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【日常γ】異能都市ストライク!【その12】

1名も無き異能都市住民:2013/06/02(日) 15:23:50 ID:3Z2n9vI20
≪ルールとか≫
・基本age進行で
・コテもコテ無しもどんどん来い
・レスの最初に自分のいる場所を明記してくれるとやりやすいです
・イベントを起こしたい場合は空いているイベントスレをお使い下さい
・多人数へのレスは可能な限り纏めて行うようにしましょう
・無意味な連投・一行投稿はできるだけ控えるよう心がけてください
・戦闘可能ですが、長引く場合や大規模戦闘に発展した場合はイベントスレへ移動してください
・戦闘が起きた場合、戦闘に参加したくない人を無理に巻き込むことはやめましょう
・次スレは>>950を踏んだ人にお願いします

前スレ
【日常γ】ゆく梅雨来る夏【その11】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12841/1341056186/

979アーリル:2019/06/15(土) 03:34:32 ID:ORmT3UkU0
>>978
「毎日の様に訓練しますし、刃を潰しているとは言え、本物を扱うわけですから怖くはありませんものね
 “矛”というより“民草の為の盾”と為れる様、精進致します。せっかく騎士の先輩からの貴重なお話を聞けたのです。」

光栄ですわ。と少女はコロコロとした笑みを浮かべた。
先の戦いを思い出す限り、あまり熱くなることは無い、というより、押さえ込んでいたという方が正しいのだろう。
やはり、騎士は心の何処かで“熱いもの”を持っているのだと確信した少女だった。

「私とて、一応“年頃の女の子”なのですよ。ですので鏡を携帯していても何も可笑しくは無いでしょう?
 むしろ無い方が不自然というものです。それから鏡に付与するモノですが、金貨の幻を見せるというのは如何でしょうか?」

中空で踊り続ける火のカップルを消し、少女は色味の違う赤色の瞳でクレイグを見た。
食後だとか、そんな時。見目を整えるだとか、鏡を携帯する理由など、枚挙に暇がない。
これでも結構手が掛かっているんです。なんて笑いながら自分の青みがかったプラチナブロンドに触れ
よく見れば分かるが、ポニーテイルに少数だが三つ編みを含ませており。この少女の場合、髪が長い為その分手間も掛かっている。
……今は生活魔法で面倒は極力排除しているが。

980クレイグ:2019/06/29(土) 17:22:41 ID:0xZnqLqk0
>>979

「先輩風を吹かせるにはまだ未熟な身だけれどね、それでも、こんな考えで行動している人も居るんだと知ってくれたなら良かったよ」

最終的にアーリルの生き方や在り方は彼女にしか決められない、だから自分の意見を押し付けようとは思わない。
けれど、自分の決めた生き方や在り方を聞いて、少しでも彼女の視野が広がり、いつか彼女が道を選ぶ手助けになれたのなら、それは嬉しい事だと心から思う。

「そうだね、女の子なら持っていて当たり前か……」

彼女の年齢と容姿なら化粧が無くとも見栄えは決して悪くないだろう、寧ろ素材の良さだけでどうにでもやっていけると思う。
けれど、彼女はどう見てもそれなりの身分にある人間だ、会食等で他人と関わらなければならない機会は幾らでも有るだろうし、その時に衣装の汚れや化粧の崩れが有れば、本人の品格と両親の教育が疑われるのは目に見えている。
その年齢なら大体の子が持っているが、尚更彼女なら持っていない訳が無いだろう。

「良いと思うよ、大体の文化で金は価値の有るものだろうし、使える場面は多いと思う」
「金に価値を見出ださない人もいるかもしれないけれど、それは宝石も同じことだからね」

戦闘の最中にそこまで意識する事はなかったが、こうして言われればかなり手の込んだ髪型をしている。
礼節や品格が大事なのは男女共通かもしれないが、それを保つ手間は男女で大きく異なるのを解りやすく実感出来る光景だった。

「髪型もそうだけれど、髪そのものの管理もまた一手間掛かりそうだね……その長さだと、魔術で手間を省いても綺麗に洗うのにそこそこ時間が掛かりそうだ」

981アーリル:2019/06/29(土) 20:55:32 ID:ORmT3UkU0
>>980
確かに少女の見目は麗しいといえるだろう。政治的にも見目が良いと得することも多い。
白磁の肌に色味の違う両目の赤い瞳。柔らかで艶やかな青みがかったプラチナブロンド。人好きのする柔らかな目元。
姉の涼やかな目元と比べると、どうも綺麗より可愛い系統の顔立ちと思わせるには簡単で。
だが、メイドに簡単に化粧を施されれば、また少し変わるのだが。

「シュメントさんのお墨付きも頂けたことですし、鏡を利用するように考えてみますね。」

少女はおおよそ12才程度の年齢だ。自分の生き方や在り方を未だ決められないし、将来すらも決めかねている。ただ、何時までも一介の騎士でいれるとは思ってはいない。
少女の親族にしても、急いで将来を決めようとすることも反対されており、色々な経験を積むことが大事だと教わってきた。
だからといって騎士であることも放り出す積もりは無く。だからこそ、少女は少女の年頃特有のことに色々と悩ませられており。
いずれ騎士を辞めなければならなくとも、辞めるまでは騎士だ。その意識を保ち続けるし、清廉でいようとも考えており。

「色々とお教え頂いたお礼です。こんな魔術は如何ですか?」

少女は自身の髪に手を触れれば、一瞬でサイドテールに髪型を変更して見せた。更には青みがかったプラチナブロンドを下ろすだけにしてみたり。
その瞬間瞬間に様々な髪型に変えて見せた。これが少女の“生活魔術”と呼べるもので、彼女の一族はもちろん、軍属の者にも教えられている魔術だ。
髪の手入れや髪型の変更、早着替えだとか。極めた人は手の先にあるものすら引き寄せると言う。

