したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

本スレに投下できないネタ投下スレ 2発目

1シャドーマンの契約者  ◆7aVqGFchwM:2011/06/27(月) 23:02:50
本スレにあげるにはエロすぎるとかグロすぎるとか、
内容が本スレ向けじゃない場合はここにあげると良いよ!って先人様方が言ってた
俺としてはエロはもっともっとあげるべき!特に炉利物大歓迎!!
薔薇や百合は勿論、レ●プや眼孔ファックも随時受付中!
あ、エログロ以外でも『本スレはちょっと・・・』って思うものなら何でもOKなんだからね!

566死を従えし少女のお茶会 ◆12zUSOBYLQ:2015/08/09(日) 20:45:56 ID:Cpasnl3g
「ちょっと、匿ってちょうだい」
 そう言って入り込んできたのは、ο(オウ)-No.3、桐生院るりだった。
何故か姪のキラとその友達の澪を連れている。
「ぼくは仕事中なんだけど」
 まあまあいいじゃないのたまには休みなさい、とレースとフリルで飾られた黒いヴィクトリア調のショートドレスを翻してソファに傍若無人に腰掛ける。
「お土産があるわ。お茶入れて頂戴」
 これはもう付き合うしかないだろう。
「コーヒーで良い?」
「今日のお茶菓子はドーナツだから、さっぱりとキーマンあたりがいいわ」
「そんなものないよ」
 まあ、ドーナツがあるならティーバッグくらいは探してやってもいい。
 その時、軽いノックの後に扉が開き、ふわふわのオレンジの髪にTシャツにホットパンツ姿の女が入ってきた。

「毎度!ドーナツバー『マジカルスイート』よ」

 郁はしばしぽかんとして、一言。
「あんた誰」

「へー、今日びのドーナツ屋はデリバリーもするの」
「うちはするってだけよ、他は知らないし、興味もないわね」
 甘さ控えめのドーナツに冷たいホイップとフルーツのコンポートをサンドした夏の新作と謳ったドーナツを置いて、来た時と同じく、風のように去って行った。
「まあキラちゃんも澪ちゃんも座りなよ、ふたりとも今日もお洒落だね」
 因みに今日のキラの服装はと言えば、ピンク地に水色のギンガムチェックが入ったフリルとリボンたっぷりのワンピースに、頭には大きなリボンのカチューシャ。澪の方は、黒地に白の大きな襟に、胸元に赤いリボンが結ばれたワンピース。髪は赤いリボンで飾っている。
「やっぱりこの可愛さわかる?さすが郁さん!早くドーナツ食べよう!あたしシナモンドーナツにイチゴ挟んだやつがいい!」
「じゃあわたし、チョコドーナツのサマーオレンジサンド」
「あ、ぼくもそれ」
 一杯のコーヒーと三杯の紅茶がテーブルに運ばれた。

「だからわたしは言ってやったのよ、可愛いお洋服を転売なんかに利用するお馬鹿に、天罰をくれてやるわよって!」
 熱く熱く暑苦しくるりが語るのは、キラに付き合って服屋に行った時のこと。
 明らかに「おまえが着るわけではないだろう」というおっさんが携帯で何事か話しながら服をがっさがっさと鷲掴みにしていく。
 客の少女たちが眉をひそめている間に、おっさんはレジに立った。服の掛かっていたラックはほぼ空に近くなっていた。

567死を従えし少女のお茶会 ◆12zUSOBYLQ:2015/08/09(日) 20:50:27 ID:Cpasnl3g
(あれ欲しかったのにー)
(ひどーい、あれ転売だよね)
 少女たちは聞こえよがしに囁きあうがおっさんはお構いなし。
 その時。
「お待ちなさい」
 おっさんに声をかけたのはるりだった。

「―で、おっさんを投げ飛ばして退散させて、まんまと狙った服をゲットしたってわけ」
 えっへんと胸を反らするりに、郁は苦笑いで応えた。
「まあ、可愛い服が相応しい人の手に渡ったんならいいんじゃない?」
 郁は甘い甘いコーヒーをすすりながら、るりの武勇伝から話題を変える。
「それはそうと、例の赤マントの事件はどう?」
「ん、この子たちのおかげで、大体の目星はついたわね」
「最近増えてる、ひきこさんの事件は?小学生じゃなくて、主に大人が狙われてるあれ」
(緑だ)
(緑だわ)
 澪とキラは、そっと目線を交わして苦笑いする。
「そっちも目星はついてます。ただ、犯人の説得が難しくて」
「手に余るようなら言ってね。しかし最近、事件が多いね。三年前のこともあるし、気持ちを引き締めていかないとね、るりさん」
「三年前って、連続飛び降りの件ですか」
 澪の一言に、郁は幾分眉をひそめた。
「澪ちゃん、知ってるの」
「はい、聞いてはいます」
「そう…赤マントの捜査の方もあるし、なるべく此方で始末をつけるけど、迷惑をかけるようなら事前に言うから」
「迷惑だなんて」
「そーよ郁さん!事件とあらば、喜んで首をつっこむからよろしく!」
 キラの勢い込んでの一言に、郁は笑ってしまった。
「そういうところ、るりさんにそっくりだね、君は」
 そう言われることは、キラにとっては嬉しいことだった。
 コーヒーのお代わりをすすりながら、桃のコンポートがサンドされたピスタチオのドーナツに郁が手を伸ばした、その時。
 こん、こんという幾分間延びしたノックの後に開いたドア。
「るりさん、此処にいたのー」
「蘇芳さん」
「お父さん!」
 入ってきたのはるりの兄にして、キラの父親、桐生院蘇芳だった。
「書類、沢山溜まってるよー。そろそろ仕事に戻ってくれないと」
「あら嫌だわ兄上。たまには休息も必要よ」
「るりさんの場合、休息の合間に仕事じゃない。今日という今日は、書類全部片づけてねー」
 蘇芳はそのままるりの襟首をひっつかみ、ずるずると引きずり出す。
「ああっ、ちょっとお待ちなさい兄上!せめてドーナツあともうひとつ!」
 遠ざかるるりの声を、一同は苦笑いしながら聞いた。


END

568コーヒーブレイク  ◆nBXmJajMvU:2015/08/09(日) 22:19:11 ID:CbmOosUA
 どこからどう見ても可愛らしい少女にしか見えない風貌の郁は、砂糖とミルクがこれでもか、とばかりに入ったコーヒーを男らしく口にしていた
 甘いドーナッツは甘党の郁としては嬉しいおやつである
 もぐ、もぐ、と食べていると、幸せな気持ちになってくる

「………最近、お仕事は?」
「忙しい、かな。事件が増えてしまっているからね」

 ふぅ、と澪の言葉にそう答える郁
 静かに、言葉を続ける

「君達も、気をつけて。「三年前」の事件の黒幕が、学校町に来ているようだから」
「来ている、ということしかわからないの?」
「現時点ではね」

 そう、「来ている」事だけは、「組織」だって把握している
 何せ、相手はなかなかの大物なのだから
 しかし………

「来ている、そこまではわかるけど。肝心のどこに居るか、がわからないのよねー」

 困ったものだわ、とるりがぼやいた
 οNoもまだ、それの行方はつかめていないのだ

「相手の顔や、人間として使ってる名前とか、ないの?」
「それがわかれば苦労はないさ。相手は、次々と姿を乗り換えて行くタイプなんだよ」
「……乗り換える?」

 首を傾げたキラに、そう、と郁は頷いてみせた

「相手は、人間に憑依、もしくは契約していって。ぼくらのような「組織」とか他の集団なりに見つかりそうになると、その人間を捨てて次の契約者、もしくは憑依対象へと移ってしまうのさ」
「え………それって、つまり、それまでの契約者や憑依された人は…」
「捨て駒だね。まぁ、憑依って辺りからある程度予測はできたんじゃないかな?」

 るりの言葉に郁はさらりと答えた
 酷い………と小さく呟いたるりの言葉に、苦笑してみせる

「それくらいの悪党、ということさ。しかも、そいつは他人の精神を汚染してくる。できれば、君達は接触しない方がいいだろう」

 汚染
 そう、問題はそれなのだ
 今、学校町で事件を起こしている契約者や都市伝説の中には、そいつの影響を受けてしまったものが多い
 ………特に、情報を漏らすくらいならばと自決したりする連中
 そいつらは間違いなく、関係者だ
 精神を汚染されるということはつまり………そういった連中と、同じようになってしまう、と言う事である

 郁としては、それは避けたい
 見知った相手が操られて敵対してしまう等、ごめんだ

「……あぁ、それと。黒幕を引きずり出そうとして、無謀な事をしたりしないようにね?」

 少し、念を押すように言った
 一瞬、脳裏をよぎるのは「三年前」の事件


 土川 咲李は、中学校の屋上から飛び降りた
 「強硬派」から聞いた情報を元に、飛び降り事件の犯人を止める為に
 成功する確率は低く、成功すれば奇跡
 土川 咲李はその奇跡をつかもうとして…………失敗して、死んだ


 彼女は契約者ではなかった
 契約者ではなかった彼女に、うかつに都市伝説に対抗できる「かもしれない」手段を教えてしまったのが、三年前の事件においての「強硬派」が起こした最大のミスだろう
 そして、そのミスが、日景 遥と荒神 灰人の飲み込まれ寸前までの暴走と言うさらなる事態を引き起こすことになったのだ

(もう、二度と。あんな状況に陥ってはならない)

 二度と、二度と
 戦うべきは自分達だけでいい。契約者ではない一般人は巻き込むべきではないのだ


 この生命に、変えようとも



to be … ?

