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「都市伝説と戦う為に、(ry 代理投下スレ
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規制中・本スレが落ちている、など本スレに書き込む事ができなかったり
ちょっと、みんなの反応伺いたいな〜…って時は、こちらにゆっくりと書き込んでいってね!
手の空いている人は、本スレへの転載をお願いいたします
ぶっちゃけ、百レス以上溜まる前に転載できる状況にしないときついと思うんだぜー
ってか、50レス超えただけでもきっついです、マジで
規制されていない人は、そろそろヤバそうだと思ったら積極的に本スレ立ててね!
盟主様との約束だよ!!
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思いっきり振りかぶり、小石を投げる
小石は2人の頭上へ大きく反れていった
笑う2人。しかしその顔が歪むのには5秒もかからなかった
パリーンッ!!
「くぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「やべっ、雷親父の窓が!?」
「おじさーん! ここにガラス割りの犯人がいるよー!」
「なっ、この野郎!?」
「貴様等ァ!今日こそは容赦せんぞぉぉぉぉぉ!!」
「「ぎゃああああああああああああ!!!」」
泣きながら逃げるいじめっ子達
最後に笑ったのは、投げ捨てられたぬいぐるみを拾っている、黒尽くめの少年
「ったくよぉ、いい加減ガツンと言えるようになれよ、男だろ?」
「・・・う、うん・・・ご、ごめん、なさい・・・」
「ッヒヒ、ほら」
砂埃をはたいて、熊のぬいぐるみを差し出す
彼はそれを受け取り、ぎゅっと抱きしめながら、真っ直ぐ目を見て
「・・・ありがとう、裂兄ぃ・・・」
【 神 力 秘 詞 】
二之巻 〜彼ニ 宿リシ 奇ナル 力〜
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帰り道―――
買い物バックを持った裂邪と漢は、東区の住宅地を歩いていた
日は既に落ち、街頭と月明かりだけを頼りに進む
(裂邪>・・・つぅかよ
(漢>何?裂兄ぃ
(裂邪>いい加減、その『裂兄ぃ』ってのはやめろよ
確かに年はお前の方が1つ下だが、学年は同じだろ?
(漢>ぼ、僕より先に、生まれたのは裂兄ぃだから・・・『裂兄ぃ』で、いいでしょ?
(裂邪>それ! その首傾げて相手に答えを求めるのもやめろ!
小学生の時にそれで何人の男が堕ちたか知ってんのか!?
あとバレンタインにチョコ持ってくるのも禁止な!
何で俺が男にチョコ貰って男に恨まれなきゃならねぇんだ!?
(漢>・・・・・・・
(裂邪>なんだ、その目は?
(漢>裂兄ぃ・・・僕のこと、縛りたいの?
道のド真ん中で盛大にずっこける裂邪
倒れた彼を、涙目になって心配する漢
(漢>だ、だだだだだ大丈夫!?怪我は無い!?
(裂邪>お前何考えてんだ!? 何で俺が男と縛りプレイしなきゃなんねぇんだよ!?
(漢>プレ・・・何のこと?
えっと、『縛る』っていうのは、行動の自由を制限する事d
(裂邪>だったらもっとマイルドな言い方があるだろ!?
(漢>ごごごめんなさい!
(裂邪>全く・・・まぁ、いいけどさ
(漢>ほ、ホントに、怪我は無いの? 良かったら、治すけど・・・
(裂邪>ねぇよ、怪我しないようにこけてるから・・・ん?
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ふと、裂邪は立ち止まり、不思議そうに漢の顔を見る
(漢>・・・どうかしたの?
(裂邪>お前さ、さっきも『頭痛を治す』とか言ってたよな。あれってどういう意味?
(漢>あ、あの、僕――――
(男性>見つけたぜぇ?
背後から、聞き覚えのある声
振り向いた瞬間、漢はさっと裂邪の後ろに隠れた
先程、翼が追い払った3人組だ
(裂邪>なんだ、またあんたらか。性懲りも無くまた来た訳?
(男性A>うるせぇ、ガキ! どうせ狂犬はいねぇんだろ? だったらこっちのもんだ!
(漢>れ、裂兄ぃ・・・
(裂邪>残念だけど、こいつは渡せねぇぞ?
俺の従兄弟だし、“弟分”みたいなもんだからな!
(男性B>強がり言ってられんのも今の内だぜぇ? さっさとそこの“嬢ちゃん”渡して帰んな!
裂邪は思わず前のめりに崩れ落ちそうになった
(裂邪>・・・人が折角“弟分”って言ってやったのに・・・
お前らが脳内メーカーやったらさぞ『H』が沢山あるんだろうな!
(男性C>何ごちゃごちゃ言ってやがる!?
俺達の頼みが聞けないなら・・・ガキでも容赦しねぇぞぉ!!
マンホールの蓋が飛び、ぬるりと現れたのは巨大なイカ
屋根伝いに跳んできたのは、舌が異常に長い小鬼のような者
口笛の音を聞きつけ、夜の道を這う無数の蛇
(漢>なっ・・・なに、あれ・・・!?
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(裂邪>っは、やっぱ都市伝説契約者か・・・あん時、翼の兄ちゃんが事を起こす前に終わらせといてよかったぜ
呟きながら、一歩前に出る裂邪
あ、と言いながら漢が止めようとしたが、彼自身がそれを抑える
(裂邪>まぁ確かに? 俺は翼の兄ちゃん程は強くねぇけど
《レイヴァテイン》
荷物を置き、左手に持っていた金色の四角い物を、遥か上空に投げる
(裂邪>手に届くところに大事なものがあるなら・・・例え弱くても、俺はそれを守り抜く!
固体は黄金の水となり、裂邪に降り注ぐ―――否、覆い被さる
それは身体の至る所に刃、突起を作り、両刃の剣のような4枚の羽を持った金色の鎧となった
(男性C>ちっ、契約者だったか!
(漢>れ・・・つ・・・兄ぃ・・・?
(裂邪>悪ぃな漢、ちょいとそこで隠れててくれ。訳は後で話す
今はまず・・・こいつらを片付ける!
(男性A>ふざけんな!行け、「クラーケン」!
マンホールから飛び出した巨大なイカ―――「クラーケン」が長い触手をのばし、裂邪の身体を絡めとろうとした
が、巻きつけようとした瞬間、月光を反射してギラリと怪しく輝く金色の爪を振るうと、
その触手はぶつ切りにされてボロボロと地面に落ちた
(男性A>何!?
(男性B>っく、蛇共! あのガキを仕留めろ!
(裂邪>ヒハハハハハハ! 無駄無駄無駄ァ!
「レイヴァテイン」は“破滅の枝”・・・触れる物も、立ちはだかる者も、皆滅ぶ!
-
今度は、その鋭い爪で何も無い空間を切り裂くように腕を振るう
直後、大地を抉りながら放射状に一陣の風が吹き、
「夜に口笛を吹くと蛇が来る」の契約者の口笛を聞いて彼に迫っていた蛇達は、
それに切り裂かれ、血を噴き出しながら弾き飛ばされた
(男性B>ッ!? こ、こいつ・・・ただのガキじゃねぇのか!?
(裂邪>触手に蛇、それに舌・・・ヤらしい奴と契約しやがってこの変態共!
漢には・・・俺の家族には、指一本触れさせねぇ!
蛇の死体を踏み潰しながら裂邪は「クラーケン」に向かって走る
叩きつけようとしてのびた触手は、全て切り捨てられた
そして、イカの目の前で跳び上がり、拳を突き出す
(裂邪>『真・黄昏地獄拳』!!
黄金の一閃が、「クラーケン」の頭部を貫通した
貫かれた穴から体液を吐き散らしながら、びしゃりと倒れる前に光の粒子となって消えた
(男性A>あっ・・・
(裂邪>ウヒヒヒヒヒ、さぁて次は――――
「キャー!」という甲高い声
長い舌の化物―――「垢舐め」が、漢に迫っていた
(裂邪>し、しまっ・・・漢ァ!
直ぐに漢の元へ向かおうとしたが、巨大な蛇が数匹、彼の行く手を阻んだ
(男性B>ッハハ! 簡単には行かせないぜぇ?
(男性C>そこで大人しくお前の女が隅々まで舐められるのを見物してろ!
-
(裂邪>んの野郎! つぅか、あいつは女じゃ・・・あ゙ぁチクショウ!
