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仮投下スレpart1

862君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/22(火) 19:51:14

急に呼びかけられました。
びっくりしましたけど我慢です。
悲鳴を上げそうにもなったし体が震えそうにもなりましたけど我慢です。
この方とお話ししてはいけないような気がしてならないのです。
私の一方的な思い込みかもしれませんが、とにかく怖いのには変わりありませんし。

「寝ているふりをしているのはわかってるんですよ。起きないと殺し……は駄目ですね、何もしないと言ってしまいましたし」

今さらっと殺すって言いましたよ!
怖い怖い怖い怖い怖い!
幸か不幸かご自身の言ったことは守るつもりのようですので何かされるということはなさそうですけど。

「脅し……ても意味はなさそうですし、そうですね、こうしましょうか」

こちょこちょこちょこちょ。
言うが早いか私の太もも、スカートと靴下の間の地肌が露出している部分をくすぐってきました。
これには勝てるはずもなく。

「ひゃうっ!」
「あら、おはようございます」

……しまりました。
もう寝たふりはできません。
覚悟を決めました、腹を括ります。

「何もしないのではなかったのですか……?」
「言葉のあやですよ、現にわたしはあなたを傷つけてもいませんし殺してもいません。それに、話もちゃんと聞いてたようですしね」
「……あ」

括った矢先にほどかれました。
でも、何もしないというのが本当なら私にも立ち向かう余地があります。

「別にわたしはあなたが寝たふりをしていたことについては何も言うつもりはありませんから」
「なら、なんで私と話をしようと思ったんですか?」
「もちろん聞きたいことがあったからですよ。……裸えぷろんとは結局なんなのです?」
「それはさっき球磨川さんが取り出してたエプロン……七実さんは前掛けとおっしゃってましたっけ、それを他の衣服は着ないでエプロンだけをつけることですが」

身構えてたら拍子抜けです。
そんなに気になりますかね、裸エプロン。

「それだけですか?」
「それだけです」

裸体にエプロンをつけるだけでそれ以上の説明はしようがありません。
そもそもさっきからなんで裸エプロンで躍起になってるんでしょう、みなさん。
そして私の答えを聞いた七実さんはというと、

「…………はあ」

それはそれは物憂げでありながらとても彼女に似合いそうなため息をついていました。
それを見て私はどうしてでしょう、一瞬とはいえ美しいと思ってしまいました。

「たかがそれだけのものなのにどうしてお二人は必死に隠そうとしていたのでしょうか」

それはエロいものだからですよ、とはさすがに言えませんでした。
普通ならその答えを聞いた時点で察しがつくとは思うんですけどね。
まあ本人がそう思っているのならいいでしょう。
無理してイメージを植え付けるものではありません。
戯言さんのためにも。

863君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/22(火) 19:51:52

「前置きはこれくらいにしておきまして」

そして七実さんは話を続けます。
やはり裸エプロンはワンクッション置くためのものだったんですね。
だって、たかが裸エプロンのために起こすのもおかしいではないですか。
あくまで私視点の考えですけども。

「いっきーさんから聞きましたが真宵さん、あなたは幽霊だそうで」

……やはり本番はこれからのようです。





診療所の扉を開けた瞬間に襲ってきたのは異臭だった。
もっと突き詰めて言ってしまえば死臭だった。
少なくとも真宵ちゃんを連れてこなかったことだけは正解と言えるだろう。
もっともぼくは今更死体の一つや二つ見たところで動揺するようなことはないし、それはどうやら僕の方も同様らしかった。

「で、僕はこれをどう見るんだ?」
『別にどうも思わないね。人が死んだ、それだけの話だろう?僕にとってもぼくにとっても』
「全くもって同感だ。知り合いなら多少は話が違ってくるんだけどね」
『僕の知った顔でもないしねえ。というかこの人そこはかとなくモブの匂いしかしないんだけど』
「言っていいことと言ってはいけないことがあるぞ」

ぼくも考えていたけどそこは伏せておくべきところなんじゃないのか。
そもそもぼくらの目的は別にあるわけであって。

『……で、だ。僕たちはもう一蓮托生なわけだけど』
「割合でいえばきみの方が多いのは確実なんだ、諦めろ」
『そうはいかないよ。こうなったら君も道連れだ』
「させるか。そもそもなんで持ってたんだよ、エプロン」
『支給されていた理由を説明なんてできるわけないだろ』
「やっぱり支給されてたのか……他に何支給されたんだ、この後トラブルあったら困るから今のうちに出しておけ」
『他って言っても僕の趣味三点セットの残り二つを出すだなんて……』
「おいなんだその犯罪的な響きは」
『犯罪的だなんて失礼な。手ブラジーンズと全開パーカーは少年ジャンプの表紙だって狙えると思ってるんだぜ』
「みんなの少年ジャンプになんてものを載せるんだ貴様は。あがいても見開きカラーが限界だろ」
『ダメかな?』
「ダメだろ」

エプロンと違ってジーンズとパーカーそれ単体ならそこまで変じゃないというのが不幸中の幸いといったところか。
主催は何を思って支給したんだよ。
こんな場所で一人の性欲を満たしてどうするんだ。
ともかく、ぼくと僕による七実ちゃんへの対策議論がしばらく続いたがそこは割愛。
取っ組み合いにこそならなかったが不毛であったことだけは伝えておこう。
そして場面転換、死体があった場所とは違う部屋。
医療器具やら薬やらを調達しに来たぼくたちだったが、やっぱり同じことを考える人は当然いたわけで。

「根こそぎ持っていかれてないだけマシか……」

包帯や消毒薬の類は全て持ち去られていた。
危険人物が治療するのを阻止するためかはたまた逆か。
考えても仕方ないことではあるが。

『でも解熱剤はあったんだからよかったんじゃない。これから記憶を消すのに意味があるかはしらないけどさ』
「原因を消したところですぐ効果が出るかどうかは別だろう?持っておいて損はないと思うし」
『熱くらい僕がなかったことにしてあげるのにさ』

864君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/22(火) 19:52:26
「やっぱりやってのけるのか、きみは」
『でもなかったことをなかったことにするのはできない、つまり消耗した体力とかは戻らない』
「……ならぼくは薬で済ませとくよ。疲れだけ残っててもかえってストレスを与えかねないし」

下手に熱があった方が風邪でもひいたのだろうと言い訳しやすいだろうという底の浅い考えもあったけれど。
一番はこれ以上こいつに借りを作りたくないから、だった。

『あ、そうだ欠陥製品』
「なんだ人間未満」
『さっきから聞こうと思ってたんだけど、どうして君が僕の携帯を持ってるんだい?』
「え、これきみのなの?」
『僕の持ってるうちの一つなんだけど、それ』
「うち一つって……一応聞くが何台持ってるんだ?」
『全部』
「は?」
『だから全機種』
「キャリアも?」
『もちろん。全部揃えてないと気が済まなくてね』

おいおい。
全種類揃えるって酔狂な金持ちでもやらないぞ。
こいつ、過負荷過負荷言ってるけど背景が絶対恵まれてる側じゃねえか。
おかしいと思ってたんだよ、頭だって決して悪くないし身なりだって整ってないわけじゃないし。
……だからこその精神性の異常さ、否、過負荷さなのか。
ぼくと同じで。

「ああ、そういえば思い出した。ツナギちゃんに教えてもらった掲示板の存在」
『掲示板?』
「なんか参加者同士で情報交換できる掲示板を公開してる人がいるらしい……ぼくには心当たりしかないけど」
『ふーん』

そっけない態度とは裏腹に興味はあったようでネットに接続しようとポケットから取り出した携帯をぼくからひったくる。
自然な動きで。
くそっ、あまりにも自然すぎてしばらく取られたことに気づかなかったぞ。
まあ今となっては緊急性も低いし見たいというのなら先に見ても文句は言わないが。

『…………欠陥製品はまだ目を通してないんだっけ?』
「それがどうした」
『……なんていうか、さあ、本当に……どうしたらいいんだろうね』

ひと通り目を通したのか意味深なセリフと共に携帯をぼくに返してくる。
ぼくはそれを黙って受け取り、画面を見る。
トリップを見て、予想通り玖渚の仕業だったと息をついた。
博士のところというのは斜道郷壱郎研究施設のことだろうけど今あそこは禁止エリアになっているはず……
書き込みは朝だったし今頃は零崎の妹と共に避難しているはずだろう。
あいつのことだ、そうなった場合の対処法だって用意してるだろうし。
だが、人間未満があんな反応を示す理由はまだ見当たらない。
画面を下にスクロール。
……なるほど、おそらくはこれか。
操作していた時間からして動画を見る余裕まではなかったはずだから、読んだのは文字だけだろう。
となると……

「黒神めだか、彼女のことかい?」
「そうだよ。僕がずっと勝ちたいと思っている相手だ」
「思っている、ねえ」
「彼女ならこんなときでもどんなときでも僕とぶつかってくれると思ったのに、なんでこんなことしてるのさ」
「誤報の可能性……はないな。動画貼られてるし、全く玖渚もやってくれたな」
「別に事実なら遅かれ早かれ知られてたんだ、むしろ知れて助かったくらいだよ」
「それでどうするんだ?残念なことにぼくにはきみの気持ちはわからないからね。括弧をつけてもつけなくても。
 尤も、勝ち負けで言うなら既に殺してる彼女の方がきみよりは負けているように思えるけども」

865君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/22(火) 19:52:57
「変わらないさ。僕は黒神めだかに勝つ。僕はいつも通りでめだかちゃんが変わってるだなんてがっかりだ。僕は認めないよ。
 こんなのでめだかちゃんに勝っただなんて言えるわけがない。めだかちゃんと直接対峙して初めて勝負になるんだ、今の段階で勝ち負けなんてつくわけない」
「ぼくも少なからず因縁できちゃったしなあ。会いに行くのならついていくぐらいはしてやってもいいけど」

暦君を殺してしまったとなるとぼくにも無関係とは言えなくなる。
どうやら、すっかり真宵ちゃんのことを他人とは思えなくなってしまったらしい、今更だけど。
しかしそうなると心配なのが真宵ちゃんと翼ちゃんなのだが。
……あれ?これぼく行かない方がいいんじゃないか?

『なら戻らないとね。いつまでも七実ちゃん待たせるのも悪いし』
「そうだな……覚悟決めないと」

とはいってもいつまでもここでぐだぐだと考えているわけにはいかない。
今この瞬間に真宵ちゃんが起きてたら大変なことになっているかもしれないし。
さすがに殺されはしないだろうけど、うん。
ただ、少しばかりの本音のやり取りでわかったことがある。
人間未満、球磨川禊。
彼は勝てないのではない。
価値を認めないし、勝ちを認められないのだ。
そこが、人類最弱でありながら勝つことはできるぼくとの最大の違いだろう。





「最初に言っておきますが、話にちゃんと応じてくれる限りわたしはあなたを殺しませんし傷つけもしません。それが例えふざけた回答でもあなたの身の安全を保障します」

本人が真面目に答えたつもりでも傍から聞くとふざけているように聞こえるというのは古来からよくあることですからね。
わたしはそれについて怒るようなことはないですが。
どんな答えだろうとわたしにとっては同じでしょうから。
ですからわたしは真宵さんにあらかじめ説明しておきます。

「わたしにとって死も痛みも身近な友人です、とは前々から言っていることなんですが厳密には違います。
「痛みは常にわたしに付いて回ってますが、常に共にいますが、死は身近でしかありません。
「言ってしまえば、身近以上に近づくことができないのです。
「二度程死んだ身で言うのもなんですがね。
「この死にぞこないの体は、この生きぞこないの体は、常にわたしを死から一定の距離に置き続ける。
「近づこうと思っても死にぞこないの体が邪魔をし、
「遠ざかろうと思っても生きぞこないの体が妨げる。
「ですからわたしは弟に殺してもらうために島を出ました。
「国中を回り、あちこちを踏み躙り、虚刀流でありながら刀を手にしてまで、死のうとしました。
「結果どうなったか、ですか?
「死ねましたよ、ええ。
「一度目の死はそれによるものです。
「それで満足できたらよかったんですけどね。
「最期で噛んじゃったんですよ。
「心残りがよりにもよって最後の最期でできてしまって。
「それだけのことでと思うかもしれませんが、わたしにとっては重大な問題です。
「こうして生き返ったのもまたとない機会ですので再びわたしは弟探しを再開しました。
「もちろん再び殺してもらうためです。
「一度しかないはずの最期をやり直すためです。
「最初はそのつもりでした。
「今もそのつもりのはずです。
「ですがどうやらわたしは錆びされたようで。
「禊さんか、その前の人識さんか、はたまた最初の出夢さんか。
「あるいは三人全員か。
「そんなものは些細な問題ですがわたしはとにかくほだされました。
「ぬるい友情につかるのも悪くないと思ってしまっています。
「あら、話がずれてしまいましたね。
「長話はどうも苦手で。

866君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/22(火) 19:53:29
「何を聞きたいのかわからない顔をされていますね。
「手っ取り早く言ってしまうなら、死んだ後とはどういう状況なのでしょうかということです。
「わたしがここに来る前も、ここに来て橙色に殺された後も、死んでいる間の記憶はありませんから。
「参考までに聞きたいのですよ。
「あなたは言ってしまえば死んだ後も死に続けているようなものですから。
「だってそうでしょう?
「死んで別の存在になったというわけではなく生き返ったわけでもないのなら死んでいるとしか言いようがないのですし。
「わからないというのでしたらそれで結構ですが、あなたから見た感想とか感触でいいから聞きたいのです。
「本来聞くのは専門分野ではないのですが、得られるものがあるなら得たいと思うのは当然です。
「今までも結局そうして得てしまいましたしね。
「もう一度言っておきますが、ちゃんと答えてくださるのならば、わたしはあなたに何もしません。
「ねえ、真宵さん。
「幽霊とはどういう心地ですか?」

わたしは真宵さんに問いかけました。
真宵さんはわたしの言葉をゆっくりと咀嚼して、唸り、返します。

「始めに言っておきます。
「私は嘘をついています。
「どういう嘘かはわかってもいいしわからなくても構いません。
「その嘘だって今もつき続けている状態かどうかは怪しいですが。
「あなただから言うのではなく戯言さんには聞かれたくないから今話すのです。
「記憶を消されてしまっては話すことができなくなりますからね。
「もちろんあなたの質問に対しては真摯に答えますが。
「怖いですからね。
「まずは私の背景を説明させてもらいます。
「七実さん、あなたもしたのですから私もしてはいけない理由はないでしょう?
「と言ってもすぐ終わるとは思います。
「わからない単語もあるかもしれませんがあなたはそれを気にする人ではなさそうですし。
「ある年のこと、小学五年生、当時十歳だった八九寺真宵は母の日に離婚してしまった母親に会いに行こうと単身家を出ました。
「途中、ある交差点で青信号だったにも関わらずトラックに轢かれました。
「そして死にました。
「人間、八九寺真宵のお話はこれでおしまいです。
「それから、私は迷い牛という怪異となって彷徨い続けました。
「人を迷わせ、自分を迷わせ、いつまでも目的地に辿り着けませんでした。
「そんな日々も唐突に終わります。
「彷徨い始めてちょうど十一年後の母の日、とてもとてもお人よしな阿良々木暦という高校生のおかげで私はお母さんの家に辿り着くことができました。
「正確には戦場ヶ原ひたぎさんという立役者もいらっしゃいましたが阿良々木さんがいなければ解決することはありませんでした。
「その日を境に私は迷い牛という怪異ではなくなりました。
「幽霊であることには変わりませんが、人を迷わすことはなくなりましたし、また私も迷うことはなくなりました。
「阿良々木さんの家にお邪魔することだってできるようになりました。
「質問ですが、幽霊がどういう心地なのか、でしたっけ?
「はっきり言ってしまえば変わりませんよ。
「気づかれないことがほとんどですが、特定の何人かとお話するときはいつも通りです。
「喜びますし、怒りますし、哀しみますし、楽しみます。
「生きている人間となんら変わりありません。
「求めていた答えとは違うかもしれませんが、私にとってはこういうことです。
「幸せか不幸せか、ですか?
「間違いなく不幸せですよ。
「ただ、幽霊になったことで阿良々木さんに出会えたことは幸せです。
「同じようにこんな殺し合いの場に招かれたのは不幸せですね。
「その中であなたや球磨川さんのような方に出遭ってしまったことも不幸せです。
「ですが、最初に戯言さんに会えたことは幸せですし、その次にツナギさんに会えたことも幸せです。
「三人でいた間はとてもとても楽しかったですし。
「ですから、私の記憶を消させはしません、絶対に。
「以上が、私の結論です」

そう締めくくって真宵さんはまっすぐにわたしを見つめます。
当然ですが、聞いていますよね、記憶についても。

867君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/22(火) 19:54:43
「……はあ」

わたしはため息をつきます。
真宵さんの話がつまらなかったからというわけではありません。
むしろ興味深く聞かせていただきましたよ。
役に立つ立たないは別として、ですがね。
原因はあれです、わたしの視界の中でちょこまかと動き回っている四季崎です。
わたしと真宵さんの話を聞いてそれに一喜一憂しているのがものすごく目障りです。
消そうとすると途端にかしこまるのにちょっとおもしろく思ってしまうのが癪ですが。

「なるほどありがとうございました。記憶については当事者同士で話し合ってくださいな。わたしは誰の味方もしませんから」
「もちろんそのつもりです。きっと戯言さんは反対するでしょうが、私が決めたことですから」
「なら決断は早く済ませてしまいなさい。戻ってこられたようですし」

診療所の方を見れば二人とも凛々しいお顔。
そういえば裸えぷろんについて言い訳を期待してると言ってしまいましたね。
真宵さんから答えを聞いてしまったのですっかり忘れてしまっていました。
ここは再び出鼻を挫くとしましょうか。
おや、いっきーさんが慌てたように駆け寄ってきます。
ああ、真宵さんが起きてるからですね。
ですが、わたしは何も疚しいことはしていませんし真宵さんもそう証言してくれるでしょう。
それよりも問題は――

「真宵ちゃん!大丈夫!?」
「ぅうーーん……ここは……?」
「おいおいなんだ、こんな大所帯になってるなんて俺は聞いてなかったんだがよ、欠陥製品」

目を覚ました羽川さんと戻ってこられた人識さん(なぜか同行者がいるようですが)にどう対処するか、ですかね。


10


処理しなければいけない事態が一度に重なる中、ぼくが真っ先に選んだのは真宵ちゃんの容態の確認だった。
目が覚めてそこが七実ちゃんの膝の上でぼくがいないなんて状況じゃパニックを引き起こしてもおかしくない。
だからこそ、急いでドアを開けて呼びかけたのだけど、

「私は大丈夫ですよ、戯言さん」
「本当に……?」

真宵ちゃんは至極冷静だった。
今しがた起きたばかりとは思えないくらい。

「ええ、本当に大丈夫です。七実さんも私に何もしてませんから」

七実ちゃんを見ると目線で伝えてきた。
どうやら事実らしい。

「でも顔色は悪いままじゃないかっ……!」
「体調が優れないだけで思考は正常です」

はっきりと大丈夫だ、と意思表示してぼくを見つめてくる。
視線はしっかりとしているしているようだし、その思いは本物なのだろう。
だが、隠しきれていない焦燥が伝わってくる。
強がっているのがわかってしまう。
そもそも真宵ちゃんの態度だって起き抜けにしては異常すぎるのだ。
なんていうか、ある程度話、いや、状況を把握していたような……まさか――

「真宵ちゃん、いつから起きてたの……?」
「……やっぱりバレてしまいますか」

868君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/22(火) 19:55:12
「まさかとは思うけど、最初から聞いていたなんてことは」
「さすがに最初からは無理ですよ。覚えてるのは球磨川さんの頭が吹き飛んだあたりから、ですかね」

そのあたりから、となると記憶云々についても聞いてしまってるわけで……

「あの、お取り込み中のところ悪いんですけれど、あなたがたは真宵ちゃんとはどういう関係で?」

考えを巡らせているうちにぼくが車のドアを開けた衝撃で目覚めたらしい翼ちゃんが話に割って入ってくる。
今の口ぶりからしてぼくのことを知らないみたいだけど……

「真宵ちゃんとは知り合ったばかりで、そこまで説明できるような仲ではないですよ」

事実しか述べていない。
実際出会ってからまだ18時間も経過していないのだ。
それに、この関係を一言二言で説明できる間柄でもないし。

「わたしもつい先程知り合ったばかりですね。いっきーさんには及びませんが」

七実ちゃんも翼ちゃんの質問に答える。
そういえば、「あなたがたは」って聞いていたっけ。
質問の対象に七実ちゃんが含まれるのも当然か。
にしても、七実ちゃんが素直に答えるとは思わなかった。
さっきは文字通りの意味で殺し合いしてたのに。
ん、七実ちゃん、なんか迷惑そうにしてないか……?

「あ、ええと、申し遅れました。私、羽川翼と申します。初対面で不躾かとは思いますが、いくつか質問してもよろしいでしょうか?」

「初対面」
これはぼくの懸念は確定と見ていいだろう。
思わず真宵ちゃんと顔を見合わせるが、同じことを考えていたようだった。

「別に構わないけど」
「ではお言葉に甘えさせていただきますね。まずはあなたがたの名前、次にここがどこか、最後に……私がどうしてこんな格好をしているのか」

尤もな質問だった。
ただ、この様子だとここが殺し合いの会場だということも認識していないらしいし、下着姿から装束に変わった理由だってぼくの与り知ることではない。
殺し合いのことを伝えるということは必然、思い人である暦君が死んでしまったことも伝えなくてはならないわけで……

「わたしは鑢七実といいます。ここがどこか、はわたしも知りません。服装……は元々の服が濡れてしまって中に入ってたそれを着たからだとか」

どうしたものかと考えている隙に七実ちゃんが答えていた。
おそらくは知り得ない情報を知っていることといい、やはりさっきから七実ちゃんの様子がおかしい。
ある種のうっとうしさみたいな感情が滲み出ているし。
例えるなら、周囲にまとわりつく小蝿を煙たがるような――

「鑢さんですね、ありがとうございます。それで、あなたは……?」
「名簿には戯言遣いの名で載っているけど、もちろん本名じゃない。まあ、気軽にいーさんとでも呼んでくれればいいよ」

「彼女」に呼ばせていた名を出すのに抵抗がなかったと言えば嘘になるけど、一番しっくり来るだろうとは思ったから提案させてもらった。
なに、実際にぼくのことをなんて呼ぶかは翼ちゃんの自由だ。
しかし、目のやり場に困る。
ただでさえサイズがでかいというのもあるが(何が、とは言わないでおこう。ぼく自身のために)、七実ちゃんが貫いた跡が生々しく残っているというのが……

「……そうだ。おーい、球磨が……わ?」

あいつの持っているジーンズとパーカーならまともな着替えにはなるだろうと今更のように思い出したぼくは振り返る。
振り返って、止まる。

「何やってんだよ、零崎」
「ただの八つ当たりだよ、かはは」

869君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/22(火) 19:55:48

人間未満はのびていた。
位置関係からして、零崎に殴られたとみて間違いないが……
ぼくの知らないところで何かやってたんだろう、きっと。
十中八九人間未満の自業自得であるようなことを。
なら仕方ないな。

「とりあえずそいつの荷物もらっていいか」
「おうよ」

零崎は仰向けの人間未満を乱暴にひっくり返して背中を出すと背負っていたデイパックを剥がし、ぼくに投げてよこした。
それをキャッチしてそのまま翼ちゃんに渡す。

「えーと、今は急ぎでもないし格好が気になるなら着替えてきたらどうかな?中にパーカーとジーンズはあるはずだし少なくともそれよりはマシだと思う」
「あ、はい。話は後で詳しくお伺いしますがよろしいですよね?」
「もちろん」

ぼくから返事とデイパックを受け取ると翼ちゃんは診療所へ一直線に向かって行った。
やはりあの格好は恥ずかしかったのだろう。
寝起きで周囲に気を配る余裕もなかったようだし、零崎たちよりも更に離れた距離から向かってくる視線にも気づいてないみたいだ。
さて。
診療所の扉が閉まる音を確認したぼくは一歩下がり、目線を車内から車の後ろへ飛ばす。

「きみが戦場ヶ原ひたぎさんだよね。違うかな」
「ええ、その通りよ。初めまして」

こっちは正真正銘の初対面だ。
……あ、診療所には死体があったの忘れてたけど翼ちゃん大丈夫かな。


11


とにかくわからないことが多すぎる。
建物の中に入ったはいいが、扉を閉めたあと座り込んでしまいそこから先へ進もうとは思えなかった。
私の記憶は阿良々木くんを公園に呼び出して学習塾跡に向かい、そこで忍野さんと共に教室に入ったところで途切れている。
あのとき頭に猫耳が生えていて……そうだった。
思わず頭に手をやる。
触れた頭の感触はさらさらとした髪の毛のものだけで鏡を見なくてもわかる。
どうやらひっこんでいるらしい。
いーさん(呼び名が妙にしっくりくる。なぜだろう)や鑢さんの反応がどうにもひっかかったので何か話していないかと扉に耳をつけてそばだててみる。
……距離があって音が聞こえてくるのもやっとのようだ。
確か扉の右側に窓があったはずだと思い出してすぐそばのドアを開けると記憶通り窓があった。
塀があったから外から簡単には見えないだろうとは思ったけど、用心してゆっくりと少しだけ窓を開ける。

『 去法    …………知り合いも  ……    ……零崎     ら敵………………    予想は    』

聞こえてきた音は集中すれば聞き取れる文章に昇華されていく。
今のは『消去法だよ。生憎ぼくの知り合いもここには結構いてね、零崎の態度から敵対してるわけじゃないと予想はついたし』といったところか。
ここがどこかわからないのに知り合いがいるとはどういうことだろうか?

『なる…………  ……    私……定でき    …………いはず 』

戦場ヶ原さんの声だ。
いつの間にいたのだろう。
いや、私が気付かなかっただけか。
『なるほどね、でもそれだけでは私を特定できる根拠にはならないはずよ』、そう言ったのかな?
耳が慣れてきたようで何を話しているかがわかるようになってきた。

『実際ヤマを張ったのは事実だよ。でも特徴がそうも被ることはないだろうと思ってね』

870君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/22(火) 19:56:24
『そういえば彼女のことを真宵ちゃんと呼んでいたわね。つまりその子が八九寺真宵さんだと』
『おかしな言い方をするね。面識が一方的にしかないみたいだ』
『私にはあのとき見えなかったから……今はどうしてか見えるみたいだけれど』
『……ふうむ。話は変わるけど掲示板の書き込みはきみのものだよね?』
『ええ、そうよ。でもそれがどうかするのかしら?』
『別にどうもしないさ。ただ質問させてもらいたんだけどきみは黒神めだかをどうしたいんだい?』
『殺すのよ』

「殺す」という単語を聞いて思わず体が強張る。
あの声色の戦場ヶ原さんは間違いなく本気だ。
しかし、何があったら戦場ヶ原さんをそこまで駆り立てるのだろう。

『それは暦君のためかい?それとも自分のためかい?』
『強いて言うなら両方かしら。阿良々木くんを殺した黒神めだかを――』

そこから先は聞き取れなかった。
腕が震えて持っていたデイパックを取り落す。
最初は何を話しているかさっぱりわからなかったけど、話を聞くにつれ理解した。
ただ一点、理解できてしまった。
阿良々木くんが死んでしまったことが。
殴られたような衝撃。
頭が真っ白になる。
呼吸が荒くなって再び壁を背に座り込んでしまう。
ふと右手と左手で触れた感覚が違うことに気づき見やると右手がデイパックから飛び出たタブレットに触れていた。
しかも電源スイッチを押してしまったようで、画面が光っている。
タブレットを持ち上げると掲示板という文字が飛び込んできた。
さっき聞こえたのはこれのことだろう。
恐る恐るスクロールしていくとどんどん情報が私の中に入ってくる。
その中で私にとって重要なのは、阿良々木くんが黒神めだかという人に殺されてしまったということ。
更に下のスレッドを見て息をのんでしまう。
脳が警鐘を鳴らしているのとは裏腹に私の指は阿良々木暦という文字列の隣にあるリンクに近づいていく。
指が画面に触れると同時に動画のダウンロードが始まり、10秒足らずで再生が始まった。





「――――はっ、はっ、はっ、はっ」

思わず息を止めていたらしく、今になって体が酸素を欲しがる。
阿良々木くんだけでない、忍ちゃんも殺されていただなんて。
あの姿が春休みに見たものと変わらない、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードであったことも私だからわかってしまう。
それを殺してしまうだなんて……彼女は一体どういう存在なのだ?
いや違う、今考えるべきはそれではない。
頭が混乱しているようで一度に襲い掛かってくる情報の波に対処しきれていない。

「……一度着替えよう」

今更のようにここに入った目的を思い出しタブレットが入っていなかった方、いーさんから渡された方のデイパックに手をつっこむ。
確かジーンズとパーカーはあると言っていたはずだから……
そう思った刹那、布の感触が伝わる。
取り出してみると手にはグレーのパーカーと無地のジーンズがあった。
ちゃんと着てみないことにはなんとも言えないが、サイズはなんとかなりそうだ。
暗い室内の中、部屋の電気も点けるのも忘れてタブレットの仄かな明かりだけを頼りに服を脱ぐ。
この行為は紛れもなく現実逃避であり。
それ以外の何物でもなかった。


12

871君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/22(火) 19:56:46

「うん、ぴーちゃんなら大丈夫だと思うから、舞ちゃんのこと頼むね。それから、後でメール送っておくよ」

ぴっ。
さてと。
潤ちゃんのデイパックの中に首輪も工具も入っていただなんてびっくりっていうかがっかりだったよ。
さすがに潤ちゃんに支給されたわけじゃないとは思うけどね。
だってそれじゃあ一発で終わっちゃうもん。
まあ何か道具を使わないと死体とはいえ首輪を外すのなんて僕様ちゃんの腕力じゃ不可能だしねえ。
もっと言っちゃえば首を切ろうとしても刀を持つのだって危ういし。
でも、サンプルが増えたことは助かったんだしポジティブに考えないとね。
いずれにしても外された状態の首輪があるだけでもかなり変わる。
やっぱりとは思ってたけど、この首輪は完全に閉じているわけじゃない。
ほんっとうに細くだけど線が入っている。
いくら素材が衝撃に強くてもその衝撃が首輪の内部だけで完結してしまっては意味がない。
そこで出口を一ヶ所だけ作ってしまえば生まれた衝撃は全てそこに集約される。
最初の場所で首が吹き飛んだのだって集まった衝撃の余波だと考えれば納得できるし。
水が入っても大丈夫なのは構造が二重になってるからかな?
衝撃には弱くても耐水はしっかりしている素材で爆薬や機械の部分を覆ってしまえば例え水中で爆発しても問題ないだろうしね。
むしろ入り込んだ水がカッターになって威力が上がりそう。
でもその場合電波の届かない水中でどうやって爆破するかなんだよなあ。
最初の放送で海があるエリアを禁止エリアに指定してきたし、海中でも爆破はできるってことなんだし。
使えそうな工具がマイナスドライバーしかなかったから線に突っ込んでみたけど歪みもしないあたり僕様ちゃんにはこれ以上手出しはできなさそう。
ただ、わざと工具を支給してたりこうやってネット環境を整備してるあたり主催は僕様ちゃんたちが首輪を解除するのを当然と見ているのかな?
そうやって考えると案外どこかにそのまま首輪解除に繋がるような道具が支給されてるのかもね。
既に壊れてる可能性やマーダーが持ってる可能性は大いにあるから期待はするもんじゃないけど。
ぴーちゃんにしーちゃんの電話番号を書いたメールを送信っと。
あっ、いーちゃんから電話かかってきた!
もう、メールに気づくのが遅いんだよー。
いーちゃん僕様ちゃんの声聞いてどんな反応してくれるかなー。
通話ボタンをポチっとな。

