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【オリスタ】メゾン・ド・スタンドは埋まらない【SS】

1893話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/09/11(火) 03:29:33 ID:JTrSu4G60
「キャアアアアアアア!子供のゾンビ可愛い!何コレ映画の撮影!?
ゾンビのメイクすごいリアル!蛆まで湧いて超ヤバいんですけど!
ちょっとキミたち写真撮って良い?あとで天にも見せよーっと♪(パシャパシャ)
キャアアアア!凄いたくさーーーーん!撮りきれなーい!」

「アアアァァァアァァ……何だごいづゥゥ……」

公園の入口近く。徘徊するゾンビ達を目撃してしまった咲良は悲鳴を上げた。
恐怖による悲鳴ではない。アイドルや映画俳優を生で見た時に発する
所謂『黄色い悲鳴』を咲良は上げていたのだ。(実に嬉しそうな表情で)

一方、予想外の光景にゾンビ達も少々戸惑っていた。
自分達を恐れず、むしろ会えて感激みたいなリアクションをする人間を食っていいのか?
子供の知能しか持ち合わせていないゾンビ達には判断が出来ずにいた。
結果、ゾンビは咲良の周りを囲み様子を見るだけでソレ以外のことは一切しなかった。


(何よコイツ……いい年して子供みたいにキャーキャー言っちゃって、みっともない。
私のゾンビを見てこんなリアクションしたのコイツが初めてじゃあないかしら……
でも面白いわね。今こいつ『天にも見せよう』って言わなかった?もしかして
天くんの知り合いかしら?まさか恋人だったりして?だったら……)

咲良とゾンビ達の様子を『どこかで』見ていたえれにゃん☆ことエレナ・マースは
何かを思い付くと自身のスタンド、キャント・ユー・セレブレイトを出現させ
咲良の背後に接近させた。……いつでも『尻尾で触れる』距離まで。

(天くんも必死に足掻いてるようだけど、大切な人ををゾンビなんかにされたら
心もポッキリ折れるんじゃあないかしら……それじゃあセレブレイト、
その心の幼いレディをゾンビに)


「ノープラン!!!」 『チュミッ!!!』


キャント・ユー・セレブレイトの尻尾が咲良の背中を突こうとした寸前、
エレナの臀部に激痛が走った。まるで誰かに殴られたような衝撃だった。

見ると、ノープランの拳がキャント・ユー・セレブレイトの臀部……つまり尻を
思いっきり殴っていたのだ。セレブレイトは殴られた衝撃で
数メートル程吹っ飛んでいった。

あまりの痛さに思わず声が出そうになるが、エレナは歯を食いしばってそれに耐えた。
……その形相は醜く歪んでいたが。


(危ない所だった……あのアマ、やっぱり騒ぎに乗じて咲良をゾンビにしようとしてやがった!
雲雀さんや他の人達……コイツには対象をゾンビに変えるという
恐ろしい能力を使う事に一切の『ためらい』が無いらしい!駐車場のマグマ野郎といい
ディザスターに属する奴らは『こんなの』しかいないのか……?まあとりあえず……
咲良が無事で良かった……ゼヒ……ゼヒ……)

エレナのスタンドを撃退した天は安堵の表情を浮かべた……砂利道にぶっ倒れながら。


咲良の悲鳴を聞き、大急ぎで自身の体力を一切考慮せず全速力で悲鳴の聞こえた方へ向かい
そこで咲良と彼女に尻尾を触れさせようとしているスタンドを発見、大急ぎで
スタンドの臀部をノープランで攻撃し、そこで体力が尽き現在に至る……という訳である。

1903話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/09/28(金) 00:29:57 ID:akra3omc0
「ちょっと天、大丈夫?いきなり走って来たかと思えば輪に入ってきて急に叫んだりぶっ倒れたり。
体力もロクにないのに全速力で走るもんじゃないわよ、はい冷たいお水」

咲良は満身創痍の天に水を渡すと彼の息が整うのを待った。その間
咲良はゾンビ達に囲まれ幸せそうな表情を浮かべていた。

(……咲良の奴、やっぱりゾンビ達相手にキャーキャー言って迷惑をかけてたか。
咲良のホラー映画好きにも困ったものだ。この手のモンスターを『可愛い』とか言って……)

「なんか言った天?いやいやそれより見てよこのゾンビ達!Jホラーもここまで来たのよ!
ほら、この子なんか蛆が可愛くウネウネと……」

「……咲良、そのことについてちょ〜っと話がある。とりあえずこの輪から出よう。
ここに居続けるのはマズいからな……ホレ」グイッ

「ああっ、急に引っ張らないでよ天!」

天は立ち上がると咲良の手を握り、ゾンビ達の輪から抜け出そうとした。
困惑の表情を浮かべていたゾンビ達も二人が輪から出たがっていることを理解すると
少しだけ移動して二人を輪の外へ出そうとした。


……それを『彼女』が許す筈もなく。


(なあ〜〜〜〜〜〜にボーッと逃がそうとしてんのよこの腐れ兵隊共があああ!
『食べる』のよッ!あの新鮮な肉を!図体ばかり大きくてトロそうな肉、
これを逃したらもうチャンスは無いんだからッ!!!)


「「「あ゛あぁ……分がっだ……あ゛の゛肉を゛……『食えばいいのがぁ』……」」」


二人が輪から出た時。天は彼らの声が聞こえたのか、ゾンビの群れの方に振り向くと
咲良に言った。


「………咲良、悪いけど俺の背後に回れ、俺から離れるな」

「??どったの天?まあそこまで言うなら従うけど」


咲良が天の指示に従って彼の背後に回った直後であった。

ゾンビ達が『何者か』の命を受けたかのように、天と咲良目掛けて
一斉に襲いかかって来たのは!!!

「キャアアアアア!あの子達ったらサービス旺盛!この演技なら観客も大満足よ!
てゆーか動きもすごく可愛い!キャー!」


(やっぱそうなるよなぁ……まあいいや、薫さんに教わった『あの技』を試してみるか!)


ゾンビ達が二人に迫ろうと飛びかかる。その時であった。

ボグォ!!
「ヴェエエエェエェ!?」

ゾンビ達の中の一匹、その顔面にノープランの右ストレートが直撃した。
ゾンビは衝撃で遠くへふっ飛んでいった。

直後、別のゾンビのボディにノープランの左ストレートが炸裂。地面に叩き付けられた。
そのまた直後、ゾンビの顔に右ストレート、別のゾンビに左ストレート……
ノープランの拳によって、ゾンビ達が凄まじい『速度』と『勢い』で殴られ、
次々にふっ飛んでいった!


