーターには見えた。

「……目的?」

 織莉子が呟いた。彼女も気にかけたのだろう。
 サラマンダー男爵に対しては、彼女も大きな興味を示していなかったらしい。ここにいる三人が世界のため、アリシアの場合は母親がアリシアの蘇生を祈ったために主催役としての協力態度を示している。しかし、サラマンダー男爵は目的が不透明だった。怪物の目的など知る由もない……と思っていたのかもしれない。
 実際、織莉子やキリカがサラマンダー男爵の人間らしさに触れるのは、今が初めてだったくらいだ。

「彼の目的……それは、あなたたちが外の世界に行けばわかる事です。融合が完了したならば、おそらく最終段階だ。『予知能力者』として招かれた二人も、こうして裏切ったテスタロッサ家の人間も、もはや用済みです。……全員、外の世界に送ります」

 加頭の冷やかな口調が伝わった。
 まさか、彼らはとうに世界の融合には気づいていたのだろうか。……そして、それを一つの合図としていたという事だろうか。
 そう──。
 これまでのイラストレーターの考えこそが間違っていたのだろう。融合が完了したならば、外の世界に出よという加頭の言葉は、既に世界の融合については知ったうえで、イラストレーターを泳がせているようだった。彼はきっと、予知能力者であるイラストレーターと織莉子を用済みとして、罰を与える為に部屋に呼んだのだ。

「外の世界……?」

 そうイラストレーターが呟くなり、また奥からプレシアがマスカレイドたちに連れて来られる様が見えた。プレシアは必死に声をあげ、アリシアの姿を見つけ、そこに手を伸ばしながらマスカレイドに連行される。
 マスカレイド・ドーパントたちの海に揉まれながら、プレシアが近づく。
 彼女もまた、罰を受ける者となったのだろうか。

「自分の世界に帰るのと同じ事です」


578 : 第四回放送Y(前編) ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 22:50:57 0T41iMLk0
 ふと、喜びが増すような一言だった。
 だが、それが妙に含みのあるニュアンスで、それが不安だった。

「なっ……やめっ……!」

 織莉子の声が聞こえたかと思えば、マスカレイド・ドーパントが強引にイラストレーターの腕を掴んだ。……そして、後ろに引き寄せて歩き出す。突如、引っ張られ、声も出た。抵抗もした。それが全て無意味になる。キリカや織莉子が抵抗して声を上げている。
 加頭は直立不動だ。イラストレーターも動こうとはしていない。しかし、マスカレイドによって人波の一部にされ、動きだす。二人の距離が勝手に遠ざかる。織莉子も、キリカも、アリシアも、リニスも、イラストレーターとともに連行され始めた。
 遠くから加頭の声が聞こえた。

「だから、心配する必要は……ない」

 加頭は敬語を使う事もなかった。







 その後、美国織莉子、呉キリカ、吉良沢優、アリシア・テスタロッサ、プレシア・テスタロッサ、そしてリニスの六名がそのまま外の世界に送られ、この場を撤退したのを、サラマンダー男爵は見送った。また元の一室に戻って、サラマンダー男爵は何気なく、この殺し合いの様子を観察している。
 彼らは、ほんの少しは抵抗したが、全力の抵抗ではなかった。すぐに送還されている。元の世界に帰る、という話に少し胸を躍らせていたからに違いない。たとえ元の世界が絶望の最中だったとしても、気持ちは変わらないだろう。

「……ふぅ」

 サラマンダー男爵は体全員で息を吐き出した。
 何ともやりきれなさが残る。外の世界に送還される事が、まず最も絶望に瀕した道であると、イラストレーターたちは知らないのだ。
 だから、微力の抵抗はしつつも、全力の抵抗はしなかった。外の世界に帰る解放感や、ここにいる間の閉塞感が、それを罰と感じる意識を押し出してしまっていたのである。誰も故郷は恋しいだろう。……その気持ちは、故郷がない彼にははっきりとはわからなかったが。

「……外の世界か」

 サラマンダー男爵が思い出したのは、パリの街並みだ。
 そこでは人が平和を謳歌し、エッフェル塔、凱旋門、マロニエ通りやシャンゼリゼ通りなどといった豪奢な建物を眺め楽しんでいた。
 そこも、結局は同じだ。
 あそこはもともと、サラマンダー男爵の故郷というわけでもない。彼やオリヴィエには故郷と呼べる場所がないのだ。だから、共に探していく。共に見つけていく。その途中だった。

「……行かないに越した事はないのにな。まったく、残念だ」

 そう、独り言ちた。







 元の世界に飛ばす……という約束と錯覚していたが、加頭の言葉は、厳密にはそうではなかった。──その事実にイラストレーターが気づいたのは、この瞬間である。
 転送された後だというのに、真横には、プレシア、アリシア、リニス、それに織莉子、キリカが、まだいた。
 つまり、全員が元の世界に帰っているわけではないという事だ。

「……これは……」

 綺麗に立て直された街並みの中には、無数のラダム樹が生えている。──それが、そこは『テッカマンブレードの世界』だと認識させる一要素であった。真っ暗闇の中で蠢くラダム樹の姿には背筋も凍るが、何とかそれに対抗しうる手段をここの人間は有しているので安心ができた。初めて立ち入るが、データでは知っていたこの世界に、全員で招き入れられたというのは、どうも作為的な物を感じずにはいられない。
 よりにもよって、参加者全員が死亡している『テッカマンブレード』の世界である。


579 : 第四回放送Y(前編) ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 22:51:22 0T41iMLk0

 不自然なのはそこにいる人々の姿であった。
 全員が全く同じ黒い衣装を身にまとい、列を作って歩いている。何かを呟きながら……何かを囁きながら……。それは、気力を失くした人間たちの群れだった。ラダムが人を襲う事もなく、その世界はむしろ喧噪とは程遠いようだ。
 ラダムとの戦いが絶望を呼んでいるのではない。ラダムはむしろおとなしく、偽りの平和によって、人々の精神が殺されていたのだ。

「管理国家……ラビリンスと……同じだ……」

 イラストレーターがそう言った。
 桃園ラブたちがいたプリキュアの世界で、『管理』された世界だ。まさしく、それに酷似している。
 いや、はっきり言ってしまえば、それそのものだ。人々の就職、結婚、寿命に至るまで全てが管理されているのだろう。人々は夢や希望、そして最も大切な『我』を失った瞳で歩いている。
 これまで日本の文化圏で健康的に生きてきた人間には信じがたい光景である。

「見て! あのモニター!」

 キリカが指をさし、他の全員も空を見上げた。
 遥か100メートルほど先の街頭巨大モニターでは、見覚えのある映像が映し出されている。──耳を凝らせば、それは第四回放送に似ていた。
 そう、あのランボスの姿が映し出され、あの憎たらしい声での放送が告げられていた。それは、先ほど聞いたものと全く同じだ。時刻を見ると、とうに0時は過ぎていた。時差があるのかと思いきや、放送は一度終わるとまたリフレインを始める。
 見れば、第四回放送と共に、殺し合いの会場にいる各参加者たちの姿がモニターで映されていた。

「まさか、あの殺し合いは……全て、外の世界で中継されているの?」

 織莉子が言う。
 生存者たちの姿も大画面には映っている。群衆はその真下で、不快そうにそのモニターを見つめ、また列に意識を集中する。
 世界は管理され、殺し合いは全て世界中で実況中継されている事だというのだ。

「私たちの世界もこんな事になっているという事……?」

 プレシアは、ひどく絶望した様子でそう言った。
 それを聞いて、全員がはっとする。……そう、それが加頭の言葉の意図なのだ。

『自分の世界に帰るのと同じ事です』
『だから、心配する必要は……ない』

 そう、加頭は言った。

 ────それは、元の世界に帰っても、これと同じくラビリンスの管理を受けているという事だ。
 イラストレーターのいる世界も、織莉子たちの世界も、ミッドチルダも……あらゆる地球がこの『管理』の下にあるという事なのだ。彼らが殺し合いの主催者として異世界に閉じ込められている間に、こうして、「あのお方」なる者の管理が行われていたのだ。
 それだけの期間があったか? ──という疑問をイラストレーターは抱いたが、それより先にキリカの言葉が耳に入る。

「じゃあ、仮に生還したとしても、脱出したとしても……」

 イラストレーターは思考を中断して、キリカが言えなかったその先の言葉を告げた。

「ああ、待っているのは……こんな、どうしようもない管理世界だ」

 そうしなければ現実に戻れないと思ったからだ。
 もはや、参加者たちに元の世界の自由など与えられないのだ。
 徹底的な絶望ばかりが与えられている。
 ましてや、この殺し合い実況中継というのが、更に最悪である。殺し合いに巻き込まれた者たちの家族は、友達は、それを応援する者たちは、果たしてどんな表情をしてこの映像を見つめるのだろう。自らの子や仲間が殺された事、あるいは殺し合いに乗った事を知る者も出る……。
 自分たちの街を守っていた『仮面ライダー』が左翔太郎や照井竜であった事を知る者も出る。未確認生命体第4号やプリキュアの正体も……最終時間軸まで隠し通していた事実が全て白日の下に晒される。


580 : 第四回放送Y(前編) ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 22:51:45 0T41iMLk0

「それじゃあ……私たちは、一体何のために戦ってきたのッ!?」

 織莉子がそう、言葉を荒げた。
 魔法少女である彼女たちにとって、それが非常にまずい事であるのはわかっているが……イラストレーターたちに止める術はない。
 絶望。──ソウルジェムを穢し、三途の川を溢れさせ、FUKOを溜める最悪の調味料であった。だが、それを抱かずにはいられない。
 彼女も魔女となってしまうかもしれない。彼女が魔女となれば、徹底的な絶望が始まる。
 管理が行われ、殺し合いが行われている。……それが、どの世界においても確実な未来。

(……いや、よくよく考え直せば、ただ一つの例外もある)

 ふと、イラストレーターの中にある世界の姿が映し出された。それは予知ではなく、回想だ。確かに、どの世界も、こうして絶望に囚われているわけではない。少なくとも、ただ一つはこの管理を免れている世界があるはずなのだ。
 だが、その世界に行く術はない。……なぜなら、その世界は……。

「いたぞォ! 奴らだ!」

 ふと、背後から声が聞こえる。ラビリンスの人間とは別の黒服であった。その衣装はどこかで見覚えがある。目を凝らしてみると、──それは、人の顔をしていない。先ほどの財団Xたちが変身したマスカレイド・ドーパントだ。彼らも管理下に置かれた世界の一員なのだろうか。ここに転送される事を聞いて、捕まえに来たのだろう。自由にさせておくわけはない。方法は武力行使だ。
 なるほど、どうやら財団Xも管理下に置かれているらしい。それで、加頭をはじめとする財団Xは「あのお方」に協力しているのだ。管理された彼らに与えられた仕事が、その技術力を以ての殺し合いの運営だ。
 しかし、それならサラマンダー男爵は……? まさか……。

──SMILODON──
──CLAY DOLL──

 敵方の攻撃意思は明確だったので、先んじて、リニスとアリシアが変身した。
 更には、織莉子とキリカは魔法少女へ、プレシアは魔導師としての対抗策を講じる。
 向かい来るマスカレイドたちを一蹴すべく、四名の女性と一匹の猫の変身。
 イラストレーターは変身を拒む。

「敵が来る……!」

 ポケットにガイアメモリは入っているが、どうも変身してはならぬ気がした。殺し合いに呼ばれたのが変身者ばかりであった事実が、イラストレーターの脳裏に思い出される。万が一、変身という行為そのものが何か意味を成しているとしたら──あまり不用意な行動はすべきではない。だが、抵抗しないわけにもいかなかった。要するに、ジレンマだ。変身して戦う事も、抵抗せずにやられる事もできない。教えていい物なのかもわからない。
 十数名のマスカレイドの部隊を迎撃するのは、全て女性──イラストレーターはその後ろで、女性という名の防御壁に甘んじていた。

「行くよっ……!」

 最初に前方から来るマスカレイドの腹をキリカが刺突。そのダメージを受けたマスカレイドの首を刈り取るのがスミロドンだった。彼女たちはまた同じように周囲のマスカレイドを切り裂き、次々と爆破に追い込んだ。
 クレイドールの光弾が更にそこに畳みかける。全てがマスカレイドたちの胸に当たる。織莉子も球体を射出し、マスカレイドたちの姿を散らしていった。このマスカレイドがルナの能力のような幻惑なのか、意思を伴った人間の変身した物なのかは定かではないが、もし後者ならば、ここで既に十名分の人生が幕を閉じた事になるだろう。
 更に、爆炎の中から追撃。プレシアの魔法で放たれた紫の魔法弾が運よく助かっていたマスカレイドたちのもとへと殺到し、爆裂する。

「うっ……!」

 しかし、安心するわけにはいかなかった。
 背後からイラストレーターを押さえつけた怪物がある。……それは、マスカレイドではない。テッカマンの世界に存在する、戦闘用フォーマットが完全ではないテッカマンたち──所謂、素体テッカマンたちであった。
 管理下にあるこの世界のテッカマンたちが、暴徒を鎮圧しようとしているのである。
 キリカが駆け出し、素体テッカマンの腕をそのカギ爪で一突き。痛がる素体テッカマンの腕の中から、イラストレーターを救いだす。助ける義理はないが、ともかく今は仲間内で貴重な情報源であった。

「……まだ来るっ!」


581 : 第四回放送Y(前編) ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 22:52:10 0T41iMLk0

 そう織莉子が言った頃には、既に周囲には素体テッカマンが囲んでいる。
 外の世界は絶望の最中だ。何者かの支配下にある人間たちがこうして襲い掛かってくるのである。イラストレーターも、世界がこうなる未来を予知する事はできなかった。
 いや、織莉子もそうだろう。この管理の影響がない世界に閉じ込められ、そこでの予知能力の効き目を実験させられていたくらいなのだから。

「これじゃあ、キリがないっ……!」

 ……予知能力者であるイラストレーターや織莉子が呼ばれた最大の理由は、この絶望を察知しかねない人間を、『手元』に置いておくためだったのである。
 そう気づいた頃には、『今』が絶望の時になっていた。







 サラマンダー男爵はモニターを見つめている。
 イラストレーターたちが飛ばされたテッカマンの世界の映像を見ながら、その管理下の人間たちの姿を黙って見つめていた。
 素体テッカマンの群衆と必死に戦うイラストレーターたちの姿を気にしながらも、その画面の向こうに忠告を送った。勿論、それが届くわけもない。

「……随分賑やかにやってるが……外の世界の辛さが随分わかっただろう? ただ、その管理世界から抜け出す手段もひとつあるんだ」

 遠い遠い向こうの世界へ、せめて届いたら御の字という事で、サラマンダー男爵は告げる。

「この世界──参加者たちが何も知らずに殺し合っているこの世界だけは、管理の影響を受けない」

 そこが唯一の安住の地だ。この殺し合いの主催者を全うすれば、サラマンダー男爵はオリヴィエとそこで暮らす権利を有する事ができる。
 他の参加者たちが推察しているように、オリヴィエが人質に取られたわけではない。

「だから、管理されるのが嫌なら、ここで一生暮らすしかないってわけさ」

 ──住む世界そのものが、人質に取られているのである。



【ランボス@宇宙の騎士テッカマン 死亡】
【田端@仮面ライダーW 死亡】


582 : 第四回放送Y(後編) ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 22:52:54 0T41iMLk0

 イラストレーターたちは、街の裏路地にある小さな秘密の入り口の前にいた。
 先ほど、素体テッカマンの襲撃に遭った時、間一髪というところで、ある人物たちに助けられたのである。
 それは、アキ・アイバ(旧姓:如月アキ)とユミ・フランソカワ──この世界のテッカマン二人であった。最終時間軸の相羽タカヤよりも後から来ているはずの二人がここにいるのを疑問に思ったが、とにかく管理に屈服されずに辛うじて逃れている数名の戦士が、こうして街の外れで隠れるように生活しているらしい事を何となく察した。

「……どうなっているんだ、一体!」

 キリカの声が虚しく響いた。管理というものが、所謂『洗脳』である事を知って、どうしようもない孤独感に苛まれているのだった。元の世界では、友人であるえりかやその両親たちもこうして管理され、洗脳され、希望を失っているのだろうか。
 まるで、魔女の口づけを受けた人間たちのようだった。生気がなく、意思が見えない存在なのだ。

「どうなっているのか聞きたいのはこっちの方よ。あなたたちは、一体何者?」

 アキは強い口調で訊き返した。無理もない。管理された世界とはいえ、財団X以外の異世界人が来訪するのを経験していないのである。しかも、タイミングが悪かった。相羽タカヤことDボウイは既に死んでいる。おそらく、つい先ほどまで悲しみに浸っていた真っ最中だろう。そこを無理して助けに来たので、ひどく感情的になっても仕方のない話だった。
ただ、彼女たちはどうやら、管理に巻き込まれない強い意志を持っているらしく、まだ管理されていないのである。今も財団Xや管理下の素体テッカマンとは敵対しており、レジスタンスのように隠れて行動しているらしかった。

「さっき、変な力使ってましたよね……? テッカマンじゃなさそうですけど……」

 隣にいるのは、ユミだ。少し恍け気味の彼女もテッカマンイーベルとしてテッカマンに変身する。他にも四名のテッカマンが、各地でゲリラとして活動しており、そのサポートメンバーも基地の中で管理から逃れようと必死に足掻いているようだ。
 外世界でも、そうなのだろうか。仮面ライダーやプリキュアたちは、彼らのように理不尽な管理に抵抗するために必死で足掻いているのだろうか。
 それを思いながら、胸の内の絶望を和らげる。

「僕たちは、その……。あの殺し合いに呼ばれていた人間なんだ。助けてくれた事は、心から感謝する」

 その立場を口にする事はできなかった。
 目の前のアキのデータは存在する。ユミまでは調べていなかったが、アキはDボウイと同じスペースナイツの仲間で、恋人である。Dボウイを巻き込んだ殺し合いを傍観していたのは、他ならぬ自分たちだ。この世界に居場所がない感じを抱いていた。
 ましてや、顔を合わせる事などできない。

「……」

 そして、一方のアキは、やはりと言うべきか、「殺し合い」というワードで俯いた。つい先ほどDボウイの死をモニターで見たばかりなのだ。ずっと昔に解決したはずの苦しみを、また抱いている姿は物悲しい。
 仲間が喪われた事実も悲しいが、その仲間が最後の最後まで、こうして身内殺しを強いられる事実が彼女たちをやりきれなくさせた。先ほども基地の中では殆ど暗く沈んでいる状態だったに違いない。涙の痕はまだ残っているだろうか。
 仮面の下の涙は、拭えなかったので、今どうなっているかもわからない。

「……隠れ家まで案内してもらえたのは、本当に礼を言いたい。ただ一つだけ……この世界について教えてほしい。いつからこうなったのか、そして、今はこの世界のいつごろなのか……それだけ教えてくれたら、僕たちは……」

 ここを去ろうと思っていた。
 当然、被害者と加害者で一緒にいるなど、気持ちが押しつぶされるだけだろう。
 いじめを苦に自殺した子供の遺族が、見てみぬフリを決め込んだ生徒たちを許せないように……。

「……」

 アキは怪訝そうに見つめながらも、五人を基地に入れた。
 基地とはいうものの、中身は木箱を机代わりにするような六畳一間ほどの質素で狭い部屋だった。光の挿す電球もなく、換気用の窓もない。おそらくは、隠れ家を追われて、新しくここに来たようで、武器は不十分なほどしか備え付けられていなかった。


583 : 第四回放送Y(後編) ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 22:53:31 0T41iMLk0
 何とか猫含む八名が押し込まれると、本当に足を開くスペースもない。ただ、幸いなのはイラストレーターを除いて全員痩せ型の女性であった事だろうか。骨格の都合上、さほど大きな幅を取る事はなかった。

「この世界がこんな風になったのは、ほんの一週間前の事よ。突然、Dボゥイがいなくなって、探していたら街中に人ごみができていた。見れば、街頭にあの巨大モニターが、突然現れていた。他にも街の至る所にあれと同じ物が作られていた。テレビの電波も乗っ取られて、あそこで流れている映像が垂れ流されるようになったの」

 一週間……。時の流れが違うという事だろうか。
 ゲームが始まったのはつい昨日の出来事のはずだ。しかし──。

「最初に流された映像には、Dボゥイや弟のシンヤ、妹のミユキが映っていた。殺し合いの始まりを告げる集会だったわ。それが、一昨日までずっと流れていた。その間、Dボゥイは帰ってこなかった……」

 やはり、殺し合いが始まったのは昨日、という事だろうか。
 オープニングから殺し合い開始までに一週間程度のインターバルが設けられていたのだ。
 その間の記憶はイラストレーターにはない。おそらくは、参加者も主催者も、多くは眠らされていたのだろう。イラストレーターに何も告げなかった「来訪者」たちも同じだ。

「一週間の間に、財団Xが現れて、街の人たちの様子も変わっていった。この世界を支配した『××××』という存在に管理されて、だんだんとそいつに忠誠を誓い、従うようになっていった。人の精神を抑制して、言う事を聞かせているみたいで……私たちの仲間も何度か、それに引っかかりそうになったけど、何とか平静を保っていた。未来を信じていた。でも……」

 イラストレーターたちは顔を見合わせる。誰も、『××××』という存在には全く心当たりがないらしく、俯いた。イラストレーターのデータにもその存在はない。
 もしかすれば、参加者たちも知らない存在なのかもしれない。

「……Dボゥイも死んでしまった。私たちも、一緒に管理されてしまった方が、いいのかもしれない……」
「アキさん!」

 弱気になるアキを、ユミが横から諭した。
 ……それを横目で見ながらも、教えられたあらゆる事に五人は絶句し、彼女たちの様子に気づく事はなかった。
 自分たちの想像を遥かに凌駕する、スケールの大きい出来事が、あの殺し合いと並行して発生していた事──それは、かのプレシア・テスタロッサさえも吃驚して言葉を失うほどである。

「僕たちは、一週間の記憶を失っているのか。それとも……」

 自分たちが一週間眠っていたのか、だ。
 どうやら、主催者側でも情報には差があるらしい。おそらく、その事を加頭やサラマンダー男爵は知っていただろうし、その一週間は普通に活動していたのだろう。

「ううん。みんな、ずっと寝てたよ」

 アリシアが、突如、当然のようにそう口にした。
 その一言に、イラストレーターは絶句する。驚くべき事に、彼女は加頭とサラマンダー男爵と同じ側の存在だったのだ。──思わぬところに、こうして事情を隠していた情報源がおり、「灯台下暗し」という言葉を思い出した。
 それを聞いたキリカが、少し不機嫌そうな声で彼女に訊く。

「……何故知っているんだ!?」
「寝なかったから」
「何故黙っていたんだ!?」
「聞かれなかったから」

 そんな情報もアリシアにとっては、些末な問題だったらしい。彼女はこの状況に真剣に対応する気はないようだった。……とはいえ、それを知っていたところで何ができたと言われれば、それまでだ。もっと早い段階で知っていれば有利というわけでもなく、今知ったからと言って、何でもない話である。
 他に知っている事があるとすれば……。

「僕たちが寝ている間、加頭たちは一体何をしていたんだ?」

 それが気になった。イラストレーターはアリシアを責めない。彼女には、何が重大で何が重大でないのか、判断する能力そのものがまだ乏しいのだ。


584 : 第四回放送Y(後編) ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 22:54:03 0T41iMLk0
 それは仕方のない話でもある。

「……わからない。でも、色んなモニターを見てた」
「誰が目を覚ましていた?」
「白い服や黒い服の人たちとか、バラが描いてあるお姉さんとか、金色の太ったおじさんとか……」

 財団Xの人間や、ラ・バルバ・デ、脂目マンプクの事だろう。
 彼女が知っているのは、それだけだった。おそらくは、根っからの怪物の多くは、自分たちより詳しく知っているという事だ。
 その真実……その全てについて。

「ねえ、一体何の話?」

 アキが訊いた。彼女がついていける話ではなかったのだろう。

「あの……私、さっき金色の太ったおじさんなら、モニターで見ましたっ!!」

 ユミが挙手してそう言う。妙に張りきっているが、彼女の素である。
 どうやら、脂目マンプクと血祭ドウコクのコンタクトを見ていたらしい。街中のモニターにある全ての映像を同時に監視し続ける事ができないので、こうして知識の差が生まれるのだろう。
 相羽一家やモロトフが死んだ事によって、彼女たちが監視する範囲はもう少し変わった。ユミの場合は、おそらく最も特徴的な人物である血祭ドウコクを追ったのだろう。その結果、脂目マンプクの姿を見る事になったのだ。

「それは……」

 イラストレーターは口を開こうとする。
 まさか、彼らと一緒に行動していたなど言えない。話すのが責任であるが、話さずにどうにか持って行きたい気持ちが心にはあったのだ。
 イラストレーターがその先を口にできなかった。都合の良い言い訳を考えながらも、喉にでかかった言葉を外に放出する事はできなかった。
 その時である。

「ただいまー……って、うわ、お客さん多いな……っ!!」

 地のドアが開き、誰かが入って来た。
 背後から現れた者に警戒したが、アキやユミが大きな警戒をしない所を見ると、来て然るべき仲間のようである。背後から現れた男は、茶髪の青年で、少し頼りなさげな顔立だった。
 この狭い部屋に誰かがもう一人分来られるという事は厄介でもあった。
 どこかから調達してきた食料を手いっぱいに持っている。

 彼の名はハヤト・カワカミ。ユミの相棒のパイロットであった。

「……うん……?」

 ハヤトが織莉子とアリシアの顔を見て、何かに気づいたように見つめた。
 見覚えがある、という言葉が聞こえそうだった。
 彼は、またもう一歩、織莉子に顔を近づけた。

「君、もしかして……」

 ……この二人の事を知っているという事は、つまり彼が殺し合いの中継モニターを確認していたという事だった。
 そして、彼はおそらく、その時、自分の中に在った記憶と、目の前の人物とを照合し終えたのだろう。

「……ミクニ・オリコ……?」

 ハヤトがそう発した時、いよいよ、言い逃れができない事がはっきりとわかったのである。







 ……それから、また彼らは誰も来ない裏路地を歩く事になった。イラストレーターはこの狭い路地で、織莉子たちに何となく囲まれている。先頭を猫が歩き、その後ろをテスタロッサの二人が。イラストレーターの後ろには魔法少女たち。お陰で、前から来られても後ろから来られても平気という安全地帯だ。


585 : 第四回放送Y(後編) ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 22:54:26 0T41iMLk0
 だからこそ、だろうか……。いつも通り思案する事ができた。尤も、それは後悔であり、考察ではない。

 あの後の『出てってくれ』というアキの言葉は、辛辣だった。無理もなかった。
 アキは確かに、イラストレーターたちに殴りかかろうとしており、ユミやハヤトの制止など利く様子もない。彼女が正義の志である事は間違いなかったが、同時にDボゥイという男に惹かれた女である事も間違いない。

『出てって!』
『Dボウイがどれだけ苦しんで私たちと戦ってきたのか!』
『Dボウイが私たちと過ごして、一緒に笑い合ってきたのか!』
『あなたたちにはわからないの……!?』

 イラストレーターも織莉子も、自分の罪を痛感している。
 キリカとプレシアに至っては、それを感じているか否かはわからなかったが、少なくともキリカがこの時はマイペースな様子ではなかった。良心がちくちくと痛んでおり、一歩歩くたびにそれが刺さるような気持ちだったのだろう。

「……で、これからどうする?」

 管理された世界の下で、彼らは今後も味方なしに追われる事になる。
 いわば、もうこの世界に行き場はなかった。財団Xや管理下の素体テッカマンに見つかれば、また多勢に無勢だ。
 今度はテッカマンによる救援も期待できない。

「こんな世界よりは、どうせなら元の世界で死んだ方がマシかなぁ……」

 キリカがふと呟いた。
 楽観的に見えるが、その根底には諦観があるようだった。
 絶望するほどでもなく、また、ソウルジェムが穢れないほどでもない。
 ただ、こんなでも元の世界に帰りたい気持ちがあった。加頭は確かに元の世界に帰るのと同じだと言ったが、やはり違う。
 管理されていようが、自分の仲間がいる世界の方がずっと良かった。

「……そうね。元の世界で死ぬ方が、どれだけいいか」

 死ぬという事実だけでは絶望はしない。むしろ、今は生に対する執着がなかった。
 死にたいという気持ちもない。要は、生や死に対する情熱ではなく、元の世界に対する懐古が湧き上がってきた。いつ死ぬかもわからない状況に直面している事実は、生きるか死ぬかよりも、死のシチュエーションに対する思いを抱かせた。
 ああ、これが、殺し合いに巻き込まれた人間の心情なんだな……と薄々感じ始めていた。
 それを諦観しながら助けもしない人間がいるとすれば、それがどんなに恨まれるべき事なのか──。

「あなたたち、死ぬ気なの……?」

 プレシアが口を開いた。その目は、確かに「睨む」という言葉そのまま、織莉子に突き刺さるような視線を浴びせていた。

「……やめて頂戴。私は絶対に死ぬ気はない。生きて私は、取り戻せるはずの私の幸せを取り戻す……。私の足を引っ張るつもりなら、今すぐに死んで! 中途半端な気持ちでこのまま戦うつもりなら……いっそ私が今、ここで……」

 冷淡な彼女の言葉には、士気を下げたくない気持ちが込められていた。
 彼女自身、きっと絶望する気持ちは大きいのだろう。だからこそ、自分の気持ちの流れをそちらに持って行く織莉子やキリカの姿に苛立ちを覚えたのだろう。

「おばさん。もし織莉子を殺すつもりなら、私が先にあんたを殺す……それでもいいかな?」

 そんなプレシアの意思を知ってか知らずか、キリカが今にも反抗しかねない瞳をプレシアに向けていた。本心では彼女も死にたくないには違いないし、織莉子を守りたいのだろう。だから、プレシアが自分を殺すというのなら、それに相応した反撃をする予定なのだろう。
 イラストレーターは我慢できずに、一瞬声を荒げた。

「やめるんだ!」

 それで周囲が注目した後で、声が縮まる。

「……ここで殺し合うのは、二人にとっても不利益だ。感情に流されちゃいけない」

 とにかく、全員がこうして戦闘態勢になるのを中断して、別のところに注意を向けるようになったのは幸いだ。このまま殺し合う事こそ、全員の士気が悪い方に向かう事象になるだろう。ただただ傷つけあうのは虚しいだけだ。


586 : 第四回放送Y(後編) ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 22:55:58 0T41iMLk0
 これで敵を殺して勝ったとしても、やはり勝った方が虚しい気持ちになるだけだろう。
 むしろ協力して生き残る事を考えた方がいいのは明白だった。

「……ちょっと待って、誰? あれ……」

 織莉子が突然、路地の前を指さした。全員、そちらに意識を集中させた。
 見れば、そこには見覚えのある筋肉質の中年男がいる。
 男は、こちらが発見した瞬間、不敵に笑って見せた。

「……テッカマンではないな。だが、管理されていない存在だ」

 イラストレーターも直接会ったのではなく、データで見ていただけだが、その男はゴダードという。この世界の人間であるのは間違いないが、Dボゥイが来た最終時間軸では死んでいるはずの人間だ。
 ……いや、アキやユミといった未来の存在らしき人物もいる状況ならば、最終時間軸という概念が間違っているかもしれないが、それでもそこには彼はいないはずだ。

「……なんで、お前が……ここにいる……!?」
「タカヤ坊たちが死んだ事で、どうやら運命が迷い始めてしまったらしい。このワシもタカヤ坊に倒され死んだ記憶があったが、同時にタカヤ坊の存在が消えた事で倒されなかった記憶もある……妙な話だが、それが真実だ」

 ゴダード自身、その理屈をよくわかってはいないようだったが、とにかく、相羽タカヤの死と生の二つの世界の混濁により、世界そのものが混乱を初めているようだった。タカヤの存在によって死んだ者が、存在していいのかいけないのかを判断できず、結果的に再生してしまっているという事である。
 何故こんな事が起きてしまっているのかはわからないが、テッカマンブレードの世界は少なくとも全滅しており、それが原因だろうと推定できた。

「タカヤ坊やシンヤ坊は死んでしまったらしいな……残念だ。ワシが約束を果たせなかった事をシンヤ坊はどう思うだろう。だが、まだワシにはラダムとしてやる事が残っている……シンヤ坊に詫びるのは、それからにさせてもらおう」
「ラダムとして、やる事……?」
「この世界に起きている管理に打ち勝ち、この星、この世界をラダムによって支配する事だ……! 我々は管理などには屈しない。いずれオメガ様の敵となる邪魔な貴様らもここで葬らせてもらう!」

 イラストレーターが、その言葉でぐっと構えた。どうやら、ゴダードは、ラダム以外とは共同戦線を張る気がないらしい。このまま交戦する事は確かだ。
 こちらの言葉に丁寧に応える男だったので、もしかすれば説得できる可能性はあるかもしれないと思ったが、それは甘かった。
 管理に屈しないのはヒーローだけではない。悪人たちも時として、そのプライドにかけて管理から逃れるのである。
 ゴダードは、直後にはテッククリスタルを握りしめていた。

「テックセッタァァァァァァァッ!!!!!」

 ゴダードがテッカマンアックスへとテックセットし、立ちはだかる。
 ただでさえ眼鏡だった図体はその外殻に包まれ、数倍巨大な緑と黒の怪人に変身。──ラダムに洗脳された悪しきテッカマンであった。
 ゴダードという男は、もともとは文武両道の人格者だったらしい。ラダムに洗脳されてからも微かにその面影を残しているが、洗脳の度合いは決して低くはない。決して人類や邪魔者には容赦しないであろう。

「……仕方ないな、また一丁やるよっ!」

 キリカは直後に魔法少女へと変身すると即座に前進──腕から出現した巨大なカギ爪で敵を狙う。周囲の速度を低下させ、キリカはその時間の波に乗っかるようにアックスの胸の下までたどり着く。
 カギ爪がアックスの顔面に向けてクロスを描こうとする。

「甘いわッ!!」

 しかし、その時間の中でアックスがテックランサー──テックトマホークを回転させて、キリカの頭部を叩き付けた。
 クリーンヒットし、キリカは頭から地面に叩き付けられ、そのまま顔をアスファルトに直面させたまま滑っていく。摩擦熱で頬が熱くなり、血が滴る。
 あまりの衝撃に、一瞬感覚が追い付かなかった。起き上がるには至らない。意識さえ飛んだかもしれない。

「キリカッ!?」


587 : 第四回放送Y(後編) ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 22:56:28 0T41iMLk0

 織莉子が心配の声をあげる。地面に目をやっても、キリカが動く事はなかった。キリカの魔法による速度低下に対応するだけのスピードで振るったのだ。
 いくら速度が低下したとしても、それに合わせて常人の数倍早い攻撃を放つ。──強敵というのを目にした。

「油断しちゃいけない……彼は白兵戦の達人だ」

 いくら魔法少女とはいえ、付け焼刃の女子中学生に接近戦で負けるはずがない。
 安易な攻撃は危険だ。
 次いで、キリカの敗北を気にも留めないプレシアが自らの通る道を確保するため、バリアジャケットを展開する。雷光の魔導師が敵を消し去らんと前に出る。
 彼女こそ、安易な攻撃を放てるだけ、自分の魔力量に自信を持った猛者であった。

「関係ないわ……。邪魔よッ!」

 ──サンダースフィア。紫の魔法弾が掌から放たれ、テッカマンアックスへと真っ直ぐな軌道を描いて進む。そして、体表で炸裂。
 しかし、アックスがそれをダメージとして受け入れた様子はなかった。
 アックスの様子に辛酸を舐めて、また次の攻撃に移る。

「喰らいなさいッ!」

 エクスディフェンダーと呼ばれる更に強大な魔法弾がアックスを包んだ。
 だが、そこにはアックスはいない。既に進路を変更し、攻撃を回避。爆煙の中から移動し、プレシアの露出した脚の付け根を蹴り飛ばす。
 不意の一撃に、プレシアもまた吹き飛んだ。

「……フフフ。その程度か、貴様らは……ッ!! タカヤ坊の足元にも及ばんな……」

 アックスの強靭が次に狙ったのは、アリシアが変身したクレイドール・ドーパントであった。

「……っ!?」
「まずは貴様だ。喰らえ、小娘ッ!!」

 ──そこに向けて一閃。テックトマホークがクレイドールの首を一瞬で刈り取った。

 それはまさしく、誰も息もつけないほど、一瞬の出来事だった。タブーの首が吹き飛んだかと思えば、次の瞬間には四肢が切り取られ、クレイドール・ドーパントの体はバラバラに散らされていた。
 あまりにもあっけないが、それは人の死を意味していた。イラストレーター以外の全員の動揺。
 倒れた地面からその様相を見上げていたプレシアがそのあまりのショックに悲鳴を上げる。

「……そんな……」

 ショックで青ざめた顔は、すぐに鬼の形相へと形を変える。
 プレシアがようやく取り戻した幸せを奪われた時、また強い憎しみのプレシアが始まった。プレシアはアックスの方を見つめながら、怒りとともに杖を向けた。

「……よくも……私のアリシアをッッッ!!!」

 アックスに向けて放つ拘束魔法。アックスの体が魔法陣の上で、紫の光に拘束される。アックスも相当驚いたようであった。両手を紫の鎖に縛られた彼は、身動きが取れない。
 更に、プレシアは強力な魔法力を集中させ、自分の手でアックスを葬り去ろうとした。

「消えなさい……ッッッ!!」

 拘束魔法がかかり、身動きが取れないのを良い事に全力を込めたエクスディフェンダーを放つ。流石にこれを受ければアックスも一たまりもないだろう。
 愛娘を目の前で殺された恨みが全て、そこに込められていた。放たれたエクスディフェンダーの光がアックスに近づいていく。

 だが──

「クラッシュイントルードォォォォォッ!!」

 アックスには、手でも足でもない、移動手段が存在した。それが背中のバーニアからエネルギーを放出し、上空へ移動。
 エクスディフェンダーの攻撃が空ぶっていく。


588 : 第四回放送Y(後編) ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 22:57:07 0T41iMLk0
 エクスフディエンダーは背面のビルを根本から崩していく。それが不味かった。裏路地で破壊されたビルは、近くにある建物をこの狭い空間で全て巻き込み、瓦礫が彼らのもとに降り注いでいくのだ。
 既に轟音が鳴り、恐るべき早さでそれが降り注いでいく。

「な……そんな……」

 これだけ派手なビルの倒壊は、周囲にも伝わっただろう。
 時期に管理国家の人間がここへやって来る事にもなるだろうし、このままでは倒壊したビルがここにいる全員を押し潰してしまう。
 アックスの戦闘力以上に、プレシアのその強すぎる魔術の才能が問題であった。
 怒りに我を忘れた彼女が、威力の制限などしているわけがない。

「まずい……っ!!」

 織莉子が慌ててキリカの体を抱き上げ、イラストレーターの手を退いて逃げ出そうとする。スミロドン・ドーパントに変身したリニスは、そのまま加速ですぐに瓦礫の下から回避する。テッカマンアックスも、すぐに背面バーニアでそこから避ける。
 それぞれがいた場所には、瓦礫が次々と落ちていく。ただ、その様子を見る事はなかった。背を向けて、逃げるのに精いっぱいであった。

「……アリシアっ!」

 唯一、そうした回避行動を取らなかったのは、破壊の攻撃を行った当人であるプレシアであった。
 彼女が真っ先にしたのは、茫然と立ちすくむ事でもなければ、そこから逃げ出す事でもない。──異形に変わり果て、首だけになった娘のもとへ駆け出す事であった。
 それが、彼女に残った母としての愛である。その首を抱きしめ、潰させないように必死になる事こそ、彼女がこの時、真っ先にすべきだと判断した回避行動だった。
 まるで当然のように、それを行う姿には、到底二手三手先を考えられる天才の冷静さは感じられない。

「逃げてくださいっ! プレシアさんっ!」

 織莉子が、まだ安全ではないはずの地点で足を止めて、プレシアの方を振り向いた。
 本来、彼女ほど狂気に満ちた人間がそんな事をするわけはないと誰もが思うだろう。
 いや、しかし──自分が死ぬ瞬間まで、娘の遺体に優しさをかけてあげるほどの愛こそが、彼女を狂わせる最大の原因だったのだ。
 プレシアは織莉子の言葉など聞いていない。

「……アリシア……」

 巨大な破片が、先にプレシアの真横で大きな音を立てて落ちた。隣の建物につっかえて支えられ、まだビルは完全には崩落しない。しかし、脆い部分が少しずつ崩れ去り、今にも倒壊して全てを叩き潰してしまいそうだった。
 その音を聞き、頭上を見上げる。脱しようとした時には遅く、ビルそのものがプレシアの真上で陰を作った。真ん中からビルが折れ始めていた。もともと、ラダムの侵攻によって廃れかかっていたビル群であった。脆く、弱いのも仕方のない話だった。

「ママ…………おかーさん……? 泣いてる……?」

 幻聴だろうか、プレシアが抱きしめている首は、そう呟いたようだった。
 プレシアは、亡き娘の首をぐっと抱きしめる。それがたとえ人の姿をしていないとしても。首だけの姿だとしても。生きていないとしても。関係のない話だった。
 そして、次の瞬間、瓦礫ではなく、ビルそのものがプレシアの頭上に降りかかった。
 更に強くぐっと、抱きしめ、そのクレイドールの首が完全に破壊されないように、自分の体を背にして守り抜こうとした。
 駄目だ。
 全身を守ってやる事はできないが、せめてこれだけは──

(アリシア……フェイ……)

 彼女の体が瓦礫に押しつぶされていく瞬間に見た「走馬灯」なる回想の中には、愛娘と山猫と、もう一人、そこにいない少女が映し出されていた。
 科学者としての抜群の才能と頭脳を誇り、記憶に一切の偽りがないはずの彼女には、決して大きな間違いなどが生まれるわけはない。
 彼女は、その時、家族を思い描いたはずだった。
 なのに、何故──そこに、その少女がいたのか。

 消えていく意識の中でそれを思考し、気づく。

 忌々しいはずでありながら、アリシアが生きていた時間の中では、あるいは彼女も──。



 ……。



 …………。






589 : 第四回放送Y(後編) ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 22:57:48 0T41iMLk0



 辛うじて攻撃を避けた四名のもとに、テッカマンアックスは容赦なく現れる。
 倒壊したビルの向こうから、背面バーニアを使って出現。一切、躊躇なく織莉子たちの命を狙っていた。
 プレシアやアリシアがビルの下に消えた中でも、その心配をする時間はくれなかった。

「……織莉子……。こいつ、ちょっと強いかもしれない……勝てないと思う。あのおばさん、死んじゃったかな……」

 キリカが目を覚ましたようで、そう呟いた。
 敗北を確信し、この世界での死を甘んじて受け入れるのだろうか。
 しかし、キリカは妙に落ち着いていた。彼女が織莉子の危機的状況で落ち着いていられるはずがない。何か策があるように見えた。

「……ただ……そう、私も魔法少女のままじゃ絶対無理だ」

 尤も、それが決して希望的な策ではないのは、誰もわかっていただろう。
 彼女は魔女になろうとしている。魔女となり、テッカマンアックスを結界に封じ込めようとしているのだ。
 この路地の向こうから、素体テッカマンの群れやマスカレイド・ドーパントたちが来ようとしている声もする。
 このままいけば、全員巻き込む事になるだろう。だが、その軍勢を相手にできる方法は一つしかないはずだった。

「キリカ……!」
「大丈夫。私は何になっても決して織莉子を傷つけたりしない。いや、むしろこうなることでキミを護る事ができるならば、私は……」

 彼女が取り出したソウルジェムは、黒く濁っている。
 それは、到底宝石とは言い難く、人の魂とも言い難い。
 ただの薄汚れた怪物の種である。それでも彼女は、この状況下、やむを得ないと判断して、そこに全てを捧げる。

「安らかに絶望できる!」

 そう言って、魔法少女キリカは、宝玉を完全に黒く変えるほどの絶望を込めた。
 それは、祈りのように朗らかに、眠りのように安らかに、彼女のソウルジェムの形を変えていく──。







 ──魔女。
 それがある世界が、ここにまた存在しているわけがなかった。
 それがキリカの知る願いであるとしても──それは、まだ果たされない願いであった。
 世界のどこかに残っている。

──『私……全ての魔女を、生まれる前に消し去りたい』──

 どこかの宇宙で、どこかの時間で、どこかの誰かが祈った、一つの願い。

──『全ての宇宙、過去と未来の全ての魔女を、この手で!』──

 それは『オリジナル』から発された物だった。殺し合いの世界には干渉されないが、この世界には干渉される一つの理。


590 : 第四回放送Y(後編) ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 22:58:09 0T41iMLk0
 全ての魔法少女を救い、全ての魔法少女に導きを与える一つの意思。
 あるいは、一人の少女が概念化した宇宙。
 ──そう、『円環の理』であった。

『……織莉子ちゃん、キリカちゃん』

 上空を見上げれば、そこにあるのは人。──それは、彼女たちが記憶している一人の人物にそっくりである。桃色の髪の乙女は、神のように優しく微笑みかける。
 イラストレーターも驚いて見上げるしかなかった。
 ここにいる二次創作世界の誰も、『オリジナル』──あるいは、それに限りなく近い世界から干渉してきた彼女の存在を知らない。
 鹿目まどかにそっくりで、──いや、彼女そのものであるその巨大な少女の事を。

『ごめん、外の世界に出ちゃったみんなはもう魔女にはなれないんだよ……。二人とも、私が干渉できる宇宙の外にいたからわからないんだね。でも、本当はもう絶望なんてしなくてもいいんだよ』
「……魔女になれないなら、どうやって勝てばいいのっ!? 絶望的じゃないっ! キリカがいなくなった事も、全部無駄で……」
『ううん、大丈夫。キリカちゃんのお陰で私はここに来られた……。だから、キリカちゃんの事だって無駄じゃないよ』

 円環の理は、優しく彼女を包む。
 彼女の願いは『全ての宇宙』にまで及ぶ。たとえ『オリジナル』にほむらの再構成が書き加えられたとしても、再構成の影響を受けなかった別宇宙には円環の理の意思が残存し、こうして魔法少女たちを救う事ができるのであった。
 キリカ──彼女の絶望が繋がる。
 彼女がたった一度、こうして織莉子を救う為にわざと絶望した事実が、別の宇宙にも何かを知らせるのであった。

『織莉子ちゃん、頑張って』

 本来、魔女として世界を絶望に落とすはずだった少女が、また別の存在として、これだけ大きくなっている──鹿目まどかという少女の溢れんばかりの因果が、その大きさから感じ取られた。
 どうやら、最終的な着地点は『希望』であったらしい事を知り、織莉子は安らかな気持ちになる。まどかの命を狙っていた事も、今や懐かしい事実にさえ思い始めていた。
 その輝きの中で、『円環の理』の意味をうっすらと理解する事ができた。

「キリカ……っ!」

 キリカが導かれる。
 円環の理が遠ざかっていくようだった。

「織莉子……ごめん。役に立てなかったけど、もう行くしかないみたいだ。でも、どうせ遠くに行くならついでに……」

 導かれるキリカは、心なしか明るく、優しいキリカの表情であった。
 遠くへ導かれていくキリカの姿を見て、織莉子の頬に自ずと涙も伝った。
 キリカは、織莉子のたった一人の友達だ。だから──

「……織莉子が持ってるでっかい荷物、私が半分持って行ってあげよう! だから、またしばらくはお別れだ! あとは、織莉子の手に残ったぶんの荷物をすり減らして、いつかそれがなくなる日が来たら、またどこかで声をかけるから、また出会おうよ、あの時みたいに……」

 だから、織莉子がこの殺し合いの主催者として協力して、背負った荷物は、彼女が一緒に背負ってくれるのだ。
 織莉子の前からキリカが消えていく。どんなに手を伸ばしても届かない。しかし、その体はおそらく、この異世界ではなく、元の世界を経由して、どこかへ導かれていく。
 元の世界に戻るのは、キリカが望んだ通りだった。

 そして、絶望した魔法少女の行きつく先が、『魔女』ではなく、『円環の理』になった時──、円環の理を追っていた異世界の遡行者に、その世界の座標が特定された。







 世界の色が元に戻ると、織莉子とイラストレーターとスミロドンの前には、テッカマンアックスが立っていた。


591 : 第四回放送Y(後編) ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 22:58:31 0T41iMLk0
 織莉子はキリッと眉を顰め、敵を睨んだ。

「どうした……? 今の少女たちは消えたのか……?」

 アックスは、円環の理の世界には入り込めなかったらしい。突如としてキリカが消えた事実に、辟易している。彼女は三人だけを一度その世界に連れて現れたのである。アックスがその原理を知る由もない。

「……逝ってしまったわ。円環の理に導かれて……」
「円環の理……? 何をわけのわからん事を……」

 織莉子は、アックスに全てわからせようという気持ちはなかった。会話ではなく、自分の中にあるキリカを失った穴にけじめをつけるように。
 ただ、伝えたい事は一つだ。織莉子が予知の魔法を使わずとも、そうだと確信できる未来──。

「……あなたの言う通り、この世界は、確かに管理なんてされない。きっと、管理に打ち勝つわ」

 織莉子は気持ちを切り替えた。切り替えきれない部分もあるが、それでもきりっとした瞳でアックスにそう言い放つ。

「フン。わかったか。この地球は我々ラダムが全て支配する。この世界を管理などさせんわっ……!」
「いいえ。管理に打ち勝つのは貴方たちラダムじゃない……! この世界の地球人たちよ!」

 それが一つの合図ともいえた。
 そのタイミングで瓦礫の中から、突如としてクレイドール・ドーパントが現れ、テッカマンアックスの背後に重力弾を叩き込んだ。アックスにとっても、これは思わぬところからの不意打ちであった。
 土人形の記憶が封じ込められたメモリの使用者・アリシア・テスタロッサが四肢をバラバラにされただけで死ぬ事はない。衝撃を受けて粉々に砕けても再生できるのがこのクレイドールメモリの力であった。

「何っ!?」

 死んだはずのクレイドール・ドーパントが生きている事に辟易しているアックスの元に、更に二名の襲撃が入る。
 それは、織莉子でもイラストレーターでもスミロドンでもない。

 その遥か後方から駆けてくる──テッカマンアキと、テッカマンイーベルであった。
 テックランサーがテッカマンアックスの腕に向けて投擲される。突然の攻撃に両腕が封じられた。

「ぐあぁぁっ!!」

 アックスの腕から赤い液体が飛び散る。
 苦しみ喘ぐアックスは、こうして邪魔が入る事を予期していなかった。
 よもや、こうして自分やブレードやレイピア以外のテッカマンが誕生している事など、予想もしていなかったに違いない。
 彼らには少なくとも、記憶を混濁した世界のうち、自分が死んで以降の記憶をほぼ持ち合わせていないのだ。

「僕たちを助けてくれるのか……?」

 イラストレーターは、唖然とした様子でアキとイーベルに訊いた。
 彼女たちは、少し迷った後で答えた。

「あなたたちを許せるかはわからない。……それでも、本当に償う気があるなら、罪は生きなければ償えない物よ。……たとえどんな姿になっても」

 テッカマンブレードが抱き続けた罪は、決して死による救済が許されなかった。
 家族や友を傷つけ、殺し、その苦しみと罪の最中で記憶まで失っていたDボウイは、まさしくそういう男だった。
 そんな男の姿が微かにでも重なったのだろう。それで助けないわけにはいかなくなったわけだ。

「Dさんの死は悲しいですし、あんな事をしている諸悪の根源は許せません。でも、あなたたちみたいな優しい人には、きっと何か大人の事情(?)があると思うんです。それに私たち、テッカマンですから……困っている人がいたら、隠れずに戦わなきゃいけないんです!」


592 : 第四回放送Y(後編) ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 22:58:59 0T41iMLk0
 テッカマンイーベルはそう言った。
 彼女なりの励ましや熱意が、その言葉に込められていた。大ボケユーミと呼ばれた彼女だが、正義感だけは一人前であり、困っている人を助けずにはいられない性格もまた彼女の純粋さが引き立たせる物である。

「私たちは外の誰に頼られなくても、この世界の管理や脅威に打ち勝つわ! あなたたちはこの場を逃げて! この袋小路の先に、あなたたちを別の世界に連れていってくれる人たちが来ているから、お願い……この世界は私たちに任せて。私たちの手で守りたい世界なの」
「本当か……? だが、君たちは来ないのか……?」

 アキの言葉に、イラストレーターは思わずそう訊く。
 それに答えたのは、イーベルであった。

「……大丈夫! 私たちにはもっと仲間がいるんだから! 絶望の最中でも負けない、Dさんや、Dさんがあそこで出会っていた人たちみたいに……私たちも、絶望は希望に変えて進まなきゃダメなんです! ……だから、私も諦めない! この世界で戦い抜いて、希望を掴んで見せる。だから、またいつか、この世界で会いましょう」

 二人のテッカマンは、アックスや素体テッカマンの群れに挑もうとしていた。
 これから先、フォン・リーことテッカマンソードや、相羽ケンゴことテッカマンオメガといった、Dボウイに倒されたテッカマンたちも蘇るだろう。
 しかし、地球人たちの力の結晶のテッカマンも、この世界にいる。テッカマンベスナーや、テッカマンゾマー、テッカマンデッド、テッカマンジュエル……様々な仲間のテッカマンが活躍してくれているのである。

「……わかった。ありがとう。その希望が、きっとこの世界中に届く日が来ると信じるよ」

 イラストレーターは、その時素直にそう礼を言った。

「私たちも、これから罪を償って生きていきます。……その第一歩として、この管理を止めて見せる……それが私たちの今の願いです」

 織莉子は、一礼した。これから、アックスを置いてここから逃げ出してしまうのが少し後ろめたいようだったが、キリカが呼び出した『円環の理』によって、他世界からこの世界の異常が感知されたのも事実だ。キリカの死を無駄にしないためならば、いっそこうして逃げるのが一つの手段である。
 先ほどアキたちが隠れ家にしていた路地裏に向かっていけば、迎えがいる。
 だが、彼らはそこに向けて走り出した。

 そして、彼らの足音が遠ざかっていくのを、テッカマンアキとテッカマンイーベルは聞いていた。
 彼女たち二人は、目の前の倒壊したビルを埋め尽くすテッカマン軍勢、ドーパント軍勢に挑もうとしている。
 これだけの騒ぎだ。おそらく、仲間のテッカマンが聞きつけて来てくれる事は間違いない。
 しかし、騒ぎが大きいという事は、敵の増援も多いという事だ。素体テッカマンは管理されているだけで、元は善良な人間かもしれない。なるべくなら、殺したくはない。
 結構、難易度の高い戦いだ。相手を倒せるか否かの限界の体力に、相手を殺してはいけないという制限の問題。
 それでも負けてはならぬのが、この世界において希望となる存在である。

 ただ、己を奮い立たせる為に、声を合わせて叫んだ。

「「宇宙の騎士(テッカマン)をなめないで!!」」







「ねえ、おにーさん」

 アリシアが、織莉子の腕の中から、イラストレーターに話しかける。
 今は走っている真っ最中だ。その状況で話しかけられるのは驚きであった。
 イラストレーターは何を言われても応える事ができない。
 まあ、プロメテの子として生まれた天才児の一人であるイラストレーターは、基本的には運動神経もある程度高かったが。

「……ママがね、最後に私を抱きしめたの……泣いてた」

 ……そうアリシアに言われて、イラストレーターは黙った。彼女は最後の瞬間、母親の表情を見たのだろう。プレシアはよりにもよって、クレイドールの能力を知らず、アリシアが死んだと勘違いしていた。それでも、アリシアの成れの果てであるこの首を抱きしめ、涙したというのだ。親の愛というのは一つの狂気にさえ感じる。


593 : 第四回放送Y(後編) ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 22:59:23 0T41iMLk0
 返す言葉がないが、何か返さなければならない気がした。そうしなければ、彼女にとって大切なチャンスが一つ奪われるのではないかと思ったのだ。

「僕には母がいないから……君の気持ちはわからないけど……」

 イラストレーターには母はいない。
 だが、母への思いを綴った文学があらゆる国に存在しており、それを様々な言語で読んだ事がある。だから、少し想像する事はできた。
 家族というのは──いわば、イラストレーターにとってプロメテの子や研究員たちのようなものだ。失いたくない存在で、そこにいると心が落ち着き、表に出し続けなければならない非情さを奪っていく営業妨害の連中である。

「……その時に、君が、どう思ったのか。今のうちに、それを正直に打ち明ければ、君の家族は、きっと救われると思う」

 イラストレーターが言った時、アリシアは悩んだ。悩んだという事は、何かを感じたという事だ。
 何もなかったのではなく、何を感じたかわからない。──わからないが、多分、これだと思った言葉をアリシアは告げた。

「悲しかった……」

 そう告げた時、確かに実感した。
 これは『悲しみ』だ。
 母が仕事を休んでくれなかった時や、かつてアリシアが死んだ時──母との今生の別れを悟った時に感じた記憶が、ふと蘇る。
 悲しみ。それを、もっと昔、アリシアは確かに知っていた。

「……悲しかったよぉ……」

 アリシアは、それを思い出した時、ついに堪え切れずに泣いていた。
 堪えていたのではなく、なくしたはずの何かが急激に蘇ったのである。
 プレシアがアリシアを愛していたように、アリシアはプレシアを愛していた。
 そして、NEVERとしての特性を忘れるほどに、彼女はだんだんと色を取り戻していった。
 全てを失いつつあった幼いNEVERの少女に、何かが戻った瞬間だった。







 そして、袋小路でイラストレーターたちを待っていたのは、時空管理局であった。アキは嘘など言っていなかった──そんな疑いは最初から持っていなかったが、万が一という事もある。
 来たのは、リンディ・ハラオウンやクロノ・ハラオウンをはじめとする、時空管理局の『アースラ』の乗組員である。彼らは、既に最終時間軸である高町ヴィヴィオ及びアインハルト・ストラトスの世界に統合され、充分な年齢を重ねた時代の者になっていた。

 アースラがこうしてテッカマンブレードの世界に辿り着けたのは、『円環の理』の座標を確認したからである。
 各世界で起きているあらゆる異変への対処で時空管理局の各部署が手一杯になっており、アースラも例外ではなかった。中には、管理国家による悪質な『管理』の傘下に入ってしまう部署まで存在しており、かつてないほどの多忙を極めている。そんな中でこうしてこの世界に来られたのは、要するに『円環の理』の働きのお陰だった。
 その時点で最も強い異常を感知した世界──即ち『円環の理』が発生した世界まで急行した彼らは、そこで、驚くべき事にアリシア・テスタロッサとプレシア・テスタロッサがいるという情報をアキから聞きつけ、こうして現れたわけである。
 残念ながら、プレシアは再び命を絶ってしまう形になったが、アリシアをはじめとする数名は保護した。アリシアと織莉子は、あの殺し合いに関する重大なデータを知る者として、特に強い保護対象となっていた。

 アースラには各世界から数名の各世界人が特例的に同乗していた。
 たとえば、旧ラビリンスのウエスターやサウラーなどが、この異常について詳しい情報を知る人間として、同乗許可を得ている。彼らによれば、今度の支配者はメビウスではないらしい。それは有用な情報であった。
 世界の破壊者ディケイドとその知り合いも今日、ほんの少し同乗していたらしいが、いずれも既に別の世界に自力で移動してしまったという事で、重大な情報源となりそうな男とすれ違ってしまったのは残念だが、これからしばらくはこの船の保護下で、殺し合いの様子や管理の様子を見る事ができるようになるだろう。


594 : 第四回放送Y(後編) ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 22:59:46 0T41iMLk0

(まだ管理に屈していない人間はたくさんいる……。きっと、憐たちもそうだ……)

 イラストレーターはアースラの中で思案する。
 管理世界に来た時は、もう絶望の最中だと思った。生還も脱出も許されず、外の世界に来てしまえばあるのは絶望だと──そう信じて、膝をつきそうになった。
 元の世界に帰りたい気持ちも少しずつ薄れ始めたほどである。
 だが──

(希望を信じながら戦う人がいる限り……運命を変えられるかもしれない)

 感情を失いゆくNEVERでありながら、感情を取り戻し始めているアリシア。
 前を向き、自分たちの世界を守ろうとしていたテッカマン。
 親しい人間の凄惨な姿を目にしながらも、自分たちの使命を全うする管理局。
 全ての魔法少女が行きつく未来である円環の理。
 この絶望的な外の世界の中でも、いくつかの希望がそこにある。

 プレシアやキリカとの短い旅が終わり、今度は管理局やラビリンスの人間と、『××××』を倒す為の新たな旅が始まる。



【プレシア・テスタロッサ 死亡】
【呉キリカ@魔法少女まどか☆マギカ 救済】

【吉良沢優@ウルトラマンネクサス 時空管理局によって保護・生還】
【アリシア・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは 時空管理局によって保護・生還】
【リニス(猫)@魔法少女リリカルなのは 時空管理局によって保護・生還】
【美国織莉子@魔法少女まどか☆マギカ 時空管理局によって保護・生還】






595 : 変身ロワイアルの真実 ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 23:00:35 0T41iMLk0

 全パラレルワールドの完全管理。──それが、彼の不動の目的だ。

 本来、『インフィニティ』による管理は完全無欠であるはずだった。全てのパラレルワールドを管理するツールであるはずのそのメモリーは、FUKOを蓄積すれば世界の管理を行える力を持っているはずである。かつてメビウスもそれを信じてインフィニティを使った。
 しかしながら、実際に使ってみれば、管理されない世界もいくつもあった。
 たとえば、この殺し合いで桃園ラブが疑問に思ったように、一度メビウスによる全パラレルワールドの『管理』が行われたはずだが、その事実も、他の世界の参加者には通用しない常識になっている。あの時に管理された世界は、あらゆるパラレルワールドのごく一部でしかなく、支配された世界の一つではなかったのだ。
 宇宙の果てにあるマルチバースと呼ばれる、一つ一つが小さな玉になっている多次元宇宙──それがパラレルワールドだが、管理国家はその玉の全てを握っているわけではない。ほんの欠片だけだったのである。

 マルチバースには自分の世界を基準としたレベルがあり、そのレベルが上がるにつれ、科学や進化体系、年代の違いまで生じ、その遡行も難易度が高くなる。
 答えをばらしてしまうと、インフィニティの力が支配できるのは、そのうちレベル2までであった。いや、厳密には全パラレルワールドを支配する事もできるのだが、レベル3以上を得るには、それなりの力が必要なのだ。それこそ、エントロピーを凌駕するエネルギーなど些末にしか感じないほどの壮絶な力が──。
 この主催者は、それを得て全て支配しなければ、満足しない性格だった。それではまだ、全てのパラレルワールドを管理──とは名ばかりの支配をできない。
 全てを管理下に置いていく。







 インフィニティの存在を知った彼は、早速その強奪に取り掛かった。とある鉱石のエネルギーを用いて、辛うじてインフィニティのあるレベル3世界に遡行する事に成功し、その後、管理の為の準備を進め始める。

 行き着いたレベル3マルチバースには、FUKOを更に効率よく上げる為の方法を持つ世界が複数存在した。
 たとえば、ソウルジェムや三途の川が存在する世界である。それらの時空を一つの場所に統合し、三つの現象を併用する事により、たった一つの絶望で三倍以上のエネルギーが蓄えられる。それがインフィニティの管理速度を早めさせる事を考えたのであった。

 それから、更に、驚くべきは、人間が『変身』するエネルギーというのがその進化を助長するという事実だった。
 人がその身を別の姿に変じるという事は、それこそ科学や世の中の法則を無視した現象であるのは、周知の事実だ。
 高度に発達した科学や、実際的な魔法が存在する世界においては、そんな常識はとうに過去の話であもあったが、それが通常ならば世界法則を歪めるだけの科学や魔法であるのも事実だった。そうして世界法則を歪めるだけのエネルギーを集めれば、管理世界の幅を広めるのに役立つと、彼は知ったのだった。
 変身は、本来交わらないはずの異なるマルチバース間での変身の方が膨大なエネルギーを放出するというのも、興味深い事実であった。

 収集方法は、変身する人物の魂を内包している器(人体、ソウルジェム)に特殊装置を付けたうえで、『変身』をさせる事で装置内に収集させる方法を選んだ。手間はかかるが、確実で、成功すればかなりの量のエネルギーを回収できるはずだ。
 そして、いざ装置が完成してみれば、そこに溜めこまれたエネルギーは、装置が破壊されるまで外には放出されない難点があったが、それは些末な問題であった。すぐに、装置に一定条件下で爆発する爆弾を取りつける事を決定した。
 
 そして、彼は、様々なマルチバースで、人体の『変身』を可能とする世界を恣意的に選び、その装置をつけて殺し合いをさせるゲームを開催する事にした。装置を70名の人間に取りつけ、エネルギーを収集する事にしたのだった。
 装置は後に、『首輪』と呼ばれる。この首輪の爆破、または解除により、効率的にエネルギーが外へ出て行き、彼のもとに収集されるのだ。せいぜい、この特殊な首輪の寿命は80年程度だが、それだけ悠長に待つ気はなかった。

 インフィニティや参加者66名ほか、あらゆる世界から彼とその部下は人を呼び、集めていった。


596 : 変身ロワイアルの真実 ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 23:01:03 0T41iMLk0

 説明役に、『仮面ライダーW』の世界の財団X幹部・加頭順を呼んだ。彼自身興味を持っていた、財団Xという地球人組織を武力で支配下に置き、インフィニティを発動させた後、殺し合いがスタートするのだ。
 そして、オープニングの映像を外世界に流し絶望させるために一週間のインターバルを置いた。あらゆる世界から、FUKOが溜まっていく。その間、参加者や一部の主催陣には全員眠っていて貰い、財団Xの人間には管理された自世界の様子を眺めさせた。彼らもだんだんとインフィニティによる支配力が効き始めていった。

 結果的に、彼らの帰るべき世界はその力で、六日間で管理された。







 異なる時間軸から人間が消え去った事実はなくなっていき、世界は自ずと矛盾を消していこうとし始めた。元々、一つの流れを自然とする世界は、その本能に従い、最も正解に近い世界へと形を変えていく。そして、結果的に連れて来られた人間の最終時間軸を基準にした融合が始まった。
 ただし、その世界の人間全てが死亡した段階で、世界は矛盾を治す力を使い果たし、更に矛盾だらけの世界を作り出してしまう。テッカマンブレードの世界は、まさしくそうだった。
 こうして世界が一つにまとまり始めた事は驚きだったが、その方が、管理がしやすいのも事実であった。







 管理されていない世界でも、勘の良い者は、遠いマルチバースの異変を何らかの書き記すようになった。やがて管理される時が迫っている事を動物的本能が察知し、それを夢に見る者がいた。
 ある世界では、その絶望の様相が美大生の課題の絵として提出された。その美大生は、課題の期限に追われて適当なイメージを描いただけだったが、それが深層心理の警鐘であり、未来起こりうる事だとは知らないだろう。
 ある世界では、その管理の本質が哲学者の思想として知れ渡り、少しの注目を浴び始めた。その本質を見極めたところで、着々と迫りくる管理の夜に抵抗する術はない。
 ある世界では、その物語の殆どが数名の人間によって合作され、インターネット上で「リレー小説」として公開された。散り散りに感じていた無意識のイメージの断片が自然と吐き出され、一つの作品を作り上げていき、世界の隅で少しずつ記録されていった。
 そうして、外世界も少しずつ全パラレルワールド管理への注意を喚起し始めていた。







 殺し合いの会場となる世界は、唯一、主催者である彼にも謎の世界である。こればかりは、主催者にもわからなかった。
 どのマルチバースにも属さず、どうしてここに行きついたのかは彼自身もわからない。ふと気づけばここにいたと言ってもいい。……ただ、ここは知れば容易に踏み込む事ができ、知らなければ一生触れようともしない場所にあった。
 誰も人が住んでおらず、点々と置いてある島々には、ただ戦いの痕跡だけがある。まるで、誰かが既にこの島で殺し合いをしたようだった。倒壊したビルや、大破した巨大ロボットの残骸、首輪をつけた人間たちの死体……そんな生々しい爪痕が残っている。もし、何も知らない人間が見れば、嫌悪さえ催すような場所だろう。しかし、彼は妙にそこに惹かれていた。

 そこに、一つ真新しい島が存在していた。彼はそこで殺し合いを行う事に決定した。どういうわけか、誰も用意もしていないのに、『風都タワー』や『志葉屋敷』といった、レベル3世界の産物が建てられている。
 島の地下には、主催人物が休むための施設があり、F-5の山頂の真下に、その入り口が存在している。

 それを疑問に思ったが、誰かが「ここで殺し合いを行え」と自分を急き立てているような気がした。彼は、それに運命を感じて、ここで殺し合いをする事にしたのだった。


597 : 変身ロワイアルの真実 ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 23:01:24 0T41iMLk0







 ……ここにいる加頭順の頭上では、今も殺し合いは行われているのだろう。

 爆破・あるいは解体された首輪の変身エネルギーは今も着々と、「あのお方」のもとに届いている。首輪の構造上、こうして爆破され、解体される事がやむを得ない。いくつか、解体されないまま死体とくっついて放置される首輪が存在するものの、残っている参加者たちはそれを拾い、再び解体していく事もあった。
 結城丈二が首輪解析功労者とされたのも、それが全て、主催陣にとって有益な話だったからだ。首輪に溜めこまれた力は、「破壊」されてこそ意味を成す物で、基本的には「生存時間」、「変身回数」、「破壊のタイミング」を良いバランスで揃えなければならない。それには、下手に手を加えるよりも、参加者が首輪を爆破させるか、解体するかを自然のタイミングに任せて放置した方が良いだろうと考えたのであった。
 事実、それまでの間に繰り返し多彩な変身を行う者がおり、それは彼らの予想外の事実にもなった。下手なタイミングで爆発させるよりもずっと効率良く手に入った。
 結城丈二にとって誤算だったのは、彼がダミーと判断したコードや器具が全て、『破壊された後は意味を持たない』というだけの、変身エネルギーの蓄積場所であった事だろう。彼は今も、参加者の多くが首輪を解除するために役立ってしまっている。無論、こんな事を予想できるなど、科学者でも不可能だ。
 それこそ、超能力者でもない限りは、首輪を解除する事の真の危険性などに気づかない。彼をはじめとする首輪解除派には一切、落ち度などなかった。

 現状でも彼らが解体し続けたいくつもの首輪のエネルギーがFUKOのゲージを目くるめくスピードで盛り上げている。このまま行けば、殺し合いの終了までには、『オリジナル』を含めた全世界を完全支配できるであろう事も間違いなくなってきた。

(ユートピア……)

 理想郷のメモリを持つ彼は、現状作られていく管理国家の姿が、その言葉に見合う物なのか、少しばかり思案した。だが、答えは出ない。

 テッカマンの世界では、既に人間・素体テッカマン・ラダムに一定の役割が設けられ、その間での戦争・闘争があっという間に収束している。
 財団Xも紛争地域への支援が抑えられ、資金の大半がこの殺し合いへの協力に回された。それは財団にとってマイナスでしかなかったが、世界にとってはプラスであるといえないだろうか。
 普段の財団の支援で死んでいった兵士よりも、この殺し合いに巻き込まれて死んだ人間の方が遥かに少ないほどである。同じ資金と資材ならば、この数百倍の人間が屍になるだろう。
 管理により世界は、かえって争いをなくしていき、『全宇宙の意思』であるワルダスター帝国のドブライまでが彼に力を貸すようになった。それは即ち、この蛮行は宇宙にさえ認められた正当な物である……という事であるようだった。

 勿論、加頭も納得はしていない。
 園咲冴子がまたも死んだ事実に──震える心もある。
 だが、加頭は二度も死んだ後だというのに、またこうしてこの殺し合いの主催に招かれた。大道克己との戦い、仮面ライダーダブルとの戦い……いずれも、忘れられるものではない。
 冴子の死という事実も、だんだんと彼の中では軽んじられる些末な話に感じられるほど、死生観の歪みは強まっていく。
 ……彼の目的は、冴子を加頭のように蘇らせ、この地で共に暮らす事であった。その欲望はまだ胸にある。

 管理世界の外に二人だけの理想郷を作るのだ。

 ──勿論、サラマンダー男爵とオリヴィエとは、その時に殺し合いになるだろうが。






598 : 変身ロワイアルの真実 ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 23:01:43 0T41iMLk0



 そして──。

 彼は、マップの裏側──側近の五名とインフィニティ以外、誰もいない小さな島で、玉座に座って殺し合いの映像を見ていた。
 世界の王が玉座というのも古風な話だが、彼は所謂、そういうタイプの悪であった。これがダークザギさえも支配する力を得た戦士である。
 まさしく、全ての宇宙を抱き込むほどの欲望を持ち、それを発揮しようとしている怪物だった。

「我ガ名ハインフィニティ……無限ノメモリーナリ……」

 インフィニティとともに蓄積されるFUKOや水かさ──それが彼の頭上百光年分を遥かに超える水かさである事が、その方法の効率性の高さを示している。
 変身エネルギーがここで大きく回収され続けた事で、あっという間に百光年も水かさが増したのだ。それでも、まだ『オリジナル』には行きつかないと知り、世界の広さを痛感する。
 だが、どちらにせよ、関係のない話だった。

「……管理は随分進んでいるらしいな。俺様が全宇宙を支配する時も近いみたいだ……」

 ……そう、彼の名は、カイザーベリアル。
 力に対する強い渇望を感じ、悪の道を行く事になったウルトラ戦士である。
 それは、ウルトラ戦士が束になっても勝てず、ウルトラマンノアの力を借りたウルトラマンゼロさえも苦戦を許すほどの最強の怪物であった。
 あるいは、彼は、既にウルトラマンノアやダークザギ以上の力を持っているかもしれない。

 ベリアルこそ、新たな管理国家──ベリアル帝国を築き、全マルチバースの支配者となる事を夢見る、この殺し合いの真の主催者だった。



【真の主催者】:カイザーベリアル@ウルトラシリーズ


599 : ◆gry038wOvE :2014/05/25(日) 23:02:16 0T41iMLk0
以上で投下を終了します。


600 : 名無しさん :2014/05/25(日) 23:16:35 PzeMQef.0
投下乙です!
四度目の放送と同時に、いよいよ真の主催者と殺し合いの外で起こっている悲劇について明かされましたね。
まさかこのお方が主催者だったとは……これは確かにノアとザギを上回っているかもしれない。
そして、主催陣営もどんどん減っていく中、残された者達はどう動くでしょう?


601 : 名無しさん :2014/05/25(日) 23:30:24 h8J/FaL.0
投下乙です。
首輪を解除するほど主催の目的達成に近づいていくとはえぐい…

> ある世界では、その物語の殆どが数名の人間によって合作され、インターネット上で「リレー小説」として

やばい。この世界にも管理国家の手が(ry


602 : 名無しさん :2014/05/26(月) 00:17:42 0gZw9Qyw0
投下乙です
黒幕お前かよぉ!


603 : 名無しさん :2014/05/26(月) 00:18:46 aBjYCvlE0
投下乙です。

真の主催もさることながらある意味パロロワシリーズ類を見ない事態が展開されているのがなんとも。
まぁ確かに『テッカマン』だけどさぁ……これある意味最多参戦作品企画になりかねん。
しかし参加者側が推測していた『サラマンダー男爵の参加理由』とか『首輪解除』とかが裏目に出ているのが難しい。
ともかくこれで吉良沢、テスタロッサ一家、おりきりは主催組から撤収。少しスッキリしたようです。

あと、個人的な感想として、テッカマンブレードⅡが正式に組み込まれた歴史なのが個人的には嬉しい、
いや、Ⅰの展開を踏まえると色々アレと思う方も多いのは認めるけどやっぱり個人的には認めても良いと思うので。

しかし、この記述が事実だと、この物語も実は書き手達が物語を受信した事で描かれる話という事か……うん、なんか009最終章みたいだね(確か石ノ森先生が未来の001のテレパシーを受信して描いたとかどうとかって話だった筈)


604 : 名無しさん :2014/05/26(月) 02:17:09 znj0lXCc0
投下乙です
遂に登場した黒幕、ヤバい勝てる気がしない
ってかさり気に出てたもやしw


605 : 名無しさん :2014/05/26(月) 15:30:51 fGiZZa3A0
プレシアおばさんワロタ


606 : 名無しさん :2014/05/26(月) 17:53:09 cst0/ub.O
投下乙です。

当然のように通りすがってたディケイドが狡い。

バトロワを中継する事で嘆きや絶望を世界レベルで集めるのは、上手い手口だな。


607 : ◆gry038wOvE :2014/05/26(月) 22:41:57 9lCuXEeA0
これ通って24時間だと半端なので、0時に予約解禁でいいですよね?


608 : ◆gry038wOvE :2014/05/27(火) 00:13:18 LqjZSy1Q0
wikiで色々修正しました。
特に、マルチバース関連の話で色々改変してあります。
ちなみに、マックス・デグマークなる人の分類と、ウルトラシリーズの分類では差異がありますので、今回はウルトラシリーズの設定に準拠しています。
そういう想定でお願いします。


609 : 名無しさん :2014/05/27(火) 01:09:09 FUNphIE.0
おお、早速予約がきたか


610 : 名無しさん :2014/05/30(金) 05:09:19 DIkgHFzA0
死者スレ、フェイトの念願かなった感じでほろりときた


611 : 名無しさん :2014/06/01(日) 19:46:58 R6Bavviw0
ストップ詐欺被害!
ゼロ『最近、魔法ナンチャラになれば願いがどーとか…って勧誘してくる怪しいやつがいるみたいだ。皆気をつけてくれよな!』

UFZがQBの存在を把握しているらしいコネタ


612 : 名無しさん :2014/06/01(日) 20:54:36 gL78NBGkO
初見
かなり燃える

なにげに良牙の主人公属性がハンパねぇ


613 : ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 14:31:41 t56Jw2Y.0
投下します。


614 : さらば、ロンリー仮面ライダー(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 14:32:09 t56Jw2Y.0

 校舎へと繋ぐアスファルトの道まで、百メートル以上、グラウンドが続いている。
 平坦に敷き詰められた砂の岩瀬砂は、既に幾人もの参加者たちによって踏み荒されていた。よく見れば、足のサイズから靴の模様まで、山道よりも鮮明に形作っている。このグラウンドも始まった段階で綺麗に整えられていたはずだ。ここの足跡をつけた人間のうち、おそらく数名はもうこの世にいない。
 そこに新たに重ねられていく足跡は、結城丈二と涼邑零のものだった。

「四人、か……」

 放送によれば、犠牲者は四名という。今までの放送では確実に十名以上の参加者の死が告げられていた事から、迂闊にも「少ない」と感じるほどであった。……いや、実際、統計的に見れば少ない数値ではあるが、彼らのような正義感と、生命に対する人並の倫理観を持ち合わせていれば、決して命の重さを数値の大小で判断しないだろう。
 確かにこれまでの人数が異様だったゆえに、四名と訊くと少なく思える。しかし、この孤島で六時間に四名が死ぬというペースは決して遅くはない。しかもその内の殆どは真っ赤な他人ではなく、人伝に聞いている知り合いという状態だ。平静を保ち始めているようでいて、それこそが狂っているような証であった。
 平素の常識よりも、死亡人数減少への安心が一瞬先行してしまうほどには、彼らの感覚も麻痺している。まるで、彼らが「もう一つの姿」になったばかりの頃のような──そんな、ビギンズナイトの時に感じたような感情の混乱である。
 だんだんと、精神的な疲れも溜まっているようだった。
 いまだ目的さえわからない宴に踊らされている。

「聞いたところでは、四名とも敵ではない……」

 結城は溜息半分に口にした。もはや名簿に印をつける作業さえも行う気力はない。
 放送の名前のうち二名は、その死を左翔太郎一行から伝えられており、一応確認はしていたが、その後、ダークプリキュアと黒岩省吾の二名は死亡した。残念と言っては何だが、結局、ゴ・ガドル・バや血祭ドウコクは現在も生存中という事が現在の放送で明らかになった。
 二十一名中、二人程度しか殺し合いに乗っていないと聞き、それでは割に合わないような気もしていたが、結果的に殺し合いというのは、この二名が狩人のように一方的に生存者を貪り殺していく形で成り立っているらしい。

「放送も随分とタイミングが悪いよな。……まったく、俺たちがここに来た時に……」
「わかっていたさ。しかし、一刻も早く首輪を解除してやりたい」

 推定では、おそらくここに桃園ラブがいる。ここにいないとすれば、現在も単独行動中という事だろうか……。どちらにせよ、彼女が知り合いである明堂院いつきの死に何の反応も示さないわけがなく、二人はそこで暗く淀んだ空気に立ち行かなければならないのである。
 いつきの死自体は勿論、翔太郎から聞いて結城も知っていたが、彼はそこに漂う空気の悪さに臆する事などなく、ただ踏み込んで、一抹の吉報を知らせねばならない。
 首輪が解除できるという事実は、先ほど放送でランボスなる人物が明かした通りで、そのために結城がこうして見回るように校舎へと歩いているのもそれを知らせて参加者の希望となるためだ。
 結果的に、禁止エリアは現状の数か所のみとなり、ガドルやドウコクが首輪爆弾の餌食となる事はないが、それでも相手の行動を制限できるという点ではアドバンテージとして有効活用され、また、身近な恐怖が一つ減るメリットもある。
 首輪を解除する事で、あらゆる恐怖から助け出したかった。







 疲労というのは恐ろしいもので、中学校の中にいた三名は、その放送が過ぎた事自体に安心を感じていた。……というのも、睡眠を取りたい人間にとって、その放送の終わりが一つの指標だったからである。
 桃園ラブにせよ、涼村暁にせよ、石堀光彦にせよ、放送が終われば少しは休養を取りたい気持ちでいた。主に睡眠不足が祟り始めている──とはいうものの、実際、これから睡眠の必要がありそうなのはラブのみで、石堀はしばらく活動でき、暁は殺し合いに巻き込まれて何度か意識を途絶したお陰で目が冴えている──のである。

「いつきちゃん……」

 また、ラブの知り合いの名前が呼ばれた。
 同じくプリキュアであった明堂院いつき。この殺し合いの最中で彼女と会う事は結局なかったが、元々は何度か共に遊びに行ったり遊びに来てもらったり、又は共闘したりといった形で親交があった。
 ここまで、来海えりかや月影ゆりと、その街の出身者が二人亡くなり、残るは花咲つぼみのみとなった。ここでダークプリキュアも脱落している。


615 : さらば、ロンリー仮面ライダー(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 14:32:30 t56Jw2Y.0
 クローバータウンからも山吹祈里と東せつながいなくなり、残りはラブと美希だけになってしまった。ある時までは、それがどうにも、実感が湧かないような気がしていたが、二人の遺体を目にして、一つのけじめみたいな物がラブの中に芽生えてしまった。
 昨日まで笑っていた人間が物言わぬ遺体や骨へと変貌している様は、残された人の頬に自然と涙を這わせ、無意味であってもそこから逃げ出したい気持ちを湧き起こらせる。それを経験するとともに、心の中に「もう会えない」という確かな実感を、世界は教えるのだ。
 今の放送は今日一日に受けたラブの衝撃の中では小さな部類で、まだ何とか心の平静を保たせるには至る出来事だっただろう。……尤も、もしこれがもっと早い段階で呼ばれた名前だったならば、深い悲しみに埋もれていただろうが。

「……禁止エリアは無しか。首輪を外した人間がいるというのが気になるな」

 石堀は広げていたマップを畳んだ。
 先に首輪を解除した者がいるというのは予想外だが、禁止エリアは実質、首輪をいまだ首に残している流行遅れ共にしか効果がないわけだ。その流行遅れゆえに進行方向に困っている自分としては、その人間を手元に置きたいくらいだが、実際まだ街にいる参加者とほぼ会えていない。

「しかし……もう一日か。まるで今日まで二年半くらいかかった気がするぜ」

 行儀悪く机上に座る暁が独り言のように呟いた。
 長髪を掻きながらも、片目を瞑って複雑そうな表情をしている。
 彼は彼で、ここ数日で自分人生が随分と変わっていったような気がしてならなかっただ。シャンゼリオンになってからもそう時間はかかっていないし、こうして殺し合いに招かれてからはダークザイドの戦い以上に面倒くさそうな毎日である。──まあ、ダークザイドとの戦いを殆ど経験していない現状ではどちらの方がマシなのか、わからないものだが。
 とはいえ、ここに来てからの出会いというのは、自分にとっても決して悪いものばかりではなかったとは感じていた。
 暁美ほむらもそう、桃園ラブもそう、黒岩省吾もそう、西条凪もそう、そして──いや。

(石堀光彦は……)

 ここから先を考える気にはならなかった。
 仲間意識に近い感情を向けていい対象ではないのに。目の前の石堀光彦という男は、暁にとってもあまりにも平凡な男性にしか見えなかった。時たま冗談を言ったり、暁やラブをからかったり、戦っている時は普段のような軽い表情が失せて至極真面目な頼りがいある兵士となったり……そんな彼の素行に、僅かな怪しささえ感じられないままこうして何時間と経っている。
 結局、黒岩の言葉だけが石堀を疑う余地であり、その確たる証拠が出てこない。
 石堀という男が本当にただの人間ではないのなら、彼はよほどの役者だろう。

「……確かに、もう一日が終わっ──」

 ラブが暁の言葉を追って何かを言いかけた瞬間、何かが起こった。
 石堀が目の色を変えて、ラブの口を塞いだのである。ラブの言葉が途絶される。

「……!?」

 突然の出来事に、暁は何もできず、声も出なかった。ただ、咄嗟にうろたえるのみ。
 まるでドラマで犯罪者が人質を取って立てこもろうとするシーンに似ていた。不意打ちで女性が口を塞がれ、──ドラマ通りならばその直後にラブのこめかみに銃口がくっついて離れなくなる。

 そうだ、それならば、石堀が銃を構えるより先に武器だ──。
 こういう時は武器を向けなければならない。何か武器を向け、石堀を威嚇したい。しかし、暁の手元には武器はない。
 しかし、石堀の口からは人質を取る籠城犯のような台詞は出てこなかった。

「──静かに。誰か来る」

 石堀が殆ど声を殺したような小さな囁きを放つと、この部屋は、呼吸の音が聞こえるほど静かになっていた。石堀の呼吸は正しいリズムを保っていたが、暁は呼吸を一瞬忘れて、再び慌てて始めたようで、その乱れを自覚する事ができた。
 この冗談に対しても、暁は安心などしていなかった。

(オイオイ……)

 ──もし。

 今、石堀がラブを殺すつもりだったならば、暁はラブを守れなかっただろう。
 こんな風に唐突に石堀がラブを殺そうとするならば、暁にはそこに付け入るタイミングはない。咄嗟というのが怖い。暁も咄嗟の判断というのができないのだ。いくら事前に黒岩から注意を喚起されているとはいえ、暁は石堀を倒す為の準備というのを充分には行っていなかった。


616 : さらば、ロンリー仮面ライダー(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 14:32:55 t56Jw2Y.0
 どこかで、「どうせ大丈夫だろう」という油断が働いていたのだ。
 暁が欠伸一つする間に石堀が突如引き金を引けばラブは死ぬ──それを実感していなかったのかもしれない。

「おい、いるのはわかってるぞー。涼村暁ー」

 外から聞こえる声に、暁は我に返った。
 聞き覚えがあるような、ないような声で、警戒しつつも窓の外を見る。暁は、その時何かが起きても回避する心の準備は立てていた。
 ただ、真夜中の校庭にいるのがどうやら敵ではないという事は、すぐにわかった。
 その長髪の若い男には見覚えがある。暁と読みが同じ姓を持つ、涼邑零という男であった。そこに付き添う生真面目そうな風貌の男は結城丈二だ。

「うおっ! なんだ、あんたたちかァ。……おい、大丈夫だぜ、石堀、ラブちゃん。あんたたちも随分久しぶりじゃな……」

 ふと、暁は目の前の二人の異変に気づいた。
 暁とは決定的に違う特徴を持っている。前に会った時とも違う。
 彼らには、────首輪がなかった。







「終わったぞ、涼村暁」

 結果的に、その後すぐ涼村暁の首輪が解除された。タイムリミットの五分に対し、結城丈二は三分強での首輪解除を終えるようになっていた。
 ただ、これでも少し手間取った方で、やはり結城の心拍は早くなる。零や自分ならばまだしも、他人に対してやらねばならない。人体手術の時のプレッシャーだ。暁の首元が丸裸になるまでは、結城も額に一汗かいている。

「涼村に涼邑、か。こうなるとややこしい。それに、暁というのはとても良い名前だ。お前の事は暁と呼ぼう」
「そんなに良い名前かねぇ……」
「自分では気づかないものさ」

 連続で首輪を解除する場合は、やはり少し休憩を挟みたいらしく、結城はしばらく雑談を交えながら呼吸を整えていた。
 社交辞令というよりは、素直に思っている事を吐露しているらしく、結城の表情に嘘の色はない。暁という名前に思うところでもあるのだろうか。
 まあ、それはいい。

「しっかし……本当に首輪外しちまうんだもんなぁ……」

 この首輪には、一度酷い目に遭わされた覚えがあり、暁にとっても忌むべき物だったが、その恐怖からようやく解放されたわけだ。首輪が外れれば、あとは首がすっきりして、しばらく爆破に対する緊張も失せる。
 こうして暁が首輪解除を真っ先に行ったのは、暁なりの算段があっての事である。
 勿論、暁だって、いくら目の前の二人が首輪を解除していて安全性があるからといって、首輪解除の最初の一人にはなりたくなかった。一歩間違えば爆発し、手際が悪ければ首が飛ぶような作業の被験体になろうという者はあまりいないだろう。
 ただ、それをラブに押し付けるわけにもいかず、同時に石堀の首輪が一番に解除されてしまう事の危険性も承知していた。彼の目的が首輪の解除自体にあるという可能性も否めない。
 仕方がなく、最初の一人を立候補したのだった。

「ま、いつぞやの約束が無事果たされて、ひとまず安心ってとこか。……首輪の解除はお土産だ」

 零が言う。
 暁はこの零という男を嫌いになれなかった。ベタベタとくっついてきそうな顔つきをしているが、それでいて適度な距離を保っていてくれる。名前だけではなく、性格の根っこで何かしらのシンパシーを感じる部分もあった。


617 : さらば、ロンリー仮面ライダー(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 14:33:16 t56Jw2Y.0

「約束? ああ、そういえばそんな事もしてたな。……にしても、あっけない話だよなぁ。首輪が外れたら、あとは禁止エリアにでも留まっていれば、万事解決! 誰も来られないし、俺たちの大勝利じゃないか!?」
「……もしかして、お前、馬鹿?」

 ──ただ、あらゆる面等で少しのズレは無い事もないが。

「……さて、それじゃあそろそろ次の作業に移るか」

 殴り合いの喧嘩に発展しかねない零の一言が暁の脳に行き届く前に、結城が口を開いた。
 特に狙ったわけでもなく、ただ口を開いたタイミングが丁度良かったのだろう。
 普通に考えれば次にあたるのは桃園ラブである。

「あっ……はい。お、お願いします!」

 危うく眠りかけていたラブであった。いや、実際、寝てはならないのも理解しつつ、半分眠りこけていた。こういう時の睡眠は気持ちの良いもので、まるで数時間寝ていたようだったが、実際には、今は五分程度しか寝ていない。
 そんな様子を仕方なく思いつつも、結城は作業に取り掛かる事にした。
 ラブの首輪に手を伸ばし、次の作業に、次の作業に……と移っていった。ミスは許されないが、結城はこの場で軽率なミスをする事がなく、そのままラブと石堀の首輪が連続して解除される事になった。
 石堀の番が来れば、それこそ床屋で見慣れたように、教室は作業しながら会話をする風景へと変わっていった。







 情報交換のついでに、荷物の点検を行う事にした。
 あまり装備の確認というのはしないが、もしかすればお互い心当たりのある支給品があるかもしれない。とにかく、共通している支給品以外を机上にばら撒いて確認する。時として、所持していながら確認不足な支給品が見つかる事もある。

「で、これがただのトランプで……」

 石堀が一つ一つ説明しながら、結城や零にわかりやすく教えていた。ただのトランプなどが平然と支給品の一つになっているのも変な話だが、実際そうなっているのだから仕方がない。
 それからも石堀による説明は続いた。
 明かされていない物は以下のとおりである。

 フェイト・テスタロッサの最後の支給品は、スタンガンで、拡声器・双眼鏡・スタンガンの三つはいずれも他の参加者に支給されている支給品であった。そういう組み合わせのデイパックが支給されたらしい。

 ユーノ・スクライアの支給品は、蛮刀毒泡沫。腑破十臓が一時的に使用していた蛮刀であった。

 照井竜の支給品は、グリーフシード、反転宝珠、プリキュアの衣装であった。
 グリーフシードは、魔女を倒すと手に入る、魔法少女のための道具らしい。もしこれをもっと早い段階で持っていれば、ほむらやマミにも違う結末があっただろう。そう思うと感慨深いものがある。
 反転宝珠は、ブローチに彫り込まれた絵柄を正位置に身につけると愛情が豊かになるが、逆位置でつけると愛情が憎悪に転じるブローチである。非常に厄介な物で、これはなるべく使用したくない道具だった。
 フリフリの衣装は、ピンクと青の二着があり、それはキュアブロッサムとキュアマリンの外見にそっくりらしい。ただ、忠実というわけではなく、あくまで作り物であるのはラブの目から見ても明らかだった。中学校の文化祭で使われた物である。

 ゴ・ガドル・バの支給品は、硬化ムース弾等のライダーマンのカセットアームの予備を集めた物と『風都 仕置人疾る』というタイトルの同人誌だった。同人誌はともかく、硬化ムース弾やカマアーム、スウィングアーム、オクトパスアーム、チェーンアーム、スモークアーム、カッターアーム、コントロールアーム、ファイヤーアーム、フリーザー・ショット・アームは使える。
 殆ど使用する事がなかったアタッチメントも支給されており、結城にとっては相当便利だろう。こうして無事結城の手に渡った事は幸運だった。

 暁美ほむらの支給品は、混ぜると危険な二本の洗剤だ。

 相羽ミユキの支給品は、十発の弾丸が装填できるライフルと変なウサギのぬいぐるみである。
 そう遠くから狙い撃ちする機会がなかったためか、西条凪もライフルを持ち歩く事はなかったようだ。あくまでデイパック内の荷物として、必要とあれば遠方からの射殺を考えたらしい。
 ウサギのぬいぐるみの方は、のろいうさぎと呼ばれる、どことなく不気味なデザインのぬいぐるみだった。


618 : さらば、ロンリー仮面ライダー(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 14:33:38 t56Jw2Y.0

 山吹祈里の支給品は、青い頭髪の男のキメ顔のブロマイドであった。
 この男の名前はコブラージャという。一目見てナルシストとわかる。例によって三十枚も支給された。

 黒岩省吾の支給品は、恐竜ディスクという秘伝ディスクであった。
 これはシンケンマルに装着する事でキョウリュウマルへと姿を変える。







 情報の交換を終えた五名はグラウンドに出ていた。仲間たちがいる警察署に向かう事になる。更に言えば、その手段もすぐに決した。仮面ライダーアクセルの変形と、スカルボイルダーがあれば、全員二人乗りで向かう事ができる。
 これでこの場にいる対主催が全員、一か所に揃うという理想的な形に収まるかに思えた。それならば、かなり都合は良く、残る数名への対処も容易になるはずだった。
 ──だが。

「よりによって、このタイミングでコイツかよ……」

 ──残念ながら、グラウンドには『敵』がいた。
 よりにもよって、現状では左翔太郎らから聞いている、『最悪の敵』であった。
 ゴ・ガドル・バ。
 軍服を着ている参加者というのが、他にいるとは思えない。石堀と暁もその姿には見覚えがある。この殺し合いに来て、現状判断しうる限り、一番の問題がそこには待ち構えていた。

「イシボリッ!」

 彼は見つけるなり、一人の男に向けてその名を呼んだ。
 石堀光彦に注目が集まる。──勿論、すぐに石堀はアクセルドライバーを巻いた。
 石堀の腰部を巻いたアクセルドライバーは、変身動作の証だと、ガドルも理解している。
 ガドルは以前、この男に敗れたのだ。その雪辱を果たしておかなければ、腹の虫がおさまらない。彼の闘気が漲る。

──ACCEL!!──

「……変、身!」

──ACCEL!!──

 アクセルメモリ、装填。石堀光彦の体は、先ほどガドルも結城も聞いていたようなバイクのエンジン音──変身の待機音だ──とともに、仮面ライダーアクセルの姿へと変わってく。
 真っ赤なフォルムの仮面ライダーがガドルの前に駆け出す頃には、ガドルもカブトムシの異形に姿を変えていた。そして、すぐにガドルは目の色を紫に変化させた。

「先手必勝だ……!」

 エンジンブレードがガドルの胸板に向けて振る舞われるが、ガドルはそれをモノともしなかった。前に戦った時よりも、また数段、防御力が違うのをアクセルは刃を通じて感じる。
 アクセルの方は自分が疲労による弱体化をしているのではないかと疑ったが、どうやらそうではないのはすぐにわかる。

「……くっ。また、随分……」

 言いかけたところに、アクセルの顔面を襲う拳。素早く、強い突きがガドルの手から打ち出されたのである。
 ──まさか、今一瞬ちらっと見えただけの黒い何かが、拳……?
 そんなように、全く状況が理解できぬまま、アクセルの体は後方へとアーチを描いて宙を舞った。──その隙に、全員の行動が定まっていた。
 石堀光彦への心配も勿論あるが、このままの恰好でいられないのは確かである。

「ヤァッ!」
「チェインジ! プリキュア、ビートアーップ!」
「燦然!」


619 : さらば、ロンリー仮面ライダー(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 14:33:56 t56Jw2Y.0

 結城がライダーマンに、ラブがキュアピーチに、暁がシャンゼリオンに、それは即座に変身へと変わる。
 声が重なっていた。姿が変わるまでのタイムも殆ど同時だった。三人が変身したところで、ガドルの興味がそちらに向く。
 ガドルの能力に対する警戒と、未知なる味方の戦法の考察を充分にしたうえで、三人は同時に敵に臨む。──とはいえ、それは、即興的であまりにも不穏な始まり方であった。暁たちなど、結城がライダーマンの姿になるのを初めて目にしたくらいである。

「いいか? 奴には電撃は使ってはならんぞっ!!」

 ライダーマンは忠告して出方を伺う。絶対にガドルに対して行ってはならない攻撃は、雷や電撃系の攻撃だ。それを行えば、響良牙と同じくガドルのパワーアップを手伝ってしまう。
 ただでさえ強力なガドルをこれ以上強化させるわけにはいかない。
 少なくともその点だけは、何度でも忠告してわからせる必要があったので、その言葉はストレスでもかかっているかのような強い口調で発された。

「わかってるっての。石堀、仇はとるぜ」
「死んでない!」
「あっそ」

 そう言って、結城や石堀の語調の鋭さを気にも留めず、飛び出したのはシャンゼリオンである。
 シャイニングブレードを構え、「一振り!」と掛け声をつけてガドルの体表にそれを叩き付ける。……が、相変わらず効果なしだ。ガドルの体表にこれは弱い。
 想像以上の手ごたえのなさに驚き、暁自身、辟易する。
 直後、シャンゼリオンの重い図体はガドルの左手によって首を掴まれたまま放り投げられた。地面に背中をぶつけて、シャンゼリオンが嗚咽する。

「マジかよ……!」

 何とか両手を地面について、地面に座ったままガドルの方を見上げるシャンゼリオン。
 その元気そうな様子を見て、ライダーマンは一つ安心する。

「マシンガンアーム!」

 ライダーマンの右手はマシンガンへと変形。カセットアームをマシンガンアームへと変えたのだ。そこから無数の弾丸が射出される。一秒間に千発という恐るべき発射速度でガドルの体表に当たっていく弾丸は、そのまま弾けた。
 硬化ムース弾。──ガドル自身に支給されていたものだが、これがそのままガドルの体の上で破裂し、その体を固めていくとは、支給された当人も思わなかっただろう。
 強すぎる敵の動きを予め封じておくのだ。
 それから、またライダーマンはアタッチメントを変更する。

「ファイヤーアーム!」
「火炎杖(フツオヤンツアン)!」

 ライダーマンのファイヤーアームと零の火炎杖が同時に炸裂し、ガドルは熱い炎の餌食となる。硬化ムース弾によって固められたガドルが何を考えているのかは誰もわかるまい。
 その様子はまるで石膏のようでありながら、意識だけは保っている。
 己の体を焼こうとする炎に、彼はどんな感想を抱いているだろうか。
 屈辱だろうか。

「──フン」

 いや、決してその一撃に何も感じる事はなかった。
 その瞬間に彼の瞳が緑色に変化した事を誰も知る由もないだろう。

「ゴレ ン グゴキ ゾ フグジス?(俺の動きを封じる?)」

 ──刹那、ガドルが持つ物質変換能力が周囲の硬化ムースを一度消し去る。彼らグロンギは手にした物体を原始・分子レベルで分解して再構成する事ができるのである。

「──アラギバ(甘いな!)」

 体の周囲を取り巻いていた硬化ムース弾はガドルの手で、巨大なガドルボウガンへと変換される。装飾品やベルトにまで硬化ムース弾が繋がっていたゆえだろうか──全身の硬化ムースが溶け、丸裸であった。

「何っ!?」


620 : さらば、ロンリー仮面ライダー(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 14:34:15 t56Jw2Y.0

 その特異な能力にライダーマンが驚いたのも束の間、ガドルボウガンはそのままライダーマンの体に向けて射出される。
 その胸に向かって一直線に飛んでくる空気の矢じり。それは強化服を突き破り、すぐに結城丈二の左脇腹を貫通した。ライダーマンの体を貫いた矢はすぐに大気に溶け込み、さっきまであった「姿」を完全に消してしまった。
 一瞬の出来事であったのと、炎が全ての行いを隠していたのが原因で、それを目視できなかった人間もいるほどである。

「がっ……!」

 直撃すると同時に、吐血。ライダーマンはファイヤーアームの使用を停止する。
 噴射を終えた炎の中から現れるライダーマンの様子に驚く者もいた。

「結城さんっ!?」

 零が火炎杖を地に捨て、すぐ傍のライダーマンのもとへ寄った。
 膝をつき、彼は倒れかけていた。零が駆け寄り、彼の姿を心配するも、その隙にガドルはガドルボウガンを零に向けた。
 ──発射。
 空気の矢は風を切って、零のもとへとまた一直線に飛んでくる。

「くっ──!」

 零は向かってくる空気の弾丸めがけて双剣を向け、膝をついたまま円を描いた。
 真横から向かってくる空気弾よりも早く、零の体に銀の鉄塊が辿り着いた。
 魔戒から召喚された銀牙騎士絶狼の鎧が零の体を覆い、そこに遅れて空気弾が辿り着く。
 その空気弾も魔戒騎士の鎧を貫くには至らない。

「心配するな、この程度じゃ死なん。……これ以上の傷で、今まで何度死に損なった事か」

 横からライダーマンの一言。
 それを聞いて、ゼロは安心した。砂時計の砂がなくなるまでに決着はつけるつもりでいる。
 銀牙騎士がライダーマンを庇うように立ち、双剣の柄を連結させた。
 銀牙銀狼剣──巨大な二つの刃をガドルに向けながら、ゼロは駆け出す。ガドルの外殻を破り、また一撃浴びせる為に。

「ハァッ!!」

 ゼロが銀牙銀狼剣をガドルの胸部に突き立てると同時に、ガドルの後方から二人、ガドルに突き立てられる剣があった。
 一つはエンジンブレード、一つはシャイニングブレードであった。
 仮面ライダーアクセル、超光戦士シャンゼリオン、銀牙騎士ゼロは、Y字型にガドルを囲み、その体に剣を立てていたのである。
 おそらく、ゼロのタイミングに合わせて、補助を行ったのである。ゼロにとっても邪魔ではなかったので嬉しい援護であった。

 しかし──

「なっ!」
「うわっ!」

 そんな二人の顔面に叩き付けられる両手の裏拳。
 ガドルは背後の攻撃を予測し、剣をおしこめる二人の顔めがけて後ろ向きに拳骨を見舞ったのである。
 後方によろめいたところで、地に落ちようとしたエンジンブレードをガドルは手に取る。

「ベン パ ボグ ズバエ(剣はこう使え)」

 ガドルソードへと変質したエンジンブレードはそのままゼロの胸に向けて袈裟斬りの型で振り下ろされた。
 ガドルの全身の力が込められたその一撃にゼロもよろめいた。

「なんてパワーだ……」

 三名は全員後方にふらつき、人間が密集していたガドルの周囲一メートルから何もかもが消える。囲んでいた三人がこうして全ていなくなる事態というのが、彼の周囲に立ち寄ってはならないオーラを感じさせる原因でもあった。

「プリキュア・ラブサンシャイン──」

 その次の瞬間、遠方からのキュアピーチの攻撃が、その時の開いた空間を埋めるべく一撃を放つ。

「フレェェェェェェッシュ!!!」


621 : さようなら、ロンリー仮面ライダー(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 14:34:42 t56Jw2Y.0

 プリキュア・ラブサンシャイン・フレッシュ。
 桃園ラブの心の力がそのままガドルに向けて放出──それに対して、ガドルは避ける動作を行わなかった。自分に向かってくるハートの攻撃を怪訝に思いつつも、ただ見守る。
 敵の攻撃の威力を自分の防御が打ち破るという絶対の自信がそこに現れていたようである。無論、胸板に直撃させる。

「フンッ」

 キュアピーチとしては、暴力的制圧ではなく、その救済が目的である。防がれるという可能性は考えていない。
 プリキュアの力は救済の力。──その心の邪悪を吹き飛ばし、善を引き出す、それこそ途方もない魔法のような妙技であった。

「ブスギ(温い)」

 しかし、結論から言えばガドルの周囲を覆うプリキュアの力は、実際、ガドルには効かなかった。爆弾ほどの威力もないつまらない攻撃だと思いながら、ガドルはキュアピーチを睨みつけた。
 彼らグロンギのように、人間の命や感情に関する倫理観そのものが崩壊している種族を救う事はできない。元からある優しい感情を増幅させ、悪しき心を弱める事はできるかもしれないが、ラビリンス総統メビウスのように、それそのものを知らない怪物は対処のしようがないのである。
 即ち、プリキュアであってもそうした救済の力ではなく、単純な暴力でしか倒せない相手であった。テッカマンランスと同じなのであった。

「そんな……」

 その事実に、再びキュアピーチの表情が暗くなる。
 マミに誓った正義の味方としての戦いに、また一片の翳りが見えるようだった。
 一文字に誓ったハッピーエンドに、僅かな欠員がありうる事を悟りかけた。
 ガドルは、救えない──テッカマンランスと同じく、人の姿でありながら、人の心を持っていない。そんな恐るべき、最も悲しい事実に直面したのである。

「──はぁぁぁぁぁっ!!」

 青い炎を纏った烈火炎装のゼロが、ピーチの様子に気づきつつも、ガドルにできた隙を狙って突撃する。
 分割した銀狼剣が一度、二度とガドルの体を引き裂かんと振るわれる。風を切り、吸い込まれるようにガドルの体へ──。
 相変わらず、ガドルは敵の攻撃を甘んじて受け入れた。
 ガドルの体に二本の筋が入る。それが攻撃の深さを表す視覚的な印であった。

「ウッ」

 一つ、ガドルは声をあげた。──確実に痛みを感じているはずである。
 そこに更にもう一撃。今度は交差させてガドルの体を斬る。
 青い炎だけが形を残したまま彼の体をすり抜け、ひとりでに進行していくと、遥か後方の看板を十字に焦がす。
 当のガドルの体にも炎が残り、その体に重大なダメージを与えていた。

「ババババ ジャスバ(なかなかやるな)」
「ばばばば?」
「……ザガ ボソギデジャス(だが殺してやる)」

 燃え盛る炎に体を焼きながらそう言う彼の姿は、まるで怨霊のようである。
 本来ならとうに死んでいてもおかしくないような攻撃だったが、ガドルはまだそれに耐えている。それというのも、炎の攻撃への耐性というのがある程度は備わっているからだ。
 熱量でいえば、最低限電撃系の攻撃は問題なく受け入れられるほどであり、この場合の問題は魔導火という特別な火炎である事だった。
 それが即ち、一つの問題であった。

「ギベ(死ね!)」

 直後には、ガドルは金の目を経て、黒い目へと進化した。
 黒目のガドルは、即座に体表を焦がす炎を弾いた。強化変身の際に発するエネルギーはそのまま体外へと放出され、微かな風となって灯を消していく。
 そこにいる誰もが衝撃に固唾を飲んだ。
 彼の体を取り巻き、時折小さく光る電撃の線を見ても恐ろしい。小さな光だが、それを体に纏い、平然としているとは、あまりにも人間離れしている。


622 : さようなら、ロンリー仮面ライダー(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 14:35:05 t56Jw2Y.0

 驚天動地!