『もしもし、友か?』
「ちぇー、いーちゃん驚いてくれると思ったのに」
『もっと早くメールを送ってくれれば驚いたかもな』
「それにしたっていーちゃん気づくのが遅いんだよ。ぶー」
『とりあえず教えて欲しいことはあるか?』
「んーっとね、まずはいーちゃんのいる場所、それからしーちゃんとひたぎちゃん以外に誰がいるか」
『診療所の前だよ。で、ここにいるのは零崎とひたぎちゃん以外だと八九寺真宵ちゃん、羽川翼ちゃん、鑢七実ちゃんと球磨川禊、以上四名だ』
「うわお。大所帯だねー、さすがはいーちゃん」
『零崎にも言われたよ。そもそもなんで零崎たちがいるってわかったんだ?』
「じゃないと開口一番僕様ちゃんの名前出さないでしょ。目の前に教えた本人がいるなら別だけど」
『……その通りだよ。零崎のにやにやした顔がすっごくむかついてたところだ』
「それで、今度はいーちゃんの番。僕様ちゃんに聞きたいことは?」
『まずはおまえと同じ質問にしておくよ』
「りょーかい。今僕様ちゃんがいるのはネットカフェで形ちゃん――宗像形と一緒にいるよ……って言っても形ちゃん頑張りすぎたみたいで今寝てるんだけどね」
『じゃあしばらく動けなさそうか?』
「そういうことになるねー、一応ランドセルランドでぴーちゃんや舞ちゃんと待ち合わせしてるんだけどさ。あ、しーちゃんに聞けば誰のことか教えてくれると思うよ」
『ランドセルランド……やっぱりぼくも向かった方がいいか』
「もちろんだよ。じゃないと僕様ちゃんいいかげん充電切れちゃうよ」
『車が小さいから詰め込んでも5人が限界なんだよ。そうでなくても翼ちゃんの様子がおかしいし――え、代われって?』
「何?どしたの?」
『ちょっと伝えるべき事柄ができたから代わっててもらったわ』
「あ、ひたぎちゃんか。それでその伝えるべき事柄って?」
『信憑性は低いけれども、黒神めだかについて』
「……なるほどね。掲示板を経由しないで手に入れる手段があったのかな?」
『おそらくは特定の電話にしかない機能だとは思うけれど、無作為に繋がる機能があって』
「それで黒神めだかと繋がった――わけじゃなさそうだね」
『繋がったのは供犠創貴という人よ』
「ああ、『魔法使い』使いか」

872君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/22(火) 19:57:27
『……?とにかく、偶然繋がった彼と話したのだけれど、これからランドセルランドで黒神めだかと合流する手筈になっているらしいわ』
「黒神めだかと合流?そんなことができるなんて本当?」
『どういうわけか正気に戻ってるらしいわ。――しかも抜け抜けと殺し合いを止めようとしているんだとか』
「それはどれくらい信用していいのかな?」
『半信半疑未満ね、身構えておくには損はないくらいの』
「まあそれが妥当だろうしねえ。あ、いーちゃんに聞くよりあなたに聞いた方がよさそうだから聞いておきたいんだけど、羽川翼さんについてなんだけど」
『羽川さん……?そういえばまだ着替えから戻って……あ、今出てきた――こっちの話よ。遠目からでしかわからなかったけれど、すごくおかしかったわ』
「もうちょっと具体的に言って欲しいんだけどね」
『警戒して接触を避けていたからね、いつもの彼女らしくなかったとでも言えばいいのかしら。……まああなたのいういーちゃんこと戯言さんに聞いた方が早そうね』
「いーちゃん翼ちゃんって呼んでたもんねえ。悪いけどもっかい代わってもらえる?」
『いいわよ。でもその前に一つ確認、あなたはランドセルランドに向かうつもりは?』
「あるよ、一応待ち合わせしてるしねー。形ちゃんに言えば連れてってくれるだろうし」
『了解したわ。それじゃあ代わるわね』
「ふふっ、ありがとうね」
『こちらこそ。……………………もしもし、代わったよ』
「それじゃさっきの続き、羽川さんはどこがおかしかったのかな?」
『一言で言うなら記憶喪失だ』
「それは全部?それともこの殺し合いが始まってから?」
『……多分後者だな。真宵ちゃんとは面識あったし』
「ふうむ。……ねえ、いーちゃん、白髪で猫耳の生えた羽川さんには会った?」
『なんで情報を持ってるかについてはもう聞かないでおくが……会ったよ、二回』
「それで戻るようなきっかけみたいなことってあった?」
『死んだよ』
「死んだ?」
『ああ、紛れもなく死んだ。胸を貫かれてたんだ、死んでない方がおかしい傷だった』
「で、生き返ったんだ」
『そこまでお見通しか』
「球磨川禊がいるってそういうことでしょ?」
『どこまで知ってるんだよ……』
「形ちゃん経由で詳細名簿見せてもらったからね。診療所の中で死体になってる浮義待秋のことまで全員」
『……恐れ入るよ。ところでわざわざ連絡するように仕向けたのも質問をしあうためじゃないだろう?』
「まあねー。いーちゃんはこれからどうするの?用がないならランドセルランドに来て欲しいんだけどさ」
『おまえに会えるなら向かうことに異論はないところなんだけどね。人間未満――球磨川も反対する理由はないだろうし……ただ』
「八九寺真宵と羽川翼が心配だ、と。阿良々木暦が死んじゃってるからね」
『そういうことだ』
「連れて来ちゃえば?」
『あっさり言うんだな』
「本当なら来ないでって言ってたくらいなんだけどね。正気に戻ってるんだっていうなら尚更」
『なら……』
「事情が変わったんだって。今のいーちゃんには味方かどうかは知らないけど敵に回らない人はいるでしょ?」
『いるにはいるが……敵に回らなくても十分迷惑なやつもいるんだが』
「いーちゃんだってそうじゃん」
『触れてほしくないことを』
「でも僕様ちゃんはそんないーちゃんが大好きなんだからねっ。それじゃランドセルランドで待ってるよん」

ぴっ。
まさかひたぎちゃんから情報を貰えるとは思わなかったけどこれは大収穫かもね。
ぴーちゃんから聞いたDVDの本数が28だってことはその時点での生存者は17人。
うち7人がいーちゃんのとこにいて残り10人のうち5人が僕様ちゃん達と真庭鳳凰、そして供犠創貴、水倉りすか、真庭蝙蝠が行動を共にしていると考えていい。
そして所在が割れていない残り二人に黒神めだかが含まれていないなんて楽観的な考えはできないしねえ。
黒神めだかは生きていると仮定して、となると残り一人は誰でどこにいるのかなっと。
形ちゃんが起きたら連れてってもらわないとね。
黒神めだかに会えるよって焚きつければ大丈夫だろうし。
早くいーちゃんに会いたいなー。
……あ、そういえば形ちゃんから貰わなかったけどあのトランシーバーどこに繋がってたんだろ?

873君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/22(火) 19:58:03
【1日目/夕方/D-6 ネットカフェ】
【玖渚友@戯言シリーズ】
[状態]身体的疲労(小)
[装備]携帯電話@現実
[道具]支給品一式、ハードディスク@不明、麻酔スプレー@戯言シリーズ、工具セット@現実、首輪、ランダム支給品(0〜5)
[思考]
基本:いーちゃんに害なす者は許さない。
 1:形ちゃんが起きるのを待ってランドセルランドに連れてってもらう。
 2:もう黒神めだかの悪評を広めなくても大丈夫かな?
 3:黒神めだかと『魔法使い』使いに繋がり?
 4:形ちゃんはなるべく管理しておきたい。
[備考]
 ※『ネコソギラジカル』上巻からの参戦です
 ※箱庭学園の生徒に関する情報は入手しましたが、バトルロワイアルについての情報はまだ捜索途中です
 ※めだかボックス、「十三組の十三人」編と「生徒会戦挙」編のことを凡そ理解しました
 ※言った情報、聞いた情報の真偽(少なくとも吸血鬼、重し蟹、囲い火蜂については聞きました)、及びそれをどこまで理解したかは後の書き手さんにお任せします
 ※掲示板のIDはkJMK0dyjが管理用PC、MIZPL6Zmが玖渚の支給品の携帯です
 ※携帯のアドレス帳には櫃内様刻、宗像形、無桐伊織、戦場ヶ原ひたぎ、戯言遣い(戯言遣いのみメールアドレス含む)が登録されています
 ※ハードディスクを解析して以下の情報を入手しました
  ・めだかボックス『不知火不知』編についての大まかな知識
  ・不知火袴の正体、および不知火の名字の意味
  ・主催側が時系列を超越する技術を持っている事実
 ※主催側に兎吊木垓輔、そして不知火袴が影武者を勤めている『黒幕』が存在する懸念を強めました
 ※ハードディスクの空き部分に必要な情報を記録してあります。どんな情報を入手したのかは後の書き手様方にお任せします
 ※第一回放送までの死亡者DVDを見ました。内容は完全に記憶してあります
 ※参加者全員の詳細な情報を把握しています
 ※首輪に関する情報を一部ながら入手しました
 ※浮義待秋の首輪からおおよその構造を把握しました。真庭狂犬の首輪は外せてはいません

【宗像形@めだかボックス】
[状態]睡眠中、身体的疲労(中) 、精神的疲労(中)、殺人衝動喪失、左腕(肘から先)欠損、腹部に切り傷、各部に打撲と擦過傷(怪我はすべて処置済み)
[装備]千刀・鎩(ツルギ)×536@刀語、スマートフォン@現実、ゴム紐@人間シリーズ
[道具]支給品一式×3(水一本消費)、薄刀・針@刀語、トランシーバー@現実、「包帯@現実、消毒用アルコール@現実(どちらも半分ほど消費済み)」(「」内は現地調達品です)
[思考]
基本:阿良々木火憐と共にあるため『正義そのもの』になる。
 0:…………。
 1:主催と敵対し、この実験を阻止する。
 2:伊織さんと様刻くんを助けに行かないと……
 3:『いーちゃん』を見つけて合流したい。
 4:黒神さんを止める。
 5:殺し合いに関する裏の情報が欲しい。
[備考]
※生徒会視察以降から
※めだかボックス、「十三組の十三人」編と「生徒会戦挙」編のことを玖渚から聞いた限りで理解しました
※阿良々木暦の情報はあまり見ていないので「吸血鬼」の名を冠する『異常』持ちだと思っています
※無桐伊織を除いた零崎四人の詳細な情報を把握しています
※参加者全員の顔と名前などの簡単な情報は把握しています
※携帯電話のアドレス帳には櫃内様刻、玖渚友が登録されています
※第一回放送までの死亡者DVDを見ました。誰が誰にどうやって殺されたのかは把握しています


13


木々の間を掻き分けるようにして……ではなく、枝から飛び降りてその男は現れた。
僕には心当たりは一切なかったが、蝙蝠だけでなくりすかも反応したところを見ると相手が誰かは絞られる。
いや、一人に断定してしまってもいい。
鑢七花、で間違いないだろう。
だが、この身なりはなんだ?
男なのに女性ものの着物を着てる……のはまあいいが、泥水を全身に被ったかのように汚れているし漂う異臭が尋常ではない。

874君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/22(火) 19:58:54
肩で息をしながらも放つ殺気とは別の理由で近づきがたいものがある。

「きゃはきゃは、やっと出会ったと思ったらそんななりになってるとはよお、虚刀流」
「誰かと思ったらその笑い方……真庭蝙蝠か。忍法骨肉細工でどこかの誰かに変態してるんだろ?」
「あ?なんでお前が俺の忍法を……」
「鳳凰との同盟におまえは入ってなかったし今ここで殺すのに理由はいらないんだよな。そこの女も血を出さないようにすればあんなことにはならないだろうし……」

まずい。
「あんなこと」が空間移動のことならまだいいが大人りすかのことを指してるならばこいつも掲示板の動画を見ている。
そして何気なく言った「殺す」という単語。
間違いなく殺して回っている側だ。
幸い手持ちの武器はそれなりにあるし、今ここで排除することになんら問題はないだろうとグロックに触れたそのときだった。

ぼたり、と鑢七花の背後の木の枝が折れた。

細い枝が折れるのならまだわかるが、それなりに太い枝だったし現れてから落ちるまでのタイムラグがありすぎる。
そもそも枝が落ちてぼたりだなんて音がするのもおかしい、と枝を見れば根本が溶けていた。
待て待て、枝が溶けるだなんてどうやったらそんなことになるんだ。
警戒が確信に変わる。

「逃げるぞ、蝙蝠!」
「キズタカ、逃げるのっ!」

そしてりすかも同じことを考えていたようで、声が重なった。
蝙蝠は少し逡巡したようだが、結局は僕とりすかを担いでくれた。

「理由は移動しながらでいいよな?」
「今でも構わねえぞ」
「その前にまずは確認だ。原因はあいつが被ってた泥、でいいよな?」
「だと、思うの」

逃げることを決めた理由を蝙蝠に説明するのと同時にりすかから確認を取る。
溶ける、ということは溶解か腐敗か。
なんであれ『分解』に類するものと見ていいだろう。
そうなるとりすかにとっては天敵だ。
この見立ては間違っていなかったらしく、付いていた血から魔力がなくなったとりすかが進言してくれた。
それでも蝙蝠はなぜ逃げるのかについては不服だったようだが。

「こっちには絶対に折れない曲がらない錆びないって刀があるんだから勝ち目はあったとは思うぜ?」
「確かにそうかもしれないが、それを使うお前は折れるし曲がるし錆びるだろう」
「……なんだ、俺を心配してくれてたのか?」
「そんなんじゃない」


【1日目/夕方/E-5】
【供犠創貴@新本格魔法少女りすか】
[状態]健康
[装備]グロック@現実
[道具]支給品一式×3(名簿のみ2枚)、銃弾の予備多少、耳栓、書き掛けの紙×1枚、「診療所で見つけた物(0〜X)」、心渡@物語シリーズ、シャベル@現実、
   アンモニア一瓶@現実、携帯電話@現実、スーパーボール@めだかボックス、カスタネット@人間シリーズ、リコーダー@戯言シリーズ
[思考]
基本:みんなを幸せに。それを邪魔するなら容赦はしない
 0:今は鑢七花から逃げる
 1:ランドセルランドで黒神めだか、羽川翼と合流する、べきか……?
 2:ツナギ、行橋未造を探す
 3:このゲームを壊せるような情報を探す
 4:蝙蝠の目的をどう利用して駒として使おうか
 5:掲示板の情報にどう対処すべきか
[備考]
 ※九州ツアー中、地球木霙撃破後、水倉鍵と会う前からの参戦です
 ※蝙蝠と同盟を組んでいます
 ※診療所でなにか拾ったのかは後続の書き手様方にお任せします(少なくとも包帯や傷薬の類は全て持ち出しました)
 ※主催者の中に水倉神檎、もしくはそれに準ずる力の持ち主がいるかもしれないという可能性を考えています
 ※王刀の効果について半信半疑です
 ※黒神めだかと詳しく情報交換しましたが蝙蝠や魔法については全て話していません
 ※掲示板のレスは一通り読みましたが映像についてはりすかのものしか確認していません
 ※心渡がりすかに対し効果があるかどうかは後続の書き手にお任せします
 ※携帯電話に戦場ヶ原ひたぎの番号が入っていますが、相手を羽川翼だと思っています
 ※黒神めだかが掲示板を未だに見ていない可能性に気づいていません


【水倉りすか@新本格魔法少女りすか】
[状態]出血(小)、零崎人識に対する恐怖
[装備]手錠@めだかボックス、無銘@戯言シリーズ
[道具]支給品一式
[思考]
基本:創貴に従う
 1:創貴と共にランドセルランドへ向かう
[備考]
 ※九州ツアー中、蠅村召香撃破直後からの参戦です。
 ※治癒時間、移動時間の『省略』の魔法は1時間のインターバルが必要なようです(現在使用可能)
  なお、移動時間魔法を使用する場合は、その場所の光景を思い浮かべなければいけません
 ※大人りすかについての制限はこれ以降の書き手にお任せします

875君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/22(火) 19:59:45
【真庭蝙蝠@刀語】
[状態]健康、零崎軋識に変身中
[装備]軋識の服全て、絶刀・鉋@刀語
[道具]支給品一式×2(片方名簿なし)、愚神礼賛@人間シリーズ、書き掛けの紙×1枚、ナース服@現実、諫早先輩のジャージ@めだかボックス、
   少女趣味@人間シリーズ、永劫鞭@刀語
[思考]
基本:生き残る
 0:今は七花から逃げる
 1:創貴とりすかと行動、ランドセルランドへ向かう
 2:双識を殺して悪刀を奪う
 3:強者がいれば観察しておく
 4:完成形変体刀の他十一作を探す
 5:行橋未造も探す
 6:危なくならない限りは供犠の目的を手伝っておくがそろそろ裏切ってもいい頃かもしれない
 7:黒神めだかに興味
 8:鳳凰が記録辿りを……?
[備考]
 ※創貴と同盟を組んでいます
 ※現在、変形できるのはとがめ、零崎双識、供犠創貴、阿久根高貴、都城王土、零崎軋識、零崎人識、水倉りすか、元の姿です
 ※都城王土の『異常』を使えるかは後の書き手の方にお任せします
 ※放送で流れた死亡者の中に嘘がいるかも知れないと思っています
 ※鑢七実の危険性について知りましたが、嘘の可能性も考えています
 ※絶刀は呑み込んでいます
 ※供犠創貴に変態してもりすかの『省略』で移動することはできません。また、水倉りすかに変態しても魔法が使えない可能性が高いです
 ※宇練銀閣の死体を確認しましたが銀閣であることは知りません


14


「ぅ……おぇっ」

顔を上げればそこには誰もいなかった。
遠くで枝が揺れる音だけが聞こえる。
あいつらが逃げようとしたところをすかさず追撃しようとしたおれだったが、運悪くと言うべきか、狙い澄ましたように吐き気が襲ってきた。
隙だらけになってたが襲われずに済んだのは逃げられたのとおあいこだろう。
蝙蝠が口を開けていたし、あれは呑み込んでいた絶刀を出そうとしてたんだろうから無防備なおれは餌食になっていたかもしれない。
まあ、今のおれでも絶刀を折るくらいは余裕だっただろうから逃げられた方が正直痛かったが。
……いや、この程度で痛いって言うもんじゃねえな。
その点では今のおれの体の方がよっぽど痛い。
とにかく、ここで止まるのだけは今やっちゃいけないことだ。
最後に倒れるにしてもこんな無意味な終わりだけはやっちゃいけねえ。
再び枝を跳び移りながらおれは毒づく。

「本当に、めんどうだ」

876君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/22(火) 20:00:13
【一日目/夕方/E-5】
【鑢七花@刀語】
[状態]『感染』、疲労(中)、覚悟完了、全身に無数の細かい切り傷、
    刺し傷(致命傷にはなっていない)、血塗れ、左手火傷(荒療治済み)、吐き気
[装備]なし
[道具]なし
[思考]
基本:優勝し、願いを叶える
 0:真庭蝙蝠達を追う
 1:放浪する
 2:名簿の中で知っている相手を探す。それ以外は斬る
 3:姉と戦うかどうかは、会ってみないと分からない
 4:変体刀(特に日和号)は壊したい
[備考]
 ※時系列は本編終了後です
 ※りすかの血が服に付いていますが『荒廃した過腐花』により腐敗されたようです
 ※不幸になる血(真偽不明)を浴びました。今後どうなるかは不明です
 ※掲示板の動画を確認しました
 ※江迎怒江の『荒廃した過腐花』の影響を受けました。身体にどの程度感染していくかは後続の書き手にお任せします
 ※着物の何枚かを途中で脱ぎ捨てました。どの地点に落ちているか、腐敗の影響があるかは後続の書き手にお任せします


15


俺の悩みを聞いてくれねえか?
いっそ悩みっつーか愚痴って言っちまった方が清々しいのかもしんねーけどよ。
愚痴っつっても至極単純、どうして俺が、気まぐれの権化でもあるようなこの俺が、こうして語り部をやってるかっつーことなんだが。
今までところどころやってたのは他にやってくれるのが一人しかいなかったからだが、今は俺よりも適任がいるだろうが。
自分のことで精一杯?
かはは、言うようになったじゃねーかよ、欠陥製品が。
ただまあ、自分のことで精一杯と言いたくなるような状況であることだけは間違いねーしそう言いたい気持ちもあるのかもな。
俺には全くわからないが。
尤も、この状況をなんとかしろと言われたら確かに俺でも匙を投げたくなるね。
むしろ俺ならこんな状況に陥る前に匙を放り捨てて逃げ出すか。
そもそもどんな状況なのかって?
……そうだな、口喧嘩が二ヶ所で勃発ってか?
どちらも口喧嘩で済んでるからまだ遠巻きに見ていられるんだけどな。
あー、組み合わせとしては欠陥製品と八九寺真宵、ひたぎちゃんとどうやら記憶喪失だったらしい羽川翼の二組。
なんつーか、言い争いに発展するのも仕方ない組み合わせっちゃ組み合わせだな。
そりゃ欠陥製品も周囲まで気が回らねーわけだ。
で、俺以外のやつらがどうしてるかというと、

「起きませんね、禊さん」
「一発キメただけなんだがな……」

こうやって球磨川クンが気絶してる横で仲良くおしゃべりってわけだ。
兄貴の視力を奪いやがったせいで兄貴から本人かどうか疑われかけるわその後ギスギスしまくってやりにくかったわえらく迷惑被ったからな。
そのお礼ってことでアッパーキメてやったらこの通り未だに目を回してる、というわけなんだが。
まだまだぶん殴るつもりでいたのに一発目でこうじゃ気が失せちまう。
そうなると手持ち無沙汰同士で雑談すんのもやむなしな流れになるわな。

「……はぁ」

息をつく音がする。
本当にこういうときだけは美人なんだよな。

「で、これからどうするんだ?一応俺はあんたの弟探すっつー目的を忘れたわけじゃねーんだが」
「今もそのつもりではいるんですけどね。ちょっと他にやりたいこともできてしまいまして」
「ま、こいつと一緒にいたいってんなら反対はしねーよ。人探しも平行してできないってわけでもねーしな」

877君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/22(火) 20:00:53
「あら、珍しい」
「あ?何が珍しいってんだ」
「人識さんなら無理矢理にでも引き剥がして行くかもと思っていましたので」
「だったら朝あの学園で別れたりしねーよ。それに、その間結構いい感じにやってたみたいだし今更やってもな」
「出夢さんは人識さんにとっては大事な方のように見えましたから。それこそわたしと七花の関係みたいに」
「姉弟関係ってか?……当たらずといえども遠からず、だな」
「おかしなことを言うものです。深く聞くのは……やめておきましょうか」
「かはは、人の事情につっこむのはやめとくのが懸命ってもんだ。下手すりゃ鬼が出るからな」
『あ、七実ちゃんおはよう』

話の途中で前触れもなく起きやがった。
予備動作くらい見せろってんだ。

「あら、おはようございます。もう夕方ですがね」
「空気読まずに起きるんだなテメーは」
『僕が素直に空気を読んで起きるとでも思ってるのかい?』
「あーそうだな、すまんかった」
『全く誠意が感じられないね。僕を殴っておいてそれで済まそうというのかい君は?』

そんでもって起き抜けでこんなこと言われると抜かれた毒気が戻ってきやがる。
よし、殴るか。

「そうそう、禊さん。裸えぷろんのことなんですが」
『ぎくっ』

おい。
裸エプロンって何があったらそんな話題になるんだ。
「結構いい感じにやってたみたいだ」っつったの撤回した方がいいかもな……

「真宵さんから聞きましたよ」
『えっ』
「なぜその程度のことを隠そうとしていたのですか?」
『えっえっ』
「禊さんができるということは大して恥ずかしいことでもないのでしょう?余計に隠そうとする理由がわからなくて」

うわ……こいつ実演しようとしてたの?
引くわ。
素で引くわ。

『そ……そう、でも七実ちゃんが気にしないのなら問題ないよね!』
「ですが、隠していたことはいただけません。それについてはしっかりと罰を与えないと」
『……え?』
「どのような罰にしましょうかね……」

あ、これなんて言うか俺知ってる。
自業自得っつーんだよな。
こいつ顔面蒼白にさせるってすげーな、汗ダラダラじゃん。

「待たせたな、ぜろりん」
「お、終わったのか、いーたん」
「まあ、そういうことだ」
「その様子だと折れたのはお前みたいだな、かはは」
「うるさい」

欠陥製品も議論は終わったようだし向こうも決着が着いているみてーだ。
折れたのはひたぎちゃんの方か。
しかしあの羽川翼って子も末恐ろしいね。
これだけの短時間で殺し合いがあることやら掲示板の存在やら把握した上であの精神状態だってんだから。
支給品に助けられたってのも大きいんだろうけど最初に集められた空間すっ飛ばしていきなり知らない場所で殺し合い始まっててしかも知り合いが死んでるときたもんだ。
あの様子じゃ友人以上の存在だったかもしれねえが。

878君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/22(火) 20:01:23
まあ、それについては俺が深入りするもんじゃねーな。

「んで、向かうのか?ランドセルランドに」
「友もいるし行くよ。それに、真宵ちゃんが黒神めだかと話したいってさ」
「羽川翼の方も多分そうだろうな」
「断片的に聞こえたけど多分そうだと思うよ」
「目覚めたばっかでそこが殺し合いの場で知り合い殺されててあんな反応取れるだなんて正直俺は恐ろしいね」
「珍しく気が合うな。その点についてはぼくも同感だ」
「それで、どうやって移動するのかしら?私はあなたが車を持ってるとは聞いていたし実際その通りだったけれど7人も載せるのは不可能じゃなくって?」
「そうなんだよな……零崎に電話した時点じゃ真宵ちゃんしかいなかったしまさか3人増えるとは思わなかったしなあ」
「それでしたらいい方法がありますが」
「え、まさか七実ちゃんが車もう一台持ってるとか?」
「いえ、そうではなくて。わたしたちが座っていた場所より後ろに空間があったではないですか」
「トランクのこと?でもあれは荷物を入れるところであって……」

いつの間にか全員集まって会議の様相を呈しているが、残念なことに俺には先が読めちまった。
……祈っておくか。
事故らないようには気をつけとくからよ。

「禊さん共々裸えぷろんについて黙っていた罰です。二人仲良く入っていただきましょう」
「えっ?」

やっぱりな。

「いっきーさんには言っていませんでしたっけ。真宵さんから聞いているのですよ、裸えぷろんについては」
「えーと、それは……つまり?」
「内容自体は別になんとも思いませんが、わたしに黙っていたことは別です」
「まあ、そういうことだから諦めろ、欠陥製品」
「ちょ、何言ってんだ、人間失格」

引き際がよくない男は嫌われるぞ、ってな。

「せいぜい事故んねーように安全運転心がけてやるからよ。で、誰が助手席座るんだ?」

残った女子四人で議論……になるかと思ったら全会一致で七実ちゃんに決定した。
一番危ないのは間違いねーし、残り3人が元から知り合いだったみてーだしな。
ま、このメンツで会話が弾むとも思えねーし案外トランクに放り込まれる男二人はそれはそれで悪くはないんじゃねーのか。
……運転する俺が一番気が重いってことか、おい。

「異論はないようですし、いっきーさんと禊さんにはそのとらんくの中に入ってもらいましょうか。あら、なんですかその顔は」

つっても納得はできねえよなあ。
一応人間が入れない広さじゃあねーが二人詰め込むとなると。

「自分から行かないのであればわたしが無理矢理にでもあなたがたを詰め込みますが」
「『わかりました』」

折れるのはえー。
『まあいいさ、この後めだかちゃんに会えるのなら少しは我慢するよ』、とトランクのある後部に向かいながら球磨川がごちる。

『ついでとはいえめだかちゃんに善吉ちゃんの無念をぶつけるのも悪くはないしね』

ん?今ひたぎちゃんが『善吉』って言葉に反応しなかったか?
……気のせいか。

879君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/22(火) 20:05:17
【一日目/夕方/F-4 診療所前】
【戯言遣い@戯言シリーズ】
[状態]健康、車(トランク)の中
[装備]箱庭学園制服(日之影空洞用)@めだかボックス(現地調達)、巻菱指弾×3@刀語、ジェリコ941@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×2(うち一つの地図にはメモがされている、水少し消費)、ウォーターボトル@めだかボックス、お菓子多数、缶詰数個、
   赤墨で何か書かれた札@物語シリーズ、ミスドの箱(中にドーナツ2個入り) 、錠開け道具@戯言シリーズ、
   タオル大量、飲料水やジュース大量、冷却ジェルシート余り、携帯電話@現実、解熱剤
[思考]
基本:「主人公」として行動したい。
 0:トランク……狭い。
 1:ランドセルランドに向かって玖渚と合流。
 2:真宵ちゃんの記憶を消してもらう……のは無理そうだね。
 3:掲示板を確認してツナギちゃんからの情報を書き込みたいけど今できるかな。
 4:不知火理事長と接触する為に情報を集める。
 5:展望台付近には出来るだけ近付かない。
 6:裸エプロンに関しては戯言で何とかしたかったのに……
[備考]
 ※ネコソギラジカルで西東天と決着をつけた後からの参戦です
 ※第一回放送を聞いていません。ですが内容は聞きました
 ※夢は完全に忘れました
 ※地図のメモの内容は、安心院なじみに関しての情報です
 ※携帯電話から掲示板にアクセスできることを知りましたが、まだ見てはいません
 ※携帯電話のアドレス帳には零崎人識、ツナギ、玖渚友のものが登録されています
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※八九寺真宵の記憶を消すかどうかの議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします


【八九寺真宵@物語シリーズ】
[状態]ストレスによる体調不良(発熱、意識混濁、体力低下)、動揺 、一周回って一時的正気?、車で移動中
[装備]人吉瞳の剪定バサミ@めだかボックス
[道具]支給品一式(水少し消費)、 柔球×2@刀語
[思考]
基本:生きて帰る。
 1:戯言さんと行動……今はトランクの中ですけど。
 2:阿良々木さんを殺したらしい黒神めだかさんと話がしたい。
 3:記憶は消させません、絶対に。
 4:そういえば羽川さんの髪が長いのですが。
 5:戦場ヶ原さんが怖いです……
[備考]
 ※傾物語終了後からの参戦です
 ※本当に迷い牛の特性が表れてるかはお任せします
 ※記憶を消すかどうかの議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします

880君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/22(火) 20:05:38
【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『健康だよ。お腹は満腹だ。それにしてもトランクって狭いね』
[装備]『大螺子が2個あるね』
[道具]『支給品一式が2つ分とエプロン@めだかボックスがあるよ。後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本か』
[思考]
基本:「黒神めだかに勝つ」『あと疑似13組を作って理事長を抹殺しよう♪』
『0番は……僕は悪くない』
『1番はランドセルランドに向かうよ』
『2番はやっぱメンバー集めだよね』
『3番は七実ちゃんについていこう! 彼女は知らないことがいっぱいあるみたいだし僕がサポートしてあげないとね』
『4番は善吉ちゃんの無念をめだかちゃんにぶつけてあげよう』
『5番は宇練さんについてだけど、まあ保留かな』
『6番は裸エプロンに関しては欠陥製品に押し付けようと思ったのに……どうしてこうなったんだ!』
[備考]
 ※『大嘘憑き』に規制があります
  存在、能力をなかった事には出来ない
  自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り1回
  怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。(現在使用可能)
  物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします
 ※始まりの過負荷を返してもらっています
 ※首輪は外れています


