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【インハリット】オリスタSSスレ「宝石の刻(とき)」【スターズ】
1
:
◆U4eKfayJzA
:2009/12/23(水) 12:43:24 ID:CWviVE7s
『スレ立てしろ』! ペッシ。
『スレ立て』しなきゃあオレたちは『栄光』をつかめねえ。
(意訳:更新は不定期、基本はこの場で書いて出すということで、どうぞよろしくお願いします。)
555
:
◆U4eKfayJzA
:2011/07/26(火) 23:43:31 ID:1VesPAz60
**
「その言葉、俺の目を見ながらもう一度言えるか?」
了意の確認に、査良はコクリ、と頷き、彼の目をしっかりと見据え、
「言えるよ。私は人を殺したりなんかしてない。私がこうなってから吸った人の血は、床にこぼれてる血液だけ。嘘なんてつかない、全部ホントの話。だから、お願いだから私を信じてよ……」
目を合わせるのは、それで限界だった。これ以上疑われるのは耐えられなかった。顔を覆って泣きじゃくる査良を、ふと暖かな何がが包んだ。
「ごめん、信じてやれなくて。本当に、ごめん……!」
了意が、抱きしめて慰めてくれている。現状を理解した瞬間、
「う、う……、う…………、うわぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!! 怖かった、私、怖かった! 体が変になっちゃって、了意くんにも信じてもらえなくて、これからどうなるのかわからなくて、私怖かったよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
彼女は堰を切ったように号泣を始めた。人目を憚らず大泣きできるほど安堵できたのが、彼女にとって幸せだった。
続く
556
:
◆U4eKfayJzA
:2011/07/26(火) 23:46:16 ID:1VesPAz60
話がなかなか進まない……。
今回はこれで終了です、はい。
忘れていた名前の由来
朝井 了意:江戸時代の仮名草子作家、浅井了意のもじり。
代表作は「御伽婢子(おとぎぼうこ)」
557
:
名無しのスタンド使い
:2011/07/27(水) 08:38:51 ID:0oy0MaaoO
アクターフイタwww
波紋使いが敵ならなかなか面白そうな戦闘が見れそうだ。期待。
乙
558
:
◆U4eKfayJzA
:2011/07/31(日) 23:03:04 ID:OMKhtpUk0
更新直前にレス返ししようと思っていたら、なかなか書きあがらないので、遅ればせながら。
>>557
はい、ショタ時代のアクターです。彼のことだから、たぶん○ャイアン的な立場で幼少時代を過ごしていたと思います。
そして、彼は子供のころからバカだったw なして赤点とるくせにモールス信号とか知ってたんでしょーねー。
ボーイスカウトでも手旗がせいぜいで、それすら身に着けてないやつもいるってのに。
そして、地味に亜希も登場してました。靖成曰く亜希はナイチチだそうですので、きっとこの頃から胸はあまり成長していないんでしょう。
559
:
◆U4eKfayJzA
:2011/08/10(水) 23:50:17 ID:ao0SA20M0
さて、と。散々遅れましたが更新です。
こんやはこんなにも つきが、きれい――――だ―――――
『宝石の刻(とき)外伝 戻ってくると信じてる』
第四話 キック・オフ
「――そうかよ。なら、幕切れだな」
スタンドの拳が奔る、拳打を受けた人間の各所が白く、脆いキューブ状の物体へと変わっていき、
ホワイトカードオーバードライブ
「純 白 至 弱 の 波 紋 疾 走!」
男の拳を受けるや、連結したキューブが次々に内部からはじけ飛んでいく。粉々になって飛び散るキューブの破片は、ビルの壁に突き当たってひしゃげていく。
人体を異常な形で破砕した男は、フッ、と息を吐き出し、路地の外に顔を出す。
「尋問と始末は済ませたぜ。そちらはまだ終わらないのか?」
揶揄交じりの声に、物陰から二つの人影が現れる。
「終わらぬはずがなかろう。お主が尋問を終えるのを待つ間、退屈であくびが出そうだったわい」
シルバーラインオーバードライブ
「師伯の”蒼 銀 鋼 絲 の 波 紋 疾 走”と、俺の波紋カッターをもってすれば、高の知れた財団の探索者など容易く始末できるぜ」
苦笑と共に答えが返ってくる。路地裏から首を突き出した男は周囲を見渡し、
「こいつは一本取られたな。ところで、”標的”はSPW財団の秘密研究所に保護されたらしいぜ。こいつは割増料金が必要になるかもなぁ」
「まったく、本国の幹部とやらはお粗末な仕事ぶりじゃ。おかげで儂らがこんな夜中に駆けずり回らなくてはならぬ」
「まーまー、気ぃ直しましょーや。師伯、師兄。ここで一丁大仕事を済ませりゃ、俺たちも幹部の地位につけるかもしれませんぜ」
「左様ならば良いのじゃがな……。まあよい、行くぞ!」
時代がかった口ぶりの男が、裾をバサリ、と払って歩き出す。後を追って、残る二人が身を躍らせる。
後に残るは累々と転がる死体ばかり。不思議なことに、それらは皆体内から強い力を加えられたかのようにゴシャゴシャになっていたのに、全て全身に沢山の小さな切り傷を受けていた。
560
:
◆U4eKfayJzA
:2011/08/10(水) 23:52:54 ID:ao0SA20M0
**
――SPW財団日本支部K県秘密研究所保安部実働課詰所
「課長! 先ほど吸血鬼化した人間のサンプルの確保が完了されたそうです!」
慌ただしく詰所に駆け込んできた職員からの報告に、課長と呼ばれた男の眉がピクリと動く。
「ア゛ァ? てめぇ今なんつった? サンプルだなんて寝ぼけたこと抜かしてんじゃねぇ! 羽生の嬢ちゃんはサンプルなんつー物なんかじゃねぇぞ、『吸血鬼にされちまった被害者』だろうが!!!」
雷鳴のごとき怒声に、失言を悟った職員が棒立ちになる。しかし、彼の怒号は止まることを知らない。
「ッたくよぉ、被害者の確保までやったのはうちの倅ってのもおかしいんだよ。えぇ? ありゃまだ高校生だぜ?
そんなガキから連絡受けるまで、てめぇらは被害者の存在すら気づいてなかったと来てる!
この無駄飯喰らいどもめが、のうのうとよくまあ俺の前にツラぁ出せたもんだぜ!
あーあー、ホントおらぁついてねぇやぁ。
『石仮面』が盗まれ、犯人も取り逃がして、被害者の確保すら部外者にさせて、おまけに二次被害の状況報告すらまだ済んでねェってぇ、つっかぇねぇ部下ばっかりなんだからよ!
おう、てめーもだ! そこのおめーも! 今出歩いてるあいつらもだ!」
全方位にまき散らされる語彙の貧弱な罵倒の限りを、現地の職員らは黙って耐えている。反論の仕様がないからだ。
この上司はもとより癇癖の強い人間だが、彼が偶々研究所を出払っていた日に『石仮面』を奪われるという失態を招き、更に正式な職員でもない人間に事件の関係者を保護されたのだから、面目丸つぶれなのである。
彼らは嵐が過ぎ去るまで口を閉じてやり過ごすしかない。実際のところ、大失態であるのは確かなのだ。
そして、怒鳴り声が止んでから更にやや時間をおいて、恐る恐る、といった風に職員が口を開く。
「ですが、お子さんが被害者の少女と知り合いであったことと、彼女を保護してくださったことで最悪の事態は免れましたよ。
少なくとも、お子さんは部外者でこそあれ、課長の薫陶の元で財団の任務に携わった経験がありますからね。半ばは職員みたいなもんですよ。それも、相当に優秀な方です」
「……フン、倅が役に立っているってこたぁ否定はしねェ。
あいつは親の目を差っ引いても、将来が楽しみな出来のいいガキだ。けど、それとこれは話が別だぜ。
奴が優秀だっていうんなら、正式な職員のてめぇらはもっと優秀でなければならねぇ。
まあいい。これ以上言っても何の役にもたたねぇからなぁ。で、それより、あの嬢ちゃんの証言から犯人の人相描きは作らせたか?
作らせてあるんだろうなおい、できてねぇなら承知しねぇぞオラァ!」
……藪蛇であった。彼は背中に、「折角わめき散らすのが終わったのに」、と言わんばかりの同僚たちの視線が刺さるのを感じた。
これ以上視線が痛くならないうちに、と彼は懐から人相書きを取り出す。
「んぁ? なんだ、もうできてたのかよ。確保してからまだ対して時間が経ってねェじゃねぇか。
……そうか、こいつか。この野郎が羽生の嬢ちゃんを日の目も見られねェ体にしやがったのか……。ぶっ殺す!」
プツン、と血管が千切れる音がする。部屋の空気が張り詰めるのが感じられる。スタンド使いではない職員たちでさえ、何かが室内に現れるのを本能で理解した。
「俺の『ニトロ』はよぉ……、餓死寸前のオオカミが獲物の臭いを嗅ぎ付けるよりも執念深く追い詰めるぜぇ……。精々首を洗って待ってな、犯人さんよぉ!!!」
561
:
◆U4eKfayJzA
:2011/08/10(水) 23:55:27 ID:ao0SA20M0
**
――SPW財団日本支部K県秘密研究所保安部情報分析課分析室
「サンプルによる二次被害の有無を確認するために派遣したチームの第一陣が全滅? 対屍生人用の兵装で派遣したんじゃなかったのか?」
室長は当惑の声を上げた。どう考えてもあり得ない話だったからだ。
WWⅡ以前より、SPW財団には吸血鬼・屍生人に対抗する術の開発が進んでおり、たとえ吸血鬼災害であろうと発生直後であれば苦も無く制することが出来る。
まして、今回は「発生している可能性は低い」状況だったために、死傷者は殆ど出ないと思っていた。
「ええ……、そのはずでした。ですが、どうやら相手は屍生人ではなかったようでして。
実際、第二陣が確認したところによると、二次被害は起こってもいなかったようです」
「屍生人ではなかった? じゃあなんだ、波紋使いかスタンド使いか?」
悪い冗談を飛ばしたつもりの室長であったが、職員は極めて真面目な顔で肯いてみせる。
「ええ、少なくとも前者は確実に関わってます。
異常なんですよ。死骸と、その周囲の様子が……。第二陣の報告によりますと、発見された職員の遺体の大半が、体のあちこちに、致命傷ではないにせよ針で通されたような穴がいくつも貫通していて、そこから血液に『波紋』を流されたのか、体内が滅茶苦茶にされてます。
で、その穴なんですけど、ついでに周りの鉄筋コンクリートまで、360度全方位で種をほじくったスイカみたいな様子になってるんですよ。
何と言いますかね、打ち上げ花火が暴発した時の火花みたいに指向性のない飛び散りようですが、こんな武器は聞いたこともない訳です。
……これだけならまだいいんですけどね」
「まだ厄介ごとがあるのか?!」
「その通りです。一部の屍骸に至っては更に奇妙なことに、豆腐を木槌で叩き潰したように、砕けた肉体が彼方此方に飛び散ってる有様でしてね。おそらくスタンド攻撃でしょう。
……こりゃ厄介ですよ、スタンド使いと波紋使いが敵ってのは」
職員が肩を振り振りぼやく中、室長は顎に手を当て何事かを考え込んでいたが、ややあって、
「おい、お前は殺ったやつらの素性は何だと思う?」
と部下に問いかける。尋ねられた職員はキョトンとした顔で、
「何って、波紋使いでしょう。
それも、二次被害を防ぐために派遣したウチの職員を血祭りに挙げるくらいですから、『吸血鬼』なら理非構わず、事情も調べず根絶やしにすべきなんて思っている強硬派でしょうかね」
「いや、それにしては行動が早すぎる。屍生人の一人も出た様子がないのなら、どうやって『吸血鬼』の発生に気づける?
