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【ジャッジメント・デイ〜交差するスタンド使い〜】

73第三話 紫苑篇 「孤独な少女」:2010/06/09(水) 00:07:15 ID:OKHNRjhA0


 後は難解な連立方程式を解いたかのように
田中は芋ズル式に自分の置かれている状況を明らかにした。

 まず、黒人の背中を眺めているという今の状況。
 本来なら、動けない田中はそのまま黒人に眺められる形で見つかるはず。
 にも関わらず、一瞬にして光景が変化しただけでなく、黒人の目の届かない場所に自分はいる。
そう、自分は短距離を瞬間移動した。


 そして、消えた鏡。


┝゛┝゛┝゛┝゛┝゛┝゛┝゛┝゛.....


(そう……鏡が消えたんじゃあ無い)
(ボクが鏡まで移動したんだ。いや)

(ボクが……!!鏡に……取り込まれた…………!!?)




(ここは、鏡の中だ!!ボクは!!鏡に!!!閉じ込められたっっ!!!!)

74第三話 紫苑篇 「孤独な少女」:2010/06/09(水) 00:09:06 ID:OKHNRjhA0


「どこに、いるの、こんな雨の〜中、どんな言葉まあってる……」


 また何やら歌いながら、辺りをキョロキョロと見回していた黒人であったが
床に落ちている一枚の紙を見つけ、ピタチと立ち止まる。
 その紙を読むにつれ、陽気な顔は瞬時に変貌し、ワナワナと震えはじめた挙句
耳を劈く様な奇声を上げた。


「舐めやがって!!ドラゴンフォースッ!!!」

 そう叫ぶと、再び猛獣のようなスタンドがうなり声を上げて姿を現した。


「遠隔操作型にして、あのクソガキを殺せ!!」
「……って駄目だぁ!!ミーのドラゴンフォースは遠隔操作にしたら無差別に人を攻撃する!!」

「エミリアさんからあまり目立つなと言われてるのにっ!!」
「こここここのバーソロミュー様は、あのションベン垂れモンゴメリとは違うんだぁぁあ!!」


 独り言を繰り返しながら地団駄を踏む黒人を、田中は息を潜めながら
見つめている。
 黒人が急激に怒り始めた理由は定かではないが、田中はその様子を眺めながら、段々と冷静さを
とりもどしつつあった。
 

(充分目立っているだろ、黒人でその頭とピアスなら)

(いや、大事なのはそこじゃない。今。エミリアさんと言った……)
(さっきは島田、そして能美と組んでることを知っているから、島田の仲間であることには違いない)
(間違いない、彼の言う『エミリア』は藤崎エミリアに違いないっ!!!)

75第三話 紫苑篇 「孤独な少女」:2010/06/09(水) 00:10:50 ID:OKHNRjhA0
ピピピピピピ



 空虚な倉庫に、突然携帯音がなりひびいた。「バーソロミュー」と名乗った
この陽気な殺し屋の携帯だ。
 
(つーか携帯の着信普通すぎるだろ!!)
 見つからないように、声を殺してツッコム田中。


「あ、あああ、ハ〜〜〜イ!テリー・バーソロミューで〜す」
「ってモンゴメリ!何の用だ……え?マジで?REALY?……分かった」


 急に神妙な顔つきになると、バーソロミューはチッと軽く舌打ちをして叫び声を上げた。

「きょきょきょ、今日のところは見逃してやる!!何処に逃げたか分からないが」
「見つけ出したら、瞬殺だ!和洋折衷で行くと瞬キルだぞガキィィィ!!!」


そう告げると、バーソロミューは猛スピードで部屋を後にし
10秒とかからずに廃倉庫から姿を消した。

「た、助かったのか?ボクは……」
「ってアレ?出れない!?本当に鏡の中に閉じ込められてるっ!」


『どうだった?俺のスゥイートハニーは』
『可愛かったろ?』

 パニックになりながら「鏡」を叩き続ける田中の耳に
どこかおちょくったような、しかし人を安心させるあの声が響いてきた。

「その声は…………」


「紫苑さんっ!!!」


バ〜〜〜〜〜〜〜ン!!

76第三話 紫苑篇 「孤独な少女」:2010/06/09(水) 00:15:35 ID:OKHNRjhA0

 そこには、ハイセンスすぎるポーズで田中の"相棒"立っていた。
 独特過ぎるその立ち姿は、変人と認識されても問題無いはずではあるが
田中には後光が射した救世主にしか映らない。

 何て頼もしいんだろう。アホだなんて思ってゴメンナサイ、と田中は心の中で何度も繰り返す。


 ────それにしても、今自分を鏡に閉じ込めているのは、紫苑の能力であろうか。


 ふと田中は、紫苑の隣に先程の少女がただずんでいる事に気が付いた。
 紫苑は細い指で少女の髪を梳くような仕草を見せている。


 自然に少女と目が合った田中だが、またも何かに引きずり出される感覚に陥った。
「うおおおおおおおおおっ!!」

「イタッ!!」


 感覚そのまま、田中は勢いよく床に叩きつけられる。
「てててて……」


 痛めた尻をさすりながら、田中は辺りを見回した。
 目の前には、先程と同じ光景。
 腕時計はきちんと右腕に付いているし、秒針も右回りだ。

 違うのは、田中の目の前にたたずんでいるのが、自分の命を狙う黒人では無く
気の良い、少しだけハンサムな青年に変わっていることのみだ。

77第三話 紫苑篇 「孤独な少女」:2010/06/09(水) 00:17:17 ID:OKHNRjhA0

 田中は、慌てて今まで自分が「閉じ込められていた」鏡を振り返ると
鏡の中に、例の女の子が伏目にたたずんでいるのを見つけた。
 
 その光景に悪寒を感じた田中は、勢い良く紫苑に向き直り、問い詰める。
 

「ボ、ボク、鏡に閉じ込められていましたよね?」
「あの女の子と目が合ったら!!」
「紫苑さん、ボクに何をしたんですかっ!!?」


 助かったことへの安堵と、自信が体験した奇妙な出来事により興奮の収まらない田中は
息継ぐ間もなく紫苑に疑問の嵐をぶつけた。


「ふふふ。>>77レス目にしてようやく主人公の能力公表か」
 勿体つけるように腰を曲げながら、独特のポーズを決める紫苑。




「俺のスタンドは『ロンリーガール』!!」
「こいつと目のあった相手を、自分と入れ替わる形で鏡の世界に閉じ込める!」
「”鏡の世界”に閉じ込められている間は、誰にも干渉を受け無いが、そこから出ることは不可能!!」
「唯一の脱出方法は、他の誰かと目を合わせること!目を合わせてしまった奴が入れ替わりに閉じ込められる!!」

「戦闘能力は皆無だが!彼女と目を合わせてしまえばどんなレクイエムでもそこでTHE・ENDだ!!」



バァァァ〜〜ン!!

78第三話 紫苑篇 「孤独な少女」:2010/06/09(水) 00:19:57 ID:OKHNRjhA0

 相手を鏡の世界、というより「鏡の牢獄に閉じ込める」
 田中が体験した一連の流れが、彼の能力なのだろう。

「す、凄いっ!凄いですよっ!!最強じゃあないですか!!」
「まぁ相手と1VS1で、色々と制限もあるから一概に良い能力とは言えないけどね……」


 自信過剰なくせに、褒められると照れるタイプの様だ。
 面倒臭い性格ではあるが、今の紫苑は田中の目にはやはり英雄にしか映らない。



 尊敬のまなざしで紫苑を見つめていた田中であったが、
ポケットにつっこんだままの右腕が微かに震えている事に気付いた。


 態度では飄々としているが、やはり怖かったのだろう。


「いやぁーそれにしても第六感ってのは有るもんだね」
「駆けつけて良かったよ。田中ちゃんが危ないって感じてさwそれよりケガは?歩ける??」

 腕の震えを隠すように、紫苑は明るい声で言った。


「ほ、本当に助かりました……イテテ、骨は逝ってないとは思います。」
 

 田中はゆっくりと身体を起こし始めた。
 蹴られたわき腹はさすると激痛が走るが、動けることから
骨に異常は無いと見てよいだろう。


 紫苑に支えられ立ち上がった田中の目に、「バーソロミュー」が破り捨てた紙が映った。

79第三話 紫苑篇 「孤独な少女」:2010/06/09(水) 00:22:35 ID:OKHNRjhA0

「そういえば、あの紙、紫苑さんが用意したんですか?」
「ああ。とりあえず追っ払おうと思ってさ」

 田中は、ジグゾーパズルの様になってしまっている紙を
一つ一つ繋ぎ合わせて見た。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

拝啓、ドレッドヘアー様

ドレッドヘアーって、頭洗えないって本当ですか?
本当でしょうね、臭いますもの。あなた。
それはさておき、急にいなくなってゴメンなさい。

この世にはアナタにお似合いのパワー志向のスタンドもあれば
移動能力に優れたスタンドもあるってこと、ご存知で?
戦場で油断するなと、ママからおそわりませんでしたか?

そのドレッドと重たそうなピアスで一生懸命
頭を鍛えているみたいですが、鍛え方間違っています。
でも努力は買っちゃう。先生うれしいわ(はあと)

あ、エミリアさんは俺の嫁

後、この手紙は不幸の手紙です。あと一週間以内に100通回さないと
この先、あなたに不幸がおとずれます。おじいちゃん圧縮袋ぉぉぉぉぉ!!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「しょ、小学生の喧嘩じゃあないんですから……」

 あまりに幼稚な内容と書き方に思わず苦笑いの田中だが、
こんな手紙にイラつき冷静さを無くしたバーソロミューのことを考えると
思わず噴き出してしまう。


「ぷっ……あはははっ!さ、最高ですよ紫苑さん!!」
「これで帰ってくれるんだもんな〜w島田も仲間に恵まれね〜なぁw」
「ははははははwwwあっははははっwwww」
「ちょ、田中ちゃん、笑いすぎwww」


 こんなに笑ったのはどのくらい振りだろうか。

80第三話 紫苑篇 「孤独な少女」:2010/06/09(水) 00:26:22 ID:OKHNRjhA0

―――こんなに暖かく、腹の底から笑った経験は、生きてきた今までに無かったかもしれない。


 一度は死ぬ覚悟を決めていたのに、"仲間"が危険を顧みず助けに来てくれた。
 確かに恐ろしい能力ではあるが、何の戦闘能力も持たないスタンドなのに。


 今まで誰からも必要とされず、ひねくれていきてきた田中には、仲間なんていなかった。
 「人の心を知る能力」を身につけ、人の汚さを知った田中にとっては
むしろ必要無いとさえ思っていた。

 
 違う。いるんだ。


 自分は能力を言い訳に、人の心の汚さしか見なかったのでは無いか。
 完璧な心の持ち主なんていやしない。
 例え紫苑の様に自分を見下していたって、命を懸けてくれる人だっている。
 理屈や損得勘定無しで、動ける人だっている。


 そして、そういう人が、自分の相棒なのだ。



 安堵の笑いと、頬を伝う暖かい何かを感じながら
 田中は、改めて今自分が『生きている』ことを実感していた。
 

「よし、あんなアホなら何とかなりそうだな」
 紫苑は笑いながら、優しく田中の肩を叩く。
 もう右腕の震えは止まっているようだ。


「やられたら、今度はやり返す番だ!!!」


「はい……"覚悟"させてやりましょう!!」


 一度死を体感した上に
 頼りになる相棒兼、人生で初めての「親友」を手に入れた田中の表情には、もう気弱さは消えていた。





第三話  完!!

81第三話 紫苑篇 「孤独な少女」:2010/06/09(水) 00:28:26 ID:OKHNRjhA0
キャラクターデータ

田中 奏多 

20歳  O型  身長 157cm  (1Hyde)


ヘタレニート   SかMで聞かれたらMだが、ネット上ではドS。最低に格好悪いが、基本良い奴。


・心が読め、探査もできるという、ニートには勿体無いスタンドを持つ男。
・気弱だが温厚。しかしネットではVIP警察にもいた程の屑。基本はリアルでの性格が本当の彼。
・戦闘能力が低い紫苑の相棒が、さらに使えない男という罠

・原作者は完全ギャグのつもりで作ったのだろうが、実はものすごく便利な能力を持つ。
・HEROESの中で、マットが一番好きな自分にとっては、”人の心を読めるニート”という設定は
ドツボ。しかしHEROESで、マットは人気らしいけど、、一番好きって人は日本で俺含めて一桁な気がする。
・ちなみに>>1の他の好きなキャラはネイサンにアンドウくんにベネットさんにDL。おっさんだらけ。何故だ。
・身体能力は作品最低レベルだが、意外と体は頑丈。
・グロ耐性が物凄く強い。グロ画像見ながらメシ喰えるレベル。インハリの世界でもやっていけるでしょう。

スタンド:ノーベンバーレイン


薬師寺 紫苑のスタンド 『ロンリーガール』

考案者:ID:Pyara3yC0
絵:ID:oGXMIH.o


・目の合った相手を鏡の中に閉じ込める能力。攻撃手段は持たない。
・発動条件は、鏡や水と言った、「写すモノ」が近くになければならない。
・自案です。スイマセン。:oGXMIH.o様。あなたのお陰でこのSSを書く事となりました。
・自案はコイツと中盤で出てくるとあるスタンド以外もう出さないと決めています。スイマセン。
・花京院に馬鹿にされそうなスタンド
・「瞳」は確かに鏡にはなるが、ロンリーガールは発動できない。J・ガイルとは違う原理みたい。

・SSを書く際、主人公は絶対に近距離型にしないというルールで構想を練りました
そしたらまさかの自動操縦型。自動操縦型なのに破壊力なしでスピードA……
まぁ自動操縦型は定義が何となく曖昧なきがしますし……ヨーヨーマッ可愛い。
てか世界的に有名なチェロ奏者をモデルにしたスタンドを、なんつーデザインにしたんだ荒木先生……

・一撃必殺(例外有り)を持っているが、攻撃手段を持たない主人公をどう扱うかが
不安な反面楽しみでもあります。


テリー・バーソロミュー
スタンド名:ドラゴンフォース
エミリアと島田が放った刺客と思われる。馬鹿であることが判明。でも鬼強。

ちなみに、テリーとバーソロミュー、どちらも名前
(日本で言えば、太郎 裕二と名乗ってるようなモン)なのは
幼い頃に両親を無くし、親戚に虐待されて育った(勿論成長した後殺したが)為苗字を憎んでおり、
テリーという本名と、バーソロミューという暗殺者としての名前両方を使っているからである。

82第三話 紫苑篇 「孤独な少女」:2010/06/09(水) 00:30:56 ID:OKHNRjhA0

紫苑(本名耕作)「あれ?何か田中ちゃんの方が主人公っぽくなってね?」
田中「あなたの地の文がふざけすぎなんじゃないですか?」


次回はやっとこさスタンドバトル!
破壊力A 対 破壊力0 の熱いバトルを書けたらいいぜ!!
書けたらの話だけどなぁ―――っ!!


というより、80レスを越えてまだバトルも無いとは……


To be continued

83名無しのスタンド使い:2010/06/09(水) 00:55:01 ID:lZHqiyRw0
きゃああーっ!!更新きてたー!
乙です! 耕作かっこいいな〜

84名無しのスタンド使い:2010/06/09(水) 01:20:33 ID:???0
手紙わろたwwwwwおじいちゃん圧縮袋ぉぉぉぉぉ!!
乙です!!

85 ◆U4eKfayJzA:2010/06/09(水) 18:03:42 ID:???0
紫苑のスタンドはロンリーガールでしたか。確かに、ハメれば凶悪なスタンドだなぁ……。
そして、田中も生きてて良かった。
乙でした!

86名無しのスタンド使い:2010/06/09(水) 20:03:54 ID:vkwyh9J.O
バトル無しでここまでなんて、
私・・・どうなっちゃうの!?