「両拳を使っての高速の連続突き……成程、これが『ラッシュ』か!」

1913話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/09/28(金) 01:44:32 ID:akra3omc0
数日前。天はスタンド研究者である望月薫に『ラッシュ』の仕方を教わっていた。
薫曰く、これはパワーやスピードのあるスタンドが使う技の一つで
これを覚えれば工夫次第でどんな敵ともある程度は戦える、とのことだった。

ラッシュをしている間は何らかの『掛け声』を叫ぶのが効果的という
薫の言葉に従い、天も何らかの声を挙げようとした……が。
スタンドのことを知らない咲良が背後に居る。ここで大きな声で何かを叫ぶのは
恥ずかしい。なので自分ではなくノープランに掛け声を叫んでもらうことにした。


『ゾンビノ皆サン、シバラク寝テテクダサイ……チュミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミ
ミミミミミミミミミミミミミmmmmmイテテテテテテ舌噛ンダ!
マスター、コノ掛ケ声ハ無理ガアリマス、チュミミーン!デモコレデ全員ッ!』


いつもチュミミーンと言ってるノープランだから、チュミミミ言いながらの
ラッシュも出来るのでは無いかと実践してみたが、『ミ』を連呼するのはキツかったらしい。
舌を噛んだ痛みが本体の天にもしっかりと伝わってきた。
「スタンドにも舌はあるんだな」と天は舌を出しながら痛そうな表情を浮かべていた。

だがゾンビ達への攻撃は無事完了したようで、襲いかかってきたゾンビは皆
ノープランの拳によって吹っ飛ばされ、公園の地面に呻き声を上げながら倒れていた。


「何とか倒したか……だけど相手はゾンビ、すぐに起き上がってくるだろうから
急いでここから離れないと……ん!?」

この場から離れようと試みる天のスマホが振動した。
画面を見るとえれにゃん☆から怒りのメッセージが届いていた。


【えれにゃん☆:このスカタンがああああああ☆!!!
よくも私の可愛いスタンドをブン殴ったわね☆!?もう許さないんだから☆
アンタもそこの彼女っぽい女も仲良くゾンビにしてやるんだから☆!!!】


文面から若干だが本性が見えて来ていた。それでも語尾に☆を付けるクセ(キャラ付け)は
徹底しているのに少し感心しながら、天はえれにゃん☆に返信した。

【天:テメーが咲良をゾンビにしようとしたからだ!お前を見つけて
絶対にギャフンと言わせてやるからな!】

天はメッセージを送信し終えると咲良を連れて再び公園の奥へ入っていった。
……決闘の終了時刻まで残り15分。天達はえれにゃん☆を見つけられるだろうか?


ブーッ
「……あら?何かしら、今の『音』?」


公園の入口から離れる最中、咲良がふと呟いた。

1923話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/10/10(水) 21:44:14 ID:iBu7knQ60
「えっ、町興しのイベント?あのゾンビ、近所の子供達のメイクなの!?」

「そうそう、ホラーで町を活性化ってことでね……」


よくもまあ、こんなデタラメを平然と言えるものだと天は心の中で自虐した。
だが流石に「スタンドという超能力で子供のゾンビにさせられている」なんて
(それが事実だとしても)何も知らない咲良に言える訳がない……言った所で
信じてもらえる訳もない。でもゾンビはしっかりと目撃されてしまった。
下手に騒ぎを拡大させず、穏便に済ませるにはこの言い訳しかないのだ。

更に天は咲良と離れることがないよう、エレナの捜索を咲良と一緒に行うことを考えた。
「今イベントの一環でかくれんぼゲームを開催していて、この画像の女の子を見つけたら
素敵な商品が貰える」とエレナの写真が映ったスマホを見せ、
咲良に「一緒に景品をいただこう!」と嘘に嘘を重ねたのだ。


急ごしらえの見え透いた嘘。だが
「素敵な商品!?参加する!不逞の輩をひっ捕らえよう!」とあっさり信じて貰えたのは
二人の絆の深さ故か、あるいは単に咲良が騙されやすい性格だからか?


「それで、この青い髪の女の子を探せばいいのね!?制限時間残り15分?
じゃあ私は女子トイレとかを探してみるわ……キャア!」

咲良がスマホを見ながら鼻息を荒くしていた時、公園の入口方面から
先ほど倒したばかりのゾンビの集団がこちらに向かってノロノロと歩いて来たのだ。
犬を連れた者、ボールを持った者、スマホをいじっている者……
それらを見た咲良は目を輝かせ黄色い悲鳴を上げた。


(やはりすぐに復活したかゾンビ共……だがノープランの能力で
俺以上の力は出ないから咲良でも抵抗は可能だろう。下手すりゃ倒せるかも。
……しかし『女子トイレ』か……確かにそこに隠れられたら男の俺では絶対に
見つけられない場所だ。一応アイツに問い質してみるか?ロクな返答は期待できないが)

天はスマホを操作するとえれにゃん☆にメッセージを送った。

【天:まさかとは思うが、女子トイレなんかに隠れてはいないだろうな?
せめて俺が堂々と立ち入れる場所に隠れて欲しいんだけど】

メッセージを送ると天は咲良に「ゾンビに捕まったら失格だからここを離れよう」といい
公園の奥へ進むよう促した。咲良は頷き、共に公園の奥へ移動しようとした。


ブーッ
「……まただ。なんの『音』なんだろう?」

1933話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/10/27(土) 02:04:49 ID:2ojY3GXw0
【えれにゃん☆:安心して☆そんな所には隠れてないから☆!でも大丈夫☆!
どう足掻いても天くんの頭では絶対見つけられないから☆!ほらほら、あと15分だよ☆
にぱー☆】


「なーにがにぱー☆だ、あのアマ……完全に勝ちを確信して挑発してやがる!」

「ところで天、さっきからスマホで何してるの?何か物凄い顔で画面を睨み付けてるけど」

咲良にそう言われた所で天は我に返った。聞けば鬼の形相でスマホを操作していたらしい。
例の女の子(ゾンビを操る黒幕という設定と咲良には言ってある)から定期的に送られてくる
挑発的なメッセージを見ていたと説明していると、ブーッという振動と共に
新着メッセージが送られてきた。またアイツからかと見てみると、
送信元はえれにゃん☆ではなく国綱からであった。

【クニツナ:兄さん大丈夫ッスか!?こっちはマグマ野郎を倒して
そっちに向かってたんスけど、途中で厄介な人?に襲われまして……
兄さん、この姐さん?どーすればいいッスかねえ? ( ;´Д`)】

メッセージには画像が添付されていた。見るとそこには、真っ赤な顔をして
スヤスヤと眠っているゾンビ雲雀の姿があった。なんでも、いきなり空から
「新しいお肉だ!」と叫びながら箒に乗って突進して来たので、咄嗟にヘブンリーで
雲雀を包み動きを封じ、シャボンの中で思う存分暴れさせた後、疲れてしまったのか
そのままシャボン玉の中で眠ってしまったとのことだ。

国綱の安否を確認出来たことに天はまずホッとした。そして
(そういえば国綱さんに雲雀さんのこと言ってなかったっけ)と考えながら
国綱に事情を説明し、【多分今も酔ってて、このこともすぐ忘れると思うんで
花見用のシートにでも置いといて下さい☆にぱー☆】というメッセージを送信した。
……送った後、えれにゃん☆の文体が自身に感染ってしまったことに気付き、苦笑した。



……あれから10分。

「咲良、そっちの自販機の裏はどうだ!?」

「ダメ、誰も隠れてない!」

「そうか……」

天と咲良はゾンビ達に追われながら公園の大半を探し尽くしていた。
ベンチ・自販機・木の繁み・遊具の中……
隠れられそうな場所は一通り見て回ったが、エレナはもちろん
猫や鳥の姿すら確認出来なかった。

(マズいぞ……残り5分!探せる所はあらかた探したがアイツの姿がどこにも無い!
奴のスタンド能力は姿を消す類のモノではないから何処かに隠れているはずなんだ!
なのに何故何処にもいない……ん?)

