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渡来船2

63カサブタ:2012/03/15(木) 02:31:12
そして、みゆきは、忌まわしい記憶を思い出していた。5年前のこと、藍と始めて出会ったあの時に取り逃したローズが復讐しにきた。藍を攫いにきたのだ。

彼女は10数年前の黒ミサによって禁断の力を得て以来、“進化”を続けているのだ。普通のヴァンパイアが恐れるニンニク、聖水、銀等の弱点を克服し、炎でも死ぬことはない。

 だが、今まで奴が更なる変異を遂げることはなんとか防げていた。奴が進化する為の重要な鍵を藍が握っていることが分かったのは奴が再び襲ってくる少し前のこと・・・。 もっとはやく気づいていたらと何度思ったことか。

そもそも、本来、吸血鬼や魔女が自分の魔力を高める為に行う儀式である黒ミサと、ローズがかつて行った儀式はまったく種類が異なるものだったのだ。

吸血鬼は永遠の命と強大な魔力と引き換えに生物が持つ大きな性質を失っている。
それは、生殖機能。 淫魔の一種である吸血鬼にとって精液は生殖の手段ではなく食料に過ぎないので、子供を作ることができない。そもそも、永遠に生きられる彼女達にとって子孫を残す能力は無用であり、生殖機能が無くなるのはある意味では自然の摂理だった。しかし、それは自分と異なる個体との間に子孫を残し、多様性を手に入れることができないことを意味する。吸血鬼は生物の特質である“進化”ができないのだ。

だが、ローズは吸血鬼としての永遠の命を保ちながらも人間と同じように多様性を手に入れる術を完成させた。 それがローズによる“薔薇の黒ミサ”。自分の血を与えるだけでなく、魔力や遺伝子を凝縮した種を眷属たちに埋め込む。そして眷属たちを特殊な魔方陣の中で交わらせ、何人もの良質な精を持つ人間達を襲わせる。母胎となる眷属の体内で、生命エネルギーやローズの血が結びつくと。その眷属は、ローズとまったく同じ姿を持ち、それでいて、進化しているハーフヴァンパイアの子供を孕むのである。しかも、ハーフといってもただの下級ヴァンパイアではない。薔薇の黒ミサで生まれる子供は、人間の利点を持っている上で真祖の力も兼ね備えた、まさに究極の存在なのである。

そう、かつて黒ミサの現場で唯一人生き残り、梨香とみゆきによって保護された少女、藍こそがローズが生み出した分身だったのだ。みゆきたちの邪魔さえ入らなければ、ローズは新たな器である藍に魂を移し、より強大な力を手に入れる筈だったのである。

ローズが藍の体を手に入れていたら、それこそ大変なことになっていた。
太陽の光も生命の宝珠も通用せず、定期的に血を吸わなくても食事は人間と同じ物で平気になる。今、奴が全力を出せるのは夜に限定されているが、藍の体を手に入れたらきっと手がつけられなくなっていた。

その事実を知った梨香は、再び現れたローズに絶対に藍を渡すまいと決死の覚悟で挑んだ。
梨香は藍とみゆきを守るため、奴の罠に嵌って命を落とし、ヴァンパイアに対抗する強力な武器である生命の宝珠は粉々に砕かれてしまった。不利になるとわかっていながら、梨香はトビーにみゆき達を逃す手伝いをさせ、最後まで一人で戦ったのだ。みゆきにできたことといえば、梨香の遺言に従って藍を奴の目から隠したことくらい。何もできなかった彼女は弱い自分と決別する事を心に決めた。あの日を境にみゆきは本当の意味でハンターなったのだ。

梨香が死んだ後、藍は自分を責め、悲しみに暮れた。自分さえいなければ梨香が死ぬことはなかったのにと、何度も言っていた。そして、私に対して自分を殺してくれと懇願してきたことすらあったのだ。

だが、私にも母にも藍を殺すという選択肢は無かった。藍は私たちの大切な仲間だったからだ。
私たちの関係はあれから幾度となくぎくしゃくしたが、藍はなんとか私の気持ちをわかってくれた。
そして彼女は贖罪の意味を込めてか、ハンターとして戦うことを申し出てきて、今では共にヴァンパイアを狩るパートナーとなったのだ。

「藍・・・。」

みゆきは目を細めて、いままで彼女と過ごしてきた日々を思い出していた。楽しかったこと、苦しかったことは何度もあったが、どんなときも藍は側にいた。 思えば、生まれてからずっとハンターとして生きてきた私には同年代の友人がいなかった。 そんな自分にとって藍は初めてできた友達だったかもしれない。

「まっていてね・・・。 貴女は絶対に奪わせないっ!!」


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