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中学生バトルロワイアル part6

300波に黄昏、海に夢、泡沫の聲は銀の浜 ◆sRnD4f8YDA:2014/08/17(日) 03:07:54 ID:TZA2pd2M0
いざ別れの時となると、やはり辛いものがあった。
灰色のコンクリートで作られた浜の先に、二人は立ち尽くしていた。二体の遺体が、そのすぐ側に横たえられている。

水葬にしようと提案したのは、少女だった。
土に埋めるのは何か妙な罪悪感があったし、そのうえ辺りはアスファルトの地面ばかりだった。
唯一、研究所の入り口周辺は原っぱが広がっていたが、そこを掘る気力は彼等には残っていなかった。
火葬などは論外だった。死体とは言え、焼いてしまうのは何か再び殺してしまう様な気がしたし、煙で自分達を居場所をマーダーに教えかねない。
故に水に目を向けるのは半ば必然で消去法にも近かったが、幸い近くに海もあった。
水葬が良い。少女がそう呟くまでさして時間はかからなかった。
水葬なら、彼女達を綺麗な姿のまま葬る事が出来る。
そうと決まれば準備は直ぐだった。
少女達は彼女等を沈める為の重りを研究所から持ち出し、そして原っぱに生えていた幾分かの白い花を摘んだ。
「マーガレット」少女は言った。
「ふぅん」少年はさして興味がなさそうに相槌を打つ。

そして、岬に彼女達を運んだ。別れの準備は拍子抜けするくらいに直ぐに整った。
少しだけ跪いて、少女は祈りを捧げる。
いざ何を祈るか考えると、ありきたりな言葉ばかりしか出てこなくて、胸の奥が何やらきりきりと痛んだ。

「そういえば、これ」
ふと少年が思い出した様に言って、二つ折りの小さな紙切れを投げる。
「走り書きだけど、多分、船見だ。後丁寧に研究所の入り口に置いてあったよ」

胸ポケットから煙草を取り出しながら、少年はぶっきらぼうに言った。
少女はひらひらと舞うそれを受け取り、開くべきか開かざるべきかを己に問うた。
知ることが、少しだけ怖かった。それでも少女は躊躇を飲み込むようにかぶりを振ると、その羊皮紙の紙切れを開いた。



――――――あと、任せたから。



書いてあったのは、それだけだった。
中学生の女の子らしい小さな丸文字で、掠れた黒いインクで、たった、それだけ。
ああ、と少女は観念した様に項を垂れた。

……かなわいませんわね、本当に。

腹の底から唸る様に少女は泣き崩れ、震える手でその紙切れをくしゃりと握る。ぽたぽたと零れる涙に、黒いインクが滲んでゆく。
嗚咽を漏らしながら、少女はアスファルトに爪を立てた。がりがりと、綺麗な爪が割れてゆく。
たかだか九文字のそのメッセージは、しかしあまりに強くて、優しくて、眩しくて。
とても今の自分では、敵わない。
彼女は、死を享受してまで自分達を助けたのだ。未来を託すために、守りたいものを守るために。
自分の命と私達の未来を天秤にかけて、彼女の腕は未来を、理想を選んだ。
そして彼女自身と、未来と、皆を、信じた。最期まで信じきったのだ。自分達が彼女の死を乗り越えて、理想を繋いでゆく事を。
想いのカケラを、結んでゆく事を。そうでなければ、任せて逝けるもんか。
……あんな、満足した笑顔で。

「任され、ましたの」

生温い雨の中、ぼそりと呟く。湿った海風と、ざぁざぁと波打つ潮に攫われて、その言葉は中空に溶けてゆく。

「なぁ、悪いけどそろそろ」

竜宮レナの骸を背負った少年が、少女の肩を叩く。
言葉の続きは決して紡がれる事はなかったが、それが別れを意味している事くらいは、少女にも理解出来た。
ええ、と呟き、ついでに少年の煙草を奪い取りながら少女は立ち上がる。
いつまでも泣いてばかりではいられないのだ。
立ち上がって前を向いて進まなければ、道は愚か、未来だって見えやしない。
止まるものか。挫けるもんか。確りと、未来を任されてやらなければならないのだから。
少女は少し歩いて横たわる船見結衣の前で膝を折り、足と肩に手を回す。傷付ける事が決してないように、優しく。

「ありがとう」

少女がぽつりと呟いた。

「守ってくれて、ありがとう。救ってくれて、ありがとう。生かしてくれて、ありがとう、ございます」

決して届かぬ謝辞と共に彼女を抱き、ゆっくりと立ち上がる。本当に、幾ら感謝しても足りないくらいだ。

そして、顔を上げて目の前を見て――――――息が、止まった。


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