「その内、伸ばした髪は切るつもりではありますが、やはり手は掛かりますよ。美しく艶やかな髪を維持するには相応の手間が必要不可欠です。手入れを怠れば直ぐに分かるものですから。
 艶であったり、髪の光沢をより良くするためにと手入れは大変ですが、しっかりと手入れをすれば清潔感にも繋がりますから。」

毎日の手入れで毎日一時間以上を費やす少女は、時々男性の短い髪が羨ましいと思うことがある。
クレイグが髪の手入れにどの程度手間を掛けているか分からないが、少女ほどの手間暇は掛かっていないだろうと思うのは簡単だった。
どうも、男性というのは髪の手入れには頓着しないという印象も手伝い、

982アーリル:2019/06/29(土) 21:29:11 ID:ORmT3UkU0
>>981
//最後の行に追記です
頓着しない印象も手伝い、もう少し髪を気にするともっといい男になるのではという思いから提案した。この魔術を習得すると髪型は自由自在だし好きな髪型に固定出来たりといつたことも可能だからだ。

983クレイグ:2019/06/29(土) 22:13:39 ID:rlkxsJrg0
>>981

「うん、個人の意見になるけれど鏡を使って映像を投影するのは色々と応用が効いて良いと思うよ、写すものを変えれば別の使い方も出来るだろうし」

鏡で幻影を投影する――やっている事そのものは解りやすいが、それは効果が無いという意味ではない。
寧ろ、単純であるからこそ、まだまだ使い手の知恵と腕前で幾らでも進化する、敵からすれば厄介な魔術だと感じる。

「身支度を整えられる術……うん、正直凄く興味があるな、時間を掛けずにそういう事が出来るのは凄く魅力的だ」
「ただ、気持ちとしては此方こそ礼を言いたいくらいだけれどね、術を会得したつもりでいたけれど、色々な意見を聞いて改善したいところが見付かった」

どんな時でも咄嗟に身支度を整えられるというのは便利だと心から思う、騎士である以上、市民に不安を抱かせない程度には見た目は整えておきたい。
夜間の緊急出撃だろうと、別件で出動し帰還した直後だろうと、情けない姿で人を不安にさせずにいられるというのはありがたいと思う。

「男の短い髪でも少し放置すれば痛むし不潔になっているのが簡単に解るくらいだからね……幸い、十分もせずに綺麗になるし、手間と感じた事は……うん、君を前にして言うのもなんだけれど、それでも時々あるなあ」

髪を洗うのも、寝癖がついた髪型を綺麗に整え直すのもそんなに手間が掛かるものではない、けれど、それでも煩わしく感じる事は時々有る。
ならば、少女の抱える手間はどれ程のものなのか、正直想像が難しかった。

984アーリル:2019/06/29(土) 23:15:38 ID:ORmT3UkU0
>>983
結果的に人の眼を一瞬でも引ければ良い。言葉にしてみるのは非常に簡単だ。
だがその手段としては多くの選択肢があるだけに状況に合わせて取捨選択するという閃きと経験も必要になってくる。
騎士としての経験が浅い少女にとっては、中々に選択肢を選ぶのは難しく。

「状況に合わせた映像を投影するのは、選択肢が多くありますし、犯人の目を引けるものとなれば……姉様に相談してみます。」

少女の姉。
参考資料を見ることがあるにしても魔術礼装を自身の手で作り上げる手腕を持つ。
ある意味で“作り上げる”ことが好きなのだろう、そんな人物にいつでも相談できるという環境は少女にとっては素晴らしいもので。
難しいことは姉様にお任せ。そんなことが少女の中では当たり前になっていた。

少女は指先で自身の髪に触れた。
すると髪はゆっくりと巻かれ、ウォーターフォールに変わる。もう一度触れれば、肩辺りからのお下げに変わり。

「髪の身嗜みが中心ですが、慣れればドレスのチャックを上げたり早着替えが出来るんです。おそらくシュメントさんがドレスを着る機会は無いでしょうが
 髪を整える時間が…中々取りづらいですから。…精霊さんに伝えれば早いのでしょうが、ご自身で覚えられる方が楽しめるでしょう。」
「魔力の消費も少ないですから一日に何度使っても問題ありませんよ。民草の前に出るのです。相応の格好で無ければ示しがつきませんからね。」

男性の短い髪でも整えるのが煩わしく感じるのなら、少女はどうだろうか。
髪の長さはもちろん、少女が圧倒するだろう。朝の寝癖を直すだけで平均30分は取られるのだ。幸いに柔らかい髪質だからこの程度の時間で済んでいるが
髪質が固ければ、入浴が必要になる可能性もあり、30分程度では済まない。
クレイグがこの魔術に大きく興味を示すのならば、少女は指先で宙に文字を描き、炎の形で以て術式を晒すだろう。
それは見れば、数式のようでもあり、魔術式でもある。ただ、文字はこの世界の共通の文字では無いことは確かであった。
この術式を描いたのは“視覚的により分かり易くする為”であり、自身の中で少々矛盾が発生しても適宜修正するものがベースとなっている。
こう見れば、精霊が扱うようなものでは無いといえるかもしれないが、かといって人が扱うには雑過ぎる“きらい”もある。
そもそものベースである基本式が基礎レベルのもので、其処から更に追求するならば、より深い研究と実践が必要となる、一部には心擽られるものとなっている。

985クレイグ:2019/07/13(土) 23:49:01 ID:SkfemWbw0
>>984

「それが良いと思うよ、複数人で考えれば一人よりも良い案は思い浮かびやすいだろうし」

家族の助力を得るのは別に恥ずかしいことでも何でもない、姉に相談や協力を行うというのも、依頼できるだけの関係を築き上げているのなら、それは彼女の努力の結果だ。
ただし、完全な依存は良くない、どんな人間にも自立の時はくる、ましてや彼女のような立場では人より早くその時は訪れるのだろう、だからこそ、その依存を絶たねばならないが……残念な事にまだ初対面の自分にそれをする資格も権利もない。
だから、出来るのはこのように自然な形で“依存”を“協存”に変えるような誘導を行う事くらいで。

