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仮投下スレ
1
:
名無しさん
:2010/07/15(木) 00:08:08 ID:jM/W7I820
規制中の場合はこちらへどうぞ
261
:
人間だもの
◆cBHS.HrQeo
:2010/08/12(木) 20:23:58 ID:wZvFqclY
平賀才人は優しき人間である。
犠牲を厭い、犠牲に愛する人間が宛がわれるならば、己を犠牲する人間だ。
その優しき性根に併せ、神の左手、ガンダールヴの印をその左手に秘めており、困難を乗り越える力を身につけている。
だがそれをひけらかすこともせず、親しき者はそんな彼を身分の差を越えて扱い、慕い、接する。
まさに理想的な人間だろう。
だが欠点があるとすれば、良くも悪くもサイトの行動原理が「愛する人間」にあるということだ。
朝焼けが広がる頃、草原地帯を歩む彼の顔が晴れぬのもそのためである。
彼は迷い続けていた。
ロワから受信したメール。
“本当の願いは優勝すれば叶う。何も得ずに死にたくはないだろう?”という一文。
彼は理由は無いがセシリーには送られていないと確信していた。
だがその根拠の無い確信は自らの全てを見透かされているような気分にさせた。
日本のそれなりに豊かな学生としての日常を捨て、異世界ハルケギニアに飛ばされ、
使い魔として生きることになった自分の背景も事情も。
そして彼は「if」を考え始めた。
もしも平賀サイトが殺し合いに乗ったならばという「if」
彼の脳裏に過ぎったのは、一人目の仲間、セシリー・キャンベルである。
(セシリーはこんなこと絶対おもわねえだろうな……)
あの正義感の塊のような少女。
この殺し合いに乗った実力者グリフィスすら止めようとした彼女である。
今頃、反逆せんと意気込んでいるだろう。
短時間しか話せなかったが信頼するに値する人物。
しかし優勝するということは彼女すら、今差している刀で―――――――――
「……やめだやめだ」
はぁ、と深くため息をついた。
単独行に伴う緊張で短時間ながら疲れているのかもしれないとサイトは思った。
こんなことを想像して、良い事なんて無い。
考え方を変えて携帯をとりだし、ロワからのメールを再度開く。
人の弱みにつけこむ忌々しいメールを見つめ、『返信』を押した。
(こっちからも送れるか……?)
このメールがロワ自身によって送信されたものという確証はない。
しかし、もしも送信されたならば。
それは独自の交渉ツールを得たことになる。
交渉によって、このゲームから脱出する難易度を下げることができれば。
例えば、報酬も神の力を持つ剣を得るという権利も放棄し、ロワが指定する人数、もしくは人を殺すことができれば帰してくれるとか。
駄目で元々と自らを戒めつつ、サイトはそんな淡い期待を抱いた。
だからだろうか、目先の餌に釣られ警戒が疎かになっていたのは。
文字を入力しようとしたその時、サイトの目が大きく見開かれた。
その位置から離れるため、サイトの体が弾かれた様に左に飛んだ。
ガンダールブとして、戦士としての嗅覚がサイトを飛ばせた。
しかし遅い。
彼が反応するよりも数瞬早く、襲撃者は踏み込み、右へと切り払っていた。
サイトが動きに遅れて視界の片隅に剣戟を視認したときには、
切り口から血を撒き散らしながら携帯電話を持っていた右腕が宙を一回転していた。
262
:
人間だもの
◆cBHS.HrQeo
:2010/08/12(木) 20:24:50 ID:wZvFqclY
続けての一閃。
サイトはこれをかわした。というよりも襲撃者が外したというべきか。
根元から片腕を失い、うまくバランスを取ることができず転倒したサイトの動きを計算できなかったのだ。
7万の軍勢を相手どった時も腕を失えど戦い続けた経験を持つサイトだが、それは事前に覚悟していたため。
今回は死角から不意の一撃であり、その差は大きい。
それでも偶然ながら襲撃者の足元に潜り込んだサイトは、無我夢中で右足を前方の脅威の腹部につきだした。
バキ
その音はサイトの予想とは違った。
人間の柔らかい腹部を蹴った感触ではなく、むしろ物を蹴ったような感触。
しかも予想以上に軽く、蹴っただけで吹っ飛んだ。
そうして足元にいたので見えなかった全体像も、蹴られて後退した為見えた。
「なんだよ……こいつは……」
ギーシュやフーケが練成したゴーレムなどを撃破してきたサイトでも驚嘆を禁じえなかった。
その姿はあらゆる人々の終着点である死の象徴、骸骨。
あるいは右腕を奪われたサイトには命を刈り取りにきた死神にも見えた。
周囲への注意が散漫だった後悔と、傷口より零れ落ちる鮮血、切られた後になってからやってくる苦痛、
そして近づいてくる物言わぬ死神は彼に冷静さを取り戻す余裕すら与えなかった。
(剣を……剣をとらねえと!)
サイトが刀の柄を握ると骸骨が用心したように反応を示した。
サイトは震えが止まらなかった。
尻餅をついた体勢では不利ということで、立ち上がるために刀の柄を離そうとしても、吸い付いた様に離れることは無い。
「近づくな……!俺に近づくなぁ!!!!!!」
7万の軍勢を前にしても勇猛果敢に立ち向かった男が、恐れを顔に浮かべる。
7万の軍勢といっても、彼らは自分と違って魔術が使え、ルーンなど無いが確かに同じ人間だった。
だが目の前の者は違う、別次元の存在であった。
サイトに歩み寄る死の恐怖、一度経験したものとは性質が違う。
何も為せず、迷いを抱いたまま、無意味な死を遂げる事への恐怖。
意思に反し和道一文字は抜けなかった。
――――――――スィ〜〜〜〜〜〜
すると襲撃者はサイトの眼前で剣を動かし始めた。
サイトは突然のことで唖然として、前後左右に動くそれを目で追うしかできなかった。
頭がついていってないのだ。
動作を終えると襲撃者はサイトの脇を通り過ぎた。
その足取りは軽い。それがどれほどサイトを刺激したかは言うまでも無かろう。
刀で背後の死神を断て!!
左手のルーンがサイトを鼓舞するように光る。
だがサイトにはそれを実行することができなかった。
死神を見つめていた筈の視界が一転し、気づけば空を見ていたからだ。
―――――――――スゥゥ
立ち止まったブルックが剣を鞘に収め始めた。
「…鼻歌三丁…」
サイトとブルックには根幹で共有する部分がある。
人を殺すことを良しとしないこと。
戻るべき場所を有すること。
そのために殺し合いに乗るか考えたこと。
しかし、大きな違いもまた存在した。
サイトはセシリー・キャンベルを殺すことすらイメージできず
ブルックは鳳凰寺風を実際にその手に掛けた。
そんな二人の出会いは偶然であった。
しかしこの結果は必然であった。
平賀サイトの敗因は迷いを断ち切れぬ「人間」であったから。
ブルックの勝因は迷いを断ち切った「死神」であったから。
迷いのために彼は全てにおいて後手に回ってしまったのだ。
263
:
人間だもの
◆cBHS.HrQeo
:2010/08/12(木) 20:26:07 ID:wZvFqclY
矢筈切り!!!!!!!!!!!!
【平賀才人@ゼロの使い魔 死亡】
◇ ◇ ◇
ブルックがサイトを見かけたのは偶然だった。
違うことに気を取られているのか、つけられている事にすら気づかぬ少年。
初めは誘われているのか、とブルックは用心し疑ったが、彼の注意が右手に集中していると分かれば思い切り良く近づいた。
近づききった頃にようやく反応を示したが、遅い。
命を奪うことはできなかったが、右腕を奪い、終始ペースを保ちながら殺すことができた。
「喋らずに戦ってみましたが、調子が出ないですね……」
ブルックは今回、試みに声を漏らすことなく、戦った。
声を出して戦えばブルック自身の戦意も高まり、敵を恐れさせることができる。
それらの効果を捨て、あえて声を出さず戦うことで、相手に混乱をもたらした。
これは彼の外見をあってのことである。
風との接触で自分の外見の特異性を思い知らされた。
なるほど、死と隣り合わせの場に放り込まれ、これほど好ましくない外見をしている者もおるまい。
クレス・アルベインのようにあらゆるタイプのモンスターと戦いなれている人間でなければ
場合によってはブルックを人間から乖離した脅威として見なすこともありうる。
何よりも忘れてはならないことに奇襲の成功。
死角からの一撃で右腕を切り落としたことで、戦力を大幅に削ぐ事に成功した。
これが無ければ、どうなっていたか分からない。
何も言わぬことによる混乱、彼特有の外見と突然襲撃を受けたことでのパニック。
これらの要因あっての今回の結果なのだ。
「これは……」
ブルックは戦利品の回収を始めた。
最初に手にとったのは腰に差された、結局一度も抜かれることの無かった刀、和道一文字。仲間の愛刀である。
それを複雑な面持ちで回収したブルックは、サイトの支給品一式、謎の鍵、首輪、加えてサイトから衣服を奪った。
首輪も衣服も何かに使えるかもしれない。
デイパックはどうなっているのか、重量を感じさせず入れ放題であることだし、あるに越したことは無いだろう。
「これはなんでしょう……?」
次にサイトの腕が飛んだ際に零れ落ちた携帯電話をブルックは手に取った。
サイトが死ぬ原因ともなった携帯電話だが、ブルックの世界には存在しないため操作方法が良く分からない。
結局、今は保留ということでデイパックに入れた。
「にしても疲れましたね、休憩しますか……」
ブルックは首を回し、音を鳴らした。
短時間で2人。十分すぎるスコアである。
とはいえ、ギリギリであった。
風を殺せたことも、クレスから逃げられたことも、サイトへの奇襲が成功したことも。
彼の身体のみならず精神を疲弊させるには十分だったのだ。
「まだまだ死ぬわけにはいきませんからね……」
これだけ殺したのだから、しばらくは人目につかないところで休もう。
そう考え、去るブルックの頭上には時の経過に従って太陽が昇り、草原を照らす。
その草原の中、全てを奪われた悲しき使い魔の死骸があった。
【F-4/草原/一日目/朝】
【ブルック@ONE PIECE】
【状態】 健康、疲労(大)
【装備】 ドラゴントゥース@テイルズオブファンタジア
【道具】支給品×2 和道一文字 謎の鍵 携帯電話 首輪 平賀才人の衣服
【思考】基本:生き延びて約束を果たす
1: 優勝して元の世界に帰る
2: 休む
[備考]
※参戦時期はスリラーバークで影を取り戻した直後です
264
:
◆cBHS.HrQeo
:2010/08/12(木) 20:30:58 ID:wZvFqclY
投下終わりました。
問題があればお願いします。
265
:
無銘の剣
:2010/08/12(木) 20:39:29 ID:YCGKUudc
投下乙です
このロワでは
深夜:0:00〜3:00
黎明:300〜6:00
朝:6:00〜9:00
となっており、朝ですと放送後となってしまいます
黎明でよいかと思います
266
:
無銘の剣
:2010/08/12(木) 21:31:13 ID:X3Tr.ATo
投下乙です。
267
:
無銘の剣
:2010/08/12(木) 21:46:16 ID:nWRHFBQ6
投下乙です
お疲れさまでした
268
:
◆cBHS.HrQeo
:2010/08/12(木) 22:28:54 ID:wZvFqclY
【F-4/草原/一日目/朝】
から
【F-4/草原/一日目/黎明】
に変更させていただきます。
ご指摘ありがとうございました。
269
:
◆OnZTQOLVaU
:2010/08/19(木) 06:13:52 ID:7Hcg7rX2
2chが規制されているのでこっちで投下します
270
:
狂戦士
◆OnZTQOLVaU
:2010/08/19(木) 06:15:31 ID:7Hcg7rX2
セフィロス、クレアとの戦いを終え、アスカロンを解体していたガッツの前に、新たな人影が現れた。
鞘に入ったままの剣、フランベルジュを肩に担いだ黒髪の青年ユーリ・ローウェルである。
ガッツは少しだけ軽くなったアスカロンを構えた。
「てめえ、あの女の言いなりになるってのか」
「俺は急いでるんだ。さっさと帰りたいんだよ」
「そうか、だったら遠慮はいらないな!」
ユーリはフランベルジュを抜いてガッツへと走り出した。
ガッツはアスカロンを構え、横薙ぎに振るう。
ブゥン!とアスカロンが風を切る。
だがユーリは素早くしゃがみこみ回避していた。
「そんな大振りの攻撃に当たるかよ!」
ユーリがガッツに切りかかる。
ガッツはとっさにアスカロンから左手を放した。
キィン!