 これはまさしく、天候が変わったように錯覚させ、地面が揺れ動いているのではないかという迫力を見出す新たな形態であった。
 ガドルは元の形状に再変換されたエンジンブレードを地面に放り投げると、そのままゼロの顔面に向けてパンチを放つ。
 そのパンチが、ここまでのガドルのパンチの威力とは比較にならないほど剛健であった。
 思わずソウルメタルの鎧が破損する可能性を考えるほど──。首が捻じ曲がる可能性も、女の子にモテなくなる傷が顔につく可能性も、少しだけ考えたが、吹っ飛んでいる間に、それほど深刻ではないと結論づけた。

「いくぞっ!」

 たんっ、と音が鳴ると、今度はガドルの後方から銃声。
 仮面ライダーアクセルがコルト・パイソンを握っていた。彼は放り投げられたエンジンブレードに対する興味を持つよりも先に、装備していたコルトを取り出したのである。
 これには神経断裂弾が内蔵されている。
 ガドルたち未確認生命体に有効な弾丸であり、隙あれば撃つべし……といった対処法であった。
 先だって二発の弾丸が発射され、ガドルの背中に命中する。

「グァ……!?」

 ガドルが振り返ると、次にまた一発。それがガドルの脇腹へと吸い込まれるように命中──ガドルの内部で破裂。
 たんっ、とまた一発。

「よしっ!」

 内部神経を狙って爆発──ガドルが命中箇所を抑えてもだえ苦しんだ。
 ゼロが作ってくれた隙が、こうして神経断裂弾による援護の時間を許した。ガドルの呼吸がだんだんと怪しくなっている。
 そこに確かな隙が生まれた。

「俺も忘れんなよっ!」

 シャンゼリオンはシャイニングブレードに、黒岩省吾の支給品であった──いわば彼から受け継いだ恐竜ディスクを装填する。
 すると、シャンゼリオンの体は陣羽織に包まれ、ハイパー化される。
 この恐竜ディスクの恐ろしいところは、場合によってはマンタンガンやサカナマルといった、シンケンマル以外の装備にも対応する点であった。初代シンケンレッドが使用していた最古のディスクゆえだろうか。
 あらゆる戦士をハイパー化させ、その装備に伸縮自在の恐竜の力を付与するのがこのディスクの特殊な能力であった。

「うお、試してみたら本当にできたぞ……。ラッキー♪ ハイパーシャンゼリオンだぜっ」

 そのまま、特に何の盛り上がりもなく、あっさりと夢のハイパーシャンゼリオンへと強化変身した彼は、そのままシャイニングブレードの先端を伸ばしてガドルの首輪を狙う。
 彼の狙いは首輪爆破であった。
 即ち、首輪のカバーが外れ、五分経てば首輪は爆発するそのシステムを狙うのである。それは先ほど、暁が結城から訊いた情報の一つだ。戦闘中にそれを行う事は難しいが──今、それは可能となった。
 神経断裂弾で弱っているガドルに向けてならば、それも容易だ。
 卑怯に見えるが、犠牲が出ないための立派な戦略である。

「おらよっと……!」

 キョウリュウマルのように伸縮自在になったシャイニングブレードの先端は、そのままガドルの首輪の周囲を一周する。
 その数秒の間に、全員が彼の作戦を理解する。──攻撃にしては妙にデリケートだったが、そういう事だったのだ。
 主催陣営の首輪解除への対抗を逆手に取った戦法である。
 意外にもこれを行ったのが涼村暁というバカであった。

 さて、その首輪のカバーが外れるか、否か──それが問題であった。
 それが判明するまで数秒だったが、それは長い時間に思えた。
 しかし──



 ──からんっ。


623 : さようなら、ロンリー仮面ライダー(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 14:35:22 t56Jw2Y.0



 神経断裂弾でもだえ苦しむガドルの首から、銀の鉄が落ちる。
 ──いわば、成功であった。

「お手柄すぎるぜ、暁っ! これであいつがパワーアップしようが関係ねえっ!」
「……え? そう? えへへ」
 
 ガドルの首輪のカバーが外された。これにより、この強敵は、残り五分の命となったわけである。それはあまりにもあっけない話であった。
 残りは五分──逃げ切るのみであると、暁たちは思った。

「……バビ ゾ ギタ(何をした)」

 強化されたガドルは、たった二発の神経断裂弾では怯む程度のダメージしか負わないのであった。前かがみになって全身の筋肉弛緩や神経断裂に苦しんでいたガドルは、その恐るべき回復力で元に近い体の状態を取り戻していた。
 身体の霊石を強化した事で、神経の回復スピードも非常に早まっている。
 ガドルは、神経断裂の余韻を少し味わいつつも、次なる動作に移ろうとしていた。

「ラアギギ、ググ ビ ボソグ(まあいい、すぐに殺す!)」

 とりわけ、仮面ライダーアクセルとハイパーシャンゼリオンへの復讐というところだろうか。そこに燃ゆるガドル。
 自身のピンチの時でさえ、ただ狩る事に関する矜持だけは絶やす事なく、戦いに飢える怪物──「怪人」と呼ぶ事さえ躊躇われるほどの、人外思考のガドルは、ある意味では道化のようにさえ見える。

「……ネットアーム!」

 そんな道化の全身を、次の瞬間に突如として覆うのは、緩い網であった。何かが上空から落ちてきたガドルは、目線だけ上に少し上げた。
 振り向き、その元を辿れば、後方の一人の男に繋がる。
 ガドルは黙っていたが、鎧の召喚を解除した零が先に彼に気づいた。

「結城さん!?」

 ライダーマンであった。実を言えば、彼こそがここで暁に首輪の事を教えた張本人であり、これからガドルを死に導く存在に違いない。彼は乾いた血の痕が残る口元をへの字型にして、ネットアームを射出する右腕に、強く左腕を添えていた。
 硬化ムース弾で動きを封じる事ができないならば、と使ったのがこの沖網漁のようなネットアームである。ガドルの頭上をネットアームが囲む。

「──確かにお手柄だが、五分の間に犠牲が出てしまっては元も子もない。これ以上戦う必要はないだろう。すぐに禁止エリアから警察署に逃げるぞ。……暁、お前たちは先に行け。零、すぐにバイクを頼む」

 即ち、零がスカルボイルダーを取りに行くまでの一分間弱の時間は自分が稼ぐと言う宣言であった。そう言うライダーマンであったが、その傷口と口元から覗く赤色は生々しい。時間稼ぎを任せるには、いささか頼りない傷口であった。
 次の瞬間、ネットアームはガドルによって引き裂かれ、突き破って中からガドルが現れる。

「急げ!」

 焦燥感に声を荒げて、ライダーマンが一喝する。しかし、それでいて効率性を重視した戦略家の言葉でもあり、到底、体の随所から血を流している人間の言葉には聞こえない。零は黙ってバイクを取りに走り出す。
 何度かライダーマンの方を振り返って見るが、それよりも早く、一秒でも早くスカルボイルダーを取りに行く事が先決であった。校門まではそんなに距離もない。

「スウィングアーム!」

 先端が刺々しい鉄球になったロープアーム──スウィングアームへとアタッチメントチェンジ。その鉄球がガドルの体に向けて投げつけられる。
 ガドルがそれをダメージとして受け取っている様子はない。
 時間稼ぎであるにせよ、動きを止める隙もないようだ。

「──いくぞ、暁」

 仮面ライダーアクセルはアクセルドライバーを分離させ、バイクフォームへと変身する。
 シャンゼリオンはライダーマンがあの姿で戦っているのを呆然としたように見つめていた。心配ではあるのだが、やはり自分の命も大事である。
 アクセルの背の上に乗る。人間が変形したバイクに乗るとは、また随分と奇妙な気分だ。石堀の体はどうなっているのだろう。


624 : さようなら、ロンリー仮面ライダー(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 14:35:46 t56Jw2Y.0

「わかってるよ。ラブちゃん、俺の後ろにつかまって」

 眠気と、この戦いに対するやるせない気持ちで暁以上に呆然としていたラブに、暁が言う。
 ヘルメットはないが──やむを得なかった。
 せめて禁止エリアまでの話だ。どちらにせよ、ここは公道と呼んでいいのかもわからない場所であるし、警察も数名いたが、残念な事に今はもういない。
 再度ライダーマンの方を見る。失礼ながらライダーマンの体は弱そうに見えるが、ガドルを相手にも負ける気がしない。
 ──何故だろうか。

「あ、あの……!」

 ピーチは何かを口にしようとしたが、それより前にバイクフォームのアクセルが発進する。一刻も早く逃げなければならないのがこの状況の最適な判断だが、そこに対する躊躇がピーチにあったのだろう。迷いを持ってはいたが、発進してしまったバイクの上では、小さな迷いも口に出す事はできない。
 スピードに飲み込まれて、選択肢は収束されていってしまう。過去が遠ざかっていくように。

「カッターアーム!」

 ライダーマンは高く飛び上がり、カッターアームからブーメランを射出する。
 回転している刃がガドルの首元を狙って飛んでいくが、現状で戦闘不能状態ではないガドルは、両腕で首をガードした。左腕の側面を刃が切り裂く。
 ブーメランとして転回して帰ってきたカッターアームは、今度はガドルの右腕側面を回っていった。
 遅れて、ガドルの両腕から血が噴出する。

 そこへバイクのエンジン音が近づいてくる。

「──乗れ、結城さんっ!」

 何とか一分弱のタイムでスカルボイルダーと共に戻って来た零である。
 零がそう促すも、ライダーマンはハードボイルダーの後部座席に向けて着地した。

「よしっ!」

 どうやら時間を稼ぎ切る事ができたらしい。実際、それは大して長い時間でもなかった。零が予想以上に早く帰って来たのだ。
 ガドルにも多少はダメージを与えた。
 殆どの仲間は警察署内に待機しており、そこへ向かえばしばらくはガドルを放置していても危険は大きくない。対主催陣営全員で待機していれば、「放っておくわけにはいかない」という気持ちもなくなるだろう。
 ライダーマンは心を納得させて、安心して零の背に靠れた。

 再びエンジン音が大きくなり、発進する。

「フンッ……!」

 しかし、敵をこれ以上逃さぬガドルである。石堀が逃げたとしても、まだ結城たちがいる。
 やむを得ず、驚天体からもう少し弱い形態へと変身し、こういう場合に備えた武器を手に取る事にした。結局、わざわざ変身したものの、殆ど出番はない。
 総合的なパワーアップよりも、こうした特化型の能力の方が多対一では汎用性があるという事か。──なるほど、よくわかった。
 翠の目、ガドルボウガン。
 装飾品を変化させたその銃を手に取ると、ガドルは敵の騎馬に向けて空気弾を放つ。

「危ねえっ」

 キキィィッ!

 スカルボイルダーを右に切り、零は華麗にそれを避ける。眼前の建物にぶち当たった空気弾は、コンクリートの壁に蜘蛛の糸のような窪みを作る。一瞬前にサイドミラーを確認した零は、そこに映った空気の振動を見逃さなかったのである。
 しかし、だからといって内心に余裕がある状態で避けたわけではない。零も今、ガドルボウガンの想定外の発射速度に息を飲んでいる。視線もどこを見れば良いのか、悩ましいところであった。ミラーか、目の前か──一瞬が判断を鈍らせるスピードの戦いであった。

 ──加速。


625 : さようなら、ロンリー仮面ライダー(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 14:36:08 t56Jw2Y.0

 やはりこの街頭で安全運転をする事はできないらしい。
 サイドミラーがぎりぎり映したガドルの姿──それは、両足で立ってガドルボウガンを発射させる彼ではなく、ビートチェイサー2000に跨りエンジンの音を響かせる彼であった。

「──ちっ! あいつ本当に自動二輪免許持ってるのかよっ!」

 零が悪態をつくと同時に、何発かの空気弾が後方から発され、空を切る。ガドルの目が人並ならば、だんだんと零たちの姿は霞んできてもおかしくないほどだが、射撃体の彼の五感は鋭敏になり、零たちの鼓動も聞けるほどだ。

「どっちにしろ、せいぜい禁止エリアまでの辛抱かっ! あいつもついてこれねえだろっ!」
「いや、飛び道具が相手ではそうも行かない! 逃げ切ってもしばらくは油断できん!」

 ガラス窓が割れる音が前方から立て続けに聞こえた。それは果たして、ガラスに当たったうえでの音か、それとも命中した先の振動に耐え切れずにガラスが巻き込まれて鳴った音なのか──。確認する暇など持ち合わせない。
 何発かは彼方へ消えていく。表面から少しずつ元の大気に溶け込んでいき、体積を小さくしていくと、最終的には全てただの空気に馴染んでしまう。永久に弾丸の痕跡をなくしてしまうのである。仮にこの弾丸で死んだとしても、殺した凶器は全くこの世に残らない不可解な事件になるだろう。
 少しずつ零の視界は真向こうに近づいているはずだ。いまごろ石堀たちは禁止エリアに辿り着いたのだろうか。スカルボイルダーはいっそう速さを高める。

「……ッ!」

 ──刹那。
 眼前で、不意の崩落が起こった。
 街灯からの細やかな光は、彼らの頭上に初めて陰を作った。零がブレーキに手をかけ、慌てて停止しようとするがそれは一瞬ばかり遅かった。スピードの速さゆえに停止距離が長くなったせいで、殆どその影の主の根本まで来ていた。
 空気弾が電柱に命中したのである。


626 : さようなら、ロンリー仮面ライダー(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 14:36:38 t56Jw2Y.0

「くそっ!」

 それは、零たちの眼前の最も近い電柱であり、今まさに二人の頭上に影を作り出している、傾きかけの電柱であった。
 本来的にはそう簡単に崩れないような設計がなされているはずだが、「グロンギ」の攻撃に関する安全保障が完璧であるはずがない。
 ただ、命中したところから折れるという事はない程度には、その構造は頑丈であった。問題なのは、根本の地面。──ここが、電柱が受けた衝撃によって捲り上げられ、たった一つの電柱を傾かせていた。

「──ぬあっ!!」

 咄嗟に体を翻してスカルボイルダーから降りる二人。背中がアスファルトに摩擦する。
 次の瞬間、破裂音や爆破音や剥離音などが同時に全員の耳朶を打つ事になった。二人が先ほどまでいた場所に電柱が倒れ、スカルボイルダーは下敷きになる。綺麗な黒いフォルムがズタズタに凹んでいるのが、零が目を開けた瞬間にもすぐにわかった。
 この都会の道路上で砂埃が舞い、周囲に土が散乱する。
 それはここに文明が作られる以前のこの場所の姿だろう──それが抉り出され、散乱している。ガドルが放つたった一発の弾丸は、街を一欠けらでも野生に返してしまうほどの威力を持っているというのだ。
 零とライダーマンが痛みをこらえながらも、立ち上がる。

「いてててて……」

 近づいてくるエンジン音に厭な予感ばかりがする。
 左手にハンドルを握り、右手に巨大なボウガンを構える黒い異形とエンジン音。
 それは光をなくした街の一角では、目だけを光らせる不気味な存在でしかなかった。
 緑色の光は、次の瞬間、紫へと変化した。

「くっ……」

 逃げきれなかったのだ。しかも、ここまで完全に追いつかれてしまったらしい。
 結構な距離を走ったはずだが、禁止エリアには行き届いていない。時間も存分に使ったはずだが、まだ三分しか経っていなかった。……あと、二分もある。
 禁止エリアに逃げ込むが早いか、ガドルの首輪がタイムリミットで爆破されるが早いかという賭けだが、前者は確実に見込みがなくなったようである。
 意を決して、零が双剣を構えるが、それより前にライダーマンが立った。

「仕方がない。二人で残りの二分、戦って持ちこたえるぞ!」
「……わかってる」

 零の言葉を訊いて、ライダーマンの腕が変形する。
 切り裂くためのパワーアームである。三日月のような形の刃がガドルに向けて輝く。
 それは彼らの後ろでめらめらと燃えるガソリンの炎や、空からの星が反射してのものであった。ライダーマンの腰で四つのタイフーンが回転し、そちらも光り輝いた。

「──でも二分か。わりと辛いかもな」

 零は苦笑する。
 両手の剣を逆手で持つ。体で三日月を表現するように手を広げているようにも見えた。おそらく、当人はそれを意図していないが、奇しくも欠けた月同士が寄り添い合っているようにも見えた。
 目の前のガドルは、いまだ攻撃をしかけない。しかし、ガドルソードがそこに生まれた瞬間、決闘前の無駄話で時間を稼げる時間は僅かである事がはっきりわかった。

「……折角だ。やる前に今だから言える事でも言っておくか」

 零がそう言った。口元は、笑っているようには見えない。
 ガドルが近づいてくるまで、二人はそこを動かない。
 ガドルはゆっくりと歩き出していた。小火を起こしているバイクのもとへと、大剣を持って──。
 死神が近づいてくるような心持である。

「今更、言葉にする必要なんてない」
「だな」

 ガドルとの距離が、開戦に丁度良い位置になった時、ライダーマンが駆け出した。
 加えて、零も宙に円を描いた。──銀牙騎士ゼロの鎧を再装着したゼロは、即座にライダーマンの後を追って駆ける。


627 : さようなら、ロンリー仮面ライダー(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 14:36:54 t56Jw2Y.0
 パワーアームがガドルの首に近づくが、左腕によってアタッチメントが掴まれ、放り出される。
 ゼロが続いてガドルのもとへと双剣で何度も斬りつける。

「スモークアーム!」

 ライダーマンの右手から煙幕が発生──即座にガドルを包み込む。
 ガドルも一瞬目を奪われ、少し咽て体制を崩しながらも、ガドルソードを遮二無二振り続けた。その攻撃が当たる事はない。
 明らかに隙だらけな瞬間だった。そこに付け入り、攻撃を行うのだ。──ゼロは、力の籠らないガドルの胸板目がけて切り裂く。

「おらっ」

 ガドルの胸部をたたき割るようにして、銀狼剣がそこに食い込んだ。叩き付けられた一撃によって裂け目ができる。何度も何度もゼロが剣を叩き付けた場所である。そこをもう一度狙うが、ガドルは振り向いてガドルソードを横に凪ぐ。
 辺りを覆う煙幕に空気の切れ目ができたが、そこにゼロの体はなかった。ゼロは飛び上がり、ガドルの顔面に向けてキックを放つ。

「──ウグッ!」

 こうして後方に倒れる一瞬であっても、それは立派な時間稼ぎとして成立している。
 そこから更に──。

「マシンガンアーム!」

 ライダーマンがガドルの眼前まで距離を縮めていた。──ガドルの体表は硬い。
 しかし、それが正真正銘の外殻で、本体がそうでないとすれば──。
 マシンガンアームの銃口は、ゼロが度重なる攻撃で痛めつけた裂け目の部分に突き立てられる。そこから、ライダーマンは左腕で強く引き金を引いた。
 ガドルの胸部にぱらららららららっと、弾丸が撃ち込まれる。薬莢が散乱し、時にライダーマンの体に跳ね返る。
 零距離でのマシンガンアームは、撃っている側の負担も大きい。体が激しく震動し、武器の位置の固定もままならない。視界も判然とはしない。
 だが、それでも彼は支えられる限りそこに弾丸を撃ち込んでいた。

「ウ……ウグァァァァァツ……!!!」

 ガドルも立っている事に耐えられず、そのまま激しく後方に吹き飛ばされていった。そこからも、何発かのマシンガンアームが射出されるが、殆ど効いていない。体内に入り込んでいった無数の弾丸を吐きだしながらガドルはよろめく。
 確かに、どうやら今の攻撃は充分なダメージを与えたらしい。
 ガドルが耐えられなくなると同時に全てが終わり、丁度一分の時間が過ぎた。

「……本当に、一分の長さを思い知らされるぜ」

 これで、まだあと一分残っている。
 最初の一分は確かに押したが、残りの一分はそうもいかない。疲労も激しく、零の装着は解除される。こんな事ならばソルテッカマンでも持ってくればよかった……と少しの後悔。
 恐るべきは、この瞬間にまたガドルの目が光る事。

「──ッ」

 金。──全身に電撃を帯びた形態である。
 電撃体へと進化したガドルは、その怒りの矛先をそのままライダーマンに向けようとしている。

「……電気のカブトムシか。どこかの誰かを思い出すな。だが、貴様にはその男ほどの魂はない……!」

 残り一分というところでガドルが出してきた一歩強い形態。
 もし、万が一、あとの一分で更にこれより強い例の形態へと進化したなら──。
 そう思いながらも、ライダーマンは固唾を飲んだ。

「ここまでよく足掻いたが、無駄だ……。お前たちの力はもう限界だ。貴様らに今の俺は倒せん!」

 ガドルの一言に「日本語喋れるのかよ」、と零は思ったが、ガドルのあまりの威圧感に口に出す事はできなかった。
 このまま行けば、死ぬのではないかという恐怖が少し脳裏をよぎったが、隣のライダーマンが一瞬で、その微かな恐怖を吹き飛ばすような言葉を告げた。


628 : さようなら、ロンリー仮面ライダー(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 14:37:20 t56Jw2Y.0

「……無知とは愚かな事だ! キサマは知るまい、正義を愛する心がどんな力を持っているかを。それがいかに無限な力であるかを」

 ライダーマンが右手にロープアームをセットして、ガドルに叫んだ。
 ロープアーム──それを使って、果たしてどんな戦法を取るのだろうか、とガドルは怪訝に思ったが、まだ隠れざる何かを秘めているのではないかと疑う。

(ガドルは残り一分で確実に死ぬ……。問題なのは、その一分、俺たちが生きられるかという事だ)

 ──隣の零を、ライダーマンはちらと見た。
 零の外見は、見たところ成人さえしていない少年だ。18歳程度……若者と呼んで差支えない年齢だろう。結城も死ぬには若いが、いや、彼が死ぬよりはまだ惜しまれぬ年だ。

(こいつには死んでもらいたくないものだな……)

 そう思うなり、ライダーマンは覚悟を決めた。

「許せ、零……!」

 ロープアームが射出された先は、ガドルではなく、ゼロであった。
 そこにいた誰もが、その行動を意外に思っただろう。ゼロは、自分の鎧の首元にロープアームの先端が引っかかっている事など気づかなかったし、ガドルはそれが自分のもとに射出されるのを予想して身構えていた。

「なっ……にっ……!?」

 直後、ロープアームは、内蔵する最長の長さまで吐き出され、銀牙騎士ゼロを遠くに向けて吹き飛ばした。
 数百メートル上空で体勢を立て直した零も、果たして一体、何故彼がそんな事をしたのか、疑問に思っただろう。

「おい、これはどういう事だよ……っ! 結城さ──」

 必死に叫ぶも、ライダーマンの姿は遠くなっていく。空の上を抛り棄てられ、またゼロの体は一気に急降下を始める。

「オオオオオオオイッッッ!!!!」

 そのまま、数百メートル先のデパートの屋上にまで放り投げられたゼロがそう叫ぶが、その瞬間に彼の真上からぱらぱらと何かが降って来た。
 そこに落ちてきたのは、結城丈二が有していた全てのアタッチメントアームと、たった一個のデイパックであった。
 時間が迫り、やむを得ず零が鎧を解除する。──そして、おそるおそるロープアームを引っ張ってみると、そこには結城丈二の機械化された右腕が繋がっていた。
 アタッチメントアームだけが、デパートの下の階に向けて垂れ下がっている。
 彼が右腕ごと、全て零に託した証であった。







「いくぞっ……」

 ──右腕を外し、零にそれを託したライダーマンはガドルのもとへと駆け出した。

「飛龍ゥッ!!! 三段ライダァキィィックッッ!!」

 掛け声とともに、ガドルの体に一発目の蹴りが叩き込まれる。
 これは結城丈二の友人が使っていた技から着想を得た攻撃方法であった。アタッチメントがなくなり、己の肉体のみが武器となった時、彼は強化服の性能と身体能力を活かした技の使用を目指した。
 蹴りつけた反動で再び空中を反転、自由落下で二度目のキック。

「グッ……!」

 そして、この反転を繰り返せる限界が三度。三度目の蹴りがガドルに叩き込まれる。
 キック力は他の仮面ライダーたちに劣るものの、何度も同箇所にキックを叩き込む事で威力を増すはずだ。


629 : さようなら、ロンリー仮面ライダー(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 14:37:54 t56Jw2Y.0

(許せ、零……俺は、この最後の一分は、犠牲を作らずに終える事ができない一分だと確信した……だからこそ、お前に生き残ってもらいたかった──)

 かつて、プルトンロケットから東京を救おうとした時。
 あるいは、他のライダーとともにネオショッカー大首領と宇宙で果てようとした時。
 あの時と全く同じ覚悟が、結城丈二の中で燃え始めている。

(母よ、友よ、部下たちよ……願わくは、俺とともに奴の背中を押してくれ)

 命さえ賭けても、ライダーマンは戦う。──結城丈二の胸の中にある確かな正義感だけは、他の仮面ライダーたちにも負けないほどなのだから。

「ゼンゲビ・ビブブ──」

 飛龍三段ライダーキックの直後、着地したライダーマンに向けて放たれる、回転蹴り。
 ガドルがあの攻撃をまともに喰らっておらず、ライダーマンに留めを指そうとしている証だ。
 無論、黙ってその攻撃を受け入れる気はない。

(この命に代えても、この怪人は行かせない……!)

 涼村暁が所持していた八宝大華輪は、いま結城丈二の手にあった。
 護身用としてまともに使えるならばともかく、安易に爆発物を利用させてはならない。
 ガドルは己の足がライダーマンの体に到達するまでに、その物体がそこで火花をあげ始めている事には気づかなかった。
 ──これは、首輪の誘爆を狙ったのである。

「……見ろ、これが仮面ライダー4号の最後だッッ……!」

 ガドルがそこに辿り着き、衝撃を与えた時──八宝大華輪が大爆発する。
 四つの爆弾花火を貫き、足に火傷を負いながらライダーマンの胸部に足を叩き付けた時には、ガドルの全身に向けて次々と、連鎖的な大爆発が起こっていた。
 花火のような爆発は、時折ガドルの体にもライダーマンの体にも異常な爆風や爆炎を叩き込んでいた。
 単なる花火でありながら、その爆発力は半端ないものがある。
 嬉しくも、悲しい誤算であった。

(…………まあ、また、死に損なうかもしれないがな)

 そう思って苦笑いしたのも束の間──ライダーマンの胸にゼンゲビ・ビブブが直撃する。それはライダーマンの全身に意識を奪うレベルの電圧を流し、強化服の上からでも人間の体を吹き飛ばす。更にそこに立て続けに起こっていく爆風。
 ライダーマン──結城丈二の目の前で、ガドルは燃え上がる。
 首輪は誘爆しなかったが、しかしガドルの体に次々と爆発が起きてゆく。

 結城丈二は先ほど言葉にしなかったが、この涼邑零を、どこか手のかかる弟のように思い始めていた。弟などいなかった彼にとっては、そんな存在は久々である。研究仲間もそれほどに親しかったが、彼は人懐っこく、果ての無いやさしさと無邪気さを持ち、それでいて復讐と正義の間に生まれた子──悪以上に、家族を喪ったその孤独と戦ってきた戦士だ。
 どこか、共感が芽生え、それはやがて家族のような意識に変わっていった。
 風見志郎や仮面ライダーたちにそっくりな境遇を持ち、復讐を乗り越えた戦士同士──風見も、かつてこんな気持ちで俺を復讐から解放しようとしていたのだろうか。



 男は、そこのないはずの右手を伸ばす。
 がっしりと、生身の腕でガドルの心臓を掴むビジョンが見えた。
 炎の色に滲んで涙が止まらなくなる。
 零を逃がして、かつて自分が行った正義とは全く異なる、本当の正義を果たしたのだ。
 母が、友が、迎えに来る。──結城丈二という男を、孤独から掬いだすように。
 この世に残した家族が心残りだったが、その男はきっと、これから本当の正義を知って戦ってくれる。



 そして、彼はゆっくりと目を閉じると、今度こそ遂に、その贖罪の日々を終えた。同時にラスト一分の時間稼ぎも終了したのである。



【結城丈二@仮面ライダーSPIRITS 死亡】
【残り16人】






630 : さようなら、ロンリー仮面ライダー(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 14:38:17 t56Jw2Y.0



 ──零は、ただ一人、デパートの入り口の前を歩いていた。どこか暗い表情でありながら、確かに前を向いている。

 結城丈二は死んだ。
 右腕だけが零のもとに託され、こうして抱きかかえられている。本来は血管や肉や骨が見えてもおかしくない断面からは、鉄骨とコードが覘いていた。それは結城丈二の体であって、体ではない。形見と呼ぶのも変だ。──さて、何と呼べばいいだろう。
 強いて言えば、魔戒騎士にとっての剣と同じだろうか。
 それならば、「魂」と喩えればいいかもしれない──。

(──あんたの意思は受け取った。残りの仲間も全部助けて、俺はきっとこの殺し合いから脱出してみせる。見ててくれ……)

 アタッチメントは結城の魂だ。
 友から授かり、彼の戦いの日々を最も鮮明に記録している部分である。
 武器であり、仮面ライダー4号の半生を綴った記録簿であり、彼の魂を残している最後の一塊であった。決して粗末には扱えない代物なのだ。
 そして、左翔太郎や沖一也にもいずれ、その死の証明のようにこれを見せる時が来るだろう。

「……またいつか会おうぜ。マイブラザー」

 この右腕に零は語りかけた。
 彼の本当の魂がどこへ行ってしまったのかは魔戒騎士たる彼もわからない。ただ、そこに響かせれば届く気がした。

 零の背のドリームキャッチャーが、燃ゆる街に遠ざかっていく。
 一日の同行者がいなくなり、こうして一人になると、やはり世界が縮まった世杖寂しい気持ちがあった。
 シルヴァを失くし、結城丈二を失くした零は、これ以上大きな声で叫ぶ事はなかった。
 戦い果てた正義の意思に心で礼をすると共に、次の戦いに足を運ばなければならない。

 魔戒騎士として、守りし者として、この戦いを終わらせる為に──。







「あいつら本当に俺たちの後を追って来てくれてんのかな……」

 呟く涼村暁の背で、寝息が聞こえる。アクセルは、それを察して、ある程度逃げたところで徐行を始めていた。
 禁止エリアに入ってから随分経つが、やはり誰もいない。──無論、それは至極当たり前の事だが、主催側の人間が割り込んでくるという事もなかった。
 桃園ラブはとうに眠りこけていた。
 この一日で相当疲労を溜めこんだのだろうし、それでも二十四時間ずっと起きていたのだから、こうなるのも当たり前だ。

「……いい夢を見られるはずもないか」

 こういう時、決まって悪夢というのが流れる。──悪夢とは、そう。死んだ人が出てくる夢だ。無意識というやつが、今日一日で印象的な出来事をフラッシュバックさせる。
 あるいは、遠い日の楽しい記憶かもしれないが、どちらも悪夢には違いない。

 暁はここで寝ている時も、わりといい夢を見た方だと思う。しかし、目覚めてみると悪夢のような日々が続いている。夢の中では確かにほむらがいたはずなのに、目覚めるとその記憶もうっすらとしてしまう。
 夢──それは、今、この時こそが悪夢で、本当の自分は自分が見ている夢なんじゃないか、と、暁は時折思うのであった。
 そうであった方がいいのではないかと、時折思ってしまうのだ。

「なぁ、石堀。あんたは寝なくていいのか?」
「……徹夜仕事には慣れてるんだ。俺もあんたみたいに遊ぶ時間が欲しいくらいだ」


631 : さようなら、ロンリー仮面ライダー(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 14:38:32 t56Jw2Y.0

 目下のバイクが応える。

「……つまらねえ人生だな。俺みたいにひたすら遊んで生きた方が楽しいぜ」
「お前に俺の人生をつまらないとか言われる筋合いはない。これでも楽しんでる方だぜ」

 男二人で語らう夜というのが、ここしばらくで二度目だ。
 暁にとっては、それが何より、この殺し合いで最悪な事態かもしれない。

「……ま、そんならいいけど」
「帰ったら楽しい人生の続きが来るって事だから。……それまでは、まあお互い頑張りますか」

 アクセルから声が聞こえ、暁はやはり不審な気持ちを抱いた。何も、石堀の価値が下がる不審ではなかった。
 こいつが本当に──? 本当に、アンノウンハンド……?
 黒岩省吾の情報を信じないわけではないが、暁はそれが信じがたい事実だと感じるようになってもいた。内心で、二つの心が葛藤する。
 黒岩か、石堀か……。

 誰か、教えてくれ。

 このままだと本当に、何を信じればいいのかわからなくなる。
 ここまで出会ってきた男で、石堀光彦ほど信頼できる男はいない。この軽妙な冗談と、あまり人と距離を詰め過ぎない態度、真剣に戦闘に打ち込み生き残るための最善を尽くす姿──到底、悪人には思えないのだ。
 だが、黒岩省吾は決して、あの瞬間に嘘を教える男ではない。暁自身も、腐っても男だからわかる。あれは男が嘘を吐く時じゃない。黒岩は少なくとも、あのタイミングで嘘を教えるような男ではないはずだ。

 普段は性質の悪い男やいけ好かない男を察知する嗅覚がある暁も、この二人の男ばかりは姿がつかめなかった。
 目を瞑って考える事にした。

『我が名は天使ホムホーム。石堀さんを、し……信じるのもアリじゃないですか?』

 暁の頭の上に出てくる天使ホムホーム。三つ編みでメガネをかけている。地味な女の子ながら結構可愛い。

『我が名は悪魔ホムシファー。暁、簡単に信じては駄目よ。ていうか、馬鹿じゃないの。ネタバレするとそいつダークザギよ』

 暁の頭の上に出てくる悪魔ホムシファー。いい若い娘が露出しているが、胸はそこまで大きくない。他に面白い特徴を言っておくと、目つき悪いのに赤いリボンしている。これには暁もやや引いているが、まあ露出度が高いのでOKにしておこう。

『黒岩さんに言われた事を石堀さんに直接訊いてみましょう! きっと間違いだと言ってくれるはずです』
『そんな事したら消されるわよ。死んでも知らないわよ』
『これまでの行いを見れば、石堀さんが良い人で、全部黒岩さんの勘違いである事は……め、明白です!』
『今のうちに石堀光彦を殺してしまえばいいのよ! コイツを信じては駄目よ』
『悪魔に耳を貸してはいけません!』
『この茶番天使の言う事は全部、絵空事よ。騙されてはいけないわ』

 と、喧嘩をしている天使と悪魔に暁は手を伸ばしてみるが、すぐに消えてしまう。
 まさか、暁がこの天使と悪魔の忠告をどっちも聞いておらず、単に可愛いから手を伸ばした事など誰も知る由もないだろう。
 何を話しているかなど終始聞いていない。とりあえず、「毎回違うバリエーションで登場してくるなコイツ……」と思っただけであった。

 暁は意識を取り戻すようにして、石堀に声をかけられる。

「おい、暁。今、寝てただろ」

 ……今の変な天使と悪魔は夢だったらしい。気が抜けると眠ってしまう。
 起きた時の感じは、授業中に眠った時のあの気持ちよさにそっくりだ。時折、催眠術に近い声を発生させる先生がいるが、まさしくその先生の授業を思い出した。
 アクセルに同乗している暁とラブは、両方寝ていたわけだ。バイクの上で眠るというのは随分な危険行為だが……それ以上に危険なのは、もしかすればそれが石堀光彦の背の上である事かもしれない。


632 : さようなら、ロンリー仮面ライダー(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 14:38:57 t56Jw2Y.0
 石堀は、裏切るかもしれない。そんな男だけをただ一人起こしていた。
 ……何も異変はない。
 異変はないが、ここで何もしなかったからといって、これからもしないわけではないかもしれない。暁の中で何かが揺れ動いていく。

 ………まあいい。
 暁は、意を決して口を開いた。

「……なぁ、石堀」
「なんだ?」
「さっきから思ってたんだけどさ、これってアクセルに変身して人間乗せてると、背中に色々当たるのか?」

 石堀に対して抱いていた小さな疑問から、順番に──。







 煙が漂う街。
 大破したバイクから、男の死体から、電柱の周りから……火が出ている。
 ン・ガドル・ゼバは、そこに立っていた。
 ──五分。
 そのリミットを過ぎ、結城丈二さえも安心したであろう時も、ガドルは生きていた。
 首輪もまだ、爆発していない。──これは、ガドル当人が首輪の爆破について知らない以上、誰も不思議がる者はいなかった。いるとすれば、この場所の外でモニターを見ている人間だけだ。

「……生きていたか、ガドル」

 ガドルの背後から声がする。
 何者か──ガドルは、その姿に吃驚する。まさかこんな所で会えるとは。
 ン・ガミオ・ゼダ。その男の役割が何なのか──それは、彼らグロンギ以外は知る由もない。ただ、王である事が重要だった。
 カブトムシとオオカミが燃える街で対峙する。

「ガミオ」
「……ガドル。どうやら、この世界で真の王を決する時が来たようだ。俺とお前、どちらの王が生き延び、究極の闇となるべきか──ここで決めるのだ」

 ザギバス・ゲゲルを決する悲願が叶いそうになったので、ガドルは笑った。
 本来ここで戦うべきン・ダグバ・ゼバがいない以上、ガドルはこうして自動的にグロンギの王となってしまうのだった。
 それがやはり不満であった。
 ダグバとの戦いに勝つ事で王となった方が、これまでの戦いの意味を確かな物にできるはずなのだ。それができないとなれば、それはガドルも寂しいはずである。

「……ガドル、ガミオ。ザギバス・ゲゲルの準備は整ったか」
「バルバか」

 街の陰から突如現れたのは、ラ・バルバ・デとラ・ドルド・グであった。
 二人はゲゲルを管理する者であり、この殺し合いにも当然関わっている存在であった。
 今度はホログラムではなく、実態としてワープしてそこにいた。全く、神出鬼没の存在としか言いようがない。
 目的も不明だが、とにかく最後のゲゲルを二人が観察する事になった。

「勝者には『究極の闇』を齎す力と、王の座、そしてダグバのベルトを贈呈する」

 ザギバス・ゲゲルの景品となっていたダグバのベルトは、今はバルバの手にあった。
 ダグバの体のベルトは破損しただろうが、財団Xの力で修理・再現したのである。ヌ・ザジオ・レと同じく、霊石に関する研究組織も作られているらしい。リントも恐ろしい科学力を持った物だと、バルバは思っていた。しかし、それがまさかこんな形で自分たちのものになるとは思わなかっただろう。

「ガドル。首輪はカバーを外されて五分で爆発する設定だ」
「なんだと……」
「……ただし、その猶予は一人殺すごとに一分追加される。奴にカバーを外された時点で、お前の残り時間は十一分。今のお前の首輪爆発までの残り時間は五分だ。五分以内にガミオを倒せれば、特例としてお前の首輪は解除される。だが、倒せなければ、爆破だ」


633 : さようなら、ロンリー仮面ライダー(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 14:39:27 t56Jw2Y.0

 ドルドの説明を、ガドルは淡々と聞いていた。
 目の前のガミオを睨みつけ、ただゲゲルの開始を待ち望む。疲労困憊の体も、もはやここで勝利する事に対する興味で全く気にならないようだった。

「面白い」

 ガドルは、己の最強である「黒目」へと進化した。
 そして、ザギバス・ゲゲルの勝者となるべく、ガミオに向かって襲い掛かっていった。



【2日目 未明】
【G-9/街・禁止エリア】

【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン】
[状態]:疲労(小)、胸部に強いダメージ(応急処置済)、ダグバの死体が軽くトラウマ、脇腹に傷(応急処置済)、左頬に痛み、首輪解除、石堀に搭乗中
[装備]:シャンバイザー@超光戦士シャンゼリオン、モロトフ火炎手榴弾×3、恐竜ディスク@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:支給品一式×8(暁(ペットボトル一本消費)、一文字(食料一食分消費)、ミユキ、ダグバ、ほむら、祈里(食料と水はほむらの方に)、霧彦、黒岩)、首輪(ほむら)、姫矢の戦場写真@ウルトラマンネクサス、タカラガイの貝殻@ウルトラマンネクサス、スタンガン、ブレイクされたスカルメモリ、ランダム支給品0〜5(混ぜると危険な洗剤@魔法少女まどか☆マギカ、一条薫のライフル銃(10/10)@仮面ライダークウガ、のろいうさぎ@魔法少女リリカルなのはシリーズ、コブラージャのブロマイド×30@ハートキャッチプリキュア!、スーパーヒーローマニュアルⅡ、グロンギのトランプ@仮面ライダークウガ
[思考]
基本:加頭たちをブッ潰し、加頭たちの資金を奪ってパラダイス♪
1:石堀を警戒。石堀からラブを守る。表向きは信じているフリをする。
2:石堀やラブちゃんと一緒に、どこかに集まっているだろう仲間を探す。
3:別れた人達が心配、出来れば合流したい。
4:あんこちゃん(杏子)を捜してみる。
5:可愛い女の子を見つけたらまずはナンパ。
6:変なオタクヤロー(ゴハット)はいつかぶちのめす。
[備考]
※第2話「ノーテンキラキラ」途中(橘朱美と喧嘩になる前)からの参戦です。
つまりまだ黒岩省吾とは面識がありません(リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキのことも知らない)。
※ほむら経由で魔法少女の事についてある程度聞きました。知り合いの名前は聞いていませんでしたが、凪(さやか情報)及び黒岩(マミ情報)との情報交換したことで概ね把握しました。その為、ほむらが助けたかったのがまどかだという事を把握しています。
※黒岩とは未来で出会う可能性があると石堀より聞きました。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限は『スーパーヒーローマニュアルⅡ』の入手です。
※リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキとクリスタルステーションの事を知りました。


634 : さようなら、ロンリー仮面ライダー(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 14:39:49 t56Jw2Y.0

【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、左肩に痛み、精神的疲労(小)、決意、睡眠中、首輪解除、石堀に搭乗中
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式×2(食料少消費)、カオルちゃん特製のドーナツ(少し減っている)@フレッシュプリキュア!、毛布×1@現実、ペットボトルに入った紅茶@現実、巴マミの首輪、工具箱、黒い炎と黄金の風@牙狼─GARO─、クローバーボックス@フレッシュプリキュア!、暁からのラブレター
基本:誰も犠牲にしたりしない、みんなの幸せを守る。
1:どこかに集まっているだろう仲間を探す。
2:マミさんの遺志を継いで、みんなの明日を守るために戦う。
3:プリキュアのみんなと出来るだけ早く再会したい。
4:マミさんの知り合いを助けたい。もしも会えたらマミさんの事を伝えて謝る。
5:犠牲にされた人達のぶんまで生きる。
6:ダークプリキュアと暗黒騎士キバ(本名は知らない)には気をつける。
7:どうして、サラマンダー男爵が……?
8:後で暁さんから事情を聞いてみる。
[備考]
※本編終了後からの参戦です。
※花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆりの存在を知っています。
※クモジャキーとダークプリキュアに関しては詳しい所までは知りません。
※加頭順の背後にフュージョン、ボトム、ブラックホールのような存在がいると考えています。
※放送で現れたサラマンダー男爵は偽者だと考えています。
※第三回放送で指定された制限はなかった模様です。
※暁からのラブレターを読んだことで、石堀に対して疑心を抱いています。

【石堀光彦@ウルトラマンネクサス】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、残り三十分予知不可、首輪解除、仮面ライダーアクセルバイクフォームに変身して徐行中
[装備]:Kar98k(korrosion弾7/8)@仮面ライダーSPIRITS、アクセルドライバー+ガイアメモリ(アクセル、トライアル)+ガイアメモリ強化アダプター@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ+T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW 、コルトパイソン+執行実包(6/6) 、ロストドライバー@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×6(石堀、ガドル、ユーノ、凪、照井、フェイト)、メモレイサー@ウルトラマンネクサス、110のシャンプー@らんま1/2、ガイアメモリ説明書、.357マグナム弾(執行実包×10、神経断裂弾@仮面ライダークウガ×2)、テッククリスタル(レイピア)@宇宙の騎士テッカマンブレード、イングラムM10@現実?、火炎杖@らんま1/2、血のついた毛布、夏目実加のフルート@仮面ライダークウガ、反転宝珠@らんま1/2、キュアブロッサムとキュアマリンのコスプレ衣装@ハートキャッチプリキュア!、スタンガン、『風都 仕置人疾る』@仮面ライダーW、蛮刀毒泡沫@侍戦隊シンケンジャー、暁が図書室からかっぱらってきた本
[思考]
基本:今は「石堀光彦」として行動する。
1:「あいつ」を探す。そして、共にレーテに向かい、光を奪う。
2:今は休憩をして、その後に暁とラブの二人を先導しながら進む。
3:どこかに集まっているだろう仲間を探す。
4:周囲を利用し、加頭を倒し元の世界に戻る。
5:孤門や、つぼみの仲間、光を持つものを捜す。
6:都合の悪い記憶はメモレイサーで消去する
7:加頭の「願いを叶える」という言葉が信用できるとわかった場合は……。
8:クローバーボックスに警戒。
[備考]
※参戦時期は姫矢編の後半ごろ。
※今の彼にダークザギへの変身能力があるかは不明です(原作ではネクサスの光を変換する必要があります)。
※ハトプリ勢、およびフレプリ勢についてプリキュア関連の秘密も含めて聞きました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※つぼみからプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について聞きました。
※殺し合いの技術提供にTLTが関わっている可能性を考えています。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※TLTが何者かに乗っ取られてしまった可能性を考えています。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。予知能力の使用が可能です。
※予知能力は、一度使うたびに二時間使用できなくなります。また、主催に著しく不利益な予知は使用できません。
※予知能力で、デュナミストが「あいつ」の手に渡る事を知りました。既知の人物なのか、未知の人物なのか、現在のデュナミストなのか未来のデュナミストなのかは一切不明。後続の書き手さんにお任せします。


635 : さようなら、ロンリー仮面ライダー(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 14:40:36 t56Jw2Y.0







【2日目 未明】
【G-9/街・デパート前 禁止エリア】

【涼邑零@牙狼─GARO─】
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター、カセットアーム
[道具]:シルヴァの残骸、支給品一式×2(零、結城)、スーパーヒーローセット(ヒーローマニュアル、30話での暁の服装セット)@超光戦士シャンゼリオン、薄皮太夫の三味線@侍戦隊シンケンジャー、速水の首輪、調達した工具(解除には使えそうもありません) 、カセットアーム用アタッチメント六本+予備アタッチメント(パワーアーム、マシンガンアーム+硬化ムース弾、ロープアーム、オペレーションアーム、ドリルアーム、ネットアーム/カマアーム、スウィングアーム、オクトパスアーム、チェーンアーム、スモークアーム、カッターアーム、コントロールアーム、ファイヤーアーム、フリーザー・ショット・アーム) 、スタンスが纏められた名簿(おそらく翔太郎のもの)
[思考]
基本:加頭を倒して殺し合いを止め、元の世界に戻りシルヴァを復元する。
1:殺し合いに乗っている者は倒し、そうじゃない者は保護する。
2:会場内にあるだろう、ホラーに関係する何かを見つけ出す。
3:また、特殊能力を持たない民間人がソウルメタルを持てるか確認したい。
[備考]
※参戦時期は一期十八話、三神官より鋼牙が仇であると教えられた直後になります。
※シルヴァが没収されたことから、ホラーに関係する何かが会場内にはあり、加頭はそれを隠したいのではないかと推察しています。
実際にそうなのかどうかは、現時点では不明です。
※NEVER、仮面ライダーの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
仮面ライダーに関しては、結城からさらに詳しく説明を受けました。
※首輪には確実に異世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※首輪を解除した場合、(常人が)ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。→だんだん真偽が曖昧に。
また、結城がソウルメタルを操れた理由はもしかすれば彼自身の精神力が強いからとも考えています。
※実際は、ソウルメタルは誰でも持つことができるように制限されています。
ただし、重量自体は通常の剣より重く、魔戒騎士や強靭な精神の持主でなければ、扱い辛いものになります。
※時空魔法陣の管理権限の準対象者となりました(結城の死亡時に管理ができます)。
※首輪は解除されました。
※バラゴは鋼牙が倒したのだと考えています。





636 : さようなら、ロンリー仮面ライダー(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 14:40:54 t56Jw2Y.0


【2日目 未明】
【G-8 中学校付近】
※周囲は荒廃しており、電気も通らなくなっています。

【ン・ガドル・ゼバ(ゴ・ガドル・バ)@仮面ライダークウガ】
[状態]:疲労(小)、全身にダメージ(小)(回復中) 、肩・胸・顔面に神経断裂弾を受けたダメージ(回復中)、胸部に刺傷(回復中)、腹部・胸部にかなり強いダメージ、ダグバの死への空虚感、電撃による超強化、怪人体に変身中、ザギバス・ゲゲル開始、首輪カバー解除につき残り五分で首輪爆発
[装備]:ビートチェイサー2000@仮面ライダークウガ、スモークグレネード@現実×2、トライアクセラー@仮面ライダークウガ、京水のムチ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×8(スバル、ティアナ、井坂(食料残2/3)、アクマロ、流ノ介、なのは、本郷、まどか)、東せつなのタロットカード(「正義」、「塔」、「太陽」を除く)@フレッシュプリキュア!、ルビスの魔剣@牙狼、鷹麟の矢@牙狼
[思考]
基本:殺し合いに優勝し真の頂点に立つ。
0:ザギバス・ゲゲルを行い、ガミオを倒す。
1:ダグバのように、周囲の人間を殺して誰かを怒らせるのも良い。そして、新たなる王とも戦う。 まずは中学校に行く。
2:石堀、エターナルと再会したら殺す。
3:強者との戦いで自分の力を高める。その中で、ゲームとしてタロットカードの絵に見立てた殺人を行う。
4:体調を整え更なる力を手に入れたなら今まで取るに足らんとしてきた者とも戦う。
※死亡後からの参戦です。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※ナスカ・ドーパント、ダークメフィストツヴァイを見て、力を受け継ぐ、という現象を理解しました。
※フォトンランサーファランクスシフト、ウェザーのマキシマムドライブによって大量の電撃を受けた事で身体が強化され、アメイジングマイティに匹敵する「驚天体」に進化できます。また、電撃体の使用時間も無限になっており、電撃体とその他のフォームを掛け持つ事ができます(驚天体では不可能です)。
※仮面ライダーエターナルが天候操作や炎を使ったため、彼に「究極」の力を感じています。また、エターナルには赤、青の他にも緑、紫、金などの力があると考えています。
※首輪のカバーが外されました。


【ン・ガミオ・ゼダ@仮面ライダークウガ?】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)
[装備]:?????????
[道具]:?????????
[思考]
基本:この世界に存在する。そして己を刻む。
0:ザギバス・ゲゲルを行い、ガミオを倒す。
1:ガドルを倒し、究極の闇を齎す者となる。そして己の力と存在を証明する。
2:この世界にいてはならない者を──。
[備考]
※この殺し合いやこの「クウガの世界」について知っているかのような発言をしています。
※黒い霧(究極の闇)は現在使用できません。もう一人のグロンギの王を倒して初めてその力を発現するようです。
※この世界にいてはならない者とは、ロワのオリ要素や、設定上可能であっても原作に登場しなかった存在の事です(小説版クウガも例外ではありません)。
※仮面ライダーエターナル、キュアムーンライト、ナスカ・ドーパントを「この世界にいてはならない者」と思っています。
※首輪は存在しません。
※黒い霧を発する事はできませんが、生身の状態でガミオの攻撃を受けて体内に微弱ながらその力を受けた場合は、通常よりスローペースながらグロンギの力に蝕まれていきます。
 主な効果はグロンギ化ですが、作中ではグロンギにならずに死亡した人間もいるので、衰弱等の効果が現れる場合もあります。



【ザギバス・ゲゲルの詳細】
・今回のザギバス・ゲゲルには、ラ・バルバ・デとラ・ドルド・グが立ち会っています。
・ガドルが勝利すれば首輪の爆破を免れる事ができますが、もし五分以内にガミオを倒せなければ首輪は爆発します。
・勝者には、正真正銘の『究極の闇』を齎す権限と、ダグバのベルト(修復済)が贈呈されます。






637 : さようなら、ロンリー仮面ライダー(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 14:44:05 t56Jw2Y.0



【支給品解説】

【スタンガン@現実】
フェイト・テスタロッサに支給。
彼女の支給品は全て他の参加者に支給されている現実出典のアイテムであり、このスタンガンも例外ではない。

【蛮刀毒泡沫@侍戦隊シンケンジャー】
ユーノ・スクライアに支給。
腑破十臓が、折れた裏正の代わりに一時期使っていた刀。おそらく製作は筋殻アクマロ。
ヒットが短いため、当人はあまり気に入っていない。

【グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ】
照井竜に支給。
魔女を倒すと現れる黒い宝石状の物質。
魔法少女が魔力を消費すると溜まるソウルジェムの穢れを、吸いとって移し替えることができる。

【反転宝珠@らんま1/2】
照井竜に支給。
女傑族に伝わる宝で、彫り込まれた絵柄を正位置に身につけると愛情が豊かになるが、逆位置でつけると愛情が憎悪に転じるブローチ。

【キュアブロッサムとキュアマリンのコスプレ衣装@ハートキャッチプリキュア!】
照井竜に支給。
文化祭で漫画部の女子が着ていたコスプレ衣装。かなり精巧で、女子中学生サイズ。
これを着れば誰でもプリキュアになれる(わけない)。

【ライダーマンの予備カセットアーム@仮面ライダーSPIRITS】
ゴ・ガドル・バに支給。
硬化ムース弾、カマアーム、スウィングアーム、オクトパスアーム、チェーンアーム、スモークアーム、カッターアーム、コントロールアーム、ファイヤーアーム、フリーザー・ショット・アームが支給されている。

【『風都 仕置人疾る』@仮面ライダーW】
ゴ・ガドル・バに支給。
伊刈という男が描いていた同人誌の漫画。現在は『仮面ライダーW』の公式ホームページで一部閲覧可能。

【混ぜると危険な洗剤@魔法少女まどか☆マギカ】
暁美ほむらに支給。
混ぜると危険な二本の別種の洗剤。

【一条薫のライフル銃@仮面ライダークウガ】
相羽ミユキに支給。
一条薫が使用しているボルトアクション式のライフル銃。ちなみにこれは既存の銃ではない。
装弾数は10発。レーザーサイト付。スコープが大きく、未確認生命体対策本部で使用する特殊な弾丸も装填できる。

【のろいうさぎ@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
相羽ミユキに支給。
ヴィータが持っているうさぎのぬいぐるみ。

【コブラージャのブロマイド@ハートキャッチプリキュア!】
山吹祈里に支給。
ナルシストであるコブラージャが自分をモデルにして作ったブロマイド。
コブラージャは戦闘時にいつもこれを投げて攻撃や挨拶をする。

【恐竜ディスク@侍戦隊シンケンジャー】
黒岩省吾に支給。
脂目マンプクと初代シンケンレッドの戦いで使用された秘伝ディスク。
これをシンケンマルに装填する事で、シンケンマルはキョウリュウマルとなり、使用者はハイパーシンケンジャーになる。
また、シンケンゴールドがこれをサカナマルにセットしてハイパーシンケンゴールドになった事もある。
更には、ゴーオンレッドがマンタンガン・ロッドモードにこれを通してハイパーゴーオンレッドに変身した事もあるため、もしかすれば剣や棒にセットすれば誰でもなれるのかも…。


638 : さようなら、ロンリー仮面ライダー(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 14:46:22 t56Jw2Y.0
投下終了です。
タイトルは途中から『さらば、ロンリー仮面ライダー』から『さようなら、ロンリー仮面ライダー』に変更しました。

全部前編になってますが、>>626あたりから
『さようなら、ロンリー仮面ライダー(後編)』です。


639 : ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 14:47:36 t56Jw2Y.0
あと一応、上げておきます。


640 : 名無しさん :2014/06/03(火) 15:23:57 TMX9wEOQ0
投下乙です!
タイトルからそんな雰囲気が漂っていましたが、結城さんはやはり……でも、最期まで頑張ってくれたことが嬉しいです!
どうか彼の遺志がみんなを支えてくれると信じたいです。
そしてまさかのハイパーシャンゼリオン! ガイアポロンよりも先にパワーアップするとは……
一方でガドルはガミオとのゲゲルを始めたけど、果たしてどっちが勝つのか? そしてまさか首輪がそんな風になっていたとは……
そりゃ、ここまで来たらあってもおかしくないかも。


641 : 名無しさん :2014/06/03(火) 18:17:29 wc0mvolk0
投下乙です!

結城も亡くなられましたか。子供や若者ばかりの中、大人の方でした。年齢というより精神的に
そしてガミオ対ガドル!
読む方も緊張する

ライダーマンの右腕は、スピリッツでも風見に残されていましたが
遥か未来でV3が愛おしげに撫でわまわしてた瓢箪型の奇妙な銃の印象が強くて…
映画では、死者に未練があるのが平成、割り切って乗り越えてるのが昭和、でしたが
それだと風見は平成、翔一くんとか昭和な気がします


642 : ◆gry038wOvE :2014/06/03(火) 19:42:15 t56Jw2Y.0
>>641
Jまでは全員もう時間の流れとともに乗り越えたって事なんでしょう
逆に身内や親友が死なない昭和ライダーは珍しいくらいで…

平成でもヒビキさんやモモタロス(良太郎なのか?)は絶対とばっちり


643 : 名無しさん :2014/06/03(火) 19:51:57 1D1Pug4U0
投下乙です。

どうやら先に到着したのは結城&零、お陰で暁&ラブ&石堀の首輪も無事解除、
そしてガドル襲撃で結城が退場か……暁の機転でタイムリミット作戦発動したのに じ つ は キ ル ス コ ア で 延 長 可 能 というのは……何考えてこんな仕様にしたんだベリアル……
だがここでガドルはガミオと決戦、これでどちらかは確実に退場するだろうが……

しかし恐竜ディスクでハイパーシャンゼリオンとは……まぁどう考えても構造が根本的に違うゴーオンジャーでも使えるわけだから使えても不思議は無いからなぁ。
そしてナチュラルに登場する天使ほむと悪魔ほむ……まさかこんな形で出すとは……

後、結城が暁の事を良い名前と言っていたのは役者ネタか。


644 : 名無しさん :2014/06/03(火) 20:34:55 cgJMwt.gO
投下乙です。

相討ちにならない限り、ガドルかガミオのどっちかが究極の闇になっちゃうのか。


645 : 名無しさん :2014/06/03(火) 21:02:50 wc0mvolk0
死別は基本の昭和ライダー(放映上映時期は平成のものもあり)ですが、
たっくんにああして話が出来るだけの人は
昭和の内でも神、城茂、風祭、光太郎くらいでしょう
本郷さんでなく、神敬介に言わせた映画は愛を感じました
…花はさておき


646 : 名無しさん :2014/06/03(火) 21:28:34 tqeDBBFk0
投下乙!
まさかのハイパーシャンゼリオンw
ガドル、さすがに首輪の力には抗えないだろと思ったら、まさか首輪がそんな仕様になってたとはなあ
ピンチはまだまだ続いてるけど
究極の闇をめぐる決戦はどっちが勝つのやら
単身時間稼ぎに挑んだ結城さんは、ドンマイ…そして、考察担当としてここまでよく頑張ってくれた、お疲れさまです


647 : 名無しさん :2014/06/04(水) 01:26:50 X.eZkobw0
投下乙です
さりげなくほむらネタバレすんなwww


648 : 名無しさん :2014/06/04(水) 12:27:13 GiEaWL1g0
もしこのまま5分経ってガドル逝ったら暁のキルカウントが3位まで上がるんじゃね?


649 : 名無しさん :2014/06/05(木) 18:21:14 oP7.8LJAO
>>648
その場合マダオが直接勝ったとは言えないからベルトボッシュートされんのかなw


650 : ◆gry038wOvE :2014/06/06(金) 21:55:51 R0zMoLq20
じゃあただいまより投下します。


651 : 外道合戦 ◆gry038wOvE :2014/06/06(金) 21:56:25 R0zMoLq20


 深い深い森の奥深く。そこには、人が立ち入れない領域が存在する。
 外道のみが立ち入る事のできる真っ赤な池──。この池には、世に惑う人間の嘆きの色が浮き上がっていた。まるで血染めのようでもある。アヤカシたちは、スキマを通してこの場所に現れる事ができる。
 そんな『三途の池』にて、外道衆の総大将、血祭ドウコクは体を休めていた。

「……首輪を外した奴がいる、だと?」

 血祭ドウコクが放送を聞いて、真っ先に反応したのはその点だった。
 参加者を縛っているこの煩わしい首輪を解除し、殺し合いを有利に進める人間がいるらしいという話が放送担当者の口から教えられたのである。
 ドウコクの耳は確かにそれを聞いた。

「随分早えじゃねえか」

 一日の終了までに首輪の解析を終え、解除している者がいるらしい。ドウコクには複雑な機械の話はさっぱりわからないが、見ず知らずの複雑な機械を僅か一日で解除するのは、生半可な学者でも不可能であろう。そういう人間こそ手駒にして甲斐があるのは言うまでもない。ドウコクとしては、この邪魔な首輪を一刻も早く解除したいので、そんな人間を手元に置きたい気持ちがあった。
 ともあれ、首輪の解除というのが現実味を帯びてきた事で、またドウコクの目的は一歩近づいた。
 こういう時ばかりは、人間の意地が役に立つ。彼らは外道衆に対抗する為にモヂカラなる者を開発し、シンケンジャーとなって戦おうとする連中だ──あの技術は厄介だったが、もしあんな技術の持ち主が味方になれば心強い事この上ない。西洋的技術の介入がなく、近世で止まってしまった外道衆では到底敵わない文明への知識を彼らは有していたのだ。
 ……その参加者がどこにいるのか全くわからないのが唯一の難点だ。相も変わらず志葉屋敷に向かうのが目的だが、今のところ参加者に出会う気配は全くない。
 幸いにも禁止エリア制度がなくなったので、既存の禁止エリアを除いて、道中、余計な爆発が起きる事もないが。

「……」

 不意に、ドウコクが振り向いた。
 ──気配。
 そこに、外道の気配を感じたのだ。

「誰だ……?」

 アクマロではない。その人物が姿を現す……。ドウコクは括目する。
 それが何者なのかわかった瞬間──彼でさえも驚愕してしまうほどだった。

「何? てめぇは……」

 そこにあった意外な顔を見て、先ほどのマンプクの説明を思い出した。
 第四回放送、即ち一日目終了。
 ここで死者の関わる出来事が起こるように設定されているわけだ。お邪魔虫となる存在が姿を現し、残り参加者を減らすようになっている。
 かつての死者たちが、生者を地獄の道連れに引き込もうとするのである。

「……だが、一体なぜテメェが……」

 外道衆の総大将・血祭ドウコクでさえ開いた口が塞がらなかった。
 だが、次の瞬間にはその口はニヤリと笑っていた。







「はて。これはどういう事でございましょう」

 筋殻アクマロは、周囲を見回していた。見下ろすのは小川。周囲は森。
 はて、自分はいつ死んだのだろう。仮面ライダーゼクロスが自分に向かってライダーキックなる技を発動し──そうか、それで死んだのだ。
 しかし、それから随分と時間が経ったような気がする。周囲の景色は以前よりも少し暗くなった。闇が深くなったというのだろうか。一日近く放置されていたようだった。
 見下ろしても、先ほど激闘があったはずの場所は白けている。
 いや、この周囲一帯そのものが随分と白けているようだった。
 自分が二の目になっており、目的が果たせない事が明らかになった今現在であっても、彼の心が落ち着いているように見えるのは、この不可解な状況を飲み込めないからである。
 本来なら自暴自棄が始まってもおかしくないが、時間が巻き戻ったようなタイミングで二の目となっている事が不思議であった。


652 : 外道合戦 ◆gry038wOvE :2014/06/06(金) 21:56:43 R0zMoLq20

「……もう誰もおりませんか?」

 アクマロは、誰に言うでもなく、そう呟いた。

「これでは奴らを地獄の道連れにはできない……。全く、何という無念……。殺し合いは終わってしまったのでしょうか」

 アクマロは、歩き出す。現状で行くあてはなかったが、確認したい事がいくらでもあった。
 殺し合いが終わってから二の目になったというのでは、巨大になる意味もない。それが原因でアクマロの二の目が発動したとしたら──?
 一日、二日の単位ではなく、アクマロは数日単位で時間が進んだ事を考えた。ここに現れない事を考えれば、ドウコクが勝利したのだろうか。それはそれで無理もない気がしたが。
 まずは、振り向いて、人が集まっていてもおかしくない街エリアに向かうのを考えた。あそこならば、情報を得られるだろう。その刹那──

「アクマロォォォォォォォッ!!!」

 覚えのある怒号が、アクマロに、少し遠く、赤い池──三途の池が広がる場所を注視させた。そこに、誰かがいる。
 声と照らし合わせ、豆粒のような赤が何者なのかの答えを探り当てた。
 血祭ドウコクである。彼も随分と大きな声だ……。
 まあいい。この殺し合いの中で全員死んだのかと思っていたくらいだが、そうではないなら話は別だ。

「ふっふっふっ……」

 折角だ。殺し合いが終わっていないのなら、残っている参加者は全員殺す。
 自分の目的は達成できないが、参加者がいるのならば殺しつくしてしまおうとアクマロは考えた。たとえドウコクであろうとも。
 いや、むしろ彼のような存在こそ共に死んでもらうにはぴったりではないだろうか。

 アクマロは三途の池に向かって歩を進めた。







──△のあと、おどろきのてんかい!──







 血祭ドウコクのもとに、筋殻アクマロは近寄って来た。
 彼が一歩歩くたびに、地面が揺れ、巨大な音が鳴る。それこそ、また随分と目立つ様相であった。近くにいる人間が目撃できないわけがない。
 森の木々は、すべてアクマロの膝下にあるように見える。それが二の目であった。

「アクマロォッ! 随分久々じゃねえか」

 そうドウコクが叫んだ時には、もうアクマロはドウコクの上を陰で覆っていた。微かな月明かりさえも途絶え、完全な闇が生まれる。アクマロはドウコクを見下ろしていた。
 不愉快ではあったが、これから殺すに至るまでの辛抱である。

「これはこれは……。久方ぶりでございまする……」
「二の目になるとは、また随分と強え奴にやられたもんだなぁっ! てめえもよぉ!」

 普通は、一の目で戦う。二の目というのは、もう後がない証であった。
 最後に敵を道連れにするための姿といってもいい。この命を喪った外道は、天国でも地獄でもないどこかへ行ってしまう。


653 : 外道合戦 ◆gry038wOvE :2014/06/06(金) 21:58:46 R0zMoLq20

「ええ。仮面ライダーゼクロスなる者に。……しかし、どういう事でしょう。死んでから、これまた随分と時間が経っているように思えてならな……」

 アクマロがドウコクに事情を訊こうとした刹那──。
 ドウコクは昇竜抜山刀を凪いだ。それは、おそらくアクマロに回避手段がないほどに早い一撃。鎌鼬となった剣技はアクマロの腹部に激突する。
 それはかなり広範囲に渡る一撃であった。巨大なアクマロの銅を半周するほどに膨れ上がった鎌鼬である。アクマロの痛覚を刺激するには充分であった。

「……くっ。いきなり攻撃とはご挨拶ですな!」
「テメェが過去に俺にした事を忘れたわけじゃねえだろうな?」

 ……裏切り。ドウコクは忘れていない。
 アクマロの方も、いくつか心当たりがあったくらいなので、恍ける気もなかった。
 ともかく、彼はアクマロを倒したのが何者なのかという情報が得られれば、それだけで良いらしかった。それでそのまま用済みになる。

「そちらがその気ならば……悪く思わないでもらいましょうか」

 仕方なしに、アクマロは攻撃体勢を取る。事情を訊こうと思ったが、それができる相手ではなさそうだ。
 豆粒ほどの相手ならば、さほど労力は使わないように思うが、問題なのは相手が他ならぬ血祭ドウコクであるという事だ。彼を相手に巨大化では足りない。それだけのパワーを彼は有している。
 しかし、それでも二の目であるという事は優位だ。敵の攻撃は比較的狭い範囲で受ける事になるし、体重が重い分だけ、こちらの攻撃も重くなる。ボクシングに階級差がある理由を考えれば、質量の優位は明らかであった。

「さらば、血祭ドウコク!」

 アクマロは、地面にいるドウコクに向かって足を踏み込もうとする。ドウコクを一瞬で潰してやろうと、アクマロは歩んだ。そんな攻撃で死ぬとは思っていないが、弄ぶように攻撃すればいずれすぐに死ぬだろう事は間違いない。

「フンッ。……じゃあな、アクマロ」

 一方のドウコクは冷静に呟いた。口調や態度に余裕が含まれている。それを怪訝に思ったが、今更止まる必要はない。
 このまま踏み潰してやれ。この余裕はブラフだ。

「…………おい、行け」

 しかし、その直後、ドウコクが何者かに指示をすると、アクマロの背後を突如として大砲のような一撃が打ちのめした。何発も、何発も……連射される。アクマロは突然の衝撃に前にふらついた。ドウコクのもとを通り過ぎて、いくつかの木をなぎ倒しながら別の場所に足が踏み込まれた。
 砲撃──まだアクマロとしては了承できる程度の攻撃だ。ダメージとしては、さほど大きくはない。

 だが──。

「何故、あんたさんがここに……」

 アクマロが振り向いて、その姿を確認した時であった。アクマロの動きが止まる。
 何故、彼がそうしてそこにいるのか、アクマロの理解も追いつかなかった。

 そこにいたのは……

 黒い羽織に身を包み、真っ赤なマスクに「火」のモヂカラを宿した戦士。
 それは、かつて敵だったはずが、今は意識もない外道そのものになっている。
 シンケンレッド、その人ではないか。

「烈火大斬刀」

 シンケンレッドは呟いた。
 片手にモウギュウバズーカ、片手に烈火大斬刀を持ち、飛び上がってアクマロの頭部にそれを叩き付ける。大剣・烈火大斬刀がアクマロの頭部から、顔の中心に真っ直ぐな線を引いて下っていく。
 強力な摩擦熱に、火のモヂカラが相乗、──アクマロの顔の中を焼く。

「うっ……うわあああああああああっっ!!」


654 : 外道合戦 ◆gry038wOvE :2014/06/06(金) 21:59:23 R0zMoLq20

 突如として現れた刺客の存在が、あまりにも予想外だったために、アクマロは混乱する。
 スーパーシンケンレッドが黒い羽織を着て、モウギュウバズーカや烈火大斬刀を片手で操っている。何故、彼がこんな所にいる。
 間違いなく、シンケンレッドこと志葉丈瑠はアクマロが殺したはず──。

「ま、まさか……あんたさんが外道に……っ!」

 言うなれば、それはシンケンレッドではなく、外道シンケンレッドであった。
 ドウコクもアクマロも彼が誕生した事情は一切知らなかったが、彼は確かにそこにいた。

「……その通りだ。コイツも、どういうわけか外道に堕ちたってわけだ。魂さえ失ってな」

 元来、人が外道に堕ち、三途の川に向かうには、それに見合った行動が必要となる。
 その結果として外道に堕ちた者を、人ははぐれ外道と呼ぶのである。
 例を挙げるとすれば、腑破十臓や薄皮太夫。
 十臓は、人斬りを行い続けた結果、外道に堕ちた。
 太夫は、自分を裏切った夫を殺した結果、外道に堕ちた。
 ……だが、志葉丈瑠の場合は、更に特殊であった。
 この殺し合いの会場にて、殺し合いに乗り、同行者であるパンスト太郎に躊躇ない刃を向け、裏切りを達成したのである。それは己の怒りに任せた『外道』であった。己の剣技のために殺し合いに乗った時点ではまだ乾いていたが、仲間を殺した時点で満ち足りたのだ。
 本来の世界ならば、この時点で彼は外道に堕ちても仕方のない悪行を行ったとされるだろう。

 しかしながら、このマップでは外道に堕ちる事はなかった。──志葉丈瑠自身が外道に堕ちる事なく、彼は人を守って力尽きる所まで戻ってしまったのである。
 その結果、『外道』に堕ちているはずの彼も外道になる事なく逝った。しかし、一日目の終了とともに、志葉丈瑠とは別個体の『外道』の部分のみが『外道シンケンレッド』へと転じて生まれたのである。『本来』の形を形作ろうとした運命が導き出した結果であった。
 この外道シンケンレッドは、丈瑠の情念から再現した、『外道』の部分のみの集合体なのだ。

 ただ、ドウコクはそこまで深くは知らないだろう。
 アクマロは、思わず一歩退く。

「……そして、コイツは俺の新しい家臣だ。良いだろう?」
「……」

 ドウコクの隣に移動し、膝をついて座る外道シンケンレッドの姿は、まさしく『家臣』のそれだった。
 彼は外道シンケンレッドを従い、かなりご満悦のようであった。
 どうしてそんな事態になっているのか、アクマロは皆目見当もつかない。

「家臣だとぉ……?」
「……俺たちの敵だったシンケンジャーが、俺たちの家臣になっている。面白え事が起こったもんだろ。……そうだな、まずは……テメェを倒すのに使ってやる」

 先ほど、『外道』となった事で三途の池に現れた彼を見つけたドウコクは、このシンケンレッドそっくりの意思なき生命体を利用する事を企てた。『縛る力』も有効であり、あろう事か、彼は従順な家臣となったのである。
 シンケンジャーを屈服させるという昔年の夢が、少し叶ったようであり、ドウコクの心がほんの少し満たされていた。
 そんなドウコクを見て、アクマロでさえも思わず叫ばずにはいられなかった。

「恐れ入りました……ッ! 外道……ッ!! まさに外道……ッ!! あんたさんは、やはり……本当の外道です……ッ!!」
「知ってるぜ」

 アクマロに向かって、外道シンケンレッドの烈火大斬刀とドウコクの昇竜抜山刀の一撃が同時に放たれた。そこに情はない。殺戮兵器二体を相手にしているようだった。
 シンケンジャーと外道の夢のコラボレーションとともに、アクマロの体が三つに割ける。更に、裂けた体に何度とないモウギュウバズーカが追い打ちをかけていた。不必要なオーバーキルはまさしく外道の所業。

「うがっ……!」

 アクマロが、体が三つに裂けていく自分の体を見つめる。裂けている部分にモウギュウバズーカが撃ち込まれ、今までに味わった事のない至上の痛みがアクマロを支配した。
 全身でそれらが爆発する。
 アクマロは自分の体を見つめ、ふと何かに気づいた。

「あぁ……そうか……この痛み……まさしく地獄の苦しみ……、これがこの世の地獄、至上の喜び……もっと感じたい……っ! もっと斬って、もっと撃ってください! ……」


655 : 外道合戦 ◆gry038wOvE :2014/06/06(金) 21:59:43 R0zMoLq20

 外道シンケンレッドが、それを言われて、撃つのをやめた。
 命令など受ける必要もなかった。
 そんな様子を見て、ドウコクがアクマロに言った。

「折角だ。平素外道の俺だが、今回は特別に攻撃をやめてやる。……昔の家臣がカワイソウだからな」

 アクマロが、そんな彼の様子に不満そうな顔で、手を伸ばしているのを見ると、外道シンケンレッドと血祭ドウコクは、全てに興味をなくしたように、アクマロを背にしてしまった。
 どうせアクマロはいずれ死ぬ。これ以上攻撃しなくても。それで終わりで良いのだ。

「く……ッ! 後生ですから撃ってください……! もっと我を甚振るのですっ! ……こんなに気持ち良い……地獄の苦しみを、死ぬ前にもっと感じたいのに……! それではこのままでは、苦しまずに死んでしまうでは……、……あ、……あぁっ……!」

 アクマロの体から電撃が走り、そのまま、二人の外道の背後でアクマロは爆発した。
 ……そして、彼はもう、地獄の苦しみを味わう事もなかった。







 二人の外道は、再び志葉屋敷を目指して歩きだした。
 外道シンケンレッドと血祭ドウコク──思わぬコンビが誕生するとともに、筋殻アクマロの二の目は撃破された。

「しかし、アクマロも飛んだ噛ませ犬だったな」

 ここに来て、パートナーにするには随分と意外な相手であるが、ドウコクは愛着を込めて話しかけた。返事はない。
 まあ、それはそれでいい。
 命令だけ聞けばそれで充分である。

「……」

 外道シンケンレッドは、それから何かを言う事はなかった。



──変身ロワイアル……第百八十五幕。まずはこれまで──

──状態表のあと、みんなで一緒に歌を唄おう!──



【2日目 未明】
【F-3 三途の池】

【血祭ドウコク@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、苛立ち、凄まじい殺意、胴体に刺し傷
[装備]:昇竜抜山刀@侍戦隊シンケンジャー、降竜蓋世刀@侍戦隊シンケンジャー、外道シンケンレッド
[道具]:なし
[思考]
基本:その時の気分で皆殺し
0:志葉の屋敷に向かう。
1:首輪を解除できる人間を捜す
2:加頭、マンプクを殺す
3:杏子や翔太郎なども後で殺す
4:嘆きの海(忘却の海レーテ)に対する疑問
[備考]
※第四十八幕以降からの参戦です。よって、水切れを起こしません。
※第三回放送後の制限解放によって、アクマロと自身の二の目の解放について聞きました。ただし、死ぬ気はないので特に気にしていません。
※外道シンケンレッドは総大将であるドウコクの命令を重視します。装備は烈火大斬刀とモウギュウバズーカで、外見等も「ゴセイジャーVSシンケンジャー」に出てくる物とほぼ同じです。これは丈瑠自身というわけではありませんが、はぐれ外道衆なので、二の目はありません。



【筋殻アクマロ(二の目)@侍戦隊シンケンジャー 死亡】


656 : ◆gry038wOvE :2014/06/06(金) 22:00:02 R0zMoLq20
以上、投下終了です。


657 : 名無しさん :2014/06/06(金) 22:25:26 E9akiJfU0
投下乙です
本当に驚きの展開じゃないですかー!ヤダー!
そしてブレない「みんなでうたをうたおう」...w


658 : 名無しさん :2014/06/06(金) 22:36:51 BVXtczgA0
と、殿っー!?
おどろきのてんかいでした

投下乙です

太夫を裏切った男は、夫ではなく見受けを約束した情人(『おっと』と読むことも)で、夫ではないです。
常連客です。

男が約束を破り、極普通に他の女と結婚したので
祝言当日に男と花嫁を殺害放火。
現代日本の常識だと男が悪い気がすが悪い気がするのですが、
当時の遊廓の常識からすると、男の遊び方は『裏切り』ではないので、過剰な報復を行った薄雪は外道に堕ちました。


659 : 名無しさん :2014/06/06(金) 22:39:08 BVXtczgA0
誤字多すぎましたすみません


660 : 名無しさん :2014/06/06(金) 22:46:42 sULDbdK60
投下乙です!
まさかこんな所で外道シンケンレッドが登場するとは!
で、アクマロはアクマロで何の為に生き返ったのだろう……


661 : 名無しさん :2014/06/07(土) 07:36:28 P5o/nTW60
投下乙です
ここにきて強力な家臣を手に入れるとは確かに驚きの展開だ

>>660
アクマロさんは体を張って外道シンケンレッドの強さを俺達に教えてくれただろ(適当)


662 : 名無しさん :2014/06/07(土) 12:05:18 uPkuN50kO
投下乙です。

再生怪人があっさり倒されるのはお約束!
ましてや、新キャラの初登場回ともなれば尚更!


663 : 名無しさん :2014/06/07(土) 21:44:02 jvP2Aw5Q0
投下乙です!
ドウコク+外道シンケンレッドとはこれまた厄介な組み合わせ・・・
実質、ラスボスと主人公最強形態が組んだようなものだしなぁ
また一波乱起こしてくれそう
そしてよかった、丈瑠ではないということは丈瑠の魂は安らかに眠れているのね


664 : 名無しさん :2014/06/07(土) 23:50:26 gZJUVGfI0
カイザーベリアル→ノアの力を借りたゼロも勝てない、ウルティメイトフォースゼロを瞬殺(ザギSDはジャンボット倒すのに結構時間をかけた)
ダークザギ→ウルトラマンノアと互角、ウルトラマンキングを倒す
血祭ドウコク→シンケンジャーの攻撃にビクともせず、咆哮一つでシンケンジャー全滅させる
外道シンケンレッド→モウギュウバズーカを片手で連射、ゴセイジャーやシンケンジャーが束になっても敵わない
究極の闇→ダグバと同等の力を得る
あかね→道着を使えて幹部クラスのドーパントになれてダークメフィストの力を持ってアークル吸収

この絶望感


665 : ◆gry038wOvE :2014/06/08(日) 15:35:05 LwseaOYY0
ただいまより投下します。


666 : Tusk of Darkness ◆gry038wOvE :2014/06/08(日) 15:35:43 LwseaOYY0



 定時放送の終わりとともに、レイジングハート・エクセリオンは「人」になった。
 今はバラゴが残した黒衣とペンダント──そして首輪がその少女の裸身を包んでいる。バラゴが残した物が、人化の時に体を包んだのである。
 それはいずれも、バラゴの形見と呼べる物だ。首輪は厄介であった。

 レイジングハートは、まず指先を動かし、地に落ちている薬を取った。手はちゃんと動いた。
 一歩、前に出て、銃を拾った。足はちゃんと動いた。
 ……剣、はなかっただろうか。あれは、気づけばどこかに消えてしまったらしい。

 人間の肉体というのを、レイジングハートは初めて経験する。
 娘溺泉なる泉の効能がはっきりと聞いているようだった。

「……」

 その後、言葉を発しようとしたが、一瞬、言葉を発するという行為に対する疑問と躊躇が邪魔をした。
 ……果たして、いつも通り話せるだろうか。人間は肺に空気を吸い込んで、声帯で呼気を調整し、舌を使って発音する。それは、レイジングハートの発声システムとは大きく違う。
 声の大小を調整する事はできるのだろうか。

「……あー、えー、うー、いー、えー、おー」

 まずは、母音が口から吐き出されていった。
 声は丁度、高町なのはが喋っていたのと大差はない程度である。
 普通に超えを発しようと思えば、だいたい声の大きさは統一されるのが人間らしい。
 確かに大小は存在するものの、ほとんどの人間の声は聞き取りやすい一定の音だった。

「なー、のー、はー」

 意図した音韻を発する事も問題はなかった。
 これでおおよそ会話はできるだろう。デバイスである時よりも肉体の運動はやや大きいだろうが、それでもやはり激しい運動には感じない。やはり全て基本運動のようだ。

「……いつき」

 声を発するのに慣れると、彼女は、既知の少女の名を呟いた。
 彼女は確かに死んでしまったらしい。
 なのはや流ノ介の犠牲の後、彼女はなんとか生き残った。その存在があり続けていたのは一つの希望だったと思えるのだが、死んでしまっては元も子もない。
 少女の死は残念であり、彼女を殺害した人間に対する怨念も湧いた。

「……」

 レイジングハートは、名残惜しいと感じつつも、思考を切り替える。いつきに対する申し訳なさを憂うのは後だ。
 まずは一度、自分の姿を見てみようと思った。どこへ行けば今の自分の姿が見られるだろうか。
 鏡になるものは、どこかにないだろうか。

 そう思って、レイジングハートは歩き出した。







 ──そして、しばらく経つと、レイジングハートの目の前には湖が広がっていた。案外近くに湖があったらしく、それが一つの鏡面になる。
 月明かりが丁度、水面に反射している。これを見ると、おおよそ自分が今どんな姿なのか確認できるだろう。
 ……レイジングハートは、湖に顔を覗かせた。全身像は見えないが、顔は確認できる。

「……なるほど」

 何とも言えなかった。小さな波が、レイジングハートに凝視をさせない。目元が綺麗に見えても、他がぼやけ、波に目元も飲まれる。顔のあらゆる所を見ようとしたが、完全にその顔を見る事はできなかった。


667 : Tusk of Darkness ◆gry038wOvE :2014/06/08(日) 15:36:10 LwseaOYY0
 ともかく、確かにそこには高町なのはやフェイト・テスタロッサのような「人間」の姿が映っていた。レイジングハートが普通の人間になったのはやはり間違いない。しかし、なのはやフェイトと同様の部分は、「人間」である事だけだった。
 やはり、顔のつくりは人それぞれだ。……美しい者もいれば、そうでない者もいる。自分の姿は、今までに見た誰とも違う。自分が美しいのか否かは、仮にも女性である彼女にはとても気になる所だったが、そこまでしっかり見られないのでは仕方ない。
 これでは、綺麗に見える時もあれば、歪んでも見える……あまり参考にはならなそうだ。

「市街まで足を運べばわかるでしょうか」

 そうしなければ、本当の顔は見えない。全身をちゃんとした鏡で映せば、もっと鮮明な自分が見られるはずだ。
 この水面だけでははっきりとはわからない。
 すぐに市街に向かい、参加者を探しながら自分の姿を確認しようと思った。

「……」

 だが、市街に移動する前に少し、止まった。
 この湖に対して、抑えられない興味が湧いたのである。ここに立っているだけで、ひんやりとした空気を感じる事ができる。すぐに、水面に、手を漬けてみた。
 すると、冷たい感触が手を伝った。

「冷たい……」

 思い返せば、なのはは温かいお湯に漬かるのが好きな少女だった。風呂、温泉、などなど……。レイジングハートも何度も同行している。その為、お湯の温かさを感じた事はあった。さて、人間の姿で感じるこの水はどうだろうか。
 彼女は、手をもっと深く沈めてみた。

「気持ちいい……」

 彼女は、それから、即座にバラゴの黒衣を脱いだ。それこそ抑えきれない衝動であった。
 一糸まとわぬ彼女は、すぐに全身を湖に漬けるべく飛び込んでいたのである。
 なのはも、いつも裸になって温泉や風呂に入る。それと同じく、全てを脱ぎ捨てる。
 彼女がそれを恥ずかしがる事はなかった。

「……」

 月と星の灯りの下で、森の湖で水浴びをする西洋的な美女……という絵は何ともロマンチックであった。もし男性がこの姿を見れば、襲うよりも見惚れてしまうに違いない。ただ、妖精を見たような不思議な気分に浸るだろう。
 レイジングハートは心地よい水の感触に己の体を委ねた。髪を梳いたり、体の節々を指でなぞったりすると、いっそう気持ちいい感触だ。水の中では少し動きにくいが、確かに全身で水を浴びるのは相当気持ちいい。
 残念ながら、体質上、お湯に入る事はできないが、それでも充分に人間らしい気持ちを感じる事ができた。

「……」

 ──この感覚を、死んだ人間はもう感じられない。

 そう思うと、いっそう、生きている「悪」への恨みが強まる。
 冴島鋼牙が、涼邑零が、ノーザが、筋殻アクマロが、まだ水浴びのできる体でいる事が、レイジングハートには理不尽に感じられた。
 ……それを思い出し、レイジングハートは湖から上がる。

「……そうか、これが」

 脱ぎ捨てた黒衣を見ると、アリシアに言われた通りの物が乗せられていた。いつの間にこうして置かれたのかわからない。ただ、レイジングハートが目をそらしていた隙に、こうして主催者が置いておいたのは間違いない。
 勿論、レイジングハートがこれから死者の無念を晴らすために戦う「悪」には殺し合いの主催者も入っている。これから戦う必要がある相手には違いないが、この姿で戦うのは心細い所がある。
 しばらくは「それ」を利用するしかなかった。

 長方形のデバイス──ガイアメモリ。
 これが今回のレイジングハートの唯一の支給品だ。

──DUMMY──


668 : Tusk of Darkness ◆gry038wOvE :2014/06/08(日) 15:36:27 LwseaOYY0
 レイジングハートは、それを躊躇なく使用した。どんな怪物になってしまうのか、少し恐怖も抱いたが、仕方がない。
 鹿目まどかは同じくガイアメモリを使って仮面ライダーのような姿になった。アリシアの場合は怪物に近かった。自分は一体どうなるのだろう。

 銀色の怪物が、一瞬だけ水面に映る。

 しかし。それはやはり、ほんの一瞬だった。レイジングハート自身も、一瞬幻滅したが、直後にはそれを見間違いか何かだと思ったに違いない。
 すぐ後には、レイジングハートの中にある無念の記憶が一人の少女の姿を形作っていたのだ──揺れる水面が、それを映している。
 頭の横で結った橙色の髪、白いバリアジャケット、その手に握られているのはかつての自分。幼いながらも美しい──レイジングハート・エクセリオンの永遠の相棒の戦う時の姿であった。

「……なのは」

 DUMMYの意味を思い出し、切なくなった。一瞬、彼女に会えたような気がして嬉しくなった心が、反動で悲しくなったのである。
 しかし、涙は出ない。ただ、不思議な寂しさが胸を締め付けていく。それは、比喩ではなく、本当に、何かが胸の中身を締め付けるような感覚が彼女を襲っていた。
 そう──これは確かに、細部まで高町なのはである。悲しいほどに、狂おしいほどに、高町なのはにそっくりであった。それは水面がいかに歪んでいても確かに判別できる。
 どうやら、このガイアメモリを使えば、何かのニセモノになれるらしい。
 ……良い夢を、思い出す事ができるらしい。

「やろう、レイジングハート」
『Yes , sir』

 思わず、なのはのように話しかけると、不思議な事にちゃんと手元の偽レイジングハートが答えた。自分が考えている通りに、この姿は応えてくれるようなのだ。なのはだけではなく、この手のレイジングハートさえも。
 これは高町なのはでありながら、高町なのはではない。
 これはレイジングハートでありながら、レイジングハートではない。
 この不思議な存在。

 果たして本当に戦えるのだろうか──。
 レイジングハートは、試しに少し魔法の力の再現度を試してみようと思った。

 記憶にある技は使えるのだろうか。
 真っ先に使おうとしたのは、この技であった。

「ディバインバスター!」
『Divine Buster』

 その技名を叫ぶなり、──爆音。
 兄弟な魔法力が、眼前の水面に荒波を作った。真っ直ぐに飛んでいくその光は、まさしく記憶通りのディバインバスターである。
 巨大な音が周囲一帯に鳴り響いた事だろう。
 まさか本当に出るとは思わず、レイジングハートはしばらく放心していた。
 肉体で感じる反動は意外と大きい。

「……どうやら、本当に……」

 レイジングハートは、自分の力を実感して、ぐっと顔に力を込める。
 彼女は次の姿に変身した。

「フェイト・T・ハラオウン」

 レイジングハートの姿は、フェイトの姿へと変わる。──レイジングハートの記憶上の彼女である。その手に持っているのは、バルディッシュ・アサルトであった。
 バルディッシュ・アサルトを少し振るった後、レイジングハートは右手を翳して叫ぶ。

「プラズマ、スマッシャー!」

 掌から発されるその一撃は、眼前の木をなぎ倒す。
 確かに、戦法もコピーできるらしく、殆どレイジングハートのイメージを使った戦いができるようだった。

「ユーノ・スクライア」

「龍崎駆音」


669 : Tusk of Darkness ◆gry038wOvE :2014/06/08(日) 15:36:47 LwseaOYY0

「池波流ノ介──シンケンブルー」

「明堂院いつき──キュアサンシャイン」

「本郷猛──仮面ライダー」

「アインハルト・ストラトス」

 その後も、あらゆる姿に変身して、レイジングハートはその力を試した。
 既にレイジングハートが知っている限りの技はほぼ再現できる。
 ダミーメモリの想定外の力に喜びつつも、レイジングハートは肩で息を始めた。
 いくら相手のいない戦いとはいえ、流石に連続でこれだけ力を使うと疲労も激しい。

「……はぁ……実験とはいえ、少し力を使いすぎましたか……」

 大きな負担を感じている体で、少し休む。
 アインハルトの姿のまま、彼女は少し空を見上げた。
 星々、月。──あらゆる物がレイジングハートを見下ろしてくる。
 それを漫喫していいわけではないのはわかる。……まだ、彼女は戦わなければならない。
 星すらもそれを急かしているように感じたので、レイジングハートは立ち上がった。

「……もう一度」

 ふと起き上がった後は、また変身する。
 アインハルトの姿から変身したのは、──やはり、レイジングハート・エクセリオンの相棒である高町なのはの姿だった。
 勿論、この姿が一番扱いやすいのは言うまでもない。
 技の把握度が高く、その威力も含めてほぼ完全に偽装できるのは、常に一緒に戦ってきたパートナーである彼女くらいのものだ。

 ただし……。

 今、彼女が変身したのは、レイジングハートが知っている高町なのはとは少し違っていた。
 確かに、それは「なのは」ではあるが、あえて、少し違った体格に変身したのだ。
 頭一つか、あるいは頭二つほど伸びた身長。少し成長した胸。いっそう長くなった橙色の髪。もう少し大人っぽくなった顔立ち。

 それは、レイジングハート・エクセリオンがイメージした、──「成人前後」の高町なのはなのであった。

 この姿になった理由は三つだ。

「ごめんなさい、マスター。私はあなたの姿を借ります」

 まず、高町なのはの姿をそのまま借りるのは気が引けた事だ。仮にも、これからレイジングハートは他人の命を奪うかもしれない。なのはは、優しい子である。十臓、アクマロ、ドウコク、ダークプリキュアといった存在も分かり合って助けようとした。たとえ悪人であっても、彼女の姿をそのまま借りて倒す気にはなれなかった。
 彼女の姿こそが最も扱いやすい事を考えれば、勿論彼女の姿で戦うしかないが、それでも……少しでも、彼女の姿で断罪を行うのを避けようとした結果の姿だった。非情な決意をしたその一片の良心である。

「より強く、早い姿で……」

 二つ目は、アインハルトに変身する事で、体格が大きければ大きいほど戦闘では有利である事を確かに実感した為だ。アインハルトは、変身すると大人になった。あれはおそらく、体格の大きさゆえに移動スピードや攻撃のヒットが長くなる為だ。
 これから、レイジングハートは市街地へ移動しようとしている。その際に、少しでも早く目的地に到着するには、こうして大きな体になった方が有利だ。なおかつ、年齢面でもベストなのは、成長が丁度止まりながらも、まだ体力が有り余る成人前後。

「何度でもこの思いを蘇らせます……」

 三つ目は、この姿がなのはの「未来の可能性」であった事を考えれば、レイジングハート自身、「敵がした事の重さ」を何度も思いだせるからだった。
 高町なのはは、本来こうして大人になり、……もしかすれば、結婚し、子供を産んで、優秀な魔導師として活躍する幸せな未来を築けたかもしれなかった。しかし、それは奪湧てしまった。
 それがレイジングハートの中で、怨念を膨れ上がらせるだろう。

「……やりましょう、なのは、駆音」


670 : 名無しさん :2014/06/08(日) 15:37:24 LwseaOYY0

 レイジングハートは、バラゴが纏っていた黒衣を首元で結ぶ。衣服を首元に巻き付けただけの下手くそなマフラーが出来上がった。魔戒剣やピストルを脇に挿す。

『……Go』

 手元の偽レイジングハートが、そう言う。
 偽なのはは、コクリと頷き、歩き出した。







 ……森の中。
 歩き出すレイジングハートの背を、見つめる影があった。
 木の裏でレイジングハートの背を追っている闇の存在であった。

「……成程」

 もし、レイジングハートが彼の姿を見れば驚いただろう。あえて彼は、そこで彼女と対面するのを避けた。
 ──なぜなら、バラゴが変身した暗黒騎士キバと全く同じ外見なのだから。
 いや、もっと言えば、それはこれまでレイジングハートが見て来た暗黒騎士キバ自身である。
 ここにいるのはバラゴが召喚していた鎧そのものであり、千のホラーを喰らい、幾人もの魔戒騎士を屠った怪物の本体なのだ。

 暗黒騎士キバの鎧。

 魔戒騎士たちの鎧は自我を持ち、暫く己を利用する魔戒騎士を見極める。
 この鎧は、バラゴの精神を食いつくし、邪悪な自我を持っている厄介な鎧であった。
 たとえ主が死んでも現世に再生し、何度でも魔戒騎士に挑むに違いない。
 ある意味、果てない怨霊のような戦士であった。
 怪物と言って、殆ど間違いないだろう。

「……」

 レイジングハートが、突如何かの気配に気づいて振り返ったが、その時にはキバは完全に木の影に体を隠してしまった。
 少し疑問に思いながらも、彼女はまた市街地に向かう為に歩き出した。
 暗黒騎士キバは、黄金騎士を倒す為に、彼女の後を追い始めた。

「……フン」

 ──あの場から消えた剣を携えて。



【2日目 未明】
【E-7 湖付近】

【レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:疲労(中)、魔力消費(中)、娘溺泉の力で人間化、首輪有(バラゴの物)、ダミーメモリの力で大人なのはに変身中、バラゴの黒衣を首に巻いている
[変身時装備]:偽レイジングハート・エクセリオン
[装備]:T2ダミーメモリ@仮面ライダーW
[道具]:バラゴのペンダント、ボチャードピストル(0/8)、顔を変容させる秘薬
[思考]
基本:悪を倒す。
0:市街地に向かう。
1:鋼牙、零、アクマロ、ノーザを倒す。
2:鏡を見て、ダミーメモリを使わなかった時の自分の姿を確認したい。
[備考]
※娘溺泉の力で女性の姿に変身しました。お湯をかけると元のデバイスの形に戻ります。
※ダミーメモリによって、レイジングハート自身が既知の人物や物体に変身し、能力を使用する事ができます。ただし、レイジングハート自身が知らない技は使用する事ができません。
※ダミーメモリの力で攻撃や防御を除く特殊能力はおそらく使えません(ユーノの回復等)。

【暗黒騎士キバの鎧@牙狼】
[状態]:健康
[装備]:黒炎剣
[道具]:なし
[思考]
基本:黄金騎士を殺す。
0:レイジングハート・エクセリオンを尾行する。


671 : ◆gry038wOvE :2014/06/08(日) 15:38:06 LwseaOYY0
以上、投下終了です。


672 : 名無しさん :2014/06/08(日) 16:19:07 aRm40toMO
投下乙です!
まさかレイハがなのはさんの姿になる上に、キバの鎧が現れるとは!
ヤバイことになりそうな予感。


673 : 名無しさん :2014/06/08(日) 19:57:19 gR5XT/AIO
投下乙です。

そういや、お湯かければ無力化できるのか。
ダミーの能力を考えると、大人なのははレイハの記憶に無いから、魔法使えない気がするがどうなるだろう。


674 : 名無しさん :2014/06/08(日) 21:52:44 j6.Sv//w0
投下乙です

外見のみ成長した姿でイメージしているだけで、能力は小学生なのはベースなのではないかしら?
とりあえず自然な流れで全裸っとくのがこのロワらしい展開だな
って思ってしまった


675 : 名無しさん :2014/06/09(月) 16:36:02 SmauWyRs0
ダミーはデスドーパントみたいなオリジナルな存在にも変身できて能力使えてたぞ


676 : 名無しさん :2014/06/09(月) 23:27:32 aHFZN2zw0
デスドーパントの死人返りはダミーが交代で化けてただけだから、能力はコピーできてなかったよ


677 : ◆gry038wOvE :2014/06/10(火) 17:44:25 rL5HF0lg0
>>676
一応、空中浮遊、消失が使われています。
死人還りのようにガイアメモリの効力を越えるような能力や、誰も使えないような能力が不可能なんじゃないかと。
どちらにせよ、「子供なのはに変身して使える能力」が、外見の変化だけで使えなくなるとは思えませんし、攻撃技は使えると思いますが。

あと、状態表に「※ダミーメモリの力で攻撃や防御を除く特殊能力はおそらく使えません(ユーノの回復等)。」と書きましたが、
ここは「※ダミーメモリの力で攻撃や防御を除く特殊能力が使えるは不明です(ユーノの回復等)。」に修正しようかと思います。
前者の書き方だと、後続の展開が縛られる可能性有なので。

前の話も外道シンケンレッドは一応wikiの方に状態表つけようかと思ってます。


678 : 名無しさん :2014/06/10(火) 18:53:33 8RCWkOFMO
もはや対主催に全く希望が見えない
どうすんだこれ


679 : 名無しさん :2014/06/10(火) 20:00:25 .bXBAWuIO
ヴィヴィオの記憶を見れば、何の問題も無いんだけどな。
実際に戦ってるから、かなり再現できるだろ。


680 : 名無しさん :2014/06/11(水) 00:05:19 byLXFQQI0
>>678
他のロワと違って残りの対主催は全員戦闘出来るからへーきへーき、ふんわか行こうぜふんわか
いざとなれば鋼牙さんの不明支給品が火を吹くさ


681 : 名無しさん :2014/06/11(水) 08:35:27 yfj2GWOI0
逆にこのくらい敵がいないと余裕で勝ってしまいそうな連中だよな


682 : 名無しさん :2014/06/11(水) 22:49:43 h1v5Z82QO
しかし本人死んだの序盤も序盤なのにこの終盤で他人に名前も姿も使われたのか…


683 : 名無しさん :2014/06/12(木) 11:18:39 DKp8C5Gs0
そういえば、結城は全アタッチメント入手したってあったが、流石にブラスターアームだけはなかったな……
もしあったらガドル殺れてたのかと言われたら難しかっただろうが。

……やっぱり、誰か右腕を失ったキャラが今後け継いだりするのか?


