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【オリスタ】FullBlackHabit 【SS】

301FBH:2016/12/14(水) 23:23:27 ID:YHD0TWRU0
 シズカが膝をついた、紳士風の男のスタンドに歩み寄る。そして3つ目。スタンドは人間の精神で操るから、ちょっとした痛みとかで、ピタリと動きが止まるし、心をへし折ればスタンドは能力も含めて無力化される。私は以前、「触れたものを炎上させる」スタンド使いと戦ったことがあるけれど、と、シズカは両腕に「スタンド」の影を纏うと、紳士風の男のスタンドの頭を掴み、そのガラス玉のような、突き出した両方の目玉に親指を捻じ込んだ。
 
 もはや悲鳴にも聞こえなかった。両生類の鳴き声のようだ。紳士風の男の動きに合わせて、スタンドも助けを求めるように、シズカの腕を掴む。それを見て、さらにシズカは親指を眼窩の奥に突き入れた。そして言った……とまあ、これくらい痛めつけると、「触れたものを燃やす」スタンドに触られても燃えなくなる。この男のスタンドも、モーションを考えると、たぶん、リザードと同じで「触れたものを何とか系」だと思うんだけど、見ての通り、何も起こらない。さて、この3つのアドバイスを要約すると?
 
 とっさに振られた俺は、深い霧の中で現実感を失っていた脳みそをフル回転させる。だがそれは答えというよりも……シズカの機嫌を損ねないための言葉だった。そうだ。彼女はずっと、そのスタンスを俺に見せていた。要約すると……「スタンドは使うな」か?

302FBH:2016/12/14(水) 23:24:21 ID:YHD0TWRU0
 シズカは笑った。他愛のない冗談を聞いた、といった具合に。あはは、それは言い過ぎだよ! 「スタンドは”戦闘ではできるだけ”使うな」だね。スタンドは驚くほど便利だけど、スタンド同士の戦いとなると話は違う。反撃と、ダメージの跳ね返りというデメリットがある。スタンドは人間ほど柔軟な性質ではないから、対策もされやすい……スタンド戦とは人間の中で最も強く、そして最も弱い心をぶつけあうこと……私が思うに、スタンドは戦いに向いてない。ただ殺したいのであればピストルの方が便利だし……人間が戦うために生まれてきたのではないように、スタンドも、そもそも違う在り方があると私は思う。まっ、それが何なのかは私にもわからないし、「群れる」性質上、戦う機会はどうしても多いけど。
 
 ポンッ、と、紳士風の男のスタンドをシズカは突き飛ばす。ずるりと眼窩から親指が抜ける。スタンドが崩れていく。枯葉が粉々になるかのように消えていく。紳士風の男が硬い硬いアスファルトの上で痙攣を始める。死が始まっていた。
 
 スタンド戦は徹底して避けるべきだ、とシズカは呟いた。鉛筆で刺し合ったり、札束で殴り合ったり、リンゴを投げ合うのが無駄なように、スタンドで戦うのは能力の無駄だ……でも戦う運命は避けられない。リザード、このアホどもみたいに簡単にスタンドなんか使ってはダメだよ。戦う時がきたら、冷静な狙撃手のように、一撃で仕留める鋭さでスタンドを使うんだ。スタンド攻撃された、なんて認識させてはだめ。次の敵はあなたの手の内を知り尽くした敵になるかもしれないから。

303FBH:2016/12/14(水) 23:25:16 ID:YHD0TWRU0
 さて、とシズカは初老の男に向き合う。さてさてさて、どうする? 重傷者がもう一名出てしまったね。でも、たぶん、クリスチャンのスタンドは一人ずつしか救えないと思う。強力なスタンドはだいたいそうだよね。そしてクリスチャンを一瞥する。どう? クリスチャンは頷き、シズカから目をそらした。
 
 やっぱりね! となると、これは難しい局面ですね。あなた方はアイラに2500万ドルをくれたけれど、その男はいくらで助けるつもりですか? もちろん、私としては、100パーセント死んでくれて構わないやつだから、死なせたいならお金は取らないよ。でも、生き返らせるつもりなら引取手数料が欲しいなあ……まあ、アイラを救うだけで手一杯だろうけど。
 いったい、と初老の男が震える声で言った。いったい我々に、何の恨みが……。
 恨みィ? とシズカが笑った。ぎひひ、恨みって、ウケるなぁ。今のはそっちから仕掛けたじゃんかぁ。まっ、恨みはない……ただ、ディアブロも言っていたけど、本当にバカみたいな疑問だよね。西洋最大級の犯罪組織を壊滅させることに、何か理由が必要なの?

304FBH:2016/12/14(水) 23:25:53 ID:YHD0TWRU0
 我々が犯罪組織であることは認めるが……なぜ我々なんだ? 我々は財団の……君の味方なんだぞ。
 シズカは初老の男を睨みつけた。明らかに声質も変わり……怒りに満ち溢れた表情を見せる。何それ、浪花節のつもり? ぜんぜん心に響かないね。父はともかく、私はあなた達を味方だと思ったことなんて一度もない。さっさと消えなよ。男の方はいらないんでしょう? あとで海に蹴りだしておくからさ、早いところ、アイラを治してアメリカから出てけ。次、ニューヨークで見かけたら首をへし折るから……っと、そうだ、忘れていたね。
 
 再び、シズカは表情を変える。フラットな、笑みも、怒りもない顔だった。シズカはジーンズからアイラのワルサーを抜いた……初老の男はびくりと震えたち、顔を青くして、額からドバっと汗を流した。しかし、シズカは意に介さず、初老の男に銃を突きつけ……くるりとグリップを回し、銃筒を握りしめて、男に差し出した。これは「返す」よ。アイラの銃だ。残弾は確認してない。受け取っていいよ。ただし……わかるね? あなたが引き金に触れた瞬間、私はスタンドをあなたの顔面に叩き込む。そんな不利な条件でもよければ、どうぞ。

305FBH:2016/12/14(水) 23:26:52 ID:YHD0TWRU0
 俺の耳には、初老の男の心臓の音が聞こえていた……俺の心臓の音だったかもしれないが。激しい息遣いで、男はシズカを睨みつける。この……小娘がっ……ジョースターの娘だからと、見逃されるとでも……!
 
 当り前じゃないですか! 私は見逃されるよ。でも、それは私がジョースターだからではないよ。あなたのボスが、私の安全に2500万ドル払ったからだよ。でもさ……ここで私が死んだら、すべてが帳消しになるとは思わない? もちろん、このグリップの中に弾が入っていれば、だけど。
 
 初老の男の、がたがたと激しく震える指が、アイラのモーゼルのグリップに触れ、不器用に巻き付き、人差し指だけが、固まったままトリガーガードの外側へと延びる。その瞬間、シズカは呟いた。ちなみに、アイラは撃ったよ。
 
 だが、初老の男はトリガーに指をかけず、力なく、ワルサーを受け取り、抱き寄せた。この恨みは……この恨みは必ず晴らすぞ、シズカ・ジョースター!
 シズカは冷たい目で言い放った。無理だね。今できたのに、しなかったんだから、この先もずうっとできないよ。そして初老の男に背中を向けて、サンドマンに向かって歩き始める。途中、呆然と裾についた紳士風の男の肉片を見つめていたクリスチャンに手を振る。クリスチャン! さっき、銃を突き付けてごめんね。なんかひどいファーストコンタクトになっちゃったけど……別にあなたに恨みはないから。今度、ちゃんとお茶でもしながらちゃんと話そうね。あっ、でも、2日後、まだここでアイラと一緒にいたら、マジで殺すからね? ばあい!

306FBH:2016/12/14(水) 23:28:23 ID:YHD0TWRU0
 クリスチャンは怯えたような顔で、その太った唇で、ああ、と言った。あ、ああ、ばあい……また会えるのを楽しみにしてるよ……ただ……俺はあまり刺激的なのは得意じゃない。色々な意味でな。気をつけて帰りな。
  
 俺は再び運転席に乗っていた。生きた心地がまだしていなかった。心臓が爆音で、俺に危機を知らせていた。目眩と吐き気がひどかった。シズカは助手席に乗り込むと、うつむいて、ダッシュボードに顔を伏せ、暗い声を出した。出して。とりあえず市内に。
 どうかしたのか、と俺はシズカに訊ねた。たぶん、本当はもっと違うことを聞くべきだった。なぜこんなことを? とか、何が起こっている? とか……そしてシズカは呟いた。いや、その、さっき思い出したんだけど、はあ……私、そういえばジーンズのお尻に穴をあけてたなあって……しかもちょうど、その……うあああ、お尻の穴、見られてたらどうしよおおおお……あんなに悪ぶってたのにさああああ、バカみたいだ、ニコのせいで台無しだよ。もおおおお!
 
 俺はギョッとして、シーっ、とシズカを黙らせる。やめろ! そういうのはここを出てからやれよ! 撃たれるぞ! それに大丈夫だって、下から見ねーとわからねーだろ、銃弾の穴なんて小さいんだから……。
 そうなんだよ! とシズカは叫んだ。そうだよ、普通は見えないよね、背中を向けたくらいでは……でもさあ、クリスチャン、しゃがんでたじゃん! ああ、ちくしょう、あれって、ぜったい、そういう意味だよねえ……別に見られてもいいけど、あの状況で見られたくなかったなあ。なんでみんなして私のお尻を……? だっさいなぁ! 戻って殺しちゃおうかな……そして俺は急いでアクセルを踏む。
 
 バックミラーの中で、初老の男は、シズカの言葉を裏付けるかのように、軽トラで走り去る怨敵をただただ見ているだけだった。

307FBH:2016/12/17(土) 19:00:48 ID:m.AMB2kE0
 ……というところで「6」はここまで。今見直すとへんな表現もありましたね。頑張りましょう。
 ここからは「6」の註釈です。読み飛ばして結構。

•『アンダー・スレット』
 No.4711のオリスタ。
 元ネタはコロンビアのメロディスティックデスメタルバンド。個人的にはとても苦手。メロディスティックもデスメタルも、メタルの中ではピンポイントで嫌いなので、好きになる要素が「なんとなくメタルっぽい」以外にない。
 今回は顔出し程度に登場させた。かなりチートなスタンドだと思う。明らかに時空間系で、能力の隙間を考えると出来ることも多いし、元のステータスだと戦闘力も成長性も高すぎる。FBHでは能力は据え置きで、ステータスとキャラクターの弱体化を行った(変なキャラにしてごめんね!)。個人的には強力なスタンドと強力なキャラクターの組み合わせが好きではない(承太郎とか)。でも、キャラクターが異常に弱ければスタンドはチート級でも別にいいと思う。オクヤス君のようなバランスのオリスタ案は増えて欲しい。

