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渡来船2
69
:
カサブタ
:2012/03/16(金) 01:19:29
「じゃぁ、そのマリアっていう留学生の子が・・・?」
「はい・・・。」
七海は藍に自分が見たもの全てを打ち明けた。 なるほど、こんなことを誰かに話せるわけがない。
最近、転校してきた留学生の正体が吸血鬼で、後輩の金森健二を殺したなど、誰が信じられるだろうか。 もし、軽率に口に出したものなら、まわりから軽蔑されるだけでなく、吸血鬼から狙われる危険も高まったことだろう。
さりとて、藍自身にも少女が語るその話が本当であるか確かめる術は無い。ハンターを続けているとこういう類の作り話をしてくる者と接する機会も多いからだ。
しかし、藍はこの小さな少女は嘘を言っていないと思えた。 というのも、彼女が吸血鬼だと主張するマリアと一緒にいたというもう一人の女に覚えがあるからだ。
大きな黒マント、真っ白な肌、長い黒髪、異様に整った顔立ち・・・、 あいつの容姿そのままだ・・・。
しかし、それだけじゃまだあいつだと断定は出来ない。この前の黒百合だってその特徴が当てはまる。
だが・・・、あいつであるという確信を得る手段は無いわけじゃない・・・。
この子がこそこそと私を付けていた理由・・・。 おそらく、カズ君との会話だけじゃない・・・。
「ねぇ、 そのもう一人の女の顔は見た?」
「え・・・? はい・・・。」
「覚えてる・・・?」
七海は言葉を詰まらせた・・・。 どうも藍と目を合わせ辛いらしい。
やっぱり・・・これは・・・。 藍は息を呑みながら切り出す
「・・・私にそっくりだったでしょう・・・?」
七海の身体がピクッ、と反応する。
「そ・・・・・・その・・・。」
「うん・・・、言いにくいよね・・・・・・。 気にしてないからいいのよ・・・。」
藍は辛そうな顔でうつむいた。 二人の間にしばらく重苦しい沈黙が訪れる。
おそるおそる口を開いたのは七海の方だった。
「貴女も・・・、吸血鬼なんですか・・・・・・?」
「ええ・・・。」
藍は彼女に怖がられることも覚悟の上で正直に答えた。
「なんとなくわかってると思うけど・・・、貴女が見たその女とも無関係じゃない・・・・・・。
でも、私は貴女の敵じゃないわ・・・。むしろ、私の敵は貴女が見たって言うその女。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・ごめんね、信じられないよね・・・、 私も貴女の友達を殺した化け物と同類だもんね・・・。
そうじゃなきゃ、カバンの中にそんなものは入れないわよね・・・。」
「あ・・・!!」
七海は持っているカバンを反射的に隠そうとした。しかし、しばらく目を泳がせた後、顔を落とした。
そして、何も言わずにカバンの中を探り、パイプとハンマーを取り出した。
細いパイプはカバンに収まるサイズに切られており、片方の端を斜めにカットして鋭くしてある。おそらく普段から持ち歩いていたのだ。吸血鬼という漠然としたイメージから有効な武器として杭を連想したのだろう。 同時に、彼女が事件を目撃して以来、どれだけの恐怖に怯えながら日々を過ごしていたかが垣間見れた。
「これは・・・、その・・・・・・。 ごめんなさい・・・・・・。」
「いいの・・・、怖がられて当たり前だもの・・・・・・。 怒ってないから・・・ね・・・。」
藍は優しい笑顔を作ったが、その表情から辛い心境を隠すことはできなくなっていた。
七海はまだ藍に心を開くことができないでいたが、藍が見せる表情に警戒心は自然に弱まっていった。
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