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【P・D・D】ライジング・ストライプス −七人の守護神−【S・D・S】

287 ◆4aIZLTQ72s:2013/07/23(火) 23:56:05 ID:/gYVJ1bo0
今日はここまで。今回の話はちょっと長いです。三回に分けるかもしれません。


>>277
まるごとミルキー回ですからね。謎だらけだった瑠樹のベールをはがしていきますよ。
ちなみに、タイトルの「ミルキー・ウェイ」はトリプルミーニングだったりします。

>>278
ゲスが多いSSだって、はっきりわかんだね

>>279
まーだ終わらないですが、終盤戦に突入したのは間違いないです。
頑張ります!

>>280
ライジング版ブラックジャック先生みたいなもんです。嫌われ者ですけど。

288名無しのスタンド使い:2013/07/24(水) 07:36:42 ID:shqItODk0
うおおおこれは壮大な神話の予感……!

289名無しのスタンド使い:2013/07/24(水) 10:21:38 ID:vHSxemkM0
ふえぇ外で読むんじゃなかった、必死に涙こらえた
花鳥風月はどっち側の人間なんだろう。ランペイジを作り出す技術を持ったあっち側の人間?
じゃあミルキーとの関係は・・・話の本筋が見えたようで結構何もわからない
すべてが丸く収まった後、また何年も生き続けるのかなあ
ああもう!色々考えるとぎゅうぎゅう締め付けられる!

290第十一話 ◆4aIZLTQ72s:2013/07/27(土) 00:44:31 ID:ZNPrhvGU0
**



              ―

 
             ―――


           ―――――――


         ―――――――――――


     ―――――――――――――――――――



――時は現代に移り、1997年、中国・農村部。
環境汚染で枯れ果てた山あいに、とある村落があった。
村の住民たちはみな他所の土地へ移り渡ったため、人の気配がなく、寂れた場所だった。

その村に、都市部や外国から、数人の男たちが訪れていた。
彼らは身なりこそ金の匂いを感じさせないが、懐には大量の貨幣を隠し持っていた。
男たちは、ある古い一件の民家を訪ねた。
長い間放置され続けたために、すっかり朽ち果てた家だった。

男たちは、家の裏手側にまわり、そこで何かが始まるのを待っていた。
やがて、建物の中から、醜く太った一人の男が現れる。
男は後ろに、五人の子どもを引き連れていた。
少女が三人に、少年が二人。ぼろぼろの汚れた服を着て、「3000元」「3500元」などと書かれたダンボール製の値札を、首からぶら下げている。

彼らは、中国共産党の“とある政策”によって生まれた、戸籍を持たない者――「黒孩子(ヘイハイズ)」と呼ばれる子ども達だった。


「はいまずは女の子だよ! この子から、3000元からスタート!」

太った男は声を張り上げ、一人の少女を男たちの前に突き出した。
そう、ここで行われているのは、社会に存在を認めて貰えなかった子どもたち……彼らが商品の“競売”――。
――黒孩子の“人身売買”だ。

「3700!」「4000!」「4200!」「4500!」「4700!」

集まった男たちは、いわゆるブローカーと呼ばれる者たちだった。
ブローカーたちはそれぞれ希望する買値を提示し、少女の値段を刻み刻みに上げていく。
この中の誰かに落札されるであろう、少女の顔は沈んでいた。
もう先も何もないのだからと、後を想像することすら放棄していた。死人のような目をしていた。
意思決定の余地などなく、ただ流されるだけの――なるようにしかならない運命を、幼いながらに悟っている。

「10000!」

突然、少女の値段が大きくつり上がった。
透き通るような声で額を提示したのは、一人の少女だった。
北欧系の血も混じった東洋系の、美しい顔立ちの少女。
“商品”たちとそれほど変わらない歳に見えるその少女は、おおよそブローカーと呼ぶに似合わないなりをしていた。
そもそも最初から、この“競売”の場には浮いた存在だった。

彼女は、黒いロングコートに突っ込んだ片手をあげて、ブローカーたちの一歩前にあゆみ出た。
不敵な笑みを浮かべるその少女の名は、「ルキ」。
否、今彼女が使う名は――


瑠樹「はーい。私、この子たちを10000で買いまーす。五人全員ね」


――「阿佐見 瑠樹(あさみ るき)」。

291第十一話 ◆4aIZLTQ72s:2013/07/27(土) 00:49:16 ID:ZNPrhvGU0
瑠樹の発言に、周囲のブローカーたちはざわざわと何かを話し始めた。
不穏な空気がその場に漂いはじめ、“売り物”を連れてきた売主の男が、困惑顔で瑠樹の元へ歩み寄る。


売主「……お嬢さん、一人10000って、つまり五人合計50000元ってこと? そんな金あるの?」

瑠樹「あるよ? もう私、落札だよね?」

売主「……困るよ、どこの誰だか知らないけどさ……“競売”にはルールがあるんだよ、お嬢さん」


耳打ちされた忠告を聞いていたところで、「その通りだ」と別のブローカーが彼女に近づいた。
男はえんじ色のジャンパーのポケットに手を突っ込んで、その中でかちゃかちゃと何かをいじっていた。
瑠樹は音から推測して、おそらく折りたたみ式のナイフだろうとあたりを付ける


ブローカー「俺たちから“商品”を奪うってことが、どういうことかよく考えなよ。
      そもそも君みたいな子が、こんなところによくも一人で来れたもんだ。少しは周りを見たほうがいいぞ?」


言われた通りに周囲に視線を向けてみる。ブローカーたちは、先程までは“商品”にしか興味を示さず、
同業者たちのことはどうでもいい――そんな顔をしていた。しかし今は、彼らの視線は瑠樹に集中している。
男はまるで彼らの代表にように振舞って、瑠樹に詰め寄った。


ブローカー「浮かれてる場合じゃないの、わかってるか? そんなに“競売”に興味があるなら、
      自分が“商品”になって体験してみたらどうだ。それなら協力してやるよ」

瑠樹「アンタじゃ無理だと思うけどなぁ……」


男の脅しに顔色一つ変えず、むしろ小馬鹿にしたような態度で、瑠樹が呟いた。
挑発に反応して、男が行動しようとするより先に、瑠樹は男の耳元に近づき、ある言葉を囁いた。
しっとりと艶めかしい声で、瑠樹が楽しげに何かを伝えると、耳打ちされた男の顔がみるみる青ざめていく。
すると、「ちっ」と舌打ちをして、男はそそくさとその場を去ってしまった。
ブローカーたちは唖然とした表情で彼の背中を見送り、同時に、不安気な表情で瑠樹の不敵な笑みを見つめた。

「彼女は、男に何を言ったのか?」

男が示した反応に、残された者たちは無意味な憶測を膨らませ、不安を自ら増長させていく。
小さな疑問がそれぞれに疑心を抱かせて、こうなるともう瑠樹に対し、誰も文句は言えなくなった。


瑠樹「何してんの? “競売”はもう終わったんだよ? アンタたちも、もう帰れば」


立ち尽くす周囲にそう言いながら、瑠樹は赤い紙幣の束を売主の男に手渡した。
売主の男は当惑しつつも、しっかりと札束を受け取り、一足先にその場から立ち去った。
瑠樹は満足気に微笑んで、“買い取った”五人の子どもたちに近づき、一枚ずつ値札をはがしていく。


瑠樹「さ、町まで送るよ。ついてきて」


そう言って柔らかく笑った瑠樹は、ひとりひとりに安心を与えるように、子どもたちの頭を撫でていった。

292第十一話 ◆4aIZLTQ72s:2013/07/27(土) 01:03:26 ID:ZNPrhvGU0
**



バンに乗せられて、黒孩子の五人は山を下ったところの町へと連れられた。
それなりに人も多く、活気のある町だった。
生まれたときから存在をひた隠しにされてきた子どもたちにとって、それは初めて見る景色。
自分たちと変わらない歳の子供が、怯えたりせず、暗がりに隠れたりせず、太陽の下を堂々と歩いている。
それは今までの常識をひっくり返すような光景で、五人にショックを与えた。
こういう自由な生き方も、世の中には存在した。その事実が、幼い傷心に塩を塗るようだった。


瑠樹「ついたよ。みんな降りて」


バンは、ある一件の大きな民家の前に停まった。
車から降りた子どもたちを出迎えたのは、そこの家主の男だった。
白髪交じりで、暖かい雰囲気を醸した人だった。


瑠樹「みんな、この人は『リャン』さんだよ。みんながこれからお世話になる人」

リャン「よくきたね。疲れたろう、さあ中に入って」


にこりと笑って、「リャン」は玄関を開け、子どもたちを家の中へと促した。
戸惑いつつも、五人は言われるがまま家の中へと足を踏み入れる。
広い玄関から居間へ進むと、ここでもまた、自分たちと同じ歳の子供たちの姿が見えた。
テレビを見たり、絵を書いたり、おもちゃで遊んでいたり……様々な娯楽とともに、その子らの姿はあった。


リャン「あの子たちもね、以前は君たちと同じような暮らしをしていたんだ。
    でも、瑠樹ちゃんに救われて、今はここでのびのび暮らしている。ここは、みんなが自由に暮らせる家なんだ」

リャン「今日からここが君たちの家だ。もう悲しい思いはしなくて済むんだよ」


子どもたちに、リャンは優しく語りかけた。五人はまだ混乱しているようで、彼の言葉が伝わったのかどうかはわからなかった。
リャンは五人の背中をそっと押して、子供たちの輪の中へ入れてやった。
「仲良くしてやってな」とリャンが言うと、一人の子が、五人に遊んでいたおもちゃを手渡した。
五人はそれを受け取って、ゆっくりとその場に腰を下ろした。


リャン「……大丈夫そうかな」

瑠樹「そうだね……あ、リャンさん、今月のお金振り込んでおいたからね」


瑠樹がそう告げると、リャンは瑠樹に向き直り、ペコリと頭を下げた。


リャン「瑠樹ちゃん、いつもありがとう。今のあの子たちがあるのは、全部君のおかげだ」

瑠樹「私はお金を出してるだけだよ……面倒見はリャンさんに押し付けてるし」

293第十一話 ◆4aIZLTQ72s:2013/07/27(土) 01:14:36 ID:ZNPrhvGU0
リャン「お金を出してるだけなんて、とんでもないよ。君は子どもたちのヒーローさ。“守り神”だよ」

瑠樹「よしてよ、私だって下心がないわけじゃないんだしさ」


少しだけ照れくさそうに、瑠樹が言った。
リャンは、彼女が今日ここに訪れた理由を思いだし、居間へ通じる扉をしめた。


リャン「……『ウェイ』か。今日連れて行くのか?」


子どもたちに聞こえぬよう、声量を抑えながら瑠樹に問う。
コートのポケットに両手を突っ込んで、瑠樹は「そのつもり」と答えた。


瑠樹「あの子には恵まれた“才能”がある。私は、それをあの子が活かせるように――“特別な役割”を与えてあげたいの」


リャンは少しだけさみしそうな目をしたが、すぐに納得したような顔をして、ふむと頷いた。
瑠樹に対する強い信頼がなければ、決して見られない反応だった。


リャン「ウェイは君を好いてる。君と一緒なら、どこでだって何をするんだって楽しいはずだ」


そう言って、リャンは目尻にしわを寄せた。
彼の表情は、紛れもない父親の表情だった。血のつながりはなくても、リャンはウェイを理解しているし、深く愛していた。
実の息子のように思っていた。そして、ウェイが好む瑠樹だからこそ、信頼できるのだと感じていた。

多くの身寄りのない子どもたちを受け入れる、リャンの大きな人間としての器。
ずっとそれが揺らがないから、瑠樹は安心して子どもたちを任せることができた。
この家を“第二の実家”のように感じていたのだ。


瑠樹「ちょくちょく様子見に来るって。ウェイは二階?」

リャン「自分の部屋にいるはずだ」


「はーい」と答えて、瑠樹はウェイに会いに階段を上っていった。

294第十一話 ◆4aIZLTQ72s:2013/07/27(土) 01:18:50 ID:ZNPrhvGU0
**



「ウェイ」は、三年ほど前に瑠樹が拾ってきた黒孩子の一人だ。
当時9歳で、現在12歳。今でこそ健全な少年に真っ直ぐ成長しているが、
あの時瑠樹が大金を叩いて彼を買わなければ、彼は売春宿に放り込まれ、幼い男娼としてボロ雑巾のように扱われていたはずだ。
それほどのルックスを持って生まれたのが、ウェイという少年だった。
実際、彼はほかのどの子どもたちよりも抜群な高値をつけられ、目玉商品として売り出されていた。
そのため、瑠樹も彼を競り落とすのに相当な苦労を強いられた。
黒孩子の世界では、恵まれた容姿は本人にとって恩恵でないことの方が多いのだ。


階段で二階へ上がった瑠樹は、通路の突き当りの部屋まで向かった。
その民家は、リャンの書斎として確保した一室以外は、ほとんど全ての部屋を子供部屋としている。
瑠樹の目の前の部屋はその内の一つで、ウェイともう一人の子どもが過ごす二人部屋だ。
木製のドアをこんこんと鳴らして、「ウェイ、入るよ」と瑠樹は返事を待たずにドアを開いた。


瑠樹「勉強してる?」

ウェイ「勝手に入るなよな、瑠樹」


ウェイは二段ベッドの下段に寝そべり、日本語の雑誌を読みながら、日本語でそう言った。
瑠樹はウェイの流暢な日本語が嬉しいのか、にまにまと笑ってウェイの側に近寄って、ベッドに腰を下ろす。


瑠樹「好きな四字熟語をひとつ」

ウェイ「“花鳥風月”」

瑠樹「意味は?」

ウェイ「美しい自然とか、風流とか……そんな感じだ」


「うん、いいね。合格にしよう」と、瑠樹はうんうんと頷いた。
ウェイは当然だと言いたげに雑誌の記事に視線を落としたままだったが、どことなく嬉しそうでもあった。

ウェイは、その家で過ごす子どもたちの中で、最も賢い少年だ。
中国語すらろくに話せない子もいる中、ウェイは中国語と日本語をそれぞれ使いこなすことができた。
瑠樹に教わって、彼はたった三年間で、日本語をいともたやすくマスターしてみせたのだ。
日本人の話し口に極めて近い、不自然さの一切ない完璧な発音が、彼の持つ才能の一つだった。

瑠樹は、ウェイが持つ才能に目を付けて、彼をある特殊な仕事に参加させようと決意していた。
その仕事とは、日本で行われるとある“生物”の研究で、雇い主は「SPW財団」という世界的に有名な財団だ。
その研究のために、特別な才能を持つ人材が必要だった。
彼に日本語を教えていたのもそれが理由で、瑠樹はウェイを日本に連れて行くために、あらゆる手段を駆使し彼の正当な身分すら用意していた。
「はい、これ」と、彼女はウェイに発行したてのパスポートを手渡した。


ウェイ「パスポート……! 瑠樹、どうやって作ったんだ?」


黒孩子には絶対に入手できない物の一つ、パスポート。
初めて手にするそれに目を丸くさせて、ウェイは興奮気味だ。瑠樹はふふんと笑って、
「お姉さんに出来ないことはないんだな」と、得意気だった。
中を覗いて、用意された身分を確認する。
自分の顔写真と、隣に記された、“日本人”としての新しい名前。


ウェイ「……これが、僕の新しい名前か?」

瑠樹「そうだよ。読める?」

ウェイ「……『白鳥 亜紀人(しらとり あきと)』で、いいのか?」

瑠樹「合ってるよ。これからは日本人として生活する……ウェイと呼ぶのは、今日で最後だね」

295第十一話 ◆4aIZLTQ72s:2013/07/27(土) 01:20:01 ID:ZNPrhvGU0
「白鳥 亜紀人」。ウェイは、この名前の特に“白鳥”の部分に注目していた。
自分の好きな四字熟語、“花鳥風月”の“鳥”の字が入っていたからだ。
そんななんでもないようなことでも、これからずっと名乗っていく名前なのだから、ウェイは素直に喜んだ。


ウェイ「――瑠樹、あの約束忘れてないよな?」


突然、ウェイは瑠樹に向き直り、真剣な眼差しでそう言った。


ウェイ「日本に行って、僕が瑠樹の仕事を手伝う。その代わりに――」

ウェイ「僕が大人になったら、僕と“結婚する”……って」


それは、ウェイと瑠樹がいつしか交わした口約束だった。
日本語の勉強を彼に課せたとき、幼い少年はそんな条件と引き換えにしてきた――よく覚えている。


瑠樹「……忘れてないよ」


――ほんの僅かにだが、困ったような含みを持たせて瑠樹は答えた。
けれどそんなものは、若さゆえの情熱的なアプローチの前では何の意味もない。伝わらない。


ウェイ「絶対だからな、瑠樹。僕のお嫁さんになるんだぞ、じゃなきゃやらない」

瑠樹「もっと可愛い子がいるかもよ? 年下の方がいいんじゃない?」

ウェイ「関係ない! 僕は……瑠樹じゃないと嫌なんだ」


剥き出しの好意が嬉しくないわけではないが、所詮は子どもの口約束。
いくら相手が本気でも、こちらが本気で受け取るわけにはいかなかった。
ウェイは知らないが――瑠樹は見た目よりも遥かに大人だ。
単純な年齢差だけで言えば、瑠樹はウェイのおばあちゃんどころの話ではない。


瑠樹「……さ、荷物をまとめよう。みんなとしばしのお別れだね」


適当に話をぶち切って、瑠樹はウェイに旅支度を促した。
ウェイは面倒くさそうにベッドから降りて、多方纏まったスーツケースに、残った荷物を詰めていく。
その姿を見つめながら、瑠樹は胸がちくちくと痛むような気分を感じていた。

瑠樹は、少年の気持ちに応えることはできなかった。

296第十一話 ◆4aIZLTQ72s:2013/07/27(土) 01:23:26 ID:ZNPrhvGU0
**



三年過ごした我が家に別れを告げ、ウェイは瑠樹とともにタクシーに乗った。
リャンと子どもたちが手を振って、ウェイも車の中から手を振り返した。
何人かの子は、タクシーの後ろを走って追いかけてきてまで「またね」を叫び続けた。
それがウェイには可笑しくて、しかしとても嬉しかった。

タクシーで数時間、車は首都・北京へ到着。
「北京首都国際空港」の前で車を降りて、二人は荷物を引きながら空港の中へ。
東京行きの航空券を買い、ロビーでジュースを飲みながら飛行機を待った。

やがて出発の時間が近づき、二人は搭乗口へ。
狭い通路を通り、いよいよ機内へと乗り込んでいく。
座席を確認して、荷物を棚に押し込み、二人は席に着いた。

ウェイは、初めての飛行機にひどく緊張している様子だった。
普段は大人ぶって気取っていてもこういう部分はやっぱり年相応で、瑠樹は硬直したウェイの姿に微笑んだ。

エンジン音を轟々と唸らせて、ついに離陸のときが訪れた。
ウェイは手のひらに汗をぐっしょりかいて、肘掛を強く握りしめていた。
少しして、離陸が無事に完了したことをアナウンスされると、青ざめていたウェイの顔に血色が戻る。
その様子がとうとう可笑しくて、我慢できずに瑠樹はぷっと吹き出した。
「……笑うな」と、ウェイは不機嫌そうに呟いて窓の外を見つめていた。


二人を乗せた機が飛び立ってから、一時間ほど経った頃だった。
軽い眠りから覚めた瑠樹は、隣に座るウェイが英語の本を開いていることに気がついた。


瑠樹「……なにそれ、もしかして英語も勉強してるの?」

ウェイ「……これからの時代、英語は必要不可欠だろ。瑠樹はしゃべれるのか?」


また大人ぶったことを、と生意気に思ったが、貪欲に知識を吸収しようとする姿勢は立派だ。


瑠樹「当たり前でしょ? あ、じゃあクイズ出してあげる。“側に立つ”を英語になおすと?」

ウェイ「“stand by me”――それが転じて、スタンドって言うんだろ? 僕たちの力は。前聞いたよ」


ウェイの才能は、単に語学力だけではない。実は彼にはもう一つ、スタンドという特別な才能が隠されていた。
ウェイが競売にかけられたあの日、彼の内に潜む特別な力の存在を見抜いた瑠樹は、なんとしても彼を落札せねばならなかった。
「彼の境遇では、スタンドがいつか必ず悲劇を呼び込んでしまう」――そう強く確信したためだ。
どれだけの金を払おうとも、彼を保護しなければならない――そして瑠樹は彼を買い、彼は今に至る。

結果として、このときの判断は正しかったと言える。
ウェイの人格と素晴らしい才能は守られ、それは「SPW財団」からのオファーを受けていた瑠樹に返ってきた。
スタンド使いたちによる研究チームの結成――その一旦を担えるほどの人材に、ウェイは成長してくれたのだから。


ウェイ「瑠樹。僕は、瑠樹の『ユリシーズ』を見て思ったことがあるんだ」


瑠樹がそんなことを考えながら感心していたところで、ウェイは開いていた英語の本を閉じた。

297第十一話 ◆4aIZLTQ72s:2013/07/27(土) 01:26:31 ID:ZNPrhvGU0
ウェイ「その縞々模様のことを、英語で“ストライプ”と言うらしい」

瑠樹「うん」

ウェイ「これから僕たちは、同じような力を持つ仲間を集めて、チームを作るんだろ?
    『ユリシーズ』のストライプや、“虹”のストライプみたいに――美しく互いが折り重なったチームを」


一度『ユリシーズ』の姿を見せたことがあるが、ウェイはその特徴的な“ストライプ”姿を記憶していた。
規則的に重なり合う線と線。彼はその美しさに目を奪われ、人と人との関わりの理想をその模様に見出していたのだ。
七つの色が並ぶ“虹”も同じである。その規則性に美しさがあるのだ。


瑠樹「そうなるといいね」


とても12歳の子どもの考えとは思えないが、ウェイの言葉には素直に同感だった。
瑠樹が頷くと、ウェイはペンを取り出し、持っていた本の背表紙にさらさらと文字を描く。
書き終えると、ウェイはそれを瑠樹に見せた。