【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(小)、交霊術発動中、車で移動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(2〜6)、球磨川の首輪×1
[思考]
基本:弟である鑢七花を探すついでに、強さと弱さについて考える。
 1:七花以外は、殺しておく。
 2:もう面倒ですから適当に過ごしていましょう。
 3:気が向いたら骨董アパートにでも、と思っていましたが面倒になってきました。
 4:裸えぷろんについてどうしてひた隠しにしていたのでしょう?
 5:宇練さんは、次に会った時にはそれなりの対処をしましょう。
 6:四季崎は本当に役に立つんでしょうか?
[備考]
 ※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました
 ※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
 ※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました
 ※弱さを見取れる可能性が生じています
 ※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません
 ※球磨川禊が気絶している間、零崎人識と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします

881君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/22(火) 20:06:14
【羽川翼@物語シリーズ】
[状態]健康、ノーマル羽川、混乱、車で移動中
[装備]パーカー@めだかボックス、ジーンズ@めだかボックス
[道具]支給品一式×2(食料は一人分)、携帯食料(4本入り×4箱)、タブレット型端末@めだかボックス、黒い箱@不明、トランシーバー@現実、
   「ブラウニングM2マシンガン×2@めだかボックス、マシンガンの弾丸@めだかボックス」
[思考]
基本:黒神めだかと話がしたい。
 0:ランドセルランドへ。
 1:阿良々木くんが死んでいるなんて……
 2:情報を集めたい。
 3:戦場ヶ原さん髪もそうだけど……いつもと違う?
 4:真宵ちゃんの様子もおかしい。
 5:どうして私がこんな物騒なものを。
[備考]
 ※ブラック羽川が解除されました
 ※化物語本編のつばさキャット内のどこかからの参戦です
 ※全身も道具も全て海水に浸かりましたが、水分はすべて乾きました
 ※トランシーバーの相手は玖渚友ですが、使い方がわからない可能性があります。また、当然ですが相手が玖渚友だということを知りません
 ※道具のうち「」で区切られたものは現地調達品です。他に現地調達品はありませんでした
 ※ブラック羽川でいた間の記憶は失われています
 ※黒神めだかの扱いについてどう説得したか、他の議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします


【戦場ヶ原ひたぎ@物語シリーズ】
[状態]健康、強い罪悪感、しかし確かにある高揚感、車で移動中
[装備]
[道具]支給品一式×2、携帯電話@現実、文房具、包丁、炸裂弾「灰かぶり(シンデレラ)」×6@めだかボックス、賊刀・鎧@刀語、斬刀・鈍@刀語、お菓子多数
[思考]
基本:優勝する、願いが叶わないならこんなことを考えた主催を殺して自分も死ぬ。
 0:ランドセルランドへ。今は折れるふりをしておきましょう。
 1:本格的に動く。協力者も得られたし頭を使ってうまく立ち回る。
 2:阿良々木君の仇を取るまでは優勝狙いと悟られないようにする。
 3:黒神めだかは自分が絶対に殺す。そのために玖渚さんからの情報を待つつもりだったけれど逆に自分から提供することになるなんてね。
 4:貝木は状況次第では手を組む。無理そうなら殺す。
 5:掲示板はこまめに覗くつもりだが、電話をかけるのは躊躇う。
 6:羽川さんがどうしてここにいるのかしら……?
[備考]
 ※つばさキャット終了後からの参戦です
 ※名簿にある程度の疑問を抱いています
 ※善吉を殺した罪悪感を元に、優勝への思いをより強くしています
 ※髪を切りました。偽物語以降の髪型になっています
 ※携帯電話の電話帳には零崎人識、戯言遣い、ツナギ、玖渚友が登録されています
 ※黒神めだかの扱いについてどう説得されたか、他の議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします

882君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/22(火) 20:06:44
【零崎人識@人間シリーズ】
[状態]健康、車で移動中
[装備]小柄な日本刀 、携帯電話@現実
[道具]支給品一式×6(内一つの食糧である乾パンを少し消費、一つの食糧はカップラーメン一箱12個入り、名簿のみ5枚)、医療用の糸@現実、千刀・鎩×2@刀語、
   手榴弾×1@人間シリーズ、青酸カリ@現実、S&W M29(6/6)@めだかボックス、大型ハンマー@めだかボックス、デスサイズ@戯言シリーズ、
   彫刻刀@物語シリーズ
[思考]
基本:戯言遣いと合流する。
 0:ランドセルランドへ行きゃ真庭蝙蝠達をボコれるかな。
 1:戦場ヶ原ひたぎ達と行動。ひたぎは危なっかしいので色んな意味で注意。
 2:伊織ちゃんと連絡を取る。合流するかどうかは後から決める。
 3:兄貴には携帯置いておいたから何とかなるだろ。
 4:真庭蝙蝠、水倉りすか、供犠創貴、宇練銀閣を捕まえる。
 5:西東天に注意。
 6:哀川潤が放送で呼ばれれば殺人をしないつもりはない。
 7:欠陥製品と球磨川クンは……自業自得だろ。
[備考]
 ※曲絃糸の射程距離は2mです
 ※曲絃糸の殺傷能力(切断・絞殺など)は後の書き手さんにおまかせします
 ※りすかが曲識を殺したと考えています
 ※Bー6で発生した山火事を目撃しました
 ※携帯電話の電話帳には戯言遣い、ツナギ、戦場ヶ原ひたぎ、無桐伊織が登録されています
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※球磨川禊が気絶している間、鑢七実と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします



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支給品紹介

【工具セット@現実】
浮義待秋に支給。
ドライバーやレンチなど所謂日曜大工で使うような工具が入っている。
一般のホームセンターで買えるようなものしかないため、専門的なものは少ない。

【エプロン@めだかボックス】
球磨川禊に支給。
球磨川禊の趣味その1、裸エプロンで使うためのもの。
ジャンプの表紙は狙えなかったが見開きセンターカラーをもらえた。

【ジーンズ@めだかボックス】
球磨川禊に支給。
球磨川禊の趣味その2、手ブラジーンズで使うためのもの。
同じくジャンプの表紙は狙えなかったが見開きセンターカラーをもらえた。

【パーカー@めだかボックス】
球磨川禊に支給。
球磨川禊の趣味その3、全開パーカーで使うためのもの。
センターカラーすらもらえなかったがコミックスで登場。

883 ◆ARe2lZhvho:2013/10/22(火) 20:15:49
仮投下終了です
仮投下した理由としましては、
・玖渚が前話が通しにならないと行動に不自然な点が出る
・首輪について踏み込んでいる
・荒廃した過腐花に感染した七花の扱いが不自然ではないか
などが理由です
首輪の構造としましては断面図にしたとき、

 ◎← 首 →◎

矢印のところに薄い線が入っている感じになります
他にも指摘があれば遠慮なくお願いします

とりあえず終物語を読みましたがどんでん返しがなくてよかったです
おもしろかったのでこれからもう一周してきます

884『無かった事にするよ』:『無かった事にするよ』
『無かった事にするよ』

885 ◆xR8DbSLW.w:2013/10/22(火) 22:13:33
失礼、鳥ミスです。

仮投下お疲れ様です。
問題となる箇所は拙作の扱い次第という点もありますので、今回の作品に関しましてはひとまず意見を控えさせていただきます。
改めて氏にご迷惑おかけしましたことをこの場を借りてお詫び申し上げます。
つきましては引き続き拙作の賛否他意見などありましたら、お願いします。
まもなく仮投下期間も終了となります、このまま反対意見なく期間が終わりましたら本投下を、と考えています。



現在修正点として、
宗像からの電話に対する描写。
火事場前における様刻の描写。
の、二点です。
この他に何かありましたらよろしくお願いいたします

お騒がせして申し訳ないです。

886 ◆wUZst.K6uE:2013/10/22(火) 22:42:42
仮投下乙です
特に不自然と思うような点も見当たらないので、このまま本投下で構わないかと思います
ただひとつ確認したいのですが、蝙蝠は七花の身体に対しての「観察」は出来ていない、ということで宜しいでしょうか?
変形可能か否かが微妙なラインに思えたので

887 ◆ARe2lZhvho:2013/10/22(火) 23:37:34
指摘ありがとうございます
変形については七花が荒廃した過腐花の泥を被った状態でしたので自分としてはできていない状態で書いています
本投下の際には補足しておきます

888 ◆xR8DbSLW.w:2014/02/16(日) 22:14:53
仮投下します

889牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/16(日) 22:18:23
   ☆    ☆


手をつなぎ、どこまでも行こう。
君となら、どこまでも行ける。

だから、どこにも行かないでほしい。
僕の手を離さないでほしい。
君と僕はどこまでも一緒だから――――。


   ★    ★


元々ネットカフェに向かっていた理由はただ一つだった。

鑢七花による思わぬ妨害を受けて、ぼくたちはランドセルランドに向かうための方法を思索していた。
あるいは向かわないにせよ、これからどうするのかとかも話し合っていたが、その話はいいだろう。

鑢七花を対峙するためにぼくは改めて、箱庭学園で見た腐敗した扉についての考察をしたり、
りすかが彼と箱庭学園で対峙したと言うので、その時の状況を聞いてみたり、
蝙蝠と彼はもともと顔を合わせたことがあると言っていたので、詳細を聞いてみたり。
考え得る限りあらゆる策は練ってみたものの、いまいちぱっとする案もなく過ごしていた。
ぼくとりすかが考えている傍ら、蝙蝠に他の死亡者DVDを見せて手掛かりがないか探させたが特に収穫はなかった。
そんなところに放送が流れた。

大半の面々はまあ、知り合ってもないし、粗雑な言い方だがこの際どうでもいい。
零崎双識だって、確かに拍子抜けこそしたが、死んだ分には問題ないので、特別言うことはない。
ただ、ツナギ。
彼女に関しては流石のぼくでも無視するわけにはいかない。
属性『肉』・種類『分解』の魔法使い。
はっきり言っておくが、ぼくは彼女が死ぬとは全くもって想定していなかった。
彼女に敵うものがいるとすれば、それはずばり魔眼遣いぐらいなものだと、勝手に思い込んでいた。
現にぼくは彼女がこの場で死んだと思われる原因が二つしか思い浮かばない。
一つは廃病院で遭った時、ぼくがそうしたように彼女に許容量以上の魔力を取り込ませること。
そうすれば実質彼女は無力化したも同然である。(とは言ったものの単純な肉弾戦も彼女はこなせるが)
そしてもう一つは、鑢七花と同じ。
あの腐る『泥』を――あるいは同じ原理のものを目一杯に浴びた。
同じ『分解』同士、どっちに強弱が傾くかは生憎ぼくにはわからないが――ぼくにはそれしか考えられなかった。
魔法使いは魔法に頼りすぎてしまう、という一般的な弱点こそあるが、並大抵のものがそんな隙を突けるとは思えないしな。

少し耽る。
そして、二人を見た。

蝙蝠はいつも通り。
りすかは少し悲しそうだった。
ぼくはりすかの頭を撫でる。
りすかから呆けた声を聞けたところで、ぼくは蝙蝠に命令を下す。
――ネットカフェに行くことを、命ずる。

「あ?」
「理由を聞きたいのがわたしなの」

いや、そうは言われても、ぼくとしても不甲斐ない事にこれと言った論拠はない。
ただ携帯端末から掲示板を作れるとは思えないし、
恐らく掲示板を作った人間はそれなりにスペックの整ったコンピュータの置いてある施設に居るんじゃないかって踏んでいる。
ぼくたちが訪れる頃合いに当人がいるかは定かではないが、それだけのコンピュータがあれば何かできるんじゃないかって思う。

890牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/16(日) 22:19:16

「……」

蝙蝠は「意味分かんない」と言わんばかりの顔をして顔を伏せる。
代わりにりすかが「具体的に?」と問う。

具体的に――。
具体的には『ぼくたちの知らない死亡者のビデオ』が見れる、とか。
どういう意図で欠かしているかは知らないが、
今掲示板に貼られている動画だって『第一回放送までの死亡者』と考えても少し欠けている。
少し飛躍している発想かもしれないが、
相手が死亡者ビデオの情報を握っていると考えても決して考えすぎではないんじゃないか、とぼくは思う。
死亡者ビデオを自由に閲覧でき、選んだビデオだけを貼れる、と考えることもできなくはない。
だとすると、ぼくたちの立場云々もあるけれど、危険者を知れるという意味では大いにメリットになる。

結局、箱庭学園で遭った都城王土が告げた人間をぼくたちは把握できていない。
これは大変危険な状態だ。都城王土はああいったが、
むろん該当者が全滅しているって事態も起こり得る。
しかし裏を返せば、『それ以上』の実力者が君臨しているという事実になる。
それを知らないのは危険だ。
ツナギを殺すような人間の脅威を知らないのは、これ以上なく危険だ。
だから行く価値はあるんだと思う。
例え空振りだったとしても、どの道今は鑢七花が邪魔でランドセルランドには向かえないんだ。
時間潰しだと思えば、蝙蝠もいいだろう?

「……」

蝙蝠が黙りこむ。
ぼくは釘を刺す。
――裏切りを始めてぼくを殺すのは勝手だが、りすかはお前を許さないよ。と。
りすかの魔法を具体的には告げてない。
けれど、だからこそ、か。

「きゃはきゃは……まあいいぜ。付き合ってやんよ」

素直に応じた。
こうしてぼくらは無事にネットカフェに到着した。
そして蒼色と遭遇する。

891牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/16(日) 22:20:02


  ☆    ☆


雲仙冥利とは風紀委員長である。
実年齢十歳にして我が箱庭学園に通い、表に住まう『異常』の代表格とも言える存在だ。
尤もそれは一年前の話であり、今年は同じく『十三組』であり生徒会長――黒神めだかの方が日の目を浴びているにしろ、
しかし今でも、彼の『伝説』は学内ではそれなりに広まっている。
『モンスターチャイルド』と呼ばれる由縁である『やりすぎな正義』は、一年そこらで風化するものではなかった。
現に今年も吹奏楽部を壊滅状態に陥らせたというのだから、ぞっとする話だ。
(とはいえ保健室に連絡して、何やら極めて手際のいいらしい保険委員を手配するあたり決して非情と言うわけではないようだが)

今現在正義を標榜に掲げる僕としては、否応なしに存在を想起させる存在である。
『バトル・ロワイアル』に参戦してなく、状況が状況だった故に『正義』と聞いて黒神さんを安直に連想させたが、
改めて考え直すと、いやいや『正義』と聞いて彼女を連想するのは大いに間違いであることは明瞭だった。
曰く黒神さんは『聖者』――だったか。


いい機会なので、昔話をさせてもらおう。
あれはまだ雲仙くんが『フラスコ計画』に携わっていた時のことである。
偶然とでも言うべきか、『拒絶の門』の前にて彼と遭遇する機会があった。
普段は風紀委員長として活動していて顔を出さなかったり、
そうでなくとも例外的に時計塔のエレベーターを使える彼と遭遇する確率は極めて低いのだが、何かの『縁』だろう。
僕は偶然と思うことにして、特別気にかける素振りを見せず『拒絶の門』のパスワードを入力する。
出来るだけ人間と関わらないことにしていた僕にとっては、まあ、いつも通りの対応をしたまでだった。

「あ? テメーは確か『枯れた樹海(ラストカーペット)』の宗像くんとか言ったっけか」

最中、(僕からしたら)意外なことにの雲仙くんの方から絡んできた。
『拒絶の扉』は重たい音を立て開く。
丁度パスワードの入力を終えていたのだ。
無視(言い訳がましいが他人と接点を持つことは、当時の僕には避けるべきことだった)しても良かったのだが、
雲仙くんの『正義(やりすぎ)』を知っていた僕は火憐さんに対してそう思ったように、
いざとなったら彼が止めてくれるだろうと考え、彼の言葉に素直に応じる。

時間が経ち『拒絶の門』は閉まる。
これが僕の答えだと判断した雲仙くんは愉快そうに笑みを浮かべた。
小学生の浮かべる目じゃなかろうに。
さて、門番の目もあることだし場所を移そうか。
僕はそう提案して雲仙くんを地上まで誘う。
雲仙くんは異論を呈すこともなく、僕の誘いに乗った。

道中は静かなものだった。
彼にとって僕の立場は――有体に言ってしまえば処罰の対象である。
そりゃあそうだ、僕はこれでも世間では凶悪殺人鬼として名を広めている立場なのだから、風紀委員としては快いものではない。
緊張しないと言えば嘘になる。

「ケケケ! まあそんなに畏まるなよ」

地上に着いたところで彼はこちらを向き、一言。
……今はまだ処罰する気はないってことなのかな。あるいは、僕が凶悪殺人鬼でないと知っているのか。
どちらでも構わないが、攻撃の意思がないことは素直にありがたく受け取っておこう。

「テメーの『異常性(アブノーマル)』はイヤってぐれー知ってんだし、
 エレベーターも動かせねえテメー程度の『異常』に殺されるほどヤワじゃねーぜ。残念だったな」

その通り。
だからこそ、『いざとなった』時なんとかしてくれると信頼を置いて会話をしている。
『いざ』とならないことを願うばかりだ。ただ、一方的に降伏するほど僕も人が良いわけではないけどね。

892牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/16(日) 22:20:26

「『いざとなった』時は、オレの正義がオメーをぶっ潰してやるから、安心して悪ぃーことしてろよ」

なるほど、心強い限りだ。
僕が本気で挑んでも、確かに彼なら返り討にしてくれる。
確信するのに容易いほど、自信満々の返事であった。
しかし僕はその言葉に、ふとした疑問を感じる。
――『悪』は救うのではなく、裁くものなのか。

「はっ! テメーはあれかー? 最近名を馳せる黒神めだかの信者にでもなったんか?
 いけねーぜぇ。正義と聖者をいっしょくたにしちゃあ。オレとヤローは相容れねえよ」

『正義』、『聖者』――僕にはその違いが理解できなかった。
思えばこの時から玖渚さんの言う『正義を捨てるか』、『神を棄てるか』
その意図を理解できていなかったということになるんだろう。まるで成長していない。
ともあれ、不思議そうな顔をした僕を見かねたのか、雲仙くんはこんな話題を振ってくる。

「テメーはよ、日曜日にやってるような特撮ヒーローをなんとなくでも知ってるか?」

なんとなくならば。
古賀さん辺りは割と頻繁に仮面ライダーのポーズをとっていたりしていた。
連れ添う名瀬さんは何やら平成ライダーの方が好きだとかなんとか反論していたが、およそ関係ないことだろう。

「だったら話ははえー。宗像くんはよー、特撮ヒーローが町を襲う怪人をぶっ殺すのを咎めるか?」

どうだろう。
単純なようで、考え出したらキリがないような気がするけれど。

「難しく考えなくていーぜ」

ならば咎めやしない。
それで町に住む者、ひいては地球そのものを救ったんだから咎める必要はない。
そりゃあ相手を殺す結果になるとは言え――あ。

「そうだ、世間一般において『正義』とされる特撮ヒーローは決して相手を救ったりしない。『裁き』を下すんだ」

それが、彼の正義。
もう悪さが二度と起きないように、と。
母が悪戯をした子供を叱るのと、元を糺せば同一なのだ。
今となっては、彼の言う『正義(うんぜんくん)』と『聖者(くろかみさん)』の違いは明確に分かるけれど、
それを知らない、恐らく間の抜けた顔をしていたであろう当時の僕に対して、雲仙くんは語りかける。

「対して、黒神めだか(ヤロー)は違う。あいつは怪人さえも殺してはならねーっつってんだ。
 まあオレも未だ口づてでしか知らねーが、聞いた限りじゃあとんでもねー聖者だよ。
 ヤローは怪人にこう言うんだ。『これからは人を殺すのではなく人を活かす道を歩け』と」

そこだけを聞くと、黒神さんの人望の高さも頷ける思想なんだろう。
怪人をも更生させる。
実に真っ当な主義だとは感じる。
けれど雲仙くんの態度はまるで違った。
忌々しげに、吐き捨てるように。
紡ぐ。

「バカ言ってんじゃねーぜ! そいつは既に悪事を犯したんだ!
 ルールを破った奴が罰を受けるのは当然なんだ!
 それをなあなあでボカシて、贖罪さえすりゃあ許してもらえるって『悪』が図に乗るだけじゃねーか!」

……。
その通りだろう。
掌を返すつもりもないのだが、雲仙くんの訴えは至極尤もなものだった。
故に大半の国々では法律というルールが敷かれている。
別段黒神さんが間違っていると声を荒げて唱えるほど、黒神さんのやり方に賛同できないわけではないが……。

「っと……ケッ。感情的になっちまったぜ」

我に返った雲仙くんは当初のように愉快に挑戦的な笑みを浮かべた。
まったく。背丈が僕の腰ぐらいしかない相手とは言え敵に回したくない男だ。
しかし、どうして彼はこんな話をしたんだろうか。
最初から疑問には思っていたが、話がひと段落した今、改めて質す。

「あー? いやいやテメー自身も分かってんだろ。てゆーか、もう言いたいことの大半はもう済んでんだ。
 要するにだ、警告だよ、ケーコク。確かに今はテメーをぶっ潰すことはしねーが、テメーがオレのテリトリーで殺人を起こした日にゃあ」

瞬間、雲仙くんの眼が僕の眼を捕らえて、射る。

「覚悟しとけよ。オレは黒神のヤツと違って、テメーの異常(じじょう)なんざ省みねー」

恐ろしい子供だ。
僕が殺人を犯せない理由がまた一つ増えてしまった。
当時の僕はきっとここで、『だから殺す』と考えたのだろう。

「やりすぎなければ、正義じゃないんだよ」

彼が最後に呟いた一言は、やけに鮮烈な印象を残した。
だからこそ、今思い出すに至ったのだろう――。

893牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/16(日) 22:21:17


  ☆    ☆


空調の音が煩わしい。
背中を預けるソファーが固い。
不快感と共に、僕の意識は現実へと戻ってきた。

眩しい。
意識が徐々に、現を掴み始める。
なんだか夢を見ていた気がするな――。
どこか懐かしい、覚えておくべきようなこと――なんだっけ。
夢とは往々にしておぼろげなものではあるが、少し気になるな。
僕には予知夢なんて大それたことはできないにせよ。

瞼を閉じたまま、蛍光灯の光に目を慣らす。
そこまで長く寝ていたつもりもないのだが、体感とは反してそこそこの時間を睡眠に費やしたようだ。
片腕がもがれたことも相まって、身体がどことなく重く感じる。
……まあ、千刀なんてもんを携えながら寝たんだから重く感じるのも止むをえまい。

さて。
そろそろ起きようか。
ゆっくり身体を休めるのもいいかもしれないが、そんな猶予は残されていないんだ。
そもそもどうして僕は眠っていたんだっけ――?

しかし、そんな些細な疑問は次の瞬間には吹き飛んだ。
瞼を開き、身体を起こす。
そこはネットカフェのフロント。
奥には玖渚さんがいるであろう個室や、シャワールームに続く通路が見える。
僕はソファーの上で横たわり眠っておったようで、机を挟んで向かいのソファーには、

「――やあ、宗像先輩。おはようございます」

驚いた。
言葉にすれば、この一言に収斂してしまうが、
僕の身に降り注ぐ衝撃は並々ならぬものだった。

「やだなあ、そんな顔してどうしたんですか?」

今、僕はどんな顔をしているのだろう。
分からない。
状況が整理できない。
どうして僕の目の前に――というよりも、『今』、この場に!

「本気でどうしたんですか? 俺ですよ、俺。阿久根高貴、生徒会の阿久根です」

知っている。
だから僕の頭の中で強烈な混乱が生じているのだ。
彼はもう、死んでいるはずなのに!!

僕は幽霊でも見ているのか。
そんなわけあるか。――幾らなんでも非現実が過ぎる。
それはアブノーマルでもマイナスでもない、ただのオカルトだ。
……まあ、代々僕の家は『魔』を討つ家系故に「オカルトは信じられない!」なんて声を大にして叫ぶ真似こそしないが、
唐突に幽霊が現れて、受け入れられるほど、僕の器は大きくない。

「まあこんな場ですからね。気持ちが荒ぶるのも分かりますが、一回落ち着きましょう。
 ほら、これ。あそこにあったどりんくばーから注いできましたから。飲んでください」

彼の言葉に従うわけではないが、確かに落ち着くべきだ――少し落ち着くんだ。
……うん、大丈夫。大丈夫だ、頭は正常に働く。
僕は差し出された飲み物は飲まず、改めて注視する。

改めて見ると――まず間違いなくそこにいるのは『阿久根高貴』くんに違いない、
彼と会話を交えたことなど数えるほどしかないが、その点に関しては保証できる。

しかし、だからといって彼を阿久根高貴だ、と断言するわけにはいかないだろう。
繰り返すようだが彼はもう、この世に居ない。死んでいるのだ。
定時放送だけでなく、死亡した瞬間をとらえたビデオまで目を通した上で理解しているのだから、揺るがない事実だ。
すべて主催者からの虚偽だというのなら、彼がここにいる理由もギリギリ通じるが、そこまで懐疑的になる必要もないだろう。

スリーブレスの血染めの白シャツに、サイズのでかいだぼだぼのズボン。
首には同じく赤く染まったタオルが巻かれ、手には麦わら帽子が握られていた。
その血に塗れていること以外に関しては、牧歌的な服装でこそあれ、その風体はまるで似つかわしくない。
目まで垂れた男にしては長い金髪に、爽やかな顔。
牧歌的とはまるでかけ離れた今風な男の姿である。
僕は彼の名前を知っている。阿久根高貴くんだ。
箱庭学園現生徒会書記の、特別(スペシャル)――そしてプリンス、か。
彼に付けられるあだ名と言うのは生徒間でも多々あるが、しかしそれも過去の話だ。
今、彼に付けられる呼び名は唯一つ、『死人』、である。

894牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/16(日) 22:21:41

死んだ人間は、元に戻らない。
例外こそいるが――球磨川禊の様な埒外こそいるが、阿久根高貴にそんなスキルはない。

もしかすると後に球磨川禊が、阿久根高貴の蘇生を行ったのかもしれない。
それでも疑問は残る。
何故彼は、零崎軋識の服装をまとっているのか。
この服装は間違いなく、零崎軋識のものだ。今でも僕は、あの時の、本物の殺人鬼と邂逅した時のことは鮮明に覚えている。
圧倒的な実力差をもってして死ぬところだったのだ。忘れるわけがない。

まあ別に阿久根くんがそんな似合わない服装をしていることに疑問を抱いているわけでもなく、
『どうして死人の、それも血塗れである他人の服装をわざわざ着るような真似をしているのか』。
はっきりとは認識できなかったが、確かに阿久根くんの服装は、死ぬ間際斬られたこともあり血塗れだった(僕と同じ箱庭学園の制服だ)。
蘇生したとして、着替えたいという気持ちは分からなくもない。
けれど仮に球磨川禊が蘇生させたというのであれば、服装の傷や汚れを『なかったこと』にするのぐらい、容易いことだろう。
わざわざそんな血塗れの服を奪うことはない。
服装の傷や汚れをなかったことにできない事情があったにせよ、それでも他の施設をあたって工面すればいい話だ。

きっとこれは球磨川くんによる蘇生じゃない。
というよりも、蘇生と言うわけではないだろう。
蘇生であれば、こんな服装に関する違和感なんて生じないはずだ。
阿久根高貴くんは、特別だ――スペシャルだ。
ある意味では生徒会一の切れ者と言ってもいいだろう。
そんなヘマ、と言うよりも愚かな行為は絶対にしない。
必要もなく波風を立てる阿久根高貴くんではない
というのは実際に会った印象もあるにせよ、学校での評判や、先の詳細名簿からくるものだが。

ならばなんだ。
零崎軋識の服装を着ている理由はなんだ。
……僕はそれを知っている、と思う。
それらしい記述を、僕は『見た』覚えがある。
あれ――は。
確か。

「真庭、蝙蝠」

呟き、確かめる。
忍法・骨肉細工。
肉体変化のスキル。
真庭蝙蝠と言う参加者は、そんなスキルをもっていたはずだ。
だとすると――だとすると。
条件には、当てはまる。
彼が阿久根高貴と、零崎軋識に変態できるとするならば、この異様な組み合わせに、説明も付く。

「きゃは――」

阿久根くんの姿をした彼は。
そして。

「きゃはきゃはきゃはきゃは!!」

阿久根くんの声で、不愉快な甲高い哄笑をあげる。
ミスマッチ。
間違っても、阿久根くんならこんな声は出さないだろう。
こいつは、阿久根高貴じゃない。
今なら断定できるだろう。
こいつは――――。

「申し遅れたな。おれは真庭忍軍十二頭領が一人――真庭蝙蝠さまだ。おはようってところだぜ、宗像先輩」

真庭蝙蝠。
――真庭忍軍、か。
今の世になって、まさか忍者と遭遇するとは思っていなかった。
記述にも遭った通り、史実の忍者と言うよりは、週刊少年ジャンプにでも掲載されていそうな忍者なのだけれど。
まあそれでも忍者は忍者である。
油断ならないことこの上ない。

戦うつもりだろうか。
僕はこいつを払いのけることができるか。

895牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/16(日) 22:22:10


ぱんっぱんっ――――


と、興ざめ。
或いは救済の手拍子が鳴った。
蝙蝠の背後から手拍子は鳴る。
ソファーの裏に座っていたらしい。
まるで名探偵コナンのようなポジションにいるな、と考えていると『その子』は姿を現した。
そこには一人の子供がいる。
小学生ぐらいの背丈だが、それに似つかわしくないほどの意志の強さを、瞳の奥から感じ取れた。
そんな毅然とした小学生を、これまた僕は知っている。
供犠創貴。
『魔法使い』使い。
幸せの追求者。
小学生離れをした思考回路の持ち主である。
彼は僕から見て蝙蝠の右隣に座す。

にしても幸せの追求者、か……。
それは、僕――火憐さんの正義に通ずるものがある。
能動的か、受動的か――そんな差があるとはいえども。

「ふん」

ぱち、ぱち、ぱち。
一度鼻を鳴らし、供犠くんは手を打つ。
拍手、と見做していいんだろうか。

「すごいね、あんた。称えるに値するよ――宗像」

褒められて疑るていうのも何だか人が悪いようだ。
しかし僕の立場からしたら、今この場で褒められる、というのは甚く気持ち悪いものだった。
場違いにも程がある。
第一、どうして彼がここに。

「確かに阿久根高貴は死人――偽物だと断ずるには易いけれど、見事蝙蝠だと見破った」
「まあ阿久根高貴に変態してたのは、知り合いである宗像先輩への御心遣いっちゅーわけよ」

いらない気遣いだ。
余計なお世話も甚だしい、胸中で返しながら疑り深く供犠くんを見る。
――見たところ、懐に拳銃が仕舞いこんであるようだ。今、一度触った。
どういうつもりだ。
蝙蝠と同盟でも組んでいるのは別段構いはしないのだが、どうして今この場に現れた。