発生の情報を得られたのはただ一人、『石仮面』で人体実験をしたやつだけだ。
大方、後始末に派遣したやつが、実験台の情報欲しさに、偶々ぶち当たったウチの職員を皆殺しにしたってとこだろうな。
実際『柱の男』も『吸血鬼』もなかなか出会えないこのご時世だからな、そりゃあ波紋使いなんてやつらも堕ちぶれるだろうよ」
「……ってことは、此処を襲ってくるじゃないですか!」
「まあ、そういうこった。味方となれば頼もしい連中を、いざ敵に回すとなると、なぁ……。
空条博士でもここにいてくれればまだ安心できるんだが、生憎あちらさんは『赤石』の護衛に回ってる、ときた。
こりゃ、折角の『生きた吸血鬼』のサンプルは失われるかもしれないか……。」
「何弱気になっているんですか。折角見つけたお宝なんです、実働部隊が全滅してでも死守しなくてはいけないでしょうに。
とにかく、この情報は速やかに伝達しておきます」
562
:
◆U4eKfayJzA
:2011/08/10(水) 23:59:29 ID:ao0SA20M0
**
査良が保護されてから数時間。了意はやきもきしながら彼女が収容された研究室の前を歩きまわっていた。
先ほどから何人もの興奮気味の研究者が入れ代わり立ち代わり研究室を出入りしているのだが、彼らは「屍生人を作らない、人としての良心を保った吸血鬼」の生きたサンプルが入手されたことで頭がいっぱいなのか、了意には意味の分からない用語ばかり声高にまくしたてている。
当の「サンプル」の知り合いが心配げな表情でうろついているところなど、目にも入っていないようだ。
それでも了意は4〜5時間ほどは我慢していたのだが、流石にそれ以上説明を待つのは耐えきれなかった。
「あの、すいませんが、査良はどうなってるんですか?」
手当たり次第に、部屋を出た研究者に声をかける。しかし、彼らは大抵自分の世界に入り込んでいて、呼びかけられたことに気づきもしないで通り過ぎる。
了意の声掛けが実るのは、十人目近くなってからのことであった。
「ああ、あの吸血鬼のお嬢さんかい? いや、まったくもって素晴らしいよ。実に興味深い症例だね。
君、彼女の良さが判るかね。『吸血鬼』という不老不死にして古今無双の肉体を持ちながら、我々の検査も従順に受け、なおかつ屍生人一人作らない非暴力性の持ち主だなんて、これ以上に理想に合致するサンプルは見つかりえないよ」
「そういうことを聞いているんじゃないんです。俺が知りたいのは、彼女が人間に戻れるか否かってことです!」
「ふむ、吸血鬼から元の人間に戻す、か……。実にそそられる研究テーマだね。まあ、見込みはあるんじゃないかな」
「本当ですか?!」
了意が喜びの声を上げる。しかし、それはぬか喜びであった。
563
:
◆U4eKfayJzA
:2011/08/10(水) 23:59:47 ID:ao0SA20M0
「そりゃそうさ、なんせ彼女には無限の歳月が待っているからね。
数百年も研究を続ければ吸血鬼を人間に変える技術も確立されるかもしれないし、運が良ければ数十年以内にそういったことが出来るスタンド使いが見つかるかもしれないね」
(数百年?!)
そんなにかかっていては、何の意味もない。研究所の中で日の目も見られない生活を果てしなく続け、それが終わったときには親しい人は誰もいなくなっている。
家族も友達も失って、隔絶した社会に一人取り残されて、ひっそりと老いていく査良の光景が目に浮かぶ。そんな惨めな生涯を過ごさせるために彼女を助けたんじゃない!
「おや、ショックを受けてるのかい? 顔色が悪くなったよ」
「……数年以内に元に戻すのは無理ってことですか?」
「そりゃ、無理だろうねぇ。我々にとっても、『生きた吸血鬼』を研究するっていうのは初めての経験なんだから。
君、我々はDIOの遺骸すら調べる機会を得る前に灰にされてしまったんだよ?
そんな手探りで始めるしかない状態で、しかも『首だけになっても生き永らえる』吸血鬼の生命力を医学に利用するような、人類全体への貢献を目的とする研究が優先されるだろうから、彼女を直す方法なんて後回しになるはずだなぁ」
「スタンド能力はどうなんです?! 確か、杜王町には『直す』系統の能力の持ち主が二人いるって聞きましたけど!」
「ああ、東方さんとトラサルディーさんのことか……。いや、彼らでも無理だと思うよ?
あの二人が出来るのは負傷や病気を治療することであって、『吸血鬼化』はそれらの範疇ではなく、言ってみれば進化だからねぇ。
君、吸血鬼を人間に戻すというのは、人間をサルに退化させるようなものだよ。治療系統の能力者は、傷を治す度に相手を北京原人かなんかに戻したりはしないだろ? そういうことだね。
ま、あの女の子が吸血行為を理性で押し留められるのならば、吸血鬼化も決して悪いことじゃないさ。
折角の美人さんなんだし、治る方法が見つかるまでの数百年間ずっと老けずにいられるのは喜んでいいんじゃないの?
生きるのが嫌になったら、太陽の元に出れば灰も残らず消え去れるんだもの。自殺するのも楽なもんだよ。
うらやましいね、普通の人間が死ぬのは案外大変だし、コストもかなりかかるってのに。あ、研究が一定の目途がつくまではやめてほしいけどさ」
ハハハ、と冗談めかした笑い。しかし、了意の唇は笑いを浮かべることなく、微かに端を蠢かせるにとどまる。言葉が、出ない。
「……………………………………………………………………………………」
(ふざ……けるな……! あんたら、査良をなんだと思ってるんだ……!)
拳が、震える。ギリッと歯を鳴らす。目の前の研究者を殴りたくなる。それほど、相手の言葉が許せなかった。
研究に心焦がれるあまり、人としての良識をかなぐり捨てた相手へと怒りがつのる。一歩彼が詰め寄ろうとしたその時、どこかからうっすらとした金切声が響くや、ドン! と何かが壊れる音がした。
すぐさま、研究者の背後のドアが開き、慌てた様子の職員が飛び出してくる。
「大変だ! サンプルが逃亡したぞ!」
564
:
◆U4eKfayJzA
:2011/08/11(木) 00:03:06 ID:x.0jcbhQ0
**
『……***……***』
壁越しに切れ切れの声が聞こえてくる、周りの研究者にとってこの部屋は防音設備が整っていたとしても、人外の身体性能を持つ吸血鬼にとっては、多少室外の物音が聞こえにくいだけの研究室に過ぎない。
SPW財団の施設に保護されてから数時間、査良はいつ果てるともなく続く身体検査や実験に耐え切れなくなっていた。
強姦の被害者であり、人体実験の被害者でもある彼女にとって、本来最も必要とされるのはカウンセリングや慰めの言葉である。
しかし、彼女は知る由もないが、財団設立以来初の『生きた吸血鬼』の確保に歓喜した研究者たちにとって、目の前の少女は不幸な犠牲者ではなく、貴重なサンプルでしかなかった。
彼らからしてみれば、早急な研究こそが重要であり、サンプルの苦痛や精神状況は二の次三の次であった。
検査台に手足を拘束される、という人に対するものではない扱いを受け、言い知れぬ空虚に苛まれる査良は、ゆっくりと進む時間と実験に伴う痛苦を紛らわすため、外から途切れ途切れに聞こえてくる声に耳を傾けることにした。
とはいえ、此処は研究所内部。聞こえてくるのは専門用語か聞いたこともない単位ばかり。
つい昨日まではどこにでもいる普通の女子高生であった査良には理解できるものではない。これでは気晴らしにも何もなりはしない、と彼女が耳を澄ますのを止めようとしたとき、それは聞こえた。
『……査良は……』
(りょう、い君……?)
それは、心秘かに慕っていた幼馴染の声だった。それも、かなり近い。おそらく、部屋のすぐ外かそこらだろう。
彼が、私を心配してくれている! それだけで、ただ嬉しかった。大好きな人に気にかけられている、それだけで頑張れる気がした。
了意の声を少しでも聴くために耳を澄ます、誰かと話をしているらしい。相手の声も聞こえてくる。
『……鬼から……人間に……』
(……鬼? 吸血鬼のことかな。それが、人間に、ってどういうこと?)
どうやら、彼女の状態に関わりのある話のようだ。そうなるとなおさら聞いておきたくなる。
『研究……見込み……ある』
了意の喜びの声が聞こえる。この瞬間、切れ切れに聞こえてきた言葉が一本につながる。
「吸血鬼から人間に戻す研究は見込みがある」
おそらく、そのようなことを了意の話し相手は言ったのだろう。
元通りになれる?! 普通の、日光の下に出られる少女に戻れるの!?
当たり前に思っていたことが、今では喉から手が出てきそうなほどの渇望の対象となる。
失わなければ判らないほど幸せはさりげない、そう理解したからこそ、途切れ途切れの言葉に希望が見えてくる。
だが、その希望は彼女が思う以上に遠く微かなものだった。
『……いつかは……人間に……運が……数十年』
(「いつかは人間に戻れるだろうが、運が悪ければ数十年はかかる」ってことかな。ヤダな、数十年も経ったら、了意君がおじさんになっちゃう……)
この時点で、彼女は吸血鬼と言うものを甘く見ていたのは否めない。何と言っても、そもそも民間人が知る必要のない世界に投げ込まれたばかりだったのだ。
そして、彼女は楽観視への報いをすぐに受けることとなる。
『……数年以内に……戻す……無理……ですか?』
『無理……『生きた吸血鬼』……初めて……人類全体への貢献……優先……直す……後回し』
(え……? 運が悪ければ数十年ってことじゃなかったの? じゃあ、あの「運が……数十年」って言葉の意味って、まさか……)
吸血鬼になってから血の気を失った顔が、益々青ざめてくる。嫌な予想がヒシヒシと迫ってき、それは間もなく訪れた。
『……吸血鬼を人間に戻す……人間をサルに退化させるようなもの……治る……見つかる……数百年』
予想が、確信となった。吸血鬼の治療は生物を退化させるようなものだというのなら、数百年以内に治療法が見つかるなんて予想はきっと甘いのだろう。
そんなものは存在しないとしてもおかしくはない。きっと自分は永遠にこの研究所で研究され続けるのだ!