「……ああ、確かに女性用のドレスは背中側とかにチャックが有るのかな、それを一人で出来るのはかなり大きいんだろうね」
「どんな時にも安心感を与えられるように、人前では格好は整えたいからね、ありがたいよ」

炎で描かれた術式を目で追い、要点の把握に努める。
完全に模倣できずとも、幸いなことに此方は身支度が容易な男性の身、簡略化して自分に合う形に変えそれから改善や発展に努めれば良いだろう、という考えだ。

986アーリル:2019/07/14(日) 10:57:19 ID:ORmT3UkU0
>>985
「むしろ私より姉様の方が色々と組み上げると思いますよ。“こういうこと”が好きな人ですから。」
「(あああー!!少しは女の子らしくしていれば苦労していなかったのかもしれません。鏡しか思い浮かばないって…私の女子力…低すぎ!?)」

アーリルとアイリスの関係は、アーリルが幼い頃から続いていた。
まだ首が据わらない頃からの縁で生まれたばかりのアーリルを良く抱っこしたり寝かしつけたりといった、父母が行う様なことをアイリスが行っていたからだ。
本来なら乳母やメイドの役目ではあるが、一番下の子であるアイリスにとって、自分より幼い子というのは大層可愛く映ったのだろう。
アーリルの父母の“事情”もあるが、一つのエピソードとして、幼いアーリルの顔を見に行くとアイリスの指先をアーリルが握ったということがあった。だからアイリスはアーリルを守ろうと思った。
些細なことではあるが、自分より下の子を守ろうとする姿勢はアーリルによりもたらされた。
だが、今はアイリスは想像以上に逞しく育ったアーリルに対し、一歩遠くから見守るスタンスを取ろうとしていた。
奇しくもクレイグが危惧していた点はアイリスも想像しており、少しずつ自分だけで頑張っていける様にしようとしていたが、甘えに来たら甘やかすというところは駄目なところだというのは明白だ。

「この術式のポイントはここです。簡単に言えば、肉体強化の応用なんです。本当に大事な点は最初から中盤にまで集中していますので、最初から中盤にかけて見ていきましょう。」
 この術式は大きく分けて、四つの行程により成り立ちます。まず『髪を走査』し『スタイリング』をして『変更する髪型』を選んで『整髪』します。」

指し棒代わりに引き抜いた腰のレイピアは展開された炎の術式の先頭部分を指し示し、そのまま切っ先はスライドしていき、中盤の辺りで一度止まると、もう一度最初に戻って。
この炎の術式が示すのは非常に簡単なことだった。順序としては『走査』『スタイリング』『変更』『整髪』という順で行われている。
最初の術式をレイピアの切っ先で円を描く様に回し、この術式の難しいところは髪の状態の走査だというところであるというのは十分に伝わるだろう。
髪の状態の精度が上がれば上がるほど、後の行程に大きく影響を与える。短い髪なら尚更、精度が求められる。長い髪なら纏めてしまえば誤魔化しは効くが、短い髪はそうはいかない。

987クレイグ:2019/07/30(火) 22:35:29 ID:SkfemWbw0
>>986
「得手不得手は誰にでも有ると思うし、姉の方が上手く出来ると言うならその通りなんだろうね」
「けれど、閃きはまた別の話だと思うよ、武術と精霊術の合間に覚えた付け焼き刃とはいえ、この宝石の魔術の組み立てには結構な労力を使っていた、けれど、君の発案した鏡を利用した術は思い付きもしなかった」
「家族なら貸し借りも失敗も大事にはならないだろうし、折角なら一緒にやってみれば互いに知見が広がって良いんじゃないかな」

無論、君の家の正確な状況なんて知らないから間違っていたらごめんね、と最後に付け足して、少女の語る生活魔術の聞き取りに力を注ぐ。
アーリルという少女の素直さや気高さには好感を覚えるし、自立し大成……とまではいかずとも、後悔の少ない人生を過ごして欲しいと思う気持ちもある。
けれど、初対面でこれ以上踏み込むのはどう考えてもやり過ぎだろうと思うので、先の一例を元にし、アーリルが力になれる可能性を提示するだけで留めておく。

「……成る程、予め記録された整えた髪型に現状を寄せる為にも、走査による状況の正確な把握がどうしても必要になってしまうんだね」

髪を整える、と一言でいうのは簡単だが、どんな状況から整えるのかによって確かに話は大きく変わるだろう。
風呂上がりの濡れた髪を整えるのと、寝起きの寝癖だらけのぼさぼさ頭を整えるのは勝手がまるで違う、その状況を正確に認知できなければ整えるなど当然出来る訳がない。

988アーリル:2019/08/02(金) 21:28:22 ID:ORmT3UkU0
>>987
「……やっぱり、姉様には、『私一人で作りました!』とお見せしたいです。だから自分で考えて作り上げたいです。」
「姉様に頼りたいのですが、私一人でも……大きな迷惑をお掛けしているのです。私は一人でも多分大丈夫です、というところを見て欲しいんです。」

目を伏せた色目の違う赤い瞳は憂いと悲しみを帯びるが、その時、アーリルの頭には再びアイデアの煌めきが走る。
憂いと悲しみを帯びた瞳は、喜色を浮かべ。上手くいくと良いな、とへにゃりとした笑みへと変わっていった。
アーリルは姉と慕うアイリスに迷惑を掛けたと言ったが、どのような迷惑かどうかはこの場で語るべきことではない。
だが、アーリルはアイリスに伝えたいことがあった。それが、鏡を利用すれば作れる算段もついた。
手鏡というものはただ、思いついただけだ。だが、その閃きが大きな意味を持とうとしていた。

