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百合キャラバトルロワイヤル

301 ◆7VvSZc3DiQ:2016/06/30(木) 22:41:50 ID:noDR0xos0
「先生っ……! せんせいっ!」

灯り一つすら無い埠頭の、乱雑に積まれた段ボール箱の陰。
そこから内藤桃子がいくら名前を呼んでも、地面に倒れ込んだままぴくりとも動かない隼砥教子からの返事は帰ってこなかった。
諦めの悪い「もしかしたら」という願望のような何かが桃子の中にはしぶとく残っていたけれど、どうやらそれもそろそろ音を上げそうだ。
認めなければならない。隼砥教子は、内藤桃子の目の前で――何処からか飛来した銃弾を頭に受けて、死んだ。物言わぬ骸となったのだ。
夜目にうっすらと見える水たまりのようなものは、水道の蛇口を思い切りよくひねったときのように勢いづいて噴出した血の溜まりで。
そこに浮かんでいる半固形の塊は、彼女の脳髄や頭蓋骨や血管や膜なんかの、とにかく頭部を構成するものがぐちゃぐちゃに撹拌されてぼとりと落ちたものなんだろう。
今が夜中でよかった。なんとなくの輪郭しか見えなくて、ぼんやりとしたイメージでしかそれが見えなかったから。

先生――ともう一度呼ぼうとして、桃子は寸前でそれを止めた。いくら桃子が名前を呼んでも、桃子の声が死んだ彼女に届くことは、もうないのだから。
それでも、理屈では理解していても抑えられない感情が身体の奥、心の底から溢れそうになって、声にならない声が、ぐぅと喉を鳴らした。
漏れそうになった嗚咽が誰にも聞こえないように、息が出来なくなるくらいの勢いで口と鼻を覆った。それでも零れ落ちそうになった呻きを歯を食いしばって堪えた。

もう、私の声が先生に届くことはない。それは断絶だった。生きている者と死んだ者を隔てる、どうしようもなく深い溝だった。
かつて先生が桃子のそばから離れていったあのときのそれとは、まるで違っていた。確かにあの別れも、それっきりになってしまった別れだったけれど。
お互いが望んだ別れではなかったのに、また会いたいと思っていたはずなのに、先生が遠い場所へ旅立ってしまったあとに交わした連絡なんて、殆どなかった。
もしもこの場所で再び出会うことがなければ、血を吐いて倒れた先生の姿と、遠い地で療養するという簡素な手紙が桃子と教子の最後になっていたかもしれない。

でも、違う。また会えるかもしれないという希望を抱いての別れと、もう会えないという絶望しかない別れは、同じ別れという単語で括ってしまうのが許せないほどに別物だ。
先生の下手な運転で少しばかりの遠出をして、うっかりカーナビの指示を聞き逃して全然知らない場所に行き着いた挙句、山の上のお城みたいなホテルで一夜を明かすなんてことも。
先生がはりきって振る舞ってくれた手料理は美味しいけれど、健啖家の桃子には量が全然足りなくて先生の分まで食べてしまってそれでも足りなくて、結局深夜にお腹をすかせた二人でラーメン屋ののれんをくぐるなんてことも。
柔らかいシーツにくるまれながら、先生の体温を直に感じて抱きしめ合って、身も心も一つになるような交わりをすることだって、もう二度とできないのだから。

隼砥先生がいなくなって生まれた大きな欠落。そこになだれ込むように溢れ出した感情。
自分の中で隼砥教子という存在がこれほど多くを占めていただなんて思わなかった。あのまま忘れてしまえる、思春期にありがちな一時の気の迷いなのかと思っていた。
身も心も切り裂かれるようなこんな感情が自分の中に眠っていただなんて。そんなものは自分とは無縁のものだと思っていたのに。
止まらない。狂いそうになる。大声で叫んで、走り回って、全部吐きだしてしまいたい。欲求は桃子の中で無尽蔵に膨らんでいった。


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