したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

中学生バトルロワイアル part6

1 ◆j1I31zelYA:2013/10/14(月) 19:54:26 ID:rHQuqlGU0
中学生キャラでバトルロワイアルのパロディを行うリレーSS企画です。
企画の性質上版権キャラの死亡、流血、残虐描写が含まれますので御了承の上閲覧ください。

この企画はみんなで創り上げる企画です。書き手初心者でも大歓迎。
何か分からないことがあれば気軽にご質問くださいませ。きっと優しい誰かが答えてくれます!
みんなでワイワイ楽しんでいきましょう!

まとめwiki
ttp://www38.atwiki.jp/jhs-rowa/

したらば避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14963/

前スレ
ttp://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1363185933/

参加者名簿

【バトルロワイアル】2/6
○七原秋也/●中川典子/○相馬光子/ ●滝口優一郎 /●桐山和雄/●月岡彰

【テニスの王子様】2/6
○越前リョーマ/ ●手塚国光 /●真田弦一郎/○切原赤也/ ●跡部景吾 /●遠山金太郎

【GTO】2/6
○菊地善人/ ●吉川のぼる /●神崎麗美/●相沢雅/ ●渋谷翔 /○常盤愛

【うえきの法則】3/6
○植木耕助/●佐野清一郎/○宗屋ヒデヨシ/ ●マリリン・キャリー /○バロウ・エシャロット/●ロベルト・ハイドン

【未来日記】3/5
○天野雪輝/○我妻由乃/○秋瀬或/●高坂王子/ ●日野日向

【ゆるゆり】2/5
●赤座あかり/ ●歳納京子 /○船見結衣/●吉川ちなつ/○杉浦綾乃

【ヱヴァンゲリヲン新劇場版】2/5
●碇シンジ/○綾波レイ/○式波・アスカ・ラングレー/ ●真希波・マリ・イラストリアス / ●鈴原トウジ

【とある科学の超電磁砲】2/4
●御坂美琴/○白井黒子/○初春飾利/ ●佐天涙子

【ひぐらしのなく頃に】1/4
●前原圭一/○竜宮レナ/●園崎魅音/ ●園崎詩音

【幽☆遊☆白書】2/4
○浦飯幽助/ ●桑原和真 / ●雪村螢子 /○御手洗清志

男子11/27名 女子10/24名 残り21名

629 ◆7VvSZc3DiQ:2016/11/03(木) 23:02:56 ID:ju7RNNqk0
「向こうだってそのことには薄々気付いてるでしょうね。だから怪物に直接殴らせず、椅子や机を武器代わりにし始めたってところかしら」
「最初に私が怪物を消し飛ばしたときに比べて、抵抗力も上がってる気がします。時間をかければ無力化は可能だと思いますが……」
「気付いてる? ……多分、アイツが能力を使うには……」

アスカが何を訊こうとしているのか察して、初春は頷いた。御手洗の能力の条件についてだろう。
御手洗との戦いの中で、彼が明らかに不自然な――本来ならば必要が無いはずの行動を取っているのを何度か目にした。
彼は自分の身体を傷つけ、その血を水に垂らしていた。おそらく御手洗の能力は、己の血を媒介に水を操る能力なのだとアスカと初春は推測する。

「これはあくまで予想ですが、血が能力の源なら、注ぎ込む血液の量を増やせば能力の強度も上がると考えるのがセオリーです」
「だからカザリの能力も効きにくくなったし、怪物自体の大きさやパワーも上がってるってわけね」
「ですが、それだけ彼は――」

二人が移動しながら小声で会話を続ける間にも、御手洗は当てずっぽうに水兵を暴れさせ、フードコート内のすべてを壊さんという勢いで破壊を続けていた。
人間に対する呪詛を撒き散らかしながら破壊の限りを尽くしている御手洗の相貌は――蒼白に染まっている。
領域の過度の行使による体力の消耗、水兵を操るための多量の出血。その両方が少年から生を奪い、死に近づけている。

「カザリ。例のビデオとかいうのを見たっていうアンタに訊くわ。――アイツは、自分が死ぬことになろうとも、人間を殺そうとすると思う?」

アスカの質問に対して、初春は咄嗟に答えを返すことができなかった。それに答えようとすれば、自分の記憶を遡ることになる。思い出したくない殺人の記憶を辿ることになる。
これが初春の傷を抉るような質問だということに、アスカは気付いているだろうか? 初春が顔を上げると、真っ直ぐにこちらを見つめてくるアスカと、視線が交錯した。
アスカの瞳の中に、出会ったばかりのころのような高圧的なそれは、なかった。初春が頑なに正義を謳っていたときに見下すような目を向けてきたアスカは、ここにはもういない。

ようやく認められたような気がした。そして、同時に気付く。初春を信頼してくれているからこそ、アスカは初春に訊いたのだと。
だから、初春も答えなければならない。桑原を殺したときのことを、ちなつを殺したときのことを、美琴を殺したときのことを思い出して。
黒の章という悪意に呑まれ、人間という種をこの世界からなくしてしまおうと彷徨い歩いていた、あのときに考えていたことを。

「……きっと。きっと、あの人も――自分が死ぬことになろうとも、その行いを止めようとはしないでしょう。
 だって、彼が殺そうとしている『人間』には、彼自身も含まれているから。自分が死ぬことすら、彼にとっては贖罪の一つなんです」

はぁ、とアスカは大きなため息をついた。理解ができないわと呟きながら、かぶりを振る。

「あたしはね、人類を守るために戦ってたの。だからあたしは強くなきゃいけなかった」

薄闇の中、アスカの握る拳に力が込められたのが、初春にも分かった。アスカの手は、震えていた。

630 ◆7VvSZc3DiQ:2016/11/03(木) 23:04:27 ID:ju7RNNqk0
「世界のため。人類のため。みんなのため。そんなことを言われながらあたしは戦ったけど、それは全部、自分のための戦いだった」