308FBH:2016/12/17(土) 19:05:49 ID:m.AMB2kE0
•ワーゲン、ダットサン、キア
 全てカーメーカー。アメリカ製も金持ち向けもない。
 ワーゲンはドイツのカーメーカー、フォルクスワーゲンのこと。どうやらFBHの世界では持ち直したらしい。ダットサンは日産のアメリカでの通称。キアは韓国の新興自動車メーカー。

・ホールデン ユート【サンドマン】
 カスタムメーカーのホールデン製、オーストラリアのピックアップトラック。名前はユーティリティ(便利)から。いわゆる軽トラだが、セダンを元にしたカスタムモデルで、走りも快適さも見た目も仕事での実用性も犠牲にしたくないという、そこそこお金のあるワガママな農業従事者(つまり農園主)に大人気。普通にカッコいいので一見の価値あり。日本では少数ながら販売されている(コルベットのエンジンは積んでないが)。ただし、サーフモデルのサンドマンは日本では売られていなかったような気がする。
 アメリカでは近年、日本のヤンキーにバンが人気なのと同じ理由でピックアップが流行っている。実用的で、たくさんものが載って、安くてカスタムの幅があり、しかもマニアに見えないから、らしい。
 
・ウェブレン材
 それそのものには価値はないが、それを持つことに価値がある、コミュニティに属している証明やステイタスになるものをウェブレン材と呼ぶ。社交界におけるアルマーニ、ラッパーの金のチェーンネックレスや、日本のマイルドヤンキーのクロムハーツや、ジョジョラー達にとっての荒木飛呂彦の直筆サインのようなものだ。
 
・トルコから南
 このルートでの旅行は現状、普通の人どころか、すごい人でも、奇妙な人でも無理。色々な事情から国境を越えるために凄まじく、そして多様なパワーが必要になる。うまくいったとしてもかなり危険だ。
 ちなみにシズカが口を挟んだマハーバードは、かつて存在したクルド人の国、現在のクルジスタン自治区大統領の父親が軍事を担っていた国と同じ名前。同じ名前とは限らないが、2020年までにクルド人の国が同地域に興る可能性は低くはないはず。

309FBH:2016/12/17(土) 19:11:46 ID:m.AMB2kE0
 •氣、道、道教
 最近、他SSでオリジナル設定はけしからん的な話があり、根本的に色々を変えしまっている当SSの作者としては、そうだなぁと思う部分はたくさんあるが、この氣や道、波紋と道教については、オリジナル設定とはちょっと違う。
 
 ジョジョ第1部連載前後の少年ジャンプは、空前絶後の適当な「なんとなく超能力理論」がまかり通っていた。日本の文化的•知識的な背景から、作家たちは主人公たちの力の性質(有名な例だと“気”だ)をそれっぽく書き、その言葉が本当はなにを意味しているのか理解しないまま、なんとなく読者に説明していた。(実際、現代日本人のほとんどは「気」を知っていると思うのだが、それが「なに」で「どこ」からきた言葉なのか、ほとんどの人は説明できないのではなかろうか?)
 
 特に影響を持ったのは道教。北斗の拳の北斗•南斗を陰陽に例えたり、氣を練りこんで放つドラゴンボールのかめはめ波であったり、当時のジャンプ漫画では例には事欠かない。 
 
 ジョジョも当初、波紋を「仙道」と呼んだり、波紋にプラスとマイナスの性質を与えたり、波紋使いの先達であるリサリサが若さを保っているなど、明らかに道教の世界観や由来を持つワードや設定を出していたが、「道教」とは名指しせず、すぐに仙道という言葉も使わなくなる。本来はこうした要素のないチベット仏教の設定を間違って入れてしまったからかもしれないし(仏教徒が目指すのは釈迦であって仙人ではない)、不老不死を目指す道教の理念はむしろ吸血鬼や石仮面に近過ぎたせいかもしれないとか、最終的に能力を極めて聖人になるみたいなビミョーな展開にしたくなかったとか、色々問題はあったのだろう。どのみち、今さら実は道教だなんて言えないし、当時のジャンプ作家は荒木先生も含め、氣や仙人の概念が中国やその辺の言葉っぽいとは知っていても、道教の概念だと誰も思っていなかったと思う(『封神演義』は別)。
 
 当SSの氣は、波紋と異なる、しかし波紋のありえたかもしれない形……アステカの吸血鬼に対抗するチベット仏教の秘術ではなく、道教を極め仙人に至るための道としての秘術として書いている。簡単には下記の通り。
① 破壊力が非常に低い(戦闘を前提としない技術体系である)
② 吸血鬼には効果を持たない(陰陽思想上、片側に寄ることはない)
③ 若返りの能力•回復力が著しく高い(不老不死が最終目標である)
④ 呼吸「歩引」ではなく、性的興奮の持続「房中」がエネルギー源である(他人を介した調和、出力ではなく持続力を重視する)
 ただし、リザードは氣の使い手としては全くの半人前で、修行の意思もないため、波紋と同等であるとか、より強力である、というような描写はしない。その力の最大表現としては、リサリサが五十代にも関わらず二十代に見えたことに対し、未修行のリザードが五十代時点で三十路程度に見える、に留める。波紋がスタンドの再現を目指した技術であるとしたら、氣は吸血鬼にならずに不老不死を目指す技術だ。

310FBH:2016/12/17(土) 19:14:26 ID:m.AMB2kE0
•スポーツ•マックス
 言うまでもなく、シズカと同系統のスタンド使い。荒木先生の世界観的に字義通りの「ヤクザ(つまり、日系マフィア)」ではないと思うのだけれど、当SSでは字義どおりに解釈した。ヤクザの囚人にも関わらず、刑務所では非常に浮いた行動を取っていた。日本流のお勤めを再現したかったのか、それとも彼の個性の問題なのかはわからない。
 スタンドパワーという問題を除けば、第6部のキャラクターの中で最も社会的なパワーのある存在であり、普通に考えればエルメェスが殺せるような相手ではない。いったいどうするつもりだったのだろう?
 エルメェスの計画がなんにせよ、当SSではシズカの行動によりスタンド能力のないエルメェスは死に、スポーツ•マックスは生きていて、あまつさえシズカと共闘していることにしている。当然、徐倫の状況も変化しているが、それは後ほど。
 
・アンクル•スペシャル
 なんだか説明し忘れていた気がする。【ナポレオン•ソロ】の元ネタはおそらくアメリカのドラマ『0011ナポレオン•ソロ(the man from uncle:アンクルから来た男)』のはず。そうでなければ、同タイトルの楽曲があるのかもしれない。
 主人公の名前がナポレオン•ソロだ。彼はアンクルという組織のスパイであり、彼の愛銃(素晴らしくカッコいい、変形するワルサーだ!)がアンクル•スペシャルという。

311FBH:2016/12/17(土) 19:21:32 ID:m.AMB2kE0
•『ホット•コフィン』
 残念ながら、このバンドには詳しくない。わかるのはFugazi系のポスト•ハードコアやパンク系のバンドであるらしいということ、そしてあまり琴線には触れなかったということだけ。
 持ち主のクリスチャン•ハンセンという名前(バンドメンバーから採った)と、外見の情報はこちらで加えさせていただいた(色々あるので、今は太っているということにしている)。葬儀屋という素性はアメリカという場にはあまりそぐわないので、仏教徒とした。
 “龍脈”とは風水の概念。古代中国では、大地のエネルギー(いろんな意味で)は、山脈の中で一番大きな山の頂上から平地の窪みへ、尾根伝いに流れると考えられており、それも龍のように『うねる』龍脈は特に良いとされていた(要は川とか水源の神格化なのだと思う)。中国龍が神龍よろしく、ぐねぐねしたり渦巻いているのは、それが吉だと考えられているからだ。中華料理店とかで、入り口前に無意味に衝立が立っているのも、まっすぐエネルギーが抜けていくのが風水的によくないから。
 元の設定では『ホット•コフィン』は龍脈の有無が効果に関わっているというが、龍脈は実体的なものではなく文化的かつ恣意的なものなので(説明文にも”霊的”とある通りの曖昧さだ。日本だと、皇居が龍脈に関わるとかね)、どのようなプロセスで龍脈を捉えるのかは頭を悩ませた。それだとあんまりにも難しいので、他の植生からエネルギーを『分けてもらっている』ということにした。その経路を龍脈ということにしましょう。
 現時点であまりいうことはないが、このあとは活躍してもらおうと考えている。

312FBH:2016/12/17(土) 19:22:19 ID:m.AMB2kE0
失礼! No.339 のオリスタでした。よろしくお願いいたします。

313FBH:2016/12/17(土) 19:24:12 ID:m.AMB2kE0
・Are,スノーデンの防諜装置
 Google『Are』は執筆中に開発中止になったモジューラーフォンと呼ばれる次世代スマートフォン。パーツの簡単な換装によるアップグレード、機能特化を特徴としていたが、採算が合わないとのことで今年、開発が見送りとなった。
 スノーデンの防諜装置は16年現在は開発中。スマートフォンはセキュリティがガバガバで、ハックされやすいという問題があり、デジタル機器による諜報や情報収集を専門とするアメリカ国家安全保障局は、この性質を利用した諜報行為(と、元CIA職員スノーデンの暴露)によって大きな外交問題を引き起こした(こんなことは他国もやっているので、外交問題を引き起こされたと言う方が適切なのだろうが)。亡命後、スノーデンは国家から個人情報を守るためのiphone用外付けキルスイッチ(電波と電源を完全にoffにできる)を開発していた。

314FBH:2016/12/17(土) 19:28:15 ID:m.AMB2kE0
次はリザードではなく、アイラとクリスチャンを中心とした戦闘の話ができればという感じです。
(シズカの話なんてオリスタ的には本旨ではないし)。
よろしくお願いします。

