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渡来船2

94カサブタ:2012/03/17(土) 11:51:58
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普段ならば下北沢は夜でも主婦や学校帰りの若者達でごった返しているはずだった。
それが今ではまるで戒厳令でも敷かれているかのように不気味な静けさに包まれていた。

世田谷を初め、都内の各所で連続怪死事件によって特別警戒令が敷かれている今、多くの店舗は日が落ちる前にシャッターを下ろし、学生もサラリーマンも足早に家路を急いでいた。この街には警察署は無いが、かねてより防犯意識が高いこともあり、各商店街組合の合意の元で閉店時間を早める呼びかけがなされていた。

そのうえ、にわかに風が強くなりやがて戸板を叩くような大雨が降り始めると、いよいよ人通りはまばらになり、通り過ぎる電車とパトロールの警察車両を除いて動く物は無くなった。

あまりに場違いな一台のリムジンが下北沢の狭小路に入ってきたとしても。今ではそれに気付く者もいない。

「そうか・・・、 間もなく始まるのだなっ!!」

ローバックスの日本法人にて会合を行った後、ローズから連絡を受けたキルシュ伯爵は、まっすぐに渡来船へ向かっていた。

「伯爵様、あの子を迎えに行ってくださるかしら・・・?
こちらへ来る途中で楽しんでいただいても構いませんわよ?」

「ふははっ!! 良いのかローズ? あの娘は君の分身だろう?
宴が始まる前に私が傷物にしてしまってもかまわないのか?」

「私は貴方を愛しているといつも言っていますでしょう? 私の分身ということはつまりあの子も私と同じく貴方の寵愛を受けるべき対象であるということ。違いますか?」

「少女の頃の君か・・・。実に楽しみだ・・・。」

下北沢の狭い通りをリムジンは窮屈そうにゆっくり進んでいく。やがて渡来船の前までやってくると既に店の玄関の前に2人の少女が佇んでいた。2人とも黒いマントを着て雨の中立っている。

伯爵は車から降りて、彼女達を迎える。

「ほう・・・!!」

藍の顔をまじまじと見て彼はため息を漏らした。それに対して藍は眉ひとつ動かさず、冷たい表情で彼を見ていた。

「なるほど、似ている。 そして実に美しい・・・!!」

伯爵は藍の容姿に大層満足したようだった。そして、彼女の肩に手を回しエスコートするように車へと誘う。

「歓迎しよう。君もローズと同格なのだ。私が寵愛するに値する。」

そして、次に伯爵はもうひとりの少女に目配せする。 大原七美、今は彼女も藍と同じく血色の無い真っ白な肌をし真っ赤な目をしている。
幼い少女のような小さい体躯にやや大きめのマントの裾を引摺る。しかし、彼女もまた闇に魅せられた者特有の美しさを湛えていた。

「ほう、可愛らしくも艶やかな妖花のような娘だ。実にいい。
君も来るといい。ローズもきっと君を気に入るだろう。」

伯爵は七美にも手を差し伸べ、車に誘おうとするが、彼女はそれを無視して、自分で車の後部座席に向かって行った。

「後ろに乗せてもらうわ・・・。 その人の隣は嫌・・・。」

七美は藍を冷たく睨みつけて、吐き捨てるように言った。
怪訝な顔をする伯爵に藍が話しかける。

「気にしないで・・・、私は嫌われても仕方が無いのよ。 あの子の気持ちを裏切ってしまったんだもの・・・。」

「おやおやそれは・・・。」

伯爵はフッと鼻で笑う。

「さてはマリアにからかわれたか? 私たちが吸血鬼にしたとはいえあれは少々デリカシーに欠けるからな・・・。」

「ぜひ教育しなおして欲しいわね・・・あの子、性格が悪いにも程があるわ・・・。」

3人が乗り込むと、車は紅葉台学園に向けて出発した。
リムジンの中は、まるで伯爵の屋敷の部屋をそのまま切り取ったような空間だった。
燭台を象ったライトに皮のソファ。 アンティークな長机と木製のカクテルキャビネット。
全ての窓に黒いベルベットのカーテンがついていて、それを閉めると車の中に居ることを忘れてしまう。 ソファもベッドのように大きく長い。 キルシュ伯爵が愛人や娼婦と楽しむために作らせた空間であることは一目瞭然だった。


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