569鳥居を探すの人 ◆12zUSOBYLQ:2015/08/12(水) 17:47:18 ID:jam.OUYM
 学校町南区、廃工場跡、「凍り付いた碧」拠点。
 その奥まった一室に、濃い褐色の髪の少年―碧と、銀髪の少女真白、そして、もうひとり。
 ふわふわのオレンジ色の髪の女が、ドーナツの箱をテーブルに置く。
「―不穏な動きをしている連中がいるわ」

「精神を汚染してくるから、接触するな、か…」
「釘刺されちゃったわねー」
「それも特大のね」
 学校町内にある、ο(オウ)-Noの拠点で、澪とキラが話を交わしている。
「あたしたちだって、弱くないと思うけどなー」
 ぱふん、とソファに寄っかかったキラに、澪は慎重に口を開く。
「でも、相手の特徴いっさいわからない、では迂闊には動けないよ」
 この言葉だけで澪が諦めていると思うほど、澪とキラの付き合いは短くない。
「…で、テはあるの?」
「都市伝説同士は引き合う」
 慎重に、ひとこと、ひとこと。
「よって、都市伝説が別個に事件を起こしても、互いに引き合う性質のため、事態は絡まり合う」
「…それが、結論?」
「『凍り付いた碧』の上位メンバーに『汚染』された人がいなくても、『黒』はわからない。いえ、上位メンバーだって、今後はわからないわ」
「どうする?」
「先ずは、情報収集ね」
 とにかく一旦工場跡に戻るか、と結論づけた。
 南区にある廃工場までの道を、ぽてぽて歩いていると。
「あなたたち」
 声を掛けてきたのは、ひとりの少女。
 ふんわりした水色のワンピースを纏い、黒髪を三つ編みにしている。
「あなたは確か…」
「私は藍。あなた達に、話があるの」


「うわああああん!」
 男の子が泣き叫びながら逃げまどう。誰から?赤マントからだ。
「あっ!」
 子供が転んだ。赤マントが迫る!
「ちょっと待ちな!」
 姿を現した、学生服姿の少年ふたり。そろって長身で、片方は黒髪、もう片方は茶髪だが、顔立ちはよく似ている。
「ちぇすとおぉ!」
 黒髪の少年の正拳突き一発で、赤マントは光と化して四散した。

「物理は全てを超越する!」

 黒髪の少年が決めゼリフらしきものを叫んでる間に、茶髪の少年が転んだ子供に近づく。
「怪我はなかった?ほら、見せて」
「膝が…」
 僅かに血のにじんだ子供の膝に、茶髪の少年がふううと息を吹きかける。
「冷たっ!」
 だが次の瞬間、子供の膝の傷は綺麗に消えていた。

570鳥居を探すの人 ◆12zUSOBYLQ:2015/08/12(水) 17:47:59 ID:jam.OUYM
「ありがとー!」
 手を振って去っていく子供に、にこにこ手を振る茶髪の少年―桐生院真降と、上機嫌に歌う―というか、がなる、黒髪の少年―桐生院轟九だった。
「はじっまっるーうんめいにっはー!ばぁっくぎあはー!なー!いー!」
「兄さんJASRACが来ると困るから、仮面ライダーの主題歌は止めて」
「お前こそメタ発言禁止!」



続く

571通りすがりの過去の遺物改めはないちもんめ:2015/08/12(水) 22:44:33 ID:RYiqcnSw
ベートを斬って、斬って、殴って、時折爆破して・・・獄門寺組一行は走り続ける。
「なぁ、嬢ちゃんは何処にいるんだ!?」
「1階から6階には居なかった・・・という事は上と考えるのが自然だが・・・」
「残念だけど、上にも居ませんよ」
「!?」
階段の上からかかった声に龍一達は足を止める。
視線の先に居たのは
「美亜さん!」
「何だ、992まで来てたの?・・・取り合えず最上階まで掃除を捜索済ませたけど、上にエリーはいませんでした」
「おいおい、ここに居る筈だろうが?なら何処に居るってんだ?」
「・・・・・・・・・・・・読み違えたか」
「ですね、恐らく・・・・・・」
龍一の言葉に992も頷き二人は同時に視線を真下に向ける。
「・・・下?」
「地下、じゃないだろうか?」
「確かに見てないのはそこ位ですか・・・・・・チッ、ベートまだいるだろうしここから下に向かうのは面倒臭いですね」
「あんまり時間かけてらんないしな、俺と龍一で引き付けるから「いや、もう良いでしょう」・・・へ?」
鬼灯の言葉を遮り前に出る在処に周囲は首を傾げるが・・・在処が振り上げた物。
飴の入った巾着を見て即座に理解する・・・「防がなきゃマズイ」と
「992!!」
「ハイ!!」
美亜と992が男性陣をかばう用に前に飛び出し、方や包丁で、方や電撃で壁を作り

在処が袋を叩きつけると同時に、病院その物が地表から消し飛んだ。

【その頃、地下にて side:絵里】
「この能力を得てからずっと疑問だった!人に人ならざる物の臓器を移植すればどぉなるかっ!!その応えは・・・キミが、くれた」
「・・・はぁ」
「だが、君で成功した実験の裏づけを取る為に後続を作って見ればどうだ!?
 全員ベートの食欲に飲まれ日常生活なんて送れる状態じゃあなかった!!
 にも、関わらず、君は人の日常生活に溶け込めていた、何故だ?!」
「・・・・・・」
「その答えが欲しくて君を拉致したのだよ」

と、言われてもなぁ・・・

「そんなの簡単じゃないですか」
「ほう?」
「躾が足りなかったんでしょう」
「は?」
「人間を食べちゃ駄目ってちゃんとしつけました?
 私はされましたよ?初っ端に足腰立たなくなるまで爆破されて」

実際私はそれで我慢を覚えましたし・・・?
今思えばアレ児童虐待・・・否、動物虐待?

「・・・そんな単純な・・・?」
「真実なんてのは得てしてつまらない物ですよ・・・移植された段階で私達はもう人じゃない
 獣なんです・・・なら、獣らしい躾は必要でしょう?」
まぁ、それはともかくとして・・・
「と、言うかそんなショック受けてる暇あるんですか?
 上で定期的に起きてる振動・・・ここ襲撃されてますよね?」
「あー、ベートじゃ足止めにもなりそうにないね」
「まるで他人事みたいですね?」
「期待していた程の答えが得られなかったからね、ならもうどうなっても良い・・・作りすぎたベートの処分も兼ねて一石二鳥じゃないか」
何ともまぁ・・・
「死ぬのが怖く無いんですか?思ったより度胸があるんですね」
「ん、いやだってさ――――――――――」

次の瞬間、天井が割れた。

572通りすがりの過去の遺物改めはないちもんめ:2015/08/12(水) 22:45:04 ID:RYiqcnSw
【side:在処】
飴を床に叩きつけ、出来た穴に飛び込み、着地するより先に次の飴で床をぶち抜く。
一度も減速する事無く実質最上階からの飛び降りと変わらないがその程度でどうこう成る程契約者は柔じゃない。
頭上の方から無茶苦茶だぁぁ!とかお前の嫁さんすげーなとか聞こえてくるがこれはほめ言葉として受け取っておこう。
横を向けば窓から見えるのは地上の風景、つまりはもう一階・・・なら次の床で・・・!

最後の床をぶち抜き見えたのは絵里と対峙する白衣の男・・・・・・多分、黒幕。

「在処様!?」
「上から!?」

二人揃って口をあけて呆けている・・・何でそんな信じられない物を見たような顔をするんだろう・・・失敬な、丁度いいけど。
太股のホルダーから抜くのは子供の玩具の水鉄砲・・・
「っ!」
「ふがっ!?」
着地と同時にその銃口を男の口にねじ込み、引金を引く・・・あとは!!
「爆ぜろ」
その一言で、男の上半身は粉微塵に吹き飛んだ。

上から後を追ってきていた龍一さん達と、近くに居た絵里も吹っ飛んだがそれは愛嬌で許して欲しい。
・・・・・・・・・なんて言い訳をしたら龍一さんに殴られた。

【side:絵里】
「・・・・・・・・・何ともまぁ・・・皆さんぼろぼろですね・・・」
「いや、ベート相手にしてる分は全部ノーダメで処理してた筈なんだけどね・・・?」
「そうですねぇ・・・今ここにいるメンバーって鬼灯さん除けば武闘派で通ってる訳ですしベート如きに遅れはとりませんよね・・・」
美亜と992は言い訳がましく言うが・・・その二人も龍一さんと鬼灯さんも・・・私含めて黒焦げでぼろぼろなのだ。

「何と言うか・・・スマン」
頭を下げる龍一様の後ろで頭を抑えて悶絶してる在処様の姿で大体全てがわかってしまうのが何とも・・・・・・

「でも、ま、これでこの件は片付いたんだろ?」
「いえ、逃げたベートの処理が残ってますよ?」
「まぁ、それは私等組織の仕事だから良いとして・・・」
そう、これで事件は一先ず落ち着いた筈なのだ。
私にベートの心臓を移植した男は驚くほど呆気なく死んだ。
そう、肉片になって死んだ・・・これで終わった筈なのだ。
だけど、気になるのは・・・
『ん、いやだってさ・・・・・・"僕も所詮予備”だし?』
在処様に殺られる寸前に男が残した言葉・・・予備・・・・・・予備?
「あー・・・ここまで粉々だと検死も解剖もあったもんじゃないですんね」
「即死だし良いんじゃない?」
「いや、一応確認しておきたかったのですが・・・」
予備・・・検死・・・医療系都市伝説・・・・・・臓器の記憶・・・・・・
「・・・・・・・・・まさか、ね?」

【続く?】

573どこで知ったか  ◆nBXmJajMvU:2015/08/12(水) 23:18:21 ID:k4Sza4TQ
 ……さて、ぼろぼろにはなったものの、事件は解決した
 帰ろうか、と思ったその時。龍一の携帯が着信を告げた
 画面を見ると、息子たる龍哉からだった
 …事件は解決したのだし、出ても問題ないだろう

「………龍哉、どうした」
『あ、お父さん。あの、怪我をなさっているならば、憐が治療する、と申し出ているのですが』

 …………
 うん?

「………何のことだ」
『隠さなくとも、大丈夫です。憐が心配していまして、遥様がすっごく殴りこみかけたそうでしたが、直斗が止めてくれました』

 …………うん、よし、直斗よくやった
 親友の息子に、龍一はそっと心のなかでGJを送った

『優と晃に、スーパーハカーさんからご連絡ありまして』
「………しまった。そこから、か」

 しまった。あの二人の母親の契約都市伝説を忘れていた
 どこかかしらの監視カメラなりなんなりに、映ったか
 後は、その気になればいくらでも辿れるだろう

 ………後で説明しなければ
 龍一はそっと、ため息を付いたのだった


終われ

574通りすがりの過去の遺物改めはないちもんめ:2015/08/12(水) 23:46:16 ID:RYiqcnSw
「酷い怪我っす……皆さんがこんなに怪我するなんて、恐ろしい相手だったんすね」
「あぁ、龍一さん達がここまでやられるなんて・・・」

今朝方吹っ飛んだ筈なのだが昼過ぎには再建されていた獄門寺家にて、龍一達を治療していた憐の言葉に遥が頷く。

「余程の強敵だったんだな」
「えぇ、まぁ・・・強敵でしたね?」
「あぁ、強敵だったな・・・・・・こちらの想定を超えてくると言う意味では」
「敵意とか殺気があれば察知も容易だけどさぁ・・・そういうの一切無いんだもん」
驚く直斗に992、鬼灯、美亜が応えるが・・・事情をちゃんと理解している龍一と絵里の顔は渋い。
もっと言えば在処は表面上澄ましているが、内心ボロボロなのは想像に難くない。

「敵意も殺気も一切無い敵ですか?」
「あぁ・・・一切無かった
 いや、寧ろ敵意とか殺気向けられたら戸惑わなきゃいけない状況だったんだが・・・」
「あぁ・・・」
鬼灯の言葉にやっと龍哉も理解したらしい・・・そりゃ、まぁ、味方だもん、敵意も殺気も無いですよねと。