「ありがとうございます、シュメントさん。お陰で良い案が思い浮かびました。」

この少女、アーリルの家柄は非常に面倒くさい。また自身の家柄については、そのうち、気が向けば話すかもしれない。

「シュメントさんはさすがですね。あの説明で分かっていらっしゃるのですから、術式を既に作成段階にまで進めているのでは無いでしょうか。」
「もちろん走査が精確なほど、記録した髪型に近づきますので、丁寧に走査してくださいね。」

走査とはなんだろうか。自身の体、主に頭部にのみに限って行う走査は、頭髪の状態を魔力を通すことにより調べることだ。
魔力の反響と通り具合から現状の髪型を察知し、変えたい髪型を記録から読み出す。その過程で走査が精確であればあるほど、仕上がりにも大きく影響する。
その為時間を使い、修練することで、できる限りのオシャレを愉しむのが騎士の嗜みでもある。

「精確な走査をする為に、この道具で練習してみて下さい。魔力を通せば走査の感覚が分かりますので慣れるまではこちらでどうぞ。
 反復練習が大事ですので、慌てずに、ゆっくりと、ですよ。」

術式を描いた炎は、少女が取り出した特殊な紙に焼き印の如く染みこんでゆく。
それから、おもちゃの猫じゃらしに似た道具を差し出した。見た目は完全に猫じゃらしだが、糸を束ねた様な形をしている。
これは魔法の道具であり、その時によって、糸がくっついたり分かれたりするといった仕様がある。髪で走査をする前段階の走査の練習から、といったところか。
術式と練習道具をクレイグに差し出した。

「――まあ!もうこんな時間!私そろそろ戻りますね。為になるお話をお聞かせ頂きましてありがとうございました!」

ふと、目に入った時計から、現在の時刻を知ったアーリルは、クレイグに術式と練習道具を押しつける様に渡してから火の粉となり消えていった

989アーリル:2020/03/21(土) 19:35:09 ID:ORmT3UkU0
ビルが立ち並ぶ市街地を抜け、獣人等の亜人が数多く住むエリアにて。
多種多様な種族が住む異能都市の中では、比較的人口密度が高いエリアを歩く一団がいる。
アーリルだ。自身の侍従二名と共に轍を並べるのは護衛の者達だった。
フルネームはアーリル・フォン・ルズィフィールという。
青みがかったプラチナブロンド、クリーム色のニットのハイネックにミモレ丈のタータンチェックのフレアスカート。足には臑まで隠す革の黒ブーツ。
赤みがかった大きな瞳は、左右で色味が僅かに異なっており、凜とした雰囲気からも、口を開かなければ貴族の令嬢に見えなくも無い。
だが、腰のベルトから吊された魔法のレイピアが、否だと告げる様に揺れていた。
このアーリルという少女は、アイリスにとって目に入れても痛くない存在で在る為、外に出るだけでも護衛を用意するほどだ。
アイリス、アーリル両名にいえることだが、二人とも“金になる存在”である。アイリスがより幼いアーリルを心配するのは当然で。
アイリスが危惧しているのは、人攫いや研究所への売却といった『身の心配』であり、それを未然に防ぐ為の護衛である。

今回用意された護衛は、チーム名を“悠久の風”という。都市の中では新進気鋭として売り出し中のチームで、薬草採取から魔物討伐まで幅広くこなせる反面、若さ故の青い正義感が前に出るきらいのあるチームだ。
護衛というよりも、冒険者という方がしっくりくる“悠久の風”だが、このエリアでの溶け込み具合はチーム全員で食事に来たと言われても違和感をもたれないだろう。
むさ苦しい男臭さを嫌ったアイリスによるチョイスであるが、アーリル一人で簡単に全員捕縛できるレベルである。
銃器中心で、近接武器としてナイフを携える山猫族の青年、ロイド。獣人特有の敏捷性と鼻による気配察知を得意とする。
自身の背よりも高い樫の杖を掲げる白衣のローブを着るオオカミ族の少女、カリーナ。小柄で在りながらもバフデバフ、状態異常の回復と癒やしを得意とする。
全身鎧と大人三人を覆い隠す程の巨大な盾がトレードマークの巨猿族の青年ギュントー。このチームのリーダーであり、彼が所有する盾は二つに分かれる。その姿からカブト虫と呼ばれる。
最後の一人が今は此処にはいないが、なめした革の鎧と巨大なウォーハンマーを持つ火炎猫族の少女、ルーン。ロイドと交代で行き先に先回りし、斥候の役目を負わされていた。怪力と巨大なウォーハンマーより繰り出される一撃は大木を叩き割る。
アーリルを中心に、ロイドを先頭に左右にカリーナとルーンで左右を囲み、しんがりを務めるのはギュントーだ。

先のビルが建ち並ぶエリアでは背が高いビルばかりであったが、このエリアは店舗と住居が一体化した背が低い建物が数多く軒を連ねる。人族、亜人族関係無く訪れては、美味しいものを食べて顔を綻ばせるのは共通だった。
亜人族の護衛も、このエリアならば一切目立っていない。人も亜人も関係無く歩き、話し、笑う光景は平和であると言えるだろう。
屋台から引っ切りなしに聞こえる客引きの声。漂う焼き串の香り。食べ歩きをする者達で溢れていた。
そして、アーリルが侍従の一人に命じて串焼きを人数分以上に買いに走って、侍従の手から一人ずつ。食べ終われば次の者に串焼きが渡されていく。
飲み物を別の店で購入しに走った侍従を横目に武装を見せる一つの集団は悪目立ちしていた。

990ルファス:2020/03/22(日) 08:14:24 ID:Ytr0wV6I0
>>989

食事を楽しむ雑踏に紛れ、虎視眈々と目標を品定めする。
ゆったりとしたローブに身を包み、フードを目深に被った姿。
普通の市街地では不審に見える出で立ちだが、人と亜人の交わるこの場所では話が変わる。