残り時間も僅かとなり焦りだす天のスマホがブーッブーッと振動しはじめた。
スマホを取り出すと管理人からの電話であった。

「もしもし……ええ、あと5分で公園に着く!?分かりました、お待ちしてます……
ハイ、では」

もうすぐアパートの面々が公園に来ることを知った天は更に焦った。
場所取り担当の一人がゾンビと化していたからだ。管理人達が来る前に
一刻も早くえれにゃん☆を見つけて決闘を終わらせ、雲雀の体を元に戻してもらわねば!

1943話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/11/17(土) 23:25:44 ID:ZsrNwD320

「あーっ!分かった!」

突然、咲良が大きな声を上げて何かに気付いたかのように手を叩いた。
何事かと聞いてみると、咲良は天の持っていたスマホを指差してこう言った。

「振動よ、バイブレーション!いやね、さっきから公園でブーッブーッって鳴ってたから
何の音かなーって思ってたんだけど、今天のスマホから聞こえた振動音と同じなのよ!
そっかそっか、『あの子』から聞こえて来たのね!あースッキリした!」

とびきりの笑顔で一人納得した咲良。天は「そ、そうか」と相槌を打った。
このご時勢スマホは老若男女に行き渡っており、門北にもスマホを持っている人は
沢山いる(と思う)。公園のどこかでスマホの音が鳴っていてもおかしくはない。

「ん?『あの子から』ってことは咲良、公園のどこかでスマホを持ってる奴を見たのか?」

「うん、ゾンビの中にスマホ持っていじってる子がいたの。いやよね、
イベントの最中だってのに演技もせずに自分のスマホを夢中でいじっちゃってさ」

(演技ではなく本当にゾンビにさせられた人なのだけど)と天は心の中で思った。
ホラー映画好きの咲良はその演技の出来ないゾンビに不満があるらしく、
えれにゃん☆捜索も忘れ愚痴を言い出してしまった。
こうなると語り尽くすまで止められないのは天も分かっていることなので
黙って聞いていたが、その途中で咲良は妙なことを言い出したのだ。


「……それでね、そのゾンビの子のメイクもダメだって私思う訳よ!
他の子は蛆とかも湧いてて超不気味なのに、その子だけメイクが適当というか
低クオリティなの!メイクさんが手を抜いたのかしら?ゾンビを舐めてるというか……」


……ゾンビの『メイク』が一人だけ下手。
これはどういうことだろうか?と天は思った。アレらが『ゾンビのメイクをした人間』
だという話は天が咲良に言った作り話でしかない。本当はスタンド能力で化物に変化させられた
『本物のゾンビ』なのである。故に、身体から湧く蛆も腐った肉も全てが本物で
断じて特殊メイクで変装している訳ではない。


「……そのゾンビ、どんな姿をしてるか分かるか?」

「分かる分かる!さっき写真撮ったもん!ほら、この黒髪の女の子!」

咲良は画面を指差しながら自分のスマホを天に見せた。
画面には困惑の表情を浮かべながらこちらを見つめるゾンビ達の姿があった。
その中で咲良が指差した所には、確かに背の小さい黒髪ロングヘアーの女の子がいた。

(……確かにこのゾンビだけ造詣が違う。彼女の顔には蛆や剥き出た肉は無く
目の周りがパンダのように黒くなっていて、口や額から血が流れているだけで済んでいる。
身体も蛆が湧いておらず、ボロボロの服が血液で汚れているのみだ。
逃げるのに夢中で気付かなかったが、こうして冷静に見てみると差は一目瞭然だ……
なんだ?ゾンビ達に生じたこの『差』は?)

天は画面の女の子をジッと見つめ考え込んでいた。かくれんぼには関係の無い事柄な上
残り時間も僅かで思案に暮れている暇などないのだが、そこは後先考えず生きる男・天。
自分の気になることをついつい最優先してしまうのであった。

「……!ちょっと天、またゾンビ達よ!早く逃げなきゃ……あ!」

咲良の声を聞き顔を上げると例のゾンビ達が迫ってきていた。

……その群れの中に、蛆の湧かない『スマホをいじる少女ゾンビ』もいた。

それと同時に、えれにゃん☆からのメッセージが届く。文面を見るに、
これが最後のメッセージのようだ。

【えれにゃん☆:残り5分☆もう私を見つけるのはもう無理だね☆今私の兵隊達を
天くんの所へ集めてるから、大人しくみんなに食べられてね☆バイバイ☆負け犬クン☆】

1953話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/12/19(水) 00:59:36 ID:oGXhVmtA0
(マズいッ!あのアマ最後の仕上げにかかりやがった!このままだと俺ら
ゾンビに食べられちまう!……もう決闘ごっこはやめだ、さっさと逃げよう!)

ゾンビ達の主はこの場にゾンビを集結させ、ゾンビ達に『食事』をするよう命じたようだ。
命の危機を感じた天は咲良の手を掴むと一目散に公園から離れようと走り出した……が!

『ダメダメ!逃げようったってそうは行きませんよ〜だ!』

逃げる天達の上空からキャント・ユー・セレブレイトが甲高い声を上げ手を叩き笑っていた!
さらに前方・横からもスタンドに呼び寄せられたゾンビの群れ!
……天達は四方をゾンビ達に囲まれてしまった!
人間のゾンビの他に最初に戦った子猫のゾンビ、子犬のゾンビに鳥のヒナのゾンビまで
多種多様、様々な子供ゾンビが天達を味わおうと集結していたのだ!

「ちょ、ちょっと天!この猫や犬もメイクなの?鳥のヒナにまでゾンビのメイクなんてさせて
ちょっと引くんだけど……」

流石の咲良もこのゾンビの品揃えに違和感を覚えたようで、顔を青くしながら天の後ろに回る。
恐らくかくれんぼの制限時間を過ぎた瞬間、えれにゃん☆の指示でゾンビの群れが一斉に
天と咲良に襲いかかってくる仕組みなのだろう。

(こいつら、咲良を助けた時の数倍の数がいやがる!スタンドのラッシュで
ある程度は倒せても、こんな数に一斉に襲われたら攻撃が間に合わない!
おまけに後ろには咲良!守りながら戦うにも限界がある!クソッこうなったら……)

えれにゃん☆の放った人海戦術に対抗する術が無いことを悟った天は
スマホを手にすると大急ぎでメッセージアプリを起動し操作する。

【天:緊急事態ッス国綱さん!今ゾンビに取り囲まれて喰われそうッス!
今からじゃあ間に合わないかもしれないッスけど来て欲しいッス!
場所は十本桜の南、赤い自販機のある所ッス!】

国綱への緊急援軍要請である。かくれんぼ終了までもう3分もない。
それでも大急ぎで来てくれれば間に合うかもと天は考えたのだ。
国綱のマグマをも防ぐシャボンがあればゾンビ達の猛攻も凌げる。
少なくとも咲良は公園から逃がす事はできる……そう信じた。

ブーッ
天がメッセージを送った直後、例のスマホゾンビのスマホから大きな振動音が鳴った。
少女は画面を見ると素早い指の動きで何かを操作しているようだ。

ずいぶん大きなバイブ音が鳴るスマホだなと思いながら天はいつ襲ってきてもいいように
ノープランに迎撃の態勢をとらせていた。


ピロン♪
天のスマホから音がなる。メッセージが届いたらしい。国綱さんからの返事だろうかと
スマホを見るとスタンプが一つ送られてきたようだった。その絵は。


ピンク色のカバがアッカンベーをしているものであった。


(ちょっ、国綱さん!?)天は目を見開いた。
まるで『誰が助けになんか行くもんか』と言わんばかりのスタンプのチョイスに
天は怒りを覚えた……が、その感情は一瞬で引いていく。

差出人はえれにゃん☆からだったからだ。
何故急にこんなスタンプを?と確認してみると、天は自分がとんでもないミスを
してしまったことに気がついた。


(し、しまった!さっきの援軍要請……間違えて『えれにゃん☆』に送っちまってた!!)