「龍一さん、私泣いていいですか?」
「(折檻の)後でならな」
そんなやり取りを聞いて絵里の頭に疑問が一つ・・・
「何でつれてきちゃったかなぁ・・・この人を」

助けられた恩はある、育ててもらった恩もある・・・が、室内戦でつれてきちゃいけない筆頭だろうと・・・内心静かにツッコミをいれたのだった・・・
【つづかねぇ】

575死を従えし少女 ◆12zUSOBYLQ:2015/08/13(木) 19:26:10 ID:FEjAAOlo
 学校町南区、廃工場跡の地下。
 多少なりとも霊感のある人間や、都市伝説契約者なら、無数の死霊の気配を、そこに感じたかもしれない。
 そこには無数の「黒」が控えていた。
「我々は、悪逆なオトナと、我らに無関心なオトナによって殺された!」
「殺された!」
「その復讐のために、そして今も苦しめられている同胞のために!」
「同胞のために!」
「立ち上がれ!」
「立ち上がれ!」

「我らはもう二度と、オトナに殺されてはならない!」

 学校町南区、ドーナツバー「マジカルスイート」
「話の前に聞きたいことがあるの」
 運ばれたポップな色合いのクリームソーダもそこそこに、澪が切り出した。
「あなた達の目的は何?何故赤マントを使って子供をさらうの?」
 藍はストローから口を離し、真剣な面もちで答える。
「やってる事だけみたら、大層過激な集団に映るでしょうね、私たちは」
「とーぜん!」
 藍が長い睫毛を伏せた。
「元々は、虐待されていたコドモ達が身を寄せ合って助け合う、そんなグループだったの」
「碧はその中でも、とびきり頭が良くて、優しくて、みんなから慕われていた」
「虐待されてるコドモを助ける時も、もっと穏健に、かつ巧くやっていたわ」
「例えば?」
「『このお金で子供さんを買い取ります』って精巧な偽札の束を渡したり、女の子のメンバーに痴漢をでっちあげさせて、示談にする条件にコドモの解放を出したり」
「うわちっとも穏健じゃない」
 呆れ顔のキラとは対照的に
「確かに巧いわね」
 澪は感心していた。
「真白が入ってからよ。真白は、オトナ全てが許せないの」
 まあ私もオトナは好きじゃないけどね。そう笑う藍のワンピースの袖口からは、無数の火傷らしい跡が見えた。
 不意にふたりは、自分たちの家庭のことを思い出した。
 自分たちは幸せなのだと、彼らのしていることに物言う権利などないのだと、そう突きつけられているような気がした。
「赤マントを使った誘拐は?」
「それも真白が考えたこと。表向きは『オトナに洗脳されているコドモを救い出す』って事にはしているけど、要はメンバーを…自分の手駒を増やしたいのよ」
 真白がさらわれた子供たちの事を知っている。オレンジはそう言っていた。
「さらわれた子供たちも、真白の手駒として使われてるの?」

576死を従えし少女 ◆12zUSOBYLQ:2015/08/13(木) 19:26:46 ID:FEjAAOlo
「そう。虐待されてたコドモはそのまま。赤マントが連れてきたコドモはたいてい抵抗するから、教育を施してから」
「教育?なんの?」
「それは私も知らない。真白と、真白の側近の紅しか知らないわ」
「真白の目的は何?」
「多分オトナの撲滅」
「他のメンバーは知ってる?」
「知ってて従ってる子もいれば、ただ真白が言うからついて行ってる子もいるわ。緑もオトナ撲滅派だけど、真白が嫌いだから複雑みたい。何にせよ、今の『凍り付いた碧』は不安定なのよ」
「ふーん…」
 アイスが溶けきってしまったクリームソーダをかき回しつつ澪は考える。
 さて、誰につけばこの組織をもとの穏健な組織に戻せるだろう。
「お前たち」
 その時声を掛けてきたのは、黒髪の、感情の起伏に乏しそうな少年だった。
「黄(ふぁん)…!」
 藍が表情を歪める。この少年が嫌いなのだろうか?
「お前も仲間を増やして革命ごっこか?」
「放っといてちょうだい」
 苛ついたようにストローでぐるぐるとクリームソーダだったものをかき混ぜる。
「お前たちも」
 黄が近づいてくる。澪とキラは反射的に身構えた。顔を見下げるようにのぞき込まれる。
(……!)
 澪は何ともいえない、嫌な気配を感じ取った。
(何なの、この気配は…!)
「いい奴がいる。何れお前たちにも会わせてやるよ。きっとこの組織と、世界を変えてくれる、素晴らしい存在だ」
 それだけ言うと、にやにやと笑いながら黄は店を出ていった。
「なんなの、あいつ…」
 キラは気づいただろうか?あの少年が纏う気配に。それとも自分だけ?
 それにしてもあの気配、何処かで同じような気配を感じたような気がする。何処だったか、誰と居た時だったか。
(思い出した…!)
 澪は一通のメールを、直人ではないキラの兄に打った。


「ねえ、紅さん」
 紅かなえに声を掛けたのは、長身に天然茶髪の桐生院真降。同じクラスで、席も近い。
「聞いたんだけど、こないだ、変な事件があったんだって?」
 変な事件。この間のあれだろうか。うかつな事を言ってはいけない。かなえは身構えるが、真降はにこにこしている。
「うちのチビ達が野次馬根性発揮しちゃってね。話せる範囲で良いから聞きたいんだ」



続く

577通りすがりの過去の遺物改めはないちもんめ:2015/08/27(木) 20:59:52 ID:jQ3JYmaQ
何時か何処かはわからない、一組の男女が赤子を抱いて話してる光景。
「やっぱり、何の影響も無し・・・・・・とは行かなかったか」
「えぇ、あの子に自覚があるとは思えませんが」
「・・・・・・できれば普通の人間としての生活を・・・ってのは高望みだったのかなぁ
 私の所為ね・・・ごめんなさい」
「そんな事はっ!」
「・・・そう言ってくれるから私、貴方に頼りっぱなしなのよね
 でも、これは私で何とかする」
赤子を抱く女性・・・少女?の手が赤子の額に添えられて・・・
「今度目を覚ますときにはきっと、貴女の見る世界は違う物になってるわ
 私のわがままを押し付けちゃう形になってごめんね・・・」
嗚咽交じりに紡がれた言葉は――――

【現在】
「かーって嬉しいはないちもんめ♪まけーて悔しいはないちもんめ♪」

タオル一枚羽織って風呂場を出る。
普段なら巻く所だが今日は両親はデートとやらで外出中だ・・・・・・毎回思うんだけど何時も過労死寸前とか言われてるお父さんはどうやって休み確保してるんだろう?
というか休みの度にお母さんなり私なりに時間使ってる気がするんだけど大丈夫なんだろうか。
「ま、久々に家で一人で過ごせるんだし一寸位グダグダしても・・・」
「よ、邪魔してるぞー」
「お邪魔してる・・・ッス!?」
うん、即座に目を背けた憐は許そう・・・この子はその辺の気遣いできる子だ。
で、目を逸らす所かガン見するのでも無く普通にしてるコイツは・・・
一歩目で大きく踏み込みその足で回転を加えながら宙へ跳び、そのまま回転力を生かして左足を顔面に叩きつけても許されるだろう。

578通りすがりの過去の遺物改めはないちもんめ:2015/08/27(木) 21:00:32 ID:jQ3JYmaQ
「・・・・・・イッテェ」
「命あるだけ有情と思いなさいよ」
「流石に今のははるっちが悪いと思うっす」
「いや、だって今更隠すようなもんでも・・・」
「そりゃまぁ、昔は一緒に風呂に入ってたりしてたかもしんないッスけど
 もう高校生ッスよ?流石に昔と同じとは・・・」
「いや、まぁ私も別に見られた事に対して怒る気は無いんだけどさ」
「無いんスか?!」
「まるで気にしてませんな感じは流石に一寸腹が立つわよ・・・二人共お茶で良い?」
「おう、悪いな」
「みこっちー・・・無断で来たこっちに非があるのはわかってるっすけどもう一寸格好どうにか・・・」
まぁ、たしかにホットパンツに首からタオルは少しラフ過ぎるだろうか?
「んー、まともな格好すんの面倒臭いのよねぇ・・・」
「お願いッスから歯に衣着せるって事覚えて欲しいっす」
「神子、お前何とかしろよ、憐が困ってんじゃねーか」
「アンタが憐基準で物言うの止めたら考えたげるわ」
「?」
うん、根が深い・・・

「で、二人共何しに来たの?」
「いや、偶々はるっちに会ってそのまま誘われただけなんッスけど」
って事は遥の用事?
「おう、叔父さん特製胃薬貰ってきてやったぞ」
「ありがとう、お礼に憐持って帰って良いわよ」
「みこっち!?」
「丁度切れてたのよね、胃薬
 あ、ちゃんと二人分あるじゃない、お父さんも喜ぶわー」
「みこっち正気に戻って!それ単なる胃薬っすよ!?」
「単なる胃薬じゃないわよ、あのカラミティ叔父さん特製よ!市販のとは効き目が違うわ!
 これさえあれば胃痛からはオサラバよ!」
「そんなに酷い事になってたんッスか!?」
そう、それもこれも遥が・・・

579通りすがりの過去の遺物改めはないちもんめ:2015/08/27(木) 21:01:04 ID:jQ3JYmaQ
「やっぱりアンタの所為じゃない!」
「グハッ!?」」
今度は拳が遥の顔面にクリーンヒット
「はるっちー!?ってかみこっちタオルタオル!!」
「タオル投げられた位じゃ止めないわよ」
「じゃなくて胸ー!!」
あ、殴った勢いで落ちたのがいけないいけな ガラッ ・・・ガラッ?