「様々な人間が交錯するこの場所でも、特徴的過ぎる姿を持つ自分には恐れを覚えてしまうかもしれない」

そんな周囲を気遣う優しさを持った亜人が、余計な混乱を与えない為に自らの姿を敢えて隠すのはそう珍しくもない。
故にこのような格好をしていても、此処では誰も気にも止めない。

(アーリル・フォン・ルズィフィールの護衛や側近を始末し我々の脅威を見せつけろ、本人に負傷を負わせられるとなお良い、か)
(敵対するにしては詰めが甘い、嫌がらせにしては赦して貰えるラインを超えている半端な依頼だが……まあ、そこは俺の関与する所じゃない)
(それでも正式な契約に則ったものだ、後で依頼主が報復される未来は解りきっているとしても、今この瞬間はしっかりと役目を果たさせて貰う)

「あ、いい香りだな、店主さんこれ二本頼む」

店先の商品を物色し品定め、時には店主との雑談に興じ短い会話を繰り返し、時に美味しそうな商品は少し注文し食べ歩く。
そんなこの日この場所を満喫する一人の利用者の仮面を被りながら、少しずつアーリル一行との距離を背後側から詰めていく。
そして、距離を10m位にまで縮める事が出来た時、其処で初めて仮面を捨て、悪意の尖兵としての役割を果たすだろう。

何か買い忘れてしまった、そんな素振りで立ち止まりその場で急旋回。
体重の移動と身体を捻る勢いを利用し、袖口から取り出した一本の投擲用ナイフを杖を持つ狼の少女の心臓を背中側から貫かんと撃ち放つ。
これだけなら誰でも出来るただの手緩い襲撃と何ら変わり無い、が、問題はその行動の精度と威力にある。
知覚強化により最適化されたタイミングで放たれたナイフは、身体強化により得た人外の膂力を十二分に乗せられている。

結果として、飛翔するナイフの速度は素手で放たれたにも関わらず、強弓から放たれる矢の其れと並ぶ破壊力と速度を宿している。
素手での投擲にも関わらず、きぃん、とも、ひゅう、とも聞こえる風を切り裂く怪音を放つそれ。
その存在を示す音が聞こえた時には、既に"手遅れ"となるだろう。

991アーリル:2020/03/22(日) 10:30:19 ID:ORmT3UkU0
>>990
“アイツらよりも我々の方が優れている”
ギルドへの対抗心か。そんな言葉を言いたげな依頼には、自らの存在をアピールするには十分である。が、アーリル側の心境を考えていないことは明確だった。
さて、ルファスが投擲したナイフだが、巨盾に阻まれることとなる。
異音を聞きつけて反応した殿の男が盾を差し込んだ。それが偶々今回は間に合い、強弓の“矢”を阻むことに成功した。
強烈な金属音。手で投げられたものでは無い威力であるのに、防いだものは投擲用のナイフだ。
殿を務めている男は盾と共に僅かに姿勢を崩しつつも地に突き立て、叫ぶこととなる。
彼らの周囲はざわめき、アーリルは自身の侍従に一つの命令をする。命令を出せば侍従は直ぐに動き出す。

「民草を避難させないで、各自道の端に寄っておく様指示を出して。」

『敵襲! 敵襲! 我々は亀になる! 各自散開しろ! 姫君、カリーナは私の傍から離れない様に。』
『たゆとう光よ、見えざる鎧となりて 小さき命を守れ… 』
『へぇ…ウチらに喧嘩売るとか分かってんじゃん』
『……アイツ、か。気をつけろ、ルーン。手練れだ。』

杖の少女は皆の物理防御力を上げ、ウォーハンマーを持つ少女は舌舐めずりを。銃器を持つ青年はナイフと銃を携えて、分厚く大きな壁に向かう為の先導となる。
敢えて衆目を残しているのは目撃者を多く残し、自分たちを有利にするためだ。姫君との思考とも一致し、既に打ち合わせた動きだからだ。
狙われるのが自分たちであるのならば、自らたちが囮となり民草への被害を減らす。民草が後により良い証言をしてくれることを祈る。
彼らの戦いが、始まる。
さて、動き始めた少女の名はルーン。ウォーハンマーを両手に携え、周囲を警戒し始める。
とは言っても巨盾からはそうそう離れていない。周囲に目を凝らし、可笑しな処は無いか。可笑しな挙動をする者はいないか。
ギロリとした瞳、ハンマーをトントンと叩き、何時でも振り出せる様に。駆け出せるように。偏差射撃にも警戒し、不規則な動きを。
この少女の仕事は警戒と襲撃者を斃すことだ。

992ルファス:2020/03/22(日) 12:26:00 ID:Ytr0wV6I0
>>991

(白昼堂々の襲撃となれば狙いはアピール目当て、なら民間人を巻き込む事は出来ない)
(嘗めて掛かる気は元々無かったが、冷静に対処をしてくれるな)

だが、それでも不足している。
白昼に護衛を引き連れた人間へ襲撃を行う以上、多少の障害は当然此方も承知の上だ。
その上で相手を圧倒し此方の流れを作り出すにはどうすれば良いのかなど、考えていない訳がない。
だが、無駄な混乱を引き起こして戦う必要がある程の力量を護衛から"は"感じない。

ならば普通に押し切ればいいと、続けて腕をもう一閃懲りずに再度の投擲による攻撃を行う。
少なくとも、周囲の雑踏からはそう見えるだろう、しかし、実態は大きく異なる。
袖口から飛び出し手に持たれたナイフは四本、それらを渾身の一閃の最中にリリースポイントを変えて撃ち放つ四連射。
結果として生まれるのは必殺の威力の投擲による各員への同時攻撃。

(……そして、これだけならあの盾持ちが努力すれば防ぎきれるだろう、だから)