大蛇に立ち向かう裂邪
そうしている間にも、「垢舐め」は漢にジリジリと迫っていた
(漢>いや・・・いや・・・こ、来ないで・・・来ない、で・・・
大粒の涙が溢れ、零れる
どさっ、とバックが落ち、中身が零れ出る
そんなこともお構い無しに、ペロリと舌を出す「垢舐め」
長い舌を、漢の脚にのばした
(漢>んんっ!
身体中を駆け巡る、気持ちの悪い感覚
それが、徐々に徐々に上ってきて、最後に頬を舐められる
(裂邪>漢! こんのぉ、退けろ蛇共ぉ!!
(漢>ぁ・・・・な、んで、こんな・・・・た、たすけ――――
――――いい加減ガツンと言えるようになれよ、男だろ?
――――手に届くところに大事なものがあるなら・・・例え弱くても、俺はそれを守り抜く!
――――漢には・・・俺の家族には、指一本触れさせねぇ!
-
いつも、彼に励ましてもらった
いつも、彼に助けてもらった
今も、彼が目の前で戦っている
なのに
自分は、何もしていない―――否、何かをしようとしていない
勇気が無かったから?
違う
勇気なら、いつも貰っていた
ただ、それを使っていなかっただけ
だったら
今が、その時だ
(漢>・・・ごめんね、裂兄ぃ
ぺち、と弱々しく己を舐める舌を跳ね除ける漢
(裂邪>・・・漢?
(漢>僕も、裂兄ぃと一緒に・・・戦う!
両手を胸に当て、何かを引き抜くように前方へ突き出す
すると、掌の上に浮かび上がる2つの文字
右手には、『漢』
左手には、『神』
(男性C>なっ、まさかあいつも・・・!?
(裂邪>おい漢!?
(漢>ごめんね・・・ちょっと、痛いかも知れないから
-
「垢舐め」に語りかけると、2つの文字は巨大化し、
『漢』は炎と水が螺旋を描くように、
『神』は雷がその螺旋を伝うように、
「垢舐め」に直撃した
ん?と裂邪は首をかしげた
(裂邪>・・・H2Oに電気を通して・・・電気分解が出来るから・・・
水素と、酸素・・・その混合気体に火を近づければ・・・バカヤロォォォォォォォォォ!!
時既に遅し
住宅地のど真ん中で、轟音を響かせて大爆発が起きた
(裂邪>お前は俺か!? 俺のドッペルゲンガーか!?
後先考えずにあんな突拍子も無いことするんじゃねぇよ!
気絶している漢の胸倉を掴み、裂邪が怒鳴る
勿論、聞こえてはいないだろう
(裂邪>危なく巻添え喰らうところだったぜ、ホントに助かったよ・・・ローゼちゃん
彼の背後に立っていたのは、黒いスーツを着た赤い髪の少女
-
(ローゼ>おほほほ、間に合って良かったですわ〜♪
それにしても凄まじい威力ですわね;
(裂邪>あぁ、全くだ・・・しかしこいつが都市伝説契約者だとは思わなかった
一体何の都市伝説だ?
(ローゼ>ん〜・・・どんな能力でしたの?
(裂邪>どんな、ってか・・・漢字だな
(ローゼ>漢字?
(裂邪>漢字が出てきて、それが火を吹いたり水出したり・・・
でも変だな、『漢』っていう字は火と水を意味している訳じゃないんだが
(蓮華>《成り立ちですよ》
(裂邪>ぅわうちっ!? ビックリしたぁ・・・
突然、ローゼの携帯電話越しに蓮華の声が響く
実は先程、ローゼ自身が彼女に電話をかけていたのだ
(ローゼ>成り立ち?
(蓮華>《恐らく、「漢字の成り立ち」というものでしょう
R-No.3によれば、漢字は古代中国で行われた占いによって生まれることが多かったので
その辺りが都市伝説化したのかと・・・》
(裂邪>なるほど、それであの時怪我を治せるとか言って・・・
そうか、「神崎 漢」には『漢』も『神』もある
自分の名前から字を取り出したのか・・・うわぁ、強ぇぞこいつ
(ローゼ>それに可愛らしいですわぁ♪
(裂邪>(やべぇ、俺のローゼちゃんが寝盗られちまう・・・)
(蓮華>《・・・コホン、R-No.4には連絡しておきましたので、直ぐに事後処理班が向かうでしょう
裂邪さんはその神崎 漢という少女を連れt》
(裂邪>ごめん、こいつ男なの
(蓮華>《・・・失礼しました、ではその少年を連れて速やかにご帰宅を》
(裂邪>ところであの気絶した3人は?
(ローゼ>「組織」が責任を持ってお預かりいたしますわ〜
-
(裂邪>そっか。なんか悪いね、俺「組織」に入ってる訳じゃないのに色々使っちゃってさ
あとこいつの所為で仕事増やしてごめん。従兄弟の俺に免じて許して欲しい
(ローゼ>お気になさらずですの〜♪ こちらもお仕事がないので退屈ですn
(蓮華>《そんな訳ないじゃないですか。まだ書類はたっぷり残ってますからね
契約者の回収を終えたら即刻書き上げるように》
(ローゼ>あららら;
(裂邪>ウヒ、ヒヒ・・・; んじゃ、後はお任せしま〜す
漢を背負い、気まずそうに手を振りながら、裂邪はローゼと別れたのだった
† † † † † †
(漢>・・・んん・・・・
(裂邪>起きたか?
(漢>れ、裂、兄ぃ・・・?
(裂邪>お前ん家、こっちで合ってる?
(漢>えっと・・・う、うん、大丈夫・・・凄いね裂兄ぃ、まだ教えてなかったのに・・・
(裂邪>いや、さっきの戦い見たら、理由ぐらい大体分かるだろ?
軽い口調だが、重い声で問い返す
暫く、首を傾げて考えた漢は、ようやく口を開くと
(漢>・・・超、能力?
(裂邪>いや違いないけど!? エスパーみたいなもんだけど!?
(漢>?・・・と、ところで・・・あの怪物って・・・?
(裂邪>は?
-
(漢>え、あの、大きなイカとか、僕を舐めてきた、怪人とか・・・何、なの?
ゆっくりと、その場に立たされる漢
くるりと彼を見て、両手に持った荷物を下ろして両肩を持ち、ぐっと顔を近づける裂邪
(漢>ひゃっ・・・な、ななな、何?
(裂邪>本気で言ってんのか?
(漢>・・・え? な、何が・・・
(裂邪>都市伝説と契約しておいて都市伝説存在を知らないなんてことは無いだろうな!?
自分でその力を行使しておいてまさか今まで知らずに使ってましたなんてことは無いよな!?
(漢>・・・ち、から? 都市、伝説? 都市伝説、って、「口裂け女」とかのこと?
(裂邪>OK、それだけ聞きゃ分かるわ。マジで知らないんだな
じゃああの字が浮き出るアレは何だったんだ!?
(漢>え、っと・・・これのこと?
漢は空中に、『水』という字を書いてみせた
すると、文字は本物の水となり、ザァッ!と道路に流れた
(裂邪>・・・取り出す以外も使えるのか・・・あぁ、その力だ
(漢>これは、その・・・し、小学生の時に、神様から、貰ったんだ
(裂邪>ワンモア
(漢>か、神、様に・・・
-
(裂邪>んな訳あるかぁ!? 話し掛けられたんだとしたらそりゃ都市伝説の意思だ!
つぅか『神様』って言うな! 正月早々その言葉にトラウマがあんだよ!
(漢>ご、ごめんなさい! 知らなかった、から・・・ひっぐ
(裂邪>あぁもう、泣くなっつぅの・・・漢、携帯出せ
涙を拭いつつ、漢はポケットから携帯電話を取り出した
裂邪はそれをさっと奪うと、自分も携帯電話を出して、赤外線通信をした
(裂邪>ほい、俺の電話番号とメールアドレス
(漢>え・・・裂、兄ぃの?
(裂邪>これで連絡取れるだろ・・・
都市伝説のこと、家に着くまでは俺の知ってる限り説明してやる
分かんねぇことがあったらいつでも聞け・・・あ、夜中は勘弁な
(漢>・・・・・・・・・・ぐすっ
(裂邪>だから泣くなっつぅに!?