見るとリビングの入り口に見慣れた黒スーツと中学生にしか見えないってか私の中学時代の制服着た少女、もとい母。

「あら、遥に憐っちじゃない、いらっしゃい」
「あ・・・望さんお邪魔してるッスー・・・」
「はい、二人共いらっしゃい・・・で、これはどういう状況でしょうか?」

どうって、パニクってる憐と、倒れ付してる遥と、その遥の上に馬乗りになってる私(ほホットパンツのみ)・・・・・・・・・うん、男親に見せて良い状況じゃない。
「お、お母さん・・・」
「フフフ、お母さん娘の異性交遊に口を挟む趣味はないわよ?」
わかって言ってる!全部理解してるよこの人!!
「三人共、少しそこに直りましょうか」

この日、我が家に数年振りに修羅が光臨なされました。

【終わる】

580死を従えし少女 ◆12zUSOBYLQ:2015/08/27(木) 22:07:20 ID:pPM5YFlg
「……」
「はい、必ずあなたの為に」
「はい。同士を増やして、『凍り付いた碧』をあなたに」

「必ず、捧げます」

 さて、どうしたものか。
 首を突っ込むな。それは、おそらく本気の言葉だろう。
 三年前の事件は、それほど彼らに深い傷を与えていたのだ。…とくに、土川咲李の件は。
 土川咲李とは、一度か二度、挨拶程度に話したことがある。明るくて優しい返事が返ってきて、ほんわかした気分になったものだった。
(それにしても…黒幕が『あれ』だなんて)
 とりあえず、キラ達には黒幕のことは伝えなくては。
(あと、兄さんにも伝えておくか…)
 末っ子に甘い兄が、キラが首を突っ込んだ事件に関わりたがらないわけがない。
(キラに甘いのは僕も同じか)
 そう自嘲できるだけ、真降の方が客観性を保っているかもしれない。
(『凍り付いた碧』についても調べておこう。『組織』のデータベースにあればだけど)
 何にせよ、情報がなくては動きようがない。
 真降は端末を取り出し、パネルに指を滑らせる。
 妹を、兄を、妹の親友を護るために。

「ねえ、あの子」
 澪が口にした「あの子」とは、今し方遭った、黄(ファン)という少年。
「彼、何時もあんな感じなの」
 澪の質問に、藍も首を傾げる。
「いつもは取り澄ましていて嫌な奴なのよ。あんな感じ悪い笑い方するのは見たことないわね」
 まだ苛立たしげにぐるぐるとソーダをかき混ぜている。彼の「気配」には気づいていないようだ。
「おい!同士浅葱!同士桃!」
「緑」
 緑が足音高く店に入ってきた。
「任務だ、来い」
「内容は?」
「来たら教える」
 つまりは、あらかじめ教えたら都合が悪い任務、と言うことか。
「教えてくれなければ行けないわ」
 澪が拒否の言葉を口にしたが、藍が意外な援護射撃をした。
「同士浅葱、行きなさい。格上のメンバーの言うことは絶対なの」
 藍にまで言われれば、澪もキラも諦めざるを得ない。
(藍と緑の仲は悪くはないのね。真白を排除しても、緑と藍が手を組んで過激化したら、都合が悪いわ)
 ふたりの仲に楔を打ち込むべきか澪は考える。
 彼らをこれ以上過激化させないために。事が手に負えなくなり、大人の介入を招かないように。
 …彼らが、彼らであるために。

581死を従えし少女 ◆12zUSOBYLQ:2015/08/27(木) 22:07:51 ID:pPM5YFlg
 夕暮れの学校町東区。
「あーあ、今日の授業もかったるかったな」
「でも、澪ちゃんもキラちゃんも今学校に来れないから、僕たちがノートを取っておかなくちゃ」
 ふふふと笑うのは航。
(いつもは澪ちゃんが僕に勉強を教えてくれるのに、しばらくは立場が逆になるんだ)
 楽しいなあと笑いながら、家路につく航たちの眼前に現れたのは―
「あ、赤マント…」
「航、斧出せ!」
 叫ぶ直人も七星剣を取り出すが、赤マントは既にふたりをぐるりと取り囲んでいた。
「人海戦術かよ、くそっ!」
「倒しても全然数が減らないよ!」
 無限に増え続ける赤マントなどあり得ない。
 周囲を見渡す直人の瞳に映ったものは―
 細い指先を光らせ、倒した赤マントをもう一度呼び出す銀髪の少女。
(あいつが元凶か!)
 七星剣を構えたまま、少女に迫る直人の前に、煉瓦色の髪の少年があらわれ、直人の行く手を阻む。
「どきやがれ!」
「そうは行かない。全ては、同士真白の為に」

「うわあっ!」

 悲鳴が上がった方に目を遣れば、航が赤マントのマントにくるまれ、赤マントごと姿を消すところだった。
「航!」
 直人がさらわれる航に気を取られた隙に、直人にも複数の赤マントが襲いかかる。

「くそっ!」

 ―後に残ったのは、無数の赤マントと、煉瓦色の髪の少年と、銀髪の少女。
「さ、引き上げましょ」
「はい。…同士真白」
「なぁに?」
 上機嫌の真白に、煉瓦色の髪の少年―紅が控えめに諫言する。
「これでよろしかったのですか?身内に手をつければ、今は表向き従順でも、堂々と奪還を口実に反乱を起こさないとも―」
「心配ないわ」
 真白はにこにこ、無邪気な笑顔を紅に向ける。
「たとえ反乱を起こしても、鎮圧の尖兵が身内なら、手を引かざるを得ないでしょう?」
「このまま彼女たちにうちで働いて貰うもよし、身内に潰されて貰うも良しよ」
 無邪気な、それ故にどこか狂気を秘めた笑顔。

「大丈夫よ。彼らには、わたしの切り札(カード)になって貰うから」



続く

582クッキーと紅茶と共に  ◆nBXmJajMvU:2015/08/27(木) 22:42:38 ID:eEYwDWSY
 ………とりあえず、である

「神子も、家で一人だったからと言って、そう言う格好でいるのはやめましょうね?宅配とかが来たらどうするんですか」
「流石にその時はちゃんと服着るから大丈夫………と、言うより。何故最終的に私が怒られているの、お父さん」
「……みこっち、自業自得だと思うっす」

 そう、結局
 最終的に、憐がきちんと説明したおかげか神子が怒られる、と言うより軽くお説教くらうはめになった
 まぁ、遥は遥でもうちょっと気を使うようには言われたのだが、どこまで効果があったかは不明である

「あ、そうだ。これ、カイザー司祭が作ったクッキーっす。お茶菓子にー、って思って持ってきてたんすけど」
「あぁ、ありがとうございます………とりあえず、望。着替え終わりました?」
「うん、着替えたけど………いいじゃない、デートに中学校の制服着ても」
「良くない、というか人の制服を中学時代のものとは言え勝手に着ないで」

 びしぃ、と思わず突っ込む神子
 そう、娘の制服勝手に持ちだして着るのはやめてほしい

「せめて、自分が中学生だった頃の制服着てよ。娘の着ないで」
「みこっち、それもどうかと思うっす」

 憐からのツッコミを、神子はさらっと流す
 うん、憐はこうして、きちんとツッコミをしてはくれるのだ
 ……その調子で遥にもツッコミ………いや、遥相手はツッコんでも無駄な事の方が多いか

 そうして、改めて神子の両親は出かけていった
 どうやら、望の着替えの為に一度帰って来ていたらしい
 それなら最初から制服以外で行け、と言いたいところだが、まぁ、何かしら理由があったのだろう。行き先的に制服だと不味いとかそう言うの

「……さて、と。じゃあ、憐がクッキー持ってきてくれたし、食べましょ」
「神子、お前、おじさん達の分、残す気ねぇだろ」
「別にいいじゃない。ほらほら、三人で食べましょう」

 カイザーが作った焼き菓子は以前にも憐が持ってきたのを食べたことあるが、なかなか美味しかった
 父親はともかく、娘のお古の制服勝手に着ていく母親に食べさせるのはもったいない。食べてしまってもいいだろう

583クッキーと紅茶と共に  ◆nBXmJajMvU:2015/08/27(木) 22:43:08 ID:eEYwDWSY
「そういえば、憐。教会の方に誰か新しい人来たんだって?」
「あ、みこっちの方にもその話行ってんすね………新しい人、ってか、ジェルトヴァさんが来たんす」

 ぴくっ、と。憐の言葉に、遥が小さく反応する

「遥、家のティーカップ壊さないでね…………ジェルトヴァ、って。昔、ちょっと学校町に来てたアレ?」
「アレ、って言い方はどうかと思うっすけど、あの人っすよー。今回は、きちんと「組織」とかにも事前連絡してから来た、って言ってたっすね」

 へろーん、と、憐はいつも通りの………「三年前」から振る舞うようになったのと同じ調子で笑みを浮かべながら、そう話す
 「教会」所属の異端審問官であるジェルトヴァは、以前にも学校町を訪れており、その際に憐と関わりを持っていた
 遥がやや警戒の表情を浮かべているのは、そのせいだろう

(異端審問官、って響きがちょっとあれだってのもあるだろうけど…………あの人の場合、なんか、なぁ)

 神子も、以前にちらり、と顔を合わせた事はある
 どこか冷淡な雰囲気と始末屋を思わせる物騒さ。そして、なんだか「嫌な予感:にも似た何か。何か、ろくでもない経歴を持っているんじゃないか、と、神子はそう感じていたのだ

「ジェルトヴァさん、冷淡とか無慈悲とか人の心を持ってないとかよく言われてるっすけど、本当は優しい人っすよ?お仕事上、どうしても甘い態度とかはとれないみたいっすけど」

 神子の考えを感じ取ったように、憐はフォローするようにそう言った
 憐も、一応は「教会」所属であるから、余計にフォローするのかもしれない

「で、そのジェルトヴァは、どうしてまた学校町に来たんだよ」
「んー………「バビロンの大淫婦」を探す、ってのと、ついでにそれの手駒がちょこちょここっちに来ちゃったらしいんで、その対処っすね。あの人なら、大体の相手には負ける事ねーっすから。やや戦力過剰なくらいっす」
「まぁ、確かに。やや戦力過剰なくらいね……………「狐」絡みでは、ないのね?」
「はい。ご本人に念の為確認とってみたっすけど、「狐」に関しては話で聞いてはいるけど詳しくは知らない………って感じだったっす」
「あいつの性格考えると、場合によっちゃ首突っ込んできそうだな……面倒な事にならないといいが」

 クッキーをつまみながら、遥はそう呟いた
 そうかも、と憐が少しだけ困ったような表情を浮かべる


 学校町に入ってから、「狐」は能力を一切、振るっていない
 よって、「狐」の手駒は増えていない
 この調子で「狐」の手駒を削っていけば、最後に「狐」を倒せばおしまいである

 土川 咲李の死の、直接の原因ではないとは言え、死のきっかけを作り出した存在である「狐」を、のさばらせておく気などさらさらないのだ


(あぁ、でも。皆が無茶をしなければいいのだけど)

 ちらり、と憐と遥を見る
 ………この二人は、皆の中でもことさら危ういのだ、と言う事実を、頭のなかで再確認しながら




to be … ?

