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仮投下スレ
1
:
◆nkOrxPVn9c
:2011/07/11(月) 23:28:43 ID:N8PA8OWg
作品を本スレに投下できない場合、あるいは問題点があると思われる場合は
このスレに投下してください。
295
:
◆Iku3M44SGw
:2012/05/08(火) 00:36:21 ID:E9w.fug2
「――やれやれだぜ」
大きくため息を吐きつつ、支給された缶コーヒーの蓋を開ける。
朝専用缶コーヒーと書かれていたが……そんなことは関係ない。
何故ならば、この時のCM撮影は昼間に行われたからである。
そして、ゆっくりと缶コーヒーを飲む。しかし、朝専用は伊達じゃない。
カフェインによって、彼の頭の中が若干すっきりした……ような気がした。
なお、缶コーヒーが一ケースも支給されていたので、まだまだ本数には余裕がある。
ここは豊島区のとある民家。
ジョジョこと所ジョージはここで一時の休憩を取っていた。
椅子に腰を掛け、一服しつつ、一先ず考える。
(ボーカロイドか……随分と厄介な奴らも呼ばれたもんだな……
それにあのマグニスと言う男は普通の人間には見えなかった……
世界の秘境の奥に住む原住民という訳でもなさそうだが……)
再びここに集められたのは様々な人たちのことを考える。
だが、それでも共通項がまるで分からない……。
自分たちは無作為に選ばれたのか? それとも何かしらの共通点があって選ばれたのか?
ジョジョは考えるが、考察材料があまりにも少なすぎた。ので、それは一旦切り上げてる。
今度はデイバックを開き、改めて中に入っているものを確認していた。
(この白紙の紙から文字が浮かび上がるのか?)
ジョジョはデイバックの中の白紙の紙を取り出す。
一見すると普通の紙、だが、主催者曰く『名簿』だという。
手触りなども本当に普通の紙であった。
(このデイバックも普通に見えるが……持った時に重さを全く感じなかった……
最低でもこの缶コーヒー一ケース分の重さ(約6㎏くらい)はあるはずだ)
デイバックの中に缶コーヒー一ケース分を戻して何度か持ち上げてみる。
が、ジョジョが思った通り、ほとんど重さを感じなかった。
(文字が浮かび上がる(予定の)紙、最初の場所でのワープ、物理法則を無視したデイバック……
……恐らくはこの首輪もその類の技術が使われているに違いない。
まったく……現在の科学力では到底考えられない事柄ばかりだ……まあ、俺の『スタンド』もそうなんだがな)
あの日、ジョジョがイタリアロケでスタンドを発現したのはまた別の話である。
そして、再びデイバックの中を手探りする。
296
:
◆Iku3M44SGw
:2012/05/08(火) 00:37:34 ID:E9w.fug2
「あと入っているのは……こいつは……!」
彼に支給されたのは缶コーヒー一ケースとそして―――『紫と白のボール』だった。
記憶が確かなら先程の初音ミクも似たようなボールを持っていた。
恐らくは中にあの竜(ニアラ)のようなモンスターが入っていると考えて間違いはない。
(初音ミクが持っていたものとは配色は違っているが……
説明書を読んだ限り、中身は開けてみないとわかんねぇタイプだな……)
ここで一旦、一枚のメモ書きを残して、民家の外に出る。
もしここに誰か立ち寄れば分かるように分かりやすい所に置く。
ちなみにそのメモには【初音ミクとマグニスには気を付けろ!】とだけ書かれていた。
「さてさて、鬼が出るか……将又、蛇が出るか……」
そして、外に出たジョジョがそのボールを投擲した。
ボールが半分に割れ、中から眩い光が溢れ出していく。
「―――うおっ、まぶしっ……」
そして、中から出てきたのは……
, -─- 、ィ- 、 ,─ 、
/ ヽ | \二 _ ヽ、
/ ,;;;;;;;;;/ ヽ、 ?ヽ
|ヽ,,;;;;;;;;;;ハ _ ヽ、\\
ヘ ;;;;;;;, -" ) ''''`7;;;;t 、\ ソヽ
/,;;フく_ ノ ヽ,ヘ ,ヘL@ァ , ト 、
/;;-';;;`ヽL_,─ 、 ' ' ヽ,lココ>ー' ) <ハ・ガ・ネーーーール!!(ヒャッハー、出番だぜ!!)
l;;;;l''''''\ ノ-_ ` - _ _ノ
ソ/ >ー-/^ヽヽ_,- 、二ー--─'_/
// / `T ヽ、 `l __ ???
. // ノ ヘヽ_/;;;/ ` -く, _l
. l_>-' `~_> - ─ |
__ パ_ -=、,;;;;ノ
ヽΥ /─、,ニイ ?l
`ー'l ヽニ` ,ヽ,,、^ -ノ
ー'ヽ_ゝ-'?
―――その直後、ジョジョがいた民家が跡形もなく消えてなくなった。
297
:
◆Iku3M44SGw
:2012/05/08(火) 00:38:24 ID:E9w.fug2
「……………」
地震にも似たような地響きが周囲に鳴り響いた。
ジョジョは顔に少々の冷や汗を掻きながらも、ため息を吐く。
……中から本当に蛇が出てきたのだ。
しかし、蛇と言っても、普通の蛇ではない。
その身体は鋼のように固そうで、しかも非常に大きかった。
それもテレビでも見たことないような大きさ、目測で全長9mほどである。
夕日の光が反射して、その蛇の鋼のようなボディはオレンジ色に染まって見えた。
そして、興奮状態であるのか? 勝手にどこかに向かおうとしていた。
その巨体が動くたびに周囲に非常に低い音が響く。
しかし、その巨体通りの素早さ―――結構、ゆっくりだった、
(まるで怪獣映画だな……)
ジョジョはボールのスイッチを押した。
すると赤い可視光線がボールから放たれ、その鋼の蛇の身体に当たった。
その直後、一瞬で鋼の蛇がボールの内部に戻っていった。
「……やれやれだぜ、民家が潰れちまったぜ」
実の所は民家が潰れたどころの話ではない。
地面のアスファルトには無数のヒビが入り、周囲の木々の何本かがなぎ倒されていた。
(厄介な暴れ馬……もとい暴れ蛇と押し付けられたもんだ……。
……しかし、今の音で誰か寄ってくるかもしれないな………
いや、状況が状況だ……一般人の野次馬なんて早々来ないッ! よって……ッ!)
ジョジョは足に思いっきり力を込めて、走り出した。
そう、全力でこの場から立ち去ろうとしていたのであった。
「所ジョージはクールに去るぜ!」
【豊島区・民家跡近く/1日目・夕方】
【所ジョージ@実在の人物】
[状態]:健康、疲労(小)
[装備]:スタンド『楠田枝里子(なるほど・ザ・ワールド)』
[道具]:基本支給品(メモ帳を一枚消費)、ワンダモ○ニングショット@現実×29本(1本消費)
モンスターボール(タィケボロのハガネール)@ポケットモンスター+カオスロワ
[思考・状況]基本:殺し合いからの脱出
0:所ジョージはクールに去るぜ!
1:首輪の解除方法を探す。
2:出来れば学生服の青年(キョン)に接触したい。
3:総理よりも喜緑さんを警戒。
4:初音ミクとマグニスはぶっ飛ばす
5:鋼の蛇(ハガネール)については……保留、
※楠田枝里子(なるほど・ザ・ワールド)の能力全体に制限(把握済み)
時止めは2〜3秒間。発動中は体力消費が激しくなり、間を置かずの連続発動不可
また、一般人であってもその姿を捉えることが可能
※どの方角に走って行ったのかは後の方にお任せします。
※所さんがいた民家(家具やメモ帳)を含めて、地盤沈下に巻き込まれました。
※かなり大きな音が周囲に響きました。周囲の地盤が緩くなったかもしれません。
298
:
◆Iku3M44SGw
:2012/05/08(火) 00:40:27 ID:E9w.fug2
【支給品紹介】
【モンスターボール(タィケボロのハガネール)@ポケットモンスター+カオスロワ】
カオスロワ七期に出てきたポケモン。
作中では古畑さんの円月殺法(物理)の一撃で首を落とされてしまった。
なので覚えている技は不明。だが、特性は『いしあたま』の可能性がある。
なお、他人のポケモンなので言うことを聞かないこともあるかもしれません。
ちなみに体重が400.0kgもある、重量感あるよな。
【ワンダモ○ニングショット@現実】
アサ○飲料から発売中の缶コーヒー。1ケース30本入り。
スッと飲めて、キリッと苦味。アラビカ種の新豆のみをブレンド。
カリッと香ばしく焼き上げ、ワンダ独自の抗酸化高低温二段抽出ですっきりと仕上げた、毎朝のスタートに相応しいおいしさの缶コーヒー。
ちなみに前に所さんがCMで宣伝していた。
以上、投下終了です。
タイトルは『所さんも目がテン』でお願いします。
それと問題がないようでしたら、代理投下お願いします。
299
:
名無しさん
:2012/05/08(火) 22:50:50 ID:P.QmJG0k
乙です。問題ないみたいなので代理投下しました
300
:
◆Iku3M44SGw
:2012/05/08(火) 23:52:51 ID:E9w.fug2
代理投下ありがとうございます。
301
:
◆h4iq5vZd8w
:2012/05/14(月) 12:29:25 ID:M2vIzgSo
結局予約より先に仮投下となってしまって申し訳ないです。
ルカ、レン、リン、信長、禍神、防衛システム、混沌の騎士、千秋で仮投下します。
タイトルは、戦乱 その忌むべき者より、世界を救え
302
:
◆h4iq5vZd8w
:2012/05/14(月) 12:30:06 ID:M2vIzgSo
「どうしてさ! どうしてルカ姉さんは変身してくれないのさ!」
「だからやだよボクは! いい歳したボクが魔法少女なんてやったら、スキャンダルものだよ!
朝の芸能ニュース沙汰だよ! 初音ミクどころか他のボーカロイドにも笑いものにされるよ!」
「知らないよ! そんなことより O P I ! O P I ! O P I ! 」
「ルカ……、そこまで否定されると、変身した私の立つ瀬がないのですが……」
「え? あ、いやごめんねシステムちゃん!?」
「ほら! お姉さんに謝る意味もこめて、変身するべきだよ!
全 裸 変 身 シ ー ン つ き で ! ! ! 」
ここがバトルロワイアルの会場だと言うのが嘘だというように、非常に賑やかな声が響き渡る。
姉弟の悪ふざけにも見えなくないその光景は……
第三者が見れば、一時であっても今は失った日常を思い出させてくれるかもしれない。
常に人で溢れ、騒々しいほどに人の声が飛び交っていた東京都の日常。
総理大臣――本物か、偽者か、あるいは次期総理として確定していたのかは謎だが――に奪われた日常。
目の前で命を奪われた都知事とのび太少年。そしてこうしている間にも奪われているかもしれない別の命。
賑やかさの中心であるレンも、当初はあまりの恐怖に震え上がっていた。
それが今ではこの笑顔――下心全開の――である。
それにつられるかのように、二人の女性もやれやれといった様子ではあるが、昼時よりも明るくなった。
二人はレンの実の姉ではないが、彼の支えとなっているのは間違いない。
殺し合いの最中に見つけた、平和な日常の一部――おっぱい――は少年の恐怖を紛らわせる。
太古の防衛システムも、レンと出会うことで人間と接することへの恐怖心が緩和された。
並行世界でレンの姉であるルカもまた、口でこそケダモノと罵りつつも、レンを見捨てることはしない。
想い人であるハクには及ばないが、レンの存在そのものが、かつての日常を思い出させている。
極限状態においての、少なからず心の拠り所となる人物達。
無論、全員が心の奥底には不安を感じていることだろう。
この馬鹿騒ぎを見れば、とてもそうは思えないのだが。
ルカは考える。ただの人間であるハクが、もし支給品に恵まれていなかったら? もう死んでいたら?
