――…おや、随分久しぶりだ。Love is put and it is a bouquet. …君の美しい毛並みには何色の薔薇が似合うだろうね、Lady?
( 薄い雲が空を覆い、暑くも寒くもない――いたって過ごしやすいと言える気候の中、足を運んだ薔薇園の手入れを進める。左手に握った鋏を器用に操り、やがて切り落とされた花の残骸が足元を彩った。本来ならば専門の庭師にでも任せるべき作業なのだが、そんな存在が居たのも己がこの学園に来る以前までで、今では何故か庭と園に関する殆どの業務を一任されている。勿論本職が疎かにならない程度ではあるし時に他の者に任せる事もあるのだが、今更ながら妙な待遇だ。現在せっせと取り除いているのは、ガラス張りの屋内に完備された園の一部として其処にあった紅の薔薇。勿論無差別に刈り取るような真似はせず、萎れて色褪せたものだけを選んで取り除いていく。たった今切り離した紅も地に落ちた紅も、既にかつてのような鮮やかさは無い。〝それら〟から視線を外し薔薇園へ向き直ると、色とりどりの茂みの奥――揺れ動く小さな影が見え瞳を細めた。直後、「ニャア」と鳴いたそれに自然と笑みが浮かぶ。影の正体は猫。更に言えば大分以前から交流のある黒猫で、今回は偶々久し振りだからといつも通りの呼びかけの後鋏を置きそっと抱き上げた。野良とは明らかに違う、よく手入れされた艶やかな毛並み。恐らく学園の関係者に飼われているのだろうとは常々考えてきたが、誰に、とは未だ解っておらず既に自分の飼い猫のように扱っていた。実際そうしても問題ない程、〝彼女〟は懐いているのだ。愛らしいものへ向ける口説き文句は相変わらずさらさらと零れ、耳に優しく口付けてから放してやり足元で遊ばせながら、そろそろ主の元へ戻らなければ痺れを切らして捜しに来るか――或いはお叱りを受けるだろうかと考えて )