1963話後編 ◆PprwU3zDn2:2019/01/15(火) 03:14:51 ID:Y61lMXdg0
『キャハハハ、バーカ!慌てて送信相手もロクに見ないで送ったでしょ!カッコ悪〜い』

天達の上空でキャント・ユー・セレブレイトが手を叩きながら大声で笑っていた。
その甲高い声に加え、彼女の勝ち誇った……勝利を確信し安心しきったようなその声が、
今の天には非常に腹立たしく聞こえていた。

『コイツが幹部候補だなんてリーダーも見る目ないわねー!こんな奴問答無用で不合格よ
不合格!罰としてゾンビ達のごはんに……』

「……はぁ?」

突然出てきた『幹部候補』なる言葉に思わず天は反応してしまった。
そしてその後に続く『不合格』……自分は何か試されていたのだろうか?
不審に思った天は自然とメッセージアプリに率直な疑問をぶつけていた。

【天:待て待て待て!幹部候補って何の話だ!?】……返事はすぐに来た。

【えれにゃん☆:無論天くんの話だよ☆キミは今回の戦いぶり次第で
ディザスターの幹部になれるはずだったんだよ☆?でもこの様じゃあ合格は無理ね☆!】


……少しの間、天の口は開いたままになっていた。

骸が勝手に自分をディザスターに入れようとしていたこと。勝手に幹部候補に選ばれていたこと。
今日の決闘が自分の力を試す場であったこと。

色んな事をいっぺんに知らされた天は、戸惑いや怒り等の様々な感情を胸に抱きながら
えれにゃん☆にメッセージを返した。

【天:……アンタらのリーダーに直接言いたい事があるから
試合時間ちょーっとだけ止めてもらっていいかな?】
------------------------------------------------------------------------------------
「全く圭の奴、天下原相手に負けやがって……エレナはエレナで何処に居るんだか」

同時刻……門北自然公園にあるベンチの上でディザスターのボス・骸は
ジュース片手にボヤいていた。
圭と国綱の戦いを最後まで見る事ができず(圭の敗北は時田から聞かされた)、
天とエレナの戦いを見ようと再び公園に来てみればエレナの姿はなく、代わりに彼女が
スタンドで作った猫ゾンビ達に追われまくり、結果顔にはひっかき傷だらけ……
今日の骸は散々であった。

そんな骸のスマホに天から電話が来たのはついさっきのことであった。

「(天からだ。そういえばこないだ番号も教えてたんだった)はいもしも……」
『もしもしじゃあねーよこのガキ!!!』

電話に出た直後、スマホの向こう側から大声が響いてきた。どうやらお怒りのご様子。

『なんだ幹部って!人を面接試験みたいに試すマネしやがって!』

「ああそのことか……まあそのまんまだよ。お前はスタンド使いだし悪の素質もある。
もしエレナを倒すことが出来たら我等の組織に入る権利や我と戦う権利を……」

『そんな権利いらんって言ってるだろ!こっちは就活のせいで試験って概念が
嫌いになってんだ!今度組織に誘うマネをしたら……ん?何だ咲良……いや電話の相手に
言ったんだ。いいから俺の後ろに……』

天の怒鳴り声の後、小さな声で誰かと会話をする天の声が聞こえて来た。

「……?誰か近くにいんのか?サラ……お前のツレか?」

『……お前のおかげで無関係の咲良までゾンビに喰われそうになってんだよ!
どうしてくれるんだ!』

ああ、なるほどな。と、骸はスマホの向こうで何が起こっているかを理解した。
彼女の得意とする戦法にまんまと嵌ってしまっているのだな、と。


「なあ、今エレナとかくれんぼしてるんだろ?教えてやろうか?『今アイツが何処に居るか』」

1973話後編 ◆PprwU3zDn2:2019/03/03(日) 04:19:45 ID:FSj9nKHE0
『なっ!?なんで分かった、今かくれんぼしてるって!?』

やはりな、と骸は思った。ゾンビが蠢く中でのかくれんぼ勝負……
それがえれにゃん☆ことエレナ・マースの得意とする戦術なのだ。
となると公園で今何が起こっているか骸には手に取るように分かる。

「今お前は……『エレナのスタンド』からかくれんぼ勝負を挑まれて
ゾンビに襲われながらも必死にエレナを探すも全く見つからず、現在敗北寸前……
って所だろ?」

受話器の向こうから『見てたのか?』と聞こえてくる。
エレナは『あの頃』から戦い方を変えていないのか、と骸は昔を思い出していた。
「ゾンビを操る子供が隣町の不良共を倒した」……その噂から
スタンド使いの匂いを感じ、組織にスカウトすべく噂の主に会いに行った数ヶ月前の事を。

何処に居るか教えてやろうか。その問いに天は沈黙していた。
窮地に追い込まれてはいるが、敵に答えを直接教わるのも借りを作ったようで癪だ。
そう考えているのだろう。

ならば、と骸は答えではなく『ヒント』を与えることにした。
「……いいか、エレナはかくれんぼをする度に毎回『同じ所』に隠れる。今は公園だが、
それが学校の校舎内でも家の中でも変わることはない。……極端な話、
『砂漠のド真ん中』でかくれんぼをしてもエレナは同じトコに隠れるだろうよ」

『はぁ?場所は違うのにいつも同じ所に隠れるだと?矛盾してないか?』

「それともう一つ。エレナは非常に往生際が悪い。例えエレナを見つけたとしても
奴は平気で『しらばっくれる』。確実にエレナを見つけたという証拠を見せつけてやれ」

『いやいやいや!見つけたらそれで終わりだろう!何でしらばっくれることで勝負が
長引くんだよ!?』

受話器の向こうから聞こえてくるツッコミに骸は気持ちは分かる、と心の中で思った。
だが今までのヒントは全て事実だ。これは数ヶ月前、入団前のエレナとのかくれんぼ勝負で
敗北寸前まで追い込まれた骸だからこそ出せる『ほぼ答えのヒント』なのだ。

「……長話するとエレナが怒るかもしれないからこれで最後だ。お前、今に至るまで
エレナ『本人』と会ったことないだろ?会話はスマホかスタンドを通じての二つのみ、
エレナの顔も我が送った画像か本人から送られてきたアプリで加工しまくりの自撮り写真でしか
確認できない、違うか?……何故奴はお前に姿を見せないのか、その理由を考えるんだ。
それじゃあ、健闘を祈る」

『おい、ちょっと待……』

天の言葉を待たず骸は通話を終了させた。

(組織に来る気がないと分かれば、試験も兼ねていた今回の決闘は
さっさと終わらせるに限る。奴の力量はいずれ我が直々に測るとしよう。
なあに、時間はまだ沢山ある……ん?また着信が?)