目の前が真っ暗になる。ショックのあまり反射的に手足をばたつかせようとする。
台に彼女を拘束していた枷が、それだけの当たり前の行動であっさりと千切れ飛ぶ。破片がかすめただけで研究者の腕があらぬ方向へと捻じ曲がる。
響き渡る絶叫、我を取り戻す少女。へし折れた腕を抱え、豚のような鳴き声を上げて蹲る職員に、査良は人外とはどういうものかを本当の意味で理解した。
(あ……、わたし、わたし……)
よろよろと、数歩後ずさる。
負傷を免れた研究員たちが、反射的に彼女から距離を取る姿に、どうすればいいのかわからなくなり、悲鳴一声、査良は壁を打ち砕いて部屋の外へと飛び出していった。
565
:
◆U4eKfayJzA
:2011/08/11(木) 00:05:12 ID:x.0jcbhQ0
**
どのように歩き回ったことだろう。気が付いた時、査良は夜の闇に包まれて立っていた。
いつの間にか、研究所の外に飛び出していたらしい。雲に隠れているのか、月が見えないのが残念だった。
ぼんやりと立っている彼女は、暗闇よりもなお途方に暮れていた。
「これから、どうしよう……。戻っても、辛いだけだよ」
どうするもこうするもない、人を襲わない吸血鬼として研究所に留まるのが嫌ならば、残る道は二つしかないのだ。
逃げ回って日の光と人目を恐れつつ生き延びるか、太陽にこの身を晒して焼かれるか、どちらかを選ぶしかない。
前者は、結局永遠に生きることに変わりはないうえ、家族や友達とも別れ別れにならざるを得ないことも同じ。
そのくせ、さっきみたいに誤って近くの人間を傷つけてしまう可能性は研究所にいるよりもはるかに大きい。
後者は、もう誰にも迷惑はかけないけれど、簡単にできることではない。
それ以外の選択肢はないのか? ない。
家に戻って家族に話しても信じてもらえないだろうし、仮に信じてもらえても、夜しか出歩けず、人として生活するには強大すぎる身体を持ってしまった娘を庇護し続けるのは難しい。いつか、きっと破綻する。
「そっか、どうしようもないんだ……!」
涙も出なかった。結局のところ、希望のない永遠を過ごしたくないならば方法は一つしかなかったのだ。
終わりの見えない絶望には、死ぬこと以外に救いなどなかった。乾いた笑い声が漏れた。
「あは、は……。ヤダな、まだ高校も出てないのに死んじゃうなんて。まだ、何もできてない。何もやれてないよ……。
お父さんにも、お母さんにも恩返しできてない。好きな人とデートさえしたことない。友達ともっと思い出作りたい。ヤダよ、こんなの、ヤダよ……」
頬を伝って滴がポタポタと流れ落ちる。それが、幽かに煌き、
「あ……」
月が、雲間に現れたのを知った。
顔を上げて月を見る。零れゆく涙が真珠となる。
見上げた名月にキラリ、と何かが過り……銀の絲が唸りを上げて少女に襲い掛かった!
566
:
◆U4eKfayJzA
:2011/08/11(木) 00:05:53 ID:x.0jcbhQ0
はい、今回はこれにて終了です。使用スタンドは時間がないのでまたあとで。
567
:
名無しのスタンド使い
:2011/08/11(木) 01:07:07 ID:d7XaQ2sQO
お疲れ様〜
周りの音や暑さなんかも忘れる程集中して読めましたわ〜
自分はこう言う系の文章のスタイルも好きなんで楽しい
続き楽しみにしてまふ
568
:
◆U4eKfayJzA
:2011/08/11(木) 22:29:09 ID:D/SVC/xU0
>>567
暑さを忘れていただけたのならば何よりです。次はなるべく早く更新できたらいいなぁ。
今回登場したスタンド
No.4326
【スタンド名】ニトロ
考案者:ID:cXBlj1+c0様
絵:ID:Y4YscGSx0様
569
:
名無しのスタンド使い
:2011/08/13(土) 08:42:41 ID:JYNXcbJAO
敵スタンドの正体が一人わかったぞ…ふひひ…きっと俺の案だ……
続きが楽しみだぜぇ 乙
570
:
◆U4eKfayJzA
:2011/08/13(土) 18:50:06 ID:HzQ051tc0
夏バテは執筆速度を遅くする……。
>>569
判る可能性があるのは、現時点では二体でしょうかねぇ。
どっちかは知りませんが、当たっているといいですね。
571
:
◆U4eKfayJzA
:2011/08/28(日) 23:06:41 ID:IGx7yNmU0
――――――この魂に、憐れみを。
『宝石の刻(とき)外伝 戻ってくると信じてる』
第五話 デッド・エンド
「え?」
皓々たる月明かりを弾いて、上空より降り注ぐ銀の絲。風切り音が追いかけるほどの猛烈な勢いで飛来するワイヤーは、だけどなぜかお日様の匂いがした。
太陽を思わせる匂い、失ってしまった懐かしい日々を表す香り、吸血鬼にとって恐れるべき香り。日の光の元に出たら、即刻命を失う。誘われてはいけない危険な匂い。
それが、近づいてくる。気が付いた時、査良は反射的に飛び退いていた。自殺を考えていたのだから、本来自分めがけて襲ってきたものをよける必要などないのだが、そうもいかないのが人間である。例え富士の樹海で死に場所を探していようとも、ブルドーザーが木々を薙ぎ倒しながら迫ってきたら大抵の人間は逃げる。それが人間の悲しさとも面白さとも言え、逆に査良がまだ『ヒト』である証であった。
だが、飛び退いた先で、着地した彼女の片足がズブリ、と沈み込む。固い地面が待ち受けていたはずなのに、査良が踏みしめたのは豆腐のように脆い地面であった。いや、地面ではない。冷やりとして、それでいてグチャグチャした踏み心地、これは豆腐そのものだ!
「!?? な、なにこれ?!」
当惑の声を上げる査良、そこへ、
「見りゃぁわかるだろうよ、嬢ちゃん。お察しのとおり、こいつは『豆腐』だ。辺り一面、俺の能力で豆腐に変えてあるが、なんせありゃ九割がた水分だからな。『波紋』をよく通すのさ。っと、こりゃすまん。吸血鬼になったばかりの嬢ちゃんには『波紋』っつっても判るわきゃねぇか」
背後から含み笑い交じりの声が聞こえてくる。
572
:
◆U4eKfayJzA
:2011/08/28(日) 23:07:20 ID:IGx7yNmU0
「!」
振り返る査良、彼女が目にしたのは、特撮番組のヒーローを模したような人型を従えた男の姿。幽霊みたいに実体が感じられない「それ」を見た瞬間、彼女の背筋にゾワリと嫌な感覚が走る。
あれは、人じゃない。だって、呼吸をしていない。あれは、人以外のものだ。だって、人ならあんな威圧感を出せるはずない。あれに、近づいてはいけない。どうやるのかはわからないけど、きっと惨たらしい死が待っている!
本能が「あれ」は危険だと警鐘を鳴らす。だが、離れようにも片方の足が埋もれて動けない! 男がジリジリと距離を詰める。それに合わせて、人ならぬ「何か」もまた近づいてくる。その様に、査良の双眸が大きく見開かれる。「何か」に釘づけとなった視線に、男が一歩足を止めた。
「へぇ……、俺の『TO-Who』に気づいたか。嬢ちゃん。お前、屍生人を作らない自制心だけじゃなく、『スタンド使い』としての才能まで持ってたようだな。……なら、益々殺さなきゃならないな。ま、恨むんなら自分の運の悪さを恨むんだな」
査良には意味の分からないつぶやきと共に、「何か」が拳を構える。一歩、また一歩と近づいてくる。迫りくる殺気に怯える少女は、
「こ、来ないでっ!」
近づいてくる「何か」たちへと闇雲に腕を薙ぎ払った。頑丈な枷すら易々と引き千切る腕の一振りだ、当たれば人体は肉味噌になるだろう。だが、
「なるほど、俺の『豆腐』を作る能力はくだらねぇもんだ。ましてや、組んでるやつらの能力も大したことはねぇ。『極細のワイヤー』のスタンドと、『失われにくくする』だけの灰なんて能力じゃあ、この世界にウヨウヨいる化け物みたいな能力の持ち主にはおよばねぇ……。だが、凄くいい。『失われにくくする』灰を漂わせる能力と俺の相性が!」
「!!?」
彼女の腕は、空中に浮かぶ白いキューブに阻まれていた。コンクリートの壁さえ破壊できそうな吸血鬼の怪力が、触れれば崩れんばかりの柔らかい豆腐に阻まれるとは!
573
:
◆U4eKfayJzA
:2011/08/28(日) 23:07:55 ID:IGx7yNmU0
「空気中に漂う『失われにくくする』灰を豆腐に変えた。当然、周囲の灰が表面に付着している。……失われない豆腐は即ちッ! ダイヤモンドよりも砕けないッ!」
バチン! 砕けない豆腐が、ありえないほどの弾力性を発揮する。弾かれた力はそのまま持ち主の元へと跳ね返っていき、少女の体を突き飛ばす。吹っ飛ぼうとする少女の肉体だが、彼女の足は地面にズブリと突き刺さったままだ。当然、地面に絡め取られた足と吹き飛ばされようとする肉体が両立すべくはずもなく、足に多大な過負荷がかかり……ブチリ! 足首から千切れて少女は地面へと叩きつけられた。声も出ないほどの激痛が全身に響き渡る。恐怖と苦痛のあまり、声も出せず体も動かない査良の元へ、男がゆっくりと近づいていく。更に、何処からか伸びてきた銀の絲が彼女の周囲に漂って、元よりあるはずもない退路を断ち切っていく。
「さて、と。終わりだ。喜んでいいぜ、苦しむのは一瞬で済む!」
「何か」が大上段に手刀を構え、振り下ろす!
(もうダメ!)
観念しきった査良は、ギュッと目をつぶり、両手で頭を庇おうとする。だが、音が聞こえた。弓弦から放たれた矢のように精悍な音。猛禽が空を舞うがごとき凄絶な風切音。次いで、バチバチ!と火花が鳴る音。そして、棚から粉袋が落ちるような鈍い音を割って、当惑の声と絶叫が響く。恐る恐る目を開いた査良は、
「りょ、了意くん!」
「ったく、心配かけさせんなよ。追いかけんのは大変だったんだぜ?」
マネキンのような「何か」を従えて仁王立ちする愛しい幼馴染の背を目にした。
574
:
◆U4eKfayJzA
:2011/08/28(日) 23:09:21 ID:IGx7yNmU0
**
了意は、間に合った。ショックを受けて飛び出した幼馴染を追いかけた彼が目にしたのは、見知らぬスタンド使いたちが少女に手を下そうとする光景。
咄嗟に、上空からカーテンのように広がっている銀絲を『死の線』から切断するや、了意は査良とスタンドの間に力強く踏み込んでいく。走りこんだ勢いも殺さぬままに、振り下ろされる手刀へと、こちらのスタンドの手首を上から覆いかぶせるや、螺旋の軌跡で力を受け流していく。手刀が弧を描いて的を外した、と見るや、舗装された大地を砕くほどの震脚と共に、手首を滑らして敵の手にこちらの双掌を重ね、腹へと一気に押し出した!
震脚が生み出す慣性の力を載せた掌打に、途切らせることなく流し返した敵の力を加えての八卦掌『天馬行空』。降星学園は太極拳部出身の職員から伝えられた一気呵成の必殺拳がスタンドの腹部に直撃し、相手は血反吐を吐いて吹っ飛んでいく。『死の線』こそ切断してはいないが、この一撃ならばフィードバックで本体の内臓を粉々に砕いているに違いない!
しかし、相手の死を確認する間もなく、次の攻撃が襲い掛かる。先ほど斬り払った銀絲はほんの一部に過ぎなかった。細く、強靭なワイヤーが四方八方から了意へと動き始める。月光の反射がないと存在すら確認できないワイヤーがこうも沢山襲い掛かってくるのでは、『デッドライン』のスピードと精密動作性では対処しきれない。ならば、大本を対処すればいい! 絲が伸びてくる真上をふり仰ぐ、はっきりとは見えないが上空遥かに本体らしき人影が見える!
「おぉぉぉぉぉっ! 『デッドライン』っ!」
割って入った際の震脚で踏み砕いた舗装を、了意のスタンドが蹴り上げる。
「!!!」
凄まじい勢いで打ち上げられたアスファルトの塊に気づいたのか、人影は伸ばしたワイヤーを引き戻してガードに回る。金属の絲とアスファルトがぶつかり合い、火花が飛び散る。真上へと上がっていこうとする瓦礫と、力を受け流して消滅させようとする銀糸の網。激しい激突は、しかし了意のスタンドが蹴り上げる瓦礫が増えていくにつれてワイヤーの側が不利になっていく。
遂に均衡が破られようとしたその時、束ねられたワイヤーが腕を形作り、瓦礫を次から次へと弾いていった。束ねるための一瞬が、叩き返すほどの余裕を潰している、地べたへと叩き返す余裕はない。最小限の動作と力で、横から叩いて軌道をずらしていく。
目まぐるしく動いて全ての瓦礫を受け流したワイヤーの腕、しかしその最小限の動きでの対応が了意に反応する隙を生じさせる。蹴り上げた瓦礫を足場に体を持ち上げ、手を伸ばしてワイヤーの腕を掴んだ『デッドライン』が、反射的に引き戻される腕の勢いを借りて空中で旋転する。風車の羽根となって螺旋を描いたスタンドが、ワイヤーを巻き込んで地べたへとその本体を叩き落とす!