甲高い音を鳴らしユーリのフランベルジュは根元あたりをガッツの左手に受け止められた。
鋼鉄の義手と剣が噛み合い火花を散らす。
「くっ、鉄の腕だと!」
勝負あったと思ったユーリはガッツの反射神経と義手に驚いた。
だがガッツもまた、ユーリの意外な力に戦慄していた。
(こいつ、この細い体でなんて力だ!剣先を掴んでたら真っ二つになってたかも知れねぇ)
ガッツとユーリでは体格に大きな差がある。
ユーリも長身だがガッツは更に大きく、さらにドラゴンころしほどの大剣を片手で振るえる筋肉の持ち主でもある。
にも関わらず、ユーリは片腕でガッツとほぼ同レベルの怪力を発揮していた。
271
:
狂戦士
◆OnZTQOLVaU
:2010/08/19(木) 06:16:00 ID:7Hcg7rX2
(どうする、アスカロンを構える時間はねえ……つっ!?)
義手と繋がった生身の部分に痛みが走った。
切られたかと思ったがそうではなく、ユーリの剣とそれを掴んでいる義手が発熱していたのだ。
炎の魔剣フランベルジュが放つ炎はガッツの鋼鉄の義手へと高熱を伝導し、生身の部分にまで達していた。
「隙だらけだぜ、烈破掌!」
ガッツの気が緩んだ瞬間を逃さずユーリのもう片方の手がガッツの腹へ強烈な掌打を放った。
ガッツはアスカロンから完全に手を離し、右手で防御する。
「ぐおっ!」
どでかいハンマーで殴られたような衝撃がガッツを襲う。
一回り以上も大きいガッツの巨体が、ユーリの一撃で吹き飛んだ。
民家の壁へと激突し、さらに壁を突き破って屋内へと叩き込まれるガッツ。
「がはっ……」
ガッツは血反吐を吐いた。
ユーリの攻撃は頑丈な甲冑を砕いてガッツの肉体にダメージを与えていた。
(ちっ、烙印が反応しないから人間かと思ったが使徒並みの馬鹿力だと?)
ガッツは剣を手放したことを後悔し、立ち上がって辺りを見回す。
手頃な武器はないかと視線を窓の外へ向けたとき、ガッツは絶句した。
そこにはガッツが落としたアスカロンを振りかぶるユーリの姿があったのだ。
「冗談じゃねえ!」
今にも振り下ろされそうなアスカロン。その威力はガッツも十分に知っていた。
両手で顔をふさぎ窓へと飛び込むガッツ。
その一瞬後に、民家はまるで爆撃でも受けたかのように一瞬で粉々に破壊された。
ユーリはアスカロンをただ振り下ろすだけでなく、風の力をまとわせて叩きつけたのだ。
ただでさえすさまじい重量のアスカロンに爆風の衝撃波が加わり、その威力はもはや剣技の域を超えていた。
飛んできた瓦礫に全身を打たれ、ガッツは路上へと叩きつけられた。
272
:
狂戦士
◆OnZTQOLVaU
:2010/08/19(木) 06:17:09 ID:7Hcg7rX2
「ぐ……」
「勝負あったな」
ガッツの鼻先にユーリの剣が突きつけられた。
アスカロンではなく、ユーリが元々持っていた剣だ。
「お前にどんな理由があるのか俺は知らない。だがロワの言いなりになって人を殺すっていうなら、その前に俺がお前を殺す」
「……その声、どっかで聞いたな。そうだ、あの金髪の……フレンとかいうやつの名前を呼んだのはてめえか」
あのときガッツはロワを使徒、もしくはゴッド・ハンドの一人かと思い大砲で撃つべく機会を伺っていた。
フレン・シーフォが割って入ったことによりその目論見は実行に移されなかったが、もしそうならなければガッツが死んでいただろう。
だからフレンの存在は多少印象に残っていたのだが、ガッツは一体なぜあの金髪の男がフレンという名前だと知っていたのか。
それは誰かが彼をフレンと呼んだからだ。
その声は、今ガッツの目の前にいる男の声とよく似ていた。思い出してみればその後ロワと会話していたのもこの男だったはずだ。
フレンの名前を出すとユーリの決意に満ちた瞳が一瞬泳いだ。
「で、俺を殺してどうするんだ?結局てめえもあのフレンってやつを生き返らせるために最後の一人を目指すんじゃないのか」
「一緒にするな!俺は……俺はあいつを救うために誰かの命を奪ったりはしない!」
「そりゃご立派なこったな。つまりあのフレンってやつはお前にとってその程度の価値しかなかったってわけだ」
「……!」
不敵に笑い吐き捨てるガッツ。怒りのあまりユーリの顔がさっと赤くなる。
不利な状況をわかっていてガッツはあえてユーリを挑発していた。
ユーリは冷静なように見えて実はフレンの死をまだ乗り越えられていない。
戦いに没頭することで目を逸らしているだけだ。鷹の団が壊滅した後のガッツのように。
自分も経験したことのある痛みだから、ガッツはその辛さを知っていた。
だからこそ、ユーリのその傷を抉るのだ。
「知った風なことを……言うなぁっ!」
ユーリはガッツの鼻先に突きつけていた剣を大きく振りかぶった。
そのまま突いていれば死にはしないまでもガッツに残された片目を潰すことくらいはできただろう。
だがフレンの死を愚弄されたと感じたユーリはそれだけでは済まさないと、一刻も早くガッツを殺そうと全力の攻撃を放とうとした。
冷静さを失えば、いくら熟練の剣士だろうといくらでもガッツの付け入る隙があった。
273
:
狂戦士
◆OnZTQOLVaU
:2010/08/19(木) 06:17:54 ID:7Hcg7rX2
(今だ!)