骸はスマホに来た着信を確認すると電話に出た。
「もしもし……え?花見用の弁当を運ぶの手伝え?何で我が……分かりました分かりました!
そんな大声でゴミ虫連呼しないで下さい!今すぐ行きますから!はいはいそれじゃ」

骸は通話を終えた後、電話の相手……白雪の命に従うべく、渋々アパートへ戻って行った。
「ままならないものだな、世の中」骸は不満そうにそう述べた。

1983話後編 ◆PprwU3zDn2:2019/03/26(火) 00:25:18 ID:iIwyjmo20
(いつまで話してんだか、天くんったら)

えれにゃん☆は天が骸とスマホで話しているのを『その目』で見ていた。
彼女は天がこの場所に来てから、彼のことをスタンド越しではなく、『自分の目』で
じっと見つめていた。彼女は天のすぐ近くに居るのだ。
天が通話を終えたのはそのすぐ後であった。


「おい、ちょっと待て!……クソ、終わっちまった」

「どうしたの天、いきなりスマホで話しこんじゃって、誰に電話かけたのよ?」

「かくれんぼイベントの関係者だ……おかげでヒントを少々貰えたぜ」

「???」


えれにゃん☆は天と咲良の会話を聞き、こめかみに青筋を立てていた。

(ヒントぉ?さてはリーダーの奴、アイツに入れ知恵したわね!?ディザスターに
来る気がないからさっさと終わらせようってこと!?私の許可なく冗談じゃないわ!
リーダーは自分勝手で生意気なのよ、私より2つも『年下』の癖に!!!)

えれにゃん☆本名エレナ・マース。悪の組織(予定)ディザスターに所属。
幼い顔立ちと低めの身長で子供とよく間違われるが、実際は
Y市内の高校に通う17歳の高校生。組織のメンバー、骸・圭・エレナの三人の中では
一番の年上なのだ。


一方天は電話で貰ったヒントを咲良に伝えていた。
「フンフン……かくれんぼって今日みたいなイベントのことでしょ?
……なら簡単よ!えれにゃんだっけ?その子あそこに隠れているのよ!」

「ええ!?分かったのか!?俺聞いててもさっぱり分からなかったのに!」

「ったく、アンタって昔からこういう謎解き苦手だったもんねえ。ほら、耳貸して……
ゴニョゴニョ」


咲良が天に耳打ちで自分の考えを伝えている様子を見るエレナの顔からは
一筋の汗が流れていた。

(ほら見なさい!隣の頭良さそうな彼女に気付かれたじゃあないの!
……でも私には必勝法ならぬ『必不敗法』があるのよ!
残り時間も僅か……思い知るといいわ天くん、私の最後の秘策を……
今まで戦ってきた奴らが誰も破ることの出来なかったこの作戦の恐ろしさをね☆!)


エレナは心の中でスタンドを経由してゾンビ達に指示を送った。
『私を守れ』と。数秒後、天を囲っていたゾンビの群れはその包囲を解き
別の人物……スマホをいじっていた少女のゾンビの周りを行く手を塞ぐかのように
囲い始めたのだ。


咲良からの耳打ち、そしてゾンビ達の不自然な行動に流石の天も気が付いただろう。
自分が今まで避けてきた、なるべく会わないよう気を付けていたゾンビ達……その中に。
自分の前に立つ、スマホを無心にいじるゾンビの少女こそが。

今日自分が戦っていた決闘の相手、えれにゃん☆ことエレナ・マースだと!

1993話後編 ◆PprwU3zDn2:2019/05/12(日) 02:07:27 ID:7py7NnqY0
(咲良の言った通りだ……『ゾンビに紛れて公園を徘徊していた』なんて分かるかっての)

何処だろうと隠れる場所が同じなのはゾンビ達という『隠れ場所』を用意していたから。
天が今までエレナと対面できなかったのは『かくれんぼ開始前に既に隠れていたから』
且つ『天と会うわけにはいかなかった』から。

恐らくエレナは公園に来る前、時間をかけて体中にゾンビ風のメイクを施したり
ホラーな服を着込む等をして万全の体制でここへ来たのだろう。
そんな格好で天の前に現れれば折角の作戦が一発でバレてしまう。
故に彼女は今まで天に姿を見せることが出来なかったのだ。

ではどのゾンビがエレナなのか?
咲良は『メイクのクオリティの差がヒントになっていた』と言っていたが
正確には『人間の力とスタンド能力の差がヒントになっていた』だろう。
『本物のゾンビに変える能力』の前ではどんな精巧なメイクでも差は出てしまう。
ましてや素人の女の子が自身に施したメイクでは差は広がる一方だ。


エレナの居場所が分かった以上、もう躊躇をしている暇も時間もない。
天は咲良に合図を送るとエレナに向かって歩き出した。
『時間内にエレナを見つけ捕まえたら勝ち、捕まえられなかったら負け』。
見つけるだけではダメなのだ。彼女を捕まえ、見つけたと宣言して
初めて決闘に勝ったといえるのだ。
だが。

「い゛……行がぜな゛い゛ぃぃぃぃぃ……『女』の゛方だ……女の゛方をおぉぉぉぉ」

天の合図でエレナの元に歩き出した咲良に向かってゾンビが数体襲ってきたのだ!
恐らくエレナの指示だろう。エレナを守っていたゾンビの輪の一部が
彼女めがけて飛びかかって来たのだ。

(へへーん☆私の兵隊達は子供な見た目に反してかなりのパワーがあるの☆
力のある近距離型のスタンドには劣るけど、ただの一般人な彼女さんは満足に抵抗できずに
『食べられる』んじゃあないかしら☆さあどうする天くん、恋人ならとーぜん
貴重な時間を彼女を守るために使ってそのままTIME OVER……)

「……!咲良!子役とは言えそいつらは本気で来る!
でもまあ適当にあしらってくれ!お前なら出来る!!」

「えっ!?う、うん、やってみる」

天は咲良にこう伝えた後、すぐにエレナの方へ顔を向け歩き出した。

(はああああ!?子役じゃなくって本物だってえの!!コイツ恋人を何だと思ってるワケ!?」もう頭来た、みんな遠慮なく食べちゃいなさい☆!)

自身に噛み付こうとするゾンビの一人の肩を咲良は掴んだ。そしてそのまま
勢いよく投げ飛ばす動作を行った。
ブゥン!!!という音と共に、ゾンビは近くの草むらへ飛んでいってしまった。

(……ええ!?何であっけなく飛ばされてるの!?)

咲良は向かってくるゾンビを次々に蹴散らしていった。
……といっても、咲良はただゾンビの身体を軽く小突いたり突き飛ばしたりしただけである。
ただそれだけでゾンビ達は悉く吹っ飛ばされるのだ。

無論、咲良が異常に強いわけではない。ゾンビが劣っているのだ。

身体のどこかに『バーコード』の紋様が現れたこのゾンビ達は咲良の力より劣っている!


(今咲良と戦ってる奴らは、ノープランのラッシュを喰らわせた連中の一部だ。
あの時、ノープランで攻撃した全てのゾンビ達にバーコードを付けておいたのさ……
今のお前らじゃあ咲良には勝てねえ……俺自身、咲良には全く勝てないんだからな!)

威張ることじゃない、寧ろ情けないことを考えながらエレナの元へ着実に近づく天。
咲良に人員を割いた分守りは薄くなり、残りのゾンビも身体にバーコードがある。
捕まえるのも容易だと天は考えていた。

だがその考えは、自分の足に生じた痛みによって甘い物だと知らされた。
「ヴヴヴ……ワ゛ン!ワ゛ン!」
「オ゛アァァァアァア……ニ゛ャア゛!」

皮の剥がれたゾンビの子犬数匹に噛みつかれ、ゾンビ子猫に足を引っ掛かれたからだ!