ウェイ「チーム名を考えたんだ。『ライジング・ストライプス』って、どう?
    “ライジング”――仲間がどんどん増えて、大きくなっていくようにって願いも込めて」


“成長していく縞々”――『ライジング・ストライプス』。
まだ人数だって決めていないのに、チーム名とは気が早い。けれど、悪い気はしなかった。
これから、きっと多くのスタンド使いと出逢い、仲間が増えていくだろう。
ウェイにとっても自分にとっても、日本は新しいスタートを切る地になる――瑠樹にそんな予感をさせてくれるネーミングだった。


瑠樹「いいと思う。素敵な名前だね」


本心からそう答えて、瑠樹はこれから作られるチームの名を、素直にそれにしようと決めた。


やがて、三時間半の空の旅は終わり、飛行機は目的の空港に近づいた。
着陸のアナウンスのあと、機体は地上ギリギリまで降下し、長い滑走路を滑っていく。
やがて機は完全に停止し、続々に乗客たちが席を立ち始めた。


瑠樹「……ウェイ。この機を降りたら、もうキミは『白鳥 亜紀人』だからね」


荷物を下ろしながら、瑠樹はウェイに念を押した。


ウェイ「わかってるさ、瑠樹」


そう答えて、ウェイは瑠樹を待たず、スーツケースを引いて先に進む。
機体から降り立つと、そこはもう中国ではない。故郷から約2100kmも離れた新天地、日本。


亜紀人「……ここが、日本か」


「白鳥 亜紀人」はそう呟いて、新しいスタートに、密かに心を躍らせた。
この地で始まる、新しい人生。その隣には、ずっと瑠樹が一緒だ。


――このときはまだ、幼い亜紀人はそう信じていた。

298 ◆4aIZLTQ72s:2013/07/27(土) 01:27:14 ID:ZNPrhvGU0
今日はここまで。次回後編です。

299名無しのスタンド使い:2013/07/27(土) 10:23:57 ID:6NBVzsYk0
急に瑠樹の頬っぺたぷにぷにしたくなってきた

300名無しのスタンド使い:2013/07/27(土) 10:27:53 ID:6NBVzsYk0
ごめんスレ違いだった!
ミルキー「ウェイ」って亜紀人のことだったのか・・・
優しそうな奴がなんであんなことを強要する奴になったのか・・・続きが気になると同時にスレ違い失礼w

301名無しのスタンド使い:2013/07/27(土) 10:59:25 ID:UjYVxkPI0
更新おつです
このあと亜紀人に何があって今に至るんだろう
そして>>300で気づいた、ミルキーウェイほんとだああ

302名無しのスタンド使い:2013/07/27(土) 12:57:36 ID:1pwnFbzM0
子供の人身売買はキツイ…競売のシーンの瑠樹は余裕があってすごくかっこいいな
意味がないと思われていたライジングストライプスという名前にも、そんな意味が隠されていたとは・・・
亜紀人は瑠樹のこと好きだったのに、何故ストライプスと敵対してるんだろう?後編が気になるなぁ

303名無しのスタンド使い:2013/07/27(土) 14:48:40 ID:Kl7Dw3lY0
>「ミルキー・ウェイ」はトリプルミーニング

「ミルキーウェイ」……天の川、ミルキーの故郷
「ミルキー・ウェイ」……ミルキーとウェイ(亜紀人)
「ミルキー・ウェイ」……ミルキーの道、人生

ということなのかな?
タイトルの「・」が気になっていたけど(本文中では「ミルキーウェイ」で統一されている)、これは瑠樹と亜紀人を隔てる「・」だったんだな

304第十一話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/03(土) 22:17:48 ID:5CU6K1j.0
**




――八年後、2005年・東京。


ユウセイ「おい! やっぱ持ってきたの失敗じゃねーか!?」

リナ「うるさいな! アンタなんとかしてよ、アイツ!」

ミク「一回それ置こう! 持ったままじゃ無理だって!」


夜八時を過ぎた、人気のないとある埠頭。
貨物船から積み下ろされたコンテナが立ち並ぶその区域に、若い男女三人の姿があった。
短髪の青年「ユウセイ」、ポニーテールの少女「リナ」、ショートヘアの「ミク」。

リナは小さな一つの箱を抱えながら、ユウセイ、ミクとともにコンテナという巨大な箱の隙間を走り抜ける。
三人は、“とある生き物”に追われていた。


ユウセイ「!? んだ、どこ行った!?」


自分たちを追う者の足音が聞こえなくなり、ユウセイが振り返った。
後ろには誰の姿もなく、そこにあるのは自分たちの周囲を囲むように積み上げられた無数のコンテナのみだった。
彼らが、追跡者の姿を見失ったちょうどそのときだった。
三人をずっと照らしていた月明かりが、急に何かの影に遮られ、辺りの闇が濃くなった。
おそるおそる、箱を抱えたリナが、頭上のコンテナを見上げる。

コンテナに張り付くようにして、“それ”は三人を見下ろしていた。


【キリキリキリキリ……】


リナ「……ッ!」


――異形の怪物、「ランペイジ」。
不気味な声で呻く“それ”は、一言で言うなら巨大な“ムカデ”だった。
触角を伸ばした頭部と、それに連なる無数の胴体が線を描いている。
数え切れないほどの無数の脚を生やし、自分の身体をうねらせながら、もぞもぞと忙しくそれを動かして移動する。
思わず悲鳴をあげそうになるほどの気味の悪さだった。


ミク「仕方ない! ここは私が!」


ミクが意を決したように、懐から取り出した“虹色のリング”――「ユリシーズ・リング」を手首に装着する。そのときだった。


「『ドッグ・マン・スター』!」


突然響き渡る、力強い男の声。三人が声のした方向に向くと、積み上げられたコンテナの上に、誰かが立っていた。
金髪で、黒いベストにスラックス姿――右手首に「ユリシーズ・リング」を装着した青年だった。
するとその声に対応するように、ムカデが張り付くコンテナの壁面と、対面のもうひとつのコンテナ、それぞれに“黒い星のマーク”が浮かび上がる。


【キリッ―】

「潰れろ!」


青年が黒い革手袋の両手を、パチンと叩き鳴らした。
次の瞬間、ムカデを挟んでいた二つのコンテナは拍手に“同期”して、引き合う磁石のように勢いよく衝突。
二つのコンテナはどしんとそのまま落下して、ムカデはサンドイッチの具になった。
重なったコンテナの隙間から、緑色の体液が染み出していく。青年「はぁ」とため息をついて、コンテナの山から飛び降りた。


亜紀人「――まったく、何やってんだよお前らは」


――白鳥 亜紀人、19歳。
20歳の誕生日を、二日後に控えた夜の出来事だった。

305第十一話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/03(土) 22:23:49 ID:5CU6K1j.0
**




亜紀人「……ぐっちゃぐちゃだな」

リナ「あはは……ごめんごめん」


巨大ムカデとの戦闘後、四人は埠頭近くのとある公園に足を運び、休憩スペースの机を囲んだ。
リナが先程からずっと抱えていた箱を開く。蓋を外すと、真っ白なクリームにまみれたスポンジの瓦礫と、散乱したフルーツがぼろりとこぼれた。
全力疾走のおかげで原型をとどめていないが、箱の中身はバースデーケーキだった。


ユウセイ「だから置いてこいって言ったのによぉ」

リナ「しょ、しょうがないでしょ! サプライズしたかったの!」

ミク「ま……とにかくさ、亜紀人。ちょっと早いけど、お誕生日おめでとう」


ミクがプラスチックのフォークを配りながら言うと、ユウセイとリナもそれに続いた。
「ああ、ありがとう」と答えて、亜紀人はぼろぼろのケーキをフォークですくい上げる。


亜紀人「……うん。美味いよ、みんなも食ってくれ」


そう促して、亜紀人は大粒のイチゴをかじる。実の酸味と生クリームの甘さがあいまって、何とも言えない美味さだった。
月明かりの下、四人はケーキをつつきながら、他愛もない話題で笑いあった。さらさら流れる夜風が心地よかった。


ユウセイ「……そう言えばよ、亜紀人。お前、ついにアレすんのか?」


フォークについたクリームを舐め落としつつ、ユウセイが身を乗り出して訊いた。
リナとミクの二人も、興味津々に亜紀人の反応を伺っている。
「……ああ」と、亜紀人は照れくさそうに、ぽりぽりと頬をかきつつ言う。


亜紀人「するよ……“プロポーズ”。指輪も買ったんだ」

リナ「きゃぁぁぁーーーーーーッ!」
ミク「きゃぁぁぁーーーーーーッ!」

ユウセイ「うるせぇ! ……やったな亜紀人ッ! こりゃめでてェーッ!」

306第十一話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/03(土) 22:36:31 ID:5CU6K1j.0
亜紀人「おいおい……まだOK貰ったわけじゃないぜ」

ユウセイ「誰が断るんだよ、ンなモン! 決まったも同然じゃねーか、なぁ!」

リナ「そうだよ! おめでとうアキちゃん!」


自分の事のように喜ぶ三人の姿が、亜紀人に根拠のない自信を持たせた。
このプロポーズは、彼らの目から見ても成功が明らかなのだ。


ミク「ミルキーは幸せだねぇ。で、どこで告白するの?」


頬杖をついたミクが言った。


亜紀人「明後日、瑠樹がお店を取ってくれてて……そこで言うつもりだよ」

ミク「いいじゃ〜ん」

ユウセイ「そんで、そのあと帰って二人でヤリまくるわけだな?」

リナ「ユウセイ、キモイよ!」


わいわいと楽しげに盛り上がる三人。彼らには、亜紀人と瑠樹の“結婚”以外の未来が見えていないらしい。
二人の幸せな結末を想像して、もうすでに披露宴に招待された友人の気分でいる。
そんなお気楽な彼らの顔に、亜紀人はそれなりに励まされてもいた。


亜紀人(大丈夫だよな、きっと……)


確認しなおすように、胸中に呟く。これだけ祝福されていても、不安の一片はやはりあった。
瑠樹はミステリアスで、掴み所のない女性だ。十年以上一緒に過ごしてきたのに、亜紀人には、プロポーズしたあとの彼女の反応が想像できないでいた。
いつもの調子でごまかされ、話をあやふやにされてしまうような気すらした。友人たちにできる幸せな想像が、亜紀人には難しかったのだ。


ミク「頑張ってね。亜紀人なら絶対大丈夫だから」

リナ「そーそー。自信持っていこう!」

ユウセイ「万が一アレだったらよぉ。すぐ呼べよ? 朝まで付き合ってやっから」


そんな心中を察したみたいに、ユウセイたちは心強い言葉を次々に口にした。
青臭くて、けれどとても暖かい。亜紀人は昂ぶった感情をごまかすように、「うおおおおおお」と、余ったケーキを勢いよくかきこんでいく。
いつも冷静な亜紀人の、突然の暑苦しさに、ユウセイ、リナ、ミクの三人は思わず吹き出す。

夜が明けるまで、四人の笑い声は絶えなかった。

307第十一話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/03(土) 22:41:49 ID:5CU6K1j.0
**




プロポーズ前夜。緊張のあまり家にいても休まらない亜紀人は、指輪を持って外の空気を吸いに出た。
亜紀人が住むアパートから歩いて数分の距離に、「ひまわり橋」という小さな橋があった。
橋の真下を神田川が流れていて、悩んだときは、橋にきて川のせせらぎをぼーっと眺めていれば、悩みなどどこかに消えたものだ。

亜紀人は橋の欄干に腕を乗せて、指輪を入れた白いジュエリーケースを開いた。
高級感溢れる0.3カラットのダイアモンドと、プラチナ製のリング。彼女の白く細い薬指にはまったら、どんなに美しいだろう。

指輪を見つめながらそんな想像をふくらませていると、「プロポーズですか?」とふいに男の声がした。
亜紀人が振り向くと、ハットを目深にかぶったスーツ姿の男が立っていた。
中肉中背で、靴やスーツは一目でわかるほどの高級品だった。顔はよく見えなかった。

「え?」と反応すると、男は口元をかすかに歪めた。
そして亜紀人の手元を指差し、「その指輪、誰かにアげるんでしょウ?」と言った。
聴いてもその直後にはすぐ忘れてしまいそうなほど、特徴も抑揚もない声だった。


亜紀人「ああ、ハイ……プロポーズです」


亜紀人はケースをパチンと閉じて、懐にしまった。
男は、「素晴らしイ。イイことです」と言って小さく拍手しながら、亜紀人の隣に歩み寄る。
そして同じく腕を欄干に乗せると、


男「――でもね。阿佐見 瑠樹は断ると思イますよ、プロポーズ」


――そう呟いた。


亜紀人「なに?」


突然口にした、阿佐見 瑠樹という名前。
はっとして、亜紀人は男の横顔を凝視する。そしてその顔の作りに、背筋を凍らせた。

その顔は、例えるなら「マネキン」のそれだった。
男は不自然に固まった生気のない表情を張り付けて、使用感の全く無い高級スーツを身にまとっていたのだ。
その“喋るマネキン”は、まるでショーウィンドーから抜け出してきたかのようだった。


男「阿佐見 瑠樹は、貴方とともに生きるつもりなんて、全くなイでしょう。
  何故なら彼女は“守護者”で、貴方はその“候補者”だから」

亜紀人「何の話だ……アンタ、誰だ?」


一歩後ずさって、亜紀人は男の顔を睨みつつ訊いた。
男は柔らかさをまるで感じさせない唇を開き、モデルのように真っ白な歯を覗かせた。


男「私は、そウですね……“スカウトマン”とでもしておきましょウか」

亜紀人「“スカウトマン”だと?」

スカウトマン「明日の夜、ここでオ待ちしてオります。それではオ休みなさイ」


深々と頭を下げて、“スカウトマン”は亜紀人と反対の方向へ去っていった。
亜紀人は懐のケースを指で確かめつつ、小さくなる男の背中から目を離さなかった。


亜紀人「なんなんだ……?」

308第十一話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/03(土) 22:44:32 ID:5CU6K1j.0
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――白鳥 亜紀人、20歳の誕生日。

夜七時、亜紀人は瑠樹に連れられ、彼女が予約した西麻布のとあるイタリアンレストランに足を運んだ。
暖色の照明の下で、テーブルやチェアの深いブラウンが木の暖かみを感じさせる、実に落ち着いた雰囲気の店だった。
まるで瑠樹のようだ、と亜紀人はぼんやり考えていた。

フロアスタッフに案内され、二人は窓際のテーブルへ。
そわそわしているのは亜紀人だけで、瑠樹は落ち着いた様子で、男性スタッフからメニューの説明を受けている。
時折笑顔を見せて、楽しげにスタッフと話す瑠樹の姿は、亜紀人の胸にゆるく絡みつくようだった。

亜紀人は小洒落たメニューに目を落としつつ、ぼんやり昔を思い返す。
自分がまだ幼い頃、こんな風に値段をつけられ、売られていた頃――自分の価値は、ワインのボトル一本分に満たなかった。
あのときは、こんなお店に来ることも、誰かと食事を楽しむことも、想像しなかった。
“自分は価値のない人間”だと、自分自身がそう信じていたからだ。

それを変えてくれたのが、瑠樹だった。
彼女が自分を見つけてくれたから、こうして高級な店で食事が取れる。誕生日を祝ってもらえたりもする。
将来を設計し、期待することができる。今の自分があるのは、全て彼女のおかげなのだ。

――だからあの日、瑠樹に救われた日。亜紀人は自分の全てを、瑠樹に捧げると心に誓った。
自分の残りの長い時間を、人生を、瑠樹に受け取ってもらいたい。彼女と共に過ごしたい。
そんな想いをジュエリーケースの中身に換えて、亜紀人は今日という日を臨んだ。
彼にとって20歳の誕生日は、成人するだけの日ではない。幼き日の約束を果たす日――“結婚”日なのだ。


瑠樹「――キト。亜紀人! こら、聴け」

亜紀人「――あっ、ごめん。なに?」

瑠樹「ワインどうする? 飲む?」


物思いに耽っていたところを、瑠樹の声が割って入った。
亜紀人が頷くと、瑠樹はスタッフに向き直ってワインを注文した。


瑠樹「せっかくハタチだもんね〜。飲まなきゃ損だよね」


そう笑う彼女の姿は、あの頃から少しも変わっていない。
若作りなんてチャチなものでは断じてなく、肌も、髪も、声も、何もかもが以前のままで、まるで彼女だけ時間が止まってしまっているようだ。
いつかの女神のようなお姉さんは、いつしか自分が彼女に追いつき、今では同年代の女友達だ。
普通じゃないのはわかっていた。けれどそれでもよかった。それすらも受け入れられるほどの女性は、亜紀人には瑠樹一人しかいなかった。

309第十一話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/03(土) 22:47:16 ID:5CU6K1j.0
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グラスに注がれたワインで乾杯して、二人は順番に運ばれるメニューに舌づつみを打った。
アミューズ、前菜、パスタ、メイン、デザート――どれもこれもが繊細すぎる味で、後半になるにつれ、亜紀人には漠然とした美味しさしかわからなくなった。
単に貧乏舌だからか、それともこのあとに控える一大イベントのせいかは、理由は定かではない。
ただ、亜紀人は最後のジェラートを食べきるのがすこぶる遅かった。

そして瑠樹も、ちびちびスプーンを運ぶ亜紀人の違和感に気付いていた。


亜紀人「――瑠樹。聞いてくれ」


食後、からの食器が下げられたときだった。意を決したように、亜紀人は瑠樹の瞳をまっすぐ見据えて、懐から白のジュエリーケースを取り出した。
瑠樹がぴくりと反応した。亜紀人は、喉に詰まりそうになりながらも、必死に声を搾り出す。


亜紀人「――や、約束を覚えてるだろ? 俺が日本に来るときの、あ、あの約束を……」

瑠樹「……」


亜紀人はケースを差し出して、震える指先でそれを開く。
白金のリングと、それにくっついた小さな透明の石。淡い照明を反射するそれが、瑠樹の目の前に姿を現した。
それに対して、瑠樹は反応を見せない。瞳の中をいくら覗いてみても、何を考えているかはさっぱりわからない。


亜紀人「……今日でハタチだ、お、俺は大人になったんだよ。だ、だから、瑠樹――」

瑠樹「……」

亜紀人「――結婚してくれ」



――でもね。阿佐見 瑠樹は断ると思イますよ、プロポーズ



言い切ったときだった。突然、脳内に昨晩聞いた“スカウトマン”の、あの言葉がフラッシュバックした。
なぜなのか、なんて考える必要はなかった。答えはすぐにわかった。静謐を保つ瑠樹の瞳の中に、その答えがあった。
そして亜紀人は、“約束”を取り付けたあの日から、微かに感じ続けていた一抹の不安――ずっと見て見ぬフリしてきたモノの、その正体を理解する。


あの日から、彼女はずっと――



瑠樹「――ごめんなさい」



――“困っていた”んだ。











―――そのあとのことは、よく覚えていない。
気が付くと、俺は「ひまわり橋」の上にいて、突き返された指輪を眺め、泣いていた。

310第十一話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/03(土) 22:50:29 ID:5CU6K1j.0
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スカウトマン「その様子だと、やっぱり断られたみたイですね」

亜紀人「……ああ、アンタの言うとおりだよ」


その後、「ひまわり橋」に現れた、マネキン顔の男――“スカウトマン”。
“スカウトマン”は、昨晩と同じスーツ姿で、亜紀人の隣についた。
亜紀人はとっくに涙も枯れ果てていて、真っ赤になった目元で“スカウトマン”を睨む。


スカウトマン「残念です、白鳥 亜紀人くん」

亜紀人「よせよ、思ってもないくせに。……アンタ、何者なんだよ」


一応素性を聞いてみるが、その問いに意味はなく、単に形式的なものだった。
本当はもうどうでもよかった、なにもかも。彼の夢は破れ、人生の意味はどこかに消えた。
“商品”として売り出されていた頃の、淡白で、退廃的な日々の味が口の中に戻ってきていた。
“スカウトマン”はそんな投げやりな質問にも、丁寧に応対する。


スカウトマン「――私は、こことは少し“違ウ場所”からやってきました。
       今後予定されてイる“アる日”のために、人材が必要なためです――そのスカウトにやってきたのです」

亜紀人「……違うって、何が?」

スカウトマン「風習も、技術も、何もかもが違イます。使われる言語だって全く別物です。
       私は相当“こちら側”の言葉を勉強しました……“アちら側”では結構珍しイ存在なのです、私は」

スカウトマン「そして例えば、貴方たちがランペイジと呼びぶっ壊してくれてる生き物――
       アレも、私たちが開発したものです。アレは、“生体兵器”なのですよ」


さらりと言ってみせた“スカウトマン”に対し、亜紀人は「……で?」と実につまらなそうに答える。
例えばこの事実を昨日聞いていたなら、亜紀人の反応は違っていた。
この世界に混乱をもたらす怪物「ランペイジ」。その正体と出処、そして人々を襲う理由を、隣に立つ男が白状したのだから。

しかしこれほどの事実にすら興味が持てないほどに、亜紀人の心は活力を失ってしまっていた。


スカウトマン「“こちら側”には、スタンドなる力を持つ者が多イいます。これが厄介なのです。
       私たちの住む場所にはそんなものを持つ者はイません。なので、我々はできる限りの対策をしなければならなかった」

亜紀人「つまり“侵略”の邪魔だから、スタンド使いをランペイジで殺してるんだろ? ストレートにそう言えよ」


“スカウトマン”のくどくどとした言い回しに、うんざりといった調子で亜紀人が言った。

311第十一話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/03(土) 22:54:16 ID:5CU6K1j.0
スカウトマン「そのとオりです。イやはやさすが。では、阿佐見 瑠樹につイてオ教エします」


直接明言はせずとも、亜紀人には“アる日”がどんな予定日なのか、伝わっていた。
その鋭さに素直に感心しつつ、“スカウトマン”はいよいよ話を本題へ。


スカウトマン「私どもの調査によって、この世界には“守護者”と呼ばれる不老の存在がイることがわかりました。
       『ミルキーウェイ』とイウ川の近くに住む人間のことです」

スカウトマン「阿佐見 瑠樹こそがその“守護者”なのです。彼女は何百年とイウ時を生きてイる。
       そして、ここからが重要です。彼女がプロポーズを断った理由――それは、彼女が“死にたイから”です」

亜紀人「え……?」


“死にたい”。胸を締め付ける言葉に、亜紀人は思わず呻きを漏らしそうになった。
あの日出会ったときも、飛行機で一緒に日本に飛んだときも、プロポーズのときも――彼女はずっと、そんなことを考えていたのだろうか?