防衛システムは考える。並行世界にさえ干渉してみせる、総理大臣達の真の力を。
レンは考える。全裸の想像だけで実はいきりたってしまった自分の息子をどうしようか?
それぞれ、思うことは違うだろう。
だが拠り所のおかげか、あるいはこの会場においてはまだ生々しい死体を見ていないからか……
どこかに余裕があったのも確かだ。
出会ったほとんどの参加者は、多少いざこざがあったとはいえ悪人ではなかった。
恐るべきハーフエルフを前に一歩も引かない、自信に満ち溢れたルカ。
来年あたりには警察のお世話になっているかもしれない、ちょっとエッチなレン。
人間に畏怖の念を抱き、どこかちょっと抜けているが、圧倒的な力を持つ防衛システム。
レンとほとんど歳が違わないにもかかわらず、しっかり者のタケシ。
姿こそ太古の力の象徴たる恐竜であるが、子供好きの心優しいガチャピン。
マグニスと名乗った豚及び、レイジングハートと同じく魔法少女契約をもちかけてきた淫獣……
彼らは不安材料ではあるが、どうにかできる範囲内。
割合から考えて、彼らの様な危険因子の方が圧倒的に少ないのではないかというのが、レン達の総意だった。
常識的に考えて、突然拉致された挙句に殺しあえと総理大臣に言われて『よっしゃ乗った!』
などと答える参加者の方が少ないに決まっている。
だからこそ。
「―――――、誰か――――けて――――!! ――を、助け―――!」
「……え?」
こうして、自分達のもとに血塗れの参加者が助けを求めにくるのは……考えていなかった。
いや、考えたくなかったというのが正しいだろう。
303
:
◆h4iq5vZd8w
:2012/05/14(月) 12:30:46 ID:M2vIzgSo
ましてや、その参加者の正体が……
「……っ!? リン!?」
「げほっ……あ……レン、お兄ちゃん……? それに、ルカお姉ちゃん……?
よか……た、無事……で……」
「ちょ、リン!? 一体何があったのさ!?」
レンにとっては実の妹、ルカにしても妹に近い存在であったリンであれば。
その全身に無数の切り傷や打撲痕があり、息も絶え絶えであれば。
驚かないわけがなし、そして直後頭に連想されるは、殺し合いに乗った最悪の殺人者。
子供も平気で殺めようとする、冷酷な殺人者。
「リン! しっかりしてくれ! なにがあったっていうんだ!」
さきほどまでの表情とはうって変わって――ともすればこの日初めて見せる表情で――妹を心配する兄。
並行世界の存在を聞かされてはいたが、レンにはこのリンが自分の大切な妹であることがすぐにわかった。
レンにとって、家族は大切な存在。よく遊びにくる親戚のみんなだって。
幼くして両親を失ってしまった故、父母の代わりを務め一家の柱となっているKAITOとMEIKOも。
底なしの優しさで、文字通り自分を包み込んで、尻を叩かせてくれるルカも。
家族の中で一番の働き者でありながら、時間を作っては遊んでくれるミクも。
自分の歌を楽しみにしてくれて、その膝の上で頭を撫でてくれるハクも。
きゅんきゅんきゅんきゅん叫びながら、何かと世話を焼いてくれるネルも。
とてつもなく厳しいが、自分の将来を本当に心配してくれているがくぽも。
他の親戚も、みんなみんな大切。
だが、一番大切なのは、何をするにも一緒だった妹のリンだった。
同じ時間を共に歩み、一緒に歌を練習してきた、かけがえのないたった一人の妹だ。
その妹が今、こうして自分の目の前に……
「リン! リンってば! 死んじゃ駄目だ!」
「ちょっとは落ち着きなよレン! 血は出てるけど、深い傷はないよ!
リンも、まずは呼吸を整えて。……何があったんだい?」
取り乱すレンを静止し、ルカがリンの顔を覗き込む。
レンがリンを妹と判断できたように、彼女もこのリンが自分が知るリンとは別人であることを理解していた。
それでも、全く同じ外見の少女が必死になって助けを求めてきたのだ。
レンの手前だからこそ冷静を装うが、内心はルカも動揺している。
「あれ……? お姉ちゃん、なんかいつもと……違う……ね?」
「……それに関しては後で話すよ。だから落ち着いて。誰かに襲われたのかい?
なら大丈夫さ。そこのお姉さん……システムちゃんとっても強いから。たとえあの豚が相手でも……」
「……っ! 本当……に……? お願い……おじさんを、信長さんを助けて……っ!
私、すごく怖い触手に襲われて……! でもおじさんが助けてくれて……! 私、必死で走って……!」
「のぶ、ながって……まさか!?」
そして、ルカもついに動揺を隠し切れなくなる。
嗚咽混じりのリンの口からでてきた名前は、確かに覚えがある名前だった。
「……システムちゃん、悪いけど頼めないかな? 信長さんは、ボクにとっても他人じゃないんだ」
「了解しました」
周辺を気にしていた様子の防衛システムは、ルカの願いにすぐに首を縦に振った。
こちらもレンと同じ様にその表情を一変させている。
彼女本来の仕事である世界の防衛、その仕事をこなす時と同じ。
意思を持つとはいえ、今では人間の姿を借りているとはいえ、元は機械。
冷静さの中に、いかな手段を用いてでも敵を排除してみせるという冷酷さが漂っていた。
(この少女の身体に纏わりついているのは、まさか……? それに握っているのは……)
やがて、少し表情を崩してからリンに語りかける。
304
:
◆h4iq5vZd8w
:2012/05/14(月) 12:31:25 ID:M2vIzgSo
「初めまして、などと言っている場合でもないようですね。リン、敵の居場所はわかりますか?」
「新宿の、東京都庁……このあたりです……」
差し出されたのは、デイバック内に予め用意されていた簡易地図。
あまりにも大雑把であまり地図の役目を果たせてはいないが、それでもリンは都庁の辺りを指し示す。
彼女の指についた血が、地図に赤い点を作り出した。
「東京都庁か……他の建物より高いし敷地も広いから、目立つっていえば目立つね」
「わかりました。……ではリン、これを少しお借りします」
「あ、それは……」
「知っていますよ。加速装置、でしょう? 忘れるものですか。私を一瞬で叩き伏せてみせた……
彼らが使っていた品ですからね」
言うや否や、防衛システムは躊躇いなくその魔導エンジンのスイッチを入れる。
1回、2回、3回、4回、5回、6回。
その様子を見たリンはたまらず息をのむが、防衛システムは気にもとめない。
「その傷、加速を制御できずにぶつかったりしてできたものでしょう?
ご安心を。元より私の世界の産物、それに少なくとも私は貴女よりも丈夫ですからね。
……ルカ、私が不在の時にレンとリンを守れるのは貴女だけです。頼みましたよ」
防衛システムが、ルカの手に加速装置とレイジングハートを握らせる。
ルカはそれを黙って頷き、受け取った。
万が一の時は、仮面ライダーの力に加えてこれらも最大限利用して切り抜けろ……
その意図を、しっかりと理解したうえで。
『これから戦場に行くというのに、私を置いて大丈夫ですか? マスター(暫定)』
「……私は、これでも強いですから。それにバリアジャケットでしたっけ? これは有効なままみたいですし」
『どう見てもジャケットじゃなくて全身装甲です。本当にありがとうございました』
「どちらでもいいでしょう。ルカは戦闘可能時間に制限がありますから、武器はあなたしかいないんですよ。
……では、また後ほど」
言葉の直後、巻き起こるは暴風。
限界まで速度を高めた防衛システムが駆ける際に発生したものだ。
最初の一踏みですでに道は砕かれ、ビルのガラスは風に耐え切れずに砕け散っていく。
明らかに人の限界を超えているであろう、その力。
「すごい……」
リンはただその言葉を口にすることしかできなかった。
あの加速具合、2回使用しただけの自分がこの有様なのだから、まともな人間ならすぐさま体が千切れ飛んでいるだろう。
だがあの女性は、心配ないと言ったうえで確かに都庁に駆けて行った。
間違いなく、あの触手娘と同じく常ならざる力の持ち主だろう。
なによりありがたいのは、それだけの力を持ちながら彼女が殺し合いに乗らずに自分の家族と共にいてくれたこと。
信長の安否、いくら強いとはいえ初対面の女性を半ば死地に送り出してしまったという不安はある。
だがそれでも……家族と再会できたという喜びは大きかった。
「とりあえずリンの傷の手当てが先かな。どこか近くに病院があればいいんだけど……」
「ぼ、僕探してくるよ!」
「だから落ち着きなって。システムちゃんも言ってたけど、戦えるのはボクだけなんだからさ。
とりあえず少しリンを休ませたら皆で行動。わかったかい?
それにシステムちゃんが戻ってきた時にボクらを探し回らないで済むようにもしないとね」
「う、うん……わかったよ……」
ルカの手にレイジングハートが握られても、レンはもう己の欲望を口にしない。
一気に突きつけられた現実に、さすがの彼も消沈せざるをえなかったのだ。
そして、彼をなだめるルカもまた……
(信長さん、システムちゃん……大丈夫、だよね……?)
