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没ネタ投下スレ

1名無しさん:2009/05/11(月) 10:47:22 ID:ScbX2nJI0
予約被りや展開上の都合などで投下できなかったSSや没ネタ投下にどうぞ。

前スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/10906/1204105581/

2名無しさん:2009/05/13(水) 19:05:25 ID:Fj31U4aE0
新管理人様、乙です。

アリサ「というわけで引越しがおわったからそば作ってきたわよ」
アリサ’「まだどんどん出来るから遠慮なく食べちゃってね」

3名無しさん:2009/05/13(水) 19:06:42 ID:Fj31U4aE0
>>2
すみません、死者スレと間違えて書き込みました。

4 ◆Qpd0JbP8YI:2009/11/25(水) 00:08:40 ID:evarTVhw0
全部使えそうになくなったのでネタを投下



①なのはVSなのは

クローン云々によって自分の存在意義を見失いかけていた小なのはが、
ルルーシュとかナイブスの「説得」で、新たな自分の価値を見出し、対主催陣営壊滅の尖兵と化す。
その後は適当に騒動を巻き起こし、最後は皆に必要とされる大なのはに自分が取って代わろうと彼女と激突。
そしてそこでお互いの想いと力を込めたSLBを撃ち合い、決着をつける。


②はやてVSはやて

小はやての目の前で守護騎士全員を殺して、大はやてと似たように状況に立たせる。
その上でも自らの考えを変えようとしない小はやてと黒い大はやてとのバトル。
掴み合い、罵りあい、引っかきあい、ひっぱたき合うといった女性のけんかを
大人対子ども、善対悪とか色々なものと対比させながら、醜く書きたかった。


③セフィロスの死

大はやてがセフィロスのイメージする八神はやてを演じつつ、何とか彼を利用しようとするけれど、
結局セフィロスは小はやてになびいていってしまう。
それによってセフィロスは使えない駒、邪魔な存在と判断した大はやてが
後ろからズブリとナイフとか大したことのない武器でセフィロスを突き刺して殺す。
信じていた八神はやてに裏切られたことを知り、セフィロスは再び人類に絶望して、
憎悪と共にライフストリームに帰っていくという哀れな最後。


④はやてVSはやて

一回目とは違い、魔法を使ったバトル、というか戦争。
二人がこのバトルロワイアルで味方にした連中を巻き込んでの戦い。
はやて達の考えに共感するもの、正しいと信じるもの、また利用しようとするものが
会場を真っ二つにして戦い、命を散らしていく。
その中心にいるはやて達はお互いを否定する言葉を吐きながら、オーバーSの魔法の撃ち合い。
その馬鹿げた威力で会場をどんどんと廃墟へと変えていき、プレシアの顔を蒼ざめさせる。
んでもって、ひとしきり魔法を撃ち合ったら、全ての魔力を込めた大規模魔法で勝負へ。
一人で魔力を振り絞る大はやてに、仲間から魔力、魔法といった助けを得て、彼女と対峙する小はやて。
そして決着。
最後は大はやてが今までしてきたことを後悔するような死をプレゼント。
そして死の間際に放った何かしらの言葉を、小はやてが大はやての意志として受け継ぎ、
プレシアに立ち向かっていくという少年漫画的な展開。




以上、こんなのです。
はやて対はやての対立構造を主軸に話を進めていき、
全く救われない形での小はやての優勝エンドを念頭に置いていました。

5リリカル名無し:2009/11/25(水) 21:59:07 ID:vHQLO1/60
どれも凄い展開だな
特に④は実現するのはかなり難易度高そうだが見てみたかったな
そういや同一3人は結局誰ももう一人と会わないまま死んだんだな

6リリカル名無し:2009/11/26(木) 21:59:07 ID:SWrs9PG20
確かにどれも凄いが難易度高いわw
ちなみに優勝は俺も考えてるけど誰が優勝したら美味しいか悩むな

7リリカル名無し:2009/11/26(木) 23:11:25 ID:eBj37VTUO
意外なとこでクアットロが優勝とか面白そう
キング、クアットロ、はやて達ステルス系キャラに期待してる俺がいる

8リリカル名無し:2009/11/27(金) 15:27:47 ID:N6ujW0fk0
全滅でもいいけどな
全滅ENDでなのはロワ2もいいかも

9リリカル名無し:2009/11/27(金) 17:56:59 ID:G6/JrZzYO
全滅ENDの場合はそのままなのはロワの続編とかでも面白そうだよな
今の本スレの状況で次回開催出来るか微妙だが

10リリカル名無し:2009/12/01(火) 20:16:24 ID:uxHTGhGE0
ルルーシュがお亡くなりになられたので、日の目を見なかった没展開。

かがみとルル組が交戦。スバルと適当な誰か(それまでに合流した仲間)でバクラを追い詰める

かがみの身体じゃ勝てないと踏んだバクラ。千年リングをスバルに投げつけるように指示する

バクラがスバルの肉体を支配! 一転してピンチに陥るルル組

しかしここで(何らかの要因により。戦闘でリングそのものが疲弊したから、でもいいかも)スバルの意志が抵抗する。
これ以上被害を拡大されないよう、ルルーシュに千年リングごと自分を殺すように頼む

お互いにリングに科せられた制限を知らないために、それしか方法はないと判断する。
断腸の思いで決断したルルーシュは、かがみの落としたストラーダを拾い、涙を浮かべスバルの胸元に突き立てる……

最期の瞬間、自らの意志をルルに託し、静かに息を引き取るスバル。
彼女への愛を自覚したルルは、悲しみと自責に発狂しそうになるも、歯を食いしばり目に涙を溜め、ゲーム打破のために戦う決意を固める

11リリカル名無し:2010/01/19(火) 18:22:44 ID:.KY0up4Q0

テスト

12リリカル名無し:2010/03/01(月) 15:30:56 ID:QgGABX1g0
test

13リリカル名無し:2010/03/02(火) 08:44:01 ID:QgGABX1g0
test

14リリカル名無し:2010/03/04(木) 15:28:40 ID:45j.B8s20
今更ながら>>8-9辺りの話に反応してみる。

2ndやるんなら今度は参加者をオール原作にする、とかどーよ?支給品とか土地・施設のみクロス作品で
『クロス作品』の要素は薄くなるけどそれなら把握しやすいだろーし、言われてる通り本スレの状況的に今回と同じ条件は無理っぽいしなー
それに自分ってば、今度MAP作るんならやってみたい試みがあるとですよ

15リリカル名無し:2010/03/05(金) 11:35:15 ID:cEBSXf4cO
どうだろう、一応開始前に募ってから、十分に集まらなかったらそういうのでもいいと思うけど…
俺はクロスSSからの参戦っていう一風変わったこの企画が好きだから、出来れば次もクロスからだと嬉しい

16リリカル名無し:2010/03/08(月) 03:17:44 ID:x7t6fc060
俺も次もクロスでして欲しいけど希望者次第かな
とりあえず声をかけてそれで興味ある人が集まって開催出来るようならやろうよw
ただ原作含めて参戦するクロス作品の数が今回でも少し多い様な気がするけどね
支給品は今回と同じようでもいいけど

17 ◆gFOqjEuBs6:2010/11/10(水) 11:17:35 ID:kw7JXkBY0
没ネタ投下します。

18 ◆gFOqjEuBs6:2010/11/10(水) 11:18:08 ID:kw7JXkBY0
 満月が美しく煌めく夜の市街地で、轟々と音を立てて燃え盛る建造物があった。
 先の戦闘でアンジールが放ったファイガによって炎上、その後の戦闘で壊滅的な被害を被ったスーパーだ。
 最早スーパーとしての機能を維持する事は難しい。燃え落ちるのも、時間の問題であった。
 そんなスーパーを目前にして、向かい合う四人の男女。ここまで生き残った参加者達だ。
 まさに一発触発といった空気。誰が行動を起こしても可笑しくはない。

「貴方が、銀色の鬼……?」

 そんな中、警戒心を露わにしながらも質問を投げかけたのは、高町なのはであった。
 対する相手は、銀色と赤の――とても人間とは思えない外見をした参加者。
 その正体は、ウルトラマンメビウスことヒビノ・ミライ……なのだが、当然の如くなのははそれを知らない。
 ウルトラマンが正義のヒーローである事も、いくつかの世界においては英雄的な存在である事も当然知らない。
 故に、これまでに得た情報を元に、なのははミライを銀色の鬼だと判断したのだ。

「僕はヒビノ・ミライです! 君は、なのはちゃん……だよね?」
「そうだけど……貴方はこの殺し合いに乗って居るの?」
「僕はこんなゲームには乗って居ません! 貴方達の戦いを止める為に来たんです!」

 メビウスの銀色の視線が、その場に居た二人に向けられる。
 一人は、赤の装甲の仮面ライダー……カブトこと天道総司。
 一人は、大剣を携えた、白き片翼を持つ戦士……アンジール。
 彼らの戦いは、熾烈を極めていた。それは背後のスーパーを見れば一目瞭然だ。
 そんな戦いを繰り広げる二人を止める為に、ミライはこの場所へと駆け付けたのだと言う。

「待って下さい、ミライさん。私達も殺し合いには乗って居ません! これには訳があって――」
「その通り……私たちがこんな殺し合いに乗る理由は全くもって皆無。無駄以外の何者でもありませんわ」

 言いかけたなのはを遮ったのは、聞き覚えのある、透き通った声だった。
 この声に、この喋り方。最早間違いない。考える前に答えは浮かんだ。
 そしてそれはなのはだけではなく、その“少女”を家族と言い張る男も同様。

「その声は――」
「「クアットロ!!!」」

 奇しくも、アンジールとなのはの絶叫が一致した。

19 ◆gFOqjEuBs6:2010/11/10(水) 11:18:41 ID:kw7JXkBY0
 




「折角盛り上がったのにさ、つまんないよね。そういうのって」

 全部解っている。全部聞こえている。
 状況は全て理解した。その結果、「つまらない」と判断した。
 だから当初の目的通り……全部ぶっ壊して、破滅させる。
 王の楽しみを奪う者を赦す訳には行かないからだ。
 一万年ぶりの敗北と、期待していた参加者がこぞって死んだ事。
 それらの鬱憤を晴らすべく、ガチャリと音を立てて、災厄を齎す引き金を引いた。





 一先ず周辺の雑居ビルに入って、一同は情報交換を開始。
 出来るだけ目立たないビルを選んで、二階の窓際の部屋を陣取る。
 電気は点けずに、窓から外の様子を窺い、誰かが来たときにすぐに対応出来るようにだ。
 つい先ほどまでは険悪なムードであった一同なのだが、クアットロが現れた事で、状況が一変したのだ。
 アンジールのそもそもの目的は、残ったたった一人の妹――クアットロを救う事。
 されど、当人であるクアットロが、一同の前でハッキリと殺し合いには乗らないと明言した。
 これはアンジールの行動方針を揺るがすには十分過ぎる出来事なのであった。

