あっれー？どーしたの、香ちゃん。急に黙り込んじゃってさァ。いくら僕等が言葉を交わさなくても通じあえるほどのふっかーいつっよーい絆で結ばれているからって言ってもさァ、やっぱりたまには目に見えるもの耳に聞こえるものでの表現が大事だと思うんだよね？だから、Please say words to me.あ、できればSweet nothingsを希望します。
(だー――っと自分の言いたいことだけを思う存分言ってのけた後。すぐに相手からの反応がなかったことに疑問を感じて首を傾げた。本当は今までだって勝手に漆黒が喋りつくし、相手の一言に対して十倍くらいの言葉を返していたのだが。それでも言い終わった後に一言の文句も舌打ちすらも返ってこなかったことが不思議で仕方無かった。五月蠅く名前を何度も呼びながら何でと問いかける姿はどちらが年上か分からなくて。無言の意思疎通なんて気色悪いことを堂々と公共の場で恥ずかしげもなく言ってのける所をみると夜のお仕事にも向いているのかもしれない。それか政治家。政治家になったらこの巧みな話術で国民を魅了し、敵すらも味方に引き摺りこんで利用して気づけば天下を取って人生安泰。などという恐ろしい未来も冗談で済まされないのだから怖い。しかも大学の専攻が経済というのもまた恐怖を煽る。ずっと喋り続けても喉が渇いた様子もなければ言葉を噛む素振りも見せない。この話術と肺活量と気力と勢いは相当なものと思う。足を離せば重力に従って地に落ちた少年をただ笑って見下ろす。立ち上がる様子を見ながら無駄に流暢な英語を交えて気持ちの悪いお願いを一つ。おどけている風だが結構本気だったリする。全人類からの愛情を無条件で受け止めるつもりで生きているから。ずっとへらへらと緊張感なく笑い続けていた漆黒だが、少年の立ち上がりつつの呟きが耳に入ると何かが変わった。その言葉を耳が拾い上げてその意味を理解した時。漆黒の雰囲気や表情など表面的な変化はなかったのだが、ココロの中のスイッチが切り替わった。その切り代わりの瞬間はきっと誰にも分からない。じつは本人にだって分かっていないのだから。)
