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渡来船2
67
:
カサブタ
:2012/03/15(木) 02:45:59
葬式に参列した後、和也と藍の二人は高幡不動駅から京王線に乗って家路についた。
学校帰りの若者が多い車内で、スーツ姿のサラリーマンと名門女子高の制服を着たお嬢様という異色の組合せは中々目立つ。だが、二人は周囲を気にかけないようにして、これからのことを相談しあった。
「どう思う?」
「おそらく、この前の黒百合と同じケースだわ。 すごい魔力を感じるのに肝心の吸血鬼本体の気配は何も感じ取れない。 もしかしたら、今回の敵も前のマントみたいなので吸血鬼にされた一般人かもしれないわ。 だとしたら厄介なことになる。 あのマントは身につけている間だけ吸血鬼化するみたいなの。」
「あのマントは一つだけじゃなかったってこと・・・? 一体誰がばら撒いているんだろう。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・? 藍ちゃん?」
「あ・・・っ!! ごめん。 ちょっと、よくわからない・・・。
でも、ハンターの経験からいうと、 吸血鬼はどこかに自分の“城”を構えている場合が多いわ。城っていうのは日中、潜伏してる場所のことで自分の棺桶を隠してあったりもするんだけど。 一度、城を構えた吸血鬼は滅多に拠点を移動させようとはしない傾向にあるの。つまり・・・。」
「被害は城を中心にして起こる・・・? てことは、実行犯は狛江や世田谷周辺のどこかにいるってことかな。」
「可能性は高いけど、集中捜査しようにも範囲が広すぎるわね・・・、この前の黒百合は世田谷在住だったけど、マントをばら撒いた黒幕が都心にいるとは限らないわ。多摩地域のどこかに拠点を構えてさえいれば電車や車を使って都心部で事件を起こすことは可能よ。こうなると、もうしらみつぶしに足で探すしかないわね。私は早速、明日から探索を始めるつもりよ。」
「俺もできる限り協力するよ。 まぁ、藍ちゃんの方が俺なんかよりずっと強いし余計なお世話と思うけど・・・。」
「ううん・・・、そんなことないよ・・・。
カズ君はあまり気付いてないかもしれないけど、私は結構カズ君に救われてるんだよ・・・?
この前のお店でのこともそうだし、普段もカズ君から沢山元気を貰っているもん。 だからそんなに卑屈にならなくてもいいと思うけどな・・・。」
二人は明大前で京王線から井の頭線に乗り換え、下北沢へと帰ってきた。
既に日は傾きかけ、周囲は夕闇に包まれようとしていた。
「藍ちゃんはこれから渡来船に戻るんだよね?」
「うん、みゆきさんの言いつけだもん。それに、今後の対策を練らないとね。みゆきさんのパソコン借りて情報を集めるわ。 カズ君はどうするの? お店寄ってく?」
「う〜ん、ごめん。 せっかくだけど今日はやめとくよ。明日、新しい職場の面接に行くから早く寝ないといけないんだ。」
「えっ? 就職活動してたの?
ふ〜ん、ここんところ毎日お店来て呑んだくれてると思ってたのに。」
「あのね・・・、 店の子たちとか俺のこと散々に言ってるけどこれでも俺なりには努力してるんだからね・・・。 みゆきさんにも藍ちゃんのこと任せられたんだし、いつまでも甲斐性なしじゃいられないよ。」
「ふふ・・・、ホントみゆきさんには弱いね。」
「ちょっと、そこは俺のこと見直すところじゃないの? 藍ちゃんも俺が仕事するの無理だと思ってる?」
「ううん・・・、そんなことない。 私の為にそこまでしてくれるなんて素直に嬉しいよ。
カズ君ってば、いい所はたくさんあるのに見せるのが下手なんだよね。ちょっともったいないと思うな。」
藍は口を抑えてクスクスと笑って見せた。 カズもつられてニヤけてしまう。
前から自転車がきたので、二人は避けようとするが・・・、
「おっとっと!!」
和也がそのままよろけて転びそうになる。
「ちょっとぉ、 いってるそばからみっともない姿みせないでよ。」
「はは・・・、ごめんごめん・・・。」
二人は少し話した後、駅前で別れた。カズは家に向かい、藍は渡来船に向かって歩いていった。
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