「暗器に加えその冷静な観察眼は実に有用だ。
 だがどうしてもその力を活かしきれてないんじゃないか――あんたならもっと凄いことが出来る」

回りくどく供犠くんは褒めたたえる。
もどかしい。言いたいことがあるなら、早く告げて欲しい。
僕としては『真庭蝙蝠』のスタンスが分からない以上気を抜けない。
名簿の記述通りの人間だとしたら、彼を倒すべきだ。
彼は『悪』――なのだから。
僕の杓子定規の判定とはいえ、人に命乞いをさせるのを愉しむ人間を善人とは言い難い。
今だって阿久根くんに変態して、まるで彼の死を侮辱しているかのような態度を取っている。
声には出さないが、どうしてそんな非道な真似が出来るんだか。僕にはとうてい理解が出来ない。

ふと窓から外を見る。
太陽は沈み切り、恐らくは月は未だ顔をのぞかせていないのだろう。
夕闇が窓の外で映えていた。
そういえば真庭と言えば様刻くんたちは大丈夫だろうか。
景色を見る限り放送の時刻は過ぎているようだが――難なくやり過ごせただろうか。どうにも心配だ。

いや。
今は様刻くんたちを信じよう。
僕は今、もっと心配すべき人間が他に居る。

「……ん? どうかしたのか」

供犠くんが問う。
そこで僕は改めて部屋一面を見渡す。
味気ない蛍光灯――粗末な備品の数々――虚しく照るドリンクバー――奥へとつながる通路――階段。
いない。
もしかしたら奥で作業をしているのかもしれないが、見当たらない。
青が。蒼が。
玖渚友が、いない。

「玖渚友……ああ、奥に居るよ」

896牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/16(日) 22:23:24

良かった。
ひとまず胸をなでおろす。

「水倉りすか。知ってるだろ? 彼女と一緒に作業をしている」

水倉りすか。
『赤き時の魔女』、『魔法狩り』。
小学五年生。僕にはその意味合いは分からないが、属性『水』、種類『時間』、顕現『操作』の運命干渉系の魔法使い。
曰く時を操る魔法使いとのことだが――。
まあ、いい。とりあえずは彼を信じるとしよう。
断って奥を見に行くのも構わないが、……蝙蝠に隙を見せるわけにもいかないしな。
如何せん、なまじ情報を得ているが故に警戒せざるを得ない。
そんな僕の態度を見破っているのか、先ほどから蝙蝠は愉快そうに笑っている。

息を大きく吐く。
ひとまず、リセットだ。
視点を供犠くんと蝙蝠に戻そう。
今一度姿勢を正す。

「さて、話が逸れたがここでぼくから一つ提案がある」

左人差し指を伸ばし、僕の目を強く見つめる。
吸い込まれるような瞳に僕は一瞬意識を持っていかれた。
……油断ならない子だ。雲仙くんといい、最近の子供は発育が良いようだ。
そして供犠くんは提案を告げる。

「ぼくの奴隷になれよ、宗像形」

……、……。
言葉が詰まる。
なんだかよく分からないが、今日はよく勧誘される日だ。
零崎軋識や無桐伊織さんからは殺人鬼と。
阿良々木火憐さんからは正義そのものと。
狐面の男、西東天からも勧誘を受けたし。
今度は供犠創貴くんから奴隷の勧告か。
降ろした左腕で銃に触れ、供犠くんは言葉を重ねる。

「あんたがぼくたちを知っているように、ぼくたちもあんたのことは知っていた。
 にしても、どうやらぼくは人を過小評価してしまう悪癖でもあるのかな。
 ただ大量の武具を仕舞えるという点以外に魅力を感じなかったが、大したもんだよ」

底知れなさ。
剛毅とした立ち振る舞いは人間離れしているかのよう。
そういう意味では、あの『最悪』とは表裏一体の存在である。
隙があるようで、隙のない。
毅然としているようで、飄々として。
この底知れなさは、相手を試すようなこの奥深さは、おぞましいものがある。
僕は答えなければいけない。
――お断りだと、狐面に対してそうしたように。
僕にはしなくちゃいけないことがあるんだ、と。

「安請け合いするつもりはないが、言ってみろよ。場合によっては手伝うぜ」

……。
うん、そう言ってもらえるのはありがたいけれど。
これは僕が成すべきことであって、僕にしか成しえないものだ。
『正義そのもの』になるだなんて他人に手伝わせることじゃないしね。

「……」

供犠くんの表情は変わらない。
試すような瞳からは何も窺えない。
そんな時だった。

897牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/16(日) 22:23:55


「――きゃは」


蝙蝠が笑った。
だが阿久根高貴の声ではなかった。
僕はこの声もまた知っている。
これは――これは! ――――零崎軋識の!
供犠くんに引っ張られていた意識を蝙蝠に移す。


「面白い事をいう奴だ。――青髪のあいつを守れなかった奴がそうもぬけぬけと、よく言えるぜ。
 ――きゃはきゃは、あー愉快ったらありゃしねー。抱腹絶倒もいいところだ」


そう言って、蝙蝠は口に手を突っ込む。
明らかに顎が外れたようにしか見えないその光景を見ながら、僕は押し黙っていた。
無論のこと蝙蝠の奇怪な身体の仕組みに驚いて絶句している訳ではない。
彼の発した言葉に、僕は黙らざるを得なかった。

玖渚さんが死んだ――。
僕は無意識のうちにその言葉を反芻していた。
口からスラリと直刀を取り出した蝙蝠は、さも当たり前と言わんばかりに、返す。

「いやいや、当ったりめーだろーが。おれさまはしのびだぜ?」

明瞭で明白。
これ以上ないほどの模範回答だった。
しのびが無力な人間をむざむざと野放しするわけがない。
そっか……。玖渚さんは逃げれなかったのか。
僕は守れなかった。
反芻する。
玖渚さんが死んだ。
守れなかった。
正義。
正しく義しい。
僕は。
僕。
宗像形。
正義そのもの。
守れない。
何一つ。
火憐さん。
玖渚さん。
様刻くん。
伊織さん。
何一つ。何一つ。何一つ。
何一つ。何一つ。何一つ。
伊織さん。
様刻くん。
玖渚さん。
火憐さん。
何一つ。
守れない。
正義そのもの。
宗像形。
僕。
僕は。
正しく義しい。
正義。
守れなかった。
玖渚さんが死んだ。
巡る。――思考が巡る。

898牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/16(日) 22:24:09


























――――――――――――――――ああ。

899牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/16(日) 22:25:12
そうか。
そうだったんだ。

供犠くんが溜息を吐く。
そして――拳銃を懐から抜き出し僕をめがけて撃つ。
事前に行動が読めていたので、このぐらいだったら避けるに容易い。

――そっか。
呟き、自覚する。
供犠くんが僕を攻撃するってことは、つまりはそういうことだ。
僕の中で、灯る。
『炎』が音を立てて。

なんで僕は凶悪犯罪者と騙り、閉じこもっていた?
それは人を殺したくないから。
人を殺したくない理由は、それは悪くて悲しいことだから。
僕は知っている。
かつて僕が僕を『悪』とみなし、閉じこもっていたように。
殺人鬼は悪であることを、殺人者は悪であることを、殺人犯は悪であることも。
だとしたら伊織さんも軋識さんも人識くんも様刻くん、勿論僕も黒神さんも、当然きみも、裁かれてしかるべきだ。

簡単だったんだ。
殺して思わず救われてしまったから、勘違いをするところだった。
殺すのは、何がどうであろうとも――『悪』だ。
『悪』は救うのではない、『悪』は裁くべきである。

真庭蝙蝠、供犠創貴。彼らは玖渚友を殺した。
この事実が示すものは極めて単純。
炎がめらりと揺らぎ立つ。
心にともる焔が僕へ命ずる。
正義を執行しろ――正しくなくとも義しくなくとも真っ当しろ――。
僕は神になるつもりはない。
ただただ、悪を裁けばいい。

炎が、僕を焼く。
これまでの戯言に翻弄される僕を抹消するように。
言葉を紡ぐ。


だから殺す――――と。


甘さを捨て、あまつさえ格好良くもないけれど。
僕はどこまでも行こう。
火憐さんが目指した、『悪』のない世界へと。
マシュマロを溶かす様に燃え盛る。
僕の正義が、油を注いだように燃え盛る。

ごめんね火憐さん。
僕はきみのような『正義の味方』でありながらも同時に『神の味方』であるような生き方は出来ない。
僕はきみの言う通り――――――『正義そのもの』になる。
神を棄てることを、僕は選択する。

なるほど、玖渚さんはすべてお見通しだったということか。
――僕がこれほどまでに人を殺さなくちゃいけないと思ったのは、初めてだ。

「おいおい、殺すってことはあんたの言うところの『悪』なんだろ?」
「きゃはきゃは――正義のために悪に染まるってのは本末転倒じゃねーか?」

供犠創貴が呆れたように僕を見下し、
真庭蝙蝠が極めて楽しそうに、僕を見下した。
なんだっていい。
きみらがどう言おうとも関係ない。

これまで忘れていた、雲仙くんの言葉を借用する。
きみたちは畑に住まう害虫を駆除するのを悪いことだと言うのか?
特撮ヒーローが敵を爆死させるのを悪だと言うのか? ――誰もそんな非難を浴びせない――なぜか?
なぜならそれらは正しいことを目的とし、正義を掲げて執行するからだ。断言する。

僕は、清く、正しく、
めだかさんのようにいかなくとも、潤さんのようにいかなくとも、火憐さんのようにいかなくとも、胸を張って正義を執り行う。
正しければどんな行為も『悪』じゃない。
友達のために――正義のために戦う僕が、火憐さんや潤さんが正義だと認めた僕が、『悪』であるはずがない。


人殺しは悪いことだ。
だけど、悪を裁くことに罪はない。

900牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/16(日) 22:25:56


供犠くん知ってるかい?
僕は投げかける。
極めてよく聞く、この世の摂理を。

なにを、と彼が返したので、僕は直ぐ様答えを返す。
正義は必ず勝つんだよ、って。

初めてあった時の凛とした火憐さんの顔が脳裏をよぎる。
そうだね。
決して驕るわけではないけれど、――間違ってるこいつらなんかに、僕は負けない。


「知ってるよ、だからあんたが負けるんだ」


そんな僕をつまらなそうに、
供犠創貴が言葉を返した。だから殺す。
――僕の名前は宗像形。唯一つの十字に基づき、これより『正義』を、死刑執行する。



【1日目/夜/D-6 ネットカフェ】

【宗像形@めだかボックス】
[状態]身体的疲労(小) 、精神的疲労(中)、殺人衝動喪失?、左腕(肘から先)欠損、腹部に切り傷、各部に打撲と擦過傷(怪我はすべて処置済み)
[装備]千刀・ツルギ×536@刀語、スマートフォン@現実、ゴム紐@人間シリーズ
[道具]支給品一式×3(水一本消費)、薄刀・針@刀語、トランシーバー@現実、「包帯@現実、消毒用アルコール@現実(どちらも半分ほど消費済み)」(「」内は現地調達品です)
[思考]
基本:阿良々木火憐と共にあるため『正義そのもの』になる。
 0:『悪』を殺す。
 1:供犠創貴と真庭蝙蝠を殺す。
 2:伊織さんと様刻くんを殺す。
 3:『いーちゃん』を見つけて、判断する。
 4:黒神さんを殺す?
 5:殺し合いに関する裏の情報が欲しい。
[備考]
※生徒会視察以降から
※めだかボックス、「十三組の十三人」編と「生徒会戦挙」編のことを玖渚から聞いた限りで理解しました
※阿良々木暦の情報はあまり見ていないので「吸血鬼」の名を冠する『異常』持ちだと思っています
※無桐伊織を除いた零崎四人の詳細な情報を把握しています
※参加者全員の顔と名前などの簡単な情報は把握しています
※携帯電話のアドレス帳には櫃内様刻、玖渚友が登録されています
※第一回放送までの死亡者DVDを見ました。誰が誰にどうやって殺されたのかは把握しています

901牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/16(日) 22:27:01



   ★    ★


「あんたは大物になるよ」

そんなことをぼくに言った女がいる。
彼女の一言で、昔の愚かしいぼくは“更生”させられた。
この世のすべてを下らないと謗り、だからといって特別なにかを志している訳でもなかった、
それこそ下らない人間だった昔のぼくを更生した。

「あたしとあんたはいい親子になるよ」

彼女はぼくの母親になりたかったらしい。
今までの、そしてそれ以降の名義上の母とは違う、真の意味でぼくの母親になりたかった。
結局その言葉に意味がどれほどあったのかは定かでないが、
確かに――確かに『彼女』はぼくが今までで唯一『母』と呼んだ人間である。

『彼女』のことが頭をよぎる。
宗像形を見ていたら、ふと思い出した。
『彼女』の存在を。
『折口きずな』という母親の存在を。


宗像形は阿良々木火憐という女性の言葉で“更生”されたらしい。
立ち合わせたわけでもないし、聞き伝えであるため詳しいことはぼくも分からないが、
誰かの言葉を契機に“更生”した、という点において、ぼくと彼は極めて類似している。

宗像形は阿良々木火憐から『正義そのもの』と。
供犠創貴は折口きずなから『みんなを幸せにする人間』と。

そういった面では、比較的ぼくは彼に対して複雑な心境である。
加えぼくは目的に向かい邁進する人間は大好きだ。
支えて、援助して、使ってあげたくなる。
宗像形は聞いたところによると、『正義になりたい』とはっきりと目標に向かっているようだ。

好感が持てる。
普段だったら応援してやっても十分良かった。
けれど、今回ばかりは駄目だ。
それは彼女に対する謀叛となる。
曰く「余計なものは処分しておいていい」とのこと。
本来であれば彼女としては宗像形、彼をそのままコキ使うつもりだったらしいが……、
ぼくたちがネットカフェに訪れたことでおじゃんとなった。
まあ、むろんぼくの駒として宗像形を迎え入れるという選択もあったが、彼女は「それは無理だ」と返した。
実際あってみると、彼女の言い分はよくよく理解できる。
ぼくや彼女はともかく――蝙蝠やりすかは彼とは相容れないだろう。

蝙蝠だけならば、そろそろ向こうも裏切りを考えている頃合いだろうし、
ぼくも今後についてどうしようか悩んでいたところだから、別段困りはしない。
しかしりすかは別だ。りすかだけは手放すわけにはいかない。
ただでさえ――ただでさえツナギというぼくの愛すべき駒が死んで苛立っているのだ。
りすかさえも喪うわけにはいかない。

それでも――万が一に蝙蝠やりすかをも上回る逸材だって可能性だってある。
現実には叶わなかったにしろ、できるだけ多く彼女の情報を聞いておきたかった。
故にぼくは彼が起きるまで待っていた。
見計ろうと。
この行為は、ぼくがどこか心の奥底で、彼に対して感じたシンパシー故の温情だったんだろう。
甘いとは思う、思うが――どうしても重ねてしまう。

結果的には蝙蝠の嘘の所為でご破算になったが、ある意味では助かったとも言える。
これで和解の道はなくなった。
吹っ切れれる。

902牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/16(日) 22:27:24

ぼくは見方を変える。
宗像形は『ぼくの越えるべき壁』と。
あまりに在り方が似ているが故に。
同族嫌悪と言う言葉はある――あまりに似ているもの同士は相容れない。
そう思えば、ぼくは彼を容赦なく殺せる。
そうだね――、りすかと彼。どちらをとるかと言われたら天秤にかけるまでもなく、ぼくをりすかを選ぶ。

だからぼくは――表裏一体の存在、宗像形だって殺してみせる。

ぼくは、後悔なんて、しない。
後悔なんて、ありえない。
やり直すには、ぼくはあまりに手を汚しすぎた。
悔むことさえ偽善的に、独善的に成り下がる。
星空の下、りすかはそんなぼくを許してくれた――許してくれた、けれど。
血に染まったぼくの手が雪がれるわけではない。
今更遅い。
犠牲は犠牲。生贄は生贄。
踏み越えた者として、踏み越えた屍を、矜持を持って見下してやる。
だから必要となれば宗像形だって、ぼくは踏み越える。

この観察眼は、この頭脳は、この度胸は、この器用さは、ぼくの全ては――この世を幸せにするためにあるのだ。

――――ぼくは負けない。
こんなところで腐るつもりもない。
ぼくに似た存在を倒せないようでは、水倉神檎だって越えられない。
どころかぼくの目指すはその先だ。
水倉神檎だって過程の一つ。
向こうがどんな信念を持っていようとも、ぼくは負けない。
彼が己の『正義』のために闘うならば――ぼくは世の『幸福』のために。


【1日目/夜/D-6 ネットカフェ】

【供犠創貴@新本格魔法少女りすか】
[状態]健康
[装備]グロック@現実
[道具]支給品一式×3(名簿のみ2枚)、銃弾の予備多少、耳栓、書き掛けの紙×1枚、「診療所で見つけた物(0〜X)」、心渡@物語シリーズ、シャベル@現実、
   アンモニア一瓶@現実、携帯電話@現実、スーパーボール@めだかボックス、カスタネット@人間シリーズ、リコーダー@戯言シリーズ
[思考]
基本:みんなを幸せに。それを邪魔するなら容赦はしない
 0:宗像形を倒す。
 1:ランドセルランドで黒神めだか、羽川翼と合流する、べきか……?
 2:行橋未造を探す
 3:このゲームを壊せるような情報を探す
 4:蝙蝠の目的をどう利用して駒として使おうか
 5:掲示板の情報にどう対処すべきか
[備考]
 ※九州ツアー中、地球木霙撃破後、水倉鍵と会う前からの参戦です
 ※蝙蝠と同盟を組んでいます
 ※診療所でなにか拾ったのかは後続の書き手様方にお任せします(少なくとも包帯や傷薬の類は全て持ち出しました)
 ※主催者の中に水倉神檎、もしくはそれに準ずる力の持ち主がいるかもしれないという可能性を考えています
 ※王刀の効果について半信半疑です
 ※黒神めだかと詳しく情報交換しましたが蝙蝠や魔法については全て話していません
 ※掲示板のレスは一通り読みましたが映像についてはりすかのものしか確認していません
 ※心渡がりすかに対し効果があるかどうかは後続の書き手にお任せします
 ※携帯電話に戦場ヶ原ひたぎの番号が入っていますが、相手を羽川翼だと思っています
 ※黒神めだかが掲示板を未だに見ていない可能性に気づいていません

903牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/16(日) 22:28:24



   ★    ☆


到着。
玄関の死体に関しては何も言えないの。
もう、どうしようもなく死んでいるとしか、言えないの。

玄関からネットカフェ内に入ると、独り寝ていたの。
死んでるんじゃないみたい。
寝ている宗像さん(というのは後から知るの)を蝙蝠さんに見張らせ、
わたしとキズタカが奥の探索を始めたところに現れたのが――彼女・死線の蒼――玖渚友なの。
キズタカは拳銃を構える。
そこでクナギサさんは椅子を回し、こちらを向いたの。
その瞳は青く――蒼く――碧い。深い深い群青色。
まるでわたしと対を成すような青い少女だったの。

「きみは?」

キズタカが尋ねる。
わたしは何も言わない。
いつも通りなの。

「私? 私は玖渚友。きみのことは知ってるよ。『「魔法使い」使い』。後ろのあの子は『赤き時の魔女』、でしょう?」
「…………そうか。だったら話は早いね。ぼくの名前は供犠創貴。彼女の名前は水倉りすかだ」
「うん、知ってる。ランドセルランドで黒神めだかと合流するっていう手筈だったのも、私は知ってる」

キズタカもわたしとおんなじように押し黙る。
黙らざるを得ないっていう状況なのが今なの。
けれど引いているだけじゃ話は進まないのも、分かっているつもり。
キズタカが話し始める。

「そう、羽川翼さんと交流があるんですね」
「羽川翼……? ああ、うん。まあ交流はあるね。
 まあそんな話はいいんだよ。私がしたいのは、これからの話なんだからさ」
「……ご尤もで。じゃあ単刀直入に切り込むけどきみが掲示板の管理人、でいいのかな」
「ふうん、どうして?」
「いや、これといった理由はないよ。ただ情報をかき集める一環として『トリップ』の構造っていうのは知っているんだけど、
 『◆Dead/Blue/』なんて意味のとれる『トリップ』は滅多に作れない。
 偶然の産物と言われればそれまでだけど、きみの外見も合わさってあまりにこれは出来すぎている、と思わないのか?
 そんな都合のよさそうなトリップを瞬時に作成できるだなんて、地味だけど並大抵の人間にはできない。
 プログラムから隙にいじれる管理人だったら、あるいはそれぐらい容易なことじゃないかなって」

偶然と言うのはそれほど嫌いでもなかったが、先日大嫌いになったもんでね。と忌々しげに小声で呟く。
お兄ちゃんの『魔法』のせいかな。確かに、少なくても『今』のわたしとしてもあの魔法はおぞましいものなの。

「それに、管理人でもない人間がこんなところでネットを開いて何をしているのか、ぼくは逆に不思議に思う。
 確認してないけど、おそらく回線はロクに繋がらないだろう。これは試したけど警察だって呼べないし。
 『掲示板を作れるほどの技術』を有する人間でない限り、この場に限りはネットカフェにいる理由なんて取り立ててないだろう」
「うん――その通り。うーん、いーちゃんに分かればそれでいいって思ったけど、どうもあからさま過ぎたみたいだね。
 別に嘘をついてもしょうがないからばらすけど、私が管理人だよ」

思いのほかあっさり白状したことに、共々内心驚いたの。
キズタカの弁は確かにその通りなのかもしれないけれど、どれもこれといった決定的な論拠のない言葉。
返しようによってはどうにも覆せるのがキズタカの弁なの。

「だったら、どうしたいのかな? きみたちは」

そこでクナギサさんは切り込んできた。

「そうだね、知っている情報を吐いてもらう。さもないと撃つよ」
「私もまだ死にたくはないからね。別段それは構わない。
 ――ただ一つ。協定を契らない? きっときみたちにとっても有益になるだろうし」
「協定?」
「きみたちが口にした通り、『私がたくさんの情報を有している』からこそ接近してきたんだと思う。
 実際それは間違いじゃないし、私がきみたちに与えれる情報はきっといっぱいある」
「だから、それを無条件で教えろとぼくは言ったつもりだ」
「嫌だよって言ったらきみは私を殺すんだよね?」
「……そうだ」
「けどさあ、それってきみたちを不利にするってわからない?
 ――私を殺す姿は知っての通りビデオで撮られるんだよ?
 確かに参加者は残り半分以下――怪しまれても『優勝』するだけならあるいは可能かもしれないね」

904牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/16(日) 22:29:31

と。
クナギサさんに指を指されたのがわたしなの。
わたしを指さして、つまんなそうに続ける。

「それはりすかちゃんを殺すことに繋がるんだけどね。きみはそれでいいの?」
「――――」

キズタカは答えない。
わたしは何も思わない。

「あくまで主催者を打倒することを目的とするんならさ――。
 互いに平和的にいきたいと思わない? 思わないの? 『「魔法使い」使い』。
 それともきみには、周囲から孤立してもりすかちゃんと二人だけで主催者を打倒できる作戦でも練れているのかな?」

嫌味な言い方なの。
色合いも含めて仲良くできる気がしないの。

「……生憎ぼくには『誰』が『どうやって』死亡場面を映したDVDを添付しているのか、さっぱり分からない。
 今のところ有力な説はあんたが何処かから探り出して添付しているって説だ。
 つまりぼくはきみを殺せばそんな事態は起こり得ないって信じて疑わない。
 ――死にたくなければ、そのぐらいは教えておいた方がいいんじゃないのかな」
「自分の無知をそんな胸を張って言われても困るよ。ただまあ、その通りだね。――教えてあげる」

クナギサさんはそこで、図書館の役割なんかを話してくれたの。
確かに添付そのものはクナギサさんがやってたけれど、ビデオそのものは第三者が簡単に見れる。
真偽はともあれ、合理には叶っている話なの。
辻褄が合うのが第一回放送までの死者しか添付できない理由。
キズタカも同じように考えたみたい。

「できれば自分の目で確かめたいところだけど、一応信じるとするよ。
 それにそうだね。そのDVDを取りに行った人間がぼくたちの悪評を広めたら立ち回り辛い。
 なるほど――あんたの言い分はよく分かった。ただぼくからも一つ条件がある。とっても簡単なことだ」
「何かな?」
「あんたは情報をたくさんもっていると言った。無論一個の情報を出してネタ切れなんてわけがないだろう。
 だから協定の提案者として誠意を見せてほしいんだ――ぼくたちの知らない情報を一先ず一つでいい、教えてもらおう」
「……うーん」
「結局図書館にあるってことは、図書館で誰かがDVDを見つけなきゃいいって話だろう?
 確率的には決して高いわけではないんだ。『ビデオに撮られる=ぼくたちの悪評が出回る』でない以上、
 決してそれはぼくがあんたを殺してはならない理由には成りえないんだ」
「……この辺りが限界かな。いいよ一つ教えてあげる」

そう言って、クナギサさんはその細い指でパソコン本体のスイッチを入れる。
機械音がして――CDを入れるところが開いた。
その中に入っていたCDを――ハードディスクを――『ディスク』を!

「これはちょっとわけあって入手した――――」
「――――お父さんからの『ディスク』ッ!?」

……あ。
思わず叫んでしまったの。
思わず叫んでしまったのがわたしなの。
露骨に思わず分かり易くどうしようもなく叫んでしまったのがわたしなの。
隣でキズタカがやれやれ、呆れた表情で溜息をついて。
クナギサさんが――にんまりとした表情で。おぞましい表情で。

「――協定に則らない場合、データ消去して、これ真っ二つに折るから」


   ★    ☆


『デバイス』
一口に言ったらたくさんあるのがその言葉なんだけど、
この場合クナギサさんのもっていたハードディスクを指すの。
同時に、一致するのがわたしたちの探していた『ディスク』。
水倉神檎の残した『ディスク』。

分かれているのが、わたしは魔法的見解。
クナギサさんは科学的見解という『解析』の方法なの。
欲を言うなら、黒神真黒なる人が生きていたら楽だって聞いた。
けど、死んじゃった。
わたしが巻きこんだ――巻き込んだ。
影谷蛇之の戦いの時のように、多くの人間を巻き込んだのがわたしなのかもしれない。
ツナギ……さんも。
正直怖かったのが彼女だけど、それでも。それでも。
知り合いが死んだというのは辛いことなの。

905牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/16(日) 22:31:10
約束を守っているのがキズタカなの。
嘘を吐かないって。
わたしの気持ちを考える――って。
ツナギさんが死んだことをわたしが悲しんでいると慮って、わざわざネットカフェまで来てくれた。
キズタカはそれを言葉にしないけど、なんとなくわかる。
わたしの頭を撫でてくれたキズタカの手から、そんな思いが伝わったの。

だから、応えるべきなのが、わたし、水倉りすか。
キズタカの期待に応えたい。
わたしを必要としてくれたキズタカの気持ちに応えたい。
それに、お父さんが絡んでいるって言うのならば――なおさら。

「んー……。本当にこれ、水倉神檎の『ディスク』なの? 僕様ちゃんは未だに信じがたいんだけどなー」

クナギサさんが尋ねる。
ほんとう。と答える。
一人称が変わったのは蝙蝠さんに協定の話やら情報交換が済んでからなの。
詳細名簿やら――不知火やら。

「いやーうん。不知火袴が水倉神檎の影武者って言われれば、確かにそんな可能性はするんだよねー。
 『黒神』と『不知火』――『白縫』の対関係のように、『水倉』と『不知火』――『火を知らず』は関係性はありそう。
 勘ぐりすぎだと思うんだけど、判断するには難しいところだよ」

うんうん、と頷きを繰り返す。
ディスプレイから目を離すのがクナギサさんで、それを見つめるのがわたしなの。

「まあ僕様ちゃんは一度調べきったつもりでいたからね。
 元々新しい情報が見つかることに期待はしてなかったんだけど、その分だとあなたも同じようだね」

頷く。
『ちぃちゃん』が欲しいよ、とぼやいているの。
だれだろう。

「けどね、一つ分かったことは多分この『ディスク』一つで情報は『完結』してないみたい。
 改めて考えると、『不知火』の意味や『箱庭学園』の諸々を知ったところで、事態が好転するってわけでもないし。
 黙って見ていろとは言われたけれど、だからといって今回ばかりは静観してる場合じゃないよね。
 もっと違う――鍵となる『断片』は他にもきっとどこかに『落』とされてるよ」

まったく、『破片拾い(ピースメーカー)』の名は伊達じゃない、とか言ってみたいなあ。
と、どこかに向かって送られる期待の眼差し。……なんだか可哀相なの。

ここで転換するのは話題。

「それで、あなたは創貴ちゃんを助けに行くの?
 僕様ちゃんときみたちの協定はこう。
 1:創貴ちゃんたちが僕様ちゃんを殺さない、代わりに僕様ちゃんの持ってる情報のほとんどをあげる。
 2:ついでに僕様ちゃんをランドセルランドまで送って、『いーちゃん』に合わせてほしいこと。
 大雑把に言っちゃえばこんなもんだよね」

また頷く。
あれから結局立場対等に協定は組まれることになったの。

「だから、別に僕様ちゃんとしてはどっちが死のうが構わないわけ。
 形ちゃんが生き残ったらふつーにそのまま頼りにさせてもらうし、
 創貴ちゃんらが生き残ったら、協定通りにしてもらう。
 だけどさあ、起きたら困っちゃうことが一つあるんだよね。
 つまりは同士討ちってやつなんだけど、そうしたらいろいろと絶望的じゃん?」

また頷く。
加えて言うなら。
宗像形さんが起きる前に退散する案も無論あったの。
あったけれど――蝙蝠さんが断った。それにキズタカも同意した。
蝙蝠さんの理由は聞けなかったけど――キズタカは一度話がしてみたいって言ってたの。
ちなみに初めに宗像形を殺してもいいんじゃないのかって言いだしたのはクナギサさんなの。
『死ななくても支障はないとは言え――ぶっちゃけ形ちゃんを一人野放しにするぐらいなら殺した方がいいよ』って言ってた。
『殺人衝動がいつ爆発するか分からない代物を目の届かない場所に放置するのはよくない』って言ったのもクナギサさんなの

906牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/16(日) 22:32:20
「よーって僕様ちゃんは、どっちかに圧倒的に勝利して欲しいわけ。
 そーゆーわけでさっき創貴ちゃんには宗像くんの情報をたくさん与えたんだけど、
 蝙蝠ちゃんに関しては、僕様ちゃんも読めないんだよね。一応同盟は組んでるって言ってたけどいつまで持つか分からないし。
 場合によっては裏切られるって可能性もあるわけ。それぐらいだったらきみが舞台に立ってとっとと片付けたほうがいいんじゃないって」

その通りなの。
あの人の『暗器』にとって天敵なのが、わたしの『魔法』。
同じく蝙蝠さんの考えが読めないのがわたし。
だけど、キズタカは言ってくれた。
――お前の魔法は制限が課されている。下手に『殺されない』ほうがいい――って。
命じられたら、従わないわけにはいかない。
キズタカを信じるのがわたしの仕事だから。

だからわたしは。

「ん? 僕様ちゃんからもっと情報を引き出しとけって?
 ……うにー。信用されてないなあ僕様ちゃん。帰ってきたら教えてあげるのに。
 まあいいよ。じゃあ、創貴ちゃんと蝙蝠ちゃんと形ちゃんを信じて、水倉神檎の娘――私と一緒に考察しようか」