ガッツは転がってユーリの攻撃を回避し、同時にバッグから奥の手を取り出した。
それは先端にフックのついた機械。
遺跡発掘の専門家トレジャーハンター御用達のワイヤーフックである。
持ち手の引き金を引くと、駆動したモーターが先端のフックを押し出した。
フックは瓦礫の中へと突き刺さる。
振り返るとユーリはガッツに止めを刺すべく全身の力を剣に集中させていた。
「絶風刃!」
「遅え!」
風をまとったユーリの剣がガッツを捉える前に、ガッツはワイヤーフックの引き金をもう一度引いてワイヤーを巻き戻す。
するとモーターが唸りを上げてワイヤーを巻き戻す。
その馬力はすさまじく、ガッツの巨体を引っ張って移動させた。
ガッツはそのまま民家へと侵入しアスカロンを拾い上げる。
「逃がすか!」
ユーリが追ってくる。だがガッツにも逃げる気などなかった。
たとえ使途ではないただの人間が相手だろうとガッツは手加減しない。
一度剣を向けたら後はどちらかが死ぬまで全力で戦う。それが剣士だ。
「オオオオオオっ!」
アスカロンを振り回し遠心力をつける。
そのまま、近寄ってくるユーリを狙い……ガッツはアスカロンから手を放した。
たっぷり遠心力のついたアスカロンは回転しながら飛んでいく。
途中にあった民家をすべて破砕しユーリへと迫るアスカロン。
「烈砕衝破!」
なんとユーリはその攻撃を回避せず、迎撃を選んだ。
地面から発生した衝撃波がアスカロンを下から突き上げる。
軸をずらされ、アスカロンはユーリの頭上へと進路を変えて通り過ぎた。
274
:
狂戦士
◆OnZTQOLVaU
:2010/08/19(木) 06:18:36 ID:7Hcg7rX2
「これでお前は打つ手なしだ!大人しく……」
武器を手放したガッツにもう戦闘力はない。
とどめを刺そうとガッツを睨みつけたユーリの呼吸が止まった。
ガッツはすぐ傍にいたのだ。
すぐ近く……ガッツの鋼鉄の拳が、ユーリの腹へと叩き込まれるほどの距離に。
「が、は……っ!」
ユーリがガッツに使った烈破掌に勝るとも劣らない威力の打撃。
違いはガッツがすさまじい加速を得ていたことだ。
「勝負あったな」
ガッツはユーリが取り落とした剣を拾い、吐血するユーリの背に突き刺した。
ユーリ・ローウェルは心臓を貫かれ、その意識は一瞬で途絶した。
苦しまずすぐに死ねるよう心臓を狙ったのは、ガッツなりの敬意の表しだった。
「名前くらい聞いときゃよかったかな」
ガッツはアスカロンを投げた後、すぐさまワイヤーフックを構えた。
ユーリほどの猛者ならばアスカロンを防ぐかも知れない、その保険として。
アスカロンがユーリを倒せればよし、避けられたらアスカロンへ向けてワイヤーフックを撃つ。
「しかしワイヤーフックか。こいつは使えるな」
アスカロンの総重量は200キロ。ガッツが解体して軽くなったとはいえ、それでも150キロはある。
ガッツは長身だがその肉体は鍛えられ絞られている。
1グラムも余計な脂肪はなく、アスカロンの方が重かった。
だからアスカロンにワイヤーフックを引っ掛けても、移動するのはガッツの方だったのだ。
275
:
狂戦士
◆OnZTQOLVaU
:2010/08/19(木) 06:19:14 ID:7Hcg7rX2
ユーリのバッグを漁ると、ユーリに支給された剣と道具の説明書きがあった。
剣の名前はフランベルジュ、炎の魔力を持った魔剣。
といってもガッツが振るうには少し軽すぎて物足りない剣だった。
予備には使えるかとフランベルジュを腰に挿し、ガッツはユーリの左手に巻かれたブレスレットへと目を向ける。
それはパワーリストというらしく、つけたものの腕力を増幅する力があるらしい。
ガッツと拮抗するほどの力をユーリに与えたものの正体はこれだった。
さっそくユーリからパワーリストを剥ぎ取って右手へと装着し、アスカロンを持ってみるガッツ。
「……こりゃいいな。さすがに重さを感じなくなるってわけじゃねえが、ドラゴンころしを持ってるときと大して変わらねえ感じだ」
ガッツは上機嫌でアスカロンを担ぎ直した。
「さて、さすがに疲れた。とりあえず休むか……狩りはまた夜になってからだ」
ガッツは休める場所を求めて歩き出した。
朝は魔が弱まる時間。ガッツが唯一剣を置ける時間なのである。
【ユーリ・ローウェル@テイルズオブヴェスペリア 死亡】
【F-2 市街地/一日目/黎明】
【ガッツ@ベルセルク】
【状態】疲労(中)、全身にダメージ(小)
【装備】アスカロン@とある魔術の禁書目録、フランべルジュ@テイルズオブファンタジア
【道具】支給品、ワイヤーフック@ワイルドアームズF、パワーリスト@FF7
【思考】基本:優勝してさっさと帰る
1:とりあえず 出会った奴は 斬り伏せる
2:休める場所を探す
【備考】
アスカロンはなんかいろいろやって50kgくらい軽くなったようです
ワイヤーフックは10メートルほど伸びる射出形のフックです。うまく引っ掛けて巻き戻せば高速で移動できます
引っ掛ける対象が固定されておらず、自分より軽いものなら引き寄せることもできます
276
:
無銘の剣
:2010/08/19(木) 06:21:15 ID:7Hcg7rX2
以上で投下終わりです
規制されてない方、本スレへ代理投下お願いします
あと、
>>273
の
>風をまとったユーリの剣がガッツを捉える前に、ガッツはワイヤーフックの引き金をもう一度引いてワイヤーを巻き戻す。
↓
風をまとったユーリの剣がガッツを捉える前に、ガッツはワイヤーフックの引き金をもう一度引いた。
に修正します
277
:
◆LwWiyxpRXQ
:2010/08/25(水) 14:05:24 ID:yPAiA/9s
規制中に付き、こちらに投下します。
278
:
荒ぶる者どもに吹き荒れろ嵐
◆LwWiyxpRXQ
:2010/08/25(水) 14:06:40 ID:yPAiA/9s
強さとは、力がある事ではない。優れている事でもない。
大きい事でも勢いがあることでもない。弱くないとういうことも負けた事を意味しない。
強さとは結局のところ、他の何者との関係の無い、それ自体が独立した概念であり、
それを手にいれようとするならば、
勝利や栄光といった他の全てを犠牲にする事を覚悟しなければならない
霧間誠一(-孤独と信念-)
1
不気味に三日月が輝く夜空の下、そこには無骨な橋があった。
流れゆく水の音をBGMにしながら、無機質な石造りの橋の上に立つ二人の人間が居る。
片や落ち着いた雰囲気を持つ初老の男。その腰には二対の剣が刺さっている。
片や鎧兜に身を包んだ鋭い目付きの男。その瞳はまっすぐと敵に向いていた。
彼らの共通点は眼帯をしていることだった。
二人の距離は決して遠くない、かといって近くもない。
剣を交えるには少しだけ、ほんの少しだけ遠い。そんな距離だった。
恐らくどちらかがあと一歩でも踏み出せば、次の瞬間には戦いの火蓋が切って落とされるだろう。
「ふむ、折角拾った命をわざわざ捨てに来たのかね」
最初に口を開いたのは初老の男だった。
厳しい口調で放たれた、明らかな挑発に対してもう片方の男はHA! と吐き捨てるように笑い、険しい眼差しと共に言葉を返す。
「あんたに負けたままにしとくワケにはいかないだろ、King」
そう堂々と告げる男の名は伊達政宗。
相対するは数時間前に邂逅した強敵、キング・ブラッドレイ。
前回見せ付けられた圧倒的な強さを前にしながら、全く臆する様子はなかった。
リンディスと別れて街を出たブラッドレイと、彼を追って北へ向かっていた正宗は再び出会うこととなった。
そして、それが意味することは即ち、闘争。
「下らぬ自尊心に縛られ死を急ぐか」
その言葉と共にブラッドレイは鞘から剣を抜く。
同時に正宗も黒竜を構え、戦闘態勢に入る。
「ゆくぞ、小僧よ」
「奥州筆頭、伊達正宗――推して参る」
そうして二刀と雷鳴の二度目の激突が幕を開ける。
その果てにあるものは――――――
279
:
荒ぶる者どもに吹き荒れろ嵐
◆LwWiyxpRXQ
:2010/08/25(水) 14:08:59 ID:yPAiA/9s
2
最初の一歩を踏み出したのはどちらだっただろうか。
地面を蹴る音から遅れること0.1秒、キィンと剣と剣のぶつかる甲高い音がそれに重なった。
そして、それから連続して剣がぶつかり合う音が続く。
音と音の間は均等ではなく不規則で、しかし途切れることはない。
正宗が黒竜を振るう。その一撃は鋭く、疾風のようにブラッドレイへと吸い込まれていったが、ブラッドレイはあくまで冷静にそれを受け流す。攻撃がいなされたことを知った正宗は、再度の攻撃に移る――前にブラッドレイが動き、隼の剣を走らせた。
「Shit!」
強引に体勢を変え、正宗は一撃を避ける。ブォン! 耳元を掠めた刃が空を裂き、そんな音を響かせた。回避は成功だ。しかし、ブラッドレイの剣はまだ残っている。もう一つの隼の剣が迫り、正宗はそれを何とか黒竜で受け止める。キィン。高い音。そして、衝撃。
「ふん!」
ただでさえ不完全な体勢だった正宗が一撃を完全に受け止めることなどできる筈もなく、ガードごとそのまま吹っ飛ばされた。追い討ちを掛けるべく動いたブラッドレイだが、防御しきれないと悟った正宗は衝撃の直前、敢えてその身から力を抜き、衝撃に身を任せた。
その結果、ブラッドレイの目測以上に距離が開き、剣は空を切った。
まさに紙一重の回避。そして、攻撃後の一瞬の隙を見逃すことなく、正宗は叫ぶ。
「HA!」
言葉と共に雷撃を打ち込んだ。
稲妻が空間を駆け抜け、爆音と共に衝撃がブラッドレイを襲い、砕かれた橋の破片が舞う。
やったか。正宗は吹き飛んだ身体を素早く立て直しながら、内心でそう呟いた。
「流石の威力だな。雷鳴の錬金術師よ」
だが、煙の中から聞こえた声が、戦闘の終了を否定する。
ぞわり、と正宗の背中を恐怖に酷似した感覚が駆け巡り、考えるよりも速く、本能に従うままに黒竜を構えた。
「だが、私を超えて王を名乗るにはまだ遠いな」
それが正宗の命を救うことになる。放たれた声を認識した時、目の前には既に凶刃が迫っていた。何度聞いたか分からぬ甲高い金属音が響かせながら、何とかそれを防御する。
しかし、ブラッドレイの猛攻は留まることを知らず、次の瞬間には既に二撃目が来ている。
キィンキィンキィンキィンキィンキィン。刃は次々と放たれ、鋭く、強く、そして疾い。
まさに隼のように攻撃は続き、正宗は身を守ることで精一杯だった。
剣の嵐の中、正宗はブラッドレイの顔に違和感を覚えた。眼帯だ。先ほどまで目を覆っていた眼帯がなく、その紅い瞳が晒されている。
(ッ! やっぱ、あの眼。あれがこいつのcrazyな動きを可能にしてやがる)
正宗は思い出す。一度目の戦いの際の驚異的な動きを。
特に眼帯を外した後の、あらゆる物を見切るような動きは圧倒的であり、一度自分は敗北したのだ。
状況は明らかに正宗に不利だった。ブラッドレイの攻撃に対し、正宗は防戦一方であり、次の瞬間には刃が身を切り裂いてもおかしくない。
そして、一度目の戦いで己の身を救ったイナズマはこの場に居ない。
正宗の額に冷たい汗が流れ、しかしそれを拭う余裕などある筈もなく、つぅと流れ落ちた。
「小僧、そのような体たらくで王を志すか」
280
:
荒ぶる者どもに吹き荒れろ嵐
◆LwWiyxpRXQ
:2010/08/25(水) 14:09:46 ID:yPAiA/9s