684 : 名無しさん :2014/06/12(木) 12:03:30 GOeOWcQ.0
姿借りてるのは他人ではないけどな


685 : 名無しさん :2014/06/12(木) 21:42:48 x2vyCouI0
呪泉郷制限解除ってことは、サバの出番か。
何気に複数の泉に浸かっているのだが
上書きでなく、パンスト太郎みたくパワーアップ合成されてたりしないかなー


686 : 名無しさん :2014/06/12(木) 22:49:47 OvuO/DhMO
らんまが男溺泉に入ったらフタナリに……


687 : ◆gry038wOvE :2014/06/13(金) 09:10:22 yhUQ/Wck0
投下します。


688 : 愛しのジュリエット ◆gry038wOvE :2014/06/13(金) 09:14:13 yhUQ/Wck0



 放送で呼ばれた四つの名前。
 そこに知っている名前はなかった。
 あかね自身、このうち三人と面識はあったが、名前は聞いていないのである。
 ただ、名前が減っている事実さえあれば充分だった。それを確かめていけば、いずれは人数が格段に減る。

 もう一つ、名前以上に重要なニュースとなるのは、首輪の解除の話題である。
 どうやら誰かの首輪が解除されたらしく、それに伴って禁止エリア制度がなくなった。
 あれがなくなるという事は、殺し合いもせずにこの島の中でしばらく暮らせてしまうという事だ。禁止エリアは、殺し合いにぼんやりとした期限を作り、それによって圧迫感・焦燥感が参加者を責め立てていき、時間が経つにつれ参加者の集団に狂いが生じさせる秀逸なルールである。
 それをあっさりと外してしまうという事は、そんな物がなくても殺し合いが円滑に進む措置があるからだと考えた。
 そう、例えば、残る参加者の多くが殺し合いに乗っていたり、願いを持っていたり……という事だ。

(……大丈夫、残りは十六人)

 既に五十人近い参加者が死亡し、あかねを除いて僅か十六人しか残っていないのだ。
 そのくらいならば、あらゆる力を使って全滅させる事もできる。
 こうしている間に死んでいる者もいるかもしれない。
 あかねとしては、さっさと殺し合ってもらって、漁夫の利を拾うような形で生き残ってもいいわけだ。確実に殺したいのは、あの金のベルトを持った機械だけである。
 時間も充分にあった。まずは体を休めよう。

「……道ちゃん、見張りお願い……」

 伝説の道着にそう言って、あかねはベッドの上に横になった。
 見張りをつけて、後は仮眠を取ろうとしているのだ。
 少し気絶していたとはいえ足りない、一日分の眠りをここで……。
 あかねは、すぐに意識を絶つ事ができた。身体的疲労が頂点に達していた証である。それこそ、気絶と変わらない。ただ、それはあと何時間でも眠り続ける事ができるほど深い眠りだった。







 以下。ほぼ夢(読み飛ばし・可)。



 舞台も花の某道場にて、
 いずれおとなる名門の
 両家にからむ祝宴を
 今また新たに負傷沙汰──



 豪華な城の自室にひとり。彼女の名はジュリエット。自分を捕らえ、自分を縛る「家」の中で、ただ……ベランダの影に身を溶かす。溶かそうとしても溶けきれないのが彼女の輝きである。この場面を見た事のある人、何となく聞いた事がある人は世界にたくさんいるだろう。
 世界で最も有名な悲劇のヒロインが、また、自身の代名詞的な台詞を言う。不幸なカップルの首を絞める「名前」を呪って。

「おお、ロミオ、あなたはどうしてロミオなの?」

 そんな誰に対する物でもない問いかけに、半世紀前の気障のイメージで、薔薇を咥えながら振り返るはロミオという男であった。豪奢で高貴なその姿。顔の周囲にきらきらと星が輝いているのが見える。やはり彼も美しい顔だ。
 ジュリエットは、たとえ、どんな障害が憚ったとしても結ばれたいと願うほど、ロミオに恋焦がれていた。ロミオの薄く微笑むような表情には、ジュリエットに対する優しさと気品にあふれた御心がそのまま現れている。


689 : 愛しのジュリエット ◆gry038wOvE :2014/06/13(金) 09:14:40 yhUQ/Wck0

「──それは、モモからうまれたからさ!」

 鉞担いで、ロミオは言う。自信に溢れたキリッとした表情。頭の金の輪は孫悟空の緊コ児、腕の模様は遠山の桜吹雪、足はまるでケンタウロスの四本足。全体を見渡すとわかる作品把握度の甘さ。ああ、あらゆる材料を寄せ集めたその姿はまるで暴君怪獣タイラント。

「……ねえ、ロミオ。台本は読んでくれた?」

 ロミオは、ジュリエットに向けて、蛇のように舌をちろっと出し、否定の笑みを浮かべた。
 なるほど、ロミオは台本を読んでいない。実を言えば、このロミオは自分の名前を覚えてすらいなかった。そもそも、この場面では、ロミオとジュリエットは会話をしない。あともう少し台詞を挟んでから、二人は愛を語らうのである。
 さて、いずれにせよ、ロミオが台本を読んでいないのでは話も進まない。
 ジュリエットはまるで戯曲のように大げさに地面に崩れ落ちた。両手をついて、しなやかに倒れ伏す様は気品ある。

「……まあいいわ、どうせ夢だもの! 夢なら何をしても自由よ! 台本を覚えずに舞台に立つのも自由! 開始五分でお芝居を破綻させるのも自由! 私がジュリエットを演ずる夢もまた、他人の自由に侵されていい! それが自由だもの!」

 自暴自棄になってジュリエットは、顔を上げてそう言った。
 それは誰に言い聞かせるでもなく、ジュリエットという少女が作中求めたであろう言葉の連続だった。役柄に入り込むために、彼女は自由を深く尊重しているのだ。

「そ、そんなことはないさー(棒)! これからぼくが、ほんとうのじゆうをみせてあげよう!(棒) じゆうというのは、なんでもきみのおもいどおりということさ!(棒) ほんとうの『ろみおとじゅりえっと』をえんじるのもまた、きみのじゆうのはずだよ!(棒) いや、えんじるべきさ!(棒)」

 台本を両手に握り、上から下へ目玉を動かしながら、必死にそこに書いてある台詞を吐き出していくロミオ。するとジュリエットは機嫌を治して立ち上がった。

「ロミオ! 本当のお芝居を取り戻してくれるの!?」
「お、おう……。さあ、行こう、ネバーランドへ! 鉞も、緊コ児も、桜吹雪も、四本足も、桃から生まれた出生の秘密さえも、今から行くオズの国で、大魔法使いオズに消してもらおうじゃないか!(棒)」
「一つの台詞の中で矛盾を作らないで! ああ、ネバーランドに行くべきか、オズの国に行くべきか、それが問題だわ! どちらに行こうかしら、どちらが真実なの、ねえ、ロミオ!?」

 そう言うと、草木まで踊り出す変なミュージカルが始まるが、面倒くさいので全部飛ばす。



 そのまま、ジュリエットはロミオに手を握られて、オズの国に飛んでいく事になった。ロミオにいつ飛行能力が備わったのかはわからないが、真実はオズの国だったようだ。
 空中にできた次元の裂け目のようなトンネルを越えると、ロミオは叫んだ。

「ここがオズの国だよ!(棒)」
「ロミオ! オズの国は一体どんな国なの!?」
「……ほらご覧、あそこにお菓子の家があるよ!(棒)」

 ロミオが指差した先には、お菓子の家が構えられている。オズの国が一体どんな国なのか──それについては、ジュリエットは答えが聞けなかった。些かファンタジックな家がいきなり迎えてくれるが、それもまたどこかで見た事があった。
 消すどころか増えていく物語の数に頭を悩ませながら、ジュリエットはとにかくその家に向かう。
 ロミオがクッキーでできたドアを前足で蹴破ると、その周辺の壁がぼろぼろに崩れ落ちた。材質は小麦粉や卵なのだから仕方がない。

「おのれ、何奴!」

 その家の中にいた男は、木刀を構えた。どうやら彼がこの家の主らしい。和装した男性がお菓子の家に住んでいる姿はシュールだが、彼がタウンワークを読んでいた事を考えれば、おそらくアルバイトでここに滞在していたのだろう。たまに、「何時間ここに座っているだけ」とかそういう怪しいアルバイトがある。
 とにかく、彼はお菓子の家を蹴破って入って来た男に、警戒しているのだろう。木刀を下す気配は無論なかった。
 しかし、彼はロミオを見るなり、直感的に、警戒とはもっと別の感情も抱いていた。

「……ほう、その桜吹雪。どうやら、遠山の金さんのようだな」

 男は、ロミオの正体に気づいて面白そうだった。遠山の金さんとは一度手合せしたいとでも思っていたのだろうか。どちらにせよ、既に三秒前に起きた出来事を忘れ去っているのは間違いない。


690 : 愛しのジュリエット ◆gry038wOvE :2014/06/13(金) 09:14:59 yhUQ/Wck0

「いや、俺はロミ男だ!」
「ロミオ? ふっふっふっ、笑わせる。その桜吹雪は遠山の金さんのものだ。そのナリでは到底、ロミオは演じられない。ロミオを演じたたくば、出直してくるのだな」
「だから、オズの大魔法使いに頼んで、俺を正しいロミオにしてもらうのさ!」

 中途半端に口調に素が混ざり始めたロミオが言うと、男は高笑いを始める。そして、木刀を何度か素振りして、戦いの前の準備体操を終えた。

「よくもまあ、ぬけぬけと! 俺が真実のロミオとなり、ジュリエットの唇を奪って見せよう!」

 男は、ロミオの眉間に向けてその先端を突き出す。
 受ければ一たまりもないであろう攻撃だったが、ロミオは何なく躱す。──男は、まさかロミオがこうも簡単に回避すると思っていなかったのだろう、視線以外はあらぬ方向に向かっていた。
 そして、次の瞬間には、男に向けて両手から気を放った。
 ロミオの必殺拳──

「猛虎高飛車!」
「何っ……!?」

 それをまともに受けた木刀男の体が遥か空の彼方へと飛んでいく。数百メートルは飛び、空に輝く恒星と同化する。
 ああ、なんと弱い。何のために出てきたのやら。まるで噛ませ犬。筋殻アクマロである。



 とにかく、話を進める為にジュリエットは大げさに、今、ここで起きている不思議な出来事を告げた。

「見て、ロミオ! 自分のその肩を!」
「ああっ! なんと、これは! 桜吹雪が消えているっ!?」

 見れば、ロミオの肩からは遠山の金さんの桜吹雪は消失していた。

「きっと、あの男に転移しているわ! つまり、あの人が遠山の金さんの役になったのよ! これから出てくる敵を倒せば、きっとロミオは本当のロミオの役に戻れるわ! それに、そうしてロミオがロミオに戻るなら、オズの魔法使いの要素もいらないわ! ここでこのお芝居はまた一つ、シェイクスピアに近づくのね!」
「なんだってー!」

 何故、ジュリエットがそこまで詳しく考察できたのかは不明である。多分テレパシー的な何かをビビューンと感じ取ったのだろう。それをバシャーンとかズシーンとかして、何かわかったのだ。そうでもなきゃ台本を読んでいるだけなんだろう。

 それから先、ロミオはロミオに戻るべく、旅を続ける事になった。
 ロミオが敵を倒すたびに、ロミオの体がロミオに近づいていくのならば、一刻も早く全ての敵を倒して体にある幾つもの物語を消さねばならない。それはジュリエットの為だ。
 しかし、その時、誰かがロミオとジュリエットを引き留めた。

「待て、ロミオ。私を倒し忘れているぞ?」
「ん? 誰だ?」

 そこを発とうとした時に、その声は、体の周囲全体から響いてくるように耳朶を打った。壁も、床も、天井も。見渡しても、明確にどこから聞こえているのか、彼らにはさっぱり検討もつかなかった。
 挙動不審にきょろきょろと頭を動かしていると、次に声は自分の正体を明かした。

「私だ、お菓子の家だ。このお菓子の家は、耐震構造に欠陥があるのだ。……いや、全ての災害に弱いと言っていい。このまま地震や雨風に打たれて食べられなくなってしまって、腐るように死んでいくなら、いっそ君たちが私を倒して食べてくれ」

 声の主は、二人を囲んでいるお菓子の家だったのである。なるほど、このお菓子の家は意思を持っていたのか。
 ロミオは、「そうか」とそれに納得しつつも少し悩んだ。

「しかし、ただ食べてしまうのも忍びないな」

 何か良い案はないか、とロミオは思案を巡らせる。
 すると、ジュリエットは提案した。


691 : 愛しのジュリエット ◆gry038wOvE :2014/06/13(金) 09:15:22 yhUQ/Wck0

「……そうだ、お菓子の家さん。あなたは、桃になりたくない?」
「なりたいっ! 昔からフルーツになるのが夢だったのだ! 特に桃だ! 桃が良いっ!」

 ジュリエットの提案に、お菓子の家は間髪入れずに飛びついた。ジュリエット自身、自分が何を言っているのかわからないレベルであった。
 とにかく、ジュリエットがそう言うと、ロミオが追従するようにして、台本を広げながら言う。

「そうか、それなら、桃から生まれたという僕の出生をあげよう。そうすれば、あなたは桃になる。桃からは絶対にお菓子は生まれない。……さっきまで僕の母だったあの桃は、今この時から、あなたの母だ!」
「はて、それは嬉しいが、父は一体どこに?」
「父は生まれてすぐに亡くなった。父は人間だったと聞いている。だから、僕は人なのだ。人間と桃のハーフが僕なんだ」
「人と桃とが子供を作れるのか?」
「やろうと思えばできるのさ」

 ロミオは自信に満ちた言葉で言った。

「そうなのかっっ!!!! ……しかし、君。ロミオになるには、父モンタギューも要るはずだろう。……そうだ! 丁度、最近良いモンタギューをもらってきたのだった。人はお歳暮にお菓子を贈るが、お菓子はお歳暮に人を贈るのだ。確か、今年は叔母の家からモンタギューが贈られてきたはずだ。どれどれ……」
「あなたのモンタギューと、僕の母を交換するのですか」
「その通りだ。君にモンタギューをやろう。そして、私は今日から桃だ。桃の子だ」

 そうして、自分の出生を喪い、モンタギューを得た事で、ロミオはいっそうロミオに近づいた。


〜〜〜〜〜


 それからまた旅は続いた。

「この奇妙な泉は何かしら?」
「そうだ、鉞を捨ててしまおう。泉は汚れるが、ロミオになるという目的の為だ。仕方ない」

 ロミオは、そう言って泉に鉞をポイ捨てした。
 すると、驚くべき事に泉の精が現れた。泉の精は全裸の美しい女だった。しかし、全身はキラキラとした光に纏われて何も見えない。顔さえ見えない。何故美しいかわかるのかというと、台本に美女と書いてあるからである。

「おや、鉞を落としましたね。あなたが落としたのは、この金の鉞ですか? それとも、銀の鉞ですか?」
「俺は何も落としてねえよ」

 ロミオは、もはや台本を見ていない。間違えて鉞と一緒に捨ててしまったらしい。

「そうですか。あなたは嘘つきです」
「俺がやったっていう証拠でもあるのかよ」
「嘘つきには罰を与えます。金の鉞も、銀の鉞も、あなたが落とした鉞も全て、上野駅の忘れ物取扱いセンターに届けます。数日以内に取りに行かねば全て破棄されます。勿論、電車賃は自己負担です……これに懲りたのなら、二度と嘘など吐かない事です」

 そう言って、泉の精が消えていくと、ロミオは「しめた」と思った。
 これで、ロミオの持っていた鉞は消え、残るは頭の輪っかと四本足だけになった。
 ロミオとジュリエットは泉を後にする。


 その後も何とかなるだろう、多分。






692 : 愛しのジュリエット ◆gry038wOvE :2014/06/13(金) 09:15:50 yhUQ/Wck0



「うう……変な夢見た……」

 そこはかとない頭痛に、あかねは目を覚ました。
 時間はどれだけ経過しただろうか。夢見心地のため、快眠とは言い難い。
 何だか随分ふざけた夢を見た気がする。それでも、あかねにとっては何かの憧れを示しているようで、その夢の続きのために二度寝したいとさえ思った。
 実際、二度寝をしようとしていたはずだったが、周りを見てみると、強制的に目が覚めた。

「!?」

 周りが随分と派手に散らかっている。あかねはベッドから引きずりおろされ、部屋の中が荒らされていた。……いや、ベッドそのものがボロボロな状態だ。
 真っ二つに折れたベッドは、もう二度とあかねが寝られないであろう状態になっている。
 見れば、クローゼットも正面突きをされて穴が開き、床も煙を吹いている。
 どうしてこんな事に……? 考えられる答えは一つしかない。


 ──誰かに侵入され、部屋が荒らされた。


 そう、何者かがこの部屋に立ち入り、部屋を荒らした。
 あかねの命を奪わなかった理由は定かではない。あかねの所持品に何か必要な物があったのだろうか。
 はて、一体誰が、どんな目的でこの部屋に侵入し、これだけ派手に荒らしたのだろう。

「そうだ、道ちゃん……!」

 あかねは急いで、伝説の道着を探しに向かった。
 まずは自分の部屋を探す。部屋はかなり荒らされているが、ドアなどは壊されてはいない。
 バスルームを見ると、伝説の道着はそこにいた。空っぽの風呂の中で体を縮めながら、あかねを見て震えていた。とにかく、伝説の道着は無事だったので、その点は安心する。
 あかねは、伝説の道着に事情を訊く事にした。

「道ちゃんは無事ね。でも、部屋が荒らされていた……。もしかして、ダグバの仲間の仕業……!?」

 あかねは怖い表情で訊いた。
 伝説の道着は、あまりの迫力に、この惨状が何故起きたのか、説明する勇気が出ず、コクコクと頷いた。
 あかねが時計を見ると、時間は3時50分あたり。
 だいたい4時間睡眠が取れたという事でいいだろう。あまりちゃんと眠れなかったが、まあ何とか頑張りが効く範囲だ。あとは、そこいらでコーヒーでも飲めばまたあと少しは頑張れる。
 徹夜をした事だって、これまでには珍しくない。

「……許せない。絶対倒してやるわ!」

 燃えるあかねは知らない。
 この惨状が、あかね自身のあまりに酷すぎる寝相によって起きた事に。

 これまでも、日常の中で自分自身の寝相で多少の被害は出ていたが、彼女はそれを多少は不思議に思っていたかもしれない。大抵は「少し部屋が荒れている」という程度しか思わなかっただろう。
 しかし、この時は、今までに例を見ないほどに破壊され、到底一人の寝相が起こした現象には見えなかった。睡眠状態でもここまで派手に暴れた事は、あかねも今までにない。
 それは、つまり……。

 彼女自身の力が、彼女自身の想像以上に進化していってしまったという事であった。


693 : 愛しのジュリエット ◆gry038wOvE :2014/06/13(金) 09:16:11 yhUQ/Wck0



【2日目 黎明】
【B-7 ホテル】

【天道あかね@らんま1/2】
[状態]:アマダム吸収、メフィストの闇を継承、肉体内部に吐血する程のダメージ(回復中)、ダメージ(極大・回復中)、疲労(極大)、精神的疲労(極大)、胸骨骨折(回復中)、 とても強い後悔と悲しみ、ガイアメモリによる精神汚染(進行中)、自己矛盾による思考の差し替え
[装備]:伝説の道着@らんま1/2、T2ナスカメモリ@仮面ライダーW、T2バイオレンスメモリ@仮面ライダーW、二つに折れた裏正@侍戦隊シンケンジャー、ダークエボルバー@ウルトラマンネクサス、プロトタイプアークル@小説 仮面ライダークウガ
[道具]:支給品一式×4(あかね、溝呂木、一条、速水)、首輪×7(シャンプー、ゴオマ、まどか、なのは、流ノ介、本郷、ノーザ)、女嫌香アップリケ@らんま1/2、斎田リコの絵(グシャグシャに丸められてます)@ウルトラマンネクサス、拡声器、双眼鏡、インロウマル&スーパーディスク@侍戦隊シンケンジャー、紀州特産の梅干し@超光戦士シャンゼリオン、ムカデのキーホルダー@超光戦士シャンゼリオン、滝和也のライダースーツ@仮面ライダーSPIRITS、『長いお別れ』@仮面ライダーW、ランダム支給品1〜2(溝呂木1〜2)
[思考]
基本:"東風先生達との日常を守る”ために”機械を破壊し”、ゲームに優勝する
0:部屋が荒らされた……?
1:ガドルを倒す。
2:ダグバが死んだ……。
3:ネクサスの力……
[備考]
※参戦時期は37巻で呪泉郷へ訪れるよりは前、少なくとも伝説の道着絡みの話終了後(32巻終了後)以降です。
※伝説の道着を着た上でドーパント、メフィスト、クウガに変身した場合、潜在能力を引き出された状態となっています。また、伝説の道着を解除した場合、全裸になります。
また同時にドーパント変身による肉体にかかる負担は最小限に抑える事が出来ます。但し、レベル3(Rナスカ)並のパワーによってかかる負荷は抑えきれません。
※Rナスカへの変身により肉体内部に致命的なダメージを受けています。伝説の道着無しでのドーパントへの変身、また道着ありであっても長時間のRナスカへの変身は命に関わります。
※ガイアメモリでの変身によって自我を失う事にも気づきました。
※第二回放送を聞き逃しています。 但し、バルディッシュのお陰で禁止エリアは把握できました。
※バルディッシュが明確に機能している事に気付いていません。
※殺害した一文字が機械の身体であった事から、強い混乱とともに、周囲の人間が全て機械なのではないかと思い始めています。メモリの毒素によるものという可能性も高いです。
※黒岩が自力でメフィストの闇を振り払った事で、石堀に戻った分以外の余剰の闇があかねに流れ込みメフィストを継承しました(姿は不明)。今後ファウストに変身出来るかは不明です。
 但し、これは本来起こりえないイレギュラーの為、メフィストの力がどれだけ使えるかは不明です。なお、ウルトラマンネクサスの光への執着心も生じました。
※二号との戦い〜メフィスト戦の記憶が欠落しています。その為、その間の出来事を把握していません。但し、黒岩に指摘された(あかね自身が『機械』そのものである事)だけは薄々記憶しています。
※様々な要因から乱馬や良牙の事を思考しない様になっています。但し記憶を失っているわけではないので、何かの切欠で思考する事になるでしょう。
※ガミオのことをガドルだと思い込んでいます。
※プロトタイプアークルを吸収したため仮面ライダークウガ・プロトタイプへの変身が可能になりました。
※自分の部屋が何者かに荒らされていると勘違いしています。おそらくガドルやガミオだと推定しています。


694 : ◆gry038wOvE :2014/06/13(金) 09:16:28 yhUQ/Wck0
以上、投下終了です。


695 : 名無しさん :2014/06/13(金) 10:33:27 2zR4H2mA0
投下乙です
あかねか〜、きっと鬱展開なんだろうな〜
と思っていたがそんな事はなかったぜ!


696 : 名無しさん :2014/06/13(金) 11:51:58 iRD361hkO
投下乙です!
アクマロは死んでからも噛ませにされるのかww


697 : 名無しさん :2014/06/13(金) 13:02:31 7AHwbYmAO
投下乙です。

寝てるだけで、部屋が荒れる。
順調に人間離れが進んでるな。


698 : 名無しさん :2014/06/13(金) 18:39:23 aI1jdgYA0
投下乙
なんてカオスな夢だ…w


699 : 名無しさん :2014/06/14(土) 17:58:44 V8MdPo9c0
投下乙です!
あかねは放送を超えてからどうするだろうと思ったら、まさかこんな夢を見るなんてw
その一方で、彼女はどんどん人間ではなくなっていくのが切ないです……


700 : 名無しさん :2014/06/15(日) 19:17:03 MnedBEHQ0
投下乙です!
あかね・・・
寝相だけでここまで被害を齎すとなると、どんどん人間から離れて言ってるなぁ・・・
行く先が心配だ


701 : ◆gry038wOvE :2014/06/17(火) 14:15:15 cqazOH6I0
それじゃあ投下します。


702 : ◆gry038wOvE :2014/06/17(火) 14:16:20 cqazOH6I0



 日付が切り替わり、数分に渡る放送が終了すると、警察署にいる集団は全員息をついていた。放送では、桃園ラブや涼邑零、結城丈二に石堀光彦など、少なくとも面識のある人間は呼ばれていない。呼ばれたのは、ここにいる全員が死亡を知っている明堂院いつき、ダークプリキュア、一条薫と、面識のない黒岩省吾の四名。
 勿論、それで安心したわけではない。花咲つぼみなどは、交流が深かった人物がここに来て三人呼ばれている。一応、半分聞き流すようには務めたが、堪え切れない何かが目の下を圧迫し、唇を噛みしめさせた。実際に人が死んでいる中でそう安易にほっとする事もできまい。
 そして、いつものように、彼らはその名前に黙祷する。

 放送内容は一応、フィリップが全て記録している。ここにいる彼らは、その会話の節々を掴みとって、そこから考察するにも充分な情報量を有していた。
 彼らの団体名は、ガイアセイバーズ。
 もはや、それはこの殺し合いの勢力図において、既に最強勢力となっているであろう事は間違いない。そこにいるのは、一人残らず死線を潜り抜けた戦士であり、主催に刃向っていく覚悟を持っている。──そして、情報面においても、殆ど彼らの手にあった。
 問題を敢えて言うならば、それは彼らが決して冷徹ではない……という一点だろう。
 ここにいる仲間が一人でも脱落する事を、彼らは許さない。仲間の危険に庇い合い、それが却って仇となる事が唯一の不安でもあった。

「……ドブライ、それに……あのお方、か」

 左翔太郎はため息交じりに呟いた。
 ランボスなる男の口から出た言葉、「あのお方」。それが彼らの大元であるこの殺し合いの主催者を示しているのは、殆ど間違いないと言っていいだろう。ワルダスターやドブライ、ランボスに心当たりのある人間はここにはおらず、フィリップの検索にも引っかかる事はなかった。
 主催陣営の組織力が高そうなのは言うまでもなく、その「あのお方」の存在がかなり遠く見えた。ここにいる人間だけでは届くかどうか……。
 ただでさえ、風都のライダーだけでは敵わない財団Xがこの殺し合いに支援しているらしく、その関係の不安も決して小さくはない。

『敵は多いな。一体全体、どうしてそれだけの集団が揃ってるんだか』
「そうまでして奴らに一体どんな得があるのか、少し気がかりだ」

 ザルバと鋼牙が言う。──主催者の目的が、ただ殺し合いを楽しむだけではなさそうなのは、だんだんと見え始めてきた。
 やたらと手が込んでいるだけでなく、関わっている人間が複数いる。あらゆる組織やあらゆる裏世界に詳しく、世界に与える影響が多大な人物さえも容易にここに連れて来られる人物、だ。
 ただ、まずはその巨悪の輪郭を知る事よりも、先にしなければならない事があった。
 フィリップは、この空間に無音の時間が出来たのを見計らって、口を開いた。

「……さて。僕と沖さんは準備をしよう。翔太郎以外は、順番が来るまで、少し休んでいてくれ」
「……始めるか」

 フィリップ、沖の言葉とともに、ここにいる人間の眼差しが、いっそう鋭くなった。
 これから、生か死か──その緊張の時間が始まる。
 当初より、放送終了後を目安に予定していた首輪解除だ。先ほど放送を伝えた首輪が、これから、技術者の手でただのスクラップに変わる。これが結城丈二と涼邑零によって行われた結果が、先ほど放送でも言われた通りの「禁止エリアがない」という事態であった。勿論、それは首輪の解除をしていない人間ばかりがひたすら不利になる可能性が非常に高いからだろう。
 とはいえ、既存の禁止エリアは解除されたわけではない。成功すれば、首輪をつけているガドルやあかね等のマーダーよりも、いっそう有利になり、主催のもとへ行くにも縛る力がない状態になるはずだ。
 やはり、首輪を解除する事自体は参加者にとって有益な部分が大きいと推測できた。

「翔太郎、こっちの準備は整っている。君の準備はどうだい?」
「大丈夫だ。……俺の前に、実験台もあんだろ?」

 フィリップが頷いた。つぼみから貰った首輪がちゃんとある。
 すると、フィリップは何も言わずに背中を向けて、会議室を出て行った。翔太郎、一也がついていった。
 解除は、一応別室で行われる事になっている。この場でもし、失敗しようものなら、対象者の首が吹き飛び、血が散乱する。トラウマが他の人間に残るのは言うまでもない。なるべく、一目につかないに越した事はないはずだ。


703 : 大いなる眠り(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/17(火) 14:16:42 cqazOH6I0
 そんな配慮の有無に関わらず、ここに残された人間は少しの不安を心に宿しながら、その後ろ姿を見つめている。根拠もなく、死神のビジョンが見えた者もいるだろう。こういう時、楽観的な気分が不安に勝る事はなかった。

「──いよいよ、首輪解除か」

 孤門は、果たしてどんな気持ちを抱えているかわからないが、そう呟いた。







「さて」

 フィリップと一也の二人は、研究室に来ていた。
 設備の充実度は高く、根っからの科学好きならば居心地も良いだろう。一也の眼には、微かにでも恍惚としかねない表情の片鱗がある。
 勿論、不謹慎であるゆえにそれは必死で抑え込まれていたが、フィリップの目にはわかった。──もしかすれば、自分も同じような瞳をしているのかもしれない。それこそ、鏡でも見ない限りわからないが。

「まずはつぼみちゃんから貰った首輪から行くよ」

 まだ一度も首輪の解除を行っていないフィリップが、このサンプルを使う事になるのはほぼ必然的な流れであった。ここで失敗するのも許されない。
 万が一、このサンプルの首輪が爆破しようものならば、翔太郎も安心できず、フィリップや一也も将来的に首輪解除を成功させる事を想像できないだろう。
 フィリップは、首輪の窪みにメスを入れた。
 そのまま、外周を這わせるように一周するまで、殆ど無音の時間が過ぎた。

「──」

 首輪のカバーが外れる。
 すると、内蔵されている機械が露出した。──フィリップは初めてそれを目にする事になったが、それが図面通りであるのを確認してほっとする。
 さて、頭に入っているつもりでいるが、些細な間違いが起きては困るので、図面にもう一度目をやる事にした。これがダミー、これが一番最初に切る線──と。
 こうして見てみると、案外、図面で見た時ほど複雑な構造ではないような気がしてきた。
 むしろ、物足りないとさえ感じる。
 前に首輪を一つ爆破させて消し去った一也も、図面を見ながら実物を確認すると、すぐにその単純さに気づく事になった。

「……なるほど」

 情報量が格段に増えた事により、一也の胸から空気が抜けていくような安心が確かめられた。これが手順通りで爆発しなければ、後は安心である。
 これを問題にしていた一也の方も、このまま行けば解除は難しくなさそうだ。
 実際、これから三分で首輪は分解され、機能停止状態になった。

「終わってみると、案外簡単だね」
「ほんとかよ。これがたまたまって事はないよな……」
「科学には犠牲がつきものだよ、翔太郎」
「……」
「冗談だ。気にしないでくれ」

 フィリップがジョークを挟んだのは、実際ある程度の余裕があると思ったからである。
 何せ、二分も余裕がある状態でクリアできたのだ。人体に付属した状態だと勿論、もう少し時間がかかるが、それにはおそらく二分のロスタイムは出ないだろう。
 危機的な状況と呼ぶにも、一歩手前の状態だ。首輪が一歩間違えば危険な力を持っているのは確かだが、ひとたびその構造を解き明かしてしまえば、もはや謎はなく、想像以上に気楽な気持ちで対処できる相手になる。
 ただ、勿論油断ができるほど気を抜く予定もない。そこは良い塩梅を測って行うつもりだ。

「沖さん、あなたがやりますか?」

 フィリップは隣の一也に訊いた。──一也が見ているだけ、というのもどうかと思ったのである。
 しかし、一也は答えた。

「相棒である君に任せた方がいい。俺がやっても仕方ないさ」


704 : 大いなる眠り(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/17(火) 14:16:59 cqazOH6I0
「……そうですか」
「間違っても、油断はするなよ」
「わかっています」
「それなら良い。もう一度、解除手順をおさらいしてから取り掛かる。──始めよう、フィリップくん」

 三人の仮面ライダーは、少し表情を強張らせた。
 戦闘能力だけではなく、知力と忍耐、そしてこういう時に真っ先に首輪解除を行わされるのだから、仮面ライダーというのも楽ではない。







 会議室には、殆どの参加者が残っていた。孤門一輝に始まり、冴島鋼牙、響良牙、佐倉杏子、蒼乃美希、高町ヴィヴィオである。花咲つぼみは、ただ一人、所用で席をはずしていた。
 つぼみは、別の部屋で一人、着替えている。女の子がいつまでも黒タイツというのも変な話で、乾いたのなら元の私服に戻すべきである。着替えが乾いたのなら、そちらに着替えた方がいい。
 四名不在の会議室内は、実際はもう寝室といっていい状態だ。机は端に寄せられて、ありあわせで作った「ベッド」の上に女子が座り、机や椅子に男や杏子が座するような構図が自然と決められている。

「ふぁぁぁ〜〜〜」

 この大きな欠伸の主はヴィヴィオであった。とはいえ、他の連中も彼女と同じような大あくびをしてもおかしくはない。皆、憔悴状態といっていい。
 ほぼ全員がかなり重大な眠気に襲われているような状況である。一日歩いてばかりで、なおかつそれが、実際に0時から次の0時までの24時間だというのだから、疲れない方がおかしいくらいだ。
 特に問題なのは、欠伸の直後には目をぱちくりさせながら、ウトウト夢を見始めているヴィヴィオだろうか。年齢的にも最年少。これは仕方がない。
 座ってはいるのはおそらく寝ずに頑張ろうとしている証だろう。しかし、それでも明らかに彼女は眠りこけていた。

「眠いな」

 ただ、この殺し合いで眠気を感じ始めている人間共通の話だが、眠気が出始めているという事自体は、決して悪い事ではない。自分の命の危険が迫っている状況下、眠れるという事はそれだけ安心できる状況が確保できているという事だ。
 あるいは、人の死があまりにも身近に起こりすぎて、命の感覚が麻痺し、睡眠欲が生存の欲に勝っている状態とも考えられるが、神の視点からネタ晴らししておくと、あくまでそういうわけではなかった。
 確かに、ヴィヴィオをはじめ、そこにいる人たちにあるのは、果てしない睡眠欲ではなく安心感であった。
 一日、共に過ごした仲間が何人かいる。そんな人間たちとの、深い絆と信頼感。それが、友や家族を亡くして開いた胸の穴を埋めてくれるようだったのだ。

「まだ眠れないのかしら……」

 眠れない人間はまだいるが、その理由はひとつ。
 また、次に首輪を解除するのが自分かもしれないからだ。どうせ十分程度しか眠れない。それなら、いっそ眠らずに首輪の解除を待って眠った方がよさそうだ。
 美希は少し、この睡眠不足でストレスを抱え始めている。眠りたいのに眠れないこの微妙な苦しさに、頭の中がモヤモヤとし始めていた。
 彼女は烏の鳴かぬ日はあっても、夜更かしだけはしない少女だった。

「夜更かしは美容の天敵……という事で、なるべく早く眠りたいんだけど」
「美容ねぇ。そんなの考えた事もねえな」

 口を挟んだのは杏子であった。
 テーブルの上に座り込んでお菓子をもぞもぞと食べている。彼女は別に、このマットレスの上で眠ろうという気はないようだった。首輪解除が上手く行くか──という、心が抱えている若干の不安を、食欲を満たす事で何とか奥に押し込めようとしているようでもあった。
 そんな内心など露知らず、美希は食い散らかす杏子におせっかいな口を挟む。

「……ちなみに。夜8時以降に間食を取ると太るわよ」
「うるせえなっ!」
「元からちょっと顔が大きいけど」
「更にうるせえっ! それならお前も太れ」


705 : 大いなる眠り(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/17(火) 14:19:19 cqazOH6I0

 杏子は椅子代わりのテーブルから、美希の元までちょっと飛んで、手に持っていた麩菓子を美希の口に強引に押し込もうとした。突然、杏子に近寄られると、美希は布団の上にたおれた。慌てて、適当に手を出して杏子を振り払おうとする。
 ……が、必死の抵抗も虚しく、杏子の食べかけの麩菓子がそのまま美希の口に押し込まれた。

「もがが……!」
「うまいか? オラオラ」
「……息できないじゃないの!」

 そして、美希が決死の覚悟で上半身を起こし抵抗すると、美希の口から一斉に吐き出された吐息は麩菓子の中の小さな粉を舞わせた。それすら勿体ないと思ったが、けしかけたのが杏子自身である以上、何も言えない。
 美希には別に食べ物を粗末にする意図がないのは明白だ。

「……二人とも、元気だね。ちょっとだけでも寝たら?」

 孤門が横からジト目で言った。流石に彼も眠たいらしく、彼女らの対処が面倒らしい。
 孤門自身、良牙とあまり仲がよろしくない(孤門自体は良牙の事を嫌いというわけではないが、どうも乱馬や良牙のような人間に少し嫌われやすいところがある)ので、この手の問題で肩身が狭くなるのも、孤門が止めなくなった理由の一つだろう。

「どうせすぐに呼ばれると思うとな……眠ればいいのか、起きてりゃいいのか……」

 良牙は、夜風にあたるように窓を半開きにして、缶コーヒーを飲みながら黄昏れていた。誰にも目を合わせず、独り言つように放たれた言葉。
 ちなみに、この窓は、もともと全開にしていたが、入ってくる風があまりにも寒すぎて非難囂々だったため、ほんの少しだけ開ける事にしたらしい。
 恰好をつけているように見えるが、どうせいずれボロが出るのはわかりきっている。

 そんなボロを出す羽目になるのは、次の瞬間、会議室に向けて駆けてくる足音が聞こえた時──時間にして、十五秒後だった。

「──皆さん、大変です!」

 花咲つぼみが少し慌てて会議室に入ってきたのである。慌ててはいるが、ドアを開ける音は小さく、彼女なりに気を使っているのはよくわかる。

 その時に気づいた事を報告するために、デイパックを開けると、そこから出てきたのは全く、彼女にとっても意外な物だった。

「どうした、つぼみ」
「……私の支給品が、豚さんになりました!」
「ぶきっ」

 良牙がそれを見て、缶コーヒーを思いっきり噴き出した。プロレスラーがよくやる「毒霧」の如く噴出されたコーヒーは、窓を汚し、窓の外の道路に小雨のように落ちていく。
 良牙は咽て咳をしながら、つぼみが持ってきた豚を見た。

「支給品が、豚に?」

 一同が首を傾げる。あまりにも不可解な現象だ。

「んなわけねーだろ」
「確かに豚だけど……」

 つぼみの抱える豚を見て、どうにも信用し難いものを見ているように、微妙な反応が帰って来た。怪物に変身する人間の方が遥かに現実味がないが、もはや全員、そこら辺の感覚は麻痺しているのだろう。
 物体が豚になるという現象の方が遥かにありえない出来事に思えるのだ。

「お……おい」

 良牙ただ一人は、その豚に思い当たる節があった。
 良牙がよく知っている黒い子豚にそっくりだ。
 まあ、確かに良牙自身があまり深くその外見を知っているわけではないが、それを初めて見た時のインパクトは忘れられない。──何故なら、それは良牙が変身した子豚と全く同じだからだ。

「……おれじゃねえか! どうしてこんな所におれがっ!?」
「良牙さんじゃありません!」


706 : 大いなる眠り(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/17(火) 14:19:40 cqazOH6I0
「じゃあ、何なんだ!?」
「デイパックを確認したら、支給品のサバがなくなっていました。つまりこれはサバさんの成れの果てです」
「サバ……? じゃねえ! これはどう見ても……ブタだ!」

 混乱して、怒鳴り声に近い会話が始まる。良牙の喉が、気管支に詰まった缶コーヒーのせいで、少し声が出しにくくなっているせいだろうか。良牙の声は、無理して大声を出しているようだった。
 周囲が怪訝そうに二人を見守る。
 つぼみは、何故自分の支給品が鯖になっているのかを説明する事にした。

「……実は、良牙さんや一条さんと呪泉郷に行った時に、かくかくしかじかで」

 要するに、これは彼らと呪泉郷に行った時に、鯖を浸した結果として生まれた生命体であったという話である。第三回放送よりも前の話──一条薫が生きていた時の事であった。
 魚類を哺乳類に変えるほどの力があるあたり、やはりあの泉には科学で解明できない呪いがかけられているのだと、つぼみは話しながら実感していく。自分の言っている事がいかに支離滅裂で伝わりづらい事なのかも、周囲の反応とともにわかり始めた。
 とにかく、泉の能力をよく知っている良牙だけは、疑う余地もなくそれを聞き終えた。

「そうか……くそっ! どうしてこんなに豚に縁があるんだ……おれは……っ!」

 良牙は折角、体質の改善で忘れ去りそうになった豚の事を思い出してしまう。
 あろう事か、鯖を浸した泉が、良牙が落ちた黒豚溺泉だったとは。またも不運である。
 鯖が被った二つ目の泉が、この豚を作り出したのだろう。

『呪泉郷……恐ろしい泉だな、ホラーが取り憑いているかもしれない』
「……」

 ザルバが真剣に言うのを、鋼牙は無視した。
 おそらく、それはないだろうと鋼牙も思っている。本当にホラーの仕業ならば、いまだに呪泉郷出身者の乱馬や良牙が食われていないのも変な話だ。

「豚ごときにおれの人生をメチャクチャにされ続けて、おれの青春は……っ!!」

 豚に生まれ、豚に忍び、豚を切り裂く──そんな人生を送って来た良牙にとっては、こうして豚との縁が切れてからも豚はこうして良牙の目の前に現れる。
 まるで、再び豚の世界に誘うように。
 誰かがカツ丼を望む限り、良牙は、永遠に豚の呪縛から──。

「────ちょっと待てよ、豚……?」

 そうして豚の事ばかり考えていた良牙に、ふと一人の少女の姿が思い浮かんだ。──雲竜あかりという少女である。
 彼女は生粋の豚好きであり、彼女が偶然惹かれた良牙が豚になる体質であるのはナイスカップリングと言うべき奇跡的な運命である。そんな良牙から豚体質が抜け落ちれば、少しロマンチック度が落ちるのは言うまでもない。
 良牙が豚になってしまった事で、あかりに少しでも寂しい思いをさせてしまうのではないかという不安が、突如彼の脳裏をよぎった。──となれば、態度を変えてこの豚に協力してもらうのも一つの手だ。

「……つぼみ、やっぱりその豚、おれにくれっ!」
「え?」
「ぶきっ?」
「元の世界に帰ったら、その豚を渡したい相手がいるんだ! 何というか、その……豚が凄く好きな子で」

 幸いにも、この子豚は良牙が変身した子豚と瓜二つである。
 ある意味では、まさしく良牙の生き写しといったところだ。
 そんな子豚を、あかりにプレゼントする。豚ではなくなった良牙の代わりに大事にしてもらえればいい。──ずっと醜いと思っていた姿だが、こうして別の物が豚になっているのを見ると、随分可愛らしく見えるものだ。
 あかりちゃんと一緒に飼おう、そして一緒に暮らして──と、少し邪な想像まで膨らむ寸前で、つぼみから返答が来る。

「は、はい! よければ」

 良牙の態度に、つぼみは少しきょとんとした表情を浮かべたが、すぐに快諾した。
 子豚が良牙の手に渡る。ぼけーっとしており、良牙が変身した子豚のような凶暴さがないのが特徴だ。
 元々、水の中で生活していた身だ。地上に出ればすぐに死んでしまう。デイパックの特殊な状態の中では平気だったが、本来地上には出られない。つい先ほどまで魚として生活していたために、地上では一切凶暴になれず、自分が置かれている状況に混乱しているようにも見えた。


707 : 大いなる眠り(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/17(火) 14:20:04 cqazOH6I0

「あぁ……今見るとなんとキュートな豚なんだ! とってもバカっぽくてチャーミングだぜっ!」

 杏子が羨ましそうに良牙を見た。

「──つまり明日の朝飯は豚かぁ……。どちらかというと牛がいいなぁ。まあいいや。誰かカツ丼作れるかなぁ……」
「食うなよ!?」

 良牙が不安そうに返した。心なしか、サバブタも不安そうである。
 言葉はわからなくとも、殺意のある瞳を実感しているのだろう。杏子の目が本気であるのを恐れているようだ。
 鯖の姿だろうと、豚の姿だろうと、杏子はきっと食材としてこの黒い子豚を見つめるだろう。

 他数名は、まあとにかくつぼみが持ってきた一大事というのが、比較的平和な話題であった事に安堵した。

「──それにしても、よくこれだけ騒いでる中で眠れるよね」

 孤門が、小さく呟いた。
 孤門が目をやった先はヴィヴィオであった。彼女はもう完全に眠りについており、隣でクリスもティオも眠っている。どの寝顔にも邪気がない。
 寝顔……これに似た物を、霊安室で少し見たが、彼女は吐息とともに少しずつ肩を揺らしている。生きている証だった。
 それに、座りながら寝ているせいもあって、上半身が前後に揺れて、確かに彼女がここで目覚めた後の行動の為に頑張っているのだと、実感する事ができる。

「あぁ、よっぽど疲れてたんだな」

 杏子は、どこか嬉しそうにその様子を見つめた。──それはまるで、年下の姉妹を見るような優しい目つきであった。
 遠い日を懐古する想いも含まれているのだろうか。

「これだと、ヴィヴィオちゃんの首輪の解除は最後ね」
「そうだね」

 美希と孤門は、その後からヴィヴィオたちの寝顔を見て薄く笑った。





 ──が、その時。





 翔太郎が帰って来た。

「……というわけで、無事! 首輪が解除されたぜ! うおおおおおい!!」
「「「うるさいッッ!!!!!!!」」」

 ドアを開けて歓喜やら何やらで騒ぎながら入ってくる翔太郎を迎えたのは、孤門と美希と杏子の辛辣な言葉である。翔太郎は、ここにいる人間が相乗してこの場が盛り上がる事を考えていただけに、ハートを傷つけられる。

「なんだよ、折角フィリップが解除してくれたんだぞ。嬉しくないのか?」
「とにかく、声がうるさい。ちょっと静かにしろよ。ヴィヴィオが寝てるんだよ」

 杏子が静かに言った。ここはやはり、姉らしい姿と言えようか。
 ヴィヴィオの姿を見て、翔太郎はばつの悪そうな顔をした。そんな顔をしつつも、一日不快な汗が溜まっていた首周りを、せわしく触れている。どうやら、首輪が外れるとよほど解放感があるらしい。
 まだ首輪をつけている人間を前に、そうした仕草を見せるのはある意味無神経でもあったが、いずれそれらの首輪もすぐに解除される事を考えれば腹も立たないだろう。

「あー、悪い。気づかなくて」
「それはもういい。とにかく、首輪の解除について聞きたいんだけど」


708 : 大いなる眠り(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/17(火) 14:20:18 cqazOH6I0

 杏子は、翔太郎を放って、後から入ってくる一也とフィリップの方にすたこら歩いて行った。
 首輪を解除したのは、フィリップである。現実問題として首輪の解除にどれくらいかかるのか、どれくらい難しいのか、これから成功する見込みはあるのか……など訊きたい。
 この解除の時間がギリギリの偶然であれば、それは何度続いてくれるかもわからない。
 特に難しいのは、縮小化されている杏子の首輪である。

「首輪の解除自体は、簡単だ。つぼみちゃんから貰った実験用の首輪も簡単に解除できたよ。正確な時間で言えば、首に巻かれていない状態なら、慎重にやれば三分で終わった。首輪を巻いている人が暴れなければ、元々三分半から四分あれば解除できる。翔太郎の首輪も三分強で解除できた」
「そうか」
「つまり、全員分、ほぼ安全に解除できそうだという事さ。安心してくれ」

 フィリップと一也の言葉に、全員の表情が晴れた。
 ずっと不安を抱えていた心が、一気に解放されていったように力が抜ける。
 思わず、そのまま眠りたくなるくらいであった。

「次は、誰が行く?」

 少し気分が軽くなったとはいえ、杏子がそう口にすると、やはり皆少し躊躇する。
 いくら翔太郎が成功したからといって、次も成功するとは限らないのではないか……という恐怖もあっただろうが、我先にと首輪を解除しようとするのは躊躇われたのだ。流石に、遠慮しているようにも思える。
 この誰も手を挙げない空気の中で、最初に手を挙げたのは、杏子であった。

「……あたしの首輪は解除できるか?」

 杏子はただ、一言訊いた。

「……」
「たぶん、首輪の構造は同じだよな? ちょっと小さいだけだろ?」
「おそらく。でも実験はされてないから……」
「頼むよ。どうせ、首輪は解除しなきゃならないんだ。早い方がいい」

 ソウルジェムを掌に載せて差し出す杏子の手にある首輪──見れば、非常に小さい。フィリップが見ても、今ここにある器具では少し大きすぎて解除は難しいだろう。専門的な器具が必要になる次元の大きさであり、それこそ先ほど使ったサイズのペンチでは難しい話だ。

(なるほど……そういう事か)

 杏子がこうして躊躇なくソウルジェムを差し出すのは、ある種、賭けに出たい気持ちもあるのだろう──と、翔太郎は横で思った。
 杏子はきっと、もし破壊されれば、その時はその時だと思っている。破壊されれば、後に障害となる魔女が生まれる可能性はなくなる。解除されれば、それはそれで杏子にとって嬉しいに違いないが、解除に失敗すれば、それはそれで周りにとって利であると踏んでいる。
 彼女にもまだ、優しさは確かに残っていた。それが時折、自分を犠牲にする形で作用してしまうのは、ある意味歪んでいると言っても過言ではないだろうが。

「……杏子ちゃん。悪いけど、もしかするとこれを解除するには、ここにある工具では駄目かもしれない。もっと早くわかればよかったんだろうけど、やっぱり今の工具じゃ無理だ。……でも、少し探せばそう難しくはないと思うよ」
「うん? つまり、また買い出かし……?」

 杏子が言って、フィリップが頷いた。

「うん。もうちょっとミクロサイズの部品に対応できるような、専門的な工具じゃないと難しいだろうね」
「流石にホームセンターに行けばあるはずだ。探してみよう」

 杏子の首輪は、ソウルジェムについている為、非常に小さい。これを拡大できれば話は別だが、実際のところ、人の体についているならばともかく、この小さな宝玉についているのでは、そうもいかない。
 つまるところ、挙手した杏子は、二番手にはなれないという事だ。他が首輪解除をしている間、買い出しをしなければならなそうだという事だ。

「ちぇ、めんどくさいな」
「ひがむな。俺がついていってやろうか?」

 頭の裏で手を組んでいる杏子に翔太郎が調子良く言うが、杏子がそれに乗る事はなかった。


709 : 大いなる眠り(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/17(火) 14:20:37 cqazOH6I0

「いらねぇ。あんた結構本気でいらねー」
「そんなに俺いらねー!?」
「でも、他の誰か一緒に来てくれよ。自分の番まで暇を潰したい奴。……えーっと、でもその前に次の首輪解除する相手を決めなきゃダメだよな?」

 結局、次に解除するのが誰かという話になる。
 それ以外の人間を選ばなければならない。──杏子は、この時決められる相手が、なるべく任意の相手になってほしいと願った。

「誰もやらないなら、俺が行こう」

 そう言ったのは、鋼牙であった。

「じゃあ、私が」

 それから、女性陣からは美希が立候補し、翔太郎の次の解除者が決定した。

「んじゃ、あんた。一緒についてきれくれないか」

 眠っているヴィヴィオを除けば、後は良牙、孤門、つぼみの三人だ。
 杏子はそのうち、一人を同行者に選んだ。







 それから買い出しに行ったのは、杏子とつぼみと──そして、オマケでついてきた孤門だ。
 最低限、つぼみと一緒になるのが、杏子の望みであった。偶然にもこのメンバーになった事を杏子は嬉しく思っただろうが、実際は偶然でも何でもなかった。つぼみの方も、杏子に聞いておきたい事や話しておきたい事がいくつかあったのだ。
 つぼみの場合は、杏子を通して知りたい相手がいたから、率先した首輪解除を避けたのである。結論から言えば、それは杏子と同じくソウルジェムを持つ美樹さやかという少女の事であった。
 孤門の方は、工具の買い出しという事で、ある程度男性の方が詳しい話である事から、半ば強引に連れて来られた。いずれにせよ、こういう時のお目付け役にピッタリな人間である。女同士のトラブルを仲裁するのに良い係だ。彼の性格は基本的に、ある程度の良心を持った人と衝突せず周囲に熱が生まれた時に、落ち着かせる係になりやすいタイプである。
 当人には、女同士の痴話喧嘩に巻き込まれたくない気持ちもあるが、結果的にこう選ばれてしまうのは仕方のない話だと思っていた。まあ、おそらくは杏子が新たなデュナミストになった関係もあって、杏子としてはまだまだ聞きたい事がいくらでもあるのだろう。

「杏子はさやかとどれくらい親しかったんですか?」

 道路上で、つぼみが先に訊く。──すると、杏子の顔色が少し変わった。前にさやかの話題をした時も、ふと彼女の顔色が変わった気がしたので、つぼみは眉を顰めた。

「……正直言えば、ほとんど知らないな」

 しかし、つぼみにそう言われても、杏子の側からすれば、全く思い当たる節がない。──そういえば、美樹さやかという人物についてはほとんど良く知らないくらいだ。
 いや、実際、ここでつぼみとさやかがどれくらい親交を深めたのかは知らないが、それと同じ程度にしか絡んでいないのではないだろうか。その時間の中で、さやかにここまで肩入れできるつぼみは、おそらく人と仲良くなるのが案外得意な人間なのかもしれないと杏子は思った。

「何せ、ほとんど別のところで魔女と戦ってたんだ。初めて会ったのも数日前だ」

 つぼみは、プリキュアが自分の周囲の数名だけではない事を思い出しているだろう。
 なるほど、お互いに存在を知らないプリキュアもいるくらいなので、魔法少女同士もそこまで深くお互いを知り合っている関係というわけではないらしい。
 つぼみ自身、桃園ラブなどのハートキャッチプリキュア以前のプリキュアたちについて掘り下げて語る事は難しいだろう。

「そうですか……」
「さやかはまだ魔法少女になって間もないからな。たぶん、魔法少女になって一週間経っているか、経っていないか……」

 つぼみは、そういえばさやかはつぼみに戦う意義を訊いた事があったな……と思い返した。さやかはまだ、それに対して明確なビジョンを作り出してはいなかったのだ。


710 : 大いなる眠り(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/17(火) 14:21:03 cqazOH6I0
 いわば、まだ新米の魔法少女。そんな彼女がこの状況下で殺し合いというのはあんまりな話だろう。どれくらいがベテランと呼ばれるかはわからないが、良牙や翔太郎の戦闘経験はつぼみを遥かに上回っている。その時点で、つぼみより経験の浅いさやかと、良牙や翔太郎との格差は大きい。

「でも、それなら何故、杏子はさやかの話をするとき、そんなに──寂しそうなんですか? 本当は、もっと親しかったんじゃ……」

 地雷があるかもしれない地面を、そっと歩いて行くように慎重に、つぼみは言った。しかし、この時間軸の杏子は、まださやかと親しくはない。寂しそうな表情をするほどでもなかった。

「──」

 ただ、微かに核心をついた言葉があったので、思わず杏子は目をそらした。
 ホームセンターの位置をメモした紙に目をやりながらも、──やはり、答えねばなるまいと、つぼみに声をかけた。

「……違うな」

 その声質は、少し冷たかった。──悪意のある冷たさではなく、何か暗い話題を差し出すような声だ。
 杏子は、ただ、その時が好機と思って、自らもつぼみに問う事にした。

「なあ、つぼみ。前にもさ、言おうと思っていた事がある」

 孤門も横で眉を顰めた。
 よからぬ方向に事態が進むのではないかという予感がしたのだ。それは、杏子の表情からしても明らかだった。奔放で、美希やヴィヴィオと楽しそうに会話する時の彼女の面影は消えている。
 彼女の口が何かを言う形になっていくのを横目で見ながら、それが言葉として出かかるのを止めたい衝動にかられる。しかし、杏子は口にした。

「──もし、さやかがまだ生きているとしたら、どうする?」

 孤門とつぼみは、そんな問いを耳にした。
 杏子が言い放ったその言葉には、何故だかネガティブな意味が込められているような気がした。
 死んだと思っていた人間が生きているのなら──永遠のお別れではないのなら、それは嬉しい事だと、素直に思うが、そうなる事を杏子が拒んでいるのは、彼女自身の口調から明白だった。
 どんな言葉が出てくるかと構えていたら、突き付けられたのは解答の難しい質問だ。

「え……?」
「生きていて、もし、あんたの知っているさやかとは全然違うモノになっているとしたら。もし、あんたを襲おうとする怪物になっていたら……どうする?」
「さやかが……?」

 それは、明らかに仮定の話をしている風ではなかった。
 重く噛みしめなければならない現実を打ち明かしている。そんな風に俯いている。
 杏子は、解を求めているはずなのに、視線をつぼみには向けなかった。それはまるで嘯いているようであった。

「戦えるか? さやかだったモノを……殺せるか?」
「なんで突然、そんな事を……訊くんですか」
「そうなるかもしれないからさ」

 杏子の中では、もはや隠し事をする意思が薄まっていたようだ。
 いや、最初からそれが狙いだったのかもしれない。翔太郎やフィリップ以外にも、それを伝えられる相手が欲しかったのかもしれない。
 いや、伝えなければいけない相手だ。──花咲つぼみは、さやかと親しかったのだから。

「──」

 少し悩んだ後、──

「さやかは、私の友達です」

 ──つぼみは凛とした表情で答えた。

「だから?」


711 : 大いなる眠り(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/17(火) 14:21:33 cqazOH6I0
「さやかが私を傷つける事はないし、私がさやかを傷つける事も……ありません」
「……そうか」
「なんでそんな事を訊くのか、もう一度ちゃんと教えてください」

 言いようのない不安を感じながら、つぼみはそう訊くが、杏子は出かかった言葉を飲み込んだ。一拍置くように──しかし、必ず次に言わなければならない言葉を勿体ぶるように。

「……」
「さやかは生きているんですか?」
「……生きているとも言えるし、そうでないとも言える」

 杏子の表情は、全く光らず、どうしても暗い面持ちが晴れないまま。
 孤門の背筋が突然凍った。孤門は、無意識に、そんな複雑な「生」の形を一つ思い出したのである。生きているようで、死んでいる。死んでいるようで、生きている。──それは、孤門という男の人生で、最も衝撃が強かった出来事に出てくる、戯曲の魔人のような意味があるように思えた。
 その瞬間の杏子の言葉に、孤門は一人の愛する人の顔を重ねる。
 ──斎田リコ。ダークファウスト。彼女と、同じだ。

「あたしたち魔法少女は、ソウルジェムに穢れが溜まると魔女になる。全ての魔女はそういう成り立ちでできている。ソウルジェムが穢れた事で死んでしまったさやかとマミは、これから魔女になるんだ」

 そう、──たとえ死んでも死ねない場合がある。
 死体を利用して行われる、理不尽な生が時としてある。
 魔女。魔人。
 杏子たちが戦っている存在が、杏子たち自身の成れの果てという現実。
 死んだ後も全てが利用され、土に還る事さえ許されずに人を脅かす存在になるという輪廻。
 最後には残された人間は、それを殺して「人殺し」にならなければならない──そんな最も不幸なエンディングを辿る未来までが見えてしまうような言葉であった。

「それって……」

 何故、杏子がここでそれを話してしまったのかはわからない。
 つぼみは、孤門のようにそうした経験をした事がない。──だから、頭で処理できずに、必要な情報を本能的に集めようと足掻く、

「杏子も、放っておけば、いずれそうなるという事ですか……?」

 ただ、つぼみには黙っている事ができなかった。
 それが事実ならば、これから、さやかがつぼみを襲うかもしれない──そんな場面に遭遇するかもしれない。
 つぼみを少しでも傷つけた事を後悔した、あのさやかが。
 確かに、さやかは罪を重ねた。しかし、だからといって、その天罰としては、死刑よりも遥かに辛いではないか──。

「その通りだ」

 杏子は重い口を開いていった。
 さやかを絶対的に信頼している彼女を裏切りたくはなかったが……しかし、彼女自身が把握しない領域で、唐突に裏切りが発生する悲劇を回避したかったのだ。
 無論、美希やヴィヴィオにはまだ黙っておくつもりでいた。彼女たちには、杏子自身も黙っておきたかった。しかし、翔太郎よりも立派な大人である孤門や、さやかと親交のあるつぼみはまた別だ。

「どうして、それを黙っていたんだ……!」
「誰にも言えないだろ! 美希やヴィヴィオではしばらくずっと一緒にやって来たんだ!でも、もしさっきまで一緒にいたあたしが、魔女になって襲い掛かったら──」
「だからって……」
「それに、あたしがいずれそうなるって事は、早いうちに悪の目を摘み取る──そんな正義も成り立つって事だろ!? 魔女になるあたしを殺せば、魔女によって起こる被害だってなくなる。そうすれば犠牲者は一人で済む。──その方が合理的だって、いつ牙を剥くかもわからない」

 それは完全に本心から出ている言葉とは言い難かったが、杏子の中に少しはある不信であった。
 正義の味方だらけの状況に生まれた摩擦の一つだ。これだけいれば、一人くらいは、そういう思想を持っていてもおかしくない。実際、杏子が同じ立場だったら、そんな合理的な判断を選ぶだろう。あるいは、その決断が下されて死ぬのも一つの手段ではあるが、翔太郎との約束もあるし、杏子の対処方法で分断された意見が対立する可能性だって充分に考えうる。だから難しいのだ。


712 : 大いなる眠り(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/17(火) 14:21:53 cqazOH6I0

「でも……僕たちは違う!」
「わかってるよ。あんたたちがそんな事しないくらい。少なくとも、見るからに甘ちゃんなあんたたち二人くらいはさ」
「なっ……!」

 少なくとも、杏子の中でも孤門とつぼみは、確実にそうならないであろう人間であった。ヴィヴィオや美希もそうだ。問題は、一也や鋼牙のように、何かと強い意志や戦いの経歴を持った戦士であり、彼らの実態をどう判断するかが悩みどころであった。
 ──勿論、信用したい相手ではあるが、彼らがもし自分の信じる者に真っ直ぐであるなら、それが時として問題になるかもしれない。

「確固たる正義とかいう物を振りかざす奴とか、面倒な事を嫌う奴は、すぐにあたしを殺すかもしれない。──でも、あんたたちの場合は、あたしをどうするのか悩んで、結局何もできなくて、ただあたしの事を憐れむだけで終わっちまうだろ? ずっと一緒にいたあたしが魔女になるって知ったら、いつも通りに接してくれるかわからない。あいつらなら、きっと悲しむだろうな。だから言いたくないし……」
「……」
「──それでも、あんたには言わなきゃならないって今思ったんだよ。知らない方が幸せかもしれないけど、あんたがさやかを好きなら、その時が来てから裏切られる最悪のシナリオにはしたくないんだ」

 今まで翔太郎とフィリップにしか言わなかったが、孤門とつぼみは例外だった。
 つぼみは明かさなければならない相手であった。さやかをここまで信頼しているのなら、その信頼がさやかの意思とは無関係に裏切られてしまう──それを明かしておかなければ、彼女にとってより大きな負担になってしまうだろう。
 あらかじめ伝えておけば、逃げる事もできるし、向き合う準備もできる。
 孤門は、あくまで伝えてもいい相手というだけで、絶対に伝えなければならない相手というわけではなかったが──まあ、別にここにいて聞く分には構わなかった。

「……あたしたち魔法少女は、結構バケモノってやつに近くてさ。魔法少女になった時点で、肉体は飾りになって、ソウルジェムに魂が移し替えられる。つまり、今はこの小さい石ころがあたしの本体なんだ」

 ソウルジェムを差し出しながら杏子は言う。
 それは──何となく、他の参加者にも不可解な点だった。彼女たちが純粋な人間であるなら、何故首輪をソウルジェムという箇所につけるのか──。
 それは、そこが爆破された時に生命反応を脅かすからに違いない。

「そうなると、あたしを人間として見てくれる人がどれくらいいるか。ましてや、魔女になるなんて知れたらさ」
「杏子もさやかも人間ですよ! だって、この間まで人間だったんでしょう?」
「……」
「人も花も動物も、最後の時まで、そのままです! 心があるなら、誰が何と言おうと、その人はその人のまま変わりません!」

 つぼみは頑として言った。杏子は複雑な顔をした。

「……つぼみ。あんたはさっき、さやかは傷つけないって言ったけど……決してそうじゃない。魔女になった魔法少女は、人の姿でもないし、言葉も話さないし、きっと自分の名前すらも忘れてる。裏切るとか裏切らないとかじゃなくて、問答無用で襲い掛かってくるんだ。心ってやつがあるかどうか……」
「──」
「でも、もし、あんたが心の底から願うなら、魔女になったさやかを救えるかもしれない。その願いは、叶うかもしれないし、叶わないかもしれない。あたしもそんなの試した事はないからな」

 さやかが変身した魔女の対処を、杏子はつぼみに委ねたいのだ。こんな事実を向けられても、つぼみはさやかを救うと断言できるのか。そして実行できるのか。
 それを決めるのは杏子ではない。──戦う力があり、同時にさやかを杏子よりも理解しているつぼみだ。

「──諦めるな」

 唐突に、孤門が口を開いた。

「きっと、どんな姿になっても心を持ったままの人はいる。説得して、それでも駄目なら、……その子を優しく葬ってあげよう。……僕ができなかった事を、君たちならできるかもしれない──プリキュアのつぼみちゃんに、ウルトラマンで魔法少女の杏子ちゃん……君たちなら」

 奇しくも、斎田リコも美樹さやかも「ダークファウスト」であった事を、彼らは知らない。
 ただ、お互いの目を見て、妙なシンパシーを感じながらも、つぼみは応えた。


713 : 大いなる眠り(前編) ◆gry038wOvE :2014/06/17(火) 14:22:08 cqazOH6I0

「勿論です。私はさやかを助けます。……何十回でも、何百回でも」

 彼女が出す解を、おそらく杏子は事前に知っていた。
 だから、彼女に告げたのだ。

「そうか。……それなら良かった。話し甲斐もあるってやつかな。でも、無理すんじゃねえぞ」

 杏子が安堵した。

「さやかはどこにいるんですか?」
「……わからない。一番可能性が高いのは、さやかが死んだ場所かな」
「それならわかります。今は無理でも、今日中、そこに向かいます」

 さやかが逝ったのはあの川岸。
 忘れようはずもない。アマリリスの花とともに空を仰いでいる彼女の遺体は、きっと今もあの時のままあると思っていた。しかし、そうとは限らないのだ。
 美樹さやか──彼女は再び、そこで。

「──大事な事を教えてくれて、ありがとうございます」

 つぼみは杏子に礼を言った。
 杏子はその礼にどう返せばいいのかわからず、話題をそらしてしまう。

「いや、……二人とも……悪いんだけどさ」
「何だ?」
「やっぱり、まだみんなには内緒にしてくれ。──さっきも言ったけど、あまり心配をかけたくない。いずれそうだとわかるかもしれないけど……今じゃなくていいと思うんだ」

 さやかやマミと深い関わりがあった人ならともかく、他の誰かにそれを言う必要はなかった。ましてや、美希には絶対に伝えたくない事実であった。

「……あたしは、魔女にはならないから、言う必要はない。もしなっちまった時は──」
「……」
「コイツみたいな奴が何とかしてくれる。だから、諦めるな、だろ?」

 孤門は苦笑し、答えた。

「わかったよ。誰にも言わない」


 反面で、既に、杏子を『殺す』人間が決まっている事を、杏子は告げなかった。

 やがて、三人は指定されたホームセンターに入り、微細な作業も可能な小さな工具を揃え、お金を払って店を出た。広い店だが、案外探せばすぐに見つかるものだと思った。孤門は、所持金の少なさに心の中で悲鳴を上げ始めていた。
 全て打ち明けたようで、実はまだ悲鳴を止ませていない少女が、ここにいる事を、彼らは知らない。






714 : 大いなる眠り(後編) ◆gry038wOvE :2014/06/17(火) 14:22:26 cqazOH6I0



 翔太郎と良牙は、窓枠に腕を乗せながら、呟くように語らう。
 ベッドで眠るヴィヴィオが、確かに意識のない状態であり、寝たフリというわけではない事を目で確認したうえで、良牙は口を開いた。

「やっぱり……あかねさんは、俺の知っているあかねさんではなくなっていた」

 バーのような空気が二人に立ちこめる。
 良牙の暗い面持ちを横目に、ため息をつくように翔太郎は応えた。

「──そうか」
「俺は信じたくねえ。……信じたくねえけど、事実なんだ」

 良牙は空っぽのスチール缶を握りつぶした。微かな水滴が良牙の頬を汚す。缶は良牙の手によって、親指ほどまで圧縮されていた。恐るべき握力である。
 翔太郎は、あかねがどうなっていたのかをよく知っている。
 彼女の知り合いがこうしてその現実を目の当たりにしてしまった事は、翔太郎にとっても同情せざるを得ない状況だった。

「おれは一目見ただけでは、あれがあかねさんだとわからなかった。乱馬がいなくなって、それだけで……まるで別人みたいに変わっていったんだ」

 弱気になりつつある良牙の手が震える。
 強い力で握られた窓枠は、一瞬で潰された。彼の馬鹿力は、このままこの警察署を壊しかねない。

「あー、頼む。ちょっと力抜いてくれ。物理的に」
「あ、ああ……」

 良牙は、窓枠を掴むのをやめた。銀のサッシがボロボロと粉になってこぼれていく。
 これでは、窓はもう綺麗に閉めたり開けたりできないだろう。まあ、良牙が無自覚の破壊をやめたところで、翔太郎は言う。

「──俺たちが憎むべきは、天道あかねという人間じゃない。彼女を別の物に変えていく、その罪だ」

 翔太郎の手は、必死でアルミ缶を握りつぶそうとしていたが、全然潰れない。
 少しムキになっているにも関わらず、一向にアルミ缶が親指大に圧縮させる気配がしなかった。

「助けるんだろ。俺たちが助けられなかった天道あかねを。仮面ライダーとしてそう誓ったからには、その為に全力の努力をしろ」
「わかってる。……俺は何としても──」

 自分ができる限界までアルミ缶を潰したあたりで、翔太郎は力を抜いた。

「何としても、か」

 その言葉の意味が、決して良い意味に使われるかわからない不安が、翔太郎の中にはあった。たとえ使える限りの手段を行使して誰かを守ろうとした結果が、天道あかねである。
 結果だけではなく、手段というのも一つの指標だ。


715 : 大いなる眠り(後編) ◆gry038wOvE :2014/06/17(火) 14:22:44 cqazOH6I0
 普段何気なく使っている言葉でありながら、その手段というものをおざなりにした言葉である。

「──何としても、という言い方は不安だ。彼女の為に殺し合いに乗るなんて事は絶対にやめろよ」
「……」
「返事ができないところを見ると、どうやら──」

 翔太郎が立ち上がると、彼の言葉に割り込ませるように良牙が口を開いた。
 翔太郎の想像以上に、響良牙という男ははっきりとした意思を持って言った。

「いや、おれは殺し合いには乗らない。おれたちにこんな首輪をつけた奴らの言葉なんざ信用できねえ。……それに、最後の一人になるまで生き残れるとは限らねえしな」
「……」
「それに、友達が何人もできた。そいつらを殺すなんてできねえよ。前にも言った。俺はあかねさんだけじゃない。ここにいる仲間も勿論、おれの力で──」

 その言葉に含まれた哀愁もまた真実であると知って、翔太郎はまた椅子に腰かけた。
 何となく安心したのだ。
 考えてみれば、この良牙は人を殺すだけの力──警察さえも制圧できるような圧倒的なパワーを得るだけの修行を積みながら、その力を決して悪事に利用していない。それに驕る事もなければ、誰かを積極的に傷つける事もないように見える。……いや、だからこそ強い苦悩が彼にあるようだった。
 彼は常に迷い、常にどうするか悩んでいるから、場合によっては、殺し合いに乗る事もあるかもしれない。──が、殺し合いに乗ったところで、本能は「殺す」という行動をさせないだろう。

「そうか」

 翔太郎たちの時間が過ぎていく。







 更に時間は過ぎた。
 冴島鋼牙と蒼乃美希の首からも、銀色の輪が消えている。
 全員の影がまた会議室に揺れた。残りの首輪の解除も、杏子たちの帰還を待ったうえで行う事にしていたのだ。
 工具が揃うと、フィリップは頷いた。

「……うん。これなら大丈夫だ」

 先ほど握っていた物よりも少し小さいペンチやドライバーをソウルジェムに合わせると、だいたい丁度良さそうに見えた。
 これで一安心というところか。

「──で、」

 またぐるぐると廻る話題であった。

「次は誰にする?」

 現状、首輪の解除が完了したのは翔太郎、美希、鋼牙。
 残りは、杏子、つぼみ、孤門、ヴィヴィオ、フィリップ、一也の六人。つまり三回に分ける。そのうち、ヴィヴィオ、フィリップ、一也の三名が後回しである事を考えれば、解除すべきは杏子かつぼみか孤門という事になる。
 首輪解除に対してある程度の信頼がおかれた今では、それに対する抵抗も殆どない。

「あたしがいく」
「じゃあ、私も……」

 杏子とつぼみが、次の首輪解除の対象であった。
 とにかく、そろそろ本格的に眠りたい時間になってきたのだろう。なるべく早く解除して、眠りたい気持ちが大きかった。もう日付が変わってから三十分以上経っている。案外、時間は早く流れる。

「わかった。──それじゃあ、二人とも。僕とヴィヴィオちゃんが最後っていう事で」


716 : 大いなる眠り(後編) ◆gry038wOvE :2014/06/17(火) 14:23:02 cqazOH6I0

 会議室から四人が出て行くのを見送りながら、孤門は首元の鉄を見つめた。
 この会議室に残った人間も、今は首輪を巻いている人間の方が少ない状態になっている。
 首輪が外れている人間の光景は不思議であった。翔太郎は勿論、全員、首が長くなったように見えた。
 さて、これで終わりだ。

「……うぅ……頭がガンガンする」

 美希が首輪を解除した後で、ようやく眠る準備をしていた。
 着替えようにも、あまり良い服がないので、一日着ていた服でそのまま眠る事にした。
 このまま、起きたらまた風呂に入りたいというのが率直な意見である。

「一日お疲れ様。おやすみ、美希ちゃん」
「あ、おやすみなさい。孤門さん……」

 美希はそのまま布団に潜ると、間もなく意識をフェードアウトした。
 これでやっと今日が終わった気分だろう。
 こうして、美希も一日を終えてくれたのが、孤門には何となく嬉しかった。

「……さて、これで眠り姫が二人か」

 気障に言うのは、他でもない翔太郎である。

「翔太郎さんは寝ないんですか?」
「まだ大丈夫だ。俺はこれでも探偵だぜ。仕事の時間はいっつもバラバラだ。徹夜で張り込みってのも珍しくない。体力の要る仕事だぜ、本当」
「そうですか……」
「ふぁ〜〜〜」
「欠伸してるじゃないですか」

 翔太郎も思わず大きな口を開けて欠伸をしてしまう。
 いや、正直なところ、眠かった。激しい睡眠欲を何とか押し込もうとしているだけだ。
 それは、探偵であろうが、探偵でなかろうが変わらない。

「鋼牙さんは?」
「俺も特に寝る必要はない」
「でも」
『コイツは一週間くらい寝なくても平気な人間だぜ。ま、休むに越したことはないが』

 ザルバが口を挟んだ。
 魔戒騎士は特殊な修練を積んでいる。勿論、人間である以上、睡眠は必要だが、彼らの持つ洗練された意思は、この殺し合いの間しばらく眠らなくても冴えた頭で行動できる。
 それこそ、魔戒騎士は、昼間ホラーが出ないように行動し、夜は現れたホラーを狩る激務だ。ホラーが現れた時には、一日眠れない事も珍しくない。

「……魔戒騎士だからですか?」
「ああ」
「魔戒騎士って凄いんですね!」
「……」

 鋼牙は口数が少なく、何か拒絶されているような気分もする相手だ。
 孤門も、非常に話しかけづらい。彼は仏頂面で、孤門に対して不快感を覚えているのではないかと思うほどだ。

「オイオイ、何か答えたらどうなんだ? マジックナイト」

 また翔太郎が他人を変な仇名で呼んだ。魔戒騎士でマジックナイトだ。おそらく、「魔戒」は彼の脳内では「魔界」になっているのだろうが、翔太郎は英語が得意な人間ではないのでそれを英語に返還できなかったのだ。仕方がないので、「魔法」で変換しているらしい。
 ザルバは、半分呆れながら答えた。

『悪いな。こいつは誰にでもこうなんだ。あんたたちみたいなお気楽な奴とは根本的に違う』
「……」
『それに、今はいつもより機嫌が悪い。余計な怪我を負っちまったからな』

 鋼牙の左腕は、月影なのはと同様の傷を負っている。
 犯人はン・ガミオ・ゼダ。──ただの単純攻撃も生身で受けてはならないというのは、少し辛い相手だ。本来ならばその体からガスを発して敵をグロンギにするのだが、このガミオは生身の相手に傷をつける事であのガスと同様の成分を注入する。
 やや能力は弱まっており、他人を即グロンギ化させるほどの力はないが、鋼牙はまだそれに侵されていた。


717 : 大いなる眠り(後編) ◆gry038wOvE :2014/06/17(火) 14:23:18 cqazOH6I0

「──その怪我」
「大丈夫だ。心配する必要はない」
「……そうですか?」
「ただ、いざという時はお前たちを頼るかもしれない。その時は、頼んだ」

 鋼牙は、決して孤門たちに悪印象を抱いているわけではない。
 だから、いざという時は頼りになる仲間として、共に戦っていく覚悟もある。
 この言葉は、それを確かに表していた。
 一条薫や、たくさんの仲間がここでできた──それは零や翼に匹敵する大事な友だ。

『こいつはこういう奴さ』

 要するに、口下手でコミュニケーションが苦手なだけで、実際は他人に対してさほど悪印象を抱いてはいないという事だ。
 それを聞いて、孤門も翔太郎も内心でほっとしていた。

「だけど、奴は……鋼牙さんたちを襲った怪人はどうするんですか?」

 鋼牙は、ガミオを倒す為に少し焦りを見せていたはずだ。

「奴は、全員の首輪が無事解除されてから探しに行く。……その時の指示はお前がやるんだろう」
『ま、単独行動はしない方がいいって答えで落ち着いたみたいだぜ? もう一人くらい連れていかないと奴には勝てないってな』
「ここにいれば、いずれ零に会えるかもしれない。……それも理由の一つだ」

 鋼牙とザルバは、そう言った。
 とにかく、しばらくは彼らもここにおり、ガミオを倒すところまで行かないという事だ。
 ただ、いずれ──またガミオと戦い、解毒方法を知らなければ話は進まない。







 また時間が少し過ぎた。
 杏子とつぼみの首輪も無事解除され、現れる。

「……ふぅ、ギリギリでヒヤヒヤしたよ」

 杏子は冷や汗もぬぐいきれないままだった。彼女の首輪解除に使われた時間は四分半ほどである。ミクロな作業ゆえ、余裕がなかったのだ。
 それこそ、外科手術のような繊細な作業が強いられ、神経と神経を繋ぐような緻密なやり方で首輪を解除しなければならない状況だった。
 担当したのは一也だが、もしこれがフィリップならば絶対にそんなレベルの首輪解除は失敗に終わっていたであろう。

「今のところ、警察署にまだ誰かが来る事はなさそうだな」

 じっと外を見るが、それらしい様子はない。
 まあ、良い意味でも悪い意味でもしばらくは退屈という事だ。
 ただ、ここで一番怖いのは、外部から誰かが妨害に来る事だった。僅か五分しかない首輪解除の時間を、他の敵に妨害させて時間を潰してしまうなど論外である。

「それじゃあ、あとは──」

 今のところ、孤門とヴィヴィオの首輪を解除する時間も充分にある。
 孤門は頷いた。

「ヴィヴィオちゃん、ヴィヴィオちゃん」

 孤門は眠るヴィヴィオの肩を揺らした。ヴィヴィオは、はっと気が付いたように目をぱちくりさせる。
 彼女にとっては、一瞬うたた寝したような気分だっただろう。
 確かにそう長い時間は経っていないが、周囲全体の様子が多少変わる程度には時間が経っていた。

「あ……孤門さん」
「首輪の解除をするから、一緒に来てくれって」
「あ、はい──」


718 : 大いなる眠り(後編) ◆gry038wOvE :2014/06/17(火) 14:23:33 cqazOH6I0

 ヴィヴィオは周囲を見回す。
 既に隣で美希が寝ており、杏子やつぼみも寝る準備に入っているようだ。
 翔太郎も、この簡易ベッドの中ではなく、椅子の上で、首をこくこくと揺らしながら、目を瞑っている──既に寝ているのではないだろうか。
 はっきりと目を覚ましているのは、鋼牙などごく一部だけだ。

「首輪解除は殆ど成功してるよ」
「そうみたいですね」
「だから安心して……」

 孤門とヴィヴィオは、そのまま首輪の解除に向かった。







 かくして、殆ど何の問題もなくここにいた十人の首輪は全て金属のカバーと切られたコードに変わっていた。
 分解された首輪の部品は、一山完成している。
 これを積む遊びをすれば、まあ五分は暇つぶしができそうだ。先ほどまで精緻な作業をしていた反動か、それをやっているのは一也だったが、彼は三秒で飽きたらしい。

「思ったよりあっけねえな」

 翔太郎が言った。
 彼が、一也の後を引き継ぐように部品を積み上げている。ルールは誰も知らない。ただ適当に、積み上げて、崩れたら何となく厭な気分になるだけのゲームだ。
 ちなみに、翔太郎は一瞬で崩した。

「──翔太郎」
「ああ。……こんな物に、ずっと俺たちが縛られていたと思うとな」

 人というのは哀れなものである。
 五分で解除できるようなこの小さな塊が、ずっと参加者を苦しめ続けていた。──強者、弱者の隔たりなく、一瞬で殺してしまう凶器になった。実際、これで死んだ人間もいる。
 こうして全てが使いようのないゴミになってしまった今、そのどうしようもない切なさをどうすればいいのか、彼らは悩ましく思っていた。どうにも、気分が晴れないところがある。
 こんなに簡単に解除できるなら、逃げ場があった参加者もいただろうに──。

「放送はしばらく聞けないか」
「いや、きっと主催者側もこれだけの首輪が解除されれば、対策を練るだろう。それこそ、本人がお出ましして全て伝えてくれるという可能性だってゼロじゃない」
「なるほど……」

 翔太郎とフィリップのみが知る仮説──殺し合いの第二段階。
 それが始まる可能性も否めないというわけだ。

「よし、俺も少し寝るか……」

 翔太郎も、これで一安心して、少し体を休める事にした。
 何、一也や鋼牙のように、この間しばらく睡眠を取らなくても平気という人間がいるのなら、それに甘んじるのも一つの手だ。
 実際、リーダーであるはずの孤門も既にうたた寝を始めており、誰もそれを責める様子はなかった。これまでずっと見張りをしてくれていたのは彼だ。

「──んじゃ、後頼むわ」

 翔太郎が、壁に靠れて、ソフト帽の闇の中に顔を隠した。
 ソフト帽は、すぐに彼の頭から落ちて転がっていったが、彼はそれを拾いに行く事はなかった。
 一也が見ると、ヴィヴィオ、美希、杏子、つぼみ、孤門、翔太郎と、もう六人が眠っていた。──どうやら、そういう時間らしい。
 こうして取り残されると、先ほどまで賑やかだったこの空間が暗く、静観な場所に変わっているのが侘しく思えたが、そのひと時の安心が得る彼らの姿に、一也は微笑んだ。

「何だ? 良牙くん。君は寝ないのか?」

 良牙は眠そうだったが、どうも眠れないような感じであった。


719 : 大いなる眠り(後編) ◆gry038wOvE :2014/06/17(火) 14:23:59 cqazOH6I0
 まあ、冷静に眠れる方が珍しいくらいなのだが、実際ほとんど体力の限界に近づいていたような人間が大半だ。

「──ここにちょっと前まで、乱馬がいて、あかねさんがいた。そう思うと、なんだか落ち着いて眠れねえ」

 良牙はこの警察署内の廊下で、天井に穴が開いているのを見た。
 あかねが乱馬を殴り飛ばした時の跡らしい。それが今も残っており、乱馬がここにいた証になっている。
 それが恐ろしかった。
 その傷跡だけが存在して、乱馬がもう暴れないという事実に。
 良牙の気持ちを、一也は少し汲みつつ、『明日』(この場合は日付ではなく、寝て起きた後──という意味で)の目標を考えた。

「美希ちゃんが、乱馬くんが亡くなった場所を知っている。何事もなければ、明日の朝、一緒に行くかい?」

 一也は訊いた。
 お互い、仲間の墓の場所だって把握しつつある現状だ。良牙に乱馬の死地を教えてやりたい気持ちはある。
 しかし、良牙はぶっきらぼうに答えた。

「行かなくていいよ、あいつの死に場所なんて。どうせすぐに、道を忘れちまう」
「……そうか。君は方向音痴なんだってな」
「ああ」

 良牙は返事をしながら、瞼を閉じた。
 閉じても眠れなかったが、とりあえず、そのまま何も考えずにいると、次第に眠気が増していった。
 響良牙にとっての一日はここで終わった。



【2日目 未明】

【ガイアセイバーズ】
※魔女に関する事、翔太郎・フィリップ間の考察以外のほぼ全部の情報を共有してます。

【F−9 警察署】
※警察署の前にハードボイルダー@仮面ライダーWが置いてあります。

【孤門一輝@ウルトラマンネクサス】
[状態]:ダメージ(中)、ナイトレイダーの制服を着用、精神的疲労、「ガイアセイバーズ」リーダー、首輪解除、睡眠中
[装備]:ディバイトランチャー@ウルトラマンネクサス
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2(戦闘に使えるものがない)、リコちゃん人形@仮面ライダーW、ガイアメモリに関するポスター×3、ガンバルクイナ君@ウルトラマンネクサス
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:みんなを何としてでも保護し、この島から脱出する。
2:ガイアセイバーズのリーダーとしての責任を果たす。
3:石堀さん、美希ちゃんの友達と一刻も早く合流したい。
[備考]
※溝呂木が死亡した後からの参戦です(石堀の正体がダークザギであることは知りません)。
※パラレルワールドの存在を聞いたことで、溝呂木がまだダークメフィストであった頃の世界から来ていると推測しています。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※魔法少女の真実について教えられました。


720 : 大いなる眠り(後編) ◆gry038wOvE :2014/06/17(火) 14:24:22 cqazOH6I0

【蒼乃美希@フレッシュプリキュア!】
[状態]:ダメージ(中)、祈里やせつなの死に怒り 、精神的疲労、首輪解除、睡眠中
[装備]:リンクルン(ベリー)@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式((食料と水を少し消費+ペットボトル一本消費)、シンヤのマイクロレコーダー@宇宙の騎士テッカマンブレード、双ディスク@侍戦隊シンケンジャー、リンクルン(パイン)@フレッシュプリキュア!、ガイアメモリに関するポスター、杏子からの500円硬貨
[思考]
基本:こんな馬鹿げた戦いに乗るつもりはない。
1:ガイアセイバーズ全員での殺し合いからの脱出。
2:ラブが心配。
[備考]
※プリキュアオールスターズDX3冒頭で、ファッションショーを見ているシーンからの参戦です。
※その為、ブラックホールに関する出来事は知りませんが、いつきから聞きました。
※放送を聞いたときに戦闘したため、第二回放送をおぼろげにしか聞いていません。
※聞き逃した第二回放送についてや、乱馬関連の出来事を知りました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。

【沖一也@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、強い決意、首輪解除
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2、ガイアメモリに関するポスター、お菓子・薬・飲み物少々、D-BOY FILE@宇宙の騎士テッカマンブレード、杏子の書置き(握りつぶされてます) 、祈里の首輪の残骸
[思考]
基本:殺し合いを防ぎ、加頭を倒す
1:本郷猛の遺志を継いで、仮面ライダーとして人類を護る。
2:警察署内では予定通りに行動する。
3:結城と合流したい。
4:仮面ライダーZXか…
[備考]
※参戦時期は第1部最終話(3巻終了後)終了直後です。
※一文字からBADANや村雨についての説明を簡単に聞きました
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました
※18時に市街地で一文字と合流する話になっています。
※ノーザが死んだ理由は本郷猛と相打ちになったかアクマロが裏切ったか、そのどちらかの可能性を推測しています。
※第二回放送のニードルのなぞなぞを解きました。そのため、警察署が危険であることを理解しています。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※ダークプリキュアは仮面ライダーエターナルと会っていると思っています。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はレーダーハンドの使用と、パワーハンドの威力向上です。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。


721 : 大いなる眠り(後編) ◆gry038wOvE :2014/06/17(火) 14:24:45 cqazOH6I0

【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:上半身火傷(ティオの治療でやや回復)、左腕骨折(手当て済+ティオの治療でやや回復)、誰かに首を絞められた跡、決意、臨死体験による心情の感覚の変化、首輪解除、睡眠中
[装備]:セイクリッド・ハート(睡眠中)@魔法少女リリカルなのはシリーズ、稲妻電光剣@仮面ライダーSPIRITS
[道具]:支給品一式×6(ゆり、源太、ヴィヴィオ、乱馬、いつき(食料と水を少し消費)、アインハルト(食料と水を少し消費))、アスティオン(疲労・睡眠中)@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ほむらの制服の袖、マッハキャリバー(待機状態・破損有(使用可能な程度))@魔法少女リリカルなのはシリーズ、リボルバーナックル(両手・収納中)@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ゆりのランダムアイテム0〜2個、乱馬のランダムアイテム0〜2個、山千拳の秘伝書@らんま1/2、水とお湯の入ったポット1つずつ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ガイアメモリに関するポスター×3、『太陽』のタロットカード、大道克己のナイフ@仮面ライダーW、春眠香の説明書、ガイアメモリに関するポスター
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:生きる。
2:警察署内では予定通りに行動する。
[備考]
※参戦時期はvivid、アインハルトと仲良くなって以降のどこか(少なくてもMemory;21以降)です
※乱馬の嘘に薄々気付いているものの、その事を責めるつもりは全くありません。
※ガドルの呼びかけを聞いていません。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※第二回放送のボーナス関連の話は一切聞いておらず、とりあえず孤門から「警察署は危険」と教わっただけです。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※一度心肺停止状態になりましたが、孤門の心肺蘇生法とAEDによって生存。臨死体験をしました。それにより、少し考え方や価値観がプラス思考に変わり、精神面でも落ち着いています。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。

【左翔太郎@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、胸骨を骨折(身体を折り曲げると痛みます・応急処置済)、上半身に無数の痣(応急処置済)、照井と霧彦の死に対する悲しみと怒り、首輪解除、睡眠中
[装備]:ダブルドライバー@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(アイスエイジ)@仮面ライダーW、犬捕獲用の拳銃@超光戦士シャンゼリオン、散華斑痕刀@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:支給品一式、ガイアメモリ(ジョーカー、メタル、トリガー)、ナスカメモリ(レベル3まで進化、使用自体は可能(但し必ずしも3に到達するわけではない))@仮面ライダーW、ガイアドライバー(フィルター機能破損、使用には問題なし) 、少々のお菓子、デンデンセンサー@仮面ライダーW、支給品外T2ガイアメモリ(ロケット、ユニコーン、アクセル、クイーン)、ハードボイルダーの鍵、パワーストーン@超光戦士シャンゼリオン、ふうとくんキーホルダー@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、須藤兄妹の絵@仮面ライダーW、霧彦の書置き、バッドショット+バットメモリ@仮面ライダーW、スタッグフォン+スタッグメモリ@仮面ライダーW、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW、まねきねこ@侍戦隊シンケンジャー、evil tail@仮面ライダーW
[思考]
基本:殺し合いを止め主催陣を打倒する。
1:ガドル、ドウコクは絶対に倒してみせる。あかねの暴走も止める。
2:仲間を集める。
3:出来るなら杏子を救いたい。もし彼女が魔女になる時は必ず殺す。
4:現れる2体の魔女は必ず倒す。
[備考]
※参戦時期はTV本編終了後です。
※他世界の情報についてある程度知りました。
(何をどの程度知ったかは後続の書き手さんに任せます)
※魔法少女の真実(魔女化)を知りました。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はフィリップ、ファングメモリ、エクストリームメモリの解放です。これによりファングジョーカー、サイクロンジョーカーエクストリームへの変身が可能となりました。


722 : 大いなる眠り(後編) ◆gry038wOvE :2014/06/17(火) 14:25:04 cqazOH6I0

【フィリップ@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、首輪解除
[装備]:無し
[道具]:ガイアメモリ(サイクロン、ヒート、ルナ、ファング)@仮面ライダーW、エクストリームメモリ@仮面ライダーW、首輪のパーツ(カバーや制限装置、各コードなど(パンスト、三影、冴子、結城、零、翔太郎、フィリップ、つぼみ、良牙、鋼牙、孤門、美希、ヴィヴィオ、杏子、姫矢))、首輪の構造を描いたA4用紙数枚(一部の結城の考察が書いてあるかもしれません)
[思考]
基本:殺し合いを止め主催陣を打倒する。
1:翔太郎及び仲間達のサポートをする。
2:沖一也とともに首輪を解除する。
[備考]
※参戦時期はTV本編終了後です。
※検索によりまどマギ世界(おりマギ含む)の事を把握しました。
※参加者では無く支給品扱いですが首輪を装着しています。
※検索によりスーパー1についてや、赤心少林拳について知りました。元祖無差別格闘等、伝えられた格闘流派についても全て調べているようです。
※アンノウンハンドについて調べる事はできませんでした(孤門たちの世界でその正体が不明であるほか、記憶操作・情報改竄などが行われているためです)。
※ン・ガミオ・ゼダについても検索不可能でした。

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、ソウルジェムの濁り(小)、腹部・胸部に赤い斬り痕(出血などはしていません)、ユーノとフェイトを見捨てた事に対して複雑な感情、マミの死への怒り、せつなの死への悲しみ、ネクサスの光継承、ドウコクへの怒り、真実を知ったことによるショック(大分解消) 、首輪解除、睡眠中
[装備]:ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、エボルトラスター@ウルトラマンネクサス、ブラストショット@ウルトラマンネクサス
[道具]:基本支給品一式×3(杏子、せつな、姫矢)、リンクルン(パッション)@フレッシュプリキュア!、乱馬の左腕、ランダム支給品0〜1(せつな) 、美希からのシュークリーム、バルディッシュ(待機状態、破損中)@魔法少女リリカルなのは
[思考]
基本:姫矢の力を継ぎ、魔女になる瞬間まで翔太郎とともに人の助けになる。
1:翔太郎達と協力する。
2:さやかと交流があるつぼみには魔女について話しておくべきか…。
[備考]
※参戦時期は6話終了後です。
※首輪は首にではなくソウルジェムに巻かれています。
※左翔太郎、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライアの姿を、かつての自分自身と被らせています。
※殺し合いの裏にキュゥべえがいる可能性を考えています。
※アカルンに認められました。プリキュアへの変身はできるかわかりませんが、少なくとも瞬間移動は使えるようです。
※瞬間移動は、1人の限界が1キロ以内です。2人だとその半分、3人だと1/3…と減少します(参加者以外は数に入りません)。短距離での連続移動は問題ありませんが、長距離での連続移動はだんだん距離が短くなります。
※彼女のジュネッスは、パッションレッドのジュネッスです。技はほぼ姫矢のジュネッスと変わらず、ジュネッスキックを応用した一人ジョーカーエクストリームなどを自力で学習しています。
※第三回放送指定のボーナスにより、魔女化の真実について知りました。


723 : 大いなる眠り(後編) ◆gry038wOvE :2014/06/17(火) 14:25:37 cqazOH6I0

【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、加頭に怒りと恐怖、強い悲しみと決意、首輪解除、睡眠中
[装備]:プリキュアの種&ココロパフューム、プリキュアの種&ココロパフューム(えりか)@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&シャイニーパフューム@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&ココロポット(ゆり)@ハートキャッチプリキュア!、こころの種(赤、青、マゼンダ)@ハートキャッチプリキュア!、ハートキャッチミラージュ+スーパープリキュアの種@ハートキャッチプリキュア!
[道具]:支給品一式×5(食料一食分消費、(つぼみ、えりか、三影、さやか、ドウコク))、スティンガー×6@魔法少女リリカルなのは、破邪の剣@牙浪―GARO―、まどかのノート@魔法少女まどか☆マギカ、大貝形手盾@侍戦隊シンケンジャー、反ディスク@侍戦隊シンケンジャー、デストロン戦闘員スーツ×2(スーツ+マスク)@仮面ライダーSPIRITS、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア!、大量のコンビニの酒
[思考]
基本:殺し合いはさせない!
1:さやかを助ける。
2:ガミオのもとに向かう。
3:この殺し合いに巻き込まれた人間を守り、悪人であろうと救える限り心を救う
4:……そんなにフェイトさんと声が似ていますか?
[備考]
※参戦時期は本編後半(ゆりが仲間になった後)。少なくとも43話後。DX2および劇場版『花の都でファッションショー…ですか!? 』経験済み
 そのためフレプリ勢と面識があります
※溝呂木眞也の名前を聞きましたが、悪人であることは聞いていません。鋼牙達との情報交換で悪人だと知りました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※プリキュアとしての正体を明かすことに迷いは無くなりました。
※サラマンダー男爵が主催側にいるのはオリヴィエが人質に取られているからだと考えています。
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました。
※この殺し合いにおいて『変身』あるいは『変わる事』が重要な意味を持っているのではないのかと考えています。
※放送が嘘である可能性も少なからず考えていますが、殺し合いそのものは着実に進んでいると理解しています。
※ゆりが死んだこと、ゆりとダークプリキュアが姉妹であることを知りました。
※大道克己により、「ゆりはゲームに乗った」、「えりかはゆりが殺した」などの情報を得ましたが、半信半疑です。
※所持しているランダム支給品とデイパックがえりかのものであることは知りません。
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※良牙、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※全員の変身アイテムとハートキャッチミラージュが揃った時、他のハートキャッチプリキュアたちからの力を受けて、スーパーキュアブロッサムに強化変身する事ができます。
※ダークプリキュア(なのは)にこれまでのいきさつを全部聞きました。
※魔法少女の真実について教えられました。


724 : 大いなる眠り(後編) ◆gry038wOvE :2014/06/17(火) 14:25:53 cqazOH6I0

【響良牙@らんま1/2】
[状態]:全身にダメージ(大)、負傷(顔と腹に強い打撲、喉に手の痣)、疲労(大)、腹部に軽い斬傷、五代・乱馬・村雨の死に対する悲しみと後悔と決意、男溺泉によって体質改善、デストロン戦闘員スーツ着用、首輪解除、睡眠中
[装備]:ロストドライバー+エターナルメモリ@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(ゾーン、ヒート、ウェザー、パペティアー、ルナ、メタル)@仮面ライダーW、
[道具]:支給品一式×14(食料二食分消費、(良牙、克己、五代、十臓、京水、タカヤ、シンヤ、丈瑠、パンスト、冴子、シャンプー、ノーザ、ゴオマ、バラゴ))、水とお湯の入ったポット1つずつ×3、子豚(鯖@超光戦士シャンゼリオン?)、志葉家のモヂカラディスク@侍戦隊シンケンジャー、ムースの眼鏡@らんま1/2 、細胞維持酵素×6@仮面ライダーW、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、歳の数茸×2(7cm、7cm)@らんま1/2、デストロン戦闘員マスク@仮面ライダーSPIRITS、プラカード+サインペン&クリーナー@らんま1/2、呪泉郷の水(娘溺泉、男溺泉、数は不明)@らんま1/2、呪泉郷顧客名簿、呪泉郷地図、特殊i-pod、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、テッククリスタル(シンヤ)@宇宙の騎士テッカマンブレード、『戦争と平和』@仮面ライダークウガ、双眼鏡@現実、ランダム支給品0〜6(ゴオマ0〜1、バラゴ0〜2、冴子1〜3)、バグンダダ@仮面ライダークウガ、警察手帳、ショドウフォン(レッド)@侍戦隊シンケンジャー、スシチェンジャー@侍戦隊シンケンジャー
[思考]
基本:天道あかねを守り、自分の仲間も守る
1:ガミオに毒の浄化方法を訊く必要がある。
2:あかねを必ず助け出す。仮にクウガになっていたとしても必ず救う。
3:誰かにメフィストの力を与えた存在と主催者について相談する。
4:いざというときは仮面ライダーとして戦う。
[備考]
※参戦時期は原作36巻PART.2『カミング・スーン』(高原での雲竜あかりとのデート)以降です。
※夢で遭遇したシャンプーの要望は「シャンプーが死にかけた良牙を救った、乱馬を助けるよう良牙に頼んだと乱馬に言う」
「乱馬が優勝したら『シャンプーを生き返らせて欲しい』という願いにしてもらうよう乱馬に頼む」です。
尚、乱馬が死亡したため、これについてどうするかは不明です。
※ゾーンメモリとの適合率は非常に悪いです。対し、エターナルとの適合率自体は良く、ブルーフレアに変身可能です。但し、迷いや後悔からレッドフレアになる事があります。
※エターナルでゾーンのマキシマムドライブを発動しても、本人が知覚していない位置からメモリを集めるのは不可能になっています。
(マップ中から集めたり、エターナルが知らない隠されているメモリを集めたりは不可能です)
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※つぼみ、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※男溺泉に浸かったので、体質は改善され、普通の男の子に戻りました。
※あかねが殺し合いに乗った事を知りました。
※溝呂木及び闇黒皇帝(黒岩)に力を与えた存在が参加者にいると考えています。また、主催者はその存在よりも上だと考えています。
※バルディッシュと情報交換しました。バルディッシュは良牙をそれなりに信用しています。
※鯖は呪泉郷の「黒豚溺泉」を浴びた事で良牙のような黒い子豚になりました。


725 : 大いなる眠り(後編) ◆gry038wOvE :2014/06/17(火) 14:26:08 cqazOH6I0

【冴島鋼牙@牙狼─GARO─】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、ガミオのガス侵攻中(リヴァートラの刻によって延命) 、首輪解除
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター、魔導輪ザルバ
[道具]:支給品一式×2(食料一食分消費)、ランダム支給品1〜3、村雨のランダム支給品0〜1個
[思考]
基本:護りし者としての使命を果たす
1:ガミオに毒の浄化方法を訊く必要がある。
2:首輪とホラーに対し、疑問を抱く。
3:加頭やガルムやコダマを倒し、殺し合いを終わらせ、生還する
[備考]
※参戦時期は最終回後(SP、劇場版などを経験しているかは不明)。
※ズ・ゴオマ・グとゴ・ガドル・バの人間態と怪人態の外見を知りました。
※殺し合いの参加者は異世界から集められていると考えています。
※この殺し合いは、何らかの目的がある『儀式』の様なものだと推測しています。
※首輪には、参加者を弱体化させる制限をかける仕組みがあると知りました。
また、首輪にはモラックスか或いはそれに類似したホラーが憑依しているのではないかと考えています
※零の参戦時期を知りました。
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※つぼみ、一条、良牙と125話までの情報を交換し合いました。
※第四回放送ボーナスの制限解除によって、魔導馬が解放されました。また、三途の池や魔女の結界内が魔界に近い場所だと知りました。


726 : ◆gry038wOvE :2014/06/17(火) 14:26:35 cqazOH6I0
以上で投下を終了します。


727 : 名無しさん :2014/06/17(火) 14:51:58 E48zVswAO
投下乙です!
それぞれの決意と想いが繰り広げられて、見事なドラマになっていますね!
あと、どさくさに紛れてサバが豚になっていたとはwwww


728 : 名無しさん :2014/06/17(火) 19:29:59 Lxj3tufE0
サバ豚展開は今後の重要な伏線と見た
ネタ潰しをしたくないから具体的には言えないけどね


729 : 名無しさん :2014/06/17(火) 19:43:56 zg8XAjDE0
Pちゃん!あかね説得フラグゲットだぜ?
でもこれだけ性格違ったら偽物ってばれるか

魔法騎士レイアースはアニメ二期とセガのゲームが好きです。


730 : 名無しさん :2014/06/17(火) 20:18:56 tCDqPW4gO
投下乙です。

サバじゃねぇ!?