強く在るということが、アスカの存在理由だった。強く、優秀でなければアスカを求める人間はいなくなってしまう。強くなければ生きる理由がなくなってしまう。
強迫観念に似た歪な価値観に支配され、アスカは己の価値を磨き上げ、周囲に誇示することに執着するようになっていった。

「バカシンジでもエコヒイキでもダメなの。あたしが使徒を倒さなくちゃ、誰もあたしのことを認めてくれないの。
 ……自分が死ぬことになろうとも人類を守れって言ってくる大人たちの顔、アンタは見たことある?」

そう言って、アスカは力無く笑った。そしてアスカの言葉を聞いた初春の中では――なにかが、ぱちんとはまった。
御手洗とアスカは、「自分が死ぬことになろうとも人類を殺すと決めた少年」と「自分が死ぬことになろうとも人類を守れと命令された少女」だった。
或いは、「自分の弱さを認められず世界を壊そうとした少年」と「世界に認められるために自分の弱さを殺した少女」だった。
まるで正反対のようで――その実、根本は同じだ。発露の方向が違っていただけで、始まりは同じだ。
震えるアスカの手を、初春はそっと握った。初春の手が触れる瞬間、予期せぬ接触に驚いたアスカの手がびくんと跳ねた。

「いっ……いきなり何すんのよ!?」
「すみません、つい……! でも、」

でも、という逆接の後ろに続く言葉を初春は探した。今自分が言うべき言葉は、いったいなんだろう。いくらか頭の中で考えて、しかしどれもしっくり来なくて。
「式波さんの手……冷たいですね」
水使いと対峙し、ずぶ濡れになったアスカの手に触れた感想を、そのまま言うことになった。
「……ヘンタイ」
返ってきたのは、ジト目だった。

「ち、違うんですよ!? いや、違わないというか……確かに急に触っちゃったのは私が悪いとは思うんですけど……」
「……別に、イヤって言ってるわけじゃないわよ」

初春の手が振り払われることはなかった。許容してくれたんだと解釈して、初春は少し嬉しく思う。
初春が握る手に力を込めると、アスカもまた握り返してくれた。初春の手のひらの熱が、少しずつアスカの手に移っていく。

「式波さん。こんな話を知ってますか? ……手が冷たい人はですね、心が暖かいそうですよ」
「知ってるわ。でも、非科学的にもほどがあることわざじゃない」
「ええ、科学的根拠なんてまったくありません。でも、素敵だなって思いませんか? それとですね、私が好きなのは、その逆の言葉はないところなんです」
「手が暖かかったら、心が冷たいって話は……確かに聞かないわね」
「ね? 初めてそれに気付いたとき、あぁ、なんだかいいなぁって思ったんです」

勝手に人のことを心が暖かいと認定するのも乱暴な話だけれど、心が冷たいだなんて決めつけることもないのは、とてもいいことだと思う。うん、いいことだ。

「式波さんも、優しい人ですよね。私、知ってます」
「はぁ? なによ、ちょっと一緒にいたくらいであたしのこと分かったつもりになるなんて――」
「優しくないところも知ってますよ。両方合わせたら、もしかしたら優しくないところのほうが多いかもしれませんね」
「……ちょっとアンタ、あたしのことバカにしてんの?」
「いいえ、違います。尊敬してるんです」

631 ◆7VvSZc3DiQ:2016/11/03(木) 23:05:47 ID:ju7RNNqk0
思えば、アスカがいてくれたからこそ、初春は自分を閉じ込めていた固い殻を破り、自分だけの現実を見つけることができた。
罪の重さに潰れそうになる初春を支えてくれたから、ここまで自分の足で歩いてくることができた。
アスカは、優しい人とは言えないかもしれない。優しさ以上に厳しさがあって、周囲の妥協を許そうとしない。
だけどそれもまた、隣の誰かを奮い立たせるやり方の一つではあった。実際に、初春はアスカに救われたのだから。

「今までありがとうございました。――今度は、私の番です」
「……言葉は、見つかった?」

御手洗を説得するための言葉。それは見つかったのかと、アスカは問う。
生半可な言葉では、人間は害悪なのだと断じ、自らの命すら投げ出す覚悟を決めた御手洗には届かない。
アスカの問いに対して、初春は、小さく首を振った。だがそれは、肯定を表す頷きではなく、否定を示す横の振り。

「せっかく式波さんに時間をもらえたのに、私はまだ言葉を見つけられません。でも、やり方は思いつきました」

そう言って、初春は微笑んだ。
あぁ、とアスカは感嘆する。自分のことを無力だと卑下して、あれだけ固執していた正義を投げ捨てて、なのにこれだけ美しい笑みを浮かべられるのだから――初春飾利が、弱い人間なはずがなかった。

「――初めて私達が出会ったときのことを、覚えていますか? きっとあのとき、こうやって私たちが手を握り合う未来なんて、想像もできなかったと思うんです。
 でも今、私たちは一緒にいる。考えは違っても、思いは違っても、傍にいて、隣にいて、互いを支え合うことだってできる。
 だからきっと、彼とだって、同じことができるはずなんです。私はそう信じてるんです。信じたいんです。それが幻想なんかじゃないって、証明したいんです。
 ゆっくりと時間をかけて、たくさんの話をしましょう。一つの言葉で彼の心を動かすことができないなら、十でも百でも、千でも万でも、たくさんの言葉を届けましょう。
 ――そのための時間を、私たちで作りましょう。式波さん、ごめんなさい。もう少しだけ、あなたの力を貸してください」