ドサリ、と鈍い音。次いで了意が着地する。それからたっぷり一呼吸置いたころになって、ようやく査良が目を開けた。
575
:
◆U4eKfayJzA
:2011/08/28(日) 23:10:51 ID:IGx7yNmU0
「りょ、了意くん!」
「ったく、心配かけさせんなよ。追いかけんのは大変だったんだぜ?」
照れくさそうに笑い、了意は油断なく左右に目をやる。幼馴染を襲っていた二人は仕留めたつもりだが、他に敵がいないとも限らない。気を緩めることなく構えていた了意であったが、
「マジ……かよ」
叩きのめしたはずの両者が、何事もなく、とは言わないまでもしっかりとした足取りで立ち上がる光景に絶句する。高所から叩き落とした方はまだいい。ワイヤーによるガードでもしていたのだ、と納得できる。だが、掌打を受けた男がなぜ生きている! 腹が半分がた豆腐になって崩れているというのに!
愕然となった了意だが、
「八卦掌なんか使いやがって、クソガキが……。財団め、こんなやつを護衛につけていたのか!」
「ふ、久しぶりに骨のある若人と会うたわ。若者よ、お主相当に仕込まれたの?」
長髪の男と、ワイヤーのジャケットを纏ったオールバックの男。奇妙なことに在るか無きかの微かな『死の線』を表面に浮かべた両者の呼びかけに、ふと冷静さを取り戻す。相手が死んでいないことなど、ましてや『線』の薄さなどどうでもいい。殺せばそれで片が付く!
「さあな、答える義理があるとでも?」
頭を切り替え、不敵に答えた瞬間、
「おいおい、学生さんよ。疑問文に疑問文で返してると、落第するのが関の山だぜ!」
「!」
二人の敵に注視して狭まった視界、その端から嘲笑の声が流れてくる。同時に何かが動くのを聴覚で察知した了意は、咄嗟に自ら地面に倒れこんでいく。
直後、査良の押し殺した悲鳴と共に、焼けるような痛みが了意の体の各所で花開く。先ほどまで頭があった位置に何かの飛沫が音を立てて飛び散っていくのが見えた。ジュウジュウと焼ける焦げ臭さと、なぜか汗の臭いを発する小さな波紋傷が査良の体にもいくつも出来ている、おそらく了意を傷つけたものと同じ傷だろう。了意の脳裏に、小耳に挟んだ話が蘇る。屍生人の発生の有無を確かめに派遣された財団の職員が、体の各所に針で通したような小さい穴を多数開けた死体となって発見された、と聞いているが、こういうことだったのか!
576
:
◆U4eKfayJzA
:2011/08/28(日) 23:12:23 ID:IGx7yNmU0
全身に走る激痛に顔を歪め、立ち上がる了意。三人目の敵は、服と言うにはあまりにも面積の少ない帯を纏った男。
「波紋カッターの不意打ちまで凌ぐとはなぁ……、なるほど師伯と師兄が圧される訳だぜ。だが、三対一ともなればどうかな?」
ひとりごちる男の皮膚に、いくつもの珠の汗が浮かぶ。月光に煌く無数の水滴に、了意は職員らを傷つけたモノの正体を知った。この男、全身の汗腺を刺激して、ものすごい圧力をかけた汗を飛ばしている!
「二発目、行くぜ! 波紋カッター!」
汗が、再びクレイモアとなって放たれる。だが、二度と同じ手は食わない!
「『デッドライン』!」
身を屈めた了意の感覚の目が、地面の舗装を注視する。現れた『死の線』を手刀で切断するや、まるで碁石をひっくり返すように容易くめくり上げ、蹴り飛ばす。
「はっ、『エクステンド・アッシュ』に触れた汗をそんなもんで防げると「馬鹿野郎! 上だ!」
仲間の声にハッと顔を上げた男が目にしたのは、凄まじい勢いで飛来する足の裏。了意は蹴り飛ばしたアスファルトの塊の影で、踏み込んで二枚目をめくり上げるや、それを足掛かりに飛び蹴りを放ったのである。二枚目のアスファルトが査良まで汗のカッターが到達するのを防ぐ一石二鳥の対処だ。
意外な攻撃を、男が体を斜めにして躱しつつ、足を掴んで投げ飛ばそうと手を伸ばす。その瞬間、手刀一閃! 突如円を描いて間合いの外から伸びてきた『デッドライン』の手刀が、伸ばした男の腕をかすめる。牽制にもならない無駄な斬撃のようにしか見えない、だが指先が触れていった場所から男の腕がストン、と落ちる。ありえない出来事に男が目を見張った隙をついて着地した了意は、振り向きもせずに脚を後ろに払い、膝裏を蹴り落とす。たまらず膝を落とした男の頭を踏み台に、了意は元いた位置へと飛び戻って、査良を狙う残り二人を牽制する。進むも退くも稲妻の如し。この若者を無視して吸血鬼の少女を仕留めることは出来ない。
「早う小娘を始末しておきたいところじゃが、まずは邪魔者を殺らねばならぬか。若人よ、恨むでないぞ。『アトミック・ミリオンズ』!」
「殺す、粉微塵に摩り下ろして薬味代わりにしてやる! 『TO-Who』!」
暗殺者らの纏う空気が先鋭化する。了意も無言でニヤリ、と笑う。景気づけなど自分にはいらない、ただ、殺すだけでいい。罪もない少女の命を奪おうとするやつ等、返り討ちにするだけだ。どうせ味方は足止めでも喰らってるのだろうが、一人だけでもやってやる。それだけの覚悟が腹に落ちているのに、いまさら何の言葉がいるだろう。
だから、
「てめぇ、人を足蹴にしやがって!」
先ほど腕を切り落としてやった男が、怒声を上げて立ち上がっても、彼は眉ひとつ動かそうともしなかった。『死の線』を斬れば、本来は切断されたあと物体は消滅していくはずである。が、既に男たちの異様な打たれ強さと、あまりに薄い『線』を見ているのだから、普段と違っていようとも今更驚きはしない。
(おそらく、俺と逆の能力……。『死に難くする』とか、そんなところか。ったく、厄介な相手が来たもんだよ)
見当がつく分には、「面倒くさい相手」程度の感慨しか持てなかった。それ以上のことを考えていたら命がけの戦いで拳が鈍る。発現させた『デッドライン』に、腰を低く落とさせて、右の手刀を天へと垂直に突き上げさせて身構える。左手を後ろに引く、という変化があったため相手は見抜くべくもなかったが、この体勢は薬丸自顕流にいう『蜻蛉』の姿勢を模したものであった。見抜けないにせよ、一撃を以て敵を斃す凄絶な精神の具象と、先程了意が見せた勝算ありげなニヤリ笑いを不気味に感じたのか、男たちはしばしの間動きあぐねるのであった。
577
:
◆U4eKfayJzA
:2011/08/28(日) 23:13:42 ID:IGx7yNmU0
**
しかし、背後の査良は怒声を上げる男の様子に小さな悲鳴を上げた。
その男は、踏み砕かれた頭が胴にめり込んで、見るも無残な姿になっていたのだ。
そう言えば、切り落とされた腕からは血液がチョロチョロと零れている。
あれほどの傷ならば、噴水みたいに血が噴き出していてもおかしくはないのだが、千切れた足の痛みと、流れ出ていく血液の感覚に意識が混濁しかかっている査良にはそこまで頭が回らない。
ただ、血の臭いの甘さと、男のあまりの醜悪さだけが理解できた。
578
:
◆U4eKfayJzA
:2011/08/28(日) 23:14:33 ID:IGx7yNmU0
**
「オラァ!」
対峙が長引くのを嫌ったか、変身ヒーロー風のスタンドが突如突進を開始する。先を取られた了意も機敏に反応し、
「ちぃぃぃぃぃぃぃぃええええええええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいっ!」
月光すら震えた、気合声を聴いた者は等しくそう感じた。凄まじい叫びと共に、体の重心ごと手刀が落下する。少なくとも相討ち、出来得るならば敵の攻撃ごと叩き斬る覚悟の斬撃を、『TO-Who』は優美に体を捻って受け流す……、が、斬撃に交差して次の斬撃が襲い掛かる。引いていた左掌が斜めに薙ぎ払ってきたのだ。
「っ!」
今の姿勢では次の回避が間に合わない。反射的に、捻った勢いを利用して軌道を曲げた拳で打ち払うところに、先程通り過ぎた右手刀が逆袈裟に振り上がる。脇腹からスタンドを両断する、と見た斬撃は、しかし伸びてきた銀絲が編み上げた壁に受け止められる。続いて、絲が集まって出来た無数の拳が雨霰と降り注ぐ。ワイヤーで構成される不定形のスタンド、『アトミック・ミリオンズ』だからこそ為し得る攻撃だ。これを、受け止められた左掌を軸にしてのロンダードで撥ね上げた両足が受け止める。そのまま一転した『デッドライン』が、本体の元に着地する、と見えた時、局外から一条の閃光が飛来した。
579
:
◆U4eKfayJzA
:2011/08/28(日) 23:15:11 ID:IGx7yNmU0
**
実を言うと、了意が割って入った際の震脚で、埋もれたままであった査良の足首がポン、と地表へと飛び出していた。
それが、戦いも闌となる今、まるで生き物であるかのように別れ別れとなった胴体へと蠢いている。
未だ、誰も気づかない。
580
:
◆U4eKfayJzA
:2011/08/28(日) 23:15:58 ID:IGx7yNmU0
**
飛んできたのは三人目の男の蹴りであった。左の爪先を突出して、猛烈な勢いで飛び出すズームキック。本体目がけて放たれた槍を思わせる中段蹴りを、了意は体を開いて躱し、右腋で挟み止めるやスタンドの手刀で叩き折ろうとする。が、その時彼は目にした。相手の胴体に半ば埋もれた顔が嘲笑に歪むのを。そして、知る。左足で繰り出してきた蹴りを、こちらは右腋で挟み込んだ。となれば、相手の右足の延長上にこちらの胸が存在することになる。身動きを固定されたのは自分の方だ! 咄嗟にガードを取ろうとするも間に合わない! 下から鞭のように蹴り上げられたズームキックが、了意を捉えた。跳躍しながら蹴りを続けて飛ばす、少林拳の鴛鴦腿と同質の攻撃だが、膝と足首の関節を外してリーチを伸ばすズームキックの仕組みが、蹴り上げることで外れた関節を軸として加速させていく。ヌンチャクが威力を発揮するのとまったく同じ構造であった。
「ゴフッ!」
そんなものが直撃するのだから、たまったものではない。派手な音と共に、了意が吐血しながら吹っ飛んでいく。蹴りに込められた波紋で体が痺れ、受け身一つ取れずに地面に叩きつけられた了意だが、彼が吐き出した血液が、数滴査良の口へと入り込んだ。
つかつかと、長髪の男が倒れこんだ了意へと近づいていく。
581
:
◆U4eKfayJzA
:2011/08/28(日) 23:17:05 ID:IGx7yNmU0
**
血液が口の中に入り、査良の意識が突如鮮明になる。同時に、にじり寄っていた足首が飛びつくようにして傷口と癒着した。
身を起こした少女が目にしたのは、好意を寄せる少年が宙に打ち上げられる光景と、彼を打った蹴りがシュルシュルと戻っていくさまであった。
目を見開いた少女が最初に感じたのは、恐怖。それも、自分の死ではなく、幼馴染の死へのそれ。彼女自身は、もとより死ぬつもりだったのだから、諦めはついていた。けれど、自分の不幸が原因で大切な人まで失うのが怖かった。
次いで訪れたのが、怒り。どうして彼がこんな目に遭わなくてはいけないのか。私の不幸はまだ諦めてもいいけど、了意くんを巻き添えにしたことは我慢できなかった。
(……許せない)
強く、唇を噛んだ。吸血鬼となってから伸びた牙が突き刺さって、血が縁から流れていくが、そんなことさえ気づかない。怒りに震える少女の体を覆い、半透明の何かが浮き上がっていき、やがて確固とした形を取る。それは、査良を了意と結び付けてくれた思い出のぬいぐるみそっくりの、顔だけ出してあとは全身を蔽い尽くす毛皮の衣装。
彼女自身は、自らの肉体が発現したスタンドに覆われたことすら気が付いていないが、体が突如暖かさに包まれたのを感じていた。出血で冷え切っていた身体が、急速に人心地を取り戻していく。
それと共に感じ始めてきたものは、渇き。流れ出た血に、千切れた足。彼女は相当に体力を消耗していた。そう、早急にエネルギーを充填しなければならないほどに。これまで欲求を意志の力で抑え込んでいたことなど忘れてしまうほどに。
少女の心が獣に変わる。紅玉の瞳が炎と燃える。仰向けに倒れていた体を反転させ、手足を突っ張って身を起こす。四肢を撓め、姿勢を低くした彼女の喉から、
「Kuaaa――」
吐息と共に低い唸り声が洩れる。そして、査良は、突如として弾けた。
582
:
◆U4eKfayJzA
:2011/08/28(日) 23:18:17 ID:IGx7yNmU0
**
「それ」を最初に認識したのは、了意を蹴った隻腕の男であった。しかし、彼の鍛えられた動体視力でも、何か大きなものが空中から迫ってくる、それだけしか判らなかった。判別できる速度じゃない! 男は、反射的に残った方の腕を「それ」目がけて振り下した。軌道をずらして流し落とすための拳、『波紋』を込めた一撃は如何なる飛び道具にも対応できる。それだけの自信も持ち合わせていた。
拳が、直撃する。放たれる『波紋』。だが、それは柔らかな触感の「何か」の表面で雲散霧消し、しなやかに着地した「何か」に払い上げられた腕がありえない方向に折れ曲がる。
そして、腕をへし折られた痛みが神経を通して脳へと到達するよりも速く、地を蹴った「何か」が男の目前に到達した。皓々と降り注ぐ月の光が、動きを止めた「何か」の姿を照らし出す。それは、これまで殆ど無抵抗に近かった標的の少女。もこもことした毛皮で全身を包んだそれが、双眸をギラギラと渇望に光らせ、牙をむき出しにして、鼻を突き合わせられるほどの距離に飛び込んでいる!
