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仮投下スレ

122チェイン ◆d4asqdtPw2:2011/06/29(水) 02:56:35 ID:???
 東の地平から現れたのは、世界を白く染める朝の光。
 夜の闇は西の彼方へと追いやられ、かき消されてゆく。
 だが、この町中にドロリと充満する絶望は、朝日に照らされても絶えることはない。
 不穏な色が渦巻く空を民家の窓から眺めながら、加藤鳴海は深く溜め息をついた。
 なんだか、ずいぶん久しぶりに太陽に会ったような気がする。

「…………」
 左腕が僅かに軋んだ。
 五指をおもむろに開き、そして握り締めて、鳴海は目を細める。
 長い間、彼は真夜中で戦っていた。
 この殺し合いに参加させられるよりも前から。
 天幕の下で、機械仕掛けの道化たちとずっと戦い続けていた。
 それは、時計の針で測るなら一夜にも満たない出来事。
 けれど、彼の中では千夜に渡る闘争だ。
 命を賭けて、仲間を失ってまで、彼としろがねたちは悪夢に立ち向かい続けた。
 だが、久遠に続くかに思われたその戦争の結末を、彼は知らない。
 戦いの最中で彼の意識は闇に落ち、次に目覚めたとき、そこはキース。ブラックが演説の聴衆席であったのだ。
 しろがねと人形のどちらが勝利したのかも、仲間の誰が生き残ったのかも分からずじまい。
 さらには我が身に起こっている事態も把握できぬまま、先の騒動に巻き込まれた。

「…………」
 先ほどの、騒動……。
 思い出してしまった鳴海は、ソファーで眠る少年を横目で見る。
 少年は毛布のみを身に着けて、静かな寝息をたてている。
 これが数刻前の巨獣の正体であるなど、にわかには信じがたいことだ。
 化物がこの少年の姿に変化する瞬間を実際に目にしていたのにもかかわらず、である。。

(こいつが目覚めてみないと、わからねえことだ)
 彼が何者なのか。
 まだ暴れるつもりなのか。
 キース・ブラックとはどういった関係なのか。
 そういった疑問のすべては、少年自身から聞き出すほかない。

 考えることは得意じゃねえんだ、などと呟きながら、彼は思い出したようにリュックの口を開いた。
 女性の腰回りくらいの太さはあろう腕を突っ込み、中から一枚の紙切れを引っ張り出す。
 この殺し合いが始まったときにも、彼はこの参加者名簿をチェックしようとしていた。
 だが、高槻涼が暴走したせいで、それも中途半端なままでほったらかしてしまっている。
 見間違いでなければ、仲間のしろがねの名前が記載されていたはずだったのだが……。

 その名がまぼろしでないことを確認し、鳴海は安心と怒りをこね回したような表情で笑った。
 やはり、見知った名前が幾つかあったのだ。

 まずは、ギイ、ルシール、ジョージ、そしてフェイスレスの四名。
 いずれも彼とともに戦っていたしろがねたちだ。
 死んでしまったと思われていた二人の男の名前も記載されているではないか。
 その事実がなんとも嬉しくて、鳴海は「バカヤロウ」と小さくこぼした。
 彼らならば心配は要らない。
 しろがね・Oのジョージだけは信用ならないが、残りの三人はいずれも技術と経験を多分に有するつわものたちだ。
 下手を打つことも、殺し合いに乗ることもあり得ないといっていい。

 しろがねたちとは逆に、鳴海の顔から明るさを奪う名も四つ。
 パウルマン、アンゼルムス、ドットーレ、コロンビーヌ。
 世界中に最悪を運ぶ、自動人形たちだ。
 最初の二体に関してはそれほど問題ではない。
 今の鳴海ならば、一撃のもとに葬り去ることができる。
 とはいえ、やつらとて腐ってもオートマータだ。
 一般人からすれば十分な脅威となるはず。。
 できることなら、早めに破壊しておきたいところ。


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