繋いだ手から、初春の熱が伝わってくる。本気の熱だ。アスカの視線と初春の視線が、交わった。
こちらをじっと見つめてくる初春の瞳に、混じり気はなかった。この殺し合いの舞台で幾度も叩きのめされて、剥がされて、それでも残った純粋な感情。
単純で、だからこそ綺麗で。周りの人間すべてに疑念を向けて、ただひたすらに自分のために生きてきたアスカですら、思わず信じてしまう慈愛が、そこに在ったから。
――アスカは、素直に自分の負けを認めた。

「ま、発破かけたのもあたしだし。ここまで来たら最後まで付き合うわ」
「……ありがとうございます!」
「さ、それじゃさっさとすませるわよ。このままじゃ、あたしたちが止める前にアイツが死んじゃうわ」

632 ◆7VvSZc3DiQ:2016/11/03(木) 23:06:49 ID:ju7RNNqk0
暴走と言ってもいい御手洗の破壊活動は、未だ翳りを見せることなく続いていた。彼が滾らせた憎悪の炎は、自身の生命まで燃やし尽くさんと暴れ狂っている。
相貌は蒼白という表現でも生温いほどに豹変し、生気の一切を欠いた土気色になっていた。美少年と形容されていたはずの整った目鼻立ちも今では憤怒に歪んでいる。
このままだと彼の命の灯火はそう遠くないうちに燃え尽きてしまうということは、誰の目にも明らかだった。彼を救うために残された時間は、あまりにも短い。

「時間がない。最短距離で突っ走って、最速でアイツを止める――アンタの能力が鍵よ、カザリ」

アスカの声に、初春はこくりと頷いた。二人が御手洗のもとへ辿り着けるかどうか。すべてはそこに懸かっている。
今の衰弱しきった御手洗が相手ならば、アスカと初春の二人が力を合わせれば彼を拘束してしまうことは難しくないはずだ。
問題は、道中に立ちふさがる水兵たち。常識外の膂力を誇る水兵に対抗できるのは、初春の『定温保存(サーマルハンド)』のみ。

「あたしが前に出て囮と盾になる。あのバケモノたちへのトドメはアンタに任せるわ」
「……お願いです。無理だけは、しないでください」
「あぁ――それはちょっと、無理なお願いね」

アスカは、初春と繋がっていた手を振り払うように離した。狼狽する初春を後目に、緑色の非常灯に照らし出される御手洗の所在を確かめる。
そしてアスカは、初春のほうを見ることなく呟いた。

「だってもう、お”願い”は先約があるもの。チナツとミコト――あの二人の”願い”で、あたしはもういっぱいってワケ。
 二人の”願い”通りに、絶対にアンタをあそこまで届けてみせる――それがあたしのプライドだから」

だから――次の瞬間、アスカは駆け出した。

「おりゃあああああああああっ!!」

アスカの叫びに反応した御手洗が、視線を向けると同時に水兵を仕向けた。総計四体の怪物が一斉にアスカを目指し向かってくる。
しかし水兵が目の前まで近づこうとも、アスカの速度は緩まない。御手洗に向かって、一直線に、ただひたすらに走る。
いち早くアスカの元へ辿り着いた水兵の腕を、身を捩りながら回避。不自然な体勢に捻れたことで、先ほどの戦闘で負った怪我がぶり返す。
身を引き裂くような鋭い痛みと熱を感じながらも、アスカは歯を食いしばり、呻き声を噛み殺し、更に加速した。
アスカに脇をすり抜けられた水兵は振り返り、再び腕を伸ばし――しかしその腕は、アスカを捉える寸前で霧散する。

「――式波さん!! 後ろは任せてください!」

水兵がアスカを捉えるよりも先に、初春の右手が御手洗の領域を塗り替え水兵を消し飛ばしたのだ。
初春の声を聞いて、アスカは頬を緩めた。アスカの後ろをついてくるだけだった雛鳥が、任せてくださいときたもんだ。
だが、今の初春になら背中を任せられる。そう思い、アスカは更に一歩を踏み込んだ。

633 ◆7VvSZc3DiQ:2016/11/03(木) 23:08:05 ID:ju7RNNqk0
以上で前編の投下を終了します
予約期限内に後編の投下をしますので、少々お待ち下さい

634名無しさん:2016/11/05(土) 03:59:01 ID:FKUv6rro0
熱いです、美しいです
後半期待してます

635名無しさん:2016/11/15(火) 00:43:53 ID:NRa082JI0
お久しぶりです
月報失礼します


話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
107話(+1) 14/51(-0) 27.5(-0.0)

636名無しさん:2017/08/02(水) 20:10:45 ID:XtsQGu/A0
糸冬

637名無しさん:2017/11/07(火) 17:07:50 ID:avuANzwY0
丸一年はもうおわたくさい

638 ◆7VvSZc3DiQ:2019/05/06(月) 02:39:10 ID:c.bgJDYw0
長らく企画の進行をストップさせていたこと、誠に申し訳ございません。
ひとえに私の怠惰が理由であり、他の住人の方たちに対していくら謝罪の言葉を述べても足りないことは重々承知しております。
恥を重ねる形になってしまいますが、>>619-632の後編を書き上げましたので投下させてください。
よろしくお願いします。

639 ◆7VvSZc3DiQ:2019/05/06(月) 02:40:53 ID:c.bgJDYw0
続く二体目、三体目の水兵も、アスカと初春は難なく撃破していく。己の操る下僕が次々と突破されていくさまを見た御手洗は、憤怒と憎悪に顔を歪ませた。
御手洗は四体の同時操作のために分散していた思考リソースを、残る最後の一体に集中させる。今から新たな水兵を生み出している時間的、体力的な余裕はなかった。
多量の失血の影響か、意識はどんどん朧気になっていく。こちらに向かってくる二人の少女の姿さえ焦点が合わず、輪郭はぼやけてしまっていた。