この日、怪異に飲まれた者が新たに1人、この地にやってきたのだった
...物語未続
†今日の漢字†
【漢】…さんずいは『水』、右側は『動物の油につけた火』を表す
【神】…しめすへんは祭壇、「申」は『稲妻』を表す
-
【上田明也の探偵倶楽部after.act19〜笛吹探偵事務所の悪魔率がストップ高です〜】
「と、言う訳でサンジェルマンからの依頼だ。
この最新式契約書二十六本をこの事務所で管理して欲しいんだ。」
「テキゴウリツ90%オーバーケイヤクヲッ!?」
もの凄い勢いで自分に向けて飛んできたUSBメモリをキャッチして、ケースの中に詰め直す。
人間の意志を無視して契約を始めようだなんて不届きな契約書もあった物だ。
「契約ってのは双方の合意あってのものだ。
その根本的なルールを無視しちまってるんじゃねえかよこれ。」
「知らないよ、サンジェルマンがまた作ったんだもん。」
「いや別に、俺は報酬が貰えれば法律の範囲内でいくらでも仕事するけどさ。
これは正直どうかと思うねえ……。」
そう言って俺は目の前のトランクの中身を眺める。
丁度二十六本の最新型都市伝説契約書。
なんでもサンジェルマンが江戸時代に始めた実験の産物だとか。
「人造都市伝説だっけ?」
「ああ、人工的に任意の都市伝説の噂を流布させることで思い通りの都市伝説を作るって計画だな。
完全な成功は収めなかったが、まあそれでもほら、そこそこの物ができた。」
「確かにどれも平均を遙かにしのぐ力は感じるが……。」
人が作る物というのはそもそも危うい。
宝石でも人造の物と天然の物ではパワーストーンとしての意味が異なるという。
こういうものはそもそもこの世に有って良いのかが俺には疑問だ。
-
「お兄ちゃん、夜ゴハンできたよー。」
「おお穀雨ちゃん、ごめんごめん……」
「テキゴウリツ90%オーバー、ケイヤクヲカイシシマス」
「なにっ!?」
「しまった、吉静ちゃん伏せろ!」
「え!?」
トランクからメモリが二本浮かび上がる。
一本は何故か事務所の開いていた窓ガラスを突き抜けて外へ飛んでいった。
もう一本は迷うことなく穀雨ちゃんの額に向けて飛んでいく。
「やっべえええええええ!?」
必死でメモリに向けて手を伸ばす。
だがしかし微妙に手が届かない。
「ひゃうっ!?なんか入ってくるよぉ……。」
吉静の中にメモリがするすると入っていく。
なんてこったい、契約が完了してしまったのか……。
「おい、どうするんだよレモンお前……。
お前の義妹だぞ義妹、さっそく虐めてるのか?
小姑vs嫁か?彼方にばれたら色々不味いんじゃないのか?」
「ま、待つんだ所長、これは事故だ、私は悪くない……。」
醜い責任のなすりつけ合いが始まってしまった。
彼方にばれたら本当に洒落にならないからお互い必死である。
-
「う〜ん……、なんかむずむずするよ?」
「大丈夫か吉静ちゃん、おいレモンお前どうすんだよー。」
「どうすんだよーじゃないよ、とりあえずサンジェルマンに見せるかこれ?」
「とりあえずそのトランクしまっておけ。
これ以上被害者が出られると困る。」
「わ、解った。」
「皆さんどうしたんですか?」
「あ、お兄ちゃん!」
「げげっ、彼方!」
「どうしたんですか橙さん?」
「いやーこいつが最新型の契約書の扱いを誤って吉静を契約させてしまってだな……。」
「え、ちょっと待て!違うんだ彼方!事故だったんだ!」
「私契約したの?」
吉静ちゃんが首をかしげて聞いてくる。
あらやだ可愛い。
「ああ、どうもそうらしい。
おいこらレモン、何と契約したんだよ。」
「うぅ……多分雲外鏡だな。」
「一体何が有ったんですか?」
「やったー!これでお兄ちゃん達と一緒だよ!」
あらやだ可愛い。
やっぱ純粋な子供って良いわあ。
-
数分後、とりあえず食卓へ場面は移る。
暢気そうに酢豚を食べる吉静ちゃんと対照的に空気は重たい。
「おいどうすんだよこれ……。」
「正直、管理が甘かったかなあ……と。」
「いや僕も橙さんに部屋に吉静を近づけないように言われたの忘れてましたし……。」
「茜さんお代わりー!」
「はい、もっと沢山食べてくださいね。」
「とりあえずサンジェルマン呼ばない?」
「そうですね、サンジェルマンならとりあえず安全に雲外鏡でしたっけ?それを引き離せますし。」
「本当に……、申し訳なかったと思っている……。」
「茜さんゴハンお代わりー!」
「はいはいもっと沢山……あれ?」
「あー、ゴハンなくなっちゃってるー!」
「とりあえず能力の説明もう一回行ってみようか。
雲外鏡は何をするんだって?」
「闇を切り裂き光をもたらすー。」
「違いますよね?闇を切り裂き魔を照らすんでしたよね?」
「細かいことは良いさ。」
「それ以外にも影の兵隊を出す能力も有る。」
「何それ便利。」
「適合者だからな、それくらいはできるだろうさ。」
「酢豚おかわりー!」
「もうありませんよ?」
「うー。」
「そのうーうー言うのをやめなさい。駄目っていつも言ってますよね?」
「にゃー。」
「それなら良いです。」
-
いや、基準解らないよ茜さん!?
「うーうーは被ってるけどにゃーにゃーなら問題無いですよね。」
そこかよ。
「とりあえずサンジェルマン呼ぶ?」
「そうしましょう。」
「こんなホイホイ呼び出されて良いのかな。
あいつ忙しいんじゃないの?」
「そんなことも言ってられないだろ。」
「そうですよ、こう言う時は素直に呼んでください。」
「やっぱそうなのかー」
「あらお医者様、今丁度おかずを切らしてまして、何かお作りしましょうか?」
「いえいえお構いなく。すぐ帰りますので。
吉静ちゃん、私が飴をあげましょう。」
「わーい!」
「……あれ?」
「おや?」
「え?」
「何皆さん不思議そうな顔で見てるんですか。
私は便利要員ですからね、必要になり次第何時でも何処でも現れますよ。
ちなみに今吉静ちゃんに与えたキャンディーはサンジェルル(飴玉タイプ)です。
誤って契約してしまった場合にすぐ飲めば都市伝説との契約を破棄できます。」
「うわー便利ー。」
「SSS(サスガサンジェルマン)だな。」
「本当にSSSですね。」
「これは流行る。」
-
「いや、流行らないですから。」
「ならば俺が流行らせる。」
とか何とか言っていると吉静ちゃんの後頭部からコロンとUSBメモリが出てきた。
俺はすかさずそれをキャッチして先ほどのトランクの中にしまってくる。
部屋に戻ると吉静ちゃんが不機嫌そうな顔をしていた。
「お兄ちゃんが私の都市伝説とったー!」
「良いか吉静ちゃん、都市伝説は玩具じゃないんだ。
一度契約すれば他の都市伝説に狙われやすくなるし色々危険な訳よ。」
「そうだぞ穀雨、もうちょっと大きくなってからしっかり考えて契約しないと……。」
「あ、それならどのみち無駄ですよ?」
「え?」
「吉静さんも半分都市伝説ですからね。ぶっちゃけ都市伝説と関わらないで一生過ごせるなんてことありません。
しかも調べたところ結構上級の悪魔みたいで……。」
「空気読めよ……。今諦めさせようとしてるのに……。」
「SSS」
「本当にSSSだな……。」
「流行らせる気なの!?」
「ほら!穀雨が契約しても良いでしょう?」
「駄目な物は駄目です。」
「むー……。」
「解りました、じゃあこうしましょう。」
サンジェルマンが懐から古びた銃弾を取り出す。
何故か懐かしいような気配がする。
-
「これなぁに?」
「先ほどの都市伝説の代わりです。さっきのよりもずっとすごい都市伝説ですよ?」
「待て待てサンジェルマン、さっきまで契約をやめさせる話をしてたよな?」
「これを貴方にあげましょう。」
「良いの!?」
「ただし貴方がもうちょっと大きくなってからですけどね。」
「うーん、……解った!」
「はい、それでは一件落着。私帰りますね。」
「……あ、ああ。」
「これは明也さんに預けておきましょう。
かの有名な魔弾です、悪魔系のこれなら彼女と相性が良いでしょうから。」
「わ、解った。」
「穀雨ちゃんが良い子にしてないとこれも貰えませんからね?」
「はーい!」
とりあえず全員文句はなさそうだ。
まあ大きくなってから彼女が契約したいというなら止めることは出来ないし、
ここが落としどころと言えば落としどころか。
俺は気を取り直して飯を食べ始めるのであった。
「あ、それと明也さん。」
「何?」
「今度貴方の身体を調べたいのでまた研究所に来てくださいね。
またハーメルンの笛吹きの悪魔の要素が強くなってるみたいですし。」
「ああ、良いけど……?」
【上田明也の探偵倶楽部after.act19〜笛吹探偵事務所の悪魔率がストップ高です〜fin】
-
(裂邪>・・・「教会」?
