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中学生バトルロワイアル part6

552スノードロップの花束を  ◆sRnD4f8YDA:2015/10/12(月) 19:40:25 ID:lhrTcDrE0
嗚呼、いずれにしても、それは自己満足。誰かではなくて、自分が納得できるか、否かなのだ。
せいぎも正義も、そこにはきっと関係無い。
守る為だ。少女は握る手を万力の様に強く締めながら思った。自分と皆を守る為だ。守る為に戦う事は、正義だ。正義なんだ。
少しだけ痙攣して、白い泡がぶくぶくを手の甲を伝う。
ぐるりと白眼を向いたそいつは、やがてぴたりと時を止めた様に動かなくなった。
呆気無い。人の死とはこうも簡単なものなのか。想いも、願いも、全部そこで終わってしまう。
終わったのだ。一人の女の物語が。回想もなく、一人称視点もない。情けも容赦もありはしない。
願いも想いも意思も命も平等に、全てがそこでぱったりと途切れたように死に尽くし、完結していた。

一分か、十分か。どのくらいの間、握る両手に力を込めていただろう。息を止めて一心不乱に考えていただろう。
はっと思い出した夜に、綾乃はマウントポジションから慌てて立ち上がった。ふらふらと逃げる様に後退り、膝を折る様に倒れこむ。
じんじんと熱を持つ掌と、舌をべろりと出して無残に転がる人型の何かを見る。肩で息をして、そいつを見た。
動かない胸、開いた瞳孔、合わぬ焦点、濡れた下半身、震えぬ口、鬱血した首、だらりと垂れた手足、青白い蝋人形の様な肌。
昼下がりの日曜日、お父さんと一緒にテレビドラマで見た様な、よくある殺人事件のよくある現場。
違うのは、自分が発見者でも探偵でもなく加害者で、被害者にブルーシートがかかっていない事くらい。

「私、正義でいいのよね……?」

正義を貫き、悪を滅ぼす。いつだってそれはヒーローの台詞で、だけど、いつだって崖の上で極悪非道の犯人が言ってきた台詞。
涙を流して、笑いながら、少女は泣いた。これでいい。これが正義だ。何も悪くない。自己防衛だ。生きる為だ。仕方がなかった。
悪を倒したんだ。賞賛される立派な行動じゃないか。きっと、みんなも褒めてくれるよ。
誰も殺さずにみんなで生き残る方法を見つけたい。そんなの無理だって、本当は思ってたよね。
自分だけは殺さないとか、誰かに悪を倒してもらおうとか。そんな卑怯なこと、少しは考えてたよね。
それを自分から動いたんだから、凄いことじゃない。ねぇ、だから、誰か。
だれか。だれでもいいから、私を褒めてよ。

お願いだから……誰か……だれか……。

「……助けて……」

震える唇で、絞るように呟く。
向こう側から、ぱたぱたと足音が聞こえた。来訪者が、彼女の元へと訪れる。

「お前……杉浦綾乃、だな」

嗚呼、でも、遅かった。正義の主人公が薄幸のヒロインを助けに来るには、何もかもが、誰も彼もが、遅過ぎた。
遅過ぎたのだ。



この空の下に、正義は無かった。ヒーローも、居なかった。汗と土と、血に塗れた現実が、全てを墓の下に沈めていった。
だから、正義の空席に座して悪を討つ。血濡れて汚れ、今にも黒く染まりそうな魂だけが、そこに婉曲して立っていた。

月に英雄、星には勇気、熱き血潮に正義の剣。歯向かう者へ、スノードロップの花束を。
戦おう、始めよう。踊ろう、狂おう、歌おう。誰かが死ぬまで、誰かが喪うまで。最期の一人になるまで。
最後に残った者が、正義となるのだ。異を唱えるものは殺してしまえ。
何時の時代もそうだった。正義のヒーローは、戦場で生き残った者だけが、語ることを許されるのだから。

だから、これも、正義の物語。


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