そんな状態であるにもかかわらず、御手洗は迸る殺意を抑えることなく、満身創痍の身体を無理矢理に奮い立たせて、アスカと初春の二人を睨みつける。
御手洗とは決して相容れない主義を正義と主張し、自分たちの行いこそが正しいのだと言い張る彼女たちは、御手洗にとって不条理な世界の象徴そのものだった。
――だからこそ、絶対に負けられなかった。負ければ、何の意味も無くなってしまう。御手洗清志という存在の全てを、否定されることになる。
失血によってどんどん擦り減らされていく御手洗の思考は、強迫観念に似た妄執と、それに由来する殺意に満たされていく。

だが、それでも。御手洗がいくら感情を滾らせようとも。彼の感覚の鈍化は止められない。
「くそっ……! くそっ、くそっ、くそったれぇ!」
手放しかけた意識を悪態で繋ぎ止めても、それは応急処置にすらならないその場しのぎ。出血とともに失われた感覚は戻らず、御手洗の視覚は闇に沈んだままだ。
いくら水兵に己の血を注ぎ込み強化していたとしても、標的を満足に捉えられないまま闇雲に振るった拳が空を切るばかりでは何の意味もない。

「なんでだよ……! 僕は、正しいのに……間違ってるのはあいつらのほうなのに……!」

――御手洗にとっての『正しさ』が、世界のそれと決定的に違ってしまったのはいつのことだったろうか。
規範でならなければならないはずの教師が、何食わぬ顔で嘘をついたのを見たときだろうか。
それとも、いじめられていたクラスメイトをみんなが見て見ぬふりをしていたことに気づいたときだろうか。
或いは、いじめの新たな標的にされ、真冬の男子トイレで頭から冷水をかけられていた、あのときかもしれない。

『正しさ』はみんなを守るためのものだと信じていた。『正しさ』は悪に負けることなく、最後には必ず勝つものだと信じていた。
けれど現実には、正義の味方ぶってクラス内のいじめを止めようとした御手洗は新たなターゲットになり、いじめという悪はさらに加速した。

『ほらほら御手洗クゥ〜ン? お名前のとおり、みんなのトイレを綺麗にしましょうねぇ〜?』

――分かるか? みんなの前で無理やり便器に顔を突っ込まれ、黒ずんだ汚物を舐めさせられる人間の気持ちが。
少しの汚れを見るだけで拒否反応が出るようになってしまうほどの傷を心に刻まれた人間が、何を考えたのか。

「お前たちが言っているそれは……もう僕が捨てたものだ! そんなもの、僕を守ってはくれなかった! だから捨てたんだ!
 なのに……なのに! どうして今さら、そんなものを僕に突きつけようとするんだよ!!」

御手洗の悲痛な叫びが、広々としたフードコート内で反響した。同時に、御手洗が操る最後の水兵がその巨体を震わせる。
この水兵が御手洗にとっての最終防衛線。これを突破されれば御手洗を守るものは何一つ無くなってしまう。
御手洗は更なる力を求めて、鏃を握りしめようとした。だが、返ってくる感触はない。握力はとうに失われて、流れる血も残ってはいなかった。

残された力だけで、少女たちを殺すことができるだろうか。今の御手洗にはそれを考える余裕すらなかった。
御手洗の中に残った、ただ一つの執念が、人間を殺さなければならないという盲信が、彼を衝き動かす。
もう何も見えてはいなかった。視界は真っ暗で、どこを向けばいいのかも分からなくて、何があるのかすら不明瞭になっていた。
世界と御手洗を繋ぐラインがぶつんぶつんと途切れていく。自己とそれ以外が断絶され、孤立する。

640 ◆7VvSZc3DiQ:2019/05/06(月) 02:42:01 ID:c.bgJDYw0
それでもなお、御手洗は足掻こうとして――彼にとっての「自分だけの現実」である領域(テリトリー)を展開した。
テリトリー。自分の場所。世界から爪弾きにされた少年が、それでもなお自分の居場所を見つけようとして、手に入れた能力。
それを御手洗は、ただ振り回した。まるで癇癪を起こした子どものように。
そんな攻撃が、当たるはずがなかった。水兵の拳は何も捉えられず、ただ御手洗の生命をいたずらに消費するだけに終わるはずだった。

だが、もう一つの領域(テリトリー)が。「自分だけの現実」が。御手洗の存在そのものを受け止めるように――

「――私はいま、此処にいます。此処まで、来たんです。貴方の傍まで、手が届くところまで。貴方の手を、掴むために!」

水兵と初春の交錯は、一瞬だった。その一瞬の間に、水兵の腕は爆散する。初春が願う現実が、御手洗の思う現実を塗り潰したのだ。
本来ならば、起こるはずがない交錯だった。水兵はまるで見当違いの場所を殴りつけていたし、初春とアスカがその横をすり抜けて真っすぐ御手洗のほうへ向かえば、それで決着していたはずだった。
だが初春は、自ら水兵の正面へと回り込み、それを受け止めた。何故そんなことをしたのか、理由は初春自身にも分からなかった。
ただ、考えるよりも先に、身体が動いたのだ。頭ではなく心が、そうしたいと願ったのだ。そうしなければならないと、叫んだのだ。
御手洗に勝つためではなく、倒すためではなく、戦うためではなく。
守るために、救うために――初春は、此処に来たのだから!