(レクイエム>あぁ。それがこの学校町に来ている
真夜中の公園
俺はここでレクイエムと話をしていた
と言っても、超真剣な話なんだが
それでもミナワに黙って密会、というのは心が痛む
(裂邪>へぇ、そんな組織もあるのか・・・いっぱいあるってのは聞いてたけど
(レクイエム>特に「教会」は、この町には不介入だった筈なのだが・・・
(裂邪>で、その「教会」ってのが?
(レクイエム>この学校町で何かを起こそうとしているようだ
それが何なのか私には分からんが、危険なことは確かだ・・・
一応、貴様にだけは伝えておこうと思ってな
(裂邪>・・・・・・
(レクイエム>・・・何だ?
(裂邪>お前可愛いな
ガツンッ!!
(裂邪>痛ぁ!? いきなり何すんの!?
(レクイエム>貴様ァ! 私の話をちゃんと聞いていたのか!?
(裂邪>聞いてたよ!? むしろ聞いてたからこそだよ!
(レクイエム>は?
(裂邪>だってさ、去年のあの時のお前のままだったら、そんなことしてくれなかった筈だろ?
だから純粋に可愛くなったなぁ、って口に出しただk
バキッ!!
(裂邪>顔はやめようよ顔は!?
-
(レクイエム>ううううるさい黙れ! 貴様を殺すのはあくまで私だ!
先に貴様に死なれたら、私が殺せなくなるだろう!?
貴様には、死んでほしくない!!・・・・ん?・・・・ぁ///
(裂邪>あの、抱きしめていいですか?
ボゴォッ!!
(裂邪>ゲホッ、ゴホッ・・・今俺を殺してどうする!?
(レクイエム>そ、その方が手っ取り早いだろう!?
もう私に話し掛けるな! 頭が痛い!体が熱い!胸が苦しい!///
(裂邪>風邪引いたのか? 「ヒエロニムスマシン」で治せるだろ?
(レクイエム>出来たらとっくにしている・・・・・・ふぅ、大分落ち着いてきた
(裂邪>まぁ、「教会」ってのに気を付けりゃいいんだろ?
(レクイエム>本当なら、この町から立ち去って欲しいのだが・・・聞かんだろ?
(裂邪>勿論
(レクイエム>ふん・・・いいか?この件には首を突っ込むな
私はあくまで忠告しに来ただけだ・・・貴様を、危険な目に遭わせたい訳ではない
(裂邪>あぁ、なるべくそうするよ
レクイエムちゃんには悪いが、当然首は突っ込むつもりだ
問題は、俺がその「教会」について知らなさすぎることだが
(裂邪>なぁ、「教会」って何か特徴みたいなもんないの?
「組織」は黒服着てるだろ?「首塚」は知らないけど・・・そんな感じで
(レクイエム>特徴か・・・あぁ、司祭服かカソックを着ていれば「教会」だと疑った方が良い
後は、ロザリオを首に提げているなどだな
(裂邪>・・・え?
(レクイエム>どうかしたのか?
(裂邪>あ、いや、別に・・・色々ありがとう
(レクイエム>気にするな。それより貴様、命を捨てるような真似は絶対にするなよ?
-
(裂邪>分かってるってば
口で言うより先に手が動く癖をどうにかしないとなぁ
胸の割りに身体は小さいんだよな、こいつ
(レクイエム>〜〜〜〜〜〜〜っ!? な、なななななななんのつもりだ!?///
(裂邪>どうせ、お前ら「組織」も動くんだろ?
その「教会」って奴が何するか分かんないけど、
もしやばいことだったら・・・お前らも、気をつけて欲しい
俺はもう、誰も失いたくないんだよ・・・
(レクイエム>・・・重々、承知の上だ・・・我々も、死ぬつもりで行く気は更々ない
少なくとも、私は・・・生きる目的を、貴様から教わった
そう簡単には・・・死ねん
(裂邪>・・・そっか、お前の口からそんな言葉が聞けてよかったよ
俺はレクイエムから離れた。少々名残惜しいが、これ以上やると理性を抑えられない
ところでレクイエムの顔が真っ赤なんだが、やはり風邪でも引いているのだろうか?
(裂邪>じゃ、頑張れよ
(レクイエム>あぁ・・・またな、裂邪
視界から消えた瞬間に気づいた
初めて名前だけで呼んでくれた
いつもフルネームだったのに・・・もう少し欲しかったな
(裂邪>・・・さて
司祭服にカソック、か・・・
-
(裂邪>ちっ、嫌な予感しかしないっつぅの・・・
ニーナちゃん、カインの兄ちゃん、それにクラリッサさんとシモネッタさんだったか
この中の誰かが、いやもしくは全員が、「教会」のメンバーかも知れない・・・
皆、良い人だったのに・・・何かの間違いであって欲しいけど
(裂邪>ホントにごめんなレクイエムちゃん・・・首突っ込んじゃってるかも知れん、とっくに
(シェイド>アァ、危険ダナ、様々ナ意味デ
背筋がぞくっとした
俺の後ろには悪魔・・・いや、魔王がいる
(シェイド>貴様ァ! 今ココデ何ヲシテイタ!?
(裂邪>き、「教会」の情報を・・・
(シェイド>ソレ以外ダ! トンデモナイ事ヲシテオッタヨナァ、ァ゙ア!?
(裂邪>ぐ、ぐるじい、シェイド、放ぜ・・・
(シェイド>モウ我慢ナラン! 今度コソミナワニ密告ルゾ!?
(裂邪>ストォップ! それだけはどうかご勘弁を!
つぅか、抱きしめただけじゃん!? キスもしてないし[ピー!]もしてないじゃん!?
(シェイド>ソウイウ問題デハナイ!!
・・・結局、帰ってミナワにどやされましたとorz
...To be Continued
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【電磁人の韻律詩54〜俺が君を守るから〜】
「おいおい、そんなところで何してるんだ恋路ちゃん。」
「あ……。」
「久し振りに家に帰ってきたら家が廃墟と化してるしさ。
これで何回目?
もう数えるの面倒になってきたんだけど。」
「義姉さん……。」
「久し振り、地獄から帰ってきたよ。」
話は少し前に遡る。
恋路が病院で眼を覚ました後、彼女に一人の見舞客が訪れた。
彼女の名前は明日晶、明日真の姉である。
「事情はレモンちゃんから大体聞いた。
大分苦労してたみたいじゃないか。」
「……なんていうか、心折られちゃいましたよ。」
「もう戦うのは嫌かい?」
「嫌っていうか……、正しいのか解りません。
何をやっていても自信が持てない、そもそも自分が何かして良いのかさえ解らないんです。」
「成る程ねえ……。」
晶は少し考え込むような素振りをする。
そして、何か頷いた後、恋路に向かって一言告げる。
-
「それなら真の所で一緒に戦ってきたら?」
「へ?」
「いや、姉の私が言うのも変だけどさ、あいつは馬鹿でむかつくけどやってることは概ね正しいよ。
あいつと同じことやっていれば後ろめたいと思うことは絶対に無い。」
「……ああ。」
「恋路ちゃんもそう思っていたから真と一緒に居られたんじゃないか?」
そういえば、そうだった。
彼と一緒に居る時、恋路は確かに何一つ恥じることなく立っていられた。
誇らしかった。
それは過去の彼女には無かった感情だった。
「私、行ってみます。」
「良し。」
「まだ怖いけど、間違うかも知れないけど……」
「その時は馬鹿弟がなんとかしてくれるさ。」
恋路の手は震えている。
それを強く握って、彼女は立ち上がる。
「ノーバディーズパーフェクト、支え合えば人間は幾らでも強くなれる。」
まあ私は完璧だから支えてくれる相手が居なくて困るがね、と晶は言って病室を出た。
恋路はそれについて行くようにして走り出した。
-
「ああそうだ恋路ちゃん、今日はSPをつけてやるぜ。お姫様気分で真に会いにいけ。」
「え?」
「アメリカで偶然行き倒れていたのを拾ってな。
おい夜行、この子をランドセルランドで護衛してやれ。」
「晶さん、其処俺の寝床ッス。」
「ああ!鵺野さんじゃないですか!」
「お、恋路ちゃん。何?これからデート?」
「な訳あるか!お前は恋路を馬鹿弟の所まで送ってこい!