それがいいの。
それにキズタカがわたしを必要とするならわたしはそれが分かるから。


【1日目/夕方/D-6 ネットカフェ】
【玖渚友@戯言シリーズ】
[状態]身体的疲労(小)
[装備]携帯電話@現実
[道具]支給品一式、ハードディスク@不明、麻酔スプレー@戯言シリーズ、工具セット@現実、首輪、ランダム支給品(0〜5)
[思考]
基本:いーちゃんに害なす者は許さない。
 1:もう黒神めだかの悪評を広めなくても大丈夫かな?
 2:黒神めだかと『魔法使い』使いに繋がり?
[備考]
 ※『ネコソギラジカル』上巻からの参戦です
 ※箱庭学園の生徒に関する情報は入手しましたが、バトルロワイアルについての情報はまだ捜索途中です
 ※めだかボックス、「十三組の十三人」編と「生徒会戦挙」編のことを凡そ理解しました
 ※言った情報、聞いた情報の真偽(少なくとも吸血鬼、重し蟹、囲い火蜂については聞きました)、及びそれをどこまで理解したかは後続の書き手さんにお任せします
 ※掲示板のIDはkJMK0dyjが管理用PC、MIZPL6Zmが玖渚の支給品の携帯です
 ※携帯のアドレス帳には櫃内様刻、宗像形、無桐伊織、戦場ヶ原ひたぎ、戯言遣い(戯言遣いのみメールアドレス含む)が登録されています
 ※ハードディスクを解析して以下の情報を入手しました
  ・めだかボックス『不知火不知』編についての大まかな知識
  ・不知火袴の正体、および不知火の名字の意味
  ・主催側が時系列を超越する技術を持っている事実
 ※主催側に兎吊木垓輔、そして不知火袴が影武者を勤めている『黒幕』が存在する懸念を強めました
 ※ハードディスクの空き部分に必要な情報を記録してあります。どんな情報を入手したのかは後続の書き手様方にお任せします
 ※第一回放送までの死亡者DVDを見ました。内容は完全に記憶してあります
 ※参加者全員の詳細な情報を把握しています
 ※首輪に関する情報を一部ながら入手しました
 ※浮義待秋の首輪からおおよその構造を把握しました。真庭狂犬の首輪は外せてはいません
 ※櫃内様刻に零崎人識の電話番号以外に何を送信したのかは後続の書き手にお任せします


【水倉りすか@新本格魔法少女りすか】
[状態]零崎人識に対する恐怖
[装備]手錠@めだかボックス、無銘@戯言シリーズ
[道具]支給品一式
[思考]
基本:キズタカに従う
 1:クナギサさんと話す
[備考]
 ※九州ツアー中、蠅村召香撃破直後からの参戦です。
 ※治癒時間、移動時間の『省略』の魔法は1時間のインターバルが必要なようです(現在使用可能)
  なお、移動時間魔法を使用する場合は、その場所の光景を思い浮かべなければいけません
 ※大人りすかについての制限はこれ以降の書き手にお任せします

907牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/16(日) 22:32:45



   ■    ■



――――きゃは。
きゃは――――――きゃは―――。
斬りたい、この、刀で、人を、思い切り、ぶった切りたい。
おれさまが嘘をついた理由なんて簡単だ。
いつものような接待であり――――どうせ斬るなら、しょせんは餓鬼の供犠創貴じゃなく、腑抜けたスカスカの正義やろーでもなく、
おれに対して全力で歯向ってくる奴を倒した方が――――面白い。そんなおれの欲。

案の定キレやがったぜ。
それでいい。
それでこそ、『斬り甲斐』があるってもんよ。
今はまだ創貴の同盟には応じておこう。こいつを斬りてえ。

……きゃは。
刀の毒、ねえ。
子猫ちゃん。言い得て妙じゃねえか。
鉛の鈍器でも、まらかすっちゅー代物でもねえ……この刀で斬ってみてえ。


きゃは、きゃは――――きゃは。



【1日目/夜/D-6 ネットカフェ】

【真庭蝙蝠@刀語】
[状態]健康、零崎軋識に変身中
[装備]軋識の服全て、絶刀・鉋@刀語
[道具]支給品一式×2(片方名簿なし)、愚神礼賛@人間シリーズ、書き掛けの紙×1枚、ナース服@現実、諫早先輩のジャージ@めだかボックス、
   少女趣味@人間シリーズ、永劫鞭@刀語
[思考]
基本:生き残る
 0:宗像形を斬る
 1:創貴とりすかと行動、ランドセルランドへ向かう
 3:強者がいれば観察しておく
 4:完成形変体刀の他十一作を探す
 5:行橋未造も探す
 6:危なくならない限りは供犠の目的を手伝っておくがそろそろ裏切ってもいい頃かもしれない
 7:黒神めだかに興味
 8:鳳凰が記録辿りを……?
[備考]
 ※創貴と同盟を組んでいます
 ※現在、変形できるのはとがめ、零崎双識、供犠創貴、阿久根高貴、都城王土、零崎軋識、零崎人識、水倉りすか、元の姿です
 ※都城王土の『異常』を使えるかは後の書き手の方にお任せします
 ※放送で流れた死亡者の中に嘘がいるかも知れないと思っています
 ※鑢七実の危険性について知りましたが、嘘の可能性も考えています
 ※絶刀は呑み込んでいます
 ※供犠創貴に変態してもりすかの『省略』で移動することはできません。また、水倉りすかに変態しても魔法が使えない可能性が高いです
 ※宇練銀閣の死体を確認しましたが銀閣であることは知りません

908 ◆xR8DbSLW.w:2014/02/16(日) 22:34:50
仮投下終了です。
意見などあったらよろしくお願いします

909 ◆ARe2lZhvho:2014/02/16(日) 23:21:13
仮投下乙です
指摘としては、蝙蝠が玖渚と宗像に変態できるかどうか、
ハードディスクとCDドライブの混同?が気になりました
展開については個人的には問題はないのでそのまま投下しても大丈夫かと
感想はそのときに

910 ◆ARe2lZhvho:2014/05/29(木) 11:20:26
というわけで仮投下します

911解決(怪傑) ◆ARe2lZhvho:2014/05/29(木) 11:21:10
とある一室。
モニターもマイクもなく、ソファーとテーブルだけが置かれた簡素な部屋。
応接室と呼ぶには多少威厳が足りないその場所に『彼女』はいた。
ソファーの中央に腰掛け、何をするでもなく目を閉じたまま佇んでいる。
眠っていると呼称するには背筋がきちんとしすぎているし、考え事をしているというには彼女の醸し出す雰囲気に似付かなかった。
笑みを浮かべ、時折口元や眉が僅かに微動だにするが、それだけ。
どれくらいの時間そうしていただろうか。
不意にガチャリ、とドアノブを捻る音が響く。

「あひゃひゃ、こんなところにいたんですか。てっきりこのまま匂わすだけ匂わせといて登場しないものだと思ってたんですけどねえ、安心院さん?」

這入ってきた小柄な女は部屋の主となっていた女――安心院なじみに話しかける。
尊大な言葉を裏切らず、態度にも相手を敬うという姿勢は感じられない。

「正直気付かれずにいられるのもそろそろだと感じていたところだったし。ま、真っ先にここに来るのは君だと思ってたけどね、不知火ちゃん」

一方、それまでしていた行為を中断させられたはずなのに気にもとめず安心院なじみは表情を変えることなく目を開けると、女――不知火半袖に応えていた。
ぽきゅぽきゅと独特の擬音を鳴らして不知火半袖が対面に座るのを待つと続けて口を開く。

「君こそこんなとこにいていいのかい? 萩原ちゃんが用事があるんじゃなかったっけ」
「もちろん問題ありませんよ。というより、そこまで把握してるんなら説明するまでもないでしょう?」
「さあね。実は当てずっぽうの可能性だってないわけじゃないんだぜ?」
「当てずっぽうならもう少しぼかすでしょう。例えば、『西部の腐敗をほっといていいのかい?』とか」
「ああ、それはそうだ。僕としたことが迂闊だったかな」
「萩原さんの名前を出しておいて迂闊もなにもあったものじゃないでしょう」

あひゃひゃ、とこれまた独特の笑い声で返すと一拍置いたのち、向き直る。
御託はいい、本題に入ろうじゃないかと物語るように。
そして安心院なじみも逆らわない。

「お互い聞きたいこともあるだろうし、それじゃ、僕からでいいかい?」
「別にいいですけどせっかくですから公平性を出しましょうよ」
「『質問は交互にしよう』ってやつかい」
「さすが、理解が早くて助かります」
「言うまでもないとは思うけど正直に頼むよ」
「もちろんですよ。正喰に、ね」

お互い笑みを浮かべてはいたが、それは柔和とはほど遠かった。

912解決(怪傑) ◆ARe2lZhvho:2014/05/29(木) 11:22:36
「最初の質問は……そうだな、どこで僕の存在に気付いたんだい?」
「きっかけはハードディスクの中身、ですよ。今になって思えば決定的過ぎましたね。
 それと詳細名簿と死亡者DVDですか。私でも把握してないことはありますから誰かがやったと言われても納得はできなくもないですがやっぱり不自然でした。
 まあ確信したのは零崎双識の様子ですが。あれ、カメラには映ってませんでしたけど双識さんの様子を見れば何かがあったのかくらいは察しがつきます」
「やっぱり出しゃばりすぎちゃったかねえ。まあいいや、次は不知火ちゃんの番だよ」
「どうやって、は聞くまでもないことでしたね。どうしてわざわざこの世界に来たんですか?」
「ちょっとした寄り道の途中さ。僕もあちこちの世界を渡り歩いてきたがこんなに捻くれた世界を見たのは初めてだったものでね」
「捻くれた、ですか。そりゃまあ五つも世界繋がっちゃいましたしねえ。せっかくですしどんな世界を見てきたのか教えてくださいよ」
「別に大したもんじゃないさ。
 隕石が東京のど真ん中に落ちたけど運よく全住人が避難していて怪我人が一人で済んだはいいが、一緒に堕ちてきた宇宙人を巡っててんやわんやする世界とか、
 地球によって全世界の人口の三分の一が減少させられ、魔法少女や人造兵器たちと奮闘する無感情な英雄のいる世界だとか、
 不思議な街に住み、十七番目の妹が死ぬたびに映画を見に行き熊の少女と交流を深めることになる男がいる世界だとか、
 就職活動中のはずだった女性がなぜか探偵と共に殺人事件の解決に付き合わされることになった世界だとか、
 苗字は違えど同じ名前を持つ者達が奇妙な本読みに遭遇しては価値観の違いについて考える世界だとか、
 ああ、そうそう。デスノートとかスタンド使いのいる世界にも行ったねえ」
「最初二つがスケール大きすぎません? というか実在したんですか、デスノートとスタンド使い」
「僕は傍観に徹しただけさ。基本的には次の世界に渡るための踏み台でしかなかったから無用な干渉は避けたかったし。
 でも、結末を知っていたとはいえ実際に見ると滾るよ、ああいうやつは。さすが名シーンと言われるだけはあったね」
「それについては私も興味がないではないですが、今はやめておきますか。それじゃ、安心院さんの番ですので二つどうぞ」
「さっきのまで含めなくてもいいのに、律儀だねえ」
「質問は質問でしたから」
「ならお言葉に甘えるとするよ」

そう言ってしばしの間黙りこむと、ふむ、と一人で勝手にうなずいて再び口を開いた。
悪そうな笑みを浮かべたまま。

「じゃあ、行橋くんがいないのに都城くんにああ偽った理由、それと、不知火ちゃん、君は不知火ちゃん本人でいいのかな?」
「……………………」
「黙り込むなんて雄弁な不知火ちゃんにしては珍しいねえ? まさか理由を知らない、なんてわけがないだろう」
「……あひゃひゃ、本当に人が悪いですね。いや、この場合は人外が悪いというべきですか」
「なんなら洗いざらい話してしまってもいいんだぜ?」
「それはまだ早いのでご勘弁願いたいところですね。…………わかりました、わかりましたよ」
「やっぱり僕の想像通りなのかなあ」
「もったいぶらなくて結構ですって。ええ、その通りですよ。
 行橋未造なんて最初からここにいません。都城王土にはそういう理由をすり込んだだけです、その方が動かしやすいですからね。
 雪山や密室に閉じ込めて放置とかじゃ人質にすらなりませんし。万一何かあっては人質の意味がありません、マーダーと遭遇したら本末転倒もいいとこですよ」
「『ここ』に置いておくという手もなくはないと思ったけどね」
「やむにやまれぬ事情ってやつですよ。正直に言うなら必要性を感じなかった、というところですか。
 二つ目の質問は証明する手立てはありませんがこうやってあなたの目の前にいること、情報の精度からご本人と思ってくださいとしか言いようがないですね」
「『証明する手立てはありませんが』――ねえ。どこぞの人類最悪じゃないがよく言ったものだよ」
「そう言われましてもね――おっと、失礼」

会話を中断させたのは無機質な電子音だった。
不知火半袖は音源――携帯電話をポケットから取り出すと、対面に一応の許可を得て応答ボタンを押す。

「はいはーい、不知火ちゃんですよ。……終わった? それで現在位置は? ……なるほどねー。止められたのは元凶だけってこと?
 まあ仕方ないか。その場所がセーフならあっち側も大丈夫でしょ、一応。ご苦労様、策士さんには報告しとくからそのまま戻って」

簡潔に通話を終えるとポケットに電話をしまい、向き直った。

913解決(怪傑) ◆ARe2lZhvho:2014/05/29(木) 11:22:52
「お待たせしました。んじゃ私の番ですけど今の電話の内容説明しときます?」
「その必要はないんじゃないかな。要するに江迎ちゃんが最期に残した過負荷がこれ以上拡がらないようにしてきたんだろう? 不知火ちゃんが、直接」
「あひゃひゃ、余計なお世話でしたか。首輪やらデイパックやら、それに地面や外壁などを腐らせないようにしたのが仇になった感じみたいでしたね」
「僕に言わせればそもそもそうやって能力に制限をかけるってのがおかしいとは思うんだけど、ね」
「『大嘘憑き』でバンバン生き返らせられては破綻しちゃうじゃないですか。『完成』も然りですよ」
「それなら殺し合わせなければいい話じゃないのかい。これも少し視点を変えれば仮説が浮かび上がるんだけど」


「完全な人間は参加者四十五人の中にはいない――とかね」


「どうかな? 僕の想定は」
「……質問は私の番のはすですよ。…………その質問に対しては沈黙をもって判断してくださいな」
「質問したつもりじゃなかったんだけどねえ。ま、沈黙をもらえただけ僥倖ってことにしておこう」
「言ってくれるじゃないですか、久しぶりに会ってもそのふてぶてしさは相変わらずですねえ。じゃ、質問に戻らせてもらいますか。
 どうして『平等なだけの悪平等』のあなたがここではこんなに介入するんですか? 他の世界を『踏み台』と言ってのけた、あなたが」
「ここがイレギュラー中のイレギュラーってのもあるけど、別世界とはいえ友達が巻き込まれてるのにほっとけないだろう」

返ってきた質問の答えに、きょとんとした表情を浮かべ、不知火半袖はそれまでどのような質問を投げかけられたときよりも長く沈黙し、


「あっひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! あなたが!? 友達!? 聞き間違いじゃないですよね!? 一体全体実際問題何があったらそんな風になるんですか!
 封印が解けてる時点でおかしいとは思ってましたけど、あなたそんなキャラじゃなかったでしょう! 別世界だからキャラも別だなんてオチが待ってませんよね!?
 黒神めだか? 球磨川禊? それとも人吉善吉? あるいは彼ら全員? 更にそれ以外の生徒会の面々も含めて? 誰があなたをそこまで変えたんですか?
 というか正直誰でも構いませんけど、安心院さん、あなたそんなことする人だったんですか!? いやー、これはびっくりですよほんとにもう!
 無駄足踏んで無駄骨折ったとか今まで思っててごめんなさいね! それを聞いただけで来た甲斐ありましたよ! あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」


目尻に涙を浮かべ、腹を抱えてこれでもかと身を捩った。

「……いやはや、まさかここまでおもしろい反応を示してくれるとはね」
「からかったわけじゃないでしょうに。あー笑いすぎてお腹痛い」
「補足しておくと君も友達の範囲に入ってるんだぜ、不知火ちゃん」
「これ以上笑わせないでくださいよ。もっと話を聞きたいところですが時間が押してるのが残念で仕方がないですね。
 どうせ後々空き時間ができるでしょうしまた来ますよ。安心院さんも子猫の相手しなければいけないんでしょう?」
「なあんだ、知ってたのか」
「これでもリアルタイムで情報を把握できる身分にいるものでして」

ぴょこんとソファーから飛び降り不知火半袖は入ってきたドアへと向かう。
そのまま出ていくと思われたが、ドアが閉まる直前に顔を覗かせた。

「あ、そうそう。最後に一ついいですか?」
「言ってごらん。答えられるものなら答えてあげるさ」
「どうして真っ直ぐ帰らないんです? あなたならできないわけがないでしょうに」
「なあに、ちょっとした気まぐれだよ。土産話になるかもと思ってね」


※腐敗の拡大は止まりました。が、腐敗そのものはそのままなので範囲内に入れば『感染』します。

914 ◆ARe2lZhvho:2014/05/29(木) 11:25:05
仮投下終了です
破棄覚悟でかなり濁した部分、ラインギリギリ、場合によってはアウトな点も大いにあると思いますのでなんなりと言ってください

915 ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:09:27
とりあえず仮投下という形をとらせていただきます。
先んじて、結局二話構成になってしまったことを謝罪させてください。
まずは、先日投下しました玖渚友、零崎人識、無桐伊織、水倉りすか、櫃内様刻のパートから投下します。
修正点のみでなく、全編通して投下します。

916仮投下1  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:10:04



   ★    ★



 かつて、ぼくらはこどもだった



   ★    ★



 水倉りすか。
 彼女のなんたるかを改めて語るのは、些か時間の無駄と言えよう。
 語るにしては時間が経ちすぎた。彼女の性格は言うに及ばず。彼女の性能は語るに落ちる。
 いくら彼女が時をつかさどる『魔法少女』とはいえ、時間と労力を意味もなく浪費をするほどぼくは優しくない。
 それだけの時間があれば、ぼくはどれだけのことを考え得るか――どれだけの人間を幸せに出来るだろう。
 無駄というものはあまり好きではない。ぼくがりすかの『省略』を敬遠する理由でもあるのだが。
 だけど、仮に語るという行為に意味があるとするならば。必要があるとするならば。
 その程度の些事、喜んで請け負うことにしよう。


『のんきり・のんきり・まぐなあど ろいきすろいきすろい・きしがぁるきしがぁず』


 水倉りすか。
 ぼくが初めて会った魔法使い、『魔法使い』。
 外見特徴は、「赤」という一言に尽きるだろう。なだらかな波を打つ髪も、幼さに見合った丸い瞳も、飾る服装に至るまで。
 全身が、赤く、この上なく赤い。露出する肌色と、右手首に備わっている銀色の手錠以外は、本当に赤い。
 さながら血液のように。己の称号や魔法を誇らんとするばかりに。


『のんきり・のんきり・まぐなあど ろいきすろいきすろい・きしがぁるきしがぁず』


 水倉りすか。
 馬鹿みたいに赤色で己を飾るりすかであるが、その実力たるや馬鹿には出来ない。
 この年齢では珍しいらしい乙種魔法技能免許を取得済みという驚嘆に値する経歴の持ち主。
 ついこの間まで、ぼくと一緒に、とある目的の元、『魔法狩り』なる行為に勤しんでいた。
 結局のところ、その行為の多くに大した成果は得られなかったのだが、ここでは置いておこう。
 とある目的というのは――乙種を習得できるほどの魔法技能に関してもだが――彼女の父親が絡んでいる。
 彼女のバックボーンを語るにあたり、父親を語らないわけにはいくまい。
 『ニャルラトホテプ』を始めとする、現在六百六十五の称号を有する魔法使い、水倉神檎。
 高次元という言葉すら足りない、魔法使いのハイエンド。全能という言葉は、彼のために存在するのだろうと思わせるほどの存在、であるらしい。
 語らないわけにもいかない、とは言え、ぼくが彼について知っていることはそのぐらいのこと。一度話を戻す。


『まるさこる・まるさこり・かいきりな る・りおち・りおち・りそな・ろいと・ろいと・まいと・かなぐいる――』


 水倉りすか。
 彼女の魔法は『属性(パターン)』を『水』、『種類(カテゴリ)』を『時間』とする。
 父親から受け継いだ『赤き時の魔女』という称号が、彼女の魔法形式を端的に表していると言えよう。
 平たく言えば、時間操作を行使する『魔法使い』だ。
 これだけ聞くと、使い勝手もよさげで、全能ならぬ万能な魔法に思えるだろうが、その実そうではない。
 『現在』のりすかでは、その魔法の全てを使いこなすことはできない。時間操作の対象が、自分の内にしか原則向かない。
 加え、日常的にやれることと言えば『省略』ぐらい……いや、『過去への跳躍』も可能になったのか。
 それでも、いまいち使い勝手が悪いのには変わりがない。
 有能さ、優秀さにおいては右に出るもののない、ツナギの『変態』を比較対象に挙げずとも、だ。
 使い勝手が悪いならな悪いで、悪いなりに使えばいいので、その点を深く責めることはしないけれども。


『かがかき・きかがか にゃもま・にゃもなぎ どいかいく・どいかいく・まいるず・まいるず にゃもむ・にゃもめ――』


 水倉りすか。
 彼女の魔法は確かに使い勝手が悪い。とはいえ、一元的な見方で判断する訳にはいかない。
 彼女が乙種を取得できるまでの『魔法使い』である要因の一つ――父親によってりすかの血液に織り込まれた『魔法式』、
 軽く血を流せば、それで魔法を唱えることができる。大抵の魔法使いが『呪文』の『詠唱』を必要とする中、りすかは多くの場合それを省略できる。
 そして何より。
 その『魔法式』によって編まれた、常識外れの『魔法陣』。
 致死量と思しき出血をした時発現する、りすかの切り札にして、もはや代名詞的な『魔法』。
 およそ『十七年』の時間を『省略』して、『現在』のりすかから『大人』のりすかへ『変身』する、ジョーカーカード。
 これを挙げなければ、りすかの全てを語ったとは言えないだろう――。
 そう、りすかの『変身』について、正しくぼくらは理解する必要があった。



『――――にゃるら!』

917仮投下1  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:10:38




    ★    ★



「…………キズタカ?」

 仰向け、いや、最早この状態を仰向けと呼べるのかも定かではないほど破壊された遺体を前に、水倉りすかは動けなかった。
 きっとそれは動けなかったでもあり、同時に動きたくなかった、とも言えるだろう。

「……………………」

 鼓膜を破らんと耳をつんざいた爆音からどれだけ経ったのか。
 焼き付いた脂の匂いを感知してからどれだけ経ったのか。
 意味もなく面影のなくなった相方の名前を呟いては、どこか視線を遠くに向ける。
 
「……………………」

 りすかも愚かではない。
 否、訂正しよう。愚かと言えば間違いなくりすかは愚かであったけれど、馬鹿ではなかった。
 何が起こったのか、何が起きてしまったのか、どうしようもない現実をとうに把握できている。

「……………………」

 推測するまでもない。零崎人識がいつの間にか設置していたブービー・トラップにまんまと引っ掛かった。
 言葉にしてみればそれだけの話であり、それまでの話である。

「……………………」

 しかしながら、現実を理解できているからと言って、認識できているからと言って。
 解りたくもなければ、認めなくもない。本当に、本当に本当に、あの不敵で、頼もしい供犠創貴という人間は終わってしまったのか?

「……………………」

 傲慢で強情で手前勝手で自己中心的で、我儘で冷血漢で唯我独尊で徹底的で、
 とにかく直接的で短絡的で、意味がないほど前向きで、容赦なく躊躇なくどこまでも勝利至上主義で、
 傍若無人で自分さえ良ければそれでよくて、卑怯で姑息で狡猾で最悪の性格の、あの供犠創貴が、たかだか、『この程度』のことで?

「……………………」

 おもむろに死体から離れ、扉付近にまで歩み寄る。
 そこには拳銃が落ちていた。つい先ほどまで創貴の所持していたグロックを拾い上げる。
 仄かに人肌の温もりが残る冷徹なグリップを握りしめ、銃口をこめかみの辺りに向けると。

「……………………」


 丁度その時、第四回放送が辺り一帯へと響き渡り――。


『供犠創貴』


 その名も呼ばれた。
 かれこれ一年以上も死線を供にした、己が王であり我が主であったかけがえのない名前が。
 何の感慨もなく、ただ事実は事実だと言わんばかりの義務的な報知として流れる。
 続けて幾つかの名前が呼ばれたが、りすかの耳には届いていなかった。
 こめかみに添えた銃口がプルプルと震える。


「――――――――」


 震える銃口は彼女の意思を代弁するかのように小刻みながらに強い主張を放つ。
 


「――――――――」



 さもありなん。




「ふ――――っっっざっけるなっ!」

918仮投下1  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:11:03




 水倉りすかはどうしようもないほどに、怒りに身を焦がしていたのだから。


「キズタカ!」

 手にしていた懐中電灯を叩き落とす。
 衝撃で電池でも外れたのか、懐中電灯の光さえも消え、周辺が暗澹たる色合いに染まる。
 本来怖くてしょうがないはずの暗闇の中、浮かび上がる赤色はヒステリーを起こしたかのように、喚く。


「キズタカ! キズタカはみんなを幸せにするんじゃなかったのか!
 そんな自己犠牲で自己満足で、わたしが――わたしが幸せになるとでも思ったのか!」


 身を挺して供犠創貴は水倉りすかを庇うように死んだけれど、りすかからしてみれば甚だ不本意だ。
 コンマ単位での判断だったから仕方がない?
 あの爆発ではりすかの血さえも蒸発し、およそ『変身』なんて出来ないだろうから仕方がない?
 ふざけるな。『駒』はそこまで『主』を見くびっちゃいない。『そんなこと』さえもどうにかするのが『主』たる供犠創貴なのだから。


「許さない、許さないよ、キズタカ。わたしを惨めに死ぬ理由なんかに利用して許せるわけがないっ!」


 この場合、誰かが見くびったと言うのなら、創貴がりすかの忠烈さを見くびっていたのだろう。
 何故庇った。庇われなければならないほど、りすかは創貴に甘えたつもりなんて、ない。


「命もかけずに戦っているつもりなんてない。その程度のものもかけずに――戦いに臨むほど、わたしは幼くなんてないの。
 命がけじゃなければ、戦いじゃない。守りながら戦おうだなんて――そんなのは滑稽千万なの」


 創貴が命じてさえいれば、例え『魔法』が使えなかったところで、この身を賭すだけの覚悟はあった。
 命令を下さなかった、そのこと自体を責めているのではない。りすかが自主的に犠牲になればよかっただけなのだから、そうじゃない。
 りすかを庇ってまでその命を無駄にした、まったく考えられない彼の愚行を、彼女は許せない。


「逃げたのか、キズタカ! 臆したのか、キズタカ!? 笑わせないでほしいのが、わたしなの!」


 正直、『このまま』では先が見えないのはりすかからも分かっていた。
 きっとりすかには及びもつかない筋道を幾つも考え巡らせていたことだろう。
 それらすべてを放棄して、創貴は死ぬことを選び取ったのだ。
 これを現実から逃げたと言わずなんという。
 これを臆病者と言わずなんという!