305
:
◆h4iq5vZd8w
:2012/05/14(月) 12:32:00 ID:M2vIzgSo
【千代田区・永田町/一日目・夕方】
【巡音ルカ@VOCALOID】
【状態】健康、僅かな不安
【装備】アクセルメモリ@仮面ライダーW、アクセルドライバー@仮面ライダーW
レイジングハート
【道具】支給品一式、加速装置(残り11回)
【思考】基本:弱音ハクと合流し、主催にお仕置きをする。
0:リンを少し休ませ、病院に向かいたい
1:弱音ハクと、豚へお仕置きする仲間を探す。首輪の解除も急ぎたい
2:別人でも、VOCALOID仲間は助ける
3:信長、防衛システムのことが心配
【補足】
※彼女にとってVOCALOIDは『人間に近いロボ』。7期のVOCALOIDみたいなものですが、
その他の設定(ナノマシンで自動修復等があるか)は後の書き手に任せます。
※弱音ハク以外のVOCALOIDがロワに参加していることを確認していません。
※並行世界の存在を知りました
【レイジングハート@リリカルなのはシリーズ】
【思考】基本:破壊されることなくロワから脱出したい
1:戦闘が発生した場合、ルカを魔法少女にする
【鏡音レン@VOCALOID】
【状態】:健康、錯乱気味
【道具】:基本支給品一式、禍神のマリネ、たこルカのタコぶつ
【思考】基本:死にたくない
0:リンの傷をはやく治したい
1:他の家族が心配
2:電波お姉さんに家族と正義感溢れる青年(南光太郎)を探しを手伝ってもらいたい
※国会議事堂内で一部参加者の顔を覚えている可能性があります
※並行世界について理解したかどうかは不明です
【鏡音リン@VOCALOID】
【状態】:首及び両手足に痛み、不安と恐怖、裂傷、打撲多数、極大疲労
【装備】:
【道具】:基本支給品
【思考】
基本:家族と共に生還する
0:今は少しだけ休みたい
【備考】
※鏡音レンと同じ世界から参戦です(=ただの人間)
※名字は『鏡音』ではありません(=KAITO達全員が家族で同じ名字のため、『初音』等は芸名)
※織田信長のことは、『ちょっと変わったおじさん』程度にしか思っていません。
※鏡音レンの参加を確認済みです。
※巡音ルカが昏き海淵の禍神に狙われていると勘違いしました
※加速装置の反動でしばらく動けません
306
:
◆h4iq5vZd8w
:2012/05/14(月) 12:32:32 ID:M2vIzgSo
▽
――運よく未来へとやってこれたあの日以来。
――最初に出会ったKAITOはもとより、彼の知り合いとも積極的に異文化交流をした。
――戦国時代にはない、未来の素晴らしい物を沢山教えて貰った。
――今では、VOCALOIDのマスターを名乗るくらいこの時代の世界に馴染めた。
――だが、アレは一体なんなのだろうか……?
「少しはやるようだが、我に挑むには些か動きが甘いな」
触手を持つ少女、その頭部の帽子らしきものから突然噴出されたのは吹雪だった。
それも、純白の美しい雪ではない。穢れたという表現が相応しい禍々しいものだ。
斬りかかった機皇帝の身体が、凍り付いていく。
「散れっ!」
機皇帝も必死で抵抗するが、少女の足元からさらに強烈な大氷嵐が巻き起こる。
二重の嵐に程なくして、機皇帝はその全身も機能も完全凍結されてしまった。
すぐに溶かせばどうにかなったかもしれないが、それは無理難題というやつである。
「他愛もない……所詮は世界樹の狗の狗か。
さて人間よ、一人になってしまったが、どう死にたい?」
「くっ……!」
凍りつき、ゆっくりと倒壊していく機皇帝をみやりながら少女――
深淵に潜む強大な禍神は、対峙する信長に見下すような口調で問いかける。
その外見とも声とも全く異なるイメージ、もっとどす黒い何か。
――強すぎる
それが信長の、禍神の戦闘力評価。
戦国の覇者として、数々の武将を見てきた。未来でも色々なロボットを見てきた。
だが、それにしてもこの強さはなんなのか? マスコットとはいえあの機皇帝がこうも簡単にやられるとは。
噂の仮面のヒーローの対極に位置する怪人の類かなにかだろうか?
「あいにく、まだワシは死ぬ気はないんだがなー」
「ほざけ」
表面上は余裕に見える信長に、吐き捨てるような一言。
それと同時に、触手の髪は突然に鋭さを増し、少女を中心とした円範囲全てを切り裂いた。
「ぅおっと!?」
「ほう? 手を抜いてやっているとはいえ、我が一閃をかわすか、人間。だが次はないぞ?」
信長は咄嗟に屈むことでこれを回避してみせるが、そこまでだ。
目の前の怪人が言う通り、相手は手を抜いている。見下している故か、あるいは温存のためかはわからないが……
その気になれば、足下、髪、帽子からそれぞれ別の攻撃を繰り出せるのだろう。
今の剛斬で死なずに済んだのも、先程の機皇帝との戦いで一度目にしていたからこそ。
まだ見ぬ技を使われては、信長でも回避は難しい。そしてあの怪人の放つ技はそれぞれが必殺の一撃。
(流石に厳しいな……リンは逃げ切れたのか……?)
信長は、自身の敗北を嫌でも噛み締めることとなった。
リンを逃がすだけの時間は稼げたかもしれないが、再び彼女と出会う約束は果たせそうにない。
支給されたこの光剣であれば触手も切り裂けはするのだが、全て斬る前に人間の身である自分がもつわけがない。
「人間にしてはよく頑張ったと褒めてやろう」
307
:
◆h4iq5vZd8w
:2012/05/14(月) 12:33:09 ID:M2vIzgSo
にやりと、少女の口が残虐な笑みを浮かべる。
それは死の宣告。
(あー……すまんKAITO。ワシどうやらここまでみたい)
迫りくる触手を前に、信長は目を瞑り己の最期の瞬間を待った。
「ん?」
その時、禍神が動きを止める。
空気を切り裂くような音が聞こえたためだ。
だが目の前の人間は剣を持ちこそすれ、動いていない。
触手とあわせて360度見わたせる自分の眼にも、異常は映らない。
音は確かに聞こえる。だが発生源は未だに不明。前後左右にも、足下にもない。
「……上かっ!」
「おおう!?」
上空を見上げながら、禍神は咄嗟に飛びのいた。
直後、禍神が直前までいた場所に轟音をあげながら何かが着弾。
その衝撃は凄まじく、それにより飛び上がった信長は飛来物に思わず目を向ける。
漆黒のボディスーツに身を包み、鋼の装甲で武装されたその姿。
仮面をつけていれば噂のヒーローのようであるが、流れる白銀の髪がそれを否定する。
「ぎりぎり……間に合ったみたいですね。貴方が、信長ですよね?」
「う、うむ」
とはいえ、窮地に乱入したその存在は、信長にとっては間違いなくヒーローそのもの。
地面から足を引き抜き、触手の怪人に向ける視線は明らかに敵意をもっている。
それはつまり、信長の味方ということだ。
「リンとルカより、貴方を助けて欲しいと頼まれまして……
貴方は、永田町近辺で彼女達と合流してください。この敵は、私が仕留めます」
「おお! リンだけじゃなくてルカも無事だったか! しかし、あの娘は強い。いくらお主が強くとも……」
リンだけでなく、ルカの無事も聞き信長の顔が瞬間笑顔となるが、すぐに真剣な表情に戻った。
相手の強さは本物であり、せめて二人で戦うか逃げるべきだと考えたのだ。
しかし、銀髪の女性は汗を拭いながらも信長を制した。
「行ってください。すぐにこのエリアから離れて。
リンの身体にも残されていたこの瘴気、間違いなく相手は神域の存在です。貴方では勝てませんよ」
「しかしだな!」
「二人が望んでいるのは、貴方との再会です。『あれ』の討伐ではないでしょう?」
「……。確かにリンとは一緒に家族を探すことも、後でまた合流する約束もしたが……」
「家族……ですか。ならばなおさらです。早く行ってあげてください。私なら大丈夫ですよ」
「……すまぬ! ワシには何もできんが、せめてこれを……! 武運を祈る!」
「この剣は……ありがとうございます」
やがて信長が折れる。
二本の光剣のうちの一方を託して、走り去っていった。
後に残されたのは、人間の姿をした人外二人だけだ。
308
:
◆h4iq5vZd8w
:2012/05/14(月) 12:33:48 ID:M2vIzgSo
▽
「相談事は終わったか?」
「あえて見逃した、とでも?」
「どの道、この世界にいる人間は全て我が滅ぼす。あの人間も僅かに寿命が延びただけにすぎん。
……それよりも貴様、何者だ? ただの人間ではあるまい?」
「貴女こそ、何者です?」
周囲の空気が変化する。赤い瘴気と殺気が混じりあった、常人であればその場に留まることさえできない空気。
新宿の路上に立つは、何も知らない第三者が見ればただの人間二人。
その正体はこの会場において本人と一部の者しか知らない。
だが二人とも、本能で理解していた。こいつは生涯相容れぬ不倶戴天の強敵であると。
一定の間合いを保ったまま。海色の瞳と、左右で色の異なる瞳が、相手を見据える。動きもしない。
世界を滅ぼす者、昏き海淵の禍神。
――僅かに減らされた触手を気にすることなく、両腕を組んだまま仁王立ち。しかし触手は荒ぶらせている――
世界を守護する者、最終防衛システム。
――呼吸を整えつつ、信長より託された自分もよく知る光剣を、しっかりと構えて――
「……我の正体も、貴様の正体も、語るは無意味か。――神たる我に敗れ、貴様はここで死ぬのだから」
「神……神の力は確かに強大でしょう。しかし、人間の持つ可能性と力は神の比ではありませんよ。人間は時に神を討つ」
「戯言を。人間など、我が糧にすぎない。虚弱貧弱無知無能、挙句神の言葉にも耳を傾けぬ愚者どもよ」
「家族と世界を天秤にかけて家族を選んだ、彼らの肉体と意志の強さ……この身にしっかりと刻み込まれてますよ」
「人間の強さなどたかが知れている。皇帝を名乗ったあの人間も、さっきの将軍も、所詮我の敵ではない。
勿論……貴様もだ!」
「ッ!?」
会話を打ち切り、先にしかけたのは禍神。
とはいえ、本体は微動だにしていない。その背後の触手の髪が地面を穿ち潜行、敵前で再び生えたのだ。
最初に相対した時から仕込まれていた、いわば不意打ち。
コンクリートを易々と貫き縦横無尽に突き出される触手の群れに、防衛システムは成す術なく遠くのビルまで吹き飛ばされる。
「ふん、あっけないものだな。この外見に騙され――ッ!」
言葉を遮るかのように、穴の開いたビルより続けざまに放たれた4色の光が禍神を狙う。
禍神は回避行動をとろうとするが、慢心していたせいか僅かに間に合わない。
触手数本、そして帽子の端を光線がかすめた。
「ち、三属性の力を内包した光線か……小賢しい!」
煙をあげる触手を見ながら、禍神は悪態をつく。
だが、それも許さないとばかりに光線は立て続けに放たれる。
様子がわかっているのか、先程の牽制じみた攻撃ではない、連続射撃。
攻撃者は先程の女とわかるのだが、自分が吹き飛ばしてしまったが故に敵の姿を視認できない。
それがまた禍神をいらつかせた。
そしてそれを嘲笑うかのように、光線が防御にまわされた触手の横を素通りする。
「何!?」
光線は禍神の背後のビル、その窓ガラスにぶつかると軌道を変更。
残りの光線も同様であり、ビル群の窓にぶつかっては乱反射を繰り返す。
まるで機械のような、計算され尽くした攻撃だ。
「これは……!」
乱反射により光線はオールレンジ攻撃と化し、禍神の眼をもってしても全てを捉えることは不可能となっていた。
やがて、無数の光線は飛び交うのを止め、それぞれが一斉に禍神の身体、一点を目指す。
回避は、不可能。無数の光が、禍神を襲った。
309
:
◆h4iq5vZd8w
:2012/05/14(月) 12:34:20 ID:M2vIzgSo
▽
「……全弾命中」
一度攻撃を中断し、口の端の血を拭いつつ防衛システムは小さく呟く。
撃っていたのは、威力は決して高くはないが速射性と射程距離に優れたブラスターレーザー。
人間の姿になって以後撃つのは初めてだが、各形態の他の技が使えることを理解していた彼女はすぐに攻撃を始めた。
不意の一撃をまともに受けてしまったのは痛かったが、それを逆手にとっての遠距離攻撃。
いくら控えめの威力とはいえ、並の人間や魔物なら3、4発当てるだけで十分なのだ。
距離を利用して、様子を見ながらこのまま攻撃を繰り返せば……
「……!」
直後、防衛システムはその考えが甘いということを思い知らされた。
ここより離れた場所で一点に集中する光。
赤、青、黄、紫。それぞれの光線は禍神に確かに命中したはず。
しかし禍神に当たる直前、何かに遮られている様子で足止めをくらっている様子だった。
光は禍神を貫こうと見えない壁相手に奮闘を続けるが、一本、また一本と、やがて全ての光は粒となって散ってしまった。
(防壁展開……!? 駄目だ、ブラスター程度ではあの壁を破れない……!)
