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仮投下スレpart1

804 ◆wUZst.K6uE:2013/09/24(火) 21:46:40
 
  ◇     ◇


 「あー、マジにもうこれ以上は動けねえ……」

 燃え盛る竹取山の中、哀川潤は一本の竹を背もたれにして地面に座っていた。
 数分前の時点で十分傷だらけだった身体は、今やさらに傷が増え、無事である部分を探すほうが難しかった。
 その膝の上に、抱きかかえられるようにして面影真心が腰掛けている。
 こちらも負けず劣らず傷だらけで、特に額からはどくどくと血が流れ、顔を真っ赤に染め上げていた。

 「今、かなり真剣に瞬間移動が使えたらいいとか思ってるわ……今だから思うけど、あの能力チート過ぎだろ……別の惑星まで一瞬で飛べるとかどんだけ便利なんだっての。こちとらもう、一ミリだって動けねえっつうのによ……なあ真心」
 「…………知るか、そんなこと」

 真心が拗ねたような顔で口を開く。
 息も絶え絶えの様子だったが、それでもかろうじて意識はあるようだった。

 「どうだ、真心。あたしと本気で殺しあって、少しは生きてるって実感できたかよ?」
 「そんなわけ、ないだろ……ただでさえ死にそうだったってのに、お前のせいで、より一層死にそうになっただけじゃないか……こんなので、いったい何が実感できるってんだよ……」
 「はは、何言ってんだ。死にそうだっていうならならお前、生きてるんじゃねえかよ――って、この台詞もあたしにとっちゃ二回目か……どうにも締まらねえな」
 「それにお前、『殺すつもりで』とか言っといて、最終的に手加減しただろ……あの頭突き、本気で喰らってたら俺様、絶対に死んでたぞ……結局死ぬどころか、気絶もしてないじゃないか……」
 「ばーか、買いかぶりすぎだっつーの……こっちは腹筋と背筋、両方ともぶっ貫かれてんだぞ。こんな状態で、本気の頭突きなんて出せるわけねえだろうが……」
 「……けっ」

 毒づき合ってはいるが、その表情はどちらも穏やかだった。
 仲の良い友達のように。
 満身創痍の二人は、紅蓮の炎に囲まれながら会話を交していた。

 「あーあ、色々中途半端なままで終わっちまったな……結局いーたんには会えずじまいだしよ。零崎くんとか、話したい奴もまだいたんだけどな。あのクソ親父も、もし会えたら一発ぶん殴ってやろうとか思ってたんだが――」

 哀川潤の体内時計は、このエリアが禁止エリアになるまでの時間をも正確に把握できている。
 だから仮に全快の状態だったとしても、時間までにこのエリアから脱出することはほぼ不可能だということも理解できていた。
 つまりは、あと数分足らずで死ぬということを。

 「いーちゃんに――」

 遠くを見つめながら、真心は言う。

 「いーちゃんに、会いたかったな……いーちゃんが無事かどうか、この目で確かめたかった……いーちゃんと一緒に、ここから帰りたかった――」
 「……そうか」
 「でも、同じくらい、いーちゃんに会うのが怖かった……いーちゃんに会ったら、もしかしたら俺様は、いーちゃんを殺すかもしれない。それに、俺様がやったことを知ったら、いーちゃんが俺様のことをどう思うか――」
 「まだそんなこと言ってやがんのか、お前は」

 こつん、と真心の頭頂部を顎で小突く。

 「いーたんがお前のことを嫌いになるはずがねーだろ。あいつ、真心が暴走して骨董アパート破壊したって聞いても、命張ってまでお前のために奔走してたんだぜ――あ、これはあたしの時系列での話な」

 こういうネタバレなら悪くねえ、と哀川潤は笑う。

 「それにお前、ランドセルランドであたしがいーたんの声真似して後ろから呼んだとき、玉藻ちゃんを攻撃せずにそのまま振り返ったよな? もしお前がいーたんのこと殺そうと思ってたんなら、玉藻ちゃんを殺してからあたしの方に向き直ってもよかったはずだろ。
 そうしなかったのは、お前がいーたんの声に反応して破壊衝動を反射的に抑え込んだからじゃねえのか? 声だけとはいえ、いーたんがお前のストッパーになったんだ。それこそお前に、いーたんを殺すつもりなんてなかったっていう何よりの証拠だろうよ」
 「…………」


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