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『やる夫が薄い本になるようです』

276 ◆Q4HpGzRHE6:2014/07/14(月) 20:34:56 ID:kPK9lLrY
唯物論者とあばずれ男のバラード

 「またしょうもないもん借りて来やがって」
 シャワーから戻ると、奴がどこのどいつに買ってもらったのか知らん最新式のVHSビデオデッキを
弄っている。ブラウン管に流れているのはどこかで見たようなホラー映画。
 「しょうもないとはお言葉ッスねー。こりゃガチで歴史に残るポテンシャル秘めてるッスよ〜?
 ねぇ、こっち来て一緒に見ようよォ、やる夫ちゃぁ〜ん」
 「くだらんお」
 がしがしバスタオルで髪を拭きながら、勝手知ったる他人の家と、冷蔵庫を開けてビールを取り
出して栓抜きを探す。壁に貼ってあるポスターは少し前に活動を休止したイギリスのロックバンド。
確かポリスといったかな。
 「やる夫ちゃんの娯楽作品嫌いは筋金入りっスねぇ〜」
 からかう様な声が台所に響いて、いっそう寒々しいと思った。
 普通ならば家族で住むような大きな部屋。ここが幾ら一等地でないと言っても、駅に程近いこの
物件が一体月に幾らかかるのか、考えるだけで恐ろしい。
 学生の分際で、家にはテレビも冷蔵庫も洗濯機やビデオデッキすらある。壁一面には外国で
リリースされたばかりのビデオソフトやレコードが並び、それは随分乱雑に扱われているようだった。
 「………………」
 足元に転がる、煙草の空き箱。ハードボックスに銀色で記されているメーカー名を、自分は読む
ことが出来なかった。
 『……英語じゃない……イタリア語かお?』
 自分と奴とは随分と奇妙な関係だった。
 あまりに奇妙すぎて、どう説明をつけたらいいのか解らない。
 奴はあまり自分のことを喋らない人間だったし(下らなくてどうでもいい、すぐ忘れてしまうような
事は山ほど喋るくせに!)、自分も似たようなものだったから、つるんでもうそろそろ二年が経つ
というのに、互いのことは殆ど何も知らない。
 『一度酔った時に』
 目を閉じて思い出す。
 『自分の事を妾の子だと言ったコトがあるくらいかお』
 その時、自分は同情をしなかった。どうせまたいつもの調子のいい嘘だと思ったし、表情も
雰囲気もマトモではなかった。
 そもそも酩酊状態だった。
 お互いに。
 奴がどこからか持ってくる変な匂いの香や、随分と渋いなにかの実、それから外国製の巻きタバコ。
時々は酒に混ぜる点眼用の容器に入った液体。
 ソレが一体何なのか、自分には知るよしもない。
 ……いや、違うな。解ろうとしていない。解りたくないから、懸命に“解らないで居る”だけだ。
 そして、奴は自分の抵抗する力を全て奪い取ってから。
 自分に何かをしている。
 それがなんなのか、自分には知るよしもない。
 これは解ろうとしていないわけではない。解ろうとした。懸命に理解に努めて何度も議論を持ちかけた。
 『男のお前が、何故男の自分を高い薬をどこからか仕入れてまで犯すのか』と。
 果たして、その答えが一度たりとも自分に齎された覚えはない。
 「……くだらんお」


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