「ふん、聞こえているか? この程度の攻撃で我を討とうなど、片腹痛いわ!」
姿の見えない防衛システムへ禍神が咆える。
その頭部の帽子は、信長と相対していたときとは異なり閉じきった状態――防御形態――となっていた。
禍神は攻撃と防御を極端に分担する戦術を好み、攻撃時は苛烈な攻撃の代わりに身を守る術を破棄。
そしてこの防御形態は攻撃のほとんどを破棄する代わりに、堅牢な障壁と再生能力を使用できるのだ。
(ならば……これでどうです?)
だが、その圧倒的な防御力を前にしても防衛システムはまだ退かない。
距離が離れている今のうちに試しておきたい攻撃があったのだ。
だが今度は軌道を変えるなどという真似はできない。故に、離れているとはいえ立つのは禍神の正面。
「ッ! そこか!」
攻撃のために集められた光が、目印ともなってしまう。
禍神が光めがけて飛び出し、同時に触手を伸ばす。
「遅い!」
だがそれよりも数瞬早く、防衛システムがその手に光を集め終えた。
収束され、輝きを増した閃光が迸る。白く眩い光の一閃が、禍神の視界、その眼の全てを覆いつくす。
まるで眼を焼き焦がすような……
「なっ!? ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
いや比喩表現などではなく、光は本当に禍神の眼を、全身を焼いていた。
その激痛に禍神は悶え、憤り、触手を振り乱すが、防衛システムを相手に盲目状態の攻撃など当たるはずもない。
「はああああああっ!」
振り回され、禍神本体から距離が離れた――防壁範囲外の――無数の触手。
相手を混沌へと誘おうとするも、防衛システムにそのほとんどを迎撃され、光の剣で焼き斬られていく。
ぼとぼとと音をたてて地面に落下する触手からは煙と、海産物が焼ける香ばしい匂いが立ち昇った。
そして触手を踏み台とし、防衛システムもビルから飛び出す。
空中で再び相対する両者、しかし今度は攻守逆転の状況。
未だダメージから立ち直れていない禍神に対して、振り上げられた防衛システムの拳が叩き込まれた。
310
:
◆h4iq5vZd8w
:2012/05/14(月) 12:34:51 ID:M2vIzgSo
「ぐはっ!」
無機質な硬い地面に叩きつけられ、禍神の口から人間と同じ赤い血が吐き出される。
いかに防御形態とはいえ、全ての攻撃の威力を完全に殺しきることはできないのだ。
その痛みよりも、怒りに燃える禍神はすかさずに上空を見やる。
すぐさま視界に映る、鋼鉄のブーツ。こちらを踏み潰して圧殺せんとする一撃だ。
「おのれぇぇぇ!」
「くっ!」
禍神は焼け焦げた触手の奥より、無傷の触手を繰り出してこれを防御。
そのまま触手で防衛システムの足を絡めとり、近場の壁にお返しといわんばかりに勢いよく叩きつけた。
そしてすぐに体勢を立て直して、瓦礫の山を睨みつける。
この短時間攻防で、この程度で倒せる相手ではないということを禍神も実感している。
その想像通り、程なくして瓦礫の中から防衛システムが姿を現した。
「貴様……どうやって我の防御を貫いた!?」
「随分と硬い防壁ですね……殴ったこちらも若干痺れてますよ……
ですがその防壁、物理的な攻撃と、一部の魔法にしか反応しないんじゃありませんか?」
「…………!」
禍神は思わず言葉を詰まらせた。
つまりは図星。防衛システムが言うように、防御形態時に防御できるのは自然の理の魔法と物理攻撃のみ。
さきほど防衛システムが放った砲撃のような、所謂無属性の攻撃までは防ぐことができない欠点が存在する。
「だったら……どうだというのだ?」
「身を守ったまま勝てると思わないことですね。それにたとえ硬くとも、確実に貴女にもダメージは与えられている」
「確かに、それは認めよう。だがな――貴様が我に攻撃する前に! 殺してしまえばそれで済む話よ!」
再び禍神の帽子が大きく開き、凶悪な波動を辺りに解き放つ。
さらにその背より、無骨かつ禍々しい翼が現出した。
禍神の本気、対峙する存在全ての肉体も心も打ち砕く攻撃形態。
「たとえ相手が神であれ、世界を脅かす存在なればそれを全力で排除せよ――それが私の役目です」
対する防衛システムも、右手で光剣を構え、左手は拳を握り臨戦態勢をとる。
その構えは、自身がかつて敗北した人間達の構えそのものだった。
「愚かな! いくら元は人間ではないのだとしても、今は脆弱な人間にすぎぬ貴様に我が倒せるか!」
「人間が神々に挑むために、人間が産み出した、人間のために存在する数々の武器と技……
ならば、剣も体術も、この姿の方が扱いやすいのは当然の事でしょう?」
「笑止! 人間が取るに足らぬ存在であると同時に、人間の武器も技も同じことよ。
人間とは次元の違う神の力、その身にとくと刻み込んで果てるがいい!」
」
全力の両者が同時に飛び出す。
たったそれだけで、辺りの空気と大地は悲鳴をあげた。
今この時より、新宿は常人立ち入ること叶わぬ魔の世界と化したのだ。
311
:
◆h4iq5vZd8w
:2012/05/14(月) 12:35:24 ID:M2vIzgSo
▽
「これは……」
同刻――新宿区のとある洋服店。
そこでは一人の男が紳士服を漁っていた。
男は通称、混沌の騎士と呼ばれる存在……だった。
先の大規模な戦闘で騎士の証である鎧は完全に破壊されており、服も全て散っている。
洋服店に来たのだからいい加減に服を着ているかと思いきや、まだだ。
サイズが合わない、黒と白のバランスが取れた服がない、漆黒色の服があっても余計な刺繍(不純物)が入っている……
などなど、何かと理由をつけては服を選び続けているのだ。つまりはまだ全裸である。これでは騎士ではなく変態である。
そんな混沌の騎士の手が、ようやく止まった。と言っても、満足のいく服が手に入ったわけではない。
(この強大な力、脱衣の戦士のものでも、ブロントと呼ばれた光の騎士のものでもない……
くく……全くこの世界は面白い。あれほど強者と出会ったというのに、まだ我の知らない強者がいるとは……)
遠方から感じた力の波動を感じ取った混沌の騎士は、無意識のうちににやりと笑う。
その笑みは、飽くなき力への渇望と全てを飲み込む混沌の名にふさわしいものがあった。
だがその笑みは一瞬で消え去り、表情は僅かに焦りが混じったものに変わっていく。
(魅力的な力、それ程遠い場所ではないだろうが……この状態で向かえば、喰われるのは間違いなく我の方だ。
口惜しいが、一度この辺りから離れるべきだが……何処へ向かう?)
混沌の騎士は服の選別を切り上げ、デイバックから地図を取り出して頭を捻る。
彼が選択する行動は、逃走だった。
万全の状態の彼であれば、むしろ嬉々として力の溢れる場所に向かったことだろう。
だが現在の彼は全裸である以上の問題として、全身の深刻なダメージがあった。
見た目にはそれほど重傷ではないのだが、それは混沌の騎士が自らの持てる力全てを身体の維持にまわしているためだ。
剣を振るうことはできるが、まだ闇の雷を飛ばしたりすることはできない。
(彼らと戦ったのは渋谷……炎の鳥と光の騎士が逃げ去った先は少なくともこの新宿区ではないはずだ。
それに脱衣の戦士の安否確認のために渋谷に戻った可能性もある。
となるとここを含め渋谷の周囲の地区は危険。残るは豊島区、文京区、千代田区あたりか……)
混沌の騎士が気にかけるのは、ブロントと妹紅、そして喋る魔剣だ。
彼らもまた素晴らしい力の持ち主であり、狩りたい獲物ではあるのだが、それもやはりこの傷が邪魔をする。
(脱衣の戦士よ、貴様に言った言葉は訂正せざるをえないようだな。
貴様の命を賭した最後の一撃のおかげで、我は馳走にありつけないどころか無様に逃げ回る羽目となってしまったよ。
ああ、全くもって口惜しい。だが……この傷が癒えた暁には……)
再び残虐な笑みを浮かべたかと思うと、混沌の騎士は地図をしまい一応の目的地を目指して歩き始めた。
結局服は選ばずに全裸のままで。
【新宿区・洋服店前/一日目・夕方】
【混沌の騎士@カオスロワオリジナル】
【状態】:全裸、ダメージ(大)、疲労(小)、全身の至る所に割け傷、全身血まみれ、左の頬に打撲の痕
【装備】:グラットンソード
【道具】:基本支給品一式、(ランダム品0〜2)
【思考】基本:優勝し、記憶を取り戻す
0:ブロント、妹紅、謎の強者に注意しつつ豊島区、文京区、千代田区のいずれかに逃げる
1:バトルロワイアルを楽しみつつ、光の力も手に入れていく
2:エクスカリバーの捜索
3:光の使い手(ミクトラン)を警戒。いずれ力を奪う
4:油断と慢心も程ほどにしておく
5:余裕があれば自分好みの服を探す
※東京タワーより、なんらかの力を奪ったかもしれません
※しばらくの間、闇の力が使えませんが時間が経てば使用可能になります
312
:
◆h4iq5vZd8w
:2012/05/14(月) 12:35:57 ID:M2vIzgSo
▽
さらに同刻――新宿区・スタジオアルタ前。
そこには、二人の少女が――いや、一人の少女と少女だった肉塊がいた。
「カ……ナ……?」
絞り出すようにかろうじて二つの音を口にする少女は千秋。南家の三女だ。
そしてその目の前に無惨な姿で転がっているのは、彼女の姉である夏奈だった。
仲良し姉妹の平和な日常を取り戻そうとしていた千秋にとって、最も見たくなかった姉の屍だった。
生前通りの姿ならまだよかった。だけどこれは違う。
上半身の骨が滅茶苦茶に砕かれて、片手の先が強引に引き千切られていて、そして首から上がなくて。
でもでも首輪の爆発で死んだわけでもなくて、苦悶の表情を浮かべたままの首がすぐそこに転がっていて……
「おい……なにやっているんだカナ……? またいつもの悪ふざけか……?
やめろって、状況が状況なんだぞ……? そんな悪趣味な悪戯、姉様も怒るに決まってるだろ?