スカウトマン「“守護者”の跡を誰かに継がせるとき、阿佐見 瑠樹は死ぬ。そのチャンスを、彼女は待ってイるのです。
       そしてその“候補者”は白鳥 亜紀人さん、貴方なのですよ」

スカウトマン「貴方は、彼女と“共に生きること”を考エ、彼女は“一人で死ぬこと”を考エてきた。
       これが、オ二人の決定的な点です。貴方のプロポーズが失敗した理由なのです」

亜紀人「……!」


彼女は死の運命を受け入れて、人生の全てを“守護者”の役割のために、費やしてきたというのか。
あの日交わした“約束”も、男と女の決め事ではなく、所詮は“守護者”と“候補者”の契約だったというのか。


亜紀人「……どっ」


――そんなの、受け入れられない。


亜紀人「ど、……どう、すればいい……? お、俺は……る、瑠樹が死ぬなんて、イヤだ……!」


枯れ果てたはずの涙が湧き出し、亜紀人の心をぐずぐずに濡らした。
大粒の涙をこぼし、肩を震わせる彼の姿は、まるで幼い少年のようだった。

312第十一話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/03(土) 22:56:39 ID:5CU6K1j.0
唇を噛み締める亜紀人とは対照的に、“スカウトマン”は口元に冷ややかな笑みを浮かべていた。
そして「大丈夫! 方法アります」と薄っぺらな励ましの言葉を口にして、亜紀人の肩をぽんと叩いた。


スカウトマン「簡単なことです。彼女がずっと“守護者”で有り続ければイイ。
       要するに、“候補者”がイなくなればイイのです。彼女の命を守るために」

亜紀人「……俺が、瑠樹のもとを去れば……いいのか……?」


亜紀人は涙ながらに、藁にもすがる様相で問う。
これがあまりに理想的すぎる流れなので、“スカウトマン”は凍りついた目元を歪めた。


スカウトマン「……イエ、残念ながらそれだけでは足りません。たとえ貴方が去っても、
       彼女はほかの“候補者”を立てるでしょう。ライジング・ストライプスのオ仲間の中から、ね」

スカウトマン「そしてその“候補者”は、イずれ次の“守護者”になる。そのとき、彼女の役割は終わるのです」


そう告げられるとようやく、亜紀人にも話の本質が見えてきた。
“スカウトマン”が、一体何を言わんとしているのか、何を自分に求めているのか。
彼が何を“スカウト”したいのかがじわじわと掴めてきた。

そしてこの時点まで話が進むと、亜紀人の脳裏にある一つの考えが浮かび上がる。


スカウトマン「もちろん “道”はイくつもある。“選択”は自由です。
       でも、もし阿佐見 瑠樹を死なせたくなイのなら――貴方が進むべき方向は、わかってイますね?」

亜紀人「……」


それは、今まで一度だって発想しなかった、恐ろしい考えだった。
超自我が判断する間もなく、自我が勝手に決断を下す。そして考えは、決意へと換わった。

――口の中に広がっていた淡白なあの味は、もうしない。


スカウトマン「――明日の夜も、私はここにイます。オ待ちしてオりますよ」


そう告げて、“スカウトマン”は「ひまわり橋」を去っていった。
残された亜紀人は、ジュエリーケースを懐にしまって、代わりに携帯電話を取り出した。

携帯を握り締める彼の表情は、「ウェイ」のものとも「白鳥 亜紀人」のものとも違っていた。
もっと違う次元の、初めて見せる男の表情が、そこにあった。

313第十一話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/03(土) 23:02:22 ID:5CU6K1j.0
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翌日、夜九時。
ユウセイ、リナ、ミクの三人は、先日チーム四人でケーキをつついたあの公園に揃っていた。
白鳥 亜紀人に呼び出されたためだった。
それぞれ各々の予定があったが、彼からのメールの内容を見れば、それらをキャンセルしてでもすぐに駆けつけるしかなかった。
「プロポーズを断られた」と、それだけ書けば、三人は勝手に想像し、悲しみ、寄り添おうとする。
――そういう人間たちだったからだ。


ユウセイ「……あっ! 亜紀人!」

リナ「アキちゃん!」

ミク「亜紀人、大丈夫!?」

亜紀人「みんな」


宵闇の中から姿を現した亜紀人を見つけて、三人は心配そうに駆け寄った。
彼らは、亜紀人の異変に気がつかなかった。彼の目に映る、焦燥のような何かを察知できないのはまだしも、
「ランペイジ」もいないのに、何故か装着された「ユリシーズ・リング」に気づかなかったのは、致命的なミスと言えた。


亜紀人「みんな、来てくれてありがとう」


「なにいってんだ!」「そうだよ!」「私たちがいるよ亜紀人」
そんな言葉を三人は口々に言う。それは、亜紀人が口にした「ありがとう」が、自分たちに向けられた助けを求める声に聞こえたからだった。
実際はそうではない。しかし、それに気づけというのは酷な話だった。


亜紀人「……ところで、みんなはライジング・ストライプスを辞める気はないかな。もう瑠樹には会わないでほしいんだ」


今日一番の冷たい風が、三人の肌をなでた。言葉の正確な意味、真意を伺うことはできなかったが、なんとなくニュアンスで感じていた。
それは、“フった瑠樹への仕返し”だとか、そんなくだらないものでは決してなかった。
もっと何か、“狂気”に近い考えと意味を含ませた、そんなニュアンスだった。

「何言ってんだよ」「無理だよ、そんなの」「どうしちゃったの」
ようやく異変を察知した三人。不安気ではあるものの、亜紀人の要求はしっかり跳ね除けられた。
しかし、もう手遅れである。


亜紀人「……そう、だよな……。やっぱ、無理だよな」


亜紀人には、自分に向けられる優しさも、憐れみも、そんなことはもうどうでもよかった。
もう、何であろうと関係ないのだ。


――ただ、瑠樹のためにすべてを投げ捨てるだけだ。



亜紀人「――すまない、許してくれ」



――呟いた次の瞬間は、『ドッグ・マン・スター』の手刀が、まず一人目の首を切り落とした。
その一人目が誰だったかなど、どうでもいいことだ。関係がないことだ。


残った二人もその次の瞬間には、一人目と同じようなただの肉塊と化したのだから。

314第十一話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/03(土) 23:04:11 ID:5CU6K1j.0
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「瑠樹、こんな形で別れること、本当にすまない。

 俺たちは極端な生き方を選んだ。お互いの道は別々で、それは交わらなかったな。
 
 君に告白したこと、俺は後悔してない。君を恨んでもいない。

 君と一緒に生きることが俺の人生の意味だった。君の夫になることが、俺の“特別な役割”だと信じていたんだ。

 それは叶わなかったけど、俺はほかの意味を見出した。

 俺の新しい“特別な役割”だ。いまは理解できないだろうけど、いずれ君にもわかる。

 一つ言っておくよ。ライジング・ストライプスは、もうないものにしたほうがいい。
 
 君と俺と、それからほかのやつらのためだ。

 こんなことを言ったって、君が聞くわけないけどな。

 さよなら、瑠樹」









――あの夜、留守電に残された、亜紀人からの最後のメッセージ。
これを聞く度に、瑠樹は胸を突き刺されるような感覚に陥った。理由のわからない涙がこぼれた。

亜紀人の新しい“特別な役割”。その意味を知ったとき、瑠樹は巨大でどす黒い罪悪感に飲み込まれた。

それは“呪縛”として今も彼女の中に巣食い、心と身体を食い破らんとしている。

315第十一話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/03(土) 23:06:01 ID:5CU6K1j.0
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――同日、夜十時の「ひまわり橋」。


スカウトマン「――オやオや」


夜の闇を映した神田川を、“スカウトマン”がぼんやりと眺めていたときだった。
ふらふらとおぼつかない足取りで、白鳥 亜紀人が姿を現した。
黒のベストとシャツは血まみれで、赤黒いシミをべっとりと体中につけていた。
加えて、この憔悴しきった表情である。“スカウトマン”は悟った。

あれは返り血で、この男、白鳥 亜紀人は――


亜紀人「俺は……」


そう呟いたかと思うと、亜紀人は懐から三つのリングを取り出し、その場に落とした。
ダイアのついたプラチナリングではなく、返り血を浴びた虹色のリング――「ユリシーズ・リング」だった。
そしてそのまま、亜紀人はその場にへたりこんでしまった。


亜紀人「俺は……堕ちるところまで堕ちた人間だ……もう、瑠樹には会えない……」

スカウトマン「……」

亜紀人「瑠樹のいるところが、俺の居場所だった……でも、でももう……もうどこにもいられない……」


俯いて、泣いているのかいないのか、わかりづらい声で言う。
尋常ではない悲壮感と、苦しみに満ちた響きだった。
“スカウトマン”は完璧に“仕上がった”亜紀人に対し、「大丈夫ですよ、白鳥 亜紀人くん」と近づいて手を差し出す。


スカウトマン「私がイます。私たちは、貴方を受け入れますよ……」


顔をあげる亜紀人。夜の闇とハットに隠れて、“スカウトマン”の顔は見えなかった。
亜紀人は差し出された手を取り、弱々しく握り返した。

それは、彼が選んだ方向であり、もう後に引き返すことはできない“道”だった。

316第十一話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/03(土) 23:07:40 ID:5CU6K1j.0
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2012年 12月11日 午前3時

「終末の日」まで……残り10日



瑠樹宅での鍋パーティーもお開きになって、「ライジング・ストライプス」メンバーはそれぞれ帰路についた。
終電などとっくに過ぎている時間だが、「ユリシーズ・リング」があれば移動に問題はないし、なにより、あのまま瑠樹の家で朝を迎えることは躊躇われた。
“守護者”のこと、“候補者”のこと、「ランペイジ」のこと、阿佐見 瑠樹のこと、白鳥 亜紀人のこと。
そして、10日後に予定されていると言われる、“あちら側”の侵略の話。


若菜「……」

駿介「……」


様々な話を一度に聞かされて、メンバーには考える時間が必要だった。
それは、帰り道を共にする駿介と若菜も同じだった。
二人は言い様のない複雑な心境を抱えながら、無言のまま夜の住宅地を歩いていく。


駿介「……お前さ、どうしたい? “守護者”のこと」


唐突に、先を行く駿介が口を開いた。
瑠樹が現在引き受けている“守護者”という“特別な役割”。
先ほど瑠樹の口から、駿介と若菜の二人がその“候補者”であると告げられたのだった。


若菜「なりたいか、ってこと?」

駿介「ああ。俺とお前は“候補者”なんだろ……だったら、どっちがミルキーの跡を継がなきゃならない」


振り返らず、駿介は歩きながらに言った。
若菜はブーツのつま先を眺めながら、うんうんと思考を巡らせる。
“守護者”を引き受けること、その意味について。けれど、いくら考えようが、決定など下せるはずがなかった。

317第十一話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/03(土) 23:08:48 ID:5CU6K1j.0
若菜「……まだわかんないよ。そもそも、なんで私が選ばれたのかだって……」


そう答えると、ますます考えをまとめることが難しくなった。
自分なんかに務まるのか、という疑問もあるし、瑠樹の頼みなら引き受けてあげたいという気持ちもある。


駿介「俺はやりたくない。何百年も生きるなんてゴメンだ」


――彼の言うとおり、それもあった。


若菜「……」


すると、突然駿介が立ち止まり、若菜の方へ振り返った。
ポケットに両手を突っ込んで、白い息を吐き出しながらに言う。


駿介「……でも、若菜。お前もやりたくないなら……代わりに俺がやってやる」

若菜「え……」


若菜は、駿介の瞳をまじまじと見つめた。
優しげで、そして強い意思を感じさせる、そんな目をしていた。


駿介「俺が“守護者”になる。だから、お前は気にすんな」


それだけ言って、駿介はまた前を向いて、先を歩き始める。

若菜は駿介の背中を見つめながら、彼のセリフに喜んでいいのかどうか、わからなかった。



彼がこのまま何処か遠くに行ってしまいそうで、若菜の胸に一抹の寂しさがしみた。












第十一話「ミルキー・ウェイ」おわり


  →To Be Continued...

318キャラ紹介 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/03(土) 23:09:54 ID:5CU6K1j.0
登場人物紹介

「ライジング・ストライプス」1/2


・服部 駿介(はっとり しゅんすけ) 
スタンド:No.2006『パピヨン・ドリーム・デビル』/年齢:19歳/血液型:B型

「ライジング・ストライプス」メンバーの一人。若菜曰くスラっとしていて人形のような美形。
無愛想で不器用だが、根はいいやつである。抜群の戦闘センスを持つ。
瑠樹の次の“守護者”として予定されている、“候補者”の一人。

『パピヨン・ドリーム・デビル』は風を発生させる能力を持つ。
カマイタチや竜巻を発生させたり、風の壁を生み出して攻撃を防御することも可能。

考案者:ID:AXqM8Wg0 絵:ID:tfvj7PHAO



・星 若菜(ほし わかな)
スタンド:No.4761『サニー・デイ・サンデー』/年齢:19歳/血液型:O型

「ライジング・ストライプス」メンバーの一人。有名私立美大に通う女子大生。奥手で、人付き合いが苦手である。
「ランペイジ」に襲われたところを救われたことから、「ライジング・ストライプス」に参加することに。
瑠樹の次の“守護者”として予定されている、“候補者”の一人。

『サニー・デイ・サンデー』はフルーツを武器にする能力を持つ。
現在作れる武器は、
1.リンゴハンマー(リンゴ) 2.バナナソード(バナナ) 3.マロンシールド(栗) 4.ザクロマシンガン(ザクロ)
5.スイカボム(スイカ) 6.メロンネット(メロン) 7.グレープバッグ(ブドウ) 8.アボカドキャノン(アボカド)
9.キウイグレネード(キウイ) 10.ドラゴンチェーン(ドラゴンフルーツ) 11.マンゴーナックル(マンゴー) 
12.ザ・ジェノサイダー(白桃) 

考案者:ID:wnnPvjhJI(自案 絵:ID:01Kky4eJ0



・阿佐見 瑠樹(あさみ るき)
スタンド:No.4768『ユリシーズ』/年齢:不明/血液型:AB型

「ライジング・ストライプス」の運営を管理する少女。あだ名は「ミルキー」。
戦闘に参加することはなく、仲間のバックアップを担当している。読心術に長け、人をコントロールするのがうまい。
「ミルキーウェイ」と呼ばれる不思議な場所で育ち、人々の“守護者”として、何百年という永い時を過ごしてきた。

『ユリシーズ』は未知なる強大なエネルギーを操るスタンド。遥か昔から、代々“守護者”に受け継がれてきたスタンドでもある。
「ミルキーウェイ」からエネルギーを得ており、「ユリシーズ・リング」はその強い力を秘めた装備である。

考案者:ID:ptkTEV9ZI(自案) 絵:ID:ykFM5Fg90



・湊 宗次郎(みなと そうじろう)
スタンド:No.4697『トリプル・8』/年齢:25歳/血液型:A型

「ライジング・ストライプス」の実質のリーダーである青年。
チーム最古参メンバーでもある。明るく爽やかで、常に周囲への気配りを忘れない。左腕は義手。

『トリプル・8』は三匹の蜂のスタンド。
それぞれを頂点とした三角形の面を作り出し、攻撃や防御を行う。万能型スタンド。

考案者:ID:ob0HzJeZ0 絵:ID:AY2lsVPu0

319キャラ紹介 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/03(土) 23:10:23 ID:5CU6K1j.0
「ライジング・ストライプス」2/2


・日下 直哉(くさか なおや)
スタンド:No.759『オンスロート』/年齢:19歳/血液型:O型

「ライジング・ストライプス」メンバーの一人。楽天家の青年。
チームのムードメーカーであり、同メンバーの秋山 麻栗に好意を抱いている。

『オンスロート』は殴ったものを「引き伸ばす」能力。
鉄を引きのばしてペラペラにしたり、自分の体を引き伸ばすこともできる。

考案者:ID:WIejhUDO 絵:ID:6T7Gykso



・槌田 洋平(つちだ ようへい)
スタンド:No.140『カルピス』/年齢:42歳/血液型:O型

眼鏡をかけた中年男性で、「ライジング・ストライプス」最年長メンバー。
おおらかで親しみやすい、愛すべきオヤジ。妻子持ち。

『カルピス』は粘土のようなスタンドで、取り込んだ複数の物質を合体させることができる。
武器と武器を組み合わせて新しい武器を生み出したり、ケガの回復にも役立つ。

考案者:ID:gtALg6d+0 絵:ID:gtALg6d+0



・秋山 麻栗(あきやま まくり)
スタンド:No.4276『デュアル・オ・ソレイユ』/年齢:17歳/血液型:O型

不良に憧れるお嬢様。その高い戦闘能力を買われ、正式に「ライジング・ストライプス」のメンバーとなる。
粗暴な言葉遣いを心がけているが、丁寧な口調が抜けず、ちぐはぐな喋り方をする。

『デュアル・オ・ソレイユ』は近距離パワー型のスタンドで、敵との“タイマン”時に
無類のスピードとパワーを発揮する。その強さは、「リング」なしでランペイジを圧倒するほど。

考案者: ID:KWGWjvEm0 絵:ID:lejdy/st0



・堂島 海斗(どうじま かいと)
スタンド:No.4770『ディア・デッドマン』/年齢:23歳/血液型:B型

「ライジング・ストライプス」の初期メンバーであり、滅多に姿を見せない“最強の男”。チームの切り札的存在。
使命感、正義感を持たず金や自分の興味関心でしか動かない。そのためチームで頭一つ飛び抜けた実力を持つが、瑠樹からの信頼は最も薄い。

『ディア・デッドマン』は“黒”と“白”の双剣型スタンド。
“黒”はあらゆる物質を切り裂く斬れ味を持ち、“白”は切ったものを7秒後に再結合させる性質を持つ。

考案者:ID:ysXM8fynI 絵:ID:ykFM5Fg90

320キャラ紹介 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/03(土) 23:11:00 ID:5CU6K1j.0
「花鳥風月」


・白鳥 亜紀人(しらとり あきと)/ウェイ
スタンド:No.4492『ドッグ・マン・スター』/年齢:27歳/血液型:A型

謎のチーム「花鳥風月」のリーダーである青年。優男風の美男子だが性格はかなり冷え切っていて、殺人に関しても躊躇がない。
本名は「ウェイ」。黒孩子(ヘイハイズ)として生まれ、瑠樹に救われた過去を持つ。瑠樹に対して深い愛情を抱いていたが、決別。
次の“守護者”となりうる“候補者”を襲うことで、引き継ぎを妨害し、瑠樹を生かし続けている。


『ドッグ・マン・スター』は触れた物に「黒い星のマーク」をつけ、マーキングされた物同士を“同期”させる能力。
駿介との戦闘時は、
『ドッグ・マン・スター』と『パピヨン・ドリーム・デビル』、二体のスタンド同士を“同期”させるという使い方も見せた。


考案者:ID:wtYByHY0 絵師:ID:UO568fLQ0



・奥村 美月(おくむら みつき)
スタンド:No.6088『トワイライト・クリーチャー』/年齢:18歳/血液型:B型

「花鳥風月」の紅一点である女子高生。亜紀人に次いで冷淡な性格を持ち、感情の起伏があまり見られない。
それが人形のように整った容姿を、かえって不気味に見せている。戦闘能力も高く、若菜と直哉の二人相手に余裕を見せていた。

『トワイライト・クリーチャー』は触れた物を“肉化”させる能力を持つ。
“肉化”したものは任意のタイミングで破裂させることができ、若菜のフルーツ武器も歯が立たずに破壊された。

考案者:ID:bNO6YLbZ0 絵師:ID:l0e7B0+RP



・真砂 風太郎(まさご ふうたろう)
スタンド:No.6375『レックレス・ファイア』/年齢:26歳/血液型:O型

「花鳥風月」メンバーの男で、ガテン系男子。引き締まった身体とよく焼けた肌を持つ。
スタンド使い同士の殺し合いに興奮するらしく、宗次郎からは“戦闘狂”と評された。

『レックレス・ファイア』は触れた物を円柱状に刳り貫く能力を持つ。
円の直径や穴の深さは自由に設定可能らしく、いちど触れればどんなものでも必ず抉りぬく。

考案者:ID:E5TAqSZK0 絵師:ID:ygpp+wjb0 、UBZ9i+sx0



・花園 慶一(はなぞの けいいち)
スタンド:No.6346『コロラド・ブルドッグ』/年齢:21歳/血液型:A型

猫目が特徴的な「花鳥風月」メンバーの青年。四人の中で最もやんちゃな性格をしていて、お調子者。
ただし“プレゼント”と称してランペイジを凶暴化させて街に放置するなど、倫理観はかなりきわどい。

『コロラド・ブルドッグ』は触れた人や物の攻撃性を過剰強化する能力を持つ。
要するにリミッターを外すことができる。リミッターが外れたナイフはコンクリの壁を切り裂き、いとも簡単に洋平の腕を落とした。

考案者:ID:57NVbh1Z0 絵師:ID: 58pviEy.0




「その他」


・“ザ・スカウトマン”
年齢:不明/血液型:不明

“あちら側の世界”からやってきた男。“作り物”の顔を装着しており、「動くマネキン」と評される。
とある作戦のために「ミルキーウェイ」と瑠樹を調査しており、その過程で亜紀人に目を付ける。
“こちら側”の言語を扱うことができる、“あちら側”では数少ない存在。