ブラッドレイは冷たく言い放つ。
対する正宗はニヤリと笑い、ブラッドレイの剣を捌きながら、臆することなく言った。
「独眼竜は伊達じゃねえ、you see?」
そして、動く。守りに徹していた正宗は、その言葉を放つと同時に攻めに転じた。
黒竜を放ち、刃がブラッドレイを捉え、まさにその身を斬ろうとするが――
「自棄になり、勝負を捨てたか」
赤い鮮血が舞った。
ブラッドレイの瞳がその隙を見逃す筈もなく、剣は正宗の左腕を抉っていた。
正宗の全身を痺れるような痛みが駆け巡り、悲痛な声を漏らした。
だが、その顔の笑いが消えてはいない。
「OK, Are You Ready?」
「ぬ……!」
そして、閃光。
3
橋が光に包まれた。
次の瞬間、爆音と共に石造りの橋が崩壊していく。
正宗が雷撃を放ったのはブラッドレイではなかった。仮にブラッドレイを狙っていたとしても易々と避けられていただろう。
狙ったのは橋だ。
それも既に一度雷撃を放った部分、即ち今正宗とブラッドレイが居る場を。
結果、爆音と共に橋は砕けることとなる。
「………………」
足場を失ったブラッドレイは、重力から開放される浮遊感を味わいながら険しい視線で周りを見渡した。
辺りは未だ暗く、加えて舞う土煙、視界は決して良いとは言えず、橋に戻ることは至難の技だろう。
しかし、水に落ちる訳にはいかない。それは致命的な隙になる。
ならば、取るべき道は一つ。
一秒にも満たない思考の末、ブラッドレイは視た。
憤怒のラース。ホムンクルスとして与えられた目を用いて、世界を深く覗く。
あらゆる物が遅く感じられ、崩れ行く橋、宙を舞う石の欠片、空気の流れさえも見切った。ブラッドレイはそこに一つの線を視た。
それからの行動は迅速だった。
足の筋肉を動かし、空中に飛び散っている橋の破片を仮の足場に跳躍する。
一歩、二歩、三歩、四歩。破片から破片へと飛び移り、空を歩いていた。
最強の目が視せた道を辿り、ブラッドレイは再び橋へと戻ろうと――
281
:
荒ぶる者どもに吹き荒れろ嵐
◆LwWiyxpRXQ
:2010/08/25(水) 14:11:01 ID:yPAiA/9s
「HA! やっぱあんたはcrazyだな!」
「ぬ……………!」
声がした。
そこにいたのは黒竜を振りかぶった伊達正宗。
月日に照らされ、奇妙な光を纏った剣を振りかぶっている。
普段のブラッドレイならば難なく避けられただろう。
それどころかそのまま反撃に転じ、それで勝負が決まったかもしれない。
だが、今この状況では無理だ。
今のこの不安定な足場では、動きようがなくその場に留まるしかない。
ブラッドレイの目はあらゆる物を視ることだけで見切ることが出来る。
故にどの道が最も無駄なく橋へ帰るかも分かる。分かってしまう。
だから、今の正宗には分かるのだ。ブラッドレイがどの道を通るかが。
一番無駄のない道に必ずブラッドレイがいる。
大体の位置さえ掴めれば、襲撃は簡単だった。
迫り来る刃を認識したブラッドレイが選んだのは、回避でも防御でもなく反撃。
前も後ろも右も左も行けないのなら、その場に留まるしかない。
故にブラッドレイは正宗を迎え撃つべく、隼の剣を振るう。
時間にすれば1秒にも満たない刹那の空中戦が始まり、剣が交錯する。
勝ったのは―――
282
:
荒ぶる者どもに吹き荒れろ嵐
◆LwWiyxpRXQ
:2010/08/25(水) 14:11:39 ID:yPAiA/9s
正宗は己の身体に衝撃を感じた。
左だ。ブラッドレイの刃が彼の身体を弾き飛ばしていた。
正宗の左腕は一度目の戦いでダメージを受けており、そしてこの戦いの中でも裂傷を負っている。
その負傷が、左腕をほんの僅かに動きを遅らせた。
その隙をブラッドレイは見逃さなかった。
「―――――ッ!」
正宗は声にならない叫びを上げ、自分の攻撃が失敗したことを知る。
とはいえ、その足場の崩れた場からの不安定な太刀筋だったことが幸いして、致命傷には至っていない。
痛みを堪えて、跳躍し何とか橋へと戻る。
途中落ちていくブラッドレイを見つけた。
どうやら橋に戻ることは諦めたらしく、このまま川へ落ちるつもりらしい。
ブラッドレイならばこの高さからのダイブなど容易にやってのけるだろうし、今の正宗の状態では追い討ちを掛けることもないと判断したのだろう。
二度目の戦いは終わり、自分は手負いで相手は無傷。
自分は再び負けたのだ。
「HA!」
自嘲気味に笑い、空を仰いだ。
夜明けが近くなっているのだろう、三日月は今にも落ちようとしていた。
4
バシャ。
そんな音と共にブラッドレイは川から這い出る。
そして、そのまま歩き続けようとした所で――膝を付いた。
その息は荒く体力の消耗を感じさせる。
「やはり年だな……」
そう漏らしながらも動く様子はない。
度重なる連戦、最強の目の酷使はブラッドレイをかなり消耗させていた。
あれ以上長引けば、危なかっただろうとブラッドレイは判断する。
夜明けも近い。しばらくは体力を回復するべきだろう。
膝を付き、しばしの休息を取っていると自分の手に赤い線が浮いていることに気づいた。
それは血だった。どうやら先ほどの退けたと思った空中での一撃は当たっていたらしい。
無論、かすり傷に近い、ブラッドレイからしたら何でもないものであるが、一撃には変わらなかった。
「ふむ………」
今日既に二度戦った青年の顔を思い出しながら、ブラッドレイは一人呟く。
もう一度戦うことになるかもしれない。そう理由もなく思った。
283
:
荒ぶる者どもに吹き荒れろ嵐
◆LwWiyxpRXQ
:2010/08/25(水) 14:12:33 ID:yPAiA/9s
【D-4 川の周辺 一日目 黎明】
【キング・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
【状態】疲労(大) ダメージ(中)
【装備】隼の剣@DQ2、隼の剣@DQ2
【道具】基本支給品×2、ランダムアイテム(個数、内容ともに不明)
【思考】基本:『お父様』の元に帰還するため、勝ち残る。
1:とりあえず人を探す。
2:介入してきた主催者への怒り。
3:休息を取る。
【備考】
※『最強の眼』を使用している間は徐々に疲労が増加。
【D-4 橋 一日目 黎明】
【伊達政宗@戦国BASARA】
【状態】疲労(大)、左脇腹に裂傷(応急手当て済み) 、左腕に裂傷
【装備】黒竜@戦国BASARA
【道具】基本支給品、ランダムアイテム(個数、内容ともに不明)
2:次回放送時に伊達政宗とD-4で合流する。(合流できなければ次の放送時に改めて合流する)
【思考】基本:主催者の首を獲る。誰だろうと挑まれれば受けて立つ。
1:島の北側を探索して殺し合いに乗らない参加者や首輪を解除できる者を探す。
2:次回放送時にイナズマとD-4で合流する。(合流できなければ次の放送時に改めて合流する)
3:ブラッドレイを倒す。
4:イナズマにいずれ借りを返す。
【備考】
※橋の一部が崩れましたが、通行に支障はありません。
284
:
◆LwWiyxpRXQ
:2010/08/25(水) 14:13:34 ID:yPAiA/9s
投下終了です。
規制されてない方、本スレへ代理投下お願いします。
285
:
無銘の剣
:2010/08/25(水) 19:41:43 ID:9xstVeCI
投下乙です
うおおっっ熱いな!!!最初の一行で「もしや?」と思ったが、
ここで『霧間誠一』を引用するのも良いな、凄く良いよ。
286
:
◆WoLFzcfcE.
:2010/08/25(水) 21:14:50 ID:laQZVyBQ
規制されたので残りをこちらに投下します
287
:
絆を紡いで
◆WoLFzcfcE.
:2010/08/25(水) 21:15:55 ID:laQZVyBQ
「やはりニンゲンはそうでなくてはな……それでこそ、打ち破る意義があると言うもの……」
「ん……? どういう意味だ」
独白を続けるブーメランに、バッツは訝しげな声を返す。
落ちていたナイフ――ミズーが投擲した二本目――を拾い、ブーメランは未だ倒れ伏していたニケを担ぎ上げた。
「こいつは預かる。助けたくば俺を追って来い」
「なっ……待て!」
バッツの足元にナイフが突き立った。
たたらを踏んで踏み出すのが遅れる。
体勢を回復したとき、ブーメランは既にこの場を走り去っていた。
人間にはとても追いつけない速度だ。
追おうとしたバッツだが、背後にミズーと光がいるのを思い出したか迷った末に近づいてきた。
「大丈夫か?」
「ええ……助かったわ。あなたは?」
「俺はバッツ、バッツ・クラウザー。話は後だ。とりあえずその娘を介抱しよう」
光は完全に気を失っていた。
出逢ったばかりのバッツに託すのは少々気が引けたが、ミズーの疲労も重く、申し出を断れる状況ではなかった。
「ええ、お願いするわ……」
バッツに光を預け、ミズーはその場に腰を下ろした。
疲労のせいか散漫になった思考で考える。
(あの子を……ニケを、助けなくては)
それをバッツに伝えようとする前に。
湧き上がる睡魔がミズーの意識を呑み込んだ。
288
:
絆を紡いで
◆WoLFzcfcE.
:2010/08/25(水) 21:16:39 ID:laQZVyBQ
【C-4/村/一日目/黎明】
【バッツ・クラウザー@ファイナルファンタジーⅤ】
【状態】健康
【装備】ディフェンダー@ファイナルファンタジータクティクス
【道具】支給品、宝の地図三枚セット
【思考】基本:脱出する。
1: ミズーと光を介抱し、話をする。
2: とりあえず地図を調べる。協力者に渡してもいい。
3: 首輪を外す方法を考える。
【備考】
※宝の地図はそれぞれ場所がバラバラでこの島の特定の場所の地形に謎の印が付いています
場所は何処で正確にはどういう地図かは次の書き手さんに任せます
※この首輪は魔法に属するものだと推測しています
【ミズー・ビアンカ@エンジェルハウリング】
【状態】疲労(中)、気絶
【装備】ダイの剣@ダイの大冒、ガッツの短剣(×8本)@ベルセルク
【道具】支給品
【思考】基本:ロワを倒し、神の剣を破壊する。
1:…………。
2:無駄な戦いは出来るだけ避けたい、が敵対する者は倒す(殺す)。
3:ブーメランを警戒。
4:ニケを助けたい。
【備考】
※参戦時期は原作9巻(ミズー編最終巻)アマワの契約が破棄された後からです。
※自身の制限を全て把握しています。
※念糸能力は制限により発動がとても遅く、本来の威力を発揮する事が難しくなっています。
※精霊の召喚、行使は制限により不可能です。
※ミズーはダイの剣を扱えます。他の人間が扱えるかは不明です。
【獅堂 光@魔法騎士レイアース】
【状態】疲労(大)、右肩に深い刺し傷(止血済み)、出血と治療(火傷)によるダメージ、気絶
【装備】魔法騎士の剣(光専用最終形態)、魔法騎士の鎧(光専用最終形態)
【道具】支給品
【思考】基本:主催に反抗し、殺し合いを止める。
1:…………。
2:海ちゃんと風ちゃんがいるなら合流したい。
[備考]
※参戦時期は光がセフィーロの柱になった以降(最終回後)です
※魔法騎士の剣は魔法騎士の鎧(手甲の宝玉)に収納可能です。(光の意思で自由に出し入れ可能)
※魔法騎士の鎧は光の意思で自由に纏う事が出来ます。
※魔法騎士の剣、魔法騎士の鎧を他の人間が扱えるか不明です。
289
:
絆を紡いで
◆WoLFzcfcE.