 これはIFの話だが……もしもここにクアットロが現われなかったら、どうなっていただろう。
 きっとこんなに上手く話し合いには持ちこめなかっただろうし、場合によっては最悪の状況にだってなっただろう。
 というのも、クアットロは何の保険もかけないまま、無防備な姿を晒して一同の前に現れたのだ。
 無事合流出来たから良かったものの、もしもその瞬間、何者かに不意を突かれでもしたら――
 もしも、もしもだが……そのままアンジールの目の前で殺されていたりなんかしたら――
 きっとその時は、考えるだけでも恐ろしい事態になっていたに違いない。
 こうして殺し合いに反発する一同が巡り合い、話し合いの機会を設ける事が出来たのは、本当に奇跡に近いのだ。

 そんな奇跡にも似た偶然に感謝しながら、一同は情報交換を続ける。
 様々な境遇が交差した上に成り立つ彼らの出会いは、考えてみれば酷く凸凹したものである。
 例えば、クアットロの想いも知らずに、全ての参加者を殺して回ろうとしたアンジール。
 例えば、ミライの思惑を知らず、銀色の鬼と警戒していた高町なのは。
 まずはそれらの誤解を解いて、冷静に話し合う所から始めなければならなかった。

「アンジール様……もう一度言いますが、私はこんな殺し合いは望んでおりませんわ」
「だが……俺が勝ち残れば、他の皆を生き返らせることも――」
「無理でしょうね。大方プレシアの目的はアリシアを生き返らせたいとか、そんなところでしょう。
 プレシアはこれ見よがしにアリサさんの蘇生を私達に見せつけた。これが何を意味するか、わかります?」

 暫し流れる沈黙。
 アンジールのみならず、なのはも天道もミライも、クアットロに視線を集中させる。
 クアットロの演説に興味深々といった感じで、クアットロとしても気分が良かった。
 相手に考えさせる余裕を与える。それから話に引き込んで、口車に乗せる。彼女が得意とする分野だ。
 その上、聡明ななのはや天道は既にクアットロの言わんとする事を理解しているように思える。
 上手く立ち回って、この二人にもクアットロの説を裏付ける証人になって貰えばいいのだ。
 未だ悩んでいる様子のアンジールに、馬鹿そうなミライ。二人を説得するのは、至って簡単であった。

20 ◆gFOqjEuBs6:2010/11/10(水) 11:19:21 ID:kw7JXkBY0
 
「そもそもプレシアの最終的な目的は、亡くなられたご息女ことアリシアさんの蘇生。
 蘇生技術があるのなら、最初からアリシアさんを蘇生させて、二人きりで暮らしていればいいのに。
 それなのに、態々こんなリスクを犯してまで、様々な世界から集めた参加者に殺し合いを強要する――」
「ちょっと待て、様々な世界と言うのは、どういう事だ?」
「ああ、アンジール様にはそこから説明しないと駄目なんですね」

 クアットロは、すぐに表面的な笑顔を作り、語り出した。
 この会場に集められた参加者はほぼ全てが平行世界や、別の時間軸から連れて来られて居る事。
 当初アンジールと出会った際に、クアットロは「主催者に記憶を操作されている」と言った。
 だが、それは間違いだ。誤解を生じさせるために、という理由は合っているのだろうが、記憶操作などはされて居ない。
 そもそも、限りなく似て非なる世界からそれぞれの参加者を集めれば、それだけで誤解による不和は生じるのだ。
 今回プレシアがそれを狙って様々な世界から参加者を集めたのであろう事は明白。
 別の世界のアンジールとは確かに家族だが、今ここにいるアンジールは恐らくそうではない。
 クアットロとアンジールとの間に当初あった微妙な距離感は、それが原因だと語った。

「そんな馬鹿な……平行世界? そんな事が……」
「残念だが、事実だ。ここに居る高町は、俺の世界の高町とは別人だからな」
「僕の知るなのはちゃんも、ここにいるなのはちゃんとは別人でした」
「……そして、私は天道さんの事もミライ君の事も知りません」
「ま、そういう事ですわ」

 案の定、この場に居る全員がクアットロの説を裏付けてくれた。
 流石に丸一日このゲームに参加しているのだ。その程度の情報は得ていて当然だろう。
 頼りにしていたアンジールがその程度の情報すら知らなかったのは、はっきり言って拍子抜けだが。

「それだけのリスクを犯して殺し合いを強要するからには、恐らくそれがアリシアさんの蘇生に繋がるんでしょうね
 あぁちなみに言っておきますけど、プレシアが私達に“わざとらしく”見せつけたアリサさんの蘇生……
 あれは単に別の世界のアリサさんを連れてこればいいだけですから、至って簡単な話ですわ」
「なら、チンクやディエチは……」
「残念ですけど、犠牲になってしまった何処かの世界の二人についてはもう、諦めるしかありませんわ」
「くっ……!」
「ですけど、私達にはまだ出来る事があります。それは、こんな殺し合いを二度と開催させないようにプレシアを倒した上で、
 この馬鹿げたゲームから脱出する事。不本意ですけど、今は管理局の皆さんとも敵対してる場合じゃありませんわ。
 だから私は、ゲームから脱出するまでは全面的に協力も惜しまないし、誰かを殺すつもりもありません」

 嘘は言っていない。
 それに、これならばなのは達だって信じるだろう。
 というか寧ろこういう“クアットロらしい事”を言っていた方が100%信頼される。
 何故かって、そもそも現状で管理局といがみ合った所で、何の利益も生じないのだから。
 聡明なクアットロが考えた結果、出た答えがこれだと言うのなら、誰も疑わないだろう。

「ですから、アンジール様には是非とも私と……いえ、私たちに協力して貰いたいのです。
 私の目的は、あくまでこのゲームからの脱出……意味の無い殺人なんかには、これっぽっちも興味がありませんわ」
「だがっ……」
「お願いします、アンジール様……私の想いを、無駄にしないで下さい。
 私のこの、たった一つの願い……どうか聞き入れて下さいませんか……?」

 目に薄い涙を浮かべて、クアットロが言った。
 これは最後の手段だ。この単純なアンジール、ここまでされて動かない訳がない。
 例え平行世界といえど、アンジールは大切な妹の願いを無下にするような男では無い。
 それが解って居たからこその、クアットロの計画的犯行であった。

「……わかった。お前に免じて、俺も協力しよう」
「ありがとうございます、アンジール様! それではアンジール様、早速ですけど、
 まずはなのはさんに“アレ”を渡して下さいますか?」
「アレ……だと?」
「持っているでしょう? 我々の……いえ、なのはさんにとっての切り札を」
「私の切り札……? クアットロ、何の話をしているの?」

21 ◆gFOqjEuBs6:2010/11/10(水) 11:19:51 ID:kw7JXkBY0
 
 訝るなのはと、アンジール。
 そんな二人の視線を受け流すように、クアットロが立ち上がった。
 おもむろにアンジールのデイバッグを手に取り、チャックを開ける。
 中にあった赤の宝玉を引っ掴んで、それをなのはに差し出した。
 こいつを差し出せば、なのはからの信用も得た上で、戦力増強にも繋がる。
 言わばなのはだけでなく、クアットロにとっても切り札となり得る存在。

「これ……! レイジングハート!?」
「そうですわ。元々これは私に支給されておりましたの。訳あって今はアンジール様が所持していましたけど」
「タダでいいの……? クアットロ……何だか未だに信じられないんだけど」
「まぁ……私の今までの行動を考えればそう仰るのも当然ですけれど、今はそんな事を言っている場合じゃありませんから」
「それはそうだけど……にゃはは、やっぱりいきなりいい人になっちゃうと違和感感じちゃうっていうか……」
「勘違いしないで下さいまし。このゲームから脱出したら、その時はまた敵同士ですから」

 はにかんだような笑みを見せるなのはを、クアットロが冷たく突き放した。
 これくらい言っておいた方が信憑性は増す。なのはも言っている通り、綺麗なクアットロなど違和感でしかないのだ。
 何の見返りもなくレイジングハートを手渡し、聖女の様な笑顔でなのはを受け入れるクアットロなど、あり得ないのだ。
 そんなあり得ない程の違和感を無理に押し通して、八神はやての時の様なミスを犯すのは愚行でしかない。
 故にクアットロは、「利害の一致による停戦協定」という“あり得る”状況を演出した。というか寧ろただの事実だ。

「これで僕達はもう仲間ですね! 一刻も早く、このゲームから脱出しましょう!」
「待てミライ。俺達はまだお前からの話は聞いて居ない」
「え……?」

 意気揚々と声を上げたミライを制したのは、天道総司であった。
 天道もまた、なのはから銀色の鬼の話は聞かされている。
 黄色の恐竜を連れ去り、その恐竜を自らの手で斬殺した銀色の鬼――その可能性。
 最早ミライがそんな事をする奴ではないと言う事は誰もが確信を持って言えるが、一応念の為に。
 なのはが、「銀色の鬼の憶測」をミライに言って聞かせた。
 そして、それを聞いたミライの反応は――

「そんな! アグモンは、僕がここで初めて出会った仲間です! そのアグモンを僕が殺すなんて――!!」
「落ち着けミライ。俺達だって馬鹿じゃない。お前が人殺しをする様などうしようもない奴じゃないって事くらいは解るさ」
「うん……だから、話してくれないかな? アグモンとミライ君の間に、何があったのかを……」
「……解りました。ここに来てから起こった事、全てをお話します」

 ミライが語り出したのは、このゲームに参加させられてからの境遇についてだった。
 目の前で、見知らぬ女の子をみせしめに斬殺されたミライは、自分の無力さを嘆きながらも、この会場に送り出された。
 そこで最初に目撃したのが、大男が小さな恐竜――アグモンを襲っている最中だったのだ。
 もうこれ以上、誰にも悲しんで欲しくは無い。故にミライは、ウルトラマンに変身した。
 大男を蹴り飛ばして、アグモンを救った。だけど、その後に待ち受けていたのは、悲しい別れ。
 アグモンと一緒に学校に向かったミライは、そこでクロノとヴィータの二人に出会った。
 開口一番に喧嘩を始めてしまったクロノとヴィータを尻目に、斬殺されるアグモン。
 一瞬の隙に、あっと言う間に一つの命を奪った、赤いコートの男。始まってしまった、本当の殺し合い。
 そんな中、自らの身を呈して、ミライとヴィータが逃げるだけの時間を作ったのはクロノだった。