584通りすがりの過去の遺物改めはないちもんめ:2015/09/02(水) 00:32:58 ID:NgCTQN9E
行方不明になった両親・・・続けて失踪した姉。
周りの大人達は良くしてくれた、その事に関しては言葉に出来ない程感謝している。
しかし、同時にどうしても埋められない寂しさを感じるのも事実で・・・それが人間の強さだけを見て生きてきた自分にとって初めて感じた弱さ。
そんな弱さが嫌で嫌でどうしようも無くて・・・・・・・・・


「これで5件目ですよぉぉぉぉぉ!?」
「んー・・・」

C-No.992の叫びに影守美亜も苦い顔をする。
前回の一件で黒幕と思しき男は、獄門寺在処の活躍・・・暴走?によって文字通り爆☆散。
組織としてはこの事件の捜査は打ち切り・・・後は逃げたベートの保護なり処分なり、後始末で済む筈だったのだが・・・・・・

「ベートに限れば5件・・・他の野良都市伝説も含めれば9件・・・・・・いや、まぁ危ない野良を掃除してくれるのは組織的には問題無いんだけど・・・」
「やり口が派手すぎます・・・・・・炎熱系の都市伝説なんでしょうけど」

やられた奴は焼死体に、周囲は黒焦げに・・・下手をすれば火が残ったままで・・・一寸派手過ぎる。
「何ていうか・・・後始末する気が一切ないというか、倒したんだから後は良いや的な考えが透けて見えるというか・・・・・・後掃除させられるの私達組織とかなんですけど?!」
「消防に通報される前に処理しないとダメだからなぁ・・・」
どっからどうみたってボヤの後である。
「誰がやったのかもわかりませんし・・・」
「いや、それは大体目星付いてるの」
「へ?」
美亜の言葉に992が目を丸くする。
目星が付いてる?なら一回捕まえて説教なり苦情なりいれるべきだろうと。
「ただ・・・なぁ・・・・・・」
「ただ?」
「あんまり触れたくないのよ、アレに」
「あれ?」
「新島の人間よ」


「で、私にお鉢が回ってくるのよねぇ」
学校の帰り道、神子が立ち寄ったのは一件の民家・・・・・・何年も放置されてたのか荒れ果てたそれは最早幽霊屋敷というかお化け屋敷一歩手前の物件で・・・・・・こんな事なら遥でも連れてくるんだったかと少し後悔しながら預かってきた鍵を差込み・・・・・・回すとドアノブごと取れた。
「チッ・・・・・・てぇっい!」
仕方なく、仕方なく、壊れたドアを蹴破り中に入る。
少し歩けばかつてはリビングであったであろう場所。
そこにおかれたソファの上で横になっている影。
「案の定ここに居たわね、愛人」
「・・・神子姉か、久しぶりだな」
こちらに気付くと影はよっと起き上がり、視線をこちらに向けてくる。

新島愛人・・・母の親友・・・だったらしい、新島友美の息子。
以前一時ウチで預かっていた事があった・・・
「本当にねー、アンタがウチ出てってからだから3年ぶり位?」
「丁度それ位になるな、で・・・どうした?
 態々こんな所に来たんだ、何かしら用事があるんだろう?」
「話が早くて助かるわぁ・・・組織から苦情が来てんのよ、最近のベートの焼死体アンタでしょ?
 殺るのは良いけどもう少し綺麗に殺れってさ」
「ふん、それは組織の仕事だろう、俺の知ったことじゃない」
「あんたねぇ・・・」
「俺はタダゴミを片してるだけだ」
「アンタのはゴミを丸めただけでそのままでしょうが、捨てる所までやれって言ってんの」
「・・・・・・面倒だな」
「オ"イ」
「冗談だ・・・・・・今度からは丸めてそのまま焼き払うようにする」
それってつまり、黒こげより酷い状態なのでは?

「まぁ、一応伝えたからね」
「一応聞いた事にしておく・・・で、俺の愛しの遥や龍哉は何処に・・・・・・待て、冗談だ、目が怖いぞ」
「冗談ならいいわ・・・これ以上周りにナチュラルホモが増えると流石の私の胃も保たないし」
「彼等の事を好ましく思ってるのは事実だがな、実力も思想も申し分無し・・・待て、本気で怖いから」
「・・・・・・・・・ま、良いけど・・・今でもあいつ等はアンタのお眼鏡に適うかしらね?」
「・・・・・・・・・どういう意味だ?」
「アンタが居ない間に色々変わったって事よ」
そう、3年前を境に変わってしまった・・・・・・あの時程自分の無力さを嘆いたことは無いが・・・
「ま、その内顔を合わせる事もあるだろう・・・楽しみにしとくさ」
コイツの気性はある程度理解している・・・・・・怖い位にまっすぐな我侭で、本当に仲間や家族を大事にしてて、そういう所や都市伝説は遥に似てる気もするけど・・・
何より、嘘やごまかしを嫌う、自分に正直になれない奴を嫌う。
(コイツから見て・・・今の彼等はどう写るのかしら、ね)
【続く?】

585高校生活日記 4コマっぽいの変  ◆nBXmJajMvU:2015/11/12(木) 00:10:46 ID:iW9MQIo6
憐「はるっちー。ポッキーあるけど、食べるっすー?」
遥「おぉ、もらうもらう」

遥「……なぁ、憐」(肩ちょいちょい)
憐「?どしたっす?」

遥(ポッキー咥えてポッキーゲーム開始カモン、の構え)

遥「で、なんで俺が神子と咲夜の蹴り喰らわないとダメなんだ?」
神子&咲夜「「自分の行動を振り返ろ」

ポッキーの日に間に合わなかった


憐「……と、言うことがあって」
ジェルトヴァ「お前の幼馴染の約一名に関して、その対応はいっそ生ぬるいほうだと思うが」
憐「そうっす?」

憐「あ、そだ。ジェルトヴァさんにも、ポッキーお裾分けー、っす」
ジェルトヴァ「あぁ、いや。私は別に……」

憐「はい、あーん」(ポッキーさし出し)

ジェルトヴァ「…………」(無言で数秒考えこんだ後、食いついた)
メルセデス「あいつも、遥の事あまり言えないよな」
カイザー「指摘しないであげなさい」

多分違う……と、思う


優「晃ー、ほら、ポッキー」
晃「……うん」

晃(差し出されたそれに、はむっ、と食いついてる)
優(にこにこ見守ってる)

晃「……優も」(ポッキーさし出し)
優「うん、ありがと」(躊躇なく食いつき)

咲夜「双子の癒やしっぷりに比べて男共ときたら」
直斗「俺と龍哉は普通だろ」(龍哉にポッキー差し出しながら)
龍哉(はむはむはむはむ、と差し出されたポッキー食べてる)
咲夜「あんたのは餌付けっぽいからセウト」

双子は癒やし枠

586そういえば今日は冬至ですね4コマ的な何か  ◆nBXmJajMvU:2015/12/22(火) 21:39:40 ID:xrOgVQZM
憐「ジェルトヴァさーん、今日は冬至っすから、柚子茶飲みましょう、っすー」
ジェルトヴァ「……?何故、柚子茶?」
憐「日本ではー、冬至にはお風呂に柚子入れてゆず湯に入ると風邪引かない、って言われてるんす」

憐「でも、ここ(教会)だと、メルセデス司祭がゆず湯嫌がるみたいなんで」
ジェルトヴァ「あぁ。なるほど……これを、湯に入れて溶かせばいいのか……む」(柚子の皮も少し入ったジャムが、指先についた)

憐「ありゃ、勿体無い」(ジェルトヴァの指先はむっ)
ジェルトヴァ「 」

憐「うん、甘めに作っておいて良かったっすー……って、ジェルトヴァさん、どうなさったっす?」
ジェルトヴァ「 」
メルセデス「本当、行動が母親そっくりだよな、あいつ」
カイザー「憐は母親似ですからね」
メルセデス「その結果があのざまだろ。いいのか」

メルセデスツッコミできたんだね

587ゴルディアンの結び目 ◆MERRY/qJUk:2016/05/01(日) 15:18:10 ID:2cCUs2Fk
都市伝説『トンカラトン』は路地裏に隠れてようやく一息ついた。
語られている通りに人を襲おうとしたが、逆に何者かの襲撃を受けたのだ。
細長いものに巻き付かれた自転車は恐ろしい力で引きちぎられてしまった。
このまま走って逃げるのか、意を決して襲撃者に立ち向かい撃退するのか……

そんなことを考える『トンカラトン』を上から見つめる者がいた。
正面に(▼)マークの描かれた覆面で顔を隠し
トレンチコートに中折れ帽を着用したその人物は、
腕に巻きついている細長い布を下に向かって数本伸ばすと
音もなく『トンカラトン』の首へと巻きつけ
彼が反応するよりも早く布を引っぱりその首をへし折った。


[警邏記録 G.K記]

『注射男』1体 
『赤マント』2体 
『トンカラトン』1体
今日だけでこれらの都市伝説を始末した
"学校町"を漂う嫌な匂いに惹かれてやってきたハエ共だ
やはり元を叩かなければキリがなさそうだが
あいにく俺には原因を探るために使えるツテがない
この街でいったい何が起こっているのか
それが分かるまではハエを消すことに注力しよう

588ゴルディアンの結び目 ◆MERRY/qJUk:2016/05/01(日) 15:19:11 ID:2cCUs2Fk
相生真理にとって幼馴染の奇行はよくあること
もうとっくに慣れている……と自分では思っているつもりであった。
風呂上がりに自分以外いないはずの家のリビングで
仮装でもしているかのような格好をして
手帳に何事か書き連ねている幼馴染を見つけるまでは。

「邪魔シてルゾ。窓の施錠ハ忘レルな、都市伝説に襲わレかねない」
「……気をつけるわ。都市伝説以外に不審者が入ることもあるみたいだし」

乾いた物が擦れ合うような声で話す幼馴染の忠告に皮肉で返す。

「それで、なんでその格好してるの?またヒーローごっこ?」
「ソのようなものダな。最近ハ、都市伝説の出現数ガ増えていルようダ」
「だからヒーローごっこするわけ?その格好、えーと……なんだっけ?」
「"ゴルディアン・ノット"ダ」
「そうそう、そんな名前だったわね。それ」

(▼)模様の覆面で顔を隠し、トレンチコートを羽織って中折れ帽を被る。
全身に巻きつく細長い布と縄、胴体にだけ巻きついた二本の鎖。
某アメリカンコミックのヒーローをモデルにした幼馴染の描くヒーロー像。
それが目の前の"ゴルディアン・ノット"だ。正直不審者にしか見えないが。

589ゴルディアンの結び目 ◆MERRY/qJUk:2016/05/01(日) 15:19:50 ID:2cCUs2Fk
「おじさんとおばさん、反対しなかったの?いや、黙ってやってるのか」
「ソのことダガ、家出シてきた」
「……ごめん、なんて?」
「家出シた」
「はぁ?いやいや、学校とかあるでしょ?」
「荷物なラ持ってきていル」
「ここか!滞在先もとい家出先は私の家か!!」

一軒家のくせに両親は海外を飛び回っているため
部屋が余っているのは事実だ……しかし私を巻き込むなと言いたい。

「今この街で戦闘向きでハない契約者が一人暮らシなのハ不安ダ」
「それは……まあそうかもしれないけど」
「俺なラ大抵の都市伝説ハ倒セル」
「だから家に置いとけと?」
「悪い話デハないダロう?」

確かに私の契約都市伝説『小玉鼠』では
都市伝説に襲われたとき対処しきれるか疑問がある。
それを言われると強行には反対できない。
……なにより幼馴染の頼みである。あまり無下にもしづらい。

590ゴルディアンの結び目 ◆MERRY/qJUk:2016/05/01(日) 15:21:01 ID:2cCUs2Fk
「分かったわよ。しばらく置いてあげる」
「感謝スル」
「でもちゃんとおじさんたちにも顔見せなさいよ?」
「元よりソのつもリダ」
「あとずっと気になってたんだけど」

覆面の下で顔を隠した幼馴染が
訝しげな表情をしたのが、なんとなく分かった。

「なんでずっとその声なの?」
「この後また警邏に行くかラダガ?」
「えー……もう夜の11時だけど」
「今日ハ土曜日ダ」
「まあいいけど、せめて私だけのときくらい普段通り話さない?」
「"ゴルディアン・ノット"デいル間ハこのままと決めていルかラ断ル」

