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中学生バトルロワイアル part6

642 ◆7VvSZc3DiQ:2019/05/06(月) 02:43:26 ID:c.bgJDYw0
初春は愚直に手を伸ばす。御手洗がこの手を握ってくれるまで、決して諦めないと誓う。

――きっと。初春が御手洗を救うには、何もかも足りない。

もっと言葉を識っていれば、すぐにでも彼を止められただろう。
もっと力があれば、御手洗がここまで傷つく前に救えただろう。
もっと時間があったなら、足りないものもいつか補えただろう。

だが今の初春は、何も持ってはいなかった。
初春の手からこぼれていった、すくいきれなかった多くのもののことを、彼女は思う。
自分の手の中は、空っぽになってしまったけれど。だからこそ握れる。何も残っていない手のひらなら、何だって掴める。

――――そして。伸ばされた右手が、ついに届く。

世界を憎んだ少年と、世界に救われた少女。二人が生きる世界は、本来は決して交わることがなかった世界だ。
だが、今この瞬間。幾多の悲劇と奇跡を経て、二人の世界は交錯する。
初春の手のひらの熱が、御手洗へと伝播していく。

「やめろ……! 僕に……僕に、触れるなぁぁぁぁ!」

御手洗は初春の手を振り払おうと、必死に身を捩った。
だが多量の失血により、御手洗の膂力は初春の細腕に抗うことすら不可能なほどに弱まっている。
握ったダーツを苦し紛れに振り回すも容易く取り押さえられ、そのまま押し倒される格好となる御手洗。

「……私は、」

初春の呟きが、御手洗の耳朶を打った。細い声だ。
先ほどまでの叫びとは違う、この距離でなければ届かない静かな声。
優しさと慈しみで構成されたその声は、御手洗の頑なな抵抗をするりとかわし、彼の中に溶けていく。

「貴方に伝えたいことが、沢山あるんです。訊きたいことも、沢山あるんです。
 私を救ってくれた人たちのことを、貴方に教えたい。貴方を縛って離さないもののことを、私は知りたい。
 それはきっと、とても時間がかかることだから――だから私に、貴方の時間をくれませんか?」

――聞くな。聞くんじゃない。
御手洗は、目を閉じて初春の声を無視しようと試みる。
だがいくら目を閉じても、耳はふさげない。少女が握る手からは、温もりが伝わってくる。
かき乱される。御手洗を今まで苦しめていたもの――しかし、彼が心の奥底では求めていたもの。
初春はそれを、御手洗に与えようとしている。彼が切り捨ててきたものを拾い集めて、手渡してくる。

「違う……! 僕は、お前とは違うんだ!」
「同じです。同じ、人間です。同じところも沢山あって、違うところも勿論あって、でも同じように、生きている。
 だから――貴方だって、きっと変われます。私が変われたように。沢山の人に変えてもらったように――貴方も、変われるんです」

初春の言葉を聞いた御手洗は、多量の失血により霞んでいく一方の朦朧とした意識の中で、己の道程を思い出していく。
己の中に在った正しさを見失い、自暴自棄になっていた御手洗に新たな目的と力を与えた人物――御手洗清志という少年の本質を変えてしまった男。
それが、仙水忍だった。


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