87名無しのスタンド使い:2010/06/09(水) 22:10:10 ID:b2iu8.Sc0
くそwwwwwおじいちゃん圧縮袋ぉぉぉぉぉ!で吹いちまったじゃねーかwwwww
パワー無しが主人公とか、期待せざるを得ないわ

88 ◆neHjiUQ7Jo:2010/06/10(木) 00:40:12 ID:7QxKKM8w0
沢山のコメント、本当にありがとうございます!
とても活力になります。読んでくれてる皆様の為にも、早くバトルに移りたい……。

>>83
主人公を褒めて頂いて光栄です!全ての作家が、主人公の事を気にかけるんじゃ
ないでしょうか。というより絵師様、ロンリーガールの本体のデザインが絶妙です。
主人公=イケメンは鉄則なんですが、こう、いやみじゃないというかイケメンすぎないというか
とにかく、コイツを主人公にした一番の要因は、実は本体デザインを気に入ったからです。

>>84
度々、「一行で笑ったら○○」には参加していますが
自分の投下がコピペブログで太字になってて喜んだ記憶がありますw気に入っていただいて光栄ですw

>>85
凶悪だけど最弱ですな。インハリ先生なら自分より上手く使いこなせるでしょうけど。
後、次回の濡れ場SSは、もうちょいソフトでお願いします……なんか、息子がズキズキするの……orz

>>86
ハードル上げんなwwww
そう言っていただいて、なんつーか恐縮です……いやホント。
バトルががっかりクオリティでも逃げないでねw

>>87
ありがたいです!
その期待を裏切らないように全力をつくしたいですが
今更、難しいっすねwww紫苑は身体能力が高いと言っても野球部でもなければ
暗殺者でもないし、親が怪盗だったりしないので、苦労しそうです……orz
まぁほどほどの期待でよろしくお願いします……

89 ◆U4eKfayJzA:2010/06/10(木) 08:07:21 ID:???0
今更気付きましたけど、田中がインハリの世界でもやっていけるってことには吹きました。
おじいちゃん圧縮袋より笑ったかもw よし、後で一発ネタ書こう……

>インハリ先生なら自分より上手く使いこなせるでしょうけど。
んなことはないですよ。自分、無駄な使い方と惨殺に特化した使い方しか思いつかない人間なんで。
精々、閉じ込めた相手を合わせ鏡で出来た部屋へと追い込んで、「延々と自分と自分を入れ替え続けさせてハメる」のが関の山です。
ん? 合わせ鏡で映る「鏡の中の鏡の世界」ってどんなんだろう……。黄金長方形の回転や路地的な効果をねつ造できるのなら……、ヤベェ、せめて単発で使えばよかった!

>もうちょいソフトで
貴方、まさかアレで……。書いた当人でさえ「これで立つ人はいないよな、ギャグなんだから」と思いつつ書いてたアレで……。
ひぇぇ、エロ本買いあさって絶妙なエロスのラインを勉強してきます!

90 ◆neHjiUQ7Jo:2010/06/13(日) 01:14:04 ID:???0
>>89
田中ちゃんがインハリで拷問デビュー……?
ら、らめええええええ
と思ったけれど、別にいいか、田中だし。

「合わせ鏡」に気付かれたのは流石と言うべきでしょうか。

アクモンで女医師が言ってた
”エサを与えられ、満足して眠るだけの猿に俺はならない。
人間であり続けるために、『生きる』ために。俺は戦う。”

って言うセリフ、スタンドと本体の性格が上手く掛け合わされてて
大好きなシーンなんですが、女医師でいう「猿」が
紫苑では「合わせ鏡」なんですね。「合わせ鏡」の概念は物語の終盤で登場します。


まぁ、そこまで続けばの話ですが……w

91 ◆9X/4VfPGr6:2010/06/14(月) 13:20:14 ID:1hPwgZCEO
乙ッ!
遂にスタンドが…!

92 ◆neHjiUQ7Jo:2010/06/16(水) 21:08:33 ID:/b.ajfkU0
>>91
ワム先生……あんたとは色々話したいもんです。
その意味は自分の作品が進めば明らかになるかもしれませんが……


それでは投下させて頂きます。最近忙しかったのでさわりだけですが

93第四話 紫苑篇 「はじめてのすたんどばとる」:2010/06/16(水) 21:10:23 ID:/b.ajfkU0


同日     PM21:00  悠麗壮 204 薬師寺 紫苑宅



 バーソロミューの襲撃から数時間。
 無事に生還した田中は、紫苑宅で療養していた。
 廃倉庫での出来事が何も無かったかのように、悠麗壮204は静寂に包まれており、
時折吹く春の生暖かい風が妙に心地が良い。


 家族に電話をしてしまった為、バーソロミュー達が田中家を襲撃する恐れもあったが、
能美と連絡を取り、「ターゲットが一番出現する可能性の高い場所」という名目で
田中一家を護衛させることとし、本人は紫苑宅で一晩すごす事にしたのだ。
 島田本人は来ずとも、仲間の誰かは田中の在宅を確認するはずなので、実家には戻らない方が
良いとの判断だ。


 田中自身は傷を負ったものの、
ダメージはそれ程深くは無く、歩行には問題は無かった事あり
万が一に備えて病院には診せなかった。

バーソロミューが再来した時に、病院を戦場にするわけにはいかない。

94第四話 紫苑篇 「はじめてのすたんどばとる」:2010/06/16(水) 21:11:54 ID:/b.ajfkU0


 初めて訪れた悠麗壮は、紫苑本人が言うほどの狭い部屋では無かったが
田中の目からしても、外の墓地はやはり目に付いた。
 
 しかし、格安の家賃は、単に景観の問題だけでは無さそうだ。
 むしろ景観など序の口中の序の口である。
 
 部屋のいたるところから、生々しい視線を感じるし
 流し台や壁には、御札がこれでもかと言うほど貼りつけられている。
 

 天井には不気味なシミがにじみ出ており、目を凝らすと
「怨」と言う文字が浮かび上がってくるのは、決して田中の気のせいでは無いはずだ。

 
 紫苑いわく、これらはあくまで部屋の「オプション」であまり気にはしていないらしい。


(えらいところに住んでいるな、この人は……)


 田中は畳に横になりながら、意外に清潔な部屋から湧き出る
負のオーラを肌全体で感じ取っていた。


 ────確かにこの部屋で数年も過ごせば、あれだけ肝が据わっていたのにも納得できる。

95第四話 紫苑篇 「はじめてのすたんどばとる」:2010/06/16(水) 21:14:03 ID:/b.ajfkU0


「俺のロンリーガールは確かに無敵だが、弱点もある」
 押入れがひとりでに空くのを無言で見つめていた田中に、紫苑が語りかけてきた。
 話の種として、紫苑は自らの能力を田中にレクチャーすることにしたのだ。


「鏡や水といった "相手を写すもの"が近くにないと発動できない分スキができやすいのと、
相手が目を合わせないといけないからですか?」

 押入れを見ないようにしながら、田中が答える。

「勿論そうなんだけれど、ただ単に相手が『ロンリーガール』の目を見れば発動するわけじゃない
例えば……ちょっとテレビを見てみて」


 田中は言われるままにテレビを見ると、ディスプレイの中に紫苑のスタンド『ロンリーガール』の姿があった。
 しかし、ロンリーガールは目を合わせただけで発動するはずだが、ディスプレイは淡々と
少女を写し続けるだけで、何も変化は起きない。


「……あれ?何も起きませんね?吸い込まれるかと思ったんですけれど」
「そう。ロンリーガールは只目を合わせれば良いってわけじゃあないんだ」

                   ・ ・ ・ ・
『対象がロンリーガールの目を認識する』


「つまり、実際に目が合っていても相手がそれを認めなかったら意味がないってこと」
「今、田中ちゃんとロンリーガールは目が合っているんだけれど、良く見えないだろ?」

 確かに、テレビは電源OFFの状態なら鏡の様に顔を映し出すが、ぼんやりとしか映し出せない。
 
 
「だからボクは吸い込まれない……うわあああああああ!!!」

 
 気付くのが一足遅かった。
 ロンリーガールと目を"認識"してしまった田中は、一瞬にしてテレビの中に飲み込まれてしまった。

96第四話 紫苑篇 「はじめてのすたんどばとる」:2010/06/16(水) 21:15:38 ID:/b.ajfkU0


「田中ちゃん、アホだねぇ〜〜ww」
 
 ディスプレイの奥で、紫苑はイジワルそうな笑みを浮かべている。
 正確に言えば、「ディスプレイの奥」に居るのは、テレビの中に閉じ込められた田中なのだが……。

「酷いですよぉ〜!出して下さいよぉ〜!」
 
 涙目になりながら、田中は必死に目の前の”鏡”を叩きつけている。
 
 
 これで田中は"鏡の世界"に二度閉じ込められたことになるが
この世界は何とも言えない不快感があった。

 ある程度の身動きは取れるのだが、水を張った狭い浴槽の中でもがいている様な
感覚に陥り、無力感を押し付けられるのだ。

 自分にも試したことのある紫苑いわく
『狭い井戸に落ちてしまい、誰も助けがこない様な絶望的な感覚』という例えを出していたが、
なるほど上手い表現だ、と田中は感じた。


 あの少女と目を合わせてしまえば、誰もがこの虚無な空間に閉じ込められてしまう。
 田中の様なニートは勿論、どんな強力なスタンド使いであっても、逃れる事はできない。

 あくまで1VS1の話ではあるが、最強にして最弱、最弱にして最強なのが、紫苑の能力だ。


「そうなってしまったら、後は誰か他の人やロンリーガールと目を合わせるしかない」
「そして目を合わせた奴が鏡に変わりに閉じ込められるって仕組み。」
「ロンリーガールが元の位置に戻ればそこで終わるけれど、そうしなかったらアリ地獄と化するってワケよ」


 田中にとってはそれどころでは無いのだが、紫苑はお構いなしに説明を続ける。
 ようやくロンリーガールと再び目を合わせて、何とか現実世界に戻る田中。


「もう、なんてことするんですか……」

 文句を言おうとした田中であったが、とある疑問が浮かび上がった。
「一般人はスタンドが見えませんよね?このスタンドは対スタンド使い専用なんですか?」

 田中の疑問に、紫苑は自身有り気に返す。


「実はな、一般人の場合は、目を合わせるだけで発動できるんだよ。本人が理解していなくてもね」
「……!!そ……そんなことって……」
「いやぁ〜、俺も理由は良く分からないんだけれど、一般人相手なら確かに無敵かもね」

97第四話 紫苑篇 「はじめてのすたんどばとる」:2010/06/16(水) 21:16:59 ID:/b.ajfkU0

 でもそれは全てのスタンド使いに言えること……と付け加えようとしたが、
ふと田中の情けないスタンドの姿を思い浮かべた紫苑は、思わず言葉が詰まってしまった。

 気の毒そうに視線を逸らす紫苑に気付かず、田中は会話を続けた。


「便利な能力ですね〜、一般人には奇襲できるし、スタンド使いは常にロンリーガールに警戒しないといけないし」
「それでも、問題は解決できてないんだよなー」

 田中は素直に褒めたつもりであったが、紫苑は頭をクシャクシャと掻き毟りながら、付け加えた。


「と言うと……?」
 フーと一呼吸を置き顔を上げた後、人差し指をピンと突きたて、チクタクさせながら紫苑が続ける。


「俺と田中ちゃんのスタンドにはある共通点があります。なんでしょうか」

 田中は腕組みをしながらしばらく考えた後、遠慮がちに答える

「戦闘能力が……0ってトコですか?」
「ピンポーン」

 そうなのだ。肝心な事を忘れていた。

「島田は知らないが、あのバーソロミューとか言う黒人はガチ戦闘タイプ」
「俺達は確かにトリッキーな能力だけど、スキを突かれたらコッチは瞬殺だろうね」


 和洋折衷で言うと、瞬キルだぜぇ、と先程のちっとも似ていないバーソロミューのモノマネをする
紫苑。勿論田中はクスリとも笑わない。


「ボクが……せめてもう少し闘えるスタンドだったら…………」
「イヤイヤイヤ、田中ちゃんのスタンドは充分便利だって!お陰で島田の足取り掴めてるんだし、
相手も警戒してたろ?」

 急に落ち込み始める田中を、紫苑は慌ててフォローするが、
再び重苦しい沈黙が悠麗壮の部屋を支配した。


「そ、そういえばあのバーソロミューとかいう外人、今何してるんだろ。田中ちゃん、探れる?」

 その空気を払拭しようと、つとめて明るい声で提案する紫苑。

「名前と顔だけしか知りませんからねぇ〜。でも、ある程度近くなら……」
「おおっ!やってみようぜ!!」

98第四話 紫苑篇 「はじめてのすたんどばとる」:2010/06/16(水) 21:18:46 ID:/b.ajfkU0

 田中は一呼吸を置くと、改めてスタンドを発動させた。

 物々しい物音と共に姿を現した、人型の饅頭の様なスタンド(田中はやる夫みたい言っていたが、弟だろうか?)は
少し前に流行ったキモかわいいと言うやつなのかも知れないが、ずっと見ていると殴りたくなる風貌だ。

 しかしこの饅頭の様なスタンドがその気になれば、相手が時の首相であれ、好きな女性のタイプは勿論
パンツの柄や、挙句には国家機密の情報まで引き出すことができるのだ。
 

 つくづく、人や物は見た目によらないものである。


 その様な事を考えていると、田中のスタンドが何事かを呟き始めた。
 紫苑には良く聞き取れないので、田中が呟いている事を代弁する。


「え〜っと『うわ、アリエネーよ。ここ墓地?クレイ??こええええよ』」

『おおおお墓の直ぐ隣にアパート建てるなんて、日本人の信仰心の無さはテリブルっぅつすよぉぉ』

「『ビビってない。ビビッてないですよー』……紫苑さん?」


 まさか……そんなはずは無い。
 だいたい、お墓が隣にあるアパートなんて沢山あるだろ。折星町だけでも。

 心ではそう思っていても、紫苑の顔はかなりひきっている。


「えーと続けますね。『ええっと"ユーレイソウ"ウチラの語句に直すと"ゴーストハウス"』

『HAHAHA!日本のコメディアンは本当にレベル高いデースwww』

『204ってコトは……2階の電気がついてるあの部屋かぁぁぁぁ……?』


「………………………………」


 やたら三点リーダーの多いこのSSの中でも最長の12個の沈黙が流れる。


「ねぇ、田中ちゃん」
「何ですか?」
「ちょっと下の様子、覗いてみない」
「だが断る。です。」

「………………」
「…………ジャンケンな。」


―――――――ジャーンケーン


ガシャアアアアアアン!!!!