怒った姉様は怖いからな……仕方がないから私も一緒に謝ってやるよバカ野郎……
なあ……だからさ、カナ……早く起き上がってくれよ……早く……早く……ッ!」
涙をぼろぼろと零しながら、千秋は姉であったものをゆさぶり続ける。
その身体はとうに冷え切り、胴体と首が離れてしまっているのだ。誰がどうみても、死んでいるし助からない。
彼女もそれはわかっている。わかっているが、認めたくない。
自分と姉妹のあの日常が、もう戻ってこないのだということを認めたくない。
「なんでだよ……! 私が、カナが、姉様が! 一体何をしたっていうんだ……!」
嗚咽に混じる、圧倒的な怒りの感情。それに応える者はいない。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!』
「ひっ!?」
代わりに、おぞましい咆哮が辺り一帯に響いた。
あまりの出来事に瞬間姉の死を忘れて両手で耳を塞いだにもかかわらず、千秋は強烈な頭痛と寒気に襲われた。
発生源は……かなり近い。
「う、後ろから……?」
この世のものとは思えないその咆哮に、千秋は振り向く。
その視線の先には、暗くなってきた空には、何かがいた。いや、それだけではない。
暗雲を切り裂く、見たこともないような稲光。それにぶつけられる、眩い閃光。
直後、轟音と共に発生する爆発。新宿のビル達がその余波で軋み崩れていくのがこの距離でもわかる。
今度は空に灼熱の炎が発生し、影を飲み込んだ。かと思えば、影が灼熱を突き破りもう一方の影に飛びかかった。
「バケ……モノ……?」
映画の中でしか見たことのないような爆発や、ビルの崩壊。
夏奈の死とあわせて、これも夢なのではないだろうか? いや夢であって欲しい。
「あいつが……あいつらがカナを……!?」
だが、悲しいことに千秋はそれを現実と受け止めてしまった。
昨日までの千秋なら夢かもしれないと考えたかもしれない。
だが彼女は、すでにディアボロモンという凶悪なバケモノをその目でしっかりと見てしまっている。
さらに殺した杉下右京のデイバック内に潜んでいた鎧のバケモノ、そして自分が持つ光線銃。
幼い身ながら、千秋はこの世界の異常性に一定の耐性ができているのだ。
幸か不幸か、それにより彼女はおそらく姉を殺したであろうバケモノへ怒りの感情を向けるのであった。
こんな惨い殺し方、人間に真似できるわけがない、つまり姉殺しの犯人はバケモノなのだから。
313
:
◆h4iq5vZd8w
:2012/05/14(月) 12:37:05 ID:M2vIzgSo
▽
「が……っ!」
「うくっ……!」
一方は防壁越しでも強烈な蹴りを受け、もう一方は死角からの触手に吹き飛ばされ、
荒れ果てた大地に、二人の人間の姿をした者が叩きつけられる。
激しい攻防の応酬は、再び痛み分けとなったのだ。
禍神と防衛システムの戦いは、まさに死闘というにふさわしい。
短時間で新宿の町並みは破壊し尽くされ、あちこちから火の手が上がっていた。
そして、壊滅的な被害の元凶である二人もまた相当の傷を負っている。
「おの、れ……! いい加減に死ぬがいい……!」
禍神は何度目かもわからなくなってきた触手の攻撃を再び繰り出す。
だがその本数は、機皇帝に斬られ、信長に斬られ、そして防衛システムに斬られ、激減してしまっている。
攻撃には使用しないが、身体の方も相当数の拳打と脚撃を受けた影響でボロボロだ。
防御形態で回復を何度も行ってきたが、それでいてこれほどのダメージ。
頼みの綱の超回復を制限され、さらに距離があけば防御を貫く破壊の光でその身を焼かれる。
もはや禍神も、いつ攻撃形態をとり、いつ防御形態をとればいいのかわからず、その戦術を完全に崩されていた。
それ故に、焦りが生じ始めていた。
「お断り、します……!」
禍神の触手を、防衛システムは右手の光剣でなぎ払い、同時に後ろへと跳んだ。
今まで拳打を打ち込んできた左腕は、もはや動かない。焼け爛れ、凍りつき、雷撃の痺れも残っているためだ。
禍神の攻撃は想像を絶する激しさであり、また近接攻撃がメインの防衛システムとは対照的に広範囲遠距離攻撃が多かった。
下段、足下より巻き起こるは、炎海と雷砲、氷嵐。
中段、長い触手髪から繰り出される、高速の8連打撃と周囲をまとめて切り裂く剛斬。
上段、帽子より噴出される、灼熱、氷河、稲光。
狂ったかのような怒涛の攻撃の嵐を、剣で切り裂き、盾も持たない左腕でガードし続けたのだから当然の結果といえる。
片腕を封じられ総合火力が低下してしまい、さらに相手は再生能力持ち。このままではどちらが敗北するかはすぐわかる。
それ故に、焦りが生じ始めていた。
(はやく……)
(勝負を決めなくては……)
そして、両者は同じ結論に達した。
本来であれば、この戦いは禍神の勝利で終わっていただろう。
いかに防衛システムでも、禍神のカオステンタクルを受ければただでは済まないのだから。
だが、禍神はすでにその必殺の一撃をクライシスの皇帝に使ってしまっていた。これは禍神にとっては痛手だ。
さらに、本来の巨体の姿を失い、人間の姿になってしまったことも。
これは防衛システムにも言えることだが、彼女の場合は逆にこれを生かしている。
人間の姿を嫌い、また不慣れな禍神に対して、防衛システムは人間の姿を受け入れ、さらにいえば本来の姿も人型。
この違いが、最も大きいだろう。
兵器庫の異名を持つ通り、元々防衛システムはその全身が攻撃の手段となっている。
そこに、彼女がかつて人間から受けた攻撃を模倣した強烈な体術の数々を加えるのだから、人間の肉体を最大限利用した攻撃といえる。
対する禍神は攻撃の全てを触手と属性魔法に頼りきり、人間の肉体を利用した攻撃方法を一切使用できなかった。
つまり触手や魔法を防がれた場合、身体はがら空きであり、必要以上に攻撃を食らってしまう。
人間の足を使った咄嗟の回避術や見切り技も同様だ。逆の防衛システムの攻撃命中率と回避率は高い。
それでいてなお、禍神が防衛システムに遅れをとらないのは、その強靭な生命力と過剰な攻撃能力のおかげである。
だが、拮抗する二人の戦いにも、ついに終わりの時が訪れる。
314
:
◆h4iq5vZd8w
:2012/05/14(月) 12:37:46 ID:M2vIzgSo
「ならば……これで決めます!
異界の神よ、私の力を、人間が編み出した切り札を……受けてみるがいい!」
(疾い!?)
光剣を構え、先に動いたのは防衛システムだ。
しかし、その速度は重傷の身とは思えない程に速く、自身に近づく者全てを捉える禍神の眼でも、全く追えなかった。
そして
「な……が……ぁ……!?」
次に禍神が目にしたのは、自分の身体に刻み込まれた、3本の線。
右への斬り払い、そのまま左下への斬りおろし、そこから返す剣で再び右への斬り払い。
回避不能の光速剣。禍神が呆然とその傷を眺めている間に、やがてそこから鮮血が飛び散った。
防衛システムは、禍神の背後に立っていた。
彼女は、かつて受けた人間の最強剣の一つ、相手に終の字を刻み付ける奥義を、見事に再現してみせたのだ。
確かな手ごたえがあった。
「――――――――ッ!!?」
それは、自分にも。
遅れて気がつく。自分の身体の異常。
先程までは存在していなかったはずの……『12本』の線に。
勿論、その線から溢れ出すのは……鮮血だ。
「がはっ……は、ははは! 見事に我が罠にかかったな……!」
「罠……ですって……!?」
血を撒き散らしながらも、禍神は歓喜の笑い声をあげる。
その頭部の帽子は……いつの間にか、防御形態となっていた。
「我が防御形態は、再生能力と防御能力だけではない……! 反撃能力も使えるのだ……!」
名状し難き障壁――それが禍神が隠し持っていた秘策だった。
その効果は、自身が受けた傷を4倍に増幅して相手に返す物理カウンター。
禍神は戦いの最中、防衛システムの攻撃で防御形態の防壁を貫通できるのは、溜めが必要な砲撃しかないことを見抜いていた。
そして、自分がそうであるように相手もまた早く決着をつけたい、そのために大技を使ってくるであろうことも。
いくら絶大な威力を誇ろうと、やってくるのは斬撃、突撃、壊撃のどれかとわかっていれば、あとは楽だ。
防御形態の自分は物理攻撃のダメージを受けにくいのだから、障壁を張って待つだけでいい。
それだけで相手は沈み、自分は立っていられる。
全ては、禍神の作戦。
「これが……人間の及ばぬ、神の知恵。
黄泉の国に旅立つ前に、憶えておくがいい。戦いにおいて、先に切り札を見せてはならぬということをな……
もっとも……我が、世界樹以外の相手にここまで手こずるとは思わなかったが……」
「これが……神の力……」
「まさに文字通り、我が力をその身に刻み込んで果てることとなったな? にんげ――」
「それが切り札なら、私の勝ちです」
315
:
◆h4iq5vZd8w
:2012/05/14(月) 12:38:18 ID:M2vIzgSo
勝利を確信し、ゆっくりと背後に振り返ろうとしたその瞬間に、かけられた声。
それを聞いた瞬間、禍神の総身が無意識のうちに震えた。
人間に恐怖を与える象徴である神にあるまじき、芽生えてはならない、かつての悪夢をも上回る恐怖の感情。
「なん……だと……!?」
「今のを防がれるどころか、返されるというのは予想外でしたが……
私がかつてに負った最悪の傷は、古代全身鎧と6個の勾玉で武装した人間による七支斬……!