315FBH:2016/12/17(土) 19:41:29 ID:m.AMB2kE0
■Full Black Habit ここまでの簡単なあらすじ
2020年ニューヨーク南東部。ジョニー・オブライエン2世(通称:リザード)は、“ランドバロン”ことジョセフ・ジョースターに会う。”ランドバロン”は彼の娘である“シズカ・ジョースター”に「ある遺産」を継がせようと考えているが、そのためには彼女が隠しているスタンドの情報が必要だという。リザードはシズカのスタンドの情報を暴く代わりに、大金をもらう取引をするが、一方では “ランドバロン”の遺産を「ナチス絡みの品」だと踏み、それを更なる大金に替えられないかと考える。リザードはシズカに接触するが、彼女を狙うパッショーネの暗殺者“アイラ”と殺し合いになり……。

316FBH:2016/12/17(土) 19:45:10 ID:m.AMB2kE0
■登場人物(メインのみ)

ジョニー・オブライエン2世(リザード)
【スタンド使い】
 スタンドは人間の精神力の「皮」を盗み取るモンスター・マグネット。皮に「氣」を流すことで、簡単な命令や慣習に従って動く「人形」として動かすことができる。スタンドの基本性能は極めて低く、直接戦闘には向かない……そもそも、戦闘経験も浅い。
【氣】
 50代の彼が30代の外見を保っている秘密であり、波紋と同じようで、違う「流儀」の技術である。チベット仏教よりも道教(仙道)の影響が大きい。呼吸法ではなく、性的衝動からエネルギーを得る。ジョニーは10代の頃、生死の境をさまようほどの謎の高熱に侵される中、マスをかき続けることでこの秘術を自然と獲得し、生き延びた。そのため「リザード(マスかき)」という綽名で呼ばれる。
【戦闘傾向】
 リザードは古い時代の銀行強盗であり、現代の銀行セキュリティの専門家でもある。相手の行動を読み、罠を仕掛けることを好む。齢50を超えて頭が固くなっているのか、想定外の対処は苦手で、近接戦闘やリスクを避ける傾向がある。
 
シズカ・ジョースター
【スタンド使い】
 かつては透明化のスタンド「アクトン・ベイビー」を使っていた。ある時期からスタンドを隠し始め、今は人型のスタンドであること以外は謎に包まれているか、確証がない状態。「ランドバロン」と「リザード」の目的は彼女のスタンドを暴くことだ。
【謎】
 シズカは24歳、史学と比較文化学を専門とするコロンビア大学のポスドクであり、フランス留学中であるはずの彼女が、なぜアメリカにいて、なぜパッショーネと敵対しているのかは不明。リザードや遺産のことも知っており、スポーツ・マックスのような影のある人物とも繋がりがある様子。「ランドバロン」は彼女に「邪悪」な一面があると考えている。
【戦闘傾向】
 当SSにおいては、シズカは歴代ジョジョたちの中で4番目に背が高く、3番目に筋力があり、最も学歴が立派で、友人が少なく、ナルシストで、自分が超イケてる女だと思っている。ジョセフ譲りの狡猾さと、ジョースターらしからぬ底意地の悪さを持ち、相手の思考・行動の幅を狭め、弱らせるハラスメントを好む。格闘術を用いるのを好み、スタンドを使うことを徹底して避ける。

317FBH:2016/12/17(土) 19:46:24 ID:m.AMB2kE0
ランドバロン
【人物】
 ジョセフ・ジョースターの綽名。御年100歳だが、ひ孫(と養女)パワーで杖がいらない程度まで若返った。真偽は不明だが、世間的に、ジョセフはナチスの資産を元手に、不動産詐欺で身を起こした土地成金(ランドバロン)であると認識されている。銀行業にも手を付けており、リザードはランドバロンの銀行のセキュリティの担当者だった。
【遺産】
 ランドバロンは「ある遺産」を、ホリィや承太郎や仗助ではなく、シズカに相続させようとしているが、そのためにはシズカの「スタンド」を知る必要があるという。リザードは遺産の正体を「ナチス絡みの品」と考えているが、実態は不明。
 
アイラ
【スタンド使い】
 能力はメタ射撃の「ナポレオン・ソロ」。「エンペラー」のように銃がスタンドで出来ているわけでも、「ピストルズ」のように弾丸を操れるわけでもないが、エイのようなヴィジョンに取りつかれた銃は、リロード不要、弾丸無限、射程も長いスタンド兵器になる。スタンド使いにしか銃声が聞こえない。連射するほど威力が弱っていくため、銃弾を弾き返せる精密性、速さのある近接パワー型には弱い。
【パッショーネ】
 ジョルノと同じく、アイラは若くしてギャングに憧れ、暗殺者となった。しかしギャングの素質がなく、自分の選択を後悔している。彼女のチームはシズカの「捕獲」のために動いていたが、おそらくシズカによって、彼女以外、全員殺されてしまった。あるパッショーネ幹部の娘らしい。
【戦闘傾向】
 臆病で繊細、経験も頭の回転も足りない。射撃は非常に下手で、近距離で外すこともしばしば。初めて殺人を犯した時の相手の顔が記憶にこびりついており、頻繁に迷いが生じ、集中が途切れる。総じて戦闘に向いていないが、ギャングらしいガッツはあり、スタンドパワーにも恵まれている。

318FBH:2016/12/17(土) 19:52:49 ID:m.AMB2kE0
その他、オリジナルからの改変事項(シズカとジョセフ以外の、主に6部関連)
・パッショーネはポルナレフを通じてSPW 財団と接触、影響力を及ぼしている。
・空条徐倫は2020年現在も収監中。SPW財団が矢を制御不能な状況に置くことに反対した為、スタンドを身につける機会を失った。刑務所は暇なので、ヘソにピアスを開けているかもしれない。
・空条承太郎は上記経緯の中で、SPW財団と反目。現在の所在は不明。
・エルメェス•コステロは獄中にてスポーツ・マックスに殺害される。
・グェスは仮釈放につき出獄。
・ジョンガリ•Aは刑期満了につき出獄。所在不明。
・スポーツ•マックスは刑期満了につき出獄。シズカとは協力関係にあり、徐倫とも何らかの関係を持っているようだ。
・ケンゾーは詳細不明ながら、徐倫と面識がある様子。
・ミュッチャー•ミューラーは昇進•転属。現在はアメリカで最も重要な刑務所の一つ、コミュニケーション管理ユニットの主任。
・プッチ神父はG.D.st刑務所を離れた。何か意図があって離れたのか、それとも失意のために去ったのか、FFやウェザー•リポートは置き去りにされたのか、緑色の赤ん坊を連れているのかいないのか……いずれにせよ、天国はまだ来ていない。

319FBH:2017/10/19(木) 20:16:59 ID:HGLLwtFQ0
【時を跨いで数日後……某所にて】

ニューヨークの夜は、ビル街の放つ無数の光(どこぞの名もなき小国が一年かけて使う発電量よりも眩しい……漫画みたいな百万ドルの夜景だ!)で明け方に追いやられていた。

俺はモデルハウス然とした“黒い家”の、セレブリティの生活をコンパクトにパッケージしたような部屋の、超ラグジュアリーで腰まで沈み込みそうなほど柔らかいソファに座っている。カクテル・シュリンプを摘みながら、かつてはアメリカ海軍の情報士官だったというその女――リンジーと、気まずい時間を埋めるように映画やら音楽やらの話を、吐き捨てるように話し続けている。

パラマウントの古いホラー映画や、イギリスの古いパンクバンドについて、お互いにいくつか共有点を見出したものの、話は当たり障りがない。小舟が浅瀬を少し撫でる程度だ……やがて話題は俺たちのもっぱらの興味関心ごと……つまり本当に話したいこと……シズカの話になる。

320FBH:2017/10/19(木) 20:17:36 ID:HGLLwtFQ0
俺は軽いジャブを放つ。シズカの、あの強さの原動力はどこから来るんだろうな? それでも空条承太郎の【スター・プラチナ】の方が強いというんだから、『スタンド使い』の強さの上限がまるでわからないぞ。

彼女はカクテル・シュリンプを水気を拭うように、自分の人差し指を舐める。この“黒い家”に住む女性のうち、シズカが年齢相応に見えるのと対照的に、リンジーの年齢はまるで分らない。シズカは彼女を、大学の同級生だといった。さらに海軍の情報士官“だった”というなら、つまり退役後に大学に入りなおしたという計算になる。少なくともシズカよりは年上だが、さすがに直々に何歳か訊ねるのは気が引けた。メスティソらしからぬブリーチした金髪の下から、細い目が俺を睨みつける。最初は嫌われているのかと思ったが、数日過ごしてみて、彼女は常に目つきが悪く、だれに対しても横柄な態度をとるということがわかった。

彼女は俺の問いに応える。色々間違っているな。シズカは強くないよ。強さに対する執着は強いけどね。

321FBH:2017/10/19(木) 20:18:04 ID:HGLLwtFQ0
俺はシュリンプをチリソースに沈める。このソースは辛すぎて、すでに舌がおかしくなっているが、無言が続くほうが耐え難い。こともなげにチリソースを舐める彼女に向かい、身を乗り出して問いかける。へぇ、まずそこから間違っているとは思わなかったな。シズカが強くないだって? 人間を素手で殺すようなやつが弱いとは到底思えないが。

彼女は失笑、といった風な、アンニュイな表情を俺に投げかける。
別に特別じゃないよ、人を殺す術なんて。そもそも人間は壊れやすいからね、死ぬまで殴れば死ぬし、息が止まるまで首を絞めればちゃんと息が止まる。日常見かけないというだけで、殺そうと思えば人は簡単に殺せる……どちらかといえば、殺そうと決意する方が大変だ。

それに、それなりに訓練を積んだ軍人……いわゆる戦闘のプロから見れば、と彼女はシュリンプを揺らす……自分が戦闘のプロだと主張したいのだ……シズカの殺人術はあまり効率的ではない。徒手格闘に拘っていること自体が非効率だし、その格闘だって、腕力に頼りすぎで、見た目は派手だけどノロい。あのフィジカルへの執着には見るべき部分も多いけれど……根本的には才能がないと私は思っているよ。何年か彼女を見てきたけど、鍛えにくい能力が本当に伸びない……特に反射神経は鈍感すぎて、打撃のスキルは壊滅的だ。大体の場合は殴られてから殴り返す、って塩梅……格闘の才能はジョースター家では最下位だろうね。