99第四話 紫苑篇 「はじめてのすたんどばとる」:2010/06/16(水) 21:21:43 ID:/b.ajfkU0


 田中がグー、紫苑が遅出しでパーを出そうとしたその瞬間、
悠麗壮204の窓ガラスが派手に砕け散り、黒い大きな塊が飛び込んできた。


 暗殺者、テリー・バーソロミューだ。


「ギャアアアアア」と叫び声をあげながら、二人はかに走りで玄関まで逃走する。

「み〜つけた。田中ちゃああんに、日本のコメディアアアアアン!!!」

 分厚いサングラスに耳と同じくらいの大きさのピカピカの耳飾り。
筋骨隆々の肉体と重そうな特徴的なドレッドヘアーの黒人。


 バーソロミュー本人で無かったら色々な意味で怖い。


「ミュージシャンだボケェ!!」

紫苑がバーソロミューを一喝する

「ひ、人違いじゃないでしょうか、紫苑さん。お友達にあんな人いません?」
「親から言われてるんだ。友達は選べと」


 紫苑は無理矢理笑みを作り、田中は顔面蒼白でガタガタと震えている。
 そんな二人を交互に見比べると、バーソロミューは厭らしさ満点の笑みを浮かべながら
サッと右腕を上げた。


『ドラゴンフォースッ!!』


 バーソロミューが叫ぶと、先程田中を追い詰めた、猛獣の様な厳ついスタンドが姿を現した。
「やれ!!」


 叫び声と共に、ドラゴンフォースが拳による攻撃を繰り出した。
 いきなりの攻撃に田中が派手に転び、紫苑は田中の首根っこを掴みながら右に反転する。
 
 しかしそこはやはりプロ。既に紫苑の動きを予測していたバーソロミューは
「ドラゴンフォース」の攻撃をかわしたばかりの紫苑と田中に、蹴りを放ってきた。

100第四話 紫苑篇 「はじめてのすたんどばとる」:2010/06/16(水) 21:25:05 ID:/b.ajfkU0

 来るっ! そう田中が認識した時には、既に物凄い音と共に蹴りは放たれていた。

 先に反応した紫苑に助けられ、直撃は免れたハズだが、蹴りの衝撃波だけで、
まるで鼓膜を破られたかのように耳がビリビリと音を立てる。

 紫苑に引っ張られなければ、間違いなく顔面を潰されていただろう。
 田中はまったくと言って良いほど反応できていなかった。


(う、嘘だろ……っ!? )


 田中がそう感じても無理は無い。
 今回こそ借金をカタに危険な仕事をさせられているが、元はと言えば善良な自宅警備員。
 格闘(むしろ暗殺であるが)のプロの放った蹴りを見たのはこれが初めてであった。


(殺せる……! こういう人は本当に素手で人を殺せるっっっ!!! )


 耳のビリビリが取れないまま、ビュッ! と二回目の音。
 今度はパンチなのかキックなのかも分からない。

 音が到達する瞬間に、紫苑が田中の頭を押し付けながら海老反りで攻撃をかわし、
お返しに足払いをかけようとするが、バーソロミューは軽々とかわし、素早く後退した。

(つ、ついていけない……! 紫苑さんがいなかったらとっくに死んでるよぉ……)


 この戦闘において、田中は明らかに邪魔になってはいるが、
申し訳無いなんて事を考える余裕は無い。
 とにかく必死で紫苑の後ろに隠れしのいでいた。

 当の紫苑は、その表情にはいつもの余裕は無いが、田中を庇いながらも
見事にバーソロミューの攻撃をかわし続けている。

 とてもじゃないが田中には無理な芸当だ。
 身軽そうな出で立ちではあったが、流石にここまでとは田中も予想していなかった。
 


「うらぁっ!! 」

 しかもただかわし続けているだけでは無い。
 今度はいつの間にか握り締めていた、外で拾った鉄パイプをバーソロミューにお見舞いしたのだ。

「うおっとぉ! 」

 紫苑の反撃はわずかにかすり、バーソロミューは思わず体勢を崩した。
 チャンスとばかりに鉄パイプを振りかざした紫苑であったが、今度はバーソロミューのスタンド
「ドラゴンフォース」が紫苑と田中に飛び掛ってきた。

(ヤバッ ! 避けれるか!? )
「田中ちゃん!! スタンド出せ!! スタンドでガードしろぉぉぉ!! 」


 声を張り上げて叫ぶ紫苑。
 が、「ドラゴンフォース」の攻撃対象は紫苑でも田中でも無かった。

101第四話 紫苑篇 「はじめてのすたんどばとる」:2010/06/16(水) 21:29:30 ID:/b.ajfkU0

 グシャアアアアア!!


 卵を割った様なイヤな音が、紫苑の部屋に鳴り響く。
 その音に一番露骨に反応したのは他でもない紫苑だ。


「あああああっ!! テメェ!! 俺のテレビをっ!!! 」
 標的は二人で無く、ロンリーガールを出現させることができる
テレビであったのだ。先に脅威を取り除く作戦だ。

 紫苑は今にも掴みかからんとする勢いで、バーソロミューを睨みつける。


「HAHAHAHA!! 聞いていたぜぇぇお前の能力っ!! 」
「まままま窓ガラスもテレビも粉々っっ!! ある程度破片が残ってはいるがっ!! 」
「おおおお俺が、"ロンリーガール"を認識するには心もとないっ!!! 」
「下を向かなければ良いからなぁぁ!! うえをむ〜いて♪ あ〜るこおおうよ♪ 」


 何故ソコまで日本通なのかはさておき、
 紫苑は浮かれているバーソロミューとの間合いを空け、警戒しながら睨みつける。


(何故、ヤツは俺の能力を知ってやがる……今、田中ちゃんに話したばかりだぞ?)

 なるべくスタンドやらの超常現象とは関わらずに(怪奇現象の類は自室で充分であるのもあり)
生活していた紫苑は、スタンドの事は誰にも話していない。
 自分の能力は田中か能美にしか知られていないはずだ。


「も、もしかして聞こえていたんですかね……? 何と言う地獄耳……」
「いや…………」

              ・ ・ ・
(仕掛けられてるなぁ、盗聴器)


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


「ま、やるしかねーわな」
 そう呟き、紫苑は再び鉄パイプを強く握り締める。
 額からにじみ出た汗が、ポタリと鉄パイプに落ちた。
 
 田中は、そんな紫苑の後ろに身をひそめる。

 紫苑は珍しく神妙な面持ちで、バーソロミューはいやらしい笑いを浮かべ、
互いをにらみ合っていた。




「騒がしいぞ馬鹿やろうがぁぁぁっ!! 」

102第四話 紫苑篇 「はじめてのすたんどばとる」:2010/06/16(水) 21:32:25 ID:/b.ajfkU0

 緊張状態を破ったのは、意外な人物であった
「げ、源さん!? 」


 にらみ合いの続く紫苑家の扉を勢い良く開けたのは、隣人の源 源次郎 (みなもと げんじろう)
通称、からみ酒の源さんだ。


 酒とグチと近頃の若者に文句を言う(そのクセ紫苑を下の名で呼ぶ)事が生きがいの、
紫苑が能美の次に苦手とする人物だ。


「はぁ? なんだ紫苑。この頭イカれてそうなガイジンは」
 
 源さんは訝しげにバーソロミューを見る。
 その見下した様な顔が気に喰わなかったのか、バーソロミューは低い声で呟いた。

 
「…………人を見た目で判断してはイケマセェェェン」
「!? 源さん、危ない!! 」
「……へっ? 」


一呼吸遅かった。

 紫苑が叫んだときには、既に全身を捻らせていた
ドラゴンフォースは、目にも止まらぬスピードで源さんに右ストレートを叩きこんだ。

「ぶへぇっっ!? 」
 突然の衝撃に、源さんはそのまま室外までブッ飛ばされ悠麗壮2階の柵に激突し、パタリと動かなくなった。
 口からは白い泡を吹いており、完全にノビている。


「……テメェ。源さんを。」
「もう切れちゃったぜ、流石の俺も……」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


紫苑は鉄パイプを持ちながらゆっくりと素振りをしながら呟いた。


「まずは田中ちゃんをボコボコにしたのが10000点んんん」
「そいでもって部屋の窓ガラスが5000点、テレビが5000点んんんん」
「源さんを殴り飛ばしたのも合わせてっ……と」


「全部で16000点!! 倍満だコラァァァァァ!! 」

「倍満は高くつくぜ……"覚悟"しろぉぉっっ!! 」


(………………)
(ボクの傷:10000点+窓ガラス:5000点+テレビ:5000点=200000点)
(源さんのを合わせたら…………)




(アレっ!? 源さん殴った分引かれてる!? 源さん殴ったのプラスだったの!!? )

103第四話 紫苑篇 「はじめてのすたんどばとる」:2010/06/16(水) 21:35:00 ID:/b.ajfkU0
とまぁ今回はここまで。少し長いのと、戦闘描写の練習ちゅうことで……
全然バトルしてない?次回から本気出す。
できれば間隔空けずに投下したいです……


状況整理  場所 悠麗壮204 紫苑の自宅

薬師寺紫苑(耕作)&田中奏多VSテリー・バーソロミュー


薬師寺 紫苑 ──→戦闘中。意外に身軽。テレビが壊されて涙目。
田中  奏多  ──→怪我の療養中なのに戦闘に巻き込まれる。邪魔になってる。
テリー・バーソロミュー ──→急に悠麗壮204(紫苑の自宅)に飛び込んでくる。戦闘中。


源さん(からみ酒の源さん) ────→  リ  タ  イ  ア



肉弾戦で押されている上、田中ちゃんが邪魔でしょうがない紫苑!
その上スタンドまで封じられて(?)どうすんの!

次回、決着ぅぅぅ!!!

そして次々会くらいに怒涛の新主人公登場ラッシュ!エエ加減にヒロイン出したいぜぇぇ
100レス越えてるのに女っ気0ォォォォ!!

104 ◆U4eKfayJzA:2010/06/16(水) 21:55:06 ID:u8zwaOyg0
源さんをリタイアさせた価値(紫苑にとって)=プライスレスwww

最悪の部屋で、相性的に最悪な相手に、鏡を封じられて、どうやって両者が立ちまわるのか……。
こいつは熱くなってきたぞ! 乙でした!

>>らめぇ
まさか、拷問に関わらせたりしませんよ。たぶん、明日には単発で書けると思います。

>>「合わせ鏡」の概念は物語の終盤で登場します。
ほほぉ……、これは面白そうですな。楽しみにしてますぜ。
……ところで、割と気になっていた事なんですけど、『万華鏡』の世界ではロンリーガールってどうなってんでしょう?
合わせ鏡なら自分で作って考えてみることは出来ても、万華鏡ともなると手に余るので、予想もつかなかったんです。

105名無しのスタンド使い:2010/06/17(木) 21:02:28 ID:RC3fRNlM0
女っ気が0?何を言ってるんだ…ロンリーガールちゃんがいるだろう

106 ◆neHjiUQ7Jo:2010/06/17(木) 21:18:39 ID:fnMu/xUI0
コメありがとうございます!
何なんだろうね、ヒマな時は書く気が起きないで、むしろ忙しい時には
書いちゃう。それどころじゃない時でも……
ワールドカップ第二戦の前に間に合うかな……

>>104
お米ありがとうございます!
ちょwwwハードルあげないでwww適度の期待でwww

能美「ふふふ……相変わらずの洞察力だな、インハリ」
能美「だが……行き過ぎた洞察力は、時折り作者を涙目にする……」
能美「ロンリーガールもいいが、私のハンギング・ガーデンも見てはどうだね?」

>>105
お米ありがとうございます!
あなた……わかってらっしゃる……
しかも、ロンリーガールは自動操縦型なんだぜ……
だからあんなことしてもこんな事しても紫苑本人には……フヒヒ

107 ◆U4eKfayJzA:2010/06/18(金) 08:38:06 ID:???0
ハンギング・ガーデンを見る→呼吸が操作される→気絶する前にブッ飛ばす→突っ込んだら射殺される
ですね、わかります。
いや、無茶苦茶な質問してすいません。お詫びと言うのもなんですが、単発は完成させました。
喜んでいただけると幸いです。

108 ◆WQ57cCksF6:2010/06/19(土) 22:56:24 ID:???0
源さんカワイソス・・・
乙!紫苑さんどうやって勝つのか期待!

ちなみに、僕はHEROESだとエルが一番好きです。可愛いです。びりびりしたいです。
二番目はピーターです。チートすぎると思います。(2までしか見てませんが)

109 ◆neHjiUQ7Jo:2010/06/20(日) 02:57:32 ID:MwZZVZEw0

スタゲ完結オメ!
偉大な先人に負けないように……
いや負けても良いから自分も完結を目指して頑張らさせてもらいます


>>107
ここでコメさせてもらいます。何か自分貼りつきまくってたのでw
単発最高でした! 読み込まれてるのが伝わって本当に感動しましたよ……。

紫苑はああいう扱いでナンボなんすよw最高です!
田中のクソっぷりもなかなかwww
自分も、もしよろしければジョルナータ(さん)やジョヴァンナちゃんも
出演させたいです!


>>108
◆WQ57cCksF6ッ!
すげぇ! みんなアコガレ伝説のSS作家 !

いや……なんつーか、お目汚しスイマセン。
あなた様に見てもらえて光栄です。
捕鯨騒動のせいか、クレアよりエルの方が可愛く見えてしゃーないです。
ピーターはねぇ……主人公で使いたいですねぇ〜w

これは、RS復帰フラグと見て間違いないでしょうか?


それでは投下させてもらいます。

110第五話 紫苑篇 「人のオシャレを笑うな」:2010/06/20(日) 02:59:40 ID:MwZZVZEw0

PM21:07




「…………覚悟デスカ。」

 バーソロミューが呟くと、ドラゴンフォースがゆっくりと紫苑に歩み寄った。
 素早く右方向に屈み、臨戦態勢を取る紫苑。

「覚悟という言葉を簡単に使うんじゃネェェェェ!!! 」

 彼の怒号に反応したドラゴンフォースは、雄たけびと共に、
屈んでいる紫苑に向かって勢い良く回し蹴りを放った。


 ヒラリとかわした紫苑に、今度は正拳突きが飛び込んでくるが、
こちらもバランスを崩しながら何とか避ける。

 そんな紫苑に容赦無く襲い掛かる蹴り、右フック、さらには踵落とし。
 風きり音が独特なリズムを刻みながら、紫苑を壁際へと追い詰めて行く。


 「うおっ! ちょっ! まっ!! 」


 技のオンパレードを器用にかわして行く紫苑であるが、
顔はどんどん引きつっていき、呼吸も乱れ始めている。
 
 
 見た目こそは、紫苑が小学生の時見て以来、未だに記憶に刻まれている
ドキュメンタリー番組に出ていた野獣とあまり違いは無いが、バーソロミューのスタンド
”ドラゴンフォース”は猛獣の躍動感に、格闘技の洗練さを兼ねそろえているのだ。


 このままではジリ貧だと感じた紫苑は、予定よりも早く
”切り札”を出す事に決め、右ポケットに素早く手を伸ばした。

 しかし、バーソロミューの目は、紫苑のわずかな行動も見逃さない。


「YOUの狙いくらい、お見通しなんだよぉぉぉぉおおお!!! 」
「―――しまった!! 」


 ドラゴンフォースの回し蹴りは、紫苑にこそヒットはしなかったものの、
変わりに彼の右手から何かを弾き飛ばした。
 弾き飛ばされた何かは、クルクルと回転しながらバーソロミューの掌におさまる。

111第五話 紫苑篇 「人のオシャレを笑うな」:2010/06/20(日) 03:03:19 ID:MwZZVZEw0

「あ、あれは! 」
「そうだよおおお田中ちゃあああん。この男、手鏡もってやがったのさあああ!!! 」
「グッ……気付いてやがったか。」


 ギリリと歯を喰いしばる紫苑を、
アゴに手をやりながらバーソロミューは感心した様に見つめる。

「な〜るほど。手鏡を常に持ち歩き、自分に危害を与えるヤツが現れたらその手鏡の中に
閉じ込めちまおうってハラかぁぁぁ!! 」


 勝ち誇った顔をして解説するバーソロミュー。
「ならば……こうしちまえばお前はもうTHE・ENDだぜぇぇぇ」


「あああ……何してんだぁ、あんたっ」
「テ、テメェ!この糞外人っ!! 」


 二人が叫んだのも無理は無い。
 なんと、バーソロミューはその大きな口を目一杯開いたかと思うと、
紫苑の手鏡を飲み込んでしまったのだ。


「プッハー……オエ。ごっつあんデース」
「HAHAHA、これでテメエのスタンドは発動できねえ! 」

 信じられない荒業を成し遂げると、バーソロミューは高笑いなまま
拳を顔の横に構え、戦闘態勢を取る。
 田中は青くなっていた顔をさらに歪ませ始めた。


「ははは……あいつ馬鹿ですよね、紫苑さん。他にも手鏡は持ってますよね?」
 田中がヒソヒソ声で紫苑に質問する。

「いや……それが持ってないんだよ」
 額から流れる汗を拭うこともせずに、バーソロミューを凝視しながら
田中へ返答する紫苑。

「いま、なんて……? 」
 今度は少し大きな声。

「だから、アレ一個。余計な金を使わないようにしてるの。
まさか鏡を飲み込まれるなんてなー」

 まいったなーと言いたげに、頭を掻き毟る。
 
 青くなっていたはずの田中の顔は、今度は逆に真っ赤に燃え上がった。





「あなたねっ! 自分の命綱になる鏡を! ケチるんじゃないっ!! 」





.