良いな?」
「は〜い。じゃあ恋路ちゃん、俺と晶さんのバイクが病院の前に停めてあるから乗ってくれ。」
「解りました。晶さんは?」
「私も行くよ。偶には弟と会っておかないとね。」
病院を出るとすぐに晶と夜行のバイクが停めてあった。
ホンダ・シャドウファントム。
スペックシートで言えばベースモデルとの数値差を感じはしないが、
走り始めるとまるでエンジンが違うかのようなトルク感が有って、
地面を蹴るような強烈な加速を感じる。音量規制下にあっても響いてくる鮮烈なエンジン音はバイクファン垂涎の一品だ。
ハンドリングもやんちゃなものが求められており、走りに満足感を求める人々には溜まらないこと請け合いの品だ。尖った個性が売りの名作と言えるだろう。
ちなみに明日真が大好きな某特撮作品のヒーローもこれを元にしたバイクを使っている。
「じゃあ飛ばしていくよ恋路ちゃん!」
「はい!」
「震えてるぞ?大丈夫か?」
「解りません!」
「良い返事だ!」
二人の乗ったバイクは夜を裂いて明日に向けて走り出した。
-
そして話の時間軸は現在に至る。
明日達の目の前には一人の口裂け女が立ちはだかっていた。
「雪絵ちゃんを何処にやった!」
「もう直さんの所に送り届けましたよ。
水月さんは足止め喰らってるみたいですねえ……。」
「此処を通して貰うぞ!」
「それは駄目です、だって貴方たちは此処で……。」
明日は戦闘の気配を感じて狂骨の契約書と一体化している髑髏の仮面を構える。
その時唐突に壁の一部が吹き飛んで爆音が廊下に鳴り響いた。
一陣の風が吹き抜けたかと思うとみぃちゃんは一撃で遠く彼方へ殴り飛ばされてしまった。
「え?」
「ん?」
明日真も恋路も「お前らはここで死ぬのだからなー」と言って負けた敵を見たことはあっても
同じ台詞を言った直後にお空のお星様になってしまった敵を見たことは無いからだ。
いや、言わせてすらくれなかった。
だって彼女は……
「よっす、弟。」
「姉さん……。」
「義姉さんなんでここに!?
たしか私たちを先に行かせるために貴方は残ったじゃないですか!」
「なんかイケメンが来て手伝ってくれた。多分後で来るよ。」
イザークさんとジョルディさんのことだろうと明日真は一人で納得した。
-
「ほら、さっさと行きな。とらわれのお姫様を助け出すのは正義の味方さ。」
「義姉さん、私にもお姫様言ってたじゃないですか。」
「女の子は皆お姫様、もしくは正義の味方も男女平等の時代。良い時代だね。
わたしはちょっと能力使いすぎたから疲れた。」
「大丈夫か?」
「都合良くイケメンに助けて貰うから良いよ。」
「あんたって奴は……。」
明日真は走り出す。恋路もそれについて城の奥へと進む。
そんな二人を見て、晶は壁を蹴っていた。割と本気で蹴りまくっていた。
怨念とか執念とか嫉妬と呼ばれる物がその蹴りには多分に込められていた。
「なぁ恋路。」
「どうしたアスマ。」
「本当に大丈夫か?なんかよく知らないけど精神的にダメージって……。」
「大丈夫だよ、アスマの側に居れば。それよりもアスマの方が心配さ。
なんてったってアスマは弱いからなー。」
「俺は大丈夫だよ、恋路や雪絵、誰かを守る為なら強くなれるから。
誰かを守りたいって気持ちがここで」
明日真は自分の胸を指さす。
「ここで燃えている限りは何度でも戦うさ。」
「流石だよ。」
「今日は俺がお前を守るぜ。」
「ありがとう。」
一際大きく壁を蹴る音が聞こえた。
-
大きな音を立てて扉が開く。
その奥に待っているのは死神と一人の少女。
助けに行くのは二人の正義の味方。
「雪絵ちゃん大丈夫か!」
「フランちゃん助けに来たよ!」
壮年の男性がゆっくりと振り返る。
凍てつくようなその美貌は年を取ってもなんら変化しない。
「……ほう、その様子だと彼女を突破してきたらしいな。驚いたよ。
確かに契約の回路も途切れているし……。
明日君、君には驚かされてばかりだな。
なんでこんな奇跡みたいなことを次々起こしてくれるんだい?」
「それは決まってる。」
明日真は恋路を守るように一歩前に踏み出して拝戸直を指さし、はっきりと宣言する。
「正義は勝つからだ。」
明日はポケットから壊れかけた髑髏の仮面と一体化した狂骨の契約書を取り出す。
拝戸も白衣の中から傷一つ無い髑髏の仮面と一体化した死神の契約書を取り出す。
「倫理を踏みにじった先に真実の美があるのだ、と言っても無駄なのだろうね。」
「無駄じゃないさ、俺がお前に踏みにじられる最後の一人になってやる。」
二人は同時に仮面を装着した。
【電磁人の韻律詩54〜俺が君を守るから〜fin】
-
徹心のおっちゃんはそうだね、と呟いた。
「その組織は人種、信条、性別、階級、皮膚の色の違いにとらわれることなく、人類の普遍的な同胞団の核となること。
比較宗教、比較哲学、比較科学の研究を促進すること。
宇宙の未解明の法則と人間に潜在する能力を調査すること。
これらの事を目的として標榜し、それに沿った神秘学や他、科学に関する派閥をいくつか保持し、
そして現在はオルコットという男が組織内の他の勢力を潰してその実質的な力全てを手中に収めている組織だ。その名を――」
その組織名を、徹心のおっちゃんは告げた。
「≪神智学協会≫と言う」
-
【電磁人の韻律詩55〜正義の味方〜】
「さぁ、芸術を始めよう。」
「――――――――変身!」
先手必勝、俺はまっすぐに目の前の男に殴りかかる。
男は取り出した鎌で俺の拳を防ぐと俺の腹に回し蹴りをたたき込む。
だがその程度で俺はダメージを受けな……い?
おかしい。
それほど勢いの付いてないスローな蹴りの筈だ。
なのにまるで狂骨の鎧なんて無かったかのように俺の腹には鈍い痛みが走っている。
「おいおい、お前は何をしに来たんだ?
思ったよりずっと弱いじゃないか。」
そう言って男は俺に向けて鎌を振り下ろす。
「危ないアスマ!」
その叫び声と共に男の仮面の隙間から血液が迸った。
一瞬怯んだ隙に俺は男と距離を取る。
「……おっと、忘れていたぞ電子レンジの契約者。
人の顔の焼き方を思い出したらしいなあ?」
その言葉に恋路の動きが止まる。
急いで恋路を守らなくてはいけない、俺は男と恋路の間に立つ。
-
だが、俺の背後で恋路は何者かに蹴り飛ばされた。
目の前に居る男はまだ動いていない。
ならば誰が?
「紹介が遅れたね。
私の最高傑作、感覚機能強化型フランケンシュタイン試作品十号改、題名“雪風”
君たちは雪絵と呼んでいたね。
この雪風の素晴らしい点は学習機能の高さだよ。
本来の性能の高さに加えて、今まで見た相手の動きをそのまま覚えてラーニングできる。
無論、美術品としてのレベルはまったく落としてない。
私の目指した死と生の調和を高いレベルで実現しているよ。
なんせ傷一つ付いてない死体なんて君は見たこと無いだろう?
そもそも死とは生をより良く保存するための行いな訳だよ。
死んで、肉体を劣化させてしまうのはやはり褒められた行為ではない訳だから。
そもそもフランケンシュタインには様々なタイプが有るがその素材には……」
そこから先の男の台詞は覚えていない。
俺の視線は雪絵に釘付けになっていた。
恋路は素早く起き上がって雪絵と相対する。
「丁度良いよアスマ、そっち任せた。
どうせ君じゃあ雪絵ちゃんと戦えないだろう?」
まったくもってその通りだ。
「……任せた!」
恋路なら何とかしてくれるはずだ。信じて任せよう。
-
俺は楽しそうに長々と口上を語り続けている男の顔面に拳をたたき込む。
男は勢いよく吹き飛ばされて壁に叩き付けられた。
俺の追撃を躱しながら男は長々と語り続ける。
「じゃあとりあえず君にも説明しておこうか。
私は人の死に対してどうしようもなく興奮しちゃう性癖を持ってるんですけどね。
ここにおける人の死っていうのは死ぬ過程も死んだ後の死体も両方を含めています。
あれはひどく人の心を揺さぶる物だ。どんな文学作品よりも強く深く……ね。
ところで君はブンガクしてるかな?俺としては君くらいの青年にはヘルマン・ヘッセの車輪の下を勧めたい。
ああいうのは一遍呼んでおいて損は無いよ。私は中学生くらいの時にカラマーゾフの兄弟を呼んだよ。
ネタバレはしたくないからあれだけど登場人物と死神との掛け合いが素晴らしくてね、あれの為だけにでも読むべきだ。
君の学校の国語の先生はこういう話しないのかな?まあ今時のスッカラカーンな高校生の何割が文学を理解出来るかは解らないけどさ。
そういえば文学も殺人も命を削って作り出す物特有の美しさが有ると私は思う訳ですよ。私の殺人は芸術であって只の快楽をむさぼる行為とは一線を画していることだけは皆に解って欲しい。
あーそれで思い出した。前からすっごく気になっていたのですけど最近の子供って命の尊さを理解しているんでしょうかね。
家や学校でちゃんと教育しないと駄目だと思うんでスヨそう言うの。
ジョン=ロックって思想家が言っていたんですけど人間という生き物はその根本は白紙であるそうだよ?
