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渡来船2

71カサブタ:2012/03/16(金) 01:34:58
「入院ってどういうことですか・・・っ?!」

「原因は詳しい検査をしないと分からないんですが、貴方の症状をみるとただの風邪とは思えません。」

下北沢で藍と別れたカズは家ではなく病院にいた。 
斎場を出た直後から心なしか寒気を感じてはいたが、大して気にもとめていなかった。
だが、藍には黙っていたものの駅に向かっている時からだんだんとダルさを感じてきて、自転車を避けようとしてよろめいた所で、本格的に身体の不調を自覚し始めた。

最初は家へ向かったのだが、その道中でも具合は悪くなる一方で、仕方なく最寄りの病院へ向かったのだった。ようやく診察室についた頃にはすでに体中がだるい上、発汗と軽い震えが止まらず、わずかな眩暈も覚えていた。そのうえ、医師に言われて気付いたが黄疸までも出てきているようだ。

「具合が悪くなったのはついさっきなんですよね?
この症状からすると溶血性細菌による感染症の疑いもありますが、それにしても病状の進行が早すぎます。
詳しいことはもっと検査しないとわからないので、結果が出るまではどうかここで安静にお願いできますか?」

なんということだ・・・、せっかく再就職のチャンスだというのにその直前に急病だなんてあまりにもタイミングが悪すぎる。 だが、非常にもどかしいことに自覚症状だけからでも、明日面接を受けられる状態じゃないことが分かってしまう。

日々の不節制が祟ったのか? なんて情けない・・・。
困るのは自分だけじゃないんだ。 藍ちゃんのサポートもしなきゃならないのに・・・
こんな様で、みゆきさんにどう顔を合わせればいいのだ・・・

カズはどうしようもない歯痒さを噛み締めながら入院することになってしまった。

その夜、カズの血液は早速さらに詳しい分析にかけられることになった。
医師達は採取した血液から新種のウイルスによる感染症も疑って念入りに調査を行うことにした。だが、検査を始めたその直後から彼らは、その症状の異常さに目を疑った。

血液自体はいたって健康そのもので、細菌らしき物も、既存の毒物も検出されていない。 にも関わらず、顕微鏡のレンズが見つめる先で、赤血球や白血球、その他の組織が、氷のように溶け崩れていくのだ。 
 だが、さらに医師たちを驚愕させたのはその後だった。 それまで赤かった血液が赤血球の破壊により半透明になったかと思うと、わずかに黄色味を帯びた白いドロドロの液体へと姿を変えたのだ。 その液体を採取して分析してみると、そこからは高濃度のエンケフェリンやβ-エンドルフィンなどのいわゆる脳内麻薬の他、強い興奮を引き起こすドーパミン、その他、未知の組成を持つホルモンらしき物質が次々と検出されたのだ。 そして驚いたことに、不完全な形ではあるものの精子と思しき物が無数に蠢いていたのだ。

「早瀬さんを早く連れてきてくれ!! 大至急だ!!」

翌日に精密検査を行う予定でいたが、異常な結果を受けて今からすぐに始めることになった。
医師は手術室の準備に向かい、 看護師二人がカズを運ぶために病室へ急いだ。


「ううぅ・・・・・・っ!!」

ベッドに入った後も、楽になるどころか病状はひどくなるばかりだった。掛け替えたばかりのシーツは汗でぐっしょりと濡れ、身体はだるさを通り越して苦しみを感じ始めている。熱も高くなったようで視界がかなりぼやけている。

まるで身体が内側から燃え上がるようだ・・・。手足の感覚がなくなっていく。 
どうしてこんなことになったんだ・・・。 わけもわからないまま俺は死ぬのか・・・。

悪態をつこうにも言葉を出す気力もない・・・。

そのときだった。突然、病室の窓がひとりでに開き、室内には夜のひんやりした湿った空気が、夜風とともに流れ込んできた。
暗い闇夜には、月が大きくまっ赤になって輝いていた。
すると夜空からは闇をまとった2匹の蝙蝠が部屋に舞い込んできた。
その蝙蝠は部屋に降り立つと同時に、黒いフードを被ったマント姿の女に変身した。

ぼやけた視界の隅に何か黒い物が揺れるのが見えたカズはそちらに顔を向ける。 たしか、そっちには窓しかなかった筈だが・・・。 そこには女性と思しきシルエットがあった。

黒いゆったりした衣に身を包み、 長い髪をさらさらとなびかせる女性・・・。 ぼやけた視界でも分かる真っ白な肌・・・、 赤い唇・・・。 吸い込まれるような瞳・・・。

「あい・・・・・・、 ちゃん・・・・・・」


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