322FBH:2017/10/19(木) 20:18:46 ID:HGLLwtFQ0
ここ数日間で最も手厳しいシズカへの罵詈雑言に、俺はどことなくスカッとした気分になるが……あまりにも辛辣で、この世界が少しばかり残酷になってしまったように思えた。口から自然と、彼女を庇うような言葉が溢れる。

でも頭はいいだろ? 賢さも強さの一つだと思うぞ。

ああ、賢いね。自分で自分のことを賢いと言い張れるメンタルも凄いけど、彼女の頭の良さは伊達じゃないと思う。ただ、頭の良さにも色々ある。何日か暮らしてみればわかるよ。彼女の賢さは“熟慮”とか“記憶力”に依存するもので、“回転”は驚くほど遅い。ジョースターらしい、咄嗟に第三の選択肢を出すようなワンダーなセンスを見たことはないね。あのアイラとの戦闘みたいに、誰と、どこで戦うのかわかっているような戦いならいいけど、ヨーイドンで始まるような戦いだったら、いつ負けてもおかしくないと思うよ。まっ、シズカとヨーイドンで戦える場を持つのも難しいだろうけど……。

323FBH:2017/10/19(木) 20:20:19 ID:HGLLwtFQ0
ビールを飲み干す寸前で止める。【スタンド】の話だ。ニジムラオクヤスは以前、どこかでも聞いた気がするが、それよりも、この話の文脈は、彼女がシズカのスタンド能力を知っているという示唆ではないか? だが直接に聞いては、逃げられてしまうかも……と、俺の頭の中でアルコールと数々の作戦が、嵐の海のように荒れ狂う中、口から噴き出したまともなセリフはただ一言。

それはどういう意味だ?
 
同調するようにビールに口をつけていた彼女は、そんな俺の頭の中に気づいたのか、少し逡巡したような、慎重な言葉選びで答えた……シズカはね、『ストレスを感じない』。朝も夜も関係なく無限に自分を鍛えられる。敵に勝てる可能性を0.1%上げるために何百パターンと検討できる。私たちが道義的にそんなことするか? って思うことでも躊躇なく一線を超えられる。つまり『殺す』ことに躊躇がない。人間的には壊れているといってもいいし、人から見れば『奇妙』でしかないけれど、これは間違いなく才能だよ。単に強くなることなら誰でもできるし、それはジョースター家の得意とするところだけど……ブレーキの壊れ具合でいえば、シズカの壊れ具合はジョースター家随一だよ。空条承太郎に勝てる奴なんていないけど、空条承太郎を殺せるやつがいるとすれば、それはシズカだろうね。

324FBH:2017/10/19(木) 20:22:06 ID:HGLLwtFQ0
【再び現在……】
 
土地勘のない俺は、やたらに多い進入禁止の道路を見るたびに迂回し続け、市内を遠巻きにぐるぐると回っていた。雲の裂け目が広がり、目に飛び込む光がまぶしいのか、疲れで眠たいのか、瞼が重たい。傷口がひどく痛み、気分も悪い。傷口に触れたせいで手もハンドルも血塗れで不愉快だ。シズカはなにも言わず、片手でスマートフォンをいじりながら、もう片方の手で鳩尾の傷を撫で回していた。

シズカは言った。髪切ろうかなァ。黒髪ロングストレートってアジア人とかアラブ人にはモテるけどざぁ、やっぱりダサいと思わない? 正直、無精で伸ばしちゃってるだけなんだよね。ウィノナ•ライダーみたいにしてもらおうかなぁ。

俺はついに口にする。クソったれめ。好きにすりゃあいいだろ。

シズカは、うーん、と相槌を打つ。元気だしなよ。耳たぶくらいなら元どおりにならなくても平気だって。ピアスしてないでしょう?

そうじゃねぇ。なんなんだ、クソが……ガキをいたぶって、マフィアに喧嘩売って、いったいなにがしたい? 死にたいなら一人で死んでくれ。

あらあら随分スネてるね。マフィア問題は解決したでしょう? 謝礼金も貰えるしね。半分あげるから機嫌なおしてよ。

カイケツ? 解決だと? いったいなにが解決したって……えっ、半分?

当たり前じゃん。一緒にやったんだから半分あげるよ。責任も半分あげることになるけど。シズカはスマートフォンの画面を俺に向ける。スマートフォンはクソみたいな音質で呟く……さすがコロネ兄さんは身内に優しいなぁ……。

325FBH:2017/10/19(木) 20:23:22 ID:HGLLwtFQ0
シズカがVサインを宙に浮かべ、ぐにぐにと指を折り曲げる。私がこの戦いで欲しかったものは2つ。『アイラの犠牲的な死』と『パッショーネの妥協』。この2つの情報を組み合わせるとこうなる……17歳の小娘でさえ、暗殺チームを皆殺しにした悪逆非道なシズカ•ジョースターに決死の抵抗をしたというのに、パッショーネのボスは傷も負わずに降伏したばかりか、大金を支払って許しを乞うた、とね。

……呆れるを通り越して絶望したぞ。通話録音でマフィアをゆする気なのか?

当たり前でしょう。格好のネタだよ? さっそくパッショーネの構成員と、彼らと利害関係にあるマフィアに動画と音声をばら撒いてる。アドレス教えてくれたらリザードにもあげるよ。ぜひ着メロにでも……。

いらねぇよ……だが……それでいったい何になる? 奴らの約束なんてアテにならないし、無意味に怒らせるだけじゃないのか。

なんの意味がある、ねぇ……とシズカは不気味に笑った。まぁ、おっしゃる通り、大した意味はない。でも、それってマトモなアタマと私の情報があるからそう思うだけでしょう? あいつらには、その両方ともないじゃん。

326FBH:2017/10/19(木) 20:24:07 ID:HGLLwtFQ0
シズカは自分の頭を人差し指でコツコツとたたく。俺が至らない、記憶力がないと責めているのだ。私が言ったこと、覚えてる? アイラは幹部の娘。死線の向こう側に愛娘を放り込む気持ちは私には理解できないけど、子供を殺された親の気持ちならわかる。犯人に情けをかける奴はなんであれ、絶対に許せないだろうね……例え兄弟や親友でも。

普通なら、その幹部とやらは、ボスに子供を助けられたとは考えるだろ?

普通はね。でも状況も脳みそも普通じゃないからね。その幹部は根っからの武闘派で、勝敗とか打算とかを度外視するタイプ……そもそも、この件は彼のボスと私との私闘だから、巻き込まれたとは思っても、助けられたなんて考えないよ。

私闘ってお前……ともかく、幹部同士の仲違いが狙いなら甘いんじゃないか? 血の結束は緩くないぞ。

それは、お互いが血の結束が最上だとしているからでしょう? とシズカは言った。アイラを殺したのがリザードなら、きっと上手くいかないだろうね。
 
……パッショーネのボスが、ジョースター家の血筋っていうのはマジだったのか。

あら、お父さんはそんなことまで言ってたのか。まぁ、それは事実。きっと、アイラのパパはこう思うでしょうね。こいつは親友を裏切って、身内を取ったとね。でもボスも言い返せない。私の安全に2500万ドルも払うと約束してしまった。私的な理由と臆病なミスで組織の金を使い込んだと思う奴もいれば、私を贔屓したと考える奴もいるだろうね。もちろん、私としてはどう思われても問題ない。内紛が目的だから。

327FBH:2017/10/19(木) 20:24:40 ID:HGLLwtFQ0
……金を払わなかったら、どうしたんだ?

ありえないね。ボスの気質としてもそう……かつても他人の娘を救うために死ぬ思いをした人だから。それに、仮に金を払わなかったとしたら、今度はマフィアの信義……は、まぁ横に置いておくとして、パッショーネの暗殺チームとの軋轢が問題になる。ただでさえ最近のマフィアはお金にならないことを嫌うから、暗殺チームは低く見られがちなんだけど、パッショーネのボスはことさらに腐れ偽善者で、麻薬チームと暗殺チームの削減に熱心なんだ。今回の件で私と組んで『口減らしをした』と思う奴もいるんじゃあないかな? しかも、親友の娘まで自分勝手な都合で、金の節約のために見捨てるボスのために、誰がウルトラ強い私を殺しにくるの? アイラを見捨てればならず者のスタンド使い達の大規模造反の可能性があり、私と戦うにしても頼れる駒がない。アイラを救うなら「親友の機嫌」を損ねるだけで済む――本来的には感謝されたっていいはずだ、と思うのも無理ないでしょう? 実際にはそれ以上のものを失うとしてもね。

328FBH:2017/10/19(木) 20:25:11 ID:HGLLwtFQ0
俺は紫煙に埋もれるシズカに吐き捨てる。とりあえず2つわかった。これは偶然じゃあないな。クソ計画的でヘドが出るほど悪辣な罠だ。そんでもって、君は完全にクソ悪党ってわけだ。ふざけるなよ! とんでもないことに巻き込みやがって!

シズカは声をあげて笑う。ぎひひ、まぁねぇ、確かに私、あんまり善い人間ではないかもね。そうなろうと努力はしているけれど……実を言うと、私は、人の気持ちを理解しようとか、尊重しようという気持ちが、生まれつき、他人より少しだけ欠けてるらしいんだよね……だから、リザード、あなたの戦い方は尊敬している。本当に感動したよ。アイラの通り道に罠を仕掛けられるのは、アイラの気持ちや考え方を理解できるからでしょう? 私には到底できない戦い方だよ。でも……。

あれだね、私の罠が計画的っていうのは誤解だよ。私はリザードみたいに、相手の心を読めないから、どんなに時間をかけても完璧には程遠い罠しか作れない。それでも私には私の得意がある。私はね、見え透いた罠にハマる方がマシだと思うくらいに、他人を追い詰めるのが得意なんだ。

329FBH:2017/10/19(木) 20:27:41 ID:HGLLwtFQ0
信号待ちで止まる。勝手に言ってろ、もうお前と関わるのは……と俺が言いかけたところで、コンコン、助手席側の窓が鳴る。心臓がばくんと跳ね上がり、身体が瞬時に警戒態勢に入るが……歩道に立っているのは、髪を派手に染めた、露出度の高い小太りの娼婦だった。そいつは窓も開いていないのに、こちらに呼びかける。シズカ•ジョースター?