:2010/08/25(水) 21:17:52 ID:laQZVyBQ
◆
「あのー……オレはどうしてこんな目に遭っているんでしょうか」
「運が無かったな」
「それだけ!?」
元々ニケのものだった黒刀・夜を片手にブーメランは走る。
もう片方の手に無造作に掴まれているのは、勇者と呼ばれる少年の襟首だった。
「お前、気を失ってなどいなかっただろう」
「ぎくっ!」
「手加減したつもりは無いが……お前もまた、この場に招かれるに相応しい強者ということか」
「いえいえそんな! オレはただのしがない盗賊ですから!」
ブーメランの言うとおり、ニケは腹を殴られたときこそ一瞬意識が飛んだもののすぐに覚醒していた。
服の下に仕込んでおいたスケベ本が役に立った……のだろうか。
しかしあまりにも非常識な力を見せるブーメランにビビッてしまい、何となく起き上がらずにいたのだ。
そしてその罰とでも言うのか、こうして拉致されてしまっている。
馬もかくやというスピードで疾走するブーメランは、村から十分距離が取れたと判断すると足を止め勇者を解放した。
そして腰に差していた剣を外し、ニケの前へと放り出す。
「えーと、これをどうしろと?」
「武器が無くては戦えんだろう」
「えっ、あんたと戦えってこと? ……謹んでお断りします」
「今戦えと言っているわけではない」
村の方角を見つめ、ブーメランは言う。
「お前には餌になってもらう」
「え……餌?」
「奴らはお前を取り戻すために俺を追ってくるだろう。成り行きの遭遇戦ではなく、確固たる意志を持って俺を倒すべく、な。
俺と奴らの間にも、強く確かな絆が結ばれたと言うことだ」
「つまり……今、オレを殺す気は無いの?」
「お前が俺と戦いたいと言うなら話は別だが」
「いえいえいえいえ! そんな滅相も無いです!」
「ニンゲンは戦うために理由が必要な者もいるらしい」
「はあ」
「仲間を守るために限界以上の力を発揮する。それもまたニンゲンだけに許された力……」
290
:
絆を紡いで
◆WoLFzcfcE.
:2010/08/25(水) 21:19:46 ID:laQZVyBQ
独語するブーメランの背後、ニケはこっそりと距離を取っていく。
盗賊の面目躍如というか、実に見事な忍び足だったのだが、
「逃げても構わんぞ。ただしその場合、戦う意志があるとみなして全力で追撃するがな」
「……イエソンナ。ニゲルキナンテアリマセンヨー」
釘を刺され、ニケの足が止まる。
逃げ足には定評のあるニケだが、この化け物と追いかけっこをして逃げ切れる自信は
なかった。
剣を渡してきたことといい、ニケを拉致した行動といい、ブーメランは殺し合いに乗っていると言うより戦いそのものを求めているのだとニケも察する。
下手な行動を取らなければ危害を加える気はないというのもまあ本当なのだろう。
とりあえず今はブーメランに従っておくかと決めて(諦めて)、渡された剣をバッグに入れる。
やはりニケには合わない長剣だったが、夜よりは使いやすい。
そもそもニケに剣の才能は無いのだが……そんなことを言って利用する価値無しと断じられてはたまらないので黙ってもらっておいた。
「行くぞ」
「へ、どこへ? ミズーさんたちを待たないの?」
「最後に乱入してきた男はお前たちの仲間ではないのだろう。少し時間を置けばお互いの手を見せ合い連携することも可能になる」
「でもそれじゃあ、あんたが不利になるんじゃ……」
「俺はそれを望んでいる」
言ったきり口を閉ざし、黙々と歩を進めていくブーメランの背中を追いニケは考える。
ミズーたちがすぐに追いかけてきてくれるならいいが、光の容態ではそれも難しいだろう。
今はどうしたところでブーメランに
ついて行かざるを得ない。
もし誰かに襲われれば危険ではあるのだが、そうした場合おそらくこのブーメランこそが率先してその誰かと戦うことだろう。
見方を変えれば強力な護衛ができたと考えられなくもない。あるいはその隙に逃げ出すこともできるかもしれないし。
襲われるのを期待するのも変な話だったが。
(そうとでも思わなきゃ、やってらんないって……)
勇者は大きく溜息をついた。
勇者と魔族が仲良く旅をするなんて、一体何の悪夢なんだろう。
291
:
絆を紡いで
◆WoLFzcfcE.
:2010/08/25(水) 21:20:39 ID:laQZVyBQ
【D-5/平原/一日目/黎明】
【ブーメラン@ワイルドアームズ アルターコード:F】
【状態】胸に深い裂傷(再生中)、疲労(中)
【装備】夜@ONE PIECE、守りの指輪@FF5
【道具】支給品×2、ランダムアイテム×1
【思考】基本:ニンゲンと戦う。
1:次の相手を探す。
2:いずれバッツたちと再戦する。
3:ニケを害するつもりはないが、立ち向かってくるなら応じる。逃げれば追いかける。
【備考】
※守りの指輪の効果は常時リジェネがかかります。
【ニケ@魔法陣グルグル】
【状態】健康
【装備】フレイムタン@FF5、スケベ本@テイルズオブファンタジア
【道具】支給品
【思考】基本:この殺し合いから脱出したい。
1:ブーメランの隙を見て逃げ出したい……。
2:立ち向かう? ムリムリ!
【備考】
※参戦時期は魔王ギリを封印し、ククリと旅を始めてから1年経った頃。レベルも上がっている。
292
:
無銘の剣
:2010/08/25(水) 21:21:53 ID:laQZVyBQ
以上です。
よろしければ代理投下をお願いします。
293
:
◆k7QIZZkXNs
:2010/11/21(日) 21:16:44 ID:0bWuf0Uw
【G-4/平原/一日目/黎明】
【クラウド・ストライフ@ファイナルファンタジーⅦ】
【状態】健康
【装備】ドラゴンころし@ベルセルク
【道具】基本支給品、風のマント、ランダムアイテム(個数、詳細不明)
【思考】基本:殺し合いに乗る気はない。
1:丈瑠を十蔵の元へ案内する。
2:裏正の捜索。見つけたら十蔵に届ける。
【備考】
※原作終了後からの参加。
【志葉丈瑠@侍戦隊シンケンジャー】
【状態】疲労(中)、精神的に動揺
【装備】絶刀・鉋@刀語、ショドウフォン
【道具】レヴァンティン@魔法少女リリカルなのはシリーズ(待機状態)、
支給品、ランダムアイテム(個数内容ともに不明)、クレアのランダムアイテム×1
【思考】基本:争いを止めるため戦う。
1:外道は倒す。だが殺し合いに乗った人間は……?
2:十蔵と決着を着ける
294
:
無銘の剣
:2010/11/21(日) 21:17:26 ID:0bWuf0Uw
最後で規制されたのでこちらで。
投下終了です。タイトルは「受け継ぐ者へ」。
予約期限を過ぎてしまって申し訳ありませんでした。次はちゃんと間に合うように気をつけます……
295
:
◆k7QIZZkXNs
:2010/12/18(土) 18:38:06 ID:./todxkw
遅れてすみません。
規制されているのでこちらに投下します。
296
:
刃の亀裂
◆k7QIZZkXNs
:2010/12/18(土) 18:38:53 ID:./todxkw
思えば、あの城攻めの時から全ての歯車は狂い始めたのだろう。
何もかもが宝石のように輝いて見えた、あの時代。鷹の団が健在であったとき。
現世の理の外にある、不死の怪物との戦い。
その怪物から放たれた滅びの預言。
そう、預言を聞いたあの瞬間から――ガッツの世界は歪み始めた。
眼前にそびえ立つ古城を見上げ、ガッツは述懐した。
暁の空が白み始め、朝焼けの光が街を照らしている。
不思議とこの数時間、夜だというのにガッツの周りに悪霊は現れなかった。
生贄の烙印を刻まれたガッツに安息の眠りは決して訪れはしない。
現世と幽界の境界が曖昧になる夜の時間は、すなわち彼に絶えず付き纏う悪霊たちとの血で血を洗う闘争の時間だ。
当然、この場でもガッツはそれら魔的な存在の襲撃を警戒し、一睡もせず常に気を張って城下を忍び歩いていたのだが。
(夢魔の一匹も出やがらねえとは……あの女、使徒じゃねえくせにゴッド・ハンド並みの力を持っているってことか?)
