したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が1スレッドの最大レス数(1000件)を超えています。残念ながら投稿することができません。

チラシの裏 二枚目

602名無しさん:2013/03/12(火) 21:22:01 ID:crNNcvdk
書き上げたぜヒャッハーって思ってたら規制されてたわ('A`)


「名残雪も〜降るときを知り〜……かぁ」
のん気な声が隣から聞こえた。
ふざけんな、お前、死ね、マジ今すぐ転んでそこのベンチに頭ぶつけて死ね。
そう思う俺の心の中も知らず、ユキチは「うぃ〜寒ぃな」と空を見上げていた。
降る雪のせいで世界はぼやけて見える。
「電車来るまであと10分かぁー」
ユキチの声で時計のあるほうへと顔を向けたけど、俺たちはホームのだいぶ端まで来てたので、
盤面は良く見えなかった。
そのまま、俺はユキチに背を向けて汽車が来るのを待つ。
陽気なユキチには珍しく何もしゃべらず、俺も黙っていた。
遠くの空に晴れ間が見えた。

「……来た」
遠くに見えるディーゼルの鈍い赤を見つけて呟いた。
思ったより編成が小さいのか、先頭車両はここまで来なさそうだった。
なんで、こんなところまで歩いたんだろう、そうだ、先を行くユキチについて歩いてたからだ。
どこまでも、俺に影響しやがって。
腹が立つ。すごく腹が立つ。
なんだ、お前。勝手に前歩いて、勝手にずんずん歩いて行きやがって。
身長だって、最初は俺のがおっきかったのに、中学で大差つけやがって。
成績は俺のが上だったけど、地元の大学で細々研究してる俺と違って、
お前は高校でたらさっさと実家継いで、実施で色んなことやってのけて。
机上で論文書いてるだけの俺は、全然追いつけない。

「……ユキチ、カバン寄越せ」
振り返って、ぶっきらぼうに声かけて、ユキチが持ったままのカバンを奪うように取上げた。
案の定、汽車の先頭はずっと向こうの方だ。バカ、余計に歩かせやがって。
そのまま汽車に向かおうとした俺の両肩に手が置かれ、ぐっと後ろに引かれる。
そのままなら転びそうなのを、ユキチの胸にもたれかかる様なバランスで止められた。
「泣くなよ、樋口」
「泣いてねぇよっ!」
「嘘付け、お前、さっきから鼻声じゃん」
「違うっ!」
そういった直後に鼻をすすってしまい、今のは寒いからだ!と大声で喚いた。
「あー、わかったわかった、泣いてねぇ泣いてねぇ」
「お前、ほんと、死ね、豆腐に突っ込んで死ね!!」
「俺が突っ込めるサイズの豆腐あったらそうしてやるから」
「うるさい、放せよ、汽車乗らないと……」
「樋口。あれ、反対方向だから」
「っ、…………」
俺は無言でどうにか振り返ると、ユキチの腹をグーで叩いた。
本気じゃなかったのもあるけど、ユキチも何でもないような顔をして笑った。
「あー、もー、俺心配だわ。お前、ホントにアメリカとか行けんの?」
大阪のアメリカ村とかってオチじゃないだろうなー?と顔を覗き込んできたユキチは、
ちょっとだけ目を見開いて、コートのポケットからティッシュを取り出して、
ホレ、とこっちに寄越した。

「泣くなよー。普通ここは、待つほうの俺が泣くとこだろー」
「樋口、アメリカ留学、ずっと希望してただろ? ほら、何とかって研究上手く行ったら、
すごく苗の生長が良くなるって言ってたじゃん。希望かなったんだからさ」
「こんな田舎から、アメリカだぜ。ホント、お前スゴイんだから、胸はって行って来いよ」
「俺、お前の事、自慢だから。超自慢だからさ」
「手紙書くし! ほら、メールとかもあるから、な?」
「堂々と俺のこと、待たせておけよ。俺、ちゃんと待ってるからさ。……樋口、泣くなよ」
もうユキチの顔を見てられなくて、しゃくりあげてる俺の背を撫でながら
ユキチはずっと話している。
きっと困った顔をしてるのだろう。

聞き慣れたディーゼルの警笛が、遠くから近づいてくる。




掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板