「私は――貴方の全てを受け止めて、その上で救ってみせる! それが私の、救う覚悟なんです!」
「うるっ……さいんだよぉぉぉぉぉぉ!!」

御手洗の怒号と共に、水兵は残った腕で転がる椅子を拾い直す。先の接触で、少女たちの大まかな位置は分かった。
水兵の巨体が、大きく振りかぶる。近接戦では初春に分がある。ならば近づかれる前に仕留めるだけだと水兵が投擲した椅子が、一直線に初春へと飛来する!
響くのは甲高い衝撃音。そして――水兵によって椅子が投げられたその先には。同じく椅子を握り、投擲された椅子を叩き落としたアスカの姿があった。
強引に弾き落とした反動でじんじんと痺れる手に舌打ちをしながら、アスカは初春へと言葉を投げる。

「行きなさい、カザリ! あんたが信じたもののために! あんたの願いのために!」
「――はいっ!」

頷いて、初春は走り出した。アスカは黙ってそれを見守る。それは、ほんの少し前に見た光景に似ていた。
アスカが初春と綾乃の二人を御手洗から逃したときのそれだ。あのときの初春は、逃げることしかできなかった。
だが今は、逃げるためではなく、救うために走っている。後ろではなく、前へ。過去ではなく、未来へ。
行き先を見失っていた雛鳥が、ようやく飛び立ったのだ。

「……ミコト。あんたの”願い”、ちゃんと叶えたわよ」

走る初春を目掛けて、水兵が第二射を放とうとする。振りかぶった水兵の腕から放たれた瞬間――アスカが投げつけた椅子と、空中で衝突する。

「ま、自分で言いだした手前、仕方ないか。時間稼ぎなんて性に合わないんだけど、今日だけは特別ね」

勝つ必要はない。初春が御手洗のところまで辿り着けば、自動運転ではなく遠隔操作である水兵は動きを止めるはず。たった十数秒の足止めがアスカの勝利条件。
しかしそれさえも難しいほどに、アスカもまた限界が近づいていた。水兵との連戦は容赦なくアスカの体力を奪い、受けたダメージも殆ど回復していない。
それでもアスカは、膝を折ることなく立ち上がる。それがアスカのプライドだった。初春と同じようにぼろぼろになるまで傷つきながら、最後まで残った核心だった。
水兵がゆらりとアスカのほうを向く。アスカはぎゅっと、得物を握りしめた。

641 ◆7VvSZc3DiQ:2019/05/06(月) 02:42:44 ID:c.bgJDYw0
 ◇

手を伸ばせば届きそうなほどに、二人の距離は近づいていた。初春が手を差し伸べる。だが御手洗は、その手を、初春がもたらす救いを振り払った。
初春の言葉は、御手洗にとって悪魔のささやきだった。自分が――人間が犯してきた罪を赦され、幸せになる。それはあまりにも甘美な誘惑だった。
それはかつて御手洗が信じていた『正しさ』に、限りなく近い。正しく、美しく、誰もが幸せになるハッピーエンドだ。これ以上はない、最高の、理想の結末――

だからこそ。御手洗はその理想を、幻想だと断じた。

理想はあくまでも理想だ。現実はそんなに甘くはないんだ。罪を投げ捨てて幸せになるんだなんて烏滸がましいことが許されるはずがないんだ。
ヒトは、犯した罪に対して罰を受けなければならない。いくら罰を受けても償いきれないほどの罪を、人間は積み重ねてきたのだから。
御手洗は人間が犯してきた罪の数々を、黒の章に収められた映像という形で目の当たりにした。あれを見てもなお人間の存在を許容するなど、御手洗には到底出来ることではなかった。
御手洗にとって初春の言葉は全てが薄っぺらい虚飾だらけの戯言。初春の救いを肯定すれば、彼が今まで行ってきた全てを否定することになる。
かつて御手洗を襲った、人間の奥深くに棲む悪意こそがどうしようもなく現実で。自分を助けてくれなかった救いは幻に過ぎないのだと、御手洗は叫ぶ。

「幻想なんだよ! そんなもの、救いなんかじゃない! その手を取って救われるのは僕じゃない! お前なんだ! お前が罪から目を背けるために、僕を利用しようとしているだけだ!
 ――もう僕は選んだんだ! 人間という存在を、この世界から消し去ってしまうことを! お前が言う救いなんて、この世界にはないんだから!」


「……それは、違いますよ」


御手洗の叫びを聞いてなお、初春はそう言い切る。

「私は、救われたんです。だから此処にいるんです。私を救ってくれた人たちのことを――否定なんてさせません! 幻想だなんて、言わせません!」

初春の手を引いてくれた人たちが、初春の背中を押してくれた人たちが、初春の隣を歩いてくれた人たちがいた。
忘れられない人たちの存在を、忘れてはいけない人たちの思いを、初春は背負っている。だから何度でも、幾ら振り払われようとも、初春は手を伸ばす。
故に、両者の意見は平行線。交わることのない意思が、ただぶつかり合うのみ。

「だったらお前は、人間は罰を受ける必要なんかないと思ってるのかよ! あれだけの罪を重ねてきた人間たちがのうのうと生きるのを、見過ごせるのかよ!」
「私だって、罪をそのまま見過ごしていいだなんて思いません! でも……っ! 貴方がやろうとしていることは、私がしようとしていたことは、罪無き人に罰を与える行為です。
 きっとそれは、間違っている。私は貴方の間違いを見逃すわけにはいかないんです。私もそうやって、間違えてしまった人間だから!」

初春は自分と御手洗を重ねていた。夥しい悪意に飲み込まれ、正しさを、正義を見失ってしまった初春と御手洗は、よく似ている。
だからこそ分かることがある。見えてくることがある。伝えられることがある。

「貴方の質問に、答えてませんでしたよね。――桑原さんを殺してしまったとき、私が何を考えていたのか。何を感じていたのか。
 ……そこには、何もなかった。人を殺したのに、何もなかったんです。真っ暗で、真っ黒で――ただひたすらに、『無』だった。
 私は貴方に、同じ思いをさせたくない。だから私は何度だって、貴方を救うために、この手を伸ばします!」

642 ◆7VvSZc3DiQ:2019/05/06(月) 02:43:26 ID:c.bgJDYw0
初春は愚直に手を伸ばす。御手洗がこの手を握ってくれるまで、決して諦めないと誓う。