驚愕した男が飛び退こうとするより先に、
「――許さない。了意くんを傷つけたあなたを絶対に、許さない!」
腹部に痛みが走る。見下ろすと、少女の五指が鳩尾を深々と抉っていた。
血液を吸い尽くされる! 波紋使いにとって最も恐れるべき屍生人への転落、という未来が男の脳裏をかすめる。が、血が指を通して流れ込んでいく悍ましい感覚が、訪れない?
双方にとって予想外の事態、ここで先に立ち直ったのは査良の方であった。吸血鬼としての常識を未だ実感することのなかったことが幸いした。
「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!」
迸る咆哮。満たされぬ渇きと、そして大切な人を傷つけた男への怒りに、力を込めて腕を振り上げる。突き立った五指が、そのまま男の上半身を六つ裂きに切り裂いていく。恐ろしいほどの勢いに、裂かれた体が後ろへと倒れこむや、少女は噴水のように噴き出した血を全身に浴びた。
降りしきる血の雨の中屈みこんだ少女は、足元に広がる血だまりにつぼめた手を浸し、粘りつく液体を掬い上げる。そのまま掌を頭上高く差し上げて、査良は指を伝って流れ落ちる血液を口に受け止め、幼女のようにあどけない微笑を浮かべた。
583
:
◆U4eKfayJzA
:2011/08/28(日) 23:20:57 ID:IGx7yNmU0
**
咆哮、そして絶叫。突然の惨劇に、倒れこんだ了意にとどめを刺そうとした男たちは思わずそちらに意識を向けてしまう。
考えてみれば、無理もないことであった。彼らは、一言で言い表すならば『殺し屋』である。つまり、確実に倒せる相手の命を奪う商売である。
殺せない敵を相手にするくらいならばまずは退き、確実に勝てるチャンスを探す。それすらないような相手ならば、商売にならないのだから関わりを絶つ。倒せる自信がないならば戦うべきではない。そのセオリー故に、男らは『殺人のプロ』であっても『戦闘のプロ』にはなりえなかったのだ。
一方、了意にはふさわしい表現がない。表現を与えるにはまだ若すぎる。
しかし、強いて上げるとすれば、『いくさびと』と言うべきであろう。当世には珍しくなった生き物である。
『いくさびと』とは、戦場に臨んでそれ以外の全てを忘れて働ける者である。傷を負ってなお力を発揮できる人間である。最後の最後まで諦めようとはしない生き物である。如何なる状況下でも自分以上の強者に臆することなく立ち向かい、あらゆる手段を以て己が劣勢を覆し、勝利する人間である。腕を失えば脚で蹴る、脚がなくなっても歯があれば噛みついてでも敵の息の根を止める。それこそが『いくさびと』である。常在戦場の心意気を持った漢の生き様である。
多感な少年の時期から、自らの能力故に財団の元でありとあらゆる窮地に直面し、自分の力で乗り越えることを強いられてきた了意が、並の若者であるはずがない。男たちは、それを察知すべきであったのだ。察知していなかったことが、彼らにとってこの上ない不幸となった。
敵の意識が自分から外れた一瞬の隙を突き、了意は倒れた姿勢のまま脚を撥ね上げる。出せる限りの力を込めての死に物狂いの金的に、男が前のめりに倒れ掛かるところに、スタンドの腕を突き出し、ズブリ。抜き手が男の胸板を貫いた。そのまま、立ち上がろうともせずに腕を一振り、長髪の男に投げを打つ。投げられた男は、査良に倒された男目がけて猛烈な勢いで飛んでいく。
『エクステンド・アッシュ』の恐ろしさか、上半身を六つ裂きにされてなおその男は死にきっていなかったのだが、飛来する仲間との衝突を避けるほどの余力は残っているはずもない。激突の末、あえなく両者は肉泥となって落命した。骨と骨が絡み合って、死体を分けることさえ出来はしない。
584
:
◆U4eKfayJzA
:2011/08/28(日) 23:21:54 ID:IGx7yNmU0
銀絲使いの男が我に返った頃には、既に二人の仲間の始末は終わっていた。それどころか、始末されるところだった少年が、満身創痍ながら旺盛な戦意を滾らせて立ち上がってくる。それどころか、標的の少女に至っては「『波紋』を無効化」する纏衣装着型のスタンドを発現させ、こちらを睨んでいる。
彼は、任務の失敗を悟った。『波紋』の通じない吸血鬼ともなれば、たとえそれが一体だけであろうとも、彼一人で仕留められるかは心もとない。ましてや、護衛が健在であるのだから敗北は必定と言えよう。だが、ここで退くことは出来なかった。自分一人が負け犬となることは構わない。だが、仲間を失った挙句五体満足で戻るのでは、『波紋使い』の価値そのものが疑われる。イタリア北部を中心に勢力を振るう『組織』が『波紋使い』を抱えたのは、その異能を役立てるためである。それが、信用を失われたとあれば即座に切り捨てられるであろう。無能な部下を置いておくほどギャングは甘くない。それも放逐される程度では済まない。『組織』の内情をたとえ一部であろうと知ってしまった者を外部に出す訳がない、待ち受けるのは粛清だけだ。「無敵」と噂されるボスの能力を敵に回してはいかに『波紋使い』であろうと生き延びることは不可能、何人いようが全滅は免れない。彼はそう理解していた。
任務の失敗そのものはまだいい、だが負け犬となるわけにはいかないのだ。可能ならば一矢を酬いておく必要がある。それが出来なかったとしても、「強者」がそれ以上の「強者」の手にかかった。そして敗者は、敗北の責任を取り、裏社会の人間としての義務を果たした。そう万人に認められる形での失敗でなければならない。でなければ、『組織』に属した他の『波紋使い』の信用まで失われる。個人の問題ではない、一門の問題なのだ!
『アトミック・ミリオンズ』の絲が一本、あらぬ方へと風に乗って飛び去っていく。それを背後に庇う形で、人型となった己がスタンドに腕を絡ませたオールバックの男は、これまでの戦闘からは場違いなほどの静謐さを漂わせ、
「そこな若人よ。……一戦を、所望致す」
と呟いた。
585
:
◆U4eKfayJzA
:2011/08/28(日) 23:23:10 ID:IGx7yNmU0
体の彼方此方に無数の波紋カッターが貫通した穴が開き、しかもズームキックの一撃まで受けた。本来ならば立っていられるかも危うい状態の了意であったが、彼の耳は正しく相手の言葉を捉えていた。退くことは出来ない。断って相手が査良を狙うことを放棄するはずもなく、敵を目前にして査良と研究所の内部に逃げ込むことも出来るはずがない。背を向けた瞬間襲われるのがオチだ。この相手を始末しない限り、それ以外の行動など行えないのだ。
「承りました」
答えるや、本体の前に進み出た『デッドライン』が腰を落とし、右掌を左腰へと回す。手刀で一撃の元に切り捨てる覚悟であった。査良は、何も言わず数歩後ろに下がる。その様に男は一つ頷き、
「参る!」
飛んだ! いや、違う! 人型に形成していたスタンドを、自分を抱えさせながらほつれさせ、伸ばしていったのだ!
波紋を通して強化した銀絲は、人一人の体重を支えて曲がることなくまっすぐに空高く伸び上がっていく。
上空から来る! 相手へと視線を据え続ける了意が、上を向くや、光が矢となって彼の目を射抜く。ワイヤーが丸く集まった数え切れないほどの鏡が、月光を反射して了意に浴びせかけたのだ。散乱している分には日光よりも遥かに淡い月の光だが、数十枚もの鏡が一点目掛けて反射すれば話は別だ! 眩しさに思わず目を覆う了意。頭上から、たった一つの拳と共に、懸河の勢いで男が落下する。狙うは、査良の頭蓋だ!
詐欺同然のやり口だが、男にとってこれこそ当然のことだった。任務を成功させる条件は、吸血鬼の殺害、ただそれだけ。それを果たすためならば少年を騙すことくらい何度でもしてやろう。少女のスタンドによって『波紋』が通じないとしても、落下の速度を込めた一撃で全身を両断すれば、『波紋』を流し込めるかもしれない。油断していた査良が、頭上から落下する死に気づいた時にはもう遅い!