シズカは窓を開けながら嬌声をあげる。サイリー? 久しぶり!

俺は尋ねる。誰だ? スタンド使いか?

シズカは俺の肩を強く叩く。そんなわけないじゃん。私ちょっと遊んでくるから、先に行っててイイよ。

先に行く? 何の話だ?

父さんのところに行くんじゃないの? 病院でもイイけど、簡単な治療なら父さんに言えば、準備してもらえると思うよ。そのあと、私の家まで車返しにきてよ。どこにも行く宛ないでしょう? 泊めてあげるからさ。

馬鹿にしてるのか? なんで殺戮現場に戻らなきゃいけないんだ?

馬ァ鹿、そっちは家じゃなくて学生寮だよ。私の家は別にあるから。住所は父さんには聞いてね。

冗談じゃないぜ! 言っただろ、お前とはもう……。

はいはい、とシズカは手を差し伸べる。じゃあまあ、とりあえず父さんのところに行きなよ。おつかれ、リザード。

俺は一瞬戸惑う。そしてシズカの手を握る。シズカは俺の手をぶんぶん振り回し、手放すと、ドアを開けて堂々とニューヨークの車道へと飛び出した。

330FBH:2017/10/19(木) 20:28:15 ID:HGLLwtFQ0
寒くなってきた。ニューヨークの冬は寒いと聞くが、冬が一足先にやってきたわけでもなさそうだった。路肩にサンドマンを停める。頭がぼうっとする。まだ動く気力のある方の手でアイフォンを動かす。【ランドバロン】直通のアドレスがすぐに繋がる。【ランドバロン】の乾いた、か細い、痩せた声帯から出る頼りない声が、大丈夫かと俺に問う。情報は届いている。どこの病院に駆け込んでも、わしの名前を出せばSPW財団が対応する……。

大丈夫ではないと俺は答える。それに病院に寄るつもりもない。俺は疲労と痛みで動かない手のひらを見つめる。あの握手。あれはどういう意味だったのだろう。シズカが俺のスタンド能力に気づいていないわけがない。『触れることで作動するタイプ』ということも気づいていたはずだ。だが……シズカの『皮』は手に入れた。シズカの秘密は既に手中にある。

331FBH:2017/10/19(木) 20:29:41 ID:HGLLwtFQ0
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

よくよく見れば、ニューヨーク市内では殆ど車が走っていなかった。恐ろしいほど長いバスや、自転車の列が走り回り、サンドマンのやかましいV8の轟音を訝しげな顔で見つめながら横をすり抜けていく。摩天楼以外は俺の知るニューヨークとは大きく違っていた。ともあれ、俺は再びナッソーへ向かう。ランドバロンに会うたびに。

赤信号で誰もいない交差点で待つ。ドロドロとエンジンがなる。俺考える。なぜシズカは俺に『皮』を渡した? まるで現実感が湧かない。絶対にワザとだ。それはわかる。問題は目的が一切わからないことだ。リスクしかない。

シズカの言葉が頭にこびりつく。これが俺を罠まで追い詰める作戦なのか?

信号が青になるが、俺はブレーキを踏んだまま動かない。ナッソーへ向かうゆるく長い道の後にも先にもクルマがない。仮にシズカが俺に情報を探らせているとしたら? 視界の隅、リアヴューミラーの横にドライブレコーダーがある。自動車は情報を盗みやすい。バッテリーから気づかれずに電源を張ってこれるし、数ヶ月に一回はモラリティの低い整備士に引き渡すし、家よりもセキュリティがゆるいからだ。

332FBH:2017/10/19(木) 20:30:29 ID:HGLLwtFQ0
俺は助手席側に身を乗り出し、グローブボックスに触れる。軽くノブを引くが、妙な感触や危機感はない。ブービートラップはなさそうだ。

グローブボックスのなかのそれは、大したものではなかったが、奇妙なものだった。よくある映画のマクガフィンのように、あからさまに意味ありげで、そして俺にはその意味がわからないものだ。

俺はそれを手に取る。豆クリップで留められたA4コピー用紙の束。真新しい紙の香り。シズカは二年間、アメリカにいなかった。長い間、車に放置されていたという感はない。いつの間にか後ろにいた日本製の小型車がクラクションを鳴らす。俺は慌てて助手席にそれを投げ出す。

俺はアクセルをゆっくりと踏みながら、それを横目で見る。

それはカラー印刷された『本』のコピーだった。ただ、それが本当に本なのかはわからない。ただ紐で結わえられた紙の束だったのかもしれない。

それは古いものだった。相当に古い。時代はわからないが……黄ばんで弱った紙切れに、気品のある手書きの筆記体でつらつらと大小の英語が書かれていた。それも随分と時代がかった筆記体で、『本』の表紙に当たる部分しか読み取れない。

333FBH:2017/10/19(木) 20:30:53 ID:HGLLwtFQ0
それはこう書かれていた。

『国家間における”緊急避難法”の諸条件
        ——ディオ•ジョースター』

334FBH:2017/10/19(木) 20:31:33 ID:HGLLwtFQ0
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

“ランドバロン”の邸宅に着いた時にはもう夜で、出迎えたのはハウスメイドでもランドバロンでもなく、SPW財団の医師を名乗る中年だった。彼はジョースター氏は既にお眠りになられたと言った。なるほど。で、俺にどうしろと?

彼は俺を広間のソファに座らせると、冷たく光る衣料品の数々と、ティファールの湯沸しポットと、毛布を持ってきた。横になって寝ていいですよ。麻酔打って、寝てる間に傷口を縫ってしまいますね。

俺は間接照明とふかふかのソファで早速眠たくなる。

運がいい、と医師は言った。スタンドの弾丸だと聞いてます。予後だけ考えれば、本物の銃弾よりラッキーですよ。弾が身体に残りませんからね。

ラッキー? どうだろう。今日は散々な日だ。常に死と隣接した状況だったし、マフィアに喧嘩を売ってしまうし、ガキも殆ど殺してしまったようなものだ。脳裏にアイラの無残に破壊された顔が浮かぶ。こんなこと無責任だし無意味だと知ってはいるが、彼女は無事なのだろうか? そんなわけはないと思うが、万が一ということもある。スタンド使いの暗殺者なんて、まるで漫画の世界だ。

そして俺は夢を見た。そこは大西洋の洋上で、奇跡的なほど空気が澄み、雲ひとつない夜空に星々と巨大な月が不気味に輝き、灯りのないクルーザーを照らしているのだった。

335FBH:2017/10/19(木) 20:32:46 ID:HGLLwtFQ0
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

目が醒める。はっと起き上がると同時に目眩がする。眩しく燃える世界が揺れる。どこ? 夜の気配がする。寒い。ぼんやりと、しかし確実に記憶が戻ってくる。私は……あたしはアイラだ。スタンド使い。アメリカでシズカ•ジョースターと戦って……死んだ。

そうだとするなら、ここは、地獄だろうか? 天国ではないはずだ。あたしが天国になんて行けるはずがない。辺りは激しい光で何も見えない……どこなのかわからない。『皮』のスタンド使いに潰された左目は見えないままだ。

あたしは裸だった。冷気が身体に纏わりつく。寒い。吐き気がする。
ああ、でも、やっぱり、死ぬってこんな感じだったのか。

微かに揺れていた。視界だけではなく、この私がいる世界が揺れている……船だ。この感覚はよく知っている。よく耳を済ませれば波の音も聞こえる。潮の匂い。あたしは船の中にいる! ということは……助かったの? 助かっている気がしない。内臓の中を何かがグルグルと回るような不快感があった。

よう、お嬢ちゃん、と男の声がする。か細く潜めた声だ。

声のする方を向く。真っ白な光が目に突き刺さるだけで、何も見えない。生ぬるい汗で身体が濡れるのを感じる。銃を探そうとするが……素肌に触れるばかりだ。

336FBH:2017/10/19(木) 20:33:59 ID:HGLLwtFQ0
男は叫ぶ。落ち着け! よく見りゃあわかるだろ! 俺は敵じゃねぇよ!

誰だっ、とあたしも叫ぶ。眩しくて何も見えない、どこにいる?

眩しいだって? 何を冗談を……ああ、なるほどな、まいった、そういうことか。

そして視界が開ける。
暗い部屋の中、私はベッドに横たわっていた。視界の先で、見るからに具合の悪そうな痩せた男が、ランタンに手をかざしていた。部屋の明かりはそれひとつきりで……時折ランタンから漏れる光が、私の視界を真っ白に塗りつぶす。

眩しいっ……! 誰? ここは? 一体何が……?
質問は1つずつにしろよ、と痩せた男が吐き捨てた。お嬢ちゃんは学がないな? 話の順番もちゃんと練れ。でかい話から先に始めるんだ。まずは、ここはどこか、だな。ここは北大西洋のど真ん中だ。俺たちは不本意ながらクルーザーでニューヨークを離れて、ポンタ•デルガータを経由してイタリアに行くところだった。

そして俺は誰か、だが……実は俺とお嬢ちゃんは初めましてではない。知り合って3日目だ。俺はクリスチャン•ハンセン。ニューヨークで葬儀屋をしている。君と同じスタンド使いだが、仲間でも関係者でもない。命の恩人だ。SPW財団の伝手で依頼されて、君を蘇生した男だから覚えておいてくれ。

337FBH:2017/10/19(木) 20:34:23 ID:HGLLwtFQ0
蘇生? みんなは?
君の仲間か? みんな死んだよ。
死んだって……えっ、死んだってこと?
はっ? ああ、まぁ、死んだってのは死んだってことだよ。それ以外になんだっていうんだ? 一人を除いて、みんな、あのシズカ•ジョースターとかいう変態に殺された。ちなみに君もだぞ、アイラ。君もシズカに殺された一人だ。

……何を言ってるの?
クリスチャン、と名乗る男は顔を背ける。だが、君の最後の上司は他のスタンド使いに殺された。2日前にな。哀れな奴だった。重責に似合わない結末のせいで頭がおかしくなっちまってた。俺の土手っ腹の怪我も、君の上司に撃たれたんだ。だが本当の問題は、何も片付いてないってことだ。敵はまだ、この船にいる。