321キャラ紹介 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/03(土) 23:13:41 ID:5CU6K1j.0
「ランペイジ」



・カマキリ野郎
4つの複眼、鎌状の8本の腕。背中に長い羽を持つカマキリに似たランペイジ。
体長は2mを超えている。駿介の『パピヨン・ドリーム・デビル』によって倒される。



・岩人形野郎
デパートを襲った、大きな体格のランペイジ。岩石でできた人形にような姿で、14体確認されている。
強大な腕力で黒ギャルを殺すが、「ライジング・ストライプス」によって殲滅。



・パクリ野郎1/2/3
子どもを狙ったランペイジ。1は「ドラえもん」や「うまい棒のあいつ」、
2、3は「コロ助」などといったキャラクターに良く似た姿をしている。「ライジング・ストライプス」によって倒される。



・擬態野郎/擬態巨人
人間の死体を纏うことでその人に擬態する、生活順応型ランペイジ。
言葉を発したり、電車を利用したり、電子機器を操ったりと、今までのランペイジに比べてかなり知能が高い。
現時点で五体確認されており、複数体が合体することもあるようだ。
一体は麻栗の『デュアル・オ・ソレイユ』が殲滅、残り四体は「ライジング・ストライプス」が捕獲、回収した。



・セミ野郎
「大阪城ホール」付近に現れたセミのランペイジ。物質を溶解する小便を飛ばす。
「ライジング・ストライプス」によって殲滅するが、実は花園 慶一の『コロラド・ブルドッグ』によって凶暴化していた。



・力士野郎
「花鳥風月」との対立時に現れた相撲取りによく似たランペイジ。体重は200kgを超え、厚い脂肪と筋肉に覆われている。
麻栗の『デュアル・オ・ソレイユ』が殲滅。セミ野郎と同じく、こちらも『コロラド・ブルドッグ』によって凶暴化していた。



・ビニ傘野郎
閑静な住宅街に現れたランペイジ。妖怪の「からかさ小僧」によく似た姿をしているが、ビニール傘である。
おそらく、「森崎 千草」を狙って行動していたものと思われる。「ライジング・ストライプス」によって殲滅。



・動物野郎(ウサギ、パンダ、ゴリラ、ポニー、キリン、ゾウ......etc)
「東京ビッグサイト」に突如大量発生した動物型ランペイジ。大型動物から小動物、哺乳類や猛禽類など、実に多種多様な動物たちが現れた。
動物同士では襲い合わないのと、人間の男性のみを選んで殺戮したことから、何かの意思によって動いているのだと推測される。
全体で300以上の数がいたが、「たてがみ野郎」の死と同時に、全ての動物たちが肉体を四散させて死亡した。



・たてがみ野郎
動物たちのボスと思われる獣人型ランペイジ。獅子の上半身に、ジーンズ姿が特徴。
現時点で最強クラスの戦闘力を持ち、その爪は「ユリシーズ・リング」の身体強化を容易に通過する。
無傷のまま、駿介、直哉、洋平の三人を死の寸前まで追い詰めるも、途中介入した堂島 海斗により討伐された。弱点は鼻。



・巨大ムカデ
2005年に登場したムカデ型ランペイジ。前「ライジング・ストライプス」メンバーが対決する。
白鳥 亜紀人の『ドッグ・マン・スター』により、討伐される。

322 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/03(土) 23:14:47 ID:5CU6K1j.0
投下終了です。ほぼ主要な謎は明かせたかな?


次回からいよいよ最終・第三章がスタート。
募集した軍服の男たちも登場します!
残すところ六話、結末までどうぞお付き合いくださいませ。



Next
→第十二話「前夜祭」


Subsequent Episode
第十三話「開戦」
第十四話「禁断の果実」
第十五話「別れの時」
第十六話「オデュッセウスと六人の仲間」
第十七(最終)話「フルーティー・ドリーム」

323名無しのスタンド使い:2013/08/03(土) 23:20:10 ID:mpVgZG9.0
もうレスしていいよな?ちょっと懺悔したい
亜紀人マジでごめん!一体なぜそこまでと思ったけどそういうことだったのか・・・・
悲しみを背負いながら愛のために愛した者の仲間を殺す・・・
本当にすまぬ、すまぬ!

324 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/03(土) 23:23:42 ID:5CU6K1j.0
いつもお米ありがとうございます……!

>>288
意外としょぼい愛憎劇に収まってしまいました…(白目)
>>289
深く読み込んでもらってますなー!
亜紀人は“あちら側”についた人間ですね。
花鳥風月の残りの三人については、今後語る機会があると思います。
>>299>>300
触って、どうぞ
一人の少年がゲスに成長するまでを早送りでお送りしました、
>>301
傷心の青年は狂気にとらわれる……!
>>302
「意味はない」と瑠樹は以前語っていましたが、実はこんな意味があったのですね。
>>303
おおおおおそのとおりでございます!
いやー伝わってよかたです!100点満点の回答ありがとうございます!

325名無しのスタンド使い:2013/08/03(土) 23:48:39 ID:dpjR2Q3k0
悲しすぎて涙がでた…
こんなのどうすればいいんだ!二人とも切なすぎる…
織姫と彦星みたいに一緒にはなれないのか?

乙でした!
最終章のタイトルも一覧も明かされて期待MAXです!

326名無しのスタンド使い:2013/08/05(月) 23:57:06 ID:i2uxFioQ0
乙! 擬態野郎あたりからしばらく読めなかったけど
それからここまで一気読みしたが面白い!

面白いから色々感想言いたいことはあるんだが個人的に一番気になるのは瑠樹の感情の変化かな!
「スカウトマン」なる人物の介入が助長したこともあってか亜紀人は狂気へと成り変わった。
そして瑠樹もショックを受けながらも、現在、若菜たちの前ではあまり変化した様子はみられないのだけれど、
瑠樹は瑠樹でライジング・ストライプスを集める過程で何人ものスタンド使いを巻き込んで死なせてしまってるんだよね……

スカウトマン曰く瑠樹の目的は「死にたい」ことにあると言うが、
その真偽は定かではないとはいえ、候補者は探しているのは事実。
何百年生きてきた彼女は亜紀人とは別の狂気を秘めているのではないか……と思えてならない。
彼女の真意はまだ語られておらず、今後どうなるかが楽しみ。


そして候補者にあげられた若菜と駿介。駿介はまだしも、若菜は現時点では他の登場人物に比べればかなり「ふつうの女の子」なのよね。
瑠樹に候補者とされたのはどうしてだったのか、若菜と駿介、ふたりのこれからの選択、あるいは強要なのか? それにも注目したい。

あとはこれまでのメンバー、亜紀人を含めてもなお異質な存在の海斗。
まだ彼については多く書かれてはいないが、おそらくはこれからの物語をかき回す存在のはず。
瑠樹との関係、あるいは宗次郎との関係も合わせて注目したい。


あとはママクリちゃんの魅力について。
かなり目立ったキャラ設定(案の時点でそうだったっけ)なのだが、デザの可愛さとあいまって超かわいい。
タイマンじゃなきゃけっこう苦労する彼女なだけに、これからいっそう応援していきたい。
彼女の可愛さについて、特に彼女のおデコと関連した魅力について語りたいのだが、
文字数制限の都合上、非常に残念だが割愛することとする。

327 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/14(水) 04:43:16 ID:AcV7FYnQ0
>>323
その人のために、その人が望まないことをするって悲しいですよね。
亜紀人は悲痛な使命感に囚われているし、瑠樹もそんな彼に負い目を感じている。
二人の関係は複雑です。

>>325
なるほど、ミルキーウェイだけに。二人の結末もしっかり書きたいですね。
裏主人公・ヒロインという感じがしますね、なんだか

>>326
おおおおおおこれだけ語っていただけるとこちらもさすがにテンションあがりますわぁ
たしかに、ここまで瑠樹の心情はほとんど明かしていません。「秘密はなし」という割に、まだまだ彼女は本音を語らない。
彼女が何を考え、何を目的として“守護者”を続け、“候補者”を選んでいるのか。
駿介と若菜、二人の選択の行方もありますし、最終章はそこらへんも合わせて注目してほしいなぁと思いますね。

麻栗は元案の時点でキャラクターは固まっていたと思いますので、自分は用意された設定をなぞっているだけですね。
正直案師さんは天才入ってると思います。ヤンキーとお嬢様の組み合わせとか絶対可愛いじゃん……
デザインも素晴らしい。めっちゃいいとこ育ち感出てるし。絵師さんも当然のように天才入ってますよ、ビビりますわ。





今後もよろしくお願いします。
後ほど投下します。

328第十二話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/14(水) 13:04:53 ID:AcV7FYnQ0




第十二話「前夜祭」




**
『送信者:人類救済戦線

 件名:12月20日、決起集会のご案内


 本文:
 突然のメールにて失礼いたします。
 スタンド使いのみなさま、我々は「人類救済戦線」と申します。

 我々は“2012年終末説”の12月21日に向け、決起集会を前日20日に予定しております。
 スタンドを持つ方ならどなたでもご参加いただけます。

 スタンドという選ばれし力を使い、共にこの世界を救う同士を、我々は求めています。

 日時は2012年12月20日・15時より、
 場所は東京都日比谷○○―××、「Club atena(クラブ アテナ)」の地下一階にて行います。

 興味がおありの方、我こそはという方は是非ご参加ください。

 我々と共に、来る日に備えましょう。』

329第十二話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/14(水) 13:14:16 ID:AcV7FYnQ0
**




2012年 12月19日 午後1時

「終末の日」まで……残り2日



直哉「――って内容のメールが、今朝来たんだよ」

若菜「私のところにも……」

宗次郎「同じく」


「終末の日」を二日後に控えた、12月19日のお昼すぎ。
SPW財団研究施設内、「ライジング・ストライプス」アジトを訪れた若菜、直哉、宗次郎の三人は、そう言ってスマホを瑠樹に差し出した。
画面には、今朝方彼らが受け取った、謎めいたメールの文章が表示されていた。
差出人は「人類救済戦線」と名乗る集団で、しかもそいつらは、スタンドの存在も、受け取り側がスタンド使いだということも承知している。
瑠樹は文面を確認して、「……ああ、これね」と渡されたスマホを返した。


瑠樹「さっきちょっと調べてみたけど、このメールは日本中のスタンド使いたちに送信されてるみたいだね」

若菜「『人類救済戦線』ってなに? なんでこの人たち、私たちのアド知ってるの?」

瑠樹「さあーそこまでは。ま、ほっといていいんじゃない?」


どうでもよさげに言い、瑠樹はふああとあくびをした。


直哉「なんだよ、興味なさそーに」

瑠樹「別にぃ……ただ、あんまり怪しげな連中とは関わりを持ちたくないもんでね」

宗次郎「よく言うぜ……まあそれだけ言いに来ただけだ。俺はこれからデートなんで、お先に失礼するよ」

若菜「……え? デートって……宗次郎さん、彼女いるんですか!?」

330第十二話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/14(水) 13:19:21 ID:AcV7FYnQ0
驚いたように言う若菜に対し、宗次郎は至って普通に「うん」と一言だけ返す。


直哉「いや、ウソだろ……。いまさらかよ若菜ちゃん」

若菜「えぇぇ……みんな知ってたの?」

瑠樹「そりゃまぁ……もう大分長いしね」

宗次郎「すまんな。今度機会があったら紹介するよ」


爽やかにそう言って、宗次郎はマンホールにリングを投げ込み、アジトをあとにした。
虹色の光に飲まれる彼の姿をぼんやりと眺めながら、若菜はほんのりショックだった。
みんなが知っていたことを自分だけ知らなかったという事実がそうだったし、それだけではなかった。

――宗次郎には彼女がいて、洋平には妻子がある。自分には、“そういう人”がいない。


瑠樹「……二人もさ、もう今日と明日しかないんだよ? “世界が終わる”までさ」


イスの背もたれをきいきいと軋ませて、瑠樹が言う。
“世界が終わる”――不穏な響きが、若菜と直哉、二人の胸に突き立てられた。


瑠樹「好きな人がいるなら、キチンと想いを伝えといた方がいいと思うな」

瑠樹「――後々、後悔しないようにね」


後半は、誰に向けた言葉なのかわからなかった。
それは若菜たちに言ったようでもあり、瑠樹がひとり胸の内に染み込ませるようでもあった。
瑠樹がそのとき、何を想像しながらそれを口にしたのか、それは二人の知るところではない。

ただ、人生の先輩ぶった薄っぺらなご高説でないことは、確かだった。
もっと複雑で、重たくて、ないまぜになった様々な感情の断片が、目に見えるようだった。


若菜(“後悔”……)


瑠樹の言葉を胸中に繰り返して、若菜の脳裏に浮かぶのは、ぼやけまくった自分のこの先の姿。
服部 駿介の顔を思えば“候補者”という言葉が反響し、“守護者”というワードが連想される。
どれもピントがずれたように曖昧で、答えが出ているものはなかった。

自分が何になりたいのか、何を今求めているのかさえ、はっきりしない。
何も見えてこない。

みんなには大切な人がしっかりいて、そのために頑張れる自分がいるのに――。


若菜(私、どうしたいんだろ……)

331第十二話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/14(水) 13:27:07 ID:AcV7FYnQ0
**




同日。洋平に連れられ駿介、麻栗の二人が訪れたのは、東京都江東区「若洲海浜公園」。
東京湾に面したその海上公園は、ゴルフ場やサイクリングロードなどの様々な施設が揃った、区民に愛される絶好のレジャースポットである。
中でも一番のレジャーといえば、公園の南端部に位置する、海釣り場だ。
防波堤のフェンスの上から海面にエサを垂らして、東京湾の魚を釣り上げる。
用具一式はレンタルできて、初心者でも簡単に釣れるため、その手軽さと釣りの面白さに魅了される者は多い。
老若男女、季節を問わず多くの人が集まる、屈指の人気施設だ。

自前の竿を持ち込んだ洋平と違い、駿介と麻栗は借りた竿を使って魚を狙う。
用意したバケツを傍らにおいて、魔法瓶にいれたホットコーヒーで腹を温めつつ、魚が食いつくのを待つ。
するとまたしても、「きたっ!」と本日十回目の手応えを感じた麻栗が、竿を引いた。

海中から引きずり出されたのは、赤褐色の底生魚「アイナメ」。
糸の先にぶらさがるアイナメは、ピチピチと体をうねらせ、海の飛沫を散らした。


麻栗「やったーー! 10匹目ですわ!」

洋平「おおー! アイナメか! 乗ってるな嬢ちゃん!」

駿介「……チッ」


子供のような笑顔でアイナメをバケツに放り込む麻栗。彼女の小さなバケツは大漁で、魚たちが息苦しそうにひしめきあっていた。
対して、不機嫌そうに舌打ちした駿介のクーラーボックスは、麻栗のバケツよりも大きいが、魚は少ない。


麻栗「釣りは人間と魚との一体一の勝負! タイマンなら負けませんわ!」

駿介「おい秋山ァ! お前、浮かれてんじゃねーぞ! ど素人がわかった風な口きくんじゃねぇ!」

洋平(お前も言うほど経験ないだろう……)


海釣り初体験の麻栗と異なり、駿介がこの防波堤を訪れたのは今回で三度目だった。
いずれも洋平に誘われ、軽い気持ちではじめた釣りの奥深さにすっかりのめりこんだのである。
まだ自分専用の釣具は買っていないものの、この日の帰り道に洋平のアドバイスを受けながら選ぼうかななどと考えていた、その矢先。
男の時間に割り込んできた“釣り後輩”の麻栗が、自分を差し置いてガンガン魚を釣り上げる、この状況。イライラMAX。

麻栗は駿介のボックスを覗いて、ぷぷぷと口元の笑みを手で隠す。が、イヤらしい笑みは隠しきれない。


麻栗「あらー。これは失礼いたしましたわ。釣りでは私より経験の深い服部 駿介さんともあろうお方が……
   私の半分以下しか釣れてないなんて! それはイライラ来るのも当然! 私としたことが配慮が足りませんでした」

駿介「うるせーんだよ! ビギナーズラックで調子こきやがって……! こっから巻き返してやるからな!」

洋平(こんなに熱中してくれるとは、この二人を連れてきて正解だったなぁ)


二人のやり取りを洋平が微笑ましく感じていたときだった。
洋後ろを通った他の客の竿が洋平に軽く触れ、「あっ、すみません」と男が謝った。
聞き覚えのある声だった。太く、荒々しく、乾いたその声は、一度聞いたら忘れない。


駿介「……あッ!?」

風太郎「……あ」

332第十二話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/14(水) 13:29:41 ID:0vvyRhi60
三人が振り返ると、竿を握っていたのはいつかの日対立した、「花鳥風月」のガテン系、真砂 風太郎だった。
彼のとなりには、同じく釣具を抱える奥村 美月、花園 慶一の姿もあった。


麻栗「あぁッ!!」


真っ先に竿を手放して、駿介が一歩後ろへ飛び退いた。
洋平、麻栗も同様に距離を取り、警戒の色を顕にする。


駿介「花鳥風月!」

風太郎「おうおう、まいったな……あー、お前らも釣りか?」


「花鳥風月」の三人は、駿介たちとは対照的に、いたって落ち着き払っていた。
ぽりぽりと頭をかいて、むしろめんどうくさそうに呟いた。


麻栗「てめーらコラァ! 一体何しにきやがったんですの!?」

慶一「落ち着け栗毛ちゃん。俺らも釣りしにきただけだって……」


慶一はヘラヘラ笑って、洋平はそんな彼を睨み据え、無言の圧をかけてよこした。
「オッサンこえーよ」とつぶやくも、人を小馬鹿にしたようなその態度は崩さない。


洋平「……やるか? お前ら」

風太郎「待て待てい。こんなところで争う気はないさ。ここはお互い関せずで釣りを楽しんで帰ろうではないか」

駿介「……」

美月「……そう睨まなくてもさ。死にたいならいつでも殺してあげるから」


「花鳥風月」の紅一点、奥村 美月は誰とも視線を合わせずに、冬の海みたく冷え切った調子でそう言った。
風太郎と違い、彼女はこの場を丸く収める必要性を感じていなかった。それに、丸く収まらなくてもいいとさえ思っていた。
いつでもいい――いまでも。美月にとって、「ライジング・ストライプス」はいつでも摘み取れる道端の草にすぎない。
そんな物言いも、駿介たちをまた苛立たせる。


洋平「クソガキどもが、まだ俺たちにちょっかいかけるつもりか?」

麻栗「ホシワカに殺されかけたくせに、全然懲りてないんだな!」

333第十二話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/14(水) 13:32:05 ID:AcV7FYnQ0
慶一「当然だろ。お前らには“七人”いてもらっちゃ困るからなァ」

駿介「なんで人数に拘る? “候補者”は俺だ。狙うなら、俺だけ狙えばいいだろ」


一歩出て「花鳥風月」を睨む駿介。彼の瞳にみえるのは、三人に対する敵意ではなかった。
“手を出させない”というただ一つの強固な意思。――“守護者”の眼だった。
「花鳥風月」がそれを察したかどうかは不明だが、風太郎は駿介の問いに素直に答えた。


風太郎「“候補者”? 何の話だか知らんが、俺たちには俺たちの都合があるんでね」

駿介(……!?)


とぼけている風には見えない。駿介は、風太郎が嘘をついているとは思えなかった。
白鳥 亜紀人以外のこの三人は、本当に知らないのだ。


駿介(こいつら、“候補者”のこと……聞かされてないのか?)