だが、査良に迫ろうとした男は、目にした。目を瞑って走り出した少年が吸血鬼の少女にタックルして男の軌道から押し出したのを。彼は、了意をこの時になって猶侮っていた。了意は、男が思うよりもずっと聡明な人間だったのだ。
銀の拳が地面を割る直前、後ろ手に振るわれた手刀が男の体を貫く。落下の勢いも手伝い、鋭利な手刀は存分に男の脇腹を裂いた。『アトミック・ミリオンズ』の拳が、地面に直撃する瞬間になって、力なくたわみ、男が落下する衝撃を和らげてしまう。墜死を免れてしまった男に、立ち上がった了意が滑るような足さばきで近づき、『死の線』を撫でた。
漸く事態を理解した査良が、震えながら身を起こした時、男の屍骸はゆっくりとチリと化していきはじめ、やがてそれは風に吹かれて消えていった。
続く
586
:
◆U4eKfayJzA
:2011/08/28(日) 23:30:40 ID:IGx7yNmU0
今回は、これにて終了です。
ヘタクソな殺陣ですが、他のSSにはあまりないものを目指した結果なのでご笑納ください。
今回使用したスタンド
No.1988
【スタンド名】T'EN VA PAS
考案者:自案
絵:ID:FPNrjcDO
以下、日常の安価で上がったものを流用、消化
No.3809
【スタンド名】エクステンド・アッシュ
考案者:ID:yiQeg85Co様
絵:ID:FxCeLjaSO様
No.3246
【スタンド名】アトミック・ミリオンズ
考案者:ID:R7zzUHU0様
絵:ID:AvIpq0so様
絵:ID:HHYepSgc0様
No.1989
【スタンド名】TO-Who
考案者:ID:9NuEVGg0様
絵:ID:MgegLK.0様
まー、ギャグでの安価をシリアスに流用したのは不満かもしれないけどさ……、ガチバトル向きだったってことでさ、こらえてくれ。
587
:
名無しのスタンド使い
:2011/08/30(火) 21:08:21 ID:lthNvZn.0
>失われない豆腐は即ちッ! ダイヤモンドよりも砕けないッ!」
豆腐なのに……なんだこのカッコ良さ……
588
:
◆U4eKfayJzA
:2011/08/30(火) 21:51:03 ID:9d4xZgNs0
>>587
知らないのか? 一昔前の豆腐はゾンビさえ相手に出来たんだぜ?(*詳しくは「The 豆腐 Survivor」でググってちょうだい)
まー、ぶっちゃけこのセリフは五部のをもじってるだけですが、何気に凶悪なスタンドでしたw
触れられたら、その場所が豆腐になって壊れちゃうは、豆腐は九割がた水分だから波紋よく通すは、『エクステンド・アッシュ』と組み合わせたらスパイス・ガールもどきの防御力を発揮するは……。
豆腐パネェw
……で、攻略法として、火をつけて焼き豆腐にしたり、気化冷凍法で高野豆腐にしたり、と割と真剣に考えたのもよい思い出ですw
589
:
名無しのスタンド使い
:2011/09/03(土) 00:02:10 ID:cywawFsAO
俺の考えたTo-Whoがこんなまともに戦うなんて感動だ!
590
:
◆U4eKfayJzA
:2011/09/03(土) 17:14:29 ID:fqjgBAao0
>>589
同じ安価に『エクステンド・アッシュ』がいたのと、波紋使いに設定したことで意外と化けました。
元から割と戦える能力ではありましたが、豆腐が砕けなくなると強いこと強いこと。
ちなみに、前回名前の登場した波紋疾走の説明をすると、
純白至弱の波紋疾走:To-Whoの拳越しに波紋を送り込む波紋疾走。
二部で波紋を流した水を波紋でプリンみたいに固定するのをジョセフが失敗しているが、あのように制御しきれていない波紋をわざと放つことで、能力によって豆腐化した物体を破砕する。
本来非生物への攻撃には向かない波紋を、豆腐化させるプロセスを加えることで、生物のみならず非生物の破壊にも効果を発揮できるようにした。
なお、破片は波紋を帯びた状態で能力を解除することで、元の物体によっては即席の散弾と化す。
ぶっちゃけた話、人体のどの部分にあたっても拳が打った範囲以上の部位が消し飛ぶため、『エクステンド・アッシュ』の影響を受けてないと一撃で戦闘継続が難しくなるくらいのダメージを受ける。
作中これを自分の身に受けた本体は、空気爆弾をくらった億泰をより酷くしたような状態で戦っていたことになる。
蒼銀鋼絲の波紋疾走:ワイヤー化した『アトミック・ミリオンズ』に波紋を送り込みつつ制御する波紋疾走。
ロープ越しの波紋疾走以上の制御力と切断力を併せ持つ。
汗の波紋カッター:全身の汗腺を波紋で刺激し、圧力をかけた汗を四方八方に噴出させる波紋カッター。
一部に登場したものとは違い、全方向への無差別攻撃として放たれるため無駄が多い。
なお、仲間は『豆腐の盾』と『ワイヤーの布』で遮って防いでいる。
591
:
◆U4eKfayJzA
:2011/09/18(日) 19:37:54 ID:S/YV2GZY0
やっと書き終えた。なんでこうも筆が進まないのやら。
風のように躓くことのない人生だったら、こんな風になった今だからこそ憧れる。
『宝石の刻(とき)外伝 戻ってくると信じてる』
第六話 終わりの始まり
死体がチリと化して消えていく。役目を終えた『デッドライン』を解除した了意だが、視界を縦横に広がっていた『死の線』が見えなくなるにつれて、頭に鮮烈な痛みが広がっていく。
スタンド能力の副作用だ。それまで戦闘に精神を集中させることで防いでいたのが、緊張から解き放たれることによって頭痛が彼を苛みはじめる。
脳の奥から焼き尽くすかのような苦痛、目の前が貧血になったかのように薄暗く、チカチカと何かが瞬くように感じる。吐き気が喉を駆け上がり、膝が小刻みに震えてくる。
広げた五指でうつむいた頭を蔽い、チアノーゼを隠す了意に、
「了、意……くん?」
当惑した声が呼びかける。幼馴染が心配そうな顔でこちらを見ているのが、振り向かなくてもわかる。その様子に、なるべく平静さを装って、
「……査良、悪い。先に中入っててくれ。たぶん、すぐに職員の人たちが駆けつけてくるから、『俺がスタンドを使った』って伝えてくれ」
「え……、あ、うん。判った。けど、大丈夫なの?」
立ち去りかねる少女に、了意は大丈夫、と答えかけて、何も言えずにただ手を振る。
戸惑いながらも研究所内に戻っていく査良の足音を聞きながら、彼はコホン、と咳をする。薄い血の霧が月の光に煌いて、散っていった。
**
592
:
◆U4eKfayJzA
:2011/09/18(日) 19:44:55 ID:S/YV2GZY0
それから数時間。スタンドを発現させた査良は、すぐさま研究室に逆戻りとなり、体調を崩した了意は、休憩室で休むように、との職員の通達を無視して研究室前の椅子にもたれている。
そうしたままでどれくらい待ったことだろうか、やっとその時が訪れる。ドアが開き、査良が姿を現したのだ。
「お疲れ、査良」
微笑む青年に、彼女は万感胸に詰まったのか、しばし棒立ちになっていたが、
「うん、ありがとう……」
おずおずと返事を返して、やおら了意の横に腰を下ろす。
「ずっと待っててくれたの?」
「ん、ああ。どうせ休むならここにいた方がすぐ会えるしな。にしても、思ってたよか遅かったね」
「えっとね、私があの格好になったら、いきなり大笑いされてしばらく中断になっちゃったの。だから、ちょっと終わるのが遅れたのかな」
そう言われた了意の脳裏に、スタンドを発現させた時の彼女の姿が蘇る。昔彼女が大事にしていたモモンガのぬいぐるみそっくりのファンシーな着ぐるみを着込んで暴れまわる姿。
最初は戦闘に集中し、その後は頭痛に苦しんでいたから大して気にも留めていなかったのだが、今にして思い返してみれば、
(ヤバい、ツボに入った……)
笑いが抑えきれなくなる。当たり前だ、あんな格好でまじめにやられたら笑わない方がおかしい。
とはいえ、笑われる側としてはうれしいはずがない。少女は頬を膨らませてむくれた。
「もう! 笑わないでよ!」
「はは、悪い悪い。で、どういう結果だったの?」
「うん、あの“すたんど”だったっけ? なんか、普通の人には見えない超能力あの着ぐるみは『外界と内界を遮断する』宇宙服か拘束衣みたいな特性を持つ能力なんだって。
流石に身体性能はどうしようもないみたいなんだけど、『気化冷凍法』とか指先からの吸血とかの吸血鬼ならではの力を使うためには一旦能力を解除して私自身を外気に晒さないといけないみたい。
でね、吸血鬼の能力を無効化するのに大半のエネルギーを使っちゃってるから、外部のものは一度に一種類しか遮断できないそうだけど、日光を防ぐにはそれだけで十分みたい!」
「ホントか?! よかったじゃないか、それならすぐに元の生活に戻れるってことだろ?」
「うん! これなら、身体性能を低下させる能力者の職員さんに週一くらいの割合でお世話になれば、普通に生活していても実害はないんだって!」
本当にうれしそうな顔をする査良であったが、
「ところで、職員さんに説明してもらったから“すたんど”ってのがどういうものなのかはなんとなく判ったし、私が発現したのが本当にいいことだったってことも判るんだけど、了意くんの“すたんど”って、いったいどういう能力なの?