何を言ってるって聞いてるんだ! あたしが死んだって、どういう……と言いかけたところで、クリスチャンがスマートフォンを私に向かって投げる。私はそれを右手で受け止める。

338FBH:2017/10/19(木) 20:34:45 ID:HGLLwtFQ0
視界にそれが映る。
あたしはスマートフォンを取りこぼす。
そしてあたしは、あたしの右手をランプの光に翳す。覚えている。あたしはシズカを殺すために、自分の指を吹き飛ばした……なのに、指があった。でも、あたしの人差し指でも、あたしの消えた人差し指でもなかった。

それは繊維質で、あたしの肌の色よりも白く、歪で、てらてらとランプの光を受けて輝き、蠢いて、伸びたり、増えたり、別れたり、縮んだりを繰り返していた。あたしの消えた指の根元から。それをあたしはよく知っていた。誰だって知っている。

それは木の根だった。先端が三股に別れ、私に向かって首を下げた。

339FBH:2017/10/19(木) 20:35:14 ID:HGLLwtFQ0
う、と言葉に詰まるあたしに、クリスチャンは話し続ける。はじめに言っておくが、俺を恨むなよ。俺は治療系のスタンド使いだが、蘇生は専門外だ。まっ、直感で「できる」とは思ってたがな……だが無事に済まないとも思ってた。道理に反することは大体そうだろ。ともかく、お前を化け物に変えると決めたのは、俺じゃない。俺の責任じゃない。俺に責任を押し付けようとした、お前のくたばった上司が全部悪い。とんでもないクソ野郎だったよ。ふつー、恩人に向かって撃つか? 死んで当然だ、ど畜生が。

あたしに、あたしに何をしたの? この指は……?
お前マジで頭悪いな。蘇生したって言っただろ。俺はお前を生き返らせただけだ。というか、俺の【ホット•コフィン】は、生き物を治すことしかできない。戦えないし、守れないし、モノは直せないし、傷口を埋めたり、遺伝性の疾患やガンを消すことも、なくなった腕を生やしたりもできないが、治せる。どうであれ、生き延びさせることだけは得意だ。死んだ方がマシとかいうなよな? 俺はこんなとこで死にたかないぜ。

だからな、俺を恨むなよ。その指のことは知らん。その顔についてもな。

340FBH:2017/10/19(木) 20:35:34 ID:HGLLwtFQ0
スマートフォンのインナーカメラで、あたしはそれを見ている。「皮」のスタンド使いに目玉を抉られたことを思い出す。正直にいえば、あまりショックはなかった。治療系のスタンドは珍しいとはいえない。どこかで治して貰えばいい、という意識だった。

でも、もう治りそうもなかった。
あたしの左目から、白い根が生えていた。ヒトデのように私の顔を半分ほど覆っている。何本かの根は私の皮膚の下に潜り込み、後頭部に向けて皮膚を引き攣っていた。

クリスチャンが言うには、それはスタンドではない可能性もある、とのことだった。寄生型や自律型のスタンドはコントロール可能なはずだが、彼にはそれができない。かといって、呪いのように本体なしでも存在できるスタンドだとも言えない。彼の元々のスタンドが、まだコントロール可能な状態で存在しているからだ。

341FBH:2017/10/19(木) 20:35:54 ID:HGLLwtFQ0
マァ、要はよくわからんってことだが、お前の上司は俺を信じなかった。いろいろが信じられなくなるのもわかるが、感謝はされても撃たれるとは思わなかったぜ。お前はどっちだ? 俺に感謝するか? それとも恩知らずにも恨むか?

……恨むなんて、とんでもないよ。
そりゃあ良かっ……

その時、暗闇から声が響いた。まるで溺れているかのような、濁ったような、響き渡るような女の声だ。良いわけないだろ? タコが。さっさとくたばっちまいな。

342FBH:2017/10/19(木) 20:36:16 ID:HGLLwtFQ0
声の出所を見る。近い。船室の出口のすぐそば。デッキの上だ。だが姿が見えない。あたしは叫ぶ。誰だっ、出てこい!

声の主はぎゃはははと笑った。
おー、いいよ、挨拶しようぜ。

そしてデッキに繋がるドアがぎいいと開く。夜空に繋がるその先から、顔がひょっこり顔を出す。

だがそれは声の主の顔ではなく、あたしがよく知る……パッショーネのアメリカでの活動を取り仕切る男の顔だった。あたしの上司だ。その頭から剥ぎ取られた皮膚が、重力で歪み、笑っているように見えた。
ご挨拶させてもらうよ、と声の主は言った。ミスター・フェイスハガーだ。お近づきの印に、ボクの大切なものをあげるよ。そして夜の黒い闇の中から、小さな何かが投げ込まれる。それは私たちの遥か手前にべちゃりと落ち、わずか転がり血の跡を残した。ボクのキンタマさ! 仲良く2人で分け合って食べなよ!

343FBH:2017/10/19(木) 20:37:13 ID:HGLLwtFQ0
ぷつん、とあたしの頭の中が弾けて、どろどろとした何かが意識の中を流れ始めた。堪え難いほど熱かった。

このクソアマっ、よくもっ! と甲板に向かってあたしは走り出す。

344FBH:2017/10/19(木) 20:37:55 ID:HGLLwtFQ0
それはもう、完全に俺のスタンドではなかった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

ヒッピーの親父の影響で、俺の人生は宗教か宗教的なものでぎっしりと敷き詰められていた。周囲は俺を変態扱いしたし、実際、多少変態だったのかもしれないが、別に不幸ではなかった。俺は人と比べて特別頭がいいほうではないが、人よりも幸福とか人生とか魂とか死後の世界とか、そういうものを考える余裕を随分と与えられた。攻撃的で進歩的なこの世界とは無縁に生きられた。
人と違う能力があり、その中でも特に親切なスタンドを持っていたことに気づいた時も特別不思議ではなかった。むしろ、俺の人生に欠けていたピースが埋まったという感覚で、それでどうこうとは思わなかった。

【ホット•コフィン】は癒しの力だ。万能でも完璧でもないが無理なことも少ない。粉々になったり完全に失われたり初めから存在しなかったものはどうともならないが、死なせないことにかけては無二の能力だと思うし、やらない方がいいということも分かったが生き返らせることもできる。

345FBH:2017/10/19(木) 20:38:21 ID:HGLLwtFQ0
かわいそうなアイラに取り憑いた何かは、俺の親切なスタンドとは似ても似つかぬ凶暴な動きを見せた。クソ野郎の小さなキンタマの中身がべちゃりと床に叩きつけられた瞬間、その目玉から吹き出した木の根がツノのように尖り、デッキに繋がるドアを指差した。アイラの表情に現れた憎悪を更に歪めるように、顔に食い込んだ根が皮膚の下で激しくうごめいていた。

俺はとっさにスタンドを放ち、アイラの素足を絡みとる。ギシリと「ホット•コフィン」の根が千切れ、生き返りたてのアイラは勢いよくすっころび、あられもない姿で床に這いつくばるが、若い女の股座に注視している場合でもなかった。

346FBH:2017/10/19(木) 20:38:54 ID:HGLLwtFQ0
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

あたしはデッキへの戸口に立つ、その何かを見た。

あたしの上司の生皮をかかげ、だらしなくしゃがみこむそれは、女のフォルムをしていた。柔らかい曲線。乳房が見える。そしてあたしに向けられた、あたしのアンクル•スペシャルの銃口も。

ばぁか、とそいつは言った。そいつは人間じゃなかった。一目でわかった。まるで内側に吸い込まれるかのように顔が捻れ、目も顔も何もかも正しい位置になく、ぐるんぐるんと激しく動き回っていた。

ただ、1つだけわからなかった。そいつはスタンドでもなかった。スタンドにしてはあまりにも「現実味」がありすぎた。スタンドらしい吹き出すエネルギーも、幽霊のような透明な存在感もなかった。

銃声が鳴り響くと同時に、身体がコントロールを失い、身体が前のめりで床に叩きつけられる。ほとんど本能的に、あたしはごろごろとフローリングを転がり、そいつの射線から離れる。

347FBH:2017/10/19(木) 20:39:24 ID:HGLLwtFQ0
どん、とアンクル•スペシャルの聴き慣れた銃声。それと同時に、ワックスで不自然なくらいテカテカとは光るフローリングが弾ける。

あたしは唸る。なんだ、あいつはなんだ、なんであたしの銃を持っているんだ!

落ち着け! とクリスチャンは叫んだ。あいつがお前の上司を殺ったやつだ。3な日前に突然、この船に現れやがった。だが見たはずだ。奴は人間でもスタンドでもないし、銃を持っている。不用意に近づくな。

あたしはクリスチャンの目を見る。怯えた目だった。あいつはなんだ、あの見た目は……。

クリスチャンは言った。
決まってるだろ、あいつは【悪魔】だ。
【悪魔】? 何かの比喩?
違う、本物の【悪魔】だ。じゃなきゃ妖怪か神だな。どのみち人間でもスタンドでもないのはわかるだろ。【悪魔】だから奴は船室に入ってきて、俺らを殺せないんだ。
マジであんた何言ってるの?
マジで俺は何言ってるんだろうな? ホラー映画の脇役の気分だよ。奴は日中は外にいないんだ。夜中はランタンの光が届かない場所からこっちを見てる。そして俺らを殺そうとしていて、君がそれを信じないなら君は死ぬ。

348FBH:2017/10/19(木) 20:40:04 ID:HGLLwtFQ0
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
アイラはデッキへの扉を見て叫んだ。
てめーは誰だっ!

あまりにもバカバカしい質問だったが、戸口の外の悪魔は例の不気味な声で返答をよこした。あたしが誰かなんてお前にゃあカンケーねぇだろ。ほら、射線に出てこいよ、戦おうゼェ。

スタンド使いか?
うるせぇよ。試してみりゃあいいだろ。
なるほど、そりゃあそうだね。

アイラは言った。
クリスチャン、あなた、あたしを生き返らせたって言ったよね?
俺は答える。ああ、そうだが……。
なるほど。じゃあもう一度くらい死んでも大丈夫だね。
はっ? いや、そんな話では……!