ここまで完璧に幽世の存在の侵食を抑えられるというのなら、使徒どもの首領であるゴッド・ハンドと並ぶだけの力を有していると考えてもいいだろう。
そうしてみると、この戦い。
神の剣に相応しい剣士を見定めるというこの戦いは、ある意味ではゴッド・ハンド転生の儀式『触』に近いものと言えるかもしれない。
数多の人間を生贄に捧げたった一人の剣士を選び出す。その剣士は神にも等しい力を得る――触、そのものだ。
ギリッ、と奥歯が鳴る。
ガッツの中で、未だあの日の惨劇の記憶は薄れてはいない。
共に戦場を駆けた朋友たちが、ただ一人愛した女が、抗えない圧倒的な運命に呑み込まれ蹂躙されたあの日。
その中心にいた親友――親友だと思っていた、男のことも。
ユーリと名乗る男と戦った後、ガッツは一人夜の街を彷徨っていた。
目的は主に二つ。身を休める場所の確保、そして索敵である。
夜闘い朝眠るという昼夜逆転の生活を日常としていたガッツに取り、暗闇は長年連れ添った相棒のようなものだ。
黒い甲冑にマントは闇と同化し視認性を薄める。
悪霊にどれほど有効かはわからないが、今となっては黒でなければ落ち着かないというのもあった。
が、結局悪霊は現れず、敵の姿も見出せないままガッツは城下町の中で一番目立つ場所、すなわち城へとやってきた。
何か使えるものがあるかも知れないし、なくても一時身を休めるにはちょうどいい場所でもあったからだ。
297
:
刃の亀裂
◆k7QIZZkXNs
:2010/12/18(土) 18:39:44 ID:./todxkw
城門は開かれている。十分に周囲を警戒しつつ、ガッツは城の内部へと足を踏み入れていく。
背負う大剣アスカロンを振り回す空間があるかと危惧したものの、城内は意外なほどに広々としていた。
外見はともかく中身は、ガッツの記憶にあるあの城とは似ても似つかない。
まあそんなものかと適当に納得しつつ、ガッツは通路の奥へ進み二階へと続く階段に一歩足をかけた。
「ふあ……また、客か」
ガッツの足を止めたのは、気の抜けたような欠伸と気だるげな声。
視線を上に向けて数段階段を上がると、あぐらをかいた線の細い男がいた。
すっきりとした短髪のガッツと対照的に、背中まで伸びた長髪。
男は鞘に収まった刀を腰に差したまま、眠そうにガッツを見やる。
「……悪いな、起こしちまったか?」
「あんた、歩くたびにガチャガチャ鳴ってうるせえんだよ」
甲冑と背中のアスカロンは、ガッツが移動すれば当然のことこすれ合って音を立てる。
音には気をつけていたつもりだが、こればかりはどうしようもない。とはいえ、音が反響する屋内だから気づけるという程度のものだが。
「……ったくよ、さっきのにいちゃんと言いあんたと言い。おれをゆっくり眠らせちゃくれないのかい」
「オレの前に誰か来たのか」
「ああ、来た。名前はなんだったかな。忘れちまった」
「ふうん。斬ったのか?」
「……なんでそんなこと聞くんだ?」
「なんでって、そりゃおまえ」
両腕を突っ張ればそれでいっぱいだという、そんな狭い通路で。
ガッツは隠す素振りもなく腰を落とし、背中の剣に手を伸ばす。
「自分の前に立ったやつは誰だろうとすべて斬る。あんた、そんな目をしてるぜ」
鋭い刃のような殺気と共に、告げる。
「……あんたに言われたくねえな。むしろ、あんたこそ誰かを斬ってきた後じゃないのかい? 血の匂いがするぜ」
その殺気に動じることなく、男――宇練銀閣は平然と言い返す。
ガッツもそれを否定しない。ユーリ・ローウェルの返り血はべったりとガッツの全身に付着している。
何よりも、ガッツも銀閣も、ともに殺気を隠そうとはしていない。
仕合う気がある二人が出会ったのだから、仕合う。ただそれだけのこと。
両者ともに剣を振ることを生業にしてきた生粋の剣士。言葉もなくごく自然に同じ結論に行き着いた。
ガッツはアスカロンを構え、剣尖を上げて高い位置にいる銀閣を狙う。
「怖い怖い。まさに殺る気満々ってやつか」
「立てよ。そのくらいなら待ってやる」
「そいつはどうも……って、なんだそりゃ」
298
:
刃の亀裂
◆k7QIZZkXNs
:2010/12/18(土) 18:40:32 ID:./todxkw
立ち上がった銀閣にも下にいるガッツの剣が視認できたのだろう。彼は驚きの声を漏らした。
それもそのはず、ガッツが握るアスカロンは全長3.5m、総重量200kgというもはや剣と呼ぶことさえおこがましい代物だ。
施された装飾や多様なギミックなど、職人の精緻な仕事ぶりを暴力的な方法でガッツが否定した結果、やや軽くなってはいる。
なってはいるが、依然その主よりも重い質量を有しているこの剣は、戦国時代を生きていた銀閣にとっても初めて目にするほどに規格外だ。
「よくそんなもの持てるな……」
「まあな。おまえの得物はそれか?」
「ああ。ちっと物足りねえが……そうだ、あんた。斬刀『鈍』って刀を知らねえか?」
「知らねえな」
「そうかい」
「もういいだろ。行くぜ」
これ以上語ることもないと、ガッツはアスカロンを突き出した。
そう、ただ突き出しただけ。何の駆け引きもなく、ただ全力で大剣を前へと送り出す。
一階と二階をつなぐ階段通路には、とてもアスカロンを振り回せるだけの空間はない。
ガッツが繰り出せる攻撃は刺突のみ。だがアスカロンの刃は通路の半分を埋め尽くすほどに巨大。
そして刃渡りの上でも銀閣の刀より圧倒的にアスカロンが勝っている。
近づいてこなければ攻撃できない銀閣。遠間から攻撃できるガッツ。
防げるわけがない。ガッツはこのとき、確かにそう思っていた。
しゃりんしゃりんしゃりん! と、高く澄んだ音がした。
何の音だ――とガッツが思考した瞬間には、銀閣を串刺しにするはずのアスカロンは直進の軌跡を曲げ、銀閣の右手の壁へと突き立っていた。
ガッツの手には鈍い痺れ残る。ガッツが意図して外した訳ではなく、別の力が働いた証拠だ。
しかし対峙する銀閣の刀は未だ鞘の中にある。
(こいつ……ッ!)
ガッツはアスカロンに力を込め、壁から引き抜くと同時に後方へ跳んだ。
一息に階段を下り、茫洋とした瞳で見下ろしてくる銀閣と視線を絡ませる。
「いけねえな。こいつは斬刀じゃねえってのに、その剣を斬ってやろうと思っちまった」
「てめえ……!」
ガッツには銀閣が何をしたのか、はっきりと目で認識することはでいなかった。
が、鞘に収まったままの刀で繰り出せる攻撃となれば予想はつく。
(抜き打ち……か。グリフィスもたまに似たような技を使ってたな。だが、こいつの技は……グリフィスとは比べ物にならねえくらい速え!)
思い返せば、銀閣が刀の柄に手を伸ばしたあの瞬間。
あのとき響いた澄んだ音は、あれは鍔鳴りの音だったのではないか。
抜刀と納刀がほぼ同時という、想像を絶した速度。
これこそが因幡は下酷城の城主、宇練銀閣が誇る必殺の剣。
299
:
刃の亀裂
◆k7QIZZkXNs
:2010/12/18(土) 18:41:10 ID:./todxkw
「秘剣、零閃。この刀を手にして以来、おれの零閃をかわした奴はあんたで二人目だぜ」
「……ってことは、俺の前に来た奴もかわしたんだな。自慢げに言うことじゃねえぞ」
「そう言うなよ。そもそもがもう破られた技なんだ……今さら傷がついたところでどうということもねえよ」
まだ眠そうに、銀閣は呟く。その眼はガッツではなく、もっと別の誰か――を、見ているように思えた。
「ああ……そういや、名乗ってなかったな。おれは宇練銀閣ってんだ。おにいちゃんはなんてんだ?」
「……ガッツだ」
「変わった名だ。そして剣は見たこともないほどでかい。さしずめ、虚刀流ならぬ巨刀流……ってところか」
落ち着いて銀閣を観察すれば、その体格はガッツとは比較できないほどに細い。
腕力、体力、耐久力においては勝っているだろうが、瞬発力では一歩譲るかもしれない。
(だが、その一点……速さという点において、こいつの剣は俺のはるか上を行っていやがる)
銀閣の剣の正体は、視認できずともおおよそ掴むことはできた。
鞘を発射台にした神速の抜刀。
ガッツは居合い抜きという技術は知らないが、それでも起こった結果から事実を組み立てるとそういうことになる。
その神速を以て、こちらも高速で迫るアスカロンの剣尖を横から叩き強引に軌道をずらした――言うのは簡単だが、やれと言われてもガッツには不可能だろう。
まず質量からして違いすぎるのだ。多少の衝撃が加わったとてアスカロンの進撃を止めることなど不可能。
ならば銀閣の剣には、質量差を埋めるほどに凄まじい速度があった、と見るべき。
衝撃力とはすなわち重量×速度。どちらかが劣っているなら、もう片方を高めれば拮抗するのは道理だ。
つまりアスカロンの重量に匹敵するほどの速度を、銀閣の剣が叩き出したということになる。
「どうした巨刀流。もう終いか?」
「変な名で呼ぶんじゃねえ。オレの名はガッツだ」
「気にするな。おれは虚刀流に負けたんだ……だからあんた、巨刀流に勝って少しでも溜飲を下げさせろよ」
「知るか」
毒づく。が、ガッツはこの状況をまずいと感じていた。
横に動く空間はない狭い通路。前に進むか後ろに退くかしか選べない。
平地ならともかくここは階段、段差があるため自由に動くことも難しい。
開けた場所ならともかくここではアスカロンは突くことしかできず、そして軌道が読まれやすい刺突は速度に勝る銀閣の零閃にとり格好の餌食だ。
運良く銀閣が動かなかったから剣を引き戻せたものの、距離を詰められればガッツに打つ手は――
(いや、違う。こいつは動かなかったんじゃなく)
「気付いたか。そう、おれの零閃は待ち専門の剣法でな。自分から攻めるってことはできねえんだ」
「……そいつはどうも、ご丁寧なこった」
ガッツの瞳に閃いた思考を看破したか、銀閣が言い添える。
秘剣の正体を明かすということは、ガッツを取るに足らないと侮っているか、それともそれを知ったくらいで敗れはしないという自信があるのか。
どちらにせよ、生半可な手で突破できないという点は認めざるをえない。
腕のみならず、その腕を最大限に活かす戦場の選び方も見事という他ない。
300
:
刃の亀裂
◆k7QIZZkXNs
:2010/12/18(土) 18:41:44 ID:./todxkw
「以前、おれに勝った奴は……上から来たな。まさしく奇策ってやつだ。真上の敵に居合抜きも何もねえからな」
銀閣の言葉に、ガッツも頭上を仰ぎ見る。
階と階を繋ぐだけあり、十分な空間がある。が、もちろんガッツにはそんなところまで跳べる脚力などない。
隠し持っているワイヤーフックを使えばやれないこともない、が――
「……退くか。ふぁ……ま、良い判断じゃねえかな」
するすると後退していくガッツを眺め、銀閣は欠伸交じりにそう漏らした。
追ってきてくれればしめたものだったが、さすがにそこまで間抜けではないかとガッツは舌打ちする。
が、半分は予想通り。
待ちの剣と言うのなら、自分から攻めてくることはないはず。つまり逃げるのは容易ということだ。
勝てない相手から逃げることは別に恥ではない。相手が使徒ならともかく、ただの人間だ。危険を冒してまで討ち取る必要はない。