「自分だけが幸せに逝きやがって。そんなキズタカを――わたしは許さない」


 語気を荒らげたこれまでとは一転。
 極めて静かな口調でそう告ぐと、震えていた銃口をしっかりと定めて。



「だから、キズタカはわたしに謝らなきゃいけない。わたしの覚悟を見くびらないでほしいの」



 思い切り、引き金を引いた。
 今のりすかには『自殺』なんていうものは、恐怖の対象とすらならない。

919仮投下1  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:11:26



   ★    ★


 思えば、『死亡者ビデオ』に映っていた『彼女』――そして、つい先ほど零崎人識と対峙した『彼女』は一体全体、誰だったのだろう。
 勿論個体名は『水倉りすか』という『魔法使い』なのだろうが、しかし、どう行った経路を辿ったりすかなのか、判然としない。
 これまでだって、どういった経緯を辿れば今のりすかから、あのような攻撃的かつ刺激的な大人へと至るのか甚だ疑問ではあるけれど。
 今回の場合は、殊更事情を異にしている。

 先に述べられていた通り、玖渚友らが目を通した『名簿』からも分かるように、あくまでりすかの『魔法』は『省略』による『変身』だ。
 真庭蝙蝠のような『変態』とは一線を画する。『十七年』の時間を刳り貫いて、『大人』へと『変身』する。
 『十七年後』、りすかが存命しているという事実さえあれば、りすかはその『過程』を『省略』することが可能なのだ。
 逆に言えば、『十七年後』までにりすかは絶対的に死ぬ、ということが確定しているのであれば、この『魔法』はそもそも使うことさえ叶わない。
 例えば、不治の病を患ったとして、その病気で余命三年と確定したならば、出血しても『変身』できない。
 例えば、『魔法』によりとある一室に閉じ込められてしまえば、りすかは『変身』できない。
 極論、『属性(パターン)』は『獣』、『種類(カテゴリ)』は『知覚』、
 『未来視』をもつ『魔法使い』に近年中には死ぬと宣告されたら、きっとそれだけでりすかは希少なだけの『魔法使い』に陥る。
 
 平時において、その条件はまるで意識しなくてもいい前提だ。
 りすかは病気を患ってもいないし、そのような『占い師』のような人種とも関わりがない。
 どれだけピンチであろうとも、『赤き時の魔女』は思い描くことができる。
 ――立ちふさがる敵々を創貴と打破していく姿は、いとも簡単に、頭に思い浮かべることができた。
 しかし今回の場合は事情が異なる。ここは『バトルロワイアル』、たった一人しか生還できない空間なのだ。
 最初の不知火袴の演説の時より、りすかも把握している。

 ならば。
 ならば――あの『大人』になったりすかは、創貴を切り捨て、優勝した未来と言えるのだろうか。
 ならば――あの『大人』になったりすかは、創貴と助け合い、この島から脱出した未来と言えるのだろうか。

 水倉りすか。
 この島に招かれてからの彼女の基本方針は一律して主体性が窺えなかった。
 さもありなん。彼女自身どうしていいのか分からなかっただろう。
 零崎曲識と遭遇するまでは、己が『変身』出来るのかさえも不明瞭だったからだ。
 創貴がりすかを徹底的に駒として扱い、優勝するために切り捨てることも想像しなかった、と言えばそれは嘘である。
 仮にそうでなくとも、『脱出』する具体的な手筈も見当たらず、かといって創貴を殺して優勝するような結末も想像できないでいた。

 『魔法』とは精神に左右される側面が強い。
 『十七年後』までりすかが存命しているという事実をりすかがはっきりと認識できなければ、魔法が不完全な形と相成るのも頷ける。
 りすかが鳴らした、「一回目に『変身』した時からだったんだけど、より違和感があったのが、さっきの『変身』」という警句も、
 『制限』という意味合いだけではなく、りすかの精神に左右された面も大きいだろう。彼女たちの『魔法』とは、とどのつまり『イメージ』の具象なのだから。

 玖渚友という『異常(アブノーマル)』を見て、それでも首輪を解除できない現状を踏まえ、創貴と脱出する『未来』がより不鮮明になった。
 無自覚的ながらもこれは、りすかにとってかなりの衝撃を与えたことだろう。
 『未来』は物語が進むにつれ想像が困難になっていく。だからこそ、『魔法』も違和感を残してしまう。


 翻して。
 なれば今。
 供犠創貴が死して、もはや『脱出』という形に拘らなくてもよくなった今。
 そして、次なる目的がもっと明瞭に、明確に、あからさまに明示されている今、りすかの想起する未来はもはや揺るがない。
 彼女に示された道は、一つである。
 その時、彼女の『魔法』はどうなるのだろう。

920仮投下1  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:12:21


   ★    ★



 ソファへと座り込んだまだら髪の男は、放送を聞くと意味もなく息をつく。
 やはりそこに転がっている金髪の死骸は『真庭鳳凰』であり、重畳なことに『供犠創貴』も爆殺――おそらくは爆殺だろう――ができた。
 しかし、零崎人識の顔色は優れない。水倉りすかの『魔法』による影響も少なかれあるだろうが、
 それ以上に、これから起こるであろう展開が憂鬱で仕方がないといった調子である。

「しーちゃんはいつまでそんな顔してるのさ。舞ちゃんたちはもう来るんじゃない?」
「……ふう」

 群青の小言にも息を零すばかりだ。
 脱力し、一層とソファに背を預けると、天井を見つめる。
 血の匂いが充満していた。鼻をひくつかせる。
 勿論真庭鳳凰の血潮が満ちている今とは、その臭いの濃度は全く異なっていただろうが、
 無桐伊織はこんな血の満ちた薬局に閉じこもっていたらしい。そう思うと、同行していた櫃内様刻の豪運さも甚だと言ったところか。
 直前に西条玉藻を屠ることである種のストレスを解消していたこと、それが功を奏していたのだろう。
 両足が骨折したいたことも要因の一つではあろうが、いざとなればそのぐらいの些事など彼女は意に介さない。
 逆立ちしたって対象を殺しにかかるに決まっている。そのことは最初の出会い、彼女の手首が切断されていた場面を思い返せば容易に想像ついた。

「やれやれ」

 言葉を零す。
 哀川潤も死に、次いで懸念していた黒神めだかもどこぞの馬の骨に殺されたらしい。
 だから彼を悩ませるのは、『妹』である無桐伊織に他ならない。
 あの叱責のような数々も『戯言』と済ませられたらどれだけよかったか。
 頭を抱える要素は諸々と挙げられるけれど、ひとまず開き直るとして目先の問題を投げかける。

「実際、両足骨折したままでこの先やってけると思うか?
 いっそのこと切断しちまえば俺もやりやすいが、しかしそんな達磨じゃあ生き残れねえだろ」

 似たような経験なら以前にもしている。
 綺麗に両足を切断さえできれば、処置するのも難しくない。
 ただし、そのあとの世話まで見切れるかというと厳しい面は否めなかった。
 真庭蝙蝠、鑢七実、球磨川禊、加え主催陣の数々。ぱっと思い浮かぶ限りでも、障害はそれだけいるというのに。
 玖渚友は携帯電話から目を離し、虚脱したままの人識に目を向ける。

「ふぃーん? 見てみないことには視診することもできないけど、話を聞く限りどの道歩くのは厳しそうだよね。
 生還した後、あの義足作った人に頼めるのなら切り落としちゃってもいいとは思うけど。……でもたかだか骨折なんでしょ?」
「ま、そうなんだけどよ。変に後遺症残されちゃあどうにもな。結構骨折って動かすと痛(いて)ーし」

 骨折できるだけありがてー話なんだけどな。
 と、義足の話から連想してか、武器職人の『拷問』のことを回顧しつつ呟く。
 あの時は社会的な面からあの時は曲識、そして『呪い名』に頼らざるを得なくなったが、今にしたってその状況は大差ない。

「曲識のにーちゃんまで死んじまった以上、俺の人脈は完全に断たれたといってもいい。
 それこそおめー、『玖渚』なんだろ? 手数料ってことでちったぁ面倒見てくれよ」

 『壱外』、『弐栞』、『参榊』、『肆屍』、『伍砦』、『陸枷』、シチの名を飛ばして『捌限』。
 西日本のあちこちを陣取る組織を束ねる、怪物のようなコミュニティの、その頂点、『玖渚機関』。
 大抵のことならば、『玖渚機関』の手にかかればどうとにでもなる。『四神一鏡』に比べれば劣るが財政力も尋常ではない。
 玖渚友も(復縁可能となったとはいえ形式上は)部外者ではあるものの、『機関』の方に少なくない影響を与えることはできる。
 人識にしてみればそこらの裏事情を知るべくもないけれど、『玖渚』と聞いて『玖渚機関』に思い至るのは自然なことだった。

921仮投下1  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:12:54

「んー」

 友は人差し指を唇に付け、何か思案するような様相を見せる。
 『玖渚』にとって――というよりも、『表の世界』、『政治力の世界』、『財政力の世界』の住人にとって、
 『零崎』を含む『暴力の世界』の住人との接触は極力忌避すべき事態だ。かつての友をして「怖い」と言わしめる住人たちである。
 本来であれば、人識、それに伊織とも深い関わりを持つべきではなかった。

「助けてもらってるのも事実だしね。なんとなったらなんとかしてあげる」

 その点「部外者」という位置づけは融通が利くのか、友はあっさりと二人ともを受け入れている。
 『殺人鬼』の申し出も殊の外すんなりと承諾し、協力関係を維持することを選んだ。
 これまで色々と綱渡りをして生きてきた彼女であるが、今度は人識を当面の便りとするらしい。
 暗黙の内に相互の利害関係を一致させると、人識は力なく笑う。

「かはは、しかしよ。手筈は整ってるのか? 一人だけじゃなくて全員脱出できるようなやり方は」

 じゃなきゃ、どんな約束も意味がない。
 暗に告げる人識の物言いも、友は迷うことなく答えた。

「どうだろうね? 首輪に関しては一回理論から実践へと持ち込みたいところだけれど」

 拍子抜けな答えだ。
 思わずソファからずっこける人識を他所に、青色サヴァンは至って変わらぬ調子で言葉を続ける。
 手には、いつの間にか何時間前まで解析していた首輪が握られていた。
 解析が進んでいる様子には見えない。
 されど、不敵な形相を浮かべたまま。

「でもさ、そんなこと関係がないんだよ」
「どういうこった?」
「私が何をしようがしまいが、あの博士(ぼんさい)たちがどれだけ策に策を重ね、奇策を弄そうと、
 そんなの関係なく、向うの陣営は遠からず自壊するよ。間違いなく」
「首輪を外せもしねーのに、何の根拠があるんだよ」

 呆れの入り混じる人識にも意を介さず。
 疑念や不安など一切抱いていない、混じり気のない様子で、問い返す。

「だって、この私を、なによりいーちゃんを巻き込んだんだよ?」
「……なるほど、それは違いねえ」

 無為式。
 なるようにならない最悪。
 イフナッシングイズバッド。
 限りない『弱さ』ゆえに、周囲の人間をことごとく破滅させる体質。
 この場合において、これ以上なく説得力の伴う証左であった。
 人間失格は息を漏らし首を振ると、意識を切り替える。

「じゃあとりわけ、まずは伊織ちゃんをどうにかしねえとなあ」

 首輪が現状どうにもならないのなら、どうにもならないまま、これからをどうにかしなければならない。
 出来ないことに頭を悩ませるぐらいなら、『家族』のこれからのことで頭をひねるほうが幾分かマシだ。
 視線を落とし、リノリウムの床に目を遣る。漫然と床を見つめながら、漠然と思考を走らせていると。

「……………………」
 
 青色から熱烈な視線を注がれていることに気づく。
 なんだ、と言わんばかりに睨みを利かせながらもう一度視線を向けると、ぽつねんとした声色で、零す。

922仮投下1  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:13:14

「しーちゃんは、変わっちゃったの?」
「あ?」

 玖渚友の要領の得ない物言い。
 判然としない言い分に不快を露わにしながら人識は窺う。
 対する友は而して態度を改めることもなく、静かに続けた。
 懐かしむようにして、慈しむようにして、かの戯言遣いに想いを馳せながら、続ける。


「いーちゃんはね、変わらない」


 砂場で出逢ったあの時から。


「いーちゃんは本当に変わらない」


 六年前のあの時から。


「いーちゃんは変われないんだよ、ずっと、永遠にね」


 四月の鴉の濡れ場島の時も、五月の通り魔事件の時も――今に至るまで、未来永劫、『彼』と友は何も変わらない。
 はずだった。
 友は問う。


「しーちゃんはさ、変わっちゃうの」


 そういえば。
 クラッシュクラシックで戯言遣いと会話をしたのはいつのことだったか。
 あの時人識は戯言遣いの言葉を盛大に笑い飛ばしたが、あれは、もしかすると、彼なりの『変化』ではなかったか。
 らしくもない笑い種というのであれば、先の『兄』の叱咤と何が違うというのだろう。
 欠陥製品は変わった。
 鏡映しである人間失格もまた、変わったと言えるのか。
 

「さあな、傍から見てそう見えるんならそうなのかもな」


 自らの頬を撫でる。
 トレードマークの上から刻まれた傷口をなぞった。
 『妹』のために受けた傷。己の象徴を汚してまで守り抜いた絆。
 実に分かりやすい、理解に容易い存在になってしまった。『家族』のために、だなんて。
 顔面刺青の言葉を受けると、友は興味深そうに頷いて。

「ふぅーん。なら、いーちゃんが『ああ』なっちゃうのも、然るべきことなのかもね」

 あの戯言遣いが変わろうとしている。
 兆候はバトルロワイアルに招かれる前から、確認していた。
 「すっげえ嬉しい」って喜んでくれた、喜んでしまった戯言遣いを、玖渚友は見てしまった。
 なればこそ、友は解き放たなければならない。
 戯言遣いを己が束縛から。
 すべてがどうにもならなくなるけれど、『彼』の人生は回りだせるというのなら。
 

「僕様ちゃんも言わなきゃいけないよね。いーちゃんが歩き始めるってんなら。ちゃんと」


 人識からしたら、なんのことだかさっぱり分からない。
 『死線の蒼(デッドブルー)』と戯言遣い――欠陥製品の間にのっぴきならない事情があることだけが推測立つ。
 晴れやかに笑う、やけに既視感を覚える、つい最近見たばかりなような気もする玖渚友の笑顔を認めると。


「傑作だぜ」


 静かに呟いた。
 そして時間が『進む』。




「――――っはっはっはっは! それっぽいフラグは立て終えたか! 駄人間どもッ!!」




 進む――進む。進む。
 めまぐるしい早さで、赤く、『進む』。

923仮投下1  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:13:41



   ★    ★



 そもそも、『制限』とは何か。
 何故、『十七年後』の水倉りすかに未だそんな『制限』が纏わりついているのだろう。
 彼女が『魔法陣』を使ってなお、首輪をつけている影響か。
 否、首輪に原因があるのならばところ変わって球磨川禊の『大嘘憑き』あたりの制限もなくなって然るべきである。

 しかしながら、事実として『十七年後』のりすかは『制限』の縄に囚われたままであった。
 『制限』が解呪されているのであれば、かつて廃病院でツナギを相手取った時にしたような、『魔力回復』もできたはずである。
 『現在』の水倉りすかと、『十七年後』の水倉りすかは同人でありながらも、同時に、別人であるにも関わらず、『変身』した赤色もまた力を抑制されていた。
 前提に基づいて考えるならば、水倉りすかは今後十七年間、制限という呪いに蝕まれ続けることとなる、という見解が妥当なところだ。

 では、どのような場合においてそのような事態に陥ることが想定されるだろうか。 
 一つに、主だった支障もなくこの『会場』から脱出した場合。
 一つに、優勝、それに準ずる『勝利』を収めたとしても、主催陣営が『制限』を解かなかった場合。
 この二つが、およそ誰にでも考えられるケースであろう。
 詳らかに考察するならば、もう少しばかり数を挙げられるだろうが、必要がないので割愛とする。

 前者においては、確かに揺るぎようのない。
 どのように『制限』をかけられたか不明瞭なため、自ら解法を導き出すのは困難だ。
 日に当ててたら氷が解けるように、時間経過とともに解呪されるような『制限』でもない限り、解放されるのは難しい。
 そして、十年以上の月日をかけても解けないようじゃあ、その可能性も望みは薄い。

 だが、後者においてはどうだろう。

 不知火袴の言葉を借りるのであれば――『これ』は『実験』だ。
 闇雲に肉体的及び精神的苦痛を与えたいがための『殺し合い』ではないことは推察できる。
 『実験』が終了し次第、『優勝者』を解放するのが、希望的観測を交えるとはいえ考えられる筋だ。
 むしろ、主催者たちである彼らが、最終的に『完全な人間』を創造するのが目的である以上、最終的に『制限』などというのは邪魔になるのではないだろうか。
 彼らが『完全な人間』を何を以てして指すのか寡聞にしていよいよ分からなかったが、如何せんちぐはぐとした感は否めない。

 彼らの言葉を素直に受け止めるのであれば、『優勝』した場合、『制限』は排除されるのではなかろうか。

 具体的な物証がない以上、憶測の域を出ない。
 あるいは、玖渚友ならば何かしらの情報を得ていたのだろうが、初めから決裂していた以上望むべくもなかろう。
 あくまで憶測による可能性の一つでしかないのだ。



 ――――十分だ。
 『可能性がある』というだけでも、十全だ。
 可能性があるのであれば、その『可能性の未来』を手繰り寄せるのは、他ならぬ水倉りすかの仕事なのだから。


 りすかが『優勝』することを確と目標にしたその時。
 『制限』のない、全力の『十七年後』の水倉りすかに『変身』するのは、不可能なことじゃあ、ない!
 出来ないとは言わせない。
 供犠創貴は、唯一持て余している『駒』を、見くびっちゃあ、いなかった。

924仮投下1  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:14:12


   ★    ★



 宗像形が死んだ。
 なるほど。
 真庭鳳凰が死んだ。
 なるほど。
 そして、近いうちに図書館が禁止エリアになるらしい。
 なるほど。

 櫃内様刻の放送に対する所感は実にあっさりとしたものだった。
 先ほどまで大いに頭を悩ませていた鳳凰に対してでさえ、死んだと分かれば、「ああ、死んだのか」と話が終わってしまう。
 彼の思考回路は、極々シンプルな構造にできている。
 彼が何かに対して迷うことがあるのならば、それは直面している物事から逃げているだけだ。
 背負うニット帽の少女と同様に。悩んでいる振りを、しているだけだった。

「さーまとーきさーん」
「ん?」

 ふと、耳元から声がかかる。
 いつの間にか進む速度が緩まっていたようだ。

「どうしたんですか、さっきからボーっとして」
「別にどうもしないさ。ちょっと煩悩が湧いてきただけ」
「女子高生の胸に欲情しましたか!」
「僕が発情するのは妹に対してだけだぜ。それに肩甲骨フェチなんだ」
「人識くんはおねーさんタイプが好きらしいですけど、まちまちなんですねえ」

 よく分からないところに話の結論を付け、今度は伊織が溜息を落とす。
 何ともなしに様刻は尋ねる。

「そういう伊織さんこそさっきから溜息ばっかじゃないか」
「え? そうですか? そんなことはないと思いますけど。
 じゃあ、『女子高生』と『女子校生』、どっちが煽情的に聞こえるかって話でもします?」
「……本当にそれは楽しいのか?」
「いいじゃないですか。人識くんはあんまりセクシャルな話には付き合ってくれないんですよ」

 そこで話を区切ると、またも溜息。
 様刻も段々と分かってくる。
 乙女心など妹のことしか把握できない彼ではあるが、こうも大胆に大雑把に大盤振る舞いされると、わかるなというのが無理な話だ。
 要するに彼女は気がかりなのだろう。彼のことが。
 今から会う、零崎人識のことが。『兄』のことが。

「人識に会うのが、怖い?」
「…………ええ、まあ多少は。だって、あんな風に人識くんから言われたの、初めてでしたから」

 確かに様刻からしても意外な反応だった。
 あの飄々とした、掴み所のない人間からああもまともな叱咤が飛んでくるとは、思わなかった。
 わずか数時間しか行動を共にしていない様刻でさえそう思えるのだから、当事者であるところの伊織からしたら猶更のことであろう。
 でも、様刻から一つだけ、断言できることがある。
 同じ『兄』として。

「別に、人識の言うことは何も間違っちゃいないさ。ただ、妹を心配する正しいお兄ちゃんの言葉だよ」

 今の伊織の様相も、様刻の妹、櫃内夜月と何ら変わらない。
 普段と違う兄の姿を見て、単純に動転しているだけだ。
 様刻が夜月を初めて拒絶した時、夜月が泣き出してしまったように、
 人識から初めて、『家族』としての寵愛を受けた伊織はきっと今にも泣きだしそうなのだろう。

「そうですかねえ」

 様刻の言葉を受け、伊織は而して曖昧に頷く。
 『家族』とはそんないいものであっただろうか――。
 『流血』ならぬ『血統』で結びついた『元々の家族』を思い起こすもあまりいい記憶はない。
 それこそ、今みたいに、『兄』が嫌味のような小言を投げかけるような光景しか思い浮かばない。
 黙する伊織を認めると、様刻は言葉を継ぐ。


「とりあえず、人識に会ってみなよ」


 伊織の脳裏に、先ほどの人識の激怒がよぎる。
 今の自分はかつての自分をなぞるように、「逃げていた」。
 厳しくも、図星を突かれたような指摘に何も言えずにいる。

925仮投下1  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:16:43
「…………」
「…………」

 様刻はこれ以上、何も言わなかった。
 黙々と、歩を進める。
 薬局の影ももう間近だ。
 目先の目的地が確認できたことでひとまず息をつく。

「とりあえず伊織さん、首輪探知機でどうなってるか見てくれる?」
「うなー」

 歩きながらだとバランスの都合上、常時首輪探知機を見るわけにはいかない。
 様刻の両手は伊織を背負うことで塞がっているし、伊織の両手も、振り落とされないように様刻にしがみついているため実質塞がっている。
 だから首輪探知機を見るためには一回止まらなければならない。
 様刻が足を止めると、伊織はガサゴソと首輪探知機を取り出して、現状を再確認するため覗き込む。
 その内容を確認すると、伊織の顔色が変わった。


「様刻さん、ちょっと」


 深刻なトーンで伊織が告ぐ。
 先と同様に、手にした首輪探知機を、首に腕を回すようにして見せてくる。
 『真庭鳳凰』、『零崎人識』、『玖渚友』の名前に並んで、名前が二つ。
 片や『真庭狂犬』は死んだ。青色サヴァンが首輪の解析用に持ち出したものだろう。
 もう片方は――。


「『水倉りすか』……?」


 脈絡もなく、されどはっきりとそこに明示されている名前を、読み上げる。
 冷静に考えれば、『こいつ』は協力者の可能性が高い。
 『水倉りすか』がもつ、なんらかの能力を使って零崎人識と玖渚友を転移させたのだろうことは想像に難くない。
 伊織にとってはともかく、人識にとって、零崎曲識の復讐とは必須ではないのだろう。どうとでも説明はつく。

 しかし、本当にそうだろうか?
 培ってきた勘や本能が、「何かがまずい」と訴えてならない。

 様刻は伊織を背負ったまま、急ぎ足で薬局まで駆け寄った。
 扉は締まっている。様刻たちが出て行った時から、何かが変わった様子はない。

「…………」
「…………」

 この扉の向こう。
 静かだ。少なくとも、この壁越しでは何も聞こえない。
 話し声の一つでさえも。異質だ。
 あまりに薄弱な壁を挟んだ空間で、いったい何が行われているのだろう。


「伊織さ」
「行きましょう」


 様刻はどうすべきか問い掛けようと、声をかける。
 伊織の反応は早かった。女子高生でも女子校生でもないような、鬼のような声色で。

926仮投下1  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:17:06


「水倉りすかがいると知って、尻尾を巻くわけにはいきません」


 ――それに、と。
 伊織はらしくもなく厳かに、続ける。


「わたしは逃げちゃダメですから。しっかりと、人識くんと向き合うんですから」


 伊織の己を鼓舞するような一言を聞くと、様刻は迷うことなく扉を引いた。
 慎重に、奥へと進むと、つい先刻まで様刻たちがいた場所へと辿りつく。
 人影がある。
 赤い、赤い。
 どうしようもなく赤い、幼げな人影があった。


「どちら様なのが……、あなたたちなの」


 子供は血の涙を流す。
 ふらつく幼女の足元を見ると、あからさまな死体が一つ転がっている。
 状況証拠から判断するに、『あれ』は『真庭鳳凰』だ。
 血の海が広がっている。
 じゃあ。

「じゃあ」

 零崎人識と玖渚友は?
 あの二人はどこへ消えた?
 かくれんぼをしているわけじゃああるまいし。
 神隠しに遭ったわけでもあるまいし。



「まあ……、誰でもいいの」


 蒼白の赤色はしんどそうに呟くと、ぐらりとゆらつく。
 随分と精神が摩耗してるように見受けられる。端的に言えば、とても疲れているような。
 されど、様刻の興味はそんなところにはなかった。

 ソファのあたりに、色々と落ちている。なんだろう、と覗き込む。
 意味深に落ちている、あの三つの首輪と二つのデイパックはなんだ。
 まるで、『先ほど』まで零崎人識と玖渚友は、『そこ』にいたと言ってるようなものではないか。
 零崎人識と玖渚友はもはや、この世には存在しないと言っているようなものではないか。


 ふと、様刻の懸念が蘇る。
 真庭鳳凰を片付けたことで『終わった』とてっきり思った、あの懸念が。


 ――伊織ちゃんのこと、よろしく頼んだ。


 あの言い方はまるで、遺言のようではなかったか。
 突き刺さる漆黒の直刀は、乾き始める血で濡れている。

927仮投下1  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:17:27



   ★    ★



 だからいざという時は、ぼくはりすかを全幅の信頼を寄せて、『優勝』させなければならない。
 そしていざという時は、ぼくはきっと『一度』死んでいることだろう。


 自らの身を挺し、失敗すれば『犬死』、成功すれば、着実に『攻略』へと前進する、一か八かの賭けに臨むか。
 創嗣さんならば、そんな『いざという時』なんて念を押さず、迷わず後者へベットをするだろうが、生憎ぼくは、まだあの人のようには成れない。
 今や半分以上はりすかの血液が流れているぼくではあるけれど、極力死ぬわけにはいかない。
 自らの命を、そんな不確定要素の中に好き好んでには投げ捨てるには、まだまだぼくも悟っちゃあいない。


 先んじて、他の方法を模索するほうが建設的だ。
 それに、仮に『変身』した彼女が『制限』の抑制を受けない未来を得られたとしても、本来のりすかはどこまで行っても、『参加者』のりすかである。
 『変身』が解けたその時、果たしてどうなるか推測するのも困難だ。
 莫大な魔力に耐え切れずに弾け飛ぶか、穴に糸を通すような『変身』に、精神が擦り切れてしまうか。
 そもそも、主催がこのようなある種の『暴挙』を見逃すか――。


 しかし、賭けるとなった時、いざという時がやってきた時、ぼくはこう言い張ってやる。


 ぼくとりすかを甘く見るなよ。
 あとは好きにやっちまえ、りすか。
 ――ってね。





   ★    ★







 さあ、『魔法』を始めよう。







   ★    ★









【玖渚友@戯言シリーズ 死亡】
【零崎人識@人間シリーズ 死亡】

928仮投下1  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:18:10

【2日目/深夜/G-6 薬局】


【水倉りすか@新本格魔法少女りすか】
[状態]魔力回復、十歳、極限的体調不良
[装備]手錠@めだかボックス、無銘@戯言シリーズ
[道具]支給品一式
[思考]
基本:優勝する
[備考]
 ※九州ツアー中、蠅村召香撃破直後からの参戦です。
 ※治癒時間、移動時間の『省略』の魔法は1時間のインターバルが必要なようです(現在使用可能)
  なお、移動時間魔法を使用する場合は、その場所の光景を思い浮かべなければいけません
 ※大人りすかの時に限り、制限がなくなりました
 ※それ以外の制限はこれ以降の書き手にお任せします
 ※大人りすかから戻ると肉体に過剰な負荷が生じる(?)

【無桐伊織@人間シリーズ】
[状態]両足骨折(添え木等の処置済み)
[装備]『自殺志願』@人間シリーズ、携帯電話@現実
[道具]支給品一式×2、お守り@物語シリーズ、将棋セット@世界シリーズ、首輪探知機@不明
[思考]
基本:零崎を開始する。
 0:? ? ?
[備考]
 ※時系列では「ネコソギラジカル」からの参戦です。
 ※携帯電話のアドレス帳には箱庭学園、ネットカフェ、斜道郷壱郎研究施設、ランドセルランド、図書館の他に櫃内様刻、玖渚友、宗像形が登録されています。
 ※DVDの映像を全て、複数回確認しました。掲示板から水倉りすかの名前は把握しましたが真庭蝙蝠については把握できていません。

929仮投下1  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:18:27
【櫃内様刻@世界シリーズ】
[状態]健康、『操想術』により視覚異常(詳しくは備考)
[装備]スマートフォン@現実
[道具]支給品一式×7(うち一つは食料と水なし、名簿のみ8枚)、影谷蛇之のダーツ×9@新本格魔法少女りすか、バトルロワイアル死亡者DVD(11〜28)@不明
   炎刀・銃(回転式3/6、自動式7/11)@刀語、デザートイーグル(6/8)@めだかボックス、懐中電灯×2、コンパス、時計、菓子類多数、
   輪ゴム(箱一つ分)、首輪×1、真庭鳳凰の元右腕×1、ノートパソコン@現実、けん玉@人間シリーズ、日本酒@物語シリーズ、トランプ@めだかボックス、
   鎌@めだかボックス、薙刀@人間シリーズ、シュシュ@物語シリーズ、アイアンステッキ@めだかボックス、蛮勇の刀@めだかボックス、拡声器(メガホン型)@現実、
   誠刀・銓@刀語、日本刀@刀語、狼牙棒@めだかボックス、金槌@世界シリーズ、デザートイーグルの予備弾(40/40)、
   「箱庭学園の鍵、風紀委員専用の手錠とその鍵、ノーマライズ・リキッド、チョウシのメガネ@オリジナル×13、小型なデジタルカメラ@不明、三徳包丁@現実、
   中華なべ@現実、マンガ(複数)@不明、虫よけスプレー@不明、応急処置セット@不明、鍋のふた@現実、出刃包丁@現実、おみやげ(複数)@オリジナル、
   食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、『箱庭学園で見つけた貴重品諸々、骨董アパートと展望台で見つけた物』」
   (「」内は現地調達品です。『』の内容は後の書き手様方にお任せします)
[思考]
基本:死んだ二人のためにもこの殺し合いに抗う(瓦解寸前)
 0:? ? ?
[備考]
 ※「ぼくときみの壊れた世界」からの参戦です。
 ※『操想術』により興奮などすると他人が時宮時刻に見えます。
 ※スマートフォンのアドレス帳には玖渚友、宗像形が登録されています。また、登録はしてありませんが玖渚友からのメールに零崎人識の電話番号とアドレスがあります。
 ※阿良々木火憐との会話については、以降の書き手さんにお任せします。
 ※支給品の食料の一つは乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
 ※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前、エリアの境界線が表示される。範囲は探知機を中心とする一エリア分。
 ※DVDの映像は全て確認しています。
 ※スマートフォンに冒頭の一部を除いた放送が録音してあります(カットされた範囲は以降の書き手さんにお任せします)。


【G-6 薬局】

・玖渚友のデイパックが落ちています。中身は以下の通りです。
>支給品一式、ハードディスク@不明、麻酔スプレー@戯言シリーズ、工具セット@現実、首輪×2(浮義待秋)、糸(ピアノ線)@戯言シリーズ、ランダム支給品(0〜3)
・零崎人識のデイパックが落ちています。中身は以下の通りです。
>支給品一式×11(内一つの食糧である乾パンを少し消費、一つの食糧はカップラーメン一箱12個入り、名簿のみ5枚)
>千刀・ツルギ×6@刀語、青酸カリ@現実、小柄な日本刀、S&W M29(6/6)@めだかボックス、
>大型ハンマー@めだかボックス、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、デスサイズ@戯言シリーズ、彫刻刀@物語シリーズ
>携帯電話その2@現実、文房具、炸裂弾「灰かぶり(シンデレラ)」×5@めだかボックス、賊刀・鎧@刀語、お菓子多数
・玖渚友と零崎人識と真庭狂犬の首輪が落ちています。
・絶刀『鉋』は床に突き刺さっています。
・その他二人が装備していたものは、消滅しているかもしれません。

930 ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:20:33
以上で、修正した話の投下を終了します。
引き続きまして、戯言遣い、八九寺真宵、羽川翼、および補完的に玖渚友の話を投下します。

931仮投下2  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:21:47

   0


 愛は魔法だ。
 十二時でも解けない魔法。



  001



 阿良々木暦、阿良々木くんが死んだことが意外だったかと言えば、しかしそうではないだろうと思う。
 明日には死んでいたかもしれない彼だ。今日死ぬのだって、それはきっと起こるべくして起こったこと。
 ともすれば、彼はずっとずっと前に死んでいる。私の一時的な臨死体験なんて目じゃないほどに、元人間の彼は死を体験していた。
 地獄のような春休み。聞くところによると阿良々木くんはあのナイトウォーカーとしての生活をかように表現しているそうだ。
 事実、あれは地獄のような日々である。他人の目から見ても、それこそ私が殺されたことを抜きにして、公明正大に判断を下したうえでそう思えるぐらいなのだから。
 阿良々木くんからしてみても、忍ちゃん、いや、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードからしてみても地獄に違いなかったろう。
 生き地獄であり、死に地獄。生ききれなく死にきれない、傷を分け合う傷物の話。傷物語。

 とにかく、彼は春休みの間に少なく見積もっても、限りなく絶対的に一度死んでいる。
 四肢を失くしていた彼女のために、彼女を助けるために、自分の命を投げ出した。
 無謀だと言えば、そうだろう。無鉄砲と言えば、そうだろう。無茶苦茶と言えば、そうだろう。
 およそ考えられないほど優しく強かな彼が、今日死んだというのであれば、私は納得するしかない。
 私から見て、阿良々木くんの死というのは、それほどまでに身近なのだろう、と今更ながらに感じ入る。

 阿良々木くんは時折私のことを天使、あるいは神様のように語るときがあるけれど、勿論私、羽川翼は天使や神様ではない。
 今の私の名前には「羽」も「翼」もあるにしたって、生憎私は人間だ。……人間なのかな? まあ、人間なのだ。
 受容の心を、諦念の心を、残念ながら有している。

 怪異は名により己が存在を縛られるというけれど、そういう意味では私は自由奔放だ。
 さながら私の名前になんて、意味がないと言わんばかりである。実際、私の名前になんて意味がないのだ。
 名字は一旦脇に置いておくとして、名前でさえも私にはあまりに不釣り合いである。
 「翼」。広義的には言うまでもなく、鳥などの持つあの翼だ。羽搏(はばた)くための、器官。
 そこから派生して、親鳥が、卵や雛を、その羽で守るようにすることから『たすける』という意味をもつらしい。
 どの面を下げて、私はそんなことをくっちゃべらなくてはいけないのだろう。舌先三寸もいいところだ。
 阿良々木くんは私のことを聖人君子のように崇め、美辞麗句を並べるけれど、そうではない。
 私はただの人間である。
 ずっと助けられてばかりだった。
 私が誰かを助けたことなんて、きっと一度たりともない。
 だって私には阿良々木くんの真似することさえできない。
 あんな家庭でも、こんな私でも、いざ命を捨てろと言われても、無理だ。
 私は何よりも自分が可愛い。
 怪異に魅せられるぐらいに、私はどうしようもない奴なのだから。