つぼみはさやかを救えるのだろうか。


731 : ◆gry038wOvE :2014/06/18(水) 22:37:09 RD7gt5fk0
投下します。


732 : ◆gry038wOvE :2014/06/18(水) 22:38:07 RD7gt5fk0



EPISODE : 189  究 極







【G-8 中学校付近】
【01:50 a.m.】



 ──要は、結果だけで充分であった。

 この光景さえ見れば、もう目を疑う者は誰もいない。
 彼らの物語は、常に結果だけが重視される。過程でどんな事が起きていようとも、それは決して重要な事ではない。


 ただの無情な王、ン・ガドル・ゼバはそこに立っていた。


 そこにいるのは、正真正銘・究極の闇を齎すであろう存在だった。
 その影響力は、この殺し合いの制限さえ超えて、空に闇を作り上げる。
 黒い雲が空を隠し、星あかりを遮断する。空はもう、一面の雲である。闇しか見えず、時たまそこに作り出される光は、雷鳴に先んじてやって来る黄色い電流であった。
 雨がぽつぽつと降り始め、やがてはザーザーと音を立てる。


 始まった。


 ────究極の闇が、始まった。


 まさしく、それであった。ガドルが追い求めた、己にとっての究極。
 それを感じた時、ガドルの中から空虚感は消え、代わりに自分の中にあったそれを満たす無数の欲望が湧き上がって来た。
 闇の中で嗤う怪人に、ただ一人の聖母が微笑みかける。
 それは唯一、彼がこれから心を許す同胞であった。彼女を殺す必要はない。──否、彼女は少なくとも、これから元の世界に帰った時に絶対に必要となる存在だ。殺してはならない。


 やがて、その怪人は騎馬に跨り、闇に消えていく事になった。
 その姿を追うように、雷鳴が鳴り響いた。







 ──ガドルが回想するその時の記憶は、全く色あせたものだった。
 本来、もっと様々なやり取りがあったかもしれないが、ガドルの記憶上は断片的にしかそれは思い出されなかった。
 いや、既に過去に向ける興味などない。
 疾走するバイクの上で、ン・ガドル・ゼバはつい十数分前の戦いを思い出し、そして、その瞬間だけ満足な気分を味わい、また、次に誰かを殺害する事を想像した。
 これは、その一瞬ばかりで、ガドルが回想した、ぼやけた一カットである。


【G-8 中学校付近】
【01:32 a.m.】


 薔薇の刺青の女──ラ・バルバ・デはその光景を見て呟いた。


733 : ◆gry038wOvE :2014/06/18(水) 22:38:51 RD7gt5fk0

「──ザギバス・ゲゲルも終わりか」

 無感情な声ながら、顔は微かに笑っていた。
 ラ・ドルド・グは、その言葉を聞いた時、開きかけていた口を閉ざした。
 おそらくは、バルバとさして違わぬ事を言おうとしたのだろう。

 ──ザギバス・ゲゲル。
 それは、新たなるグロンギの王を決定づけるための、白き闇のゲームの名である。
 なし崩し的に一方の世界のグロンギの王となってしまった、ン・ガドル・ゼバと。
 何者かもわからぬままどこかから現れたグロンギの王である、ン・ガミオ・ゼダと。
 この二人が対立し、ガドルの首輪が爆破されるまでの五分の猶予の中で死闘を繰り広げる。王の座に対する執着と、強さや存在に対する情熱が、そのまま拳を使って相手にぶつけられ、どちらかが死ぬまで殺し合いを続ける。相手の生命など一切尊重しない恐怖の怪物たちの「ゲーム」であった。

 しかし、それこそ無言で殴り合い、技を繰り出し合うような単調極まりない物だったので省略する。
 このゲゲルは、ガドルにとっても楽しい記憶にはなりえなかった。
 戦術の妙においては、それこそこれまで戦ってきた無数の敵対者たちよりも、数段劣る。
 伊達に、姿を変えるリント十余名と戦ってはいない。──まして、その内六名も葬った彼ならば。

「──見ろッ」

 そして、その死闘の果てに、一方が、生命活動に絶対的なチェックメイトを指されるような一撃を負っていた。胸元に抉りこんでいる一撃は、確実に敵の急所を射止める技だった。

「フンッ……」

 ──ン・ガミオ・ゼダの胸部から、ガドルソードが抜き出される。

 それは、要するに、そういう事だった。
 ガミオの胸から溢れる赤い濁流は、その者の敗北を意味した。死闘の末、ガドルの所持するガドルソードがガミオの胸を刺し貫き、完膚なきまでにガミオに己の最後を知らしめたのである。

 ガドルの勝利、であった。

「がはっ──」

 その瞬間、ガミオの口から、無意識に漏れた悲鳴。
 苦渋の声であった。ガドルは、したり顔でバルバの方に視線を贈った。

「……ふっ」

 傍らでは、バルバがにやりと口元を歪ませた。ガドルの勝利を喜んでいるのだろうか。──いや、そうではない。おそらくは、自分の予想通りの結果になった事実だけが彼女を笑わせているのだ。もし、彼女がガミオの勝利の未来を見つめていたならば、笑わなかったに違いない。
 ドルドは、冷静な記録者として、無感情にその戦いを見つめつつ、何やら奇妙な道具で結果を記した。
 ガミオは、そんな二人の方を少し見ながらも、決して助けを求めている風ではなかった。
 ──仕組まれていた事だったのか、と少し疑っただろうが、しかし、いや、そういうわけではないとガミオは心中察しただろう。
 彼が受け入れたのがガドルにはわかった。いわば、これが「結果」だ。

「くっ……!!」

 傷口を抑える腕が赤く染まる。
 この血は消えない。ガミオの腕を汚し、決して消えない塗料であった。ガミオは、その指先さえこの世に遺しておきたいと思ったに違いない。
 そう、それこそはまさしくガミオが存在していたという証だ。
 死への恐怖など端から彼の中にはなく、それを見て、むしろ彼は歓喜するほどであった。

「な、る、ほど……! 俺の存在も、遂に、ここまでという、事か……」

 どこか嬉しそうに、彼は言った。
 ガミオが欲しかったもの──それはわからないが、執着し続けたのは「存在」であった。
 本来交わる事のない相手と出会い、一戦の果てにこうして消えゆく。
 勝利し、グロンギの王として認められる事で、彼は自分の存在を知らしめようとした。
 その悲願は叶わず。
 最後に見出した物は細やかであり、おそらくは彼が心底臨んだ物とはかけ離れた物であるに違いない。せめて、最後に何か言い訳や気休めが欲しかったのだ。
 ガドルが無情に応えた。


734 : 究極 ◆gry038wOvE :2014/06/18(水) 22:39:15 RD7gt5fk0

「その通りだ」

 更に、横凪ぎに──。ガドルソードはガミオの腰を抉っていく。ガミオに反撃する余地はなかった。
 敗北を確信した彼に、それ以上の気力はない。

「ならば、貴様は生き、そしてこの世に存在し続けろ……王、ガドルよ……」

 敗者から勝者に与えられた言葉は一つだった。
 その言葉が、何となく皮肉っぽく感じた。ガドルは決して、彼の言葉に対して何も思わなかったが、ただその直感だけが、不快感を呼び起こしたのだろう。
 少し眉を顰めて崩れゆくガミオを蔑み見下ろすと、

「リントよ、闇が始まるぞ……」

 そんな一言が彼の口から漏れた。
 それが、この場において、全く正体不明のままであった、ン・ガミオ・ゼダという一人の王の辞世の句であった。







【G-8 中学校付近】
【01:35 a.m.】


 それから、ある意味儀式ともいえる催しが始まった。
 バルバの所持するダグバのベルトが、ガドルに進呈される。
 それを受け取る事に抵抗はなかった。
 漸く、この力にありつけるのである──とさえ、思っていた。
 正当なゲゲルを経て、ダグバのベルトを得られるのならば、全く、ガドルとしては本望である。これで初めてグロンギの王という言葉が実感となる。

「……ガドル。今からお前が、究極の闇を齎す者だ」

 この場において、ダグバが究極の闇としての神髄を発揮できなかったのは、もう一人の王・ガミオの存在があったからこそである。
 二人の王の「究極の闇」は違う。
 ダグバが齎す究極の闇は、世界を覆う暗雲と、力を行使した一斉殺戮だ。
 対して、ガミオの究極の闇は、人々をグロンギ化させるガスを発する事である。
 その二つの世界の定義の矛盾が、ダグバの力を更に制限していた。
 しかし、今となっては、そのうち一方が倒れ、この世界が「基準」として見るクウガの世界は、一つになった。

「──なるほど」

 そう答えるガドルの首周りからは、首輪はもうなくなっていた。
 バルバの計らいで、ガドルの首輪は爆発前にラームを吸いとる能力を失ったのだ。
 結果、爆破はしたが──ガドルの体表には、虫の羽が触れたほどの感覚もなかった。
 ガドルの体から落ちていく首輪の破片は、弱弱しいという他ない。

「だが、少し待て」
「なんだ?」
「この姿で片づけたい事が一つある」

 ガドルは、そう言うと、ドルドの方を見た。
 すると、ドルドは戦慄した。

「前の恨みだ、ドルド」

 その言葉の意味と合致するような出来事が、そういえば確かに、「前」にあったのである。
 そう、ドルドがここに連れて来られる直前の話だ。
 ガドルのゲゲルは、一度やり直しさせる事になった──その理由は、ドルドが持っていたバグンダダが破壊され、結果としてガドルの殺害数が不明になってしまったからである。
 それにガドルは怒り、ドルドを襲った。
 あの時の恨みが、まだガドルを支配していたのだろう。


735 : 究極 ◆gry038wOvE :2014/06/18(水) 22:39:39 RD7gt5fk0

「──応じよう」

 対するドルドも、潔さがあった。
 それは、ある種の責任感ともいえたかもしれない。

 ドルドは黒に体に白い衣を纏ったコンドル種怪人へと姿を変えた。

 しかし、真向勝負を望むわけではなかった。
 瞬間、ドルドは羽音を立てて飛翔し、自分が得意である空中というフィールドへと場所を変える。
 空中を自在に滑空しながら攻撃できるドルドと、地面から狙い撃ちするしかないガミオならば、勿論ドルドの方が、自由度が高い。

「ふぬけが」

 ガドルは目を緑に変身させる。
 滑空し、ガドルの元へと猛スピードで降りてくるドルドに向かって、ガドルボウガンから空気弾を一発──。
 しかし、ドルドはそれを華麗に避ける。空中というフィールドにおいては、彼の方が一段上だ。すぐにガドルの体を掴み、空へと移動した。
 ガドルは空中で身動きが取れなくなる。

「ぐっ……!」
「誰がふぬけだ」
「──さすがは、ラか!」

 ドルドは充分に強い。それこそ、ラのグロンギは、ゴのリーダーであるガドルと互角の戦いができるほどである。
 ガドルも強化を図ったつもりであったが、ドルドはそう簡単には倒される相手ではなかったらしい。スピードの面では大幅な強化はなく、ドルドでも素早く対応できるほどだった。

 しかし──

「フンッ!」

 ──パワーとなると、話は別だった。

 格闘体に変身したガドルから放たれるパンチは、ドルドの顎を砕き、全身から力を失わせた。ガドルの体を強く掴んでいたはずの指先が溶けていくように体を離した。
 ガドルは、空中でドルドの羽をもぐ。

「何っ!?」

 刹那、ドルドがバランスを崩した。羽がなければ安定した飛翔は不可能だ。
 そのまま、ガドルはドルドとともに落ちていく。
 ガドルは、ここぞとばかりに目を緑に光らせた。

「死ね──」

 ガドルは落ちゆくドルドの腹の上に立った。まるで、サーファーが波に乗るように、空気の波を掴んでいた。ドルドというサーフボードに乗っかったガドルは、少し屈んだ。
 その手に構えたガドルボウガンが、ドルドの頭部に押しあてられる。

「貴様……!」

 ドルドが何かを言おうとした瞬間、ガドルボウガンの引き金にはほんの数キロの力が込められた。
 同時に、ドルドの頭を空気の弾丸が打ち抜き、貫通した箇所に入っていた「中身」を地面にぶちまけながら、ドルドは力なく落ちた。

 ガドルは、ドルドが叩き付けられた地面より、数メートル離れた場所に着地すると、まるで何事もなかったかのようにバルバの方を見た。

「──終わった」
「そうか」

 不愛想な会話とともに、ガドルのグロンギの王として最初の粛清が終了した。
 そして、ようやくガドルは変身を解除し、元の軍服の男に姿を戻した。
 バルバの手に握られた金色のベルトを、ガドルは全くの無表情で受け取った。
 これこそが、新たな力の礎となるベルトなのだ。


736 : 究極 ◆gry038wOvE :2014/06/18(水) 22:40:01 RD7gt5fk0

 表情には出なかったが、内心ではそれを入手した事を、余程嬉しく思っていたに違いない。







【G-8 中学校付近】
【01:39 a.m.】



 ガドルは、ふと思い立ったように、ガミオのいた場所を見つめた。
 見れば、そこにン・ガミオ・ゼダの遺体──あるいは死体──は存在していない。

「奴の残骸は消えたか」

 冷静に呟いてはいるが、内心に不安はある。
 奴はまだベルトを砕かれていない。──生きているのかもしれない、と思ったのだ。

「しかし、何故だ?」
「わからん。……もしかすると、もう一人の王など、最初からいなかったのかもな」
「──だが」
「奴は我々にとって、消えた存在も同じだ。在り続ける意味はない」

 納得はしなかったが、バルバの言葉をガドルは噛みしめた。
 ン・ガミオ・ゼダとの戦いは、すぐにガドルの中で実感のない物になっていった。
 それは、本当に得体の知れない影との戦いのようである。
 彼は、もはや──そうなっていた。はっきりと思いだす事さえできない。まるで、ピントの外れた写真の中に、死者の姿を見ているような気分だった。

「最初から、いなかったか……」

 思えば、そんな気もしてくる。彼が最初からいなかった、と。

「奴もかつてはリントと同じだったのかもな」
「何?」
「……独り言だ。気にするな」

 バルバは、ぶっきらぼうにそう言った。
 そして、改めてガドルに言った。

「これからお前が刻むのは、かつての王の存在ではない」
「──俺の存在か」
「その通りだ」

 ガドルは、その言葉に対して、少し悩んだ。甲斐もなく、ただどう返すか悩んだのだ。
 しかし、ガドルは、それを聞いて、それでは自分が今すべき行為をしようと思った。
 何をすればいいのかはわからないが、ただ自分らしい行動をする。
 これまでの戦いで使ってきたのと同じ、「タロットカード」を取り出した。

「ならば、これが今の俺の退屈しのぎのゲゲルだ」

 ガドルは、三枚のタロットカードを選び、そこにばらまいた。

 『月』──三日月型の武器を持った敵、結城丈二を倒した証。
 『皇帝』──かつての王、ン・ガミオ・ゼダを倒した証。
 『審判』──羽を持つ審判、ラ・ドルド・グを倒した証。

 しかし、乱雑にそれを置くと、全て、風に飲まれてどこかへ消えていった。
 ガドルとバルバは、風に消えていく三枚のカードを見送った。


 そのどこかに消えたカードだけが、ガミオがいた証なのかもしれない。






737 : 究極 ◆gry038wOvE :2014/06/18(水) 22:40:34 RD7gt5fk0



【G-8 中学校付近】
【01:45 a.m.】



 燃える。

 かつて、ラ・ドルド・グという名のグロンギ族であった男の亡骸は、五本角のカブトムシ怪人の超自然発火能力によって燃え始めていた。──うっすらと、炎の向こうにその姿が見える。
 本当の意味で、それがン・ガドル・ゼバの初変身であった。

 ドルドの体を分子レベルで分解し、焼失させる。バルバが所持していた羊皮紙も、今や用済みとなって、その中で黒く溶けて形を崩し始めていた。
 めらめらと燃え上がる炎は、いわばまだ小火である。
 それが、ガドルが最初に使った究極の力で──初の使用にしては、全くスケールの小さなものである。

「ダグバの力の恩恵か」
「うむ」

 ダグバのベルトと相乗して、新たな力を得たガドルは、頭の角の本数を増やす事ができた。
 ダグバの四本と、ガドルの一本で、五本角。──ゴホンヅノカブトムシと呼べば近いだろうか。あのように、角の本数を増やし、まだ誰も見た事のない究極の怪物に成り果てていた。

「これもまた、究極の風か」

 突如、大きな風が吹いた。──いや、先ほどから兆候はあったが、だんだんと大きく、確かな物になっていったのだ。
 それも、音もはっきりと聞こえ始めている。吹き荒れるような風になるだろう。
 ドルドを消していく目の前の炎も、激しく揺れ動く。それを見つめながら、バルバは応えた。

「そうだ。ダグバが齎す力のほんの一部だ」

 ダグバの余りにも強すぎる力は、異常気象を起こす。
 大風を起こし、暗雲を起こし、雷雨を起こす。
 リントたちは勿論、自然さえも究極の闇を恐れているようだった。
 ガドルは、今、その力を自分自身で発動しているのだ。

「バルバ。お前はこれからどうする」
「……お前と、そしてリントの戦いを見届ける。もうそれくらいしかやる事はない」
「そうか」

 これから、グロンギである彼らにはこれといった目標はない。
 ただこのゲゲルを勝ち抜くだけだ。
 ガドルがダグバを倒す為に行動する事もなく、バルバがザギバス・ゲゲルの為に主催に協力して動く事もない。
 それこそ、機械的に──ただ殺し合うマシーンのように生き抜くのみだ。
 強い者と戦い、そして勝ち進む事こそ、ガドルに残された残りの道である。

 しかし、バルバには──何もない。
 そんな姿を、ガドルは少し察した。ある種の──集団意識・仲間意識だ。感情は入り組んでいないが、共に行動する事には意味がある。

「──ついてくるか」

 ガドルは、バイクをぽんと叩いて訊いた。

 ガドルが先ほどまで走らせていたビートチェイサーは、装飾品を挿し込む事でグロンギに適した別の姿に変身している。
 それは、ゴ・バダー・バが行ったのと同じ要領で発動された力である。今までも使えるといえば使える力だったが、元の性能が充分なので、バダーのようにそこで拘る事はなかった。
 しかし、ビートチェイサーも今となっては、随分と貧相なマシンに見えたのだ。
 王には、王に相応しい姿の騎馬が必要になる。

 ガブオソソ──”サ”ブトロー。

 黒く変形したバイクに、彼はそう名付けた。


738 : 究極 ◆gry038wOvE :2014/06/18(水) 22:41:03 RD7gt5fk0

「ああ」

 バルバは、答えた。
 彼女も、リントに興味があった。
 科学の力で、グロンギに対抗していくリントたち──「戦う術」を知りゆくリントたち。
 かつて、平和的で争いを一切しなかったリントたちが、自衛の為に武器を取るようになった現代社会。そこは、かつてよりも「グロンギ」と「リント」の境界が曖昧な場所であった。
 バルバは、リントがグロンギと等しくなっていくのを感じた。


 はたして──


 その答えを見届ける為に、バルバは行く事にした。





【2日目 未明】
【G-8 中学校付近】
※周囲は荒廃しており、電気も通らなくなっています。
※「究極の闇」が始まり、このエリアを中心に異常気象が広がっています。おそらく昼ごろまでにはマップ全域で異常気象が始まります(ただし、ガドルが殺害された場合を除く)。


【ン・ガドル・ゼバ(ゴ・ガドル・バ)@仮面ライダークウガ】
[状態]:疲労(小)、全身にダメージ(小)(回復中) 、肩・胸・顔面に神経断裂弾を受けたダメージ(回復中)、胸部に刺傷(回復中)、腹部・胸部にかなり強いダメージ、電撃による超強化、首輪解除、ダグバのベルト吸収、究極体に変身中、ガブオソソに搭乗中
[装備]:ガブオソソ(ビートチェイサー2000を装飾品で変形)@仮面ライダークウガ、スモークグレネード@現実×2、トライアクセラー@仮面ライダークウガ、京水のムチ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×8(スバル、ティアナ、井坂(食料残2/3)、アクマロ、流ノ介、なのは、本郷、まどか)、東せつなのタロットカード(「正義」、「塔」、「太陽」、「月」、「皇帝」、「審判」を除く)@フレッシュプリキュア!、ルビスの魔剣@牙狼、鷹麟の矢@牙狼
[思考]
基本:殺し合いに優勝し真の頂点に立つ。
1:ダグバのように、周囲の人間を殺して誰かを怒らせるのも良い。
2:石堀、エターナルと再会したら殺す。
3:強者との戦いで自分の力を高める。その中で、ゲームとしてタロットカードの絵に見立てた殺人を行う。
4:体調を整え更なる力を手に入れたなら今まで取るに足らんとしてきた者とも戦う。
※死亡後からの参戦です。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※ナスカ・ドーパント、ダークメフィストツヴァイを見て、力を受け継ぐ、という現象を理解しました。
※フォトンランサーファランクスシフト、ウェザーのマキシマムドライブによって大量の電撃を受けた事で身体が強化され、アメイジングマイティに匹敵する「驚天体」に進化できます。また、電撃体の使用時間も無限になっており、電撃体とその他のフォームを掛け持つ事ができます(驚天体では不可能です)。
※仮面ライダーエターナルが天候操作や炎を使ったため、彼に「究極」の力を感じています。また、エターナルには赤、青の他にも緑、紫、金などの力があると考えています。
※ザギバス・ゲゲルに勝利し、グロンギの王となりました。ダグバのベルトを吸収して、「究極体」に進化できます。


【ラ・バルバ・デ@仮面ライダークウガ】
[状態]:健康、ガブオソソに搭乗中
[装備]:ゲゲルリング
[道具]:なし
[思考]
基本:ガドルとリントの行く先を見届ける。
1:ガドルについていく。普段通り、あくまでゲゲルの観測者として、殺し合うつもりはない。



【ン・ガミオ・ゼダ@??? 死亡】
【ラ・ドルド・グ@仮面ライダークウガ 死亡】
※ガミオの遺体は消えました。鋼牙が受けたガミオのガスの被害は消えます。ただし、その過程で受けたダメージなどは残ります。


739 : ◆gry038wOvE :2014/06/18(水) 22:41:21 RD7gt5fk0
以上で投下を終了します。


740 : 名無しさん :2014/06/18(水) 23:29:31 /zcmAnbQ0
投下乙です!
おお、ザギバス・ゲゲルの勝者はガドルとなって本当の意味で究極となりましたか……
そして、その圧倒的戦力でドルドも葬るなんて。この人、マジでどうするの?


741 : 名無しさん :2014/06/19(木) 01:05:49 ksQYztuk0
投下乙です
閣下が遂に究極の闇になったか
ここまで来るとダグバ以上に勝てる気がしないな


742 : 名無しさん :2014/06/19(木) 11:42:02 qA.ZQjWoO
投下乙です。

究極の闇「ヒャッハー!リントは皆殺しだー!」


743 : 名無しさん :2014/06/19(木) 22:57:09 CV4.Ickc0
投下乙です
...真剣にどうすんだこれw


744 : ◆LuuKRM2PEg :2014/06/20(金) 11:08:39 1sy5fbX.0
投下乙です。
あああ……ガドル閣下はついに究極となりましたか。
ダグバと戦う事はできませんでしたが、その代わりにガミオを倒すなんて流石。
あと、ドルドも倒せましたね。本編だとドルドのトドメだって刺せませんでしたし。
そしてバルバはそんな閣下の行く末を見守ることになりましたが、果たしてどうなるか……?


それでは自分も予約分の投下を始めます。


745 : みんなの言葉! 思い出は未来のなかに!! ◆LuuKRM2PEg :2014/06/20(金) 11:10:31 1sy5fbX.0
 どこかの宇宙にある、とある世界で殺し合いが繰り広げられていた。
 数多の世界から連れて来られた参加者達の物語が始まってから、既に24時間が経過している。
 ある者は犠牲になり、ある者は大切な存在を失って……それでも、まだ懸命に生きていた。
 どれだけの理不尽が襲いかかり、それから奪われても彼らは戦い続けている。譲れない想いを誰もが持っているからだ。
 この世界は再び夜の闇に飲み込まれている。それでも、誰一人として絶望などしていなかった。





 建物の屋根を跳ぶ。
 道路に着地して、そこから再び走る。
 数メートルほど疾走した後、道を遮るように建築物が顕在しているが、しかし零はそれを軽く飛び越えた。この程度の跳躍は、魔戒騎士にとっては日常茶飯事。
 闇に覆われたゴーストタウンの間を、涼邑零は縦横無尽に駆け抜けていた。
 この街を訪れるのは二度目だ。そんなに長く離れてはいないが、妙に懐かしく感じてしまう。こんな世界には縁などないはずなのに。

(やっぱり、この街からは生活感がないな……)

 それでも、街には人の気配が感じられない。殺し合いが始まった頃から、何一つとして変わらなかった。
 大きさに反して、人間が住んでいた形跡がない。人が住むことを前提として作られているように見えず、違和感を覚えてしまう。
 それを払拭する為にも、まずは涼村暁達と合流がしたかった。彼らを逃がすことに成功したが、だからといって安全が保障されている訳ではない。殺し合いに乗った参加者は、ゴ・ガドル・バの他にも残っているのだから。
 思えば、結城丈二達とはこの街で出会った。相羽タカヤ、泉京水、東せつなの三人もそうだ。だけど、四人はもうこの世にいない。
 彼らは皆、気のいい奴らだった。泉京水とかいう変なオッサンは怪しかったが、それでも……人間だった頃は義理と情に溢れていたかもしれない。
 そんな彼らのことは、絶対に忘れてはいけなかった。

(それにしても、あいつらはどこまで行ったんだ? もうとっくに警察署に着いたのか?)

 何気ない疑問が芽生えたが、零はそれを口にすることなどしない。答えてくれる者がいない以上、言葉にしても空しくなるだけだ。
 いつもならシルヴァが助言をしてくれるが、今は不可能。結城だってもう隣にいない。
 答えが知りたいのなら、自分の足を走らせるしかなかった。
 長年に渡って修練を積み、魔戒騎士となった零は人並み以上の脚力を持つので、数キロの距離を僅かな時間で駆け抜けるなど朝飯前だ。
 バイクに追いつける保証まではないが悲観したりなどしない。元々、彼らを守る為に戦った以上、遠くまで逃げられたのなら万々歳だ。
 とはいえ、やはり一人でいるのは寂寥感を覚えてしまう。魔戒騎士として生きる以上、こうなる覚悟はとっくに決めていたが、完全に消すことはできない。零だって人間だから。


746 : みんなの言葉! 思い出は未来のなかに!! ◆LuuKRM2PEg :2014/06/20(金) 11:11:00 1sy5fbX.0
「結城さん。もしかしたら、あんたはシルヴァみたいに俺のことを向こうで心配しているかもしれないけど、大丈夫だ。あんたの教えは、俺の胸にしっかり叩き込まれているからさ」

 零は不敵に笑いながら呟いた。
 彼は最期まで一切の私欲を求めずに戦い、命を人類の為に捧げた。そんな彼の姿はとても頼もしくて、学んだことは数えきれないほどある。
 少し前だったら、盟友を奪ったガドルに対して激しい憎悪を燃やしていた。だけど、今はそんな感情に支配されたりしない。シルヴァを失った悲劇は繰り返していけなかった。
 仮に勝ったとしても、二人が喜ぶ訳がない。
 不意に、零は傍らに存在する硝子を覗き込む。そこに映っている顔は、決して醜く歪んでいなかった。

「……大丈夫だな、よし」

 安堵の笑みを浮かべながら、零は再び走り出す。
 もしかしたら、結城を殺されたことで怒りを燃やしてしまったかもしれない。そんな不安があったけど、いつもと変わらなかった。
 零は普段、それなりに格好を整えている。ナルシストではないが、変な姿で人前に出られる性根だって持っていない。

(この顔なら、あいつらの前にも出れる……クールにいかないとな)

 鋼牙によって見せられた時のような顔になってしまったら、暁達と一緒にいられなかった。特に桃園ラブは怯えてしまう。そうなったら、結城とシルヴァは悲しむはずだ。
 薄情だと思われるだろう。身勝手な理由で親しい人間を殺されてしまったら、怒るのが当然だ。それをわかった上で零は笑顔を浮かべている。
 守りしものである魔戒騎士が落ち込んでいたら、誰がこんな悲劇を止めるのか? 守られるもの達を不安にさせては意味がない。
 共に戦う仲間達だって、支えが必要だ。その要になれるはずの戦士が落ち込んでいられなかった。

……ブオオオオオォォォォォン

 何処からともなく、バイクの排気音が聞こえてくる。それは小さいが、決して遠くではなかった。
 こんな場所で聞こえてくるバイクと言えば、石堀光彦が変身した仮面ライダーアクセルしか考えられない。あの速度を誇っている割には、思ったより遠くまで行ってないのは予想外だった。
 気を緩めてスピードを落としたのかもしれないが、それなら追いつけるかもしれない。ただの人間ならまだしも、自分は魔戒騎士だ。常人を遥かに上回るこの足がある。
 この先に希望があると信じて、闇の中を走り続けた。





「……まあ、お前らを乗せている分の重さは感じるな。お前らが手を乗せたら、その感触だって俺の背中から伝わってくる」
「そっか……なら、俺のおいな」
「それ以上はやめろ。口にしたら振り落とすぞ」
「……わかった。放送コードにも引っかかる発言はNGだな」

 仮面ライダーアクセルに変身した石堀光彦に乗っている涼村暁は、疑問を適当に口にしている。
 結城丈二と涼邑零の二人はちゃんと逃げたか。あの怪人は本当に食い止められたのか。また、この作戦はちゃんと成功しているのか。
 疑問はたくさんあるが、それは作戦を立てた二人が戻ってこないとわからない。石堀に聞いたとしても、適当な答えしか返ってこないだろう。
 聞けることは石堀に関することだけだ。無論、黒岩省吾が話したことに関しては口に出せない。そんなことをしたら、すぐに殺されるだけ。
 頭の悪い暁でもそのくらいはわかる。


747 : みんなの言葉! 思い出は未来のなかに!! ◆LuuKRM2PEg :2014/06/20(金) 11:11:57 1sy5fbX.0
「それにしても、石堀はなかなかやるねぇ……やっぱり、毎日のように特訓をしてるの?」
「そうしないと生き残れない。ここに来る前から、俺は化け物達と戦ってきたからな」
「化け物ね……」

 暁は適当に頷いた。

「なあ、ちょっと気になったんだけどよ……化け物と戦えば自然に強くなるのか? なんか、みんなそんな感じがするけど」
「どうだろうな。少なくとも、ここにいる奴らは修羅場を何度も乗り越えてきて、そして強くなっただろう。尤も、戦い続けても何も変わらない奴もいるかもしれないが」
「それって……俺のことか?」
「さあな」

 石堀は適当にはぐらかしている。だけど、暁は必要以上に追求するつもりはなかった。
 どうせまた『冗談だ』と言われるのが落ちだ。これまでの付き合いで、何となくだがそう思っている。
 それに、ここで喧嘩をしたら背中にいる桃園ラブが起きてしまうかもしれない。それは避けるべきだ。
 思春期の少女はきちんと寝ないと肌や髪がダメになってしまう。それではデートも台無しだし、何よりもラブだって悩む。
 だから今は、石堀と適当な話をするしかなかった。

「あ、それと石堀。お前や凪のいた秘密組織って、やっぱりすげー兵器がたくさんあったの?」
「まあな。ビーストが相手だと、生半可な武器では太刀打ちできない。ただの餌にされるだけだ」
「なるほど……」

 暁は納得する。
 ダークザイドとはあまり戦っていないが、石堀の話は理解できた。ここに来るまで、ただの拳銃では歯が立たないような怪物と何度も戦っている。
 暁としては石堀や西条凪が所属するナイトレイダーに対してそこまで興味を持っていない。ただ、何でもいいから話題が欲しかっただけだ。

「……で、どんな兵器があるんだ? せっかくだから、教えてくれないか?」
「おいおい、民間人に教えられる訳がないだろ」
「固いこと言うなよ、石堀〜 俺達は友達だろ? 友達なら、隠し事はなしにしようぜ? な、頼むよ」
「俺には守秘義務がある。いくらお前でも、俺の組織の秘密を教えられる訳がない。大体、いくら教えたってどうせ明日には忘れるだろ? それとも、わざわざ覚えているのか? どっちだ?」
「多分、覚えてない!」
「胸を張って言うな」

 石堀は冷静に突っ込んでくる。
 こうして話していると、やはり気のいい常識人という印象しかない。もしも集団にいたら、普通すぎて逆に目立たなくなるタイプだ。周りの個性が強すぎたら、それが更に際立つだろう。
 こういうタイプの人間は、もしもフィクションで登場させるとしても印象に残らない。読者目線からすれば、完結でもしない限り印象が変わることはないだろう。
 だけど、全ての真実を知った暁は違った。石堀の言葉や仕草……ほとんどが、嘘が混ざっているように見えてしまう。
 助け船が欲しい。
 男でもいいから、頼りになる人が来て欲しかった。
 こんな得体のしれない相手と一対一で話をするのは、やはりプレッシャーを感じてしまう。
 それを和らげる為には話をするしかない。


748 : みんなの言葉! 思い出は未来のなかに!! ◆LuuKRM2PEg :2014/06/20(金) 11:12:47 1sy5fbX.0
「なあ、石堀……あいつら、大丈夫かな? 結城と涼邑は」
「どうだろうな……あの二人とはいえ、絶対に生き残れると言う保証はない。あの怪物の強さは、お前だって知っているだろ」
「……まあ、な」

 思わず口にした疑問に対する石堀の答えを、暁は否定することができなかった。
 フィクションの世界で今の状況に陥ったら「彼らなら絶対に生きている」という答えが来ることが多い。しかし、ガドルはそんな希望が通用する相手ではなかった。
 銀ピカやパンスト、それにドーパント達や黒岩省吾を軽く凌駕しそうな怪人だ。ライダーマンと絶狼も強いだろうが、ガドルからすれば赤子に等しいかもしれない。
 二人が死んでいるなんて考えたくなかったが、その可能性を否定できなかった。
 暁は思わず溜息を吐く。それと同時に、スピードを緩めていた石堀が動きを止めた。

「お、おい! 何だよ!?」

 それに暁は眼を見開いて、辺りをキョロキョロと見渡す。
 しかし、目の前に赤信号もないし、通行人もいない。だからこそ、暁は石堀の行動が理解できなかった。
 もしかしたら、全てがバレてしまったのではないか? そんな不安に襲われてしまい、暁は冷や汗を流してしまう。

「い、石堀……どうして急に止まったんだ?」
「足音が聞こえた」
「えっ? 俺には何も聞こえねえぞ?」
「アクセルに変身すれば、どうやら聴力も通常より上がるらしい。だから、変身していないお前には何も聞こえないだけだ」
「あ、そうなんだ」

 杞憂だったことに安堵して、暁はホッと胸を撫で下ろす。
 だが、それなら迂闊なことは話せなかった。その言葉が正しければ、独り言や内緒話までもが聞かれてしまう恐れがある。そうなっては、石堀のことを誰かに伝えるなんてできなかった。
 そんな不安に反して、石堀は言葉を続ける。

「……足音はこっちに向かって来ている」
「な、何ぃ!? まさか、あのガドルって化け物ヤローなのか!? でも、あいつには首輪があるだろ!」
「ああ。だから、他の奴かもしれない」
「なら、とっとと……!」
「その必要はないぜ!」

 暁の言葉を遮るように、闇の中から新たなる声が発せられる。
 それは、上からだった。声に誘われて見上げた先には、満月を背にした何者かが落下してきている。
 それに驚く暇もなく、カツリという音が響く。そこに立っているのは、ライダーマンと共に足止めをしていたはずの涼邑零だった。

「お前は……!」
「よっ、待たせたな。涼村暁に石堀さん」

 時間を守って待ち合わせ場所に現れたかのように。零は軽い笑みを浮かべている。
 その様子からは、疲労やダメージが感じられなかった。


749 : みんなの言葉! 思い出は未来のなかに!! ◆LuuKRM2PEg :2014/06/20(金) 11:14:05 1sy5fbX.0
「涼邑……無事だったんだな!」
「ああ。あんたとはまた会おうって約束をしたから、破る訳にはいかないぜ」
「そっか……そりゃそうだよな!」

 笑顔とは裏腹にクールな声を聞いて、暁も笑みを浮かべてしまう。
 こうしてまた会えたのが嬉しかった。邪な気持ちなどなく、純粋に喜ぶことができた。
 ……しかしその瞬間、暁は違和感を覚えた。

「あれ……そういえば、結城は……?」

 その名前を口から出した瞬間、零の表情がほんの少しだけ曇ってしまう。どこか、申し訳なさそうな雰囲気が漂っていた。
 そもそも、どうして結城丈二が現れないのか。結城と一緒に行動していたはずなのに、零しかやってこないのはおかしい。
 疑問が芽生えた瞬間、暁の脳裏にガドルの姿が浮かび上がる。同時に、最悪の可能性が頭に過ぎった。

「おい、まさか……」
「結城さんは俺を逃がして、一人であいつに立ち向かった……あの人は、最後まで立派に戦っていたよ」

 寂しげに語りながら、零は懐からマシンガンアームを取り出す。それは忘れもしない、ライダーマンが誇る武装の一つだった。
 暁は何も答えられない。あの結城丈二までもが殺されてしまった事実を、どう受け止めればいいのかがわからなかった。

「おっと、悲しむのはやめようぜ。結城さんは俺達の為に戦ってくれたんだ。その俺達が落ち込んでいたら、結城さんは報われないだろ?」

 静寂が広がりそうになった瞬間、それを吹き飛ばすような明るい声を出したのは零だった。

「結城さんはいなくなったけど、その魂を俺達に遺してくれた。だったら、それをきちんと受け止めてやらないとな。今は、再会を喜ぼうぜ?」

 彼の笑顔は、年相応の若者のようにとてもキラキラしている。それでいて、嫌味を感じされない。
 それは当然だった。悲しんでいることを、あの結城が望んでいるとは思えない。暁美ほむらや一文字隼人、それに黒岩省吾だってそうだ。
 「辛かったね」や「大変だったね」みたいなことを、零に言うつもりはない。そんな慰めを望む男ではなかった。

「……ああ、わかったよ。落ち込むのは、性に合わないしな!」
「俺も、そうすることにしよう……よく生きて戻ってきてくれたな」

 零と同じように、暁も笑った。石堀も返事をする。
 やはり、零とは通じる部分が名字の他にもあった。落ち込んでいるよりも笑っているのは一番と思っているし、何よりも男前。それに強い。きっと、元の世界ではガールフレンドもたくさんいるかもしれない。
 親近感を抱けるこの男と出会えてよかったと心から思った。

「それで、この子は眠り姫になっているのか? 俺が来ても起きないなんて、よっぽど疲れていたんだな」

 後ろで眠り続けるラブの顔を、零は覗いていた。
 振り向くと、穏やかな寝息と共に眠り続けている。これだけ話しているにも関わらず、未だに起きる気配がない。
 ここに来てから出会ったが、彼女が眠っている所を見たことがなかった。こんな子どもがまともに休まないまま、戦いや移動を続けていたら疲れるに決まっている。


750 : みんなの言葉! 思い出は未来のなかに!! ◆LuuKRM2PEg :2014/06/20(金) 11:15:10 1sy5fbX.0
「……今は寝かせてやろうぜ?」
「ああ、俺だってそのつもりだ。お姫様の眠りを邪魔する趣味なんて、俺にはないからな」

 暁の言葉によって、零はラブから離れた。

「彼女にも色々と話したいことはあるけど……それはまた後にする」
「それは、もしかして東せつなのことか? お前は彼女に会ったと結城から聞いたが……」
「ああ。あの時は色々あって、あんまり話せなかったけどな」

 石堀の言葉に零は頷いた。
 冴島邸では、零はラブの友達である東せつなに出会ったと言っていた。それはつまり、生きていた頃のせつなと話をしていたのだろう。
 まだ若い少女を守り切れなかった。表には出していないが、零にとっても辛いはずだった。
 暁だって、ほむらやまどかを助けられなかったのは、今でも心に引っかかっているのだから。

「……急ごうぜ。このままじゃ、この子は風邪をひいちゃうからな」
「俺もそうしたいが、お前はどうする? 流石に三人乗りは無理だぞ」
「おいおい、俺を誰だと思ってる? 俺の脚力を舐めないでくれよ……この足があったからこそ、あんたらに追いつけたんだぜ?」
「そうか。なら、俺達は先に行く。行くぞ、暁」

 石堀はそう言いながら、再び疾走を開始する。振り落とされないように、暁も体勢を立て直した。
 振り向いてみると……零は凄まじい速度で走っているのが見える。石堀があえてスピードを落としているから追いつけるのかもしれないが、それでも彼の脚力は凄い。
 魔戒騎士とは、変身していなくてもこんな人間離れした技を見せてくれる。暁では到底不可能だ。例えシャンゼリオンに変身したとしても、ここまで速く走れる保証はない。
 ハイパーシャンゼリオンになれば、別かもしれないが……

(……石堀のこと、涼邑にも話せるかな)

 ふと、暁は考える。
 石堀のことを零にも話したいと思っていたが、そのタイミングがわからない。石堀が地獄耳だったら、その機会が得られない。
 ラブの時みたいに、手紙を書いて伝える時間だって作れるかどうかわからなかった。ラブレターならぬ、友レターを渡す……これが、一番なのだろうか。





 そこは、平和な世界だった。
 花のように優しい雰囲気を放ち。
 海のように穏やかで。
 太陽のように眩く輝き。
 月光のように優しい光で照らされていて。
 希望を祈り、幸せの証が至る所で見つけることができて。
 そして、愛で溢れていた。
 桃園ラブは気が付くと、そんな場所に立っていた。
 そこはラブにとって、よく知った場所だった。生まれ故郷であり、大切なみんながいる四つ葉町。
 町の雰囲気から空気の匂い。そして人々の笑顔まで、何から何までラブにとって大切なものだった。


751 : みんなの言葉! 思い出は未来のなかに!! ◆LuuKRM2PEg :2014/06/20(金) 11:16:19 1sy5fbX.0

「ラブちゃん!」

 誰かが、名前を呼んでくる。
 それはラブにとってよく知った声だった。

「ラブ!」

 続くように、また別の誰かから名前を呼ばれた。
 その声もラブは知っていた。いつも、一緒に過ごしていた少女の声だった。

「この声は……」

 それに気付いて、ラブは後ろを振り向く。
 そこには、幼馴染の山吹祈里と友達の東せつなが立っていた。
 いつも見慣れた優しい笑顔を二人は浮かべている。

「ブッキー! せつな!」

 その姿に安堵したラブもまた微笑んで、二人の元に駆け寄った。
 しかし、そこに蒼乃美希の姿はない。それに疑問を抱いたラブは二人に訪ねる。

「あれ? 美希たんはいないの?」
「美希ちゃんは……ここにはいないの」
「ええ。私達は、もう美希と同じ世界では生きていけないから」
「えっ?」

 祈里とせつなの答えをラブは理解できない。
 その意味を問いかけようとした瞬間、今度は別の少女達が現れる。
 来海えりか。明堂院いつき。月影ゆり。ハートキャッチプリキュアに変身する少女達だった。

「えりかちゃんにいつきちゃん! それにゆりさんも!」
「やっほー! ラブちゃん!」
「また会えたね、ラブちゃん」
「元気そうで良かったわ」

 彼女達も笑っていた。
 えりかは元気いっぱいに、いつきは太陽のように眩く、ゆりは月光のように安らかに。どの笑顔も、ラブはよく知っていた。
 しかし、そこでラブはまたしても違和感を覚える。花咲つぼみがいない。ハートキャッチプリキュアの中心である彼女がいないのは、おかしかった。
 辺りを見渡しても、つぼみだけが見つからない。

「つぼみちゃんは? つぼみちゃんはいないの?」
「つぼみ? つぼみはね……ちょっと、いないの」
「どうして?」

 ラブはえりかの答えを納得できなかった。
 そして次の瞬間、えりか達の笑顔が微かに曇り始める。祈里とせつなも同じだった。
 まるで、何処となく後ろめたいようにも見えた。


752 : みんなの言葉! 思い出は未来のなかに!! ◆LuuKRM2PEg :2014/06/20(金) 11:18:10 1sy5fbX.0
「あれ? みんな、どうしたの……? せっかくみんなで集まったから、そんな顔するのはやめよう?」
「ええ。あなたの言うとおりね……」

 ラブは提案してから、真っ先に笑ってくれたのはゆりだった。しかしその表情は暗く、心から喜んでいるようには見えない。
 ゆりに続いて、他のみんなも笑ってくれるが、やはりそれは暗かった。
 この場に漂う重苦しい空気を吹き飛ばせなかった。

「……あ、もしかして美希たんとつぼみちゃんがいないから? それじゃあ、二人を待とう!」
「違うの、ラブちゃん! それと、聞いて欲しいことがあるの!」
「へっ? 聞いて欲しいこと……?」

 祈里の口から出てきた言葉に、ラブは呆気に取られてしまう。
 そして、いつきが一歩前に出てきた。

「ラブちゃん。きっと君は悲しんでいるかもしれない……でも、忘れないで。僕達はみんな、君達の心の中にいることを」
「あたし達の、心の中……?」
「どうか、僕達のことを忘れないで。どれだけ時間が経ったとしても、一日だけでいいから思いだして……たった数分だけでもいいから。それと、みんなのことをお願いね」
「……ねえ、さっきから何を言っているの? せっかく集まったのに、これじゃあ楽しくないよ!」
「ごめん、ラブちゃん。でも、これだけは伝えないといけないから……それに君には帰りを待っている人だっている。だから、生きて!」

 いつきは笑顔を浮かべたままだが、やはり辛そうに見えてしまう。
 本当は泣きたいはずなのに、その気持ちを必死に堪えているようだった。どうして、そんな顔をするのかがラブには理解できない。
 その理由だって尋ねたかったが、言葉が出ない。どうやって聞けばいいのかもわからなかった。

「ラブちゃんは先輩だから、こんな所で止まっちゃダメだよ! 後ろを見て!」
「後ろを……?」

 いつきに促されるまま、ラブは振り向く。
 すると、そこには後輩のプリキュア達がいた。
 スイートプリキュアのキュアメロディに変身する北条響。
 スマイルプリキュアのキュアハッピーに変身する星空みゆき。
 ドキドキプリキュアのキュアハートに変身する相田マナ。
 ハピネスチャージプリキュアのキュアラブリーに変身する愛乃めぐみ。
 彼女達はみんな、大きく手を振っていた。

「あっ! 響ちゃんにみゆきちゃん! それにマナちゃんやめぐみちゃんまで!」
「こんにちは、ラブちゃん!」

 笑顔で挨拶をしてくれるのは響だった。
 現れた四人の元に、ラブは駆け寄る。みんな、楽しそうな笑顔を浮かべていた。

「えへへ〜! わたし達も来ちゃった! だってこうやって集まれば、みんな笑顔でウルトラハッピーでしょ?」
「うん! あたし達みんな、幸せゲットだよ!」

 みゆきが口癖を言ってきたので、ラブもまた口癖で返す。
 彼女とも、横浜で出会ってから色々な思い出があった。とある秋祭りを一緒に楽しんだことがあれば、おゆうぎ発表会の手伝いをしたこともある。
 マナやみゆきと一緒にバナナボートに乗って、ジコチューのレジーナやイーラと競争をしたことだってあった。

「また会えてよかったね。ラブちゃん」
「あたしも、マナちゃん達に会えて嬉しいよ〜!」
「そっか……あたしも、あなたの元気な姿を見ると胸がキュンキュンしてくるよ! やっぱり、みんなで集合するなら楽しく遊んだり、運動会とかもやりたいよね! 戦いなんかより!」
「うん! あたしも……」

 その方がいいよ、と言いかけたが、そこから先が出てこない。
 戦いという言葉を聞いた途端、ラブの中で強い違和感が生まれてきた。まるで、とても重要なことを忘れているような気分になる。
 この違和感を晴らす為に、何となく後ろを振り向く。だが。


753 : みんなの言葉! 思い出は未来のなかに!! ◆LuuKRM2PEg :2014/06/20(金) 11:18:59 1sy5fbX.0

「……えっ? みんな、どこ?」

 さっきまでそこにいた少女達が誰もいない。
 祈里も。せつなも。えりかも。いつきも。ゆりも。初めからそこにいなかったかのように消えていた。
 ラブは彼女達の名前を呼ぶ。しかし、返事はない。

「どこにいるのみんな……どこなの!?」

 そこまで口にして、ラブは思い出す。
 今、殺し合いをさせられていた。えりかといつきとゆりが死んで、せつながテッカマンランスに殺されて、祈里がダグバに命を奪われてしまう。みんな、もうこの世にいない。
 もっと一緒にいたかったのに、その願いは不条理な戦いによって踏み躙られた。

「ねえ、みんなは……!」

 ラブは振り向いた瞬間、両目を見開いた。
 そこにいる彼女の身体から、柔らかい光が発せられている。これから消えるかのように、その姿がどんどん薄らいでいた。

「ごめん、ラブちゃん……何の力にもなれなくて」

 申し訳なさそうに言うのは、めぐみだった。

「そんな……めぐみちゃん達は悪くないよ! 悪いのは……無理矢理戦わせるあいつらの方だよ!」

 しかしラブはめぐみの言葉に納得などしていない。
 どうして、プリキュアとして幻影帝国と戦っている彼女が謝る必要があるのか。そもそも、彼女はこの戦いに何の関係もない。
 だから、落ち込んで欲しくなかった。

「……やっぱり、二人とも優しいね。ラブちゃんもめぐみちゃんも」

 そう、響は励ましの言葉を呟いた。

「あたし達は、どれだけ離れていても心は一つ! みんな、心の中で音楽を奏でて……お互いに元気をあげているんだよ!」
「きっと、ラブちゃんは今も落ち込んでいるかもしれない……けど、どうかハッピーとスマイルをからっぽにしないで! そうなったら、みんなだって元気がなくなるから!」
「あなたの純粋な愛と想いだって、いつだって忘れないでね! そうすれば、いつだって胸がキュンキュンするから!」

 響が、みゆきが、マナが。それぞれ笑顔で激励を投げかけてくれる。
 そんな彼女達の後ろに、四つ葉町に生きるみんなもいた。お父さん、お母さん、カオルちゃん、大輔、ミユキさん……今を一生懸命に生きる人達がラブの前にいる。

「プリキュアはみんなの憧れだから……こんな所で、終わらせないでね」

 そう言いながら、めぐみがゆっくりと手を握り締めてくれた。
 彼女の白い手は徐々に薄くなっていくが、それでも感触は伝わってくる。決して幻なんかではなかった。

「めぐみちゃん……」
「あたし達はみんなのことを応援してる。だから、美希ちゃんやつぼみちゃんのこともお願いね。みんなのハピネスも守って、思い出を作ってあげてね!」
「わかったよ! あたしも、プリキュアだから……絶対に助けてみせる! みんな、ありがとう!」

 彼女達の純粋な気持ちに答える様に、ラブは満面の笑顔で答える。
 集まったみんなも眩い笑顔を浮かべて、次の瞬間には瞬く間に周囲が光で飲み込まれた。プリキュア達の姿や四つ葉町も、何もかもが輝きの中に消えていく。
 彼女達の姿は見えなくなっていくが、ラブは確信していた。みんな、幸せな笑顔で見守ってくれていることを。そして、ここではないどこかで頑張っていることも。
 そんな彼女達のように、頑張らなければならなかった。


754 : みんなの言葉! 思い出は未来のなかに!! ◆LuuKRM2PEg :2014/06/20(金) 11:19:51 1sy5fbX.0
「桃園さん」

 その時、後ろからまた声が聞こえてくる。
 それもラブは知っていた。この世界に連れて来られてから最初に出会い、支えて貰った大切な人。
 振り向くと、やはり彼女がいた。

「マミさん……!」

 光の中から、巴マミが現れたのだ。
 彼女だけではない。あの一文字隼人だって、力強い笑みを浮かべながら立っていた。
 二人の後ろには、いなくなったはずの祈里やせつな達だっている。今度は、心からの笑顔で見守ってくれていた。

「一文字さんも!」
「よう。相変わらず元気いっぱいだな……ラブ」
「はい! あたしはいつだって、元気いっぱいですよ! みんなにも、そう約束しましたから!」
「そいつは嬉しいな」

 一文字はフッと笑ってくれる。
 二人が来てくれた事が、とても嬉しかった。もう一度だけ、こうして巡り合えたのだから。戦う為ではなく、お互いに笑いあう為に。
 そんな喜びに浸る暇もなく、マミはゆっくりと歩み寄ってくる。

「桃園さん。私の約束、覚えてくれてありがとう」

 マミは母のように優しい微笑を向けてくる。それは、最後まで見せてくれたあの笑顔と全く同じだった。
 しかし、ラブはそれを素直に喜べない。彼女との約束は……完全に果たすことができていないのだから。

「マミさん。あたしは……」
「謝らないで」
「えっ?」
「あなたに助けられた人は、たくさんいるじゃない。一文字さんも、涼村さんや石堀さんって男の人達も……みんなあなたがいたから、頑張れたのよ。それを疑う人なんて、どこにもいないわ。鹿目さんも、美樹さんも、暁美さんも、あなたが頑張っていることを知っているもの」
「でも、あたしは助けられなかった……マミさんと約束したのに、助けられなかった……! あのテッカマンランスだって……」

 ラブは首を横に振る。
 しかし、そんなラブの身体にマミはゆっくりと両手を回す。ラブがマミを抱きしめた時のように。
 懐かしい感触を味わっているラブの耳に、マミの声が響いた。

「いいえ、あなたは彼を助けたわ。彼を救うには、あなたの力が必要だった……きっと、彼だって最期に自分を取り戻したはずよ」

 そして、マミはその手を離して、あの穏やかな笑顔を向けてくる。

「桃園さん……その気持ちを絶対に忘れないで、みんなのことも助けてあげて! 約束できる?」
「絶対に、約束します! だから、あたし達のことを……見守ってください! マミさん、一文字さん!」

 そう口にした瞬間、マミと一文字の身体にも光が集まっていく。お別れの時が来たのだと、ラブは思った。
 今からでも、伝えたいことはたくさんある。一緒に遊んで、思い出を星の数ほど作りたかったけど、無常にもそれは叶わない。
 しかし、ラブは決して悲しんだりはしなかった。

「桃園さん……ありがとう!」
「ラブ……頑張れよ」

 マミと一文字の声が世界に響く。いなくなったはずのみんなの姿は、それからすぐに消えた。
 とても静かで明るい世界で、ラブは一人になる。もう、他には誰もいない。
 しかしそんなラブの身体も、すぐに光の中に飲み込まれていった。


755 : みんなの言葉! 思い出は未来のなかに!! ◆LuuKRM2PEg :2014/06/20(金) 11:23:25 1sy5fbX.0





「……あれ?」
「あ、起きた? もうすぐ、警察署に着くところだからグッドタイミングじゃん!」

 桃園ラブが瞼を開けた瞬間、最初に聞こえてきたのは涼村暁の声だった。
 バイクのエンジン音が耳に響いて、心地よい振動が下半身から伝わってくる。辺りを見渡してみると、警察署のような大きな建物が見えた。
 ギギギッ、という鉄が削れるような音が鼓膜を刺激する。それは、バイクになった仮面ライダーアクセルが停車する音だった。

「やあ、お姫様。随分、気持ちよさそうに寝てたみたいだね」

 ひょっこりと顔を見せてきたのは、涼邑零。
 中学校で新しく出会った仲間だった。

「……おはようございます」

 寝起きのせいで頭が上手く働かないので、そんな言葉しか出てこない。
 周りはまだ暗いし、冷たい風が肌を刺激してくる。きっと、早朝にもなっていない。
 寒さを耐えながら、暁と一緒にアクセルの背中から降りる。すると、先程まで乗り物になっていたアクセルは、元の石堀光彦の姿に戻った。

「あれだけのことがあったのに、よく寝られたな……振り落とすんじゃないかと冷や冷やしたぞ」
「あれだけのこと……?」

 石堀の言葉を聞いて、ラブは目を瞬かせる。
 一瞬だけ理解できなかったが、すぐに思考が覚醒した。つい先程、ガドルと戦って足止めをしていたはずの結城丈二がいない。彼もいっしょに戦っていたのに、姿が見えなかった。

「……結城さんは? 零さんと一緒にいた、あの人は……?」
「結城さんは、もういないよ」

 ラブの違和感に対して、零のあっさりとした言葉だった。
 その意味を聞く暇もなく、彼は言葉を続ける。

「あの人は、ガドルって奴から君達だけじゃなく、俺のことだって逃がしてくれた。身体を張って、精一杯頑張ってくれたんだ」
「……そんな」
「ストップ! 気持ちはわかるけど、落ち込んじゃ駄目だよ」

 零は、その掌をラブの目前に突き付けた。まるで、湧き上がる感情をせき止めるかのように。
 それを見て、ラブはすぐに思い出す。結城と零が何の為に戦っていたのかを。


756 : みんなの言葉! 思い出は未来のなかに!! ◆LuuKRM2PEg :2014/06/20(金) 11:27:16 1sy5fbX.0
 だから、絶対に後悔なんてしてはいけない。

「涼村暁や石堀さんにも言ったけど、そんなことをしたって結城さんは喜ばない。無論、君の友達もだ。あの人は、自分から望んで俺達の為に戦ってくれたんだ。それなのに、俺達がいじけていたら、結城さんはバカを見るだろ?」
「……ごめんなさい、心配させて」
「おっ、わかってくれてよかったよ。君は強いんだね……それとも、ここにいる二人がそれを教えてくれたのかな」

 零は暁と石堀に目を向けるので、ラブは頷く。
 結城丈二がどんな男なのか、ラブは詳しく知らない。だけど、その頼もしい姿は一文字隼人とよく似ていたので、信頼できた。
 一文字が最期まで立派に戦ってきたように、結城だって力を尽くしたはず。それはいなくなったみんなや、今を精一杯生きているみんなだって同じだった。
 夢に出てきたみんなの言葉は、全ては思い出せない。だけど、励ましてくれていたことは確かだった。そして、美希とつぼみの二人も助けて欲しいとも願っている。
 ただの夢でしかないし、実際にみんなから言葉を貰った訳でもない。だけど、そこに込められた気持ちは決して嘘ではないはず。
 みんなの想いは本物にしなければならなかった。

「それじゃあ、そろそろ警察署に行くぞ。もう、そんなに離れていないからな」
「了解。じゃあ、とっとと行くか……俺も眠いし」

 石堀が先導するように歩くと、暁もそれについていく。
 ラブもまた、そんな二人についていった。その後ろを零が歩いている。きっと、何かあった時の為に一番後ろにいるかもしれないが、それを問うつもりもない。
 警察署に着いたら、みんなに色々なことを話さなければならない。そして、その後にしっかり休む必要もあった。
 石堀の背中に乗っていた時に眠ったが、それだけで足りる訳がない。一時間も届くかどうかわからない睡眠では、充分な体力が取り戻せるわけがなかった。


【2日目 未明】
【F-9/警察署前】


757 : みんなの言葉! 思い出は未来のなかに!! ◆LuuKRM2PEg :2014/06/20(金) 11:27:58 1sy5fbX.0
【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン】
[状態]:疲労(小)、胸部に強いダメージ(応急処置済)、ダグバの死体が軽くトラウマ、脇腹に傷(応急処置済)、左頬に痛み、首輪解除
[装備]:シャンバイザー@超光戦士シャンゼリオン、モロトフ火炎手榴弾×3、恐竜ディスク@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:支給品一式×8(暁(ペットボトル一本消費)、一文字(食料一食分消費)、ミユキ、ダグバ、ほむら、祈里(食料と水はほむらの方に)、霧彦、黒岩)、首輪(ほむら)、姫矢の戦場写真@ウルトラマンネクサス、タカラガイの貝殻@ウルトラマンネクサス、スタンガン、ブレイクされたスカルメモリ、混ぜると危険な洗剤@魔法少女まどか☆マギカ、一条薫のライフル銃(10/10)@仮面ライダークウガ、のろいうさぎ@魔法少女リリカルなのはシリーズ、コブラージャのブロマイド×30@ハートキャッチプリキュア!、スーパーヒーローマニュアルⅡ、グロンギのトランプ@仮面ライダークウガ
[思考]
基本:加頭たちをブッ潰し、加頭たちの資金を奪ってパラダイス♪
1:石堀を警戒。石堀からラブを守る。表向きは信じているフリをする。
2:石堀やラブちゃんと一緒に、どこかに集まっているだろう仲間を探す。
3:別れた人達が心配、出来れば合流したい。
4:あんこちゃん(杏子)を捜してみる。
5:可愛い女の子を見つけたらまずはナンパ。
6:変なオタクヤロー(ゴハット)はいつかぶちのめす。
7:警察署に着いたら休む。
[備考]
※第2話「ノーテンキラキラ」途中(橘朱美と喧嘩になる前)からの参戦です。
つまりまだ黒岩省吾とは面識がありません(リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキのことも知らない)。
※ほむら経由で魔法少女の事についてある程度聞きました。知り合いの名前は聞いていませんでしたが、凪(さやか情報)及び黒岩(マミ情報)との情報交換したことで概ね把握しました。その為、ほむらが助けたかったのがまどかだという事を把握しています。
※黒岩とは未来で出会う可能性があると石堀より聞きました。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限は『スーパーヒーローマニュアルⅡ』の入手です。
※リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキとクリスタルステーションの事を知りました。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。


【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、左肩に痛み、精神的疲労(小)、決意、眠気、首輪解除
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式×2(食料少消費)、カオルちゃん特製のドーナツ(少し減っている)@フレッシュプリキュア!、毛布×1@現実、ペットボトルに入った紅茶@現実、巴マミの首輪、工具箱、黒い炎と黄金の風@牙狼─GARO─、クローバーボックス@フレッシュプリキュア!、暁からのラブレター
基本:誰も犠牲にしたりしない、みんなの幸せを守る。
1:どこかに集まっているだろう仲間を探す。
2:マミさんの遺志を継いで、みんなの明日を守るために戦う。
3:プリキュアのみんなと出来るだけ早く再会したい。
4:マミさんの知り合いを助けたい。もしも会えたらマミさんの事を伝えて謝る。
5:犠牲にされた人達のぶんまで生きる。
6:ダークプリキュアと暗黒騎士キバ(本名は知らない)には気をつける。
7:どうして、サラマンダー男爵が……?
8:後で暁さんから事情を聞いてみる。
9:警察署に着いたら休む。
[備考]
※本編終了後からの参戦です。
※花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆりの存在を知っています。
※クモジャキーとダークプリキュアに関しては詳しい所までは知りません。
※加頭順の背後にフュージョン、ボトム、ブラックホールのような存在がいると考えています。
※放送で現れたサラマンダー男爵は偽者だと考えています。
※第三回放送で指定された制限はなかった模様です。
※暁からのラブレターを読んだことで、石堀に対して疑心を抱いています。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。


758 : みんなの言葉! 思い出は未来のなかに!! ◆LuuKRM2PEg :2014/06/20(金) 11:29:06 1sy5fbX.0
【石堀光彦@ウルトラマンネクサス】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、首輪解除
[装備]:Kar98k(korrosion弾7/8)@仮面ライダーSPIRITS、アクセルドライバー+ガイアメモリ(アクセル、トライアル)+ガイアメモリ強化アダプター@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ+T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW 、コルトパイソン+執行実包(6/6) 、ロストドライバー@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×6(石堀、ガドル、ユーノ、凪、照井、フェイト)、メモレイサー@ウルトラマンネクサス、110のシャンプー@らんま1/2、ガイアメモリ説明書、.357マグナム弾(執行実包×10、神経断裂弾@仮面ライダークウガ×2)、テッククリスタル(レイピア)@宇宙の騎士テッカマンブレード、イングラムM10@現実?、火炎杖@らんま1/2、血のついた毛布、反転宝珠@らんま1/2、キュアブロッサムとキュアマリンのコスプレ衣装@ハートキャッチプリキュア!、スタンガン、『風都 仕置人疾る』@仮面ライダーW、蛮刀毒泡沫@侍戦隊シンケンジャー、暁が図書室からかっぱらってきた本
[思考]
基本:今は「石堀光彦」として行動する。
1:「あいつ」を探す。そして、共にレーテに向かい、光を奪う。
2:今は休憩をして、その後に暁とラブの二人を先導しながら進む。
3:どこかに集まっているだろう仲間を探す。
4:周囲を利用し、加頭を倒し元の世界に戻る。
5:孤門や、つぼみの仲間、光を持つものを捜す。
6:都合の悪い記憶はメモレイサーで消去する
7:加頭の「願いを叶える」という言葉が信用できるとわかった場合は……。
8:クローバーボックスに警戒。
[備考]
※参戦時期は姫矢編の後半ごろ。
※今の彼にダークザギへの変身能力があるかは不明です(原作ではネクサスの光を変換する必要があります)。
※ハトプリ勢、およびフレプリ勢についてプリキュア関連の秘密も含めて聞きました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※つぼみからプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について聞きました。
※殺し合いの技術提供にTLTが関わっている可能性を考えています。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※TLTが何者かに乗っ取られてしまった可能性を考えています。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。予知能力の使用が可能です。
※予知能力は、一度使うたびに二時間使用できなくなります。また、主催に著しく不利益な予知は使用できません。
※予知能力で、デュナミストが「あいつ」の手に渡る事を知りました。既知の人物なのか、未知の人物なのか、現在のデュナミストなのか未来のデュナミストなのかは一切不明。後続の書き手さんにお任せします。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。


759 : みんなの言葉! 思い出は未来のなかに!! ◆LuuKRM2PEg :2014/06/20(金) 11:29:40 1sy5fbX.0
【涼邑零@牙狼─GARO─】
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター、カセットアーム
[道具]:シルヴァの残骸、支給品一式×2(零、結城)、スーパーヒーローセット(ヒーローマニュアル、30話での暁の服装セット)@超光戦士シャンゼリオン、薄皮太夫の三味線@侍戦隊シンケンジャー、速水の首輪、調達した工具(解除には使えそうもありません) 、カセットアーム用アタッチメント六本+予備アタッチメント(パワーアーム、マシンガンアーム+硬化ムース弾、ロープアーム、オペレーションアーム、ドリルアーム、ネットアーム/カマアーム、スウィングアーム、オクトパスアーム、チェーンアーム、スモークアーム、カッターアーム、コントロールアーム、ファイヤーアーム、フリーザー・ショット・アーム) 、スタンスが纏められた名簿(おそらく翔太郎のもの)
[思考]
基本:加頭を倒して殺し合いを止め、元の世界に戻りシルヴァを復元する。
1:殺し合いに乗っている者は倒し、そうじゃない者は保護する。
2:会場内にあるだろう、ホラーに関係する何かを見つけ出す。
3:また、特殊能力を持たない民間人がソウルメタルを持てるか確認したい。
[備考]
※参戦時期は一期十八話、三神官より鋼牙が仇であると教えられた直後になります。
※シルヴァが没収されたことから、ホラーに関係する何かが会場内にはあり、加頭はそれを隠したいのではないかと推察しています。
実際にそうなのかどうかは、現時点では不明です。
※NEVER、仮面ライダーの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
仮面ライダーに関しては、結城からさらに詳しく説明を受けました。
※首輪には確実に異世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※首輪を解除した場合、(常人が)ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。→だんだん真偽が曖昧に。
また、結城がソウルメタルを操れた理由はもしかすれば彼自身の精神力が強いからとも考えています。
※実際は、ソウルメタルは誰でも持つことができるように制限されています。
ただし、重量自体は通常の剣より重く、魔戒騎士や強靭な精神の持主でなければ、扱い辛いものになります。
※時空魔法陣の管理権限の準対象者となりました(結城の死亡時に管理ができます)。
※首輪は解除されました。
※バラゴは鋼牙が倒したのだと考えています。


760 : ◆LuuKRM2PEg :2014/06/20(金) 11:33:49 1sy5fbX.0
以上で投下終了です。
夢の中に出てきた描写の一部は、プリキュアまんがえほんで描かれた話です。
もしも問題点がありましたら指摘をお願いします。


761 : 名無しさん :2014/06/20(金) 11:42:46 2JgcsNcQ0
投下乙
夢描写に涙腺緩んだよ


762 : 名無しさん :2014/06/20(金) 13:11:12 /KsuWsXY0
投下乙です


763 : 名無しさん :2014/06/20(金) 22:54:14 Bkdd37y.0
乙です
読んでて涙腺緩みっぱなしだったけど
時代が進むごとに密かにラブの参戦時期が伸びていってるのに笑ってしまった


764 : 名無しさん :2014/06/21(土) 20:22:46 vwNtZlAgO
予約きた。
レイハが魔王なのはの姿をコピーしちゃうんだろか。


765 : 名無しさん :2014/06/24(火) 18:16:22 .ogKcIf20
一昔前のロワでは参加キャラをタロットの大アルカナに当てはめるのが流行ってたけど、このロワだとどうだろう?
愚者=暁
力=ガドル
塔=スバル
までは思いついた


766 : 名無しさん :2014/06/27(金) 17:50:56 KdhG0U6.0
月(隠れた敵、欺瞞、失敗)ダークザギさん

あとは雑談スレで


767 : ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:07:13 hPExjGy60
リアルが超忙しかったのですが、超頑張って書きあげたので投下します。


768 : 黎明の襲撃者(小雨 2:00〜2:10) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:07:53 hPExjGy60



 ……夜中の二時。
 沖一也、冴島鋼牙、フィリップらのみを除いて、その警察署の人間は寝息を立てていた。部屋の灯りは消えており、外から見れば無人に見えるかもしれない。まあ、入り口の一台のバイクで何となく、ここが無人でないと勘付く者もいるかもしれないが、この施設に人がいる事を確認する術はそれくらいだ。
 参加者の内、危険なのは血祭ドウコク、ゴ・ガドル・バ、天道あかねの三名。彼らに対する警戒を怠らなければ問題はないはずである。ただ、もし来た場合というのが危険であった。
 そんな警察署の窓の外で、四人分の人影がこちらに向かってくるのが見えた。
 鋼牙の目がそれを見て少し大きくなる。

「……零。来たか」
『まったく、待ちくたびれたぜ』

 鋼牙とザルバが、どこか安心したように呟いた。
 そう──。その内の一人は、鋼牙の知り合いであった。

 彼の名を涼邑零。
 昨日、この会場でも再会したが、救うべき者のために道を分かれた友人である。同じ魔戒騎士として、あんな仲間がいる事は鋼牙の中で心強くもある事実だ。
 とにかく、この時まで生きていた事を、──顔には出さないが──嬉しく思っていた。ザルバも悪態をついてはいるが、脱出のための仲間として歓迎している心持である事は間違いない。

「おかしいな、四人……?」

 一也もまた、彼らの歓迎ムードの気分になりたいところがあったが、一人足りないのが気になった。
 おそらくは、いま見えている四人分の影は、涼邑零、石堀光彦(孤門と同様の制服を着ている事から明らかだ)、桃園ラブ(ここにいない女性は残すところ天道あかねと桃園ラブだけだ)、涼村暁(消去法)──となると、たった一人だけそこにいない人間がいる。
 しかも、例によって一也の知り合いだ。

「結城さんがいない……」

 結城丈二──ライダーマンへと変身するその男は、フィリップたちが合流してから間もないはずだ。しかし、禁止エリアを越えて中学校側に向かったはずだが──帰って来たのは、結城以外の残りの対主催たちだけである。フィリップが会ったという零はいるというのに。
 そんな状態で、結城以外というのが気になる。

「──俺が案内する。お前は待っていろ」

 電気を消した今の状態では、他の参加者も来るのに迷うと判断したのか、鋼牙がすぐに立ち上がり、会議室の外に向けて駆け出した。
 一也は、厭な予感を感じながらも、その背中を見送った。

(──まさか)

 これで結城丈二まで死んでしまっていたら。

(俺が、最後の一人なのか……!?)

 1号、2号、ライダーマンという偉大なるレジェンド戦士を差し置いて、新型のスーパー1だけが生き残るという──心強いようで、心細い、そんな残り方だ。
 スーパー1は確かに戦闘における性能は非常に高いが、何分、経験においては、仮面ライダーの中でも新米の部類。頼れる先輩が先立ち、ついこの間までルーキー扱いだった自分がこのグループを支える中核の一人になってしまう事が、恐ろしい。

(だとしたら……俺が……)

 ──わずかな不安が、一也の奥歯を強く噛みしめさせた。







 研究室の中で飽くなき興味関心をメカニックに注いでいるのは、探偵フィリップであった。相棒翔太郎の寝顔を間近で見ていても仕方がない。彼は、缶コーヒーやお菓子に手をかけながらも、コンピュータや所持アイテムの解析を行っていた。


769 : 黎明の襲撃者(小雨 2:00〜2:10) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:08:17 hPExjGy60
 杏子たちが買って来た小型の工具を使用すれば、できる行動は更に広がる。
 首輪の解除が最優先だったが、まだすべき事があるのは違いない。

「──よし」

 フィリップが何かに気づいて、嬉しそうに呟いた。

 いま、フィリップが解除を行っているのは、ショドウフォンだ。ショドウフォンのパーツが、だんだん、ばらばらに分解されていく。
 志葉丈瑠、梅盛源太の遺品である事は確かであり、その点ではこれを一度分解してしまうのが申し訳ないが、これはあくまで「修理」であった。このショドウフォンを、再利用しようとしているのだ。
 勿論、シンケンジャーになろうとしているのではない。少なくとも、シンケンジャーになるには、モヂカラ、又は電子モヂカラを使いこなせる人間──という前提が必要だ。電子モヂカラも、モヂカラを特殊な方向に利用できる人間でなければ不可能。
 隠れた素養がある者もいるかもしれないが、おそらく現状で確認できる限り、ガイアセイバーズのメンバーには、誰にもそんな力はない。
 ──そんな中で彼が使いたいのは、通話機能だ。

(やっぱり、コレが電波の送受信機を妨害していたんだ……)

 フィリップは、小さな黒い物体を手に取りながら思う。それは、検索したショドウフォンの内部構造にはない部品だった。
 これと同一の型の物を参加者の首輪の中に見た事がある。

(やっぱり、電波そのものはこの会場でも通じる。おそらくは、衛星を通じて……)

 携帯電話である以上、ショドウフォンも通話やメールには電波の中継地が必要だ。これまでは、通話機自体に妨害があるのではなく、根本的にその中継地が存在しないのだろうと思っていた。実際、この街や山頂にもそれらしい物が一切ない。通常なら、あの高い山の山頂に電波塔を立てて、そこで電波の中継をするはずだが、それがない以上は、この場では最初から携帯電話の通話機能など一切使えない物だろうと半ばそう思っていた。
 それに加えて、沖一也たち改造人間同士のテレパシーは使用できなかった事も考えると、会場全体に特定周波(首輪に送受信される電波)以外の電波に対してのジャミングされている事もありえるだろうし、電波を使う機器はほぼ壊滅状態だとフィリップも想定していた。

 しかし、ある時、制限解除でスーパー1のレーダーハンドが使えるようになった他、スタッグフォンによって駆動するリボルギャリーが配置されている事などを考えると、一部の電波は通じなければ不自然だ。
 ショドウフォンのような支給品類にはどんな制限がかかっているのかを考えた時、「電波が通じない」のではなく、機械の方に細工が施されている可能性を考えた。その結果、やはり電波を妨害している物体が出てきたのである。

(首輪の方にコレがついていたせいで改造人間のテレパシーも制限されていたのか……? とにかく、もう一回直してみよう)

 フィリップがその場の工具を用いて、再びショドウフォンを組み立てていく。
 構造さえわかれば、容易に組み立てなおす事ができるのがフィリップという少年だった。
 その知能は、天才児というよりは、むしろ悪魔的だと言える。

(繋がれ……!)

 フィリップは、螺子を巻きながら、そんな祈りを込めた。
 ショドウフォンは元通り。電源もしっかりと起動した。これで電波が繋がらなければ、あの黒い物体も一切関係なく、ただ単純にこの場では電波の類がほぼ使えないという事になる。

 すると……。

 ──電波が、立った。

「……よし! とにかくこれで──」

 と、言いかけたが、考え直してみれば、ショドウフォン以外に通話機能のある物がないのが現状だ。スタッグフォンも現状では通信機能が遮断状態で、スシチェンジャーも同様だ。
 これではまだ、通話不可能という状態ではないか。今後、必ず別行動を取る時が来るだろうからと、こうして通信機代用品を治したはいいが……。
 フィリップは、歓喜の表情を崩して、また徒労感と気合に満ちた言葉を発する事になる。

「──と思ったけど、まだまだ、仕事が終わらないか……まったく」


770 : 黎明の襲撃者(小雨 2:00〜2:10) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:08:37 hPExjGy60

 そんな風に愚痴をこぼしつつも、フィリップは極めて自主的にスシチェンジャーやスタッグフォン、バットショットや特殊i-podなどの道具に対して、同様の解体を行い始めるのだった。
 どうやら、彼が動いているのはただ脱出の為というだけではなく、こうした道具いじりが楽しいせいもあるようだ。

(これらの道具はともかく、……ウーン……)

 そういえば、携帯電話型のアイテムは、確かに他にもある。リンクルンだ。ただ、あれは精霊が宿っているという都合上、分解する事ができないし、除去作業は精霊本人にやってもらう他ないだろうか。

(まあいいか。あとは、これを使って──)

 あとは、それらの道具を四チームに分配して、今後別行動時にそれぞれ応援の要請などに使うのみだ。
 それから、殺し合いからの脱出の為に、更に使われるかもしれない事もわかり始めた。







「鋼牙!」

 警察署の外観を真下から眺めて、どこに仲間がいるのか──その姿を探していた零らの前に、丁寧に真っ向からやって来た一人の男がいた。
 名を、冴島鋼牙。
 零がこの殺し合いの中で彼に会うのは二度目である。ただ一度、その時に会った時に鋼牙に対して抱いた殺意は、今はすっかり拭い去られている。
 同じ守りし者として──。
 いや、まだ素直に認めたくはないが、この状況下、これほど心強い男ならば、共に脱出の道を切り開いてくれるだろうと思いながら、零は前に出た。

「零! ──それに」
「鋼牙、俺も仲間を連れてきた。こっちが、涼村暁、桃園ラブ、石堀光彦……そして──」

 零は、その手に持ったその機械の右腕を掲げた。
 鋼牙も眉を顰めた。これは一体──。

「これが、結城丈二が遺した魂だ」

 魂。それは、そこにある人間に対しての言葉ではない。
 もう既にいなくなった人間から抜け出た者だと言っていいだろう。
 人口の右腕は温もりもなく、既に戦う事さえできないのだ。

「悪い。本当は、生きて連れてきたかったんだけど……できなかった」
「──」
「仲間の数では、俺の負けだな」

 自分を卑下するように、しかし、鋼牙に対するライバル心がまだ胸にあるのが判然とした言葉を零は吐き出した。
 仲間。
 その数は、今は鋼牙の方が多い。──ここまで、守り切った証だともいえる。
 鋼牙の左手の指の中ではザルバが輝いている。零はシルヴァを守り切る事はできなかった。それに対する劣等感も、零の中には確かに存在している。
 そんな零を気遣うように、鋼牙が言った。

「これからは、俺たちは皆、仲間だ。勝ちも負けもない」
「そうか。だが、せめて、もう一人くらいは連れて帰りたかった」
「……俺も助けられなかった仲間がいる。ここで出来た大事な仲間だ」

 一条薫は、鋼牙が別行動を取った間に死んでしまった。
 それはまだ悔やんでいる。遺体にさえ目にかけられていない。全員が集合するまで、単独行動を避けた結果だ。
 早々にガミオも打倒したいところだが、今はまだその段階ではない。

「それより、ここの案内がしたい。俺も早々に行動方針を変えたい気持ちがある──だから」

 鋼牙が口を開いて言った。


771 : 黎明の襲撃者(小雨 2:00〜2:10) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:08:58 hPExjGy60

「だから、俺についてきれくれ。全員が集まっている場所に……」

 会議室に案内するだけだというのに、その言葉は刺々しくも感じられた。
 初対面の人間に対して、少し印象が悪くなりがちな鋼牙であった。

『おいおい、”仲間”を怯えさせるなよ鋼牙。自己紹介、まだだぜ?』

 ザルバにそう言われて、鋼牙は振り向いた。
 そこには、鋼牙の様子にきょとんとする三人の男女の姿がある。──いや、むしろ喋る指輪の方に驚いているかもしれないが──そうだ、鋼牙はまだ自己紹介すら済ませていなかったと思い、向き直した。

「そうだったな。俺は冴島鋼牙。──またの名を、黄金騎士、ガロ」

 彼は己の名に対する誇りを込めて、そう宣言した。
 陰で自分の姿を見つめる人影に気づく事はなかった。







 レイジングハート・エクセリオン──成人前後の高町なのはの姿をダミーメモリの力でコピーしている──は、偶然にもその現場を見ていた。

(鋼牙──)

 あそこにいるのは冴島鋼牙に他ならない。
 それから、もう一人の男はおそらく「涼邑零」だ。剣を携え、魔法衣を着用している様子から、何となく察する事ができた。その名前もレイジングハートの記憶の中に在る。──彼は確か、ティアナ・ランスターという人間を殺害した犯人だという話である。
 ティアナとは面識はないが、将来的に出会う存在だというのは聞いている。アインハルトの話では、信頼できる相手だというのだ。鋼牙に比べれば憎しみも湧かず、その暴挙を行った確証はない。
 鋼牙は、駆音を殺害した。躊躇なく。
 ゆえに、確実に敵として認識しているが、零はまだそこまで怒りの湧く対象ではない。

(鋼牙は今、仲間を集めている……。おそらくは内部から破壊する目的で)

 龍崎駆音は優秀な戦士であったが、それも鋼牙に敗れた。
 敵対勢力を纏めて全滅させるだけの力を持っていてもおかしくはない。
 たとえば、アクマロとノーザの姦計によって滅ぼされた、なのはたちの一派のように──。
 あの悲劇を二度と繰り返してはならない。
 レイジングハートは、疑似レイジングハートを強く握りしめる。
 このまま、好き勝手させるわけにはいかない。

 ──ただ、近くにいるあの女の子たちを巻き込むわけにもいかない。

 彼女たちは被害者だ。これから鋼牙によって殺害されるかもしれない。
 果たして、どう出るべきだろうか。
 レイジングハートは、少し躊躇した。建物の影で、警察署の方をじっと見る。外観をそっと見つめた。
 見れば、警察署の方には数名の見張りがついている。

 いわば、ここが鋼牙やその仲間の根城という状態なのではないか、とレイジングハートは思った。

 鋼牙は数名の参加者と共謀してこの殺し合いに乗っている。
 アクマロとノーザが徒党を組んだのに似ているだろう。──記憶の中では、鋼牙はもう一人の男を連れて駆音と戦っていた。
 すると、やはりあそこの窓から外を見つめる二名は鋼牙の仲間である可能性がある。
 敵は複数。
 あれが見張り番である以上、正面突破は危険だ。
 裏口から、あるいは、──”上”から。

(──あそこなら)

 レイジングハートは、そのまま魔法で──空を飛んだ。
 彼がコピーするなのはは空戦を得意とする魔導師だった。飛行魔法を使用するイメージも湧きやすい。


772 : 黎明の襲撃者(小雨 2:00〜2:10) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:09:21 hPExjGy60
 レイジングハートの中に在る高町なのはの記憶が、そのままトレースされたのがこの姿だ。
 姿だけは想像だが、中身はほぼ高町なのはの戦闘記録をモチーフにしている。
 ゆえに──

「行きますッ!」

 どこまでも高く飛べる──。







 一方、涼邑零たちは鋼牙の案内によって、すぐに警察署の会議室内に来る事ができた。

「結城丈二という男は、死んだ。──残念ながら」

 零の鈍重な声の死亡宣告に、一也は、やはりと思って表情を変えた。
 零は、ここまで付き添っていた結城丈二という男の訃音をその知り合いに伝える時に、どう言えばいいのか悩んだ。その結果が、こんな皮肉のようにも取れてしまう言い方だった。しかし、その言葉を必死に形作る零の口元には、そんなニュアンスは感じ取れないのだった。
 結城丈二は死んだ。
 これで、元の世界の知り合いは完全にいなくなった事になる。──本郷猛、一文字隼人、結城丈二。それから、村雨良、三影英介も死亡した。
 そして、沖一也だけが残った。

(──これで、先輩ライダーが三人死んでしまった。俺がここからの状況を打破するしか……!)

 一也は拳を強く握る。
 そんな様子を隣でラブが心配そうに見つめた。一也については、一文字隼人から聞いている。元はと言えば、ここで落ち合うのも隼人と一也の二人の間で交わされた約束である。
 彼の死を悲しみ、そして背負っているラブは、一也の気持ちもよくわかっているようだ。
 零が続けた。

「その代わり、結城さんは命がけでカブトムシの怪物──ガドルを止めた。そして、おそらくガドルも死んだだろう」
「ガドルが!?」

 一也は隣で思わず素っ頓狂な声をあげた。ダグバの強大さを目の当たりにした彼である。
 これまで、徹底的にこの参加者たちに「無力」を突き付けてきたグロンギ怪人たちが、結城によって食い止められ、どこかで死んだというのが信じられなかったのだ。
 まだ一也はガドルと会っていないが、彼は一条という男やいつきを殺害している。翔太郎や杏子からも彼の強さは教えられたが、それを倒したのがライダーマンであるというのは──多少失礼だが──意外に思った。

「奴の首輪の外カバーを外して、逃げたんだ。その作戦に関しては、そこにいるちゃらんぽらんな探偵のお陰だ。あいつらのボスのダグバもこいつが倒したらしい」
「どうも〜♪」
「……そうか」

 首輪の爆発は全参加者を殺害する事ができる確実な手段である。
 案外、盲点に近い戦法だった。耐衝撃の性能が強すぎるせいもあり、これまで殆どの戦いでは首輪への攻撃は無意味に思えたが、なるほど、確かにカバーを外して五分で爆発する仕組みを利用する事もできる。
 ただ、やはり首輪の外周を綺麗に沿うようにして細い物を回す器用なテクニックを戦闘中に発揮できるはずもない。──どうやら、やはり暁は意外と頭が切れるらしい(※ネタバレするとそんなに頭が切れるタイプではありません)。

「その後だ。ガドルから逃げる為に時間を稼いだ結果が……こういう事だ」

 零は、結城丈二の鋼鉄の腕を見やった。
 その腕に、先輩戦士の戦いの傷がいくつも残されているのを一也は知っている。
 零たちに自分の魂、矜持、誇りを託し、世界の未来を導いたのである。
 この腕がある限り、彼の生きた証は消えていない。

「……わかった。報告を感謝する。涼邑零、涼村暁、石堀光彦、桃園ラブ──これから、君たちを俺たちのチーム『ガイアセイバーズ』に引き入れる。目的は殺し合いに乗っている残りの敵の説得、あるいは……最悪の場合、撃破と、このゲームの主催者の打倒、脱出だ。異議はあるか?」


773 : 黎明の襲撃者(小雨 2:00〜2:10) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:09:48 hPExjGy60

 鎮痛の面持ちで一也が言った。──たとえ改造されていなくても最後まで立派に戦った仮面ライダーの生き様を表しながら、しかし悲しみながら。
 彼の言葉に異論のある者はなかった。

「──細かい事も後で色々教えるよ。でもその前に、眠っている仲間に、挨拶でも。折角会えたんだ」

 ラブが、傍らで眠る友人──蒼乃美希に、何度か目をやっていたのをよく観察していたのだろう。
 一也は、話題を切り替えた。彼のやさしさだった。
 自分の仲間は皆死んだが、もしかつての友と生きて会えるならば、それに越した事はない。
 今残っている友情を大事にしたいのである。

(──おのれ、絶対にこの殺し合いはこの仮面ライダースーパー1が破壊するッ!)

 沖一也はまだ折れない。
 正義の意思がその拳に眠り続けている限り。







「しっかし、随分たくさん集まったねー、ホントに」

 涼村暁は、警察署の会議室に入り、中で眠っている人間の数を数える。簡易的に作られたベッドやら、椅子の上やら、という有様で、……雑魚寝すら可愛く見える。数え逃している事はなさそうだが、ざっと見て七人。
 その内、四人は女性だが、まだ若い。──というよりは、ラブやほむらと同じ年齢だ。
 女性の殆どが中学生以下で、男性の殆どが成人というのはまた随分奇妙な人選だと思いながら、暁は溜息をついた。

「美希たん、つぼみちゃん……無事だったんだ。それに、この子が杏子ちゃん?」

 一方、ラブはほっと温かい息を吐いた。
 ここに揃っている一太刀の寝顔は、明らかに死人の寝顔ではない。柔らかい鼻息を立てた人間の寝顔だ。──巴マミや、一文字隼人のように、死に顔である事を悟らせないほどの穏やかな物もあるので、少しばかり心配だったが──今こうして確認すると、杞憂だったらしい。
 それから、他にも数名。まだ見知らぬ人たちが眠りについていた。
 ただ、とにかくラブは安心した。一刻も早く、友達に無事を伝えたいが、ラブ自身も眠たく、殆ど起こすのも悪い状態だ。

「えーっと、どうしようかな……みんな眠ってるみたいだけど……」

 そんなラブの様子を察してか、暁が横から声をかけた。

「もう、隣で寝ちゃえば? 朝起きたら隣にラブちゃん……結構本気ドッキリじゃない?」
「え?」
「ほらさー、起こすのも悪いし、お互い眠いんじゃないかなーって」

 暁の悪戯心にラブはきょとんとした。確かに、起こすのも躊躇われる状況だが、こうして一日かけて合流したのだから、無理にでも起こしたい気持ちも少し湧いてくる。
 まだ幼いラブには、どちらが礼儀作法として正しいのかはわからなかった。
 大人の側である石堀が口を開く。

「ま、もし再会に気づいたら驚いて目が覚めてしまうだろうからな。体に悪いぜ。折角だ、俺も暁の意見に賛成だな。花咲さんに、それからえっと、蒼乃さんか。二人を驚かせてやれ」
「石堀さん……」
「ま、こんな時間に押し掛けると、それしかないんだよなぁ、実際のところ。もう少し起きていてほしかったところかもしれないが、まあこのトシで徹夜作業なんて大変だ。仕方ないよな」

 石堀も孤門一輝という知り合いが随分と気持ちよさそうに寝ているのを目の当たりにしている最中だ。
 ……まあ、こっちは大人同士だ。この状況では配慮なしにすぐに起こす事になるだろうが、まだ女子中学生である美希やつぼみを起こすべきかというと悩みどころである。

「わかりました。……ちょっとスペース空いてるから、私、説明だけ聞いたら美希たんたちと一緒に寝る事にします」


774 : 黎明の襲撃者(小雨 2:00〜2:10) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:10:06 hPExjGy60

 ラブは薄く笑った。

「あ、俺も隣で一緒に寝ようかn──」
「暁」
「……冗談だっての」

 暁が腰に手を当てて、長髪を掻き毟った。
 そんな暁の様子に苦笑しつつも、石堀は一也の方に向き直った。

「こっちは寝顔が見られれば満足だ」
「そうそう」
「ま、孤門は後で叩き起こさせてもらうが、その前に俺たち二人は、先にあんたたちの説明を聞かせてもらおう。その方が早い」

 石堀は一也に説明をするよう促した。
 ラブが、美希の隣で眠る準備をしていた。薄暗くて気づかなかったが、どうやら、殆ど皆、着替える事なく眠っているらしいので、ラブもそれに合わせて制服のまま横になった。これは後でクリーニングに出さなければならないだろう。
 横になって、眠ろうとしたが、ラブは瞼を閉じる事なく、……まあ意識の許す限り、彼らが行う説明を聞かせてもらおうと思っていた。


 ──そして、石堀光彦は、心の中で歓声を上げ、誰にも気づかれないように今、薄く、頬を釣り上げた。


 ──ここに“あいつ”がいる。──







 屋上。
 おそらくは、誰にも気づかれずにここに上がる事ができただろう。
 屋上を監視する物はないらしく、レイジングハートはほっと一息ついた。
 まるで忍者かコソ泥だ──と思う。こそこそと侵入して、中にいる悪を倒さなければならない。
 屋上に来ると、外の景色がある程度遠くまで一望できた。
 禿げあがった大地も、山も、バラゴが死んだあたりの森も少し見えている。

「雲……?」

 それからレイジングハートが見たのは、暗雲であった。真っ黒い雲が、近くを覆っている。
 この辺りも灰色の雲が立ち込めていた。
 この雲がどうやら少しずつ広がっているらしく、耳をすませば雨音さえ聞こえ始めていた。

(天候が随分悪化しそうな……)

 そんな気配を感じながら、レイジングハートは警察署の下の階に向けて階段を伝う事にした。
 エレベーターを使うと、おそらくは音声が響く。
 こういう時、無条件に話す機械とその音声は厄介である。やはり、この姿で侵入するしかない。
 降水確率がおそらく100パーセントの一時間後の天気を想像しながら、レイジングハートはすぐに屋上のドアを押した。
 鋼牙が侵そうとする幾つかの命を救い、フェイトと駆音の仇を取りたい一心がレイジングハートの体を突き動かす。

(戦います、見ていてください……みんな)

 あるいは、命をかける覚悟さえ持って、レイジングハートは階段を下っていった。






775 : 黎明の襲撃者(小雨 2:00〜2:10) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:10:25 hPExjGy60



 一也の口から、ここに来た四人にここまでの経緯を全て話すのは──とても骨の折れる作業だ。
 まして、彼らは元から一つのチームだったわけではない。あらゆるチームが結果的に合流していき、そうしてこのチームが生まれたのである。
 つまるところ、単線的に全てを話す事ができない。歴史の授業をするのと同じくらい難しい問題だ。同時期に何が起こっていたのか、というのを示す年表でも作っていれば別だが。
 一也は、簡略的に纏める年表を作っておけばかなり便利であっただろうとは思っていた。

 まあ、これまでの経緯を今話しても仕方がないのであくまで簡易的な紹介だけ続ける。
 残りの会話があるとすれば、おいおいだ。
 とりあえず、ここにいる全員を知らない前提で話す事にしよう。

「ここで寝ているのが孤門一輝、ここのリーダーにあたる」
「おいおい、マジかよ……」

 石堀が苦笑しながら言った。抑えたつもりだろうが、鼻から笑いが漏れている。
 呆れ、ではない。どこか嬉しそうにも見えるし、困惑したようにも見える。──ただ、少なくとも石堀は多少なりとも孤門を認める気持ちがあったのだろう。
 石堀の所作はそれを表しているように見えた。そう、あくまで周囲からは……。

「……あとは、それから、蒼乃美希、花咲つぼみだ。彼女たちは知っているね」
「ああ」
「この子は、高町ヴィヴィオ。彼女は魔法の力で大人になる事ができる」

 一也が指差すヴィヴィオは、確かに子供だ。
 魔法の力がどうの……という話には、もはや誰も全く疑念を抱かないようだ。
 もはや自分たちが知らない日常の方がおかしいくらいだと感じるだろう。

「こっちは佐倉杏子。魔法少女だ」
「彼は左翔太郎。仮面ライダーダブルだ」
「こっちが響良牙。仮面ライダーエターナルに変身できる。絶望的な方向音痴だから絶対に単独行動はさせないように」

 一也は極めて真面目に彼らを紹介した。
 今のところ、相互的に変身者の存在を知っている前提で話しても問題なさそうだと判断したのだろう。

 そこまで話したところで、部屋のドアが再度開く。
 外の人間が来たのを今のところ知らない事や、警察署内のこの部屋にピンポイントに入って来た事を合わせて考えると、それが誰なのかわかるまでは早かった。
 フィリップだ──彼に違いない。
 研究室にいたはずだが、どうやらここに来る事ができたらしい。

「ん?」
「──やあ」

 客人たちが眉を顰めると、彼は何ともない顔で挨拶をした。
 早々に彼らが来る事を、フィリップは予想していたのだろう。

「……結城さんは?」
「残念ながら──」

 一也の方に目を向けたフィリップは、そんな悲しい返答を訊く事になった。
 結城とは短い付き合いで、尚且つ対立をして戦う羽目になったのだが、仮面ライダーとしての意思を教えてくれた。
 そんな彼が何者かに敗れ去ったと知り、フィリップは項垂れる。

「……そうですか」
「だが、ガドルも倒された。これで残りは十五人だ」

 それを聞いて、フィリップは結城を殺したのがガドルなのだと知る。
 確かにショックだが、同時に結城がガドルを倒した事実に対しては、不謹慎と呼ばれようとも、素直な喜びがあった。
 あれだけ強い敵が葬られた以上、残るドウコクやあかね、それから魔女などは何とか倒せるかもしれない。特にドウコクは、かつて杏子が変身したネクサスによって倒された事もあるくらいだ。問題はそのしぶとさだろうか。
 フィリップが一人で思案を始める。が、それが深くなる前に声がかかり、フィリップはそちらに目を向けた。

「君は一体誰だ」

 そう訊いたのは石堀だ。当然、彼らはフィリップの存在には疑問を抱くはずだ。


776 : 黎明の襲撃者(小雨 2:00〜2:10) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:10:45 hPExjGy60
 残り人数が十五人ならば、ここにいるのは血祭ドウコクと天道あかねを除く十三人でなければならない。
 しかし、そこに十四人目が現れたとなれば、眉を顰めるだろう。

「ああ。僕の名はフィリップ。君は、石堀光彦だね。それから、涼村暁、桃園ラブ。よろしく」
「待て。フィリップなんて名前は名簿にはなかったぞ。だいたい、名前は英名だが、どう見ても日本人だ」

 石堀が、フィリップの言葉に対して怪訝そうに言う。彼は警戒心を解かない。勿論、ここにいるところは一定の信頼の値がある相手なのだろうが、それでも少し疑ってかからねばなるまい。
 名簿の名前には目を通し、記憶している。中でも、外国人の名前は比率的にも珍しいので、あれば特に目立つだろう。減っていった中ならば、余計に覚えやすい状態だ。
 フィリップもどこか疑うような目で石堀を見ながら、皮肉っぽく返した。

「名簿に載ってはいないが、まあ僕は左翔太郎の支給品っていう認識でおおよそ間違いないと思うよ──まあ、モノだと思われるのは癪だが、今はそれでも都合が良い。説明も複雑になるしね。ちなみに、本名は園咲来人だ。フィリップは、もう一つの名前っていうところだね。本名よりもこの名前で呼ばれる事が多い。そう呼んでくれると嬉しい。
 ……それから、ついでに一つ指摘しておくと、君の指摘はナンセンスだ。桃園ラブだって、充分和名に見えないだろう?」
「う……。でも、この名前はおじいちゃんが世界に通じるようにって……」
「わかっている。冗談だよ。参加者の情報は粗方こちらの方で閲覧させてもらっているからね」

 反面、ラブに対しては比較的紳士的な口調で返した。
 桃園ラブの名前は、彼女の祖父が「世界に通じるために」とつけた名前である。
 それはフィリップも資料閲覧時に確認していた。

「──閲覧、だと?」
「僕は各世界の資料をおおよそ閲覧できるんだ」
「どういう事だ?」
「各世界の地球が有している記憶が本棚になっている。それを僕の精神世界で閲覧できる……多少なりとも役立てるよ」

 すると石堀は眉を顰めた。──その能力がいかに不味い物なのかを、すぐに察知した。
 山岡一のデータやアンノウンハンドのデータは勿論、検索されてはまずい。──確かに抹消したはずだが、フィリップの口ぶりからすると、まるで地球そのものの中に存在しているデータのような言い方である。石堀のデータを閲覧しているのは確実だが、そこで何かを感じ取らなかったのだろうか。改竄データの方が知れ渡っているように思うが……。
 そう思いつつ、あくまでフィリップが何もしかけてこないところを見て、様子を伺い、鎌をかける。

「……随分と嫌な話だな。個人のプライベートから国家機密レベルまで全て閲覧できるとしたら、放っておくわけにもいかない。だいたい、人のプライバシーを勝手に閲覧とは、あまり気分の良い物じゃないな」
「残念だが、あまり重度な情報は検索ブロックがかかる。たとえば、君たちの世界における黒幕──アンノウンハンドのデータもね」

 石堀が眉を顰める。安心したような様子は見せず、ただ黙っていた。ひとまずは安心だが、それを顔に出してはならない。
 それに、その気になれば、かなり詳細に調べられそうな口ぶりだ。この少年の口ぶりは全く忌まわしく、あのイラストレーターの少年を重ねるくらいの相手だった。

「──ただ、アンノウンハンドのデータに関しては、こちらの方でなるべく対処しようと思う。本の中だけが物語ではないように、描かれていないドラマもあるのさ。そういうのは自分の力で推理するに限る。……君たちについては、敵対勢力じゃなければ、そこまで深いデータはいらないはずだから、基本情報と気になった点だけ調べさせてもらっているよ」

 そして、そんなフィリップの一言が、やはり石堀の中にあった疑念を膨らます事になった。
 この中にいる人間で、最も早く消さなければならない相手がこのフィリップである事を確かに実感する。石堀は、そうしてフィリップに対しての殺意を燃やす自分の背中を、シリアスな表情で見つめる暁とラブの姿には気が付かなかった。
 一也の方に向き直して、石堀は訊く。

「おいおい……ここにいる人間は、本当に100パーセント信頼できるんだろうな?」
「さあ。それは、一緒にいて初めてわかる事になるだろう。それに、仮に僕がそれに答えても、僕自身が信頼できない人間である可能性がある」

 しかし、それに答えたのはフィリップの方だった。
 彼は一也に送られた視線も気づいているのだろうが、彼はその上で答えたようだった。


777 : 黎明の襲撃者(小雨 2:00〜2:10) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:11:20 hPExjGy60

「まあ、僕の主観で言うなら、30パーセント信頼しているよ。残りの70パーセント、僕は彼らに好感を抱いている。大事な仲間としてね」

 フィリップとて、僅か数時間一緒にいただけの相手に信頼を寄せる事はできない。
 あくまで、探偵として「疑う」という行動をしなければならないのも事実だ。──表の姿がいかに良くても、裏の姿が悪魔のような人間をフィリップは何人も見て来た。
 それが探偵の真実だ。疑ってかかる前提がなければ、真実にはたどり着けない。たとえ、仲間であれど、批判的に見る事で更なる良さに気づく事もあるものだ。
 その姿勢は変わらない。だからこそ、彼は信頼と好感を別物として、合わせて100パーセントと表現した。

 石堀としては、フィリップに対する不満はあるものの、きわめてフレンドリーな表情で答える事にした。
 警戒を解いた、というように周囲には見えただろうか。

「なるほど。流石は探偵だ。その姿勢は嫌いじゃない。信頼できそうだ。……どこかの誰かよりもな」
「どこかの誰かとは誰の事だ! コラ!」

 暁が横から口を挟んだ。自分の事を指しているのが明白な石堀の口調に、憤怒している。
 石堀は、肩をすくめながら暁に訊いた。

「じゃあお前は今まで探偵として何をしたんだ。断言するが、何もしてないだろ」
「え、えっと……そりゃあ、犬を探したり、猫を探したり、亀を探したり……あ、黒岩に勝ったぞ! ラブちゃんとデート♪」

 至って弱腰になった暁を見て、フィリップが横で呆れた。

「……涼村暁。君、もしかして案外、翔太郎と気が合うんじゃないかな」

 ともかく、石堀がここでフィリップに疑いの欠片でも思われる事はなかった。
 ただし、暁とラブの内心を除いては──。







 レイジングハートは、そこまで来ていた。
 一部屋、人の声が聞こえる部屋がある。
 会議室。
 この部屋の向こうだ。
 なるべく、音を立てずにそっと、レイジングハートはそのドアに近づいていく。

(どうやらまだ殺戮は行われていない……それなら)

 誰も犠牲が出ない状態で、鋼牙を倒す。
 それがレイジングハートにとって、最も理想的な勝利だ。
 それを想像する。
 もし、タイミングが合えば、そこを狙う。

 ──レイジングハートは、疑似レイジングハートを構えた。

(……やるッ!!)