切り裂いたものを塵に変える、とかそういうの?」
問いかけてくる幼馴染。彼女は、スタンド使いらしからぬ問いをしていたのだが、了意はさほど気にしない。
大体、偶然非日常の世界に巻き込まれただけの一般人にそんなことわかるはずもないし、秘かに好意を抱いている相手を許すのは男の甲斐性というものだ。
スタンド使いが他人に能力を晒すのは本来危険極まりないことだが、了意は躊躇うことなく正直に答え始めた。
593
:
◆U4eKfayJzA
:2011/09/18(日) 19:49:43 ID:S/YV2GZY0
「いや、全然別物。んー、査良は『月姫』とか知ってるかな。ほら、どこだかのコミック誌で今月連載が始まったばかりの漫画の原作。
あれに出てる『直死の魔眼』ってのがほとんど俺の『デッドライン』と一緒なんだよ」
「? ごめん、よくわかんないや。私が読んでる男の子向けの漫画雑誌なんて、ジャンプくらいだもん」
「……だよなぁ。いくらその手のが大好きな人間の間で話題になったからって、所詮同人エロゲだしね。出来てから2〜3年程度じゃまだ一般人にまでは広まってるわけないか。
いいや、今度らっきょとメルブラ貸すし、コミケも案内する……って、話ズレたか」
何を言っているかわからないのか、目をキョトンとさせてる査良に、了意は話を脱線させすぎていたのを悟った。どうやら、趣味が絡んで少し熱くなってしまったらしい。
「あれ知ってりゃ話早いんだけどな。
ま、いいや。要するに、俺の目は『モノの壊れゆく線』を視ることが出来るんだ。
もっと正確に言うと、万物の寿命を線という形に視覚化して理解できるわけ。
で、この寿命ってのは、単なる生命活動の終了じゃなくって、存在が出来たころから持っている『いつか来る終わり』であって、『存在を保っていられる限界』そのものなんだ。
そして、俺のスタンドだけが、その限界に干渉できるわけ。『デッドライン』が線に触れることで、物事の死を、本来の猶予時間をキャンセルして強制的に実行させるんだ」
「??? なんだか、難しい話だね。全然判んないや」
「まあ、な。当の俺だってこの手の事象が発生するメカニズムはよく理解できなかったからしょうがないさ。
要するに、何でもかんでも弱点が一目でわかって、そこを俺のスタンドで触れれば真っ二つになって、斬った場所からボロボロ崩れてなくなっていくってこと」
「それって、かなりすごい能力なんじゃない?」
「……だったらよかったんだけど、実際はそうでもない。
まず、線を切断できるのは俺のスタンドだけなのに、線を視るのは俺の目。
能力自体は本体の眼球に集約されて、スタンドヴィジョンは添え物の道具に過ぎないから、かえって使い勝手が悪いよ。
『空の境界』読んだ時に思ったもんだ、こいつみたいに切断する道具を選ばずに済めば楽なのに、ってね」
594
:
◆U4eKfayJzA
:2011/09/18(日) 19:50:00 ID:S/YV2GZY0
どういう風に使い勝手がよくないのか、よくわからない。後で“突き秘め”や“唐の教会”とかいうものを借りてみよう、と査良は思う。
それにしても、“唐の教会”ってどういう話なのだろう。ネストリウス派キリスト教の中国伝来と、物事の死を視ることがどんな風に関わっていくのか、全く見当もつかない。
彼女のちょっとした思い違いなど知る由もなく、了意は説明を続ける。
もし、査良が“つきひめ”、“からのきょうかい”という単語にどのような漢字を当てていたかを彼が知ったら、笑いすぎてこれ以上話すことなどできなかっただろう。
「後、それ以上に問題なのは、ゲームの『直死の魔眼』とほぼ欠点が同じこと。
視えてようが、動き回る敵の線を斬れるかは、スタンドと俺のスペック次第だし、そもそも『死の線』視るのは体にすっげー悪い。
本来理解できるはずもないモノを強引に捉えるわけだから、脳に相当負担がかかるんだと。
ほんの一瞬発現させる分にはそんなに困らないけど、あんまり使いすぎたらぶっ倒れそうになる。今日みたいにな」
自嘲の笑い、彼は自分の能力をあまり好んではいなかった。
確かに理論上は強力な能力なのだが、それ以上に欠点が多すぎるのである。も
っと汎用性に優れた能力であればまだしも、弱点と負担が明確にありすぎては、不便なことこの上ない。
それに、この能力を生まれつき持っていたからこそ、財団での訓練や荒事と関わる羽目になったのである。
既に、片手の指では利かないほどのスタンド使いの命を奪っている。このような日々を、了意は嫌悪していた。
「ともかく、こんな能力はない方がマシさ」
「けど……、了意くんがそういう力を持っていなかったら、私は今頃死んでた。
ううん、生きていても死ぬつもりでいたままだった。
こんなこと言うと、嫌な気分になるかもしれないけど、私は了意くんがそのスタンドを持っていたことに感謝したいの」
査良の嘘偽りない感謝の念に、了意は戸惑いを感じる。思えば、この感覚は二度目だ。ぬいぐるみを取ってあげた時が最初だ。
あのころは、能力を活かすために財団で徹底的に仕込まれる訓練に耐えかねていた。
『死』を身近とする能力を持つ幼児が、苛烈な日々を過ごせば人格形成に悪影響が発生しないはずがない。幼い彼は、死を考えるほどの絶望の中で生きていた。
そんな生活が続いていれば、彼はきっと精神に異常を抱えた人間に育っていたことだろう。破滅の未来から救ってくれたのが、彼女の一度目の純粋な感謝であった。
一度目は彼の人生を変えた、ならば二度目はどのような影響を与えてくれるだろうか。その答えは、財団の職員がもたらした。
「大変だ、了意君! 君のお父さんが……」
慌てふためいて現れた職員。彼の言葉に了意は、オウムの口真似みたいに相手の発言を反芻した。それ以外のことができないほどに呆然としていた。
「親父が……死んだ、だって?」
595
:
◆U4eKfayJzA
:2011/09/18(日) 19:52:55 ID:S/YV2GZY0
**
突き出される拳の一撃。
近距離パワー型のスタンド並みの威力のそれは、されど技巧の欠片もない無駄だらけの大ぶりな動き。
しかも、『ロッキー・マウンテン・ウェイ』が最小限の動きで弾いても、懲りずに同じ軌道で拳を繰り出してくる。
(このパワーと単純さ、遠隔自動操縦のスタンドか。
なるほど、“『石仮面』の強奪犯を探知して、殺害する”だけの単純な行動ならば、現在位置を自動的に探索できる遠隔自動操縦型のスタンドで十分だからなぁ。
そういや、『パッショーネ』の暗殺チームにも昔そういうやつがいたらしいな)
人一人通らない夜道で突如襲撃してきた敵を片手であしらいつつ、チェーザレは冷静に敵を分析する。
彼のスタンドは、スタンドを倒すよりも実体のあるものを破壊することに特化した能力であり、倒したところで本体に影響のないこの手のスタンドを相手にするには分が悪い。
「とはいえ、今回ばかりは話が別なんだよなぁ。ククク」
薄ら笑いを浮かべ、彼は懐に手を入れる。そこから取り出したものは、追手が奪い返そうとしている『石仮面』。
彼は、失われることが許されないはずのそれを無造作に掴み、敵のスタンドの前へとかざす。
遠隔自動操縦型のスタンドは、基本的に本体が管理下に置くことは出来ない。そして、何らかの事情があって与えた任務を途中で停止する必要が出来た場合、本体がわざわざスタンドに接近して回収しなければならなくなる。
かつて杜王町に存在していた連続殺人犯『吉良吉影』は、自身の持つスタンドの一部『シアーハートアタック』を捕えられたことで苦境に陥ったことがある。それは、この特性によるものであった。
そして、今回もそれが当てはまる。『吸血鬼』と化した少女の治療法を探る上で、『石仮面』の回収は不可欠と言っていいが、遠隔操作型のスタンドならばともかく、遠隔自動操縦型のスタンドでは必ず回収できるとは限らない。
単に「犯人の殺害」を命令されているだけならば、『石仮面』を巻き添えにする前に本体が能力を回収しなくてはならない。
そして、「『石仮面』の回収」を目的とするのならば、目の前に回収対象が表れれば攻撃を後回しにする。その隙に倒さずに無力化し、身を隠してしまえば、追手である本体が追跡するにはもう一度スタンドを発現しなくてはならず、否応なしに回収に現れなくてはならない。
どちらにせよ、どこかにいるはずの本体をあぶりだすには格好の手段であった。
「ほぅら、出てこいよ。『石仮面』はここだぜ?」
胸の前に突き出された『石仮面』、そこへとスタンドの拳が伸びていき……、
「やめろ、『ニトロ』!」
ガン、という音が鳴り、仮面に触れるか触れないかのところで拳がフッとかき消える。
叫んだのは、一人の男であった。道端の板塀を殴りつけたらしく、拳からは血が滴っている。
596
:
◆U4eKfayJzA
:2011/09/18(日) 19:55:13 ID:S/YV2GZY0
「くそ野郎が……。咄嗟に『怒りを発散』出来なかったら仮面を破壊するところだっただろうが」
荒い息をついている男、その様にチェーザレは、
(どうやら、スタンドの行動目的は前者だったみたいだな。おぉ、怖い怖い)
小馬鹿にした表情を浮かべて挑発する。彼の顔つきに気づいたのか、男は地面にペッと唾を吐きかける。
「勘違いするんじゃねェ。俺はあくまでも猟犬の役割だ。お前を仕留めるのは部下たちの仕事だ。気が付いてなかったのか? 『ニトロ』がお前を襲っている間に、周囲が完全に囲まれていたのを」
男の言葉を合図に、物陰から一人、また一人と財団のスタンド使いが表れる。いつの間にか、チェーザレはありの這い出る隙間もないほどの包囲を受けていた。
「夜食食う間際に追撃命令出されるとはなぁ。折角のパインサラダと特大のサーロイン・ミディアムステーキが台無しだぜ、クソッタレ。行くぞ、『ジャスト・ミスト・ザ・トレイン』!」
「この任務が終わったら休みでも取って滑走三昧したいもんだぜ。この『シティ・エスケープ』でな!」
「明日は婚姻届出しに行くって時に……。とっとと終わらせるぞ、『ラザロ』」
「こんなひ弱そうなやつ相手にお前らが出るまでもない、俺一人で十分だな。そう、俺の『ヤンキー・グレイ』だけで……」
「出勤前に誰も触れてないのに大事な皿が落ちて割れちまってな、悪いがこの『バックストリート・ボーイズ』のサンドバックになってもらう!」
「ここに来る前、事務所で飲んだココアの紙コップがフルハウス柄だった。今夜はついてる予感がするね、『フェイド・アウェイ』!」
「俺に任せてお前たちは先に帰れよ。なあに、俺の『テイキング・オフ』がいれば楽なもんさ」
「おいおい、それは俺のセリフだぜ。それより、隊長。俺一人でこいつを殺してしまってもかまわんのだろう? 『ディーパー・アンド・ディーパー』は無敵なんだから」
「これが終わったらアツアツのピッツァを夜食に食いてえ! ナラの木の薪で焼いた本物のマルガリータだ! ボルチーニ茸ものっけてもらおう! だから、とっとと終わらせなきゃな、この『ミッドナイト・クラクション・ベイビー』で!」
「ところで、私の声は桑島法子に似ているそうよ。去年のガンダムでは散々な役柄だったから、からかわれたこともあるけど、そいつらはみんなこの『ゴーストシップ・ウィズ・デアデッケン』でのしてやったのよ。あなたは、その程度じゃ済ませないけどねぇ!」
「実は、ピアノが趣味なんだ。ま、どうでもいいことなんだけどね。行くよ、『トレジャー・チェンジ・ツール』」
「我が能力、見切ることは不可能。なぜなら、受けた者は必ず死ぬからだ。なあ、『クロード・レインズ』よ」
「なあ、お前スティーブン・セガールに似てるな。けど、いくらクリソツでも、セガール拳でもなきゃ俺には勝てないぜ。なんせ、この『エグゾリウス』を防ぐ術はないからな」
「『シンプル・トークン』は既に能力を発動している……。こっちはこれだけいて、お前はたったの一人だ。生き延びる可能性はゼロだ!」
「さっき仲間に過去を話した。この『クイック・サンド』で敵を必ず倒してきた過去をだ!」
「「「我ら、スピードワゴン財団実働部の精鋭、『Ultimate Union隊』。通称『U2隊』! さあ、『石仮面』を返してもらうぞ!!!」」」
スタンド使いたちの声はくぐもっていた。
それもそのはず、彼らは毒ガスにでも対処するかのようにマスクと酸素ボンベを身に着けていたからだ。
597
:
◆U4eKfayJzA
:2011/09/18(日) 19:57:59 ID:S/YV2GZY0
「石仮面を奪われた時の犠牲者と、羽生さんちの嬢ちゃんの件でてめぇの能力は既に研究済みだ。
『周囲を高山並みの気圧にする』、その程度の能力なら酸素マスクを装備すれば防げる。チェックメイトってやつだ、命が惜しけりゃ投降しな」
鉄桶の如き包囲網、そして敵の防備は万全。一見詰みに見えるこの状況下で、チェーザレの口から奇妙な声が洩れる。
了意の父には、はじめそれが泣き声に聞こえた。だが、それは違った。彼が洩らしたのは抑え気味の笑い声であった。
「何がおかしい!」
「いや、その程度の装備をしただけで勝ったつもりになるのがおかしくてな。
なるほど、確かに俺のスタンドは、『周囲の気候を高山と同じ状態にする』能力、要するに気圧を下げることだ。
そこは正しい理解だ。だが、それじゃあまだ不十分だ。
ところで、てめぇらは知ってるか? 風は気圧の高いところから低いところに吹き、その差が大きければ大きいほど強い風になるってことを。
気圧が地上の十分の一にまで下がれば、人間の体温程度で血液が沸騰することを。
そして、百分の一くらいにまで下がれば、グロー放電を起こす条件が整うってことを! 『ロッキー・マウンテン・ウェイ バーンストーム』!」
パチン、と指を鳴らし、チェーザレが能力を発現させる。そして、地獄が具現する。
岩塊をも押し潰すほどの勢いで吹き荒れる暴風、花火のように飛び散る雷光、そして為す術なく血液を一瞬にして煮え尽くされるSPW財団の職員たち。
『ロッキー・マウンテン・ウェイ』が能力を解除したころには、付近の建造物は無残に崩れ落ち、瓦礫の中には男女の区別もつかないほどに黒焦げとなり、押し潰された屍骸が点々と転がっていた。
「ククク……、だから言ったろう? 『まだ理解が不十分だ』ってな。
まあ、ざっとこんなもんだ。俺の能力に敵うのはウチのボスか、あるいは『パッショーネ』の若き主くらいのものだろうよ。ハハハ!」
想像を絶する惨状の中、一人笑い続けるチェーザレ。その足元に一本の銀の絲が伸びてくる。そして、靴の尖端に触れては離れ、また触れていく。
「なんだ、こりゃ……。ちっ、波紋使いどもめ、口ほどにもないやつらだぜ」
ワイヤーの弱弱しい動き。それは、モールス信号であった。トン、トン、という短い振動、そして靴先を軽くこする長い動き。その意味は
“吸血鬼、始末、失敗。波紋、通じない、スタンド、発現。護衛、一人、切断、能力、不明。全滅。無念”
途切れ途切れの単語を残し、銀のワイヤーはチリと化して消えていく。
派遣した暗殺者が全員死亡した。この事態を受けたチェーザレはもう笑っていなかった。
笑っているなどというどころではない、オーガズムに達したアヘ顔そのものの、まさにイカレた表情であった。
漏らしでもしたのか、ズボンの股間からじっとりとイカ臭いシミが広がっている。
「ここまで面白くなるとはな……、やはりあの時殺さなくて正解だった。なら、もっと面白くしねぇと間違いってもんだなぁ」
口の端から涎を垂らした、麻薬中毒者さながらの顔つきで彼は片手をかざす。
小指のないその手に、チェーザレは懐から抜き出したナイフを寄せていき、第一関節からプツリ、と切断した。
そして、傷口を崩れかけの壁に近づけ、何やら書き記して去っていく。切り落とした薬指を地面に転がしたままで。
ところで、彼の足にはもう指が一本も存在しない。
続く
598
:
◆U4eKfayJzA
:2011/09/18(日) 20:09:24 ID:S/YV2GZY0
今回はこれにて終了です。U2の「いつの間にか死亡」してた面々があまりにも不憫だったので、明らかに本体設定が合わないオリスタ以外には真っ当な死に場所を用意してみましたw
今回の下準備で一番大変だったのは、彼らに乱立させる死亡フラグでした。おかげでCV.桑島法子だのセガールを敵に回すだのやらかすことになってもう大変。
今回使用したスタンド
U2で「いつの間にか」死亡していた面々
考案者・絵:U2をご参照ください
今回使用した死亡フラグ
・パインサラダ
・ステーキ
・これが終わったら○○するんだ
・明日は結婚式
・○○様が出る必要などございませんよ
・皿が割れる
・紙コップの柄がフルハウス(*ターミネーター2より)
・俺に任せて先に行け
・別に倒してしまっても構わんのだろう?