――きっと。初春が御手洗を救うには、何もかも足りない。

もっと言葉を識っていれば、すぐにでも彼を止められただろう。
もっと力があれば、御手洗がここまで傷つく前に救えただろう。
もっと時間があったなら、足りないものもいつか補えただろう。

だが今の初春は、何も持ってはいなかった。
初春の手からこぼれていった、すくいきれなかった多くのもののことを、彼女は思う。
自分の手の中は、空っぽになってしまったけれど。だからこそ握れる。何も残っていない手のひらなら、何だって掴める。

――――そして。伸ばされた右手が、ついに届く。

世界を憎んだ少年と、世界に救われた少女。二人が生きる世界は、本来は決して交わることがなかった世界だ。
だが、今この瞬間。幾多の悲劇と奇跡を経て、二人の世界は交錯する。
初春の手のひらの熱が、御手洗へと伝播していく。

「やめろ……! 僕に……僕に、触れるなぁぁぁぁ!」

御手洗は初春の手を振り払おうと、必死に身を捩った。
だが多量の失血により、御手洗の膂力は初春の細腕に抗うことすら不可能なほどに弱まっている。
握ったダーツを苦し紛れに振り回すも容易く取り押さえられ、そのまま押し倒される格好となる御手洗。

「……私は、」

初春の呟きが、御手洗の耳朶を打った。細い声だ。
先ほどまでの叫びとは違う、この距離でなければ届かない静かな声。
優しさと慈しみで構成されたその声は、御手洗の頑なな抵抗をするりとかわし、彼の中に溶けていく。

「貴方に伝えたいことが、沢山あるんです。訊きたいことも、沢山あるんです。
 私を救ってくれた人たちのことを、貴方に教えたい。貴方を縛って離さないもののことを、私は知りたい。
 それはきっと、とても時間がかかることだから――だから私に、貴方の時間をくれませんか?」

――聞くな。聞くんじゃない。
御手洗は、目を閉じて初春の声を無視しようと試みる。
だがいくら目を閉じても、耳はふさげない。少女が握る手からは、温もりが伝わってくる。
かき乱される。御手洗を今まで苦しめていたもの――しかし、彼が心の奥底では求めていたもの。
初春はそれを、御手洗に与えようとしている。彼が切り捨ててきたものを拾い集めて、手渡してくる。

「違う……! 僕は、お前とは違うんだ!」
「同じです。同じ、人間です。同じところも沢山あって、違うところも勿論あって、でも同じように、生きている。
 だから――貴方だって、きっと変われます。私が変われたように。沢山の人に変えてもらったように――貴方も、変われるんです」

初春の言葉を聞いた御手洗は、多量の失血により霞んでいく一方の朦朧とした意識の中で、己の道程を思い出していく。
己の中に在った正しさを見失い、自暴自棄になっていた御手洗に新たな目的と力を与えた人物――御手洗清志という少年の本質を変えてしまった男。
それが、仙水忍だった。

643 ◆7VvSZc3DiQ:2019/05/06(月) 02:44:25 ID:c.bgJDYw0
仙水は言った。人間は存在そのものが悪であり、罰を受けるべきなのだと――その生命をもって、罪を償わなければいけないのだと。
これはその証拠だと、黒の章と呼ばれる映像を見た。その中で繰り広げられていた光景は、御手洗のそれまでの価値観を覆すに十分だった。
同時期に得た『領域(テリトリー)』という名の能力はそのための力なのだと教えられ、仙水に言われるがままに人間という種を抹殺するための準備を進めてきた。
その矢先、この殺し合いに巻き込まれ――やはり人間は、罪と業を背負った存在なのだと痛感した。

そして――確かに。初春飾利が言うように、それまで御手洗清志が接してきた『人間』の中にはいなかったのかもしれない。
御手洗清志という『人間』を、そのまま受け入れ、愛してくれる『人間』が。
不意に御手洗の身体から力が抜ける。張り詰めていた緊張が解け、これまで拒絶し続けてきた初春の言葉がすんなりと耳に届く。

仙水は僕を同志だと受け入れたけれど、受け入れたのは御手洗清志という一個人じゃなくて「仙水の思想に賛同する人間」だった。
仙水が僕に与えたのは使命と役割だけで、僕が本当に求めていたもの――救われたいという心は、否定した。

だけど、僕は――いつだって償いの機会を、救われる機会を待ち続けていた。
眠るたびに夢を見る。あのビデオの中で泣き叫んでいた人たちが、僕を見つめてくる。
彼らを傷つけ、殺したのは僕じゃない。そう分かっていても、毎晩うなされるたびにまるで僕がやったことのように、心を苛まれる。
もう嫌だった。すべてを終わりにしてしまいたかった。

だから、己が傷つくことを恐れずに御手洗を受け入れようとした少女の姿に、救いを見てしまったのかもしれない。
それは心の奥底で御手洗が求めていた存在だったから。できるならば彼自身もまた、そういう者になりたいと、願っていたから。

御手洗は、ようやく気付く。少女の言葉は、既に御手洗を変え始めていたということに。

「そうか……僕も、変われる……いや、もう変わり始めてたんだ……」

御手洗がこぼした呟きに、初春は答える。

「そうですよ。私達は弱い人間ですけれど――変われるくらいの強さは、持ってるんですから」

そう言って微笑んだ初春の目尻には、涙が浮かんでいた。御手洗はそっと手を伸ばして、その涙に触れる。
それは誰のために流された涙なのか。御手洗のため? 初春自身のため? 恐らくは、その両方のために流された涙は、まだ温もりを保っていて。
ありがとう、と御手洗は呟いた。僕のために涙を流してくれる少女がいたから、僕は自分が変わったことに気付いた。