112第五話 紫苑篇 「人のオシャレを笑うな」:2010/06/20(日) 03:05:25 ID:MwZZVZEw0

「アーハッハッハッHAHAHAHA!! 」
 二人のやりとりを見て、バーソロミューは腹を抱え爆笑している。
「イイヨイイヨ。二人仲良くHEVENでも漫才続けなよ?」
「さぁ、覚悟はREADYかいっ!!?まずはパーカーのボウヤから……」


『いや。覚悟するのはテメーだよ、バーソロミュー』


 前身に体重をかけ、いざ攻撃をくりだそうとした
バーソロミューの目の前に映ってたのは、田中と、ボロボロの洋服を着た髪の長い少女だった。



 ────────紫苑がいない。




 呆気に取られ、思わず体勢を崩しかけるバーソロミュー。
 仲間であるはずの田中も、何が起きたのか分からない様で、
ぼんやりと紫苑の代わりに出現した”少女”を見つめている。


(WHAT……。あの娘は何者だ……?つーかあのパーカーのボウヤは?)
(あのボウヤは何処に消えたんだいっ!!?)

((ま、まさか……))


 田中とバーソロミューはほぼ同時に同じ結論、そして正解にたどり着いた。


「これは……これはあのパーカーのボウヤのスタンド、"ロンリーガール"!」

「クソッ!こいつが"鏡の世界"から"現実世界"に現れたってことは、
もう発動している証拠っっ!」


「あのボウヤ、”自分をどこかに閉じ込めやがった”!! 」


ドドドドドドドドドドドドドドドド



.

113第五話 紫苑篇 「人のオシャレを笑うな」:2010/06/20(日) 03:07:04 ID:MwZZVZEw0

「や、やった!! 流石紫苑さんっ!!! 」
 小刻みに震えながらも、田中は小さくガッツポーズを作った。

(でも何処に消えたんだろう。辺りにはっきりとスタンドを写すものなんてどこにも……)
 
 同じ疑問を、バーソロミューがやや興奮気味に叫んだ。
「やややや野朗っ!!何処に消えやがったぁぁ!!」

『……お前の胃袋のなかさ。ここからハワワタぶちまけてやんよ』

 
 どこからか聞こえてくる紫苑の声に驚き、
ヒイイッ、とバーソロミューは自分の腹を守るように屈む。


「イヤイヤイヤ!!お前はそのキミの悪いスタンドと目を合わせないと
能力を発動できねえはずだ!それに腹の中の鏡に入り込めたとしても、何もできねえだろっ!!!」


『…………バレた? 』
 どこからか、いつもの人をおちょくった声。


「グエッヘッヘッ。賢いバーソロミュー様にかかればこんなもんよ」

手を腰にやりながら、胸を張るバーソロミューだが、
「イヤイヤイヤ」と手を振りながら我に返る。


「違うっ!! そうじゃねえ!! どこに隠れてやがる、糞パーカーが!! 」


『さぁ……どこでしょう…………』
「うがあっ!!」


 急に怒声を上げると、バーソロミューは360度回転しながら
辺りを見回すが、やはり紫苑の姿はどこにも無い。

 バーソロミューはもう限界間近と地団駄を踏んでいたが、急に動きを止めると、
何かに感づいたのか、口元をほころばせた。

114第五話 紫苑篇 「人のオシャレを笑うな」:2010/06/20(日) 03:11:23 ID:MwZZVZEw0

「……パーカー君。確か紫苑って言ったけ」
「キミはあまりスタンドバトルには慣れてないねぇ〜」

『喧嘩は嫌いなものでね』
「HAHAHA,結構結構」

ニヤリと笑いながらバーソロミューは答える

「なら知らないかなぁ〜。大抵のスタンドが受けたダメージは」
「格ゲーしてる時に自分自身はくらってもねえのに、『イテッ』って言っちまうみてえに」
「本人にも直接伝わるってコトを!!!」


 そう叫ぶと、バーソロミューの"ドラゴンフォース"は大きく振りかぶり、"ロンリーガール"に
ロケットの様なストレートを繰り出す。
 ドラゴンフォースのストレートはバーソロミュー以上の破壊力を持つ様で、。
田中は拳を追うどころか、いつ放ったかもわからない。


 しかしロンリーガールは難なくかいくぐると、そのまま割れた窓に踊りだし
外の墓地まで逃げ出した。


「待てコラァァァ!!!」
 慌ててバーソロミューはロンリーガールを追おうとしたが、
ドラゴンフォースをピタリと止め、顎に手を置きながら何事かを思案し始める。


(クッ……マジイな。俺のドラゴンフォースは遠隔操作の自動操縦型に切り替えると暴走しちまう)
(エミリアさんは周りを巻き込む事を嫌うんだよな……自分はガンガン巻き込むくせに……)

(HAHAHA、構うもんか。外に居る奴らは皆殺しだ!!)
(エミリアさんには後で謝ればスムぜっ!エミリアさんは優秀なヤツにはアマ〜イからなぁ!!)
 単純明快が取り柄のバーソロミュー式思考回路は、5秒で答えを打ち出した。


「追えっ!!ドラゴンフォース!!!あのスタンドをボコボコにすりゃMEの勝ちだっ!!!」
「グオオオオオオオオオオオオ」


「ヒッッッ!!」

 あまりの叫び声に、田中は思わず両耳を塞いだ。
 バーソロミューの声も耐えられたものでは無いが、この「ドラゴンフォース」はその比じゃない。


「グガガガガガガガアアアアアアア!!」
 メキメキと音を立てながら、バーソロミューは一回りも二回りも大きくなって行く。

 割れた窓ガラスから差し込む月光に照らされ、全身は黄金色に染まりあがっている。
 姿を変えたドラゴンフォースに、もはや猛獣なんていう比喩は合わなかった。

 恐竜だ。地球上に存在した生物の中でも最強と言われる爬虫類。
 向き出しの歯は刀にしか見えないし、急成長した爪も、引っ掻かれてしまえば一瞬でオダブツ間違いなし。
 盛り上がった筋肉と、むき出しの歯をうならせるその醜さが、より恐怖を増徴させる。
 

 もう一度だけ物凄い雄たけびをあげると、ドラゴンフォースは墓地へと飛び出した。

115第五話 紫苑篇 「人のオシャレを笑うな」:2010/06/20(日) 03:14:25 ID:MwZZVZEw0
「俺のドラゴンフォースは自動操縦型にすると、戦闘能力が全体的に向上する!」
「この自動操縦型は5分しか使えねえし、頭脳も悪くなるが、関係ねえ!5分で片付けるっ!!!」


『なるほど。自動操縦型はオツムと引き換えに、戦闘能力を高めるのか』
『ご主人様にそっくりのスタンドだな。親近感沸いてるだろ』

 どこかから聞こえてくる紫苑の声は、この後におよんでも皮肉たっぷりだ。


「HAHAHA、いい気になるなよ。見たところお前のスタンドはかなりのスピードだが、
自動操縦型のドラゴンフォースもかなり速い」

「一撃決めちまえば、MEの勝ちだぜっっ!!」

『よ〜るは墓場で運動会〜♪てか。面白い。やったろうじゃんか』


『……でもよ、あんたのスタンド、頭が悪くなるんだろ?』
『フィールドがどこか限定された場所ならいいけれど、こんな夜更けの墓場じゃ』
『追いかける、つまり"探索"には向いてないだろ。』


 「あっ」と一言呟くと、バーソロミューの額から、玉の様な汗が零れ落ちる。
 バーソロミューは地面を向きブツブツと呟き始めた。

 おそらく「大丈夫。大丈夫」と言っているようだ。

 数秒後、小声で呟くバーソロミューの声を掻き消すよう様な爆発音が
外の墓地から響いてきた。
 ドラゴンフォースが大活躍、と言うより大暴れしている音だ。
 
 墓場からは物を壊す音は勿論、猫の鳴き声や鳥の羽ばたく音が聞こえることから、
墓場に居た鳥等の動物達と格闘しているのだろう


『2分経過〜。それにしてもお前のスタンド、バチ当たりだよな〜』

 焦りの表情を浮かべるバーソロミューを、どこかで見ているか、
紫苑は神経を逆撫でするような声で煽り始めた。



「うるせえ!!そんなヨユーブッコイテられんのも今のうち……」

ガツーーン!!

「おぎゃあ!」
 怒り心頭のバーソロミューの目に火花が散った。
同時に押し寄せる、後頭部への激痛。
 



                 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 
 鉄パイプで殴られたのだ。紫苑が持っていた鉄パイプで。

116第五話 紫苑篇 「人のオシャレを笑うな」:2010/06/20(日) 03:17:12 ID:MwZZVZEw0

「上手くまいたみたいだな! でかしたぞロンリーガール!! 」
 飛び切りの笑顔でロンリーガールを迎える紫苑。

「後で頭ナデナデしてやんぜ!! 田中ちゃんを代わりに閉じ込めてね! 」
「てめぇ……いつの間に、背後に……ゲフッ!! 」

 最後まで喋らせる前に、もう一発鉄パイプをお見舞いする。
 ムチの様にしなる鉄パイプは、左肩と首の付け根辺りを捉え、バーソロミューは悶絶した。


「ロンリーガールが巧くアイツをあしらったのさ。窓から出て玄関から入ってきた!! 」
「そうじゃねぇ! ガホッ……!! 今までどこに隠れてやがった! 」
「ずっといたさ。お前の右にな」
「右…………? 」


 バーソロミューがガードをしながら、右方向に目を向けると
今度は左頬に衝撃を受けた。


ガツーン!

「ぎゃはっあああっ!! 」
「わりいわりい、俺から見て右だったわw」


 左頬にクリーンヒットした鉄パイプの振動が脳に直接伝わり、バーソロミューの意識が一瞬だけトンだ。
 紫苑はお構い無しに鉄パイプを床に刺し、勢い余った身体を鉄パイプで支え、その反動を活かし
勢い良く喉元に蹴りを入れる。

 今度は叫びにもならないようで、代わりにバーソロミューの口から血しぶきが飛びちった。
 最早紫苑のやりたい放題だ。



「―――――か、完全に先手を取られた……テメェェ、一体何処に……」
「言っただろ?そんなピアス付けても、頭は鍛えられないって」
 
 返り血を浴びた紫苑は得意げに笑ってはいるが、バーソロミューは理解できない。
 ”そんなピアス”という言葉に反応したバーソロミューは、無意識に自分のお気に入りのピアスに指を伸ばした。


「…………はっ!まさか…………っ!! 」


「この特注ピアスが!磨き上げてきた俺のピアスが、鏡の役割を果たしただと!!? 」
「正解っ! ご褒美はこちらっ!! 」

117第五話 紫苑篇 「人のオシャレを笑うな」:2010/06/20(日) 03:18:44 ID:MwZZVZEw0

 バーソロミューが答えに気づいた時には、紫苑は既に海老反りになりながら
 鉄パイプを目一杯ふりかぶっており、勢いそのまま全体重をかけ振り下ろした。


 直接脳天を狙い叩き落したが、バーソロミューは首を傾け寸前でかわす。
 しかし完全にはかわしきれず、攻撃はヒットし、紫苑の鉄パイプは
今度は完全に左肩を破壊した。

 信じられない激痛だが、今のバーソロミューの意識は、
痛みよりも怒りとある疑問に向けられいた


「こここここんなピアス、いくら磨き上げても、お前のスタンドは写らないだろうっ……!」
「かかかか仮に写ったとしても、ロンリーガールを認識出来るほどしっかりとは
……ギャフゥウゥfばおpth!!」

 黙れと言わんばかりに、紫苑は鉄パイプによる攻撃では無く、バーソロミューの大事なムスコに
蹴りを決めてやった。
思わず両腕を股間に回し、ガードを解いてしまうバーソロミュー。



『そりゃあお前や田中ちゃんにはロンリーガールの"目を"認識出来ないだろうな』
『だが……俺にはそんなの朝飯前だぜっ!!』


「もう一年以上も一緒なんだ!多少姿がぼやける鏡でも、見つめ合うことぐらい
 楽勝ってわけよっ!!!」


ドォォーーン!!


.

118第五話 紫苑篇 「人のオシャレを笑うな」:2010/06/20(日) 03:21:20 ID:MwZZVZEw0

(成る程、スタンド自身の成長というより、一緒に成長していたのか……)
(スタンドの磨き方にも、こんな方法だってあるんだ……!! )


 思わず感心した田中は、ロンリーガールの方をチラリと見る。
 すると、ロンリーガールは紫苑とバーソロミューから少し離れた所でうつむいていた。



 …………何やら顔が赤くなっているのは気のせいにしておこう。


「そんな……そんあ馬鹿なことが……!早く戻れっ!ドラゴンフォー……」


「無駄だっ! 覚悟決めろぉぉ!!! 」

 思いっきり振りかぶると、紫苑はやたらめったらに鉄パイプを
バーソロミューに叩きつけた。


「ドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラ
ドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラ
ドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラ
ドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラ
ドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラ
ドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラ
ドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラ
ドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラ
ドラドラドラドラドラドラドラァーーーっ九連宝燈っっ!! (見たら死ぬ!! )」



(は、初めて見るスタンド能力者同士のバトルの決まり手が……)
(鉄パイプによる滅多打ち……これでいいのか、色々とっ!!? )

 心ではそう思っていたが、絶望の末、掴み取る寸前にまで来た安全と勝利を前に、
田中は歓喜の表情を浮かべていた。

119第五話 紫苑篇 「人のオシャレを笑うな」:2010/06/20(日) 03:23:24 ID:MwZZVZEw0
───しかし、紫苑と田中は、勝利を目前にして、『二つの誤算』に気付ていなかった……。




「嘘ぉぉぉ!!! 」


 一心腐乱に鉄パイプを振り下ろしていた紫苑の口から、素っ頓狂な声が漏れた。
 田中にいたっては声も出ていない。

 紫苑が握り締めていた頼もしい鉄パイプは、くの字に曲がってしまっている。
 何と、鉄パイプのほうが先に悲鳴をあげたのだ。


 目の前のバーソロミューは、顔面の原型を留めておらず、
全身血まみれな事から、既に虫の息である事は誰の目から見ても明らかだ。
 だが、朦朧としながらも、目にはしっかりとした意識が宿っている。


(コイツ……どんだけタフなんだ……? 殺してしまわないか心配なくらいだったのに)


「じゃ……じゃあ今日はこの辺でって事で……オツカレデース」
 紫苑が氷付いた笑顔を浮かべながら言う。


「………………」ヒューヒュー
「グフ……グフフフ」
 バーソロミューは怒るどころか、逆に笑い声をあげた。
 もちろん、目はナイフの様に鋭いままで。
 

 一つ目の誤算は、バーソロミューの予想外のタフネス。
 暗殺者を自負するだけはあり、そのタフネスは驚異的だ。
 しかし、後は鉄パイプを使わずとも、素手でバーソロミューを再起不能に
にできる段階にまでは追い詰めてはいた。


 だが、このバーソロミューの驚異的なタフネスは、二つ目の誤算をより致命的なモノとした。


 二つ目の誤算。
 紫苑はいつの間にか、窓に背を向ける形で攻撃を続けていたのだ――――。


「……グフッ……ドラ……ゴン……フォース……」
「流石MEの、スタンド……ちゃんと……帰って来てくれたか……ガハッ」

 紫苑は気付かなかった。
バーソロミューはドラゴンフォースの「自動操縦型」を既に解いており、
紫苑の背後で攻撃態勢に入っていたのだ……。


「も、もう"自動操縦型"は解いた……攻撃は『正確』に行えるぜ……」

120第五話 紫苑篇 「人のオシャレを笑うな」:2010/06/20(日) 03:24:48 ID:MwZZVZEw0

 先に気付いた田中が大声で叫ぶ。


「紫苑さんっ! 危ないっっ!! 」
「遅せええええ!!! ドラゴンフォース!!! そいつの後頭部だ!!! 」
「脳天ぶちまけちまえええええEEEEEEEEE!!!!!! 」