「なあ、にいちゃん。一つ聞いていいか?」
「……何だ?」
「いや、詰まらんことなんだが……にいちゃんは、何のために闘うのか、って思ってよ」
しかし、撤退しようとするガッツを、銀閣が呼び止めた。
こちらももう構えを解きあぐらをかいている。もちろんガッツが戦意を見せれば立ちどころに対応してくるだろうが。
「どういう意味だ?」
「おれはさ……結構、どうでもいいんだ。守ろうとしてたものも、もうないことだしな」
宇練銀閣は、砂に呑み込まれていく因幡にあって、最後の、そしてただ一人の住人だった。
自分以外は誰もいない下酷城の一室で、ひたすらに斬刀を守り続ける日々。訪ねてくる者は誰だろうと斬り捨てた。
役人だろうと、強盗だろうと、商人だろうと、そして忍者だろうと。誰一人として例外はなく。
ある日唐突に現れた二人組――奇策士と名乗る女と、その刀と名乗る虚刀流の使い手に敗れ、絶息する瞬間まで。
国も、城も、刀も、そして命も。すべてを失って、銀閣は眠りについたはずだった。
なのに、今もこうして刀を握っている。以前と何一つ変わることなく。
「にいちゃんには、何ていうか……そう、守りたいものがあるか? ってことなんだよ。
おれは守るものがあったから戦えた。でも今はもうない。だから……おれは何のために今ここにいるのか、わからねえんだ」
「…………」
「見たところ、あんたは誰に命令された訳でもなくおれを斬ろうとした。そうするだけの理由が、あんたにあるのかって、気になってな」
「……理由なら、ある。守りたいものも、斬るべき敵も」
「へえ。そいつは何だい?」
「おまえに言う気はねえ」
「そうかい」
301
:
刃の亀裂
◆k7QIZZkXNs
:2010/12/18(土) 18:42:17 ID:./todxkw
すげなく切って捨てたガッツに落胆するでもなく、銀閣はひらひらと手を振った。
「引き止めて悪かったな。話は終いだ」
「……じゃあな」
踵を返す。階段から離れ、そのまま数分歩き続ける。
銀閣は、追ってこない。
「……チッ。オレのことなんざ気にも留めてねえってことか」
おそらく銀閣はまた眠りに就いたのだろう。城の中は再び静寂に包まれている。
とはいえ、ガッツもまだ城を出る気はない。ここに来たのは休息のためでもある。
ガッツは目に付いた小部屋を片っ端から捜索し、役に立ちそうな物を探し始めた。
(守りたいもの……決まってる。キャスカだ。他にはねえ、何も……)
だが、そうしていながらもガッツの脳裏には銀閣の言葉が残響している。
そして――銀閣だけではなく、別の言葉も。
――おめえ……逃げてやしねえか。戦に……憎しみによ
ここに来る直前に立ち寄った、馴染みの鍛冶屋ゴドーの言葉を、銀閣の言葉を引き金にして思い出してしまう。
牧師でも何でもない鍛冶屋の言葉は、剣を鍛えることを生業とする故に、剣を振るうことを生業とするガッツの心中を正確に言い当ててもいた。
――おめえの心にゃでっけえ刃毀れが……恐怖って名の亀裂が走っていやがる
恐怖。
あのとき、ガッツからすべてを奪った『蝕』の恐怖は今もなおガッツの心身を蝕み続けている。
かけ替えのない仲間たちを襲った、無慈悲にして無残にして無常たる死の宴。
――そのかけ替えのないものをおっぽり出して、お前は一人で行ったんだ
悪夢を振り払うため、借りを返すため、落とし前をつけさせるため。
ガッツは一人、夜の世界へと飛び込んだ。
誰も頼らず、誰も信用せず、ただ己の剣にすべてを託して。
302
:
刃の亀裂
◆k7QIZZkXNs
:2010/12/18(土) 18:42:59 ID:./todxkw
――かけ替えのないものの傍らにいて、一緒に悲しみに身を浸すことに堪えられずに。お前は一人、自分の憎悪で身を焼くことに逃げ込んだ。違うか?
だが、それは――守りたいものを、本当に守っていたのだろうか。
ガッツと同じか、それ以上の傷を負ったキャスカを放り出して、一人悲しみから目を逸らして戦い続けることは。
本当に、キャスカを守っていたことになるのだろうか。
「肝心なときになると……オレは一人を、戦を選んじまう……か」
宇練銀閣とガッツとは、ある意味では同類なのだろう。
守りたかったものを奪われ、しかしそれを受け止めることなく戦いに逃避する。
違いがあるとすれば、ガッツには『まだ』守りたいものがあり、銀閣には『もう』何もないということか。
残ったものは剣だけ。剣があるから戦い続ける。剣があるから止まることもできない。
「……それでもオレは、今さら止まる訳にはいかねえんだ……!」
キャスカだけは――最後に残った大切な女だけは、失う訳にはいかない。
だから一刻も早くここから脱出せねばならない。
最後の一人になってでも、他の人間を殺し尽くしてでも――たとえ相手が自分と同じ傷を抱えていたとしても。
「……そうだ。迷ってる暇なんてねえ。立ち止まって手に入るものなんざ何もねえんだ」
いや、だからこそ。銀閣はガッツにとって、避けて通ることはできない敵なのだ。
自分自身と瓜二つだからこそ――逃げない。斬って乗り越える、でなければガッツは前に進めない。
背にあるアスカロンを意識する。
愛剣ドラゴン殺しとは違うが、アスカロンもまた竜を狩るべくして作り上げられた剣。
この大剣ならどんな敵が相手だろうと不足はない。
たとえ目にも留らぬ神速の剣が相手だろうと、ガッツの鋼鉄の意志と剣を砕くことはできない、それを証明するために。
「戦場がどうのとか、不利だからどうとか……そんなことは全部、どうでもいい。オレはただ、前に進むだけだ」
敵を斬り、使徒を斬り、最後にはあの女も斬って。ただキャスカの元へと参じるのみ。
無用な危険を冒す必要はない? 逆だ。危険だからこそ、飛び込み突き抜けなければ道は拓けない。
銀閣やユーリ――ガッツはこの名を知らない――には、悪いと思わなくもない。
が、剣士である以上、お互いに剣を抜いた以上はどちらかが散るのも覚悟の上のこと。
ガッツもまた、敗れれば命を落とすことに異を唱えるつもりはない。そもそも負けるつもりもないが。
医務室らしきところで適当に道具を頂戴し、ガッツは部屋を飛び出す。
駆けて、駆けて――たどり着いたのは、銀閣が眠る階段の間。
見上げる。ただし今度は、不退転の決意とともに。
303
:
刃の亀裂
◆k7QIZZkXNs
:2010/12/18(土) 18:43:54 ID:./todxkw
「うるせえな……また来たのかよ、巨刀流」
はたして、銀閣は――さっきと寸分変わらぬ体勢で、そこにいた。
おそらく何時間、何日、何年経とうともそうしているのだろう。そうするしかないのだろう。
剣にすがり、剣を振るうためだけに生きている。あり得たかもしれないもう一人のガッツの姿。
だからこそガッツは、迷いを消し去るために銀閣を斬ると決めていた。
「銀閣、って言ったな。オレもてめえに聞きたいことがある」
「あん……?」
「守りたいものがなくなって……てめえはどう思った。許せねえとか、復讐してやるとか思わなかったのか?」
「……ふぁ」
ガッツの問いに、銀閣を欠伸を一つ。
そして、おもむろに立ち上がり、構えを取る。
宇練一族の秘剣、零閃の構えを。
「いいや……肩の荷が下りた、ってところかな。正直……そう、重荷だったんだ。俺にとっては」
「……そうかい」
銀閣の答えを聞き、ガッツもまたアスカロンを構える。
先ほどと同じく、切っ先を押し出した突きの構え。
一度防がれた技を二度使うその無謀に、しかし銀閣は笑わない。
銀閣を見据えるガッツの瞳は、先の手合わせとは比べ物にならない戦意に燃えているからだ。
「その答えを聞いちゃあ、オレもいよいよ立ち止まる訳にはいかねえ。てめえみたいにはなりたくないから、な」
「ほう……あんたはどこか俺と似てるって、思ってたんだがな。あんたにゃ戦い続ける理由があるってことか……今は、まだ」
「ああ。そのために……悪いが、斬らせてもらうぜ」
「……いいぜ、来な。おれも本気で……相手してやるよ」
しゃりん!
ガッツはまだ攻撃していないにも関わらず、銀閣の剣が走る。
ただし斬ったのはガッツではなく、銀閣自身――左肩から、血が勢いよく噴出した。
銀閣の足元には見る見るうちに血だまりができる。かなりの出血と、一目でわかる。
突然の奇行に戸惑うガッツを尻目に、銀閣は苦痛に顔を歪めながらもにやりと笑みを浮かべた。
「生半可な零閃じゃ、あんたを止められねえだろうからな」
「訳がわからねえな。どういうつもりだ?」
「みんな同じことを聞く。いいぜ、教えてやる……こういう、ことさ」
銀閣が、後ろに置いていたバッグを放る。ガッツにも支給されている道具袋だ。
しゃりんしゃりんしゃりんしゃりんしゃりんしゃりんしゃりんしゃりん。
銀閣はそこに零閃を繰り出した。バッグは一瞬で両断――否、『八つ裂きにされた』。
304
:
刃の亀裂
◆k7QIZZkXNs
:2010/12/18(土) 18:44:54 ID:./todxkw
「な……っ!?」
ガッツはそこに、途方もない速さの斬撃が放たれたのだと直感する。
動体視力に優れたガッツの目にも、まったくの同時にしか映らない無数の斬撃。それが複数――
「八機だ。それが斬刀のない今のおれの、最高の零閃編隊」
ぽた、ぽたと傾けた刀から血の雫が零れ落ちていく。
傷を負えば剣を振るう速度は落ちる。そんな道理を、銀閣は鼻で笑って一蹴して見せた。
傷ついてなお、否、傷ついたからこそ速い。まさに戦場で真価を発揮する阿修羅の剣技。
「鞘内を血で濡らし、血を溜め、じっとりと湿らせることによって鞘走りの速度を上げる。刃と鞘との摩擦係数を格段に落として――零閃は光速へと達する。
まあ、そうは言ってもこの刀じゃ斬刀ほどの速さにはならないだろうがな。ともかくこれが、今のおれの限定奥義――斬刀狩りだ」
永く戦場に身を置くガッツですら、そんな剣は見たことも聞いたこともない。
血に濡れた剣は錆びて使い物にならなくなる、それが常識なのだ。
なのに銀閣は、その常識を逆手にとって自らの利とする――
(こいつは……読み違えたな。並の使徒なんざ比べ物にならねえ、強敵だ)
八回もの超高速の斬撃を同時に同じ個所へと叩き込まれたのなら――剛剣たるアスカロンとてあるいは砕かれかねない。
まさに、魔人。人の身で使徒すらも超えた、極限まで練り上げられた魔人の剣だ。
「逃げるか? いいぜ、それでも。おれは追わねえよ」
ガッツの戦慄を見取ったか、銀閣が嘲るように言う。
逃げる――そう、逃げればその時点でガッツの勝利は確定する。
あれだけの出血、今すぐに止血しなければ失血死は免れない。
仮に血が止まったとしても、大量の血を失った身体はまともに動かないはずだ。
どう考えても、ここで必然性はない。ついでに言えば勝率も低い。
だが――
「冗談だろ。言ったはずだぜ……てめえを斬る、ってな」
ガッツは、退かない。
逃げて、敵の自滅を待って、それで得た勝利など――勝利ではない。
何より、そんな形の勝利はすなわち、ガッツ自身が銀閣の生き様に勝てないと認めるようなものだからだ。
使徒ですらない、ただの人間に負ける?