「まったく、孤門隊員はナイトレイダーの使命をお忘れデスか、っと」

 孤門一輝が眠すぎるくらいの瞼をこじ開けた。
 目の前。──ぼやける。
 知った人がいる。
 青いナイトレイダーの制服。顔が判然としないが、少し気がかりな相手。
 まさか、自分は任務中に居眠りをしていたのではないか、と孤門は不安になる。
 それで一気に目が覚めたように起き上がる姿勢に切り替えたが、思わず叫んだ。


778 : 黎明の襲撃者(小雨 2:00〜2:10) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:11:37 hPExjGy60

「ふ、副隊長っ!?」
「何を寝ぼけてるんだか……」

 孤門は咄嗟に、こういう時にいたら一番嫌な人間の事を思い出した。
 ──が、だんだんと、その人間がもういない事が彼の頭の中で明らかになり始めた。
 西条凪は死んだ。
 そして、今自分が置かれているのは、凪を殺した「殺し合い」というゲームの会場だ。
 そのうち、南東部にある警察署で、集まって来た参加者と共に眠っていたのだ。

「──い、石堀隊員!」
「おはよう、孤門隊員。……いや、孤門隊長“殿”」
「来てくれたんですか!?」
「まあな。……ここに来るまで、色々大変だったが、何とか」

 石堀光彦は、きわめて冷静だ。
 孤門と石堀は、まあ程よい距離感の同僚といった感じであった。
 孤門にとって石堀という男は、常に切迫した空気のナイトレイダーの中では、比較的冗談や融通の利く相手で、時折談笑できるような相手である。大人の余裕というのだろうか。──孤門のそれとは少し違っていた。
 そのくせ、コンピュータや生体・細菌に関する知識では一流。事戦闘となれば、上の命令を聞いて、一つ違った真面目な顔で対処できる、信頼できる仲間である。

「全部聞かせてもらったぞ、孤門。随分凄いじゃないか、このガイアセイバーズのリーダーなんて。俺も入れてもらったから、これからよろしく頼むぜ、リーダー」
「ちょっ……石堀隊員の方が先輩じゃないですか」
「だからと言って、隊長なんて勤まる器があるわけじゃないって事さ。俺はちまちまとコンピュータをいじる脇役で満足している。……ま、ゆっくりお休みのところ悪いが、新しい隊員の名前を覚えてもらうぜ」

 石堀ほか、桃園ラブ、涼村暁、涼邑零といった参加者がいるようだ。
 ラブ──そうだ。美希が探していた相手じゃないか。
 と、孤門は美希を起こそうか、起こすまいか迷う手を一也が止めた。

「大丈夫だ、そっちは起こすな、孤門。明日の朝のお楽しみという事らしい」
「明日の朝……? まだ、朝じゃないんですか?」
「ああ。まだまだ2時を少し過ぎたあたりだ。外を見ろ」

 外はまだまだ暗い。

「目が覚めましたよ、完全に……」
「だからこの部屋で寝ているお嬢様方には知らせていないのさ。起こして悪かったな。お前には起きてもらわなければ困るんだ、“リーダー”だからな」

 孤門は今のところ、一時間程度しか寝ていない。
 だというのに、すっかり頭が冴えたというか、ただ一瞬の驚愕が脳を一時活性化させ、その興奮がまだこびり付いているような気分であった。
 欠伸は出る。いや、目元は眠い。しかし、脳の中が悪い意味ですっきりして、またすぐには眠れそうになかった。

「それで……」
「全員集合って状況だ。対主催は、結城丈二以外、全員連れて来させてもらった」
「じゃあ、結城丈二っていう人は……」

 石堀は首を振った。
 孤門は残念そうに項垂れた。現在、ここに集合した人間は十四人だ。これがあともう一人、増えるはずだった。一人でも増えるという事がいかに心強いか。
 十五人いれば、脱出できる可能性はより大きくなる。

「そうですか……」
「代わり、といっては何だが、今のところの強敵の一人だったゴ・ガドル・バは撃退したそうだ。残る敵は、天道あかねと血祭ドウコク。──ただ、あかねという少女が元々、どうしていたのかという事や、血祭ドウコクも脱出を目指している事は聞いている。何とか説得する手だってあるはずだ」
「えっ!? ──」
「あのカブトムシは、戦いだけを求めているなんていう……本当に厄介な敵だったぜ。あれとはわかりあえる気がしなかったが、まあ、他はどうにかなるかもしれない。仮に戦闘になったとしても、これだけ仲間がいれば平気だろう。で、隊長殿はそこまで終えてからどうする気だ?」

 石堀の問いに対して、孤門が詰まった。
 単純にどうする気、と言われても、今の頭ではどうにも答えが出しづらかったのだ。


779 : 黎明の襲撃者(小雨 2:00〜2:10) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:11:57 hPExjGy60

「……終えてからって?」
「脱出の方法だ。首輪がない以上、この島の外にも向かえる。ただ……島の外に出たからと言って、俺たちの世界に帰れるわけでもないしな」

 石堀の言葉に、孤門は思案した。
 脱出の方法、というと、まずは主催者の打倒が前提となる。
 この島から出たところで、ここが異世界のどこかである以上は、結局元の世界に帰る事ができないだろう。
 ここを脱出するには、主催者に直接会って脱出方法を訊く必要がある。可能性としては、まず島の外にいるのが自然だと言えるだろう。

「なるほど。……一応、僕たちも少しは考えてあります。あなたたちが来て全員集合した時点で、その準備を進めようと考えていました──。フィリップくんや、沖さんのアイディアでもあるけど」
「聞いておこう」
「まずは、島の外に支給品を派遣します。主に飛行能力があるものを──」
「飛行能力?」
「バットショットです。えっと、フィリップくんたちが持っている道具なんだけど……」

 隣でフィリップが、孤門の振りで気づいたようにバットショットを見せた。
 バットショットは、遠距離に派遣してスタッグフォンに映像を送る事ができる装置だ。

「このバットショットについては報告が一つある。
 これには主催側から移動範囲の制限がかかっていた。内部に特定範囲から外へ行けないようにする機械が埋め込まれていてね。
 ただ、それは先ほど僕が除去しておいた。それから、これらの道具も通信妨害を行っていた装置を外しておいたよ。後ではぐれた時に使えるようになっている」

 先ほど、ショドウフォンの分解と同様に、制限がかかっていそうなアイテムをほぼ解体して首輪と同一の機械を取り除いていたのだ。

「お手柄じゃないか、フィリップくん」
「撮影した映像はこのスタッグフォンやショドウフォンのような各種アイテムにリアルタイムで送信される。この機能を使えば、島の外の様子もすぐにわかるはずだ。しばらくしたらこれを派遣する。……孤門さん、続きをどうぞ」
「あ、ああ……」

 フィリップの手際の良さに驚きつつも、孤門は説明を続けようとした。
 しかし、その口が少し止まった。
 微かに開いている窓が、孤門に冷たい水滴を飛ばしたのである。
 外を見た。

「雨だ……」

 零が呟く。
 起きている全員が外を見ると、空は予想以上に暗い。この部屋には星明りさえ刺さなくなり始めていた。
 そして、風が音を立手始め、網戸を通して霧のような雨をこちらに寄せていた。



 ────何か、胸騒ぎがしていた。



 その胸騒ぎを裏付けるように、一人の少女が部屋の中に突入してきた。


780 : 黎明の襲撃者(雨 2:10〜2:20) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:14:23 hPExjGy60



「冴島鋼牙──ッッッ!!」

 一人の女性の抱え込んだ意思が、大きな怒声となって部屋の隅々まで響くと、当然、寝起きの良い人間は突然起こされる事になった。
 響良牙が、ぱっと目を覚ました。
 花咲つぼみが、眠そうな顔で反射的にメガネを探した。
 蒼乃美希が、不機嫌そうな顔で声の主に視線を送った。
 左翔太郎が、慌てて起きたために椅子から転げ落ちた。
 佐倉杏子が、自然と目を覚ました。
 そして、高町ヴィヴィオが、──目を覚ますと同時に、これが夢である可能性を疑った。
 大事な話をしていた最中の孤門たちは思わず、その会話を中断して、その方を見つめた。

「マ、……」

 ヴィヴィオが何か口にしたが、次の瞬間には戦闘音がその言葉を掻き消していた。
 知っている女性が、暗闇の中で一人の男を追撃する。──その女性だけが、この一室の中で光を灯している。
 だからこそ、一層幻想的に見える。
 桃色の魔法の光。──彼女だけが輝いている理由も含め、ヴィヴィオはよく知っているのである。
 その状況に対する疑念が浮かぶ。

「え……?」

 ──あの手にあるのは、レイジングハート・エクセリオン。
 それに、あの容姿は高町なのは。──つまり、ヴィヴィオのママだ。
 しかし、死んだはず……それは確かだというのに。
 何故、ここにいる?

「──私は、あなたを許さない」

 そして、──彼女ならば、そんな事は言わないはず。
 ヴィヴィオの頭が混乱していた。
 レイジングハートの切っ先が、白い魔法衣──その姿は暗闇でも目立つ──の方に向けられていた。憎しみに満ちた瞳は、いまだかつてヴィヴィオが見た事のない母の表情を作り上げている。
 これは夢か、幻か。真っ先に、それを疑ったが、それはどうやら違うらしい。

「電気、電気つけろッ!」
「で、電気どこ!?」
「大変だっ!!」

 同じ部屋の中で仲間たちが混乱しているのがはっきりとわかる。それが唯一、ヴィヴィオが現実に即していると感じる部分であった。こうした脇役の所作がリアリティを形成している。もし夢ならば、ここまで細かい事はやらないはずだ。
 翔太郎や美希や杏子の声が、ヴィヴィオの耳に入って、それがヴィヴィオの中の寝る前の最後の記憶と直結した。
 そうだ、私はここで眠っていたのだ。
 ──そして、何故、目の前になのはが?
 なのはは、レイジングハートを鋼牙に向けて振り下ろした。

「──くッ!」

 レイジングハートを防御する魔戒剣の鞘。それが守っている鋼牙の顔は、どうやら苦痛に歪んでいるようだった。鋼牙は満身創痍と言っても過言ではない状態である。──戦うには、少しばかり辛い。体内に残留したダメージが、鋼牙の動きを鈍くしていた。
 彼は体勢を上手く立て直している。そこに左手のザルバが声をかけた。

『鋼牙! 誰だ、こいつは!? 知り合いか!?』
「こっちが聞きたいっ! 何者だ、お前はっ!!」

 鋼牙は、その一撃を払いのけ、壁際で体を翻した。
 そこに何度か、レイジングハートの攻撃が加わりそうになるも、辛うじて鋼牙はそれを避けていた。
 攻撃を先読みできる程度には、何とかまだ戦闘経験が浅い相手のようである。

「──私は、龍崎駆音とフェイトの使いッ! 名前はレイジングハート・エクセリオンッ!」


781 : 黎明の襲撃者(雨 2:10〜2:20) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:14:46 hPExjGy60

 高町なのはは、そう名乗った。
 ヴィヴィオはまだベッドから抜け出る事ができないままだった。状況を理解するのに少し時間がかかった。──レイジングハート・エクセリオン? いや、それはこんな姿ではない。
 そして、フェイトの使いとは……? その言葉が気になった。杏子や翔太郎も、その言葉に動きを止めて、眉を顰めている。
 寝ぼけた頭で必死に応えを探ろうとする。

「鋼牙、あなたの命を貰い受けます。……他は全員、ここから逃げてください。フェイトや駆音の仇である彼ら以外、危害を加えるつもりはありません」
「何だかわからないが俺の命はやれん! だいたい、俺はフェイトという少女には心当たりはない!」
「ならば何故、少女だとわかるのですか。あなたがフェイトに会った証拠です……!」

 この状況下、まさか敵が攻めてくるとは思わなかった。監視は一体何をしていたのか、という話になる(とはいうものの、起きている大の大人がずっと監視していたが、その隙を狙ったのである)。
 ちなみに、鋼牙がフェイトの事を知っていたのは、勿論ここである程度情報交換をしたからであった。鋼牙自体はフェイトと面識がない。少なくとも、魔導師の少女という情報しか得ていないのだ。

「はァッ!」

 なのはは、レイジングハートを使って、鋼牙の心臓を狙う突きを披露する。
 何とか鋼牙は真横に体を逸らしてそれを避けていた。

「くッ。なんだか知らないが厄介な相手だ……!」
『龍崎駆音の使い……? それが気になるな』
「奴の使いとなるとろくな相手じゃない。お喋りできる場合じゃなさそうだ、すぐに全員避難しろ……!」

 鋼牙が指示を出す。これでは防戦一方だ。
 まだ起きたばかりの仲間たちをどうにかして外にやらなければならないが、全員、混乱状態という感じらしい。
 これならばいっそ、もっと早く起こしてやればよかったくらいだが、鋼牙もエスパーではない。こうして侵入者が突然現れた時の睡眠組の対処をしようとはしていなかった。
 やむを得ず、剣を抜く。

「──はぁっ!」

 と、同時になのはの体を真横から剣が狙う。
 もう一方の黒い服の男──涼邑零である。
 彼もまた魔戒剣でなのはに向かって左腕に向けて斬りかかった。咄嗟になのははそれを回避し、後退する。
 慌てて周囲が彼女の元から這うようにして離れて行った。

「なんだよ、偉い美人とお知り合いだなッ! 鋼牙!」
「知らん!」
『よく知らない女に急に襲い掛かられるのは魔戒騎士のお約束だ。だいたいの場合、後から話し合いで解決するんだから、最初からそうして貰いたいもんだぜ』

 ザルバが真理を突いたところで、なのははまた一歩踏み出して、零と鋼牙を纏めて倒す方針を固めたらしい。
 いや、しかし──。

「なんだ、コイツ……」

 ──気づけば、目の前にいる女性の姿は、別の姿に変わっていた。

「その鎧は……!?」

 それは、暗黒騎士キバ──その吼える声。バラゴが変身した時の姿である。
 手には黒炎剣が確かに握られていた。マントを翻し、鋼牙を再び狙う。
 接近戦のしやすいモードに切り替えたのだ。

 ダミーメモリは、相手の記憶から敵を作り出す事ができる。
 これもまた一つの姿であった。レイジングハートの記憶の中でのキバの姿である。

『おい、こいつは……どこかで見た事があるぜ!?』

 ザルバが魂で記憶していた凶悪な敵であった。
 鋼牙も奥歯を噛んでキバを見つめる。


782 : 黎明の襲撃者(雨 2:10〜2:20) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:15:06 hPExjGy60
 何故、この女性が、自身の父親のような姿になったのか──という謎。
 闇の力は、またも彼女の周囲を照らした。光ではなく、闇のままに人を照らす奇怪な現象が今、彼らの周囲で起こっている。
 どうやら、本気で接近戦で敵を消すつもりらしい。

「お前は、暗黒騎士キバ……!」

 沖一也が言う。
 彼はこの殺し合いが開始してすぐにその鎧の怪人と出会っている。ただ、その正体に関しては既に話で聞いており、バラゴなる人物であった事も情報として既に知っているはずだ。
 姿を真似たコピーである事も、またすぐにわかった。

「──」

 隣で、何かに対する既視感を翔太郎とフィリップは感じ取る。彼らの場合は、決して、これまでに暗黒騎士キバの姿を見ていたわけではない。
 姿ではなく、この能力だ。──無条件に姿を変えてしまう力。
 これと殆ど同じような能力をどこかで見た事があり、その既視感の正体を必死で脳内から探り出そうとしている。
 ……が、候補が多すぎた。ドーパント犯罪のデータを全て回想しても、おそらくはこの一瞬だけでわかる能力はない。

「はぁッ!!」

 その既視感が確かな物になっていく前に、会議室の窓ガラスが大きな音を立てて粉砕された。窓を背に戦っていた鋼牙がその場に向けて押しのけられたのである。この部屋の窓ガラスが割れるのは二回目だろうか。部屋には一層雨と風が降り注いだ。
 ここは決して低い階層ではない。
 生身のまま落ちてしまえば、鋼牙でさえ簡単には受け身を取れない。キバはここから落とす事でバトルフィールドを変更しようとしていた。なまじ周囲を巻き込むまいとする理性が働いている分の厄介さである。キバは、その鋼牙に向けて剣を振るう。

「くっ……」

 回避するには、ここにできた穴に飛び込んでいくしかない。
 やむを得ないか──仕方がない。

「──ッ!?」

 鋼牙の姿が窓の外、雨を降らせる街の中へと飛び込んでいった。その様子に、誰もが驚愕した事だろう。──しかし、彼は直後には空中で真円を描き、黄金騎士の鎧を召喚する。完全に落下し終える直前に鋼牙の体に黄金騎士の鎧が装着された。
 黄金騎士ガロが、外で地面に着地する。
 それを追うように、ガラス窓を更に一回り破壊してキバが外に飛び込んでいった。

「チッ……!」

 零もまた同じだ。
 窓は、背中を丸めて縮めて突っ込めば、簡単に出入り口として使えるようになっていた。勿論、窓を開けてから出る事もできたが、その時間さえ惜しかったのだろう。あるいは、本能が咄嗟に彼らの後を追いかけようとして、冷静な判断を下さなかったのかもしれない。
 この出入口のの先が数メートルの高さである事を屁とも思わない彼のような人間は、躊躇なくそこに飛び込める。
 零はそのまま、鋼牙のように空中で真円を描いて、銀牙騎士ゼロとなってから地面に着地した。落ちた先で数歩かけてバランスを取ると、両手に剣を構えた。

 黄金騎士と銀牙騎士。
 かくして、二人の騎士が、雨の降り注ぐ夜空の元に暗黒騎士と対峙する事になった。
 アスファルトに反射した光が、とても綺麗に戦いのフィールドを照らしていた。







 さて、警察署の中に残った彼らだが。
 突然の来訪者に呆然としていた彼らも、だんだんと頭が冴えてきて、動き始めていた。


 ──ぱっ


783 : 黎明の襲撃者(雨 2:10〜2:20) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:15:23 hPExjGy60


 と、会議室に灯りが点った。夜二時半の会議室に、再び電気がつく。──孤門が電灯のスイッチを押したのだ。彼ら魔戒騎士たちが姿を消して、こうして光がつくまで、そう時間はかからなかった方だろう。緊急時にすべき対応というのができるあたり、孤門は流石元レスキュー隊員という所だ。
 ここまで、おおよそ警察署に残っている人間は茫然としたまま、何が起こったのか把握できない感覚に襲われている。寝起きの頭がオーバーヒートしそうだ。
 ただ、やはりこれも孤門の功績か、灯りが突いた途端に何かしらの驚きを感じる事になった。

 そう、たとえば、この会議室の人口がまた増えている事とか──

「って、ラブ!?」
「石堀さんっ!?」

 ──知り合いが目の前にいる事とか。
 美希やつぼみ、翔太郎や杏子は、こうして会議室内が眠っている間に随分と時間を進めていた事に驚きながら、混乱する頭をどうにかしようと思っていた。
 誰にも構ってもらえない暁は一人寂しそうに笑った。

「──どういう事だ? って、本当にどうなってるんだ!? あいつは何だ!? レイジングハート!? どっかで聞いた事があるような……」

 良牙が酷く混乱したように言っている。だんだんとそれぞれの頭が何らかの答えを導き出していくようになった。
 まず、時間は全員が時計で確認する。──まだ、二時半を過ぎたあたりだという事。眠っていたのは僅か一時間とかそんな程度だ。
 それに、会議室に何人は来てくれていた事に気づき、今、何か厄介な客人が来て鋼牙を狙っているという事に気づく。

「あ、えっと……」

 ただ、ヴィヴィオは、なのはの事も、フェイトの事も、レイジングハートの事も知っている分、混乱が大きい。あるはずのない物がそこにある事に対して、当然順応できず、頭がオーバーヒートするような感覚を味わう事になっていたが、それでもとにかくこのままではまずいのが明らかだ。
 ヴィヴィオも参戦する事にした。

「ク、クリス。何だかわからないけど大変だから手伝って!」
『(コ、コクコク)』←右目を手でゴシゴシしながら

 眠たいのはわかるが、とにかくどうにかしなければならない。



「セイクリッドハート・セットアーップ!」



 突如としてクリスを装着して大人モードへと変身したヴィヴィオが注目の的になる。何故、ヴィヴィオがこの時に変身したのか誰もわかってないようだった。
 ヴィヴィオがどうにも気まずそうな表情でとにかく簡単に事情を説明する。

「あ、あの……私もちょっと行ってきます! あっ、でも私だけでも何とかなりますから! そこは心配しないでください」

 事情の説明……と呼べるかはわからないが、こんな感じであった。
 知り合いがあんな事をやっているのが恥ずかしく、一刻も早く止めねばとヴィヴィオは焦っている。
 割れた窓ガラス──この会議室の窓が割れるのは二度だ──を開き、なるべく危険のないような状態にしてから外へ出ようとする。
 そして、窓枠に手を置いたところで、ふとヴィヴィオはある事に気づいた。

「あ、その前に──杏子さん、良牙さん。ちょっと……バルディッシュとマッハキャリバーを貸してください」

 杏子と良牙が、突然自分に声がかかって、きょとんとした表情をした。






784 : 黎明の襲撃者(雨 2:10〜2:20) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:15:44 hPExjGy60



 黄金騎士と銀牙騎士が暗黒騎士と戦う──この光景は、かつても見た事があるだろう。
 しかし、そこにいる暗黒騎士はバラゴが変身した物ではない。その点では、全く初めての戦いだと言えるだろう。
 剣同士がまじりあい、金属音を夜の街に響かせる。鎧にぽつぽつと雨粒が落ちていくが、刃の通り道で雨粒さえ断ち切られていく。

「ハッ!」

 優勢なのは、明らかにガロとゼロであった。
 戦闘経験においても、人間の体の使い方にしても、勿論、その鎧が正真正銘ソウルメタルであった点でも、確実に勝っていた。
 黄金剣や絶狼剣が鎧に到達する度に、似非デスメタルは不完全な防御を行い、レイジングハートそのものにも巨大なダメージを与えていく。
 いや、しかし──。
 敗北するわけにはいかない。

「やはりこの姿では難しいようですね」

 レイジングハートにとって、より高い戦闘能力を発揮できる姿。
 それは、勿論高町なのはの姿だ。両手足のヒットなども考慮に入れれば、やはり成人体が丁度良い。ツインテールの茶髪を揺らし、あの邪悪な狼の異形から、精悍な美少女への変身。
 まさしく、それは異様であった。

「──このフィールドならば、いっそこちらの姿で行きます」

 偽レイジングハート・エクセリオンを両手に構えたまま、桃色の羽をブーツに出現させると、そのまま飛翔する。
 飛翔した敵に対しての攻撃手段は二人の騎士には少ない。それこそ、高く跳躍するか、剣圧を届かせるかの二択だが、空中というフィールドをより自在に操る事が得意なのは、この空戦魔導師であった。

『Divine Buster』

 桃色の光が、空中から降り注ぎ、ガロに直撃する。
 ガロは顔の前に黄金剣を翳したため、厳密にいえば勢いはそちらで吸収し、鎧にはほとんど到達しなかったのだが、ガロはそのまま数歩分だけ後退させられた。
 両肩にだけディバイバスターの魔力の残滓がぶつけられたが、彼は冷ややかな表情でその痛みを堪えた。
 どうやら、このディバインバスターなる技は相当な強さらしい。

「これはフェイトの分です」

 レイジングハートは、ダミーメモリでその体をフェイト・T・ハラオウンの姿へと変じる。
 そして、彼女の声で叫ぶ。

「サンダースマッシャーッッ!!」
『Thunder Smasher』

 遠距離直射型魔法、サンダースマッシャーが放たれる。
 それは、またもガロに。──彼女の恨みの対象は、そこにある。
 隣にいるゼロも勿論打倒すべき相手だが、まずはガロだ。
 諸悪の根源、といえばゼロ以上にガロが浮かぶ。
 これは電撃を起こす魔法だ。仮に黄金剣が防いだとしても、次の瞬間に全身を一度電撃が伝う。ましてや、この天気だ。
 サンダースマッシャーは、そのまま、魔戒騎士でさえ対応できないスピードでガロに直撃した。

「……がっ!!」
『ぐぁあっ!!』

 ガロとザルバが電撃を受けて、体内に伝うそのダメージを悲鳴として絞り出した。
 大声を出す事で緩和できるような負担ではないが、本能的にそれ以上の逃避手段が出てこなかったのだろう。
 確かな手ごたえを感じたレイジングハートは、心の中で歓喜の笑みを浮かべた。

 バルディッシュ・アサルトをサイズフォームに変形させると、レイジングハートはそのまま、空中から地上へと急降下を始めた。
 フェイトの速度があれば、距離が縮まるのは殆ど一瞬だ。
 巨大な金色の魔力刃は、黄金騎士ガロを狙って振り下ろされる。──左肩へと。


785 : 黎明の襲撃者(雨 2:10〜2:20) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:16:02 hPExjGy60

「──ッ!?」

 鋼牙の左手は先ほどまで、強烈な痛みによって支配されていた。
 だが、その痛みもまだ完全には退いていない。最も危険な弱点を聞かれれば、間違いなくここだと言える。
 知ってか知らずか、レイジングハートのねらい目はそこであった。



 しかし──



「おりゃあっ!!」

 それが到達する前に、真横から助け船が来たのであった。
 銀牙騎士ゼロは、ガロとレイジングハートとの間に割って入ると、両刃をクロスさせてバルディッシュ・アサルトの魔力刃をそこにぶつける。
 刃と刃が拮抗し、雨と相まって爆ぜるようにビリリと音を立てる。
 しかし、それは物ともしなかった。目の前で起こる光に眼を痛めながら、後ろにいる仲間を守ろうとした。
 目の前で突如大きな火花が散ると、レイジングハートは後方に退いた。
 そこでゼロが片膝をつく。

「すまない、零……!」
「別にお前の為にやったわけじゃない」

 お約束っぽい台詞をかけた瞬間、そこにもう一人、格闘を得意とする一人の魔導師が降下してきた。
 いくつかのインテリジェント・デバイスを胸に抱えながら、降りてくる少女は──

「やめて……!! レイジングハート!!」

 ──レイジングハートの名前を呼んだ。
 高町ヴィヴィオである。







 孤門、石堀、翔太郎、フィリップ、一也、良牙は窓の外で繰り広げられている戦いの方を見ていた。落ち着いてその様子を伺いながら、たまに警察署内の方に目配せをする。
 今のところ、増援はかえって邪魔になるだけと考えていいだろう。
 そこをよく見極めていたからこそ、彼らは「観戦」という立場になっていた。いざという時は、翔太郎であれ、良牙であれ、一也であれ、石堀であれ、彼らに力を貸す事はできる。
 その辺りに安心感はあった。
 少し気がかりなのは、今まさに飛び出していったヴィヴィオくらいである。
 外の様子に注意しつつも、翔太郎と良牙は他数名にここまで一時間ほどの経緯を聞いていた。

「結城さん……死んじまったのか」

 一つのショックとともに、翔太郎は項垂れた。







「美希たん!」
「ラブ!」
「とにかく……ひとまず良かったですね、二人とも」

 三人のプリキュアは、とにかく再会を喜んでいた。今がそうそう喜んでもいられない状況であるのもわかっているが、やはり再会の喜びというのは理性では押し込められないものだ。二十四時間以上にもわたって、お互い心配し続けたのである。
 ラブなんかは、すぐに「会いたかったよ〜」と涙半分に美希に抱き着いてしまった。
 全く、子供のようだが、この状況下では仕方ないくらいだ。
 焼死体になった祈里や、血まみれのせつな──二人の姿を見てしまったラブは、より一層、生きている友人に会えた事への喜びが強くなっていた。この温もりは、生きていなければ味わえない。


786 : 黎明の襲撃者(雨 2:10〜2:20) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:16:20 hPExjGy60

「……桃園ラブか?」

 杏子が、何やら複雑そうな顔でその様子を見ていた。
 その声に、ラブは抱擁を解く。
 友人になった美希に友人がいた事に嫉妬しているのではない。「桃」の名を持つ少女──それが、どこか懐かしかった。
 そう、佐倉杏子の妹の名前は、「モモ」という名前であった。
 随分と明るい性質を持った、このラブという少女に多少の困惑はあるものの、やはりどこか自分よりも幼いところのある少女に見えた。それは、やはり育った環境の違いによる点も否定できないかもしれない。温室育ちかどうかはわからないが、おそらく杏子のようなタイプでは発揮できない明るさだ。

「うん! あなたは佐倉杏子ちゃん……?」
「あ、ああ……そうだ」
「よろしく! マミさんとお知り合いだよね?」

 ──マミ。
 その名前に、杏子は少しだけ眉を顰めた。勿論、マミは知っている。
 彼女は杏子にとって、魔法少女の師匠のような存在である。
 まあ、もう死んでしまっている。死んでいるが──。

「マミと会ったのか?」
「うん。……杏子ちゃんの事、よろしくって言ってたよ……」
「そっか……」

 つぼみに続いて、二人目だ。また伝えなければならない。つぼみの方を見やる。
 つぼみも俯いた。杏子とマミの魔法少女仲間という境遇を、何となく察したのだろう。
 杏子としては、マミがラブに杏子の事を伝えたという事が心苦しくもあった。杏子としては、マミの死──それも二度目の死──に際して、別段、深く考えたかというと、そうでもない。いや、確かに考えてはいるが、想われた分を返したかと言われると甚だ疑問と呼べる所である。

「ちょっと待った。あんこちゃん、君は──」
「あんこじゃねえッ! 杏子だッ! 馬鹿野郎ッ!」

 全くの初対面だが、全く咄嗟に杏子はそう言ってしまった。
 何故だかはわからない。涼村暁の表情には何故かそうさせるだけの力があった。
 もはや、怒鳴った事に対しての後悔さえ出ないレベルである。むしろ、暁が少しでも落ち込めば「してやったり」という顔にもなれる。今はまさしくそんな顔になりかけているところだった。

「俺なんか悪い事したか……?」
「人の名前を間違えるのは失礼ですよ。言いすぎだとも思うけど」
「まあいいや。佐倉杏子ちゃんね。ちゃんと刻みました〜♪」
「って、切り替え早っ!」
「人の名前は一度聞いたら忘れないの。なんてったって俺はハードボイルド名探偵・涼村暁でスーパーヒーローシャンゼリオンだからさっ!」

 くるりと回転しながらそう言うものの、たまに石堀の名前が石川だか石崎だかわからなくなる暁であった。
 彼が暗唱できるのはコンビニの数ほどいるガールフレンドの名前、及び女性の名前だ。男の名前は憶えられる時と覚えられない時がある。

「ハードボイルド名探偵だと? 聞き捨てならねえな」

 隣から、あからさまに面倒くさそうなタイプの探偵が突如として絡んでくる。
 その名も左翔太郎だ。今まで外の様子を見ていたが、「ハードボイルド」と聞いたからにはこちらへ向かってくるしかない。暁の様子をじろじろと嘗め回すように見て、何かを考えているらしい。
 今、まさしくシャーロック・ホームズ的に暁の身なりを見て性格や出身地を当てようとしたところだが、全く思いつかなかったらしく、呆れたような所作で誤魔化しながら、暁を挑発する。

「こんな馬鹿そうな長髪野郎がハードボイルド名探偵? ……ハッ、笑わせるぜ」

 翔太郎が見抜けたのは、馬鹿そうである事と長髪である事だけだ。──ただ、その二つは大当たりである。
 普段ならばもっと見抜く事ができたかもしれないが、どうも暁という男の外見から見抜けそうなデータは少なかった。


787 : 黎明の襲撃者(雨 2:10〜2:20) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:16:38 hPExjGy60

「なんだと!? なんだか知らんがいきなり随分失礼だなお前」
「言っておくが、俺たちも探偵だぜ。それも、お前の一億倍ハードボイルドな探偵だ。お前如きにハードボイルド名探偵を名乗らせるかよ」

 こう言われるとムキになる性格なのが暁だ。双方とも、だんだんとイライラし始めているらしく、この二人が勝手にヒートアップしていくのを、女子中学生たちは冷ややかな瞳で見つめた。

「じゃあまず、俺も今から名推理してやる。お前の本質はただの恰好つけ野郎だ! 一目でわかる! だいたい、なんだその帽子は。全然似合ってねえんだよ」
「何ィッ!? 俺のこの帽子が似合わないッ!?」
「こんな帽子は、今から俺がカップラーメンの蓋の上に載せて重しにつかってやる!」
「あ、返せ……! 俺の帽子、俺のハードボイッ!」
「誰か! カップラーメンをくれ! 今からこいつをカップラーメンの為に使ってやる」
「やべどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」

 暁が翔太郎の頭の上から奪った帽子を、フィリップが横からひょいと取り上げた。

「……涼村暁に、左翔太郎。巡り合う二人のバカ探偵か。案外似た者同士かもね」
「「はぁっ!? コイツが俺と!?」」
「……会ってみたら一体どんな化学反応を起こすか楽しみだったけど、大方予想通りだ。今後ともこんな感じでよろしく。で、君はシャンゼリオンだね。じゃあ、これは僕たちからの贈り物だ。これと引き換えに、こっちのバカ探偵の帽子を返してもらおうか」

 暁が呆然としているところで、フィリップの手から変な水晶の結晶体が渡される。

「何これ? なんか高く売れそうだな」
「売れない。それはシャンゼリオンのパワーアップアイテムだ」
「パワーアップアイテム!? これが……!? ま、まあ貰えるなら貰っておくけど」

 暁がパワーストーンを見て、驚いている。何せ、そんな事実はスーパーヒーローマニュアルⅡのどこにも載っていないのである。全く未知のアイテムだ。
 とにかく、貰える物なら貰っておこうと、ポケットの中に入れる。
 折角のパワーアップアイテムを雑にポケットに入れる姿をフィリップはジト目で見つめた。

「で、杏子ちゃんに何か話があるんだろう? こんな馬鹿な事をやっていないで、そっちを優先した方が良い」

 フィリップが滑らかな口調でそう言い返した。このまま話し続けるとこっちがおかしくなると思い、未然に危機回避したのである。
 暁は、ふとその言葉で自分が杏子に話しかけていた事を思い出した。そうそう、杏子に用があるのだった。
 暁が杏子に向き直ったあたりで、フィリップは翔太郎に帽子を返した。

「あ。そうだ。俺は俺でほむらと会ってみたりしちゃったりしているわけなんだけど」
「え!? あいつとしちゃったのか!? あんた大人なのに……」
「言葉を区切る場所を間違えるなっ! 会ったんだよ! 会っただけだ。とにかくだ、あんたもあれ。魔法少女なんだろ? ならほれ、ソウルジェム見せてくれ」
「は!? なんで!?」
「とにかく見せて」

 幻滅したり子供レベルの喧嘩を見せつけられたり……なんだか暁のペースに飲まれがちというか、驚かされがちな杏子ではあったが、まあとにかくソウルジェムをとりあえず手に取るだけはした。
 暁の事を信頼しているわけではないので、あくまでしまい込んでいたソウルジェムを露出させただけだ。もし暁がソウルジェムという弱点を知ったうえで杏子の殺害を企てているのならば、このままみすみすやられるだけになってしまう。

「ふーん、まあ綺麗だな」
「何だよ、一体。人のモノをジロジロ見て……」
「……これならまあ、大丈夫なのか?」
「だからなんだよ。別に高く売れないぞ」
「いや、高く売れるならそれに越した事はないんだけど。……だって、これが穢れていたら、魔法少女はまj──」

 何かを言いかけた暁に杏子は顔色を変え、その口を手で塞いだ。
 咄嗟の対応である。杏子は鋭い目つきで、低い声で暁に言う。

「──どこで知ったか知らないが、それ以上言うな。殺すぞ」


788 : 黎明の襲撃者(雨 2:10〜2:20) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:17:17 hPExjGy60

 暁は動揺していた。何故、突如として杏子がこんな行動に出たのか、暁には全くわからなかったのだ。
 しかし、とにかく、それが触れてはならない事だというのは察した。
 確かにほむらも、実際にそうなる直前まで、魔女についての説明は一切しなかったはずだ。
 それを思い出し、暁は何度も頷く。傍から見れば、迫力に押されているようにしか見えないかもしれない。
 まあ、この様子を見た限りでは、魔法少女というのは元来野蛮な性質の持ち主なのかもしれない。ほむらにも何度銃をつきつけられた事か。
 野蛮人魔法少女(偏見)ではなく、成人君主プリキュア(偏見)である美希が、横から杏子を注意しようとしていた。怒っているというよりは戸惑ったようなしぐさで、杏子に向けて放つべき言葉を用意する。

「ちょっと、杏子……! どうしてそんな言葉を……」
「あー、いいよ。全然。ここは俺が悪かったっていう事で」

 しかし、杏子の言葉遣いに関する注意は暁が遮る。
 どちらかといえば、美希より杏子の方が「近い」人間である事を本能で見極めたのだろう。
 ただ、美希もどちらかと言えば暁の好みのタイプではあったのは一応付記しておこう。

「で、杏子ちゃん? 魔法少女である君に、一つプレゼントがある」
「なんだよ」
「ほら、これこれ」

 自分たちが持っていたその辺のデイパックを漁る暁の手から出てきたのは、グリーフシードであった。ここにいる誰にも──照井竜の知り合いにも──情報は行き渡らないが、これは照井竜という人物の支給品であった。
 杏子が一瞬、そのプレゼントに目の色を変えたのを暁は見逃さない。

「どう? 欲しい? まあ、いいや。いらなくてもあげよう。とりあえずこれをどっかで役に立ててくれ」
「いいのか……?」
「だって魔法少女ってもう杏子ちゃんしかいないじゃん。いいんじゃない? 売れないし」
「高く売れるとしたらくれるのか……?」
「…………………………」

 暁は返事をせず、固まった。かなり悩んでいるようである。
 そんな様子を見て、杏子は溜息を吐き出した。

「……とにかく、ありがとうと言っておくよ」
「えへへー」
「ん。そうだ、ほむらって言えば──」

 杏子は、ふと、ほむらの事を思い出した。
 ほむらの事では一つ心当たりがある。──そう、まさしく、この警察署内に「ほむらが眠っている」という事だった。







「レイジングハートなんでしょ!? ねえ!」

 ヴィヴィオは母親の姿を模したインテリジェント・デバイスに問いかける。ガロとゼロも構えつつ、動きを止めてヴィヴィオの方を見た。
 精悍な瞳で見つめたいところだが、やはりそうもいかない。戸惑いが顔に現れている。何故彼女が飛び出してきたのかという一点にその戸惑いの理由が込められているだろう。
 ただ、突然現れた少女に戸惑っているのは、何も魔戒騎士たちだけではない。レイジングハートも同じであった。

「あなたは……」
「私、高町ヴィヴィオ! み、未来から来た高町なのはとフェイト・T・ハラオウンの娘ですっ!」
「……残念ですが、女同士で子供はできません」

 きわめて常識的な返答をレイジングハートは咄嗟に返す。
 いや、確かになのはの娘の話題は結構前に出ており、レイジングハートの記憶にもあるが、まさかこんな素っ頓狂な答えが出てくるとは思っていなかったのだろう。

「ゔっ……。え、えっと……それは……何か色々と複雑な事情がありマシテ……。まあ、とにかく、落ち着いてっ! 何だかわからないけど、とにかくまず話を聞いて。落ち着いて話し合おう? ね?」


789 : 黎明の襲撃者(雨 2:10〜2:20) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:17:40 hPExjGy60

 痛い所を突かれながらも、とりあえず取り繕うように諭すヴィヴィオ。
 ヴィヴィオは勿論、レイジングハートに対して攻撃の意思はなかった。
 ただただ、落ち着くならば落ち着いてもらおうと──そう行動する。
 レイジングハートにとっても確かに知り合いであるデバイス──バルディッシュもここにいた。
 マッハキャリバー、アスティオンも共に連れている。

「……」
『Raising heart』
『にゃー』

 各種デバイスも含め、レイジングハートの方に目を向ける。

「じゃあ、バルディッシュ。あなたに訊きましょう」
『OK』
「彼女の言っている事は本当ですか?」
『……』

 バルディッシュは口ごもるようだった。
 彼もまだ、ヴィヴィオが将来的になのはとフェイトを母とする子供だという事をちゃんと飲み込めてはいないようだった。
 それもまた仕方のない話だ。バルディッシュにとって、フェイトはまだなのはと出会う前の、母に従う少女である。その後の話をされた挙句に、(まあレイジングハートより詳細に事情を聞かされてはいるが)なのはとフェイトの子供という意味不明な話をされても信用するはずがない。

『I don’t know』

 バルディッシュは正直に応える。ヴィヴィオは、後ろで「ですよねー」と何となく思った。

「……わかりました」

 と、レイジングハートは大人なのはの姿へと再びフォームチェンジした。

「とりあえず、マスターの子供と名乗るあなたも纏めて、相手をします」
「ええーっ!?」
「戦って敵を知る。マスターもやっていた事です。安心してください。あなたに対する攻撃は、なるべく非殺傷設定のつもりで行います」
「人の話聞いてー! つもりって何ーっ!?」
「──行きます」

 説得に行ったつもりが、結局戦闘に巻き込まれる形になり、ヴィヴィオが落ち込む。──が、次の瞬間のヴィヴィオの構えは、本気が感じられる物だった。
 二人の魔戒騎士は、ここで誤解が解ける未来を一応想定していたのだが、やれやれ、これからまた一戦か……と憂いた。
 しかし、──時間にして、99.9秒。時間が来たので、鎧は解除しなければならない。
 やむを得ず、鋼牙と零は鎧の解除を解く。

 レイジングハートはまたも空中へとフィールドを変える。

「……まず基本から行きます。ディバイン……バスター!!」
『Divine Buster』

 ディバインバスターが地面に向けて放たれ、鋼牙と零が慌ててそれを回避する。
 アスファルトが弾けて、地面から石が飛んでくる。──ガミオの攻撃に関しても、時間がないのに、と鋼牙は舌を噛んだ。
 しかし、同時に、ふと自分があの攻撃の痛みが引いているような感覚も感じ取っているのを再認識した。──大丈夫だ。どういう理屈かはわからないが、しばらく戦えそうだ。
 体内に残留した痛みはあるが、それとは区別された痛みが消えているのを感じ取ると、どこか楽になった気分にもなる。

「──基本がこれかよ」

 零が愚痴る。余裕があるように見えるが、その顔は険しい。
 明らかな誤解で狙われた挙句、敵が妙に頑固だと、苛立ちが湧いてくるのも仕方がないだろう。



 ヴィヴィオが、きりっとした表情でレイジングハートに言った。


790 : 黎明の襲撃者(雨 2:10〜2:20) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:17:59 hPExjGy60

「──わかった。それじゃあ、なのはママ……じゃなかった、レイジングハート! ストライクアーツ──高町ヴィヴィオ、全力全開でこの決闘、受けさせてもらいますッッ!!」

 こうして戦いに直面すると、やはり血が騒ぐ部分がヴィヴィオにもあった。
 ぐっと拳を握りしめて、前へ踏み込む。
 全力全開──そんな言葉に、懐かしさを感じながら、レイジングハートは、地を蹴ってこちらに向かってくるヴィヴィオの魔力を感じ取っていた。
 前へ踏み込み、拳をねじ込もうとしている彼女の姿は、一瞬、高町なのはやフェイト・T・ハラオウンの姿を重ねさせた。
 ならば、戦う必要はないのではないか──と思うかもしれないが、いや、レイジングハートは、「だからこそ」ここで戦うのも一つの手だと思っていた。
 気を付けるべきは隣にいる鋼牙と零だろうか。彼らの不意打ちが来ないかを内心で心配しつつも、ヴィヴィオに殆どの意識を集中させる。

「──ディバイン」
「──アクセル」

 二人がお互いに向けて技を発動しようと、魔力を溜め──

「シューター!!」
「スマッシュ!!」

 放つ。
 砲撃魔法と格闘魔法の二つが直撃し、爆発。
 それぞれの一撃が犇めき合い、そこを注視していた全員の眼を一度瞑らせた。

『なんか随分と過激な奴らだな。俺様としては、もうちょっとクールにやって欲しいもんだぜ。どう考えても狂ってるぜ、こいつら』
「……」

 ザルバがかなり冷静に実況したのを、鋼牙は黙って聞いていた。
 とりあえず、自然に対象が変わったらしい。鎧を解除してもしばらくは何とかなりそうだろう。ただ、これにあまり派手に巻き込まれるのだけは避けたいと二人とも思っていた。

「……帰りたくなってきたぞ、鋼牙、ザルバ」
「『同感だ』」

 今もまた、流れ弾のような桃色の魔法力がそのまま彼らの脇を通りすぎて向こうの地面にぶつかったようである。勿論、アスファルトだろうが何だろうが地面が粉砕。
 何となくドライな気分で二人はそれを見つめていた。
 通常の人間ならばパニックになるだろうが、魔戒騎士たる彼らはそこの辺りは冷静だ。

「ソニックシューター!」

 ヴィヴィオの魔法光がレイジングハートに直撃していく。
 空中で花火が爆ぜるような煙があがるとともに、その煙の中からフェイト・T・ハラオウンへと変身したレイジングハートが出現する。
 体格は大人なのはより数段小さくなり、そのお陰もあって、フェイトは更にハイスピードになったように錯覚させた。

「──ハーケンセイバー!」

 突如自分に向けられて放たれた金色の刃に、ヴィヴィオは対応しきれなかった。
 ──変身。
 レイジングハートは、何故か知らないがあらゆる物へと変身する能力を有している。
 いや、そもそもインテリジェント・デバイスである彼女がこうして人間の姿になっている事自体が結構異様なのだが、それにしても、こうして自在に姿を変えてしまうのは尚異様ではないだろうか。
 ヴィヴィオも、その雷刃の直撃に、咄嗟に防御力を上げるくらいの対応で臨んだが、勿論、その程度で完璧に防ぎ切ったとは言い難かった。

「うわああああああああっ!!」

 多大なダメージを受けて、地面に落ちていく中で、レイジングハートのこの反則に近い能力を呪う。
 さて、ワンパターンになるが、またもアスファルトの地面を砕いて煙の中から立ち上がり、ファイティングポーズをする事になる。ヴィヴィオは拳を前に出して構えながら、敵がどう出てくるのかを待った。
 このまま、フェイトの姿を使用し続けるならば、自然と、接近戦を使う可能性が高い。
 実際、その判断は間違いなかった。


791 : 黎明の襲撃者(雨 2:10〜2:20) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:18:36 hPExjGy60

「──はあああああああああああああっっ!!」

 フェイト・T・ハラオウンに擬態したレイジングハートは、躊躇なくヴィヴィオのもとに向かってくる。
 雷刃はやはり携えている。
 どうこれを崩すか、という問題が目の前に迫っていた。このまま待っていても、勿論やられるだけだが、ハーケンセイバーのヒットは結構大きい。純粋な格闘では相手にする事がないような標的であるため、その対応は戦えながら考えなければならない。
 ……やはり、こうして、「試合」から「戦場」の場へ移されると、己の無力さというのが浮き彫りにされるものだ。

「──ッ!」

 ヴィヴィオが咄嗟にした行動は、刃が振るわれる前に、跳ぶ事だ。
 それも、ほとんどギリギリで。足の下を掠るように、ハーケンセイバーが横切っていく。ヴィヴィオは次の瞬間に、足に魔力を溜めて敵の顔面に向けてかかと落としを決めた。

「ぐっ……!」

 ハーケンセイバーは剣そのものが大きい分、使用者は振り回されやすい。
 その要領は、たとえダミーメモリの力で作られていても変わらない物であった。
 ゆえに、この瞬間、剣を振るってしまった以上、そこから体制を崩すのが彼女には酷だったのだ。思わず、剣をどうにかしてヴィヴィオに当てる事を考えてしまったが、攻撃が当たる瞬間に別の物体に姿を変えれば、すぐにヴィヴィオの攻撃を回避できただろう。
 しかし、初心者がそれだけ上手くダミードーパントとして活動できるはずがなかった。

「全力全開! ディバイン……」

 かかと落としを受け、頭部にダメージを感じていたレイジングハートの前で、ヴィヴィオの声が聞こえた。

「バスターーーーーー!!!!」

 まさしく、それは相棒・高町なのはと同様の技であった。
 至近距離から、ヴィヴィオの掌から放たれる砲撃魔法を受け、レイジングハートの体は後方に数メートル吹き飛び、ガイアメモリを排出する。
 黒い装束もすぐに吹き飛び、全裸になったレイジングハート。
 全裸──それは、ヴィヴィオたちの世界では敗北を意味していた。ダメージに耐え切れず、バリアジャケットは破れ、肌を晒す。いかに肌が露出されているのかは、彼女たちの世界ではダメージの指標である。

「間に合ったか……って、うわっ! タイミングが悪かった……」

 一也が、ちゃんと正面の出入り口を通って、ヴィヴィオのすぐ傍にやって来た。レイジングハートの全裸体に少し赤面しているようだ。
 彼が殆どランニング状態で駆けてくるところを見ると、警察署内の人間がいかに落ち着いて観戦していたのか──というのがわかる。
 この戦いを、彼らはあまり深刻にはとらえていなかったらしい。聞きたいのは主に開戦理由等等だが、見たうえで何となくそれがわかってきたらしいのだ。そのうえで放っておいたというのが解答である。
 まあ、この緊張感のなさは、やはりガドルが死亡し、こうまで全員が集まって来た事による万能感が無意識に働いていた事とは無関係ではないだろう。
 一人落ち着かない良牙などは、なかなかに窮屈な想いをしていたのではないかと思われる。

「……ううっ……」

 レイジングハートの肌に雨粒が落ちていく。
 髪や肌に次々と雨粒がかかっていく。そんな彼女の元に、ヴィヴィオは歩いて行く。
 この戦いに来てから、勝利というと、まあ後味の悪いものになる事が多い。
 だが、今度はさせまいとヴィヴィオは思った。

「……ありがとう、ございました」

 それは、戦いを終えた後の礼であった。
 勝敗を決する戦いの中で、本気でぶつかった人間同士にはそれが芽生えるのだった。
 それが格闘。ストライクアーツという物だった。
 ヴィヴィオは変身を解除する。

「……ほら。服を着ろ」

 鋼牙が、歩いて行って、吹き飛ばされてしまった黒衣をレイジングハートに渡す。レイジングハートは、きわめて当惑したような顔であった。しかし、乱雑にではあるが受け取るだけはした。


792 : 黎明の襲撃者(雨 2:10〜2:20) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:19:56 hPExjGy60
 鋼牙は別に優しさをアピールしたいわけではないが、とにかく素の気持ちでその判断をしたのだった。この雨の中でこの状態というのはなかなかきついのだろうと思ったのだ。
 そんな姿を見て、一也は言う。

「なんだか女性の裸が前にあるのに、やたらと冷静だな……」
「慣れてるからさ」

 零が答えたが、変な誤解をされかねない返答である。
 一也がぞくっとした表情で、思わず零に顔を向けた。

「慣れてるって……」
「あんたの考えている意味じゃない。俺たちの敵、ホラーは何故か裸で現れる事が結構あるんだ」
『ホラーに魅入られる人間は、何故かやたらとレベルが高いからな』

 とりあえず、納得したような納得していないような顔で一也はその話題をやめた(おそらく納得していない)。
 まあ、とにかく一也にはまだヴィヴィオに言わなければならない事があったのである。それを伝えるべく前に歩いて行こうとした

「えっと……レイジングハート、どうしたら信じてもらえるかな?」
「……」
「確かに、なのはママやフェイトママが私の母親だって言われて信じられないのもわかるけど……うーん……」

 ヴィヴィオが頭を悩ませている。
 隣でクリスが一緒になって何か考えているようなそぶりを見せた。
 それを見て、一也はやれやれと肩をすくめた。

「……フィリップくんからの伝言だ。『信じてもらえないなら証拠を出せばいい。ウサギちゃんが隠している写真を見せてね』との事だ」

 と、そう言った瞬間、何かを考えていたヴィヴィオの頭に稲妻が走ったような感覚が過った。

「あーーーーーーーーーーっ! そうだ、クリス! 日常録画機能!!」
『(ハッ!)』←はっとした様子

 まさしく、それであった。
 クリスには日常録画機能なる機能がついており、写真が撮影されている。
 その中には、この殺し合いの記録もあれば、それ以前の個人的な写真もあるのだ。
 勿論、高町なのはやフェイト・テスタロッサの姿も映っている。
 すっかり忘れていたが、あれを使えばレイジングハートも、少なくとも未来のなのはとフェイトを見た事での納得は抱けるはずだ。
 クリスは、すぐにそれを映した。

「……」

 レイジングハートの眼の下を伝ったのは、果たして雨だったのか、それとも違う液体だったのかはわからない。
 ただ、そこにはレイジングハートの知っている少女たちの、未来の姿があった。
 未来の彼女たちは、まだまだかつてと変わらない笑顔であった。レイジングハートやバルディッシュもそこに映っている──いまとは違い、羽根の生えた姿にはなっていたが──。

「私、本当は古代ベルカの聖王オリヴィエのクローンなんだ。私には、親もいないし、ママもいない。そんな私を引き取って、ママになってくれたのが、なのはママとフェイトママ。だから、別に私は女同士で生まれた子供じゃなくて……。……うん? あれ? なんで女同士だと子供が生まれないんだろ? なんで男と女じゃないと子供は生まれな──」
「そ、その話題はともかく……! 今はレイジングハートに事情を説明するんだ……!」

 一也が慌てたように逸れかけた話題を元のレールに引き戻した。
 鋼牙がただただ黙っている。零はそれを見て少しおかしそうな表情をしていた。

「そうそう。だから、別に私がなのはママの娘である事は何もおかしくないんだよ」
「……少しおかしいような気がしますが、大方の事情がわかったので、おかしくない事にしておきます。……で、なぜ鋼牙や零と一緒にいるんですか? そいつらは悪い奴です」

 レイジングハートが訊いた。まだ、その口調には憎しみが込められている。
 その言葉を聞いて、ヴィヴィオが僅かな間、固まった。まさか、レイジングハートは誤解をしているのではないか──と、ヴィヴィオは思う。


793 : 黎明の襲撃者(雨 2:10〜2:20) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:20:27 hPExjGy60
 いや、まさしくその通りだ。鋼牙のこれまでの経緯は全て聞いているが、悪い事をした様子など欠片もない。開始直後に一条薫と合流してから、ほぼマーダーとしか戦っていないらしい。それを裏付けているのは、つぼみや良牙のように一緒に行動し続けた人間だ。

「え……。鋼牙さんがフェイトママの仇って言ったけど、………………えっと、それ、全然違うよ?」

 安心させるような笑みと、言っている当人自体のどこか不安そうな表情。
 どこか、彼女を憐れむようなところも見られる目。
 レイジングハートたちは至って真剣だが、その姿ははた目から見ればかなり滑稽だ。
 その場に微妙な空気が流れ、乾いたような風(勿論、雨の中なので渇いているはずがないが)が吹く。落ちてくる雨がかえって虚しい。

「………………は?」

 少し黙って、ヴィヴィオの言った意味を数秒かけて理解した後、魔の抜けた声で、レイジングハートはそう言った。
 改めて、言い直すレイジングハートであった。

「フェイトママやユーノさんの命を奪ったのは、ゴ・ガドル・バっていう人で……えっと、鋼牙さんは良い人で」
「……ガドルは倒された」

 横から一也が口を挟んだ。

「……だそうです」
「………………」

 レイジングハート・エクセリオンがフェイトの姿のまま固まる。まるで機械の模範のようだった。全員の視線が彼女の元に注がれる。誰もが、どこか優しい目をしているように感じられた。
 とにかく、レイジングハートは思考する。

 この空気。
 この視線。
 この感覚。

 ──いや、これは明らかに、まずい空気だ。
 それは、機械であるレイジングハートもすぐに理解した。

「ねえ、もしかして……うっかりしてる?」

 かなり、うっかりしてここまで来たのではないかと。
 ヴィヴィオはそう思う。──いや、まさしくこの周囲にいる全員が、彼女がついうっかり何か間違えてここに来たという考えを固めた。
 レイジングハートに向けられるこの視線はそうして作られているのだろう。
 レイジングハートは、頭の中で少し冷静に考え──そして、そこから導き出される結論を纏めた。

「………………とても不幸な誤解があったようです」

 これだけの視線を前にすると、思わず恥ずかしくなり、レイジングハートは素直にそう認めた。
 安堵して、二人の魔戒騎士が構えを崩す。剣を鞘に納めると、ゆっくりと肩を下した。

「……なあ、鋼牙。あんた、もしかして誤解されやすい人間なのか?」
「一番面倒な誤解をしたお前が言うな。──まさか、今回もお前のせいじゃないのか?」
「おいおい……」
『主人公の、あ、いや……ヒーローの性って奴だな。まあ仕方ない』

 零と鋼牙とザルバが、どこか気の抜けたように言った。
 やれやれ、と。
 とにかく、まあ一件落着だろうと、彼らはぞろぞろ警察署に帰ろうとしていた。






794 : 黎明の襲撃者(雨 2:10〜2:20) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:20:50 hPExjGy60



 ────まだ、その時までは、まだ全く平和な時間であったという事に、誰も気づいていなかった。

 この殺し合いの最中、街中の至る施設を捜して走る『闇』がある。
 彼の名は、ン・ガドル・ゼバ。──新しく究極の闇となったグロンギの怪人である。
 まず彼は中学校側の街に誰もいないという事を僅か一時間で確認し尽くした。

 そして──須らく、燃やし尽くした。
 雨の最中、燃える炎が、それまでそこにあった街を崩していった。
 こうして街を燃やし尽くせば、隠れている参加者も逃げられない。あるいは、気づいてガドルの元にやってくる者もいるだろう。街のどこかに参加者がいれば、ほぼ自動的に火元を探り、やって来る可能性が高いと思っていた。
 ──だが、この街にあったのは遺体だけだ。

 早乙女乱馬であったり、山吹祈里であったり、東せつなであったり、姫矢准であったりもしたが、いずれも彼が巻き起こす炎の最中に消えていった。
 それらが果たして、白骨へと変じるまで消えていってしまうのかはわからない。
 原型を求めるのならば、──祈里以外に関しては、究極の闇が齎すこの雨が救いとなってくれるかもしれない。
 この業火を見れば、その救いというのがごく僅かな可能性でしかない事も理解できるだろうか。
 かつて園咲霧彦と戦ったはずの場所も、ガドルの業火が焼き尽くし、消してしまった。それは人間ならば切なさを感じてもおかしくなかったが、今の彼にとっては何でもないただの「仕組み」だった。

「──」

 後は、そう……ガドルもわかっている。
 今すぐにとは言わないが、警察署だ。
 この行動は、勿論こちら側の街にいる人間を殺害する計画でもあったが、同時に逃げ場を完全に塞ぐ術でもあった。

 ──先ほど、逃げた奴らは首輪をしていなかった。禁止エリアを隔てた向こうに行ったのはわかっている。だが、その前に、逃げ場を失わせておきたかった。こちら側の街は全て炎の中だ。雨も降り続いているが、まだしばらくは炎の道が続いている。
 何階層にも別れた炎のフェンスが彼らに逃げ場を失わせるだろう。
 奴らは毎回、逃げ場を作ってどこかへ逃げてしまう。その前に、こうして逃げ場を塞ぐ。

「──」

 風の中で、果たしてガドルと、同じバイクの後部に座るラ・バルバ・デが何を言っているのかは聞き取れない。
 猛スピードで駆け巡るこのバイク。電圧をかけると、更にスピードが上がっていく。

「──」

 ン・ガドル・ゼバ。
 もはや、言うまでもない話だが、彼こそが、現状で最強の参加者であった。

 彼は、もうそちらのエリアを見はなし、G−8に向けてかかっている橋を疾走していた。
 間もなく、警察署に近づいていこうというところだった。
 加速する。

 ──電撃がこのバイクを加速させていく。

 まさか、ガドルがこうして姿を現すのを二度も三度も見る事になるとは、警察署にいる誰も思わないだろう。



 ────究極の闇は、彼らの砦をも飲み込もうとしていた。


795 : 黎明の襲撃者(雨 2:10〜2:20) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:21:56 hPExjGy60



 ──その遺体と出会うのは、時間にしておよそ二十四時間ぶりであった。
 暁の目の前にあるのは、亡きガールフレンド・暁美ほむらの遺体だ。
 川に流したその遺体が、こうして誰かに拾われて警察署で眠る事になったらしい。

 暁は、その安らかな寝顔を再度見て、何ともいえない気持ちになった。
 自分は、──どうして、あの時、ほむらの遺体を川に流したのだろう。それを考え直した。あの時考えたのは、それこそ、川というのが生と死の境界である事が、日本人の中で何となく当たり前になっていたから、そのまま流した……というつまらない理由かもしれない。
 別に暁に深い意図はなかったのだろう。そういう「何となく」が彼を動かしたに過ぎない。
 ただ、ああして川に流した以上は、もうこの暁美ほむらと出会う事はないだろうと思っていた。

 今ならわかる。あれは、そういうけじめだったのだ。もう二度と、ほむらと会わないだろうという。

「──また会っちまったか」

 と、暁は溜息半分に、その遺体に話しかけるように呟いた。
 後ろでは、杏子、つぼみ、ラブ、美希が、気まずそうな雰囲気でそれを見守った。
 案内人の杏子と、マミの知り合いであるほむらに会いたがったラブ、そして、それに追従するようにしてやって来たつぼみと美希……という構成である。彼女たちは、まだ子供で、このけじめというのをよく知らない。
 唯一、両親や妹の死を経験した杏子は知っているかもしれない。ラブも祖父が亡くなった時はまだ幼く、周囲の大人の反応など理解できなかっただろう。

 暁の中にあるのは重苦しいようで、どこか明るい気持ちだった。
 暁は、決して、さほど重苦しい空気を作ろうとしているわけではなかったのだ。生きている人間に話しかけるように、フレンドリーに言っているような、そんな笑顔を見せていた。
 実際、死んだ人間を前にするというのはそういう物で、案外、その死に顔に対して、悲しみ以外の形で見送ってやりたいという気持ちも湧いてくるものだ。まして、それが二回目ならば。
 そして、そこにいるのが一応は一人前に世の中を見て来た成人男性ならば──。

「──」

 さて。
 杏子に連れてきてもらったはいいが、案外やる事なんてない。
 暁としては、ただそこにほむらの遺体があるならば──その確認としてここに来たまでだ。別に改めて宣言する事もなく、特別ここでしたい事があるわけではない。

「……もういいよ、行こう」
「え?」
「もう……いいんだよ。なんていうかさ、これ以上やる事はないんだ」

 本音だ。
 こんな過去に縛られていても、暁の人生の楽しみなんて減っていくばかりである。
 生きた人間が死んだ人間にできる事が何かしらあるとしても、暁は多分、それを何度も繰り返して自分の時間を潰そうとは思わない。
 暁がすべき事は、あくまで、自分の人生をどうするか──という一点だ。
 何度も何度もほむらの遺体と対面して、それで、また何か語り掛けて……というのは性に合わないのだとよくわかっている。

「そうか……」

 杏子も、まあ言ってみれば、彼と同じだった。むしろ、いや、暁の利己主義は杏子以上に徹底しており、そして、それが杏子以上に正しく、迷いがない利己主義である事もまた事実であった。

「──」

 まあ、それはそれとして、だ。暁に対する共感が芽生えたのが一つここでの収穫として、その他にも杏子にはやる事があった。
 一つ、やる事を終えたところで、ここにいるとある少女に、杏子は念話で交信する事にした。今日は一段とやる事が多くて困る。次から次へと問題が起こり、すべき事も少なくない。

『──おい、ラブ。桃園ラブ』
「え? 今、誰か何か言った?」


796 : 黎明の襲撃者(雷雨 2:20〜2:30) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:22:44 hPExjGy60
↑ごめんなさい、>>795は『黎明の襲撃者(雷雨 2:20〜2:30)』です。


797 : 黎明の襲撃者(雷雨 2:20〜2:30) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:23:24 hPExjGy60

 杏子の方をラブが見るが、首を振った。──それは妙にわざとらしかった。
 それは勿論、美希、つぼみ、暁も同じ反応だ。彼女たちは話しかけようともしていない。

「おっかしいな〜。何だろ?」
『マミから聞いてないのか? 念話だよ、念話。私だ、佐倉杏子だ。でも他の奴に訊かれたくないから絶対にしゃべるなよ』
「!!!!!?」

 ラブは、自分の頭の中に響いてくるテレパシーに驚いた。
 杏子から発信された言葉が、ラブに伝わる。

「どうしたんですか?」
「い、いや……何でもないよ。あはは……ごめんねー、つぼみちゃん」

 ラブは杏子の言葉を守って、慌てて取り繕った。そして、杏子の方へと目配せした。アインコンタクトを受けて、杏子が他の誰にも気づかれないように、黙ってうなずく。
 杏子がこうして念話を使っているのは、偏にグリーフシードが手に入ったからだ。つぼみの時もそうしたかったのだが、グリーフシードを得る見込みがない以上、こうして魔法を使うのは避けておいた方がいいと思ったのだ。
 できるなら、この方が手っ取り早い。

 そして──杏子はそのまま、念話でつぼみと同じく、ラブに要件を伝えた。

「……なんだか、外の様子が騒がしくない?」

 しかし、そんな会話の最中、美希が口を開いた。
 実際、何故だか急に外が騒がしくなったような気がした。──耳を澄ますと、会議室から、何か怒号のような声が聞こえた。







「おい、これはどういう事だよッッ!!!」

 ────美希が言った通り、外は騒がしい状態になっていた。今まさに数十メートル先に、そこにいるはずのない怪人と燃え盛る街を見てしまった人間が、動揺を隠しきれるわけもない。
 不死身のターミネーターに追い回されているような気分だった。
 前方から向かってくるその怪人は、──頭のツノの数こそ前より格段に増えているが、まごう事なきガドルであった。

「ガドルは……あいつは死んだんじゃ……!!」

 そのうえ、そのガドルが今、バイクに乗って猛スピードで向かってくる。バイクのライトは上向きで、それはまるで自分の存在をアピールしているかのようだった。
 警察署の外側で、鋼牙と零と一也が、警察署の内側で、翔太郎とフィリップと良牙と石堀が、それぞれ戦闘の準備をしている。

 孤門に関しては、既にディバイトランチャーによる援護射撃を行っていた。
 弾丸がガドルの周囲のアスファルトを弾いていく。何発かはガドルに命中しているはずなのに、全く手ごたえがない。──孤門の位置からは、辛うじてガドルの後ろにもう一人何者かが載っている事だけには気づく事ができた。

「孤門、無駄だ。あいつに弾丸は効かないッ!!」
「じゃあどうすれば……」
「とにかく、俺たちに任せてもらえればいい!! ……奴を倒すには、ただの人間の力じゃ駄目だ!!」

 神経断裂弾をこれ以上発射しても、ただ貴重な一発を秒速400メートルのスピードで放り棄てるだけにしかならない。
 それは、二度もガドルに神経断裂弾を発射しながら、仕留めきる事ができずに今に至る石堀には尚更よくわかる話であった。
 奴は一度あの弾丸を喰らう事に進化しているのだ。

「チィッッ!! なんで生きてるんだよォッ!!!」
「ガドルは死んだんじゃなかったのか!!?」
「ありえない……首輪じゃ殺せなかったのか!!!!!?」

 それぞれが口ぐちに、ガドルへの恐怖の入り混じったような声で、何処かに漠然とした怒りをぶつけた。誰にぶつければいいのかさえもよくわからなかったが、ただただガドルを野に放った何かが憎いほどだった。


798 : 黎明の襲撃者(雷雨 2:20〜2:30) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:23:50 hPExjGy60
 彼の死を知った時には晴れやかだった心が、この時とは一瞬で曇り、今の天気と同じく、絶え間なく音を立てて降り注ぐ大雨のような気分に成り果てていった。
 絶望。
 そう呼ぶべき物は、ここまで何度来たかわからないが、こうして目の前に真っ直ぐ向かってくる影こそ、これまでのこのゲームにおいて、最も確かな絶望を形にしていたのではないかと思われた。

「殺戮のショーの始まりだ──」

 ン・ガドル・ゼバは流暢な日本語でそう言ったのを聞き取った物はいないだろう。
 ガドルが接近する。
 三十メートル……。
 二十、十……。

「くそっ」

 そこでマシンにブレーキがかかる。
 いやに冷静に彼は座席から、後ろの女性を下した。躊躇なく頭から雨を浴びる妖艶な美女の姿に、見惚れる隙はなかった。女性は、こちらの攻撃を仕掛けるのかと思いきや、バイクより後ろに回り、にやりと頬を釣り上げた。まるで戦闘の意思がないようにも見えた。
 その人物が何者なのか……というのは気になったが、──それよりも問題はガドルである。
 彼は片足を上げ、ゆっくりと彼らの前に立った。

「……リントは皆殺しだ」

 そう、乾いた声で呟いた。
 そこには別に、恨みがこもっているわけでもない。ただ、目の前にある障害を殺しつくそうという気概だけが確かに存在した。いわば、殺人マシンだ。そこにあるのはもはや、武人でも何でもない。
 冷淡に、ただあるべき物を全て敵ととらえ、己の強さを以て全ての排除の為に行動する。
 それがガドルの目的であり、ガドルの全てであった。究極体となった今、尚更強い戦闘の本能がガドルを支配している。

「──死ね」

 ガドルが鋼牙たちの前に歩み寄り、右手を翳す。
 ──ボゥッ。
 鋼牙の魔法衣を包むように、炎が燃え上がる。この雨の中でも、その火力は強かった。
 彼らが使う炎は並の炎ではない。物質を分子レベルで分解して燃焼させる技である。
 たとえ、この大雨の中でも、その能力は変わらない。暫く雨に晒さなければ消えない炎えあった。──だが、そうして時間を待つのも面倒だ。
 鋼牙は頭上に円を描いた。──99.9秒。
 黄金騎士の鎧が鋼牙の全身を包むと同時に、残る時間を報せる砂時計が下りる。

「──ハァッ!!」

 鎧を装着した事で魔法衣の炎は鎮火し、黄金剣が鞘から顔を出す。即座に飛び上がり、ガドルの肩に向けてその切っ先を叩き付けた。しかし、ガドルの体表を抉る事はなかった。
 ガドルは、能面のような顔のまま、刃を素手で掴み、乱暴に押しのけた。
 仮に低級のホラーならば、この瞬間には封印が完了していただろうが、そう上手く行かない──。一時のショックがガロを甘んじて数歩後退させた。

「鋼牙、こいつは並のホラーより強い! 油断するな!」

 再び鎧を装着し、ガドルの前へと突き進んだゼロが隣で叫んだ。
 彼は双剣を構えるなり、ガドルの脇腹を狙い、その滑らかな刃で斬りかかろうとするが、正真正銘、ガドルの体は、鋼鉄はおろか、ソウルメタルよりも硬い力になっていた。
 鎧の中で、零も眉を顰める。

「──くっ。さっきより、強くなってる……だと!?」

 これは、まさしく、あの暗黒騎士キバに匹敵する可能性も考慮しておいた方が良い相手かもしれないと、今の一撃で直感した。
 この敵は不味い。
 ──これこそ、まさしく正真正銘の悪の波動であった。闇の現象に精通している彼だからこそ、それを本能的に探り出す嗅覚は確かであった。

『鋼牙……! あれを使うぞ!』
「ああ、わかってる」


799 : 黎明の襲撃者(雷雨 2:20〜2:30) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:24:07 hPExjGy60

 ザルバの指示を待つまでもなく、黄金騎士ガロは次に己がすべき行動を一つ計画した。
 ある武器を使う。──いや、武器とは言わないか、”コイツ”も立派な相棒だ。

「──零、少し下がれ。轟天を召喚する」
「わかった!」

 ゼロが数メートル退く。
 ガロが飛び上がると、魔戒から蹄のある巨大な黄金の騎馬が召喚された。
 まさしく、これこそ敵から譲り受けた力といっても過言ではないが──もとはと言えば、鋼牙が試練に打ち勝ったからこそ得た騎馬だ。
 その魔導馬も、制限が溶けたというのなら、使わない手はない。制限については、先ほど警察署内で一応鋼牙から訊いて、零も耳に通している。──こんな事ならば、もっと早めに単独行動をしておくべきだったと思いながら、ゼロは魔導馬の召喚を見届けた。



 轟 天



 ──ガロは魔導馬・轟天に跨ると、黄金剣を一回り大きな牙狼斬馬剣へと変じる。
 この敵を葬るには数倍のパワーアップが必要であるのは一目瞭然だ。
 轟天が心地よい蹄の音を鳴らして、ガドルへの距離を縮めた。

「フンッ」

 ガドルがガドルソードを二本生成する。究極体になった彼は、これまでのあらゆる武器を全て操る事ができるのである。物質変換能力で出現する、ガドルロッド、ガドルボウガン、ガドルソードは全て同時に出現させる事ができるのだ。
 牙狼斬馬剣は正常にガドルの真ん中の角を狙うように──ひいては頭蓋骨を破壊する事を目的としたように──振り降ろされるが、それは一対のガドルソードの交差に阻まれた。
 今しがた、火花のような物が散ったものの、それは今となっては矮小な物に見えた。──より一層強力な炎を見た後では、大した事はない。

「変身ッ!!」

 隣で、一也が構え、仮面ライダースーパー1へと身を変じた。
 増援の必要を感じたのだろう。今、自分にできる事はこうして傍観する事だけではない。
 魔戒騎士の力がいかなる物か、というのに見惚れている場合ではない。

「セイクリッドハート・セーーーットアーーーップ!!」

 釣られるようにして、ヴィヴィオが大人モードへと変身する。
 後衛のような形で、スーパー1ヴィヴィオがその場についた。
 レイジングハートは、ダミーメモリを握りしめ、意を決したようにそのメモリを再び自分の腕に押し付けた。

──DUMMY──

 レイジングハートはダミードーパントへ、ダミードーパントは高町なのはへ、一瞬で姿を変えた。その様子に目をぱちくりさせる様子はなかった。
 とにかく、ヴィヴィオたちもガドル戦をしなければならない。
 おそらく──ガロだけでは、戦いきれないだろう。

「──チェンジ、冷熱ハンド!!」

 ファイブハンドを冷熱ハンドへと切り替えたスーパー1は、ガドルに向けてその指先を向ける。
 真っ直ぐ前には、振り下ろされるガロの牙狼斬馬剣をガドルソードで防ぐガドルの姿がある。今はガロの攻撃に気を取られている最中だ。──タイミングは良い。

「冷凍ガス、噴射!!」

 そこから大量の冷凍ガスが噴射され、ガドルの足を凍らせる。──が。
 それはまるで、高温の鉄板に氷を押しあてたような物だった。
 今のガドルは周囲に炎を出現させる事もできる。自分の周りの体温・気温の調整くらいは容易であった。仮に彼が南極に行けば、それこそ一瞬で地球を大洪水が襲うだろう。

「無駄だ」

 それは無情な一言だ。冷熱ハンド、電撃ハンドはこれでは使えないと来ている。


800 : 黎明の襲撃者(雷雨 2:20〜2:30) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:24:39 hPExjGy60
 ダグバ以上に厄介な相手だ。──どういうわけか、翔太郎の話ではダグバ以下だったはずのガドルが、いつの間にかダグバ以上になっているという、恐ろしい事態であった。

「──お前たちは逃げろッ!!」

 スーパー1たちの援護に気づいたガロが、咄嗟にそう叫んだ。
 それと同時に、轟天の鼻先に、ガドルソードの柄が叩き付けられる。鎧が内側から割れるような音が鳴るとともに、轟天が哭いた。
 更に、また一撃。
 轟天の首を狩ろうとしたのか、ガドルソードは首元に向けて叩き付けられた。

「零、 奴らを安全な所へ連れて行けッッッ!!」
「駄目だ、俺も戦う!!!」

 ゼロがガドルに向かっていくが、ガドルはゼロに視線を向けなかった。
 一つの攻撃の機会が訪れたと思い、ゼロはそのままガドルの元に疾走していく。
 一瞬。
 まさしく、一瞬で、ゼロの体は数メートル吹き飛ばされた。──ガドルは、ゼロの方に目をやらなかったはずだが、それでもゼロの気配は感じ取っていた。脇目もふらずにカウンター攻撃を仕掛けたガドルに、誰もがその異様さを感じ取っただろう。
 吹き飛ばされる瞬間、ゼロの目の前を何かが掠めた。
 それが、ガドルソードの、目視不可能なレベルの剣舞であった事を彼は知らぬまま、地面に後頭部を強打して転がっていく。

「──くっ……!!」

 ゼロがその怪物を前に圧倒的な実力差があると確信したのは、まさしくこの時だった。
 いや、確かにガドルが自分より強いというのは既に判然としていたが、それだけではなく、姑息な手段や弱点を突くような真似が通じるような相手ではなくなってしまったという事だ。まさに、「死角がない」相手であった。

「零さんっ!!」

 慌てて、ゼロの元にヴィヴィオが駆け寄る。

「ヤバいな。思った以上だ」
「大丈夫です。私たちが力を合わせれば──」
「全員でかかっても……どうだか」

 戦闘と鍛練を生業とするプロフェッショナルがこう言うのである。
 ヴィヴィオはその一言に愕然とする。
 仮に逃げたとして、すぐにガドルが追い付いてくる可能性だってある。その場しのぎの戦いができないならば、このまま放っておくのも難しいのではないだろうか。

「残念だが逃げ場はないぞ。全て潰しておいた」

 ──横からそう言ったのは妖艶な女性、バルバであった。
 薄く笑みを浮かべながら、腕を組んでこちらを見ている。──まるで、足掻いているリントたちの姿を見て、楽しむように。
 しかし、それは決して敗北するリントを見て楽しむのではなく、場合によっては乗り越えてしまうかもしれないリントの姿を観戦しているようであった。

「……逃げ場がない、か」

 見れば、煙はどこからも湧いて出ている。
 このもくもくと上がる灰色の濡れた煙は、全て彼らがやった事だろう。
 念入りに逃げ場を潰してくれたらしい。このまま森の方や中学校の方に行く道は閉ざされている。
 海側に逃げる事もできなくはないが、それこそ生存率の低いゲームになるだろう。
 この人数で海を渡ろうとすれば、確実に渡り切る前にガドルたちに捕まってしまう。
 可能性があるのは、それこそこの炎の壁を正面突破し、焼けこげるか辛うじて生きるかの瀬戸際を彷徨うか、ヴィヴィオたちのように空を飛ぶ事だろう。
 しかし、空を飛ぶという選択肢は零にはない。

「──くっ、もう時間だッッ!!」

 99.9秒という時間はかなり短い。
 轟天がガドルによる度重なる攻撃で弱り切り、召喚時間も僅か。
 これはバトンタッチをする他ないようであった。鎧の中で、鋼牙と零は、99.9秒もの間全く敵にダメージを与えられていない焦燥感に苛まれていた。せめて、三途の池や魔女の結界内に現れてくれたなら、どれだけ都合が良かった事か。


801 : 黎明の襲撃者(雷雨 2:20〜2:30) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:25:06 hPExjGy60

 残り、4秒しかない──。
 3、2、──


 そこで、──ギリギリになってから、ようやくもう一人、助け船が来た。
 ガドルの方に真横から蹴りを叩き込もうと落下してくる、この場にいたもう一人の仮面ライダーである。

「くッッッ……!」

 突然の不意打ちに気づいたガドルは、敵の足元に向けて咄嗟にガドルボウガンを生成して空気弾を発射していたのだった。
 助けに現れた仮面ライダー──その体色は、

「緑の、ライダー!」
「黒の、ライダー!」
「いいえ、三色の────」

 目撃者によってバラバラであった。







 時間は少し遡る。
 ガドルが現れたのを確認した翔太郎たちは、しばし愕然としたが、すぐに自衛の行動に出なければならないのを理解していた。

「おい、なんで止めるんだよ、フィリップ……!」

 今は、すぐにでも鋼牙たちを助けようと窓枠に手をかけて飛び出していこうとした翔太郎を、フィリップが止めていた真っ最中であった。
 勿論、翔太郎がここから降りてゆこうとしてもただ転落死──運が良くてどこかを骨折する──だけでしかない。しかし、それを実行しかねないほど慌てていた状況である。
 ただ、慌てるのも良いが、まずは今、この警察署まで三十メートルの距離にいる怪人に、果たしてどうやって全員が生き残る作戦を練るべきかを考えてから出て行くしかないと思ったのだ。

「……まずは杏子ちゃん達をどうにかしないと。ここで僕らが出て行ったら、彼女たちは何も知らないまま孤立してしまう」

 そう言ったのは、孤門だった。
 それを聞いて、翔太郎がはっとする。女性陣は暁を連れては霊安室に向かったのだ。
 そこでは、外の様子など見えているはずもない。現在の異常事態をまず彼女たちは知らないはずだ。

「でも……!」
「──だが、安心してくれ、みんな。今、スタッグフォンを使ってリボルギャリーを呼んだ。リボルギャリーがここに到着するまでの間に、まずこの荷物を纏め、出て行く準備をしよう」

 フィリップが先んじて、孤門のフォローをするかのように、彼が行っていなかった支度を済ませていた。アイテムの類はなるたけ持っていくべきである。
 スタッグフォンを使ったリボルギャリーへの連絡、手に持てる限りの荷物集め。
 そんな様子を見て、良牙が訝しげに訊いた。

「……おい、じゃあここから逃げるのか?」
「それしかない。ただ、彼らは周囲の建物を燃やしてしまって森の方には逃げ場がなさそうだ。──ただ、僕たちには時空魔法陣がある。結城丈二が死んだ今、管理権限者は涼邑零だ。当然、彼を含めた全員を連れて、村エリアまで行く」

 結城や零が時空魔法陣を使って設定してくれたのは大助かりだ。今は鳴海探偵事務所と翠屋が時空魔法陣を発している地点になっている。それならば、そこをどうにか通って、ガドルが来る前に封鎖するのが最良の手だ。
 翔太郎同様に全員が飛び出してしまった場合、そうした手段は出てこない。

「俺が持っているアクセルのバイクフォームを使えば、……まあ、先に脱出してしまうのも悪いが、二名分の安全は確保できる。それから、外にあるハードボイルダーで二人。一足先に五人は脱出できる」

 石堀も隣で冷静に言った。


802 : 黎明の襲撃者(雷雨 2:20〜2:30) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:25:46 hPExjGy60
 そういえば、アクセルドライバーは石堀が持っていたのだった。
 照井竜の忘れ形見が、こうして思わぬところで拾われ、ダグバの打倒などに利用されていたのは全く、死して尚他人の役に立つ仮面ライダーの生き様らしいと思ったが、同時に照井竜が誇った仮面ライダーアクセルの力が彼以外に使われる事に対しての複雑な心境も翔太郎たちの中にはあった。
 しかし、こんな状況だ。使わせない手はない。

「……使うに越した事はない。とにかく、何も考えずに海沿いに逃げるんだ。そうすれば、鳴海探偵事務所への道がある。先に、残っている女の子たちの脱出を頼みたい」

 フィリップが石堀の案に概ね賛成した。
 逃げているうちは、相手も逃げ場がないと思って無視するだろう。その為に周囲を炎で囲んでいる。ただ、それはあくまで森側へのルートと、中学校側へのルートだ。行き止まりだと思われている海側には追ってこないだろう。
 先に脱出するのが良策だと言える。

「待てよ、これだけ人数がいれば……俺たちだって、あいつを倒せるんじゃないのか?」

 そう言う良牙の口調はどこか自信なさげでもあった。
 確かに、良牙や鋼牙レベルの人間が14人ならば──そして、その内数名を犠牲にしながら戦うのならば──勝つ見込みもあっただろうが、決してそうではない。
 良牙としては、一条薫のように、ガドルによって喪われた物を思い返すと、必ず勝たなければならない気持ちなのだろう。翔太郎も同じく、ガドルを前に奮い立つ何かを必死に抑えていた。
 そこが、子供か大人かの辛うじての違いであった。

「……あー、とにかくまず杏子たちを呼びに行くぞ。そしたら全員でリボルギャリーが来るまで時間を稼ぐ! 悪いな、マジックナイト……ヴィヴィオ、沖さん……ちょっとだけ待ってろ!」

 翔太郎が慌ててそう言う。
 行動方針を誤魔化そうとしているのだろう。とにかく、杏子たちを集め、戦う所までを教えておけば、それから先に逃げるという部分を誤魔化せるからだ。
 良牙は後ろで拳を握ったが、すぐに目の前を走っていった翔太郎たちの後を追った。
 また、ガドルから逃げなければならない──そんな心の痛みを連れて。







 霊安室前──。
 ありったけの荷物を抱えて前方から駆けてくる仲間たちの姿に、杏子たちは足を止めた。
 勿論、それがただならぬ事態である事だけは容易に想像がつく。
 しかし、その内容については全く思い浮かばなかった。
 レイジングハートなる敵が想像以上に強敵だったのだろうか──。

「どうしたんだよ、一体」

 慌てる翔太郎たちに対して、事態を知らない杏子たちは能天気に訊いた。
 しかし、翔太郎は、まるで怒ったような険しい口調で返す。

「ガドルだ。ガドルが攻めてきた」
「ええっ!? 死んだんじゃねえのかよっ!!」

 その一帯に、ざわめきが起こり始めた。
 この段階でガドルが生きている──ともなれば、まさしく不死身の生物との追いかけっこのような戦いだ。
 ただ、警察署の近くまでガドルが来ているという事は、こちら全員で迎撃態勢を取れば間違いないという事である。

「生きていたらしい。……それも、残念だが、以前より強くなっている。今はダグバ以上だ」

 そんなフィリップの言葉を聞いた時、杏子のソウルジェムが微かに濁った。
 まさしく、絶望を喚起する一言であった。多対一が無駄な相手であるのもこれまでの経験上、よくわかっているが、まさかガドルが強化されて戻ってくるなど思わなかったのだ。
 ラブ、美希、つぼみの絶句。暁はわりと能天気そうだが、事態の重みをそこまではっきり理解していないらしい。彼はガドルが敗北する瞬間しか見ていないからだ。

「ここは一旦逃げる。海上に出現した鳴海探偵事務所に向かう方針だ」


803 : 黎明の襲撃者(雷雨 2:20〜2:30) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:26:04 hPExjGy60

 石堀たちが、それから簡単にリボルギャリーやハードボイルダーを使った逃走経路について語り、それぞれが納得した。

「それから、ソルテッカマンも機動して使用します。リボルギャリーの重量を一人分でも減らして、早々に向かいたいんです。装着に補助が必要なので、誰か一人、僕についてきて……」

 使える物ならば何でも使う。その為には、この警察署内にあるソルテッカマンの存在も忘れてはならない。
 あれは、説明書によれば飛行能力も備えており、しばらくは有効に使える武器となる。
 今後使われる可能性も否めず、また、逃走手段としても利用できる事になるはずだ。

「わかりました。私が行きます」
「……美希ちゃん? 君は先に脱出した方が──」
「そんなに時間はかからないでしょ!? ラブたちは先に脱出してて。私は孤門さんと一緒に……」

 何か考えがあるようでもあった。
 全員が、そんな様子を不安そうに思いながらも、頷くしかなかった。
 時間はない。

「……じゃあ、無事でね、美希たん」
「うん。すぐに行くから……!」

 そして、翔太郎たちは警察署の外へ行くためにそれぞれ、戦闘準備を整える。
 この全員揃った場でこそ、丁度良い頃合いであった。

「「「変身!!!」」」

──CYCLONE!!──
──JOKER!!──
──ACCEL!!──
──ETERNAL!!──

 左翔太郎とフィリップが仮面ライダーダブル、石堀光彦が仮面ライダーアクセル、響良牙が仮面ライダーエターナルに変身する。
 この三人の仮面ライダーが組む事になるとは、翔太郎たちは思いもしなかっただろう。

──EXTREME!!──

 そして、この状況で最も脱出に即した姿になるためにエクストリームメモリを呼び、フィリップをガイアスペースへと収納する。エクストリームメモリがドライバーに装填されると、ダブルはその両半身を真ん中から引っ張り、仮面ライダーダブル サイクロンジョーカーエクストリームへと強化変身した。
 フィリップの体を抱えて逃げる事になるのは不便であるゆえの措置だ。

「「チェインジ!! プリキュア・ビィィーーートアーーーップ!!」」
「プリキュア!! オープンマイハート!!」

 桃園ラブがキュアピーチ、蒼乃美希がキュアベリー、花咲つぼみがキュアブロッサムへと変身する。

「ピンクのハートは愛あるしるし! もぎたてフレッシュ! キュアピーチ!」
「ブルーのハートは希望のしるし! つみたてフレッシュ! キュアベリー!」
「大地に咲く一輪の花! キュアブロッサム!」

 三人のプリキュアがこの場に並ぶ。
 これが、生き残る唯一のプリキュアたちであった。

「はぁっ!!」

 佐倉杏子がウルトラマンネクサスへと変身する。
 その姿を初めて見る事になった孤門と石堀の内心は、それぞれ別の驚きに満ちていただろう。

「燦然ッ!!」

 暁がシャンバイザーを装着してシャンゼリオンへと変身した。

「行くよ、みんな!」

 ただ一人、生身のままの孤門が合図した。


804 : 黎明の襲撃者(雷雨 2:20〜2:30) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:26:21 hPExjGy60







「はああああああああああああああっっ!!!」

 ──そして、時間は戻る。

 黒、緑、クリスタル──ガロとゼロとヴィヴィオが見た、その三色の体色の戦士こそが、この警察署内からの増援・仮面ライダーダブル サイクロンジョーカーエクストリームであった。今放たれているのは、プリズムメモリを装填したマキシマムドライブ、ダブルプリズムエクストリームである。
 周囲はもはや、大暴風雨といっていい状態だ。
 その中で、追い風が力を貸し、一層マキシマムドライブのエネルギーは強化されて放たれたはずだった。

「ぐあああっっ!!」

 だが、──ダブルの体が、ガドルに辿り着く前に後方へと吹き飛ぶ。
 今、何故か追い風ではなく、確かな向かい風がダブルに直撃したのである。
 それが何か──と考えた所で、ダブルはガドルの手に握られたガドルボウガンを目にした。そこから今、吸収された空気が押し出されたのだ。
 大雑把な追い風よりも、限定してダブルを狙った弾丸の速度の風がダブルを撃ち落した。
 地面で転がっている真っ最中に、クリスタルサーバーからフィリップの声が聞こえる。

「翔太郎、奴は物質変換能力で周囲の物を別の物質に変える事ができる。棒、銃、剣……そうした武器を作り出せるのが彼らグロンギだ」
「マジかよ……」
「こっちも強力なシールドを持って戦おう」

 そう言われるなり、ダブルはプリズムビッカーを出現させた。
 それにプリズムメモリを挿し、プリズムソードとプリズムシールドに分離させる。
 しかし、ガドルに挑むには少し頼りない武器であるようにも思えた……。

「ハァァッ!!」

 そんな最中、ガドルに向けて放たれた光弾──それは、ガドルがかつても見た事のある戦士の手から放たれた物だと気づいた。
 ウルトラマンネクサス。
 かつてガドルが戦ったそれは、姫矢准が変身したものだったが、今は違う。

──Puppeteer Maximum Drive!!──

 そして、ガドルに向かって飛んでくる何本かの糸。
 ガドルは即座にそれを超自然発火能力で焼却する。

「ちっ。やっぱり無駄か……」

 かつて、ここにいない人間に指示された通り、パペティアーメモリを使ったマキシマムドライブを企てたが、どうやら失敗だったらしい。
 ガドルを真剣に撃退するには、方法は一つ。

「力ずくしかないってわけか。その方が俺には似合ってるぜ!」

 仮面ライダーエターナル──響良牙は、そう呟いた。
 その姿を見て、ガドルはかつて自分に挑んだ「究極」を思い出す。まさしく、今のは彼の力であった。

 更なる増援がやって来たのだ。
 ほんの数秒遅いが、それは翔太郎が予想以上に先走った結果そのものである。
 良牙や杏子は少し彼に大人げなさを感じつつも、その判断は間違いではないと思った。
 更に遅れてやって来たシャンゼリオンは、どうやらあまり戦いに乗り気ではないらしい。──周囲の惨状がよく見えているのは彼だけだ。

「──俺に挑んできた奴らの集大成だな。面白い」

 ネクサス、ダブル、エターナル、ガドル。全員がそろい踏みして、対峙し合っている。
 ついでにガドルはシャンゼリオンも見やった。なるほど、これまでの客人たちが勢ぞろいしているわけだ、とガドルは昨日と今日の一日を懐かしんだ。


805 : 黎明の襲撃者(雷雨 2:20〜2:30) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:26:41 hPExjGy60
 唯一、決定的に違うのは、死者の不在、そして全員があの時よりもパワーアップしているという点だった。
 ガドルは、その時、あの無骨な軍人堅気の男とは思えないほど鮮やかに──笑った。







「零、 こっちだ!」

 そんな戦いの影で、仮面ライダーアクセルが強い口調で合図した。
 零は、咄嗟に聞こえた呼びかける声に反応する。

「何だ、一体!」

 暴風雨に体を濡らしている零は、そちらに目をやって、これまた強い口調でそう答えた。
 切羽詰まった状況のため、双方ともこんな状態なのである。

「ハードボイルダーを使って逃げろ、ここを離脱する!!」
「何だと……?」
「魔法陣だ! あれを使って全員を送り届ける!! リボルギャリーは呼んだ!! 俺たちで先に離脱するんだ!!」

 その言葉を聞いて、零がはっとした。
 そうだ。逃げ場はないように見えるが、鳴海探偵事務所に行けば時空魔法陣があるではないか。──しかし、ガドルが来ないようにその出入口を封鎖するには、確実に零の力が必要になる。
 「対象者」であった結城丈二が死んだ以上、「準対象者」である零があのゲートを繋ぐ役割を持つ事になっているのだ。

「だが……!」

 咄嗟に頼るように鋼牙を見つめてしまった事を、零は後悔した。
 仮にも、零と鋼牙はライバルだ。まるで上下関係のような物が芽生えてしまっているのは心苦しいところがある。──まあ、未来の存在である鋼牙の方が経験値が高いのは仕方がないところもあるが。

「──行け、零! お前にしか果たせない使命だ!!」

 その関係を理解したうえで、鋼牙は迷える零を一喝した。あくまで、彼は零に対して経験を踏まえた指示を出さずにはいられなかった。
 戦う為に鍛えて来たというのに、できるのが逃走の手助け──というのがどうにも心苦しく、零を悩ませる。

「いや、俺は魔戒騎士だ、最後まで戦う!!」

 そんな苦悩の中で、零が下した判断は、そうだった。──合理的というよりも、むしろ自分が望む判断である。
 しかし、鋼牙はそんな零に対して、より一層険しい目つきで叱咤する。

「そうだ、お前は魔戒騎士だ! だが、魔戒騎士は戦うだけの物じゃない。お前が行かなければ、仲間は誰が助けるッ!?」

 喉の奥から、そんな声が発された。
 この全てを濡らす大暴風雨の中で、鋼牙の声が零の体の奥に響いていく。
 そして、……。

「……」
「行け、零! お前は守りし者、魔戒騎士だろッ!」

 やはり、ここを任せる事ができる相手が自分しかいないというのなら、逃げるしかない。
 使命に目覚めたというよりかは、あくまでその論調に逆らえなかったのである。
 何せ、自分の我が儘な部分にも向き合わざるをえなかった。合理的な判断がどちらかというのは片が付いている。
 どうやら、今の自分では鋼牙に勝てない──という、そんな劣等感を抱きながらも、従うような判断を下す意味に気づいてしまった。

「…………わかった」

 腑に落ちないような気分もあるが、それが零にしかできない事ならば、そうするしかない。


806 : 黎明の襲撃者(雷雨 2:20〜2:30) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:27:17 hPExjGy60
 すぐさま、零はハードボイルダーの元まで走っていく。後ろ髪をひかれるようなところがあったが、彼は振り向かなあった。
 彼は機体を前にすると、そこにいる女性陣の誰を乗せるかを考えた。
 目の前のアクセルは、ラブとつぼみを先に乗せている。全自動で進んでくれるバイクとは随分つまらない物だと思いながらも──三人も纏めて脱出できる彼の構造に安心した。

「おい、乗れ!!」

 ざっと見て、一番乗せるべきと判断した相手は、ヴィヴィオとレイジングハートしかいない。そちらに顔を向けて叫んだ。
 そこで零にこれからの行動について訊いたのは、レイジングハートであった。