「―――――――ロンリーガールっ!!」





 紫苑が叫んだ瞬間、紫苑は再びピアスの中に
ロンリーガールと入れ替わる形で閉じ込められる。


 紫苑とロンリーガールの身長差は30cm近くある。
 当然、後頭部にストレートをぶち込もうとしたドラゴンフォースの拳は
ロンリーガールには届かず、そのまま彼女(?)を通過した。


 勢いそのままの状態で、ドラゴンフォースが放った拳の着弾点は……


「どう考えてもMEです。本当にありがとうございぶへ@あsrj!!! 」


 勢いそのままで、ドラゴンフォースはご主人であるバーソロミューの顔面に
渾身のストレートを叩き込んだ。
 バーソロミューは血しぶきと共にド派手に回転しながら吹き飛ばされ、
玄関横の流し台に頭から勢い良くつっこんだ。


 自動操縦型を解いたとはいえ、破壊力Aのスタンド。
 紫苑に滅多打ちにさえたダメージに加えてこれを食らえば、
流石のタフネスを誇るバーソロミューでも一溜まりも無い。

 その証拠に、バーソロミューはピクリとも動かなかった。

 ご主人を吹き飛ばしてしまった哀れなスタンドは
殴った形そのままに消滅した……。

121第五話 紫苑篇 「人のオシャレを笑うな」:2010/06/20(日) 03:27:20 ID:MwZZVZEw0

 その姿を確認して、"現実世界"に戻る紫苑。


「あー……アホで助かった。」
「生きてっかな?死んでいたとしても、俺のせいじゃねーよな?結局自爆だし」

 お前のせいだよ、と、いつもの田中なら言っていたかもしれない。
 しかし田中は、気が付けば無我夢中に走り出し、紫苑に抱きついていた。


「紫苑さんっ! 紫苑さんっ!! 凄すぎるっすよ!!! 」
「うおっ! 田中ちゃん!! 元気じゃねーか! 」
「あんなバリバリのパワータイプのスタンドで、しかも超タフなアイツを!
不意打ちもあったとはいえ、叩き潰すなんてっ!!!! 」


 田中は感動と安堵が織り交じった不思議な感覚にもみくちゃにされ
顔面の穴という穴から涙が溢れ出ていた。

「おいおい、いい加減に離れろよ……俺にはそんな趣味ねーんだから」
「いいえ、離しませんよ! この感動を体に焼き付けておきたいんですっ!! 」

 ええい、離せ!と田中を放り投げる紫苑。
「抱きつくのはいいから、隣の源さんの部屋に行って、鏡かその代わりになるの
かっぱらってきてくれ。コイツが万が一動き始めたら今度こそ閉じ込めてやる」

「そ、そうですね。ゲンさん、スミマセン」
 急に我に帰った田中は、大急ぎで隣の源さんの部屋へと向かった。



「ふぅ…………」


 時間にして、15分弱。

 そんな短い時間で、紫苑は目の前に転がっている、自分の3倍は筋肉を
つけていそうな黒人と死闘を演じていたのだ。
 15年……は言いすぎであるが、15時間は戦っていた気分だ。
 どちらにせよ、何かのピースが欠けていたら、今横たわっているのは
自分自身なのだ。
 ヒキガエルの様に潰れた自分自身の姿を想像した紫苑は、思わず身震いをする。

122第五話 紫苑篇 「人のオシャレを笑うな」:2010/06/20(日) 03:30:45 ID:MwZZVZEw0

 もう一生分の鉄パイプを振るった気がする。
 紫苑自身、できれば一生こんなものを振るうことの無い人生を送りたくなかったのだが。


「我ながらよくやったもんだぜ……」
 紫苑はピクリともしないバーソロミューを見つめながら長い溜め息をついた。

 本当ならここでタバコの一本でも吹かしたい気分であったが、せっかくの禁煙を破るわけにもいかず
紫苑は代わりに無糖ガムを口に放った。


「あんたは強かったよ。正直身体能力には天と地の差があった」
「…………そんなあんたの敗因は3つ」


「まず、目立ちすぎたことだな。その頭とピアスは自重すべきだった」
「次にやはりそのピアス。結果的にソレが付け込まれる形になっちまってるし」

「そして、俺がロンリーガールを発動した時のあんたの行動が最後の敗因だ」


「俺ならロンリーガーリを追わずに、あそこで田中ちゃんを人質にしてたね」
「まぁ人質とられても、逆転する見込みはあったけれど、正直ヤバかったかも」

 疲労感と共にこみあげてくる僅かな昂揚に
紫苑はやはり我慢できず、タバコのケースを取り出した。


「ドレッド、重そうなピアス、そしてカッカする頭……総合的に考えたあんたの敗因は」

 タバコを取り出したものの、やはり火を付けるのはためらい
そのまま指ではじき、バーソロミューに手向けてやった。






 ・ ・ ・ ・ ・
「頭の鍛え方を間違ったってことだな」







第5話   完   
.

123 ◆neHjiUQ7Jo:2010/06/20(日) 03:33:16 ID:MwZZVZEw0

 バーソロミュー戦、決着ぅぅぅ!!!


 鉄パイプでラッシュ……
 これが初スタンドバトル\(^o^) /
 もし期待してた人いたら、本当にすみません。


 次回、軽いエピローグの後、新主人公と、>>1しか愛せないだろうヒロインの登場を
聖母の心で見守ってくれるとうれしいです……。

124 ◆R0wKkjl1to:2010/06/20(日) 06:43:07 ID:MlB3wU3sO
バーソロミューどんだけタフなんだ・・・
でも、自爆ってのが「らしい」最後でしたねww

乙です!続き楽しみにしてますッ!

125 ◆U4eKfayJzA:2010/06/20(日) 10:57:02 ID:O6JxO8HE0
紫苑えげつねぇwww まさか、ピアスを利用するとは……。
そして、自爆とは本当にふさわしい落ちwww
一見スタンドバトルっぽくないようでいて、実は能力を駆使してのスタンドバトル、乙でした!

>単発
いや、本当にお目汚しいたしました。勝手にクロスさせた揚句、見せ場を拙作関連のキャラに奪わせてしまってすいません。

>もしよろしければ〜
マ ジ で す か ?!!
願ってもないことです!

126名無しのスタンド使い:2010/06/20(日) 16:53:49 ID:???0
乙!
バーソロミューのキャラに愛着がわいてきた今日この頃
いや、もう出ないんだろうけど

127 ◆neHjiUQ7Jo:2010/06/20(日) 19:41:06 ID:MwZZVZEw0
>>124
お米ありがとうございます!
続きを楽しみにしてるのはこっちでっせ!次回作は単発でやられていた怪談物などいかが?
……そういえば、自分も悠や遥の様な恋愛要素も入れてみたい今日この頃。

>>125お米ありがとうございます!
なんつーか、申し訳ないですハイ……
期待を裏切ってしまう出来でしたが、今回はキャラに焦点当てたって事で……

>>126お米ありがとうございます!
出来れば沢山の案に出てきてもらいたいと思ってますからね〜
それでも、バーソロミュー気に入っていただいてうれしいです!!

紫苑は勝利しましたが、「殺して」ませんよね……てことは、まだ……


実は、バーソロミューってかなり強い設定なんだぜぇ……
彼については次回触れたいと思います。
「ドラゴンフォース」は本体自身が強ければスキの無い凶悪なスタンドになるし、
紫苑に「ご主人様そっくりのスタンド」って言わせたいが為にこんな設定にしましたw
原案者様、並びに絵師様スミマセンでした……。

128名無しのスタンド使い:2010/06/20(日) 22:15:39 ID:G/83SdC.0
ロンリーガール・・・独立した人格が存在する・・・のか?
ちょっとロンリーガールがかわいすぎて生きるのがつらくなってきた

129 ◆neHjiUQ7Jo:2010/06/28(月) 23:57:57 ID:Sg1LxhNw0
>>128
お米ありがとうございます!
おふぅ……わかってらっしゃる……
自分も何回もロンリーガールと見つめ合ってるうちに何とも言えない感情が……

ロンリーガールが独立した人格があるのかどうかはともかく
もしあったとしても、初めて(?)本当に愛してくれた女性が
自分で創りだしたもの……。耕作っっ!!



主人公チェンジの前に、小出しさせて頂きます……。


中途半端に余ってしまったので、エピローグとキャラクターデータを。
キャラクターデータを書いてるときが一番楽しいのは内緒だぜ。

130第5.5話  紫苑篇第一章、エピローグ:2010/06/29(火) 00:00:11 ID:qHzcBYwM0

同日 PM11:00  悠麗壮204



 死闘の行われた悠麗壮204は、いつもの平穏を取り戻していた。


 現在、紫苑の部屋には、家主の紫苑と田中、
紫苑により呼び出された能美と部下2人の計5人がいる。

 哀れなバーソロミューは幸いにも一命を取りとめはしたが、
意識が無いまま能美の"組織"に収容される事が決まった。
 命のやり取りをしたとはいえ、彼の末路を考えると、
流石の紫苑も気の毒でしょうがない。


「終わりました、能美さん」
 部下の黒服が、小声で能美に話しかけた、
 なるべく騒ぎを大きくしない為に、源さんを隣の部屋に寝かしつていたのだ。
 作業を終えた事を確認すると、能美は重い口を開けた。


「ご苦労だったな。まさか島田がスタンド使いを仲間に入れているなどとは
思いもよらなかった。……しかし」


 能美はニコッと笑みを浮かべながら続ける。


「お前が返り討ちにするとはもっと予想外だったな。正直見直したぞ」
「どうだ、俺たちの組……じゃない、会社で働いてみる気は無いか?」
「結構です!!」


 きっぱりと断りを入れるが、能美の顔が”冗談にならない冗談”を
言う時の顔になっていたので、話題を逸らす事にした。


「そ、それよりも、俺達の計画がバレてるじゃねーか。昨日の今日の作戦だぞ?」
「幾らなんでも、漏れるのが早すぎやしないかい?」

131第5.5話  紫苑篇第一章、エピローグ:2010/06/29(火) 00:02:11 ID:qHzcBYwM0

 少しうつむきながら、能美が返答する。
「確かに……我々も早過ぎる展開に正直対応が遅れてしまった」
「その事は詫びねばならないな。それと、宮下はウチの組……会社員だが、ヤツも
案の定行方不明になっていて、連絡がとれない」

「まぁ、田中ちゃんの能力を警戒したんだろうな」
 田中を一瞥しながた紫苑が言う。

「問題は、俺の家に盗聴器が仕掛けられていたこと。これは流石に説明がつかない」
「相手の能力って線は無いぜ。田中ちゃんが襲われた際、救出した俺は相手に姿を見せていない」


「つまり、何が言いたいのだ?」
 能美が紫苑の目を真っ直ぐに見つめながら問う。
 思わず目線を逸らした紫苑は、フーと深呼吸を置いた。


「獅子身中の虫ってヤツだな。案外敵ってのは近くにいるみたいでっせ、能美さん」
「ああ……」
 そう呟くと、能美は部下二人に振り返る。
 「違います」とやや大袈裟なリアクションで無実を訴える二人に、紫苑は噴出しそうに
なるのをこらえながら、ある疑問を口にした。


「そういえば、昨日の関西弁は?」
 
「……夕方から別のシノギの為に大阪に飛んだ」
「アイツにも話聞いときなよ。アイツが犯人なら、田中ちゃんを最初に襲わせたのも
能力を警戒しての事だろう。今ん所一番クロだよ、多分」

「田中の能力では思考を読むには少し遠すぎるな。まぁ良い。見つけ出したら体に聞くさ」


 出し抜かれかもしれないと言うのに、能美は不気味な笑みを浮かべている。
 おそらく"体への聞き方"を考案しているのだろう。
 期待を裏切らないドS振りである。

132第5.5話  紫苑篇第一章、エピローグ:2010/06/29(火) 00:04:42 ID:qHzcBYwM0


「少し話題がそれたが」
 愉悦を隠す様にわざとらしい咳をすると、能美が再び切り出す。

「お前が仕留めたバーソロミュー。本名はテリー・バーソロミューと言い、
コッチの世界じゃ中々音に聞こえたヤツでね」
「ゆ、有名な人だったんですか!紫苑さん凄い!」

 感嘆した田中に、ポリポリと頬をかきながら紫苑が答える。

「あのなぁ、田中ちゃん。確かに倒したのは凄いが……」
「ソレだけ俺たちのターゲットの島田は、凄いバックを持ってるってことだぜ?」
「あ…………」
「それと、能美さん」

 固まる田中を尻目に、紫苑が能美の方向に首を向ける。


「モンゴメリーってヤツ知ってる?多分バーソロミューの仲間だと思うんだけど」
「モンゴメリー……いいや。知らんな。後で調べておこう……他に何か連絡事項は? 」

「うんにゃ」
 紫苑の不適な顔を能美はしばらく見つめていたが、フッと笑みを零した。

「そうか……。我々はそろそろお暇するよ」


 行くぞっ、と号令をかけ背を向けると、
能美は部下を引き連れながら悠麗壮を後にした。
 そんな能美達の後姿が見えなくなるのと同時に、紫苑は何気なく呟いた。


「さて……田中ちゃん」
「ハイ」
「俺達は、これからとんでもないバックを持ったヤツを捕まえなければならない」
「スタンド使いといえ、一介のチンピラに凄腕の殺し屋を割り与えるってことは」
 田中はうつむきながら答える

「藤崎エミリアと島田のビジネスは、かなりでかくて危険なんだろうな……」
 紫苑はドカっと床に腰を下ろすと、そのまま寝転んだ。


「辞めとく?この依頼」
「ボクは……」

133第5.5話  紫苑篇第一章、エピローグ:2010/06/29(火) 00:06:53 ID:qHzcBYwM0


 言葉に詰まった田中の脳裏に、天秤が浮かんだ。
 片方の皿には、暗い部屋でパソコンと向き合う自分。
 もう片方には、スーツを着たイカつい刺客を前に血塗れになっている自分。


 どちらも絶望的ではあるが、何が一番大事かなんて考えるまでも無い。


「ボクは……他にも借金返す宛てはないですし」
 
 ……何故だろう? 気付けば田中の口からは、自分の考えとは正反対の言葉が
発せられていた。
 しかし、不思議な事に訂正しようとは全然思わない。
 そんな田中を、身を起こした紫苑は優しげに微笑み返す。
 

「俺もだな……。よしっ! 田中ちゃん、冷蔵庫開けてくれ!! 」

 そう言われた田中は、首をかしげながらも、冷蔵庫を開けた。
 冷蔵庫の中までも粗末で、ひんやりとした個室には調味料と缶ビールしか入っていない。


「そこに缶ビールが2杯あんだろ。乾杯しようぜ」
「チーム"NEETs"の旗揚げだ!! 」


 ───これから、より厳しい闘いが待っているかもしれない。
下手をすれば、もう一度死んでしまうかもしれない。

 だが、田中は紫苑から発せられた「チーム」という響きに
全身から湧き上がる何かを堪えきれずに叫んだ。

「ハイっ! 絶対に成し遂げましょう!! 」


「「今日の勝利と、俺達コンビの旗揚げを祝して……乾杯っ!!」」


 手にした缶ビールが、ガツンと小気味の良い音を奏で、
二人の若者の酒宴が満月の下でしめやかに行われた。

134第5.5話  紫苑篇第一章、エピローグ:2010/06/29(火) 00:12:11 ID:qHzcBYwM0

PM 11:30    外


「にしてもアイツ、やりますよね。あのバーソロミューとか言う外人
相当の手煉だったんでしょ?」

 バーソロミューを"収容"した車を見送りながら、
部下が能美に話しかけてきた。

 部下の問いかけに、能美はメンソールを美味そうに吸いながら答える。
「ああ……結構有名なやつだったよ」

(有名なヤツ…………?笑わせやがって)
 能美はタバコを地面に捨てると、踵でゴリゴリとすりつぶした。


(ヤツは主にアメリカを中心に世界中に暗躍していた暗殺組織『アイザック』の残党)

(『アイザック』は今でこそ消滅したが、全盛期の時には、その気になれば大統領暗殺も
やれたほどの組織だぞ。俺がバーソロミューとやりあっても、一筋縄にはいかんだろう)

(負けはしないけどな。それをヤツは倒しやがった。破壊力0のスタンド使いが)


           ・ ・ ・
(しかも正面から、無傷で………………!!!)



