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小説投稿スレ (マント、吸血鬼、魔女 etc)

34真夏の夜の夢 16:2013/01/12(土) 13:38:50
「あ………、はい…ただいま……。」

前田は気を取り直し、いそいそと料理を部屋の中へ運び込んだ。

部屋の中は小さな室内灯が灯るだけで薄暗かった。
由梨香は両手でカーテンを開き、眼下に広がる夜景を眺めた。
前田は持ってきたワインの栓を抜いてグラスに注ぎながら、ちらちらと彼女の背中に目をやった…。

一体、彼女はなぜマントなんかを纏っているのか…。前田は気になったが当然聞く訳にはいかない。お客の個人的な事情や趣味に口を出すのはサービス業では禁則事項だからだ。

しかし……

最初は驚いたものの、よく見れば見るほどその奇妙な出で立ちには魅かれるものがあった。

彼女の容貌を見て改めて美しいと感じた…。それは前田の同年代の女の子とは違う大人っぽさと、心を溶かすような艶やかさの混じった、蠱惑的ともいえる美しさだった。

そして、マントを羽織ることでその魔女のような艶気は引き立てられ、益々妖しげに咲き誇っていた。
由梨香の肩から床にかけて優美な曲線を描いて垂れ下がる黒いマントは彼女の後姿を高貴で近寄りがたいものに見せ、まるで窓の下に広がる街に君臨する女王様のような雰囲気を漂わせていた。

「ここから見る夜景はなかなか見事だわ…。」

身体を動かさないまま彼女は言葉を発する。前田はドキリとしたが、なるだけ冷静に受け応えた。

「えぇ……ありがとうございます…。素晴らしい夜景は当ホテルの自慢でございますので……。」

「この夜景を見ながら飲むワインは格別でしょうね……。
料理も最高の物でなくてはならないわ……。」

由梨香は振り返り、前田を妖しげな流し目で見ながら微笑む。

「とっても、美味しそう………。」

前田の手が震えてくる……。目を逸らしてはいても、彼女の視線がテーブルの上の料理ではなく自分に対して注がれていることはわかった。

今、彼の心の中では、一刻も早く彼女の目から逃れたいという恐怖にも似た思いと、その視線に吸い込まれてしまいたいという相反する思いに掻き乱されていた。


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