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渡来船2
26
:
カサブタ
:2012/03/09(金) 00:00:27
「名前は?」
「アイ」
「アイ、わたしについておいで!」
みゆきの淡い想いが通じたのだろうか?藍がこくりと頷いた。
「わかった・・・。この子はわたしが預かるわ。
あなたはこの世に未練を、そして心残すことなくすべて忘れなさい」
みゆきはロングスカートのポケットから聖水の入った小さな小瓶を取り出すと、
不完全な吸血鬼にむけて聖水を降りかけたのでした。
そして女吸血鬼は至福な表情を浮かべポロポロと涙を流しながら、とろけるように静かに消えていったのだ。
(天にまします我らの父よ 願わくば御名を尊とまれんことを、
御国の来たらんことを 御旨の天に行なわるるごとく
地にも行なわれんことを、 我らの日常のかてを今日我らに与えたまえ
我らが人に許すごとく、我らの罪を許し給え
我らを試みに引き給わざれ、我らを悪より救い給え アーメン)
みゆきは心の中で主の祈りを唱えると、十字をきった。
これで みゆきは女吸血鬼に対して正しく弔ったどうかは、自分自身でもよくわからなかった。
しかし少女の瞳から語られた意思から、みゆきに新しい何かの力を受け取ったことは確かであった。
「ふーッ!何やってたのさーみゆき。
あんたがボケボケしていたおかげで、ヴァンパイアを逃しちゃったじゃないの!」
くわえタバコをしながら みゆきの前に姿をあらわした梨香であった。
「しかし奴の寝床の棺は浄化しながら燃やしたから、当分の間は悪さをしないでおとなしくしているはずよ!」
梨香は自慢げに娘をみた。
「はいはい!」
すこし憂鬱になった みゆきだった。
みゆきの母、梨香の容貌は、みゆきより背が少し小さかった。
体格はやや小柄で細身だが決して華奢(きゃしゃ)ではなかった。
むしろ昔から体を動かす事が大好きで、鍛え上げられたしなやかさは並みの人間では考えられないほどである。野性の中の美獣といっても過言ではない。
ショートにした黒髪がとても似合い、特に左腕に彫った蝶のタトゥーがまた印象的でもあった。
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