人間より力の劣る私の攻撃の4倍返しが……耐え切れないわけがないでしょう……!」
ぎこちなく振り向いた禍神の視線の先には。
両腕を広げ、巨大な紋章を展開する防衛システムの姿。
左腕を強引に動かしている痛みか、あるいは今のカウンターによる痛みか、どちらにせよ苦悶の表情を浮かべている。
だが今の禍神にとって、それはどうでもよかった。それ以上に、紋章にそれぞれ集まる光に眼がいった。
「さっきの剣は『人間の』切り札の一つにすぎない。そして……『私の』力は、切り札は、まだ使っていない……!」
紋章に、青白い光が収束されていく。
だがそれはまだ本命ではない。光に共鳴し、紋章中心部で生まれるのは、紅蓮の業火。
禍神には止めるという考えが思いつかないし、止められるとも思えなかった。
耳障りな膨大な力の収束音は、死へのカウントダウンにしか聞こえない。
「――スターバスター――発射ッ!!!」
カウント、ゼロ。
爆音と共に防衛システムの切り札、星砕きの業火が発射された。
「―――――――!!!」
禍神に迫り来る、絶望的なまでの光と熱。炎であって炎ではない、破壊の象徴。
もはや禍神に余裕は微塵もない。
以前部下の報告にあった、5人の人間が連携して行うというスターバスターとはまるで別物だ。
神としてではなく、一人のの生物として、その本能が告げた。
これは、食らってはいけないと。
神の威厳も恥も何もかもを投げ捨てて、禍神は全身全霊の防御を試みる。
強固な防御形態の防壁を全身に張り巡らせ。
その上から名状し難き障壁を重ねて。
普段から撒き散らしている赤い霧をカーテン状の壁に作り変え。
傷ついたその身体全体から恐ろしい瘴気を迸らせて。
かつてない、禍神渾身の四重結界。
結界と業火がぶつかりあい
結界は耐えるということを全くせずに、一瞬で蒸発した。
316
:
◆h4iq5vZd8w
:2012/05/14(月) 12:38:52 ID:M2vIzgSo
▽
「ぅ……く……」
壁にめり込むように張り付いていた防衛システムは、ようやくそこからの脱出に成功した。
彼女にとってもスターバスターは諸刃の剣。
本来の機械の身体でさえ、撃てば凄まじい反動が来る攻撃なのだ。
人間となり、人間と同じ体重となってしまった今の彼女では、撃った瞬間後ろに吹き飛ばされ叩きつけられてしまう。
通常時ならそれでもまだ問題はないが、流石にこの傷で撃つのは堪えたらしい。
「いっ……くぁ……に、人間の身体にも、不便なところは、あるんですね……」
光剣を杖代わりにし、よろよろと立ち上がった防衛システムは、前を見る。
そこには、もう何も残されていなかった。
「ギリギリでしたけど……なんとか倒せた、みたいですね……
よかった……はやく、リンに知らせてあげましょう。信長とも、合流できたでしょうか……?」
【新宿区・更地/1日目・夕方】
【最終防衛システム@サガ2秘宝伝説 GODDESS OF DESTINY】
【状態】全身裂傷、全身打撲、左腕極度重傷(自然治癒不可)、大疲労、魔法少女(?)、人間への恐怖(若干緩和)
スターバスター10時間使用不可
【装備】スターバスター、振り下ろし、踏み潰し
○変化、○ダウン、○消滅、カレイドセイバー(空き)
【道具】基本支給品一式、スタバのコーヒー×2
【思考】
基本:主催者の排除
0:リンやルカ達との合流。合流後はできれば休んで傷を癒したい
1:未知の世界の強敵を警戒しつつ、首輪解除の方法を探す
2:白い生物(キュゥべえ、名前未確認)を警戒
【個人制限・特殊能力】
004「人間っていいな?」参照
※コロッケの効果時間は不明
▽
その頃、禍神の危機から逃れた信長は……
「ここ、どこじゃ!?」
迷子だった。
【新宿区・???/1日目・夕方】
【織田信長@実在の人物】
[状態]ダメージ(小)、中疲労
[装備]羽柴秀吉の剣
[道具]基本支給品
[思考]
基本:KAITO達を救い、主催を討つ。
0:ワシ、もしかしてまだピンチ?
1:リン達と合流したいが……
2:KAITOとその家族とそいつらのマスターを探す。
【備考】
※KAITOと同じ世界(=VOCALOIDはロボット)から参戦です。
※KAITOのマスターで、他のVOCALOIDとそのマスターのことも知っています。
※鏡音リンのことを、自分のいた世界と同一人物だと思っています。
317
:
◆h4iq5vZd8w
:2012/05/14(月) 12:39:26 ID:M2vIzgSo
▽
「が…………ご……」
地面を這いずる何かがいた。喉を焼かれ、喋ることもままならぬ存在が。
全身焼け焦げ、爛れ、さらに下半身と右腕を失い、かろうじて繋がっているのは左腕と頭部のみ……
焼け切れた髪から妙に磯の香り漂う――そう、昏き海淵の禍神はまだ生きていた。
深手を負い、さらに反動の影響で、本来であれば必中のスターバスターもわずかに軌道がずれてしまっていたのだ。
そして禍神も、自分の結界が耐え切れるなどとは最初から思っていなかった。
あの暴力的な光と熱の収束を感じたその時から、足に力を込めていたのだ。
そう、最も嫌う人間の足に、横に飛んで逃げるために力を込めた。
その結果、身体のほとんどを焼き尽くされたが、辛うじて本体のついている頭部は助かった。
これはもう蒸発してしまったが支給品のブーツのおかげでもあるだろう。
さらに、申し訳程度にくっついている左腕には、デイバックがしっかりと握られていた。
禍神は、まだ諦めてはいない。
(まだだ……! 我が深淵の供物と、支給品があれば、必ずや奴を……!)
「よう、お前か……? バカ野郎なバケモノ野郎は……?」
そんな禍神に、底冷えするかのような声がかけられた。
(人……間……!?)
予期せぬ来訪者は、人間の少女だった。
しかしこの人間は、明らかに異質、異常。
ルカという女とも、皇帝とも、リスとも、将軍とも、先程の女とも違う。
焦点のあっていない虚ろな瞳に見下ろされた禍神は、それこそ名状し難い感覚に襲われた。
(一体、この人間は……)
「おい、私が聞いているんだから答えろ。お前か? お前がカナを殺したのか?
お前が、お前が私の大切な世界を、私の大切な南家を、壊したのか? 姉様も、殺すつもりなのか?」
禍神の返事を聞かずに、人間の少女――南千秋――はひたすらに喋り続けた。
そして……
「そーなのか、そーなんだな? これ以上、私の世界は壊させない。
大丈夫だ、そう、この南千秋が最後まで生き残れば問題ないんだ。優勝すれば、カナが笑って帰ってきてくれる。
でも私の世界にバケモノも邪魔な人間も必要ない。広い世界はいらない。カナと姉様さえいてくれれば、それでいいんだ。
だから……」
(なっ……!?)
千秋が、禍神の頭に光線銃を押し付けた。
「死ね」
禍神の脳裏に、防衛システムの言葉が蘇る。
――人間は時に神を討つ――?
――家族と世界を天秤にかけて家族を選んだ――?
――馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿な――
――こんなことが、あってたまるものか――
――星の海を巡り、世界樹と悠久の時を戦い続けてきたこの我が、神が――
――人間の、それもこんな小娘に討たれるなど、あってはならな――!!!
躊躇いなく至近距離から発射された光線は、地面を這い蹲っていた存在を、炭へと変えた。
318
:
◆h4iq5vZd8w
:2012/05/14(月) 12:40:59 ID:M2vIzgSo
「カナ、仇は討てたのか? こいつだったのか? それとも別のバケモノか? それともまさか人間なのか?」
虚ろな表情のまま、千秋は禍神だったものの手からデイバックを奪い取った。
もはやそこには、かつての南千秋の面影など存在しない。
ここにいるのは、ただ家族との日常を取り戻したいだけの――
純粋無垢にして狂気に染まった、哀しき少女ただ一人。
程なくして、彼女は再び姉の死を実感するだろう。
もう一人の姉は呼ばれないで欲しいと願いながら、千秋はその運命の時を待つ。
【一日目・放送直前/新宿区・新宿駅】
【南千秋@みなみけ】
【状態】精神極度不安定、中疲労
【装備】スーパー光線銃@スクライド、毒入りヤクルト3本@カオスロワ
【道具】基本支給品一式×3、不明支給品0〜1、脱衣拳の不明支給品1〜3(確認済み)、禍神の支給品(ランダム品0〜2)
【思考】
基本:優勝して夏奈を蘇らせ、みなみけ三姉妹の日常を取り戻す
0:ディアボロモンを倒せそうな参加者を探す。弱そうな参加者は殺害し支給品を奪う
1:真正面から殺しはしない。幼い外見を利用する。
2:せめてハルカは無事でいて欲しい
3:夏奈を殺した奴は同じ目にあわせて殺す
4:もう片方のバケモノも殺す
5:阿部高和を警戒
【昏き海淵の禍神@世界樹の迷宮Ⅲ 星海の来訪者】 死亡確認
※少なくとも新宿区全体に禍神の咆哮と戦闘音が響き渡りました
※ジェットブーツは消滅しました
投下は以上となります。
もし問題がないようでしたら、本スレへの代理投下をお願いします。
重ね重ねご迷惑をおかけします。
319
:
名無しさん
:2012/05/14(月) 18:04:22 ID:oduJ8k/6
仮投下乙です!
私としては何の問題もないように思われます
他の方の意見も問題ないというものでしたら代理投下をさせていただきます
感想はまたその時に
320
:
名無しさん
:2012/05/14(月) 21:03:06 ID:vT.hmmUE
仮投下乙です!
自分も問題ないと思います。
感想は本スレにて。
321
:
名無しさん
:2012/05/15(火) 18:10:08 ID:rZ3aTq7w
現在代理投下中ですが、さるさんをくらってしまいました。
解除され次第代理投下を再開するつもりですが、もしよろしければどなたか代わりに続きを代理投下してもらえないでしょうか?
322
:
◆nkOrxPVn9c
:2012/06/30(土) 20:10:03 ID:hzuZJnDM
放送案投下します
323
:
◆nkOrxPVn9c
:2012/06/30(土) 20:10:40 ID:hzuZJnDM
夜が来る。
あれほど大地を柔らかな光で包み込んでいた太陽が、
今では地平線の彼方へと沈んでしまっている。
最早太陽は我らを照らしてはくれない。
哀れ、戦う力を持たない者達は見えなくなる不安に怯えるばかり。
獲物は着実に減っている。
次に狙われるのは自分だと、弱者は頭を抱えて身を潜めるのみ。
最後に残るは彼らかそれとも彼らを狙う狩人か。
されどこの時ばかりは全ての者に等しく生きる権利が与えられる。
『静かになったようだな・・・・・・』
ただ一つ、ゲームに置ける絶対者の言葉に服従することと引き換えに。
-------------------
『まずは国民よ、第一放送まで乗り切ったことを褒めてやろう。
流石は我々の選んだ者達だ。 だが――』
彼らに、自称総理大臣の男に選ばれたことを光栄に思った者など誰一人としていないであろう。
男は知ってか知らずか咳払いをし、改めて手元にマイクを引き寄せた。
『残念ながら早々脱落してしまった屑どももいる。 喜緑』
『はい』
喜緑と呼ばれた少女が男からマイクを受け取ると、
彼女はマイクをハンカチで吹いた後に手元の名簿を読み上げる。
『泉こなた
南夏奈
南光太郎
東京タワー
杉下右京
脱衣拳
アーカード
イチロー
昏き海淵の禍神
以上になります。 それから・・・・・・』
324
:
◆nkOrxPVn9c
:2012/06/30(土) 20:13:24 ID:hzuZJnDM
書かれた名前の意味は知っているのだろう。
命とは紙に書かれた薄っぺらい文字と等しい物なのか。
『ご苦労。
お前らは屑のように容易く死なれては困る』
男は喜緑からマイクを半ば無理やり奪い取る。
『それから禁止エリアだ。
お前らは用済みのようだから、今から1時間後、江戸川区と大田区を禁止エリアに設定するぞ。
いつまでも留まっていると首輪が爆発するからさっさと離れることだ。
まあ、そんな間抜けな非国民は存在しないだろうがな』
スピーカー越しなので鼻でせせら笑う男の姿は参加者には見えないが、
彼の不遜な態度は嫌でも感じることができる。
嫌らしい笑みを浮かべたまま男は参加者達に忠告をした。
『総理』
『おお一つ忘れていた。 お前らのデイバッグの中に真っ白な紙があったはずだ。
放送終了後にはプログラム参加者の名前が浮かび上がってくるから、
精々知り合いが参加していることを祈るものだな。
国民としてこれ以上名誉なこともあるまい。 ははは・・・・・・』
325
:
◆nkOrxPVn9c
:2012/06/30(土) 20:14:14 ID:hzuZJnDM
以上です。
他に主催の思惑なども絡めようかと考えましたが、
それはまだ早いと思われるため控えました
326
:
◆m61JNy.Weg
:2012/06/30(土) 22:05:21 ID:EXFlLq3Q
とりあえずお疲れです。
自分はこの内容で問題ないと思います。
ただ、すぐに放送というのは性急のような気はするので
何日か様子を見てから本投下した方が良いと思います。
327
:
◆qUJcrMKDc.