だとするなら、白鳥 亜紀人と三人の行動原理は、厳密には異なっている。
自発的に動く亜紀人と違い、三人を動かしているのは、明らかに第三者から植えつけられた“計画”だ。
彼らは――駒なのだ。


風太郎「……ま、今日は本当に釣りをしにきただけだ。お前らも切り替えて釣りに集中しろ。魚が逃げるぞ」

麻栗「余計なお世話ですわ!」

風太郎「ははっ。……まあ、また会うさ。すぐにな」


再会の予感を口にして、「じゃあね〜い」と風太郎たちはそこを離れていった。
駿介たちは彼らの背中を睨みながら「行かせていいのか、坊主?」と、洋平。


駿介「……今日はいいさ。今日はな……」


――風太郎の言うとおり、再会はすぐに訪れるだろう。
その時がくれば、どちらかが後悔する。今日この場で、互いを見逃して別れたことに。

再会と、そして衝突の予感が、潮の匂いとともに駿介の鼻をくすぐるようだった。


駿介「……」

334第十二話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/14(水) 13:43:41 ID:AcV7FYnQ0
**




――陽は沈みかけ、冷たい夜が空を覆いかける夕刻。
神田川にかかる近隣住民用の小橋「ひまわり橋」には、白鳥 亜紀人と“スカウトマン”の姿があった。
宵闇に紛れるためか、二人が直接合うのは夕方から夜間にかけてと決まっていた。
気味の悪いマスクをつけた“スカウトマン”は否応なしに目立ちそうなものだが、彼がこの橋に立つとき、自然と他の人間が橋を渡ることはなかった。

“スカウトマン”はブレゲの腕時計をクロスで拭いつつ、「どウイウことですか?」と若干声を強くした。


スカウトマン「イよイよ明後日なのですよ。それなのに、まだ奴等は“七人”イるではなイですか」

亜紀人「そう言われてもな……。簡単じゃないんだ、こっちだって努力してる」


“スカウトマン”と言葉を交わすとき、亜紀人は決して彼と目を合わせまいと心に決めていた。
無表情なマスクの奥底に見える瞳にだけは、生々しいほどの感情を読み取ることができてしまうからだった。
一秒と見ていられない、おぞましい瞳だった。本当は眼球などなく、ぽっかり空いた眼窩から、底の見えない闇が這い出ようとしているのかもしれない。
そんな想像をしたことだってある。

神田川を見下ろしながら答える亜紀人に、“スカウトマン”はすこしばかり嘆息を漏らして言う。


スカウトマン「……まア、イイです。実は少し予定が変わりました。明日、本隊より先行して先遣隊がこちらに到着します」


そう教えながら、腕時計の盤面にハァと息を吹きかけて、磨くを繰り返す。


亜紀人「“前夜祭”だな。スタンド使いが怖くてしょうがないか」

スカウトマン「だめ押しです。貴方たちも、ライジング・ストライプスを削ることに集中してくださイ」

亜紀人「教えてくれないか。どうしてあいつらが“七人”いると困るのか」


“スカウトマン”は腕時計を拭う手を止め、亜紀人の横顔を見上げた。
亜紀人は、意地でも“スカウトマン”の顔を見ようとしない。“スカウトマン”はクリーニングクロスをしまった。


スカウトマン「それは、知らなくてイイでしょウ……しかし、これだけは言エます」

スカウトマン「私たちと同じく……阿佐見 瑠樹が“七人”に拘るのにも理由がアる。アの女は、“恐ろしイこと”を考エてイますよ」


マネキンの言葉に少しだけ苛立たしく感じつつ、「それを阻止する正義の味方か、アンタらは」と亜紀人は皮肉めいた笑みを浮かべる。
しかし視界の隅にうつるマネキンの口角は、自分のそれとは比較にならないほど、歪んでいた。マネキンは皮肉を受け止めて、楽しそうに嗤っている。


スカウトマン「そのとオり。では亜紀人くん、頑張って働イてくださイ。期待してますよ」


ピカピカになった腕時計を眺めて、“スカウトマン”は言った。
しばらく無言になったので、亜紀人が振り向くと彼はもういなかった。

「いよいよか……」と胸中に呟いて、亜紀人は欄干を握る手を強くした。

335第十二話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/14(水) 13:44:09 ID:AcV7FYnQ0
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2012年 12月20日 午前1時

「終末の日」、前日



―――「――米航空宇宙局NASAが、現地時間19日正午に、地球に近づく正体不明の隕石群について発表を行いました。
    NASAによりますと、隕石群が大気圏に突入するのは現地時間の19日夕方であると言い、
    日本時間では6時間後の朝方午前7時に、隕石が地球上に降り注ぐとしています」


―――「NASAは、隕石の大半は大気圏の摩擦で燃え尽き、例え大気圏を超えたとしても、
    そのほとんどが海上に落下するだろうと予測しており、危険はないと主張しています」


―――「なお、明日21日はマヤ文明における長期暦が区切りを迎える、いわゆる『2012年終末説』の日であるとして、
    今回の隕石群との関連が騒がれており―――」

336第十二話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/14(水) 13:45:09 ID:AcV7FYnQ0
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2012年 12月20日 午前7時

「終末の日」、前日



その朝、首都圏の至るところで大規模な渋滞が発生したのは、工事や事故の影響ではなかった。
原因は、ドライバー達がみな一斉に、“ある光景”に目を奪われ、車の走行を止めたからであった。
一般道路は立ち行かなくなった車でぎゅうぎゅう詰めになり、多くのドライバーは車を降りて、みな一様に空を見上げている。

彼らの目を釘付けにしたのは、天より降り注ぐ無数の巨大な“光球”だった。
プラズマのように青白く光りながら、空高く舞い降りては、地上数百メートルほどの高さでぴたりと静止する。
ふわふわと風船のように漂うが、その大きさは熱気球を数倍に膨らませたぐらいはある。

それは完全に、全ての人類が初めて目にしたであろう“光景”だった。


「なんだぁ、これは……」


この状況下で、例えば「今日は電車で通勤すればよかった」等と冷静に省みる者は、一般道を使っていたドライバーの中にはいなかった。
首都交通網の麻痺にどよめいていたのは公務員だけで、そのほかの人間は他のなによりも優先して、その“光景”のみに集中することにした。
みながその日一日の予定を忘れ、空に浮かぶ“光球”を目に焼き付けんとしたのだ。
この社会の中で、それは非常に現実的でない集団心理であるが、事実そうなった。

――彼らは、もうその日をいつも通りに過ごすことはできないと、無意識のうちに悟ったのかもしれない。


「ちょっと、すごいよこれ」「なになに? なんなの?」「撮っといたほうがいいぞこれ」「すげー、雷かなにかか?」
「これNASAが発表してた隕石じゃないの?」「隕石が空中で止まるかよ!」「世界終わる? ねえ世界終わるの?」
「やばいんじゃないか? 離れた方がいいんじゃ」「離れるもなにも車出せねーだろうよ」「家にいたほうがいいかもな」
「会社なんて行ってる場合じゃねーよ!」「マヤ文明のあれは本当だったのか!?」「やばいやばい怖い」「うわーすっげぇ」


不安と好奇を口々にしながら、人々は携帯のカメラを頭上に掲げ、空の様子をレンズにおさめる。
それぞれの画面の中に、空高く浮かぶ“光球”が、まるで心臓のように脈打つ様子が見て取れた。

“光球”の飛来が停止してから、ちょうど5分が経過したときだった。
それぞれ一定の高さと距離を保ちながら静止していた無数の“光球”たちが、突然一斉に弾けた。
針を差した風船のように、“光球”は自ら球状を失って、まばゆい光を空に撒き散らす。
そうすると、光の破片は空気中に溶けるようにして、やがて見えなくなった。


「なんだったの?」「いきなり破裂したぞ、あれ」「どこいった? 消えた?」「なくなったね」
「人騒がせだな、オイ!」「天気予報も使えねーな!」「まったくだ、ちゃんと予報出せってんだよな」
「おーい、そろそろ車出してくれ!」「……いや、待て」「……なんか見えない? ほら、あそこ」「なんだ?」
「なんか、透明なもの? が浮かんでる……?」「うわうわ、マジだ」「おい、結構な数じゃねえか!?」「球からなんか出てきたぞ!」


わずか5分で消えた謎の“光球”。巨大な被写体を失ってもなお、人々は撮影を止めず、ざわめきは収まらない。
“光球”が弾けた跡に浮かぶ、数え切れないほどの、透明で小さな何か。気づいた者はカメラのズームを最大限にし、その何かを画面にうつす。


「……うわっ、なんだこれ……!」「ちょっと、なんか動いてるよ!?」「おい、降りてきてるぞ!?」


その無数の何かは、もぞもぞ蠢いていた。“生物”めいた動きだった。
透明のそいつらは、ゆらゆらと空中をたゆたいつつも、徐々に降下してきていた。街とそいつらとの距離がどんどん縮まっていく。
やがて、人々は知る。それは――


「ね、あの透明なの、アレじゃない?」「ああ?」「ほら、水族館とかにいる……!」


――巨大な「クリオネ」の群れだということに。

337第十二話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/14(水) 13:48:34 ID:AcV7FYnQ0
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――それから、20分が経過し、時刻は午前7時25分。
SPW財団からの緊急招集を受けた「ライジング・ストライプス」の六人は、眠気眼をこすりつつ家を飛び出し、マンホールへ飛び込んだ。
アジトでの説明は省略して、メンバーはそれぞれ新宿の街へ直接向かう。


若菜「……!」


若菜たちは新宿東口エリア、アルタ前にて集合し、六人とも頭上を見上げて絶句した。
彼女らの頭上に広がっていたのは、さわやかな朝の空ではなかった。
空を覆い尽くすように、地上10メートルほどの高さを泳ぐ、無数の「クリオネ」の姿がそこにあった。
「クリオネ」は透明の体にオレンジ色の内臓を覗かせて、ガラス細工のように透き通った羽根をぱたぱたと動かし、宙を舞っていた。
しかしそれは「クリオネ」であって、決して「クリオネ」ではない。「クリオネ」は空を飛んだりしないし、人間サイズほどでかくはない。

紛れもなく、そいつらは全て「ランペイジ」――“あちら側”から送り込まれた生体兵器だった。


宗次郎「……ちくしょう、泣きてぇ……!」


六人は、なぜこんな朝っぱらから呼び出されたのか、なぜ顔合わせを飛ばして現場へ直行させられたのかを理解した。
こんなの一目見れば、わざわざ瑠樹から説明されるまでもない。
「流水の天使」の姿を借りた悪魔が、空を覆い尽くすほどのそれが、人間たちを品定めするかのように、ゆらゆら見下ろしているのだ。
そいつらは驚くほど静かに宙を泳ぐだけだったが、「ライジング・ストライプス」にはわかる。それは嵐の前の静けさにすぎない。
“終末”の前兆みたいなものだ――。


駿介「なんで、襲ってこない……? こいつら……」


ふわふわ舞う「クリオネ」を見上げて、駿介が鉛のように重苦しい声を吐きだした。
得体のしれない恐怖に飲まれて、息が詰まりそうだ。いまが12月の早朝だと忘れたみたいに、頬を伝う汗がとまらない。
内臓を押しつぶすような圧迫感にも苛まれている。


洋平「どう、する……? とりあえず、避難を優先させるか……?」


そう言って、洋平はアルタ前に集まった一般人の集団を指差した。
がくがく震える自分たちと違い、彼らは不安よりも好奇心を強くして、カメラのシャッターを切りまくっていた。
中途半端に“わかってしまった”おかげで、「ライジング・ストライプス」は彼らのようなお祭り気分ではいられない。
一般人たちの能天気さに呆れるより、むしろ羨ましく感じるほどだった。彼らはこのあとの恐怖を想像して、絶望することはないのだから。


直哉「聞くわけないッスよ、こんなやつら……」

麻栗「私たちから、先に仕掛ける……?」

宗次郎「冗談言うな……。そんなの絶対無理だ……」


心の底から拒んで、宗次郎が首筋にじっとり汗をにじませたときだった。


若菜「あ、あそこ見てください! アルタの上!」


と、若菜が「スタジオアルタ」ビルの屋上を指差した。

338第十二話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/14(水) 13:53:18 ID:AcV7FYnQ0
メンバーの視線が、若菜の指先が示す方向へ集中する。
屋上に、一人の男が立っていた。ホワイトパーカーにグレーのジーンズ、両手にはスタンド使いのみが視認できる、“白と黒”の双剣。
そして手首に虹色の「ユリシーズ・リング」。
「ライジング・ストライプス」のもうひとり、堂島 海斗がビルの屋上から、「クリオネ」の連なる川を見下ろしていたのだった。


海斗「……」

宗次郎「……海斗!?」


海斗は“白と黒”の双剣『ディア・デッドマン』を構え、屋上のへりを蹴った。
海斗は身体を投げ出して、重力に引かれるがまま、凄まじい速度で落下していく。
彼が『ディア・デッドマン』を構える先、その先にいるのは、一匹の「クリオネ」だ。


洋平「おいッ! あいつ、やる気か!?」

宗次郎「……!」


息を飲み下して、六人は海斗の姿に釘づけになった。
「クリオネ」との距離は、5メートル、4メートル、3メートル!
肉薄した海斗が、『ディア・デッドマン』を振り抜いた、その瞬間。


【ミュンミュンミュンミュン……】


不気味な鳴き声と同時に、無数の「クリオネ」たちの内臓の色が、一斉にオレンジから赤へと染まった。
そして、小さな羽根が急に大きく伸びて、「クリオネ」はそれを曲げるように、先端を海斗へと向けた。


海斗「なにッ―――


予想外の反応、スピード。そして――威圧感。大きく目を見開き、肌を粟立てた海斗も、恐怖するにはもう手遅れである。
重力は身体をおもうがまま弄び、「クリオネ」との衝突を回避させない。
「クリオネ」の羽根が海斗の胴体に羽衣のような優しさで触れて、その肌をなでる。
そして、相手に痛みを与える刹那もなく、肉体をいともたやすく粉々にした。
まるでくゆらせた紫煙を、息で吹き飛ばすかのように――


駿介「……!!」


命を砕く音すら立てず、堂島 海斗を手品みたいに一瞬で消してみせたのだ――。


麻栗「う、……うっ……!」

若菜「……あ、あぁぁぁ……!」

宗次郎「……にッ、…………にっ、……に――――」


――赤信号のような内臓を抱えて、「クリオネ」たちが一斉に「ライジング・ストライプス」の方を向いた。
どれが目だかはわからないが、間違いなかった。六人は、そいつらの標的となったのだ。
「ライジング・ストライプス」は理解した。もはや、闘う、闘わないの次元ではない―――


宗次郎「逃げろォォォーーーーーッ!! マンホールまで走れェェーーーーーーーッ!!!」


――そいつらは、目を合わせることすら許されない存在なのだと―――。


【ミュェェーーーーーーーーーーッ!!】

339 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/14(水) 13:54:16 ID:AcV7FYnQ0
今日はここまで。
いよいよ“終末”が始まるようです。

340名無しのスタンド使い:2013/08/15(木) 17:37:48 ID:RH0zL9zU0
か、海斗ォォォォォッ!!?
なんだこの詰みゲーは!?
たてがみ野郎も可愛くみえるクリオネに鳥肌たったわ・・・乙!

341第十二話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/18(日) 02:19:15 ID:xaQnxB5g0
六人がまず咄嗟に目にしたのは、5メートルほど前方のマンホール。
駿介たちから最も近く、最短距離でたどり着けるのはそこだ。
しかし、そこに「ユリシーズ・リング」を放ろうと考える者はいなかった。
「クリオネ」からロックオンされた状況で、リングを手首から外すのは不可能だった。

マンホールまでたどり着くのに2秒、専用アプリの起動に5秒、転送準備に7秒――
転送自体は一瞬だが、それが整うまで12秒を、リングを外した状態で耐えられるわけがなかった。
それを六人は痛感していたのだ。

リングを装着した“最強の男”でさえ、1秒と持たずに散ったのだから。


宗次郎「クソォッ、行けッ、行け行けッ! 走れッ!」


当然のように六人は、目の前のマンホールを踏み越えて、別のマンホールを探して走る。
「ユリシーズ・リング」のパワーで底上げされた脚力、持久力を惜しげもなく使い、新宿の街を疾走する。
背後を振り返る者はいない。そんなこと怖くてできない。六人の後ろに、ピッタリと張り付き後を追う「流氷の天使」たち――。
奴らを振り切るまで、「ライジング・ストライプス」の“死の長距離走”は終わらない。


【ミュェェェェェーーーーーーーーーーーーッ!!】

駿介「ハァッ、ハッ! くそっ、くそっ! 離れねぇーッ、こいつらッ!」

直哉「ハァ、ハァ……こっち来んじゃねーよッ、ふざけんなよォッ!」

洋平「ハァッ! 追いつかれたら“即死”だッ! 死んでも止まるなッ!」


必死に腕を振って、一つ、また一つと転送のチャンスを通り過ぎる。唇を噛み締めてマンホールを踏み、地面を蹴る。
宗次郎は、走りながらにスマホを取り出して、転送用のアプリを起動させた。
自分たちの活動拠点を転送先に指定し、アプリが「ユリシーズ・リング」の非接触認証を要求する。

準備までの12秒は稼げた。あとは、転送だけだ。宗次郎は「フゥッ」と息を吐き出して、五人の前に抜きん出た。
そしてリングを外し、起動中のアプリに従い、リングをスマホにかざす。リングが、位置情報を読み込んだ。
10メートル前方のマンホールに向かってそれを投げると、リングが空中で拡張、マンホールを縁取るように設置され、蓋が消滅。
虹色のワープホールが誕生した。


宗次郎「俺のリングで転送するッ! みんな飛び込めッ!」


ようやく見えたゴール。駿介たちはそれまで以上の力を込めて、地面を蹴って飛ぶ。
宗次郎を追い越して、まずは先頭を走る駿介、続いて直哉がワープホールへ飛び込んだ。
二人の離脱を確認して、宗次郎は背後に迫る「クリオネ」たちの姿を確認する。
「クリオネ」は肌触りの悪い息遣いを感じさせるまでに、残る四人のすぐ後ろにまで近づいていた。
正直に言って、それはもう敵の射程範囲内だった。


宗次郎「……ッ!!」


残りはほんの3メートルほど――しかし、間に合わない!
――すると、そのとき。

342第十二話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/18(日) 02:29:55 ID:xaQnxB5g0
若菜「……ふぅっ!」


若菜が足を止めて背後に振り返り、バナナの刀剣「バナナソード」を抜き、構えたのだった。
そして眼前の「クリオネ」に向かい、流麗な黄色の刀身を突きつける。宗次郎たちを逃がすために、浮遊する無数の悪魔と対峙しようというのだ。
たったひとり、たっちひとつの剣で。
意を決したような彼女の背中に、思わず宗次郎が息を飲んだ。


宗次郎「……若菜ちゃんッ!」

若菜「行ってください! 私が時間を稼ぎます!」

麻栗「ダメだ! ホシワ――」


言いかけた麻栗は、ふいに伸びた洋平の腕にとらえられ、そのままワープホールへと押し込まれた。
洋平は、若菜の決意を有無を言わずに受け止めたのだ。彼女の行動も、それが何を意味するのかも、全て胃の中へ収めるように飲み下して。
洋平は何も口に出さず、ただ黙って宗次郎、麻栗の二人をワープホールまで引っ張った。
若菜と洋平は、一瞥せずとも、互いの意思を読み取った。そしてその行動を理解し、納得した。

これでいい。


洋平(……嬢ちゃん!)

【ミュッェェェッェェェ】

若菜「はぁっ!」


三人が転送を終えたのを背中に感じ取り、若菜は「バナナソード」を思い切り振り抜いた。
長い刀身が一匹の「クリオネ」の胴体に命中。だが、刃はその身体に突き刺さらない。
かざした剣はいともたやすく弾かれる――ペキン、と味気ない音を立てて、あっさり「バナナソード」は折れた。


若菜「……ッ!!」


恐怖に顔が引きつり、絶望が胸を引き裂くようだった。
こんなの、どうしろっていうの。
泣き出したい気分の若菜だったが、そんないとますら与えまいと、「クリオネ」たちは無慈悲に彼女を囲む。
吐き気がするほどに透き通った身体、目に嫌というほど焼き付く鮮烈な赤色の内臓。凶器以外の何にも見えない羽根――。


【ミュンミュンミュンミュンミュンミュン】


――「追いつかれたら、“即死”」。


若菜「はぁ、はぁっ……はぁ、はぁ……」


背筋の凍る言葉と、生唾を飲み下す生々しい音が、若菜の中に反響した――。

343第十二話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/18(日) 02:32:19 ID:xaQnxB5g0
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宗次郎「――くそぉ! 若菜ちゃん……若菜ちゃんが……!」


一方、「ライジング・ストライプス」アジト。
宗次郎は転送されてくるなり、若菜の名を何度もつぶやいてうろたえていた。
瑠樹、駿介、直哉の三人は、宗次郎の様子に驚いた。彼は、普段はこんな感じでわかりやすく動揺するようなタイプではなかったからだ。
彼と同時に帰ってきた麻栗と洋平は、何も言えずにただ乱れた呼吸を整えている。――そして、若菜の姿がない。
「なにがあったの!?」と、瑠樹。駿介は答えを待たず、宗次郎に駆け寄って肩を掴んだ。


駿介「……若菜がどうした!?」

宗次郎「……俺たちを逃がすために、あの子が残って……」

駿介「まだ向こうにいるのか!?」


こくりと力なく頷く宗次郎。駿介は宗次郎の肩から手を離して、手首の「ユリシーズ・リング」を外した。
すると、「待ちなさい!」と咎めるような強さで、瑠樹が駿介を制止する。


瑠樹「……新宿に戻ることは許可できないわ。ここにいて」

駿介「……なんだと?」

瑠樹「地上は危険すぎる。助けに行くのは無理よ。……駿介は、“候補者”なんだよ?
   もし、あの子が帰ってこれなかったら……駿介まで失うわけにいかないの」


そう言って、瑠樹は目を伏せた。駿介は瑠樹に振り返り、「なんだよそれ」と彼女を睨む。


駿介「“見捨てろ”って言ってんのか……? アイツを……」

瑠樹「……“守護者”は、誰かが継がないと……。……若菜が死んだら――」

駿介「それ以上言うな!」


心底続きが聞きたくなくて、駿介は声を荒げた。
ぐっ、と口をつぐむ瑠樹。宗次郎たちは、二人の様子をただ静かに伺うしかない。
彼らの視線を集めながら、駿介は爪が食い込むほどに強く拳を握りしめていた。


駿介「……それ以上、言うな……!」

344第十二話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/18(日) 02:38:55 ID:xaQnxB5g0
震える声で言う駿介。その肩は、微かにだが震えている。
そして駿介は、怒りのこもった声色で、「……なにが、“候補者”だよ……!」と絞り出すように呟いた。


駿介「どうでもいいんだよ、そんなの……!」

瑠樹「駿介……」


いまにもはちきれそうで、見ていられなかった。洋平は駿介に近づいて、語りかけるように話す。


洋平「……待て坊主。気持ちはわかるが、ミルキーの言うことは間違ってない。
   外は危険だ。今のこのこ出て行くのは自殺行為だろ。違うか?」

駿介「……」

洋平「大丈夫だ。あの子は簡単に死んだりしない。すぐ帰ってくるさ。
   お前が鍛えた子だろう? 信じてやれ」

駿介「……」


駿介は唇を噛み締めて、堪えるようにうつむいた。
しばらくして、「わかった」と静かに一言つぶやいて、洋平は駿介の頭をわしゃわしゃと撫でた。
駿介も少し落ち着いたようで、その場にどかっと尻を置いて、壁に背中をつけて座った。
その姿にほっとしたのか、すると四人に全力疾走の疲れが押し寄せて、彼らもまた床に座っていった。


駿介「……」

直哉「……」

宗次郎「……」

洋平「……」

麻栗「……」

瑠樹「……」


六人は、必要以上の言葉を交わさず、ただじっとマンホールを眺めた。
穴の底から虹色の発光が始まって、燐光の中から若菜が出てくるのを待ち続けた。

だが結局、その後何時間待っても、彼女は帰ってこなかった。

345第十二話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/18(日) 02:40:41 ID:xaQnxB5g0
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天より“光球”が降り注ぎ、「流氷の天使」が空を舞った午前が終わり、午後――。
アジトにて若菜の帰還を待つ六人は、とうとう帰らない彼女を探すため、地上へ戻ることを決意した。
駿介たちが再び降り立った新宿の街は、人もまばらで、「クリオネ」の姿ももう見えない。
ついでにいえば、「クリオネ」による被害らしきものも、見当たらなかった。
奴らがどこに行ったのか、何をしにきたのはわからないが、捜索のチャンスであることは明らかだった。
五人は、大声で若菜の名を呼びながら、街を練り歩いていく。
――が、彼女は一向に見つからなかった。