「クロノ君は……クロノ君は、僕達の為に……!」
「そっか……クロノ君は、最期の最期まで、誰かを守る為に戦ったんだね」

 重い空気が流れる。
 話をするミライの瞳には涙が浮かんでいたし、話を聞くなのはも、辛そうな表情をしていた。
 だけど、それでも泣かないのは、なのはの心の強さ故なのだろう。
 何にせよ、これで黄色の恐竜についての誤解は解けただろう。
 次の話題に入ろうとした、その時であった。

22 ◆gFOqjEuBs6:2010/11/10(水) 11:20:33 ID:kw7JXkBY0
 



「あ……そうだ、なのはちゃんに、これを渡さなきゃ」
「え……これって……」

 ミライが差し出したのは、紫の宝石。
 今は亡きギンガ・ナカジマの持つインテリジェントデバイス、ブリッツキャリバーだ。
 なのはにとって見覚えのあるデバイスをその手にとって、ミライを訝る。
 どうしてこれを持って居るんだ、とでも言いたげな表情であった。

「僕はまた、一人の男の人を守れなかった。これはその人が持って居たものなんだ
 最期になのはちゃんの名前を呼んで居たから、これはなのはちゃんが持っておくべきだと思って」

 ミライが話すのは、黒の魔人――ゼロの話。
 黒のマントに黒の仮面をつけた、ゼロと名乗る男が、一人の男を殺した事。
 まるでゲーム感覚で人の命を弄び殺した、あの黄金のカブトムシの化け物の事。
 ウルトラマンヒカリの力を借りる事で何とか倒す事は出来たが――正直、危なかった。
 もしもヒカリが居なかったら、きっとミライはあの場でゼロに殺されていただろう。
 と、そんな話をした所……想像以上に食いついたのは、天道総司と高町なのはであった。

「ゼロ……カブトムシの怪人……!? それって……!」
「……最早間違いないな。そいつがキングだ」
「ちょ、ちょっと待って下さい! キングって言うと、赤服に茶髪の……あのキングですか?」
「クアットロ、知ってるのか?」

 ハッとした様に言うなのはに、天道が結論を告げた。
 そんな二人の会話に横槍を入れるクアットロに、アンジール。
 この場にいる殆どが、キングという少年を知っていたのだ。
 一同がキングについての話題へと移行しようとした、その刹那。
 異変は起こった。

 ――ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!――

 五人の耳を劈く轟音。
 安っぽい硝子の窓を粉々に粉砕して、室内で炸裂する爆薬。
 コンクリートの足場が揺さぶられ、次いで熱風が吹き付ける。
 狭い室内を爆煙が充満し、燃え盛る炎が五人を襲う。何者かからの砲撃だった。
 咄嗟の判断で、なのはとミライの二人が反射的にシールドを展開。
 しかし、所詮はその場凌ぎ。シールドで防ごうと、砲撃は止まない。
 全てを凌ぎきっても、視界を遮る爆煙の中からどんな追撃が来るか解らない。

「皆さん! ここは僕が凌ぎます! だから、先に逃げて下さい!」
「でも……ミライ君!?」
「僕はこんな所で死にません! だから、早く!」

 シールドを解除する事を躊躇うなのはに、語気を強めてミライが言う。
 なのはとミライ、二人のシールドならばこの程度の砲撃など恐るるに足らず。
 されど、ここでなのはの力が欠ければ――或いは、ミライの力だけでは防ぎきれないかもしれない。

「行きましょう、なのはさん。彼の思いを無駄にしてはいけません……このままでは全滅してしまいますわ!」
「クアットロ……でも、仲間を見捨てるなんて――」
「仲間だからこそですわ。仲間だからこそ、時には身を呈して守らねばなりません。
 ここで全滅してしまえば、ミライ様の仲間を思う気持ちを無下にする事になります。ここはミライ様を信じましょう」
「……わかった」

 クアットロの言う事は正しい。
 なのははまだ釈然としない様子であったが、それが正論である事に気付いたのだろう。
 ミライの思いを代弁したクアットロに従い、なのはがシールドを解除した。

23 ◆gFOqjEuBs6:2010/11/10(水) 11:21:05 ID:kw7JXkBY0
 
「絶対に死なないでね……ミライ君」
「GIG!」

 ミライに背を向けて走り出したなのはに向かって、ミライが叫んだ。
 GIG……それは、ミライが所属した防衛隊・CREW GUYSにおける、「了解」の合図。
 どんな困難が立ちはだかろうと、絶対に諦めはしない、GUYSの魂。
 全員がこの部屋から脱出したのを確認し、ミライは行動に出た。
 目の前に張ったシールドに全ての爆煙を集めて、それを振り払う。
 黒い爆煙は眩い光へと変わり、光はメビウスの左腕に再び熱き炎を宿らせる。
 漆黒の闇が支配するビルの内部で、眩き黄金の光が瞬いた。





「ハハハハハハッ! びっくりしただろ! 誰か死んだ!? 死んじゃった!?」

 狂ったような笑い声を上げながら、王が嘲る。
 常人を遥かに凌駕する聴力を活かして、目の前で爆煙を上げるビルへと意識を集中させる。
 聞こえる。足音が、四人――慌てて階段を下りて、こちらに向かっている。
 四人という事は、一人死んだか……? 否――

「つまんねぇの。またメビウスかよ」

 僕の邪魔をしたのは、またあいつか。
 不服そうに呟いて、漆黒のマントを翻した。
 そのまま踵を返して、王は何処かへと歩いて行った。





 側面に大きな穴が開けられたビルの正面に、四人は佇んでいた。
 パラパラと音を立てて、砕けたビルのコンクリートがアスファルトへと落下して行く。
 既に砲撃は止み、ビルの外に出た四人の周囲は、再び静寂へと姿を変えていた。

「一体誰が、こんな事を……」
「油断をするな。まだ潜んでいる可能性が高い」

 周囲を見渡すなのはに、天道が注意をかける。
 言われなくても解って居る。ただの冷やかしであんな砲撃は使わないだろう。
 きっと……というより、間違いなくこの場に先程の砲撃手が潜んでいる。
 なのはがエリアサーチをかけようと、首から提げたレイジングハートに触れた。

「あのぉ、思うんですけど、さっきのタイミング……キングの話題になった瞬間の砲撃……
 もしかしたら、この場にキングが居て――」

 感が鋭すぎるクアットロが、その名を告げた。
 だけど、それ以上の言葉を発する事は許されなかった。
 ドヒュッ、と……言葉では表現し難い擬音が響いて、次の瞬間にはクアットロの姿が消えていた。
 レイジングハートから目を逸らし、何事かと振り返ったなのはが、それを見付けるのにそれ程の時間は掛らなかった。

「クアットロォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 なのはの耳を劈く、アンジールの絶叫。
 視界に飛び込んできたのは、先程出て来たビルの壁に串刺しにされたクアットロ。
 ゾクリと、背筋に悪寒が走る。先程まで生きていた人間の死。その現実が、なのはの頭を麻痺させる。
 10年間戦場で生きて来たなのはも、こんな理不尽な死の瞬間を見た事は無かったからだ。

24 ◆gFOqjEuBs6:2010/11/10(水) 11:21:38 ID:kw7JXkBY0
 
「……ぁ……?」

 何が起こったのかすら理解出来ていないような……そんな表情。
 クアットロの頭が、漆黒の剣によってビルに縫い付けられていた。その高さ、地上から凡そ2メートル程。
 頭部のど真ん中、深々と突き刺さった黒金の大剣。クアットロの身体を持ち上げて、コンクリを貫通する程の衝撃。
 力を失った下半身をぶらりと宙に投げ出して、頭から下を真っ赤な鮮血で染め上げるそれは、最早クアットロとは言えない。
 当然、頭蓋を叩き割られ、脳を真っ二つにされた人間が無事で居られる筈がないからだ。
 顔面を貫いた衝撃からか、両の眼球は飛び出して眼球を繋ぐ筋肉一本でぶら下がっている状態。
 最早喋る事はおろか、考える事すらも出来なくなったそれに、アンジールが駆け寄る。

「ク、クアットロ……クアットロォォォォッ!!」

 涙を流しながら、クアットロだったものに触れようとするアンジールであったが――
 アンジールの手がクアットロに触れるよりも先に、火球にも似たエネルギー弾が、クアットロに命中。
 巻き起こる爆発。目の前で、その胴を粉々に粉砕され、四肢を四方へと爆散させる。
 真っ赤な血だまりとなった箇所に、ぼとりとクアットロを形成していた“部品”が落下した。

「うおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 背中に背負ったバスターソードを握り締めたアンジールの身体が、消え去った。
 否――消えたのではない。背中の片翼による爆発的なまでの加速力で、アスファルトを蹴り、飛び出したのだ。
 標的は、少し離れた場所に居る、漆黒のマントに、漆黒の仮面の男――ゼロ。
 加速は一瞬。即座に距離を縮め、その怒りをぶつける様に……力任せにバスターソードを叩きつける。
 きぃん、と音が響いて、バスターソードによる一撃は黄金の盾に阻まれた。
 ゼロの手中に、クアットロを殺した黒金の大剣が現れた事に気付いた。
 ソルジャーの反射神経をもって、刹那の内にバスターソードを構え直した。

「フンッ!」
「くっ……うぉぉおおおおっ!?」

 果たして、アンジールの判断は正しかった。
 ゼロが振るった大剣の一撃は、アンジールの胴を切断せん勢いで迫ったのだ。
 ゼロの刃がアンジールに触れる直前、寸での所でガードに成功。
 されど、勢いまでは殺す事叶わず、衝撃でアンジールの身体が吹っ飛ばされる。
 コンクリートの壁に激突し、背中をしたたかに打ちつけたアンジールに、追撃のエネルギー弾が飛ぶ。
 されど、それが命中する直前――今度は、遥か上空から弾丸の如き速度で飛来した黄金の光に、エネルギー弾は掻き消された。

「ははっ……本当に面白くないよね、お前」
「ゼロっ……!」

 黄金の光は∞の光を形成しながら、その姿を赤と銀の光の戦士へと変えた。
 無限に続く日々の未来を守るため戦う正義の光――ウルトラマンメビウスだ。
 両手を軽く開き、ファイティングポーズで構えを取るメビウス。
 その背後に、天道総司と高町なのはが立って居た。

「これで一人脱落……ま、別にそんな雑魚わざわざ殺してやることも無かったんだけどさ」
「お前はまた……あの人と同じように、人の命を弄んで……!!」
「いやぁ、ごめんごめん、ちょっとイラついちゃっててさ。悪気は無かったんだ、許してよ」