:2012/07/01(日) 00:37:05 ID:pXK5yIQs
お疲れ様です。
自分も一応放送案は書いていましたが、確かに第一回放送であれば、
まだ主催サイドの思惑は下手に描写しないほうがいいかもしれませんね。
個人的には特に問題はないと思いますが、月曜日の0時くらいまでは他の方の意見も待った方がいいと思います。
328
:
◆jHBkBqZg9s
:2012/07/03(火) 00:24:15 ID:k/phsjkQ
自分も特に問題ないと思います。
あえて言うなら、最後に総理大臣たちの状態表があった方がいいかな?
(特に変わりはないでしょうが、オープニング時にも状態表があったので)
329
:
名無しさん
:2012/07/04(水) 18:13:52 ID:Zh82j8aE
ご指摘ありがとうございます
若干加筆修正を行って本スレの方に投下しました
330
:
◆nkOrxPVn9c
:2012/07/04(水) 18:14:22 ID:Zh82j8aE
失礼しました
331
:
◆jHBkBqZg9s
:2012/11/19(月) 21:13:04 ID:fShthSpk
対応が遅れてしまい申し訳ないです。
ベンに対して大幅な自己解釈などがあるので、まずは弱音ハク、ラグナ、ベンで仮投下させていただきます。
332
:
名無しさん
:2012/11/19(月) 21:14:31 ID:fShthSpk
夜の商店街を、二つの影が駆け抜ける。
「な、なんなんですかあれ……!?」
「こっちが聞きたいです!」
「……!」
それを追う、別の影が一つ。
言葉を発することなく、執拗に目の前の二人、『獲物』を狙い続け、銃を撃ち続ける。
その正体は、紫色の体毛が特徴的な大悪魔、バズズ。
シルバーデビル種の上位に位置し、その体毛の色は白銀の毛が犠牲者の血を吸い続けたためだと言われている。
根っからの、筋金入りの、殺戮者。目の前に動く人間がいれば、容赦なく惨殺する悪魔……
そんな悪魔が何故、この東京都に出現したのか。
元はこの地で行われている殺し合いの参加者の一人に支給されたものなのだが……
どうしたことか、彼には首輪はおろか、他の意思を持つ支給品を拘束するモンスターボールすらない。
とある主婦に主催者が誤って危険物を支給してしまったように、これも恐らくは主催者のミスなのだろう。
さらには猟銃と防弾ベストまで着込み、武装済みときた。
これは、彼がただのバズズではないためだ。
魔界の支配者が名付けたのか、彼には『ベン』という立派な名前が存在する。
魔物の世界は実力主義であり、名前を名乗ることができるのは一握り。
それだけでも、このバズズが、ベンが只者ではないことがわかるだろう。
そんな優れた殺戮悪魔が、凄まじい速度で迫ってくる。
その恐怖は並大抵のものではない。
『死人が出るぞぉ!』などと、周りに危機を知らせつつ、誰かに助けを求めたい気持ちにもかられるかもしれない。
しかし、追う影が普通ではないように、追われる影もまた、普通ではない。
333
:
名無しさん
:2012/11/19(月) 21:15:37 ID:fShthSpk
迫る銃弾の雨、しかしそれは未だに二つの影を撃ち抜くには到っていなかった。
驚異的な身体能力でもって、追われる影は銃弾を躱し、時には弾いているのだ。
彼らは数時間前に、無数の銃を操る黄色い魔法少女の銃撃を耐えきっており、
たとえ闇夜であろうとその実力を十分に発揮していた。
「……!」
「くっ!」
獲物がなかなか仕留められないことに、ベンは苛立ちを隠せない。
――何故こうもちょこまかと逃げまわるのか――
歯噛みするベンだが、追われる側は、現状それしか悪魔への対策がとれない。
いくら銃撃に反応できても、反撃ができないのだ。
彼らの現在の武器は剣と槍であり、間合いをある程度つめなくては攻撃が届かない。
しかしこれ以上近寄れば、ベンの持つショットガンの餌食となってしまう。
如何に身体能力が高くとも、限界はある。至近距離から撃たれては回避も防御もしようがない。
さらにベンは丈夫そうな服を装備しており、悪魔の肉体とあわせてかなりの防御力を誇る。
だめ押しでベンならでは、そのしなやかな肉体から生み出される圧倒的な敏捷力。
追われる二人の速さも常人のそれを遥かに凌駕しているが、ベンはそもそも種族が人間を凌駕している。
少しでも気を抜けば、たちまち接近、至近距離からの銃撃でおだぶつだろう。
走・攻・守……
全てに優れた殺戮悪魔、ベン。
元のバズズの肉体に、猟銃と防弾ベスト。
『完全武装』した彼に、死角は存在しない。
追われる二人は身を持ってそれを実感し、また本人はそれを本能で理解していた。
しかし、ベンはそこで考えることを止めてしまっていた。
『完全武装』した自分は無敵であると理解し、そこから先を考えない。
無敵であるが故に、考える必要がなかった。
対する人間は、どうやってベンをこの場で倒すかを考えていた。
このまま逃走劇を続けたところで、いずれは追いつかれてしまうのだから、倒すしかない。
ではどうやって倒すか。
『完全武装』した相手に、どう立ち向かえばいいのか。
――『完全武装』に勝てないのであれば、それをなくしてしまおう――
二人が行き着いた結論がこれであった。
ともなれば、次の思考もすぐに決まる。
完全武装、無敵の悪魔、走・攻・守、どこから切り崩す?
考えるまでもない。
接近戦に持ち込めれば、剣は届くのだから。
「――、――!」
「――!」
背後から迫る銃撃を、街中の物を盾にして逃げ惑いながら、短い言葉をかわす。
彼らには、時間があまり残されていない。
だからこそ、短い言葉で為すべきことを伝える。
そして、ついに影の一方が動いた。
334
:
名無しさん
:2012/11/19(月) 21:16:57 ID:fShthSpk
「……!」
女の方の獲物がようやく観念したのか、足を止めこちらを向く。
それを認識したベンは、にやりと笑みを浮かべた後、即座に銃を構える。
人間とは思えない、異常ともいえる反射神経を持った獲物ではあるが、
もはやそれも意味を為さない。この間合いは、もう自分の殺戮空間、その射程内なのだから。
――早くその身体から鮮血を撒き散らして、自分の体毛を更に美しく彩ってくれ――
願望を口には出さず、ベンは躊躇うことなく銃の引き金を
「やっ!」
一瞬。
一瞬の差であった。
ベンが引き金をひくよりも僅かに早く、獲物の女が動いた。
何をしたのか、それはすぐにベンにもわかった。
獲物は、何かをこちらに向かって投げつけたのだ。
――一向に砕ける様子のない銀の剣?いや違う。もっと小さな、なんだあれは?――
最初にベンの反応が遅れてしまったのは、ようやく獲物を殺せるのだ、と油断してしまったためだろう。
そしてその直後、まさに今。再びベンは反応が遅れてしまった。
今度は油断などではない。剣を投げつけられたとして、回避できる自信がベンにはあった。
しかし、飛んできた予想外の物に、思わず身体が固まってしまったのだ。
ベンに迫る飛来物は、剣でも、槍でもなかった。
極小の、とても武器とは思えない物体。
ピンク色をした、ベンが見たこともない代物だった。
これが武器であれば、反応もできた。新手の爆弾かとも思ったが、あまりに小さすぎる。
未知の物に対する無知と、優れた頭脳を持つが故に、どうしても謎を考察してしまうその癖が……
ベンの反応を完全に遅らせた。
「……!!??」
ベンがその意識を戦いに戻した時には、既に手遅れだった。
謎の物体は、ベンの持つ銃の発射口に、すっぽりと入ってしまう。
ここでようやく、ベンは謎の物体が高速振動していたことを理解する。
銃の中で、ピンクの異物が狂ったかのように振動を繰り返し、その振動は銃を伝い、嫌でもベンへと届く。
そしてこの不快な振動が、ベンにさらなることを理解させた。
――この銃は、もう使えない――
こんな異物が詰まった状態で撃てばどうなるか、そもそも振動で狙いもぶれてしまう。
――私の『完全武装』が……崩された?――
「せやあ!」
「……!?」
完全武装の崩壊。
それをベンが認識するのと同時に、同じく完全武装の崩壊を確認した、もう一方の獲物が肉迫してきた。
335
:
名無しさん
:2012/11/19(月) 21:17:59 ID:fShthSpk
ベンが無敵たりえたのは、完全武装による三位一体の状態があったからこそだ。
その一角、攻撃の要たる銃が潰された。
こうなってしまっては、もう獲物を一方的に攻撃することはできない。
鋭く尖った爪による攻撃は残されているが、それで獲物を引きちぎるには、獲物に接近しなくてはならない。
相手の武器もこちらに届く範囲まで、近寄らなければならない。
銀の剣を携えた眼前の男と、切り結ばなければならない。
先程までとは状況が一変している。
狩りから、戦いへ。
相手の生命を刈り取れるかもしれないが、自分も同じ土俵に立たされた。
しかし。
しかしそんな状況であっても、ベンは笑みを浮かべていた。
負けるはずがないと、確信しているが故に。
その確信と共に、ベンの悪魔の爪が振り下ろされる。
鈍い金属音が響き、初撃が男に防がれた。だがこれはベンにとって想定の範囲内。
「……!」
ベンが間髪入れずに、もう一方の腕を、下から突き上げるように振るう。
これこそ、ベンの真骨頂ともいえる、高速攻撃。
素早く相手に近寄り、素早く相手を切り刻む。
かつて仲間と共に迷宮を放浪していた頃……
この攻撃で、一体どれだけ縞々服の武器商人を薙ぎ倒してきたか、もはや数えていない。
銃は所詮、戯れで使っていたにすぎない。楽に遠くから獲物を狩れるから使ったまでだ。
接近戦こそ自分が最も得意とするものだというのに、この獲物は迂闊にもそれで挑んできた。
――その愚かさ、身を持って知るがいい――
振り上げられた爪が
男の剣で再び弾かれた。
「!?」
数瞬遅れて、ベンは己の状態を確認する。
信じられないが、自分の二連撃は人間に見切られ、弾かれた。
腕に傷はないが、振り下ろし、振り上げた勢いそのままに弾かれ、体から大きく離れてしまっている。
胴体部分が、がら空きだ。
完全武装のもう一方、強固なベストを装備しているため、無防備とは言いきれないが、
相手は、自分の完全武装を崩した女と共にいた男。
今しがた、自分の高速攻撃にすら反応してみせた男だ。
そんな男の手には、悪魔の目から見ても一級品とわかる銀の剣。
男の腕力と剣の威力が合わさった一撃に、このお気に入りのベストは耐え切れるだろうか。
無理だ。
しかし、それでも。
ベンはまだ笑っていた。
この極上の獲物を殺せる喜びに身をふるわせて。
336
:
名無しさん
:2012/11/19(月) 21:21:01 ID:fShthSpk
「……!!!」
大きく広がった状態になってしまったベンの両腕。
もしベンがただの大猿であれば、このまま剣を振り下ろされて絶命していただろう。
しかし先にも述べたが、ベンはただのベンではない。
バズズなのだ、ベンは。
高い魔力を有する、大悪魔。断じて猿ではなく、猿には到底真似のできないことをやってのける。
両の掌に集められるのは、氷の力。
――マヒャド――
詠唱は、言霊はない。それでも悪魔の力は発現する。
バズズ種が操る最強の攻撃、極大吹雪呪文が一瞬にして剣ごと男を飲み込んだ。
ベンは走・攻・守に優れいただけでなく、魔にも優れていたのだ。
銃を潰し、こちらの速度に反応し、守りを破るだけの力があっても、これは防げない。
三位一体ではない、四位一体。本当にベンに死角はなかった。
だからこそ、いつまでも笑みを絶やすことなく、獲物の動きを見ていた。
短く響いた後ろの女の悲鳴が心地よい。
男は凍らせた以上、後は砕くしかない。ではあの女はどうやって殺してやろうか……
ベンの思考が、戦いから狩りのものへと戻っていく。
その刹那
「……悪いね。吹雪には慣れてるんだ」
猛吹雪を突き破り、男が飛び出した。
ベンの中に、初めて恐怖の感情が芽生える。
切り札の極大吹雪呪文が効かないなど、もはや打つ手などあるわけがない。
目前に迫る死。
今まで自分が相手に与えてきたそれが、跳ね返ってきた。
ベンはその現実を、ただただ受け入れるしかなかった。
337
:
名無しさん
:2012/11/19(月) 21:22:45 ID:fShthSpk
※
「よーしよしよし、よーし……」
「……!」
一分後、そこには元気に尻尾をふるベンの姿が!