「能美さん、車来たみたいですよ」
「……ああ、わかった」

 能美は護送車に乗り込みながら、紫苑の住む悠麗壮を眺めた。

「職無し・学歴無し・スタンド攻撃力無しの0コンビか」

「良いチームになりそうじゃあねえか。……これからも長い付き合いさせてもらうぜ」


能美の不気味な笑い声をかき消すかのように、黒のディーゼル車は排気ガスを巻き上げながら、悠麗壮を後にした。




薬師寺 紫苑(山田 耕作)&田中 奏多──→島田を捕まえろ! 
能美 忠正────→島田を生け捕りにしようとしている理由は?バーソロミューたんをどうする気ですか><
島田 明 ────→藤崎エミリアと行う”ビジネス”とは?
藤崎エミリア────→日本人が、何故アイザックの残党とつながりが?そもそもスタンド使いか??


紫苑篇 第一章  完

comingsoon Next Hero...

135第5.5話  紫苑篇第一章、エピローグ:2010/06/29(火) 00:14:16 ID:qHzcBYwM0

これから重要かもしれないワード&キャラクターデータ


暗殺集団 『アイザック』

・その昔、世界中の要人を震え上がらせていた秘密結社。スタンド使いだけでも50人前後いた。
・本気になれば大統領暗殺もできたと言われている。

・しかし『ボタンヘアーの魔女』『質量無視の小人』『幻影使い』と呼ばれる3人のスタンド使いにより
リーダーを抹殺されてからは勢いを無くし、現在は解散している。
・残党は世界中に飛び散っているが、10名前後にまで減ったと言われている。
・ほとんどのメンバーが暗殺or逮捕・拘留(国や罪状の違いで、司法取引によって普通に生活している者もいる)
されたが、”副リーダー”と”最強の能力者”は以前消息不明である。

・元ネタは勿論アイザック・ニュートンから。彼はオカルト研究家でもあったらしいよ。



テリー・バーソロミュー 

国籍:アメリカ

33歳  血液型不明  身長175cm(1.12hyde)


脳みそまで筋肉。  SかMかで聞かれたらM。好きなシチュは女教師



・頭にお花畑がある暗殺者。
・欧米と北欧一部の地域で活動していた、『アイザック』の残党。
・脳系統が単純なアホではあるが、実力はホンモノ。異常なまでのタフさは訓練の賜物だったりする。
・意外にも、幼い頃に両親を無くし、親戚に虐待されて育った暗い過去がある。
・なんでこんなに日本通なのかは不明。
・ポルノグラフィティと坂本九を知っていることが判明。
作者が名前知らないお笑い芸人まで知っている。好きな球団は南海ホークスとかほざいてる。
・書いてて好きになったから、再登場あるかも。


使用スタンド
ドラゴンフォース  純粋に強いスタンド。自動操縦型にも切り替えることにより強力になる。
            しかし自動操縦型に切り替えると制御不能になる。

・シンプル・イズ・ベストなスタンド。案外こういうスタンドって強いですよね。
・本体に攻撃を行うしかない紫苑をどう勝たせるかを悩んだ際、強くて相性も
最悪だが、つけいる隙のあったこのスタンドを使わさせてもらいました。
・本体、別に黒人じゃなかったですね。なんで黒人とか書いたんだろ、俺。

考案者:ID:E49wu48+0
絵:ID:4XYOCThU0

136第5.5話  紫苑篇第一章、エピローグ:2010/06/29(火) 00:16:42 ID:qHzcBYwM0

自分の作品は、我ながらバトルまで長すぎだろと思いますが、
案を採用させて頂く以上、全員を輝かせたいと思っての仕様であったりします。

だからこそ群像劇にしました。
タダでさえ長いのにもし気に喰わない主人公だったりしたら、次の主人公に先に移ってもらっても
大丈夫なようにw

ここでひとまず主人公チェンジです。
二人目の主人公は、紫苑と正反対なので正直どうなるか心配です……。


さらに、次回の話は三人目の主人公もフライングで出演しちゃいます
女っ気0のこの物語にようやくヒロインが……



紫苑篇登場スタンド


『ロンリーガール』   
考案者:ID:Pyara3yC0 (自案) 絵:ID:oGXMIH.o

『ハンギングガーデン』
考案者:ID:SUZuTHY40  絵:ID:hIh5Wi3u0

『ノーベンバーレイン』 
考案者ID:q3LaxOjUO  絵ID:NqWhfJYmO

『ドラゴンフォース』   
考案者:ID:E49wu48+0   絵:ID:4XYOCThU0

島田???  藤崎エミリア???  モンゴメリー???

よ、4体だけ……?次回から本気出す。
ていうか本気出しすぎて収集つかなくなったらどうしよう……

ありがとうございました。

137 ◆6JEWITNnHo:2010/06/29(火) 00:47:15 ID:WX92op8M0
こちらこそ被ってしもうてホンマにすいません。
次から別の主人公のお話かあ……こういう愉しみが多いのんが群像劇のええとこやね
あとボタンヘアーてry

138 ◆U4eKfayJzA:2010/06/29(火) 09:17:16 ID:.Izx2My60
なんか、意外なまでにバーソロミューが凄い敵だったのか……。今にして考えると、紫苑がよく勝てたな……。

次からは別のキャラ視点かぁ。どういうキャラが来るんだろ?
乙でした!

139名無しのスタンド使い:2010/06/29(火) 20:56:29 ID:bUwMwTWg0
紫苑編乙でしたっっ!!
能美さんテラコワス><

140名無しのスタンド使い:2010/06/30(水) 13:37:44 ID:k5pAtKwcO
乙!
面白かった!!
幻影使いが気になるぜ
後の二人は特定したけど

141 ◆neHjiUQ7Jo:2010/07/01(木) 21:19:47 ID:sZZxnuLE0
>>137
お米ありがとうございます!
いや、本当にスミマセン……
群像劇って、何より書いてる本人が一番面白いんすよねwww

>>138
お米ありがとうございます!
次のキャラは耕作とは性格や社会的地位うんぬんかなり違います。
スタンドも、ちゃんと戦闘しやすい奴ですw

>>139
お米ありがとうございました!
能美さんは後々とんでもないことしまっせ・・・ニヤリ
ドSキャラって好きだ……w

>>140
お米ありがとうございます!
こいつらはちゃんと出てきますよ!
さぁ、幻影使いとはどのスタンドの事なのか……
特定された二人、特に後者は絶対出さないとマズいでしょうしね、色々……w

142 ◆neHjiUQ7Jo:2010/07/13(火) 21:15:29 ID:ci70O93A0

週一連載は欠かさない キリッ!
なんてしないで良かった……
遅れましたが、新主人公登場でございます。

まぁ、早速に他主人公達とリンクしておりますが
新連載だと思って優しく見守って下さい……

143 ◆neHjiUQ7Jo:2010/07/13(火) 21:17:20 ID:ci70O93A0

 2025年  4月17日   AM10:30  サザンカ通り(東地区):バス内。






 折星町を一言で現すとすれば、「人種のるつぼ」だ。



 急速に発展を遂げる姿と、変わらぬ下町の風情。
 ハシで器用にソバをすする外国人に、ピザとコーラを毎日弁当に持ってくる折星町人。
 真っ赤な屋根に木のログハウスが続く街の中央に、荘厳な門を構えた瓦屋根の豪邸が建つ街。


 様々な嗜好・文化・価値観の違いが溶け合ってはいるが、水面下では
決して交じり合うことは無く、いつ壷から零れ落ちるかもわからない。
 異文化交流の素晴らしさと危うさの奇妙な調和が、またこの街の魅力でもあった。


 中でもこのサザンカ通りは、その見本市であると言って良い。


 「……いい天気だ」


 そんなサザンカ通りの木々を、バスの窓からぼんやりと見つめながら
国城 丞 (くにしろ じょう)は呟いた。

144 ◆neHjiUQ7Jo:2010/07/13(火) 21:20:11 ID:ci70O93A0
 
 新世紀から20余年。
 世界はゆっくりとその形を変えて行き、”国境無き世界”へと向かいつつあった。
 

 日本も決して例外では無く、国城が乗っているバスの乗客も、3割程が多国籍の人間だ。

 人種差別と捕えられるかも知れないが、国城が子供の頃は、淡いブルーの瞳や金色の髪を
持つ人々を、思わず目で追っていた記憶があるのだが、急速に成長を遂げる折星町に於いて、
現在の子供達は彼らに特には関心を示さない。


 2025年、超国際化時代に於いて、異邦者達は充分すぎる程溶け込んでいた。



 世界から壁が無くなる……
 聞こえは確かに素晴らしいが、それと共に大きな問題を作り出してしまった。
 それは、外国人犯罪者の増加だ。
 
 
 外国人犯罪者と日本人犯罪者の大きな違いは、司法機関への認識にある。


 2010年にワールドカップが行われた事で注目をあびた南アフリカ。
 この国の治安の悪さの最大要因は、未だに根付くアパルトヘイトによるものではあるが
”司法機関への認識の低さ”も大きいと思われる。


 外国人犯罪者は、日本人と比べて警察を恐れない。
 日本で生まれ育てば、どんな悪党であれ、警察の怖さ、司法機関に立て付く事への愚かさは
人生を送る際にいやでも学び、染み付いている。


 外国人犯罪者にはそれが無いのだ。
 相手が一般人であれ警察官であれ、彼らは同等に襲う。司法機関の威力が通用しない。

 急激な国際化の一番の被害者は警察組織と言っても過言では無いであろう。


 増加する外国人犯罪に、言語の壁、価値観の違いから、国を守る警察官が
付いていけないという深刻な事態を打破する為に、政府は思い切った対応を取った。

145 ◆neHjiUQ7Jo:2010/07/13(火) 21:22:33 ID:ci70O93A0

 それが、外国人捜査官だ。


 長い歴史を持ち、閉鎖の極地である警察組織が外国人への門戸を開いた事は、
警察史上最大の”事件”であった。(2010年でも国籍があれば可能だが、少なかった)


 当初は日本中が騒然とし、「日本が乗っ取られる」と反対の声も少なくは無かったが
課題であった言語の壁の軽減や、価値観の違いが生み出す副産物が効を奏し
増加し続けていた犯罪の抑止にとりあえずの成功を収めた。
 今でも反対の声はあるが、「互いの国に同じ制度」というインターポールの様な形を取ることで
何とか体を成している。


 ひとまずは成功を収めた外国人捜査官制度。
 しかし、目には見えない綻びが、そして水面下での大きなうねりが
この超国際化時代の日本におとずれようとしている。


 時代は今、大きな転換期を迎えようとしているのだ……


 そしてこの国城もまた、そんな時代のうねりの中心に立つ事となる男であった。


 そう、彼の職業は───────



.

146 ◆neHjiUQ7Jo:2010/07/13(火) 21:24:10 ID:ci70O93A0

 『次はサザンカ通り一丁目〜サザンカ通り一丁目〜お降りの方は』
 ピンポーンと小気味の良い音がアナウンスを遮るのと同時に、
幼い声が後方から響いた。


「あ〜! もうっ、お兄ちゃん! メグが押すって言ったのに〜! 」
「聞いてませ〜〜んww 」


 席から立ち上がった国城の横を、幼い兄妹が元気良く駆け抜けて行った。
 やや遅れて、父親と思われる眼鏡の男が慌てて二人を追いかける。


「もう! お父さん遅〜い! 」
「こらこら、走っちゃダメでしょ……」

 父親と思われる男は、振り返り乗客全員にペコりと頭を下げると
子煩悩そうな顔をほころばせながら、料金を支払い子供達の後を追った。

 
「いいよな〜、日曜休みのパパさんは。まぁ俺は家族いないんですけどぉ〜 」
 慌しく降車する家族を見つめながら、すっかり顔なじみになった
バスの運転手、河本が国城にグチっぽい声で語りかけてきた。

「ええ。うらやましい限りですよ」
 国城は愛想笑いで応えながら、機械に硬貨を入れる。

「まぁ、それでもアンタら公務員は羨ましいよ……それより兄ちゃん、
子供作ったりしないの? 」

 分厚い唇から飛び出した際どい質問を笑顔のまま適当にあしらいながら、
国城は勤務地であるサザンカ通りに降り立った。


「まっ! 今日も街守ってや! お巡りさん !!」







2nd  HERO  

────────国城 丞 24歳。 職業:警察官。
                        階級:『警部』







.

147第6話 国城篇 「出会った彼ら」:2010/07/13(火) 21:27:04 ID:ci70O93A0
  同日・同時刻:バス停「サザンカ通り駅」



 河本の声に片手でこたえ、バスが通り過ぎるのを見つめると、
国城は思いっきり背伸びをしながら、深呼吸を行った。

 休日の雰囲気がかもしだす穏やかな空気を胸に入れると、全身にけだるさを
打ち消してくれるエネルギーが沸いてくる。
 そうして体が満たされるのを感じると、国城は改めて街を見わたした。


 今日は日曜日という事もあり、都心である中央街から少し離れた
このサザンカ通りも沢山の人で賑わっている。


「今日も何とか平和だなぁ…………」
 そう呟くと、国城は周囲を見渡しながら、ゆっくりと勤務地となる交番へと向かっていった。
 

 街の往来は、老若男女がそれぞれの休日をを楽しんでいる。
 その姿を見るたびに、国城はこの街の人々の笑顔を守るために
働いている事への充実感に満たされていくのを感じた。



「え、マジ、イケメン発見―!! 」
「え? どこどこ!? 」


 国城が通り過ぎたオープンカフェから
女子高生くらいのグループから小さな嬌声が飛ぶ。
 彼女達の言う『イケメン』は、国城へと向けられたものだ。


 それもそのはず。
 くっきりとした顔立ちに、大きく知性を思わせる目。
 全体的にいやみの無い顔立ちで、イケメンというよりはハンサムという言葉の方が似合う。

 さらにスラリと伸びた足に、細すぎず太すぎない体躯。
見た目からはまるで非の打ち所が無い。

148第6話 国城篇 「出会った彼ら」:2010/07/13(火) 21:28:55 ID:ci70O93A0

 見た目だけではない。

 国城 丞 24歳。『警察官僚』

 彼は高身長・高収入・高学歴の、俗にいう『3高』を満たしており
警察官とはいえ、国立大から国家公務員上級試験を一発でパスしたいわゆる
「キャリア組」と呼ばれる部類の人間であった。


 しかも武道の心得もあるが、それを私用で使ったことは一度も無く
恵まれすぎている自分を奢った事も一度など当然無く
おまけに正義感溢れる性格で味方も多い。
 欠点など皆無で、書いていて少し心が痛くなるほどの完璧人間、それがこの国城だった。



 「はぁ……またか」
 気分良く勤務地へと向かっていた国城から、深い溜め息がもれた。


 勤務地となる交番を通る際、国城は小さな歓楽街を通るのだが、
まだ朝と言うのにも関わらず、派手なライトが一際目立つパチンコ店から
警察官の制服を着た男が出てきたからだ。
 確認しなくたってわかる。こんな「こち亀」気取りの警官は一人しかいない……

         
 岡村巡査長。42歳 厄年だ。


「岡村君、何をしているんだ。君は市民を守る警察官なんだぞ……」
 毎度の事ではあるが、国城は呆れた口調で注意する。

「いやぁ〜、何やら店の中で揉め事起こしている連中がいてね、その仲裁を……」
「あのなぁ」

「それとも、パチンコ店で揉め事起こすような市民は放って置いて良いと申しますか『警部殿』」


 国城はそれ以上は何も言わず、岡村と共に交番を目指した。
 岡村と呼ばれたその男は、42歳で、少し訛りのある喋り方と、垂れ目に白髪交じりの頭が
印象的な中年巡査であった。