断じて認める訳にはいかない。真っ向勝負で、勝つ。
長大な刀身の隅々まで、ガッツは気迫を行き渡らせる。
斬り裂くものは、敵と、幻影と、そして――
305
:
刃の亀裂
◆k7QIZZkXNs
:2010/12/18(土) 18:45:47 ID:./todxkw
「さあ……行くぜ! 見せてみろ、てめえの全力ってやつを!」
「ああ、良いぜ……ただしその頃には、あんたは八つ裂きになっているだろうけどな」
ガッツの気迫と、銀閣の気迫とが充満し、階段通路に満ち満ちる。
先手は――やはりガッツ。
「オオオオオオオッ!!」
先ほどと同じく、刺突――ただし今度は刃を横に寝かせた、平突き。
横からの攻撃には、刃を縦にして放つ突きより格段に被弾面積は狭くなる。
「甘いぜ――それで零閃を防げると、思っているのなら」
しゃりんしゃりんしゃりんしゃりんしゃりんしゃりんしゃりんしゃりん!
やはりまったくの同時に、八回もの鍔鳴りの音。
瞬間の間に一つの箇所に斬撃を叩き込まれ、アスカロンは――吹き飛んだ。
「……なに!?」
砕けず、吹き飛んだ――ただ、それだけ。
銀閣は手を抜いてなどいない。いや、斬刀ではない点を差し引けばまさに会心の出来の零閃だった。
なのに、アスカロンは形を留めたまま、横手の壁に深く突き立っている――
「……上か!」
かつての敗戦の記憶から、銀閣はいち早く気配を察知し横手に跳んだ。上階へ続く踊り場のもう半分へ。
そして、ガッツは――突きを放った瞬間、即座にアスカロンから手を離したガッツは。
腰に差していたフランベルジュを抜き、銀閣の頭上へと投擲していた。
一瞬視界を覆った影に気を取られ、銀閣が前方から警戒を解いた一瞬。
ガッツは銀閣が退いたため空いた空間へと深く踏み込み、アスカロンの柄を力の限りに握り締めていた。
「――っ!」
壁に突き立ったアスカロンを引き抜こうとしている――銀閣にはそう見えた。
306
:
刃の亀裂
◆k7QIZZkXNs
:2010/12/18(土) 18:47:00 ID:./todxkw
「く、お、お――!」
だが――違った。
ガッツはアスカロンを引き抜こうとしたのではない。
「おおおお、おおおおおおおああああああっっ!!」
ガッツは、アスカロンを――振り抜こうとしていたのだ。
石造りの壁に突き立ったアスカロンを。
力任せに、がむしゃらに。
速度で勝てないのならば、力で勝る。それがガッツの見出した、唯一つの零閃への勝利手。
直線的な突きでは容易く軌道を変えられても、薙ぎ払う斬撃なら、居合い抜きでは対処は不可能――
「ぜ――零閃編隊――八機!」
ガッツが何をしようとしているか察知した銀閣もまた、勝負を決するべく二度目の零閃を放つ。
だが――しかし。
鞘から抜き放たれた刀は、斬刀ではないのだ。
分子結合を破壊する、斬れぬものはない刀――斬刀『鈍』ではなく、質がいいだけのただの刀だ。
零閃は本来斬刀を用いることを前提に編み出された秘剣。当然、刀にかかる負担は想像を絶する。
銀閣の才覚があったからこそ、ただの刀でも八機編隊を可能としたその代償は、もちろん零ではない。
壁を粉砕しつつ迫るガッツの巨刀と、銀閣の零閃編隊八機が激突――すでにひび割れていた銀閣の刀を粉々に粉砕し、アスカロンが駆け抜けた。
勢い余って階段を軽く五、六段は粉砕し、アスカロンは停止した。
残ったのは右腕を斬り飛ばされた着流しの男と、荒く息をつく隻眼の男。
零閃編隊は、竜殺しの巨刀によって吹き散らされた。
『黒い剣士』対『零閃使い』――ここに決着である。
307
:
刃の亀裂
◆k7QIZZkXNs
:2010/12/18(土) 18:48:04 ID:./todxkw
「無茶苦茶しやがる……力押しで、おれの零閃を……破るとは、な」
「他に……思い、つかなかったんで、な」
アスカロンにもたれかかるようにして、ガッツは銀閣へと言葉を返す。
時間にすれば十秒もない戦いだったが、ガッツの疲労は頂点に達していた。
石壁を斬り裂くなんていう戦法は、ユーリ・ローウェルから奪ったパワーリストがなければ実行に移そうとは思わなかった。
代償は、今にも爆発しそうな筋肉と骨の軋みだ。
アスカロンを手放した理由は二つ。
一つは、剣を無理に固定して、零閃の衝撃を刀身に蓄積させるのを防ぐため。
二つは、銀閣に隙を作らせるべく、フランベルジュを投擲するため。
結果としてうまくいったにせよ、綱渡りだったことは間違いない。
それにしたって、二度目の零閃の速度が落ちていなければ間に合わなかっただろう。
「最初の突きは……鞘の中の血を、消費させるため……か」
「まあ、な。八回もあの技を使えば、そりゃあちょっとは血も減るだろうと思ってな」
速度にして、ほんの僅かな誤差だっただろう。
それでもそのほんの僅かな差が、ガッツと銀閣の生死を分けたことは疑いない。
もし銀閣の刀が斬刀だったなら、誤差程度は関係ないとばかりにアスカロンごとガッツは斬り裂かれていただろう。
しかし斬刀はここにはない。
つまり、それがすべてだった。
「まあ……いいか。これで今度こそ、ゆっくり眠れるって……もんだ」
「ああ、もう起こさねえよ。ゆっくり眠りな」
「頼むぜ……もう、生き返らせないで……くれよ。三度目は……御免だ」
そう、言って。
左右両方の腕から血を流し尽くし、宇練銀閣は死んだ。
「……おい、どういう意味だ」
安らかな顔で。
そう、まさしく眠りについた――そんな顔で。
「おい! 生き返らせるって……おい!」
当然、ガッツの声になど答えはしない。
もう、銀閣は涅槃に旅立ったのだから。
やがて諦め、ガッツは銀閣から手を離し、床に横たえてやった。
その辺の部屋から適当に調達したシーツを、死体にかけてやる。
ガッツなりの剣士への礼儀だ。
だがそうしている間も、ガッツの脳裏に渦巻くのは一つの言葉。
308
:
刃の亀裂
◆k7QIZZkXNs
:2010/12/18(土) 18:48:24 ID:./todxkw
生き返らせる。三度目。
あれをどう解釈するか。
三度目は嫌だというなら、今回は二度目だと考えていいだろう。
そして銀閣は『虚刀流』に敗れたとも言っていた。その敗北が命を落としたという意味なら、ここにいた銀閣は死んだ後に生き返ったということになる。
「死んだ奴を生き返らせる……そんなことが、本当にできるってのか……?」
ガッツ自身ロワという女の言ったことは話半分程度にしか信用していなかったが、実例が目の前にあるとなると話は別だ。
しかし、それはガッツが死者の蘇生を望むということではない。
そんなことができるのなら。
それだけの力があるのなら。
そう――あの忌まわしきゴッド・ハンドにすら、干渉できるのではないか?
剣士を集める。強い剣士を。
この条件に当てはまる剣士を、ガッツは自分以外に二人、知っている。
「グリフィス……キャスカ……!」
あの『触』以前の二人なら、十分に剣士としての資格を備えていたと言える。
ガッツがこうしてこの場に呼び出されたのなら、ガッツと因縁のあるあの二人がいる確率もまた――零ではない。
どうしてこの可能性に思い当らなかったのか。
グリフィスはともかく、キャスカがいなくなったのはこの戦いに呼び出されたからかもしれないというのに!
もちろん可能性の話だ。確証はない。
だがガッツにとっては、その二人が『いるかもしれない』というだけで――
「……休んでる暇なんてねえ!」
走り出す理由には、十分すぎる。
そして、弾丸のようにガッツは城を飛び出した。
頭の片隅に湧いたノイズは、ガッツという男の天秤を激しく揺らしている。
もし誰かに出会っても、今は戦うという選択肢を第一に持ってくることはまずい。そうしている間にキャスカの身に危険が迫るかもしれないからだ。
使徒相手ならともかく、銀閣のように戦わずに済む相手なら見送るのも一つの手。斬るにしても、まずは情報を取得してからだ。
もし、その二人がいたらどうするのか。
答えを出せないままに、ガッツはひたすらに思い人の影を求め、走り続ける。
その姿にはもはや敵をすべて斬り伏せるという鋼鉄の意志はなく。
ガッツという剣に、亀裂が入ったことを意味していた。
309
:
刃の亀裂
◆k7QIZZkXNs
:2010/12/18(土) 18:48:44 ID:./todxkw
【宇練銀閣@刀語 死亡】
【E-3/城/1日目/黎明】
【ガッツ@ベルセルク】
【状態】疲労(大)、全身にダメージ(小)
【装備】アスカロン@とある魔術の禁書目録、フランべルジュ@テイルズオブファンタジア
【道具】支給品、ワイヤーフック@ワイルドアームズF、パワーリスト@FF7、包帯・消毒液などの医療品
【思考】基本:優勝してさっさと帰る
1:グリフィスとキャスカの存在を確かめる
2:使徒、もどき、敵対的な人間以外はまず情報交換を持ちかけてみる
【備考】
アスカロンはなんかいろいろやって50kgくらい軽くなったようです
ワイヤーフックは10メートルほど伸びる射出形のフックです。うまく引っ掛けて巻き戻せば高速で移動できます
引っ掛ける対象が固定されておらず、自分より軽いものなら引き寄せることもできます
※ドルチェットの刀@鋼の錬金術師 は破壊されました。
310
:
無銘の剣
:2010/12/18(土) 18:49:15 ID:./todxkw
投下終了です。
規制されてない方、よければ代理投下をお願いします
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