午後3時前、突然、「あ、そういえば」と直哉が思い出したように口を開く。


駿介「あ? なんだ?」

直哉「いや、もうすぐ……“アレ”の時間だな、ってさ」

麻栗「“アレ”ってなんですの?」

直哉「ほら、昨日きたメールの……『人類救済戦線』? そいつらの集会だよ」


12月19日の朝方にスタンド使いたちが受け取った、「人類救済戦線」なる団体からのメール。
謎の団体は決起集会を予定していて、それは20日の午後3時――ちょうどここらの時間に開かれるものだった。
直哉の発言に、宗次郎は「ふむ」と顎を撫でる。しばらく考えて、宗次郎はおもむろに口を開いた。


宗次郎「……なぁ、ちょっとそっち行ってみないか?」

麻栗「ちょっ……ホシワカは!?」

宗次郎「わかってるが、もうランペイジはいないし、生きてるんならどこかに隠れてるさ。大丈夫だよ。
    それよりその『人類救済戦線』……だったか。そいつらが気になるんだ」

直哉「何が気になるんすか?」

宗次郎「どういうやつらなのかも知りたいし、妙に都合がいいと思ってさ。今朝あんなことがあってからの、集会だぜ」


確かに、と四人は心の内に呟いた。「人類救済戦線」は、まるで今日のことをあらかじめ知っていたかのように思える。


洋平「……調べてみてもいいかもしれんな」

宗次郎「それにもしかしたら、若菜ちゃんもそっちに向かったのかもしれないしな。
    どうだ? 駿介。一旦集会の方に行ってみないか」


そう訊くと、駿介も迷っているようだった。
若菜を見つけることが何よりだが、決起集会とやらも看過できない。
それに宗次郎の言うとおり、集会の場所で見つかる可能性もなくはない。何故なら彼女も、同じメールを受け取っているはずだ。


駿介「……わかった。だが、終わったらまたここで若菜を探すぞ」

宗次郎「もちろんだ。それじゃ、行ってみよう」


少し考えて、駿介は宗次郎の提案に乗ることにした。
ほかのメンバーも納得したらしく、それぞれ受け取ったメールを開いて、会場の住所を確認する。
五人は互いに顔を見合わせて、宗次郎の作ったワープホールへ飛び込んだ。

346第十二話 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/18(日) 02:43:02 ID:xaQnxB5g0

**




午後3時。東京、日比谷の駅から歩いて数分、お目当ての「Club atena」に着いた五人。
「人類救済戦線」の決起集会が行われるというそのクラブの入口には、スーツの男の姿が見えた。
駿介たちは男に近寄り、「決起集会に参加しにきた」と受け取ったメールの画面を見せた。
男は文面を確認して頷くと、「スタンドを見せてください」と言った。
駿介たちは、それぞれのスタンドを発現させる。スーツの男は一通り確認して、「どうぞ」と五人を中へと促した。

ラウンジから地下への階段を下りると、広い空間へとつながっていた。
「Club atena」のメインスペースであり、木目調の内装に、柔らかな照明が暖かい場所だった。
奥には色とりどりの酒瓶が並ぶ、バーカウンターも見えた。

人の姿は想像したより多く、50〜60人はいるようだった。
バーで酒を飲むのもいれば、本を読む者、談笑する者など、老若男女様々。
共通するのは、ここにいる全員が同じメールで招待された、スタンド使いであるということだ。
駿介たちは奥の方へと進み、開始の時を待つことにした。

少しすると、カツカツとした規則正しい足音がフロアに響いた。
見ると、ぞろぞろと連なって階段から降りてくる、黒服を身にまとった男たちがいた。
黒の制帽らしきものをかぶり、褐色のシャツに、黒いネクタイ。その上から黒いジャケットを羽織い、同じく真っ黒のパンツにブーツ。
そしてベルトにぶら下げるナイフ――それは、ナチス親衛隊の軍服に非常によく似ていた。
まったく同一とも思えるが、一際目を引く襟章、腕章のデザインはナチスのそれとは異なっていた。
特に腕章には、有名な「卍」ではなく、炎のような独自のマークが記されていた。

フロアに揃った“軍服らしき服”を纏う男たちは、30人近くはいるようだった。
後ろ手に組んで、男たちはぴしっと直立不動。周囲はざわざわしだして、それは駿介たちも同じだった。


駿介「なんだこいつら……?」


怪訝そうに、駿介が呟いたときだった。遅れて、一人の男が降りてきた。
全く同じデザインだが、黒い男たちとは対照的に白い服を纏った男だった。
二十代か、行っても三十代前半にしか見えない顔つきだった。

黒服の男たちは、白服の男に敬礼し、男が彼らの前にあゆみ出た。
そしてフロアに集まった人々の顔を見回して、納得したような表情になると、握ったマイクの電源を入れた。
男のほどよく低く、そして力強さを感じさせる声が、耳朶をうつ。


「諸君、よくぞ集まってくれた! 我々は、『人類救済戦線』である!」










第十二話「前夜祭」おわり


  →To Be Continued...

347 ◆4aIZLTQ72s:2013/08/18(日) 02:47:49 ID:xaQnxB5g0
投下終了です。
非常に中途半端なところで申し訳ないのですが、次回更新はかなり先になると思います。
なるべく早く書きたいところですが、ちょっと忙しくなってきたもので。
よろしくお願いします。

348名無しのスタンド使い:2013/08/18(日) 02:49:45 ID:RdvyQvowO
更新乙!!

ってうわああああ!!
若菜ちゃんは無事なの!?軍服達の正体は!?
気になることが多すぎんよォ〜、続きがめちゃんこ楽しみだ!!

349名無しのスタンド使い:2013/08/18(日) 15:15:27 ID:xv2611ys0
若菜ちゃん大丈夫なのん...?
主人公が死ぬわけはないけど腕モゲて帰って来ることだけはないと祈りたい...
軍服逹は新たな味方陣営と見ていいのかな
気長に待ちますん

350名無しのスタンド使い:2013/08/18(日) 16:38:34 ID:NsnJm87E0
更新乙です!
しかしこの状態で更新中断とか、サドか!サディストなのか!
気になるわい!

351名無しのスタンド使い:2013/08/18(日) 23:38:51 ID:x3vlpx5g0
胡散臭い組織キター!「人類救済戦線」は味方なのか!?
気になることばかりだが・・・しゃーない!

ママクリちゃんに次会える日を楽しみにしておくよ!!!

352 ◆4aIZLTQ72s:2013/11/25(月) 19:08:30 ID:ZvqILsAE0
お待たせしております。来年二月、再開予定でございます。
すみませんが、もうしばらくお待ちください。


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→第十三話「開戦」
 人類救済戦線の会合に参加した駿介たちは、一時的に彼らの軍門に下り、共に“終末の日”に備えることに。
そして迎える“終末の日”。“あちら側”の世界から、武装兵士が大挙して押し寄せ……。

353 ◆4aIZLTQ72s:2013/11/25(月) 19:13:05 ID:ZvqILsAE0
>軍門に下る
配下に入る、の間違いでした。
別に闘わないし負けもしません。失礼しました。

354 ◆4aIZLTQ72s:2014/04/20(日) 17:11:08 ID:nsb17It.0
(更新できてなくて)すまんな

仕事中上司の目を盗んでこっそり書いてるんでもうちょっと待っててくだしあ

355名無しのスタンド使い:2014/04/20(日) 19:05:34 ID:Po7cGxeU0
待ってますよ!wktk!

356名無しのスタンド使い:2014/04/20(日) 19:05:53 ID:Cdhom8ac0
>>354
自分いつまでも待ち続けるっす!
どうぞゆっくりがんばってください!!

357名無しのスタンド使い:2014/04/21(月) 16:25:44 ID:8Gmu1lzs0
待ってますぜボス!!

358 ◆4aIZLTQ72s:2014/05/11(日) 14:16:13 ID:x2LYdhFE0

『ライジング・ストライプス』前回までは……




 2012年、春。大学一年生になったばかりの星 若菜(ほし わかな)はある日、スタンド使いの命を狙う謎の生物『ランペイジ』と、
ランペイジに対抗するSPW財団直属のスタンド使いチーム『ライジング・ストライプス』の存在を知る。
 度重なるランペイジとの遭遇のなか、若菜はライジング・ストライプスに加入することを決め、
同チームの服部 駿介(はっとり しゅんすけ)や、阿佐見 瑠樹(あさみ るき)といったスタンド使いの仲間たちと共に、ランペイジと闘う道を選んだ。

 若菜に続いて新メンバーに秋山 麻栗(あきやま まくり)を加え、7人体勢となったライジング・ストライプス。
順調にランペイジを討伐していく彼女らの前に、装備を同じくする謎のスタンド使いチーム、『花鳥風月』が登場。
花鳥風月から突然の攻撃を受け、混乱する若菜たち。そんな状況に畳み掛けるかのように、ランペイジの生態にも変化が。
スタンド使いしか狙わないハズのランペイジが非スタンド使いの人間も襲うようになり、更にこれまでとは比べ物にならないほど強力な個体、『たてがみ野郎』までもが現れてしまう。
花鳥風月と、たてがみ野郎の攻撃に、壊滅寸前にまで追い込まれるライジング・ストライプス。
彼らの窮地を救ったのは、滅多に姿を見せないチーム最強の男、堂島 海斗(どうじま かいと)だった。
 
 同年、12月。若菜たちは瑠樹の口から、世界終焉のときと言われている“終末の日”が近づいていることを告げられる。
それに加えて、瑠樹の正体が世界を守る“守護者”であり、若菜と駿介がその跡を継ぐ“候補者”であることも語られた。
 候補として選ばれたのがなぜ自分なのか? 一体なにをすればいいのか? 答えを見いだせない若菜だったが、“終末の日”は確実に近づいていた。

 そして迎える“終末の日”前日。おびただしい数のクリオネ型ランペイジが空を覆い、街中が大混乱となる。
圧倒的な物量の前に怯えることしかできないライジング・ストライプス。一人、勇ましく挑んだ海斗も、クリオネの圧倒的な力の前に、なすすべなく瞬殺されてしまう。
パニックを起こし、その場からの離脱を図る彼らだったが、その最中、全員を逃がすために若菜が囮役を買って出る。
 その甲斐あって無事避難できた駿介たちだったが、その後若菜は帰ってこなかった……。

 若菜を探すため街へ戻った駿介たちだったが、彼らは捜索を一時中断し、『人類救済戦線』なるグループの集会に参加することに。
そこで駿介たちが出会ったのは、謎めいた軍服姿の男たちだった……。

359第十三話 ◆4aIZLTQ72s:2014/05/11(日) 16:42:50 ID:x2LYdhFE0
 
 第十三話「開戦」











    『充分に発達したテクノロジーは、魔法と見分けが付かない』――――アーサー・C・クラーク(1973)

360第十三話 ◆4aIZLTQ72s:2014/05/11(日) 16:48:39 ID:i5oMeAtM0
 **




 ――――「諸君、我々は人類救済戦線である!」

 club atena地下にずらりと並んだ、『人類救済戦線』 と名乗る黒い軍服姿の男たち。
 その中で一際目を引く白い軍服の男は、集会に集まった参加者たちの顔をみて、高らかにそう告げた。
 白い軍服に、黒い長髪を靡かせた、長身の男だった。青年のようであり、しかし壮年のようでもある見た目からは、年齢を窺うことはできなかった。
 
 白い軍服の男の名は、『烏丸 傑(からすま すぐる)』。
 黒い軍服の男たちを従える、人類救済戦線の代表者だった。


 烏丸「私は代表の烏丸 傑だ。早速だが、今日君たちは空を覆う無数のクリオネのようなものを目撃したと思う。
    突如発生した正体不明の怪物。我々は奴らのことを、“変数”と呼んでいるが、実は“変数”の存在が確認されたのは今日が初めてではない。
    “変数”は以前から、世界中で度々目撃されていた。東京、上海、シドニー、ベルリン、ニューヨーク……。
    先月起きた『国際展示場動物異常発生事件』も、“変数”の発生によるものなのだ」

 
 烏丸は、突然つらつらと参加者たちに向けて説明を始めた。何故か、その声質と話し方は、聴衆の関心をいやにひきつけた。
 音をシャットダウンしようとすれば、できる。聞こうとしなければ、ただのノイズになりさがる声のはずだった。
 しかし一度耳を傾けたら、聴衆は彼の話を聞かずにはいられなかった。話の内容は、“聞く”という前提のあとについてくる。
 妙な現象だが、とにかく烏丸の声と話には、一度人を捕らえたら決して離さない何かがあった。


 烏丸「――万物には、基本となる数が定められている。“自然界の基礎定数”だ。物事の流れは全て決められた数の中で起きている。
    しかし十年ほど前、そうでないものが現れた。それが自然界のどれにも属さないx――“変数”だ。
    そいつがいるだけで、周囲の数字が一気に乱れる。この世界の法則を無視し、破壊する、とんでもない害虫が現れたのだ。
    我々はこの十年、“変数”を研究し続けてきた。そして、ある事実を知った」


 そこまで話すと、烏丸は他の軍服の男に合図し、背後の壁に埋め込まれた巨大モニターに映像を映させた。
 モニターには一面に広がる世界地図と、各地にポツポツと点る赤い光、謎めいた数字の羅列が表示されていた。
 数字の羅列は、おそらく烏丸の言う“自然界の基礎定数”であると、聴衆はあたりをつけた。
 赤い光が“変数”。“変数”があちこちで光るたび、基礎定数はその値を変化させていた。


 烏丸「この図表は、世界の“基礎定数”と“変数”の発生によって生じる数値の変化を表したものだ。
    さらに、我々が見つけたある特殊な方程式で、計算した結果によれば――」


 するとモニターの世界地図の上で、無数の赤い光が地図を埋め尽くすかの勢いで大量発生する。
 基礎定数はその値を大きく変動させ、やがて世界が完全に赤い光に飲み込まれた。
 聴衆のざわつきが大きくなり、場内を満たす。烏丸は、そんなことは御構い無しにと説明を続ける。


 烏丸「明日――12月21日。この世界の定数が観測史上最大数値で変動する。異常な数の“変数”が、全世界に同時に発生すると考えられる。
    “天変地異”“終焉”“神の裁き”――なんと呼称してもらって構わない。何が起こるにせよ、明日、私たち人類が窮地に立たされることは間違いない。
    今日諸君らに集まってもらったのは、我々と共に闘う同志を欲したからである。どうか、我らと共に敵を撃退し、人類を救済してほしい!」

 
 そこまで聴いて、聴衆の意識は完全に烏丸の言葉に集中していた。妙な雰囲気だった。
 全員が全員、もう首を縦に振りかねない空気が、そこにひろがっていた。
 その中の一人の男が、「撃退って言ったって、どーやるってんだよ?」と烏丸に問いかけると、周囲の者もはっとしたようにそれに続く。

 「そうだ!」「こんなの無理じゃない!」「俺たちに何ができるっていうんだ!?」
 
 参加者たちは、これまで黙っていた反動と言わんばかりに、強い言葉をそれぞれ口にした。
 烏丸は、そんな彼らの表情を一つ一つ丁寧に観察しながら、握ったマイクを再び口元へ運ぶ。

361第十三話 ◆4aIZLTQ72s:2014/05/11(日) 16:51:37 ID:x2LYdhFE0
烏丸「私にも、君たちにもスタンドという特別な才能があるし――策も用意してある。
    それは追々話すが……重要なのは我々が一人ではないということだ。個々の力はそれほどでも、人間には手を取り合い、力を合わせられる強さがある」

 駿介「……」

 烏丸「我々が結束すれば、それを破れるパワーなど存在しない! 人類の強さは意志の強さだ。頑強な意志こそが、迫り来る悪意を跳ね返せる!
    大切なものを守るために立ち上がれ! 結束という名の最強の武器で、我々が敵を討ち滅ぼすのだ!」


 拳を頭上に突き上げて、烏丸は力強くそう告げた。
 その時点で、烏丸に意見しようとする者は一人もいなかった。納得したかしないかは別にして、聴衆は烏丸の言葉を一字一句漏らさずに聞ききったのである。
 そこにいる誰もが、これが異常な演説であることに気づいていた。気づいていて尚、それを話の判断材料にしなかった。
 やがて誰かがパチパチと手を叩き、また一人が手を叩き、やがて大きな拍手の波がフロアに押し寄せた。
 

 烏丸「ここからの選択は君たち自身の意思に委ねる。共に闘う者はここに残り、そうでない者は去ってくれ。
    ひとりでも多くの者が残ってくれることを期待する。以上だ」

 黒軍服「それでは、闘うつもりの人は僕のところに集まってくれ! 僕たちが着ている制服を配布する!」

 
 烏丸は話を切り上げて、マイクを他の軍服に渡し、一階への階段を上がっていった。
 出し抜けに、黒軍服の中で最も若い少年が、手を上げて参加者たちに告げた。
 参加者たちは、少年に引き寄せられ、少年の前には長い列ができあがっていた。
 
 駿介たちは、スタンド使いたちの長い列を眺めながら、並ぶべきかどうか決めかねていた。
 

 直哉「……俺たち以外に、ランペイジを調べてる奴らがいたンすね」
     
 宗次郎「どうする? こいつらの話……乗っかるべきだと思うか?」


 宗次郎が、ほか四人の様子を伺い、言う。


 洋平「結束だのなんだの胡散臭いが……ランペイジの情報に関しては正確だな。“終末の日”も知ってる。
    烏丸だっけか。奴の話を聞く限りじゃあ、人類救済戦線やらと俺たちの目的は共通してるようだ」

 麻栗「協力しよう! 仲間は多い方がいいに決まってますわ!」

 宗次郎「駿介、お前はどう思う?」

 
 壁に背をあずけて、腕を組み、駿介はじっと列を眺めていた。
 宗次郎の問いかけに、静かに口を開く。


 駿介「隣に誰がいようと関係ない。俺たちは俺たちの仕事をするだけだ」

 洋平「だな」

 直哉「ゆーて俺ら、ベテランだし? 力貸してやったほうがいいッスよ。こいつらイマイチ頼りねーし」

 宗次郎「決まりだな」

362第十三話 ◆4aIZLTQ72s:2014/05/11(日) 16:56:08 ID:x2LYdhFE0
駿介たちは列がなくなるのを待ってから、軍服の少年に近づいた。
 短くかりあげた髪に、まだ幼さの残る顔つきの少年だった。年は、駿介や直哉とそう変わらないように見えた。
 少年は駿介たちに気づくと、名簿を脇に挟み、右手をすっと差し出した。

 
 黒軍服「残ってくれてありがとう。僕は『道祖土 将生(さいど まさき)』。君たちの名前を教えてくれ」

 駿介「服部 駿介だ。右から順に、槌田 洋平、湊 宗次郎、秋山 麻栗、日下 直哉」

 将生「五人だな。では、この制服を着てくれ。フリーサイズだから安心していい」


 そう言って、道祖土 将生は足元のダンボールから、新品の黒軍服を五着分取り出して、駿介たちに手渡した。
 ナチスのものに良く似たデザインのそれが、人類救済戦線が指定する制服であるらしい。
 「趣味じゃない」と言いたげに五人は眉をひそめた。


 直哉「だっせぇ……。どうしても着ないといけねーの?」
 
 将生「野球もサッカーも、私服で試合に出る選手はいない。心を一つにするには、まずは格好からだ。
    気持ちはわからなくもないけど、ここは協力してほしいな」

 洋平「なるほどねぇ……」


 仕方なく、五人は軍服を受け取った。将生は納得したように頷いた。
 

 将生「今日はここに泊まってもらう。人数分の布団と夕食を用意してるから、あとで取りに来てくれ」

 宗次郎「外には出れるか? はぐれた友達を探してる最中なんだ」

 将生「いまの時間なら構わないが、18時までには戻れ。夜間の外出は禁止だ。
    それと20時から烏丸代表から明日の説明がある。そのときは五人とも、制服に着替えてくるように。いいか?」

 麻栗「ええ。了解しましたわ」

 
 一通りの説明を終えて、将生は名簿とダンボールを持って、地上への階段を上がっていった。
 フロアの隅に受け取った制服を一旦置いて、若菜の捜索を再開すべく、駿介たちも外へと向かう。
 

 駿介(若菜……どこにいる?)