そして――御手洗は、握りしめていた鏃を、己の首元へと深々と突き刺した。

644 ◆7VvSZc3DiQ:2019/05/06(月) 02:45:00 ID:c.bgJDYw0
「えっ……!?」

初春が咄嗟に御手洗の腕を抑えるも、既に傷口は深く。鮮やかな赤が、その首からは流れ出ていた。
御手洗は笑う。とても穏やかに。
大事な存在の名前を、己を変えてくれた少女の名を、御手洗は言祝ぐように口にする――

「だから僕は――光子を、僕を救ってくれたあの人を――守らなきゃ――」

相馬光子という少女が、御手洗にとっての救いだった。初春飾利と対面する、ずっと以前から――御手洗は彼女に救われていた。
血を失い、死の淵に立ってようやく気付く。御手洗の中で、人間の罪や業など、優先順位は二の次になってしまっていた。
この世界がどうなろうと、人間がどうなろうと、それよりもただ、光子だけが御手洗にとっては重要で。

彼女がけっして綺麗な存在ではないということは最初から知っていた。
いや、或いは御手洗がこれまでに出会ってきた人間の中で、彼女が一番汚れていたかもしれない。
自分だって、仙水だって、おそらくは初春も式波も、相馬光子ほど犠牲者の側にいた人間ではない。
相馬光子は彼女を取り巻く世界から虐げられ、誰よりも黒く汚れていった。
だがそれでもなお美しく咲く孤高の花は――御手洗にとっての希望となった。

もう身体は動かない。立ち上がることすらままならないだろう。こんな状態では、光子と再会しても彼女を守るどころか足手まといになるだけだ。
だったら、自分がすべきことは、彼女が最後の一人になる確率を少しでも上げること。せめて目の前の少女を殺し、逝く。
その一心で、御手洗は首筋から流れ出る最後の生命の残滓を用いて、水兵を生み出す。
視界は闇に染まったままだ。何も見えないまま、残る力の全てを懸けて、ただ闇雲に振り回す。
それが何かに当たった手応えを感じて――御手洗の意識は、ぷつんと途絶えた。

645 ◆7VvSZc3DiQ:2019/05/06(月) 02:45:52 ID:c.bgJDYw0
 ◇

「――式波さん!」
「……生きてるわよ、なんとかね」

御手洗が放った一撃は、確かに初春を捉えていた。
だが、衝撃の瞬間――初春をかばうようにアスカが割り込み、一瞬だけ生まれた間隙を縫うように初春は『定温保存』を発動し、水兵の一撃を緩和させた。
勿論アスカ、初春ともに少なからずダメージを受けることにはなったが、両者ともに生命に関わるほどの傷を負ったわけではない。
戦闘の結果だけを見れば――御手洗は瀕死となり戦闘続行は不可能。初春とアスカはボロボロながらも生存と、その明暗ははっきりと分かれた。
初春とアスカは――勝ったのだ。

しかし初春は――呆然と座り込んだままだった。そこには勝利の余韻など欠片もなく、ただただ悲壮感と疲労感だけが、あった。
初春は元々、勝利など求めてはいなかった。初春が目指したのは、自分を逃がすために独り死地に残ったアスカを守り、自分の合わせ鏡のような存在である御手洗を救うこと。
だが――

「式波さん……私は、私は……っ! 彼を、救えなかった……!」

初春のやり方が、間違っていたのだろうか。或いは最初から上手くいく方法なんかなくて、ただ無駄に傷ついただけなのだろうか。
御手洗を救おうとしたこと自体が、初春のただの自己満足に終わってしまったということなのだろうか。

「……悪いけどね、カザリ。あたしはアンタが欲しがってる答えなんか、持ってないわ」

アスカもまた、全身を地に投げ出したまま答えた。
度重なる連戦と負傷で、アスカの身体ももう限界を迎えようとしている。

「でも、アンタの答えは、ちゃんと覚えてる」

「アンタは、こう言ってたわよ。アンタは、ヒーローじゃない。英雄でもない。主人公にもなれない」

でも。

「ただ、誰かのそばにいてあげられる、そんなやさしい人間になりたい――」

アスカは、御手洗を指さし、こう言った。
「アイツ――死ぬわよ」

御手洗は意識も朦朧としたまま、ピクリとも動かない。浅い呼吸の間隔はどんどん遠くなっていき、今にも止まってしまいそうだった。
もはや、指一本動かす力さえ残っていないだろう。今の初春とアスカに、御手洗を助けるための手段はない。御手洗の死は、確定していると言い切っていい。

「――このままアイツを死なせることが、アンタが望んだこと?」
「…………違い、ます……!」

震える足を必死に押さえつけながら、初春は立ち上がった。一歩ずつ、御手洗へと近づいていく。
救いは――そこに、ないのかもしれない。本当に、ただの自己満足のまま終わってしまうのかもしれない。
それでも、と初春は独りごちた。
ここで膝を折るのならば。ここで立ち上がらないのならば。最後に残った、ちっぽけなプライドすら捨ててしまうなら。
初春飾利のこれまでを、否定することになる。
彼女が関わってきた多くの人たちと、受け取ってきた多くの思いを、無かったことにしてしまう。

646 ◆7VvSZc3DiQ:2019/05/06(月) 02:46:23 ID:c.bgJDYw0
御手洗のもとへと辿り着く。ここまで来てもなお、初春は自分がどうすればいいのか、分からなかった。
何が出来るのだろう。どんな言葉が紡げるのだろう。何も分からないまま、初春は御手洗に寄り添った。