そしてアイラは射線と頭の間にある長い長い空間を、クロスした腕で遮りながら走り出した。そして痛々しい銃声が、耳を劈いた。

349FBH:2017/10/19(木) 20:40:44 ID:HGLLwtFQ0
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

心臓が馬鹿みたいに高鳴っていたけれど、破れかぶれというわけでもなかった。あたしのアンクルスペシャルは豆鉄砲だ。当たれば痛いし最悪死ぬけれど、絶対に死ぬわけでもないし、死んでもどうにかなるし、死んでも絶対殺してやる。

銃弾が皮膚を突き破って体に留まる。
腕の骨を打ち砕く。
ジッパーを裂くように頬を切り刻む。
でもデッキをつなぐ階段を駆け上って、あたしのアンクルスペシャルの銃身をひっ掴み、その不細工な面に頭突きを食らわせるまでは、たったの3発しか撃たれなかった。

うげぇっ、とうめき声をあげて、そいつは仰け反るけど、銃を手放さない。手放したら死ぬことを知っているからかもしれない。

離さないか、じゃあ、しっかり持ってろよ、とあたしは言い、そいつの膝を踏み砕いた……つもりだった。そいつの膝がぐにゃりと逆関節に折れ曲り……デッキの下に沈み込むまでは。

ずぶりとデッキに埋まるように沈むそいつに身体を引き寄せられ、あたしはデッキに両膝をつく。弾力のある木の感触が膝の皿に響く。そいつは言った。お前こそ、しっかり持ってろよ。

あたしはわずかに月明かりに照らされた、暗褐色の木のデッキの下から、そいつの足が飛び出して、あたしの視界を覆い尽くすのを見ていた。首の骨がみしりと軋んだ。

350FBH:2017/10/19(木) 20:41:35 ID:HGLLwtFQ0
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どうやら半日ほど眠っていたらしい。
目覚めると”ランドバロン”が窓のそばで、暗い夜の先をじいっと眺めていた。まるで自分が死んだ後のことでも考えているかのように、深刻な表情で。

ああ、失礼、何時ですか?
夜中の2時じゃ。まぁ仕方あるまい。怪我もあれば麻酔まで効かせてたからの……大変なことに巻き込んでしまってすまない。
いや、まったくですね……。

ランドバロンは、ショットグラスにウィスキーを二杯つぐと、片方を俺の元に運び、不安そうに震える手付きで差し出した。俺はソファに寝転がったまま、それを受け取る。

娘は……シズカは元気だったか?
元気どころではないですね。彼女は……正気じゃない。こんなシンプルな言葉で表現していいのか迷うほどですよ。

何があったか、話してもらえるか?
何があったか? 色々ありすぎて俺にも全部はわかりませんよ。アパートで彼女に会ってすぐに……パッショーネの殺し屋が襲ってきた。女の子の……若い、スタンド使いの殺し屋でした。シズカはそいつを素手で殴り殺したんですよ。俺の目の前で。

ランドバロンは呆けたような顔で、中空を眺めていた。そうか……殺すというのは、あの殺すという意味であってるな? やれやれ、なんてことだ……他には?

パッショーネの連中との交渉……というか、シズカからパッショーネへの脅迫と強請がありました。よくはわかりませんでしたが……掻い摘むと、今まさにパッショーネと戦っていて、優勢にことを進めているみたいでしたね。
パッショーネと? 何のために?
知りませんよ。かなり計画を持って進めているように思いましたが……。
シズカは今どこにいる? なぜアメリカに?
……知りませんよ。
何もわからずに怪我だけして帰ってきたのか?
はぁ、酷い言い草ですね。あなたのクソ忌々しい娘さんのせいで怪我したんですよ。どう育てたらあんな売女になるのか不思議で仕方がないですね。まぁ、今となってはどうでもいいですけどね。もう仕事は終わりだ。
なんだと? 投げ出すのか?
投げ出す? 俺は終わりだと言ったんですよ。俺はビジネスマンです。仕事を途中でやめたりはしない。

351FBH:2017/10/19(木) 20:48:06 ID:HGLLwtFQ0
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流し込まれた“氣”が、シズカの薄っぺらな皮の中を満たしていく。体の中心から指の先までピンと張りつめて人の形を成す。だがその瞳はどこか本物の人間と違う。かつて若気の至りで『皮』の人形と「やろう」とした時、どうしても俺はその眼が不気味で勃たなかった。

リザード……それは波紋じゃないか!
知りませんよ。シズカにも同じことを言われましたけど、どうでもいいでしょう? この仕事が終わったら二度と関わることもない。スタンドの説明もしませんよ。ただ黙っててください。余計なことをすれば、何が起こるか俺にもわからないんですから。

シズカは俺の目を見て、瞬きをし、眠たげな声で話しかける。あれ? リザード?

ああ、と俺は答える。そうだ。
そうだろうね。よかった、間違いじゃなくて。私になにか用事?
シズカの『皮』が微笑む。俺も釣られて微笑むが、その笑顔になんの意味も込められてないことを知っている。『皮』たちは直前の記憶がないから、現状に対して最も無難な態度……楽しさを表現するだけなのだ。
まぁな。用事というより質問なんだ。お前のスタンドについてなんだが……。

シズカはニヤリと笑った。これは無難な微笑みとは違った。
ああ、わたしのスタンド能力が知りたいの?
俺は僅かに冷や汗をかく。これはパターンの外だ。質問を先読みされている?ともあれ他に選択肢はない。そうだ。お前の能力は一体何なんだ……?。

だがシズカは、もちろん教えないよ、と一言だけいうと、自分の顔を抱えるように、両手を交差させて自分の顔に触れ、その親指を眼にねじ込んだ。皮の人形はパンッ、と音を立てて、目玉の穴から四方八方に裂け、愕然とする俺を残したまま、弾け飛んで消えた。

そんな馬鹿な、と俺は叫んだ。こんなこと、ありえるはずがない。

“ランドバロン”は今にも失禁しそうなほどの慌てぶりで、シズカの皮の破片の周りをグルグルと回る。おいおい、わしの娘が現れたと思ったら破裂したぞ! どういうことなんだ? 何がしたかったんだ? 説明しろ! どこからが能力で、どこからが事故なんだ?

イカれてる! 俺のスタンドは意識の反映なんだぞ! ありえないのは自分のスタンドを自白しなかったことじゃない、俺が皮を奪う直前に、スタンドを俺に聞かれたら自分の両目を潰すと決意してたことだ! 自分がスタンドの偽物じゃなかったら失明していたのに……!

なんか不思議なスタンドだねぇ、とシズカは言った。ここにいるはずのないシズカが。俺とランドバロンが振り向くと、シズカ•ジョースターがウィスキーの瓶を片手に、ショットグラスを煽っていた。

352FBH:2017/10/19(木) 20:49:35 ID:HGLLwtFQ0
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最後に見た時と違った姿だった。
際どいチュートップの服装は変わらなかったが、穴の空いたストレッチジーンズはホットパンツになり、長いストレートの黒髪は極端に短く、前髪はアシンメトリーにセットされ、町長部は現代彫刻のように捻れたままハードワックスでセットされていた。頭の左半分に至っては殆ど刈り上げだ。アジア系の可愛らしい女学生というよりは、スラムのギャングか娼婦といった風態だった。

昔から思ってたんだよね、なんで幽霊って服を着ているんだろうって。だっておかしいじゃない? 服は生きても死んでもいないんだから、普通に考えれば全裸の幽霊しかいない気がするんだ。でもリザードのスタンドも、私の魂的な部分を衣服ごと再生しちゃうんだねぇ。なんでだろう。人間って自分の身につけているものも含めて自分だって思うものなのかな?

お前、いつの間に……と叫びかけた俺を制止するように、ランドバロンも叫んだ。おお、おお! シズカ! 久しぶりじゃなぁ! また美人になったんじゃないか? お母さんにそっくりじゃ!

父さん、久しぶりだね。あと、お母さんと血は繋がってないから……ああ、そうだ、お土産持ってきたよ、とシズカは天井を指差した。【ピンクダークの少年】第8部の英訳済のやつ。書斎に置いといたから。

おお、英訳版がもう出たのか。
まさか。私が英訳して製本したの。
ほー! すごいなぁ! ずいぶん手間かけたな。
すごいでしょ。父さんがタブレットで読むなら英訳だけで済むのにさ。
でも紙が好きなんじゃよ。どうだった? 八部はよかったか?

シズカは腕を組んで、曖昧な笑みを浮かべる。うーん、超微妙。でも露伴じゃなくて編集とファンのせいだと思うね。そもそもさあ、第四部が面白かったのってサスペンスであって、日常ものと超能力バトルの掛け合わせじゃあなかったと思うんだ。事後的に似たようなジャンルの作品が流行ったからってテーマを焼き直してどうするんだろう。毎回全く毛色が違うから面白いのにさ。舞台まで同じじゃあねぇ……。
えー、わしは第四部好きだったけどなぁ。
私もそうだよ。でも大事なのは作品のテーマ、何を伝えたいか、でしょ? なんていうか、第四部まではいわばスーパーマン的な正義とはなんぞやみたいな話だったけど、第五部以降はバットマン的な美学の話だったじゃない? どっちがいいかは好みの問題だけど、八部はどっちかとかそれ以前に、テーマそのものを感じられないんだよね。たぶん露伴も乗り気じゃなくて、とにかくシリーズを書いてるだけって感じなんじゃないかな。もともと第七部もさ、最初はピンクダークの少年ってタイトルから離れてたんだし……。
うっ、なんだか話が危険なゾーンに入ってきてる気がするの……。
うーん、まぁ、そうかも、でもあれだよ、性格も生き方も嫌いなんだけど、顔は好みだからついつい体を許しちゃし、なんだかんだそこそこ気持ちいい、みたいなところはあるから、うっかり私も読んじゃってるんだけどね……。

353FBH:2017/10/19(木) 20:50:27 ID:HGLLwtFQ0
俺は場の微妙な空気に耐えかねて叫ぶ。お前らマジでなんの話をしてるんだ!
シズカは手を叩いて俺を見た。ああ、そうそう、本当は久しぶりのニューヨークで色々遊ぼうかなと思ってたんだけど、なんとなく気になって来ちゃったんだよね。本当にリザードの力って、私のスタンド能力を暴けるようなもんなのかなぁってさ。

お前、やっぱり知ってて、俺に『皮』を……。
もちろん。やろうと思っているコトの大きさを考えれば、どのくらい脅威かどうかは知っておきたかった。オリジナルな両目を失うリスクがあってもね。

シズカ……とランドバロンは呟いた。弱々しい声で。お前についてよくない噂を聞いた。人を殺したそうじゃないか。わしはそれを責められるほど無垢ではないが、恐ろしいと感じるよ……。いったい、今までどこで何をしていた? 何が目的でディアブロと戦っている?