 この24、5の若造による、40代の中年男性に対する言葉使いは
端から見れば奇妙な光景ではあるが、これが日本警察の『キャリア制度』である。

149第6話 国城篇 「出会った彼ら」:2010/07/13(火) 21:30:50 ID:ci70O93A0

 国城は22で大学を卒業した後、いきなり警部補としての身分で
実習勤務を命じられた。
「キャリア組は警部補から」という仕組みは国城も知ってはいたが
驚かされたのはここからである。


 普通の高卒や大卒の警察官は高卒で4年、大卒で1年の巡査勤務を行い
そこから「巡査部長昇格」の試験を受けることが出来る。


 全ての試験を順調にパスするような優秀な警察官であっても
高卒で30、大卒で28で辿りつくのが「警部」の地位であるが
国城のような『キャリア組』はわずか1年半で、しかもエスカレーターで、その地位に着くことが出きる。



 今年24の国城の階級は、既に『警部』である。



 警部と言えば、副署長クラスだと思ってくれれば良い。
(なので、コナン君の目暮警部、金田一はじめちゃんの剣持警部や
2回の登場で犯人の自殺を含む13名の死者を出した俵田警部も、ノンキャリアから
その地位に上り詰めたことから、相当優秀な警察官と言えるであろう)


 このまま順当に行けば、国城は早くて20代後半に『警視』の肩書きを手に入れるだろう。
 それ以前に、彼はこの折星町で1年間の勤務が終われば、東京警視庁に呼び戻されることになっていた。
 まさにいたれりつくせりの出世街道である。


 岡村が国城にあまり歓迎的な態度をとらないのも、
永遠に巡査を続けるこの男にとって、そんな彼が面白くないからであろう。
 

 国城は、警察大学校の同僚からある程度のしがらみの話を聞いていたが
岡村等はまさにその典型であった。

150第6話 国城篇 「出会った彼ら」:2010/07/13(火) 21:33:19 ID:ci70O93A0
「だぁーかーら! 俺はやってねえっつってんだろ!! 」


 勤務先の交番に到着し、足を踏み入れた瞬間、若い男の怒声が飛び込んできた。

「まぁまぁ、紫苑さん。ここは穏便に……」
「いいや、気にすることは無いぜ、田中ちゃん。こいつらは
悪党には良い顔するくせに、庶民にはやたら厳しい連中だからな! 」


 言ってくれる。だがあながち間違いとは言えない為か、
少し苦笑いのまま国城は辺りを見回した。


 交番の中には、先ほどから怒鳴り声を上げている紫苑と呼ばれた青年と、
その隣に居る田中と呼ばれた青年。
 その二人の調書を取っている同僚の千葉、さらに奥のほうで本を読んでいる
高校生くらいの少女の4人がいた。


「何かあったのか? 」
 国城は同僚の千葉に訪ねた。
「おお、JOJO警部! いやぁ、実はですね。1時間ほど前に近くでひったくりがあったんですよ。
で、今その取調べを行っておるんです」


「またか……まったく」

 最近、東地区はサザンカ通りを中心にひったくり被害が続発しているのだ。
 交番勤務中の国城も、このひったくり事件には頭を悩ませていた。



 千葉は、岡村とは対照的に国城には友好的で、
城と丞をかけて、彼に親しみをこめて"JOJO警部"と呼んでいる。
 高卒上がりの警察官であり、年齢は国城と同じな為、打ち解けやすいと言うのもあるのだが
公私混同は避けてもらいたいものだ。


 だが、ぽっちゃりとした風貌と、のんびりとした雰囲気の為か、
どこか憎めない男でもある。


「警部!? 若いっすね。キャリア組ってヤツですか? 」
 紫苑と呼ばれたパーカーが、なれなれしく話しかけてくる。


 美形と言っても差し支えの無い顔立ちであるが、少し軽薄なイメージを抱いてしまう。
 先程の会話から、彼がひったくりの犯人として疑われているのかもしれないが、
軽薄さと裏腹に、人の良さそうなオーラを持っており、とても犯罪をするタイプには見えない。


「ハイハイ、無駄口はいいから」
「最近、ここいらでひったくりが増加してるんだけれど、その他の犯行に心当たりは? 」
「だっ・かっ・らっ! 俺は犯人じゃねーの。そこのJKが勝手に俺を間違って捕まえたの!! 」
「じぇ、JKって紫苑さん……」

 
 JKとは奥に居る女子高生だろう。
この略称を使う者も少なくは無いが、本人の目の前で使うヤツは初めて見た……。

 紫苑に呼ばれ、娘が本から顔を上げた。

151第6話 国城篇 「出会った彼ら」:2010/07/13(火) 21:35:21 ID:ci70O93A0




──────綺麗だ。



 国城は決してロリコン趣味は無いが、歳が7つは離れている彼の目から見ても
その少女はかなりの美人であった。


 ショートとセミロングの間くらいのサラサラした黒髪に
整った顔立ち。少し冷たさを感じる大きな瞳は、見るものを惹き付ける力がある。
 洋服も、春にしては少々厚着な気がしないでもないが
派手でも無く地味でもないその着こなしが、本人の聡明さを際立たせていた。


「指。ささないでくれる? 」
 少女は開口一番に、紫苑に冷ややかな目を向ける。
「私があなたを捕まえたのは、あなたがバックを持っていたからよ」
「こういう事件は現行犯逮捕が大事と思ったの」
 
 表情を変えることなく、少女は淡々と喋り続けた。


「目撃者はいねーのか? 」
 岡村が千葉に聞く。

「ソレが問題なんですよー」
千葉は少し困った表情を浮かべながら続けた。

「いやね、ひったくり被害にあったのはおばあさんなんですけれど
そのおばあさん、倒されたショックで入院しちゃって……」

「それは厄介ですね」
国城は紫苑と少女を交互に見比べながら言った。


「にしても、槙 刹那 さんと言いましたっけ? その正義感は立派ですが
危ないから今度からは控えてくださいよ? 」

 千葉が視線を合わせようとしない少女に言葉を投げかけると、
パーカー紫苑も調子よく続けざまに少女を責めた。

「だいたいよー。どこの女子高生が走ってる男にラリアットかますのよ。
しかも凄い力だったし。女の子とは思えない……」


バンッッ!!!

152第6話 国城篇 「出会った彼ら」:2010/07/13(火) 21:37:41 ID:ci70O93A0

 持っていた本を勢いよく閉じると、刹那と言うらしい少女は
紫苑を睨みつけながら言った。


「女の子がひったくり犯を捕まえることはおかしいこと?凄い力を持っていることは
悪いことなの? 」
 口調こそは冷静ではあるが、物凄い迫力がある。

「いや……その……もう少しおしとやかな方が……」
 勢いに押された紫苑が、タジタジと答える。

「おしとやか? 誰が決めたの……? 」
「いや、だから! 日本は男は男らしく! 女の子はおしとやかに生きた方が
上手く回る仕組みになってるの! 」


 ほう。と思わず呟く国城。しかし刹那は鼻で笑い、冷ややかな目を向けながら続ける。
「それが女の子がひったくり犯を捕まえるちゃ駄目な理由? 」

「説明になってないわ。論理の卓越性に欠けるわね」

 
 静かだが、見えない炎をともす彼女の瞳に迫力を感じ、
うっ……と後じさる紫苑。しかし少女は容赦しない。


「私がこの世で嫌いな物を教えてあげましょうか」


「1に悪党!! 」
「2に馬鹿!!! 」
「3に男女差別するヤツ!!! 」


『総じてアナタみたいな人ですよ。山田耕作さん? 』

「ぐはああっっっ!!! 」

 あまりの迫力に紫苑、いや山田耕作はイスに座ったまま倒れこんだ。


 山田耕作?
 国城は奇妙に思い、千葉の付けていた調書を見る、
 すると、紫苑と呼ばれていた青年の本名は山田 耕作ということが分かった。
 何故紫苑と呼ばれているのだろうか?


 そのままとなりの書類に目を通してみると、少女の調書であった。
 本名は槙 刹那 (まき せつな)数え年で17の高校2年生。
 所属高校は……愛翠高校(あいすいこうこう)

 愛翠と言えば、この辺りでは一番のお嬢様学校だ。
最近は男女共学が進んでおり、一概にお嬢様学校とはいえないが、それでも
偏差値はF県でもトップクラスであったはず。


(最近のお嬢様はやけにたくましいんだなぁ〜)
心の中で国城は呟いた。

153第6話 国城篇 「出会った彼ら」:2010/07/13(火) 21:39:59 ID:ci70O93A0

(それにしても、女子高生の迫力に圧倒されるなんて、情けな……)

 呆れた顔で倒れこんだ紫苑に視線を向けた瞬間、
国城は凍り付いてしまった。

「…………何だって? 」
「?どうかしたんですか、JOJO警部」

(どうかしただって? ああ。こいつは見えていないのか)
 国城は心の中で呟いた。


 彼が動揺したのも無理は無い。紫苑と、その連れである田中との間に
饅頭のような奇妙な生物が浮かび上がっているのだ。


(千葉には見えていなくて、俺には見えている)
(間違いない、コイツはスタンド…………!! )
(私と……俺と同じ種類の人間…………っっ!! )


ドドドドドドドドドドドドドドド


(山田耕作か、田中とやら、どちらかのスタンドと見て間違いないが……何をする気だ? )

 国城の額ににじみ出る玉の様な汗が、彼の緊張感を良く現している。
 彼の切れ長の目は、その少々子憎たらしいスタンドに釘付けになっていた。


「警部……」
(最近、やけにスタンドを扱える人間が増えてきたが……)
「警部…………! 」
「JOJO警部!!! 」

「えっ……何?どうした? 」
 千葉から大声で呼ばれ、やっと我に返る国城。


「だから、これからどうしようかって話ですよ」
「ああ、お婆さんの意識が醒めないことにはどうしようもないが、とりあえず……」
「? どうしたんだ、警部殿」
 言葉に詰まった国城に岡村が訝しげに訪ねる。


「お、岡村君。あの小柄な青年は? 」 
 国城の変わりに千葉が答える。
「トイレを使わせて欲しいそうです。彼は関係なさそうだし、いいかなと」
「……すまない千葉君。もう少し彼らの話を聞いていてくれ」

 俺も関係ねーよと紫苑から漏れた声を無視しながら
国城は奥の廊下へと向かった。

154第6話 国城篇 「出会った彼ら」:2010/07/13(火) 21:42:02 ID:ci70O93A0

 国城の所属するサザンカ通り交番は、
 応対室(署員の机もそこにならべられている)が玄関兼用となっており、
部屋の奥に細長い廊下が通っており、突き当りがトイレ。
 トイレの前に右が署員用の休憩室兼ロッカールーム、左が休憩室兼雑務室という造りになっている。

 だいたい"こち亀"の派出所を思い浮かべてくれればよい。



 田中は、廊下からロッカールームを眺めていた。

「どうされました? トイレは突き当たりですよ? 」
 国城に声をかけられた田中は驚いたように見つめ返した。
 どうやらスタンド使いは、この眼鏡の少年であった様で、饅頭の様なスタンドは出したままだ。


「ああ、失礼しました……」

「率直に言おう。君の『ソレ』、私はスタンドと呼んでいるのだが、私にも見えている」
「!!? 」

 田中はみるみる目を大きくしながら国城に返答する
「あ……あなたも……」
 かなり緊張しているのか、声が裏返っている。

 
「そう。どうやら私と君は同類の様だな」
 田中を真っ直ぐ見つめながら言う。田中は何か言いたげに
手を上下させ始めた。

「動くなっ! 警告したっ!! キミが妙な動きを見せたら、私は君をスタンドで攻撃する!! 」

 国城の怒鳴り声に反応して、田中は全身を硬直させる。


「ええ……えええっ!でもボクのスタンド、全然攻撃できないというか」
「てか……ああそうだ!あなたがスタンド使いなら話が早い」

「……そのスタンドの能力はともかく、何の為その部屋を覗いていた? 」
 

 国城自身も、田中が危害を加える気が無い事は薄々感づいてはいた。
 見た目で人の内面や実力を判断する事は愚の骨頂と言って良いが、そう考えながらも
国城は、どうしてもその饅頭型のスタンドが人に危害を加える姿を想像できなかった。

 というより怖がれ! と言う方が無理な話だ。


 その為自身のスタンドは出していないのだが、決して警戒は解いていない。


「実はですね…………ボクのスタンド『ノーベンバーレイン』の能力は…………」

155第6話 国城篇 「出会った彼ら」:2010/07/13(火) 21:44:15 ID:ci70O93A0

 こちらは取調室。ひったくり事件の収集は一向についていない。

 結局「バック」を拾ったとはいえ、中身も無く
何より肝心な目撃者が病院と来たら、進展のしようもないのは仕方が無い話だ。


「タバコ、辞めてくれませんか? 」
 刹那が岡村を一瞥しながら言った。
「まだ火ィつけてねえだろ」
 岡村は舌打ちし、取り出したタバコを叩きつける様にポケットに戻しながら
面白くなさそうに廊下側を見つめた。


(女のクセにナマイキなやつだ……。好みのタイプじゃねえな)

 岡村は心の中で毒づいた。
(しかし、コイツよりももっと生意気なヤツもいるがな……)

 国城 丞。JOJOかなんだか知らないが、この町のことも
良く知らない人間で、来年には本庁へ行くというのに、偉そうな態度が気に食わない。
 

 本庁に戻るまで、大人しくヘコヘコしておけばよい物を。

 (……ケッ! 何がキャリア組だ)
 巡査長の岡村にとって、警部補ですら夢のまた夢と言うのに。


「……何をやっているんだ、警部殿は。遅すぎるぞ」
 ボソッと呟くと、岡村は国城と田中を呼び戻しに行くために
廊下に出た。
(今日はどういう風にネチッこく責めてやろうか……)

156第6話 国城篇 「出会った彼ら」:2010/07/13(火) 21:46:16 ID:ci70O93A0

────


「どういうことですか? 岡村さん」

 その光景を見た瞬間、岡村は心臓が止まるかと思った。
 国城が、自分のロッカーを壊し、中を物色しているのだ。いや……


「どうしてあなたのロッカーから、被害者の、おばあさんの財布が出てくるんですか」
「いや、それだけじゃない。この時計も被害届が出されていたやつと同型だ」

 国城は口調こそ冷静だが、燃えるような目で岡村を見つめている。

「いや……これは……」
 しどろもどろになる岡村。
 何故ばれたのか、何が起きているのかまったく整理できていない。


「……成る程。ひったくりで盗んだものを自分の部屋に置くわけにはいかない」
「何故なら、あなたは警察社宅で暮らしていますからね」

「そこで、あなたは協力者を用意した。私と千葉君がいない時刻に、
その協力者は堂々と交番に"相談者"としてやってくる。そこで保管していた盗品を協力者に渡す」

「出来事があまりにおおっぴらに行われると、返って見落としがちになってしまう。私もまさか警察官の犯行で
しかも取引を堂々と交番内で行っているとは夢にも思わないからな」



 な、何を言っているのだ、コイツは。
 岡村は、自分が連続ひったくり犯であることがバレたどころか
犯行の手口まで寸分の狂いも無く当てられてしまい、完全にうろたえていた。


 ちらりと視線をずらすと、メガネのチビが得意げに岡村を見つめている。

157第6話 国城篇 「出会った彼ら」:2010/07/13(火) 21:48:48 ID:ci70O93A0

「サ、サイフ……知らないなぁ〜、そのガキが勝手に置いたんじゃ……!! 」
「そ、そうだ!! きっとそうなんだ!!! だいたいその時計は俺のだし……!!! 」

「……岡村君。この時計、シリアルナンバーが入っているのだよ」
「私は数字を覚えるのが得意でね……コレは間違いなく被害者の物だ。あとで照会してもかまわない」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



(や、やばい。何故だ。何故ばれたのだ! もうオシマイだ……!! )
(ちくしょう国城! テメエは……テメエはキャリア組らしく大人しくしておけばよい物を……!!! )


「なんだなんだ? 何が起きたんだ? 」
 騒ぎを聞きつけたのか、廊下にはいつの間にか紫苑と刹那が立っていた。
 首をひょっこり出しながら、紫苑は興味深げに、刹那は醒めた目で室内を見ている。