2003話後編 ◆PprwU3zDn2:2019/06/02(日) 23:16:33 ID:KxXDTV0E0
「(まずい!この猫たちとは最初戦っていたからバーコードが付いているが、この犬達には
まだ攻撃をしていない……バーコードがついていないッ!)ノープラン、こいつらに
触れろ!引き剥がすぞ!」

『チュミッ!』

ゾンビ子犬数匹による足への噛撃。思わず体勢を崩しそうになるが何とか堪え、
発現させたノープランの素早い攻撃によってゾンビ犬達の身体に
バーコードを出現させ弱体化させた天は、足を素早く降り回し、ゾンビ犬達を
自分の足から離させることに成功した。

ホッとしたのも束の間、天の頭上からガザガザと葉が激しく揺れる音が聞こえて来た。
見るとエレナのスタンド、キャント・ユー・セレブレイトが木の枝を掴み
激しく揺らしていたのだ。直後、揺らしていた木から何かがポトポトと落ちてきて、
その内の十数個かが天の身体にくっついたのだ。

「何だ今の……細長い何かが肩や手に……痛ってぇ!」

身体に落ちてきたモノの正体を知る前に走った激痛。エレナからの攻撃と知った天は
急いで腕を確認する。そこにいたのは、天の腕を美味しそうに食べる
数匹の体の腐った『芋虫』であった!

(オイオイオイオイオイオイオイオイ何だこりゃあ……ゾンビな芋虫ってことは
元は蝶か蛾かぁ!?聞いた事がないぞ虫のゾンビなんて!葉を食べるみたいに
美味そうに俺の腕喰いやがって、急いで剥がさなきゃって痛でぇ!!!)

自分の体を貪る虫を排除すべく腕を振り回したり虫を一匹一匹摘んで
放り投げている時であった。隠していたのか、先程はいなかった犬種のゾンビ数匹に
再び足を噛まれたのだ。……足を2回も、更に腕の肉も喰われた天はたまらず
地面に膝をついてしまった。

「天!ちょっと、やりすぎよ!怪我してるじゃあないの!すぐに手当てしなきゃ……って
ちょっ、離しなさいってば!」

咲良は天の傷に気付きすぐに彼の元に行こうとするが、沢山の子供ゾンビ達に腕や足を捕まれた。
先程みたいに振り払おうとしたがここいたゾンビを総動員されては
多勢に無勢、身動きができずにいた。


【えれにゃん☆:私の勝ちね☆恋人はゾンビに捕まり、キミは手足がボロボロ
満身創痍☆そんなカラダじゃあもう私を捕まえられないでしょ☆
もう楽になりなよ☆みんなおんなじ……『ゾンビ(へいたい)』にさ☆】
(……送信っと☆)

天や咲良の姿を見ながら、ゾンビに扮したエレナは作ったメッセージを天に送った。
正体に気付かれた時は流石に焦ったが、いざという時のために造っておいた
腹ペコゾンビ犬やゾンビ虫が役に立った……間にあったのだ。
もう決闘の時間は終わり……正確にはあと1分あるのだがもうどうでもいい。

天の背後に浮かぶキャント・ユー・セレブレイトの尻尾が天に触れた瞬間、
ゲームは『天のゾンビ化』によるエンディングを迎えるのだ。

(それじゃあセレブレイト、終わらせてちょーだい☆)

キャント・ユー・セレブレイトの尻尾が天に迫る。天は痛みでそれに気付いていない。
決闘は終わりを迎えようとしていた。

2013話後編 ◆PprwU3zDn2:2019/08/12(月) 21:03:33 ID:Ef5i7fZ.0
キャント・ユー・セレブレイトの尻尾が天に触れる……その直前!!

ボヨヨンッ

尻尾と天の間にある『何か』にぶつかり、弾き返される形で天との接触を阻まれたのだ!


『ちょっ……何よこの……膜!?シャボン玉のような壁……いつの間に!?』


『よっぽど兄さんの事で頭がいっぱいだったみたいッスねぇ……兄さんが倒れた時に
とっさに張ったシャボンのバリアに全く気付いてないんだから!』

尻尾をを弾かれ慌てた様子のセレブレイトの声と聞き覚えのある男性の声が
天の背後から聞こえてくる。振り返るとそこには、自分への攻撃を阻まれ
悔しそうな表情を浮かべるキャント・ユー・セレブレイトと
その周囲を浮遊する目玉のあるシャボン玉。そして自身を覆う
巨大なシャボンであった。

「大量のシャボン玉……国綱さんか!来てくれたんスね!」

『兄さん!危ない所だった、今兄さんの背後からスタンドが攻撃しようとしてたんで
咄嗟にシャボンの一つで兄さんを包ませてもらったッス!』

目のあるシャボン玉・ヘブンリーは自身の本体である国綱の声を発した。
国綱がスタンドを通してこの光景を見ていることを理解した天は
急いで自分に噛みつくゾンビ犬を先ほどの方法で引き離した。スタンドに触られたゾンビ犬は
『足を怪我した天』と同じ状態にまで弱体化し、全員その場に座りこんだ。

「油断も隙もないなあのアマ……急いでアイツの元へってマズい!逃げようとしてる!」

何回も噛まれ、沢山の血が流れる足をなんとか立たせようとする天の視界に
入ったのは、慌てた様子で手にしていたスマホをしまい、この場を離れようと
走り出したゾンビに扮したエレナであった。


「国綱さん!今逃げてる人を!」 

「!了解ッス、兄さんを覆っているシャボンを『膨らませる』ッ!」


天を守っていたシャボンが膨らみ、人間が二人以上入れるまでの大きさになったのは
国綱の発言の直後であった。

(ッ!アイツを包んでたシャボン玉が更にデカく!急いでこの場を……キャッ!)

シャボンがここまで大きく膨らむ……その速度は流石に一瞬という訳にはいかない。
今回の場合は数秒かかってしまった……天から逃げていたエレナなら
この膨らむシャボンからは余裕で逃げれるはず……だった。

エレナがうっかり自身の履いていたゾンビ扮装用オンボロロングスカートの端を踏んでしまい、
ド派手に地面にスッ転ばなければ……この勝負はエレナの逃げ切り勝利という形で
終わっていただろう。

だが彼女は転んでしまった。ヘヴンリーは膨らみ続け、シャボンの膜は
エレナに追いつき、天と一緒にシャボンの中にスッポリと閉じ込めることに成功した。


「ゾンビに追われたり囲まれたり噛まれたりと散々だった……
これがスタンド使い同士の戦いなんだな、学ばせてもらったよ、ふぅ」


血だらけの足をなんとか立たせ、ふらつきながら……天はエレナの目の前まで歩く。
そして自分の手を……ゾンビの格好をしたエレナの肩に置いた。


「これで決着だ……隠れていた【えれにゃん☆】……みーつけたッ!!!」

隠れているエレナを見つけ捕まえたら勝ち……天は自身の勝利条件を満たすことに成功したのであった。

2023話後編 ◆PprwU3zDn2:2019/10/20(日) 00:07:12 ID:vU84l70E0
「これでかくれんぼはおしまい……なあ、そろそろ雲雀さんや公園の人達を元に戻して」