「ここから逃げるんですか?」
「そうだ!」
「……わかりました。ヴィヴィオを乗せて先に。後は任せてください」

 レイジングハートは言う。
 まだ零に対する不信は完全に拭われたわけではないが、この状況下、ここに残らせるより遥かに安全なルートであるのは確かだ。
 第一、鋼牙と零の会話を見た限りでは、──それが演技とは到底思えなかった。

「あんたは? どうするんだ?」
「ダミーメモリの力で何らかの移動手段に擬態し、ここに残っている人たちを救助します」

 レイジングハートは現状、高町なのはの姿をしている。てっきり人型にしか擬態できないように思われたが、実はやろうと思えばバイクや車に擬態する事だってできるのである。
 ヴィヴィオも勿論、空を使って移動する事はできるが、空に行くと目立ちすぎる欠点がある。ガドルはガドルボウガンを持っており、相手が空にいようが撃ち落す絶対の能力があったのだ。ビルの影に隠れなければ勝機はない。

「……レイジングハート」
「あなたがマスター──なのはたちの娘であるならば、私の中にもまだ希望はあります。──あなたが生きている限り、私はこれから先、絶望する事はないでしょう」
「……」
「だから、行ってください」

 そんなレイジングハートの言葉を聞いて、「無事でね」と険しい顔で返すと、ヴィヴィオはハードボイルダーのエンジンをふかした零の後ろに乗り、ヘルメットを被り、零の腰に腕を回した。
 零が発進すると、レイジングハートの姿はだんだん遠くなっていった。
 続いて、つぼみとラブを載せた石堀の機体が発進した。







「フンッ!!!」

 ガドルの一撃で、周囲一帯が火の海になっていく。何もなかった場所に、瞬きする一瞬の間に灯される業火は、まさしく怪奇現象である。こうして、土砂降りの雨の中でも無関係に発される掌からのそれに、誰もがたじろいだ。
 回避しきれず、ダブル、エターナル、シャンゼリオンの体に火がともされる。咄嗟に、彼らはそれを必死で振り払おうとした。
 数歩下がって辛うじて避けた鋼牙やスーパー1の前で、アスファルトの地面が燃える。

「くそっ! なんだこりゃ!」
「迂闊に近寄れない……!」

 それぞれが必死に火を払おうとする。
 辛うじて、直前でバリアを張る事ができたネクサスだけがその防御に成功した。
 他が炎に苦しんでいる最中に、ネクサスが単身、ガドルの方に突っ込んでいく。

「デュア!!」

 アンファンスパンチがガドルの胸板に届く。──が、全く効かない。想像以上の手ごたえのなさだ。逆に腕の方が痛むくらいだ。
 ガドルの口から換言してみれば──

「弱いな」


807 : 黎明の襲撃者(雷雨 2:20〜2:30) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:28:43 hPExjGy60

 ──そんな一言であった。
 すると、ガドルがネクサスの腕を捻り、地面に向けて突き放した。
 ネクサスの体は苦痛の雄叫びとともに地面を跳ね、そのままダブルの元に跳ね転がっていく。

「ハァッ!!」

 だが、ダブルの前でネクサスは立ち上がると、その体をパッションレッドへと変える。
 ジュネッスの力を解放したのである。
 こうなるとより一層彼女の力は強くなる。──眼前で姿を変えたネクサスに、ダブルは彼女が初めてこの姿になった時の事を思い出し、感慨深い気持ちになった。
 攻撃力、防御力、スピード、あらゆる面でこのネクサスのジュネッスがアンファンスよりも優位なのは確かな事実である。そのうえ、相乗してアカルンによる移動効果も期待できるはずだ。

「ハァ……」

 ネクサスの構え。
 それは、かつて血祭ドウコクさえも飲み込み吹き飛ばした──オーバレイシュトロームであった。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

両腕から放たれる青白い光──それがガドルの元へと向かっていくと、時を止めるかのように、雷が鳴った。
 雷鳴と稲妻の光が、そこにある全てを真っ白に照らし、無音まで作った。
 どうやら、雷が警察署の避雷針に直撃したらしい。この至近距離で雷が落ちた事で、誰しもが心臓を高鳴らせ、死さえも確信したほどだ。
 なんとタイミングが悪い。

 ゆえに──光線が命中したかどうか、即座には判断できなかった。

 いや、もはや直前に光線を放った事さえも一瞬忘れかけてしまうほどである。
 この雷雨と大風の中で、オーバレイシュトロームの成功を祈った時には、既にそこにガドルの姿はない。

「──フンッ」

 回避、していた。
 今のガドルには瞬間移動能力がある。オーバレイシュトロームの威力を眼前で推し量り、あえてその瞬間移動を使って回避行動を行ったに違いない。
 ガドルが移動した先は、オーバレイシュトロームが目の前の火の海の中に一筋の真っ直ぐな逃げ道を作った真横であった。

「炎を掻き消す力か、面白い」

 しかし、命中しなければどんな強力な攻撃も意味は成さない。
 突然発動したその攻撃に、ネクサスはまたも愕然とする。

「チェンジ!! レーダーハンド!!」

 スーパー1はレーダーハンドに切り変え、レーダーミサイルを使う。
 レーダーとしてではなく、爆弾としての機能を使い、向かってくるガドルの体を爆破させた。その一つがベルトを狙ったが──あいにく、それを察知したガドルは、ベルトを手で隠した。ガドルの腕でミサイルが爆ぜる。
 あれが唯一の弱点である。あそこを狙わなければ勝機はない。

──Heat Maximum Drive!!──

 電子音とともに、エターナルの手から──

「灼熱獅子咆哮弾!!」

 ──が放たれる。
 ガドルの体に直撃し、爆発。ガドルの体を灼熱の獅子咆哮弾が飲み込む。
 が、ガドルはその中でニタリと笑い、憮然と立ちすくんでいた。
 まるで、ダグバのベルトの中にあった乱馬の記憶を思い出しているようだった。

「だが弱い」

 仮面ライダーエターナルに灼熱獅子咆哮弾を受けるのは二度目だ。
 この能力に感じた究極の力、──今となってはよくわかる。


808 : 黎明の襲撃者(雷雨 2:20〜2:30) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:29:02 hPExjGy60
 それは、全くの勘違いであったと。
 ガドルに直撃した灼熱獅子咆哮弾は、さしてダメージを与えなかったのだ。

「クソッ」

 大嵐の中で、ガドルは不意に警察署の方を見上げた。
 この塔を崩せば、もしや、ここにいるリントどもは全員潰れるのはないか、と咄嗟に思ったのだ。その為に充分な高さが警察署には備わっていた。
 なるほど。──そこで勝ち残った相手と戦うのも一つの興だ。
 これだけの相手と戦うのは楽しいが、同時にただただ徒労感もある。
 弱い相手に限っては、今のうちにこのまま潰してしまうのも一つの手ではないかと──ガドルは思案した。

「──」

 ガドルが、目の前に向けて掌を向けた。
 それが、攻撃の動作であるのはこれまでの戦いから一目瞭然である。
 ゆえに、全員が咄嗟に回避運動を取った。
 ──が、誰の眼前でも炎は上がらなかった。

「──!?」

 めらめらと燃え上がる音が聞こえるのは、彼らの後方。
 即座にそちらを振り向くと、警察署の入り口──いや、一階のほぼ全体に向けて、炎が上がっていた。中でスプリンクラーが作動する音がするが、全くそれが意味をなさないのははっきりとわかっている。
 炎は次の瞬間、よりいっそう勢いを増した。

「──孤門!」
「美希ちゃん!」

 そうだ、中にはまだ二人が残っている。
 その二人がいる以上、これは危険な事態だとすぐに順応できた。

「ハァァァァッ!!」

 さらに次の瞬間、まだ倒壊しない警察署に向けて、ガドルは無差別に空気弾を発射する。
 支えになる物が次々と破壊されたらしく、中で轟音がした。誰もガドルの攻撃を止める事はできなかった。

「──くっ!!」

 瞬間、ネクサスの体がその場から消えた。
 アカルンを使ったのである。
 中に残っている美希と孤門を助けるべく、──杏子が咄嗟に行った行動であった。


 それを見て、何となくほっとしたのも束の間、警察署はそのまま燃え盛る炎とともに、自分たちの方に向けて倒壊を始めていた。
 自分たちの真上に作られている大きな影の正体が、それであると気づいた時、全員の感情は一つになった。
 ──まずい。
 ただの人間ならば確実な死。そして、仮に変身して強力になったとしても、彼らには深刻なダメージを与えるであろう攻撃だ。場合によっては、強化された体であっても死んでしまうかもしれない。

「──くそっ!」

 ダブルは自らに影を作っていくその警察署の倒壊に舌打ちした。
 そこにいる全員が、慌てて警察署の真下から避難しようとする。
 だが、驚くべき事に、今見てみれば彼の周囲は全面、炎によって囲まれていたではないか。
 逃げ場が作られていない。
 炎に突っ込んでいくか、あるいはビルの倒壊に巻き込まれるかの二択だ──。

(どうすりゃいいんだよ……っ!! クソッ……! これじゃあ……)

 ダブル、エターナル、スーパー1、シャンゼリオン、鋼牙、レイジングハート──全員がその場で身を寄せ合った。
 周囲は須らく炎に包まれ、真上からは建物が倒壊してくる。
 ガドルがこうして纏めて参加者を消す手段を選び始めた事で、以前にも増して知的な戦闘方法が使われた現状を、彼らは呪った。


809 : 黎明の襲撃者(雷雨 2:20〜2:30) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:29:34 hPExjGy60

(このままじゃ……)

 嵐が彼らの周囲から吹き荒れていた。







 キュアベリーと孤門は、トレーニングルームでソルテッカマンの装着を完了させていた。
 一応、最後の武器がこれで脱出という事になったはずだ。
 辛うじて、それに対する安心感でほっと胸をなでおろした孤門たち。

「──これで終了ねっ!」
「うん、早く行こうっ!」

 ソルテッカマンの装着には単独作業は難しい。こうしてキュアベリーに手伝ってもらう必要があった。あとは脱出するだけだ。
 脱出経路はよくわかっている。ただ、その脱出経路に向かおうとした瞬間、──

「な、なんだっ!!」

 突如として雷が周囲の窓を真っ白にして、鼓膜に轟音を鳴らした。
 雷である。
 まさしく、この警察署の真上に落ちたらしく、避雷針に落ちた雷が巨大な音を立てた。
 キュアベリーは思わず、耳を塞いでしゃがんで驚いてしまうほどであった。

「びっくりしたね……」
「あわわわわわわわわかかかかかか雷がががががががががが」
「まあ、そうなるよね……」

 流石の孤門も驚いたほどである。
 ソルテッカマン越しに、キュアベリーの慌てようを見つめた。
 とにかく、何があっても今はすぐに脱出しなければならない。
 ソルテッカマンはキュアベリーを抱き起すようにして、手を退くと、すぐに脱出の準備をした。

「──孤門、さん。待って」

 突然、キュアベリーが声をかけ、少し乗り気でない様子で立ち止まった。
 それを、孤門は黙って見つめた。
 もし孤門がソルテッカマンを装着していなければ、袖を引っ張っていただろう。

「……アインハルトたちは?」

 上目遣いで、美希はそう訊いた。

「──」

 孤門も、気づいていた。
 そう、この警察署にはアインハルトたちの遺体も綺麗なまま残っている。
 しかし、誰もその事について触れようとはしなかった。──勿論、孤門と美希に限らず、誰もが気づいてはいる。
 この警察署にアインハルト、月影なのは、暁美ほむらの遺体があるという事だ。
 勿論、遺体というのは生者にとって、何にもならない物ばかりである。持っていくわけにはいかない。、だからこういう場所以外でも焼かれて、埋葬されていくのが自然であった。
 そんな物を持ち歩いて、果たして何になるというのだろう。──しかし、こうして一緒に逃げさせてやる事ができないのは、至極残念な話で、蒼乃美希はそれに苦悩しているのだろう。

「……置いていく……」

 孤門は、何かを飲み込みながら答えた。
 そう返すのは辛かった。できれば、聞かないでほしいところである。
 誰も触れない事で、忘れておきたい現実であった。

「……」

 勿論、わかっている。それが何の意味もない事に。
 ──だが、一緒にいた仲間がそこにいる以上、キュアベリーは置いていくような冷徹な判断がしづらかった。


810 : 黎明の襲撃者(雷雨 2:20〜2:30) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:29:51 hPExjGy60
 意味がない事なのに。
 右脳でわかっていても、左脳がそれをさせない。

「……やっぱり、私、みんなも連れていきますッ! いくら何でも置いていけません!」

 思わず、キュアベリーはそんな判断を下してしまった。
 そして、次の瞬間には、霊安室の方へと走り出してしまっていた。

「ちょっと……美希ちゃん!」

 ソルテッカマンが追いかけようとするが、この警察署内ではこの姿が結構いっぱいいっぱいで、身動きがとりづらい部分がある。
 元々、巨大なパワードスーツに順応した作りではないのだ。
 辛うじて、廊下は広く、天井がある程度高いので何とか歩いて行けるが、霊安室がパワードスーツの出入りを許容できるような作りになっているはずがない。
 先にそそくさと霊安室に向かっていくキュアベリーの背中を追おうとするが、──

「すぐ戻りますッ!! 先に──」

 返って来たのは、そんな無茶な指示であった。
 そして、その時、警察署で突如として警音器が鳴り響いた。
 同時に、孤門のたちの下の階でスプリンクラーが作動した。五月蠅い音が周囲を囲む。
 どうやら、火災が発生したらしいというのは、孤門の経験上、すぐにわかる話だった。

「美──」

 それに気を取られている隙に、キュアベリーの体は遠くへ見えなくなっていってしまった。更に直後には、轟音とともに、警察署が一気に傾いた。
 突然次々と起こる現象に、孤門は恐ろしささえ覚える。
 これは──まさか。
 本当に、正真正銘、死んでしまう場面なのではないかと。

「……ッ!!」

 だが、孤門の中にあるレスキュー隊の魂は、ここで諦めるという事をしなかった。
 ──諦めるな。
 その言葉が孤門の胸にある。そして、それを心の中で唱えた。
 すぐに美希を救出する。その為に、霊安室に向かわなければならない。

「必ず助ける……ッ!!」

 ソルテッカマンが、すぐに霊安室に向かって走り出した。







「……まったく、何なのよっ!」

 霊安室の前で、突然傾きだした自分のいる建物で、キュアベリーは壁に頭をぶつけていた。
 震度でいえばどれくらいだろうか。──巨大自身に巻き込まれたような感覚であった。
 ただ、とにかく霊安室の中の遺体を回収して、一緒に逃げ出したかった。
 少なくとも、ここにいるうちの二人は一緒に時間を過ごした仲間なのだ。

(ここに来ると、やっぱりあの時の記憶が蘇るわね……)

 そう、ダークプリキュアによる殺害の記憶だった。忘れもしない。しかし、今は彼女自身が生まれ変わり、ここに眠っている。
 ベリーは必死に霊安室のドアを開けようとするが、今こうして建物がズレたせいか、すぐには開かなかった。
 立てつけが悪いのだろうか──手間取っている時間はなさそうなので、仕方がなく、キュアベリーはそのドアを蹴破った。
 鉄製のドアが前に向けて吹き飛ぶ。──今のが遺体に当たらなければ良いな、とキュアベリーは思う。
 とにかく、それで開いた霊安室の中に入ってみると、ドアは三人の遺体を傷つけていないようである事がはっきりとわかった。

 ──が。

「きゃあっ!!」


811 : 黎明の襲撃者(雷雨 2:20〜2:30) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:30:09 hPExjGy60

 警察署が更に傾いたらしく、丁寧に置かれていた遺体は、地面に向けて落ちていってしまった。例外なく、三つとも。
 既に地面が四十五度近く傾いており、このまま行けばかなり危険というラインまで来ていた。

『おい、何してんだよッッッ!!!』

 突如、謎の声がキュアベリーの後ろで響いた。
 それと同時に、ソルテッカマンがこの場に辿り着く。
 孤門の声かと思ったが、どうやら違うらしい──すぐ近くを見ると、杏子が変身したウルトラマンネクサスが前にいた。
 その体は、どこか見覚えのある体色であった。

「キュアパッション、いえ……」
『私だ、杏子だ!! なんでこんな所にいるんだよっ!! 探したぞ、二人とも!!』
「杏子! どうしてここに……!?」
『アカルンの力を使わせてもらった。すぐに逃げねえと、この警察署も倒壊する──っていうか、今も倒壊してるんだよッ!! 逃げるぞ!!』

 杏子が叫ぶようにして言った。
 それは間違いなく、怒号というやつだった。
 既に四十五度傾いているという事は、このまま一気に九十度まで傾き、完全に倒れてしまうという事だった。時間が全くないのである。

「待って、杏子。みんなの遺体を……!」
『馬鹿な事言ってるんじゃねえッ!! こいつらはもう死んだんだッ!! 持ってきても何にもならねえッ!! このままだと、お前も死んじまうぞッ!!』

 警察署は一層、地面との角度を鋭くした。既に鋭角になっており、キュアベリーとソルテッカマンも地面に立つ事ができなくなる。

『──なあ、こいつらだってさ、美希に死んで欲しくねえって言ってるよ……お前だって、同じ状況ならそう思うだろ?』

 だんだんと焦りが見えているはずなのに、杏子はかえって優しい口調で、そう返した。
 警察署がだんだんと散らばっていき、地面に向けて倒れかけようとしていた。
 中に在る色んな物がキュアベリーに降りかかってくる。──そんな最中、キュアベリーは涙も流した。
 しかし、反論はなく、それは肯定している証であった。

『二人が限界だ。これ以上は連れて行けない……だから、行くぞ……!!』

 ネクサスは、そう言ってキュアベリーとソルテッカマンの手を繋いだ。
 キュアベリーは、ここに仲間たちを置いて逃げてしまう事が心苦しく感じられたが、半泣きの表情で、──それでも、決断を下すしかなかった。
 できれば、こうはしたくなかった。

「……」

 もし、できるのなら、一緒に連れて帰りたかった。
 遺体くらい、こんな所で形をなくしていかせるよりも、元の世界に返してあげたかった。
 だが──

「…………うん」

 それはできなかった。

 アインハルトという少女がここにいた事も、だんだんと忘れられていってしまうのだろうか。
 折角、ダークプリキュアが得た人間の体も、こうして朽ち果て消えていってしまうのだろうか。
 ネクサスは、その手を強く握るなり、すぐさま、二人とともに姿を消した。

「あっ……!!」

 ──だが、キュアベリーがそこから消える前、彼女は一瞬、不思議な物を見た気がした。

(──)

 いやはや、そんな事はありえない。
 もう身体機能が止まった彼女たちの遺体が、表情を作る事など、全く非科学的でありえない事象である。


812 : 黎明の襲撃者(雷雨 2:20〜2:30) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:30:33 hPExjGy60
 ──仮に、そんな事象が起こったと誰かに言っても、おそらくは信じないだろう。
 いや、言う気もない。これから美希たちの旅路で、そんな事を再確認する必要はない。

 だが、ただこの瞬間の不思議な体験は、キュアベリーの目に涙を流させるというよりかは、ただ茫然とそれを見送らせた。
 彼女の友人に送りたい姿であった。……ただ、もしかしたら、彼女にそんな顔を見せないのは、一枚の写真の中にそれが残されてしまうのを躊躇したからかもしれない。
 何せ、死者は笑う事はない。それを、今回、特別に一度笑わせてくれたのだろう。──だから、その瞬間を写真に撮られてはまずかったのだ。

 これからこの倒壊に巻き込まれ、消えていく三つの遺体がある。
 そのうち一つの遺体は、生前、彼女たちの前で笑うことがなかった。細やかな笑顔さえ見せる事はなかった。それは、彼女の真面目な気質が由縁とする物だったかもしれないが、実際はある悲しい事情もあったのだ。
 アインハルト・ストラトスであった。
 そんな彼女が、薄らと──

 ──これから生きていく人々を激励するかのように、キュアベリーの優しき迷いを喜ぶかのように、杏子の賢明な判断を祝すかのように、あるいは、逃げて行った仲間たちの祝福を祈るかのように、──

 ──笑ったのが、見えた気がしたのである。







「──消え去ったか」

 安全な場所に立ち尽くすガドルの後ろで、警察署は完全に、その横腹を地面に叩き付けていた。今、目の前にあったはずの炎のサークルは巨大な衝撃に吹き飛ばされたが、まだまだ警察署の一階に灯した炎は、まだまだ確かにその勢いを増していた。
 ガドルは、笑った。

「フハハハハハハ」

 ここから誰が生き残ったのか、それを、いま振り返って見極め、その者と戦うのが最もやりやすいと思ったのだ。あの火の手を突っ切り逃げ切った者、崩れ去った警察署の下敷きになりながらも辛うじて生き延びた者──それと戦いたかった。
 これまでのように集団を相手にしても、姑息的な戦法を取ってくるのみで、全く面白くが無い。
 彼らは隣にいる仲間を信頼しすぎている。ゆえに、手を抜く。
 死の瀬戸際である事を感じてガドルに向かっては来ないのだ。だからこそ、そんな考えを潰す為に、一度、全て破壊させてもらった。

「……誰が生き残った?」

 ガドルは、ようやく振り返った。
 振り返る事で、そこに誰がいるのかを確かめる事にしたのだ。
 その瞬間までのお楽しみという奴であった。
 ガドルは、タロットカードをランダムに手に取り、死んだ者に向けて放とうとしていた──が。

「──」

 ガドルの目の前には、黄金の羽の戦士と、その腕が抱える一人の白い魔法衣の騎士だけがいた。

『そう言えば言ってたな。黄金の風がかつて、お前たちに奇跡を呼んだ……って』

 空から地を見下ろす鋼牙の腕の中で、ザルバが呟く。
 かつて、杏子を激励した言葉通り──今、仮面ライダーダブル サイクロンジョーカーエクストリームは、その中央のクリスタルサーバーを金色に変えていた。
 ガドルが起こした大暴風雨の風が、エクスタイフーンが吸収し、かつて風都の人々の祈りの風が叶えた奇跡を再び巻き起こしたのである。
 皮肉にも、ガドルが起こした異常気象が、ダブルをこの姿に進化させていた。

「──残ったのはお前たちだけか」


813 : 黎明の襲撃者(雷雨 2:20〜2:30) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:30:55 hPExjGy60

 ガドルがつまらなそうに言った。

「まあな」

 ダブルは、それにしては妙な余裕でそう言った。
 ガドルが訝し気に彼の姿を見つめた。


814 : 黎明の襲撃者(風雨 2:30〜) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:33:29 hPExjGy60



 リボルギャリーは、警察署から遠ざかるようにして走っていた。
 殆どギリギリのタイミングでの救出劇だ。警察署の影が完全に彼らを包み、視界が真っ暗になり始めた時に、炎の中を突っ切ってリボルギャリーが現れたのである。


 警察署が自分たちの体を押しつぶす直前に、辛うじてリボルギャリーは現れていた。そして、直前にリボルギャリーに脱出していたのはスーパー1とシャンゼリオンとエターナルである。
 この装甲車に乗って逃げる事ができたのは、たった三人だ。

「チッ……」

 助かったはいいものの、この激しく車体を揺らしながら逃走していくリボルギャリーの中には、一概に喜べない空気が漂っていた。
 直前に助けを拒んだ仮面ライダーダブルと冴島鋼牙、姿を消したレイジングハート、助かったのかどうかもわからない佐倉杏子、蒼乃美希、孤門一輝。
 彼らが犠牲であるとするのならば、こうして逃走するまでの時間に失われた物が多すぎた。
 とにかく、彼らは揃って変身を解除した。

「──あいつ、強くなってやがる」
「ああ、とてもじゃないが太刀打ちできなかった」
「折角脱出できる所まで来たってのに、ああいう頭おかしい奴に妨害されるなんてな……」

 全くだ、と良牙と一也も言いたかった。
 暁が言う事は全くの正当である。好き好んで殺し合いを楽しんでいるガドルのようなタイプの人間が、脱出計画を上手く企てていた彼らの邪魔をした。
 ──その事実が、全く如何ともしがたい腹立たしさを作り上げている。
 もしも、仮に仕方なしに殺し合いに乗っている人間ばかりが多かったならば、ここで脱出は成功したのだろうが、ガドルは全く持ってそういうタイプではない。

「……あいつがやっているのは格闘でも何でもねぇ」
「ああ」
「第一に、楽しくねえ。──俺だって、あいつらとやってた時はまだ……」

 乱馬たちの事を思い返しながら、良牙はただただ抑えられない苛立ちで拳を握りしめた。
 本当なら、良牙も今、翔太郎たちとともに残って戦いたかったのだが、暁に続いてリボルギャリーに搭乗してしまった。
 暁、良牙、一也と載った後で、ゴールドエクストリームになったダブルが搭乗を拒み、何故か鋼牙もあの場に残った。
 ダブルはまだわかる。勝利への確信を持っていたのだろう。周囲から見れば、何故そこまで確かな勝利への確信を抱けたのかはわからないが。
 ただ、鋼牙まで残った時は、他の全員が慌てた様子であった。何故彼まで残ろうとしたのか、誰もわからなかったのである。

 それでも──

「……無事を祈るしか、ないな」

 これに乗ってしまった以上、もうここにいる全員、鋼牙と同じ判断はできない。
 真っ直ぐにしか進んでいかないリボルギャリーに揺られながら、それぞれが重たい表情で俯く。これから、後ろを振り向く事ができないのである。
 忘れ物がたくさんあるとしても、リボルギャリーは無情に、警察署を離れて行った。







 ──一方、杏子たちはそれぞれ、海沿いの道を急いでいた。
 彼女たちは、これといった移動手段も持たないが、ソルテッカマンとネクサスには飛行能力がある。ネクサスがキュアベリーを運んで低空飛行している最中、目の前に一人の女性の姿を見つけた。
 彼女は遠く、海の向こうを見ていた。
 女性──そう認識した後、それが誰なのかというのがわかった。

「──お前は、」


815 : 黎明の襲撃者(風雨 2:30〜) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:33:52 hPExjGy60

 ガドルとともに現れた、例の妖艶な女性である。
 孤門たちから見た特徴を簡略に教えるなら、「バラのタトゥの女」とでも呼ぶといいだろうか。彼女の本名は、ラ・バルバ・デというが、それは誰も知らなかった。
 彼女の姿を見た瞬間、それぞれが背筋を凍らせながらも、立ち止まる。
 ──何せ、あのガドルの同行者である。それなりの力を持っていても全くおかしくはない。
 警戒態勢を取りながら、バルバを睨んだ。

「……」

 先回りしていたのだろうか。
 ガドルの目を盗んで逃走しようとしていた彼らだが、まさかガドルにこのまま勘付かれてしまうのではないかと、恐怖を抱いた。

「……リントも変わったな」

 しかし、バルバは、妙に冷淡に、こちらを見ようともせずに、そう呟いた。
 まるで彼女は戦いにも興味がないようだった。いや、むしろ──彼女はガドルとは全く違い、戦いそのものではなく、戦いを傍観しているだけを楽しんでいるようにも見えた。
 おそらく、彼らの中でも変わり者なのだろう。

「かつて、リントは我々に抗う事をしなかった。武器も使わず、蹂躙されても抗う事を徹底的に避けていた……ごく数名を除いては」
「──何を、言っている?」

 突然語らいだしたバルバに、孤門は疑問の念を抱く。
 本当に、全く攻撃の意思が感じられない。

「今や、リントたちも武器を手に取り、我々に刃向かっている。自分たちの力で我々を越える武器を生み出したリントもいる」
「……」
「リントは、いずれ我らと等しくなる」

 バルバの、全く表情も変えない言葉に、何故だか孤門は背筋が凍った。
 一番前で、ソルテッカマンのマスク越しにバルバの言葉を聞き続ける孤門も、バルバの言っている事の恐ろしさを何となく理解していた。
 リント、という言葉が人間を表しているのも、その語調から掴みとる事ができた。
 杏子と美希は、何も返す事ができない。

「……違う」

 しかし、──孤門は、必死で彼女の言葉への反抗を示そうとしていた。

「僕たちが武器を取るのは、お前たちのような奴がいるからだ!」

 言い訳でも何でもいい。ただ、孤門は言葉をバルバに突き付けようとしていた。
 武器を握るのは躊躇った。いくら背中に女の子二人がいるからといって、ここで武器を使うのは正当ではない。──そんな気がした。

「ならば、我々がいなくなれば、お前たちは武器を捨てるのか?」
「──何?」
「我々が今に蘇る前から、リントは武器を手に取り、争い合ってきた。我々が眠っていたほんの僅かの間に、リントは勝手に殺し合いをする種族に変わったのだ。ならば、いずれ我々と等しくなる──そうだろう」

 バルバが予見した未来。──それが、間違いなく、後の地球に起こる事ではないかと、孤門は何となく思ってしまった。
 紛争はまだ世界中で起こっている。姫矢もそんな地に行き、大事な人を喪った。
 ビーストがいなくても、世界中が平和に過ごす事はまだ成されていない。いや、人がある限り、こうして強力な武器が作られるのだろう。
 それを考えると、孤門は急にこのソルテッカマンなる兵器の重たさを感じるようになった。

「コモンカズキ……。お前は、この戦いの中では珍しいただの一般人だ。クウガにも、カメンライダーにも、プリキュアにもならない。あの刑事、イチジョウカオルと同じだ」
「……だからどうだっていうんだ」
「私は今、お前にも興味がある」

 バルバがニヤリと笑った時、孤門の額に汗が湧いた。
 バルバが向かってくる。まずい。
 ──バルバは孤門に、どういう形でか攻撃しようとしてくるのだ。
 彼女の右手が黒みがかった緑色に変身していき、ソルテッカマンに向けて駆けてくる。


816 : 黎明の襲撃者(風雨 2:30〜) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:34:10 hPExjGy60
 彼女はグロンギとしての真の姿になろうとしている──。
 そんな時だ。

「くっ……!」

 孤門は咄嗟に、フェルミオン砲を彼女に向けた。
 変身していくバルバの方に向けてフェルミオン砲の銃口を向ける。

「たとえ、敵だって……本当は引き金を引きたくはないんだよッ!!」

 孤門一輝は、ナイトレイダーに入るまで、ずっとレスキュー隊員に過ぎなかった。
 人を救う事が目的で、その為に誰かを傷つける事など全くなかった。
 しかし、戦いの中でビーストを倒し、ある時、孤門が撃った弾丸が、ビーストの中にいた少女を傷つけた──。
 だから、本当は武器を取りたくない気持ちが彼にはある。
 だが、それでも──。

 そして、フェルミオン粒子の結晶を放つ──。

「──ぐあああああああああああーーーーっ!!」

 しかし、フェルミオン砲は突如、目の前で光を爆ぜて暴発した。それは、痛み分けとばかりにソルテッカマン、バルバ双方の体を吹き飛ばす。
 孤門の意識を昏倒させるほどの負荷がかかった。本来、フェルミオン粒子というのは水の分子と反応して爆発を起こしてしまう物質であった。
 それゆえ、雨の夜空に使える武器ではなかったのである。

「あっ……くっ……」

 孤門は、このフェルミオン粒子の仕組みを完全には理解していなかったようだ。
 地面に叩き込まれると、そのまま意識を失って、動かなくなってしまった。
 もう一方のバルバは、今の爆発で右腕を根こそぎ吹き飛ばされ、体の前半分をフェルミオン粒子の暴発で爆破させていた。

「そう、だ……。いず……れ、リントは……自分の……力で身を亡ぼす……我々のように……」

 しかし、ラ・バルバ・デはその顔を美しい女性のままに、あおむけに倒れて笑った。──彼女たちグロンギの体は異常なほどの頑丈さも持っている。面の皮も相応に厚かったのだろう。だが、その顔は血しぶきに満ちており、やはり死が目前にあるようだった。
 孤門一輝とはいずれまた、会いたい気持ちがあったが、そんな気持ちも、この爆発の衝撃を人間の姿のまま受けた事で、どこかへ吹き飛んでしまったようである。
 バルバは、そのまま、雨ざらしの遺体となって、すぐに動かなくなった。

「……」

 ネクサスの姿のまま、杏子は黙ってバルバの遺体を見下ろした。
 ソルテッカマンのハッチを開けて、意識を失った孤門を咄嗟に離脱させるキュアベリー。
 敵の死を見ていながらも、何故か奇妙な後味の悪さが残る今の一戦に、ただただ彼女たちは何も言えなかった。







 ガドルの目の前に残ったのは、ダブルと鋼牙のみである。
 二人は、鋼牙を下す為に着地すると、鋼牙が残った理由を疑問視して言った。

「なんで残った?」
『こいつは、お前たちが逃げる時の手伝いがしたいのさ』

 鋼牙に代わってザルバが言った。

「……移動手段は全て使ってしまった。轟天を除いてな」

 そう、牙狼が召喚する轟天にダブルを乗せれば、鳴海探偵事務所に向かうまでの時間をかなり短縮できるのである。
 ガドルを倒してここから脱出するには良い手段だ。

「なんだ、そんな事かよ。安心してくれ、俺たちはこの翼で飛べるんだ」


817 : 黎明の襲撃者(風雨 2:30〜) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:34:30 hPExjGy60

 翔太郎が応えた。
 どうやら、鋼牙とザルバがここに残った意味はなさそうだと思いながらも、──しかし、彼らは見届ける事にした。
 折角残った以上、ここで逃げるなど忍びない。

「そうでしたか……」

 隣で、舞っていた不自然な蝶が突然、一人の人間になる──高町なのはの姿だ。即ち、レイジングハートである。
 彼女も、おそらく同様の理由で残ったのだろう。彼女ならば、バイクなどにも変身できるはずだ。規格外に大きい物でなければ問題ないだろう。

「おいおい、そのガイアメモリっていうのは使えば使うほど精神がおかしくなるっていう……まあとにかく危なっかしい物なんだぞ」
「……そうなんですか?」
「だけど、まあ仕方ねえか。これからはあんまり使うんじゃねえぞ」

 翔太郎が諭すが、どうやらまだレイジングハートは汚染されていないようなので、甘く見ていた。──何せ、彼女のようなデバイスが果たして人間と同じようにガイアメモリによる精神汚染を受けるのか、翔太郎にはわからなかったのである。
 そんな折、クリスタルサーバーからフィリップが口を挟んだ。

『でも、彼らの判断はありがたいよ。この姿には強い風がある時しかなれないんだから』
「ああ、そっか」
『ガドルを倒した後は、風とともに翼がなくなってしまう。彼らの思いやりはまさしく英断だ』

 フィリップの言葉で、翔太郎は思い出す。
 なるほど──ならば、彼らの支援を在り難がる気持ちも余計に湧いて来る。

 すぐにダブルはガドルの方を向き直した。
 戦いを望むガドルは、どうやら戦闘態勢が整うのを待ってくれていたらしいのだ。
 それが明らかに好都合ではないのははっきりとわかる。

「一気にカタをつける」
『行くかい? 翔太郎』
「当たり前だ」

 ガドルに向けて、キリッとした顔を見せる。──仮面越しに、ダブルはガドルを睨んだ。
 彼があらゆる命を奪った。
 フェイトを、ユーノを、霧彦を、一条を、いつきを、結城を……あらゆる仲間たちを殺しつくしてきたのが、このガドルという怪人だ。
 その怒りと、燃え盛る炎を敵にぶつけるつもりで、ダブルは六の翼を広げ、飛び上がった。

「『ゴールデンエクストリーム!!』」

 ガドルの眼前で、仮面ライダーダブル サイクロンジョーカーゴールドエクストリームは、その巨大な翼を広げて空を舞う。
 そして、他のライダーキックと同様、彼の体が降下していった。
 目の前にできたレンズのような物体に向けて、急速に降りていくダブルは、今まさしく風の支配者であるといえた。
 ゴールデンエクストリームをガドルに向けて放つダブルは、まさしくロックオンが完了した状態である。

「『はあああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!』」

 この姿でならガドルを潰せる──そんな確信があったからこそ、ダブルはこうしてここに残ったのだ。
 あの時、仮面ライダーエターナルこと大道克己を倒す事ができたあの力だ。
 全てのT2メモリをブレイクするあの圧倒的な威力──エクストリームの数倍の強さのこの一撃に、今まさしく全てを駆けようとしていた。

「『おりゃあああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!!』」

 ガドルが瞬間移動する間もなく、ガドルの胸部に向けてサイクロンジョーカーゴールドエクストリームの両足蹴りが接近していく。
 この真っ暗な夜だというのに、その周囲は光り輝いていた。
 自由に空を舞い、敵に突き刺すこの天の物なる一撃は、確かにガドルの胸部へと──到達した。

「グアッ…………グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」


818 : 黎明の襲撃者(風雨 2:30〜) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:34:49 hPExjGy60

 ガドルは既にその想定外の威力に踏ん張り切れなくなっていた。
 本来なら胸板ひとつで弾き返すつもりだったが、そんな目論見はあえなく失敗する。
 ダブルの両足はガドルの体を徐々に後退させていき、爪先でガドルの体を掴むと、そのまま勢いに乗せてガドルの体を空へと舞わせる。
 ガドルの体の下で、頭を下にして跳ぶ仮面ライダーダブル。
 ゴールデンエクストリームの威力は、真下から上昇する時にその真価を発揮する。

「『ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!』」

 そして────

「俺たちの勝ちだっ!!」
『僕たちの勝ちだっ!!』

 仮面ライダーが、その確かな手ごたえに叫んだ。







 孤門一輝。蒼乃美希。佐倉杏子。
 涼村暁。沖一也。響良牙。
 石堀光彦。桃園ラブ。花咲つぼみ。
 涼邑零。高町ヴィヴィオ。

 この鳴海探偵事務所に、それだけの人数が押し込められていた。
 辛うじて、生き延びる事に成功したそれぞれが、大雨で荒れる海を窓から見つめた。
 おそらく、あの海の中に入れば荒波にのまれて死んでしまう。そういう意味では、やはり正真正銘、逃げ場がなかったのだろうと思う。
 あとは、残りの四名を待つのみだった。

「……」

 それぞれ、無事をお互いに確認しつつも、この部屋の空気は、決して明るくはなかった。
 あとまだ帰ってきていない数名のために、この部屋でじっと待ち続けるしかない。
 ──そう、帰ってくるとすればの話だ。
 一応、ここまで犠牲者は全く出ていない。

「……」

 みんなが長い間、一緒に過ごしたあの警察署が倒壊し、もう無いという事実が、この中の数名を除いて、やはり寂しく感じられる事実だった。
 あの警察署でも様々な事があった。
 良い事、悪い事……全部ひっくるめて、まるで一つの家のような場所だったのだ。
 あそこにいた時の平穏な時間は、全て今は消し炭へと変わっている事だろう。

 仲間たちの遺体ももう形を留めていないだろう。
 あれだけ安らかに眠っていたとしても、今はもう……。

「……」

 できるのなら、別の場所に埋めたい遺体もあった。
 だが、それも全て燃えてしまっているだろう。
 悲しい時間がこの一室の中に漂っていた。
 リーダーである孤門は、今も尚、意識を失ったまま目を覚まさない。







 仮面ライダーダブル サイクロンジョーカーゴールドエクストリームが地面に降り立つ。
 空中で最大出力の蹴りを叩き付けた相手──ガドルは、まだ生きていた。
 生きていたが──。

「グ……ァ…………」

 死んだも、同然であった。


819 : 黎明の襲撃者(風雨 2:30〜) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:35:09 hPExjGy60
 仰向けに倒れ、叫ぶ事さえないまま地面を悶えている。ダブルの体が辿り着き、ゴールデンエクストリームが光った時、彼の体の前で何かが爆ぜ、彼らを包むほどの火炎と煙が空に広がった。
 そして、ガドルの体はそのまま地面に叩き付けられた。てっきり、原型など留めていないと思ったが、一応彼はその頑丈な体をこの世に遺していた。

 流石に死んだかと思っていたが、それでも尚、生きているのだから驚きだ。
 彼の頑丈さには目を見張るが、それゆえにすぐには死ねずに苦しみを味わい続ける事になったようなのは、──今、このガドルの惨状を見て、はっきりとわかる。
 ダブルは、彼の方を見やりながら、言った。

「……さあ、今からだ。──お前の罪を数えろ」

 ガドルが罪と向き合う事ができるのは、今からしかない。
 そう、自分の死の苦しみが眼前に迫ってきてからだ。
 それ以外の時には、…………いつ言ったとしても、全くの無駄なのだ。
 彼は強すぎたからこそ、命があっさり失われていく物だと気づけなかったのかもしれない。
 命は弱い。
 だからこそ、重い。──それを知らなかった悲しきモンスターは、残念ながら、救いようもなかった。彼は殺すしかない。
 仮面ライダーはそんな非情な判断を下したのである。
 この言葉は、いつもとは違い、ガドルが敗北してから突き付けられた。

「勝ったのか……」
「ああ」

 降り立ったダブルに声をかける鋼牙。
 こうして倒れて死んでいくガドルに、彼が声をかける事はない。
 もはや朽ち果てるのみだ、と──はっきりわかったのだ。
 ガドルは、ただただ虚ろな目で空を見上げている。

『まったく、俺様もヒヤヒヤしたぜ』

 ザルバが悪態をつくようにして言った。
 レイジングハートが、後ろで少し遠慮がちに言う。

「鋼牙。私はあなたを誤解していました。その件は謝ります。……しかし」

 自分を守って死んだ駆音を裏切り切れない気持ちが、まだレイジグハートの中に在る。
 しかし、この鋼牙なる男は、確実に誰かを守るためにそこにいた。
 これは、疑いようのない事実だ。駆音が嘘を言ったとは思えないが、それでも──。

「──今は良い。すぐに仲間たちの所に向かうぞ」

 鋼牙が、必死に何かを言おうとするレイジングハートを遮った。
 もういいのだ。
 レイジングハートをこれ以上責める気はない。今は、大事な仲間の一人だ。話したい事があるのならば、零もいる向こうで聞こう。

「よしっ、それじゃあ任せろっ! 俺が連れて行ってやる」

 再び、ダブルの背中で六本の翼が展開する。
 今度は、仲間たちの元へ向かう為だ。ガドルがまだ一応、息をしている以上は、しばらくこの大暴風雨も手を貸してくれるだろう。
 だいたい、99.9秒しか使えない轟天よりかは、今使えるダブルのこの力を使った方がいい。
 一件落着。全員の顔に、そんな余裕があった。

 鋼牙の手を掴み、ダブルが飛翔する。
 レイジングハートは、なのはの姿のまま、自力で空を飛んだ。万が一、このダブルの力がなくなった場合、サポートができるだろう。
 そう考え、それぞれが高く空を飛び去った。







 ──ガドルは、空の上を飛んでいく影を見やった。
 ダブルが翼を広げ、空を飛んでいる。


820 : 黎明の襲撃者(風雨 2:30〜) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:35:30 hPExjGy60
 奴らを逃がすものか──勝ったままでは終わらせない。

「──」

 体は痛む。回復も遅い。しかし、ガドルの誇りが傷つけられた以上、体が動く限りは、戦うしかない。
 ガドルは、右手を辛うじて動かすと、すぐに自分の胸部の装飾品を毟り取った。
 それは一瞬で、ガドルの手の中でガドルボウガンへと変質する。
 そして、その銃口は、またもすぐに──ゴールドエクストリームの翼へと向けられた。

「死ね……ッ!!」

 その空気弾に電撃を込めると、それは一直線には放たれた。







 ──殺気。

「……なっ!?」

 突如として、真下から強い空気の弾丸がダブルの方へと接近してきた。

「ぐあああああああああッッッ!!!」

 そして、命中したのである。
 命中したのは、腹部──エクストリームメモリとダブルドライバーがそれぞれある場所であった。
 それが第一の不幸である。
 強い衝撃を受けたドライバーは、変身機能を維持できなくなり、翔太郎たちの変身を空中で解除した。
 ──そして、エクストリームメモリも自身が機能を維持できなくなるのを確認して、フィリップを解放する。
 直後、エクストリームメモリが能力をなくし、地面に力なく落ちていき、爆散した。

「……エクストリームメモリがっ!!」

 そう驚く翔太郎であったが、自分の体は、鋼牙、フィリップとともに落下しつつあった。
 変身解除された以上、彼らに飛行する能力などない。十数メートルの高さから落ちれば、無論、彼らも助かりようがないはずだ。
 肝を冷やしながらも、ガドルがまだ生きていた事に驚愕する。

「──ああッ!」
「ガドル、生きていたのかッ!!!!」
『しぶと過ぎるだろッ!! あいつ本当に殺せないのかッ!!!?』

 それぞれが口ぐちに怒りを発する。
 ガドルが地上で放った一撃は、それこそ力の限りを振り絞った物であった。
 彼の状態も決して、全盛とは言えない。
 ただ、だんだんと起き上がるだけの力を取り戻そうと神経が回復しようとしているのも、また一つの事実だった。

「──今、助けますッ!!」

 レイジングハートが空中で、翔太郎とフィリップの体をキャッチする。
 二人は何なく助けられた。
 落ちていく鋼牙に向けて、翔太郎が手を伸ばすが──。

「──ッ!!」

 その手が届かない。
 鋼牙の体が地面に向けて落下していく。

「おらっ!!」

 しかし、翔太郎の手にはスパイダーショックが残っていた。咄嗟にスパイダーショックからワイヤーを射出し、鋼牙の右腕に巻き付ける。
 右腕だけ上げた状態で宙づりになる──何とも酷い体勢であったが、辛うじて鋼牙は生きていた。


821 : 黎明の襲撃者(風雨 2:30〜) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:35:51 hPExjGy60

『全く……間一髪だったな』
「……もうバンジージャンプだけは絶対にやらん」
『最初からやるタマじゃないだろう』

 鋼牙が涼しい顔で言うのを、ザルバが突っ込んだ。
 スパイダーショックのワイヤーが引かれていき、何とか鋼牙を自分の近くまで吊り上げる。
 空を舞う歪な四人の男女。誰が見ても不思議な光景だろう。
 だが──

「ああッ!!? クソッ!!」

 スパイダーショックの釣糸に向けて、次の一撃が当たる。
 またも空気弾だ。今度は威力が少し弱いが、スパイダーショックのワイヤーを断ち切るには充分だった。
 丁度、警察署の三階ほどの高さだろうか。
 ──そこから、鋼牙の体が、そこから落下していく。

「オイッ!!」

 翔太郎が慌てて鋼牙の姿を手繰り寄せるよりも前に、レイジングハートが即座に、翔太郎とフィリップの手を引きながら、降下していく。
 鋼牙の体が落ちていった以上、どうにかして彼を助けなければならないと思ったのだ。

「あがっ……!」
『大丈夫か!? 鋼牙!』

 だが、間に合わなかった。目の前で、鋼牙の体が地面に叩き付けられる。
 しかし、まあ今回は辛うじて生きてはいられる高さであった。全身の骨に厭な響きが伝ったが、確かに今、鋼牙は生きている。

「──」

 確かに、鋼牙は敵と教えられたが──それでも、レイジングハートはそこに向けて着地した。彼が何故、そう呼ばれたのかを確認する為には、鋼牙に直接話を聞かなければならないのだ。──だから、ここで死んでもらっては困る。
 レイジングハートは、倒れる鋼牙の手に手を貸す。

「大丈夫ですか?」
「辛うじて、な……」

 鋼牙は痛む体を何とか起こしながら、そう答えた。特に腰のあたりが大きなダメージを受けている。この高さでは当然、魔戒騎士であろうとも無事では済まなかった。
 体を抱き起したレイジングハートにもたれかかりながら、鋼牙は目の前に立っている怪物に目を大きくする。
 ──翔太郎とフィリップは、一足先に彼の姿を見て、茫然としていた。

「……なんてしぶといんだ」

 着地させられたフィリップもそう言う。
 ガドルの方を見ると、彼は体を半分だけ傾かせて、何とか立つ体制を維持しようとしていた。
 しかし、一歩歩くだけで右か左にふらふらとよろめく、歪な立ち方しかできていなかった。
 グロンギの異常すぎる回復力──ただただ厄介だ。
 そして、彼が使ったのはダグバが有していた瞬間移動能力である。──だからこそ、翔太郎たちのすぐ前に彼は姿を現す事ができたのだ。

「……貴様ら、全員……殺す……」

 そう言って、ガドルが掌を翳す。──超自然発火能力である。
 一瞬危険を感じた翔太郎の前だが、咄嗟に回避する事ができない。この距離にガドルが来てしまう事がまず想定外だったのだ。
 翔太郎は、腹を括った。
 自分がこのまま火だるまにされる未来を見つめ、──それを目にする前に、両腕で顔を咄嗟に防ぎ、目を瞑った。

「──ッ」

 しかし。

「ぐッ……!」


822 : 黎明の襲撃者(風雨 2:30〜) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:36:16 hPExjGy60

 超自然発火能力によって火だるまになったのは、目を開けてみると、翔太郎ではなかった。
 翔太郎の前に、冴島鋼牙は立っていた。
 白い魔法衣をはためかせ、その身を炎に焼いて──鋼牙が前に出たのだ。

「なっ……お前っ! どうして……」
「行け……ッ!!」

 鋼牙が言った。
 彼はいま、咄嗟に翔太郎の前に出て、彼を庇ったのだ。
 そんな姿に呆然としつつも、翔太郎は何故そんな事をしたのか訊かずにはいられない。

「何かを守るのが、俺たち魔戒騎士だ……。後は、お前たちに任せる……」

 そう言うと、左手の指からザルバを外し、鋼牙はそれを翔太郎に渡した。

「ザルバをよろしく頼む」

 鋼牙の指から、炎の熱が伝わる。
 これを鋼牙は生身で耐えているというのか──。
 だからこそ、ザルバを託しているのだ。今の落下の威力に加え、こうして火に焼かれてしまえば、彼の体も限界だろう。

『おい、鋼牙!』
「大丈夫だ。死ぬつもりはない。──必ず戻る。信じて待ってろ」

 不愛想に、鋼牙はそう言い、みたび、鎧を召喚した。──親から継いだ黄金騎士の輝きが、鋼牙の体を包む。
 そして、その光のシャワーともに、鎧が鋼牙の体に装着され、全身の炎を消し去った。

「鋼牙! あなたへの誤解は……ッ!!」
「──何度も言わせるな! ……必ず戻る」

 その言葉とともに、黄金騎士ガロはふらつく体でガドルの前に立ちふさがった。
 黄金剣を横に構えて、ガドルを何歩も後ろに押しのけていく。
 そんな姿を、翔太郎たちはただ茫然と見ていた。

「……行こう。翔太郎」
「でも……!」
「わかっているだろう!? ダブルドライバーもエクストリームメモリも、さっきの衝撃で壊れてしまった!! 僕たちにあるのは、このメモリたちだけだ。とてもじゃないが、僕たちは戦えない」

 純正のガイアメモリは、ドライバーを介さなければ使えない。
 ダブルドライバーが破壊されてしまった今、これらのメモリは役に立たない記念品になってしまったのである。唯一、手段があるとすれば、フィリップとともに逃げて修理する……という方法だ。
 しかし、残念なのは、今使えないという事だ。このままガドルと戦う手段は──ない。

『こっちの兄ちゃんの言うとおりだ。……今は、俺の相棒を信じるしかない』

 ザルバが、冷たくそう言った。
 相棒がああして立ち向かっていった事の意味を、よく理解しているのはザルバ自身だろう。──かつて、大河も喪った彼だ。勿論、もうザルバにその記憶はないが、それでも相棒の死という物がつきつけられるのをザルバは何度となく経験している。
 彼は今、己の使命を一心に果たそうとしている。
 殉ずるべきが、魔戒騎士であり、魔戒騎士の相棒であった。

「──」

 翔太郎は、黄金騎士ガロがガドルに立ち向かっている背中を黙って少し見つめた後、暗い表情で仲間とともに後ろを向いた。
 それしか、できず、そのまま逃げる準備を整えるのが、唯一彼にできる事であった。







「──ぐぁッ!!」


823 : 黎明の襲撃者(風雨 2:30〜) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:36:45 hPExjGy60

 叫んだのは、ガドルの方であった。胸部を斬ると、先ほどより幾ばくか防御力が弱まっているのが感じられた。血がガロの体を汚すが、鎧の穢れはすぐに浄化される。
 ガドル──彼もまた、赤い血で生きている生物であった。
 そう、一条薫に訊いた通り、未確認生命体たちは、元は人間だった可能性が考えられる相手だ。

「……貴様の陰我、」

 復讐ではない。一条薫が彼に殺された事による復讐心というのは欠片もない。
 今はただ、真っ直ぐに、翔太郎やフィリップたちを逃がすべく、鋼牙は剣を振るう。
 わかっている。それが守りし者──魔戒騎士たちの使命であると。

「俺が、」

 ガドルの腹部を黄金剣が突き刺し、血が噴き出した。
 やはり、まるで人間や生物を斬っているような感覚であった。ホラーたちとは決定的に違う。
 闇に堕ちたあの魔戒騎士──バラゴと同じく、彼もまた斬るべき相手なのだろう。
 その根底にある悲しみさえ、今は感じなかった。

「──」

 だが、次の瞬間、ガドルの右手が超自然発火能力でガロの鎧を燃やした。
 魔導火ではなく、ただの火炎が鎧を穢し、同時に中にいる鋼牙の体さえも焼いたのだった。
 ──鋼牙の視界が霞む。
 熱い。
 ──ただ、苦しく、ひたすらに鋼牙を苦しめる攻撃だ。

(カオル、ゴンザ、ザルバ、零……すまない……)

 まだ生きている大事な仲間たちの顔が浮かぶ。
 御月カオルや、ゴンザ、ザルバ、零、翼、邪美……。
 炎の中でも真っ直ぐに、黄金騎士ガロ──冴島鋼牙は、己が磨いて来た剣を振るう。

(──少し、帰りが遅くなる)

 父から、祖父から、これまで戦ってきた黄金騎士たちの想いがこの剣には込められている。
 ホラーを狩るため、人々を守るために、陰我を断ち切るために振るわれてきたこの剣は、真っ直ぐにガドルの腕を狙っていく。

「断ち切る……ッッ!!」

 そして、今、黄金剣がガドルの左腕を刈り取った。そこに映えていたはずの腕を斬り、吹き飛ばしたのであった。ガドルの腕は真っ赤な血を噴き出す。
 厭な感触だが、確かにそれは邪を滅した瞬間であった。
 だからこそ、鋼牙は眉ひとつ動かさずに、ガドルの断末魔を聞き届け、彼が苦しむのを見届けた。

「ウグアッ……!!!」

 ガドルの左腕が遠くへと飛んでいくと、黄金騎士は鎧を解除した。
 確かに、まだ敵は死んだわけではない。時間もまだ来ていない。
 しかし、いま、冴島鋼牙は自分の死が来た事を直感していたのだ。



 カオルが描いてくれた絵本の、最後の一ページを、その時、鋼牙はふと思い出した。
 ああ、カオルが掴む未来がもっと見たかった。
 彼女と結ばれ、次の黄金騎士を共に育みたかった。

 しかし、今となっては、もうそれも叶わない──。
 そんな理想の未来さえ捨てて、守るべき物が彼ら魔戒騎士にはあったのだから。



「──強くなったな、鋼牙」



 鋼牙が地面に向けて倒れていく瞬間、父の優しい言葉が聞こえたような気がした。
 彼は死ぬ最後の瞬間まで、父から受け継ぎ、共に戦ってきたあの魔戒剣を強く握りしめていた。
 黒焦げの遺体となっても、まだ彼は精悍な瞳で、守りし者としての使命をその手に握っていたのである。


824 : 黎明の襲撃者(風雨 2:30〜) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:37:09 hPExjGy60







 ──ガドルは、よろめく体で鋼牙の指先から魔戒剣を奪おうとした。
 乱雑に引っ張るが、片腕だけでは力が足りず、それを奪う事はできなかった。
 しかし、すぐに諦めた。わざわざ奪う必要もない。ガドルは自ら剣を生み出す事ができるのだから。

「……次は──」

 鋼牙が稼げた時間は、ざっと見積もって三十秒。
 地面に叩き付けられたうえに超自然発火能力を受けた鋼牙は、既に限界に達していたのだ。それだけの時間を稼げただけ、随分と頑張った方である。
 ガドルの目の前で、バイクが発進しようとしていた。──レイジングハートが変身したハードボイルダーだ。
 そこに乗っているのが、左翔太郎とフィリップであるのは、この距離でも明らかだった。

「くそっ……鋼牙ッ!!」

 いま鋼牙が死んだのを振り返って見て、彼は嘆いた。
 彼の声は、ちゃんとガドルの耳に入っている。
 しかし、即座に逃げようと、彼らは準備を進めていたが、鋼牙の時間稼ぎがあと十秒足りていれば、こうはならなかっただろうか──。
 ガドルは、彼らの背中をめがけて、ガドルボウガンの弾丸を発射した。
 一発、二発──。
 しかし、その反動も今のガドルには相応に大きなもので、一発撃つごとにガドルの意識は遠ざかっていった。

「フンッ……!」

 結局、二発の弾丸を発すると、ガドルは人の姿に戻り──倒れ、眠りについてしまった。
 その心臓は既に、もう音を鳴らしていなかった。
 いわば、その弾丸こそが彼の最後の悪あがきだったのである。
 鋼牙の技は、彼に確かにトドメを刺していた。







 ──ガドルボウガンの発射した空気弾は、彼らの背中を狙っていた。
 フィリップが咄嗟に振り向くと、空気弾が迫ってくる。

「あっ……!!」

 フィリップの背中の前に突如現れたファングメモリが身を挺してフィリップの体を庇う──。
 ファングメモリが大破しながらフィリップの方へと向かっていく。
 確かにファングメモリの妨害によって、辛うじて威力は減じたものの、その空気弾はそのままフィリップに直撃し──彼の体を貫通した。

「あっ、フィリッ──!!」

 そう叫んだ翔太郎の右腕が、次の瞬間、二発目の空気弾によって吹き飛んだ。
 それはあまりにも鮮やかで、一瞬自分の腕が吹き飛んだと気づかないほどである。
 一瞬で吹き飛んだ翔太郎の腕は、探すのも面倒なほど遠くへ消えてしまっていた。

「────ッ!!! ぐああああああああああああああああああッッッッ!!!!!」

 突然の出来事に、翔太郎はわけがわからなくなった。
 ガドルの最後の悪あがきが、まさに今、翔太郎とフィリップの身に降りかかったのである。
 まさしく、突然の出来事に誰も何もできなかった。
 咄嗟に、レイジングハートはまた姿を変えて、高町なのはの姿をコピーする。

「──」


825 : 黎明の襲撃者(風雨 2:30〜) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:37:27 hPExjGy60

 振り返ると、今度こそガドルは既に事切れていた。
 だが、それが喜ばしいはずがない。
 彼の最後の一撃により、目の前で、今、鋼牙が死亡し、翔太郎とフィリップが瀕死の重体になったのだから。

「──大丈夫、かい……翔、太郎……」

 フィリップは、ゆっくりと崩れ落ちながら、翔太郎の身を案じた。
 その顔には、どこか微笑みにも似た物が残っている。
 彼の笑みは、やせ我慢なのか、それとも何か意味のある物なのか──傍らのレイジングハートにはわからなかった。
 それは、相棒である翔太郎にさえよくわからない。

「フィ……フィリップ! お前こそ大丈夫かよ……ッッ!! そんな……お前……おい……」

 右腕を奪われ、そのあまりの痛みに気が動転していた翔太郎だが、すぐにフィリップの方が重症である事に気づき、彼はフィリップの方に意識を傾けた。
 フィリップの腹のあたりから血が溢れ出し、彼の服を酷く汚している。

「──悪いけど、……僕はもう、……今度こそ、……脱落かな……ちょっと……油断しすぎたんだ……」
「オイッ!!」
「今回の反省にしよう……ガドルはもっとちゃんと、マークしておくべきだったかもしれない……」

 フィリップは、死の瀬戸際ながら、かなり落ち着いてそう言った。
 今回、何故自分が死ななければならなかったのかを思い返し、分析したのである。
 彼らしいとも言えるが、同時に、こんな時くらい彼らしくない彼であってほしいとも思った。

「君は生き残ってくれ……利き腕がなくて、これからちょっと大変かもしれないけどね……頼りないけど……あの街には君が必要なんだ……」

 冗談を言うように、フィリップは笑った。
 彼の微笑みが翔太郎に突き刺さる。

「おい、フィリップ……」
「そうだ……後でちょっと、濡れ煎餅という奴について調べておいてくれ……」
「濡れ煎餅なんか今はどうだっていいだろッ!! 死ぬなよ、フィリップ!!」

 残った最後の好奇心を翔太郎に託し、フィリップは、最後の言葉を告げる。

「じゃあ、これから長いお別れだ。……僕の好きだった街をよろしく……仮面ライダー、左翔太郎……」

 かつて、本の中に残した言葉と全く同じ文句を翔太郎に託すと、フィリップは眠るように息を引き取った。
 自分の左腕の中で、雨に打たれながら消えていくフィリップを前に、翔太郎は叫んだ。

「フィリップゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!!!」

 相棒を失うのが二度目であった翔太郎は、その悲しみに、雨の中で慟哭した。
 雷が鳴り、ここに相棒を失った三人が、悲しく雨に打たれ続けていた。
 もう二度と目を覚まさない相棒の体を、雨が洗い続けていた。


826 : 黎明の襲撃者(曇心 2:30〜) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:39:37 hPExjGy60



「──フィリップと、鋼牙は……」

 左手を使って、慣れない電話をかける翔太郎であった。スタッグフォンはここにある全ての電話ツールと繋がるようになっている。
 彼は相棒の死に、ただただ呆然としていた。
 スシチェンジャーの番号にかけると、杏子が出た。彼女に鋼牙とフィリップの死、それから──翔太郎の手で、先ほどガドルのベルトを砕き、ガドルはもう完全に殺した事を告げた。

『──』

 彼らグロンギは、死亡時、己の体を仮死状態にして霊石を露出させる。目的はその霊石の破壊である。既に、その霊石は鋼牙が真ん中から突き刺した事で殆ど砕けており、翔太郎は、鋼牙の遺体が硬く握りしめつ続けていた魔戒剣で──最後にそのベルトの罅を大きくした。
 そして、ガドルの最後の生命線はあっけなく粉砕されたのだった。
 しかし、翔太郎の気持ちは晴れなかった。

『──』

 翔太郎の電話に対して、杏子の返事はなかった。
 どう返していいのかわからなかったのだ。しばらく、翔太郎の耳にはただ杏子の息の音だけが伝わった。
 それから口を開いても、ありきたりの言葉しかでてこなかった。

『……悪い。どう返せばいいのか、わからない。……私も、ショックだ』
「ああ……」

 まあ、何にせよ結局、杏子が何と言おうと、翔太郎は愕然とした様子でそう返すだけだった。杏子としては、最もショックなのは、あの翔太郎がこんな抜け殻のような返事をしている事であった。
 あれだけ真っ直ぐで、どこかおかしい翔太郎という男が、今、ここにいたどんな時間よりもシリアスな返事をしている。
 それが、杏子にはたまらなく不愉快であった。

「バットショットはもう島の外に向かわせた……あとは、映像は全てのツールで見る事ができる」

 特殊i-podやショドウフォンといったツールにもネットワークを繋げ、バットショットから送信される動画はリアルタイムでそれらのツール全てに繋がるようになっていた。
 それをやってくれたのはフィリップだ。
 彼はもういない。

「この街は離れた方がいい。……もう使える場所なんて殆ど残ってねえ」
『そうか……』
「……割と、好きな街だったんだけどな……」

 警察署は勿論、いまだ周囲は火の海だ。
 街エリアを離れ、村エリアに移動した方がいいという事実はこれ以上ないくらいはっきりしている。──街がこんな様子になっている事自体、翔太郎にとってはショッキングであった。
 まるで空虚な箱になってしまったようである。
 元々空っぽだったが、先ほどまでそこにいた仲間たちは、もう全員いなくなってしまった。

「──じゃあ、切るぞ。今から向かう」

 その連絡とともに、目の前でハードボイルダーに変身したレイジングハートの背に、翔太郎は乗った。
 ただただ無気力だった。
 これから、自分はどうすればいいのか──。

(もう俺には何もできねえ……あいつらの役に立てるのか……こんなんで……)

 ダブルドライバーも破壊されている。
 エクストリームメモリも破壊されている。
 ファングメモリも破壊されている。
 フィリップもいない。
 右腕も、もうない。

「──」


827 : 黎明の襲撃者(曇心 2:30〜) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:40:03 hPExjGy60

 そんな自分が果たしてこれから役に立てるのか、翔太郎には疑問だった。
 フィリップと鋼牙の遺体を埋葬する場所や手段はなく、やむを得ずそこに残していくしかなかったのも、翔太郎の気持ちをどこか暗くさせた。
 ──ただ、レイジングハートの背に乗り、彼女が行くと決めた場所に乗せられている気分だった。
 その背に揺られながら、翔太郎とレイジングハートは、そこに誰かがいない鳴海探偵事務所に向かっていった。







 燃える炎の中で、彼の影を追いかける者がいた。
 今の一部始終を、その鎧は目視していた。

「──」

 冴島鋼牙がそこで朽ち果てたのを、鎧は確認していた。
 ──暗黒騎士の鎧。
 その鎧の名は、そう言う。

「──」

 レイジングハートが利用できなかったのは残念だが、代わりに黄金騎士が葬られた。
 この暗黒の鎧にとっては、それで充分だったのだろう。
 残るは、銀牙騎士。──彼を殺せば、暗黒騎士の無念は果たされるのであった。
 マントを翻すと、また彼はどこかへ消えていった。

「──」

 逃げた銀牙騎士をこのまま探したところで、おそらくは出会わない。
 いずれ、またどこかで出会うだろうという予感とともに、暗黒騎士はその場を去った。



【2日目 黎明】
【F−10 街】

【左翔太郎@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、胸骨を骨折(身体を折り曲げると痛みます・応急処置済)、右腕切断、上半身に無数の痣(応急処置済)、照井と霧彦の死に対する悲しみと怒り、首輪解除、フィリップの死に対する放心状態と精神的ダメージ、偽ハードボイルダーに搭乗中
[装備]:ダブルドライバー(破壊)@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(アイスエイジ)@仮面ライダーW、犬捕獲用の拳銃@超光戦士シャンゼリオン、散華斑痕刀@侍戦隊シンケンジャー、魔導輪ザルバ@牙狼、スモークグレネード@現実×2、トライアクセラー@仮面ライダークウガ、京水のムチ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×11(翔太郎、スバル、ティアナ、井坂(食料残2/3)、アクマロ、流ノ介、なのは、本郷、まどか、鋼牙、)、ガイアメモリ(ジョーカー、メタル、トリガー、サイクロン、ルナ、ヒート)、ナスカメモリ(レベル3まで進化、使用自体は可能(但し必ずしも3に到達するわけではない))@仮面ライダーW、ガイアドライバー(フィルター機能破損、使用には問題なし) 、少々のお菓子、デンデンセンサー@仮面ライダーW、支給品外T2ガイアメモリ(ロケット、ユニコーン、アクセル、クイーン)、ふうとくんキーホルダー@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、須藤兄妹の絵@仮面ライダーW、霧彦の書置き、スタッグフォン+スタッグメモリ(通信機能回復)@仮面ライダーW、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW、まねきねこ@侍戦隊シンケンジャー、evil tail@仮面ライダーW、エクストリームメモリ(破壊)@仮面ライダーW、ファングメモリ(破壊)@仮面ライダーW、首輪のパーツ(カバーや制限装置、各コードなど(パンスト、三影、冴子、結城、零、翔太郎、フィリップ、つぼみ、良牙、鋼牙、孤門、美希、ヴィヴィオ、杏子、姫矢))、首輪の構造を描いたA4用紙数枚(一部の結城の考察が書いてあるかもしれません)、東せつなのタロットカード(「正義」、「塔」、「太陽」、「月」、「皇帝」、「審判」を除く)@フレッシュプリキュア!、ルビスの魔剣@牙狼、鷹麟の矢@牙狼、ランダム支給品1〜4(鋼牙1〜3、村雨0〜1)、翔太郎の右腕
[思考]
基本:放心・無気力状態。
0:フィリップ……。
[備考]
※参戦時期はTV本編終了後です。
※他世界の情報についてある程度知りました。
(何をどの程度知ったかは後続の書き手さんに任せます)
※魔法少女の真実(魔女化)を知りました。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はフィリップ、ファングメモリ、エクストリームメモリの解放です。これによりファングジョーカー、サイクロンジョーカーエクストリームへの変身が可能となりました。
※ダブルドライバーが破壊されました。また、フィリップが死亡したため、仮にダブルドライバーが修復されても変身はできません。


828 : 黎明の襲撃者(曇心 2:30〜) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:40:29 hPExjGy60

【レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:疲労(大)、魔力消費(大)、娘溺泉の力で人間化、首輪有(バラゴの物)、ダミーメモリの力でハードボイルダーに変身中、翔太郎を載せています
[装備]:T2ダミーメモリ@仮面ライダーW
[道具]:バラゴのペンダント、ボチャードピストル(0/8)、顔を変容させる秘薬
[思考]
基本:悪を倒す。
0:鳴海探偵事務所に向かう。
1:アクマロ、ノーザを倒す。
2:鏡を見て、ダミーメモリを使わなかった時の自分の姿を確認したい。
3:鋼牙と零は……。
[備考]
※娘溺泉の力で女性の姿に変身しました。お湯をかけると元のデバイスの形に戻ります。
※ダミーメモリによって、レイジングハート自身が既知の人物や物体に変身し、能力を使用する事ができます。ただし、レイジングハート自身が知らない技は使用する事ができません。
※ダミーメモリの力で攻撃や防御を除く特殊能力が使えるは不明です(ユーノの回復等)。
※鋼牙と零に対する誤解は解けました。


【2日目 黎明】
【???????】

【暗黒騎士キバの鎧@牙狼】
[状態]:健康
[装備]:黒炎剣
[道具]:なし
[思考]
基本:銀牙騎士を殺す。







「鋼牙……くそっ」

 零は、杏子から放たれた言葉に項垂れた。
 つい昨日まで憎んでいた相手とは思えないほど、味方にすれば心強い男であった。
 フィリップと鋼牙の死は、その場を更に重い空気にさせるには充分な事実であった。

「……ガドルが死んだと言われても、正直な所、信じていいのかどうか……」

 ガドルの死はこれまで何度聞いた事か。
 あり得ないほどのしぶとさを持ち、まるでゾンビのように蘇ってくるガドルに対して、そろそろ各参加者たちは疲弊をあらわにし始めていた。
 ガドルの死──それが今度こそ本当だと証明しているのは、あくまでベルトの破壊という点だけだ。それでも蘇ってくるのではないかと、各参加者は思い始めていた。

「なぁ、これからどうする……? まだ、ドウコクとあかねさんがいる。……また戦いになるのか?」
「……それは間違いない」

 そう答える杏子は知っている。
 まだ、魔女がいる事も──。
 ドウコクに関しては、脱出を目指している以上、その一点に関してはほぼ間違いないと思っていいだろう。

「それぞれ、これから向かう場所は分けた方がいいな」

 ある程度、今後の方針は決まっていた。
 持っている通信機をそれぞれ別の所有者に分けて、交信しながら別の場所に向かう。
 それぞれの行きたい場所が異なっているからであった。

「──私は、D−5の川のあたりに向かいたいです。そこで絶対にやりたい事があるんです」
「あの、じゃあ、私は図書館の近くに……」


829 : 黎明の襲撃者(曇心 2:30〜) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:40:45 hPExjGy60

 そう言うつぼみとラブ。それは、それぞれさやかとマミ、二人の魔女の出現位置として最も可能性が高いエリアであった。
 知らされていない他のメンバーは、何故そんな場所に向かうのか、それぞれ疑問に思っただろう。だが、何か理由があるのだろうと訊かなかった。
 おそらくは、全員、忘れ物か何かをしたのだと思っている。

「──わかった。他に行きたい所がある者は?」
「あ、俺。クリスタルステーションとかいうやつに」

 暁が答えた。超光騎士なるメカニックがそこに揃っているらしいというのは聞いている。
 今、一也が仕切っているところに、彼らはおおよそ三つの場所に向かう事が決定した。

「……」

 それぞれが、その三つの場所に向けてのチーム編成を決める。それから、時空魔法陣がある村エリアに残る人間もいなければならないだろう。
 それから、まだ決める事や話す事はたくさんありそうであった。


 花咲つぼみは、強い決意を胸に、さやかの元へと向かう心構えを示した。
 桃園ラブも同じであった。
 涼村暁は、特に何も考えてはいないが、超光騎士が今後便利に使えそうであるのを悟った。
 石堀光彦は、“アイツ”を見て、ニヤリと笑った。


 そして、これから二体の魔女を倒さなければならない佐倉杏子は、────どちらの道へ進むべきか、悩んでいた。



【2日目 黎明】

【ガイアセイバーズ】
※魔女に関する事、翔太郎・フィリップ間の考察以外のほぼ全部の情報を共有してます。

【ガイアセイバーズ全体の行動方針】
1:翔太郎とレイジングハートの帰還を待ち、時空魔法陣を使って村エリアに移動する。
2:零による管理で時空魔法陣を作動。4つのチームに分け、それぞれ、「D−5」、「図書館」、「クリスタルステーション」、「待機」で行動する。
3:必要ならば、少し休む(睡眠はそんなに摂れませんでした)。
4:孤門が目を覚ますのを待つ(孤門は脱出計画もある程度立てているようです)。
5:場合によっては相互通話。たまにバットショットから送られてくる映像も確認する。


【共有支給品(隊の分け方にもよってどれを所持するか変わります)】
ショドウフォン(レッド)@侍戦隊シンケンジャー
スシチェンジャー@侍戦隊シンケンジャー
特殊i-pod@オリジナル
(リンクルンなどの一部アイテムはまだ通話機能が生きていません)


【G−10 鳴海探偵事務所】

【孤門一輝@ウルトラマンネクサス】
[状態]:ダメージ(大)、ナイトレイダーの制服を着用、精神的疲労、「ガイアセイバーズ」リーダー、首輪解除、気絶中
[装備]:ディバイトランチャー@ウルトラマンネクサス
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2(戦闘に使えるものがない)、リコちゃん人形@仮面ライダーW、ガイアメモリに関するポスター×3、ガンバルクイナ君@ウルトラマンネクサス
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:みんなを何としてでも保護し、この島から脱出する。
2:ガイアセイバーズのリーダーとしての責任を果たす。
[備考]
※溝呂木が死亡した後からの参戦です(石堀の正体がダークザギであることは知りません)。
※パラレルワールドの存在を聞いたことで、溝呂木がまだダークメフィストであった頃の世界から来ていると推測しています。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※魔法少女の真実について教えられました。


830 : 黎明の襲撃者(曇心 2:30〜) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:41:01 hPExjGy60

【蒼乃美希@フレッシュプリキュア!】
[状態]:ダメージ(中)、祈里やせつなの死に怒り 、精神的疲労、首輪解除
[装備]:リンクルン(ベリー)@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式((食料と水を少し消費+ペットボトル一本消費)、シンヤのマイクロレコーダー@宇宙の騎士テッカマンブレード、双ディスク@侍戦隊シンケンジャー、リンクルン(パイン)@フレッシュプリキュア!、ガイアメモリに関するポスター、杏子からの500円硬貨
[思考]
基本:こんな馬鹿げた戦いに乗るつもりはない。
1:ガイアセイバーズ全員での殺し合いからの脱出。
[備考]
※プリキュアオールスターズDX3冒頭で、ファッションショーを見ているシーンからの参戦です。
※その為、ブラックホールに関する出来事は知りませんが、いつきから聞きました。
※放送を聞いたときに戦闘したため、第二回放送をおぼろげにしか聞いていません。
※聞き逃した第二回放送についてや、乱馬関連の出来事を知りました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。

【沖一也@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、強い決意、首輪解除
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2、ガイアメモリに関するポスター、お菓子・薬・飲み物少々、D-BOY FILE@宇宙の騎士テッカマンブレード、杏子の書置き(握りつぶされてます) 、祈里の首輪の残骸
[思考]
基本:殺し合いを防ぎ、加頭を倒す
1:本郷猛の遺志を継いで、仮面ライダーとして人類を護る。
2:仮面ライダーZXか…。
[備考]
※参戦時期は第1部最終話(3巻終了後)終了直後です。
※一文字からBADANや村雨についての説明を簡単に聞きました
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました
※18時に市街地で一文字と合流する話になっています。
※ノーザが死んだ理由は本郷猛と相打ちになったかアクマロが裏切ったか、そのどちらかの可能性を推測しています。
※第二回放送のニードルのなぞなぞを解きました。そのため、警察署が危険であることを理解しています。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※ダークプリキュアは仮面ライダーエターナルと会っていると思っています。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はレーダーハンドの使用と、パワーハンドの威力向上です。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。


831 : 黎明の襲撃者(曇心 2:30〜) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:41:18 hPExjGy60

【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:上半身火傷(ティオの治療でやや回復)、左腕骨折(手当て済+ティオの治療でやや回復)、誰かに首を絞められた跡、決意、臨死体験による心情の感覚の変化、首輪解除
[装備]:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはシリーズ、稲妻電光剣@仮面ライダーSPIRITS
[道具]:支給品一式×6(ゆり、源太、ヴィヴィオ、乱馬、いつき(食料と水を少し消費)、アインハルト(食料と水を少し消費))、アスティオン(疲労)@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ほむらの制服の袖、マッハキャリバー(待機状態・破損有(使用可能な程度))@魔法少女リリカルなのはシリーズ、リボルバーナックル(両手・収納中)@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ゆりのランダムアイテム0〜2個、乱馬のランダムアイテム0〜2個、山千拳の秘伝書@らんま1/2、水とお湯の入ったポット1つずつ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ガイアメモリに関するポスター×3、『太陽』のタロットカード、大道克己のナイフ@仮面ライダーW、春眠香の説明書、ガイアメモリに関するポスター
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:生きる。
2:レイジングハート…。
[備考]
※参戦時期はvivid、アインハルトと仲良くなって以降のどこか(少なくてもMemory;21以降)です
※乱馬の嘘に薄々気付いているものの、その事を責めるつもりは全くありません。
※ガドルの呼びかけを聞いていません。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※第二回放送のボーナス関連の話は一切聞いておらず、とりあえず孤門から「警察署は危険」と教わっただけです。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※一度心肺停止状態になりましたが、孤門の心肺蘇生法とAEDによって生存。臨死体験をしました。それにより、少し考え方や価値観がプラス思考に変わり、精神面でも落ち着いています。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、ソウルジェムの濁り(中)、腹部・胸部に赤い斬り痕(出血などはしていません)、ユーノとフェイトを見捨てた事に対して複雑な感情、マミの死への怒り、せつなの死への悲しみ、ネクサスの光継承、ドウコクへの怒り、真実を知ったことによるショック(大分解消) 、首輪解除
[装備]:ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、エボルトラスター@ウルトラマンネクサス、ブラストショット@ウルトラマンネクサス
[道具]:基本支給品一式×3(杏子、せつな、姫矢)、リンクルン(パッション)@フレッシュプリキュア!、乱馬の左腕、ランダム支給品0〜1(せつな) 、美希からのシュークリーム、バルディッシュ(待機状態、破損中)@魔法少女リリカルなのは
[思考]
基本:姫矢の力を継ぎ、魔女になる瞬間まで翔太郎とともに人の助けになる。
0:さやかかマミか…。
1:翔太郎達と協力する。
2:フィリップ…。
[備考]
※参戦時期は6話終了後です。
※首輪は首にではなくソウルジェムに巻かれています。
※左翔太郎、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライアの姿を、かつての自分自身と被らせています。
※殺し合いの裏にキュゥべえがいる可能性を考えています。
※アカルンに認められました。プリキュアへの変身はできるかわかりませんが、少なくとも瞬間移動は使えるようです。
※瞬間移動は、1人の限界が1キロ以内です。2人だとその半分、3人だと1/3…と減少します(参加者以外は数に入りません)。短距離での連続移動は問題ありませんが、長距離での連続移動はだんだん距離が短くなります。
※彼女のジュネッスは、パッションレッドのジュネッスです。技はほぼ姫矢のジュネッスと変わらず、ジュネッスキックを応用した一人ジョーカーエクストリームなどを自力で学習しています。
※第三回放送指定のボーナスにより、魔女化の真実について知りました。


832 : 黎明の襲撃者(曇心 2:30〜) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:41:36 hPExjGy60

【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、加頭に怒りと恐怖、強い悲しみと決意、首輪解除
[装備]:プリキュアの種&ココロパフューム、プリキュアの種&ココロパフューム(えりか)@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&シャイニーパフューム@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&ココロポット(ゆり)@ハートキャッチプリキュア!、こころの種(赤、青、マゼンダ)@ハートキャッチプリキュア!、ハートキャッチミラージュ+スーパープリキュアの種@ハートキャッチプリキュア!
[道具]:支給品一式×5(食料一食分消費、(つぼみ、えりか、三影、さやか、ドウコク))、スティンガー×6@魔法少女リリカルなのは、破邪の剣@牙浪―GARO―、まどかのノート@魔法少女まどか☆マギカ、大貝形手盾@侍戦隊シンケンジャー、反ディスク@侍戦隊シンケンジャー、デストロン戦闘員スーツ×2(スーツ+マスク)@仮面ライダーSPIRITS、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア!、大量のコンビニの酒
[思考]
基本:殺し合いはさせない!
1:さやかを助ける。
2:この殺し合いに巻き込まれた人間を守り、悪人であろうと救える限り心を救う
3:……そんなにフェイトさんと声が似ていますか?
[備考]
※参戦時期は本編後半(ゆりが仲間になった後)。少なくとも43話後。DX2および劇場版『花の都でファッションショー…ですか!? 』経験済み
 そのためフレプリ勢と面識があります
※溝呂木眞也の名前を聞きましたが、悪人であることは聞いていません。鋼牙達との情報交換で悪人だと知りました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※プリキュアとしての正体を明かすことに迷いは無くなりました。
※サラマンダー男爵が主催側にいるのはオリヴィエが人質に取られているからだと考えています。
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました。
※この殺し合いにおいて『変身』あるいは『変わる事』が重要な意味を持っているのではないのかと考えています。
※放送が嘘である可能性も少なからず考えていますが、殺し合いそのものは着実に進んでいると理解しています。
※ゆりが死んだこと、ゆりとダークプリキュアが姉妹であることを知りました。
※大道克己により、「ゆりはゲームに乗った」、「えりかはゆりが殺した」などの情報を得ましたが、半信半疑です。
※所持しているランダム支給品とデイパックがえりかのものであることは知りません。
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※良牙、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※全員の変身アイテムとハートキャッチミラージュが揃った時、他のハートキャッチプリキュアたちからの力を受けて、スーパーキュアブロッサムに強化変身する事ができます。
※ダークプリキュア(なのは)にこれまでのいきさつを全部聞きました。
※魔法少女の真実について教えられました。


833 : 黎明の襲撃者(曇心 2:30〜) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:41:52 hPExjGy60

【響良牙@らんま1/2】
[状態]:全身にダメージ(大)、負傷(顔と腹に強い打撲、喉に手の痣)、疲労(大)、腹部に軽い斬傷、五代・乱馬・村雨の死に対する悲しみと後悔と決意、男溺泉によって体質改善、デストロン戦闘員スーツ着用、首輪解除
[装備]:ロストドライバー+エターナルメモリ@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(ゾーン、ヒート、ウェザー、パペティアー、ルナ、メタル)@仮面ライダーW、
[道具]:支給品一式×14(食料二食分消費、(良牙、克己、五代、十臓、京水、タカヤ、シンヤ、丈瑠、パンスト、冴子、シャンプー、ノーザ、ゴオマ、バラゴ))、水とお湯の入ったポット1つずつ×3、子豚(鯖@超光戦士シャンゼリオン?)、志葉家のモヂカラディスク@侍戦隊シンケンジャー、ムースの眼鏡@らんま1/2 、細胞維持酵素×6@仮面ライダーW、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、歳の数茸×2(7cm、7cm)@らんま1/2、デストロン戦闘員マスク@仮面ライダーSPIRITS、プラカード+サインペン&クリーナー@らんま1/2、呪泉郷の水(娘溺泉、男溺泉、数は不明)@らんま1/2、呪泉郷顧客名簿、呪泉郷地図、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、テッククリスタル(シンヤ)@宇宙の騎士テッカマンブレード、『戦争と平和』@仮面ライダークウガ、双眼鏡@現実、ランダム支給品0〜6(ゴオマ0〜1、バラゴ0〜2、冴子1〜3)、バグンダダ@仮面ライダークウガ、警察手帳、ショドウフォン(レッド)@侍戦隊シンケンジャー
[思考]
基本:天道あかねを守り、自分の仲間も守る
1:あかねを必ず助け出す。仮にクウガになっていたとしても必ず救う。
2:誰かにメフィストの力を与えた存在と主催者について相談する。
3:いざというときは仮面ライダーとして戦う。
[備考]
※参戦時期は原作36巻PART.2『カミング・スーン』(高原での雲竜あかりとのデート)以降です。
※夢で遭遇したシャンプーの要望は「シャンプーが死にかけた良牙を救った、乱馬を助けるよう良牙に頼んだと乱馬に言う」
「乱馬が優勝したら『シャンプーを生き返らせて欲しい』という願いにしてもらうよう乱馬に頼む」です。
尚、乱馬が死亡したため、これについてどうするかは不明です。
※ゾーンメモリとの適合率は非常に悪いです。対し、エターナルとの適合率自体は良く、ブルーフレアに変身可能です。但し、迷いや後悔からレッドフレアになる事があります。
※エターナルでゾーンのマキシマムドライブを発動しても、本人が知覚していない位置からメモリを集めるのは不可能になっています。
(マップ中から集めたり、エターナルが知らない隠されているメモリを集めたりは不可能です)
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※つぼみ、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※男溺泉に浸かったので、体質は改善され、普通の男の子に戻りました。
※あかねが殺し合いに乗った事を知りました。
※溝呂木及び闇黒皇帝(黒岩)に力を与えた存在が参加者にいると考えています。また、主催者はその存在よりも上だと考えています。
※バルディッシュと情報交換しました。バルディッシュは良牙をそれなりに信用しています。
※鯖は呪泉郷の「黒豚溺泉」を浴びた事で良牙のような黒い子豚になりました。


834 : 黎明の襲撃者(曇心 2:30〜) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:42:08 hPExjGy60

【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、左肩に痛み、精神的疲労(小)、決意、眠気、首輪解除
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式×2(食料少消費)、カオルちゃん特製のドーナツ(少し減っている)@フレッシュプリキュア!、毛布×1@現実、ペットボトルに入った紅茶@現実、巴マミの首輪、工具箱、黒い炎と黄金の風@牙狼─GARO─、クローバーボックス@フレッシュプリキュア!、暁からのラブレター
基本:誰も犠牲にしたりしない、みんなの幸せを守る。
0:図書館の近くで魔女になるマミの事を──。
1:どこかに集まっているだろう仲間を探す。
2:マミさんの遺志を継いで、みんなの明日を守るために戦う。
3:プリキュアのみんなと出来るだけ早く再会したい。
4:マミさんの知り合いを助けたい。もしも会えたらマミさんの事を伝えて謝る。
5:犠牲にされた人達のぶんまで生きる。
6:ダークプリキュアと暗黒騎士キバ(本名は知らない)には気をつける。
7:どうして、サラマンダー男爵が……?
8:後で暁さんから事情を聞いてみる。
9:警察署に着いたら休む。
[備考]
※本編終了後からの参戦です。
※花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆりの存在を知っています。
※クモジャキーとダークプリキュアに関しては詳しい所までは知りません。
※加頭順の背後にフュージョン、ボトム、ブラックホールのような存在がいると考えています。
※放送で現れたサラマンダー男爵は偽者だと考えています。
※第三回放送で指定された制限はなかった模様です。
※暁からのラブレターを読んだことで、石堀に対して疑心を抱いています。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。
※魔法少女の真実について教えられました。


835 : 黎明の襲撃者(曇心 2:30〜) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:42:33 hPExjGy60

【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン】
[状態]:疲労(小)、胸部に強いダメージ(応急処置済)、ダグバの死体が軽くトラウマ、脇腹に傷(応急処置済)、左頬に痛み、首輪解除
[装備]:シャンバイザー@超光戦士シャンゼリオン、モロトフ火炎手榴弾×3、恐竜ディスク@侍戦隊シンケンジャー、パワーストーン@超光戦士シャンゼリオン
[道具]:支給品一式×8(暁(ペットボトル一本消費)、一文字(食料一食分消費)、ミユキ、ダグバ、ほむら、祈里(食料と水はほむらの方に)、霧彦、黒岩)、首輪(ほむら)、姫矢の戦場写真@ウルトラマンネクサス、タカラガイの貝殻@ウルトラマンネクサス、スタンガン、ブレイクされたスカルメモリ、混ぜると危険な洗剤@魔法少女まどか☆マギカ、一条薫のライフル銃(10/10)@仮面ライダークウガ、のろいうさぎ@魔法少女リリカルなのはシリーズ、コブラージャのブロマイド×30@ハートキャッチプリキュア!、スーパーヒーローマニュアル?、グロンギのトランプ@仮面ライダークウガ
[思考]
基本:加頭たちをブッ潰し、加頭たちの資金を奪ってパラダイス♪
0:クリスタルステーションに向かいたい。
1:石堀を警戒。石堀からラブを守る。表向きは信じているフリをする。
2:石堀やラブちゃんと一緒に、どこかに集まっているだろう仲間を探す。
3:別れた人達が心配、出来れば合流したい。
4:あんこちゃん(杏子)を捜してみる。
5:可愛い女の子を見つけたらまずはナンパ。
6:変なオタクヤロー(ゴハット)はいつかぶちのめす。
7:警察署に着いたら休む。
[備考]
※第2話「ノーテンキラキラ」途中(橘朱美と喧嘩になる前)からの参戦です。
つまりまだ黒岩省吾とは面識がありません(リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキのことも知らない)。
※ほむら経由で魔法少女の事についてある程度聞きました。知り合いの名前は聞いていませんでしたが、凪(さやか情報)及び黒岩(マミ情報)との情報交換したことで概ね把握しました。その為、ほむらが助けたかったのがまどかだという事を把握しています。
※黒岩とは未来で出会う可能性があると石堀より聞きました。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限は『スーパーヒーローマニュアル?』の入手です。
※リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキとクリスタルステーションの事を知りました。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。


836 : 黎明の襲撃者(曇心 2:30〜) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:42:43 hPExjGy60

【石堀光彦@ウルトラマンネクサス】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、首輪解除
[装備]:Kar98k(korrosion弾7/8)@仮面ライダーSPIRITS、アクセルドライバー+ガイアメモリ(アクセル、トライアル)+ガイアメモリ強化アダプター@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ+T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW 、コルトパイソン+執行実包(6/6) 、ロストドライバー@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×6(石堀、ガドル、ユーノ、凪、照井、フェイト)、メモレイサー@ウルトラマンネクサス、110のシャンプー@らんま1/2、ガイアメモリ説明書、.357マグナム弾(執行実包×10、神経断裂弾@仮面ライダークウガ×2)、テッククリスタル(レイピア)@宇宙の騎士テッカマンブレード、イングラムM10@現実?、火炎杖@らんま1/2、血のついた毛布、反転宝珠@らんま1/2、キュアブロッサムとキュアマリンのコスプレ衣装@ハートキャッチプリキュア!、スタンガン、『風都 仕置人疾る』@仮面ライダーW、蛮刀毒泡沫@侍戦隊シンケンジャー、暁が図書室からかっぱらってきた本
[思考]
基本:今は「石堀光彦」として行動する。
1:「あいつ」を見つけた。そして、共にレーテに向かい、光を奪う。
2:周囲を利用し、加頭を倒し元の世界に戻る。
3:都合の悪い記憶はメモレイサーで消去する
4:加頭の「願いを叶える」という言葉が信用できるとわかった場合は……。
5:クローバーボックスに警戒。
[備考]
※参戦時期は姫矢編の後半ごろ。
※今の彼にダークザギへの変身能力があるかは不明です(原作ではネクサスの光を変換する必要があります)。
※ハトプリ勢、およびフレプリ勢についてプリキュア関連の秘密も含めて聞きました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※つぼみからプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について聞きました。
※殺し合いの技術提供にTLTが関わっている可能性を考えています。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※TLTが何者かに乗っ取られてしまった可能性を考えています。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。予知能力の使用が可能です。
※予知能力は、一度使うたびに二時間使用できなくなります。また、主催に著しく不利益な予知は使用できません。
※予知能力で、デュナミストが「あいつ」の手に渡る事を知りました。既知の人物なのか、未知の人物なのか、現在のデュナミストなのか未来のデュナミストなのかは一切不明。後続の書き手さんにお任せします。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。


837 : 黎明の襲撃者(曇心 2:30〜) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:43:00 hPExjGy60

【涼邑零@牙狼─GARO─】
[状態]:疲労(小)、首輪解除、鋼牙の死に動揺
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター、カセットアーム
[道具]:シルヴァの残骸、支給品一式×2(零、結城)、スーパーヒーローセット(ヒーローマニュアル、30話での暁の服装セット)@超光戦士シャンゼリオン、薄皮太夫の三味線@侍戦隊シンケンジャー、速水の首輪、調達した工具(解除には使えそうもありません) 、カセットアーム用アタッチメント六本+予備アタッチメント(パワーアーム、マシンガンアーム+硬化ムース弾、ロープアーム、オペレーションアーム、ドリルアーム、ネットアーム/カマアーム、スウィングアーム、オクトパスアーム、チェーンアーム、スモークアーム、カッターアーム、コントロールアーム、ファイヤーアーム、フリーザー・ショット・アーム) 、スタンスが纏められた名簿(おそらく翔太郎のもの)
[思考]
基本:加頭を倒して殺し合いを止め、元の世界に戻りシルヴァを復元する。
0:鋼牙…。
1:殺し合いに乗っている者は倒し、そうじゃない者は保護する。
2:会場内にあるだろう、ホラーに関係する何かを見つけ出す。
3:また、特殊能力を持たない民間人がソウルメタルを持てるか確認したい。
[備考]
※参戦時期は一期十八話、三神官より鋼牙が仇であると教えられた直後になります。
※シルヴァが没収されたことから、ホラーに関係する何かが会場内にはあり、加頭はそれを隠したいのではないかと推察しています。
実際にそうなのかどうかは、現時点では不明です。
※NEVER、仮面ライダーの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
仮面ライダーに関しては、結城からさらに詳しく説明を受けました。
※首輪には確実に異世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※首輪を解除した場合、(常人が)ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。→だんだん真偽が曖昧に。
また、結城がソウルメタルを操れた理由はもしかすれば彼自身の精神力が強いからとも考えています。
※実際は、ソウルメタルは誰でも持つことができるように制限されています。
ただし、重量自体は通常の剣より重く、魔戒騎士や強靭な精神の持主でなければ、扱い辛いものになります。
※時空魔法陣の管理権限の準対象者となりました(結城の死亡時に管理ができます)。
※首輪は解除されました。
※バラゴは鋼牙が倒したのだと考えています。


【鳴海探偵事務所の装備】
リボルギャリー、ハードボイルダー、ディアブロッサ、ふうとくんバイシクル、ソルテッカマン1号機改があります。






838 : 黎明の襲撃者(曇心 2:30〜) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:43:45 hPExjGy60



 ガドルのベルトは確かに破壊された。
 しかし──。
 彼の吸収したベルトが、もう一つあるとしたら……?

 そして、まだ彼が仮死状態のままだとしたら……?

 確かに、ガドルが再び目を覚ますにはしばらく時間がかかるだろう。
 しかし、それでも彼はまだ、生きており、霊石はガドルの体を回復させるために機能していた。
 ガドルの腹部に、ダグバのベルトが浮かび上がる──。



【2日目 未明】
【F−9 警察署付近】

【ン・ガドル・ゼバ(ゴ・ガドル・バ)@仮面ライダークウガ】
[状態]:身体機能停止の仮死状態、疲労(極大)、全身にダメージ(極大)(回復中) 、肩・胸・顔面に神経断裂弾を受けたダメージ(回復中)、胸部に刺傷(回復中)、腹部貫通(回復中)、腹部・胸部にかなり強いダメージ、左腕切断、電撃による超強化、首輪解除、ダグバのベルト吸収、ガドル自身のベルト破壊
[装備]:ガブオソソ(ビートチェイサー2000を装飾品で変形)@仮面ライダークウガ
[道具]:なし
[思考]
基本:仮死状態。
※死亡後からの参戦です。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※ナスカ・ドーパント、ダークメフィストツヴァイを見て、力を受け継ぐ、という現象を理解しました。
※フォトンランサーファランクスシフト、ウェザーのマキシマムドライブによって大量の電撃を受けた事で身体が強化され、アメイジングマイティに匹敵する「驚天体」に進化できます。また、電撃体の使用時間も無限になっており、電撃体とその他のフォームを掛け持つ事ができます(驚天体では不可能です)。
※仮面ライダーエターナルが天候操作や炎を使ったため、彼に「究極」の力を感じています。また、エターナルには赤、青の他にも緑、紫、金などの力があると考えています。
※ザギバス・ゲゲルに勝利し、グロンギの王となりました。ダグバのベルトを吸収して、「究極体」に進化できます。
※仮死状態です。ガドルのベルトは破壊されましたが、ダグバのベルトが残っていました。


【ガドルの仮死状態について】
※ガドルはザギバス・ゲゲルでの勝利によって、ガドルとダグバの二つのベルトを体内に吸収していました。鋼牙と翔太郎が破壊したのはガドルのベルトであり、ダグバのベルトによってガドル自体はまだ生きています。
※二つのベルトを利用していた先ほどよりパワーダウンする事になりますが、「究極の闇」の力は健在です。
※姿はダグバなのかガドルなのか現在不明。
※仮死状態の回復には時間を要します。最低でも六時間〜半日はかかると思われます。


839 : 黎明の襲撃者(曇心 2:30〜) ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:44:00 hPExjGy60



【備考】
※街エリアは、H−8、H−9、G−8、G−9(中学校側)、F−8、F−9が超自然発火能力によって炎上中です。姫矢准、山吹祈里、東せつな、早乙女乱馬などの遺体も纏めて焼却されています。
※また、街エリアでは大風並の異常気象が起こっています。
※警察署は全壊しました。中に在った遺体も破壊されました。
※鋼牙の遺体、鋼牙の魔戒剣、魔導火のライターはF−9エリアの倒壊した警察署付近に置いてあります。
※F−10エリアに廃棄されたソルテッカマン2号機や、ラ・バルバ・デの遺体が残っています。
※バットショット&バットメモリが島の外へと放たれました。映像を記録し、スタッグフォン、ショドウフォン(丈瑠)、スシチェンジャー、特殊i-podにリアルタイムで映像を配信する事ができます。
※バットショット、ショドウフォン、スシチェンジャー、特殊i-podの通信機能は回復されています。それにより、各アイテム同士は通話やメールが可能です。





【ラ・バルバ・デ@仮面ライダークウガ 死亡】
【冴島鋼牙@牙狼 死亡】
【フィリップ@仮面ライダーW 死亡】
残り15人


840 : ◆gry038wOvE :2014/06/28(土) 14:47:08 hPExjGy60
以上、投下終了です。

杏子がどっちに向かえばいいのか、書いている人からしても皆目見当もつかないし、
正直どっち行けばいいんだか全然わからんので、
なんか読み手の投票とかで決めようかなと思います。

                           ∧
           ハ     ,.::−−:::::..   l l
              l l   / {:::::::::::∧:::::::`ヽl l
              |  V/   ヽ::::::/  ヽ::::::::リ |
             | l:::l   {∧}    〉:::/ /l
           ', l::ヽ  _ `´ ,ィ;  /::/ /l l
            Vヽ:::丶ゝ  7//::/ /;==l
             l\\::::>−<__//___l== l
             ', =ヽ__>、__/__/::::::::l三 |
   _r‐, r‐ 、       ',=l:::::::::lニ l::::::::::::::::::::l三メ、
  / `ヽ:::::::lヽ     ヽヽ::::/ 三ヽ:::::::::::::/三/ }
 ,′  l:::::l ̄ ',      `ヽヽニニ ー−/三/フ/  l>-、
〃    l:::::l  l       ___ 〉l 三 三 / / /  / ヽ
ハ    /`ヽ}  リ    //  }ヽニニ イ /  /  ̄ ̄ > 、
l Lヽ イ`ヽ l::: ̄ヽ  r‐l‐l   ll [ __ イ;  /  ̄ ̄ ̄   `ヽ
l l | ! l   \ト,:::::', l ̄ ヽ//    __/ /  ̄ ̄ ̄ 二二 \
ヽ=l l ヽ    l \::ヽl   l/  ̄ ̄  ヽ l:::::/ / ̄ ̄/ ィ ニニ 、::ヽ
  ヽ \}___lリ  \\ /l       l l::/ /____/::/ /    ',:::l
   l      \  \}`\      V//::::::::::::::::::::l / /二二l:::l
   〉 ヽ__ 一  ',   \ l     イ ̄ ̄`ヽ::::::::::::::V  l     l::l
   ヽ  l ヽ`ヽ \\    ',\___/       ',::::::::::::::ヽ ヽ  //
    l  lヽ \ \}  \___ll:::::::/         ',::::::::::::::::::>−´/
.    ', V \ \/ __ >:::::::/          l::::::::::::/ /:::::::/
.    ', ヽ__ >−' /:::::::::::::::::/            /l::::::/  /::::::/
      ヽ ヽ __/l`ヽ::::::::::/        /ヽ  ̄ __/::::::/

コイツのスペシャルみたいな感じで。


841 : 名無しさん :2014/06/28(土) 15:06:37 dFUk2kL.O
投下乙です!
ガイアセイバーズに仲間が増える……と思ったら、まさかこうなるとは。
ガドルを倒したはずなのに、まだ仮死状態。
鋼牙やフィリップは最後まで頑張ったのに……二人ともお疲れ様です。
孤門君はバルバを倒したけど、まだこれから大変だろうな。ザギさんは「あいつ」を見つけたみたいだし。
腕を失った翔太郎も、キバの鎧も、そして残されたメンバーもどうなるか……


842 : 名無しさん :2014/06/28(土) 15:38:53 ibr.Y4wA0
投下乙です。
割りとほんわかしてた前半のレイジングハートのくだりから、
まさかここまでハードな展開になるとは……
ガイアセイバーズの今後に幸あらんことを


843 : ◆LuuKRM2PEg :2014/06/28(土) 20:44:11 PKWVvmDc0
投下乙です。
レイジングハートがヴィヴィオと出会って、ようやく誤解が解けるかな……と思ったら、まさかこんな死闘が繰り広げられるとは。やはりガドル閣下は強いですね。
仲間も集まって、ザギさんはようやく『あいつ』と出会って、ラブは友達と再会した上に杏子と出会って、暁はほむらと再会するなど……それぞれのドラマが上手く描かれていますね。
そして、その後にガイアセイバーズは閣下と戦って、Wはゴールドエクストリームに進化して、鋼牙は閣下を倒すために力を尽くしても届かない……
残されたみんなの今後や、そして杏子がこれからどちらに向かうのか、あとキバはどうするのかがとても気になってしまいます。
最後にもう一度、大作投下乙でした!

