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新西尾維新バトルロワイアルpart6

637 ◆xR8DbSLW.w:2015/11/06(金) 22:49:15 ID:aUdM2l2E0


「キズタカ!」

 手にしていた懐中電灯を叩き落とす。
 衝撃で電池でも外れたのか、懐中電灯の光さえも消え、周辺が暗澹たる色合いに染まる。
 本来怖くてしょうがないはずの暗闇の中、浮かび上がる赤色はヒステリーを起こしたかのように、喚く。


「キズタカ! キズタカはみんなを幸せにするんじゃなかったのか!
 そんな自己犠牲で自己満足で、わたしが――わたしが幸せになるとでも思ったのか!」


 身を挺して供犠創貴は水倉りすかを庇うように死んだけれど、りすかからしてみれば甚だ不本意だ。
 コンマ単位での判断だったから仕方がない?
 あの爆発ではりすかの血さえも蒸発し、およそ『変身』なんて出来ないだろうから仕方がない?
 ふざけるな。『駒』はそこまで『主』を見くびっちゃいない。『そんなこと』さえもどうにかするのが『主』たる供犠創貴なのだから。


「許さない、許さないよ、キズタカ。わたしを惨めに死ぬ理由なんかに利用して許せるわけがないっ!」


 この場合、誰かが見くびったと言うのなら、創貴がりすかの忠烈さを見くびっていたのだろう。
 何故庇った。庇われなければならないほど、りすかは創貴に甘えたつもりなんて、ない。


「命もかけずに戦っているつもりなんてない。その程度のものもかけずに――戦いに臨むほど、わたしは幼くなんてないの。
 命がけじゃなければ、戦いじゃない。守りながら戦おうだなんて――そんなのは滑稽千万なの」


 創貴が命じてさえいれば、例え『魔法』が使えなかったところで、この身を賭すだけの覚悟はあった。
 命令を下さなかった、そのこと自体を責めているのではない。りすかが自主的に犠牲になればよかっただけなのだから、そうじゃない。
 りすかを庇ってまでその命を無駄にした、まったく考えられない彼の愚行を、彼女は許せない。


「逃げたのか、キズタカ! 臆したのか、キズタカ!? 笑わせないでほしいのが、わたしなの!」


 正直、『このまま』では先が見えないのはりすかからも分かっていた。
 きっとりすかには及びもつかない筋道を幾つも考え巡らせていたことだろう。
 それらすべてを放棄して、創貴は死ぬことを選び取ったのだ。
 これを現実から逃げたと言わずなんという。
 これを臆病者と言わずなんという!


「自分だけが幸せに逝きやがって。そんなキズタカを――わたしは許さない」


 語気を荒らげたこれまでとは一転。
 極めて静かな口調でそう告ぐと、震えていた銃口をしっかりと定めて。



「だから、キズタカはわたしに謝らなきゃいけない。わたしの覚悟を見くびらないでほしいの」



 思い切り、引き金を引いた。
 今のりすかには『自殺』なんていうものは、恐怖の対象とすらならない。


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