「あ゛あ゛あ゛あ゛……人間……美味じぞう゛……」

「……へ?いやいや、もう決着は付いたんでゾンビにした人達を元に戻してねと」

「い……いだだぎまずぅぅぅぅぅ……(噛み噛み)」

「痛たたたたた!俺を肩を、やめろこのアマ!……まさかコイツ!」


天が勝利条件を満たし、戦いは終わった。はずだった。

だがエレナは自身の負けを認めなかった。それどころかまるで自分はエレナではない、
別のゾンビであると言わんばかりの行動をとりだしたのだ。
他のゾンビのような唸り声を出したり人肉を欲しそうに振る舞い、
終いには目の前の肉を噛もうと試みたり……。

そう、『目の前のゾンビがエレナである』と証明しない限り、この戦いは終わらないのだ。
だがエレナと天は直接対面したのが今が初めて。貰ったエレナの自画像と比べようにも
ゾンビ風メイクで顔を覆われて上手く判別出来ない。メイクを落とそうにもこの辺りには
水道も池もメイク落としも無い。この場に審判や立会人がいれば公平に判断を下してくれるが
ここにはそんな人材はいない……!

そう、これがエレナに残された最後の「必不敗法」……要するに『すっとぼけ』である!
自分が捕まりそうになった時、又は万が一捕まってしまった時。
「自分はエレナではありません、彼女に作られたただの子供ゾンビです。あ゛ー」
的なことを延々と言っていればいいのだ。彼女の身長がゾンビ達と同等の低さ
だからこそ出来る荒技である。あとは証明に手間取る相手にゾンビやスタンドをけしかければ
詮索は中断・試合続行。上手くいけば逆転勝利すらもぎ取れるだろうという算段だ。
……だが。

「これが骸の言っていた『しらばっくれ』か……けど見分ける方法なら思い付いてるぜ」


エレナが今まで行ってきたかくれんぼには無かったモノが今回二つある。


一つはエレナと天を覆うシャボン。これがあるおかげで、エレナは対戦相手に
ゾンビを送ることができなくなっている。現にゾンビ達はシャボンの壁を破ろうと
シャボンを爪で掻いたり両手で引っ張っているが……ヘブンリーは割れないシャボン。
どうしてもシャボン壁の向こう側へ行く事は出来ない。


そしてもう一つ。
「確か『アレ』は右側のポケットに入れてたよな……ノープラン行け!」

『チュミッ!』

ノープランはエレナに接近すると彼女が履いていたスカートに付いていた
ポケットに手を入れた。急に何をするのと叫びそうになるエレナをよそに
ノープランはポケットから手を抜くと天の元に帰っていた。
彼女は気付いた。右のポケットが軽くなったことに。慌ててポケットを調べると
中は空……無くなっていたのだ。さっきまでポケットに入れたはずのモノ……
彼女にとって命より大切なもの無くなっていたのだ。そして理解した。
ポケットの中のモノをノープランに『盗られてしまった』ことを!


『マスター、アリマシタヨ例ノモノ。チュミミーン』

「おーよくやった。ってコレこないだ発売されたばかりの新型じゃん、いいなー」


(ああああああああああああああ!私の『スマホ』!なんてことすんのよあの野郎!!!!)

厳格な両親の許しを貰い、必死にバイトをしてやっと手に入れた初めてのスマートフォン。
それを天のスタンド・ノープランに盗られてしまったのだ!

2033話後編 ◆PprwU3zDn2:2020/01/27(月) 02:08:18 ID:JZfZe87o0
『人のモノは盗んじゃダメなんだぞ!だからそのスマホはその子に返しなさい!
返せッ!返せッ!返せッ!返せッ!返せッ!返しなさあああああああい!!!』

シャボンの外側でキャント・ユー・セレブレイトが必死に天に呼びかける。
天は「分かってる!後で返すからちょっと待ってろ」と己の行為に
多少の罪悪感を感じながら、エレナのスマホを左手で持つと自身のスマホを
右手を使い取り出した。自身のスマホを片手で操作をし始め、メッセージアプリを開くと
【えれにゃん☆】に向けて短い文章やカニのような髪型の女の子の
イラストスタンプ等を数回送信した。

その直後。

ブーッという振動音が数回エレナのスマホから発せられた。

彼女のスマホの画面にはメッセージが届いた旨の通知が表示されていた。


【新着メッセージ  天:このメッセージはえれにゃん☆宛に送ったものだ】

【新着メッセージ  天:つまりこのメッセージを受け取ったスマホこそ】

【新着メッセージ  天:他ならぬえれにゃん☆のスマホだということだ】

【新着メッセージ  天:もはや言い逃れはできんぞ☆】

天はエレナに向けて彼女のスマホを見せつけた。
エレナの顔が青ざめ、大量の冷や汗が流れていた。

「ついさっきまで……ゾンビ犬に襲われて倒れてた時もこのアカウントからメッセージが
送られてきたからな。【えれにゃん☆】から急にスマホを渡された、なんて言い訳も通じない……
勝負あったな」

『そ、それは……そう!決闘前に事前に渡しておいたのよ!一定時間ごとにメッセージを
送るようにって!メッセージも前もって用意してたんだから!ねーっ☆』

「ぞ、ぞの゛通り゛……ごれ゛ば私の゛モ゛ノ゛でばな゛い゛……ね゛ーっ゛☆゛」


エレナとキャント・ユー・セレブレイトは最後の悪あがきを続ける。
メッセージは事前に用意していた物というが、天からの質問にはキッチリと答え
ノープランに攻撃された際には怒りのメッセージを直ぐに送ってきた。
ゾンビ化、しかも子供に戻された人間が咄嗟に出来ることとは思えない。
さらにディザスターに属していなければ分からない幹部云々という話も
メッセージで送られてきている。
彼女の最後の言い訳は明らかに嘘……だがそれを突っ込む時間はもうない!


「……こんな手、本当は使いたくなかったけど……仕方無い、か」

天はエレナのスマホをノープランに手渡した。ノープランは彼女をスマホを
キャント・ユー・セレブレイトに見えるように掲げ、片手で軽くギュッと握った。

「……兄さんまさか」と国綱は嫌な予感を胸に、苦笑いを浮かべていた。

『ちょっと、なにするつもり……ねえったら!』キャント・ユー・セレブレイトの声は
震えていた。


「数日前なんスけどね、薫さんにノープランのこと調べてもらったんスよ。
そしたらコイツのパワーは人並み以上なんですって。脆い壁なら拳で
壊せるらしくて……だったらコレも、リンゴみたいに軽く『握り潰せる』んじゃあ
ないッスかねぇ〜〜〜なんて」

その直後であった。
彼女のスマホから「ミシッ」という音が聞こえて来たのは。

2043話後編 ◆PprwU3zDn2:2020/01/27(月) 02:08:58 ID:JZfZe87o0
「やめてええええええええええええええええええええええ☆☆☆☆☆☆☆☆!!!!!!!」



天の鼓膜が破けそうな程の泣き叫ぶ声が響いたのはミシッという音のすぐ後であった。

直後、眼から大粒の涙を浮かべたエレナが天に向かって突撃してきた。
無警戒だった天は突撃をモロに食らい、コンクリートの地面めがけて吹っ飛ばされたのであった。



「私のスマホ……買ったばっかり……壊さないで……グスッグスッ……フエエエエエエン」

「あ、あのー……エレナさん……でいいんスよね?」

ノープランからスマホを取り戻し、それを抱きしめながら大泣きするエレナに
国綱はシャボンの外側から恐る恐る声をかけた。いくら敵同士だったとはいえ相手は女性、
しかもメイクが少し落ちて素顔が見えるほど泣いている相手に
乱暴な言葉遣いは出来ない。