 漆黒の仮面を外し、へらへらと笑うキング。
 全員にバレている以上、最早ゼロを演じる事に意味は無いと判断したのだろう。
 悪びれる様子なく心にも無い謝罪を告げるキング。その表情が心底楽しそうなのが、この上なく腹立たしい。
 キングは楽しんでいるのだ。仲間を殺されて、激怒する自分達を見て、悦に浸っているのだ。

「まぁ、なんか無防備そうにつっ立ってたあいつも悪いって事でさ。
 僕だけが悪いみたいに言わないでよ。まぁアレだよね……おあいこ? みたいな?」
「「「ふざけるなッ!!!」」」

 背中の片翼を羽ばたかせ、アンジールが宙へ舞い上がる。
 メビウスがその両腕を広げ、∞の光とスペシウムの光をブレスから放出させる。
 装着したライダーベルトに、怒りをぶつけるようにカブトゼクターを叩き込む天道。
 一瞬のうちに、管理局の制服をバリアジャケットへと変換し、空へと浮かびあがるなのは。
 戦闘態勢へと入る四人の姿に、キングは心底鬱陶しそうに嘆息した。

25 ◆gFOqjEuBs6:2010/11/10(水) 11:22:28 ID:kw7JXkBY0
 
「あぁもう一々キレんなよ鬱陶しいからさぁ……」

 言いながら、キングの身体が変質して行く。
 黄金の外骨格に覆われた、どんな攻撃をも寄せ付けない無敵のボディ。
 ただの投擲でクアットロを吹き飛ばし、その上でコンクリを貫き串刺しにする程の怪力。
 そして、どんな物でも両断する最強の破壊剣、オールオーバー。
 それと双極を成す、あらゆる攻撃を防ぎきる最硬の盾、ソリッドシールド。
 最強のアンデッドを自称する、スペードの王――コーカサスアンデッドだ。

 ――CAST OFF――
 ――CLOCK UP――

 鳴り響く電子音。同時に、メビウスが掲げた両腕を十字にクロスさせた。
 無数の弾丸となったマスクドアーマーがコーカサスアンデッドに迫る。並のサリスワームならば一撃で破壊する威力だ。
 されど、コーカサスアンデッドにその程度の物理攻撃は通用しない。
 高速で迫る銀の装甲に命中する前に、コーカサスアンデッドの正面に具現化される黄金の盾。

「ははっ、効かない効かない」

 全ての装甲を弾き切ると同時に、正面のソリッドシールドに光の光線が命中した。
 光の国のウルトラマンの必殺攻撃。大量のスペシウムを光線に乗せる事で発射する技だ。
 眩い光を照射し続けるメビウスであったが、最初の一瞬を防いでしまえば何て事はない。
 腕を十字にクロスさせたままのメビウスに向かって、掌を翳した。
 上級アンデッドとしてのエネルギーが球体を無し、メビウスに向かって駆ける。
 が、発射されたエネルギー弾は、光速で駆ける一陣の赤き風によって相殺され――

 ――CLOCK OVER――

「「ハッ!」」

 次の瞬間には、コーカサスの目の前に二人の戦士が飛び込んで居た。
 弾丸の如き加速で飛び出したアンジールと、クロックアップ空間から戻って来たカブトだ。
 アンジールは目視出来た。カブトはメビウスを守る為に自分の居場所を晒した。ならば後は簡単だ。
 正面の盾でメビュームシュートを受け止めながら、両腕で二人の戦士の攻撃を受け止めた。
 左腕の甲でバスターソードを。右腕の甲でカブトクナイガンを。
 そして二人が驚愕するよりも早く、振り抜かれるオールオーバー。
 だが、その一太刀が二人に命中するよりも早く、コーカサスの腕を桜色の魔力光が拘束した。

「あぁ、そういや君も居たんだね」

 上空に視線を向ければ、そこに居たのは純白のドレスに身を包んだ魔道師。
 管理局のエース・オブ・エース。不屈の魂をその胸に秘めた、現存参加者の中でも最強の魔道師だ。
 腕に力を込め、その怪力のみでバインドを引き千切るも、その隙にカブトとアンジールは離脱。
 攻撃の機会を失ったキングは、だらしなく右腕を垂らし、無防備な姿を晒す。

「ま、何人掛かりで来ても無駄だと思うけど……って、話す隙もないのかよ!」

 今度は、光輝く大剣が上空から振り下ろされていた。
 メビュームナイトブレード。先程の戦いで、自分を敗北に追いやった剣だ。
 先程の敗北は、自分の慢心による所が大きい。最初から防げない攻撃だと解って居れば、対処のしようもある。
 メビュームナイトブレードが当たる前に、その身を翻し、アスファルトを一回転。
 そのまま上体を起こした瞬間――コーカサスを襲う、バスターソード。
 その一撃をオールオーバーで弾き返し、追撃で振るわれたメビュームナイトブレードを再び前転で回避。
 メビュームナイトブレードは、その剣の巨大さ故に、モーションが全て大ぶりなのだ。
 その攻撃が全て自分を狙っていると分かって居れば、回避するのも容易い。
 今度は背後からカブト、正面からアンジール。二人とも各々の剣を持っての攻撃だ。

26 ◆gFOqjEuBs6:2010/11/10(水) 11:23:07 ID:kw7JXkBY0
 
「ハァッ!」
「フンッ!」

 されど、バスターソードはソリッドシールドによって阻まれた。
 カブトクナイガンは、オールオーバーで受け止め――振り向き様に、一閃。
 カブトの胸部装甲を大胆に切り裂いて、その身を吹っ飛ばす。
 今度はバインドされようが攻撃を続けられる様に、全力で振り抜いたのだ。
 如何にヒヒイロノカネで作られた装甲であろうと、ただでは済まない。
 カブトの赤き装甲に黒く裂けた一筋の傷跡を与え、尚も追撃は止まない。
 吹っ飛んだカブトの身体に、更に一撃エネルギー弾を叩き込んだ。

「ぐっ……!?」
「ハッ、弱い奴が徒党を組んだところで変わんないのにさぁ」

 カブトの身体が大胆に爆ぜて、遥か後方のビルの壁に叩きつけられる。
 激突したコンクリの壁には大胆に罅が入って、その場に崩れ落ちるカブト。
 しかし、そんな勝利の余韻に浸っている隙は無い、すぐに繰り返される、アンジールによる攻撃。
 更には、メビュームナイトブレードの光を小さく凝縮したメビウスが、アンジールと共に駆けていた。

「チッ……僕、その攻撃嫌いなんだけどなぁ」

 咄嗟に精製したソリッドシールドが、光の粒子を撒き散らしながら真っ二つに裂けた。
 メビュームナイトブレードによる一閃。美しいまでの切れ味。
 勢いそのまま、もう一度振るわれたメビュームナイトブレード。
 同時に、背後から迫るバスターソード。見事なまでの連携攻撃。
 だが、まだ甘い。

「ふんっ!」

 メビュームナイトブレードを振るう腕に、下方から振り上げたオールオーバーをぶつける。
 カウンターの要領で入った一撃は、メビウスを怯ませるには十分。しかし、これで終わりでは無い。
 矢継ぎ早にその身を翻し、繰り出す攻撃は後ろ回し蹴り。仇敵・仮面ライダーカリスが得意とした戦法だ。
 それをアンジールの腹に叩き込んで、もう一度方向転換。今度は向かい合ったメビウスに向かって、剣を振り下ろす。

「はっ!」
「デュァッ――!?」

 メビウスの胸を、オールオーバーが綺麗に切り裂いた。
 カブトと同じように、メビウスの身体の表面に大きな切り傷が出来る。
 そこからまるで血液の様に光の粒子が漏れ出すが、構う事は無い。
 そのままオールオーバーを突き刺してやろうと、真っ直ぐに突き出す。

『GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』
「――っ!?」

 巨大な竜の翼が見えた。巨大な竜の雄叫びを聞いた。
 見間違いなどでは無い。それはまごう事無き巨大な飛竜、フリードリヒ。
 オールオーバーを突き出すよりも先に、巨大な竜の尻尾がコーカサスを横薙ぎに殴りつけた。
 メビウスに切り裂かれた直後のソリッドシールドなど使い物にもならず、そのままアスファルトを転がる。
 同時に、桜色の光の奔流が、コーカサスを飲み込む様に炸裂する。

「シュワッ!」
『GUOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』

 これはチャンスだ。最高のチャンスだ。
 メビウスもその左腕を突き出し、赤と青の光の奔流を発射。
 ヒカリの力を、メビウスの力。二人分の光とスペシウム。
 さらに、上空を飛翔するフリードが、その口から灼熱の火炎を放出した。
 なのはが放った魔力光が爆発する前に、メビウスの光線と、フリードの火炎が直撃した。

 ――ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!――

 同時に巻き起こる大爆発。
 暴力的なまでの、爆風と熱風。耳を劈く強烈な爆発音。
 周囲の瓦礫を吹き飛ばした衝撃波が、なのはやメビウス達を襲う。
 爆発が止んで、白と黒の爆煙と燃え盛る灼熱の炎が視界を奪う。
 この場に居る誰もが、爆心地に居たコーカサスの最期を想像した。
 されど、現実は非常であった。

27 ◆gFOqjEuBs6:2010/11/10(水) 11:23:48 ID:kw7JXkBY0
 
「あっぶねぇ……今のは流石に死ぬかと思った。いや、僕死なないけど」
「そんな……! アレでも倒せないのか!?」

 白い爆煙を振り払い、立ち上がったのはキングであった。
 驚愕の声を上げるメビウスをよそに、キングが左腕に装着された白い機会を掲げる。
 緑のカードが一枚だけ装着された、無機質な白のディスク。
 見たところ、何枚かカードをセット出来る様に見える。
 それをこれ見よがしに見せびらかしながら、コーカサスが口を開いた。

「技が当たった直後に、こいつを使ったのさ。お陰で僕は全回復、さっき以上に健康体って訳。
 さぁ、第二ラウンドと行こうよ。僕はまだまだ元気だよ、ヒーローの皆」





 仮面ライダーカブトが、短剣を片手にコーカサスに迫る。
 凄まじい速度での攻防。カブトが剣を振るえば、その全て叩き落される。
 圧倒的な戦力差。完全にカブトの動きが見切られているのだ。
 やがて、カブトが振るった攻撃を受け止め、コーカサスが破壊剣を一閃。

「ぐぁっ……!」

 ヒヒイロノカネをまたも切り裂かれたカブトが、数歩後退。
 よろめくカブトの首根っこを掴んだコーカサスが、カブトの首をギリギリと締め上げる。
 ライダースーツ越しに気道を圧迫された天道が、呻きにも似た呼吸音を漏らす。
 このまま首を握りつぶされれば、天道の命は潰える。

「おおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 そうはさせないとばかりに響く雄叫び。
 天道の命が潰えるより先にコーカサスの懐に飛び込んだのは、アンジールであった。
 バスターソードを振り上げて、コーカサスへと突貫する。
 されど、コーカサスも黙ってやられはしない。
 物言わぬカブトを放り投げ、アンジールに激突させる。
 カブトとアンジール、二人揃って崩れ落ちた。

「――シュートッ!」
「本当にキリがないな」

 次に行動を起こしたのは、高町なのはだった。
 なのはが放ったアクセルシューターが、無数の光弾を生成し、コーカサスへと迫る。
 放った半分は破壊剣によって打ち砕かれ、うち半分はコーカサスを直撃。
 コーカサスの体表で爆ぜる無数の魔力弾。されど悲しいかな、威力が足りない。
 最強のアンデッドの一角たるコーカサスに、非殺傷設定付きの魔法など通用しない。
 コーカサスが、お返しとばかりに腕を突き出した。同時に生成されるエネルギー弾。
 刹那の内に人一人を殺せるだけの威力に膨れ上がったエネルギー弾が、上空のなのはに迫る。

「ヘァッ!」
「ミライ君!!」

 だが、その間に割り込んだのは、赤と銀と金の戦士――ウルトラマンメビウスだ。
 空を駆け抜けて、誰よりも早くなのはの正面へと割り込んだメビウスの身体に、エネルギー弾が直撃。
 上級アンデッドの持てるエネルギーの爆発が、メビウスの体表で発生する――が。
 それは、メビウスにとっても計算済みの事。

28 ◆gFOqjEuBs6:2010/11/10(水) 11:25:22 ID:kw7JXkBY0
 
「シュアァッ!!」

 その場の全員が、メビウスの身体に起こった変化に気付いた。
 コーカサスの放ったエネルギー弾。それによる爆発が、不自然なまでに大きく拡がって居た。
 言うなれば、まるで自分の意思で燃え上がる炎の様に――メビウスの身体に纏わりつく爆煙。
 やがて爆煙は、メビウスの意思に応える様に激しく燃えあがり……その身に吸収された。

「へぇ、僕の力を利用して自分の炎に変えちゃったんだ」

 楽しそうに笑うキングを睨み付ける、銀色の視線。
 仲間達との絆の力で体得した、メビウスのタイプチェンジ。
 メビウスの全身に浮かび上がる、真っ赤な炎のファイアーシンボル。
 どんな困難にも絶対に諦めずに立ち向かう、勇気の力――約束の炎。
 どんな窮地に立とうと、最後まで仲間を信じて戦い抜く、俺達の翼。
 ウルトラマンメビウス――メビウスバーニングブレイブ。

「デュアッ!」

 メビウスが突き出した両腕から、真っ赤な火球が飛び出した。
 さながら燃え上がる爆炎を凝縮したような、全てを焼き尽くす炎の塊。
 ウルトラマンタロウですら倒せなかったインペライザーを、一撃で破壊した攻撃。
 反射的に生成されるソリッドシールド。その表面で、大爆発が巻き起こった。
 その衝撃で噴き上がった爆煙が、周囲の全てを飲み込まん勢いで燃え上がる。

「ジュワァァァッ!!」

 爆煙を突き破って現れたのは、炎の弾丸と化したウルトラマンメビウスだ。
 その両足に勇気の炎を纏わせて、ドリルの如き激しい回転を加える。
 ウルトラマンレオと、GUYSの仲間達との修行の末に編み出した、必殺技。
 どんな防御ですら打ち破る、炎のメビウスピンキックだ。

「チッ……」

 メビウスの両足がドリルとなって、ソリッドシールドを抉る。
 燃える炎の身体となったメビウスとの摩擦熱で、シールドから炎が噴き上がる。
 噴き上がった炎はそのままメビウスに吸収され、メビウスに更なる力を与える。
 やがて、メビウスのキックがソリッドシールドを突き破り――

「でもっ……!」

 ――RIDER KICK――

「えっ……!?」

 振り向いた時には、もう遅い。
 コーカサスの死角。赤き装甲が月夜に飛び上がって居た。
 タキオン粒子を加速させ、その右脚に稲妻を纏わせる。
 対象を原子崩壊させる程の威力を誇るライダーキックが、コーカサスの目前まで迫って居た。

「ハァァァァァァァァァァァァッ!!」
「デュァァァァァァァァァァァッ!!」

 燃えるメビウスピンキックと、必殺のライダーキック。
 メビウスの脚が、コーカサスの胸部装甲を焼き尽くさん勢いで砕いた。
 カブトの蹴りが、コーカサスの背部装甲を粉々に粉砕せん勢いで砕いた。
 バチバチと、音が聞こえる。その身に受けた炎と稲妻が、せめぎ合っているのだ。

「やったか!?」

 歓喜の声を上げるアンジール。
 コーカサスの身体から二人分のエネルギーが溢れ出し、その身をよろけさせる。
 爆発する前に飛び退いたメビウスとカブトが、二人並んで構えを取った。
 ウルトラマンと仮面ライダーの、完全勝利だ。
 この場にいる誰もがそう思った。が――

「こんな所でやられてたまるかよ! ディアン・ケトッ!!」

 コーカサスが叫んだ。
 同時に、今し方砕いた装甲が、みるみる内に回復して行く。
 デュエルディスクによる、ディアン・ケトの連続使用。
 先程メビウスに敗北した直後も、同じ方法で回復したのだ。
 戦闘中にこれが出来るのだから、尚更タチが悪い。

29 ◆gFOqjEuBs6:2010/11/10(水) 11:25:52 ID:kw7JXkBY0
 
「どうやらあのディスクを破壊しない限り、俺達に勝利はないらしいな」
「なら、あのディスクを破壊して、奴を倒すまでです!」

 これで当面の攻撃対象は決定した。
 コーカサスの左腕に装着された白のディスク。まずはあれから破壊する。
 でなければ、いくらダメージを与えて痛めつけた所で、何度だって回復されてしまう。
 されど、この場に居る全員が解って居た。それが簡単な事では無いと言う事に。
 デュエルディスクを破壊されてしまえば、キングは圧倒的に不利になる。
 それが解っていて、黙って破壊などさせる訳がないからだ。

「……こっちの弱点にも気付かれちゃったみたいだし、そろそろこっちも本気で行かせて貰うよ」

 言いながら、コーカサスが歩き出した。
 ゆっくりと、絶対に負けないと言う余裕を見せるかの様に。
 カブトが、ガンモードに変型させたクナイガンから無数の弾丸を発射する。
 同時に、なのはが無数の魔力弾を発射。カブトとなのはによる弾幕が合図となった。
 メビウスとアンジールが同時に駆け出した。それに続いて、カブトも駆け出す。
 コーカサスの盾に全ての弾丸が弾き落されると同時、メビウスがその拳を突き出した。
 燃え上がる爆煙によって攻撃力を数倍に上げた炎のパンチ――

「ハァァッ!!」
「フンッ!」

 されど、コーカサスに届く前に……それどころか盾に届く前に、破壊剣によって叩き落された。
 拳を叩き落され、体勢を崩したメビウスに迫るのは、コーカサスが振るった破壊剣。
 びゅん、と。重たい剣が空気を切り裂いて、メビウスの身体を弾き飛ばした。
 コーカサスの正面からメビウスが崩れ落ちた頃には、カブトとアンジールによる追撃。
 カブトの短剣と、アンジールの大剣を、コーカサスの両の腕が掴み取った。
 狼狽するよりも先に、二人が取った行動は、コーカサスに対する前蹴りだ。

「「ハッ!」」
「効かないっての!」

 二人の蹴りはソリッドシールドによって阻まれる。
 だが、それで終わりはしない。次いで繰り出される、二人の剣戟。
 短剣と大剣が、激しい軌道を描いてソリッドシールドを何度も傷つける。
 がきん、がきん……と、何度か音が響いた後で、コーカサスが行動に出た。

「うざいって」

 一閃。
 カブトの装甲がまたしても引き裂かれ、アンジールの胸板を切先が掠めた。
 二人纏めて崩れ落ちた先には……桜色の魔法陣を展開した高町なのはがそこには居た。
 赤の宝玉を基部に、金色の装飾が成された魔法杖を突き出して、桜色の魔法陣を幾つも描く。
 不屈のエースオブエースの魔法攻撃。それも先程とは比べ物にならない程の砲撃らしい。

「ディバイィイイイイイン……! バスタァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 そして、放たれる一撃。
 桜色の光の奔流が、黄金の身体を飲み込もうと迫る。
 されど、キングも黙ってやられはしない。もう一度右腕を突き出し、エネルギー弾を生成。
 今までよりも力を凝縮して、それを一気に突き出した。
 加速するエネルギー弾と、なのはのディバインバスターが激突する。
 そして巻き起こる大爆発。お互いのエネルギーが相殺しあって起こった事象。
 コーカサスのエネルギー弾には、なのはの砲撃と違ってチャージがない。
 故に、コーカサスはすぐに次の砲撃へと移れるのだ。なのはが砲撃を放ってから、まだ1秒程。
 この一瞬で、なのはが気付くよりも先に決める。爆煙が晴れる前に、コーカサスがエネルギー弾を放った。

『GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』
「チッ……またお前か」

 されど、それを阻んだのは白き飛竜・フリードリヒ。
 その身にエネルギー弾の直撃を受けて、苦しそうに悶えていた。
 無慈悲なコーカサスは、そんなフリードに連続でエネルギー弾を放つ。
 一発、二発と、身体が爆ぜる度に悲鳴にも似た叫びを上げる。
 やがて、三発目を放とうとした、その時であった。

30 ◆gFOqjEuBs6:2010/11/10(水) 11:26:27 ID:kw7JXkBY0
 
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 懐に飛び込んできたのは、ウルトラマンメビウス。
 タックルの要領で飛び込んできたメビウスの背中に、肘の一撃を叩き込んだ。
 アンデッドの刺々しい装甲と、力を象徴するスペードスートの王の怪力。
 そこから繰り出される肘打ちは強烈で、一撃でメビウスをアスファルトに叩き落した。
 同時に、背後から飛び込んでくる回し蹴り。仮面ライダーカブトによる攻撃だ。
 それを振り抜いた破壊剣で叩き落し、もう一撃、カブトの装甲に破壊剣を叩き込む。
 崩れ落ちるカブト。すかさず、アンジールがバスターソードを振り上げた。
 ソリッドシールドで防ぎ、右脚の重たいキックを見舞う。
 アスファルトを転がるアンジールを尻目に、立ち上がったメビウスがその拳を振るう。
 コーカサスがその腕を絡め取って、勢いそのままに、立ち上がり様のカブトへとブン投げた。

