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775ヤン・ヴァーツラフ・ヴォジーシェクの地平 ◆Sick/MS5Jw:2011/02/19(土) 02:07:11 ID:HgiVeuOw0
茶化すような二人に、ささらがトーンを上げる。
尚も何かを言い募ろうとしたささらを止めたのは、春夏の眼光である。
笑顔の奥に潜む、何か怖気の立つようなものが、一瞬にしてささらを飲み込んでいた。

「ささらちゃん。真面目な話、私たちいま、絶体絶命」
「……」
「こうして話を聞いてもらってるだけで、大ラッキーなのね」
「……っ」

その言葉に、ささらが唇を噛んで俯く。
確かに自動小銃の銃口は下がっていた。
しかし来ヶ谷唯湖がその気になれば、徒手空拳の三人は一秒を待たず全滅するだろう。
理解していたはずの危機感は、流転する状況の中でいつの間にか薄れつつあった。
それを改めて突きつけられたささらは、顔を上げられずにいる。
そんなささらの肩に手をかけると、春夏がぐっと握り拳を作って続ける。

「……でもね、このまま春夏さんのトークで丸め込めれば、形成大逆転。
 淑女協定も一気に戦力倍増よ!」
「聞こえるように言うものではないと思うが」
「大丈夫、それも計算のうちだから」

唯湖が苦笑するのへ、春夏がウインクを飛ばす。

「……まあ、いいさ。では早速、丸め込まれるとしようか」
「え?」
「そろそろ退屈してきたところだ。話を先に進めよう」
「あら、悪いわねえ」

まるで悪びれた様子もなく呟く春夏。

「こう見えて、私にも友人と呼べる存在くらいはいてね」
「本当にサクサク話を進めるのね」
「……続けていいかな」
「どうぞどうぞ」
「……私はこれから、彼らを捜してここへ連れてくる」
「ここって、そこ?」

意味のない問いに唯湖は頷くと、腰掛けた屋根を銃底で小突く。

「君たちは彼ら……そして彼女らを、この館で匿ってくれたまえ」
「そんな、都合のいい……!」
「やめなさいってば」

またも声を上げようとしたささらを、春夏が身振りで制する。

「いいわ。十人でも二十人でも、この春夏さんにどーんと任せなさい!」
「……私はそれほど友人の多い方ではないよ」

唯湖の苦笑と共に、協定は締結された。


***

776ヤン・ヴァーツラフ・ヴォジーシェクの地平 ◆Sick/MS5Jw:2011/02/19(土) 02:07:34 ID:HgiVeuOw0

「……ところで、君」
「何ですか」

さやさやと音をたてる梢の下、来ヶ谷唯湖が少し離れて歩く香月ちはやに声をかける。
闇が忍び寄りつつある林道である。
陽射しは既に傾いて、二人の正面に沈もうとしていた。
足を止めたちはやが、唯湖の方へと向き直る。

「そんなもの、君に扱えるのかね?」
「さあ。ないよりは選択肢が増えるでしょう」

答えたちはやの腰には、可憐なワンピースにはひどく不釣合いなものが括りつけられている。
無骨な革のベルトに差し込まれているのは、黒光りする大振りな拳銃であった。
フェイファー・ツェリザカ。
洋館の門の側に転がった、木田時紀であった肉塊から拾い上げた代物である。

「ロジカルな返答だ。花丸をやろう」
「どうも」

少女らしからぬ凶器を身につけたちはやが、やはり少女らしからぬ無表情で短く答える。
会話を続ける気のない気配がありありと浮かぶ声音だった。

「しかし、あの御仁……柚原春夏といったか。なかなかに食えないな」
「……」

千早の様子などどこ吹く風と、唯湖は楽しそうに言葉を継ぐ。

「一方的な従属に信頼は生まれない。そこのところをよく分かっている」
「……」
「大人は怖いね。女だから尚更だ」
「……連れてきたいご友人って、どなたですか」

放っておけばどこまでも続けそうな唯湖の言葉に耐えかねたように、ちはやが口を開く。
刺のある言葉は、しかし核心を突くように鋭い。

「はっはっは」

声だけで笑った唯湖が、目を細める。

777ヤン・ヴァーツラフ・ヴォジーシェクの地平 ◆Sick/MS5Jw:2011/02/19(土) 02:07:52 ID:HgiVeuOw0
「まあ……誰を連れて戻ろうと、仲良く蜂の巣だろうからね」

当然のように唯湖は協定の無視を口にする。
憤りを覚えた様子もなく、ごく自然な成り行きを告げる口調だった。

「今、丘を下っている最中に撃たれなかったのは、君がいたからだ」
「……」
「君にもそのくらい分かっているだろう。だから親切にそういうことを聞く」
「……厄介払いをしたいだけです」
「やはり優しいね、君は」
「……」