父さん……それってわざわざ聞くようなコトなのかな? とシズカは言った。まぁそんなコトだろうと思って、ヒントを持って来たよ、とシズカは、テーブルの上に無造作に置かれていた紙束を丸めると、テーブルから腰を上げて、ゆったりとランドバロンに歩み寄り、それを差し出す。俺はそれを知っているが、ランドバロンは何も知らなかったらしく、額に恐ろしい量の汗を浮かべた。

……ディオ•ジョースター! そんな……。
まさにその人だよ。ヨーロッパ中を探し回ることになるんじゃないかと思ったな……彼の二つの論文、歴史学専攻だったジョナサンに触発して書かれた『ラムセス二世』がフランスで書かれたことは知っていた。もしかしたら『国際法における緊急避難法の諸条件』もフランスに渡ったんじゃないかなと思ってたんだ……彼が30年前に、エジプトまで持ち出したのではない限りね。

シズカは踵を返し、数年前からの模様の変化を楽しむように部屋中をうろつきまわる。いい論文だったよ。緊急避難法……自分の命を救うために、他人の命をどこまで犠牲にできるのか、その罪は罰されなければいけないのか……それを国際法の枠組みで考えられないかなんて、私は法律は埒外だけど、第一次世界大戦前の目の付け所としては斬新じゃあないかな。国連まで射程に収めている気がする。何も知らない人が読んだら、平和主義者だと思うだろうね。もっとも、ディオにとって緊急避難は生き方そのものだったのかもしれないけど。

……ここでその話はするな、なぜお前がこれを知ってるのかはこの際は聞かん。だが二度と……。

二度と彼の詮索はするなって? でも、気にならないってのも無理でしょ、「アレ」は私が貰うんだから。

そして静寂が訪れる。
どこまで知っている?
……さぁねぇ、どう思う?
シズカ……お前は何もわかってない。何も知らないんだ。アレは……。
でも、私はディオと違う、とシズカは言った。わかるでしょう? 【ザ•ワールド】も【スター•プラチナ】も王の能力なんかじゃあないし、ディオなんて所詮は昼間に怯え暮らす闇の王に過ぎない。でも私の【アクトン•ベイビー】は違う。「アレ」があれば私は……。

354FBH:2017/10/19(木) 20:51:07 ID:HGLLwtFQ0
ハーミット……!
と、シズカの言葉の合間を縫うように”ランドバロン”の義手がシズカに向けられる。それは俺の意表をつく行動だったが、シズカにとっては違った。シズカは”ランドバロン”のスタンドが義手から湧き出るよりも早く、距離を詰め、彼女の【スタンド】がランドバロンの義手を手刀で切り落とした。

真っ黒な彼女の【スタンド】は、シズカに切り落とした”ランドバロン”の義手を手渡すと、陽炎のようにすぐに消えてしまった。シズカは呆然とする”ランドバロン”を尻目に、その義手で自分の肩を叩き始めた。

「アレ」さえあれば私は「無敵」だ……と言いたいところだけど、正直、自信ないんだよね。「アレ」と【アクトン•ベイビー】を組み合わせても、私は、承太郎やディアブロと正面からの戦いで勝つことはできない……これはもう、予感というよりは確信だ。策は用意しているけど、よくて五分ってところかな。

でも、私はやるつもりだよ。ゼロから五分に持って行けるなら、やる価値がある。徐倫とお父さんにできなかったことを私はやる……あいつらは私が叩きのめす。

お前には渡さん! とランドバロンは叫んだ。誰がお前に邪悪な心を仕込んだのか知らないが、わしは決めたぞ! 「アレ」はお前には渡さない!

じゃあ誰に渡すの? 受け取り先もない遺産は悲しいよぉ? まっ、貰えないなら奪うだけなんだけどさっ……それに、お父さんにだって、私を邪悪だとか、とやかく言う資格なんてないはずだよ。ディアブロを野放しにして、徐倫を見捨てて、いったいジョースター家をどうするつもりなの?

何様のつもりだ! お前は……!
お前は「ジョースター」ではない?
……い、いや……。
……まっ、とにかく、これは「宣言」だよ。父さんが私をどう思おうが、私は「アレ」を貰うつもり。近いうちにね……それがジョースター再建の第一歩だ。今日の用事はそれだけ。また会いにくるよ。

そして現れた時の神出鬼没さとは打って変わって、シズカは扉を潜って姿を消した。俺に向かって、ちゃんと車は返しに来てよね、とだけ言い残して。

“ランドバロン”の客間は信じられないほど気まずい沈黙で凍りついてしまっていた。そのまま何分か過ぎた後に、”ランドバロン”は言った。

ところで、君の仕事はまだ終わっていないな。
……まぁ、そのようですが……。
であれば、何をぼさっとしている? さっさと行け、と”ランドバロン”は言った。シズカの【家】だ。場所はロングビーチだ! シルバーポイント群立公園の側じゃ! 早くせんか!
……ひと休みしてからではダメなんですかね?
……むぐっ、まぁいい! 明日の朝には向かえ!

再び沈黙が訪れる。また時間が引き延ばされる。ランドバロンは、何も聞かないのか、と俺に問う。俺は特に何も、と答える。これ以上は何が自分の生死を分ける情報なのかわからない。やぶ蛇ということもありえた。

そもそも現段階でも踏み込みすぎだった。
ディオ•ジョースターとは誰だ?

355FBH:2017/10/19(木) 20:51:46 ID:HGLLwtFQ0
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パキパキと音を立てて、あたしの頚椎が折れていく音を聞いていた。だがそれは骨が割れる音にしては、あまりにも軽かった。まるでクッキーでも割っているかのようだ。痛みもない。首だけが背骨からずれ落ちて背中側にこぼれ落ちた。

げえっ、と影が叫んだ。お前、なんで……!
あたしは自分にもわからない理由を話す代わりに行った。今度はあたしのターンだ。

不思議な感覚だった。
あんなに死ぬことや傷つくことが怖かったのに、いまのあたしといえば無敵もいいところだ。あたしは人差し指をデッキに沈み込む影に向ける。

指が花開くように弾け飛ぶ。
そうだ、とあたしは思う。あたしの見た目がどんな風になろうとも、これこそがあたしを定義づけるものじゃないか! あたしの【ナポレオン•ソロ】が、やつの脳みそを海にばらまく。

ばむん、と大きな音を立ててスタンドの弾丸がどこかへ飛んでいく。ぎゃあ、と影が叫ぶが、あたしの折れた首はそいつの惨めな姿を見ることができない。キャビンにつながる戸口で凍りついているクリスチャンを逆さに捉えるばかりだ。あたしは構わずに、やたらめったらと【ナポレオン• ソロ】をぶちまける。

痛みがない。指はどうなっているだろうか?

やがてアンクルスペシャルを捉えていた力が消えた。どこかから陰が呻く声が聞こえるが、どこからなのかわからない。あたしは自分の首をひっつかむ。折れて真後ろに倒れている。気道が押しつぶされて呼吸ができない。でも何の問題もなかった。あたしが首を元の位置に強引に捻じ曲げると、ふたたびぱきりと音がなった。それきり、後ろに倒れなくなった。

そして指を見た。
何もかもがはっきりした。
あたしの指は吹き飛んではいなかった。白い植物の根が指にまとわりついて、銃身を形作っていた。

その根の薄い肌がぐずぐずと蠢いて表情を変える。月明かりに照らされたそいつの【皺】の一つ一つに、あたしはエイ達の恐怖に慄く顔を見た。

あたまではなく、肌で理解した。これはあたしのスタンドではない。でも他の誰のスタンドでもない。あたしのスタンドはこいつと『融合』したんだ。

ハンセンの呟きが耳に届く。なんてこった、とんでもないバケモンになっちまった。
あたしも呟く。なんてことだ、あたしは……あたしは不死身になったぞ。これならシズカ•ジョースターをぶち殺せる。

356FBH:2017/10/19(木) 20:57:09 ID:HGLLwtFQ0
というわけで今回の投稿はここまで。
色々忘れていたけど、サブタイトルは『ナポレオン・ソロ VS アンダー・スレット(1)』です。
例の如く非バトルが多めですが、次回はナポレオン・ソロ中心のオリスタバトルです。
以下は別日に投稿ですが、後ほど適当に読み飛ばしてくださいね。

357名無しのスタンド使い:2017/10/22(日) 23:27:06 ID:WtxErlsE0
・スター・プラチナ、ザ・ハンド
FBHの世界ではスタンドの強さは能力の系統で決まり、空間や時間に左右するものや、人間の心に影響を与えるものは強いとされる。クリームの名前があがらないのはヴァニラ・アイスも能力も消滅しているから。
 
・通行禁止
マンハッタン(作中ではニューヨーク市内と書いてしまったがこれは間違い。まあニューヨーク市も同様の状況だが……)は例年、酷い渋滞に悩まされており、その緩和の大胆な施策の一つとして、道路から(そもそもの渋滞の原因である)車を排除する、という実験が現在も行われている。FBHの2020年では、マンハッタンの自動車利用禁止区画がだいぶ広がっている。
 
・緊急避難法
緊急避難法とは、自らの生命を守るための「抗弁」についての法律。例えば船が沈没し、1人しか乗れない筏にあなたともう一人がしがみついているとして、あなたが助かるためにもう1人を冷たい海に突き落とすのは立派な犯罪だが、「仕方がなかった」という「抗弁」が成り立つ。
FBHのディオの2つの論文は出鱈目で、片方はディオが所属していた法学部の論文、もう片方がジョナサンが関心を持っていた考古学に関する論文で、どちらも第一次世界大戦前のトレンドを意識したタイトルにしているが、特に中身は考えていない。

・ピンクダークの少年
皆さんは8部はどう受け止めているだろうか? なんとなくオリスタの住民の方々は4部が好きそうなイメージなので割と好意的に見ているのではないかと思うのだが、筆者は2部、7部の死闘感が好きなので、少しピンとこない部分がある。


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