異能の強度を上昇、知覚加速を更に加速させ"盾持ちの初動"を見極める。
誰を庇いにいこうと、仮に保身に走ろうとも、何処に行こうと先を読み魔弾を置いておく。

投擲に使った腕とは逆の空いた腕、そちらの袖口から飛び出すのは大型の拳銃。
込められた弾丸は結界を食い破る機能を持たせた対魔術弾。
本来魔術師でない男が使っても効果は薄い、だが。

(本来の性能の半分も引き出せないとしても、本来の性能を三倍以上に引き上げれば解決する話だ)
(まず始めに俺の異能が"身体強化"だと認知させる為に馬鹿力で投擲を行なった)
(ならば非物理的な魔術の防壁等でどうにか凌げる、と思っているなら壁は潰させて貰う)

盾持ちの男の"頭部が動いた先"に予め置いておくように放たれる結界崩しの魔弾。
異能の加護を受けた拳銃から放たれるそれは、弾速も破壊力も先程のナイフと同じように一つ上の次元の破壊力となっている。
至近距離ならば厚い金属板ですら食い破るそれをまともに受けてしまえばどうなるかは、想像するに難くないだろう。

993アーリル:2020/03/22(日) 13:47:25 ID:ORmT3UkU0
>>992
白昼堂々の襲撃の意味は。
襲撃をするのならば、夜の方が良いに決まっている。民衆の混乱に乗じて逃亡する時は今では無い。
下手に民間人を混乱させこの場を乱されては堪らない。アーリルが標的であるのに、民草に無用な傷を与える必要は無い。
端に寄れ、と言っても、屋台の主はその場でしゃがみ込んでやり過ごそうとするし、路地裏に走り去る者もいる。
突然始まった刃傷沙汰に、少しだけ、冷静さが失われていた。

「では私(わたくし)は支援を行いましょう。護られるだけの存在ではありません。ギュントーさんは引き続き指揮を。
 この身は弱きを護る盾であり、降り掛かる火の粉を払う槍であるのですからっ!」

腰からぶら下げたレイピアを一撫でして。
詠唱が、始まる。

「身の内に眠りし火の力よ。眠りから覚めよ。今このときこそ、生命の尊き輝きを示す時。
 ――Ad Magnificat diei hominibus debui deum(日の神の輝きを)」

効果は単純明快。
攻撃力の増加、防御力の増加。そして回復力の増強。
アーリル自身と、盾持ち、杖持ち、ハンマー持ち、銃持ち全てに付与される。

『ありがたい。ならば私は御身をお護りすることに全力を振るおう。』
『よっしゃ!来たぜ来たぜ!アイツ、ぶっ潰してくりゃいいんだろ。いくぞー』
『光の全ては地に落ち、全ては幻 意識の闇に沈め…』
『ちっ貰っちまった。すまねえ。』
『ロイドは後詰の確認の後、ギルドに支援を依頼してきてくれ。大丈夫だ。君の足ならば造作も無いことだろう。いけっ!』

盾持ちは大人を護れるほどの巨大な盾だ。
小柄な少女二人を護るなど朝飯前だ。そして、いくつか視界を確保するために開くところがある。
投擲された四本の連撃の内、一つは銃持ちの肩に刺さり、膝をつく。見つめる先はナイフの投擲された方向だ。
別の方向から攻められたのならば、銃持ちはその場に伏せることは免れない。故に後詰を潰しに周囲を索敵するために走り出した。
山猫族は足が早い。ギルドへの応援申請に走ることも可能なのだ。
ハンマー持ちは短く持ったハンマーで投擲されたナイフを弾き、ルファスの方へと向き直る。その表情は、かくれんぼで隠れた子を見つけた鬼のようだ。
盾持ちに護られているアーリルと共に杖持ちは、詠唱を終わらせた。
対象は“路上に残る者”で“視野が暗闇に包まれる”効果を持つ魔術だ。銃声が響いた中で逃げない者は少なくは無いが、それでも逃げないというのなら、
そのようなことに巻き込まれても良いのだろう。それでも何かを主張するのならば、正当防衛とでも言い張れる。

では、ルファスが放った弾丸はどうなったかというと。
全身鎧で膝立ちになり、地面に巨大な盾を突き立てる姿は正にパーティーを護る壁、というべきだろう。ナイフへの対処も盾に隠れて二連撃のナイフをガードした。
しかし結界崩しの弾丸は簡単に巨大な盾を浮かせた。
かつては魔獣の群れの突進を一人で全部受け止めたというのに。それでも盾が浮かされ、開かれた。捲り開けられたかの様に歪んだ盾の損傷は酷い。
だが盾としての機能は未だ死んでいない。浮かされ、開かれたただけで済んだのは二重のバフがあったからだ。
盾の間から覗く光景は、少女であろう細い手足と、スカート。そして白いローブ。そして全身鎧に覆われた下半身。

994ルファス:2020/03/23(月) 19:14:36 ID:Ytr0wV6I0
>>993

異能の力を用いた攻撃も凌がれる、複数人が各々の役割をしっかりと果たした結果、一人の力では押し切れなかった。
当然と言えば当然の結果ではあるが、襲撃する側としては、一気に流れを掴む機会を失ったのは痛い所だ。

(……まあ良い、逆に言えば個々の力量は脅威になる程のものではないのが理解出来た)
(正確に言うと、護られている"お姫様"以外は、と言うべきか)

各々が役割をしっかりと果たしているのは理解出来た、がそれだけだ。
守護する事は出来ても攻撃への牽制が出来ていない、補助は出来るが単体では機能しない。
銃を扱えない場合の戦闘方法が用意出来ていない、最前線で戦う筈の戦士が流れを制御出来ていない。

唯一の例外がお姫様だけ、襲撃と同時に侍従に命じ、自分達の有利な場を作る事を行なった。
そして、魔術に対策を講じる事はあれど自分で魔術を行使する事は無い自分でも解る、何か規模の大きい補助魔術。
詳細は解らずとも、彼女の行使した術の効果が白いローブの人物のものより大きいと雰囲気で感じる事が出来る。