「ヒック……何よ」

「えーっと、途中から来たんで確認なんスけど……アンタは『ゾンビに扮して隠れていた』
ってことで、それを捕まえた兄さんの勝ちってことでいいッスね?」

「ズルいわよアンタ達……途中から2対1になるなんて……大人のクセに卑怯者…‥グスッ」

「悪の組織相手にキレイゴトだけじゃ勝てないッスよ……それに今まで『1対1+ゾンビいっぱい』
だったじゃあないッスか」

「うるさいうるさい……大人なんて嫌いだぁ……」

やれやれ、と国綱は溜息を吐いた。エレナは認め、天は彼女を捕まえた。これで決着である。
部外者である自分が決闘の最後を決めるのはどうかと国綱自身思った……が、
エレナはスマホがちゃんと動くか半泣きで確認中でそれどころではなく。

(兄さんに至ってはアレだからなあ……これじゃあ俺が何とかしないと終わらないよなぁ。
しかし今日は災難でしたね……可哀想な兄さん)

「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん」
吹っ飛ばされた後コンクリートに頭を強く打った天は、頭の周りを
小さな天使と無数の☆マークがグルグルと回る幻を見て
(今日はやたらと☆に縁がある日だ)思いながら意識を失ったのであった。


【ノープラン vs キャント・ユー・セレブレイト】
STAGE:門北自然公園

勝者……藤鳥天/ノープラン




咲良(……どーなってるのコレ???)

2053話後編 ◆PprwU3zDn2:2020/07/17(金) 11:28:35 ID:QulsmiFM0
「ううん……ええっ!もう部活始まってんじゃん、急がなきゃ!」
「ポチや、そろそろ家に戻ろうか……なんでこんな所歩いてたんじゃろうかワシ?」
「いつの間にか1時間も経ってる!?何も覚えてないんだけど、カズくんは?」
「……記憶にねえ」

今日、門北自然公園では「朝の1時間の記憶の無い人」が何人も現れたようだが
彼らがその原因を知る事は無いだろう……「子供のゾンビにされ1時間も操られていた」
などという荒唐無稽な事実を。

そしてこの女性も……今は真実を知らない。


「……っち、藤っち!」
天が夢の中で存在しない兄としていた会話は雲雀の酔っ払った声で終わりを告げた。

「あ、あれ?雲雀さん?それに管理人さんたちも」

目を覚ました時、天の周りは桜の花びらが舞い、美味そうな料理が詰まった重箱・
酒やジュース等が並べられていた。そしてそれを飲み食いし、上機嫌で
歌を歌い歓談を楽しむアパートの住民達がそこにはいた。

「あ、やっと起きた!藤っち、どっかで転んで気絶してたらしいな?
あたしもさっきまで酔って寝てたんだけどさ、目が覚めたら国っちがでっかいタンコブを拵えた
藤っちを背負ってきたからビビったビビった!でも大したことなくてよかったよ。うーい♪」

どうやら雲雀はゾンビになっていた時のことを全く覚えていないようだ……安心した。
よく見ると天の手足……ゾンビ犬達に噛まれた箇所には包帯が巻かれていた。
気絶している間に手当てを受けていたらしい。聞けば国綱も火傷の治療を施され
花見の後で匠の元で治癒を受けるとの事だった。
雲雀は「藤っちも飲もうぜ!真由美っちが追加のビール持ってきてくれたんだ♪」と
天の頬に冷えた缶ビールを酔った勢いで押し付けた。

「冷たっ!……分かりました、飲みましょう。せっかくの花見ですもんね」
「そうこなくっちゃ!咲良っち、彼氏起きたよー、一緒に飲もう!」

雲雀は天の手を引っ張り、天が気絶している間に仲良くなった咲良の元へ走った。


……こうして。メゾン・ド・スタンドの面々は毎年恒例の花見を始めたのであった。

料理に舌鼓を打つ者。酒に酔いしれる者。歓談を楽しみ歌い踊る者。

姉の膝に頭を乗せる者にそいつを赤い顔で追い払う者。



そして。住民が花見を楽しむ様子を遠くから眺める者。

2063話後編 ◆PprwU3zDn2:2020/09/22(火) 23:29:25 ID:ABYI4mGg0

「……お二人とも、実にいい顔をしてらっしゃる」

十本桜から少し離れた場所から、時田潮は双眼鏡越しに花見に興じる天と国綱を見ていた。

「いい顔っつーか、呑気だよなあ……さっきまで俺らとガチで闘り合ってたってのによぉ」
「【悪い奴にスマホ壊されかけたー!☆朝からもう気分サイアク☆】と……くすん」

その横には先ほどまで天達と戦っていた圭とエレナがいた。
圭は同じく双眼鏡で花見の光景を覗き、先程の戦いなどすっかり忘れているような
二人の浮かれ顔を見て呆れ顔を浮かべていた。エレナに至っては花見など見もせず
スマホが壊れかけた愚痴を☆を散りばめてSNSに投稿していた。

「いいではありませんか。辛い出来事は出来るだけ早く忘れ、楽しめる時はしっかりと楽しむ……
それが長生きする秘訣ですぞ、ふぉっふぉっ」

潮は双眼鏡を細かに動かしアパートの住民達を眺めていく。
管理人の真由美と彼女の昔からの友人である雲雀は共に酒を楽しんでいた。
喫茶店のオーナー匠と弁当を食べながら会話しているのはスタンド研究家の薫。
子猫と犬人の白石姉弟はしょーもない言い争いを始め、側で見ていた白雪は
その様子をにこやかに眺めていた。骸はというと弁当に入っていたリンゴをかじりながら
シートに寝転がっていた。

そんな光景を見て、潮はフフっと穏やかに笑った。
そしてふと、こんな言葉を漏らしたのだった。

「……このアパートも良い面々が揃ってきてる……『クレハ』も喜んでることでしょう」

「……クレハ?誰だいそりゃあ」

潮の声をたまたま聞いた圭は聞き慣れない名前であるクレハについて
何の気なしに聞いてみた。その時、潮の顔が一瞬だけ強張ったが圭はその瞬間の顔を
見逃していた。圭が潮の顔を見た時、表情は既に元の穏やかなものに戻っていた。

「……いえいえ、爺の知り合いですじゃ。それより皆様、爺はこれから
花見に合流する予定ですがいかがですかな、皆さんも一緒に」

「花見か?俺は興味ないからパス。エレナは……(ピロン♪)
【メイク落としたり着替えたりで忙しくなるから行かない☆】だってよ」

圭はスマホに届いたえれにゃん☆のメッセージを潮に見せる。
こうしてディザスターの面々は朝の決闘を終え、一旦解散することとなった。



「クレハか……女みたいな名前だけど、もしかして爺さんの彼女かぁ!?
……まあどーでもいいけど」

圭は公園を出る前にふとこんなことを考えたが、すぐにその名を頭の片隅にしまい、
今朝の戦いの反省会を脳内で開きながら帰路に着いた。

どうせ明日になれば忘れることだ……圭はそう思っていた。
この時はまだ。


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