 そして、そんな私だからこそ、きっと私は阿良々木くん、阿良々木暦くんのことが気になっていたのだ。
 いつ死ぬかもわからない、人を助けたがるお人よし。
 とても人間らしからぬ、いよいよ純正の人間ではなくなった半人半鬼の阿良々木くん。
 自分よりも他人が恋しい、優しい阿良々木くんに、私の興味は向いている。

 彼を慕う、私の恋心にも似たこの心は、失恋することさえも叶わず、破れに破れ、敗れていた。
 未練もわだかまりも残して、私の身体を残留する。
 爽やかさとは無縁の沈痛する思いは、死せず、なくならず、私の中でずっと。

 そうして私は恋に恋する女の子になるのだ。
 予測するにこれはそういうお話だ。
 しかし私はその物語を語ることができない。
 羽川翼という私の物語を、私は、語ることができない。

932仮投下2  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:22:37
 

   2

 
 物語の起点は玖渚から電話だった。
 ぼくたち三人仲良くお手てをつないで、というのが理想であったけれど、
 現実は微妙な距離感の空いたトライアングルを形成しつつランドセルランドを徘徊していた時のことである。

 放送も間もなく、あと十五分ぐらいだろうか?
 時間が無駄に長く感じるため、体感時間というのもあてにならないだろう。
 ジェリコは見つかった。何の変哲もなく落ちている。
 少しばかりぼくの血が付着しているけれど、支障はない。
 二人に訊いたけれど、拳銃はぼくに預けてもいいということで、いよいよ慣れてきてしまったぶかぶかの制服の内ポケットに仕舞う。
 その時に、玖渚からの一報は何の前触れもなくやってきた。

『いーちゃん生きてるー?』
「…………」

 抜け抜けと。
 案外監視カメラでもハッキングしてるんじゃないか、と疑い周囲を見渡すも、無意味さを悟り項垂れる。
 真宵ちゃんから不審な目で睨まれたけれど、今に始まったことじゃない。嫌われることには慣れている。なんて。

『いーちゃん?』
「……大丈夫だよ、まだ健常さ」

 玖渚の言葉に遅れて頷く。
 監視カメラのハッキングというのは言い過ぎとしても、しかし要領がいいというか、タイミングに優れているというか。
 こうも見透かされていると恐怖を感じるのだな、と内心にしたためながら言葉を続ける。

「しかし、今度はどうした? ぼくたちはこれでも可及的速やかに済ませなければならない火急の用事があるんだ」
『そうなの? 頑張ってね。でもこっちも伝えなきゃいけない用事があったからね』
「用事?」
『そそ。いやさ、僕様ちゃん実は今薬局に居るからネットカフェに行くんだったらやめといた方がいいよっていう用事がとりあえず一件』
「そうか、薬局に、わかっ……ん?」

 あんまりにもすんなりと言うものだから、一瞬スルーしそうになったけれど、おかしくないか?
 薬局に『向かう』じゃなくて、『居る』だなんて、あまりに不自然だ。
 この違和感を解消すべく、電話を繋げたまま地図を取り出して確認するように凝視する。
 やっぱりそうだ。このランドセルランドとネットカフェと薬局とは、ランドセルランドを真ん中に据えるようにしてほぼ一直線上に位置していた。
 寄らなかったと言えばそれまでにしろ、せっかくの合流の機会を逃すだろうか。せめてぼくに一報をくれてもよかったのに。
 よもや日和号の脅威に怯えていたわけじゃあ、あるまいし。あるまいし? どうだろう。
 加えて言うなら、体力面では足手まとい他ならない玖渚を片手に、この短時間で薬局まで行けるだろうか。

「はいはい、いーちゃんの言わんとすることは分かるから順を追って説明するけどね。
 結論から纏めて言うなら、一、『しーちゃん……零崎人識が協力してくれた』。二、『供犠創貴や水倉りすかも協力してくれた、けど絶対的に敵対した』」

 零崎人識。
 ひたぎちゃんを追って袂を分かつ結果となったが、玖渚と一緒にいたのか。
 まあ、そこはいい。あいつの放蕩癖を今更指摘するのも馬鹿らしいし、あいつのために時間を費やすのも阿呆らしい。
 だから、触れるべきは後者だ。
 このバトル・ロワイアルが始まってから幾度も名前を聞いている、その二人。

「……敵対?」
『ん。端的に説明するとね』

 と、本当に端的に説明してくれたが、つまりはこうである。
 供犠創貴らが『仲間(チーム)』の一員である式岸軋騎を。そして『零崎一賊』である零崎軋識を手に掛けたから攻撃をしてしまった。
 しかし紆余曲折あり、敵対したところの水倉りすかの力を借りて、ぼくたちが本来迎えに行くはずだった櫃内様刻らのもとへひとっ飛び。
 そのまま有耶無耶のまま終われば、ぼくからしてみれば御の字であったが、最後の最後で人間失格が供犠創貴らに攻撃を加えたため、和解は無理、と。

「全部あいつが悪いじゃないか」

 ろくでもねえことするな、あいつ。
 確かにクラッシュクラシックでそんな話はしていたけれど。

『まあまあ、おかげで僕様ちゃんが生き残れたんだからいいじゃん』
「……そうかもね」

 何気なく呟かれた玖渚の言葉に一瞬息を詰まらせるも、辛うじて答えることが出来る。
 戯言だ。それで。

933仮投下2  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:23:35
「ちなみに真庭鳳凰は?」
『多分死んだ。っていうかそれっぽいのは薬局に転がってる』
「へえ」

 これに関しては素直に驚嘆する。
 あの人も、なかなか一筋縄ではいかなそうな人ではあったけれど、そんなざっくりと死んでしまったのか。
 思えばあの人と出会ったのも約一日前か。男子三日会わざれば、とはいうけれど、よもや一日でそこまで落ちぶれるとは。
 可哀想に。
 心の中でせめてもの哀悼の意を表していると、お気楽な玖渚の声が飛んでくる。

『いーちゃん、それでさあ。水倉りすかだけどさ、二人とも巻き添えか、あるいは供犠創貴が生きていればまだしも、
 水倉りすかだけ生き残ったら、ちょ――――っっっとだけ、まずいんだよね。僕様ちゃんもさ、彼女から色々話は聞いたんだけどさ、彼女何しでかすか分からないし』
「ふーん?」
『暴走しだしたら、いーちゃんとかも見境なく襲ってくるだろうし、あとから対処法……っていうかしちゃいけないこととかメールで送っておくから、確認しといてねん。
 所詮いーちゃんの敵じゃないだろうけど、多少の搦め手が必要な相手だし……「赤」ってのは少し不味いよねえ』
「赤、か」

 玖渚の言葉を反芻する。
 赤、と聞いて、勿論ぼくが連想するのは哀川さん。
 人類最強の請負人こと、今は亡き哀川潤だ。
 単なるイメージの問題ではあるけれど、確かに「赤」は不味い。

 そして何より。
 ツナギちゃんのことを思うと、安直にりすかちゃんと敵対するのも気が引けるところではあるけれど。
 大きな口を携えた魔法使いを思い出す。いや、ずっと忘れていたりなんかしていない。
 どうした事情からか分からないけれど、ぼくたちを最期の最期まで慮ってくれた彼女を忘れるわけがない。
 なんて。
 真宵ちゃんの記憶を消したぼくが言うのも極めて滑稽だ。

 ぼくの気持ちを知ってから知らずか。
 玖渚は話題を次へ進めようとする。

『でさあ、いーちゃん。ここからがある意味大事な話なんだけどさ』

 いやいやここまでも大事な話だったと思うけれど。
 それを敢えて口に出すほどのテンションでもなかったため、玖渚の言葉を待つ。
 するとやたらと落ち着いたトーンの声が返ってくる。

『いーちゃんは生き残りたい?』

 不思議な問いだった。
 同時に答え難い問題でもある。
 少し前のぼくならば。

「生きたいよ。どうしようもなく、生きたい。もがき苦しんででも、ぼくは生きていたい」

 こんな単純なことを、ぼくはずっと前まではっきりと言えないでいた。
 戯言で濁して、傑作だと誤魔化して、大嘘で塗り固めてきた。
 でも、今ならはっきり言える。ぼくは生きたい。
 押し寄せるように、玖渚が言の葉を繋ぐ。

『優勝してでも?』
「いや」
『じゃあ、僕様ちゃんと生きたい?』
「うん」

 簡単なやり取りだった。
 質素な掛け合いだった。
 ずっと分かっていたことだった。
 ぼくが逃げていただけで、答えはすぐ傍にあったんだ。

「友、おまえが今、どんな時系列で生きているか知らないけれど、何度だって言ってやる」

 始まりは復讐だった。
 いつからだろう。
 こんなに愛おしくなったのは。
 憎たらしいほど彼女を愛してしまったのは――愛せるようになったのは。

 ぼくの掛ける言葉は簡単だった。 


「友、一緒に生きよう」

934仮投下2  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:24:26

 たったそれだけでよかった。
 ぼくが彼女に掛けてあげるべき言葉は、ただそれだけでよくて、それ以外になかった。
 散々悩んで、滔々と紡いで、何をやっていたんだろうとさえ感じる。
 ぼくが遣うべき言葉は、たったこれだけだというのに。

『……………………』

 友は黙す。
 それはとても長い時間のようにだった。
 でも、きっとそれは刹那にも満たないほどの僅かな隙間だったのだろう。

『うにっ』

 友はそんな風に笑うと。
 続けざまに、こんなことを言った。

『実のところさあ、首輪の解析の目途がついたっていうか、一回実践へと踏み込みたいんだよね』
「首輪の解析、問題なかったのか?」
『うん』

 驚きがなかったといえば、紛れもなく嘘になる。
 ただ、同時に納得し、受け入れられる面が大きいのも確かに事実であった。
 彼女が未だ『青色』であるならば、こんなことは何ら不思議なことでもない。
 ただ、その身を酷使をするというのであれば、とても歓迎できたものではないけれど。

『だから、その報告と思って。万事うまくいけばいーちゃんの首輪も外せるしね』

 それでも、ぼくは友を頼りにしなければ、首輪を外すことさえも出来ない。
 情けないことながら、彼女の『才能』に頼ることが、出口への入口なのだ。


「待って、いーさん」


 ふと。
 横から声がする。
 羽川翼ちゃん。
 真摯な瞳でこちらを向いていた。
 その腰のあたりには真宵ちゃんがいる。
 玖渚に断りを入れると、一回電話を耳から遠ざけた。

「申し訳ありません。聞き耳を立てていた、というわけではないですけど、ちょっと今の言葉が気になりまして」
「ああ、首輪の解析の話?」
「そう、それ。その、玖渚さん? からよろしければ解析結果について聞きたいと思いまして。
 こちらでどうにかなるものでしたら、先に首輪を外しておいた方が、皆さんも安心できるとんじゃないかなって僭越ながら」

 賢い発言である。
 聡明な翼ちゃんのことだ。
 きっと並大抵のことならば、その通りにできるのだろう。
 言われた通りにやることで、問題を解決に至らしめることも、あるいはできたのだろう。

 だが。
 身内贔屓と言われたらそれまでなのだろうが、玖渚は並大抵じゃあない。
 極上も極上、特上という言葉を十回使っても足りないぐらいの異常(アブノーマル)である。
 つまるところの結論がどうしようもなくしょうもない手法なのだとしても、彼女のスペックに、翼ちゃんはパンクしないだろうか。

「ダメ、でしょうか」

 ぼくの不安な心象でも察知したのだろうか。
 翼ちゃんはぼくの顔色を窺っている。

「本当に、大丈夫?」
「……ええ、聞くだけならばとりあえずなんとかなると思います」

 静かに、されど力強く頷く翼ちゃんを見て、ぼくもまた頷いた。
 確かに玖渚の力を濫用したくないというのは事実である。
 翼ちゃんが代理して解除を行使できるのであれば、それに越したことはない。
 ぼくはその旨を玖渚に伝えた。

『いーちゃんがそういうならさ』

 答えはあっけらかんとしていたが、いいだろう。
 時計を見れば放送まで残り十分を切っていた。

「じゃあ翼ちゃんによろしく」
『うん』

 そうして、翼ちゃんに電話を手渡そうとする。
 はたと、玖渚友にこんな言葉を投げかけたくなった。
 ぼくは尋ねる。

「友はさ、『主人公』ってなんだと思う?」
「なにそれ」
「なんでもいいからさ」
「んー、いーちゃんが何を言いたいかよくわからないけどさ、
 私にとって、『主人公』はいーちゃん、ずばりきみのことだよ。愛してるぜい、いーちゃん」

935仮投下2  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:25:00



  003



 玖渚さんの戦績、もとい解析を聞き終えた。
 聞き終えた、であり、決して飲み込み終えた、ではないことを最初に断っておきたい。
 私は相槌に終始するばかりで、質問を考える余裕さえもなかったとも告白しよう。
 プログラミングを専攻してたりしてないから、と言い訳を考えていたぐらいである。

「……………………ふう」

 電話を終えて、最初に漏れ出したのは盛大な溜息だった。
 ふと時計を見遣る。十一時五十九分。実に濃密な十分だ。
 あの密度の披露会を、丁度放送一分前に語り終えれるあたりに、彼女の並々ならぬアブノーマルさを感じる。
 放送に合わせたのはこちらを慮ったのか、向う側の事情なのか察するにはいささか情報が足りない。
 というよりも、私なんかが、いわく『死線の蒼(デッドブルー)』の思考を掠めることができるのかさえ今となっては不安だ。
 私、それに櫃内さんとか無桐さんとかとは文字通りステージが違うのだと、貴族と平民のように、住んでいる世界が違うのだと打ちのめされた。
 正直なところ。本当に正直なところ。

「…………さっぱり意味が分からない」

 玖渚さんの言葉を多く見積もっても五割ほどしか理解できなかった。
 単語単位で見れば、分からないもののほうが少ないとは思う。
 ただ、天才ゆえの話術とでもいうのだろうか、相手が理解できないことを一切考慮していない演説に私は辟易している。
 それこそ、ストレスを解消してくれる、みたいな怪異がいるのだとしたら、今にも発現してしまいそうなほどに、私の頭はオーバーヒートしていた。
 当然と言えば当然。私が色々とやっている間にも、彼女は丸一日掛けて調査をしていたのだ。
 紛れもないプロパーが丸一日掛けた研究結果を、即座に理解しようというのがどだいおかしい。笑い種である。
 阿良々木くんにおだてられたから、と天狗になっていたつもりはなかった。
 けれど、こうも圧倒的な純正の天才というものを見ると、多少へこんでしまう。
 本当に私は「知っていること」しか知らないのだと、改めて痛感する。

「でもなあ」

 放送に合わせるために、説明を多少巻いていただろうし、何より、理解できない私に非があるのだ。
 気持ちを引き締めて、彼女の説明をもう幾層か噛み砕けるようにしなければならない。
 それが、私を信用してくれた彼女の、いやそうじゃないだろう。玖渚さんは私のことなんて見ていない。
 私を私と、羽川翼として見做してさえもいないだろう。だから、この場合はこういうべきだ。
 それが、私を信用してくれたいーさんへの、せめてもの贖いなのだ、と。

 見ると、少し離れたところで、いーさんと八九寺ちゃんとは話し込んでいる。
 これまでの旅路がどうであったかは、寡聞にして私は知らないけれど、二人きりで話すのは、『あれ』以来かなり久しいのではないだろうか。
 どの道もう放送だ。
 それに、私も一回頭の整理をしたい。
 玖渚さんの話をもっと体系的に、かつ実践できるまでに持ち込みたい。
 落ち着いて整理さえできれば、もしかすると何ら難しいことは話していなかったかもしれない。

 もう少し時間が欲しい。
 どれだけでも時間が欲しい。
 切実な気持ちを吐露するも、しかし時間は待ってくれない。
 定時放送。
 私にとって二回目でもある、事務的な声が降ってくる。
 「戦場ヶ原ひたぎ」と「黒神めだか」。
 二人の訃報を添えて。

936仮投下2  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:25:34


   4



 ぼくと真宵ちゃんは、翼ちゃんを視界に入る程度に離れたベンチに座っている。
 周囲には、山ほど高いジェットコースターやら、狂気じみたコーヒーカップなどがあった。
 先ほど玖渚から教わったけれど、このランドセルランドは有名な観光スポットらしい。
 記憶を掘り起こしてみると、そんな名前の遊園地もあったかも。
 曰く、「天国に一番近い遊園地」とのことだが果たして褒め言葉なのか疑問である。
 
 遊園地に縁のないぼくとは違い、真宵ちゃんのロリィな外見は実に馴染む。
 カップに入ったドリンクを、ストローを使いちゅーちゅーと吸う姿も様になっていた。
 ちなみにこのドリンクは路上に転がっていた屋台から頂戴している。
 お金は生憎奪われているので、心苦しい限りではあるけれど、無銭飲食だ。
 ぼくは小腹を満たすようにポップコーンをつまむ。
 玖渚に一拉ぎにもみつぶされているであろう翼ちゃんを遠巻きに見ながら。

「……」
「……」

 会話はなかった。
 今に限ったことじゃない。
 あれから。
 約六時間前のあの時から、ずっと。
 『人間未満』の気まぐれから今に至るまで。
 ぼくが彼女に負い目があるからだろうか。
 ぼくが彼女に引け目があるからだろうか。
 何も言えない。
 今、ぼくたちが会話へと発展するには。

「戯言さん」

 真宵ちゃんからのアプローチが必要だった。
 控えめな物腰で、ぼくに話しかける。

「ごめんなさい、戯言さん。わたしはあなたを正直疑っておりました」

 謝られた。
 そんな義理はない。
 むしろ、謝れと叱咤されるべきはぼくであるはずだ。
 構わず真宵ちゃんは紡ぐ。

「あなたは、いざとなったら全員を殺して、優勝を目指すんじゃないかなって思ってました」
「……どうしてまた」

 言葉を濁すけれど、実のところ彼女が言わんとすることは伝わる。
 ずっと前から思いついてはいたことだから。
 優勝することは決して愚策ではないことは認知していた。

「いえ、戯言さん。分からないだなんて言わせません」

 現に彼女にもぼくの胸中は見抜かれている。
 並んで座ったままではあるけれど、瞳は確とこちらを射抜いていた。
 まったく、翼ちゃんといい人の顔をそんなじろじろと見て。
 観念してぼくは真宵ちゃんの言葉を継ぐ。

「つまり、優勝して、元通りにしてもらうってことだろ」

 この作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ありません。
 主催者たちに頭を下げて、この『実験』の、『物語』の末尾にその常套句を挿入させる。
 芥の理を突き破る超絶理論。万の理を捻じ曲る超越理論。
 未満と出遭ってしまったことで、当初よりも幾分か信頼性が増したような、信憑性が足されたような、虚構推理(オールフィクション)。
 現実的であるかと取られれば、迷わず答えよう。答えはノゥだ。
 それでも。

「正直なところ、今でも有用な結末だと思うよ。でも、それをどうしてぼくが」
「戯言さんはハッピーエンドを目指すのでしょう。でしたら」

 でしたら。
 その先に続くはずの科白を遮る。

「生憎だけど、ぼくは誰かを殺すことでハッピーになったりしないさ。ぼくがハッピーじゃなきゃ意味がない。ぼくは臆病者だから」

 これは本当。
 ぼくは、もう誰かを殺したくなんてない。
 今までたくさん殺してきたし、壊してきたけれど、今でも贖いきれないほどの償いが残留しているけれど。

「もう無自覚で無意識で他人を踏みつけていく人間には、善意で正義で他人を踏み砕いていく人間には、なりたくないかな」

 これも本当。
 ぼくの場合は「なる」とか「ならない」という問題じゃない。
 「そういうもの」である以上、ぼくの言葉は言葉以上の意味を持たない。
 けれど。
 それでもぼくは。

「本当ですか?」
「本当」
「じゃあ訊き方を変えましょう。それだけですか?」
「……」

937仮投下2  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:26:13
 あー、うん。
 そっか、あの時真宵ちゃんは翼ちゃんの隣にいたはずである。
 玖渚の発言そのものは聞こえていなかっただろうけれど、ぼくの発言はちゃっかりと聞いていたようだ。
 なんだか気恥ずかしいような思いもあるけれど、ここで逃げるわけにも行かない。
 真宵ちゃんの目を見つめ、ゆっくりとなぞるように、告げる。

「友がいるから。友がいるなら、ぼくは優勝なんてそもそもできない」

 ぼくの告白に満足がいったのか、真宵ちゃんは強張らせていた表情を和らげた。
 真宵ちゃんのそんな顔を、ぼくは久しぶりなように感じる。
 いつ以来だろうか。思えば、第一回放送後に醸していた気丈さよりも、よほど自然な気丈さを、今の真宵ちゃんからは窺えた。

「ええ、ちゃんと戯言さんはおっしゃいました。玖渚さんと生きたいと。そんなあなたを、わたしは疑うわけには参りません」

 生前は、家族と一緒に暮らせなかった。
 そして今、彼女は阿良々木暦くんと過ごせなくなった。
 きっと大切であったろう人たちと生きれなかった彼女、八九寺真宵ちゃんはぼくの言葉をまっすぐに受け止める。
 疑うわけにはいかない、と。戯言遣いであるぼくに、そう、励ましてくれた。

「大丈夫ですよ。あなたは、あなたが思っている以上に強く、お優しいです」

 ぼくは今、どんな顔をしているだろう。
 ただ一つ、笑っていないことだけは確かである。
 微笑む真宵ちゃんを傍目にぼくは、ポップコーンを頬張った。

「あなたは無自覚で無意識で他人を踏みつけていく人間ではありません。
 あなたは無自覚で無意識で、きっと誰かを救い上げようとしていたはずです。わたしは、あなたと最初に出会えてよかったと思います」

 ぼくは彼女の記憶を消した。
 それでもなお、こんなことを言う。
 甘いんだと思う。緩いんだと断ずる。
 しかし反してぼくは、黙って受け入れる。受け止める。

「あなたは強かで脆く、弱いけれど強情で、素知らぬ顔して人を救おうとする人間であると断言しますけれど、
 だからこそ、なんです。わたしはあなたをそういう人間だと理解したからこそ、怖いんです。懸念してしまうんです」

 真宵ちゃんが声を潜める。
 浮かべていた微笑はなりを隠し、深刻なかんばせを覗かせた。
 
「あなたは、誰かのために、あるいは誰でもない誰かのために、身を粉にできる人ですから」

 果たしてそうだろうか。
 ぼくは、そんな立派な人間だったのだろうか。
 喉を潤すように、真宵ちゃんは一度ジュースを口に運ぶ。
 ごくんと喉を鳴らしてから、ふうと彼女は息をつく。

「今まで、ずっと不思議だったんです。
 どうして戯言遣いさん、あなたと阿良々木さんが似ているように思えたのか」

 そんな風に思ってくれていたんだ。
 だとしたら、光栄だ。ひたぎちゃんとか翼ちゃんとか、暦くんをよく知る人たちを観察すればつくづく痛感する。
 あんなに愛されて、頼りにされている彼とぼくを重ねてくれるのなら、これ以上僥倖なことはないだろう。
 一種の感動さえ今のぼくは覚える。

「いえ、初めは変態って側面からだと断定していたんですけどね」
「…………」

 台無しだった。
 断定するな。
 思わず三点リーダーが出てしまう。
 シリアスなんだからギャグ挟むなよ。
 ぼくのしょげるモチベーションを無視して、彼女は話題を戻す。
 切り替えが早すぎて、ぼくは着いていくのに精一杯だが、彼女の芸風なのだと諦めて、素直に聞き入れる――聞き入れようとするも。


「でも、簡単だったんですよ。あなたたちがそういう人間だから。
 無自覚に無意識に、すべての責任を一人で背負い込んでしまう人間だから。――だから」


 真宵ちゃんへ割って入るように、鳴り響く。
 放送だ。死者の宣告。禁止区域の制定。
 もう六時間か。
 流石のぼくも真宵ちゃんも口を噤み、放送をじっくりと聞いていた。
 遠目で確認すると、翼ちゃんも電話を切っている。

938仮投下2  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:26:40
「…………」
「…………」

 供犠創貴。
 真庭鳳凰。
 戦場ヶ原ひたぎ。
 黒神めだか。
 宗像形。

 以上五名。
 これまでと対比したら、控えめな人数だ。
 しかし、決して絶対的に少ないわけではない。
 そのいずれもが、これまで何かしらの形で関わりをもった人間たちである。

 宗像形。
 玖渚を守っていたらしい。お勤めご苦労様。きみの生涯はきっと意味のあるものだ。
 真庭鳳凰。
 本当に死んだのか。スーパーマーケットで口戦を広げたときは溜まったものではなかった。
 供犠創貴。
 ツナギちゃんのお知り合い。この子が死んだとなると、いよいよ件のりすかちゃんとも向き合わなければいけない。
 黒神めだか。
 阿良々木暦くんを手に掛けた人物。元凶。彼女が死んだということは、未満は勝利を収めたのだろうか。分からない。

 そして。
 戦場ヶ原ひたぎ。

「……あの人も、お亡くなりになられたんですね」
「そうみたいだね」
「わたしはあの人からあまり好かれてはいませんでしたが……いえ、事情を考えれば当然なのですが、
 わたしはあの人のこと、決して嫌いではありませんでした。憎んでも妬んでもおりませんでした」

 ひたぎちゃんのことを思って喋っているのか、暦くんのことを思って話しているのか。
 ぼくに彼女の気持ちを推し測ることはできない。ただ、彼女の言葉を受け入れる。

「だから、とても悲しいです」
「そうなんだ」
「戯言さんは、どうですか」
「……どうだろうね」

 肩を竦める。
 実際のところは悲しくなんてなかった。
 よっぽど、なんていう言い方もどうかと思うけれど、よっぽどツナギちゃんの死の方が衝撃的だ。
 敵意をぎらつかせていたひたぎちゃんであるけれど、殺意で過剰な存在感を放っていたひたぎちゃんだけれど、そりゃあ死ぬ。
 誰に殺されたのか。黒神めだかに返り討ちにでもあったのだろうか。今となっては知る由もない。けれど、死ぬ。
 倫理の欠陥。道徳の欠落。感情の欠損。つまるところ、ぼくとはそういう人間で、欠けて欠けて欠けている。

「そうですか」

 ぼくの戯言に満ちた反応を一瞥し。
 それでも真宵ちゃんは精一杯に笑った。

「ですが、あなたは、それでいいのかもしれません」

 対してぼくは笑わない。
 どうやって笑うんだっけ?
 真宵ちゃんはベンチから立ち上がる。
 ディパックを下ろしているため、彼女の小さい背が見えた。

「しかし戯言さん。わたしに言う義理があるかは分かりませんけれど……、いや、わたしだからこそ、戯言さんに忠言する義務があるはずです」

 義理、義務。
 一度は何のことだろうととぼけてみたものの。
 察するにはあまりに容易い。
 真宵ちゃんは振り返る。


「玖渚さんだってこの殺し合いに参加している以上、少なくない確率で死にます」


 そんなことはさせない。
 口で言うにはあまりに安っぽい。
 戯言も甚だしい――真心も狐さんも、あの潤さんでさえ死んでいるんだ。
 常に死と隣り合わせの友が、死なないだなんて保証はどこにもない。

 真宵ちゃんは人差し指でぼくを指す。

「そうなった時でも、戯言さんは同じことが言えますか?」

 ぼくはその指先をじっと見つめながら、ポップコーンの入ったカップを握りしめる。

939仮投下2  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:27:32


  005


 私は一度死んだことがある。
 なんていうのは今更語るまでもないし、誇らしげに語れることでもない。
 私の間抜けが及ぼした腑抜けたさまを、しかしどうやって誇らしげに語ることができようか。

 加え、厳密に言えば死んだわけではない。限りなくアウトに近い瀕死だ。
 春休み。真夜中の学校で、私はエピソードさんという吸血鬼ハンターの一人に、腹をぶち抜かれた。
 ひどく乱暴な表現だということは承知の上で使わせてもらうけれど、あれは「ぶち抜かれた」と言わざるを得ない。
 貫かれたでも足りないし、穿たれたでも補えない。正しくあれこそ「ぶち抜く」なのだと勉強になる。
 い、嫌だ。そんな学習方法……。
 しかし学習効率という意味ではずば抜けているものだから、体罰的指導というのも中々侮れないかもしれなかった。
 身体が記憶してしまっているのか今でも思い出しては、腹が疼く。瞳とかならともかくお腹ではまるで格好がつかない。

 さておき。
 私が言いたいのは、もしかすると明るいかもしれないスパルタ教育の未来ではなく。
 人の命のお話だ。人間の生命のお話である。
 為せば成る、為さねば成らぬ何事も。といったことわざは有名だけれど、そんなものだ。

 阿良々木くんが何か――吸血鬼の血を私に与えてくれたから、私はどうにかなった。
 どれだけ致命傷を負っても。
 どれだけ死に近づこうとも。
 どれだけ、どれだけ、死んだように見えようとも。
 人は息を吹き返す。作為的でも、ご都合主義でも構わない。

 どうにかなるんじゃないか。
 どうにでもなってしまうんじゃないか。
 そんな風に思ってしまう私がいるのは事実であり、真実。
 希望的観測なのは、切望的感想なのは、重々承知であるけれど、それでも、と。


「はあ……」


 深い深い溜息を落とす。
 放送が流れ終わり、かれこれ一分。
 そろそろ向かい合わなければ。私自身が。――曰くブラック羽川ではない、私が。

 黒神めだかさんがお亡くなりになったと聞いて、果たして私が何を思ったかというと、何も思えなかった。
 黒神さんは阿良々木くんの仇であるけれど、だからといって、燃えるような思いは、正直なところなかった。
 そりゃあ、人間として最低限の悲しみはある。人が死ぬのは悲しいことだ。
 ただ、私にとっては紙上の事件、新聞の向こう側とでも言おうか。
 街頭で流される報道番組で『××市在住の黒神めだか(16)が何者かによって殺されました』と伝えられるのと、何も変わらない。
 私は彼女のことを何も知らないし、だからこそ対話を望んでいたけれど、もう終わっている。閉じている。

 だからこの場合。
 戦場ヶ原ひたぎさん。
 阿良々木くんの恋人である彼女も、死んでしまったらしい。
 これに関しては白状しよう。素直に驚いた。

 そんな、彼女ともう会えないなんて。

 あまりにありきたりすぎる一節を呟こうとした時、私は気付く。
 殴られたような衝撃が再来する。
 繰り返すように頭が真っ白になる。

 けれど。
 一つ。
 阿良々木くんが死んだと聞いたときと違うものがあった。


 これは、なんだろう。
 どう表現すべきか――欠けている感じ。
 これはいーさんを見ている時の、感覚と似ている。

 欠けている感じ。
 欠落している感じ。
 ――喪失している、感じ。

940仮投下2  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:27:56
 そう。
 喪失感だ。
 つい先ほどまでいた、旧知の仲であった戦場ヶ原さんが死んだのだと知らされ。
 もう二度と会えないのだと教えられ、私の胸の中でぽっかりと、大きな穴が開けられる。

 小説では往々にして散見する悲観的描写であるけれど、しかし中々小説も侮れない。
 実体験してみて、心理描写の巧みさを理解する。やはり世の中はスパルタ教育に優しい。


 私の中で戦場ヶ原さんの存在は、殊の外大きかったようだ。
 親しくなったばかりであるけれど。
 阿良々木くんの――恋敵ではあるけれど。

 ここまで思い至り。
 はたと気付かされる。


 じゃあ、阿良々木くんは?
 阿良々木くんの分の穴はどこにいった?