そんな思考を巡らせている間に、視界がふと闇に包まれる。
だが、元々夜間でも音だけで行動するのに支障が無い身だ、知覚加速と情報処理の強化で何事もなく戦闘は続行可能だ。

(……いや、少なくともハンマー持ちは冷静なタイプとは言い難いように見える)
(どうせ数秒の手間だ、足が速かろうがあの山猫を完全に逃しはしないだろうし……駄目で元々、茶番を挟んでみるか)

一瞬のみ情報処理能力を強化せずに、五感だけを強化する。
処理の追い付かない情報に頭が悲鳴を上げ、バランスを崩し掛けるも踏み留まる。

一連の動作は、急に視覚を奪われた事による混乱に映るだろうか。
実際に苦しい思いをした、演技ではないよろめきを好機だと誤認し隊列を崩してくれれば……この仕事が幾分か楽になる。

(場数を踏んでいれば、俺の強化の幅を警戒して冷静に対応してくるだろう)
(けれど、今の所奴等から見た俺は"大砲みたいな銃撃や投擲を行ってくる能力者"だ、狩れる好機は逃したくない心情も有るんじゃないか?)

995名も無き異能都市住民:2020/03/23(月) 21:05:48 ID:ORmT3UkU0
>>994
ルファスが見る限り、盾持ちの男の指揮はありきたりなものだ。
しかし、チームの者たちは一切疑うことなく従い、彼らに出来る行動をしている。
異能を持たない個々の力はルファスには敵わない。だが彼等には連携という武器がある。連携という武器がある限り、一の攻撃は一ではなくなる。
そんな彼等を結びつける縁は盾持ちだ。
はしゃげたような、巨盾を未だ持ったまま護衛対象と共にゆっくりと撤退していく様は仕事に徹していると言えるだろう。
しかし。しかしだ。異能を操る圧倒的な個には敵わない。本当の裏家業の荒波で身を立てる男には経験値でも勝らない。唯一勝っているのは人数のみ。
盾持ちの心の内には結界崩しの魔弾で一抹の不安が胸を過る。
たった一発でひしゃげた自慢の巨盾ではあるが、二度目は防げないだろう。恐らくナイフの投擲にも対応できなくなってしまう。
そんな想像が頭をよぎった。想像は脳から心へと伝搬し心には篝火の如き不安がゆっくりと広がる。燻っていた不安の種はゆっくりと燃え始める。
初めは小さな火だが、それは次第に大きくなってゆく。

ルファスと同様に、魔術に掛かった一部の観衆は跪く、壁に手を添える等各々の行動をする。
ハンマー持ちは、周囲とルファスの演技の反応に気分を良くしたのか。ハンマー持ちはへへっと笑みを浮かべた。
ルファスが考える通り、彼女は指揮を聴くほどの理性は残っているが、冷静では無い。戦闘と聞けば、血気盛んになり、前へ、前へと出るタイプだ。

『おうおう、そのまま良い子でいなよ、姫様の御前だ。血は見せねーよ。』
『心無となり、うつろう風の真相 不変なる律を聞け…』
『姫君、カリーナ。おそらく襲撃者は視界が闇に落ちているのだろう。直ぐに態勢を整える。撤退です。殿は私が。カリーナも良いね?』

ハンマー持ちはハンマーを短く持ち、ダルマ落としの要領でルファスの顎を叩き意識を刈り取ろうとするだろう。

「……それではいけませんわ。」

小さな溜息がアーリルの口から漏れる。何もかもがどっちつかず。中途半端。斃したいのか、足止めしたいのか。
ルファスの演技を演技と見抜けていない今、この時、先行した銃持ちに追従する形で盾持ちを殿に駆ければ結果はまた変わっただろう。
銃持ちを先行させてしまったのが、ターニングポイントであった。
足止めでは無く、無力化。ルファスの様な手練れに無力化などできはしない。無力化は圧倒的な力量差が無ければ成立しないからだ。
もし出来るとするのなら、数人の命を犠牲にして、だ。パーティーの解散も視野に入れなければならない事態となる。
原因はルファスが想定を遥かに超える手練れであったこと。これに尽きる。
アーリルが出てしまえば早い。だが、アーリルが出てしまっては護衛の意味がなくなる。
ならば、もう少し経緯を見守ることにしたアーリル。具体的にはもう一人負傷者を出した時だ。
襲撃があった時点で“おでかけ”は終了、即時帰宅が“約束”だったのだが、襲撃者であるルファスが返してくれそうにない。
“だったら仕方ありませんよね”とアーリルの顔には戦闘狂の顔を隠す仮面の笑みが張り付いた。
魔術が発動しようとしていた。
効果は対象の機動力を一時的に削ぐ、足止めの為の魔術。これに掛かったのなら、彼らは一斉に駆け出すだろう。
ハンマー持ちを信用しているのか、杖持ちはハンマー持ちがターゲットと定めた者と同一の相手に魔術を掛けようとしていた。

996ルファス:2020/03/23(月) 22:24:39 ID:Ytr0wV6I0
>>995

「……ああ、本当にお粗末な出来だ」

アーリルの独り言への返答はまさかの襲撃者から。
皮肉な事に、今敵対している真っ最中の二人は、警護に対する認識が一致してしまっていた。

顎を叩こうとする鈍器は見えずとも、鉄塊が風を裂く音に衣擦れや鎧の金属音、状況を把握する材料は十二分に有る。
遠くに最初に駆け出した山猫族の男の足音も、未だに補足から逃れるには至らない。
そもそも、此方の目的は護衛の殲滅による力の誇示だ、最初から逃げに徹したなら兎も角、今更逃して貰えるという認識も含め何もかもが甘過ぎる。
そして、ナイフ投げで盾を押すような人外の膂力を持つ異能を前にして、今更多少妨害を掛けて何が変わるのか。