そしてそんな大作なのに短くて申し訳ありませんが、自分も投下します。


844 : あなたが遺してくれたもの ◆LuuKRM2PEg :2014/06/28(土) 20:45:06 PKWVvmDc0
 満天の星が輝いているが、彼女はそれに目を向けていない。芸術品のように美しさを醸し出していても、今の彼女はそれを尊いとは思えなかった。
 これから先にある道は暗闇に包まれているが気にしていない。恐怖は消えていないが、それを吹き飛ばしてくれる激情が胸の中に宿っていた。
 闇のように暗い炎が燃え上がっている限り、この足は止まらない。どこまでだろうと走り続けることができる。
 行くあてもなく会場を駆け抜けているのは、天道あかねと言ううら若き少女だった。

「──はっ、はっ、はっ」

 彼女は息を吐きながら、マラソン選手のように規則正しく走っている。しかし、その速度は人間の領域を遥かに凌駕していた。
 それも当然。伝説の道着やアンノウンハンド、そしてプロトタイプ・アークルによってあかねは異様なまでの力を手に入れている。
 故に、数キロメートルを一瞬で走り抜けるなど造作もない。例え、身体に莫大な疲労とダメージが残っていたとしても。

(どこなの……どこまで逃げたの!? ダグバの仲間は!?)

 ホテルの部屋を荒らした人物を倒す為に、あかねは外を走っている。
 しかし、見つからない。それどころか、周囲には人の気配が全く感じられなかった。それに苛立ちを感じてしまい、あかねは足に力を込める。
 速度は上がるが、他の誰とも会えない。より一層、鬱憤が無意味に溜まってしまう。
 あかねは知らない。部屋を荒らしたのは他の誰でもない、あかね自身であることを。寝相の悪さのせいで滅茶苦茶になったのだが、それを知らせてくれている者は誰もいない。
 唯一、伝説の道着だけがその場面を見ているのだが、それを伝える手段を持っていなかった。いくら意思を持っていたとしても、他者にそれを伝える方法を持ち合わせていない。喋ることもできなかった。

(隠れていようとも無駄よ。どこまで逃げようとも、あたしが絶対に見つけてあんたを倒すから……覚悟しなさい!)

 それが無意味であることを知らないまま、あかねはいるはずのない相手に怒りを燃やし続ける。
 この鬱憤を晴らしたかったけど、相手がいない。元の日常に帰る為に戦わなければいけないけれど、誰とも出会えないのがもどかしい。こんな所で無意味な時間を潰している暇などないのに。
 感情ばかりが積み重なっていくだけで、それをぶつける相手がいない。そんな空しさしか感じられなかった。
 どこを走っているかなんて考えていないし、地図だって確認していない。そんな行動すらも取れないくらい、少女は憎悪に囚われていた。
 今、どこのエリアを走っているかなんてわからない。例え、禁止エリアに接近して生命の危機に陥ったとしても、突入するまで気付かないだろう。


845 : あなたが遺してくれたもの ◆LuuKRM2PEg :2014/06/28(土) 20:46:35 PKWVvmDc0
 しかし、幸いにも彼女は禁止エリアに突入する気配を見せない。
 あかねは今、広大なる森林の中を駆け抜けていた。暗闇の中に入る抵抗は残っているが、もしかしたらまだ誰かが隠れているかもしれない。その可能性を信じて、再び森の中に行くことを選んだのだ。
 例え怪物やお化けが襲いかかってこようとも、返り討ちにしてやればいい。それだけの強さを持っているのだから、何の問題もなかった。
 ダグバだろうと、ガドルだろうと、エターナルだろうと……また、仮にこの三人が同時に挑んできたとしても負ける気がしない。そんな確信が今のあかねにはある。
 これだけの力さえあれば、残った参加者だってみんな倒せる。そう思いながら駆け抜けていると、周囲の風景が一変する。

「えっ……? ここって……」

 あかねは怪訝な表情を浮かべた。
 そこは、森の中にしては至る所が焼け焦げていたのだ。あるはずの植物はどれもまともな形を留めていなくて、黒い塊と成り果ててしまっている。地面だって至る所が砕け散っていた。
 一目見ただけで、ここで何かがあったと推測できる。少なくとも、焚き火が行われたとは思えない。それはあかねでも理解できた。
 誰かがここで戦っていた。そんな思考が芽生えるのと同時に、あかねは先程の戦いを思い出す。煌びやかなコスチュームを纏った二人の少女とエターナルは、ガドル(実際はン・ガミオ・ゼダ)と戦っていた。その戦いによって周囲が吹き飛んでいる。
 辺りを見渡すが、戦いはもう終わったので誰もいない。人の気配だって感じられなかった。
 あの時、逃げ出したりしないで戻ってきていれば、ガドル達を倒せたのかもしれない。そんな後悔が生まれるが、すぐに振り払う。過ぎたことを悔んだ所で時間は戻ってこないし、何よりもそんな余裕などない。
 あかねはすぐにこの場から立ち去ろうとした。だが。

「……っ!」

 その足はすぐに止まる。
 彼女の目前には男の死体があった。身体のあちこちに傷が刻まれていて、胸に大きな穴が開いている。
 男のことをあかねは知っていた。

「十臓……さん……」

 そう。腑破十臓だった。
 エターナルと戦って、そして死んでしまったあの男だ。二十時間以上前に死別した男だが、あかねは忘れていない。
 ここは、エターナルと初めて戦ったあの場所だったのだ。ガミオと戦ったエリアからそう離れていないので、偶然にもまた通ってしまっている。

「…………」

 十臓の死体を前にあかねは何も言えず、ただ表情を顰めるしかない。凄惨に傷付けられた遺体は、彼女にとって毒だった。
 呼吸は荒れてしまい、それによって上半身が震える。視界も定まらなかった。どれだけ人外の力を付けていようとも、それで精神力が強くなったわけではない。本質的には恐怖を克服できていなかった。
 そして、彼女の中である感情が唐突に吹き出してくる。

「……どうしてよ」

 それは疑問。
 彼女は十臓に問いかけるが答えは返ってこない。相手は死人なのだから当然だった。

「どうして……笑っているのよ」

 目の前で倒れている十臓は笑っていたのだ。まるで、最期の瞬間は満ち足りていたかのように。
 あかねにはそれが許せなかった。自分はこんなに苦しみながら戦っているのに、どうして化け物ばかりが笑っているのか。あのダグバだって、笑いながら大切な『何か』を奪っていた。
 まともな人間は次々と傷付いていき、化け物ばかりが笑う。そんな不条理など認められるわけがない。
 これでは、そんな奴らしかいない所に放り込まれた自分が、馬鹿みたいに思えてしまう。

「許せない……!」

 憎悪を言葉に込めながら、あかねは折れた裏正を握り締める。刃が掌に食い込んで痛みを感じるが、構わない。
 この化け物の笑顔を奪えるのなら、何てことはない。
 十臓は人間のふりをしていた化け物だ。エターナルと戦っていた時に、ドーパントのような姿に変わったのが証拠だ。


846 : あなたが遺してくれたもの ◆LuuKRM2PEg :2014/06/28(土) 20:47:23 PKWVvmDc0

「あんただけが笑うなんて……!」

 だから倒さなければならない。
 この笑顔を潰す。
 こんな奴が笑うなんてあってはいけない。
 壊したい。
 壊してしまいたい。
 人間じゃない化け物は消してしまいたい。
 あまりにも身勝手で歪んだ決意を胸に抱いて、あかねは腕を振り上げる。そのまま、裏正を振り下ろそうとするが……

『寿司屋、お前は邪魔だ。その娘を連れてさっさと離れろ』

 その途端、脳裏に十臓の言葉が蘇る。
 それは、エターナルと戦っていた十臓が遺してくれた言葉だった。続くように、あの戦いがフラッシュバックしていく。
 十臓は確かに化け物になって、同じ化け物であるエターナルと戦い、そして死んだ。

「あ、あ、あ……」

 脳裏に過ぎる思い出のせいで、あかねの腕は震えている。
 十臓を傷付けたいと言う憎悪と憤怒は残っているが、胸の中に宿る記憶がそれを阻害していた。それどころか、思い出は留まる気配を見せない。

『なら、その娘は巻き添えとなって死ぬだろう……お前がそうしたいのなら、俺は別に構わないが』

 彼の言葉は続く。 
 チャンスはいくらでもあったはずなのに、十臓は自分達のことを傷付けたりなんかしなかった。心がない化け物であるにも関わらずに、指で触ることもしていない。
 エターナルから、自分達を守る為に戦ってくれたのだ。本当なら、寿司を食べ終わった後に殺すことだってできたはずなのに、それをしなかった。
 それどころか、源太と力を合わせてエターナルとも戦ってすらいたのだ。白い化け物である、エターナルと……

 白い化け物。
 それはあのダグバも同じだった。
 ダグバはその圧倒的実力でシンケンゴールドに変身した源太や、アインハルト・ストラトスを追い込んでいた。二人だけでは、絶対に倒せなかっただろう。
 なのに、どうして源太とアインハルトは生き残っているのか? そして、どうして自分も生き残ったのか?
 自分達が力を合わせてダグバを倒した……そんな記憶はない。それだけで倒せるのなら、こんな苦労はしない。
 
 ……そうだ。他にも誰かが戦っていたのだ。
 エターナルと戦った十臓のように、自分達を逃がす為にダグバと戦った。そして、死んでしまった。
 それは一体、誰なのか。とても強い『誰か』の命は、ダグバによって奪われてしまった。知っているはずなのに、思い出せない……そのもどかしさが、また襲いかかってきたのだ。
 その『誰か』とは戦ったことがある。伝説の道着がなかったら、勝つことができなかった。それを覚えているのに、相手が誰なのかがわからない。
 
『あかねさん。……さんには、おそらくあの怪人にも弱点がある……ということを教えました』

 続いて蘇るのは、アインハルトの言葉。
 ダグバの弱点はベルトであると教えてくれた。でも、それはあかねと源太だけでなく、他の『誰か』にも伝えている。それが誰なのかが、わからない。
『誰か』は獅子咆哮弾を使って、ダグバと戦っていた。不幸を原動力とする、あの技を……


847 : あなたが遺してくれたもの ◆LuuKRM2PEg :2014/06/28(土) 20:48:38 PKWVvmDc0
『俺だ……良牙だ……』

 獅子咆哮弾は、良牙と名乗った『誰か』も使っていた。
 良牙と、ダグバと戦った『誰か』は戦っていた気がする。顔を合わせれば、毎度のように喧嘩をしている。傍から見れば、あまりにもくだらない理由で。
 でも、本人達にとって、それは大切な日常だったはず……

「…………ッ!」

 そこまで考えた瞬間、凄まじい頭痛が襲いかかった。
 記憶が掘り出される度に激痛が広がってしまい、あかねは反射的に頭を押さえる。だが、それで収まる訳がない。
 十臓への殺意と憎しみも忘れさせてしまうほど、それは激しい苦痛だった。

「あ、あ、あ……あ、あ……ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 やがてあかねは咆哮と共に走り出し、その場を去っていく。
 ここにいたら、忘れてしまいたい記憶を掘り出されてしまうような気がして。触れられたくない物を、見せられているような不快感に襲われてしまい、留まりたくない。
 動揺と焦りが噴水のように溢れてきてしまい、あかねは逃げるように走るしかなかった。



 腑破十臓という男は己の快楽だけに戦い、人を斬り続けた心からの外道だった。
 どれだけ家族が止めようとしても、その純粋な想いを裏切って戦いに身を投じた。それは今までも、そしてこの世界でも変わらない。現に流ノ介は斬られ、なのはも傷付けられそうになった。
 しかし一方で、十臓が戦ったことで救われた命が確かに存在した。源太とあかねは、彼がいたおかげでエターナルに殺されずに済んでいる。
 そして同じように、アインハルトと力を合わせた『誰か』……早乙女乱馬はダグバと戦い、源太とあかねを守ることに成功した。
 もしかしたら、あかねは無意識の内に被らせてしまったのかもしれない。だが、その真相はあかね自身もわからなかった。
 救いようはなく、和解の余地もない外道であるのが十臓だった。だけど、十臓によって遺されたものは確かにあった。
 それが救いになるのか、それとも更なる呪いになるのかは誰にもわからない……



【2日目 早朝】
【D-7 森の中】


848 : あなたが遺してくれたもの ◆LuuKRM2PEg :2014/06/28(土) 20:49:06 PKWVvmDc0
【天道あかね@らんま1/2】
[状態]:アマダム吸収、メフィストの闇を継承、肉体内部に吐血する程のダメージ(回復中)、ダメージ(極大・回復中)、疲労(極大)、精神的疲労(極大)、胸骨骨折(回復中)、 とても強い後悔と悲しみ、ガイアメモリによる精神汚染(進行中)、自己矛盾による思考の差し替え、動揺
[装備]:伝説の道着@らんま1/2、T2ナスカメモリ@仮面ライダーW、T2バイオレンスメモリ@仮面ライダーW、二つに折れた裏正@侍戦隊シンケンジャー、ダークエボルバー@ウルトラマンネクサス、プロトタイプアークル@小説 仮面ライダークウガ
[道具]:支給品一式×4(あかね、溝呂木、一条、速水)、首輪×7(シャンプー、ゴオマ、まどか、なのは、流ノ介、本郷、ノーザ)、女嫌香アップリケ@らんま1/2、斎田リコの絵(グシャグシャに丸められてます)@ウルトラマンネクサス、拡声器、双眼鏡、インロウマル&スーパーディスク@侍戦隊シンケンジャー、紀州特産の梅干し@超光戦士シャンゼリオン、ムカデのキーホルダー@超光戦士シャンゼリオン、滝和也のライダースーツ@仮面ライダーSPIRITS、『長いお別れ』@仮面ライダーW、ランダム支給品1〜2(溝呂木1〜2)
[思考]
基本:"東風先生達との日常を守る”ために”機械を破壊し”、ゲームに優勝する
0:この場から離れたい……
1:ガドルや部屋を荒らした奴を倒す。
2:ダグバが死んだ……。
3:ネクサスの力……
[備考]
※参戦時期は37巻で呪泉郷へ訪れるよりは前、少なくとも伝説の道着絡みの話終了後(32巻終了後)以降です。
※伝説の道着を着た上でドーパント、メフィスト、クウガに変身した場合、潜在能力を引き出された状態となっています。また、伝説の道着を解除した場合、全裸になります。
また同時にドーパント変身による肉体にかかる負担は最小限に抑える事が出来ます。但し、レベル3(Rナスカ)並のパワーによってかかる負荷は抑えきれません。
※Rナスカへの変身により肉体内部に致命的なダメージを受けています。伝説の道着無しでのドーパントへの変身、また道着ありであっても長時間のRナスカへの変身は命に関わります。
※ガイアメモリでの変身によって自我を失う事にも気づきました。
※第二回放送を聞き逃しています。 但し、バルディッシュのお陰で禁止エリアは把握できました。
※バルディッシュが明確に機能している事に気付いていません。
※殺害した一文字が機械の身体であった事から、強い混乱とともに、周囲の人間が全て機械なのではないかと思い始めています。メモリの毒素によるものという可能性も高いです。
※黒岩が自力でメフィストの闇を振り払った事で、石堀に戻った分以外の余剰の闇があかねに流れ込みメフィストを継承しました(姿は不明)。今後ファウストに変身出来るかは不明です。
 但し、これは本来起こりえないイレギュラーの為、メフィストの力がどれだけ使えるかは不明です。なお、ウルトラマンネクサスの光への執着心も生じました。
※二号との戦い〜メフィスト戦の記憶が欠落しています。その為、その間の出来事を把握していません。但し、黒岩に指摘された(あかね自身が『機械』そのものである事)だけは薄々記憶しています。
※様々な要因から乱馬や良牙の事を思考しない様になっています。但し記憶を失っているわけではないので、何かの切欠で思考する事になるでしょう。
※ガミオのことをガドルだと思い込んでいます。
※プロトタイプアークルを吸収したため仮面ライダークウガ・プロトタイプへの変身が可能になりました。
※自分の部屋が何者かに荒らされていると勘違いしています。おそらくガドルやガミオだと推定しています。
※どこに向かうのかは後続の書き手さんにお任せします。


849 : ◆LuuKRM2PEg :2014/06/28(土) 20:49:44 PKWVvmDc0
以上で投下終了です。
ご意見がありましたらよろしくお願いします。


850 : 名無しさん :2014/06/29(日) 01:26:19 Z3bag0x.0
投下乙です

ガドル閣下の絶望感やべえと思ったら、まさかゴールデンエクストリームで対抗してくるとはなあ
でも閣下はまだ仮死状態とかしぶといなあ
しかし、ドライバーやメモリの破壊で嫌な予感はしてたけど、まさかフィリップがここに来て死亡するとはなあ
翔太郎のこれからといい、チート実力者牙狼の退場といい、暗黒騎士の亡霊といい、まだまだ不穏だなあ

あかねはあいかわらず精神病みつつ孤立してるけど、もしかしたらクリスタルステーション行きのガイアセイバーズメンバーと出会うのかもなあ


851 : 名無しさん :2014/06/29(日) 12:45:18 ..GHYEz.0
指摘です。
暁とラブの状態表が色々間違ってます。
暁の方は杏子も見つかり、警察署は全壊しありません、仲間は事実上全員見つかりました。
ラブの方も警察署はなく、ダークプリキュアに暗黒騎士キバは死んでいます、プリキュアの仲間は全員再会しました。
間違っているところは以上です。


852 : 名無しさん :2014/06/30(月) 12:02:32 efAFDVg2O
暁と翔太郎の探偵コンビはフィリップの言うようにほんとに予想通りの反応だったw

美希がみたアインハルトの笑顔ってのは、コンプエースのvivid最新話のネタなんだろうか


853 : 名無しさん :2014/06/30(月) 16:24:39 VkRvrk760
つまりmktnは燃える警察署の中でコンプエースの最新号を発見したという事?


854 : 名無しさん :2014/07/03(木) 20:21:16 pvtOvxJY0
ラブの状態表の指摘です。
まとめサイトで間違ってます。
警察署は着いて、ガドルによって全壊したためありません。

間違いはそれだけです。


855 : 名無しさん :2014/07/03(木) 22:24:27 mC5eCNOQ0
不気味だと思った(小並感)


856 : 名無しさん :2014/07/03(木) 23:40:07 l027VNrw0
>>855
誤爆?


857 : ◆gry038wOvE :2014/07/04(金) 23:39:19 JRN68en20
投票企画宣伝です。

したらば投票スレにて
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/15067/1340500414/62-63

【投票】

【期間】2014/7/5 0:00〜2014/7/6 24:00
【投票内容】
佐倉杏子はどちらに向かうべきか

→【花咲つぼみと一緒に人魚の魔女の方に行く】
→【桃園ラブと一緒におめかしの魔女の方に行く】


858 : ◆OmtW54r7Tc :2014/07/07(月) 09:23:31 mGjvhC8o0
投下します


859 : 目覚獅子 ◆OmtW54r7Tc :2014/07/07(月) 09:34:52 mGjvhC8o0
闇夜の中で、二つの人影が移動をしている。
いや、『人』影というのは正確ではないかもしれない。
なぜなら彼らは、人の道を外れた外道なのだから。

そんな二つの存在の内、後ろを歩いているのは、外見だけを見れば人間そのものである。(既に変身は解除している。烈火大斬刀やモウギュウバズーカと共に持っていたショドウフォンにより再変身可能)
というより、昨日までは確かに人であった。
しかし、その男――志葉丈瑠は、人の身から外道に堕ち、今は外道シンケンレッドとして外道衆の長、血祭ドウコクに付き従っていた。
そして、彼の前を歩く異形――血祭ドウコクはというと、気分よく目的地を歩いていた。

(シンケンレッドを手下にし、アクマロの野郎も倒した…ようやく運が向いてきたようだ)

ウルトラマンネクサス、そして二人の仮面ライダーへの敗北。
どうにも悪かった流れが、ここに来てこちらに味方してきたようだ。

(しっかし、誰とも会わねえなあ)

アクマロ撃破後、ドウコクは再度志葉屋敷を目指しているが、誰とも遭遇することはなかった。
アクマロとマンプクを除けば、この殺し合いのまともな参加者に出会ったのは二つ前の放送の直後であり、もう随分と前の事だ。
一応ドウコクは、スタンスとしては対主催であり、役に立つようなら他の参加者と協力するつもりでいる。
もっとも、役に立たない奴やむかつく野郎は殺すが。
なんにせよ、味方であれ敵であれ、どうにか接触をはかりたいものだ。
村に着けば、誰かいるだろうか。




道中、採石場跡を抜け、ドウコクと外道シンケンレッドは村へと入った。
志葉屋敷に着くのはもうまもなくだ。
C-4の三途の池に立ち寄ろうかとも考えたが、ドウコクもレッドも水切れの心配はなく、目的地を前にして寄り道するのも面倒だということで、そのまま真っ直ぐ屋敷を目指した。


860 : 目覚獅子 ◆OmtW54r7Tc :2014/07/07(月) 09:36:26 mGjvhC8o0
「ここだな」

そうして、ネクサスとの戦闘後から目指して約半日、血祭ドウコクはようやくそこに辿り着いた。
そこは、ドウコクにとっては、かつて先代のシンケンレッドに不完全とはいえ封印されてしまった忌まわしい場所だ。
そして、シンケンレッド――志葉丈瑠にとっては…

「よう、どうだ。てめえの城に帰ってきた気分は」
「別に…」
「随分と冷めてるじゃねえか」
「……そもそも俺はここの主ではない」
「ああ、そういやてめえは偽物だったな」
「………………」

それ以降、外道シンケンレッドは再び黙ってしまった。
本当に感傷もなにもなく、興味がなさそうな瞳だった。

(けっ、幽霊みてーな野郎だぜ)

まあ、元々は憎き敵だった奴だ。
仲良くやっていくつもりなどなく、ただ手駒として有能ならそれでいい。

(で、着いたはいいがどうする?)

元々ここに来た最初の目的は、自分の得物を探す為だった。
しかし、それは既に見つけている。
マンプクから情報を聞き出した後は、二の目として復活したアクマロがいる可能性があると考えたが、アクマロも倒した。
つまり、既にここに来る目的を失っているのだ。

(ぶっ壊してやるのもいいが…つまんねえよな)

ここには屋敷を守るべき殿も侍もおらず、無人で無防備なだけのただのでかい偽物の屋敷だ。
そんなものを破壊しても、人の悲しみや嘆きなど得られるわけもなく、面白くもなんともない。

「まあ、せっかくだ。何か役に立つものがあるかもしれねえ。おい、シンケンレッド」
「はっ」
「命令だ。今から手分けしてここの探索をする。なにかあれば知らせろ」
「仰せのままに」


861 : 目覚獅子 ◆OmtW54r7Tc :2014/07/07(月) 09:37:33 mGjvhC8o0
外道シンケンレッドは、腰を下ろし、頭を下げてドウコクに恭順の意を示す。
それは、かつて歴代のシンケンレッド達に対して、家臣達が行っていたであろうものだ。
その動作を今この屋敷の中で行っているのがシンケンレッドであり、されているのが外道衆の大将であるというのは、なんとも皮肉なことであった。




ドウコクは、一人屋敷内を歩き回る。
かつて攻めいった時は、破壊するばかりで内部の様子など全く把握していなかったので、なかなかに新鮮だ。
それに、偽物とはいえ敵の根城を我が物顔で歩き回るというのは気分がいい。
国盗りに成功したような感覚だ。
もっとも、現実の世界でドウコクが行うつもりでいる国盗りはこんな生易しいものじゃない。
人間の世界を三途の川で飲み込み、人間界全てがドウコクと外道達の領土となるのだ。
その為にも、邪魔なシンケンジャーは倒さなければならない。
シンケンブルーとシンケンゴールドは死んだが、まだシンケンジャーは四人もいる。

(待ってろよ、シンケングリーン、シンケンピンク、シンケンイエロー、そして本物のシンケンレッド。てめえらの国は俺がもらう)




一方外道シンケンレッドは、ドウコクの命令に従い屋敷内の探索をしていた。
本来の志葉丈瑠ならこの屋敷に対して色々と思う事があったかもしれないが、今は全くそんな素ぶりを見せる様子はなかった。
ただ、黙々と与えられた命令をこなすだけだ。

「これは…兜折神」
そうして、探索を続けてしばらくが経った頃。
レッドは、ある一つの秘伝ディスクを見つけた。
その名も兜ディスク。
折神の一つ、兜折神が収納されており、烈火大斬刀にセットすることにより「兜・五輪弾」を放つこともできる。
レッドはディスクを持ち、ドウコクに報告に向かおうとしたその時、

『久しぶりだな、シンケンレッド。いや、今は外道シンケンレッドと呼ぶべきか』
「…脂目マンプク」

そこへ現れたのは、数時間前にドウコクの前にも現れた、クサレ外道の脂目マンプクだった。



『ほう、拙者のことを覚えていたか』
「……………」

マンプクの言葉に、外道シンケンレッドは反応を示さない。
最初にマンプクの名を呼んだ以外、しゃべる様子はなかった。


862 : 目覚獅子 ◆OmtW54r7Tc :2014/07/07(月) 09:38:59 mGjvhC8o0
『…まあよい。今回は貴殿の制限を解除するためにやってきた』

無視されたことに若干気分を害しながらも、マンプクは本題に入った。
マンプクが現れた理由…それは制限の解除だ。
第三回放送後、参加者は三十分以上単独行動を行うと主催側から制限されていた能力が解除される。
それは、外道シンケンレッドにも適用されていた。

『貴殿の制限…それは折神の使用。これまではエンブレムの巨大化や秘伝ディスクの折神は制限により出来なくなっていたが、これよりその制限を解除する』

シンケンジャーは、二の目となり巨大化した外道を倒す際に、折神を使用する。
エンブレムを『大』のモジカラで巨大化させたり、特別な秘伝ディスクを使うことによって。
しかし、巨大ロボなどを易々と使わせるわけにもいかず、禁止されていた。
ちなみにこれは、本来は参加者であった志葉丈瑠、池波流ノ介、梅盛源太に対する制限解除であった。
全員が死んでしまい、この制限解除が行われることはないと思われたが、外道シンケンレッドの出現により、こうして実行されることとなった。

『貴殿ははぐれ外道となりドウコク殿の家臣となった…つまりは拙者の家臣も同然。これは家臣への褒美である、受け取るがよい』

その言葉と共に、外道シンケンレッドの前に現れたのは火の文字が象られた一つのエンブレム。
獅子折神を起動させることができる、火のエンブレムだった。

『それでは拙者はこれにて失礼いたす、ドウコク殿によろしく伝え申してくれ』

そういうと、マンプクのホログラムは姿を消した。




「ほう、なるほどな。マンプクの奴、また現れやがったか」

ドウコクと合流したレッドは、事のあらましをドウコクに話した。

「で、そいつを巨大化させることが出来るようになったってわけか」
「試していないからなんとも言えないが、おそらくはな」
「…そうか」

レッドの話を聞いて、ドウコクは不機嫌だった。
戦力が増すのはいい。
だが、それがマンプクによるものなのがどうにも癪にさわった。
しかも奴は、エンブレムを渡す際に自分の事をマンプクの家臣であるなどと吹聴していたらしい。
完全に自分達をなめきっている。

「くそ、面白くねえ……おい!ここはもう用済みだ!村の中を見て回るぞ!」

ドウコクの命令に外道シンケンレッドは黙って従い、再び先頭を歩く彼の後ろを歩き始める。
その肩に、獅子折神を乗せて。


863 : 目覚獅子 ◆OmtW54r7Tc :2014/07/07(月) 09:43:38 mGjvhC8o0
【2日目 早朝】
【B-2 志葉屋敷付近】

【血祭ドウコク@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、苛立ち、凄まじい殺意、胴体に刺し傷
[装備]:昇竜抜山刀@侍戦隊シンケンジャー、降竜蓋世刀@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:なし
[思考]
基本:その時の気分で皆殺し
0:村の探索
1:首輪を解除できる人間を捜す
2:加頭、マンプクを殺す
3:杏子や翔太郎なども後で殺す
4:嘆きの海(忘却の海レーテ)に対する疑問
[備考]
※第四十八幕以降からの参戦です。よって、水切れを起こしません。
※第三回放送後の制限解放によって、アクマロと自身の二の目の解放について聞きました。ただし、死ぬ気はないので特に気にしていません。

【外道シンケンレッド@天装戦隊ゴセイジャーVSシンケンジャー エピックon銀幕】
[状態]:健康
[装備]:ショドウフォン@侍戦隊シンケンジャー、モウギュウバズーカ@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:火のエンブレム(獅子折神:小型起動中)@侍戦隊シンケンジャー、兜ディスク@侍戦隊シンケンジャー
[思考]
基本:外道衆の総大将である血祭ドウコクに従う。
[備考]
※外見は「ゴセイジャーVSシンケンジャー」に出てくる物とほぼ同じです。
※これは丈瑠自身というわけではありませんが、はぐれ外道衆なので、二の目はありません。
※制限の解除により折神を使えるようになりました。エンブレムの折神大変化や折神ディスクの折神具現化が可能です


864 : ◆OmtW54r7Tc :2014/07/07(月) 09:44:23 mGjvhC8o0
投下終了です


865 : 名無しさん :2014/07/07(月) 14:48:39 BjMUMxfA0
投下乙。
あれ?外道シンケンレッドって会話できたっけなー?
参加者扱いで制限解除されてるのもなんだかなあ。


866 : 名無しさん :2014/07/07(月) 20:10:29 VCxSzBKs0
投下乙です

会話うんぬんは詳しくないからそっちはスルー

さて、制限が解除され家探しで出たのは…おい、それを外道シンケンレッドが持つとか、おま
まだ村の探索かそれとも…


867 : ◆gry038wOvE :2014/07/07(月) 22:09:43 USJByGqc0
指摘です。
個人的には、>>865が言っているのと少し被りますけど、

・外道シンケンレッドが会話するくだりに違和感があります。原作だと「唸り声をあげる」、「必殺技や武器名を叫ぶ」以外の言葉を発していません。
 誰に話しかけられても基本的に無視でしたし、もっと意思を殺した機械的な存在なのでは?(前回も「意思なき生命体」と明記されていますし)

・一日目終了と同時に現れた(=存在そのものが制限解除の対象だった)外道シンケンレッドが制限解除の対象キャラである事にまず違和感があります。
 参加者扱いだから…という理屈ならレイハという例外がいますけど、流石に制限解除で出てきた外道シンケンレッドは対象外でしょう。


868 : ◆OmtW54r7Tc :2014/07/07(月) 22:13:34 mGjvhC8o0
>>865 >>867
指摘どうもです
修正できそうもないので、破棄します


869 : ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 16:38:33 FXeu5Vcc0
投下しちゃいます。


870 : 三番目のN/ああ鳴海探偵事務所 ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 16:39:43 FXeu5Vcc0



 ハードボイルダーは本来的には580km/hのスピードで走る事が出来るバイクであった。ただ、現状日本の道路でそれだけのスピードを出す事はできない為、左翔太郎も最高時速でハードボイルダーを走らせた事は風都内では殆どない。追跡、逃走、緊急時に限ってそれ以上の速度で走る必要があり、稀にスピードを早めさせて貰う事があるが、少なくとも「左翔太郎」の姿のままで60km/h以上出す事は滅多になかった。
 今、この移り変わっていく港の景色をぼんやりと見つめながら、翔太郎はそんな普段の自車と比べた速度の低さを感じ取っていた。感じているのはおよそ30km/hの速度。非常にゆったりとしている。ダミードーパントとしての限界速度なのか、翔太郎を気遣った為なのかはわからない。理由を考えるほど頭は働かなかった。
 レイジングハート・エクセリオンがダミーメモリで変身したこの贋作のハードボイルダーに今現在、翔太郎は載っている。彼女にガイアメモリの使用を注意する事もこの時はなかった。当然の指摘をする事さえ忘れるほど、彼の内心が一つの事に傾いていたのだ。

(フィリップ……)

 亡き相棒の事であった。
 一人の相棒の姿が黎明の空に蘇ってしまうのである。
 海岸線の向こうには、まだまだ何も見えないが、だからこそ死者の国があってもおかしくないようで、あの向こうを目指したくなる。手が届かない遠い世界だ。
 だが、本当に死人の顔をしているのは他でもない翔太郎だった。当分食べ物を受け付けそうにない渇いた唇は、舌で拭われる気配もなく、半開きの虚ろなまなざしは、どんな景色にも意識を傾けていないようにさえ見える。少し空いた口の中から、時折、バイクの揺れに従って小さな嗚咽が漏れるのが、辛うじて彼を生者にしていた。かつて、フィリップが一度いなくなり、あの長い一年が始まった時、彼は今と同じ顔を個室の鏡の前で見ていたはずだ。
 今はサイドミラー越し、たまにそれと同じ物が見えている。

「……」

 これでいよいよ、風都に帰る事が出来る仮面ライダーは、正真正銘一人になった。フィリップ、照井の二人の仮面ライダーは勿論、霧彦、冴子、井坂、大道、泉京水まで全員死んでしまった。
 この場では、人数は時間が経過するごとに確かに減っていく。
 合理性を考えるならば、──人間の命ひとつひとつは勿論、大切な物であるが、それ以上に──今の彼らはひとつの戦力という意味でも要される物であった。
 主催者たる何者かは、もしかすれば今のガドル以上という事も充分にあり得る。

(勝てるのか……?)

 翔太郎の頭には、ただ不安定で素朴な疑問。
 バットショットは帰ってくるだろうか。
 黒幕を倒したところで話は終わるのだろうか。
 もっとたくさんの仲間がいても勝てなかった相手より遥かに強い主催者を打倒せるのか。
 この物語で自分たちは自由と平和は掴みとれるのだろうか。
 そして──

(俺はもう仮面ライダーにもなれないが、──どうすればいい)

 ダブルドライバーは勿論、翔太郎の頭脳となるフィリップもいない、強化アイテムであるファングメモリもエクストリームメモリも破壊された、そして、利き腕を失った翔太郎は、これからもまともな行動にさえ支障を及ぼす。
 更にそれだけではない。翔太郎は自分自身がそんな現実に打ちのめされて精神的まで萎縮している事をはっきり自覚していた。癪だが、それに抗う気力さえ無い事がそれを証明していた。たとえ今、仮に誰が何を言おうと、翔太郎の奥底にある力が覚醒する事はないだろうというほどに、彼の中が暗い靄が展開しているのだ。
 到底、今の自分が戦える姿ではないのはわかっている。肉体的にも、頭脳的にも、精神的にも──それを認め切った時、彼の中に初めて、敗者の気分という物が舞い降りてきた。

 これからどうするべきか、というのが彼の中でもわからなくなってくる。
 あったはずの意志が小さくなっている──このままいけば完全になくなってしまうのは確かだ。
 焦りはあるが、抗う気力がない。いっそ死者の方が百倍楽に、何も考えずいられる。

(今の俺には……何も)

 左翔太郎という男が風都を守る事ができたのは、偏に仮面ライダーだったからである。
 だが、仮面ライダーという存在を構成する為の諸要素が取り除かれた今、翔太郎は仮面ライダーではなく、ただの不慣れな障害初心者だ。この時もまた、右腕は頭の帽子が飛ばないように抑えようとしていた。


871 : 三番目のN/ああ鳴海探偵事務所 ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 16:40:08 FXeu5Vcc0
 これでは、仮に精神的に落ち着きがあっても、一人の男としての活躍も望めない。
 右腕がなければ敵の顔面にストレートパンチを叩き込む事もできず、当然仮面ライダーダブルや仮面ライダージョーカーに変身できてもまともな戦いができない。
 自棄になって周囲に暴力を振るおうにも、右腕を振り降ろす事ができない。形のある空気が形のない空気を切るだけだった。

(──)

 この鬱屈とした感情が発散しきれずに、一度は苛立ちが脳内を支配する。
 殺し合い。
 その言葉通り、いずれ自分は脱落し、この殺し合いの終わりさえ見えないまま仲間たちの所へ逝ってしまうようなビジョンが見え始めた。
 しかし、それを抑え込むのにも疲れはじめ、だんだんと、彼は何も考えなくなり、また一段、気力を失っていく。

 レイジングハート・エクセリオンも、普段口うるさい魔導輪もその時、口を開く事はなかった。







 鳴海探偵事務所の中は、避難所と化していた。一人の男が起こした大火災で消えた街から、逃げるようにして生き延びた人間たちがそこで神妙な顔をしている。
 椅子やソファの数もここにいる人の数を考えれば全く足らず、片足を楽に崩して床に立つ者もいる。例によって、気を使った花咲つぼみや高町ヴィヴィオが数分前までそうだったのだが、今は沖一也や石堀光彦がその役割を担っていた。当然、大の大人の男が女子二名の気遣いに甘んじるわけにもいかない。
 事務所のデスクの椅子に躊躇なく座っているのが佐倉杏子だ。性格から来るある種の茶目っ気は、決してこの状況下で誰かを癒す事はなかった。

「さて、どうする」

 翔太郎を待つ間、鳴海探偵事務所内にいる彼らは、今後の行動方針を話し合っていた。勿論、翔太郎が辛い境遇に立たされている事は理解しているが、今後についてはなるべく早く決めなければならない。ここで燻っていても時間ばかりが進み、一層不利になるだろう。
 最終決戦は確かに近づいている。それに向けて、必要な準備を終えておき、最終決戦までの計画を立てておく。この島に残っている残りの問題も全て解決してから外に向かう予定である。
 それはとうに決めていた。

 チーム分けは四種類。
 D−5エリアに向かうのは花咲つぼみチーム。──美樹さやかを救うという目的で。
 図書館に向かうのは桃園ラブチーム。──巴マミを救うという目的で。
 クリスタルステーションに向かうのは涼村暁チーム。──戦力増強の目的で。
 ほか、なるべく翔太郎とともに待機する人間も数名欲しい。──休息場所や計画立案の目的で。

 なるべく平等な戦力になるよう、13人を4つに分けるのである。基本的には本人の希望を叶えるように行動する事になる。ただ、やはり融通を利かせ合う必要もあり、あまりすぐには誰かが口を開く事はなかった。
 少しだけ沈黙があった後、自然と誰かが口を開いた。

「おれはつぼみについていく。あかねさんも探さなきゃならねえし、動かねえわけには……」
「私はラブと行きます」

 響良牙と蒼乃美希が言う。殆ど同時だった。彼らの場合は、おそらく親しい相手と同じルートを選ぶ事を考えたのだろう。良牙は、天道あかねを捜す目的がある以上、積極的に移動しなければならない。美希は一日かけて再会した友人と、これからしばらくは一緒にいたいのだ。そして、その選択による不都合は一切起こらないと判断した。

「俺は暁と行く。電力源は俺の手にあるしな」

 暁の行く道には石堀光彦が続くようだ。一人が行けば、後は遠慮なく円滑に立候補が出る。
 クリスタルステーションに行くのは、三体の超光騎士の為だ。だが、超光騎士を動かすには高圧電流によって、一度起動させる必要がある。石堀が変身する仮面ライダーアクセルのエレクトリックの力によってそれを可能とする。
 他にも沖一也や響良牙などが電撃系の技を使う事ができるが、誰も挙げないならば早い内に安全なルートを目指したかったのだろう。だが、どうやら暁はそれでは不服なようだ。


872 : 三番目のN/ああ鳴海探偵事務所 ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 16:40:30 FXeu5Vcc0

「なんだよ、男と一緒かよ……」
「じゃあ、私も行きましょうか?」

 更にそこに続こうとするのは、高町ヴィヴィオであった。
 暁の言葉を真に受けたのだ。暁は残念ながらこの年代の少女に興味ナシという感じだが、不服な気分は少し和らいだ。多少雰囲気が和やかになると思ったのだろう、暁は彼女を歓迎するように能天気な笑顔を見せた。
 おそらくレイジングハート・エクセリオンもこちらの道を選ぶだろう、という算段がすぐに暁の中で組みあがっていたのもこの笑顔を構成する一要因だ。

「私は──」

 杏子は、こうして次々決まっていく中でも、まだ迷いがあった。
 ラブとつぼみが行きたい場所は、実質「おめかしの魔女」や「人魚の魔女」の居場所だ。
 その二体の魔女と杏子は知り合いだった。巴マミと美樹さやか──あの二人。

 かつての魔法の師匠、巴マミ。
 かつて対立した魔法少女、美樹さやか。

 どちらに行くべきか──。二つの魔女を順に倒していく時間はない。
 どちらにもそれぞれ、因縁があり、義理があり、未練がある。どちらかを選ぶという事は、どちらかを選ばないという事になってしまう。
 桃園ラブ、花咲つぼみの二名も、おそらくは杏子が一緒に来てくれる前提で計画を立てている事だろう。どちらかを選ぶと同時に、そうでない方を裏切るのが「選択」なのだ。

 悩んだ後で、杏子は言った。

「──悪い、つぼみ。私はラブと一緒に行く」

 つぼみに謝りながら、杏子は自分が行く道を伝えた。このままマミと会った人間がいなければ当然、つぼみと一緒に行く予定だったが、ラブに会った今はそうもいかない。
 しかし、つぼみは何となく察したのか、黙って頷いた。恨み顔をしているようにも見えるが、むしろ事情を解したうえで、自分自身で成し遂げようと言う決意ある顔だった。
 自分自身で成し遂げる──あるいは、それも一つの正しい道だった。
 杏子が来るか、来ないかという選択が、またこの先、運命を変えていってしまう事など、気づきもせず、ラブとつぼみは杏子の選択を歓迎した。

 しかし──

「ねえ、きみは何でそう深刻そうに道を選んだのかな?」

 零が首を傾げつつも、杏子の腹の内を探るように笑って訊いた。
 杏子は、見透かされたような意思を感じ、一瞬で機嫌を損ねた。

「あ?」

 眉間に皺を寄せて零の方を見る杏子に、零は相変わらず笑顔を崩さなかった。杏子にとっては、世界で最も邪悪な笑顔に見えるかもしれない。
 重大な秘密を暴かれるのではないかという不安が杏子の脳裏を掠めた。
 この男の髪先に視線を合わせると、零の方は強引に視線を合わせてくる。その視線をまた弾いた時、零は訊いた。

「二人がやりたい事って、結局何なんだ? 魔女を倒すって言ってるけど、今の様子だと、なんだか、只事じゃないね。……そっちの事情はずっと俺たちに黙っているつもりかな?」

 この中で、杏子の隠している事を気にしているのは零だけのようだ。他の人間は問い詰める事もなく、零を止めるのでもなく、もしこれが機会になれば話してほしいとばかりに黙ってその様子を見つめていた。

「……」
「どう?」

 零は、同じく秘密を抱えているだろうラブやつぼみにも視線を送ったが、それぞれ目を逸らした。
 そんな様子を見て、零が、やれやれ、と嘆息しながら言った。

「……わかった。誰も答えないなら、俺もついていく事にしようかな」

 何とかお茶を濁そうとする杏子に、零はそう勝手に決めた。
 騒めくギャラリーを代表して、杏子が焦燥した様子で答える。

「はぁ!? ちょっと待てよ。時空魔法陣とかいう物の管理はあんたしかできねえんだろ!?」
「どうせ、行ける場所なんてもうそんなに残ってない。破壊された施設には時空魔法陣を発動できないんだ。たとえば、図書館の近くに行くにも、肝心の図書館、教会、風都タワーは全壊。更に言うなら、三人で行くには遠すぎる。村エリアにある車を使っていくのが一番の得策だから、運転できる人間が必要になる。きみたちは運転できる?」


873 : 三番目のN/ああ鳴海探偵事務所 ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 16:41:04 FXeu5Vcc0

 佐倉杏子、桃園ラブ、蒼乃美希の三人だけで行くには、遠すぎるのだ。
 村からそう遠くないD−5エリアや、時空魔法陣で移動できるクリスタルステーションはともかく、この距離の移動が徒歩であるのは難しい。
 ましてや、女子中学生だけ三人というのは無理に決まっている。

「それなら、孤門さんをそちらに向かわせるべきです」

 横から口を挟んだのはつぼみであった。
 零は意表を突かれたようにそちらを見た。

「え?」
「涼邑さんは、私たちについてきてもらえませんか?」
「どうしてかな……」

 零がそれを口にしながらも、なるほど、すぐに意図を理解した。

「……そうか。戦力バランスの問題か」

 もし零が杏子についていくと、魔女を退治にしに行く二チームの戦力差が激しくなるのである。
 ラブチームが、ラブ、美希、杏子、零。つぼみチームが、つぼみ、良牙、孤門。

「涼邑さんは杏子の意図がわからないみたいですけど、私についてくれば、杏子が何をしたいのかもわかります」
「だが、戦力バランスの沖さんを連れてくればいい」
「それも駄目なんです」

 つぼみは、何となくこの場の様子を見て一也が一言も話さない意図も理解していた。
 決して、他の人間に行き場を譲るつもりで黙っているわけではない。自ずと余り物になるこの「待機」という選択肢を考えているのだ。
 それは、戦いたくないからでも、休みたいからでもなかった。

「だって、沖さんは、結城さんの腕を翔太郎さんに移植するつもりなんですから」

 そう、左翔太郎の右腕が損失されたとしても、ここには丁度、おあつらえ向きの「右腕」が残っていた。誰もがその移植について一瞬考えただろう。ただ、それを口にしないのは、科学や医学に一切詳しくない人間には、それが現実性のある話なのかわからないからである。しかし、少なくとも科学の方面で一定の理解がある一也が思案しているという事は、アタッチメントの再移植は可能かもしれないという事だ。

「……その通りだ。しかし、実際に翔太郎くんの姿を見ない事にはどうにもならない。どのくらい損失したのかによって、アタッチメントを取り付けられるかどうかも変わる」
「……」
「ともかく、俺は向こうに着いたら、翔太郎くんの為に最善を尽くしてみるつもりだ」

 机上に置いてある鋼の右腕を見つめながら、一也はそう言った。
 零はそんな彼の様子を見て、考え直す事にした。杏子が隠しているらしい何かは、つぼみについていけばわかるという事である。それはおそらく間違いない。
 戦力バランスを考えても、零が行くべき道は一つだろう。

「なるほど……。それじゃあ、仕方ないな。ほら」

 零が魔戒剣を翻した。つぼみに向けて魔戒剣の柄を向け、つぼみに向けて押し出す。
 咄嗟につぼみはその柄を掴む。どっしりとした重みのある鉛のような剣で、つぼみは思わず手を放してその剣を落としてしまった。音が鳴るも、地面から跳ね返る事もなく、重量級の物体が地面に落ちたのを感じさせた。

「あ、すみません……!」

 慌ててつぼみはその剣を拾おうとするも、そのあまりの重量に、持ち上げる事ができなかった。その様子を見て、零は憂いの瞳で言った。

「やっぱり制限なんてかかっていなかったのか」

 前に、ソウルメタルの重さについて結城丈二と語らった事がある。
 あれは並の心の人間には持てない材質である。──いや、仮に常人の中でそこそこ精神の強い者でも、ソウルメタルを持ち上げる事は難しい。
 しかし、結城は軽々と持ち上げた。それは、あの義手の力でもあり、結城のこれまでの仮面ライダーとしての長い戦いに依る所があったのだろう。


874 : 三番目のN/ああ鳴海探偵事務所 ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 16:41:28 FXeu5Vcc0

「こ、こんな重い剣で戦ってるんですか……」
「それはソウルメタルで作られた剣だ。心の持ちようで重さを変える。普通の人間じゃあ到底持てない。俺や鋼牙みたいに鍛えた人間じゃないとな」
「そ、そうなんですか」
「だが、結城さんはその右腕で確かに持ち上げて見せたんだ。きっとこれからも俺たちを助けてくれる。その右腕を絶対に無駄にするなよ」

 一也は、その言葉に頑健な顔で頷いた。







(帰って来た……いや……)

 左翔太郎は鳴海探偵事務所の前まで来ていた。

(違うな……)

 鳴海探偵事務所という場所に辿り着いたとしても、それはただ彼を辛くするだけであった。眼前の「かもめビリヤード」という立札がこんなにも寂しく見えるのは、果たして何度目か。
 鳴海壮吉が死んだ時も、フィリップが地球の記憶と同化して姿を現さなくなった時も、左翔太郎はこの看板を無意識的に見上げたかもしれない。いや、厳密には彼はその看板を見ようとして見ているのではなく、顔を上げると偶然視界に入ってしまうだけだったのだが。

「……はぁ」

 吐息は溜息となった。
 思わず、殺し合いの事を忘れてこの探偵事務所こそが自分の暮らした場所であるように感じて安心したが、その思いはすぐ、勝手に取り払われた。考え直してみれば、この鳴海探偵事務所は、これほど精巧に似せてあるというのに、全く別の物なのだ。
 レイジングハートは、並んでいるバイクや自転車の横に自ずと駐車されたが、この事にも翔太郎は気づかなかった。自分が二輪車扱いで駐車されている事を言いだせず、仕方なく、ハードボイルダーの姿から再び元の姿に戻り、レイジングハートは翔太郎に訊いた。

「大丈夫ですか?」
「ああ」

 レイジングハートの気遣いは翔太郎には無用だった。彼が精神的に成熟しているからではなく、どんな言葉や気遣いも耳にかからなくなるほど未熟だったからである。
 横顔は何かに苛立っているように見えた。あまり話しかけて気分の良い相手ではなさそうだと、はっきりわかる。しかし、放っておいていいものか、それもわからずただただ言いようのない気まずさを感じていた。

「心配するな」

 その言葉が、却って心配を煽る。全く、心配させない気のない「心配するな」の言葉であった。

「──」

 その様子を見て、ザルバは意識的に口を閉ざした。翔太郎に対する失望があり、翔太郎に感じた共感やちょっとした思い出を口の中に仕舞い込むと、ザルバは暫くただの指輪になる事にした。
 翔太郎が抱えているのは人間らしい弱さではあるが、戦士としてはあってはならない弱さである。きっと魔戒騎士には絶対になれない男だ。

 翔太郎、レイジングハート、ザルバ──相棒を失った三人であるが、彼らは亡霊のようになりながらも半ば習慣的に事務所のドアへ向かっていく翔太郎の後を追った。
 まだ雨音は鳴りやまず、彼らを濡らし続けていた。雨は布で厳重に止血されている翔太郎の腕にも沁みた。






875 : 三番目のN/ああ鳴海探偵事務所 ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 16:41:50 FXeu5Vcc0



 丁度、午前4時ごろだろうか。
 それぞれが落ち着いていたところに、左翔太郎は入って行った。
 翔太郎は、ドアの向こうの芋洗い状態の事務所の様子に、どこか幻滅したような表情を見せた。フィリップや鳴海亜樹子はそこにはいない。賑やかよりも、もう少し空っぽの方が良い。ずぶぬれの翔太郎を迎えたのは、この戦いを終わらせるべく思索を巡らせている男女だ。──それが、残念に思えた。
 眠りこけている者もいる。──いや、気を失っているのだろうか。
 翔太郎も眠りたかった。

「翔太郎くん……」

 入るや否や、誰もが驚愕した表情で翔太郎を見つめていた 。
 隣にいるべき男がなく、そこにあるべき腕がなく、目は輝きを失い、雨に濡れたまま現れた翔太郎──その風貌は、つい数時間前まで笑い合っていた翔太郎とは別人だった。
 気力そのものが抜け落ちているというか、まだ落ち着けないというか……誰もがその変貌を見抜いたのは言うまでもない。
 気障な台詞ひとつ出てこず、歩く時のよろけた仕草も一目に格好悪い。

「よう……帰ったぜ……」

 翔太郎は、強がるようにして言った。いつもなら、少しは軽い印象を与える工夫をするはずが、今日は全く無気力でそうした工夫さえ見せる様子がなかった。口から言葉を吐き出しただけで、意味を込めて伝えようとする言葉ではなかった。彼が歩けば、事務所の床は一瞬で水たまりを作る。自分の事務所だからどうでもいい、という感じだろう。
 すぐにでも倒れてしまいそうな彼を、真後ろでレイジングハート・エクセリオンが支えた。思った以上に水を吸っている彼は、レイジングハートの腕にも重かった。

「……?」

 レイジングハートの顔を見て、そこにいる誰もが不審げになった。
 それが誰なのか、他の誰もが知らない。変身を解いた状態の彼女を見た者は誰もいなかったのだ。それに気づいて、慌ててレイジングハートは言う。

「そういえば、この姿では自己紹介をしていませんでしたね。私はレイジングハートです」
「あ、ああ……君が。こりゃあまた随分」

 彼女はまだ、自分の姿をはっきりと鏡に映していなかった。鏡は事務所にいくらでもあるはずだ。後でどうにかしたい。
 自分の姿を全く知らないままこんな自己紹介をするのも変だったが、それぞれ納得したようだった。

「……さて、翔太郎くん。これからチームを四つに分ける」

 一也が口を開いている間に、つぼみが自分の座っていたソファをどいて、翔太郎に席を譲った。ソファが水を吸って、そこだけ少し濃く色を変えてしまう。
 石堀がタオルを投げたが、翔太郎はそれを手に取らなかった。頭の上に不恰好に乗せられたタオルに触れる者は誰もない。だが、そのまま一也が続けた。

「F−5エリアに向かう花咲つぼみチーム、図書館に向かう桃園ラブチーム、クリスタルステーションに向かう涼村暁チーム、そして村エリアに留まる人間だ。……君は待機でいいか?」

 翔太郎は、黙って首を縦に振った。
 できるのならこの懐かしい事務所に留まりたいと思ったが、そうも行かないのが辛いところだ。辛うじて、そんな駄々をこねないほどには仮面ライダーの使命を抱いていた。
 大人になった以上、どうしても出てくる癖だ。自分の我が儘を周囲には言えない。

「ああ、俺は待機でいい。……変身もできねえし、これじゃあ役に立たねえしな」

 ただ、役立たずになってしまった自分を自嘲する言葉は自ずと吐き出された。
 変身アイテム、相棒、腕を一片になくした翔太郎は、今後の戦闘で自分が役に立たない事を重々自覚し、それが周囲に迷惑をかける可能性まで見えているのだろう。
 その反応は、一也の予想通りである。厳しい事を言うが、今の彼は周囲から見ても役立たずであった。だからこそ、「待機」という選択肢の中に最初から翔太郎を入れていたのだ。

「──ッ!」


876 : 三番目のN/ああ鳴海探偵事務所 ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 16:42:15 FXeu5Vcc0

 奥で、杏子が奥歯を噛み、怒りの表情を見せたが、それを言葉にするのは誰もが控えた。こうも予想通りに動くほど底の浅い男だと、杏子は思っていなかっただろう。これまでの私淑の感情を裏切られたような、そんな気持ちだった。
 勿論、そうして待機してくれていた方が都合の良い事は変わらない。しかし、怒りを抑えるのを必死にした。
 電話越しに要件を伝えたあの時よりも、きっと様々な思い出を反芻した。あの時聞こえた喉から干からびたような声の主は、身も心も骨のようになっていた。それが怒りに繋がってくる。
 そんな杏子の顔に気が付いたのは、ただ一人、蒼乃美希だけだった。
 響良牙も、黙って翔太郎の顔を見て、舌打ちしたい衝動を抑え込んだ。







 翔太郎は、そのすぐ後にはバスルームにいた。
 この鳴海探偵事務所には、普段フィリップが住んでいた。トイレやバスルームもちゃんと設置されており、一応翔太郎もその場所は知っていた。
 全身ずぶぬれ状態だった翔太郎は、自分の先ほどの疲れを洗い流していた。
 右腕の先は布で覆われているが、この先を見ればおそらくは断面があるのだろう。このまま血を出さないよう、右腕を避けて冷水でシャワーを浴びた。
 頭から被る冷水は、彼の頭の中身まで冷やしてくれる事はなかった。

(くそ……)

 自分の無力が地面に幾重も叩きつけられているようだ。
 鳴海探偵事務所内には、ちゃんと衣服も残されてあったが、どれも「右腕がある」と仮定したうえでのものだ。
 中にはフィリップの服もあった。もう誰かが着る事はない。──以前も、そういえばそんな感慨とともにフィリップの服を漁った気がする。

「……っ」

 こうして頭から水を被ると、やはり涙は流れてしまう。
 隠す事ができる場所。男が一人でいられる場所。そこに立つと、やはりしばらく我慢していた物が再び流れ出てしまう。

「フィリップ……!」

 翔太郎の嘆きの声がバスルームに響く。
 大丈夫だ、ここには誰もいないはずだ。

『……おい』

 しかし、バスルームの外の脱衣所から、靄がかかった声が聞こえた。

『あんたはもうこれ以上、戦う必要はないと思うぜ。後はおれたちに任せろ』

 聞こえるのは、響良牙の声だ。
 彼は、トイレに向かっていたはずが、どうやら全然見当違いの場所に来てしまったらしい。
 しかし、一応脱衣所になっている場所に来たので、これを機会とばかりに服をデストロン戦闘員スーツから元の服へ着替えていた真っ最中だった。
 着替え終わった後で、翔太郎の嗚咽と嘆きが聞こえてきたのだ。

 良牙も本心ではない。
 どこか苛立ちはある。しかし、それでも彼は、腕がない彼が戦う辛さや、友人を喪った翔太郎の悲しみを理解し、何とか汲んでやるつもりだった。

「……」
『ただ、一人機嫌を損ねてる奴がいる。……そいつには気をつけな』

 そう気障に言い残して、良牙はその脱衣所から消えていった。
 少し恥ずかしいところを見せてしまった気持ちで、翔太郎はしばらく黙っていた。
 良牙は、その後、事務所の外で、慌てて良牙を探しに行ったつぼみによって保護された。






877 : 三番目のN/ああ鳴海探偵事務所 ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 16:42:34 FXeu5Vcc0



「さて、首輪は解除した。これで君ももっと自由に動けるよ」

 沖一也が、レイジングハートに言った。彼は、鏡台の前でレイジングハートの首輪を解除したのだった。既に首輪解除はお手の物といった感じだろう。
 しかし、レイジングハートは構わず、ずっと鏡台の方を見つめていた。
 そこで、一也からはアクマロやノーザの話を聞いていた。いずれも、既に倒された事になっているらしい。

「ありがとう、ございます……」

 初めて、はっきりと見た自分の顔立ちは、浮かない顔という他なかった。
 目の前にある鏡台は、光を吸収してレイジングハート・エクセリオンの今の顔を見せてくれている。月下の湖で見た自分の姿よりも数段、はっきりとその憂いの瞳に色を灯していた。
 生まれたての体であるゆえか、皺や浮腫みもなく、誰かに傷つけられる事もまだない可憐な姿をしているのだった。
 鏡に映った自分の姿に、レイジングハートは特別歓喜するでもなく、「こういうものか」と受け入れていた。
 上手に喜ぶ事もできず、安易に人前で喜べる状況でもなかった。

「うーん……」

 真横で唸るのは高町ヴィヴィオである。脳内の混乱が拭い去れないようだ。額の冷や汗と苦笑いは何か言いたげだが、何も言えないから唸り声だけが漏れたのだ。
 こうしてレイジングハートが非人から人間になったというのは、喜ばしい話なのか、否なのか。当人でさえ理解していないところに周囲がフォローできるわけもない。
 彼女の唸り声が耳をすり抜けた後で、レイジングハートはおもむろに立ち上がった。
 そして、そのまま彼女の瞳が見たのは、涼邑零であった。

「俺に用かい」
「ええ」
「バラゴの事だな」
「その通りです。私の前では、龍崎駆音という名前を使っていましたが」

 当然ながら、零に対する用事はバラゴに関わる話である。
 先ほどから魔戒騎士とレイジングハートの間で巻き起こっている認識の祖語に回答を求めたい所だったのだ。
 いや、あくまで、もっと中立な観点から彼を知りたいだけだったのかもしれない。

「奴は俺の父を、妹を殺し、俺の家族を壊し……それから鋼牙の父親も殺した魔戒騎士だ。俺は、それ以上は知らない」
「……しかし、駆音は確かに私を庇って死にました。悪い人とは思えません」

 レイジングハートの言葉に、零は眉を顰めた。まるで別人の話をしているような違和感を覚えたのだ。仇を擁護される事に腹が立たないのも、その違和感がストッパー代わりになっていたからであり、レイジングハートのバラゴ像がもう少しでも零の知るバラゴに近かったら、零は機嫌を損ねただろう。
 当然ながら、零はバラゴのまっとうな人間の部分を一切知らない。何故闇に堕ちたのか、その経緯も何も知らない。だからこそ、零の中でのバラゴのイメージは邪悪な鎧の怪物と同義な物に成り果てていた。仇、以上の情報はない。

「でも、同じように、誰かを庇って死んだ人がこの場にいます。それは、冴島鋼牙です」

 零が恨みの瞳でレイジングハートを凝視したのは、その言葉を聞いた時だった。零の表情には気づいたが、彼女は続ける。

「私の推測ですが、それが魔戒騎士の宿命なのでしょう。たとえ、あなたの言うように闇に堕ちたとしても、守るべき物がきっと彼にもあった」
「……俺の前でバラゴを擁護するな」

 零を苛立たせる事になる決定打といえば、今の一言であった。
 魔戒騎士というキーワードと同時に、バラゴと鋼牙を結び付けた今の一言が、零にとっては不愉快だったのだろう。

「──わかりました。いずれにせよ、本人はもういません。あなたにとって仇で、私にとって恩人である。しかし、私とあなたは、今は仲間である。それ以上の答えは出ないかもしれません」

 これ以上バラゴの正体を掴もうとすればするほどに、きっと二人の間に生まれる溝は巨大になるだろう。その果てにバラゴがいかなる人物なのか浮かび上がる事もない。
 このまま水を掛け合っても仕方のない話だと、早々に自己解釈を諦めた。

「ああ、俺はそれでいい。あんたがあいつをどう思おうが、俺には関係ないしな。それでも俺は憎み続ける。きっと」
「……」
「それでいいだろ。俺はバラゴは嫌いだが、あんたは好きだ。綺麗だぜ、あんた」

 そう茶化すと、零は薄く笑ってそっぽを向いた。
 これ以上の対話を拒否しているのをはっきりと示していた。






878 : 三番目のN/孤門、目覚める ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 16:43:08 FXeu5Vcc0



 その後、すぐに孤門一輝が目を覚ました。
 孤門は、一度周囲をきょろきょろと見回して、そこが燃える街中でない事に気づいた。
 かと言って、脱出に成功したわけでもなく、そこには他にもたくさんの参加者がいた。
 なるほど、ガドルから逃げ去る事にだけは成功したらしいと、孤門は悟った。ただ、部屋の中にある異様な雰囲気も感じていないわけではない。

「……美希ちゃん、ここまでの状況を説明してくれる?」
「え、ええ……」

 共に行動していたのは美希、または杏子だ。彼女らのいずれかに状況を聞くのが手っ取り早い。そして、落ち着いて信頼できる情報を提供してくれる相手としても、親しい相手としても、真っ先に美希に訊くようにしたのである。
 ただ、美希がどうにもそれを言うのを躊躇っているのを見ると、また誰か犠牲者が出てしまったような感じがした。
 予感は的中した。

「あのバラのタトゥの女の人は、倒しました。それに一応、ガドルを倒す事にも成功したけど……」
「二人、死んだ。フィリップの兄ちゃんと、鋼牙の兄ちゃんだ」

 美希が言うのを躊躇った箇所を、杏子が横からさらりと言ったのだった。
 そうして言ってしまうのは、やはり杏子の中のストレスをぶつける掃き溜めがどこにもなかったからだろう。
 杏子の中では、孤門に詳細に情報を教えたい気持ちよりも、翔太郎を横目にした苛立ちの方が強く、一瞬でも何かを翔太郎の胸に響かせようと思ったのだ。あれでは、何にも心を動かさない人形のようである。──せめて、フィリップの死の事実が思い出される辛さでも何でもいいから、その人形に吹き込もうと思ったのだ。

「そうか……」

 ふと孤門が目を向けた先には、項垂れて顔の見えない翔太郎がいた。彼の右腕がないのは、新しい着替えの服の先が細く垂れ下がって力なく揺れている事からもよくわかった。
 それに驚きながらも、自分が意識を失っている間に人が死ぬ激戦が繰り広げられていた証としてそれを呑み込んだ。
 孤門の頭は冴えなかった。やはり、近くにいた人間が死ぬのは寂しい物である。
 ただ、やはり涙を見せるのは却って怒りを買う行為だった。本当に悲しんでいる人間が他にいくらでもいる以上、孤門は確実に冷静さを持って対処しなければならなかった。

「孤門、教えてくれ。これからの作戦についてだ」

 石堀が横から問うた。
 それを聞いて、孤門はずっと前に作戦を聞かれていた事を思い出す。あの時は確か、フィリップもいたはずだが、今はいない。切り替えなければならないようだ。
 一人で説明する事自体の気が重くなるが、孤門は返事をした。

「はい。……わかりました」

 気は進まないが、仕方がない。
 孤門は石堀の方に言葉を返した。

「バットショットの映像をもとに、敵の居場所を探ります。この島の外がどうなっているかはわからないけど、人が住んでいたらコンタクトを取る。その可能性は低いみたいですけど、もし、誰も住んでいないとしても、おそらく相手は島の外にいる可能性が比較的高いですから」
「異世界からこちらを眺めている可能性は? 俺たちはそれぞれ、異世界から連れて来られたんだ。敵もこの世界にいるとは限らない」


879 : 三番目のN/孤門、目覚める ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 16:43:24 FXeu5Vcc0

 この世界そのものが隔離されている可能性だって否めない。
 その場合の対策方法は、それこそ時空移動を何とかして行わなければならなくなるわけだ。時空管理局や世界の破壊者などの外部からの助けを待つしかなくなる。
 それまでどれだけ待てばいいだろうか。
 もしかすればそれは果てしない事かもしれないので、当面は主体的に脱出を行わなければ話にならない。

「それについては、僕たちの知識では何もわかりません。ただ、この世界にいる可能性の方が高いと思います。主催側がホログラムを送ったり、参加者外の存在をよこしたり……そんな事って、同じ空間にいないとできないと思いませんか? 別の場所からそんな影響を与える事ができとは到底思えない──」
「確かに。妙に高等なやり方だな」

 異世界移動の大変さをよく知っている石堀も納得する。
 外部からこの殺し合いを運営するのはほぼ不可能だろう。
 そう口にしたところで、横から涼邑零が口を挟んだ。

「待ってくれ。結城さんと俺の前には、一度ニードルが現れて言ったんだ。この島の外には何もないって……」
「何だと? 初耳だぞ」

 自分たちの前に現れたニードルに言われた言葉を零は思い出したのだ。

「でも、仮に何もないとしても、島の外を探っておく必要があると思うんです」

 孤門は一也、フィリップらと決めたある程度の算段を崩す気はなかった。
 一也もそうだ。横で孤門を見つめている目には、孤門に対して口を挟む様子は一切ない。あくまでその瞳からは賛同の意思を発信している。ニードルの言葉よりも自分たちの作戦を信じる気持ちが強いのだ。

「少なくとも、他世界とこちらとを繋ぐ場所がどこかにあるかもしれません。そうなると」
「なるほど。やっぱり島の外に手がかりがある可能性が高いわけか」
「そうです。あとは、こちらも飛行手段や船を使って外部に出る。結界魔法がかかっていた場合はヴィヴィオちゃんや、それからレイジングハートが何とかできるはずです」

 当初の作戦では、ヴィヴィオの魔法を使って結界魔法をどうにかする他ないとの事だったが、レイジングハートも加勢した。
 これで、更に強い魔力がこちらに加えられ、一人にかかる負担は小さくする事ができる。

「もしウルトラマンの力に制限がかけられていなければ、……あ、又は、ウルトラマンの力の制限を解除する事ができれば、それを使って外に出るのが一番良い手だと思いますけど」
「……」

 零が思案する。もう一度、ニードルの言葉を思い出してみる事にした。
 孤門の作戦はこの島から外に出られる事を前提にしているが、それが果たして可能なのか、考え直してみたいのである。

『……そういう段階に来ているという事ですよ。いずれにせよ、あなたたちはこの島から外へは出られない。外には何もありませんし、どこへも行けません。強いていれば、そう、禁止エリアが使用できなくなるだけでしょうか。とにかく、最後の一人が決まるまで、あなたたちは囚われたまま……聞きたい事はそれだけですか?』

 改めて考え直すと、正確にはニードルの言葉はこうだ。
 気になるのは、『島から外には出られない』、『外には何もありませんし、どこへも行けません』という言葉であった。
 これは、もしかすると、首輪以上の制限がどこかに存在するという事ではないだろうか。

「──島から外には出られない、外には何もないしどこへも行けない、というのがニードルの言葉だ」
「それは、ハッタリか、それとも真実か」
「バットショットは今のところ、問題なく外へ進んでいるみたいです。外へ出る事自体は可能みたいですね」

 孤門はバットショットの映像を特殊i-podで確認して伝えた。
 バットショットから送られる映像は、まだ一面の汚い海を映している。外は一応、晴れているのがはっきりと見えた。

「だとすると、やっぱりハッタリなのか?」
「だが、牽制したところで意味はない。一概にハッタリとは言えないかもしれない」
「外がこのまま海に囲まれていて、行く場所がないという意味かもしれない」


880 : 三番目のN/孤門、目覚める ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 16:43:46 FXeu5Vcc0

 最後の案が確かに一番近い。
 外部に何かの施設を作る意味はないのだ。
 いや、だとすると……。

「海底、宇宙、地下。──そのどこかに、敵の基地があるのかも」

 孤門の言葉で、全員がぎょっとした。
 どれも突飛な言葉にしか思えない。だが、この主催者ならばやりかねないという感じだ。

「なんだよ、灯台下暗しってやつか」
「可能性が一番高いのが宇宙なのが恐ろしいところだな」

 携帯電話の電波はマップ内に中継地がない以上、衛星を通じて発信されている可能性が特に高い。だとすると、本当にこの外の宇宙のレベルである可能性も否めないだろう。

「確かに外惑星である可能性も一つだが、……おそらく加頭たちはこの星にいるだろう」

 一也が口を開いた。
 そういえば、実体として現れている主催陣がいる。ホログラムだけならばともかく、実体として出現するにはそれなりの時間もかかるはずだ。
 この会場に来る前にいたあの広間もどこかにあるはずであり、わざわざ外惑星からこの星に持ってくるのも妙な話である。

「奴らに訊くのが一番か。脅し取るしか手はない」

 石堀が嘆息した。

「しかし、首輪がなくなった現在も、おそらく相手はこちらを監視しているはずだ。だが、作戦を全て包み隠さず報告しても妨害が一切来ない。相手も対策を練るのでは?」
「……確かにそうですけど、向こうはここまで全然妨害して来てません。妨害をするなら、おそらく首輪を解除した時点で来るでしょうし、きっとまだ考えや対策があるはずです」
「それもそうだな。俺たちはその上を行って余裕を崩してやればいいってわけか」

 石堀は一応、孤門の考えた方針で行こうとは思っていた。
 成功率は最初から低い物として見ている者が多数だろう。ただし無理ではないという希望に賭けている者ばかりだ。
 駄目で元々、という消極的な言い方もできる。
 この殺し合いを運営する存在が自分たちより遥かに高度な技術を持っている事を知りながら、それに抗おうとする意思ばかりはひたすらに強い。
 ……石堀もまた、絶望の力でそれを成そうと考えている真っ最中であった。

(ダークザギの力が発動すればこちらの物だ。ウルトラマンだけじゃない。ここにいる全員の力を奪って俺の力にすれば、ゲームクリアだ──)

 ウルトラマン、プリキュア、仮面ライダー、シャンゼリオン、etc etc……。
 彼らの力をそのまま己の力と成す事も不可能ではない。レーテまで辿り着いたなら、その時石堀は最強に変わるのだ。
 時期はまだ早い。
 全ては、「あいつ」に力が渡ってからの話だ。







 ガイアセイバーズは、鳴海探偵事務所の時空魔法陣の前まで来ていた。
 設定的には、今のところ全員この時空魔法陣で移動する事ができる。参加者の殺害数も使用上限も調整されており、誰も引っかからない仕組みだ。
 ソルテッカマン1号機改が設置されているのを孤門が見つめる。これには酷い目に遭った、とでも思っているのだろう。

「……さて、準備はいいな?」

 涼邑零が全員に声をかけた。
 鳴海探偵事務所をこれから離れ、村エリアへと向かうのである。
 その後は時空魔法陣の移動先はクリスタルステーションに設定される事になるため、忘れ物があると取りに行くのが面倒になるだろう。
 ただ、誰も忘れ物がないのは明らかだった。

「いくぞ!」

 零が掛け声とともに、時空魔法陣に飛び込んだ。
 零の姿が光に飲まれ、眼前で消えていく。
 それを見て、殆どの仲間たちが恐怖さえ覚えたが、すぐに全員息を飲んでこのテクノロジーへの恐怖を振り払った。
 孤門たちは零に続いた。


881 : 三番目のN/孤門、目覚める ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 16:44:29 FXeu5Vcc0



【2日目 早朝】

【ガイアセイバーズ】
※魔女に関する事、翔太郎・フィリップ間の考察以外のほぼ全部の情報を共有してます。

【ガイアセイバーズ全体の行動方針】
1:時空魔法陣を使って村エリアに移動する。
2:零による管理で時空魔法陣を作動。4つのチームに分け、それぞれ、「D−5」、「図書館」、「クリスタルステーション」、「待機」で行動する。
3:必要ならば、少し休む(睡眠はそんなに摂れませんでした)。
4:場合によっては相互通話。たまにバットショットから送られてくる映像も確認する。

【共有支給品(隊の分け方にもよってどれを所持するか変わります)】
ショドウフォン(レッド)@侍戦隊シンケンジャー
スシチェンジャー@侍戦隊シンケンジャー
特殊i-pod@オリジナル
(リンクルンなどの一部アイテムはまだ通話機能が生きていません)

【G−10 鳴海探偵事務所】

【孤門一輝@ウルトラマンネクサス】
[状態]:ダメージ(大)、ナイトレイダーの制服を着用、精神的疲労、「ガイアセイバーズ」リーダー、首輪解除
[装備]:ディバイトランチャー@ウルトラマンネクサス
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2(戦闘に使えるものがない)、リコちゃん人形@仮面ライダーW、ガイアメモリに関するポスター×3、ガンバルクイナ君@ウルトラマンネクサス
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:みんなを何としてでも保護し、この島から脱出する。
2:ガイアセイバーズのリーダーとしての責任を果たす。
[備考]
※溝呂木が死亡した後からの参戦です(石堀の正体がダークザギであることは知りません)。
※パラレルワールドの存在を聞いたことで、溝呂木がまだダークメフィストであった頃の世界から来ていると推測しています。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※魔法少女の真実について教えられました。

【蒼乃美希@フレッシュプリキュア!】
[状態]:ダメージ(中)、祈里やせつなの死に怒り 、精神的疲労、首輪解除
[装備]:リンクルン(ベリー)@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式((食料と水を少し消費+ペットボトル一本消費)、シンヤのマイクロレコーダー@宇宙の騎士テッカマンブレード、双ディスク@侍戦隊シンケンジャー、リンクルン(パイン)@フレッシュプリキュア!、ガイアメモリに関するポスター、杏子からの500円硬貨
[思考]
基本:こんな馬鹿げた戦いに乗るつもりはない。
1:ガイアセイバーズ全員での殺し合いからの脱出。
[備考]
※プリキュアオールスターズDX3冒頭で、ファッションショーを見ているシーンからの参戦です。
※その為、ブラックホールに関する出来事は知りませんが、いつきから聞きました。
※放送を聞いたときに戦闘したため、第二回放送をおぼろげにしか聞いていません。
※聞き逃した第二回放送についてや、乱馬関連の出来事を知りました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。


882 : 三番目のN/孤門、目覚める ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 16:44:56 FXeu5Vcc0

【沖一也@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、強い決意、首輪解除
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2、ガイアメモリに関するポスター、お菓子・薬・飲み物少々、D-BOY FILE@宇宙の騎士テッカマンブレード、杏子の書置き(握りつぶされてます) 、祈里の首輪の残骸
[思考]
基本:殺し合いを防ぎ、加頭を倒す
1:本郷猛の遺志を継いで、仮面ライダーとして人類を護る。
2:仮面ライダーZXか…。
[備考]
※参戦時期は第1部最終話(3巻終了後)終了直後です。
※一文字からBADANや村雨についての説明を簡単に聞きました
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました
※18時に市街地で一文字と合流する話になっています。
※ノーザが死んだ理由は本郷猛と相打ちになったかアクマロが裏切ったか、そのどちらかの可能性を推測しています。
※第二回放送のニードルのなぞなぞを解きました。そのため、警察署が危険であることを理解しています。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※ダークプリキュアは仮面ライダーエターナルと会っていると思っています。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はレーダーハンドの使用と、パワーハンドの威力向上です。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。

【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:上半身火傷(ティオの治療でやや回復)、左腕骨折(手当て済+ティオの治療でやや回復)、誰かに首を絞められた跡、決意、臨死体験による心情の感覚の変化、首輪解除
[装備]:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはシリーズ、稲妻電光剣@仮面ライダーSPIRITS
[道具]:支給品一式×6(ゆり、源太、ヴィヴィオ、乱馬、いつき(食料と水を少し消費)、アインハルト(食料と水を少し消費))、アスティオン(疲労)@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ほむらの制服の袖、マッハキャリバー(待機状態・破損有(使用可能な程度))@魔法少女リリカルなのはシリーズ、リボルバーナックル(両手・収納中)@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ゆりのランダムアイテム0〜2個、乱馬のランダムアイテム0〜2個、山千拳の秘伝書@らんま1/2、水とお湯の入ったポット1つずつ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ガイアメモリに関するポスター×3、『太陽』のタロットカード、大道克己のナイフ@仮面ライダーW、春眠香の説明書、ガイアメモリに関するポスター
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:生きる。
2:レイジングハート…。
[備考]
※参戦時期はvivid、アインハルトと仲良くなって以降のどこか(少なくてもMemory;21以降)です
※乱馬の嘘に薄々気付いているものの、その事を責めるつもりは全くありません。
※ガドルの呼びかけを聞いていません。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※第二回放送のボーナス関連の話は一切聞いておらず、とりあえず孤門から「警察署は危険」と教わっただけです。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※一度心肺停止状態になりましたが、孤門の心肺蘇生法とAEDによって生存。臨死体験をしました。それにより、少し考え方や価値観がプラス思考に変わり、精神面でも落ち着いています。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。


883 : 三番目のN/孤門、目覚める ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 16:45:24 FXeu5Vcc0

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、ソウルジェムの濁り(中)、腹部・胸部に赤い斬り痕(出血などはしていません)、ユーノとフェイトを見捨てた事に対して複雑な感情、マミの死への怒り、せつなの死への悲しみ、ネクサスの光継承、ドウコクへの怒り、真実を知ったことによるショック(大分解消) 、首輪解除
[装備]:ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、エボルトラスター@ウルトラマンネクサス、ブラストショット@ウルトラマンネクサス
[道具]:基本支給品一式×3(杏子、せつな、姫矢)、リンクルン(パッション)@フレッシュプリキュア!、乱馬の左腕、ランダム支給品0〜1(せつな) 、美希からのシュークリーム、バルディッシュ(待機状態、破損中)@魔法少女リリカルなのは
[思考]
基本:姫矢の力を継ぎ、魔女になる瞬間まで翔太郎とともに人の助けになる。
1:翔太郎達と協力する。
2:フィリップ…。
[備考]
※参戦時期は6話終了後です。
※首輪は首にではなくソウルジェムに巻かれています。
※左翔太郎、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライアの姿を、かつての自分自身と被らせています。
※殺し合いの裏にキュゥべえがいる可能性を考えています。
※アカルンに認められました。プリキュアへの変身はできるかわかりませんが、少なくとも瞬間移動は使えるようです。
※瞬間移動は、1人の限界が1キロ以内です。2人だとその半分、3人だと1/3…と減少します(参加者以外は数に入りません)。短距離での連続移動は問題ありませんが、長距離での連続移動はだんだん距離が短くなります。
※彼女のジュネッスは、パッションレッドのジュネッスです。技はほぼ姫矢のジュネッスと変わらず、ジュネッスキックを応用した一人ジョーカーエクストリームなどを自力で学習しています。
※第三回放送指定のボーナスにより、魔女化の真実について知りました。


884 : 三番目のN/孤門、目覚める ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 16:45:34 FXeu5Vcc0

【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、加頭に怒りと恐怖、強い悲しみと決意、首輪解除
[装備]:プリキュアの種&ココロパフューム、プリキュアの種&ココロパフューム(えりか)@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&シャイニーパフューム@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&ココロポット(ゆり)@ハートキャッチプリキュア!、こころの種(赤、青、マゼンダ)@ハートキャッチプリキュア!、ハートキャッチミラージュ+スーパープリキュアの種@ハートキャッチプリキュア!
[道具]:支給品一式×5(食料一食分消費、(つぼみ、えりか、三影、さやか、ドウコク))、スティンガー×6@魔法少女リリカルなのは、破邪の剣@牙浪―GARO―、まどかのノート@魔法少女まどか☆マギカ、大貝形手盾@侍戦隊シンケンジャー、反ディスク@侍戦隊シンケンジャー、デストロン戦闘員スーツ×3(スーツ+マスク)@仮面ライダーSPIRITS、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア!、大量のコンビニの酒
[思考]
基本:殺し合いはさせない!
1:さやかを助ける。
2:この殺し合いに巻き込まれた人間を守り、悪人であろうと救える限り心を救う
3:……そんなにフェイトさんと声が似ていますか?
[備考]
※参戦時期は本編後半(ゆりが仲間になった後)。少なくとも43話後。DX2および劇場版『花の都でファッションショー…ですか!? 』経験済み
 そのためフレプリ勢と面識があります
※溝呂木眞也の名前を聞きましたが、悪人であることは聞いていません。鋼牙達との情報交換で悪人だと知りました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※プリキュアとしての正体を明かすことに迷いは無くなりました。
※サラマンダー男爵が主催側にいるのはオリヴィエが人質に取られているからだと考えています。
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました。
※この殺し合いにおいて『変身』あるいは『変わる事』が重要な意味を持っているのではないのかと考えています。
※放送が嘘である可能性も少なからず考えていますが、殺し合いそのものは着実に進んでいると理解しています。
※ゆりが死んだこと、ゆりとダークプリキュアが姉妹であることを知りました。
※大道克己により、「ゆりはゲームに乗った」、「えりかはゆりが殺した」などの情報を得ましたが、半信半疑です。
※所持しているランダム支給品とデイパックがえりかのものであることは知りません。
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※良牙、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※全員の変身アイテムとハートキャッチミラージュが揃った時、他のハートキャッチプリキュアたちからの力を受けて、スーパーキュアブロッサムに強化変身する事ができます。
※ダークプリキュア(なのは)にこれまでのいきさつを全部聞きました。
※魔法少女の真実について教えられました。


885 : 三番目のN/孤門、目覚める ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 16:45:50 FXeu5Vcc0

【響良牙@らんま1/2】
[状態]:全身にダメージ(大)、負傷(顔と腹に強い打撲、喉に手の痣)、疲労(大)、腹部に軽い斬傷、五代・乱馬・村雨の死に対する悲しみと後悔と決意、男溺泉によって体質改善、首輪解除
[装備]:ロストドライバー+エターナルメモリ@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(ゾーン、ヒート、ウェザー、パペティアー、ルナ、メタル)@仮面ライダーW、
[道具]:支給品一式×14(食料二食分消費、(良牙、克己、五代、十臓、京水、タカヤ、シンヤ、丈瑠、パンスト、冴子、シャンプー、ノーザ、ゴオマ、バラゴ))、水とお湯の入ったポット1つずつ×3、子豚(鯖@超光戦士シャンゼリオン?)、志葉家のモヂカラディスク@侍戦隊シンケンジャー、ムースの眼鏡@らんま1/2 、細胞維持酵素×6@仮面ライダーW、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、歳の数茸×2(7cm、7cm)@らんま1/2、デストロン戦闘員マスク@仮面ライダーSPIRITS、プラカード+サインペン&クリーナー@らんま1/2、呪泉郷の水(娘溺泉、男溺泉、数は不明)@らんま1/2、呪泉郷顧客名簿、呪泉郷地図、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、テッククリスタル(シンヤ)@宇宙の騎士テッカマンブレード、『戦争と平和』@仮面ライダークウガ、双眼鏡@現実、ランダム支給品0〜6(ゴオマ0〜1、バラゴ0〜2、冴子1〜3)、バグンダダ@仮面ライダークウガ、警察手帳、ショドウフォン(レッド)@侍戦隊シンケンジャー
[思考]
基本:天道あかねを守り、自分の仲間も守る
1:あかねを必ず助け出す。仮にクウガになっていたとしても必ず救う。
2:誰かにメフィストの力を与えた存在と主催者について相談する。
3:いざというときは仮面ライダーとして戦う。
[備考]
※参戦時期は原作36巻PART.2『カミング・スーン』(高原での雲竜あかりとのデート)以降です。
※夢で遭遇したシャンプーの要望は「シャンプーが死にかけた良牙を救った、乱馬を助けるよう良牙に頼んだと乱馬に言う」
「乱馬が優勝したら『シャンプーを生き返らせて欲しい』という願いにしてもらうよう乱馬に頼む」です。
尚、乱馬が死亡したため、これについてどうするかは不明です。
※ゾーンメモリとの適合率は非常に悪いです。対し、エターナルとの適合率自体は良く、ブルーフレアに変身可能です。但し、迷いや後悔からレッドフレアになる事があります。
※エターナルでゾーンのマキシマムドライブを発動しても、本人が知覚していない位置からメモリを集めるのは不可能になっています。
(マップ中から集めたり、エターナルが知らない隠されているメモリを集めたりは不可能です)
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※つぼみ、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※男溺泉に浸かったので、体質は改善され、普通の男の子に戻りました。
※あかねが殺し合いに乗った事を知りました。
※溝呂木及び闇黒皇帝(黒岩)に力を与えた存在が参加者にいると考えています。また、主催者はその存在よりも上だと考えています。
※バルディッシュと情報交換しました。バルディッシュは良牙をそれなりに信用しています。
※鯖は呪泉郷の「黒豚溺泉」を浴びた事で良牙のような黒い子豚になりました。


886 : 三番目のN/孤門、目覚める ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 16:46:07 FXeu5Vcc0

【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、左肩に痛み、精神的疲労(小)、決意、眠気、首輪解除
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式×2(食料少消費)、カオルちゃん特製のドーナツ(少し減っている)@フレッシュプリキュア!、毛布×1@現実、ペットボトルに入った紅茶@現実、巴マミの首輪、工具箱、黒い炎と黄金の風@牙狼─GARO─、クローバーボックス@フレッシュプリキュア!、暁からのラブレター
基本:誰も犠牲にしたりしない、みんなの幸せを守る。
0:図書館の近くで魔女になるマミの事を──。
1:マミさんの遺志を継いで、みんなの明日を守るために戦う。
2:犠牲にされた人達のぶんまで生きる。
3:どうして、サラマンダー男爵が……?
4:後で暁さんから事情を聞いてみる。
[備考]
※本編終了後からの参戦です。
※花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆりの存在を知っています。
※クモジャキーとダークプリキュアに関しては詳しい所までは知りません。
※加頭順の背後にフュージョン、ボトム、ブラックホールのような存在がいると考えています。
※放送で現れたサラマンダー男爵は偽者だと考えています。
※第三回放送で指定された制限はなかった模様です。
※暁からのラブレターを読んだことで、石堀に対して疑心を抱いています。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。
※魔法少女の真実について教えられました。

【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン】
[状態]:疲労(小)、胸部に強いダメージ(応急処置済)、ダグバの死体が軽くトラウマ、脇腹に傷(応急処置済)、左頬に痛み、首輪解除
[装備]:シャンバイザー@超光戦士シャンゼリオン、モロトフ火炎手榴弾×3、恐竜ディスク@侍戦隊シンケンジャー、パワーストーン@超光戦士シャンゼリオン
[道具]:支給品一式×8(暁(ペットボトル一本消費)、一文字(食料一食分消費)、ミユキ、ダグバ、ほむら、祈里(食料と水はほむらの方に)、霧彦、黒岩)、首輪(ほむら)、姫矢の戦場写真@ウルトラマンネクサス、タカラガイの貝殻@ウルトラマンネクサス、スタンガン、ブレイクされたスカルメモリ、混ぜると危険な洗剤@魔法少女まどか☆マギカ、一条薫のライフル銃(10/10)@仮面ライダークウガ、のろいうさぎ@魔法少女リリカルなのはシリーズ、コブラージャのブロマイド×30@ハートキャッチプリキュア!、スーパーヒーローマニュアル?、グロンギのトランプ@仮面ライダークウガ
[思考]
基本:加頭たちをブッ潰し、加頭たちの資金を奪ってパラダイス♪
0:クリスタルステーションに向かいたい。
1:石堀を警戒。石堀からラブを守る。表向きは信じているフリをする。
2:可愛い女の子を見つけたらまずはナンパ。
3:変なオタクヤロー(ゴハット)はいつかぶちのめす。
[備考]
※第2話「ノーテンキラキラ」途中(橘朱美と喧嘩になる前)からの参戦です。
つまりまだ黒岩省吾とは面識がありません(リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキのことも知らない)。
※ほむら経由で魔法少女の事についてある程度聞きました。知り合いの名前は聞いていませんでしたが、凪(さやか情報)及び黒岩(マミ情報)との情報交換したことで概ね把握しました。その為、ほむらが助けたかったのがまどかだという事を把握しています。
※黒岩とは未来で出会う可能性があると石堀より聞きました。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限は『スーパーヒーローマニュアル?』の入手です。
※リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキとクリスタルステーションの事を知りました。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。


887 : 三番目のN/孤門、目覚める ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 16:46:31 FXeu5Vcc0

【石堀光彦@ウルトラマンネクサス】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、首輪解除
[装備]:Kar98k(korrosion弾7/8)@仮面ライダーSPIRITS、アクセルドライバー+ガイアメモリ(アクセル、トライアル)+ガイアメモリ強化アダプター@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ+T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW 、コルトパイソン+執行実包(6/6) 、ロストドライバー@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×6(石堀、ガドル、ユーノ、凪、照井、フェイト)、メモレイサー@ウルトラマンネクサス、110のシャンプー@らんま1/2、ガイアメモリ説明書、.357マグナム弾(執行実包×10、神経断裂弾@仮面ライダークウガ×2)、テッククリスタル(レイピア)@宇宙の騎士テッカマンブレード、イングラムM10@現実?、火炎杖@らんま1/2、血のついた毛布、反転宝珠@らんま1/2、キュアブロッサムとキュアマリンのコスプレ衣装@ハートキャッチプリキュア!、スタンガン、『風都 仕置人疾る』@仮面ライダーW、蛮刀毒泡沫@侍戦隊シンケンジャー、暁が図書室からかっぱらってきた本
[思考]
基本:今は「石堀光彦」として行動する。
1:「あいつ」を見つけた。そして、共にレーテに向かい、光を奪う。
2:周囲を利用し、加頭を倒し元の世界に戻る。
3:都合の悪い記憶はメモレイサーで消去する
4:加頭の「願いを叶える」という言葉が信用できるとわかった場合は……。
5:クローバーボックスに警戒。
[備考]
※参戦時期は姫矢編の後半ごろ。
※今の彼にダークザギへの変身能力があるかは不明です(原作ではネクサスの光を変換する必要があります)。
※ハトプリ勢、およびフレプリ勢についてプリキュア関連の秘密も含めて聞きました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※つぼみからプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について聞きました。
※殺し合いの技術提供にTLTが関わっている可能性を考えています。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※TLTが何者かに乗っ取られてしまった可能性を考えています。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。予知能力の使用が可能です。
※予知能力は、一度使うたびに二時間使用できなくなります。また、主催に著しく不利益な予知は使用できません。
※予知能力で、デュナミストが「あいつ」の手に渡る事を知りました。既知の人物なのか、未知の人物なのか、現在のデュナミストなのか未来のデュナミストなのかは一切不明。後続の書き手さんにお任せします。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。


888 : 三番目のN/孤門、目覚める ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 16:46:44 FXeu5Vcc0

【涼邑零@牙狼─GARO─】
[状態]:疲労(小)、首輪解除、鋼牙の死に動揺
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター、カセットアーム
[道具]:シルヴァの残骸、支給品一式×2(零、結城)、スーパーヒーローセット(ヒーローマニュアル、30話での暁の服装セット)@超光戦士シャンゼリオン、薄皮太夫の三味線@侍戦隊シンケンジャー、速水の首輪、調達した工具(解除には使えそうもありません) 、カセットアーム用アタッチメント六本+予備アタッチメント(パワーアーム、マシンガンアーム+硬化ムース弾、ロープアーム、オペレーションアーム、ドリルアーム、ネットアーム/カマアーム、スウィングアーム、オクトパスアーム、チェーンアーム、スモークアーム、カッターアーム、コントロールアーム、ファイヤーアーム、フリーザー・ショット・アーム) 、スタンスが纏められた名簿(おそらく翔太郎のもの)
[思考]
基本:加頭を倒して殺し合いを止め、元の世界に戻りシルヴァを復元する。
0:鋼牙…。
1:殺し合いに乗っている者は倒し、そうじゃない者は保護する。
2:会場内にあるだろう、ホラーに関係する何かを見つけ出す。
3:また、特殊能力を持たない民間人がソウルメタルを持てるか確認したい。
[備考]
※参戦時期は一期十八話、三神官より鋼牙が仇であると教えられた直後になります。
※シルヴァが没収されたことから、ホラーに関係する何かが会場内にはあり、加頭はそれを隠したいのではないかと推察しています。
実際にそうなのかどうかは、現時点では不明です。
※NEVER、仮面ライダーの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
仮面ライダーに関しては、結城からさらに詳しく説明を受けました。
※首輪には確実に異世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※首輪を解除した場合、(常人が)ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。→だんだん真偽が曖昧に。
また、結城がソウルメタルを操れた理由はもしかすれば彼自身の精神力が強いからとも考えています。
※実際は、ソウルメタルは誰でも持つことができるように制限されています。
ただし、重量自体は通常の剣より重く、魔戒騎士や強靭な精神の持主でなければ、扱い辛いものになります。
※時空魔法陣の管理権限の準対象者となりました(結城の死亡時に管理ができます)。
※首輪は解除されました。
※バラゴは鋼牙が倒したのだと考えています。


889 : 三番目のN/孤門、目覚める ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 16:46:58 FXeu5Vcc0

【左翔太郎@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、胸骨を骨折(身体を折り曲げると痛みます・応急処置済)、右腕切断、上半身に無数の痣(応急処置済)、照井と霧彦の死に対する悲しみと怒り、首輪解除、フィリップの死に対する放心状態と精神的ダメージ
[装備]:ダブルドライバー(破壊)@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(アイスエイジ)@仮面ライダーW、犬捕獲用の拳銃@超光戦士シャンゼリオン、散華斑痕刀@侍戦隊シンケンジャー、魔導輪ザルバ@牙狼、スモークグレネード@現実×2、トライアクセラー@仮面ライダークウガ、京水のムチ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×11(翔太郎、スバル、ティアナ、井坂(食料残2/3)、アクマロ、流ノ介、なのは、本郷、まどか、鋼牙、)、ガイアメモリ(ジョーカー、メタル、トリガー、サイクロン、ルナ、ヒート)、ナスカメモリ(レベル3まで進化、使用自体は可能(但し必ずしも3に到達するわけではない))@仮面ライダーW、ガイアドライバー(フィルター機能破損、使用には問題なし) 、少々のお菓子、デンデンセンサー@仮面ライダーW、支給品外T2ガイアメモリ(ロケット、ユニコーン、アクセル、クイーン)、ふうとくんキーホルダー@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、須藤兄妹の絵@仮面ライダーW、霧彦の書置き、スタッグフォン+スタッグメモリ(通信機能回復)@仮面ライダーW、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW、まねきねこ@侍戦隊シンケンジャー、evil tail@仮面ライダーW、エクストリームメモリ(破壊)@仮面ライダーW、ファングメモリ(破壊)@仮面ライダーW、首輪のパーツ(カバーや制限装置、各コードなど(パンスト、三影、冴子、結城、零、翔太郎、フィリップ、つぼみ、良牙、鋼牙、孤門、美希、ヴィヴィオ、杏子、姫矢))、首輪の構造を描いたA4用紙数枚(一部の結城の考察が書いてあるかもしれません)、東せつなのタロットカード(「正義」、「塔」、「太陽」、「月」、「皇帝」、「審判」を除く)@フレッシュプリキュア!、ルビスの魔剣@牙狼、鷹麟の矢@牙狼、ランダム支給品1〜4(鋼牙1〜3、村雨0〜1)、翔太郎の右腕
[思考]
基本:放心・無気力状態。
0:フィリップ……。
[備考]
※参戦時期はTV本編終了後です。
※他世界の情報についてある程度知りました。
(何をどの程度知ったかは後続の書き手さんに任せます)
※魔法少女の真実(魔女化)を知りました。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はフィリップ、ファングメモリ、エクストリームメモリの解放です。これによりファングジョーカー、サイクロンジョーカーエクストリームへの変身が可能となりました。
※ダブルドライバーが破壊されました。また、フィリップが死亡したため、仮にダブルドライバーが修復されても変身はできません。

【レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:疲労(大)、魔力消費(大)、娘溺泉の力で人間化
[装備]:T2ダミーメモリ@仮面ライダーW
[道具]:バラゴのペンダント、ボチャードピストル(0/8)、顔を変容させる秘薬
[思考]
基本:悪を倒す。
1:零とは今後も協力する。
[備考]
※娘溺泉の力で女性の姿に変身しました。お湯をかけると元のデバイスの形に戻ります。
※ダミーメモリによって、レイジングハート自身が既知の人物や物体に変身し、能力を使用する事ができます。ただし、レイジングハート自身が知らない技は使用する事ができません。
※ダミーメモリの力で攻撃や防御を除く特殊能力が使えるは不明です(ユーノの回復等)。
※鋼牙と零に対する誤解は解けました。


890 : ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 16:48:02 FXeu5Vcc0
まず、1話目は投下終了です。
夜に2話目を投下します。

ここまでで何か指摘や感想があればご自由にどうぞ。


891 : 名無しさん :2014/07/19(土) 16:57:11 LSJ0SqOM0
投下乙です。
それぞれの動向が決まりましたか。それにしても、孤門君は良いリーダーになっていますね。
暁に気を遣うヴィヴィオと、レイジングハートを受け入れる零もいいなと思いました。
そして、結城さんの魂が翔太郎に受け継がれるとなると、彼もまだ希望になれるのですか! 期待です!