教えなければ人間は何も知らないんだ。だからってどこぞのジグソウよろしく命の価値を教育するゲームをやる気なんてサラサラないからね?
あれはエンターティメントとして見習うべき物は有るが……。
あの趣向自体がそもそも死を冒涜しているように見えてしょうがない。例え命の価値を知らない人間でも命の価値は等しいんだよ。
まあ創作の中のこととはいえどもそこらへんがやはり気に入らないね。まったく気に入らないよ。
ところで私のそういう趣味の目覚めって言うのは丁度小学生の時でしたね。
心臓麻痺だかで親戚のお姉さんが死んだんですよ。今も思い出す、美しい人だった…………。
ああ、耳を塞ごうとしないでくださいよ。丁度親族一同が田舎に集まっている時だった物ですからね。
私も見ましたよ、美(ツメ)たくなった彼女の完璧な肉体。あれ程人間の身体とは調和がとれたものなのかと感動しましたね。
それで両親の居ない間に私はこっそりと彼女に口づけをしました。
そう、始めてを彼女に捧げたんですよ。冷たくて、乾いていて、弾力を失っている筈の唇は……
私にそれまでもそれからも無かったような恍惚と感動をもたらしていました。
これは男同士だから正直に言ってしまうのですけどパンツを一つ台無しにしてしまったんですよね、ああ恥ずかしい。」
-
男が何やらまた話し始めたのを悟って、俺は男の話を意図的に聞かないようにした。
その分の耳は恋路達の戦いに向ける。
「フランちゃん!落ち着いてくれ!眼を覚ますんだ!」
「…………。」
「くそっ、聞こえていないか。」
視界の端に恋路の姿が映る。
腰を深く落としてすり足で彼女の身体と密着し、体重の移動だけで雪絵を吹き飛ばす。
派手に転倒した雪絵は起き上がるとすぐに恋路がやった技とまったく同じことを彼女に対してして見せようとする。
するができない。
パッと見た感じでは恋路がやったそれとまったく同じ動きなのだ。
しかし恋路はその場で舞うように一回転するだけでその攻撃をいなし、雪絵を地面に叩き伏せる。
何をやっているのか全く解らない。
その瞬間、恋路が俺に目で合図を送る。
成る程、理解した。
「フランちゃん!私だよ!恋路だ!頼むから目を覚ましてくれ!」
「無駄だよ、そいつは既に私が記憶を再設定したからね。
今はまっさらな赤ん坊のようなものさ。まだ俺の言うことを素直に聞く程度のことしかできない。」
目の前の男は恋路の方を見ることなく叫ぶ。
確かに、恋路の方を見ないことは普通に考えれば正しい選択だ。
普通に考えれば目の前の相手である俺の方が脅威なのだから。
雪絵に恋路の相手は任せればいい。
だが彼は今、その選択がこの場合においてのみ誤っている根拠まで叫んでしまった。
そう、少し考えれば解るのだが今の雪絵は恋路に絶対に勝てないのだ。
-
「そもそも格闘技とは、弱者が研鑽の末に強者に勝つべくして練り上げられた技術だ。
私はそれを長い間やらされてきた訳だよ、忌々しいことにね。
自分より遙かに力が強い相手、自分より遙かに素早い相手、そう言う相手を支配する為の技術をさ。」
その瞬間、恋路の身体が跳躍した。
先ほどまで恋路がいた場所に雪絵が体当たりを仕掛ける。
無論その狙いは外れて雪絵は意味のない突進を始めた。
雪絵の後ろを取った恋路は雪絵の身体を後ろから思い切り蹴飛ばした。
俺は目の前の男にがむしゃらにつかみかかる。
男はがら空きだとでも言わんばかりにカウンターを狙うがその背中に雪絵が直撃する。
そのまま雪絵を踏み台にして恋路が再度の跳躍。
「知っているか?」
恋路に向けて男は鎌を振ろうとする。
だがそれは俺がさせない。
俺は男の身体を掴んだまま、手の部分を覆っている骨のアーマーを射出する。
腹に散弾銃を突きつけたまま撃ったようなものだ。
痛みで狙いは雑になる。
そもそもカウンター自体が無駄なのだ。
前に恋路は言っていた。
「中国拳法において上空からの攻撃にカウンターは不可能だと言われている。
4000年の歴史を持っているんだぜ?そういう技が有ったって良いと思わないか?
でも無いんだ。上空からの攻撃は防ぐしかない。」
恋路の踵が男の顔面にめり込む。
-
「アスマ!」
「承知した!」
俺は狂骨の力で宙に大量の髑髏を浮遊させる。
それを足場に恋路は再び宙を駆ける。
進路を指示する必要も指示される必要も皆無。
俺には恋路の次に動きたい場所が解る。
恋路は俺がつぎに足場を作る場所が解る。
俺のリズムと彼女のリズムが狂うことなく完全に一致する。
「戦闘中に笑うのか。君という人間に対する認識を改めるべきかな。」
恋路の上空からの攻撃に反応しかねている男は俺を見て不機嫌そうに呟く。
違う、何も解ってない。
俺は自分が好きなように曲を流してそれに乗っかって他人が騒いでいれば良い人間なのだ。
そんな瞬間に俺は果てしない満足と一体感を感じる人間なのだ。
今、俺と恋路のリズムが一つになっている。
それは本当に満足なことで、幸せなことだった。
戦う最中でなければもっと幸せだったけれどもそれは良い。
「ん?ああそういうことか。音楽家だったとは知らなかったよ。」
雪絵が恋路に飛びかかろうとしている。
距離はギリギリ、今ならまだ間に合う。
俺はすかさず彼女に飛びかかって彼女を抱きしめた。
でも俺はロリコンじゃない、それだけは解って欲しい。
-
「任せたよアスマ!」
「任されたぜ恋路!」
なんかすごい勢いで俺に構うな先に行けを皆にさせている気がする。
が、今はそんなこと気にしている余裕もない。
俺は骨の鎧を巨大化させてドームに変化、雪絵を巻き込み捕まえる。
「さーて、説得の為の時間稼ぎといきますか!」
「忘れたのかな?さっきの戦いで君は私にボロボロに負けていた筈だ。」
雪絵が明らかな敵意を持って俺にゆっくりと近づいてくる。
「なあ雪絵、俺たちと一緒に家に帰ろうぜ?」
「……家?」
終始無言だった彼女が突然反応する。
「そうだよ、家、家族だよ。
お前の妹も居る。」
「妹……、花音?」
家族か。さっきまで殆ど無表情だったのに家族に関してだけは強く反応している。
「俺も居る、恋路も居る、帰ったら皆で平和に暮らそうぜ?