その迂闊な認識と接近により、盾持ちの加護の範囲から自ら足を出した代償は直ぐにでも支払う事になるだろう。
軽く身体を最小限逸らす事によりハンマーの軌跡から身体を退ける。
そのまま手にした拳銃の銃口をハンマー持ちの胸部に向けると、無造作に二度引き金を引くだろう。

そして、その結果を確認する事もなく、逃げ去った筈の山猫族の男に向けて引き金を、此方も二度引く。
拳銃の有効射程距離や破壊力など本来たかが知れている。
だが、大楯を容易く歪ませる破壊力と、一投のうちに複数本のナイフを丁寧に全員に投げ分けれる男の知覚能力と肉体の制御能力が有れば。
"拳銃による狙撃"などという無茶も夢物語でもなんでもなくなる、それを己が誰よりも知っているからこその悠長な演技だ。

997アーリル:2020/03/23(月) 22:49:23 ID:ORmT3UkU0
>>996
銃声の後、バタリと斃れる二つの音がした。
山猫族とハンマー持ちが地面に伏した音だった。

『貴様ぁぁぁあぁ!!!!!!!』
『駄目よっ!リーダーっ!今行けば貴方も同じ目に…』
「……はぁ、仕方ありませんわ。これ以上民草の血を見るには耐えれませんもの。
 あの方は私に用事があるようですから私が出ますわ。」
『ひ、姫君……、わ、私は…、私はとんでもないことを……』
「結構ですわ。貴方方はお仲間の治癒の後、ギルドに戻って下さいな。」
『……すまない…っ!行こう、カリーナ。君だけが頼りだ。』

杖持ちは血溜まりに浮かぶハンマー持ちを治癒魔法にて癒やすが、大方の傷は直ぐに塞がった。
この調子なら山猫族もすぐに治癒できるだろう。盾持ちは二人を担いでギルドへと去って行く。

「これで、お話しできますわね。私に用事があるのでしょう?お顔を見せて頂いてもいいかしら。」

何も無い空中が揺らめき、波紋が起きる。
顔を出すのは少女、アーリルの身の丈の倍はあろうかという真紅の長槍だ。
青みがかったプラチナブロンドが風に揺らめき、踊る。
ルファスが顔を見せると、ミモザ丈のスカートを軽く摘まんでカーテシーを披露するだろう。
不気味なことに、建物の屋根や路上にカラスが集まり始めていた。

998ルファス:2020/03/23(月) 23:24:37 ID:Ytr0wV6I0
>>997

依頼通りの殲滅とはいかなかった。
だが、護衛対象の姫に庇われ戦線離脱という結果は彼等の無力さを示すのに申し分無い結果だろう。
寧ろ、命を懸けて使命を果たしたと言えない分、言い訳の余地が無くなったとも言える。
少なくとも、依頼人の目的は十二分に果たされた筈だ。

「……参った、無法者の俺と言えどそんな真似をされたら非礼を貫く訳にもいかないな」

片手に握る拳銃はそのまま、空いた手でフードに手を掛け、雑に後ろに引き下げる。
その下から現れた素顔は、そこそこに整った二十後半と思われる銀髪の男性のもの。
だが、数々の死線を潜り抜けてきたが故にか、眼光には猛禽類を思わせる鋭さと、老成した落ち着きに似たものが同居している。

999アーリル:2020/03/23(月) 23:54:44 ID:ORmT3UkU0
>>998
「ルファス=エルシャード……さん、だったかしら。
 はじめまして。アーリル・フォン・ルズィフィールですわ。」

アーリルはアイリスの記憶の一部を持つ。
アイリスが印象に残っていることは大凡、アーリルも知っていると言っていい。
とはいってもアーリルはアイリスの記憶を映像記録として覗いているようなものだが。

彼は確か、何でも屋。
能力の暴走しているところに雨の中、出会ったとアイリスは記憶していた。
いい目をしている、とアーリルは思った。難しいことはわからないし、考えるのもあまり得意ではない。でも、直感など言葉では説明できないことには感や勘はいい方向に機能することが多い。

「もうお買い物は続けられないわね。一応お伺い致しますわ。
 なぜ私は狙われたのでしょう?理由によっては貴方も“摘み"とらなければいけないわ。」

もっとも簡単にはいかないでしょうけれど。追い返したらいいかしら。と少女は内心で吐露する。
この少女の見た目は中学生程度。
先に食べていた串焼きの串を指で回し、猛禽の目を真っ正面から見つめ返した。
決して舐めているわけではない。もっと酷い眼を知っているからだ。
見られたら体中から怖気が走る瞳。死神の鎌が首に添えられているような、そんな瞳に慣れてしまったからだ。

1000ルファス:2020/03/24(火) 02:03:31 ID:Ytr0wV6I0
>>999

「ご丁寧にどうも、仕事柄、顔が売れているのはあまり喜ぶべき所では無いが無名だと仕事が無い」
「喜ぶべきか悲しむべきか微妙な所だが……知って頂けているのは光栄だ」

返す言葉に敵意や殺意、悪意と言われる感情は混じっていない。
少女の持っている知識通りならば、この男は相応に場慣れしている。
言葉や態度に感情を滲ませない事くらい訳もなく行うだろう事を考えると、安心材料にはならないだろうが。

「名前まで知っているなら、此方の素性は理解出来ているだろう?」
「襲撃に的確な対応をした頭が有るんだ、状況と合わせて考えればとっくに答えは出ている筈だと思うがな」

面倒そうに突き放すような物言い、だがこれは遠回しながらこの男なりの誠意だろう。
仕事の都合上、大っぴらに依頼内容を明かす事は信頼に関わる以上絶対に出来ない。
けれど、群衆がいつ通報するか、或いは既に通報したのか分からぬ中で呑気に雑談に応じるという事は既に急ぐ必要は消えているという事。
白昼堂々の襲撃も含めて合わせれば、この少女の頭ならそれだけで答えは導き出せるだろうと踏まえての行動だ。




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