「すごいですラグナさん……本当にそんな凶暴な動物を手懐けるなんて……」
「いやー、いつにも増して命懸けでしたけどね……
念のために、これを回収しておいてよかったですよ」
先程までベンと戦っていたとは思えない様子で、ラグナはベンの頭にブラシをかけ続ける。
なんの変哲もない、本当に普通の市販のブラシ。
吹雪を破り、ベンの頭頂めがけ振るわれたのは、剣ではなくこのブラシだったのだ。
「でも、よく手懐けようと思いましたね。アマゾン巡りでもこんな無茶はしませんよ……」
「人に心がある様に、モンスターにだって心はあります。倒さなければならない時もあるけど、
なかには理由があって戦う子や、人間の手で無理矢理戦わされている子もいますから……
人もモンスターも、決着がついたなら、命を奪わずに済むなら、仲良くなりたいと思うんですよ……」
ラグナはアースマイトと呼ばれる希少な人間の一人だ。
あらゆる武具を自ら作り、それを振るい、あらゆる料理と薬物を自ら作り、己の肉体を極限まで鍛えてきた。
魚影を見れば瞬時に釣り上げ、木を見ればすぐに伐採、鉱石を見つけたら宝石を根こそぎ回収してきた。
出会った少女とはとりあえずフラグを建て、水着を配り、寝床の匂いを嗅ぎ、親密な関係になっていった。
しかしこれらはあくまでサブの能力に過ぎず、本来の能力、
その本質は自然やモンスターとの対話や、大地を潤すことにある。
だからこそ、たとえ相手が未知のモンスターでも、彼はベンの心の声に耳を傾けた。
ベンの思考のほとんどは、殺戮で埋まっていた。
大魔王が支配する魔界生まれでは仕方のないことではあるが、理由はそれだけではない。
ベンは……悔しかったのだ。そして本人は気がついていなかったが、寂しさもあった。
魔界には沢山の仲間がいた。種族を問わず、沢山の仲間が。
そんなある時、魔界に勇者を名乗る一行が現れた。
丸い体型の男が口笛を吹けば、何故か体は勝手に動き、仲間も自分も勇者たちに飛び掛かった。
『なんだ、またはずれのバズズか』
『経験値にもお金にもならない……』
『僕たちはキラーマシンとグレイトドラゴンを仲間にしたいんだ』
そして浴びせられる、心無い言葉と落雷呪文。
仲間だったはずのマシンやドラゴンはいつしか彼らに服従し、自分のもとを去っていった。
それからすぐだったか。
さらなる力を求め、荒れ果て、完全武装し始めたのは……
338
:
名無しさん
:2012/11/19(月) 21:24:40 ID:fShthSpk
もっと力があれば、あの人間も自分を見てくれるかもしれない、そんな考えが頭の片隅にあった。
勇者一行の仲間入りを果たした友人達は、みんな幸せそうだった。
彼らは愛されていた。モンスターと人間の垣根を越えて。
彼らを恨んだ、妬んだ。彼らが……羨ましかった。
それが、ベンの心の底にあった、本当の感情だった。
「……!」
そして、いつの間にか迷い込んだ見知らぬこの世界で。
ベンの願いはついに叶った。
殺そうとしたのに、怪我をしたというのに、自分を殺すこともできたというのに。
目の前の男は、『主人』は自分に手を差し伸べてくれた。初めて自分を認めてくれた。
仕えたいと願っていた人間とは別人だが、もはやそれも構わない。
――これこそ、私の望んでいた……――
※
「ふぅ、ブラッシングはこれくらいでいいかな」
「こんなに尻尾をふって……喜んでいるんでしょうか?」
やがて、ベンのなでなでタイムも終了し、ラグナとハクは立ち上がる。
ベンの襲撃は完全に予想外であったが、味方になってくれそうな所ジョージとの合流、その目的は変わらない。
「さて、この子も懐いてくれたみたいですし、そろそろ行きましょう」
「ま、待ってください!ラグナさん、その傷のままでは……」
しかし、ハクが待ったをかける。
ベンとの戦いで、銃弾こそ浴びていないが、ラグナはその全身に吹雪を浴びている。
いくら本人が慣れてると口にしても、体のあちこちに氷刃でできた切り傷があるし、服の一部も凍ってしまっていた。
「これくらい、大丈夫ですよ。前に氷の砲弾を顔面に受けた時に比べたら……」
「……よくわかりませんけど、とにかく駄目です!どこかで傷の手当てをしないと……」
「……!」
ハクが呟いた瞬間、仲間になったばかりの動物……ベンが自分の背中を指差す。
――乗ってくれ――
アースマイトではないハクでも、ベンがそう言っているのだと理解できた。
程なくして、ハクとハクの言葉に折れたラグナがベンの背に跨る。
その際に、完全武装具である防弾ベストを脱ぐこととなったが、ベンはもうそれを気にしない。
今の自分は、いつか夢見たことを実現できているのだから。
かつての友と同じ様に。
その背に新たな主人たちを乗せて、ベンは走りだす。
339
:
名無しさん
:2012/11/19(月) 21:26:09 ID:fShthSpk
【文京区・商店街/一日目・夜】
【弱音ハク@VOCALOID】
【状態】健康、疲労(中)両腕に包帯(完治済み)ベンに騎乗中
【装備】鋼の槍、メイド服、ヘッドドレス
【道具】基本支給品一式、おにぎり、防弾ベスト
【思考】
基本:家族を見つけて守りつつ、首輪を外して主催者に挑む
0:まずは治療ができそうな場所へ向かう
1:ラグナについていく
2:自分の死より他人の死の方が気になる
3:ジャイアンの母とはあまり戦いたくない
4:魔法というものに興味
5:謎の少女(巴マミ)を警戒
6:家族やタケシの安否も気になる
【ラグナ@ルーンファクトリー フロンティア】
【状態】:ダメージ(小)、疲労(中)RP65%、服一部凍結、ベンに騎乗中
【装備】:メタルキングの剣
【道具】:基本支給品一式(ランダム品0〜1)、調理器具、細工道具、ブラシ、ベン
【思考】基本:主催者の撃破
0:まずは治療ができそうな場所へ向かう
1:ハクと共に行動
2:回復用の食料と武器及び素材の確保
3:殺人は控えるが、場合によってはやむなし
4:謎の少女(巴マミ)を警戒。できれば説得したい
5:会場の正体が知りたい
※食事による回復量にも若干制限がかかっています
※ブラシにより今後もペットは増やせますが、デイパック外に出せるのは一体まで
【ベン(バズズ)@ドラゴンクエストV 天空の花嫁】
[状態]:健康
[思考・状況]
基本行動方針:主人に従う
※ラグナのペット(支給品と同じ扱い)になりました。
※ラグナから一定距離しか離れることはできず、
彼の命令でのみデイパックから出たり入ったりすることが可能です。
※近くにローターが詰まった猟銃が放置されています
【現地調達品解説『ブラシ』】
ラグナが道中入手した、市販のペット用ブラシ。モンスターを何回か撫でるとペットにすることができる。
モンスターと心を通わせられる者なら誰でも使用可能だが、相手に自分の力量を認めさせなければならない。
もちろん、人間に対しては全く効果はない。
「そういえばラグナさん、この子はなんて呼べばいいんでしょう?」
「そうですね……この子のニックネームは……うん、『ベン』にしましょう!」
「ど、どういう基準なんですか……?あれ?この子喜んでる……!?」
340
:
名無しさん
:2012/11/19(月) 21:28:31 ID:fShthSpk
仮投下終了となります。
タイトルは『彼の者の名は……ベン』で。
問題点や修正すべき点があれば指摘お願いします。
問題ないようでしたら、お手数ですが代理投下をお願いします。
341
:
名無しさん
:2012/11/20(火) 03:00:51 ID:ypg4CxdA
ベンに微笑む日がくるなんて・・・・・・(驚愕)
これ以上とない頼もしい味方ですが、ぶっちゃけニアラが支給されている時点で問題ないと思います
さて残りの2匹はどうするか
俺ODIOに返却してやろうか(ry
342
:
名無しさん
:2012/11/20(火) 19:26:23 ID:HCPqtMi.
仮投下乙!
まさかベンにこんな悲しい過去があったなんて……
自分も特に問題はないと思います。
しかしベン相手に一歩も退かないふたりもすごいが、なにが一番すごいって
完全武装を打ち破るキーアイテムが大ハズレ品のローターだってことだよw
やったねMEIKO姉さん! 家族の命を救ったよ! ローターは二度と帰ってこないけどな!
343
:
名無しさん
:2012/11/21(水) 04:38:52 ID:t4uHsU2s
仮投下してたらさるさんくらった ボスケテ
344
:
名無しさん
:2012/11/21(水) 04:43:01 ID:t4uHsU2s
代理投下やった
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