892 : 名無しさん :2014/07/19(土) 19:27:31 LWfcDNuU0
投下乙です

さて、とうとう始まった最終決戦
全体的に色々と良いわあ…
みんな死んで欲しくない
だが…がんばれ


893 : ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 21:48:07 FXeu5Vcc0
投下します。


894 : HOLDING OUT FOR A HERO!! - I need a hero - ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 21:48:36 FXeu5Vcc0



 時空魔法陣によって十三人の勇士たちが転送された後、翠屋の内部は少し賑わった。
 今までも複数の客がこの床を歩き、あの机でケーキやお茶を頬張ったのだが、それに比べると辛うじて空席はまだいくつもあった。三つのテーブル席が埋まるが、まだまだ空いている。もしかすると、参加者全員で来る事もギリギリで可能だったかもしれない。
 翠屋は、本来高町士郎・桃子夫妻の経営する喫茶店である。ヨーロッパで培ったケーキ作りの技術が活かされ、海鳴市では女子中学生、女子高校生を初めとする女性たちに大人気の店であった。この人数を詰め込むくらいは問題のない事で、部屋中に満たされたケーキの香りも存分に分け与える事ができたらしい。店内に入っただけで腹を鳴らす者もいた。

 高町ヴィヴィオやレイジングハート・エクセリオンは周囲を見渡す。
 まるっきり、あの翠屋にそっくりな場所だった。しかし、外の景色が海鳴市の駅前のように近代的な建物には囲まれていない。先ほどヴィヴィオたちがいた街エリアと違って雨は降っておらず、だんだんと太陽が挿し込んでいる。肌にも少し温かさがある。確かに、全く別の場所に移動した実感があった。
 もし、本当にこの店が喫茶店として機能しているなら、まだシャッターは閉まっているのだろうが、この場では開いたままで、それがこの店のリアリティを消していてくれている。なるほど、これが翠屋の朝か。

「ママがいた場所だね」
「ええ……」

 死んだ母の事を思い出し、ヴィヴィオは少し俯いて暗い表情を見せた。
 母・高町なのはがもうこの場所に帰る事はないという事実が急に寂しくなったのである。
 母にも母がいて、父がいて、兄がいて、姉がいる。彼らが待ちわびる家族の帰りは、二度と訪れる事がない。こんな何処なのかもわからない場所で家族に死なれたという事実を祖母たちに話さねばならない事がヴィヴィオにとっては胸が痛い事実だ。

「大丈夫? ヴィヴィオちゃん……」

 美希が困り顔で声をかけた。
 誰しもが声をかけるか悩んだところだろうが、一番近くにいた美希は黙っているのもいたたまれなくなったのだ。

「はい。でも、おばあちゃんになんて言えばいいか……」
「ああ、わかるわ……帰ってからもやらなきゃいけない事が山積みなのよね」

 二人とも、顔見知りの遺族にかけるべき言葉が見当たらなくなる未来を見据えていた。だから、悲しみと同時に、人の死から始まる諸問題を突き付けてくる現実にも恐怖しているのだ。
 この殺し合いに連れて来られなかったとしても、もし大事な人がこんな理不尽な話で犠牲にされてしまったら、平静でいられるはずがない。犠牲者は、巻き込まれた人間だけではないのだ。帰ったら、他の犠牲者にそれを伝える責任があるだろう。

「君たちは帰った後の事を気にしなくていいよ。もし、生還したら俺たちの方から伝える。だから、帰った後の事は俺たちに任せてくれ」

 一也が横から言った。
 それは、美希たちへの保護者意識があるから出た言葉だった。
 子供にそんな辛い報告をさせるのは酷な話だ。──大人である孤門や一也が伝えなければならない。それも一つの責任である。

 ヴィヴィオや美希も、自分たちで伝えるべきか、それとも代わりに彼らの言葉を借りるべきなのか、少し悩んだ。それだけ責任ある言葉を祈里の両親に告げられるかどうかが、彼女にはわからなかったのだ。
 子供ゆえの、無知ゆえの、無礼がもし、子供を喪った親の心を傷つけてしまったら──と、思ってしまう。

「とりあえず、ここに来たからにはクリスタルステーション組の移動を済ませてしまおう」

 零が口を開いた。話題を別方向にそらしたかったのだ。
 脱出後の事を口にするタイミングではない。そういうのは、所用が済んだ状況でこそ言い合えるものだ。今はまだ、目の前の問題解決に余力を注がなければならない。

「あと少し待てば、移動先がクリスタルステーションになる。向かうのは、暁、石堀、ヴィヴィオ、レイジングハートの四人で間違いないな?」

 彼は時空魔法陣を利用して、既にルート変更や設定変更を行っている。殺害人数は『UNDER≪4≫』。四人未満である。これが厄介な事に、涼村暁に合わせた設定だった。ン・ダグバ・ゼバと黒岩省吾を殺害している他、暁美ほむらの頼みで彼女のソウルジェムを砕いた経験を話してくれたのだ。おそらくほむらの件もカウントされるだろう。


895 : HOLDING OUT FOR A HERO!! - I need a hero - ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 21:48:53 FXeu5Vcc0
 いくら彼とはいえ、三人の殺害となると、それこそ下手な殺人者を上回る。これを対主催限定のトンネルとして利用する事ができないのだ。おそらくは、「ガドル以外専用」という物になってしまう。
 ルート変更が実際に反映されるまではしばらく時間がかかるが、もう少なくとも鳴海探偵事務所の時空魔法陣は消えているだろうと思われる。

「うーん……まあいっか!」
「その、『まあいっか』はなんなんだ」
「いや、美味そうなケーキがあるから、ちょっと食べたいと思って」

 暁は甘党である。主にパフェを好む。
 ただ、甘い物なら基本的に何でも好みであった。いかにも高そうな洋菓子が、この状況下、タダで食べられるのはこれ以上ないくらいのサービスである。ここに入っただけで腹を鳴らした人間が誰なのか、零はすぐさま理解した。

「なんだ、そんな事か。ああ、確かにここのケーキは美味かったぜ」
「お前、食ったのか!?」
「前に来たときな」
「タダで食っていいのか!? じゃあ、俺も……えーっと、ど・れ・に・し・よ・う・か・なー」

 暁が能天気にガラスケースの中のケーキをのぞきこむ。確かに、一部のケーキは量が少ない。誰かが貪った形跡である。蟻に食われたのではなく、一個丸々消失している物が見られると、やはり誰かがタダ食いしたらしい。
 暁は、すぐにカウンターの裏側に周り、ケーキを頂きに向かおうとした。
 と、そんな暁を美希の手が掴んだ。

「ちょっと待って。タダで食べていいわけないでしょう」
「え、いや、こんなにあるのに……」

 注意を受けている暁の方を見た後、零は美希から露骨に目を逸らした。既に零はここに置いてあったケーキを幾つか無償で食い散らかしていたのである。まさかこういう事に厳しい人間がいるとは思っていなかったのだろう。
 やや気まずい感情を呑み込み、「自分はちゃんと指定された値段を払いましたよ」とでも言わんばかりの顔でそこに居座った。
 そんな折、横からヴィヴィオが口を挟んだ。

「あ。……あの、いいんです。ここは私のおじいちゃんとおばあちゃんのお店ですから」
「うん? いいの?」
「はい。大丈夫です。もし叱られても、後で肩たたきをして私が返します」

 ヴィヴィオの言葉に、暁は「じゃあお言葉に甘えて……」と、無遠慮にカウンターの向こうへ小走りして、ケーキを掴んで食べ始めた。
 肩たたきという言葉に可愛げを感じて、思わず美希が暁の手を放したのだ。まあ、店主の孫が許しているのなら、これは奢ってもらっているという事で解決だろう。
 零が後ろでほっと息をついたのを誰も知らない。

「うん、このケーキなかなかうまいぞ」
「あの、もしよければ他の皆さんも。たまには美味しいケーキも食べたいですよね?」
「安心しろ、もう食ってる」

 佐倉杏子もまた、いつの間にかケーキを手に持っており、これまた無遠慮にケーキを頬張っていた。

「じゃあ、私も……」

 続いて、花咲つぼみも一礼して、皿を奥から取ってくると、その場にある好きなケーキを手に取った。それが他の人間にもきっかけになったのか、それぞれケーキを取るようになった。それは全て、御世辞を口走る必要もないほど、人間の口に合う味であった。

「確かに凄く美味しいです!」
「うん! 奏ちゃんの作ったケーキといい勝負だよ!」
「本当。これ、結構オススメよ」

 プリキュアたちはどこからか皿やフォークを持ちだして、割と丁寧にケーキを食べている。ショートケーキを手づかみで食べている他の面々に比べると数段丁寧だ。
 口の中に広がった卵の甘味は、素直な感想を言わせる為に舌を操っているようだった。
 翔太郎だけは一切手をつけようとしなかったが、誰も彼の前にケーキを置くような事はせず、思慮のある人間は、あまり大っぴらに嬉しそうな表情でケーキを食べる事もしなかった。
 ふと、良牙がヴィヴィオに訊いた。


896 : HOLDING OUT FOR A HERO!! - I need a hero - ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 21:51:23 FXeu5Vcc0

「なあ、ヴィヴィオ」
「何ですか? 良牙さん」
「あのガラス、殴って割っちまったんだけど、そっちは許してくれるかな?」

 良牙はケーキを一つ食べた後、ヴィヴィオ相手に下手に出て、ニコニコ笑いながら訊いた。
 ヴィヴィオが良牙の指の先を見ると、確かにガラス戸に亀裂が入っている。あまり目立たず、気にならなかったが、これはどうした物だろうと思案した。
 いや、思案したのは、殆ど遠慮による物だったかもしれない。正直、殴って割ったのなら、全くもって良牙の過失である。
 すぐに結論を口に出した。

「……後で肩叩き、一緒にお願いします」

 ヴィヴィオの返答に、良牙はがっくりと肩を落とした。
 実際のところ、良牙に力加減の上手な肩叩きができるかというと、それは微妙な所である。
 良牙の想像上、老人であるヴィヴィオの祖母(若くて60歳くらいだろう)は、良牙が一度肩を叩くだけで一生肩が上がらなくなる可能性だってあるほどだ。
 仮にも自立した一人の男がこういう場合返すべき物は、肩たたきという簡易労働ではなく、現金だ。それを思うと気が重い。

「あっ……! こら、それはおれのケーキだ! なんでお前が食ってるんだよっ!!」

 良牙の手にあったケーキは、どこから出てきたのか、サバブタがパン食い競争のように咥えて持ち去ってしまった。すぐに顎が耐え切れず床に落下してべちゃべちゃになった良牙の食べかけケーキは、余す事なくブタが食べつくすのである。勿論、良牙はこれを這いつくばって食べる気はない。
 良牙は更にがっくりと肩を落とし、同時に怒りに身を燃やしたが、まだまだたくさんあるケーキをつぼみが横から差し出して、それで辛うじてその場は収まっていた。

「ヴィヴィオ。この食べ物、美味しいですね。初めて食べ物を口にしました」

 良牙を無視して、レイジングハートが切なそうに呟いた。
 彼女が初めて口にした食べ物が、高町なのはの実家のケーキだというのは何の因果か。──それは、味覚という物の存在の嬉しさを伝えてくれる物だった。
 なのはの母、高町桃子の作ったケーキの味を、彼女は呑み込んだ。

「はは……レイジングハート、ほっぺたにクリームついてるよ」

 未だケーキの食べ方をよく知らないレイジングハートの口周りの生クリームを、ヴィヴィオが拭った。







「よし」

 満足するだけ食べた後、暁が言った。元々、胃が大きな人間でもないので、好物とはいっても、そこまでたくさんは食べていない。まだ周囲に食べている人間がいる中、石堀、ヴィヴィオ、レイジングハートが食を止めたあたりで、暁は早々にこの場を去る事を考えたのであった。
 四つの連絡手段の内、ショドウフォンを掴むと、暁は零に声をかけた。

「流石にもう向こうに繋がってるよな?」
「ああ。移動できるぜ」

 画面をタッチする手つきは全く慣れていないが、零は何とか時空魔法陣管理のノウハウを実用できるレベルで認知していた。
 既に時間は充分に立ち、暁、石堀、ヴィヴィオ、レイジングハートが向かうべきクリスタルステーションへの道は開かれている。
 この四人が向こうに行った後は、それぞれ四つのグループに分かれて各々が目指す場所に残るのである。

 そして、次のようなチーム分けに決定されたのだった。

【涼村暁チーム/涼村暁、石堀光彦、高町ヴィヴィオ、レイジングハート・エクセリオン
 桃園ラブチーム/桃園ラブ、蒼乃美希、涼邑零、佐倉杏子
 花咲つぼみチーム/花咲つぼみ、響良牙、孤門一輝
 待機チーム/左翔太郎、沖一也】


897 : HOLDING OUT FOR A HERO!! - I need a hero - ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 21:51:50 FXeu5Vcc0

 暁チームが発った後は、零が時空魔法陣の移動先を冴島邸に変更する。ラブチームの帰還は時間がかかりすぎるため、一度マップの中央である冴島邸に集合するのである。
 ここに一度全員集めれば、その後は纏めて時空魔法陣で移動して翠屋に残る事ができる。

「そんじゃあ、行くか」

 時空魔法陣が発動されているのは、翠屋の真上である。
 高町ヴィヴィオとレイジングハート・エクセリオンのように魔法で飛行できる人間が二人の手を引かなければならない。しかし、その準備は既にできていた。

「はい」

 ヴィヴィオは大人モードに変身し、暁の手を引く。暁とてそこまで悪い気分ではないが、どうせならレイジングハートに手を引かれたかった気分もある。
 まあ、それはそれとして、これからクリスタルステーションで三体の超光騎士を仲間に引き入れることができるわけだ。

「……行ってくる。じゃあ孤門、後は頼んだぞ」

 四人はそのまま、時空魔法陣に向かい、姿を消した。







 残った数名は、時空魔法陣の設定を冴島邸に直した後、それぞれの足取りで、B−1エリアに向かっていた。
 零の記憶通りならば、そこには一台の車があるはずだ。沿岸部に配置されている緑色のシトロエン2CV。それは、既にこの隊列には存在しない(と言うと、まるで死んだように聞こえるが……)涼村暁の愛車であった。
 既にガタが来始めているとはいえ、仮にも自動車だ。人間が自分の脚で歩くよりは数段スムーズに動く事ができる。
 カギは中に入れっぱなしで、別に誰かの支給品にあるカギと組み合わせる必要はなさそうだった。

「とりあえず、これを使って図書館の方に真っ直ぐ向かっていくと良い。用があるのはそちらの方だ」

 一也が孤門に説明をしているらしく、孤門は話を聞きながら頷いている。
 後部座席に杏子と美希、助手席にはラブ……というのが理想形だろうか。
 道案内をする事になるのはラブなので、他の二人は後部座席で待機という所である。
 孤門はこんなに古い外国車を運転する事になるのは初めてだ。

「つまり……ふむふむ」

 一也が説明しているのは、このシトロエンの事だろうか。
 左ハンドルのマニュアル車と、やや運転しづらい所も多いだろうが、それでも孤門の今現在のスキルならば問題なく動かせそうである。ひとまず、渋滞が存在しない道路ならば、これといって事故が起こる理由もない。夜間でもないし、運転技術が多少劣っていても、何とかこれを動かして問題が起きる事がなさそうな状況であった。

 一応、この場には先ほどの四人以外全員ついてきていた。
 つぼみチームは零がここまで案内しなければならないし、一也と翔太郎も念の為にこちらへ来た形だろう。そうは言っても、肝心の零は、案内の後に鋼牙に言伝された『制限解除による魔導馬召喚』を試す為にどこかへ行ってしまったわけだが。
 ひとまず、この自動車のエンジンがきちんとかかり、充分なガソリンを搭載している事を前提にしたチーム分けである為、ここで少し確認作業をしておかなければならない。
 見たところ、それらの点においては問題なさそうなので、この車に搭乗して、図書館に向けて動かしたら、そこで彼らが抜け、それからつぼみチームが向かう予定だ。

 残った一也と翔太郎は、腕の治癒の為の手術をする事になる。
 ただ、今のところ一也はそれを翔太郎に黙秘していた。彼の本当の意思を知るには、周囲の声がない状況を作るべきだと思ったからだ。
 翔太郎が真に仮面ライダーであるならば、杏子たちの声が届かずとも、選ぶ道は一つしかない。それを彼が選ぶか否か、それが、一也が後で見定める道だ。

「……さて、それじゃあ、みんな、車に乗って」


898 : HOLDING OUT FOR A HERO!! - I need a hero - ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 21:52:37 FXeu5Vcc0

 ラブ、美希、杏子を促すように孤門が言った。
 こうして見ると、学校の先生が似合いそうな男である。大方、女子生徒にからかわれるようなキャラクターになるのが予想される。どうしても、女に振り回されそうな男だ。



「ちょっと待て」



 だが、その時、「声」は唐突に彼らの背中に放たれた。
 全員が全員、シトロエン2CVに顔を向けている最中に、誰かが背後に歩み寄っていたのだ。振り向けば、後ろからゆっくりとこちらへ歩いて来る二つの影があった。朝方、薄く霧に隠れた港町では、その姿もまだはっきりと見えなかったが、一度察しをつけた人間にはもう明らかに誰の声だかわかってしまうのだった。
 こちらへ近づいて来るのは、真っ赤な異形だった。
 昔話の鬼であろうか、その頭部に蓄えた角と、見せつけられた鋭い牙と、鎧でも被っているかのような真っ赤な外形は、見た者に無意識の鳥肌を走らせる。蜘蛛のような六つの目がこちらに向けて光る。
 知っている。
 この怪物を、彼らの内、数名は知っている。

「お前は、血祭ドウコク……!」

 言わずと知れた、外道衆が総大将──血祭ドウコクである。
 真横には、彼の従える赤と黒のツートンカラーの戦士も姿を現し始めていた。それはシンケンブルーやシンケンゴールドにも似た、漢字のマスクを被っていた。見たところ、天道あかねでもなさそうである。その動きは、意思を殺し、血祭ドウコクの影を踏むように並び歩いているようにしか思えなかった。
 彼の名は外道シンケンレッドと言った。

「てめえら、随分捜したぜ……」

 仄かな苛立ちを感じさせる言葉とともに、右手の大剣を肩にかけた。
 一也が、真っ先に先頭に立って訊いた。

「何の用だ?」
「決まってんだろ、てめえらを皆殺しにするんだよ」

 ドウコクは明らかに気が立った様子であった。
 その反面で、薄らとどこかに、機嫌の良さというか、満腹感のある声であった。
 これまでの乾いたドウコクに比べると、少しばかり潤った充実感に満たされている。これまでほど切羽詰まっておらず、何かのついで程度に殺し合おうという感じだ。

「何……?」
「見た事のある顔があるな。俺に恥をかかせやがった奴もいる」

 花咲つぼみ、響良牙、佐倉杏子、蒼乃美希、左翔太郎は旧知の宿敵だ。
 どうやら翔太郎は片腕を失ったようだが、何、それなら好都合といった感じである。
 ドウコクは、まずは自分から率先して退治に出る事はなかった。

「殺れ」

 と、一言言うだけだ。

「烈火大斬刀!」

 その言葉とともに走り出したのは、外道シンケンレッド。──今やドウコクの家臣である。
 烈火大斬刀を構え、前に出る。狙うのはまず、邪魔者の一人、沖一也。
 しかし、彼は即座に変身の呼吸を一拍。変身ポーズと掛け声を上げると、仮面ライダースーパー1へと変身した。

「仲間を連れてきたか……ッ! 赤心少林拳ッ! 梅花の型ッ!」

 スーパー1が両腕で花を形作る。
 烈火大斬刀の先端がスーパー1の掌を掠めると、そこで空気の乱れが生じ、ぼうっ、と音を立てて空気が弾け、風が吹いた。
 まるで、その風の中に梅の花が舞っているような幻想的な光景であった。真っ赤な大剣が生んだ火花が、空を舞ったのである。
 両者の力は拮抗すると同時に破裂し、今一瞬で突き放された。

「くっ……!」


899 : HOLDING OUT FOR A HERO!! - I need a hero - ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 21:52:56 FXeu5Vcc0

 後方に吹き飛んだのは外道シンケンレッドとスーパー1、両方同じであった。
 それを見届けると、ここが安全圏ではないのをすぐに理解し、それぞれが変身を開始する。

「「チェインジ・プリキュア、ビーーーートアーーーーップ!!」」
「プリキュア・オープンマイハート!!」
「変身!!」──Eternal!!──

 桃園ラブがキュアピーチに。
 蒼乃美希がキュアベリーに。
 花咲つぼみがキュアブロッサムに。
 響良牙が仮面ライダーエターナルに。
 佐倉杏子がウルトラマンネクサスに。
 変身する。

「ピンクのハートは愛あるしるし! もぎたてフレッシュ、キュアピーチ!」
「ブルーのハートは希望のしるし! つみたてフレッシュ、キュアベリー!」
「大地に咲く一輪の花、キュアブロッサム!」
「ええーっと……何も思いつかねえが、とにかく、仮面ライダーエターナル!」
「デュア!」

 その変身を一つの機会にして、ドウコクは距離を詰めてきた。
 昇竜抜山刀を携え、その切っ先を地面に引きずりながら歩き、どうやら切れ味を試したようだった。こうして引きずるだけで、路傍に転がる石ころを真っ二つに斬り裂いてしまうのがこの刀なのである。今この場のアスファルトは、修復不能な一筋の線と山型の焼け跡を作っていた。
 相手が人間であれ、一度敵の体に振れて思い切り引くだけで、一瞬でその肉と命を深く抉り取る切れ味である。

「待て、ドウコク……!」
「はぁっ!!」

 何かを言いかけたスーパー1を無視して、ドウコクは外道シンケンレッドの背中に寄ってその体へと肉薄すると、その胸部に一太刀、剣を叩き付ける。力強い打撃音、耳をつく金属音とともに、鉄の皮が剥がれ、スーパー1の内蔵機械が露出する。
 彼の鋼鉄の体でなければ、内臓まで行き届いていただろう。強靭なスーパー1も怯まずにはいられないほどの刺激であったが、彼は即座に攻撃を放つ。

「ぐっ……チェンジ、エレキハンド! エレキ光線!」

 ファイブハンドをエレキハンドに変えると、エレキ光線が至近距離からドウコクへ放出。
 光線は体表で爆ぜ、ドウコクの全身を電撃が駆けまわる。金色の光がドウコクを包んだかと思えば、3億ボルトの電流は当人が気づくよりも一歩早く彼の体中に大打撃を与えた。

「チィッ……!」

 すぐに電撃から解放されたドウコクは、何歩か下がる。やはり相当効いたようで、いきなりだがドウコクが怯んだのがうかがえた。
 とはいえ、スーパー1もドウコクに相当強いダメージを受けたのは事実だ。

「猛牛バズーカ!」

 倒れかけていたスーパー1の後ろから、一発の砲弾が激突する。
 それがスーパー1の体を完全に倒した。機能停止とは行くまいが、その一歩手前になりかけるほどの直撃であった。
 背中から砲撃を受けたスーパー1が、呻く。

「沖さん……!」

 外道シンケンレッドに空中から迫ってくるのは、キュアピーチ、キュアベリー、キュアブロッサムの三人のプリキュア。三人は空で戦闘態勢を整えると、足を滑らかに動かして、ピーチが外道シンケンレッドの顔に一撃、ベリーが胸に一撃、ブロッサムが拳で再び顔面に一撃叩き込んで着地した。
 外道シンケンレッドは何も言わずに地面に吹き飛ばされ、倒れた。

「大丈夫か!?」

 倒れたスーパー1に向かうのは仮面ライダーエターナルだ。
 ドウコクと外道シンケンレッドの猛攻に倒れながらも、何とかスーパー1は答える事ができた。

「……ああ、何とか」


900 : HOLDING OUT FOR A HERO!! - I need a hero - ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 21:53:18 FXeu5Vcc0

 ウルトラマンネクサスが、彼らの姿を追い越して、ドウコクの方に駆け出していく。
 そこにある因縁が近づいていた。──アンファンスパンチが怯んでいるドウコクに向けて近づいていく。
 ネクサスの拳は、即座にドウコクに一撃叩き付けた。しかし、それとほぼ同時にドウコクの刀が真横に凪がれる。ネクサスの体を真横に一閃、切っ先は走っていく。

「ダ!?」

 退がるネクサス、対してドウコクはゆっくりと立ち上がり、ネクサスを気で吹き飛ばす。
 宙で手足をかくネクサスだが、無情にも背中を地面に打ち付けた。

(痛ェ〜……)

 杏子はそう思いながら、それでもドウコクに一矢報いるべく立ち上がろうとする。
 その視線が一度、後方のシトロエンの方を向いた時。
 そこに映ったのは、翔太郎であった。彼は孤門と共に後方支援に回っている──それは表立って戦えない事情から考えれば仕方ない。
 だが、しかし──何もしようとせず、諦観したようにこの戦いを見つめる翔太郎の乾いた瞳は、杏子の脳裏で苛立ちを募らせた。
 孤門が前に出てきたせいで、ネクサスの視界は孤門とダブリ、翔太郎を隠した。

「──やめるんだ、血祭ドウコク!」

 孤門は一歩前でディバイトランチャーの銃口をドウコクに向けながら叫んだ。

「なんだ、てめえ!」
「血祭ドウコク、お前はその首輪を外したがっているはずだ!」

 その瞬間、周囲の声が止んだ。

「──」

 ドウコクは、孤門がそう叫んだ瞬間に、ふと動きを止めた。
 今まで全く気づいていなかったが、この孤門の言葉を聞いた瞬間、彼の言葉が交渉の意図を含んでいる事に気づいたのである。
 何となく、ドウコクがこの戦いの最中に敵に感じた違和感が、今ようやく払拭されたのだ。
 彼らには首輪がない。
 杏子には最初からなかった覚えがあるが、明らかに首輪が消えている人間が数名いたのである。
 なるほど……彼らが首輪を解除したという事である。

「オイ、外道シンケンレッド。攻撃の手を止めろ」
「……」

 ドウコクの指示とともに、外道シンケンレッドが動きを止めた。
 静止した相手に攻撃の手を加える必要もなく、プリキュアや零もまた動きを止める。しかし、どこか呆けたような顔でドウコクの方を見るだけだった。
 しかし、孤門は警戒しながらももう一歩前に出た。
 ディバイトランチャーを構えたところでどうにもならないかもしれないが、銃身を握らなければ不安なのだ。

「てめえら、首輪を外したのか?」
「ああ。そして、お前の首輪を外す事もできる」
「俺と交渉しようってわけか?」

 ドウコクは普段ならばもう少しだけ不機嫌になっただろうが、これもまたドウコクにとって望ましい未来の一つの形態である。
 勿論、敵の大半は苛立ちを覚えさせるほど不愉快な性質の持ち主ばかりだった。実際、ドウコクに刃向かい、傷を負わせた者も彼らの中にはいる。
 ゆえに、少しその条件を呑み込むのには抵抗がいるが、合理的であるには違いない。

「おい、あんた! 本気でこいつと交渉しようってのか! コイツは姫矢の兄ちゃんを……」
「わかってる」

 杏子が横から孤門を諌めようとしたが、孤門は耐えた。
 ドウコクを仲間に引き入れるのには無論、抵抗がある。それでも、この場で戦うべき相手は参加者ではない──主催者だ。


901 : HOLDING OUT FOR A HERO!! - I need a hero - ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 21:53:37 FXeu5Vcc0

「僕だって、姫矢さんを殺したコイツは憎い。だけど……ここでコイツを倒したって、どうにもならない!」

 それは、かつて溝呂木眞也を前に告げた言葉と同じだった。
 憎しみに左右されてはならない。憎しみは冷静な判断を失わせ、視野を狭めさせる感情だ。それは時として、周囲の人間を巻き込んでしまう事もある。だから、憎しみを越えて、「最善」の結末を目指す──それが、溝呂木を前に孤門が出した答えだ。

「血祭ドウコク。お前だって、加頭たちに言いように扱われる事は好まないはずだ。それは、ずっとお前が誰かに協力を求めていた事からもわかっている」
「……」
「だが、僕たちとお前とは、全く違う考えを持っていた。そのせいで、全ての交渉は決裂し、協力し合う事はできなかった」

 ドウコクは思案する。
 体は全く動かさないが、時折微かに唸り声のような音声を鼻の奥から漏らしている。どうやら何かを考えているらしいのは想像に難くない。
 その微妙な声がこの場に緊張感を作り出していた。

「それでも、今は過去の事は水に流す。ここから君が僕たちの仲間に危害を加えなければ、僕たちはお前の首輪を外し、この殺し合いの主催者を倒すまで協力関係である事を約束しよう。首輪を外す事ができるのは僕たちだけだ」

 ドウコク一人では首輪は外せない。
 既に孤門らのように、残りの参加者の多くが一つの集団を作っているようでは、ドウコクは孤立無援の状態のままになってしまう。
 この殺し合いを一人で勝ち進むのも一考だが、その後が難しい。敵の居場所もわからぬまま戦いを仕掛けるのはかなり難しそうである。

「お前も主催者に一矢報いる意思はあるはずだ。そして、僕たちから言わせてみれば、たった一人でこの殺し合いの主催者に立ち向かうのは絶対に無理だとわかりきっている。こっちも人手が欲しいんだ。お前みたいに強い奴を……」

 ドウコクは、脂目マンプクの事を思い出した。
 ドウコクとしては、自分を不愉快にさせる相手は悉く潰しておきたいところだが、このままではマンプクを潰す方法は探り出せないままだ。
 なるほど、このままドウコクが勝ち残ったとしても、マンプクを初めとする敵たちは逃げる術を余す事なく使えてしまうだろう。

「確かに、てめえら相手に余計な労力を使っている場合じゃねえな……」
「わかってくれたか?」
「ああ。不服だが、認めるしかねえ。だが、それだけじゃあ腹の虫がおさまらねえ」

 ドウコクは昇竜抜山刀の切っ先を孤門の顔面に向けた。
 ディバイトランチャーの銃口は頼りなく、ドウコクの腹を狙っている。

「全てを終えたら、てめえらを殺す」

 ドウコクはそう宣言した。目は全くの本気だ。しかし、殺害に対する情熱はなく、ただ草臥れたような視線がそこにあった。邪魔な物を気怠い心持で殺していくような、そんな真の意味で残虐な目をしていた。
 その目が孤門にとっては恐ろしかった。
 話が通じない相手、真の外道たる目だった。この時、孤門たちに協力するのも、結局は利害関係が一致したからに違いない。
 この殺し合いが終わっても、また血で血を洗うような闘争をさせられるわけである。

「望む所だ。……今は仕方ないかもしれない。でも、絶対にアイツらをぶちのめすまでは裏切るんじゃねえぞ」

 杏子がドウコクの乾いた瞳を受けた。
 両者は睨み合う。ただ無言で、恨み顔に渇いた表情が突き刺さる。
 互いを憎み合う者同士だが、今はちょっとした体力消耗ですら惜しい時だ。
 片付けるべき問題を片づけた後、すぐに主催者戦に向かう準備をしなければならない。

「だが、それならこっちにも条件がある」

 ドウコクは、剣を下した。
 誰にも目を合わせる様子はないが、その威圧感から、誰もが自分が見られているように錯覚しただろう。この怪物がこれから隣で仲間として行動し続けるとなると、今までとは随分違ったプレッシャーがかかるのではないかと不安になる。
 しばらくは、一也がここで首輪解除の為に引き取るだろうが、結局また合流だ。

「脂目マンプクは俺が殺す。それと」

 ドウコクが裏切る気配はなかった。
 それだけ、脂目マンプクなる人物に対する恨みが強いのだろう。語調から考えるに、主催側の人物だろうか、と誰かが想像した。
 ドウコクの示すもう一つの条件を待つが、そちらは一際単純な物である。

「誰か、酒を俺に持ってこい」






902 : HOLDING OUT FOR A HERO!! - You need a hero - ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 21:54:22 FXeu5Vcc0



 花咲つぼみ、響良牙、涼邑零の三名は、山道を歩いていた。あのすぐ後、つぼみがドウコクの所持品の酒を再びドウコクに渡し、孤門たちが自動車で図書館に向かうのを見送り、彼ら三名も自分たちが目指すべき場所に向かう事にしたのである。
 こういう風な山道はここにいる誰しも記憶している。ここにいる誰もが、村から森に入ったり、森から村に入ったりしていたのである。それぞれ、もう死んだ人間との記憶のある道だった。

「しっかし、あいつがおれたちの仲間になるとはな……」

 結局、良牙としても何とかドウコクが仲間になる現実を呑み込む事にした。
 不服だが、敵対する人間と利害の一致で協力する羽目になったのは過去にも何度かある。
 実際、乱馬ともどちらかといえば、普段敵対しているが、肝心な局面では仲間として協力し合う事があった。
 それと同じく、今度はドウコクと敵対する羽目になるとは、想像もしなかっただろう。

「共通の敵が出来たんだ。今更、殺し合いとか言ってられないさ。主催陣にはガルムとかいう奴もいるらしい……全く、猫の手も借りたいぜ」

 零は、あの後、ちゃんと制限解除を受けたらしく、シトロエンのある港まで帰ってくるなり、かなり驚いた様子でドウコクを見つめたのだった。

「……」

 一方、良牙は、零の言葉で、今だ殺し合いをしているであろう女性の事を思い出した。
 あのクウガは、当然ながらドウコクでもなかった。ここにいる参加者たちも全員該当しない事になる。残り十四人(ガドルが除かれている)の参加者の内、十三人は既に味方になっている状況だ。
 いないのは、天道あかねだけ。
 彼女以外にありえない。────そして、その目的も知っていて、理解できてしまうからこそ辛いのだ。

「なあ、つぼみ、それにあんたも」

 不意に、良牙は口を開いた。

「零でいい」
「じゃあ、レイ。お前たちに、どうしても叶えたい願いってあるか……?」

 良牙は小さな子豚を抱きかかえ、見つめながら訊いた。
 その言葉を聞いた時、微かに零の眉が動いた。
 それは、もはや答えを言ってしまっているような物だった。

「……どうしたんだ、急に」
「そうですよ。一体、突然何を訊くんですか?」

 叶えたい願い──そう聞いて、真っ先に連想するのは、加頭が言った報酬である。
 好きな願いを叶えると言う、胡散臭くもあり、どこか惹かれるようでもある報酬。
 その願いの為に、その手を血に汚した友達がいた。そんなつぼみには、とても重い言葉だ。
 そして、良牙にもその言葉の重さは今、よくわかっていた。つぼみが受けたショックと同じ物を良牙は感じているのである。

「この殺し合いの報酬っていうわけじゃない。ただ、神様っていうのがいるとして、そいつがたった一つだけ、気まぐれでどんな願いでも叶えてくれるっていうなら、何を願う?」

 その願いが人を狂わせるだけの力を持っているなら、そんな願いはない方がいい。
 それでも、良牙にも願いたい事は山ほどある。


903 : HOLDING OUT FOR A HERO!! - You need a hero - ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 21:54:41 FXeu5Vcc0
 ただ、誰かを犠牲にして得たいと思うほどの情熱はない。いや、情熱があるとしても、その実感がないのである。
 しかし、願いが聞きたかった。目の前の彼らは、狂おしいほどの願いを持っているのか、それとも、もっとささやかな願いを持っているのか。それを知りたいのだ。

「世界中の人や花が、絶えず豊かな心を持って暮らせる、そんな普通の日常が欲しいです」

 つぼみが、温かい表情でそう答えた。
 なるほど、つぼみらしいと良牙は安心した。彼女が殺し合いに乗らないのは良牙の中でも確定事項的であり、どんな願いがあろうともおそらく最悪の結末を選ぼうとはしないだろう。信頼できる仲間と言えば、全く彼女の事である。
 しかし、良牙もきっと、ある時まではあかねをそう思っていたはずだった。

「俺は……」

 零が何か口を開いた。

「……俺は、昔、暗黒騎士に殺された父さんと静香を……」

 躊躇いながらそう言いかけて、それで結局、やめた。

「……やめた。そんな事を言っても、虚しくなるだけだ。結局、死んだ人間って蘇らないんだもんな」

 道寺も、静香も、結城丈二も、冴島鋼牙も蘇らない。
 だからこそ、零は守りし者なのである。生きている人間を守るのが魔戒騎士の使命だ。
 これより後、零が彼らを蘇らせる為に誰かを犠牲にする事はあり得ない。

 良牙は、そんな二人の様子を見ながら、憂いを秘めた瞳のままに、内心を吐き出した。
 まるで呟くように、誰にも聞かせないように口から漏れた言葉だ。

「現実的じゃなくてもいい。だが、おれは、もし何でも叶えられるなら、こんな殺し合い自体をなかった事にしたい」
「え?」
「だが、それで全部なかった事になって、ここで会った人たちとの出会いもなかった事になっちまうのも……いやだな」

 そこで彼が紡いだ言葉は、あらゆる迷いに満ち溢れていた。
 乱馬たちを生き返らせるのも、あかねを元に戻すのも、一つの彼の願いだ。そうなってくれればありがたい。それを果たすには、やはり時が巻き戻り、この殺し合いそのものがなかった事になる以外、手段はない。
 だが、そうなると今度は花咲つぼみ、村雨良、一条薫のように、ここで友達になった人間とは会えなくなる。僅か一日の付き合いだが、全員「良い奴」だったのだ。
 迷走するままに良牙が口に出す願いは、一つだった。

「……だから、神様が願いを叶えてくれるなら、方向音痴を直してもらいたい」

 ぷっ、と誰かが音を立てた。
 それは、膨れた顔から、耐え切れずに空気が漏れた音だった。

「ひゃ……ひゃっはっはっはっはっはっ!! なんだそれっ!!」
「ぷっ……笑わせないでください、良牙さん!!」

 誰か、ではなく、そこにいた二人だ。
 零もつぼみも、良牙が真面目な顔でそんな事を言うのに耐えられなくなったのだ。思わず大笑いして、響良牙という男の悪い意味でも真面目な部分を嘲った。
 良牙にしてみれば、もう何がおかしいのかさっぱりわからないという顔である。
 彼は、自分の方向音痴には何度となく苦しめられているのだ。今、一番なくしたいのは方向音痴な性格だ。先ほども、朝霧に巻き込まれて、海に落ちそうになったくらいである。

「神様にたった一つだけ頼む願いがそれかよ! 鋼牙でももっとまともな答えを出すぜ!」
「う……うるさいっ! これがおれの一番の悩みなんだ!!」

 零は知らないだろうが、良牙の方向音痴は常人のレベルではない。
 ちょっとした間違いで他県に行くだけならまだしも、ルートを一歩間違えただけで別の地方まで足を運んでしまうのだ。目的地に辿り着く頃には、手荷物は日本中の土産物だらけになっている。
 零は、おそらくちょっと地図が読めない程度の方向音痴だと思っているのだろうが、実際はその想像の数億倍は方向音痴である。

「……でも、良牙さんみたいな願いが一番かもしれません」


904 : HOLDING OUT FOR A HERO!! - You need a hero - ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 21:55:14 FXeu5Vcc0

 つぼみは、ゆりやダークプリキュアを思い出した。
 零と良牙がつぼみの方を見て、ふと口を閉じた。

「本当は、願いなんて、ささやかな物でいいんです。他人から笑われるくらいな物の方が……」

 とてもささやかなように見えて、とても大きな願いの為に殺し合いに乗った二人がいた。それは、決して血眼になって探し求めるべきものではなく、よく目を凝らせばごく近くに、転がっていた物なのだ。
 それに気づけなかった事が、悲劇へと彼女たちを誘導し続けただけだった。彼女たちが侵した過ちは、一概に許される過ちではない。
 彼女たちの願いはささやかでも、とても大きかった。あまりに大きすぎて、手の届くところにあっても見えないだけだった。

「だって、良牙さんが言ったように、この戦いをなかった事にしたら、私たちの出会いもなくなってしまいますよね。たくさんの悲しい事もなくなるけど、楽しかった事もなくなってしまいます。でも、大きい願いに囚われたら、そんな事に気づけなくなってしまうんです……大きい願いを持つと、それと同じだけ見失われてしまう物があるという事なのかもしれません」

 家族を取り戻す為に、家族になれたかもしれない相手を傷つけた少女。
 大事な物を得る為に、友達になれたかもしれない相手を傷つけた少女。
 二人がいた。

「……勿論、大きい願いを持つのも間違いじゃないと思います。でも、それは自分の力で叶えるものです。良牙さんみたいに、誰かが与えてくれる物なら、ささやかな願いである事が幸せの秘訣だと思います」

 普通の日常である事が、彼女の願いであった。
 これから彼女が向かう場所では、願いに殺された少女が、友達の来訪をじっと待ちわびている事など、誰も知らない。


905 : HOLDING OUT FOR A HERO!! - You need a hero - ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 21:55:29 FXeu5Vcc0




【2日目 早朝】
【C-3 森】

【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、加頭に怒りと恐怖、強い悲しみと決意、首輪解除
[装備]:プリキュアの種&ココロパフューム、プリキュアの種&ココロパフューム(えりか)@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&シャイニーパフューム@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&ココロポット(ゆり)@ハートキャッチプリキュア!、こころの種(赤、青、マゼンダ)@ハートキャッチプリキュア!、ハートキャッチミラージュ+スーパープリキュアの種@ハートキャッチプリキュア!
[道具]:支給品一式×5(食料一食分消費、(つぼみ、えりか、三影、さやか、ドウコク))、スティンガー×6@魔法少女リリカルなのは、破邪の剣@牙浪―GARO―、まどかのノート@魔法少女まどか☆マギカ、大貝形手盾@侍戦隊シンケンジャー、反ディスク@侍戦隊シンケンジャー、デストロン戦闘員スーツ×2(スーツ+マスク)@仮面ライダーSPIRITS、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア!
[思考]
基本:殺し合いはさせない!
1:さやかを助ける。
2:この殺し合いに巻き込まれた人間を守り、悪人であろうと救える限り心を救う
3:……そんなにフェイトさんと声が似ていますか?
[備考]
※参戦時期は本編後半(ゆりが仲間になった後)。少なくとも43話後。DX2および劇場版『花の都でファッションショー…ですか!? 』経験済み
 そのためフレプリ勢と面識があります
※溝呂木眞也の名前を聞きましたが、悪人であることは聞いていません。鋼牙達との情報交換で悪人だと知りました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※プリキュアとしての正体を明かすことに迷いは無くなりました。
※サラマンダー男爵が主催側にいるのはオリヴィエが人質に取られているからだと考えています。
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました。
※この殺し合いにおいて『変身』あるいは『変わる事』が重要な意味を持っているのではないのかと考えています。
※放送が嘘である可能性も少なからず考えていますが、殺し合いそのものは着実に進んでいると理解しています。
※ゆりが死んだこと、ゆりとダークプリキュアが姉妹であることを知りました。
※大道克己により、「ゆりはゲームに乗った」、「えりかはゆりが殺した」などの情報を得ましたが、半信半疑です。
※所持しているランダム支給品とデイパックがえりかのものであることは知りません。
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※良牙、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※全員の変身アイテムとハートキャッチミラージュが揃った時、他のハートキャッチプリキュアたちからの力を受けて、スーパーキュアブロッサムに強化変身する事ができます。
※ダークプリキュア(なのは)にこれまでのいきさつを全部聞きました。
※魔法少女の真実について教えられました。


906 : HOLDING OUT FOR A HERO!! - You need a hero - ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 21:56:01 FXeu5Vcc0

【響良牙@らんま1/2】
[状態]:全身にダメージ(大)、負傷(顔と腹に強い打撲、喉に手の痣)、疲労(大)、腹部に軽い斬傷、五代・乱馬・村雨の死に対する悲しみと後悔と決意、男溺泉によって体質改善、デストロン戦闘員スーツ着用、首輪解除
[装備]:ロストドライバー+エターナルメモリ@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(ゾーン、ヒート、ウェザー、パペティアー、ルナ、メタル)@仮面ライダーW、
[道具]:支給品一式×14(食料二食分消費、(良牙、克己、五代、十臓、京水、タカヤ、シンヤ、丈瑠、パンスト、冴子、シャンプー、ノーザ、ゴオマ、バラゴ))、水とお湯の入ったポット1つずつ×3、子豚(鯖@超光戦士シャンゼリオン?)、志葉家のモヂカラディスク@侍戦隊シンケンジャー、ムースの眼鏡@らんま1/2 、細胞維持酵素×6@仮面ライダーW、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、歳の数茸×2(7cm、7cm)@らんま1/2、デストロン戦闘員マスク@仮面ライダーSPIRITS、プラカード+サインペン&クリーナー@らんま1/2、呪泉郷の水(娘溺泉、男溺泉、数は不明)@らんま1/2、呪泉郷顧客名簿、呪泉郷地図、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、テッククリスタル(シンヤ)@宇宙の騎士テッカマンブレード、『戦争と平和』@仮面ライダークウガ、双眼鏡@現実、ランダム支給品0〜6(ゴオマ0〜1、バラゴ0〜2、冴子1〜3)、バグンダダ@仮面ライダークウガ、警察手帳、特殊i-pod@オリジナル
[思考]
基本:天道あかねを守り、自分の仲間も守る
0:つぼみについていく。
1:あかねを必ず助け出す。仮にクウガになっていたとしても必ず救う。
2:誰かにメフィストの力を与えた存在と主催者について相談する。
3:いざというときは仮面ライダーとして戦う。
[備考]
※参戦時期は原作36巻PART.2『カミング・スーン』(高原での雲竜あかりとのデート)以降です。
※夢で遭遇したシャンプーの要望は「シャンプーが死にかけた良牙を救った、乱馬を助けるよう良牙に頼んだと乱馬に言う」
「乱馬が優勝したら『シャンプーを生き返らせて欲しい』という願いにしてもらうよう乱馬に頼む」です。
尚、乱馬が死亡したため、これについてどうするかは不明です。
※ゾーンメモリとの適合率は非常に悪いです。対し、エターナルとの適合率自体は良く、ブルーフレアに変身可能です。但し、迷いや後悔からレッドフレアになる事があります。
※エターナルでゾーンのマキシマムドライブを発動しても、本人が知覚していない位置からメモリを集めるのは不可能になっています。
(マップ中から集めたり、エターナルが知らない隠されているメモリを集めたりは不可能です)
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※つぼみ、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※男溺泉に浸かったので、体質は改善され、普通の男の子に戻りました。
※あかねが殺し合いに乗った事を知りました。
※溝呂木及び闇黒皇帝(黒岩)に力を与えた存在が参加者にいると考えています。また、主催者はその存在よりも上だと考えています。
※バルディッシュと情報交換しました。バルディッシュは良牙をそれなりに信用しています。
※鯖は呪泉郷の「黒豚溺泉」を浴びた事で良牙のような黒い子豚になりました。


907 : HOLDING OUT FOR A HERO!! - You need a hero - ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 21:56:12 FXeu5Vcc0

【涼邑零@牙狼─GARO─】
[状態]:疲労(小)、首輪解除、鋼牙の死に動揺
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター
[道具]:シルヴァの残骸、支給品一式×2(零、結城)、スーパーヒーローセット(ヒーローマニュアル、30話での暁の服装セット)@超光戦士シャンゼリオン、薄皮太夫の三味線@侍戦隊シンケンジャー、速水の首輪、調達した工具(解除には使えそうもありません) 、スタンスが纏められた名簿(おそらく翔太郎のもの)、ショドウフォン(レッド)@侍戦隊シンケンジャー
[思考]
基本:加頭を倒して殺し合いを止め、元の世界に戻りシルヴァを復元する。
0:つぼみについていく。
1:殺し合いに乗っている者は倒し、そうじゃない者は保護する。
2:会場内にあるだろう、ホラーに関係する何かを見つけ出す。
3:また、特殊能力を持たない民間人がソウルメタルを持てるか確認したい。
[備考]
※参戦時期は一期十八話、三神官より鋼牙が仇であると教えられた直後になります。
※シルヴァが没収されたことから、ホラーに関係する何かが会場内にはあり、加頭はそれを隠したいのではないかと推察しています。
実際にそうなのかどうかは、現時点では不明です。
※NEVER、仮面ライダーの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
仮面ライダーに関しては、結城からさらに詳しく説明を受けました。
※首輪には確実に異世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※首輪を解除した場合、(常人が)ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。→だんだん真偽が曖昧に。
また、結城がソウルメタルを操れた理由はもしかすれば彼自身の精神力が強いからとも考えています。
※実際は、ソウルメタルは誰でも持つことができるように制限されています。
ただし、重量自体は通常の剣より重く、魔戒騎士や強靭な精神の持主でなければ、扱い辛いものになります。
※時空魔法陣の管理権限の準対象者となりました(結城の死亡時に管理ができます)。
※首輪は解除されました。
※バラゴは鋼牙が倒したのだと考えています。
※第三回放送の制限解除により、魔導馬の召喚が可能になりました。
※魔戒騎士の鎧は、通常の場所では99.9秒しか召喚できませんが、三途の池や魔女の結界内では永続使用も問題ありません。






908 : HOLDING OUT FOR A HERO!! - You need a hero - ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 21:56:28 FXeu5Vcc0



 孤門一輝、桃園ラブ、蒼乃美希、佐倉杏子の四名は、狭苦しい車の中でじっとしていた。
 辛うじて孤門は目をぱっちり開いて起きているが、ラブ、美希、杏子の三名は潤んだような糸目で、半分寝そうになっている。
 だから、杏子が突然しりとりを始め、現在一周回って来たあたりだった。

「たけの○の里」
「とまと」
「と、特選和牛!」

 間に誰かが欠伸をするが、お構いなしにしりとりは続いていく。
 睡眠時間が不規則で短かったせいもあり、各々は少しの休憩があれば眠らずにはいられないほどの疲労を感じている。ここで眠らせるのも決して悪くはないと思うが、少なくとも助手席で何かを伝えるラブは起きていなければならないので、やんわりと気を使って美希と杏子は無理矢理起きているのだろう。

「孤門さん。『う』ですよ!」
「う……『う』か……。『海』」

 何となく、女性陣が食べ物で縛っているのはわかったが、最初にそんな縛りを決めた覚えはない。ただ、彼女たちは別腹精神を高らかに掲げた女子中学生だった。聞いているだけでお腹が空いて嫌になるが、まだ可愛げのある話題なだけよしとしておこう。
 まだ彼女たちはセーフだ。人によっては、既に雑談内容が知り合いの悪口一色になっていく可能性がある。女性社会の怖さは孤門も知っている。
 しりとりが杏子に帰ってくる。

「ミスター○ーナツ」
「ツナマヨ」
「ヨーグルト」

 ラブの最後のヨーグルトで、孤門がつっかかった。
 ト、は既に二回使われている。何か思いつく物はないか、と孤門は考えた。
 記憶上、トで始まる物を手繰り寄せていく。そして、辛うじて一つの単語を出した。

「えーっと……東宝特撮」
「何それ」
「知らないの? ……まあ、女の子だし仕方ないかな。円谷プロの創業者の円谷英二さんっていう昔の監督が特撮技術を担当してた、ゴジラとかそういう……」

 孤門が解説していると、すぐに後ろで鼾が聞こえ始めた。
 孤門の解説がよほど退屈だったのか、それともこの絶妙な揺られ心地がゆりかごに出も似ていたのか、誰かが寝始めたのだ。
 ルームミラーでさりげなく見てみると、寝ているのは杏子らしかった。それは、まあある意味予想通りである。

「……これじゃあ、しりとり続かないな。杏子ちゃんが言いだしっぺなのに」

 言いだしっぺが寝ている。こうも堂々寝られてしまっては、眠気覚ましのしりとりも本末転倒である。
 寝心地の良い場所ではあるのだが、あまり迂闊に全員寝かせてしまって、いざという時に対応できないのは困る。

「じゃあ、孤門さん、それにラブ。別の話しない?」

 美希が、ふと真剣な表情で後ろから声をかけた。
 杏子が寝静まった瞬間、彼女は表情を変えたようであった。杏子がいると話せない何かがあるようだ。おおよそ察しがついているが、その察しが外れてもらえる事を祈りつつ、ラブは口を開いた。

「な、なあに? 美希たん」
「私たちは今、魔女のいる場所に向かっているのよね? なんで、杏子じゃなくてラブが、魔女がいる場所をピンポイントで当てられるの? 図書館の近くって……まるでそこに何かあるみたいじゃない」
「え、えーっと、それは……」

 答えたのがラブだったのは間違いだった。ラブと美希は長い付き合いである。ラブが隠し事をしていれば、美希にはすぐにわかる。
 ……とはいっても、つい最近会ったばかりの孤門ですら、ラブの挙動ですぐに嘘だとわかってしまうだろうが。

「美希ちゃん……」
「みんな、私に隠し事してるでしょ。わかってるんだからね」
「えっと……」

 隠し事は、この場にいる全員が苦手としている。
 孤門も全く気の利いた嘘を口から出す事ができなかった。ラブも孤門も大概である。

「……ごめん。とにかく言えないんだ。今は」
「言えないような秘密が、魔女にはあるってわけ? 本当に魔女は魔法少女のエネルギーだけの存在なの?」
「……」


909 : HOLDING OUT FOR A HERO!! - You need a hero - ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 21:56:48 FXeu5Vcc0

 何かに気づいているようだが、確信はないようだった。

「とても、……ただ倒しに行くだけには見えない。まるで、人間を倒しに行くみたいな……」

 ここに来る前の杏子の足取りの重さは覚えている。様子がおかしいのはわかる。
 しりとりをして気を紛らわせようとしていた事もわかった。
 こうして寝ているのも、──おそらくは寝たフリだという事も、今、杏子の瞼が微かに動いた事で確信した。
 だから、その言葉には美希に何かをわからせるだけの「意味」があった。

「……」

 しかし、それを知ると、美希は、素直に一歩退くことにした。

「……ごめん。疑いすぎました。ラブも、孤門さんも、本当にごめん。私も、ちょっと寝ようかな……」

 美希は、そう言って瞼を閉じた──フリをした。
 さて、いつ、もう一人、寝たフリをしている杏子は起きるのだろう。
 すぐに起きるだろうか。それとも、しばらく寝たフリをするだろうか。本当に寝る事はないだろう。

「……」

 残った二人は、肩をすくめて、同時にほっとしたように息をついた。
 勘付かれたかもしれないが、それならそれで構わないと二人は思っている。
 確かに美希に悲しい思いはさせたくないが、きっと、察しのいい彼女はいずれわかってしまうのだろう。
 そして、きっと受け入れてくれると──杏子の考えすぎなのだと、二人は知っていた。



【2日目 早朝】
【E-2 道路】

【孤門一輝@ウルトラマンネクサス】
[状態]:ダメージ(大)、ナイトレイダーの制服を着用、精神的疲労、「ガイアセイバーズ」リーダー、首輪解除、シトロエン2CV運転中
[装備]:ディバイトランチャー@ウルトラマンネクサス、シトロエン2CV@超光戦士シャンゼリオン
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2(戦闘に使えるものがない)、リコちゃん人形@仮面ライダーW、ガイアメモリに関するポスター×3、ガンバルクイナ君@ウルトラマンネクサス、ショドウフォン(レッド)@侍戦隊シンケンジャー
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
0:ラブの案内で図書館の方へ向かう。
1:みんなを何としてでも保護し、この島から脱出する。
2:ガイアセイバーズのリーダーとしての責任を果たす。
[備考]
※溝呂木が死亡した後からの参戦です(石堀の正体がダークザギであることは知りません)。
※パラレルワールドの存在を聞いたことで、溝呂木がまだダークメフィストであった頃の世界から来ていると推測しています。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※魔法少女の真実について教えられました。


910 : HOLDING OUT FOR A HERO!! - You need a hero - ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 21:57:03 FXeu5Vcc0

【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、左肩に痛み、精神的疲労(小)、決意、眠気、首輪解除
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式×2(食料少消費)、カオルちゃん特製のドーナツ(少し減っている)@フレッシュプリキュア!、毛布×1@現実、ペットボトルに入った紅茶@現実、巴マミの首輪、工具箱、黒い炎と黄金の風@牙狼─GARO─、クローバーボックス@フレッシュプリキュア!、暁からのラブレター
基本:誰も犠牲にしたりしない、みんなの幸せを守る。
0:図書館の近くで魔女になるマミの事を──。
1:マミさんの遺志を継いで、みんなの明日を守るために戦う。
2:犠牲にされた人達のぶんまで生きる。
3:どうして、サラマンダー男爵が……?
4:後で暁さんから事情を聞いてみる。
[備考]
※本編終了後からの参戦です。
※花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆりの存在を知っています。
※クモジャキーとダークプリキュアに関しては詳しい所までは知りません。
※加頭順の背後にフュージョン、ボトム、ブラックホールのような存在がいると考えています。
※放送で現れたサラマンダー男爵は偽者だと考えています。
※第三回放送で指定された制限はなかった模様です。
※暁からのラブレターを読んだことで、石堀に対して疑心を抱いています。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。
※魔法少女の真実について教えられました。

【蒼乃美希@フレッシュプリキュア!】
[状態]:ダメージ(中)、祈里やせつなの死に怒り 、精神的疲労、首輪解除、睡眠?
[装備]:リンクルン(ベリー)@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式((食料と水を少し消費+ペットボトル一本消費)、シンヤのマイクロレコーダー@宇宙の騎士テッカマンブレード、双ディスク@侍戦隊シンケンジャー、リンクルン(パイン)@フレッシュプリキュア!、ガイアメモリに関するポスター、杏子からの500円硬貨
[思考]
基本:こんな馬鹿げた戦いに乗るつもりはない。
0:ラブの案内で図書館の方へ向かう。
1:ガイアセイバーズ全員での殺し合いからの脱出。
2:杏子たちの隠し事については…。
[備考]
※プリキュアオールスターズDX3冒頭で、ファッションショーを見ているシーンからの参戦です。
※その為、ブラックホールに関する出来事は知りませんが、いつきから聞きました。
※放送を聞いたときに戦闘したため、第二回放送をおぼろげにしか聞いていません。
※聞き逃した第二回放送についてや、乱馬関連の出来事を知りました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。


911 : HOLDING OUT FOR A HERO!! - You need a hero - ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 21:57:17 FXeu5Vcc0

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、ソウルジェムの濁り(中)、腹部・胸部に赤い斬り痕(出血などはしていません)、ユーノとフェイトを見捨てた事に対して複雑な感情、マミの死への怒り、せつなの死への悲しみ、ネクサスの光継承、ドウコクへの怒り、真実を知ったことによるショック(大分解消) 、首輪解除、睡眠?
[装備]:ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、エボルトラスター@ウルトラマンネクサス、ブラストショット@ウルトラマンネクサス
[道具]:基本支給品一式×3(杏子、せつな、姫矢)、リンクルン(パッション)@フレッシュプリキュア!、乱馬の左腕、ランダム支給品0〜1(せつな) 、美希からのシュークリーム、バルディッシュ(待機状態、破損中)@魔法少女リリカルなのは
[思考]
基本:姫矢の力を継ぎ、魔女になる瞬間まで翔太郎とともに人の助けになる。
0:ラブとともにマミの死地に向かい、魔女と戦う。
1:翔太郎達と協力する。
2:フィリップ…。
3:翔太郎への僅かな怒り。
[備考]
※参戦時期は6話終了後です。
※首輪は首にではなくソウルジェムに巻かれています。
※左翔太郎、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライアの姿を、かつての自分自身と被らせています。
※殺し合いの裏にキュゥべえがいる可能性を考えています。
※アカルンに認められました。プリキュアへの変身はできるかわかりませんが、少なくとも瞬間移動は使えるようです。
※瞬間移動は、1人の限界が1キロ以内です。2人だとその半分、3人だと1/3…と減少します(参加者以外は数に入りません)。短距離での連続移動は問題ありませんが、長距離での連続移動はだんだん距離が短くなります。
※彼女のジュネッスは、パッションレッドのジュネッスです。技はほぼ姫矢のジュネッスと変わらず、ジュネッスキックを応用した一人ジョーカーエクストリームなどを自力で学習しています。
※第三回放送指定のボーナスにより、魔女化の真実について知りました。






912 : HOLDING OUT FOR A HERO!! - You need a hero - ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 21:57:45 FXeu5Vcc0



 涼村暁、石堀光彦、高町ヴィヴィオ、レイジングハート・エクセリオンの四名の前には、巨大施設・クリスタルステーションがあった。率直に言えば、名前からイメージした感じとは違った。一面がクリスタルの建物を想像していたが、クリスタルはこの建物の上部に少しだけ。東京のとあるビルにある金色の泡のような物だった。
 建物自体は、コンテナを歪に大きくしたような、至極つまらない物である。中に入っている物を全く期待する気になれないほどである。もっとアトラクション的な施設かと思って期待していた暁は少しがっかりしたようだ。
 これはS.A.I.D.O.Cの宗方猛チーフが、ダークザイドを倒す為に家屋敷を抵当に入れて開発した超秘密基地だった。

「……お邪魔しまーす、っと」

 暁は無遠慮にドアを開けて、その建物の中に入った。
 実際、この中に人はいなかったが、電気は薄くついている。薄暗い倉庫を想像していたので、全く予想通りという感じであった。
 どうやら、このクリスタルステーションは電気代が最小限まで節約されている点まで再現されているらしい。

「うわぁ……コイツが超光騎士か」

 暁たちが進んだ先には、赤、青、黄色の三色の超光騎士があらゆる体制で並べられていた。あおむけで眠っている者もいれば、直立している者もいる。
 おそらくメンテナンスの為の機械と思しきコンピュータや、色や長さが異なる複数のコード、何かを照射するライトなど、暁には複雑すぎて到底理解できそうにない物があった。部屋自体はかなり薄暗い。
 三体の超光騎士は人の形に似せたロボットである。
 両目を持ち、両手足が存在する。背丈は2mほどだ。

「これが超光騎士ですか……?」
「か……カッコいい!」

 レイジングハートとヴィヴィオは、そう呟く。
 アニメに出てくるロボットのようだ。思わずはしゃぎたくなる。
 触ってみると、やはり温かみのない金属の塊であった。
 石堀は、そんな様子を冷静に眺めていた。

「……暁、しばらく俺に任せてくれ。まずはこの超光騎士に関するデータをこのコンピュータで確認してからだ。ただ高圧電流を流せばいいというわけでもあるまい」

 どういう順序で正しく起動させるのかを知るべく、石堀は近くのコンピュータの前に座る事にした。
 高圧電流を流すとはいっても、実際のところ、どこにどう流せばいいのかわからない。
 ただ電気を流してぶつければいいのか、この器具のどこかにエレクトリックや擬態フェイトの電流を流せばいいのか、これでは全くわからないのである。



 さて、石堀がコンピュータに目をやったところで────

『ハロ〜! シャンゼリオン!』

 見た事のある怪物が、挨拶をした。


913 : HOLDING OUT FOR A HERO!! - You need a hero - ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 21:57:58 FXeu5Vcc0



【2日目 早朝】
【A-10 クリスタルステーション内部】

【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン】
[状態]:疲労(小)、胸部に強いダメージ(応急処置済)、ダグバの死体が軽くトラウマ、脇腹に傷(応急処置済)、左頬に痛み、首輪解除
[装備]:シャンバイザー@超光戦士シャンゼリオン、モロトフ火炎手榴弾×3、恐竜ディスク@侍戦隊シンケンジャー、パワーストーン@超光戦士シャンゼリオン
[道具]:支給品一式×8(暁(ペットボトル一本消費)、一文字(食料一食分消費)、ミユキ、ダグバ、ほむら、祈里(食料と水はほむらの方に)、霧彦、黒岩)、首輪(ほむら)、姫矢の戦場写真@ウルトラマンネクサス、タカラガイの貝殻@ウルトラマンネクサス、スタンガン、ブレイクされたスカルメモリ、混ぜると危険な洗剤@魔法少女まどか☆マギカ、一条薫のライフル銃(10/10)@仮面ライダークウガ、のろいうさぎ@魔法少女リリカルなのはシリーズ、コブラージャのブロマイド×30@ハートキャッチプリキュア!、スーパーヒーローマニュアル?、グロンギのトランプ@仮面ライダークウガ
[思考]
基本:加頭たちをブッ潰し、加頭たちの資金を奪ってパラダイス♪
0:ま た コ イ ツ か
1:石堀を警戒。石堀からラブを守る。表向きは信じているフリをする。
2:可愛い女の子を見つけたらまずはナンパ。
3:変なオタクヤロー(ゴハット)はいつかぶちのめす。
[備考]
※第2話「ノーテンキラキラ」途中(橘朱美と喧嘩になる前)からの参戦です。
つまりまだ黒岩省吾とは面識がありません(リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキのことも知らない)。
※ほむら経由で魔法少女の事についてある程度聞きました。知り合いの名前は聞いていませんでしたが、凪(さやか情報)及び黒岩(マミ情報)との情報交換したことで概ね把握しました。その為、ほむらが助けたかったのがまどかだという事を把握しています。
※黒岩とは未来で出会う可能性があると石堀より聞きました。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限は『スーパーヒーローマニュアル?』の入手です。
※リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキとクリスタルステーションの事を知りました。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。


914 : HOLDING OUT FOR A HERO!! - You need a hero - ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 21:58:24 FXeu5Vcc0

【石堀光彦@ウルトラマンネクサス】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、首輪解除
[装備]:Kar98k(korrosion弾7/8)@仮面ライダーSPIRITS、アクセルドライバー+ガイアメモリ(アクセル、トライアル)+ガイアメモリ強化アダプター@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW 、コルトパイソン+執行実包(6/6)
[道具]:支給品一式×6(石堀、ガドル、ユーノ、凪、照井、フェイト)、メモレイサー@ウルトラマンネクサス、110のシャンプー@らんま1/2、ガイアメモリ説明書、.357マグナム弾(執行実包×10、神経断裂弾@仮面ライダークウガ×2)、テッククリスタル(レイピア)@宇宙の騎士テッカマンブレード、イングラムM10@現実?、火炎杖@らんま1/2、血のついた毛布、反転宝珠@らんま1/2、キュアブロッサムとキュアマリンのコスプレ衣装@ハートキャッチプリキュア!、スタンガン、『風都 仕置人疾る』@仮面ライダーW、蛮刀毒泡沫@侍戦隊シンケンジャー、暁が図書室からかっぱらってきた本、スシチェンジャー@侍戦隊シンケンジャー
[思考]
基本:今は「石堀光彦」として行動する。
0:うわ、ゴハットだ…。
1:「あいつ」を見つけた。そして、共にレーテに向かい、光を奪う。
2:周囲を利用し、加頭を倒し元の世界に戻る。
3:都合の悪い記憶はメモレイサーで消去する
4:加頭の「願いを叶える」という言葉が信用できるとわかった場合は……。
5:クローバーボックスに警戒。
[備考]
※参戦時期は姫矢編の後半ごろ。
※今の彼にダークザギへの変身能力があるかは不明です(原作ではネクサスの光を変換する必要があります)。
※ハトプリ勢、およびフレプリ勢についてプリキュア関連の秘密も含めて聞きました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※つぼみからプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について聞きました。
※殺し合いの技術提供にTLTが関わっている可能性を考えています。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※TLTが何者かに乗っ取られてしまった可能性を考えています。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。予知能力の使用が可能です。
※予知能力は、一度使うたびに二時間使用できなくなります。また、主催に著しく不利益な予知は使用できません。
※予知能力で、デュナミストが「あいつ」の手に渡る事を知りました。既知の人物なのか、未知の人物なのか、現在のデュナミストなのか未来のデュナミストなのかは一切不明。後続の書き手さんにお任せします。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。


915 : HOLDING OUT FOR A HERO!! - You need a hero - ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 21:58:41 FXeu5Vcc0

【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:上半身火傷(ティオの治療でやや回復)、左腕骨折(手当て済+ティオの治療でやや回復)、誰かに首を絞められた跡、決意、臨死体験による心情の感覚の変化、首輪解除
[装備]:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはシリーズ、稲妻電光剣@仮面ライダーSPIRITS
[道具]:支給品一式×6(ゆり、源太、ヴィヴィオ、乱馬、いつき(食料と水を少し消費)、アインハルト(食料と水を少し消費))、アスティオン(疲労)@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ほむらの制服の袖、マッハキャリバー(待機状態・破損有(使用可能な程度))@魔法少女リリカルなのはシリーズ、リボルバーナックル(両手・収納中)@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ゆりのランダムアイテム0〜2個、乱馬のランダムアイテム0〜2個、山千拳の秘伝書@らんま1/2、水とお湯の入ったポット1つずつ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ガイアメモリに関するポスター×3、『太陽』のタロットカード、大道克己のナイフ@仮面ライダーW、春眠香の説明書、ガイアメモリに関するポスター
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
0:え…?
1:生きる。
2:レイジングハートの面倒を見る。
[備考]
※参戦時期はvivid、アインハルトと仲良くなって以降のどこか(少なくてもMemory;21以降)です
※乱馬の嘘に薄々気付いているものの、その事を責めるつもりは全くありません。
※ガドルの呼びかけを聞いていません。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※第二回放送のボーナス関連の話は一切聞いておらず、とりあえず孤門から「警察署は危険」と教わっただけです。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※一度心肺停止状態になりましたが、孤門の心肺蘇生法とAEDによって生存。臨死体験をしました。それにより、少し考え方や価値観がプラス思考に変わり、精神面でも落ち着いています。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。

【レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:疲労(大)、魔力消費(大)、娘溺泉の力で人間化
[装備]:T2ダミーメモリ@仮面ライダーW
[道具]:バラゴのペンダント、ボチャードピストル(0/8)、顔を変容させる秘薬
[思考]
基本:悪を倒す。
0:?
1:ヴィヴィオや零とは今後も協力する。
2:ケーキが食べたい。
[備考]
※娘溺泉の力で女性の姿に変身しました。お湯をかけると元のデバイスの形に戻ります。
※ダミーメモリによって、レイジングハート自身が既知の人物や物体に変身し、能力を使用する事ができます。ただし、レイジングハート自身が知らない技は使用する事ができません。
※ダミーメモリの力で攻撃や防御を除く特殊能力が使えるは不明です(ユーノの回復等)。
※鋼牙と零に対する誤解は解けました。


【備考】
※石堀は真面目に電流の流し方を考えていますが、普通に超光騎士に向けて技を放てば起動すると思います。






916 : HOLDING OUT FOR A HERO!! - You need a hero - ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 21:59:10 FXeu5Vcc0



 沖一也は、志葉屋敷まで来ていた。
 何故、またこんな所まで来ているのか──それは、一也にもわからない。
 ただ、血祭ドウコクにとって浅からぬ因縁がある場所らしく、ここに来たのはドウコクたっての希望によるものだった。
 一也にしてみれば、この建物に寄るのはこの殺し合いに来てから二度目である。
 一文字と別れた場所であった。

「……じゃあ、さっさと俺の首輪を解除しろ」

 ドウコクは、この場所を一つの「国」に見立てていたのだった。
 志葉屋敷を必要とする志葉丈瑠やシンケンジャーはもういない。敵の基地を奪い、こうして三途の川に次ぐ居場所として占有できるのが内心では嬉しかったのだろう。
 本来、外道衆は三途の川のある場所でしか生きられない。はぐれ外道を取り込んだがゆえに、こうして三途の川なしでも水切れを起こさずに生きる事ができるが、それだけではドウコクの仲間たちは置き去りである。
 外道衆の生き場を作るには、人間の嘆きが必要であった。
 しかし、結局、ドウコクとしても今はそれが必要ないので、こうして利害の一致から協力するのも一つの手立てとして彼らに甘んじる事にしたのだ。
 場所としては、この志葉屋敷は適切だった。

「待ってくれ、ドウコク。こちらにも順序がある」

 一也はそう言った。

「なんだ? こっちはてめえらを待つ為に酒を我慢してるんだ、さっさと済ませてもらわねえとな」

 酔っぱらって暴れられると首輪の解除ができないという事で、酒を飲むのは少し待ってもらっているのだ。

「ああ。だが、首輪を外した後、お前がこちらを用済みとみなして裏切る可能性も俺は考えている。その疑問を払拭したい」

 一也は疑り深く、ドウコクを見つめた。
 彼はいわゆる悪の存在である。一也や翔太郎を殺さないのは、当然彼が一也や翔太郎に何らかの価値を見出しているからだ。そして、特に問題になるのは翔太郎である。かつての因縁や、この状況下で役に立つ腕を持たない事から、真っ先にドウコクに目をつけられる可能性も否めない。
 だが、一也が疑っているほど、ドウコクは短絡的ではなかった。

「俺も馬鹿じゃねえ。一番効率よく邪魔者をぶちのめす方法はわかっているつもりだ」

悪である一方でそれなりの矜持がある。外道だからこそ、「邪魔者を消す為」という条件ならば、頭も良く回る存在なのである。
 ドウコクは、利用できる物は利用する。
 しかし、消す価値のない物をわざわざ消して、その応酬としてこの場の信頼を崩し、余計な敵を生み出すほど好戦的なわけでもなかった。

「……わかった。首輪を解除したら、好きに酒を飲んで、休んでくれ」

 ひとまず、共通の目的があるうちは信頼できる相手だと認識し、一也はドウコクを放っておく事にした。
 現状、ドウコクが殺した相手は一人。姫矢准だけである。
 それ以外は、攻撃をしかける事はあっても、殺すには至っていない。


917 : HOLDING OUT FOR A HERO!! - You need a hero - ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 21:59:27 FXeu5Vcc0

「当たり前だ」

 一也は、すぐに首輪解除の準備をする事になった。
 血祭ドウコクの首輪も解除しておいて、こちらに損はなさそうである。
 あとは、味方に暴力を振るわない程度に上手く手綱を握って彼と外道シンケンレッドを主催打倒に誘導していくのみだ。

(それから、翔太郎くんにも……)

 零からは、結城丈二のアタッチメントを、そして石堀からは、ロストドライバーとT2サイクロンメモリを預かっていた。そして、一也の手には、先ほどこの屋敷で見つけたT2ファングメモリがある。
 翔太郎の腕を見たところでは、アタッチメントを移植できるだけの腕の長さは残っており、おそらく彼は再び、ロストドライバーで仮面ライダーに変身して戦う事ができるようになるだろう。──勿論、ダブルにはなれないが。

 左翔太郎という男は、その時に臆するのか、それとも戦うのか──。

 その決断によって、彼を「仮面ライダー」と認め続けるか、それとも「人間」にしてしまうか任せる事にしていた。



【2日目 早朝】
【B-2 志葉屋敷】

【沖一也@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、強い決意、首輪解除
[装備]:カセットアーム、ロストドライバー@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(サイクロン)@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2、ガイアメモリに関するポスター、お菓子・薬・飲み物少々、D-BOY FILE@宇宙の騎士テッカマンブレード、杏子の書置き(握りつぶされてます) 、祈里の首輪の残骸、カセットアーム用アタッチメント六本+予備アタッチメント(パワーアーム、マシンガンアーム+硬化ムース弾、ロープアーム、オペレーションアーム、ドリルアーム、ネットアーム/カマアーム、スウィングアーム、オクトパスアーム、チェーンアーム、スモークアーム、カッターアーム、コントロールアーム、ファイヤーアーム、フリーザー・ショット・アーム) 、支給品外T2ガイアメモリ(ファング)@仮面ライダーW
[思考]
基本:殺し合いを防ぎ、加頭を倒す
0:ドウコクの首輪を解除し、翔太郎の腕にアタッチメントを取りつける。
1:本郷猛の遺志を継いで、仮面ライダーとして人類を護る。
2:仮面ライダーZXか…。
[備考]
※参戦時期は第1部最終話(3巻終了後)終了直後です。
※一文字からBADANや村雨についての説明を簡単に聞きました
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました
※18時に市街地で一文字と合流する話になっています。
※ノーザが死んだ理由は本郷猛と相打ちになったかアクマロが裏切ったか、そのどちらかの可能性を推測しています。
※第二回放送のニードルのなぞなぞを解きました。そのため、警察署が危険であることを理解しています。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※ダークプリキュアは仮面ライダーエターナルと会っていると思っています。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はレーダーハンドの使用と、パワーハンドの威力向上です。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。


918 : HOLDING OUT FOR A HERO!! - You need a hero - ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 21:59:46 FXeu5Vcc0

【左翔太郎@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、胸骨を骨折(身体を折り曲げると痛みます・応急処置済)、右腕切断、上半身に無数の痣(応急処置済)、照井と霧彦の死に対する悲しみと怒り、首輪解除、フィリップの死に対する放心状態と精神的ダメージ
[装備]:ダブルドライバー(破壊)@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(アイスエイジ)@仮面ライダーW、犬捕獲用の拳銃@超光戦士シャンゼリオン、散華斑痕刀@侍戦隊シンケンジャー、魔導輪ザルバ@牙狼、スモークグレネード@現実×2、トライアクセラー@仮面ライダークウガ、京水のムチ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×11(翔太郎、スバル、ティアナ、井坂(食料残2/3)、アクマロ、流ノ介、なのは、本郷、まどか、鋼牙、)、ガイアメモリ(ジョーカー、メタル、トリガー、サイクロン、ルナ、ヒート)、ナスカメモリ(レベル3まで進化、使用自体は可能(但し必ずしも3に到達するわけではない))@仮面ライダーW、ガイアドライバー(フィルター機能破損、使用には問題なし) 、少々のお菓子、デンデンセンサー@仮面ライダーW、支給品外T2ガイアメモリ(ロケット、ユニコーン、アクセル、クイーン)、ふうとくんキーホルダー@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、須藤兄妹の絵@仮面ライダーW、霧彦の書置き、スタッグフォン+スタッグメモリ(通信機能回復)@仮面ライダーW、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW、まねきねこ@侍戦隊シンケンジャー、evil tail@仮面ライダーW、エクストリームメモリ(破壊)@仮面ライダーW、ファングメモリ(破壊)@仮面ライダーW、首輪のパーツ(カバーや制限装置、各コードなど(パンスト、三影、冴子、結城、零、翔太郎、フィリップ、つぼみ、良牙、鋼牙、孤門、美希、ヴィヴィオ、杏子、姫矢))、首輪の構造を描いたA4用紙数枚(一部の結城の考察が書いてあるかもしれません)、東せつなのタロットカード(「正義」、「塔」、「太陽」、「月」、「皇帝」、「審判」を除く)@フレッシュプリキュア!、ルビスの魔剣@牙狼、鷹麟の矢@牙狼、ランダム支給品1〜4(鋼牙1〜3、村雨0〜1)、翔太郎の右腕
[思考]
基本:放心・無気力状態。
0:フィリップ……。
[備考]
※参戦時期はTV本編終了後です。
※他世界の情報についてある程度知りました。
(何をどの程度知ったかは後続の書き手さんに任せます)
※魔法少女の真実(魔女化)を知りました。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はフィリップ、ファングメモリ、エクストリームメモリの解放です。これによりファングジョーカー、サイクロンジョーカーエクストリームへの変身が可能となりました。
※ダブルドライバーが破壊されました。また、フィリップが死亡したため、仮にダブルドライバーが修復されても変身はできません。

【血祭ドウコク@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、苛立ち、凄まじい殺意、胴体に刺し傷
[装備]:昇竜抜山刀@侍戦隊シンケンジャー、降竜蓋世刀@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:大量のコンビニの酒
[思考]
基本:その時の気分で皆殺し
0:仕方がないので一也たちと協力し、主催者を殺す。
1:マンプクや加頭を殺す。
2:杏子や翔太郎なども後で殺す。ただしマンプクたちを倒してから。
3:嘆きの海(忘却の海レーテ)に対する疑問。
[備考]
※第四十八幕以降からの参戦です。よって、水切れを起こしません。
※第三回放送後の制限解放によって、アクマロと自身の二の目の解放について聞きました。ただし、死ぬ気はないので特に気にしていません。

【外道シンケンレッド@天装戦隊ゴセイジャーVSシンケンジャー エピックon銀幕】
[状態]:健康
[装備]:烈火大斬刀@侍戦隊シンケンジャー、モウギュウバズーカ@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:なし
[思考]
基本:外道衆の総大将である血祭ドウコクに従う。
[備考]
※外見は「ゴセイジャーVSシンケンジャー」に出てくる物とほぼ同じです。
※これは丈瑠自身というわけではありませんが、はぐれ外道衆なので、二の目はありません。







【共通備考】
※現在、時空魔法陣が繋いでいるのは『翠屋』〜『冴島邸』です。それぞれ、その場での使命を終えたら冴島邸に移動し、集合する予定です。


919 : ◆gry038wOvE :2014/07/19(土) 22:00:37 FXeu5Vcc0
以上、投下終了です。
第五回放送はまだ全然完成していないので、またしばらく後に予約して投下します。


920 : 名無しさん :2014/07/19(土) 22:55:56 LSJ0SqOM0
投下乙です。
そういえば良牙って登場話でガラスを割っていたな。その代償が肩叩きだけど、確かに良牙だと危ないw
で、ここでドウコクが現れて、そして同盟を結ぶのか。確かにその方がお互いの為にはなるけど……後が怖いな。


921 : 名無しさん :2014/07/20(日) 10:25:32 6/9GT3xc0
二作投下乙です
翔太郎の精神状態がだいぶやばいなあ
杏子からも少し失望されてるし、立ち直ってほしいが…
ドウコクと同盟結んで、後はあかねがどうなるのやら


922 : 名無しさん :2014/07/20(日) 13:50:50 D19Lv4BI0
投下乙です

ドウコクはそう動くのかあ
確かにその方がこの場ではいいが…やばいわあ
翔太郎は…だめなのか、それとも…


923 : 名無しさん :2014/07/21(月) 00:54:54 fh1mYkZg0
投下乙です
翔太郎がかなり追い詰められてるな、再起の時は来るのだろうか
ザギさんの裏切りも近づいてるし不安が全く消えない…
ドウコクとは同盟結べたけど上手く連携できる気が全くしねえw


924 : 名無しさん :2014/07/21(月) 04:13:18 omfm7Aoc0
投下おつです
ドウコクは対主催ですものね。交渉成立おめでとうございました
あとはあかねか
サバ豚で本当を思い出してください。目を背けた悲しみにまた向き合うことになりますが

翔太郎は…他のライダーよりメンタル一般人に近い半熟なのがある意味魅力ではあるのですが
女子中学生の憧れのお兄さんにせっかくなりかけてこれは…
実質家族と別離から一年経って再会から間を置かずまたも死別ときたら
この状態も已む無しかも

頑張っても欲しいけど、


925 : ◆gry038wOvE :2014/07/21(月) 18:25:26 FhbUEBIA0
投下します。


926 : 第五回放送Z ◆gry038wOvE :2014/07/21(月) 18:25:50 FhbUEBIA0



 二日目。午前六時。本来ならば、目覚めの時刻に近い。普通なら一日の始まりの時間なのだろうか。
 だが、その時間、殺し合いの参加者たちは眠りの床に就く事もなく、ただ不安に目を覚ましていた。眠気や疲労は彼らの体をどれほど蝕んでいる事か。あと一日続いたら、勝手に倒れる者が次々出てくるかもしれない。
 彼らに休息の時間はない。
 このままでは、あと一日経つ事なく、参加者の体力にも限界が来る。



 第五回放送──最後の放送が始まる。

 これまで首輪を通して行われていた放送は、大多数の人間の首輪解除に伴い、今度は念話を使って行われた。
 空に現れたのは、残る参加者では血祭ドウコクのみがよく知る、脂目マンプクなる怪人だった。







「皆の衆、ご機嫌いかがかな? 拙者は脂目マンプク。第五回放送を担当する者だ。
 今回は重要な報告があるが、まずはいつも通り、死亡者の報告から始めさせて頂く。

 今回の死亡者は、三名。ゴ・ガドル・バ、冴島鋼牙、結城丈二──以上だ。
 残る人数は十四名。前回と同じく、禁止区域はない。

 さて、ここからが本題だ。
 多くの者はわかると思うが……積極的に殺し合いをしている参加者は、最早少数。このままでは殺し合いの続行そのものが危ぶまれる状況でござる。圧倒的多数が首輪を解除し、殺し合いを拒否している状況では、こちらもどうする事もできないのだ。
 不服だが、この状況だ。拙者たちもおとなしく負けを認めよう。この殺し合いは、現在生き残っている人間たちの勝利でござる。



 ──────即ち、最後の一人が決まらない状況でも、生きている全員で元の世界に帰還する権利を与える。



 皆の衆には嬉しい報告だろう。これぞ勝者の証だ。
 ……ただし、これまた最後に、たった一つだけ、ちょっとした条件がある。
 その条件とは、【残り人数が正午までに十名以内になった場合に限る】という事だ。
 それから、もし、その方法で生き残った場合、こちらからの報酬は残念ながら与える事はできない。報酬を受け取ろうという意思ある者は、正午までに全員を殺せば報酬を与える。
 尚、参加者として登録されていない者は人数に含まないが、もし【残り参加者数が十名を切らなかった場合には、我々もこの世界に全員を放置して離脱】する。即ち、永遠にこの世界に閉じ込められる事になるのでござる。元の世界に帰る事もできず、限りある島の食料で死ぬまで暮らし続ける事になるだろう。
 外からの助けも待つだけ無駄だ。

 ……拙者としても、ここまで我々を手古摺らせ、楽しませてくれた諸君たちには是非とも生き残ってもらいたい。せめて、周囲の人間を蹴落として最後の十人となってくれ。
 健闘を祈る」







 この放送と共に、脂目マンプクの映像と声は消えた。
 脱出の可能性を報せると同時に、そこに残酷な犠牲を要するこの放送。
 果たして──。







 第四回放送終了から六時間経過し、第五回放送が始まった。
 参加者は三名減った。──一見すると少ない数字だが、この殺し合いを開いた男は、その六時間に対して、そこまで大きな不満を抱く事がなかった。
 彼──カイザーベリアルの目的は充分に達成されていたからである。

「思った以上だな……」

 この六時間で溜まったエネルギーの量を見て、カイザーベリアルは呟いた。この星の反対側で行われている殺し合いの結果、かなり膨大なエネルギーがベリアルの手に渡りつつある。
 侵略の為のエネルギーの補填はこの段階で加速度的な進行を見せていたのである。参加者たちの首輪が続々解除された事により、放出された変身エネルギーは十五名分。微弱なエネルギーしか放出しなかった者もいれば、これまで集めた分と同量のエネルギーを放出した者もいる。数百光年分のエネルギーが補填され、全世界侵略へのカウントダウンは既に始まっている。
 後は、流れに任せて殺し合いの終了を待っていれば、そう間もなくゲームは終了する。


927 : 第五回放送Z ◆gry038wOvE :2014/07/21(月) 18:26:15 FhbUEBIA0


 確かに、殺し合いの観戦を楽しむ趣向もカイザーベリアルは持っている。だが、それはもはや宇宙の侵略に比べれば小さな事だ。結局、これは「殺し合い」でなくても良かったのである。こちらの一方的な虐殺でも何ら支障はないが、彼の部下──メフィラス星人・魔導のスライの提案で、こちらの手を汚さずに勝手に殺し合ってくれる状況を作り出す事を受け入れただけである。
 彼らがどんな意思で殺し合っていようが知った事ではない。
 たとえどんな理由で殺し合っていようとも、どれだけ強い想いが彼らを動かしていたとしても、ベリアルにとって、それは些末な事なのだ。

 絶望や変身エネルギーを作り出す為の歯車であり、選ばれたのが彼らでなくとも、ベリアルにとっては、全く支障がない。
 時折、切羽詰まった殺し合いの中で多少面白いエピソードを見る事ができるのが、唯一これを「殺し合い」にして良かったと思うポイントであった。
 しかし、ベリアルは充分に楽しんだ。

「このまま行けば、もう間もなく全宇宙は必ず俺様の手に入る」

 この宇宙にも別れを告げ、宇宙の全てを屈服させる絶対的な力を得るのだ。殺し合いに現を抜かし続ける場合ではない。
 ベリアルに刃向かったウルトラ戦士たちは勿論の事、仮面ライダー、プリキュア、スーパー戦隊、宇宙刑事、セーラー戦士……ベリアルが知る異世界のあらゆる戦士たちも支配下に置く事ができる。
 実のところ、この殺し合いに参加しているたった六十六名の事などどうでもいい話なのだ。ベリアルにとっては、都合良く利用しただけの、ありあわせの駒である。


 参加している六十六名はベリアルにとっては取るに足らない存在でしかない。
 しかし、それを希望と信じている人間が世界の外にいくらでもいるのがこの方法の最も意味深い部分なのだ。
 未だ外世界の連中は、我が子の帰りや仲間の生還を信じられるだろうか。
 大事な人間が死んだ事に一切絶望していないだろうか。
 希望と信じていた者が役に立たず、倒れてしまった事に何も思わなかっただろうか。
 そんなはずはない。だから、こうして膨大なエネルギーがベリアルの手にあるわけだ。

(しっかし、帰りが遅えな……)

 彼の部下たちは今、外宇宙でウルトラマンゼロを初めとするウルトラ戦士と戦っている。
 メフィラス星人、魔導のスライ。
 ヒッポリト星人、地獄のジャタール。
 テンペラー星人、極悪のヴィラニアス。
 デスレ星雲人、炎上のデスローグ。
 グローザ星系人、氷結のグロッケン。
 彼らが外宇宙に行ってから数日。未だ帰還しないが、彼らのお陰で外宇宙からの介入は未然に防がれているだろう。元々、こちら側にはごく少数の選ばれた人間のみが存在を許され、外宇宙から他の存在がやって来る事はできないらしいが、念押しの為であった。
 彼らならば、こちらの世界に来てしまう恐れもあると踏んだからだ。
 未だに彼らの介入はなく、その点においてはベリアルも安心しているが──。

 もしや──と、ベリアルは不安になった。
 彼らは、最初は駒のつもりで扱っていた部下である。だが、今はそれだけではない。
 これ以上ないほどに、自分を慕い、永久に自分についてきてくれる腹心だ。
 あるいは、同胞と呼んでもいい。
 ウルトラの星にいた時ならば絶対に得られなかった、自分を満たす存在であった──。

 なるほど、この気分を外の奴らが感じているのか。

 だが、犠牲はやむを得ない。己の野望の為に部下の犠牲が生まれる事もまた、必然の事実なのだろう──。
 彼らもきっと、ベリアルの天下を喜ぶに違いない。命を賭けてでも──。







【備考】
※主催側はゴ・ガドル・バが死亡したと判断しています(首輪による生死判別ができず、監視によって生死を確認している為)。


928 : 第五回放送Z ◆gry038wOvE :2014/07/21(月) 18:26:41 FhbUEBIA0
投下終了です。


929 : 名無しさん :2014/07/21(月) 18:49:45 IMtEGoxU0
投下乙です。
ついに最後の放送が……そして、参加者に対してそんなボーナスが備え付けられるとは。
放送が進む度にタイトルのアルファベットも進んでいるのですね。芸が細かいw
あと、どさくさに紛れて宇宙刑事やセーラー戦士の名前も出てきてる……このロワに関係ないのに


930 : 名無しさん :2014/07/21(月) 23:14:25 6dUQ6lVIO
投下乙です。

あかねは急がないと。
ドウコクは、マンプクを殺す為にも、減らないように動くな。
閣下は死亡扱いされてるけど、まあ本人も気にせず殺しに来るだろ。


931 : 名無しさん :2014/07/22(火) 00:13:42 zw.yAP6g0
投下乙です

最後の放送かあ
感慨深いなあ
そしてこの段階でそのボーナスは…
それと名前だけならまだおkでいいかと


932 : 名無しさん :2014/07/22(火) 00:20:23 zw.yAP6g0
どうしてもアウトと言う人がいるのならそこだけ削ってもいいけど変身ロワとしては
そんな奴らもいてロワの参加者候補だった程度でもいい気もするがなあ
他のロワでまったく無かったわけじゃない
匂わす程度ならいいと思うからそこまでガチガチにする必要も…


933 : ◆gry038wOvE :2014/07/22(火) 15:03:21 irGSgpl.0
いつ予約解禁にしましょうか。


934 : 名無しさん :2014/07/22(火) 19:24:39 YnXQV1G.0
明日か明後日の日付変わるころでいいんじゃない?


935 : 名無しさん :2014/07/23(水) 06:44:26 6ilGVN3s0
じゃあ、木曜日辺り?


936 : ◆gry038wOvE :2014/07/23(水) 17:55:37 b9z0Xa9g0
それでいいんじゃないでしょうか。


937 : ◆gry038wOvE :2014/08/02(土) 11:32:27 2WPaWXJ.0
すみませんが、来週までに投下予定の作品を投下すると、スレ5とスレ6を跨ってしまう可能性が高いと思うので、
このスレの残りは雑談とかで進めていただけませんか?(970くらいまで行くか、投下する時に次スレは立てます)


938 : 名無しさん :2014/08/02(土) 12:26:21 YhaW4vFQO
了解しました


939 : 名無しさん :2014/08/02(土) 12:34:29 YhaW4vFQO
雑談と言えば、このロワもそろそろ三年目に入るんだよね。
本当に長かった……
思えば序盤から濃い話が投下されていましたね。


940 : 名無しさん :2014/08/02(土) 18:09:31 9GZxbQg20
確かに序盤から濃かったぜ
よくあそこまで濃い作品が来たなあ


941 : 名無しさん :2014/08/02(土) 18:44:55 LQjwSzxM0
じゃあのんびり第一回放送までの話でも振り替えるか

孤門や鋼牙やつぼみがまだ空気
杏子や暁やダークプリキュアがまだマーダー
ドウコクは何もしていなかった時期だな


942 : 名無しさん :2014/08/02(土) 19:39:53 CNOAv/jw0
そんな杏子や暁も第一回放送直前から主人公らしくなったよね
他に目立ったキャラと言えば誰だろう?


943 : 名無しさん :2014/08/02(土) 19:43:44 LQjwSzxM0
乱馬たちのグループかな


944 : 名無しさん :2014/08/02(土) 19:52:26 p4ehY3Tk0
まだ京水が道化役色だった頃ですな。
マミさんの死…早めの退場でありながら、印象が薄れない
ほむほむみたく度々出張してくるわけでもないのに忘れられない

ほむらと暁の関係もいいですよね
ガールフレンド呼ばわりを何気に否定しない死者スレほむら


945 : 名無しさん :2014/08/03(日) 07:19:53 hTMprniM0
これまで噛ませ犬と罵られ続けたランスさんが活躍したのは、このロワが初めて?


946 : 名無しさん :2014/08/03(日) 10:45:33 3/pLsqv2O
拡声器無双


947 : 名無しさん :2014/08/03(日) 18:31:47 e5an/MQI0
>>941
孤門やドウコクが空気じゃなかったり何かしてた時って、ロワ全体通しても少なかったような…w


948 : 名無しさん :2014/08/03(日) 19:41:15 vo6kJtjE0
孤門って空気だけどいないと詰む場面はある気がする


949 : 名無しさん :2014/08/03(日) 23:11:01 bcivmclM0
じゃあそろそろ第二回放送まで話すか


950 : 名無しさん :2014/08/04(月) 06:39:11 lFh7JhSE0
第二放送辺りから牙狼やネクサスも目立ち始めたよね


951 : 名無しさん :2014/08/05(火) 16:15:05 7.qJoRTM0
ただし孤門はやっぱり空気だった
そしてロワでの初戦闘後、長期間二人旅となった零&結城
逆に鋼牙は百話超えてやっと初戦闘したと思ったら、そこから一気に戦闘増えたよなあ


952 : 名無しさん :2014/08/06(水) 01:17:54 Nc9uLI1w0
ダグバのりのりロワ充時期

零と結城の二人旅がああも長続きするとは


953 : 名無しさん :2014/08/06(水) 20:25:13 u6FdNXeQ0
しかし同時に、ダグバの破滅へのフラグも立ったという…
乱馬もアインハルトも、がんばったよなあ

そういや最近、ライジェネ2のプレイ再開したら、隠しボスとしてダグバが出てきた
あのゲームの実質的な主役作品のフォーゼや近年作品をさしおいてラスボスを上回る最強キャラに君臨するダグバは、さすがというかなんというか…w
ライジェネ2って、各作品のメインライダー抑えてるから、ロワ内で実現したライダーの組み合わせの試しがいがある
スカルやエターナルすらいるし


954 : ◆gry038wOvE :2014/08/07(木) 12:30:37 vzLHVHeY0
結構長丁場な投下に際して、新しいスレを立てて投下しました。
新スレが立った以上、早々に埋める必要があると思うので、いっそ感想をこっちに書いてもいいです。

変身ロワ6
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1407378211/

とにかく誘導もかねて書き込みます。


955 : 名無しさん :2014/08/07(木) 16:41:21 vzLHVHeY0
第三回放送までとりあえず語ってください


956 : 名無しさん :2014/08/07(木) 21:31:36 9K3EMiEQ0
スレ埋めもかねてこっちに感想を
投下乙です

あかねがいよいよ見てられない状況になってきたが、果たして彼女に救いはあるのか…
魔女組はまだまだこれからだからまあ置いとくとして、翔太郎はどうにか復活してジョーカーとして再出発か
杏子をやきもきさせた分、これからに期待だ
沖さんが見たものはいったいなんなんだろうか
そしてラストの200話w
いろいろツッコミどころ満載だったが、やっぱシャンゼリオンってキチってるわー(褒め言葉)


957 : 名無しさん :2014/08/08(金) 15:22:44 ddciSnH20
第三回放送までのクロスオーバーや熱血バトルの多さ


958 : 名無しさん :2014/08/08(金) 18:24:59 lsq96jWc0
京水さんやらモロトフやら村雨やら、惜しいキャラが多く亡くなったよねえ
そしてついに死んだ究極の闇


959 : 名無しさん :2014/08/08(金) 20:28:06 SjuaXF32O
御大将がようやく働き、閣下は相変わらず大暴れ。そしてダグバはむざーん。


960 : 名無しさん :2014/08/08(金) 20:38:47 Rj798ogY0
スタンスは逆だったけど、NEVERの二人とも印象深かったね
もしも本当に再会したらどうなっていたかな


961 : 名無しさん :2014/08/08(金) 20:40:54 lsq96jWc0
生前は副隊長の生死むっちゃ気にかけてて実際に死んだときはブチ切れしてたのに、最近はすっかりそんなこと忘れて「あいつ」にご執心なザギさんとかいう薄情者


962 : 名無しさん :2014/08/08(金) 22:59:09 0PsbbpI.0
ザギさんがそんな冷徹なわけがない


963 : 名無しさん :2014/08/10(日) 17:15:07 9Vi1eRe20
第四回放送まで語ろう
こっち早く埋めなきゃ駄目だろjk


964 : 名無しさん :2014/08/10(日) 17:57:54 Ycd.sShE0
ここからガドル閣下が本気でヤバくなっていったよね


965 : 名無しさん :2014/08/11(月) 14:20:19 HGzoBOio0
ガドルさんマジ閣下


966 : 名無しさん :2014/08/11(月) 17:00:17 tSNHuVnw0
うめ


967 : ◆gry038wOvE :2014/08/11(月) 17:01:36 IJo5S1sI0
埋める作業がものすごく果てしないですね。

じゃあ、とりあえず特報で。
この夏か秋か冬か下手すれば来年、同時期のとあるロワと夢のコラボレーションが実現するかもしれません。
今回は変身ロワとあのロワがテニスで勝負する可能性あり。夏の劇場版代わり。


968 : 名無しさん :2014/08/11(月) 17:31:13 7fSvvopA0
じゃあ少し語ろう。
第四回放送辺りでガドル閣下のヤバサも語られる一方、徐々に対主催チームも固まっていった印象。
で、このタイミングで良牙が新たなエターナルとなり、一方のあかねがプロトクウガになるのも対照的だった様な。
開始当初はエターナルが敵側、クウガが味方側となっていたがこの最終局面では逆になる展開。
良牙にしてみれば五代と一条の両方と同行していた時期がある数少ない参加者(他は村雨ぐらいだった筈)だったしプロトクウガのアークル入手現場にも居合わせていたから因縁的には一番の山場な気がする。

しかし、冷静に考えて見ると開始当初は『終盤良牙がエターナルに変身する』とか『終盤あかねがクウガのアルティメットフォーム的なものになる』なんて言われても誰も信じないと思う。
どう考えたってこんな展開予想できねーよ。
冷静に考えて見たら割とみんなデフォルトの力で戦う事が多かったなぁという印象(ダープリのアレはIF展開とはいえ割とプリキュアの力だから原作由来)、
極端に印象に残るボーダレス展開やったのは良牙あかねのアレと杏子ネクサスぐらいかなぁ……あ、後女性化レイハあったか。


969 : 名無しさん :2014/08/11(月) 18:44:56 2rK4zfm60
同行で思い出したけど、第一回放送前から今の段階まで残っているコンビって
孤門とmktnだけなんだよね。
で、光を受け継いでいるのは……


970 : 名無しさん :2014/08/11(月) 19:41:39 aM7f7PcYO
そういえば、光って保持者が死ななくても継承されるの?


971 : 名無しさん :2014/08/11(月) 20:12:37 IJo5S1sI0
原作で姫矢さんも憐も凪も死んでいませんし


972 : 名無しさん :2014/08/11(月) 21:03:33 7fSvvopA0
いまふとあかねの流れ見て考えたのだけど……
1.基本的に逃げてはパワーアップを繰り返している流れを見てなんとなく某奈ら……
2.なんか今のあかねを全力で対処したら最後にあかねの中から取り込んでいた闇がキラキラ得て復活しそうな気がする(某トッキューの御嬢様)


973 : 名無しさん :2014/08/11(月) 22:07:46 UOfXoqmw0
一文字の18時市街地集合の話、沖、つぼみ、石堀と情報経路が多岐に広がってたから何気にかなり広く伝わったよな
でも、この四人の中で市街地に辿り着けなかったのは提案者の一文字だけなんだよな


974 : 名無しさん :2014/08/12(火) 00:22:00 7B3F7rIk0
時間通りに来られなかった人が多いよな
そもそも市街地という指定が結構アバウト


975 : 名無しさん :2014/08/12(火) 00:38:26 Wa7a2x/60
実際そのお陰で沖達の到着した警察署組、(一文字経由で)ラブ達が到着した中学校組が禁止エリアで分割され、本当の意味で集結したのは6時間以上も遅れてという罠……
じゃあ具体的に場所を決めておけば良かったのだろうが、それだと禁止区域に設定された事を考えるとアレなのである程度アバウトになったのはある意味仕方ないかも。


976 : 名無しさん :2014/08/12(火) 15:00:55 PflndShI0
仮面ライダーは仮面ライダー同士、プリキュアはプリキュア同士の絡みができるけど、ウルトラマンや戦隊はそれができなかったのが惜しいなぁ


977 : 名無しさん :2014/08/15(金) 12:03:58 5j2YJo0o0
埋めねば


978 : 名無しさん :2014/08/15(金) 12:33:39 mbe2YKQo0
なのはViVidアニメ化決定だって


979 : 名無しさん :2014/08/16(土) 18:41:09 6/ZWoHaE0
動くミウラちゃんに会えるのか…!


980 : 名無しさん :2014/08/17(日) 10:26:40 5rGtQP0k0
このロワのなのはキャラで一番活躍したのはvividの二人だよな


981 : 名無しさん :2014/08/17(日) 23:13:55 4S6EMwb.O
フェイトは閣下の強化に貢献したよ。


982 : 名無しさん :2014/08/18(月) 12:58:31 7N/Qs0t60
スバルもどきは参加者減らすのに貢献した。


983 : 名無しさん :2014/08/18(月) 13:51:45 5vLvUDIo0
スバルもあかねも可哀想過ぎて…超ときめきました。
サディストじゃないよ


984 : 名無しさん :2014/08/18(月) 21:12:35 rKIo1RwU0
ゴーカイジャー
ゴーバスターズ
キョウリュウジャー
フォーゼ
ウィザード
牙狼二期以降
スマプリ
ドキプリ
ギンガ

みたいに当時出せなかった作品が出てたらどうなってたんだろ
ゴーカイチェンジやウルトライブで色んなヒーロー出て凄かったんだろうな…


985 : 名無しさん :2014/08/19(火) 20:10:46 5PI/fqZI0
ぐう聖な表リュウジと無差別マーダー熱暴走リュウジ…か

ドキプリの敵幹部参戦したうえで終盤戦まで生存していたら
制限解除からのマーベラス他対主催ジコチュー化で大混戦ですな!
砂漠の使徒でもありえた展開、…ジコチュー以上にデザトリアンの方がなりそうな参加者多いな


986 : 名無しさん :2014/08/20(水) 09:04:10 cx5Vdo1A0
支給品の数は困らないよな


987 : 名無しさん :2014/08/20(水) 12:23:23 xX3QFlhA0
賢人キャンデリラ見習いラッキューロのような怪人姿の対主催は見たいなあ
プライドとかから主催に抗う危険対主催ではなく、正義サイドの怪人
トリンもそのはずだけど悪者っぽいデザインでもないし
キョウリュウジャー面子がキャンデリラたちは危険て情報流していたら、また揉めるだろうし
わくわく

カーレンVSオーレンより
『ヒーローはルックスで正義のジャッジメントはしない!』


988 : 名無しさん :2014/08/20(水) 13:21:43 cx5Vdo1A0
牙狼の参戦候補数は増えるけど、参戦するのは結局、今回の三人に落ち着きそう感
大河・鋼牙・流牙、雷牙が同時参戦しても誰か一人しか鎧召喚できない


989 : 名無しさん :2014/08/20(水) 17:47:46 fry4FfVkO
小説版のアキラもバラゴ絡みで美味しいかもしれないけど
把握が難しいか。


990 : 名無しさん :2014/08/20(水) 20:47:36 cx5Vdo1A0
アキラ「娘溺泉…?」


991 : 名無しさん :2014/08/21(木) 02:01:11 PhYzR.qA0
ヒロネクの賞金稼ぎってキョウリュウジャーと同一世界なんですよね

黒田(若い緑くんカワイイ〜*きゅんきゅん)
ソウジ(なんか寒気が…)


992 : 名無しさん :2014/08/21(木) 10:28:49 dGAXVx0I0
ディケイド、ゴーカイジャー、メビウス、ギンガの同時参戦で収集がつかなくなるロワ


993 : 名無しさん :2014/08/21(木) 13:05:33 IbYdlD/oO
ゴーカイジャーとギンガは、変身条件が割と緩いから、誰が誰とか錯綜しそう。


994 : 名無しさん :2014/08/21(木) 14:12:45 dGAXVx0I0
このロワは変身がコンセプトだけど、無条件で誰でも変身できるのはガイアメモリ系アイテムと呪泉郷だけ


995 : 名無しさん :2014/08/21(木) 15:12:18 Q7vBs1F20
キルラキルとかあっても面白いかもな


996 : 名無しさん :2014/08/21(木) 18:49:21 xRG0/n/o0
シンフォギアもコンセプトに合うかも


997 : 名無しさん :2014/08/22(金) 12:33:49 NjRUrO1E0
チャージマン研って候補にも挙がってなかったんだな


998 : 名無しさん :2014/08/22(金) 17:03:44 Gp68U74.0
>>995-997
変身ロワ2があったら出してみたいな


999 : 名無しさん :2014/08/22(金) 17:13:01 S0v22W160
候補にも上がっていないが、ビースト三獣士が参戦していたら
ワンからみて良牙やアヒル丈瑠は美味しそうだったのかな

杏子が豚サバを美味しそに見てて、ワンなら生で喰うだろうなと思いました


1000 : 名無しさん :2014/08/22(金) 21:06:40 NjRUrO1E0
ウメマス


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