 私は知っている。
 残念ながら、私は答えを知っている。

 ああ、そうだ。
 阿良々木くんが死んで、驚きはしない。
 なんでか。
 阿良々木くんは明日死んでもおかしくないような人だから。

 違う。それだけじゃない。

 私は知っている。
 残念ながら、私は答えを知っている。

 私の中ではつまり、『死んだ』ということと『いなくなった』――『会えなくなった』ということが一致していなかったのだろう。
 ノットイコールの関係性を築いている。ゆえに、私の認識では、彼が『死んだ』ことは衝撃的なことであれ、絶望的なことに至らずにいた。
 阿良々木くんはずっと前に死んで、生き返って、あまつさえ私を蘇らせてくれた人だから。
 心のどこかで、また会えるって信じたかった節があったのだ。
 ――私が困っているところに、すかさず阿良々木くんが『たすけ』に、駆けつけてくれると、疑ってないんじゃないか?

 情けない話だ。
 自分の矮小さに泣けてくる。


「……………………ふう」


 この世の中には目玉焼きに醤油をかけるか、ソースをかけるか、あるいはケチャップをかけるか、そんな三つ巴の争いが勃発しているらしい。
 しかし私はこう呈したい。いやいや、目玉焼きは何もかけなくたって美味しいじゃないか、と。
 別に目玉焼きに限らない。ないならないで、すべてのものは普通に美味しく頂戴できる。多分誰しもが同じだと思う。


 じゃあ。
 阿良々木暦がいない世界は、阿良々木暦くんともう会えない物語は――果たして綺麗だろうか。
 いないならいないで、普通に、綺麗に、映るだろうか。


「翼ちゃん」


 いーさんが、それに真宵ちゃんもいつの間にか傍にいた。
 溢れだしそうな、抱えきれないような感情を胸の奥底へと仕舞い込んで、向かい合う。

「何でしょう」
「……。えーと、玖渚から色々と聞き終えた?」

 ああ。
 そうだ、私は、そのことについて解析しなければ。
 悲しんでいる場合じゃない。苦しんでいる事態じゃない。
 玖渚さんからの聞き及んだことを、なるたけ脳内で再生する。
 先ほどよりも、随分と脳内にノイズが走っていた。
 

「聞き終えたことには聞き終えたのですが、正直整理の時間が欲しいところかな」
「そっか。じゃあ、これから先のことを決めなきゃね」
「黒神めだかさんがお亡くなりになったということは、あの方々もランドセルランドに戻ってくるんじゃないでしょうか」

 真宵ちゃんは『あの方』という部分をやたらと強調して告ぐ。
 極力出遭いたくはないのだろう。確かにあの人、球磨川くんがしたことは手放しで褒められたものじゃあない。
 苦手意識を持つのもむべなるかな。いーさんは真宵ちゃんの主張をどう捉えたのか。
 しかし、この場合においていーさんの反応は、判明しなかった。

 バイブ音が鳴る。
 いーさんが発信源だ。

「あ、ごめん、メール」

 咎める理由も諫める事情もない。
 私たちはいーさんがメールを確認するのを静観する。
 初めは然したる反応を見せなかったいーさんであるが、はたと怪訝さを露わにした。

941仮投下2  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:28:34



   6




 from:玖渚
 title:水倉りすかについて


 から始まる一連の文章に、一通り目を通す。
 なるほど、玖渚がこうしてメールを『送らなきゃいけない』のも納得がいく。
 同時に、ツナギちゃんがああも頼りにするのも得心だ。
 安易に傷をつけることさえも出来ないのか。
 とか、色々思うところもあるけれど、ぼくの注意は、末尾に向かう。



  ・
  ・
  ・


 いーちゃん



 メールはそれで終わっている。
 これまでのりすかちゃんの話から脈絡も文脈もない、ただ、添えられた「いーちゃん」の一言。
 名詞だけがぽつねんと置かれ、動詞も形容詞も助詞も助動詞もない一言を、如何様に判断すればいいか。
 珍しく句読点もない、その名称を、ぼくはどのように受け取ればいいのか。



「友……?」

942仮投下2  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:28:52

【二日目/深夜/E-6 ランドセルランド】

【戯言遣い@戯言シリーズ】
[状態]精神的疲労(小)、右腕に軽傷(処置済み)
[装備]箱庭学園制服(日之影空洞用)@めだかボックス、巻菱指弾×3@刀語、ジェリコ941@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×2(うち一つの地図にはメモがされている、水少し消費)、ウォーターボトル@めだかボックス、お菓子多数、缶詰数個、
   赤墨で何か書かれた札@物語シリーズ、ミスドの箱(中にドーナツ2個入り) 、錠開け道具@戯言シリーズ、
   タオル大量、飲料水やジュース大量、冷却ジェルシート余り、携帯電話@現実、解熱剤、フィアット500@戯言シリーズ
[思考]
基本:「主人公」として行動したい。
 1:これからどうするかを考える。
 2:不知火理事長と接触する為に情報を集める。
 3:危険地域付近には出来るだけ近付かない。
[備考]
 ※ネコソギラジカルで西東天と決着をつけた後からの参戦です
 ※第一回放送を聞いていません。ですが内容は聞きました
 ※地図のメモの内容は、安心院なじみに関しての情報です
 ※携帯電話から掲示板にアクセスできることを知りましたが、まだ見てはいません
 ※携帯電話のアドレス帳には零崎人識、ツナギ、玖渚友のものが登録されています
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※八九寺真宵の記憶を消すかどうかの議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします
 ※水倉りすかに関する情報を手に入れました。


【八九寺真宵@物語シリーズ】
[状態]体調不良(微熱と若干の体力低下)
[装備]人吉瞳の剪定バサミ@めだかボックス
[道具]支給品一式(水少し消費)、 柔球×2@刀語
[思考]
基本:変わらない。絶対に帰るんです。
 1:これからどうするかを考える。
[備考]
 ※傾物語終了後からの参戦です


【羽川翼@物語シリーズ】
[状態]健康、ノーマル羽川、大体の現状認識
[装備]パーカー@めだかボックス、ジーンズ@めだかボックス
[道具]支給品一式×2(食料は一人分)、携帯食料(4本入り×4箱)、毒刀・鍍@刀語、タブレット型端末@めだかボックス、黒い箱@不明、トランシーバー@現実、
   真庭忍軍の装束@刀語、「ブラウニングM2マシンガン×2@めだかボックス、マシンガンの弾丸@めだかボックス」
[思考]
基本:出来る手を打ち使える手は使えるだけ使う。
 0:殺し合いに乗らない方向で。ただし、手段がなければ……
 1:情報を集めたい。ブラック羽川でいた間に何をしていたのか……
[備考]
 ※ブラック羽川が解除されました
 ※化物語本編のつばさキャット内のどこかからの参戦です
 ※全身も道具も全て海水に浸かりましたが、水分はすべて乾きました
 ※トランシーバーの相手は玖渚友ですが、使い方がわからない可能性があります。また、相手が玖渚友だということを知りません
 ※ブラック羽川でいた間の記憶は失われています
 ※黒神めだかの扱いについてどう説得したか、他の議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします
 ※零崎人識に関する事柄を無桐伊織から根掘り葉掘り聞きました
 ※無桐伊織の電話番号を聞きました。

943 ◆xR8DbSLW.w:2015/11/15(日) 23:30:44
以上で、今回の投下を終了します。
諸々と指摘などは受け付けておりますので、よろしくお願いします。

944 ◆xR8DbSLW.w:2015/11/17(火) 21:32:02
何度も失礼します。
色々と考えてみましたが、やはり「仮投下1」に関しましては破棄したいと思います。
この度はご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。
「仮投下2」に関してましても、この際ですし一緒に破棄にしてもいいかな、
という気持ちもあるのですが、何かご意見などありましたらお願いします。
どちらであれ前向きに考えておきます。
また、wiki収録の際は没話1など適当に題名を付けていただけたら幸いです。
改めてお騒がせしました。




それはそれとして、感想などありましたらくれるととても嬉しいかなって(小声)

945誰でもない名無し:2015/11/18(水) 16:02:57
仮投下1非常に好きなんですがロム専なので…
りすかの魔法の解釈に感心しました

946誰でもない名無し:2015/11/18(水) 20:43:29
問題ないように見えるけど何が駄目なの?面白いのに

947 ◆wUZst.K6uE:2015/11/21(土) 13:37:53
仮投下乙です。反応遅れてすいません。

>仮投下1
破棄ですか…
非常に残念ですが、修正を要求した以上何か言える立場ではないので、氏の判断に委ねたいと思います。

>仮投下2
相変わらずキャラ同士の会話の自然さというか何というか、「こいつら会話したらこんな感じだよね」的なものを感じさせる台詞回しの巧さに感服します。
羽川の心理描写も、彼女の境遇やこれまでの流れを考えるとなるほどなぁと思わせられるもので、とても印象深かったです。
いーちゃんは……玖渚次第でどう転ぶかだけど、正直ここが一番怖い。
内容に関しては、自分からは指摘や要求などはありません。というかかなり好きな話なので、できれば破棄はしてほしくないです。
残りの感想は本投下にて。

948 ◆xR8DbSLW.w:2015/11/22(日) 23:57:23
ご意見ありがとうございます。
◆mtws1YvfHQ氏と◆ARe2lZhvho氏と、お二方からご意見を頂けないままでしたが、
仮投下から一週間経過したということで、現在出ている意見や感想なんかから結論を。

>「仮投下2」に関して
では、せっかく◆wUZst.K6uE氏よりありがたいお言葉を頂きましたので、通しとさせていただきます。
ただし、パートの『6』に該当する部分は丸々削除、それに伴い『005』の最後を微修正させていただきます。
あらかじめご了承願います。明日、本スレにて投下したいと思います。

>「仮投下1」に関して
>>946様の疑問に、正直なところ万人が納得するような理由を提出するのは難しいです。
私の我侭に依るところが大きいのは事実です。ただ、感想を乞食した身分で図々しい言い分ではありますが、拙作にも一定の需要はあるように見受けられました。
なので、今回はこれで破棄ということには変わりがありませんが、一ヶ月二か月と、長期間りすかのパートが投下されないようでしたら、
ネタを潰してしまった(かもしれない)ことへの戒めを踏まえ、「仮投下1」を再投下しようかと考えてはみました。主張が行ったり来たりして申し訳ない。
勿論、他の書き手様方が書いてくださるというのであればそれに越したことはありません。お待ちしております。
鬱陶しい主張、および立案かと思いますが、なにとぞよろしくお願いします

949誰でもない名無し:2015/11/24(火) 19:35:09
ロム専だけどいくら大人りすかの時だけとはいえ制限無しになるのはやり過ぎじゃないかと

950 ◆ARe2lZhvho:2021/12/30(木) 02:00:38
大変遅くなりましたが安心院なじみ、不知火半袖
投下します

951安心院なじみの専断偏頗リクルート ◆ARe2lZhvho:2021/12/30(木) 02:02:40

――――ぱちぱちぱちぱち。

「なんのつもりですか」

もちろん褒めているんだよ。
よくぞそこまで辿り着いたね不知火ちゃん。
……なんてお世辞はいらないか。
解いてもらわなきゃ、僕も暗躍した甲斐がないというものだ。

「はい?」

そんなにおかしいことを言ったかい?
出題者としては解答の存在しない問題を出すのはフェアじゃないだろう。
数学とかだと解答なし、という答えもあるけれど、この場合は当てはまらないし。

「そっちじゃないですよ。暗躍だなんて、バレバレすぎてとてもとても」

んー、まあ、否定はしないよ。

「というかむしろあたしに気づかれることを折り込み済みで色々やってませんでした?」

なんだ、わかってるじゃないか。
本当に気づかせたくなかったらそうしていたとも。
逆説的にそういうことになるわけさ。
それじゃあ、解説タイムと洒落込もうか。
ほら、クイズ番組とかでよくあるこれはこれこれこういうことなんだよって説明するやつ。
正解を出したのならいるんじゃないかい?

「どちらかと言えば、ミステリーの犯人の自白の方がまだ近そうですけれどね」

その例えをするならミステリーに必要不可欠な証拠とかが全然無いじゃないか。

「証拠? そんなもの安心院さん相手に意味あります?」

それもそうか。
悪平等の端末という時点で証拠も何もないというならそうだけれど。
確かに犯人は僕だけれども。
ああ、今のは自白になってしまったかな、なんて御託もいらないか。
一応先に言っておくけど、僕はこの実験、壊す気満々だぜ?

952安心院なじみの専断偏頗リクルート ◆ARe2lZhvho:2021/12/30(木) 02:05:48
   ■   ■



まず目をつけたのは容赦姫――いや、とがめちゃんと呼んであげた方がいいかな?
死ぬ直前のところを精神だけ呼び出した。
おっと、この場合は呼び出すってより取り出すの方が正しかったかな。
球磨川くんや善吉くんやめだかちゃんたちとは違って仕込みとかもないから力業になってしまったけれど。
ほら、喜連川博士の研究のことは知ってるだろう。
精神という名の物質をいじくりまわすってやつ。

「……いきなり何とんでもないことをやらかしてくれてるんですか」

おやおや、笑顔が固まってるぜ。
早速嬉しい反応をありがとう、不知火ちゃん。

「確かに、そういう状態で接触されればこちらはわかりようもないですけれど」

だろう?
ミステリーならよくある入れ替わりとか誤認トリックってやつだ。
しかも彼女が死ぬ瞬間は他ならぬ君たちが記録してくれてるから疑われることすらない。
実際、僕が口にする今の今まで思ってもいなかっただろう?

「ええ、思ってもいませんでしたよ。でもトリックにしても反則がすぎるんじゃありません?」

おいおい、先にミステリーに例えたのは不知火ちゃんの方じゃないか。

「例えはしましたけどさすがにそういう意味じゃないですって。
 でも利用価値なんてあります? 端末とはいえ死んだままなんでしょう?」

そうだね。
彼女を端末にしたところで大局に意味はない。
うん、だからこれは純然たる僕の興味本位さ。

「なるほど、興味本位で手を出されるほどの価値はあったと」

もちろん。
ある意味で僕みたいな考えを持てる父親から生まれた球磨川君みたいな娘、なんて存在だぜ?
それでいて大の人間好きな宗像君が錯覚してしまうにもかかわらず、過負荷たりえない本質。
むしろ、『普通』なら避けていくはずの過負荷すら利用できてしまう人間性。

「言い切るんですか。彼女は過負荷と遭遇してないというのに」

そこは断言するとも。
彼女は過負荷と遭うことはなかったけれど、もしそうなっていればそうしていただろう、とね。
そんな存在、唾を付けない方がおかしいだろ。
実のところ、最初は話をしてみるだけのつもりだったんだけどね。
ただ話すだけじゃつまらないから否定姫や飛騨鷹比等の姿をとって揺さぶってみたりはしたけど。
とがめちゃんからすれば突拍子もない走馬灯を見るような感覚さ。
僕の用が済めばとがめちゃんの精神を持っておく必要もないし、死を迎えた肉体に引きずられて本当に終わり、だったんだけど。

「うっひゃぁ、悪趣味」

953安心院なじみの専断偏頗リクルート ◆ARe2lZhvho:2021/12/30(木) 02:06:26

なんとなく思っちゃったんだよね。
端末にするのもおもしろそうだなって。
実質的な死人を端末にするのって初めてだったし、彼女なら君たちに気付かれることもない。
テストケースとしては悪くないだろう?

「いやいや、それ安心院さんにしかメリットないじゃないですか」

それはとがめちゃんにも言われたね。
だからちょっとだけ彼女に不平等で不公平なことをしてあげたとも。

「まさか用が済んだら生き返らせるとでも?」

いやあ、それはちょっとの域じゃないからそこまでは無理だよ。
できるできないの話じゃなくてやるやらないの話さ。
提案したとき、とがめちゃんも真っ先に聞いてきたけれどね。

「じゃあ何をしたんですか?」

結論から言えば、とがめちゃん本人に対しては何もしてないのと同義かな。
とがめちゃん本人には、ね。
不知火ちゃんならもう察したんじゃないかな?

「……ああ、あのときのはそういうことでしたか」

そう、七花くんと双識くん。
あのときのちょっとしたアドバイスはそういうことさ。
無関係の双識くんのとこまで出向いたのは、七花くんだけじゃ不十分だろうっていうちょっとしたサービスさ。

「それ、本当ですかね? 他の人にもちょっかいかけてそうですけれど」

いや、してないぜ?
この際だからはっきりさせておくけど、彼らも、他の端末もそのとき以外は一切僕から干渉はしていないよ。
僕の不平等、不公平は一人につき一度だけ。
その前後のことは全てなるようになっただけのこと。
どんな結末を迎えようとも、ね。

954安心院なじみの専断偏頗リクルート ◆ARe2lZhvho:2021/12/30(木) 02:07:41
   ■   ■



次に端末にしたのは誰か、よりもその前に彼のことは言及しておいた方がいいか。
×××××を端末にしなかった理由は聞きたいんじゃないかい?

「まあ、そう言われると興味は湧きますよ」

彼もとがめちゃんと同様に球磨川君とどこか似てて、でも決定的に違っていた存在だ。
ちょうど寝ていたし、接触するにはいいタイミングだったしね。
からかってみたり、焚きつけてみたり、色々と話してはみたけれど彼を端末にするのはやめることにした。

「そうですか。てっきり『無為式』を警戒したものだと思ったんですが」

端末に狂わされる本体、なんて実現したらそれはそれでおもしろいことになっていただろうけど、そんなんじゃない。
考えなかったわけじゃないけど、単純に目的の達成にはそぐわないと判断しただけさ。
そもそも、端末という形で膨大な個性を保持する僕相手じゃ彼の戯言も相性が悪かっただろうし。
こんな場合じゃなきゃ彼の『無為式』も状況をひっかき回してくれるだろうという目論見はないでもなかったんだけどね。
後の展開を考えれば端末にしないで正解だったと思うよ。
要するに安全、安定、安心を取ったと考えてもらってもいいよ。
安心院さんだけにね。
なんちゃって。
それで、生きていた人たちの中で誰を最初に端末にしたかは見当がついたかい?
それなりにヒントっぽいことは言ってるけど。

「西条玉藻……は多分違うでしょうね、なんとなくですけど。萩原子荻がこちらにいる以上その人選は避けそうです。
 意識がなかったタイミングで考えるなら……玖渚友、辺りでどうですかね?」

残念。
確かに彼女も端末だけど違うんだなそれが。
さすがにいきなり当てるのは無理があったかな?
正解は櫃内様刻くんだよ。
ふむ、予想外ではないけれど納得がいかないって顔だね。

「タイミングが噛み合わないと思うんですが」

ああ、様刻くんが薬局で熟睡していた時間に端末にしたと考えるならそうだろうね。
でもその前に研究所で泣き疲れて寝ていただろう?

「それなら辻褄は合いますが……そんな早くからだったとは。本当に悪平等の前に自由であったと」

うん、そうだね。
とがめちゃんがテストケースなら様刻くんはモデルケースだ。
まあ、後の2人の参考にはならなかったけどね。
それも含めて、様刻くんだけがスタンダードな端末だ。

「それで実質的な最初の端末に彼を選んだ理由は? たまたま寝てたからだと?」

そう捉えてもらって構わないよ。
合理的な様刻くんなら断らないんじゃないかって打算もあったけどね。
実際、様刻くんは実に合理的だったとも。

「あなたに下るのが合理的、ですか」

955安心院なじみの専断偏頗リクルート ◆ARe2lZhvho:2021/12/30(木) 02:08:13

ちゃんと説明はしたって。
断る自由だってあったし。
その場合も端末にならなかった、だから僕も何もしなかった、で終わるつもりだったよ。

「なんですか、つもりだった、って不穏な言い方」

誰も断らなかっただけだよ。
事実、様刻くんも断らなかった。
むしろ、即決に近い早さだった。
とがめちゃんのときと同様、僕のことはめちゃくちゃ疑ったけれどね。

「そりゃそうでしょ。得体の知れない存在が『僕と契約しない?』なんて言ってくる夢に頷く方がおかしいですよ。
 ……まあ、そこで頷けるのが合理的ってことなんでしょうけど」

疑念と決定は両立するとも。
それを選択できるのが様刻くんの長所でもある。

「で? 端末になる代わりに安心院さんは何をしてあげたんです?」

おもしろいことに、そっちについては即断しなかった。
どころか保留できないか聞いてきた。
操想術を解くとか、様刻くんの視点では知り得ない情報を教えるとか、スキルを1つ貸すとか。
その辺りを想定してたから少し驚いたよ。

「……そんなことされたら色々めちゃくちゃになるんですけど」

だからやってないって。
確かに、様刻くんの実力は下から数えた方が早い。
けれど、あの時点でその見解を導きだせたのは運が良い。
いや、やっぱり悪いか。
それだけ、時宮時刻や殺人鬼二人との遭遇が効いたんだろうね。

「一般人として括られる立場から見れば彼らは劇薬でしょうからねえ」

へえ、毒薬とは言わないんだ。

「零崎一賊にも時宮病院にも客の立場の人間だっているでしょう。であれば劇薬ですよ」

それもそうか。
ともあれ、不知火ちゃんが形跡を見つけられないくらいには様刻くんは様刻くんらしく過ごしていただろう?

「それで、わざわざ保留までした彼の不平等はなんだったんですか?」

うーん、それを明かすのは野暮な気もするけどなあ。
それを保留し続けること、かな。
今のところは、だけど。

956安心院なじみの専断偏頗リクルート ◆ARe2lZhvho:2021/12/30(木) 02:09:05
   ■   ■



その次は羽川ちゃんか。
といっても、彼女についてはついでみたいなものだったし、話せることは少ないんだけどね。
それに、厳密に言うと今の羽川ちゃんは端末じゃないんだけど。
今っていうのは、ランドセルランドで元気にマシンガンを撃っていた羽川ちゃんのことだね。

「はあ、つまり裏人格のブラック羽川だけが端末になったと」

その通り。
見ていたのなら知っていると思うけれど、球磨川くんはブラック羽川ちゃんにとって天敵みたいな存在だ。
らしくもなくパニックに陥っていただろう?
球磨川くんが迷惑をかけたね、くらいの軽い気持ちで覗いてみたらいきなり頼みこまれたから面食らったよ。
ご主人――羽川ちゃんを助けてくれってね。
そう焦らなくたって球磨川くんが死をなかったことにするだろうから、って諭したんだけど、それじゃダメだと。
ブラック羽川のまま、また球磨川くんに遭ってしまえばまた殺してしまうから、って。
僕としてもそれは不本意だし、球磨川くんは死をなかったことにはできても彼女の存在まではなかったことにできない。
ブラック羽川ちゃん本人は否定してたけれど、実質過負荷よりの存在だしね。

「その状態の彼女に端末になる判断が下せるとは思えないんですけどねえ」

そうだね。
端末にする必要性はないと言えばなかったんだけど。
でも、管理しておくなら端末の方が都合が良いと言えば良かった。
些細な差だし、どっちでもよかったんだけどね。
魔が差したとか、出来心でとか、ほんの軽い気持ちで、みたいなものだよ。
そういうわけで、羽川ちゃんからブラック羽川ちゃんを切り離した。
エナジードレインとかの正当な手順を使ったわけじゃないから、スキルを使って無理矢理に、と少々荒療治にはなったけれど。

「つまり、羽川翼本人のストレスが解消されたわけではない、と。それはまた面倒な」

それはもちろん。
きっかけさえあればまた出てくる、かもしれないぜ?

「ところで、球磨川先輩に却本作りを返した理由も聞かせてくれたりします?」

え、球磨川くんの話?
状況を見てれば予想できることをやっただけだけど。
それに、それは悪平等とは関係ないだろう。
だからここでは話さないよ。
どうしても聞きたいならまたの機会に、というやつだ。

957安心院なじみの専断偏頗リクルート ◆ARe2lZhvho:2021/12/30(木) 02:11:09
   ■   ■



そして最後に端末にしたのが玖渚ちゃんだ。

「最後、ですか」

うん、最後だよ。
45人中4人。
他にはいないしここまで状況が進めば新たに作る必要もない。
玖渚ちゃんは中々の曲者だったねえ。
なにせ、彼女だけは僕のことを待ち構えていたんだから。
僕の存在に気付くまでは材料さえあれば誰でもできるだろう。
けれど、そこから僕が接触しに来ると確信できるのはそういない。
なのでちょっぴり癪だったからファーストコンタクトはとがめちゃんにお願いした。

「そんな理由で何やらせてるんですか」

あの辺りの時間は色々ブッキングして少し忙しかった、っていうのもあったんだよ。
人材の有効活用も兼ねていたとでも思ってくれないかな。
弱い者同士、親睦を深めてくれればいいなーくらいの感覚だったんだけれど。
同族嫌悪って言うのかな、中々に凄絶だったねえ。

「そんな言い方されると途端に気になるじゃないですか。
 何を話してたかは把握してるんでしょ、教えてくださいよ」

まあ、その辺の話は本題と外れるからこれも機会があれば、ということにしておこう。

「……………………」

話を戻そうか。
玖渚ちゃんも端末になることは即答……むしろ、自分からなりに来たようなものだったね。
心底嫌そうだったけれど。
それでも端末になる価値はあると理解した上で僕に交渉を持ちかけた。
『私が幸せになれる未来はある?』と。

「そんなことを聞いたんですか。安心院さん相手に」

958安心院なじみの専断偏頗リクルート ◆ARe2lZhvho:2021/12/30(木) 02:18:33

僕相手だからこそ聞いてきた。
確かに、この玖渚ちゃんがどんな末路を迎えるか、だったら僕は教えなかった。
教えられなかった。
僕は自身に未来を見ないというルールを敷いている。
ネタバレを知りたくないというルールを強いている。
である以上、他人の未来であってもそれは同様だ。
でも、彼女が欲しがったのは自分の未来じゃない。
別の世界の玖渚友の未来だ。
ほら、宗像くんが持ってきた詳細名簿があっただろう?
あれで玖渚ちゃんは労せずして全員の詳細を手に入れた。
平行世界で一大スペクタクルを繰り広げてきた阿良々木君のことも、ね。
となれば後はわかるだろう?
芋蔓式にキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードという存在を知った。
世界の壁に穴を開けられる存在を知った。
フィクションの存在にすぎなかった平行世界が実在すると知ってしまった。
であれば、絶望的ではあっても絶望ではない極小確率の奇跡が叶う世界があるとわかってしまった。
ならば、こんなことに巻き込まれていなかったら、なんてことを想像するのは当然だ。
別の運命であれば、僕の中のルールには抵触しない。
別世界、別ルートならば未来も過去も関係ないからね。
だから僕は教えてあげたとも。


『おめでとう、元気な女の子だよ』


ってね。
どういう形であれ、生き延びられる未来は想定していたようだけれど、子どもを授かることまでは考えていなかったらしい。
本当に? って聞き返すくらいだったからね。
他の端末と違って直接的な利益は一切なかったけれど、玖渚ちゃんにはそれだけで十分だった。

「その二言を聞くのが彼女がもらった不公平だと?」

それ以上求めはしなかったからね。
事実、必要なかったし。
巻き込まれた以上、奇跡的に生還できたとしてもその先はない、と誰に言われるまでもなく理解していた。
生きたいとは思っても生きられないのは重々承知していた玖渚ちゃんにはね。
だからって自分が死ぬことだって心の底からどうでもいい、ということすら思ってもいないのはどうかと思うけどさ。
そんな理由で、玖渚ちゃんは全力を出し惜しみする必要はなくなった。
持てる力を総動員してただやりたいことだけをやった。

「道理で、あの辺りからやたらアグレッシブになったわけですか」

条件が揃ったからというのもあるだろうけどね。
端末にしてなくたって結局同じことをしてたと思うよ?
首輪の解析、魔法の知識の入手、ついでに所有物を壊された仕返し。
反撃を見越しての陣営の分散と精一杯の抵抗。
それとささやかな置き土産。
言ってしまえば、ちょっぴりわがままをしつつも好きな人のためにただひたすらに尽くした。
ただの恋する少女のように、ね。

959安心院なじみの専断偏頗リクルート ◆ARe2lZhvho:2021/12/30(木) 02:20:08
   ■   ■



死人、スタンダード、裏人格、天才。
というわけで結果としてみれば三者三様ならぬ四者四様の端末だったわけだけど、どうだったかい?

「ほぼ安心院さんの匙加減じゃないですか。それっぽい共通点を探してたのが馬鹿らしいですよ」

共通点、そういえばそんなものもあったか。
結果的にそう見えただけで、実情としてはタイミングよく寝てたり気絶した人たちに声をかけてたってだけの話だったんだけど。
要するに誰でもよかった、というやつだ。

「そんな通り魔みたいな理由で端末を作られたらたまりませんよ。そもそもなんでこんな真似してるんですか」

目的なら最初の方にちゃんと言ったじゃないか。
この実験を壊すって。

「いやいや、こんな面倒な手段をとらなくとも安心院さんならできるでしょう」

できるよ。
僕がラスボス系スキルの大盤振る舞いでもして直接手を下すなんて朝飯前さ。
でも、それはただの失敗で致命的な失敗にはならない。
だからこんな回りくどい手段を使ったわけだけれど。
あれほどの生徒数をほこる箱庭学園にすら悪平等は赤青黄と啝ノ浦さなぎの2人しかいなかった。
それなのにここには45人中4人。
観測者効果が発揮されるには十分だ。

「だからって、あたしたちが手をこまねいていると思います?
 そもそも安心院さんご自身も回りくどいとおっしゃるやり方で成功するとでも?」

成功する根拠があるわけじゃないよ。
でも、失敗しても次があるのは僕も不知火ちゃんたちも一緒だろう?
僕としては、こんな馬鹿なことはやめろ、だなんてありきたりなセリフ使いたくはないんだけどさ。
それで、実際のところどうなんだい不知火ちゃん。

「いきなりそう言われましてもなんのことだか」

なんだよ、今更しらばっくれるなよ。
君たちだって、解いてもらうためのヒントを散りばめてるじゃないか。
彼らももうじき辿り着く頃合いだぜ?
そろそろ出題者としての義務は果たさなきゃならないんじゃないかな?

960 ◆ARe2lZhvho:2021/12/30(木) 02:26:13
仮投下終了です

まず締切及び放送案投下を過ぎての予約になってしまったことをお詫びするとともに機会をくださった◆mtws1YvfHQ氏には感謝を申し上げます
放送の本投下まで時間もないので問題があれば破棄するので遠慮なく言ってください

961 ◆mtws1YvfHQ:2021/12/31(金) 16:02:09
お疲れ様です。
返答が遅くなってしまいましたが、私個人としては問題はないかと思います。
そのため後は◆xR8DbSLW.w氏次第かと思います。

なお。私の方は本日の20時以降の投下を予定しております。
失礼致します。


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