 唇をがり、と噛み締めて、駿介は胸の内にそう問いかけた。

363第十三話 ◆4aIZLTQ72s:2014/05/11(日) 17:02:38 ID:x2LYdhFE0

 **




 2012年 12月20日 18時50分

 『終末の日』、前日


 
 早朝の悪夢の発生から、半日が過ぎようとしていた。
 若菜が最後に目を閉じる前、彼女の視界一面は鮮烈な赤色で塗りつぶされた。
 眼前にまで肉薄したクリオネ型ランペイジの、透けた身体越しに見た内蔵の赤色。それが最後に見た景色。
 恐怖が臨界点を突破し、思わず目を閉じた――それが現存する最後の記憶である。

 次に若菜が瞼を開いたとき、最初に目に入ったのは、真っ白な高い天井だった。


 若菜「……ここは……?」


 背中の下の柔らかな布団の感触と、シーツの手触りと、潔癖な空気の匂いがした。
 そこが病院のベッドの上だと気づくのに、あまり時間はかからなかった。
 むくりと身体を起こし、するとぴしりと頭痛が走ったので、若菜は顔を歪めた。

 あのあと、何が起きた? クリオネはどうなった?
 いくら考えてみても、思い出すことはできなかった。自分の身体をくまなく確認してみるが、特に目立つ怪我はなかった。
 奇跡か実力か、どうやら生き延びることができていたらしい。必死すぎて覚えていないのかはわからないが、とにかくどこかで意識を失い、ここに運ばれたのだ。
  

 若菜「……あっ! そうだ、みんなは……!」


 駿介たちとの最後の瞬間を思いだし、はっとしたように若菜は呟いた。
 無事に逃げられたのだろうか。確認すべく自分のスマホを探してみるが、ポケットにもベッド脇のテーブルにもなかった。どこかで落としたようだ。
 すると、「若菜!」とよく聞きなれた声が、彼女の名を呼んだ。
 声の方向を見ると、足早に近づく若菜の母の姿が見えた。

 
 若菜「お母さん!?」

 母「よかった……意識が戻ったわ! もう、心配したのよ!」


 心の底から安堵して言い、母は困惑する若菜の身体を抱き寄せた。
 若菜は母から、自分が神田川の河川敷で倒れていたこと、それを近隣住民が発見したこと、それから病院に搬送され意識を失っていたことを聞かされた。
 かろうじて残っていた荷物から、病院が実家の連絡先を割り出し、若菜の母に連絡が行ったということだった。
 
 
 母「一体何があったの!? 今朝の変な怪物となにか関係があるの!?」

 若菜「なんでもないよ……それより、私のスマホ見てない?」

 母「見てないわ。失くしたの? ……でも、ホントに無事でよかった……! あなたが起きなかったらって、私……!」

 若菜「ちょっ、お母さん……。大丈夫だから、泣かないで……」


 母の胸に抱かれながら、若菜は右手首のユリシーズ・リングと、それから部屋の時計を確認した。
 現在午後七時前。その時間は、今朝の戦闘から十一時間以上が経過し、同時に“終末の日”まで残り六時間を切っていることを示している。
 すぐにでもチームと合流する必要があるが、スマホがないためリングの転送も、メンバーと連絡を取ることもできない。

 もう時間がない。“世界の終わり”が始まってしまう!

 全身を安堵感でいっぱいにする母とは対照的に、若菜は一人、じりじりと焦りを募らせていた。

364第十三話 ◆4aIZLTQ72s:2014/05/11(日) 17:04:03 ID:x2LYdhFE0
ようやく再開できました。これからがんばっていきまーす!

とりあえず、前半部分を投下しました。

365 ◆ca4X5rRcHM:2014/05/11(日) 18:53:02 ID:8Z89cAEY0
更新乙!

やはり人類解放戦線……うさん臭すぎる……

366名無しのスタンド使い:2014/05/11(日) 19:30:17 ID:RhqzXg3k0
久しぶりの更新乙!
解放戦線の人たちは一体何者なんだ…謎が謎を呼ぶぜ
若菜がどうやって助かったのかも気になる!

367第十三話 ◆4aIZLTQ72s:2014/05/12(月) 21:36:59 ID:1n03rTdo0
**

 
  
 
 2012年 12月20日 23時00分

 『終末の日』、前日


 『終末の日』まで残り一時間を切った、午後十一時。
 Club atenaでは人類救済戦線の作戦説明が終わり、明日の闘いに臨むスタンド使いたちが、それぞれ布団を敷いて眠りについていた。
 各自の布団が敷き詰められた地下フロアは消灯され、起きている者はほとんどいなかった。戦士たちは、明日に備えて一分でも多く睡眠を取ることにしたのである。
 そんな中で、駿介だけはどうしても眠れなかった。駿介は布団から出ると、階段を上がって一階へ向かった。
 一階奥のバーカウンターには、一人酒を飲む烏丸の姿があった。駿介は、烏丸に近づいて声をかけた。
 

 駿介「……隣いいか? 烏丸代表」

 烏丸「君は……服部くんだったか。どうぞ、かけたまえ」


 許可を得て、駿介は烏丸の隣についた。烏丸は高価なスコッチを味わっていた。
 烏丸はカウンターの裏からグラスを取り、スコッチを注いで駿介に渡した。
 

 烏丸「眠れないときはスコッチが効くぞ。身体が温まる」
 
 駿介「アンタも眠れないのか?」

 烏丸「ああ。同志が私のために和室を取ってくれたんだが……押入れのある部屋だった。恥ずかしい話、“押入れのふすま”が小さい頃から苦手でね」


 少し照れくさそうに烏丸が言った。
 スコッチをちびっと舐めて、駿介はグラスを置いた。

 
 烏丸「子どもの頃、私の部屋には押入れがあって……夜、一人で寝ていると閉まったふすまがどうしても恐ろしかった。
    ふすまの向こうに、何かの気配を感じるんだよ。何もいないはずなのに、確かに何かを感じるんだ」

 駿介「……」

 烏丸「朝になれば、ふすまを引いて安心できる。なにがあんなに怖かったのか、自分でもすっかりわからない。
    だがまた夜になると、やっぱり怖いんだ。朝のようにふすまを引ければいいんだが、どうしてもそれができない。
    押入れの中身は変わらないと頭ではわかってても、無理なんだ。夜、私はふすまの前で布団に包まるしかなかった。
    あれから随分歳をとったが、いまでもなんとなく、夜の押し入れは苦手なんだ」


 そう言って、烏丸はグラスを干した。空になったグラスに、スコッチを注ぐ。


 烏丸「――私は朝までここにいるつもりだ。君はもう寝なさい。明日はシビアだぞ」

 駿介「……そうするよ。じゃあ、また明日」

 烏丸「また明日」

 
 それだけ話して、二人は別れた。
 駿介が地下へ降りたあとも、烏丸は酒を飲み続けた。スコッチの瓶が空になるまで、彼はカウンターから離れようとしなかった。

368第十三話 ◆4aIZLTQ72s:2014/05/12(月) 21:37:28 ID:1n03rTdo0
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 2012年 12月21日 0時00分

 『終末の日』




























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369第十三話 ◆4aIZLTQ72s:2014/05/12(月) 21:50:30 ID:1n03rTdo0
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 『終末の日』、一日目/早朝――――7:00


 その日、ほとんどの人間が、夜が明けたことにしばらく気がつかなかった。
 何故なら、窓の外があいも変わらず真っ暗なままだからである。
 やがて人々は、テレビで、ラジオで、自らの目で直接確かめて、その理由を知る。
 昇っているはずの太陽が何かとてつもなく巨大なモノに遮られ、朝の日差しが地上に届いていなかったのだ。

 異変に気づいた者が一人、また一人と、寝巻き姿のまま外へ飛び出し、一様に空を見上げていた。
 天を仰ぐと、見慣れたいつもの空――雲や、星や月や太陽が浮かぶ、あの空はそこにはなかった。
 代わりにあったのは、とてつもなく広大な、見渡す限りに広がる“鉄色の何か”だった。
 いつ頃現れたものか、いつからそこにあったのか、どれほどの規模をほこる物体なのか、それらを正確に把握している者は地上にはいなかった。
 その“鉄色の何か”は、地平線の遥か彼方まで際限なく続いていた。ある一人の少女は、それを見て「大きな500円玉みたい」と呟いた。

 まるでありえないほど大きな、途方もないほど大きな硬貨が、東京の空にぴったりと蓋をしてしまったかのようだった。

 不安気に空を見上げるのは、人間だけではなかった。
 犬は天に向かって吠え、猫は全身の毛を逆立て、鳥は混乱した様子で宙をおろおろと舞う。
 ストレスで息絶えた家畜もいた。
 
 天高く張り付いたその『蓋』は、その遥か下に暮らす全ての生き物を、等しく恐怖で萎縮させていた。


 そして、午前八時。
 『蓋』に変化が現れる。

 金属板をねじ切るような、もしくは獣の断末魔のような、そんな全ての生物がDNAレベルで嫌悪する騒音が、破壊的な音量で突然鳴り響いたのだった。
 空気が割れるか、窓ガラスが割れるか、鼓膜が切り刻まれるか、どれが真っ先に来るかわからない……それほど生物を慄かせる音だった。
 そして音の発生と同時に、『蓋』の表面に何かドス黒いものが現れ、じわじわとひろがっていく。
 いくら目を凝らして見ても、その黒いものが何なのかは、わからない。
 しかし、黒いそれの中から、小さな何かがいくつも飛び出し、空を切って地上へ降りてくるのはみなが理解できた。
 
 おそらく、その黒いものは“穴”だった。『蓋』の一部が開いたのだ。
 そして、そこから飛び出してきたもの、それは見たこともない形状の“舟”だ。
 失敗した飴細工のように歪なかたちをした、さながら舟よりも巨大なカプセルに近い『輸送艦』。

 
 異形の来訪者たちと、数多の災いを詰め込んだ絶望の“方舟”が、地上に送りつけられてきたのである――――。

370第十三話 ◆4aIZLTQ72s:2014/05/12(月) 22:08:06 ID:1n03rTdo0
**



 『終末の日』、一日目/朝――――8:00


 突然鳴り響いた空を裂くような謎の音は、若菜と彼女の母親をも叩き起こした。
 二人が目を覚ましたのは、若菜が借りているアパートの一室である。昨日、病院で意識を回復した若菜は、そのまま病院を飛び出し自宅へ直帰していた。
 理由をしつこく問う母親には何も答えず、とりあえず自分の部屋で、母と共に『終末の日』を迎えることにしたのである。

 そして翌朝、星母娘は奇妙な騒音に目を覚ます。
 窓の外は夜中のように暗いが、デジタル時計は午前であることを告げていた。
 「な、なんなのかしら……」と、若菜の母は声を震わす。彼女が娘の様子を伺うように見ると、その横顔は険しく、そして何か覚悟を決めたような表情だった。
 母が19年間共にして初めてみる、娘の顔だった。

 
 母「若菜……? 大丈夫……?」

 若菜「……お母さん、私……ちょっと出てくるね」

 母「え!? 出てくるって、何言ってるの……?」

 若菜「私、行かなきゃ。お母さんは、部屋から出ないで」


 思いがけない娘の反応に、母は言葉が出てこなかった。
 咄嗟に若菜の細い手首を掴んだが、若菜は母の手を優しく、しかし有無を言わせぬ力で、手首から外した。
 若菜は立ち上がると、手早く服を着替え、リュックサックに手当たり次第フルーツを詰め始めた。
 母はそんな娘の後ろ姿に何も言えず、ただ泣き出しそうな目で見つめることしかできなかった。
 そんな視線を痛いほど背中に感じつつも、若菜は玄関で、『ティンバーランド』のブーツの紐を締めた。
 

 若菜「……絶対、帰ってくるから」

 母「若菜!」

 若菜「行ってきます!」

 
 母の声を遮るように告げて、若菜は家を飛び出した。
 外は恐ろしく寒く、肌を凍てつかせるような風がびゅうびゅうと吹き荒れていたが、若菜は駆けた。
 走る足を止めるわけにはいかなかった。ブーツの底で地面を蹴って、蹴って、また蹴って、進んだ。
 
 数100メートル先の交差点の真ん中に、人垣が見えた。
 そしてその向こうには、今しがた地上に舞い降りたばかりの、歪な流線型の巨大カプセルが、見る者を威圧するかのように聳えていた。

371第十三話 ◆4aIZLTQ72s:2014/05/12(月) 22:14:04 ID:1n03rTdo0
 人垣の近くまでたどり着いて、若菜がその流線型巨大カプセル――輸送艦を間近に見ると、それがいかに規格外の形状なのかがよくわかった。
 輸送艦は、横の幅は約6メートルほどと狭いが、ひたすら縦に船体を伸ばすという奇妙な構造をしていた。
 高さは大体30から40メートルといった感じで、舟というよりは“塔”に近かった。
 船体はぐねぐねとねじり曲がり、材質が一切不明な表面には、ゆらゆらと怪しげな光がたゆたう。
 どっかの国の芸術家が作った前衛的なオブジェ――だったらいいのだが、残念ながらそうではない。

 触れず、一定以上近づけず、人々がそれなりの距離を置いていると、輸送艦の底が一瞬、ぴかりときらめいた。
 そして、きらめいた部分が突然どろりと溶け出したかのように変化すると、その中から、四つの影が姿を見せた。

  
 若菜「……!? なに、あれ……!?」


 輸送艦から降りてきた四つの影――――それは、人の形をしていた。
 頭があり、胴体があり、腕が二本で、同じく二本の脚で直立する2〜2.5メートルほどの高さの物体。
 間違いなく、それは人間だった。
 無数の泡を張り付けたような銀色の歪なアーマーを纏い、頭部はフルフェイスのメットで覆っている。
 ランドセルのようなバックパックを背負い、そして右手は、これもまた形容しがたいデザインの武器を握っていた。おそらく銃だった。
 
 突然の来訪者たち――その姿を生で目撃して、人垣のざわめきが大きくなる。

 「ヤバイ! ウソウソ、ウソでしょ!?」「人間じゃん!!」「宇宙人かよ! すげーッ!」「やべぇよ! マジやべえ!」
 「きた! 宇宙人きた!」「ちょっとヤバイヤバイ! すごいよこれ!」「本物かよこれ!? 映画の撮影とかじゃねーの!?」「ありえねーッ!」

 スマートフォンのカメラを構え、泡アーマーの来訪者を撮影する人々。その後方で、若菜は一人背筋を凍らせ、息を飲んだ。
 能天気すぎる。この人たちは、どうしてわからないのか。
 
 泡のアーマー、バックパック、右手の武器! どう見たって、奴らは“兵士”じゃないか!

 そのとき。
 『泡アーマーの兵士』の一人が、右手に握った銃を、一般人に向けた。
 一瞬で、場の盛り上がりは跡形もなく吹き飛び、空気が凍りつく。
 
 「逃げて!」と若菜が叫ぶよりも、断然早く――――

 
 泡アーマー兵1「――――dslsl」

 
 ――――謎めいた言語を口にして、泡アーマーの兵士は、その引き金を無慈悲に引いた。

 
 ぶおん。
 それは、まるでドライヤーのような機械だった。生ぬるい風が銃口から吹き、スマホを掲げる一人の男の肌を撫でた。
 男は、一瞬何が起きたのかわからないといった顔を見せていたが、それは本当に一瞬だけだった。

 どろり。
 次の瞬間、男の全身は火にかけられたアイスクリームのように、どろどろの液状と化して地面に落ちた。

372第十三話 ◆4aIZLTQ72s:2014/05/12(月) 22:21:11 ID:1n03rTdo0
混乱。硬直。思考停止。
 そして行動再開――――人垣は、一斉に崩壊した。

 「うわぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
 「いやあああああああああああぁぁっぁぁぁぁああああああああああああああああぁっぁぁぁっぁぁぁっぁああああ!!!!!!」
 「ぎゃああああああああああぁぁっぁぁあああぁぁっぁっぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 悲鳴。絶叫。阿鼻叫喚。
 人間が考えうる限りの地獄絵図が、交差点のど真ん中に突然誕生した。
 どろどろに溶かされた一人の男の顛末が、その合図だった。人々は一斉に踵を返し、となりの人間を押しのけて、走り出した。
 しかし彼らは、“敵に背を向ける”という行為がどれほど危険であるかを、根本的に理解していなかった。というよりも、知らなかった。
 何故なら想像したことがないし、対応マニュアルも存在しない。
 異形の兵士に侵略される状況など、誰も考えない。


 泡アーマー兵1「;lakpewkjencuwoam」
 
 泡アーマー兵2「nosdja! iwoacspkcpo!!」

 泡アーマー兵3「jujujujujujujujuju! jsacmioeiwojwo!」

 泡アーマー兵4「ahdaopjaw? mal?? sjdsijefoijfa;!」


 無防備に背中を晒す人々を、泡アーマーの兵士の四人は、情け容赦なく淡々と撃ち殺していく。
 『ドライヤー銃』を構え、笑い声と共に、引き金を引いていく。
 送風が人々の背中に命中すると、一瞬で溶けて人の形ではなくなった。原型は崩れ去り、あとに残されるのは吐瀉物のような液状のタンパク質である。
 あまりにおぞましく、理解を超え、そして残酷すぎる光景だった。

 不自然だったのは、溶かされるのは男性のみというところだった。
 泡アーマーの兵士たちは、女性にはドライヤー銃を向けていない。これは、11月のビッグサイトでのたてがみ野郎の一件にも通じる特徴だった。
 すると、兵士たちはドライヤー銃のグリップ部分の突起に、指をかけた。それは、ダイアルのようなものだった。
 兵士たちがダイアルを調節すると、今度は銃口を女性の背中に向けた。そして、兵士たちは引き金を引く。
 生ぬるい風の代わりに発射されたのは、小さなマグネットのような物体だった。

 「うぐっ!」「いたいっ!」「なに!? なに!?」

 すると、マグネットを背中に受けた女性たちの身体が、突然ふわりと持ち上がり、輸送艦へ向かって加速した。
 びたん、と船体に張り付くと、そのまま船体はずぶずぶに軟化し、彼女たちの身体を内部を取り込んでいく。
 涙も、絶叫も、助けを求めて伸ばした手も、輸送艦はなにもかも飲み込んでしまった。
 一人、また一人と、マグネットを付けられた女性が輸送艦に引き寄せられ、歪な流線型のなかに姿を消した。

 
 若菜(こんな……! こんなことが……!)


 悪夢、それ以外に名状できない惨状。目の前で母親を連れて行かれた子ども、愛する人を溶かされた女性、親友だった液体に足を取られ転倒する青年――――
 数々の人生が、生命が、尊厳が、理不尽に踏みにじられている。蹂躙されている。
 ぞわぞわと全身の肌を粟立てながら、若菜は立ち尽くした。立ち尽くして、両の拳を握り締めた。彼女は葛藤していた。


 若菜(ここで私が闘わなかったら、この人たちは皆殺しにされる! でも――――)


 闘うということは、相手の兵士を殺すこと――――同じ“人間”を殺すということ。

373第十三話 ◆4aIZLTQ72s:2014/05/12(月) 22:22:43 ID:1n03rTdo0
 

 若菜(でも……でも……! でも……!)



 「いやぁぁぁぁぁぁぁ」「助けてくれぇぇぇぇぇ」「殺さないで! 殺さないでください!! お願いします!!!」
 「ママぁぁぁぁぁぁ行かないでぇぇぇぇぇぇ」「妻を連れて行くなあっぁぁぁぁっぁぁ」「神様……神様……お救いください、おすくいください……!!」
 「死なないで、死なないで! あああああああ」「子どもだけは助けてくれ! 頼む! うわあああああああああぁぁぁっぁあぁっぁぁぁぁ」
 


 若菜(でも…………っ!!)


 
 泡アーマー兵2「jujujujujuju!! jujujujujujujuju!!!」
 
 泡アーマー兵3「hau! f,s;lfwl@sapo!!」



 若菜(こんな……)



 泡アーマー兵4「jujujuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuu!」



 若菜(こんなやつら――――)



 泡アーマー兵1「jujujujujujujujuju!」



 若菜(――――同じ人間なんかじゃない!)


 
 泡アーマー兵1「jujuju……。……ojwo?」












 
 若菜「『サニー・デイ・サンデー』!」

374第十三話 ◆4aIZLTQ72s:2014/05/12(月) 22:30:54 ID:1n03rTdo0
右手首のユリシーズ・リング。虹色の燐光が、夜の闇をかき消すかのように強く輝く。
 ふぅっ、と息を吐いて、若菜は地面を蹴って跳んだ。
 傍らには、スタンド『サニー・デイ・サンデー』を携え、右と左のそれぞれの手に握るは、二本のバナナソード。
 その剣が狙うは、一人目の兵士。


 若菜「せいやぁぁーーーーーーーーーっ!」

 泡アーマー兵1「!!!????? fj;aj;cm――――」


 叫びとともに、頭上から飛びかかる“敵”。泡アーマーの兵士は、突然の事態に反応が遅れた。
 迫り来る敵に慌ててドライヤー銃を向けるも、行動があまりにも遅すぎた。
 ユリシーズ・リングで強化された、斬れ味抜群の黄色い刃。右の刃は、兵士の左腕をばっさり切り落とした。
 そして左の刃は、その首を叩き斬り――――

 
 泡アーマー兵2「!!!!!!!!!」

 
 ――――次の獲物の足元へ、斬り飛ばした頭部を投げてよこした。


 若菜「ふぅっ!」


 右足から着地し、その勢いを再利用して、若菜は全力で死の領域を駆け抜ける。
 二人目の兵士が、超スピードで接近する若菜を狙い、ドライヤー銃の風を打ち放つ。
 風という見えない弾丸。しかし、ユリシーズ・リングによって極限まで強化された若菜の身体能力と、反射神経の前では、その弾はあまりにも遅すぎた。
 見えてなくても、余裕で躱せる――――。若菜はトップスピードを維持したまま姿勢をがくりと落とし、屈みながらにバナナソードを構えた。
 たん、たん、と数歩で距離を詰めると、思いきりソードを振り抜く。刃は、泡のアーマーごと、敵の胴体を真っ二つに切り裂いた。


 泡アーマー兵3「slpapwpefkpaf@pow!!! jdwadflnf;w!!!」


 二人目の兵士が二つに分かれたその直後、半狂乱気味の三人目。混乱とともに撒き散らした風の弾丸が、バナナソードの一つに命中。
 どろりと溶けて、ソードだったそれは若菜の手からこぼれ落ちた。
 咄嗟に、若菜は残った一本を三人目の頭部に目掛けて投擲する。若菜の手から離れたバナナソードは、空を切りながら三人目の頭部を目指して飛ぶ。
 一秒後、バナナソードはフェイスガードごと、三人目の頭を貫いた。ぐらり、と三人目は後ろに倒れ、動かなくなった。


 泡アーマー兵4「mpwfw:af@:e,@v!!! lrfkrgnrtkgnkrm;r,:s!!!!」

 若菜「『サニー・デイ・サンデー』、パインスパイクッ!」


 残すは一人。バナナソードを二本とも失い、しかしその次の瞬間には、若菜の右腕には新しい武器が装着されていた。
 パイナップルのスパイクハンマー・パインスパイクが、荒々しく生やした無数の槍を、敵に容赦なく見舞う。
 隙をついて、相手の懐に潜り込み、若菜はパインスパイクの右腕で四人目の頭部を殴り抜いた。
 槍がメットを貫いて、中身を穴ぼこだらけにする。ぼこり、と頭蓋骨が陥没した鈍い音と、槍が肉を貫いた両方の音が、あたりに響いた。
 突き刺さったパインスパイクを引き抜き、最後の一人がどさり、と地面に倒れると、いつしか人々の悲鳴は止んでいた。
 つかの間の静寂が生まれ、若菜の息を整える音だけが聞こえた。しかしそれは、直後発生した絶叫に近い歓声の渦にかき消される。
 若菜が周囲を確認すると、生き延びた人々が、若菜の行為を称え、惜しみない称賛の声をあげていたのだった。