「「ぐぁっ……!」」

 メビウスと激突し、再び崩れ落ちるカブト。
 同時に響く獣の咆哮。その身に鞭打って、空を翔けて来た飛竜による尻尾攻撃だ。
 だが、それは既に一度コーカサスに使った手段だ。そう上手くいく筈も無く――。
 尻尾がコーカサスの身体を打つ前に、コーカサスがその尻尾を掴み取った。
 そのままジャイアントスイングの要領で振り回し、投げ飛ばす。
 その先に居るのは――

「フリード!!」

 高町なのはだ。
 何度も振り回され、平衡感覚を失ったフリードに、自ら回避など出来る訳がない。
 かといって、なのはが回避してしまえば、フリードは硬いアスファルトに激突してしまう。
 そこでなのはが取った行動は、魔法によるフリードの身体の保護であった。
 アクティブガード。まずは低速の爆風でフリードの加速を和らげる。
 ホールディングネット。魔力で構成されたネットが、フリードの身体を優しく受け止めた。
 咄嗟の状況でもこれらの判断を一瞬でこなしたあたり、流石エースオブエースと言える。
 やがて、体力を使い果たしたフリードの身体は、小さな竜のそれへと戻って行った。
 仮面の下でつまらなさそうな表情を浮かべるコーカサスであったが、しかし退屈はしない。

「えいっ!」

 連続で繰り出される無数のエネルギー弾。
 空を駆け抜け、それらを回避するなのはであったが……エネルギー弾は、何処までもなのはを追尾する。
 いくら空を駆け抜けても脱げ切れぬ事を悟ったなのはは、自らの魔法で相殺に掛る。
 が、大量に発射され続けるエネルギー弾全てを撃ち落とす事など不可能。
 数発を自らの魔法で叩き落すも、残りは交わしきれず、シールドで防ぐしかなくなった。
 されど、無慈悲なコーカサスはエネルギー弾の発射を止めはしない。

「ハァァァァァッ!!」

 もう一度起き上がったアンジールが、その大剣を突き立てた。
 切先の無いバスターソードはコーカサスの盾にぶち当たり、大幅に減速。
 その隙にコーカサスが、アンジールへと破壊剣を振り下ろした。
 咄嗟にバスターソードを構え直し、それに備えるアンジール。
 防御の為に一瞬だけがら空きになったアンジールのボディに叩き込むのは、重たいキック。
 黄金の脚がアンジールの胸板を強打し、その肋骨をへし折る。
 アンジールが、盛大に真っ赤な血液を吐いて吹っ飛んだ。
 それと同時に、上空で巻き起こる爆発音。コーカサスのエネルギーが、なのはのシールドを破ったのだ。
 白いドレスを回転させながら、アスファルトへと落下して行く高町なのは。

「アンジールッ……! クソッ!」
「なのはちゃん!! うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 もう一度駆け出したカブトとメビウス。
 カブトが振り抜いた短刀を破壊剣で弾き返し、その仮面に拳を叩き込んだ。
 カブトの頭が揺れて、真っ赤なマスクに亀裂が入る。さらに、追撃とばかりに振り抜かれる破壊剣。
 ヒヒイロノカネを叩き割って余りある衝撃が、天道の身体を襲う。
 アンジール同様肋骨をへし折られたカブトが、盛大に吹っ飛んだ。
 そこに迫りくる真っ赤な炎の闘士、ウルトラマンメビウス。
 メビウスの拳を黄金の盾で受け止めて、下方から破壊剣を振り上げた。
 ボディを切り裂かれたメビウスが、大きく仰け反り――隙だらけになった身体に、キックを叩き込む。
 呻きとも取れる叫びを上げながら、メビウスが後方へと吹っ飛んだ。

「どんなものかと思ったら、この程度? 正義のヒーローが聞いて呆れるね!」

31 ◆gFOqjEuBs6:2010/11/10(水) 11:27:01 ID:kw7JXkBY0
 
 最早立ち上がらなくなった一同を嘲笑うように、コーカサスが両手を広げた。
 かろうじて意識を保って居た一同が、よろめきながらも立ち上がる。
 メビウスに、カブト。アンジールに、なのは。満身創痍ながらも、その身に鞭打って。
 ここで自分達が負けたら、こいつはきっともっと多くの災厄を撒き散らすことだろう。
 そんな事は、絶対に許せない。もう二度と、こんな奴の為に、誰かが悲しむ涙を見たくはないのだ。

「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

 メビウスが、自らを奮い立たせるように、咆哮した。
 夜の街に、ウルトラマンメビウスの雄叫びが響き渡る。
 両腕を振って、最早立つ事すらままならない身体で、アスファルトを蹴った。
 全速力で、コーカサスに向かって駆け出すメビウス。
 対するコーカサスは、右手を突き出し、無数のエネルギー弾を発射。
 ――するも、命中はしない。メビウスの炎によって、軌道を逸らされたエネルギー弾が、メビウスの後方で爆発するのみ。
 メビウスが駆け抜けた道を……アスファルトが、瓦礫が。炸裂、爆発――爆煙を振り払う様に、メビウスは叫んだ。

「絶対に守るんだッ! 皆の命を、皆の思い出を……! 僕達の、未来をッ!!!」

 メビウスの叫びをその耳に聞いたカブトが、僅かに顔を上げた。
 メビウスの思いに心揺さぶられたアンジールが、その眼光でコーカサスを捉えた。
 そうだ。命を守る為に戦い続けてきた自分達が、こんな所で負けていい筈がない。
 生きとし生ける命を……アメンボから人間まで、全ての命を守ると誓ったのだ。
 人々を救い、その命を守る為に、揺るがぬ決意と共に、神羅に入ったのだ。
 それが天道総司と、アンジール・ヒューレーという男の生き様なのだ。
 気付いた時にはカブトとアンジールも、メビウスに続いて走り出していた。

「デュァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 燃え盛るメビウスの剣が、ソリッドシールドに激突した。
 メビュームブレードが、ソリッドシールドに食い込んだ。
 絶対に諦めない。守りたい気持ちがあれば、こんな盾だって壊せる筈だ。
 メビウスの魂の炎が燃え上がると同時に、メビウスの剣が爆煙の如き炎を噴き出した。
 ソリッドシールドを侵食して、焼き尽くさん勢いで燃え上がるメビュームブレード。
 そして――ついに、ソリッドシールドが焼き裂かれた。同時に、迫りくる破壊剣。
 ソリッドシールドの破壊と同時に、メビウスの胸部を破壊剣が強打した。
 その場に崩れ落ちるメビウス。だが、その想いは絶対に無駄にはしない。

「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」」

 両腕で大剣を構えて、真っ直ぐにアンジールが飛び込んだ。
 片手で短刀を構え、コーカサスの直前で腰を屈め、一気に振り抜いた。
 二人が狙った標的は、キングの左腕に装着されたデュエルディスク。
 これさえ破壊すれば、この勝負は貰ったも同然――なのだが。

「フンッ!」

 キングが、左の腕を――その掌を自ら突き出した。
 掌にエネルギーを集中させて、二人の刃を受け止めたのだ。
 黒金に煌めくバスターソード。黄金に輝くカブトクナイガン。
 その二つの切先を、掌一つで受け止めて、二人分の力と拮抗する。
 それでも、負けてなるものかとカブトとアンジールが構えた刃に力を込める。
 同時に、二人の攻撃に応える様に――キングが、掌に集中させたエネルギーを解き放った。

32 ◆gFOqjEuBs6:2010/11/10(水) 11:27:54 ID:kw7JXkBY0
 

「なっ……うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
「ぐぁ……ぁぁぁぁああああああああああああああああっ!!」

 カブトとアンジールの身体が、まるで紙きれの様に吹き飛んだ。
 数十メートル吹き飛ばされた二人の身体が、後方のコンクリートの壁に激突。
 力無く崩れ落ちる二人。今度こそ全ての力が抜け落ちていくようだった。
 これだけの攻撃を加えても、少し本気になられただけで、こうも実力差が開いてしまう。
 守るだけでは、勝てないのか――そんな考えを振り払う様に、カブトが頭を振った。
 カブトの仮面の亀裂からは血が溢れ出している。アンジールはその口から血液を流し、倒れ込む。
 メビウスは最後の力を振り絞った攻撃でカウンターをくらい、立ち上がる事すらままならない。
 なのはは先程の攻撃に次いで、無駄に魔力を消耗した事、コーカサスの攻撃を防ぎきった事で、魔力残量など無いに等しい。
 最早この場に居る全員が、満身創痍。最強のアンデッドの一角たるコーカサスには、誰も勝てはしなかった。

「あれ? なのはだけなんかダメージ少ないよね。バランス悪いなぁ」
「……キング……貴方と言う人は……っ!」
「いいね、いいよその眼! じゃあ最初に死んでね」

 コーカサスを睨み付けるなのはに放たれた一言。
 それは、なのはに絶望すら与える言葉であった。
 最早、キングの攻撃を防ぎきるだけの魔力は無い。
 かと言って、もう自分を守ってくれるものはいない。
 今度こそ、チェックメイトだ。

「ばいばい」

 コーカサスが、その腕を突き出した。
 今度はエネルギー弾では無い。エネルギーを光線にして吐き出す攻撃。
 全ての上級アンデッドが持つ、エネルギー派による攻撃だ。
 そんな物を受ければ、いくらバリアジャケットを装着していようと、耐えられる筈がない。

(ごめん、フェイトちゃん……ヴィヴィオ……)

 自分の最期を想像し、目を瞑る。
 最期に大切な親友と、掛け替えのない娘を心に思い描いて。
 出来る事なら、最期にもう一度だけ会いたかったな、と思う。
 誰よりも信頼出来る親友に、守ると誓った一人娘の笑顔を思い浮かべて――

「……ガッ……ハ――」
「え……?」

 だが、可笑しい。何時まで経っても、なのはが夢想した最期の時は訪れない。
 それどころか、聞こえて来たのは別の男の呻き声。何が起こったのかと瞳を開ける。
 そこに居たのは、なのはを庇う様に立ち塞がった黒髪の男――アンジールであった。
 コーカサスに背を向け、背負ったバスターソードと己の身でコーカサスの攻撃を受け止めたのだ。
 当然、無事でいられる訳も無く、バスターソードは粉々に砕かれていたし、アンジールの身体だってぼろぼろの筈だ。
 そうなる事は解って居た筈なのに……何故、アンジールは自分を守ったのだろう。

「何……で」
「クアットロが……言っただろう。時には身を呈して……仲間を守らねばならない……と」
「……!!」

 アンジールの言葉に、はっとした。
 確かにクアットロはあの時――ミライを置いて離脱する時、言った。
 仲間であるからこそ、時には身を呈してでも守らねばならない時があるのだ、と。
 だけど、それは十中八九その場で出たクアットロの方便だろう。
 そんな事は家族であるアンジールが一番良く解って居る筈なのに……。