・ナランチャの最後のセリフ
・死亡フラグ声優が中の人
・理由もないのに突然趣味を語る
・ソウルスティール(*ロマサガ2)
・セガールを敵に回す
・数の論理を持ち出す
・突然自分の過去を語りだす
・U2で死んでる
・インハリで一人の敵に多数でかかる
599
:
名無しのスタンド使い
:2011/09/19(月) 21:31:32 ID:r7CZc6fo0
これで大量殺人高校生ことU2に「いつの間にか」殺された私の案も成仏できます^p^
600
:
◆U4eKfayJzA
:2011/09/19(月) 23:27:17 ID:/FU4lVkI0
>>599
どの案の案師さんかはわかりませんが、ぶっちゃけたところ全員まとめて瞬殺されたので個々の殺害シーンがないのは一緒なんですけどねw
高山病+暴風+血液沸騰+電撃(ただし、最後のみ何らかの小道具を使用。彼のスタンドでは放電できる環境までしか作れません)を同時に出されちゃぁ、強力なスタンドが何体いても無理ゲーですわ。
601
:
◆U4eKfayJzA
:2011/12/31(土) 18:18:18 ID:1XXn7Rq.0
別スレでも書いた通り、自分の投稿作品は今回で打ち切ることとなりました。
そうなった理由としては、以前の件へのケジメや不満もありますが、それに加えて卒論に打ち込んだあまりに、これらの作品を書くだけの活力が失われたことが大きいと言えます。
19日に卒論を提出してから、単なる余技のギャグ作品でさえ本日に至るまで書ききれなかったというのに、自分にとってより重要な存在である殺陣を書くことなどこれから先に出来るとは思えません。
書きたいという熱意が持てなくなった作品は自分にとってはもはや死んだも同然であり、死んだ作品は打ち切り宣言を以てして埋葬するのがせめてもの礼儀というものだと考えます。
書けない作品を残すことは自身にとっても苦痛であり、それ以上にそれまで書いたことへの冒涜でしかない訳です。
「いや、エタればいいだろ」、という突っ込みはあるでしょうが、それについては、エターをさんざん批判した人間が自らもエタるのは許されることじゃない、と答えることになります。一遍言ったことは取り消せませんし、取り消すつもりもありません。発言は責任を持って押し通すのが、言葉への敬意です。
しかしながら、書くはずだった残りの話のプロットを載せることで、行うはずだった更新へのせめてもの代わりといたします。後は読者の方々の想像で補っていただくしかありません、ご迷惑を深くお詫びいたします。
それでは、乙1様と読者の皆様、オリスタのネタも尽き、作品も書けなくなった以上、私が今後現れることはないでしょうが、今までお世話になりました。これからの皆々様のご多幸をお祈りいたします。明年がオリスタWIKIにとって良いお年となりますように。
602
:
◆U4eKfayJzA
:2011/12/31(土) 18:19:06 ID:1XXn7Rq.0
最終話プロット
・夜更けの港、組織からの迎えを待つチェーザレ。停泊中のタンカーから現れたのはボス。ボス、石仮面を受け取る。
・チェーザレとボスの問答。「『石仮面』を求める理由は何か? 世界を制するため」
「なぜ世界を制するのか?」
「自分の望んだ物が自分の望んだ時に望む場所にある。そのような世界を支配することこそが我が心に『安心』をもたらす」、自身を中心とした秩序の構築を求めるボスに対し、「危難に愛欲し、不安に満ちた『混沌』に依存するチェーザレは反発を覚える。
ボスは言う、「私がお前をこの任務に従事させたのは単にその反発故だ。お前は確かに強い、だが私とは思考に最も隔たりのある部下。私を倒すことは永遠に為しえないにせよ、危険を冒すのは愚か。ならば捨て駒にするにしかず」
「要するにこういうことだ、勝手に死ね。貴様は既に財団に売約済みだ」
・タンカーへと戻っていくボス、船上には組織の名だたるスタンド使いがズラリと並ぶ。チェーザレには追えない。
・突如響くプロペラの音、乱射されるマシンガンに赤い尾を引いて射出されるRPG。タンカー大爆発。テロの仮面をかぶり、ヘリと歩兵の二種の兵で攻撃を仕掛けるスピードワゴン財団特殊部隊。「非常識の世界に科学技術が劣ると思うな。石仮面の流出を防ぐためならばどんな手でも使うまで」、炎に包まれながらも応戦するスタンド使いと最新の兵器で渡り合う財団職員。
・了意と差良登場、チェーザレと最終決戦。暴風と雷撃を駆使するチェーザレには、個々の攻撃を無効化できる差良が主に立ち向かい、了意は射程範囲ギリギリから切断したコンクリ片を飛ばすなどしてアシスト。
・戦闘の最中流れ弾として飛来するRPG。チェーザレ、スタンドを旋回させて上空へとロケットを受け流し、ヘリを撃墜。差良を下敷きにする。能力による真空空間故に火は消えているが、ヘリの残骸が体を串刺しにしていては吸血鬼であろうと身動きが取れない。
・チェーザレの能力に対抗できない了意、追い詰められる。もがき苦しむ差良。
・「助けなきゃならない彼女をこれ以上苦しませるのか?」絶体絶命の危機に了意、スタンドが成長。両目が焼き切れそうな激痛の中、見えた線に手刀を走らせる。
・暴風が止む、雷が消える。形のないものさえ「殺す」力へと進化した『デッドライン』。
両目からとめどなく血涙を流しながら突進した了意の攻撃は、『ロッキー・マウンテンウェイ』の表面を掠る。
・突然了意の視界が暗闇に包まれる、限界を超えて酷使した能力のために視神経が死滅、盲目になる。一方、チェーザレは能力の運用が不可能に。能力自体を「殺された」。
・目が見えなくなることで能力を使用できなくなったスタンドと、能力を失ったスタンドの一騎打ち。音を立てないよう極限までスタンドの動きを遅くして攻撃するチェーザレに、周囲での爆音で相手の動く音を聞き取れない了意は差良の指示に従って対応。互角の勝負にいら立つチェーザレは、スタンドのパワーを以て蹴った石で差良の目に傷をつける。彼女をこれ以上傷つけられるのを恐れ、了意は防戦一方。どこから攻撃が来るのかも水際まで追い詰められる。とどめの一撃が心臓を貫こうとする瞬間。
・日の出、海面に反射した光がチェーザレの目を射る。怯んだ彼の動きが僅かにズレ、スタンドの拳は了意の心臓ではなく肺を貫く。しかし、これで相手のスタンドがどこにいるのかは判明した。『デッドライン』の手刀が『ロッキー・マウンテン・ウェイ』を腰斬、決着。
・重傷を負った了意、昏倒の間際に能力が進化した際に視界の隅に見えたものを思い出す。差良の「死の線」ではないもう一つの「死の線」、吸血鬼としての状況だけを殺す線。
・財団職員「これで『石仮面』は海の藻屑、取り戻せなかったのは残念だが奪われるよりはマシ」
・遥か海上。ボス、時の流れの外から含み笑い。爆破沈没したタンカーの陰で『石仮面』の奪取に成功されていたとは財団でも気づくはずがないだろう。本編へ続く。
エピローグ
DFさんを探して情報交換中のHWメンバー、亜希「週末は結婚式に出るから手伝えない」
萌「お姉さまの結婚式など認めません!」、カズハはトリップ。
亜希「従兄の結婚式! 花嫁の介添え!」
騒ぐ彼らを描いてEND
最後に、苦情は全て当スレでお願いします。もう十分に迷惑かけた以上、他のスレでまで迷惑かけたいとは思いませんので。
603
:
名無しのスタンド使い
:2012/01/02(月) 19:22:17 ID:c3pLD1/w0
打ち切りは諦めがつく。でもせめてプロットは乗せないでほしかったよ
続きを自由に想像する余地すら与えてくれないとは
今更もう言っても仕方ないけど。
過ぎたことは過ぎたことだ。起こってしまったことは仕方ない。
そう開き直れるくらいの図々しさがあってもよかったよ。
あなたは繊細で真面目すぎたな。残念です。
これまでお疲れ様でした。またどこかでお会いできることを願います。
604
:
◆70nl7yDs1.
:2012/01/05(木) 21:53:09 ID:jha192bw0
インハリ先生・・・長きにわたるオリスタでの執筆活動お疲れ様でした
SSを連載してた頃に頂いたコメントにはいつも励まされ勇気づけられていました
黎明期からオリスタを盛り上げてくれた先生には感謝してもし尽くせません
本当に色々なことがあったけど・・・全てひっくるめて楽しかったです
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