そうだ、今度遊園地に行こう。こんな暗いところじゃない。
楽しい所だぜ、遊園地ってさ。」
「遊園地……、皆……。」
-
雪絵の動きは完全に止まった。
「キャッ!」
「くくく、次は何処を頂こうかな?」
外の様子が不味いことになっている。
そろそろ恋路を助けに行かなければいけないようだ。
「アスマ!今出てくるなよ!」
「え?」
「丁度、【くまなく血をかけた】所なんだ。
電力最大、マイクロ波分散型放射、――――焼け落ちろ。」
男の絶叫が聞こえる。
「お前、……また人殺しになる気か?」
「恋路!無茶するな!そこまでしなくて良い!」
「……アスマ、今は出てきてくれるなよ?」
俺は当たり前の如く狂骨の能力を解除して外に出た。
恋路はすぐに能力の発動を止めた。
彼女の片腕に脚を引っかけて俺は転びそうになる。
-
「待て恋路!そいつを殺しちゃ駄目だ!どんな奴でも殺しちゃ駄目だよ!」
「くっは……。肉焦がし骨焼くマイクロ波の嵐……。
明日君が使うよりもすさまじい威力じゃないか。
むしろこれが本来の姿なのか?」
男は血まみれになり、身体から蒸気を出しながらもしゃべり続ける。
最後に俺が男を無力化させようと思った時、俺の周りに赤い風が吹いた。
俺に一撃、恋路に一撃、おまけのように攻撃を加えていく。
恋路は急所だけは防いだが両腕を持って行かれる。
俺はといえば狂骨の高い防御力のおかげで割と無事だった。
赤い風は男を素早く抱きかかえるとすばやく俺たちから距離を取る。
「恋路ッ!」
「大丈夫大丈夫、出血だけなら能力で止められる……。」
「お互い痛み分けと言ったところですね。
此処は一旦退かせて貰いますよ。」
「あっ、待て!」
「じゃあお言葉に甘えて。」
口裂け女は再び高速移動を開始する。
不味い、今こいつに攻撃されると為す術もなく俺たちはやられる……!
両腕を失った恋路と高速戦闘に対応出来ない俺では打つ手がない。
「そうはさせないのですよ。」
雪のように白い肌と烏の濡れ羽色をした髪が冬の風に揺れる。
月明かりが窓から彼女を照らす。
口裂け女を食い止めるかのように雪絵が俺たちの前に立っていた。
-
「いやー、じっさい生まれ変わった気分です。私死んでますけど。」
口裂け女が目にも止まらないスピードで雪絵に襲いかかる。
だが感覚機能特化と言っていた彼女自身が言っていたのだ。
雪絵にはその動きの全てが把握できている。
更に言えば先ほど恋路に文字通りたたき込まれた格闘技の技術で自分より動きの速い相手への対処も可能になっている筈。
骨の折れる軽い音がして、口裂け女は地面に激突する。
「どうしますか口裂け女さん?
ここがお互い退き所じゃないでしょうか。
そこの男の人死んでしまいますよ?」
「……くっ。」
口裂け女は男を抱えてあっという間に居なくなってしまった。
俺と雪絵はほっとため息を吐く。
「あのさー、ところで二人とも?
私そろそろ腕付けて欲しいんだけどなー。さっき心配するなって確かに言ったけどさー。」
「ああそうだ!急いで病院に運ばないと!」
「それよりも110番なのですよ!恋路さんが死んでしまいます!」
「その心配はありませんよ。」
突然、耽美的なと形容するしかない甘やかで華やかな声が部屋に響く。
……またこいつか。
F-No.0、サンジェルマン伯爵。
確かに医者としては最高の腕前だろう。
-
「レモンさんに頼まれましてね。
私としては縁もゆかりもない事件でしたが……。
貴方の師を殺してしまった以上、貴方にはまだ借りがあります。
その一部を今此処で返済させて頂くとしましょう。」
サンジェルマンは恋路の腕を切断面に合わせた後、器用に縫合を始める。
そして縫合が終わると彼女の傷口に手を添えていくらかの呪文を呟いた後にこう締めくくる。
「【癒えろ】」
その言葉には不思議な重みと優しさがあった。
青白い燐光が漂ったかと思うと恋路の腕は何事も無かったかのように完全に修復されていた。
「あんた、医者じゃなかったのかよ。」
「優れた科学とは魔法と同義、私は科学も魔法も完璧に使いこなします。
まあ攻撃魔法とかは専門外ですけどね。近代兵器使った方が早いし。」
「ふぅん……。」
「それと、ですけどね。このことは組織には内緒でお願いします。
お互いのためにもそれが一番でしょう?
貴方の今回の行動は正義のためとはいえ独断専決には違いないですし。
監視を誤魔化すのにも苦労しましたよ?」
「そうなのか、まあとりあえずありがとう。」
「いえいえ、礼には及びません。結局は彼女の生きる力を引き出したまでですから。」
先ほどの光に当たったせいか俺の傷も治っている。
魔法って便利だなあ……。
-
「真ー!助けに来たぜ!」
遠くから夜行さんの声が聞こえてくる。
「おっと、それでは私はここらへんで退散させて頂きます。」
それでは、と微笑みながらサンジェルマンは姿を消した。
まあ確かに夜行さんを見られると都合が悪い。
姉さんも組織とは仲が悪かったし、まあ丁度良いだろう。
「じゃ、行きますか。」
俺は髑髏の仮面を外してポケットに仕舞う。
そして恋路を背中に背負って雪絵の手を引き歩き始めた。
「これにて無事一件落着。」
「あーあ、今回はアスマに助けられちゃったなー。」
「ふふ、やっと助けることが出来たぜ。」
「ありがとう、私の正義の味方さん。」
「一番助けられたのは私なのですよ!明日さんって強いんですね!」
「いやあ……多分皆のおかげじゃないかな。二人を助けられたのは。」
そして世はこともなし。
今回の事件はこれにて一件落着、かな?
【電磁人の韻律詩55〜正義の味方〜fin】
-
「・・・噂?」
「そ、噂。人から人へ受け継がれる噂が、いつしか力を持って発現する
それが都市伝説だ・・・って、俺の知り合いが言ってた
まぁ都市伝説にもいくつか種類があって、つぅかありすぎて説明面倒臭いんだが・・・
基本なのは、実体が有るか無いか、かな
さっきの蛇を呼んでた奴は『夜に口笛を吹くと蛇が寄ってくる』っていう目に見えない都市伝説と、
あと2人は『クラーケン』と『垢舐め』、目に見える奴と契約していただろ?
この目に見える方が――――」
「契、約・・・って?」
「あぁ悪ぃ、そっちがまだだったか
都市伝説は噂を糧に生きてるが、逆に噂が途絶えるとその存在が維持できなくなる
でも、人間と“契約”する事で、自分の存在を維持できるようになる訳
人間は契約都市伝説に何らかの力を与えられたりするから、どちらにもメリットはあるし」
「力・・・ぼ、僕が使ってた、みたいなもの?」
「そういうこと。お前のは俺がさっき言った、目に見えないタイプの都市伝説だ」
「じ、じゃあ、裂兄ぃのは、目に見えるタイプ?」
「そうなるな。で、その目に見える方が厄介なのよ」
「厄介・・・? 契約すると、デメリットが大きいの?」
「いや、それは都市伝説の質やら人間の器の大きさが影響するけど、
俺が言いたいのは、この町にウヨウヨしてるってことだ」
「・・・・え!?」
「それに! 都市伝説やその契約者は互いに引かれやすい
用は磁石のN極とS極みたいなもんで、
例えお前がこの町の何処に逃げようと、いつかはばったり会っちまう訳よ
学校町は多いぞ? 危険な都市伝説。 『口裂け女』とかしょっちゅういるし」
「そ、そそそそそ、そんな危ない町、なの・・・?」
「その“危ない町”に、お前はわざわざ引っ越してきたんだ
それに、お前はとっくの昔に契約している・・・狙われる素質は十分にある
誰も助けに来てくれやしない、自分の身は、敵と戦って、戦いに勝って、自分で守れ
戦うのが嫌なら逃げ出すか、死ぬか、そのどちらか。それがこの町・・・学校町の不文律だ」
-
思わず言葉を失い、立ち止まる漢
良く見れば、その小柄な身体は小さく震えている
ふぅ、と裂邪は息を吐くと、彼の両肩を掴み、
「まぁ、さっきのは言いすぎだったけどさ
この町にゃ、悪い奴もいるけど、勿論良い人もいる。それこそ、翼の兄ちゃんみたいなさ
そういう人に多く出会って、友達を増やせば、その人達に助けてもらえる確率は高くなる
逆に助けてあげる、なんて事もあるはずだ
さっきも言ったように、契約者は引かれやすいからな」
「・・・・で、でも、僕・・・怖いよ・・・」
「怖けりゃ契約解除でも何でもしちまえ
そこはお前の自由だ、俺は強制しないよ
力を捨てて正常な道を進むか、力を持ち続けて異常な海に沈むか・・・
ま、ゆっくり考えてみろよ」
「・・・うん、分かった」
不安そうに頷く漢を見て、ウヒヒと小さく笑う裂邪
その後も何か言おうとしたが、何も言わずに夜闇に歩を進めた
【 神 力 秘 詞 】
三之巻 〜彼ハ 此ニ 誓イヲ 立テル〜
-
がちゃり、とドアを開け、
(漢>ただいまー
(麻夜>お帰りなさーい!