それだけ言うと幼馴染は階段を上がっていってしまった。
窓から入ってきたと言っていたから、靴も窓のそばにあるのだろう。
おそらくそのまま窓から出て行くに違いない。

「……合鍵渡しとこ」

いつも窓から出入りされるのは流石に困る。
そう思って合鍵を幼馴染に渡すべく、私も階段を駆け上がっていった。


【続くのか?】

591ゴルディアンの結び目 ◆MERRY/qJUk:2016/05/02(月) 20:11:20 ID:X3kiAswk
[警邏記録 G.K記]


警邏中に『くねくね』を倒した後、"組織"の活動を目撃した
相手は『ひき子さん』だったようだが
戦闘していた契約者は危なげなく倒しているように見えた
できることなら契約都市伝説も確認したかったが
黒服の方がこちらに気づいたようだったので撤退する
この距離で俺に気づく相手と戦闘の駆け引きができると考えるほど
自分の力を過信しているつもりはない
それと"組織"の追手かと思い撒こうとした相手は知り合いだった
鼻が利くというのは俺の強みでもあるが
対策と、さらにその対策を考える必要がありそうだ

592ゴルディアンの結び目 ◆MERRY/qJUk:2016/05/02(月) 20:11:53 ID:X3kiAswk
南区 喫茶店「ヒーローズカフェ」

「――というわけでうちにいますので」
「連れ戻したほうがいいか?」
「いえ、それはいいです。あ、でも食費とかがちょっと」
「分かった。後で届けるよ」

相生真理は幼馴染の家である"ヒーローズカフェ"に来ていた。
喫茶店に思い入れのある幼馴染の母、瑞希さんが提案し
夫である幼馴染の父、美弥さんが承諾して始めたというこの店だが
いたるところにヒーローもののフィギュアやポスターが飾られている。
さらに店内のテレビではヒーロー系の映像が営業中に流され
隅に置かれた本棚には海外のヒーローコミックまで置かれている。
断言しよう。幼馴染がああなったのはこの両親のせいだと……!

「今日は光の巨人なんですか?しかも海外の」
「流して欲しいって私物の持ち込みがあったんだ」

そして悲しいかな、私もそれなりに知識を植えつけられている。
うちの両親は昔から家を空けることが多かったので
私は頻繁に両親の知り合いである篠塚夫妻に預けられてきた。
東区の家を第一の家とすると、ここは第二の家のようなもの。
なので今回は一言断って居住スペースに上がり込み
美弥さんが休憩に入るのを待っていたわけである。
……家出した子の動向とか、店の中でする話じゃないし。

593ゴルディアンの結び目 ◆MERRY/qJUk:2016/05/02(月) 20:12:32 ID:X3kiAswk
「でも止めないんですか?」
「最近街の雰囲気がおかしいのは俺たちも感じているからな
 しかし俺も瑞希も昔みたいに我武者羅には戦えない
 ならやらせてみるのもいいんじゃないか、と思うわけだ
 まあ何も考えてないわけじゃない。一応見張りにザクロをつけてある」

ザクロさんは美弥さんの契約都市伝説で
『ブラックドッグ』という火を吹く能力を持った大きな黒い犬だ。
底なしのスタミナと体格に見合ったパワーに犬の俊敏性も併せ持つ。
おまけに嗅覚を始めとする知覚能力も高く、人間としての姿まで有している。
私の『小玉鼠』なんて足元にも及ばないハイスペックである。
なるほど。居住スペースにいないのは幼馴染についているからかと納得した。

「"怪奇同盟"が活動停止状態でなければ、まだやりようはあったんだがな」
「"怪奇同盟"……ですか」

"怪奇同盟"の名前は、今まで何度も耳にしている。
それが私の両親と幼馴染の両親が所属していた集団の名前だからだ。
両親はこの集団に所属することが縁で出会ったと聞いている。
だが、現在"怪奇同盟"は活動できない状態にあるのだという。

594ゴルディアンの結び目 ◆MERRY/qJUk:2016/05/02(月) 20:13:30 ID:X3kiAswk
そもそもこの街は都市伝説をよく引き寄せるとかで
いくつか都市伝説に関連した名のある集団が拠点を置いているそうだ。
例えば"組織"と"首塚"……この2つは両親の話でもたまに名前が挙がっていた。
"組織"は都市伝説の存在が表に出ないよう活動している集団らしい。
黒服と呼ばれる者たちと"組織"の庇護下にある契約者によって構成され
危険な都市伝説を狩り、後ろ盾のない契約者を保護しているとか。
しかし昔は巨大な集団であるため派閥争いがあったようだとも
"組織"の構成員と話す機会があった両親や篠塚夫妻からは聞いている。
"首塚"はそんな"組織"に対して反感を抱いた、
かの有名な平将門の怨念なる都市伝説が率いるという集団だ。
自主自立に重きを置く比較的自由な気質の集団であると聞いている。
現在は彼らも"組織"に対して積極的に抗争を起こすことはないという。
では肝心の"怪奇同盟"はどんな集団だったのかと
美弥さんに聞いたことがある。その時美弥さんは

「自警団という表現が一番近いんじゃないか」

と言ってから私に説明をしてくれた。
"怪奇同盟"の行動規範は街とそこに住む人々を都市伝説の脅威から守ること。
確かにこれなら自警団という言葉が相応しいだろう。

595ゴルディアンの結び目 ◆MERRY/qJUk:2016/05/02(月) 20:14:01 ID:X3kiAswk
では何故彼らが活動できなくなったのか
"怪奇同盟"には"首塚"でいう将門公のように明確なトップがいた。
都市伝説『墓場からの電話』であるという彼女は"盟主"を名乗り
学校町に点在する墓地を起点にこの街を裏から監視しつつ
構成員である盟友(同志と言い換えてもいいかもしれない)と共に
"組織"や"首塚"、あるいはその他の集団と牽制しあいながら
この街を守るために戦い続けていた。
特に20年ほど前は盟友たちの前にその姿を何度も現すほど
精力的に動き大きな事件の解決に尽力していたという。

だが15年ほど前に、彼女は姿を見せなくなった。
どころか彼女の眷属のような立場である幽霊……
"墓守"たちですら彼女の動向がつかめない状況であった。
それでも盟友たちは各自で自警活動を続けていたが
"盟主"を欠いたことで集団として活動することは難しくなっていた。
それから数年経ち学校町の都市伝説による被害が減り
街が比較的安定した状態になったことを受けて
暫定的なリーダーであった東の墓地の"墓守"は
"盟主"の動向が分かるまで"怪奇同盟"としての活動を停止し
都市伝説と関わりのない表の生活に注力するよう盟友たちに通達した
こうして"怪奇同盟"は今のように名ばかりが残る状態になったのである。

596ゴルディアンの結び目 ◆MERRY/qJUk:2016/05/02(月) 20:15:20 ID:X3kiAswk
「"怪奇同盟"は無くなったわけじゃない
 俺や瑞希は今でも所属しているつもりだし
 真理ちゃんの両親だってそうなんじゃないかな」
「そう、だと思います」

私の両親は学者だ。それも民間伝承や神話、都市伝説を研究している。
たぶん海外を飛び回っているのも2人にとっては戦いなのだと思う。
彼を知り、己を知れば、百戦危うからず。という言葉がある。
いずれ来るかもしれない戦いのために知識を蓄え備えようとしているのだ。
それが最終的には街と人を、私を守ることに繋がると信じている。
私を放っていることには不満の言葉しか出ないが
たまに帰ってくるとこれでもかと構い倒してくるので
愛されていないとは思っていない。

「それはそれとして、もっと頻繁に帰ってきてほしいですけどね」
「俺もそれは思う。学者ってのはそんなに大変なのかね」
「…………まあ、たぶん、そうなんじゃないですか」

喧嘩腰になりやすく行動力のある母と、妻の押しに滅法弱い父。
帰国が延期になる理由の3分の2くらいは母の暴走の結果だと
気がついてしまったのは何年前だったか……
お願いだから他国で人様に迷惑をかけるくらいなら早く帰ってきてください。
思わず手を組んで天に祈った私を美弥さんが不思議そうに見たが、些細なことだ。


【続くかも?】

597ゴルディアンの結び目 ◆MERRY/qJUk:2016/05/02(月) 22:37:56 ID:X3kiAswk
空中を滑るように移動し隙を窺う『モスマン』に対して
覆面の人物……ゴルディアン・ノットもまた地上から
『モスマン』を地に落とす機会を待っていた。
やがてしびれを切らしたのか音もなく突撃してくる『モスマン』が
間合いに入ったとみるやいなや、ゴルディアン・ノットは
両腕に巻き付いた布と縄のほとんどを『モスマン』目掛けて撃ち出し、
回避しきれなかった布の一本が『モスマン』に絡まったのを感じとると
すかさずその一本を引っ張り『モスマン』を地面に叩きつける。
追加で布を、縄を絡ませながら何度も地面へと叩きつけるうちに
やがて『モスマン』は光の粒となって消えてしまった。


[警邏記録 G.K記]

『モスマン』を1体倒した
空を飛び回るガを叩くのは面倒だが
光へ近づこうとする限りできないことではない
本当に厄介なのは空を飛びながら水をかけるセミだ
これも何か対策を打つ必要がある
問題は多いがこれくらいは解かなければ
難題を断つことなどできないだろう

598ゴルディアンの結び目 ◆MERRY/qJUk:2016/05/02(月) 22:38:38 ID:X3kiAswk
相生真理が玄関の扉を開けると、珍しい人物が立っていた。

「文さん?こんにちは、どうしたんですか?」
「こんにちは、真理ちゃん。兄さんに頼まれて結ちゃんの分の生活費をですね」
「あー、そういうことですか。とりあえずあがってください」

篠塚文さん。中学一年生の私と同い年くらいにしか見えない彼女は
美弥さんの妹、つまり我が幼馴染の叔母にあたる。

「結ちゃんはどうしてますか?」
「今は部屋にいる……はずですけど」

そう言って部屋の前まで文さんを案内し、扉をノックする。

「入っていいよー」

返事が戻ってきたのを確認して扉を開けると
手帳に何かを書き込む幼馴染の少女の姿がそこにあった。

599ゴルディアンの結び目 ◆MERRY/qJUk:2016/05/02(月) 22:39:19 ID:X3kiAswk
「あれ、文さん?なんでここに」
「結ちゃんがここで居候してるっていうから生活費を届けに来たんですよ」
「なるほどなー」
「私も無理に帰ってこいとは言いませんけど
 たまにはちゃんと帰ってお父さんに顔を見せてくださいね」
「はーい」

なんというか、仲のいい姉妹の会話を見ているようである。
外見年齢が近いからそう見えるのか、それとも……

「話は変わりますけど、能力を使ってみてどうですか?」
「んー……別になんともないと思うけど」
「私の時とはまた別のパターンですからね。何かあったらちゃんと伝えるように」
「あいあい」