33 ◆gFOqjEuBs6:2010/11/10(水) 11:28:32 ID:kw7JXkBY0
 
「これが……守るという事、なんだな……」
「ありがとう……アンジールさん」

 ――否。アンジールは、クアットロに言われたから自分を守ったのではない。
 勿論、この場での行動方針を決めるきっかけとなったのはクアットロだ。それは否定しない。
 だけれど、それ以上に……この土壇場で、こういう行動を取れる男。それが、アンジールなのだ。
 人々を救いたいと願い、人々を救う為に、命を賭して戦う。そこに、自分の死が待ち受けていたとしても、だ。
 アンジール・ヒューレーという男の本質に気付いた時、なのはの瞳からは涙が流れ出ていた。
 なのはからの感謝の言葉を聞いたアンジールは――満足そうに、その場に崩れ落ちた。

「アンジールゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!!」

 次いで、カブトの仮面の下で絶叫したのは天道総司であった。
 奴は自分と同じ、誰よりも何よりも、妹だけを守ろうとした男。
 最後はその身を呈して、他人の命を守る為に戦い、果てた。

「うっわぁ、ソルジャーの癖に何その死に方! 存外しょぼくて拍子抜けだよ!」
「貴様……!」

 嘲笑うコーカサスに、仮面越しに鋭い視線をぶつける。
 自分の中で、今まで押し殺して来た怒りが爆発するのを感じた。
 そして、潜在的な怒りが爆発した時、人は限界を超える。
 手元にあったデイバッグから、一振りの刀を引き抜いた。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 全てを爆砕する、最強の妖刀。
 伝説の妖怪の息子たる男――殺生丸が自らの力で生み出した刀。
 親の呪縛を振り切って、全ての迷いを断ち切った時、爆砕牙は真の力を発揮する。
 バスターソードを掲げて戦ったアンジールの影をその身に重ねて、カブトは駆け出した。
 爆砕牙を両腕で握り締めて、コーカサスアンデッドに向かって突貫する。
 対するコーカサスは、先程と同じ要領で、左腕を突き出した。

「ディアン・ケト発動!」

 言うが早いか、再びコーカサスの前面にソリッドシールドが生成される。
 だけど、不思議と負ける気はしない。どんな硬い盾であろうと、今ならば突破できる。
 メビウスの決意。アンジールの覚悟。なのはの想い。それら全てを受けて、カブトは爆砕牙を振り抜いた。
 きぃん、と。一瞬だけ盾にぶち当たり――次の瞬間には、爆砕牙が盾を切り裂いていた。
 同時に巻き起こる爆発。爆砕牙によって切り裂かれた盾が、派手な音を鳴らして爆発したのだ。
 これこそが、爆砕牙の能力。斬った対象を爆発させ、その爆発は斬った後も続く。
 狼狽するキング。次の行動へ移る為の隙など、絶対に与えない。

「ハァッ!」

 勢いそのまま、カブトが振り抜いた爆砕牙が、見事コーカサスの左腕を直撃した。
 左腕に装着されていたデュエルディスクが、派手な爆発と共に破壊されていく。
 同時に、切り裂いたコーカサスの左腕と、左半身の表面が爆発を開始。
 勝ったか、と思った。

「ガ……ァ……」

 カブトの仮面から、大量の血液が溢れ出した。
 駆け抜けたカブトの腹に出来た傷口は、明らかに装着者の天道総司の身をも切り裂く大打撃。
 カブトがコーカサスを切り裂く瞬間に、コーカサスもまた、その破壊剣を力の限り振るったのだ。
 結果、破壊剣は見事カウンターの要領でカブトの装甲を、ベルトを切り裂いた。
 カブトゼクターを砕かれたカブトの全身から、眩い稲妻と、大量の火花が噴き出していた。

「あっぶねぇ〜……っていうかデュエルディスク壊されちゃったよ!
 けどまぁ、デュエルディスクと命が引き換えって考えたら、馬鹿馬鹿しいよね」

 体表で炸裂する爆発を振り払いながら、コーカサスが言った。
 コーカサスの後方で、爆砕牙を振り抜いたままの構えで動かなくなったカブト。
 やがて、ゼクターを破壊されたカブトの身体を稲妻が駆け巡り――爆発した。
 カブトの装甲が弾けて、その身体は爆発四散。視界を覆う白と黒の爆煙。

「天道さんは……!?」

 身を乗り出したなのはの眼前に、何かが落下した。
 それは、持ち主を失った爆砕牙。爆砕牙が、ひゅんひゅんと音を立てて、こちらまで飛んで来たのだ。
 それがアスファルトに深く突き刺さると同時に、爆煙が視界からゆっくりと消えて行った。
 天道の安否を心配し、周囲を見渡すが――爆煙が晴れた先には、誰の姿も見当たらない。
 ただ、コーカサスアンデッドが退屈そうにその剣を振り回しているのみであった。

34 ◆gFOqjEuBs6:2010/11/10(水) 11:29:03 ID:kw7JXkBY0
 
「総司さぁぁああああああああああああああああああああああああああん!!!!」
「そんな……天道さんまで……!」

 絶叫するメビウス。絶望するなのは。
 天道掃除は、今まで共に闘ってきた大切な仲間だ。
 決して長い時間を共に過ごしたとは言い難いが、それでも仲間である事に変わりは無かった。
 フリードを救うきっかけとなった、この場で出会った誰よりも信頼出来る人間。
 そんな人間を失って、平然として居られる訳が無かった。

「アンジールさん……天道さん……そんな……皆で脱出するって言ったのに……」
「あっはっは! カブトにも期待してたんだけど〜……所詮この程度か。ま、仕方ないね!」

 さもつまらなさそうに――しかし、実のところは楽しそうに。
 天道の死に様を馬鹿にするように笑うコーカサスに、心の中で何かが燃え上がるのを感じた。
 それは、なのはが今まで感じた事はない感情。怒りや、憎しみ――憎悪と呼ばれる感情。
 アンジールと天道の死に、人前では堪えていた筈の涙が自然と瞳に溜めこまれていた。
 だけど、そんな事は最早関係無い。燃え上がる激情を隠しもせずに、コーカサスを睨み付ける。
 そして、そんななのはの気持ちを代弁するように、今度はメビウスが絶叫した。

「よくもっ……!! よくも僕の大切な仲間達をぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!」

 その声は震えていた。腹から絞り出す様な涙声であった。
 怒りと悲しみ。キングに対する、堪え用の無い激しい激情。
 今にも全てのエネルギーが切れてしまいそうな身体から、もう一度力を振り絞る。
 カラータイマーが高速で明滅する。それは、メビウスに最期の時が近付いている証。
 今度こそ、これが最期だ。本当に最期の最期に残った力を振り絞って、立ち上がった。

「ハッ、笑わせんなよ! お前らまだ出会ったばっかだろ!」
「それでも! それでも皆生きていた! 同じ目的の為に、殺し合いを止める為に……! なのにお前は!!!」

 ゼストを殺された時の怒りを思い出す。
 こいつは、皆の命を弄んだ。クアットロとアンジール、さらには天道までを……その手に掛けた。
 下らない理由で皆の命を奪い、あまつさえその死を嘲笑った。命を賭けた皆の行動を、侮辱した。
 このキングに、最早人間らしさなどは皆無。こいつは正真正銘のモンスター、化け物だ。
 人の命を踏みにじり、その輝きを奪う化け物を、ウルトラマンは――ミライは、絶対に許さない。
 残り僅かな命を燃やし尽くしてでも、こいつだけは絶対に倒さなければならない。

「僕の命と引き換えてでも、お前だけは絶対に倒す! もうこれ以上、お前に誰も殺させない!」
「ハハハハハッ! 面白い面白い! 出来もしない事を堂々と言っちゃう痛いヒーローの完成だね!」

 本当に可笑しなものを見ている様に、コーカサスが笑った。
 なんとでも言えばいい。この男は、まだメビウスに残された最期の大技を知らない。
 そう。メビウスには、切り札がある。残りの命を全て燃やし、自らを炎の弾丸に変える、最強の必殺技。
 使用する度に寿命は縮み、その身体に多大な負荷を掛ける最強にして最後の裏技。
 その名も、メビュームダイナマイト。持てる全てを燃やし尽くす、最期の輝き――

「――っ!?」

 されど。
 メビウスの身体は、もう燃えなかった。
 殆どのエネルギーを使い果たしたメビウスに、残った炎は皆無だ。
 メビュームダイナマイトを使用しようと、両腕を広げるが――その身体からは、赤が抜け落ちて行った。
 あの日誓った、大切な仲間達との絆が……“俺達の翼”が羽ばたく事は、もうない。
 掛け替えのない仲間達との約束の炎が、消えて行く。
 最後に残った希望が、目に見えて消え去って行く。

「そんな……どう……して……」
「君はここでゲームオーバーって事さ、メビウス」

 最早、バーニングブレイブを維持する事すら出来なかった。
 その身体は元の銀色を基調にした、本来のウルトラマンメビウスの姿へと戻って行く。
 立ち上がる力さえ失ったメビウスが、朦朧とする意識の中で、片膝をついた。
 視界の中で、振り上げられる破壊剣。コーカサスからかけられる、最期の言葉。
 思えば、ここまで何度も限界を超えて起ちあがった。何度もその拳を振り上げた。
 ギリギリまで頑張って、ギリギリまで踏ん張って――それでも訪れる、最後の結末。
 これで、もう本当に終わりなんだ。なのはの事を守る事すらも出来ずに――

35 ◆gFOqjEuBs6:2010/11/10(水) 11:29:38 ID:kw7JXkBY0
 
(なのはちゃん、ごめん……)

 最期に心中で、謝罪の言葉を告げた。
 セフィロスに一度切り裂かれたこの身に、もう一度破壊剣が迫る。
 嗚呼。本当なら、自分はあの時死んでいたのかもしれないな、等と思う。
 そしてもう二度と、メビウスブレスが輝く事は――

「諦めるな! ミライ!」
「――えっ!?」

 メビウスブレスは、もう輝かない。
 されど、メビウスの視界は、光で埋め尽くされていた。
 対するコーカサスも同様に、突然現れた光に動揺する。
 メビウスとコーカサスの間に、光輝く何かが立ち塞がっていた。
 ややあって、光が収まる。全員の視線が、目の前の“光”に集中していた。

「貴方は……!」

 メビウスが、歓喜の声を上げる。
 ウルトラマンメビウスと良く似た頭部。違いは、両サイドから生えた突起。
 ウルトラマンメビウスと良く似た身体。違いは、色。赤ではなく、青の身体。
 心優しい青の光。胸で煌めく輝きは、メビウスと同じタイプのカラータイマー。