 「うおおおおおおおおおーーーーっ!!」「すげぇよ、マジすげぇよアンタ!」「ありがとう、ありがとう……っ! 本当にありがとう……!」
 「助けてくれてありがとう! ありがとうっ!!!」「女神だよ! アンタ、女神さまだよ!!」「ううぅっ、ありがとう、ありがとう…!」
 「ありがとう! みんなを救ってくれてありがとう!!」「本当にありがとう!!」「キミがいてくれてよかった! 助かった!!」「最強のおねえちゃんだ!!!」


 若菜「……」


 老若男女、様々な年代の人々が、若菜に駆け寄り、その周りを囲んだ。みな、涙でぐずぐずになった顔で、ひたすら感謝の言葉を口にしていた。
 肩を叩き、握手を求め、人々は彼女から離れようとしなかった。若菜は頬についた返り血を手でぬぐいつつ、自分を求める周囲の声を、ただ静かに受け止めていた。

375第十三話 ◆4aIZLTQ72s:2014/05/12(月) 22:35:35 ID:1n03rTdo0
 **



 『終末の日』、一日目/午前――――10:30


 敵の攻撃から二時間が経過した、午前十時。
 東京・日比谷のとある高層ビルの屋上に、百人近い黒軍服の集団があった。
 人類救済戦線である。
 ライジング・ストライプスも含め、決起集会に参加したスタンド使いのほとんどが、グループに新しく加わったのだった。
 駿介、直哉、宗次郎、洋平、麻栗の五人も、黒い軍服に身を包み、装いを新たにしている。
 
 屋上からは、様相の変わった東京の街が一望できた。
 不気味なオブジェが街のいたるところに乱立し、いたるところに炎が見え、煙が立ち上っていた。
 上を見れば途方もない『蓋』、下を見れば地獄だった。
 身を切るような鋭い風が吹き荒び、これから地獄に降り立とうとする戦士たちを、風は容赦なく殴りつけた。

 一人、白い軍服を纏った烏丸は、双眼鏡で街の様子を隅々まで観察する。
 その後ろで、道祖土 将生は無線機を使い、先に戦場へ降りた仲間と連絡を取り合っていた。


 将生「――了解。予定通り、指定ポイントで合流しよう」

 
 無線越しにそう伝えて、将生は交信を終えた。


 将生「代表。兄からの報告です。やはりあれは、代表の読み通り敵の輸送艦のようです。
    一つの艦につき、武装した兵士が四人。奴らは男だけを殺して、女を舟の中へ収容しています」

 烏丸「連れて帰り、自分たちの子供を産ませるつもりなのだろう。野蛮人どもの考えそうなことだ。敵の装備についての情報は?」

 将生「物質を溶解させる特殊な銃を使うそうです。大きさは拳銃と変わりませんが、中にはでかいガトリング砲タイプを装備した兵もいるとのこと」

 烏丸「『重装備兵』もいるか、なるほどな……。よし、全員集まれ!」


 双眼鏡をしまい、烏丸は声を張り上げた。
 黒い軍服を纏った戦士たちが、烏丸の号令で一箇所に集う。


 烏丸「これより作戦を開始する! 昨晩説明した通り、我々人類の“切り札”が『東京ドーム』に用意されている!
    しかし“切り札”を使うためには、敵の輸送艦が必要不可欠である! 我々はなんとしても、輸送艦を奪取しなければならないッ!
    敵を倒し、人々を救出しつつ、輸送艦を運びながら! 最終目的地・東京ドームを目指す!!」

 
 暴風の轟音の中でも、烏丸の声ははっきりと明瞭だった。その声は、風を切り裂き、世界を覆う闇すら切り裂くようだ。
 改めて言語化されたそれぞれの使命に、戦士たちは己を奮い立たせる。滾る闘士が血管を伝い、全身に熱を運んでいく。
 
 
 烏丸「第一目標! “東京ドームへの到達”!
    第二目標! “敵輸送艦の奪取および拘束された女性達の解放”!」
 

 そして烏丸は、基準量をはるかに超えたアドレナリンを、喉から爆発させた。
 

 烏丸「第三目標ォーー! “ひとり残らずブチ殺せ”ェッ!! 出撃だァーーーーーーーーーーーーッ!!!」

 
 敵を討ち滅ぼし、人類を救済する。
 激しい使命感と情熱で結束した、世界最初のカウンターパンチ―――人類救済戦線。
 闇の中で誕生した漆黒の戦士たちが、満を持して、戦火燃え上がる地上へと舞い降りようとしていた。

376第十三話 ◆4aIZLTQ72s:2014/05/12(月) 22:40:34 ID:QtuV7lic0
**



 『終末の日』、一日目/午前――――10:30


 “こちら側”の反撃がいままさに始まろうとする、同時刻。
 港区のとある三ツ星イタリアンの店に、ある男がいた。男は、高級スーツを身にまとい、マネキンの頭部のようなマスクで顔を隠していた。
 “こちら側”に男の名前はなかった。が、彼を知る人はこう呼ぶ――“スカウトマン”と。

 
 スカウトマン「――nskcfhmvlkamcJijfehrwjaacd? nscnshflreovlds」

 
 スカウトマンは、生焼けのステーキをくちゃくちゃと噛みながら、キャッシュカードほどの厚みしかない“あちら側”を携帯電話を使い、通話中だった。
 彼のマナー違反を注意するものはいなかった。そもそも店は営業していなかった。
 無人の店内で、灯りもつけず、スカウトマンは一人愉しげにワインのボトルをあけた。
 店の外では、泡アーマーの兵士が作業のようにひたすら人間を溶かしていた。
 
 通話を終えたスカウトマンのテーブルに、若い三人の男女が近づき、席に付く。
 奥村 美月、真砂 風太郎、花園 慶一。『花鳥風月』の三人だった。


 スカウトマン「……む? 亜紀人くんはどウしました?」

 美月「知らなーい。それより、なんの電話?」

 スカウトマン「仲間からの朗報でした。イやー、ラッキーです。こんなに早く物事が進むとは……」

 慶一「勿体ぶってないでさっさと言え。マネキン野郎」

 スカウトマン「……実はですね、予てより探してイたモノの場所が見つかりまして。その報告をウけてイたのです」

 風太郎「そんなイイモノが見つかったのか?」

 スカウトマン「もちろん」

 
 口を禍々しく歪めて、マネキンは嗤った。


 スカウトマン「はやくも王手をかけられそウです」

377第十三話 ◆4aIZLTQ72s:2014/05/12(月) 22:45:30 ID:1n03rTdo0
 **



 『終末の日』、一日目/午前――――10:45

 

 同日。某所のSPW財団所有ランペイジ研究施設地下――『ライジング・ストライプス』アジト。
 そのときアジトでは、阿佐見 瑠樹が一人、モニターに次から次へと表示される被害情報と格闘していた。
 人類救済戦線なる集団に参加中の駿介たちをサポートしたいところだったが、敵の大体な数を把握することさえ困難だった。
 
 機動隊が全滅した、陸自も海自も全く歯が立たなかった、欧米諸国も同じように追い込まれた――――聞きたくもない現実ばかりが飛び込んでくる。
 瑠樹は、焦っていた。
 “守護者”として、この日のため、何百年もかけて準備をしてきた。自分の仕事に自信がないわけではないが、不安がないわけでもなかった。
 もしも、駿介たちが負けるようなことがあれば。このまま敵の数に押し切られるようなことがあれば……。
 そんな想像が頭をよぎっては消えて、またよぎる。
 

 瑠樹(なにか、なんでもいい……。安心できる情報を頂戴……)

  
 そんなささやかな望みを胸の中に願ったときだった。
 突然、施設全体がぐらぐらと揺れた。地震かと疑ったが、すぐにそうではないと気づいた。
 直後、緊急警報の音が施設全室に鳴り響いたからだった。
 その警報は、施設が“外部の敵から襲撃を受けた”際に鳴ることになっていたものだった。
 咄嗟に、瑠樹はメインフロアのコンピュータを操作し、保管された全ての研究データの破棄を開始する。
 敵が侵入したのなら、奪われて困るようなデータは残しておけない。脱出は、全データを削除してからすればいい。


 瑠樹「……!?」


 ――――そう考えた瑠樹だったが、それは彼女にしては珍しく“甘い”判断だった。
 突然、フロアの天井が熱せられたキャラメルのごとく、その形状を崩し始めた。天井が“溶け始めた”のである。
 そしてどろどろと穴を空けた天井から、侵入者が数名降りてきてしまった。
 泡アーマーを纏った敵兵士と、大きなガトリング砲を二門背負った『重装備兵』が、瑠樹の目の前に現れてしまったのだった。


 泡重装備兵「―――assfcseuueFeuxierljgaNenacuaj」
 
 泡アーマー兵5「……! dskvk! dkskfskdfkawwfrceijcldaunvdkls」

 泡アーマー兵6「jicspifre;jgarfnskw;pokdeogpdsodpa,fgej」

 泡アーマー兵7「;iafpqe:@ox:xwvdfidhoadrg」

 泡アーマー兵8「sxuefhkwhgureksurhgurni、hkfxkshfkehuw」

 泡アーマー兵9「jxaifjeljfqij;jfeiop;wmfkrefmor」


 ――絶句だった。
 なぜこの場所がバレたのか、どうやってここにきたのか、そんなどうでもいい疑問は一瞬で消し飛んだ。
 今考えるべきは、二つ。
 “自分には闘う力はない”ということ。“逃げ道を塞がれた”ということ。
 

 瑠樹(あ、“あちら側”の……兵士……!)


 “敵が自分を殺しに来た”ということ――――。





 



 


 スカウトマン「阿佐見 瑠樹が死ねば、ユリシーズ・リングはただの飾りです。脅威はなくなったも同然です――――」

















 第十三話「開戦」 おわり

378 ◆4aIZLTQ72s:2014/05/12(月) 22:50:40 ID:1n03rTdo0
登場人物紹介


『ライジング・ストライプス』1/2


・服部 駿介(はっとり しゅんすけ) 
スタンド:No.2006『パピヨン・ドリーム・デビル』/年齢:19歳/血液型:B型

『ライジング・ストライプス』メンバーの一人。若菜曰くスラっとしていて人形のような美形。
無愛想で不器用だが、根はいいやつである。抜群の戦闘センスを持つ。
瑠樹の次の“守護者”として予定されている、“候補者”の一人。

『パピヨン・ドリーム・デビル』は風を発生させる能力を持つ。
カマイタチや竜巻を発生させたり、風の壁を生み出して攻撃を防御することも可能。

考案者:ID:AXqM8Wg0 絵:ID:tfvj7PHAO



・星 若菜(ほし わかな)
スタンド:No.4761『サニー・デイ・サンデー』/年齢:19歳/血液型:O型

『ライジング・ストライプス』メンバーの一人。有名私立美大に通う女子大生。奥手で、人付き合いが苦手である。
ランペイジに襲われたところを救われたことから、ライジング・ストライプスに参加することに。
瑠樹の次の“守護者”として予定されている、“候補者”の一人。

『サニー・デイ・サンデー』はフルーツを武器にする能力を持つ。
現在作れる武器は、
1.リンゴハンマー(リンゴ) 2.バナナソード(バナナ) 3.マロンシールド(栗) 4.ザクロマシンガン(ザクロ)
5.スイカボム(スイカ) 6.メロンネット(メロン) 7.グレープバッグ(ブドウ) 8.アボカドキャノン(アボカド)
9.キウイグレネード(キウイ) 10.パインスパイク(パイナップル) 11.パインスライサー(パイナップル) 12.ドラゴンチェーン(ドラゴンフルーツ)
13.マンゴーナックル(マンゴー) 14.ザ・ジェノサイダー(白桃) 

考案者:ID:wnnPvjhJI(自案) 絵:ID:01Kky4eJ0



・阿佐見 瑠樹(あさみ るき)
スタンド:No.4768『ユリシーズ』/年齢:不明/血液型:AB型

『ライジング・ストライプス』の運営を管理する少女。あだ名はミルキー。
戦闘に参加することはなく、仲間のバックアップを担当している。読心術に長け、人をコントロールするのがうまい。
『ミルキーウェイ』と呼ばれる不思議な場所で育ち、人々の“守護者”として、何百年という永い時を過ごしてきた。

『ユリシーズ』は未知なる強大なエネルギーを操るスタンド。遥か昔から、代々“守護者”に受け継がれてきたスタンドでもある。
ミルキーウェイからエネルギーを得ており、『ユリシーズ・リング』はその強い力を秘めた装備である。

考案者:ID:ptkTEV9ZI(自案) 絵:ID:ykFM5Fg90



・湊 宗次郎(みなと そうじろう)
スタンド:No.4697『トリプル・8』/年齢:25歳/血液型:A型

『ライジング・ストライプス』の実質のリーダーである青年。
チーム最古参メンバーでもある。明るく爽やかで、常に周囲への気配りを忘れない。左腕は義手。

『トリプル・8』は三匹の蜂のスタンド。
それぞれを頂点とした三角形の面を作り出し、攻撃や防御を行う。万能型スタンド。

考案者:ID:ob0HzJeZ0 絵:ID:AY2lsVPu0

379 ◆4aIZLTQ72s:2014/05/12(月) 22:52:15 ID:1n03rTdo0

『ライジング・ストライプス』2/2


・日下 直哉(くさか なおや)
スタンド:No.759『オンスロート』/年齢:19歳/血液型:O型

『ライジング・ストライプス』メンバーの一人。楽天家の青年。
チームのムードメーカーであり、同メンバーの秋山 麻栗に好意を抱いている。

『オンスロート』は殴ったものを“引き伸ばす”能力。
鉄を引きのばしてペラペラにしたり、自分の体を引き伸ばすこともできる。

考案者:ID:WIejhUDO 絵:ID:6T7Gykso



・槌田 洋平(つちだ ようへい)
スタンド:No.140『カルピス』/年齢:42歳/血液型:O型

眼鏡をかけた中年男性で、『ライジング・ストライプス』最年長メンバー。
おおらかで親しみやすい、愛すべきオヤジ。妻子持ち。

『カルピス』は粘土のようなスタンドで、取り込んだ複数の物質を合体させることができる。
武器と武器を組み合わせて新しい武器を生み出したり、ケガの回復にも役立つ。

考案者:ID:gtALg6d+0 絵:ID:gtALg6d+0



・秋山 麻栗(あきやま まくり)
スタンド:No.4276『デュアル・オ・ソレイユ』/年齢:17歳/血液型:O型

不良に憧れるお嬢様。その高い戦闘能力を買われ、正式に『ライジング・ストライプス』のメンバーとなる。
粗暴な言葉遣いを心がけているが、丁寧な口調が抜けず、ちぐはぐな喋り方をする。

『デュアル・オ・ソレイユ』は近距離パワー型のスタンドで、敵との“タイマン”時に
無類のスピードとパワーを発揮する。その強さは、『ユリシーズ・リング』なしでランペイジを圧倒するほど。

考案者: ID:KWGWjvEm0 絵:ID:lejdy/st0



・堂島 海斗(どうじま かいと)
スタンド:No.4770『ディア・デッドマン』/年齢:23歳/血液型:B型

『ライジング・ストライプス』の初期メンバーであり、滅多に姿を見せない“最強の男”。チームの切り札的存在。
使命感、正義感を持たず金や自分の興味関心でしか動かない。そのためチームで頭一つ飛び抜けた実力を持つが、瑠樹からの信頼は最も薄い。
『終末の日』前日、クリオネ型ランペイジとの戦闘で死亡する。

『ディア・デッドマン』は“黒”と“白”の双剣型スタンド。
“黒”はあらゆる物質を切り裂く斬れ味を持ち、“白”は切ったものを7秒後に再結合させる性質を持つ。

考案者:ID:ysXM8fynI 絵:ID:ykFM5Fg90

380 ◆4aIZLTQ72s:2014/05/12(月) 22:55:25 ID:1n03rTdo0

『人類救済戦線』


・烏丸 傑(からすま すぐる)
スタンド:不明/年齢:不明/血液型:AB型

スタンド使いたちを集めてレジスタンス『人類救済戦線』を結成した男。
独特の雰囲気を醸し出すカリスマ持ちの男性。白い軍服を着用している。



・道祖土 将生(さいど まさき)
スタンド:不明/年齢:18歳/血液型:A型

『人類救済戦線』に属する若きスタンド使い。烏丸の思想に共鳴し、人類を救うために闘う。



『ランペイジ/異世界の兵士』 1/2


・カマキリ野郎

4つの複眼、鎌状の8本の腕。背中に長い羽を持つカマキリに似たランペイジ。
体長は2mを超えている。駿介の『パピヨン・ドリーム・デビル』によって倒される。



・岩人形野郎

デパートを襲った、大きな体格のランペイジ。岩石でできた人形にような姿で、14体確認されている。
強大な腕力で黒ギャルを殺すが、「ライジング・ストライプス」によって殲滅。



・パクリ野郎1/2/3

子どもを狙ったランペイジ。1は「ドラえもん」や「うまい棒のあいつ」、
2、3は「コロ助」などといったキャラクターに良く似た姿をしている。「ライジング・ストライプス」によって倒される。



・擬態野郎/擬態巨人

人間の死体を纏うことでその人に擬態する、生活順応型ランペイジ。
言葉を発したり、電車を利用したり、電子機器を操ったりと、今までのランペイジに比べてかなり知能が高い。
現時点で五体確認されており、複数体が合体することもあるようだ。
一体は麻栗の『デュアル・オ・ソレイユ』が殲滅、残り四体は「ライジング・ストライプス」が捕獲、回収した。



・セミ野郎
「大阪城ホール」付近に現れたセミのランペイジ。物質を溶解する小便を飛ばす。
「ライジング・ストライプス」によって殲滅するが、実は花園 慶一の『コロラド・ブルドッグ』によって凶暴化していた。



・力士野郎
「花鳥風月」との対立時に現れた相撲取りによく似たランペイジ。体重は200kgを超え、厚い脂肪と筋肉に覆われている。
麻栗の『デュアル・オ・ソレイユ』が殲滅。セミ野郎と同じく、こちらも『コロラド・ブルドッグ』によって凶暴化していた。



・ビニ傘野郎
閑静な住宅街に現れたランペイジ。妖怪の「からかさ小僧」によく似た姿をしているが、ビニール傘である。
おそらく、「森崎 千草」を狙って行動していたものと思われる。「ライジング・ストライプス」によって殲滅。



・動物野郎(ウサギ、パンダ、ゴリラ、ポニー、キリン、ゾウ......etc)
「東京ビッグサイト」に突如大量発生した動物型ランペイジ。大型動物から小動物、哺乳類や猛禽類など、実に多種多様な動物たちが現れた。
動物同士では襲い合わないのと、人間の男性のみを選んで殺戮したことから、何かの意思によって動いているのだと推測される。
全体で300以上の数がいたが、「たてがみ野郎」の死と同時に、全ての動物たちが肉体を四散させて死亡した。



・たてがみ野郎
動物たちのボスと思われる獣人型ランペイジ。獅子の上半身に、ジーンズ姿が特徴。
現時点で最強クラスの戦闘力を持ち、その爪は「ユリシーズ・リング」の身体強化を容易に通過する。
無傷のまま、駿介、直哉、洋平の三人を死の寸前まで追い詰めるも、途中介入した堂島 海斗により討伐された。弱点は鼻。

381 ◆4aIZLTQ72s:2014/05/12(月) 23:01:57 ID:1n03rTdo0
『ランペイジ/異世界の兵士』 2/2


・クリオネ
『終末の日』前日、新宿の街に大量発生したランペイジ。見た目は完全にクリオネそのものだが、サイズは人間大。
個体としての戦闘力が非常に高く、『たてがみ野郎』を倒した堂島 海斗でさえ、適わなかった。
新宿での戦闘後、ぱったりと姿を消す。



・異世界の兵士(泡アーマー兵)
『輸送艦』に乗ってやってきた“あちら側”の武装兵士。
無数の泡を纏ったようなアーマー、物質を溶解する銃など、遥か進んだテクノロジーの装備で身を固めている。

382 ◆4aIZLTQ72s:2014/05/12(月) 23:04:49 ID:1n03rTdo0
投下終了です!

次回はようやく避難所で募集したスタンドが登場します!
めーーーーーーーーーーーーーーーーーっちゃお待たせしまして申し訳ありませんでした。





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→第十四話「禁断の果実」

383名無しのスタンド使い:2014/05/13(火) 09:17:27 ID:PM8Fi6lQ0
軍服の男達を敵側だと疑ってたけどそんな感じてはないのかな
今回は小さい謎が分かっていったと同時に最後が・・・
やべえ・・・やべえよ・・・


384名無しのスタンド使い:2014/05/13(火) 18:48:40 ID:pp68uRMQ0
おん、もっ、しろくなってきたーーーーッ!!
個人的にはいままでで一番の回だった!
侵略される絶望感があるし、若菜ちゃんがかっこよかったし、烏丸と将生のスタンドも楽しみだ!

ついに瑠樹も狙われてしまったんだな・・・次回が気になりすぎる!!
乙!!

385名無しのスタンド使い:2014/05/17(土) 17:46:13 ID:HFzgjjos0
ランペイジのキル数ダントツ
擬態野郎を生け捕りする機転
花鳥風月を毒ガスで殺しかけた
最強の男(笑)を秒殺したクリオネから余裕の生還(ノーダメ)
開戦早々兵士を四人秒殺(ノーダメ)

若菜さんマジ武神

386 ◆4aIZLTQ72s:2018/07/09(月) 08:59:32 ID:jk2/Wyzg0
te


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