大きく、明るい声が響き、ドタドタと足音を立てて部屋の奥から現れたのは、
漢よりも小柄な、エプロン姿のセミショートの少女
漢の妹、神崎 麻夜である
(麻夜>遅かったね、大丈夫だった?にぃに・・・・・あ゛!!
(裂邪>やっほー! 久しぶり麻夜ちゃん!
(漢>行く途中で、たまたま会ったんだ
裂邪の顔を見て、凄く嫌そうな顔をした麻夜
そして、今度は裂邪を睨み付けて
(麻夜>にぃにぃ! 何で変態さんなんか連れてきちゃったの!?
(漢>へんっ・・・! ま、麻夜、裂兄ぃに失礼だよ・・・
(裂邪>ウヒヒヒヒ、いやぁ、相変わらず元気そうで何より^^
(麻夜>あー!私のこと見て笑った!! キモい!嫌らしい!変態!変態!!変態!!!
(漢>ち、ちょっと麻夜・・・ご、ごめんね裂兄ぃ、お、お茶でも飲んでいってよ
(麻夜>にぃにぃ!?
(裂邪>あ、いいよ、親父達も心配してるだろうし
(漢>ホントに・・・?
(裂邪>あぁ。てか、麻夜ちゃんの元気そうな姿だけ見られて裂兄ぃ満足でs―――
ゴガッ!!
裂邪の腹に、槍で貫かれた様な衝撃が走った
それは、小さな膝
弱冠12歳とは思えないほどの小さな膝だった
-
玄関先で、腹を押さえて蹲る裂邪
(裂邪>カハッ・・・ま、た・・・腹、ですか・・・一瞬、レクイエムに、刺されたかと・・・
(麻夜>ホントにキモい! 早く帰ってよ犯罪者予備軍!!
(漢>こ、こら麻夜! いい加減にしないと、ホントに怒るよ!?
(麻夜>に、にぃにぃ・・・
(裂邪>・・・あ゙ぁ、いい一撃だ・・・こっちの腕も変わってないなぁ・・・
んじゃ、そろそろ帰るわ
(漢>ご、ごめんね、麻夜が・・・あ、あの、明日は裂兄ぃの所に行っていい?
伯父さん達にも挨拶したいし・・・
(裂邪>ん、親父も非番だったと思うし、大丈夫だと思うぜ?
なら明日の朝また来るよ、案内するわ
(漢>あ、う、うん、ありがとう裂兄ぃ
(裂邪>おう、また明日
よろよろと立ち上がりながら、裂邪は弱々しくドアを閉めた
漢は、はぁ、と溜息を1つ吐いて、麻夜の目を見た
(漢>・・・もぉ、酷すぎるよ麻夜! 裂兄ぃは僕の事を心配してここまでついてきてくれたんだよ!?
(麻夜>だって・・・
(漢>夕食の仕度、急いでするから・・・これ、裂兄ぃの番号だから、今から謝ろう?
(麻夜>い、今から?
(漢>悪い事をしたら、すぐ謝らなきゃ・・・ね?
(麻夜>・・・・・・
彼女は漢の携帯を受け取り、今日決めた自分の部屋へと消えていった
それを見て微笑みながら、漢はキッチンへと向かったのだった
だが、彼はまだ気づかなかった
-
(麻夜>・・・もしもし裂兄ぃ?
(裂邪>《おぉ麻夜ちゃんか》
(麻夜>さっきはごめんね、強すぎた?
(裂邪>《正直、戻しそうになった; で、そっちは? 漢に怒られてみてどうだった?》
(麻夜>もぉ背中に電気が走ったみたい、ビリビリって! 飛んじゃいそうだったよv
(裂邪>《ヒハハハw 録音しといたから、明日あげるよ》
(麻夜>御協力感謝感激雨霰ですホント
(裂邪>《いやいや。てか俺の電話番号聞いたの?》
(麻夜>えへへー、にぃにぃの借りちゃったv
(裂邪>《マジかよwww》
(麻夜>だからぁ、にぃにぃと同じところに耳当ててぇ、にぃにぃと同じところで話してるのぉv
・・・ぁっ・・・ご、ごめんね、切っ、て、あ♪、良い?ん♪
(裂邪>《・・・・・・・・・・・・・・・・・ん、ん? 今何か言tt》
彼女はそこで通話を切った
(麻夜>あぁんvvにぃにぃvvv大好きぃvvv
(漢>麻夜ぁ、ちょっと手伝ってくれる?
(麻夜>ひゃんっ!? あ、はぁい・・・
† † † † † †
-
翌日、黄昏宅―――
(漢>お久しぶりです、伯父さん、伯母さん
(麻夜>お久しぶりでーす
(明美>うふふ♪ 2人とも元気そうね
(光彦>そうみたいだな。身体とかは大丈夫なのか? 無理してないか?
(漢>は、はい、お陰様で・・・
(光彦>そうか、困った事があったらいつでも頼ってくれていいからな
裂邪で良ければ貸してあげてもいいし
(裂邪>嘘つけぇ! 昨日怒鳴り散らしたのは何処の誰だよ!
(正義>それは、お兄ちゃんの日頃の行ないが悪いからだよ
(裂邪>グハァ
その後、2人は昼食まで御馳走になり、それから暫くして日が落ちかけた頃に帰宅しかけた
その帰り道
(麻夜>(んふふ〜♪ 『にぃにぃコレクション』No.209、『ぷんすかボイス』ゲットォv)
(漢>・・・・・・・
(麻夜>・・・? にぃにぃどうしたの? 難しそうな顔して・・・
(漢>へ? あ、ううん、何でもない
(麻夜>んー???
漢の頭は、昨日裂邪に聞いたことと不安と恐怖でいっぱいだった
(漢>(都市伝説は引かれあう・・・都市伝説は引かれあう・・・
もし今ここで都市伝説と出会ったら・・・)
-
(麻夜>ねぇ〜、にぃにぃ〜!
(漢>あ、えっと、なn痛っ
こつん、と電柱にぶつかる漢
頭の中に集中しすぎてしまっていたようだ
(麻夜>ほらぁ、ちゃんと前見て歩かないと危ないよ?
(漢>あ、あははは、ごめん;
(・・・麻夜は・・・妹の笑顔は、僕が守らないといけないんだ――――)ッ!?
ぞくり、身に覚えの無い嫌な感覚が、漢の身体を支配する
(漢>(な・・・何、これ・・・何だか、わからないけど・・・行かなきゃ・・・!)
(麻夜>にぃにぃ、さっきからどうしちゃったの?
(漢>ご、ごめん麻夜、忘れ物、しちゃったみたい・・・先に帰ってて!
(麻夜>え、ち、ちょっとにぃにぃ!
麻夜の声を聞く事もなく、彼は今来た道を走っていった
残された彼女は渋々、先程貰った録音データを聞きながら自宅へと歩み出した
† † † † † †
(漢>ハァ・・・・ハァ・・・・え、っと、多分、この辺り――――ッ!
さっと物影に隠れ、ちらと様子を見るように覗く
腰を抜かし後退りする少年と、ナイフをちらつかせてじりじりと歩み寄る赤いマントの男――「赤マント」
(少年>く・・・来るな・・・来るな! マントなんていらないから来るなぁ!
-
(赤マント>ッハハハハハハハ!! 今更もう遅い!
貴様をここで真っ赤に染めてやるよぉ! 私のマントのようにねぇ!
彼は―――漢は、震えていた
ナイフを持った相手
今出ていけば、自分も殺される
そもそも、自分には戦う力なんてない
戦った経験もない
昨日のように、うまくいくかどうかすら分からない
そんな自分が出ていっても、あの少年を助けられるのだろうか?
そんな不安と恐怖が湧きあがった
でも
自分が行かなくても、あの少年は殺されるだろう
ならば、この場で自分は、あの少年を見殺しにするのか?
それだけは、したくない
少しでも、助けられる可能性があるのなら、その可能性に賭けたい
(漢>(裂兄ぃは、僕を守ってくれた・・・僕も、誰かを、守りたい!)
咄嗟に動いた右手
「木」、「木」、その下に「示」―――『禁』という字を書き、少年の方にそれを投げた
それは大きく広がり少年を包み、「赤マント」と少年を隔てる結界となった
(少年>・・・え?
(赤マント>何・・・? 誰だぁ!?
(漢>や、ややや、やめて、下さい・・・そ、その子には、指一本、ふ、触れさせません!
ぼぼぼ、ぼ、僕が、あ、相手にな、なり・・・ま、す!
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