「……状況から判断して、ひったくり犯の正体は"不肖の身内"だったみたいね」
「世も末だわ……」
 刹那が溜め息交じりに呟く。
 

「コ、コラッ! 君達!! 勝手に入っちゃ駄目でしょ……がっ!!! 」


 二人を止めに来た千葉が、大きな物音と共に転倒した。
 一瞬、国城の注意が千葉に向くが、岡村はその瞬間を見逃さなかった。


『動くなぁぁ!! この娘がどうなっても知らんぞ!!! 』


 岡村は、素早い動きで刹那を羽交い絞めにすると、そのまま
拳銃を彼女のこめかみに押し当てた。

「げえっ! 」
「ば、馬鹿なことは辞めたまえ! 岡村君! そんなことしてどうなるのだ!! 」

「うるせえっっ!!! 」 
 岡村が叫んだ。

「ゲロ臭え市民の為のクソみたいな仕事に、刺激が欲しかったんだよ!! 」
「クッソ安い給料で俺達をこきつかってよぉ! おかげでこちとら借金まみれっ!! 」
「いっつもいっつも俺たちの事を税金泥棒だとよ!! 何様のつもりだゲロの分際でぇぇ!! 」


(いやいや、制服でパチンコ屋に入っていれば、言われて当たり前だろう)


 人質さえいなければ、スタンドを使うまでも無く組み伏せてそう言ってやろうと思ったが
予想外の事態に、とにかく岡村を落ち着かせることしか行動が取れない。


 それにしても、当の人質は、何故か涼しい顔をしている。
 偉く肝の座った女子高生だ。

158第6話 国城篇 「出会った彼ら」:2010/07/13(火) 21:50:40 ID:ci70O93A0

「……今すぐ辞めれば、万引き以外の君が取った行動は不問にしよう」
「だ・か・ら!! その態度が気にくわねえんだよ!!! 」
 岡村を落ち着かせるどころか、国城の態度は逆に激昂させてしまう。


 肝の座った女子高生・刹那とは対照的に、顔をひきつらせている国城を見た
岡村はそれだけで満足であったのだが、自分のせいでうろたえているエリートの顔を見て
彼はますます加虐心を募らせた。


「おい、国城。この娘を無事に帰して欲しければ、土下座しろ……」
「なっ!!? 」


 理屈の通じなさも、ここまで来たら怒りを通り越えて表彰モノだ。
 こんなアホは、国城の能力で「打ち抜いても」問題無いのだが、
人質がいる今の状況では、岡村がにぎりしめている銃は核兵器にも相当していた。


 「おい、何かひらきなおったぞ、このオッサン」
 背後で紫苑が呆れた口調で田中に耳打ちすると、岡村は紫苑をナイフの様な
視線で睨みつけた。
 オオ、コワッと呟き視線をそらした紫苑から、再び国城へと視線を移す岡村。


「何がキャリア組だ! 偉そうに!! 勉強できる事がそんなに偉いのか!? ああんっ!!?」
「お前達みたいなのがいるから、警察なんてやってらんねーんだよ!! 」


「偉いわよ。偉いに決まっているでしょ」


 岡村の主張を返したのは、事もあろうが人質であった。
 なんとも奇妙な状況に、一瞬あっけにとられた岡村だが、顔を赤くして刹那に怒鳴りつける

「テ、テメエ!! 自分の置かれている状況が分かってんのか!!? 」
「叫ばないで。口、臭い」

159第6話 国城篇 「出会った彼ら」:2010/07/13(火) 21:53:05 ID:ci70O93A0


 その瞬間、場に居た全ての男達は凍りついた。
 岡村は怒りに震え、千葉は刹那が岡村の逆鱗に触れるどころか、逆鱗であやとりを
始めていることに震えているが

 その他の3人は、別の理由で凍り付いていた。


 ──────2Mは越えているであろう、人型で全身黒タイツの物体が
刹那と銃口の間に、手をかざしていたのだ。


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド


(こ……この娘までスタンド使い……? 冗談だろ!!? )

 固まっている男性陣を尻目に、岡村の腕の中で刹那の演説は続いた。


「このキャリア警部さんは、それなりの苦労をしてきているの」
「あなたにだって、警部になるチャンスはいくらでもあった筈」
「そんな努力もせずに、今の状況を誰かのせいにするのはお門違いではなくて?」


「うぐっ」
 岡村は顔を曇らせ、紫苑というパーカーはウンウンと頷いている。


「まぁ、陰でコソコソこんな卑劣な事して、バレたからって人質を取るという
幼稚園児でも思いつかないクソ脳みそな手段を取るあなたには、無理だったでしょうけど」


 岡村はいよいよ顔を真っ赤にして叫ぶ。
「テ、テメエ!!! もう一編言ってみろ小娘ぇぇぇぇ!!! 」


「ハァ……もう一回いわないとわからない?どうやら脳みそは10歳前後でとまってるみたいね? 」


「引ったくりはれっきとした窃盗罪。天下の警察官がそれをやるだけでワイドショーなのに」
「さらに関係の無い女子高生を人質に取るなんて」
「で、その理由が職務にイラついたから、と」
「あなたは人質を取ったことで、本来の何倍もの刑期を受ける羽目になるわ」
「しかもあなたの場合は警察官という肩書きがある。他の囚人から手厚い歓迎が待ってるでしょうね」

 岡村の顔がみるみる青ざめていく。

160第6話 国城篇 「出会った彼ら」:2010/07/13(火) 21:55:20 ID:ci70O93A0

「そんなリスクを省みず行ったあなたの行動」
「むかついたから盗む。追い詰められたから人質を取る」



          ・ ・ ・ ・ ・ ・
『てんで脳無し。論理の卓越性に欠けるわ。このアホ』



「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!! 」

 プツン、と何かが切れる音と共に、
岡村は叫び声と同時に引き金を引いた。


 ダンッッ・・・! !



 耳を劈く破裂音に、思わず目を背ける男性陣


 ──────しかしその銃弾は、、火薬の匂いを残したまま、
銃口と刹那の頬との間に、空中で『固定』された。



 正確に言えば、スタンド能力を持たない千葉には”そう見えた”のだ。

 弾は彼女が出したと思われるスタンドの掌にすっぽりと
おさまったかと思うと、そのままカランと音を残し、地面に転がった。

「ふ、不発……ば、馬鹿な……」


 岡村が全てを言い終える前に、黒タイツのスタンドは足払いをかけ岡村を組み伏せた。
 何が起きたか分からない岡村は、驚愕の表情を浮かべ、地面で凍り付いている。

「何してるの!? 早く確保っっっ!!!! 」


 二人の警察官は、しばらく呆然としていたが
 刹那の号令と共に慌てて岡村に間接技をかけ、千葉が持っていた手錠を岡村につけた

「10:44分、岡村 陽一、窃盗、及び発砲の現行犯で逮捕するっ!!」


「世も末ね。テレビ、楽しみにしていますから」

刹那は取り押さえられている岡村に言い放つと、そのまま交番の出口へと向かった。
「ちょ、ちょっと待てよ!! 」

161第6話 国城篇 「出会った彼ら」:2010/07/13(火) 21:58:57 ID:ci70O93A0
 紫苑が慌てて刹那を呼び止めると、彼女は振り返り深々とお辞儀をした。

「関係の無いあなたを突き出したりして申し訳ありません。
危うく冤罪事件を作り上げてしまうところでした。私の不徳の為、不快な思いをさせてしまい
言葉もありません」


 急に態度を変え、頭を下げる少女に、紫苑は少し顔を赤らめながら
「い、いや……何もそこまですることないんだけれど……気にしてないし……」
 と逆に申し訳なさそうに答える。


「ああ、そう。ならよかった」
 紫苑の言葉を聞きケロリと態度を変え、刹那はそのまま交番から姿を消した。


「ちょ、テメエ! 待てやコラァ!!! 」
「ま、待ってくださいよ紫苑さ〜ん!! 」


 その後姿を、紫苑と田中が大急ぎで追いかける。

「き、君達!! 待ちなさいっ!!! 」
「い、いや……もう彼らはいいでしょうJOJO警部……問題はこれから先ですよ」

 上になんて言われるのかなーと泣きべそかきながら天を仰ぐ千葉。


 国城は千葉の悲鳴ともとれるグチを耳に入れながらも、既に遠くに行ってしまった
3人の後姿を見つめていた。


(ま、まさか私を含めて、同時に3人の……)
(いや、あの紫苑とか言う青年の反応を見る限り、彼ももしかしたら……)
(となると……一気に4人もの……? )

 国城は、交番から出るとサザンカ通りを見渡した。
 街は、交番内の大捕り物などまったく気にも留めないように平和そのものだ。


「どうなっているんだ、この街は……」

162第6話 国城篇 「出会った彼ら」:2010/07/13(火) 22:01:14 ID:ci70O93A0




───────心を読む青年に

銃弾が通じない少女────────────



 そして、自分もまた、超能力を持った警察官だ…………。



 平和で静かな町並みと、今起きた奇妙な出来事とのコントラストに、
国城は言葉に現すことのできない畏怖を抱いた。


 後に数日間世間を賑わすことになるこの大捕り物。

 しかし、こんな出来事など話にならない程の大事件に
国城自身も巻き込まれてしまうことも、



 ここに集ったスタンド使い達が、折星町の、そして日本の命運を
握る事になるという事も、この時点では誰も予想だにしていなかった……。



To Be Continued ...

163第6話 国城篇 「出会った彼ら」:2010/07/13(火) 22:03:40 ID:ci70O93A0


キャラクターデータ


国城 丞  (くにしろ じょう)


24歳  AB型  身長186cm (1.19Hyde)


完璧超人リア充「警部」  SかMで聞かれたら実はS


・二人目の主人公。キャリア組の警部。THE・勝ち組。
・高身長・高収入・高学歴の、俗にいう『3高』を満たしている。ルックスもイケメンだ。
・正義感溢れる性格で、武道の心得も有り。射撃の腕はオリンピッククラス
・語学が堪能。海外への留学経験が豊富で、4ヶ国語喋れる怪物。
・普段は温厚で滅多に怒らないが、怒ると…………

・勿論モテる。しかし現在は彼女無し。その理由も伏線になったりそうでもなかったり
・死ねばいいのに。と思いつつも、その職業からか、筆が止まらないキャラでもある。

・「ジャッジメント・デイ」の構想前の作品では実はメイン主人公だったが、弱い主人公を書きたかったのと、
物語が大きく方向転換した為、第二の主人公に。
・その名残からか、名前がJOJO。名前だけは一番気に入っている。

・高学歴とは思えない戦闘を繰り広げますが、そこらへんは勘弁してください。



使用スタンドは次回くらいに登場。個人的には扱いやすく、強いと思う。
避難所にいた人にとっては、ある意味意外な能力者かも




岡村:嫌味な先輩警官。捕まった。もう出てこないので覚える必要なし。
千葉:スーパーモブ。元ネタはコナン君の千葉刑事。まんま彼を想像してください。
    勿論、覚える必要なし。

164第6話 国城篇 「出会った彼ら」:2010/07/13(火) 22:06:11 ID:ci70O93A0
キャラクターデータ


槙  刹那  (まき  せつな)


16歳 高校2年  A型  身長164cm (1.05Hyde)


信じられるか?ヒロインなんだぜ?コイツ……  SかMかで聞かれたら言うまでも無くドS



・なゆたんみたいに愛される様にと、同じ数字のくくりで「刹那」と名付けちゃいました。
・ヒロイン兼、第3の主人公です。
>>1が一目ぼれし、即ヒロインにした程の美人。

・頭脳明晰、容姿端麗、泰然自若、傍若無人のクソ女。
・意外にも友人は多い。言い寄ってくる男も多いが、打ちのめされなかった男は皆無。
・大人びた性格ではあるが、意外に恋愛小説や可愛い小物にも興味はある。
・男女差別を嫌っているが、認めようとしない事を嫌悪しているだけで、むしろ
男女差別を盾に権利を主張する連中を一番嫌っている。

・県下の名門私立、愛翠高校に通っている。
・彼女のシナリオは、おんにゃのこが沢山出てきます。正直早く国城篇を終わらせて
こっちに移りたい。
・スタンドはヒミツ。お楽しみに。

・やたらプライドが高く、努力家であるが、ちゃんと理由があったりする。
そこを書けるまで続けたいです。
・少なくてもこのクソ女をデレさせる所まで書くことが目標。デレデレになる日は、絶対来ない。



愛翠高校(あいすいこうこう)
・県下でも有数の進学校。つい最近まで女子高であった為
おんにゃのこが多い。早く書きてぇぇぇぇぇ

165第6話 国城篇 「出会った彼ら」:2010/07/13(火) 22:08:03 ID:ci70O93A0

というわけで二人目の主人公はキャリア組警察官です。
三人目はクールで傍若無人な女子高生。彼女の出番はもうちょい先です。



警察官のキャリア組の下りは、一切脚色無しの事実です。
所詮、日本は学歴社会、試験社会なんだなぁ〜と痛感させられますorz


外国人捜査官の下りはほぼ妄想です。
2025年に設定した理由の一つは、外国人の本体も沢山だせるように
したかったからです。
こんな未来嫌過ぎですね。スイマセン。
外国人犯罪者はやっかいという下りは、知人の元警察官の話を参考にしました。
それでも偏見はやめましょう。

ありがとうございました。

166 ◆6JEWITNnHo:2010/07/13(火) 22:10:14 ID:BcW4Xw3I0
乙!!リアルタイムで読んどったよw
JOJOの登場、刹那のスタンド、早く見たい愛翠高の風景……いやあ楽しみですなあwww
そしてやっぱりHyde換算やのんねw

167 ◆U4eKfayJzA:2010/07/13(火) 22:39:41 ID:???0
ヒロインえげつねぇ子だなぁw このSっぷりなら、能美さんとタメはれるんじゃなかろうか。
むしろ、どこぞの這いよる混沌や謎を食う魔人クラスのサドっぷりをひそかに期待していたり。
乙でした!

……そして、あえて濡れ衣かぶせられた紫苑と田中はスルーするのであった。

168こんにちは!!:2010/07/14(水) 13:25:34 ID:RRCour2o0
こんにちは!!
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169 ◆R0wKkjl1to:2010/07/17(土) 01:49:06 ID:IwSrWuf2O
遅くなりましたが乙ですッ!!
ヒロインかっけぇ・・・
こんな娘が彼女だったらいいなぁ・・www

170名無しのスタンド使い:2010/07/19(月) 00:04:01 ID:Dso/1nOw0
乙です!
小説形式だから敬遠してたけど、スラスラ読めたわ・・・・
紫苑が好きだったから残念だけど、次も期待やわ

171 ◆neHjiUQ7Jo:2010/07/21(水) 00:55:05 ID:1DTodzrQ0
色々ありましてレス返せずスイマセン
生きてます。生きてりゃ幸せです

そして予想通りのJOJOの空気っぷりwww
まぁ、何より自分が紫苑や刹那篇の方が書いたり構想したりするのは好きなんですけどね

>>166
お米ありがとうございます!!
楽しみを裏切らないように頑張らせていただきます……!
hyde換算は、明確な抗議が来るまで続けちゃいそうです※>>1はラルク好きですよ?

>>167
能美は捕まるレベルのドSだけれど、後天的なもの。
刹那は法律で許せる範囲のドSだけれど先天性なもの。
どっちの方が大丈夫なんでしょうか……wヤコはドMで本当に良かったね!

紫苑達はこれから1月くらい出番無くなるので、短編書いていただいて助かりましたw


>>169
ヒロインを褒めていただいて光栄です!
こんな娘が好みとは・・・
あなたは・・・
あなたとはいつか良い酒を飲みたい……!!!
ってまてよ、確かスタゲ先生には高校から付き合い続けている彼女が……!!!


醤油でも飲んでろ

172 ◆neHjiUQ7Jo:2010/07/21(水) 00:58:11 ID:1DTodzrQ0
>>170
お米ありがとうございます!
バトル少ない上に余計な描写多くてスイマセン……
紫苑を好いてくれましたか!
主人公の評価は気になるもんで……ありがとうごぜえます!
期待は適度でお願いします……w


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