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渡来船2
25
:
カサブタ
:2012/03/08(木) 23:59:05
先程までここではヴァンパイアによる漆黒の宴(黒ミサ)が執り行われていたのである。
男女の性別は関係なく互いの精気を心ゆくまで貪り尽くしては、また自分の側にいる別の相手を犯し、そして犯される。
その凄まじい狂態は地の底の深淵から轟々と湧き上がる瘴気そのものであった。
女の口元には血が付着し、身体は体液で濡れている。おそらくは彼女も、自分の中からどす黒く湧き上がる欲望を抑えきれず、周囲の犠牲者達を襲ってしまったのだろう。
「私はもう人を襲う衝動を理性で抑えることができません・・・。親や子供、そして友人を吸血し殺してまで、生きたいとは思いません・・・。
どうかわたしが生気を保っているうちに、また誰かをを襲わないうちに殺してください・・・」
まだ見習いヴァンパイア・ハンターの みゆきでさえも、彼女は人間として生きていくことのできない体であることがわかった。
そして他人の生き血や精気を吸い取り続けなければ、生きていくことはできない体であることもすぐにわかった。
自分にはどうすることもできない儚く虚しい感情が みゆきの体を覆い尽くすのだった。
「しかし、わたしには・・・」
「まだ生気であるうちに・・・、お願いします・・・。そしてこの子を・・・ううッ・・・」
女吸血鬼のマントの陰に隠れるように、1人の少女が みゆきを見つめていた。
まだ小学生くらいのその子は、おかっぱ頭の少女だった。
(っ!! この子・・・!!)
みゆきは彼女の顔を見て、驚愕した。彼女はどころなく今逃がしたヴァンパイアに似ていたのだ。
その娘はまだあどけない顔をしているが、その姿や纏う雰囲気には、ヴァンパイア特有の人を惹きつけるような妖しさが片鱗を見せている。
そして彼女の口の中も既に小さい牙が生え始めていた。
この子もヴァンパイアであることは間違いないが、おそらく他のレッサー達とは違う。
あのヴァンパイアが執り行おうとした黒ミサにおいて何かの重要な役割を担っていたのでは?
(どうしよう・・・、 悪い可能性は小さなうちに潰しておくべきかしら・・・。)
みゆきは少女を怖がらせないようにゆっくり歩み寄るが、片手は聖水の瓶に手をかけていた。
この少女があいつに何の関係あるのかは知らない、だが、憂いを残さない為には今ここで殺しておくに越したことはないはず・・・。
「おねがいします・・・・・・、この子をどうか・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
しかし、みゆきにはどうしてもできなかった。
この瘴気がうずまく絶望のなかにあって、みゆきを見つめる少女の瞳には生きる希望を秘めた強い意志が感じられる。ヴァンパイアとは死の影を背負う者の筈なのに、彼女からはなぜか眩しいばかりの生命の光を感じるのだ。
この子をここで殺すべきではない・・・。みゆきの心はそう伝えていた。
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