文さんは都市伝説から人になり、その後都市伝説として契約者を得たという
簡単には説明しづらい、ややこしい経歴がある。
その結果、契約時から肉体の成長が止まってしまったそうだ。
そして誕生したのが見た目は子供、頭脳は大人の稀少存在というわけだ。

600ゴルディアンの結び目 ◆MERRY/qJUk:2016/05/02(月) 22:40:09 ID:X3kiAswk
結もまた文さんと同じ……ではないが、奇妙な運命を背負って生まれている。
彼女の両親、美弥さんと瑞希さんは"都市伝説化した契約者"だ。
都市伝説と契約した者はたまに、その力を制御しきれず
あるいはその力を使いすぎてしまった結果、人間ではなくなることがある。
例えるなら、吸血鬼の力を使いすぎて自らが吸血鬼に変じるような……
都市伝説に呑まれる、などと表現するその現象を2人はその身に受けた。
それゆえに2人の外見は、10代後半の頃から変わらないままだという。
そんな2人から生まれた娘は、残念なことに普通ではなかった。

『ドラゴンメイド』。ヨーロッパに伝わる半竜半人の乙女。
それが篠塚結……私の幼馴染が生まれ持った都市伝説としての性質。
彼女は人間でありながら都市伝説でもある、異質な存在だった。
都市伝説の力を持ちながら、都市伝説と契約することができる。
ハッキリ言おう。私の幼馴染はバケモノである、と。

601ゴルディアンの結び目 ◆MERRY/qJUk:2016/05/02(月) 22:40:53 ID:X3kiAswk
「ハッキリ言おう。私の幼馴染はバケモノである」
「そんなことを言うのはこの口かー」

文さんが帰った後の部屋で、言葉の刃を携え斬りかかった私に
結は何が楽しいのか笑顔で近づいてきて、私の両頬をぐにんと引っ張った。
……結は自分がバケモノであることを認めている。
同時にバケモノであるからこそ、自分が何者で、どうあるべきなのか。
その答えを探しているのだと私に言ったことがある。
ゴルディアン・ノット。あるいはゴルディアンの結び目。
その意味するところは"手に負えないような難問"。
彼女のヒーロー像は、彼女なりの答えなのだろう。
古代の王ゴルディアスがどのような答えを期待して
複雑で固い結び目を用意したのかは誰にも分からない。
しかしアレクサンドロス大王は自分なりの答えで結び目を解いてみせた。
それと同じなのだ。彼女は己の答えで、道を切り拓こうとしている。

「んー、そろそろ日が暮れるねー。着替えるからちょっと部屋出てくれる?」
「はいはい」

部屋を出ると中からゴソゴソと音がして、しばらくすると再び中へ呼ばれた。

602ゴルディアンの結び目 ◆MERRY/qJUk:2016/05/02(月) 22:41:52 ID:X3kiAswk
部屋の中にいたのは篠塚結ではなく"ゴルディアン・ノット"だった。

「夕食の前に俺ハ警邏に行ってくル」
「言うと思ったよ。気をつけてね」
「ああ……済まない。いつも迷惑をかけル」
「いいよ。幼馴染の頼みだからね」

乾いた物が擦れあうような声で詫びる幼馴染に苦笑しつつも言葉を返す。
(▼)模様の覆面の下ではきっと、縦長の瞳孔を持つ瞳を伏せ
ところどころ鱗に覆われた顔で申し訳なさそうにしているのだろう。
その様子を想像して吹き出しそうになったが、なんとかこらえられた。

「実は今日、文さんが肉を買ってきてくれたからね
 帰ってきたらホットプレートで焼肉パーティーだよ」
「ソうか。楽シみにシておく」

一見そっけなく返したようだが、付き合いの長い私は誤魔化せない。
今、声がちょっと上ずったね?

「でハ、いってきまス」
「うん、いってらっしゃい」

今日も私の幼馴染が無事に帰ってきますように。
私は静かに手を組んで、いつものように天へと祈った。


【了】

603死を従えし少女 ◆12zUSOBYLQ:2016/05/02(月) 23:27:23 ID:3BPTEft2
 既に夜に近い夕刻。学校町東区、桐生院家。
「なかなか出てこないな」
 真降は端末に指を滑らせ、「凍り付いた碧」についての情報を集める。
(構成員は子供だけ、いくつかの都市伝説事件への関与も疑われるが、証拠不十分、か…)
 どんどんと、騒々しくドアが叩かれる。おそらく兄の轟九だろう。これでも遠慮してノックしているのだ。彼が力加減を誤れば、ドアが破壊されかねない。
「…お前だけ?直人は?」
「あれ?部屋にいなかった?」
「居ねえよ。てっきりお前んとこで勉強してるもんだとばっかり」
 ふたりは顔を見合わせた。同時に真降の携帯が鳴る。
「リジーさんからだ」
 通話ボタンを押すと、相も変わらない無愛想な声が聞こえてくる。
「ワタルが帰ってこない。そちらには行っていないか?」
 気のせいか、リジーの声に若干の焦りを、ふたりは感じた。

「何処へ行くの?」
「黙ってついてこい」
 たどり着いた先は小学校。
「此処で何をするの」
 半ば予想はしながらも、一応は質問する。
「コドモを洗脳する、オトナの手先を成敗するのさ。俺たちは『行動化』と呼んでいる」
 緑は窓ガラスを叩き割ると、身軽に校舎へ入り込んだ。
「お前ら、暴れろ!」
 声に呼応して現れたのは、無数のひきこさんと―赤マント。
「あの真白(おんな)からの借り物だってのは気に入らないが」
 緑が、拳を振り上げる。
「やっちまえ!オトナ共を皆殺しだ!」

 澪の眼前に、修羅場が展開された。

 教師や用務員たち「オトナ」は悲鳴を上げながらひきこさんに引きずり回され、学校に残っていたコドモ、すなわち生徒たちは声をあげる暇すらなく赤マントにさらわれてゆく。
「こんな事していいと思ってるの!?」
詰め寄るキラの気迫にも、どこ吹く風の緑は言い放つ。
「思ってるさ」
 思わず緑の胸ぐらを掴んだキラのそれを掴み返す。
「こいつら皆ロクデナシなんだ!オトナにギャクタイされてるから助けてくれって訴えても、オトナの話しか聞きやがらない!挙げ句の果てに、君をいい子にする為なんだよ、君もオトナになれば判るなんて!そのお陰で俺は!俺たちは!」
「だからって」
 低い声は、澪のもの。
「傷つけられた者が、他の者を傷つけていいなんて道理は、ない」
 澪が銀の大鎌―死神の鎌を呼び出した、その刹那。

「折角だけど、それは困るわ」

604死を従えし少女 ◆12zUSOBYLQ:2016/05/02(月) 23:28:00 ID:3BPTEft2
 窓辺に現れたのは、煉瓦色の髪の少年を従えた、黒衣の少女。
「真白」
「緑のいうとおりよ。彼らを消すのは、私たちの義務にして権利。彼らさえいなければ、私たちコドモの楽園が完成するの」
「私たちだって、いつかは大人になるわ。そうしたらどうするの」
「ならないわ。だって―」
 そこまで言うと意味深に言葉を切る真白。
「ともかく、この場は収めさせてもらうわ」
 澪が、銀の大鎌を振り上げる。
 真白はやれやれと言わんばかりにかぶりを振った。
「仕方ないわね…彼女たちを拘束してくれない?」
 真白の声に、窓辺に新たに現れた人影―
「な、直斗!??」
「ワタル!」
 澪とキラは驚愕を隠せなかった。彼らが真白の側にいる、と言う事実もさることながら―
「ふたりとも、何であんなに霊背負ってるの!!」
 直斗と航が背負っている、夥しい数の死霊。

(オトナヲ…コロセ)
(ミンナ…テキダ)
(コロセ…ジャマモノモ)

 ふたりは澪とキラを見ても眉一つ動かすでもなく、死んだ魚のような目つきでふたりに近づく。
「ふたりとも、死霊に操られてるんだわ!」
「どうする、澪」
 直斗たちを相手に、流石に死神の能力は使えない。
「わっ!ちょっとやめてってば!」
 キラも実の兄が相手とあって、氷の剣を生み出したがその切れ味は鈍っている。
「この!」
 剣の柄で急所を打つが、効いている様子はない。
「これなら…」
 鎌を消した澪が手を上げた。
「雷よ!」
 澪のもう一つの都市伝説、「ゼウスの雷霆」眩い光がふたりを撃つ。
「ちょっと澪、ヤバいんじゃないの」
「大丈夫よ、死なない程度に手加減してあるから」
 だが―光が引いたとき、そこに浮かび上がったのは、多少なりとも傷ついた身体を引きずりつつも、ふたりを捕まえようと歩み寄る直斗と航の姿だった。
「無駄よ、おふたりさん。彼らは完全に私が支配下に置いているわ。ちょっとやそっとの攻撃なら怯むことはない。傷ついても痛いとも感じない。無駄に傷つけるだけよ?」
「卑怯者!」
 キラの弾劾に哄笑で応える真白。
(ふたりを傷つけるだけでは意味がない。それなら―)
 再び澪が手を振り上げる。腕に雷が纏い付く。
「無駄だと―」
「同士真白!」
 煉瓦色の髪の少年が、とっさに真白を突き飛ばした。さっきまで真白が立っていた場所を、雷が直撃する。

605死を従えし少女 ◆12zUSOBYLQ:2016/05/02(月) 23:28:31 ID:3BPTEft2
「ふう。危なかったわ。ありがとう。紅」
 邪魔されなければ確実だったのに。澪は思わず舌打ちした。と、頸部に衝撃が走り、意識が暗転する。
「澪!ちょ、ちょっと直斗やめ…!」
 直斗の当て身に、流石のキラも動かなくなった。
「ありがとう。ふたりを工場の地下室に放り込んでおいて頂戴。処分は追々決めるわ」
 無邪気な、無邪気すぎて寒気のする笑顔を見せる真白に、操られた直斗と航は一礼し、澪とキラを引きずっていった。



続く

606ゴルディアンの結び目 ◆MERRY/qJUk:2016/06/02(木) 01:31:17 ID:.zojqOzc
相生真理にとって篠塚結という少女は
大切な幼馴染であると同時に手のかかる姉妹のような存在だ。
今日も唐突に部屋に来たと思ったら

「真理ちゃーん、耳かきしてー」

これである。そしてこの要求に私はこう答える。

「まあいいけど」

結の耳を掃除することなどもはや恒例行事同然。
断る理由もないし、軽い返事にもなろうというものだ。
いつも通り道具を用意してベッドの端の方に腰掛けると
結は躊躇なく私の太ももに左耳を上にして頭を乗せる。
ウェットティッシュで外耳を拭いていくと
耳裏がそこそこ汚れているのがよく分かった。
洗い忘れやすい部分であるから、仕方なくはあるのだが。

607ゴルディアンの結び目 ◆MERRY/qJUk:2016/06/02(木) 01:31:47 ID:.zojqOzc
耳を引っ張りながらペンライトで耳穴を照らし覗いてみる。
予想通り、耳垢が見当たらないキレイな耳穴があった。
結は別に耳垢が溜まりやすい体質というわけではなく
しかも前に彼女に耳掃除をしたのは10日ほど前なのだから
耳垢が見えるほどあるほうがおかしいのだ。