「ウルトラマンヒカリ……! 生きていたんですね……天道さん!」

 その場の全員の視線が、ウルトラマンヒカリ――天道と呼ばれた者へと集まった。
 何が起こったのか解らない、されど、嬉しくない訳がない――そんな瞳を向けるのは、高町なのは。
 何が起こったのかは理解できないが、もし生きていたのなら本当につまらない――そんな視線を向けるのは、コーカサスアンデッド。
 その場の全員の視線に気づいたウルトラマンヒカリが、状況を説明するべく言葉を発した。

「ああ。そう簡単に死んでたまるか」
「良かった……本当に良かった! 天道さん!!」

 その声は、間違いなく、天道総司のものであった。
 天道総司の声を発するウルトラマンヒカリが、メビウスへと掌を向ける。
 差し出された青の掌から照射される、何処か優しい、温かな光。
 光はメビウスの身体へと吸い込まれて行き、そのままメビウスの力へと変わる。
 高速で明滅していたカラータイマーが、その点滅速度を下げて行くのが解る。
 ヒカリが、自分のエネルギーをメビウスへと分け与えたのだ。
 流石に全回復まではしないが、それでも無いよりはマシ。
 光の照射が終わった後、ヒカリが説明を開始した。

「カブトが爆発する寸前に、俺はヒカリに救われ――そして、頼まれた」
「頼まれた……?」
「ああ。メビウスと、他の皆の命を頼む、と……だが、そんな事は言われるまでもない」

 言い終わる前に、ヒカリの右腕……ナイトブレスに、鋭角的に反射する光が収束されて行く。
 光の収束が完了する頃には、ナイトブレスから眩く輝く黄金の剣が具現化されていた。
 それを振り抜いて、アスファルトを蹴る。後方のコーカサスへと駆け出す。
 一瞬でコーカサスの眼前まで迫ったヒカリは、一気にその剣を振り下ろした。

「ハイハイ、無駄無駄」
「――っ!?」

 ヒカリの身体が、硬直した。
 コーカサスが突き出した右腕から、高圧の念力が放出されているのだ。
 何度も何度も、その剣を振り抜くが――何度振ろうが、命中はしない。
 退く事すら叶わない身体。ナイトブレードで、何度も宙を切り裂く。
 やがて――

36 ◆gFOqjEuBs6:2010/11/10(水) 11:30:22 ID:kw7JXkBY0
 
「フンッ!」
「なっ……ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 コーカサスが、その腕に力を込めた。
 念力はエネルギー波へと変わり、放出されたエネルギーがヒカリの身体を直撃。
 防御の姿勢すらろくに取れずに、放たれた光線がヒカリの身体を派手に爆ぜさせた。
 勢いそのまま、放出され続けるエネルギーに吹っ飛ばされたヒカリの身体が、後方のビルの壁へと激突。
 どすんっ!と、派手な損壊音を打ち鳴らして、青のボディがコンクリートに亀裂を走らせ、減り込んだ。
 ヒカリの胸に装着されたカラータイマーが、メビウスと同じ様に赤の明滅を開始する。
 今度は確実にトドメを刺してやろうとばかりに、コーカサスがエネルギー弾を発射した。

「ほら、死ねよウルトラマン」
「ぐっ……あぁぁ――」

 何発も、何発も。
 止まる事のない光の弾丸が、休む間もなくヒカリの身体を爆ぜさせる。
 銀の胸板を。青の胴体を。ブレスが装着された腕を。何度も何度も爆発させる。
 その度に、胸部で瞬く赤のカラータイマーが、その明滅速度を上げて行く。
 ヒカリの体力が目に見えて削られ、命が遠ざかって行く。
 だけど、そんな事をさせる訳には行かないのだ。

「やめろ……やめろぉ! うわぁぁあああああああああああああああああ!!!」

 今度は、メビウスの身体が煌めいた。
 放たれるは「∞」に輝く眩き閃光。
 ∞の光が、全員の視界を埋め尽くして行く。
 一拍の間をおいて、その場の全員の視力が回復した時。
 一同の視界の中からメビウスとヒカリの姿が消えていた。
 ――否。消えた訳ではない。

「ん……?」

 最初にその気配を感じ取ったのは、戦闘中のコーカサスであった。
 コーカサスが振り向けば、そこに居るのは最早一人で立つ事すら叶わないヒカリ。
 そして、そんなヒカリをその身体で支えるのは、ウルトラマンメビウス。
 赤と青。二人のウルトラマンが、お互いの身を寄せ合って、アスファルトを踏み締める。
 脚が震えていた。ヒカリも、メビウスも。二人とも、だ。
 もう彼らには殆どのエネルギーが残されてはいない。体力を消耗し過ぎたのだ。

「ミライ君……もうそんな力も残って無い筈なのに……」

 唇を噛み締め、なのはがぽつりと呟いた。
 なのはの見解は正しい。ヒカリの力を分けて貰ったとは言え、メビウスもまた満身創痍。
 今やメビウスのカラータイマーもヒカリのカラータイマーも、ほぼ同じ速度で明滅していた。
 では、何故エネルギーを分け与えられ、回復したばかりのメビウスがヒカリと同じエネルギー残量になっているのか。
 その答えは……エネルギー残量を一気に消費した能力、先程メビウスが使用したワープだ。
 ほんの10メートル程しか跳んではいないが、それでも今のメビウスには精一杯。
 残った力で、ヒカリをコーカサスのエネルギー弾幕から救ったのだ。

「最後まで諦めず、不可能を可能にする……それが、ウルトラマンだ……!」
「面白い……これで本当に最後だ。やるぞ、ミライ」
「はい!」

 二人のウルトラマンが、お互いに頷き合った。
 メビウスブレスに、メビウスの最後の輝きが宿る。
 ナイトブレスの表面を、ヒカリの最後の輝きが走る。
 二人同時に両の腕を上げ――その腕を、十字に交差させた。

「「シュアッ!」」

 二人の声が重なった。
 交差されたメビウスの腕から、激しい金の光線が放たれる
 十字に組んだヒカリの腕から、美しい青の光線が照射される。
 残り僅かな命の光を賭した、二人の最後の必殺技。
 必殺の威力を持った、悪を焼き尽くすスペシウムの光線。
 黄金に輝く光線はメビュームシュート。
 青く煌めく光線はナイトシュート。
 二つの光が一つに合わさり――極大の光となって、コーカサスに迫る。
 これが最後に残った、彼らの想いの全て。
 これが二人の光で生み出せる、最高の輝き。
 持てる力を振り絞った、最後の希望の光。

37 ◆gFOqjEuBs6:2010/11/10(水) 11:30:52 ID:kw7JXkBY0
 
「ふんっ!」

 対するコーカサスが、オールオーバーを振り上げた。
 破壊剣に光が宿る。どす黒い血の様な。冷たい赤の輝き。
 ウルトラの青と黄金の光を優しい光とするなら、それこそ対照的な光。
 まるで血飛沫を上げる様な輝きを放つオールオーバーを突き出し――

「くっ……うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 メビウスとヒカリの合体光線に、正面からぶつける。
 これで勝敗が決するのだ。お互いに、一歩も引き下がる訳には行かない。
 コーカサスの脚が。二人のウルトラマンの脚が。アスファルトを踏み締める。
 その腕に力を込めて、二人の光線と破壊剣を真っ向からぶつけ合う。
 メビウスが、ヒカリが。残った輝きを絞り出す様に、上体を乗り出した。
 破壊剣と衝突する力が、更に強大な物へと増幅される。

「なんだよ……この力!」

 これが、守る為に戦う者の力。
 これが、希望の光を力に変えて戦う、真の勇者の力。
 その力は絶大であった。されど、奪う為にしか戦えないコーカサスに、その力を理解する事は出来ない。
 今までとは比べ物にならない力。理解の限界を超えた、不可解な力。それを真っ向から受け止め――
 コーカサスの脚が、どすん!と音を立ててアスファルトへとめり込んだ。
 その黄金の巨体が徐々に押される。その剛腕が小刻みに震え始める。
 押しているのだ。二人の輝きが、コーカサスの悪しき輝きを。
 そして――決着は、一瞬であった。

「なんちゃってぇ〜!」

 場の緊迫感を一気に崩壊させる様な軽い声。
 まるで先程までの不利な姿は全て演技だとでも言う様に――。
 コーカサスが、その脚を踏み出した。その剣を天へと掲げた。
 同時に、二人が放った金と青の光線が、その軌道を変えた。
 まるで吸い込まれる様に、掲げた破壊剣へと吸収されて行く。

「「なっ……!」」

 これには溜まらず、二人のウルトラマンも度肝を抜かれた。
 残り僅かな命の輝きを賭した攻撃が。最後の希望を掛けた攻撃が。
 みるみる内に、コーカサスの悪しき輝きに吸収されて行くのだ。
 邪悪を砕き、か弱き命を守る為放たれたスペシウムが――奪われて行く。
 振り上げた破壊剣が、吸収したスペシウムの光を自分のエネルギーへと変換する。
 そして。

「ま、ここまでやったのは褒めてやるけど。これで終わり、今度こそ死ねよ」

 破壊剣を、一気に前方へと突き出した。
 刹那、生み出されるエネルギーの奔流は、強大な悪しき波動。
 二人分のスペシウム。アンデッドとしてのエネルギー。
 それらがお互いに増幅し合い、強大な力の奔流となって、メビウスへと駆ける。
 まるで血のような赤黒い光。対象を確実に仕留めんと迫る奔流。
 それが正面から、メビウスの身体に直撃した。

「うわぁぁぁあああああああああああああああああああああああっ――!!?」

 メビウスの胸部が、大爆発を起こした。
 絶叫。断末魔の叫びとは、まさにこの事を言うのだろう。
 されど、メビウスを襲う光の奔流は止みはしない。
 絶叫し続けるメビウスの身体を、容赦なく赤黒い光が襲い続ける。
 メビウスの両の腕が、行き場を失い、我武者羅に宙を引っかいた。
 何度も、何度も。もがき苦しむ様に、何もない空を掴んでは離す。
 されどメビウスの身体を直撃した光は、どんなに苦しもうと、その威力を弱めない。

「うわぁぁぁぁあああああああああ!!! あぁぁぁああああああああああああああああ!!
 あぁぁぁぁっ、うわぁぁぁぁああああああああぁぁあああああああああああああッッッ――!!!」
「ミライっ……! クソッ……!」

 見兼ねたヒカリが、もう一度右腕にナイトブレードを具現化させた。
 それを振り抜き、コーカサスアンデッドに向かって駆け出す。
 この攻撃が届かなくとも構いはしない。メビウスを救う事すら出来れば、それでいい。
 その為にも、ほんの一瞬だけでもコーカサスの注意をさらさなければならない。


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