――声が、聞こえた。か細い声だ。今にも消えてしまいそうな声だ。

「みつ、こ……寒い、よ……」

――きっと、今。御手洗の傍にいるべき人間は、初春飾利ではないのだろう。彼に救いを与えられる人間は、相馬光子なのだろう。
それが分かっていても、なお。なお。

初春は、語る言葉を持たない。語ればそれは、初春飾利の言葉になってしまう。それはきっと、今の御手洗が欲しいものではない。
最後まで、伝えられる言葉を見つけられなかった。時間すらも、作れなかった。
だから、ただ――御手洗の手を、握りしめた。

最初に感じたのは冷たさだった。およそ人のものとは思えないほどに冷え切った、白い手だった。
血の気を失ったその手は、しかし、柔らかかった。そして、小さかった。小柄な初春の手と比べてもさほど変わらない。
思う。彼もきっと――自分の命よりも大事なもののために、戦っていたのだと。

ぎゅっと、強く握る。ぽろぽろとこぼれる涙が、二人の手の上に落ちていく。

「みつ、こ……?」

御手洗の呟きに対して、初春は沈黙を貫いた。彼の最後に傍にいる人間が、自分であると悟られることがないように。
せめて彼が、少しでも幸せな――救いを得てほしいと、強く願う。

「……あたたかいよ、みつこ……」

現実は、辛くて、冷たくて、悲しい。だから初春は、そんな現実を塗り替えようと――『自分だけの現実』を使う。
だが、この能力には世界を塗り替える力なんて存在しない。できるのは、せいぜい――握った手を、温めるくらいのことだ。
ただそれくらいのことしかできない無力さに、初春は泣いた。でも、最後にそれができたことにも、泣いた。

御手洗の手から、温もりが消えてしまうまで。
初春はずっと、彼の手を握り続けていた。


【御手洗清志@幽遊白書 死亡】

【残り13人】

647 ◆7VvSZc3DiQ:2019/05/06(月) 02:47:10 ID:c.bgJDYw0
【F-5/デパート/一日目 夜中】

【初春飾利@とある科学の超電磁砲】
[状態]:打撲 疲労(大) 『定温保存<サーマルハンド>』レベル3 全身ずぶ濡れ
[装備]:交換日記(初春飾利の携帯)@未来日記、交換日記(桑原和真の携帯)@未来日記、小さな核晶@未来日記?、宝の地図@その他、使えそうなもの@現地調達
[道具]:秋瀬或からの書置き@現地調達、吉川ちなつのディパック
基本行動方針:生きて、償う
1:みんなを守る。
2:辛くても、前を向く。
3:白井さんに、会いたい。
[備考]
初春飾利の携帯と桑原和真の携帯を交換日記にし、二つの未来日記の所有者となりました。
そのため自分の予知が携帯に表示されています(桑原和真の携帯は杉浦綾乃が所有しています)。
交換日記のどちらかが破壊されるとどうなるかは後の書き手さんにお任せします。
ロベルト、御手洗、佐野に関する簡単な情報を聞きました。御手洗、佐野に関する簡単な情報を聞きました。
アスカ・ラングレー、杉浦綾乃とアドレス交換をしました。

※『定温保存<サーマルハンド>』レベル3:掌で触れたもの限定で、ある程度の温度操作(≒分子運動操作)をすることが出来る。温度設定は事前に演算処理をしておけば瞬間的な発動が可能。
                     効果範囲は極めて狭く、発動座標は左右の掌を起点にすることしか出来ないうえ、対象の体積にも大きく左右される。
                     触れている手を離れると効果は即座に解除され、物理現象を無視して元の温度へ戻る。
                     温度に対する耐性は、能力発動時のみ得る事ができる。
                     温度設定の振り幅や演算処理速度、これが限定的な火事場の馬鹿力なのかは後続書き手にお任せします。

【式波・アスカ・ラングレー@エヴァンゲリオン新劇場版】
[状態]:左腕に亀裂骨折(処置済み) 腹部にダメージ 疲労(極大) 全身ずぶ濡れ
[装備]:ナイフ数本@現実、青酸カリ付き特殊警棒(青酸カリは残り少量)@バトルロワイアル、使えそうなもの@現地調達
   『天使メール』に関するメモ@GTO、トランシーバー(片方)@現実、ブローニング・ハイパワー(残弾0、損壊)、スリングショット&小石のつまった袋@テニスの王子様
[道具]:基本支給品一式×4、フレンダのツールナイフとテープ式導火線@とある科学の超電磁砲
風紀委員の救急箱@とある科学の超電磁砲、釘バット@GTO、スタンガン、ゲームセンターのコイン×10@現地調達
基本行動方針:エヴァンゲリオンパイロットとして、どんな手を使っても生還する。
1:体力の限界。
2:スタンスは変わらないけど、救けられた借りは返す。
3:ミツコに襲われているであろうアヤノの安否が気になる

[備考]
※参戦時期は、第7使徒との交戦以降、海洋研究施設に社会見学に行くより以前。
※杉浦綾乃、初春飾利とアドレス交換をしました。


※御手洗の所持品が亡骸のそばにあります。
(基本支給品一式、ブーメラン@バトルロワイアル、ラムレーズンのアイス@ゆるゆり、鉄矢20本@とある科学の超電磁砲、水(ポリタンク3個分)@現地調達)

648 ◆7VvSZc3DiQ:2019/05/06(月) 02:52:04 ID:c.bgJDYw0
以上で投下終了となります。
タイトルは「ストレンジカメレオン」になります。

重ね重ね、私の不徳の致すところにより企画進行を妨げてしまったことをお詫びいたします。
誠に申し訳ございませんでした。

649名無しさん:2019/05/06(月) 22:54:23 ID:qc9AcsFQ0
投下乙です
キルスコアは出せなくても初期からマーダーとして戦い続けた御手洗もこれで退場だと思うと感慨深いですね。
遅すぎたけど伸ばした手は確かに繋がって、最期は救われた。
血に塗れた現実と向き合った正義の物語の最後に相応しい話でした。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板