ざあ、と夜を含んで吹く風が、梢を鳴らす。

「余裕、あるんですね」
「人生は楽しむものだよ」
「……言うわりに、楽しんではいなさそうですけど」
「はっはっは」

唯湖が、笑う。
今度の笑い声には、色がついていた。
微かな愉悦の、色。

「なかなかの慧眼だ。お姉さんは少し感心したぞ」

ぽんぽんと、親しげにちはやの肩を叩くと、嫌そうに顔をしかめるその脇を抜けて、
林道の先へと歩を進める。
ややあって足を止めた唯湖が、振り向かないまま、告げる。

「……楽しくはない。楽しくなどないさ。生きることは」

778ヤン・ヴァーツラフ・ヴォジーシェクの地平 ◆Sick/MS5Jw:2011/02/19(土) 02:08:05 ID:HgiVeuOw0
見つめる先には、沈みゆく太陽がある。
その背は黄昏に向かって歩むように、見えた。

「本当に守りたいものなど、どこにもない」

逆光の中の影は、ゆらゆらと揺れているようだった。
夕暮れの茜色と、宵闇の群青と、混じり合った空に溶けるような、曖昧な影。

「きっと私は、殺すだろう。知り合いも、友人も。誰も、彼も」

ゆらゆらと揺れる影が、ゆらゆらと揺れる言葉を紡ぎ出す。
それはひどく虚ろな声で、だからちはやは吐き出しかけた言葉を呑んで、ただ、影を見ていた。

「戯れさ。戯れだよ、この殺し合いも」

それを最後に、黄昏の声が、ふつりと途切れるように、消えた。

「―――さて、見送りはこの辺りで充分だ」

振り返ってそう言った、唯湖の表情はよく見えない。
声音からは、虚ろな響きは消えていた。
きっとまた色のない笑みを浮かべているのだろうと、ちはやは思う。

「さすがにもう射程の外だし、向こうからも見えないだろう」
「……残念です」

何が、とは言わなかった。
唯湖が聞き返すことも、なかった。
代わりに小さく首を振って、唯湖は口を開く。

「壊れ物が寄せ集まっても、きっとろくなことにはならないさ」
「……」

ちはやは、答えなかった。

「まあ、よろしく伝えておいてくれたまえ」

それだけを告げて、軽く片手を上げた唯湖の影が遠ざかっていく。
振り返らず歩むその背を、闇が溶かして消えるまで、ちはやはじっと見守っていた。


***

779ヤン・ヴァーツラフ・ヴォジーシェクの地平 ◆Sick/MS5Jw:2011/02/19(土) 02:08:18 ID:HgiVeuOw0

「戻ってこないでしょうねえ」
「……え?」

夕暮れを望むテラスの上で、あっけらかんと告げた春夏に、ささらが思わず聞き返す。

「たぶん戻ってこないって言ったのよ。あの来ヶ谷って子」
「……」
「下のこと、聞いていかなかったもの。
 ……それにしても、まだちょっと臭うわねえ。ご飯が美味しくないわ」
「アンモニア臭、でしょうか。……下?」
「トラップ」

支給品のパンを小さくちぎって口に運びながら、春夏が階下を指さして見せる。

「紙がある、ってわざわざささらちゃんに言ったのよ、私」
「……確かに」
「あの子がそれ、聞き逃すわけないわ。だけど……」
「そこを突いてこなかった。つまり、誰かを連れて戻ってくるつもりなどない、と」
「そういうこと。ま、そんな傍証なんてなくたって、あの態度見てればわかるわよ、誰でも」
「……誰でも、ですか」
「そんなんじゃ、将来つまんない男に引っかかって泣くわよ?」
「……でも、それなら後ろから撃ってしまえばよかったのに」

からかうような春夏の仕草に眉根を寄せながら、ささらが言い返す。

「ちはやちゃんが側にいたでしょ。そんなに精密な狙いなんてつけられないわ。それに……」
「それに?」

たっぷりと間を空けて焦らした春夏が、悪戯っぽく笑んで、舌を出す。

「その方が、楽しそうじゃない」
「……悪い病気でも、うつされたんですか」

呆れたように言ったささらが、付き合っていられないとばかりに首を振る。

「どうかしらね」

言った春夏が、くすりと、笑った。

780ヤン・ヴァーツラフ・ヴォジーシェクの地平 ◆Sick/MS5Jw:2011/02/19(土) 02:08:58 ID:HgiVeuOw0

【時間:1日目午後6時前ごろ】
【場所:H-6 洋館】

柚原春夏
【持ち物:M134ミニガン&大量の弾薬、水・食料一日分】
【状況:健康】

久寿川ささら
【持ち物:M134ミニガン&大量の弾薬、水・食料一日分】
【状況:健康】

※M134は固定式です。携帯してダンジョン探索はできません!


【場所:H-5】

香月ちはや
【持ち物:鉄パイプ、フェイファー・ツェリザカ(4/5)、予備弾×50、水・食料一日分】
【状況:健康】

来ヶ谷唯湖
【持ち物:FN F2000(29/30)、予備弾×120、バーベキュー用剣(新品)、水・食料一日分】
【状況:アンモニア臭】

781管理人★:2011/02/19(土) 12:51:38 ID:???0
容量が肥大化してきたので新スレ立てました。
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