なぜ耳穴が汚れていないのに耳かきをするのか。
言ってしまえばこれはただのスキンシップだ。
私はこうして結に世話を焼くのを楽しんでいるし
結の方もたびたび頼んでくるということは
世話されるのを嫌がってはいないはずだ。
そういうわけで私たちの間ではこういう
娯楽目的の耳かき行為が成立するのである。

608ゴルディアンの結び目 ◆MERRY/qJUk:2016/06/02(木) 01:32:17 ID:.zojqOzc
耳穴の浅いところを竹製の耳かきでかりかりと掻くと
耳垢はとれなかったが結の体から余計な力が抜けていく。
いきなり耳かき棒を奥まで突っ込むのは厳禁だ。
まずは手前の浅いところをキレイにすると同時に
耳かきを受ける感覚に慣れさせなければならない。
体が強ばったままでは奥をやるのが難しくなるし
浅い箇所の耳垢がうっかり奥にいくこともあるので
もう一度奥を掃除する羽目になりかねない。
もっとも、椅子にでも座らせながらやるのであれば
そんなうっかりは発生しないのだが……

「耳かきってー、膝枕でするものじゃないのー?」

……あいにくと私たちはその体勢を採用する気はない。
もうずっとこの体勢でやっているので
慣れているほうが気が楽であるというのが理由としては大きい。
される側の要望に押し負けたなどという事実は無い。

609ゴルディアンの結び目 ◆MERRY/qJUk:2016/06/02(木) 01:32:48 ID:.zojqOzc
浅いところをしばらく掻いたら、いよいよ奥だ。
耳かき棒を匙が細いものに変えて少し奥へと潜り込ませる。
本来の目標である耳垢は無いが……あくまでこれは娯楽の耳かき。
経験則に従って狙ったポイントをカリカリッと掻けば、

「ぁ……」

太ももの上から小さく声が漏れてくる。
耳にも足裏のように多数のツボがあると聞くが
そこまで考えて刺激しようと思ったことはない。
単に経験上、結が気持ちよさそうに声をあげた箇所を
思い返して掻いているだけに過ぎないのだ。

「そこ……もっとやってー……」
「はいはい」

そうするとたまにこうして追加のおねだりがくるので
そのときはもう少し続けることにしている。
あまり掻きすぎると傷ができてしまうのは私も分かっているが
なまじ治癒力の高い結は私に忠告されても
馬耳東風といった感じなので言うのをやめてしまった。

610ゴルディアンの結び目 ◆MERRY/qJUk:2016/06/02(木) 01:33:20 ID:.zojqOzc
さて、匙で耳の中を掻くのが終わったからといって
耳かきが終わりというわけではない。
耳かき棒を引き抜いた私は道具の中から
白いふわふわこと梵天が付いた耳かきを取り出し
梵天の側を耳穴に差し入れクルクルと回転させる。
本来は匙に乗せづらいほど細かい耳垢を
このように回転させてとるらしいのだが
この感触がなかなか気持ちいいのである。
梵天を引き抜くと流石に細かい耳垢がくっついていたので
軽く払って次の道具を準備する。

使うのはベビーローション。
これをつけた綿棒で耳穴の中を撫でるのだ。
ヒンヤリとした感覚が心地よく
私はけっこう好きだったりする。
これも本来は乾燥した耳垢を吸着させて
耳掃除する方法なのだが、さきほど梵天を使ったためか
耳垢は特にくっついていなかった。

611ゴルディアンの結び目 ◆MERRY/qJUk:2016/06/02(木) 01:34:01 ID:.zojqOzc
ここまでやって、ついに左耳の仕上げを行う。
道具を置いてから耳を引っ張り、口を左耳に近づけて

「ふぅー」
「ゃんっ!」

息を吹きかけると結の体がビクリと震える。
くすぐったいのもあるだろうが、それに加えて
ベビーローションで耳の中がスースーしていたはずだ。
声を漏らしてしまうのも無理はない。
ともあれこれで左耳は終了である。

「それじゃ反対向いて」
「あいあい」

ゴロンと結の顔がこちらを向いて右耳が上になる。
この体勢だと腹部に多少は息がかかるが
服の上からであるし慣れているので気になるほどではない。
……ふざけて強く吹きかけでもしない限りは。
フーフーと強く息を吐き出す結の右耳を強く引っ張り
自然な呼吸に戻ったことを確認して、右の耳穴にとりかかった。

612ゴルディアンの結び目 ◆MERRY/qJUk:2016/06/02(木) 01:34:31 ID:.zojqOzc
右耳のほうも特に問題はなく、同じ手順で手早く終わらせた。
終わったことを教えるためにポンポンと肩を叩くが

「眠い……」

と呟きモゾモゾと体を揺らすだけで一向に動こうとしないので
しばらくは膝枕を貸してあげることにする。
頭を撫でているといつの間にか結は眠ってしまったようだった。
この幸せそうな寝顔を見ただけでは、
彼女が夜な夜な街に繰り出し引き裂きや叩きつけを好む
残虐ファイター……もとい正義のヒーローをやっているなど
誰も信じられないのではないだろうか
本当にあの戦闘スタイルと格好でなければ
やっていることはヒーローっぽいのだが……
それも彼女らしさ、なのかもしれない。

素顔で休息中の覆面ヒーローをベッドに寝かせながら
今度はこちらからマッサージでもしてあげようかと
私は次の休日の予定を考え始めた。

                        【了】

613ゴルディアンの結び目 ◆MERRY/qJUk:2016/06/02(木) 01:35:15 ID:.zojqOzc
おまけ

都市伝説4コマ風劇場 ゴルディアンの結び目ver

  【幼馴染?】

  結「真理ちゃん耳かきしてー!」
 真理「まあいいけど」

  結「真理ちゃんシャンプーしてよー」
 真理「自分で出来るでしょ……いいけど」

  結「真理ちゃーん!髪切って!」
 真理「やってもいいけど、出来は保証できないわよ?」

 美弥「幼馴染とか姉妹ってあんなだったか?」
  文「お嬢様と召使いのほうがしっくりきますね」

614ゴルディアンの結び目 ◆MERRY/qJUk:2016/06/02(木) 01:36:23 ID:.zojqOzc
  【篠塚の血】

 真理「(私の幼馴染は料理が得意だ)」
  結「オムライスできたよー!」

 真理「(調理技術もかなり高い)」
  結「フランベ?できるよ?」

 〜ヒーローズカフェ〜
 美弥「なんで今日はこんなに混んでるんだか……」
  文「とりあえず三人で作業を分担しましょう」
  結「腕が鳴るねー」

 真理「(あの三人には確かな血の繋がりを感じ
 瑞希「真理ちゃんオーダー手伝って!」)
 真理「あ、はい」

                    終わり

615本スレで単発祭りったマン:なるほどレス数増やせって事だな:2022/01/17(月) 00:08:42 ID:ENVaTdvQ


 これは、本スレでの投下の行間にあったかもしれないし、なかったかもしれない光景である。


「服汚れるのは面倒なので嫌ですね」
「そうだな。そこはどうするか」
 盛大に、「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の悲鳴が聞こえ続けているようだが無視を決め込む。
 何せ、部屋が部屋だ。そして、ベッドの傍らにあるベッドサイドチェスト。開けて中を確認すれば、目当ての物はあった。サイズも一通りそろっている。
「ほら、サイズ合うの使え」
「どれが自分のサイズかわからないんですが。と言うか、そっちは使った事あるんです?」
「黙秘権を使わせてもらう」
「それなら聞き出せませんね」
 互いに、別に最後までする訳ではないのだからいいやと気楽だ。本当「セックスしないと出られない部屋」とか、「どちらかを殺さないと出られない部屋」とかではなかったのが不幸中の幸いである。
 流石に、抜きあいはエッチな事ではない等とは言わせない。別に一人遊びでもいいのかもしれないが。人の目がある場所で一人遊びする趣味はない。男同士でも、抜き合うくらいならまだ多分、恐らく、まったくないものでもないだろう。
 衣服を脱ぎ去るなんて事はせず、下着の中でそれを身に着けて。
「…………っ、ん」
 体格のわりには、己とさほど変わりないサイズ感を感じる「バロメッツ」の契約者のものにゴム越しに触れる。変に痛くしては悪いので、優しく、やわやわと。
「……ぅ、んん……」
 するり、あちらの手もまた、こちらのものにゴム越しに触れてくる。こちらとはまるで違う、本をめくったり編み物しているのがよく似合う細くしなやかな指が絡み、包み込みゆっくり上下してくる。
「……時間かけたくないですし、お互い我慢はなしですよ?」
 釘を刺すように耳元で囁いてきたのは、こちらがついつい、勝負事のように思って耐える事を懸念してか。
 ……否定はできない。先に達してしまうと負けなような気がしたのは事実だ。
「じゃ、そっちも我慢するなよ」
「わかってます…………っふぁ、あ、もうちょっと、強くても平気ですよ」
 そうか、と固く立ち上がってきていたものを、それでも力をこめ過ぎないように軽く握りこんでやれば艶を含んだ吐息が漏れ出した。
 こちらも、するするとくすぐるように責め立てられて背筋をざわざわしたものが走る。日頃、こうした事に縁のなさそうな顔をしている癖して。指先は迷うことなく的確に動いてくる。
「は、ぁ……そういえば、「カマキリ男爵」の契約者の彼女には、今回の件……どう、伝えるんです……っ?……目の前で僕らが消えたようなものでしょうし。彼女、心配してきますよ……?」
「……ん…………どう伝えるも何も。ありのまま伝えればいいだけだろ。今後、同じ被害にあった時…………っく、ぅ……対処する方法、わかってれば楽だし」
「そう…………ぁ……そう、ですね。何聞かせてるんだと怒られそうな気もしますが。黒服さんに、っは、僕が連絡しておきます。変態の情報は、拡散した方がいい、でしょう、し……っ」
「…………っ」
 体を震わせたのは、ほぼ同時。ゴムはつけていたから、どちらも汚れることはない。とはいえ、つけっぱなしと言う訳にもいかないから、これから外す必要はあるが。
 呼吸を整えながら部屋の中を見回す。いつの間にか、壁に扉が出現していた。
「よし、出られそうだな」
「です、ね……そういえば、「エッチな事をしないと出られない部屋」の契約者の声、いつの間にか聞こえなくなってますが」
「俺達が閉じ込められている間に、本体が倒されていればいいんだが」
 そういえば、途中からすすり泣きのような声は聞こえていた気はするが。今は何も聞こえない。本体が倒された事を祈ろう。
「じゃ、始末してさっさと出るか」
「えぇ、そうですね」
 お互い怪我もない。お互い無事だという事だ。穏健に終わって実によかった。
 今後、同じ被害が広がらない事を祈りながら。二人は始末を終えて部屋を後にした。






新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板